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#サクラミラージュ

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#サクラミラージュ


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●からりと風吹く温泉街
 桜。そして紅葉。
 いつも桜ばかりに主役を任せては置けぬと、ほかの樹木も自己を主張し始める秋。
 湯煙にあおられ、ひらひらと道に街路樹の落ち葉が舞う。
 その中を観光客が楽しげに行き交っていた。
 ここは帝都から少しばかり離れた温泉街。
 都会の喧噪を離れ身を休ませようと、湯治に客がごった返す街。
 そのいつもは違った気分、財布の紐が緩くなる頃合いを見計らってか、さまざまな香具師がくちぐちに往来の人々へ声をかけていた。
 そしてその中を一人、自転車を押しながらゆっくりと歩く男がいた。
「最初に出でるは化け草履。続いて唐傘、傘化け、ばっさばさ」
 唐人飴売りもかくやと言わんばかりの珍妙な囃子言葉を口ずさみながら、男は自転車の荷台に括り付けられている箱からあたりにむかってビラをまく。
 取ってみれば、それは数々のアヤカシの姿が。
 一枚一枚、違う画図である。
 子供達はその物珍しさと行楽の浮かれ気分から、唄にあわせて囃しながら男のあとをついていく。
 親は夕涼みのなか、その後ろ姿を黙って見送っていた。
 なあに、ビラの後を追いかければすぐに追いつけるであろう。
 そこにいる誰もが、そう思っていた。
 しかし、彼らが我が子に追いつくことは、二度とはなかったのであった。

●グリモアベースにて
「これが、私の見た予知でございます」
 ここはグリモアベース。
 ライラ・カフラマーンは居並ぶ猟兵たちに深々と頭を下げていた。
 その背後に生じている霧には、さきほどの光景が幻となって現れている。
 頭を上げると幻は雲散霧消していき、周りの霧と溶け込んでいった。
「神隠しとでもいうのでしょうか。温泉街にて人々が行方不明になる、そのような予知でございます」
 もちろんそれは、原因があってのこと。
 一人の影朧の仕業とライラは断定する。
 あの幻影に映っていた一人の男、あれこそが影朧なのだ。
「未然に防ぎたいところではありますが、その場へ赴きましても事件が起こる前。人々に行方を尋ねても要領を得ないことでしょう」
 そこでライラは、別の方向からの調査を提案する。
 あの男がばらまいているビラ。自転車につけられていた荷台。
 あれはサクラミラージュの世界でいうところの、紙芝居屋という職業らしい。
「影朧というものは、過去の澱みが変化したもの。その線を辿ればなぜ影朧が凶状を行なうのか、もしかしたら生前の姿を知っている人にも辿りつけるかもしれません。何も分からずに行動するよりは、目があると思います」
 ライラは一枚の藁半紙を取り出した。
 そこには墨絵で、独特の絵柄で描かれた妖怪の姿がある。
 生前の糧によるものであろうか、それは素人には真似の出来ない味のあるタッチであった。
「心身共に安らぎに来た方々の安寧が、影朧によって破壊されることはなりません。みな様に置きましては、現地に赴きこの事件を未然に防げるよう御助力お願い致します」
 そう言ってライラは、深々とまた頭を下げたのだった。


妄想筆
 こんにちは妄想筆です。
 今回は神隠し騒動を起こす影朧の阻止、という依頼となっています。
 予知前ですので、街はまだ行方不明者は存在していません。
 一章は各自なりの調査で街を探索してください。
 調査がてら湯につかるのもいいかもしれませんね。
 予知に視えた男の特徴は、30~40代。
 自筆らしき図画。帽子に拍子木、販売用の飴などの紙芝居屋の格好をしています。
 自転車の荷台には布がかかっており、演目までは判別出来ませんでした。

 オープニングを読んで興味でた方、参加してくださると嬉しいです。
 どうぞ、よろしくお願いします。
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第1章 日常 『桜舞う温泉街でのひととき』

POW   :    飲食店や、お土産屋がある通りを散策する。

SPD   :    湯畑を見たり、屋形船に乗る。

WIZ   :    温泉に入ったり、手湯や足湯を楽しむ。

イラスト:菱伊

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 赤枯れた紅葉と桜の花びらが、風にあおられ一緒になって飛んでいく。
 サクラミラージュでなければ到底みられない光景であろう。
 幻想的な景色に目を奪われそうになってしまうが、依頼を忘れてはいけない。
 辺りを見渡せば、旅館の従業員や宿泊客、そしてそのおこぼれにあずかろうと香具師の数々が目についた。
 なるほど祭りほどではないが、これほどの人手ならば探すのにも苦労しそうだ。
 温泉街特有の、飯を誘う気配が鼻をくすぐり誘惑してくる。
 予知にあった光景。
 あれが手がかりの一つになるのは間違いない。
 しかし、別の方面からでもアプローチは出来よう。
 湯に浸かりながら考えるのも一興か。
 猟兵達は、それぞれの行動を開始した。
エウトティア・ナトゥア
アドリブ・連携歓迎

ほうほう、カミシバイか。キマイラフューチャーに残された伝承によると、貨幣や作物等を対価に甘露を饗して様々な伝承を語るという古の吟遊詩人じゃな。
この世界にも居るのじゃのう。早速探してみるのじゃ。
という事で、大鷲よ、上空から見張ってそれらしい者が来たら教えるのじゃよ。
その間、わしは温泉を楽しみながらゆるりと待つとするか。
精霊に請うて街から少し離れた人の来ない場所に窪地を創って源泉を引込み秘湯を作るのじゃ。
ここなら狼たちが入っても迷惑にならぬじゃろう。
狼や地元の動物たちを呼んで湯船にゆっくり浸かるのじゃ。
うむうむ、温泉街の湯もよいが紅葉の中の温泉も乙なものじゃのう。



 サクラミラージュでの怪異。
 その予知を防ぐためにと、エウトティア・ナトゥアは温泉街にやってきた。
 辺りを見回せば人の波。
 歩いて探すには骨が折れそうだった。
「たしか、カミシバイとか言うたかの」
 その名にエウトティアは聞き覚えがあった。
 吟遊詩人のようなもので、人々にさまざな事柄を語るのだという。
 どうやらこの世界にもいるようだ。
 姿形は違えども、同じ輩なれば探すのにも苦労はしまい。
 要はそんな詩人風情を見つけ出し、それぞれを見張ればよいのだ。
「と、言うわけで頼んだぞ大鷲よ」
 エウトティアは空を仰ぎ頼んだ。
 蒼き海原を悠々と泳ぐのは、翼をはばたかせる鷲。
 上空から見下ろせば、この人の多い街並みからでも、件の人物を探し出してくれるであろう。
 少なくとも、始めて来たばかりの自分よりは、よっぽど役に立つ。
「それまでわしは、ゆるりと待つことにするかのう」
 彼女は街を散策するのではなく、街から離れるのであった。

 エウトティアが辿り着いたのは、街から少し離れた林であった。
 この場所なら周りから見られる心配もなさそうである。
「ここなら狼たちが入っても迷惑にならぬじゃろう」
 湿り気を帯びた地にそっと手を触れると、目を伏せてこの地に棲まう精霊に願う。
 彼女のあとをついてきた巨狼マニトゥをはじめとする、使役する動物たちも地に伏せ、願うように頭をこすりつけた。
 するとどうであろうか。
 地震も起こってはいないのに地面が窪み、じわりと湯がにじみ出してたちまちそこは温泉へと変わった。
 その場にいる全員が調度入れるような大きさの湯へと。
「精霊よ、感謝するぞ」
 温泉を造ってくれたことを感謝し、エウトティアは衣服を脱いでそこへと入る。
 続けて動物たちもこぞって入ってきた。
 秘湯はすぐにごった返し。肘が触れあうような狭さになった。
 だが悪くはない。
 これだけの数、街の湯へ浸かろうとすれば、それは他人様の迷惑になってしまうであろう。
 かといって兄弟たちを差し置いて、自分独りで湯を楽しむのは彼女の性分ではない。
 だからこうやって郊外に温泉を造ってくれるよう、精霊に願ったのであった。
「まあ、本来なら勝ち戦の祝いに入るべきなのじゃろうが、先祝いということでよかろうの」
 影朧との戦いを前にして、疲れを癒やすことも立派な猟兵の務めである。
 そう自分に言い聞かせ、エウトティアは湯の温かみを身体全体で楽しんでいた。
 ふと見れば、こちらを見ている視線に気づく。
 それは人の気配ではない。
 この地に棲まう動物たちの眼であった。
 おそらく地形を変えてしまったことによって、様子を伺いにきたのであろう。
 恐る恐るこちらを警戒するかれらにむかって、エウトティアは笑顔で応えた。
「なあに、御代は結構。そのかわりに怪しい輩を見かけてはおらぬか?」
 秘湯に惹かれ次々にやってくる動物たちに、彼女は影朧の特徴を話すのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

垂没童子・此白
色とりどりの花葉に、賑やかな人の流れに…街を眺めてるだけでも、なんだか心があったまりますねぇ、サトーさん

もし影朧さんが、生前から此の界隈にいたのなら。街に詳しい方は素性をご存じかもしれません
地元の方がよく使われてそうな湯場を訪ねてみます

まずは湯船に浸かりほっと一息…周りを見まわし、それと思しき方がいらっしゃったら、声をかけてみましょう
「此の辺りにお住まいの方ですか?とっても素敵な街ですねぇ、此処は」
旅人を装い、のんびり世間話を

予知によれば、紙芝居というのは子供が喜ぶもの
私も子供ですし。往来の出店の話題になったら、子供が楽しめるような出し物に心当たりは無いか尋ね、それとなく探りを入れてみましょう



 淡い紅に枯れた黄と橙が混じり合って風になびく。
 その風は少し肌寒さを感じてしまう冷たさであるが、往来を行き交う人々に、そのような表情は見当たらない。
「なんだか心があったまりますねぇ、サトーさん」
 懐に抱く小箱を撫でながら、垂没童子・此白は人々と同じように優しく微笑んだ。
 この街に、影朧の脅威が迫ろうとしている。
 それを防ごうと、此白は雑踏へと溶けこんでいったのであった。

 此白が向かったのは、街にある一つの湯場。
 地元の人間も来る場所ならば、なにか掴めるものがあるのではないか。
 彼はそう考えてここへとやってきたのであった。
 両手で湯をすくって顔を洗い、おおきく息をつく。
 良い湯船だ。
 湧き出る温泉の湯に、桐で出来た湯船がほのかに香る。
 昼間から入るのは自分だけではなく、湯殿を見渡せばあたりにちらほらと人の姿があった。
「此の辺りにお住まいの方ですか?とっても素敵な街ですねぇ、此処は」
 気さくに声をかけてみれば、むこうもこういった雰囲気にあてられた気安さか、特に何事もなく返事を返してくれた。
「そう言ってくれると嬉しいね。地元に住んでる身でそういわれちゃあ、悪い気はしないからな」
 男は地元の人間らしかった。
 お互い湯につかれながら、話を弾ませる。
 そのなかで、此白は影朧についての情報を聞き出そうとした。
 この街はそこそこ知られた温泉街で、週末にはいつも小さな縁日のように屋台が並ぶのだという。
 さすがに花火は上がらないが、香具師や見世物を見た人々は、その余韻を持ったまま湯に浸かり、気分を安らいで帰るというわけだ。
 彼らとは、持ちつ持たれつの関係らしい。
「紙芝居屋などは来るのでしょうか」
「紙芝居? ああ、来るだろうな。ここは座に払う金なんざないから、あっちこっちから物売りがくるぜ。しかし紙芝居か、懐かしいな……」
 物惜しそうな顔をしながら、男は深々と湯に浸かった。
 しみじみとしている男に此白が尋ねた。
「なにか御存知でしたか」
 そう問いかける此白の声に、ほうと男はため息をついた。
「なあに、旧知にな。絵の好きな奴がいたのよ。そいつは色々と絵を描いては俺らや女房子供に見せてやったいたっけな」
 ほら、と男は湯殿の壁面を指さした。
 そこには味のある描写の鳥獣戯画が描かれていた。
 下に小さく『烏山 岩燕』という筆者のサインがあった。
 これもそいつが描いたものさ、と男はしみじみとした口調で語る。
 素人目で見ても、見事な絵だということがみてとれる。
「その方はどちらに?」
 尋ねる此白。言いよどみ、男はだいぶ経ってから応えてくれた。
「……遠い所へ行っちまったよ。もう、ここへ来ることはないだろうな」
 暖かい空気に、沈黙がのしかかる。
 話題を変えようと、此白は別の事柄を聞いてみた。
「そうですか。出し物は色々ある見たいですね。私も見てみたいのですが、どういったものがあるのでしょうか」
「おおそうかい。教えてやりたいけど、あいにく俺も全部把握しているわけじゃあないんでな」
 悪い悪いと頭を掻きながら、男は広場で行なわれるであろう大体の場所を教えてくれた。
 根は悪くない人物なのであろう。
 丁寧に礼を述べて、此白は湯船から上がった。
 長湯した身体から上気が昇っている。
「それではむかいましょうか、サトーさん」
 温まった身体で懐中を抱き、此白は広場へとむかうことにしたのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

音羽・浄雲
※アドリブ、連携歓迎です。

「ふうむ。紙芝居屋、そのようなものがあるのですね」
 足湯を楽しみながらも予知に思案を巡らせていた。【外道】走らせ怪しいものや人の集まれそうな場所を探すのも怠らない。
「このような場所で幼子を拐かそうなどと企むとは、理にかなっていると言いますか。はたまた、生前人を楽しませていた記憶が片隅にあるのでしょうか」
 皆気が緩む場所であれば人攫いもなにかと捗ろうもの。知恵が働く敵なのかもしれないとも浄雲は考えた。
「しかしまあ、浸けているのは足だけだというのに気持ちが良いですね・・・・・・。思わずお酒が飲みたくなりますが、今日は我慢と行きましょうか」



 温泉街というだけあって、湯の出る場所は豊富らしい。
 路地の一角には屋根があり、そこに誰もが自由に入ることが出来る足湯があった。
 そこに足首を浸かりながら、ゆったりと音羽・浄雲は眼を閉じていた。
 湯を愉しんでいる訳ではない。
 すでに跳ばしていた外道に意識を集中していたのだ。
「ふうむ。紙芝居屋、そのようなものがあるのですね」
 あいにくと、浄雲はそのような業種に心当たりは無い。
 グリモアベースで見た予知を頼りに、街のあちこちを走らせているが、そのような人物はいまだ発見出来なかった。
 捜索してわかったことであるが、何処に行っても旅連れ、見知らぬ人がそこかしこに見受けられた。
「このような場所で幼子を拐かそうなどと企むとは、理にかなっていると言いますか。はたまた、生前人を楽しませていた記憶が片隅にあるのでしょうか」
 確かに、見知らぬ場所で知らぬ人に遭うのは当然のこと。
 悪行を企むに身を潜ませるは、絶好の土地なのかもしれない。
 旅行客が足湯を愉しんでいる中、浄雲の顔は真面目であった。
 ともあれ、該当する者が見当たらないとすれば、ひとまず惨劇は起こってはいないと好意的に解釈するべきか。
 ひとまず紙芝居風体の人物を探すのを止め、他の場所へと目を光らせる。
 外道の式を通して、興味深い物が浄雲の目にとまった。
「……これは?」
 立ち上がり、足湯から出てそこへと向かう。
 浄雲がむかった先は、とある画材屋であった。

  燈きえんとして又あきらかに、影憧々としてくらき時、
  青行燈といへるものあらはるゝ事ありと云。
  むかしより百物語をなすものは、青き紙にて行燈をはる也。
  昏夜に鬼を談ずる事なかれ。
  鬼を談ずれば怪いたるといへり。

 注釈とともに行燈の傍に鬼が立ちつくしている版画図絵。
 その筆跡に浄雲は見覚えがあった。
 グリモアベースで見た、予知の光景。
 あの影朧がまき散らしていた図の画風に似通っていた。
「店主、これは如何なるもので?」
 浄雲は店先の店主に、作者を尋ねた。
 この絵を描いたのは『烏山 岩燕』、この街出身の絵師らしい。
 その行方を尋ねてみるが、あいにくと店主は存じてはないらしい。
 だがこれは、ひとつの手がかりに違いない。
 他の猟兵にも見せるべく、浄雲はそれを購入することにした。
 そして、彼に関するいくつかの作品も。

 再び足湯へと戻り、また浸かりながら浄雲はまじまじとそれらを見比べていた。
 烏山 岩燕という者は、どうやら妖怪画に興味があったらしい。
 幾つもの作品を手がけており、これはその複製品ということらしい。
「紙芝居に妖怪図画、なにやら予知にも絡みそうな案件ですが、今の段階では何も言えませんね」
 他の者の意見も聞くべきであろう。
 ちゃぷりと足を動かして、ひとまず浄雲は足湯を愉しむことにした。
 外道に集中していないぶん、心地よさが足を伝わって身体全体に拡がってくる。
「しかしまあ、浸けているのは足だけだというのに気持ちが良いですね・・・・・・。思わずお酒が飲みたくなりますが、今日は我慢と行きましょうか」
 苦笑する浄雲。
 さきほど路銀を些か使ってしまった。
 どのくらい逗留するかはわからぬ以上、無駄遣いは避けるべきであろう。
 それに影朧はまだ討ち果たされてはいない。
 勝利の美酒に酔うのは、それからでも良いのである。

成功 🔵​🔵​🔴​

テイラー・フィードラ
ふむ。まだ事件発生しておらぬ故、どうするか、であるな……
ひとまずは何時ものように、定石通り動くとするか

温泉街を治める者や警邏へと赴き、身分を明かし何か不審者がいなかったか、或いは幾分か前に事件が無かったか等情報を教えてもらうとする。
礼を失さぬ様言動と態度には心掛けつつ、対象の中年である男、自転車を押し荷台にある箱での紙芝居を営んでいたような者、墨で妖を描いた藁半紙巻いていた等条件に掛かるものはいないかと調べん。

まぁそれで知れるならば御の字、事件も起きておらぬ以上致し方ない。
その後は首だけ現すフォルティより、魔に転じた存在として何か嗅ぎ取れぬか聞きつつ、子が多く通る道を歩き調べていくとするか。



「ふむ。まだ事件発生しておらぬ故、どうするか、であるな……」
 行き交う人々のすれ違う様を眺めながら、テイラー・フィードラはため息をついた。
 魔物の姿を見つければ、この剣を振るい屠ればいい。
 至極単純明快な解決方法であるが、あいにくその敵は現れていないときた。
 さてどうするか。
 剣の道は鍛えれども、こういった捜索は馴れてはいない。
 ならば土地の者の助力を借りるとしよう。
 そう思ったテイラーは、温泉街の自治会議所を訪ねることにした。
「御免。私はテイラー・フィードラと申す者」
 正直に身分を明かし、協力をとりつけることを願う。
 猟兵の名はここにも知れ渡っている。
 身分が確かめられると、彼らは快く応じてくれた。
「かたじけない」
 テイラーは彼らにむかって不審者、影朧の特徴を話す。
 だが残念ながら、そういった姿を見た者はここにはいないようであった。
 しかし、興味深い事実を聞くことが出来た。

 行方不明事件。
 それは確かにこの街にあったのである。
 一人の幼子が突然消えてしまったのだ。まるで神隠しにでもあったのかのように。
 どこを探しても見つからず、結局行方不明のまま御わったらしい。
「それは大変だったな。さぞかし親元は悲しんだであろう」
「ええ、両親の嘆きようと言ったら……憔悴しきっていましたね。
 話している男の顔にも、同情が見てとれた。
 当然だろう。我が子を失って悲しまぬ親などいない。
 子を持つ年齢となれば、それが自分のように感じられるのだ。
 それではソイツが犯人なのか。
 テイラーはその行方不明事件の詳細を尋ねるが、犯人はまだ捕まっていないらしい。
「そうであるか。では、被害者の名は?」
「子供の名は凜吾郎、親の名は……これは雅号のほうが馴染みがありますね。烏山 岩燕。そう父親は名乗っていました」
「雅号とな。何某の作家だったのか?」
「ええ、風流な絵を描いていました。もっとも、子供を失ってから断筆しちゃいましたけどね」
 無理も無い。絵というのは心をえがきだすものだ。
 より所を失ってしまっては、描く気力も無くなるというものだ。
 では烏山 岩燕は何処に?
 彼は行方不明のあと、しばらくして姿を消してしまった。
 街の人は子供を探しに旅に出たとも、子供と一緒に行方不明になってしまったと噂した。
 いずれにせよ、当時の状況を本人からは聞けないようだった。
「感謝する」
 礼を述べてテイラーは会議所を後にする。
 とりあえず掴めた処はこんなとこか。
「事件も起きておらぬ以上致し方ない」
 あとは地道に、現場をうろついてみるか。
 屋外へと出たテイラーの傍を、青白き何かがよりそった。
 害意は無い。
 故あって霊体となったテイラーの愛馬、フォルティである。
 首だけ現したそれにむかって、彼は話しかける。
「こういったことは馴れぬのでな。頼んだぞフォルティ」
 ぶるると嘶いて、フォルティが先導する。
 テイラー自身では感じられる何かであっても、彼なら何か感知してくれるかもしれない。
 一人と一頭は、笑顔賑わう雑踏の中へと、消えて行ったのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

刹羅沢・サクラ
ふむ……紙芝居
妖怪の絵を描いては売り歩くというのは……どこの世界もさほど変わりないということでしょうか
しかし、一口に絵といっても、模写とも違う特別な個性を感じますね
妖怪の絵というのなら、そのどちらかに当たりを付けるのが定石かもしれませんね

では、屋形船に乗ってのんびり町を見て回りましょうか
これでも妖怪のでる世界の出身ですので、その手のものが好みそうな場所が見つかるかもしれません
まあ見つからずとも、のんびり揺られながら温泉饅頭というのも乙なもので……
ところで、店主殿。とても綺麗な場所ですね。さぞ、絵描きの方などの垂涎の的なのでは?
まあ見当はずれかもしれませぬが、当たっておきましょう



 仲間が入手した版画図絵を眺めながら、刹羅沢・サクラは考え込んでいた。
 紙芝居。そして妖怪の絵。
 絵を売って生業とする者は、自分の世界にもいた。
「妖怪の絵を描いては売り歩くというのは……どこの世界もさほど変わりないということでしょうか」
 まじまじと絵を見つめるサクラ。
 一口に言って、味がある。個性があると言うべきか。
 模写ではなく、きっと己の手で描いたに違いない。
「手がかり、だと思いますが……どう当たりをつけましょうか」
 絵を片手にぶらぶらと、サクラは街を徘徊するのであった。

 街を歩くサクラ。
 その姿は、屋形船の上にあった。
 船頭の櫂の動きに合わせて揺れる船から、街並みを眺めていたのである。
 死角、というものは何処にでも存在する。
 おそらく路地中は他の猟兵達が調査しているであろう。
 だから自分は川から、別の面で何か見つかりはしないかと思ったのだ。
「まあ見つからずとも、のんびり揺られながら温泉饅頭というのも乙なもので……」
 座りしままに饅頭を食べるサクラ。
 屋形船にも幾人の観光客が同道しており、各々話に花を咲かせていた。
 その中で独り、サクラは茶をすすりながらくつろぐ。
 ここから眺める光景に、別段怪しい雰囲気は感じられない。
 これでもアヤカシと対峙してきた身分だ。
 そういった妖気は敏感に感じることが出来る。
 しかし川下りを中程に過ぎても、そういった気配は露ほども感じられない。
 平和というものは大切なものではあるが、探し物となると億劫なものである。
 眠気を堪えるためにも、サクラは船頭に尋ねることにした。
「ところで、船頭殿。とても綺麗な場所ですね」
 屋形船が下る両岸から、桜と紅葉がひらひらと落ちてくる。
 それが水面に浮かび、風情を感じさせるのだ。
「そうですかい。それはありがとうごぜえやす」
 日焼けした顔から白い歯を覗かせて、船頭は愛想笑いを浮かべた。
「さぞ、絵描きの方などの垂涎の的なのでは?」
「どうでしょうかねえ。あっしはそういったものにとんと無作法でして」
 へへ、と船頭は笑った。
 肩すかしか。そう思っていたサクラに、船頭は続けた。
「絵師はどうだか知りませんが、こうやって人を乗せて、その方が絵を描いていたのは覚えていますぜ」
 船頭が言うには、一人の男が絵を描いていたそうだ。
 何回も乗せて、筆を走らせていたからよく覚えているそうだ。
「その方は?」
「……たしか、ええ、ええ、ちょっと待ってくだせえ。船が下り終えたらお話しやしょう」
 船頭はそういって櫂を動かす。
 話の続きを聞きたいが、仕方があるまい。
 船の行方はこの男が握っているのだ。
 サクラは三つ目の饅頭に手を伸ばし、茶に手を伸ばした。
「温いですね」
 仕出し弁当の饅頭をすっかり平らげた時間に川下りは終わり、客がぞろぞろとおりる中、サクラは船頭と顔を合わせた。
「これですよ。船代の一部として受け取ったものでさあ」
 男が差し出したのは半紙、そこにまたしても妖怪の絵が描かれてあった。

  岸涯小僧は川辺に居て魚をとりくらふ。
  その歯の利き事やすりの如し。

 川辺にて魚を喰らうアヤカシの姿。
 描いた者の名を確かめれば、その名は烏山 岩燕。
 どうもこの人物は、この街と関わりがあるらしい。
「この御仁は、今どちらへ?」
「今は姿を見かけていませんなあ。確か女房がいるはずですから、尋ねてみてはいかがです?」
 気さくな声。
 礼を言ってサクラは川辺を離れた。
 烏山 岩燕。
 この人物はいったい何者であろうか。
「見当はずれ、ではなさそうですね」
 一人呟き、サクラは温泉街を歩くのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

天威・利剣
アドリブ歓迎
紅葉と桜の取り合わせとは。なかなか贅沢な景色だな。賑やかなのもなかなか良い。
通りを歩きながら、香具師から団子やら煎餅やらを買いつつ話を聞いてみよう。この辺りの話には詳しそうだ。加えて、人の多い足湯に浸かり、買ったものを食べながら周りの人にも話を聞こう。
往来の話を振って、変わった紙芝居屋を知らないか?と、直球で尋ねる。
しかしこの足湯というのは不思議だな。足しか浸かってないのに体全体が温まってくる。戦いに備えて、今は息抜きしておくとするか。



 往来を歩きながら、あたりを見回す天威・利剣の顔は晴れやかであった。
 依頼でこの街に来たが、なかなかどうして活気に満ちている。
「これで影朧が居なかったら最高なんだがな」
 仕方があるまい。
 それを解決するのが猟兵の役目だ。
 自分はそのために、ここに来たのだから。
 しかし、ある程度の役得はあって然るべきであろう。
 目抜き通りを歩きながら、それに連なる屋台から食べ物を購入し頬張る。
「たしか、紙芝居屋と言ったっけな」
 食べ歩きながらそれらしき人物を探してはみるが、影も形も見当たらない。
 美味しい匂いは感じられるが、出し物関連はなさそうだ。
 街の人々にも、そういった気配は見受けられない。
 少し、聞いてみるか。
 そう思った天威は、適当にそこら辺にいた、地元の人間と思わしき人物へと声をかける。
「色々屋台があるみたいだが、変わった紙芝居屋を知らないか?」
 小細工など考えずに、素直に尋ねてみる。
 グリモアベースでの予知が正しいのならば、それが何らかの関わりがあるのは間違いないのだから。
 口は悪いが、仲間が言うことに疑念に抱く天威ではないのだ。
「変わった紙芝居屋、ねえ?」
 尋ねられた人物は首を傾げる。
 変わった、といっても色々ある。それはどういう物なのかと逆に尋ねられた。
「ええと、それはだな……」
 同じように首を傾げる天威。さてはてどうしたものか。
 彼の脳裏に、仲間が掴んだ情報がよぎった。
「ええとそうだな。そう、妖怪紙芝居だよ!」
 的を射たりとばかりの天威の声。
 しかし残念ながら、首を振って彼の者は答えた。
「あいにくと、そういった紙芝居屋は御存知ないなあ」
「そ、そうなのか……」
 落胆する天威。
 気落ちする彼が哀れだったのか、替わりに別の話をしてくれた。
 紙芝居屋は知らないが、色々な絵を描いて子供に見せる人物は過去にいたらしい。
 その名は烏山 岩燕。
 そこそこ名の知れた絵師だったという。
「成程ねえ」
 様々な絵を見せるという行為は、ある意味紙芝居と似通った部分がある。
 だが生憎と、この人物は街を去ったらしい。
 今この街に住んでいるのは、その奥さん一人らしかった。
「子供が行方不明になった男、そいつは今は行方不明……」
 これから起こる事件。
 確かそれも、子供が消える事件の予知ではなかったか。
 この人物のことをもっと調べる必要がある。
 だがその前に、やることがある。
 天威はきびすを返して別の場所へとむかったのだった。

 天威がむかった先は、通りから少し離れた足湯であった。
 探索して些か疲れた彼は、脚を浸かりながらゆっくりと疲労を癒やしていた。
 なにしろこれから影朧と戦うことになるかもしれないのだ。
 鋭気を養うのは悪い事では無い。
 ゆらゆらと水面が揺れる。
 それを眺めながら天威は煎餅を囓り思案にくれる。
 色々わかったことがある。
 しかし、確信には遠い。
 仲間とともに、まだまだこの街を調査する必要がありそうであった。
 食べ終わり思案も終えると、天威は指先を湯につける。
 温かさが直に伝わってくる。この平穏を護らねば。
 幾人かの客と足湯を愉しみながら、天威はそう思うのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

鬼桐・相馬
【POW】
観光客に加え地元の人間も多く入る居酒屋に聞き込みをしてみよう
[冥府の槍]へ力の供給を止め[黒耀の軍制コート][アシモフゲアスの刻印]等精神を拘束する装備へその分を流し下準備

居酒屋に入る直前にUC発動
「店内で影朧の事を良く知る人物に話しかける」成功率を上げる

ザルならぬワクであることを活かし、選んだ対象の隣に座り酒を大量消費
こちらに興味を持ったら奢りだと酒とつまみを渡す

以前この街を訪れた知人が「素晴らしい妖怪画を目にした」と言っていたなとそれとなく話題を振り
影朧について[情報収集]
妖怪に興味を持った切欠、彼の人生観が変わるような出来事、何故この街を去ったのか
そこら辺りを知れたらいいと思う



 鬼桐・相馬には耐え難き衝動がある。
 それは他を圧倒したいという破壊的衝動。
 感情を露わにしない面貌からうかがうことはできないが、彼はその衝動を武具によって抑えることで行動を可能にしていた。
 赤枯れの落ち葉を拒絶するようなその漆黒のコートは、己を縛るための拘束品である。
 すれ違う人々。その笑顔。
 それが壊されてしまえば、残された人の面はどう歪むのであろうか。
 邪な考えが頭をよぎれば、自らに刻まれた刻印がキリキリと締め付ける。
 それが強くなる度に、鬼桐は自分を取り戻すのだ。
 大丈夫だ。
 自分は、奴等とは違う。
 この街に来たのは、殺戮を行なうためではない。
 惨劇を、止めるためにきたのだ。
「ここだな」
 足を止め、暖簾を眺める。
 鬼桐がやってきたのは、温泉街の居酒屋。
 影朧にたいする情報を集めるためである。
 暖簾をくぐる、その前に彼は目を閉じた。
 深呼吸し、感情を抑制する。
 己の負の感情を、あえて衣類や刻印に流し込む。
 そうすることで、冷静になれるのだ。
 目を開けて暖簾をくぐり店の中へと。
「いらっしゃいませ」
 店員の声。
 しかし鬼桐は、入った瞬間に目についた一人の男に注目していた。
 尋ねるのは、あの人物にしよう。
 こういう時の、自分の勘はよくあたる。
 向かいの席へと座り、適当な酒とつまみを注文する。
 そして杯を傾けるままに酒をあおった。
 男は、その飲みっぷりに惹かれたようだ。
 たん、と空の杯の音のあとに、ひゅうと口笛を吹いて話しかけていた。
「旦那、い~い飲みっぷりだね」
「ああ、いける口でな」
 口を交わして酒を傾けると、男は当然のように盃を傾けてそれを受け取った。
 ぐい、と盃をあおると、男から酒臭い息が吐かれた。
「奢られるようなことがあったっけなあ?」
「人を探している。その人物を知っていたら、教えて欲しい」
 まるで酔ってないような冷たい声。
 ものおじせず、男が答える。
「いいぜ、俺が知っていたらな。酒飲みに悪い奴はいねえ」
 どんな奴なんだいと尋ねる男に、鬼桐は酒を一口飲んでから舌を滑らした。
「知人がこの街を訪れた時、素晴らしい妖怪画を目にしたと言っていた。その人物に会いたい」
 沈黙。
 男のしかめっ面。
 周りの喧噪が、やけに遠くから聞こえてくる気がする。
「……どうしても会いたいのかい?」
 男の嫌々な声。
 それに構わず、鬼桐は頷いた。
「ああ」
 それからしばらくして、男はぽつりと呟いた。
「……まあいいさ。どうせアイツは、この街にもういやしねえんだからな」

 昔、この街に烏山 岩燕という男がいた。
 男は絵を描くのが好きだった。
 なぜ妖怪の絵を描くようになったのか。
 それは誰にもわからない。
 ただ知っているのは、この街のあちらこちらで、紙に筆を走らせている岩燕の姿を見かけたということである。
 いつの間にか、その傍らに小さな子供が一緒にいるのが多くなった。
 男は結婚していた。
 息子と一緒に街を巡っては絵を描いていたのであった。
 男は笑顔であった。そして、父親の絵を見る息子の顔も笑顔であったのである。
 だがある日のこと、男の笑顔は失われた。
 息子がいなくなってしまったのだ。
 ほうぼう手を尽くしても、子供の姿は見当たらない。
 周りも協力したが、手がかりは掴めなかった。
 絵を描く男の姿は、街から消えた。
 妻に離縁状を突きつけて、何処へと消え去っていったのであった。

「俺が知っているのは、ここまでさ」
 酒を飲んで、男はため息をついた。
 その顔にはやるせなさが浮かんでいる。
「だからあんたが会おうとしても、この街にはいねえよ」
「そうか」
 鬼桐も酒をあおり、席を立つ。
 二人分の飲み代を置いて暖簾をくぐれば、幾分陽は傾きかけている。
 影朧は人々の悲しい過去、傷ついた過去から生み出されるモノ。
 男の想念は、歪んでしまったのであろうか。
「いずれにせよ。わかることだな」
 酔いを一筋も残さず、足取りをしっかりして、鬼桐はその場を離れたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『夜櫻に消えた人々』

POW   :    狭い所であっても気合や、その他の方法で潜入して情報を収集する。

SPD   :    フットワークを駆使して、広範囲に渡って人々への聞き込みに回る。

WIZ   :    人当たりの良さを駆使して、周囲の人々から情報を教えてもらう。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 息せき切った人の姿。
 よほど急いでいるのか、対面を歩いていた人とぶつかってしまう。
 狼狽しているその人は、ぶつかった人に謝りつつ、息を乱して尋ねてくる。
「あ、あの、すいません。うちの子見かけませんでしたか!?」
 悲痛な声。
 それも、ひとつふたつではない。
 街のあちこちから、子供を見失った親たちの叫びが聞こえてきた。
 そして、風にのって別の声も。

「最初に出でるは化け草履。続いて唐傘、傘化け、ばっさばさ」

 それを聞いた猟兵達の顔が曇る。
 グリモアベースで聞いた、あの声だ。
 と、すれば予知の時は迫っている。
 しかし、それは同時に影朧に迫っているということ。
 このまま影朧を探しに行くべきか。
 それとも消えた子供たちを探しに行くべきか。
 他の猟兵にそれを任せ、自分は烏山 岩燕の情報を再度集めるべきか。
 あるいは―?
 猟兵達は、それぞれの行動に移るのであった。
 陽が傾き、温泉街が赤く染まる。
 逢魔が時はもう、すぐそこであった。
エウトティア・ナトゥア
アドリブ・連携歓迎

(【聞き耳】をたてて)
街の方が騒がしいな、どうやら事態が動いたようじゃの。
休憩は終わりじゃ、者共出番じゃぞ!
【巨狼マニトゥ】に【騎乗】し地元の動物たちに案内を頼みながら、狼の群れと共に街へ繰り出すのじゃ。
大鷲よ、何か情報はあるか?過去から現在までの子供たちの足取りを教えておくれ。
狼達は、親御さん達から子供の物品を借り受けて匂いを頼りに探して保護せよ。
(一帯の精霊の声に耳を傾け)
マニトゥ、わしらは影朧の方へ行くぞ。恐らくビラは当てにならぬ、お主の感覚と【野生の勘】を頼りにしておるぞ。
何人も万物に宿る精霊からは逃れられぬよ。逃れたとしたらその何もない場所こそが影朧の居場所じゃ!


音羽・浄雲
※アドリブ、連携歓迎です。

「烏山岩燕。未だにその意図は知れませんが、彼こそが犯人というのであればこれ以上の凶行に及ぶ前に止めねばならないでしょうね」
 ほう、と一息つけばその両の手で印を結ぶ。
「暗くなるのならば好都合というもの。この身を影へと変じ、街の隅々まで浚わせていただきます――音羽忍法【影女】」
 暮れなずむ空に溶けゆく様に浄雲の身体が影へと変わる。
 その身を街の闇へと滑り込ませれば文字通り街の隅々まで足を伸ばし、手を届かせる事が叶うであろう。
「それにしても行方知れずになった子供の名……まさかとは思いますが……」
 一抹の不安を胸に、その身を夕闇に躍らせる。
 



「街の方が騒がしいな、どうやら事態が動いたようじゃの」
 異常を察知するや否や、素早くエウトティア・ナトゥアは着替えをすませマニトゥへと飛び乗った。
 一緒に湯に浸かっていた動物たちと一緒に街へと繰り出す。
 その駆け抜ける大群へと空から一羽が舞い降りてくる。
 斥候に出していた大鷲。
 彼が、掴んだ情報をエウトティアへと伝える。
 それを聞いて彼女の顔が更に険しくなった。
「子供達が攫われたと? これはゆゆしき事態じゃな」
 巨狼に跨りながら、エウトティアは追いすがる狼たちに下知をくだす。
「お主らは子供達を追いかけよ! マニトゥ、わしらは影朧の方へ行くぞ」
 列を二手に分けようとするエウトティア。
 そこに一つの影が追いすがる。
「おお、ジョウウンどのか。街の様子はどうじゃ?」
「生憎と芳しくない様子です。これから如何なさるおつもりでしょうか」
 騎乗するエウトティアに離れることなく、音羽・浄雲は併走しながら息を切らせずに問いかけてくる。
「わしらは影朧を追うつもりじゃ」
「ならば私は子供たちの保護にむかいましょう」
「うむ、頼んだのじゃ!」
「ナトゥア殿もお気をつけて」
 二手に一つの影が加わり、街の捜索に繰り出す。
 浄雲の頭上に、大鷲が先導していった。
 その背がぐんぐんと遠ざかる中、エウトティアはマニトゥに檄をとばした。
「頼んだぞマニトゥ。お主の感覚と野生の勘を頼りにしておるぞ」

「烏山 岩燕。未だにその意図は知れませんが、彼こそが犯人というのであればこれ以上の凶行に及ぶ前に止めねばならないでしょうね」
 大鷲と狼たちと一緒に駆けながら、浄雲は一人呟いた。
 影朧の予知。
 それが今行なわれようとしているが、それを防ぐために自分たちがいる。
 エウトティアは影朧を探しにいった。
 なれば自分は、子供達の消失を防ぐべきであろう。
 広い街を捜索すれば、それは再び交わる線となろう。
 陽が落ち昏くなるが、狼の嗅覚は眼よりも確かだ。
 すぐに何かを見つけ、吠えて浄雲に異常を知らせてくれた。
 拾い上げればそれは一枚の紙。
 妖怪が描かれていた半紙であった。
 常時なればさほど注意を張らずにいてしまっていたであろう。
 だがこれまでの出来事から、浄雲はこれをただ事ではないと感じていた。
 ゆっくりと深呼吸しながら印を結ぶ。
「暗くなるのならば好都合というもの。この身を影へと変じ、街の隅々まで浚わせていただきます――音羽忍法【影女】」
 彼女の身体が黒く染まっていく。
 そしてそれは地面にゆっくりとしみ込み、消えて行った。
 一枚の図画を残して。

  ものゝけある家には月かげに女のかげ障子になどにうつると云。
  荘子にも罔両と景と問答せし事あり。
  景は人のかげ也。罔両は景のそばにある微陰なり。

 街のどこかにある閉じた一室。
 そこに子供たちが寝転がされていた。
 部屋にも、障子を経て続く外の廊下にも、人気はない。
 空に浮かぶ月明かりが、障子をすかせて部屋へと入り込んでいた。
 人はいないにも関わらず、障子に一人、女の影が映っていた。
 部屋に侵入する輩を防ぐかのように。
 障子に、一人の影が加わった。
 前までの影に動揺がはしったかのように震える。
 新しき影は、古き影に手刀を突き刺した。
 障子にじわりと赤い血が滲み、それは障子紙全体へと拡がっていった。
 ばたん、と障子戸が外れ倒れる。
 人気のない廊下。
 そこにはいつの間にか、浄雲の姿があった。
「影、隙間に遭わざるば、自ら影となりて絶つこと容易き。影女、始末致しました」
 おそらく今のは、侵入者を防ぐための番人であったのだろう。
 暗殺は忍びの業。居場所が分かれば先手を取ることなど造作もないのだ。
 部屋へと踏みいり、浄雲は子供達の顔の前に手をかざした。
 息はある。気絶されたか眠っているだけだ。
「良かった。あとは親御様に届けるだけですね」
 両手では抱えきれない数を、浄雲は狼たちの背に乗せて見送った。
 その顔に一抹の不安がよぎる。
「それにしても行方知れずになった子供の名……まさかとは思いますが……」
 凜吾郎、その名に彼女は聞き覚えがあった。
 しかしそれを確かめようとしても、かの人物がいる街までは、ここから遠い。
 それに同名の別人ということもあり得る。
「いずれにせよ、ナトゥア殿に合流することにしましょう」
 浄雲は再び影へと転じ、エウトティアのもとへと追いつくのであった。

 陽が落ちて温泉宿に伸びる一人と一匹の影。
 駆けるマニトゥの眼は警戒に満ちていた。
 それはエウトティアとて同じであった。
 昼間に感じた温泉街の暖かさ。
 それが今は感じられず、寒々とした空気に変わっている。
 夕暮れになって気温が下がったからではない。
 この街全体が、悪しき気配に包まれているかのようだった。
「精霊もしかめっ面じゃのう。当然じゃ。踏み荒らされていい気はしないのじゃ」
 湯を掘るのに手伝ってくれた精霊達が、彼女に異常を知らせてくれる。
 影朧は結界を張れるのであろうか。
「ごまかし小細工を弄するということは、そこに見られたくない何かがあるということよ!」
 ならばと逆に、感覚が不確かな処へと奔らせる。
 湯冷めしたかと間違うような、嫌な冷気。
 それが近づいてきたかと思えば、マニトゥが脚を止めてひと声吠えた。
 その声の方向に目をむけてみれば、人の大きさはあるかと思う巨大なネズミ。
 護摩の煙を吹き出しながら、威嚇するかのようにいなないた。
「なんじゃ、此奴は?」
 見ればかの足下にも、絨毯を敷き詰めたかのようにネズミの群れがいた。
 狼とネズミの群の対峙。
 エウトティアが鼻で笑う。
「アヤカシの類いなど、わしらは何度も見慣れておるわ。行かせぬようにするとは、よっぽど先に何かあるらしいのう」
 ネズミの群れに狼たちが遅いかかる。
 そしてマニトゥも、黒々とした鉄のような肌の巨大ネズミへと襲いかかった。
 ネズミが口から火を飛ばした。
 マニトゥの躯に当たる前に、エウトティアがすかさず矢を放って方向をずらす。
 二度打ち。
 すかさず離れた射によって、ネズミの片目が矢によって潰される。
 大きな悲鳴。
 それを最後まで上げることなく、マニトゥが喉笛を食いちぎった。
 主を討たれ、子ネズミたちが散り散りになって逃げていく。
 ひと息つくエウトティアの頭上に、大鷲が舞い下りる。
 浄雲へと一緒に飛んでいった一羽だ。
 その報告を受け、エウトティアは頷いた。
「子供は無事か、良いことじゃ。それにしてもむこうにもアヤカシとは……影朧は召喚の術でも嗜んでおるのかのう?」
 まあ、それは実際にあって確かめればいい。
 エウトティアはマニトゥと一緒に、街の奥へと駆けていくのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鬼桐・相馬
烏山岩燕の妻に会いに行く

正しい情報を得れば後の対処もより確実なものとなる
先程居酒屋で話した男に妻の居場所が聞ければいいが、駐在等に聞くのも良さそうだ
UCを発動し、黒歌鳥と五感を繋げ空から最短ルートを探しながら急ぎ妻の元へ向かう

妻と会えたなら岩燕の行方を追っていると話し[情報収集]
辛い記憶を呼び起こすことになりすまないと謝罪しておこう

夫である岩燕は子を捜す際何か言っていなかったか
離縁状はしがらみを捨て遠方まで子を捜す為か、それとも彼女を守ったり或いは解放する為か
凜吾郎の特徴やいなくなった当時の年齢、いなくなった時の状況も分かる範囲で教えて貰えたらと思う

僅かでも事件に繋がる何かが分かればそれでいい


刹羅沢・サクラ
どうやら、時間が差し迫っているようですね。
しかしこちらも気になることが判明しました。
烏山岩燕という方に関わりのある奥方さんを訪ねてみましょうか
子供の行方が気がかりでないではないですが、思い出話辺りから切り込めぬか、屋形船で見聞きしたお話も交えて訪ねてみましょうか

うーむ、なにかお土産でも用意すべきですかね。
お茶菓子代わりにまた温泉饅頭でも買っていきますかね。
お茶請け代わりに話を聞いてみたいとでも言ってみますか。
少々強引かもしれませぬが……。
彼には妖怪を見ることができたのでしょうか。



 この街に住んでいた絵師、烏山 岩燕。
 怪異の原因はそこにあると確信した鬼桐・相馬は、彼の家を訪ねることにした。
 勿論そこには岩燕はいない。
 だが家族から何かしらの事情を伺うことは出来るだろう。
 居酒屋の男から居場所を聞くことは出来なかった。
 そこで鬼桐は、駐在に道を尋ねることにした。
 場所はすぐにわかる。では急ぐとしよう。
 コートがまたたくと、鬼桐の影から一陣の風が空へと飛び立った。
 不慣れな街ゆえ道標は空から探した方が早い。
 黒歌鳥を召喚し、最短で行動を取ろうとする。
 行き先はすぐにわかった。同時に街に起こる怪異も。
「急がねばならんな」
 これが終われば仲間と合流しよう。
 そう考える鬼桐の前に、猟兵が姿を現した。
 刹羅沢・サクラである。
 彼女は鬼桐の姿を目に留めると静かに一礼した。
 サクラの足先は、烏山 岩燕の家の方角。
 彼女も同じ考えのようであるらしい。
「どうやら、時間が差し迫っているようですね」
 サクラも迫りつつある脅威を感じとっていたようだ。
「ああ」
 鬼桐も頷いた。
 しかし足は影朧を探そうと急かす素振りはない。
 影朧の脅威、それは取り除かねばならない懸案だ。
 だがしかし、二人には妻から話を聞くことは、それよりも重要な要項に思えていたのだった。
 二人の足は、連れ添って岩燕の家の方へと進んで行く。
 鬼桐は道すがら、サクラが抱えている物に気づいた。
「これですか? 温泉饅頭ですよ」
 伺うにあたって、手土産はやはり必要かとサクラが用意したものであった。
 この街の土産店から、それなりの品を見繕ったつもりであった。
「地元民なら食べ飽きているかもしれませんが……口に合うといいですね」
 なるほど、これから聞きに行くことを考えれば、手土産の一つは持ってきてしかるべきであろう。
 急ぐあまりその事を失念していた鬼桐は、己の不明を恥じた。
 感情を押し殺すあまり、そのような機敏も疎くしてしまったらしい。
「いや、大丈夫だろう」
 頭上を見上げ、鬼桐はサクラに聞こえないように黒歌鳥へと忠告した。
「食べるなよ?」

 そこは何の変哲もない、ごく普通の家であった。
 家族は影朧ではないから当然かもしれない。
 表札には『片山』の姓の字があった。
 ここだ。
 戸口を叩いて来訪の意を示すと、中から一人の女性が門の前へとやってくる。
 年齢を鑑みるに、おそらくこの女性が妻君なのであろう。
 二人はお辞儀をして、彼を探していることを伝える。
「あいにくと夫は不在ですが……」
 それは知っている。だが彼女から聞かなければならない事は色々ある。
 身分を明かし、鬼桐とサクラは中へ入ることを了承された。
 一室へと案内され、妻は二人に茶を差し出した。
「粗茶ですが」
 二人はそれに口をつける。
 妻の名前は静江さんだそうだ。
 静江は二人に、どのような用件かと改めて尋ねてくる。
 これから先うかがうことは、彼女にとって話し辛いことかもしれない。
 さてどうするか。
 考える鬼桐より先に、サクラがまず口を開いた。
「良い街ですね」
 屋形船より眺めた綺麗な景色。それをまずは褒める。
 そして景色を眺めながら、一人の男が筆を走らせていたことも。
「彼の絵には、妖怪が描かれていました。彼は妖怪を見ることが出来たのでしょうか?」
 その問いに、静江は寂しそうに首を横に振った。
「さあ、それは私には……ただ彼は、妖怪に興味があったことは事実です」
 これを、と彼女は猟兵に草紙の束を差し出した。
 それは下書きも含めて、数々の妖怪の絵が描かれてあった。
 そしてやがて、そこに別の色が混じり、輝きを増していく。
 子供。
 実子、凜吾郎の姿が生き生きと描きだされていた。
「夫……岩燕と呼んだ方が良いですかね。あの人は子供が生まれた時、それはそれは大変な喜びようで、一日一枚は凜吾郎の姿を描かずにはいられないようでした」
 日々違いがある。同時に可愛らしさが増す。
 そう言って岩燕は息子にとても愛情を注いでくれた。
 凜吾郎が歩けるようになってからは、街を散歩しながら息子に絵空事を聞かせるようになった。
 その楽しげな昔を思いだしたのか、静江はやさしく笑う。
「誠に申し訳ないのですが、これから尋ねることは辛い記憶を呼び起こすことになるかもしれません」
 今度は鬼桐が口を開く。
 子供がいなくなってしまったこと。
 岩燕もいなくなってしまったこと。
「彼はその時、どうしたのでしょうか」
 部屋に、静かな空気が流れた。
 鬼桐とサクラは口を開かない。
 そしてようやく、静江が口を開いてくれた。
「凜吾郎がいなくなったのは、七つの時でした……」
 ぽつりぽつりと、当時の状況を語ってくれる。
 それを二人は、黙って聞いていた。

 それは本当に、本当に突然の出来事であった。
 ある日岩燕と静江が起きてみれば、我が子の姿が見えなくなっていたのだった。
 家から忽然と消えていた。
 物盗りの犯行かと思いきや、他は何物も盗られてはおらず。
 すぐさま届け出をだしたが、行方は一向にわからなかった。
 ひと月が経ち、ふた月が過ぎ、焦燥感は募るばかり。
 そして一年が過ぎた。
 やがて岩燕は奇行に走るようになった。
 いや、気づいた頃には遅く、既になっていたのかもしれない。
 岩燕は絵を描く。
 街の風景を楽しげに笑いながら。
 その絵の中に、空想上の妖怪と我が子を写して。
 愛息を失った悲しみに、誰がそれを嗤い咎めることが出来ようか。
 絵の中の愛する我が子にむかって、愉しげに話しかける岩燕。
 街の人々は、それをあたたかく見守った。
 静江も、夫がそれで楽になるならと見守った。
 そしてある日、夫も姿を消した。
 食卓に、離縁状と一通の手紙を残して。
 手紙にはこれまでかけた苦労や甲斐性の無さを詫びること、そしてこれまで描きためた図画を売り払い、幾ばくかの慰謝料とすること、場合によっては邸宅を売り払い新しい人生を歩んで欲しいことがしたためられていた。

「私は凜吾郎と共に暮らす。手紙にはそう書かれていました」
 烏山 岩燕は現を受け入れられることが出来ず、幻へと足を踏み入れてしまったのだろう。
 ですが、と静江はつけくわえる。
「離縁状を受け取りましたが、私は彼の妻です。ここにいて彼の帰りを待ちます」
 静かな笑み。しかしそこには強い意志が感じ取られていた。
「猟兵の皆様は、事件を活躍に導く心強い味方と聞きました。それゆえ私もお話致しました。だから、あなた方に頼みたいことがあります」
 そっと、静江は二人に差し出した。
 それは離縁状と、一枚の絵。
 岩燕と静江と、凜吾郎が揃って笑っている絵があった。
「我が子を失わせた責は、夫だけにあるのではありません。罪科は当然、妻である私にもあります。もしあなた方が夫を見つけてくれるのならば、是非伝えてください。一子を失えど、愛情を注いでくれたことは間違いありません。私は、貴方の帰りを待っていますと」
 それを伝えると、静江は深々と二人に頭を下げた。
 鬼桐とサクラもそれを受けて深々と頭を下げるのであった。

 家を出た二人の懐中には、饅頭では無く預かった離縁状と絵があった。
 我が子を失った記憶。
 それが歪み、子供を失わせようとする影朧となってしまったのは皮肉だろうか。
「行きましょうか」
「そうだな」
 二人の猟兵がむける眼は、まっすぐに前をむいていた。
 おそらく彼には会えるだろう。
 だがその後は。
 もう一度、静江に辛い話を聞かせることになるかもしれない。
 後ろ髪を引かれつつ、鬼桐とサクラはその場をあとにするのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

テイラー・フィードラ
影朧が現れたが……それよりも子の行方が知れぬか。
ならば助けに行かねばならん!

フォルティに騎乗し街を疾走。しかして人がいる以上は轢くわけにもいかぬ。故、霊体化した脚を活かし宙を翔けていけ。

しかして子の行方は全くもって分からぬ。が、ならば知れば良い。
右は手綱を引きつつ、左に凶月之杖を持ち呪言詠唱。左眼が潰れる激痛に対し歯を食い縛り、異界の瞳を召喚。
我やフォルティでも追いつけぬ跡を見、発見次第フォルティを翔けさせ現場まで駆けん。

もし子がそのまま無事であるならば帝都桜學府に連絡し様態を観察しつつ親と再開させよう。
が、何か宿している様ならば長剣に刻んだ魔払いの術を用いて清めよう。
敵が居るなら切り捨てん!


垂没童子・此白
岩燕さんも気懸りですが…消えた子達を放ってはおけませんよね、サトーさん

懐から垂没刀を取り出し。不安に駆られてしまっている親御様方の心を、祈りを込めた光によって和らげます
…大丈夫ですよ。お子様は、必ず戻ってきますからね
穏やかに、そして力強く励まして
落ち着きを取り戻して下さったら、居なくなってしまったお子様の名前や特徴、はぐれた場所とその時の様子などを確認しましょう

その情報をもとに、道行く方々に目撃情報を尋ねつつ行方を探ります
もし、途中で手掛かりが途絶えてしまったら…サトーさん、どうか道をお示し下さい
桐の箱を開けて、サトーさんを呼び出し…ふわふわと、風に漂う姿を頼りに、第六感の導きを信じて駆けます



 嗚咽する大人達に柔らかい光が振りそそぐ。
 それは身体に染み入り、不安や恐れを薄れかき消していく。
 パチリと、垂没刀を鞘に納めて垂没童子・此白は大人達に声をかけた。
「……大丈夫ですよ。お子様は、必ず戻ってきますからね」
 自らの素性を明かし、子供達を取り戻すことを約束する。
 恐慌はおさまったのか、やがて親たちは此白に我が子の特徴を話してくれた。
「お願いします、子供を見つけてください」
「任せろ。私たちが見つけてみせる」
 見れば、テイラー・フィードラも馬に乗ってやってきた。
 彼も騒動を解決する気らしい。
「人手は多い方がいいだろう。それに、馬の方が速い」
「感謝します」
 テイラーの手を借りて、此白もフォルティの背に跨った。
「それで童よ、何処へ行こうか?」
「私の名前は此白です。まずは子供達がいなくなった場所へ。そこで手がかりを探しましょう」
「心得た」
 テイラーが手綱を手繰ると、フォルティは意をうけて疾風のように駆けていく。
 その脚はふわりと浮かび、宙を舞って街中へと。
 二人の背を、残った大人達は手を合わせて見守るのであった。

 街の一角へと二人は辿り着いた。
 此白が周りの人に尋ねてみれば、子供達は紙芝居屋のお囃子と一緒に、何処かへと消えていったらしい。
「その紙芝居屋というのは、予知で見た此奴のことか?」
「ええ、そうみたいですね」
 此白がテイラーへと紙を差し出す。
 そこにはやはり、妖怪が描かれた絵があった。
「また化物の絵か」
 まじまじとテイラーはその絵を眺めすかした。
 これ以外に手がかりは見つけられてないらしい。
「化物が残した物となれば、人の目に見えぬ何かが残っておるやも知れぬな」
 ならば、同じアヤカシなれば。
 テイラーは大きく息をつく。
 あまりやりたくはないが、子供を助けるためならば致し方ない。
 覚悟を決め、杖を構えて呪文を詠唱した。
「彼は誰時であろうと全て見通す異界の瞳よ。今此処に現れ其れの元まで追走せよ!」
 異界より瞳を召喚し、異能を呼び覚ます。
 左眼が変貌し、魔物の眼と化していく。
 だがそれは代償を伴う行為。
 度しがたき激痛が、左眼から全身へと広がり、テイラーを苦しめるのだ。
「ぐ……が、あああああっ!」
 全身の痛み。それによって苦悶の声をあげるテイラー。
 だか彼は、異能を憑依させることを中断はしない。
 攫われた子らは、もっと酷いことをされているかもしれないからだ。
「テイラーさん?」
 もがく彼に、此白は驚いた。
 鮮血が彼の目から滴り落ちているではないか。
 とてもではないが、見過ごす訳にはいかない。
 此白は再び懐に手を伸ばし、垂没刀の刃を煌めかせた。
 この刀は、人を殺めるものにあらず。
 人の苦しみを癒やすためにあるのだ。
 先ほどと同じく、柔らかな光に包まれると、テイラーの息は平常を取り戻していく。
 光は彼の身体に染み入り、苦痛を拭い去っていたのである。
「たいしたものだな」
 先ほどの混乱をおさめたこと。そして今の出来事。
 自分には出来ようはずがない。
 鮮血を浴びた跡が、己の手を朱く染めていた。
 自分の手は、血に塗れている。
 人々に安らぎを与えることなど、果たしてできようか。
「テイラーさんも、子供たちを助けようとしたのでしょう? 私と同じですよ」
 怪異を絶つために、影朧の元へと走ることは出来る。
 だが彼はしなかった。
 テイラーはまず、子供を助けることを選んだのである。
 それはじぶんと変わらない、人への優しさであろう。
「それで、何かわかりましたか?」
 此白はテイラーに尋ねると、彼は心強く頷いた。
 これが影朧の巻いたビラならば、それは陰の気を纏っている。
 その残り香はかすかに、しかし確実にこの現場に残っていたのだ。
 二人はフォルティに跨って、後を辿った。

 ぎしりぎしりと輪の軋む音に近づいてくる。
 牛車のような車が、前方に見える。
「片輪車」
 此白が呟いた。
 昔、片輪車という妖怪が、夜中に車の軋ませる音させて通ったという。
 どこから来てどこへといくのか誰にもわからなかった。
 ただ、これに遭えば祟りがあると皆恐れたという。
 前を進む車は、伝承通り車輪が片方しか無かった。
 にもかかわらず、人も押さないというのに、車はひとりでに走っていた。
「祟りだと? 違うな、僥倖だ」
 テイラーが示した車の中に、子供達の姿が見えた。
「妖怪だなんだと、要は人攫いの類いよ」
 なれば、斬れば良かろう。
 フォルティの走りを速めて、テイラーは一刀のもとに残りの車輪をたたっ斬った。
 乾いた音を立てて、車がその場に急停止する。
 中に踏み込めば、そこには気絶した子供たちの姿があった。
 此白はその顔ぶれを眺めて、安堵の声をあげる。
 ここに来る前に聞いていた、子供達の特徴と一致する。
 あとは親御さんたちと再開させれば言い訳だが、二人で運ぶには少々子供たちの数は多そうだった。
「この街にも桜學府の分署はあろう。私が走って保護を願おう。ひとまず貴殿はここにいて、彼らを護ってはくれまいか」
「わかりました」
 此白も頷く。
 アヤカシを一体倒した訳であるが、敵はまだまだいると考えるのは当然だ。
 子供達を見つけると、大人達に約束した。
 自分がここに残り、それまで護るのは当然のことであろう。
 テイラーが走り消え去るのを見届け、その場へと残る此白。
 陽は落ち、暗くなり始めている。
 気絶していてある意味良かった。
 自分独りでは、彼らに説明してあやすのにも苦労したであろう。
 夜風が身体を撫でる。
 しかし昼にあびた湯の余韻は、この身にしかりと残っている。
「……サトーさん、どうか道をお示し下さい」
 自分以外に誰もいないことを確認し、此白が懐中の小箱をずらす。
 すると、ふわりと中から綿毛のようなものが宙へと浮かび上がった。
 サトーさんと呼ばれたソレは、子供達を護るように、ふわりふわりと周りを漂い浮かんでいた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

天威・利剣
アドリブ歓迎
あの声!影朧……烏山 岩燕なのだろうか?こうしてはいられない。直ぐに追わなくては。
UCで召喚した馬に乗って追いかける。道行く人々は【威厳】を見せてどいてもらおう。子供は必ず俺様が助け出す。安心して待っていろ。
姿を見つけたら、とりあえず気づかれないように尾行する。隠れながら追跡するなら徒歩のほうがいいかもしれない。早く始末してやりたいところだが、子供達の行方の糸口が掴める可能性がある。
もし気づかれたなら、町の人達に危険が及ばないよう、なるべく人気のない所に追いやる。
影朧となって町に戻ったと思えば子供を攫うとは。一体どういうつもりなんだ?



「最初に出でるは化け草履。続いて唐傘、傘化け、ばっさばさ」

「あの声は……!」
 思わず足湯から立ち上がって周りを見る天威・利剣。
 間違いない。グリモアベースで聞いたあの声だ。
「影朧……烏山 岩燕なのだろうか?」
 会って正体を確かめなければ。
 そう考えた天威は、直ぐに湯から出でて支度をする。
「さあ翔けよ!」
 大空にむかって剣を突く。
 すると天が割れ、そのかけ声に応えた。
 落雷が落ち、天威の前に黄金の輝きが舞い降りた。
 馬だ。
 戦鎧を纏った天馬が、天威の呼びかけに応じ天からやってきたのである。
「いくぜ相棒! 奴を追いかけるぜ!」
 敵を逃さじと、天威は馬に乗って駆けるのであった。
 馬を駆りて相手を追えば、出会うは嘆き悲しむ人々。
「なんだ? 何があった?」
 速度を緩め、何事があったかを尋ねてみることにした。
 堂々とした馬上の青年に、人々は口々に事情を説明してくれた。
 どうやら子供達が攫われてしまったらしい。
「何ということしやがる……許せねえ!」
 任せろと天威は胸を叩き、人々を勇気づけようとした。
「子供は必ず俺様が助け出す。安心して待っていろ」
 そう言うが早いか、彼は瞬く間に駆けていく。
 その姿を、残った人は見守るのであった。

 どこに行った?
 行方を追う天威であったが一向にその姿は見えない。
「最初に出でるは化け草履。続いて唐傘、傘化け、ばっさばさ」
「あっちか!」
 風にながれ聞こえてくる声を目印に、馬を駆ける天威。
 全速力で追いかけてはいるが、近づけている気がしない。
 聞こえてくる声が、大きくなった気がしないのだ。
「……おかしいぞ」
 いったん落ち着く為に、馬の脚を止めて辺りを見回す。
 自分の愛馬は、そこら辺の馬なぞ及びもしない瞬脚だ。
 なのに、距離を近づけないのはどうしてだろうか。
 辺りを見回した天威は、違和感の正体に気づいた。
「……この街って、こんなに入り組んでいたか?」
 足湯に浸かりながら眺めていた街並みは、こんなに入り組んではいなかったはずだ。
 それにいつの間にか、人の気配が全くしない。
 聞こえ感じるのは、影朧の陰の気だけ。
「はっ、都合が良いぜ」
 すらりと剣を抜き、身構える。
 一騒動になったときは人達に危害が及ばないようにと、場所を選ぼうと思っていた。
 逆に人気の無い場所へと誘われたのなら、臨むところ。
「思いっきり暴れても良いってことだよな」
 完全に臨戦態勢となった天威の前に、何者かが姿を現した。
 人か?
 否。
 それは天威がこれまでに見た物ではない。
 少なくとも、街の住人では絶対に無かった。
 赤ら顔の大男。しかも半裸と来ている。
「おい、お前。俺は影朧を追っている。敵か? 味方か? 子供の行方を知っているなら教えてくれ」
 剣を抜きながら問う天威に、大男は一喝した。
「うわん!」
「ああそうかい! 敵ってことだな!」
 それを挑発と見てとった天威は馬を走らせて突撃する。
 大男は逃げる様子もなく、腕を振り上げた。
「うわん!」
 丸太と間違えるような剛腕が振り下ろされる。
 だがそれが天威の顔を殴りつける前に、敵の胸元へと剣が深々と突き刺さる。
「遅え!」
 突撃の勢いをそのままに、馬から躍りかかって大男へとのし掛かり、柄までブスリと剣を突き立てた。
 どうと地に伏した勢いで剣が放れると、天威は血を振り切って剣に納めた。
「化け物は化け物を生み出すのかよ」
 影朧、烏山 岩燕は一体何をしようというのか。
 うんざりした顔で、騎乗し、妖の屍を見下ろした。
 そして見上げ、変異した街の迷宮を見つめる。
「悪いがもうひとっ走り頼むぜ、相棒」
 追いついて真意をただす。
 異界した迷宮をはやく抜けるために、天威は愛馬と一緒に駆けるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『鬼芝居師』

POW   :    演目『帝都百鬼夜行』
召喚したレベル×1体の【紙芝居の演目に登場する百鬼夜行の妖怪】に【怨念の鬼面】を生やす事で、あらゆる環境での飛翔能力と戦闘能力を与える。
SPD   :    演目『地獄の英雄、髑髏童子』
【紙芝居の演目】から、【古今東西のあらゆる魔法】の術を操る悪魔「【地獄の英雄、髑髏童子】」を召喚する。ただし命令に従わせるには、強さに応じた交渉が必要。
WIZ   :    演目『黄泉平坂彷徨記』
戦場全体に、【紙芝居を再現し、黄泉の鬼が徘徊する洞窟】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。

イラスト:黒丹

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は如月・ときめです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 男は幸せだった。
 愛しい息子と歩いているのだから。
 男は幸せだった。
 他の親は子を失えど、自分には息子がいるのだから。
 鬼の面を被った男が引く自転車の後を、骸骨の面を被った童子がついていく。
 男の名は烏山 岩燕といった。
 童子は、岩燕が産みだした架空の息子であった。
「はっはっはっ、愉しい愉しいなぁ。お前もそう思うだろう?」
 陽気な問いかけにも童子は答えず、童子は黙ってついていく。
 だが岩燕は幸せだった。
 キィと自転車を止め振り返る。
 振り返れば、居場所をつきとめ追いついてきた猟兵達の姿。
 それらにむかって烏山 岩燕は恭しく礼をする。
「これはこれは客人のお出ましだ。それでは芝居公演と行きましょうか。飴でも頂きながらごゆるりと。私の演目をお聞きください」
 がばりと荷台に仕掛けられていた装置が動く。
 それは紙芝居であった。
 そこに彼が描いた様々な妖怪の図画が見える。
「貴方はなにがお好きかな? いえいえ満足させましょう。阿鼻叫喚、悲痛に嘆き、怒りに憎しみ、これぞまさに鬼畜の所業。見せます出します魅せましょう。これよりいずるは百鬼夜行。烏山 岩燕の公演にござい」
 ちょんちょんと拍子木を打てば、たちまちあたりの様子が変化する。
 絵師は物事を描き、それを外へと出すことに成功した。
 偽りの世界へと全てを変えて、偽りの愛息と永遠に語り続けるのだ。
 他人の不幸を糧にして。
 「さあさあ御仁方、ではでははじめましょうか。最初に出でるは化け草履。続いて唐傘、傘化け、ばっさばさ、次にいずるは魑魅魍魎、猫また、犬神、獺、貂、百鬼夜行開幕に御座います」

 影朧『鬼芝居師』が、絵から妖怪を産みだして世界を塗り替えようと立ちはだかる。

 猟兵達は、この街で出会った事実を受けての、己が行動を選択するのであった。

※参加者全員まとめての描写になります
※ボス撃破後、軽いエピローグを挿入します
※完全アドリブでよければ◎を 描写が必要ない方は×を
※エピローグで行動をしたい方は○~~~~と
※○の後に行動をお書きください、適宜アドリブを入れて描写致します
※プレイング送信は10月16(金)8:30~10月17日(土)
※大変申し訳ありませんが、この間に送信していただけるようお願い致します
※休日を利用しての執筆で完成させたいと思っていますので、誠勝手ながらご了承願います
エウトティア・ナトゥア
アドリブ・連携歓迎

アドリブ◎

ほう、なかなか愉快な出し物ではないか。影朧らしく実に不愉快じゃ。
知っておるか?この手の出し物はめでたしめでたしで終わるものじゃよ。
もっと精進して描き直してくるがよいぞ。

この感じあの髑髏の面を被った小僧は現世の物ではないな。やはり召喚の術を嗜む影朧であったか。
かなり強い力を持っている様子、マニトゥには前衛をお願いして、わしはあれを抑えるとするか。
髑髏童子を風の障壁で取り囲み、障壁を生み出し続けてそのまま圧しこむのじゃ。
障壁には【技能:属性攻撃】で【浄化】の力を付与し、敵の魔法に耐性を持たせるかの。
さて根競べといこうか、お味方が影朧を倒すまでそこで大人しくしてもらうぞ。


テイラー・フィードラ


生憎鬼や化生の類は魔に連なる共のせいで見飽きているのだ。
しかし一つ見たい物がある。
この悲劇の幕引きを。して転生へと至る大団円を希望しよう。

真の姿に転じフォルティと共に駆けよう。
現れくる妖とは騎馬の一として切り結ぼう。
飛び交う攻撃はフォルティに任し避け進まん。急接近する敵が来るならば魔祓い宿す長剣にて切り捨て向かわん。
只の姿ならば難しかろう物も全盛期の肉体であるならば其れも容易い!

奴は明らかに箍を外している。しかして架空の童を己が子とし愛でる程の情深き者。其れすら救わずして何が王である!
故に、我が声を聞け。
汝、哀深く罪過積み重ねんとする者也。成らばその情、真なる妻と子へと宿した物を思い起こせ!


刹羅沢・サクラ
心苦しいな。子を失い、その果てに、人の子を攫うとは。
あなたの描く絵は、素晴らしいと思う。
しかし、鬼となり果てたからには、もはや斬るより他はない。
芝居の続きは、地獄の鬼にでも披露するがよかろう
それに飽きたら……奥方のところへ戻られよ
あの人は、離縁されたのちも、貴方を待っている

鬼の面の妖怪……されど、その媒体となっているは紙。
我が同胞の御業にて狐火を振るうなり。
投擲と残像にて数に対抗しましょう
妖怪どもを斬り燃やした後は、余力あらば紙芝居を自転車ごと叩き壊しましょう
子を拐かす娯楽には消えてもらう
この棍棒、名を薤露蒿里。人の生きる時は短く、故にこそ輝くものだ


音羽・浄雲
※アドリブ、連携歓迎です。

「大切な者を失う悲しみ、狂気に陥るほどの思い。ええ、わかりますとも」
 あの日腹に受けた槍傷がずきりと痛む。
「されどその感情を無辜の人々に向けるのは筋違いというもの。これ以上貴方に罪を重ねさせるわけには参りません」
 鬼に堕ちれば戻れない。
 しかし、その心だけでも。
「あらゆる術を駆使するとあらば、こちらは小賢しく立ち回らせていただきましょう」
 するりするり。鋼糸が伸びる。
 ゆらありゆらり。粘糸が舞う。
「切るも縛るも我が手のままに。さあ、その想いも意図もわたくしの糸で断ちましょう」
 
○温泉でお酒を飲みながら一時の休息を楽しむ(傷を見せるのを嫌うのでお腹は隠す感じで入浴)


鬼桐・相馬
【POW】◎
捜し求める存在の生死が全く分からず一縷の望みに縋っては絶望する日々、辛かっただろう
だが、その虚を埋めるものが道を踏み外したものであってはならない

紙芝居も演目の妖怪もよく燃えそうだ
周辺地形や障害物から[情報収集]、どう動けば奴らを効率的に集められるか[瞬間思考力]を駆使し分析
敵の攻撃は[結界術]で己に障壁を張りつつもある程度食らう
こちらを雑魚だと驕り・油断を植え付けたところへUC発動
纏めて[冥府の槍で焼却]

岩燕と童子への攻撃は極力控えたい
肩や腕等へ攻撃、動きを止めたところへ声を掛けられるだろうか

妻はお前の罪を半分引き受け、帰りを待ち続けると言っていた
同じ痛みを彼女に味わわせてやるな


垂没童子・此白
…大丈夫、サトーさんが一緒なら怖くありません
洞窟では暗視を活かし、気配を隠し忍び足で進み
第六感を働かせて出口を探ります

岩燕さんが、とても辛い思いをされたのは理解ります
でも、大事なお子さんを勾引かされた方々も、同じように深い深い悲しみに暮れているのです
湯殿で、貴方の絵を拝見しました。…とっても可愛らしくて、温かで…此の街の温泉を彩るに相応しい素晴らしい絵でした
あれだけ見事な筆を、人を苦しませるために使うのは…もう、お止めください

柄杓の先を影朧さんに向け、祈ります
どうか『鬼芝居師』でなく、「岩燕さん」として復たお会い出来たらと
ほら、波の音が…遠い遠い海の響きが聴こえるでしょう
今こそ、船出の刻です




天威・利剣
アドリブ歓迎
紙芝居の世界が本物になるとは……面白い。
まずは童子が相手か。UCで召喚した愛馬に跨り、攻撃を避けることに専念しよう。相棒、頼んだぜ。魔法というのは厄介だが、大技には必ず隙が伴うはず。一気に接近し、剣の一撃で切り伏せる。
鬼芝居師に向き合い、転生を促すために説得する。偽りの息子はもういない。子を失った親の悲しみは、貴様が一番よく知っているはずだ。次の機会があるなら、今度は子供達の笑顔を見たいとは思わないか?
〇子供達は無事か?怖い思いをしただろう。親子共々安心するように、言葉をかける。



 悲劇が一人の男を歪めてしまった。
 ここに居るのは更なる悲劇を起こそうと画策する鬼。
 そう、人にあらず。
 ここに居るのは街と家族を愛した烏山 岩燕ではない。
 鬼の企みに、幕引きを。
 そう願い、猟兵達は駆ける。
「逸る気持ちはしばしお待ちを。これなるは人にあらざる物語。怪異あやかしの類で御座います」
 鬼芝居師が厚紙を勢いよく引っ張ると、現れたのは妖怪の画。
 続けて三枚。
 芝居師の手が矢継ぎ早に動き、画が次々と現れたのだ。
 するとどうであろう。
 筆によって描かれた妖怪の姿は、たちまち実体を伴ってこの世に姿を顕現させた。
 まるで屏風から飛び出た虎のように。
 そしてそれは、影朧へと向かって来た猟兵たちをくい止めたのであった。
 むかってきた妖怪に武器を構える、テイラー・フィードラと鬼桐・相馬。
 彼らは倒すためにここに来たのでは無い。
 影朧に、烏山 岩燕に近づきたかった。
 岩燕と、話がしたかった。
 だが、いまだその距離は遠い。
「化物草子、しばしつき合う必要が有りそうだな」
「生憎と見飽きているのでな。まかり通るとしよう」
 偉丈夫たちが互いに頷き走る。
 その後を、刹羅沢・サクラが追った。
「もはや斬るより他はない、ですか」
 心苦しい。しかし、鬼となった者を見逃すわけにはいかない。
 テイラーと鬼桐は奴を説得する気でいる。
 しかし果たして、それが可能であろうか。
 いざとなれば……自分が斬る。
 サクラの眼には強靱な意志が輝いていた。
「それにはまず、奴等を相手どらなければなりませんね」
 集中砲火を避け、前衛が三方に散った。
 それぞれを妖怪が追いかけ、戦いの火蓋が切られたのであった。

「来るがいい。自分が相手をしてやろう」
 追いすがってきた集団に対し、テイラーは啖呵をきった。
 その眼に恐れはない。
 こいつらを蹴散らせば烏山に迫れるのだ。
「ただ剣を振るう……なんと容易き事よ」
 テイラーが笑った。
 その顔に精気がみなぎっていく。
 髪がざわめき、白髪に赤味が増していく。
 肉体が、変貌していっているのだ。
 漲る活力。
 若きあの頃の姿へと。
 ガラガラ、ガラガラガラと、乾いた音をたてながら敵が迫る。
 馬車。
 いや、この世界では牛車と言ったか。
 さりとて引く動物もおらず、されど独りでに車は動く。
 その前面には、大きな顔があった。
 朧車。
 この世界ではそう呼ばれた化物。
 場所取りなどの怨恨によって産まれたとされる妖怪であった。
 テイラーは知らない。
 ただ、目の前の化物を屠る。
 ただそれだけである。
「いくぞ! フォルティ!」
 車に乗る必要などなし。
 愛馬に跨りて、迫り来る車の群れを相手取った。
 怒号迫る車輪の響き。
 蹄の音は、その轟音にかき消されそうであった。
 だがしかし。
「おおおおおおっ!」
 突進同士の勢いを借り、車体に深々とテイラーは剣を突き刺した。
 両手で剣を掴み上げると、朧車はそのまま持ち上げられてしまう。
 なんという膂力か。
 そのまま勢いにまかせ、集団にむかって放り投げる。
 ガラガラと乾いた音に、更にメキメキと割れた音が加わった。
 妖の類はすでに見慣れている。
 今更どんな相手が来ようとも、たじろぐテイラーではない。
「今の私には貴様らよりも、もっと見たい者があるのでな」
 その結末を見たいがため、テイラーは陣形を組み直そうとする朧車の集団に、再度突撃を敢行するのであった。

 敵意が己に向けられるのがわかる。
 それに比例して、自分の感情が増大していくのがわかる。
 殺戮。暴虐。破壊衝動。
 違う。
 鬼桐は槍を力強く握りしめ息をついた。
 冥府の槍と称される得物が蒼白い炎を勢いよく吹き上げる。
 それは負の感情。
 鬼桐より生ぜし悪感情を槍が喰らい、彼の心は冷ややかになっていく。
 自分はそのようなことをしに、ここへとやってきたわけでは無い。
 鬼の面を被った影朧。
 あれは、倒すべき相手ではない。
 胸に手をあて、街での出来事を思い出す。
 冷静に努め、己の取るべき行動を反芻する。
 そんな鬼桐にむかって、妖怪が襲いかかってくる。
「邪魔だ」
 若干苛立ちを含んだ口調で、鬼桐は槍を構えた。
 その妖怪をいかに例えようか。
 頭は猿のようであり、胴は狸のようであり、手足は虎のようであり、尾は蛇のようであった。
 いかんとも形容しがたい獣。
 それを鬼桐は、烏山の家で見かけた図画へと当てはめる。
「鵺か」
 正解とでも言うように、トラツグミのような声で鵺が鳴いて迫る。
 咄嗟に槍を地面に叩きつけ、勢いよく飛び退いた。
 地面に突きつけられた槍は、避雷針のように落ちてきた雷を受け流してくれた。
 うろ覚えの知識であったが、雷光を操るというのは確かだっただようだ。
 障壁を纏いつつ防いだが、全身を軽い痺れが襲っていた。
 雷光によって生まれた巨影が、鬼桐へとのし掛かってくる。
 体格は優に自分の三倍はある。
 武器を離した鬼桐を仕留めようという腹であろう。
 だが。
 襲いかかる爪手を鬼桐は手刀を叩きつけて方向を逸らした。
 そのまま腕を取って絡め、柔道のように一本を背負って投げ飛ばす。
 槍の真上にと。
 先ほどより大きな鵺の悲鳴が起こる。
 モズのはやにえのごとく突き刺さった妖。
 そして鬼桐は拳を叩きつける。
 敵では無く、己の得物へと。
「失せろ」
 己にわだかまった感情の奔流が、槍を通して噴きあがる。
 断末魔の叫びが、蒼焔によって焼き尽くされる。
 敵が消失したのを見届けて、鬼桐は槍を引き抜いたのだった。

 影朧へとむかうサクラ。その脚が止まる。
 嫌な風。悪しき風。
 こちらへと吹いてくる風を避けるように、サクラは身体を動かした。
 すぱり、と衣服が斬れた。
 風の中に、ちらほらと光る何かが見える。
「なるほど、鎌鼬ですか」
 尾が刃になった鼬の群れ。
 それが風とともにサクラの周りを取り囲んでいた。
 風の妖怪。痛みもなく、小傷をつける妖怪だったはず。
 しかし妖怪の面々は、凶悪な鬼の面をつけていた。
「ただで通してはくれなさそうですね」
 吹きすさぶ邪風が、サクラを断ち切ろうとむかってくる。
 彼女はそれに対し、疾風のように身をきって躱す。
 鎌鼬が動揺する。
 素早く動いたサクラの身体が分かれる。
 複数の姿、分身して辺りへと散らばったためだ。
「実体がどれだかわかりませんか? 全て攻めればよろしいでしょうに」
 勿論そうさせるつもりは毛頭無い。
 袖がひるがえり、五指に手裏剣の束が煌めく。
 それが蒼白く燃えさかり、まるで掌中が火にくべられたように揺らめいた。
「鼬に狐、どちらが上かは知りませんが、同胞より受け継ぎし御業。負ける道理は無し」
 両の腕が動けば、四方に狐火手裏剣が飛び交った。
 素早く虚空を移動する妖怪の類。
 命中させるは困難であろう。
 ただの、妖怪であればの話であるが。
 空に飛び交った火の粉が、辺りを引火させて炎を生み出す。
 火達磨になってもがき苦しむは、鎌鼬の群れ。
 サクラには勝算があったのだ。
 岩燕の画より生まれし妖ならば、元は紙。
 なれば、火に脆弱なのでないか。
 そう、彼女は考えたのである。
 その予想は的中した。
 火を吸い込んだ風は熱風となって鎌鼬を焼き尽くす。
 一匹、また一匹と地に落ちて炭と化していく。
 雑魚に構う暇など無し。
 一瞥をくれただけで、サクラは駆け出すのであった。

 三者三様にて化物を屠り、影朧へと迫る。
「これはこれは客人たちよ! なんとも素敵な方々だ! 助けてくれ息子よ、お父さんはやられてしまう!」
 軽快な笑い声で鬼芝居師は距離を取る。
 その間に髑髏童子が割って入る。
 そしてその童子へと、更に割って入る者がいた。
「お前の相手は、この俺様だぜ!」
 一番槍は取られたが、見せ場はまだまだ残っている。
 天威・利剣が愛馬に跨りて対峙する。
 それを受けて童子が印を結び、はじめて言葉を口にした。
「……火葬」
「……! 相棒、頼んだぜ!」
 殺気を敏感に感じ取り、天威は手綱を取った。
 先ほどまで居た場所を、強烈な火球が通り過ぎていく。
「紙芝居の世界が本物になるとは……面白い」
 この童子もマヤカシであろうか。
 しかし先ほど見せた威力は侮れない。
 どうやらコイツは、そんじょそこらの輩とは違うらしい。
 天威も猪武者などではない。
 馬上にて剣を抜き、じりじりと隙を窺うのだ。
「なかなか愉快な出し物ではないか。影朧らしく実に不愉快じゃ」
 エウトティア・ナトゥアが加勢に入る。
「芝居というものはめでたしめでたしで終わりたいものよ。お主もそう思うじゃろ」
「ああ、当たり前だろ」
 敵を見据えたまま、天威が頷く。
 こうやって剣を抜いてはいるが、影朧を討つ気は彼には無かった。
 なんとかして説得出来ない物か、天威はそう考えていた。
「なれば、気持ちはわしと同じじゃな。お味方が影朧に近づくまで、此奴を押さえ込もうぞ」
「おお、やってやろうじゃねえか!」
 威勢の良いかけ声に呼応するかのように、マニトゥが飛び出した。
 天威も一緒になって駆けだしていく。
 そしてエウトティアは後方で、彼らを援護するために精神を集中させ詠唱を開始した。
 神剣と神獣、両方向からの攻撃。
 童子はいかにして避けるのか?
 否。
 その両手を地面に叩きつけて呟くだけ。
「動地」
 たちまち地面が隆起し、地割れを伴って岩石が噴きあがる。
 それは土の壁となって天威とマニトゥに立ち向かい、その身を叩きつけようと身構えていた。
「風の精よ、全ての悪意から彼の者を護れ!」
 エウトティアが叫ぶ。
 柔らかい風が天威達を包む。
 その障壁は激突の衝撃を和らげいなすことに成功した。
 壁の向こう側で、童子が離れへと飛ぶのが見える。
「流石は烏山殿のご子息殿。なかなかの使い手のようじゃな」
「敵を褒めてる場合かよ」
 馬を走らせながら、天威が行方を追う。
 その背にむかってエウトティアは声をかけた。
「なあに、わしらは奴を倒す必要はないしの。ここは根比べ、奴を影朧へ近づけさせないことが役目かな」
「ああ、そうだな。でも手柄は俺様が貰うぜ!」
 いつも通りの笑みを浮かべ、天威はマニトゥと連携しながら隙を窺うのであった。

 髑髏童子の援護は不発に終わったが、反撃を整えるのには十分な時間であった。
 ちょんちょんと拍子木を送り鳴らして、影朧が嗤う。
「抗う皆様に世間は厳しく、ころり転がり真っ逆さま。逆らう坂道何処まで続く。死出の旅路に相応しく、黄泉平坂ご案内。どうぞごゆるり堪能ください」
 ぐにゃり、と視界が歪む。
 世界が両側から閉じて、再び開く。
 静けさが、辺りを包んだ。
 一切の暗闇の世界へと。
 そして、そこかしこから、猟兵達を睨む殺気が近づいてくるのだ。
 暗闇での孤独。
「……大丈夫、サトーさんが一緒なら怖くありません」
 胸中の珠をしかりと抱き、垂没童子・此白は自分を鼓舞する。
 夜目が利くのが救いであった。
 落ち着いて周りを見渡せば、状況の変化に驚けど猟兵達の姿は見える。
 脱落した者はいない。
 蒼白い炎が、襲って来た一匹を燃やし、篝火となって周りの敵を浮かび上がらせる。
 それは幽鬼の群れであった。
 それぞれ武器を持ち、骸骨のような肢体でせまる悪鬼。
「黄泉軍(よもついくさ)……」
 黄泉路に蠢く冥界の兵士たち。自分たちはあの世へと落とされたか。
 たしか古代の文献には、その黄泉路からあったはず。
 だとすれば、出口はきっと必ずあるはずである。
 その道を探そうと、相手に気取られぬよう動く此白。
 そこへ音羽・浄雲が単騎は危険と、足音を立てずに近づいてきた。
「大丈夫ですか」
「音羽さん……! ええ、大丈夫です。私たちは黄泉路へと誘われたみたいです」
 此白は浄雲にむかって仮説をはなす。
 ここは影朧が造り上げた迷宮だということ。
 そして考えが正しければ、出口は必ずあるということ。
「左様ですか。しからば試してみましょう」
 黄泉平坂。
 その名には浄雲にも聞き覚えがある。
 死者が赴くと言う場所。
 あの世へといくに、亡者達がむかうと言われる場所。
「ですが、私はまだ逝くつもりはありませんね」
 あの日腹に受けた槍傷がずきりと痛む。
 死んだはずであったあの日々。
 復讐に生きてきた日々。
 それが走馬灯になって浄雲の頭をよぎる。
「大切な者を失う悲しみ、狂気に陥るほどの思い。ええ、わかりますとも」
 狂気に身をやつすのは簡単だ。しかしその後は虚無が続くだけ。
 烏山 岩燕は目の前の幽鬼達のように、冥府魔道に墜ちようとしている。
「されどその感情を無辜の人々に向けるのは筋違いというもの。これ以上貴方に罪を重ねさせるわけには参りません」
 生きていながらにして虚ろな人生を経てきた浄雲には、彼の気持ちがわかるような気がした。
 だが、かといって仲間を殺させるような真似事はさせない。
 すっと、眼を閉じて集中する。
 瞼の先に光明がみえた気がした。
「あらゆる術を駆使するとあらば、こちらも小賢しく立ち回らせていただきましょう」
 かっと眼を開くと、浄雲は両腕を左右に開いた。
 その指先から、細糸が次々と伸びる。
 四方八方に張り巡らされた蜘蛛の巣は、黄泉軍を絡め取り、白き卒塔婆と化して目印となった。
 次々と座標軸が刻まれ、仲間達によってトドメを刺されていく。
 此白が抱える桐箱がガタゴトと動く。
 サトーさんも知らせようとしているのだ。
 此白が見上げれば、そこには一筋の光明が。
「音羽さん、あれを!」
「承知」
 浄雲の掌から糸が放たれ、それはしかりと足場となり、地獄から脱出する蜘蛛の糸となった。
「では、脱出すると致しましょう」
 仲間へも糸を飛ばし脱出経路を知らせると、浄雲は安全を確認するために、一番に光へと飛び込んだ。
 浮遊。そして消失感。
 感覚が戻れば、猟兵達は元いた温泉街の路地に立っていた。
 眼の先には、影朧と髑髏童子。
 決着をつけるべく、偽の親子へと近づくのだ。

 髑髏童子が迫って来る。
 そこに現れるは天威であった。
「言ったはずだぜ、お前の相手は俺様だってな!」
 剣を抜いて対峙する背後を、仲間達が駆けていく。
 仲間が向かうのは影朧のもと。
 自分はこいつを食い止めるつもりなのだ。
「手柄は譲るがよ、美味しい処は貰っていくぜ」
 振りかぶって髑髏童子へと突っ込んでいく。
 上段に構えた大振りの一撃。
 しかしそれは距離が遠すぎる。
 童子が印を結び、迎撃の態勢を――取ろうとした。
 ウォウ!
 側面の死角からマニトゥが襲いかかる。
 あえて童子の前に姿を見せたのは策。
 別よりマニトゥが虚をついて攻撃するのが主であった。
「ははっ、言ったはずだぜ。手柄は譲るがよ、美味しい処は貰っていくってなあ!」
 背後の仲間にむけての言葉と思ったか?
 天威の剣が唸りをあげて童子へとむけられる。
 苦し紛れに片手で印を放つ童子。
「……烈風」
 激しく起こる竜巻。しかしそれは眼前の天威をすり抜けて雲散霧消した。
「わしもいることを忘れるでないぞ!」
 エウトティアが笑う。
 悪しき風を浄化することなど、巫女にとっては造作もないこと。
 がくりと膝をつき、童子が倒れた。
「一挺上がりだな!」
 剣をしまい、自分も仲間のもとへ加わろうと天威は踵を返した。
 エウトティアはその場へと残る。
 残って、敵を眺めていた。
 童子は立ち上がろうとしていた。
 致命をうけてなお、立ち上がろうとしていた。
 それは影朧の凄まじき召喚の術ゆえか。
 それとも、擬似とはいえ刻まれた、親子の情によるものか。
「影朧へと向かおうというのか? させぬ、させぬよ」
 優しげな声をかけて、エウトティアが祝詞を結ぶ。
 浄化の空気が髑髏童子へとのし掛かり、身動き出来なくさせる。
「そこで大人しくしておれ。小僧、お主は現世の者ではなかろう。あるがままの世界に還るがよいぞ」
 おそらく、背中越しに影朧との最後の一幕が語られよう。
 エウトティアはその結末に加わる気はなく、特等席で見守るのであった。

「おお! 息子よ! 凜吾郎よ!」
 影朧がはじめて動揺の声をあげた。
 それは軽口をたたくような口調では無く、我が子を慈しむ声。
「させません」
 ドームのように鋼糸が影朧の周りに展開させられた。
 相手を逃がさないように、対話を閉ざされないように。
「かの者は貴方の息子ではありません」
 浄雲が冷ややかに言い放つ。
 半球の中には、猟兵と影朧の姿のみ。
 他の者に騒がれることはなく。
「切るも縛るも我が手のままに。されど貴方の志、断てる道理無し。されば仲間が貴方の心を溶かしましょう」
 暗殺を極めてきた。
 だが、人を生かすことのなんと辛きことか。
 ずきりと、腹が痛む。
 その場を譲り、浄雲は後ろへと下がった。
「戯れ言を……それでは語ってあげよう!」
 鬼芝居師が自転車へと走る。
 また紙芝居で妖怪を呼び出そうとするのだ。
「逃げるな!」
 大喝。
 振り向けば、テイラーが叫んでいた。
「幻に逃げるな。貴殿の情は敬意を払って然るべき物。しかし、あのような架空の童に向けられるものでは無い。思い出すが良い!」
 疑心無き言葉が、影朧に向けられた。
 思わず足を止めてしまうと、乾いた音が響く。
 後ろをむけば破砕された自転車、粉々に吹き飛ぶ紙芝居の仕掛けがあった。
「ああ!」
「芝居の続きは、地獄の鬼にでも披露するがよかろう」
 鋲に穿たれた硬鞭を肩に掲げ、サクラは残骸を見下ろして呟いた。
 ため息をついて懐から状を出し、影朧へと突きつける。
「それに飽きたら……奥方のところへ戻られよ。あの人は、離縁されたのちも、貴方を待っている」
 サクラの言葉には哀しみがあった。
 心を許した者の場所に帰れる時がある。
 それは何と素晴らしきことか。
 時に羨んでしまいかねないそれをただ黙って押し殺し、サクラは硬鞭を薙いで自転車の残骸を吹き散らした。
 サクラが突き出して物。
 それに影朧は見覚えがあった。
 見覚えがあるが、自分には思い出せない不確かな物。
 はて、アレはなんであったろうか。
「思い出すがいい!」
 再びテイラーが叫ぶ。
 正道へと返れるならば、人はそこへと歩むべきなのだ。
 魔道へと墜ち、悪魔と取引するなどとは、本来あってはならないはずなのだ。

 影朧は思い出す。
 そうだ、あれは自分が書いたものであった。
 離縁状……そう、離縁状。妻にしたためた物。
 罪を悔いて差し出した物。なぜあれがここに?
 おかしい。私はなぜあれを書いた?
 凜吾郎……息子はここに居る。
 ならば何故書いた?
 なぜ妻と別れた?
 おかしい。何かがおかしい。
 虚飾に塗られ隠されたパラドックスに、現実の楔が打ち込まれ、影朧の信念が揺らぎ始める。
 ぴし。
 ぴしり。
 影朧の面にヒビが入った。
 悲鳴をあげ、影朧が両手で面を押さえる。
 そんな彼に、鬼桐が静かに近づく。
「お前の息子はいない。それを信じられず絶望する日々、辛かっただろう。だが、その虚を埋めるものが道を踏み外したものであってはならない」
 そっと、鬼桐も一枚の紙を差し出した。
 それは絵であった。
 烏山 岩燕が自ら描いた家族の絵。
 岩燕と静江と凜吾郎。
 家族が揃って、笑い合っている絵であった。
「妻はお前の罪を半分引き受け、帰りを待ち続けると言っていた。同じ痛みを彼女に味わわせてやるな」
 絵を押しつけて鬼桐は呟いた。
 相変わらずの無表情。
 しかしそこには、殺意以外のなにかが浮かんでいた。
 ぐしゃりと絵を握りつぶすように、自分の胸へと押しつける影朧。
 思い出した。思い出したぞ。
 自分の名前、妻の名前を。
「静江……」
 押し殺すような声が面から漏れる。
 ぴしりとまた音をたてて、面にヒビが入る。
 割れた音をたてながら、鬼の仮面が地へと落ちた。
 そこには男の顔があった。
 抜けかけ白くなった髪。痩せこけた頬。泣きはらし窪んだ双眸。
 血涙の名残であろうか、目のしたから頬にかけて、うっすらと赤黒い跡があった。
 鬼。
 まさしくその姿は鬼であった。鬼気迫る風貌であったのだ。
 だがその内にある愛情を、猟兵は知っている。
「偽りの息子はもういない。子を失った親の悲しみは、貴様が一番よく知っているはずだ」
 天威も声をかける。
 ここに居るのは鬼では無い。
 街を愛し家族を愛するあまり道に迷った悲しき男がいるだけ。
 その証左に、他の猟兵達は誰も彼に斬りかかろうとしない。
 天威もそうだ。
 矛を収めて岩燕へと語りかけるのだ。
「次の機会があるなら、今度は子供達の笑顔を見たいとは思わないか? 貴方は凄え芝居絵師だ。だが、ここいらで一幕だぜ」
 声をかけられ影朧は泣く。
 思い出したのだ。
 自分の所業を。
 この街にしでかした数々を。
 霞がかっていた頭が晴れるにつれ、自分の中を後悔が襲う。
 そうだ、この街が好きだった。子供が好きだった。
 ならば何故?
 子供を攫った? 街を襲った?
「私……私は……」
 罪の呵責が烏山 岩燕を襲う。
 その責で押しつぶされそうになり、自分が自分で無くなりそうになる。
 そんな岩燕に、温かい声がかけられた。
「自分を責めないでください。岩燕さんが、とても辛い思いをされたのは理解ります」
 此白は歩み寄り、じっと岩燕の眼を見つめながら言った。
 この人は、優しい人なのだ。
 呵責に押しつぶされてしまえば、また再び骸の海へと墜ちてしまうであろう。
 そうはしたくない。
 猟兵の任務は人を救うこと。
 そこに救うべき存在があるのなら、手を差し伸べる。
 少なくとも、此白はそう思うのだ。
「だが私は……街の人達に酷いことをした……」
 静かな悲しい声。
 鬼面が崩れてみせる岩燕の貌はただただ虚ろで、そして哀れだ。
「誰にでも過ちはあります。確かに、大事なお子さんを勾引かされた方々は、深い深い悲しみに暮れていました。同じように子供を攫われた辛さがある貴方だからこそ、今現在、胸を苦しめているのだと思います」
 ころりころりと桐箱のなかでサトーさんも揺れ動く。
 そうだ。
 彼の者も同じ気持ちなのだ。
 サトーさんから勇気を貰い、此白は続ける。
「湯殿で、貴方の絵を拝見しました……とっても可愛らしくて、温かで……此の街の温泉を彩るに相応しい素晴らしい絵でした。あれだけ見事な筆を、人を苦しませるために使うのは……もう、お止めください。貴方は十分に苦しみ、罪科をあがなってきました。もう独りで苦しみ悩むのは、お止めください」
 嗚咽。
 鬼が泣いた。影朧が泣いた。
 現実を受け止めて、烏山 岩燕は泣いた。
 涙水が頬から流れ落ちる。
 赤枯れた落葉が、彼の周りに落ちる。
 たまりかぶさったそれは、心底を吐き出した、彼の乾いた血液にも思えた。
「私は……帰ってもいいのだろうか? この街へ、妻のもとへ、……凜吾郎と逢えるだろうか?」
 その言葉に、一瞬此白は言葉に詰まった。
 しかし、強く頷き岩燕の言葉を肯定した。
「大丈夫です…此のうたかたが、導いて下さいます。貴方の還り路…〝憶い出の海〟へ……」
 此白の手に銀の柄杓が握られていた。
 それで汲み出す素振りをすると、岩燕の耳に音が聞こえてくる。
 それは潮騒であった。
「岩燕さん。ほら、波の音が…遠い遠い海の響きが聴こえるでしょう。今こそ、船出の刻です」
 ざざざざざざ。
 ざざざざざざざざざざざざ。
 波は次第に高くなり、辺りを沈める。
 不思議と息苦しくはなかった。
 心地よい感触が岩燕の身体を包む。
 母の胸に抱かれたあの時のような、安らかな気持ち。
 悩みや不安の一切合切が雲散霧消していく。
 その凹みはなだらかになっていき、心地よさがフツフツと泡立っていく。
 ああ、そうだ。
 何故この気持ちを忘れていたのだろうか。
 今すぐ妻に遭いたい。
 遭って、抱きしめて、謝りたい。
 それから街を歩いて妻と語ろう。
 友のからかいに足を止め、妻とはにかもう。
 それからそれから、凜吾郎のことを一緒に語ろう。
 前に進もう。共に歩もう。
 家族を愛すると誓った。
 若きあの日。神前の誓いは嘘では無い。
 それからそれから。それからそれから。
 思いが沸騰する。口にするのももどかしい。
 そうだ、自分にはこれがあるじゃないか。
「誰か、筆を……」
 その言葉は続かない。
 烏山 岩燕の身体は泡となって消えていったからだ。
 しかし此白は確かに見た。
 彼が、烏山 岩燕が笑って消えていったのを。
 ざざざざざざざざざざざざ。
 ざざざざざざ。
 潮騒がおさまっていく。
 その場に居るのは、猟兵たちの姿のみ。
 渇いた煉瓦路を月明かりが静かにうつす。
 煉瓦のひとつに残る一泡が、その明かりに照らしだされていた。
 猟兵達は、依頼を果たしたのである。

●それから~

 一夜が明けた。
 温泉街は何事もなかったかのように朝を迎えてた。
 天威はぶらぶらとその街中を歩いていた。
「特に変わった様子はないようだな」
 当たり前であるが、妖怪の姿は見えない。
 替わりに見知った顔をみかけ、声をかける。
 かけられた大人が天威の顔をみると、お辞儀を返してくれた。
 あの時、影朧に子供を攫われてしまった親だ。
 その足下には子供がはしゃぎまわっている。
 どうやら後遺症もなにもないようだ。
「おかげさまで……」
「助けるって言ったしな。怖い思いをしただろう」
 優しく声をかけるが、子供達は親の後ろに引っ込んでしまった。
 気を失っていたことのことは覚えてなく、自分は見知らぬお兄さんらしい。
 それで良い。天威はそう思った。
 怖い出来事など、覚えて無い方が良い。
 親子たちと別れ、おおきく伸びをする。
 朝の光が心地よい。
「そうだ。一風呂浴びて帰るとするか」
 あの時は足湯だけであったが、こうやって終わったいま、ゆっくりと湯を堪能しても罰はあたるまい。
 そうと決めたら。
 天威の姿は温泉街の一角にへと消えるのであった。

 街の一角に、エウトティアはマニトゥと共にいた。
 街の子供達はマニトゥが珍しいのか、しきりにその周りで囃し立てている。
 エウトティアはそれを咎め立てたりはせず、マニトゥも大人しかった。
 遠くに香具師や客引きの声がする。
 されど大人達の叫び声は聞こえない。
 温泉街に起こる行方不明事件。
 猟兵達はそれを防いだからだ。
 昨日の疲れでエウトティアは眠気に誘われる。
 街を吹き抜ける風は幾分寒いが、はしゃぎ回る子供達は感じてなさそうだった。
「結構結構、子供は元気が一番じゃからな」
 じろりと視線を感じれば、マニトゥと眼があった。
 お前も子供では無いか。そういいたげな顔であった。
 伊達に修羅場はくぐってないのじゃ。
 そう顔で言い返し、エウトティアは温泉饅頭をつまんだ。
 すかして上げれば、太陽がみえる。
 烏山 岩燕は夜空の向こうへと消えて行った。
 陽が昇り沈みを繰り返しいつの日か、救われる魂も必ずやあるであろう。
「やはり出し物はめでたしめでたし、愉快でなければのう」
 天へと放って食べ物を捧げ、落ちてきたそれをエウトティアは大口できゃっちするのであった。

「今回はどうもありがとうございました」
 自治会議所の面々が、テイラーにむかって頭を下げる。
「いや、私はなにもしてはおらぬ」
 謙遜では無く、テイラーは本当にそう思っていた。
 一連の騒動を治めたのは、自分一人の力ではない。
 仲間の助けがなければ、解決とはいかなかっただであろう。
 真意を悟られぬよう、会議所の連中に愛想を返して、テイラーはその場を離れて嘆息した。
「難しい物だったな」
 じっと手を見つめる。
 烏山 岩燕を屠るのではなく、生かす。
 それの何という難しいことか。
 果たして、それが成せたのであろうか。
 結末を見届けずにこの街を去るのは心苦しいが仕方があるまい。
 彼が現世へと還って来るのは、いつの日なのか誰も分からないのだから。
 いななきによって顔を上げる。
 傍にフォルティの姿があった。
 その背に預かり跨ると、愛馬は脚を速めていく。
 揺れと戦の疲れで、テイラーにぼんやりとした考えがよぎる。
「なあフォルティ……」
 自分は、お前を縛り付けているのではないだろうか。
 そんな言葉を言いかけて、口をつぐむ。
 主の動揺に、フォルティが脚を止めた。
 ふっ、とテイラーは薄ら笑いをうかべた。
「いや、何でも無い。しばし逗留しようと思う、おまえのが浸かれる湯があると良いのだが」
 踵を返し、今来た道を引き返す。温泉街の中心へと。
 そこに滞在し、彼の者の心に寄り添うのも悪くはなかろう。
 テイラーにそんな考えが浮かんでいた。

 人の生きる時は短く、故にこそ輝く。
 薤露蒿里を見つめ直し、サクラはそう思う。
 しかし人が想う愛の、何と儚きことか。
 忘れてしまえば楽になる。
 しかしさよならと嘘吹いても、それを忘れることが出来ないのが人の性。
「奥方のところへ戻られよ……か。少し、羨ましくありますね」
 自分にとって帰る場所など既に無し。
 それを自覚する度に、心に空虚な風が吹く。
「いけませんね」
 温泉町の喧噪が、どこか空々しく感じてきたことに気づき、サクラは腰をあげた。
 そうだ、甘味を食べよう。
 渇いた心にはそれが必要だ。
 岩燕には家族と絵があった。
 必要なもの、有るべき場所は、誰かしらに必ずある。
 自分には家族、愛する者などとうに無い。
 だから自分には、甘味が必要だ。
 はらはらと街を彩る紅葉に、サクラはふと思った。
「そうだ、紅葉饅頭も良いですね」
 感傷という錆は、己という刃を鈍らせる。
 自分は、独りでいい。
 そうすれば、悲しませる誰かが現れることはないのだから。

「今回は、色々ありましたね……」
 人目がつきにくい奥の方へと身を沈め、浄雲は独り静かに酒を飲む。
 依頼が完了した今、誰にはばかる事無く酒が飲めるのだ。
 その嬉しさに浄雲は痛飲した。
 肌を晒すのが浴場の常だが、浄雲は襦袢を纏って入浴した。
 年頃の娘が気恥ずがって肌を隠すのは珍しいことでは無い。
 他の入浴客はさしたる注目もせずに思い思いに湯を楽しんでいた。
 襦袢の上から腹を撫で、浄雲はひと息ついた。
 古傷というものは、時折疼くことがある。
 疼く度に、その時の記憶が思い起こされてしまうのだ。
 傷は塞がった。
 だが、あの時の記憶は薄れたことはない。
 おそらく岩燕も、失った記憶と傷にさいなまれていたのであろう。
 自分は幸運にもこうやって日々を省みることが出来た。
 あの者もいずれ傷が塞がったのなら、日々に戻れるのだろうか。
「ふふ、少々酔ってきましたかね」
 今、ここで考えても詮無きこと。
 ぐいと飲み干し、浄雲は三本目の銚子に手を伸ばすのであった。

 桜。紅葉。
 秋の温泉街を此白は歩く。
 すれ違うは人々。この日を楽しもうとする人々の姿であった。
 人は幸せを求める。それは当たり前のことだ。
 では、手を離れてしまった幸せは、何処で手に入れることができるのであろうか。
 烏山 岩燕は、ただ家族と過ごしたかっただけ。
 このすれ違う親子連れと、なんら変わりない心を持っていたはずだ。
 幻朧桜。
 その花びらは帝都を離れて尚、この地に咲き乱れている。
 桜は影朧を呼び寄せ、苦しめるためなのか。
 あるいは、人を輪廻に導くためなのか。
 此白にはわからない。
 ただ、岩燕が再びこの世に戻り、幸せであって欲しいと願うだけだ。
 街に流れる川にそっと、紙船を浮かべた。
 それはゆらゆらと揺れながら下流へと流れていく。
 願わくば、人としての幸せを。
 その時は、是非筆の妙技を見たい物だ。
 掌中の桐箱を抱いて、此白は語りかける。
「サトーさん……今日は、どこへ行きましょうか?」
 賑やかな声が聞こえる街の広場へと、童子の姿は消えていった。

 ガラリと戸を閉めて、鬼桐は家を出た。
 静江に報告へと、今し方それが終わったのだ。
 訪問した手前、自分がケジメをつけなければなるまい。
 そう考え、己独りで来たのだ。
 夫が影朧となっていたことを、静江は受け入れていた。
 自分たちがそれを討ったことも。
 いつか、この世に還ってくる可能性があることも。
 静江は答えた。
「私は、妻として帰りを待ちます。ありがとうございました」
 そう言って、鬼桐に頭を下げたのだ。
「強いな」
 独り呟く鬼桐。
 ひょっとして自分は、間違っているのではないか。
 嘘でも良いから生きている、そう伝えるべきでなかったのか。
 否。
 彼は再び、この地へと戻ってくる。
 そう信じてやらねば。
「……寒いな」
 吐く息が白い。
 秋はどうやら冬へと移ろうとしているようだ。
 そう、自分の身体が寒々と感じるのは、この季節のせい。
 湯にでも入ろう。
 鬼桐はそう思った。
「……酔えぬ身というのは、不便な物だな」
 槍よ、俺の感情を喰らうがいい。
 鬼桐は鞘袋越しにぎゅうと、槍を掴んでいるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月19日


挿絵イラスト