12
輝ける君へ

#アックス&ウィザーズ #猟書家の侵攻 #猟書家 #レプ・ス・カム #フェアリー #宿敵撃破

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#アックス&ウィザーズ
🔒
#猟書家の侵攻
🔒
#猟書家
🔒
#レプ・ス・カム
🔒
#フェアリー
#宿敵撃破


0




●来訪者
 ――こん。
 ――こ、ん――ここ、こん。

 彼方で滴り落ちた水がその音を贅沢に反響させて届けているような。清らかでまろやかな音色が、何度も、何度も響き渡る。
 疲れた時。悩んだ時。何もする気が起きない時。気分転換がしたい時。
 リフはそういった時にこの音色を聴くのが好きで、けれど、そうでない時も聴きに来ていた。つまり単純にここが、自分のフェアリーランドが大好きだった。
 淡い輝きを放つ水晶から聴こえる音色は、彼らが歌っているように思える。何と歌っているかはさっぱりわからないけれど。それでも、いつだって水晶たちは透き通った色彩と光をあちこちに映して躍らせて――、
「お前たちは今日も素敵だな」
 寝転がって呟いたそれに、こぉん、と音がひとつ響いた。
 返事をしてくれたように思えて、小さな笑い声がこぼれる。
「もう少し休んだら出るか。……いや、今日はここで夕飯を食べるっていうのも……あ、酒もあるといいかな」
 昼の水晶たちは夜になるとまた違った輝きを見せてくれる。
 今夜はどんな姿を見せてくれるのだろうかと、リフはささやかな楽しみを胸に灯してぐぐ、と伸びをすると目を閉じた。そして。
「いやーびっくり! 壺の中にこーーんな綺麗な場所があるなんて!」
「わああぁぁぁっ!?」
 死ぬほど驚いて悲鳴を上げバタバタしながら全速力でその場から飛んで逃げた。
 あっという間に小さな点となって見えなくなった姿に、あれれ、と兎耳がぴょこり。
「……行っちゃった。シャイなのかな? ま、いいや!」
 ここをあーしてこーして、そしてこれをそれして、こう!
 鼻歌混じりに何かをし始めた兎耳の娘は「これでよし!」と両手をパチンッ。青い輝き灯すランタンを左手に持ち直し、くるりと回りを見て笑う。
「うんうん、ここなら『天上界への鍵』が見つかりそう。あのフェアリーが衰弱死する前にここをパパーッと悪夢化して、『天上界への鍵』をササーッと見つけよ~!」

●輝ける君へ
 レプ・ス・カム。
 大天使ブラキエルが目論む“天上界への到達”を実現させる為、アックス&ウィザーズに現れた猟書家幹部の一人が、リフという名のフェアリーが持つ世界――フェアリーランドに現れるとリオネル・エコーズ(燦歌・f04185)は告げた。
「そこ、全部が水晶で出来た洞窟なんだ。綺麗で、優しくて、凄く幻想的な所だよ」
 どれくらいかというとそりゃもうパないレベルで、と笑ったリオネルだが、すぐに残念そうな顔になる。なにせ今は悪夢化進行の真っ最中。幹部が現れた事でリフはユーベルコードを解除出来ず、じわりじわりと生命力を消耗している。
 このままではいずれリフは力尽き、悪夢に染まった水晶洞窟で命を落とすだろう。
「そうなる前に彼を助けてほしいんだ」
 リオネルは翼を揺らして微笑むと、リフがいるフェアリーランドについて語り始める。

 ほのかな輝きと色彩で周囲を照らし、不思議な音色を響かせる水晶洞窟。今は水晶の内部を艶めかしい赤黒に染めつつあり、輝きも不思議な音色も絶えてしまった。
 本来の姿は、ちょこんと生えている小さな水晶や端っこに僅か残る程度。
 その有様にリフは狼狽え、怯え、どこかでじっと蹲っている。

「多分そういうのが凄い苦手なんだと思う。だからまずは“敵じゃない”“助けに来た”って伝えるといいかも」
 それでも、リフの目にはどうしたって悪夢に染まりゆく水晶洞窟が映る。
 大切にしていた場所は一変。自分の力ではどうする事も出来ない。目の前で恐ろしく変わっていく様をただ見ているしか出来なくて――そんな、悪夢に染まっていく水晶洞窟と共にリフの心も暗く沈んでいくだろう。
「でも助けられる可能性はバッチリあってね。リフさんが楽しい事を想像すると、悪夢化を抑えられるんだ」
 少しだけど。
 リオネルは人差し指と親指をちょん、と動かして“少し”を表現し、だとしても、そうする事でリフと彼のフェアリーランドを救えるからと、リフが楽しい事を考えられるよう話しかけたりしてあげてと願う。
「レプ・ス・カムは、『天上界への鍵』を見つける為に悪夢化させてるらしいから、悪夢化が抑えられてるって気付いたら絶対出てくる筈だよ。それこそ兎みたいにぴょーんってね。で、現れたそこを、“こう”」
 リオネルは朗らかに微笑みながら拳をグッと握り、グリモアを輝かす。
 そして世界が切り替わった後、目の前に広がるのは――血の如き水晶の彩。


東間
 年明け最初のシナリオは猟書家シナリオをお届け。
 東間(あずま)です。

●受付期間
 タグ、個人ページ、ツイッター(https://twitter.com/azu_ma_tw)でお知らせしております。プレイング送信前にご確認下さいませ。

●全章共通プレイングボーナス:フェアリーに楽しい事を考えてもらう
 リフが楽しい事を考えられるようになれば、悪夢化を多少は抑えられます。
 楽しくなれるような話をする、とっておきの綺麗なものを見せる等の交流でリフの心を明るくしてあげて下さい。
 技能の羅列や「話をする」とだけ書くよりも、具体的な行動や心情があると採用率がUPします。キャパシティを超えた場合は、プレイングボーナスを書かれている方優先で執筆させて頂く予定です。

『リフ』
 フェアリーの男性。ちょっとシャイですが会話するのに支障は無し。
 自然が作る綺麗なもの・美しいものが好き。生き物や音楽も。つまりだいたいのものは好き。苦手なものは、グロテスクなものや、怖いもの。

●一章 冒険『水晶の洞窟』
 全てが水晶で出来た世界。
 元々は美しい色と輝き、音色を魅せる水晶洞窟でした。

●二章 ボス戦『レプ・ス・カム』
 皆様の励ましが上手く行けば、「あれ? 悪夢化滞ってない? ちょっと現場ー!」とひょっこり現れます。レプ・ス・カムを撃破出来ればフェアリーランドは元に戻るでしょう。

●グループ参加について:ニ人まで
 プレイング冒頭に【グループ名】の明記、そして【プレイング送信日の統一】をお願い致します。タイミングは別々で大丈夫です(【】は不要です)
 日付を跨ぎそうな場合は翌8:31以降だと失効日が延びますので、出来ればそのタイミングでお願い致します。

 以上です。
 皆様のご参加、お待ちしております。
187




第1章 冒険 『水晶の洞窟』

POW   :    水晶を砕く、持ち上げて動かす等、力で開拓

SPD   :    ジャンプして乗り越える、取っ手にしてよじ登る等、身体能力を生かす

WIZ   :    水晶の並び方や洞窟内の環境等から進めそうな場所を探し当てる

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●赤と黒と、
 震えて安定しない呼吸。堪えきれない怯えの声。
 自分の鼻とぎゅっと閉じた口内から漏れるそれが、周りを形作るものに触れて跳ね返って、飛び回る。
 ほのかな音となって響いた後に消え、また同じような音を響かせながら遠ざかっていくそれを、リフは暗闇の中――閉じた視界で聴きながら、必死で考える。

 これは夢なんじゃないか。
 目を開けたらいつもの水晶が在るんじゃないか。
 ぬるりとした血を流し込んだような色に染まってないんじゃないか。
 雪の下に見える薄青や真珠のように虹帯びた白。
 苺と牛乳を一緒にしたようなパステルピンク。
 霞がかったラベンダーや、目の覚めるような深く澄んだ青。
 今まで見てきたいずれかの色が、光が、ちゃんと在るんじゃないか。
 そして、水晶たちの歌声も。
 目を開けたら、夢から覚めたら、聴こえるんじゃないか。

 リフは愛し慈しんだ風景を思い出し、何とか呼吸を落ち着ける。
 いち、にい、さん。数をかぞえ、ゆっくり目を開けた。
「――……、」
 艶々とした水晶の世界はそこに在った。
 足元も、壁も、天井も。何もかもが水晶で出来たフェアリーランド。
 けれど宿す色は、見た瞬間傷付いていない筈の自身が痛みを覚えるような、鮮血を思わす赤と黒。それは水晶が持つ本来の色にとけて染み込んで、放つ輝きまでもその色で侵していた。
「――っ、」
 どうして。何で、こんな。
 震え続ける翅の音までも辺りに響いて、自分を包み込むようだ。
 聴こえる音全てが“何も出来ない”証に思えて、恐ろしくて苦しくてたまらない。

 そこに響いた新たな音は――、
 
ウィノラ・シュレミール
素敵なものが汚されてしまう光景は、見ているこちらも胸が痛みます
まずはリフさんを助け出さないといけませんね

羽根を広げて飛び回りリフさんを探します
発見したら気さくに挨拶
こんにちは、私はあなたを助けに来た者です
だから、あの、怖がらないで、大丈夫ですから!

リフさん、教えて下さい
この洞窟って元々はどんな場所だったんですか?
星のように水晶が煌めき、素敵な歌声が響く
そんな洞窟があなたの場所だったんですよね

でしたら、その姿を強く思い出して下さい
どんどん私に教えて下さい
必要があれば共に言葉を紡ぎましょう、私はこう見えて作家ですので

楽しい記憶を思い出し、心を強く保てばきっと道は開けます
一緒に、言葉にしましょう?


ハーバニー・キーテセラ
う~ん、悪夢へのご案内は趣味ではありませんねぇ
よぉし、それならぁ、こっちはこっちでお仕事するとしましょうかぁ
悪夢の世界から元の世界へご案内ですよぅ!

早速と擬獣召喚をいざぁ
兎&猫さんの大群でぇ、まずはリフさんを見付けましょ~
手分けすればすぐですよねぇ

探し出せればモフモフ軍団と共にぃ、こんにちはぁのご挨拶
敵ではないと示しつつぅ、モフモフ軍団に更なる役目を
柔らかさ、愛らしさでリフさんを包んでぇ、その心を解しましょ~
赤黒い世界が怖いならぁ、見なくていいですよぅ
ほらぁ、ここにはその色だけでなくぅ、白、黒、茶色、斑にとぉ、様々な色とモフモフがあるのですからぁ
悪夢じゃなくてぇ、この触れ合いを楽しみましょ~?



 右を見る。左を見る。
 上も、下も。
「これはまた……」
 ウィノラ・シュレミール(天蓋花の人形劇・f26014)の声が、水晶に当たって遠ざかっていく。ウィノラはそれを追うように視線を向けた後、足元から天井までをぐーっと見て、ぱかっと口を開けた。
「困ってしまうくらい赤いですね」
 それはいつもと同じギザギザ歯を覗かせた笑顔に見えて、胸の痛みをかすかに滲ませた笑顔だった。
 ウィノラはここの本来の姿を知らない。しかし“こうではなかった”と知っているし、こうなる前の水晶洞窟を愛し慈しんでいた男が居る事も知っているからこそ、素敵なものが汚されゆく光景に胸が痛む。
 この水晶洞窟――フェアリーランドの主であるリフが味わっている痛みはきっと、自分が覚えた以上のものなのだろう。
 ハーバニー・キーテセラ(時渡りの兎・f00548)も兎耳をやわらかに揺らし、ヒールの音を響かせながら水晶洞窟の様を眺めつつ歩く。
「う~ん、悪夢へのご案内は趣味ではありませんねぇ」
 水晶の壁に顔を近付ければ、つるりとした表面に自分の顔がハッキリと映った。透き通った結晶の内を満たす色は濁っていないものの、強すぎるその色は、水晶の向こう側までも塗り潰し隠してしまっている。
 同じ猟兵を旅路へと送る事が多々あるからこそ、水晶洞窟の現状は大変よろしくない。
 ハーバニーはウィノラの方を振り返る。白銀色の三編みがくるんと躍った。
「よぉし、それならぁ、こっちはこっちでお仕事するとしましょうかぁ」
「そうですね。まずはリフさんを助け出さないといけません」
「ではでは、悪夢の世界から元の世界へご案内ですよぅ!」
 助ける。そう決めた事で、白翼を広げたウィノラの笑顔は明るい。たんっと水晶の地面と蹴った瞬間、ハーバニーの周りにポポンッと兎と猫の一団が現れた。
「手分けして探しましょう」
「はぁい是非ぃ。そうすればすぐですよねぇ」
 赤黒く艶めく世界を白い翼は鮮やかに、兎と猫たちは風のようにゆく。
 翼。足音。鳴き声。いくつもの音が響けば、不気味に静かだった赤黒い水晶世界に別の色が射し込んでいくかのよう。
 そしてそれは、悪夢の色に怯えて目を閉じていた、かの妖精にも届いていた。

「こんにちは。ウィノラといいます」
「こんにちはぁ、ハーバニーですぅ。リフさん、ですよねぇ?」
 見つけ出したリフはかろうじて元の色を残す小さな水晶――リフからすれば、自分と同じ背丈の水晶の傍で蹲っていた。怯えて震えていた翅は、ずらりと並ぶ沢山の兎と猫への驚きでぴたりと動きを止めていて、気さくに挨拶をした二人へとまん丸になっている瞳が向く。
「…………っ、」
 こくこく頷いたリフの目が、状況を整理するように二人と沢山の兎と猫を見て、水晶を見――かけて、ぎゅむうっと閉じられた。翅が震え始め、透き通ったそこに水晶の赤黒がちかちか反射する。
「あっ、私はあなたを助けに来た者で……あの、怖がらないで、大丈夫ですから!」
「私達もこの子達も敵ではありませんよ~。ね、モフモフ軍団の皆さん?」
 猫と兎。ぐるぐる鳴る喉の音と無言のふわふわ。全方位から伝わるその柔らかさと愛らしさで閉じられていた瞼から力が抜けていくのが見え、ウィノラはほっと息を吐く。
「リフさん、教えて下さい。この洞窟って元々はどんな場所だったんですか?」
 元々は。
 同じ言葉を繰り返したリフの姿が、もふふ、と毛玉の奥に引っ込んだ。
「……みんな、きらきらと輝いてた。朝も、昼も、夜も。いつでも、どんな、時も」
 浮かべる七彩は透き通り、煌めきは空の彼方で輝く星のよう。そして、
「素敵な歌声が響いていた」
「……そう、そうなんだ。でも、今は……」
「……ええ。でしたら、その姿を強く思い出して下さい。どんどん私に教えて下さい」
「え? でも、あ、の。ええと」
「あ、うまく言えない時はお任せ下さい!」
 胸を張ったウィノラにハーバニーが何か秘策があるんですかぁ? と興味津々で笑いかけると、こう見えて作家ですので言葉を紡ぐ事には自信があります、とニッコリ笑顔。
 見事な弧を描く笑顔にハーバニーもぱっと笑い、モフモフ軍団に包まれて引っ込んだままのリフに空色の眼差しを向けた。
「赤黒い世界が怖いならぁ、そのまま、見なくていいですよぅ」
「……いい、のかな」
「えぇ。ほらぁ、ここにはその色だけでなくぅ、白、黒、茶色、斑にとぉ、様々な色とモフモフがあるのですからぁ。悪夢じゃなくてぇ、この触れ合いを楽しみましょ~?」
 ハーバニーは兎を一羽、ひょいと抱き上げて撫でる。
 楽しむ事は力になりますからぁ。
 のんびりと導く声に、そうですよとウィノラは明るく声を重ねた。心を強く保てば、きっと道は開ける。水晶たちの色も、歌声も、戻ってくる。
「だから一緒に、言葉にしましょう?」
「お手伝い、しますよぉ~」
 しん、と間が生まれた。もふふ、と毛玉の中から頭が覗き、眉が見えて。そこで、止まった。けれど。
「初めて、水晶が歌った時。なんだけど、な」
 語られ始めた楽しい記憶。うたれる相槌。
 ひとつふたつと増えていく声が、漣のように広がっていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エンジ・カラカ
ハロゥ、ハロゥ、元気ー?
コレと賢い君は元気ダヨー。

元気なさそうダネー。ネー。
うんうん。賢い君もそう思う?思う?
コレもそう思った。うんうん。

小さいヤツには優しくする。
賢い君がそう言ってた。うんうん。
小さいの。名前は?コレはエンジー。こっちは賢い君。
赤くて綺麗な糸だろうそうだろう。
コレもそう思う。

コレと賢い君が小さいお前を元気にするする。
コレは狼に変身をして元気のないアイツを背中に乗せる乗せる。

そしたら元気良く走って水晶ツアーをするする。
アァ……綺麗だなァ…。

沢山走ってワンと吠えて小さいヤツと遊ぶ遊ぶ。
コレの毛はとってもイイ毛。
賢い君も褒めてくれる。

もっともっとあーそーぼー。
ワン。



「ハロゥ、ハロゥ、元気ー?」
 コレと賢い君は元気ダヨーとひょいひょいっと現れたエンジ・カラカ(六月・f06959)は、リフを見つけていた猟兵にひらひらと手を振ると、ふわふわした小さいのがいっぱいダネーと月色の目をにんまり細めて笑った。
 その中心で薄目でこちらを窺っている更に“小さいの”に気付き、ン? と首を傾げる。
「ちょっと元気? でもまだ元気なさそうダネー。ネー」
 賢い君も同意見らしい。ふわ、と揺れた赤い糸にエンジはくるりとリフたちに背を向け、賢い君とひそひそ、うんうん。
 アァ、やっぱり? コレもそう思ったンダ。
 小さいのが元気ない時はどうするか。優しくする。だって賢い君がそう言ってた。うんうん――という事でエンジは再びくるり。
「小さいの。名前は?」
「あ、お、俺は……リフ」
「うんうん。コレはエンジー。こっちは賢い君」
 ひらりと泳ぐように浮き上がった赤色は、フェアリーランドを構成する赤黒い水晶の中にあっても沈まない鮮やかさ。きらきらと輝く赤が集まったような様に、周りをあまり見ないようにしていたリフの目が、ふわ、と丸くなる。
「……綺麗だ」
「そうだろうそうだろう。コレもそう思う。……アァ、小さいの。リフ、ちょっと借りる」

 コレと賢い君が小さいお前を元気にするする。

 近寄っていく動きのまま、エンジの姿は流れるような滑らかさで狼に変わっていった。
 黒い毛並み。ぱちりと浮かぶ金の双眸。そして、賢い君。周りに赤い糸を漂わせながら、エンジはモフモフ軍団の中に鼻先をずぼっと突っ込んで、すぽっ。
「わ……!」
 上手い具合にモフモフ軍団からリフを掬い上げて背中に乗せたら、水晶の地面をかしりと爪で引っかき、駆け出した。元気よく走るその周りを、艶々とした赤黒い水晶の壁がびゅんびゅん過ぎていく。
 左を見ろ見ろ。赤くて黒いネー。
 右を見ろ見ろ。こっちも同じ、同じ。
 アァでもここの水晶には花みたいな形の小さいのがくっついてる。フゥン、結晶?
 元気よく始まった水晶ツアーに気持ちが引っ張られてか、リフは周りを気にしながらもひどく怯えてはいなさそうで。その様子にエンジは尻尾を二回ほど左右に振り、周りを見る。
(「アァ……綺麗だなァ……」)
 一番は当然賢い君。当たり前。うんうん。
 今度は尻尾を沢山振って、そして再び走り出した。たまにジャンプして、驚いたリフから笑った声がしたからワンと吠え、賢い君も褒めてくれる毛並みを「凄く綺麗だ」と言われたら撫でさせて――。
 そうして遊びに遊んだ後。はあ、と満足げな声をこぼしたリフの前へ、月色の双眸がずずいっと寄った。
「え……もっと、遊ぶか?」
 ワン。

大成功 🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
そっと詠い紡ぐ花筐

はらはら、きらきら
水晶の如く透明な山荷葉の花弁を
リフさんの許へ舞わせよう

柔らかに降り積む幻は
怯えるあなたの心を
優しく包むだろうか

ひとときの幻想に
恐怖を忘れて
心弾ませてくださったなら
ゆるりと歩みを寄せ
穏やかに一礼し、名乗る

屈んで
足元に咲く美しい水晶の名残を労わり撫で
安心させるように
リフさんへ微笑もう

こんなに小さくても澄んでいることが分かる、
綺麗な結晶ですねぇ
弾けばきっと素敵な響きなのでしょう
私も是非、聞いてみたい
だからね
お手伝いさせてくださいな

あなたの箱庭を取り戻す為に
先ずは穢れを祓いましょ、と
再び詠う花筐

今は風景も誰も傷付けない
ただただ透明な花幻想で
青年の沈んだ心を浄化したい



 あはは、と響いた声は吐息まじり。
 艶々とした黒い毛並みの上、ありがとうと笑って大の字で寝転がったリフの視界には、尚も赤黒い水晶洞窟が映っている。それを見た瞳が少しだけ細められたのは、彼ら水晶の今を悲しんでの事。けれど。
「――っ、」
 は、と瞠られた瞳に写り込んだ煌めき。儚く透き通ったそれは水晶のよう。
 はらはら、きらきら。やわらかに舞い降りてきたそれに、リフは慌てて体を起こし両手を伸ばす。ふわ、と受け止め、煌めくそれを翳すと、赤黒い水晶の恐ろしい彩がきらきらと滲んで、隠される。
「これは……花びら……?」
 色のない、透き通った花弁がやわらかに降り積む光景は、それが幻だとしてもリフの心に煌めきをひとつふたつと重ねていった。ほう、と見惚れるそこへ、ゆるりと歩み寄る姿がひとつ。
「山荷葉という花のものですよ。ご存知ですか?」
 ハッと振り返ったリフに声の主がふんわりと笑いかける。
 都槻・綾(糸遊・f01786)は穏やかに一礼した後に名乗ると、リフの手前で屈み、足元に咲く煌めきへと指を伸ばした。
 周囲を満たす赤黒い色とは全く違う、淡い桃色。
 気付いたリフの目が静かに震えた。
「ここに、いたのか……こんなになっても、まだ……」
 声に滲むのは、見つけた事への喜び。けれど周りは血のような色のままだ。すぐにでも元の様に戻してあげられたらいいのにと、そう悔やむ声がぽとりと落ちて、短く響いていく。
「ねえ、リフさん」
 ふいに呼ばれ、顔を上げたリフが見たのは、ただただ優しい微笑みだった。
「こんなに小さくても澄んでいることが分かる、綺麗な結晶ですねぇ」
 白い指先が再び水晶を撫でる。眼差しには、水晶とリフの両方を想う心が浮かんでいた。今は水晶の殆どが悪夢に閉ざされてしまっているけれど、彼らが目覚めれば――弾けば、きっと素敵な響きなのでしょうと青磁色が細められる。
「私も是非、聞いてみたい」
 だからね。
「お手伝いさせてくださいな。あなたの箱庭を取り戻す為に、先ずは穢れを祓いましょ」
「穢れを?」
「ええ。こうやって」
 綾の指先が血色水晶の世界を撫でるように舞えば、山荷葉の幻想が再び舞い降る。
 ここの“彼ら”のように歌声を響かせなくとも、その姿は詠うようにリフの瞳に映っていた。朝露のように清らかで水晶の如く透明な花弁は、悪夢に染められた風景も、リフの身も、心も――誰も。何も。傷付けない。
 ただただ静かに、はらはら、きらきらと降る。
 その花弁全てが、今にも消えてしまいそうな儚い姿だけれど、
「……ああ……すごく……凄く、綺麗だ……」
 煌めく花幻想は一人の心をやわく包み、確かに救っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルクル・クルルク
きらきらの水晶も、こんなに真っ赤だと少し怖く感じてしまいますが……
大好きな場所が急に変わってしまったリフくんは、もっと怖い想いをしているのでしょうね。
でも、安心して下さい。ルクルがお助けしますから。

ルクルは怖いことがあったら、明るいお歌を歌うのです。
リフくんの好きなお歌があったら、一緒に歌うですよ。
『歌唱』はそこまで上手ではないですが、楽しく『ジャンプ』や『ダンス』をしながらリフくんの為に一生懸命歌いましょう。
それでも怖かったら『手をつなぐ』ですか?
大丈夫、リフくんは一人じゃないですよ。

…赤い水晶も、ずっと見ていたら苺みたいに思えてきました。
お外に出たら、一緒に苺のケーキを食べに行きませんか?


泉宮・瑠碧
各々の好みも、ありますけれど…
…私も、聞いた元の水晶洞窟が、好きです
とても、素敵なのでしょうね

端に僅か残る本来の姿へ、初めましてと
水の精霊達と雫で
私は歌で
貴方達を愛するリフの為に
皆で、音色を奏でましょう

光の精霊達へ願い
辺りを明るい緑の光で照らし
染まる水晶は変えられずとも
放たれる輝きの色だけでも、明るく…
不安や恐怖が、薄まるように

リフに会えたら、初めまして
端に残る本来の姿を見て
元の水晶洞窟の事を、教えて欲しいと頼みます
拘りやおすすめ、特に好きな所とか

…落ち込んだ時に、癒される場所なら
その光景を、思い起こして話せば…
心に、明るい想いが灯ると、思って

…私も、見てみたい、ので
きっと、元に戻しましょうね



 そっと指先で触れてみた水晶は、内を満たすその色に反してひやりと心地良い。
 泉宮・瑠碧(月白・f04280)はそのまま表面を撫で、そこに映る己と見つめ合った。赤黒い色彩で満たされているからか、自分の姿は鏡に映したかのようによく見える。
「……元々は、どんな色、だったんでしょう……」
 今目の前にある水晶の元々の姿――悪夢化させられる前の様を思い、瞳を伏せる。
 好むものは人それぞれ。今の状態を恐れるリフのような者がいれば、こういうのも悪くないと愛でる者もいるだろう。
 こうなる前の水晶洞窟を思い浮かべた瑠碧は、自分の心もリフと同様、元の水晶洞窟を想う事に気付いてそうっと顔を上げた。
(「とても、素敵なのでしょうね」)
 美しい彩と心地良い歌声を紡ぐ水晶たち。その名残を端に僅か宿した水晶柱が宿すミルキーブルーは、赤黒い世界の中でひどく儚いものに見えた。けれど、一人のフェアリーが愛してきた水晶は確かにそこに在る。
「初めまして」
 挨拶と共に水精霊たちが現れ、静かに舞う。指先から紡がれた雫が震えて音を立て、瑠碧の歌声がそれに共鳴するようにして広がっていく。
 その音色に、ぴんと立った兎耳が反応する。
「……歌? 水晶の……じゃなさそうです。ええと……」
 向こうから。
 たっ、と駆け出したルクル・クルルク(時計ウサギの死霊術士・f31003)の後ろで、ふわふわと巻かれたポニーテールが翻る。
 その間も耳に届く歌声は優しさに満ち、そして、水晶洞窟に反響して遠いのか近いのかが上手くつかめない。けれど誰かの為に紡がれる音色とはすぐに会える気がして――その予感通り、ルクルの赤い瞳に映ったものは、ミルキーブルーの水晶柱と向かい合い歌う瑠碧と、その傍に寄り添う精霊たち。
 そして水晶が放つ赤黒い色彩――悪夢の具現化めいたそれが、光の精霊たちが生み出す緑の光によって和らげられる様だった。
 染まる水晶は変えられずとも、放たれる輝きの色だけでも明るく――。
 こちらに気付いた瑠碧へ挨拶したルクルは、不安と恐怖が薄まるようにという瑠碧の願いに兎耳を揺らして笑顔を浮かべる。
「きらきらの水晶も、こんなに真っ赤だと少し怖く感じてしまいますが……」
 そう言ってしゃがみ込んだ先には、ミルキーブルーの水晶柱。この色彩も、リフが愛したひとつなのだろう。しかし今、同じ色をした水晶はこれ以外見当たらない。見える範囲にある水晶全て、血のような色に染まっている。
「……大好きな場所が急に変わってしまったリフくんは、もっと怖い想いをしているのでしょうね」
 でも、とルクルは立ち上がって瑠碧に手を差し出した。
 自分が、自分たちが彼を助けるのだと笑う時計ウサギの少女に、瑠碧もほのかに微笑んで立ち上がる。
 決意を胸に暫く行けば、探していたフェアリーの男が透明な花びらを数枚抱え――やって来た二人にハッとして、照れくさそうに花びらを後ろに隠す。フェアリーには少々大きな花びらだったので、体からはみ出て見えているのだけれど。

「……え? 元の水晶洞窟の話?」
「はい。拘りやおすすめ、特に好きな所などを、教えていただけたら……」
 挨拶の後に告げられた言葉にリフの目が丸くなる。
 瑠碧は淡い桃色を残す水晶からリフへと静かに視線を移し、頷いた。
 このフェアリーランドが、落ち込んだ時に訪れては癒やされていた場所ならば、その光景を思い起こして話せば――記憶に今も残る輝きが、悪夢にも負けないものを、心に明るい想いを灯してくれる筈。
 それが、水晶を救う手立てになる。
 瑠碧の言葉に頷いたリフが語ったのは、夜になると輝きを増す青い空間の事。色の深みを増したそこで火を灯したランプをいくつか置くと、自分が夜空を創っていくようで――何より、そこで聴く歌声が夜空や夢の世界から届くようで、好きなのだという。
「……こ、こういうので、良かったか?」
 ちらりとこちらを窺う瞳に、瑠碧はそっと微笑んで頷いた。
「……私も、見てみたい、ので。きっと、元に戻しましょうね」
 きっと。その言葉にリフが目を細めて頷き返すのを見て、ルクルの兎耳が嬉しそうに震える。その動きに気付いたリフに、ルクルは“怖いことがあったら、明るいお歌を歌うのです”と自分なりの“怖い”の乗り越え方を伝授する。
「リフくんの好きなお歌はありますか?」
「あ、ああ。えっと、こういう歌なんだけど……」
 ラ、ラ、ラ。伝えられた旋律と歌詞は、若干照れがあるのか控えめだ。しかしルクルはにっこり笑って、リフの紡いだものを笑顔で追いかける。
 自分の歌唱力が、舞台に立って脚光を浴びるような、そこまでのものでない事はわかっている。けれど、ぴょんと跳ねて、ポニーテールをひらり躍らせて、水晶の地面をつま先や踵で鳴らしてステップを刻んでと、リフの為に一生懸命響かせ広げていく歌は、フェアリーの男に笑顔を灯していた。
 気付けば、自分より小さな手を取ってくるくる、くるり。
「大丈夫、リフくんは一人じゃないですよ」
「……ああ。ああ、そうだ。そうだな。うん、ありがとう」
 くしゃりとした笑顔にルクルも笑って――じ、と赤黒い世界を見つめる。一体どうしたのかと顔を見合わせる瑠碧とリフに、少女はずっと見ていたら苺みたいに思えてきてと呟いた。
「苺……確かに、少し……似ている、でしょうか」
「あ、そうです。お外に出たら、一緒に苺のケーキを食べに行きませんか?」
「……っ、はは。ああ、うん。行こう」
 笑顔こぼした男が周りを見て、また、笑う。
 美味しいところ、知ってるんだ――と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

篝・倫太郎
リュカ(f02586)と

よっす、悪党追ってきたらココに辿り着いた
俺らが追って来た悪党探して倒すまで
こいつの後ろ隠れてて?

リュカを示してそう告げて

ちょ、おま……ちぇー……頑張りますぅ!


ところで、水晶が音奏でるってホント?
すげぇ綺麗だって聞いたことあるンだけど

え?リュカ知らねぇの?
つか、興味あるっての判り難いなぁ、お前……

そいやさ、悪いやつ倒すと水晶、元戻るから
元戻ったら、何するか考えときなよ
何なら、水晶達に聞かせてやんなよ

したい事でもいいし
ここでの一番楽しかった記憶ってやつでもいい
それは水晶達を元の色に戻す魔法みたいなもんだから

端っこのマトモな水晶を差して
楽しいコトしような、って言ってやんなよ


リュカ・エンキアンサス
倫太郎お兄さんf07291と
景色がきれいだなーとか漠然と考えながら歩いてたら
…ん?
俺の後ろ?いいけど
危なくなったら置いて逃げるよ

そうならないようにお兄さん、頑張って
頼りにしてる

音か
音に綺麗汚いがあることが、そもそも理解できないんだけど
それはそれとして面白そうだから聞いてみたい
綺麗はわからなくとも、興味はあるんだ
上手いこと敵を倒せたら、それが聞けるといいね

…成る程
そうだね
俺は大概感性が鈍いから、ここのお勧めのところとか、面白い場所綺麗なことを教えてくれる?
あなたのしたいこと、楽しいことだととてもいいね
今は、こうなってしまったけれど
きちんとこれは直るものだから、先のことを考えて頑張ろうね



「よっす」
 ふいに届いた挨拶が、周りの水晶に当たってかすかな響きを残す。それがまだ残るそこに次の言葉を被せた篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)は、にっと笑って猟兵に囲まれているリフへと軽く手を振った。
「悪党追ってきたらココに辿り着いた。俺らが追って来た悪党探して倒すまで、こいつの後ろ隠れてて?」
「え、悪党?」
「……ん? 俺の後ろ?」
 元々の姿から様変わりさせられたとはいえ、全てが水晶で出来ている空間は“こいつ”と示されたリュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)にとって、なかなか綺麗ではあった。
 急に話を振られたがリュカの表情は一切変わらない。
 いいけど、と呟いて、再び周りの水晶をのんびりと眺め――、
「危なくなったら置いて逃げるよ」
「は、おま」
「そうならないようにお兄さん、頑張って」
 頼りにしてる。なんて添えられてしまうと、口を尖らせつつも「頑張りますぅ!」と言わずにいられない倫太郎であった。
 そして“悪党”と聞いて一人思い浮かんだのだろう。その特徴を聞いた倫太郎はそれが今言った悪党だと頷き、ところで、と周りを興味深そうに見る。
「水晶が音奏でるってホント? すげぇ綺麗だって聞いたことあるンだけど」
「ああ。……まあ、俺がそう思ってるだけ、なんだけど」
 違っていたら恥ずかしいなと頬を書いて笑ったリフ曰く、聴こえる音色は必ず、水晶の奥深くから響いていた。今は――ご覧の通り、しんと静まり返っている。
「この水晶が?」
 リュカは手袋に覆われた掌で軽く撫でてみた。質感は普通だ。
「音に綺麗汚いがあることが、俺はそもそも理解できないんだけど。でも、それはそれとして面白そうだね」
「え? リュカ知らねぇの? つか、興味あるっての判り難いなぁ、お前……」
「綺麗はわからなくとも、興味はあるんだ。上手いこと敵を倒せたら、それが聞けるといいね」
 悪夢化させられたという事は、今、水晶たちは眠っているような状態なのだろうか。だとしたら、猟書家を倒してすぐに目覚めの音色を響かせるのか、響かせないのか。もし響かせるとしたら寝起きの音色になるわけだけれど――それは、どんな音なのだろう。
「お、そーだ、敵。敵だ。悪いやつ倒すと水晶、元戻るから」
「えっ!!」
「うわ、びっくりした」
「あ、ご、ごめん」
「いいよ平気」
 思わず大きな声を出してしまうほど、大事な場所なのだろう。本当に大丈夫かと案じるリフに、リュカは頷いた。静かに輝く青い眼差しに深い落ち着きを見たリフが、ほ、と安堵したのを見てから倫太郎は「さっきの続きだけどな」と笑う。
「元戻ったら、何するか考えときなよ」
「あっ、それならさっき……」
 苺のケーキ。周りの色から浮かんだプランに、二人は水晶の色を見て「ああ」と納得した。そして、そういう事を受け入れられるほど、リフの心は明るさを取り戻しているのだと。
「他にも浮かんだら水晶達に聞かせてやんなよ。したい事でもいいし、ここでの一番楽しかった記憶ってやつでもいい」
「……、」
 元に戻ったら何をするか、何をしたいか。
 一番楽しかった記憶は。
 笑顔の倫太郎が言った事を反芻し、頭の中で描き始めたのか。口を閉じたまま周りを見始めたリフの目はしっかりと開かれ、そして小さくも明るい輝きを宿し始めているようにも見えた。
「……成る程」
 成る程って何が? 自分を見た倫太郎に、リュカは水晶を――そこに映る自分を見つめながら言う。生きてきた環境故に、自分は大概感受性が鈍いのだ。
「だからさ、おじさん。ここのお勧めのところとか、面白い場所、綺麗なことを教えてくれる?」
「お勧め……面白い場所、綺麗な……」
(「あ、指追って数え始めたな」)
 しかも右手と左手の指はすぐに10へと到達し、11からあっという間に15へ。まずはお勧めからでもいいかと笑ったリフに、リュカはいいよと小さな笑みを浮かべた。
「あなたのしたいこと、楽しいことだととてもいいね」
「そうだな。それは水晶達を元の色に戻す魔法みたいなもんだから」
 倫太郎はその場に腰を下ろし、頭上を見る。
 見事なまでに、赤黒い。
 しかしそこから視線をゆっくり移動させていけば、淡い桃色の水晶が花咲くかのようにちょこんと在った。あの水晶はまだ、悪夢に染まっていない“マトモ”な水晶だ。
「そこのやつとかにさ、楽しいコトしような、って言ってやんなよ」
 歌をなくした水晶たちだけれど、リフの声はきっと届いている筈だ。もしかしたら、元に戻ってすぐ水晶たちが“あれをしよう、これをしよう”と賑やかに歌い始めるかもしれない。
「今は、こうなってしまったけれど」
 リュカの指が赤黒く染まった水晶をこつんと叩く。
「きちんとこれは直るものだから、先のことを考えて頑張ろうね」
 何も出来ないなんて事は無い。
 他の誰でもないリフがそうする事で、この世界と未来が、希望へと繋がっていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
オレはこんな赤も嫌いじゃねぇケド
押し付けンのはねぇ
落ち着く為にもまずは【虹渡】で苦手なモノ隠しましょ

さて、楽しいコト……って急に言われても困るよねぇ
ケドこれはあなたの世界を侵食する悪夢
楽しい気持ちが侵食を食い止める
そしたら後は「その道のプロ」なオレ達が原因を排除しようーーってのならドウ?

あなた、美味しいモノやお酒は好き?
ウチの店一番人気の肉料理に珍しいお酒、それからお酒にも合う甘いモノ
それらの話をした後に、レフお勧めの美味しいモノの話も聞きたいわねぇ

ナンだかお腹すいてきちゃったケド
今はコレしかないの、ときらきら飴玉ぽんと渡し
終わったら美味しいもの沢山作っちゃう
だからもう少し、力を貸して頂戴な



(「しっかり笑えるようになってるじゃないの」)
 お邪魔しまぁす、と気さくに声をかけ輪に加わっていたコノハは、リフの声に耳を傾け微笑んだ。明るい表情をしたフェアリーの男が語るのは、いくつもある中から厳選されたらしいお勧めスポットの数々。
 大きな窪みに水を湛えた、碧水晶の広々とした空間。
 花のような形をした小さな小さな真珠色の水晶芽吹く道。
 刺激を与えると、ぽわん、と光を灯すのは霞がかったラベンダー。
 水晶洞窟が悪夢化させられた時と比べ、リフの心はかなり落ち着いているとわかる。猟兵たちが届けた言葉、見せたもの、寄り添う姿勢――それらがなければきっと、今見ているような笑顔は浮かんでいなかった筈だ。
(「オレはこんな赤も嫌いじゃねぇケド、押し付けンのはねぇ。しかも苦手なタイプにこういう赤はキツイでしょ」)
 それに、と周りの水晶を見る。気分が明るくなっているとはいえ、苦手なものを連想させる色に囲まれたままという状況は、無意識のうちにストレスとなって、心ざわつかせるものとして積み重なるかもしれない。
「じゃ、今度はオレの番ね」
 ハイ注目~、と明るく笑い、片手をひらり。空中を撫でるように軽く動かせば、絵筆で描いたかのように淡く煌めく虹が生まれ、静かに水晶を覆い始めた。
 目と口の両方を丸くしたリフにコノハはくすりと笑い、楽しいコトのストックはまだまだあるのかしら? と問うた。えーとと指折り確認し始めた姿に、コノハは急かす事はせずのんびりと構える。
 これはリフの世界を侵食する悪夢。楽しい気持ちが侵食を食い止める。
 楽しい気持ちが、この世界を元に戻すわけではない。
 ケドね、と薄氷が笑う。
「そしたら後は『その道のプロ』なオレ達が原因を排除しよう――ってのならドウ?」
 楽しい気持ちはリフ担当。
 原因排除は自分たちが。
 改めて示された役割分担に、リフの目が少しだけ丸くなり、真剣になり――笑った。
「よろしく頼む」
「任せて、そういうの得意ヨ。ところであなた、美味しいモノやお酒は好き?」
「ああ、好きだ」
「良かった。実はこういう店があるンだけど……」
 一番人気は肉料理で、珍しい酒や酒に合うスイーツもしっかりバッチリ。
 言葉で伝えられるそれはどれもこれもが魅力的で、涎を垂らすまいと口を閉じたリフの目が静かに輝く様に「ウチの店」と言えばパアッと輝きが増し、誰かの吹き出した音が反響する。
「ナンだかお腹すいてきちゃったケド……残念、今はコレしかないの」
 ぽんと渡した飴玉はフェアリーからすると夢のようなサイズ。嬉しそうに抱える男に、終わったら美味しいもの沢山作っちゃうとコノハは予告して。
「だからもう少し、力を貸して頂戴な」
「ああ。俺も、一緒に頑張るよ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

フィッダ・ヨクセム
なあこれはアンタの世界?
ふーん…悪夢ねェ、本来どんなモン見てたんだ?
これじャあねえんだろう?

俺様、フェアリーランドを見るのは初めてだ
此処にはどんな景色が?当たり障りなく話しかけてみよう
随分と落ち着ける環境なんだな?
ふむ、…勿体ないな

俺様が行うのは、ユーベルコードsura
聞いた話と想像力とで補ッて、描いた奇跡でアートを実体化させる
綺羅びやかな色が良いな、どうだ?こんな感じの水晶だらけだッたか?
キラキラな魔法で創り上げるアートを見せて訪ねてみよう

この場を創り出したはずの者に在り方を訪ねたほうが
理解度が上がりそうな気がしてさ
……まあ多少成り歪な仕上がりになるのは間違いないから、笑い話になればいいよ


神宮時・蒼
…悪夢化、とは、なんと、恐ろしい、もの、なのか…
…果たして、此処が、どんな、幻想風景、だったのか。…ボクには、想像が、出来ません、が、きっと、とても、綺麗な、所、だった、のでしょう
…元の姿を、取り戻せるよう、頑張らねば、なりません、ね

…こんにちわ、妖精のお方
…少しでも、助けに、なりましたら、と、思い、まして…
…此処は、本来は、もっと、綺麗な、場所、だった、のでしょう、ね
……でしたら、こういうのは、どう、でしょうか
ユーベルコードを発動して、鮮血滲むような水晶を花弁で覆ってしまいましょう
水晶は壊さぬように
大切な場所ならば、其れは得策ではないでしょう
色彩鮮やかな花が、少しでも彼の助けになりますように



 人によって悪夢というものは違う。
 そしてリフにとっての悪夢は“これ”だったのだろう。
 薄れる気配のない水晶を見上げていた神宮時・蒼(終極の花雨・f03681)は、自分の左目以上に赤く、そして黒ずんだ色彩に悪夢化の恐ろしさを覚えた。
 ――果たして、此処がどのような幻想風景を創り上げていたのか。
 暫し見つめ、思い浮かべようとしても想像出来なかった。けれど、きっととても綺麗な所だったのだろう。自信を持ってそう思えたのは、自分とフィッダ・ヨクセム(停ノ幼獣・f18408)に気付いたリフの顔を見たからだ。
 駆けつけた猟兵たちと話をしていたリフの顔に、恐怖や怯えの色はない。
(「……元の姿を、取り戻せるよう、頑張らねば、なりません、ね」)
 まずは、と、蒼は静かに頭を下げる。
「……こんにちわ、妖精のお方」
「やあ、こんにちは。……もしかして、君たちも?」
「……はい。少しでも、助けに、なりましたら、と、思い、まして……」
「水晶洞窟なフェアリーランドがやばいッて聞いてな。なあこれはアンタの世界?」
「ああ、そうだ。雰囲気は……だいぶ、変わっちゃったんだけど、な」
 そう言ってリフは困ったように笑い、本当はもっと、と小さな呟きを落とした。
 それを拾ったフィッダはぐるりと視線を動かし、ふーん、と返す。これを悪夢化と呼ぶ事がどれだけ相応しいかは、誰よりもリフが知っているのだろう。
「本来どんなモン見てたんだ? これじャあねえんだろう?」
「ああ、勿論だ」
「だよな。俺様、フェアリーランドを見るのは初めてだ。此処にはどんな景色が?」
「……ボクも、お聞きしたい、です……」
 天井を仰ぎ見たフィッダに続いて、静かに座った蒼もこくりと頷いて“聞く姿勢”だ。
 そんな二人にリフは笑みを浮かべ、周りを見る。ドームを描くような天井、まあるく広い空間。ここの水晶は、元々淡い桃色をしていたらしい。欠片や柱の縁は、ほんのりと白く染まっていて、
「季節で例えると春だな。他で例えたら……苺ミルクのシェーキだ」
 いつでも静かで優しくて、穏やか。そんな場所だったんだと目を細めるリフに、フィッダは成る程と頷く。随分と落ち着ける環境だったらしい。それが今や――である。
「ふむ、……勿体ないな」
「……此処は、本来は、もっと、綺麗な、場所、だった、のです、ね」
 蒼はぼんやりとした眼差しをゆるりと周囲に向け、でしたら、と、合わせた両手をそうっと上げた。白い指先から、ほろり、と小さな何かが溢れるように舞い始める。
「……こういうのは、どう、でしょうか」
 紡いだユーベルコード・天花言祝ノ陣。花びらとなって舞うその一つ一つは、とても小さくて――けれどその花びらが持つ色は、鮮血が滲んだかのような水晶にひらひらと寄り添いながら、優しく覆っていく。
 リフの大切な場所だからこそ壊してしまわぬよう。
 虹の帯とは別に、想いも添えた花びらが水晶を包む様にリフが笑顔を綻ばせた。
「……綺麗だ。凄く、素敵だ。それに、ここの本当の色と、少し似てる」
「……それは、よかった、です……」
 そう言った蒼の表情はいつも通りの無表情。けれど“少しでも助けになりますように”という願いは、蒼が示した行動に十分現れていて――ありがとう、と笑った男に、蒼の頭がこくりと縦に揺れた。
「へェ、見事なもんだな。じゃ、俺様は……ッと」
 にやり笑ったフィッダの手には万年筆。そこに魔力を通し始めれば、その形がゆるりと変化して新たな形を成した。万年筆の変化にリフが息を呑み、目を丸くする。そのリアクションにフィッダはまた笑い、筆を踊らせた。
(「春、苺ミルクのシェーキ……」)
 リフが語ったものと自身の想像力。フィッダは全力魔法で綴る軌跡にそれらを籠め、心を照らすような綺羅びやかな色も加え、軌跡を奇跡へと変えながら実体化させていった。
 広がりゆく新たな色彩に、リフが目を瞠る。
「これは……!」
「どうだ? こんな感じの水晶だらけだッたか?」
 煌めく魔法で創り上げた完成したてのアートを背に尋ねれば、興奮しているのか、無言で何度も頷かれる。
「ここが元に戻るのは敵……あの、よくわからない女の子を倒した後だって聞いたから、まさか、こういう風に色んな形で見られるとは……」
 ああ、嬉しいな。
 誰よりもここを知る者が見せたリアクションに、フィッダは満足げに笑って改めてアートを見る。リフにこの世界の在り方を尋ねた方が理解度が上がりそうな気がしたのだ。
「……まあ多少成り歪な仕上がりになッてるが、事が終わッたら、どこかで笑い話にすればいい」
「まさか! 歪だなんて、俺は思わない。君たちが見せてくれたものは、どれもこれも素敵だった。間違いなく、素敵なものだ」
 今、ここの水晶は皆、悪夢の中に沈んでしまっているけれど――きっと、悪夢の中にあっても、自分たちの為に紡がれたもの全てを見ている筈だと。そう言ったリフの目は、穏やかに輝いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『レプ・ス・カム』

POW   :    ミラージュ・ラパン
自身と自身の装備、【自身がしたためた招待状を持つ】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。
SPD   :    兎の謎掛け
【困惑】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【鬼火の塊】から、高命中力の【蒼白い炎の矢】を飛ばす。
WIZ   :    素敵な嘘へご案内
【巧みな話術】を披露した指定の全対象に【今話された内容は真実に違いないという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ハーバニー・キーテセラです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●輝きの元へ
 遠くから届き始めた音は高く、跳ねるような軽快さを響かせていた。
 カツ、カツ、カツ、カツッと一定のリズムを正確に刻みながら、どんどんこの場所へと近付いて来ている。
 君たちの知り合いかな。そわ、と、新たな出会いを楽しむようにリフが音の方を見る――が、
「あーっ!」
「うわーっ!?」
 ぴょっこりと揺れた兎耳。青を灯したランタン。
 びしっとこちらを指差した娘――もとい、幹部猟書家の一人レプ・ス・カムにリフが悲鳴を上げて猟兵たちの後ろにササッと隠れた。かなり素早かったというのに、レプ・ス・カムはそれをしっかりと捉えていたらしい。
「悪夢化が滞ってると思ったら……もー、そういうコトされるの困るな~」
 これだから猟兵は! と、ぷすっと頬を膨らませたレプ・ス・カムが片足でカツカツカツと地面を叩き始める。
「悪夢化が滞っちゃうと鍵が見付けにくくなって、見付けにくくなると時間がかかって、そうなると“今日の現場、随分と時間がかかってるけどどうしたの?”って上からネチッとせっつかれるの現場責任者の私なんだよ?」

 ほんっと困るよー
 これだから他の人を入れるのやめよーって上には言ったのに
 少数精鋭でバシッと決めてこその弊社なんだからウンタラカンタラ……

 猟兵たちとリフそっちのけで始まったそれは、とてもわかりやすく、そしてどこか明るい空気での“困ります”“迷惑です”アピールだった。
 それが唐突に止まった。
 それはもう綺麗にピタッと止まった。
「まあネチっこい上司とか弊社とか全部今考えたんだけどね?」
 首を傾げて笑ったレプ・ス・カムからプレッシャーが放たれる。
 浮かべている笑顔は親しみを持てるものだが、水晶洞窟を、肌を撫でていくそれには紛れもない排除の意志が宿っていた。
「こっちもお仕事だからごめんねー。あ、最初に言っといてあげるけど、この青い炎に当たると大変な事になるよ。具体的に言うとトラウマが刺激されて悪夢が大爆発!」
 レプ・ス・カムが笑う。
 害のなさそうな顔で。
 明るさしかない顔で。
 ランタンをくるくるひゅんひゅん振り回し――、
「そんな能力ないんだけどね。でも冷たくて熱いから、当たったらかなり痛いよ~」
 タンッ、と軽やかに跳躍した。
 
篝・倫太郎
リュカ(f02586)と
会話通じねぇの相手するのって面倒臭い……
まぁ、口が回る相手はマトモに相手するだけ無駄だしな
そういうとこ、リュカ良く判ってんじゃん

そんなことを言いながら
LoreleiとHoldaを連動させて起動
熱源探知と音響探知で
透明になった敵の位置も把握出来るようにしとく

んじゃ、リュカ
援護とリフの保護よろしくー!

拘束術使用
敵が射程内なのを確認したら鎖で先制攻撃と拘束
同時にダッシュで接近して鎧無視攻撃を乗せた華焔刀でなぎ払い

透明な敵も逃がさずに拘束
拘束が剥がされる前に重ね掛けしてく

敵の攻撃はオーラ防御とジャストガードで防いで
武器受けで受け流してカウンター

避けて、水晶に傷付いたら大変だろ?


リュカ・エンキアンサス
倫太郎お兄さんf07291と
まあ、相手にしてたらきりがないっていうのはあるよね
あれもある種の、会話する気がないのと同じようなものだし

…と、いうわけで
了解。承ろう
お兄さんの動きを追いかけながら、灯り木で援護射撃
護衛優先なので、炎の矢がこちらに飛んできた場合は優先して撃ち落とす
俺はあんまり困惑はしないけど、あんまりにも意味不明なことを言われると困るかもしれないので(こいつ、馬鹿だ。的に)、
その時はその瞬間に自覚するだろうから、冷静に対処していこう
途中相手が透明になっても、冷静に空気の動きや直前までの位置、声、攻撃などを読んで戦闘知識で対応
第六感も頼る

受け流しもいいけど、お兄さん怪我しないようにね



 ネチっこい上司。弊社。でっちあげたてのランタンの能力。しかも“冷たくて”“熱い”――いやどっちだよ? と倫太郎は額を押さえた。愛嬌いっぱいの笑顔で繰り出された踵落としを躱し、大きく後ろへ跳躍しながらため息もつく。
「会話通じねぇの相手するのって面倒臭い……」
「まあ、相手にしてたらきりがないっていうのはあるよね。あれもある種の、会話する気がないのと同じようなものだし」
「そういうとこ、リュカ良く判ってんじゃん」
 早速戦いやすい位置を取るリュカと、レプ・ス・カムを注視しつつ笑う倫太郎。対するレプ・ス・カムはにこにこと愛嬌振りまく笑みを浮かべている。倫太郎はその姿を捉えながら視界を成す二つの目――電脳ゴーグルとサイバーアイを“繋いで、開いた”。
「んじゃ、リュカ。援護とリフの保護よろしくー!」
「了解。承ろう」
「おっ、やる気いっぱいだね~。いいよいいよ、若者はそうでなくっちゃ! 私も20年くらい前に君たちみたく相棒と切磋琢磨の日々を週に二回の頻度でしてたと思うんだけど、どう思う? ってわあぁ!? 何々!?」
 ぼおおッと鬼火が現れた瞬間、レプ・ス・カムが何もない場所でカクンッ、と躓くような動きをした。目を丸くして腕を振り回そうとするが、出来ない。何かに片腕を丸ごと捕まえられている。
 踏ん張って引っても解放される気配はなく、更には鬼火から飛び出した蒼白の炎矢が撃たれ、パ、パ、パンッと綺麗に消えていったものだから、レプ・ス・カムの眉は「ええ~~」と八の字になった。
「ちょっとちょっと、納期が迫ってるんだから止めてよ~!」
「納期って何だ、よッ!」
 レプ・ス・カムが抵抗している数秒の間に倫太郎は距離を詰め、華焔刀を片手で揮う。すかさず銃声が響き、華焔刀が揮われ、また銃声。
 攻める倫太郎と援護に徹底するリュカ。二人の連携にレプ・ス・カムがたまらず「猟兵さん、納期がそこにいるのが見えないの!?」と言えば、「そんなもんないだろ!」と容赦ないツッコミが攻撃と共に飛んだ。
「痛ぁい!」
 響いた悲鳴は若干緊張感のないものだったが、レプ・ス・カムの手にはいつの間にか金の封蝋が目を引く封筒が一つ握られていて――、
「フフン、捕まえていても透明じゃあやりづらくなるんじゃない?」
 じゃあね!
 封筒がスッ、と胸元に押し込まれた瞬間レプ・ス・カムの姿がつるりと消えた。
「あっ!?」
 声を上げて狼狽えるリフに、倫太郎は大丈夫だと明るく言って華焔刀を揮い続ける。
 赤黒い水晶洞窟が艶めく世界。そこで動いているのは倫太郎だけに見えるが、倫太郎の動きと鋭く揮われる華焔刀に合わせ、甲高い音も響いていた。刃が揮われた瞬間、水晶よりもずっと鮮やかな赤が舞う。
「残念だけどな、見えてんだよ!」
「えっ、何で!?」
 “何か”を放った。リフとレプ・ス・カムの目にそう映った倫太郎の手が、ぐっ、と確かな手応えを得た動きを見せ、甲高い音――靴音のリズムが崩れる。捕らえたと知らしめるように、何これやだーとレプ・ス・カムの声が何も無いように見えるところから響き――ハッ! と息を呑む音がした。
「まさかそっちの君も?」
「俺は見えてないけど、まあ、お兄さんと似たようなものかな。……というか、週ニの切磋琢磨は“日々”とは言わないんじゃない?」
 そう言ってリュカは表情を変えぬまま、今見えているものを培ってきたもの全てでカバーし、的確に捉えていく。
 あまりにも意味不明な発言に“この人何言ってるんだろう”と思ってしまっていたが、思ったところで、自覚した瞬間冷静に対処すればいいだけの事。鬼火から何が放たれようと、そういう風に対処していけば何とかなる。
 ――リュカという少年は、それを平然とやってのける人間だった。
「もう、せっかく透明になってもこれじゃあ意味ないじゃん。納期は待ってくれないし!」
「まだそれ言うのかよ……」
「……気に入ってるんじゃないかな」
「どうしてか口にしちゃうフレーズってあるよね~。ま、いいや。見えてるならこっちも見られてるって思えばいいだけだ、しッ!!」
 カッ!
 一際高い足音が響いた瞬間、倫太郎が腰を落として身構えて――リフに見えたのは、何かが倫太郎の僅か数cm手前で衝撃を生み、華焔刀の柄をカァンと鳴らした事だけ。一気に迫ったレプ・ス・カムの蹴りが二度防がれた光景は、見えていない。それでも。
「わっ、わわ、っとーーー!?」
 カッ、カッ、カッ! 離れていく靴音とそれを追って放たれた銃弾。揺らぐ湯気のようにふわりと姿を現したレプ・ス・カム。それらの形が、二人の強さをリフに伝えていく。
 きらきらと向けられる視線に刃が、銃口が応えるように、猟書家へと向いた。
「受け流しもいいけど、お兄さん怪我しないようにね」
「避けて、水晶に傷付いたら大変だろ?」
 全て終わって輝きを取り戻す、その時の為。
 戦いの手は止まらない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
なるほど
中間管理職は辛い、というお話ですね
分かりますよ
私も行動を監視される日々で
深夜まで本を読もうものなら灯りを消され
店を休もうものなら食事は無しと脅され
寝覚めの酒を嗜もうものなら――
あぁ
いけない、辛すぎて涙が、

なんて
嘘なのですけどね

神妙な顔で頷きつつ
懐から取り出した絹で
そっと目元を押さえる仕草ののち
朗らかに
からりと笑んで
ひらりと舞わせる、帛紗

あなたの冗談が
とても面白かったので
真似っこしてみたの

漂うは馥郁たる梅の薫り
眠りへ誘う馨遥のそよ風

春眠暁を覚えず、かしら
なんて
此れも嘘ですけれど

だって
ほら
真冬の如く凍てついた刀身が
あなたの頸に添うている

やがて
全てが片付いたなら
澄んだ水晶の箱庭を楽しみたいな



「ううっ、ひどい、なんて容赦ないん! 私はただ、職務に忠実であろうと……『天上界への鍵』を探してるだけなのに……! 効率よく探す為に悪夢化させただけで、こんなに攻撃されるなんて……!」
 よよよ、と顔を覆って泣く仕草をしたレプ・ス・カムが、指の隙間から視線をチラッと覗かせた。兎耳もぴょこっと揺らして、うう~ん辛いな~悲しいな~あっちょっと待ってね目薬さすからなんて手をどかして、ぽたりと一滴垂らして、また“よよよ”。
「きっとここならあると思うんだよ、だから絶対に見つけたいの……!」
 なるほど。ええ。
 しおしおと嘆くレプ・ス・カムを眺めていた綾の唇が微笑みを形作った。
「中間管理職は辛い、というお話ですね。分かりますよ」
「っていう事は、もしかして……?」
 そろり。さっきよりも広くなった隙間からこちらを見る瞳に、綾は頷いた。それはもう深々と頷いた。なにせ自分も行動を監視される日々を過ごしている。他人事ではないのです、と悲しげに目を伏せた。
「深夜まで本を読もうものなら灯りを消され、店を休もうものなら食事は無しと脅され、寝覚めの酒を嗜もうものなら――」
 その時、綾の目尻で何かがきらりと光った。
「あぁ。いけない、辛すぎて涙が、」
 綾は力なく笑うと、懐から取り出した絹でそっと目元を押さえた。
 それを見たレプ・ス・カムもふふふと笑って――、
「なんて。嘘なのですけどね」
「えっ!」
 綾が見せた朗らかな、それでいてからりとした笑みと言葉に仰天して身構える。
「そういえば鬼火から何も出てない! 言葉で翻弄するのは私の専売特許なのに~!」
「ごめんなさいね」
 だって、嘘ですから。そう囁いた男の手から、帛紗が花の薫香と共にひらりと舞った。
 その一瞬見えた吉兆紋は、今の季節に似合いの可憐な六花。
「あなたの冗談が、とても面白かったので。真似っこしてみたの」
 風もないのにたおやかに舞う帛紗から梅の薫りが漂う。それを嗅いだレプ・ス・カムの表情は、とろん、と幸せに緩み、豊かに深まりゆく薫りに溺れていく様は――ああ、まるで“春眠暁を覚えず”のよう。
「なんて。此れも嘘ですけれど」
 異界で有名な言葉を紡いだ唇から続けられたそれに、オレンジの瞳がきょとんとして――ハッと肩を揺らす。そうだ、これは嘘だ。だって、ほら。芯まで凍らせるような、真冬そのもののように凍てついた刀身が顕に寄り添っている。
「っ!」
 双方ほぼ同時に動き――真っ白な襟に、赤い染みがじくりと広がっていった。
 むむーっと眉間に皺を寄せ唇を尖らせるレプ・ス・カムに、綾は優美に微笑んだ。心に描いた箱庭、澄んだ水晶の彩との出逢いを楽しみに――春告げの薫りを、広げていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フィッダ・ヨクセム
話すのは好きな方だが……嘘に誘われる、か
ハハ、そいつは面白い
俺様は、敵の言葉が例え真実にしか思えなくても
事前に聞いていた内容を信じて行動するよ
リフの言葉は、この場で一番正しいハズだ

礼儀作法に則ッて、敵の話は掃討に聞いて受け答えするぜ?
当たり障りなく、な

風景に紛れ込ませるように、魔力で落とし穴や水晶の落石を描く
リフの言ッていた風景を遵守しつつ、書き足した『落書き』で翻弄しようかと

万年筆で描く属性は氷属性
青い万年筆で青い線を描く
ただの直線を沢山だ
遠隔操作で氷柱のような演出ができればそれでいい
落とし穴や水晶の落下がポイントに誘導できれば
基本、騙し討ちが狙いだ
…流血沙汰は、此処には似合わねェからな



「ひ、ひどい目に遭った……! ねえそこの君、甘い言葉に用心しろって言うけど、いい香りにも用心しなきゃダメだよ!」
 悔しそうにキッとつり上がった眉に涙目。
 そこに映るのはサラサラとした紫髪に赤茶の目をした――、
「俺様か?」
「そう、君!」
 ぴしっと指されたフィッダはふーん? と笑って聞く姿勢を見せた。すると涙目だったレプ・ス・カムが「わーいありがとー!」と笑顔になり、パッと真剣な表情に変わってと賑やかに変化する。
「用心しないと、私みたいに危うく首と胴体が仲良死未遂体験しちゃうからね。でも私は元気に生きている……そう、幹部猟書家だから!」
 幹部になりたい人はここにお手紙送ってね、なんて左右の人差し指で長方形を書いたら、お次は再びの笑顔。パチッとウインクしてすぐ、タァンと後ろに飛んでランタンをくるくる振り回して笑う瞳には、何が来ても対応出来るよう意識巡らす油断のなさが見てとれた。
「そして私は絶対天上界の鍵を見つけるんだ。だからこのフェアリーランドは綺麗に丸っと悪夢化させてもらうし、効率重視で水晶をさらさらの砂粒みたくしちゃうプランも進行中だよ」
 耳をすませばほら、さらさらになる音が聞こえるかも?
 レプ・ス・カムが兎耳に両手を添えて告げたものに、リフから息を呑む音がした。
 弊社だの現場責任者だの熱くて冷たいだのは心を誘う嘘だが、天上界の鍵を心底探し求めているというのはどうやら本当らしい。ぽんぽん紡がれる言葉にある嘘と真の内訳を感じ取って、フィッダは肩を揺らして笑う。
「ハハ、そいつは面白い。なァ、リフ。お前はどう思う?」
「水晶たちは砂粒みたいになってなんかいない、絶対にだ!」
「そういうこッた。悪ィな」
 サッと描いた丸は落とし穴へ。不規則に縦に動かした線は頭上からふいに落ちてくる水晶の落石へ。響いた声に応えくるりと回した万年筆で、リフの世界にとけ込む存在を次々に描き足していく。
「聞いてくれてたと思ったのに~! 全然響いてないなんてショック!」
 足元に足された落とし穴から飛び退き、水晶の落石を横っ飛びで躱したレプ・ス・カムの抗議に、フィッダは真に迫る言葉も礼儀作法に則って聞いてはいたぜと笑う。ただし、当たり障りなく。
「残念だッたな。俺が今“この場で一番正しい”と信じてんのはリフの言葉だ」
 鮮やかに揮った万年筆が無数の青い直線を描き出す。紡がれた線は氷柱めいた形を得て、赤黒い世界に冷えた彩を煌めかせながらレプ・ス・カムへと絶え間なく降り注いだ。まるで容赦なく追尾する集中豪雨のよう。
「そんな痛そうなの絶対浴びたくな――きゃ~~ッ!?」
 逃げる姿が地面へ吸い込まれるように消え、悲鳴と共に水晶へぶつかったらしいランタンの音が派手に響く。けれど、落とし穴へ見事追い込んだ描き手に捧げられたリフの拍手は、それに負けない強さで響いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ウィノラ・シュレミール
猟書家さんですね!
適当なことしか言えない口を今すぐ塞いであげましょう
……作家が言うなって話ですけど!

相手の言葉に意識を持っていかれないように注意
見極めるのは目に見える真実のみです
分かっているのは敵のランタンから炎が放たれること
ランタンの動きに気をつけて立ち回りましょう

【情熱】をもって人形を手繰れば困惑する暇なんてありません
念の為に【オーラ防御】くらいはしておきますが
鋏を持たせた人形達と踊りましょう

楽しい動きになればリフさんの気も紛れないでしょうか
きらきらの洞窟ならステージにもなりそうですね
舞い踊るような【演技】で人形を操り、次々に敵を【切断】します
あなたの目論見も、つまらない悪夢もお終いです!



 自ら施したもので血のような色に染まった世界で、落とし穴へご招待。
 それはスーパー兎穴という能力を持つレプ・ス・カムには、それはもう大変な屈辱だったらしい。落とし穴の中から「イタタ……」と聞こえた声が「もー!!」と怒りたっぷりの大声に変わった。
「お早い復活ですね」
「だって幹部だからね!」
 シュバッと落とし穴からジャンプして脱出したレプ・ス・カムが、ピンヒールで器用に着地し両手を腰に当てる。ウィノラに見せた得意げな笑みは、すぐに見事な“ヘ”の字口になった。
「大事なことだから言うけど、鍵がないと困るのは全世界共通! ドアの鍵かけ忘れたら泥棒が怖いし、落としちゃったら家に入れなくなるし、開けられなくなったら困るといえば金庫もそう。私にとっては天上界への鍵がソレなんだよ!」

 大天使ブラキエルが上司な私の朝は早く夜は遅い
 だって本人は興味なさそうだけどお友達の為に天上界へ行こうとしてるからね
 でも天上界への鍵さえ見つければ愛しのマイホームに帰れるんだ~

「ちなみにマイホームの鍵は開きっぱなし。だって幹部な私が一番のセキュリティだから、鍵かけるとか必要ないでしょう?」
「あはは、わかりました。ではそんな適当なことしか言えない猟書家さんの口を今すぐ塞いであげましょう」
 ペラペラと語られたものをウィノラは見事な笑顔で笑い飛ばした。
(「作家が言うなって話ですけど!」)
 作家とはあらゆるものを綴る生き物。綴るものの中には、適当な事だってそれなりにちょびっと在ったり無かったりするものなのだ。
 そんなウィノラが真っ白なギザギザ歯を惜しげもなく見せる笑顔はとっても眩しかった。しかしレプ・ス・カムはやだやだと首を振り、召喚した鬼火がノーリアクションな事に気付くと、ランタンをぶんぶん振り始める。
「ちょっとくらい惑わされてほしいな~。でもダメなら実力行使っていう手があるんだよね。さあさあ、冷たくて熱い炎をあげちゃうよ!」
 君が最初に感じるのはどっちかな?
 軽快に飛び出した敵に対し、ウィノラはそれへ合わせるような動きを見せた。鋏を持たせた人形たちと紡ぐ動きは、動きの隅々から情熱を感じさせる鮮やかなダンス。鋏がジャキンッと勇ましく鳴く。
「無駄ですよ! どれだけ巧みに言葉を操ろうと、目に見える真実のみ見極めれば……ほら、この通りです!」
「わああっ!? み、耳を切ろうとするのは止めて~!」
「逃しませんよ。さあ、レヒト、リンク!」
 水晶洞窟を舞台に声を響かせ、鋏を鳴らし、人形たちと舞う。鋏が鳴けば悲鳴が飛び出して――頑張れ、そこだッと止まらないリフの応援にウィノラは満面の笑みを返し、逃げ回る猟書家を追う。
「あなたの目論見も、つまらない悪夢もお終いです!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

神宮時・蒼
…なるほど、この方が、悪夢化の、元凶
…なんとも、まあ、よく、回る、口、ですね…
…嘘つきには、碌なのが、いないと、聞きますが。…まさしく、真実、だった、という、訳、ですね

【WIZ】
この方の仰る事は全部嘘であると思い、挑みましょう
「読心術」で心を読むのも有りでしょうか
流石に、心の中まで嘘は付けないでしょうから
まあ、その前に「先制攻撃」「高速詠唱」「魔力溜め」で威力を上げた
翠花魅惑ノ陣を使用しましょう
花が咲き誇ってしまえば、姿を隠しても動けないでしょう?
相手の攻撃は「結界術」と「見切り」で対処
リフ様を護る様に動きましょう

…此の、空間が、美しき、姿を、取り戻すまで、全力で、戦います



 レプ・ス・カムの嘘と真が入り混じった冗談話のような言葉は、レプ・ス・カムが姿を見せた時からずっと水晶洞窟に響いている。それを聞いた蒼の表情は――変わらない。
(「……なるほど、この方が、悪夢化の、元凶」)
 表情は凪いだ水面のように静かなまま。手には朱の珠を抱いた杖。倒すべき相手を瞳に映し、ほのかに染まりゆく髪をなびかせて前へ出れば、かすかな足音を拾った兎耳がぴくっと揺れたのがわかった。
「今度は君? も~、私は天上界への鍵を探しに来ただけだよ? あそこのフェアリーを直接殺すわけでもないのに、猟兵って私に負けず劣らずの仕事熱心集団――ハッ! その熱心さを見込んでこっちにスカウトしたら面白いかも? ねえねえ、お給料や休みはないけど、何度死んでも戻ってくるボーナス付きの弊社を希望しない?」
 明るい声。くだけた口調。くるくると変わる表情。
 提案と共に向けられたのは、どこまでも親しげで愛嬌ある笑顔と空気だ。
 しかし、それを見つめる蒼の瞳は、どちらの色も底のない静けさばかりを湛えている。レプ・ス・カムへ返す温もりなんて、ハナから存在し得ないのだけれど。それが、より一層“有り得ないもの”となっていく。
「……なんとも、まあ、よく、回る、口、ですね……嘘つきには、碌なのが、いないと、聞きますが。……まさしく、真実、だった、という、訳、ですね」
「淡々と言われると傷ついちゃうな~。しかも、“私の言葉を全部嘘だと思ってる”でしょう? 本気でスカウトしてるかもよ? さあ、どっちでしょう!」
 あははと笑う瞳が、す、と細められる。きらきら明るいオレンジ色。その奥底を探るように蒼は見つめ――すい、と杖を揺らした。
「……それも、嘘、ですね」
「あーあ、バレちゃった。でも猟兵を駒にできたら楽しそうだと思わない?」
 私の仕事もちょっとは楽になるかな!
 声を弾ませたレプ・ス・カムが跳躍する、その直前。鼓動一回分ほどの、僅か時間。蒼の魔力が一瞬で全てを編み上げ、眩い陣を描き出す。
「わっ、何これマズそう!」
 タタッ、タンッ! ヒールの音を連続して響かせ飛び退いたレプ・ス・カムだが、更に驚愕する事となった。水晶の地面に溢れゆく、目にも華やかな花々――花金鳳花が血色の世界をやわらかに彩り、リフの口から感嘆の声がこぼれる。
「凄い……!」
「わわ、ちょっ、綺麗なとこは嫌いじゃないけど、こんなに咲かれるとちょっとというか、かなり業務に支障が出ちゃう! 鍵探す前に花掃除に励むとかやだよ~!」
「……そう、ですか。……では、それだけ咲き誇ってしまえば、姿を隠しても、動けません、ね?」
 動けば花が揺れ、居場所を示してしまう。さあどうする。どうしよう。ぐっと言葉をのみ込んで考えるその目から、蒼はそっとリフを庇った。戦いの姿勢は、崩さない。
(「……此の、空間が、美しき、姿を、取り戻すまで」)
 それまでは――全力で、戦うだけだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

泉宮・瑠碧
お話は上手と思います、けれど
嘘や誤魔化しは…
いつか自分を害する、とも思います…

彼女の嘘でも、本当でも
凄いな、大変だなぁ、とは思いますが…
私の真実やする事に、違いはありません

淡い緑の光はそのままに
私は杖を手に生命森林
相手の話術に惑わされず、心が凪ぐ様に
リフも、先程の明るい気持ちを、思い出せる様に

ランタンは火の抑制に氷漬けを狙います
火は怖いけれど…青白く光る氷は、少し綺麗です

氷の槍を撃ち出して攻撃
着地後や空中時等の避け難い時を狙って

被弾は
相手の体勢やランタンの様子を見て第六感で察し
軌道を推測して見切りで避けます

害する事では無く、仲良くなれる事に
その話術を使えれば、良かったでしょうに
…おやすみなさい



 血色を覆い隠す花々は美しかった。叶うなら、その美しさをもう少しだけ――瑠碧は澄んだ双眸を静かに震わせ、花々の外に飛び出してランタンを振り続けるレプ・ス・カムを見る。
「お話は上手と思います、けれど」
「……けれど?」
「嘘や誤魔化しは……いつか自分を害する、とも思います……」
 そう。一向に状況を打破出来ない、今のように。
 すると、レプ・ス・カムがウッとオーバーな動きで胸を押さえた。
「真っ直ぐな言葉と無垢な眼差しが胸に突き刺さる! でも私がここまで上り詰められたのも、このよく回る思考とお喋りがあったから……! そしてスーパー兎穴も加わったらもう三種の神器レベルなもんだから、あっという間に幹部の椅子が用意されちゃって、天上界への鍵探しにだって抜擢されちゃうんだよね~」
 楽しげな声が水晶洞窟に反響して、遠ざかる。澄んだ瞳は猟書家の女を見つめ、オレンジの瞳も、少し間を置いてからチラ、と猟兵の娘を見た。
「……あまり効いてない?」
「凄いな、大変だなぁ、とは思いますが……」
 瑠碧の瞳に周囲の様が映る。これまで紡がれたものと共に血色の輝きを包む、淡い緑の光。音もなく揺れ続ける彩を目に、杖を握る手へそうっと力を籠めた。
「私の真実やする事に、違いはありません」
「――!」
 息を呑む音がした。ひとつではなく、ふたつ。
 広がる勢いだけでなくその色も隠され、留められていた空間に清らかな緑が溢れて舞う。触れた筈が透けて落ちていく木の葉たち。優しく降り注ぐその光景に、ああ、と感嘆の声と眼差しを生んだのはリフだった。
 守るように背を向けている為、リフの表情は見えない。目を瞠り、むむぅと怒るような、困っているような顔をしたレプ・ス・カムしか見えない。けれど、優しいフェアリーの男が今どんな気持ちなのかはわかる。降り注ぐ緑が、話術に対するやわらかな守りになっていく。
 むむむむ、とレプ・ス・カムの表情が変わった。
「これ綺麗だけどやだな~。だから悪いけど、君ごと片付けるから!」
 拒否を浮かべた表情は初めて見た時の延長線じみた、あまり緊張感のない緩いものだが、告げられた拒否はひどくハッキリしていた。ひゅん、と円を描くように振られたランタンから炎がこぼれて躍る。
(「怖い……けれど、少し、綺麗……」)
 木の葉の守りで心を凪ぎにしていたおかげか、定めた狙いの通り、打ち出した氷槍がランタンに触れた瞬間に砕け、細かな覆いとなって炎を封じ込めていく。
「あっ!?」
「害する事では無く、仲良くなれる事にその話術を使えれば、良かったでしょうに」
 けれど相手は猟書家で。
 自分は猟兵、だから。
「……おやすみなさい」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ハーバニー・キーテセラ
オブリビオンの世界も世知辛いことですよぅ
嘘? ええ、ええ、そうでしょうねぇ

レプ・ス・カムからリフさんへの視線を切るように前へ
悪夢なんて見つめ続けても仕方がありませんからねぇ
代わりと言ってはなんですがぁ、ちょいとばかしの大道芸をリフさんに見せてあげましょ~

取り出しましたるは何の変哲もないデリンジャー
これでもっての兎の早業、とくとご覧あれぇ~
弾幕かくや、乱れ撃ちかくやと悪夢の世界ごと蹂躙ですよぅ

姿を隠しても無駄ですよぅ
聞き耳立てて隠せぬ音を、レプ・ス・カムの位置を情報収集
私からのプレゼントぉ、お望みの天上界の鍵……ではなく、あの世への招待状を差し上げましょう
見事撃ち抜けたら拍手喝采お願いしますねぇ



「も~~、せっかく天上界への鍵がありそうなフェアリーランドを見つけて、ここまで悪夢化させたのに! こんなに頑張っても上は“成果が出てないぞ”って言うんだよきっと、相手がどれだけペンペン草も滅ぼす勢いで来てるかも知らないで!」
「あらあらぁ、オブリビオンの世界も世知辛いことですよぅ」
「あっ、わかってくれる~? でも、」
「あなたの“上に、そんなことを言うようなひとはいない”んですよねぇ? ええ、ええ、そうでしょうねぇ」
 “嘘”? わかってますよぉ。
 そう言って頭上で兎耳を揺らすハーバニーの笑顔は、日々誰かを案内し、案内される時と同じ。歩むべき旅路を迷わず見つける、きらきらとした笑顔だった。
 こちらですよと案内するような軽やかな動きで前へ出れば、レプ・ス・カムの視界からリフの姿が隠される。
 悪夢なんてものは見つめ続けても仕方がない。
 元凶をどうにかするまで決して消えない悪夢なら、尚の事。
 その代わり――と、ハーバニーの纏う空気が音もなく静かに変化すれば、それを察したレプ・ス・カムが、むぅっと頬を膨らませて不満を露わにする。
「やる気だね?」
「頑張って変えたみたいですけど、ここまでにしましょうねぇ」
 最後に添える花は、ちょいとばかしの大道芸。
 大道芸? と思わず言ったリフに、くるっと振り返ったハーバニーの笑顔が向く。
「ハァイ、取り出しましたるは何の変哲もないデリンジャー」
「うえっ! やな予感……!」
 思わず一歩引いたレプ・ス・カムの反応は速かった。後ろへ跳躍し、着地しても止まる事なく駆け続ける。なぜなら。
「これでもっての兎の早業、とくとご覧あれぇ~」
 止まったら、その瞬間に間違いなく“ズドン”。
 それを現実とする銃声が低く激しく反響した。一、二、三、四、五――! 撃って撃って撃ち続けて、弾が切れてもそうと判らないほどの速度で再装填され、レプ・ス・カムが駆けた後を綺麗になぞる銃声と銃創の帯が悪夢の世界に生まれていく。
「見事撃ち抜けたら拍手喝采お願いしますねぇ」
「もぉ~~~~っ! 君から退場させてやるんだから!」
 乱暴に掴まれた招待状がぐしゃりと歪み、レプ・ス・カムの姿がかき消えた。あらぁ、と、ハーバニーはゆったり笑って、いっときだけ銃撃の手を止める。
「他の方が言ったようにぃ、姿を隠しても無駄ですよぅ?」
 通らざるをえなかったのだろう。一瞬駆けたそこに溢れ咲いていた花々が強く短く揺れた。足音で位置を悟られぬようにという狙いか。カツン――カツン――間を大きくあけて響いたそれは、大きな跳躍によるせいだろう。
 しかしハーバニーには音をよく拾う耳がある。拾ったそれを冷静に分析する頭脳がある。なぜならハーバニーは旅の案内人。誰かを導き――そして、時には誰かを死へと案内する咎人殺し。
「――そこですねぇ?」
 笑顔と銃口を向け、一発。
 銃声が低く轟いた瞬間、何も無かった空中に、パッと赤い花が咲いた。
「ぁ、っ――……」
「私からのプレゼントぉ、お望みの天上界の鍵……ではなく、あの世への招待状です~」

 では、いってらっしゃいませぇ。

 笑顔で手を振るハーバニーに、姿を露わにされたレプ・ス・カムが心底悔しそうな顔をした。ああ、と呻いて、倒れていく。伸ばした手は虚しく空を切って、
「今回こそって、思ったのに!!」
 その姿が水晶の地面とぶつかる瞬間、ぼうッと溢れた炎に包まれた。
 ランタンを満たしていたものと同じ炎は、レプ・ス・カムの声も姿も呑み込んで――ぼろぼろと燃えて、燃やして、崩れて消えていった。


●輝ける君よ
 水晶洞窟の様が変わり始めたのは、レプ・ス・カムの姿が完全に消えたその数分後。リフの拍手が、まだあちこちに反響して残っていた時だった。
 血の色が薄れていく――そう感じた先へ思わず目をやれば、小さな水晶柱からその周囲へとやわらかな桃色が広がり始めていた。湧き出した水が染み込むように、淡い桃色が悪夢の色を塗り替え、輝きを添えていく。
「ああ、戻ってきた……!」
 リフが翅を震わせ、さあっと空中を飛び回る。
 これだ、この色なんだ。この輝きなんだ。
 そう言って両腕を広げ、周りを示す。
「これが、俺が君たちに見てほしかった、ここの水晶なんだ!」
 ここから向こうに行けばミルキーブルー。反対側なら、とリフの声が響き渡る。
 歌はまだかな。多分、もうすぐだと思うんだ。
 だってこんなに早く、元に戻っていってる。
「ありがとう。本当に、ありがとう」
 止まない感謝の声が煌めく水晶に触れて、静かに響いて、流れていく。そこにキラリと加わった別の輝き――よくわからない鍵が見付かるのは、もう少し後の事。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年01月21日
宿敵 『レプ・ス・カム』 を撃破!


挿絵イラスト