「つっまんないのー」
はるか地下に存在するという、広大なる地底空洞。そこでは地上と同じように人々が暮らし、地上と同じようにオブリビオンたる吸血鬼たちの圧制を受けていた。
隠された深淵と地上を断つのは、強大なる門番。
メルスィン・ヘレルもまた、『番犬の紋章』を与えられた門番のひとりであった。
「紋章のおかげで強くなったのはいいけど、なにやっても楽勝なのも退屈だなー……」
伸びをすると長い髪が揺れ、腰に描かれた紋章が露わになる。この紋章こそ、彼女の強大なる力の源。
メルスィン・ヘレルは細く長い階段の最上段に腰掛けていた。左右の幅はほとんど狭く、背にある紋章を狙うにはひと工夫がいる。そんな場所で、彼女は退屈そうなあくびを繰り返すのだった。
「集まってくれて感謝する」
サク・スミノエ(花屑・f02236)は軽い挨拶の後、問題の地底空洞の地図を表示した。といっても、門番のいる入口までだ。周囲はごつごつした岩肌に覆われ、進むごとに道が細まってゆく。
「『番犬の紋章』を与えられたメルスィン・ヘレルがいるのはこの階段状になった細い崖の上だ。問題はふたつあって、ひとつは相手が上を取っているため下から攻めるこちらが若干不利になること。もうひとつは、彼女を強化している紋章が背中側にあることだ」
なるほど、狭い階段状の場所が戦場であるが故に敵の背後に回り込むのにはひと工夫がいりそうだ。
「門番はあの『同族殺し』さえも軽々と凌駕するほどの強者、寄生虫型オブリビオンである紋章への攻撃以外はほぼ効かないと考えていいだろう」
サクは門番のいる場所を拡大して表示する。
幅は狭いが、天井は突き抜けていて上方には余裕がある。周囲の岩肌は特に変わったところはなく、通常の洞窟と思ってくれて問題ない。
「皆にはこの門番を倒し、地底都市に取り残された人々を地上に誘ってやってほしい。その活躍を見せればきっと、彼らの警戒心も解れるだろう」
ツヅキ
プレイング受付期間:公開時~10/11 朝8:30頃迄。
2~3人ごとにまとめて判定・リプレイをお返しします(タイミングやプレイングの内容によっては個別でのお返しになることがあります)。
共同プレイングをかけられる場合は同行者のみで描写しますので、冒頭にお相手の呼び名とID、もしくは団体名をご記載ください。
●第1章(ボス戦)
地底都市への侵入者を阻む門番の討伐。
●第2章(雑魚戦)
地底都市に蔓延るオブリビオンの討伐。
●第3章(日常)
地底都市に暮らす人々を地上に勧誘する。
第2章以降の受付は雑記をご確認ください。次の章に進んでから一両日中にはOPを追記します。
第1章 ボス戦
『『愁魔』メルスィン・ヘレル』
|
POW : はあ面倒……害虫が視界に入ったら潰すしかないもの
単純で重い【『悪魔の脚』による上空からの踏みつけ】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : しっしっ……寄らないでよ汚いなあ、消えて?
【自在に伸縮し鞭のように撓る『悪魔の尻尾』】が命中した対象を切断する。
WIZ : 殺した後に汚れを落とすのが一番面倒なんだよね……
【飛翔し、一瞬で敵に接近して『悪魔の爪』】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
イラスト:サカモトミツキ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「ピオネルスカヤ・リャザノフ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
春乃・結希
どうせ楽勝なら、このまま通してくれませんか?
駄目ですか……
ならせめて、あなたの暇つぶしになれるように頑張ります
尻尾は『with』で受け止める
強力な力で巻き取られて手から離れてしまうかもしれない
……でも大丈夫。触れていなくても、心は共にあるから。
引き続き『wanderer』と『hercules』による格闘で対抗【怪力】
意識をこちらへ引き付ける
楽勝そうですか?……そう。でも勝つのは……『私達』ですけどね
UCで操る『with』により、敵の背後からの一撃を加え
恋人を取り戻す
おかえり。『with』。
……ねぇ、まだつまらない?
安心してください
あなたの退屈な毎日は、今日で最後になるから
故無・屍
…フン、住民の安否なんざどうでもいい。
それが依頼だってんならやる、それだけだ。
希望がどうこうなんざ他の奴らに任せりゃいい、その方がいくらか健全だろうよ。
見切り、第六感にて相手の隙を窺いつつ、
カウンター、怪力、体勢を崩すの技能にて敵を掴み、腹側から地面に叩き付ける
その後2回攻撃、破魔にてUCを発動、紋章を破壊
あるいは敵のUCによる地形の破壊を誘発、
生まれた隙間を通って残像、早業の技能を用いて背後に回り込み
暗殺を併用して紋章を狙う
貰い物の力で強くなった気になるってのも手段の一つじゃあるがな。
それをひけらかしてりゃこうやって数にモノを言わせた奴らに勘付かれる。
…仕事の邪魔だ、道を開けて貰おうか。
たんっ、と軽い足音を立てて春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)は門番の居る高みの前に降り立った。
なんだか見下ろされる感じが何かの審判を受けているようだなと思う。例えばこの先には地獄があって生前の罪を裁かれたりする――とか。
「けど、そうじゃなくてこの先にあるのは地底都市なんですよね? どうせ楽勝なら、このまま通してくれませんか」
それにしても、上を向いて喋っていると首が疲れる。結希が駄目元で尋ねるとメルスィン・ヘレルはちょっと考えた後でぶるりと体を震わせた。
「やだ……素通しさせたなんて上にバレたらあたし殺されちゃうじゃん……」
「駄目ですか……」
「だからさあ、あんた達はここであたしに潰されて?」
「それはこちらもお断りですけど」
結希はにっこりと微笑して、『with』を構えた。
「ならせめて、あなたの暇つぶしになれるように頑張ります」
直後。両手が痺れるほどの衝撃が刃に加わってしなやかな尾の一撃を食い止めた『with』が回転しながら宙を舞う。
だが、結希は止まらない。靴に仕込まれた蒸気機関が機動力を底上げして階段を駆け上がり、武器を奪ったことで油断していたメルスィン・ヘレルのこめかみを拳で狙う。
「へっ?」
驚いたメルスィン・ヘレルの視界に湾曲した漆黒の刃が躍った。
「……フン、避けたか。だが――」
剣の主、故無・屍(ロスト・エクウェス・f29031)は既にその先を第六感にて読んでいる。背の翼で舞い上がり、急降下するメルスィン・ヘレルの踵は屍を僅かに逸れてその脇の岩肌を大きくえぐり取った。
「また外した?」
一瞬にして顔色を変えたメルスィン・ヘレルに体勢を立て直す暇を与えることなく屍は素手で相手の胸倉を掴み寄せる。
「え、ちょ、まっ……!」
「そらよ」
思いきり、それこそ容赦なく。屍は掴まえたメルスィン・ヘレルを地面目がけて乱暴に叩き付ける。
「きゃふん!」
「――見えた、な」
瞬く間に黒剣が閃き、二刃を腰の紋章目がけて刻み付けた。魔を祓うための太刀筋が十字を描いて血潮を招き、信じられないと言わんばかりの悲鳴を上げさせた。
「これでも楽勝そうですか?」
「くっ――」
よく状況がわかっていない相手に笑いかける結希の手にはなくとも、その心に“恋人”は在る。
「あ、当たり前じゃん!?」
「……そう。でも勝つのは……『私達』ですけどね」
「え?」
愕然と目をメルスィン・ヘレル。
結希は嬉しそうに目を細め、「おかえり」と両手を広げた。
「なん……で……?」
白い剥き出しの腹から大剣の刃が突き出している。『with』だ。跳ね飛ばされ、遥か高き天上に突き刺さっていたはずのそれは遠隔操作によって舞い戻り、背後からメルスィン・ヘレルの紋章を貫いたのである。
「貰い物の力で強くなったつもりで、当てが外れたな。ソレも一つの手段じゃあるが、漫然とひけらかしてりゃこうやって数にモノを言わせた奴らに勘付かれる」
「あ、あんた達……何者……!?」
問いには答えず、結希は逆にたずねてみせた。
「……ねぇ、まだつまらない?」
「うぐっ――」
メルスィン・ヘレルは痛いところを突かれ、声もない。
恋人を取り戻した旅人に不可能などあろうものか。きつく巻いたバンテージ越しに掴む確かな感覚がその証。あなたの退屈な毎日を、今日で最後にしてあげるから。
「春乃、つったか? 一瞬だけでいい。あいつの気を逸らせるか」
自ずから屍を名乗る男は、口先でこそ仕事だからと嘯いてばかりいる。住民の安否など知った事ではないと鼻を鳴らし、希望がどうこうと語るのは柄でもないと剣を取る。
「ふ、ふん……そう簡単に何度も掴まったりするもんか!」
メルスィン・ヘレルは翼を広げ、殊更に戦場の狭さを強調することでもはや背中は取らせまいと高笑った。
「どこに紋章を狙う隙間があるっていうのよ!?」
「そうか? 俺には、てめぇの背後に通じる道が見える……」
ほんの僅かな隙間であった。つい先ほど、敵が蹴りを叩き付けた際に穿たれた岩肌が崩れ、生まれた隙間。
残像を描きつつ、宣言通りに一瞬で背後に回り込んだ屍を止める術はなかった。メルスィン・ヘレルの尾は再び『with』へと伸びかけており、今更引き返せはしない。
「……仕事の邪魔だ、道を開けて貰おうか」
暗殺とは、人知れず命を絶つ所業也。屍の剣閃はまさに誰の目にも触れることなくその役目を果たしたのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ハイドラ・モリアーティ
【WANTED】
おいおい、緊張感があるんだかないんだか
動きたくないよな、わかるよ。お前は動かなくていいぜお嬢さん
――だってそのほうが殺しやすいし。
俺の仕事仲間は万能でさ
できないことは可能にしてくれる。素敵な彼にあんたをプレゼントしてもらうんだ
「めちゃくちゃにしてやる」よ。声も枯れちゃう?そうかもね
MEMENTOMORI、解体ショーだ
使える刃物は全部使うぜ、ヒュドラ。お前たちの首を貸せ
カタナに、ナイフに、ワイヤー
心臓のBPMはガン上がり。ウー、死にそ。気分もアガるね
本来、俺は一秒間に5回迷いなくお前を刻むが
それが九倍――45回お前の背中に叩き込んでやるよ
背中に花を盛り付けてやる。血と肉のな
ヴィクティム・ウィンターミュート
【WANTED】
あーらら、バッチリ有利な位置に居やがるな
さてさて、テメェは能動的に動く必要は無い
何せそっちは待ってりゃいい
チャレンジャーは俺達で、向かっていかなきゃいけねえワケだからな
そうなると、上を取られてるのは非常にやりにくい
だからよ
"こっちに来てもらうぜ"
セット、レディー…『Welcome』
お客様がお待ちだ、ちゃんと楽しませてやれよ
景色が急に変わって戸惑ってる?
まあそりゃそうだ、こいつは『強制転移』なんだからな
おまけに5秒、何も出来やしない
動けないなら、背面に回り込むのも容易だし?
その致命的な背中に…死を刻むのもイージーゲームってわけだ
そんじゃあハイドラ
天にも昇るような夢を与えてやれ
WANTED――さあ、狩られるのはどちら?
ハイドラ・モリアーティ(Hydra・f19307)の長い髪をどこからか吹き込む風が靡く戦旗のように舞い上げた。
「これから始まるショーの名を、お前は知っているかお嬢さん?」
カチャリと両手指に挟んだ刃物は持ち合わせの全て。艶めかしく照るカタナも、馴染むナイフも繊細なるワイヤーの何れもがお前を“解体”するための方法=代物だ。
「あーらら、バッチリ有利な位置に居やがるな」
ゴーグルを嵌めたヴィクティム・ウィンターミュート(Winter is Reborn・f01172)の視線がメルスィン・ヘレルまでの距離を過たず計測し、即座に座標を算出完了。
「あい、たたた……もー、さいあく!」
悪態をつき、怒りの形相で立ち上がったメルスィン・ヘレルは口元を拭いながらこちらを見下ろした。
「あんた達もやろうっての?」
「ああ。ただし、チャレンジャーは俺達だ。そっちはただ待ってりゃいい」
「はん?」
どういう意味だよ、と凄む相手にヴィクティムは紳士的に教えてやった。
「何もしなくていいってことさ。まあ、ソッチに向かっていかなきゃなんねえ俺達にとっては上を取られてるこの状況は非常にやりづらいもんで、だからよ。“こっちに来てもらうぜ”」
「だから、それはどういう――」
くすくすと含み笑うハイドラの肩が揺れる。
「天邪鬼だな、動くなと言われたらつい反発したくなる。わかるよ。だから理由を教えてやる――そのほうが、殺しやすいんだ」
汝、死を想え。
「MEMENTOMORIの開演だ」
逃れられぬ死を、忘れること勿れ。
はじまりは地底の風鳴りに入り混じるウィスパーヴォイス。ヴィクティムは指先をくい、と手招くように動かして告げた。
「セット、レディー……『Welcome』」
「な――……!? ……――」
驚愕と動揺に支配されたメルスィン・ヘレルの反応はハイドラの嗜虐心を満足させる。さっきまで階上からふたりを見下ろしていたはずの彼女はいまや、ありとあらゆる刃物を手に待ち受けるハイドラの眼前にいるのであった。
「な? 俺の仕事仲間は万能だろ」
ハイドラは悠々とメルスィン・ヘレルの肩に手を置いて耳元に囁きながらその背後に回り込む。
「できないことは可能にしてくれる。素敵な彼にプレゼントしてもらったあんたをさあ、どんな風に『めちゃくちゃにしてやる』かと考えるだけで、ウー、死にそ。気分もアガるね。聞こえるかい? ガン上がりした心臓のBPMが――!」
「ば、かな」
ようやく、メルスィン・ヘレルは自分の置かれている状況を理解する。あのゴーグルの男、どこか希薄な存在感に騙された。まさか空間を操って仲間の元に『強制転移』させた挙句に体の自由までをも奪うとは!
「タイムリミットは5秒間」
ヴィクティムは片目を閉じて指を鳴らし、強かな微笑と共にボーナスタイムの開始を告げる。
「そんじゃあハイドラ。天にも昇るような夢を与えてやれ」
「ああ、血と肉の花で盛り付けられた極上のやつをな」
宣言通り、ハイドラは僅かの刹那に凄絶なる血色の花弁を描き上げた。
本来なら1秒間に5回のところを、9倍――45回。それを更に5秒分。ヴィクティムが再び指を鳴らして閉演を知らせるのと、ハイドラが225回目の傷を刻みきって刃を濡らす血糊を振り払うのと、ようやく行動を許されたメルスィン・ヘレルが前のめりに倒れるのと。
いずれもが、ぴたり、同期した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
七那原・望
そんなに退屈ならそんな紋章抉り取ってしまえばどうですか?
偽りの力で勝っても面白くないでしょう?
あぁ、何をするのも億劫なら無抵抗で骸の海に帰ってくれませんか?
お互いに楽出来て、そちらにとっても得でしょう?
背中の翼で【空中戦】。常に高所にいる事で相手の注意を高所へと向け、自らを囮にしましょう。
【第六感】と【野生の勘】で敵の攻撃を【見切り】回避を。
オラトリオを使い、ユニゾンを敵のユーベルコードや攻撃に巻き込まれないように気を付けながら【限界突破】で【魔力を溜めつつ】敵の背後へと運び出し、タイミングを見計らって【Lux desire】を【全力魔法】【スナイパー】で紋章に放ちましょう。
鷲生・嵯泉
……躾の悪い番犬なぞ何の役にも立たんと教えてやろう
門とは何れ開かれる物であり、今其の時が来たと知れ
五感で得られる情報から戦闘知識に拠って攻撃の手を先読み
衝撃波で起点を潰して相殺してくれる
地の利が有る事で随分と悦に入っている様だが
此の程度も覆せんのに此処まで来た訳が無かろう
――蹂刀鏖末。躱すは難いぞ
上方、前方からの刃で前進を阻みつつのフェイントで集中を乱し
後方からの不規則軌道で以って紋章を穿つ
前方からは狙えないのならば“後方から撃てば良い”
其れが必要であるならば、正道以外を取る事とて厭いはせん
人の脚は生きる為に、未来へと進む為に止まる事などない
過去の残滓なぞが何時迄も其の道を塞ぐな
疾く、潰えろ
「まったく、始末の悪い相手ですこと」
そんなに退屈なら、そんな紋章抉りとってしまえばどうですか――七那原・望(封印されし果実・f04836)の髪のアネモネが白翼の羽搏きを受けてささやかに花弁を揺らした。ふわりと宙に浮いた望はメルスィン・ヘレルと目線が合う高さまで舞い上がると、そんな提案を口にする。
「うぐぐ……」
悔しそうに歯ぎしりするメルスィン・ヘレル。
実際、この紋章は強大なる力を与える代わりに弱点となっている。だが、抉りとる? その顔に逡巡が浮かんだのを望は見逃さなかった。
「偽りの力で勝っても面白くないでしょう? あるいは――」
羽影に何か別の影が蠢いた。それは望の抱える黄金の果実を守るため、メルスィン・ヘレルの脚先が穿った余波を打ち消すように膜を張る。
「ちっ、外した?」
もう一度、と飛翔しかけたメルスィン・ヘレルはしかし、ぞくりと背筋が凍るほどの殺気を感じて振り返った。
――赤い瞳。
冷ややかに、その目線だけで息を止めるかの如き鬼神めいた声色が囁いた。
「――蹂刀鏖末。躱すは難いぞ」
鷲生・嵯泉(烈志・f05845)は読み切っている。五感から得られる情報そして戦闘知識に準拠した予知にも近い想定――悦に入る暇などあるまい、と僅かに唇が動いた。
「……躾の悪い番犬なぞ何の役にも立たんと教えてやろう。門とは何れ開かれる物であり、今其の時が来たと知れ」
覆す。
そのための、烈志の刃。
「上か!?」
嵯泉の放つ数多の刃が雨のように降り注ぐのを、メルスィン・ヘレルの硬化した爪がすんでのところで払い除けた。
「こちらにもいますよ?」
望はまるで本物の鳥のように自由自在に飛び回り、敵を攪乱する。空は彼女の領域だった。羽搏くごと、魔力を満たす翼は輝きを増して“その時”を待っている。
「ちょこまかとっ……!」
「あら? そんなに必死になってどうしたんですか。こちらは別に無抵抗のまま骸の海に帰ってくれても構わないんですよ? お互いに楽出来て、そちらにとっても得でしょう?」
「うるさいなぁ――!」
苛立つメルスィン・ヘレルは望の掌中に囚われたも同然だった。大振りになった相手の攻撃を引き付けては躱し、“本命”を巧みに相手の目から逸らし続ける。
「……なるほど」
秋水より放つ衝撃波によってメルスィン・ヘレルの攻撃を基点から潰し、技の発生を未然に防ぎつつの得心したような呟きであった。
空間のほぼ全体を射程に捉えた刃群を操る嵯泉の目には全てが見えていた。エクルベージュの影が運ぶ黄金の果実が敵の目をかいくぐり、遂にその背後へと到達するのを期として望と嵯泉の目論見が完全に一致する。
――前方から狙えないのであれば、“後方から撃てば良い”――。
「さあ、おゆきなさい……!」
あまりにも眩い膨大な光の本流が地底空洞内を満たし、圧倒的なまでの破壊力でもってメルスィン・ヘレルを飲み込んだ。
「な……っ!?」
振り返る余裕など与えはしない。
黄金の果実――真核・ユニゾンより全力をもって放たれた輝きが紋章を浸食し、メルスィン・ヘレルに激しい苦痛をもたらした。
「ちょっと、たんまっ――」
「残念だが、断る」
例え王道を外れるとて、其れが人が生きる為に必要とあらば厭うことなく屠ってくれよう。幾何学を描いて紋章へと殺到する刃こそ過去の残滓を露払い、未来への道行きを約束するための力。
「疾く、潰えろ」
それこそ、塵さえも残さずに。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヤニ・デミトリ
地下でまで圧制とは気が滅入るっスねえ…
支配ってあんま好きな響きじゃないんだよなァ
空気の入れ替え時っスよ
狙えるのは背中だけ、卑怯な俺にゃ丁度いいっス
岩肌にナノマシンで擬態(化術)した泥を伝わせて、
相手の背後に分身を差し向ける
背中を見せてくれりゃ有難く切りかかるっスけど、
相手も弱点は警戒するでしょうから
接触した分身の泥で捕縛、行動を妨害するっス
そのまま生命力吸収して力を削げるか試してみますね
俺達は液体っスから切断されても糠に釘っスけど、
何度も切り捨てられちゃ御免ですしね
何より、強力な相手とありゃ確実に殺したいっス
攻撃態勢の猟兵がいりゃ丁度いいや、そのまま足止めを
鈍った動きで防ぎきれますかね?
鳴宮・匡
救いたい、なんてのは使命感でも正義感でもない
ただ、自分がそうしたいから
それを択んだ先にある、“自分”を知りたいんだ
「狭い階段状の場所」だろ
こちらの攻め手も制限されるけど、向こうも同じだ
横や後方を衝くような真似は難しいだろう
――前か、あるいはこちらの意表を衝くならば上
こっちの得物が飛び道具だと分かれば
恐らくは上を取ろうと狙ってくるだろう
射撃戦を仕掛けつつ
目と耳で、相手の動きをつぶさに把握
癖や動きの間隙をよく覚えておくよ
踏みつけの瞬間を見切り、前に転がるように回避
素早く態勢を整えて、振り向きざま
着地した直後の相手の背中を狙う
向こうが振り向く隙は与えない
“それ”、抉り取らせてもらうぜ
「派手にやってますねェ」
泥から生まれし声はこの状況を愉しむかのような軽妙さを湛えていた。差し込む白光が激しければ激しいほどヤニ・デミトリ(笑う泥・f13124)の“黒”はより際立ち、まるで底無しの沼を連想させる。
「――前か、あるいはこちらの意表を衝くならば上。かな?」
鳴宮・匡(凪の海・f01612)は光が退くまでの間にざっと目視で標的までの距離を計り終えた。
「聞いていた通り、左右はひとりが通るので精一杯。けど、それは向こうも同じだ」
「簡単に背中を見せてくれりゃ有難いっスけどね、相手も弱点は警戒するでしょうから。どっちから来ると思います?」
「恐らくは――上」
短く告げる匡にヤニはにこりと笑った。
「了解っス。こいつで足止めてやりますよ」
すらりと伸びる足元から分離した泥はナノマシンによって見る間に岩肌へと同化。滑るように階段を登り、低く呻いたメルスィン・ヘレルの脇を何事もなくすり抜けた。
「ゆ、ゆるさない……このあたしを虚仮にするなんて、あ……ったまきた……」
背後に這い寄る泥の存在など知る由もないメルスィン・ヘレルの怒りを、ヤニは肩を竦めてはぐらかした。
「言うなれば空気の入れ替え時っスよ。まあ、それを言うなら支配ってのからしてあんま好きな響きじゃないんですがね。まさか地下でまで圧制とは、とことん気が滅入るっスねえ……」
「はぁ? 弱いんだから支配されて当然でしょ?」
「その言葉、言質を取ったっスよ」
ヤニが僅かに体をずらした途端、後ろで銃を構えていた匡が攻撃を仕掛けた。――飛び道具。反射的に飛び上がりかけたメルスィン・ヘレルの足首に絡みついたのは擬態していたヤニの分身である。
「こいつ!」
「おっと、いくら液体っていってもコマギレにされるのは勘弁っスよ」
まるで生きた蛇か何かのように、脚を、胴体を、腕を捕縛してゆく万能なる我が分身。確かな手応えにヤニは片目を閉じてみせる。
「実は、得意なんっスよね。生命力吸収」
「くっそ、こんなもの……!」
メルスィン・ヘレルは泥に構わず飛び上がるが、高度が足りずに呆気なく態勢を崩した。
(「読み通り」)
タイミングを合わせ、匡は相手が踏みつける瞬間を狙って前転。「あっ」と慌てた声を上げるメルスィン・ヘレルより素早く体を起こし、振り向きざまに――片手で構えた拳銃の引き金を引いた。
「ばっ――」
完全に動きを読まれていたこと、そして自分が唯一の弱点である紋章を敵の銃口に晒していることがメルスィン・ヘレルを混乱に陥れる。
はやく、ふりむかなきゃ――。
「果たして、その鈍った動きで防ぎきれますかね?」
揶揄するような声色が告げた通り、メルスィン・ヘレルは間に合わなかった。匡の“瞳”は因果を詳らかにし、全てを見通す。
全身を泥に塗れ、自由を奪われたメルスィン・ヘレルの腰に埋め込まれた『番犬の紋章』に向かって吸い込まれるように進む銃弾。
ゆっくりと唇を開き、細めた両目に『死』を捉えながら。
「“それ”、抉り取らせてもらうぜ」
紋章のちょうど中央で爆ぜた弾丸が最後に残っていたなけなしの命を奪い、骸の海へと葬り去る。
「弱いものは支配されて当然、か。確かに間違ってはいないよ。だが、それを免罪符に好き放題するのを傍観しているのは好きじゃない」
地面に落ちた紋章を指先で拾い上げ、匡は己を突き動かす動機の在処に思いを馳せた。それは使命感でも正義感でもなく、ただ、そうしたいと望んだから。
――それを択んだ先にある、“自分”を知るために。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『死地を駆け抜けるチャリオット』
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POW : 駆け抜け、弾き、轢き倒す戦車
単純で重い【チャリオットによる突撃】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : 馭者による巧みな鞭
【絡めとる鞭】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : 全力による特攻
自身が操縦する【ゾンビホース2頭】の【身体を鞭で強く打ちスピード】と【突撃による破壊力】を増強する。
イラスト:井渡
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「門番が何者かに倒された?」
地底に点在する都市の中でもどちらかといえば地上に近い辺縁部に位置するこの村では、長い冬の訪れを前にした『魔牛狩り』の最中であった。
仄暗い地底に生きる彼らが糧にできる食物は決して多くはない。魔獣は貴重な肉源であり、秋のうちに捕獲したそれを干し肉に加工して長い冬に備えなければならなかった。
「まさか、何かの間違いだろう。あの門番がどれだけ強大で恐ろしい存在か……思い出すだけで身の毛もよだつ。それが、倒されただって? くだらない噂話をしている暇があるのなら、あの魔牛の群れをどうやって倒すか良い手を考えてはくれないか」
だが、狩りの準備は不気味な馬の嘶きにまたしても邪魔をされてしまう。
「貴様ら、魔牛狩りだなどと何を悠長なことをしておる!」
村人たちが戸惑っていると、先頭のチャリオットに乗った死神のような風貌のヴァンパイアが慌てふためいた様子でまくし立てた。
「戦えるものは全員、武器を持って村の門に集結せよ! 敵がやってくるぞ!!」
突然の招集命令に村人たちは動揺し、互いの顔を見つめ合った。まさか、門番を倒した何者かがこの村をも殲滅しにやってくるというのだろうか?
「急げ、遅れるな!」
「は、はい!」
いったい何者が、何のためにやってくるのか――疑問は残ったが、村の支配者であるオブリビオンの命令に彼らが逆らうことなど許されるわけもない。
村人たちはそれぞれに農具を手にすると、先導するチャリオットの後をぞろぞろと門までついていった。
「武器を持って、そこに並べ!!」
オブリビオンは固く閉ざした門の前に鍬や斧を持った村人を並べると、自分たちはその後ろにずらっと横並びになった。
左右に2体ずつ、計4体のチャリオットを従えたリーダーは門を背に嗄れた喚き声を張り上げる。
「絶対に、後退することは許さぬ! 命と引き換えにしてでも敵に向かって突っ込め――!!」
春乃・結希
地下のオブリビオンは、人を壁にするのが好きだなぁ…
自分の力に自信がないからですよね
1人で戦う門番さんの方がよっぽどカッコ良かったです
『wanderer』で助走を付けてからの踏み込み
村人さん達の頭上を飛び越える
それでも食い下がってくる人がいれば、掴んで力尽くで引き倒す【怪力】
魔牛?を狩れるくらいの人なら、これくらい大丈夫ですよねっ
ごめんなさい!ちょっと通りますね!
走る勢いをそのままに、チャリオットの突撃に正面から『with』で対抗
止められるものなら、止めてみろ!
衝撃で地面をガタガタにできれば、続く突撃の勢いを削ぐ事もできるかも
…ところでその魔牛とかいうのは美味しいんですか?
村人さんに聞いてみます
七那原・望
背中の翼で【空中戦】。相手の突進が決して当たらない高度を維持しましょう。
なんていうか、呆れを通り越して言葉も出て来ないのです。
戦闘能力も殆どない市民の後ろで喚き散らして、情けないのです。
後退は許されないのでしょう?いいですよ。全員こちらに突っ込んで来てください。
【マジックオーケストラ】を発動し、突撃してきた市民達を影の猟兵達で片っ端から保護し、【多重詠唱】【結界術】を展開したねこさん達に市民達を護ってもらうのです。
さぁ、次はそちらなのです。市民達がいないと怖くて戦えないのですか?
オブリビオンの方は突撃の勢いを利用した【カウンター】を。影の猟兵達の槍で串刺しにしてしまいましょう。
ヤニ・デミトリ
あらー流石吸血鬼、非道に関しちゃ期待を裏切らないスね
村人がその気なら相応に対応するだけっスけど、
解放したのが無人の土地だけってオチじゃあ笑えねえや
吸血鬼と村人の間に連れ合いを滑り込ませて分断する
代償を多めに与えて、巨体で攻撃を凌ぐ壁になって貰うっス
今日はおかわりをやるから、オブリビオン以外食うのは無し
お守りは頼むっスよ
村人吃驚したっスかね、一応俺達ここの開放にきたんスよ
つよつよ門番もあの人らが倒した事だし
もし生き延びたけりゃあ協力して貰えるっスかね?
相棒の後ろで大人しくしてて欲しいっス。そこにいる分には守りますから
万一殺気立ったり混乱してる村人は
あやしい光の催眠術でちょっと落ち着いて貰うっスね
「地下のオブリビオンは、人を壁にするのが好きだなぁ……」
呆れたように呟く春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)は既に助走を始めている。深い踏み込みから高々と跳躍し、空中で軽く回転しながら村人たちの頭上を飛び越えた。
「うわ……っ!?」
「ごめんなさい! ちょっと通りますね」
反射的に飛びかかろうと手を伸ばしてきた村人の肩を掴み、怪力でもって引き倒す。もの凄い音がしたが、意外と村人は丈夫なようだ。さすが魔牛狩りで鍛えられているらしい。
「さあ、いらっしゃいな」
驚く彼らに向かって七那原・望(封印されし果実・f04836)が手をこまねいた。こちらもどこか呆れた風情である。無論、無理やり戦いに駆り出された村人に対してではなく、ほとんど戦闘力などない人間の後ろで喚き散らすことしかできないオブリビオンに対してであったが。
「後退は許されないのでしょう? いいですよ。全員こちらに突っ込んで来てください」
村人は戸惑ったように顔を見合わせてから、「わー!」と叫んで腰を引かせたまま一斉に突っ込んだ。
「いただいたっスよ」
オブリビオンと村人の間が離れた瞬間、ヤニ・デミトリ(笑う泥・f13124)の“連れ合い”が俄かに蠢く。
「なっ……ワ、ワーム!?」
突如として眼前に現れた巨大ワーム状のバラックスクラップを前にまず驚愕の声を上げたのはオブリビオンの方だった。
「今日はおかわりをやるから、オブリビオン以外食うのは無し。お守は頼むっスよ」
約束をもらったバラックスクラップは機嫌よくその巨体を広げ、即席の壁をこしらえる。
「あ、あれは……?」
「大丈夫、敵じゃないっスよ」
ヤニはひらひらと手のひらを見せて言った。
「一応俺達ここの解放にきたんスよ。つよつよ門番を倒したのもあの人らでしてね」
親指で皆を差すと、村人たちの目が大きく見開かれる。
「ほ、ほんとうか?」
「ですって。もし生き延びたけりゃあ協力して貰えるっスかね?」
「あ、ああ」
「じゃあ、相棒の後ろで大人しくしてて欲しいっス。救助がくるまでしっかり守るっスよ」
「救助――?」
いったいどこから、と見回す村人たちの頭上からそれは訪れた。無数の白猫の軍団と猟兵を模した無数の影の軍勢。彼らは村人たちを次から次へと保護し、白猫たちの合唱が幾重もの結界を紡いで戦いの余波に彼らが巻き込まれないように力を尽くす。
「さぁ、次はそちらなのです。市民達がいないと怖くて戦えないのですか?」
「ぐ、ぐぬぬ……! いけ、蹂躙してしまえ!!」
中央のリーダーが手を挙げると、左右の配下が馬に鞭打って突撃を開始した。
「私と『with』に向かって来るとは、いい度胸です!」
真正面から駆け込んだ結希は問答無用で大剣を振るう。獣の嘶きのような音を立てて薙ぎ払われたチャリオットが周辺地形ごと吹き飛んだ。
「やってしまいなさい!」
望の号令を受け、影の猟兵たちは一斉に武器を構える。さらに鞭が打たれ、加速――だが、勢いが増せばますほど、狙いすましたカウンターはその威力を発揮する。
「駄目だ、と、止まれ――!!」
窮地を悟って引き返そうとした時には遅く、標的となったオブリビオン敢え無くは御者台から引き摺り下ろされ、百舌鳥の早贄のように地面へと串刺しになった。
「す、すげえ……」
呆然と見つめる村人に気付き、結希はふと尋ねてみる。
「そういえば、この辺で魔牛? っていうのが獲れるって聞いたんですけど美味しいんですか?」
「えっ? あ、ああ。でもあの群れのボスは気が荒くてなかなか狩れなくて……でも、あなたたちなら簡単にやっちまいそうだな……」
最後の方は希望混じりにぼそぼそと小声でつぶやかれたに過ぎなかった。
「うわ、と、とっ――!!」
先程の結希の一発によってガタガタになった地面はチャリオットで走るには分が悪い。格好悪く車輪を跳ねながら進んだ先がバラックスクラップの巨体ではオブリビオンも運がなかった。
「あらー非道なる吸血鬼もこうなっちゃ形無しっスね」
楽しんでいる風の姿勢を崩さないヤニに村人がおずおずと声をかける。
「あ、あなたたちはいったい……?」
「お? 何かあるっスか?」
暴れるのであれば催眠術も辞さないとフードの奥の光をぎらつかせるヤニに、村人は慌てて首を振った。
「じきに分かるっスよ。地底くんだりまでやってきて、解放したのが無人の土地だけってオチじゃあ笑えねえや」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ハイドラ・モリアーティ
【WANTED】
オー、なんつうデッドオアライブ
まあまあ、そうピリピリすんなって
導き手には従っといたほうがいいぜ
俺たちは英雄じゃあないのさ。俺は守銭奴、こいつはランナー
アー、文明的に理解は難しい?そんじゃあ言葉を言い換えるが、確かに「どっちも悪役だ」
だが俺たちは今回、「お前たちの敵」じゃあないさ
そこの――デカブツどものだ
【ADDICTION】、仕事だ
さあて、かかって来いよ辻馬車よりだせェ奴らめ
なァにがチャリオットだ。たかが馬だろ。直線でしか走れねえ、――跳ぶぜ
跳躍したら、上を取る。嘶くのか?どうぞ。首が狙いやすくて助かるよ!
ヒュドラ、脳髄をすすってやれ
地獄にようこそ――「俺たち」の晩餐の時間だ
ヴィクティム・ウィンターミュート
【WANTED】
さて──選択肢を2つ提示しよう
1つ目、前列に並んだ一般人ども
お前らには即、家に帰ってもらう
あぁ、安心していい…誰にも邪魔されることは無い
抵抗しなきゃな
戻るのはその門の向こうの家だろうしな
あぁ、代価として後ろのカスどもは殺してやる
2つ目
この場を離れず、言う事も聞かず…ここで全員殺される
前に立つなら、それごと後ろのカスどもを殺すまでだ
この場を『安全に』逃げて後ろの奴を見殺しにし、自由になるか
無意味に全員心中か…答えは?決まってるはずだぜ
では、『Surrender』…約束は履行された
ハイドラ、潰せ
あぁそうだ
カスどもも帰っていいぜ?
"俺達には勝てないもんな"
なーんて、【挑発】も忘れない
「呆れた展開だなあ、ハイドラ?」
「ああ、辻馬車よりもだせェ奴らだぜ」
――ヴィクティム・ウィンターミュート(Winter is Reborn・f01172)、ハイドラ・モリアーティ(Hydra・f19307)。
【WANTED】はこの状況にふたつの選択肢を与える。
「1つ目、前列に並んだ一般人ども。お前らには即、家に帰ってもらう」
「え?」
すっ、とヴィクティムは手をかざして村人たちの反論を封じた。
「あぁ、安心していい……誰にも邪魔されることは無い。ただし、抵抗しなきゃな」
戦場に奇妙な沈黙が降りた。この時点で既に彼らはヴィクティムの術中――仕組まれた筋書きの劇中に嵌ったも同然である。
「な、なにを勝手な――!!」
「黙れ、デカブツども」
喚くオブリビオンをハイドラが一喝した。
「いいから、そうピリピリすんなって。導き手には従っといたほうがいいぜ」
英雄?
――ノー。
守銭奴&ランナー。
――イエス。
それじゃ分かりづらければ、もっと率直に“悪役”だとでも名乗ろうか。そして極上のピカレスクをお見せしよう。
ヴィクティムは人差し指に続いて中指を立てる。
「続けていいか? 2つ目。この場を離れず、言う事も聞かず……ここで全員殺される。前に立つなら、それごと後ろのカスどもを殺すまでだ」
今度こそ、村人たちはざわめいた。
「そんなの、考えるまでもないじゃないか!?」
「ああ、1つ目だ! こんな奴らと一緒に心中するなんてごめんだ!!」
彼らは我先にと武器を放って逃げてくる。
「――You did it」
ヴィクティムの唇が「よくできました」と動いた。
「ハイドラ、潰せ。答えは『Surrender』……約束は履行された」
「オー、もう少し遅かったら【ADDICTION】が退屈でへそ曲げちまうとこだったぜ」
ざわりと広がる黒髪の陰より顕れた漆黒のヒュドラが牙を獲物を求めて襲いかかる。オブリビオンが気付いた時にはもう、ハイドラは跳躍して上を取っていた。
「ひぇッ――!!」
嘶く馬の首が落ち、振り落とされた吸血鬼が地面をみっともなく這いずった。
「うまいか、ヒュドラ?」
背中からかぶりつき、脳髄をすする異形が嗤うように頭の一部を歪める。
「あ、あわわわ……」
「地獄へようこそ」
ハイドラは首を傾げ、歓迎するように唇の端を吊り上げた。怖じるように馬たちは蹄をかいて後退する。手際よく村人たちを彼らの棲家に転移させたヴィクティムは追い打ちをかけるように言い放った。
「そのまま帰っていいぜ? どうせ"俺達には勝てないもんな"」
「き、貴様あッ――いけ、やってしまえ!」
「――ひええっ!!」
情けなく腰を抜かしたまま、リーダーであるオブリビオンは配下の馬を鞭打って無理やりに突撃させた。仁王立ちで迎え撃つハイドラは鼻を鳴らし、悠々と跳んで躱す。
「なァにがチャリオットだ。たかが馬だろ」
白い頬を汚す脳髄を舐めとり、ハイドラは軽蔑しきった眼差しで晩餐の始まりを告げるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鳴宮・匡
住民を巻き込みそうな敵から順に処理する
突撃姿勢に入る前に脚を砕いて機動力を削ぎ
馭者を狙って行動不能にしていく
必ず“絶対に村人に当たらない”ように撃つよ
誤射はしない
何千、何万回と繰り返してきた動作を
仕損じることは絶対にない
もし、村人を保護してくれる猟兵がいるなら
相手の注意をこちらに引き付けてそいつの仕事を助ける
こっちの仕事もしやすくなるしな
今までは、切り捨ててきた
生き残る為に、敵を殺すために、余分なものは全部
――無辜の人々でさえ
でも、今はもう何一つ諦めないと決めてる
だから一人も殺させるわけにはいかない
たとえもう、情なんてものを懐けない壊れたこころだとしても
手を伸ばしたいと思うのは、嘘じゃないんだ
鷲生・嵯泉
案の定とでも云うべき、解り易い愚行だな
護るべきもの、助けるべきものを盾にされては手が出せぬとでも?
……随分と甘く見られたものだ
――終葬烈実、箍を砕かん
お前達が如き下種は何処に於いても似通った真似をする
民ごと攻撃に巻き込む心算だろうがそうはさせん
何の訓練も受けぬ攻撃なぞ躱すに易い
民の間を摺り抜け間へ割って入り一気に接敵
戦車が前進する距離を潰し、向きや手綱捌きから動き出す瞬間の隙を狙って
怪力に鎧砕きを乗せた斬撃で以って先ずは馬を叩き斬ってくれよう
機動力さえ削いでしまえば戦車なぞ唯のガラクタに過ぎん
――後退する事なぞ赦さん
民無くば国は無い
民の命を軽んずる者の治世が何時迄も続くものか
疾く潰えろ、圧制者
故無・屍
…住民を盾にするかよ、単純だが悪くねェ手を使うモンだ。
諸共斬って捨てるのが一番手っ取り早いが、仕事はここの解放なんでな。
せいぜい戦ってる振りでもしてろ。巻き込まねェように気を遣うくらいはしてやる。
…俺らはきっかけを作りに来ただけだ。
お前らが今を変えたいと思ってんなら後悔しねェ選択をするんだな。
2回攻撃、怪力、限界突破を併用しオブリビオンのみを対象にUCを発動
敵の攻撃に対しては見切り、早業、カウンターにて馬や車輪を狙い発動を妨害
攻撃に巻き込まれそうな住民はかばうにて守る
『過去』がのさばるのはここまでだ。
この街の今後なんざ知った事じゃねェが、
今生きてる奴が道を選ぶ方がいくらか上等だろうよ。
あまりにも愚かな――それでいて予想の範疇を出ない凡庸なやり方は鷲生・嵯泉(烈志・f05845)を怒らせた。
「……随分と甘く見られたものだ」
鍔鳴る愛刀。
箍の外れた嵯泉を止められる者が果たしていようか。それも、兵士ですらない民があやふやに振り回す農具の稚拙な軌跡など――。
「あ、当たらないっ……!」
愕然と叫ぶ村人たちを置き去りにして、嵯泉は敵しか見ていない。命を燃やして、戦車が前進する距離を潰す。
「げえっ――」
まずは、馬。
斬るというよりも叩き潰すといった方が近い。
「と、止めろ――!」
だが、狙い澄ました弾丸がそれを阻んだ。
鳴宮・匡(凪の海・f01612)のアサルトライフルによる援護射撃が、オブリビオン同士が連携して動くのを許さない。
「ま、まさか村人ごと!?」
いいや、と匡は胸中にて否定する。
己の狙った通りに敵を撃ち倒してくれる有能な愛銃を脇に構え、匡はわざと目立つように大きく動きながら引き金を引いた。
村人の救助活動に当たる猟兵たちよりもこちらに注意を集めるため、だ。表情ひとつ変えない。緊張で動きが鈍るなど有り得なく、誤射の可能性は0%。
何千、何万回と繰り返してきた動作を仕損じることは絶対に――ない。
(「もう、何一つ諦めないと決めたから」)
情など懐けぬほどに壊れたこころを抱え、それでもなおこの手を、指を伸ばしたいと希う。胸の裡に飼い慣らした心象の海を揺蕩う亡霊の波。死なない為に切り捨てて来た無辜の人々の――目を背けるつもりはない。
だが、その数を増やすつもりも――ない。
「うわあああっ!」
故無・屍(ロスト・エクウェス・f29031)の手元で巨大化する剣を前に、腰を抜かした村人の悲鳴が轟いた。
終わりだ――目を閉じ、観念するがいつまで待っても衝撃は訪れない。
「……?」
そこには信じられない光景が広がっていた。
あれほど大きな刃が戦場を一閃したというのに、村人は全員無傷。ただ、オブリビオンだけが八つ裂きになって血を吐いている。
「ど、どうして――?」
「せいぜい戦ってる振りでもしてろ。後は何とかしてやる」
屍はまだよく事情を飲み込めていない村人たちを背に庇うように立ちふさがり、その身に腐臭が混じる地底の風を受ける。
「……俺らはきっかけを作りに来ただけだ。お前らが今を変えたいと思ってんなら後悔しねェ選択をするんだな」
飛び散った戦車の破片が仁王立つ屍の頬を掠めた。これは、今生きてる奴が道を選ぶための駄賃だ。ぐっと握り締めた漆黒の剣が屍の決意に呼応して更に質量を増した。
「住民を盾にする、か。単純だが悪い手じゃねェ……だがよ、こんくらいの小細工でどうにかできると思ってたんなら、俺らも見くびられたもんだぜ」
「ば――――……!」
二度、重ねるようにして迸る斬撃が車輪を砕き、疾走する戦車から自由を奪った。限界を超えた過重に奥歯が砕けそうなほど、きつく食い縛る。
「て、撤退……っ」
「どこに逃げるつもりだって?」
オブリビオンの腐臭と入り混じった硝煙の匂いが撃ち放った弾の数と倒した敵の数を物語る。匡は仲間の屍に囲まれ、ただひとり残されたオブリビオンの胸元に銃口を向けた。
「あとはお前だけだよ、リーダー」
「そ、そんな……全部……?」
オブリビオンが引き連れて来た村人たちは全て避難を完了していた。卑怯な盾はもはや失われ、使い捨てた仲間の屍はやがて骸の海へと還ってゆく。
「いい加減に身の程を知りやがるんだな。『過去』の分際で、今生きてる奴の生活を踏みにじっていい道理なんざねェ」
限界まで膨れ上がった暗黒の刀剣を肩に負い、屍は腰を低めて力を溜めた。
「ま、待て……話せば……話せばわかる……かも……!」
「笑止」
武芸際涯に至る嵯泉の前より後退できると思ったのならば、愚昧に過ぎる。
「ひっ」
「民無くば国は無い。悔いるのならば、己の行いをこそ顧みるのだな。――疾く潰えろ、圧制者」
弾丸の突き抜けた背中より腐った血潮が咲き、鎧をも砕く怪力によって潰された肉体が巨刀の餌食となって細切れに吹き飛んだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 日常
『魔牛捕獲作戦』
|
POW : 正面から挑んで、捕獲する
SPD : 罠を仕掛ける
WIZ : 魔牛の習性を利用する
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
猟兵たちの活躍によって当面はこの村にも平和が訪れるだろう。だが、のんびりしていれば新たなオブリビオンが派遣されることは予想がつく。
「誤解をしてしまってすみませんでした。まさか、吸血鬼たちを倒してくださる方が現れるとは露ほどにも思わず……」
無事に村へと帰還していた彼らは謝罪の感謝の言葉を告げるため、再び門まで集まっていた。
後は彼らを地上へと誘うだけである。
既に協力を申し出てくれた砦とは話がついており、村人たちさえその気になれば他に問題はないのだが――いつその話を切り出そうかとタイミングをうかがっている猟兵たちとは裏腹に、村人たちは中断していた魔牛狩りのことが気がかりであるらしかった。
「お礼に魔牛の丸焼きを御馳走させてください、と言いたいところなんですが……少々手こずってましてね。二十匹弱の群れなんですが、ボスの気性が荒くてなかなか近づけないんです。こんな場所ですから、貴重な肉でして。冬になる前にできるだけ蓄えておかなくては」
これは移住の話を持ち掛けるのによい機会かもしれない。砦へ移住するにしても食料は必要だ。それに、猟兵たちも手伝ったほうが早く終わるだろう。
さっそく村人たちに協力を申し出た猟兵たちは、その技能を生かして魔牛狩りを手伝うことになったのだった。
春乃・結希
魔牛に両手を広げて近づきます
牛ー!おいでー!村の人達が美味しくしてくれ(牛の突撃に跳ね飛ばされる)
ぐふっ……や、やりますね、牛のくせに……
あなたがそのつもりなら、私だって本気出しますよ!
さっきは油断してましたが、次はちゃんと対抗する構え!
牛の動きを良く見て、突撃をサイドステップでかわす!
『wanderer』での瞬発力も活かし、今だー!というタイミングで
すかさず横からタックルで抑え込む!【怪力】
あっ、こらっ!おとなしくしてっ
いうこと聞かないとー……こうですよ!(蹴る)
私の方が強いということが分かれば、言う事を聞くかもしれない。牛だし。
いい?村の人達の言うことをよく聞くんだよ?わかったっ?
鷲生・嵯泉
道中の食料としても勿論、移動先への手土産としても丁度良い
最大限狩れるだけ狩れる様に計らおう
先ずは問題と成るボスを群れから離すか
――破群猟域、獣を追うなら鞭が良い
利用価値が下がらない様、加減した打撃で足元を狙って払い
ボスを追い立て群れから切り離す
残った群れも散らぬ様に、周囲を打つ事で纏めて置くよう図り
後は逃げられん様に脚を潰せば労無く狩れよう
捌くのはより慣れた者に任せるとして
運ぶ事は請け負おう。此の程度なら苦に成らん
時の止まる事が無ければ
陽は射さずとも必ず夜は明け、季節も巡る
未だ混迷の中に在るが、少しずつ世界は変わり始めている
我等が此処へと訪れた事は何よりの証拠
外への1歩で、誠と確かめるが良い
ヤニ・デミトリ
てか魔獣の類っスよね一応、よく狩ってたなァ…
そんだけ選択肢もなかったんスね
地上で幾分かマシな暮らしをして欲しい所っス
さて、屑鉄の猟犬達、牛達を追い込むっスよ
逃げ道を塞いだり引き離したり、捕獲しやすいように誘導を
こちらへ向かってきた所を泥で捕縛して仕留めるっス
こんだけの数、捌くのも大仕事そうっスねえ
犬達を羆に変えて牛を運ばせつつ、
血抜きや必要な処理も入用なら済ましちまいますね
処理の仕方は解るっス、
生き物のことはよく観察しているので…あああいや猟奇的な意味でなく
村人の食料が確保できたなら、それとなく地上へ誘ってみるっスか
地上も極楽とは言えないスけど、
人らしく生きられる自由くらいはあると思うっスから
「牛ー! おいでー!」
――春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)の呼びかけを魔牛は完全に無視した。まるで犬猫を相手にするが如く無防備に両手を広げて近づいてくる結希へと突進。情け容赦なく吹っ飛ばしたのである。
「ぐふっ……」
「ああっ、大丈夫ですか!?」
村人が心配するのも無理はない。なにしろ数メートルは軽く飛んだように見えたので、まさか無事だと知って驚いていた。
「や、やりますね、牛のくせに……」
「はい、あいつら結構強いんです」
村人たちは神妙な顔で頷いた。「そりゃあ」と肩を竦めたのはヤニ・デミトリ(笑う泥・f13124)である。
「魔獣の類っスよね一応? むしろ今までよく狩ってたなァ……」
見渡す限りの荒地は、魔獣でない普通の獣が生きるには過酷過ぎる環境なのだろう。
「そんだけ選択肢もなかったんスよね。安心してくださいよ、コイツでぱぱっと牛達を追い込んでやるっス」
ヤニが軽く口笛を吹き鳴らせば屑鉄の塊が俄かに生物のように蠢いた。――猟犬。気付いた牛達は慌てて逃げ出すものの、バラックスクラップの群が逃げ道を塞ぐほうが早い。
「あれが問題と成るボスか」
鷲生・嵯泉(烈志・f05845)が手の内にてたった一振りするだけで刃の鋭さはそのままに形状のみが鞭のようにしなりを帯びた。ほとんどの牛が逃げ惑うなかで、立派な角を持つひと際大きな雄牛がバックスクラップの猟犬を威嚇し始めたのである。
「――退け。お前の敵う相手でもあるまい」
加減したのは慈悲ではなく、利用価値を下げないための配慮。なにしろ嵯泉が本気を出せば影も形も残さずに消し炭と化すだろうことは想像に難くない。
愛刀で牛を追っている姿など身内には見せられないなと独りごち、別の猟兵が待ち構えている方へとボスを追い払ってやった。
「すげぇ……!!」
邪魔をしないように遠くから見守っていた村人たちの間から思わず驚嘆が漏れた。
屑鉄のような生き物と鞭剣によって追い立てられた牛の群れは次第に纏められ、逃げ場を失ったところで次々と捕獲されていった。
「もう近づいても平気だ」
嵯泉は脚を潰して動けなくした牛を村人の男へと引き渡す。頸動脈を落とし、すぐに血抜きする。
「お利口サンでしたっスね」
ヤニの猟犬は姿を変え、羆が獲物を咥えて運ぶように仕留めた牛を引きずって戻った。捕縛していた泥を戻し、慣れた手つきで食用にするための処理を済ませる。
「お上手ですね。牛を飼われていたことがあるんですか?」
村人が目を丸くしていると、はぐらかすようにヤニは笑う。
「観察眼の賜物っスかね……ああいや、猟奇的な意味じゃないっスよ」
「はあ、でもすごいです。あっちの方なんて素手で捕まえてますし……」
と、彼が視線を向ける先では結希が結構本気で牛と格闘していた。角を突き出し、低く下げた頭を真っすぐにぶつけにいくさまは闘牛のそれを思わせる。
「さあ、こいっ!」
落ち着いて待ち構えれば直線的な牛の動きは十分に読みやすい。牛が「とった」と確信した直後、しかし角は空を切る。
「!?」
「――ふふっ、同じ技は二度も食らいませんよ」
サイドステップで軽やかに躱していた結希の靴先がすかさず地面を蹴って鋭いタックルを仕掛ける。
「あっ、こらっ! おとなしくしてっ」
脇腹に膝蹴りを食らわせ、ようやく大人しくなった。ふう、と息をついて捕まえた手は離さないままに村人を呼ぶ。
「おーい、捕まえましたよー!」
「こいつ、観念した目をしてますね」
「私の方が強いってことが分かったのかも?」
結希が顔を覗き込むと、牛はびくっと怯えたように長い睫毛を震わせた。どうやら本能に恐怖が刻み付けられたようである。その顔を覗き込み、結希はにっこりと笑いかけた。
「いい? 村の人達の言うことをよく聞くんだよ? わかったっ?」
観念したかのように動かない牛はそのまま村人に縛られ、地面を引きずられてゆく。
「運ぶなら請け負おう」
「えっ、うわっ……!!」
軽々とひとりで牛一匹を担ぎ上げてしまった嵯泉の後を、村人たちは慌てて追いかけた。
「何から何まで、本当にありがとうございます」
「構わん。それで、地上に往く覚悟の程は」
「それは――」
彼らが戸惑うのも無理はない。地下の世界を当たり前と受け入れてきた地底都市の人間にとって地上は得体の知れぬ異世界も同然であろうから。
「正直に言えば、不安のほうが大きいです。いえ、皆さんの話を信じていないわけではなくて……ちゃんとやっていけるのかどうか、とか――」
嵯泉は肯定とも否定とも判じ難い仕草で首を動かし、それから自分の足元に視線を落とした。
時が止まらぬ限り陽は射さずとも必ず夜は明け、季節も巡る。人も同じこと。前を向いて歩み続ければいずれ混迷は安定を見出すだろう。
「まずは1歩を踏み出してみるがいい」
そして外の世界をその眼で、耳で、体の全てで誠であると確かめろ――と。
「丁度良く、手土産もあるしな」
肩に負った牛を示し、嵯泉は続けた。
「道中の食料も要るだろうからな。できるだけ狩っていくか」
「そっスね。地上も極楽とは言えないスけど、人らしく生きられる自由くらいはあると思うっスから」
よかったら道案内するっスよ――ヤニに柔らかな笑顔を向けられた村人たちは嵯泉と結希の顔を順番に見てから、照れたように身じろいだ。
「そう……ですね。俺たちも、外の世界……地上ってやつをこの目で見てみたいです。皆さんが来てくれて、よかったと心から思ってます」
大成功
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ヴィクティム・ウィンターミュート
【WANTED】
はい、お終いっと…悪くは無かったが、ピカレスクには勝てなかったな
さて、俺としてはこのまま帰ってもいいんだが…
アフターケアまでご所望?オーキードーキー、強欲だね
超簡単な牛狩りだ、追い立てるから手早く頼むよ
『Alcatraz』──追い立てるには、壁を用意すればいい
物理的な遮蔽に誘導して、有能な解体屋の元までご招待だ
いや、解体せずに丸焼きがいいんだっけ?ま、好きにどうぞ
さーて…やることはやったし、そろそろ行くとこ行った方がいいんじゃない?
ま、どこ行ってもこの世は地獄で、変わりゃしないのが真理ってなもんだが…
1分1秒でも長く生き残ってみりゃ、思わぬ好機に恵まれるかもな
それじゃ、さよなら
ハイドラ・モリアーティ
【WANTED】
おやおや、俺にコックさんになれって?
オー、強欲なやつらだ
ま、嫌いじゃない。やろうぜヴィクティム
俺も寒い中ひもじい思いして苦しかった時期がある
飽食の時代なのに飢えるみじめさ、わかる?チョー辛い
だから、お前達にゃ――無事に冬を越せるようにしてやるよ
丸焼きがいいって?あーそう
じゃあ解体じゃなくて屠殺だ
大丈夫、血抜きはしといてやるよ
【SCHADENFREUDE】で
「なぜか」俺は、一撃で、サクッと牛を血抜きできるってわけ
アイツちょっとリアリストなんだ、悪いね
でも――折角助かった命だ、ここよりいいとこでゆっくり意味を考えな
明日を生きるんだ。ステキな明日にしないとな
「よく味わえ」
――お元気で
さて、上演会は幕を閉じたがどうやらアンコールが残っていたようだ。ヴィクティム・ウィンターミュート(Winter is Reborn・f01172)は「ふむ」と顎を擦りながらハイドラ・モリアーティ(Hydra・f19307)に流し目をひとつ。
「俺としてはこのまま帰ってもいいんだが……どうだい? お客さんらはアフターケアまでご所望のようだ」
「それだけじゃないぜ、ヴィクティム」
ハイドラは器用にナイフをトワリングして逆手に持ち替えた。
「俺にコックさんになれって? ま、嫌いじゃない。その強欲たっぷりと満たしてやるさ」
「オーキードーキー、そうと決まればさっそく追い立てるとしますかね。手早く頼むよ」
「オー、任せとけ。一撃でいける」
「では、幕後のおまけをお楽しみあれ――」
ブゥン、とヴィクティムの指先が触れた空間を起点として防壁が展開。驚いた牛は唯一塞がれていないハイドラの眼前までいとも容易く誘導されてしまった。
「有能な解体屋行きへご案内、っと。いや、丸焼きがいいんだっけ?」
ま、お好きにどうぞ。
サービス精神たっぷりに合図を送る。ピカレスクらしく、少々人を食ったようなウインクになってしまうのはご愛敬。
「ハン、ギラついた眼ェしやがって。恨むなよ」
自信ありげな宣言通り、ハイドラがたった一度ナイフを翻すだけで頸動脈を断たれた牛は横倒しに頽れた。
――かつて凍えるような夜をひもじく過ごした時期があった。たった一枚を隔てた窓の向こうには家族が揃って食卓を囲んでいる光景。
なぜ、自分だけが飢えなくてはいけないのか。
唇を血が出るほどに噛み締め、膝を抱えて丸くなったあの日の記憶。
「そらよ、出来上がりだ」
そして成長したハイドラは、“なぜか”血抜きの済んだ牛を村人たちに受け渡す。
「……ん? さっきまで何を思い出していたんだっけ」
一瞬だけ首を傾げたが、「まあいいや」と笑って髪をかき上げる。
「よく味わって食えよ。そんで、無事に冬を越せ」
「は、はい!」
村人は一斉に頭を下げた。
「今回は何から何まで、お世話になってしまってすみませんでした」
「あー、いーって。それに、もう一つだけやることが残ってんだよね。実はさ」
地上にも世界が広がっている。
ヴィクティムの告げた事実は村人たちに更なる驚愕を与えた。
「ま……まさか、そんな場所が本当に?」
「ま、どこ行ってもこの世は地獄で、変わりゃしないのが真理ってなもんだが……気が向いたら行ってみるのもいいんじゃない?」
決して安寧を約束はしないヴィクティムを肘で軽く突き、ハイドラが続きを引き取った。
「コイツちょっとリアリストなんだ、悪いね。でも――折角助かった命だ、ここよりいいとこでゆっくり意味を考えな」
「そ、1分1秒でも長く生き残ってさ」
「明日を生きるんだ。ステキな明日にしないとな」
「そしたら思わぬ好機に恵まれるかもな?」
掛け合いの最後で同時に背を向け、先にヴィクトルが手を挙げる。
「それじゃ、さよなら」
ハイドラは両手をポケットに突っ込み、横顔だけで別れを告げた。
大成功
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オックスマン・ポジクラーシャ(サポート)
※ボス戦終了後のみ登場
『遅れてすまない。状況は理解した。俺の立ち位置は破壊者だ』
黒い鎧と兜を常に纏ったダンピールの男。
本人はいたって真面目だが何故か行動や発言を不安がられる。
遅れてやってくるのは呪いのようなもの。
彼はすまないと思っているし状況も理解しているのだ。たぶん。
真面目さゆえのボケをかますこともあるが善良かつ誠実。
俺には破壊することしか出来ないと語り、破壊力とそれを活かすための知力は侮れない。
何かを作る事ができる人を高く評価する。
そんな彼は日常も全力で挑むが破壊することしかできない。
災難や騒動を引き起こすのだ。
その姿はちょっと寂しそうである。
口調は『~だ。~なのだな。』
エドゥアルト・ルーデル(サポート)
『ヒャッハー!頭ねじ切ってオモチャにしてやるでござる!!』
口調:拙者、名字+氏、~でござる、~ですぞ
属性:混沌・悪
弱きを困惑させ強きを嫌がらせの果に弄り倒す正義なんてどこ吹く風なゴーイング・マイ・ヒャッハー系
シリアスな空気だと破壊するか自分が爆発する
可愛い女の子を見れば興奮する変態
エンジョイ&エキサイティングをモットーに好きなように生きて好きなように死ぬギャグキャラ
オタクらしく戦闘中でも状況に有ったセリフやパロ技を適当にぶっ込みながら戦う様はイカレポンチすぎて敵味方問わず困惑と驚愕させることに定評がある
公言しないが空軍のパイロット
「遅れてすまない。状況は理解した。俺の立ち位置は破壊者だ」
オックスマン・ポジクラーシャ(遅れてきた破壊者・f12872)が地底都市にやってきたのは既にオブリビオンが倒された後のことである。
「えっと……」
猟兵たちが倒した魔牛の肉を干す作業をしていた村人たちは首を傾げて言った。
「じゃあ、これをそこの木に吊るしてもらえますか? できるだけ風通しがよくなるように、間を空けて」
「了解した」
ごつい甲冑姿とは裏腹に、案外と素直な男である。
「これで肉が何か月も保つようになるのか? 生活の知恵だな」
「いつでも食料が手に入るとは限りませんからね」
「俺には破壊することしか出来ない。だから、こういうものが作れる事はとても尊敬する」
見よう見まねで肉を木の枝に吊るすオックスマンの背中は少し寂しそうでもあった。
「おろ? もう敵の奴はいないのでござるか?」
エドゥアルト・ルーデル(黒ヒゲ・f10354)はきょろきょろと辺りを見回して可愛い女の子がいないことにまず落胆の声を上げる。
「右を見ても左を見ても枯れておるでござるなあ……ん? なにをしているのでござる?」
「こうやって肉を干して保存食を作っているらしい。お前も手伝うか?」
オックスマンが答えると、エドゥアルトは顎に手を置いて「う~ん」と髭面を歪ませた。
「そういうガラじゃないのでござるが……でも、せっかく来てなにもしないのも悪いでござるな」
ここまでの経緯とこれから地上へ向かう準備をしているのだと聞いたエドゥアルトは名案を思い付いたようにパチンと指を鳴らし、脱いだ帽子を胸元へ抱いた。
「なら、荷物を運ぶのにちょうどいいのがあるでござるよ。――出でよ、エアリアルウォーフェア!!」
突風が彼の背後から吹き荒れ、プロペラが前後についた軍用輸送機が出現する。
「これに載せればたくさん運べるでござろう? 足腰の弱い老人たちもまとめて運んでやるでござるよ! ヒャーッハッハッハ!!」
成功
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鳴宮・匡
やることは獣が相手でも変わらない
よく見て、撃つということだけだ
身体に弾が残らないようにうまくやるよ
ここを離れるのが不安だ、って言うなら
少しだけ、わかる気がする
何かを変えるのは怖いものだよな
それがいい変化で、先へ進むための一歩だとわかっても
自分だって、そうだった
だから、変わっちゃいけないなんて言い訳をして
“そうなれる”可能性から目を背けたんだ
でも、今は何一つ諦めないと決めてる
――自分のこころを
この人たちの未来を繋ぎたいというねがいを
拙い言葉でも、伝えられることがあるのなら
大丈夫だよ、って伝えたい
自分の道は自分で決める、って
それだけ、忘れないでいられれば
何処でだって、何があったって生きていけるさ
七那原・望
食糧の蓄えは大事ですもんね。
協力するのですー。
【果実変性・ウィッシーズアリス】を発動。
【第六感】と【野生の勘】によるヒラメキも頼りに魔牛のボスを大人しくさせる為に何を見せれば良いか考えましょう。
安心させるもの、愛おしいもの、恐ろしいもの、たくさんのエサ。
魔牛のボスを大人しくさせるための最適解を導き出したら早速ねこさん達にお願いして、【全力魔法】の幻覚でそれを見せるのです。
魔牛が大人しくなれば、後は彼らだけでも狩れるのですよね。
それなら今後の為にも、ここから先はいつもの様に彼らだけで狩らせた方が良いのでしょう。
あ、わたしはいらないです。ベジタリアンなので。
そのお肉は子供とかにあげてください。
「事情はわかりました。ここはあの子たちに力を貸してもらうとしましょうか」
七那原・望(封印されし果実・f04836)が軽く杖を振ると4匹の猫が現れ、こちらに走ってくるボスを出迎えるように長い尾をくゆらせた。猟兵に追われて群れとはぐれた雄牛は見るからに気が立っている。
――あれを大人しくさせる為には、何を見せればいい?
「最適解が導き出されたのです」
望は微笑を浮かべて猫たちを放つ。その姿が幻影に溶け、ボス牛に“なにか”を見せた。
「――!?」
びっくりして急ブレーキをかけたボス牛は混乱したように蹄で地面をかいた。どうやら戦意を喪失してしまったかのようだが、何が起こったのだろうか。
自動小銃のサイト越しにその様子を捉えた鳴宮・匡(凪の海・f01612)は軽く1、2発をその肩口に向かって撃ち込み、相手の動きを止めた。
「いったい何を見せたんだ?」
用を済ませた銃口を上に向け、尋ねた匡に望は事も無げに答える。
「蛇です。子牛なら丸呑みにできそうなほどに巨大な、野生生物の天敵なのです」
「なるほどね。――あ、ちゃんと弾は抜けてるはずだから大丈夫」
ボスさえ対処してやれば、後は彼らだけでも狩りを続けることができるだろう。望は必要以上は手を出さず、足元に座り込んで毛づくろいしている猫たちと一緒に村人が奮起して牛の角に縄をかける様子を見守っていた。
「火にかけるのを手伝おうか?」
「ああ、助かります」
村人たちはとびきり大きなこのボスを戦勝の祝いに捧げるため、脚を丸太にしっかりと括り付けると燃え盛る篝火に晒して丸焼きにするつもりのようだった。
「皆さんはすごく強いんですね」
村人の口からこぼれた素直な賞賛に猫と戯れていた望も顔を上げる。
「俺たちもあんな風に戦えたら、こんな暮らしをせずに済むのにって羨ましくなりましたよ。弱い俺たちが地上に行ったところで本当に今よりマシな暮らしができるのかって、少し不安になります」
「……大丈夫だよ」
「え?」
匡はふと表情を和め、手近にあった薪を火の中へと放り込んだ。
「忘れちゃいけないのは『自分の道は自分で決める』っていう決意だけさ。それだけ覚えておけば――忘れないでいられれば何処でだって、何があったって生きていける」
未来を決めるのは人の心なのだ。少しこそばゆい台詞だが、今なら迷うことなくそう言える。
「だから“そうなれる”可能性から目を背けずに思い続けるんだ。“そうなる”んだって信じて、目指そうぜ?」
「――地上を」
「ああ」
一歩ずつでいい。
それがいい変化ならいつかは理想の地をその脚で踏むことも不可能ではないのだと。篝火を挟んだ向かい側では望の分をもらった子供が嬉しそうに焼きたての肉を頬張っている。
「慌てなくてもお肉は逃げないのです。ほら、お口が汚れているですよ」
やがて篝火が消える頃、地上へ移住する準備を終えた者たちから村に別れを告げる儀式が行われた。
地上へ。
今、先に進むための一歩を踏み出した。彼らが自分で決め、自分の脚で歩むと決めた未来を目指して。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵