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断罪の剣、己の在処

#クロムキャバリア

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#クロムキャバリア


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 闇の中に、計器の灯りだけが浮かんでいた。
 針の指すアナログメーターが全て撤廃され、新たに導入されたデジタル機器に液晶のモニターがちかちかと点滅する。この国における技術の粋を結集したコクピット構造だが、見る者によっては少し時代遅れに感じるかもしれない。
 尤もこの場に、その議論を出来る者が居ればの話だが。
 計器に照らされたパイロットスーツのヘルメット。その奥には、おぼろげに、うっすらと開いた双眸がのぞいていた。ほぼ有って無いような意識で、ただぼんやりと液晶に移る景色を眺めている。
 ここはどこだ。俺は誰だ。僕は。私は。これは。何だ。分からない。何も。考えることすら分からない。
 ただ一つ覚えていることがあった。

 ――どうして……。

 反芻する。咽び泣くように溢されたあの言葉が、何度も何度も、頭の中から消えずに繰り返される。

 ――可哀そうに、あの子があなたから全てを奪ってしまったのね……。

 それはまるで呪詛のように意識を、身体を蝕む言葉。

 ――あんな子なんて……。

 大切だったはずの誰かに掛けられた呪い。

 ――あんな子なんて、生まれてこなければよかったのに!

「――っ!!」

 燃え盛る紅蓮の空の下、響き渡る絶叫は誰の耳にも届かない。


 カスミ・アナスタシア(碧き魔女の系譜・f01691)は、グリモアベースに集まった猟兵たちを一瞥しながら、面倒くさそうに黒皮の手帳を開く。

「オブリビオンマシンだったかしら、そいつが暴れまわってるらしいわ。 ナントカって国の軍事基地で最新鋭機の性能テスト中にいきなり現れたみたいなの。 いや、それだとちょっと語弊があるわね」

 ナントカという国の名前に言及はなかったが、別段必要な情報ではないのだろう。彼女は手帳を覗きながら暫し考えるそぶりを見せると、再び視線を猟兵たちに戻す。

「オブリビオンマシンになった、と言った方がいいわね。 性能テストを行うはずだった最新鋭機が、オブリビオンマシンになってしまったの」

 どういった経緯で、何が原因でそうなってしまったのかは分からない。ただ現状オブリビオンマシンと化し、近隣のキャンプで暴れていることだけは確かだという。少なからず既に被害は出ているだろう。しかしこれ以上の被害を出す前に止めなければならない。

「問題は、そこが難民キャンプだということよ。 それも、オブリビオンマシンによって故郷を失った難民たちの、ね。 ここには戦争に駆り出される子供たちもたくさんいるの。 仇敵であるオブリビオンマシンを前にして、彼らが何をしようとするかは火を見るより明らかだわ」

 幸か不幸か、ある程度戦える大人たちは出払ってしまっているため、わざわざ戦場へ先導するような者はいない。それ故に彼らを止める者もいないのだ。酷な言い方ではあるが、彼らが戦線に出てきたところで邪魔にしかならない。うまく守りきらなければ、最悪死人さえ出てしまうだろう。

「そうなる前にとっとと敵を倒して――って、何よ。 パイロット? 知らないわよそんなの、わざわざ助ける必要なんて――ああもう、分かったわよ、言えばいいんでしょ!」

 無言の圧力に圧され、彼女は手帳を乱暴に閉じる。知らないと言いつつも、パイロットの情報は手帳を見ずとも分かるほどに反芻していたようだ。

「彼の――ああ、男ね、彼の名前はウヅメ。 よく知らないけど、なんか名家の出らしいわ」

 話によると相当に優秀な人材らしいが、かの国の慣習として家督は長男が継ぐこととなっているため、病弱な兄を残し一人家を追い出されるような形で軍に志願したという。家督には元より興味が無かったようだが、その時に折り悪く聞いてしまった母親の言葉が今でも彼を苦しめているようで、おそらくそこにつけ入る隙を作ってしまったのだろう。

「彼の意識はほぼ無いに等しいというか、少なくとも対話は無理よ。 でも呼びかけ続ければあるいは――いや、これ以上はあんたたちが決めることね」

 カスミの手のひらの上でグリモアが輝きだした。

「ほら、とっとと行った。 あんたたちにしか、彼らは救えないんだから――」

 その、少し寂しそうな、悔しそうなつぶやきをかき消すかのように、やがて転移は始まった。


朝霞
 お久しぶりです、朝霞です。
 今回の目的をまとめると、以下の通りです。

 1、オブリビオンマシンとの一度目の戦闘。
   オブリビオンマシンと戦闘を行います。
   ウヅメに呼びかけることは出来ますが、会話は出来ません。

 2、戦場へ現れた子供たちの防衛。
   戦災孤児の少年兵たちが、戦場へ乱入してきます。
   人数が多いので、基本的に大成功以外は死人が出ると思ってください。

 3、オブリビオンマシンとの二度目の戦闘。
   姿を変えたオブリビオンマシンを撃破します。
   ウヅメとの会話は可能ですが、この時点では既に思想を捻じ曲げられています。
   撃破時ウヅメの生死は問いませんが、特別記載のない限り死ぬことはありません。

 シナリオの性格上、キャンプへのそこそこの被害が予想されます。苦手な方はご注意ください。
 それでは今回もよろしくお願いいたします。
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第1章 ボス戦 『ブレイジング・バジリスク』

POW   :    ブレイジング・シュート
【ライフルの集中射撃】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD   :    バジリスク・ランページ
【右腕のライフル】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
WIZ   :    エンジンキラー
自身の【オブリビオンマシン】から【漆黒のオーラ】を放出し、戦場内全ての【エンジン】を無力化する。ただし1日にレベル秒以上使用すると死ぬ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 グリモア猟兵の話の通り、既にオブリビオンマシンは難民キャンプを襲撃していた。いや、襲撃というと少し違うだろうか、まるで赤子が駄々をこねるように暴れているといった方が状況には敵っているだろう。
 軍事基地での性能テストと言っていたが、どうやらそちらにも被害が出ているようで、少なからず応援は期待できそうもない。
 不幸中の幸いと呼ぶにはあまりに悲しいことだが、キャンプで生活する人々は避難に慣れているようで、猟兵たちの手を借りずとも安全に戦線を離脱することは可能だろう。
 あとは無謀な兵士が出てこなければ――いや、こればかりは祈るしかない。
 とかく状況は一刻を争う。これ以上戦禍が広がる前に、オブリビオンマシンを止めなければならない。
 赤く燃える炎に照らされた黒鉄が吼える。それはまるで、慟哭にも似ていた。
支倉・錫華
どんなときも犠牲になるのは力なきもの、か。
君主とか領主とか名家とかは、そんな人たちを守るためにあるはずなんだけどね。

とりあえずキャンプの子たちは早めに止めないとね。
「あなたたちが行ってもできることはないわ。気持ちは持って行ってあげるから任せなさい」

それにウヅメさんも止めないとかな。
気持ちはわかるけど、恨んでも何も変わらないしね。
せっかく家からでられたんだから、縛られないで自由にすればいいんだよ。
危ないなってなったら帰ればいいんだし。

ということを、キャバリア借りて戦いつつ伝えてみようかな。
【脈動臨界チューニング】は移動力5倍、射程半分にしていこう。

アミシアはバランスと動力補正、よろしくね。




 軍事基地格納庫。此処には通常の軍事行動に運用される機体、いわゆる量産型のキャバリアが並んでいる。オブリビオンマシンによってこの場所にも被害が出ているようだが、幸いにも運用可能な機体は残っているようだ。
 キャバリア用のドックに接続された端末は問題なく起動できる。支倉・錫華(Gambenero・f29951)は慣れた手つきで操作を始めると、ほんの僅かの所作でそれらを終わらせコクピットへと乗り込んだ。モノアイ式のメインカメラに光が点ると同時に、コクピット内のモニターに外部の映像が出力される。
 この施設でも避難を行っているようで、慌ただしく駆け回っている様子が確認できた。中でも目立つのは、パイロットスーツに身を包んだ子供たちだ。非正規の戦闘員ではなく、正規軍のパイロットとしてまで駆り出されている様子を見るに、相当逼迫しているのだろう。更にその中の数名はキャバリアへ乗り込もうとするものの、周囲の大人たちから強引に連れ戻されていた。
 錫華は、外部スピーカーのスイッチへ手を伸ばす。

『あなたたちが行ってもできることはないわ』

 淡々とした声。しかしそれはあくまでも事実を捉えた言葉。本人たちも自覚があるのだろう、うつむいたきり黙りこんだ。
 戦いたくても戦えない、守りたいものさえ自分の手で守れない。さぞ悔しいだろう。やるせないだろう。固く拳を握りしめる少年兵たちを見下ろしながら、錫華は。

『気持ちは持って行ってあげるから任せなさい』

 力強く踏み出した。

「どんなときも犠牲になるのは力なきもの、か」

 一人つぶやき一投足、一般兵装とは思えないほどの速度で格納庫を飛び出し、基地の外周を囲う外壁を一跳びに乗り越えながら、肩部に提げられた高周波ブレードにアームを伸ばす。
 外壁の外は戦場、そこへ移動するほんの僅かの間に索敵と状況確認を完了させた錫華は、地面へと降り立つ前にブレードを振りかぶった。
 狙うは、直下の敵機――!

「――ッ!」

 毒々しい赤色のオブリビオンマシン、ブレイジングバジリスクは、直前でその機影を察知し大きく飛び退いた。
 着地の衝撃でキャバリアの油圧シリンダが軋む。自前のAIにスタビライザの制御を任せてはいるものの、チューニングによって運動性を高めているため、どうしても機体に無理な負荷がかかってしまう。加えて射撃性能を犠牲にしている分攻撃の手段も限られてくる。

「アミシア、少し無茶をする」

 返答を待たずに地面を蹴った。牽制で放たれたエネルギー弾を最小限の動きで避け、避けきれないものはブレードで弾く。衝撃で振動装置が破損し、二発目でブレードそのものが折れ、三発目への盾に利用し、破損したブレードを投擲して四発目を防ぐ。そうして一気に距離を詰め、腰部に収納された二振の対装甲用コンバットナイフを逆手に抜き出す。

『あなたは何故まだそこにいる』

 外部スピーカーを通して、錫華は問いかける。それに応える者はいない。それでも彼女は続けた。

『何を恨んでも変わりはしない』

 コンバットナイフがオブリビオンマシンの肩部装甲を切り裂くと同時に、油圧系統が限界に達しつつある部位の計器が警告を発した。

『でも、もうあなたを縛るものは何もない。自由なんだ』

 放たれようとしたエネルギーライフルにナイフを突き立て切り裂く。誘爆を避けるために一旦距離をとると、そこで限界を迎えた駆動部の強制冷却が始まった。
 残念ながらこのまま戦闘続行は不可能だろう。錫華はその場で乗り捨てることとなったキャバリアに心の中で詫びると、次の行動に向けてその場を後にした。
 振り返りざまに見えたオブリビオンマシンは、ウヅメは、未だ黙して何も語らない。

成功 🔵​🔵​🔴​

東雲・一朗
▷アドリブ歓迎

▷服装と武装
帝都軍人の軍服、少佐の階級章付き。
今回は帝都製キャバリアの桜花壱式に搭乗。

▷迎撃
敵は単騎、いかに強力でも猟兵複数で当たれば制圧は可能だ。
しかし不安要素はいくつか…可能な限り対応しておかねば。
「私は東雲、所属軍は違うが階級は少佐だ。
貴官らは一度態勢を整えられよ、無策の突入は無意味な被害しか生まぬ」
【威厳】ある声で【団体行動】に慣れた私が少年兵らに釘を刺しつつ霊気【オーラ防御】を纏い桜花壱式で【切り込む】。
「貴官の力は何の為にあるのだ、意味なき暴を振るう為か?」
敵に問いながら動きを【見切り】攻撃を二刀で【武器受け】流しつつ【剣刃一閃】にて敵機【切断】を試みる。




 難民キャンプというにはあまり似つかわしくない、仰々しい槐色の軍服を身に纏い、東雲・一朗(帝都の老兵・f22513)は炎の中を闊歩していた。この辺りの避難はまだ完全には済んでいないようだ。放っておいても逃げ遅れることはなさそうだが、また別の問題が発生する可能性がある。
 右を見ても、左を見ても、大人よりも子供たちの姿が目立つ。それも、血に飢えた獣のような目をした子供たちだ。それぞれが持つ武器はどれも軍の正規品だ。つまり、このキャンプの子供たちもゲリラ兵ではなく軍属なのだろう。彼らの視線の先には、オブリビオンマシン、ブレイジング・バジリスクが半壊したエネルギーライフルをそれでもなお駆使しつつ暴れていた。
 いくら強大なオブリビオンといえど、正直あちらの状況はどうにでも出来る。今も恐らく友軍と思われる何者かが戦場を駆け回っているように、こちらには味方がいる。
 だが此処の状況はどうだろうか。お世辞にも十分な栄養を与えられているとは言えないような、まるで骨と皮だけのような子供たちが、正規品とはいえキャバリア相手に戦えるとは到底思えない武器を手に、今にも飛び出しそうな目で敵機を見ている。このままにしておけば、間違いなく必要のない犠牲が出ることだろう。ならば。

「聞け、貴官ら――」

 直後、彼の背後に砲弾でも落とされたかのような衝撃とともに土煙が舞い上がった。それに気を取られた少年兵たちは、一斉にオブリビオンではなく一朗を向く。

「私は東雲、所属軍は違うが階級は少佐だ」

 襟元の階級章が炎に反射してきらりと光る。

「貴官らは一度態勢を整えられよ、無策の突入は無意味な被害しか生まぬ」

 慣れた口ぶりで迷いのない指示を出す一朗。その周囲の土煙が晴れる頃、彼の背後に降下した帝都製キャバリア、薄紅の映える侍甲冑が姿を現した。
 正体が分からずとも、その威厳と力強さに友軍の協力を得られると理解した少年兵たちは次々と戦線を離脱していく。その様子を見ながら一朗は自らのキャバリア、桜花壱式へと乗り込んだ。
 動作チェックは既に完了している。流れ弾をはじいているところを見るに、霊気回路もしっかりと作動しているようだ。両側に携えられた二振りの剣を手に地面を蹴り、敵機のもとへ急迫。接近を許したオブリビオンマシンは、これまで乱射していたライフルを振り回し応戦しようとする。だがもう遅い。
 接近を許した時点で結末は決まっていた。
 振り下ろされた鈍器ともいえるライフルを二刀で受け止めると、激しい火花が散る。その向こう側、このオブリビオンマシンの中。

『貴官の力は何の為にあるのだ』

 一朗は迷わず問いかけた。二度、三度、振り回されるエネルギーライフルの動きを完全に読み、最低限の動きで受け流していく。

『意味なき暴を振るう為か?』

 その言葉は深く浸透するように、敵機の思考を蝕む。一瞬動きが鈍くなったその瞬間。刀に霊気をまとわせることで刀身が薄紅色の光を発した。

『違うというのならば、その手で証明して見せろ!』

 振りぬかれた二対の刀が交差する。見事な剣筋を描いて、それはマシンの頭を切り落とした。その行為に意味があるのかと問われれば、カメラセンサーを必要としないオブリビオンマシンと考えると、分からないとしか答えられない。案の定首を落としたところで活動停止には至っていないようだ。だが、ダメージが無いわけではない。
 動きが重くなったように感じるバジリスクの足下を掬うと、バランスを崩した隙を見て一朗はその場を離脱した。
 キャンプ周辺にはほとんど人の姿はなさそうだ。鶴の一声も十重に効果はあったのだろう。しかしまだ予断は許されない。オブリビオンマシンは未だに沈黙していないのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルパート・ブラックスミス
他人の境遇にはあまり口を挟みたくはない。
自分はその辺り総て忘れた不孝者故。
だが…目前の癇癪を諫める程度はしよう。

UC【荒狂い破滅齎す戦車】形態の愛機(専用トライク)に【騎乗】。
【挑発】的な機動でキャンプから敵を【おびき寄せ】つつ戦う。

狙うは主力たるライフル。
敵の射撃タイミングを【見切り】、大剣【投擲】。
【武器落とし】の要領で銃口を逸らし、その隙に【ダッシュ】し突進、
ライフルの【部位破壊】にかかる。

ウヅメとやら。
お前の絶望は俺などには理解できぬほどに深いのだろうが、それに呑み込まれてどうする。

己を取り戻せ。マシンに売り渡すな。
その絶望も力も、貴様のものであってこそだろうが!
【共闘・アドリブ歓迎】


アネット・レインフォール
▼静
ふむ…一度、戦場に出たのであれば
いずれ『そうなる』ことは覚悟の上だった筈だ。

故に、必ずしも情けをかける事が正解とは限らない。

だが救出の可能性が残されているならば
その過酷に挑まざるを得まい。

猟兵だから、ではない。
俺が武人だからだ

▼動
周囲にキャバリアがあるなら丁度良い。
敵UCで止まろうが大破しようが気にしなくて済む。

人々の位置には配慮しつつ
自動操縦で敵に突撃か掴んで時間稼ぎを。

その後、機体は乗り捨てて【竜騎兵へ至ル道】を展開。

周囲一帯を書き換える結界を張り
余計な被害の侵入を防いでおく。
暴れる事で抱え込んだ物を全て吐き出せばいい

昔取った杵柄だが…まだ捨てたものではない、か(呟き

連携、アドリブ歓迎




 軍事基地外壁上。
 地上から十数メートルあるであろうその場所からはキャンプ全体を見渡すことが出来る。アネット・レインフォール(剣の異邦人・f01254)はそこに腰かけて戦況を眺めていた。
 まだ人の姿がちらほら見えるのは気になるが、敵機との距離は十分に空いているため問題は無いだろう。敵の位置、能力、戦術、周囲の状況、他の猟兵たちが既に戦闘を行っていたため、確認は容易だった。

「ふむ……」

 頭部を失ってなお暴れるオブリビオンマシンを眺めながら、アネットは一人思案する。それはオブリビオンマシン、ではなく、未だその中に眠るパイロット、ウヅメのことだった。
 彼とて戦場に出る兵士。ならば初めから覚悟していたはずだ。どんな形であれいずれ戦うことが出来なくなる日が来ることを。故に、必ずしも情をかけることが正解とは限らない。だがそれでも彼は思考を止めなかった。ウヅメを救い出せる可能性があるのならば、僅かでも挑まなければならない。それが、猟兵としてではなく、武を司る者としての矜持だからだ。
 どうやら基地にはまだ稼働するキャバリアが数機残っているようだ。利用できるものは何でも利用する。そのために、アネットはキャンプ地を疾走するトライクを後目に見ながらその場を後にした。


 同時刻、キャンプ地。
 赤い炎に照らされたその中、まさしく文字通り人機一体となったルパート・ブラックスミス(独り歩きする黒騎士の鎧・f10937)は、自身と融合したトライクを足の代わりにオブリビオンマシンの周囲を走り回っていた。攻撃をするわけでもなく、ただ敵の攻撃にはギリギリで当たらないようにしながら、ルパートは周回を続けている。

「ウヅメとやら。お前の絶望は俺などには理解できぬほどに深いのだろうが、それに呑み込まれてどうする」

 当然だが反応は無い。もとより反応を求めていたわけではなかったし、何より他人の境遇にはあまり口を挟みたくはなかったが、モノの足しになれば十分だろう。
 自身の攻撃が当たらず、やがてしびれを切らしたオブリビオンは、ルパートをめがけてぎこちなく歩を進め始める。その先は都市国家郊外、つまりキャンプ地の外だ。これ以上戦火を広げないためには、場所を変えればいい。それがルパートの作戦だった。
 ある程度キャンプ地から引き離すと、ルパートは進路を変え、振り返る。思っていたより敵機の動きが鈍かったようで、想像よりも少し距離が空いていたようだ。しかしライフルの射程圏内であることに違いはない。振り返って動きを止めたルパートに、オブリビオンはライフルの照準を合わせた。
 数秒の沈黙。
 それを破ったのが、エネルギー充填と同時に投擲されたルパートの大剣が空を切る音だった。
 それは発射される直前のライフルに命中すると、火花を散らして銃口を弾いた。わずかに狙いが逸れ、エネルギー弾がルパートの横を通り過ぎ、地面へ着弾する。立ち込める土煙。その中に、僅かに何かが輝いた。

「我らが駆ける前には勝利の未来。しかし駆けた後には屍と瓦礫のみ!」

 瞬間、土煙を割いて飛び出した蒼がオブリビオンマシンへと肉迫する。もはや運転ではなく、それを攻撃にまで昇華した一撃が相手の体勢を大きく崩した。

「己を取り戻せ」

 一度通過し折り返した彼の手には、先ほど投擲した大剣が握られている。

「マシンに売り渡すな」

 再度の加速、狙うは主力たるエネルギーライフル。

「その絶望も力も、貴様のものであってこそだろうが!」

 地面を蹴って翔ける蒼の軌跡は壊れかけていたライフルを完全に両断した。着地と同時に爆散する様子を確認することなく、ルパートはトライクとの融合を解く。
 しかしそんな彼の背後には、武器を失ったオブリビオンマシンが、それでもなお戦おうと迫っていた。その拳が振り上げられ――。

『よく言った』

 振り下ろされる前に、上空より降下、いや、落下してきた何者かに阻まれた。衝撃で左腕を潰されたオブリビオンマシンはすぐさま後退するも、鈍った動きでは十分に敵わず組み付かれてしまう。そこにあったのは、軍用の量産型キャバリアの姿だった。

『吐き出せ、お前の全てを』

 戦闘中にも関わらずコクピットコアを露出させる。自動操縦となっているため、正確には動かしたというと少し語弊があるが、操縦していたのはアネットだった。彼はキャバリアをそのままそこに残し、高く跳躍する。
 それとほぼ同時に、キャバリアに組み付かれたままのオブリビオンマシンから、黒い波動が放たれた。直後、それを浴びたすべてのエンジンが異常をきたし、組み付いていたキャバリアも例外なく起動停止した。だが所詮は基地から拝借してきた軍用機、アネットにはどうなろうが関係ない。むしろ十分に時間を稼いでくれたともいえる。

「無式・竜騎兵ヘ至ル道――」

 どこかで稲妻が墜ちた。どこか遠くだったかもしれない。すぐ近くだったかもしれない。あるいはオブリビオン自身に、直接墜ちたのかもしれない。分かるのは、その場所が現世とは違う次元であるということと、その場所があらゆる生命の存在を拒絶するかのような強大な力の波が存在しているということ。
 結界を張るかのようにその術式を展開したアネットの手には、愛刀「霽刀」が握られていた。
 これまでの経験が、そしていつかの人々の願いが生んだ決戦術が、アネットの力を極限まで高めていく。

「――剣戟の雨を降らせよう」

 一閃――にしか、オブリビオンには見えなかっただろう。それを理解する前に、右腕、両脚、装甲、ありとあらゆる全てが修復不能なまでに切断された。がらがらとオブリビオンマシンが音を立てて崩れ行く。同時に展開していた結界も消失した。

「昔取った杵柄だが……まだ捨てたものではない、か」

 誰にも聞こえない程度の声で呟くと、彼は武器を収めた。
 コアブロックのみとなったマシンへ近づくルパートとアネット。あとはこの中からウヅメを引きずり出して救出すれば任務は完了だ。
 しかし彼らはまだ気付いていない。まだ、この戦いは終わっていないということに――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『小さな防衛線』

POW   :    子供たちを守る

SPD   :    子供たちを守る

WIZ   :    子供たちを守る

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 キャンプ地、戦闘跡地。
 駆動系の強制冷却時に乗り捨てられた軍用キャバリアに、いくつかの人影が集まっていた。

「兄さん、だめだって……おじさんたちから逃げろって言われたじゃないか……」
「なんだよ、じゃあお前は忘れたってのか? あいつらにやられたこと……父さんや母さん、ミユたちが、あいつらに殺されたこと!!」
「そうだぞユウ! あのワケわかんない奴らにやられっぱなしで悔しくないのかよ!」

 兄弟らしき二人の少年と、親しそうな少年。その三人を囲むように、複数人の子供たちが何かを話している。

「でも……だけど……それで兄さんまで死んじゃったら、ボクは……」
「俺が死ぬとでも思ってんのかよ、馬鹿にすんな!」
「カズは俺たちの中でも一番キャバリアの扱いが上手いからな、大丈夫だって」

 ユウ、と呼ばれた少年は、それでも不安そうにうつむくばかり。

「……もういい、臆病者はそこで黙ってみてろってんだ! 行くぞお前ら!」

 その声に応えるように、少年たちは武器を取る。
 それが、死地への行進とも知らずに。

 コアブロックのコクピット部をこじ開けようとしていたその時だった。
 周囲が不自然に発光し始める。やがてそこに、ばらばらに散らばっていたオブリビオンマシンの破片が収束し、コアブロックも猟兵たちの手から引き離され吸収された。
 何が起こっているんだ、など、考える間もなかった。
 光が、目も開けていられなくほどに一層強くなり、そしてその中から現れたのは。

『断罪する――』

 ブレイジングバジリスクとは全く別の機体。装甲を極限まで削ったような細身の体躯。毒々しい赤色から一転して、冷徹さを思わせる青のカラーリング。エンジェルリングを連想させる頭上のユニットと、光が織りなす翼。

『この世界は間違っている――』

 言い表すならばまるでそう、機械仕掛けの天使――。

『こんな間違った世界、私が断罪する!』

 意識を取り戻したウヅメだったが、残念ながらオブリビオンマシンの影響を受けてしまっているようだ。しかし何も手を打たなかったわけではない。きっと何か救出の手段があるはずだ。
 猟兵たちがそう考えていた矢先のことだ。
 どこかでキャバリアの駆動音が聞こえた。それとほぼ同時に、一人の少年が息を切らして猟兵たちの下へ駆けつける。

「大変です! みんなが……みんなが……!!」

 説明もろくにしないまま、その場にへたり込んで泣き出す少年。状況から察するに、おそらく近くで起動したキャバリアはこの少年の友人か、近しい者なのだろう。
 猟兵たちの活躍のおかげか、大規模な活動は行われていないようだ。しかし完全には止められないということか、グリモア猟兵の危惧した通りのことが起こってしまった。
 ここはまず、暴走した少年たちを戦線から離脱させる必要があるだろう。敵も動き出し、状況はめまぐるしく動いている。一刻も早く対策を取らねばならない――。
東雲・一朗
▷アドリブ歓迎

▷服装と武装
帝都軍人の軍服、少佐の階級章付き。
今回は帝都製キャバリアの桜花壱式に搭乗。

▷指揮統率
彼らは戦う術を知っていても兵としては未完成、この軍の教導隊は何をやっていたのか。
ともあれ考えても仕方ない、敵は一度捨て置き機体を反転させ少年兵らの元へ急がねば。
「総員傾注!現時刻をもって貴官らに新たな任務を発令する、キャバリア隊は隊伍を組み現戦闘区域への侵入者を防げ!」
【団体行動】に慣れた指揮官としての【威厳】を込めた言葉にて指示を与える。
力不足だと頭ごなしに言ったとて彼らは聞き入れん、ならば戦闘区域外周の警備を担当させ役割を与え危険から遠ざけるのが私が【戦闘知識】から導き出した結論。


ルパート・ブラックスミス
ニクス(爆槍フェニックス)を【投擲】
【誘導弾】として敵を自動攻撃し【時間稼ぎ】させ、
自分は少年達のキャバリアのもとへ。

武器を持って血気づいているのだ。
接近次第【先制攻撃】、先程と同じUCで【武器落とし】、攻撃力を奪い【恐怖を与える】ことで気勢を削ぐ。

退け!
俺如きを圧倒できん弱小に何が出来る、憎悪だけ深くとも己を殺すだけだ!
貴様達の力は彼奴には及ばん!

後は敵の攻撃がきた時に【かばう】のを意識しつつ
【言いくるめ】て戦線離脱させる。

…少年達、己の名と晴らすべき怨嗟を述べよ。
行きずりの縁だが…仇討ちの代行、黒騎士ブラックスミスが引き受けてやる。
死人の言葉は聞き流すぞ、果たして欲しくば生きて見届けよ…!


支倉・錫華
ダメだって言ったのに……。
ま、しかたないか。これも若さってことかな。
いや、わたしも若いけどね。

まだちょっと動きはぎこちないけど、操縦は下手ではない、か。
さすがに新しくキャバリアをチューンしてる時間はないみたいだね。

アミシア、わたしはこのまま前に出るから、
【ジャミング】と【ハッキング】で子供たちのキャバリアの足を止めて。
コクピットを強制解放したら【金鳳風舞】で眠らせて、引きずり出すよ。

このキャバリアは、わたしが使わせてもらうことにしよう。

気持ちは持って行ってあげるっていったでしょう。
あなたを大事に思う人を、これ以上悲しませたらダメだよ。

しっかり倒してくるから、信じておとなしく待ってなさい。


アネット・レインフォール
▼静
成る程、少年兵か…。

相手が何者だろうと策を重ねれば勝星は拾えるものだ。
そこに年齢や経験の差は関係無い。

…だが、今回は蛮勇に過ぎるな。
そして其れは恐怖の顕れ、でもある。

――此処は、戦場だ。

死傷者が出るのは当然だが、動揺が伝搬するのも厄介だ。
多少、手荒だが一つ手を打っておくか

▼動
子供達の位置を冷静に把握。

全武器を念動力で周囲に展開し
【全テ守ルト誓ウ】で巨大な盾とする。

やれやれ、俺の技では無いんだがな…。

攻撃は出来ないが、子供らの防御は勿論
四方を囲ったり強引に押し戻すぐらいは出来るだろう。
最悪、一部を解除し少年兵の機体へ
威嚇攻撃も視野に入れておく。

しかし敵の動きは気になるが…。

連携、アドリブ歓迎




「少年兵か……」
「……」

 敵機の最も直近にいたルパートとアネットは、招かれざる第三勢力の登場に少しばかり頭を抱えた。とはいえ全くの予想外というわけでもない。現れた新たなオブリビオンマシンはどう動くかまだハッキリとは分からないが、足止めさえしておけばなんとか彼らの対処は可能だろう。
 ルパートはそう判断すると、迷いなくオブリビオンへと蒼い炎を纏う槍を投げ放った。若干の距離が空いていたこともあり、それは簡単に避けられてしまう。が、しかし、まるで槍そのものに意思があるかのように、引き返し再びオブリビオンへと襲いかかる。あくまで時間稼ぎのための攻撃だ、いつまで通用するかは分からない。

「……彼らを止めに行く。乗るか」

 その問いにアネットは頷き、やがてトライクはオブリビオンたちを背にして走り出す。
 兵士とは言えど相手は子供だ。誰も傷つけずに終われる方がいいに決まっている。自らが盾になることを選んだアネットは、少年兵の集団が近づくと同時にその準備を始めていた。
 そんな時だ。

「このまま突っ込むぞ……!」
「は……?」

 耳を疑う暇もなく、ルパートのトライクが炎を纏う。先程オブリビオンに向けて放った攻撃と同じものだと気づいた瞬間、アネットは瞬時に少年兵の乗るキャバリアへ盾を張った。直後に激しい衝撃が走り、生身の少年兵たちから驚倒と悲鳴の声が上がる。

「何をしてるんだ、彼らは――」

 言いかけたところで、ルパートの甲冑兜の奥に蒼い炎が煌めくのが見えた。
 こちらを見ている。それだけ、たったそれだけのことで、アネットは全てを理解した。即座にトライクから飛び降りると、少年兵たちの前へ躍り出、全方位の攻撃に対応した広域盾を周囲へ展開する。直後、合わせるようにして再びトライクが突進を始めた。

『なんでだよ、あんたたち味方じゃないのかよ!!』

 キャバリアの外部スピーカーから、まだ声変わりもしていない少年の声が聞こえる。一人だけこうしてキャバリアに乗っているところからして、恐らくこの集団のリーダーなのだろう。しかし誰もその問いには答えない。
 衝突のたびに後ろに押され、同時に少年兵たちも後退していく。そうして何度目かの衝突の後、ルパートはアネットへ合図を送った。
 これまでよりも一際大きな衝撃。それを受け止めたのを確認して、アネットは盾を散開させ、あたかも限界が来たかのように膝を着いて見せた。後ろで見ていた少年兵たちが動揺する。その隙を突いて少年兵のキャバリアへ接近したルパートが、手にしていた小型機関銃をはたき落とし、中央から真っ二つに叩き斬った。
 そのまま正面からトライクをぶつけると、バランスを崩したキャバリアはしりもちをつくようにして倒れ込んだ。

「退け!」

 大剣を地面に突き立てながら一喝、その声に少年兵たちは肩を震わせた。

「俺如きを圧倒できん弱小に何ができる」
『でも……っ!』
「憎悪だけ深くとも己を殺すだけだ! 貴様達の力では彼奴には及ばん!」
『だけどっ!!』

 再び立ち上がろうとしたキャバリアが、突如動きを止めた。
 コクピット内で見たことも聞いたことも無い警報が鳴り始め、少年は慌ててサイドスティック引くも、全く動こうとしない。

「なんで……なんでだよ!!」

 焦る少年の視界に入ったのは、赤い文字の警告。

「ハッチ……アンロック……」

 録に読み書きも教わっていなかったが、戦うのに必要な分だけは叩き込まれていたため拙くとも読めるし意味もわかる。だからこそその意味に気付いたとき、彼は目を見開いた。
 操作をしたわけではないにも関わらず、自動的に開放されるコクピットハッチ。まるで外部からの操作を受けているような――いや、実際に外部からの操作を受けている。

「アミシア、わたしはこのまま前に出る」

 その瞬間を待っていたように、錫華はキャバリアへ向かって駆け出した。
 彼女の相棒でもあるAI、アミシアをシステムに侵入させるのは、この国のキャバリアが相手であれば容易いことだった。そうしてコントロールを奪い、ハッチを強制開放させたところへ走り、半立ち状態のキャバリアをコクピット目掛けて軽やかに駆け上がる。

「ダメだって言ったのに……」

 ふわりと彼女の衣装が風に揺れるように靡く。同時に何かが宙へ舞った。

「ま、しかたないか。これも若さってことかな」

 そう言いながら周囲を見下ろすと、少年兵たち以外の、要するに猟兵たちは自分よりどう見ても年上だということに気付いた。内一人は外見では分からないが。

「いや、わたしも若いけどね」

 誰に対するでもない言い訳のようなものを聞きながら、少年はついに自らの体まで自由に動かせなくなっていることに気が付いた。何かを喋ろうにも、口さえまともに動かすことが出来ない。錫華はその様子を見ながら、少年にそっと近づいた。

「気持ちは持って行ってあげるっていったでしょう。あなたを大事に思う人を、これ以上悲しませたらダメだよ」

 錫華の視線は、その少年から、此方を不安そうに見上げている別の少年へと移っていた。

「しっかり倒してくるから、信じておとなしく待ってなさい」

 そう言い終わると、錫華は少年の体を掴み――。

「――っ!??」

 コクピットの外へ放り投げた。完全に立ち上がっていた訳ではなかったため、そこまで高度が無かったということもあり、地面に激突する前に無事にアネットがキャッチする。
 体が麻痺しているのだろうか、自由は利きそうに無かったが、意識はあるようだ。といっても朦朧としてはいるが。

「……んで……俺たち……自分で……守り……た……い……」

 少年は声を絞り出すように言う。すると、これまで黙っていた他の少年兵たちも呼応して口々にそうだそうだと発した。何故戦ってはいけないのか。何故守ってはいけないのか。

『それは、貴官らの戦場が此処ではないからだ――!』

 オブリビオンマシンからの流れ弾を一刀に伏せながら、一朗は自らの愛機、桜花壱式の中で応えた。そして大きく息を吸う。

『総員傾注!!』

 大気を振動させるかの如き一声で、騒々しかった少年兵たちは一斉に黙した。

『現時刻をもって貴官らに新たな任務を発令する、白兵隊は隊伍を組み現戦闘区域への侵入者を防げ!』

 少年兵たちは皆が皆、敵を倒したがっている訳ではなさそうだ。ただ、この戦いの最中、誰かの、何かの役に立ちたいのだ。そういった兵士がこれまで居なかった訳ではない。寧ろどれほど見てきただろうか。それらと同じものを感じ取った一朗は、彼らを突き放すのではなく、適所への再配置という道を選んだ。

『我々の戦力では、彼の敵機を相手取ることで手一杯となるだろう。故に敵増援がある場合いち早く察知せねばならん。貴官らにこの任務の重要性が分かるか』

 その言葉に、誰も反論するものはいなかった。それどころか、一人の少年が素早く的確に指示を出し、只の有象無象だった集団を整列させ、まとめだした。丁度、一番最初に猟兵たちのもとへ駆けつけた、あの少年だった。

「なんだよユウ、お前ビビってたんじゃ……」
「そりゃ怖いよ。怖いし、今すぐ逃げ出したい……でも……でもっ……ボクだって悔しいし、皆が居なくなったら悲しいよ! だからボクは戦うんだ、今、自分に出来る戦いを!」

 そこにはもう、取り乱して泣いていた時の面影は無かった。
 元々兵士として生活してきた故に慣れていたのだろう、やがて綺麗な隊伍を組み、戦線から離脱していく。その最後尾には、ユウ、と呼ばれた少年が、パイロットを背負っている。ふとその足が猟兵たちを向いた。

「あの、ありがとうございます、えっと、お兄さんも……」

 視線はアネットに向けられていた。

「最初は仲間割れかと思いましたけど……演技だったんですよね、敵からボクたちを安全に遠ざけるための」

 アネットは小さく肩をすくめて見せた。

「さあね。ただひとつ覚えときな」

 真っ直ぐに、ユウと向き合う。

「相手が何者だろうと、策を重ねれば勝星は拾える。そこに年齢や経験の差は関係ない」

 だが、とアネットは目を細める。

「今回は蛮勇に過ぎる。勇気と無謀の違いは、あんたなら分かってるはずだ。だから次はちゃんと、自分で止めるんだ」

 返事こそ無かったが、ユウは力強くうなずいて見せた。
 それとほぼ同時に、遠くで鳴っていた金属音が止む。ルパートの手元に一振りの槍が握られているところを見ると、おおよそ時間稼ぎをしていた槍が戻ってきたのだろう。少年兵たちの隊列は既に離れた場所にいる。後の二人を離脱するまで守りきるのはそう難しくもない。キャバリアに乗り込んでいる錫華と一朗が敵機からの攻撃を迎撃する態勢に入る。
 アネットとルパートもそれに倣って敵機を向く。そして、彼は背中越しに投げ掛けた。

「――少年、己の名と晴らすべき怨嗟を述べよ」

 ルパートだった。
 ユウが自分のことではないと察し黙ると、背負われた少年がたどたどしく口を開いた。

「カズ、だ……父さんと……母さん……妹……俺たちの……仲間の、仇を……!!」

 体の自由が利かないことも相まってか、カズは瞳からこぼれ落ちる大粒の涙を止められないでいた。彼らをどんな悲劇が襲ったのか、それは分からない。彼を背負っていたユウも、歯を食いしばって黙っていた。だがその怨嗟は自らの身を滅ぼしかねない。だからこそ。

「行きずりの縁だが……その仇討ちの代行、黒騎士ブラックスミスが引き受けてやる」

 それを聞いたカズは、何も言わずただ泣いていた。強がっていてもまだ子供なのだ。

「死人の言葉は聞き流すぞ、果たして欲しくば生きて見届けよ……!」

 それを最後に、カズを背負ったままユウは、しっかりとした足取りで歩き始めた。
 彼らが離脱出来れば、あとはオブリビオンマシンを叩くだけだ。遠距離から飛んできた攻撃を切り伏せながら、一朗は二人の様子を確認する。

『戦う術は知っていても兵としては未完成。まったく、この軍の教導隊は何をやっていたのだ……!』
「だが、彼らは良い戦士となろう」
『出来れば戦わないのが一番だけど』
「この世界じゃそうも言ってられないからな」

 次第に少年たちの姿は遠ざかっていく。そうして漸く戦闘区域外へ離脱したことを確認した。だがそれはつまり、敵機が目の前へ迫っていることと同義だ。
 時間は掛かってしまったが、ここからは猟兵の本分となる。思う存分、その力を見せつける時が来た。
 さあ、反撃の時間だ――!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『セラフィム・リッパー』

POW   :    断罪の剣
【無敵斬艦刀】が命中した対象を切断する。
SPD   :    エンジェルビット
自身が装備する【BS-Fクリスタルビット】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    フォールンウイング
【光の翼】を向けた対象に、【プラズマビーム】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



『断罪する――』

 新たなオブリビオンマシン、セラフィムリッパーによって操られたウヅメは、頻りにそれを呟く。間違った人間を。正しくない街を。腐敗した国家を。歪んだ世界を。

 ワタシヲステタカゾクヲ――。

『断罪する――粛正する――すべてを――』

 もはやただの怨嗟だった。そこには何の正義も、正当性も無い。
『お前たちこそ、この世界の歪みそのもの……消し去ってくれる……!』

 青き機械仕掛けの天使が翔る――!
支倉・錫華
わたしたちが『世界の歪み』ね。
クロム出身ではあるけど、猟兵なんてしている以上否定しきれないところでもあるかな。

とはいえ、それとあなたが世界を怨むことには、なんの関わりもないことね。

母親からなにを聞いてしまったとしても、あなたの怨みはあなたのもの。
そして『断罪』されるべきは『世界』ではなく、その隙につけこまれたあなたの弱さ。

その罪は死では償えないわ。
この国の未来のために、子供たちのために、死ぬまで生きなさい。
あなたのような人を、これ以上増やさないためにも、ね。

アミシア、わたしは【モーターブーム】で、手足を狙ってみるから、
バランス制御と出力補正は任せる。

絶対コクピットから引きずり出してやるからね。


東雲・一朗
▷アドリブ歓迎

▷服装と武装
帝都軍人の軍服、少佐の階級章付き。
今回は帝都製キャバリアの桜花壱式に搭乗。

▷邪心を斬る
「貴官はなんだ、剣士か、名家の次男か、否…軍人だ」
桜花の霊気【オーラ防御】を機体に纏い、二刀を構え【切り込む】
「軍人として剣を執った瞬間、我らには感傷も未練も許されぬ、心身の全ては国と民に捧ぐのが我らの誓い」
【戦闘知識】を総動員して動きを【見切り】一刀で【受け流し】て一刀で斬撃、語りながら斬り結ぶ。
「つけ込まれたのだろう、貴官は、その哀しみを」
【破魔】と【浄化】の霊気を込めた【強制改心刀】【二回攻撃】にて、その哀しみと邪気を斬り、貴官とオブリビオンマシンを【切断】する。


ルパート・ブラックスミス
来い。怨嗟の総て、我が炎にくべよう。

愛機(専用トライク)から青く燃える鉛の翼を展開し【空中戦】。
敵UCの軌道を【見切り】愛機で【武器受け】、車体に食い込む刃を車体内の流動鉛で何も断てぬ鈍に【武器改造】!

仇討ちを引き受けた、マシンは塵一つ残さず【焼却】する!
愛機乗り捨て敵に【グラップル】しUC【黒騎士呑み込む青き業火】!
…機体が派手に燃え尽きればウヅメの【救出活動】の隠れ蓑(【物を隠す】)にもなろう。

抱える怨嗟、向けられた怨嗟。力。
貴様を蝕む一切を一度捨てろ、ウヅメ。
罪過は背負い、だが無垢であるかのように己の意思で地に立ち生きてみろ。
その時見えた未来こそが、貴様の在処だ。
…俺は、そうしている。


アネット・レインフォール
▼静
ふむ…完全に乗っ取られたようだが、
こうなっては先の少年兵らと変わらないな。

意識が無い分、尚悪いのかもしれないが。

…しかし何だ。
変形・合体する物は見た事があるが、
進化系キャバリアは初めて見たかもしれない。
全て終わったら後で乗せて貰おう

▼動
敵機体は機動力が高いと判断。

足や翼等の破壊を試みながら
葬剣を無数の鋼糸状に展開し絡ませる事で足止めを行う。
敵の攻撃には、念動力で刀剣を重ねて盾としよう。

キャバリアは頑丈だろうが搭乗者は別だ。

誓斧を手に装甲の上から
【無刀閃】によるカウンターを放ち、
強い衝撃を与える事でウヅメの気絶化を試みる。

必要なら足場等も狙い、
体勢を崩す事も視野に入れておく

連携、アドリブ歓迎




 彼方より飛来したプラズマ弾が着弾すると同時に、すっかり荒れ果ててしまったキャンプ地の乾いた砂が巻き上がる。各々散会した猟兵たちは、高速で進来するオブリビオンマシンに視線を集めた。
 それは、どう見てもこの国の技術によって作られたものではなかった。そもそもブラウン管モニターが最新技術だという国に、どうしてキャバリアを製造する技術が存在するのか。このオブリビオンマシンに限っては、この国で製造されたものではないと結論付けたとしよう。ではブレイジングバジリスクはどうだ。本体もそうだがネルギー弾を発射するライフルひとつを取っても、こんな技術レベルで製造できるだろうか。
 まるで、読み書きは出来ないが、必要な言葉だけ読みを、意味を教え込まれたあの少年兵たちのような違和感があった。
 とはいえ今は戦闘中だ。あまり余計なことを考えている余裕は無いだろう。

「歪み、ね」

 オブリビオンの尖兵と化したウヅメの言葉を、錫華は一人反芻していた。世界を渡り歩く術を持つ猟兵はイレギュラー、世界の歪みであることに違いないだろう。それがどの世界で生まれ育ったにしても。
 しかし、だからといって恨まれる筋合いは無いし、世界という存在がそもそも関係の無い話だ。意識が有るか無いかといえば有るのかもしれないが、最早歪められた思想、その思考回路では無いも同然だ。先程の少年兵たちよりも状況は悪いと言ってもいいだろう。

「ふむ……」

 アネットはオブリビオンマシンの機動力を削ぐ事を考えながら、あの中にいるはずのウヅメを救出する方法を模索していた。それは一朗も、ルパートも、猟兵たち皆同じだった。当然いろいろと障害はあるだろうが、その最もたるものが、オブリビオンマシンからウヅメを引き離さなければならないということだ。どうにかして接近し、コクピットハッチを開いて彼を救出。同時にオブリビオンによる一種の洗脳状態を解除しなければならない。簡単なことではないだろう。
 そんな中、先陣を切ったのは錫華だった。
 最初にチェックをした時の情報に間違いがなければ、彼女の搭乗する機体に、武器は恐らく対キャバリア用の高周波振動ナイフが一本残っているだけだろう。対してオブリビオンマシン、セラフィムリッパーには、豊富な遠距離攻撃武装に加えて大型の斬艦刀がある。何処をどう捉えても分が悪い。しかしそれでも走り出した錫華のキャバリアは止まらなかった。

『向かってくるか、叩き斬ってくれる!』

 斬艦刀を構え迎え撃とうとしたウヅメだったが、次の瞬間、錫華はその手にしていたナイフを、あろうことか敵に向かって投擲する。当然他に武器など無く、これを失えば素手で戦うことになる。案の定ナイフはこともなく弾かれて地面に転がった。それを見届けて、ウヅメは顔をあげた。
 いない。
 そこに錫華の姿は無かった。右にも、左にも無い、背後でもない。そこで日の光が翳ったことに気づいたウヅメが上空を見上げる。

「アミシア、着地は頼んだよ」

 元より近接格闘用に調整されたものを、更にチューニングしている機体だ。一瞬の死角さえあれば、何処からでも接近することができる。だが上空ということはつまり、これ以上軌道を変えることができないということでもある。まずは攻撃を避けるため、ウヅメは一歩後ろに下がろうとしてあることに気付いた。
 機体の脚が、動かせない。
 慌てて周囲の状況をスキャンすると、目に見えるか見えないかといった細い糸が無数に絡まっていた。いや、この強度は糸ではない、その強度からすると、鋼糸の類いだろうか。

『裁くべきは世界じゃない……つけ込まれる隙を与えた、あなたの弱さ――!』
『何を……!!』

 落下の勢いを乗せるように繰り出した拳が左肩に直撃すると同時に、自らの拳と共に砕け散る。武器だけでなく腕も使い物にならなくなれば、流石に今度こそ乗り捨てるしかないだろう。アネットが巻き付けた鋼糸を駆使して応戦している間、錫華はコクピットから飛び降りた。

『小癪な……!』

 鋼糸を巻き付けた脚のフレームが悲鳴を上げている。それでもウヅメは、立ちはだかる者に残った腕で斬艦刀を構えてみせた。

『貴官はなんだ、剣士か、名家の次男か』

 薄紅の甲冑、桜花壱式でオブリビオンと対峙した一朗は問う。だがそこに答えなど求めていない。何故なら、その答えは初めからひとつしかないのだから。
 霊気エンジンの駆動に合わせて迸る力が、桜花壱式を包み込んだ。両手に握られた一対の刀越しに、オブリビオンマシンを見据える。

『否……軍人だ』
『貴様が……私を語るなァ!!』

 ウヅメは拘束されていた片方の脚を自分で切除すると、機体のバランスも取らないままに一朗のもとへ肉薄する。右腕一本に握られ、故に自重と勢い全てを乗せた斬艦刀が一朗へと襲いかかった。
 しかしそんな直線的な攻撃が彼に通用するはずがない。

『軍人として剣を執った瞬間、我らには感傷も未練も許されぬ』

 一刀のもとにその勢いを殺ぎ受け流すと、対の一刀で本体へ斬りかかる。

『心身の全ては国と民に捧ぐのが我らの誓い』

 ウヅメの斬艦刀と一朗の刀が触れるたびに激しい火花を散らす。

『貴様に分かるものか、不合理で不条理なこの世界を、間違った世界を、私は正さねばならんのだ!! この私が、粛正せねばならんのだ!!』

 これ以上に無い傲慢、エゴの塊。これが全てオブリビオンの仕業だと言うのだから、間違いなく救い出す必要がある。

『つけこまれたのだろう、貴官は、その哀しみを』
『――っ!!』

 一瞬見せた戸惑い。その隙を一朗が見逃すはずがなかった。一際大きな金属音、そしてその直後、オブリビオンマシンの手を離れ宙を舞い、地面に突き刺さる斬艦刀。

『何故だ……何故……私は認めん、認めんぞ!』

 それは執念というより、最早怨念だった。

『認めない……私は……俺は……僕は……!』

きっとこれまでの戦闘で猟兵たちが呼び掛けていたお陰だろう、深層部分ではあるが本人の意識がオブリビオンの洗脳に勝り始めている。だが全てがプラスとは限らない。彼の心を呼び戻すためには、まだ足りない。

『僕は天才なんかじゃない……僕だって、頑張ったんだ……たくさん努力したんだ……なのに……!』

 子供の頃、周囲の大人たちからは天才だと囃された。けれど、そうすればするほど疎まれ、人が離れていく。故に友人と呼べる者などいなかった。それでも、そうするしかなかった。大好きだった母に認めてほしかったから。誉めてほしかったから。たったそれだけのことでよかった。
 なのに、結果はどうだ。
 何度も何度も頭の中で繰り返される言葉が、心も身体も、全てを凍りつかせていく。
 気温が低いというわけではない、むしろ火の海の中に居るのだ、なのに、寒い。憎悪は炎と比喩される事が多いが、全くそれとは逆だった。
 寒い。寒い。まるで独り雪に埋もれていくように、ただ深々と落ちて――。

「――来い」

 その時、蒼が煌めいた。
 
「怨嗟の総て、我が炎にくべよう」

 それは命の灯。生命を燃やす本物の灯。
 青く燃えているのは鉛だろうか。翼のような形にそれを展開したトライクは、ルパートを乗せて地面ではなく空を翔る。
 ウヅメからの操作が途絶えたオブリビオンマシンは、まるで彼を切り捨てたかのように自らの意思で動き始めた。
 念動力を駆使し天使の輪に格納されたクリスタルビットを射出、同時に地面に刺さったままになっている斬艦刀を引き寄せる。脚一本で普通に立つ事ができるのも、おそらく同じ念動力の類いなのだろう。それら総てが一斉にルパートへ襲いかかる。真下からの攻撃に、ルパートのトライクは格好の標的となる。だがそれこそが彼の狙いだった。
 飛来したクリスタルビットも、投擲された斬艦刀も、トライクに食い込むたび、まるで侵食されたかのようになまくらへと変貌し、落下していく。
 しかし斬艦刀はまだ武器としての利用価値は失われていない。何も斬るだけが能ではないのだ。落下してきた斬艦刀を残った右手でキャッチし、オブリビオンマシンは再び暴れだす兆候を見せた。
 その前に躍り出たのはアネット。手には剣でも鋼糸でもない、戦斧が握られている。立ちふさがるものを排除しようと、オブリビオンマシンはなまくらの斬艦刀を振り下ろし――。

「伍式・無刀閃」

 相手の攻撃の勢いまで利用した叩きつけのカウンターが綺麗に決まり、オブリビオンマシンはその場で仰向けに倒れる。その拍子に、激しい揺れと衝撃によってコクピット内部で頭を打ったのか、ウヅメは気を失ってしまったようだ。
 これで一先ずウヅメがこれ以上侵食される危険性は無いだろう。何より幸いだったのは、基になった機体の緊急脱出システムが生きていたことで、こうしてパイロットの意識が無くなると、自動的に機体外へパイロットを射出するようになっている。そのシステムが作動したのか、強制的に解放されたコクピットハッチから、ウヅメらしき男性が宙へと放り出された。

『逃しはせん!』

 マシンとパイロットの精神を切り離す絶好のチャンスに駆け出したのは、薄紅色のキャバリアだった。両手に携えた刀をウヅメに向けて、十文字。物理的なダメージではなく、魂に作用する技。一度目はマシンに増幅された邪な心を、二度目は内に抱え込んだ哀しみを。

『――断ち斬る!!』

 やがて地面に落下する前に、アネットがウヅメを受け止めた。それと同時に、三人は空を見上げる。その視線に先には、青き太陽――否。

「我が血はもはや栄光なく……されど未だ我が業と炎は消えず……!」

 愛機から飛び降りたルパートは、文字通り自らの命を削るほどの炎と鉛を纏い、オブリビオンマシンへと急降下、コアユニットのコクピットハッチがある辺りに着地した。それと同時にルパートの炎が燃え移る。いや、そんな生易しいものではない。己すらも焦がすほどの復讐の炎は、やがて全ての元凶であったオブリビオンマシンを焼いていく。

「仇討ちは引き受けた……塵一つ残さず、消え失せるがいい!!」

 そしてついに、機械仕掛けの天使は地獄の業火に焼き尽くされた――。



 目を覚ますと、視界いっぱいに子供たちがいた。
 見覚えがある。難民キャンプから流れてきた子供たちだ。何故こんなところにいるのだろうか。そう疑問に思いつつ起き上がろうとしたところで、全身を襲う痛みと倦怠感に再び倒れ込んだ。

「ねえ兄ちゃんたち、起きたよ!」

 子供たちの中の一人が、近くにいた誰かに声を掛けた。そちらは見たことの無い人物だった。
 違う。見覚えがある。それもかなり直近の、そう、ついさっき――。

「――っ!!」

 反射的に起き上がろうとして、また倒れ込んでしまう。

「あまり無理はしない方がいい」
「すまない……えっと……」
「アネットだ」
「ああ、アネットさん。随分と迷惑を……その、掛けてしまったみたいだ……」

 アネット、と名乗った青年は、あまり表情を変えずに周囲の子供たちを見渡した。

「それは、本当に必要な言葉だったか?」

 少なくとも、その言葉の意味をその場で理解することは出来なかった。何も言えずに黙って俯いていると、今度は女性の声が聞こえる。

「あなたの、その罪は消えないし、謝罪の言葉に意味なんて無い」

 顔を上げると、そこにいたのは女性、と言うよりもまだ少女のようだった。

「でも、その罪は死では償えない。この国の未来のために、子供たちのために、死ぬまで生きなさい」

 それは死ぬよりも辛いことだろう。過ちを忘れることも、無かったことにすることも出来ない。出来る筈もない。でも死という逃げ道は無くなってしまった。
 だけどもし――。

「生きたいのなら」

 鉄鎧の、重金属が干渉する音と共に、子供の頃に読んだ本に出てきたような、他国の様式の鎧の男が現れた。

「抱える怨嗟、向けられる怨嗟、力……己を蝕む一切を捨てろ、ウヅメ」

 何も答えられなかった。自分の中にあれだけの醜い感情が眠っていたなんて想像もしていなかったのだ。だからこそ、それを捨て去ることに自信がなかった。
 それでも構わず、鎧の男は続けた。

「罪過は背負い、だが無垢であるかのように己の意思で地に立ち生きてみろ。その時見えた未来こそが、貴様の在処だ」

 そして振り返り様に。

「……俺は、そうしている」

 最後にそうこぼして、彼は去っていった。
 罪は消えないし、正直生きていける自信なんて無い。だけど。
 だけどいつか、自分を赦せる日が来たのなら――。

「さて、我々は直此処を発つ。後の道は自らで選ぶのだ。貴官らなら、出来るな」

 ずっと子供たちの相手をしていた男性が立ち上がった。正直彼らほどの実力者たちがいれば、この国も安泰だろう。だがそんな甘えたことは言っていられない。
 自分達の国は、自分達で守っていかなければならないのだ。
 だから。

「お世話に、なりました……」

 その言葉に振り返らず、あとの三人も去っていった。残された子供たちは、少しだけ不安そうにこちらを見ている。
 ああ、そうか。なんでこんなことにも気付かなかったんだ。
 本当に守らなくちゃいけなかったのは、子供たちの笑顔だったのに。

「……」

 深呼吸をひとつ。

「……さてと、怪我が治ったら一緒に特訓だ!」
「なんだよ、さっきまで死にそうな顔してたくせに」
「なんだとこの生意気なガキめ!」
「はぁガキじゃねーし」

 そこから一気に騒がしくなって、いつの間にか沈んだ気持ちなんて忘れてしまって。
 いつか、自分を赦せる日が来たのなら。
 その時はもっと、この世界を、国を、子供たちの未来を、もっともっと輝かせられるのかもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年11月08日


挿絵イラスト