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ファントム・リボーン

#スペースシップワールド #猟書家の侵攻 #猟書家 #ヘルメスデウス・ブレインコア #スターライダー

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●疑惑の惑星系
 先遣隊として、植民船団『ブルーアース』の航路の安全を確認してきたスターライダー部隊『イーグルアイ』は。船団の航路上に、とある惑星系を発見した。
 星系自体は二連星の赤色巨星と、それを幾重にも濃密に取り巻く小惑星帯があるだけの『船団の針路を修正すれば済む』ちょっとした障害物程度の筈なのだが……しかし何故か『イーグルアイ』のリーダーである、グレイ・R(ライダー)・シーモアは。暫くその不景気な星系を睨み付けると……唐突にその星系の調査を彼単独で行う事を、全隊員に告げたのである。

「いいか? 連絡員は今すぐ船団に戻って、船団の航行を一時差し止めろ。残りの奴らはここで、俺の行動をトレースするんだ。そして万一俺が死んだら、それまでに得られた情報を抱えて、尻尾を巻いて逃げ帰れ。必ず一人でも生還して、情報を持ち帰る。それが俺達の使命だからな」
 悲壮感漂う命を下しながら、しかし彼自身はその毒に侵されなかったし。彼の部下達も自分の上司が『どうにかなる』など、毛ほども考えていない。自分達の上司を、彼らは常より誇りを持ってこう讃える。『生還者(リターニングマン)』と。

 それは単に、グレイの操縦技術が群を抜いているからだけではない。彼の全身は装甲に覆われ、鈍い白銀に輝いている。身長は三メートル間近。タフネスも人間のそれとは比較にならない、人型の『元』戦闘機械。要するにグレイは、ウォーマシンなのである。
 勿論、そんな彼が搭乗する機体が、並のマシンでは有り得ない。分離すればチョッパースタイルの街乗り用電動バイクにもなるコクピットブロックが、既に車両並のサイズであり。それに航宙用のブースターユニットを接続すれば、殆ど航宙戦闘機である。
 このイカレたマシンが、グレイの手にかかると。まるで舞う様に優美な航跡を宙に描くのだ。船団の航宙士のみならず、子供達にとっても。彼は憧憬と尊敬の対象であった。

 『ブルーアース』の人々を魅了する、美麗な航跡を描きつつ。問題の星系へと侵入するグレイ。既に連絡要員は母艦への帰路を取り、残る隊員はデータ収集に掛かり切りだ。
 バックアップを部下に任せたグレイは、二連の巨星からの恒星風と、それに煽られ軌道を不定期に乱す小惑星群などという。劣悪な条件を物ともせずに愛機を駆って、惑星系の中央を目指す。
 彼を駆り立てていたのは『予感』だった。
 朗らかに応じてくれる『ブルーアース』の人々、憧れの眼差しを向けてくれる子供達。それらを愛おしく思う感情の、更にその奥の『本能』にも似た想い。
 今更と思いつつも、無視する事も出来ない忌々しさを感じつつ。その思いを指標に、軽やかに舞いながら奥部を目指し……唐突にグレイは、針路を惑星系外縁部、つまり『外』へと向けた。部下達へ指示を出しつつ、心中を占めるのは、苦々しさだった。
 彼が針路を変更する刹那の前。確かにグレイは『受信した』のだ。彼を製造し、戦場へ駆り立てた『組織』の機構が発するIFF――敵味方識別装置の信号波を。
 グレイは精神的な奥歯を強く噛みしめながら、心中で苦く独りごちる。
(「クソッタレ……まだ居やがるのか。『帝国の亡霊』……!」)

●ブリーフィング
「皆さん。お集まり頂きまして、ありがとうございます」
 グリモアベースのブリーフィングルームの一つ、立体映像投影機の前で。ノエル・シルヴェストル(Speller Doll・f24838)が、礼儀正しく一礼する。
「この度、皆さんにお願いしたい依頼は……スペースシップワールドにおける、建造途中の『新インペリウム』の撃破となります」
 ノエルは投影機を起動すると、そこにスペースシップワールドの一隅にある、宙域の立体図を映し出す。そこは未踏宙域至近に位置する、とある惑星系だった。肥大化し、半ばくっつき合った二連星と、それを何重にも取り巻く濃密な小惑星群で構成された。何の価値も見出せない『シケた星系』であったのだが……。
「実はこの星系の、恒星引力からの脱出不可能領域ギリギリの宙域に。猟書家幹部『ヘルメスデウス・ブレインコア』が『新インペリウム』を建造中である事が分かりました」
 『銀河帝国攻略戦』にて、銀河皇帝の坐乗艦でもあった惑星型超巨大戦艦。それを量産しようというのが『ヘルメスデウス・ブレインコア』の目的である。一基であれだけ手こずったのだ。複数束ねられたら堪った物では無い。故に完成する前に叩く。これが今回の目的だ。

「但し……該当宙域へ辿り着くには、相当の障害が観測されています。これを戦力消耗を最小限に抑え、更に高速で突破するには。案内人が必要となります」
 その人選自体は済んでいる。当該惑星系の手前を航行中だった船団『ブルーアース』に所属する哨戒部隊隊長の『グレイ・R・シーモア』だ。
 言いつつノエルが表示した人物は、些かスマートなフォルムのウォーマシン。言葉使いはやや荒っぽいが、船団の構成員、特に子供に好かれるナイスガイだ。今はもう、直接的な戦闘力はほぼ無いが……専用の宇宙バイクの操縦技術は超一流だ。
「彼への話は、既に通してあります。快諾も頂きましたが……ひとつ条件があります」
 それは、彼のバイク改造の手伝いである。
「一部の猟兵の技術力は、当該世界の基準でも特筆すべき物があります。その技倆を以て、速度と機動性の強化をお願いしたい。それが条件だそうです」
 猟兵達を案内・運送する事は構わないが……どうやら敵の索敵系は優秀であり。その索敵系に捕捉されてから会敵するまでの時間を、なるべく減らしたいとの事らしい。
「捕捉されて尚、のんびり移動していたら。迎撃の準備時間を与えてしまいますからね。妥当な要求だと思います」
 勿論、改造や整備の他にも。部品調達やデータの吟味など、やる事は満載だが……『新インペリウム』建造阻止の為である。出来る事をやれるだけ、やってきて欲しい。

「『猟書家幹部』と、建造中の『新インペリウム』という。かなりの強敵が相手となりますが……どうか皆さん。お気を付けて、行ってらして下さい」
 緑髪のミレナリィドールは、深く一礼すると。大地を持つ星を求めて彷徨う、宇宙の放浪者達の世界へのゲートを開いた。


雅庵幽谷
 初めましてor九度目まして。当シナリオ担当、雅庵幽谷と申します。
 当シナリオOPを、ここまで読んで頂き。ありがとうございました。
 今回はスペースシップワールドにおける『新インペリウム』破壊任務を、お届けさせて頂きます。
 尚、当シナリオは二章構成の『猟書家幹部戦』となっております。ご注意下さい。

 ……デッカいチョッパーバイクに、ウォーマシンを乗せてみたかったのです。

 さて置きまして、OPの補足です。

『◆特殊条件◆』
 『新インペリウム(建造中)』周辺は、複雑な恒星風や、それらに煽られて不規則に軌道を変える小惑星、電磁波の擾乱など。侵攻の邪魔になる物には事欠きません。また、建造途中とは言え『新インペリウム』では、高性能な索敵システムが稼動を始めています。モタモタしていたら、敵は万全の迎撃準備を整えて、猟兵達を待ち受ける事でしょう。
 これらに対するには『侵攻スピードが勝負』です。グレイ氏の指示に従って迅速に接敵し、建造中の『新インペリウム』と、そのコアである『ヘルメスデウス・ブレインコア』を撃破して下さい。

『◆プレイングボーナス(全章共通)◆』
『スターライダーを探す/スターライダーの指示に従い行動する』

●第一章:
 グレイ氏のプランに従って(猟兵側から提案を行うのもアリですが、無許可の改造を施すのは禁止です。勝手に愛車を弄られて嬉しい人はまず居ません)彼の宇宙バイク(?)のカスタマイズを行います。
 今回は彼のマシンの侵攻速度イコール、猟兵達の侵攻速度と表現しても過言ではありません。
 直接整備に携わる他、工具や機材の運搬や、パーツの調達。整備士達への差し入れや『イーグルアイ』部隊が収集してきたデータの吟味など。出来る事は様々ありますので、出来る事を行って頂ければ幸いです。

●第二章:
 グレイ氏の指示や機動に従って難所を潜り抜け。『建造中の新インペリウム』=猟書家幹部『ヘルメスデウス・ブレインコア』と交戦する事になります。
 一度接敵してしまえば、後は純粋に、戦術と戦力を合算した力比べです。
 『難所の潜り抜け方』に少々触れつつ(それ次第でプレイングボーナスの度合いを決します)『新インペリウム』=『ヘルメスデウス・ブレインコア』との交戦方法を考えて頂きたく存じます。

 それでは……皆様のプレイング、お待ちしております。
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第1章 日常 『レッツ!メカニック!』

POW   :    叩けば直るとばかりに力技で何とかする

SPD   :    技術を活かしてきちんと修理する

WIZ   :    効率よく修理を進めるための作業割り振りなど、裏方仕事をする。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「あんた達が、今回来てくれた猟兵か……初めまして、俺はグレイ。解放戦争の英雄達に、直に会えて光栄だ」
 比較的スマートなボディシルエットを持つウォーマシンは、左手の平に右手の拳を打ち合わせて頭を下げる。ウォーマシン故、表情を読み取る事は不可能だが、猟兵達への敬意は真物らしく。長くも無い挨拶には真情が篭もっていた。
「で……来て貰ったばかりで恐縮だが。俺が代わりに頼んだ条件は、聞いて貰ってるだろうか?」
 単刀直入。礼儀作法は早々に切り上げて、早速仕事の話に入る。彼自身は勿論、下手をすれば『ブルーアース』船団員全員の生命が掛かっているのだ。シビアになるのも致し方なかろう。

 文明レベルの高い世界らしく、図面はホロビジョンに投影される。一枚目は現在のマシン構成、二枚目はグレイが考案してみたセッティング。図面が二枚投影されると、前後でパーツやセッティングが異なる箇所が、点灯して強調される。
 図面を見る限り、主に手を加えるのは。エンジンの換装と、そのパワーを充分に引き出す為の動力系のチューニング。操縦系も『遊び』をギリギリまで渋めて調整し、操縦の精密度を更に上げるつもりらしい。
 但しタイトなセッティングは、相応に時間がかかる。そこで技術力の高い猟兵に、手助けを請おうという次第だった。
「俺のマシンの調整まで手伝わせて、申し訳無いが……『亡霊退治』の為に、どうか手を貸して欲しい」
 既に半分方バラされている愛機の前で、グレイは改めて頭を下げた。


※断章の提出が遅くなってしまい、申し訳ありません。
プレイングの受付は、今回は『11月21日の午前8:31以降』とさせて頂きます。
シキ・ジルモント
◆SPD
こちらとしても話が早いのは助かる、畏まられるよりもやり易い
自分の宇宙バイクのチューニングを普段から行っている経験がある、マシンの調整なら手を貸そう

まずグレイのマシンを実際に観察する
普段からよく手入れされている事がわかる良いマシンだ
だからこそ、先にセッティングの癖や好みを把握しておきたい
これは乗り手によって当然異なる、今回のようなタイトな調整を施すなら重要な要素だ

その情報を踏まえて用意してくれているプランに従い、図面通り狂いの無いよう慎重に作業を進める
俺の宇宙バイクはスピードと耐久性の両立を目指した調整をしている、特に速度を上げるという面で今回の作業に転用できる部分があれば提案してみよう


サオササ・テセル
『改造部品のパーツリストと損傷箇所を掲示します』
巨大化させたメッセージボードを虚空に浮かばせてそう周知した後
【世界知識】【情報収集】で向かう空域の情報やそれに伴うグレイ氏のカスタマイズに合うパーツを掲示。
あとは整備士さん達に選択させた方がいいかも。
取り付けられてくマシンの状況までしっかりメッセージボードで
表示してどう改造が施されたかも逐一【情報収集】できるようにしておく。
最悪あまり遅くなるようなら自身も【メカニック】の知識はこの前ダウンロードされているから参加する。グレイ氏に許可は求めないといけないけど。

心中独白:火種ある所に悪意は拠る…
肉声:命を助けなきゃ」


黒木・摩那
【WIZ】
メカの調整は他の方にお任せして、『イーグルアイ』部隊が収集してきたというデータを見せてもらいます。
いかにバイクが速くとも、道が分からなければ迷ってしまいますし。
スマートグラスを応用した、ナビを作ります。

それをうまく操縦系に組み込めれば、より操縦に集中できるのではないでしょうか。


櫟・陽里
ええー!隊長、このマシンに乗ってんの?イカツイわー♪
図面を見ながらニヤニヤが止まらない
こんなすげぇマシン触っていいの?もちろんやるやる!

見ての通り俺もスターライダーの端くれだ
一通りの用語もメンテもわかるし
図面があるから組み立てもできると思う(たぶん)
各種調整だって任されりゃそれなりに仕上げて見せるよ!
俺も遊びは少なめ派だなぁ
マシンの限界と乗り手の限界、両方を突き詰めてこそ走りを楽しめるってもんだ!

手伝いながらついついマシンに話しかけてる
頼むぜー期待してるぜーたくさんの人の未来のために一緒に頑張ろうな、って…
その方が俺自身の気分も上がるんだ
このマシン、名前は?
隊長が乗ってるとこ、早く見たいなー!


エトワール・スフェール
【WIZ】
我輩、あまり修理とかは詳しくないが、必要な物資や人手の手配なら得意だ。
もらった設計図から資材一覧を見て第六感で思い当たる商人に連絡を取って集団戦術で資材の手配を始める。

その際にUC【希望の星】で取引を行う。我々商人たちは今まで帝国相手に不可能を可能にしてきたのだ。これくらい余裕であろう。
それにここでその資材の良さをアピールできれば、よい取引先になるし、宣伝にもなると思うがどうだろう?
と、商人たちの心を揺さぶっていくぞ。


カーバンクル・スカルン
【SPD】
【武器改造】も【リミッター解除】もスクラップビルダーとしてやり慣れてるからね、一肌脱いでやりましょうか!

で、オーダーはエンジンの換装と、そのパワーを充分に引き出す為の動力系のチューニング。操縦系も『遊び』をギリギリまで絞る……と。ここまで的確に指示されているとやりやすいね。

でもどのパーツもしっかり整備されててこのバイクに対する愛が伝わってくるわ。これって、グレイさん直々? それとも本来の整備士さんのお仕事? こりゃ、最適解で応えなきゃ女が廃るってもんだね。

……でも耐久面で不安なところは代替案を出させてもらうわ。難破が命取りになることは同郷の民として重々分かってるからね



 グレイの率直な態度に、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)もまた、率直な態度で答礼して付け加えた。
「こちらとしても、話が早いのは助かる。畏まられるよりもやり易いからな」
 グレイと二人で頷きあうその横で、櫟・陽里(スターライダー ヒカリ・f05640)は既に半分かたバラしてあるグレイの乗機、正確にはその宙間航行用のブースターユニットを、キラキラしい眼差しで様々な角度から見回している。
「うおーっ! 隊長、このマシンに乗ってんの? イカツイわー♪」
 確かに『宇宙バイク』としては、この機体は最大級に属するだろう。見れば見る程に、陽里はニヤニヤが止まらない。こんなモンスターを自分も弄れる事に、テンションはウナギ登りである。

 陽里ほど分かり易く、また豪放でもないが。整備とチューンナップに参加する、シキと、カーバンクル・スカルン(クリスタリアンのスクラップビルダー?・f12355)の二人も、マシンを見れば見る程に、感心の度を深めるばかりであった。
「良いマシンだな。普段からよく、手入れされている事が一目で分かる」
 シキの言に、カーバンクルも頷く。
「半ばバラしてあるから、逆にパーツの状態も分かるけど……どのパーツも、ちゃんと整備が行き届いてる。このバイクに対する、愛が伝わってくるわ」
 カーバンクルはクルリと振り向き、グレイに相対して尋ねてみる。
「これって、グレイさん直々? それとも本来の整備士さんのお仕事?」
 声色に苦笑を乗せつつ、グレイは肩を竦め、
「俺が触らせて貰えるのは、あっちだけさ。それも、街乗りに限り」
 言いつつ、このマシンのコクピットブロックであるチョッパーバイクを親指で指す。
「どっちにも言える事だが……どうしても『機械のパーツ』って奴は大体が『人間が扱うのに丁度良いサイズ』だからな……ウォーマシンの俺じゃ、ちーと小さすぎる」
 さもありなん、と。シキとカーバンクルは納得しつつ。陽里を加えた三人で、改めてホロディスプレイの図面を見やる。

 そのサイドにもう一つ、会話用のメッセージボードが立ち上がった。
『改造及び調整に使用する部品のリストと、確認された損傷箇所を掲示します』
 サオササ・テセル(虚欠片の機精・f15384)が、メッセージボードでそう断ると。図面の左下に必要なパーツの一覧を、消費するであろうビスの本数概算まで弾き出して表示する。同時に懸念される、劣化箇所や損傷箇所が図面内で赤く表示された。
「この、要補修箇所だが……今回の作業で、補修作業が行われない箇所はあるか?」
 二枚の図面を見比べながら、シキがサオササに尋ねると。心得たとばかりにサオササがデータを入力し、作業予定内容と擦り合わせて表示させる。作業前の図面では赤く点灯していた箇所は、完成予定の図面では緑色に表示され。どの箇所も改装なり、補修なりが行われる事を指し示していた。
「なるほど。補修作業もちゃんと、工程の中に組み込まれている訳か」
 シキがひとつ頷いて納得し、陽里も感心の声を上げる。
「やっぱ、ちゃーんと考えられてるんだなー。すげーぜ」
「でもさ……ここんとこのパーツ、ちょっと型式古くない? 新式のパーツなら、もっと精度出せると思うんだけど……」
 カーバンクルが、サオササが表示したリストを見て首を捻る。サオササが表示したパーツリストは、入力された作業内容に準拠してリストアップされた物で。必ずしも『最適解』のパーツを表示した物では無い。それはデータを入力した者の仕事であって、サオササの責ではないのだが……しかし、パーツ吟味とデータ入力者が、手を抜いた訳でも無論無い。その代表として、グレイが困じた様に声を発する。

「新型のパーツってのは、パーツとしての精度を出すのが難しくてな……うちの工廠じゃ、新型のパーツを頑張って拵えるより。ちょい旧式でも確実に精度を出せるパーツで組んだ方が確実なんじゃねーかって、チョイスなんだわ」
 但しその分、最終的なセッティングで若干なれど。最新パーツを惜しみなく使用したセッティングよりは、やはり最高性能は劣る。ただそれは、誤差の領域と割り切る予定だったのだが――
「ここで作るのが難しいんなら。余所の艦やら船団から、仕入れてやれば良いのではないか?」
 ひょっこりと側面からリストを覗きつつ、エトワール・スフェール(蒼玉の星・f30796)が、あっさりと口にした。
「我が輩、機械の整備やら修理やらに関しては詳しくないが……人手や物資の調達なら得意だ。任せて貰えるなら、悪い様にはしないぞ」
 しばし考え込んだグレイだが、ひとつ頷くとエトワールに向き直り。
「分かった。ひとつ、頼まれて貰えるだろうか?」
 その言に、エトワールも不敵な笑みを浮かべて請け負う。
「任せるが良い」
 こうしてドッグの一隅に、もうひとつの戦場が誕生したのだった。

 しかし『戦場』は、もう一箇所存在していた。
 黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)が、柱となって支える『イーグルアイ』部隊が収集してきた、偵察データの解析チームの仕事場だ。
 星系の中心部まで突入する訳にはいかなかった故、完璧な偵察データとは言えなかったが……そもそもその宙域まで踏み込んでいたら、偵察データ自体が得られなかった事は疑いない。中途のエリアまでとは言え、詳細なデータがあるだけ有り難い、という物である。
 このデータを解析し、問題の星系中心部まで最速で到達できる『道』を探し出し、可能ならルートナビを作成するのが、摩那と解析チームの目的だった。
「いくらマシンを速くしたって、途中で道に迷ったら台無しですからね」
 それが、摩那の言である。
 実際には、問題の星系は恒星風の周期が短い上に、法則性が全く無いランダムで。それに擾乱された小惑星群も、不定期にその軌道を変える為。『完璧なルート』を算出する事は、不可能に限りなく近い。
 それでも、小惑星の分布にはある程度の粗と密があり。粗の箇所を選んで突入すれば、速度をそう落とさず突破できる公算がある。それが分かっただけでも、上出来と言えた。
 後はその算出データを、デバイスに落とし込むだけである。摩那にとって、それはそう難しい作業では無かった。

 一方、エトワールの司る『戦場』では。『ブルーアース』船団の比較的近郊を航海している商人達と、エトワールとの『商戦』が繰り広げられていた。手に入れたい部品類のリストを覗き、それを取り扱っている商人をエトワールの直感で捜し当て。連絡を取った結果である。
 通信を繋ぎ、ホロビジョンに映った数人の商人は。いずれも見た目はエトワールより年嵩であり。いわゆる『大商人』では無いが、海千山千の冒険商人達だ。
 彼等は、単に『利』をちらつかされるだけでは動かない。各々が抱える『浪漫』に訴えかけ、琴線を揺り動かして初めて『話』ができる。
 尤も、それはエトワールも承知の上である。この時こそ、彼女のユーベルコードの格好の出番だった。
 取引を申し出、それを聞こうと集まった者達の冒険心に訴え。不可能であった事が、可能となるかも知れないという思いを抱かせる。但し、相手の心を揺さぶれなければ効果は薄くなる。つまり後は、エトワールの腕次第という事だ。
「我々商人は、今まで帝国相手に。不可能を可能にしてきたのだ。それに比べれば、多少の距離など何であろう? 何の為のワープシステムだ?」
 更にエトワールは『利』と『浪漫』をくすぐる。
「ここで新たな船団と、誼を通じるのも悪くは無いだろう。質の良さをアピール出来れば、新たな顧客にも成り得る。そして……」
 やや勿体ぶった後、彼女は爆弾を放り込んだ。
「今回、頼んだ部品で行う事は……帝国再起の野望を挫く為。残党の撃滅と、根拠地の破壊だ。帝国にまた一泡吹かせられる、良い機会だと思わないか?」
 途端。商人達の目の色が変わった。彼等は皆、帝国を相手に散々苦労してきている。『帝国再起を阻止する』というのは、目先の取引より余程重要な事柄だ。
 その後、具体的な輸送手段と支払いについて、正式な契約を結んだ後。通信は切れた。

 それより、差程時間をおく事も無く。ワープ機能を有する小型艇に積載されたパーツ類が次々と、『ブルーアース』船団へ届いた。整備員や物資の管理官は勿論、サオササも届いた部品を検品し。リストを次々と更新していく。最適な部品類が揃った事を確認すると、サオササは例によってメッセージボードで皆に語りかける。
『リスト更新完了。改修作業、開始可能です』
 同時に彼女はチェックリストを立ち上げ、作業の推移を随時見守り始める。エトワールの方は、ひと仕事終えたと休憩モードだが、それを咎める者は勿論居ない。
 摩那の方も作業は佳境の様で、臨時のスタッフと共にコンソールと格闘中だ。これが終われば、彼女も暫く休んで貰える。もう一押し、頑張って頂こう。
 そして……いよいよ、マシンの本格的な整備と改修に、取りかかる準備が整った。これからが『ブルーアース』の誇る整備員と、整備担当の猟兵との。腕の振るいどころである。

 各機関及びブロック毎に本格的に解体されて、フレームのみになったブースターユニットは。歪みや経年劣化のチェックを行うべく、検査室内へ運ばれる。その間に換装用のエンジンが二基、運ばれてきた。
 このエンジン自体の整備と調整は既に終わっていて、後はフレームへ組み込むだけで完了だ。原理自体は(スペースシップワールドとしては)ありふれた、核融合を利用したタービンエンジン。融合炉から供給される熱エネルギーで、推進剤を加熱膨張させてプラズマ炎に転換し。それを後方へ放出する事で推力を得る。グレイのマシンは、これを二基並列で作動させる双発仕様だ。
「うわ凄ぇ! チューニング、カリカリじゃん! 俺達が弄るとこ無いんじゃね?」
 エンジンの内の一基をザッと一通り眺め回して、陽里が声を上げ。シキが冷静にそれに応じる。
「エンジンは、前々から用意してあったんだろうな。どう見ても、昨日今日で終わるセッティングじゃ無い」
「これだけ丁寧な仕事を見せられたら、こっちも最適解で応えなきゃ、女が廃るってもんだね。そんじゃ、フレームが『退院』してくるまで。とりあえず動力系から始めましょっか」
 カーバンクルの言葉に、サオササが即座に反応。図面の動力系箇所がアップになって赤く点灯し、改修箇所のチェックリストがサイドに表示される。いざとなれば彼女自身も整備を手伝えるが、とりあえず今はその必要は無さそうだ。

 機体整備を買って出た、猟兵三人の仕事ぶりは。正に三者三様だった。
 パーツひとつひとつを丹念に観察し、セッティングの癖や好みを読み取って、それに併せた調整を行うシキ。
「頼むぜー期待してるぜー! たくさんの人の未来の為に、一緒に頑張ろうな!」と、パーツ一つ一つに友達に接する様に、語りかけながら手を動かす陽里。
 図面通りのセッティングを行いながら、パーツ毎の機能を頭の中でシミュレートし。耐久性は充分か確認しながら作業を進めるカーバンクル。
 ひとつ共通点があるとすれば、それは『並の整備士では有り得ない、作業の確かさと作業速度』であろう。思わず自分の手を止めて、彼等の仕事に見入ってしまった若手の整備員の頭を軽く小突いて、グレイは苦笑半分の声色で口を開く。
「噂通り、って奴だな……でもな、猟兵一人一人の、たったひとつの技能を取りだしたら。それら自体は決して、俺達凡人でも追いつけなくは無い……んだってよ」
 だからお前も頑張ってみろ、とは。グレイは言わなかった。それから先は、この若者が目指すか否か、決める事だからだ。
「ごめん、サオササさん! チェックリスト、ちょっと大きく表示してくれない?」
 カーバンクルの声に従い、サオササは、赤と緑とが未だ混じり合ったチェックリストのウィンドウを拡大しつつ、心中で独白する。
(「火種ある所に、悪意は拠る……だとしても」)
「それでも、命を助けなきゃ」
 思わずサオササの口をついで出た言葉は、『ブルーアース』に駆けつけた猟兵全ての思いであったろう。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

カイム・クローバー
バイクの改造が条件とは…こんな提案、初めてじゃねぇか?
整備なんざ素人同然だが、乗り物は好きな方でね。…おっと。それとも、『ブルーアース』の哨戒部隊隊長様はお喋りは嫌いかい?

悪いが整備の技術は素人だ。そっちで役に立てるとは思っちゃいない。
俺はグレイの傍らでバイクの整備を見ながら、パーツの調達…消耗品じゃなくスパナやレンチをUCで作って渡してやるよ。
伸縮自在、どんなサイズにも合う特製の工具。一品物だぜ?
乗り物は好きなんだ。バイクに車に…最近はクロムキャバリエ──要するにロボットみてーなモンにも搭乗経験がある。なんて過去の体験談を話しながら。
機会があったら、アンタともバイクでレースしてみたいモンだ。



「『バイクの改造』が、仕事を引き受ける条件とはねぇ……こんな提案、初めてなんじゃねぇか?」
 整備を買って出た猟兵達と、『ブルーアース』の整備員達が換装・調整を行っている、グレイ専用の宇宙バイク――正確にはそのブースターユニット――を眺めやりながら、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)が、いっそ感心した様に独語した。
 彼は、こういった乗り物は大好きだが、中身を弄る方はズブの素人の為。整備中の機体など、下手に触る事すら出来ない。余計な気を回して手を出したりしたら、誰が怪我をするか知れた物では無い。故に、暫くの間。ただその手並みを拝見していただけだったのだが……ふと思い付いた事があり、それを実行してみた。
 祈ると言えば、祈る様でもあるし。望むと言えば、望む様にも思える。そんな一言では表せない観念の後。カイムが生み出した物は……スパナやレンチだった。

「何だこりゃ?」
 グレイが思わず首を捻ったのも無理は無い。カイムが生成したスパナやレンチは、どの号数のボルトやナットに合うか分からない、逆に言えば『どの号数のそれらに一切該当しない』工具であったからだ。
「何に使うんだ、これ……?」
 若干困惑しつつ、一方で心躍りつつ、グレイはカイムに尋ねる。『単なる冗談や酔狂で、生み出した物では無いに違いない』と、直感した故の発言だ。誰にとっても幸いな事に、それは単なる予感で終わる事は無かった。
「コイツはな……こう使うんだ」
 カイムは適当に、号数の異なるボルトを数本拾い。その内の一本に『謎のスパナ』を押し当てる。するとこれまで『そのボルトに合いそうで、実は合わないスパナ』だった謎スパナが、一瞬でボルトの号数にピタリと合うスパナに変じたのである。更に別のサイズのボルトに合わせると、先と全くサイズの異なるボルトにも、一瞬で適合して見せた。
 つまり。カイムの作り出した『どの号数にも、合いそうで合わない工具』は。『どの号数にも適合させられる工具』であったのだ。

「へえ……コイツは中々、面白いな」
 感心しながら、カイムの万能スパナを器用に指先で回転させるグレイである。
 整備士の場合、後腰にツールをブチ込むヒップバッグを提げ。自分が普段使う号数の工具を厳選して収納しておく事も少なくない。だが、普段使い慣れない号数のボルトやビスに行き当たったら、ヒップバッグでなく、自身の工具箱を漁る必要が出てくる。少なくともその手間を短縮できるこの工具は、ちょっとした大発明かも知れなかった。
 ただし、用途が用途故。人に依っては『特に必要無い』と思う者も居るだろう。それ故に、万人向けとは言いかねる。むしろ普段、工具など使わない者にこそ。利点の大きいツールと言えるかもしれない。
「これ、一般向けに販売したら。案外売れそうだな……」
 そう評した、グレイの独白は。それが理由であったろう。
「そう言って貰えると、思いつきを形にしてみた甲斐があったってもんだ」
 カイムは得意そうに、鼻の頭を擦った。

 そのやり取りの後、カイムとグレイは何となく、改修中のブースターユニットを一緒に眺めていた。
「俺は整備とか、そういうのには疎いんだが……乗り物は好きなんだ。バイクに車に……最近はクロムキャバリア──要するに、人が乗り込むロボットみてーなモンにも搭乗経験がある」
 何とはなしに、カイムは話し始める。その相手が、ある意味自分と同類項だと思っての事である。案の定、グレイはその話に食い付いた。
「キャバリアってのは、風の噂で耳にした事がある。その話も多分、猟兵が関わってるんだろうが……俺達みたいなウォーマシンだと、人間で言うパワードスーツと変わらなく無いか? むしろ『搭乗』じゃなくて『装着』じゃないか? ……なんて代物で。どうしたもんか、困惑した奴も少なくないらしいな」
 その言葉の意味を想像して、思わずカイムは噴き出した。似た様な笑みの波動を、グレイも漏らす。
「『搭乗』と『装着』じゃ、ちーとハンデ酷い気がするな……」
 尚も笑いながら、カイムは言を継ぎ、そして繋げる。
「機会があったら、アンタとは。キャバリアじゃなくバイクで一戦、勝負してみたいモンだ」
 グレイも笑いの余波を残しつつ、言で応じる。
「面白いな……猟兵とのサシのレースか。もし勝てたら『ブルーアース』の名も、上がるかも知れないな」
 二人共に、口調は冗談の延長線上でありながら。『叶うならば。いつか、きっと』の想いは真情だった。

成功 🔵​🔵​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
よろしくお願いいたします、グレイ様
ハード面ではなくソフト面でご協力させて頂きます

『イーグルアイ』が収集した膨大なデータをUCの超高速演算を応用し解析
改造バイクの諸元など踏まえ作戦突入時のシュミレーションデータ作成

地理的条件はほぼ完璧に再現
敵の索敵性能等不明点は旧インぺリウムのスペックを元に上方修正

マシンの最終調整の為にお使いください

私は記憶と人格を失ったことで本来の主の帝国に弓を引きました
開発経緯を考えれば私の同型機達やこの後相対する『彼女』こそが戦機として正常で私は壊れているのでしょう

ですが騎士道に狂ったことに後悔はありません

仕様の違いもありますが…グレイ様は現状をどのようにお考えなのですか



「よろしくお願いいたします、グレイ様。私はハード面ではなく、ソフト面でご協力させて頂きます」
 折り目正しく、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は挨拶すると。挨拶を受けたグレイは、人間なら破顔する勢いで答礼した。
「俺みたいなウォーマシンも、猟兵になってる奴が居ると聞いた事はあったが……実際にこうしてお目にかかれると、感慨深い物があるな……」
 微笑の空気を纏いつつ、トリテレイアもコンソールに向かう。勿論、物理的なコンソールキーは彼の手には大きすぎるが、問題は無い。ウォーマシンとは即ち、機械種族。コンソールを弄らずとも、直接ジャックに接続すれば。データの入出力を行う事は容易である。

 トリテレイアが『イーグルアイ』の収集データを元に、作成しようとしているのは。当該宙域の状態を再現し、シミュレーションを行う為のプログラムだった。マシンが組み上がり、セッティングが終了したら。すぐに試運転と最終調整を行える様に、との配慮である。
 尤も、敵の正確な索敵能力の限界が分からない為。そこは予測するしか無いが……そこは実際に戦った事のある、大元のインペリウムの能力を参考に。更に上方修正を施して再現する事とした。
 むしろ今回の場合、再現が厄介なのは『地理条件』の方である。デタラメ且つ気紛れに吹く恒星風と、その影響を受ける小惑星帯。特に大元である、恒星風の発生とその強さは、最早緻密に計算するより。揺れ幅だけを設定して、発生と強度はランダム要素とした方が、余程『現実に近しい』というのは皮肉な話である。それでも、あると無いとでは雲泥の差だ。
「これで宜しいでしょう。マシンの最終調整に、少しはお役に立てるかと思います」
「ありがとう。すげー助かる」
 バイクが組み上がるまで、基本的に何も出来ないグレイは、猟兵達を歓待するくらいしかやる事が無い。場所を少しでも空ける為、ウォーマシンの二人は整備室の端に寄る。
 結果として、二人して立ち並ぶ事と相成ったが……トリテレイアには、ある意味都合が良かった。

「私は……いえ、私も。ご覧の通り、ウォーマシンです」
 唐突な言葉に、しかしグレイは何も言わず。そのまま続きを促した。
「私は記憶と人格を失った事で、本来の主である帝国に弓を引きました。しかし、開発経緯を考えれば。私の同型機達や、この後相対する『彼女』こそが。戦機として正常で……私は、壊れているのでしょう」
 トリテレイアは、右手を肩の線まで上げて。その手を開き、そして握る。
「……ですが、騎士道に『狂った』事に、後悔はありません」
 機械仕掛けの白騎士は、彼よりスマートなフォルムの『同胞』に視線を送った。
「仕様の違いも、勿論ありますが……グレイ様は、現状をどのようにお考えなのですか?」
 率直な問いに、グレイは頭部を軽く撫で。「俺は『様』なんて柄じゃ無いが……」などと言いつつ、口を開いた。
「変わらない物なんて、この宇宙の何処にも無いだろ。でも出来る事なら、自分の意思で変わりたい。お前さんが、帝国の打倒に手を貸した事を後悔してるってなら、話は別だが……そこに後悔が無いってなら、それはお前さんの『生きる理由』って奴だろう」
 グレイは一度口を閉じると、何かを諳んじる様に視線を宙に流した。

「この世界に生きる者達は、それぞれ『生きる理由』を持っている。自分の理由と、相手の理由とが、どうしてもぶつかり合うのなら。その者を傷つける事を恐れるな。その者に傷つけられる事を恐れるな」
 一息に告げた言葉を、一度切って。更に言を継ぐ。
「だがその為には、まず『自分自身』を知らねばならない。自分が正しいと信じられるだけの具体的な根拠が無いのなら、軽々しく『絶対』などと、口にすべきでは無い」
 そこまで言い切って、グレイは苦笑とも取れる微妙な雰囲気を纏った。
「これ、昔に逢ったフォースナイトの爺さんに教わった言葉なんだ。もう『どんな爺さんだったか』すら思い出せない昔の話なんだが……その語り草だけは、今でもハッキリ思い出せる」
 懐かしさと、気恥ずかしさ。郷愁にも似た想いを抱きつつ。『イーグルアイ』の隊長は言を紡いだ。

「俺はこの言葉を聞いて以来。最初は極力『絶対』という言葉を使わない様にして来た。だけど、そうじゃ無いんだよな。『絶対』ってのは、観念の一例であって。色んな言葉に置き換えられる」
 グレイはそう言うと、トリテレイアから視線を外した。それは己の内を見つめる為であって、話し相手を蔑󠄂にする意味では無いと、トリテレイアには理解できたから。彼は黙して続きを待つ。
 果たして、グレイは僅かの間をおいて、続きを紡ぎ始めた。
「例えば『自分は悪人だから、他人に迷惑かけて良い。自分の好きに振る舞って良い』ってのは、そうじゃ無い。『自分が『悪人である事の意味合い』と、その為に己自身の全部を賭けて良いと思えるだけの信念』を、他人に話して納得させられるだけの、具体的な言葉で表現できないのなら。軽々しく『自分は何物だ』と、既存の言葉に自分を当て嵌めて、振る舞っちゃいけない。自分を甘やかしちゃいけない……そういう事なんだろうなと、俺は思うよ」
 言い終えると、その名の通り『灰色』が基本色のウォーマシンは。再び宙に視線を投げて、頭を軽く撫でた。どうやら照れ隠しらしい。
「ま、生き方は生きながら探せ……って事さ。簡単に自分を、何かに当て嵌めたりしないでな」

「ちなみに……グレイ様の『生きる理由』など、お伺いしても?」
 トリテレイアの言に、グレイはハッキリと答える。
「俺はこの『ブルーアース』の連中が好きだ。だから俺の力の及ぶ限り、護ってやりたい。別に大した事ぁない。それだけさ」
 気負いは無い。だがその中に、確かな誇りと真情を感じ取り。トリテレイアはひとつ、頷くのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 ボス戦 『ヘルメスデウス・ブレインコア』

POW   :    メタルナイト・クリエイション
無敵の【超大型機動兵器】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
SPD   :    オートマティックレギオン
レベル×5体の、小型の戦闘用【無人戦闘マシン】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
WIZ   :    ヘルメスデウス・アナライズ
【今戦っている敵の情報を収集・解析した】時間に応じて、攻撃や推理を含めた「次の行動」の成功率を上昇させる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ユエイン・リュンコイスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 猟兵達が惜しみなく、自身の技倆を注ぎ込んだグレイの宇宙バイクは。最初に想定していたスペックを大きく上回った。更に入念な試運転や、シミュレーション。それによる最終調整も滞りなく終え、マシンは『魔神』と称せそうな完成度を獲得するに至った。
 更に、不定期な恒星風と擾乱される小惑星群を、データ越しに観察し続け。小惑星の粗と密の場所を予測し、その間を抜ける為のナビゲーションユニットも、全員に配られた。
 『イーグルアイ』の首領は、揚揚と告げた物である。
「そんじゃ、亡霊退治に出発しようか!」と。

 尤も……実際の『旅程』は、罵る対象が何処かに居たならば。『バカじゃ無いのかお前!』と、それの襟首を掴んで怒鳴りつけたくなる程、波瀾万丈であった。
 これが、何物かの意思によって意図的に用意された障害や要害であったなら、まだ『人災』を主張できる分、救いがあったろう。しかし実際は、妨害となった出来事の、ほぼ間違いなく全てが『天災』である。難路を駆けるに長けたグレイですら、一周回って笑うしか無い程のトラブルが、彼等の前に横たわっていた。
 もしグレイが先導してくれなければ、猟兵達は日時単位の時間を浪費していた事、疑いない。更に彼は軽口や冗句を口にしては、険悪になりがちな雰囲気を和らげてくれた。このウォーマシンが、先遣隊のリーダーである理由を。猟兵達は再認識させられた物である。

 しかし、着実に前へ進む意思と、その為の準備。そしてそれを成し遂げられる技能と技術が渾然一体となって、猟兵達に『結果』をもたらした。
「目標捕捉。なるほど、あれが『亡霊』か……」
 やや苦みを交えつつ、グレイは言葉を絞り出した。猟兵達も『それ』を目にして、平静では居られない。組み立て途中の立体パズルの様な体を晒している、天体規模の構造物。そしてその中央に佇む人影。
 悩むに値しない。これらこそ、彼等の探索及び撃滅目標である『新インペリウム』と『ヘルメスデウス・ブレインコア』に、間違いなかった。
「……悪い。戦闘能力の無い俺は、直接戦闘には関われない。アイツらの撃滅は、あんた達に任せるしか無いんだ」
 苦渋と共に、グレイは言を絞り出す。実際、敵の迎撃態勢は明らかに『万全の態勢』とは程遠い。彼は彼の仕事を、充分に果たしてくれた。
「つまんねぇ事しか言えないが……I Wish You Luck!」
 その言葉を背に受けて、猟兵達は『新インペリウム』に、そして『ヘルメスデウス・ブレインコア』へ立ち向かう。


※1:今回の第一章のリプレイ執筆時。URL欄や一言コメント欄、旅団での口調といった物を参考にさせて頂いたにも関わらず。肝心のメインステシの設定欄を、しっかり読み込むのを失念しておりました。誠に申し訳ありません…

※2:断章は『難航領域を抜けた直後、敵に攻撃を仕掛ける直前』というタイミングですが……プレイングのスタートは『難航領域を抜ける途中や、その直前』或いは『『新インペリウム』や『ヘルメスデウス・ブレインコア』への攻撃に特化』でも構いません。
但し『グレイの指示や航路に従って領域を抜ける直前』とか『グレイの指示に、こんな風に従って領域を抜けてきた』といった風なプレイングがあれば、プレイングボーナスの対象となります。
プレイングの残り文字数と突き合わせ、各PL様の良い様にプレイングを組み立てて頂ければ幸いです。

※3:今回登場する『新インペリウム』と『ヘルメスデウス・ブレインコア』とは、ダメージを共有しており。『新インペリウム』のダメージは『ブレインコア』のダメージとなり、その逆もまた同様です。但し、双方の撃滅には『ブレインコア』の直接撃破が必要とします。
『新インペリウム』からの猛攻撃を往なしつつ『ブレインコア』をどう叩くか、考えてみて下さい。

※4:第二章のプレイング受付開始は『12月2日(水曜日)午前8:31』からと、させて頂きます。それ以前に頂いたプレイングは、申し訳ありませんが…お返しする可能性が発生します事、ご了承下さい。


それでは、皆様のご参加。お待ちしております。
サオササ・テセル
敵の首魁の元へ辿り着く道程で目まぐるしく変わる皆の顔を見た
多分そう生きていく実感を形にできる事が皆の原動力なのかな
摩耶さんが提供してくれたナビを本に行く先の変遷情報を皆と共有しながら
漠然と私は思った

SPDでレギオンを対処
縦横無尽の軌道を見せながら各念導武装で包囲射線展開
射撃・攻撃技能全開でレギオンを制圧
回避に【ロープワーク】【第六感】【見切り】【空中浮遊】【空中戦】の動きを読ませない軌道に【足場習熟】でデブリ等も利用
皆の支援も忘れず【継戦能力】【メカニック】【集団戦術】に
【戦闘知識】【学習力】から導き出された【武器改造】による火力増強で応じる
あなた達の軍団に主導権は絶対寄こさない


黒木・摩那
大変な道のりでしたが、無事にたどり着くことができました。
本当にありがとうございました。

次はいよいよ猟書家と新インペリウムが相手です。
完成前に叩くことができて良かったです。

まずは新インペリウムを叩きます。
乗って来た宇宙バイクをいったん置いて、マジカルボード『アキレウス』に乗り換えます。
スマートグラスのセンサーや【第六感】で新インペリウムからの攻撃を避けつつ、【ダッシュ】で接近。
船体にたどり着いたところで、自身の電子機器を一旦切って、UC【虚空災禍】を発動。周囲の電子機器を無力化します。
こうして、防御が手薄になったところを魔法剣『緋月絢爛』で船体を【鎧無視攻撃】からの【衝撃波】注入で破壊します。


カイム・クローバー
よぉ、色男。子供に好かれるってのは聞いてたが、天災にも好かれてるのかい?羨ましいぜ、全く!
グレイの案内の航行中に皮肉。ちょっとしたゴミなら【クイックドロウ】の銃撃で撃ち落としてやるよ。アンタの運転技術は悪くねぇ!レースが楽しみになって来たぜ!

俺が叩くのはブレインコアの方だ。アレを撃ち抜こうと思えば大量の無人戦闘マシンを潜り抜けなきゃいけねぇ訳だが…ま、大した事ねぇな。
さっきまで『天災』が相手だったんだぜ?暇すぎて欠伸が出ちまうぐらいさ。
お気に入りの建造艦が強襲を受けてるぜ!俺を殺さないで良いのかい?(大声で叫び、注目を集める【挑発】)
ハッ、んなトコでくたばるかよ。レースの約束があるからな?


トリテレイア・ゼロナイン
※機械馬に●騎乗し●推力移動で移動

グレイ様とのデータリンク(ハッキング+情報収集)でこの宙域の●操縦法も身に付きました、感謝いたします

では、私の『生きる理由』を果たして来ますよ

…己が役目を果たす勤勉なる同胞よ
私も人々を守護する騎士として、己が選んだ道を進まさせて頂きます
御覚悟を

周囲に漂うデブリなど馬脚で●踏みつけ加速
新インペリウム銃座や脆弱部●スナイパー技能で●見切り馬上槍機関砲●乱れ撃ち

機動兵器…!

ここで道中チャージしていたUC解放
実弾から光学兵器用防御への切り替えの必要性…疑念を●防具改造で装備していた無線●ハッキング装置での干渉、ラグとして増幅

ごく僅かな隙に3体全てを巨大光剣なぎ払い


カーバンクル・スカルン
いやぁ、スペースデブリ怖かったでしょう。まあ、これくらい出来なきゃ先遣隊のリーダーなんてやってられないか……。ここまで来たら今度はこっちの番だね、任された!

どーもー、突撃隣の工事現場でーす! あんたに恨みは無いけど、あんたのご主人様には色々とオハナシがあるんでね、その戦艦解体させてもらう!

私の動きに合わせてインペリウムごと避けつつ、攻撃を当ててみやがれヘルメスデウス・ブレインコア! 指差し確認よし!出発しんこー!

当たらなくても車輪が建造の妨害や他の人の攻撃の目眩しや防壁になればいい。小さいカケラでも集合体になれば致命傷になるんだよ、ここまでの道中みたいにね!


シキ・ジルモント
◆SPD
宇宙バイクに乗り現場へ向かう
恒星風や小惑星の軌道はナビゲーションユニットも利用し予測
併せて先導するグレイの動きを良く見てトレース、安全なルートを割り出し通過する
グレイの指示には素直に従おう、その腕は信頼している

敵を発見したらユーベルコードを発動
バイクを変形し速度と強度を強化、敵の体制が整う前に攻め込む

軽い攻撃はバイクの装甲で受け流し、インペリウム等致命的なものに絞り確実に回避、小型戦闘機を突破し本体へ接近する
危険を承知で一撃離脱、すれ違いざまにバイク用フォースセイバーを発動した突進攻撃を試みる

グレイは難所攻略という役割を果たしてくれた
その働きに報いる為、俺も自分の仕事を成し遂げなければ



 半ば融合し合った二連星が持つ、惑星系の中央部至近。一見何の益も無い宙域へ突入していく、ささやかな一群があった。『ブルーアース』船団の先遣隊長であるグレイを先頭にした、猟兵達の一隊がそれである。
 無論、単なる道楽や行楽での行為では無く。歴とした理由はある。更にその為の備えも充分に整えた。しかし、それだけの準備を行って尚、猟兵達の行程に立ち塞がる障害は。質量共に膨大だった。
 機械仕掛けの白馬『ロシナンテⅡ』に騎乗したトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)が、先陣切って駆け抜けるグレイと共にデータリンクを取り纏め。黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)の製作したナビゲーションユニットが、二人のウォーマシンが収集した最新データを常時処理する事で、より最適な高速巡航航路を見出しつつの前進で無ければ。事故やトラブルにより足止めを受けた件数は、ダース単位で数えねばならなかったろう。

 ただ、実際には『順調』と評しても良い道程であっても。こうも乗り越えねばならない障害が多いとなると、精神的な負荷の蓄積は避けられない。会話用短距離通信の内容も、流石に愚痴や悪態が増えてきた。
「よぉ、色男。子供に好かれてるってのは聞いてたが、もしかして天災にも好かれてるのかい? 羨ましいぜ、全く!」
 カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)が、揶揄とも皮肉とも取れる言を口にする。実際には冗談のつもりだったのだろうが、爽快感とは無縁の『走り』に、当人も気付かぬ間に鬱憤が溜まっていたのだろう。短気な相手なら激昂したやも知れぬ物言いになってしまったが、投げかけられた方は状況その物には慣れている所為か。精神的な許容量にはまだ余裕があった。
「言い寄られる端から、袖にしてる筈なんだがなあ。向こうさんが忍耐強いのか、俺が良い男過ぎるのか。どっちだと思う?」
 小惑星同士が不意に衝突し、破片を撒き散らしつつ軌道を急変させた岩塊を難なく避けつつ、グレイは軽口を返す。同時に摩那謹製のナビゲーションユニットにデータを送信し、後に続く猟兵達の通り道に修正をかけた。
 訂正された針路に、自身が搭乗する宇宙バイクのそれを合わせながら。シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は、そのソツの無い手際と操縦技術に、改めて心中で感嘆する。流石、先遣隊の隊長の肩書きは伊達では無い。少なくとも今この時は、グレイの指示には従うのが最善手だろう。
「そっか……天災って、ストーカーだったんだな。道理で執拗な訳だぜ」
 カイムがグレイへ返す軽口を聞き流しながら、シキはグリップを握り直した。

 そして……サオササ・テセル(虚欠片の機精・f15384)は、そんな仲間達を見やりながら、心中で独りごちる。
 この、敵の首魁の元へ赴く道程で。目まぐるしく変化する仲間達の顔を、彼女はずっと見ていた。多分そうやって『生きている実感を形にできる事』が、皆の原動力なのかな、と。
 幾重にも連なる小惑星帯の切れ目を視認しながら、サオササは漠然とした思いを抱くのだった。

「抜けた……!」
 それが誰が発した言葉だったかは、一同の誰にも分からない。何故なら全員が、その肉声と同じ想いを抱いていたからだ。偶々誰かが、実際に言葉にしただけの事でしかない。
 多大な手間と、最早数える事も愚かしい程の宙間天災によるトラブル。そして心理的ストレスを乗り越えて。猟兵達は遂に、小惑星帯を抜けたのだ。依頼の事を考えたなら、むしろこれからが本番であったが……これまで強いられた抑圧と忍耐の分、猟兵達の戦意の昂ぶりは尋常では無い。
「すまない。戦闘力の無い俺は、ここまでだ」
 心底申し訳無いという声で、グレイはそう告げたが。
「いえ、確かに大変な道のりでしたが……貴方のお陰で無事にたどり着くことができました。本当にありがとうございました」
 摩那がそう謝意を示し、
「あんたは『難所攻略』という役割を、ちゃんと果たしてくれた。胸を張って良い。その働きに報いる為にも、俺も自分の仕事を成し遂げなければな」
 シキは労いと共に気を引き締める。
「アンタの運転技術、中々悪くなかったぜ! レースでの勝負がが楽しみだ!」
 カイムも婉曲的な表現で、グレイをいたわり。
「では、私の『生きる理由』を果たして来ますよ」
 トリテレイアは、マシンセッティングの時に交わした言葉を引用して決意を示す。
「ここまで、皆で辿り着いた事。絶対に無駄にはしない」
 サオササも、メッセージボードで意思表示すると。
「いやぁ、スペースデブリ帯への先頭切ってのダイブ、怖かったでしょう。まあ、これくらい出来なきゃ。先遣隊のリーダーなんてやってられないかもだけど……」
 カーバンクル・スカルン(クリスタリアンのスクラップビルダー? ・f12355)もまた、グレイの労苦をねぎらって。
「ここまで来たら、今度はこっちの番だね。任された!」
 猟兵達全員の心象を、過不足無く代弁するのだった。

 猟兵達はグレイに見送られつつ。未完成状態とは言え、天体級サイズの戦艦である『惑星型巨大戦艦『新インペリウム』』へ。そしてそのコアであり、管理者でもある『ヘルメスデウス・ブレインコア』へ挑んでいく。その現在位置は二連恒星の引力脱出可能圏内ギリギリであり。並の戦闘力では戦いにすらなるまい。しかしその程度の辛苦、猟兵にとっては茶飯事である。
 一応、万全からは程遠いが。それでも『新インペリウム』の迎撃機能は一応発動しており。迎撃機は猟兵達に向かって、雲霞の如く群がりかかり。『新インペリウム』の完成済箇所からは、幾本もの砲塔が突き出ている。
「いよいよ猟書家と『新インペリウム』が相手ですね。完成前に叩くことができて、良かったです」
 言いつつ摩那は、これまで乗ってきた宇宙バイクから『マジカルボード『アキレウス』』へ乗り換え、宇宙空間を華麗に滑走する。
「良い距離だ……このまま一気に攻める!」
 シキも搭乗中の『カスタムバイク・レラ』を変形させ、速度と強度を強化して。迎撃機である無人戦闘マシンとの接触に備える。サオササはやや距離を取りつつ、展開可能な射撃兵装を全て展開。迎撃機を迎撃にて撃滅する構えだ。
 カイムもまた、迎撃機を突破しての『ヘルメスデウス・ブレインコア』直接攻撃を狙っており。彼にとっても、サオササの殲滅射撃は都合が良かった。
 一方『ロシナンテⅡ』へ騎乗しているトリテレイアは、これまでの道程で当該宙域での『騎馬戦』のコツを掴んでおり。障害物が殆ど存在しないこの場所は、彼にとっても駆け抜けやすいフィールドだった。
「……己が役目を果たす、勤勉なる同胞よ。私も人々を守護する騎士として、己が選んだ道を進まさせて頂きます」
 聞き様によっては沈痛な一言だったが、しかし偶々側にいたカーバンクルは、特に反応を示さなかった。
「どーもー、突撃隣の工事現場でーす!  あんたに恨みは無いけど、あんたのご主人様には色々とオハナシがあるんでね!」
 陽気さと苛烈さを絶妙にブレンドして、カーバンクルは宣告してみせると……
「その戦艦、解体させて貰うよ!」
 片手に『カタリナの車輪』を構え、逆手でブレインコアを指し示すと――車輪が意思を持ったかの様に、自ら回転しつつ、ブレインコア目掛けて飛翔していく。
 この一撃が、本格的な戦闘開始の狼煙となった。

 迎撃機の先頭と、ブレインコアへの攻撃を意図する猟兵達とが接触する寸前。サオササの一斉発射による援護射撃が、迎撃機群の第一波へ着弾した。炸裂弾やライフル弾、熱線などが、広範囲に叩き込まれ。それは一見すると無秩序にバラ撒かれている様にも思えるが……実際には弾幕を抜けて来た一群の頭を抑え、出鼻を挫き続けているのだ。出る杭を片っ端から打ち付けられ、迎撃機は集団の利点を活かせずに、数を撃ち減らされていた。
「あなた達の軍団に、主導権は絶対寄こさない」
 サオササのそれは、鉄の意思と称するに相応しい物であった。
 無論、迎撃機群も単なる的に甘んじている訳では無い。自分達の攻囲を抜けて、ブレインコアへ至ろうとするカイムとシキに向かい。フォーメーションを組んで挑みかかる。しかしそれは、自分達の被害を拡大する効果しか望めない。
「……ま、大した事ねぇな。俺達はさっきまで『天災』を相手にしてたんだぜ? それに比べりゃ、暇すぎて欠伸が出ちまうぐらいだ」
 カイムの豪語が、その理由を端的に表現していた。彼自身は、銃撃の雨によって襲い来る敵を片端から沈め。シキの乗機は、迎撃機程度の攻撃では傷つける事も叶わない。逆にカウンター気味にハンドガンで撃ち抜かれて、こちらも甚大な被害を出すのみに留まっている。

 一方『新インペリウム』への攻勢を行う、摩那とカーバンクルもまた。即席のコンビを組んで挑んでいた。まず、摩那が第六感を併用した回避運動を行いつつ、敵の電子機器を麻痺させて反撃を封じ。その後おもむろに、カーバンクルが飛翔する車輪によって、砲塔や防御用装置を丹念に潰していくのだ。
「小さいカケラでも、集合体になれば致命傷になるんだよ。ここまでの道中みたいにね!」
 カーバンクルの豪語に、摩那も唱和する。
「蟻の一穴、甘く見た様ですね。一撃必殺だけが、攻撃では無いんですよ!」
 『新インペリウム』の攻撃は、電子機器による観測が絶対的に必要だが。カーバンクルや摩那の攻撃は、必ずしもそれを必要としない。『観測できない』故に、ユーベルコードによる命中精度や威力向上も叶わない。ある意味この二人は、摩那がユーベルコード【虚空災禍(エレクトロ・デザストル)】の使用限界に達しない限り。『新インペリウム』やブレインコアにとって、天敵に近いのかも知れなかった。
 更に徐ろに、カーバンクルの車輪が牽制と幻惑に掛かると同時。摩那が『魔法剣『緋月絢爛』』を抜いて、艦船構造体へ深く貫き……内部へ衝撃波――この場合は『振動波』とする方が正確かも知れないが――を注入し、内部から破壊していく。
 『新インペリウム』への攻撃は、概ね猟兵達の有利に進んでいた。

 ただ、最後の一方である、トリテレイアの方は。必ずしも『有利』とは言いかねる戦況だった。一応は人型をした『無敵の大型機動兵器』に、些か手こずっていたのである。この程度の敵を相手に、簡単に傷を受けるトリテレイアでは無いが。一方で、トリテレイアの攻撃も敵機に損傷を与えられずにいた。つまり一種の千日手に陥ってしまったのだ。
 無論彼も、この機動兵器に対する『蟻の一穴』に類する一手は用意してある。だが、簡単に使える手では無く。故に確実に決める必要がある。今は彼は、その機会を虎視眈々と窺っているのである。
 ――その機会は、意外と早く訪れた。仲間の猟兵達の善戦に、ブレインコアが『絶対無敵の要塞兵器』という理念に、僅かな疑惑を抱いてしまったのだ。それは機動兵器の『絶対防御』にヒビを入れ、トリテレイアの放つ『蟻』の通り道となって、その侵入を許してしまった。
 トリテレイアは自身のウェポンラック・スペースから、ケーブルで胴へ直結した柄だけの剣を取り出す。『ブルーアース』船団出発から今まで、ひたすらエネルギーを充填していた疑似フォースセイバーの枷を解く。途端、凄まじい迄のサイズの刀身が形成される。
 同時に、ブレインコアの抱いた疑念を、ハッキングの要領で『蟻の一穴』からアクセス。更にウィルスを増殖させる様に、その疑念を増幅させていく。目に見えて機動力を失っていく機動兵器は、最早単なる的だった。
 しかし、単に機動兵器だけを斬り捨てるのは上手くない。トリテレイアは、ここぞとばかりに欲張ってみた。つまり、機動兵器だけを斬るのでは無く……完成部分の『新インペリウム』と、更にブレインコアをも。纏めて斬り払う事に決めたのだ。幸い、刀身の長さは充分である。後は伸るか反るか、やってみるまでだ。
 裂帛の気合いを発し。機械仕掛けの白騎士は、宇宙その物を斬り裂く勢いで、長大な剣を振り抜く。機動兵器はアッサリ両断され、『新インペリウム』の外殻も大きく斬り裂かれた。流石にブレインコアすらも両断、とは行かなかったが。『新インペリウム』へのダメージは、即ちブレインコアへのダメージでもある。充分な戦果と言えよう。

 建造中の『新インペリウム』から、力尽くで切り離された『ヘルメスデウス・ブレインコア』は。まるで、スペースデブリの最中を遊泳するかの様だ。無論、見かけだけの話だが。
「申告。当個体にて担当した『新インペリウム』構成建造物、修復不可能。当個体による任務遂行は、不可能と判断。当個体の自爆による、当該宙域の猟兵の殲滅をもって。任務完了とする」
 そして……唐突に雑な事を言い始めたブレインコアの身体が、赤く明滅し始めたのである。どうやら『自爆による猟兵の殲滅』というのは、冗談や虚喝では無さそうな勢いだ。かと言って、爆弾の様に解体する訳にも行かない以上。止める方法はこのブレインコアを、完全撃破するしか無いだろう。
 幸い猟兵の側も、札を全て出し切っていない者が居た。フルスロットルでブレインコアへ、愛車ごと突っ込んで行くシキである。更に彼は、愛車用の武器とも言える『フォースセイバー・レラカスタム』のエネルギー波で、車体全体を包み込み。シキと『カスタムバイク・レラ』は、人機一体となる。一人と一機による『一体』は、フォースで構成された一振りの突撃槍が如く、この宙域を駆け――最早防御の術の無い『ヘルメスデウス・ブレインコア』を見事貫き、撃ち砕いて。同時にこの宙域における、猟書家の野望と陰謀もまた、粉砕されたのだった。
「ハッ……んなトコでくたばって堪るかよ。レースの約束があるからな?」
 そしてシキは帰路の間、延々と。そう悪態をついたカイムから、彼とグレイとのレースに加わる様。説得と勧誘を受ける事となる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年12月07日
宿敵 『ヘルメスデウス・ブレインコア』 を撃破!


挿絵イラスト