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羨望の果て

#アリスラビリンス #猟書家の侵攻 #猟書家 #エンデリカ #プリンセス

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●黒い薔薇咲く庭の中
 暖かな日差しが降り注いでいる。
 豪奢な造りをした城の白壁を、まるで這い上るように張り付いた、黒い薔薇に浸蝕された中庭で。
 噴水傍の芝生に、闇より深い同じ薔薇を纏った少女が柔らかく座り込んでいる。
 しかし、その小さな背には、鈍い金で出来た奇怪ながらも美しい羽根が、完全に同化しているように融合されていた。
 金属の羽根が、きぃと音を立てた。
「プリンセスハ、見ツカリマシタカ?」
 黒薔薇のドレスの少女が語り掛ける。傍に地面に置かれた無数の魔法のランプから、魔力で形を成している陽炎のような存在が、首を振るような仕草で、その言葉の意にそぐわない反応を返してきた。
「今モ、胸ガ高鳴ッテシマウノ。アノ子カラ舞ウ花ビラガ、私ノ黒薔薇ヲ浸食シタコト。壊シタコト。
 ……アア、何テ素敵!!」
 少女は感銘極まる様子で立ち上がり、空を見上げた。
 この国には、少女の伴う『黒薔薇』によって、もう目を覚ましている者はいない――この国を治める、ただ一人のプリンセス以外には。
『……オォオオ……』
 不意に、少女の言葉を聞いていた魔力体たちが一斉にざわめき始めた。少女が目をやると、そこには空を浮遊する純白のドレスに身を包んだ、見た目同じ年端のプリンセスが、色とりどりの花びらをまき散らし、その場から逃げ出そうとするところだった。
「捕マエテ!」
 少女が昂揚を隠さない声で指示を出す。魔力体は一斉にそちらを追い掛け姿を消した。
「アア、アノ柔ワカナ花ビラガ、全テノ滅ビノ為ニ生マレタ黒薔薇ヲ、無残ナマデニ散ラシテイク……アア、アァ……ナンテ素敵ナノデショウ!!
 モウ終ワリヲ待ツダケノ、コノ国デ起キテイルノハ貴女ダケ。
 私ト、イマショウ……? ズット私ト、一緒ニイマショウ……! 貴女ハ、コンナニモ素敵ナノダカラ!!」

●グリモアベースにて
「迷宮厄災戦にて現れた『猟書家』が『オウガ・フォーミュラ』と名乗り、平和となった世界に再び侵略を開始した」
 今、一部の世界にて起き始めた世界の異変をレスティア・ヴァーユ(約束に瞑目する歌声・f16853)が端的に状況を説明していく。
「今回の討伐は、その幹部である『エンデリカ』――眠りと共に生命力を奪う呪詛を宿した、黒薔薇の精霊だ」
 話によれば、アリスラビリンスにてエンデリカが侵攻を開始し始めた。そして、今彼女が留まっているという国は、彼女の黒薔薇によって、平和な統治が敷かれていた様相をそのままに、数日と持たずに全ての住民が眠りに浸蝕されたのだという。
 そして、そのまま目覚めなければ、眠りに落ちた生命力が尽き死するのみなのだと。
「――だが、一人だけ例外がいる。
『その国を治めていたプリンセス』だ」
 予知で見た齢はエンデリカと同じほど。白のドレスに身を包んでいたという。
 そして、彼女に戦闘の経験はなく、今はただオウガとエンデリカから逃げ惑っているのだということ。
「黒薔薇は花びらを伴い、今や国中を浸蝕し建物や大地一面を黒の海に変えた。そして、エンデリカが侍らせている魔法のランプを模した魔力塊のオウガは、黒薔薇の上を漂う事で己の力を増強していく。
 ――まさに敵地と呼ぶに相応しいが……その中において、彼女の、プリンセスの能力である『ドレスアップ・プリンセス』の飛翔で生まれる『花びら』は、唯一、黒薔薇を破壊することができる」
 予知の中で目にしていた。そのプリンセスが飛翔と共に駆け抜けた後に舞い散った花びらに触れた黒薔薇は、あっという間に萎れ、散り、またはその名残すら残さず消えていったことを。
「エンデリカは、そのプリンセスに特殊な感情を抱いているようだが、現状はそれ以上不明だ。だが、黒薔薇を無力化してくるとなれば、間違いなく最優先での襲撃対象となるだろう。
 プリンセスは、黒薔薇の消し方を自覚したようだが、戦い方を一切知らず、敵を倒す力は無い。
 どうか、そのプリンセスと協力し、取り巻きとなるオウガたちと、敵幹部エンデリカの撃退を願いたい。
 ――それでは、どうか宜しく頼む」
 予知の内容を告げ終えると、語り続けていたグリモア猟兵は、招集に応じた猟兵たちに向かって静かに一礼した。


春待ち猫
 こんにちは。この度は、ご閲覧をいただきまして、誠にありがとうございました。春待ち猫と申します。

 今回は『アリスラビリンス』における幹部シナリオとなります。
 幹部は、猟書家『エンデリカ』。集団戦と幹部ボス戦のニ章編成でお送り致します。

 第一章:逃げ惑うプリンセスを追いかけ回す集団『魔法のランプ』との戦闘になります。
 動くエネルギー体と共に、ランプ本体も弱点となり得ますが、そちらは全て城の中庭で、朗報を待ち寛いでいるエンデリカの足元にあります。
 その為、完全なエネルギー本体となる魔力で構成された身体が弱点となりますが、黒薔薇の上では強化された無尽蔵の魔力を保持し、魔法のランプはそれを交渉材料として、強力な魔人を召喚します。
 また、エンデリカより命令として、プリンセスを捕縛するように動いている為、思い出したようにプリンセスに攻撃を仕掛けてきます。

 第二章:猟書家『エンデリカ』との直接対決となります。
 猟兵への攻撃はさることながら、隙あらば、空を飛翔するプリンセスを自分の許へ引きずり下ろそうと、攻撃を加えようとしてきます。

 プレイングボーナスは、一章、ニ章共に『空飛ぶプリンセスを守り続ける』となります。

 敵は第一章、第二章共に強敵です。
 是非、皆さまの最善を尽くされたプレイングを心よりお待ち申し上げております。

(この度は、過去の反省を元に、プレイングに受付期間を設けております。
 こちらのプレイング受付期間につきましては、公開後、各章に断章を投稿させていただきましたのち、同時更新致しますマスターページにて受付日時をご確認いただけましたら幸いでございます。
 お手数をお掛け致しますが、どうか何卒よろしくお願い致します)
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第1章 集団戦 『魔法のランプ』

POW   :    蒼の魔法
【魔法のランプ】から、【天候】と【弓】の術を操る悪魔「【蒼穹の魔人】」を召喚する。ただし命令に従わせるには、強さに応じた交渉が必要。
SPD   :    翠の魔法
【魔法のランプ】から、【自然】と【成長】の術を操る悪魔「【翠苔の精霊】」を召喚する。ただし命令に従わせるには、強さに応じた交渉が必要。
WIZ   :    緋の魔法
【魔法のランプ】から、【獄炎】と【剣】の術を操る悪魔「【緋衣の騎士】」を召喚する。ただし命令に従わせるには、強さに応じた交渉が必要。

イラスト:ゆりちかお

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「どうして……どうしてこんな目に遭うの……!?」
 泣きそうになりながら、飛翔に疲れて地に降りたプリンセス――国の住人たちから尊敬を込めて『プリンセス・フローディカ』と呼ばれていた少女が、駆け足で地面を走る。

 それは突然の出来事だった。
 数日前の早朝、眠りについていたフローディカがゆっくりと目を覚ましたとき、平和だったはずの自分の国は、既にいつも通りの平穏を受け取ることを許されていなかった。
 自分の部屋のドアがこじ開けられるようにギシギシと鳴っている。それを聞いたフローディカが、小さな悲鳴と共に窓から『ドレスアップ・プリンセス』で部屋を飛び出す。その瞬間、ドアから溢れた黒薔薇は一瞬で、なだれ込むようにプリンセスの居た場所を蹂躙した。

 フローディカは、そのまま中空を漂うように国中を駆け巡った。
 自分が今まで目にしてきた、国に美しく咲き誇っていた花々は、もはや自分のまき散らす花びらを残して、全てが闇より深い黒薔薇に浸蝕されていた。
 黒く大きな薔薇の花弁の狭間に、この国の住人たちが倒れている。自分も巻き込まれれば同じ末路を辿るのだろう。
 しかし、その逃避の中において、自分の飛翔時に現れる花びらがその黒薔薇を枯らし、または存在そのものを消す事ができるのだと知った。

 それでも――今、こうして。
 敵が自分を狙ってオウガを差し向け、襲い掛かって来たときに。
『黒薔薇を消すだけの力に、どれだけの意味があるのだろう?』

 周囲を、魔法のランプから生まれた魔人たちに囲まれる。
フローディカは力を振り絞り『ドレスアップ・プリンセス』を発動させ、敵の手が届かないよう、上空へと身を放り投げるように飛翔した。
 同時に、それを見越して魔人が射掛けてきた弓矢を、フローディカは身をよじって命からがらに躱した。
 しかし同時に、フローディカは思わず頬を濡らし、その瞳から零れそうになるほどまでに涙ぐんだ。

 もう、大切な住人たちが眠ったままで、起きているのが私一人だけなら、
 そんな世界に存在していても、一体何の意味が――

 足元に集まる魔人の姿を朦朧とした瞳で眺め、フローディカの中で、プリンセスとしての概念が完全に崩壊し始める。
 しかし、その時。
 彼女は、涙で潤んだ己の瞳に、確かに『猟兵』という心に輝く最後の希望を写し取ったのだ――
ラモート・アンゲルス
対の私(ラモート・レーパー)と連携
「こっちですよ」
 事前に対の私から発煙手榴弾を受け取りつつ、対の私はUC【救いの手】に入ってもらいます。
 プリンセスと地上で合流直後、煙幕を発生させ煙幕の中でプリンセスと対の私を入れ替えつつUC【万人の理想像】で姿をプリンセスに変えて先に煙幕のなかから脱します。オブリビオンの感覚的にすぐばれるはずですが。対の私のほうに全て仕向ける作戦なので問題ないです。来ないと分かればお姉さんの姿に変えて中庭を囲む城の白壁に身を隠します。
白剣を変化させた狙撃銃を使って、白壁の陰を移動しながら敵をかく乱しつつ一つ一つ本体のランプを破壊していきます。
「時間稼ぎは頼みますよ。対!」


ラモート・レーパー
対の僕(ラモート・アンゲルス)と連携
「こっち……よ!」
 事前に???で煙幕手榴弾を生成し対の僕のUCの中で待機。
 プリンセスが入ってきたら、UC【万人の理想像】【夜の領域】で姿も存在もプリンセスに書き換えて後に煙幕から出る。猟兵ではなくプリンセスになっているから敵はこっちに来るはず。何せこの2つを組み合わせればいつぞやの幹部すら気付けぬものだからね。
対の僕と敵を充分に引き離したら、敵を煽りながらお姉さんの姿に変えて指定UCを発動し、黒剣を変化させた槍を振り回し切り裂いていく。
「あれれー? 上の命令背いて猟兵追っかけてる悪い子がいるんだけど」
「鬼ごっこはやめて、お姉さんと最期まで遊びましょう?」



●幽かな星の瞬きは、冷たい死を思わせる。

 いつしか、星の綺麗な夜になっていた。
 正確には、星だけが綺麗な夜だった。

 グリモア猟兵の転送によって、その地に辿り着いた二人の猟兵。姿は幼い少女として映る、ラモート・レーパー(生きた概念・f03606)とラモート・アンゲルス(生きた概念・f18548)は、すぐに浮遊するプリンセス『フローディカ』がこちらを目にしている事に気がついた。
 同時にその足元には、無数のオウガ『魔法のランプ』から湧き上がる魔人で囲まれている。
 時間も言葉も惜しく、二人は目を合わせると意思疎通を完全なものとして、無言でレーパーが所持するアイテムから作り出した、煙幕手榴弾をアンゲルスの手へと渡した。
 アンゲルスはそれを受け取ると、代わりにとばかりに、幼子の仄かに光り始めた小さな手を、そっとレーパーの方へと差し述べる。
 ――それは、どの世界かいつの時代か。図りきれない大いなる存在の起こした事象、権能とも呼べる能力の一端を秘めたユーベルコード【救いの手(ブッダノテ)】――これによりレーパーは、その恩恵として『生命が決して危険にさらされない安全な世界』へと一時移動することに成功した。
 それを確認すると、アンゲルスは僅かな覚悟と共に小さく頷き、こちらを凝視しているフローディカに届くよう声を張り上げた。
「こっちですよ」
「た、助けて……助けてください!」
 声を聞き、ようやく目にいる幼子が、確実な味方なのだと理解が追いついたフローディカは、よろめきながらも風に舞う花びらを舞わせて、その傍らへと降り立った。
「大丈夫ですから。つらかったですね……」
 アンゲルスが安心づけるように、そっとフローディカへと優しく声を掛ける。
 そして、その手でアンゲルスは煙幕手榴弾に火を付けると、可能な限り自分たちの姿を隠せてかつ安全な場所へと投げ置いた。
 アンゲルスが見やる煙の噴き上がる視界の先、そこにはオウガが一斉にこちらへと向かってひしめき迫らんとする最中だった。
「手を。これから、安全な場所に誘導しますから」
 差し伸ばされた幼い手を、フローディカが僅かに不安に染まった震える指で取る。
 そして、ふわりと光が走り、フローディカの姿が【救いの手】によって安全圏へと誘導された。

 その様子を確認したアンゲルスは、たゆたう煙の狭間に、直接こちらに襲い掛からんとしている敵を錯乱させるため『今戦っている対象に有効な自分へと姿を変える』ユーベルコード【万人の理想像(バンニンノリソウゾウ)】を発動させる。そして、その姿を『プリンセス』へと変えて、沸き立つ煙の中から飛び出した。
 ――姿は、先程目にしたフローディカのものではあるが『プリンセスそのもの』ではない。
 しかし、今【救いの手】により安全な場にいるレーパーが動くためにも、今はほんの少しでも時間を稼ぐ必要があった。


「こっち……よ!」
「ここは……?」
【救いの手】で生み出された空間の中で、フローディカはキョロキョロと辺りを見渡し、声を掛けてくれたレーパーの元へと歩み寄る。
「ん、安全地帯だよ?」
 フローディカの問いに、レーパーはそれが本来の有り様なのか、明るくも幽かにそら寒さを感じる笑みで返す。そして、レーパーは彼女の姿を己の目に焼き付けると、アンゲルスと同じ能力を持つ【万人の理想像】に、己固有のユーベルコード【夜の領域(ハンティングタイム)】を重ねて発動させた。

 ――【夜の領域】は【万人の理想像】の姿だけでは足りない、その存在すらも己に上書きし、特定の条件下において己の攻撃力を跳ね上げる。前者能力による、自分への存在の上書き――それはもう、変装擬態の類ではなく、存在の転写にも近い。
 ユーベルコードの変換を終えて。フローディカが自分の前に、もう一人の自分がいるという状況に混乱している間に、レーパーはさっそく意気揚々と、戦闘地帯となる外へと飛び出した。

 レーパーが外に出ると、既に発煙手榴弾の煙は退いており、敵たちからは僅かな動揺が受け取れた。
 ――本来の自分たちが追い掛けていたプリンセスが、煙から出てきたものの、何やらいまいち『今まで見てきたソレ』らしくない。
 しかし、今現れたプリンセスは何だか本物っぽいのではないのか――
 頭が実際に欠け、知能にまでは魔力を割いていないオウガは、その判断の下、一斉にレーパーに襲い掛かった。
「おぉっと! こっちだよー!」
 囮は完全に成功した。レーパーが大量のオウガを引き連れてその場を離れていく。
 ほんの一瞬、レーパーとアンゲルスの目が合った。
 そこにあったものは、たったそれだけでも、受け取れる信頼と作戦の成功。

 ――レーパーと、引き連れた敵たちの距離が一気に遠くなっていく。
 その場に一時の静寂が訪れた。
 アンゲルスはそれを感じ取ると、すぅっと一息をつく。瞬間、空間がぶれる音と共に、その姿を妙齢の清廉な女性へと変えた。
「時間稼ぎは頼みますよ。対!」
 アンゲルスは、見えなくなった後ろ姿に言葉を残し、仄かに輝く聖なる白剣を手にすると、魔法のランプの濃紺の魔力源がうっすらと漂ってくる、城内の白壁の方へと辿って駆け出した。

「この辺かなーっ?」
 可能な限り敵との距離を引き離す。ひたすらに駆け抜け、レーパーは後を愚直に追い掛けて来ていた魔法のランプたちに向き直った。
 そして――くるり。
 その瞬間、プリンセスの姿を取っていたレーパーの身は、色香溢れる女性のものに変化していた。
「あれれー? 上の命令背いて猟兵追っかけてる悪い子がいるんだけど」
 レーパーは、言葉と共に、手の中に構えていた愛着ある呪われし黒剣を、漆黒の柄に闇より深く輝く十文字刃の槍へと変化させ、一気に混乱した敵陣へと飛び込んだ。

 この辺りにもエンデリカの黒薔薇は咲き誇っている。強化されているオウガを前にしても、レーパーは星空の下で輝く極めて強力なユーベルコード【夜の領域】によって同等の戦況を作り出している。
 しかし、黒薔薇の上から膨大な強化を受けて現れた魔人が、その死角を射ようと弓引き狙いを定めた。
「――!」
 レーパーがその気配へと対処しようとした瞬間――しかし、弓の魔人は突如もがき苦しみ、放たれた矢は明後日の方へと飛んでいった。


「――間に合いますように」
 アンゲルスの言葉は小さな祈りにも近かった。
 魔法のランプの魔力体は、黒薔薇の上に漂う事で強化されているが、その本体の幾つかはエンデリカの傍らの草地の上に置かれている。
 まさにエンデリカの膝元、中庭近くまで忍び侵入をしたアンゲルスが、己の艶やかな銀光を放つ白剣を、麗しきマスケット銃へと変化させ、黒薔薇に触れていないその本体を撃ち抜いたのだ。
 その一撃は鎧すら砕く。黒薔薇に触れていた本体はその庇護の許に砕けなかったが、一撃で傷を受け、そうでないものには致命傷を与えられる。

 エンデリカが何かを叫ぶのが聞こえて来た。急ぎ身を引き下げて戻って来た魔法のランプが、黒薔薇の魔力を元に魔人を召喚し、侵入者を排除すべく、獄炎をアンゲルスに叩き付ける。
 それを間一髪、白壁の背面に飛び込みかわしながら、アンゲルスは決して一点に留まらない。隠れ動き続つづけて狙撃を繰り返し、魔法のランプ本体を撃ち抜いていく。
 しかし、エンデリカが動き始めれば勝ち目はない。襲撃可能な時間としては、本当に瞬間的なものであろう。
 だが、これだけ出来れば――十分だ。


「――ありがと、対の僕」
 敵が悶え苦しんでいる。それが、すぐにアンゲルスの成果だと分かった。無事であったこと、作戦が成功したことに、僅かに安堵の息をついた。

 後は――敵の全滅は無理でも、刈り取るべき存在は確実に。

 レーパーは、ぎちぃっと敵を睨み付ける。そこに、言葉では言い得ない概念は、明瞭な殺意という形でその場に存在していた。
 ――唇の端が、ゆっくりと蠱惑的に上がる。それはまるで凍り付いた死の形。

「さあ――鬼ごっこはやめて、お姉さんと最期まで遊びましょう?」
 楽しげに謳うように告げられた言葉。瞬間、黒薔薇の上に漂う敵に向け、月光に照らされた九重にわたる閃光が走った。
 黒の槍による九奏の斬撃。それは、先の強化とユーベルコード【生と死の境界線(セイトシノキョウカイセン)】――それは、時間・空間を超越して奔った斬撃の事象による、対象の切断。

 それは、強化されていても堪えられるものではなかったのであろう。消滅した強力なオウガの一匹を目にしつつ、ただ強化されている一体を狙い続けるのは非効率だと判断したレーパーは、悶え苦しむオウガにターゲットを切り替え、それらを次々へと倒していった。
 だが、今のレーパーの基盤を支えるユーベルコードは、壮絶な威力の代わりに、一度は味方を攻撃しなければ己の命を容赦なく削っていく。

 しかし――レーパーにとっては、それに畏まった不安もなければ、心改めるような恐れもない。
 むしろ、レーパーはそれらを、深い微笑と共に己から噴き上がる殺気へと変貌させながら、恐慌を交えて混乱する敵を次々と屠っていった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

セリオス・アリス
【双星】
アドリブ◎
何回だって言ってやる
ひとりで…よくがんばった
眠ってるだけなら敵を倒しゃ目が覚めんだろ
すぐ叶えてやるから、待ってろよ
なぁ、アレス
剣構え、歌で身体強化
上に飛んでる姫さんも
隣にいる俺の盾も鼓舞するように声をあげ
ダッシュで先制攻撃
風の属性を剣に宿し
回転を加えて2回攻撃
敵の攻撃は見切り避け
半端なもんなら風の衝撃派で吹き飛ばす!

敵が黒薔薇で強化されんなら
もっと強い力でぶちのめすだけだ
アレス!
一声名前を呼んでアレスの元へ駆ける
勢いのまま盾に跳び乗り
ただ、上へ
矢が向かってきても怯みはしない
アイツが…ただ俺を無防備に送り出すわけがねぇ
アレスの風を足場にもう一段高く跳び
全力でかますぜ【彗星剣】!


アレクシス・ミラ
【双星】
アドリブ◎

此処からは私達がついています
必ず貴女を守り抜き、この国を元の姿に戻すと誓いましょう
誰も…失わせません
だから、どうか―希望を諦めないで。プリンセス

ああ―騎士の姿でありながら、守らず奪おうとする者達に…負けるつもりはない
彼女には勇気付けるように、僕の剣には共に戦う意志を伝えるように
盾を構え、立ちはだかろう
【蒼穹眼】で敵の動きを予測
セリオスの回避を援護し、姫を守るように戦う
オーラを纏わせた盾で攻撃を押し返し
隙が生まれれば剣でカウンターを

任せて!
声に合わせて盾を上に構え
衝き上げるように彼を空へ飛ばす
…君が飛び続けられるように
導き、支えるよ
風属性で彼に追い風と
矢から守る風の障壁を放とう



●全てを打ち砕く彗星

「……ここは、さっきの場所……?」
 ユーベルコードがふわりと解けて、隠れていたフローディカの姿が現れる。
 しかし、その息をつく暇もなく、視界には再びオウガが湧いて黒薔薇の上に形取ろうとし始めていた。
「ひっ……」
 ――今なら『ドレスアップ・プリンセス』で上へと飛翔すれば逃げられる。
 でも、もういくら逃げたところで――
 思考が足を硬くする。しかし――ふと、背後から優しく叩かれた肩に、フローディカは驚きを隠さず振り向いた。

「ひとりで、よく頑張ったな」
「え……?」
 フローディカの視界に、夜に霞むことのない黒髪が揺れた。
 その目は、こちらではなくオウガを見据えている。だが、
「何回だって言ってやる。
 ――ひとりで…よくがんばった」
 今、肩に触れていた、その手の温かさは確かに本物だった。

 手の主、セリオス・アリス(青宵の剣・f09573)が、両腰に差している、星の瞬きと、双星宵闇『青星』を抜き放つ。
 そして、もう一人。フローディカの傍らに立っていた、まるで夜明けの訪れを思わせる白銀の鎧を身に纏ったアレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)が、物静かに心を安堵させる声で告げた。
「此処からは私達がついています。
 必ず貴女を守り抜き、この国を元の姿に戻すと誓いましょう」
「で、ですが! わ、私が何も出来なかったから、皆が、皆が……!」
「もう、誰も……失わせません。
 だから、どうか――希望を諦めないで。プリンセス」
 守り切れなかったフローディカの悲痛に、アレクシスが守れなかった『過去』がきしりと音を立てる。
 ここを守り切れなければ、あの時と、同じ悲劇が生まれるだろう――回避せねばならない。自分の過去は取り戻せなくとも、同じ未来を繰り返してはならない。
「ま、眠ってるだけなら敵を倒しゃ目が覚めんだろ。
 ――すぐ叶えてやるから、待ってろよ。
 なぁ、アレス」
 フローディカの隣で、二刀流で剣を構えるセリオスが、口端を上げて己の唯一無二に問い掛ける。
「ああ――騎士の姿でありながら、守らず奪おうとする者達に……負けるつもりはない」
 その二人の前に、アレクシスは絶対の守護を約束するように立ち塞がる。
「あ、あの……っ!
 い、今、あちこちに咲いている黒薔薇、あれは危険です……! でも、私なら――この力なら、枯らすことができます。
 お願いします! その隙にオウガを……!」
 自分に戦う力はない。だが、もし助けてくれる人がいるのなら――フローディカは震えながらも『ドレスアップ・プリンセス』を発動した。
 今まで着ていたドレス以上に、豪奢に華開く純白を纏って、プリンセスは空へと浮き上がる。
 ふわりと、色彩に囚われない色鮮やかな花びらが、月光に照らされて夜空を無数に舞い始めた。周囲を浸蝕していた黒薔薇が、それに触れる都度、みるみるうちに破壊され、見る間にその数を減少させていく。

「そんじゃ、始めるか!!
『歌声に応えろ』――」
 セリオスは、二振りの剣のうち星の瞬きを正面に構え、その闇色の瞳を閉じた。
 ――形良い唇から零れるその歌声は、戦場において何度響いたものだろう。
 このセリオスを強化するユーベルコードは、殆どの戦闘において、彼の行動の基軸となる『完全なる身の自由』の象徴でもある。
 だが……このユーベルコードは、発動中ずっと、その存在の命を削るのだ。
 当然の権利として、己の羽根を思う存分伸ばす代わりに、これは――誰かと共にあるべき大切な時間を容赦なく抉り取っていく。

「『力を貸せ。俺の望みのままに』――!!」
 それでも、ユーベルコード【望みを叶える呪い歌(アズ・アイ・ウィッシュ)】――セリオスはこの『輝かしい光に包まれた呪歌』を紡ぎ止めることはないだろう。

 セリオスは双剣を構え、足元のブーツに魔力によって風を編み上げる。敵との距離を一気に詰めながら、しかし、唇に歌は止むことがない。
 先とは異なる紡がれた歌は、まるでどこまでも響くようにアレクシスとフローディカの耳へと届いた。

 ――『星に願い、鳥は囀ずる。いと輝ける星よ、その煌めきを彼の人に』――

「なんて……温かな歌、なのでしょう」
 それを耳にしたフローディカの胸に、アリスラビリンスにおいて彼女の絶対の力となる『人を思いやる温かい心』が強くなる。
 同時にその旋律を聴いたアレクスシスは、瞳を閉じて。そして鮮烈な意志を秘めてゆっくりと開いた。
 心に響く旋律は、今は亡くした故郷の音楽。心に沸き立つ音色は、切なくも決意と共にアレクシスの心に、漣のように響き渡った。

「『今――遍く夜に連なる、総ての運命を見通して、
 ここに、輝ける一条の未来(ひかり)を紡ぐ――!!』」
 胸に滾る決意を込めて、発動したアレクシスのユーベルコード【蒼穹眼(ストラトスフィア)】が、今まで見えていた世界の視点を一変させた。
 そこには、敵の動きの総てが見えていた。
 ――行動の予測から、その隙に至るまで。今セリオスが飛び込み、風の属性を巻き込んだ軽やかな剣で舞うように斬り捨てた【天候】と【弓】を操る敵『蒼穹の魔人』が、再び彼を狙おうしていること。
 そして、空を舞い黒薔薇の強化を食い止めるフローディカを【獄炎】と【剣】を得手とする『緋衣の騎士』が、獄炎をもって焼き落とそうとしていることに。

「セリオス、真上に全力で跳ぶんだ!! プリンセス、急いでこちらに隠れて!」
 それが倒したはずの敵に対する違和感と、アレクシスの【蒼穹眼】の能力が一致した結果だと理解したセリオスは、即座に風を纏う魔導蒸気機器が組み込まれたブーツ、エールスーリエの魔力を爆発させた。
 瞬間、まだ存在していた蒼穹の魔人の手により、まさに今自分のいた場所が、周囲の地面一面を氷が張り付くように凍り付く。
「やってくれるじゃねぇか……!」
 有効時間が短いのであろうことが幸いした。氷がすぐ退いたのを確認して、セリオスは地面に降りると同時に、刹那の空の力を借りて、鋭い風を思わせる鋭い衝撃波によって、その魔人を斬り飛ばして、今度は確実に消滅させる。
 窮地を脱したセリオスの傍らで、フローディカが訳も分からないまま、慌ててアレクシスの背後へと飛び降りた。
 プリンセスを狙っていたオウガは、アレクシス越しにも容赦なく球状の獄炎を叩き付ける。
「はぁぁっ!!」
 しかし、アレクシスの閃盾自在『蒼天』が、煌めき輝く光の壁『閃壁』を展開し、瞬時に炎球を弾き飛ばした。炎が消えると同時に、隙の残るオウガにアレクシスの剣が一閃して、容易く斬り捨てられる。
「ありがとうございました! これで……!」
 感謝と共にフローディカが再び空を飛ぼうとして、不意に息苦しそうに胸を押さえる。
「プリンセス……! 貴女が倒れては皆が悲しみます、少し休んでください」
「で、ですが……! ま、だ、黒薔薇、が!」
 数は大分減った気がする。しかし黒薔薇の上にたゆたう魔力で生まれた、一際大きなオウガがこちらに確かな殺意を向けている。

「つーか! 敵が黒薔薇で強化されんなら、もっと強い力でぶちのめすだけだ!
 ――アレス!」
「ああ!」
 駆け寄ってきたセリオスに全てを察したアレクシスは、そちらに向けて自身の盾を傾けた。瞬間、閃盾自在『蒼天』に、明星の聖印がまさに暗闇を照らす一筋の光のように浮かび上がり、その形を露わに輝き出す。
 そして、セリオスが助走をつけて、一気に盾を衝撃台にして飛び乗ると同時に、アレクシスはその勢いを更に高める為に、一気に下から衝き上げた。
 セリオスが、エールスーリエの勢いも手伝い、中空とはいえ、その場の状況が一斉に見渡せる場まで跳び上がる。
 見渡すまでもないほどの邪気を帯びた、一際強大なオウガがセリオスの目に飛び込んでくる。
 そちらに狙いを定めようとした瞬間、すぐに空中で即座に身動きの取れないこちらを貫こうと、他のオウガから無数の矢が一斉にセリオスへと迫り襲い迫った。

(――大丈夫。アレスが、ただ俺を無防備に送り出すわけがねぇ!)

 確信――しかし、それはまさに予想通りに。地上にいるアレクシスの援護によって、セリオスの動きを阻害しない豪風が、全ての矢を吹き飛ばしていく。
 セリオスの思惑は、アレクシスの思いは――本当に場違いだとは思いつつも、自分でも困るくらいに、うっすらと嬉しさから笑みが零れるほどに的確だったのだと微笑と共に自覚した。

 ふと、アレクシスの風が、セリオスの足を更に高みへと運ぶように靴底から上方へと噴き上げられる。
「よしっ、いける!」
 セリオスはその意図を汲むと、勢い良くその風を踏み台にしてもう一段階、空の高みへと飛び上がる。
 同時に、今まで二刀流であった星の瞬きを鞘へとしまう。そして、片手に残ったものは――双星宵闇『青星』――
 アレクシスの持つ、双星暁光『赤星』と、二振りで更なる力を引き出すこの剣は、さっそく地上の彼の剣と呼応して、無尽蔵の光を洪水のように溢れ出していく。

『歌声に応えろ。力を貸せ』――歌を紡ぐ。セリオスは親友の風の加護に守られながら、重力にも逆らわず。
 そのまま、躊躇わずに勝利を確信した歌を口ずさむ。
 そして、今しかない絶対唯一の好機に――歌は、応えた。

『寄越せ! ――この壁を打破する、無窮の力を!!』
 光が爆ぜる。その手に握る刃から放つ意念の光刃『光閃』が、真上にまで迫った魔人を確実に捕捉する。
 そしてセリオスは、真上に振り上げていた剣を一気に振り下ろした。
「全力でかますぜ――! 【彗星剣(メテオール)】!!」

 それは、まさしく真下に流れ落ちた一筋の光り輝く彗星の威――高きから地面まで、振り下ろされた剣は、確かにオウガの身となる魔力塊を二つに切り裂き、その場で一斉に霧散させた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

スピーリ・ウルプタス
「お怪我はございませんか? プリンセス」
邂逅した時からUC発動
自身とプリンセスを守るよう壁として囲い
ほんの一瞬でも安堵と休息の瞬間を与えたいが為、一歩距離を取った位置から穏やかに話しかける。

「貴女様の必死の努力、苦労、それゆえの恐怖、全て何も無駄ではございません。
 ええ、後は私共めに寄りかかり下さい。
 決しては無駄ではなかったと証明致しましょう」
待ってはくれないであろう敵へは、幾冊もからその鎖たちを伸ばし近づくものからふん縛る、打つ、打つ。

彼女の気が持ち直すまで痛覚と逢瀬、もとい耐え
「もしもご協力いただけるならば、より一層捗ります」
常にプリンセス周囲には盾本配置
あくまで向かってくる敵のみへ攻撃



●決して無駄ではなかった

「……どうして。もっともっと飛ばないと……まだ、あの黒い敵だって、残って……」
 フローディカが呪詛のように呟きを落とす。
 通常ならば、この力はより長く飛び続けられる能力だ。もっと飛び、舞い、綺麗な花びらで国の住人達に喜んでもらえる為の能力――しかし、今はそれが続かない。
 飛ぼうとすれば息が切れ、肺が苦しくて仕方がなかった。だが、強力なオウガとの接戦の最中で、そのようなことは絶対に口に出せない。

 ――飛ばなくては。私は、プリンセスだから。この国の為に『死んでも飛ばなくては』――

 外から来てくれた人たちが戦っている――それを思い、肩で何度も荒く息をつき、執念にも近く目を見開いて。再び空を舞おうと、フローディカの思考が暴走にも近く動き始めた刹那、その視界の正面に、宙に浮く一冊の本が目に入った。
 それは、禁書と呼ばれる――茶色く厚く、太い鎖で厳重に縛られた本。
「……?」
 ユーベルコード【命舞の書(メイブノショ)】――それは、最初は一冊であった本が、見る間に数十と――正確には79冊にまで分裂し、今までのオウガと自分との間に壁を作り出した。
 そして壁の向こうでは、本の壁は迫り来るオウガに対し、伸ばした鎖により魔力塊を縛り上げたり、打ち据えて消し飛ばしたりと、見事な攻勢防御機構として機能している。

「こ、れは……?」
「――お怪我はございませんか? プリンセス」
 困惑を隠しきれないフローディカに、スピーリ・ウルプタス(柔和なヤドリ変態ガミ・f29171)はそっと声を掛けた。
 突然の出来事だったが、話が通じる段階で、この相手も敵ではないのだと認識した。今、一歩下がって声を掛けてくれたのも、こちらを気遣ってくれてのことだと理解する。
「大丈夫、です……。でも、行かな、くちゃ……飛ばないと、せっかく来てくださった皆が――」
「安心してください。戦闘をご覧になったかと思われますが、ここに来ている方は皆さま腕利きの方々……自分の身を守り、多少の無茶など持ちこたえることは容易でしょう」
 その言葉と共に、外からの衝撃で本のバリケードが揺れた。同時にスピーリの身体も微かに揺れるのを見た。フローディカは今すぐ飛び出そうとするが、それをスピーリは手でやんわりと制す。

「事情は聞き及んでおります。
 ――貴女様の必死の努力、苦労、それゆえの恐怖、全て何も無駄ではございません」
 恐らく、今までの全ての事情を解しているのだろう。薄らと優しさを滲ませ微笑むスピーリの言葉が、ふと、錯乱にも近かったフローディカの胸に、しんと響くようにしみ入った。
「……」
 確かに――ここまで、どれだけの苦労があっただろう、悲しみに明け暮れ、絶望し掛けたことだろう。
 しかし助けてくれる人が、突然現れた。降って湧いた幸運だ。故にフローディカは、誰一人にして語ることを忘れていた。
 ――本当に、辛かったのだ、と。
 それに気付いたフローディカの瞳からは、止まらない大粒の涙が零れ溢れていた。

「もう、お一人ではありません。
 ええ、後は私共めに寄りかかり下さい。
 決しては無駄ではなかったと証明致しましょう」
 フローディカが泣き止むのを待ち、スピーリが猟兵としての決意を見せる。
 しかし、その刹那――黒薔薇から強化を代価に生まれた【自然】と【成長】を操る『翠苔の精霊』が、ついに業を煮やしたのか、緑の蔦を生やし本の壁を無理矢理に引き剥がしに掛かってきた。
「……ふ、ここまでですねぇ」
 何やらスピーリの声が艶っぽい。しかし状況はそれどころではなく、本の壁は精霊の攻撃により、一度完全に個々の形に四散した。
 壁が消え、再び夜の全景が広がる。
 それでも、フローディカの目に映る光景は、今までとはまるで違うものだった。

 それを遠目に確認し、スピーリはフローディカへと語り掛ける。
「もしもご協力いただけるならば、より一層捗ります」
「……ええ……!」
 既にフローディカの胸に苦しみはなかった。浮かび上がる。空を飛ぶ身体がこんなにも軽いとは思わなかった。
 本の数冊を護衛に付け、フローディカが空から花びらを降り注ぐ。

「……さて。
 幸せな痛覚と逢瀬――もとい耐えるのも大変でしたが、これで思う存分気持ちよくなれそうです」
 ――禁書のヤドリガミ、日々性癖として痛覚に悦楽を感じて仕方のないナイスミドル予備軍は、プリンセスの心のために、情欲を隠しきる完全な努力を示した。
 これからは――戦いにどれだけの悦楽を得られるのかに胸焦がしながら、こちらに迫り来る翠苔の精霊と向き合うのみ――

成功 🔵​🔵​🔴​

エインセル・ティアシュピス
【アドリブ連携歓迎】
にゃーん!おひめさまいじめちゃめーだよっ!

【式神使い】でぬのやりさん(※装備「生命を守護せし霊布の聖槍」)におひめさまをまもってーっておねがいして、
【指定UC】でわたげさんをおひめさまがかくれるぐらいにいーっぱいつくってにげられるように【時間稼ぎ】するよ!

ぼくは【結界術】【オーラ防御】でこうげきをふせぐにゃーん。
ほのおは【属性攻撃(水)】でおみずだしてけしけしして、
あくまさんは【破魔】【浄化】の【全力魔法】でこうげきするよ!

ないてるひとをいじめるなんてゆるせない!
ぷんすこぷんのぷくぷくぷーだよ!
そんなわるいオウガはぼくがやっつけるんだからねっ!



●小さな正義

 まだ、まだ――自分を、この国を助けようとしてくれている。そんな存在がここにいる。
 それならば、自分も成すべきことをしなくては。……戦えなくても、確実に出来ることはあるのだから――
「にゃーん! おひめさまいじめちゃめーだよっ!」
 目の前の敵を全て退けても、元凶であるエンデリカと向き合うことは避けられない。
 強く敵を見据え、それに向かい気合いを入れるフローディカの傍に、元気な声が降ってくる。
 近くに何かが飛び込んでくる気配がする。そちらを振り向けば、夜月の光を反射したかのように白い肌と髪をしたエインセル・ティアシュピス(生命育む白羽の猫・f29333)が立っていた。
 ただ、日常ふかふかしていそうな猫耳と尻尾は今、鋭い威嚇の意を示している。
「たすけにきたよー!」
「えっ……! で、ですが――!」
 目の前の存在は、どう見ても幼い少年だった。大丈夫なのだろうか、と一般的な先入観からの戸惑いは隠せない。
 だが、自分を最初に助けてくれた猟兵も幼子だった。ならば、もう何処に驚くことがあるだろう。
「ないてるひとをいじめるなんてゆるせない!
 もう、ぷんすこぷんのぷくぷくぷーだよ!
 ――そんなわるいオウガはぼくがやっつけるんだからねっ!」
 その言葉に、ようやくフローディカは、まだ残っている自分の涙の跡に気が付いた。
 皆が助けてくれている。今、こうして立っている存在も自分の為に怒って、オウガに立ち向かおうとしてくれている。
 負けるわけにはいかない――それならば、やはり自分にしかやれないことがあるのだ。
「……ええ……!」
 完全な形でプリンセスとしての覚悟を決めたフローディカが、涙の跡をドレスで拭いて、上空に舞う。
 空で旋回するように一転すれば、月光の下で虹のような花びらが一斉に舞い降りて、地面の黒薔薇を砕き、溶かし、あるいは最初から存在などしなかったかのように消していった。
 漆黒を虹が食らい消していく。目を奪われるような光景に、一瞬混乱したオウガの一匹が、その異変に気付いて天を舞うプリンセスに矢を射掛けようとする。

「だめーっ!! ぬのやりさん、まもってー!!」
 それに気付いたエインセルが叫びを上げた。瞬間、放たれた弓が『精気』と呼ばれる『万物における生命の源である糸』で編まれた不可視の布槍、生命を守護せし霊布の聖槍によって弾き飛ばされる。
「おひめさまー!」
 フローディカは、動揺一つしなかった。もう自分の危機など構ってはいられない。実際、目の前の存在は自分を守ってくれた。
 自分に出来ることは――生きて、この国を救うことだ。

 フローディカはエインセルの呼び掛けに、上空からそちらに目を向ける。
 その間に、エインセルは、ユーベルコード【羽根子猫の天国(ウルトラハイパーヌッコヌコタイム)】に【ゴッド・クリエイション】重ねて、一気に発動させた。
 戦闘能力こそ無いものの、発動に伴い、そこに現れた76体にわたる愛くるしい羽根猫すべてに、速度を上げる筋力が上乗せされる。
 それが護衛のように、一斉にフローディカの回りを取り囲んだ。
「きゃっ」
 実質、機動力が強化された、もふもふとふかふかの羽根猫たちが、フローディカを包むように飛び回る。これでは、何処にプリンセスがいるかも分からない。
 これならば敵も安易にプリンセスを狙うことは出来ないだろう。
 空から、安定して花びらが降り始める。次々と黒薔薇が枯れていく中、魔法のランプの魔力塊たちはその状況を作り出したエインセルへとターゲットを切り替えた。
 即座に【獄炎】と【剣】を操る『緋衣の騎士』がエインセルに滑るように近寄り、鋭い剣を振り下ろす。
「がんばって! にゃんげいざー!」
 エインセルの掛け声と共に、振り下ろされ掛けた剣は、その式神である鋼鉄猫帝ニャンゲイザーによって防がれる。
 ニャンゲイザーが攻撃を防ぐ間、緋衣の騎士から、立て続けに強力な指向性を持って放たれた獄炎は、エインセルが猫の俊敏性をもって躱しつつ、左腕から属性魔法変化により水を生み出し、先に服や尻尾に火が燃え移りそうになるのを凌ぐ。

「にゃーん! あくまさんたちは、やっつけちゃうぞー!!」
 敵の攻撃を防ぎ切り体勢を立て直したエインセルは、先に水を出した左腕を改めて高く、大きく夜空へと掲げ上げた。
 そうして念じれば、見る間に周囲から破魔と浄化を伴う白い光が、集約するようにその一点に集まり始める。
 そして――光が臨界点に触れようとしたとき。
 エインセルの額のルーン文字、ベオクが激しく光りを放ち、左手の光を瞬間的に限界を超え、爆発するかのように膨張させた。

「にゃーーんっ!!」
 爆発寸前の光を溜めた左手が、敵が群れて集まる、最後の一塊へと全力で振り下ろされる。
 極光がその場を駆け抜けた。
 強力な魔力の軌跡――光の抜けた痕跡には、完全に何も残ってはいなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 ボス戦 『エンデリカ』

POW   :    咲キ誇リナサイ
自身の【体を茨に侵蝕させること】を代償に、【機械の翅から召喚する黒薔薇蝶々の群れ】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【黒薔薇に体の自由を奪われる呪いの鱗粉】で戦う。
SPD   :    コレガ「自由」ノ形
【機械に侵蝕された姿】に変身し、武器「【機械仕掛けの翅】」の威力増強と、【羽ばたき】によるレベル×5km/hの飛翔能力を得る。
WIZ   :    ドウゾオ静カニ
自身の装備武器を無数の【戦意と生命力を奪う黒薔薇】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。

イラスト:ろまやす

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠メリー・アールイーです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 月と星の燦めきがあまりにも眩しい夜。
 天上からの光が差し込む中庭は、『魔法のランプ』が置かれていた代わりに、隙間などないほど、一面が黒薔薇によって覆われていた。
 その中央には、黒薔薇の主――エンデリカが立っている。
 その瞳を、忌々しさと憎悪を交えた色へと染めて。

 キィ、と機械ので出来た羽根が音を立てた。

「今ナラ許シテアゲマショウ。私ノオウガを壊シタコトハ。
 ……彼女ヲ連レテキテクレタノデスカラ。ソレデ帳消シ」
 すぐに表情を差し替えるように。ふわり、と柔らかな微笑みを浮かべて彼女は告げた。

「マズハ指カラ、次ハ腕。爪先モ足首モ。少シズツ、少シズツ壊シテイクノ。
 ――全テノ滅ビノ為ニアッタ私ノ黒薔薇――ソレヲ壊シテイク彼女を……私ガ、コノ手デ壊シテイクノ……」
 エンデリカの愉悦に、プリンセスの表情が引きつくように凍り付く。

「アア、何度考エテモ、コレ以上ノ幸セハ何処ニアルカシラ?
 ……彼女ヲ渡シテ?
 大丈夫、ドレモ一ツ残ラズ大事ニスルワ。指一ツ無クサナイシ、ソノ身体モ頭モキット愛シク抱キ締メテアゲラレル。
 ――ダッテ、私はコンナニモ貴女ノコトガ愛オシイノダモノ!
 ソコノ――邪魔ヲスルナラ、容赦ハシマセン。
 黒薔薇ニ沈ンデ、私ノ預カリ知ラナイトコロデ、永久ニ眠リナサイ――!」

 瞬間、一陣の風が吹き抜ける。
 漆黒の花びらが、戦闘開始の合図を告げるように一斉に巻き上がった。
エインセル・ティアシュピス
【アドリブ連携歓迎】
にゃ―――ん!!
すきなひとにいたいことするのはちがうもん!
あいてをそんちょーしないのはめーなんだよ!!
おひめさまをもっといじめようとするならゆるさないよっ!!

にゃーん!みんなに【多重詠唱】で【結界術】と【オーラ防御】のまほーをかけるよ!
【式神使い】でにゃんげいざーにみんなを【かばう】よーにおねがいして、
ぼくは【浄化】と【破魔】のちからをこめて【指定UC】でりょーしょかさんにおかえしするにゃーん!
にゃんげいざーをいっきにはなびらさんにへんしんさせるぞー!

ひとにされていやなことはじぶんもしちゃめーなんだよ!
わからないならいす……いしゅ……えっと……

……とにかくおしおきにゃーん!


ロリータ・コンプレックス
【連〇ア〇】
ふむ。プリンセスへのその狂愛、敵ながらナイスヤンデレ、と言うところ。
でも、そんな姿を見せられたら何が何でもフローディカ様を護ってあげたくなっちゃうなぁ。きゅんきゅん♪

【空中浮遊】でフローディカ様の前に立って【呪詛耐性のあるヴァルキリーシールド】を使いつつ、【鈴蘭の嵐の範囲攻撃/オーラ防御】で敵の黒薔薇から【かばう】よ!

さぁて、その黒薔薇はフローディカ様とロリータちゃんの花吹雪、両方突破できるのかな?
長期戦になれば、いずれフローディカ様の花びらが地を覆うよ。

……フローディカ様。プリンセスとしてのお務め、立派だけど自分の国に帰る扉探しも忘れちゃダメだよ?全部終わったら探しに行こうね。



●徹底防衛と一欠片

「貴女ハ、タダ私ノ所ニ来レバ良イノニ。
 ドウシテ、ソンナニ怯エテイルノ? サア、先ズハコチラニ、ソノ私ニハ無イ足先ヲ差シ出シテ――痛クナイヨウニ、千切ッテアゲルワ」
 合間に翅から鳴る機械音を響かせながら、猟書家『エンデリカ』は不思議そうに首を傾げて微笑んだ。
 プリンセス・フローディカは、自分へと曝された狂気じみた思考に、がたがたと震えながら後ずさりする。そのまま、背後にいたロリータ・コンプレックス(神と電波と隣人を愛せとは中二系アイドルの金言である・f03383)へとぶつかり、そのままその身を支えられる。

「にゃ―――ん!!
 すきなひとにいたいことするのはちがうもん!」
 その様子を見た、エインセル・ティアシュピス(生命育む白羽の猫・f29333)が叫ぶ。
「あいてをそんちょーしないのはめーなんだよ!!」
「――ふむ」
 フローディカの肩を気遣うように優しく手を置きながら、まじまじとエンデリカの言葉とエンデリカの様相を観察していたロリータが一つ頷いた。
「プリンセスへのその狂愛――敵ながらナイスヤンデレ、と言うところ。
 ……でも、そんな姿を見せられたら、何が何でもフローディカ様を護ってあげたくなっちゃうなぁ」
「ドウシテ!?」
 苛立ちと共に刺さりそうなまでの鋭い疑問を投げるエンデリカに、ロリータは敢えて返事をすることはなく、この上ないほど嬉しそうな笑顔を返す。

 それはもう、ヤンデレの最高潮とは『自分の思い通りに事が運ばず、ヒステリーに染まりきって、完全に会話が成立しなくなる寸前』こそが至高なのだと――フローディカを護るのは、確かに依頼の一つであるのだが。
 そんな自分たちの当然の努力によって、エンデリカのその様子をノンストップで見られるのだと思うと――もとい、ロリータの受信電波が、いつもより高い周波数でゆんゆんお届けしてくるのだから、これで胸がきゅんきゅん興奮しない方がおかしいというものだ。

「――さて、と。それじゃ始めようかなっ」
「おひめさまをもっといじめようとするならゆるさないよっ!!」
 ――先程のどこか弛んでいた気配が、掛け声と共に一斉に張り詰める。
 そして、戦端は開かれた。

「すずさん、すずさん、力を貸して。
 ――『にゃーん!』」
 エインセルの大きな掛け声一つ。すると、生声を拡げし黄金の鈴に反応して、その場にいた味方の周辺に、透き通りつつも虹色を硬質化した、結界術とオーラの変動による防御バリアが出現した。
 後は、その場の猟兵を護るように、エインセルの傍らにいる心優しき式神、鋼鉄猫帝ニャンゲイザーに、他の皆へと攻撃が来た時には庇うようにと指示を出す。

「そ、それじゃ、行きます……! 黒薔薇を、枯らさなきゃ!」
 気合いを入れ直したフローディカが【ドレスアップ・プリンセス】で、華麗な装いを纏って夜空から花びらを散らし始める。
 さっそく、黒薔薇を浸蝕するように壊し始めた花びらに、エンデリカが小さな悲鳴を上げて、右手を宙空に舞い始めたプリンセスの方へと掲げた。

「邪魔デス――【ドウゾオ静カニ】」
 エンデリカのユーベルコードが、自身を中心に豪風として立ち上がる。
 そして黒薔薇の花びらを大量に含んだ風が、エンデリカの真上にいたプリンセスを中心に一面を囲い覆った。しかし、虹のシャボン玉にも見えたエインセルたちの防御壁は、完全に黒薔薇を防ぎ切る。
 だが、その結界もオーラも無傷では済まず、あちこちに月光に反射する罅が透けて見えた。
「さて――これはロリータちゃんの番かな?」
 そう嘯くように呟いたロリータは、先の衝撃による驚きから、動きを止めていたプリンセスの元へと向かうべく、空中を漂うように地面を蹴る。
「――墜トシマス」
 それを見たエンデリカから、明らかな苛立ちを交えた声があがる。
 瞬間、大きく見開かれた瞳が上空のプリンセスとロリータを確かに捉えた。

「フローディカ様は続けて! 動きはこっちで合わせるから!」
「は……はい!」
 プリンセスが言葉に応え、動きと共に花びらをまき散らしていく。ドレスアップ・プリンセスの動きを止めさせるわけにはいかない。ここで黒薔薇が消えないということは、相手の攻撃力は比重を増して、いつしかこちらへの致命傷となるのだから。
 ロリータは、大きく広がる白緑の羽根を宙に一打ちさせて、一気にプリンセスの元にまで飛び上がる。その勢いを殺すように身を翻すと、プリンセスの斜め下の地――狙いを定めるエンデリカに目を向けた。
 そして、胸元を飾る天使の盾を模したペンダント、ヴァルキリーシールドを祈りを込めて強く握れば、その加護によって呪詛を撥ね除ける一閃の光で出来た大盾が出現した。

「さあ――墜チテ、来ナサイ!」
 忌々しさを隠さないエンデリカが、先と同じユーベルコードを放つ。それを凝視していたロリータは、≪詞琴≫を銘付けられた己の武器『Angel songs -紡彩-』を鈴蘭の花びらへと解け合うように変化させ、ユーベルコード【鈴蘭の嵐】を展開させた。
 身に着けている純白の≪幼装≫が光を放ち、周囲に舞い散る鈴蘭の花びらに力を与える。
 ――それらは、光の盾と共に完全な純白の防御陣として、ロリータの元へと顕現した。
 そして、それらはプリンセスを庇うことで、エンデリカの放った黒薔薇を狙い、全てその効果が届く前に弾き散らす。
「何デスッテ!?」
「さて、その黒薔薇はフローディカ様とロリータちゃんの花吹雪、両方突破できるのかな?
 長期戦になれば、いずれフローディカ様の花びらが地を覆うよ」
 そうは言えども、光の盾の効果もユーベルコードも、先の見えない戦闘終了までの長時間を耐え抜けるものではない。
 だが、こちらの優位は変わらない――むしろ、それまでにエンデリカを倒してしまえば、時間の問題などはないも当然だ。

 しかし、それでも敵の攻撃を受け続けるには体力的な難がある。負担は少しでも軽くしたいのは当然であり。そして、エンデリカを倒すのに、今、自分には致命的に足りないものがある――期待を込めて、エンデリカに気付かれないようロリータは、視線をエインセルへと滑らせた。
 こくりと、エインセルが頷き応える。
 心を決めて――コォウ、と彼の額のルーン文字が光り始めた。

「隙ヲ狙ッテ、コチラガ手薄ダトデモ?」
 それに気付いたエンデリカは、爆風を伴い地上に咲いた黒薔薇を一斉にエインセルの元へと叩き付けてくる。
「ぬのやりさん! にゃんげいざー!!」
 人の視野に置かれることにない、生命を守護せし霊布の聖槍が中空をくるりと駆け、聖なる空間の素となる『精気』を生み出し周囲に漂わせる。
 そして、掛け声と共にエインセルとエンデリカとの間に、式神である鋼鉄猫帝ニャンゲイザーが立ち塞がり、エンデリカのユーベルコードを一身に受け止めた。
「がんばってー! にゃんげいざー!」
 一瞬、ニャンゲイザーが押し負けようとするのを、エインセルが必死に声援を送る。
「――私ノ黒薔薇ガ呑マレテイク!」
 エンデリカが、その異変に気付いた時には遅かった。
「にゃーん! りょーやじきでんユーベルコード! いっくよー!!」
 その動揺に、エインセルのユーベルコード【伝承を模す白羽の猫(イミテイト・キャスパリーグ)】が発動する。それは、ニャンゲイザーが、相手の攻撃を全て呑み込み、その魔力を同じく花びらとして、エンデリカへと全く同じ総量のユーベルコードとして、黒薔薇を同じ漆黒の嵐として叩き返したのだ。
「キャアァッ!!」
 黒薔薇に呑まれたエンデリカの悲鳴が響き渡る。
「ひとにされていやなことはじぶんもしちゃめーなんだよ!
 わからないならいす……いしゅ……えっと……
 ……とにかくおしおきにゃーん!」

 しかし――黒薔薇の嵐を抜け、元が自分のものとはいえ、全くの無傷とはいかなかったのであろうエンデリカは、息を荒くつきながら立っていた。
「許シマセン……絶対ニ……」
 途切れ途切れの呼吸に呪詛を交えて、エンデリカは呟き、空にいるプリンセス・フローディカに目をやった。

「あのひとの、援護に――もっと、飛ばないと……!」
 上空で、心急くフローディカに向けて、ふと何かを気付いた様子でロリータがそっと声を掛けた。
「……フローディカ様。プリンセスとしてのお務め、立派だけど自分の国に帰る扉探しも忘れちゃダメだよ?
 全部終わったら探しに行こうね」

 フローディアは、一瞬その身を硬直させた。
『何のことか、分からない』そう言う事も出来たであろう。
 だが――そのプリンセスは僅かな沈黙の後、小さく一つ頷いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

スピーリ・ウルプタス
連〇/ア〇

UC発動
「私とダイ様は一心同体。寸歩不離。
 さぁ、いきましょうか」

一人と一体(&他お仲間様)とで、敵がプリンセスへ向かう隙を与えない。
攻めて責めて攻め続ける。
基本自分が囮役だが、臨機応変で時に役割入れ替えたり。
正真正銘な本体から鎖振るっての攻撃法
UC違っても常に不借身命な変人

「ダイ様お願い致します!」
隙を突かれ敵が飛行するなら、蛇の尾に乗って…スパーンッと上空の敵追うよう跳ね飛ばしもとい跳ね上げてもらう。
避けられる前に鎖伸ばしその羽縛る
回避され落ちる羽目になったら、蛇君が受け止めてくれる、はず

長引けば長引く程痛みに呻く、悦ぶ。
命共有中の蛇君、他人事じゃ無い為、主より攻撃頑張ってる



●嗚呼、悦楽が為の不借身命

 鎖で縛られた重大な禁書、己の本体を胸に抱えて。
 スピーリ・ウルプタス(柔和なヤドリ変態ガミ・f29171)は、空いている左腕を、まるで流れるような仕草でエンデリカへと差し出した。
 好意によって差し伸べられた手、ではない。次の瞬間、二人の間には全長がスピーリの二倍はあろうかという黒の鱗を艶めかせる大蛇が姿を現しエンデリカとの間に立ち塞がった。

「私とダイ様は一心同体。寸歩不離。
 さぁ、いきましょうか」
 胸の中にある禁書の本体が、紫のオーラを纏う鎖、命の連鎖がゆらりと揺れる。
 そうして、お互いの戦闘力を強化しつつ、その生命力を共有する――まさしく運命共同体となった大蛇とスピーリは、鋭い眼光を向けるエンデリカに向かって足を一歩踏み出した。

「邪魔、デス! 退キナサ……――ギャッ!」
 激しい音を立てて伸ばされた命の連鎖が、エンデリカの黒薔薇が届く前に叩き付けるように激しく胸を撃つ。
 空にいるプリンセスにより舞い降りる桃色の花びらは、人にやさしい夢を見せるように柔らかに降り注ぎ、その色のイメージには似つかわしくないほど、無慈悲に黒薔薇を消滅させていく――
 攻撃の手を止めなければ、このまま押し切れそうな光明が猟兵たちの目にも映り始める。

 スピーリも戦闘の輪に加わりながら、本体から伸びる命の連鎖でエンデリカを打ち据えていく。
 同時に、命の連鎖の業として、スピーリにも鎖の衝撃が身体の中心に響き渡る。それはまるで、緩やかに真綿で撫で首を絞めていくような、仄かな痛みと圧迫感を突きつけてくるようだ。
「はぁ……っ、これは、好いものですね……!」
 ――禁書のヤドリガミとして、長く鎖に緊縛されている間に、痛みを悦楽として感じ覚えて久しいスピーリの存在時間。思わず恍惚に笑みを深めてしまっても、変えろといわれて変えられるものでもないその性癖。
 今尚、自分の本体で心より不借身命を以て殴っている時点で察せられるものがある。
 しかし、流石にうっとりしてしまう間の棒立ちは危険と判断し、時折慌てて大蛇がスピーリの代わりに、エンデリカからの攻撃を引き受けてくれる。
「ああ、ダイ様っ! 申し訳ありません、私が至福に浸っていたばかりに!」
 大蛇にしてみれば、体力共有の為に生命線が一蓮托生の身である上に、スピーリの感じる悦楽には全く共感の出来ない所である。そうなれば、自分が頑張るしかないというのが本音でもあったのかも知れない。
 そうして、一時、大蛇に戦線を預けていたスピーリが再び攻撃の手を上げる。しかし、そこに――隙が生まれた。

「ココハ、アノ子ガ! ――私ノ許ヘ堕チテクル、聖域ナノ! 邪魔ハサセナイ!!」
 エンデリカの叫びと共に、その機械の翅が悲鳴を上げるように動き始めた。
 その金属は、見た目柔らかなエンデリカの腕と背中を浸蝕し、顔の一部までをもギリギリと音を立てながら飲み込みように形を変えていく。
 そして――そこにいたのは、少女の形を保っている『バケモノ』だった。
「【コレガ「自由」ノ形】――! 私デモ、コレナラ空ヲ飛ベルノ!!」
 エンデリカの金属翅が先とは異なり、明らかに軽やかに動くようになる。乗じてエンデリカはそれにより得た飛行能力で、上空へと舞い上がった。
「させません! ダイ様、お願いします!」
 エンデリカは、空を舞うプリンセスの元へと、一直線へ駆け抜けようとする。
 スピーリは、大蛇に声を掛けてその尾に乗ると、上空のエンデリカに間に合うように、尻尾で跳ね飛ばされ――否、的確な位置までその身を跳ね上げてもらう。
 錆びた音のしない羽ばたきをする黄銅色の翅が目の前に見える。
「ナ――ッ!」
 突如現れたスピーリに、エンデリカは対応出来ない。
 スピーリは敵の攻撃がプリンセスのところに届く前に、敵のはためく金属翅に躊躇いなく、己の本体からなる命の連鎖を伸ばし、縦横無尽に翅に絡ませ縛り上げた。
 ギジィィッ、金属の翅が軋み立てる嫌な音がした。
「痛イ! 痛イ!! 痛イワ! ドウシテ――!!」
 エンデリカから、裂けんばかりの叫び声が聞こえてくる。そして、敵が制御を失い落ちるさまに、スピーリも引っ張られるように地面に一直線へと落ちていく。
「ダイ様、お願いします!!」
 間一髪の一声。召喚されていた大蛇によって、スピーリは何とか無傷で、大蛇の身体をクッション代わりに地面へと辿り着いていた。
「ああ、ありがとうございます……これでもし、ダイ様の助けもなかったら……。
 嗚呼、いけません。少し、ぞくぞくしてしまいます……」
「……」
 そんな悠長に悦楽に震えるスピーリの傍らで、途中から鎖が解け拘束力がなくなったエンデリカは、そのまま地面に思いきり叩き付けられ、動く様子が見受けられない。
 しかし、しばしの沈黙の後――ぴくり、と手が動いた。
 立ち上がるその瞳の憎しみが、スピーリに、そして全ての猟兵に向いている。

「何故。私ガ、ココマデ憎イノ? 猟兵」

 それは、己の行動の非が理解できていないままに、明らかなる暴走を始めたエンデリカの姿だった――

成功 🔵​🔵​🔴​

セリオス・アリス
【双星】
アドリブ◎

お前とは…幸せとか、愛しいだとかの定義が違うようだ
相容れねぇなぁ
…だから、お前をぶっ潰す!

歌で身体強化
炎の属性を剣に纏わせたら
ダッシュで先制攻撃
最近じゃとばしてもアレスもついてくるようになったし?
細かい敵の攻撃への対処は気にせずとにかく手数を叩き込む!
姫さんに注意を払ってられないくらい
夢中にしてやるよ!

黒薔薇が飛んでくるなら風でいなすのを手伝って
ああ――、
どんな攻撃をしてこようが
この心が、戦意が折れることなんざあるかよ
昔折れなかった心とは形を変えた
今は、【君との約束】があるから
お前と共にいるために
俺の、アレスの
守りたいものを貫くために!
光の剣で道を開き
全力の一撃をぶちこむ!!


アレクシス・ミラ
【双星】
アドリブ◎

セリオスの肩に触れ
プリンセスを背に、立ちはだかる
…彼女は渡さないし、退く気もない
必ず…守り抜く!

―どれだけ疾くとも
君に追いついてみせるよ
一緒に駆けよう、セリオス
脚鎧に光を充填し、ダッシュ
彼への攻撃は破魔の光で弾き
庇うように盾受け
僕達から余所見はしないでもらうよ

蝶や黒薔薇が来れば
盾に呪詛耐性を込め『閃壁』を展開
…どれだけ群れなし、蝕もうとも
後ろには絶対に通さない
そして、誰の自由も奪わせない
僕には変わることのない誓いが
【君との約束】があるから
君と共にいるために
僕の、セリオスの
守りたいものを貫くために!
魔力と加護を防御重視に
呪いごと押し返すようにシールドバッシュし
彼と全力の一撃を!



●喪われた自由を、繰り返させない為の戦い

「ドウシテ……ドウシテ分カロウトシナイノ……!」
 金属による浸蝕が柔らかな皮膚をへしゃげさせている。同じ黄銅の翅は先の一撃で既に空飛ぶ機能を喪失した。
 地面に這いつくばり、それから周囲の気配を凍り付かせるまでの低い声で紡がれたエンデリカの台詞に、セリオス・アリス(青宵の剣・f09573)は知り合いでなければ気づかない程度に眉を寄せ、そして露骨に分かる蔑視の眼差しを伴い言葉を返す。
「お前とは…幸せとか、愛しいだとかの定義が違うようだ
 ――相容れねぇなぁ。
 ……だから、お前をぶっ潰す!」
 セリオスの声は低く、まだ外見は可憐な少女を保っているエンデリカに、遠慮も躊躇いもない。
 その時、傍らに立つアレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)がセリオスの肩に、支えるようにそっと手を置き触れた。
 ――セリオスは何も語らない。だが、この敵の有り様は、セリオスにとってあまりにも、おぞましく映るものであることは容易に想像がついた。
 半ば無意識に手を置いた。……もう、一人ではないのだと。その手はセリオスに言い伝えるかのように。
 そして、ふわりと二人の傍らまで心配そうに近づいてきたプリンセス・フローディカを守るようにエンデリカの前に立ち塞がった。
「貴方モ私ノ、邪魔スルノネ? ソノ子ヲ寄越シテ!」
 渡さねば、相手を猟兵であるのならば、死ぬまで殺す。正気が完全に崩壊するまで破壊し尽くす。
 それは、エンデリカの最終通告だった。
「……彼女は渡さないし、退く気もない
 必ず……守り抜く!」
 二人と一体。交渉にもならない交渉は、あまりにも容易く決裂した。

 セリオスの薄い唇から『己が身の自由』を高らかに歌う旋律が響き渡る。
 しかし、常に戦闘と共に紡ぐ覚醒とも呼ぶべき歌は、たとえるならば金色の呪歌。歌う都度、それは見えない血と傷を共に自身に刻み込むが、それでもセリオスはその高揚感に口端を僅かに上げた。今、もし守るべき対象もなく、また敵が『エンデリカ』のような存在でなければ、恐らく笑みは余計に深いものになっていたことだろう。
 腰から引き抜く剣、星の瞬きが熱の魔力を灯して、陽炎と共に灼熱の赫へと染め上げられる。
 そのまま、セリオスはエールスーリエに宿った風の妖精に背を押されるように、エンデリカの元へと駆け出した。

「――」
 以前は、到底間に合う速度ではなかった。アレクシスは距離の離れた親友の姿を見て、一瞬の感慨に浸る。
 当時から先行する彼に追いつくまではいつも懸命なものであったが、それでも振り返れば懐かしさよりも、恥ずかしさが先立った。
 ――だが、今は違う。
 アレクシスは、曙光の脚鎧に纏われた踵を一度、強く地面に打ち据えた。
 刹那、戦闘時に備え収めていた魔力が解放され、纏わせるその肉体を強化する。

 ――どれだけ疾くとも君に追いついてみせる。
 一緒に駆けよう、セリオス――

 それは、アレクシスの悲願。戦闘で、いつも追いつくときには既に傷だらけの彼への思い。
 悲願は、確かに成就した。
「ハッ! 最近じゃとばしてもアレスもついてくるようになったし? ……最高すぎじゃね?」
 最後独りごちて呟く。走る速度に手を抜いた訳ではない。だが、既に真隣に並ぶアレクシスの姿に、セリオスは瞬息の間では純粋な『嬉しい』に付随する感嘆以外の言葉が出てこなかった。
 だが、アレクシスにとって言葉が耳に届いていれば、それは一体どれほどのものであったことだろう。

「――騒ガシイデスネ」
 エンデリカの衣類を飾る無数の黒薔薇が、一斉に花びらと化して風に乗りセリオスの元へと迫り来る。
「戦意と生命力を奪う黒薔薇、か。
 ああ――、どんな攻撃をしてこようが、この心が、戦意が折れることなんざあるかよ」
 セリオスには――今にして、その程度では決して折れることの許されない、意志と願いが存在している。それがある限り、何が起きても、自分が倒れ伏すことなど許されない。
「姫さんに注意を払ってられないくらい夢中にしてやるよ!」
 セリオスは防御を全てアレクシスへと託し、鋭く燃える星の瞬きの刀身で、またはブーツに纏わせた風による蹴りで、黒薔薇を次々と捌き散らしていく。
 空からプリンセスが、闇夜ですら仄かに光る花びらを散らしているものの、今吹き荒れる黒薔薇の方が圧倒的に多い。
 荒れ乱れる黒薔薇が上空にも及び、プリンセスの表情から色が退いた瞬間。アレクシスの手の甲に浮かんだ明星の聖印が、闇を裂く閃光と共に黒薔薇の花びらを相殺させる。
 そして。アレクシスが残りの薔薇を盾で受け止める合間にも、セリオスの剣は、まさにエンデリカの左肩を貫いていた。
「僕達から余所見はしないでもらうよ」
「痛イ、痛イ……邪魔ヲ!!」
 瞳から赤い涙を零しながら、エンデリカが伸ばした自分の手に、鋭い茨のついた蔦がぎちりと音がする程に巻き付かせて締め上げた。
 一斉に漆黒のドレスが、赤の見えない濡れ色に染まる。
 瞬間、歪みきった機械の翅から、花とも蝶とも錯覚しそうな黒薔薇が、意志を持って猟兵達の方へと襲い掛かって来た。

「プリンセス! 一度こちらへ!」
 意思を持たれては、戦う力なく空に舞うプリンセスには対処する術がない。ドレスアップ・プリンセスを解いたフローディカは言葉通りにアレクシスとセリオスの背後に隠れる。
「閃盾自在『蒼天』――巡れ『閃壁』!!」
 掛け声と共に、アレクシスの意志の堅固さに合わせて輝く光の壁が現れ、次々に呪詛を交えた鱗粉一つ紛れ込ませることを許さず黒薔薇蝶を弾いていく。
「ドウシテッ!?」
「……どれだけ群れなし、蝕もうとも。
 後ろには絶対に通さない。
 ――そして、誰の自由も奪わせない――」

 強い宣言と共に硬度が上がる光盾の背後で――過去、その自由を守れなかった存在がいる事に、アレクシスは思いを重ね、それが更に光盾を強固にさせる。
 ――僕には、決して変わることのない誓いが、
 今ここにいる【君との約束】があるから――

 同時に、アレクシスの思考に同調するように、ふと彼が誰のことを言っているのかをセリオスは理解する。
 過去、雌伏十四年もの沈黙において、昔折れなかった心とは形を変えて。
 今は――何よりも深い絆が、願いが、
 今この場にいる【君との約束】があるから――

 一時の呼吸は、どちらからともなく置かれ。
 互いに、視界の端に合わせられた視線を伴って。
 そして、同時に放たれた言葉は、神よりも尊い願いを形にするために、今ここに完全な形で調和した。
 
「――お前と共にいるために!
 俺の、アレスの、
 守りたいものを貫くために!」
 セリオスの周囲に、自身の背後から扇状に光り輝く、星々にも似た数多の剣が、流星の尾を引くように尚黒薔薇を操り止めないエンデリカに向かって放たれる。

「――君と共にいるために!
 僕の、セリオスの、
 守りたいものを貫くために!」
 アレクシスの耳に、柔らかな木鈴の音が響く。それは――決して違える事のない約束の音色。
 その音が消える前に、セリオスの力と等しい所から存在する根源の魔力と、星の加護が一斉にアレクシスを包み込み、その身を強化させていく。

 それらは、セリオスとアレクシスによる、互いの願いを形としたユーベルコード、
【君との約束(オース・オブ・イーリス)】――

 光の剣により完全にひるんだエンデリカの元へ、アレクシスが、盾を構えてのシールドバッシュによって、相手を打ち据え吹き飛ばす。
 そして、アレクシスが引き抜いた双星暁光『赤星』と――背後から駆け込んで来たセリオスの手にする双星宵闇『青星』が、一際の極光を放つと、エンデリカの身を歪な金属の翅ごと左右から背中へと貫いた。


●そして

 国中の住人が目を覚まし、国は再び平和になった。
 ただ、その中で、戦闘の中において猟兵が明かしたプリンセス・フローディカの正体について、フローディカは猟兵を集めて密やかに語り始めた。
 違和感はあった。だが、実際に問われるまでその実感は湧かなかったのだという。

 そして、フローディカは静かに告げた。
 この世界が真に平和になったあかつきには、国を住人達に任せて――自分も、己の扉を探して旅に出るのだと――

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2020年11月21日
宿敵 『エンデリカ』 を撃破!


挿絵イラスト