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テティスの星籠

#アックス&ウィザーズ #戦後

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#戦後


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●海から星へ
 キラキラ輝く星々が見える。
 凍て付く空気の中、澄んだ空気により美しく輝く光は希望に満ちた証のようで。
 その光に導かれるかのように、『光』へと想いを込めてみようではないか。
 静かな世界に響くは波の音。
 穏やかな音色に満ちた世界で――アナタは、何を想うのだろう。

●彷徨う先へ
「アックス&ウィザーズでは、毎日のように冒険者向けの依頼が並んでいることを皆さんならご存じですよね?」
 猟兵に向け、ラナ・スピラエア(苺色の魔法・f06644)は笑みと共に唇を開く。
 住民たちの困りごとは、基本的には酒場へと依頼が出され冒険者が解決する。それがアックス&ウィザーズの世界では当然のこと。
 けれど――その依頼の敵が、オブリビオンであることはさほど珍しいことでは無い。今回は、そのオブリビオンと思われる敵の退治をお願いしたいと、ラナは語った。

「オブリビオンがいるのは、迷宮の先です。まずは、その迷宮を抜けてください」
 迷宮は名を『夜の森』と語られる、1日中夜の世界が広がる不思議な森だ。魔法でも掛かっているのか、どの時間帯であろうとも一歩足を踏み入れれば世界は夜に染まる。
 暗く視界の悪い世界。そよぐ風は木々を揺らし、何やら不気味な声が聴こえてくるのは恐怖からくる幻聴だろうか。それとも迷宮故の不思議な生物でも存在しているのか。
 それは全て、不明。
 けれどそこは完全なる闇では無い。
 足元に咲く花。木々に生る花や揺れる木の実、闇の世界にひらひらと優雅に舞う蝶に、ふわふわと雪のように舞い散る胞子。
 世界に満ちる全てが、淡く光り輝き。足を踏み入れた人々を照らしてくれる。
「夜の恐怖はあるけれど、特に危険な生き物はいない森みたいです」
 折角だから、闇と光の世界を彷徨うかのように。ふらふらと歩んでみるのが良いだろう。夜に恐怖し、その場で立ち止まらなければ。奥へは辿り着ける筈だから。
 森の奥へと向かえば、世界は夕焼けに染まる。
 赤く染まる世界。空の赤は段々と夜へと移るグラデーションが見えるだろう。その世界の中揺蕩うのは――ふわふわとした、不思議な精霊。
「彼等は頭に植物を咲かせる精霊です。……けれど、オブリビオンとなっているので」
 勿論、通常の精霊とは違い危険を伴う。彼等が操る自然の力を込めたふわふわな攻撃は、人々の身を包み込めば温かくも心地良い気分に浸されるだろう。
「一見危険ではない、羊さんみたいな可愛らしい見た目をしています。けれど、強い誘惑でこちらの戦う意志を奪ってくるので注意してくださいね!」
 いつもよりほんのりと眉を吊り上げ、強く猟兵へと注意を促すラナ。彼等は自身のそのふわもこの体毛だけでなく、どこからともなく食料や人形、書物を作り出し、猟兵を誘惑してくるだろう。――直接傷付けることは滅多に無いようだが、無から有を作り出すことはオブリビオン化した影響のようで、世界に悪影響を与える可能性がある。
 しっかりと退治をお願いしますと、ラナは改めて言葉にした。

 全て終わり森を夜の迷宮を再び歩けば――近くの街でお祭りが待っているだろう。
 空にはまるで紺碧のインクを垂らしたような深い夜空が広がり、星粒をインクに零したかのようにキラキラと美しい星が瞬く。ぼんやりと浮かぶ月も煌々と世界を照らし、冬の澄んだ世界を染め上げる。
 街に広がる海は夜の闇に包まれ、澄んだ波の音を人々へと届けるだろう。
 闇の中の波の音。
 少しの恐怖と、癒しと云う相反する心地の中――街の人達が海に浮かべるのは、仄かな灯り。波に乗り、遠く遠く運ばれていくその光へ人々は『想い』を乗せるという。
 例えば、この一年の幸せを願って。
 例えば、立派な勇者になるという決意を胸にして。
 願いや誓い。強い想いを光に込めて、そっと海へと流せば。水平線上の向こう側にある、星に届きその想いが叶うと。そんな言い伝えのあるお祭り。
 街の中には数多の店が並び、海に流すランプや明かりの他、街の名産である硝子細工を見つけることも出来るだろう。
 その場で購入したランプや蝋燭に想いを乗せても良い。持参した物を用いても良い。
 何に、どんな想いを乗せ星へと届けたいか。
 それは、ヒトの数だけ存在す願いのカタチだろうから。
「星の下、ランプの光が映る水面はとっても幻想的で綺麗だと思います」
 冬の海は寒いので、風邪を引かないように気をつけてくださいと。最後に言葉を添えラナは穏やかに微笑む。
 全ては無事に事件が終わった後のことだけれど。
 暮れゆく迷路を彷徨った先に待つ本物の星空は、きっと一層美しい世界を映すから。

 静かな波音の上。
 仄かに灯る明かりは温かな橙に神秘的な青白に――。
 数多の光は想いを乗せて、瞬くあの星へと揺蕩ってゆく。


公塚杏
 こんにちは、公塚杏(きみづか・あんず)です。
 『アックス&ウィザーズ』でのお話をお届け致します。

●シナリオの流れ
 ・1章 冒険(ラビリンス)
 ・2章 集団戦(木の精霊・まんどらめぇめ)
 ・3章 日常(星送り)

●1章について
 夜の森の迷宮です。
 森の中には地に咲く花、木々の花や木の実、ひらひら舞う蝶や胞子など。
 無害ですが光り輝くものが無数に存在します。例に挙げたもの以外でもご自由に想像してください。
 迷路を彷徨いながらお好きに過ごして頂ければ良いですが、3章でお好きな『光』を用いたい場合はこちらで集めて下さい。
 夜に負けなければ、迷宮を突破することは難しくないので特に対策は不要です。

●2章について
 迷宮の奥にある、夕焼け空の開けた場所。
 敵はふわふわの毛並みで攻撃したり、誘惑するものを出して一緒に遊ぼうと誘ったりします。
 戯れつつ最後にはしっかり倒してください。(一言あれば大丈夫です)

●3章について
 時刻は夜。
 美しい星空と海を持つ街でのお祭りです。
 星の下並ぶ夜市は様々な星をモチーフにした硝子製品が並んでいます。

 海へと『1年の願いや抱負』を込めて、ランプを流すという習わしがあります。
 ランプの容れ物は街のほうで準備済み。並ぶ夜市で様々な容れ物が売っていますが、特に指定無ければ細長い硝子製で描写致します。
 中の光は基本的には蝋燭を用いますが、1章で手に入れた各々の『光』を込めても大丈夫です。
 どのような光に、どんな想いを乗せるかを考えて頂ければ。
 こちらのみ、お誘いがあればラナがご一緒させて頂きます。

●その他
 ・全章通して心情だったりお遊びだったりです。
 ・同伴者がいる場合、プレイング内に【お相手の名前とID】を。グループの場合は【グループ名】をそれぞれお書きください。記載無い場合ご一緒出来ない可能性があります。
 ・途中からの参加も大丈夫です。
 ・許容量を超えた場合は早めに締め切る、又は不採用の場合があります事をご了承下さい。
 ・受付や締め切り等の連絡は、マスターページにて随時行います。受付前に頂きましたプレイングは、基本的にはお返しさせて頂きますのでご注意下さい。

 以上。
 皆様のご参加、心よりお待ちしております。
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第1章 冒険 『ラビリンス』

POW   :    力こそ正義、歩いたとこが道である

SPD   :    片っ端からしらみ潰しに探索すれば何れは正解にたどり着く

WIZ   :    迷ってなんて居られるか!不思議な力で突破する!

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●輝きをその手に
 一歩踏み込めば、世界は闇に包まれる。
 人の居ない闇の森は寂しく、不気味で、一層寒さを増すような気がする。肌を撫でる風が吹けば、冬にも関わず不思議とそこまで冷たくは無いのだけれど。心と交わる感覚は、迷宮の中故に迷子になっているよう。
 さくりと踏み出せば、その衝撃に足元の花々から光の粒が舞う。
 ひらひらと舞い踊る青白く光る蝶。
 木々に咲く花々は虹色に輝き、あちらこちらに咲く花は淡く淡く金色に輝いている。
 此処は、一日中夜に包まれた不思議な迷宮。
 人を惑わせる複雑な道程では無い。感覚を狂わせるような魔法も掛かっていない。
 ただ、闇が続くだけの夜の迷宮。
 けれど闇の世界は、人々の心を惑わす不思議な力を持っている。
 だからだろうか。目の前に輝く、光に惹かれてしまうのは――。

 ほら、手を伸ばせば。アナタの光が輝くよ。
狹山・由岐
光と闇が調和する
幼い頃に絵本で見た
御伽噺のような場所
…なんて、叙情的過ぎるかな

夜の森は暗く恐ろしく
身も竦むものだと聞いていたけれど
流石は魔法が息衝く世界
現代社会に生きる僕には眩い程
ささやかな驚きに溢した吐息は
ふわり浮き游ぶ胞子を浚い
きらと仄かに揺れて消えた

鳥の羽搏きと落つ碧も
花の微笑みと咲く赤も
此の目を引くには充分で
其の脚は怯み止まること無く
寧ろ先へと進んで征く

螢火のように彼方此方と燈る中
いっとう心を惹くひとつへ指を伸ばせば
戯れにくるりと舞って留る光

――嗚呼、見つけた
夏空に咲う向日葵のような
あたたかくいとおしい君の色




 闇に染まる世界。
 淡い光が風に舞い、揺れるその情景はまるで幼い頃に絵本で見た御伽噺のような場所。
「……なんて、叙情的過ぎるかな」
 浮かんだ言葉に狹山・由岐(嘘吐き・f31880)は、薄く笑んでみせる。
 風が頬を撫で、さわさわと揺れる葉の音が耳に届く。
 淡い光が灯ろうとも、先の見えない闇の中。それは身も竦むような恐怖だろうと、由岐は思っていた。けれど今、こうしてこの世界に身を置いてみれば――思っていたほどの恐怖は感じない。否、魔法の馴染み無い現代世界に生きる由岐にとっては、満ちる仄かな光達はむしろ眩しくも感じた。
 淡い青の瞳を細め、ささやかな驚きにほうっと彼は息を零す。
 迷宮であるこの地には不思議な力が働いているようで、寒さを感じない為その息は白く染まらない。闇の中、誰にも気付かれないその吐息へと――ふわりふわりと、舞い落ちる白に淡く光る胞子が揺れて消える。
 鳥の羽ばたきに落ちる碧。
 微笑むように揺れる、咲き誇る花の赤き色。
 闇の中だからだろうか、由岐の目を引くのは。
 暗闇だからと足が止まることは無い。前へ前へと、由岐は怯むことなく先へと進んで行く。足元を掠める柔らかな光。どこまでも続く花光の海。木々が灯ればイルミネーションのようにちかりと瞬き、不規則にひらひらと舞うのは輝く生き物。
 その光達が、まるで螢火のようだと由岐は想う。
 零れる吐息は無意識に。この美しき景色は言葉にするのは難しい。どの色も、どの光も魅力的で。怯む事など忘れてどんどん奥へと歩を進めていく。
 此の世界全てが心に焼き付くような色をしているけれど――。
「――嗚呼、見つけた」
 歩む先で、心が一層跳ねたのを感じ彼はそっと手を伸ばしていた。光は逃げることも無く、戯れるようにくるりと舞ったかと思うと由岐の掌の中へと納まる。
 夏空に咲く、向日葵のような温かな色。
 それはあたたかく、いとおしい君の色――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エルネスト・ナフツ
ありとあらゆる場所に光が散っておる。
夜は我の領域。我の住処。
散らばる光を集めよう。

掲げたカンテラへと星屑の光を集めようぞ。

我がひとみに宿る星屑よ。
闇の元で光輝け。

闇の濃い場所でないと我は歩くことすら億劫だ。
しかし、しかしだ。
この光は良い。
砕けたそなたらも星としては未熟だろう。

……砕けた星屑を拾い集めたならば、
名も無き星へと変わるだろうか。
そんなの、夜迷いごとよ。

闇の迷宮を歩いて、我は向かうのだ。
どこへ?
決めてはおらぬ。

光の無い方へ歩こう。

今は闇の騎士もおらぬ。
ひたすら歩いて疲れたら休憩をしよう。




 空は見えない闇の森。
 闇に包まれた世界は、先は見えない程の黒に染まっているけれど。天にも地にも満ちる様々な光が散り輝いている。
 その闇に溶け込むような黒を纏う少女、エルネスト・ナフツ(神の聖者・f27656)は息を零し輝くような青い瞳を細めた。
 彼女は世界の反対側に焦がれる少女。夜は彼女の領域で、彼女の住処。
 だからだろう――このような知らぬ闇の世界でも、恐怖など感じないのは。
 そっとエルネストは細い腕をあげ、手にしたカンテラを掲げる。
 今は光を持たない無の存在。その中へと――星屑にの光を集めよう。
「我がひとみに宿る星屑よ。闇の元で光輝け」
 呪文のように紡がれる言葉。
 その言葉に反応するように、ちかりと辺りの光が瞬いた気がした。
 輝くように美しい色を宿す瞳に映る世界は、完全な闇では無い。
 闇の濃い場所でないと、エルネストは歩くことすら億劫だと普段ならば感じるはず。
 しかし――。
「この光は良い」
 瞬いた光に手を伸ばし、そっとエルネストは静かに紡ぐ。淡く光る色はエルネストの仄かに纏うような青色で。砕けた星屑は星としても未熟なのだろう。
 そんな彼等を拾い集めれば、名も無き星へと変わるだろうか――?
(「そんなの、夜迷いごとよ」)
 浮かんだ自身の言葉を否定するように、仄かに笑んでエルネストは小さく首を振った。
 けれど彼女はカンテラに光を詰め込むと、迷宮の奥へと足を進める。
 そう、エルネストは向かわなければならない。
 目的地など無い。ただただ、光の無い闇の奥へと進むのが今日の彼女の進むべき道。
 今は闇の騎士もいないひとりぼっちだから。闇を彷徨い疲れたのなら、足を止めて休憩をしよう。怖くなどは無い。闇の中、輝く星屑はこんなにも美しいから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

波瀬・深尋
キトリ(f02354)と

夜の森は怖くないか?
肩座っても良いから近くに来いよ
キトリが怖くならないように
ちゃんと一緒に居るから
俺か?──俺は、怖くないな
夜は何もかも隠してくれるだろ

足元の光を頼りに迷路を進む
そんな中、羽ばたいた蝶に目を奪われた

お前が舞ってるように見えたから
気を引かれた、なんて言えず
何でもないよ、と誤魔化したけど
──全部、お見通しか
困ったように笑って
見逃さないよう追い掛けた

キトリは光、集めるのか?
何か気になるものあれば良いが
俺は、…──こういうの悩むからな
暗い中でも輝かしい灯りは
一層眩しく見えて双眸を細める

キトリが、それを選ぶなら
俺が手を伸ばしたのは
星が煌めくお前の瞳に似た色の花


キトリ・フローエ
深尋(f27306)と

静かで暗い夜の世界は
ひとりだったらきっと怖くて
先に進めなかったかもしれないけれど
今は、あなたがいるから怖くはないわ
ありがとう、と肩に座れば何故だか安心する心地
…深尋は、夜を怖いと思う?

暗闇を照らすひかりは星のよう
彷徨っていた視線の先で蝶が羽ばたいた瞬間
あなたの肩が小さく揺らいだ気配に瞬いて
誤魔化す素振りについ笑ってしまう
…見間違えないでね、あたしはここよ
ふわりと羽ばたいて、光を探しに

せっかくだから、連れていきたいの
虹色の花も金色の花も綺麗だけれど
あなたの瞳の色に似た
夜空みたいな青い花の光に手を伸ばす
…お揃いね?
あなたが手にした光
あたしのとは少し違う、けれど同じ青に微笑んだ




 天を覆う深い葉。
 星の瞬きも届かぬ深い闇の森の中、キトリ・フローエ(星導・f02354)は不安げにアイオライトの瞳を揺らすと、小さな身体を抱き締めた。
「夜の森は怖くないか? 肩座っても良いから近くに来いよ」
 そんな小さな彼女へと、波瀬・深尋(Lost・f27306)は視線を送り言葉を掛ける。睨むように鋭い眼光。けれど滲む言葉には優しさがこもり――ふっと、キトリは笑みを零す。
 静かで暗い、夜の世界。
 ひとりだったら怖くて、先に進めなかったかもしれない。
 けれど――。
「今は、あなたがいるから怖くはないわ」
 融けるように笑みを零し、星輝く翅を羽ばたかせ彼女はそっと彼の肩へと腰を下ろす。仄かに伝わる重みと体温。彼女の存在を確認すると、深尋はキトリが怖くならないように、ちゃんと一緒にいると安心させるように紡いだ。
 すぐ傍で聴こえる声。
 涼やかな風吹く中伝わる熱。
 その心地にキトリは安堵の息を零すと――そのまま彼を見上げ、ひとつ問う。
「……深尋は、夜を怖いと思う?」
 その言葉に深尋は、藍色の瞳をひとつ瞬いた。
「俺か? ──俺は、怖くないな」
 一瞬考え、紡がれる答え。――だって、夜は何もかも、隠してくれるだろ。
 その言葉にキトリの瞳がちかりと星のように瞬いた。歩を進めれば数多の色がふたりへと落ち、世界と共に染め上げる。足元を照らす花々の光は道行を照らし、木々に咲く光はまるで星のように瞬く。ひらりと舞い踊る蝶はこちらへと手招くように見えるが――。
「深尋?」
 ぴくりと小さく彼の肩が揺れたのが、腰を下ろしているからこそ分かった。だからキトリは不思議そうに、そうっと彼を見上げて問い掛ける。すぐ傍で聴こえた彼女の言葉に、意識が遠くへと移っていた彼は現実に戻されるように視線を下ろし。
「何でもないよ」
 と、誤魔化すように紡ぐ。
 本当は、キトリが舞っているように見えたから。気が引かれた――とは言えない。
 そんな彼の言葉と行動に、キトリはくすりと笑みを零す。
「……見間違えないでね、あたしはここよ」
 そのまま彼女は肩から離れると、輝く翅を揺らしながら世界を舞った。
「──全部、お見通しか」
 キトリの言葉に深尋は、誤魔化せなかったことに笑みを落とす。
 キラリ、キラリ。輝く翅に舞い散る鱗粉。何故だろう、その光はこの世界に住まう光よりも深尋の瞳に強く映る。深尋はそのまま、小さな彼女を見逃さないように追い掛けた。
 輝く光は数多の世界。
 闇故にどれも光は強く瞳に焼き付くようで、けれども離せぬ彼女の光を見遣りながら、ふと深尋は唇を開く。
「キトリは光、集めるのか?」
 此の世界を形作る、不思議な光を――。
 彼の問い掛けに、キトリはくるりと向きを変えると。深尋を真っ直ぐに見つめながら笑みを零す。キラキラと光を纏わせながら、彼のすぐ傍に咲く花へと近付くと。
「せっかくだから、連れていきたいの」
 そう言って彼女が手にしたのは、夜空のような青い光の花。深尋の瞳の色に似た、深い深い藍の花。――虹色も、金色も心惹かれるけれど。キトリの心の強く映ったのは、この色だったから。
 小さな彼女にはやや大きいその花を手にすると、頬を微かに染め彼女は笑う。
 光を手にした彼女を見て――深尋は、こういうのは悩むと改めて思う。
 暗い中でも輝かしい灯りは、一層眩しく見える。その眩しさに思わず双眸を細めてしまうけれど――。
「キトリが、それを選ぶなら」
 ――そう言って彼が手を伸ばしたのは、星が煌めくキトリの瞳に似た色の花。
 ぷちりと微かな音響かせて、摘み取りじっとその花を見る深尋に向け。
「……お揃いね?」
 大切そうに花を抱きながら、キトリは微笑む。
 ほんの少し違う、けれど同じ青を互いに手にしたから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

惑陸・マリヤ
くらいくらい籠の中
独り過ごす日々が、私という龍のすべてだったのです

はじめて降り立った地は、暗い森の中
地に触れる足が、星のように瞬く花が、木々や花々の香りが―私を迎えてくれたのです
この花はなぜ光っているの?
この木の実は何かしら
土の感触が心地よいわ
風に揺れる花に、光の蝶が舞い降りる
きらりきらり、風に流れる光の光景の美しきこと

私はもう囚われの龍ではない
自由なのだ―光に誘われるように
心地よい光を纏いながら夜を駆ける
私の四肢で!
嬉しくて楽しくて、笑顔が溢れてとまりません!

光る花弁に、美しい原石、蝶の鱗粉に、不思議なキノコ――
光の欠片を集めます
暖かな心と共に
今宵、見つけた眩いひかりたちを私の心に灯すのです




 くらい、くらい籠の中。
 独り過ごす日々が、惑陸・マリヤ(龍は戀う・f31760)という龍のすべてだった。
 記憶の底に満ちる感覚。
 けれど今――降り立つ地はその知っているくらい籠では無い闇の森の中。
 彼女の龍である四肢に触れる地の感触。星のように温かく瞬く花。ざわりと風が吹く涼やかな風と、その風に乗り運ばれてくる木々や花々の香――それが、マリヤを迎えてくれ彼女は大きな瞳を見開いた。
 零れる吐息は無意識に、音も鳴らずに掻き消えていく。
 勇気を出して一歩踏み出せば。美しき光に近付いて行く。
 この花はなぜ光っているの?
 この木の実は何かしら。
 土の感触が心地よいわ。
 次々に浮かぶ疑問。風に揺れる花に、ひらひらと光の蝶が舞い降りる。
 淡い光を持つ胞子は、ちらちらと舞い落ちる。風に流れる光の光景の美しさに、身体全体で感じる闇森の不思議さに、その心地良さに。マリヤはきゅっと唇を結んだ。
 そう、私は――もう囚われの龍ではない。
 自由なのだ。
 そう思った瞬間、マリヤは駆け出していた。
 大きな足が地を踏み締めれば、その衝撃に光の胞子が舞い上がる。ちらちらキラキラ、輝く心地良い光を纏いながら、闇の中をマリヤは駆けていく。
 マリヤにとって、この闇は恐怖などでは無い。
 くらいのは知っている。けれど、この闇は違う。だって、彼女は自由なのだ。
「私の四肢で! 嬉しくて楽しくて、笑顔が溢れてとまりません!」
 星屑宿す熨斗目花色の瞳を輝かせて。頬を微かに上気させて。光を知らぬ肌に落ちるのは、太陽の光では無いけれど。その仄かな光が温かく優しいから――光る花弁に美しく瞬く原石、キラキラ輝く蝶の鱗粉に不思議なキノコ。ありとあらゆる光を手にしては、マリヤは珍しそうに、そして嬉しそうに微笑んだ。
 暖かな心と共に。
 ――今宵、見つけた眩いひかりたちを私の心に灯すのです。
 何を知りたいかは分からないけれど、この暖かさは初めての光だから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リリシュクルリ・リップス
一歩踏み入れれば夜になってしまう森
素敵だけれど
星が見えないのは少し残念なの

でも…
光るお花や蝶さんなんて初めて見たの!
胸の高鳴りに心も躍って
頬もいつしか薔薇色に

花々や蝶を追いかけ
お気に入りの靴を弾ませる

ときどき地に咲く花に見惚れてしゃがみ込んだり
蝶を指に乗せようと手を伸ばしたりして。
まるで自由気ままな猫さんみたい

森を進む中で
ふと淡桃に光る花を見つける
今まで見た森の花よりも
不思議と心惹かれて

持っていきたいけれど
手折るのも可哀想だから……
魔法で同じような花を咲かせられないかしら?
【幻夢】でそのお花を模倣するよ

上手く咲かせられたら
花や蝶にみちびかれるまま
迷宮の奥へ…




 此処は一歩踏み入れれば夜になってしまう、不思議な森。
 その闇は不思議だけれど――。
「星が見えないのは少し残念なの」
 深い深い葉に覆われた天を見上げながら、リリシュクルリ・リップス(あまいゆめ・f31655)は甘い言葉を紡いだ。
 世界はどこまでも続く闇の中。
 けれど、だからだろうか。光る花や蝶が、こんなにも美しく優しいのは。
 ひらひらと、目の前を舞う淡い春色に光る蝶。
「光るお花や蝶さんなんて初めて見たの!」
 キラキラと輝く朝焼けの双眸。とくんとくんと、胸の高鳴りを感じるようで、いつしか頬も薔薇色の染まっていく。ばら色の唇から零れる声はどこまでも甘く溶けるようで、そのままリリシュクルリは嬉しそうに駆け出した。
 弾むのはお気に入りの靴の音。
 輝く花に舞い踊る蝶。全てがリリシュクルリの心を動かし、追い掛け、手を伸ばし、見惚れて――この闇の世界でも、彼女は戸惑いなどはしない。ひらりと光が逃げてしまっても怖くない。この世界が、光る色が、心地良いから。
 ふわふわと舞うのは苺融ける乳紅茶色の髪。散る光に染め上げられた髪は甘く甘く融けていくように見える中――ふと、リリシュクルリは足を止めた。
 じいっと彼女の視線が注がれるのは、一輪の花。
 淡い桃色に光る、数多の花弁を抱く優しい花。
 それはこの森に咲く花々と同じように、優しく世界を照らしている。
 けれど、どうしてだろう。今まで見た森の花よりも、不思議とリリシュクルリの心は惹かれて目が離せなくなる。
 そうっと手を伸ばしそうになり――そのまま彼女はきゅっと掌を握る。
 この輝きを持っていきたい。けれど、手折るのは可哀想だと思う。
 だから――。
「魔法で同じような花を咲かせられないかしら?」
 くるりと指を動かして、呪文を唱えれば掌に咲くのは淡桃の花。世界を照らす優しき光は、今はリリシュクルリを優しく照らしてくれている。
 その花の温かさをすぐ傍で感じ、彼女は優しく笑むと――そっと大切そうに胸に抱き、再び歩みを進み出す。
 ひらり、ひらり。
 輝く花や蝶達は、もっと奥へと手招くように揺れ動く。
 さあ、魔女を手招く先に待つにはなあに?

大成功 🔵​🔵​🔵​

フィリーネ・リア
闇は魔女の時間
怖いというよりは安心の色ですわ
森の迷宮は心躍りますの
ふふ、飽きそうにありませんわね

迷宮内で見えるのはたくさんの色
ふふ、ぼくの好きな彩ばかりですわ
その中でも眼を引くのは木々に咲く虹
今日は虹色を集めましょう

一緒に住んでるあの子に見せてあげたいから
いっとう綺麗な虹を見つけられると好いのですけれど
その後は楽しく散歩出来るかしら
だってだって
沢山の色を見られる森の迷宮なんて
ぼくにはお宝ばかりですもの!
沢山の色をぼくに見せてくださいませ
どの色もきっと、ぼくのこころ(記憶)を彩ってくれますもの
視た色も忘れませんわ

もし誰かに出会ったら
こんばんは、御機嫌よう
色探しのお手伝い、ぼくにもさせて下さいな?




 闇は魔女の時間。
 普通の人ならば恐怖にその身は震えあがるのかもしれない。けれど、魔女であるフィリーネ・リア(パンドラの色彩・f31906)にとっては安心する色。
 自然豊かな地も、そこに溢れる色も。全ては彼女の馴染み心躍るイロ。
「ふふ、飽きそうにありませんわね」
 口元に手を当て、ころころと微笑むフィリーネ。それは人形だからでは無い。魔女故の余裕が滲んでいた。
 闇に染まる世界に満ちる色は、一等輝く白。温かく包み込む橙色。夜空に瞬く星のような青白い光に、燃える炎のような赤――数多に満ちるその色合いに、フィリーネは心地良さそうに茜映す瞳を細める。
 彩を操る彼女にとって、色に満ちた世界は心が躍るものだから。
 どれもこれも魅力的で。その全ての色を手にしたいとも思う。
 けれど――伸ばし掛けた手を止めて、きゅっと握った後フィリーネの視線はひとつの木へと注がれる。そこには、キラキラと光の色を変える花が見えた。
 燃えるような赤から段々と淡くなり、そのまま闇に溶け込むような藍へと変わりまた戻る。そんな、息吹の呼吸のように虹に輝く花々は、フィリーネの眼を一層引いた。
 長いマントを翻し。柔らかなワンピースの裾を軽やかに揺らし。木に近付くと彼女は楽しげに花々を見遣る。
 一緒に住んでいるあの子に見せてあげたいから。
「いっとう綺麗な虹は……」
 茜色をうろうろと動かして光を映す。
 どれも綺麗に輝き、瑞々しく咲き誇っている花々。――その中で、強く強く茜色に映る色を見つける。それは小柄なフィリーネには少し高い所に咲いているけれど。彼女は精一杯背伸びをして、ぷるぷると震えながらなんとか手にすることが出来た。
 手にすれば輝く虹色は一層強く輝いている気がする。瞳も、肌も、髪も。全てが花の色に染まる中、フィリーネはその美しさにほうっと溜息を零した。
 そのまま彼女は顔を上げると、さくりと軽やかな足取りで一歩踏み出す。
 まだまだ奥へは辿り着けない。それならば、目的地までの道程を楽しんでも罰は当たらないだろう。だって、沢山の色を見られる森の迷宮なんて。フィリーネにとってはお宝のように美しい景色だから。
「沢山の色をぼくに見せてくださいませ」
 どの色もきっと、フィリーネのこころ(記憶)を彩ってくれる。
 視た色を忘れないようにと、大きな瞳を輝かせて。彼女は迷うことなく闇を彷徨う。
 御機嫌ようと紡がれる声すらも、戸惑いなど滲ませず――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花澤・まゆ
…夜は、嫌い
捨てられたあの日を思い出すから
肌を撫でる冷たい風も遠く聞こえる獣の声も
みんなみんな、あの捨てられた日を思い出させる

でも
恐怖に目を瞑って一歩踏み出せば
光る花に光る果実、揺れる葉も時折輝き、
蝶や虫たちが光りを放って生きている

なんて、綺麗
そして、なんて逞しい

暗闇に嘆くことしかしなかったあたしに
まるで「自分が光になれ」って言っているかのよう

力を、分けてもらってもいいかな
光る花を一本摘み取って、それを懐へ
あとで、大事な祈りに使おう
力を貸してもらおう

歩くリズムも軽くなる
あたしはあたしの光になる
きっと、それでいいんだ、よね?

アドリブ歓迎です




(「……夜は、嫌い」)
 一歩足を踏み入れれば、花澤・まゆ(千紫万紅・f27638)を包み込む闇の世界に彼女はきゅっと唇を結んだ。
 そう夜は――捨てられたあの日を思い出す。
 肌を撫でる冷たい風。遠く遠く聴こえる不気味な獣の声。
 それは全て、あの日を思い出す鍵となる。
 胸の前できゅっと手を握り、自身の身を守るように白き翼で細い身体を覆う。
 恐怖に包まれれば立ちすくんでしまいそう。けれど――湧き上がり心を満たす恐怖に必死で目を瞑り、まゆは勇気を出して一歩進む。
 かさりと草を踏みしめる音が聞こえたかと思えば、その衝撃にかふわりと光の粒が舞った。すぐ傍の木々には光る果実が揺れ、光花の海が先まで広がる。
 揺れる葉も、まゆの周りを舞う蝶や虫たちも自ら光を放ち生きている。
「なんて、綺麗。そして、なんて逞しい」
 ほうっと零れる吐息と共に、思わずまゆは言葉を零していた。
 ずっとずっと、暗闇に嘆くことしかしなかったまゆ。
 けれど、その光達はまるで『自分が光になれ』と言っているかのような気がして――先程まで押し潰されそうだった恐怖の心は、いつの間にか和らいでいた。
 闇に包まれそうになるのなら、その闇を自ら破れば良いのだ。いつまでも、身を縮め震えている程まゆは弱くは無い。
 仄かに震えながら、小さな身体を包み込んでいた白き翼を広げ。彼女が手袋を覆う手を伸ばしたは――温かな光を抱く一輪の花。
「力を、分けてもらってもいいかな」
 言葉を掛ければ返事をするように微かに揺れる花。
 名も分からないその花へ、まゆは笑みを零すとそうっと優しく摘み取った。ぷちりと響く微かな音。淡い光はその瞬間、まゆの手の中で優しく輝く。
 それはまるで頑張れと。彼女の心を勇気づけてくれているような気もして――まゆはその光を今は見えぬ空のような瞳に映しながら、優しく微笑む。
 後で、海へと掛ける大事な祈りに使おう。優しい彼に力を貸して貰おう。
 そのまままゆは立ち上がり、また足を踏み出した。
 今度は戸惑わない。軽い足取りで、軽い足音を鳴らして。闇深まる奥へと進んで行く。
「あたしはあたしの光になる。きっと、それでいいんだ、よね?」
 輝く光へと視線を移しながらそう零せば、またさわりと風で光が揺れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
POW

暗いから光を発するものが集まったのかな?
それとも逆?
どちらにしろ不思議だし面白い。
俺は意識が生まれたのは主の棺桶の中だし、肉体を持ったのも夜。
そういうのもあって夜や暗闇自体は慣れてるし、平気だから純粋にこの迷路を楽しもう。
ここの生き物でちょっぴり気になるのは、光る事で目立って捕食対象にならないか?って事だけど、逆に警戒色でもあるのかなぁ。
それともみんな光るから関係ないのかな?
好奇心の赴くまま、きのこをつついて光る胞子を出してみたり、蝶を迷わない程度に追いかけたり。
あとはオレンジ色に光るどんぐりのような木の実を三つ、自分と伽羅と陸奥へのお土産に。
うん、たまにはこういう散歩も悪くない。




 暗いから光を発するものが集まったのか? それとも逆か?
「どちらにしろ不思議だし面白い」
 黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)の頭に疑問が過ぎったけれど、彼は首を振ると楽しそうに笑みを零した。――この森は、不思議な魅力に包まれていることに変わりは無いから。
 彼はヤドリガミ。
 意識が生まれたのは主の棺桶の中と云う闇の中。肉体を持ったのは夜だった。主の特性も授かっているのだろうか。彼にとっては夜や暗闇は慣れている為、全てが覆い隠されたこの森の中でも特に恐怖は無い。――純粋に、不思議な迷路を楽しむように歩を進める。
 どこまで進んでも光は淡くならない。むしろ奥へ進むほどに、光は増えていく。
「光る事で目立って捕食対象にならないか? って事だけど、逆に警戒色でもあるのかなぁ。それともみんな光るから関係ないのかな?」
 弱肉強食の世界を思い描き、瑞樹はふと疑問に思ったことを口にする。
 此処は迷宮。自然の摂理は当てはまらないのかもしれないけれど――彼の好奇心は言葉にした抱けれは消えることは無く、そのまますぐ傍に生える人が腰掛けられる程巨大なキノコを突いてみた。
 その拍子にふわりと、世界に散るのは輝く胞子。淡い青に輝く胞子が世界に広がったかと思うと、キラキラと瞬きながら落ちていく光景は美しく。つい彼は溜息を零した。
 ひらひら舞い踊る蝶はこちらへと手招くようで、彼は導かれるように歩みつつも、足元で輝く橙色を手にする。
「うん、たまにはこういう散歩も悪くない」
 お土産を手にしながら、どこか嬉しそうに彼は微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルーシー・ブルーベル
【月光】

夜の森
真暗なのに
たくさんの気配
少し怖いけれど

手を握り返して
うん、だいじょうぶよ
パパが居るから

ほんとう、お花が光ってる!
手をつないだままピョンとジャンプ
足元から光の花びらが広がって
すごい、水面みたい!
パパも、パパもやってみて!
ね、とってもキレイね

え、どこどこ?
頭の後ろに止まる蝶を探してくるくると
ひ、光ってるのは蝶さんだから
でもあら、ふふ
パパにも止まってるわ?
ええ、パパもキラキラ

ヒマワリみたいな形の花がゆれて
かわいいコね
ひとつ
そうと摘んで共としましょう

光る小石が置かれた道
こんな童話読んだことある
石のお陰でお家に帰れたのだっけ
うん、パパ
行きましょう
一緒なら迷ったってきっとへっちゃらよ


朧・ユェー
【月光】

夜の森は闇が深く真っ暗で
ルーシーちゃん、足元に気をつけて下さいねぇ
手を繋ぎ、迷子にならないように導いて

おや?この花達は光みたいですね
とても綺麗ですねぇ
木の実も蝶達も
軽くジャンプする
本当に水面みたいに広がりますね

ふふっ、蝶がルーシーちゃんに止まってます
君がキラリと輝いてるみたいですね
おや?僕にも?
光る向日葵、えぇとても素直ですね
彼女がその子を持つ姿に微笑んで

おや、小石も光が綺麗ですね
まるで光の道、僕達を導いてくれるようです
ルーシーちゃん行きましょうか
迷う事無い道を一緒に




 さわりと揺れる葉の音色。
 風に運ばれ、不思議な声もどこからか聴こえる気がする。
 一瞬ふるりと、小さな身体をルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)は震わせた。真っ暗故に森の奥は見えない。けれどどうしてだろう、沢山の気配を感じる。
「ルーシーちゃん、足元に気をつけて下さいねぇ」
 きゅっと唇を結び、ぬいぐるみを抱き締める手に力を込める少女に向け。朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)は握った手を少しだけ強めると、金色に輝く瞳を優しく細め語り掛ける。その声に、その眼差し。ルーシーはじっと見上げると、握られた手をきゅっと握り返して、強張らせていた表情を緩めた。
「うん、だいじょうぶよ。パパが居るから」
 こくりと頷き、心からの言葉を零す。
 大丈夫、誰よりも頼もしい貴方と居るから――涼やかな風が少女の肌を撫でる。冬とは違う心地良さを感じる風が導く先には、ゆらゆらと揺れる光る海があった。
 そこは一面の光の花で埋め尽くされた景色。淡い青に輝く花々は、風に乗りゆらゆらと穏やかに揺れ動き、その光景にユェーは少し瞳を開き息を零した。
「おや? この花達は光みたいですね」
「ほんとう、お花が光ってる!」
 花々が光り。木々が灯っているのは木の実だろうか。ひらひらと花に誘われるように舞う蝶も、闇に染まる世界に光る数多の色。そんな美しくも幻想的な光景に、ルーシーの左目がキラキラと輝く。今にも駆け出してしまいそうな彼女が迷子にならないよう、ユェーはきゅっと手を握り直す中、少女はその場でピョンとジャンプをした。
 そのまま着地をすれば――足元からふわりと、衝撃に合わせて光の花びらが広がる。
「すごい、水面みたい! パパも、パパもやってみて!」
 ふわりと舞う花弁が、はらはら舞い落ちる。美しくも幻想的なその光景をもっともっとと言うかのように、期待を込めた眼差しをルーシーが送るから。ユェーは彼女に倣うように、その場でジャンプをする。
 再びの衝撃は、体重差故に先程よりも大きくて。散る花弁の量も増えていく。
 はらり、はらり――零れるその光を見て。
「本当に水面みたいに広がりますね」
 綺麗だと、微笑みながらルーシーを見下ろした時。彼女の淡い金の髪を結ったリボンの先、輝くリボンがあることに気付き瞳を瞬く。
 それは、輝くリボンでは無く――。
「ふふっ、蝶がルーシーちゃんに止まってます」
 口元に手を当て、穏やかに紡ぐ彼の言う通り。ルーシーの髪に止まるのは、淡い緑に輝く蝶。呼吸をするように翅を動かす蝶をじっとユェーが見下ろせば、ルーシーはぱちりと瞳を瞬いて。「どこどこ?」と零しながら蝶を探すようにくるくると回った。
 その姿が愛らしくて、ユェーは小さく笑い声を零しながら優しい眼差しで少女を見る。くるくるする度、輝きは闇の中軌跡を作り――。
「君がキラリと輝いてるみたいですね」
「ひ、光ってるのは蝶さんだから。でもあら、ふふ。パパにも止まってるわ?」
 彼の言葉に頬を染め、見上げながらルーシーがそう返した時。ユェーの白銀の髪にも、一匹の金色に輝く蝶を見つけ、くすくすと微笑む。
 その言葉にユェーは驚いたように瞳を瞬く。キラキラだと、ルーシーが紡ぐけれど。歩んだ拍子に二匹はひらりと闇の世界へと戻っていった。
 ひらり、ひらり。舞う二匹の蝶に導かれるように、歩みを進めれば――光る景色は形を変えゆく。野に咲く花が光ったかと思えば、次に咲くのは大輪の花。太陽に恋い焦がれる、向日葵のような形の花だった。
「かわいいコね」
 笑みを零し、ルーシーはじっとその花を見る。太陽の注がぬこの地では、彼等は何に向け咲くのだろうか。真っ直ぐに育つ向日葵を見て、ルーシーはひとつ手に取ってみせる。
 少女を照らす温かな光。
 その光を手にする少女を見て、ユェーは穏やかに笑む。
「光る向日葵、えぇとても素直ですね」
 こくりと頷き、握った手を握り直して。更なる光を見ようと、彼等は再び歩き出した。花々だけでない、足元には光る小石が並んでいて。足元を照らしてくれているから。
「まるで光の道、僕達を導いてくれるようです」
「こんな童話読んだことある。石のお陰でお家に帰れたのだっけ」
 とんっと、光に触れるように足を伸ばし。白に染まる靴をじっと見つめるルーシー。淡く光り続ける石の道は、どこまでもどこまでも続いている。
 ――さあ、迷うこと無い道を共に歩もう。
 そう紡げばルーシーはこくりと頷いて、きゅっと手を握り笑みを零す。
「一緒なら迷ったってきっとへっちゃらよ」
 貴方と、パパと一緒だから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

イフ・プリューシュ
夜に似合いそうな
しずかで楽しいうたをうたいながら歩くわ

夜は好きよ
お星さまに月、みちをてらすランプ
きらきらしたひかりが
いっとうすてきに見える時間だもの

昼間だってかがやきはきえないけれど
それでも、ひかりが一番きらめくのは
やっぱり夜だと思うの!

そして、夜のくらやみは
イフの弱さもかなしい気持ちも
おっかないすがたも隠してくれるもの

だから、夜は好きなの

ふわふわ光るお花がひとつ
これは…しろいバラの花ね
白いお花はイフのお花、棺に入れて送るお花
大好きよ!

そうね、ランプに入れるために
このお花を摘んで行きましょう
流してしまうのは少し勿体ないかしら?
でも、まよう時間はまだまだあるわ




 さわさわと葉が揺れる音が響く。
 輝く花々も風に乗り揺れ動く中――静かな森に響くのは、優しくも軽やかな歌声。
 結った淡い髪をひらひらと躍らせ、世界に灯る光を受け止めながら、イフ・プリューシュ(樹上の揺籃にゆられて・f25344)は夜の森を彷徨っていた。
 森に満ちる静かで楽しげなうた。
 それは――夜が好きだと語る少女の心を映す歌。
 お星さまに月、道を照らすランプ。
 きらきらしたひかりが、いっとう素敵に見える時間。昼間だって輝きは消えないけれど、それでも光が一番煌めくのは――。
「やっぱり夜だと思うの!」
 キラキラと星が瞬くかのように煌めきを花のようなピンクの瞳に宿し。人形はひらひらと楽しげに道を歩む。さくりと足音を響かせて、吹く風が髪と共に肌を撫でれば、見えぬ何かがイフに触れているような錯覚もあるかもしれない。風に運ばれてくる音色の中には、何かの声が聴こえるかもしれない。
 でも、イフは夜の暗闇は怖くない。
 だって――イフの弱さも、悲しい気持ちも。そして、少し人とは違う継ぎ接ぎ人形の姿も隠してくれるから。
 ――だから、夜は好きなの。
 ゆるりと瞳を閉じて、闇の世界を感じるイフ。
 ひとつ、ふたつ、深呼吸をして。再び瞳を開けば、眩い光がその目に飛び込む。
「これは……しろいバラの花ね」
 眩しさにパチパチと瞳を瞬いた後、ふわふわと白に光る花を見て少女は手を伸ばす。
 白い花は、イフの花。
 棺に入れて、贈る花。
 ――だから、大好き。
 イフの顔に浮かぶのは、花が綻ぶかのような笑顔。温もりを持たぬ頬を緩め、穏やかな笑みと共に彼女はそうっとバラの花へと手を伸ばす。
 想いを乗せるランプがあるという。そのランプに込める灯りは、この灯りにしようと――そう想ったのだけれど。
「流してしまうのは少し勿体ないかしら?」
 ぷちりと摘み取り、自身の顔を照らすその光がなんとも美しく、穏やかで。少女は小首を傾げ、改めて考える。
 瑞々しい花弁と、淡く光る色は正に命の輝きのようで。
 その尊さにイフは瞳を閉じると、大切そうに花を手に立ち上がる。
 ――大丈夫、迷う時間はまだまだあるから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

パウラ・グラーテス
アリス(f27443)と
灰色の天井
朽ちた寝床に苔生した石壁
頼りないろうそくのひかり
わたしの知る唯一のせかい
いろのないせかい
でも、いまは

アリス!見て、すごいわ
よるのとばりが降りているのに、ひかりが満ちているの!

思わず駆け出しそうになってしまう足を叱る
いまはひとりぼっちではないのだもの!

ねえ、アリス
あなただけのひかりは、みつかりそう?
……ふふ!

彼女が伸ばしかけた、その視線の先にあるひかりへ
ゆびさきを伸ばして招く

だいじょうぶ
こうして、やさしく触れればいいの

何かに怯えるみたいに張り詰めた、同じ年頃のおんなのこ
彼女とこのせかいの色彩を分かち合いたかったから

招いた蝶は、ひとつ、ふたつ
弾む靴音を彼女と重ねて


アリス・ランザデッド
パウラ(f31973)と

闇には慣れている――と、思う
記憶はないが、私はよくこういう世界に居たような気がするのだ

寂しいとも、不気味とも思わない
私には、感情というものが分からない

ひらり
目の前に踊るように飛ぶ光る蝶に不思議と手を伸ばして――そしてハッとした

何故、今手を伸ばしたのか分からない
一緒に来ているパウラが、私が捕まえかけた蝶にやさしく触れて――

ああ――眩しい
こんな薄汚れたドレスを着て、ぼろぼろの包帯を巻いた、気味の悪い者に笑いかけてくる

そんな彼女が、眩しく見える
夜の闇に輝く月のように、あるいは妖精たちの踊りのように
彼女を追いかけるように、私も歩き出した




 灰色の天井。朽ちた寝床に苔生した石壁。
 頼りない蝋燭の光が照らす、それらが彼女――パウラ・グラーテス(徒花・f31973)の知る唯一の世界だった。
 それは灰色で、どこか寂しいいろの無い世界。
 でも、いまは――。
「アリス! 見て、すごいわ。よるのとばりが降りているのに、ひかりが満ちているの!」
 キラキラと青い瞳を輝かせて。その瞳の輝きに負けぬ色を声に滲ませて。パウラは闇の中、輝きを纏う生き物達が住まう森を見て声を上げた。
 世界の全てを見ようと思っているのか、両手を広げて彼女は鮮やかな色を瞳に映す。そんな彼女の言葉に――名を呼ばれたアリス・ランザデッド(死者の国のアリス・f27443)は、現実へと引き戻されたようにはっとした。
 ぼんやりと灯る赤い花の光に照らされるパウラ。彼女を見ながらアリスは、見慣れた闇の世界を見渡した。暗い暗い闇の中、数多の光が満ちる不思議な迷宮。己のことも分からぬ程記憶を失ってしまっている彼女だけれど、よくこういう世界に居たような気がする。
 さわりと風が頬を撫で、花々を揺らし微かな音を立てる。
 転々と灯りが光るだけの、どこまで続いているか分からない闇が続く迷宮。
 その世界に佇むアリスは、寂しいとも不気味とも思わない。
(「私には、感情というものが分からない」)
 唇を結び、赤い瞳を細めアリスは俯く。
 そんな彼女の様子には気付かずに、数多の光を見たいと云う好奇心に満ち駆け出そうとしたパウラは。今は駄目だとその足を止め、相手をくるりと振り返った。
「ねえ、アリス。あなただけのひかりは、みつかりそう?」
 ――いまはひとりぼっちではないのだから。
 問い掛けた先の少女は、ひらりと舞う蝶へと手を伸ばしているところだった。パウラの言葉に自分の行動に気付いたのか、彼女ははっとして瞳を見開く。
 戸惑うように震えるアリスの指先。
 何故、今手を伸ばしたのか自分でも分からない故の動揺。けれど――優しくパウラは笑むと、アリスの元へと近寄ると。彼女が伸ばしかけた、その先にある光へと自身の指先を伸ばし、その輝く幻想的な蝶をその指先へと手招いた。
 ひらひらと舞えば、淡い光はふたりと照らす。そうっと伸ばされたパウラの指先に止まると、まるで呼吸をするかのように輝く白い翅を動かしている。
 それは光る彼が、生きているという証。
「だいじょうぶ。こうして、やさしく触れればいいの」
 ふわりと笑みを浮かべて、パウラは戸惑うアリスへと語り掛ける。
 何かに怯えるみたいに張り詰めた、同じ年頃のおんなのこ。――パウラは、彼女とこのせかいの色彩を分かち合いたいと思ったから。
 そんな光に照らされるパウラを見て、アリスは瞳を細める。
 ふたりを照らす蝶では無い。こんな薄汚れたドレスを着て、ぼろぼろの包帯を巻いた、気味の悪い者に笑いかけてくれる彼女が、眩しかったから。瞳の傍へと自身の手を添えて、ひとつふたつ瞳を瞬いて。深く息を吐くと、眩しい景色が少しだけ落ち着いてくる。
 ひらり、ひらりと舞う蝶はパウラに手招かれるようにふたりの周りを彷徨う。
 キラキラ輝く鱗粉が落ちゆき、闇の中で光が舞い落ちる中。パウラは光に合わせて足を踏み出した。輝く光を浴びる、彼女の金の髪はまた美しく煌めいて――その美しさに、アリスはまた瞳を細める。
 その輝きは、まるで夜の闇に輝く月のよう。
 あるいは、軽やかな足取りは妖精たちの踊りのよう。
 さくりと草を踏みしめる音が、ひとつからふたつへと増えれば。彷徨うパウラを追い掛けるように、アリスもゆっくりと歩み出していた。
 ふたりを追い掛けるかのように、ひらひらと舞う蝶達も追い掛ける――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エリシャ・パルティエル
陽里(f05640)と

そうねあれから一年
お互いの故郷のことを語り合って
いつか見たいと願った宇宙からの星空も一緒に見ることができた
あの夜に紡がれた絆は確かにここにあって
繋いだ手に力を込める

分け合った幻想的な石は
いつも大切に身につけているの
石同士も引かれあったのかな
あたしたちも一緒にいたいと願うようになったの

あれから陽里とたくさんの星空を見たわよね
どれも大切な思い出だけど…
やっぱりこの世界の星空が特別かな
願いを叶えてくれたし

え、引力?
あたしのせいで陽里は遠くに行けないってこと?
…そういう意味じゃないのね
宇宙船育ちの陽里にとって動かない故郷がないのだとしても…
あたしが帰る場所になれるのなら…嬉しいわ


櫟・陽里
エリシャ(f03249)と手を繋いで進む
こうやって暗闇を歩いてると思い出すよな…
あの絆紡ぎの祭りからもう一年以上経ったのかぁ

あの日、ランプが照らしたエリシャの髪の煌めきに
俺の心は確かに動いた
あれから色々あったけど…
名前を呼ぶのにも慣れて
光る石を分け合って作ったアクセサリーはすっかり自分に馴染んだ

街の夜景や遊園地のイルミネーションなんかも一緒に見に行ったけど
こういう幻想的な光の風景が原点だったと思ってる

手を握り直して

宇宙船乗りの間ではこういうの
引力に捕まったって言ったりするんだぜ
昔はいくらでも無茶できて、どこまでだって行けた
いや、これは良い変化
引力に導かれれば
帰る場所はここだって分かっちゃうんだ




「こうやって暗闇を歩いてると思い出すよな……」
 暗い闇の中。あちらこちらに灯る光を見遣りながら、櫟・陽里(スターライダー ヒカリ・f05640)はあの日を思い出し言葉を零した。
 ――月の無い新月の夜。凍て付く空気の中で、ランプを手に煌めく石を分け合った、あの日のことを。
 あの日からもう、一年以上経った。それは、陽里だけでなくエリシャ・パルティエル(暁の星・f03249)も同じように感じ入る出来事。お互いの故郷のことを語り合い、いつか見たいと願った宇宙からの星空。その願いは叶い、共に見ることが出来た。
 闇はあの日よりも色濃いけれど。
 月の無い星空よりは、世界を染める光る生き物が満ちる此の場のほうが明るい。迷い、迷わされる森の中、互いに熱を確かめるように繋いだ手に力を込める。
 歩みを進めれば、エリシャの光に煌めく金の髪がふわりと揺れ。彼女の耳元で煌めく青い石も揺れ動く。――これはあの夜、絆を紡いだ証の欠片。いつも大切に身につけている。そしてそれは、陽里も同じ。
 いつの間にやら、胸元で揺れるペンダントはすっかり自分に馴染んでいる。ちらりと彼女の煌めく耳元と、揺れる金の髪を見れば――あの日のことを思い出し、胸が鳴った。
 あの日、ランプが照らしたエリシャの髪の煌めきに。確かに彼の心は動いたのだ。
 あれから色々とあったけれど、ぎこちなかった呼び方はすっかり自然になっている。
「あれから陽里とたくさんの星空を見たわよね」
 指先で耳元のイヤリングに触れながら、エリシャは紡ぐ。
 この輝きは、彼と分け合った輝きの欠片。石同士も引かれあったのか、エリシャ達も一緒にいたいと願うようになったと強く想いながら――。
 瞬く星空はどの世界にも存在するもの。そして、世界により変わる不思議な色。
 街の夜景に遊園地のイルミネーション、人の手が入った美しき光の景色も一緒に見た。どれもこれも大切な思い出だけれど。
「やっぱりこの世界の星空が特別かな」
 ――願いを叶えてくれたし。
 ぽつりと、エリシャの唇から零される言葉。
 そのまま彼女が天を見上げれば、そこには深い葉が覆われ空は見えない。けれど、確かにその奥には瞬く星々があることだろう。ふわりと笑みを浮かべて、自身の世界の星を見る彼女の横顔を見て。陽里も、笑みと共に静かに頷く。
 そう、人工的な明かりでは無い。こういう、幻想的な光の風景が原点だったと思っているから。――そのまま陽里がきゅっと手を握り直せば、エリシャも返してくる。互いの熱を感じながらふと、陽里は口を開いた。
「宇宙船乗りの間ではこういうの、引力に捕まったって言ったりするんだぜ」
「え、引力?」
 彼の言葉に、エリシャは顔を上げ瞳を瞬く。その表情に陰りが帯びた通り、彼女は戸惑ったように言葉を続ける。――あたしのせいで陽里は遠くに行けないってこと?
 しかしそれに、陽里は首を振った。そうでは無いと。これは良い変化だから。
 そう、昔はいくらでも無茶出来て、どこまでだって行けたけれど。
「引力に導かれれば、帰る場所はここだって分かっちゃうんだ」
 エリシャを見つめて、優しく微笑んで。紡ぐ彼はとても温かい。その言葉と笑顔に、エリシャはほっとしたように微笑んだ。陽里は宇宙船育ち故、動かない故郷は無い。
 けれど――。
「あたしが帰る場所になれるのなら……嬉しいわ」
 頬を軽く染めて、そっと手の熱を確かめて。
 小さな声で、エリシャはそう零す。
 いつだって、隣にはこの熱が――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

尭海・有珠
レン(f00719)と

慣れたようにレンの手をとって星巡りの旅
暗い森に漂う光は星のようで、頼りになる手の温もりもあれば
怖れるものはないからな

探したい色はと視線の先、青い蝶を私も目で追う
覗き込まれて思わず瞬き。レンの言葉に「好きな色」と一言反芻して
何に、という言葉は呑み込んで、満足げな様子には小さく首を傾げてしまうが
…私の探したい色は青かなと

青い蝶や花の光や、綿雪の様に輝く白い光がいい
落ち着くからというのが一番の理由

けれど咲いた赤い花、真っ赤な光に吸い寄せられるよう目がいく
落ち着くのは馴染んだ青だが、赤い一つの光には心が惹かれるな
答えて、レンの目を見――ああ、君の色だからかと口に笑みを浮かべるんだ


飛砂・煉月
有珠(f06286)と

もうすっかり慣れたようにキミに伸ばした手は
へらりと笑うわんこの欲
夜の森に怖い気持ちは何もないよ
唯でさえ最強のぬくもりを繋いでるんだ

有珠は何色探したい?
聞いた直ぐ後に横を摺り抜けるのは蒼纏う蝶
魅入られるように目で追った
好きな色が飛んでたからついって
キミの眸を覗いて笑う
――うん、やっぱり似てる
キミの眸ってのは言わない侭
満足気に笑う
誤魔化さなくてイイのに変だね

…蒼ね、オレもそう思ってたと嬉しげに

でも、あれ?
有珠が覗いてるのは…赤
不思議そうに覗いてれば、次の瞬間に覗き込まれてるのはオレのほう
その安らぐ笑みに観念して
オレもさっき蒼に見たのは、キミの色だと白状ひとつ
緋色は逸したけれど




 闇の中、繋がれる手はもうすっかり慣れたもの。
 輝きが舞う中、二人は共に星巡りの旅へと出る。
 軽い足取りで、歩むふたつの影。暗い森に漂う光はまるで星のようで、頼りになる手の温もりがあれば――怖いものは無いと、尭海・有珠(殲蒼・f06286)は繋いだ温もりを感じながら静かに思う。
 そしてその想いは、飛砂・煉月(渇望の黒狼・f00719)も同じ。何があろうとも、繋いだ温もりさえあれば。夜森の恐怖など掻き消えてしまう。
 恐怖の無い二人の呼吸は穏やかなもので、舞う胞子を追い掛けた後彼は問う。
「有珠は何色探したい?」
 そう彼が紡いだ時。胞子に混じるように、視界の端にひらひらと蒼を纏う蝶がひらめいた。じいっと彼の鮮やかな赤色の眼差しが、その輝く光を無意識に追う。そんな彼の視線を追い掛けるように、有珠も蒼を追っていた。
 ひらり、ひらり。
 彼等の視線はその蒼が小さくなるまで追い続け。姿が闇に紛れていった時、煉月がははっとして現実へと戻ると、有珠を覗き見る。
「好きな色が飛んでたからつい」
 笑う彼の眼差しはいつも通りの色。その眼差しに有珠は思わず瞬いて、彼の零した『好きな色』と云う言葉を繰り返す。
 小さく動かされる唇。紡がれる微かな音。
 それに煉月は気付いているのかいないのか。分からないまま笑顔で唇を開く。
 ――うん、やっぱり似てる。
 何に、とは言わない。じいっと彼の眼差しの先――有珠の海を映した瞳だとは。
 そのまま彼は満足気に笑った。誤魔化さなくても良いのに、何故だろう。不思議な心地のまま笑う彼の笑顔を見て、有珠は疑問を返すことが出来なくなった。不思議そうに小さく首を傾げる少女。けれども、心に見える言葉は確かにあるから。
「……私の探したい色は青かな」
 静かな声で紡がれる言葉。彼女の言葉に、煉月はぱちりとひとつ瞳を瞬いて。そのまま笑顔を落とすと、大きく頷く。
「……蒼ね、オレもそう思ってた」
 零れる笑顔は人懐こい笑顔。嬉しげにそう紡がれれば、有珠の口許も微かに和らぐ。
 青、蒼――同じだけれど違うその色合いは、数多ある。青い蝶や花の光や、綿雪のように輝く白い光が良い。落ち着くその色合いを求めて、有珠は漆黒の髪を揺らし歩みを進めるけれど。彼女が無意識に足を止めたのは、青では無かった。
「あれ? 有珠?」
 彼女の視線の先にある色を確認して、煉月は不思議そうに言葉を紡ぐ。そこに咲くのは赤色。真っ赤な光に吸い寄せられるように、有珠はじっとその場で見つめている。そんな彼女を不思議に思い、煉月は彼女の瞳を覗き込むが――彼女の蒼の瞳は、気付けば花では無く煉月の瞳を真っ直ぐに見返していた。交わる眼差しに、彼は少し慌てるけれど。有珠は戸惑うこと無く、心から零れる言葉を紡ぐ。
「落ち着くのは馴染んだ青だが、赤い一つの光には心が惹かれるな」
 自然と零れた言葉。その答えは見つからなかったけれど――じっと煉月の瞳を見返していたことで、彼女は気付いた。
「ああ、君の色だからか」
 無意識に伸ばす手は、彼には触れず。ただ宙を泳ぐだけ。
 けれども交わる眼差しに、煉月は思わず握る手の力をきゅっと強めていた。離せない眼差し。赤と青の対照的なその色は、互いの心に深く深く刻み込まれ。
「オレもさっき蒼に見たのは――」
 キミの色だと、煉月は白状するようにひとつ告げる。
 ――緋色は逸したけれど。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『木の精霊・まんどらめぇめ』

POW   :    マンドラ・ミサイル
レベル×5本の【木】属性の【ふわもこな毛の塊】を放つ。
SPD   :    めぇめぶらすと
【ふわもこな体】から【ざっくりと編みこんだ毛】を放ち、【巻きつけること(痛くはない)】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ   :    必殺!疑似餌封じ
【美味しそうな食べ物】【愛らしいお人形】【魅力的な書物】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●茜色の下
 光に導かれるように、惑わされるように。
 闇を抜ければそこには――鮮やかな夕焼けの世界が広がっていた。
 ぽっかりと空いた木々の中。変わらず灯る花々が咲く美しき花畑だけれど、瞳に焼き付く程に輝いていた淡い花の光は今は掻き消えるように仄かなもの。
 ――だって、世界がこんなにも赤く染まっているから。
 深い緑も、淡く光る花々も、空も。全てが赤く染まる世界。空を見上げれば薄っすらと奥は夜の帳が下りるように、微かに紫帯びているけれど。今此の世界は、赤に染まる。
 その眩しさに、思わず目を強く瞑る者もいるだろう。
 さわりと肌を撫でる風は、先程の森の中と同じく冬の凍て付く程の冷たさは帯びていない。故に、此処も不思議な迷宮の一部なのだと分かる。
『めぇめ』
『めぇ~!』
 微かな葉擦れの音に混じるように。花々が揺れたかと思うと、そこからひょっこりと顔を出したのは――どこか呑気な顔した、愛らしい羊達。
 小さく円らな瞳をぱちぱちと瞬いて。ふるふる身体を揺すっている姿は、自身のふわふわな毛並みを自慢するかのよう。
『めぇめー』
 気付けば花畑の中には、あちらこちらに様々な大きさの彼等が存在していた。
 彼等こそが、この地に現れたオブリビオン。
 今の彼等は元の性質の、頭に花を咲かせる木の精霊では無い。めぇ、と鳴けばそこから現れるのは、あまーいパンケーキにぷるぷるプリン。愛らしい猫や兎のぬいぐるみに、可愛い妖精の絵本など。子供が、そしてあなたが望む物を出してくれるだろう。
『めぇめ?』
 ぱちりと瞳を瞬いて。
 くきっと身体を傾げる姿は、まるで首を傾げたよう。
 そう、それは一緒に遊ぼうと。猟兵へと語り掛けている気がした。
アリス・ランザデッド
パウラ(f31973)と

――驚いた
仄かに灯る明かりを頼りにパウラと共に歩いた先は、赤色
暗闇には慣れていたけれどこの眩しさには、思わず目を覆いたくなる程だ

がさがさと聞こえる音と共にやってきた羊――のようなもの。
これは、オブリビオン?
木の精霊だったようだがオブリビオンなら、と武器を構えるとパウラが割り入ったので渋々武器をしまう

しばらく、パウラの朗読を聞きながら、オブリビオンのその柔らかな毛に触れる
ふわりとした感触に、良く分からない感情のようなものが胸に灯る

――暖かい。これが?
ふわりふわり。その柔らかな毛を名残惜しみながらも――

これが、私の仕事だから

パウラには、見せられない
けれど、せめて一思いに


パウラ・グラーテス
アリス(f27443)と
まあ。まあ、まあ!
なんて愛らしいのかし、……アリス!

躊躇なく刃を構える彼女と羊さんたちの間に慌てて割り行って

倒さなければならないこと
ちゃんとわかっているわ
でも……ねえ、すこしだけ
この子たちと、あそんであげましょう?

すごいわ、すてき!
あなたたちは、やさしい魔法ばかりを使えるのね

アリス、本はお好き?
うふふ
それなら、わたしが読んで聞かせてあげる!

羊たちに告げる『おやすみ』は
散る花弁に乗せて、夢の中に溶かすように
痛みを齎すことなく、唯々、やさしい眠りでありますようにと

アリス、ねえ
その気持ちはきっと、『取り零さなくてもいいもの』だわ
だって……わたしもいま
胸が、とてもあたたかいもの




 深い深い闇を彷徨った先を、一歩踏み出せばそこは――世界は赤に染まっていた。
 空も、花々も、森の木々も。全てが、赤に染まる空間は、闇から一転すれば瞳に焼き付くような色合いで。アリス・ランザデッドは思わずぎゅっと双眸を強く瞑っていた。
 撫でる風が心地良い。焼き付くような眩い世界に徐々に慣れてきたのか、そろそろと瞳を開いてみれば、再びアリスの鮮やかな赤色の瞳に映る赤い世界。
「――驚いた」
 闇から赤へ一瞬で変わった光景へ、素直に彼女は言葉を零す。
 染め上げる赤はアリスの艶やかな金の髪をも赤へと染め上げ、世界の一部へと融かすかのよう。思わず立ちすくむ彼女だったが、不意に辺りの花々が音を立てた。
 ガサリと響く音は段々と大きくなり――そこからひょっこりと顔を表したのは、なんとものんきな表情をした羊達。
「まあ。まあ、まあ! なんて愛らしいのかし、……アリス!」
 そんな彼等を見て、パウラ・グラーテスは喜色を含んだ声を上げる。ほんのりと頬を染め、瞳をキラキラと輝かせ、素直な反応をする彼女だったが。すぐ隣のアリスが、躊躇なく短剣を構えるものだから。慌てて名を呼び、羊とアリスの間に入る。
「パウラ?」
 パウラの行動に、アリスは不思議そうに小首を傾げ名を呼び返す。相手はオブリビオン、この世界を脅かす存在だ。倒すのが当たり前だと言いたげな彼女に向け、パウラはふるりと首を振る。
「倒さなければならないこと、ちゃんとわかっているわ。でも……ねえ、すこしだけ
この子たちと、あそんであげましょう?」
 猟兵としての使命は忘れていないと、真剣な眼差しで告げた後。くるりと後ろを振り返り、花々と戯れる羊達を見遣れば、パウラの表情は穏やかな色に染まる。
 彼女のその様子と言葉に、アリスは不思議そうに瞳を瞬いたけれど。そのまま渋々と短剣を仕舞った。彼女のその行動にパウラは嬉しそうに笑みを零すと、そのままひらりと軽やかな足取りで羊達へと近付く。
「こんにちは」
 優しい笑顔で花の中の羊へと語り掛ければ、彼――まんどらめぇめは、ぱちぱちと瞳を瞬いて。『めぇ!』と元気に挨拶を返す。そのままふるふると身体が震えたかと思えば、その頭からは不思議なことに本が湧き上がるように出てくる。その隣のめぇめからはふわふわのぬいぐるみ達が生まれ出て、一瞬で花畑を愛らしい空間へと染め上げた。
「すごいわ、すてき! あなたたちは、やさしい魔法ばかりを使えるのね」
 その光景にキラキラと瞳を輝かせ、パウラは両手を合わせ嬉しそうに声を上げた。めぇめと鳴き声をあげながら、そんなパウラへ。そして彼女の少し後ろで佇むアリスに近付くと、めぇめ達はふわふわの身体をすり寄せる。それはまるで遊んで欲しいと言っているかのようで、パウラはくすりと笑みを浮かべ。
「アリス、本はお好き?」
 めぇめの行動に少し戸惑っていたアリスに向け、一冊の絵本を拾いながらパウラは問い掛ける。彼女の言葉に、よく分からないままアリスが頷けば――。
「うふふ。それなら、わたしが読んで聞かせてあげる!」
 楽しそうな笑みと共に、花畑の中に優雅に腰を下ろしパウラは絵本を開いた。
 それは、小さな兎の冒険譚。花畑、森、崖――数多の場所を旅して、沢山の友達を作る兎のお話を、優しくパウラが語り続ければ。アリスだけでなくめぇめ達も静かに耳を寄せている。パウラの膝に乗って寛ぐ者と、アリスの隣でぴったりくっついている者と。
 アリスは物語に耳を傾けながら、自身の膝に当たる羊の感触に不思議そうに見下ろした。じいっと見つめればめぇめもじいっと見つめ返して、ぱちりと瞳を瞬いている。そんな彼の姿を見て――アリスは不思議な感覚に囚われながら、そうっと細い手を伸ばした。
 手に伝わるのは、ふかりとした柔らかな感触。
 そして生物故の温かさ。
 その心地良さは初めて感じる感覚で。アリスの心には知らない感情が灯る。
(「――暖かい。これが?」)
 その答えを辿るように、思考を巡らせつつ。アリスは触れた手を離すことが出来ないまま、静かにパウラの紡ぐ物語に耳を傾けた。
 ――そして、その物語が終わり本が閉じられた時。
 憩いの時間は、終焉を迎える。愛らしくとも、相手はオブリビオン。退治しなくてはいけないことはアリスも、そして勿論パウラだって分かっている。
 名残惜しそうにきゅっと唇を結ぶパウラ。そんな彼女を気遣って、アリスは立ち上がるとパウラに見えないような立ち位置で短剣を振るう。
『めぇめ……』
 一瞬聴こえたのは穏やかな声。けれど、どこか悲しさを感じるのは声色か。それとも、別れを惜しむふたりの感情がそう聴こえさせるのか。それは分からないけれど――パウラも覚悟を決めると、霞草の花雨をちらちらと降らせた。
 ――痛みを齎すことなく、唯々、やさしい眠りでありますようにと、祈るように。
「アリス、ねえ」
 生き物のいなくなった、赤色の世界に戻った時。パウルが名を呼ぶから、アリスは不思議そうに顔を上げ彼女を見返す。
 アリスは、言葉にはしていなかった。けれど、その心に宿る想いは――。
「その気持ちはきっと、『取り零さなくてもいいもの』だわ。だって……わたしもいま
胸が、とてもあたたかいもの」
 きゅっと胸元で手を握り、零れるような笑みを浮かべる少女。
 その少女の言葉と笑みを見て。アリスは戸惑いながらも、温かさを確認するように、自身の胸へと手を当てた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流

この子達相手にするの何度目かな?
たしか最初にあった時はあみぐるみを貰ったっけな。いい感じにふっかふかの白茶虎鯖虎の3匹。
ありがたく今でも使わせて貰ってる。
俺は埋もれなくなったけど、小さい頃の伽羅が、そして今では陸奥が埋もれて寝てる。

伽羅と陸奥を遊んで貰えって呼び出す。
陸奥はまだ…もうじき一歳だけど…たぶん子供の内だから一緒に転がっていいかもしれないし。伽羅はどうかな?はしゃぐ子ではないから、遊んで貰うより遊ばせる方かもしれないな。
俺は寝転んで二人の様子を見たり空を見上げたり。
流石に仮眠とるのはまずいだろうか。




 この子達の相手をするのは何度目だろう。
 両の手に刃を手にしたまま、黒鵺・瑞樹はふとそんなことを想った。
 数多の戦いへと赴いた彼の経験の中では、この愛らしいまんどらめぇめ達と対峙したことも何度かあった。その記憶を辿れば――最初に彼等と出逢った記憶が呼び起こされる。
「たしか最初にあった時はあみぐるみを貰ったっけな」
 彼等の毛並みに負けない、良い感じにふかふかの白茶虎鯖虎の三匹。彼等から貰った思い出の欠片は、今も大切にしているからすぐに思い出せる。
 ――今はあの時のように、自分がそのふかふかに包まれているわけでは無い。けれど小さい頃の水神竜が、そして今はぬいぐるみに負けないふかふかの風を纏う白虎が。彼の精霊から貰ったぬいぐるみに埋もれて心地良さそうに寝ている。
 穏やかに眠る白虎――陸奥の姿を思い出せば、自然と瑞樹の口許に笑みが零れる。
「伽羅、陸奥――遊んで貰え」
 だからこそ、この場にはお世話になった彼等が相応しい。二匹の名を呼ぶと、瑞樹は黒き水神竜と白虎を呼び出す。花の中にとんっと脚を下ろした彼等は、赤い世界に染まり仄かに赤色を帯びている。
 尾を立て、すぐに駆け出すのは白虎の陸奥。彼はまだ一歳程度――子供のようなものだから、花畑の中駆けるのはまだまだ楽しい時期なのだろう。花畑の中に潜むまんどらめぇめと出逢うと、顔を合わせ挨拶をし。そのまま一緒に花畑を駆け回り、ころころと転がったりと自然を満喫している。
 一方水神竜の陸奥は、もうすっかり大人で。はしゃぐような性格では無いから、その場でじっと様子を伺っている。――けれども、まんどらめぇめ達のほうが好奇心は旺盛のようで。そんな彼に興味をもったのか、一緒に遊ぼうと近付いて来てはめぇめと鳴き、もふもふの身体をすり寄せてアピールした。
 そんな二匹の様子を、瑞樹は穏やかに見守る。
 その場で寝ころべば。揺れる花々が瑞樹の頬をくすぐっているかのよう。視界いっぱいに広がる、仄かに雲の残る赤色の空は、見たことも無いような鮮やかさ。――それはきっと、此処が不思議な迷宮故の色を宿しているのだろう。
(「流石に仮眠とるのはまずいだろうか」)
 風が撫でるのも心地良く、段々と瞼が重たくなってくる。
 心地良さに抗えず、うとうととしてきたところで――何やら重みが胸を圧迫し、慌てて瑞樹は瞳を開く。
 そこには、陸奥とめぇめが一緒に遊ぼうと語り掛けるように覗き込んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フィリーネ・リア
鮮やかな夕焼けの世界
ぼくの眸と似た色ですのね
けれど赤々染まる様子は、ぼくがだいすきな想い出の色にも似てますわ
素敵な場所に可愛らしい仔が沢山ですのね

花畑の彩を眺めるのも楽しいですけれど
あなた達は遊んでほしいのかしら?
うふふ、よくてよ
ぼくが欲しいのは沢山の色で描かれた絵本
綴られたことばが有るなら読み聞かせしてあげますわね

可愛らしくてふわふわな空間
幸せばかりの世界だけれど
あの子といっしょではない事がひとつだけ残念ね
でもお土産話にしようと
お祭りで待ち合わせ予定の子を思いながら

沢山、沢山めいっぱい遊んで差し上げるわね
でも最後は絵筆で終いを塗りましょう
ぼくは猟兵、フィーは魔女

めぇめぇ、おやすみなさいませ?




 闇を抜けた先――鮮やかな赤に染まる美しき景色を見て、フィリーネ・リアは息を呑んだ。空も、花々も、森も、全てが赤に染まるどこか幻想的なその世界。
「ぼくの眸と似た色ですのね」
 輝く大きな瞳を細め、零れた言葉は無意識に。
 自分と似た夕焼け色。けれど、その赤に染まる様子は、フィリーネが大好きな想い出の色にも似ていると。そう思えば零れる笑みも柔らかくなる。
『めぇ?』
 がさがさと花が揺れたかと思うと、そこからひょっこりと顔を出すのは真っ白なふわふわ。あちらこちらから顔を出せば、彼等は一斉にじいっとフィリーネを見つめる。そんな彼等を見つめ返し、彼女はくすりと優雅に笑みを浮かべた。
 赤に染まる、美しき花畑を眺めることも楽しいけれど――。
「あなた達は遊んでほしいのかしら?」
 円らな瞳を見つめ返し、小さな身体を屈ませ更に距離を近付けると。フィリーネはめぇめへと問い掛ける。彼女の言葉に一体のめぇめが、キラキラと瞳を輝かせながら鳴くから。フィリーネはくすくすと小鳥が囀るような笑みを零す。
「うふふ、よくてよ」
 こくりと頷けば、めぇめ達は嬉しそうに鳴きフィリーネへと近付いてくる。そのままふるりと身体を揺すったかと思えば――次の瞬間、その場には数多の本が詰まれた。
 少し難しそうな物語もあるけれど、ほとんどは愛らしい絵の描かれた絵本。赤に染まる世界に現れた鮮やかな色にフィリーネはどこか眩しそうに瞳を細めながら、一冊を手にしてめぇめ達を手招いた。
 その場に腰を下ろせば、めぇめ達はフィリーネの周りに集いぎゅむっと密集する。仄かな冷たさを含んだ風が彼女の頬を、腕を撫でるけれど。めぇめ達の温もりに包まれれば心地良く、寒さなど忘れるようで。フィリーネは心地良さそうに笑うと改めて本を掲げる。
 フィリーネが手に取ったのは、絵本の中でもとびきり彩に満ちていた物語。ぱらりと頁を開いてみれば、それは色を探す、大きな筆を持った小人のお話だった。
 甘い言葉で紡がれる物語。
 その声色で綴られる物語は、甘やかで、数多の色に満ち、世界を輝かせる。
 フィリーネの言葉を静かに聴くめぇめ達は愛らしく、変わらず温かい。――それは幸せばかりの世界だけれど。
(「あの子といっしょではない事がひとつだけ残念ね」)
 言葉を紡ぎながら、フィリーネの心にそんな気持ちが宿った。
 けれど、『あの子』とは夜の海で待ち合わせをしているから――今は一人だけれど、この瞬間を楽しもうと想い彼女は頁を捲る。
 ――そのまま、最後の頁を紡いだ時。
 穏やかな時間を終わりを迎えてしまうのだ。数多の色に魅せられて、嬉しそうに鳴き声をあげるまんどらめぇめ達だけれど。フィリーネは戸惑うこと無く、絵筆を手にすると立ち上がる。絵本と同じ、数多の色に世界を彩れば――。
「めぇめぇ、おやすみなさいませ?」
 お別れの言葉と共に、白い彼等は消えていく。
 だって――ぼくは猟兵、フィーは魔女。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花澤・まゆ
か、可愛い…っ
しかも、パンケーキにお人形、可愛らしい絵本まで持ってきて!
ふわぁあ…ここ、ここ、みんな座りなさい
(ぱんぱんと自分の周囲を叩いて)
あたしが絵本を読んであげる!

パンケーキをつまみ食いしながら、絵本を読むよ
まんどらめぇめが大冒険?をする絵本
ときどき、読みながら、めぇめさんをもふり
ふわっふわで気持ちがいいなあ
なんでもないよ、絵本の続きを読もうね

絵本がめでたしめでたしで終わって、パンケーキも食べ終わったら
そろそろお別れの時間
ごめんね、そろそろ行かなくちゃ
UCで鈴蘭を踊らせて、謝りながら倒します

楽しかったよ、めぇめ
ありがとうね

アドリブ歓迎です




「か、可愛い……っ」
 花畑の中、揺れる花々と戯れたり、ごろりと転がって寛ぐ者がいたり。思い思いに過ごす呑気なまんどらめぇめの姿を見て、花澤・まゆは頬を緩ませ思わず言葉を零していた。
 ふるふると震える身体と、背に携えた大きな白い翼。
 あまりの愛らしさに彼女の身体が震えているのも気にせずに、めぇめ達はころころと転がりながら――そのままぽんっと音と共に数多の本や人形を零れさせ、花畑を埋め尽くす。頭に甘い香りの漂うパンケーキを乗せためぇめが、ちょこちょことまゆへ近付くと。
『めぇめ?』
 まるで、どうぞと言いたげに語り掛けた。
「ふわぁあ……ここ、ここ、みんな座りなさい。あたしが絵本を読んであげる!」
 花畑の中に腰を下ろしたまゆは、ぱんぱんと花の無い周囲を叩きめぇめ達にアピールする。彼女の言葉と行動に、遊んでくれるのかと思っためぇめ達は思い思いに鳴きながら、彼女の周囲へと集まった。
 彼等の習性なのかは分からないが、異様に互いの距離は近く。ぎゅむっとまゆに近付いて、そのふわふわの身体を押し付けてくる。その柔らかさと温かさが心地良くて、まゆは思わず笑みを零してしまうけれど――すぐ隣に座る、先程パンケーキを差し出してくれた彼の頭へと手を伸ばすと。フォークで一欠片取り口に運ぶ。
 ふわりと香るのは、甘いメープルシロップの甘さ。不思議なことに焼き立ての温かさを宿し、ほんのりと冷たい風の吹くこの地で冷えた身体に温もりが解けるよう。
 幸せそうに笑んだところで――めぇめ達が早く早くと急かすように鳴いたから、まゆは慌てて手にした絵本を開いた。
 彼女の手にした絵本の表紙には『まんどらめぇめのだいぼうけん』と書かれている。淡いパステルタッチで描かれた絵には、真っ白なまんどらめぇめの絵が。草原を、森の中を、不思議な迷宮を。旅をしながら、沢山の人と出逢うまんどらめぇめの物語。
 初めて読む物語に、まゆは心を躍らせながら言葉を紡ぎ。まんどらめぇめ達も、自分が主役だと分かっているのか、じいっと静かに聴いている。
 そんな彼等の様子が愛らしくて、物語を紡ぎながらまゆはそうっと傍に居るふわふわと撫でてみる。温もりも、ふわふわも、普通の生物とは違う感覚が心地良く。思わず幸せに頬を緩ませてしまうけれど――。
『めぇ?』
 どうしたの? と言いたげに首を傾げるめぇめ。その姿を見て、まゆは首を振ると。
「なんでもないよ、絵本の続きを読もうね」
 気にしないでと言いたげに言葉を紡いで、パンケーキを一口食べた後再び唇を開く。
 ――けれど、この穏やかな時間は永遠には続かない。
 物語が終わりを迎え、甘味が無くなればそこは再びの戦場へと変わり果てる。膝に乗るめぇめも、まゆの頭に乗り寝ているめぇめも。皆オブリビオンであることには変わらないから。猟兵として、まゆは彼等と別れを告げなければいけない。
 ごめんねと、悲しげな色を青い瞳に宿しまゆは鈴蘭の花びらを作り出す。甘い香りが広がり、白い花弁を世界の赤が染め上げる。そのまま花弁がめぇめを包み込めば、一体、また一体とその姿は消えていく。
「楽しかったよ、めぇめ。ありがとうね」
 別れを惜しむように告げられるまゆの言葉。
 ――その言葉に応えるように、どこからか鳴き声が聴こえた気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

狹山・由岐
目が眩む程の茜空
いつか遠い昔に見た
郷愁を覚える儚い色

間の抜けた鳴声に振り向けば
花畑から飛び出る白い羊の仔
精霊…にしては随分と動物味があるね

…なに、遊んで欲しいの?
緩りと同じ向きに首を傾ぐと
綿毛から飛び出す絵本にお菓子
物で釣らなくとも相手くらいはしてあげるよ
僕の欲しいモノはきっと、君達には出せない

あれもこれもと溢れる様子は
飽きずに眺めていられるけれど
こちらも相応のお返しをしなくてはね
僕の遊び道具はと云えば
生憎今のところはこの程度と
宙へ向けたカラースプレー
白い君達と赤の世界を、包み込むような紺碧の霧
一日の終りへと夜の帳を下ろしてゆく

さぁ、ほら。
良い子はもうおやすみの時間だよ




 さらりと、涼やかな風が狹山・由岐の切りそろえられた髪を揺らした。
 世界は鮮やかな赤に染まる。
 空も、花も、森も――そして、由岐の淡い青い瞳も。眩さに思わず瞳を細め、瞳の上に整った手を添えて。彼はその鮮やかな茜色を瞳に焼けつけては思い出す。
 いつか遠い昔に見た。郷愁を覚える儚い色に――。
『めぇめ?』
 鮮やかな世界に身を委ねていると、突然耳に届いたのんきな声に彼ははっと現実へと戻された。声の出所を探すように、きょろきょろと辺りを見回し。振り返ればそこには、光る花から飛び出るようにぴょんっと跳ねた白い羊の姿が。
 ふわふわな毛並みは茜色に染まり、円らな瞳でじいっと由岐を見つめてくる姿には敵意など感じない。木の精霊と、言われているけれど。
「精霊……にしては随分と動物味があるね」
 その鳴き声も、ふわふわの毛並みも。まるで羊のようでとても精霊らしくは無く、思わず彼はそう呟いてしまう。そんな由岐の眼差しがじっと注がれるものだから、まんどらめぇめは興味を持ったのか、ちょこちょこと花の間を縫い由岐の元へと近付くと。鳴きながらそのふわふわの毛を足に摺り寄せる。
「……なに、遊んで欲しいの?」
 瞳がまた交われば、めぇめはくきっと首を傾げて。それに釣られるように由岐も首を傾げれば――めぇめは『めぇ!』と同意のような鳴き声をあげると、ふるふる身体を震わせると共にぽんっと絵本やお菓子を生み出した。
 花畑にぽとりと落ちる絵本たち。頭の上に乗せたショートケーキをアピールするようにじいっと由岐を見ては、キラキラした瞳を向けてくる。
 そんな彼の行動に、由岐は思わず笑みを零すと。
「物で釣らなくとも相手くらいはしてあげるよ」
 そうっと手を彼の柔らかな身体に伸ばしながら、優しく語り掛ける。
 ――僕の欲しいモノはきっと、君達には出せない。
 だから、モノで釣られても心は動かないから。
 無邪気なめぇめは由岐に撫でられれば心地良さそうに瞳を細め、もっともっととアピールするように身体を揺らす。温かな心地も、ふわふわな心地も気持ちが良く。次々と楽しげな物を生み出す様子は、飽きずに眺めていられるけれど。
「こちらも相応のお返しをしなくてはね」
 言葉と共に、暫し由岐は考える。
 遊び道具――彼の持つ道具と云えば、今はこれしかない。
 宙へと手を上げれば、彼の手に握られたカラースプレーが音を立て、そのまま紺碧の霧が世界を包み込む。
 世界を染める赤色も。ふわふわな白い毛も。
 全てが、紺碧に。夜の色へと染まっていく。
「さぁ、ほら。良い子はもうおやすみの時間だよ」
 白い毛をひとつ撫でて、由岐は別れの言葉と共にスプレーの勢いを強くする。
 ――夜の帳が下りた時。世界は再び光に満ちていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

イフ・プリューシュ
夜をぬけたら夕焼けなんて
なんだか時間をさかのぼったみたいでふしぎね!

めぇめさん
とってもふわふわなのだわ!
お人形さんも魅力的だけれど
その毛並みもとってもすてき!
すこしもふもふさせてくれないかしら…
いいの?
それじゃすこしだけ…

ぎゅっ、って
思った通り、とってもふわふわだわ!
…でも…
…なんだか、なつかしいような
こいしいような
あまい香り
ふふ、眠たくなってしまいそう
このまま眠ったら
とってもいい夢がみられそうだけれど

でも、ごめんなさいね
わるいことをしないように、ちょっとだけ
めぇめさんたちには、ねむっていてもらいましょう




 闇夜を抜けた先――赤に染まる景色に、イフ・プリューシュは思わず瞳を細めた。
 柔らかな白の髪も、純白の白いドレスも赤に染まり。大きな瞳もまるで同じ色を宿したかのように色付く中。
「なんだか時間をさかのぼったみたいでふしぎね!」
 闇から夕への移り変わりに、イフは楽しそうに声を零しながら花畑の中へとゆっくりと足を踏み入れる。かさりと響く微かな葉の音。小さな足をくすぐる感覚に身を震わせながら、彼女はそうっと花畑を覗き込んだ。
『めぇ?』
 彼女の大きな瞳の先には、一匹のまんまるが。円らな瞳でイフを見返して、不思議そうな鳴き声をあげる。その姿と声に、イフの瞳は更に輝きを帯び。
「めぇめさん、とってもふわふわなのだわ!」
 思わず喜色の声を上げていた。
 話し掛けられたと分かったのだろう。めぇめはイフをじいっと見返したかと思うと、ふるりと震え――そのまま頭からぽんっと、人形を生み出した。淡い淡い金の髪に、赤い瞳に赤いドレスの愛らしい人形。そのままイフの身に身体を擦り付けて『めぇめ』と甘えるように鳴く姿に、イフは子供のように無邪気な笑みを浮かべる。
 その柔らかさが心地良くて、イフは大好きなお人形で遊ぶのもとっても魅力的だけれど、そのふわふわな誘惑には勝てない。だから恐る恐ると、足元の彼へと視線を下ろし。
「すこしもふもふさせてくれないかしら……」
 遠慮がちに、めぇめへと尋ねる。
『めぇめ!』
 すると彼は瞳を輝かせ、ぴょんぴょんとその場で跳ねだした。それが肯定の意味だと察すると、イフはふわりと花開くような笑みを浮かべ――そうっと両手を伸ばす。
 小さな身体でぎゅうっと抱き締めれば、ふわふわな心地が伝わってくる。とくんとくんと、命を感じる鼓動と温もり。それは思った通り心地良くふわふわだけれど――。
(「……でも……。……なんだか、なつかしいような」)
 心地良さそうに細めていたイフの瞳が、微かに揺らぎ記憶の扉を探り出す。
 どこか恋しいような、甘い香りもする気がして――。
「ふふ、眠たくなってしまいそう」
 イフは奥深くへと落ちていきそうな感覚を振り払う。冷えた身体に彼の温もりは心地良い。その温もりと共にこのまま眠れば、きっととても良い夢が見られるのだろう。
「でも、ごめんなさいね」
 悲しげに眉を下げ、そうっと彼を下ろしながらイフは紡ぐ。
 愛らしくともオブリビオン。ずっと一緒にはいられないと、幼い彼女でも分かっているから――少女は金色の杖を赤色に輝かせると、一振りと共に輝く幻影を放つ。
 彼等が悪いことをしないよう。
 おやすみなさいと、子守唄を紡ぐように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

櫟・陽里
エリシャ(f03249)に視線で助けを求める
目の前のファンシーに思考停止
あ…遊べばいいの?

子どもの頃?
俺はとにかくボールとかで体動かして遊んでたなぁ
ああ!おもちゃか
そういやお気に入りのミニ宇宙船があったよ
とにかく乗り物の操縦を夢見てた

エリシャの子供の頃見てみたかったなぁ!写真無いの?
無いのか…世界が違いすぎるもんな
料理上手だからままごとで遊んだってのは意外じゃないし
どんな子だったのかなぁって妄想がはかどる
敵と一緒になって絵本聞いちゃう
(そしてモフモフに絡め取られ埋もれる)
宇宙の話に嬉しそうに笑いながら敵をよーしよしって撫でる

銃撃…するべき?
こういう時、浄化みたいな技を持ってない事を残念に思うな


エリシャ・パルティエル
陽里(f05640)と

まあ、こんなに可愛い羊たちがオブリビオンなの?
可愛くても倒さなくちゃいけないのはわかるけど…
でもほらこんなに遊びたがってる
気が済むまで遊んで…そして還ってもらいましょう

陽里は小さい頃どんな風に遊んだの?
初めてバイクに乗った話は聞いたけど
おもちゃで遊んだりとかも?
ふふ陽里らしいわ

あたしはお人形遊びとかままごととか
だからこの子たちともそんな風に遊んであげる
写真はないのよ

美味しいおやつができたわよって
放たれた食べ物を逆に差し出して
いい子にしてたら絵本を読んであげる
宇宙の話よ
あの空の向こうには夢と希望がいっぱいなのよ

頃合いを見計らってUCで眠ってもらうわ
浄化は任せて
おやすみなさい




 赤に染まる世界で、光る花々の影から姿を現すのは愛らしい見目をした羊達。
 その姿を前にして、櫟・陽里は動きが止まった。
 相手は敵。オブリビオン。倒さなければいけない相手だと、分かっている。
 けれどその見目があまりにも愛らしく、ファンシーで。決して害など無さそうな様子に、思わず陽里の思考は停止する。
「まあ、こんなに可愛い羊たちがオブリビオンなの?」
 傍らで声が聴こえれば、停止した思考が元に戻る。その声の主――エリシャ・パルティエルへと向ける緑色の瞳は、助けを求めるようで。その眼差しを見返して、エリシャは彼の考えを察しくすくすと笑い声を零した。
『めぇ?』
 花の隙間から抜けて来て。二人の足元へとやってくるとまんどらめぇめが身を摺り寄せてくる。遊んで遊んでと、せがむ様子に陽里は戸惑うようにわたわたとするけれど。エリシャはしゃがんで、そうっとその身体を撫でてあげた。
 エリシャの手に、心地良さそうに瞳を閉じる白羊。いくら可愛くとも、倒さなくてはいけないことは分かっているけれど――。
「でもほらこんなに遊びたがってる。気が済むまで遊んで……そして還ってもらいましょう」
 尚もキラキラとした眼差しを向けてくるめぇめ達を前に、エリシャがそう紡げば。陽里は見るからに焦るような、困ったように笑う。
 そんな不器用な彼の姿が微笑ましく、エリシャは口許に手を当てながら笑い声を零し、そっと一つ問い掛けを。
「陽里は小さい頃どんな風に遊んだの?」
 それはただの思い出話では無い、助け船。
 初めてバイクに乗った話は聞いたことがあるけれど、幼い頃ならばおもちゃで遊んだ意経験もあるだろうか。――彼の育った世界に、そういった物はあるのだろうか。
 そんな疑問を胸に問い掛ければ、陽里は少し急な質問に瞳を瞬く。
「子どもの頃? 俺はとにかくボールとかで体動かして遊んでたなぁ」
 するりと出てくる答えは、ほんの少しだけ意図が違う。おもちゃだとエリシャが告げれば、ああ! と気付いたように声を上げる。
「そういやお気に入りのミニ宇宙船があったよ。とにかく乗り物の操縦を夢見てた」
 そんな、とても『らしい』答えについエリシャは微笑んでしまう。世界が違えば幼い頃に過ごし方も違うけれど、彼の根幹はこの時から変わっていないと分かったから。
「あたしはお人形遊びとかままごととか」
 だからこの子達とも、同じように遊んであげようと――その場に腰を下ろしたエリシャを見て、陽里は幼い頃の彼女を夢想する。
「エリシャの子供の頃見てみたかったなぁ! 写真無いの?」
「写真はないのよ」
 彼の問いに、ふるりと首を振るエリシャ。――彼女の出身は、この地と同じアックス&ウィザーズの砂漠の街。文化も、文明も違うこの地においてはそのような利器は無い。それを察したのか、陽里はそうか……と少し残念そうに呟いた。
 けれども、料理上手な彼女がおままごとで遊んでいたのは意外では無い。むしろどんな少女だったのだろうと、想像しつつ彼はエリシャに並び腰を下ろした。
 二人が花畑に腰を下ろせば、まんどらめぇめ達も興味を持ったようで。遊んでくれるのかと近付いては、身を寄せてきたりその膝に乗ったりと積極的。その愛らしさにくすくすとエリシャは笑みを零し、ぽんっと頭にクッキーを乗せる子のお皿を手に取ると。
「美味しいおやつができたわよ」
 ――彼等と、おままごとを始める。
 甘いお菓子を一緒に食べて、良い子の彼等には絵本を読もう。
 飛び出た絵本は宇宙のお話。瞬く星の世界を旅する旅人のお話。
 めぇめと、興味津々覗き込む姿を見て。優しく微笑み、撫でながらエリシャは赤く染まる空を見上げ――。
「あの空の向こうには夢と希望がいっぱいなのよ」
 今は瞬く星空では無いけれど。時刻が変われば見える星空。その中には、彼の過ごした宇宙があり、数多の人々の想いが詰まっている。どこか遠くを見るように、金色の瞳を細める彼女の横顔を見て――陽里は無意識に、溜息を零していた。
 そんな彼の周りへと、いつの間にやらまんどらめぇめが集まっていて。甘い声で紡がれる物語を聞いていれば、白いもふもふに囲まれ、温かな心地に包まれていた。
 その頃になれば戸惑っていた陽里の様子はどこにやら。優しく彼等を撫でて、心地良さそうな姿を受け容れることが出来るようになっていた。
 けれど――仲良く過ごす時間は一生では無い。
 彼等は敵。遊び疲れたのか眠ってしまった様子は穏やかだけれど、倒さなくてはいけないと頭では分かっている。
「銃撃……するべき?」
 戸惑うように陽里はそう紡ぐ。それはあまりにも可哀想で、拳銃を握るのを躊躇ってしまう。そんな彼の様子にエリシャは微笑みを浮かべると――。
「浄化は任せて」
 前へと一歩出て、呪文と共に右掌の聖痕から聖なる光を放つと、眠る彼等を更なる深い眠りへと落としていった。
 ――おやすみなさい。
 最後まで優しいひと時が、二人を包んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

尭海・有珠
レン(f00719)と

燃えるような赤さだな
濡れたような赤でないのなら…大丈夫、と内心零し
目を眇めるだけで、手を繋いだまま一歩を踏み出す

かわいいものだな、羊
とりあえず触れそうならわしゃわしゃ触って撫で回したい
…枕?と首を傾げるが否やはない
私もふっかふかの枕…抱き枕でも良いな
いつだって眠い私にとっては、寝るというなら喜んでというより他ないからな

そうだな、欲張るなら甘いものを食べて、小腹を満たしてから
昼寝という贅沢コースはいかがだろう
羊達も勿論ハクも一緒に、な

体力も回復したし、眠気も多少快復した
素敵なものをありがとうな
名残惜しいが、オブリビオンは放置できないものだから、ごめんな――≪青の抱擁≫


飛砂・煉月
有珠(f06286)と

夕焼けに目を細める
赤々と染まる世界に懐かしいような気持ちひとつと
繋いだ手のぬくもりひとつと

次は羊だってさ
遊んで欲しそうだけど、とりあえずわしゃわしゃしちゃお!
そうだオレ枕欲しい、もふもふのでっかいヤツ!
あ、抱き枕も捨て難い!
赤く染まった世界に海の色をちょーだい?
そんで、軽く睡眠とかね
ふっふーん、
有珠なら睡眠喜んでくれるかなって、へへ

あ、甘味を食べてお腹を満たして昼寝もイイね
その豪華コースに羊達も誘っちゃお
ね、ハクも呼んでイイ?
食べたいと白槍から訴えが有るから

時に終いは必ず来る
……噫、もう時間だね
夕焼けの世界には白の槍でサヨナラしよう
バイバイ、おやすみ
ありがと――竜牙葬送、




 赤に染まる広い世界――。
 そのあまりの鮮やかさに、瞳を細めながら飛砂・煉月は息を呑んだ。
 赤々と染まる世界を前に、胸に宿るは懐かしいような気持ち。そして――。
「燃えるような赤さだな」
 繋いだ手の温もりの先、静かな水面のような海の瞳を細めた尭海・有珠が淡々と零す。その言葉の裏に、別の意味がある事は秘めておこう。――濡れたような赤でないのなら……大丈夫だと。
 さくり、どちらからだろう一歩踏み出したのは。
 輝く花々の中歩み、じっと彼等が見下ろすのは真白のふわふわ。
『めぇめ?』
 くきっと首を傾げて。遊んでくれるの? と言わんばかりに期待に瞳を輝かせる彼。
「かわいいものだな、羊」
「遊んで欲しそうだけど」
 仄かに口元を緩め有珠が紡げば、煉月はこくりと頷きつつ――そのまま右手を伸ばすと、そのふわふわへと触れてみる。
 触れればふかりと、まるで雲のような柔らかさ。けれど生き物故の温もりも伝わり、奥へ奥へと吸い込まれていくような魅惑の触り心地。
 初めての感覚に、煉月はおお! と思わず瞳を輝かせる。めぇめももっとして欲しいと言わんばかりに見つめてくるから、繋いだ手を一時離して。今度は両手を使ってその身体全体を撫でまわす。
『めぇめ……』
 心地良さそうな仲間が羨ましいのか。ちょこちょこと有珠へと近付いて来た別のめぇめがじいっと期待の眼差しを送ってくる。その円らな瞳を見返して、有珠は笑みを零すと自分も両の手を伸ばした。――離れた手の熱が、今は動物の温もりに触れている不思議。
「そうだオレ枕欲しい、もふもふのでっかいヤツ!」
 まんどらめぇめをわしゃわしゃと撫でながら、煉月の口からはぽんぽんと願いが零れていく。その言葉に有珠は一瞬首を傾げるけれど、腕の中の温もりを前にすれば頷きを返し。自分も枕を――もしくは抱き枕が欲しいと同意を示した。
「いつだって眠い私にとっては、寝るというなら喜んでというより他ないからな」
 いつも冷めたような眼差しの理由は、眠さの証。それを煉月は知っているから。予想通りと、どこか嬉しそうに笑みを浮かべる。
「有珠なら睡眠喜んでくれるかなって、へへ」
 だから――赤く染まった世界に海の色をちょーだい? と、煉月が願えば手元のめぇめはふるりと震え、次の瞬間には海色のふかふか枕がぽんっと世界に現れた。
 普通の枕だけでは寒いだろうからと、めぇめの心遣いなのだろうか。巨大なふかふかは、まるでベッドのようで。ごろりと二人で横になれる。
 すかさずめぇめもぽふりと、二人の上へと乗っかって。ご機嫌な様子で鳴き声をあげる彼を、優しく撫でながら更なる願いを有珠は言葉にする。
「そうだな、欲張るなら甘いものを食べて、小腹を満たしてから。昼寝という贅沢コースはいかがだろう」
「あ、甘味を食べてお腹を満たして昼寝もイイね」
 少女の提案に、勿論煉月は瞳を輝かせて大きく頷く。折角願いが叶うのならば、思いっきり贅沢をしても良いだろう。
 そこには、煉月と有珠の二人だけでは無い。互いの上に乗るまんどらめぇめと、そして煉月の相棒である白銀竜のハクも共に。――だって、さっきからずっと一緒したいと白槍が訴えている気がするから。
 気付けば花畑の中は、不思議な憩いの空間へと変わっていた。
 花々の甘い香りに、お菓子の香り。ふかふかな心地に全身包まれて、温かな動物の体温を感じながらのひと時は正に極上。空の移り変わらぬ迷宮故、正確な時間の変化は分からないけれど。恐らく時間的にはさほど経っていないのだろう。
 けれど、心地良いからか。確かに身体は休息を得ることが出来た。
「……噫、もう時間だね」
 瞼を開き、染まる世界に負けぬ赤い瞳で天を見上げながら残念そうに煉月は紡ぐ。
 そう、この時間はひと時のもの。
 だって、愛らしくとも彼等はオブリビオン。猟兵と相容れることは出来ないから――。
「素敵なものをありがとうな」
 名残惜しげに膝の上のめぇめを一撫でして、ふうっと息をひとつ吐いた後有珠は呪文を唱える。すぐに赤の世界に生まれる、薄青い光はやけに強く輝いて見えて――そのままめぇめの身体を拘束するように包み込む。
 続くように煉月も覚悟を決めると、ハクの名前を呼ぶ。ハクもめぇめとは共に戯れて少し名残惜しいのか、ひとつ鳴き声を上げるとしゅるりと姿を槍へと変えた。
「バイバイ、おやすみ」
 響くのは、竜の咆哮と葬送歌。
 ――ありがと。最後に紡いだ言葉は、消えゆく彼に聴こえただろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

波瀬・深尋
キトリ(f02354)と

真っ赤だな
闇を抜けた先の赤い世界
思わず双眸を細めて呟いて
現れた羊たちに瞬きをひとつ

遊んでみるか、キトリ?
近くにいた羊をそっと抱き上げ誘い掛けた
ぎゅっと抱きつく様子を見て
くすくすと楽しそうに肩が揺れる

お前のサイズなら埋まるか
もっと小さな子どもがいたら
ちょうど、もふもふ出来そうだけど
なんて、考えていれば
気付けば俺まで毛むくじゃらになった
まさかこんなに毛だらけになるとは
二人で顔を見合わせて笑ったら
キトリも同じだろ?
森とおひさまの匂い、お揃いだな

十分に堪能したら
羊たちには眠ってもらおうか
名残惜しいけど
穏やかな夢が見られるように


キトリ・フローエ
深尋(f27306)と

夜の森を抜けたら、今度は黄昏色の花畑
その眩さに目が慣れるまで少し時間がかかったけれど
気づけばぬいぐるみみたいな羊がいっぱい!
うふふ、深尋も遊びたいのね?
わかるわ、あたしもよ
抱き上げられた羊を撫でてからぎゅっと抱きついて
いっそのこと埋もれてしまいましょう
深尋!この子、森とおひさまのにおいがするわ
お昼寝には少し遅い時間なのが惜しい心地さえ
ふかふかの毛並みを堪能しつつ
甘いお菓子でお茶会を楽しんでいたら…まあ!
いつの間にかもこもこな深尋
その可愛さに思わず笑ってしまう
今のあなたも、森とおひさまのにおいがするわ
…ええ、お揃いね

お別れは花咲く穹の譚詩曲
どうか、優しい夢が見られますように




 闇を抜ければそこには――全ての世界を染め上げる、赤色が待っていた。
 そのあまりの眩さに、キトリ・フローエは思わずぎゅっと両眼を瞑り世界を閉ざしてしまう。夕暮れの世界に慣れるのには暫しの時間を要するだろう。
「真っ赤だな」
 眩さに瞳こそ閉じなかったけれど、思わず細めてしまった波瀬・深尋から零れる言葉。彼の紡ぐ通り赤く、赤く染まる世界は先程とは違う場に迷い込んでしまったかと錯覚するほど、全ての景色が違って見える。
 けれど、二人の前には確かに淡く光る花々が揺れていた。
 仄かな冷たさを帯びた風が肌を撫でる。木々を揺らし、花を揺らし――その花の揺れがどこかおかしいと思い深尋がまじまじと見れば、ひょっこりと顔を出す白いふわふわが。
『めぇ!』
 上がる声に合わせるように、気付けば辺りには白いふわふわが顔を出して二人をじっと見つめていた。注がれる視線に、光に慣れたアイオライトの瞳をキトリは瞬く。
 自身の顔の近くで、翅を羽ばたかせながらじーっと彼等を見る少女のその姿に。深尋は笑みを浮かべると、足元にちょこちょこと寄ってきためぇめを一匹抱き上げ。
「遊んでみるか、キトリ?」
 傍らの彼女に向け、差し出しながら問い掛ける。
 すぐ傍に現れた円らな瞳。その奥に見える藍色の瞳を見返して、花開くように笑うとキトリはこくりと頷きを返す。
「うふふ、深尋も遊びたいのね? わかるわ、あたしもよ」
 頬を染め、無邪気に笑うキトリ。そのまま彼女は深尋に抱き上げられためぇめを撫でると、ぎゅっと身体全体を使って抱き着いた。
 ふかふかな心地は雲のようで、生物の温もりは気持ちが落ち着く。どこまでも、どこまでも沈んでしまいそうな感覚が心地良くて――ゆるりと瞳を閉じてキトリは身を任せる。
 その様子を見て、深尋は優しげに瞳を細めると。笑みと共に楽しそうに肩を揺らしている。フェアリーであるキトリにとっては、小さな彼等も随分と大きいのだ。埋まってしまう程のふわふわさに穏やかな気持ちになりつつ、彼等にもっと小さな子供がいればきっとキトリにも丁度良いサイズだったのだろうけれど。様々なサイズの子がいるようだが、残念ながら程よいサイズの子はいない様子。
「深尋! この子、森とおひさまのにおいがするわ」
 辺りを見回していると、ぱちりと瞳を開き。顔を上げたキトリから声が上がる。沢山の陽射しを浴びたのだろうか。それとも木の精霊であるが故か。心地良い森を纏う彼等の香りを感じ、キトリはぎゅうっと抱き着く力を更に強めた。
 世界が赤く染まる黄昏時。お昼寝には少し遅い時間なのが惜しいと想うけれど――『めぇめ』と鳴く彼等が集まってくれば、それぞれの頭には紅茶やケーキを乗せて一緒に遊ぼうとアピールしてくる。
 カップはキトリサイズの物もしっかり用意されていて。一口口にすれば寒い中、心も身体も温まる心地。芳しい花の香りを胸いっぱいに吸い込んで、キトリがお茶とチョコレートケーキを堪能していれば――。
「……まあ!」
 気付けば、深尋がもふもふ達に囲まれていた。
 至る所から鳴き声があがり、もっと遊んでと言いたげに深尋の膝に乗り、肩に乗り、頭に乗り――と彼等がじゃれついた結果なのだろう。
「まさかこんなに毛だらけになるとは」
 少し困ったように深尋は紡ぐけれど。それでもめぇめ達を邪険にしない彼の優しさに、そして可愛さにキトリは微笑み、顔を覗かせた深尋をじっと見つめる。
 その大きなアイオライトの瞳を深尋が見返せば――自然と二人から小さな笑い声が零れた。そのままキトリは羽ばたくと、めぇめに囲まれる深尋の肩へと降り立つ。近付けば、ふわりとキトリの鼻をくすぐる香りが。
「今のあなたも、森とおひさまのにおいがするわ」
 穏やかに微笑んで、耳元で紡がれる少女の言葉。
 その言葉に深尋は少し驚いたように瞳を瞬くけれど――すぐに笑みを零し、こう紡ぐ。
「キトリも同じだろ?」
 ――森とおひさまの匂い、お揃いだな。
 それは互いに、めぇめ達に囲まれたから。お揃いの香りを纏ったことが嬉しいような、くすぐったいような感覚に、キトリは笑いながら頷きを返す。
 そんな彼等とのひと時は、残念ながらずっとは続かない。
 二人でお別れを告げれば、戦場には青白い炎が燃え、光り輝く空色の花弁が舞い散る。
 せめて少しでも、痛みを感じないようにと祈りながら。二人は最後のひと時を、彼等を送り出す瞬間を心に刻む。
 どうか――穏やかで、優しい夢が見られますように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーシー・ブルーベル
【月光】

夕焼け空の花畑
うつくしいけれど何処かふしぎ

ゆらりお花が揺れたら
ひゃあっ
思わずゆぇパパの手に縋ってしまったけれど
ひつじさん?かわいいな
ひょっとして遊んでほしいのかな

現れたのはブルーベリーとオレンジたっぷり
フルーツサンドイッチ
これ、ルーシー達に下さるの?
パパと一つずつ手にしてぱくり一口
ん!おいしい!
パパの作るサンドイッチの方がおいしいけど!
やった、楽しみ

ふわふわなひつじさん達に囲まれて
いえ、これは埋まってる?
もこもこして気持ちがいいけれど、前が
パパはどこ?
あっという間に視線が高く
ありがとう
今の少し楽しかった

楽しい時間だったから
お別れが少しさみしいけれど
せめてお花に囲まれて
お休みなさい


朧・ユェー
【月光】

真っ赤に染まる世界
嗚呼、美しいけど何処か呑み込まれそうだ
そう思っているの彼女の驚いた声と手の感触
ルーシーちゃんどうしたのかい?大丈夫ですか?
彼女と同じ目線でひつじ
おや、可愛いひつじさんですねぇ
一緒に遊びましょうか?

サンドイッチ?確かに美味しいね
ふふっ僕の方が美味しいのかい?ありがとうねぇ
じゃ帰ったらとっておきを作らないとね

もこもこなひつじ達
埋もれた子に
ふふっ、僕はここですよ
ひょいと彼女を抱きかかえてそっと下ろす

楽しい時間は終わりを告げる
えぇ、痛くなく。パクッとされてる間に、ね
ゆっくりおやすみなさい




 赤く、赤く染まる世界がそこには広がっていた。
 ――嗚呼、美しいけど何処か呑み込まれそうだ。
 朧・ユェーは眼鏡の奥の瞳を思わず細めながら、心にそう想った。
 すうっと息を深く吸い込んだのは無意識か。意識が遠く、遠くなっていたその時。
「ひゃあっ」
 上がる少女の声に現実へと引き戻される。ぎゅっと手に伝わる小さく温かな感触。視線を下へと落とせば、ルーシー・ブルーベルがユェーへと縋るように手を握っていた。
「ルーシーちゃんどうしたのかい? 大丈夫ですか?」
 意識が離れていたから、大切な彼女の変化に気付けなかった。少女が何に驚いたのかと、確かめるように問い掛けるけれど。ルーシーはじいっと花畑を見つめている。彼女の大きな左目の先を追うようにユェーが金の瞳を動かせば。
「おや、可愛いひつじさんですねぇ」
 花の中からひょっこりと顔を表したのは、のんきな表情を浮かべる真白の羊。
 ふわふわの毛並みを揺らしながら、『めぇめ』と鳴くその姿に。ルーシーは不思議そうにぱちぱちと瞳を瞬いた。
「ひつじさん? かわいいな」
 ぎゅうっと強くユェーの手を握っていた力を弱めると、少女は頬を綻ばせる。『めぇめ』と鳴き声を零しながら、ちょこちょこと近付いてくるまんどらめぇめを視線で追えば、彼は遊んで欲しそうにルーシーの足元へとふわふわを寄せてきた。
「ひょっとして遊んでほしいのかな」
 そのふわふわの心地に少しくすぐったそうに身体をルーシーが振るわせれば、ユェーもこくりと頷いて。一緒に遊びましょうと優雅に紡いだ。
 ユェーの手からそっと離れて、ルーシーはしゃがみ込むとじっとめぇめを見つめ、手を伸ばす。そっと撫でればふわふわで、生物らしい温かな心地が伝わって。嬉しそうに少女が笑みを零した時――その羊がふるりと身体を震わせると、その瞬間頭にお皿に乗ったサンドイッチが現れた。
『めぇ』
「これ、ルーシー達に下さるの?」
 ずいっと頭を寄せてくるめぇめ。そんな彼とお皿の上のサンドイッチを交互に見つめ、ルーシーはぱちりと瞳を瞬きながら問い掛ける。すると彼はそうだよ、と言わんばかりにまた鳴きつつ、ぐいぐいと頭を寄せる。
 サンドイッチの断面に見えるのは、花のように咲く果実。ブルーベリーとオレンジ、そして生クリームがたっぷり入っているサンドイッチを、ルーシーは手に取ると。ひとつはユェーへと差し出して、同時にぱくりと口にする。
「ん! おいしい!」
「確かに美味しいね」
 瞳を輝かせる少女と、そんな少女を見て穏やかに笑む青年。果実は程よい酸味を含み、生クリームとの相性は抜群。しっとりとしたパン生地も合わさり、まるでケーキのような贅沢で、けれど軽やかな味わいはいくらでも食べられそうな程。
 赤く染まる世界でのピクニックに相応しい、とても美味しい味なのだけれど――。
「パパの作るサンドイッチの方がおいしいけど!」
 サンドイッチを手にしたまま、じっとユェーを見上げてルーシーはそう紡ぐ。その言葉に、ユェーはふわりと笑みを浮かべるとお礼を述べ。
「じゃ帰ったらとっておきを作らないとね」
 戦いの後の約束を交わせば、ルーシーは嬉しそうに綻んだ。
『めぇめー』
 そんな約束を交わす彼等の元へと、仲間に入れてとばかりにめぇめがずいっと入ってくる。ルーシーの膝の上に乗って、ふるふる身体を震わせて。此処にいるよとアピールするかのよう。――気付けば、辺りには数多のまんどらめぇめが集まってきていて。甘味を堪能するルーシーの元へと、次から次へと乗ってくるから。小さな少女の身体は白いもふもふに段々と埋まっていき。
「前が……、パパはどこ?」
 ふわふわで、温かな心地に包まれるのは気持ちが良いけれど。前が見えず、ユェーを探すように宙を手が泳げば――その手が引かれ、気付けば視線が高くなっていた。
「ふふっ、僕はここですよ」
 次の瞬間、ルーシーはユェーに抱きかかえられていた。まんどらめぇめとは違う人の温もりに、ルーシーは少しの驚きを感じるけれど。
「ありがとう。今の少し楽しかった」
 地に下ろして貰った後、笑みと共に彼へと零すほんのちょっぴりの子供らしい感想。そんな少女の笑みと、無事な様子にユェーは笑みを零す。
 ――お腹がいっぱいになって、沢山戯れて。
 楽しい時間だったから、尚お別れは寂しいけれど。彼等を倒さなくてはいけないことはユェーも、そして小さなルーシーも分かっている。
 だって彼等は、猟兵だから。
「せめてお花に囲まれて、お休みなさい」
 祈るように手を合わせ、ルーシーが呪文を唱えれば数多の釣鐘水仙の花弁が舞い踊る。ひらり、ひらりと赤に染まる花弁がめぇめを包み込めば、彼等の身体は消えてゆく。
「ゆっくりおやすみなさい」
 消えゆく真白のふわふわを見つめ、微笑みながらユェーもお別れの言葉を紡いだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『星送り』

POW   :    星に願いを込める

SPD   :    星空や夜景を眺める

WIZ   :    夜市を楽しむ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●囁く星々
 闇の森から、真っ赤に染まる夕焼け空。――そして、最後に辿り着くは瞬く星空。
 肌や髪を撫でる風は、先程の迷宮とは違い凍て付く程に寒い。唇から息を零せば白い吐息となり世界に広がり、淡く淡く溶けていく。
 まるで囁き声が聞こえそうな程美しい、澄んだ夜空に瞬く星々。
 その星と月を映す海は――闇に染まる中、穏やかな波の音を届けてくれる。
 闇に、星に、海に。包まれたこの地にて、今から始まるは想いを届ける儀式。仄かな灯りを海へと浮かべ、瞬く星々へとその想いを届けるお祭りの夜。
 街の中心は夜市も並び、街の特産である数多の硝子細工を扱っている為賑やかなようだが。海へと近付けば喧騒も穏やかになり、徐々に静謐な世界へと変わっていく。
 波の音へ近付く程、人の声も、気配も淡くなっていく。
 そう、まるで全てが闇に溶けたように。海にさらわれてしまったかのよう――。
 仄かな灯りがゆらゆらと揺れる情景を眺めながら、今このひと時だけは自分と。そしてすぐ傍に居る誰かと。限られた人とだけの特別な時間。
 凍て付く世界での温もりは何を求めよう。
 闇を照らす灯りは何だろう。
 五感に触れる全てが、この一夜の特別な思い出になるはずだから。

 ――さあ、アナタは星へと何を想う?
花澤・まゆ
静かで優しいお祭り
…灯りを入れる硝子細工を購入しよう
少し華奢な形のがいいな
それに、胸に仕舞っておいた光灯す花をそっと入れて
これが、あたしの灯り

少し人から離れて海に浮かべよう
願うのは、「あたしがあたしの光になれますように」
けっして屈しない
けっして折れない
そんな光に、あたし自身がなれますように
未来を照らせるような光になれますように

まだ、本当は弱くて負けそうなあたしだけど

追いつくって決めた人がいる
だから、あたしは強くなりたい
強く輝きたい

小さくくしゃみをして、灯りを見送るよ
どうか、見守ってね
まだ弱い光のあたしを




 ――静かで優しいお祭り。
 人々の集う地へと足を踏み込めば、花澤・まゆは真っ先にこの地へとそう想った。
 淡い光が闇を照らし、穏やかに笑む人々は願いを胸にしているのだろう。
 まゆの手にしたのは、細身で薄い硝子で作られた華奢なランプ。そこに先程の迷宮で手にした光灯す花を秘めれば――ぼんやりと、桜の模様が硝子に浮かび上がる。
「これが、あたしの灯り」
 世界を照らす温かな白き光。遠く遠く、一際明るく照らすことが出来るその光を見て。まゆは口元を綻ばせ小さく紡いだ。
 辺りに人はいない。
 人の喧騒の聞こえぬ夜の海で、穏やかな波の音だけがまゆを包む。
 ランプを手にし、深く深く息を吐けば。ふわりと世界に白き吐息が零れて消えていく。
 さあ、願いを込めよう。決意を胸にしよう。
 まゆの、一人生きてきた少女の願いは――あたしがあたしの光になれますように。
 それは、彼女の心に灯る強き意思。
 決して屈しない。決して折れない。
 そんな光に、まゆ自身がなれますようにと。未来を照らすような光になれますようにと。想いを込めて、そうっと彼女は海の上へとランプを浮かべた。
 ちゃぷりと波音に乗り、ゆらゆらと灯りを揺らしながらランプは流れていく。細身のそれは、大きな波が訪れれば沈んでしまいそうな程どこか危うい。
 それはまだ、本当は弱くて負けそうなまゆを映しているようにも見えて。まゆは瞳を細め、ただじいっとそのランプを見つめた。
 この願いを乗せたのは――追いつくって決めた人がいるから。だから、まゆは強くなりたい。強く強く輝きたい。そう、心から願ったのだ。
 ひとつ風が吹けばまゆの二つに結った艶やかな黒髪を揺らし。その冷たさに少女は震え、小さなくしゃみを零す。同時に少し俯くけれど――再び視線は海の奥へ。流れゆく自身の灯りへと向けられる。
(「どうか、見守ってね。まだ弱い光のあたしを」)
 ゆらり、ゆらり。
 揺れる光が遠く淡くなっていく。波に飲まれずに揺蕩うその様子に、少しだけ彼女は勇気づけられたような気がして、口元に綻ぶ花を咲かせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

パウラ・グラーテス
アリス(f27443)と
ふふふ!おとなの目をぬすんで夜更かしだなんて
なんだか、『わるいこ』になったみたいだわ!

此方を案じてくれる様子に笑みを返す
アリスは、こころがあまり顔にでないだけで
なにも感じていないわけではないことを、他でもない彼女が教えてくれた
だから、そのぶんわたしがわらってみせるの

きれいね
地面に星屑をちりばめたみたいだわ

朝も、昼も、夜もない
灰色の景色は今は遠く
ひかりに満ちたこの夜に
気をつけていないととらわれてしまいそう

ゆびさきに招いたひかりの蝶
彼女の仕草に、ただ目を細めて

テティス。テティス。銀の御足へ、その星籠へ
想いを、ねがいを、そうっと唇に乗せた

――アリスのねがいが、届きますように!


アリス・ランザデッド
パウラ(f31973)と

慣れた暗闇に戻り、ほう、と息を吐けば白い靄がふわりと漂うことに気づいて

パウラ、寒くはない?

アリスの知る闇は昏く――音もない、光の届かないものだったと感じていたが、空を見上げれば煌めく星に、眩しそうに眼を細める

夜市も、ガラス細工も、アリスにとっては全てが目新しい
何もかも忘れたが、これから新しくたくさんのことを知っていけると、めぇめに――パウラに、教えてもらった

ひらり。一匹の蝶が光を放ちながらやって来る
そういえば、願いを込めた光を海に流すのだったか
アリスは蝶をパウラに教えてもらったように指に止め、願いを――

記憶が戻らなくてもいい
これからも――暖かい何かを、得られるのならば




 世界は再び闇に染まる――。
 赤から黒の世界に戻ったことで、アリス・ランザデッドはほうっとどこか安堵したような溜息を零した。その吐息と共に漂う白を見て、彼女はそっと傍らを見遣る。
「パウラ、寒くはない?」
 視線の先には、闇色に染まる華やかな少女。星落ちたような輝く青い瞳をじっと見て、心配そうに問い掛ければ。パウラ・グラーテスはふわりと笑みを返した。それは、大丈夫だと語るように。
 アリスは、こころがあまり顔に出ないだけ。
 何も感じていない訳では無いことを、他でもない彼女がパウラに教えてくれた。だから、その分彼女は笑って見せるのだと心に決めたから。
「ふふふ! おとなの目をぬすんで夜更かしだなんて。なんだか、『わるいこ』になったみたいだわ!」
 ころころと零れる笑みと共に、零れ落ちる声は弾むような色を宿し。そう語る彼女はとても楽しそうで、アリスは大丈夫なのだと察するとそのまま視線を天へと向ける。
 そこには瞬く星々にぼんやりと浮かぶ月。
 此処はこんなにも闇に染まっているのに、アリスの知る闇とは少し違う。――アリスの知る闇は昏く昏く、音も無い、光の届かないものだった。だから彼女にとっては、ほんの少しでも世界を照らし導くこの光があまりにも眩しくて、そっとその瞳を細める。
 賑やかな夜市も。闇を照らす灯りにキラキラと輝く硝子細工も。アリスにとっては今この地に溢れるもの全てが目新しい。
 何もかも、忘れてしまった。けれど、これから新しく沢山のことを知っていけると。
(「めぇめに――パウラに、教えてもらった」)
 きゅっと唇を結び、胸元で掌を握る少女。闇に染まる迷宮で、赤に染まる世界で戯れた白き彼に出逢ったことで、ほんの少し変わったアリスの心。そう、知らないならば知っていけば良いのだ。広い広い、世界のことを。
「きれいね。地面に星屑をちりばめたみたいだわ」
 そんなアリスをこの地へと戻すのは、またパウラの言葉。白い吐息を零し、見惚れるように少女は夜空を見上げ、そして光が映る闇の中の海を見遣る。
 朝も、昼も、夜も無い。灰色の景色は今は遠く――ひかりに満ちたこの夜に、気をつけていないととらわれてしまいそうだと。そう想ったから、パウラはふるりと首を振りこの世界へと意識を向ける。
 響く波音は穏やかで。
 けれどどこか心に沁み渡るような不思議な音色。
 囁くように美しく瞬く星々も、闇に染まる海も、全てが綺麗だけれど――そんな世界を照らすかのように、ひらりと一匹の光る蝶が舞ってきた。
 それは、先程の迷宮で。どのように接して良いか分からないアリスの代わりに、パウラが自身の指に導いた蝶。このせかいの色彩を、分かち合った白き蝶。
 ひらひらと優雅に世界を照らすその蝶を見て――アリスは、ひとつ瞳を瞬いた。
(「そういえば、願いを込めた光を海に流すのだったか」)
 心に想い、アリスがそうっと手を伸ばせば――ひらりと、蝶は彼女の細い指に止まる。
 淡く光る翅を瞬くように揺らし、ゆっくりと呼吸をする蝶は静かにアリスを照らす。その様子に、先程森で戸惑っていた少女の姿を重ね。静かに瞳を細め、パウラは微笑んだ。
 宙へと伸ばした手。
 戸惑っていた心。
 その全ての答えが、今ここにあるのだから。
 さあ、星瞬く夜の元で。この明かりへと願いを込めよう。
 指先で揺れる光が眩しい。瞳を細め、アリスは真っ先に自身の記憶のことを考えるけれど――ふるりと首を振り、心に想う。
 記憶が戻らなくても良い、と。
(「これからも――暖かい何かを、得られるのならば」)
 ちらりと隣を見れば、祈るかのように両手を組むパウラの姿が。この温もりが、新たに得た世界のいろが、これからもアリスを照らしてくれるのならば、それで――。
 白い吐息を零すアリス。そんな彼女を見守るように見つめながら、そうっとパウラも願いを唇から零した。テティスへと願うように。銀の御足へ、その星籠へ。
 どうか、どうか。
 ――アリスのねがいが、届きますように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ライラック・エアルオウルズ
ペペルさん(f26758)と

流星に手は届かず
海流の舵は取れず

願うにも至らない僕のため
流れ届いた小瓶みたいに
海を征くのを助けてくれる?
ふたり秘めた切なる願いを
必ず星まで届かせたいから

願い灯すは星のかたち
星空を湛えた溟海を
流星めいて征くように
そうして、願い届くときには
ふたつ星となれたら素敵だ

窺い知れぬ少女の願いに
灯り、征く、願いもあるから
星の傍は満たされていようが
揃いのふたつ、は特別だもの

なんて、ふたつを分け合う
星のよに眩い、恋人を想う
未だ僕で良いのか惑えども
どうしようもなく、我儘に
裡満ちた愛の枯れないこと
共に居たいことを、願おう

これは願掛けのようなもの
どうか、先に届けておくれ
願い籠めて、共に海へ


ペペル・トーン
ライラちゃん(f01246)と

願いの後押しなんて、光栄ね
貴方の元へ流した小瓶のように
星の元まで波に揺れて
互いの想いは秘密のまま
違う想いを願いましょう

流すのなら…花の形がいいわ
温かそうな白の花
内に秘める甘い香りのような淡い夢を願うの
本物になってほしいって
2つの願いが揺蕩う先は、きっとステキなものよ

遠いと思う理想のお話
たくさんを好きになって過ごす、楽しい恋
…難しいって分かってるの
そんなおとぎ話は、知らないもの

だから、叶えてくれる特別1番な人の元まで
この胸の揺れる先が続いて欲しい
貴方が誰か…知るのが少し怖いわ
でも、手を伸ばしたいの
怯えずに、溺れずにいられる私の夢

星までの航海向かう
甘い光へ願いを込めて




 流星に手は届かず。
 海流の舵は取れず
 願うにも至らない僕の為。流れ届いた小瓶みたいに。
「海を征くのを助けてくれる?」
 闇に染まる海を見遣りながら、静かにライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)は側へと声を掛けた。だって、ふたり秘めた切なる願いを。必ずあの、瞬く星まで届かせたいから――。
 男のその言葉に、ペペル・トーン(融解クリームソーダ・f26758)は淡い瞳を弾けるようにぱちぱちと瞬き。そうっとその瞳を細め、笑みを零す。
「願いの後押しなんて、光栄ね」
 柔く零れる笑みに乗せる言葉は温かく。弾けるソーダのように心躍る声。
 貴方の元へ流した小瓶のように、星の元まで波に揺れて。
「互いの想いは秘密のまま、違う想いを願いましょう」
 静かに唇へと指先を添え、秘密をカタチにするとペペルは言葉を紡ぐ。
 互いの願いを託すのは、ライラックは星のかたち。ペペルは花のかたちへと。
 ライラックの手にした星は、ステンドグラスのような美しき色を数多組み合わせた星。それは数多の願いを大切に込め、星へと昇り煌めいてくれるような気がする。
 そう、星空を湛えた溟海を。流星めいて征くように。
「そうして、願い届くときには。ふたつ星となれたら素敵だ」
 穏やかに笑む彼の表情と言葉に、どこか眩しそうにペペルは瞳を細めた。そんな彼女の手の抱かれるのは、白い光を抱く花。海に流す願いを乗せる幾重の花弁を重ねたその花に込めたのは、内に秘めたる甘い香りのような淡い夢。
「本物になってほしいって。2つの願いが揺蕩う先は、きっとステキなものよ」
 穏やかに微笑み、海へと共にランプを乗せ。ライラックの言葉に頷き、ペペルが紡いだ言葉は輝く星のように煌めきを帯びている。
 そのまま――遠いと思う、理想のお話をペペルは想う。
 たくさんを好きになって過ごす、楽しい恋を。
(「……難しいって分かってるの。そんなおとぎ話は、知らないもの」)
 流れゆく花を見送るように見つめるペペルの眼差しは、先程の輝くものから一転。仄かに陰りを帯び静かに落ちる。
 心に溢れるような気持ち。けれど、だからこそ叶えてくれる特別一番な人の元まで。この胸の揺れる先が続いて欲しいと願ってしまう。
 だって――貴方が誰か……知るのが少し怖いわと。そう、想ってしまうから。
 でも、手を伸ばしたい。それが怯えずに、溺れずにいられるペペルの夢。
 そんな彼女の想いはライラックには分からない。けれど仄かに陰るその表情を見て、静かに眼鏡の奥のライラックの瞳を彼は細めた。
 少女の願い――灯り、征く、願いもあるから。
 ゆらり、ゆらりと揺れる灯りは段々と遠く遠くなっていく。
 花と星に込めた想いは段々と星へと近付いているのだろう。星の傍は満たされていようが、揃いのふたつ、は特別なもの。
 瞬く星々は変わらず美しく、数多の光が落ちる海も美しいこの情景の中。ライラックの心に宿るのは、愛おしき人。星のように眩い、最愛の人を想う。
 未だ、僕で良いのかと惑いはある。
 けれどどうしようもなく、我儘に。裡満ちた愛の枯れないこと。共に居たいことを、彼は胸に、そしてあの輝く星へと願うのだ。
 そう、これはライラックにとっては願掛けのようなもの。
 ゆらり揺れるふたつの光が段々と見えなくなっていく。
(「どうか、先に届けておくれ。願い籠めて、共に海へ」)
 終着点は星の元。
 ふたつの光の大航海は、きっと甘い甘い冒険譚へとなり空へと届くのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

波瀬・深尋
キトリ(f02354)と

夜市へ立ち寄り選ぶのは六芒星
この星と悩んだけど、と
ネックレスを握り締め君のリボンを見る
キトリと来てるときくらい
お前の星にあやかっても良いだろ?
選ばれた五芒星を見て瞬き一つ
なんか交換したみたいになったか
でも嬉しいよ、ありがとな

中に灯すのは君の瞳の色
やさしい青の花が流れてゆく
双眸を細めて眺めながら
自身の願いに想いを馳せて

キトリのこと、忘れないように
俺は、そう願うよ

俺がミカゲ、…──オウガの力を使って
忘れていくのは昔のことから順番にだから

お前が一緒に願ってくれるのなら
これから先も変わらず縁が続くなら
きっと叶う、と、そう思うよ

だから、俺はキトリを忘れない
──忘れたくもないからな


キトリ・フローエ
深尋(f27306)と

夜市に並ぶたくさんのお星さま
明かりに照らされきらきら輝くそれが眩しくて
思わず目移りしてしまう
…あたしの星?本当にいいの?
あなたが大切にしている星とは違う、あたしの星を
選んでくれたのが何だかくすぐったくて
それなら、あたしはあなたのお星さまと同じ
五芒星にしようかしら

あなたの瞳の色の花
静かで繊細な光を硝子の星籠に咲かせて、海へ
揺蕩ういくつもの光に紛れて流れていくまで見送りながら
あなたが紡ぐ願いにそっと耳を傾ける

――それなら、わたしは
あなたがわたしを忘れないように、願うわ
ふたり分の願いが重なれば、きっと叶うんじゃないかしら?
…ねえ、深尋。だから、この先も
わたしのこと、忘れないでね




 闇夜の中、立ち並ぶ夜市は最低限の光を灯している。
 空には囁くように美しく瞬く星々。遠く遠く波の音が聞こえる夜市で――キトリ・フローエは大きなアイオライトの瞳を、ぱちぱちと瞬いた。
 並ぶ店は様々なランプや蝋燭を扱っているようで。仄かな灯りに照らされたそれらがキラキラと輝いて、思わず目移りしてしまう。
 人混みの中。小さな身体で灯りを求め彷徨う少女。――そんな彼女を見失わないようにと、波瀬・深尋は細心の注意を払いながら人波を縫う。人よりも高い位置で輝く夜色の翅は、人混みでも不思議なことに深尋の瞳に強く強く残る気がするけれど。
 ふと、宙を舞うキトリが翅を休め夜市をじっと見つめている。人の間を歩み、彼女の隣へと深尋が立てば――キトリは、数多の星を取り扱う店に心惹かれていた。
 星の形のランプやランプに飾る星細工。星の形のキャンドル等、並ぶ品物は様々だけれど全てが星を用いている。
 硝子で出来た品物は、市を照らす灯りを浴びてキラキラと輝いて――そのあまりの眩しさに、キトリは瞳を細めた。
 手にするのなら、この中からだと思う。けれどどうしようと、迷うように翅を揺らし、ひとつひとつ品物を見るキトリ。アックス&ウィザーズの市の為か、当然のようにフェアリーである彼女に丁度良いサイズの品物も豊富なようだ。
 そんな、迷う彼女を見つめた後。深尋が手を伸ばしたのは、六芒星。彼の選んだその星の形が意外で、キトリは思わず瞳を瞬き小首を傾げる。
「……あたしの星? 本当にいいの?」
 彼女の眼差しは、深尋が身につけるネックレスへと。その視線を受け止め、自身もネックレスを握り締めた後――キトリの首元のリボンへと深尋は視線を送る。
「キトリと来てるときくらい、お前の星にあやかっても良いだろ?」
 光を浴びて、キラリと輝くキトリのリボンの中央で輝くのは、六芒星のお星様。だから、だろう。深尋の心が強く強く、惹かれたのは。
 彼の言葉を聴けば、キトリは仄かに頬を染め。くすぐったそうに笑って。それなら――と自分は五芒星の星へと手を伸ばす。
 彼女が手にした小さな星を見て、深尋は交換したみたいになったと笑い。
「でも嬉しいよ、ありがとな」
 素直に、言葉として彼女へと伝えた。
 そのままふたりは、波音の元へと近付く。
 人と数多の灯りに満ちた市とは違い、此処は闇に包まれた世界。穏やかな波の音と、瞬く星々と月の元。水面に浮かぶ仄かな灯りが遠くに見える。
 闇に身を寄せ、先程手にした五芒星の星籠にキトリが込めるのは、迷宮で見つけた深尋の瞳の色と同じ青を咲かす花。静かで、繊細なその光を星へと込め、そっと海へ流せば――その光の隣で、深尋の泳がせた星が瞬いた。
 ふたつの青が、ゆらりゆらりと海を揺蕩う。
 ふたり並んで温かなその青を見つめながら、そうっと深尋は双眸を細めた。あの輝きに、乗せる自分の想いは――。
「キトリのこと、忘れないように。俺は、そう願うよ」
 そんな、心からの願い。
 彼がオウガの力を用い、忘れていくのは昔のことから順番に。だから、今この瞬間の記憶が消えるのはまだ先。
 けれど、いつかは消えてしまう記憶。
 だから、だから――キトリのことを、星に包まれた彼女のことを忘れないようにと、願う心は自分の力だけではどうすることも出来ない。
 深尋は小さな少女を真っ直ぐに見て、想いを言葉にする。
「だから、俺はキトリを忘れない。──忘れたくもないからな」
 これから先も変わらず、縁が続くのならば。きっと叶うと、想うから。
 静かに、深尋の願いを聴いていたキトリは。そんな彼の眼差しを見返して微笑んだ。
「――それなら、わたしは。あなたがわたしを忘れないように、願うわ」
 それはふたりの願いが、重なる時。
 ひとりでは無理でも、ふたりの願いならばきっと星も叶えてくれる。
 だから、ねえ――。
 この先も、わたしのこと、忘れないでね。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
灯篭流しみたいだな。
弔い目的じゃないから根本的に違うけど。

話を聞くと誓いを立てるでもいいみたいだけど、まだ俺にはあっただろうか。
いつか折れると自覚してから少しずつ整理してきたからなぁ。
伽羅と陸奥はあるか?
小さくなって首元にいる伽羅と頭の上の陸奥に聞いてみるが、陸奥は周りの硝子細工のキラキラに目が行ってるみたいだな…。デフォルメされた小さな猫?虎を一つ。嬉しそうに口にくわえて離さない。
伽羅に目をやると小さなランプに視線をやっている。あれか?流すのかと問えば小さく頷くので購入後は海へ。
俺には伽羅が何を願ったのかそんな想いを乗せたのかわからないけれど、悪いようにならなければいいなと思う。




 穏やかな波音の世界。
 此の地に伝わる習わしを思い出せば、黒鵺・瑞樹は灯篭流しみたいだと想う。
 それは、死者の魂を弔うものだから。この地の伝統とは根本が違うのだけれど。遠く遠く。ゆらゆらと揺れ、水面に光を映すこの光景を見ればサムライエンパイア出身の彼としてはあの景色を思い出すのも仕方が無い。
 瞬く星々が、穏やかだけれど響き続ける波音が。夜市の喧騒をも消してくれそうなこの空間で――さてどうしようかと、瑞樹は想う。
 此の地の伝統は、願いだけでは無い。誓いを立てることも大丈夫なようだが、瑞樹にはあっただろうか。少し考えるように小首を傾げるけれど、特に思い当たらずに思わず眉を寄せてしまう。
 だって、瑞樹は。いつか折れると自覚してから、少しずつ整理をしてきたから。
 ふうっと溜息を零せば、白い息が世界に消えていく。
「伽羅と陸奥はあるか?」
 白が消え果てた時――彼は小さくなっている相棒へと問い掛ける。
 その声にぴくりと反応をして、瑞樹を一目見るが。白虎である陸奥は辺りの硝子細工の煌めきに夢中のよう。硝子の煌めきに負けぬ大きな瞳を輝かせて、デフォルメされた愛らしい虎をひとつ咥えるとご機嫌に尻尾を立てた。
 そんな頭の上の相棒の姿に瑞樹は溜息を一つ。
 彼には聞けないと分かれば、次は首元の水神竜である伽羅へと視線を向ける。――クールな性格の彼は、陸奥のように瞳を輝かせ楽しそうにしてはいないけれど。その鋭い視線は一点を見つめていて。何だろうと瑞樹が見遣れば、そこには小さなランプが。
「あれか?」
 問い掛ければ、陸奥はこくりと頷いて。折角だからこのランプに願いを込めようと、瑞樹はそのランプを手にすると海へと足を向ける。
 海に浮かべるランプに込めるは、瑞樹ではなく伽羅の願い。
 ゆらり、ゆらり。水面に灯る温かな色と云う、どこか懐かしい景色を見つめながら。
「俺には伽羅が何を願ったのかそんな想いを乗せたのかわからないけれど」
 ――悪いようにならなければいいなと、瑞樹は想った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

尾宮・リオ
駒知さん(f29614)と



──綺麗ですね
水面へ赤い星が灯る硝子細工を乗せる

義兄の瞳の色に惹かれてしまう、なんて
口に出すことないのだけれど
星の明かりに寂しげな笑みを溢す

そうでした、と誤魔化し
駒知さんは何を願いますか?

にこにこと、いつもの笑み
秘密を抱えて笑う癖

水面に置いた星をそっと撫でて
僕はこの一年だけじゃなくて
ずっと願ってることはありますよ

(それは、義兄が、眠りから覚めること、)

でも、それは
いつか僕が叶えるので、いまは、

──願わくば、どうか、
君と過ごす幸せな日々が続きますように

やがて返る君の答えに瞬き
なら、叶えてくださいね
そしてランプを手放し
君に近寄って、そっと耳打ちを

駒知さん、僕の願いは──


明日川・駒知
リオくん(f29616)と
アドリブ、マスタリングお任せ

_

綺麗ですね、と呟く彼に、はいと答える。
たしかに目の前の光景は美しい。
けれど、それよりも彼の寂しそうな笑みが気にかかって。
……けれど、追求はしなかった。気づかないフリをした。
誰だって秘めたいものはある。彼の心に、土足で入るような真似はしたくないから。

彼の笑みを全て受け入れる。
何を秘めていても、私は変わらず貴方の友。

「……そうですね、」
願い事ですか、と海を眺める。
夜風が頬を撫でて、やがて貴方を見る。

「──貴方の願い事が叶いますように、と」
その願いに迷いもない。
真っ直ぐに貴方を見つめて、微笑んだ。




 ──綺麗ですね。
 傍らの彼、尾宮・リオ(凍て蝶・f29616)の零した言葉は波音に乗り。仄かに、けれどしっかりと明日川・駒知(Colorless・f29614)の耳へと届いた。
 さらりと風に流れる艶やかな漆黒の髪を押さえて、駒知は静かに同意を示す。
 満点に輝く星々は囁くように瞬き、浮かぶ月は闇に染まる世界を明るく照らす。闇の世界に満ちた海は月、そして数多のランプの光を水面へと映し、穏やかな波音を響かせる。
 確かに、目の前のこの光景は美しい。
 けれど――駒知は、傍らの青年の寂しそうな笑みが気になった。
 ひとつ、息を吐けば白い吐息が零れ落ち。
 けれどその吐息に音は混じることなく、きゅっと彼女は唇を結ぶ。
 ――追及は、しない。気付かないフリを彼女は選んだ。
 誰だって、秘めたいものはある。彼の心に、土足で入るような真似はしたくなかった。
 そんなことを想う駒知には気付かずに、リオは寂しげな笑みを浮かべたままそうっと穏やかな波音響かせる水面へと、赤い星が灯る硝子細工を乗せた。
 ゆらり、ゆらりと波に揺れるその赤を見つめ――彼が思うのは、義兄のこと。その赤は、義兄の瞳の色で。ついつい惹かれてしまうのだ。
 決して口には出来ない、リオの心。
 だから彼は静かに、笑みを浮かべるだけ――そしてその笑みを、駒知は全て受け入れる。だって彼女は、リオの友だから。何を秘めていても、それは変わらない。
 そんな彼女の想いには気付かず。そうでした、と誤魔化すように言葉を零すと、リオは赤色から傍らの駒知の黒へと視線を移すと、唇を開く。
「駒知さんは何を願いますか?」
 問いは、この地に相応しい無難さで。
 浮かべる笑みは、いつもと同じ秘密を抱えて笑う癖を孕む。
 そんな彼の闇夜に明るいオレンジ色の瞳を見返して、追及せず駒知は受け止める。
「……そうですね、」
 考えるように口元に指先を当て、そのまま彼女は海を眺めた。静かに過ぎ去る時間。夜風がふたりの頬を、髪を撫でて通り過ぎてゆく。身体の熱を、奪うかのように。
 ――暫しの沈黙を破ったのは、リオの小さな吐息だった。
 そのまま彼は、どこか淡々と。海辺でしゃがみ込むと、星をそっと撫でながら。
「僕はこの一年だけじゃなくて、ずっと願ってることはありますよ」
 ――義兄が、眠りから覚めること。
 言葉には出来ない願い。この星の抱く赤を再び見れるその日を夢見る、そんな願い。
 でもそれは、今此処で星に願うことでは無いから。言葉にはせず、胸に強く抱きもせず。ただ未来への目標としてリオは仕舞う。
 だから、今は――。
「──願わくば、どうか、君と過ごす幸せな日々が続きますように」
 さらりと風が肌を撫でる中、星から再び駒知へと視線を送りリオは紡いだ。
 その眼差しを見返して、きゅっと結んでいた唇を駒知は開く。ずっとずっと、この夜風の中考えていた彼女の願いは。
「──貴方の願い事が叶いますように、と」
 その言葉に、リオはひとつ息を呑む。
 真っ直ぐにリオを見る迷いの無い黒い瞳も、その顔に浮かぶ穏やかな微笑みも。全てが、彼女の迷いの無さを表しているようで。リオは思わず、眼鏡の奥の瞳を瞬き――そのままそうっと、口元に笑みを浮かべる。
「なら、叶えてくださいね」
 言葉の後、手にしていたランプから手を離せば。穏やかな波に乗りゆらゆらと、遠い遠い星の元へと赤い星は旅立った。
 その光が小さくなるのを見送って――リオはそっと駒知へと近付き、その小さな耳元へと囁くのだ。
 駒知さん、僕の願いは──。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

狹山・由岐
冴え澄む空気が肺を満たす
寄せては返す波音が耳朶を打てば
誘われる儘に爪先は浜辺へ

緻密な細工が施された硝子の奥
遊ぶように揺れる陽色の光は
無邪気な誰かさんによく似ている
彼女はひとつ処に収まってはくれないから
君の方がまだお利口だね

夜空に燦く星々は魔法など使わずとも
願いを叶えてくれそうに見えるけれど
此の胸の裡に秘めた想いも願いも
唯一人だけに届けたい 故に
星にすら託したくないと思うのは強情かな

折角の祭だからと云うのなら
君が無事に、あの星達へ辿り着くように
ささやかな祈りを添えて送り出そう
大丈夫、指先を温める拠り所を
僕はもう手にしているんだ
行っておいで――どうか佳い旅路を。




 ひとつ、深く深く呼吸をすれば。冴え澄む空気が狹山・由岐の肺を満たした。
 風が吹けば凍て付く冷たさが彼の肌を、露出した耳を冷やし。寄せては返す穏やかな波音が闇の中静かに響き渡る。
 その音色に――由岐は誘われるままに、浜辺へと足を踏み入れた。
 彼の手に灯る光は、緻密な花細工が施された硝子のランプ。角度によりキラキラと煌めきを変える表面の加工に、美しい花の細工は正に芸術品。その中を遊ぶように揺れる陽色の灯りが、温かく世界を照らしているけれど――その光を見れば、由岐はただひとりを。無邪気な誰かさんを思い出し、よく似ていると口許に笑みを零す。
 キラリと煌めき、世界を照らす灯りは今彼の手の中にある。
 そう、由岐が手放さなければ。この光は彼の元にずうっとあるから。
「彼女はひとつ処に収まってはくれないから。君の方がまだお利口だね」
 腕を上げ、温かな灯りを自身の顔の位置まで持ってくると。彼は笑みを浮かべ、穏やかな口調でそう紡ぎながら指先でランプの表面を突いた。
 ゆらり、その衝撃にランプが揺れれば。煌めきが変わり由岐の顔をまた染め上げる。
 空を見上げればまるで宝石を零したかのように輝く、満点の星々が瞬いていて。浮かぶ大きな月と共に、闇に染まる世界を照らす。
 その美しき星々は、魔法など使わずとも願いを叶えてくれそうにも見えるけれど――此の胸の裡に秘めた想いも願いも。唯ひとりだけに届けたい。
 だから――星にすら託したくないと、由岐は想う。
(「強情かな」)
 ふっと口元に笑みを浮かべ、彼は自身の心にそう想う。
 けれど、それは彼の偽りの無い本意。
 だから、この想いは星に願うことは出来ないけれど――折角のひと時のお祭りだ。何も願わないのも難だからと、彼はひとつの願いを言葉にする。
「君が無事に、あの星達へ辿り着くように」
 穏やかな眼差しで、穏やかな口調で。
 紡いだ彼はそうっと指先をランプから離す。すると陽色のランプは、ゆらゆらと揺れながら穏やかな海を泳いでいく。――あの、地平線の奥の星へと由岐の想いを届ける為に。
 ランプの無くなった、由岐の指先を撫でるは凍て付く程に冷たい風。
 けれど、大丈夫。指先を温める拠り所を、由岐はもう手にしているから。
「行っておいで――どうか佳い旅路を」
 ゆらり、ゆらり。
 揺れる陽色を見送りながら、由岐は静かに微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルーシー・ブルーベル
【月光】

潮騒が絶える事が無いのになぜか静か
瞬く星空は眩暈がしそう

息吐く度に靄ぐ視界
冷気に首を竦め
ゆぇパパに手を伸ばして

温かい
ありがとう、パパ
でもパパも温かくしないと
布を開いてパパを招く

雫型のランプに
先程のヒマワリの様なお花を入れてルーシーのは完成
想いを託すのならこのランプがいい
パパのはどんなの?
わ、かわいい

灯りが海へ消えていく
ひとつだけなら寂しいと思うけど
パパのと一緒ならきっと大丈夫

ルーシーの願いは
パパにもっと幸せな事が有りますように
痛い思いをしませんように
淋しいと思いませんように

そして、わたしが
そのお手伝いを少しでも多く出来ますように
可能なら
最後まで

パパは何を願ったのかな
…ふふ、きっとそうね


朧・ユェー
【月光】

美しい星空と綺麗な海
どちらも吸い込まれそうで、でも穏やかな時間

冷んやりとする風、彼女の吐く息が白く
この時期の外は寒いだろうと常備していた大きめな布を彼女に覆う
寒いでしょう、大丈夫ですか?
伸ばした手をそっと握って
ありがとうと隣にそっと入って

おや、とても可愛いランプですねぇヒマワリがとても綺麗
彼女と同じランプに蒼く光る石を入れる
二つの色と光が二人を照らし出す
闇だったモノが光へと変わる
僕の願い?
この子の過去が少しでも受け止める事が出来るように
成長し素敵な大人になる頃には
幸せだと思う、いえ、幸せになって欲しい

最後までこの子の父親として見護る事が出来るのなら

彼女の視線に微笑んで
きっと同じ願いです




 闇に包まれた海は、ゆらゆら揺れる灯り以外は闇に染まる底のよう。
 聴こえる波音は穏やかだけれど、絶えることは無い。耳に届き続ける音色は確かにあるのに、何故だろうこんなにも静かなのは――。
 瞬く満点の星空がチカリと強く煌めいた気がして、思わずルーシー・ブルーベルは左目を強く瞑る。視界が塞がれば吹く風がより冷たく感じて、少女はふるりと身体を震わせた。小さな唇から零れる吐息は白く煙り遠く遠く消えていく。
「――、」
 白い煙と共に音は零れなかった。けれどその唇は名を紡ぎ、そうっと小さな手を伸ばす。その手の先には、大きくて立派な頼もしい手。心地良い温もりのその人に触れれば、彼――朧・ユェーは白い吐息を零しながら、小さな彼女を見下ろし微笑んだ。
 先程まで、美しい星空と綺麗な海に見惚れるように眺めていた。けれど、すっかり冷え切った少女の手を感じれば、ユェーの意識はそちらへと向く。
「寒いでしょう、大丈夫ですか?」
 少し屈み、彼は大きな布を取り出すと小さな少女の身体を覆った。――この時期は冷えるから、常備しているそれは。小さく愛おしい彼女が凍えないようにとの彼の優しさ。
 その優しさに、温もりに。ルーシーはきゅっと布を巻き付けるけれど、そのまますぐにその布を広げ。
「ありがとう、パパ。でもパパも温かくしないと」
 こっちにきてと、手招くような仕草と眼差し。そんな少女の行動に、ユェーは瞳を細めるとそっと隣へと入っていく。――繋ぐ手の温もりと、互いの体温をすぐに感じる距離。
 温かい。
 そう想ったのは、きっと互いに。
 零れる笑みは寒い夜に咲く花のように。凍て付く寒さだからこそ感じる、人の温もりの心地良さを感じながら。ルーシーが取り出したのは雫型のランプ。透き通るその中には、先程の迷宮で見つけた向日葵のような花が道を照らしている。
 想いを託すのなら、このランプがいいと思ったのだ。そうっと世界を明るい色で照らすランプを見ていれば、傍らの彼が穏やかな口調で言葉を紡ぐ。
「おや、とても可愛いランプですねぇヒマワリがとても綺麗」
 大好きな人に褒めて貰えれば、くすぐったいような嬉しさが胸に満ちて。ルーシーは頬を仄かに染め、パパのはどんなの? と無邪気に問い掛ける。少女の問いに、ユェーは笑みを浮かべると――少女の手元の雫の中へ、自身の蒼を落とした。
 カランと、音が響いたかと思えば花と共に眠るのは小さな石。温かな陽だまりのような光の中、灯る蒼を見てルーシーはパチパチと瞳を瞬くけれど。
「わ、かわいい」
 すぐに零れる温かな微笑み。
 そんな少女を照らす、ふたつの色と光は自らも照らしてくれて。闇だったモノが光へと変わる様子に、ユェーは嬉しそうに笑みを深めた。
 そのままふたりは前へと進み出ると、波にさらわれないよう気をつけながらランプを浮かべる。穏やかだけれど、強く強く感じる波の音。波に乗り、ゆらゆらとふたつの灯りは揺蕩うように泳いでいく。――あの、瞬く星の元へと。
 段々と消えゆくその灯りを見て。ルーシーは少し、悲しそうに瞳を伏せたけれど。
「――ひとつだけなら寂しいと思うけど、パパのと一緒ならきっと大丈夫」
 繋ぎ続ける手をきゅっと握り、彼を見上げそう紡ぐ。――自分も、そして想いを込めたあの光も。ひとりでは無いって、分かるから。
 そう、あの光に込めたのだ。『パパにもっと幸せな事が有りますように』と云う、純粋たる願いを。痛い思いをしないようにと、淋しいと思わないようにと。純粋で切なる願いを。――そしてそれは、ルーシー自身の心では正解が分からない願いだから。せめて、そのお手伝いを少しでも出来るようにと願うのだ。
 可能なら。最後まで。
 そう願う少女の想いは、ユェーには分からない。けれど、じいっと見つめる彼女を見返せば――同じ気持ちだと分かる。
「パパは何を願ったのかな」
「僕の願い?」
 胸に温かな心地を感じていた時、不意に少女から零れた疑問にユェーは眼鏡の奥の金色の瞳を瞬いた。彼が星へと届けたい願いは――ルーシーの過去が少しでも、受け止める事が出来るように。成長し、素敵な大人になる頃には。幸せだと思う、いや、幸せになって欲しいと云う切なる想い。
 そう、最後までこの子の父親として見護る事が出来るのなら――。
 抱く思いは言葉にはせず、くすりと微笑むと彼は口許に指先を添える。
「きっと同じ願いです」
 紡ぐ言葉は穏やかで、温かく。夜風の中で一層強く燃えるよう。
 その笑みと言葉に、ルーシーの胸にも温かな心地が宿り。
「……ふふ、きっとそうね」
 こくりと頷き、紡ぐ少女の口許には。温かな笑みが零れていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

飛砂・煉月
有珠(f06286)と

今日の星巡りだよ、有珠
星空を指差して
あっは、一気に寒くなった
寒い日の星空は綺麗ってホントだね

オレが欲しいのは星型の容れ物
今日の星巡りを彩るが欲しいなって
キミの言の葉を聴けば、泡の様な丸型もイイね
途切れた言葉には首を傾ぐけど
オレが灯すのは、キミの眸に似た蒼
海色で星を満たそう
『蒼』は願いを叶える色、奇跡の色だかんね
もし赤を分けて貰えるなら
少し、ほんの少しだけ蒼の傍らに添えたい、かな

キミと沢山の星巡りが出来ます様にって想いを流そう
オレが果てる時も消えぬ想い出に成る様に

光は、遠く成る
けど繋いだぬくもりも
隣のキミの眸――海色も変わらないから
実感する、どうしようもなく幸せなこの瞬間を


尭海・有珠
レン(f00719)と

星巡り、灯し火を手繰るように、行こうレン
ふは、寒いな
吐く息迄凍りそうだ

私は海に生まれる泡の様に丸い容れ物が、いい
灯す光は海の青、泡と波の白、それに赤
君との歩みで集めた光
そうか、赤は君の瞳の色であり――いや何でもない
多くはないからほんの少ししかあげられないがと赤をレンに分け
灯を放す
願いを叶える色…そういうのも面白いな
穏やかな声で視線は手放した灯りをどこ迄も追う

どこ迄も流れていって、全てが闇に、海に溶けるなら
いつかどこかで青の涯に届くことを願って

またレンと沢山星巡りをして、色んな景色を見ていこう
これからしたい事を言葉に刻み
繋いだ温もりに安堵する、今立つ場所を確りと確認する様に




 ――今日の星巡りだよ、有珠。
 宝石のように瞬く星空を指差して、飛砂・煉月は穏やかな笑みと共にそう零した。
 ふたりは市で手にしたランプを手に、海へと訪れた。人と灯りに満ちていた市とは違い、この場は祭りの最中にも関わらず人の気配が薄い気がする。きっと、闇と波の音が全てを包んでしまっているのだろう。
「行こうレン」
 灯りを手に、尭海・有珠はさくりと砂を踏みしめる。
 闇に染まる波へと呑まれないよう、十分に注意をしながら歩めば凍て付く風がふたりを撫でる。それは先程の迷宮の仄かな冷たさとは違う、水気を含んでいる為か確かな冷たさを感じる風。
 思わずふるりと身震いをし、寒いとどちらからともなく呟けば、彼等は笑いを零す。
 ふうっと息を零せば白く煙る息が零れ。彼等の道行の軌跡を残すかのよう。
 そのままふたりは訪れる波の位置まで辿り着くと、ランプを掲げ世界を照らす。
 煉月は、今日の星巡りに相応しい星型。有珠は、海に生まれる泡のように丸い物。
 その泡の中へと、有珠は迷い無く色を込める。
 海の青、泡と波の白、――そして赤。
 どれも煉月と夜森の迷宮で集めた光。その数多の色を見遣り。身近では無かった温かな赤色の光をじっと見て――有珠は、煉月へと視線を移すと不思議そうに言葉を零す。
「そうか、赤は君の瞳の色であり――いや何でもない」
 そこまで零して、小さく微笑み首を振った。
 有珠がその形を選んだ理由に、煉月は感心しつつ。途切れた言葉に小首を傾げる。けれど追及はせずに、いつものように笑みを零すと自身の手にした青い星を夜空に照らす。
 この『蒼』は、有珠の眸に似た蒼色。星に満ちるその色を見れば、煉月の心はどこか温かな心地に満ちるようで。
「『蒼』は願いを叶える色、奇跡の色だかんね」
 灯る奇跡の蒼の星はどこか神秘的で美しい。
 けれど、もしも赤を分けて貰えるなら――。
「少し、ほんの少しだけ蒼の傍らに添えたい、かな」
 ほんの少し遠慮したように、言葉尻の音量を小さくしながら煉月は紡ぐ。彼のその言葉に有珠は瞳を瞬くと、笑みと共にそっと赤を差し出した。
「多くはないからほんの少ししかあげられないが」
 少し申し訳なさそうに紡ぐ有珠。けれど、煉月にとってはほんの少しでも嬉しくて。彼女の瞳をしっかりと見返し、キラキラと瞳を輝かせながら礼を述べる。
 そんな真っ直ぐな煉月の様子が眩しくて、思わず瞳を細めた後、有珠はそっと闇色の海へと視線を移した。
 穏やかな波音。
 ゆらゆらと揺れる灯りは遠く遠く、星を目掛けて流れている。
 その海へとふたりは――手にした互いの色を含めた灯りを、そっと流す。
 ゆらり揺れるその光を。有珠は視線を逸らすことなく、どこまでもどこまでも追っていた。全てが闇に、海に溶けるなら。いつかどこかで青の涯に届くことを願って。
 そんな彼女の横顔を眺めながら、浮かべる煉月の願いは真っ直ぐで。
(「キミと沢山の星巡りが出来ます様に」)
 祈るように両手を組み、そっと心に宿る温かな願い。
 ――煉月が果てる時も、消えぬ想い出になるように。
 含めた願いはどこか切実にも感じる程に悲痛なもので、彼は思わずきゅうっと強く唇を結んでいた。そんな彼の様子に気付いているのか、いないのか。分からないけれど有珠はこちらを見ると、笑みを浮かべて。
「またレンと沢山星巡りをして、色んな景色を見ていこう」
 小さな唇から零れる、彼女の願い。
 これからしたいことを、胸では無くしっかりと言葉に刻んだかと想うと。そっと伸ばされた手が煉月の手を握る。――今立つ場所を、しっかりと確認するかのように。
 不意のことに彼は一瞬驚いたけれど。繋いだ温もりが心地良く、静かに瞳を閉じる。
(「隣のキミの眸――海色も変わらないから」)
 伝わる手だけでは無い、胸に満ちる温かさ。
 煉月は、どうしようもなく幸せなこの瞬間を実感するようにひとつ、息を零した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
十雉(f23050)と

私?
そうねぇ
どんなのが良いかしら
どの硝子もうつくしくて、願いを託すに相応しく
私はこれにするわ!
まぁるい満月みたいな硝子瓶にするの

まどかなるものは繋ぎ目がなくて
くるくるくるくる
踊るように巡るの

柔く光るひかりを灯した瓶を海に手渡しながら微笑む
なれるわよ
闇をしるあなたなら同じ闇に惑う者の手を握る──星になれるわ
一等星は闇夜の導き手

私はね
誰かを傷つけるでも殺めるでもなく
護れるものに
笑顔を、幸いを咲かせられるものになりたいわ
咲き誇る桜が
ひとを笑顔にするようにね

うふふ!ありがとう
叶うわよ
だって頑張り仲間の十雉が一緒だもの
そうだ…私が真っ暗闇に迷ったら……あなたという星を、探そうかしら


宵雛花・十雉
櫻宵(f02768)と

ねぇ、櫻宵はどんな容れ物にする?
色々あって目移りしそうになるけど
オレは星の模様の入った細長い硝子のにしようかな

光をそっと海に浮かべて、星に願いをかけるよ
オレは真っ暗な夜を知ってる
光ひとつ無くて、進むべきか戻るべきかも分からなくて
募るのは不安ばかり

だから闇の中にいる人を照らせるような
そんな人間になりたいと思うんだ
月みたいに強い光じゃなくていい
それはオレには無理だろうから…
お星さま、オレはあなたみたいになりたい

櫻宵の願いも素敵だね
未来を向いてる櫻宵ならきっとなれるよ
願いを叶えられるように一緒に頑張ろう
皆に笑顔を咲かせる桜を照らせるような星になるから
迷ったらオレのこと探してね




「ねぇ、櫻宵はどんな容れ物にする?」
 控えめな光に満ちた夜市で。温かな光を浴びてキラキラと輝くランプたちを前にして、宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)はひとつ問い掛けをした。
「私? そうねぇ、どんなのが良いかしら」
 その言葉に、誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)はぱちぱちと桜霞の瞳を瞬き。頬に手を当てながら品物を眺める。どれも美しくも繊細な造形で、願いを託すには相応しい美しさ。だからふたりとも迷うのだろう。背の高い男ふたりが暫しの間じっくりと品物を見ていれば、やっと心に響く物を手に取れた。
 十雉は、星模様が刻まれた細長いシンプルな硝子。
 櫻宵は、まぁるい満月のような硝子。――まどかなるものは繋ぎ目が無い見事な技術による品物で。くるくるくるくる、踊るように巡るだろうと想ったから。
 櫻宵の説明を聴きながら、ぼんやりと淡い光を灯す彼のランプは確かに本物の満月のような温かくも神秘的な輝きを宿している。その光に、十雉は眩しそうに瞳を細めると――ふたりは歩みを進め、闇の世界へと入り込んでいく。
 それはまるで、闇へと迷い込むような感覚。
 段々と人の声も、光も薄れていく世界。
 近付く波音が大きくなれば――そこには、どこまでも続く満天の星空と、浮かぶ月明かり。そして遠く遠く揺らめく、人々の流した願いの灯りが輝いている。
 その見事な光景に溜息を零し、吹く風の冷たさに十雉は思わず襟元の白を首へ寄せた。
 暗い、暗い世界。
 けれど、闇に染まる世界では無い。
(「オレは真っ暗な夜を知ってる」)
 すうっと瞳を細めれば、十雉の灯るようなオレンジの瞳に影が宿る。
 真っ暗な夜。光ひとつ無くて、進むべきか戻るべきかも分からなくて。不安ばかり募るあの夜。今でも、その感覚は鮮明に思い出せる。
 だから、だろう。闇の中にいる人を照らせるような、そんな人間になりたいと願うのは。今この闇夜を強く照らす、月のような光じゃなくていい。だって、それは十雉には無理だろうから。
 だから――。
「お星さま、オレはあなたみたいになりたい」
 そっと闇に染まる海へと光を浮かべ、願いを言葉にする十雉。彼の言葉に、灯りに染まるその眼差しに。櫻宵は笑みを浮かべると、そっと瞳を閉じた。
「なれるわよ」
 零れるのは温かな声。
 声に視線を向ければ、傍らの櫻宵は海へと満月を手渡し――優しい笑みと、眼差しを十雉へと向けてくれている。
「闇をしるあなたなら同じ闇に惑う者の手を握る──星になれるわ」
 一等星は、闇夜の導き手。
 優しくも温かい、背中を押されるその言葉に。すうっと十雉は息を呑んだ。
 とくんと早鳴る心臓の音を感じながら、止める息を吐き出せば世界に白が満ちていく。
 そんな彼の様子にくすりと笑みを落とし、櫻宵は今度は自分の願いを言葉にする。
「私はね。誰かを傷つけるでも殺めるでもなく、護れるものに。笑顔を、幸いを咲かせられるものになりたいわ」
 咲き誇る桜が、ひとを笑顔にするように――。
 春色の瞳を閉じ、祈るように言葉にする櫻宵。その言葉は、表情はとても温かく。春を纏うかのような彼の優しさにそっと十雉は笑みを返した。
「櫻宵の願いも素敵だね。未来を向いてる櫻宵ならきっとなれるよ」
 こくりと頷き、そのまま彼等は海を揺蕩う灯りを見遣る。
 穏やかな波間だけれど、いつの間にやら光は遠く遠く流れていて。あと少しすれば星々の瞬きの中へと消えてしまうのだろうか。海を、闇を照らす灯りへと――ふたりは込めた願いを、未来を想い笑みを零す。
「願いを叶えられるように一緒に頑張ろう」
「叶うわよ。だって頑張り仲間の十雉が一緒だもの」
 少しの影を宿らせた先程とは違い、前を見る十雉の温かな瞳。そんな彼の眼差しを見て、春を纏う櫻宵の眼差しもまた海へと向けられた。
 ゆらり、ゆらり揺らめくふたつの灯り。
「皆に笑顔を咲かせる桜を照らせるような星になるから、迷ったらオレのこと探してね」
 微笑み、櫻宵を見る十雉の瞳も、言葉も。迷いなど無く真っ直ぐで。闇を知るからこその力強さを感じる。その言葉に、眼差しに。櫻宵はこくりと頷きを返した。
 ――真っ暗闇に迷ったら、あなたという星を探そう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
何とも美しい光景だね、カグラ
隣合う竜神人形が手を伸ばして星が掴めそうだと告げるから
私も習って手を伸ばす
願いを聴き遂げる存在(神)である私の願いすらも、果てない宙ならばうけいれてくれるかな

和細工のランプに薄紅の焔が揺れる
闇を柔く照らし導いてくれるさくらいろ
手を近づければ仄かに暖かく
まるできみのようだと巫女を想い知らずに笑み綻ぶ

抱負……カグラ
そんな事も『私』は考えたことがなかった
朧気な過去の己を思い返し首を横に振る
今は私(カムイ)となったのだからね

私はしりたい
世界を、ひとを、いのちを
幸いを
そして、愛を

その時私はやっと本当の神になれる気がする

瞬く星の様な永遠を胸に灯して
歩んでいくよ
紡ぎ継った私の路を




 宝石箱のように輝く満点の星々は、この世界ならではの透き通る美しさ。
 大きな月は世界を照らすほどに眩く、穏やかな波の音が心へと透き通るように落ちていく。揺らめく願いを乗せた光は遠く遠く、今にも星へとなりそうな程で。
「何とも美しい光景だね、カグラ」
 その幻想的な情景を前に、朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)は穏やかに竜神人形へと語り掛けた。彼の言葉に反応するように、カグラと呼ばれた人形は手を伸ばす。
 それは、星が掴めそうだから。
 カグラのその仕草に、カムイも釣られたかのように思わず手を伸ばしていた。
 ――願いを聴き遂げる存在(神)である私の願いすらも、果てない宙ならばうけいれてくれるかな。
 微かに宿る期待。
 けれど大きな手は星を掴むことは出来ずに、ただ凍て付く宙を掴むだけ。
 何も抱けぬ右手を見遣り――ひとつ溜息を零すと、カムイは自身の左手に灯る光を見る。和細工のランプに薄紅の焔が揺れる願いの欠片。
 薄紅色、それは闇を淡く照らし導いてくれるさくらいろ。
 先程宙を掴んだ右手をそっと光へと近付ければ、仄かに暖かさをを感じ。
「まるできみのようだ」
 ある桜色の巫女を思い浮かべ、カムイの口許には笑顔が零れる。――そう、それは凍て付く冬に、満開の桜が咲いたかのような綻ぶ笑顔。
 その温かな光へと、さあ何を想おうか。
「……カグラ」
 想い、悩み。カムイは人形の名を呼んだ。
 そんな事も『私』は考えたことが無かった、と。
 頭に過ぎる朧気な過去の己。寄せては離れるその記憶を、払うように彼は首を振る。
「今は私(カムイ)となったのだからね」
 それはまるで、今の自分へと言い聞かせるかのように――。
 そう、カムイは知りたい。
 世界を、ひとを、いのちを。
 幸いを。
 そして、愛を。
 宿る想いは段々と熱を帯び――とくんと、カムイの胸が鳴った気がした。
 嗚呼、私は――。
 やっと、本当の神になれる気がする。
 宿る心はどんどん熱を帯び、真っ直ぐな想いとなりカムイの胸に満ちていく。
 さあ、瞬く星の様な永遠を胸に灯して、歩んでいこう。
 ――紡ぎ継った私の路を。

大成功 🔵​🔵​🔵​

炎獄・くゆり
【炎彩】

フィーちゃぁーん!
千切れるほどに両手を振って駆け
可愛いコをぎゅっと抱き締める
ひとりでお仕事できてエラいですねェ
お疲れさまでした!
いっぱいいっぱいお話聞かせてくださいねぇ~~

容器はどれにしよっかなァ
オソロでハートとかどうです?
超アガりません?
ラブラブのあたし達にピッタリィ
ヤバ、超キレイな虹色!
フィーちゃんが集めたんですかぁ?
気に入らないワケないですよォ!
フフ、あたしのハートもフィーちゃんの彩で満たしてくださぁい

例えフィーちゃんが闇に吞まれたって
あたしの炎で照らしてあげますよ
あなたの瞳は彩りを映し煌めいている時が一番キレイですから
なぁんてマジメなカオもしてみたりして~~
約束ですよぉ~~!


フィリーネ・リア
【炎彩】

くゆちゃん!
白い息を吐いてあなたを呼ぶ
抱きしめてくれるのがあったかくてうれしい
えへへ、褒められちゃったの
フィーね、色々冒険してきたから帰ったらお土産話するね
今は手を繋いで一緒に歩こ

あなたの選ぶ容れ物はハート
ココロのかたち
フィー達はらぶらぶだもの、もちろんお揃い
入れる色は夜森で頑張った
いっとう綺麗な虹色
うふふ、気に入ってくれた?
フィーの世界はくゆちゃんが居るから虹色
くゆちゃんのハートも虹色になぁれ♪

すべてが闇色になっても、ほら
あなたの炎が照らしてくれるから
フィーの眸もあなたの好きな色になれるの
今年も沢山の色探しを抱負に虹色を流し
もちろん、くゆちゃんも一緒ね
甘えた聲はふたりだけの約束のおと




「フィーちゃぁーん!」
 上がる声に、両手を千切れんばかりに振る人の姿。その姿を捉えて、フィリーネ・リアの頬が可憐に色付いたかと思うと。
「くゆちゃん!」
 彼女――炎獄・くゆり(不良品・f30662)の名を呼び、駆け寄った。
 零れる言葉と共に、白い吐息が零れる中。距離を詰めれば訪れるのは温かさ。――ぎゅうっと優しく迎え入れてくれた彼女の優しさに、温かさに。フィリーネは心地良さそうに瞳を閉じて微笑む。
「ひとりでお仕事できてエラいですねェ。お疲れさまでした!」
 くゆりは少女をぎゅうっと抱き締めながら、仕事を終えたことに労いの言葉を掛ける。その言葉に、優しさに。フィリーネは嬉しそうに笑みを零すと。
「えへへ、褒められちゃったの。フィーね、色々冒険してきたから帰ったらお土産話するね」
 キラキラと茜映す瞳を輝かせて、そう語る。――けれど、今は冒険譚はお預けしよう。ふたりは少し距離を取ると、今度は手と手で体温を伝えるようにきゅっと握る。
 そのままゆるりと市を巡れば、数多の品が並んでいて。ランプだけでも普通の細長い物から今宵に相応しい星の形、愛らしい動物やお菓子をを模したものも。
 どれにしようかと視線を動かしていた時、くゆりの瞳に映る品に心が動かされた。
「オソロでハートとかどうです? 超アガりません?」
 彼女が指差したのは、少し小ぶりなハート型。すりガラスのように凹凸のある表面故に、灯りを込めれば温かくも優しい光を放つだろう品。
 そのハートを見て、くゆりの眼差しを見て。フィリーネは嬉しそうに瞳を輝かせ、頬を染めれば大きく頷きを返す。
「フィー達はらぶらぶだもの、もちろんお揃い」
 彼女のその反応が嬉しくて、くゆりも笑みを返しつつふたりで同じ品を手にする。小ぶり故か小柄なフィリーネでも、そしてくゆりの左手でも。しっかりと持つことは出来る。
 そんなお揃いのココロに満たす色は――フィリーネが夜森で頑張って見つけた色。いっとう綺麗な虹色を取り出せば、キラキラと輝きふたりを照らす。
「ヤバ、超キレイな虹色!」
 その煌めきに、チカチカとくゆりの瞳が輝いて。彼女は驚いたように瞳を見開き、口を開けて言葉を零す。見惚れるようなその色は、数多の色からフィリーネが選んだもの。
「フィーの世界はくゆちゃんが居るから虹色。くゆちゃんのハートも虹色になぁれ♪」
 その理由に、真っ直ぐな少女の眼差しに。くゆりは嬉しそうに笑みを零すと、満ちる心にこくこくと強く頷きを返す。――フィリーネと同じように、自分のハートも彼女の彩で満たして欲しいと。心からそう願う。
 そのままふたりは、揃いの色とカタチを手にして海へと訪れた。
 闇の中広がる穏やかな波の音は、世界の音を全て閉ざしてしまうかのよう。瞬く星々は美しく、遠く遠く灯る数多のランプの光が幻想的。
 祭りの最中、この場にも人は多いはずなのに。何故だろう、閉ざされている気がするのは。全てが闇に閉ざされた空間だからだろうか。
 でも――手にした虹色の灯りが照らす世界には、確かに隣に君がいる。
「例えフィーちゃんが闇に呑まれたって。あたしの炎で照らしてあげますよ」
 ――あなたの瞳は彩りを映し煌めいている時が一番キレイですから。
 ふうっと息を吸った時、傍らのくゆりから紡がれる言葉にフィリーネは顔を上げた。先程までとはちょっと違う真面目な顔。温かな言葉。そんな優しさを向けてくれる彼女に、フィリーネは嬉しそうに笑みを零す。
 そう、大丈夫。
 闇色になっても、あなたの炎が照らしてくれるから。
 フィリーネの茜色の眸もあなたの好きな色になれる。
 だから戸惑うこと無く、闇に染まる海へと近付くと――そっと手にしていたハートを落とした。穏やかな波の中、ゆらりゆらりと揺れながら虹色は段々と遠ざかっていく。その光を眺めながら、フィリーネは今年も沢山の色探しを行うと、抱負を想う。
「もちろん、くゆちゃんも一緒ね」
「約束ですよぉ~~!」
 傍らへと顔を向ければ、満面の笑みがすぐ傍にあって。
 虹が離れた今でも、キラキラと輝いていた。
 ――零れる甘えた聲は、ふたりだけの約束のおと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月居・蒼汰
うさたを連れてお祭りへ
夜市を散策しながら、ランプとキャンドルを…
ふと目に留まったのは綺麗な苺みたいな色の蝋燭
そうしたら頭に乗っていたうさたがふわっと飛び降りて
何か言いたげな様子
…うさた?
え?これにしないのかって?
…はい…(お買い上げ)
いや、俺もそれがいいかなって思ってたけど、うん…
それから…ランプは星のモチーフが入ったものを

人混みの中にラナさんを探して
無事に合流できたら海に行きませんかとお誘いを
蝋燭は…はい、うさたと一緒に選びました

…ラナさんの瞳に似た赤い光に
重ねるのはこれからの、ふたりの幸せを
こういうこと、改めて言うのも照れくさいけど…
これからもずっと、あなたの傍にいさせて下さいね、ラナさん




 静かながらも賑わう夜市で、月居・蒼汰(泡沫メランコリー・f16730)の心に留まったのは青――ではなく、苺のような鮮やかな色をした蝋燭。
 視線が逸らせずに、思わず立ち止まりじっと見ていれば。頭の重みが無くなったと思えば、彼の目の前でぱたぱたと翼を揺らしじいっとお揃いの金の瞳を向ける兎の姿。
「……うさた?」
 名を呼べば兎は鼻を鳴らし、ちらりと蝋燭を見てまた視線を蒼汰へと戻す。
「え? これにしないのかって?」
 無言ながらも通じる訴えに、彼は瞳を瞬いて――そのままその蝋燭を手にしていた。うさたに言われたからでは無い、自分もそれが良いかなと思ってはいたけれど。どこか心に引っ掛かりがあったのを、彼が後押ししてくれたような気がする。
 右手には苺色の蝋燭を。左手には愛らしい丸型に星のチャームが揺れるランプを手に、彼は人混みの中人を探すようにきょろきょろと辺りを見回せば――温もり宿る色を見つけ、耳と尾を揺らし声を掛ける。
「ラナさん、……海に行きませんか」
 掛かる声に少女は振り向くと、綻ぶ笑顔と共に頷いた。
「蒼汰さんはお星様のランプと……赤い蝋燭ですか?」
 少し珍しい色を見て、ぱちりと大きな瞳をラナは瞬き。意外そうな少女の様子に、蒼汰は頷きうさたと一緒に選んだのだと素直に紡ぐ。
「ふふ、うさたさんは赤色が好きなんですかね?」
 頭の上の兎を見てラナが問い掛ければ、彼は返事をするように鼻を鳴らした。
 ――そのまま、満点の星空の下。闇に染まる海の元で、彼等は光を浮かべる。
 灯る光はふたつの赤。
 闇と凍て付く風に満ちる世界で、温かな色が並んで星の元へと流れていく。
 世界を染める大きな月明かり。闇の水面に浮かぶ彩は遠く遠く揺蕩い、数多の人の願いを乗せるのだろう。あの、赤色に蒼汰が重ねるのは――これからのふたりの幸せ。
 遠くを見ていた金色の瞳。その視線を傍らへと落とせば、苺色の瞳と交わった。
 その眼差しにとくんと鳴る心音を感じつつ、蒼汰はゆっくりと唇を開く。
「こういうこと、改めて言うのも照れくさいけど……」
 ――これからもずっと、あなたの傍にいさせて下さいね。
 願いは夜風に乗り消えてゆくけれど――静かに、ラナは頷きを返した。
 紡がれる願いは真っ直ぐに、この世界の星の元へと辿り着く。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エリシャ・パルティエル
陽里(f05640)と

ねえ、宇宙で同じようにランプを流して
願いをかけたの覚えてる?
陽里とまた美しい銀河を見れますようにって
あたしの願いはもう叶ったの

健康長寿ね
植物は生命力の象徴だから
葉っぱモチーフがいいんじゃないかしら
あと星にも無事に帰るって意味があるのよ

あたしはもう充分幸せだから
陽里の夢が叶うように願わせて

あの時初めて見たサーキットを走る陽里の姿
全てをかけて求めるスピードへの情熱を知っているから
夢を諦めて欲しくなくて

もしも陽里の目指す先が
あたしが行けない場所だったとしても
遠慮なく行ってほしいの
大丈夫
帰る場所って言ってくれたから
ちゃんと待てるわ

…うん、連れて行ってくれるなら
どこへだって一緒に


櫟・陽里
エリシャ(f03249)と夜市で買い物

宇宙でランプを流した時は
住める星が見つかるようにって祈ったっけな
あの頃俺はまだ遠くの事ばっか見てたし
こんなバイクの乗り方してりゃ長生きできないと思ってた

今は違うさ、帰る場所を見つけたんだ
だから教えてほしいんだけど
アックス&ウィザーズの伝統文様は詳しい?
売り物のランプの中にベッタベタな健康長寿祈願デザインあるかな?
じゃ星模様のにしよう

エリシャの新しい願いは?
はは!応援してくれて嬉しいよ
まだ速度の追求を諦めたわけじゃないんだ
参加できるレースがあれば飛び出しちゃうかもなぁ…
でももし、待たせるほど遠くに行く必要があったら
連れ去ってでも一緒に来てもらいたいと思ってる




 一際強い風が、ふたりの間を駆け抜ける。
 揺れる髪を押さえ、頬に伝わる冷たさに思わず瞳を閉じながら――ひとつ、エリシャ・パルティエルは彼へと問い掛ける。
「ねえ、宇宙で同じようにランプを流して、願いをかけたの覚えてる?」
 共に願いを掛けたあの日。
 その言葉に、櫟・陽里は静かに頷いた。――あの時は、住める星が見つかるようにと祈りを込めた。あの時の自分は、まだ遠くの事ばかり見ていて。自分のバイクの乗り方を考えれば、長生きも出来ないと思っていたから。
 けれど、今は違う。彼は、彼の帰る場所を見つけた。
 だから、同じように願いを掛けるにしても今は違う。
「アックス&ウィザーズの伝統文様は詳しい? 売り物のランプの中にベッタベタな健康長寿祈願デザインあるかな?」
 並ぶ品々をじっと真剣に見つめる彼の質問に、エリシャは一瞬瞳を瞬いたが。その意味を察するとすぐに口元に笑みを浮かべ、ひとつひとつ手に取りながら言葉を紡ぐ。
 植物は生命力の象徴だから、葉のモチーフが良いのではないか。あと、星にも無事に帰るという意味があるから、陽里にぴったりなのではないかと。
 自身の世界に寄り添ってくれる陽里の心を温かく感じながら語れば、悩んだ末彼は星模様のランプを手にした。
 そのままふたりは海へと向かう。
 零れるように瞬く星々も、世界を、海を照らす大きな月も、そして遠く遠く水面で揺れるランプの灯りも。全てが、宇宙とは違う景色で。
 穏やかだけれど響き続ける波音の中。ランプを手にする陽里はエリシャの願いを問い掛けるけれど、そんな彼を見上げながらエリシャは微笑んだ。
「あたしはもう充分幸せだから、陽里の夢が叶うように願わせて」
 あの時エリシャは、彼と一緒にまた美しい銀河が見れるようにと願った。彼女の願いは、今この瞬間叶っている。
 だから――ふたり分の願いを星に託したくなったのだ。
 あの時初めて見た、サーキットを走る陽里の姿。全てを掛けて求めるスピードへの情熱を知っているから、夢を諦めて欲しくない。
 そう想っての、エリシャの心からの願い。穏やかに紡がれる彼女の言葉に、優しさに。陽里は仄かに頬を染めながら、嬉しそうに満面の笑みを零す。
「はは! 応援してくれて嬉しいよ」
 そう、今こうして寄り添う瞬間は幸せだけれど。速度の追及を諦めたわけでは無い。だから、参加出来るレースがあれば飛び出してしまうかもしれない。
 エリシャだってそんな彼の性格は、レースへの真っ直ぐな姿勢は十分分かっている。
 だから――。
「もしも陽里の目指す先が、あたしが行けない場所だったとしても。遠慮なく行ってほしいの」
 自身の心と向き合っていれば、エリシャからの真っ直ぐな言葉が掛けられ陽里は少し驚いたように瞳を瞬いた。
 それは、彼女の信頼の証。
 一瞬いなくなってしまっても、帰って来てくれると信じているから。帰る場所だと、言ってくれたから。だから――ちゃんと待てるのだと、穏やかな笑みと共に彼女は零す。
 そんな彼女の言葉に。真っ直ぐに見つめる金色の瞳に。陽里は確かに震えた。彼女のひたむきさ、そして陽里への想いを感じ、胸に宿る温かさを感じながら――自分の性格を十分に理解をしてくれるありがたさも、感じる。
 昔は、レースと云えば飛び出していた。今もその想いは変わらない。
 けれど、違うことがある。もしも、待たせる程遠く遠く行かなければけなくなっても。
「連れ去ってでも一緒に来てもらいたいと思ってる」
 捧げられる優しい言葉と、真っ直ぐな眼差し。
 それは今の陽里の真っ直ぐな想いで、エリシャの心へと落ちればじわりと胸へと広がる温かさ。その嬉しさに心が震えれば、彼女は口許に手を当て微かに震える声を零す。
「……うん、連れて行ってくれるなら。どこへだって一緒に」
 いつだって、一緒にいたい。
 その想いは重なった。
 穏やかな波音の中、流れる星はどこまでもどこまでも揺蕩って。ふたりの願いを乗せ、本物の星へと届くのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月17日


挿絵イラスト