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山毛欅の葉陰のデイドリーム

#アリスラビリンス #【Q】 #お祭り2020 #ハロウィン #夕狩こあら #夢喰いクラゲ #クラーケン

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「先の迷宮災厄戦で、皆は見事オウガ・オリジンをやっつけた訳だけど、オウガ・オリジンが作った不思議の国はまだ残ってて、今後も悲劇を生む可能性があるの」
 未だ懸念が残っている、と口を開くはニコリネ・ユーリカ(花売り娘・f02123)。
 彼女は柳眉を顰めながら詳述して、
「オウガ・オリジンが、その凄まじい『現実改変ユーベルコード』によって、幾つもの不思議の国を生み出したり、改変したりしていたのは皆も知ってるわよね」
 大きな林檎の国、闘技場の国、図書館の国……。
 迷宮災厄戦で様々な不思議の国を訪れた猟兵たちは、多くの猟書家が我が物にしようとした「現実改変ユーベルコード」の悪辣さを十分に知っていよう。
 無言の是を受け取ったニコリネは、こっくりと頷いて言を足す。
「今回、儀式魔法【Q】が成功した事で、オウガ・オリジンによって『ハロウィンの国』に改変された国が幾つも見つかったの」
 しゃべる南瓜ランタンや、仮装衣装の飛び出す森、食材が完備されたキッチン。
 そして「なんかめちゃくちゃ長い行列をするためだけに作られた道」など、そこはまさにハロウィンパーティーにうってつけの国。
 聞けばとても楽しそうな国だが、そうはいかないとは猟兵も知るところで、
「そうなの。この国はオウガ・オリジンが『悲劇を生む』為に作った世界。ここにはオウガ・オリジンから直接、力を与えられた凶悪なオウガ達が潜んでいて、ハロウィンの国の力を利用して襲いかかって来るわ」
 先ず、仮装衣装が飛び出す森が厄介だろう。
 オウガの軍勢は、森から飛び出してきた衣装でパワーアップしていて、多数の強敵を倒しながら前に進むのは難しい。
「でもね、森はオウガの加勢をしている訳じゃないから、こちらも森から飛び出してきた衣装を身につければパワーアップできるの!」
 ブナの森は不思議の森。お節介で世話焼きなお針子たちの森。
 訪れた者の心を読んで、ステキな衣装を縫ってくれるらしいが、何を寄越すか分からない。
「何でも来いや! という強い気持ちで臨めば、きっと強力なオウガも倒せる筈よ」
 猟兵の腕っぷしも心の強さも知るニコリネは、彼等が颯爽と敵をやっつけた後の事も話し始めた。
「オウガ達を倒して森を進むと、食材が完備されたキッチンのある場所に辿り着くわ。皆は此処で、オウガのボスに美味しい料理を食べさせて!」
「美味しい料理……?」
「そう、この国のボスはめちゃくちゃ強いんだけど、美味しい料理を食べさせ続けて、満腹にして眠らせれば、無敵状態は解除されるの」
 オウガのボスは、「ハロウィンの国」の法則によって「ほぼ無敵」になっている。
 それが唯一、美味しい料理を食べさせることによって倒す事が出来るのだ。
「皆はボスの苛烈な攻撃に耐えながら、キッチンで美味しい料理を作ってね」
 とは言うもの、実は美味しくなくても大丈夫。
 心のこもった料理を完成させたなら、ボスはこの国の法則により、抵抗できずに食べてしまう。沢山食べてお腹が膨れると段々眠くなってくるので、ボスを完全に眠らせれば無敵状態は解除され、一撃で倒せるようになる。
「ここでは皆は基本的に『料理を作る』か、『攻撃を耐え忍ぶ』事になりそうね」
 大丈夫。皆なら乗り越えられる。
 集まった猟兵に希望を見たニコリネは、繊手にグリモアを召喚し、
「アリスラビリンスにテレポートします。オウガをいっぱいやっつけて、ハロウィンの国をゲットしましょうね!」
 言って、ニッコリと頬笑んだ。


夕狩こあら
 オープニングをご覧下さりありがとうございます。
 はじめまして、または、こんにちは。
 夕狩(ユーカリ)こあらと申します。

 こちらは、儀式魔法【Q】が成功した事により発生した、オウガ・オリジンから直接力を与えられた凶悪なオウガを倒す「ハロウィンの国の戦い」シナリオです。

●戦場の情報
 山毛欅(ブナ)の木が生い茂る森。
 ここでは、お節介で世話焼きな木々がミシンで洋服を作っており、訪れた者にジャストサイズの衣装を寄越してきます。心を映したような衣装を縫い上げるので、とっても恥ずかしい思いをしますが、どうぞ袖を通してやって下さい。
 森は、なんかめちゃくちゃ長い行列をするためだけに作られた道が伸びており、ずっと歩いていくと、ボスが居る「システムキッチン雲海」に辿り着きます。

●シナリオ情報
 第一章『夢喰いクラゲ』(集団戦)
 人の見る夢を主食とする、空飛ぶクラゲ。
 良い夢を見てもらう為に、あの手この手で気持ちよく眠らせようとしてきます。
 頭部は上等なクッションのように柔らかく、枕の素材としても最高です。

 森から飛び出してくる仮装衣装を着ると、プレイングボーナスが付与されます。
 このうち「本人が全く望まない衣装」だと、沢山のボーナスが付与されます。

 第二章『クラーケン』(ボス戦)
 誰かが見た悪夢。
 夢から夢へと渡り、精神エネルギーを喰らう魔魚で、この巨魚が訪れた夢はどんな夢も悪夢へと変わると言われています。
 心のこもった手料理を食べ、満腹になると眠ります。

●シナリオ構成について
 こちらは、本邦初公開の「2章構成のシナリオフレーム」です。
 2020年10月31日までに成功したシナリオの本数に応じて、ハロウィンパーティ当日、そして、やがて始まるであろう「アリスラビリンスでの猟書家戦」に、何らかの影響があるかもしれません。

●リプレイ描写について
 フレンドと一緒に行動する場合、お相手のお名前(ID)や【グループ名】をお書き下さい。お二人の関係や呼び方があれば、より踏み込んだ描写をさせて頂きます。

 以上が猟兵が任務を遂行する為に提供できる情報です。
 皆様の武運長久をお祈り申し上げます。
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第1章 集団戦 『夢喰いクラゲ』

POW   :    おやすみなさい
いま戦っている対象に有効な【暗闇と、心地よい明かり】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
SPD   :    良い夢を
【頭部から眠りを誘う香り】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    気持ちよく眠って
【両手】から【気持ちいい振動】を放ち、【マッサージ】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 カタカタ、カタンカタン。
 ようこそいらっしゃいました、此処は不思議の森。
 山毛欅(ブナ)らがお客様の衣装をご用意いたしましょう。
 大きな枝葉で見事に縫い上げてみせますとも。
 さぁ心を覗かせて下さいな。

 カタタン、カタタン。
 クラゲのお客様は「まくらがいい」と仰せでした。
 コットンにシルク、パイルにガーゼ。
 上質なまくらになって、上質な夢を食べたいのだそう。
 ほら、嬉しそうに揺らめいてらっしゃる。

 カタカタカタン、カタカタカタン。
 マシュマロがお好きなら、ふわふわ着ぐるみを繕いましょう。
 心に想う人が居たなら、その方の服を縫ってさしあげます。
 どうぞ、恥ずかしがらないで。「なってしまえばいい」。
 ほんとうに好きなものになれば、ココロは強く解き放たれる。

 さぁ心を覗かせて下さいな。
 お客様の「好き」を教えて下さいな。
穂結・神楽耶
夕立さん/f14904
・互いに感想を言うだけ
・衣装はお任せ

べっ別に夕立さんのコスプレ見たいなとか思ってましたけど!?
だから邪神ではないと…
でも絶対こういうの似合うと思いました。
結構几帳面でしょう?
それでいてこういうところに付き合ってくださるくらいには洒落も分かってますし。
普段より大人っぽくて格好いいですよ。

そうやって素直に褒められるとなんともこそばゆ…
ってちょっと!もう!

…一応褒めてくださいましたし、汚さぬよう遠間で仕留めましょうか。
おいで、【神遊銀朱】。
刻んでしまえば眠気も何もありません。

…あ、いえ、お構い無く。
今ご飯美味しくないんですよ。
「ウソですよ」って言えたら良かったんですけど、ね。


矢来・夕立
穂結さん/f15297
・互いに感想を言うだけ
・衣装はお任せ

理由から邪さを感じますが。
もし悪神だったとしても知らない仲ではありません。お付き合いします。

着物、UDCの服、軍服、人形みたいなのも着てましたっけ。
そういうのは新鮮です。よくお似合いですよ。可愛らしい…いえ。綺麗ですね。

ウソですが。
こうして褒め殺すことで更に不本意になってくれるかな〜と…

まあまあ全部ウソとは言ってないですから。
【紙技・冬幸守】。
あちらの攻撃は無差別。クラゲも眠たくなるでしょう。
こちらが眠る前に殺しましょう。

確か仮装した子どもにお菓子をあげる行事ですよね。
じゃあコレ、花蜜飴。好きだったでしょう。
…あれ。好み、変わりました?



 カタカタ、カタンカタン。
 不思議の森へ、ようこそいらっしゃいました。
 どうぞ、お客様。お望みのものを仰ってくださいな。
 山毛欅(ブナ)らが「好き」を「カタチ」にして差し上げましょう。

「……まさかの足踏み裁縫機械(ミシン)でした」
 落ち葉の敷き詰められた土から根を出し、器用に踏板を揺らして齒車を回す山毛欅たちを眺めた穂結・神楽耶(あやつなぎ・f15297)は、振り返るや喫驚に丸くした緋の麗眸を矢来・夕立(影・f14904)に結んだ。
 見れば彼は、童話(メルヘン)の物語めいた木立には一瞥も呉れず、眼鏡の奥に煌めく辰砂の色を眞直ぐ、前に――問い掛けるような視線を注いでいる。
「如何して此処に」
 而して滑り出た科白は、神楽耶の佳聲を上擦らせ、
「べっ、別に、夕立さんのコスプレ見たいなとか思ってましたけど!?」
「理由から邪さを感じますが、もし悪神だったとしても知らない仲ではありません」
 不意に零れる本音が力強い断定になるのを聽いた夕立は、「殿方はどうぞこちらへ」とチョイチョイ手招く山毛欅に流瞥に見て、爪先を向ける。
「お付き合いします」
 そう言って葉陰に消える彼に聲は間に合おうか、
「だから邪神ではないと……」
 蓋し夕立の背中を双瞳に追った神楽耶も、「ご婦人はこちらです」と伸び出る枝葉に手を引かれ、今しがた山毛欅が縫い上げたという仮装衣裳に袖を通す事となった。

 更衣室まで用意されているとは便利な。
 紅葉のカーテンの奥で着替え、切株のドレッサーでお粉をはたかれた夕立と神楽耶は、木洩れ日に姿を露顕すや幾許の喫驚を揃えた。
「殭屍……」
 背に陰陽太極圖、裾に八卦を描く白緞彩繡袍を纏い、頭に冠巾、雲履を履いた夕立は、眼前に見える不死者を見詰め、
「道士……」
 チャイナドレス風にアレンジした対襟補褂に暖帽を合わせ、額に搖れる張天師霊符より蒼白い化粧を覗かせた神楽耶は、元々大きな瞳を皿のようにして夕立を見た。
 お互い随分と雰囲気を變えたものだと、暫しの沈黙がミシンの駆動音を際立たせるが、二人揃って妙な方向に突き抜けてしまえば、寛容を齎すのがハロウィンの魔法。
 キョンシーと仮装した神楽耶は吃々と竊笑を溢すや、山毛欅らが手分けして刺繍したと言う絢爛豪奢な紋様を細かく見て、
「でも絶対こういうの似合うと思いました」
「正気ですか」
「だって、夕立さんて結構、几帳面でしょう? それでいてこういうところに付き合ってくださるくらいには洒落も分かってますし。普段より大人っぽくて格好佳いですよ」
 と、優艶の目尻を緩める。
 霊符がその嫣然を僅かに遮ってしまうのが惜しいが、これまで彼女の着物姿や、UDCアースの服、軍服、或いはお人形みたいな姿も見た憶えのある夕立は、今の姿は實に新鮮だと、山毛欅らが心を籠めて縫ったという上質な仕立てを眺めた。
 七星寶刀を握る手とは逆、何も持たぬ繊指は神楽耶へと伸びて、
「よくお似合いですよ。可愛らしい……いえ。綺麗ですね」
 霊符を捲り、蒼白の花顔を暴く。
 而して明らかになる表情を、眞赭の麗眸が靜乎(ジッ)と見る。
 普段とは違う夕立の、いつにない星眸(まなざし)に瞶められた佳人は、俄に目尻に朱を挿すや睫を落した。
「……そ、そうやって素直に褒められると、なんともこそばゆ……」
「ウソですが」
「――ってちょっと!」
 瞬刻、涙袋に影を落した睫は彈かれたように上を向き、己を揶揄った佳脣を詰る。
 然し夕立は些しも悪びれずに言を足して、
「こうして褒め殺すことで更に不本意になってくれるかな〜と……」
「もう!」
「まあまあ全部ウソとは言ってないですから」
 ぷっくりと頬を膨らませる麗顔を惜しみつつ霊符に隠すと、其処に記された『勅令陏身保命』なる文言を眸に捺擦(なぞ)り、聲色を落した。
「お手伝いしてくれますか」
「…………ご命令とあらば」
 然れば「我を使役すは道士なり」と、是を示す殭屍。
 次いで山毛欅の森を悠遊と游ぐ海月魚を仰いだ神楽耶は、蒼白い繊手に己そのものたる白銀を握り、鏡の如く煌めく鋩を向けた。
「……一応褒めてくださいましたし、汚さぬよう遠間で仕留めましょうか」
 おいで、【神遊銀朱】――。
 丹花の脣が凛乎と呼べば、『結ノ太刀』を映した刀は木洩れ日を縫ってオウガの透明な躯を切り裂き、靉靆と漂流う狭霧と變える。
「刻んでしまえば眠気も何もありません」
 随分と頼もしい殭屍が居たものだと、神楽耶と瞥見を交した夕立も策戰は同じ。
 こちらが夢寐に沈むより先、殺してしまえば佳いと『式紙・幸守』を取り出した彼は、フヨフヨと浮かぶ海月魚の死の中心点を三秒の裡に捉えると、漆黒の羽搏きで覆った。
「あちらの攻撃は無差別。クラゲも眠たくなるでしょう」
 森中に漂う甘い馨香を切り裂くは、【紙技・冬幸守】――。
 味方の催眠術に動きを鈍らせた處に差し入る蝙蝠の黒翼は、外皮を裂き、縁膜を断ち、次々と触手を千切って虚無に還す。
 周囲一帯の敵を蹴散らした道士と殭屍は、靄の晴れた森の奥に「なんかめちゃくちゃ長い一本道」を見出すと、これぞ進路と跫を揃える。
 かなり歩く事になりそうだと、ひとつ息を吐いた夕立は、懐から巾着を取り出し、
「ハロウィンって確か仮装した子どもにお菓子をあげる行事ですよね」
「? はい」
「じゃあコレ、花蜜飴。好きだったでしょう」
 紐を緩めて掌に轉がる、煌くような黄金色。
 秋らしい実りの色を揺らした甘味が食欲を誘うが、神楽耶はその色を愛でた儘、少うし袖を揺らしただけで――。
「……あれ。好み、變わりました?」
「……あ、いえ、お構い無く」
 そっと語尾を持ち上げる夕立に対し、あえかに咲む佳人。
 彼女は幾許か間を置くと、額に貼られた霊符を揺らして言った。
「今ご飯美味しくないんですよ」
 舌だけでは無い。
 味覚、温度、涙、睡眠、記憶――。破滅の焔と共に征く身が焼き焦がしたものを顧みた神楽耶は、儚げに笑顔を溢す。
「――『ウソですよ』って言えたら良かったんですけど、ね」
 淡く綻ぶ花顔の人ならぬ蒼白さが、今はやけに似合っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冬原・イロハ
(色々おまかせ)

カタタン、カタタン♪
どこか懐かしい優しい音は、ブナさんが歌っているかのようですね

香りをくんくん
ブナさんの綺麗な幹が広がる光景はとっても好きだなって思う
新しい「好き」がまた一つ増えました
色んな世界の空も、大地も、生き物も、訪れるたびに知ったそれらは私の「好き」になるんです

素敵な衣装をありがとうございます
ブナさんの音を聴きながら森を進みます
はわ、まくらさん……
ものすごくお昼寝したい気分です
はわ、マッサージ気持ちよい

はっ、いけません……!
ここはドンガッキで弦をかき鳴らします
軽快なリズムでUC
マッサージはトントントトンと叩くものに
はい、起きました! と、そのままドンガッキで殴ります



 カタタン、カタタン。
 今度のお客様は可愛い猫の妖精さん。
 不思議の森にようこそいらっしゃいました。
 山毛欅(ブナ)らに「好き」を教えてくださいな。

「カタタン、カタタン♪」
 足踏み裁縫器(ミシン)の音に合わせ、淸澄のソプラノが囀る。
 落ち葉の敷き詰められた土から根を出し、器用に踏板を揺らして齒車を回す山毛欅たちを見渡した冬原・イロハ(戦場の掃除ねこ・f10327)は、雪白の耳をピンと立てながら、森の小路を歩いていた。
「どこか懐かしい優しい音は、ブナさんが歌っているかのようですね」
 木洩れ日を踏み、枝葉を揺らす風の匂いにくんくんと鼻を寄せる。
 豊かな秋を胸いっぱいに焚き締めたイロハは、白色の綺麗な幹が眞直ぐに伸びて広がる光景に碧瑠璃の佳瞳を細めた。
「――新しい『好き』がまた一つ増えました」
 瞼を閉じて、これまでに集めた「好き」を思い出す。
 空も、大地も、生き物も――過去の記憶を遺失(うしな)った彼女にとって、無垢の瞳に映るもの全てが新鮮で、世界を識るごとに空の器に「好き」を満たしてきたイロハは、時に、己が肌膚を撫でる上質の生地に目を開けると、ふわり微咲(えみ)を溢した。
「わぁ、素敵な衣装をありがとうございます」
 知恵を詰めた三角帽子に、夜色のワンピースは南瓜型のポケットを付けて。
 藍天鵞絨のマントは飾紐(リボン)結びに、内側には悪戯な蝙蝠を羽搏かせ。
 何とも愛らしい「幽邃の森の魔女」に仮装したイロハは、カタカタンとミシンを動かす山毛欅に合わせ、トコトコと軽やかに森の小路を歩いた。

 ――時に。
「はわ、まくらさん……」
 三角帽子のブリム(鍔)が撫でられたような、不思議な感触にイロハが蒼穹を仰ぐと、刹那、木立をぽわぽわと擦り抜ける海月魚(クラゲ)が鼻頭を掠めた。
 ぽわわ、と撫でる透明の触手が心地佳い夢寐へ誘おう。
 イロハは宝石のような双瞳をとろんとさせて、
「ものすごくお昼寝したい気分です……はわ、マッサージが気持ち良くて……」
 丁度ふっかふかの枕もある。
 頭を置くや直ぐに夢を見させてくれそうな……極上の眠りが……ここに……。
「はっ、いけません……!」
 三角帽子がほろと傾いた瞬間、慌てて其を被り直す。
 折角の衣装に皺を作ってはならないと凛然を萌したイロハは、きゅっと握り込めた手に竪琴『ドンガッキ』を持つと、力強く弦をかき鳴らした。
 軽快なリズムで紡がれるは【インスパイア・メロディ】――金属製の竪琴は震える程にイロハの眠気を晴らし、七色の旋律を森に透徹(すみわた)らせる。
「はい、起きました!」
 スッキリとした花顔を鍔広の帽子の下で見せたイロハは、次いで悠遊と游ぐ海月魚達を瞳に射止めると、そのままドンガッキで殴り始めた!!
「イロハ、いきまーす」
 ゴッ、ゴッ、と結構な力で殴り倒していく可憐な魔女。
 カタカタとミシンの鳴る森に鈍い金属音を混ぜたイロハは、海月魚という海月魚を狭霧と變えると、軈て晴れゆく森の奥に「なんかめちゃくちゃ長い一本道」を見出し、これぞ進路と爪先を向けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御形・菘
いや、ちょっ…
妾は常時無茶振りウェルカムではあるがな?
こういう時はホラー度MAXとか、失笑系コミカルネタとか投げるのがお約束であろう?

こっ、こんな可愛らしいお姫様ドレス! 「今」の「妾」が着るのは!

いや落ち着こう私、限りなくアウトに近いセーフ!
一度振られた以上拒否しちゃダメ!
ナレーションとか入れて、なんとか編集で纏めて…

…そして少なくとも肉眼での目撃者は、口封じをせんといかんなぁ?

右手を上げ、指を鳴らし、降り注げ流星よ!
攻撃回数、弾数を限界まで増やし、眠気覚ましに何もかも巻き込んでブチ込む!
これで安らかな寝顔まで晒すなど本当に絶対NG!

妾の真の好きもなりたいものも、妾だけが知っていればよい!



 真の蛇神にして邪神、そして猟兵屈指の動画配信者である御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)は、オウガが2,000kcalのラーメンを出せば寧ろ汁まで啜ってやったろうし、オウガが10段のトランプタワーを作ったなら、全集中して50段でも組んでやったろう。
 だが、然し。
「いや、ちょっ……うむ、妾は常時無茶振りウェルカムではあるがな?」
 山毛欅らが丹精尽くして縫ったという衣装は。
 飜然(ひらり)と秋風に乗って届いた衣装は。
 何でも御座れと胸を叩く菘をやけに狼狽させた。
「ほら、こういう時はホラー度MAXとか、失笑系コミカルネタとか投げるのがお約束であろう? のう?」
 何故だろう、きょろきょろと辺りを見渡してしまう。
 慥かに貴女の心を覗いたと、得意げに枝葉を揺らす山毛欅に冷や汗が流れる。
 眼路を過った其に思わず手を伸ばした邪神は、戰慄く手の代わりに蛇の尻尾をびったんびったん、大地を叩いて落ち葉を舞い立たせた。
「こっ、こんな可愛らしいお姫様ドレス! 『今』の『妾』が着るのは!!」
 引き裂くか? いやいや。
 突き返すか? いやいや。
 上質なミカドシルクの光沢も、可憐で繊細なシルエットも、柔かさにも厚みのある綾織(レース)も、楚々と波打つフリルも、實の處、どストライクなのだ。
 不覚えず躰に宛てそうになる手をハッと引き剥がした菘は、胡亂な星眸(まなざし)に距離を取り、
「……いや落ち着こう私、限りなくアウトに近いセーフ!」
 勢い佳くセーフを口にした紅脣は、然し動揺の餘り滑る言を「素」に戻していた。
「一度振られた以上、拒否しちゃダメ! 後でナレーションとか入れて、なんとか編集で纏めて……」
 邪神の風格を手放し、しどろもどろに呟いていた菘は、己が影を覆い隠す半透明の巨影――悠々と森を游ぐ海月魚(クラゲ)をハッと仰ぐと、チロリと舌を出して言った。
 丹花の脣を滑る佳聲は恐ろしく鋭利(するど)く、冷淡(つめた)く――。
「……少なくとも“肉眼での目撃者”は、口封じをせんといかんなぁ?」
 妖艶に持ち上がる語尾に迸発(ほとばし)る、覇気――!
 ぽわぽわと安らけし闇を吐き、ぷくぷくと幽光を浮かべるオウガを吃ッと睨めた菘は、右の繊手を天に掲げるや、彈指ッ! 毎日練習していたら呼べるようになったという超技【ほしのなみだ】(スター・ティア)を数多と降らせた!!
「降り注げ流星よ! 妾が覚醒させた超常の異能で、眠気をブチのめす!!」
 己の「好き」が暴かれた上、更に安らかな寝顔まで晒すなど本当に絶対にNG!
 一匹残らず確実に仕留めると心に決めた菘は、攻撃回数を――彈数を限界まで増やし、煌々と尾を引く箒星を驟雨の如く注ぐ。
 枕に扮した海月魚を悉く流星に撃ち抜いた菘は、狭霧となって消えゆく邪の靉靆の靄を切り裂き、目下🔴REC点灯中の『天地通眼』の画角に切り込む。
「妾の真の『好き』も『なりたいもの』も、妾だけが知っていればよい!」
 ギンッと鋭い金瞳にカメラを射た菘は、邪神のペルソナを取り戻して雄渾と過ぎると、その勢いでなんかめちゃくちゃ長い一本道を驀進していった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

冬薔薇・彬泰
山毛欅の木の下
微睡み、緩やかな時を過ごすもまた一興
…そう睨まないで下さい、レディ
きちんと仕事は熟しますので

打刀を抜く
揺蕩う海月を【剣刃一閃】で仕留める
…ふむ、幾ら斬り伏せようと血で穢れぬのは有難い
然し如何せん数が多い
此れでは何れ僕も夢の中だろう
瞼が落ちる誘惑に耐える
刹那、視線の隅より飛び出した物に目が向く
猫耳と…尻尾が付いた黒い装束
ええっと……これを着ろという事かな?
小恥ずかしいけれども、背に腹は代えられない
…袖を通すと驚く程体に合うのも恐ろしい
『あら、御似合いよ?』…って?
レディ、笑いながら云う言葉ではないよ
…やれ、婦人の腹が捩れぬ前に片を付けねば

*苗字+君呼び
黒猫の使い魔を『レディ』と呼ぶ



 カタタン、カタタンとリズム佳く齒車を回す足踏み裁縫器(ミシン)。
 縫い子の山毛欅らは土から出した根株を脚に、随分と器用に踏み板を揺らすものだと、冬薔薇・彬泰(鬼の残滓・f30360)が感嘆を溢す。
 軽妙な音に歩調を合わせた彼は、硝子越しに赫緋の麗瞳を柔かく細め、
「山毛欅の木の下、微睡み、緩やかな時を過ごすもまた一興」
 極上の枕に頭を預け、夢寐を貪ろうか。
 果して夢寐を貪るのは枕であろうか。
 云って吃々と竊笑を溢した時、不圖(ふと)、己と跫音を揃える黒影を見遣る。
 我が使い魔たる黒猫婦人『椿姫』の、幾許にも何か言いたげな視線に気付いた彬泰は、彼女を宥める様に優婉のハイ・バリトンを滑らせた。
「……そう睨まないで下さい、レディ。きちんと仕事は熟しますので」
 莞爾と頬笑む丹花の脣より僅かに覗く八重齒が印象的だろうか。
 硬質の指は打刀『赤光』をすらり抜くと、山毛欅の木立をぽわぽわと擦り抜ける海月魚(クラゲ)目掛けて【剣刃一閃】――銀雪と耀ける刃に薙ぎ払う。
 而して躯を別った海月魚は、ふよ、ふよ、と漂流って霧に靄に。
 軈て靉靆と棚引いて霧散するのを見た彬泰は、「ふむ」と聲を置いた。
「――成る程、幾ら斬り伏せようと血で穢れぬのは有難い」
 直ぐに衣を返り血で穢す、不器用な血濡れ鬼には御し易い手合。
 然し如何せん数が多い、と佳脣を引き結んだ彬泰は、安らけし闇を吐き、心地好い光を泡と浮かべる邪影を烱眼に射るも、漸う忍び寄る睡魔に柳眉を顰める。
「此れでは何れ僕も夢の中だろう」
 枕に扮した海月魚が悠々と揺蕩い、己が夢裡(ゆめ)を欲している――。
 次第に重みを増す瞼の、甘美な誘惑に耐えていた彬泰は、刹那、我が眼路の隅より飛び出した何かに、自ずと視線を結んだ。
「これは――」
 咄嗟に伸ばした手が、黒い装束を摑み取る。
「猫の耳と……尻尾が付いた……ええっと……これを着ろという事かな?」
 其は山毛欅らが丹精尽して縫い上げた仮装衣裳。
 森の小路を往く彬泰の心を覗いた山毛欅らは、彼の「好き」をカタチに――艶めく夜の帳で身を飾る猫を衣裳にして、彼に袖を通すよう促したのだ。
 好きかと問われたなら、凄艶の探偵は慥かに首肯いたろう。
 然し「なる」かと言ったら、矢張り含羞が差すのは否めない。
「…………小恥ずかしい。けれども背に腹は代えられない」
 瞼を覆った掌(たなぞこ)を、観念したように袖に通す。
 袖は餘らず窮屈でも無く、驚くほど身丈に合う衣裳を恐ろしいと思いながら、夜色の猫となった彬泰は、足許から注がれる視線に流瞥(ながしめ)を返す。
「……『あら、御似合いよ?』って? レディ、笑い乍ら云う言葉ではないよ」
 気高き婦人は嗤笑すら品が馨れるが、彼女を悦ばせているのは正に己で。
「――やれ、婦人の腹が捩れぬ前に片を付けねば」
 困った様な微咲(えみ)を湛えた黒猫探偵は、漆黒に包まれる身に刀の輝きを差すと、また一閃――ぷかぷかと浮かぶ海月魚を悉く薙ぎ払って「道」を開いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
嵯泉/f05845と

何で連れて来たかって、嵯泉の仮装って珍しいよなーって思って
はは、気のせいだよ

好きなもの……困るな
どんな格好でもしてやる!って覚悟は決めてるけど
一杯ありすぎて絞りきれねえ
家族も友達も――ん?何だよ蛇竜
お前のことも大好きに決まってるだろ!

(飛来する蛇竜の着ぐるみ)

好きだけどさあ!!!
でもどんな格好でもするって言った
竜は嘘吐かない
着てやるよ!!着てやるとも!!
起動術式、【永伴】
お揃いだぞ蛇竜!!クラゲなんか焼き尽くしちまえ!!!
笑うな嵯泉!!!
誤魔化せてないからな!

……嵯泉さあ
めちゃくちゃ似合ってんの、普通にずるい
おまえも笑われるような格好しろー!!
全ッ然褒められてる気しねー!!


鷲生・嵯泉
ニルズヘッグ(f01811)
好奇心の餌食になってくれと云われた様な気がするが……

……好きなもの、か
いかんな、思い浮かばなくてお前とは逆の意味で困る
精々本や刀位――ああ、後は博物館辺りか
(飛来する「学者」を連想させる衣装。詳細お任せ)
此れは……戦いの“た”の字も熟せん研究者という事か…?
確かに私では考えない様な格好ではあるが
動き難い事この上な、い……っッ
(横を見る。笑いの衝動を顔背けて堪える)
(咳払い1つ)私も動かずに済む遣り方にしよう
――禁精招来
構わん、「好きな様に潰せ」
……笑ってない。笑ってないぞ

いや、ずるいと云われてもな
お前も良く似合っていると思うが
女子供に大受けするんじゃないか……多分



 生眞面目な男の仮装を見てみたいと思った。
 沈着たる男の珍しい表情を見てみたいと思った。
 だから連れて来た、と落葉を踏んだニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)は、カタカタと足踏み裁縫器(ミシン)の音が響く不思議の森へと進み往く。
 その影を追うは鷲生・嵯泉(烈志・f05845)。
 彼は欣喜を隠さず揺れる竜尾に胡亂な星眸(まなざし)を注いで、
「好奇心の餌食になってくれと云われた様な気がするが……」
「はは、気のせいだよ」
 背越しに返る優艶のテノール・バリトンに、溜息をひとつ。
 不圖(ふと)森を見渡せば、そこに群生する山毛欅らが土から根を出し、其を足に踏板を揺らして齒車を回している。
 お喋りでお節介な縫子は軽妙に語ろうて、

 カタタン、カタタン。
 不思議の森へ、ようこそいらっしゃいました。
 どうぞ、お客様。お望みのものを仰ってくださいな。
 山毛欅らが「好き」を「カタチ」にして差し上げましょう。

「好きなもの……困るな」
 裁縫器の音に跫を合わせていたニルズヘッグが足を留める。
 盟友を誘ったからには、竜の仔は如何なる衣裳も受け入れようと覚悟を決めていたが、己が胸奥は沢山の「好き」に満たされていて、中々一つに絞り切れない。
「家族も友達も――ん? 何だよ蛇竜」
 細頤に指を添えて考えていたニルズヘッグが、傍らに控える『Ormar』の物言いたげな視線に流瞥(ながしめ)を結べば、蛇竜は懸命に尻尾をふりふり。
 人語を介さずとも通じ合ったニルズヘッグなれば、その可愛らしいアピールに絆され、大きな掌で額をぐりぐり撫でてやった。
「お前のことも大好きに決まってるだろ!」
「クー!」
 氷竜と蛇竜が笑顔を揃える微笑ましい景に、隻眼の辰砂の色を和らげる嵯泉。
 この時、端整の脣はつと言を滑らせて、
「……好きなもの、か」
「如何した、嵯泉」
「――いかんな、思い浮かばなくてお前とは逆の意味で困る」
 果して己は何を好もう?
 精々が本か刀くらいか――、
「ああ、後は博物館辺りか……」
 知の結晶たる嚴粛な世界を快く思っていると口を衝いた矢先、眼路を遮る何かに咄嗟に手を伸ばし、摑み取る。
 見れば其は、アビ(上着)、ジレ(中衣)、キュロット(乗馬袴)で構成されるアビ・ア・ラ・フランセーズ。緻密な金糸刺繍を施し、多彩な宝石で飾り立てた西欧の盛装は、主に上流階級の知識人が着用したものだ。
 嵯泉には馴染みの無い衣装だが、戰闘装束でない事は一目で判然ろう。
「此れは……戰いの“た”の字も熟せん研究者という事か……?」
「品はあるな!」
「確かに私では考えも及ばぬ格好ではあるが……動き難い事この上な、い……っッ」
 襟元のネック・クロスは我慢するとして、袖の縁飾(フリル)は刀の邪魔になる。
 鬘があれば立派な哲学者を名乗れたろうか、蓋し典雅の知識人が刀を振るうギャップは中々に愉しく、これは見物と麗眸を細めたニルズヘッグは、己にも届けられるふわもこの衣装に視線を落とすと、あまりの可愛らしさに愕然とした。
「こ、れは……蛇竜の……着ぐるみ……」
 気高き竜の鱗は、お肌に優しいオーガニックなパイル生地に。
 何者にも染められぬ漆黒の身は、万人に愛されるまろやかなフォルムをして。
 誇り高き竜の息吹を紡ぐ口は、そこから顔を出せる仕様になっている。
「――好きだけどさあ!!!」
 随分とデフォルメされた蛇竜の着ぐるみに、思わず声を荒げるニルズヘッグ。
 蛇竜が大好きなのは間違いないが、「なる」かどうかは別の話で――然し「どんな格好でもする」と決めた竜の仔は、半ばヤケクソに頭から被った。
「着てやるよ!! 着てやるとも!!」
 何故なら竜は嘘を吐かない。
 斯くして灰燼色の呪いを宿す竜の忌み子は、ほっこり可愛い蛇竜となり、この悲愴――遣る瀬無さを衝突(ぶつ)けるように、森を漂流う海月魚を睨めた。
「起動術式、【永伴】(シンモラ)――! お揃いだぞ蛇竜!! 枕面したクラゲなんか焼き尽くしちまえ!!!」
「クー! ――……グァァァアアアッッ!!」
 時は須臾。
 地獄の底まで共にすると契を結んだ相棒が、術式により竜の血統を増強し、一対の巨大な角を生やした蛇竜と變じる。
 黒き巨蛇竜はニルズヘッグに代わって激情の炎を吐き、ぽわぽわと浮かぶ海月魚を灼熱に包むと、儚き狭霧と掻き消した!
 蓋し竜の仔は収まらない。
 金色と耀ける烱眼は、視界の隅――ついと鼻梁を反らし、笑いの衝動に耐える男を聢と捉えており、
「笑うな嵯泉!!! 誤魔化せてないからな!」
「……笑ってない。笑ってないぞ」
「肩、震えているだろ!!」
 黒手袋に覆われる硬質の指で麗顔を隠していた嵯泉は、其を握り込めてコホンと咳払いすると、而して蛇竜の戰い方は妙を得ていたと所感を置いた。
「私も動かずに済む遣り方にしよう」
「嵯泉!」
「――禁精招来。構わん、“好きな様に潰せ”」
 刻下、小柄の内より万物必滅の術を操る「歳殺神」なる軍神を召喚した嵯泉は、かの者の凶方に坐し殺氣を司る力を借りて、木立を擦り抜ける海月魚の悉くを打ち払う。
 然れば枕と扮した海月魚たちは、躯を別たれるや霞か靄と漂って、嵯泉の琥珀色の髪を撫でる風となって消えた。
 彼の立ち回りを傍らで見ていたニルズヘッグは、恨めしそうに聲色を落として、
「……嵯泉さあ。めちゃくちゃ似合ってんの、普通にずるい」
「いや、ずるいと云われてもな」
 困った様に視線を結ぶ男前を、ふかふかの肘で小突く。
 些し踉蹌(よろけ)た嵯泉は、宥めるように言を足すが、6フィートを優に超える蛇竜の機嫌は、ちょっとやそっとでは佳くなりそうに無い。
「お前も良く似合っていると思うが、女子供に大受けするんじゃないか……多分」
「全ッ然褒められてる気しねー!! おまえも笑われるような格好しろー!!」
 頭首をブンブン、尻尾をブンブンと振って(気休めの)慰みを払ったニルズヘッグは、半ば嵯泉を追い立てるようにして、なんかめちゃくちゃ長い一本道を進むのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

守田・緋姫子
日輪・黒玉と同行。二人称はクロタマ呼び。

ハロウィンか。悪霊である私の出番だな。ジャパニーズ・ホラー映画のような本格的な恐怖演出で大人たちを泣かせーー。

意気込んでいたところ、世話好きなブナからフリフリのゴスロリドレスをよこされる。

......これを、着ろと?

......凄く可愛いけど私には似合わないと思うのだが。テンション高めのブナのお姉さんと押し問答。

黒玉にも勧められ、恥ずかしいのを我慢して仕方なくフリフリドレスに着替えて戦う。

だがクロタマ! お前も道連れだ!
このフリフリを着ろ!

フリフリ、よく似合ってるぞ。格ゲーの足技主体の女キャラみたいで。

ヤケクソになり、黒玉と一緒にクラゲを撃破していくぞ。


日輪・黒玉
緋姫子(f15154)さんと

やれやれ、大きな戦も終わったというのに変わらず騒がしいことです
敵が居るならば狩るだけですが
黒玉は誇り高き人狼ですので

ドレスを渡された緋姫子さんを見れば、愛らしい姿にぴったりなのでよく似合うのでは?と勧めましょう

さて、私は……私も緋姫子さんと同じようなコレ(フリフリ)を着ろ、と
……このように動き辛そうなのを私の好みではないのですが
……それは褒められているのでしょうか、と緋姫子さんの言葉にむすっとしながら、少し恥ずかしげに

ええい、動き辛いですがこの程度で黒玉は止まりませんよ……!
【ダッシュ】で残像と共に駆けつつ、【ジャンプ】や【スライディング】で避けながら蹴り込みます



 迷宮災厄戰では随分と愉快な戰場を踊らされたが、まだ残っていたとは――。
 悲劇のアリスを味わう為とは言え、オウガ・オリジンも「現実改変ユーベルコード」の無駄遣いしたものだと溜息が零れる。
「やれやれ、大きな戦も終わったというのに変わらず騒がしいことです」
 本当に騒がしい、と冷ややかに告ぐ日輪・黒玉(日輪の子・f03556)。
 目下、彼女の秀でた狼の耳は、カタカタと齒車を回す足踏み裁縫器(ミシン)の音と、お喋りな山毛欅(ブナ)の話し聲を否応にも拾っており、

 カタタン、カタタン。
 これはこれは、愛らしいお嬢様方。
 不思議の森へ、ようこそいらっしゃいました。

 カタカタ、カタン。
 どうぞ、お嬢様。お望みのものを仰ってくださいな。
 山毛欅らが「好き」を「カタチ」にして差し上げましょう。

「今時はハロウィンでね。山毛欅らも仮装衣裳を縫うのに張り切っているのだヨ」
 地から引き抜いた根を足に、器用に踏み板を揺らすものだと感歎を添えるジャック・オ・ランタンも、山毛欅らと同じ愉快な仲間か。饒舌な紳士の前で、落葉を踏む足を止めた守田・緋姫子(電子の海より彷徨い出でし怨霊・f15154)は、丹花の脣にそと言ちた。
「ハロウィンか。ならば悪霊である私の出番だな」
 木立を抜ける秋風に裾を揺らす血塗れのワンピースは自前のもの。
 しゃき、しゃき、と音を鳴らす血錆の鋏に悪霊を呼べば、己一人で百鬼夜行できるが、山毛欅らが仕事をしたいと言うなら任せても良い。
 緋姫子は吃々と竊笑して、
「ジャパニーズ・ホラー映画のような本格的な恐怖演出で大人たちを泣かせよう」
 首筋にヒタリと迫るような、怯える者の五感を研ぎ澄ます恐怖。
 極上のホラーで物分かりの佳い大人をぴえんぴえん泣かせてやるぞと口角を持ち上げた少女は、刻下、飜然(ひらり)と眼路を遮る衣裳に時を止めた。
「泣かせ――……」
 優雅なドレープにふんだんに綾織(レース)をあしらった豪奢なスカート。
 所々に可憐な絹紐(リボン)を結び、清楚な縁飾(フリル)と繊細な金糸刺繍が粋美を際立たせる――ゴシック・アンド・ロリータのドレスが手元に置かれる。
「……これを、着ろと?」
 少女が疑問符に語尾を持ち上げれば、山毛欅らはゆさゆさと枝葉を揺らし、「貴女の為に丹精尽して繕ったのです」と答える。
「……凄く可愛いけど、私には似合わないと思うのだが」
 どうぞご安心くださいな。
 薔薇を添えたヘッドドレス、靴下にも、ちゃあんとフリルを縫っていますから!
「ああ、フリルの量は問題ではない」
 大丈夫、更衣室は用意してあります。
 山毛欅らが紅葉のカーテンにお迎えし、切株のドレッサーでお粉をはたきましょう!
「いや、着替えや化粧の心配はしていなくて」
 ええ、ええ、お代はご無用です。
 山毛欅らはお嬢様がお似合いの衣裳を着るのが何よりの報酬に御座います!!
「……譲らないな。これでは埒が明かない」
 言葉遣いは丁寧ながら、枝葉を手足にグイグイ更衣室へ連れていこうとする山毛欅らに緋姫子が一歩を躊躇う傍ら、双方の押し問答を面白い寸劇でも観るかの様に眺め見ていた黒玉は、言を添えて、
「緋姫子さんの愛らしい姿にぴったりかと」
「待てクロタマ」
「見たところ寸法も合ってますし、よく似合うのでは?」
「成る程、山毛欅らの味方か……」
 ならばと伸びた掌が、黒玉の雪白の繊手を摑む。
 グイと花顔を突き合わせた緋姫子は佳聲を彈き、
「だがクロタマ! お前も道連れだ! このフリフリを着ろ!」
「私も、ですか? 見るからに動き辛そうな衣裳は、私の好みではないのですが」
「問答無用!」
 有無は言わせぬ。
 緋姫子と山毛欅らは胡亂臭そうにフリフリを見詰める黒玉を紅葉のカーテンの向こうへ押し込むと、素早く着替えさせ、お粉をはたいてトータルコーディネートした。(無論、緋姫子も同様の手順を追った。)

 ――斯くして。
 山毛欅の化粧室から解放された緋姫子と黒玉が、互いの變容に喫驚の色を差す。
 靜けきモノクロームの世界を顕したかのような衣裳は、全体のデザインは同じながら、白と黒の部分をそのまま反転させて、まるで鏡を成すドールのよう。
「……想像した以上に似合っています」
 黒玉がお世辞を言わぬ性格とは緋姫子も知っていよう。
 少しは驚かせたかと、飾らぬ言を受け取った彼女も繕わずに褒めて、
「フリフリ、よく似合ってるぞ」
「豈夫(まさか)」
「いや、格ゲーの足技主体の女キャラみたいで佳いじゃないか」
「……それは褒められているのでしょうか」
 ついと鼻梁を反らすのは、照れたからか。
 むすっとしながらも白皙をほんのり染めた黒玉は、キャッキャと色めく山毛欅の木立をずんずん進むと、蒼穹を悠々と游ぐ海月魚(くらげ)を見遣り、漸う凛然を萌す。
「手早く済ませましょう」
 敵が居るならば狩るだけだと、エナメルのパンプスに大地を踏み込める。
 須臾に爪先を彈いて落葉を舞い立たせた凄艶は、【黒玉狼の舞踏】(ビターステップ)――残像を連れて木立を駆け、神速で碧落を躍り、宙空に浮かぶ邪に踵を落とす。
 フリフリが瑞々しい脚に絡むが構わない。
「ええい、動き辛いですがこの程度で黒玉は止まりませんよ……!」
 誇り高き人狼は、この身に何を纏おうとも、如何な戰場であろうと踊ってみせよう。
 黒玉が華麗な足捌きに海月魚を蹴散らせば、其を仰いだ緋姫子は落葉の敷き詰められた大地に呼び掛け、彼女を支援する悪霊を喚ぶ。
「クラゲ、お前も道連れにしてやろう」
 刻下、土を衝き上げて顕現れる手は、【早すぎた埋葬】(スタンド・バイ・ミー)――海月魚に夢寐を鹵掠(うば)われ、非業の死を遂げた者たちを骸の海からゴーストとして呼び寄せた緋姫子は、続々と伸び出る腕に邪を摑ませ、冷たい抱擁を以て死に連れた。
 ぽわぽわと浮かぶ邪影の悉くを狭霧と變えた二人は、天地に佳聲を結び、
「狩り尽します」
「ああ、もうヤケクソだ」
 更に寝顔を晒すなど言語道断。
 眠気に襲われるより速疾く掃除するだけだと瞥見を交した後は、鏖殺の氣の迸発(ほとばし)る儘に敵を薙ぎ倒し、なんかめちゃくちゃ長い一本道を駆けて行った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『クラーケン』

POW   :    真夏の夜の夢
非戦闘行為に没頭している間、自身の【見ている夢 】が【現実に置き換わり】、外部からの攻撃を遮断し、生命維持も不要になる。
SPD   :    夢と現実の狭間を泳ぐもの
レベルm半径内の、自分に気づいていない敵を【亜空間から飛び出しての奇襲 】で攻撃する際、ほぼ必ず狙った部位に命中する。
WIZ   :    夢幻泡影
自身からレベルm半径内の無機物を【現実を溶かし、幻にする無数のシャボン玉 】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠渡月・遊姫です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 カタカタ、カタンカタン。
 よくお似合いですよ、お客様。
 どうぞこのまま、一本道を歩いてくださいな。
 道の向こうに見えた雲海が、お客様の目指す場所。

 カタタン、カタタン。
 其処はなんでも揃う雲のキッチン。
 雲のフライパンに雲のオーブン、雲の冷蔵庫には食材もあります。
 どうぞ料理を作ってくださいな。

 カタカタカタン、カタカタカタン。
 ココロを籠めて作った料理だけが、あれを止められる。
 あれは夢の代わりに料理を食べて、お腹いっぱい、眠くなる。
 どうか、どうか、お客様。
 乱暴なあれを追い払ってくださいな。

 カタカタ、カタカタ……。
 カタカタ、カタタン……。
四軒屋・綴(サポート)
※口調
・語尾に「ッ!」がつきます(重要)
・敵には『貴様ッ!』
・一般人には『貴方』
・『~なのだなッ!』
・身振り手振りを多用します

※台詞例
・「仲間の為ならえんやこらッ! だッ!!」(だんだん《!》が多くなります)
・「良い夜だな、ご令嬢"フロイライン"。」(ルビを《"○○"》の形で振ります)

※行動例
・「なるほどッ! 了解だッ!!」(素直)
・「流石だ○○さんッ!」(サムズアップ)
・「生憎だがな、貴様達は此処が『終点』だッ!!」(それっぽい台詞)

ヒーローであろうとする一方、自分のことをヒーローとは呼ばず、正義を名乗る敵には一層の憎悪を抱く、ヒーローの仮面を被った面倒な奴です。

被弾とか破損とか全然OKです


スフィア・レディアード(サポート)
『皆さん、頑張りましょう!』
 ミレナリィドールの妖剣士×鎧装騎兵、20歳の女です。
 普段の口調は「女性的(私、あなた、~さん、なの、よ、なのね、なのよね?)」、機嫌が悪いと「無口(私、あなた、呼び捨て、ね、わ、~よ、~の?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。

性格は元気で、楽しい祭りとかが好きな少女。
武器は剣と銃をメインに使う。
霊感が強く、霊を操って戦う事も出来る(ユーベルコード)
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!


高柳・源三郎(サポート)
旅芸人一座の座長、それが高柳源三郎じゃ!!(まだ零細なんじゃがな......)。
性格は酔いどれおやじじゃが旅芸人一座の座長なので本番(戦闘)では酔いが殆ど覚めて戦うことが出来るんじゃ。
武器である【不思議なたぬき人形「はな」】【暗殺用たぬき人形「たろう」】を使いまるで踊りや人形劇をするかのう様にユーベルコードを使い戦うのじゃ。時々【竜珠】に封じ込めてある骸魂・八岐大蛇に乗っ取られて暴れて回ってしまうんじゃ。
情報収集は芸をして道行く人の足を止めて人達の噂話を聞けば集められると考えてとるんじゃ。
口調は(わし、~殿、じゃ、のう、じゃろう、じゃろうか?)です。


笹鳴・硝子(サポート)
『黙って眠れ。過去は帰らないからいとおしいんだ。』
 オラトリオのシンフォニア×シャーマンですが、羽と花はしまってます
 普段の口調は(私、あなた、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)大体丁寧で声を荒げることもありません
表情ほぼ無く、常に真顔


UDC【晶】(口調は小学生低学年っぽい)を弟と言い、『おねえちゃん』と呼ばれます

死よりは生
意に反した生よりは死

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
エロ不可
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!


左衛門三郎・白雷(サポート)
 雷と戦を司る竜神の剣豪×神器遣い、25歳の男です。
数多の死線を潜り抜けた先に有る『何か』を求めて戦い続けている様な戦好きですが、性格は穏やかです。

戦闘では、竜の雷を操る他、居合術や投擲技術を駆使して戦います。

 普段の口調は「男性的(拙者、呼び捨て、だ、だな、だろう、なのか?)相棒には 友好的に(拙者、相棒、だ、だぜ、だな、だよな?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



 眞っ白な海原にザブンと顔を出し、大きな口を開けて虚空を飲み込む魔魚。
 体長115フィート(約35メートル)に及ぶ巨躯は、ぐるり旋回するや龍の如き背鰭に雲海を裂いて沈降し、斧鉞の如き尾鰭に雲霞を叩いて消える。
 これだけ大きな口を開くなら、料理は投げ込めようか――。
 然し「ほぼ無敵」状態となった雲海の怪物『クラーケン』を水面上に、いや雲居に引き付け、その苛烈な攻撃に耐えながら料理を作るのは中々に難しかろう。
 ここは料理を作る者と防禦に専念する者と分けるべきかと顔を見合わせた猟兵の中で、なれば我こそが巨邪に対峙しようという雄渾の足が一歩、前に踏み出た。

「なるほどッ! 無敵のオウガと戰い続ける……了解だッ!!」
 硬質な二本の指をビシッと突き付けッ、片脚に重心を預けて屈伸ッ、カッコいいポーズ(たぶん)で應と答えた四軒屋・綴(大騒動蒸煙活劇・f08164)は、眼前に広がる雲海にクラーケンの航行の跡を見つけると、素銅と耀ける両腕を進路に向けた。
「仲間の為ならえんやこらッ! だッ!!」
 爆速推進ッ、炉・勁・列・車(ロケットレイン)――ッ!
 背部に搭載した蒸氣機関車型サブジェネレータ『懸架蒸甲アームズジョーク』を両腕に装着ッ、我が電脳魔術を炉と燒べて蒸氣を噴き上げた綴はッ、轟音を叫喚(さけ)ぶ其を須臾に発車したッ!!
「幻のシャボン玉よッ!! 割れて現実に戻れッ!!!」
 刻下、猛然と驀進する蒸氣機関車が夢幻の泡沫を掻き消す――ッ!!
 巨魚が進むごとに溶けていく現実を、元の無機物へと還した綴は、肩越しにカッコいいハンドサインを置いて、
「皆さんが料理を創り上げるまでッ、俺が引き受けようッ!!」
 何、『終点』の見えぬ戰いでも無い――と。
 綴の頼もしい言に励まされた猟兵が、間もなくキッチンへ駆け出した。

「皆さん、頑張りましょう! 私もお手伝いします!」
 義気凛然と金絲雀の聲を囀るはスフィア・レディアード(魔封騎士・f15947)。
 赫々と耀ける瑪瑙色の麗瞳に聢と敵影を映した佳人は、その大きさに喫驚の色を揺らすと同時、眼路の脇を疾走る仲間に協力を申し出た。
「皆さんはどうぞ料理に集中して、あのオウガをお腹いっぱいにして下さい!」
 シロナガスクジラよりも大きな怪魚の空腹を満たすには、相当な時間が掛かろう。
 強靭な力を身に付けたクラーケンを抑え込むのは難しかろうが、スフィアは丹花の脣をきゅ、と引き結ぶと、決然と両腕を広げた。
「……キッチンは絶対に壊させない!」
 彼女には、学者や魔導士達が何世代にも渡って研究した結果生まれた、叡智の結晶たる人型機械人形としての矜持がある。
 スフィアは周囲に漂流う霊素を掌に取り込むと、其を我が魔力で増幅して『霊素障壁』――エネルギーの盾と展開し、目下、料理に勤しむ仲間を守った。
 闘志を燃やした麗瞳は常に邪影を追って、
「夢も現実も無い世界へ――骸の海へ還してあげる」
 あなたが游ぐ世界は此処じゃない、と美しソプラノの音色を落とした。

「ほー、雲の海を泳ぐ巨魚を……これは大捕り物じゃ!」
 くりくりとした円(つぶら)な瞳に魔魚の遊泳を眺むは、高柳・源三郎(零細旅芸人一座の酔いどれ座長・f15710)。
 ふらりと雲海を訪れた彼からは、ふわりと酒の匂いが漂う気がするが、心配無い。
 酔いどれ親父は旅芸人一座の長にして歴とした猟兵にて、「本番」(戰闘)ともなれば淸冽なる白刃の如く覚醒(さ)え渡る。
 巨魚『クラーケン』が己が周囲の雲を夢幻のシャボン玉と變えゆくのを見た源三郎は、「成る程」と絡繰を見極めるや雲間に踏み出た。
「次はわしの出番じゃ!」
 開演、【源三郎の人形劇】(パペット・ショータイム)――!!
 無機物を操る術は心得ている、と小気味佳く笑った源三郎は、己もまた周囲に揺らめく雲を「操り人形」に變え、糸を操り操り、シャボン玉を次々と割り始める。
「扨て扨て、わしに敵うかのう?」
 まだまだ零細な旅芸人一座だが、座長の腕は超一流。
 ご安心召されよ、と芝居がかった口上を述べて人形を操った源三郎は、我が背中で精々(せっせ)と料理に勤しむ猟兵らを聢と守った。

「骸の海より這い出てきた過去が、現実を溶かして幻にする……」
 雲海に顔を出しては、跳ねて、沈降(しず)む――怪魚『クラーケン』がシャボン玉を潮と噴いて遊泳する様子を、羅紗染色の麗瞳に映した笹鳴・硝子(帰り花・f01239)は、淡く結んだ佳脣より靜かに言を滑らせた。
「此処は預かります。皆さんは料理の続きを」
 美し白皙に凡そ感情の色を差さず。
 唯だ烱々と冱ゆる瞳に玲瓏の彩を疾走らせた硝子は、【雷冥】(ヤミニカガヤク)――己が「弟」と呼ぶUDC『晶』を呼び、晃々と耀ける雷光を閃(はため)かせた。
「おいで、【晶】――遊ぶよ」
 あれで遊んで佳い、と繊指に怪魚の背鰭を示す『おねえちゃん』。
 然れば人語を解する獣の仔は好奇心の湧く儘にざわざわと影を騒めかせ、金眼を光らせるや目眩い稲光を疾走らせた。
 而して須臾。
『ブォォォオオオッッッ!!』
 周囲一帯が眞白く浮き立つほどの霹靂に、巨魚が激痛を叫喚(さけ)ぶ。
 耳を劈く程の絶叫を聽いた硝子は、愈々烱眼を鋭利(するど)くして、
「雷撃に弱い……」
 ほぼ無敵と言われる相手にも、弱点が残っていると見極めるや、周囲で戰い続ける仲間に伝えた。

「成る程、雷に弱いと――」
 なれば己が預ろう、と鼻緒を踏み込める剣豪が一人。
 聲の主は左衛門三郎・白雷(竜神の剣豪・f29303)――己は雷と戰を司る竜神なれば、怪魚の嫌がる雷を幾らでも紡いで遣れると眞白の雲海に躍り出る。
「どれだけ愉快な戰場だろうと、血闘の庭で出し惜しみは為ない」
 数多の死線を潜り抜けた先に有る『何か』を求めて戰い続ける男だ。
 部類の戰好きに吝嗇は居らず、白雷は爪先を蹴るや【竜神飛翔】――竜の形姿を暴き、その翼に風を摑んで速く、疾く――最高速度6,100km/hで翔けて邪影の背鰭を追った。
 而して赫緋の鋭眼は烱々と、雲海へ沈降(しず)みゆく怪魚を捉える。
「――狙うは、顔を出した瞬間か」
 斧鉞の如き尾鰭が雲霞を叩いて潜り、再び浮上する瞬間を虚空にて待ち構えた白雷は、クラーケンがゴプリと大口を開けて飛び出た、正に其の時、蒼穹を白ませた。
「充分(たっぷり)呉れて遣る。骨身に味わうといい」
『――ッブォォオオヲヲ!!!』
 閃雷――!!
 虚空と雲海を結ぶように幾筋も疾走った稲妻は宛如(まるで)檻。
 周囲一帯に雷電を見舞われた怪魚は、ジタバタと巨躯を動かし、キッチンへと向かう足を止めるのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

矢来・夕立
穂結さん/f15297

料理の上手いほうが主導でやるべきです。
ですから、穂結さんがやってください。……ええ、味はオレが見ますんで。
そう凝ったものは作りませんが、自炊はしてますよ。研いだり剥いたり切ったりは手伝いましょう。
手伝いつつ鶏の照り焼きの作り方を覚えておきます。

味も見た目も問題なく、以前通りの腕前ですね。
はいはい。せーの。
…食べましたね。
不味いわけがないので確認は要りません。最初から全速力で問題ないでしょう。
大口が開いたのならその中に式紙を詰め込んでもいいと思うんですよね。
ほら、見た目は魚ですから。詰め物料理みたいにしても面白いじゃないですか。
主菜にはなりませんが、パーティっぽくて。


穂結・神楽耶
夕立さん/f14904

味覚の有無と料理の腕は関係ありませんよ?
分量通りに材料入れるだけですし。
あー…そうですね。味見だけ頼んでいいですか?

ひとまずご飯をぱぱっと炊いてー。
お味噌汁は人参、ジャガイモ、豆腐にわかめ。
メインのおかずはお肉にしましょうか。
一口大にぶつ切り、ちょっとの蜂蜜を隠し味にした鶏の照り焼きです。
ていうか普通に手際いいですね、夕立さん。
料理してるんですか?

…味、大丈夫ですか?
ん、ならよかったです。
それじゃああの大口に鍋ごと行きましょう。
はい、せーの!
…美味しく食べてくれたみたいです。
煮ても焼いても食べられないオウガで詰め物料理なんて…
ほんとにパーティーみたいになりましたね?



 もくもくもく。もくもくもく。
 なんでもふわふわな雲のキッチンへようこそ!
 ココロをこめて作ってくれたら、「おいしくなぁれ」の魔法をかけるよ!

 この御時世だから、とアルコール消毒を勧めてくる雲のディスペンサーに両手を出し、矢来・夕立(影・f14904)がにゅむり出てくる薬液を揉み込む。
「どうぞ穂結さん主導でやってください」
 こう言うのは料理の上手い方がやるべきだと、緋瞳は眼鏡越しに一瞥して。
 見れば雲のチェストに呼ばれた穂結・神楽耶(あやつなぎ・f15297)は、差し出されたエプロンを腰の後ろでリボン結びに、料理の準備を整えていた。
 スッと通った鼻梁を見せた儘の彼女は、頭に浮かぶレシピを選んでいる處か、
「作り慣れたもので良いですか?」
 味覚の有無と料理の腕は関係無い。
 畢竟、料理は分量通りに素材を組み合わせれば、その通りの解を返す――科学や魔法と同じ正直者なのだと、雪白の繊手は雲の冷蔵庫へと伸びて。
 なんでもあるよ、と胸を張る冷蔵庫の中を一通り確認した佳人は、観音開きの両扉からひょっこり花顔を出し、夕立に問うた。
「あー……そうですね。味見だけ頼んでいいですか?」
「……ええ、味も見ますし、何なら助手もしますよ」
 目下、雲のシステムキッチンが嬉しそうに定番の歌を口遊んでいる。
 二人はイエッセルの行進曲に急き立てられるように、もくもく雲のシステムキッチンで料理に取り掛かった。

  †

 先ずは米を洗い、「かまど炊きやで」と主張する真空圧力IH炊飯器に後事を託す。
 お喋りな片手鍋に、人参、ジャガイモ、豆腐にわかめを入れてお味噌汁を作る。
「メインのおかずはお肉にしましょうか」
 冷蔵庫から鶏もも肉を取り出すと同時、キャビネットより片栗粉を持ち出す神楽耶は、矢張り料理に慣れているのだろう。流れるような動きに無駄が無い。
 而して鶏肉を受け取った夕立が、肉の厚みを均等にすべく四隅を外側へと切り開く――その手際の佳さにも驚かされよう。
「……普段から料理を?」
「そう凝ったものは作りませんが、自炊はしてますよ」
 元々、研いだり剥いたり切ったりは得意なのだ。
 包丁とて刃のひとつと鋭利な切り口に下処理を済ませた夕立は、甘味とコクが増すのだと言う蜂蜜の隠し味を學びつつ、美しい照りを帯び始める鶏肉にタレを絡めた。
 嗚呼、佳い匂い! と喜ぶキッチンツールに囲まれながら、竹串を差してみる。
「……味、大丈夫ですか?」
 神楽耶がそうっと語尾を持ち上げる隣、焼き上がりをひとつ口に運んだ夕立は、齒応えのあるパリッとした皮の美味しさと、柔らかな鶏肉から溢れるジュースィーな旨味に聢と首肯した。
「味も見た目も問題なく、以前通りの腕前ですね」
「ん、ならよかったです」
 星みっつ~! とキャビネットらがガバガバと口を開けて喝采する。
 皆々が「おいしくなぁれ♪」と歌い上げる中、ガスコンロから鍋を持ち上げた二人は、極上の薫香に釣られて向かい来る怪魚『クラーケン』に凛乎と視線を結んだ。
 大きく口を開けて迫る魔魚めがけて、鍋を構える。
 而して呼吸を合わせる。
「はい、せーの!」
「はいはい。せーの」
 ぽーい、と蒼穹へ投げられた鍋は、クラーケンの巨躯を眞白の雲海から飛び跳ねさせ、瞬刻、地獄の釜ほどに開いた口がバクンッと美味を摑まえた。
「……食べましたね」
「……ええ、美味しく食べてくれたみたいです」
 佳かった、と神楽耶が胸を撫で下ろす一方、不味いわけが無いと魚影を追う夕立。
 彼が言う通り、神楽耶のレシピに導かれた鶏の照り焼きは頗る美味で、程良い甘辛さを口に広げるタレは、片栗粉によって全体に均一にとろっと絡み、白米との相性も抜群。
「ほら、本人も美味しいと言っていますよ」
「本当……あんなにごろんごろんして……」
 時を忘れる程の美味さだとは、巨魚を見れば瞭然(あきらか)で、クラーケンは恍惚を浮かべて暫し雲海を漂流うと、「もっと寄越せ」と大口を開けた。
『――ブォォオオオオ!!!』
 果して。
 次いで口に飛び込んだ“おかわり”は美味であったろうか。
 轟然と迫る怪魚に正対した夕立は、不圖(ふと)囁いて、
「大口が開いたのなら、その中に式紙を詰め込んでもいいと思うんですよね」
 譬えばと投げ入るは苦無状の式紙『黒揺』――【神業・否無】(カミワザ・イナナキ)なる神速の妙を以て咽喉を通った漆黒の華は、怪魚の腹で朱々と咲いて呉れるだろうと、佳脣を滑るテノールは冷然にして冷艶。
「ほら、見た目は魚ですから。詰め物料理みたいにしても面白いじゃないですか」
「煮ても焼いても食べられないオウガで詰め物料理なんて……」
 随分と物騒なファルスだと胡亂な流眄を注ぐ神楽耶も、矢張り料理の腕は抜群。
 腹中に彩りを添えるか、朱丹を混える麗瞳と共に『結ノ太刀』の刀鋩を向けた佳人は、【神遊銀朱】――神体たる太刀の複製を大口めがけて放ち、『黒揺』を追わせた。
『ブォオオオッ!? ブォォオオヲヲッッ!!』
 今度は美味しくない、とジタバタ轉輾(のたう)つクラーケン。
 斧鉞の如き尾鰭が乱暴に雲海を叩く中、夕立と神楽耶は同時に踵を蹴り、
「主菜にはなりませんが、パーティーっぽくはなりますよ」
「開けてビックリ、という展開ですね?」
 ならば見に行こうか、と――ヒヤリ冱刃を閃かせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
ニルズヘッグ(f01811)
料理と為ればお前の腕の見せ所だな
ああ、任された
邪魔はさせん、全力で作るといい

食事の席で暴れるとはマナーがなっていない
躾が必要な様だな――祕神落妖、変じよ原初の理
視線や向き、測れる全てから攻撃起点を見極め
雷の竜巻で以って、泡が此方へと至る前に悉く消し飛ばして呉れよう
黒蛇、お前達は摺り抜けるものがあれば其れを潰せ
ニルズヘッグが作り終わる迄、決して後ろへ通してはならん

心尽くしの味、確と味わえ
……眠ったならば此方の手番
怪力乗せた斬撃を叩き込み、三枚おろしにでもしてくれる

……私の?
其れは構わんが余り期待はしてくれるなよ
焼き魚位で良ければだが
――お前の為の暖かい食事を用意しよう


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
嵯泉/f05845と

心を込めて作れば良いんだろ?
そういうのは超得意分野だ
料理は任せとけ、嵯泉!足止めは頼んだ!

嵯泉の方に【愛しき従属者】を向かわせておいて
盾にでも何でも使ってくれよ

さて、料理の方は相手がオブリビオンでも変わりなし
クラゲに深海魚っぽい奴から連想して
海鮮鍋でも作るか
……共食いっぽいけどあっちは主食が夢みたいだし
普通の魚もエビとか食ってるんだよな

友達とか家族に作るのと一緒だ
喜んでもらえるように、旨いって思ってもらえるように
食事は暖かい方が良い
ダンランって奴だ
よく知らないけどさ

ぐっすり眠ったら、後は嵯泉が捌いてくれるだろ
なー嵯泉
今度さ、おまえの料理も食べてみたいなあ
――楽しみにしてる!



 もくもくもく。もくもくもく。
 雲のキッチンで美味しい料理を作っておくれよ。
 ココロの宿った料理には、「おいしくなぁれ」の魔法をかけてあげる。

 ほら、調味料だってこんなに有る! と、雲の小瓶たちが胸を張る。
 柘榴にも似た赤い隻眼に、その得意げな表情を映した鷲生・嵯泉(烈志・f05845)は、玲瓏の眼眸を目尻へ――傍らのニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)に結んだ。
「料理と為ればお前の腕の見せ所だな」
「ああ、心を込めて作れば良いんだろ? そういうのは超得意分野だ」
 朗々と應を告ぐ艷麗のハイ・バリトン。
 この御時世だから、とアルコール消毒を勧めてくる雲のディスペンサーに両手を出し、にゅむり出てくる薬液を揉み込んだニルズヘッグは、眞白の帆前掛けを手早く腰に結ぶ。
 なんでもあるヨ、と胸を張る冷蔵庫の中を一通り確認した竜の仔は、観音開きの扉からひょっこり顔を出すと、間もなく爪先を蹴る盟友に聲を張った。
「料理は任せとけ、嵯泉! 足止めは頼んだ!」
「ああ、任された。決して邪魔はさせん、全力で作るといい」
 云って、雲海を游ぐ怪魚へと向かう嵯泉。
 颯爽と外套を飜す背を金瞳に追ったニルズヘッグは、【愛しき従属者】(グラーバグ・オーヴニル)――総勢445体の黒蛇を遣わし、彼の護衛とさせた。
「盾にでも何でも使ってくれよ」
 神話の黒竜が従える無数の蛇は、餌は要らねど屍肉を漁る。
 骸の海より滲出した肉に好んで牙を立てよう、と黒い蛇行を見送ったニルズヘッグは、視線の先でザブンと顔を出した怪魚を凝乎(ジッ)と見た。
「――扨て、深海魚っぽいから海鮮鍋でも作るか」
 料理を振る舞う相手がオブリビオンでも、やる事は變わらない。
 此度のメニューを、海の幸たっぷりの海鮮鍋と決めた彼は、友や家族の為に作るように丁寧に具材を切り始めた。
「些少(ちょっと)共食いっぽいけど、あっちは主食が夢みたいだし……多分、普通の魚もエビとか食ってるんだよな」
 白菜は5cm幅に、春菊は丁寧に三等分。
 えのきは石突を切り落として解し、長ねぎは斜め切りにトントントン。
 かの名曲、イエッセルの『おもちゃの兵隊の観兵式』を愉快に歌い上げるフライパンに應援されながら、ニルズヘッグはリズム佳く土鍋に具材を並べていった。
「喜んでもらえるように、旨いって思ってもらえるように」
 ポイントは塩だと、都度に味見しながら慎重に。
 エビ、タラ、ホタテ、カニと、海の幸をぎゅっと詰めた土鍋が軈てくつくつ音を立て、極上の薫香を湯気に漂わせると、竜の仔はそこに小さな言を添えた。
「食事は暖かい方が良い。“ダンラン”って奴だ」
 ――實はよく知らないけども。
 其は吃度(きっと)佳いものだろうと、佳脣に微咲(えみ)を湛えたニルズヘッグは、雲のガスコンロを中火に、更に10分程煮込んだ。

 ニルズヘッグが斯くも料理に手を掛けられるのは、嵯泉を信頼しているからだ。
 龍の鬣の如き背鰭に雲霞を裂いて游ぐ怪魚『クラーケン』の巨影を追った精悍の男は、此度は『秋水』を鞘に、革手袋をした手を足許へと向けると、雲の中にある靜電気を擦り合わせた。
「食事の席で暴れるとはマナーがなっていない」
『ブォ?』
「躾が必要な様だな――祕神落妖、変じよ原初の理」
 須臾に閃く、蒼白い霹靂。
 天翔る龍の如く、眞白の雲海から碧落へと立ち昇った稲妻は、螺旋を描いて束ねられ、猛然たる竜巻となって雲海を掻き混ぜる。
『ブォォオオヲヲ!!!』
 現実を溶かして夢幻と化すシャボン玉は、看々(みるみる)と雷の竜巻に巻き込まれ、ぱち、ぱち、と紫電に灼かれて泡沫と消えた。
 複眼其々の向きや吻の方向、斧鉞の如き尾鰭の動き――己が五感で測れる全てから攻撃起点を見極める嵯泉を越える事も困難ながら、更に護衛が防壁を成せば、雲のキッチンに近付く事も叶うまい。
「黒蛇、お前達は摺り抜けるものがあれば其れを潰せ」
「シャー!」
「ニルズヘッグが作り終わる迄、決して後ろへ通してはならん」
 目下、嵯泉は制禦の難しい「理」を操りながら、頼もしい護衛達と共に「ほぼ無敵」のオウガを掣肘した。

 畢竟。
 湯気と共に立ち昇る芳香に惹き付けられていた怪魚が美味にありつけたのは、雲の土鍋がプカプカと蒼穹に浮かんだ時だった。
『ッブォォオオオ!!』
 おいしくなぁれの魔法が掛かった海鮮鍋が宙空に向かうと、クラーケンは雲海より顔を出して高く跳ね、バクンッと大口を開けて海の幸を食べる。
「心尽くしの味、確と味わえ」
「冷める前に食べて欲……全部いったな」
 果してお口に合ったろうかと聞くまでもない。
 時を忘れる程の美味さだとは、反應を見れば瞭然(あきらか)で、クラーケンは恍惚を浮かべてユラユラと、暫し雲海を心地好さそうに漂流った。
 巨魚の變容を視た嵯泉は、「流石はニルズヘッグだ」と彼の料理の腕を讃えると同時、これ程の美味ならば味見のひとつでも為ておけば佳かったと竊笑を溢し、その言葉に金眸を細めたニルズヘッグが言を足す。
「なー嵯泉。今度さ、おまえの料理も食べてみたいなあ」
「……私の? 其れは構わんが、余り期待はしてくれるなよ」
 食に頓着せぬ己が出来るものと言えば、焼き魚くらいか。
 それでも良ければと嵯泉が流瞥(ながしめ)を注げば、ニルズヘッグは嬉しそうに口角を持ち上げるのだから、その時は必ずや心を籠めて作ろう、と胸奥に誓う。
「――お前の為の暖かい食事を用意しよう」
「――楽しみにしてる!」
 新しい約束をひとつ結んだ處で、柔和を帯びた眸は再び犀利に――雲の海にプカプカと腹を見せて浮かぶ巨邪を射止める。 
「唯だ今は、あの魚の料理をせねばなるまい」
 眠ったならば此方の手番。
 三枚おろしにでも為て呉れる、と今度こそ『秋水』を抜刀した嵯泉は、膂力の限り刃を振るうと、凄絶極まる斬撃を雲海に疾走らせた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御形・菘
…仕方あるまい、ここまで来たら本気を出してくれよう!
編集動画は会員限定かR18か、公開を絞るのは確定よ
此度の無修正生配信、巡り合わせた幸運を喜ぶがよい!

妾が作るジャンルはデザート、パフェだ!
プリンにチョコやストロベリーのソースにホイップクリーム…当然原材料から作っていくぞ
冷やす時間も要るし、同時に作るのであれば個々の作業はきっちり工程管理せんとな

フルーツを直乗せするだけでは芸が無い!
ペティナイフで飾り切り、苺、林檎、バナナ、メロンに白桃と綺麗にカットしていこう

心が籠もっていることなど、最低条件以前の段階よ
美味いことすら大前提、追求するのは「映える」!
自分で作る以上、クオリティは絶対に妥協せん!



 眞の蛇神にして邪神、そして猟兵屈指の動画配信者である御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)は、若し『猟兵名鑑』があったなら、出演番組に関するNG項目は一切無し、早着替えからの熱湯風呂も、ピタゴラ的絡繰装置も体当たりで挑んだろう。
 然う、挑戰の道を驀進し続ける菘に「蔵入り動画」など在ってはならぬのだった。
「……仕方あるまい、ここまで来たら本気を出してくれよう!」
 撮影用ドローン『天地通眼』は現在も録画中。
 アルコール消毒を勧めてくる雲のディスペンサーに両手を出し、にゅむり出てくる薬液を揉み込んだ菘は、雲のチェストが差し出したフリフリのエプロンを腰の後ろで蝶結び、月白と耀く艷髪をポニーテールと結わえた。
「この御時世だからのー、清潔はマナーでなくルールと知らしめんと」
 ちょこんとコック帽を乗せる菘は既に覚悟を決めている。
 編集動画は会員限定かR18か、公開を絞るのは確定……イメージを重視するならば、今後はサブチャンネルの活用も検討していきたいところ。
 斯くして決意した菘は、「なんでもあるよ」と胸を張る冷蔵庫内を一通り確認すると、観音開きの扉からひょっこり顔を出し、カメラに向けてギンッと鋭眼を注いだ。
「此度の無修正生配信、巡り合わせた幸運を喜ぶがよい!」
 而して舞台のキッチンも心得たもの。
 雲のレンジフードが名曲、イエッセルの『おもちゃの兵隊の観兵式』を歌い始めると、菘は雲の戸棚からミルクパンを取り出し、イチゴに砂糖をまぶして火に掛けた。
「妾が作るジャンルはデザート、その王たるパフェだ!」
 おおーとコメントが流れると同時、雲のボウルが「ほー」と首肯く。
 菘に妥協は一切無く、ストロベリーソースを苺から作り始めた彼女は、プリンも卵からフライパンで湯煎焼きに、クリームも当然ながら自らホイップしてツノを立ててやる。
 板チョコ? そんなモノは菘の前には存在しない。
「チョコレートソースは製菓用クーベルチュールチョコレートを使う」
 既にレシピは頭の中で緻密に構成されている。
 湯煎は火を使うし、ホイップは氷水を使うし、デザートは個々の作業をきっちりと工程管理せねばならぬとポイントを付け加えた菘は、手早く材料を揃えていった。

 ――ガチやん。これもうガチの料理番組やんけ。
 ――えっ邪神さん超絶お料理上手じゃね?
 ――素のポテンシャル高すぎて🌿生えまくるわ。

 視聴者のコメントがザワつく中、菘はペティナイフを手にフルーツの形を整えていく。
「フルーツを直乗せするだけでは芸が無い!」
 メロンはコロンと繰り抜いて玉に、リンゴは木の葉形に。
 イチゴと白桃は薔薇の花に、ミニバナナは皮を残してイルカにしたら可愛いかろう。
 菘の手の中で看々(みるみる)と變身する果実の彩りは華やかで芳しく、パフェグラスの上で抜群の存在感を見せていく。
 視聴者がコメントも忘れて魅入る處、菘はカメラを意識しながら盛りつけ、
「心が籠もっていることなど最低条件以前の段階よ。美味いことすら大前提!」
 追求すべきは、徹底して「映え」――ッ!!
 自分で作る以上、常に最高のクオリティを目指す姿勢は、平素の動画制作から培われた【逆境アサルト】――素晴らしい動画を創り上げ、視聴者をドキドキワクワクさせようという精神に依るもの。
 斯くして至妙のスイーツを創り上げた菘は、雲のパフェグラスを蒼穹へ旅立たせた。
「これで怪魚が喰らい付けば、撮れ高バッチリよのー」
 最後に「おいしくなぁれ」の魔法を掛けたパフェが宙空に向かうと、クラーケンは雲海よりサブンと顔を出して高く跳ね、バクンッと大口を開けて食べた。
『ブォォォオオオヲヲヲ!!!』
 お口に合ったろうか、とは聞くまでもない。
 頗る美味とは反應を見れば一目瞭然、クラーケンは腹を見せてユラユラと、夢見心地で雲海を揺蕩うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

冬薔薇・彬泰
御口に合うかは分らないけれども
誠心誠意の御持て成しならば、喜んで

敵の行動を【演繹】で見定め、パタアンを探る
無様な失敗はしないに越した事はない
暫し情報を纏めた後、愛らしい雲の料理器具を手に
渾身の手料理を振る舞うとしよう
…さて、レディ
彼のオウガには、どの様な料理を振舞うべきだろう?
矢張り量は多めが良いだろうか

ハロウヰンと云えば南瓜は外せまい
やや大振りに切り分けたそれを鍋に入れる
本来の味を引き立てるため、加える調味料は最低限
焦がさぬよう気を付けつつも
攻撃を受けぬよう周囲には確と気を配る
完成した煮物は温かい内にオウガへ贈ろう
――さあ、召し上がれ?
美味しい御飯を沢山食べた後は
ゆっくり御休み

*苗字+君呼び



 もくもくもく。もくもくもく。
 雲のキッチンで美味しい料理を作っておくれよ。
 ココロの宿った料理には、「おいしくなぁれ」の魔法をかけてあげる。

 帝都の片隅で探偵業を営む冬薔薇・彬泰(鬼の残滓・f30360)は、専ら猫や犬、時々人探しに勤しむ日々を過ごしてはいるものの、勘は鋭いし、其の腕は慥かだ。
「……扨て、レディ。彼のオウガには、どの様な料理を振舞うべきだろう?」
 黒猫婦人に降り注ぐ靜穩のハイ・バリトン。
 蓋し小気味佳く語尾を持ち上げる彼が、既に其の答えを得ているとは、ついと星の眸を逸らす『椿姫』こそ識っていよう。
 足許で丸くなるレディに眞赭の麗瞳を細めた彬泰は、その視線の先――龍の如き背鰭に雲海を裂いて游ぐ怪魚『クラーケン』を遠望して云った。
「――御口に合うかは分らないけれども。誠心誠意の御持て成しならば、喜んで」
 この御時世だからと、アルコール消毒を勧めてくる雲のディスペンサーに両手を出し、にゅむり出てくる薬液を揉み込む。
 雲のチェストが差し出す眞白の帆前掛けを手早く腰に結んだ彬泰は、「なんでもあるよ」と胸を張る冷蔵庫の前でポンポンと南瓜を叩いて見せた。
「ハロウヰンと云えば南瓜は外せまい」
 此度の話し相手は、愛らしい雲の料理器具たち。
 何を作るのかと首を傾げる大鍋を宥めながら火に掛け、やや大振りに切り分けた南瓜を丁寧に入れて煮立たせた彬泰は、漸う湯気と共に立ち昇る薫香にあえかに咲んだ。
「矢張り量は多めが良いだろうか」
 たくさん作ると美味しいよ、とくつくつ喋る大鍋。
 僕達の出番は何時だろうかと、そわそわと身を揺らす調味料の小瓶には少々落ち着いて頂いて。
「ここは素材の味を引き立てる為に、お留まりを」
 最低限の調味料で、南瓜本来の味を引き出す――。
 焦がさぬよう火加減も見ながら、同時に添え物のきぬさやを切り始める彬泰は、眼路を広く、クラーケンの進路とその掣肘に掛かる猟兵の動きも聢と捉えている。
「支援に回った仲間の為にも、無様な失敗は為ない」
 攻撃の余波を受けぬよう戒心を十分に南瓜を煮立てた麗人は、渾身の手料理を雲の皿へ――温かいうちに贈ろうと蒼穹に浮かべた。
「――さあ、召し上がれ?」
 雲霞に沈んだ怪魚は果して現れようかと、心配する事も無い。
 情報収集と洞察に優れた彬泰は、【演繹】――雲海に至る道中から、怪魚が夢を食べて回る事で山毛欅らが困っていると聞き込み、或るパタアンを見出していた。
「雲の料理器具たちと賑々しく作った手料理は、夢が餘計(たんと)詰まっているから、必定(きっと)気に入って呉れるだろう」
 読みは至当。
 雲の仔らが「おいしくなぁれ♪」と魔法を掛けた皿が宙空に向かうや、巨魚は雲海よりサブンと顔を出して高く跳ねると、バクンッと大口を開けて食べた。
『ッッブォォォオオオヲヲ!!』
 頗る美味とは反應を見れば一目瞭然。
 クラーケンが腹を見せてユラユラと、夢見心地で雲海を揺蕩えば、彬泰は甲斐あったと塊麗の微笑を注ぎ、
「美味しい御飯を沢山食べた後は、ゆっくり御休み」
 而して魚影に向かう無数の冱撃を、靜かに見届けるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

守田・緋姫子
黒玉と行動

料理か。よし、肉だな!(ヘアバンドで前髪を後ろによけてエプロン装備。フリフリはしっかりしまっておく)

相手は魚だし、繊細な味など分からんだろう。物量で勝負だ。

ブラジル式シュラスコでへたすら肉を焼き、焼けた端から黒玉に魚に持っていってもらう。防御は黒玉に任せたぞ!

......肉が余ったら黒玉と後で食おう。肉、好きらしいし。


日輪・黒玉
引き続き緋姫子(f15154)さんと
手間なので衣装はそのままで

緋姫子さんが料理中はあの魚を引きつけます
魚を狩った経験はあまりありませんが……誇り高き人狼は獲物を選びません

シャボン玉に触れると面倒そうですし、何より料理の邪魔になりそうです
【ダッシュ】で素早く動き、雲海を一気に駆け抜け、敵の顔を【踏みつけ】てやります
怒りでもすれば気は惹けるでしょう、キッチンから離れるように誘導します
【ジャンプ】や【スライディング】でシャボン玉を避け続けます
慣れぬ足場も【足場習熟】と【悪路走破】ですぐに慣れます

料理ができたら、速さを落さぬまま受け取って魚の元へ
どうせ食べるなら味わって食べて欲しいものですね



 龍の如き背鰭に雲海を裂き、斧鉞の如き尾鰭に雲霞を叩いて游ぐ『クラーケン』。
 眞白の海原にザブンと顔を出す巨大な魔魚の大きな牙と口、そして妖しげな複眼を見た守田・緋姫子(電子の海より彷徨い出でし怨霊・f15154)は、射干玉の黒髪にヘアバンドを潜らせると、花顔を隠していた前髪を後ろに、額も瞳も暴いた。
 其の星眸(まなざし)は凛々と勇を萌して、
「料理をするには清潔を心掛けるべきだろう」
 この御時世だからと、アルコール消毒を勧めてくる雲のディスペンサーに両手を出し、にゅむり出てくる薬液を揉み込む。
 先程の衣裳は雲のチェストに確り仕舞って、代わりに寄越して来たフリルのエプロンを「これもフリフリか」と溢しつつ、腰でリボン結びにする。
 而して準備を整えた少女は、何でもあるヨと胸を張る冷蔵庫の中を一通り確認すると、観音開きの両扉からひょっこりと顔を出して云った。
「よし、肉だな! 肉料理にする」
「肉料理と言っても色々ありますが……」
「串焼きだ」
 ブラジル式シュラスコでいこうと聲を投げる先には、日輪・黒玉(日輪の子・f03556)――藍晶の宝玉はクラシカルなリボンとフリルに包まれた儘、麗眸を烱々と魚影に繋いでいる。
 緋姫子は冷蔵庫から肉という肉を取り出しながら言を足して、
「相手は魚だし、繊細な味など分からんだろう。物量で勝負する」
「それでは私は、緋姫子さんが肉を焼く間、あの魚を引き付けます」
「相手はほぼ無敵だ。いけるか」
「魚を狩った経験はあまりありませんが……誇り高き人狼は獲物を選びません」
 背越しに返る一瞥が頼もしかろう。
 弧月の如き淸冽の横顔が美しいと微咲(えみ)を溢した緋姫子は、間もなく雲海へ疾る乙女色のツインテールを溌溂たる聲に送り出した。
「防禦は黒玉に任せる。頼んだぞ!」
「緋姫子さんは料理に専念を」
 短く言を置き、フリフリのドレスの裾を躍らせる黒玉。
 靜かなる狼は、【黒玉狼の乱舞】(ウィンドミル)――雲海を遊泳するクラーケンより速疾(はや)く翔ると、一陣の風となって雲を蹴り霞を払って魚影を目指す。
「決して邪魔はさせません」
 シャボン玉に触れると面倒だし、料理に(或いは緋姫子に)何かあっては大事だ。
 周囲に溢れる夢幻の泡沫を目尻の際に送りつつ、雲海を一気に駆け抜けた黒玉は、怪魚がザブンと顔を出した瞬間に吻を踏み付けてやった。
「料理の代わりに呉れてやります」
『――ブォォオヲヲヲヲッッ!!』
 打ち落される蹴撃は宛如(まるで)戰槌か稲妻。
 痛打を浴びた魔魚は複眼を白黒とさせると、激痛を嚇怒と變えて黒玉を睨める。
 其こそ佳人の狙った通りで、怒りでもすれば気は惹けようと櫻脣を引き結んだ黒玉は、踏み抜いた勢いで碧落に宙返りすると、キッチンとは逆方向へと走り出した。
「雲の上とは足場が不安定ですが、直に慣れるでしょう」
 動く度に搖れるアンティークなスカートにも慣れたのだ(それに、ふんだんにレースをあしらったドロワーズも履いている)。
 此度は随分とフワフワに包まれる、と靴底に伝わる感触を確かめた黒玉は、或いは怪魚を足場に為ても良いと、悶絶して巨躯を捻るクラーケンにまたひとつ踵を落とした。

 ――ボェェェエエエッッッ!!

 而して巨魚の絶叫を耳に、一心に肉を焼き続ける緋姫子。
 少女の周りは随分と平穏で、雲のキッチンツール達は名曲『おもちゃの兵隊の観兵式』を歌いながら、炭火でじっくりと焼かれる肉の薫香に酔い痴れる。
「より旨味の広がる岩塩をかけよう」
 云えば、調味料の小瓶が待ってましたと頭を振って。
 荒塩はサーモンピンクが素敵でしょうとは、雲のスプーンの聲だ。
 野菜もしっかり食べようと、何処かの巨大飲食企業のように言い寄るキャスターワゴンはバナナとパイナップルを乗せていて、「それは果物だ」と言えばヘソを曲げる。
「賑々しいのは構わないが、少しうるさいな」
 此処の世界の住民はやけにグイグイくる、と零す緋姫子。
 彼女は目下、【鋭利な一裂き】(バーニング)――血塗れの鋏に肉を断っては、雲の釜に己が炎を焚べており、髑髏を象る紫色の炎がじゅうじゅうと肉汁を溢れさせている。
 烈々と蹴立つ炎焔に血染めの赤いドレスを揺らした緋姫子が、“ガヤ”に囲まれつつも口角に柔らかな微笑を湛えているのは、少し餘分に焼いているからで。
.「……多めに作っておいて、黒玉と後で食おう。肉、好きらしいし」
 人狼だからか、育ち盛りだからか、とまれ黒玉は肉を好んでいる――。
 彼女も喜ぶようにとココロを込めて焼いたなら、芳醇な馨りに鼻を寄せた調理器具らが「おいしくなぁれ♪」と魔法を掛けた。
 美味を刺し通した鐵串が「いってきます」と言うのが可笑しかろう。
 緋姫子に送られた串焼きはフヨフヨと浮かぶや蒼穹を渡り、同じく宙を舞い踊っていた黒玉と合流すると、彼女の手によって巨魚の口に投擲される。
「どうせ食べるなら、味わって食べて欲しいものですね」
 十分に咀嚼しろとは、緋姫子が丹精尽して作った料理だからだ。
 蓋し本人には聽こえまいか、クラーケンが大口を開けた瞬間に咥内へ飛び込んだ串は、バクンッと飲み込まれて幾許――軈て怪魚を極上の美味に連れ、恍惚に抱かれた邪は腹を見せて雲海を揺蕩った。
「……眠くなったか?」
「……そのようです」
 甲斐あったと息を吐けば、間もなく冱撃が集まろう。
 夢を喰う怪魚を夢見心地に連れた二人は、仲間の猟兵が死撃を衝き入れる瞬間を靜かに見届けるのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

パウル・ブラフマン
【邪蛸】
お待たせ♪エイリアンツアーズ調理部でっす☆
愛機Glanzに乗って
ジャスパーと現場に登場。
コック帽を被ってLet's COOK!

互いの調理中に敵の動向を注視。
奇襲を仕掛けてきたら
強化したKrakeで【カウンター】、相殺を狙う。

オレが作るのは
ジャスパーの雲蒸しパンと相性バッチリの
手ごねハンバーグ!
優しく成形してるから食感はふんわり、でもとってもジューシー。
パンプキンフライとパンに挟んで…じゃーん♪
秋のじゃたこハンバーグサンドのできあがり☆

ジャスパーったら…照れてはにかみつつ
睡眠後のクラーケンさんに全砲【一斉発射】!
おいしい夢を見ながら眠るなんてサイコーじゃね?
隠し味は…オレ達の愛情、かな♪


ジャスパー・ドゥルジー
【邪蛸】
Glanzの後部座席で欠伸をひとつ
ふわふわな国だなァ
こっちが眠くなっちまいそうだ

どうせならこの場所に合わせてふわもこ料理を
今回はパウルがメインシェフだぜ
存分に腕を揮ってくれよ

俺が作るのはふんわり蒸しパン♪
具は入れずに雲っぽい白ふわ見た目&甘さ抑えてハンバーグを惹き立てる仕様
水を張った雲のフライパンでふわふわに蒸すぜ

亜空間からの奇襲を避けるべくパウルと手分けして交代でクラーケンを見張る
いざとなったら身を挺して料理だけは死守

敵が眠ったら【九死殺戮刃】
ナイフで一撃は自分を斬り、残る全部で敵を刻む
――ハ、クラーケンだって?
こっちには深海の代わりに宇宙を泳ぐタコがいるぜ
敵う相手じゃねえってこった



 もくもくもく。もくもくもく。
 雲のキッチンで美味しい料理を作っておくれよ。
 ココロの宿った料理には 「おいしくなぁれ」の魔法をかけてあげる。

 もくもくもく。もくもくもく。
 夢を食べるあいつをやっつけておくれよ。
 夢があるから生きられる 僕達をたすけておくれよ。

 雲の食器棚の扉をぴっちり閉めて、カップ&ソーサーが身を寄せ合って震えていた時、硝子越しにも聢と伝わるエンジン音が、ヒーローの登場を告げた。
「お待たせ♪ エイリアンツアーズ調理部でっす☆」
 今ドキの王子様は、白馬ではやって来ない。
 白銀のバイク『Glanz』に乗って現れたパウル・ブラフマン(Devilfish・f04694)は、後部座席には我がアンゲルス――ジャスパー・ドゥルジー("D"RIVE・f20695)を連れ、朗らかな笑顔に雲の仔らの不安を払拭する。
「……あのう、おうじさまですか?」
「二人もいらしてくれたんですか?」
 グラスたちがカタカタと背伸びして覗けば、パウルの背の向こうに見えたジャスパーは「ふわ」と欠伸をひとつして、
「ふわふわな国だなァ。こっちが眠くなっちまいそうだ」
 ――なんて。
 ことり頭を預けたパウルの背中が温かかったとは秘密の話。
 それから一瞥を交してバイクを降りた王子らは、この御時世だからとアルコール消毒を勧めてくる雲のディスペンサーに両手を出し、にゅむり出てくる薬液を揉み込む。
「今回はパウルがメインシェフだぜ。存分に腕を揮ってくれよ」
「オッケー、任せて! どんなお客様にも真心を籠めるよ」
 雲のチェストが差し出してくるエプロンを手早く腰に結び、コック帽を被ったパウルは「Let's COOK!」と目眩いウインクをひとつ。
 何だかとっても格好良い料理人らに希望の光を見た食器たちは、嬉々と戸棚を開けて、かの名曲『おもちゃの兵隊の観兵式』を歌い出した。
 随分とノリが良いと艶笑を溢したジャスパーは、賑わいのキッチンを見渡して、
「どうせならこの場所に合わせてふわもこ料理を――蒸しパンを作ろうか」
「ふんわりして美味しいよね! オレはハンバーグを捏ねてパンに挟もうかなー」
「相性バッチリじゃん!」
「うん、ジャスパーの雲蒸しパンに合うかなって!」
 淡く恥かむ様な、莞爾と零れる笑顔の眩しさときたら!
 なんでもあるヨと胸を張る冷蔵庫の前、観音開きの扉を開けて中を確認する二人の会話に期待を膨らませた雲の仔らは、宛如(まるで)魔法を掛けられたように形を變えていく材料をワクワクと見詰めるのだった。

  †

「任せろ、全力でチーフを引き立てる」
 ベジタブルストッカーがチラとサツマイモを見せたが、具は入れず。
 甘さを抑えめに、雲らしい白色を保ちたいのだとストッカーを説得したジャスパーは、アルミカップを敷いたココットに生地を流し込み、水を張った雲のフライパンでふわふわに蒸す。
 その様子を眼路の脇でにこやかに見ていたパウルも、ボクらの出番はまだかな何時かなと体を揺らす小瓶たちに急かされながら、リズムに合わせてハンバーグをこねこね。
「待ってて、直ぐに出番が来るよ」
「順番、順番!」
 調味料たちの機嫌を取りつつ、手順を守りつつ。
 賑々しく料理に勤しむ二人は、一方で戒心鋭く巨邪の動向も探っている。
 パウルは亜空間から奇襲し得る敵に『Krake』を速攻で撃ち込む用意は出来ていたし、ジャスパーはいざとなったら身を挺して料理だけは守ろうと、我が長躯を以て常に厨房を遮っていた。
 蓋し仲間の戰闘支援も幸いして、彼等の作業中に料理が鹵掠(うば)われる事は無く、二人は雲の仔らに囲まれながら和気藹々と料理を仕上げていった。
 一入の香味を漂わせたのは、矢張りハンバーグだろう。
「優しく成形してるから食感はふんわり、でもとってもジューシーだよ」
 そして「楽しみ!」と肩を組み合う砂時計の前には、ほっこりパンプキンフライ。
 スッとナイフを入れてパンを分けたパウルは、ハロウィンの王様にハンバーグを添え、ぎゅっと挟み込んで美味を完成させた。
「じゃーん♪ 秋のじゃたこハンバーグサンドのできあがり☆」
「めっちゃ美味そう!」
 垂涎を隠さず佳聲を彈ませるジャスパー。
 其々の力作を雲のワンプレートに乗せたなら、雲の仔らが「おいしくなぁれ♪」の魔法を掛ける。
 皆々が見守る中、雲のプレートは「いってきます」と蒼穹に飛び立ち、フワフワと宙を泳いで雲海へ。
『……ブォ?』
 極上の薫香に気付いた怪魚は、サブンと顔を出して力強く跳ねると、バクンッと大口を開けて其を食べた。
『ブォォオオオヲヲヲ!!!』
 御口に合ったろうかと聞くまでもない。
 忘我の心地とは反應を見れば瞭然(あきらか)で、魔魚は恍惚を浮かべてユラユラと、身を捻り腹を見せて雲海を游いだ。
 巨魚の變容を視たジャスパーは、『驟雨』の一筋たる両刃の短劔を握ると、先ずは己が繊躯に深い創痍を刻み、血の温かさを斬り付けるように怪魚の腹に刃を疾走らせる。
 紫とピンクが混じり合う佳瞳は、朱々と躍る血を映しながら烱々と燿うて、
「――ハ、クラーケンだって? こっちには深海の代わりに宇宙を泳ぐタコがいるぜ」
 敵う相手じゃねえってこった、と。
 深い眠りに落ちた怪魚の夢寐にも届くよう、何度も刃を沈めながら言う。
「ジャスパーったら……」
 彼の言葉に照れたパウルは、然し慥かに腕がある。
 何せ八本もあるのだと脅威を視るのはこの瞬間だろう、【Space Devil Rises】(ワダツミ・イン・ザ・スペース)――この世界に延々広がる雲海を我が海域と支配したパウルは、威力を増した『Krake』を全砲開門、猛々しく閃光を裂いて撃ち出された火彈を精確精緻に巨魚に届けた!
「おいしい夢を見ながら眠るなんてサイコーじゃね?」
 其は風を読み流れを見極め、全砲彈の射角を揃えた冱撃。
 死の中心点を貫かれた巨邪が儚き泡沫と消える迄を、透徹の隻眼に見届けたパウルは、喝采(やんや)と湧き立つ雲の仔らの歓声に隠れて囁(つつや)く。
「隠し味は……オレ達の愛情、かな♪」
「!」
 ささやかな悪戯は、釣られて耳を寄せたジャスパーに狂おしい甘さを届けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月31日


挿絵イラスト