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わたしからあなたへ〜想いは心に秘めて

#サクラミラージュ #幻朧戦線 #籠絡ラムプ #わたしからあなたへ

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●言葉にできない想いを抱いて
 晴れ渡る澄み切った空の下。
 聞こえてきた音楽に、橘・玲子は、病室の窓から外を眺めやる。

 今日は病院の近くで祭りの催しがあると聞いていた。
 賑やかな会場の中央には大きな舞台が設置されていて、歌や踊りを楽しむ人々で埋め尽くされている。
 玲子のいる病室からも、祭りの賑やかな様子はしっかりと伝わってきて、玲子は目を細める。
 かつての自分も、あのような賑やかな舞台で、人々を楽しませる側だった。

 玲子は、女優であり、スタァだった。
 銀幕に、大舞台――華やかできらびやかな世界の中で、誰が見ても玲子は輝いていた。
 玲子にとっても、その世界はこの上もなく幸せな場所だったし、ずっと居続けたい場所だった。
 けれど、その願いは叶わなかった。

 不治の病と言われ。病院に押し込められてから、すでに10年が経過していた。
 大スタァともてはやされていても、人の目に触れる機会がなくなれば、その存在は簡単に忘れ去られてしまう。
 入院生活が長引くほどに、見舞いはわかりやすく数を減らしていった。
 もう、玲子が女優であったことを憶えている者はほとんどいない。

「……」

 賑やかな祭りの光景から視線をはずして。
 玲子は、手にしていた手紙を見つめた。

 手紙の主――九重・葛明だけが、今の玲子の心の支えだった。
 玲子のファンだという彼の手紙には、玲子の女優としての魅力が熱く語られていた。
 入院生活の寂しさも手伝い、玲子が返事を送ったところから始まった手紙のやりとりは、もうずいぶん経つ。
 自らの病状をはじめ、時には自身の父親の仕事の話にも触れながら。玲子は、手紙を介して様々な言葉を、心を、葛明と交わしていった。

(「……葛明さん……」)

 湧き上がる想いに、玲子は手にしていた手紙を胸に抱きしめる。

 会いたい。

 手紙のやりとりをする中で、いつしかかけがえのない存在となった葛明へ、玲子が抱くようになった想い。

 その想いを、玲子は幾度となく手紙に書こうとした。
 けれど、書けなかった。

 玲子が望めば、もしかしたら葛明は会いに来てくれるかもしれない。
 けれどそうしてしまえば、葛明に惨めな自分の姿を晒してしまう。

 容姿を気にして想いを伝えられないなんて、なんと、馬鹿な女だろう。
 けれど、葛明の中でだけは、美しい女優としての自分でありたかったのだ。

「……葛明さん……、」

 零れそうになる言葉を飲み込み、玲子は目を閉じ、息を吐いた。
 そうして心を落ち着かせながら、玲子は、自らの懐に忍ばせた、オイルラムプにそっと触れる。

「……代筆を、お願いできますか?」

 病気が進行し、自らで筆を取ることすらできなくなってから。
 玲子は、オイルラムプに宿る文豪に、手紙の代筆を依頼していた。

 文豪によって書き上げられた手紙は、自分が書く以上に美しかった。
 一度だけのつもりが、二度、三度となり。
 そうして、今もまた、玲子は文豪の力に頼ろうとしている。

「葛明さんに、手紙を書きたいのです」

 ラムプから出てきた文豪は、玲子の言葉に承ったと言わんばかりに笑った。
 その、ぞっとするほど美しい笑みを見ながら、玲子は思う。
 彼は、美しい悪魔なのだろうと。
 彼の力を借りて綴った手紙の数と同じだけ、自分の魂は削り取られているのだろうと。
 やめなければならないと思う。
 けれど、やめてしまえば。玲子は、葛明へ言葉を届けることができなくなってしまう。

 今日も玲子は、文豪の力を借りて、葛明への手紙を書き始める。
 会いたいという、想いは胸の奥に秘めたままで。

●グリモアベースにて
「……想いって、強ければ強いほど、うまく言葉にすることができないっていうけれど。傍で見てると、どうにももどかしくなるものだよね」
 影見・輪(玻璃鏡・f13299)は、そんな言葉とともに、集まった猟兵たちをぐるりと見渡した。

「サクラミラージュで出回っている『籠絡ラムプ』は、もう知ってるよね」
 幻朧戦線が密かに市井にばらまいた「影朧兵器」であり、不思議な力を持ったオイルランプが、籠絡ラムプだ。
 所持者は危険なはずの影朧をラムプの力で手懐けることで、影朧の力をあたかも自分のもののように利用して活躍しているのだという。

「僕が予知した所持者は、橘・玲子さん。元女優だ」
 元女優という輪の言葉に、猟兵たちは反応する。
 ラムプの力で、再び女優として返り咲こうとしているのだろうか。
 一人の猟兵の問いに、輪はゆるりと首を横に振る。

「玲子さんは、重い病気でね。かなり長い間入院生活を送っているんだ。女優としての活躍は、本人も諦めているみたい」
 では、一体、ラムプの力を何に使っているのだろう。
 不思議そうな猟兵たちの様子を眺めてから、輪は続ける。

「言葉を、届けたい相手が居るんだって」

 相手と玲子は、長い間手紙のやりとりをしていたらしい。
 だが、病気のために自力では筆を取ることができなくなってしまった玲子は、ラムプの力を使い、影朧に手紙の代筆を頼んでいるのだという。
 手紙の代筆以外、悪事は何も行われてはいない。
 だから、一見すると、これは事件ではない。
 けれど。

「それでも。玲子さんが持っているのは、影朧に関わるものだ。いずれ影朧は暴走し、玲子さんを含めた帝都の人々に多大な被害を及ぼしてしまう」
 だから、最悪が訪れてしまう前に。玲子の手から、籠絡ラムプを取り上げて欲しいと、輪は言った。

「玲子さんは、入院しているから、接触は容易だ。皆には、彼女のいる病院に向かってもらいたいんだ」
 病室にいる玲子と接触して籠絡ラムプを回収するのが主な目的だ。
 また、彼女が素直に渡さない場合は、ラムプから出てきた影朧と戦闘になるだろう。
 影朧自体は強敵ではないが、油断せずに対応して欲しいと、輪は言った。

「籠絡ラムプを回収するか破壊するか。その辺は状況にもよるだろうけど……もし可能なら、その後の玲子さんのアフターケアもお願いしたいな」
 ラムプを失った玲子は、文通相手と心通わせる手段を失って、気落ちしてしまうことだろう。
 もちろん、放っておいても問題はない。
 けれど、もし彼女の未来を考えるなら、彼女の心に寄り添ってあげるとよいかもしれない。
 例えば、文通相手が会いに来てくれたりしたら、彼女も喜んでくれるかもね、と。
 輪は小さく笑って見せて。

「そうそう。この日なんだけど。彼女の入院している病院の近くでは、お祭りが開催されているんだ」
 表現祭、と呼ばれるその祭りは、名前の通り、表現することを目的とした祭りだ。
 歌や踊りをはじめ、絵や文にいたるまで、様々な表現を、会場のいたるところで楽しむことができる。

「せっかくだし、玲子さんに会う前に、祭りを楽しむのもいいんじゃないかな」
 舞台の演者が披露する歌や踊りをともに楽しんだり、即興で路上パフォーマンスを披露したり、飛び入り参加するのもよいだろう。
 また、会場に設置されている表現コーナーには、絵を描いたり、文章を書くための道具も揃えられている。日頃は伝えにくい想いを、絵や手紙にして相手にプレゼントするのもよいかもしれない。

「そんなわけで。思うところはあるだろうだけど、君たちならうまく対処してくれると信じてる」
 だから、よろしくね。
 輪はそう言って、グリモアを展開させる。
「それじゃ、頼んだよ。行ってらっしゃい、気をつけて」


咲楽むすび
 初めましての方も、お世話になりました方もこんにちは。
 咲楽むすび(さくら・ー)と申します。
 オープニングをご覧いただき、ありがとうございます。

●内容について
 サクラミラージュの依頼です。

 当シナリオは、三ノ木咲紀MSとのコラボシナリオです。
 シナリオの時期は異なりますので、両方のシナリオへのご参加も歓迎いたします。
 ただし、プレイング募集時期が重なりますので、ご参加いただく際にはご注意くださいませ。

 構成は下記のとおり。
 どの章からでも参加可能です。
 単体章のみのご参加も歓迎いたします。

 第1章:桜の街に何を問う(日常)
 第2章:『或る作家の残影』との戦い(ボス戦)
 第3章:籠絡ラムプの後始末(日常)

 第1章では、お祭りに参加していただきます。
 楽器演奏に歌や踊り、絵や文章など、表現手段は何でもありです。
 同行者様と参加し、直接想いを伝えるのもよいでしょう。
 思い思いの表現手段で、自らの心に宿る想いを言葉にしてみてください。

 三ノ木MSのシナリオで作成した手紙を、このシナリオで受け取り、祭りで利用することも可能です。
 その場合は、事前に参加者様同士で打ち合わせいただくなどでご対応いただけますと幸いです。

 また、祭り会場と玲子の入院する病院は近いため、祭りに参加しながら情報収集することで玲子の病室のあたりをつけることもできます。
 普通にお祭りを楽しんでいれば情報も集まると考えていただければと思うので、気負わずご参加いただけると幸いです。

 第2章はボス戦です。

 第3章では、籠絡ラムプの回収・破壊後の玲子のアフターケアをお願いします。
 何らかの手段で心に寄り添うなどありましたら、お寄せいただけますと幸いです。
 また、放っておくという選択肢もあります。
 いただいた内容踏まえて、対応させていただきます。

●登場人物について
 橘・玲子(たちばな・れいこ)
 女優。
 橘重工の令嬢であり、かつては一世を風靡する大スタァともてはやされていた。
 10年ほど前に病気を理由に引退。現在は入院生活を送っている。
 文通相手の九重・葛明へ想いを寄せている。

●プレイング受付について
 今回は受付期間があります。
 第1章は、10月9日(金)朝8:31~10月10日(土)23:59まで。
 第2章以降は、マスターページでご連絡いたします。

 それでは、もしご縁いただけましたらよろしくお願いいたします!
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第1章 日常 『桜の街に何を問う』

POW   :    胸の内より溢れる情熱を言葉にする

SPD   :    耳に残る、ロマンの音を言葉にする

WIZ   :    目の前に広がる鮮やかな世界を言葉にする

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

栗花落・澪
表現のお祭りかぁ
それなら僕も歌で参加させてもらおうかな?

グリモアベースで橘さんの事を聞いて…
ちょっと気持ちわかるなって思ったんだよね
好きな人には弱ってる姿なんて見せたくないよね
笑顔の自分を、輝く自分だけを知っててほしいよね

僕の場合は…弱さを見せることで失望されたくなかったから、だけど

でも今なら言える
それって凄く勿体ないって
もっと相手を信じて、自分を信じて
この時間がいつまで続くかなんてわからないから
手遅れになってからじゃ遅いから
その一歩が、きっと幸せに繋がるって信じて

届くかはわからないけど
橘さんのいる病室まで響かせたい
僕の【歌唱】
決意を乗せた愛の歌

ほんの一滴でも、心に導きの光を灯せるように



●想いは奏でる歌に乗せて
 晴れ渡る澄み切った空の下。
 季節はうつろい、周囲に秋の気配が漂う中にあっても、幻朧桜は美しく切なげに花びらを舞わせている。

 そんな舞う花びらを視線で追いながら。
 表現祭のメインステージである、会場中央の舞台へと上がった栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は、その舞台から見える景色を眺めやる。
 舞台の前に広がるのは、集まるたくさんの人々をはじめとした賑やかな会場の様子。
 そして、そこから少しだけ距離を置いた高台に見える、洋風建築の立派な建物が視界に映れば、澪は舞台に上る前に聞いた話を思いだした。
 その建物こそが、グリモアベースでも話にあった病院なのだと知れば。澪は、その建物のどこかからこの祭りを眺めているのだろう橘・玲子の姿を想像する。

(「ちょっと気持ちわかるなって思ったんだよね」)

 グリモア猟兵から聞いた、玲子の話は、澪自身が共感する点がいくつもあった。

(「好きな人には弱ってる姿なんて見せたくないよね」)

 ――弱い自分なんて、見せたくない。
 ――笑顔の自分を、輝く自分だけを知っていてほしい。

 澪と同じように、玲子もまた、想いを寄せた文通相手に、そんなことを思ったのかもしれない。

(「僕の場合は……弱さを見せることで失望されたくなかったから、だけど」)

 澪は目を閉じ、すぅ、と息を吸い込んだ。
 そうして、花びらのように愛らしい唇から、ゆっくりと音を紡ぎ出す。

(「でも今なら言える。それって凄く勿体ないって」)

 以前は弱さを見せることが怖かった。
 けれど、今は違う。

 助けを求めて伸ばした澪の手を掴み、抱き上げてくれた、人。
 そんな風に、澪を受け止めてくれる人が、いてくれることを知ったから。

 瞼の奥に浮かぶのは、澪のことをチビと呼び、笑いかける彼。
 意地悪で俺様だけど、いざという時はちゃんと傍にいてくれる。
 弱さを見せてもいい、頼ってもいいと思える……大好きな彼が、いてくれる。
 だから。

 紡ぎ出され、奏でられた澪の歌は、澄み切った空いっぱいに、伸びやかに響いていく。

 ♪もっと相手を信じて、自分を信じて
 ♪この時間がいつまで続くかなんてわからないから

(「ねぇ、橘さん。僕は、あなたに諦めて欲しくないよ」)

 ♪手遅れになってからじゃ遅いから
 ♪その一歩が、きっと幸せに繋がるって信じて

(「橘さん、気持ちを伝えることから、弱い自分を見せることから、逃げないで」)

 閉じていた目を開けて。
 映る世界を見渡しながら、澪は歌を奏で続ける。
 ありったけの気持ちとともに響かせるこの声が、あの病院のどこかにある、玲子のいる病室まで届くようにと願いを込めて。

 僕の歌が。
 決意を乗せた愛の歌が、ほんの一滴でも、心に導きの光を灯せるように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月見里・美羽
…切ないお話だね
少しだけ、ボクの境遇と似てるから放っておけない
でも、今は少しだけ忘れて異世界の音楽を聞きたいな

ボクは色々な世界の音楽を聞くのが好きなんだ
音楽を言葉にすることはあまり得意じゃないけど
詩をつけることくらいならできるかもしれない

切ない胸の内を書こうか
それとも勇気を振り絞る未来を書こうか

書きながらそれとなく周囲の人に玲子さんの話を聞こう
近くの病院にかつての大スタァがいると聞いたのだけど?
そんな風に気さくに声をかけて

詩は詞として軽く歌って、ボクの表現は終わり
あとは他の方の表現を楽しむよ

アドリブ、絡み歓迎です



●想いは白の世界の詩に綴り
 会場中央の舞台上で歌っているのは、グリモアベースで会った、猟兵仲間。
 響き渡る歌声の歌詞は、話に聞いた橘・玲子へ向けてのメッセージのようにも聞こえて。
 月見里・美羽(星歌い・f24139)は、そっと目を細めた。

「……それにしても、切ないお話だね」
 グリモアベースで聞いた玲子の境遇を思い出せば、ぽつりと言葉がこぼれる。
 「Miiw(ミィウ)」の名で活躍していたあの頃。そして、失ってしまった今。
 失った理由こそ違うけれど、玲子の境遇は、少しだけ、美羽の境遇と似ていて。
 だからだろう、放っておけないと思ってしまうのは。

「でも、今は……、」
 口中で小さくひとりごちて、美羽は表現祭の会場内に耳を澄ませる。
(「少しだけ忘れて異世界の音楽を聞きたいな」)
 猟兵として様々に世界を渡りながら、その世界ごとの音楽を美羽は聞いてきた。
 失った自分の故郷とは違う音楽。けれど、それらの世界で奏でられる独特の音を聞くのが美羽は好きだ。

 そんな風に会場内の音楽を楽しみながら、美羽が立ち寄ったのは表現コーナーだった。
 様々な種類の紙やペンが揃えられ、それを使って手紙や詩や絵をかいたりする人々の姿で賑わっている。
 会場の関係者らしき人物に、よかったら何か書いてみませんか?と誘われた美羽は、ほんの少し考える仕草をして。
(「音楽を言葉にすることはあまり得意じゃないけど……」)
 けれど、かつてのように、詩をつけることくらいならできるかもしれない。
 思い立って、美羽が手にしたのは瑠璃色のインクで満たされたガラスペン。

 ――切ない胸の内を書こうか。
 ――それとも勇気を振り絞る未来を書こうか。

 頭の中に浮かんだイメージが、ふわりと音に、詩になる。
 浮かんだ詩の一つひとつを、美羽は、真っ白な世界に瑠璃色で綴っていく。

「近くの病院にかつての大スタァがいると聞いたのだけど?」

 そんな風に詩を綴りながら、美羽は関係者にさりげなく声をかける。
 祭りのイベント参加の賑やかな雰囲気と、美羽の気さくさも相まって、玲子についての情報はそこそこ聞くことができた。

 いくつか脱線する話もあったが、美羽が現時点で有用だと判断したのは、次の内容だった。
 確かに玲子は、近くの病院に長い間入院しているのだという。
 その病院は、いわゆる富裕層向けとなり、警備も厚い。一般人がおいそれと立ち入れるような場所ではないようだ。
「ただね、こういうお祭りの時には、病院の窓からその姿を見ることができるらしいよ」
 姿が見える云々については噂話の領域を出ていないようではあったが。
 それでも、そんな話がまことしやかに語られるあたり、かつての大スタァの輝きは、今も人々の中に生きているのだと、美羽は思う。

 かつての活躍を、その名を知る者があることを。ほんの少しだけ、羨ましく感じながらも。
 美羽は、白の世界に書き上げた詩を、詞として軽く唇に乗せた。
 奏でられたのは、勇気を振り絞る未来への歌。

 ――彼女の未来が良きものになるように。

 その表現に、ささやかな願いを込めて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神坂・露
レーちゃん(f14377)と。
想いを表現するって面白いお祭りがあるのね。
参加したいけど。うーんうーん。あるかしら。
あ!一つあったわ。あるわ♪

歳下の子って年長者に姉とか兄とか言うわよね。
レーちゃんより歳が上なのに呼ばれたことないわ。
この(思いつきの)想いをレーちゃんに伝えるわ!
あたしの歌でこの溢れる想いを本人に伝えてみる。

『あたしは 言って欲しい 言葉があるの♪
この溢れる想い 伝えるわ♪ お姉ちゃんと呼んで♪
あなたの 可愛い声で 真正面から 言って欲しいわ
お ね え ち ゃ ん …って ねえ? 言って』

わくわくそわそわしながらレーちゃんの元へ。
…。
見たことないくらい眉根寄せて呆れてるわ。えー?!


シビラ・レーヴェンス
露(f19223)と。
言葉に重きを置いた祭りか。面白い催しを考えるな。
心の裡のイメージが会場中に飛び交っているのが興味深い。

興味本位で参加。露は歌か。では私は手紙にしてみよう。
手紙にしたためる内容は私へのスキンシップについてだ。
少し控えるような。抑えるような注意するものにしよう。

最近とみに抱きつかれるし頬すりまで要求される始末だ。
獣耳までつけてアピールして過激化しているフシもある。
しまいには猫に嫉妬したりする。…うっとおしい。
この辺りで釘をさして留めておくのにいい機会だろう。

書き終わり露を探す。どこだ露は。
「…ん?これはあの子の声だな。…あっちか…」
…。歌の内容に絶句した。…あ…アイツは…。



●想いはあふれ、そしてこぼれて
「言葉に重きを置いた祭りか。面白い催しを考えるな」
 そう、感じたままにひとりごちながら、シビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)は祭りの賑わいの中を歩いていた。
 表現祭、と言うだけあって、会場のそこかしこで各自の心の裡のイメージが飛び交っていて、なるほど興味深い。

「ほんとよねぇ〜。想いを表現するって面白いお祭りよね♪」
 そんなシビラの隣で、楽しそうな声をあげるのは、神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)。
 シビラにぎゅぅ、とくっついては、そのたびにシビラから冷淡なあしらいを受けている露。
 その様子は、知らない者が見れば酷くも見えるかもしれないが、概ねいつも通りであるから、心配はいらないと言えよう。

「あたしも参加したいけど……」
 あるかしら、と。何度目かになるシビラの冷淡対応などものともせず、マイペースにうーんと考え込む露。
 やがて、閃いた、と言わんばかりにぱぁっと表情を明るくして。

「あ! 一つあったわ。あるわ♪」
 ぽん、と胸の前で両手を打つ。

「レーちゃん、あたし、歌ってくるわ♪」
 満面の笑みでおもむろに言い放ったかと思えば、露は、楽しそうに走り出す。
「露は歌か」
 それこそ仔犬のように走っていった露の背中を、やれやれといった様子で見送ってから、シビラは考える。
 興味はある。なら、参加しない手はないだろう。

「……では私は手紙にしてみよう」
 ふむ、と口中で呟けば。シビラは、折しも目に止まった表現コーナーへと足を踏み入れる。

 どうやらグリモアベースで見かけた仲間が、何やら即興で綴った歌をその場で披露した直後だったらしい。
 ささやかな拍手と楽しそうな賑わいの声を聞きながら、シビラわずかに目を細める。
 誰かと積極的に関わることこそしないが、祭りの賑わいは、そう悪いものでもない。

「……さて……」
 白地に王冠のエンボス加工が施されたレターセットと、セピア色のインクボトルと付けペンを選び、席へと着けば、シビラは考え始めた。
 手紙の相手はもう決まっている。露だ。

(「問題は何を書くかだが……」)

 考えること、しばし。
「……よし」
 ものの数分もしないうちに、内容は決まった。常々から思うところはあったが、いい機会だ。
 思いつくままに、シビラはペンを走らせる。

 内容は「私へのスキンシップについて」。
 一行目から悩むかと思ったが、するりと文章が浮かんだ。

(「……少し控えるような。抑えるような注意するものにしよう」)

 言葉はなるべく柔らかく……と、一応意識しながら、さらさらと文字にしていくシビラ。
 書きながら、今までの露の、シビラへのスキンシップを振り返る。

 思えば、最近の露の私へのスキンシップは、とどまるところを知らない。
 最近とみに抱きつかれるし頬すりまで要求される始末だ。
 獣耳までつけてアピールして過激化しているフシもある。
 しまいには猫に嫉妬したりする。

「……うっとおしい」
 ぼそ。
 ……心の中だけでとどめていたはずの言葉が、うっかり口から出てしまっているシビラ。

(「……うん、こんな感じか。この辺りで釘をさして留めておくのにいい機会だろう」)

 しかしどうして、当の本人はそんな思わずこぼれた言葉に気が付かなかったらしい。
 ふぅ、と息を吐いて。シビラは、便箋を丁寧に折りたたみ、封筒に入れ、封をする。

「あとは露に手紙を渡すだけだが……」

 表現コーナーを後にして。シビラは露を探し――、

「……ん? これはあの子の声だな。……あっちか……」
 声がステージから聞こえてきたことに気がつけば、シビラはふむ、と頷き、歩き出す。


 一方。
 会場中央の舞台へと上がった露は、満面の笑みで観客をみやった。
 名乗りとともに周囲をぐるりと見渡せば、視線の先に大好きな親友である、シビラの姿を認めて。

(「あたしの歌でこの溢れる想いを本人に伝えてみるわ……!」)

 気合充分。
 すぅ、と息を吸い込んで、露は唇に歌声を乗せる。

 ♪あたしは 言って欲しい 言葉があるの♪
 ♪この溢れる想い 伝えるわ♪

 かわいらしい声が作り出すメロディに、舞台前の観客もノリノリだ。

(「イケる、これはイケるわ……!」)
 ぐぐっと拳を握りしめ、露は踊りながらまっすぐに片方の手を伸ばして。
 自らの視線の先にある、シビラを見つめ、次のフレーズを放った!

 ♪お姉ちゃんと呼んで♪

(「歳下の子って年長者に姉とか兄とか言うわよね。レーちゃんより歳が上なのに呼ばれたことないわ。……だから!」)

 ♪あなたの 可愛い声で 真正面から 言って欲しいわ

(「レーちゃん、この(思いつきの)想いを受け取って!」)

 ♪お ね え ち ゃ ん ……って ねえ? 言って……!

「「「おねえちゃーん!!!」」」

 会場、大盛り上がり。
 最後は「おねえちゃん」の大コーラスと拍手まで巻き起こっていたり。
 そんな中を、露は、満面の笑みで両手を上げてぶんぶんと振りながら、舞台を後にする。

「うふふ♪ 会場も盛り上がったわ! この想い、レーちゃんにもしっかり届いたわよね!」

 今回こそ、レーちゃんの「おねえちゃん」は、あたしのもの!
 これでもかというほどに、わくわくそわそわしながら、露は真っ直ぐにシビラのもとへ向かい。

「レーちゃぁぁぁん!」

 そして、露は見た。

「……」

 今まで見たこともないほどに絶句し、呆れた表情を浮かべたまま、固まるシビラの姿を。

「……露、君は……」
「レーちゃん? ていうか、何で? 見たことないくらい眉根寄せて呆れてるの?! 肩震わせてワナワナしてるの?! えー?!」

 ……。
 その後の露がどうなったのか。
 それは、読者の想像におまかせすることにしよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

木常野・都月
祭りだ!
いっぱい人がいる。
歌とか、踊りとか、皆凄い。

確か橘さんも、こういう舞台で活躍してた人なんだっけ。

俺は演技はよく分からないけど、UC無しでカッコよく歌ったり踊ったり出来るのは、凄いって思う。

ん?こっちでは、手紙や絵を描いてるのか。

手紙も任務で書いた事はあるけれど、絵は描いた事ないな。

チィ出ておいで。
チィを描こうかなって思うんだ。

いいか、動くなよ?
いや、だから動くなって。
あ、あくびするなってば。
カイカイもダメ。
桜の花びらが気になるのは……まぁ仕方ない。
なぁ〜描けないんだよ。

よし、チィも一緒に描くか!
ほら、足に色つけて、ペタッと。
な?
面白いだろ。
好きな色使っていいんだ。

……帰ったら風呂だな!



●想いは、紙を彩る花になって
 木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)は、人の多さに目をぱちくりとさせながら、興味深げに辺りを見渡す。

 このお祭りは、あっちこっちで歌とか、踊りがいっぱいだ。
 先ほど舞台で披露されていた歌と踊りも盛り上がっていて、とても楽しそうだった。

「……確か橘さんも、こういう舞台で活躍してた人なんだっけ」
 グリモアベースで話を聞く限りでは、女優というのは舞台で演技をする人のことだという。
 演技はよくわからないけれど、橘さんも、かつてはこのお祭りの舞台のように、歌ったり踊ったりしていたのだろうか。
 ユーベルコードを使わずに人前でカッコよく見せるなんて、とても凄いことだ。

「橘さんも、皆も凄いんだな……って、ん? こっちでは、手紙や絵をかいてるのか」
 屋台通りの人波に押されていつの間にかたどり着いた、表現コーナー。
 示された看板に興味をそそられ、都月は足を踏み入れる。
 紙にペン、絵の具など、色々な道具があって、何だか面白そうだ。

「手紙も任務で書いた事はあるけれど、絵は描いた事ないな」
 やったことがなければ、挑戦してみるに限る。
 頷いた都月は、相棒の月の精霊「チィ」を呼び出して。

「チィを描こうかなって思うんだ」
『チィ?』
 きょとんとするチィを自分の前にある椅子に座らせる。そうして自らも座り、クレヨンを手にする都月。

「うん、チィはモデル。……いいか、動くなよ?」
『チィ!』
 都月の言葉に反応して尻尾をふりふりするチィ。
「いや、だから動くなって……」
 こうやって、と何度か格闘したのち、改めてクレヨンを手に描き始めるも。
 素直に都月の言葉を聞いていられるほどチィも辛抱強くない。
「……あ、あくびするなってば」
『チィ〜』
「カイカイもダメ」
 あくびを静止させ、後ろ足で耳の後ろをかしかしとし始めるのをがしっと止めれば、
『チ……』
 今度は自身の鼻先にくっついた花びらに、たまらずくちゅんとなるチィ。
「桜の花びらが気になるのは……まぁ仕方ない」
 くしゃみも、どうしようもないもんな、とチィの頭を撫でながらも、都月はがっくりとテーブルに突っ伏す。同時に、都月の黒のフサフサ狐尻尾も同じくだらんと地面に垂れた。
「なぁ〜描けないんだよ……」
 都月だってわかっている。動物が、そして子供も。同じ姿勢で居続けるのは本当に難しいのだ。
『チィ……』
 都月の様子に、しゅんとなるチィ。それはそれで、かわいそうに見えて。
 どうしようかなぁ、と突っ伏した状態から顔を上げた都月の視界に飛び込んで来たのは、並べられている色とりどりの絵の具皿。

「そうだ、これなら」
 思いついたとばかりに、ぱぁぁと表情を明るくさせた都月は、チィをひょいと抱き上げる。
「よし、チィも一緒に描くか!」
『チィ?』
「ほら、足に色つけて、ペタッと」
 ちょん、と。チィの前足に付けたのは、桜色の絵の具。
 そのままぺとんと白い紙の上に押し付ければ、足あと模様の花が咲く。
『チィ!』
「な? 面白いだろ」
 抱き上げられたまま、興味深げに瞳を輝かせ、ふさふさと尻尾を揺らすチィに、都月もつられて微笑んで。
「好きな色使っていいんだ」
 ほら、と。いくつかの絵の具皿と白い紙をテーブルの上に並べてから、都月は紙の上にチィを置いた。
『チィ……』
 最初はちょっぴりこわごわと、絵の具皿をちょんちょんとやっていたチィだったが。
 やがて要領を得た様子で、色をつけた前足で紙の上を歩き出す。
『チィ〜♪』
 前足、後ろ足、そして気がつけば尻尾まで絵の具にまみれながら。
 楽しそうに紙の上をてってけと歩いて絵の具の花を咲かせていくチィを見つめ、都月は笑顔で頷いた。

「……帰ったら風呂だな!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

アカネ・リアーブル
茜姫と

屋台を巡りながら話を
思えばアカネは茜姫のことを何も知りません
茜姫はどんな食べ物がお好きですか?

「…山葵漬…」
ぽつり言う茜姫に目を丸く
「里の名産でよくお茶請けに出たのです」
素っ気なく言う茜姫に微笑み

この祭りに山葵漬けはありませんが
ほっとどっぐ、がございます
周囲を見て少し辛子をつける茜姫に
たくさん付けても大丈夫ですよ
自分のに辛子をたっぷり付けて
…あまりの辛さに涙目
アカネは…からひのは…
ちょっと笑って交換してくださって

アカネは踊るのが好きです!
ここでお待ちくださいませ

舞台に上がって舞をひと差し
心から楽しく舞います
皆様に楽しんでいただけると
アカネも嬉しいのです

お互い少しずつ知っていきましょうね



●想いは、互いの一歩とともに
 そこかしこから聞こえてくる楽しげな歌や音楽を耳にしながら。アカネ・リアーブル(ふたりでひとり ひとりでふたりのアカネと茜・f05355)は、屋台通りを歩いていた。
 もちろん一人ではない。
 傍らを歩くのは、茜姫――アカネの、魂の親友だ。

(「思えばアカネは茜姫のことを何も知りません」)

 歩きながら、同じ顔をした、ハイツインテールの少女の横顔をちらとみやって。アカネはそんなことを思った。
 改めて自分自身と、傍らの少女のことを知ろうという気持ちを得たのは、つい先日。
 今回は祭りの誘いをかけ、ユーベルコードの力を借りて一緒に過ごしているというのに。
 肩を並べて歩いてこそいるものの、交わされる言葉は、現時点では必要最小限の一言二言程度。
 会話を弾ませようにも、どんな言葉をかけていいのか思いつかなくて。

(「せっかくの表現のお祭り。お互いを知るいい機会ですのに……」)

 うまく話を切り出せないまま、ちらちらと茜姫を見やるアカネ。
 ふと、茜姫の視線が、屋台の食べ物へ向けられたことに気がつけば、

「茜姫はどんな食べ物がお好きですか?」
 ここぞとばかりに、アカネは問いを投げかける。

「……」

 反応はない……かと思いきや、

「……山葵漬……」
 ポツリ。少し素っ気ない口調だが、それは確かに茜姫の言葉で。

「え?」
「……里の名産でよくお茶請けに出たのです」

 思わず目を丸くするアカネに。
 やはりすげない物言いで返し、ふい、と視線を逸らす茜姫。
 口調はさておき。どうやら、茜姫は辛いものが好きらしい。
 初めて知ることができた茜姫の好みに、アカネは微笑んで。

「この祭りに山葵漬けはありませんが……ほっとどっぐ、がございます」
 アカネは早速とばかりに、屋台で二人分のホットドックを購入し、茜姫に手渡す。
「この辛子をつけると、辛くなるのですよ」
「そうなのですわね、……では、」
 頷きながらも、周囲を見ながら少しだけ辛子をつける茜姫。
「辛いのがお好みでしたら、こう、たくさん付けると良いと思うのです……!」
 茜姫に言いながら、自分のものにたっぷり辛子を塗りつけたアカネは、ぱくりと一口。

「〜〜〜〜〜〜……!!!」
 口に入れた途端に襲う、鼻に抜けていくようなツーンとした辛味に、思わず涙目になる。

「アカネは……からひのは……」
「もう、何をやっていますの、アカネは……」
 あからさまに目をぐるぐるとさせるアカネに。呆れた様子で小さく笑いながら、茜姫は自分のホットドックを差し出した。
「仕方がありませんわね。ほら、わたくしのと交換しますわよ」
「……よ、よいのですか?!」
「辛いの、苦手なのですわよね、アカネは。……なら、致し方ないですの」
 交換した辛子たっぷりのホットドッグを、おいしそうに食べる茜姫を見れば、アカネはなんだか嬉しくなって。

「あ、あの、茜姫! アカネは、辛いの苦手ですが、踊るのが好きです! ですから……」
 あれ、と。手にしていたホットドッグで、アカネは、会場中央の舞台を指し示し。

「一曲踊ってまいります! ここでお待ちくださいませ」

 手元のホットドッグを平らげたあと、タイミングよく空いた舞台へと上げてもらえば。
 即興で演奏された音楽にあわせ、アカネは、舞を披露する。

(「茜姫、見ていてくださるでしょうか」)
 舞いながら、ちらと観客側を見やれば、楽しむ人々の中に、こちらを見つめる茜姫の姿があって。
(「……なんだか、これは、嬉しいのです……!」)
 舞を舞うのはいつも楽しいけれど、今日はそれ以上に嬉しい。

 茜姫のことを一つ知れて、アカネのことを一つ伝えることができた。
 これは、二人にとっての一歩で……その一歩を一緒に歩めたことが、アカネにとって、とても嬉しいのだ。

(「お互い少しずつ知っていきましょうね」)
 舞を舞いながら、そう、心の中で呟いて。アカネは微笑む。

 茜姫とアカネ。二人の関係はこれからだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エリシャ・パルティエル
会いたいのに会えない…
でもそこに会える人がいるんだもの
後悔しないように会えるといいわね…
人間は臆病だから
悪い方にばかり考えてしまうの

お祭りを見て回っていたら
ダンスが得意な可愛い女の子二人を思い出して
思わず頬が緩むわ

歩いていたら手紙を受け取ったわ
ユディトから?
確かに今日ここに来るって伝えたけど
わざわざ手の込んだことするのね

手紙に綴られていたのは感謝の言葉
そんなこと文字にしなくてもいつも感じているけど
あの子が今自分の人生を自分らしく生きているのなら
あたしはそれで充分なのよ

本当の家族と引き離して良かったのかずっと不安だったの
あたしだって感謝してるのよ
普段は言わないけど
家族になってくれてありがとう…



●想いはそっと言葉に紡いで
(「会いたいのに会えないっていうのは……何とも言えない気持ちになるわよね」)
 恋を表現した、路上での演舞パフォーマンスを観客として眺めながら。
 エリシャ・パルティエル(暁の星・f03249)は、演者にグリモアベースで聞いた、橘・玲子の話を重ね、胸中でそっと息を吐く。
 会えないという、複雑な女心。
 それは、恋を知るエリシャにとっても共感できるものがあって。
「でもそこに会える人がいるんだもの。後悔しないように会えるといいわね……」
 人間は臆病だから、どうしても悪い方にばかり考えてしまう。
 それはエリシャにも身に覚えがあることで。
 だからこそ、玲子には後悔のないようにしてほしい。
 もちろん、そのために、エリシャが猟兵としてできることがあれば、喜んで手を貸すつもりで。

「……ん、それじゃ、次は何を観ようかしらね」
 演舞が終わり、拍手とともに投げ銭を入れて、エリシャは楽しそうに微笑んだ。
 先ほどなどは、中央の舞台で見知ったツインテールの少女がタイミングよく舞を披露していて、思わず頬が緩んでしまった。
 それ以外にも、会場のあちらこちらで展開されているパフォーマンスはどれも面白くて、ついつい足を止めて見入ってしまう。
 さすがは表現の祭りね、などと思いながら路上を歩いていると、ふいに名を呼ばれ、声をかけられた。
 聞けば、エリシャ宛の手紙があるという。

「……え、ユディトから?」
 確かにここに来ることは伝えてはいたけれど、祭り会場で手紙を受け取ることになるとは。
 不思議な気持ちになりながら、エリシャは受け取った手紙をまじまじと見つめた。
 猫の蜜蝋で封が施された、猫柄のかわいらしい封筒に書かれた名前と、その筆跡は、確かに義弟のもので。
 そっと封を開いて取り出した猫の便箋に、丁寧な文字で綴られていたのは、感謝の言葉。

 空っぽの子供だったユディトを救ってくれたのは、エリシャのおかげであるということ。
 何度だって感謝を届けたいと思っていること――、

(「――そんなこと文字にしなくてもいつも感じているわ」)
 他人のことばかり優先する、どこか危なっかしい義弟は、言葉にこそ出さないけれど、いつだってエリシャに感謝の気持ちを示してくれていることを、エリシャはちゃんと知っている。
 けれど。こうやって改めて手紙として、目に見える言葉として受け取ると、ふわりと心が温かくなる。
(「あの子が今自分の人生を自分らしく生きているのなら、あたしはそれで充分なのよ……」)
 綴られた文字が、だんだんと滲んで見えることに気がつけば、エリシャは手紙から顔を上げて、空を見上げた。
 幻朧桜の花びらの舞う、澄み切った空は、何だかとても眩しく見えて。

「……あたしだって感謝してるのよ」

 ぽつりと小さく言葉を紡げば、エリシャは手紙を抱きしめる。

 本当の家族と引き離して良かったのか、ずっと不安だった。
 けれど、手紙に綴られている義弟の気持ちに触れて、ふっと、心が軽くなったのを感じた。

 今、ここには居ない大切な家族に向けて。
 空を見上げたまま、エリシャは、そっと言葉を紡ぐ。

「家族になってくれてありがとう、ユディト」

 それは、普段は言わない、ありったけの感謝の気持ち。

大成功 🔵​🔵​🔵​

乱獅子・梓
【不死蝶】
少し前、空港で綾宛に手紙を書き
そして、今俺の手元には綾から俺宛の手紙がある
まさかお互い宛に書いていたとは…

本人に目の前で手紙を読まれるのって
よく考えなくても結構な羞恥プレイでは…?
いいか、読んでもいいが黙って読めよ?
思うことがあっても心にしまっておけよ?
気恥ずかしさでそんな釘を差し

綾からの手紙は
桜の花弁舞う和紙の封筒と便箋
紅葉色のインクで綴られた文字
何だか女子っぽいなと思ったのは秘密

今年の夏グリードオーシャンで
遊んだ思い出がびっしり綴られてた
…俺も同じこと書いていたな
内容まで被っていたことに小さく笑い
こいつ、俺以上に細かいところまでよく覚えているな
読み進めるごとに思い出が蘇ってくる


灰神楽・綾
【不死蝶/2人】
あはは、まさか梓からも手紙を貰えるなんてね
いつも一緒にいるんだから
直接言ってくれても良かったのにー

えー?お祭りで梓の手紙を
朗読してあげようと思っていたのに残念
半分ジョーク、半分本気で言い返しつつ
言われた通り静かに封を開ける

真っ白な便箋に黒のボールペン字
物凄くシンプル、でもこの飾らない感じが梓らしい
そういえば、梓の手書きの字を見るのは初めてかも

内容は、グリードオーシャンでの夏の思い出が
…あれ?俺も書いたなぁコレ
まるで示し合わせたかのような内容
でも、俺だけの一方的な思い出じゃなかったんだなと
梓の気持ちを知れて嬉しくなる

言いつけ破って一言だけ直接彼に告げる
来年も一緒に行こうね、と



●想いは楽しい思い出とともに
 乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)は、祭り会場で渡された、自分宛ての手紙を見つめる。
 桜の花びら舞う和紙の封筒に、紅葉色のインクで綴られた、繊細で美しい文字。
 そこには、確かに梓の名が書かれていて。
 ひっくり返して差出人の名を見れば、梓はサングラスの奥で目を見開く。

「まさかお互い宛に書いていたとは……」

 そう、「お互いに」。
 この祭りに参加する、何日も前。
 空港で開催されていたイベントで、梓は、灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)へ手紙を書いていたのだ。

「あはは、まさか梓からも手紙を貰えるなんてね」
 隣を見れば。綾の、赤のサングラス越しに見える細い目が、嬉しげに梓を見つめていた。
 綾の手にもまた、封筒が握られている。
 その封筒は、白。梓にとって見覚えのあるものだ。

「いつも一緒にいるんだから、直接言ってくれても良かったのにー」

 楽しそうな声で笑う綾の様子に、梓は思わず耳を熱くして。
(「いやいや、口では照れくさくて言えないから、手紙にしたんじゃないか」)
 それなのに、本人に目の前で手紙を読まれるなど、よく考えなくても結構な羞恥プレイではないか……!

「いいか、読んでもいいが黙って読めよ?」
「えー?」

 綾の口から不満の声が出るが、ここは気にしてはならない。
 まだ互いに手紙を開けてはいないが、この時点で充分に恥ずかしいのだ。
 釘は差しておくにこしたことはないだろう。

「思うことがあっても心にしまっておけよ?」

 絶対だぞ?
 そう、耳を赤くしながら梓が釘を差せば、綾はおかしそうに笑む。

「お祭りで梓の手紙を朗読してあげようと思っていたのに残念」

 朗読……だと?
 一瞬ぎょっとする梓の反応に笑いながらも。静かに手紙の封を開け、綾は手紙を読み始める。
 そんな綾を眺めてから。梓は改めて、手にした綾の手紙を見つめ、そっと封を開けた。

 封筒と同じく、桜の花びら舞う和紙の便箋には、紅葉色の文字が美しく並んでいる。
 レターセットのチョイスもだが、綴られる文字の細やかさもまた、何だか女子を思わせて。
 もちろん、そんな感想を抱いたことなど、おくびにも出さないのだけど。

 そして、手紙の内容。
 便箋いっぱいにびっしり綴られていたのは、今年の夏、グリードオーシャンで遊んだ思い出だった。

(「……俺も同じこと書いていたな」)

 書かれている内容まで被っていたことを知れば、手紙を読む梓の口元に、小さく笑みが広がって。

(「こいつ、俺以上に細かいところまでよく覚えているな」)

 ほぼ毎日のように、綾と一緒にグリードオーシャンの海へと繰り出した夏だった。
 パリピ島での海に山にのガチバトルをはじめ、花や星、月を肴に酒を楽しんだり。
 他にもジェラートを食べたり、レモネードを飲んだりしたかと思えば、肝試しをしたり、ユーベルコードフル活用の大人げないビーチバレー(?)をしたりなど。

 手紙を読み進めるごとに、あの楽しかった夏の日々が、鮮やかに蘇ってくる。

(「先日、とても楽しそうにすらすらと書いていたのは、これだったのか」)

 ふと、互いに手紙を書いていた日のことを思い出す。
 書き損じを重ねながら、何を書こうか悩みながらの梓がちらりと見た、あの時の綾は、とても楽しそうだった。
 読んでいた手紙から目を離して、梓は、綾の方へとそっと視線を向ける。


 朗読してあげようと思った、と梓に告げた言葉は、半分ジョークだったが、半分は本気だった。
 綾としては、それくらい、梓からもらった手紙が嬉しかったのだが……ともあれ。
 綾は改めて手の中にある、白い封筒を見つめた。

 真っ白な封筒に、黒のペン文字。
 綾の宛名と、差出人である梓の名を綴るその文字には、竜の爪を思わせる力強さが感じられて。

(「そういえば、梓の手書きの字を見るのは初めてかも」)

 そんな呟きも、梓の言いつけ通りに心の中だけにとどめながら。封筒から静かに取り出した便箋を、綾はそっと開く。
 一見すると真っ白な便箋。だが、よく見ると、シンプルな蝶が見え隠れする。
 どうやら紙にそういう加工が施されているらしい。
 片隅に一匹だけ押された蝶の姿は、綾をイメージしたのだろうか。
 そんな便箋には、封筒にもあった力強いペン文字で、文章が綴られていた。
 物凄くシンプル。けれど、この飾らない感じが梓らしいと、綾は思う。

(「そして、内容は……あれ?」)

 読み始めることしばし。
 一瞬だけ、不思議そうに手紙を見つめた。

(「俺も書いたなぁコレ」)

 梓の文字で綴られたグリードオーシャンでの夏の思い出は、まるで示し合わせたかのようで。

(「でも、俺だけの一方的な思い出じゃなかったんだな」)

 梓の気持ちを知れたこと。
 手紙をもらったことはもちろんだが、その気持ちを知ることができたことが、綾には、何より嬉しくて。
 先ほど見せた、気恥ずかしそうに耳を赤くした梓を思い出せば、綾は赤のサングラスの奥の細目をさらに細める。

 そうして。
 綾が、手紙から顔を上げれば。
 同じタイミングで綾を見やった梓と目が合う。

「……梓、」

 まるで示し合わせかのようだと思えば、綾は梓へ向けて、微笑んで見せた。
 思うことがあっても心にしまっておけと、梓は言っていたけれど。
 言いつけを破って。一言だけ、綾は直接、梓に告げる。

「来年も一緒に行こうね」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
幻朧桜が咲いて散る
哀しい
哀しい
哀しい
貴方の哀しみを糧に
幻朧桜が咲いて散る

会場の隅でUC「魂の歌劇」
短く歌ったら足早にその場を離れる

楽しい祭りで哀の歌は不味かったと
歌い終わってから気が付いた

私は自分が人より植物寄りだと思っている
誰に教えて貰わなくても
自分が幻朧桜から生まれたことを知っている
だからだろうか
哀の感情には寄り添えるのに
他の感情は哀ほどには読めないのは
オブリビオンを救わぬ世界の人を
さほど救いたいと思わぬことに気付いてしまったのは

言葉を交わせぬものが理解しあうのは難しい
植物の適者生存が往々にして他種殲滅であるように

「いえ、今は依頼を1番に考えましょう。代替にボイスメールはどうでしょうか」



●想いは胸の内にある感情とともに
 人の賑わいから少しだけ離れた、祭り会場の隅で。

「貴方の一時を私に下さい……響け魂の歌劇、この一瞬を永遠に」

 御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は、ユーベルコード【魂の歌劇(タマシイノカゲキ)】を発動させれば、桜色の唇に想いの歌を乗せた。

 ――幻朧桜が咲いて散る

 奏でる歌は、桜花の心の奥にずっとあった、一つの感情。
 最初のフレーズが唇から紡がれれば、心の奥にあったその感情が、一気にあふれ出て。

 哀しい
 哀しい
 哀しい
 貴方の哀しみを糧に
 幻朧桜が咲いて散る

 通りかかった人々が、足を止めて桜花の歌声に聞き入る。
 中には、紡がれる歌の「哀」の感情に共感し、涙する者もいて。

「――。お聴きくださり、ありがとうございました」

 歌い終われば、桜花は深々と頭を下げて、足早にその場を後にした。
 離れ際、多くの拍手を受けた気がするけれど、その拍手にすら、言いようもない気まずさを感じてしまったからだ。

 表現することに重きを置いた祭りとはいえ、元来祭りは楽しいものだ。
 そんな場で、哀しみを歌うことは、もしかしたら不味かったかもしれない。
 もっとも。歌い終えてしまって気がついたのだから、もうどうしようもないのだけれど。

 人目を避けるように、桜の花びら舞う中を歩きながら。桜花は自分の感情を整理するように、思考を巡らせる。

(「私は自分が人より植物寄りだと思っている」)
 誰に教えて貰わなくても、桜花は、自分が幻朧桜から生まれたことを知っている。

 だからだろうか。
 哀の感情には寄り添えるのに、他の感情は哀ほどには読めないのは。
 オブリビオンを救わぬ世界の人を、さほど救いたいと思わぬことに気付いてしまったのは。

 動かしていた足を止めて。桜花は天を仰いだ。
 頭上には、幻朧桜の枝が揺れている。

「――、」

 ふいに。心に生じた、自分でも未だ掴みかねる自身の想い。
 言葉にしようとして……けれどできなくて。
 開きかけたその唇を閉じれば、桜花は、風に揺れる幻朧桜の枝を見つめた。

(「言葉を交わせぬものが理解しあうのは難しい」)
 そう、難しいのだ。植物の適者生存が往々にして他種殲滅であるように。

 ……。

「……いえ、」
 ともすれば、深い思考に潜り込もうとしてしまう自身の意識を、今に繋ぎ止めようとするかのように、桜花はゆっくりと首を横に振って。

「今は依頼を一番に考えましょう」

 そう、今は依頼のこと――橘・玲子についてだ。

 会いたいのに、会えない人へ、想いを伝えるために手紙を用いていると聞いた。
 自らで手紙を書けなくなった今、影朧に代筆を頼んでいるというけれど。
 その手段を無くした後の代替について、提案するのもよいのかもしれない。

(「……例えば……ボイスメールはどうでしょうか」)
 例えば、文章ではなく、音声にするならば。
 この世界の手段を使うのならば、レコードを用いての録音になるだろうか。

 どちらにしても。まずは玲子に会う必要があるだろう。
 そんなことを考えながら、桜花は再び歩き出す。

 足が向く先は病院。
 玲子のいる、その場所へ。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『或る作家の残影』

POW   :    蒼桜心中
【心中用に持ち出した桜の意匠が凝らされた刀】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    心中遊戯
【甘く蕩ける桜色の毒物】【切腹できる桜模様の短剣】【桜の木で首を吊る為の丈夫なロープ】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ   :    乱桜吹雪
自身の装備武器を無数の【原稿用紙と乱れ舞い散る桜】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠筧・清史郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●或る作家の残影が見た元女優の横顔
 病に冒された、元女優の手紙代筆。
 響きは悪くなかったし、ありがちながらもまぁ面白いかと軽い気持ちで引き受けてはみたものの。
 女が口にする内容に、これと言って面白みもなく。
 目にするものは、病室という、無味乾燥の景色ばかり。
 桜舞う外の世界は、あんなにも美しく楽しく、情愛にあふれたものばかりであるというのに、どこへ出かけることもできない。

 いい加減、そろそろ飽きてきてしまった。

「玲子さんさー、僕のこと、知らないわけはないんだよねぇ?」
「……ちゃんと、存じてますよ、櫻居先生」

 先生の作品は、すべて愛読しておりましたから。
 そう言って笑みを浮かべる女の顔には、病気で多少やつれてはいても、美しさは尚も健在で。

「そんな愛読書書いた作家をこきつかって手紙書かせるとか、前代未聞だと思わないー?」
「……それは、申し訳ないと思っています」

 けれど、望むべくもなく籠の鳥となってしまった私には、貴方にしか頼むことができなかったのです。
 女はそう言って、困ったような顔をしてそっと笑む。
 この手紙はお父様にも秘密なのですからと。
 その笑みには、かつて相手にしていた、女優と名乗る数多の女たちにも感じられた、特有の強さが見え隠れしていて。
 なるほどその点においては、この女は確かに元大スタァで女優なのである。

「それにしてもこの手紙。偉大なる作家たる僕の手も借りてるんだからさぁ、もーちょっと色をつけたっていいんじゃないー?」

 書き上げた、白地に薄紅色の濃淡で彩られた和紙製の便箋を指でつまみ。女の目の前でひらとやってみせれば、女は一つまばたきをする。

「色……ですか?」
「情愛の色だよ。あるんだろう?」
「……、……ありませんよ」

 会ったことすら、ないのですから。
 そう口にして視線を逸らした女の頬に、一瞬だけ差した薄紅色を、見逃すわけもなく。

「まーたまたぁ。……でも、綴る言葉にその色をつけないのならさぁ」

 にぃ、と。
 その甘い顔に、悪い笑みを貼り付けて。
 櫻居・四狼の姿をした、その作家の残影である影朧は、こう口にする。

「手紙の相手への募る想いを、君の血で彩るっていうのはどうだろう?」

 病床に伏せる元女優が、文通相手への手紙と心中――であれば、ありきたりでもまぁ見れる。大衆は、さぞや喜ぶに違いない。

「なかなか、乙なもんだと思うんだよねぇ?」
 言いながら。影朧は、桜模様の硯箱『桜の君』を、大切そうにひと撫でする。
 そうすれば、女は言葉にしなくとも文通相手に気持ちを伝えることができるし、目の前で心中も見れる。そして、己は無味乾燥のこの部屋から出て、もっと楽しい場所へだって行ける。
 一石三鳥でこれは美味しい。
 などと、心中で勝手な考えを巡らせて。影朧は愉快そうに笑った。

●想いは自らを追い詰めて
 一般人は入れないという情報のあった病院ではあったが。
 情報を仕入れたある猟兵の機転により、帝都へ支援依頼が行われ。
 その対応によって、猟兵たちが病院へ着いた時には、中へ入るために必要な手続きはすべて整った状態になっていた。
 すんなりと中へ入ることができた猟兵たちは、病院関係者により、玲子のいる部屋へと案内される。

 その部屋は、殺風景ではあったものの、病室というには随分と広く作られていた。
 応接間を思わせるソファーとテーブルが置かれ、その奥にはベッドがある。
 ベッドには白の着物を身に纏った女――おそらくあれが、橘・玲子なのだろう。

「なんですか、貴方たちは」
 訝しげな表情で、やってきた猟兵たちを見つめた玲子だったが、すぐに全てを察したようだった。
「……このラムプ、ですね」
 懐からラムプを取り出せば、考えるようにそっと目を伏せ、俯いて。
「……手放さなければと思いながら、幾度も頼ってしまっておりました」
 けれど、それもここまでなのだろう。
 ならば、観念して、素直に彼らにこれを渡す方が――、

「……けれど、私にはもうわからないのです」
 結局。一度も、あの人に、この胸に宿る想いを伝えることができなかった。
 櫻居先生の手を借りたにもかかわらず、それを口にし、手紙にする勇気を持てなかった。

「このラムプを手放し、手紙……あの人との繋がりがなくなった先、どう生きればよいか」
 受け取ったあの人の手紙には、最後だとあった。
 ラムプがあろうとなかろうと、もうあの人との繋がりは消えてしまうのだ。
 そして、治る望みなどない、この病とともに。私はこの先を生きねばならないのだ。

 ならば。
 いっそ、先ほど先生が、私に言っていたように……、

「――櫻居先生、」

 猟兵たちの目の前で。
 俯かせていた顔を上げ、玲子は、影朧の名を口にする。

「……おやおや、玲子さん、そんな思い詰めた顔をして」

 ラムプから現れたのは、艶やかな袴に身を包んだ、美しい男。
 軽い口調でそう言って、どこか面白そうに玲子を見やる。
 先程思いつきで口にした言葉を、真に受けたのか、この女は。
 そう察すれば、愉しげに桜色の瞳を細めて。

「そして、ようこそお客さん方」

 見に来たのかい? 彼女の最期の輝きを。
 それとも、僕と遊んでくれるのかい?

 猟兵たちを見渡して。
 歌うように、楽しそうにそう言って。
 影朧は、取り出した桜の意匠が凝らされた刀を、すらと抜いて見せた。


●マスターより
 下記にいくつか補足を記載させていただきます。

 影朧『或る作家の残影』について:
 生前は櫻居・四狼の筆名で名を馳せた人気作家。
 楽しいことが大好きで、まだまだ楽しみたい気持ちが強い影朧のため、転生する気はないようです。
 このため、戦って倒すことを重点に置いてご対応を考えていただければと思います。
 玲子へ声掛けをすることはありますが、危害を加えることはありません。
 猟兵が相手をしてくれれば、猟兵との戦いを楽しむことに専念します。

 玲子について:
 影朧の言葉を受けて思い詰めているようですが、病気のため、ベッドから動くことはありません。
 影朧と猟兵たちの戦いを恐恐と見守っています。

 病室について:
 個室。
 そこそこ広めのリビングといった雰囲気。
 ベッド以外に応接セットが置かれています。
 室内のため爆発系といった技は厳しいかもしれませんが、基本的に立ち回りに制限はありません。動きやすいようにご対応いただければと思います。

 プレイング受付期間について:
 10月17日(土)朝8:31~10月18日(日)23:59まで

 今回は、三ノ木MSのシナリオと期間が異なっておりますので、ご注意くださいませ。
 お手数をおかけしますが、よろしくお願いいたします。
フローリア・ヤマト(サポート)
『大丈夫よ、私達に任せて』
『うるさいわね……ちょっと黙らせるわ!』
呪いにより余命少しの、クールな美少女です。
口調は上記のように少しツンとした感じですが、人間が嫌いなわけではなく、仲間や人々のことを心の底では大切に思っており、戦闘でもうまくサポートしようと立ち回ります。
また、敵に対しても怯むことはなく、時には挑発めいたセリフも交えながら、死角や弱点を突いて確実に仕留めることを狙って戦います。
フローリアのUCは、嵌めている「呪いの指輪」から黒い糸や影を放つ……みたいなイメージなので、そのように描写していただけると嬉しいです。



●戦いは紋黒蝶の羽ばたきとともに
(「あれが病気の元女優、ね」)
 病室を見渡し。枕を背もたれにしてベッドに上半身を起こした状態の女性の姿を認めれば、フローリア・ヤマト(呪いと共に戦う少女・f09692)はその青の瞳をわずかに細めた。

 病気によって日増しに動けなくなる自らの身体と、ひたと迫る命の終わり。
 けれどその終焉は知らされることなく、ただその気配を感じながら息を潜めて生きていく。
 その怖さは一体どれほどのものだろう。

 翻って。呪いによって明確に期限が定められているフローリアの命は、今も止まることなく、刻一刻と削り取られている。
 やがて訪れる日のことを思えば怖くはあるが……それでも、「その日までは確実に生きることができる」のは、ある種の安心感があるし、その日までという覚悟さえ決めてしまえば、あとはそれこそ自由に、自分の思うように生きることができる。
 だからこそ、残された命の期限を猟兵として、オブリビオンと戦おうと、フローリアは決めたのだ。大好きな兄が守ってくれた命を、兄を守るために捧げ、戦おうと誓ったのだ。

(「――それでも。あの人にも、生きることを諦めて欲しくはないわ」)

 同じように命の期限の恐怖を抱えていても、元女優――橘・玲子とフローリアでは、その種類が違う。だからわかったような顔をして言えるようなことなど一つもない。
 けれど、先も見えずその瞬間がわからないからこそ、玲子には足掻いて欲しい。
 身体は思うように動けないかもしれないけれど、心までそこに囚われる必要などないのだから。

「大丈夫よ、私達に任せて」

 だから。フローリアは、玲子に向けて、そう言葉を紡ぐ。
 あなたを、ラムプの影朧の、死への誘いから断ち切ってみせる。
 そう、心に決めて。

「大丈夫? ふぅん。そんな無責任なこと言っていいの〜? 銀髪のお嬢さん?」
 フローリアの言葉尻をとらえて、からかうように言葉を投げる影朧を、フローリアは鋭くにらみつける。クールな眼差しの奥にともるのは、いいように死を弄ぼうとする敵への、静かな怒りだ。
「うるさいわね……ちょっと黙らせるわ!」
 玲子への対応は、他の猟兵たちに任せると決めて。フローリアは、軽やかに床を蹴る。

「指輪よ、私に力を貸しなさい!」
 掛け声とともに。構えた呪いの指輪から発動させるは、ユーベルコード【紋黒蝶(ウィークフェイカー)】。指輪から生まれた漆黒の影は、黒い蝶の羽となって、フローリアの全身を包み込む。

「へぇ……漆黒の蝶とはまた乙だねぇ」
「あら、見惚れてる場合?」
 ふわりと笑う影朧に、フローリアは挑発的な笑みで返す。
 室内で、しかも病院。
 飛翔を含め、派手な立ち回りこそできないけれど。敵へのダメージを与えるのではなく、気を引きつけることに重点を置くならば、それはサポート役であるフローリアでも十分対応できる範囲だ。
 だから。他の猟兵たちがそれぞれの配置につくまで、私が彼を引きつける!

「お望み通り、少しだけ遊んであげるから……覚悟しなさい!」

成功 🔵​🔵​🔴​

月見里・美羽
邪魔をするね
大女優に対して押しかけるのは失礼だと思うのだけど
ことは一刻を争うみたいだ

UCは歌うことで起動『紅一輪』
電脳空間から精霊銃を取り出せば大先生だけ狙って撃つよ
キミの遊びに付き合っている暇はないんだ
ボクたちは玲子さんに用事がある
だから心中なんてごめんだね
毒物も短剣もロープも撃ち抜いていくよ

未来はあると玲子さんに伝えたいんだ

死を軽く誘わないでほしい
ボクたちは懸命に今を生きている
そしてそれを助けるために猟兵がいる
…怖いけれども、キミを恐れないよ
ここで消えてもらえないかな

アドリブ、絡み等歓迎です



●戦いは力強い歌声とともに
「邪魔をするね」
 病室に入るやいなや飛び込んできたやりとりを一瞥し。月見里・美羽(星歌い・f24139)は、形の良い眉をわずかにひそめる。
 大女優に対して突然に、しかも大勢で押しかけることは失礼であるとは思う。
(「――だけど、ことは一刻を争うみたいだ」)
 話の内容を聞いてしまった以上、もう放っておくことなどできない。
 先手を打って前へと飛び出した青瞳の銀髪の少女が影朧を引きつける、その動きを視線で追って。
 着用したゲート・オブ・サウンドを介して電脳世界を展開しながら、美羽は歌を口ずさむ。
 和風ロックのメロディとともに発動させるのは、【紅一輪(クレナイイチリン)】。召喚した真紅の電脳精霊銃を手に、狙いを定めるは、影朧の手元だ。
「おおっと、」
 向けられた紅の弾丸をとっさに手首をひねって刀で受け止めれば、影朧は美羽へと視線をやって。
「危ないなぁ。筆を持つ手は作家の命だって知らないの〜?」
 軽い口調で、たしなめるように言って影朧が笑えば。美羽はそんな大先生をきっと睨む。
「キミの遊びに付き合っている暇はないんだ。ボクたちは玲子さんに用事がある」
「玲子さんにねぇ。玲子さんはさ、忙しいんだよ? 何しろ、僕が今から直々に心中の手伝いを――、」
「――心中なんてごめんだね」
 影朧の言葉を遮るようにして美羽は歌を放つ。

 ♪いつか散ると知りつつも 鮮やかな花咲かせてみせるの

 強い旋律と歌詞が表すのは、美しく咲く花の、力強い命の輝き。
 橘・玲子へと囁かれる死への誘いを跳ね返さんと。美羽は歌とともに、再び精霊銃を影朧へと向けて。

「ボクは。未来はあると玲子さんに伝えたいんだ」

 誰にだって先は見えないものだけど。病に蝕まれる日々を送る玲子にとっては、未来を想像することが難しいのかもしれない。
 美羽も、かつてはそうだった。
 故郷を、活動の場所を失ったあの頃。打ちひしがれ、未来を思い描くことなんてできなかったけれど。

「未来、ねぇ。でも、玲子さんにはそんなの本当にあると思う?」
 向けられた美羽の銃から再び発射された弾をひらりと交わしながら、影朧は喉の奥で笑って小瓶を取り出す。
「そんな未来に縋るより。美しく死に誘われた方が楽になれるんじゃないかなぁ?」
 美羽へ向けて放たれた小瓶は、美羽が撃ち抜いた瞬間、桜色に染まる、甘やかな毒を振りまいて。
「……くっ!」
 桜色の飛沫を受けて、膝がかくりと落ちそうになる。
 バランスを崩して一瞬だけ動きが鈍くなるも……それでも美羽は怯まなかった。
 しゃがみ込みそうになるのをすんでのところでこらえる。

「死を軽く誘わないでほしい」

 精霊銃を連射させ、立て続けに放たれた短剣を、ロープを弾き返す。
 そうして、影朧の桜色の瞳をにらみつけた。

「……未来はあるよ。ボクがそうだったから」
 死が過ぎらなかった日があったかといえば、嘘だ。
 悲しくて、苦しい時もあった。
 それでも、一つ一つを乗り越えて……美羽は、あの時の未来だった、今を手に入れた。

「ボクたちは懸命に今を生きている」

 未来はあるのだ。
 生きて、足掻くからこそ、手に入れることができる。
 美羽は、願いとともに青の瞳を玲子へと向けながら、言った。

「そしてそれを助けるために猟兵がいる」

(「だから――、どうか、貴女も、生きて」)

「……怖いけれども、キミを恐れないよ」
 決して戦い慣れた身ではないけれど。生きるための懸命さだけは、人一倍ある。
 何度目かの狙いが、影朧の肩をかすめるのを認めれば、

「ここで消えてもらえないかな」

 美羽は体勢を立て直し、影朧へ向けて弾丸を放つ!

大成功 🔵​🔵​🔵​

木常野・都月
人は…難しいな。

なんで人は本当の気持ちを閉じ込めるんだ?

人に限らず、命の時間は皆限られている。
だから、生き物は自分に正直に生きるのに。

ただ、俺は猟兵だ。
人の、限られた命の時間で遊ぶ影朧には退散してもらいたい。

[野生の勘、第六感]で敵の動きに注意を払いたい。

UC【精霊共鳴】でチィにも協力してもらいたい。
そばに病人がいるんだ、あまり長時間暴れるのは良くないと思う。
早めに戦闘を終わらせたい。

雷の精霊様の[属性攻撃]をしたい。
刀は確か金属。
電磁障壁で刀を抑え込みつつ、上手くすれば、相手にダメージを与えられるかも。

敵の攻撃は[高速詠唱]と風の精霊様の[属性攻撃(2回攻撃)、カウンター]で対処したい。



●戦いは月の光に桜を舞わせて
 影朧――櫻居・四狼へと立ち向かう、銀髪の少女と青色の髪の少女。二人の少女の立ち回りを相手にして、尚も愉しげな様子の影朧。
 そこに更に加勢せんと、木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)も動いた。
 敵に余裕がありそうに見えるなら、加勢することでその余裕を無くさせる。そうすれば、おのずと、橘・玲子へちょっかいをかける隙だって減るはずだ。
 そして何より、ここは病院なのだ。病人である玲子を前に、戦いを長引かせるのは良くない。できる限り早めに終わらせなければ。

(「人は……難しいな」)

 それにしても、と。
 都月は、影朧の意識を逸らそうと構えを取りながら、玲子の方をちらと見やった。
 ベッドの枕にその背をもたせかけ、影朧と少女たちの立ち回りを見つめている。その表情は青ざめ、身体は少し震えているように見えた。
 無理もない。目の前で戦いが行われているのだ。怖いと思うのも当然だろう。
 けれど。震えながらも戦いの様子から、目を背けることはしない。
 きっと、この人は強い人なのだ。
 そう、都月は思う。
 だって、弱かったら。意識を手放すなりなんなり、動けないなりの逃げ方をするはずだから。

(「なんで人は本当の気持ちを閉じ込めるんだ?」)
 不思議だった。
(「……強いから、なのか?」)
 人は強いと、本当の気持ちを閉じ込めてしまうのだろうか。
 どうしてだろう。
 人に限らず、命の時間は皆限られている。
 だから、生き物は自分に正直に生きるのに。
 今この時を逃したら二度とないことを知っているからこそ、正直に真っ直ぐに生きるのに。
 人だけは、そうではないのだろうか。

(「俺にはわからない……けど、」)
 玲子が、人が。本当の気持ちを閉じ込める理由は、よくわからないけれど。

(「――ただ、俺は猟兵だ」)
 そう。都月は、「人の幸せを守る仕事」である、猟兵だから。

(「人の、限られた命の時間で遊ぶ影朧には退散してもらいたい」)
 それが、今の猟兵である都月が、最善だと思っていること。

 ――だから、動く。
「チィ、」
 近接攻撃はあまり得意ではないから、不用意に近づきこそしないけれど。
 それでも、都月は精霊使いだ。こういう時こそ、精霊様の属性を利用した攻撃が有効だと判断すれば、都月は、肩に乗せていた相棒の月の精霊だけに聞こえるようにその名を呼ぶ。
「橘さんのためにも、早くあの影朧を払わなくてはいけないんだ、協力してくれるか?」
『チィ……!』
 肩越しにチィの頷きを感じれば、都月はエレメンタルロッドを持つ手に力を込めた。

「力を貸して、チィ! 【精霊共鳴(セイレイキョウメイ)】!!」

 都月の力ある言葉が発せられれば、チィは都月の肩を蹴り上げ、宙返り。エレメンタルロッドに組み込まれた宝石の中へと飛び込み、吸い込まれていく。
 次の瞬間、エレメンタルロッド全体が、月のように淡い光に包まれて。
「――雷の精霊様……!」
 ロッドに宿ったチィの力を感じ取れば、都月は立て続けに精霊様へ力を求めて呼びかける。
「あの影朧と戦うための力を、俺に貸してください!」

「へぇ……、ちょーっと刀が重くなったなって思ったら、君だったんだねぇ」
 桜の意匠が施された刀を手に、二人の猟兵の猛攻をいなしていた影朧は、ふいに手の中の刀の重さが増したのを感じて。
「ふむ、月と雷の光を帯びて輝く杖なんて、風流でいいねぇ」
 都月が手にしたロッドを面白そうに影朧は見やった。
 多少のダメージはくらったようだったが、それ以上に新しい遊びを見つけたことが嬉しい様子で、それはそれは愉しそうに笑う。
「いいねいいねぇ。月に合うのは桜、ってことで〜、それじゃあ、大先生たる僕が、君に桜を見せてあげようじゃないか」
 言うが早いか。すらと伸びた白磁の指をパチリと鳴らせば、手にした刀が、原稿用紙と桜吹雪に変化する。
 攻撃とは思えぬほどに美しい桜吹雪に、都月は目を細めるも。
「随分と綺麗な攻撃だけど……、遊んでる場合じゃないんだ、大先生」
 高速詠唱とともに。とっさに手にした精霊の石から風の精霊様を召喚すれば、都月は自らの周りに風の渦を作り出して。
「紙と桜の吹雪、そのままお返しする!」
 原稿用紙と桜ごと、舞い上げ巻き込めば、叫びとともに影朧へ向け、カウンターを繰り出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シビラ・レーヴェンス
露(f19223)と。
広いとはいえ室内だ。病人もいる。しかも病院内。
私は参戦せずに櫻居との戦闘は露に全て任せよう。
存分に露が動けるよう【小さい援軍】を召喚。

召喚した『私』に玲子の周囲に結界を張るよう指示。
私達の攻撃で医療器材が損傷しては流石にマズイだろう。
少々広めに玲子の周囲の四方に『私』を配置し結界を張る。
玲子には状況が全く読めず不安だろうから。そうだな。
「…危害を加えるわけではない。安心してくれ」
くらい言う。まあ口調が口調だから怖いだろうが…。

私は露の援護を。
といっても魔術行使はできないから行動で。
オーラ防御で身体を護り見切りと第六感で回避。
攻撃の意思を示せば櫻居は私にも注意を割くだろう。


神坂・露
レーちゃん(f14377)と。
最近はレーちゃんに期待されてる気がするわ!
えへへ♪うん。頑張る!!あたし負けないわよ!
と言っても。
病院のお部屋の中だから派手なことはできないわね。
えっとえっと…。そうだ【蒼月『月雫』】で攻撃を。
櫻居さんの動きを良く観て包囲攻撃するわ。がんがん!
だけど医療器材のコードとかに棘が触れないよう注意よ。
だってだって怒られるしすっごい高いんでしょう?!
レーちゃんが櫻居さんの注意を惹くみたいだから援護も。
生身だから危ないし援護は必要だと思うの!(褒めて)

玲子さんに流れ弾が…と思ったけど流石レーちゃんね♪
淡泊で冷酷対応だから気になるけど…大丈夫よ。多分!
不安は与えないわ。多分!



●戦いは、二つの光の守りとともに
 猟兵たちと影朧――櫻居・四狼との戦いが、にわかに騒がしさを増していく様子を冷静に見つめていたのは、シビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)だった。

(「広いとはいえ室内だ。病人もいる。しかも病院内……」)
 影朧が直接手を加えなかったとしても。その病状ゆえにベッドから動くことのできない橘・玲子が、戦いの流れ弾を受けてしまう可能性は否定できない。
 それに、シビラをはじめ、仲間の猟兵の攻撃により、医療器材が損傷してしまうのもさすがにマズイ。

 仲間が影朧の意識を引きつけようと動くのと同時に、シビラも駆け出す。
 向かったのは玲子の居るベッドだった。
 近づくシビラに、玲子の瞳に警戒の色がにじむ。
 無理もない。唐突に病室に乗り込んできた一人が近づいてきたのだ、不安にならないわけはない。
「……危害を加えるわけではない。安心してくれ」
 何を言ったものかと一瞬考えた後、シビラはそう声をかける。愛らしい幼女の姿と、抑揚のない大人びた口調とのギャップに、もしかすると怖さを覚えるかもしれないが……今はそこまで気にしている余裕はない。

「……さて、」
 小さく息をつき、シビラは胸の前で両手を合わせた。
「Ridică-te cu noi Aveți puterea de a înfrunta viitorul……」
 詠唱とともに発動させたのは、【小さい援軍(アウクシリア)】。
「いでよ『私』。この戦いから、玲子を守ってくれ」
 現れた、手乗りサイズの分身たちに、シビラが素早く指示を送れば、心得たとばかりに、ミニ・シビラたちは愛らしく頷いて玲子を守るべく動き出す。

「……露、」
 分身たちによる、魔術結界が完了したのを確認して、シビラは相棒である神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)の名を呼んだ。
「戦いは君に全て任せる」
 ここで自分が常のように魔術を行使してしまえば、せっかく施した玲子への守りがふいになってしまう恐れだってある。
 だから今回は自分が玲子と病室内の守りに重点を置き、攻撃は露へ任せようと考えたのだ。
「……頼んだよ」
 金の瞳をわずかに細めて。シビラはそう、露に短く言葉を送る。
「それって、レーちゃん……あたしに期待してるってことよね!」
 シビラのアイコンタクトと送られた言葉に。露は、ぱぁぁと目を輝かせる。
 うん、絶対期待してくれてる。最近そんな機会が多い気がする!やったね!
「えへへ♪ うん。頑張る!! あたし負けないわよ!」
 大好きな親友に頼られ、気合充分とばかりに、露は影朧の前へと躍り出て、
「櫻居さん! 私とも相手してもらうわよ!」
 かわいらしい指を、びしぃっと、影朧の前に突き出した。
「ふふ、そこの銀髪のお嬢さんは元気がいいねぇ。さぁて、君はどう、僕と遊んでくれるんだい?」
 機嫌よさげに笑う影朧に、露の動きが一瞬止まる。
「どうって、えっとえっと……」
 えーっと、どうしようかしら。
 普段であれば勢いよく技を発動させるところなのだが、ここは病院の部屋。
 さすがに考えなければならない……と。
 そうぐるぐるしている間に、影朧は優雅に笑った。
 刹那、現れた原稿用紙と桜吹雪が室内を覆い尽くして。
「あー?! ……ちょ、ここ病院なのよ?! 医療機材とか、コードとか壊しちゃったらどうするのぉ?!」
 だってだって怒られるしすっごい高いんでしょう?!
 思わずあわあわとする露とは対象的に、影朧はどこ吹く風だ。
「えー? そんなの知らないなぁ。まぁどーにかなるんじゃないー?」
 クツクツと笑う。影朧だからというのもあるのだろうが、この大胆というか大雑把というか、周囲のことを考えないというかは、作家大先生の性格的なものもあるのかもしれない。
「もうもうー、玲子さんに流れ弾が当たったらどうするのよー……っ」
「――心配ない、露」
 あわあわとする露の耳に飛び込んできたのは、親友の声。
 見れば、病室内に金色に光る魔法陣の結界が、影朧の攻撃から玲子とその周囲の機材を守ってくれている。
 なるほど、だからあたしに攻撃を頼んだんだっけ。
「あそっか! ……すごい、流石レーちゃんね♪」
 やっぱり親友は頼りになる。淡白で冷酷対応なところはあるけれど。
(「……って、玲子さんへの対応……大丈夫なのかしら?」)
 玲子へ不安を与えたりしないだろうかと、一瞬過ぎったが、今はそれを考えてる余裕はない。
 大丈夫だろう、きっと!
「……よぉし、守りがあるなら安心! それじゃああたしも!」
 心の中で改めて気合を入れ直せば、露は両手を広げ、力ある言葉を放った。
「行くわよ、櫻居さん!【蒼光『月雫』(ソウコウ・ツキシズク)】!!!」
 露の周囲に生まれたのは、淡い光を帯びて輝く、小さな三日月の形をしたいくつもの蒼白い棘だった。
 それらは、幾何学模様を描きながら、露の周りを複雑に飛翔していたが、
「がんがん攻撃するわよぉー!」
 やがて、露の両指の動きで示したターゲット――櫻居を包囲するように、ぐるりと円を描いて集まった。
「がんがん!」
 掛け声とともに露が一気に両手を下ろせば、蒼白い棘は一斉に影朧を攻撃する!
「あはははは! いやぁいいね、面白いね!」
 命中すればキラキラと星のような光を発する露の棘に、影朧ははしゃいだ声を上げた。
「いいねぇ、今のはなかなか効いたかな。――けれど、もう少しだなぁ」
 それでもまだ楽しみ足りないと言いたげに、桜の硯箱をそっと撫でて。
「玲子さんは、どんなのが好みかなぁ? 月と桜の下での心中とか――、」
 よさそうだよね、と。笑いながら玲子に同意を求める影朧。
「――申し訳ないが。玲子に心中はさせんよ」
 その桜色の視線から玲子をかばうようにして、前に出たのはシビラだった。
「無論、私も。君の酔狂に付き合う気など毛頭ない」
「おやおやぁ、すげないねぇ。でもすげないからこそ遊びがいもあるってものだよねぇ」
 笑いながら、何度目かの吹雪を生み出そうと動き出す影朧へ向け、シビラは自らにオーラ防御を展開し――、
「――レーちゃんを傷つけるなんてさせないわ! 闇に散れ~♪」
 シビラの防御が完成したタイミングを見て取れば、露は再び月の雫をお見舞いする!
「ね、援護、必要だったでしょ? 褒めて褒めて♪」
 そう言って満面の笑みを向けた露に。礼を言うように、シビラは微笑を返したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「橘さんのて(筆跡)でない文章で、心を抑えた文を送る。それで心を推し量れとは、傲岸過ぎると思いませんか。国民的スタァだった貴女は、心を抑えるのが上手すぎます。それでは誰にも想いは届きません」
「貴女の文通相手が突然血染めの文を送ってきて。それが貴女が最後まで会って欲しいと言ってくれないから死ぬことにしたと書かれた遺書だったら。何故本心を明かしてくれなかったと思いませんか。どうせ清水の舞台から飛び降りる覚悟を決めたなら、まずこの場を生き延びて、その覚悟を他のことにお使いなさいませ」

UC「癒しの桜吹雪」使用
橘も仲間も傷つけさせず癒す

「橘さんに提案があります。まずは無傷で生き残ることを考えましょう」



●癒やしは、桜吹雪の歌とともに
 病室内で立て続けに巻き起こる乱桜吹雪を視界に収めながら。御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は、橘・玲子の傍らへついた。
 戦いによる流れ弾が玲子を傷つけるのではないかと危ぶんだものの、仲間の機転によって展開された結界で、玲子と病室内の設備は守られた状態だ。
 皆それぞれの立場で、この場における最善を考え行動している。
 ならば、私も。私の思う最善を行っていこう。
 そう、心に決めて。

「――橘さん。国民的スタァだった貴女は、心を抑えるのが上手すぎます」
 戦いの流れ弾から守るように、そしてその心に寄り添うように。
 玲子と目線を合わすようにしてその傍らで屈んだ桜花は、けれど、その気持ちとは逆の方向から彼女に言葉を投げかける。
 彼女が内に抱える想いは、わからなくもない。
 けれど、気持ちがわかると共感するだけではどうにもならない。まずは認識してもらわなければならないのだ。
 玲子自身が、いかにうまく気持ちを隠しすぎているのかを。
 そして、それ故に相手と想いがすれ違っているのかもしれないことを。
「橘さんのて(筆跡)でない文章で、心を抑えた文を送る。それで心を推し量れとは、傲岸過ぎると思いませんか」
 はっとした表情で見やった玲子の瞳を、桜花は見つめ……言葉を続ける。
 その瞳の奥にある感情の光は、桜花の言葉に反応して揺れ動いている。
「……傲岸だなんて。推し量れなどと思って書いていた手紙ではありません」
 抗うようにそう返して。桜花の視線から逃げるように目を逸らした玲子へ、桜花はさらに言葉を重ねていく。
「そうおっしゃるのなら……なぜ、ご自身の想いを抱えてこんなに苦しんでらっしゃるのですか?」
「……」
「貴女は、心を抑えるのが上手すぎるのです。――それでは誰にも想いは届きません」
 俯き、唇を噛む玲子を、桜花は見つめる。
 玲子は口を開いた。
「……届かなかったというのなら、それは、仕方ないかもしれません」
 それならば、せめて今送ろうとしている手紙にだけは。
 さらに続けようとした玲子の言葉は、しかし守りの結界を越えて入り込んだ、乱れ舞う桜の花びらに遮られて。
 思わず口をつぐんだ玲子の頬を、花びらは鋭く撫でていく。その頬にうっすらと傷をつけ、血の筋を残しながら。
「……もしも。貴女の文通相手が突然血染めの文を送ってきて。それが貴女が最後まで会って欲しいと言ってくれないから死ぬことにしたと書かれた遺書だったら。……橘さん。貴女はどう思いますか?」
 わずかに血が流れた玲子の頬に、桜花はそっと手を添える。けれど、その眼差しは、玲子から逸らすことなく。静かに、問いを投げかけていく。
「――それは……、」
 まるで玲子の心を見透かしたかのような桜花の問い。
 玲子は、はっとした表情で、逸らしていた視線を再び桜花へと向けた。
「何故本心を明かしてくれなかったと思いませんか?」
 同じことですよ、貴女が文通相手の方へしようとしていることは。
 そう、暗に言い含めるように、玲子の頬をそっと撫でてから、桜花はゆっくりと立ち上がる。
「どうせ清水の舞台から飛び降りる覚悟を決めたなら、まずこの場を生き延びて、その覚悟を他のことにお使いなさいませ」
 言葉とともにふわりと微笑み。玲子の傍らに立った桜花は、影朧が散らした花吹雪を見やった。
「……傷つける花には、癒やしの花で、ですよ」
 ――見ていてくださいね、橘さん。
 玲子にだけ聞こえるようにそう言って。桜花は唇に歌を乗せる。

 ♪桜よ吹雪け、命よ巡り巡りて人々を癒す慈雨となれ

 桜花のユーベルコード【癒しの桜吹雪(イヤシノサクラフブキ)】。
 歌声に誘われて、現れたのは桜吹雪。
 しかしそれは、影朧が吹雪かせる、誰かを傷つけるものではなくて。

(「橘さんも、仲間も。傷つけさせなどしません」)

 想いとともに短く歌を奏でて……そして。
 再び、桜花は玲子と視線を合わせ、その顔を見つめる。
 頬についていた傷が消えているのを確かめてから。玲子へ向けて、桜花は言った。

「橘さんに提案があります。まずは無傷で生き残ることを考えましょう」

大成功 🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
やっぱり凄いな、橘さん
女優とか以前にとっても綺麗だと思う
心がね
真っ直ぐで、純粋で、穢れが無い

櫻居さんの攻撃は、屋内だから限界はあるとしても
【空中戦】でなるべく回避し

貴方とは重みが違うけど、僕も心臓が弱いから
翼が無いと、自分の足じゃ自由に走り回る事も難しいから
こんな状況になっても輝きを忘れない橘さんはほんとに凄いよ

だからこそ僕は、貴方に諦めて欲しくない
色んなお話聞かせてほしい
直接会って確信した
大丈夫だよ
貴方の、人としての輝きは失われてない
だからさ…勇気、出してみない?
応援させて

敵の繰り出す紙も花弁も炎魔法の【高速詠唱、属性攻撃】で相殺
お返しだよ
【歌唱】で操る【破魔】を宿した【指定UC】で攻撃を



●言葉は、勇気を宿して
 影朧――櫻居・四狼が仕掛ける原稿用紙と桜の花びらたち。
 その美しくも鋭い攻撃を、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は、空中戦さながらに自らの翼をはためかせて回避する。
 更には高速詠唱を駆使した炎魔法によって燃やし、相殺させていきながら、澪は、仲間とやりとりを交わす、橘・玲子の方へと視線を向けて。

「やっぱり凄いな、橘さん」

 仲間からの言葉に考え込む仕草をする玲子の前へ、澪はふわりと舞い降りてそう言った。
「凄い……ですか?」
 そうして、少しびっくりしたように目を見開いた玲子へ向けて、柔らかく微笑んで見せる。
「うん。女優とか以前にとっても綺麗だと思う」
 綺麗、と言われて複雑そうな表情を見せた玲子に、澪は続ける。
「心がね。……真っ直ぐで、純粋で、穢れが無い」
 華々しい経歴を持っていれば、そこに執着し。病という、落差ある現実を直視しないまま時を経て、醜く変貌してしまう者だって少なくない。
 けれど玲子には、そういった歪みが微塵も見えないのだ。
 病に蝕まれていてもなお、女優であった頃と同じように真っ直ぐに、真摯に生きようとする姿勢が、内面の清らかさが、にじみ出ていて。
 だから澪は思うのだ。玲子は綺麗だと。
「そう……でしょうか」
「うん、少なくとも僕はそう思う。直接会って確信したんだ。貴方の、人としての輝きは失われてない、って」
 澪はそう言って、頷き……それから声を落として、玲子にだけに聞こえるように、そっと言葉を紡ぐ。
「貴方とは重みが違うけど、僕も心臓が弱いんだ」
「……え、」
 目を丸くした玲子に。澪は、内緒ね、と言うようにして、自分の唇に人差し指を当てて片目を瞑って見せて。それから、自分の背中の翼を指差した。
「この翼が無いと、自分の足じゃ自由に走り回る事も難しくって」
 目の前の愛らしい少年が、自分へそっと打ち明けてくれた身体の弱さの話に、玲子はそっと目を細める。
 病で思い通りにならない身体を持つから、感じ取れること。
 その話に、向けられる笑顔に。一切の偽りなどない。
 この子は、明るい笑顔で自らの弱さを打ち明けているけれど。その笑顔の向こう側でたくさんの辛さや悔しさを乗り越えてきたのではないだろうか。
「……そう、なのですね」
 そう、小さく言葉を返した玲子に、
「うん。……だから。こんな状況になっても輝きを忘れない橘さんはほんとに凄いよ」
 澪は改めて言葉にすれば、そっと玲子の手をとり、両手で包み込む。

「だからこそ僕は、貴方に諦めて欲しくない」

 生きることは、もちろんのこと。
 それ以外のことだって。
 玲子に、諦めて欲しくないなどないのだ。

「さっきも言われたよね? 覚悟を決めたなら、って。僕もそう思う」
 澪の両手の熱が、包み込まれた玲子の手へと伝われば。玲子の口から小さく声がこぼれた。
「……でも……」
 その想いは、手遅れかもしれないのに……?
「大丈夫だよ」
 玲子の手をぎゅっと握ったまま、澪は玲子に言った。

「貴方の、人としての輝きは失われてない。だからさ……勇気、出してみない?」

 応援させて、と。囁くように言って微笑んで見せて。
 澪は自分の両手から、玲子の手を解放すれば、立ち上がった。
 琥珀色の瞳を向ける先は、愉しそうな笑顔を向ける、美しい蒼桜の影朧。

「櫻居さん、さっきのお返し、受け取ってくれるよね?」

 言葉とともに。澪が奏でる歌は、ユーベルコード【誘幻の楽園(エデン・オブ・ネニア)】。
 歌声によって生み出された、破魔を宿した無数の花びらの刃は、美しい舞を見せながら、影朧へ向かって攻撃を仕掛けていく――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

アカネ・リアーブル
あなたが代筆してくださった文豪ですね
まずはお礼を
玲子様の代筆をしてくださってありがとうございました
ですがあなたは玲子様の命を蝕むもの
捨て置く訳には参りません

舞扇を手に指定UC
文豪の動きを止めますので
猟兵の皆様その間に攻撃を
文豪の攻撃を受けてもやめません
激痛耐性で耐え舞い続けます

アカネも舞台に生きた者
美しいまま記憶に在りたいという気持ちはよく分かります
ですが玲子様
それが本当の気持ちなのですか?
あなたが心から望むものなのですか?

玲子様
ご自分の気持ちに正直になってくださいませ
「大女優 橘・玲子」である自分を演じていては
掴める幸せも逃してしまいます
どうか一人の「橘・玲子」の気持ちをお聞かせくださいませ



●想いは、奉納舞に乗せて
「ふんふん、桜に月に歌にと、なかなか面白い感じに遊んでくれるねぇ」
 猟兵たちの様々な攻撃バリエーションに応戦しながら、影朧――櫻居・四狼は、愉しそうに笑う。
 ダメージはそれなりに受けているようだが、どこまでも余裕たっぷりに猟兵たちを見渡しながら、次は何をして遊ぼうかと思案するように口の端を上げて見せて。
「――櫻居様、」
 そんな影朧の前に、礼儀正しく進み出たのは、アカネ・リアーブル(ひとりでふたりのアカネと茜・f05355)。
「あなたが代筆してくださった文豪ですね」
「いかにもだよ、銀髪のお嬢さん。この大作家の手にかかれば、代筆の手紙くらいならちょちょいっとね」
 玲子さんも喜んでくれたんだよー、と微笑む影朧に。そうですね、と。アカネは笑みを返して頭を下げる。
「それについてはお礼を、ですね。玲子様の代筆をしてくださってありがとうございました」
「ふふ、面白いねぇ、君は。僕と君は敵同士だけど、礼儀の心を忘れないってのは大切だよ」
 満更でもない影朧は、うんうんと頷いて。
「でもまぁ……挨拶はあれど、やっぱり戦うんだよねぇ?」
「はい! 申し訳ありませんけれど。あなたが玲子様の命を蝕むものとなれば、捨て置く訳には参りません」
 キリッと表情を引き締めて構えを取ったアカネに、影朧はおかしそうに笑った。
「……ふふ、正直だねぇ、君は」
 けれどその正直さは嫌いじゃないなぁと。くつくつと喉を鳴らした影朧が、何やら取り出さんと自らの懐に手を入れるのを見れば、
「これ以上の技は、このアカネが阻止してみせます……!」
 言うが早いか。アカネは手にした鎖舞扇を広げる。
 鎖の絵が描かれた舞扇は、特に魂の親友である、茜姫が母から譲り受け、大切にしている品だ。
(「茜姫も見ていてくださいませね……!」)
 今はアカネの中でこの状況を見ているであろう茜姫へ向けて、心の中でそう言って。
 アカネは舞を舞い始める。

「舞をひとさし舞いましょう。あなたに光があらんことを」

 舞うのは【奉納舞(アナタニササゲルヒカリノマイ)】。
 讃え、癒やし勇気づける舞だ。
 その舞を捧げる相手は――、

「玲子様。アカネは、玲子様にこの舞を捧げたいです……!」

「えー、ずるーい。それ、僕にじゃないの〜?」
 思わず不満げな声を上げた影朧に、舞を舞いながら、アカネはそっと小首を傾げ。
「アカネと櫻居様は敵同士ですから。さぁ、猟兵の皆様に攻撃されやすいよう、大人しく動きを止めてくださいませ!」
「……なるほどね、確かに身体の動きが鈍くなった。けれど、」
 君を落とせば、問題ないよねぇ?
 にやりと笑えば、影朧は緩慢な動きで桜模様の短剣を取り出した。舞には舞をと言わんばかりに、舞うようにゆるりと短剣を操れば、アカネへと攻撃を繰り出して。

「……っ、でも、アカネは負けないのです!」

 影朧の攻撃をくらっても激痛耐性で痛みをこらえながら。
 それでも舞を止めることはしないまま、アカネは玲子の方を見やり、懸命に言葉を紡ぐ。

「玲子様。アカネも舞台に生きた者。美しいまま記憶に在りたいという気持ちはよく分かります」
 ですが。それが本当の気持ちなのですか?
 あなたが心から望むものなのですか?

「玲子様。ご自分の気持ちに正直になってくださいませ」

 玲子へ近づくことはしないままに。
 アカネは舞を舞いながら、玲子へ言葉をかけ続ける。
 玲子からの言葉はなくとも、この言葉は、想いは。玲子に届くと信じて。

「『大女優 橘・玲子』である自分を演じていては、掴める幸せも逃してしまいます」

 アカネは。そして、この場に集った猟兵たちは。
 橘・玲子という、一人の女性の幸せを願っているのだ。

 ――だから。

「どうか一人の『橘・玲子』の気持ちをお聞かせくださいませ……!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

エリシャ・パルティエル
彼女が籠絡ラムプを何度も使ってしまったのは
どうしても届けたい手紙があったから
それなのに一番伝えたい想いは心に秘めたままなの?
後悔はしてほしくないわ

玲子さんに近づいて声をかけるわ
あたしたちはあなたを傷つけたりしない
あなたのしたことが罪で悪いことをしたと思うなら
償う道もあるわ

それよりもあなた自身に後悔してほしくないの
会いたい人がいるんでしょう?
諦めたらもう二度と会えなくなってしまうわ
あなたが会いたいと願えば
会わせることだってできると思うの

誰だって臆病よ
手紙は見かけじゃないその人の心が現れるの
たくさんやりとりをしたんでしょう?
心はきっと通じているわ
勇気を出して…

戦闘は仲間に任せて
治療の補助をするわね



●想いは、言葉に乗せて
 ――どうか、『橘・玲子』としての気持ちを聞かせてほしい。
 見知ったツインテールの少女が、傷つきながらも、ありったけの想いとともに、玲子へ言葉を届けようと懸命に舞を舞っている。
 そんな少女の傷を、ユーベルコード【生まれながらの光】で癒やしながら。
 エリシャ・パルティエル(暁の星・f03249)は、少女の舞を切なげに見つめる、玲子の横顔を見やった。

(「彼女が籠絡ラムプを何度も使ってしまったのは、どうしても届けたい手紙があったから」)
 自分の手で書けなくなり、それでも手紙を届けたいと思う相手がいた。
 だから、籠絡ラムプを使い、影朧に代筆を頼んでしまった。
 その経緯とその気持ちは、エリシャにもよくわかる。
(「それなのに一番伝えたい想いは心に秘めたままなの?」)
 抑えたままの想いは、相手にだって伝わらないし、自分自身に後悔を残してしまう。
 ……今だって、玲子は苦しそうなのだ。
 これ以上、彼女に後悔をしてほしくなどない。

「……玲子さん、」
 エリシャは玲子へ声をかけ、静かにその傍らへと近づき、声をかけた。

「あなたは、決して自分の気持ちを言葉にはしないけれど……それでも、その心の奥には、はっきりとした想いがあるのよね?」
 今、この場においても、玲子は自身の言葉で『想い』を口にしていない。
 けれど、決して無自覚なわけではないのだ。

「……私は……」
 問いかけに反応するように、玲子はエリシャを見上げる。
 瞳が泣きそうに揺れ、震える声が、その口から静かにこぼれた。

「あたしたちはあなたを傷つけたりしない」
 そんな玲子を見つめながら、エリシャは金の瞳を優しく細める。
「あなたのしたことが罪で、悪いことをしたと思うなら。償う道もあるわ」
 籠絡ラムプの使い手は、様々に事情を抱えている者が多いけれど。
 自分のしたことに罪の意識を感じる者には、やり直せる道だってちゃんとあるのだ。
 エリシャもグリモア猟兵として、猟兵たちの力を借りてそんなラムプの使い手を救ったこともある。

「それよりも、玲子さん」
 玲子へ言葉を送りながら舞を舞う、銀髪の少女も。
 歌を奏でた琥珀色の髪の少年と、桜色の髪の娘も。
 影朧と戦う他の猟兵たちも。
 玲子へ向けて紡ぐ言葉の形は少しずつ違っていたけれど、皆が玲子へ伝えたい想いは、同じだ。
「あたしは……、あたしたちは。あなた自身に後悔してほしくないの」
 玲子の瞳を真っ直ぐに見つめて。エリシャは、その手を取った。

「会いたい人がいるんでしょう?」
「……、」

 そして、エリシャは見る。
 静かに涙をこぼした玲子が、小さな頷きを返すのを。

「……なら、諦めないで。諦めたらもう二度と会えなくなってしまうわ」
 玲子の、その小さな頷きに、エリシャはふわりと微笑んで。
「あなたが会いたいと願えば、会わせることだってできると思うの」
 そういう算段だって、こっちにはあるわ、と。エリシャは片目を瞑って見せる。
「だから。大切なのは玲子さん、あなたの気持ちなのよ」
「……こんな、私でも。いいのでしょうか」

 諦めないでよいのだろうか。
 女優でも、スタァでもない、病を患った、何も持たない私だけれど。

 願うことを。生きることを。
 この、心に秘めていた想いを、口にすることを。
 諦めないでよいのだろうか。

「いいに決まってるじゃない」
 ぽつりとこぼれた、玲子の言葉に、エリシャは笑顔で頷く。

「誰だって臆病よ。……手紙は、見かけじゃないその人の心が現れるの」
 確かに……影朧に代筆を頼んだ手紙からは、玲子の気持ちを読み取ることは難しかったかもしれない。
 けれど。
「たくさんやりとりをしたんでしょう?」
 玲子と文通相手は、長い間やりとりをしていたのだと聞いた。
 きっと、それは、代筆を頼むよりもずっと以前からだったに違いない。
「心はきっと通じているわ」
 その時々で選んだ便箋に、文字を連ねて綴った言葉の一つ一つに、その行間に。
 たくさんの想いを込めながら、玲子は、文通相手とやりとりをしてきたのだと思うから。

「だからこそ、ちゃんと、言葉にするの。手紙に書けなかった気持ちを伝えなくちゃ」
 心は通じていても。
 本当に大切なことは、言葉にしなくては伝わらないことだってあるから。
「だから。玲子さん。あなたの気持ちを聞かせて?」
 勇気を出して、気持ちを言葉にして欲しい。

「……私は、」
 エリシャの言葉に、玲子は頷いた。
「会いたいです。あの人に」
 涙に濡れた、少しかすれた声。……けれど、はっきりと、玲子は心に秘めていた想いを口にする。
「……九重・葛明さんに、お会いしたいです」

 会いたい。
 ただ一度だけ、ひと目だけでいいから。
 葛明さん、あなたに会いたいです。

大成功 🔵​🔵​🔵​

乱獅子・梓
【不死蝶】
またお前か!
つい最近も別件でこの影朧と戦ったことを思い出し
思わずツッコミを入れる
まぁオブリビオンあるあるだし
向こうはこっちのことなど当然覚えていないだろうが…

その心底楽しそうな顔、またバカなことを思いついたのか
この作家の作品は心中ものが多いという
橘・玲子に吹き込んだことも何となく想像がつく
もしそれを彼女が望んだとしても実行させるわけにはいかない
ラムプの精はラムプに…ではなくて骸の海に還ってもらうぞ

ここじゃあドラゴンたちを暴れさせるのは難しいな
それと橘・玲子に血腥い戦いを見せるのも気が引ける
綾が敵の攻撃を受け止めてくれている間に
後ろからUC発動、零の咆哮を響かせ生命力のみ奪う


灰神楽・綾
【不死蝶】
玲子さんの手紙代筆をしていたのはこの影朧だったのか
大スタァ女優の手紙を大作家が書くって
何気にすごいコラボレーションだねぇ…

玲子さんをまじまじと見れば
病でやつれてはいるけれどとても美人さんだと思うし
元大スタァのオーラってやつを
初対面の俺でも何となく感じ取れる
その大スタァとしての名残が
彼女を縛り付けているのだろうけど
…いっそ大スタァなんて肩書きは捨てて
ただ一人の女性として会いに行けたらいいのにね

女性の傷心につけ込むなんて悪い男だね、先生
使い慣れた得物を取り出し、相手を斬り刻む…のではなく
UCで紅い蝶の花弁へと変化
花弁で敵の攻撃を受け止め相殺
桜と紅い蝶が混ざり合う景色はなかなか綺麗でしょ



●最後は、蝶の花びらと歌とともに
 原稿用紙と桜吹雪舞う病室内で、舞うように遊ぶように猟兵たちと戦う、その影朧に。
「櫻居・四狼――! またお前か!」
 ビシィと指差し、乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)は、ツッコミめいた叫びをあげた。
 見覚えはある。
 なにせ先日参加した案件に、のこのこ現れてきたのが、目の前の影朧だったのだ。
「玲子さんの手紙代筆をしていたのはこの影朧だったのか」
 梓の背中からひょっこり顔を出した灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)も、覚えがあると言いたげにへぇ、と声をあげる。
 そうそう。たしか、いつぞやかの、そんなバカなの展開な学園殺人事件で見た作家先生だ。
「大スタァ女優の手紙を大作家が書くって、何気にすごいコラボレーションだねぇ……」
 そんなしみじみと言った綾の感想と、先ほどの梓の叫びを、影朧は耳にして。
「え? 呼んだかな? というか、君たちは僕のこと知ってるようだねぇ?」
 にっこにこな満面の笑みで二人の方へと振り向く。
 返した言葉の雰囲気から、影朧は、梓の言う「また」の意味を理解していないようだった。
「やっぱり覚えてないんだな。まぁオブリビオンあるあるだしなぁ」
「でも、覚えてたとしてもさ、先日の梓の脚本が……」
「やかましい! あの作品は誰が何と言おうとミステリーだっての!」
 うっかり蒸し返される梓と綾のやりとりに、当の影朧はきょとんとして。
「え、もしかして君たち、どこかで僕と会ったのー? へぇ、面白い! 僕は君たちと何して遊んでいたんだい?」
 ものすごく愉しそうに目を輝かせた影朧へ、ノーコメントだと言わんばかりに、梓は手をヒラヒラさせる。
 失礼にも人の脚本をコント呼ばわりしてくれたことなど、改めて語る理由もないだろう。
「しかし、その心底楽しそうな顔、またバカなことを思いついたのか」
 語る代わりに、梓は呆れたようにため息をつく。
 この作家の作品は心中ものが多いという。
 どれだけ心中にご執心なのかは知らないが。作品傾向から、この影朧が橘・玲子に吹き込んだことも、梓には何となく想像がついて。
「……まぁ、幸いというか、仲間のおかげでお前の思うようにはならないようだけどな」
 ちらと玲子の方を見やってから、改めて影朧へ顔を向ければ。残念だったなと言わんばかりに、にぃと梓は口の端を上げて見せた。
「えー、玲子さんてば、心中断念しそうなのかい? せっかく愉しめそうだったのに」
 おもちゃを取り上げられた子供のような顔をした影朧へ向け、梓は伴わせた氷竜「零」とともに構えをとった。
「もしそれを彼女が望んだとしても、実行させるわけにはいかない。ラムプの精はラムプに……ではなくて骸の海に還ってもらうぞ!」

 梓が影朧へ向けて言い放った声を耳にしながら、綾は影朧との間合いを詰めるべく動きながら、ちらと玲子を見やった。
 戦場としては狭い病室内ではあるが、仲間たちに守られているため、玲子の身の安全は確保されている。こちらは影朧との戦いに専念して問題なさそうだ。
(「玲子さん……病でやつれてはいるけれど、とても美人さんだと思うし、元大スタァのオーラってやつを、初対面の俺でも何となく感じ取れる」)
 スタァというのは、一般人とは身に纏うオーラが違うとは聞くが、百聞は一見に如かずとはよく言ったもの。
 病に冒されているとはいえ、綾の目から見ても、その雰囲気は確かに、一般人とは一線を画していた。
(「その大スタァとしての名残が、彼女を縛り付けているのだろうけど」)
 玲子が、自身の想いを自覚していながら口にすることができなかったのは、そんな、大スタァの名残から来るものだったのかもしれない。
「……いっそ大スタァなんて肩書きは捨てて、ただ一人の女性として会いに行けたらいいのにね」
 猟兵たちの言葉かけに応じて、ようやく自分の気持ちを口にした玲子の様子を視界の端に捉えながら。綾は赤のサングラスの奥で糸目をさらに細めて呟けば、影朧の前に出た。
「女性の傷心につけ込むなんて悪い男だね、先生」
「ふふ、それはありがとう。いい男よりも悪い男の方が、いい作品が書けちゃうものなんだよー?」
 ニヤリとした笑みとともに、影朧は綾へ向けて、自らの技を展開する。
 披露される何度目かの原稿用紙と桜の舞に、綾もまた、愉しげな笑みを浮かべながら、ファー付きコートから小型ナイフ「Jack」を取り出す。
 本来ならこの影朧と「殺し合い」をしてみたいところだけれど、病室の大スタァの前ではさすがに憚られる。
 相手を切り刻む代わりにお見舞いするのは、【バタフライ・ブロッサム】。
 得物を赤い蝶の花びらへ変化させての花吹雪。敵の紙と桜の吹雪をも巻き込み相殺していく光景は、幻想的でとても美しい。
「なかなか綺麗でしょ、先生。そろそろおやすみするのもいいんじゃないかな?」
「うーん、どうだろうねぇ……」
 桜の意匠が施された刀を手の中で弄ぶように回しながら、にこりと笑った影朧へ。
「物足りないって言いたいか? なら、骸の海に送る歌でもお見舞いしてやるよ」
 綾の攻撃の隙に、影朧の後ろに回り込んでいた梓は、ユーベルコード【葬送龍歌(クリスタルレクイエム)】を発動させる。
「歌え、氷晶の歌姫よ……!」
 梓の呼びかけに応えた零の神秘的な咆哮が、美しい歌声となって病室内へ響き渡った。

「さぁ、影朧、時間だぜ。骸の海へ還るんだ」
「んー、名残惜しいけど、ここまでかなー」
 梓の言葉に、仕方ないなぁと言って、影朧はにっこりと笑った。
 撃退させるだけのダメージに達していたらしく、その身体が、足元から少しずつ薄れ、かき消えていく。

「君の心中を見れなくて残念だけど。代筆、楽しかったよ、玲子さん」
 消えていく中、影朧は、玲子の方へ顔を向ければひらりと手を振って。

 せっかく想いを口にしたんだ。
 これからは、もう少し、自分の気持ちに素直に生きれるといいよねぇ。

 最後にそう、言葉を残して。
 櫻居・四狼の姿をした影朧は、骸の海へと還って行ったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『籠絡ラムプの後始末』

POW   :    本物のユベルコヲド使いの矜持を見せつけ、目指すべき正しい道を力強く指し示す

SPD   :    事件の関係者や目撃者、残された証拠品などを上手く利用して、相応しい罰を与える(与えなくても良い)

WIZ   :    偽ユーベルコヲド使いを説得したり、問題を解決するなどして、同じ過ちを繰り返さないように教育する

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●想いはこれからの未来とともに
 かくして。
 影朧は去り、籠絡ラムプは破壊された。
 病室内の設備も、猟兵たちの細やかな配慮により、大きな損傷はないようだ。

「……皆様。この度はご迷惑をおかけいたしました」
 ベッドの上に身を起こした状態の橘・玲子は、猟兵たちを見渡して、深く頭を下げた。
 病気ゆえの血色の悪さは相変わらずだが、その表情は猟兵たちが病室へ足を踏み入れた時よりは随分と明るくなっていて。
「私は、自分自身のことばかりで、葛明さんの気持ちも、周りのことも考えておりませんでした」
 改めて自分の想いを言葉にして、初めて周りのことが見えたように思うと。
 そう言って、恥ずかしそうに玲子は目を伏せる。

「葛明さんへ手紙を届けたいと思うあまりに、周りが見えなくなっておりましたが……あのラムプに頼り、先生に頼ってしまったことは、やはり、良いことではなかったと思っております」
 公に被害が生じなかったとはいえ。猟兵たちの手を煩わせ、病院の関係者や他の入院患者にも迷惑をかけてしまったことは事実。

「病に伏せる身ではありますが、罪を償う覚悟はできております」
 だから、もし。然るべきところより処遇についてお話があるならば、罰を含め、甘んじてお受けいたします。
 そう、玲子は口にして。……それから、意を決した表情で、猟兵たちを見やった。

●マスターより
 以下、補足をさせていただきます。
 長文にて恐縮ですが、ご一読お願いいたします。

 影朧は骸の海に還され、籠絡ラムプは破壊されました。
 病室内には玲子が残されています。

 今回の行動について:
 皆様には、下記の選択肢を選び、この章での行動について、プレイングをお願いいたします。
 (POW・SPD・WIZは参考程度にお考えいただけると幸いです)

 (1)玲子ともっと話をする
 玲子の話を聞きたい、あるいは自分の話を聞いて欲しいなど。
 玲子との会話を中心にしたい場合にご選択ください。

 (2)玲子のこれからについて一緒に考える
 玲子のこれからについて一緒に考えていただける場合はこちらをご選択ください。
 これまでは、文通相手「九重・葛明」氏との手紙のやり取りが、玲子にとっての心の支えでした。
 手紙のやりとり以外に、新たな病院での交流など、玲子がこれからをよりよく生きるための手段がありましたら、ご提案いただけると幸いです。

 ※玲子に何らかの罰を与えたい、償いを求めたい場合は、具体的にどうすべきかについてお聞かせいただけると幸いです。

 ※玲子の文通相手「九重・葛明」氏を、玲子に会わせる行動を取ることも可能です。
 この場合は、三ノ木MSのシナリオにおいて下記条件が満たされているかを確認の上対応させていただきます。(条件に満たない場合、こちらで調整させていただきます)
 ・九重氏が生存している
 ・九重氏が玲子に会うことに同意している

 (3)病院内の庭園の風景を楽しむ
 玲子へは特に行動を起こさず、個別に行動します。
 病院の施設内には、立派な日本庭園があり、幻朧桜以外では、紅葉を見ることもできます。
 お一人様、またはお連れ様と。桜と紅葉を楽しみながら物思いにふけるのもよろしいかと思います。

 プレイング受付期間について:
 10月24日(土)朝8:31~10月25日(日)23:59まで

 今回も、三ノ木MSのシナリオと期間が異なりますのでご注意くださいませ。
 お手数をおかけしますが、どうぞよろしくお願いいたします。
シビラ・レーヴェンス
(3)露(f19223)と。
緊急とはいえ不安にさせてしまったから詫びる。
それから玲子は償いや罪を感じているようだが。
…あー。まあ…あれだ…。「余り気にするな」
露も玲子に用事があるうようだ。私は先にいく。
どこへ行くかと露に聞かれ「…庭だ」と一言。

庭園か。幻朧桜もいいが紅葉はとても興味深い。
ゆっくりと散策しながら鑑賞するのは…楽しい。
さて。…玲子か。
周囲が見えなくなる程の想いか。よくわからん。
今はわからないが…いつか理解できるのだろうか。
そして玲子のように思う人物ができるだろうか。
そんな私は想像できん。妹になるのも想像できん。
私を呼ぶ何時もの声。もう来たのか。やれやれ。
まだ少し紅葉を観ていよう。


神坂・露
(1)レーちゃん(f14377)と。
不思議そうな玲子さんをみて捕捉するわ。
「妹なりに励ましてるのよ♪」って。
姉妹なのって言われたら笑顔で何度も頷くわ。
(即座に否定する妹)

ぷぅ。もお…レーちゃんってば…言葉不足ね。
そんなことは置いといて玲子さんとお話し♪
「貴女のこと聞きたいわ。いいかしら?」
なに聞こうかしら。うーん。うーん。
どんな女優さんだったか…って聞きたいけど。
もし辛そうな表情したら別のお話に変えるわ。
別のお話は…お話は想い人の話とか。
えへへ♪こーゆーお話はあたし大好きよ。
だって幸せそうな表情って伝染して広がるのよ♪
玲子さんと沢山お話ししたら断わって退室するわ。
妹…レーちゃん探してくるわ♪



●想いは桜と紅葉とともに
「庭園があると聞いて来てみたが……なるほど、確かにいい眺めだ」
 病院内にある庭園へと訪れたシビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)は、視界に映る景色の素晴らしさに金の瞳を細める。
 美しく整えられた庭園は、秋の光差す紅葉の赤に彩られ、幻朧桜の花びらの舞と相まって、幻想的な景色を作り出していた。
 そして、辺りを包む静寂。
 病院の施設で、訪れる者は限られているからか、辺りに人の気配はないようだった。
 それがまた、シビラには心地よく感じられて。
(「幻朧桜もいいが紅葉はとても興味深い」)
 元々、人の賑わいよりも、薬草園で過ごす、静けさを好むシビラだ。
 静寂に包まれた中、景色を眺めながら一人ゆっくりと散策するのは、とても楽しい。
「……さて。玲子か」
 庭園内の自然を眺めながら。シビラは橘・玲子のことを思い出す。
 思い詰めるあまりに籠絡ラムプに手を出した、元女優。
 彼女が持っていた籠絡ラムプは破壊し、中にいた影朧は骸の海へと還したわけだが。
(「……周囲が見えなくなる程の想いか」)
 ――よくわからんな。
 幻朧桜の花びらを目で追いながら、口中でそっとひとりごちて。シビラは、先ほどの病室でのやりとりを思い出していた。


「……すまなかったな」
 影朧が去った後。玲子の顔を見つめながら、シビラが真っ先に口にしたのは、詫びの言葉だった。
「……え?」
 一瞬不思議そうな顔をする玲子に、
「……いや、緊急とはいえ、騒がしくさせたのは此方だからな。不安にさせてしまったと思う」
 シビラは言葉を付け足した。
 影朧を倒すためだったとはいえ、騒がしくしてしまったのは、むしろシビラたち猟兵の方だ。
「それに、……あー。まあ……あれだ……」
 玲子は籠絡ラムプの一件に償いや罪を感じているようにも見えたが、それだって、大事になる前に自分たちが乗り込んだのだ。結果的に影朧は倒せたのだから、特に気にする必要などない。
 ……ということを口にしようとするが、どうにもうまく言葉が浮かばない。
「……余り気にするな」
 ぐるぐると頭の中を駆け巡っていた割に、結局その一言で落ち着いてしまった。
 自分の対応がまずいことに自覚はあるが、どうにもままならない。
「……ふふ、玲子さん、ごめんなさいね」
 思わず俯いてしまったシビラと、そんなシビラにやっぱり不思議そうにする玲子を見て、神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)は小さく笑った。
「レーちゃ……、妹なりにね、玲子さんのこと励ましてるのよ♪」
 唐突に露の口から飛び出した「妹」発言に、シビラは目を丸くする。
「……! 露、誰が妹……、」
「やぁね、レーちゃんてば、素直じゃないんだから〜」
 否定しようとしたシビラの口を、即座に両手で塞ぎ、満面の笑みを浮かべる露。
 そんなシビラと露のやりとりを見た玲子は、思わず微笑んで。
「……ふふ、お二人は姉妹なのですね」
「……もがも、ももご!(違うぞ、玲子!)」
「えへへー、そうそう、そうなのよ、玲子さーん♪」
 喜色満面で嬉しそうに頷く露に、シビラは離せと言わんばかりに露の両手を引き剥がせば、病室の扉へずんずん歩いていく。
「あれ? レーちゃんどこ行くのー?」
「……庭だ」
 露の問いには、振り向くことなく短く答え、シビラは病室を後にして。


「もお…レーちゃんってば……言葉不足ね」
 振り向きもせず病室を出ていったシビラの背を見ながら、露はぷぅと頬を膨らませた。
「……妹さん、追いかけなくてもよろしいのですか?」
「え? いつものことだから、玲子さんは気にしなくても大丈夫よ♪」
 不機嫌そうに見えるけれど、どうリアクション取っていいかわからなくて戸惑っちゃったのよね、きっと……などと、シビラの様子をそんな風に解釈すれば、露は膨らませていた頬を元に戻し。
 それより、と。改めて玲子の方を向き直れば、にっこりと人懐っこい微笑みを浮かべた。
「玲子さん、貴女のこと聞きたいわ。いいかしら?」
「はい、私のことでよろしいのでしたら」
 問われれば、軽く小首を傾げて露を見やる玲子。
 その可憐な印象を与える仕草を見つめながら、露は何を聞こうかと考える。
(「うーん。うーん。どんな女優さんだったか……って聞きたいけど」)
 もし辛そうな表情したらどうしようと一瞬過ぎれば、この話はもう少し後がいいのかしら、と思い直し。
「えっと、えっとね。玲子さんの想い人のお話、聞いてみたいわ〜」
 会いたいって言っていた、九重・葛明さん。一体どんな人なのだろう?
 わくわくと露が問いかければ、玲子はほのかに頬を染め。
「……聡明で、とてもお優しい方なのですよ」
 手紙に綴られる文字は、殿方らしい、力強い筆跡で。
 それでいて、心あふれる繊細な文章を綴るのだ。
「一つ一つの言葉を、選びながら文章にしているのだと思うのです。時に情熱的で、それでいて、温かさと優しさがあって……、」
 そこまで話したところで、玲子ははたと気がついた表情で露を見て、
「すみません、こんな、でしゃばってつらつらと……」
 と、恥ずかしそうに俯いた。
「えへへ♪ そんなことないわ♪ こーゆーお話はあたし大好きよ」
 そんな玲子に、露はふるふると首を振る。
「だって幸せそうな表情って伝染して広がるのよ♪ そして、今の玲子さん、とっても素敵な顔をしているのよ♪」
 だから、幸せなお話をたくさん聞かせて欲しいと、露は嬉しそうに笑う。
 そんな風に、あれやこれやと質問し、ひとしきり話をして、露は言った。
「ありがとう、玲子さん、すっごく楽しかったわ! それでね、あたし、そろそろ、妹……レ―ちゃんを探してくるわね」
 そう断りを入れてから、露は手を振り、玲子の居る病室を後にする。


(「今はわからないが……いつか理解できるのだろうか。そして玲子のように思う人物ができるだろうか」)
 庭園にて。桜と紅葉を見つめながら、病室で玲子とのやりとりを振り返り、シビラは思う。
 気の利いた言葉は一つも言えなかったし、玲子の想いは、今改めて振り返ってみても、やっぱりわからないままだけど。そんな自分にも、いつか誰かに想いを抱く日が来るのだろうか。
(「そんな私は想像できん」)
 考えても考えても、そんな自分の姿が未来にあるとは思えなくて、シビラはゆるりと首を振る。
 そして、想像できないのはもう一つ。
「あ、レ―ちゃん、みーつけたー!」
 桜の花びらと紅葉の木々に覆われて見えない遠くの方から、シビラの名を呼ぶ、聞き慣れた声がする。
「……もう来たのか。やれやれ」
 声のする方をちらと見やり。シビラはそっと呟いた。
(「……妹になるというのも、まったく想像できんな」)
 仮にでもそれを認めれば、スキンシップは更に酷くなるのかもしれないと思えば、ほんの少し遠い目をするも。
 それでも。口元には微かに笑みを浮かべながら、シビラは再び赤の彩りの景色へと視線を戻す。
 未来はわからないけれど。今のところはもう少しだけ、桜と紅葉の共演を楽しむこととしよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

木常野・都月
俺は説得が下手だから。
UC【妖狐の通し道】で想いを伝えられたらいいな。

俺は……猟兵だ。
人と世界を守るのが仕事。
影朧はいなくなった。
俺の仕事は、閉店ガラガラぴしゃんだ。

今からは、俺の時間。
嫌なら無理は言わないけれど。
葛明さんに会って欲しい。

生きてる時にしか、会いたい人に会えないんだ。
会いたいと思っても、会えなくなる前に。

人は……生き物は……全部生きてる。
だから死ぬ。
それは、命あるもの全員だ。

ずっとそばに居たかったのに、気がついたら、人は死んでるんだ。

ただ、笑顔を見たかった。
その人を笑顔にするために、猟兵になった。
それだけなのに、会えなくなるんだ。

俺と同じような想いをしてほしくないから。



●想いは追憶とともに
 橘・玲子と、猟兵仲間である銀髪の少女との会話を聞きながら、木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)は、少しだけ目を閉じる。
 玲子の想い人である、九重・葛明のことは都月も知っている。
 何しろ、つい先日顔を合わせたばかりなのだ。
 葛明が玲子と会わないと決めていたその事情についても、都月は知っている。
 そして今。玲子へ会いたいと口にできなかった理由も、今回の戦いの中で、なんとなく理解した。
 でも、二人の抱える事情を知っても。それでも都月は、伝えたいと思うことがある。
「橘さ……玲子さん」
 先ほどまで話をしていた銀髪の少女が席を外し、会話が途切れたタイミングで、都月はそっと玲子へ声をかけた。
「嫌なら無理は言わないけれど。……でも、俺は、玲子さんは、葛明さんに会って欲しいって思う」
 まだまだ、妖狐として……人としては、未熟で。
 だから、誰かに自分の想いを説くのは下手だけど。
 それでも、少しでも誤解なく伝わるようにと意識しながら、都月はゆっくりと言葉を紡ぐ。

「……葛明さんに?」
 対する玲子は、耳にした言葉に軽く驚いた様子で、都月を見つめた。
 その名が都月の口から紡がれたのは、先ほど自分が口にしていたからだろうと思う。
 けれど、会って欲しいというのは、どういうことだろう。そう、言いたげに。
「……もちろん、会いたい、ですけれど……。けれど、私には、葛明さんに会う手段が思いつかないのです」
 玲子が手にしている、直近で届いた手紙には、「この手紙が最後だ」とあった。
 手紙通りに言葉を捉えるならば。今後は、葛明が玲子に手紙を送ることはないのだろう。
 同様に。玲子から手紙を送っても、その手紙は葛明に届けられることはないのだろう。
 手紙に記載されている住所には、もう葛明は居ないかもしれない。
 そして、他のどこに居るのかすら、玲子には知るすべがない。

「確かにそうかもしれない。……だけど、そこで諦めるのか?」
 都月は、玲子を見つめ返す。

「俺は……猟兵だ。俺の仕事は、人と世界を守ることだ」
 さっき玲子さんのところに居た、影朧を払うのが、俺の仕事で。
 影朧は居なくなったから、俺の仕事は、閉店ガラガラぴしゃんだ。
 だから猟兵としての仕事は終わりなんだ、と。
 ここまで都月は言ってから、さらに言葉を続ける。
「今からは、俺の時間。猟兵の俺じゃなくて……ただの木常野・都月としての俺が、言いたいことなんだ」
 猟兵の俺は、今、玲子さんが言っていることはわかる。
 でも、猟兵じゃない、ただの木常野・都月は、玲子さんの言っていることをわかりたくない。
 だから、言う。

「会って欲しいんだ。会いたいと思っても、会えなくなる前に」
 都月の黒の瞳がゆらと揺れて、玲子の姿がわずかににじむ。

「……生きてる時にしか、会いたい人に会えないんだ」
 同時に。言葉を紡ぐ都月の声がほんの少しかすれて。

「人は……生き物は……全部生きてる。だから死ぬ。それは、命あるもの全員だ」
 ぽつり、ぽつりと紡がれる、そのかすれた声が、少しずつ涙に濡れていく。

「ずっとそばに居たかったのに、気がついたら、人は死んでるんだ」
(「……じいさん」)
 俺は。じいさんのそばに、ずっと居たかったよ。

「ただ、笑顔を見たかった。その人を笑顔にするために、猟兵になった」
(「じいさんの笑顔が、見たかった」)
 よくやったなって、褒めて欲しかった。
 だから、そばに居たかったけど……猟兵になるために、離れたんだ。
 それなのに。

「それだけなのに、会えなくなるんだ」
(「会いたかったのに。今だって、会いたいのに」)
 どんなに会いたくても、じいさんはもう居ないのだ。
 会えない場所に行ってしまったから。

「……貴方にも、会いたい人がいらっしゃったのですね」
 そして。その方には、もう会えないのですね。
 目の前の狐耳の青年が涙ぐむ様子に、小さな呟きを漏らせば。
 玲子は目を細めながら、手元にあったハンケチをそっと手渡そうとする。
「これで、涙を拭ってくださいませ」

「……ごめん、な」
 泣くつもりはなかったと、玲子のハンケチを受け取りながらも、これ以上涙がこぼれないように、都月はぎゅっと目を瞑る。
 もしかしたら、玲子を困らせているのかもしれない。
 それでも、今回は、ちゃんと自分の想いを伝えたいから。
 そっと、ユーベルコード【妖狐の通し道(ヨウコノトオシミチ)】を発動させた都月は、瞑っていた目を開け、玲子を見つめる。そうして、改めて言葉を紡いだ。

「……俺は。玲子さんには、俺と同じような想いをして欲しくないから」
 だから、葛明さんに会って欲しい。
 たとえすぐには会えなかったとしても。
 会うことを、諦めないで欲しい。

「……そう、ですね」
 確かに……生きてる時にしか、会いたい人に会えませんよね。
 玲子は都月の黒の瞳を見つめて、
「私も……決して命は長くない身の上。けれど、天命が訪れるまでは生きようと、覚悟を決めました」
 そう言って、そっと微笑んだ。
「――ですから。たとえ、行方がわからずとも。生きていらっしゃるのであれば、必ずお会いできると信じて。探し続けたいと思います」
 かつてのつてや、あるいは、お父様を頼って。
 いつか、私の命が潰えるであろうその時まで。

「葛明さんとお会いできる日を、諦めることは、もういたしません」
 その瞳に宿るのは、かつての女優を思わせる、強い意志の光。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月見里・美羽
(1)
ボクじゃ他の皆のように上手な言葉はかけられないから
玲子さんの話を聞かせてもらいたいな

どんな仕事をしてきたのか
どんな誇りをもってきたのか
自慢できる仕事はどんなものだったのか
やりたいことはやってきたのか

いっぱい聞かせてもらううちに
玲子さんの本当の望みが見えてくるような気がするんだ
「恋」だけじゃない望み
「生きる」という望み

ボクは歌うことが好きだけど
それは「ボクが」好きだから歌うんであって
誰かに聞いてほしいからじゃない
玲子さんの演技や思いもそういうことなんじゃないかなって

ボクなんかでよければ話を聞かせてください、玲子さん

アドリブ歓迎です



●想いはあの頃の自分を映して
 想い人へ会うことを諦めないと口にした、橘・玲子。
 月見里・美羽(星歌い・f24139)はその顔を見つめて、嬉しそうに微笑んだ。
 その表情には、玲子なりに今を、これからを生きていこうという意志の輝きが見えたから。
 もう、美羽たち猟兵が病室に乗り込んだ時のような、暗く思い詰めた顔をした玲子の姿はそこにはなかったから。
「玲子さん」
 美羽は声をかけながら、玲子の居るベッドへと近づいた。
「ボク、玲子さんの話を聞かせてもらいたいな」
 さっきは、玲子の想い人の話を聞いたけれど、今度は貴女の話を聞かせて欲しいと。
 そう言って、美羽は玲子を見つめる。
「私の話……ですか?」
「うん。どんな仕事をしてきたのか、どんな誇りをもってきたのか、とか」
 玲子が、女優でありスタァであるということは知っている。
 けれどそれは、あくまでも周囲から聞いた、「玲子に関する情報」だ。
 誰かの口を介してではなく、玲子自身の口から話すのを聞いてみたい。

「ボクは歌うことが好きなんだ」
 美羽は、自分の手を胸に当てながら、柔らかく微笑む。
(「そう。ボクは、歌が、音楽が好きなんだ」)
 口にして改めて思うこと。
 美羽自身を取り巻く環境は様々に変化して、美羽自身も変わらざるを得なかった。
 けれど、この気持ちだけは変わらなかった。
「でも、それは『ボクが』好きだから歌うんであって、誰かに聞いてほしいからじゃない」
 そう言って、美羽は玲子を見つめる。

「玲子さんの演技や思いもそういうことなんじゃないかなって」
 確かに、女優として在るためには、誰かの目に触れることや、舞台は必要なのかもしれない。
 けれど、それだけだったら、玲子が大女優と呼ばれるまでになっただろうか。

「自慢できる仕事はどんなものだったのか。やりたいことはやってきたのか。……そういう、玲子さんが歩んできた道をね。ボクは、聞いてみたいんだ」
 想い人への想いを口にして、生きる覚悟を宿したけれど。
 でも、「恋」だけじゃない望みだって、彼女の中にはあるはずだから。

「いっぱい聞かせてもらううちに、玲子さんの本当の望みが見えてくるような気がするんだ」
 今までの玲子自身が歩んだ道を辿ることで、「生きる」という望みを、もう一度見つめ直す。
 それもまた、今の玲子には必要だと、思うから。

「ボクなんかでよければ話を聞かせてください、玲子さん」
 言葉とともに真っ直ぐに見つめる美羽の瞳を、玲子は受け止めて。

「……ありがとう。……ふふ、「ボクなんか」だなんて言うものじゃないわ。だって、貴女だって。歌うことが好きだからこそ、全力でその道を歩んできたのでしょう?」
 ――貴女の歌への誇りと想いは、お話を伺ってたら伝わってきますもの。
 美羽を見つめ返し。視線だけでそう言って、玲子は微笑んで見せる。

「私も同じです。演じることが好きでした。……もちろん、今も」
 もっとも、今はその道を退いておりますが……好きな気持ちは今も変わらずこの胸にあります。
 言いながら、美羽と同じように、自らの胸に手を当てて。玲子は言葉を紡ぐ。

「演じることは、役に命を吹き込むことだと思っておりました」
 役は、人という器を与えられなかった魂だと思っております。
 私が演じることで……役の魂は、私という器を介して、何度でも蘇ることができるのです。
 だから、役に恥じないような器であれと常に言い聞かせながら、己を磨いていたのです。

「……ふふ、こんなお話、葛明さん以外に打ち明けたのは、初めてです」
 少し照れたように、けれど穏やかな表情で玲子は小さく笑った。
「こうやって貴女へお話をしていると、かつて真っ直ぐに舞台を見つめていた、あの頃の自分の気持ちが蘇ってきます」
 女優である以前に。私は、演じることが好きみたいです。

「貴女が、歌うことを好きなように……私もまた、演じることが好き」
 大切な宝物を打ち明けるかのように、玲子はそう言って、そっと笑みを浮かべた。

 ――もう、あの舞台に立つことはできないけれど。
 ――叶うなら。何らかの形で、この好きな想いを表現できたらいいのに。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「犯罪のことを考えただけで罪になるなら、此の世は罪人で溢れてしまいます」
小さく笑う
「私達は大火になる前に火事の元を絶っただけ。注意喚起は必要でも、それ以上はやり過ぎです」

「生きることは願うこと。例えぶつかり合おうとも、貴女の想いを否定する権利は誰にもありません…伝えましょう、その想いを」

「貴女は国民的スタァで財もあります。音響の伝手はおありでしょう。蓄音機での詩人本人の短歌の朗読も流行っておりますもの。貴女のお声を届けたら如何でしょう。貴女の想いが1番素直に伝わると思うのです。私達が直接届けに行きますから」
想いを伝える手段を模索する間UCで体調を大きく崩さないよう支援
大事に風呂敷で包んで運搬



●想いは新たな道を拓いて
 ――叶うなら。何らかの形で、この好きな想いを表現できたらいいのに。
 それは、もう一つの橘・玲子の「願い」。
 青の髪の少女と話す中で生まれた、九重・葛明への想いとは異なる、女優の原点とも言うべき「想い」であり、「願い」だった。

「橘さん。……伝えましょう、その想いを」
 玲子の口から紡がれた言ノ葉を、そっと掬い上げるようにして。御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は、玲子へ歩み寄り、そう提案する。
「貴女の想い人へ。そして、舞台や活動写真で観た貴女へ今も想いを馳せる、ファンの方々へ。貴女の想いを伝えるのです」

「……え、」
 桜花の言葉に、玲子は目を丸くする。
 そんなことできるのだろうかと言いたげに、桜花の顔を見つめた。
 対する桜花は、ふわりと微笑む。
 そうして、ゆったりとした桜の大樹のように、慈愛に満ちた笑みを讃えながら。桜花は玲子へ向けて、自らの「提案」の内容を話し始めた。

「貴女は国民的スタァで財もあります。音響の伝手はおありでしょう?」
「……はい。舞台や活動においてのご縁もございますし、必要に応じてお父様のつてを辿ることもできます」
「ならば話は早いかと」
 未だ不思議そうな様子の玲子に、桜花はいたずらっぽく微笑んだ。
 伝える手段は、手紙だけではないのだと、片目を瞑ってみせる。
「貴女のお声を届けたら如何でしょう」
「声……!」
「ええ。その方が、貴女の想いが一番素直に伝わると思うのです」
 実際、蓄音機での詩人本人の短歌の朗読も流行っておりますから、現実的な手段だと思うのですと、桜花は言葉を付け足した。
 そして、音であれば。玲子の想い人である、葛明だけにではない。
 女優としての玲子を愛したファンへも、声を通して演じる想いを届けることができる。
 玲子が抱いた、二つの想いと願い。その両方を叶えることができるのだ。

「そんなこと……今まで、考えたこともありませんでした」
 叶うことなどないと諦めていたからこそ、口に出せず、ずっと心に秘めていたのだ。
 それなのに、口にした途端に道が拓けていくように感じられる。
「……確かに、貴女のおっしゃる通り。現実的な手段だと思います。少なくとも、私には今お話いただいたことを、実現させるだけの力は持っておりますから」
 桜花の言葉に頷いてから、玲子はそっと目を伏せる。
「……けれど、私は、それを実現させてもよいものでしょうか」
 私には、自らの願いを叶えるためにあのラムプに手を伸ばし、先生の姿をした影朧の力を借りて、皆様にご迷惑をおかけした、罪があります。
「そんな私が、今お話いただいた願いを叶えても、よいものでしょうか」
 目を伏せ、思い悩むように紡がれた玲子の言葉に、
「犯罪のことを考えただけで罪になるなら、此の世は罪人で溢れてしまいます」
 桜花は小さく笑った。

「私達は大火になる前に火事の元を絶っただけ。注意喚起は必要でも、それ以上はやり過ぎです」
 確かに周囲は多少騒がしくはなっただろう。しかし、猟兵たちは、事前に手続きは行った上で病院へ訪れたのだから、病院においても、ある意味では想定内の出来事だ。
 そして、実際のところ火事は起こらず、せいぜいボヤ騒ぎ程度だ。
「ですから。事件について、これ以上貴女が気に病むことはないのです」
 最後はきっぱりと言い切って。
 目を伏せる玲子の頬へ、そっと手を伸ばす。
「生きることは願うこと。例えぶつかり合おうとも、貴女の想いを否定する権利は誰にもありません……伝えましょう、その想いを」

 ――さぁ、顔を上げてください。
 桜花がそっと玲子の頬を撫でれば、玲子は俯かせていた顔を上げた。

「……はい。私の願い。叶えたいと、思います」
 そう言って。玲子がそっと笑みを浮かべれば、桜花は柔らかく微笑みを返して。
 その背中を押すように、そっと歌を奏でた。

 ♪桜よ吹雪け、命よ巡り巡りて人々を癒す慈雨となれ

 病室内を優しく満たすのは、桜花の【癒しの桜吹雪(イヤシノサクラフブキ)】により、現れた桜の花びらたち。
 花びらは、玲子の身体を労るように。どこまでも優しく、癒やしを与えていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
(2)
九重さんに会わせるのは他の人に任せようかな
ちょっとお話ししよ!

ねぇ橘さん、朗読しない?
諦めるのは勿体ないもん
朗読だって技量が必要なもの
橘さんならきっと多くの人を感動させられる
テレビ局呼んでさ、橘さんの朗読姿を配信してもらうの
病室でも庭でも関係無いよ
どんな場所でもいい、貴方の演技の前では全てが舞台になる
どうかな?
僕的には、結構いい案だと思うんだけど

それとこれは僕からの贈り物
【破魔】を宿した羽をぷちりと千切り、橘さんへ

もし彼と会えるなら
一時的でも…少しでも元気な姿でいられるように

お守り
僕みたいな子も居たって…時々でいい、思い出して
いつか貴方の演技聞かせてね

【指定UC】で癒しを
いってらっしゃい



●想いは未来の幸せの願いとともに
 栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は、橘・玲子の座るベッドの傍らで、玲子と仲間の猟兵たちとの会話に耳を傾けていた。

 想い人へ会いたいという玲子の願いは、きっと叶えられるだろうと、澪は思う。
 だって、こんなにたくさんの仲間が、玲子のために集まってくれている。
 きっと、澪や玲子が知らないだけで、ここに居る者以外にも、玲子のために動いている者たちが居るのだ。叶えられないはずがない。

(「だから、僕は、僕のできることをするよ」)
 そう思いながら、玲子たちの会話に聞き入っていた澪は、桜色の髪の娘が提案した「蓄音機を使って声を届ける」話に、ぱっと表情を明るくして。
「うん、それ、僕もすっごくいいと思う!」
 胸元で両手を合わせ、うんうんと楽しそうに頷いた。
「……あとね、これは僕から提案!」
 はい、と手を挙げてから、傍らの玲子へ視線を合わせる。

「ねぇ橘さん、朗読しない?」
 九重さん――九重・葛明には、手紙のように声を届けた方がいいと思うけれど。
 橘さんのファンの人たちへ声を届けるなら、朗読の方がいいかなって、僕は思うんだ。
 そう言って、澪はにっこりと微笑んだ。

「朗読……ですか?」
 澪の微笑みにつられて笑みを返しながらも、澪の提案の意図を汲めずに、玲子は軽く小首を傾げた。
「朗読って、本を読み上げること……ですよね?」
「うん。朗読だって技量が必要なものだから」
 本の中の登場人物にあわせて、声色を変えたり、感情を込めたり。
 読み手の趣向によって、様々に工夫を凝らすことができるのが、朗読の魅力だ。

「橘さんならきっと多くの人を感動させられるよ」
 先ほど。青髪の娘との会話の中で、玲子はこう言っていた。
 演じることは、役柄に命を吹き込むことなのだと。
 女優は舞台上でただ一つの役を生き、朗読は物語上で様々な役へ命を与える。
 どちらも、演じることで役に命を授けることができるのだ。
「あと……朗読は、音声だけじゃなくて、映像もあるといいよね」
 だって、橘さんの場合は、その姿を知っている人が大勢居るから。
 きっと、声だけじゃなくって、姿も見たいって人、たくさん居ると思うんだ。
 だから……。
 玲子へ話しながらも、頭の中をフル回転させていた澪は、やがて思いついたと言うように、琥珀色の瞳を輝かせる。
「テレビ局……は、ここでは別の名前かもしれないけれど。そういう、映像を撮影してくれる会社呼んでさ、橘さんの朗読姿を配信してもらうの」
 そしたら。それが実現したら。
 玲子に話しながら、澪は両手を広げる。
「病室でも庭でも関係無いよ。どんな場所でもいい、貴方の演技の前では全てが舞台になる!」
 声を弾ませ、広げた両手と一緒に背中の翼もふわりと広げれば、澪はキラキラと瞳を輝かせ、満面の笑みで玲子を見つめた。
「どうかな? 僕的には、結構いい案だと思うんだけど」
「……貴方も……皆さんも、どうしてそんなに次から次へと思いつくのでしょうか」
 大きく瞳を見開いて話を聞いていた玲子は、関心した様子でほうと感嘆の息をつき。
「ふふ……けれど、とても。とても素敵な考えだと思います」
 病を患い、演じる世界には、もう二度と戻れないと思っていた。
 けれど、こんな道もあるなんて。

「……もっと早く、皆さんとお会いできていたらよかったのに」
 そうしたら、もっと早く、違う世界を見ることもできたのかもしれない。
「……そうだね。でもね、そうすると、橘さんは九重さんとの縁が繋がらなかったかもしれないよ?」
 だから、それは言わない約束。人差し指を自分の口元に当てて、澪は片目を瞑ってみせる。
(「だって、僕も貴女と同じだから」)
 囚われ、籠の鳥だった過去は苦しかったけれど。
 でも、あの時の自分がいなかったら、「彼」と出会えていなかったかもしれない。
「だから、貴方も、僕も。今繋がっているたくさんの縁に感謝して、生きていけたらいいなって思うんだ」
「……そう、ですね。私も、あの方との……葛明さんとのご縁がなければ、今の私はおりませんから」
 はにかむように玲子が笑えば、澪もふわりと微笑んで。
 そうして、二人は互いに目を合わせ、ふふ、と笑みを交わした。

「それとね、これは僕からの贈り物」
 澪はおもむろに自分の翼から、羽を一枚ぷちりと千切れば、玲子の手へと握らせる。
 もし、橘さんが、九重さんと会えるなら。
 一時的でも……少しでも。橘さんが元気な姿でいられるようにと、ありったけの願いを込めて。

「ありがとう、ございます……」
 手の中の羽を見つめ、礼とともに微笑んだ玲子へ、澪は笑みを返す。
「僕みたいな子も居たって……時々でいい、思い出して。いつか貴方の演技聞かせてね」
「ええ。この羽は、お守りにいたします。……そして、頑張ってみます。貴方へ、私の演技が届くように」
 誓いを立てるようにして頷いた玲子を見ながら、澪はゆっくりと立ち上がった。

「もう一つ。お守りをあげるね」
 そうして、澪は歌を奏でる。
 【sanctae orationis(サンクトゥ・オラティオニス)】。癒やしをもたらす、願いの歌だ。

(「橘さんと、九重さんの行く末が、幸せなものになるように。僕も祈るよ」)

 ――貴方の行く先に、幸多からん事を

大成功 🔵​🔵​🔵​

乱獅子・梓
【不死蝶】2
庭園内で遊ぶ焔と零を眺めつつ
綾とベンチに座って考える

九重・葛明か…
あのハイジャック騒動を思い出すな
彼もまた橘・玲子に「会いたい」という
気持ちを持ちながら頑なに拒んでいた

「そんなに会いたいなら会いに行け」と
第三者目線で言うのは簡単だが
当人たちの気持ちも分かる
俺も…もし好きな奴が居たら
好きだからこそ、危険な目に遭わせるような
選択はしたくないだろうなと思う

お前…それある意味、職権濫用だな
呆れたように笑う…が、
俺も同じようなことを考えていた
影朧兵器は手を出せば代償に魂を削られるという
二人共、死ぬのが一年後かも、明日かもしれない
ならば「今」会わせてやりたいと思う

※条件満たさぬ場合不採用可


灰神楽・綾
【不死蝶】2
ねー、まるでアクション映画のような大仕事だったよねぇ
珍しく自分で戦う梓は格好良かったよ、なんてからかい

ハイジャックのドタバタに乗じて葛明さんに
「手伝ってやるから会いにいけー」なんて言っちゃったけど
勿論それには何の強制力も無い
最後に自分の背中を押すのは自分だもの

うーん、じゃあ逆に言うと
その心配が無くなればいいのかな
ハイジャックを制圧し、帝都の情報も守った
その報酬として、一日だけ九重・葛明の身柄を
超弩級戦力に預からせていただきたい!
と偉い人にお願いしてみるとかさ
誰にも干渉されずに二人きりで会えることが
約束されているなら、心置きなく会いに行けるのかなって

※条件満たさぬ場合不採用可



●想いは二人の出会いのために
 病院内の庭園にて。
 薄紅色の花びらと、時折ひらりと混ざる紅葉の舞。
 そんな幻想的な景色の中を、二匹の仔竜が戯れ遊んでいる。
 美しい景色と、愛する仔竜たちのかわいらしい光景の両方を楽しみながら。庭園内のベンチに座っていた乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)は、ふと空を見上げた。
 黒のサングラス越しに映る、澄み切った秋の空。
 折しも描かれた飛行機雲を目にすれば、思い出すのはつい先日のハイジャック騒動だ。

「九重・葛明か……」
 ぽつりと口からこぼれたその名は、病室で橘・玲子の口から紡がれた人物の名と同じだった。
「もしかして、梓も思い出してた?」
 呟きを聞きつけて。梓の隣に座っていた灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)は、くすりと笑った。
 綾もまた、空を見上げて目にした飛行機雲に、同じことを思い出したらしい。
 相変わらず考えることは同じだな、と言わんばかりに。
 綾の方をサングラス越しにちらと見やれば、梓は口の端を持ち上げ、「まぁな」と笑みを返す。
「ねー、まるでアクション映画のような大仕事だったよねぇ」
 爆弾を止められなかったのは悔やまれたけれど。
 それでも、大立ち回りの結果、乗客の救助は成功し、飛行船は無事に着水することができた。葛明の死亡も免れたのだから、上出来の結果だろう。
「珍しく自分で戦う梓は格好良かったよ」
 軽く冗談めかして梓に言えば、綾は笑った。
 ドラゴンを指揮しながら、積極的に乗客の誘導を行っていた梓は素直にかっこよかったけれど。からかい半分で言うくらいがちょうどいい。
「まぁ、俺だってやる時はやるんだよ」
「そう? 欲を言えば、葛明さんへの通信も、自分で伝えても良かったのにねーなんて」
 やっぱりくすりとしながら言う綾に、梓は視線を逸らした。
「……言いたいことは綾が言ったからいいんだよ」
 それに直接言うのは気恥ずかしかったしな。
 ぽそりと小さくこぼれたその呟きに、だからあの時通信切ったのか、と内心で綾は微笑んだ。なるほど、それはいかにも梓らしい。

「まぁ、彼もまた橘・玲子に『会いたい』という気持ちを持ちながら頑なに拒んでいたんだよな」
 飛空船での葛明とのやりとりを回想し、そして先ほど見た玲子の様子を振り返りながら、梓はベンチにもたれて、両手を頭の後ろに組んだ。
 蓋を開けてみれば、玲子も葛明も同じ気持ちを抱えながら、すれ違っていたということになる。
 両方を知り、第三者目線で見れば、今回の案件はなんとも歯がゆく、口を出したくなる内容ではあったなとは思う。

「そうそう、だから、ハイジャックのドタバタに乗じて葛明さんに『手伝ってやるから会いにいけー』なんて言っちゃったんだけどね」
 梓をちらと見やり。自分はベンチの椅子に膝を抱えるようにしながら、綾はひらりと舞い落ちる紅葉の葉を手に取った。
 言外に含んだ梓の内心もなんとなく感じとれば、
「でも、勿論それには何の強制力も無い。最後に自分の背中を押すのは自分だもの」
 んー、と考えながら、綾は自分の考えを口にする。
 玲子は、自分の気持ちを言葉に出した。今自分たちがこうして庭園に居る間も、他の仲間たちが、玲子のこれからを共に考えていることだろう。
 翻って、葛明はどうだっただろうか。
 最後に彼は何を決めたのかを見届けられなかったけれど。
 会うことを前向きに考えてくれていると、今は信じておくしかないだろうか。

「しかし、難しいよなぁ、こういうのは」
 ベンチにもたれながら舞う桜と空を見つめて、梓は小さく息を吐く。
 こういうのは、第三者が見ればシンプルなのだ。
 だから、自分たちは、『そんなに会いたいなら会いに行け』と言ってしまう。
 第三者目線で、いとも簡単に。
 けれど、当人たちからしたら、そんな簡単なものでもない。
「俺からすれば、当人たちの気持ちも分かる」
 特に、九重・葛明の気持ちはな、と。
 付け加えれば、梓はベンチに座り直した。
「俺も……もし好きな奴が居たら、好きだからこそ、危険な目に遭わせるような選択はしたくないだろうなと思う」
 自分が玲子と会えば、玲子の身が危険に晒されるかもしれない。
 葛明が玲子へ会おうとしない要因は、その一点だった。
 今もまた、葛明が玲子へ会わないと考えるなら、この心配が引っかかっているに違いないのだ。

「うーん、じゃあ逆に言うと、その心配が無くなればいいのかな」
 膝を抱えていた手を離し、普通に座り直しながら、綾は言った。
「例えば、『ハイジャックを制圧し、帝都の情報も守った。その報酬として、一日だけ九重・葛明の身柄を超弩級戦力に預からせていただきたい!』と偉い人にお願いしてみるとかさ」
 軽い調子でいたずらっぽく言ってはいるが、赤のサングラスの奥で細められた瞳は、そこそこ真剣味を帯びていて。
「誰にも干渉されずに二人きりで会えることが約束されているなら、心置きなく会いに行けるのかなって」
 どうかな、この案、と。口調だけは平和そうに言って、綾は口元に笑みを湛えて梓を見やる。
「お前……それある意味、職権濫用だな」
 目も、割と笑ってないように見えるしな、と梓は苦笑気味に返すも。
「……が、俺も同じようなことを考えていた」
 言葉とともに、にぃと笑めば、梓は立ち上がって遠くを見やった。
「タイミングよく、帝都桜學府の関係者らしき姿も見えたことだし、話を聞くのもいいだろうよ」
 そう言って、梓が視線を向ける先には、見覚えのある服装をした人物たちの姿が見えた。
(「確か――、」)
 梓は改めて先日の騒動を振り返る。
 九重・葛明は命はとりとめたものの、どこかに運ばれたと聞いた。
 先日の飛空船の着水場所は、箱海湖。
 そこから緊急で運ばれたなら、おそらく近隣の病院になるだろうから……この病院に担ぎ込まれている可能性は十分にあるのだ。
 まずは話を聞き。予想が的中していたなら、軽く話をつけさえすれば、二人を引き合わせることだって難しいことではない。
「影朧兵器は手を出せば代償に魂を削られるという。二人共、死ぬのが一年後かも、明日かもしれない。……だから、俺は思うんだよ」
 そう言って、梓は同時に立ち上がった綾へと視線を向ける。
「ふふ、そうだねぇ」
 綾もまた、梓の視線を受け止めながら。梓がその先に続けようとしている言葉を理解したと言わんばかりに笑みを浮かべ。

 ――ならば『今』会わせてやりたいってな(ね)。

 同じタイミングで口から紡いだ音が重なれば、顔を見合わせ笑い合い、二人は歩き出す。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アカネ・リアーブル
玲子様
どうかそんなに思い詰めないでくださいませ
実害はどこにもなかったのです
それよりもこれからの話を致しましょう

玲子様はこれからどうされますか?
葛明様は「手紙はこれで最後だ」と書かれたのでしょう
ならば手紙に頼らず生きるよすがを見つけなければ

玲子様は歌はお好きですか?
ならば歌を歌うのはいかがでしょう
体調がよろしいときに子供たちに歌を教えるのです
病に苦しむ子供たちに歌という希望を届けるのです
手に届く方々に歌を届けるのも素晴らしいことです

もし葛明様とお会いできたらどうされますか?
葛明様にも何か事情がおありのはず
その事情を知っても大丈夫でしたら
会わせて差し上げたいです

未来への希望が何よりの治療薬ですから


エリシャ・パルティエル

玲子さん
あたしたちは籠絡ラムプを回収することが目的なの
この危険な影朧兵器で不幸になる人が増えないように
罰を与えるのはあたしたちじゃない
事実をありのままに伝えて
それで償う必要があるのならそうすればいいの

せっかく会いたいって口にしてくれたんだもの
なんとしてでも会わせてあげる
きっとできるわ
信じてくれる?
だからね玲子さんも
ずっと会いたかった人に会えたなら
隠さないで想いを伝えてね

容姿を気にしてる?
玲子さんは十分綺麗よ
でも気になるなら
顔色がよく見えるように
ちょっとお化粧しましょうか
でもね大切な人への想いが
なによりも女を輝かせるのよ

手紙もいいけど
これからは大切な人がいつでも会いに来てくれるといいんだけど…



●想いは未来への希望を乗せて
 病室内に優しく響く、美しい歌声。
 そして、橘・玲子の周りに集った仲間たちが交わす、想いあふれる言葉たち。
 それらを聞きながら、アカネ・リアーブル(ひとりでふたりのアカネと茜・f05355)とエリシャ・パルティエル(暁の星・f03249)は、互いの顔を見合わせて、微笑みを交わす。
「玲子様の顔色、明るくなりましたね」
「そうね。……ふふ、皆の想いとアイディアのおかげね」
 玲子の表情に、影朧を退かせた直後に見せていた、途方に暮れた色はもうなくて。
 二つの願いと想いを胸に、歩き出す覚悟を決めた女の顔は、とても晴れやかに見えた。

「玲子さん。籠絡ラムプのことは、過剰に気にする必要はないわ」
 皆も言ってくれているけれど、改めて言うわね、と。エリシャはラムプについて口にする。
「あたしたちはラムプを回収することが目的なの。この危険な影朧兵器で不幸になる人が増えないように。……罰を与えるのは、あたしたちじゃないわ」
 玲子がラムプの力に頼り、騒ぎになったことは事実。
 だから、事実はありのままに伝える必要はあるだろう。
 けれど、そこに罰が必要かは、事実を知り得た人の判断によって変わるから、絶対ではない。
「もし、償う必要があるのなら、その時そうすればいいのよ」
 これから先、玲子が再び人の目に触れる道を歩んでいくのなら。もしかすると、誰かがこの事実を知り、話題にしてくることはあるのかもしれない。
 だけど、その時のことを気にして動かないのはもったいないから。
「アカネも、エリシャ様と同じ意見なのです」
 だから、今だけでなくこの先も。思い悩まないで欲しいと、アカネは言った。
「もし、必要なら、アカネたちを呼んでくださいませね! ここに居る皆様は、玲子様の味方ですから!」
「……ありがとうございます、皆様」
 エリシャとアカネの言葉に、玲子はこくりと頷いた。
 自分の中で気持ちを定めても、それだけでは解決できないことは、きっと出てくる。
 その時に、話ができる先があるのは、とてもありがたい。

「そしてね。あたしとアカネちゃんも、玲子さんのこれからに、一つ提案させてもらうわね」
 未来への選択肢は多ければ多いほどいいわよねと。
 エリシャは言って、アカネへウィンクをして話を促す。
 そんなエリシャに微笑みを返してから。アカネは玲子へ向けて口を開いた。

「玲子様は、歌はお好きですか?」
「はい。嗜んでおりますし、舞台上で披露することもありました」
 歌が好きだと言ってくれた青い髪の娘にも目線を送り、微笑みながら。玲子はアカネへ答える。
 とはいえ、歌への熱量は青い髪の娘のそれには及ばないだろうし、実際に歌を披露してくれた、桜の髪の娘と琥珀色の髪の少年のような透き通った歌声からは遠い。
 それでも、舞台上で歌っていた時はとても楽しかったし、伸びやかに響く自分の歌声は嫌いではなかった。

「ならば歌を歌うのはいかがでしょう。そして、体調がよろしいときに子供たちに歌を教えるのです」
「歌を教える……のですか?」
 今までも、手紙を書くかたわら、病室内で小さく歌を口ずさむことはあった。
 けれど、誰かに歌を教えることなど、考えたことなどなかった。
 軽く目を見開いた玲子を見れば、アカネは頷いて言葉を続ける。
「病に苦しむ子供たちに歌という希望を届けるのです」
 玲子様と同じように病を患い入院する方は、決して少なくありませんから。
 まずは子供たちに。それから、病院内にいらっしゃる、手に届く方々に。
 歌を、そして、希望を届けるのだ。

「……皆様は、本当にすごいです」
 それは、長く病院に居たにも関わらず、一度も考えが及ばなかったことで。
 目を瞬かせながら、何度目かの感嘆の息を漏らす玲子に、アカネは微笑む。
「未来への希望が何よりの治療薬ですから」
 アカネたちは、あくまでも治療薬の選択肢を示しているだけなのだと。
 実際に選び、受け取るか……未来への希望とするかは、玲子自身なのだと、アカネは言った。
「……ふふ、そうですね」
 アカネの言葉に、玲子は微笑んで頷いた。
 人々に希望を届ける。
 それは、スタァとして、舞台や銀幕の世界に居なければできないことだと思っていた。
 けれど、今のこの身においても、できることはあるのだ。


「玲子さん、前向きになってくれて何よりよ」
 玲子の笑顔に、エリシャは嬉しそうに頷いて。
 それから、ずっと胸の内にあった言葉を口にした。
「……あたし。あなたに、どうしても、葛明さんに会わせてあげたい」
 せっかく。会いたいという想いを、玲子は口にしてくれたのだ。
 どうにかして、なんとしてでも会わせてあげたい。
「……え、けれど……、」
 先ほど。会いたいという気持ちを口にした。
 会うためにできることを諦めないと決意した。
 もちろんそれは、嘘偽りのない、真実。
 けれど、いくら超弩級戦力と呼ばれる彼らであっても、手紙以外に情報のない人の行方を探すことは、難しいのではないだろうか。
 玲子の表情に戸惑いの色が混ざるも、
「大丈夫。きっとできるわ」
 エリシャは笑みとともにそう言い切った。
 詳細は口にこそしない……けれど、あてがないわけじゃない。
「信じてくれる?」
 玲子の瞳を真っ直ぐ見つめたエリシャを、玲子は見つめ返した。
「……はい。貴女がそう、おっしゃるのでしたら」
 超弩級戦力であり。玲子へたくさんの言葉をかけ、希望を見せてくれた方。
 信じると問われたなら、否と答える理由などどこにもない。

「玲子様。……もし、葛明様とお会いできたらどうされますか?」
 そんな玲子を見つめていたアカネは微笑み。再び、玲子へ問いを投げかけた。
「……お会いできたら……」
 問われ、玲子は考える。
 脳裏をよぎったのは、手紙を介して交わした、いくつもの言葉。
 話をしたいことはたくさんある。
 けれど、それらはうまく言葉にできそうになくて。
「……最後に届いたお手紙のことを、聞いてみたいと思います」
 ふと、口にしてから。玲子は胸に手をあて、目を伏せる。
 手紙には、仕事の都合で米国に行くとあった。
 どのような仕事だったのだろう……そして、どうして、最後だったのだろう。
 たとえ米国であっても、手紙のやりとりはできるはずなのに。
 玲子の言葉に、そうですね、と。アカネは頷いて。
「葛明様にも何か事情がおありのはず。その事情を知っても大丈夫でしたら……、」
 続けて言葉を返そうとした、その時。

 ――コン、コン。

 控えめなノックの音が、病室の扉から聞こえてきた。


 ノックの音とともに現れたのは、三人の人物だった。
 先ほども共に影朧と戦った、竜を連れた銀髪の青年と黒髪の青年の二人。それからもう一人。
 その人物が帝都桜學府の関係者であることは、その場に居る誰の目から見ても明らかだった。
 扉の近くに居た狐耳の青年が、その関係者に近づく。
 そうして、一言二言やりとりをすれば――ぱっと表情を明るくして。
 アカネとエリシャと……玲子の方を振り向いて、言った。

「九重・葛明さん。今、この病院に入院してる」

「……っ!」
 思いも寄らない言葉に、思わず息を呑む玲子。

「葛明さん、命に別状はないって」
 だから、大丈夫だ。
 玲子を安心させるようにして言葉をかける狐耳の青年の傍らで、
「……よかった、ご無事で」
 同じく関係者との応対をしていた桜色の髪の娘は、ほっとした様子でそっと息を吐いた。

「玲子さん。……ほら、信じた通りになったでしょ?」
「……はい……」
 エリシャは満面の笑みを浮かべて。
 信じられないといった表情で頷く玲子を見やれば、くすりと笑った。
「……会いたい?」
「……、……はい、」
 どうして入院しているのだろう。一体何が、彼に起こったのだろう。
 思いがけず会えることになった驚きと、喜び。
 そして、彼の身を案じる思いと、疑問、そして不安。
 様々な感情が玲子の胸の中を渦巻いていたけれど。
 それでも、心にある、一つの想いに迷いはなかった。
 玲子は改めて頷く。

「葛明さんに、お会いしたいです」

 そうでなくっちゃ、と。
 エリシャとアカネは、顔を見合わせて微笑み合った。
「……では、玲子様。早速、葛明様のお部屋に参りますか?」
 葛明の入院する部屋までの移動は、帝都桜學府の関係者が案内してくれるという。
 車椅子の用意もありますから……と、言葉を続けるアカネに、玲子は頷き……それから何かに気がついた様子で、そわそわとし始めた。
「もしかして、玲子さん、」
 玲子の思うところにすぐに気がついた様子で、エリシャはうふふと笑った。
 気持ちはわかる。エリシャが玲子なら、きっと同じことを思うから。
 想い人の前では、少しでも綺麗でいたいのだ。
「玲子さんは十分綺麗よ。……でも気になるなら、顔色がよく見えるようにちょっとお化粧しましょうか」
 エリシャがさっと取り出したのは、櫛と化粧道具。
 そうして、簡易ながらも髪を梳かし、白粉を施し、紅を差していく。
「……ありがとうございます」
「ふふ、いいのよ。……でも、化粧よりも大切なのは想いなんだから」
 ――大切な人への想いが、なによりも女を輝かせるのよ。
 だから。
「ずっと会いたかった人に会えたから。今度こそ、隠さないで想いを伝えてね?」
 にっこりと微笑んだエリシャの言葉に。
 顔を赤らめながらも。玲子は、今度こそ素直に頷いて見せる。
「……はい。今度こそ、ちゃんとお伝えします」

 ――ずっとずっと、貴方にお会いしたかったと。
 ――そう、あの方へお伝えします。

●想いはこれからも貴方と共に
 帝都桜學府の関係者に車椅子を押してもらい。橘・玲子は、案内された病室の扉の前に居た。
 ノックをすれば、室内に人の気配が感じられて。
 高鳴る胸を抑えながら、玲子は扉をそっと開いた。

 玲子が入院する部屋と大きく変わらない、清潔ながらも殺風景な部屋。
 そこに置かれたベッドに横たわる、一人の男性。
 異国の血が入っているのであろう、彫りの深い整った顔立ちに、宝石のような美しい瞳が印象的だった。
 見たところ、怪我をしている様子はないようだったが、気力を消耗しきったという言葉がしっくりくるほどに、その顔には、疲労が色濃く表れていて。
(「……このお方が、」)
 その姿を目にするのは初めてではあったが。
 目の前の男性が、自分が会いたいと願ったその人物であることだけは、玲子の中ではっきりとしていた。
 彼は、ままならないのであろう自分の身体をゆっくりと動かし首を巡らせ、玲子の姿を捉えたようだった。
「橘……玲子さん、ですか?」
 よく通る、低く優しい声が、玲子の名を紡げば、玲子の胸の鼓動が高く速くなる。
 けれど。何かを返そうにも、うまく言葉にできずに、玲子は、こくりと小さく頷きを返した。
 せっかく目の前に、あの方がいらっしゃるのに、なんて意気地のない反応なのだろう。
 内心で思わず自分を責めそうになったが……それでも、男性は、疲労の濃い顔に、本当に嬉しそうな笑みを浮かべて。
「はは、ひょっとして僕は死んだのかな? あなたに会えるなんて、そんな……」
「……死んでなど。私も、貴方も。確かに生きてらっしゃいます」
 反射的に発した言葉と共に。玲子は思わず目を見開いて、ふるふると首を横に振った。
 そう、死んでなどいない。だって、貴方は今、確かに私の目の前にいらっしゃる。生きていらっしゃる。
 更に何かを言おうとして、男性が自らの手を伸ばしたのに気がつけば、玲子はそっとその手を取った。
 指の長い、大きくしっかりとした男性の手が、ほんのりと冷たく感じられれば。
 玲子はその手を温めるようにして両手で包み込み、自分の頬へそっと触れさせる。
「……九重・葛明です」
 頬から伝わってくる男性の手の感触を感じながら、玲子はその男性の名を聞いた。
 その名は、確かに想い焦がれた、あの人の名前だ。
 これは夢ではないのだと思えば、知らず愛おしさがこみ上げてきて。
 口をついて出たのは、手紙でも伝えられなかった、けれどずっと伝えたかった言葉だった。
「橘・玲子です。葛明さん。ずっとずっと、貴方にお会いしたかった」
「僕もです。あなたにどれだけ、お会いしたかったことか……!」
 温かな、優しい声で紡がれた葛明の言葉に、玲子の瞳が揺れる。
 同じ想いで居てくれたのだと思えば、葛明の手を包み込んだ両の手を、抱きしめるようにしながら、玲子は葛明を見つめて、花が咲いたように笑った。
「美しい。あなたはとても、美しい」
 そう口にする葛明の瞳は、涙に濡れていた。
 反対の手で涙を拭いながら葛明が紡ぐその言葉と、真っ直ぐに見つめる瞳。
 そこに、言葉以上の想いを感じれば、玲子の頬に涙がつたう。
「玲子さん。僕は米国のスパイです。あなたとのやりとりも、仕事に利用しました。申し訳、ありません」
 葛明の告白には、思い当たることはいくつもあったように思える。
 最後だと書かれ送られてきたあの手紙も、満身創痍の姿で葛明が今ベッドの上に横たわっている理由も。きっと同じなのだろう。
 けれど、そんなことはもういいのだ。
 だって、今こうして貴方に会えた。それだけでもういいのだと。
 そう伝えようとして……けれどその想いはうまく言葉にできなくて。
 玲子は葛明を見つめたまま、ただ無言で首を横に振る。
 葛明は、そんな玲子を見て、何かを決意したようだった。
「僕は罪を償います。罪を償って、必ず戻ってきます」
 玲子を見つめ返した葛明の言葉は、覚悟に満ちていて。
 その瞳を見て、玲子もまた、覚悟を決めた。
 彼の覚悟を受け止めようと。そして、彼が戻ってくるのを待ち続けようと。
「でもどこにいたって、手紙を書きます。必ず。だから。帰ってこれたら、また、会ってくださいますか……?」
「……はい。いつまでも。お手紙も、貴方と再びお会いできることも。いつまでも、お待ちしております」
 玲子は微笑んだ。
 いつまでも、お帰りをお待ちしております。
 貴方からいただいた想いと、そして私に関わってくれた方々からいただいた未来への希望をこの胸に抱いて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月29日
宿敵 『或る作家の残影』 を撃破!


挿絵イラスト