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黒薔薇に捧ぐ

#アリスラビリンス #猟書家の侵攻 #猟書家 #ディガンマ #殺人鬼

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#猟書家の侵攻
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#猟書家
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#殺人鬼


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●宴の始まり
 ほう、と。低い声が楽しむように囁いた。
「殺人鬼が国と住民を守るか」
 黒薔薇が咲き、黒薔薇の意匠溢れる国に赤が。血が、肉が、死体が増えていく。
 その全てを創り上げている存在を遠くから眺める男――ディガンマは、は、と笑って噴水の縁に腰を下ろした。
「まぁいい」
 第二の故郷を守ろうと住民たちを逃し、抑えてきた殺人衝動を解放したアリスたちはやがて用意したオウガを全て屠るだろう。だが、ディガンマの興味はそこには無い。
 増えていく血、肉、死体。
 殺していく者たちの様。
 黒薔薇溢れる国を彩っていく死と殺しを眺め、うすらと口を開けて笑った。
「殺したいだけ殺して……そして、俺という『例外』を殺そうと励むがいいさ」
 それこそ――獣と成り果て、壊れるまで。

●黒薔薇に捧ぐ
 鉤爪の男が目論む『超弩級の闘争』を実現すべく、アリスラビリンスに現れた幹部猟書家たち。その中の一人、『ディガンマ』という男がオウガの群れを引き連れ、黒薔薇をシンボルとした『黒薔薇の国』を滅ぼすべく襲撃するのだが――。
「住民はいません。代わりに、国に留まったアリスたちがいます」
 そのアリス全員が卓越した殺人技術を持つ殺人鬼。
 完全解放した殺人衝動も合わさり、彼らはオウガの群れを殺し尽くすのだという。
「……混ぜてほしいですね」
 こぼしたダグラス・ブライトウェル(Cannibalize・f19680)は、猟兵たちにニコリと笑みを向け、話を続けた。
 巻き込むものがおらず、加勢がいるような隣人もいない。
 ゆえに各々が全力でオウガを殺して回り、そしてディガンマへと到達した彼らは、一人の男と激しい殺し合いを展開する。しかし。
「衝動に呑まれた彼らがオウガ化する光景を視ました。そんな事が現実に起きるのかどうか判りませんが……衝動を全開にした彼らでもディガンマを倒すのは難しいでしょうね」
 『黒薔薇の国』にいるアリスたちに、猟兵という支援が要る。
 しかし、彼らは自分の殺人技術にプライドや自信を持っている。加勢すると言っても、殺人衝動の件もあり素直に聞いてはくれないだろう。
「ですが、やりようは幾らでも」
 滾る衝動に水を浴びせて冷静にさせるように、彼らが殺そうとしているオウガに一撃見舞えば。
 殺しの瞬間に刃や盾等で以って、それを止めてみせれば。
 または、意識を落ち着かせるようなユーベルコードを用いれば。
 そうすれば言葉を伝え、交わす余裕は生まれる筈だと、自身も殺人鬼である男は微笑みながら言い――ひとつ注意点が、と人差し指を立てた。
「オウガの群れですが、彼らが見せてくる“しあわせ”な夢に気を付けて下さい」
 何を見るかは対峙した者次第。人によっては心を囚われ、あわや――という事が起きるかもしれない。
 それでもかの国に向かい、心を賭して戦う殺人鬼たちを救ってほしい。そう言ってダグラスはグリモアを展開し、お気を付けて、と猟兵たちを黒薔薇溢れる国へと連れて行く。


東間
 黒薔薇の国で殺人鬼たちと共闘のお知らせ。
 東間(あずま)です。

●受付期間
 個人ページ冒頭及びツイッター(https://twitter.com/azu_ma_tw)でお知らせしてますので、お手数ですが送信前に一度ご確認をお願い致します。
 ※書ける範囲で書く為、全採用のお約束は出来ません。

●全章共通プレイングボーナス:殺人鬼達を適度に抑えながら、共に戦う
 技能を並べるのではなく、具体的にどのように抑えながら共闘するのか書いて頂けると採用率が上がります。

●一章 集団戦『こどくの国のアリス』
 殺人鬼の衝動を抑える行動を取る→殺人鬼と『こどくの国のアリス』相手に共闘、の流れを予定。
 導入場面に殺人鬼たちの描写を入れますが、そこにいないタイプとの共闘も大丈夫です。お好きに設定して下さいませ。

 POWとSPDは、どちらを選択したかによってちょっと変わります。
 以下を参考にして下さい。

 POW→【望む夢】が現れるので、それを乗り越えよう。
 なりたかったものになれた、死んだ筈の誰かと再会(生きていた)等々。
 明るいもの、悲しいもの。内容はご自由に。

 SPD→【心に残っている料理や菓子】が給仕されるので、乗り越えよう。
 もういない、会えない誰かが作ってくれたもの。手を伸ばさずにはいられないもの。とにかく大好きでしょうがないもの等が給仕されます。

 どちらも、言葉で越えてもUCで越えても良し。お好きな形でどうぞ。
 能力値的に苦手だけどやりたい!という方も遠慮なく。

●二章 ボス戦『ディガンマ』
 猟書家戦です。
 殺人鬼たちの命を守りながら、ディガンマと戦いましょう。
 ※戦いが終わった時に彼らが生きていれば、徐々に衝動が抜けていきます。

●お願い
 同行者がいる方はプレイングに【お相手の名前とID、もしくはグループ名】の明記をお願い致します。複数人参加はキャパシティの関係で【二人】まで。

 納品に間に合わず一度流さざるをえない可能性がある為、プレイング送信日の統一をお願い致します。IDやグループ名があればタイミングは別々で大丈夫です。
 日付を跨ぎそうな場合は翌8:31以降だと期限が延びてお得。

 以上です。
 皆様のご参加、お待ちしております。
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第1章 集団戦 『こどくの国のアリス』

POW   :    【あなたの夢を教えて】
無敵の【対象が望む夢】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
SPD   :    【わたしが叶えてあげる】
【強力な幻覚作用のあるごちそう】を給仕している間、戦場にいる強力な幻覚作用のあるごちそうを楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
WIZ   :    【ねえ、どうして抗うの?】
自身が【不快や憤り】を感じると、レベル×1体の【バロックレギオン】が召喚される。バロックレギオンは不快や憤りを与えた対象を追跡し、攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●衝動と踊る
 フリルブラウス、シンプルなロングスカート、ブーツ。カチューシャに咲く黒薔薇の位置だけ違う双子の少女が、それぞれが持つ大ぶりのナイフを交差させてオウガの首を刎ね飛ばした。
 ぽぉんと飛ばしたそれに双子はじたばたしながらキャーッ! と笑って、次のオウガに笑いかける。
「最高ね! そう思わない?」
「最高よ! そう思うでしょ?」

 右に一回、飛び出す刃。左に二回、顔を出す銃口。
 シルクハットに黒薔薇の造花をつけた男は、仕込み杖でオウガを斬って撃って、時には頭を殴り潰してと歩くような足取りで殺して回る。
「さあ、もっと踊ってくれ!」
 まだまだ踊り足りないんだと、仕込杖でオウガの胸を貫いた。

 右手薬指で、薔薇が彫られた黒のリングがきらりと光り――ギギギャギャギャとオウガの肩を斬り落として。
「――アンタで何人目だっけ?」
 ま、いいや。見た目は少年と青年の間。そばかす顔の殺人鬼はくるりとターンをして、向かってきたオウガを迎えに行く。
「はい次の方どおぞー」
 
 顔に、肩に、黒薔薇のネクタイピンに。ぴしゃっと鮮血がかかった。
 礼儀正しそうな男はそれにうわあっと目を輝かせ、殺したばかりのオウガの後ろから現れた新手へはにかんで、ネイルハンマーをバトンようにくるくるくるくる――ぱしっ。
「こんにちは! 貴女も殺してあげますね!」

 どんっ。低い銃声が一発。オウガの頭が吹っ飛んだ。
「うん」
 どんっ。また低い銃声が一発。別のオウガの右手がぱんっと破裂して、「うん」。続いた銃声で左手も破裂。「うん」。三発目で心臓に大きな穴が開いた。
「うん。…………あぁ……多いねぇ……」
 拳銃を手にしみじみと、そして嬉しそうに呟いた老婆の目元。黒薔薇の飾りとビーズを繋いだ眼鏡チェーンが、ちゃり、と音を立てて揺れた。

 黒薔薇の国に残った殺人鬼は、女に男に老人に中年に少年少女。
 マチェーテを振り回すふくよかな女。アイスピックで急所を刺して回る無口な男。どこで手に入れたのか、大きな肉切り包丁を使う淑女等々――使う得物もバラバラな彼らは新鮮な血と死体を躍らせて、身につけた黒薔薇と共に血に塗れていく。
 解放した衝動は殺しを重ねる度に喜びの声を上げ、ぐんぐんと膨れ上がるばかり。
 いずれは。もしかしたら。その衝動が人の器を食い破って獣となるかもしれない。
 だが彼らは未だ――人の姿を、している。
 
水鏡・怜悧
詠唱:改変、省略可
人格:アノン
「何で邪魔しなきゃいけねェんだよ、もったいねェ」
(彼らがそれを望まないからですよ)
「楽しそうに見えるけどなァ」
(それでもです。彼らは護るためにここにいるそうですから)
ロキの言葉に溜息1つ
UDCを纏って黒い狼の姿になると、戦場の中央へ
遠吠えと共に周辺の全員に殺気を放つ。ロキの言葉通りなら我に返るだろ
殺気を返してきたヤツは敵として纏めて攻撃
「頭ァ冷やしやがれ」
氷の礫、当った所に冷気が留まるマヒ攻撃
威力は弱いから死なねェだろ

望みは気兼ねない殺し合い、喰らいあい
(ダメですよ)
内側から意識を揺さぶられる
「気持ち悪ィからやめろっての」
再度溜息。敵へ向け全力で翔んで噛みつき攻撃



 本来の自分を殺人衝動と共に解き放ち、肉を、血を躍らせていく。そんな彼らはとても、自由に見える。しかし彼らを見つめていた水鏡・怜悧(ヒトを目指す者・f21278)は、ここへ来た理由から露骨に嫌そうな顔をした。
「何で邪魔しなきゃいけねェんだよ、もったいねェ」
 粗野な口調と紫の目。『アノン』の文句に、頭の中でひとつの声が答える。
(「彼らがそれを望まないからですよ」)
「楽しそうに見えるけどなァ」
 指した先では、プレゼントを貰った子供のような笑顔でオウガの腕を切り落とした女がいる。しかもその腕を奪って、背後から迫っていたオウガの頭をフルスイングで殴り飛ばした。
「うーわ。見たかロキ、今の」
(「それでもです。彼らは護るためにここにいるそうですから」)
 殺人鬼アリスたちの衝動を抑えに行くよう繰り返すロキに、アノンは溜息をついた。
 わァったよ。一言返し歩き始めたその姿がUDCの液体金属から成る黒狼に変わり、前へ進むごとにスピードを増していく。
 この国のシンボルとよく似た黒き狼は駆ける勢いのままに地面を蹴った。天高くから見下ろした先、乱戦のど真ん中に近付けば、二振りのダガーを揮っていた殺人鬼の目が即座にアノンを映す。
 オウガの首に突き立てたのとは逆のダガーを握り直す様に、“この黒狼が敵なら殺そう”という思考が透けて見え――そこに“殺したい”が秒で顔を出した瞬間、アノンは殺気孕んだ遠吠えを響かせた。
 それは五感全てをざあっとさらっていくような感覚だった。
 護る為にいるという言葉通りなら我に返るだろう。中には向けられた殺気に対し反射的、もしくは衝動に染まったままであるが故の殺気を返す者もいるが。それらに対しては、
「頭ァ冷やしやがれ」
 オウガでもアリスでも、当たったそこが凍える氷の礫で応じるだけ。
 威力は抑えた、死にはしない。ちらりと目をやればダガーの殺人鬼――黒薔薇のブローチをつけた娘はこちらを気にしながらオウガを殺していた。
(「一応は冷静になったか。じゃあお次は……」)
 硝子玉のような目。虚ろで哀しげな空気。
 『こどくの国のアリス』がアノンを見つめ、両手を差し伸べてくる。

“あなたの夢を教えて”

 消えそうな声の直後、『アリス』の両手から炎のように揺らぐ光が溢れた。
 そこに創り出されたアノンの望みは、黒薔薇の国へ来て最初に見たものと酷似した風景。誰も彼もが気兼ねなく殺し合い、喰らいあう――、
(「ダメですよ」)
 まただ。しかも今度は内側から意識を揺さぶられた。
「気持ち悪ィからやめろっての」
 二度目の溜息を吐き、黒狼は『アリス』目がけ全力で翔ぶ。
 剥き出しにした牙で細い腕に噛みついて、遠慮なく引きずり倒した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

春乃・結希
私自身、私の想いのままに生きて、旅をしているから
みんなの心の衝動を止める資格なんて無いかもしれないけど…

UC発動
オウガと殺人鬼の間を割り込むように焔を広げ、足を止めさせる
…ねぇ、殺すのって、どういうところが楽しいんですか?
私も、『with』と私の旅を邪魔してくる人は潰してきたけど
それは邪魔だったからで、楽しいって思ったことはないから
どんな気持ちなのかなー、って

あなた達だけが頑張る必要は無いです
少しくらいは猟兵を信じて欲しいです
あなた達が守ろうとしたこの国で
またみんなで暮らせるように

『wanderer』の脚力で走り、踏み込み
敵を減らすことを優先
殺人鬼達が殺さないといけない数を、少しでも減らしたい



 根元まで突き立てたアイスピックを頭部から引き抜く。
 ついでに体を押して地面に倒す。向こう側がよく見えた。
「おしまい」
 くるっと放ったアイスピックを掴んだら先端を上向きに。
 少ない言葉数と同じくらい動作は最低限。表情は虚ろ。しかし放たれたフォークを見もしないで弾き飛ばし、双眸に獲物だけを映して駆ける様は猫のように鋭い。
 オウガを射程に捉えるまであと数秒。
 額。心臓。腹部。最適な場所を見出そうと殺人鬼の目がきゅうっと細くなり――突如降り注いできた熱に気付き、飛び退いた。
「……火?」
 ごうごうと音を立てる灼熱の赤が自分たちとオウガの間に壁を作っている。
 他の殺人鬼から向く戸惑いを、男はふいっと背を向け次を探そうとした。けれど。
「お取り込み中のところすいません」
 すとんっ! 目の前に着地した春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)に、結希の背にある緋色の翼に。そこからこぼれおちる炎の熱に当てられて、「あ、」と、一言こぼして立ち止まる。
「……ねぇ、殺すのって、どういうところが楽しいんですか?」
「…………興味、あるのかい」
「どんな気持ちなのかなー、って」
 落ち着きを得た薄暗い眼差しに、結希はラフな視線を返しながら自分と『with』の旅路を思い浮かべた。
 大好きな『with』と巡ってきた世界。過ごした冒険。自分たちの旅を邪魔する存在は潰してきたが、それは“邪魔だったから”で、潰す瞬間“楽しい”と思った事はなかった。
 けれど。殺人鬼である彼らはそういった行為に喜悦を覚えている。
 善悪を説くわけでも、やたらと踏み込んでくるわけでもない。ただ、“どんな気持ちなのかなー、って”という問いに、男の視線が左手首に嵌めている黒薔薇のバンクルに向く。
「……肉体は、複雑だ」
 骨と肉と血管と神経と臓器と魂から出来上がる肉体が、一つの挙動で電池が切れたように終わる。その瞬間にどうしようもなく心が湧いて求めてしまう。
「だから俺は殺すんだ。……だから俺は、殺人鬼なんだ」
「教えて下さって、ありがとうございます」
 ぺこっと頭を下げる。ポニーテールがふわっと舞った。
 想いのままに生きて旅をしている点で、自分は殺人鬼という性を持つ彼らと同じだ。彼らの衝動を止める資格なんて無いかもしれない。それでも、『with』を手に取り大剣への想いで胸を満たしていく。
「あなた達だけが頑張る必要は無いです」
 共に戦うと示す姿に瞬きが返るのを見て、結希は少しくらいは“自分達”を信じて欲しいと笑って炎の向こうから来る影を見据えた。
 彼ら殺人鬼が守ろうとしたこの国で、また、皆で暮らせるように。
 ブーツから蒸気が噴き出す。靴底で地面をざり、と撫でて――飛び出した。一瞬で焔を抜け、夢を現そうとした『アリス』の懐に踏み込む。
「邪魔しないで下さい」

 私とwithの。
 そして、この人達の旅路を。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エンティ・シェア
年端も行かない少年が屈託なく笑いかけてくる
はしゃいだ様子で懐いてくる
そのひと時に永遠に浸っていられたなら――

ですがそれは僕が自ら消し去った存在だ
理解しています。望むべきは再会ではないんだ
君への思いは全て、色隠しへの代償に
君を殺すついでに、楽しそうな方々の獲物も横取りしてしまいましょう

失礼、この程度の相手に全力が必要なら助けが要るのかと思いまして
あぁいえ、構いませんよ
僕は仕事柄、余力を残して仕留める方が得意なだけです
衝動任せの手当たり次第だなんて、そんなの
まるで腹をすかせた獣じゃないですか

…矜持があるなら冷静になっては如何です?
貴方達が狂うさまを待ちかねてる輩を楽しませるなんて
不愉快でしょう?



 血と肉と死が舞う場所だった。
 なのにそれを打ち消すような笑顔が、笑い声が現れる。
 両手を伸ばしながら駆けてきて、元気よく飛びついてきて。屈託なく笑いかけ、はしゃぎながら自分の手を取って、引っぱってと懐く子供。
 年端も行かない少年の頭を撫で、可愛い我儘を聞いてと、このひと時に永遠に浸っていられたなら――きっと。
「ですが、理解しています。望むべきは再会ではない」
 エンティ・シェア(欠片・f00526)は自ら消し去った存在にハッキリと告げ、湧き出す思い全てを処刑道具の封印解除に要するキーに使った。こうすれば、『君』を殺す時に手元が狂うなんて事、起きやしない。
 無邪気な笑顔ごと現れた『君』という夢を殺したエンティは、マチェーテでスパッと断たれそうだった『アリス』を“ついでに”と、ばくんッと一口ならぬ攻撃一回で横取りしてのける。
 見開かれた目がぐいんと向き、幼子なら驚いて泣き出す形相にエンティは失礼、と笑って肩を竦めた。
「この程度の相手に全力が必要なら助けが要るのかと思いまして」
「助け? 助けって言ったのかい、あんた!」
「あぁいえ、ご不要でしたら勿論、構いませんよ。僕は仕事柄、余力を残して仕留める方が得意なだけです」
 胸元に手を当て、丁寧に。しかし。
「衝動任せの手当たり次第だなんて、そんなの。まるで腹をすかせた獣じゃないですか」
 エンティの口振りに含まれているのは、紛れもない煽り。
 お楽しみを奪われた殺人鬼の女が怒りを浮かべる。だが、エンティに斬りかからないのは、そのお楽しみを奪った時の手腕をしっかりと覚えているからだろう。
 衝動に呑まれきっていれば、自分を律する事は不可能。
 しかし、それが出来るのならば。
「……矜持があるなら冷静になっては如何です?」
 音もなく距離を詰め、自分を睨む目を覗き込む。
 女が髪をきつく結わえているヘアゴムには、硝子の黒薔薇がころんと咲いていた。それを服装と照らし合わせると、女の趣味とは考えにくい。
 そしてヘアゴムを飾るのが、黒薔薇の国に残る彼ら殺人鬼の共通点である花となれば――マチェーテを振り回す女は、衝動渦巻く胸の内にそれ以外のものも抱いている筈。
「ご婦人」
 囁いたエンティの目が、ゆっくりと細められていく。
「貴方達が狂うさまを待ちかねてる輩を楽しませるなんて、不愉快でしょう?」
「…………ハッハハハ! そうだねえ、間違いない!」
 腹の底から響かすような豪快な笑い声だった。怒りが綺麗に失せ、カラッと明るいものになる。――女の顔や服が返り値で赤く染まっていなければ、殺人鬼だと忘れてしまいそうだ。
「じゃ、手ぇ貸してくれるかい。たまには誰かと一緒ってのも悪かないしね」
「ええ、構いませんよ」
 溢れるオードブルを片付けて。
 奥に控えるメインディッシュを引きずり出そうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

阿夜訶志・サイカ
おーおー、派手なこって。
俺様は別に人任せで構わねぇけどよ。

適当な殺人鬼に声をかけて邪魔しつつ。
よぉ、いい天気だな。
血の雨が降る日は、借金取りも原稿の催促も来ねぇからな。

はーん、そうか、ダーリン。
こいつァ、加減を知ってる俺様か。
仕事をし、借金しねぇ。酒も飲まず博打も打たねぇ。
……これが理想?
莫迦を言え、こんなつまらねぇ野郎、面白い破滅なんて書けねぇぜ。

流れで蹴り飛ばしてやる。
強かろうと弱かろうと、てめぇも俺様だろうが。反撃しろよ。
日和るなよ、ヒヨコかよ。

楽しい夢の礼をやるぜ。
殺人鬼に猫、鴉を敵にぶん投げて、隙を作り攻撃。
凶兆を形に、破滅を。

悪ィな。
現実の俺様は、美味いもんの横取りが得意なんだよ。



「おーおー、派手なこって。……おっ、人体真っ二つ」
 殺人鬼アリスがオウガ『こどくのくにのアリス』で繰り広げるものを、阿夜訶志・サイカ(ひとでなし・f25924)は花火でも見るような雰囲気で評した。
 正直言うと人任せで構わないのだが。放置していたら勝手に追いかけてくる、なんてものは、原稿を狩りに来た担当や借金取りで十分だ。
「適当なのに声かけるか…………あのダーリンだな」
 道中向かってきた『アリス』は、ちょっと引っ込んでろと言う代わりに蹴り飛ばし得物を揮ってと、サイカは海を割ったどこかの誰かさんのように乱戦の中をずんずんと裂いて行く。
 その流れで、『アリス』を背後から殺そうとしていたダーリンことアリスの肩をぽんぽんっ。酒場や賭場で見知った顔を見付けた時のような気さくさで叩けば、物凄い勢いで女が振り返った。
 が、それに驚くような心をサイカが持っているわけがない。
 反射的に突き出された工具用カッターをひょいっと避け、ニヤァと歯を見せて笑う。
「よぉ、いい天気だな。血の雨が降る日は、借金取りも原稿の催促も来ねぇからな」
 アリスの耳で黒薔薇のピアスが煌めく。赤く濡れた工具用カッターからサイガは距離を取り――緩やかに振り返った『アリス』が現していくものに、はーん、と悪い笑みを浮かべた。
「そうか、ダーリン。こいつァ、加減を知ってる俺様か」
 成る程なァと笑って、鏡写しのような顔を見る。
 誠実そうだ。仕事はきちんとこなすのだろう。〆切を破った事もなさそうだ。借金なんて勿論しない。酒も飲まないし博打も打たないだろう。
「……これが理想? 莫迦を言え」
 言い終わらぬうちに『自分』の腹に蹴りを入れた。もう一人のサイカがオウガにぶつかり、二人仲良く地面を転げていく。
「こんなつまらねぇ野郎、面白い破滅なんて書けねぇぜ。……何だ、強かろうと弱かろうと、てめぇも俺様だろうが。反撃しろよ」
 起き上がった『自分』が目を泳がせる。
 オウガに貸そうとした手を慌てて引っ込める。
『……あー、と』
「日和るなよ、ヒヨコかよ。俺様の癖につまらねぇにも程がある」
 だがまあ。
「楽しい夢の礼をやるぜ」
 アリスにはぽいっと猫を一匹。『アリス』と『自分』には、ぶんっ! と鴉を。
 やかましく響いた猫と鴉の声。暴れる音。双方に生まれた隙に災禍の神が贈るは別の形を得た凶兆、破滅へと導く鉄の糸。触れれば傷が生まれ血が出るだろう有刺鉄線のひと刺し。
「悪ィな。現実の俺様は、美味いもんの横取りが得意なんだよ」
 やる事はやるが、美味いものを誰かに譲ってやるほどお優しくはない。
「欲しけりゃこれだ、これ」
 人差し指と親指の先をくっつけて、
「こっちでもいい、いや寧ろこっちだダーリン」
 両手を使って示すは長方形――銭の上に位置する、紙の金。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ノイシュ・ユコスティア
大量の血と死体…こういうのは苦手、でも
誰かが止めないと、誰かを守れないから。

●アリス
巨大斧をぶんぶん振り回す無邪気な子供。
彼が標的とするオウガに、ユーベルコードで彼より早く矢を放つ。
冷静にさせたい。
「一緒に戦わないかい?」
言っても聞かないなら…
素早く彼と敵の間に割って入り、ダガーで対応。
「時には落ち着くことも必要なんだ。
元気と勢いだけで倒せる相手ばかりじゃないよ。」
共に戦えるなら、僕は後衛で弓矢でサポート。

●SPD
大好きなローストチキン。
匂いだけでもうたまらない…!
いつの間にかよだれがじゅるり。

今は戦闘中じゃないか!と気づく。
彼がいるし…チキンは今日の夕食の楽しみにして
気を引き締めて、集中!



 訪れた時から黒薔薇の国には血の臭いが漂い、あちこちに『アリス』の死体が転がっていた。消えつつある死体も見られたが、どこに目をやっても基本、死体が目に入る。
 そういう状況はノイシュ・ユコスティア(風の旅人・f12684)が苦手とするものだが、それでもここへ来る事を決めた。
 誰かが止めないと、誰かを守れない。
 ノイシュにとっての“誰か”は無邪気な子供だった。背丈と同じくらいある巨大な斧を平気で振り回し、ぶんぶんと低い音を立てながら『アリス』の胴体や頭に刃を叩き込んで笑っている。
 あははっと聞こえた笑い声。少年の赤く濡れた顔が次の標的に向いた。その瞬間、ノイシュの周りで生まれた風が無数の矢となって翔る。一瞬で降り注いだ風矢の雨は標的となっていた『アリス』だけを貫いて、殺す予定だった標的の最期に少年が「あっ!?」と声を上げた。
「一緒に戦わないかい?」
 一体誰がと身構えた背に声をかけると、ぐるんと振り向いた大きな目の周りにはべったりと付着する赤。少年は返り血に一切構わないまま“優しそうな乱入者”を数秒見つめて、
「なんで?」
 ぷいっ。別の『アリス』を殺そうと巨大斧を担いで走り出そうとする――が、少年と『アリス』の間に鮮やかな赤が風の如く飛び込んだ。『アリス』が現そうとした何かを刃が切り裂き、少年が叩き付けようとした巨大斧もキンッと弾いて押し退ける。
「時には落ち着くことも必要なんだ。元気と勢いだけで倒せる相手ばかりじゃないよ」
 それを今まさに証明された少年はぶすっと下唇を突き出した。ノイシュの向こうでバランスを崩し、転びかけたのを寸でのところで堪えた標的を見る目には殺意が燻っている。
「……殺せてたよ」
「そうだね。でも、僕に先を越されていた」
「う……」
 ノイシュ。標的。ふたつを交互に見る目で燻っていた殺意が、しゅるしゅると落ち着いていくのが見えた。
「……わかったよ、一緒にやればいいんでしょ知らないお兄ちゃん。言っとくけど、僕はサポートなんてしないから!」
 生意気盛りな発言にノイシュは微笑み、後衛は任せてほしいなと弓矢を構える。
 アリスの見目は幼い子供だが“殺し”を心得ているのなら、少年が抱く衝動に気を配りながらのサポートに徹すればいい。注意すべきは――、
「……!!」
 『アリス』から差し出されたご馳走にノイシュの目は輝いた。
 こんがり艶々キツネ色、“美味しい”の塊たる匂いをふわふわ漂わすあれは、大好きなローストチキン! ナイフを入れたらじゅわっと肉汁が溢れ――ハッ!
(「今は戦闘中じゃないか!」)
 オウガが現したものではないチキンは今日の夕食の楽しみに。気を引き締めたノイシュの体を風精霊の加護が包み込み――無数の矢を雨の如く降らせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フォーリー・セビキウス
その矛先が人に向いたら殺すがな。
まあそうならないよう、託児所よろしく子守りをしろとの仰せなんだが。
そう焦るなよ。煙草がまだだ。

それなら1つ、手品を御覧じろ。
UCで取り出すは縄で繋がれた二振りの刃
知らない技で興味を引けば、少しはやりやすくなるだろう?
早業の縄で締め上げ首をへし折り、或いは投げ縄の如くナイフを投げて2回攻撃
言いくるめるのは得意でね。
ガキの相手は面倒だが、上手くやるさ。
ユキテル(f16385)も含んでるのは秘密だよ☆

広がるのは笑顔畑
頗る平和で、誰もが幸せな極楽浄土
だがそれは、絶対に在りはしない絵空事
何奴も此奴も猿真似の様に、人の理想を嘲笑う
芸のない奴だ、つまらん。
お前ら殺していいぞ。


渦雷・ユキテル
あら、可愛い双子ちゃん
何事も楽しんで生きてる子って好きですよ
できたらそんな時間が長く続いてほしいなー、なんて

と、いうわけで。行きましょフォーリーさん(f02471)
UCで取り出すのはカランビット
似た武器を使えば興味も惹けるかと

双子といえど息を合わせるなら微かなサインがある筈
よく見て割り込んじゃいましょう【見切り】【だまし討ち】
くるくる回して引っ掻いて、踊るように軽やかに
これじゃ首を跳ねるのは難しそうですけど
色々試しながら長く遊べますよ。お得ですね!
あんまり可哀想なら深く突き立てお終いに

お菓子は結構です。そのクッキー、懐かしいですけど
記憶の中ではいつも半分こ
『彼』と分けたのじゃなきゃ、いらないの



 心の底から今を楽しむ笑顔を咲かせる少女が二人。笑い声を弾ませると笑顔を交わし、ステップを踏むような足取りで前へ、たた、たんっ――そして一気に加速してナイフを閃かせ、血と肉をぱぁっと躍らせた。
「あら、可愛い双子ちゃん」
「“可愛い”、か」
 双子が揮うナイフのサイズと浴びた血の量は非常に可愛らしくない。
 淡々と殺戮現場を見つめるフォーリー・セビキウス(過日に哭く・f02471)に、あらら、と渦雷・ユキテル(さいわい・f16385)はキャンディめいた目を向けた。
「あたしは何事も楽しんで生きてる子って好きですよ。できたらそんな時間が長く続いてほしいなー、なんて」
 だって。“いつ”、“何が”、“どうなるか”わからない。
 ユキテルは自分の細い指先に目をやり、その指で長い髪を一房、くるくる巻き取るようにして遊んだ。
 その仕草に金色の視線だけが向いて、すぐに双子へと戻る。
「その矛先が人に向いたら殺すがな」
 この世界だからこそ、この国だからこそ、双子を始めとする殺人鬼の衝動はオウガにのみ向いている。今この時だけは、殺人鬼特有のそれが有利に働いている。――グリモア猟兵が視たという変化や猟書家がいなければ、という注釈付きで。
(「まあそうならないよう、託児所よろしく子守りをしろとの仰せなんだが」)
「じゃ、行きましょフォーリーさん」
「そう焦るなよ。煙草がまだだ」
 火をつけ、一服。
 灰色の細い尾が黒薔薇の国を泳いだ。


 オウガとの鬼ごっこを別々に楽しんでいた唇がにっこり笑う。
「ふふっ」
「あはっ」
 こぼれた笑い声は無垢で無邪気。
 今を味わう過程でとろりと甘くなった視線が、少し離れて走る片割れへ向く。
 二人きりで楽しんでいた双子の手がナイフを握り直したのは一瞬の間。けれど少女たちを見ていたユキテルにはその一瞬が――二人だけの合図が、ようく見えた。
 つぶらな目がオウガに向いた瞬間をフォーリーも捉えていた。
 殺しに心躍らせ夢中になって、どんどん深みへはまっていく心はふたつ。
 ならば――1つ、手品を御覧じろ。
 フォーリーが空翔る鳥のように場へと現したるは、縄で繋がれた二振りの刃。双子が次の一歩を踏み出すより速く『アリス』の首に縄をかけ、締め上げて、

 ぼきっ

 目の前で『アリス』の首が曲がらない角度で折れ曲がった時、ユキテルが奔る稲妻のようにもう一体と双子の片割れとの間に割り込む。
 得物を握っていた指は人差し指だけに。くるくる回して『アリス』の身へと滑らせれば、複数が連なって一本を描く傷が鮮やかに生まれながら双子の双眸に映り込んだ。
「こういう感じですか、ねっと! あでもちょっと可哀想です?」
 大きく傾くも踏み留まった『アリス』の懐へ、再会を喜ぶ場面よろしく飛び込んで深く突き立てた得物――お終いを届けたカランビットをくるりと回し、ぱしりと握る。
「これじゃ首を跳ねるのは難しそうですけど、色々試しながら長く遊べますよ。お得ですね!」
「ガキに何を勧めてる」
「あれー、ダメでした?」
 でもほんとお得ですよとユキテルがくるくる回すカランビットに、双子の目はキラキラ輝いていた。そのキラキラ視線がフォーリーの手にある、繋がれた刃にも向く。
「どっちも素敵よ! 興味あるわ」
「どっちも最高ね? もっと見たいわ」
 殺す相手を取られたのは残念だけどと拗ねてみせた表情は、すぐ笑顔になった。
(「こっちのガキは思ったほど面倒臭くないか」)
 相手がどういう質の子供であれ、フォーリーという男は頭を使う事を誰よりも得意とする男だ。子供の相手は面倒だが、得意のそれで言いくるめて、上手くやる。ユキテルもその中に含みながら、フォーリーはその思考をおくびにも出さず双子の相手をした。
「見ていたければ、はしゃぎ過ぎるな」
 静かに視線を移す金色に、双子の目がニコッと笑った。
 ユキテルの目も、ぱちっと瞬きひとつ挟んで笑う。

“ずっと食べたかったでしょう?”

 ゆらゆらとした足取りは、トレーに載せたご馳走を落とさないようにという心遣いか。けれどその奇妙に静かな足取りに、『アリス』が差し出してきたトレーに載っているものに、ユキテルは首を振る。
「お菓子は結構です。そのクッキー、懐かしいですけど」
 いつも半分こしていた。同じ時間の中、同じ味を分けていた。
 それを全部『あたし』にくれるというけれど。
(「『彼』と分けたのじゃなきゃ、いらないの」)
 一人で食べたって、これっぽっちも美味しくない。
 トレーの上にあったクッキーが全てパキッと割れた。ざらざらとした粉になり、風に飛ばされ消えていく。空虚な硝子玉の目は空っぽになったトレーを見つめ、頼りなげに揺らいで――フォーリーを見た。

“あなたは? 何を求めているの?”

 男が答えるより先に揺らいだ光が満開の笑顔畑を広げていく。
 生まれたのはすこぶる平和な光景だ。誰もが幸せに包まれ生きる極楽浄土。怒りも悲しみも争いもなく、救われるべき誰かは一人もいない世界だ。
 そんなものは、絶対に在りはしない。
 絵空事だ。
 そう言った声は誰のものだったか。
(「何奴も此奴も猿真似の様に、人の理想を嘲笑う」)
 それを認識されるこれのどこが夢だというのだろう。
 なぜこれを、夢と呼ぶのだろう。
「芸のない奴だ、つまらん。お前ら殺していいぞ」
 双子が手を繋いだ。
 刃が交差して――ぽぉんと飛んだ丸い影が、ひとつ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

揺歌語・なびき
うわー皆元気だなぁ
我慢って辛いよね、わかるわかる

攻撃の瞬間に無理矢理割り込む
緑の髪と流血で気が付くかな
【激痛耐性、野生の勘、第六感

はいストップ
お楽しみ中にいきなりごめんね
きみ、動物すき?狼とかどう?

狩りの邪魔はしないけど
きみが地獄に墜ちない手伝い位はしたいんだ
ね、いいでしょ?
【誘惑

己に催眠を掛け獣へ
お気に召したかな

望む夢はわかりきってる
獣の病を克服できれば
あの子を置いていかずに済む
きっとただしく愛せて
燻った情念も恋慕も清くましろだろう

獣の耳も尾も生えていないのは
ただの幻

ひと吠えしてみせろ
剥き出しの牙と爪を出せ
【大声、鎧無視攻撃、串刺し、傷口をえぐる

相も変わらずおれは獣だ
きみは、そうならないでね



「うわー皆元気だなぁ。でも我慢って辛いよね、わかるわかる」
 生き生きとし過ぎなくらい『アリス』を殺す彼らを見ての第一声が、それだった。
 ――なぜなら、揺歌語・なびき(春怨・f02050)もまた、彼らとはまた違った方面で、胸の内、体の奥底に押し込めているものがある男だったから。
 わかるからこそ、迷わず駆けた。
 金属バットを片手に跳ね回っていた少女が、振り上げたそれで『アリス』の脳天を叩き潰そうとした瞬間に無理矢理割り込み、殺すつもりで見舞われた一撃を片腕で受け止める。
 頭で受け止めるのは流石に不味そうだったから腕にしたのだが、服の下で腕の肉が破裂するように裂けた気がした。袖の色が凄い勢いで変わっていき、ぽた、と赤い液体が滴り始める。
 けれど、すとんと着地した少女に見せる表情はいつもの揺歌語・なびきだった。
「はいストップ」
「は、あ、」
「お楽しみ中にいきなりごめんね」
 もう片方の手で「こっち、」と呆けている少女の腕を掴み、『アリス』と距離を取らせる。年の頃なら10代半ば。血塗れの金属バットを握って返り血を浴びていなければ、ごくごく普通の、どこにでもいそうな少女だった。
「きみ、動物すき? 狼とかどう?」
「あ、え、おおか、み?」
「そう、狼」
 笑いかける桜の瞳は穏やかで、けれど、こちらを窺う『アリス』を視界から外さない。それでは割り込んだ意味が減る。全てはこの、手首に黒薔薇シュシュをつけた少女を人のままで生かす為。
「狩りの邪魔はしないけど、きみが地獄に墜ちない手伝い位はしたいんだ」
 ね、いいでしょ?
 かすかに香るような声色に、呆けていた瞳の意識が殺戮から桜色へと向き始めた。
 その意識になびきは本物の獣を映し込む。自身に催眠をかけ、骨格を、肉体を変え、灰緑に桜咲き乱れる毛並み持つ巨狼となって――お気に召したかな、と四メートル近い高さから声を落とすと、見上げていた瞳がそっと和らいだ。
「かっこいい、ね」
『ありがとう』
 長い尾を揺らして一歩。それだけで狼となった巨体が少女を隠す盾になり、

“知ってるわ、あなたの望み”

 感情が枯れたような声が現した自分の夢と対峙した。
 けれど心は揺らがない。
(「わかってたよ」)
 あれは獣の病を克服し、雪のように真っ白な正義を宿したあの子の傍にいる自分だ。
 あの子を置いて逝く事はなく、そして、きっとただしく愛しているのだろう。穏やかな仮面の下に燻った情念も恋慕も無く、在るのは清くましろな心だけ。
 獣の耳も尾も生えていないあれは、ただの幻だ。
 だから決して、本物に、現実にはなれない。
『ひと吠えしてみせろ』
 牙と爪はどうした。
 猛る咆哮と共に巨狼が爪をたて、牙は『アリス』も夢も貫き屠る。それらが失せれば少女が一人、じっとなびきを見つめていた。
 相も変わらずおれは獣だとなびきは巨狼のまま小さく笑う。
 少女と自分は、人の姿に獣を秘めた生き物だけれど。
『きみは、こうならないでね』

大成功 🔵​🔵​🔵​

エンジ・カラカ
アァ……邪魔だ邪魔だ…。
みーんな邪魔。
うんうん。そうだろうそうだろう。賢い君、やろう。

薬指の傷を噛み切って君に食事を与えよう。
アァ……双子のアイツら…。たーのしそうだなァ。
闇雲に逃げ回っていると見せかけて
こっそりと赤い糸を張り巡らせる。

鬼さんこちらー。コッチダヨー。
アァ……アレはコレと賢い君の獲物なンだ…。
競争しよ。競争。
コレと賢い君、それからお前ら二人。
ドッチが賢くて、ドッチが強いか。

張り巡らせた糸で攻撃の妨害もしようしよう。
ちゃんとヤらないと、お前らの敵も奪うヨー。

アァ……ジャーキー…。
賢い君の炎で消えた消えた。
食べたかったのにザンネンダナー。
残念そうに見えないのは気のせいダヨ
残念残念



 あっちでバッサリ。こっちでグッサリ。アリスが動く度に『アリス』が倒れてと、エンジ・カラカ(六月・f06959)の視界は赤色と黒い薔薇と他にも沢山のもので賑やか――過ぎた。
「アァ……邪魔だ邪魔だ……。みーんな邪魔」
 だから賢い君の赤色に耳を傾けて、うんうん、そうだろうそうだろうとご機嫌で頷くのだ。賢い君はやっぱり賢い。
「賢い君、やろう」
 ハジマリは賢い君に贈る薬指からの鮮やかな赤。賢い君がよりきらきら綺麗になり、嬉しそうに周りを見たエンジはとある二人に目を留める。
 服は少し違うが、ひゅんひゅん振り回している大鉈と前髪を留める黒薔薇のヘアピン、そして顔が鏡写しのようにそっくりな青年だった。
「双子だ。アイツら……。たのーしそうだなァ」
 風のように駆け、『アリス』の足元をスライディングで抜けるついでに足をザックリ。がくんと傾いて転んだ『アリス』のすぐ後ろで勢いに乗って立ち上がったら、今度はぶんっと大鉈を振り上げ、腕をスパッ。そして最後に二人揃って背中から心臓を貫いて、
「イェーイ?」
 エンジはにんまり笑い、あっちへ行って、こっちへ行って。捕まりそうになったらキュッと進路変更で駆け回る。
 『アリス』から逃げ回るエンジに双子の目も向くが、すぐに次の『アリス』に移り――視界に増えている赤に気付く。細く長く、美しい赤。血ではない。これは。
「糸……? なあレフト、これって」
「鬼さんこちらー。コッチダヨー」
「あっ、おいライト! それ、あいつのだ!」
 レフト。ライト。名前? 首を傾げて双子の方を見たエンジは、双子とぱっちり目が合って。にやぁり。猫のような笑みを浮かべる。
「アァ……アレはコレと賢い君の獲物なンだ……」
「先に目をつけたのは俺たちだぞ!」
「じゃあ競争しよ。競争。コレと賢い君、それからお前ら二人。ドッチが賢くて、ドッチが強いか」
 競争? 競争だって?
 ムムッとした双子が顔を見合わせて即、ぱあっと笑った。勢いよく向けられた目には殺る気が漲っていたが、熱狂し溺れていくような危うさは薄れている。
「二対一だからって文句はなしだぞ!」
「違う違う。コレと賢い君で、二だ。じゃあスタート」
 ニヤリ笑ったエンジは賢い君をひらひら躍らせ、双子は歓声を上げて駆けた。
 一人の『アリス』を巡る競争に、赤い糸と銀色の刃が鮮やかに閃いては、それぞれの『アリス』を捉えんと競い合う。
 ――そして、“競争”と名がつく以上、当然“妨害”も起きるわけで。
 丁度の高さにピンッと張られていた賢い君が、双子――ヘアピンの位置からしてレフトの足を引っ掛けてすぐ、しゅるんっと緩んで、ぱっ! 素早く移動して見えなくなった赤色に歯噛みするレフトに、金色お月さまな目は楽しそうだ。
「ちゃんとヤらないと、お前らの敵も奪うヨー」
 何だとこの、奪われるもんか、俺たちの方がどうのこうの。双子の声をBGMにしていたエンジはガンバレーと笑っていたが、くるっと振り向いた『アリス』の用意した物に目を丸くする。
「アァ……ジャーキー……」
 しかし腹が鳴りそうになった瞬間、賢い君が『アリス』ごとジャーキーを焼いた。美味しくなあれ、ではない。炎で丸ごと炭にして消し去ったのだ。
「食べたかったのにザンネンダナー」
 そう見えない? 気の所為だ。だってあのジャーキーが要らないオマケ付きだったからって。そんなコト。ナイナイ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ハイネ・アーラス
拳銃を手にしたマダムにご挨拶を
失礼、俺も混ぜて頂けますか?
俺の獲物は毒なので…試してみたいものがあるんです

暗殺者には派手な仕事ですが…えぇ、日々のストレス解消ですとも。
ナイフを片手に前に出ましょう。ご婦人の状況は気にしておきます


…これはケーキ、ですか
懐かしいですね。毒を慣らす前に貰った最後の菓子
あの頃の俺はこれが欲しくて…
毒で、生きたくは—…

——いえ、今の俺には過ぎたものです
毒の無い身も、嘆く夜も

然託を使いましょう
菓子は一口だけもらって、それきりです

速度は高速移動で取り戻し
懐深く、標的を狙います

傷など気にしませんよ
この想い、他者に準じる為のものではありませんので

我らが毒を、どうぞお受けください


カイム・クローバー
俺も混ぜてくれよ。まさかとは思うが、招待状が必要だ――なんて言わねぇよな?

声を掛けるのは拳銃撃ちまくってる老婆。まずは婆さんの獲物を横取り。【早業】の【クイックドロウ】でオウガを撃ち抜けば俺の存在に気付くか?
婆さん、楽しいのは分かるが、ちょっとはしゃぎ過ぎてるんじゃないか?介護は依頼に含まれていなかったと思うが…ま、サービスしとくか。
『望む夢』は力を手に入れた自分自身の幻影。『人』としてじゃなく『自身の真の姿』を受け入れて人を捨てた薄っぺらい俺自身。
心の何処かで受け入れたいって思ってんのかね。
余りにも下らねぇから――婆さん、花火は好きかい?
UCで纏めて吹き飛ばすぜ。どうだい?悪くねぇ眺めだろ?



 的確に『アリス』を撃っていく老婆の雰囲気は、のんびりと陽だまりを味わうそれに近かった。あまり動かないまま、にこにことしているからか。
(「まあ動き回られるより楽だけどよ」)
 カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は笑い、老婆が次の弾丸を放つ直前に割り込んだ。だが、生身でではない。ほんの僅かな隙間を縫うように、一瞬で撃ち出した銃弾が老婆の獲物を銃声響かせ横取りする。
「俺も混ぜてくれよ。まさかとは思うが、招待状が必要だ――なんて言わねぇよな?」
「……うん?」
 にこにこ、こてん。笑顔のまま首を傾げた老婆が、ふうん、そう、と穏やかに呟いて――サッと別の『アリス』に銃口を向けようとしていたので、カイムは即座に拳銃を上から押さえつけた。
 穏やかに聞いているようでまだまだ殺意優先だった。
「婆さん、楽しいのは分かるが、ちょっとはしゃぎ過ぎてるんじゃないか?」
「……駄目? 楽しいんだよ、これ」
(「介護は依頼に含まれていなかったと思うが……」)
 サービスしとくか。便利屋が頭の中でサービス料0円を叩き出した時、失礼、とやわらかな声と気配。音もなくいつの間にかやって来ていたその主、ハイネ・アーラス(海華の契約・f26238)は胸に手を当て、初めましてマダム、と笑いかけた。
「俺も混ぜて頂けますか? 俺の獲物は毒なので……試してみたいものがあるんです」
 立て続けにやって来た飛び入り参加の二人――加勢するという二人に、老婆が笑みながら「うん?」と首を傾げるが、カイムが持つ銃とハイネの毒使い発言はお気に召したらしい。
「こういう時でもないと、他人の殺しをのんびり見られないもんねぇ」
 いいよ、いいよ。一緒に殺ろうねぇ。
 閉じて笑っていた目が、うっすらと開く。そこに宿る輝きは小さかったが、紛れもなく殺戮を喜ぶ色で爛々と浮かんでいた。
 けれど、殺しのひとときを暫し止められたなら。
 既に一度、止めている。
(「暗殺者がこうして他人の前で、など……派手な仕事ですが……えぇ、」)
 ハイネはカイムと頷き合い、ナイフを手に前へ出る。
(「日々のストレス解消ですとも」)
 二つの顔を持つセイレーンの若者は、微笑の裏に溜まりに溜まったストレスを隠し持つくらい朝飯前。気配で老婆を気にする事だって容易く――ご馳走を用意してやって来た『アリス』を出迎える事だって。そう。

“ほら、食べて”

「……これは」
 銀のトレーを彩る唯一の色に鮮やかな赤がゆるりと細められていく。
 記憶の中にある、自分の為に用意されたケーキ。差し出されたそれは、あの日食べた最後の菓子。あの時の味と共に懐かしさが込み上げてくる。
「そう、あの頃の俺はこれが欲しくて……」
 いつの間にかトレーに載っていたフォークを取り、一口分。
 ふわりと広がったのは、もう二度と味わえないと思った甘みだった。
 長い歴史を持つ暗殺一族に生まれたハイネは、このケーキを食べた次から毒を食らった。用意されたものを気にせず食べる日々は終わりとなり、あの日から毒に慣らしていく食事が始まった。けれど。
(「俺は、毒で、生きたくは――……――いえ、」)
 カチャリ。トレーに戻したフォークが小さな音を立てる。
「ご馳走様でした。一口で結構です」
 全て、今の自分には過ぎたものだ。あの日で終りを告げた毒の無い身も。嘆く夜も。

 微笑む紅に光が宿った時、カイムもしあわせを示されていた。
 逆立ち、うねる髪。一対の翼。暗い色の肌。
 体中を伝う紫雷は溢れる力の具現化か。
「俺の望む夢、か」
 それは人ではなかった。真の姿を受け入れ、カイム・クローバーという『人』を捨てた自分だった。あまりの薄っぺらさにまじまじと見てしまう。本当にこれが自分の夢なのか。
(「心の何処かで受け入れたいって思ってんのかね」)
 この自分を? この未来を?
 便利屋『Black Jack』。婚約者や友、仲間がいる『カイム・クローバー』。自分という『人』を構成する全て捨てたこの姿が望む夢だとしたら――余りにも下らねぇ。

 海のように深い青色が一瞬で『アリス』を捕まえた。
 甘い二口目が無くとも、異端の神からの授かりものが常と変わらない速度を齎してくれる。海中を行くハンターのような速さは命を削るものだけれど、じくじくと覚え始めた傷も、それも、気にはしない。
 なぜなら、この胸に抱く想いは他者による為のものではないから。
「我らが毒を、どうぞお受けください」
 毒煙纏う身で揮った刃が『アリス』の心臓に突き立てられた瞬間、風船が弾けるような勢いで『アリス』が吹き飛んだ。
 衝撃波を浴びせたハイネの長い髪が、衣が。飾りが。音を立てて大きく翻る一瞬。微笑む瞳は吹き飛ばした『アリス』を追って――その向こう、不敵に笑うカイムに微笑み、どうぞと掌を向けた。
「――婆さん、花火は好きかい?」
 渡されたバトンが無数の銃声と紫雷の輝きとなって視界を染め上げる。
 吹き飛ばされた『アリス』だけでなく、接近していた他の『アリス』も纏めて飲み込む強烈な輝きは、確かに言葉通り、花火のようだった。
「どうだい? 悪くねぇ眺めだろ?」
「ああ、いいねぇ。花火の雨みたいだ。うん、うん」
 微笑む老婆が手にする拳銃が紫雷の外から来た次の『アリス』の額ど真ん中に、ズドンッ。大きな風穴を開けて笑う目には、声をかけた時に見た爛々とした輝きはない。今は狩人のような静けさをたたえ、皺だらけの目元で黒薔薇のチェーンを揺らし、やわらかに笑っている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冴島・類
※いばらさん(f20406)と

昂ぶる衝動が刻むオウガの身体
大地塗り、咲く赤

身につけた黒薔薇は
この国を守るって覚悟みたいだ
共に守らせてと言いに行こう?

乱戦の中を注視
近接武器で挑んでいる方にあたりつけ
見切りで割り込む機を掴み
糸でオウガの体勢を崩し出鼻を挫す

いばらさん!歌を
彼女が香りで呼びかける間
オウガの攻撃で彼女達が負傷せぬよう背にし
瓜江手繰り引きつける

殺すこと自体が、目的ではないだろう?

共闘叶ったなら
現れる夢には苦笑ひとつ
…嗚呼、惹かれはするが
その未来が、無かったから
瓜江がいて
いばらさん達とも出会えたんだ
この香りを知れた今を見失わない

相棒の風を刀に降ろし、夢の景を薙ぎ払い
君達を振り返る
いけるかい


城野・いばら
類と/f13398

息詰まりそうな乱闘、赤
でも目は逸らさない
皆戦っている証だから
うん
きっと素敵な物語が詰ってるこの国
いばらも守りたい

類が時を作ってくれた間に声掛けを
先ず自分を失いそうになってるアリスへ【子守歌】
鎮静作用のある香りを贈るの

アリス、仲間を助けてくれて有難う
住人さん達ね皆がもういいよーってしてくれるの待ってるよ
だから
ね、いばら達にも手伝わせて?

そのままトロイメライで魔法の風紡いで
香りを拡げるわ
前向く類の顔は見えないけど
ここにいるよって届くように

アリスが類達がいる今、が望むもの
でも…まだ願って良いなら
扉を失ったアナタに安らかな眠りを

振向いた優しい風を道標に
もう一度花咲かせ
アナタにお休みを



 赤という赤が激しく舞う空間だった。その発生源たる殺人鬼たちの昂ぶる衝動が『アリス』の体を斬って潰して刻んで叩いて、黒薔薇の国の大地に息が詰まるほどの赤が咲いていく。
「ねえ、いばらさん」
 広がる光景を見つめていた冴島・類(公孫樹・f13398)の声に、城野・いばら(茨姫・f20406)は殺人鬼たちの戦う証から目を逸らさぬまま「うん」と返事をした。
「彼らが身につけている黒薔薇だけど……」
 あれはまるで、この国を守ると無言で示す覚悟のよう。
 だから、と続けた類の目に凛とした光が浮かぶ。
「共に守らせてと言いに行こう?」
「うん。きっと素敵な物語が詰ってるこの国。いばらも守りたい」
 まだ赤く濡れていなかったそこからふたつの白と寄り添う黒が、赤咲き乱れる戦場へと向かっていく。
 何人もの殺人鬼が衝動を解放し、各々の得物を揮うそこはまさに乱戦。
 そこを素早く見定めた類の目が湾曲刀揮う男に留まる。今、と“機”を捉えるまでの時間は僅か。波描くように躍らせ翔けた糸が『アリス』の体勢を崩して出鼻を挫けば、割り込まれた男が糸を辿って類に気付いた。
 その目は狩りをする獣のような、余計な意志を削いだ目だった。その奥に赤への渇望を宿した目が類をはっきりと認識しかけた刹那、類の声が響く。
「いばらさん!」
 僅かな時間でも、いばらが香りを咲かすには十分。
 屠る肉に、躍る血に己を見失いそうになっているアリスにいばらが贈るのは、心鎮める薔薇の香り。華麗な一輪が花開くように届いた香りで男の目がかすかに震えれば、いばらは嬉しそうに微笑んだ。
「仲間を助けてくれて有難う。いばらもね、愉快な仲間なの」
「――君、も」
「ええ。あのね、住人さん達ね皆がもういいよーってしてくれるの待ってるよ」
 だから。微笑みと言葉を紡ぐいばらの手が男へ伸びる。
 そこへ群がろうとする『アリス』を、類の手繰る瓜江がどうっと払うように弾き飛ばした。黒く静かな壁に守られて、薔薇の香りが優しく降る。
 男の耳を飾る黒薔薇のイヤーカフに、いばらはそっと目を細めた。
「ね、いばら達にも手伝わせて?」
「殺すこと自体が、目的ではないだろう?」
 二人の言葉と想いに、男の目がはっきりと震え――赤を求める衝動が薄れていったのが見えた。すう、と静かな呼吸をひとつ。男の目が二人の顔を順々に見ていって。
「……好きにするといい」
「! ありがとう」
 いばらは嬉しそうに笑って白薔薇の紡錘をくるりと舞うように揺らした。先端から紡いだ風の魔法が香りを広げ、他のアリスにも届いていく。
 その中を駆けゆく男の刃が『アリス』たちの首や腕を斬り飛ばした。いばらに接近しようとした『アリス』には蹴りを入れ、『アリス』“に”距離を取らせている。
 叶った共闘に類は一瞬目を丸くし、驚きを喜びに変えた。あまり喋らない分、行動で示すタイプの様子。類は笑顔をそのままに対峙する『アリス』を見て――現れた“しあわせ”に、苦笑した。
 炎の中に失くした縁と社。
 二度と戻らぬ存在が、姿を得て、そこにいる。
「……嗚呼、惹かれはするが」
 あの頃は、人という短い生をいくつも見送るばかりで、病んで。それでも失うなど夢にも思わなかった日々を過ごしていた。けれど、その未来が無かったから――、
(「瓜江がいて、いばらさん達とも出会えたんだ」)
 紡がれた風が背に触れて、優しく包み込んでくる。
 やわらかな癖っ毛を撫でた風が、声となって届く。
(「類。いばらも、ここにいるよ」)
 しっかりと周りを見つめ、風に香りをのせて届け続けるいばらも“しあわせ”を見ていた。男の湾曲刀が“しあわせ”に向きかけた瞬間、いばらは裾を摘んで引っ張って止め、ふるふると首を振る。浮かべた微笑みはアリスに向き、そして、“しあわせ”にも向けられた。
「アリスが類達がいる今、それがいばらの望むものだから。でも……」
 まだ願って良いなら。
 鮮やかな緑の瞳が『アリス』の空っぽな瞳を見つめて笑う。
 途切れない薔薇の香り。広がり続ける風。そこにびゅうと音を立てた風が類の短刀に降ろされ、銀杏色の組紐飾りを激しく上下させる。
 風がまだ在る間に音もなく一閃。
 記憶から作られた夢を薙ぎ払って振り返った類の目に、いばらとアリスが映る。
「いけるかい」
 己は立ち止まらない。
 過去を想えど、未来へ向かう道を。咲くような香りを知れた今を、見失わない。
「問題ない」
「うん、いばらも」
 振り向いた類から感じた優しい風を道標に、いばらは笑って紡錘を揺らした。再び咲かせた花の宛先は、扉を失ったアリス。独りぼっちのアリス。こどくのアリス。
 今望むものの中に――アナタに安らかな眠りをと。どうか、願わせて。
「おやすみなさい」
 そしていつか目覚めたその時は。
 アナタが、素敵な物語の終わりを迎えられますよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
悪いが邪魔するぜ
護る為の戦に否やは無いが――自らの身までも滅ぼす道だけは

早業で先んじて一太刀
敵牽制と同時
殺人鬼も逸りすぎぬよう足取調整しつつ援護

不意に質素な膳が出る
嗚呼、此はあの人が何度も作ってくれた――
でも、何かが足りない
此処には、あの人の心までは籠っちゃいない

在るのは、敵の思惑だけ
そんなものに飲まれはしない――暗い力にも、飲まれやしない

UC御して更に剣戟へ

力に溺れれば、獣に堕ちる
其は我が身も似た様なもの

だからこそ、心を強く――大切なものを忘れずに

彼らも、自らも、獣の道へ転げ落ちぬよう
本来の心が、変わり果てぬよう
止めてみせる

(リングを見て、己の数珠に触れ――ふと)
…キミの其も、大事なモノ?



「悪いが邪魔するぜ」
 ふいに射し込むような声だった。
 それが聞こえた時にはもう、鋭く列をなす刃で斬る予定だった『アリス』は呉羽・伊織(翳・f03578)の刃によって一太刀浴びせられた後。
 胸元へ綺麗な斜め傷を刻まれた『アリス』は、たたんっと後ろに数歩バランスを崩し、アリス――チェーンソーを揮っていたそばかす顔の少年もまた、一振りを手に割り込んできた伊織の動きにそれとなく抑えられて下がる。
「ア、アンタ、誰」
「自己紹介は後だ。護る為の戦に否やは無いが――手前の身までも滅ぼす道だけは歩むな」
「……何の話?」
「それも後だ。悪いな」
 明るい笑みを向ければ、怪訝そうながら「わかった」と短い返答ひとつ。
 初対面の子供を案じての言葉に適当なものはないと、子供ながらに――いや、『殺人鬼』という相手をよく“見る”存在だからこそ、伊織の言葉に偽りのない心を感じ取ったのだろう。
 そして何かを現し始めた『アリス』を見る目は、子供とは思えぬほどに凪いでいた。
(「一先ずは落ち着いたか」)
 その眼差しが再び殺戮衝動一色に染まって昂ぶり、獣とならぬよう。
 伊織は手にしていた烏羽をくるりと回し、静かに地を蹴った。音を立てて向かってきた『アリス』へ切っ先を定め――、
(「嗚呼、」)
 不意に出された質素な膳に真紅の目が瞠られて。
 それから、少し歪むようにかすかに震えて。そっと細められていく。
(「此はあの人が何度も作ってくれた――」)
 その時の匂いと味を、あの人の顔を、今も覚えている。
 同じだ。目の前にある質素な膳は、あの人が作ってくれたものだ。
 だが、伊織の手は伸びなかった。手は刀の柄を確りと握り締めたまま。ぎゅう、と音を立てる。この膳は見た目も匂いも同じだというのに、何かが足りないのだ。
 “それ”が“何か”は、もう、解っていた。
「よくできてる。だが足りない。あの人の心までは籠っちゃいない」
 硝子玉じみた目がきょとんとこちらを見つめようと、己の心は揺らがない。
 此処に在るのは敵の思惑だけだ。しあわせで捕らえて囚えて、腹に収めよう。そんなものに飲まれはしない。――この身に宿す暗い力にも、飲まれやしない。
 身の内より溢れさせ、手にする一振りに注げばより黒く染まったかのよう。注いだ力は外界を喜ぶかのようで――まるで、殺人鬼が抱える衝動だ。溺れれば獣に堕ちる。
(「其は我が身も似た様なもの。だからこそ、心を強く――大切なものを忘れずに」)
 あの人の声、笑顔。
 作ってくれた、質素な膳。その味と、匂い。
 そして――。
「アンタ、大丈夫?」
「嗚呼」
 ならいいんだけどさ、と素っ気ない声にチェーンソーのやかましい音が重なった。慣れた手付きで振り上げられるそれに、伊織の黒き刀が寄り添うように鋭く揮われる。
 浴びせゆく一太刀は、彼らが、自らが獣の道へ転げ落ちぬ為の――本来の心が変わり果てぬようにと真白き誓いをのせたもの。
 止めてみせる。
 その想いのままに黒き刃が共に躍った後。一息ついた少年の指を飾る黒薔薇のリングを見た伊織は、自身が持つ数珠に触れ――ふと、口にしていた。
「……キミの其も、大事なモノ?」
「…………俺に、って作ってくれて。貰ったんだ」
 だから、そんなとこ。
 聞こえたのは、ぼそぼそとした抑揚のない声。
 けれどとても――人らしい声だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
包丁の淑女or調理器具的な武器のアリスと

戦況や其々の動き見切り
アリスの攻撃の瞬間を狙い掻っ攫うよう「柘榴」で敵へ斬りつけるわ

そんな余裕ナイやり方じゃ食材が台無しヨ
料理はもっと手際よく美しく……何より愛情を籠めなくちゃ

とはいえ「しあわせな夢」ねぇ
そんなの決まってる
すぐ其処には銀の髪、オレと似た背格好の「あの人」
ケドこの幸せが叶わぬと、喰らったこの身が一番よく知っている

ねぇアリス、ちょっとオレを斬ってヨ
だいじょーぶ夢から覚めるには丁度イイ
致命傷にならぬよう激痛耐性併せ受けその血で【紅牙】発動
柘榴をアリスとお揃いの牙とし
夢のお礼とばかり、傷口を抉っての2回攻撃で傷の分もしっかり生命を貰っておくわネ



 淑女が踊る。夜会に相応しいドレスの裾を翻し、優雅に微笑み――細腕のどこにそんな力が、と瞠るほどある肉切り包丁を野球選手よろしく両手でガッチリ掴んで『アリス』の腹に叩き入れた。
「ふふ、ふ……! ごめんあそば、せッ!」
 力の限り揮われた一撃が『アリス』を上と下に分ける瞬間を見て、あーあー、と嘆く声がゲストで飛び入り参加。
 返り血で赤く濡れた頬を拭うのも忘れた淑女が、あら、と熱に浮かされた目を向けたのは『アリス』をひょいひょいっと躱してやって来たコノハ・ライゼ(空々・f03130)だ。
「そんな余裕ナイやり方じゃ食材が台無しヨ。料理はもっと手際よく美しく……何より、」
 軽やかに地を蹴ったコノハの手が柘榴を握る。使い慣れた刃がスパッと閃けば、こちらを見ながら次の獲物に狙い定めていた淑女を嗜めるようにして『アリス』の腕に鮮やかな赤い線が刻まれた。
「愛情を籠めなくちゃ」
 顔は淑女に向けつつ手にした柘榴でトドメのひと刺し。
 どさっと倒れた音を背に「でしょ?」とにっこり。倒れた『アリス』を追っていた目がコノハを映して、少し間を開けた後、にこぉと笑った。
「愛情……そうね、そうだわ」
 ころころと笑う口元に添えられた指先。それがするりと下ろされていく途中で首のチョーカーにそっと触れたのを、コノハは見逃さなかった。厳密には、丁度鎖骨の間に来るよう付いている黒薔薇の飾りに、だが。
「ああ……あんまりにも楽しくって、私ったら、つい。ふふ。お恥ずかしいわ」
 恥じらいながら、両手は肉切り包丁を掴んでプラプラさせている。ああこのご婦人ホント殺人鬼なのねぇ、なんてコノハは実感しつつ柘榴をぱしりと握り直した。
「お喋り中なんだから遠慮してほしいトコなんだケド」
 近づく気配、新手の『アリス』へ不敵に笑えば虚ろな声が“しあわせ”な夢をどうぞと紡ぐ。ふうん、と返した声は素っ気ない。だってどんな夢が来るのかなんて、わかっていた。
(「ほらね。やっぱり『あの人』じゃナイ」)
 すぐそこに現れた一人、銀の髪に己と似た背格好の青年にコノハが浮かべた笑みがどんなものかは、偶々隣にいた淑女しか知らない。けれどコノハを知らぬ淑女は笑みの意味を欠片も知らない。得物から決して手を離さぬまま、あらあらと笑うだけ。
 ――目の前に現れた幸せが叶わないものだなんて。
 ――そんなコト、喰らった自身が誰よりも知っている。
「ねぇアリス、ちょっとオレを斬ってヨ」
「あら。嬉しいけれど、いいのかしら」
「だいじょーぶ、夢から覚めるには丁度イイ。それに、痛いコトには強いの」
 ヨロシクね、とワルツへ誘うように差し伸べたそこに微笑む淑女の刃が滑る。溢れた赤が柘榴に淑女の得物と揃いの牙を与え、ずしりと増した重量が両手にかかる。それを確かめる薄氷は満足げに細められて――しあわせとやらをくれた『アリス』を刃と共に捉えた。
「さ、夢のお礼と行きましょーか」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャスパー・ドゥルジー
【邪蛸】
腹肉をナイフで裂いて【ジャバウォックの歌】
相棒の魔龍に騎乗して戦場に駆けつけ
相棒の炎で殺人鬼の獲物を仕留める

獲物を横取りして悪ィな
ミイラならぬオウガ捕りがオウガになるなんて不穏な噂を聞いてさ
信じ難い話だがこの世界じゃ何があっても不思議じゃねえだろ?
手が多い方がリスクは分散できる筈だ
俺らにも加勢させてくれよ
腕前は今示した通り…ってね

望む夢には心当たりがある
俺が『俺』になる前の記憶
俺のせいで死んだ女の子が
大人になった姿で俺に笑いかけてくる

―要らねえよ、んなモンは
俺は臆病者の人殺しだ
それは変えられねえ
だからこそパウルと出逢えたんだから

幻影ごと燃やし尽くしてくれよ、ジャバウォック


パウル・ブラフマン
【蛇蛸】
ジャスパーと一緒に
ジャバウォックさんの背中に乗せて貰うね♪

敵数が多い殺人鬼陣営に向かい
展開したKrakeで【制圧射撃】を。
【コミュ力】全開で共闘を申し出たいな。
楽しそーだねっ、オレらも混ぜて☆
敵前衛には【砲撃】、瀕死の個体には【援護射撃】でトドメを。

ジャスパーに対する幻影に歯噛みしちゃいそうだけど
オレの『弟』の相手もしないとね。

『謝りたいコトってなんだよ?』
不敵に笑む、オレと同じ顔をした宿敵の姿に
満面のスマイルを返して―UC発動!
謝りたいのは山々だけど
ガチラビオがこんなトロいワケねーじゃん?
吸盤みたいに、その鎖で捕まえたら離さないよ。
おねーさん達ごと纏めて吹っ飛べ☆全砲【一斉発射】ァ!



 割り込んで頭を冷やさせるなら派手な方がイイ。
 やって来て早々ジャスパー・ドゥルジー("D"RIVE・f20695)は腹部をナイフで裂き、肉1ポンドで自慢の『カノジョ』を喚び出した。
 アリスたちが増やしていく赤にも負けぬ真っ赤な龍にジャスパーがひょいっと飛び乗れば、すかさずその後ろにパウル・ブラフマン(Devilfish・f04694)も「お邪魔するね♪」と二人乗り。
 黒薔薇の国でこのまま観光デート、なんて出来れば良かったのだが、今日の『黒薔薇の国』は殺人鬼たちが『アリス』たちを手厚くもてなす事に夢中だ。
 地上のお祭り騒ぎを見た二人は目配せして――先に楽しんでいた『アリス』を片付ける。魔炎龍の黒炎が『アリス』たちを熱く包んで足を止めさせ、パウルの放った砲撃が『アリス』たちを仲良く夢の中へご案内。
「ッ!?」
「な、どういう事……!?」
 殺る気漲らせていたアリスは、獲物を奪われたそこで漸く来客に気付いた。
 あ、やっとコッチ見てくれたよ! パウルは嬉しそうに人懐こい笑みを浮かべ、やっほーとぶんぶん手を振った。
「楽しそーだねっ、オレらも混ぜて☆ あ、オレはパウル! こっちはジャスパーだよ」
「獲物を横取りして悪ィな。いやマジで思ってるぜ。なぁ?」
「ね?」
 すぐ後ろのパウルと視線を交え「ただどうしても話がしたくってよ」と地上に声を届ければ不服そうな視線ばかりが返ってくる。しかしその意識の優先度が殺し以外に向いているなら良し。――希望をいうと、ちょっとばかり物理的なもので向けられてもジャスパーは全く構わないのだが。
「ミイラならぬオウガ捕りがオウガになるなんて不穏な噂を聞いてさ」
 オウガ捕りが誰を指しているか彼らはすぐ理解したのだろう。すぐに生まれたざわめきにジャスパーはまァ聞けってとジェスチャーを挟んで続けた。
「信じ難い話だがこの世界じゃ何があっても不思議じゃねえだろ? 手が多い方がリスクは分散できる筈だ。俺らにも加勢させてくれよ。腕前は今示した通り……ってね」
「そういうこと。どう?」
 バサバサと翼の音を立てる真っ赤な龍。悪魔めいた容貌の男と、砲撃の雨を降らせた眼帯の男。噂という不確定要素はあれど、彼らは提示された“商談”に乗った。
 派手な割り込みと、国を護る為の殺し。
 その二つが彼らに“リスクを減らして利益を得る”事を選ばせたのだ。
「結構な腕前があるんだ、こっちの助けは要らないな?」
「うわーっ、心配してくれたんだねありがとう! 超ウレシ~☆」
「ちっ、違ぇよ!」
 すぐに否定したアリスにパウルはニコニコ笑い、大丈夫! と声を響かせた。
「オレらもキミ達と同じくらいやるタイプだから」
 ふわり。魔炎龍が翼を大きく上下させ向かった先――『アリス』たちに先程と似た“雨”が降り注ぐ。降られた後も動く『アリス』には、すかさずもう一回。ほら静かになったでしょ。
「やるじゃん、さっすが。……おっと」
 鮮やかな手際に笑ったジャスパーの目が細められる。
 誰かが合図や指示を出したわけでもないのに、ジャスパーは周りの音が静まったような気がした。心当たりのある夢が現実になったせいだ。
 ジャスパーが『ジャスパー』に――『俺』になる前、自分のせいで死んだ少女。子供時代で生を終えたあの子が、迎える事のなかった大人の姿で笑いかけてくる。

“     ”

 笑う口が何か言っている。
(「なーんて言ってるのかな。……ああ、いっけない、スゴイ気になっちゃう」)
 他でもないジャスパーに関わる存在だから、現れたのが幻影だと解っていてもパウルは歯噛みしてしまいそうだった。しかし口に笑みを浮かべて自分の夢――『弟』に向き直れば、同じ顔が不敵に笑った。

『謝りたいコトってなんだよ?』

 だからパウルも満面のスマイルを返した。
 とびきりのニッコリを浮かべ――暴力的な波の如き勢いで首輪から鎖を放つ。一気に翔けた鎖は『弟』を捕らえ、罪名記された手錠がガッチリと繋がった。赤き龍の背で、悪魔と触手が凶悪に笑う。
「――要らねえよ、んなモンは」
「全ッ然ダメだ不合格、出直してこいよ」
 だって違う。
 あまりにも違う。
「謝りたいのは山々だけど、ガチラビオがこんなトロいワケねーじゃん?」
 合格点なのは見た目だけ。カッと見開かれたパウルの左目はぎらぎらと輝き、砲口が仲良くニセラビオに向く。鎖から逃れるなんて考えない方がいい。吸盤のようにがっちり捕まえてくるそこから逃げる方が辛いのだから。
「じゃ、おねーさん達ごと纏めて吹っ飛べ☆」
 容赦なく轟いた砲音に、ジャスパーは顔を顰めるのではなく笑みを浮かべた。こういう場面には感動的BGMがいいのかもしれないが、今はこの音が何よりも心地良い。
「俺は臆病者の人殺しだ。それは変えられねえ。だからこそパウルと出逢えたんだから」
 とん、と肩に乗ってきた重みと温もりは、覆らない過去があってこその今。
 だから。
「幻影ごと燃やし尽くしてくれよ、ジャバウォック」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
僕の故郷にも咲いていた黒の薔薇

黒に飛び散る赤の懐かしさ
まるで懐かしきグランギニョールのよう

弾けて
命が散る
殺すことは楽しいのかな

阿鼻叫喚の喝采の代わりに君達に歌をあげる
君達の技術は素晴らしく残らず命を摘むだろうけど

熱す衝動を呑み蕩かす歌を
すべてを焼く歌を
響かせ踊らせ
焔と歌で鮮烈に彩らせてもらうよ

…ノア様

貴方の手を離れて
ひとり
黒薔薇の国のグランギニョールの最中
僕はちゃんと歌えてる?

例え世界の敵であれ
とうさんが大好きで…
またあいたかった

わかってる
匣舟は僕のもの

指揮者を失った奏者はどうすればいいのかな、
惑うなともう一度叱ってくれたなら

なんて
ガッカリさせるようなことしない

歌う
それが僕にできる精一杯だから



 殺人鬼である彼らが身につける黒薔薇に、つい、目が向いてしまう。
 水葬された黒耀の街――リル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)の故郷にも、黒き薔薇は咲いていた。その薔薇と同じ黒に飛散る赤の懐かしさが、繰り広げられる光景が、何度も演じたグランギニョールのよう。
(「殺すことは楽しいのかな」)
 弾けて散りゆく『アリス』に殺人鬼たちは笑っている。
 瞳に喜悦を浮かべている。
 その火種である衝動に、春すら蕩けさせる歌声が届いた。
 阿鼻叫喚の喝采の代わりにとリルが贈る歌声は、彼らが揮う殺しの技術――素晴らしく残らず命を詰む、卓越したそれへ向けるに相応しい黄金の輝き。
 煌めく銀細工をそのまま音色にしたような歌声が、心身を熱す衝動を呑んで蕩かして。そしてすべてを焼く歌へと変わり、恋焦がれる想いを描いた歌声が世界に響き、世界を踊らせ、焔と歌で以って、黒薔薇の国を太陽よりも月よりも鮮やかに彩っていく。
 ――あ、あ。
 白に螺鈿浮かべて游ぎ歌うリルを見上げていた『アリス』たちが、掠れた声を最後にグランギニョールから下りていく。けれどその直前、一人の『アリス』が指先から紡いだ揺らぎがリルの『夢』を描いた。
「……ノア様」
 あの日、街と共に水底へとおくったひとだった。
 彼の手を離れたリルはひとり、黒薔薇の国でグランギニョールの舞台に立っているけれど。
「……ノア様。僕は、ちゃんと歌えてる?」
 炎のような色の瞳が細められた。形の良い唇がリルの望む言葉を紡いでくれる。
 しかし背に広がる翼は吸血鬼の証である真紅のそれ。『ノア』がどれだけリルの望む言葉を紡いでも、彼が世界の敵であった事は変わらない。
「それでも、僕はとうさんが大好きで……」
 またあいたかった。
 父への想いと願いを声にすれば『ノア』が笑った。
「わかってる」
 父の匣舟は自分が継いだ。享楽を冠した世界は櫻沫となった。今は、
「僕のものだ」
 でも、指揮者を失った奏者はどうすればいいのだろう。
 惑うなともう一度叱ってくれたなら――、

「なんて、ガッカリさせるようなことしないよ。ノア様」

 あの日あの街であの舞台に立ち、継いだのだ。
 だからリル・ルリは歌う。黒薔薇の国に歌声を響かせる。胸を張り、薄花桜の瞳に映る観客に玲瓏の歌声を届けていく。
(「それが僕にできる精一杯だから」)
 その歌声はどこまでも響いて――殺人鬼たちの内から溢れる衝動を、春のように照らしていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリア・モーント
シルクハットに仕込み杖の似合うおじさまと!

迫る攻撃はリズム
響く悲鳴は音楽
そのダンスの心地よさ
私にも分かるのだわ
でもダメなのよ?
ダメなのよ!

おじさまは何を守りたかったの?
何かをかけてもいい
大切なモノがあったのでしょう?
それの為にも人でいないと

【殺戮舞踏曲「Lobelia」】を発動
【慰め】るように【鼓舞】するように
殺戮衝動という狂気への【狂気耐性】を乗せた言葉を紡ぎながらおじさまの攻撃を【見切り】かわして平手を1つ

ああ、懐かしいドラジェ
いつだってご褒美はそれだったのよ
でもいらないわ!
今はお菓子より恋よりも
甘いダンスがしたいもの!

おじさまの手を借りながら【ダンス】するみたいに仕留めて差し上げるのよ!



 殺す為だけに迫る攻撃はリズム。
 耳に響く悲鳴は音楽。
 アリア・モーント(四片の歌姫・f19358)は黒薔薇の国を染めるそれに心を傾けながら、仕込み杖で『アリス』を殺して回る紳士の視界へステップを踏むようにして飛び込んだ。
「――おや」
「そのダンスの心地よさ、私にも分かるのだわ」
 殺しという瞬間に訪れるダンスが、どれほどの輝きを持っているか。
 同じ殺人鬼だからこそアリアはよく理解していた。
「でもダメなのよ? ダメなのよ!」
 理解しているからこそ言葉に狂気を抑える力を乗せ、揮われようとしていた仕込み杖を左手で掴んだ。
 ハッとした紳士の目に、出会ったばかりの少女に止められた、という予想外への驚きが浮かぶ。その目を覗き込んだアリアは、驚きの裏側にある衝動をしっかりと捉えていた。
「おじさまは何を守りたかったの?」
 左手は仕込み杖を掴んだまま。
 右手は紳士の頬に添えて、そして、
「何かをかけてもいい、大切なモノがあったのでしょう?」
 パァンッ!
「――、」
「それの為にも人でいないとダメなのよ」
 気持ちいいくらい高い音が響いて、紳士の頬が赤くなっていく。
 平手の勢いで少しばかり横を向いた顔。目だけが、すい、と自分を見る前にアリアはくすりと笑って飛び退いた。
 赤いツインテールをリボンのように翻して、とんっ、と着地したそこは紳士との語らいに割り込もうとしていた、いけない『アリス』の前。ごきげんよう、と丁寧に挨拶をすれば銀のトレーに素晴らしいものが現れた。
「ああ、懐かしいドラジェ……!」
 澄んだ青と深い青がひとつになった目を宝石のように輝かせ、『アリス』の持つトレーに手を添える。そこに鎮座するご馳走は、アリアのご褒美。頑張った時のお約束。いつだって、それが自分の心を幸せにしてくれた。
「でもいらないわ!」
 満面の笑顔で添えていた手を振り上げ、ひっくり返してドラジェを放り投げる。
「だって今はお菓子より恋よりも甘いダンスがしたいもの!」
「ではお嬢さん。私と一曲踊っては頂けませんか?」
 いつの間に来ていたのかしら。
 目をぱちりとさせたアリアだが、紳士からの誘いに笑顔を輝かせた。
「おじさま、私とダンスを踊ってくださるのね? でも、どんなダンスを踊ってくださるのかしら?」
「この国と、そして、我々殺人鬼に黒薔薇をくれた彼らに捧ぐダンスを」
「まあ、素敵だわ……! ええ、喜んで!」
 差し出された手に手を乗せ、小さく礼をする。
 誰かの為に踊るダンス。
 誰かの為に揮う殺人技術。
 二人で紡ぐそれが『アリス』を仕留めていき――黒薔薇の花弁が、華麗に舞う。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『ディガンマ』

POW   :    引き裂く獣腕
単純で重い【獣腕】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    恩讐の獣霊
【周囲の廃品や不用品と融合する】事で【獣性を露わにした姿】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    縫い留める獣爪
命中した【獣腕】の【爪】が【怯えや劣等感を掻き立てる「恨みの針」】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠虚空蔵・クジャクです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●獣とうたう
 ディガンマという男は噴水の縁に腰掛けたまま笑っていた。
 全ての『アリス』を倒し、噴水広場までやって来た黒薔薇の国の殺人鬼たちと猟兵を眺め、閉じたまま笑んでいた口を、は、と開く。
「ようやく終わったか」
 そう言いながらも“待ちくたびれた”という様子はない。寧ろ、今の状況を面白がっているように見えた。
 殺人鬼たちが『アリス』を殺し、『アリス』が殺される。
 猟兵がオウガを倒し、オウガが倒されていく。
 それぞれが揮っていた得物、使ったユーベルコード――黒薔薇の国を守らんとするアリスと、アリスを何かから救おうとする猟兵をずっと眺めていた男は鋭い目を細め、ゆっくり立ち上がった。
 立ち上がるという簡単な動作をしただけの男から濃厚な殺意が溢れていく。言葉よりも明確な殺意は空間を満たす可燃性ガスのよう。火を付けるライターやマッチは――消えぬ衝動を抱えた殺人鬼たち。

 ぴくりと反応した瞼。
 獲物を認識し殺意を膨らます心。
 殺しの一手をと動いた手、足。
 始まる殺人行為の予感で歓喜する吐息、声。

 それを、彼らは自らの意志で律した。

「あいつぜってー殺りづらいタイプ……」
 チェーンソー使いの少年が言った。
「……でも、獣の腕を殺すのは興味深いよ」
 アイスピックの男が呟いた。
「殺し甲斐もありそうでいいじゃないか」
 マチェーテの女が笑った。
「まぁ、忘れられない殺しにはなりそうよね」
 工具カッターの女が面倒くさそうに吐いた。
「僕は絶対殺すし。殺せるし」
 巨大斧をひきずる少年は唇を尖らせた。
「彼で終わるのは残念ね、でも殺さなくちゃ」
「彼で最後は寂しいわね、でも殺りましょう」
 双子がきゃらきゃらと笑った。
「……任せて、って、約束したから。私も、殺す」
 金属バットの少女は囁いた。
「よしレフト、プランKで行こう」
「いいぞライト、必ず殺すのKだな」
 双子の青年が不敵に笑った。
「うん、楽しくなりそうだねぇ」
 拳銃を握ったままの老女が微笑んだ。
「…………」
 湾曲刀の男は無言でディガンマを睨んだ。
「楽しませてもらったお礼はたっぷりとしたいわ」
 肉切り包丁の淑女が上品に微笑んだ。
「最後のダンスを、この国に捧げようじゃないか」
 仕込み杖の紳士が堂々と笑った。
 そんな風に次々と殺意を示す殺人鬼たちに、ディガンマが「ハッ」と笑う。
「そうまでしてこの国を守るか、つくづく立派な精神だ。だが“ソレ”を覚えた時点で壊れたようなもんだ。俺も、お前達も。そっちのお前達はどうせお節介を焼くんだろう?」
 ニィ、と笑っての言葉は猟兵たちへ。
 獣の爪が、かしりと音を立て――殺しと戦いの火蓋が切って落とされる。
 
ハイネ・アーラス
俺も貴方をお待ちしておりましたとも。

マダム、先ほどはありがとうございます
不躾ではございますが——その腕、暗闇でも代わりは無く?

老婦人と共闘を。
あまり衝動を上げぬように立ち回りましょう。
俺の腕を見ていて頂けますか?

焦がれの森にて暗闇を招きます

これが我らが暗き夜
ナイフを使い、近接にて斬り込みます

毒が塗りつけてありますので浅くとも構わない。溺れるように蝕むだけ

あの爪は舵輪で受けたいですが
致命傷だけは避けますとも

——えぇ、俺はもう幸せの鳥になどなれない
幸いなど遠い。そんなこと分かっています

心を揺らしても、ナイフの毒は裏切らない
——陰謀に勝るこそ我らが毒の誉れ
この暗闇にて貴方の命、削らせて頂きます



 ディガンマから溢れる殺気はあまりにも濃かった。一般人であればその重みに呑まれ、瞬きの間に殺されそうな領域の中、しかし同じく殺人鬼であるハイネは涼しげに微笑んで、ええ、と品のある所作をひとつ。
「俺も貴方をお待ちしておりましたとも」
「なら握手でもするか? 左手でも構わないだろう」
 笑ったディガンマの姿が音もなく一気に迫る。示された腕と同様に黒髪が獣の一部めいて翻った瞬間、男の獣爪は服でも肉でもなく、ハイネがいつの間にか抜いていた刃とぶつかって甲高い音を響かせた。
「そいつも嫌いじゃないな」
「それは何より」
 視線と言葉を交え、共に後ろへ跳んで距離を取る二人。殺人鬼としての技量を値踏みするような目にハイネは変わらず微笑を返す。そのすぐ隣では、一瞬の攻防を眺めていた老婆も相変わらずニコニコ笑っていた。
「マダム、先ほどはありがとうございます。不躾ではございますが――その腕、暗闇でも代わりは無く?」
 老婆が笑む。ちらっとお披露目された上着の内側はマガジンがずらり。
 穏やかかつ無言で示された殺る気と頼もしさにハイネもにっこりと笑い返し――商談成立の瞬間、ぽっ、と落ちてきた雨音と共に下りた闇色が赤い双眸に被る。
「雨――いや、」
「ええ。プレゼントです」
 ふつり。
 降り始めたソーダ水の雨の軌跡が世界に黒を重ね、ディガンマの視界を闇に閉ざした。
 ハイネの世界も同様に。だが深海のソーダ水から生まれたその身にとって、創り出した暗闇は自らが生きる夜も同じ。深海を翔るように真っ暗闇の地を蹴っていくその道筋には、一切の迷いが無い。
 駆けるハイネにぴたり寄り添うように連続した銃声が、真っ暗なそこで何かにぶつかって赤や金の火花を散らす。その一瞬に、獰猛に笑むディガンマが浮かび上がった。
「成る程な、全く見えん」
「ああうん、大変だねぇ」
 楽しむ声ふたつの直後、瞬くように闇が全ての姿形をとかす。どれだけ目を凝らそうと見えるのは黒一色。何も見えない――が、ディガンマの笑う気配が膨れ上がった。
「たいしたもん、だッ!!」
 飛び込んだ気配とその源を根こそぎ狩るような獣爪の一撃だった。ガァンッ! と派手な音が響き、受け止めた舵輪がびりびり震える。突き刺さった針はハイネの居場所を獣に掴ませ――同時、暗闇に血の匂いを染み出させた。
 掌を、指を貫いた針が、閉ざしていたものをこじ開ける。
 どれだけ明るい場所を歩こうと、己が泳げるのはそこではないのだと突きつけてくる。
(「――えぇ、俺はもう幸せの鳥になどなれない」)
 毒を知った。闇を知った。血を、命の灯が消える時を見てきた。
 そうして生きてきた己に幸いなど遠い。
(「そんなこと分かっています」)
 己を捕らえる針を強く掴む。燃えるような痛みが心揺らす波と共に広がるが、迷わず突き立てた刃に宿る毒は決して裏切らない。
「――陰謀に勝るこそ我らが毒の誉れ。この暗闇にて貴方の命、削らせて頂きます」
 闇に灯した声が銃声を招く。火花が咲く。
 咲いたそれが一瞬で闇にとけて消えれども――その色を見逃す者は、どこにもいない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリア・モーント
黒くてかわいい狼さん
悪くて鋭い狼さん
あなた、何か勘違いしてらして?

ヒトなんてみんな
どこか歪で狂っていて
壊れているから美しいのよ?
美しいのだわ!

さ、悪くてかわいい狼さん
心の準備はよろしいかしら?
【礼儀作法】は関係ない…楽しいノケモノの【ダンス】を踊りましょう?

シルクハットのおじ様たちが、もう一度飲み込まれないように【狂気耐性】を乗せた【風謳】を

狼さんと【ダンス】するように呼吸を合わせて
攻撃を【見切り】かわすの
鋭いステップを刻むみたいに【踏みつけ】て【傷口をえぐる】わ

schalkhaftに熱い口づけのような炎【属性攻撃】魔法を纏わせて一撃を

わたしとのダンス、楽しんでいただけたかしら?



 銃声。火花。
 暗闇に連続して灯ったそれの直後、ぽたり、と滴る音が一回。
 直後、暗闇に光の筋が走り世界がこじ開けられた。
 裂かれ、晴れていく暗闇の源――ディガンマの近くまで来ていたアリアと仕込み杖のアリスは、僅かに目を瞠りながらも笑顔で飛び退き、揮われた獣爪を躱す。着地の拍子にずれたシルクハットを黒手袋をはめた手が静かに直した。
「暗闇で踊るワルツも楽しいだろうと思ったのだが」
「ふふ、残念だったわねおじ様」
 視線はディガンマに注いだまま、楽しげに言葉交わす二人にディガンマも笑む。
 鋭い眼光にありありと浮かぶ殺意を欠片も隠さない笑みだ。
「黒くてかわいい狼さん。悪くて鋭い狼さん。あなた、何か勘違いしてらして?」
「ふん?」
「ヒトなんてみんな、どこか歪で狂っていて、壊れているから美しいのよ? 美しいのだわ! だから、“ソレ”があるかどうかなんて関係ないの」
 心躍るお伽話を紡ぐようにアリアは語り、暗闇の中で青い瞳をきらきら輝かせる。
 この国への想いで胸を満たす仕込み杖のアリスも、他のアリスも、誰も彼もがどこかに欠けたものを抱えている。それをただ壊れているとしか見えないだなんて、美しいと知らないだなんて――嗚呼、勿体ない!
「さ、悪くてかわいい狼さん。心の準備はよろしいかしら? 礼儀作法は関係ない……楽しいノケモノのダンスを踊りましょう?」
「いいだろう。だが、好きに踊らせてもらうぞ」
 数歩駆けての跳躍は重力を無視するような力強さだった。ディガンマの獣爪が高く伸びている街灯を掴み、ぐるんと回る“ついで”で掴んだそこでばきりと折って、高所から落ちるさなかで膝に叩きつけて二つに“増やす”。
 そして街灯だったものが男の腕にずぶずぶと沈み込んでひとつになった。ごきごきと骨を強化し、右手の爪は鋭利な刃物のように。獣爪はより凶悪に。
 ダンッと着地したディガンマが嗤う。素早く周りの殺人鬼を、アリアを見て――その過程で周囲の“物”を見たと気付いた紳士が仕込み杖をガチッと鳴らした。
「させるな」
 あれ以上、この国の物に手出しさせるな。
 怒りを秘めた声に、仕込み杖からの銃声に数名の殺人鬼が続く。刃物や鈍器を手に獣の男へ向かう殺人鬼はまるで獣の群れだ。しかしその先頭に飛び出したアリアが、ころりと笑って振り返る。
「おじ様たちも、わたしのお歌、聞いてくださる?」
 風のように駆ける黒い姿も捉えて響かす歌の魔法は、アリスたちには衝動を晴らす鮮やかな風となり、ディガンマには全身切り裂く無慈悲な疾風となって響き渡った。ばづッと勢いよく裂かれた肌から鮮血が飛び散って、ディガンマの頬がぴくりと反応する。
「悪くないが、ちょっとばかりダンスの邪魔だな」
 ぐんと増した速度。突き出された獣腕。抉りに来た獣爪。
 狩る。殺す。それに特化した動きにアリアはダンスで応えた。ぴたりと呼吸合わせ、身を翻し、たた、たんッとステップを踏んで真っ赤なツインテールを躍らせて――曲線描く刃に乗せた炎で、獲物に旋律を刻みつける。
「黒くてかわいい狼さん。悪くて鋭い狼さん」

 わたしとのダンス、楽しんでいただけたかしら?

大成功 🔵​🔵​🔵​

阿夜訶志・サイカ
いいじゃねえか、頑張れよ。
でもま、こんなにわんさと集まって狩ってもつまらねーだろ。
狙うならトドメじゃね?

適度に手を抜く。
サボる・逃げるが得意な俺様からの有り難い助言だ。
アドバイス料はこいつでいいからよ(と指で金サインを作り)

なーんて殺人鬼の注意を引き、そいつと合わせて攻撃。
ディガンマの意識から逸れるよう、ふらふらと。

一発当てる事が大事なんでな。
鴉と猫の式神も賑やかしに放ち、本命は刃物での一刀。
当たればどれでもいい。

後は俺様がどうなろうが、棘は役割を果たす。
ハニーの攻撃も当たりやすくなるんじゃね?

ったく、ダーリンみたいに熱心に働いてる奴には頭が下がるぜ。
ちっとも羨ましくねぇ。とっとと過労死しろ。



 黒と赤、ふたつの風が激しく舞うような殺り取りに、どう入ろうか。
 殺る気はあるが図るのが少し面倒臭くなってきた。そう語る横顔にサイカはニヤリと笑って、女の肩を軽快に叩いた。
「いいじゃねえか、頑張れよ」
「他人事みたいに言うわね」
「主役は俺様じゃねーからな。でもま、こんなにわんさと集まって狩ってもつまらねーだろ。狙うならトドメじゃね? ほら来たぜ、行った行った」
 適度に手ぇ抜けよ。背中をとんっと押して贈った言葉に全く有難がっていない表情が返るが、サイカは手をひらひら振ってから指でサインを作る。
「アドバイス料はこいつでいいからよ」
 本日二度目のサインが現すのは金。マネー。Money。硬貨。
 ニィッと浮かべた不敵な笑みに、女が目を丸くしてすぐ吹き出した。
「たいして持ってないわ」
「全財産寄越せなんて、そこまで言わねェよ」
 こーいうので大切なのは心遣いってヤツでだな、なんて軽口を言いながら、サイカは向かってくるディガンマの姿をちゃっかり捉えている。ディガンマもサイカを捉え――その一瞬に、女が明るい表情をごっそり削ぎ落としたような顔で刃を突き立てた。
 目の前の相手を殺す。それだけを残した顔のまま、ぐりっと押し込んだ刃と肉の間から血が溢れる。ディガンマの鋭い笑みが女に向く。獣爪がごきりと音を立てて開かれて――アア! アア! 互いの殺意と殺気だけだったそこに鴉がやかましく飛び込んだ。
「っ、」
 嘴と鋭い爪が揮われるその隙に女は手をぐんっと動かし、パキッという音と刃をディガンマの腕に残して飛び退く。すると今度は毛を逆立てた猫が。式神が。
「ハッ、随分と手厚い持て成しだな」
「折角だからVIP扱いしてるのよ」
 全身の筋肉をフルに使って。懐に飛び込んで。一瞬で低く屈んで。転がって飛び退いて。女がディガンマの攻撃を躱した後に叩きつけられた獣腕、そこから現れた針の後が地面に穴の集合体を残していく。
 その合間に、す、と挿し込むように。翻った黒い長髪の下へ。ディガンマの背面、腰の少し上へ。サイカの揮う刃がさくりと沈んだ。
 見開かれた目は獲物を捉えた獣のそれ。捉えられたらただでは済むまい。だが、サイカはどこまでも不敵に笑ってやった。
「たかが一発、されど一発。当たりは当たりだよなァ」
 刃を抜いた瞬間、獣の爪がこちらに向く。それでも笑みは薄れない。
「俺様からの贈り物だ。有り難く受け取れよ、ダーリン」
 獣爪がサイカの腕を掴む。その、寸前。
 翼が形成されていくように、刺し傷から災禍の棘が溢れディガンマに食らいついた。獣爪が棘を掴めばどうっと溢れた次が波のように、蛇のように、鳥や虫の大群のようにうねって襲いかかる。
 するとディガンマが吼えた。死を呼ぶモノであろうと狩り尽くし殺し尽くすような勢いに、女が叫びながらぎちちと出した刃を突き刺し、斬り裂きながら引き抜いて。と思ったら、腕を掴まれて後ろへ一緒に跳ぶ事になる。
「あんた大丈夫!?」
「おう。礼にアドバイス料まけてやるよ」
 これくらい。ちまっと作った金サインに、助けなくても大丈夫そうじゃないのと呆れるような、笑うような声。サイカはにやにや笑い、溢れる棘を狩る猟書家を見た。
「ったく、ダーリンみたいに熱心に働いてる奴には頭が下がるぜ。だがちっとも羨ましくねぇ。とっとと過労死しろ」
 でなけりゃこの国を観光――もとい、取材もできやしねェ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カイム・クローバー
会いたかったぜ、殺人鬼。『例外』なんだって?…此処が酒場なら。酒でも酌み交わしながら、どう例外なのか、じっくり教えて貰いたいトコだが…生憎、今は持ち合わせがこれしかなくてね。(魔剣を顕現し、突き付ける)

婆さんには少し下がって貰うぜ。その銃なら距離は関係ねぇだろ。注意は俺が引く。――好機は俺が必ず作ってやるよ。
単純な一撃を【第六感】と【見切り】を利用して躱す。合間に魔剣での【二回攻撃】の迎撃を加えながら、【挑発】。
イカす腕だ。親のどちらかは動物か何かかい?
振るわれる獣腕に合わせてUCを活用し、魔剣で受け止めるぜ。多少は驚いてくれると良いが。アンタの腕の直撃で初めて殺せなかった『例外』の存在によ?



 刺し傷から乱舞する棘を元から断てばいいと判断したのだろう。獣爪が傷口に突き立てられ、肉を抉る。唸り声と呻きが混じり合ったような声の後、荒れた石畳に肉片がびしゃりと叩きつけられた。
「よう、随分と楽しそうじゃねぇか。会いたかったぜ、殺人鬼」
「……約束した覚えがないな。まぁいい、口直しが欲しいと思ったところだ」
 棘に食われ、自らを傷つけてそこから脱したばかりのディガンマが笑う。
 ゆらりとこちらを向いて笑う姿に隙はなく、殺気も未だ漲っている。
 『例外』だというそこには、確かな裏付けがあるらしい。カイムは納得しながら、ゆるりと歩く男と一定の距離を保ちながら笑む。
「此処が酒場なら、酒でも酌み交わしながら“どう例外なのか”じっくり教えて貰いたいトコだが……生憎、」
 拳を握っていた手を開く。触れるのは空気だけでそれ以外には何も、と見えていたのは開いた時のみ。カイムは一瞬で顕れた剣――魔剣を握り、突きつけた。
「今は持ち合わせがこれしかなくてね」
「いいや、十分だ」
 ディガンマが腰を落とし、構える。それと合わせるようにカイムも構え――拳銃を握ったままニコニコしている老婆を少しだけ下がらせた。
「その銃なら距離は関係ねぇだろ。注意は俺が引く。――好機は必ず作ってやるよ」
「あぁ、楽しみにしてるねぇ」
 鋭さ増した笑みは下がらせた老婆からは見えず、背後の老婆がどのような顔をしているかカイムには見えない。だが、それぞれの声に浮かんでいたものが、相手の表情を何よりも明瞭に伝えてくれる。
 何でも屋と殺人鬼。二人の笑みに猟書家の笑みが交わること数秒。ざ、と靴底で石畳を擦った音が重なって――双方の間で黒薔薇の花びらがひらっと躍った瞬間、灰と黒は飛び出した。
 獣腕が立てる音は、巨岩が空気を押し潰して落ちてくる時のよう。単純だからこそ、そこにパワーが集中した重い一撃は、カイムではなく石畳を木っ端微塵にした。顔のすぐ傍を破片が吹っ飛んでいき、ちりっと頬に裂傷が刻まれる。
 は、と笑ったのは、どちらも。
 躱された者と躱した者。笑みと視線の交差は一瞬で、すぐに暴力的な勢いで炸裂した二撃目を、今度は魔剣の刃が受け止めた。轟音と衝撃が全方位に走って空気をびりびり震わせる。
「イカす腕だ。親のどちらかは動物か何かかい?」
「さぁな。ソレは殺し合う事より大事なものか?」
 ぶつかり合う挑発に双方の繰り出した一撃が続く。そのたびに空気が震え、飛び散った破片がカタカタ跳ねる。だが――いつまでも同じ事の繰り返しではつまらない。それに、約束を交わした。
 聴覚と激しい音が、視覚を烈しい色と光がつんざいた。
 足元から一気に迸った紫雷が爆ぜて弾けてと派手に躍りながらカイムを覆っていく。それはまともに受ければ肉も骨も砕かれ潰される一撃からカイムを守り――ほぉう、と、ディガンマから静かな驚きをこぼさせた。
「驚いてくれて嬉しいぜ、殺人鬼。アンタの『例外』になれて光栄だ」
 魔剣を構えたまま動けぬ姿。しかし言葉と笑みはそれを思わせないくらい堂々として――何より、不敵。そこにディガンマが何かを感じ取った瞬間、銃声が轟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

春乃・結希
引き続きアイスピックの人と
うわ、何かめっちゃ強そうな人ですよ
あの人も殺せそうですか?

黒薔薇には、『永遠』て意味もあるとか
この国が未来にずっと続くようにって想いが込められてるのかな
私は旅人だから、守りたい場所なんてないから、少し羨ましいな
帰る所があるなら、きっと帰ったほうがいいんです
あなたを待ってる人も居るやろうから

振われる爪には、こちらも全力で振り回す『with』で対抗【怪力】【重量攻撃】
もしそれで隙が出来れば、アイスピックさんがきっと良いところを突いてくれる

お節介とかやないです
この国がなくなったら、『with』と私が旅する場所が減ってしまうから
私が殺したいから殺す
…あなたたちと、一緒です



 銃声が響いた瞬間、ディガンマの体が横へ弾かれるように揺らいだ。しかしそのまま吹っ飛んで倒れそうだった体は、衝撃で浮き上がった片足がざりッと地を踏む事でしっかりと留まる。
 ふー、と吐かれた息。ゆらりと上がっていく顔。赤い目をぎらぎらとさせたディガンマの手が襟元のスカーフを乱暴に引き抜き、肩の骨と鎖骨が繋がる部分、その僅か下にスカーフを巻きつけ、咥え、引っ張って強く締める。
 その間にボルドー色のスカーフはじわじわと色を濃くしていくが、撃たれた当人はごきりと手を鳴らして結希たちの方を見てきた。
「撃たれたのに何か元気ですし、めっちゃ強そうな人ですよ。あの人も殺せそうですか?」
「……俺の好きな言葉。“血が出るなら殺れる”」
 低く淡々と紡いだ声に、くるり回したアイスピックを握り直す手。
 結希はアイスピックを得物とする殺人鬼の言葉にこくりと頷いて納得を示した。誰よりも殺すという行為に心血を注ぐ存在がそういうのであれば、きっと、殺れるのだ。
「神話に登場する神様だって、何だかんだで死んだりするだろう?」
「俺はそんな崇高なもんじゃないがな」
「わかってますよ」
 敵とのやり取りはラフに。交える視線は張り詰めた空気と同じく、ぴんと、緩みなく。
 ディガンマが地を蹴った直後、結希とアイスピックの男も地を蹴った。始めは並んで、次第に距離を取って、ディガンマという点を目指して全速力で駆けていく。
 その一瞬に見えた、男が身に着けているバンクル。
 黒薔薇の意匠に思い出した言葉は――『永遠』。
(「この国が未来にずっと続くようにって想いが込められてるのかな」)
 旅人である自分には守りたい場所なんて無い。守りたいのはwithと、自分の命と――自分たちが行く旅路。だから、黒薔薇を身に着けて迷う事なく猟書家を殺しにかかる彼らが、少し羨ましい。
 目の前にいる相手が何であろうと、この国を侵す敵である以上問答無用で殺す。その為だけに襲いかかり、弾かれても即座に体勢を立て直し、鋭く長い得物を急所に突き立てようとする。
 愚直なまでに殺しに行くそこへwithと共に飛び込んでいた結希は、蹴り飛ばされた男の腕を掴んで思い切り引き上げる。勢いに乗せて吐いた言葉が、「帰る所があるなら、」が少しだけ上擦った。
「きっと帰ったほうがいいんです。あなたを待ってる人も居るやろうから」
 あなたにそれをくれた人とか。ディガンマを見据えたまま手首を指すと、ああ、と控えめに頷く気配がした。その気配を濃厚な殺気がずるりと撫でた瞬間、結希は思い切り地を蹴ってディガンマに突っ込んだ。
「ハッ、最近のお節介にはカウンセリングじみたものも混じってるのか」
「お節介とかやないです。この国がなくなったら、『with』と私が旅する場所が減ってしまうから。だから、」
 私が殺したいから殺す。
「……あなたたちと、一緒です」
 凪いだような声と全身全霊込めた一撃を振り下ろす。受け止めた獣爪も体ごと叩き潰そうとする一撃は、ディガンマの足元を砕き、体を沈め――その後ろから襲うチャンスを生み出した。
 赤く濡れたアイスピックが狙うのは鼓動を生む人体の急所。心臓。
 それがグリップまで突き刺さった時。引き抜かれた時。ディガンマが確かな呻きを漏らし、顔を歪ませたのを見た男が、ほら、と呟く。
「やっぱり。殺れそうだ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

エンティ・シェア
殺し甲斐、確かにありそうですね
…けど、気に入らない
殺しても死なないとでも言いたげな顔をしている
まぁ、僕のすることは変わりません
殺人鬼同士のじゃれ合いに、適度に水を差しながら立ち回るだけです

暴れまわる獣には枷が必要でしょう
速度を増した相手に通用するかはさておき、ですが
咎力封じで抑えきれるとも思いませんが、せいぜい邪魔をしてやります
血肉が欲しいならくれてやりますよ
躾のなっていない犬のように噛み付いてご覧なさいな
…なんて。煽って乗ってくれれば楽ですけど
攻撃してくる隙を突くくらいの気持ちで挑みましょう

理性をふっとばしてしまいそうな方がいたなら、一応止めましょうか
折角咲かせた黒薔薇を、枯らすつもりですか



「ああ惜しいっ! あいつ、直前で体捻りやがった! もうちょっとで心臓ぶっ刺せたのにねえ……!」
「ええ。あれは、確かに殺し甲斐がありそうです」
 まるで野球観戦するような口振りで。目は殺人鬼らしく、状況をしっかりと。そんな女が「ほら行くよ!」とマチェーテ片手に走り出せば、メインディッシュの時間にエンティは頷いて追走し、すぐ女の隣に並んだ。
(「……けど、気に入らない」)
 斬られ、撃たれ、刺されてと殺しの一撃を浴びているというのに、あの猟書家は殺しても死なないとでも言いたげな顔をして動き回っている。
 腕を切り落とすつもりで揮われたマチェーテを伏せて躱した時の笑みも。横っ飛びした先で石畳を砕いた瞬間も。それを髪と融合させていく間も。
「あははっ! 活きのいいヤツだねぇ、まったく!」
 女が目をかっ開いて揮うマチェーテは、縦横無尽に翔る暴風めいて。
「それでいい。来い」
 対する男は、ぎらりと輝き宿した赤を細めて笑う。
 動きに合わせ跳ねて翻るそれは固い鱗に覆われた竜尾のよう。しかし目に宿る輝きは殺しという欲求と本能に従う獣そのものだ。
(「――でしたらこれでしょう」)
 エンティの展開したユーベルコードが一瞬で形を得た。相手がめちゃくちゃな速度で動きまわる獣ならば躾けるにはぴったりのそれは、手枷に猿轡に拘束ロープ。エンティはまず拘束ロープを掴んでぴんっと引っ張って、長く余らせた部分を鞭のようにしならせた。

 ッパァン!!

 響いた音は夜の静けさを破る銃声のように。
 衝撃で石畳にひびが入り、ディガンマは――寸前で飛び退いている。だがエンティは止まらない。女と共に獣を追い、拘束ロープを放った直後、タイミングを僅かにずらして手枷を放つ。
 当たればついでにと肌を裂いただろうロープをディガンマが躱した次の瞬間、手枷は人の形を保っている右手首に触れ、ぐるんッと回ってガチッ! しっかりとはめられた手枷に拘束ロープがひゅひゅんと音を立ててきつく巻きつけば、エンティとディガンマを繋ぐものが出来上がる。
 一瞬の出来事に赤が見開かれ――愉快そうに笑った。
「捕まえたつもりか?」
 巨人と子供の綱引きのようにロープが引っ張られ、大きくたわむ。浮き上がる形で引き寄せられたエンティはディガンマとの距離を一瞬で詰められるが、勢いで躍った赤毛の傍、緑の目はとことん落ち着いていた。
「血肉が欲しいならくれてやりますよ」
 躾のなっていない犬のように噛み付いてご覧なさいな。
 冷ややかな言葉と微笑に男が笑う。鮮やかな緑を映した赤い目が殺意で満ちる。街灯を食らって出来た鋭い爪が口を開く。肉を容易く、そして複雑に裂くだろうそれに――マチェーテの刃が突っ込んだ。
「あんたに食わすもんは無いよッ!! とっととくたばりなァ!!」
 ガキリとはめるようにして思い切り振り上げ、一瞬で抜いて横に一閃。
 掌から弾け飛ぶように散った赤色にディガンマが声を上げて笑った。
「だったら俺を殺してみせろ!」
 お望み通り、と鼻息荒く飛び出しそうになった肩をエンティはすかさず掴んだ。引き戻し、その場に押し付けるように力を入れる。声は――荒らげない。
「折角咲かせた黒薔薇を、枯らすつもりですか」
 目は討つべき標的へ。女の顔は見えないが。
「そんな勿体ないこと、したかないね」
 返った声に怒気はあれど、暴発しそうだった衝動の波は鎮まっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エンジ・カラカ
アァ……強いヤツダ…。
賢い君、賢い君、強いヤツ
どうする?どーしよ?うんうん。そうしよう!

なァ……。
迷宮に閉じ込められるのと、賢い君に食べられるの。ドッチがイイ?
そうかそうか、うんうん
答えは賢い君に食べられる方ー
オーケー

薬指の傷を噛み切って君に食事を与える
毒がまわり始める前によーいドン!

おーい、双子。コレは支援に徹する
バーンってやっちゃえ。出来るカ?出来るよなァ……。
エェ……賢い君、賢い君、ソレはダメ?
じゃァ、一番アイツの攻撃を食らったヤツが負けー。オーケー?

敵サンの腕に賢い君の糸をぐるぐる
ワーオ、強い攻撃。コワイネー
コレの足はオオカミの足
オオカミは耳も良くて素早いンだ

まだまだあーそーぼー



 同じ姿形をした『アリス』たちの次は、一目見て“強いヤツだ”と認識させてくるような男。そしてその通りの男なのだという事は、他の猟兵や殺人鬼たちとの戦いを見てすぐに解った。
「賢い君、賢い君、強いヤツ」
 物陰に屈んで長駆を隠して、見付からないようにしながら賢い君との内緒話。
「どうする? どーしよ?」
 わからなくても大丈夫。だって賢い君は誰よりも賢い。ひらりと揺れる綺麗な赤が示したものに、エンジはにまーっと笑って「うんうん。そうしよう!」と、すっくと立ち上がった。
 とぉんと跳ねるように駆けた先は、きゃっほーと歓声上げて向かってくる双子の青年と殺し合うべく駆けるディガンマのもと。双子がエンジに気付き、ディガンマの目だけがエンジを一瞬見た時、月色の双眸がゆっくり細められ――たんっ! と跳躍した。
 高く跳んだ姿はディガンマの頭上。頭を下に、足を上に。にやりと細められた目はまさしく満月のようで――なァ、と口も笑みを浮かべる。
「迷宮に閉じ込められるのと、賢い君に食べられるの。ドッチがイイ?」
「迷宮に俺の相手がいなければさぞ退屈だろうな」
 跳んで頭の真上を過ぎゆく一瞬で放られた石畳の欠片を、複雑な網目描いた賢い君が受け止める。びぃんっと揺れる赤色の向こうで笑う月色に底は無く。
「そうかそうか、うんうん。答えは賢い君に食べられる方ー。オーケー」
 笑った口で薬指の傷を噛み切った。ぷつっと溢れた血で賢い君がより鮮やかになる。
 変化した賢い君も綺麗だけれど毒を持っているから――ソレがまわり始める前によーいドン! エンジは着地して即ディガンマから距離を取り、男の間合いの外に出る。
「おーい、双子。コレは支援に徹する。バーンってやっちゃえ。出来るカ? 出来るよなァ……」
「当たり前だろ! なあライト?」
「ああレフト! バーンでもドーンでもやってやる!」
 ヨシヨシ――と思ったら賢い君的にソレはダメらしい。バッテンを書く赤色にエンジと双子はしょんぼり肩を落とした。が。
「じゃァ、一番アイツの攻撃を食らったヤツが負けー。オーケー?」
「「オーケー!!」」
「そうか、そういう事なら――」
 ぶわ、と膨れ上がった殺気と疾駆する獣に双子が目を輝かす。走る速度を一気に上げ、手にした大鉈をぐるんと回す。笑って、駆けて、いざ真っ二つ! と構えた瞬間、ディガンマが力強いブレーキをかけ、跳んだ。
 笑い声を響かせた姿が隕石のような圧と速度で双子目がけ落ちていく。振り上げられた獣腕は、双子も、双子がいる場所もその周囲も等しく瓦礫にするだろう。だがその勢いに鮮やかな赤い糸がぐるるるるっと巻き付き引っ張った。
「ッ――の、邪魔だァッ!!」
 鋭い笑みと咆哮。引く力を己の方へ、標的へと無理矢理戻すパワーが石畳に叩きつけられる。そう、石畳に。
「ワーオ、強い攻撃。コワイネー」
「あ、っぶねえ! そらどうだっ!」
「もひとつオマケェ!」
 無茶苦茶な勢いで飛び散る破片の中を、エンジがオオカミの早い足と凄い耳でにやにや駆けて逃げる間。アリスとしての、そして区別を付けるための名前の通りとするように、双子がディガンマの左肩と右肩にお揃いの斬り傷をざっくりと刻みつけた。
「っ、……!」
 ディガンマの表情が痛みで歪み、はは、と笑う。その先でくるりとターンして向き直ったエンジもまた、にんまりと笑って賢い君を翻して。
「まだまだあーそーぼー」

大成功 🔵​🔵​🔵​

水鏡・怜悧
詠唱:改変、省略可
人格:アノン
UDCで狼耳と尻尾を象る
コイツなら楽しく殺し合えるかと思ったんだけどなー。何か難しいこと考えてんだな
殺人鬼のやつらは……とりあえず1対1じゃ勝てねェってのくらいはわかるだろ
「隠れるのが得意なヤツ、適当に不意打ちしろ。ちゃんと殺気も消して隠れてろよ」
殺気消してる間は冷静でいられるだろ、多分。オレは消せねェし。隠れたのを確認して、UC発動。腕と足をUDCで覆って狼の爪を象る。属性は前足が雷、後ろ足が風。
風に乗って回避しながら雷を飛ばして攻撃。廃品が金属製なら雷を通してマヒ攻撃。金属じゃねェなら風で吹き散らしてやる。不意打ちで怯んだら接近して前爪の連撃で切り裂いてやるぜ



 チッ、と落ちた舌打ちは戦いの音でかき消された。
 この男なら楽しく殺し合えると期待したアノンだったが、どうやら向こうは、殺し合いを楽しみながらも難しい事を考えているらしい。
 そこに自分が楽しむ余地はあるだろうか。
 そんな事を考えるアノンの頭には狼の耳が、腰の後ろからは狼の尻尾がふさり。
 UDC製のそれをピンと揺らして周りを見れば、得物を手にじっと戦いを見ている殺人鬼が複数。どの殺人鬼も、一対一ではあの男――ディガンマと戦う事は出来ても勝てはしない、と理解している顔をしていた。
 アノンはニヤリと笑って静かに前に出る。おい、と声をかけ制止しようとした殺人鬼に、平気だと言う代わりに手を振ってそのまま足を進めた。
「隠れるのが得意なヤツ、適当に不意打ちしろ。ちゃんと殺気も消して隠れてろよ」
 言われた通りにしているなら、それが出来るなら、その間は冷静でいられるだろう。
 彼らは殺人鬼だ。殺しという行為に技術と精神を費やす存在だからこそ、それは可能――な筈だと、取り敢えず“出来る”と信じる事にした。
(「オレは消せねェし」)
 ちらりと確認すれば先程までいた何人かがいなくなっている。
(「何だ、できるじゃねェか」)
 既に伝えたい事は伝えた。『アリス』たちを葬った手腕があるなら、不意打ちすべきタイミングを示さずとも、自分でわかる筈。下準備を終えたら後はやりたい事をやるだけだ。
「さァてと」
 大鉈揮う双子と猟兵一人と殺り合っていたディガンマが、大鉈を次々に弾き飛ばした。真っ白な光を反射してとんでもない方角へ吹っ飛んでいったそれを、双子が「あー!」と追って行く。
 双子を追おうとしたディガンマの足がぴたりと止まった。ぱさぱさと揺れる髪の間、赤い目に映るアノン――その姿が獣に近づく様に目を細めた。何かが少年の腕と足を覆い、狼の爪が象っていく。
「次はお前か?」
「ああ。ちゃんと俺の相手もしてもらうぜ、殺人鬼」
 楽しく殺し合おうじゃねェか。
 呟いた時にはアノンそのものがUDCによって狼となっていた。石畳を蹴った後ろ足が風を生み、疾風となって翔るその軌跡に前足から溢れる雷が彩っていく。
「いいだろう」
 嵐のように翔る狼にディガンマの目が愉しげに輝いた。地面を一蹴り。それだけで一気に距離を詰め、融合して創り上げた爪と尾のように翻る、鎧う髪を揮ってくる。
 至近で揮われるそれの音は台風や嵐の時の風とよく似ていた。だがアノンはその音を吹き消すほどの風を迸らせる。肉を抉り斬り裂こうとする爪を押し返し、鎧う髪には集中的に風を叩きつけ、ばたばたと激しく揺れる髪に声を上げて笑う。
「重そうなもん付けてるじゃねェか、取ってもらったらどうだ」
 目の前の男以外にわかりやすく向けたわけではなかった。だがその言葉は、“丁度”かつ“上手い事に”状況にハマっていた。戦いの余波で窓硝子にヒビが入った建物――その屋上から降ってきた影が。殺人鬼が。ディガンマの体に刃を、拳を見舞っていく。
「いいぞ、上出来だ」
 ほんの一瞬生じた隙に狼が笑う。
 前爪の連撃が閃いて、石畳にぼたぼたと真っ赤な滴を落としていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

渦雷・ユキテル
引き続きフォーリーさん(f02471)と
双子ちゃんの興味は惹けたようなので
得物は拳銃に持ち替えます

敵さんとの距離を稼ぐよう意識して射撃
近寄ろうとすればその隙に双子ちゃんが一撃いれてくれますかね
タイミングに射線、さっきより考えること増えましたけど
被害を抑える立ち回りを第一に【見切り】【瞬間思考力】
接近されたら目くらましも兼ねUCで高威力の雷をお見舞い

双子ちゃんがヒートアップしそうなときは……
基本フォーリーさんにお任せしますけど、
咄嗟のときは少し荒っぽくたって、ねえ?
指先から投げる、ごく微弱な電流【マヒ攻撃】
一瞬だけ二人の動きを抑えさせてください めっ!ですよ


フォーリー・セビキウス
ユキテル(f16385)と

焼きたくは無いんだがな。焼けば焼くほど自傷する、それに見返りもないと来ればな。
だが、壊れてるなら壊れてるなりに使ってやるしか無いのさ。
私が方向性を与えてやろう。奴を殺せ。

戦闘が始まり次第後ろに下がり、狙撃を中心とした援護に回りつつ指示を出す
相手の攻撃を邪魔したり、或いは隙を作るために、また囲んで行動範囲を狭める様に撃つなど戦況によって変えながら狙撃を行う
戦闘方法は任せるが、攻撃の先読みをして避けたり攻撃する様指示を出す
双子がヒートアップしたら意識を上手く敵に向けて逸らしてやるか、ユキテルに任せる

此奴らを全員殺せるとでも?大層な自殺志願者だ。
獣には獣をぶつけるのさ。



 戦場には相変わらずディガンマの放つ殺気が漂っている。その気配は薄れる様子がなく、ふとした拍子に殺人鬼の誰かを深淵まで引きずりこみそうなほど。しかし、今のところ堕ちていく者はいない。――今のところは。
 これを焼いて処分出来れば楽だろう。しかしそうしたところで何も生まれはしない。こういうものは焼けば焼くほど自傷するものだと、フォーリーはよくよく理解していた。
(「それに見返りもないと来ればな」)
 だが、壊れているなら壊れているなりのやり方がある。
「奴を殺せ」
 たんっと後ろへ跳びながら弓を引き絞っての言葉に、ダガーを手にした双子が踊るように駆け出した。ダガーをしっかりと握り締めた二人の笑い声が愛らしく弾んで、カチューシャの黒薔薇もほのかに揺れる。
「最後のお楽しみだわ、存分に味わいましょうね!」
「これで最後ですもの、欠片も残さないわ!」
「あは、楽しそうですね。でもあんまり熱くなっちゃダメですよー?」
 双子の興味を惹き終えたカランビットから拳銃へ。得物を持ち替えたユキテルの言葉に、はぁい! と甘い声が揃って返る。
「うんうん、いいお返事です」
 頷きながらも、殺人鬼三人の殺り取りは激しくユキテルの視界と思考は目まぐるしい変化を続けるばかり。タイミング。射線。さっきよりも考える事は増えていた。
(「ま、できなくはないですけど」)
 なにせ“見ている”のは自分だけではない。
 ひゅ、と風を裂く音がした直後翔けた矢――フォーリーの放った一矢が双子の片割れを、すべすべとした肌を街灯製の爪で斬り裂こうとした右手を貫いた。ぶづっ! と矢が手の甲に穴を生んで翔け抜けたと同時に、ディガンマが呻いて飛び退く。
「まあ今の何? 面白そう!」
「気になるわね? 右手をよく見せて!」
 乱れた動きに双子が目を輝かせ、閃いたダガーが男の懐にX字の傷を刻む。そのままキャッキャと笑って後ろに回った瞬間をユキテルが捉えた。
 思考より先に瞬間的に走った感覚。それに従って引き金を引けば銃声が響き、深々と走る肩の傷と繋ぐような銃創がズドンッと生まれる。
 どれだけ殺人技巧に長けた強敵であろうと、殺しに使える部位が減ればアリスたちを始めとする被害は抑えられる。その狙いを現実とするように、先程よりもぶらぶらと揺れ始めた右腕にディガンマが舌打ちをした。
「楽しめるのはいいが、数が多いのも考えものだな」
 接近戦を仕掛けてくる双子少女と、遠距離から的確に射て、撃ってくる猟兵二人。
 傷を負っても尚笑う猟書家が狙い定めたのは――後者だった。両手でグリップを握って刺突を狙った双子それぞれを蹴り飛ばしたと同時に、石畳を蹴り砕く勢いで駆ける。
 鼓動数回の間に男が捉えたのは華やかで甘い容姿を持った拳銃使い。
 獣の手が、服の下、白い皮膚を抉って真っ赤な肉を溢れさそうと大口を開けるように開かれて、
「あは、」
 けれど獲物と捉えた筈の拳銃使いは雷使いでもあった。髪よりも鮮やかで何よりも強烈な光と音が至近で炸裂する。視界のみならず肉体も灼かれ裂かれた男から、悲鳴と咆哮が入り混じった声が響く。
 それでも、ディガンマはすぐさま距離を取り体勢を立て直そうとする技量を見せた。
 相手がユキテルだけならばそれはより良い方向へディガンマを導いただろう。
 しかし雷撃で全体的に白くぼやけた視界のまま、追尾するフォーリーの矢から逃れ続け、そこへ兎か子鹿のように飛び込んでくる双子の刃の相手もしなくてはならない。
 特に後者はそれはもう楽しそうに笑いながらやって来るものだから、双子と比べて静かな猟兵二人以上の存在感を無邪気に叩きつけてくる。
「大変そうね、楽にしてあげましょうよ」
「いい考えね、楽にしてあげなくちゃ」
「折角の心遣いに悪いが――そいつは望んじゃいない」
 視界がハッキリしないのであれば気配を捉えて殺す。そんな動きに、少女にしてはあまりにも洗練された殺しの動きが引きずられるようにして加速した。
 目に宿る煌めきが危うさを孕む。
 唇から囀るような笑い声が生まれていく。
 言葉ではない筈のそこに、目の前の獲物を自分たちの手で殺し尽くしたいという欲求が爛々と輝いて――、

 バチッ!!

「きゃっ!?」
「ひゃっ?!」
 ぴん、と指先弾いて投げた小さな電流で双子の体がびゃっ! と飛び上がる。
 ちょっぴり荒っぽいのは仕方ない。だって咄嗟のことでしたし? とユキテルはフォーリーにウインクひとつ。
 今のでごうごうと流れる衝動は上手く途切れたらしい。目をまん丸にした双子が振り返る。その目に映るのは、
「めっ! ですよ」
 ニッコリ笑顔のユキテルと、
「楽しむのも結構だが、すべき事を忘れるな」
 冷静なまま見つめてくるフォーリーで。
「「はぁい、ごめんなさい」」
 踊るようにくるりと回ってダガーを握り直す様にフォーリーは溜息をつき――身を低くして身構えるディガンマを見据えた。
「此奴らを全員殺せるとでも? 大層な自殺志願者だ」
 獣には獣をぶつけるもの。
 お優しいカウンセラーやアドバイザーなんてサービスは、猟書家相手に存在しない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
(大事なモノがあって、守りたいモノがあって――心を賭して、なんて聞かされたら――)
そりゃ、とことんお節介焼くしかないだろ?

大丈夫
壊れちゃいない
この国も、俺達も、まだ

ともすれば破滅へ至る暗い力も、衝動も――御して、転じさせて、壊すのではなく守る為にこそ、使いこなしてみせてやろう
ちゃんと最後まで、人の心で以て

再び恐れる事無くUCを――幽鬼や呪詛を身に、刃に、血に巡らせて、早業で牽制へ
穿ち穿たれる度、敵の速度を鈍らせるよう呪と毒を

そばかすの共闘者の覚悟と一手が真芯へ届くよう、隙を作る為に援護を



 大事なモノがある。
 守りたいモノがある。
 故に、心を賭して――なんて聞かされたら――、
「そりゃ、とことんお節介焼くしかないだろ?」
「……アンタがそれでいいなら、いいけどさ」
 伊織が抜刀しながらからりと笑って告げたそれに、ぽそりと反応した少年がそれを誤魔化すようにチェーンソーを起動させた。ドドドドと低く轟く音はよく目立ち、未だ視界が白んでいるのか、顔を顰めていたディガンマの目がこちらに向く。
 あちら側がどれだけ見えているのか判らないが、お互い見つめ合った時間は僅か。チェーンソーが幾度鳴いたか数えるのも困難な数秒を経て、それぞれがほぼ同時に地を蹴った。
 砕いた石畳。新たに破壊した街灯。周りのものを食らって獣性を更に露わにしていくディガンマの姿に、国を形作っていたものが迎えた果てを見た少年から表情が消えた。だが。
「大丈夫」
 隣を駆ける伊織の声は、チェーンソーの音がする中でも不思議とよく届いていた。
「壊れちゃいない。この国も、俺達も、まだ」
 この国が、自分たちが無事であれば、戻ってきた住人たちが新たな黒薔薇を咲かせるだろう。黒薔薇の指輪のように石畳も街灯も直されて、そしてこの国は――黒薔薇は、咲き続ける。
 生きていれば傷を負う事はあるだろう。けれどそれを癒やして次の日を――未来迎える道を歩もうとするのが、自分たちだ。
「俺達は、奴とは違う」
 怒りを切欠にして衝動に呑まれるな。壊れるな。
 ひとのままで――逃した住民たちに、国を守ったと報告してみせろ。
「……そうだね。俺らは、壊れてない」
 あいつはそうでもなさそーだけど。呟いた少年が思い切り石畳を踏みしめ、伊織が強く地を蹴って少年と離れた瞬間、どうッと速度増したディガンマが弾丸の如き勢いで少年に突っ込んだ。
 獣爪とチェーンソーの刃が凄まじい速度でぶつかり合う。二人の間で鋼の音と火花が何度も何度も飛び跳ね、その衝撃がひびとなって石畳に広がっていく。
 ディガンマの猛攻と吼えるような声に、少年も腹から声を響かせ、チェーンソーで肉も骨も断ち斬ろうと仕掛け続けていて。その目には、ひととしての輝きが宿っていた。
(「嗚呼、そうだ」)
 伊織は再び自らに宿る力へ手を伸ばす。
 “これ”はともすれば破滅へ至る暗い力であり、衝動だ。だがそれを御して、転じさせて――壊すのではなく守る為にこそ、使いこなしてみせてやろう。
 浮かべた笑みに誇りが宿る。胸に、あの人が浮かぶ。
(「ちゃんと最後まで、人の心で以て――」)
 滲んで溢れた暗い力が幽鬼や呪詛となる。それらを自身に、刃に、血に巡らせた瞬間、爆発的な力が宿ったのを感じた。確かな想いを標としている今、この胸に恐れは無い。
 割り込む隙など無いように見えた応酬の間に黒の軌跡が閃く。伊織の一太刀はディガンマの獣爪を穿って即軌道を変え、一瞬で体勢を整えた男の両太腿に、真一文字で繋ぐような傷を刻んだ。
「お前――!」
「ただのお節介だ、気にするな」
 そう言って一秒という時すら断つ一刀を浴びせ、刃から男の肉体へと音もなく呪と毒を注ぎ込む。それは俊敏に、バネのような勢いで動き回る獣の筋肉を徐々に侵し――違和となって現れた瞬間、チェーンソーが凄まじい勢いで男の胴に真っ赤な溝を創り上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

パウル・ブラフマン
【邪蛸】
ディガンマは確かに強いね…
でも、現役の皆の殺意には劣るかな。
骸の海の潮気を浴び過ぎて大分錆付いてんじゃん?
さっきツンデレムーブしてくれた
殺人鬼さんへの【鼓舞】も忘れないよ♪

それじゃオレも最愛の赤頭巾と一緒に
もうひと狩りいきますか☆
UC発動―ココから先は
オレとジャスパーの…ううん、この場で闘うアリス達の海域だよ!

射程を強化したKrakeで
【スナイパー】宜しくディガンマを狙撃していくね。
ジャスパーの弾幕に乗じて
融合する廃品を撃ち砕いて木っ端微塵にしてこ!

日頃【運転】で鍛えた動体視力と【野生の勘】で
ディガンマの接近を捕捉。
【カウンター】の要領で
顔面に銃口を突きつけ発砲、【目潰し】を試みたい。


ジャスパー・ドゥルジー
【邪蛸】
そりゃァお節介は焼きますとも
どうせならハッピーエンドがイイし
ワンダーランドで狼退治といこうぜ、パウル
パウルが猟銃ならぬ砲台構えた漁師なら
俺は赤ずきんならぬ赤角の女の子かね、シシシ

体内に還る魔炎龍の代わりに大きな籠を手に持つ
【イーコールの匣】で作った特別製さ
中身はばーちゃんへのお見舞いのお菓子や葡萄酒…
の形をした手榴弾!
光や音、煙幕で撹乱する奴でパウルをサポートするように動くぜ

やりすぎてる殺人鬼がいたらそれとなーく煙幕で阻害する
忘れんなよ、オウガになりたくなきゃ熱中しすぎは禁物だぜ
ま、快楽殺人者ってのは根っこは冷静なモンだ
きっと大丈夫だろ



 斜め上へと大きく揮われたチェーンソーが肉を滅茶苦茶に斬り裂き、骨を削った。
 唸るような声と共にディガンマの体から血が滴り落ちた。内臓も損傷を受けただろう。それでも両足で強く地を蹴って飛び退いた様に、ディガンマが口にしたという“例外”がぴたりと当てはまる。
「確かに強いね……」
 呟いたパウルだが、すぐに「でも、」と明るく笑った。
「現役の皆の殺意には劣るかな。骸の海の潮気を浴び過ぎて大分錆付いてんじゃん?」
 殺意の突き刺さり方が皆と比べて甘いんだよね、なんて手負いの獣を前に明るく楽しく親しげに言いながら殺人鬼たちを見れば、現役である一人が「う、」だの「あ、」だの繰り返した後に「まあな!」と胸を張った。
 ディガンマを煽りながら殺人鬼を鼓舞した言葉とその成果に、ジャスパーは楽しげにニヤリ。お節介――えーと何人目だっけ? まァいいや。そう言って笑って、パウルと共にバチバチにお節介を焼きに来たと宣戦布告した。
「どうせならハッピーエンドがイイし。ワンダーランドで狼退治といこうぜ、パウル」
「いいね! 最愛の赤頭巾と一緒にもうひと狩りいきますか☆」
 恐ろしく強くタフな悪い狼であろうとも、大切なひとと頼もしさ溢れる現役殺人鬼集団がいれば怖くない。それどころかワクワクする。なんせ、この国と彼らに迫っていたバッドエンドを当日ぶっつけ本番でひっくり返すのだから!
(「あ・でも待てよ? パウルが猟銃ならぬ砲台構えた漁師なら、俺は赤ずきんならぬ赤角の女の子かね」)
 シシシと笑うジャスパーにパウルは嬉しそうに笑いかけ――ぎぎ、ぎい、と響いた音の発生源、一番近い建物のドアを引き剥がし、より無機物と獣をかけ合わせた姿へと変じていく猟書家を綺麗なブルーで捉える。
「ココから先はオレとジャスパーの……ううん、この場で闘うアリス達の海域だよ!」
「――ハッ。お節介もここに極まれり、だな」
「テメェが想定してる倍以上だけどな」
 ディガンマの爪が次の融合候補へ伸びるより速く魔炎龍がジャスパーの内に還る。代わりに魔法の如く現れた大きな籠にジャスパーが手を突っ込んだ次の瞬間――黒薔薇の国に無数のシルエットがド派手に舞った。
「パウンドケーキ?」
「あれ酒瓶か!?」

 と、思う(だろ)(よね)?

 無言でニヤリと笑った口ふたつ。おばあさんの為にと用意された菓子と葡萄酒は、中身の無事が心配になる速度で、駆ける悪い狼の真上まで飛び――爆発した。それも鬼のような速度で、次々と。
 譜面に音符を書いていくような見目で爆音が閃光や煙幕と共に轟き、容赦なくディガンマを呑む殺る気満々パーティ会場は、砲門から放たれた弾で更に破壊的演出を得る。
「オレ達の海域で好き勝手はダメだよ、狼さん」
 効果、射程、威力。三つ全てが三倍となった『Krake』は、パウルという使い手によって陸に現れた深海の悪魔めいた凄まじさ。
 ディガンマとディガンマが目をつけた物を撃ち抜くたびに、獣の口から呻き声が漏れ、血痕が増え――そして融合相手にと目をつけられた物は、撃たれた瞬間砕けて木っ端微塵になっていた。これでは融合どころの話ではなく、ディガンマの口から苛立たしげに舌打ちが飛び出す。
 その姿が晴れゆく煙の中で突如横に跳んだ。
 その理由は――、
「そっち行ったぞ!」
「OK、殺すわ」
 赤頭巾、兼、赤角チャンからの贈り物に始めは口をあんぐりと開け驚いていた殺人鬼たちだった。手榴弾に砲撃と常人なら恐れて近付けないそこを、殺人鬼たちは鍛えた感覚で駆け、二人の猟兵と共に獣狩りへと向かっていく。
「ワォ、負けてられないね!」
 パウルは声を弾ませ、露わにしている左目を輝かす。
 そして元気よく動かしたのは鮮やかな海色の触手だ。両手だけでなく触手も使って『Krake』を巧みに捌いての狙撃は、彼ら殺人鬼の動きとディガンマの動き、両方を計算に入れた正確無比な一発の群れとなる。
 回数を重ねるごとに精度を増していくそれに、ジャスパーの笑みもどんどんやる気を増していった。籠を引っ掛けているのとは逆の手を籠の中にガッシと突っ込み、ジャスパー血液製の手榴弾を大奮発する。
「菓子も葡萄酒もまだまだあるぜ、たっぷり腹に収めやがれ!」
「ぐッ、ウウ……!!」
 パウルの狙撃に100%合わせてのプレゼントに、狙撃されながら殺人鬼たちと殺り合っていたディガンマが激しい唸り声を上げた。体全体をぐるんと旋回させて殺人鬼たちを弾き飛ばし、一回の跳躍で狙撃手の喉を食い破らんと迫る。
 その獣の目に、笑う青色が映った。
「見えてるよ」
 これまでの運転でどれだけ風になった事か。経験だけでなく五感全ても加えて捉えたディガンマの顔にがちりと銃口を突きつけて、
「BAN!」
「ガアアァァッ!?」
 響いた悲鳴。一気に飛び退く姿。
 明らかに顔の一部を損傷した様子に一人の殺人鬼が色めきだつが、小さな小さなカップケーキがその眼前でぽんっと弾けて興奮をシャットアウトする。
「忘れんなよ、オウガになりたくなきゃ熱中しすぎは禁物だぜ」
 だが、快楽殺人者というものは根っこでは冷静なもの――。ジャスパーの思考を肯定するように、殺人鬼はすぐに呼吸を整え落ち着きを取り戻していた。よし。やっぱ大丈夫だった。
 その様子をチラッと見たパウルは、それじゃ! と声を弾ませる。
「アンコールと行こっか!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
そうだ……止まってなんて居られない
まだ僕は、舞台の上にいる
幕はまだ降りてない無いんだ

黒薔薇は、僕にとっては大好きなひとに捧ぐ花…その花を掲げるこの国を、壊させなんてさせないよ
守ろう一緒に
衝動にのまれれば堕ちてしまう
君達自身だって壊させない

殺めることは
奪うことなのか
悪なのか
それとも守るための力であるのか
まだ、見えないことはあるけれど
とうさん、僕は……僕にできることをする

君たちの為に、黒薔薇彩る歌を歌おう
歌に込めるのは鼓舞
けして衝動に君自身を渡さないように
危ないよ
水泡のオーラを張り巡らせて、彼らの戦いを邪魔しないようにしながら防御して
歌う「薇の歌」
僕が隙をつくるよ

さぁ、もう少し
舞台に幕を下ろそうか



 片目を潰されたディガンマの咆哮が噴水広場の空気をびりびりと震わせた。
 その音に全身を撫でられ、リルは月光を集めたような尾鰭をぴるりと揺らして唇を引き結ぶ。
 あの男はまだ生きている。
 黒薔薇の国のグランギニョールは続いている。
 自分は今、どこにいる? 舞台の上だ。
 そして舞台の幕は――まだ降りていない。
 好機と見た殺人鬼たちが得物を手にディガンマへと躍りかかる。手に、髪に、様々な形で彼らに寄り添う黒薔薇はどれも美しかった。そしてディガンマが腰掛けていた噴水――清らかな水をこぼす黒薔薇の彫刻もまた、本物と同じようにその華麗な姿と色彩を魅せている。
 その姿形に大好きなひとの姿が重なった。
 還したひと。守ってくれたひと。
 共に生きるひと。
 リルにとって黒薔薇は彼らに捧ぐ大切な花だ。
(「その花を掲げるこの国を、壊させなんてさせないよ」)
 止まってなど居られない。上がった舞台を、途中で下りるなんて考えられない。
 決意を胸に宙を游ぎふわりと止まったそこは、遠距離狙撃用の銃を構えた殺人鬼の隣。貴方、とかけられた声にリルはこくりと頷いた。
「守ろう、一緒に」
 この国を。そして、衝動に呑まれれば堕ちてしまうというその心も。
「君達自身だって壊させないよ」
「……じゃあ。貴方は、私が壊されないように守るわ」
 こういう殺り方しか知らないけれど。ごめんなさいね。
 静かな囁きにリルはほのかに瞳を震わせた。
 殺める事。奪う事。それは一般的には悪と呼ばれる行為だが、今目の前で繰り広げられているそれと隣の殺人鬼がやろうとしているそれは、黒薔薇の国と自分を守る為という力の行使でもあった。
 ひとつの形が持つふたつの側面。そこにあるものはまだ見えない。答えが見付からない。――けれど。
(「とうさん、僕は……僕にできることをする」)
 オオオ、と獣そのもののような咆哮が響いた。
 地を蹴ったディガンマが己を抑えていた殺人鬼を数名振り払ったのだ。
 しかし石畳に叩き付けられた体は、ぷくりと現れ広がった水泡のオーラに守られて無事だ。ならばとすぐさま次の攻撃動作に移ったディガンマの鋭い爪が、針のように変化して――だがそれは、甘いチョコレートのようにとろりと溶ける。“巻き戻され”たのだ。
「お前……!」
 唸ったディガンマの鋭い視線を一身に浴びてもリルは怯まない。
 歌声で広場を満たしながら、凛と見つめ返す。
 曇り無き硝子のように透き通り、耳に、心に届くその歌声は囁くよう。殺人鬼の為にとリルが紡ぐ歌声は、この国と彼らに咲く黒薔薇をきらきらと彩って、誰よりも血の匂いと味を知る心を奮わせていく。
 殺人衝動が幾度頭をもたげても、けして自身を渡しはしまい。起きうる可能性に真っ向から抗う力を与えていく歌声に、ディガンマが殺気を溢れさせた。流れる血も構わず石畳を蹴って駆け、迫る。
「邪魔だ」
「させない」
 連続して響いた銃声に合わせ駆けるディガンマが右へ左へと動かされる。
 その後に、点々と真っ赤な滴の痕が続いていた。
「さぁ、もう少しだよ」
 今日の舞台に、皆で幕を下ろそうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
そうね、お礼はちゃあんと届けなくちゃ
ーーでも、ソレと己を失うかどうかは別の話だわ

【震呈】でフライパン召喚し淑女の隣へ
こう見えて料理が得意でネ
ご披露したいトコだけど生憎食材が足らないのよ
アナタ、獣の肉を捌けて?

先んじて踏み込み敵の目惹き付け
動き見切り直撃食らわないよう、かつ周囲に影響がないよう攻撃を誘おうか
2回攻撃の殴打で傷口えぐって
生命頂戴しながら踏ん張るわね

淑女が攻撃したらカウンター狙い思いきり殴打
肉のひと欠片でも貰えりゃもっと効果的なんダケドねぇ

淑女が突っ走りそうになったら世間話のように声を掛けるヨ
ひとつ教えて貰えるカシラ
アナタの大事なモノ
ソレはこんなトコでお別れしていいもの?



 片方の腕と肩は徐々に離れつつあり、胴に走る複数の傷からは血が流れ、一部からは“中身”が除いている。それでも男は地に足をつけ、こちらを見据えている。
「まるで手負いの獣ね」
 そう囁いた淑女が、いったん赤を拭き取った肉切り包丁を手に「お礼が出来そうで嬉しいわ」と笑う。
 心躍らせている事がわかる声に、コノハもうすらと微笑みながらそうねと頷き、薄氷を淑女に向けた。
「お礼はちゃあんと届けなくちゃ。――でも、ソレと己を失うかどうかは別の話だわ」
「フフ、そうね。“料理はもっと手際よく美しく”、でしょう?」
「そ。覚えててくれて嬉しいワ」
 今度はニッコリと明るく笑み、ぱっと開いた右手にフライパンを招いた。思わぬアイテムの登場に淑女が「まあっ」と目を丸くして、本当にフライパンなのかとしげしげ覗き込んでくる。
 実はここでこう持ってグッってやると左右に分かれてナイフに――なんて事はない。本当の本当にフライパンだ。ただし、とっても戦闘向きの。
「こう見えて料理が得意でネ。ご披露したいトコだけど生憎食材が足らないのよ」
 くるっと回してぱしり。フライパンを握り直した手が小気味良い音を立て、それへ惹かれるかのようにディガンマがどうっと向かってきた。
「アナタ、獣の肉を捌けて?」
「ええ、勿論!」
 高らかに、そして誇らしさも抱いた返事を後ろに置いて、コノハは向かってきたディガンマへと正面から飛び込んだ。
 しかし、無茶無謀の類ではない。しっかりと開いた双眸は手負いの獣と評された全身を――“食材”を油断なく捉え、他の殺人鬼からディガンマを上手く引き離し、調理に相応しい場へといざなっていく。
(「美味しそうな腕だけど、調理場をめちゃくちゃにするタイプなのがネックよね」)
 けれど、手のかかる食材を逸品に仕上げた時の喜びといったら。
 振り下ろされた獣腕を躱す。紫雲の髪が数本攻撃の圧で勢いよくどこかへと吹き飛ばされ、足元がガゴンッとくぼんで砕けていくがコノハは微笑を絶やさない。
 躱して着地した先で膝を曲げて衝撃をやわらげ、バネのように来た側――ディガンマの方へと跳び戻る。
「!」
 見開かれた目に向けるのは食材という獲物を捉えた料理人の目。
 下から思い切り振り上げるようにして中身を覗かす傷を強打してすぐ、フライパンをぐるッと回しながらそこにめり込ませた。
「ああッ、ぐ、ウ……!!」
 抉るついでにちょっとばかり味見をすれば、成る程、猟書家幹部はこんな感じ? と舌をぺろり。悪くないワと相手を見下ろすような笑みを浮かべた一瞬に、淑女の揮う肉切り包丁が重なった。
 刺した刃で丸を描くような一撃が男の体から、肉を何グラム分かこそぎ落とす。
「量はこれくらいで宜しいのかしら?」
「ええ、料理が捗りそう」
 やった側と、ぽぉんと放られたそれを受け取った側は涼しげに。
 された側は、きっと肉を何グラムか失った分だけ突き刺すように熱い痛みを覚えているのだろう。そこへ次の調理工程よとばかりにコノハはカウンターを見舞った。
 ガァン! と見事な音が響き渡り――お見事ね、と微笑む淑女の瞳に狂乱の火は見えない。それにコノハは微笑んで、傷を増やしていくディガンマを見据えた。
(「アナタの大事なモノ。こんなトコでお別れしないで済むようにしないとネ」)

大成功 🔵​🔵​🔵​

揺歌語・なびき
金属バットの彼女と

うん、約束は大事だね
きみならアレをちゃんと殺せる
約束を果たせるよ

だから
そのあとのきみの明日のことも、大事にしようね

派手に動いていいよ
でも飛び込みすぎないで
おれ、きみに怪我してほしくないし

ディガンマの周囲に手鞠をばら撒く
飛びかかる彼女の邪魔はせぬよう
けど確実に包囲網を
【目立たない、追跡

充分な数を転がした後
彼女に離れるよう告げ、離れた直後爆破
ディガンマの動きを封じ気を惹く
【罠使い、だまし討ち、傷口をえぐる

おれはあくまでサポートで囮
こっちに爪を向ければいい
後ろの彼女に気付かぬほどに

ほら、来いよ
【誘惑

今だ
喰らわせてやれ

人間のフリも出来ないおれと奴の獣性よりも
きみの明日が在ってほしい



「……私も、殺しに行かなきゃ」
「うん、約束は大事だからね」
 コココ、コ、と金属バットを引き摺って音を立てる少女の隣を、なびきは同じ速さで歩く。
 自分たちが近付くのを待つように、やや猫背でこちらを見るディガンマの傷は全身に存在していた。しかし眼光の鋭さは失われておらず、ほんの一瞬の油断で首の骨を折るか喉をかき切ってくるか、心臓を抉り取りに来る油断のなさがある。
 それでも。
「きみならアレをちゃんと殺せる。約束を果たせるよ」
「うん」
「だから、そのあとのきみの明日のことも、大事にしようね」
 きみがこの国の人たちの明日を大事にしたように。
 祈るような言葉に、確かな「うん」が返って。一人の殺人鬼と一人の狼の目が、ひたりと色を冷たくした。とっ、と駆け出したのは少女の方。引き摺られていた金属バットの先端が、時折跳ねてカラカラガラカラ音を立てる。
 男の方は敢えて少しばかり距離を開け――少女の後ろを駆けた。こうすれば少女の動きと、少女が殺しのテリトリーとして扱う空間がよく見える。
「派手に動いていいよ。でも飛び込みすぎないで。おれ、きみに怪我してほしくないし」
「うん」
 手首の回転だけで振り上げられたバットが低く鳴いた。頭を狙った先端は速度を増したディガンマを捉えきれず、石畳とぶつかってガァンと固く高い音を響かせる。
 しかしそこから今度は横に一閃、お次は鋭いカーブを上に描いて急降下と、少女かバットどちらかにレーダーがついているのかという精度でディガンマを追い続ける。
 追われ続ける男に周りのものと融合する機はなかなか訪れず――ふわ、と花を香らせ飛び込んできた手鞠が、ひぃふぅ、みぃ。融合対象との動線を塞ぐように飛んで跳ねて数を増やして――荒れ狂う獣を囲う檻と化す。
「離れて」
 ぱっと弾かれるように少女が飛び退いた瞬間、手鞠が一斉に爆破される。
 手鞠の檻は四方から衝撃を轟かす無慈悲な檻へ。そこに閉ざされたディガンマのくぐもった声は、数秒と経たず怒りの声に変わった。あああああ、と響いた叫び声が煙の向こうから飛び出してくる。
 赤黒い穴が開いた片目。潰れたか吹っ飛ぶかして欠けている指。
 それでも尚、眼差しが、爪が、“殺す”と雄弁に語っていた。
「ほら、来いよ」
 やったのはおれだよ。
 おれが檻を拵えたんだ。
 冷たく暗く輝く桜色に鋭い赤色が向く。見えている姿以上のスケールを誇る殺気が、口を開けた巨獣じみた存在感で包み込んでくる。
 しかしなびきは動かない。だって。

 ――今だ。
 ――喰らわせてやれ。

 飛びかかってくる男の後ろに、あの子がいた。
 両手で掴んだ金属バットを限界ぎりぎりまで後ろに引いて。跳んで。見開いた目は、ただ、標的に注いで。
 そして溜め込んだパワーごと決めた豪快なフルスイングは、ディガンマの頭を見事に捉えていた。
「死んで」
 少女が告げた願いは、宿した想いの強さを示すような激しさと冷たさ。
 ――ああ。
(「人間のフリも出来ないおれと奴の獣性よりも、きみの明日が在ってほしい」)
 自分はどうしようもなく獣だと解っていても。
 それでも、少女の――あの子の明日を、祈らずにはいられない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

冴島・類
※いばらさん(f20406)と湾曲刀の彼と

其れを覚えたら壊れたようなもの?
勝手な事を
どう使うか…で随分違うものだよ
その一線は越えさせないとも
ね、いばらさん

彼と共に前へ出て対応しやすく
あんまり熱くなり過ぎてたらつっこみ入れますね

爪の軌道を注意深く見切り
刀でいなし、緩急つけた薙ぎ払いで弾き隙を探す
いばらさんの花弁の舞と目配せは見逃さず
斬り込み、彼へ行動で繋げる

衝動が強まると、回避が疎かになりかねない
味方への針の攻撃は舞で威力軽減し優先的に庇う
もう大丈夫だよ、って
言ってあげたい子らがいるんでしょ?

捕まえ守ろうとする彼女の姿にも
つい力がこもり
あの腕、落とそうと声を掛け狙う
恨みの針なんぞに散らせて堪るか


城野・いばら
類と/f13398
黙々なアリスと一緒に

いばらにはソレがよくわからない
けど。
皆、大切なコ達の為に戦ってるの
アナタとは違う。同じに何てさせないわ
うん、住民さんの分もバッチリみるのよ

いばらはダメージよりも援護優先で
花弁の命中率活かして爪の獣さんの牽制や阻害を
沢山の花弁舞わせ、アナタの視線を誘惑しちゃう
その隙にと、類へ目配せ
気を惹けずとも目眩ましになれば

気付いた攻撃は伸ばした茨の武器受けでかばうわ
隙突けて手や足を捕縛できたなら、怪力籠めて離さない
切られても、咲くわ何度でも
今度はいばらが皆を守るの

もくもくさんに衝動の熱がこもったら
花弁で鼻先擽り、ほんの少し拭うお手伝いを
戦う意味を持つ今のアリスなら大丈夫



 痛みを覚えた呻き。悲鳴。咳き込み。
 それらを引っくるめたものと一緒にディガンマが何かを吐き出した。
 石畳にびちゃりと落ちたのは、ほのかに粘りを帯びた赤い塊。それを数秒見つめた目が、ゆらり、と類といばら、そして湾曲刀のアリスを見て――嗤った。
「どれだけ言葉で、表情で、態度で繕っても。俺も、お前も、既に壊れている事ぐらい、わかるだろう」
 歪になった形。走るヒビ。
 最初からか、ある時からか。
 変わったそれは、もう変えられない。
 掠れた声で嗤い、幽鬼のようにゆらぁりと身を起こしたディガンマへ最初に口を開いたのは類だった。
「其れを覚えたら壊れたようなもの? ――勝手な事を」
 湾曲刀のアリスが視線だけを類に向けた。類の目はディガンマに向いたままだ。
「いばらにはソレがよくわからない。けど。皆、大切なコ達の為に戦ってるの」
 今度は、いばらを。いばらもまた、ディガンマをじっと見つめていた。
「どう使うか……で随分違うものだよ」
「アナタとは違う。同じに何てさせないわ」
「その一線は越えさせないとも。ね、いばらさん」
「うん、住民さんの分もバッチリみるのよ」
 一緒に。
 共に。
 見上げてくるふたつのみどりに、アリスの表情が変化した。呆れているような。けれどほんの少し和らいだような気がして、類といばらは「あ、」と目を丸くして微笑み合う。
 穏やかな心地が過ぎったのは、その一瞬。
 類とアリス、ディガンマが一歩踏み出した瞬間、穏やかな空気はどうっと爆発した殺気と気迫に覆い尽くされ、静寂は戦いの音にとって変わられた。
 まだ残る獣の手、それがゴキリと音を立てて開かれる。人の頭ならば掴めるだろう。肉を潰して裂いて、一切の名残をただの血肉へと容易く変えるに違いない。そこが暗い感情を掻き立てる針に変われば、捕まった後に来るのは想像を絶する痛みと感情の渦だ。
 しかし、ぐんと突き出された爪を類の刃が掬い上げるような丁寧さで受け止め、いなし――そう知覚した時にはもう、獣爪は薙ぎ払われ弾かれた後。
 そこから腕力のみで無理矢理戻そうとする勢いに、今度は刃ではなく無数の白い花弁が吹き込んだ。口付けるような優しさで現れた白色は薔薇の花弁。その色を辿ったなら悪戯っぽく微笑むいばらと目が合っただろう。
 だがディガンマの視線は溢れた白に引っ張られ――この隙にと目配せしたいばらに、類とアリスの両方が行動で以って頷きと同等の意を示した。
 真っ直ぐ、疾く。
 類が斬り込んだその軌跡に在った殺気が、軌跡の形そのままで斬られて消えてしまったのようで。そこだけ清浄な空気が戻った軌跡に、湾曲した刀による一刀がなぞるようにして揮われる。
 更に深く大きく開かれた傷はディガンマから血と肉と体力を奪った。
 奪えなかったのは――猟兵を、殺人鬼を、殺すという意志だけ。
「ッハ――、」
 留まる事を知らない殺気が、呼吸を苦しくするような、酷く重たい空気に似た感覚で肌を撫でる。ざわりと総毛立つ感覚に全身が襲われて――アリスの手がディガンマの首を掴んだ。三日月のような刃先が喉にぴたりと狙いを定める。
 その手をがしりと掴んだのは類が手繰る瓜江だった。
 精悍な体躯の絡繰人形がパッと手を離させ、ディガンマの腹に蹴りを入れて――ああ、最初の戦いでは彼がこんな風に距離を取らせていたな、と類は思い出しながら強い殺意宿す目を覗き込む。
「落ち着いて。最後の最後で仕損じるような真似をする気ですか」
 静かに心映すような声と目に、アリスの殺意が捕らわれる。
 ほんの少しの刺激で爆発しかけていたものが、緑を映して――あ、とアリスが声をこぼした時。類はアリスの視界を覆うように前へ出た。その体を針と化した獣爪が襲う。
「お前――! くそっ!!」
 アリスは類の腕を掴んで引き寄せながら、獣腕に刀を突き立てた。刃を貫通させてぐりっと外側に回して斬り落とす。それに突風じみた斬撃が寄り添って――待て、これはどこから。
 は、と目を瞠る様にくすりと笑う声はすぐそこから。
「もう大丈夫だよ、って、言ってあげたい子らがいるんでしょ?」
 どのような子らですか。
 微笑む類の姿が神霊体から普段のものへと戻り、アリスの隣に並んで短刀を構える。
「会いたければ勝手に会え。俺は知らん。――行くぞ」
 無口。行動で示すタイプ。それから、恐らく照れ屋の部分有り。
 追加情報にいばらも花弁を躍らせながら微笑を浮かべ、両腕をほぼ使えなくなったディガンマの動きにハッとする。体内に留めていた街灯を使ったか。腕の欠けたそこからギチギチと伸びていく鋭い牙――いいえ、あれは。爪。
「だめ」
 庭園での狼藉を嗜めるように伸ばした茨が伸びゆく爪に絡んで一纏めにし、きつく締め上げる。磨かれた殺人技巧に見合う筋力で茨に抗おうと、引き千切ろうとも、いばらという花は決して離さない。何度でも何度でも咲いて、
(「今度はいばらが皆を守るの」)
 一緒に、戦っているんだもの。
 切れたそこからほろりと花弁が溢れて落ちていく。それが傷付いた人間と重なるようで――短刀を握る類の手に、つい力が籠もる。これ以上、恨みの針なんぞに誰かの心を散らせて堪るか。
「あの腕、落とそう」
「両足も入れるぞ」
「――もくもくさん」
 また衝動の熱が。
 けれどいばらのお手伝いは、花弁で鼻先をそっとくすぐるくらい。ほんの少し拭うくらいで大丈夫。だって、戦う意味を持つ今のアリスなら大丈夫だと信じているから。
「一緒に、もう大丈夫だよって住人さん達に言いにいこう?」
 だから。一人で走ってしまわないで。
 ふたつのみどりが刃に願い寄り添う。
 ああ、と、そこに落ちた声は低く静かだった。
 そして白薔薇の花弁と刃ふたつが閃いて――黒薔薇の国を壊し尽くそうとした獣は、とうとう地に倒れ伏す。
 傷と己自身から流れた血にまみれたディガンマの口から、ひゅー、と乾いた呼吸がこぼれ続ける。嗤う目の赤が、淀んでいく。呼吸も赤色の鮮やかさも、どんどん弱まっていって、
「ああ、くそ……どうせ捨てられた存在だ……壊れて、獣に成り果てれば、よかっ…………」
 その言葉を最期に残し、黒薔薇の国に現れた猟書家の肉体は、真っ黒な灰となって崩れて消えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年12月07日
宿敵 『ディガンマ』 を撃破!


挿絵イラスト