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癒傷のカルス

#ダークセイヴァー #辺境伯の紋章 #番犬の紋章 #地底都市 #夕狩こあら #死の狂演ヘナロ・カルバハル #闇に誓いし騎士 #星鏡の夜

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「君達がこれまでに数多くの『辺境伯の紋章』を捕獲してくれたお陰で、彼等に紋章を与えた存在……つまり、より上位の吸血鬼に関する新しい情報が得られた」
 君達の成果だ、と誇らしげに花脣を開く枢囹院・帷(麗し白薔薇・f00445)。
 僅かに口角を持ち上げた彼女は、時を置かず言を足した。
「地底にいくつもの都市が存在する事が判明したんだ」
 其は、ダークセイヴァー各地に存在した「隠された地底都市」――。
 常闇の世界にはいくつもの「地底空洞」があり、その中は地上とまるで変わらないような、広大な「地底都市」が存在する事が判明したのだ。
「しかも地底には吸血鬼だけでなく、人々も存在している事が分かったんだ」
 広大な空洞に作られた都市で、地上との交流を断たれた人々が住んでいる。
 地上の存在を知らぬまま、吸血鬼の支配に怯えながら暮らしている。
 グリモア猟兵の予知によって齎された新事実は、地上の世界しか知らなかった者達にとっても大きな衝撃となったろう。
 その一人である帷は、ここに声を鋭くして、
「辺境伯に紋章を与えた者達は、地上の世界と、この地下都市の数々をも版図に置きながら、更に地下深くに生息していると思われる」
「連中は更に深層に居るのか」
「ああ、多分な。だが先ずは、地下都市で絶望の下にある人々を救いたい」
 地底都市で暮らす人々も吸血鬼の支配に怯えているのだ。
 彼等をオブリビオンの脅威から救い出せば、更なる深層へと進む手掛かりを見つける事が出来るかもしれない、と語る帷の緋瞳は凛乎と研ぎ澄まされる。
 その語調が更に鋭くなったのは、また新たなる予知を――絶望に虐げられる人々の存在を見たからだろう。
「君達に行って欲しい所がある。地底都市のひとつで、先ずは『門番』を倒して欲しい」「門番?」
「ああ、都市に入るには、『番犬の紋章』を付された門番を倒さなくてはならない」
 この門番が難敵だとは、あの「同族殺し」さえも、ともすれば一太刀で屠れる程の手練れと言えば、かの案件に関わった者なら理解が及ぼう。
 門番は「番犬の紋章」という寄生虫型オブリビオンで戦闘能力を強化しており、それに対する攻撃以外はろくにダメージを与えられない。
「今回の門番は“舌”に紋章を刻んでいるようだから、何とか口を開けさせて攻撃すると良いだろう」
 死力を尽くして門番を倒したなら、地底都市の内部に入る事が出来る。
「君達が地底都市に突入したら、屈強なオブリビオン兵士達が襲い来るだろう。敵は強力だが、此処で兵士達を倒しまくったら、地底都市に住む人々に勇気を与える事が出来るに違いない」
 オブリビオンに抗う猟兵の戦いぶりが力になる。
 絶望に沈む者達に勇気を与え、信頼を勝ち取る――それは、彼等を地底から地上の「人類砦」へと動かす力になるとは、続く説明で分かるだろう。
「既に幾つかの人類砦が、地底の民の受け入れを表明してくれている。君達は地底に暮らす人々を説得し、人類砦まで彼等を誘導して欲しいんだ」
 地底に居たままでは、吸血鬼の絶対支配を逃れる事は出来ない。
 異変に気付いた別の地底都市のオブリビオン軍勢がやってくる前に、人々を絶望から救い出し、希望の礎に導いて欲しいと頼んだ帷は、ここでパチンと弾指してグリモアを召喚する。
「ダークセイヴァーにテレポートする。地下に根差す吸血鬼支配に、ヒビを入れてやろうじゃないか」
 眩い光が猟兵の精悍なる顔を照らした。


夕狩こあら
 オープニングをご覧下さりありがとうございます。
 はじめまして、または、こんにちは。
 夕狩(ユーカリ)こあらと申します。

 こちらは、ダークセイヴァーの地下都市で絶望の下にある人々を救う「地底都市の探索」シナリオです。

●戦場の情報
 ダークセイヴァー各地に存在する「隠された地底都市」のひとつ。
 地上と変わらず常闇に閉ざされた都市ですが、苔類や魔法のガスによって薄ぼんやりと光っているので、光源を持たずとも移動できます。

●シナリオ情報
 第一章『死の狂演ヘナロ・カルバハル』(ボス戦)
 地底都市の強力な「門番」で、あの「同族殺し」さえも一太刀で屠れる程の凄まじき手練れです。
 領主達を愉しませる為に結成されたサーカス団団長で、人間達をアクロバティックに殺す様々な演目で好評を博しています。猟兵達を調教・虐殺する大サーカス開催を目論んでいます。
 ヘナロは「番犬の紋章」という寄生虫型オブリビオンを「舌」に刻んでおり、口を開けさせる、舌を攻めるようなプレイングには、プレイングボーナスが付与されます。

 第二章『闇に誓いし騎士』(集団戦)
 ヴァンパイアで構成される精鋭部隊。
 怪物じみた馬に跨がり、槍を携え、突撃は破城鎚が如く襲い来るので、死力を尽くして倒しまくりましょう。
 ここでの活躍次第で、地底都市に住む人々に勇気を与えることができます(第三章にプレイングボーナスが付与されます)。

 第三章『星鏡の夜』(日常)
 鏡のように星空を反射する湖面が美しい塩原。
 ウユニ塩湖のような景色を想像して頂ければ幸いです。
 いくつかの「人類砦」が受け入れを表明しているので、地底に住む人々を地上に誘導する傍ら、天空の鏡のような景色を楽しみましょう。
 お手伝いやお話相手に帷を指定する事も可能です。

●リプレイ描写について
 フレンドと一緒に行動する場合、お相手のお名前(ID)や【グループ名】をお書き下さい。お二人の関係や呼び方があると、とても助かります。

 以上が猟兵が任務を遂行する為に提供できる情報です。
 皆様の武運長久をお祈り申し上げます。
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第1章 ボス戦 『死の狂演ヘナロ・カルバハル』

POW   :    猟兵使い
【猟兵調教鞭】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
SPD   :    It's Showtime!
自身からレベルm半径内の無機物を【団員、道具、猛獣が揃ったサーカス会場】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
WIZ   :    サーカスクラウン
戦闘力のない【道化師】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【コミカルなリアクションと野次】によって武器や防具がパワーアップする。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はナギ・ヌドゥーです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 地底と言っても、其処は地上と變わらない。
 高さ20メートル程の城壁に囲われた城郭都市は、遙か上空に魔法のガスを漂流わせて天蓋を隠しており、この灰色の空だけを見れば地上に居るかのような錯覚を抱く。
 而してこの昏さは城攻めに有利だ。
 城門そのものは木製としての強度しかなく、闇に紛れて城壁に近付き、物理的に攻撃すれば門を破る事は容易い。
 より隠密に優れた者なら、城壁を登って内部に侵入する事も可能だろう。
「問題は――それからだ」
「ああ、番犬の門番とやらが手練れらしい」
 聞けば「門番」は、城壁から半円形に突き出た甕城(バービカン)の堡塞に居て、此処で猟兵達を迎撃すれば、城壁内部への被害は抑えられると踏んでいる。而してその能力は十分に有る相手だ。
 与えられた紋章で戰闘力を強化した自負もあるだろう、彼奴は半径500メートル程度の戰場を曲芸(サーカス)会場に變え、己の土俵で敵を殲滅する心算なのだ。
「――扨て、どうするか」
 然し、猟兵の顔に不安の色は無い。
 二重に囲われた城壁の奥に、絶望に虐げられる人々の姿を見た者達は、瞳に凛然を萌し――靜かに爪先を蹴るのだった。
禍沼・黒絵(サポート)
『クロエと遊んでくれる?』
 人間の人形遣い×ビーストマスター、11歳の女の子です。
 普段の口調は「無感情(自分の愛称、アナタ、ね、よ、なの、かしら?)」、独り言は「ちょっと病んでる(自分の愛称、アナタ、ね、わ、~よ、~の?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。

一人称はクロエ、人からクロエと呼ばれると喜ぶ。
ちょっと暗い感じの無表情なキャラ
武器は装備している物を自由に使って構いません。

 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!


テケリリケテルリリ・テケリリテケリャア(サポート)
『テケリャア!!!』
バイオモンスターのフードファイター × 破戒僧
年齢 100歳 女
外見 243cm 黒い瞳 赤茶の髪 白い肌
特徴 特徴的な声 声が大きい 実は美形 虐殺を生き延びた 奴隷だった
口調 テケリャア(私、呼び捨て、言い捨て)
お腹が減ると ケテルャア(私、呼び捨て、言い捨て)
常に飢餓感に苦しんでいます
てけりゃあ叫んで捕食したり怪力任せに潰すのが得意です
不定形の化け物として描写してください
連携歓迎です


ノエル・スカーレット(サポート)
アドリブ&他の猟兵さんとの連携大歓迎。
性的描写NG

世界を飛び回るチビッ子ダンピールです。
吸血衝動はほぼなく太陽へっちゃら、お菓子が好きで、虫が嫌い。
色々な事件に首を突っ込みスカーレッド・ノヴァをぶっぱなします。
(ぶっぱなさなくてもOK)


基本的にいい子なので首を突っ込んだ事件やイベントの解決や成功の為に積極的に行動します。

戦闘は残像を伴う素早い動きから大鎌でなぎ払い攻撃したり。
ユーベルコードをご自由にお使いください。

記載がない部分はマスター様におまかせでお願いします。
自由に冒険させてあげてください。


霧崎・蛇駆(サポート)
『あーあーヤダヤダ、めんどくさいったらありゃしねぇ』
『やるからにはやるさ、給料分はな』
『いいじゃんいいじゃん!楽しくなってきた』
口では面倒くさいと言いつつも仕事はこなす猟兵で、戦闘だとやる気を最初から見せる戦闘バカです。
捜索系ではハッキングを駆使して情報を集めたり、演技で騙したり脅したりします。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使います。正面きって無数のテンタクルによる物量戦も好きですが、触手による立体的な移動からの相手の死角から攻撃も別格です。弱い相手だといたぶる傾向があります。
メインの武器は『テンタクル』です。
基本的な口調は『オレ』です。
あとはおまかせします。よろしくお願いいたします。


赤嶺・愛(サポート)
『世界が平和になりますように』
 人間のパラディン×シーフの女の子です。
 普段の口調は「平和を愛する(私、あなた、~さん、なの、よ、なのね、なのよね?)」、怒った時は「憤怒(私、あなた、~さん、ね、わ、~よ、~の?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。

性格は明るく、人と話す事が好きで
平和的な解決を望む優しい性格の女の子ですが
戦う事でしか依頼を成功出来ない時は戦う事も厭わないです。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



 甕城(バービカン)に突入する前に為す事が有る――。
 地底に隠された城郭都市より人々を救出するに、より成功度を高めんと動いた者達が、己が獲得した情報を共有せんと集まった。
 事前に偵察に出ていた禍沼・黒絵(災禍の輩・f19241)と、ノエル・スカーレット(チビッ子ダンピール・f00954)である。
「お城の壁は、この一番大きい南門を真ん中に、東と西に半月型の甕城が突き出ていて、其処には三名ずつ見張りが立っていたよ」
「一番奥の北側には大きな岩壁が立ち塞(はだ)かっていて、空まで続く巨壁を仰ぐと、此処が広大な地底空洞にある都市だと実感します」
 互いに「視た」ものを砂地の大地に書き記し、集まった猟兵に説明する。
 黒絵は【呪われた霧の肉体】(カースド・ミスト)――ゴシックロリータな服に包んだ繊麗の躯を狭霧と變じ、周囲に靉靆(ただよ)う魔法のガスに紛れて上空を漂流い、城壁に囲繞(かこ)まれた地底都市の地形を調べていた。
 一方のノエルはというと、【サイレントチェイサー】――情報収集能力に優れた極めて小さな六匹の蝙蝠を三組に分けて放ち、灰色の空に紛れて羽搏く彼等が見る全てを、目の前に描いた地図に詳しく書き込んでみせた。
 夜色の麗瞳に見張りの数を捉えてきた黒絵は、やや物憂げに花脣を開いて、
「門番の居る南門だけを攻略しても、東と西の見張りが狼煙を焚いたりしたら、直ぐにも近くの地底都市に報せが届くかもしれない……」
 異変に気付いた別の地底都市のオブリビオン軍勢が来ては困る。
 東西の門に据わる見張りにも対策を講じねばと双眸を鋭利(するど)くする黒絵には、ノエルもこっくりと首肯いて、
「慥かに、オブリビオンを倒すだけでなく、此処に住む人々を人類砦に送り届ける時間も考えると、半日は時間が欲しいところです」
 二重に囲われた城壁の外円部分は耕作地。
 内側に形成された都市部に人々が集まっており、人口としては多くなかろうが、一般人を避難させるには相応の時間が必要だろう。
 少女の白磁の繊指が思案するように細頤に向かえば、幾許の沈黙の裡に艶帯びたハイ・バリトンが差し入った。
「――時間稼ぎか」
 聲の主は、霧崎・蛇駆(ヴィリジアンモンスター・f20261)。
 緑色のフードコートの下、昏い翳を落とす顔貌に犀利(するど)い眼光を暴いた男は、言うより速疾(はや)いと光をチラつかせると、【リバース・ミラー・ラビリンス】――一瞬で都市の外縁に「鏡の迷宮」を創り出した。
「向こうが馬で来ようが超常の異能を使おうが、迷路を通ってもらえばいい」
 まだ周辺の勢力図が判然とせぬ現況下、どの方向からどれだけの勢力が援軍に来るかは図りかねる。地上の主な移動手段は馬だが、オブリビオンもそうだとは限らない。
 考えるのも面倒くせぇ、とフードの後ろに硬質の指を滑らせた蛇駆は、鏡に映る形姿を上下サカサマに、隣の鏡には前後をサカサマにして投影(うつ)して見せた。
「要するに、街に辿り着けなくすれば良いんだろう」
 僅かに、小気味よく持ち上がる語尾こそ妙々。
 蛇駆が一帯に敷いた迷宮は、上下左右前後が目茶苦茶に反転して映る鏡に囲繞されて、且つ出口は「城郭都市の門」に結ばれていない意地悪な迷路だ。
 これなら距離も時間も稼げると、集まった猟兵が彼に第三勢力の掣肘を任せる中、更に仲間の猟兵が動いた。
 一陣の風と疾走る赤嶺・愛(愛を広める騎士・f08508)と、形容し難き形状で蠢き這い擦るテケリリケテルリリ・テケリリテケリャア(ロード・ケテル・f16871)である。
「東門の見張りは任せて!」
 麦秋と耀く金のツインテールを揺らし、凛然を萌す愛。
 誰より速疾(はや)く東側の甕城に回り込み、櫓に立つ三名の兵士を把握した少女は、【ハートフル・レインボー】――七色のハート型のエネルギーの嵐を紡ぎ、三人が悲鳴を挙げるより先に命を摘まんとする。
「――全ての者に慈愛の力を、そして邪悪なる者には制裁の力を!」
『ッッ……ッ……!!』
『ぜ……ッ、ア……ッ――』
 争いを好む少女では無い。
 然しこの城壁の奥に絶望に虐げられた人々が居るなら、無辜の民に平和を齎す為なら、愛は彼等に代わって惡を倒そう。
 少女の慈愛に満ちた優しい心は風となり疾風となり嵐となって、ヘナロ・カルバハルの手下と思しき者達を刻み、骸の海へと還した。
 一方、西門に辿り着いたテケリリケテルリリは、否、その名を冠した奇妙な生命体は、一度は構築した聲帯を純然たる食欲へ、或いは粋美な強欲へと變じ、ズッ……ズッ……と甕城の足許まで辿り着いていた。
(「――テケ、りりり……りりり、り……」)
 其は理性を拭われた怪物、奉仕して消費されるもの。
 跫すら屠って見張りの真下まで近付いた「存在」は、世界を識る者は「デモノイド」と名付けたろうか――変形するに応じて射程距離を強化した其は、その見た目からは想像できぬほど精確精緻に粘液を射出し、三名の見張りを同時に溶かした。
「――ケテルャア!!!」
『――ッッ!!』
 今際の絶叫も、恐怖の色を差す瞬間も與えない。
 何物をも融かす【SESアシッド】(ショゴス・イジェクテッド・スキン・アシッド)は、ぬうらりと物見の兵士らを抱擁すると、強烈な酸を以て装甲や外皮、内臓といった疆界を食い破った。
『……ッッ、ッ――――』
 東西の門を同時に落とされたヘナロに警救の報は届かない。
 斯くして極めて靜かに衛兵を駆逐した猟兵は、異様なる沈黙の内に南門の破られる――本隊の突撃の音を聴き、“第一段階の任務”を終えた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

シャト・フランチェスカ
お淑やかではないけれど
城門は蹴破ってしまおう
僕らが来たこと
この乱暴なノックを聴いて知るがいい

彼も団員や獣を率いるようだから
こちらも「きみ」と戦おう
ルーシィ、準備はいいかい

豪奢な金髪を靡かせて
青い目の乙女が芝居がかった一礼をする

ヘナロ、【ひとつ問おう】
きみは初めから
虐殺を演目としたサーカスを
披露するのが夢だったのかい?

赫い絲は生き物のように迫る
動くものは絡め取り
動かぬものは断ち切ってしまうだろう
ルーシィが納得したなら
このイトは途切れるだろうけれど
当然、口を開かなくては答えられないね

唇が震えれば
その隙間に万年筆の切先を滑り込ませる
まだ刺さないさ
きみの答えを、意図を、信念を
僕らが聞き届けるまではね


ハロ・シエラ
それだけの力を持ちながら、やる事は悪趣味なサーカスとは。
どうせ倒さずにはすまない相手、趣味はどうでもいい事ですかね。

戦場はサーカス会場ですか。
敵の領分に付き合う気はありませんが、必要なら【ジャンプ】や【空中戦】によって曲芸の設備を活用しましょう。
交戦には剣を使い【物を隠す】技術でワイヤーは隠し、後で【だまし討ち】に使います。
敵が鞭を振るって来たら反撃開始。
敢えてこの身で鞭を受けて【激痛耐性】で耐え、ルールの宣告の為に敵が喋る瞬間、舌を狙って隠しておいたワイヤーを【早業】で【投擲】します。
命中すればユーベルコードを発動。
【毒使い】で【継続ダメージ】を与えます。
そのまま【捕縛】してもいいですね。


ルイス・グリッド
アドリブ・共闘歓迎

殺戮を芸としているのか、反吐が出そうだ
番犬の紋章は舌か、口を大きく開けさせるには怒らせるか、もしくは笑わせるかだ
ダメージは受けるだろうが、今閉じ込められている人々の苦しみに比べれば屁でもない

敵の攻撃にわざと当たり【覚悟】【勇気】【気合い】でルールを破りダメージを受けて【激痛耐性】で耐える
それから相手好みの反応を【情報収集】で集めて、その反応を取り、相手の言う事を聞いているように【言いくるめ】【演技】する
相手が大口を開けて笑うのを待ち、舌の紋章が見えたら銀腕を【武器改造】で剣に変え【早業】で接近
【怪力】【鎧無視攻撃】を伴いながら紋章を【串刺し】にする


水衛・巽
共闘、アドリブ歓迎

なるほど、喋らせれば自ら弱点を晒す、と
我ながら弓を引けないことが残念です
弓使いだったなら
開口一番、その舌を射抜いてさしあげるものを

さて、団長殿
黙していては宴の熱も冷めようというもの
どのような口上をご用意して来られたので?
非常に人気の公演だという噂ですが本当ですか?
私とひとつ口上勝負と洒落込もうじゃありませんか

…と、コミュ力で舌戦を仕掛け団長を煽り、
雑鬼達に化術でサーカスじみた芸を披露させる
あえて限りなく拙い芸をさせることでこちらを侮らせて
楽しい気分で気持ち良ーく喋ってもらいましょう

一人なら何ができるわけでもありませんが
あとは誰かが紋章を射抜いてくれるはず


七那原・望
随分とくだらないサーカスを開催しているようですね。
少し変な動きで無抵抗の相手を殺すだけなら誰でも出来る。
そんなもので得意になっているなんて三流以下。サーカスごっこのただの薄汚れた人殺し。ただの恥晒しです。

【第六感】と【野性の勘】で敵の動きや攻撃を【見切り】、回避を。

常に【魔力を溜めて】攻撃力重視の【全力魔法】【Lux desire】の発動準備をしておき、敵が大口を開けたタイミングで【早業】【クイックドロウ】で舌に向けて放ちます。
可能ならオラトリオで敵の口が開いたタイミングで口を閉じないように固定し、より攻撃の成功率を高めましょう。
その為にも敵を煽り、敵が大口を開けるように誘導しましょう。


ニール・ブランシャード
こんな場所があったなんて…ぼく、ずっと知らなかった。
やっと見つけられた人達だ。絶対助け出してあげないと。

敵のUCは【武器受け】で弾くけど
受けてしまって、戦えなくなるようなルールを宣告されたら、ダメージを覚悟して破る。

敵に口を開けさせる方法は…
団長なら自分の演目には誇りを持ってるはず。
だから、ぼくの語彙力と…強い相手をわざと怒らせる【勇気】を総動員して演目をバカにする!

つまんない。
最近見た別のサーカスはもっとレベルが高かったよ。(同業者と比較してプライドをくすぐる作戦)
領主様とやらの程度も知れてるね!
文句があるなら言い返してみなよ!

挑発に乗って口を開いてくれたら「黒い手」で舌を攻撃するよ!


クロト・ラトキエ
舌、ですか…。

お喋りにお付き合い…は、期待出来そうに無いですかね?
大人気サーカス団を率いる傑物。
ならばトークもさぞや面白きものと…
それとも、腹話術でも習得してらっしゃったり?

軽口、なれど侮りはせず。
UCは先んじて起動。
視線に合図、手指の動きに、踏み込み、後退…
敵の操作に加え、自律する生物は気配や声、音を以て意図を見切り、
攻撃を躱し、鋼糸で陸空用い接近を。
…多少の傷はやむ無し。
得物操る手が、跳び駆ける足が…
命があれば。

読み取った全てで、狙うは唇の間隙。
ナイフ一閃、刺し込み。
歯、邪魔でしょうけど…承知の上。
あくまで楔。本命はテコ、ナイフへ追撃する拳。

会話に口も開かずなんて、味気無い
(共闘等歓迎です


荒谷・ひかる
うわぁ……見るからに趣味の悪そうな。
まともに付き合うと疲れるだけですね、粛々と狩っていきましょう。

二丁の精霊銃を構え、戦闘態勢に
雷撃弾や冷凍弾等を用い、妨害を主体に戦う……と見せかけた囮になります
本命は【風の精霊さん】
総勢430体の不可視の風の精霊さん達をこっそり召喚、当初は付近に伏せていてもらいます
風の精霊さん達の実体は「空気」
どこにでも存在し、どんな隙間にも入り込むことができる
ですので彼の呼吸に乗って鼻から侵入、口へと入り込んで舌への自爆攻撃(口内で多段鎌鼬発生)を敢行してもらいます
呼び出した道化師も随時鎌鼬で切り裂いてお掃除してもらいますね

「風」を敵に回して、逃げられると思わない事です。


矢来・夕立
曲芸ならオレもできますよ。

団員やら猛獣やらを殺します。
無限に出てくるにしろ、見えるぶんくらいは。
火の輪を折ったり。空中ぶらんこに逃げたり。
調教師の死体を利用して猛獣を嗾けたり。
面白そうなことはやってみます。

ちょっとした小細工で派手に荒らせる戦場はイイですね。
《闇に紛れて》移動。
壁の真下、死角から『朽縄』を使って一息に跳び上がります。

…驚いて口を開けてくれればそこに式紙を詰め込みますけれど、そう間抜けではないでしょう。無理には狙いません。
オレが辿り着く頃にはボロボロかもですしね。舌。
オーバーキル気味なら動物の排除に専念してもいいくらいです。

あ、得意な曲芸は人体切断です。戻し方は知りません。



 先に周辺の地形や城壁の構造を調べた先発隊から情報を得る。
 眞北に峻り立つ巨壁を背に扇型に展開する城郭都市は、東西に半円形の小甕城を設け、目の前に見える南門が最も大きな堡塞を有す――。
 仲間の口から語られる情報を耳に、砂地に描かれる略地図に眞赭の佳瞳を落としていた矢来・夕立(影・f14904)は、其処に繊麗の指を滑らせた。
「東西の小堡の攻略を先発隊の皆さんに任せ、三方同時に攻め掛かってはどうかと」
 南門を攻めるだけでは、東西に配された衛兵が動く。
 特に外の勢力に向けて狼煙を上げられては困る現況、其が最善の策かと思案を巡らせた仲間達は、靜かな首肯を以て是を示した。
 而して刻下。
 砂の地図で策戰を共有した猟兵達が、次々に精悍の顔を持ち上げる。
 目線は嚴然と立ち塞(はだ)かる南門の大甕城へ――愈々闘志を研ぎ澄ました精鋭が、間もなく爪先を彈いた。

「お淑やかではないけれど、城門は蹴破ってしまおう」
 櫻色に艶めく丹花の脣に物騒を囁(つつや)くは、シャト・フランチェスカ(侘桜のハイパーグラフィア・f24181)。
 ふわり駆け上がって搖れる裾より瑞々しい脚を覗かせた凄艶は、その繊麗からは想像も付かぬ衝撃を以て城門を叩いた。
「僕らが来たこと、この乱暴なノックを聴いて知るがいい」
 蓋しお行儀佳く、ノックは一回。
 詰まり一発の蹴撃で閂を破壊したシャトは、着地しざま拉げた門口を潜り抜ける爽涼の風に毛先を揺らした。
 彼女の美し白皙を撫でる風こそ、ルイス・グリッド(生者の盾・f26203)。
 颯然と疾走した彼は白銀と耀ける義手を盾に城門を押し破ると、武器として使用可能な域にまで練り上げた覇気を以て、其の悉くを粉砕した。
「城門は徹底的に毀損(こわ)しておいた方が良い」
 二重に囲繞(かこ)われた内円に居る人々にも、この音は届こう。
 オブリビオンを駆逐した暁には此処を通る事になるのだと門の広さを確めたルイスは、勢い良く飛散する木の破片にブロンズの肌膚を掠めながら、眼路を過ぎる影を追った。

「城門の上に、見張り役の団員が四体」
「周辺の都市に異変を知られてはいけません。烽火を上げられる前に――」
 ――“始末する”。
 須臾の瞥見で意を通じ合わせた七那原・望(封印されし果実・f04836)とハロ・シエラ(ソード&ダガー・f13966)は、今の一瞬で己の得物を決めたか。
 先発隊の報告通り、物見櫓に四つの邪気が存在すると感応を鋭くした望は、自律して宙を舞う『銃奏・セプテット』に手下の一体の脳天を貫き、隣の一体が「敵襲あり」と身を乗り出した瞬間には、ハロが蛇の血と毒で鍛えられた短剣『サーペントベイン』を投擲して咽喉を貫き、警急の報を絶叫に變える。
 残る二体を与るは、荒谷・ひかる(精霊寵姫・f07833)とクロト・ラトキエ(TTX・f00472)。
「鐘打ち役を撃ちます。今、城内から援軍を呼ばれては困るので」
「それでは、残る一体は引き受けましょう」
 短く言を交して進路を違えたひかるは、瑪瑙色の麗瞳に鳥面の男を捉えると、精霊銃『Nine Number』の筒先を男の脳天へ、雷撃を彈いて手に握る撞木ごと灼き尽くす。
 その間、クロトは篭手に仕込んだ『Tief im Wald』より短矢を射出し、極めて消音声に優れた暗器によって悲鳴を殺し、最後の物見を靜かに骸と變えた。

 ここまで幾許も掛からず初動を制した猟兵たち。
 先ずは物見を倒して混乱の波及を抑えた訳だが、無論、異変はいずれ知られる。
 然し今回は、地底都市で暮らす人々を人類砦に送り届ける任務も有るので、出来るだけ時間は稼ぎたいと、先発隊は城壁の外に迷路まで張り巡らせてくれた。
 彼等の働きに応えねばなるまいと、精鋭の足は疾る、走る。

 物見櫓から四体の骸が零れ落ちる代わり、石階段を駆け上がって火種の掌握に掛かったニール・ブランシャード(うごくよろい・f27668)は、高さ20メートル程の城壁から街を見下ろし、一瞬、息を呑んだ。
「これが、地底都市……こんな世界があったなんて……ぼく、ずっと知らなかった」
 二重に囲われた外円に田園、内円に居住都市。
 幾許か儼しい様相ながら、地上と變わらぬ景観を見せる街をバシネット(面頬)越しに見た少年が、ほつりと言つ。
 時に内壁までの導線を見出すべく櫓に至った水衛・巽(鬼祓・f01428)は、端整の脣に冷涼なるテノール・バリトンを滑らせて、
「……新たな事実を獲得する時、私達は常に覚悟の前に晒されます」
 常闇の空の下、不毛なる大地の下に地底空洞が存在した。
 光届かぬ地底に都市が存在し、人々が暮らしていた。
 より上位の吸血鬼が深層に存在するなら、若しか彼等は地上の民より過酷な運命に敷かれていたかもしれぬ――と、濡羽に艶めく長い睫を半ば落とす。
 紋章を手掛かりに予知を得たとは、畢竟、地上に希望の光が灯り始めた今まで、吸血鬼の盤石な支配下にあったという事。
 新地発見と同時に過酷な事実を受け止めた二人は、内城に繋がる門の前に立つ「番犬」を烱眼に射て、
「――やっと見つけられた人達だ。絶対、助け出してあげないと」
「ええ、必ずや人類砦に送り届けましょう」
 と、凛然を萌した。

  †

 蓋し門衛を任された男も、敵の侵襲を予想していなかった訳では無い。
『――来たか、猟兵』
 領主達を愉しませる為にサーカスを披露する身に、「紋章」を賜った。
 地底の人々をアクロバティックに殺す見世物(ショウ)で好評を博したサーカス団に、餌場を、舞台を守らせるよう能力を強化したのは、闖入者を予測しての事だったと口の端を持ち上げたヘナロ・カルバハルは、シルクハットのブリムを指先に摘むと、狂気の染む目を剥いて言った。
『Ladies and Gentlemen, Lords and Jagers ! ――It's Showtime !』
 死の狂演をご披露しましょう、と開演を告ぐ嗤笑。
 曲馬団(サーカス)の団長が号令すれば、甕城は一転して天幕を張った見世物小屋に、七色の羽飾りを付けた馬が走り回り、空中ブランコが演者を運び、炎の輪を潜る猛獣や、巨象の行進が満ち溢れる異様な光景が広がった。
『さぁさ、これより始まるは愉快な殺戮ショー! 此度は恐怖に震える人間じゃあない、我等の領主に牙を剥く猟兵なる獣を調教し、嬲り殺して見せましょうぞ!』
 わぁ、と歓声を上げるは操り人形たち。
 狂ったように拍手してはケタケタと嗤い立てる人形を煽るは、ヘナロの前に立つ道化師(ピエロ)で、コミカルなリアクションとパフォーマンスでサーカスを盛り上げる。
 蓋し歪なる熱狂に包まれる程、招かれた猟兵は冷めよう。
「うわぁ……見るからに趣味の悪そうな」
 面妖に包まれた円形劇場をぐるり見渡したひかるは、つと雪白の肌膚に狂気の風を感知すると、轟然と飛び掛かるホワイトタイガーの爪を躱し、
「まともに付き合うと疲れるだけですね、粛々と狩っていきましょう」
 振り向きざま冷凍彈を撃ち込み、怒れる魔獣をカチコチにする。
 傍らのルイスは、狂ったように突進する巨象をマタドールさながらヒラリと身躱し、
「……殺戮を芸としているのか、反吐が出そうだ」
「それだけの力を持ちながら、やる事は悪趣味なサーカスとは」
 一方、四頭立ての馬車が蹄鉄を鳴らして迫った瞬間には、ハロが高く跳んで一回転!
 揃ってアクロバティックに攻撃を避けた二人は、道化師に遮られるヘナロを睨めた。
「――どうせ倒さずには済まない相手、趣味はどうでもいい事ですかね」
「ああ、開演早々に潰して遣る」
 剥き出しの敵意を突き付けられたヘナロは、ニッと嗤笑って、
『ノン、これは趣味でも悪趣味でも無いのだよ』
 謂わば、ビジネス――。
 血を欲する吸血鬼達に、最高のエンターテインメントを提供するのだと、両手を広げて「死の狂演」を誇示(ひけらか)して見せる。
 時に空からサーカス団員がブランコを揺らして迫れば、シャトは咄嗟に『ベルフェゴルの顎』より獰猛な兇彈を撃って殺意を吹き飛ばし、
「ビジネス、か。需要と供給が合致した訳だね」
「面白い商売だと思いますよ。ちょっとした小細工で派手に荒らせる處とか」
 と、ネットの軋む音に紛れた夕立の皮肉も妙々たるもの。
 彼は漕ぎ手を失ったブランコに脚を掛けて宙を游ぐと、振り子の如く揺れながら手裏剣を投げ入れ、高台に居る曲芸師や、地上で構える調教師を次々に倒していった。
「無限に出てくるにしろ、見えるぶんくらいは間引きましょう」
 間引く。
 言い方は雑だが、敵を屠る『式紙・牙道』の軌道は精確精緻。
 鐵製の手裏剣と同等の強度と鋭利さを持つ鋩は、牙を剥く猛獣の咽喉を突き、火の輪を斬り落として、ヘナロが誇る精鋭を悉く駆逐していく。
『ぬくくくく……!! ショーを台無しにする心算(つもり)か!!』
 夕立がヘナロを駆り立てたのは、彼が披露する曲芸に華があったからだろう。
 彼が「面白そうだからやってみよう」とばかり調教師の死体を利用して猛獣を嗾けた時には、瞋恚と嫉妬を混ぜた激情がヘナロの口髭をビンビンに逆立てた。
「オレも虎なら扱えますよ。象はちょっと判然りませんが」
『ッッ、儂に牙を向けるとはけしからん!!』
 竟に嚇怒した狂邪が、腰元に巻いた調教鞭を取り出して打ち据える。
 猛虎がギャンッと鳴いて轉がるのを睨め敷いたヘナロは、再び鞭を振って床を打つと、一縷と恐怖を抱かぬ猟兵を調教すべく命令(ルール)を発した。

『さぁ、お座りをしろ!! 存分に躾けて見世物にしてやる!』
 風を切って伸びた鞭が望へと向かうが、研ぎ澄まされた「勘」と「感」で間合いを見切った少女は、ふわり揺れたスカートのフリルだけを裂かせて回避する。
「随分とくだらないサーカスを開催しているようですね」
『何ィ?』
「少し変な動きで無抵抗の相手を殺すだけなら、誰でも出来る」
 鞭に仕込みんだ血の匂いに、これまでどれだけの人が犠牲になったかを知った少女は、花脣を滑る言を鋭利(するど)く、冷ややかに言う。
「そんなもので得意になっているなんて三流以下。“サーカスごっこ”に興じる薄汚れた人殺し。ただの恥晒しです」
『……ほう、猟兵風情が随分な物言いをする』
 これは十分に調教すべきと口の端を歪めたヘナロが、虚空を打った鞭を再び振り被り、大きく撓らせた。
『従順に仕込まねばならぬ、跪座(ひざまず)け!』
「ッ、ッッ――!」
 瞬刻。
 踵を蹴ったニールが愛用の長柄斧を構えて庇い出る。
 柄に巻き付いた鞭が戰斧を制し、ニールを命令通りに跪かせようと圧を掛けるが、盾と踏み出た彼はダメージを甘んじつつ、両の脚で強く踏み止まるのみ。
「ルールには従わない……それなら傷付いた方がマシだよ」
『そうして獣は誇りの為に打たれ、人間は誇りの為に死んだぞ!』
 何度も見た光景だと、二の撃を振り被るヘナロ。
 今度こそ打ち据えんと伸びた鞭撃は、然し咄嗟に投げ入れられた『形代』――巽の身代わりを縛し、然して手応えを得ぬままトング(鞭身)を床に落とした。
 喫驚の色を差して我が足元を見たヘナロは、狂演に在るとは思えぬ淸涼の聲に視線を戻され、
「我ながら弓を引けないことが残念です」
『どういう意味かね』
「若しも自由に弓が扱えたなら、開口一番、その舌を射抜いて差し上げたものを」
 惜(おしい)かな、と細む佳瞳に差す玲瓏の彩の鋭利き事と云ッたら。
 嫋やかなる麗人の日本刀の如き凛冽を視たヘナロは、一瞬でも覚えた戦慄を靴底に踏み潰し、不敵な嗤笑を返した。

『……我が舌はサーカス最大の商売道具。そう易々と譲る訳にはいかん』
「軽妙なお喋りにお付き合い……は、期待出来そうに無いですかね?」
 胸躍る口上を期待していたのに、と佳聲を差し入るはクロト。
 サーカス団員が次々投げるナイフを外套を翻して払い落した彼は、常にヘナロへと烱眼を結びながら言を継いで、
「大人気サーカス団を率いる傑物ならば、トークもさぞや面白きものと思っていましたが……若しか腹話術でも習得してらっしゃったり?」
『豈夫(まさか)! 傀儡人形にサーカスの華を渡すものか』
「――それは良かった」
 と、安堵を囁(つつや)くと同時、迫り来る鞭撃に鋼糸を絡めて抗衡する。
 鞭と糸がギチギチと絞られる中、青の麗眸は狂邪の眼の動きや挙措、初動の癖や息遣いまで細かに読み取り、己の攻撃の精度を高めていった。

  †

『此処を攻めたと思ったら大間違い、飛び入ったるは虐殺の鐵檻! 猟兵達よ、この鞭で手懐けた後は、惨たらしく、華々しく死んで客を愉しませるが佳い!』
 饒舌を買われて舌に紋章を刻まれたヘナロである。
 曲芸団(サーカス)の団長として緘黙に徹する事は無いが、相応の攻撃が来た瞬間には噤むだけの警戒を弁えてもいる――阿吽を使い分ける男だった。

「番犬の紋章とはお似合いです。見世物に人を殺すだけの領主の狗に相応しい」
『ハハ、花の如き顔で随分とさがな口をきく』
 望がヘナロの多辯を煽るのは、紋章を暴く為だ。
 望は鞭を躱す間に魔力を溜めており、【Lux desire】――数多の奇跡を引き起こす勝利の果実『真核・ユニゾン』から膨大な光の奔流を放つ準備をしている。
 密かに滑り込ませた『影園・オラトリオ』が、一度開いた口が閉じぬよう固定した時、厖大なる魔力が堰を切った。
「全ての望みを束ねて……!」
『……んっが、ぐっぐ……ッ!』
 美し銀髪が光に輝き、燦然たる黄昏色を彈く。
 勝利の果実に集まった無数の願望が、エネルギーに變換されて解き放たれる。
 ぶわり迸発(ほとばし)った光の奔流がヘナロに叩き付けられると、四肢は一縷と損傷せぬものの、大口を開けられた舌は灼かれて絶叫を裂いた。

 ――ギャァァアアア嗚呼嗚呼ッッッ!!!

 時に耳を劈く悲鳴を聴いたルイスが、麗顔ひとつ崩さずにヘナロを視る。
 怜悧なる銀瞳は舌に刻まれた紋章の図柄を聢と捉えて、
「舌以外の攻撃は殆ど効かない、か――」
 口を大きく開けさせるには、怒らせるか、若しくは笑わせるか。
 北風と太陽ではあるまいが、力ずくで抉じ開けるより煽(おだ)てた方が良かろうかと佳脣を引き結んだルイスは、望に向かって振われる憤怒の鞭を代わった。
『ほう、貴様が代わりに服従の獣となるか。ならば跪座(ひざまず)け!』
「、ッ――」
 朱殷に染まった鞭のフォール(先端)が音を立ててルイスを打擲くが、身に染む痛痒は絶望に鎖された人々の苦しみに較べれば屁でもない。
 漸う異変に気付いたであろう人々が居る城壁の奥を決然と見詰めた彼は、ヘナロが口癖の様に言い立てる「跪座」を、彼の望み通りして遣る事にした。
「……ッッ……これで満足か」
 長躯の男が頭首(こうべ)を垂れる光景は、猛獣を從えるより快哉が勝ろう。
『これは愉快な。吸血鬼に抗う猟兵が服従を示す……嘸かし客も喜ぶであろう!』
 更に鞭を呉れて遣ろうと狂邪がニタリと嗤笑えば、刻下、随分と冷めたテノールが其を止める。
「つまんない。唯の痛みで言う事をきかせるなんて」
『ファッ!?』
「ぼくが最近見た別のサーカスは、もっとレベルが高かったよ」
 聲主はニール。
 目下、中の液状生命体は持てる語彙と勇気を総動員している所だが、黒騎士の鎧は彼の意図を隠してヘナロの「演目」を愚弄し、サーカス団長としての矜持を煽った。
「この程度で満足するって言うなら、領主様とやらの程度も知れてるね!」
『ッッ、私の曲芸を愚弄するか』
「文句があるなら言い返してみなよ!」
 ギリ、と歯噛みしたヘナロが、彈かれたように口を開いた矢先だった。
『いいだろうッ! 貴様もこの男と同じ様に――』
 この男、と魔眼が円形舞台に跪くルイスに視線を移した処に彼の姿は無く。
 その代わり、眼路いっぱいにルイスの冱ゆる銀瞳が――銀と耀く流体金属の義手が劔と形状を變え、その鋩を迫り出していた。
『なッ……ン……ッ……!』
 咄嗟に口を閉ざす事は叶わない。
 何故なら胸元から左腕を突き出したニールから、【黒い手】(ブラックハンド)が――強い腐食性を持つ毒液を分泌させた左手がヘナロの頤を掴み、劔鋩を迎える様に固定したからである。
「随分と演者を揃えた様だが、相手も演者とは思わなかったか」
『ホガホガ、ホガホガホガ……(莫迦なッ、激痛にあって演技するなど……)!』
「もっと辛い目に遭っている人が居るんだから、いくらでも偽るよ」
 幾らでも堪えられるし、幾らでも嘘を吐こう。
 それだけの覚悟はしてきたのだと、【一撃必殺】――劔鋩は舌に刻まれた紋章に沈み、血が噴き出ると同時に腐蝕性の毒液が舌を灼いた。

 ――嗚呼ァァアア嗚呼ァアアア!!!

 団長の叫喚(さけ)びに反応したサーカス団員が、咄嗟に空中ブランコでフライング・トラピーズ(空中飛行)! ヘナロを宙空へと攫っていく。
『♠♠♠♠!! ♦♦♦♦!!』
 団長の苦戰を目の当たりにした道化師がコミカルな動きでリーダーの復活を祈る最中、救護員に手当てを受けて戻って来たヘナロは、再び鞭を取り出してシタッと床を打つと、サーカスのメンバーに猟兵の抹殺を命じた。
『ふぅ……危ない所だったぞ……』
『★★★★!! ★★★★!!』
『ああ、そうだ……The show must go on ! ――死の狂演は終わる訳にはいかない!』
『Aye, aye, sir !!』
 云うや、空を踊る曲芸師がナイフを投げる。
 地を翔る馬が足を上げ、猛獣が牙を剥く。
 天幕に覆われた戰場を舞台にサーカス団員が次々と襲い掛かり、正に「狂演」の様相を見せるが、幾許にも目敏い巽は浅葱の麗瞳を舞台袖へ――灼けた舌を冷やそうとミネラルウォーターを含むヘナロを見つけた。
「さて、団長殿」
『ぶおっ!!』
「曲芸の長が袖に引っ込んでは、宴の熱も冷めようというもの。此度はどのような口上をご用意して来られたので?」
『ふぶぶっ……何で、気付いて……』
「非常に人気の公演だという噂ですが、本当ですか?」
『ごぁ、むふっ……ほんっ本当だ……!』
 ゴフゴフと咽るヘナロに、塊麗の微笑を注ぐ巽。
 淡く緩んだ目尻に玲瓏を湛えた佳人は、繊麗の指に空を捺擦(なぞ)ると、急急如律令――七十八の魑魅魍魎を喚んで恭しく礼をさせた。
「それでは、私とひとつ口上勝負と洒落込もうじゃありませんか」
『なっ……勝負、だと……!!』
 其は【雑鬼召喚・群】――戰闘力は無い、弱くて小さな妖怪の類だが、彼等はくるりと一回転するや華やかな衣装を纏い、大玉に乗ったり、大縄跳びをしたり、サーカスじみた芸を披露し始めた。
「さぁさ御立合い、拙さはご愛嬌、一生懸命に演じる姿が見物ですよ」
『ハッハッハ、これが曲芸とは!! ドッグショーかと思うたわ!!』
 敢えて限りなく拙い芸をさせたのは秘密。
 すっかり巽を侮ったヘナロは、快哉の表情を浮かべてライオンを招くと、シタッと鞭を床に打ち付けるのを合図に、百獣の王に雑鬼のショーを蹴散らさせた。
『ハッハァ!! サーカスは獅子を従えてこそ曲芸の華を飾れるもの。人間をも屠る猛獣を自在に操る……それが猛獣使いと云うものぞ!!』
 何とも得意げに豪語するが、これこそ正に巽が望んだ高慢。
 ヘナロが大口を開けて驕ったこの瞬間、必ずや誰かが紋章を射抜いてくれる筈――と、麗瞳を鋭利くした巽の視界に、須臾、求めた通りの光景が映された。

「――矢張り、傑物なら“こう”でなくては味気無い」
 瞬刻、矢の如く飛び込んだのはクロト。
 鋼糸を操って宙空を躍った彼は、多少の傷は已む無しと、次々と射掛けられる炎の矢を潜って攻め掛かった。
 灼熱の鏃が白皙を切り裂くが構わない。
 猛獣が四肢に噛み付こうとも構わない。
 得物を操る手が、跳び駆ける足が、そして――命があれば。
 全てを読み切った知覚が肉体を動かし、最大の好機に侵襲を果した麗人は、【拾弐式】(ツヴェルフ)――ヘナロを屠る為に研鑽した冱撃を聢と届けた。
「唯一、歯が邪魔でしょうけど……其も承知の上」
『ッ、ッッ――!!』
 唇の間隙にリバースグリップで握ったナイフを刺し込む。
 初手の刃撃は楔と打ち込んでから梃(てこ)にして、抉じ開けた瞬間に追撃の拳を突き落とす。
 然れば、刻下。
 暗色に覆われた拳は咥内で炸裂し、舌に刻まれた「番犬の紋章」を歪ませた。

 ――ギャァァアア嗚呼嗚呼アアアッッ!!!

『×♦$♥ッ!! ♠△♣□ッ!!』
 団長の絶叫にオーバーリアクションで喫驚した道化師が、慌てて幕を引く。
 見せろ、見せろと傀儡人形がブーイングする中、道化師はヘナロを応援すべくコミカルな動きをして見せるが、目隠しカーテンの奥では救護団員がボクシングのセコンド並みに応急手当をしているに違いない。
『ハァハァ……無茶苦茶ヤバかったが大丈夫……これくらいショーでもやってるぞ!』
 シャッとカーテンが開かれると、団長は戰戰兢兢たる表情を拭って不敵な嗤笑を戻し、周囲の歓声に手を挙げて応えると、累積したダメージを振り払うように鞭を振った。
『さぁ、殺っつけてしまおう! 此度の狂演は奴等の死で終幕だ!!』
『Yes, sir ! Yes, sir ! Yes, sir !!』
 籠の鳥を殺すに何ら苦があろうと奮起する団員たち。
 だが然し、籠の構造を十分に把握した鳥を殺すのは苦であったろう。
 鳥は――ハロは颯爽たる立体機動で空間を渡り、間隙なく襲い来る攻撃を見事に回避して見せた。
「敵の領分に付き合う気はありませんが、視野を得る為に活用しましょう」
 荒ぶる象の背中を跳び伝い、猛スピードで走る馬車の屋根に着地して。
 彼女が場所を變え、角度を變えて待っていたのは、狂邪が鞭を振るう瞬間だったか、
『えぇい、ちょこまかと! 降りてこい!!』
「“降りてこい”――そう、ルールを宣告するには喋る必要があります」
 我が身を追って降り注ぐ短刃を細劔『リトルフォックス』に払っていたハロの本命は、今の瞬間まで隠し持っていた『サーペント・ベアラー』――蛇の牙の様なフックの付いたワイヤーを素早く投擲すると、一寸の狂い無く舌に引っ掛けた。
『へぎっ』
「食らい付いたら、離しませんよ!」
 其は【運命の鎖】(テイク・ザ・チェーン)――鈎は金属製の毒蛇の頭部に、ワイヤーは鎖と變じ、聢と舌に繋がって両者を結ぶ。
『へぇあ、へむ……っ!』
「まだ何か言い掛けている様ですが、毒が回れば舌も動かなくなるでしょう」
 而してルールは相手に伝わらねば破りようも無い。
 ハロは常に鎖を引っ張っる事でヘナロの言語を奪い、「猟兵を屈服させる」という莫迦げた演目を破って見せたのだった。

 時に空中ブランコから不規則に射掛けられるナイフの雨を、最小の挙動で身躱していたシャトは、「雨には似合いだ」と、瑞々しく馨しい紫陽花の花束を差し出す。
「彼も団員や獣を率いるようだから、こちらも『きみ』と戰おう。――ルーシィ、準備はいいかい」
 櫻脣より滑り出る佳聲が、美しく妖しく語尾を持ち上げる。
 紡ぐは【murder-su🌸c🌸de】(クモノイト)――シャトの言の葉にエスコートされて現れた乙女「こころ誣告す愚者《ルーシィ》」は、麦秋を想わせる豪奢な金髪を靡かせ、芝居がかった一礼をひとつ。
 頭首(こうべ)を持ち上げた時に映る青い目が印象的だろう。透徹の瞳はヘナロの心を覗き込む様に彼を投影(うつ)した。
「ヘナロ、“ひとつ問おう”。きみは初めから虐殺を演目としたサーカスを披露するのが夢だったのかい?」
 此度は瞭然(ハッキリ)と語尾を持ち上げて問う。
 この時、ヘナロは生き物の様に迫る“赫い絲”に瞠目したろう。動くものは絡め取り、動かぬものは断ち切ってしまうイトは、ヘナロを抱擁する様に絡み付き、納得のいく答えを待つ。
『ふおっ……ふぅんおっ……』
 然しヘナロは答えられまい。
 現下、彼の舌はハロの【運命の鎖】の鎖に繋がれて満足に喋れず、満足な答えを出せなければ、彼はルーシィの無垢で残酷な瞳の前に晒され続けるのだ。
 シャトは言が紡げぬ事を知った上で、震える脣の隙間に万年筆の切先を滑り込ませ、
「噫(ああ)、まだ刺さないさ」
『ひっ、へぁ……へう……!』
「きみの答えを、意図を、信念を。僕らが聞き届けるまではね」
『ッ……ッッ……!!』
 宛如(まるで)拷問だと、嚇怒と恐怖に錯乱した瞳が睨めてくるが構わない。
 ここに完全に身動きを奪われたヘナロは、己の荒ぶる呼吸ばかりが耳に迫ったろうが、その鼓膜を別なる音が――風が震わせていたとは気付かなかったろう。
「風の精霊さん、今の呼吸に乗って鼻から侵入し、口を通って舌に向かって」
『ッ!? ……ッッ!?』
 凛乎と佳瞳を輝かせたひかるが「何」を言っているのか、呼吸を乱したヘナロには理解しかねたが、少女がかなり物騒を言っているのだけは明瞭(ハッキリ)と判然る。
 総勢430体、不可視の【風の精霊さん】(ウインド・エレメンタル)を侵入当初から召喚・潜伏させていた彼女は、今や全員がヘナロの口腔内に満ちた事を確認し、
「風の精霊さん達の実体は『空気』……どこにでも存在し、どんな隙間にも入り込む事ができるんです」
『ッッ……ッ……!!!』
 不味い、不味い、不味い!!
 止めろ、止めてくれと手が必至に空を游ぐが、もう間に合わない。
「――『風』を敵に回して、逃げられると思わない事です」
 自爆――ッ!!!
 ヘナロの咥内に侵入した風の精霊は次々に鎌鼬を発生させ、紋章を切り、舌を裂いて、惨たらしい量の血を噴かせた。

 ――ゲェアァァア嗚呼アアア唖唖唖ッッ!!!

 ――時に。
 紙垂状の式紙『朽縄』を使って一息に跳び上がった夕立は、ヘナロの全き死角から影を滑らせ、刃の如く冷たい聲で肉薄した。
「……第三幕は無さそうですね」
 疆界を隔てた瑠璃(ガラス)越しに、赫黯い惨憺を視る。
 式神『封泉』でも詰め込もうかと思っていた口は、既に頤を落としており、「受け皿」が無くては詰めようもないと無理は止めた夕立は、烱々たる緋瞳をヘナロの三白眼へ――まだ敗北を理解しかねると色を震わせる狂邪に刃を突き付ける。
 既に大量の猛獣を屠った斬魔の劔は、深紅に染まって光を失っているものの、ヘナロに恐怖を與えるには十分だった。
「最後に得意な曲芸を。人体切断です」
 奇しくも、最も上客に好評を得た演目が披露される。
 眞ッ赤に染まった麗顔、朱に濡れた脣は小さく言を足して、
「戻し方は知りません」
 、と――。
 終幕に一際の血飛沫を浴びて噤まれた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
ニルズヘッグ(f01811)同道
暗闇に鎖された侭、唯生あるだけの――過るものは在れど今は振り切る
勿論だ、幾らでも手を貸そう
閉ざされた門ごと悉く撃ち砕いてくれる

――無と化せ、遮斥隕征
五感で得られる総ての情報から戦闘知識で以って攻撃の方向と出を見切り見極め
カウンターで攻撃を咬ませて相殺、決して後ろへは通さん
多少の傷なぞ覚悟で捻じ伏せ無視する
「抉じ開ける」其の瞬間の為に出来るだけ時間を稼ぐ
さあ、「演者」が揃ったぞ――篤と見ろ

お前の整えて呉れた此の機会、無駄に等するものか
開いた口――晒された舌へ向けて
一気呵成に全力の怪力乗せた斬撃を叩き込んでくれる
笑うも笑わせるも出来んサーカスなぞ早々に畳んでしまえ


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
嵯泉/f05845と

暗くて狭くて冷たくて
太陽も月もなくて
理不尽に怯えて蹲るだけの――
……嫌なこと思い出した
手伝ってくれ、嵯泉。全部ぶっ壊す

呪詛幕に氷の属性攻撃を混ぜて展開
前に出る嵯泉を守る盾にする
私に飛んでくる攻撃は蛇竜の黒槍を使って受け流せるだけ受け流す
怪我なぞ覚悟の上だ
致命傷にならなければ構わない

逃げ回っているのではない
頃合いを待っていただけだ
起動術式、【破滅の呪業】
この地に満ちる、貴様らに向けられる呪詛を借り受けていたんだよ
さァ覚悟しろ――今、「その口をこじ開けてやる」

嵯泉なら一瞬だって充分
とくと味わうと良い
そのよく回る二枚舌も、すぐに斬り落とされるさ
ふは、笑えよ。最高のショーであろう?



 高台から城郭都市を見下ろす。
 先に周辺の地形や城壁の構造を調べた先発隊の情報では、この街は北に峻り立つ巨壁を背に扇型に城壁を巡らせ、東西に半円形の小型甕城、そして目の前に見える南門に最大の堡塞を有すると言う。
 天蓋を魔法のガスに隠す以外、地上と變わらぬ常闇の世界。
 二重の城壁に囲繞(かこ)われた都市は、檻の様にも視えたか――地底世界を遠望したニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)は、銀灰の睫に縁取られる瞳を半ば伏せ、硬質の指に瞼を覆った。
(「噫――――」)
 暗くて狭くて冷たくて。
 太陽も月もなくて。
 理不尽に怯えて蹲踞(うずくま)るだけの――。
「……嫌なこと思い出した」
 薄く結んだだけの佳脣が、ほつり、吐息を溢す。
 直ぐにも寂寥の風に掠められる科白は、然し、傍らに立つ鷲生・嵯泉(烈志・f05845)が沈黙の裡に拾って包んだ。
(「暗闇に鎖された侭、唯だ生あるだけの――」)
 この男にも同じく過るものは在るが、今は振り切る。
 振り切らねば、今負うものを抱えて進む事は出来ぬと、真赭の隻眼を烱々と地底都市に繋いでいた嵯泉は、盟友たる男が視線を同じくするまで佳脣を引き結んでいた。
 彼の不器用な篤実は佳く知る間柄である。
 ニルズヘッグは暫し伏せた睫毛を漸う持ち上げると、嚴然と立ち塞(はだ)かる城門を鋭眼に射止め、
「――手伝ってくれ、嵯泉。全部ぶっ壊す」
「勿論だ、幾らでも手を貸そう。閉ざされた門ごと悉く撃ち砕いてくれる」
 耳馴染む聲を聽いた嵯泉が、応える様に抜刀する。
 露払いの冱刃『秋水』に迸発(ほとばし)る神氣に触れた竜の子は、迷い無き太刀筋に嚮導(みちび)かれる様に踵を蹴った。

  †

 凄まじい衝撃に城門が破壊され、飛び散る木片の向こうに影が暴かれる。
『――来たか、猟兵!』
 敵に喫驚や狼狽の色は無い。
 番犬の紋章を舌に刻んだヘナロ・カルバハルは「予期していた闖入者が出現れた」と、口の端を醜く歪めると、腰元の調教鞭を取り出すなり、シタンッと床を打った。
『此処を攻めたと思ったら大間違い! 飛び入ったるは鏖殺の鐵檻! 小生意気に囀る者から打ち据えてやる――さぁ、“跪座(ひざまず)け”!!』
 聢と調教して見世物にしてやると、“ルール”を宣告する。
 紋章に強化された、同族殺しをも屠る鞭が迫るが、今こそ踏み込んで前進した嵯泉は、五感で得られる総ての感応を反応に變えると同時、歴戰を潜った知識と経験を以て相殺に出た。
「――無と化せ、遮斥隕征」
 決して後ろへは通さぬと鞭撃を払い落とす刀には、【遮斥隕征】――ユーベルコードを無効化する術式が施されている。
 故に嵯泉が膝を折って屈服する事は無く、更なる鞭撃が精悍の躯を打擲せんとすれば、背に立つニルズヘッグが須臾、灰燼色に月白の斑を混ぜた防壁を展開して彼を護った。
『ハッハァ! 随分と仲が宜しいが、果してどちらが先に調教されるか』
 實に嬲り甲斐があると、ヘナロは嵐の如く鞭を叩き付けるが、多少の傷は捻じ伏せると流血を顧みぬ嵯泉と、損耗は覚悟の上だと蛇竜の黒槍に受け流すニルズヘッグを組み敷くのは難い。
 其々の武器を正中線上に、致命傷だけを避けて二人が「時を稼ぐ」のは、ヘナロの消耗を待つ為か、仲間の援軍を待つ為か――否、その何方でも無い。
「さあ、『演者』が揃ったぞ――篤と見ろ」
「ああ、頃合いだ」
 奇しくも凄艶のハイ・バリトンが重なった時、殺伐の大地に暗澹たる靄が揺曳ぐ。
 昏く冷淡(つめた)い其がガスで無い事は、異様に漂流う怨念と殺氣で判然ろう。
『……こ、れは……ッ』
「起動術式、【破滅の呪業】――なに、この地に満ちる怨嗟を、貴様らに向けられる呪詛を借り受けていたんだよ」
 灰燼色の呪いの忌み子には、劈頭(ハナ)から呪詛なら扱い易い。
 左眼は死者の怨嗟と生者の情念を編んだ呪焔を赫々と、右眼には玲瓏の金彩を輝かせたニルズヘッグは、黒手袋をした指先を突き付けて“次の行動”を宣告した。
「さァ覚悟しろ――今、“その口をこじ開けてやる”」
『な、ンッ……止め……ろ……ッッ!!』
 蓋し閉口する事は許されない。
 ニルズヘッグが集めた「演者」は、これまでヘナロの虐殺ショーに嬲り殺された多くの犠牲者で、彼等が強者の証であり弱点たる「舌」を隠す事を赦さぬのだ。
 両腕で必死に頤を塞がんとするヘナロを前に、竜の子は塊麗の微咲(えみ)を湛え、
「そのよく回る二枚舌も、直ぐに斬り落とされるさ」
 嵯泉の瞬撃、篤と味わうが佳い――と。
 而して冱ゆる金瞳に見送られた隻眼の男は、盟友が整えて呉れた機会を無駄に為まいと爪先を蹴り、一陣の風と翔けて速く、疾く、狂邪の眼路いっぱいに飛び込んだ。
『ッ……ッッ……!!』
 大きく口を抉じ開けられたヘナロは言葉も出ないが、その代わりニルズヘッグの佳聲は瞭々(ありあり)と、生々しく耳に届いたろう。
「ふは、嗤笑えよ。最高のショーであろう?」
 嘗て多くの死が冷笑に組み敷かれた様に。
 己が死で終幕を迎える皮肉を嗤笑うが佳い。
 ヘナロが無惨なる死を予感する最中、眼前に肉薄した嵯泉は、己が膂力を全てを乗せた渾身の斬撃を舌に叩き込んだ!
「笑うも笑わせるも出来んサーカスなぞ、早々に畳んでしまえ」
 刃鋩を沈める。
 夥しい量の血飛沫を浴びる。
『――……ゼェアァァア嗚呼嗚呼唖唖唖ッッッ!!』
 然して此処に。
 今際の絶叫が灰色の空を切り裂いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルカ・ウェンズ
これはアレよアレ……門番に優秀な人を配置しておくアレだわ!

敵の鞭で攻撃を防ぐために岩と私に【オーラ防御】そして【怪力】で岩を持ち上げて盾として使い、対オブリビオン用スタングレネードを当てれる距離まで近づいてスタングレネードの音と光で【目潰し】や【恐怖を与える】ことができないか試してみて、その隙にユーベルコードで攻撃するわ。

岩が破壊されたり、スタングレネードが効かなかったりしたら【残像】で敵を惑わしながら距離を詰めてユーベルコードで攻撃するわよ。せっかく舌が弱点だと教えてもらったのだから、ユーベルコードの他にも私の怪力で敵を抑え込んで口の中にオーラ刀を突っ込んで舌を攻撃してみるわ。


ジャハル・アルムリフ
宙を舞う道化師に、炎を潜る猛獣
昔、師に連れられ何度か見た大道芸
流石に此れほど物騒では無かったが

すばしこい者を捕らえるのは
あまり得意とは言えぬ故
――なれば

近くの猟兵を巻き込まぬよう
然し隙は大いに使ってくれと意を伝え
甕城の上空へと飛翔
役目は攪乱、遊撃と心得て

飼い慣らされど忘れては居らぬぞ
嘯きつつ屋根上より【竜吼】の衝撃波を
「会場」へと叩き付け
ついでに見世物の道具をも破壊
倒れた獣を、道化師を踏み付け放り投げ
門番の作る世界を荒らす

悪戯が過ぎる観客に
或いは躾のできそうにない猛獣に
文句のひとつも言いたくは成らぬだろうか

…三流芸人め
駄目押しは嘲笑で
さて、ひらいた口に短剣でも飾ってやれぬものか


オリヴィア・ローゼンタール
吸血鬼の地底都市……まさしく地獄ですね
人を箱庭で飼っているつもりにでもなっているのか

今宵の演目は団長の解体劇だ
刮目して見るがいい、種も仕掛けもないぞ

【トリニティ・エンハンス】で風の魔力を纏い、槍による刺突の威力を強化
鞭による痛打を【激痛耐性】【継戦能力】で堪え、
ルールを宣告するために口を開こうとした瞬間を強化された【視力】で【見切り】、
紋章が刻まれた舌を狙った(部位破壊)刺突を繰り出す
言いたいことがあるなら遠慮せずに言うがいい
ただしその瞬間、貴様の舌はズタズタに引き裂かれると識れ

口を開くまで【怪力】を以って聖槍を振るい、【串刺し】【貫通攻撃】で突き穿つ


シャーロット・クリームアイス
※アドリブ・連携などお任せ

サーカス団の方々ですか
それはじつに好都合!

……え、何の話かって?
ほら、みなさんには、これから映画に出演したつもりで振る舞ってもらわなければなりませんので
ふだんからパフォーマンスをしているひとなら、さぞ魅力的なリアクションをしてくださるのではないかな、と!

UCによる電脳鮫魔術で戦場に干渉!
ここからは水中ショーです!
(水で呼吸に支障をきたせば、やがて自然と口をあけてくれるでしょう)

武器のサメを放ち、オブリビオンを襲わせます
水中なら野次を飛ばすのも簡単ではないと思いますが、団長さんへの援護が活発なようなら、先に道化師さんたちから平らげましょう

犠牲者役、お疲れ様でした!


神々廻・カタケオ
【遭逢】
さァて、俺とお前。あの門番野郎の首ィ獲ンのは速い者勝ちといこうぜ
猟兵…狩るモノらしくなァ
(選択UCを発動)
向かって来る奴ァ鉄塊剣で薙ぎ払う
道を塞がれねェように蒼炎での牽制もかけながら門番目掛け突破
野郎の舌ァ出させねぇことにゃ獲れる首も獲れやしねェ

接敵できりゃ奴の頬を引っ掴み上げて怪力に任せ潰し上げ
駄目押しで顔を蒼炎で焼き上げる
効きもしねェ弱点以外への蒼炎で為す術ねェと野郎を慢心させて油断させりゃァ饒舌になっかもしれねぇ
いっぺん口開いたら閉じれねェように頬掴み上げる手に全力の握力を込める
兎に角口開けさせりゃァ勝機はあンだ
…他人任せは性に合わねェが、野郎を仕留めるトドメの剣もいることだしな


杜鬼・クロウ
【遭逢】
剣は修復済
まだ完全に使えず

偶然、同刻に転送された理由で即席連携
彼の実力は如何に
物陰に隠れ軽く擦り合わせではなく互いの本能の儘に
暴れる羅刹見て背負う大剣振り下ろす

ハ、粋がってンな
早い者勝ちと言われちゃァ敗けるのは何か癪に障る
その口車、乗ってヤんよ
先ずはあの門番と゛愉しくお喋り゛だな

敵を挑発し負の感情増幅させ【天の血脈】使用
二手に別れ

胸糞悪ィ集会開きやがって
テメェ如きに俺は手懐けられねェよ

外套揺れ
路を切り拓く
鞭に当たり命令時を狙う
口を開くと同時に剣に炎属性宿し顔面へ一閃
ダメージ受ける覚悟
羅刹男の協力もあり確実に決める

応えてこそ俺だ

正義の味方として魅せる光
敵の攻撃掻い潜り熔熱帯びた剣で二連撃


愛久山・清綱
この深き闇の底には、一体何があるのか。
行き止まりか、更なる道か、其れとも……?
おっと、今は考えるより進み続けねば。
■闘
紋章が口内にある以上、口をこじ開けよう。
奴の懐まで全力【ダッシュ】で接近するぞ。

接近時は鞭を持った腕を注視、放ってきたら軌道を【見切り】つつ
鞭を刀で振り払うように【武器受け】だ。
身体をはたかれたら終わり故、きっちり決めねば。

距離を詰めたら【残像】を伴う動きで敵の背後へ瞬時に潜り込み、
その首を【怪力】全開で締め上げ、息苦しさで口を自ら開かせる。
敵が少しでも声を出したら、口が開いた証拠……片手に持った刀を
逆手に持ち直し、忍の如き超高速の【真爪】で口内を断つ。

※アドリブ歓迎・不採用可



 地底都市から幾許か離れた高台に立つ。
 事前に周辺の地形や城壁の構造を調べた先発隊が、地面に図を描き起して詳述する中、砂を滑る指を藍の麗瞳に見詰めていたシャーロット・クリームアイス(Gleam Eyes・f26268)が、ふむふむと頷きつつ情報を纏めた。
「成程、なるほど……この街は、北側に峻り立つ岩壁を背に扇型に城壁を展開していて、東西に半円形の甕城を設け、目の前に見える南門が最も大きな堡塞であると……」
 云って、確かめるように今の景色を映す。
 双眸に迫るは、魔法のガスを漂流わせる以外、地上と變わらぬ常闇の世界。
 絶望の染む大地の下、光届かぬ地底の大空洞に都市が存在し、地上の民と同じく吸血鬼の支配に怯える人々が暮らしていた新事実は、猟兵に新たな覚悟を求めたろう。
「吸血鬼の地底都市……まさしく地獄ですね」
 二重に囲繞(かこ)われた城壁の外円に田園、内円に居住地を形成する城郭都市。
 其の儼めしき様相は牢檻にも視えたろう、
「――人を箱庭で飼っているつもりにでもなっているのか」
 眼鏡越しに遠望したオリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)は、丹花の脣を滑る言を漸う鋭利(するど)く、靜かに憎悪の炎を灼やし始める。
 その隣、愛久山・清綱(飛真蛇・f16956)は眼下に広がる景色に空洞の大きさを知ると同時、この世界をも判図に収めんとする吸血鬼の権勢を推し量った。
「この深き闇の底には、一体何があるのか」
 行き止まりか、更なる道か――其れとも。
 隠された世界を知った今、何層の世界があるのか、より上位の吸血鬼が居るという深層に至る道はあるのか、否応にも懸念が過る。
「――おっと、今は考えるより進まねば」
 進み続ければ判明(わか)る事もあろう。
 唯だ今は、目の前で苦しむ人々を救うべしと、清綱は殺伐たる大地を踏み締めた。
 時に、先発隊より「番犬の紋章」を刻む強敵が南の甕城に居ると聽いたルカ・ウェンズ(風変わりな仕事人・f03582)は、ポン、と手を打って頷き、
「これはアレよアレ……門番に優秀な人を配置しておくアレだわ!」
 門番は外敵の侵入を防ぐと同時、内部で暮らす人々の脱出を防ぐ役目がある。
 最大の要所たる南門を攻略し、後に人々を「人類砦」へと送り届ける救出口としようとルカが提案すれば、地図に視線を揃えていた仲間達が強く首肯を返した。
 その傍ら、先発隊の一人と話していたジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は、彼等の協力に謝辞を述べると共に、共同戰線を張る旨を確認して、
「異変に気付いた物見が狼煙を上げぬよう、東西の小堡の攻略を頼み、南門を攻める俺達と合わせて三方同時に攻め掛かるという訳か」
 東西の小堡は物見を倒すだけで十分。
 周辺の勢力図は未だ不明で、どの方向からどれだけの勢力が増援に来るかは図りかねる現況下、外部への連絡手段を断つのが最善と、策戰を共有する。
 正直に言って、他のオブリビオン勢力と交戰する余力は無い。
 第三勢力と遭遇せぬ裡に人々を救出して人類砦に送り届けたいと、見解を擦り合わせた猟兵達は、足元の地図に落としていた視線を持ち上げ、精悍の顔を見合わせる。
 而して刻下。
 視線は嚴然と立ち塞(はだ)かる南門の大甕城へ――愈々闘志を研ぎ澄ませた精鋭が、間もなく爪先を彈いた。

 ――時に。
 一陣の風と疾走る神々廻・カタケオ(羅刹のブレイズキャリバー・f29269)は、何も持たぬ空っぽ故に、誰よりも身軽に、誰よりも速疾(はや)く城門に辿り着く筈だったが、金の烱眼の脇に映る黒影に、胡亂な流眄を注いだ。
「……あァ? ンなでけぇ劔持って疾れるのかよ」
「――未だ完全には使えねェが」
 スッと通った鼻梁を進路に向けた儘、答えるは杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)。
 漆黒の大魔劔『玄夜叉・伍輝』(アスラデウス・エレメンツ)は永海・鋭春の腕を以て五行相生の燦めきを宿したが、十分に手に馴染んだとは言い難い。
 何だよ手練れかよ、と幾許か興味を……否、対抗心を燃やしたカタケオは、親指に城門を示して或る「勝負」を持ち掛けた。
「なァ、俺とお前。あの門番野郎の首ィ獲ンのは速い者勝ちといこうぜ」
「――ハ、粋がってンな」
 偶々、目的が同じで場所を同じくしただけの猟兵。
 然し「早い者勝ち」と言われて遅れを取るのは何か癪に障ると、好戰的な流眄を返したクロウは佳脣の端を艶やかに持ち上げて、
「その口車、乗ってヤんよ。首狩る前に、先ずはあの門番と“愉しくお喋り”だな」
 ――とは詰り。
 門番の強靭の証であり弱点である「舌」に刻まれた紋章を攻める、という意なのだが、僅かな言を交すだけで戰術を確め合った二人が、是を言う代わりに闘志を萌す。
 而して颯然たる二筋の風は疾く速く翔けて双対の槍となり、竟に城門を破壊する戰槌と成った。

  †

 蓋し門衛を任された男も、猟兵の侵襲を予想していなかった訳では無い。
『――来たな、猟兵!!』
 領主達を愉しませる為に曲芸を披露する身に、「番犬の紋章」を賜った。
 人間をアクロバティックに殺す見世物で好評を博したサーカス団の長に、餌場を、舞台を守らせるよう力を与えたのは、今の事態を予測しての事だった、と口の端を持ち上げたヘナロ・カルバハルは、シルクハットのブリムを指先に摘むと、目を剥いて言った。
『Ladies and Gentlemen, Lords and Jagers ! ――It's Showtime !』
 開演を告ぐは歪な嗤笑。
 ひとたびヘナロが号令すれば、甕城は大きな天幕を張った見世物小屋に、円形舞台には七色の羽飾りを付けた馬が走り回り、空中ブランコが演者を運び、炎の輪を潜る猛獣や、飾り立てた象が行進する――異様な光景が広がった。
『さぁさ、此れより始まるは死の狂演!! 此度の獲物は恐怖に震える人間じゃあない、我等の領主に牙を剥く愚かな獣を調教し、嬲り殺して見せましょうぞ!』
 わぁ、と歓声を上げるは傀儡人形たち。
 狂ったように拍手してはケタケタと嗤い立てる人形を煽るは、愉快な化粧をした道化師(ピエロ)で、コミカルなリアクションとパフォーマンスで場を盛り上げた。

「――昔、師に連れられ何度か見た大道芸は、流石に此れほど物騒では無かった」
 宛如(まるで)狂気だと、七彩を宿す眸に舞台をぐるり見渡すジャハル。
 異常な熱狂の中、火の輪を潜った勢いで猛然と襲い掛かる獅子の爪を颯と躱した彼は、敏捷(すばしこ)い者を捕らえるは得意に非ずと端整の脣を引き結ぶと、視線を上へ――明々と照明を焚く天幕の頂まで飛翔した。
『追え、追え! 彼奴等は籠の鳥、翼を捥いで殺してしまえ!』
『Aye, aye, sir !!』
 団長の命令に従って、空中ブランコの演者がジャハルを追い掛けんと踏み出るが、突如として凄まじい閃光と音響が炸裂し、団員らの目を晦ませる。
「ああ、効いてる効いてる。やっぱり怯むわよね~」
 広い天幕を光と音に裂いたのは、ルカその人。
 切り揃えた前髪の間から赫緋の麗瞳を覗かせた佳人は、繊手に握る『対オブリビオン用スタングレネード』を投擲し、ヘナロの手下に恐怖を与えて掣肘する。
 特に猛獣たちは強烈な爆発音と光の波濤に喫驚して、舞台を右往左往したものだから、これを観た傀儡人形はケラケラと嗤い、ヘナロは怒りのあまり口髭を逆立てた。
『なっ……私の舞台を台無しにする算段(つもり)か!!』
「台無しも何も、貴様の舞台は今日で仕舞いだ」
 怜悧(つめた)く、冷徹(つめた)く、佳聲を差し入るはオリヴィア。
 凄艶の聖女は邪悪に対しては頗る苛烈に、【トリニティ・エンハンス】――冱刃の如く鋭い風を身に纏うと、数多に射掛けられるナイフを『破邪の聖槍』に払い落し、投げ手の懐へと一気侵襲して薙ぎ払う。
 籠の鳥と思った彼等が中々どうして御し難いとは、早くも舞台の構造や配員を把握した清綱の颯爽たる立ち回りが示そう。
「この道を抉じ開けられなければ、彼奴の口を抉じ開ける事は出来まい」
 天から降るナイフの雨を潜り、地に走る猛獣を斬り伏せる。
 ヘナロは進路を遮るよう次々と刺客を寄越すが、清綱はブランコ台や象の鞍をも足場にしながら、俊敏な立体機動で距離を詰めていった。

 而して“勝負”に挑んでいた二人は如何だったろう。
「獲物は早い者勝ちといこうぜ。猟兵……狩るモノらしくなァ」
 死地を求めて戰うカタケオは、【我が身燃やし尽くせ果てるまで】(カプステ・ティ・ゾイ)――長躯に蒼き炎を纏い、灼熱を移した鉄塊劔に猛獣の群れを薙ぎ払う。
「火の輪も潜れる連中が怖れるのか。――案外、賢いんだな」
 然う、唯だの炎焔ではあるまい。
 燻るだけの生よりも、己の全てを出し切り、燃え尽きる刹那の輝きこそ我が生の証明と戰場を駈ける羅刹の蒼炎は、特に獣に畏怖を與えたろう。
(「…………へェ」)
 彼の実力や如何にと、目尻の際にカタケオの立ち回りを映していたクロウも闘争の炎を煽られたか、本能の儘に大劔を振り下ろす。
「中々の勝負になりそうだ」
 まだ完全とは言えぬ劔は、死闘の中で馴染ませる。
 無数の殺気と害意が襲い掛かるが、現下、クロウの身は【天の血脈】(スベテハソラデツナガリタリ)――天帝の血に連なる者より預った幽光のオーラに護られており、敵愾心を向けられる程、強靭(つよ)く、勇健(つよ)く、斬撃を研ぎ澄ませていった。

 ――時に。
 殺意を露わに襲い掛かるサーカス団員や、流血を求めて叫ぶ観客をまじまじと観察したシャーロットは、櫻色に艶めく佳脣をきゅ、と持ち上げて言った。
「皆さんはサーカス団の方々ですか……それはじつに好都合!」
 何処となくホクホクしている様な――。
 可憐の微咲(えみ)を訝しんだヘナロが、鞭を打ちながら問う。
『小娘よ、今から死ぬというのに何をワクワクしているのだ』
「……え? ほら、皆さんには、これから映画に出演したつもりで振る舞ってもらわなければなりませんので」
『映画、だと――』
 少女の言を胡亂臭そうに一蹴せんとしたヘナロは、然し己が鞭の軌道が、スピードが、妙に歪になっていると気付き始めたろう。
『な、ん……んん……?』
「普段からパフォーマンスをしている方々なら、さぞ魅力的なリアクションをして下さるのではないかな、と!」
『……これ、は……!?』
 開演、【古代文明の死の迷宮】(フォーティセヴン・キロメーターズ・ダウン)――!
 シャーロットは得意の電脳鮫魔術で見世物小屋に海水を滲ませると、戰場全体を海底47kmの「死の海底ラビリンス」へ、グリードオーシャンが贈るパニックムービーの舞台に變えた。
「さぁ、ここからは水中ショーです!」
『お、おお……ッッ、自慢のサーカス小屋が……鮫の游ぐ水槽に……んぐわ!!』
 云って、ゴブゴブと海洋深層水を飲み込むヘナロ。
 ヘナロだけでない、団員も猛獣も観客も、そして団長に激励を送っていた道化師までも息苦しそうに手足をバタバタさせ、応援パフォーマンスを救助サインに變える。
 天幕の頂に移動していた仲間の猟兵は、慥かに面白いリアクションを観たろう。
(『……早く、テントに穴を開けろ……! この儘では息が持たん……!!』)
 ジタバタと藻掻いて指示を出す団長。
 力を合わせてテントを引き裂く団員たち。
 溺れて気を失う道化師。
 次々と浮き上がって来る木製の傀儡人形。
(『ごぶごぶ……っ、ごぶごぶごぶ……っっ!!』)
 而して“その時”は音訪(おとず)れる。
 少女が予想していた通り、ヘナロは呼吸に支障をきたして口を開け、一際大きな気泡が浮かび上がった瞬間――猟兵が動いた。

  †

 総勢72体の鮫が道化師やサーカス団員を屠る惨憺の舞台。
 赫黒い血糊が交じる幽闇の海を、誰より速疾(はや)く泳ぐ者が居た。
 飛真蛇――蛇の鱗を持った清綱である。
(『ッッ……ッ……来るな来るな、今来るんじゃない……!!』)
 ルールを宣告するにも、聲が届かねば“調教”は出来ない。
 ヘナロは銛の如く推進する清綱に鞭を振るって接近を拒むが、漆黒の烱眼は鞭を持つ腕を注視して軌道を読み、優れた感応を直ぐさま反応に變える。
(「――身体をはたかれたら終わり故、きっちり決めねば」)
 佳脣を引き結び、呼吸を整えて全集中。
 ここに光を暴いた冱刀『心切』が、鞭のフォール(先端)を払い落した。
『ッッ!!』
 鞭があらぬ方向へ彈かれた刹那、直ぐに距離を詰めた清綱は、一気突貫するか――否、彼は残像を伴って瞬時に敵背へと回り込むと、膂力を振り絞ってヘナロの頭首を眞上に、大口を開けさせた。
(『ごぶっ……! ごばごばごばごば……っっ!!』)
 息苦しい上に、口は否応にも開いてしまおう。
 大量の気泡が零れるのを確認した清綱は、狂邪の舌に刻まれた番犬の紋章を捉えると、【真爪】――忍の如き超高速の一撃を繰り出した。
「……仕為(もら)った」
 片手に持った刀を逆手に持ち直し、刃鋩を沈める。
 速さと精度、そして威力を兼ね揃えた刺突撃は紋章へと墜下し、刻下、咥内から夥しい量の血汐を噴かせた。

 ――ギャァァアア嗚呼ァァアッ!!!

 肉声が天幕を震わせたのは、舞台から海水が抜けたからだ。
 サーカス団員が何人かの犠牲を出しつつ水を排出した頃には、ヘナロの絶叫が共響き、鮫にズタズタに引き裂かれた道化師が横伏(よこたわ)り、斯くの如くさせた張本人たるシャーロットに消滅を見届けられていた。
「犠牲者役、お疲れ様でした!」
 莞爾(ニッコリ)と頬笑む少女の達成感に満ちた花顔と云ッたら。
 頤を血だらけにしたヘナロは、猟兵こそ悪辣な獣だったと歯切りするしかなかろう。
『ぬぅっ……くっ、くっ……!! 存分に訓導(しつけ)て遣らねばなるまい!!』
 怒りに震える手で鞭を握り直したヘナロは、テントの頂に向かって豪語した。
『さぁ、降りて来い!! 悉く打ち据えてやる!』
 ボタボタと血を吐き続けるヘナロは憤怒と苛立ちで煮え滾っていようが、遙か高みより降り注ぐ、ジャハルの怜悧なる嘲笑は特に痛烈だったろう。
「……三流芸人め。獣すら格下の鞭には従うまい」
『ぬッ、ぐッッ!!』
 然程色を乗せぬブロンズの麗顔が凍てる冷笑を注げば、狂邪はその横っ面に鞭を呉れてやると睨め返すが、仰ぐ天幕が波打った瞬間――時が止まった。
『……こ……れッ、は――ッッ!』
「飼い慣らされど忘れては居らぬぞ」
 丹花の脣にそう嘯きつつ、咆哮るは音なき衝撃波。
 其は、人にあらず、獣にもあらず、されど在ると吼える――【竜吼】。
 凶星の竜が上空から波動を放って空間を叩けば、サーカス小屋が大きく震えると同時、ブランコ台が倒壊し、大掛かりな舞台装置が崩れ落ち、団員も観客も慌てふためく。
「己が世界も御せぬなら、荒らされる様を指を咥えて見ているが佳い」
 我が役目は攪乱、遊撃と心得たジャハルは天地の境なく縦横無尽に、人食い象を投げては象使いを潰し、猛獣の尻尾を摑んでは火の輪に投げ入れ、ヘナロの舞台を蹂躙した。
 商売道具を台無しにされたヘナロは真っ青に――いや、真っ赤になって怒ったろう。
『~~~ッッ、全く以て異(け)しからん!!』
 虐殺ショーの招待客としては悪戯が過ぎるし、猛獣としては躾がなってない!!
 狂邪が痛罵の限りを浴びせんと口を開けば、双つ星の主人以外には決して従わぬ竜が、駄目押しの反抗を投げ入れた。
「扨て、ひらいた口に短剣でも飾ってやれぬものか」
 さがな口を塞ぐは、隠した牙たる『けもの』。
 黒曜石の燦めきを放つ刃鋩が咥内に飛び込むや、舌を斬り、紋章を刻んで、醜い絶叫を絞らせた。

 ――グァァアア唖唖唖唖ッッッ!!!

 狂うほどの激痛が疾走し、夥しい流血が床を朱に染める。
 己が血に足を滑らせたヘナロは、然し意識を手繰るように手を握り込めると、踏み止まって鞭を振り被った。
『ッ、ッッゼァ……畜生がッ!! 鞭の痛みを知らねば己の立場が分からぬかッ!』
 須臾に伸びるは、諸有(あらゆ)る猛獣を屈服させる魔鞭。
 その鞭に調教されるは猟兵も例外でなく、痛撃を受ければ已む無く従わせられる筈が、風變わりな猟兵は、詰まりルカは、一向に組み敷く事が出来なかった。
「岩があれば岩を使ったけど。攻撃を防ぐならコレでも十分」
 借りるわよ、と佳聲を置いて把捉(つか)むは「Wheel of Death」(空中大車輪)。
 巨大な車輪のスポークを盾に鞭撃を防いだルカは、轟然と回転する輪軸を伝ってヘナロへと接近していく。
 鞭撃が荒ぶるほど、ルカは冷靜沈着。
 スタングレネードの音と光で己の位置を惑わしながら、ヘナロの眞上に至った麗人は、一縷と躊躇わず垂直降下すると、墜下しざま狂邪の上顎を片腕の力で抑え込み、『変形式オーラ刀』を刃の細い刺突劔にして勢い佳く突っ込んだ!
「せっかく舌が弱点だと教えてもらったのだから、攻撃しないと」
『ゲェアアァァ嗚呼嗚呼ッッッ!!』
「だってココ以外、効かないんでしょう?」
 凄まじい血量が繁噴くと同時、繊躯を翻したルカが久方ぶりに床に着く。
 蓋し攻撃はこれで終わらず、慥かな命中を得た彼女は此度、打って變わっての【沈黙】――冱撃を沈めた舌より荊棘を生え出でさせ、ヘナロに更なる激痛を與えた。
『ぜ、ァ……ッッ……ぐぅ……んおおお……っっ!!』
 苦しい、困しい!
 荊棘によって強引に口を抉じ開けられた狂邪は、しとど滴り落つ血に下顎を汚す。
 己が作った血溜りに足を滑らせたヘナロは、この隙に飛び込む「蒼炎」を振り払う術は無かった。

「焼き上げてやる」
 須臾に懐を犯したのは、カタケオ。
 漸う崩れゆくサーカスの舞台装置を掻い潜り、多くの骸を踏み越えて疾走した羅刹は、荊棘に悶え苦しむヘナロの顔貌を持ち上げるように掴み、力任せに潰さんとした。
「舌以外の攻撃は殆ど通らねェとは知ってる。だが空気を灼かれるのは如何だ」
『くっ、ぬ……おをを嗚乎……!!』
 水攻めに遭った口は、今度は火攻めだ。
 吸い込む空気を蒼き炎に呑まれたヘナロが、ゼェゼェと苦し気に口を開ければ、舌から生えた荊棘を引っ張ったカタケオは、その口が再び閉じぬよう頬を強く摑み上げ、全力の握力を込めて固定した。
「手前ェがどれだけ強かろうが、兎に角、口開けさせりゃァ勝機はあンだ」
『あがが、んがが……が……ッ!!』
「――他人任せは性に合わねェが、野郎を仕留めるトドメの剣もあることだしな」
 任せた、と肩越しに流眄を注いだ時だった。
 カタケオの目尻の際に神速で翔ける男の影が過ぎる。
『ッ――!!』
 押し寄せる殺氣に瞠目したヘナロが、咄嗟に鞭を振うが、彼は止まらない。
「胸糞悪ィ集会開きやがって。テメェ如きに俺は手懐けられねェよ」
 宵闇を広げる外套を翻し、鞭撃を払って路を切り拓いたクロウは、カタケオが開かせた口に向けて一閃――灼熱の炎を滾らせた斬撃を咥内に沈めた!
「来ると思った」
「応えてこそ俺だ」
 狂邪の血汐が斑と迸発(ほとばし)る距離で、二人の男が短く聲を交す。
 蓋し冱ゆる烱瞳は邪氣に繋いだ儘――クロウはカタケオが燃やす蒼炎をも紡いで大魔劔を煌々と、正義の味方としての光を魅せると、二色の熔熱を以て二の撃を衝き入れた。

 ――ズァァアアア嗚呼嗚呼アアアッッ!!!

 猛獣の血と、サーカス団員の血。
 そして己が血で赫黒い海を広げた床に轉輾(のたう)つ。
 今や肌膚も衣装も深紅に染めたヘナロは、体中で激痛が煩く叫喚ぶばかりであったが、オリヴィアの冷ややかなコントラルトを聽いた時、やけに曲芸師の矜持が煽られた。
「此度の最後の演目は、団長の解体劇だ」
『ッ、ッッ……!!』
「刮目して見るが佳い、種も仕掛けもないぞ」
 奇しくも、最も吸血鬼に好評を得た演目が披露される。
 そして彼女の口上は皮肉にも、嘗て己が演じたものとまるで同じだった。
 オリヴィアはヘナロの手下を鏖殺して芙蓉の顔(かんばせ)を眞ッ赤に染めつつ、朱に濡れた花脣に淡々と言を継いだ。
「――如何した、言いたい事があるなら遠慮せずに言うがいい」
『……ッッ……グッ……ッ!!』
「但しその瞬間、貴様の舌はズタズタに引き裂かれると識れ」
 曲芸師たる己が、演目に据えられるなど顛倒(あべこべ)な話だ。
 ヘナロの舌は既に穴が開き、灼け爛れてロクに喋れぬが、未だ慥かにあるサーカス団の長としてのプライドが、残る力で鞭のグリップを握り込めた。

『――Kneel!(跪坐け!)』

 寸断寸裂(ズタズタ)の舌で何とか一言、命令を発する。
 激痛を靴底に踏み締めて振るった鞭撃は血滴を彈いて撓り、オリヴィアの繊躯を慥かに打ち据えたが、聖女の膝は折れず――痛打を耐え忍んで睨め返した。
『……………ッ!!』
 余程損耗して紋章の力が衰えたか。
 否、断じて否。
 純粋に猟兵の機智と力、そして団結が勝り、痛みに堪えて淘汰したのだ。
 揺ぎ無い事実を受け取ったヘナロは、爪先を蹴るや巨戰槌の如く迫るオリヴィアを邪眼いっぱいに映すと、疾風を纏う黄金の穂先を受け取った。

 ――ッ、ッッ……!! ――…………。

 斯くして、今際の絶叫が天幕の頂を貫き、帳を下ろして術を解く。
 元の甕城に戻った戰場を見渡した猟兵は、休む間も無く内門の破壊に掛かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『闇に誓いし騎士』

POW   :    生ける破城鎚
単純で重い【怪物じみた馬の脚力を載せたランスチャージ】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    屠殺旋風
自身の【兜の奥の邪悪なる瞳】が輝く間、【鈍器として振るわれる巨大な突撃槍】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ   :    闇の恩寵
全身を【漆黒の霞】で覆い、自身が敵から受けた【負傷】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 南門の甕城を攻略した猟兵は、休む間もなく内門の破壊に掛かった。
 突入の際に物見櫓に上がった者の話では、この街は二重の城壁に囲繞(かこ)われており、外円に耕作地を、内円に居住地を形成しているらしく、内城に侵入した猟兵達が最初に見たのは、整然と区画された田園だった。
「畑に人が居ない……壁の内側に避難したのか……」
「或いは“させられた”か」
 城門を破る音や衝撃、劔戟は慥かに届いていたろう。
 異変に気付いた地底の人々は、戰火を逃れて居住地区に逃げたか、或いは彼等が騒擾に紛れて逃げ出さぬよう閉じ込められたか。
 後者の可能性が高いとは、大地に響く蹄の音で知れよう。
 漸う近付く軍勢の跫に耳を欹てた猟兵は、素早く身構え、
「――騎馬隊が向かって来る。俺達を駆逐する心算(つもり)だ」
「こいつ等を倒さない限り、人々の救出は叶うまい」
 一方で、好都合だとも思う。
 殺戮の庭に非戰闘員が居ては防禦に専念せざるを得ないが、護るべき彼等が壁の向こうに居るのなら、目の前に居る敵を殲滅してから助ければ良い。
 思い切り戰える。
 そして全力で戰えば、より近い位置で劔戟を聽く人々が、反逆の兆を――吸血鬼に抗う勇気を灯してくれるかもしれないのだ。
「力を尽して戰ったら、猟兵を信じてくれるだろうか」
「ああ、若しか希望を見出して人類砦に向かってくれるかもしれない」
「土地を捨てる勇気を、吸血鬼支配から遁れる勇気を与えられれば……!」
 彼等を救う為に、死力を尽くそう。
 既に強敵との血闘で激しく消耗しているが、まだ、身体は動く――。
 猟兵は今一度奮い立ち、猛然と迫り来る騎馬隊に切り込んでいくのだった。
七那原・望
騎馬隊ですか。これだけ数がいるなら、音と光だけでも住民達を扇動出来るかもですね。
彼らを勇気づける為に、そして彼らの中での騎士の認識を大した事ないものへと書き換える為に、苦戦するわけにはいきませんね。

背中の翼で【空中戦】。アマービレで呼んだねこさん達は宙を舞うプレストに乗せて、敵の攻撃が届かない高度をキープします。

攻撃回数重視の【全力魔法】【神罰】【限界突破】【Lux desire】、ねこさん達の【多重詠唱】【全力魔法】、セプテットの【制圧射撃】、そしてオラトリオ。その全てを【一斉発射】【範囲攻撃】【乱れ撃ち】して、空中から一方的に騎士達を容赦なく【薙ぎ払い】、完膚なきまでに【蹂躙】しましょう。


シャト・フランチェスカ
片欠けの歪な鋏
刃先に仕込んだ毒
一度食らえばじわじわ効いてくるよ

なぁんて
そんな戦い方してたら
敵の疾さに負けてるじゃない
【私】に貸してよ、その身体!
多少の傷は避けずに
切り刻むことに専念しましょう
【シャト】はこの力に溺れて
いつか完全に私にすべてを明け渡すの!

戻って来られなくなる前に
糸を手繰り寄せるように
意識を浮上させる

僕が賭けたのはこのため
喉が無事なら、それでいいんだ
【この声を地底の人々の耳に届けよう】
──叛逆の音はきこえたかい
猟兵だから奴等とやり合えたんだろうって?
そうだね、そうかもしれない
でも血を流すばかりが戦じゃないさ
きみたちは団結して
支配に屈しない、という選択ができる
何より痛い仕返しだろう?


ルイス・グリッド
アドリブ・共闘歓迎

あらかじめ守っていてくれるとはありがたいな
そう簡単に倒せるとは思うなよ、守るべき人がこの場にいないなら躊躇う事なく全力でお前らを倒す

SPDで判定
騎兵が相手ならそこからまずは落とす
【大声】で【挑発】して【おびき寄せ】る
そのまま【早業】と【見切り】で敵の攻撃を避け、UCを使用して銀腕を【武器改造】で剣や棒状に変化させて【鎧無視攻撃】を使った上で騎馬の足を切りつけたり躓かせて転倒させる
騎士だけなら【見切り】で避けて【戦闘知識】【覚悟】【鎧無視攻撃】【早業】を使い【カウンター】を狙う
必要なら仲間を【かばう】し【遊撃】も行う


水衛・巽
共闘、アドリブ歓迎

巻き込む心配がないのはありがたいですね
遠慮なくやらせていただくとしましょう

騎馬隊と自陣の中間へ結界術による防壁を築き足止め
式神使いにて朱雀を召喚、限界突破で最大火力を底上げ
壁の内側からも見えやすいであろう高い位置を保ち
積極的に前へ出しリミッター解除のうえで応戦させます

炎は最大限まで分裂させ騎馬隊の足元へ着弾させる
数は知りませんが高速詠唱も使い完封を狙いましょう
鎧無視攻撃を乗せれば多少は効くはずですし
突破された場合は霊符・縛を投擲により使用、拘束します

無傷で帰ろうなどとは思っていません
致命傷でなければ覚悟でもって耐え
目的の完遂を優先に行動
でなければ心など動かせない


荒谷・ひかる
……闇の精霊さん達が、怒ってます。
「闇を悪の言い訳に使うな」「俺達に誓うなら人々を守れ」って。
……ええ、そうですね。
「闇」の本当の力と意思、彼らに教えてあげましょう!

【本気の闇の精霊さん】発動
指定するのは半径87m以内の敵全ての無機物装備(槍や鎧、具足、鞍等)
効果範囲に捉え次第、軒並みかかる重力を一万倍にしてやります
並の強度の金属鎧であれば、それだけで中身ごとぺしゃんこです
それだけで足りないのなら、精霊銃で火炎弾を撃ち込んで焼きましょう

どんなに重厚な鎧も、闇の精霊さんが司る高重力の前では枷に過ぎません。
闇の精霊さん達の怒り、存分に味わっていきなさい!


矢来・夕立
相変わらず《闇に紛れる》には好都合で何より。
潜伏後、側面から仕掛けます。
騎馬隊は横からどつかれるのがとても苦手です。
そしてオレは横からどつくのがとても得意です。
色々できますよ。
隊列を乱す。進行方向を変えさせる。
馬を潰して機動力を削ぐ。手っ取り早く騎兵を殺す。など。

いずれにしろ一発入れたらすぐに隠れるつもりですが、
そのまま表に出ていた方がいいこともあります。
一つの集団を殺し切れるとか、気を惹いておいた方がいいとか。
状況に合わせて他の方をバックアップする動きで行きましょう。

家畜をしまっておくのは道理です。
でもオレなら少し持ってきて盾にしましたよ。
よもや一丁前に倫理観などが…なさそうですね。


ハロ・シエラ
相手は騎兵ですか。
この広い場所、数の差……有利とは言い難いですが、戦うしかありませんね。

まずは相手の出方を見る為、剣を構えて待つ……と見せて【フェイント】をかけ、全力の【ダッシュ】で接近して、敵の突撃のテンポを崩し、避けやすくしたいですね。
その上で敵の槍の動きを【見切り】、【スライディング】で回避しながらユーベルコードで【カウンター】を仕掛けます。
狙いは馬の脚。
上手く斬り落とせれば、きっと転ばせる事が出来るでしょう。
レイピアで馬を斬って騎士を落とし、ダガーによる【鎧無視攻撃】で、一体ずつ確実にトドメを刺していく形になりますね。
倒した馬は【敵を盾にする】要領で他の敵の足止めに使いましょう。


麻海・リィフ
アドリブ、即興連携歓迎

闇の霧の騎士団…
貴様等が空を覆うならば!
青天の嵐が貴様等を吹き払うまで!

残像空中浮遊ダッシュジャンプで正面から即座に接敵

剣を回し念動衝撃波串刺しチャージUCで一気に突撃
派生の二回攻撃念動衝撃波UCで範囲ごと薙ぎ払う

敵の攻撃は基本三種の盾で受け
念動衝撃波オーラ防御を乗せて防ぐ
カウンター念動衝撃波シールドバッシュで範囲ごと吹き飛ばす

窮地の仲間は積極的にかばう

霧は何時か晴れる!
夜は何時か明ける!
友よ!闇を怖れるな!
我等夜明けを告げる者!
闇夜に暁を呼ぶ者なり!

存在感を以て勇気を謳い民と味方を鼓舞し敵を誘き寄せる
地形(城壁)を利用し敵を密集させて敵背後に隙を作る


オリヴィア・ローゼンタール
護るべき民を轢殺する者が騎士などと烏滸がましい!

如何な怪物じみた馬であろうと、装甲されていない脛は弱点となる筈
強化された【視力】で突撃を【見切り】、【怪力】を以って聖槍を振るい騎馬の脚を斬り飛ばす
破城槌が如き突進は、失敗すれば絶大な反動を齎す

叩き付けられる突撃槍を【聖槍で受け】流す
絶え間なき乱打に押し込まれ、止め処なく血が失われようと――まだだ!(因果超越・永劫の勇士)
【気合い】と根性で決して膝は折らない
迫る突撃槍を掴み(グラップル)、持ち主ごと別の敵へ投げ付ける(投擲)
聖槍を装甲の隙間に捻じ込み【串刺し】【貫通攻撃】

私たちは希望を齎すためにやって来たのです
不甲斐ない姿は見せられません!


ルカ・ウェンズ
騎兵だけど吸血鬼だから空を飛ぶかも。
なので吸血鬼から善良なタフガイや善良な美少女を優先的に守るために!
このユーベルコードを使い真の姿に変身して敵に【空中戦】を仕掛けるわ。

これで馬の脚力は意味をなくすと思うし吸血鬼が馬から降りて空から攻撃しよとしてきても対応することができるわ。
対オブリビオン用スタングレネードは全部使ったから、まずは仲間の江戸モンゴリアンデスワーム(幼体)に【炎のブレス攻撃】で敵を焼いてもらうことにするわ。

次に真の姿になり【火炎耐性とオーラ防御】で身を守った私がオーラ刀で敵を切り裂いたり【怪力】任せに殴ったり蹴ったりして、それでも生きているなら【生命力吸収】これで止めを刺すわよ。


ニール・ブランシャード
アドリブ連携◎

うわぁ、すごい蹄の音…!体に響くなぁ…!
あの騎兵隊…みんなぼくらのほうに向かってるんだね。
でも、猟兵ってすごい人ばっかりだ。
だからこんな状況だって切り抜けて、皆に勇気を与えられる。
ぼくも頑張らないと!

UC「死を撒く沼地の母」を発動。
体を腕一本分依代にして、『泥と生物の死骸から成る巨大な沼の怪物』…ぼくの母さんの分体を呼び出す。
周りに毒気を撒いちゃうから、毒に耐性のない仲間からは距離をとっておこう。ぼくは平気だけど。
母さんは丈夫だけど無敵じゃない。できるだけ敵から守るようにそばで戦うよ。
うぅっ、体が減っちゃったから兜がぐらぐらする…!

(母体は人語を話さず金切り声のみ発します)



 精悍なる軍馬の巨蹄が大地を蹴り、叩いて、踏み締める。
 大規模な進軍は重厚な音を重ねて振動に、南門を抜けたばかりの猟兵の足許を揺るがすと同時、その鼓膜に言い様の無い劔呑を届けた。
 或いはニール・ブランシャード(うごくよろい・f27668)には、鼓膜に代わって黒鎧が不穏な音を届けたろう。
「うわぁ、すごい蹄の音……! 体に響くなぁ……!」
 蓬々(おどろおどろ)しい音が『無銘の黒騎士の鎧』を伝い、液状の躯を震わせる。
 軍馬の進撃を振動と受け取った彼は、その波長により距離と方向を探ると、兜の眉庇を一方向に向けた。
「これだけの軍勢が……みんなぼくらのほうに向かってるんだね」
 襲来の方向に花顔を揃えるは七那原・望(封印されし果実・f04836)。
 玲瓏を秘める金瞳を布に覆った少女は、封印された視覚の代わり優れた聽覚を以て軍勢の到来を察知する。
「――騎馬隊ですか」
 板金鎧の音を伴う物々しい蹄鐵の音。
 音の大きさや重なりから重装甲騎兵の大軍団と読んだ望は、無垢なる白翼を広げるや、繊手に握る『共達・アマービレ』を一振り、淸澄なる鈴音に数多の魔法猫を喚ぶと、自律飛翔する『機掌・プレスト』に乗せて連れ立った。
「これだけ数がいるなら、音と光だけでも住民達を扇動出来るかもですね」
 佳聲は間もなく空へ――敵の攻撃が届かぬ高度に溶けていく。
 力強い羽撃きに続くは麻海・リィフ(晴嵐騎士・f23910)。
「我も往こう。壁向こうの民に力を與える為に」
 繊細なる人造鳥翼『払暁』を広げ、深緑色の光翼と合わせて四枚の羽翼とした可憐は、残像を連れて宙空へ飛翔する。
 青丹と耀ける佳瞳に敵の軍容を俯瞰したリィフは、凛々しく聲を発し、
「闇の霧の騎士団……貴様等が空を覆うならば! 青天の嵐が闇霧を吹き払うまで!」
 而して須臾、主の闘志に呼応した浮遊盾『雲霞』が自動で射線に展開する。
 衝角機構盾『瑞雲』に加え、後光が防盾『極光』と成った時には更に防禦力を増そう、リィフは常闇を浸蝕する漆黒の霞を玲瓏の光に裂いて空を翔けた。
 少女らが東に向かっているとは、二人に“そう頼んだ”矢来・夕立(影・f14904)こそ目的を知っていよう。
「一騎でも逃せば外部に知らされるので、協力をお願いしました」
 東西に位置する小甕城は、物見を倒しただけで門は閉じている。
 その門を開けられて他の都市へ早馬が走れば、狼煙の速さには劣ろうとも、増援が来るかもしれぬと思えば、両門は破られぬよう護っておきたい――。
 一連の遣り取りを目尻の端に映していたシャト・フランチェスカ(侘桜のハイパーグラフィア・f24181)は、「ならば」と風を集めて、
「僕は西に向かおう。何、下ろしたての靴が気に入っていて、走りたい気分だから」
 飜然(ひらり)、櫻の葩弁の舞う如く躍る。
 高さ20メートルの城壁を軽々と駆け上がったシャトは、敵と交わる事なく縁を伝って西門へと疾走った。
「此処は任せたよ」
「必ずその言葉に応えます」
 彼女の影を追って射掛けられる矢を、『式紙・朽縄』を投擲して絡め落とす夕立。
 はらりと落つ矢を緋の麗瞳に追ったルカ・ウェンズ(風変わりな仕事人・f03582)は、敵の軍容を具に観察して、
「重装甲騎兵の他に従騎兵、騎乗弓兵も居るなんて……吸血鬼なら空も飛ぶかもね」
 一端の「槍組」(構成単位)を形成するなら、諸有る戰術を想定しておくべきと言ちたルカは、【ボーイ・ミーツ・ガール】――吸血鬼から善良なタフガイや善良な美少女を優先的に守らんと誓いを立て、漆黒の外殻に覆われた真の姿へと變貌を遂げる。
 翠緑の四枚翅は音も無く羽搏いて空中に、
「それじゃ、私も西門へ」
 シャトを追う矢を払いながら往こうと、城壁の頂を捺擦(なぞ)るように飛翔して移動を始めた。

 東西の門に向かう猟兵は嚴しい戰いを強いられようが、此処に残る猟兵とて苦しい。
 南門は既に開かれており、門扉の大きさも含めれば、外勢力に異変を報せようと駆ける一騎の軽騎兵も通さぬのは至難と言えた。
「各門を突破されぬよう守りながら、全ての敵を殲滅しなくてはならない、と――」
「加えて相手は突貫力のある騎兵。この広い場所、数の差では有利とは言い難いですが、戰うしかありませんね」
 各所の配員も含めて、細かな配慮が必要かと戒心を強めるオリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)に対し、畢竟、抵抗うしかないと細劔の柄に手を掛けるハロ・シエラ(ソード&ダガー・f13966)。
 先の戰いでの損耗は激しいが、オリヴィアは血に滑る『破邪の聖槍』を握り込めて穂先を煌々と、ハロは抜劔した『リトルフォックス』に浄邪の炎を燃やし、怒涛と迫り来る軍勢を正面から見据える。
 ルイス・グリッド(生者の盾・f26203)は振動に震える大地を強く踏み締め、
「唯だ、連中が住民を予め守っていてくれるとはありがたいな」
「ええ、闘争の余波に巻き込む心配がないのはありがたいですね」
 實に有難い、と優婉の聲を重ねるは水衛・巽(鬼祓・f01428)。
 ルイスの義手が銀灰色を揺らして形状を變えゆく傍ら、巽は我が身に宿る神氣を迸発(ほとばし)らせるや濡烏の艶髪を揺らし、
「守るべき人がこの場に居ないなら、躊躇う事なく全力が出せる」
「遠慮なくやらせていただくとしましょう」
 蹂躙する。殲滅する。
 魔を相手に鬼に為る事も躊躇わぬと、二人、闘志を研ぎ澄ませていく。
 その傍ら、殺伐と戰ぐ風に邪悪なる氣を察した荒谷・ひかる(精霊寵姫・f07833)は、己と強い絆に結ばれた親友(とも)の瞋恚に触れ、
「……闇の精霊さん達が、怒ってます」
 ――“闇を悪の言い訳に使うな。”
 ――“俺達に誓うなら人々を守れ。”
 闇に誓い、我が身を漆黒の鎧に包んだ騎士達に親友が断然(キッパリ)訣別を置けば、ひかるもこっくりと首肯いて精霊杖を握る。
「……ええ、そうですね。『闇』の本当の力と意思、彼らに教えてあげましょう!」
 云って、踏み出る。
 痩せた大地に一歩進み出た少女は、眼路いっぱいに迫る漆黒の大軍勢に杖を掲げた。

  †

「ここで苦戦するわけにはいきません」
 望が空中戰を選択した理由は色々ある。
 其は突撃槍(ランス)の届かぬ高度を保つだけで無く、騎兵隊が想定せぬ角度から圧倒的物量で攻撃すると同時、20メートルの城壁を超えた「向こう側の人々」に、我が存在を知らしめる為であった。
「ねこさん達は力いっぱい魔法を浴びせて。セプテットが合わせます」
 望の友たる魔法猫が、首肯の代わり煌々と耀ける魔彈を放つ。
 而して機械掌にお座りした猫達の隣にズラリと銃身を並べた『銃奏・セプテット』が、照準を合せて銃爪を自動で引く。
「先ずは前衛を攻撃して、馬脚を挫きましょう」
 斉射――ッ!!
 突進力ある騎兵隊こそ、間隙無く交互に撃たれる魔彈と鐵彈を躱す術は無かろう。
 怪物じみた馬の脚力は凄まじい衝撃に怯み、馬速を乱してしまう。
 上空でその様子を具に視た望は、更に動揺を煽り立て、
「壁の向こうに居る人々を勇気づける為に、そして、彼等に根差す騎士の認識を大した事ないものへと書き換える為に――!」
 馬の足許に『影園・オラトリオ』を滑らせる。
 加えて上空からは【Lux desire】――『真核・ユニゾン』に収斂された夥多なる願望をエネルギーと解き放ち、光と影の挟撃を以て天地を結んだ。
『ブルルルルルルッッ!!』
『嗚乎ォォオオオ雄雄雄雄ッッ!!』
 瞳には視えずとも、望には馬の怯懦と騎士の喫驚が判然ったろう。
 一際大きな絶叫が灰色の空を裂けば、少女は並外れた聴覚を軍馬の向こうへ――続々と駆け付ける第二波を直ぐに薙ぎ払った。

 望と共に東門に至ったリィフは、城門を開けて外勢力に早馬を走らせようとする軍勢の妨害と駆逐に掛かった。
 過去を狩る猟兵と名乗らんと決めた少女は、己を選んだ世界に対して隠れはしない。
 リィフは繊麗の躯が戰塵に紛れぬよう馬上の騎士の目線に高度を保ちながら、威風堂々と正面に相対し、機械魔剣『ストヲムルゥラァ』を構えて言った。
「生ける破壊槌よ、来るが佳い。青天の嵐が吹き飛ばして呉れる!」
 花車ながら纏う闘志は雄峰の如く、圧倒的存在感が敵の敵意を結ぶ。
 重装甲騎兵が拍車を掛け、怪物じみた馬の脚力を載せたランスチャージが肉薄すれば、リィフは【真撃・ストヲムルゥラァ】――回転劔を旋回させて嵐の壁を形成し、敵の視界を塞ぐと同時、其の嵐壁を突き抜ける乾坤一擲の突きを放ッた!
『ブルルルルルルッッ!!』
『嗚乎ォォオオオ雄雄ヲヲッッ!!』
 角逐――ッ!!
 騎兵隊の最大の脅威である突貫戰法に堂々と正面衝突するリィフ。
 然し小柄な少女は砕かれず、迸発(ほとばし)る闘氣を打擲(ぶつ)けて突破! 強靭なる兵馬を蹴散らした。
 その凄まじい衝撃は城壁を揺らし、凛乎たる佳聲は内に潜む者達を鼓舞したろう。

「霧は何時か晴れる! 夜は何時か明ける!
 友よ! 闇を怖れるな!
 我等夜明けを告げる者! 闇夜に暁を呼ぶ者なり!」

 当初の言葉通り、暗澹の闇霧を青天の嵐に吹き払ったリィフは聲高らかに勇気を謳い、地底の民の魂を強く、強く震わせた。

  †

 斯くして東門で望とリィフが敵軍を掣肘する中、西門へと向かったルカとシャトもまた少数ながら多数の敵を相手に颯爽と立ち回っていた。
「対オブリビオン用スタングレネードは先の戰いで全部使ってしまったから、今回は先ず“仲間”に焼いて貰って――」
 城壁の頂から騎馬隊の吶喊を俯瞰したルカが飛翔しながら囁(つつや)く。
 彼女が言い終わらぬ裡に顕現(あらわれ)たるは、『江戸モンゴリアンデスワーム』の幼体――成体なら江戸城をも一呑みにするという江戸原産の怪生物を、殺伐の大地に降り立たせると、その口吻から灼熱のブレスを噴かせた。
「――全部灼いて」
 刻下、赫々と燃え滾る炎が叫び、怒涛と迫り来る軍勢に焦熱を浴びせる。
 明々と燿く火の渦は、軍馬の獣としての恐怖を煽ったろう。
『ブルルルルッッッ!!』
『ォォオオヲヲッッ!!』
 バーディング(馬鎧)越しにも伝わる光熱に馬脚が乱れれば、鞍に跨る黒騎士も手綱を手放し、否応にも転落してしまう。
「何処にも行かせない」
 敵が体勢を立て直す前に切り崩す。
 上空から混乱の状況を冷靜に視ていたルカは、颯爽と降下して灼熱の海を掻い潜ると、『変形式オーラ刀』を近接戰に優れた片手劔と變じて切り払い、或は硬質の躯を活かした拳打蹴撃を浴びせて軍勢を撹乱した。
 真の姿へと昇華したルカの緋瞳は、愈々烱々と敵の邪氣を射て、
「それでも生きているなら――その生命力は貰っておくわ」
『ッッ……ッ……ッ!!』
 異形と化した左手で騎士の首を摑み、鎧の上から締め上げる。
 純然にして無垢なる怪力は漆黒の鎧を拉げ、首を折り、そこから一気に噴き上がる血汐を浴びて我が物と鹵掠した。

 一方のシャトは、続々と増援に来る小隊に対し、擦れ違い様に冱刃を呉れていた。
「皮膚じゃあるまいし、継ぎ目はあるだろう」
 繊手に握るは『サタンの鋏』――片欠けの歪な鋏の刃先に仕込んだ毒は、重装備の騎士の鎧の隙間に滑り込み、ほたり流れ落つ血雫に代わって体内を侵略していく。
「一度食らえばじわじわ効いてくるよ」
『ズッ、ォォ……ォオオオ……ッッ』
 創痍に染む佳聲や美し妖し。
 乙女色の麗瞳が騎兵の鈍化を目尻に送る一方、鼓膜には叫喚の間に聲が聴こえて、

 ――そんな戦い方してたら、敵の疾さに負けてるじゃない。
 ――【私】に貸してよ、その身体!

 然う、慥かに分は悪い。
 密集隊形を組んだ重装甲騎兵が突撃の回数を増やしたものだから、彼女は致命傷だけは避けて切り刻むことに専念し、袖を裂かれても、其処から鮮血が斑と躍っても、神速の足を止めず刃鋩を疾走らせた。
 而して戰場が朱に染まるほど聲は耳元に迫って、

 ――【シャト】はこの力に溺れて、いつか完全に私にすべてを明け渡すの!

「――――明け渡すの」
 果して聽こえていたのか、己が語ろうていたのか理解らない。
 唯だ戻って来られなくなる前に、糸を手繰り寄せるように意識を浮上させたシャトは、長い睫を瞬いて後に視た光景に――毒に悶えた軍馬が隊列を乱し、同じく神経を屠られた騎士達が次々と倒れる――惨憺の光景に微咲(えみ)を湛えた。
 蹄鐵と劔戟が収まれば、勝者の聲は届こう。
 この為に賭けていたのだと、櫻脣を滑るは【反魂綴】(ブランカ・ローザ)――。
 咽喉が無事ならそれで佳いと、真っ赤に染まった頬を拭いつつ壁に向かったシャトは、城壁の内側で耳を欹てる者に云った。
「──叛逆の音はきこえたかい」
 彼等の反応は視えずとも理解る。
 久しく絶望の淵にあった地底の人々は、シャトが闇黒の騎士を倒せたのは、彼女が世界に選ばれた“猟兵”だからなのだと、諦観の溜息を吐いている。
「……そうだね、そうかもしれない」
 彼等に根付いた恐怖と不安を受け止めたシャトは、「でも」と細頤を持ち上げて、
「血を流すばかりが戰じゃないさ。きみたちは団結して、支配に屈しない、という選択ができる。其は何より痛い仕返しだろう?」
 一語一音、丁寧に届ける。
 然れば暫し靜粛の後に、ゴトリと閂の動く音がして――内側の門が開いた。

  †

 東西の門で激しい攻防が繰り広げられる中、南門の戰いも惨憺を極めた。
 特に南門は既に猟兵に突破された場所につき、漆黒の騎兵隊は彼等を中央の大門に向かわせぬよう、数多の兵を送り込んだ。
 黒鎧に身を包む軍馬の進撃は、幽闇の海の大海嘯にも見えようか。
 怒涛と押し寄せる鏖殺の氣の水汀に立ったハロは、先ずは相手の出方を見るべく細劔を構えて待つか――否、少女は爪先を彈くや全力疾走し、轟然と迫る突撃槍を紅瞳いっぱいに映した。
「――敵の機動の要は馬の脚。馬鎧より低く管(脛)を仕留めましょう」
 巨大な突撃槍の軌道を見切ったハロは、鋭鋩を頬の皮一枚で躱し、身を低くスライディングしながら【剣刃一閃】――炎を纏うレイピアで馬の脚を刺突する。
 主の気力に應じて烈々と灼え上がった炎が、痛撃の染む脚を焼いて黒馬を転ばせると、鞍に跨っていた騎士もまた地面に強く叩き付けられた。
『ブルルルルルルッ!!』
『ッッ、ッ……ァァアア嗚呼!!』
 先陣の行軍が乱れれば、忽ち後続も乱れよう。
 進撃のテンポを崩された小隊は、あらぬ方向に轡を向けて肝心の突進力を失った。
「あとは一体ずつ確実に、トドメを刺していきましょう」
 数秒前まで敵の物だった軍馬は、倒せば敵を足留める障害物となる。
 俄に編隊を乱した隙に、ハロは手に握る細劔を短劔『サーペントベイン』に持ち替え、鎧の装甲をモノともせぬパワーとスピードで騎士を仕留めに掛かった。
 射干玉の黒髪が邪悪なる血に濡れるが、構わない。
 ハロは刃撃を振るう毎に赫緋の麗瞳を煌々と、眞ッ赤に染まる景色の中で次々と獲物を屠りながら、折に南門を確認して云った。
「私達が開けた穴から鼠を出してはいけません」
 南門は抜けさせない――。
 強い意志の籠められた鋭刃が更に一騎を沈め、骸の海へと嚮導(みちび)いた。

 ハロが折に視線を注ぐ南門には、やはり大軍勢が押し寄せていたが、其処を守る猟兵も優れた機智で突貫を凌いでいた。
「如何な怪物じみた馬であろうと、装甲されていない脛は脆かろう」
 堂々、騎兵隊に正対したオリヴィアが黄金の烱眼を絞る。
 紅のアンダーリムが魅力的な眼鏡の奥、鋭い洞察で重装騎兵の弱点を見極めた聖女は、猛然と疾駆する軍勢の馬速と進路を測ると、強靭な膂力を全開に聖槍を振り被った。
「破城槌が如き突進は、失敗すれば絶大な反動を齎す――!」
『雄雄ォォオ雄雄雄雄ッ!!』
 一閃――ッ!!
 大地を滑るように疾走した槍撃はペイトレール(胸鎧)より低く馬の管(脛)を斬り、軍馬が絶叫して倒れ込めば、馬上の騎士も突き飛ばされるようにして顛倒する。
 第一小隊は壊滅。
 而して第二小隊は如何か。
 間隙無く進撃する騎兵は巨大な突撃槍を水平に、不断の突撃でオリヴィアの雪膚と聖衣を引き裂くが、赤々と鮮血を躍らせた聖女は決して膝を折らぬ。
「――――まだだ!!」
 絶え間なき乱打に押し込まれようと。
 止め処なく血が失われようと。
 全身に染む激痛を靴底に踏み締めたオリヴィアは、【因果超越・永劫の勇士】(アセンション・エインフェリア)――限界を超えた気合いと根性で立ち続ける。
 尚も迫り来る軍勢を吃ッ睨め据えた凄艶は、漆黒の蹄鐵が踏み躙ってきた命に代わって瞋恚を示し、
「護るべき民を轢殺する者が騎士などと烏滸がましい!」
『――ォォオオヲヲ嗚乎ッッ!!』
 迫る突撃槍を掴み! 持ち主ごと投擲(なげ)る!
 然れば騎士は放物線上に居た別なる個体ごと地面に倒れ、喫驚に兜を持ち上げた瞬間に甲冑の隙間へと槍鋩を沈められた。
『ッ、ッ……ッッ……!!』
 兜の奥の邪悪なる瞳が光を失い、どぶりと血を繁噴く。
 穢れた血を浴びた聖女は、然し拭いもせず次なる狂邪を槍に貫いて、
「私たちは希望を齎すためにやって来たのです。不甲斐ない姿は見せられません!」
 人々の心を、足を動かすには、己こそ動かねばならぬ。
 故に決して倒れぬと奮起したオリヴィアは、血腥い戰場で只管に槍を振るった。

「――噫、猟兵ってすごい人ばっかりだ」
 如何なる苦境も潜り抜け、道を切り開く。
 揺ぎ無い覚悟が皆に勇気を與える。
 其は力無き人々と、共に戰う仲間をも奮い立たせる。
「……ぼくも頑張らないと!」
 南門の眞下で「堰」の役割を担っていたニールは、戰塵と血煙に塗れながら雄渾と戰う仲間の姿に勇気を貰っていた。
「馬一匹、騎士一人、通さないよ」
 狼煙が上がるのは食い止めたが、早馬を走らされては元も子もない。
 猟兵が開扉した南門から何一つ漏れ出てはならぬと、役儀の大事を知るほど竦みそうになるが、覚悟は「示す」ものと眼前の仲間に教わったニールは躊躇わなかった。
「――力を貸して、母さん!」
 体積にして腕一本分。
 我が片腕を依代に召喚するは、【死を撒く沼地の母】(ポイゾナスマザー)――ニールが決意を示すや、己の母体たる『泥と生物の死骸から成る巨大な沼の怪物』が南門の直下に顕現れた。
「母さんの身体の大きさと毒気で蓋をするんだ」
 むくむくと膨れ上がった女型の怪物が金切声を発する。

 ――ァァアアアアァァァアアッッッ!!!

『ブルルルルルルルッッッ!!』
『……ォォオ嗚乎嗚乎ッッ!!』
 質量に比例した叫喚が馬の聴覚を錯乱させ、体積に比例して撒散される猛毒の瘴気が、鎧の隙間を潜って騎士を死に招けば、南門を抜ける者は居るまい。
 而してニール自身は人語を操らぬ母体の傍らに、『ドーンブリンガー』を携えて迎撃に当たれば討ち漏らす不安は無かろう。
 彼は失った片腕に“我が身”を詰めて柄を握り込め、
「母さんは丈夫だけど無敵じゃない。ぼくが傍で守らなきゃ、なんだけど……」
 愛用の長柄斧がどこか扱い難い。
 居心地の佳い鎧に出来た隙間に違和感を覚える。
「うぅっ、体が減っちゃったから兜がぐらぐらする……!」
 片腕の質量は全体の約8%。これは頭部とほぼ同じ。
 空になった『無銘の冑』が、ニールが蹌踉(よろ)めいた時にカランと鳴った。

  †

「家畜をしまっておくのは道理です。鹵掠(うば)われては国が衰えるので」
 吸血鬼にとって人類は「家畜」であり「資源」であり「国力」である。
 猟兵が人々の解放を目的とするなら尚の事、彼等を内城に留めたろうと敵を推し量った夕立は、多分に敵に回してはならぬ相手だったに違いない。
「唯だ、オレなら少し持ってきて盾にしましたが」
 人間の盾を展開したなら、彼等にも幾許か勝機があったろうと、漆黒の騎兵隊を目尻の端に映した彼は、靉靆と漂流う魔法のガスを避けて闇へ――音を殺し、影を滑らせる。
 奇術を弄した訳で無し、夕立が黒兜の奥に光る邪瞳を掻い潜れたのは、其の神速の機動に加えてルイスが敵意を引き付けたからだろう。
「――そう簡単に倒せると思うなよ」
 南門の正面に堂々と立ち塞がったルイスは、怒涛と進撃する重装騎兵を烱眼に射ると、大声で挑発して誘き寄せた。
「此処の“番犬”は倒した! 居住区に押し込めた人々を解放しろ!」
 開扉した南門を親指に示し、甕城を攻略したと知らしめる。
 フードから精悍なる顔貌を暴いたルイスを捉えた重装騎兵は、巨大な突撃槍を水平に、進路をルイスへと結んだ。
 間もなく押し寄せるは【屠殺旋風】――鋭利い槍鋩が全てを貫き、力強い黒馬の蹄鐵が肉も骨も砕かんと迫った、その時だった。
「騎馬隊は横からどつかれるのがとても苦手です。そしてオレは横からどつくのがとても得意です」
 側面――ッッ!!
 常闇に潜伏していた夕立が、【神業・否無】(カミワザ・イナナキ)――チャンフロン(馬兜)で視界を絞られた馬の腹を強襲し、隊列を崩したのである。
『ブルルルルルッッッ!!』
『ォォオ雄雄雄雄ッ!!』
 折り紙風船の式紙『封泉』が爆発し、その衝撃がプレート製のバーディング(馬鎧)を圧し潰し、疾風と駆ける脚を折る。
 馬を潰された騎士が体勢を崩した瞬間には、爆轟に紛れて夕立本人が侵襲し、板金鎧の隙間に短刃『災厄』を沈めて骸と變えた。
「扨て何騎が真っ当に疾走れるか。残りを頼みます」
「任せろ、全騎仕留める」
 斯くして機動力を削がれた所を迎え撃つはルイス。
 烱々と冱ゆる銀の麗瞳は荒ぶる軍馬の進路を見極めると、振り上がる蹄を避け、突進を躱し、身を翻しては義手を長劔と變えて脚を斬りつけた。
「騎兵が相手なら、先ずは足を殺す」
『ブルルルルルルッ!!』
『ズァァアアア嗚呼!!』
 欠損した腕に代わる『銀腕』の表情は多彩で、液体金属は友に託されたメガリスの力で威力を増し、射程を拡張し、広範囲の軍馬を次々に跪かせると同時、騎乗する騎士を顛倒させていく。
「随分と鎧を着込んでいる様だが、其も無意味だ」
 ルイスの体内に埋め込まれた動力装置『ヴォルテックエンジン』は、彼の「魂の衝動」を莫大な電流に變換し、驚異的なパワーとスピードを銀腕に乗算させる。
 馬から振り落された騎士は、突撃槍を構え直すより速疾くルイスの銀の劔を沈められ、鎧の隙間から夥多(おびただ)しい血潮を噴いて斃れた。
 津々(しとど)返り血を浴びたルイスは、眼帯を朱殷に、肌膚を赫黒く濡らしながら、眞ッ赤に染まった視界で更なる狂気を視たろう。
「……火矢……?」
 騎乗を解かれた弓兵が、炎を滾らせる矢を上に――20メートルの高さを超えて居住区に火を射掛けんとしたのである。
「ッ、どうせ攻められるならと火を掛けたか」
「よもや一丁前に倫理観があるのかと思えば……劣勢に追い詰められた様ですね」
 細頤を持ち上げるルイスの隣、同じく血雨を被った夕立が視線を揃える。
 小隊を殲滅した二人が、急ぎ壁へと爪先を蹴ろうとした、その時――火矢を食い殺さんばかり大きな炎塊が羽搏いた。

「高みに炎を放つのは、私の役目です」
 為手は巽。
 雪白の繊指は素早く印を結ぶと、【朱雀凶焔】――陰陽の術に合計79躰の朱雀を喚ぶ。
 赫く耀ける火の鳥は、灰色の空へ飛び立って高く、高く、城壁の内側からも見えるよう高高度で炎翼を羽搏かせた。
「赫灼の鳥が火矢を喰らい、火を噴く様を見て頂きましょう」
 攻めに来たのではない、助けに来たのだと壁の向こうに報せたい。
 そして猟兵に絶望を打ち砕くだけの力があると示すように、朱雀は烈々たる焔を騎馬隊の足元へ放つと、軍馬は足を灼き、黒騎士らは鎧をも灼熱に喰い破られ、惨憺たる悲鳴と叫喚を重ねた。
『ブルルルルルルッッッ!!』
『嗚乎嗚乎ォォオヲヲヲッ!!』
 無数の炎彈に小隊が壊滅すれば、更なる一個隊が蹄を蹴って向かい来るが、彼等は巽に槍鋩を届けるより先、両者の中間に構築された結界に進撃を阻害され、足止めを喰らった矢先に炎の雨へ――これも須臾に駆逐される。
『――雄雄雄雄ォォオオッ!!』
 漆黒の鎧を業火に穿たれた騎乗弓兵は、斃れ様に怨讐の矢を巽へと射掛けるが、白皙の麗人は右頬に創痍を受け取りつつ、流血を拭う事なく狂邪を見据えた。
「無傷で帰ろうなどとは思っていません。この身は常に目的の完遂の為に」
 でなければ人の心は動かせぬ。
 この地に深く根付いた絶望を打ち砕くに、相応の代償を払う覚悟は疾うに出来ていると透徹の藍瞳を研ぎ澄ませた巽は、『霊符・縛』を投擲(なげ)るや弓手を拘束した。

 騎兵隊の最大の武器である機動力を削ぐ――。
 歴戰を潜った精鋭の立ち回りは極めて秀でていたが、齢14の少女たるひかるも、人々を救う為に優れた機智を働かせる立派な猟兵だった。
「闇と悪は違う、と……彷徨える騎士に教えてあげてくれますか」
 寡黙な闇の精霊の怒りを肌膚に感じつつ、櫻脣に囁くひかる。
 心から通じ合った彼女なら、親友(とも)が本気を見せようとしているのを言を交さずとも理解ったろう。
「お願い、闇の精霊さん……本当の闇を、その力を見せてあげて」
 発動、【本気の闇の精霊さん】(ダーク・エレメンタル・オーバードライブ)――!
 刻下、ひかるを中心に半径87mの超重力領域を生成した闇の精霊は、突撃槍や金属鎧、具足、鞍等の装備品を対象と捉えると、物質にかかる重力を軒並み一万倍にした。
 不可視の脅威は忽ち現象として顕現(あらわ)れよう。
「どんなに重厚な鎧も、闇の精霊さんが司る高重力の前では枷に過ぎません」
『ッッ……ッ……グォォオオオッッ!!』
「並の強度の金属鎧であれば、中身ごとぺしゃんこです」
『――ォォオオオ嗚乎ヲヲヲ!!!』
 我が身を護る重装備は鐵の桎梏に、軈て圧搾機に。
 漆黒の鎧が歪に拉げ、プレートの継目から赫黒い血が繁噴く中、尚も抗う者には精霊銃『Nine Number』の銃口を向けたひかるが、火炎彈を撃ち込んで灼き尽くす。
「立たせません。間違った闇で人々を苦しめた貴人方を、赦す事は出来ません」
 闇の精霊に代わって嚴然たる言を突き付けるひかる。
 玲瓏と燿く双瞳は聢と惨憺を映し、揺ぎ無き覚悟を以て血飛沫を受け取る。
 丹花の脣は力強く意志を発し、
「闇の精霊さん達の怒り、存分に味わっていきなさい!」
『ォォオオ雄雄ァァアア嗚呼ッッ!!』
 あらぬ闇の恩寵に与る者達を死に組み伏せた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
【遭逢】

俺が切り拓く路を魅せれば
もしくは
絶望すらも容易く熔かす熱量と強さで…圧倒する

彼が未成年でないと踏み
息整え煙草に金蓮火で火を灯す
紫煙燻らせ
彼へ煙吹き掛け

抜かせ
先程の勝負は引き分けだったからなァ
次で片つけるぜ

携帯灰皿に入れ一歩前へ
振り返り嗤う

…面白ェヤツ
売られた喧嘩は買う主義だ
お前の名はココに刻んだぜ、カタケオ(胸叩き
俺は、

再び火を灯し蒼炎の海の中でUC使用
敵を一掃し怯ませ
道標代わりに金蝶を真っ直ぐ飛ばす
UCをくれた少年の様に人々の心に働きかけ
固い決意乗せて玄夜叉・伍輝で馬を薙ぐ
敵の一撃は剣で武器受け・かばう
未だ慣れぬ紅焔を剣に宿し敵の命を出来る限り散らす

─杜鬼クロウ
己が正義を貫く男の名だ


神々廻・カタケオ
【遭逢】
ッハ!門番野郎を潰して門を潜り抜けりゃ次は大層な騎馬隊のお出迎えってか
いいぜ、休む暇もねェ限界も近ェギリギリのヤリ合い―滾ってくる

よォ、へばってねェか猟兵
さっきはトドメ譲っちまったが…まだまだ”獲物”には困らねェらしい
今度は数で競うとしようや

…ま、連中よりお前とヤリ合う方が命燃やせそうなんだが…
…おい、お前!いつか俺と直接ヤリ合え!そン時まで忘れねェように炎と共に記憶しろォ!俺ン名は神々廻カタケオだ!

UCを発動。
加速した動きで騎兵を翻弄
剣戟を以って騎馬の足を崩し
跨る騎士を鎧ごと叩き潰す
周囲には派手に蒼炎をばら撒き
蒼き炎の海で
蒼き命の火を爛々と燃やす
己の生き様を見せ付ける為に



 太陽の光は遙か遠く、絶望の闇に沈む地底世界。
 吸血鬼勢力が跳梁跋扈し、希望の萌芽を悉く踏み躙る暗澹の世界は、神々廻・カタケオ(羅刹のブレイズキャリバー・f29269)にとって最高の死地だった。
「ッハ! 門番野郎を潰して門を潜り抜けりゃ、次は大層な騎馬隊のお出迎えってか」
 随分と饗應(もてな)して呉れる、と皮肉を溢す。
 血闘を終えて尚も狂熱の収まらぬ彼は、血に穢れた口の端をクッと持ち上げ、
「いいぜ、休む暇もねェ限界も近ェギリギリのヤリ合い――滾ってくる」
 上等だ、と漆黒の軍影を睨めて嗤笑う。
 宛ら幽海の大海嘯の如く迫る重装甲騎兵の大軍団を視たカタケオは、血に滑る鉄塊剣を持ち直しながら言を継いで、
「――よォ、へばってねェか猟兵」
 スッと通った鼻梁は敵軍に向けた儘、犀利な金瞳だけを注ぐ。
 未だ手に先程の感触を残した羅刹は、煽る様に囁いて、
「さっきはトドメ譲っちまったが……まだまだ“獲物”には困らねェらしい。今度は数で競うとしようや」
 あの愉悦をもう一度味わおうじゃないかと勝負を嗾ければ、押し寄せる軍勢の更に奥、城壁の向こうを見詰めた儘の杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)が靜かに口を開いた。
「――俺が切り拓く路を魅せれば」
 若しくは、絶望すらも容易く熔かす熱量と強さで……圧倒する。
 此度は人の心を動かす戰いとなろうと呼吸を整えた麗人は、『金蓮火』を繊指に彈いて蝶を象る火の粉を躍らせると、仄かな花馨を傍らに煙草を寄せた。
 幾許にも沈着なクロウがカタケオの血気に触れているとは、燻る紫煙で理解ろう。
 彼は二十歳は過ぎたと思われる青年に煙を吹き掛け、
「――抜かせ」
「ァア? 乗らねェのかよ」
「先程の勝負は引き分けだったからなァ。次で片つけるぜ」
 但し一服させろとは、随分と余裕がある。
 大地を揺るがして迫る騎兵隊にも臆せず、昂らず――傍らの男に底知れぬ色気を感じたカタケオは、好戰的な微咲(えみ)を見せる。
「……ま、連中よりお前とヤリ合う方が命燃やせそうなんだが……おい、お前! いつか俺と直接ヤリ合え!」
「――直接、ねェ」
「そン時まで忘れねェように炎と共に記憶しろォ! 俺ン名は神々廻カタケオだ!」
 気付けば、敵影に向けていた鼻梁はこの男に。
 カタケオは今にも鋭刃を交えん勢いで、名を刻み付ける様に言い放っていた。
「……面白ェヤツ」
 威勢の佳い聲に鼓膜を大いに震わされたクロウはと言うと、携帯灰皿に吸い殻を入れて一歩前へ――異様の景を眺めた暫し後に振り返った。
「売られた喧嘩は買う主義だ。お前の名はココに刻んだぜ、カタケオ」
 トン、と胸を叩く。
 而して己が名は――身の丈に及ぶ漆黒の大魔劔に代わらせる事にした。

  †

 燻るだけの命など不要。
「全てを出し切り、我が身を燃やし尽くせ」
 己が生を証すは【我が身燃やし尽くせ果てるまで】(カプステ・ティ・ゾイ)――。
 身に受ける痛みも苦しみも全て灼熱に焦がしてやろうと、闇霧の重装甲騎兵を見据えたカタケオは、煌々と耀ける蒼い炎を連れて疾駆する。
 怪物じみた馬の脚力にも勝る速度で敵の前衛に飛び込んだ青年は、鐵塊の如き巨大劔を振り被って一閃――ッ! 凄まじい劔圧で軍馬の脚を潰した。
『ブルルルルルッッッ!!』
 馬脚が乱れれば、鞍に跨る騎士も体勢を崩そう。
 闇色の騎士が手綱を握り直さんとした瞬間には、カタケオが水平に振り切った巨大劔を翻して更に一閃、重厚な金属鎧ごと力づくで叩き潰す。
『ォォオ雄雄雄雄ッ!!』
 斬撃に連れる蒼き炎、その耀きこそ彼の鮮烈なる生の証明。
 死地にて燃え尽きろと滾る命の火は烱々爛々と、カタケオが武骨な劔を閃く度に轟ッと迸発(ほとばし)り、戰場を蒼き炎の海に呑み込んだ。
「灰も煤も残らせやしねェよ」
 己が渇きを満たす様に。
 己の生き様を見せ付ける様に。
 その刹那的な煌きは、軍の庭を共にする男の双瞳にも美しく輝かしく映ったろう。
「…………これが“カタケオ”」
 蒼炎の海で射干玉の黒髪を揺らしたクロウは、今の征野に相応しい火をと、【金蝶華】(パピリオ・フラーマ)――『金蓮火』が焚く炎に蝶の群れを顕現した。
「宵花に遊びし炎の精よ、俺にこの力を呉れた少年の様に――魔を祓え」
 蒼き炎の海に羽搏く炎の蝶は、美しく残酷だ。
『ブルルルルルルッッッ!!』
『嗚乎嗚乎ォォオヲヲヲッ!!』
 靜かな羽搏きは絶叫を露わに、半径86m圏内に蠢く邪悪と狂気を悉く焦熱に灼くと、軍馬も騎士も闇霧と消し去る。
 敵を一掃した蝶は黄金と燿いながら灰色の空へ、眞直ぐに飛んで道を標した。
 而して嚮導(みちび)かれた男は、殺伐の大地を駆って前に、前に――第二波と押し寄せる軍馬に『玄夜叉・伍輝』を振り被り、固い決意を乗せて薙ぎ払ッた!
『ブルルルルルルルルッッ!!』
『ズァァア嗚呼アアアッッ!!』
 未だ慣れぬ紅焔を魔劔に宿し、モノにして遣るとばかり解き放つ。
 蒼炎の叢に赫灼と然ゆる炎を携えた男は、足元に骸を敷いて口を開き、
「俺は、─―杜鬼クロウ。己が正義を貫く男の名だ」
 憶えろ、カタケオ――と。
 蒼き炎の紡ぎ手たる羅刹に烱眼を結んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
嵯泉/f05845と

わ、すげー数
確かにこりゃ、ただの人間なら絶望したくもなるかもな
でもま、そーだな
私たちに数で敵うわけないってこと、教えてやろう

任されたからには、嵯泉には傷一つつけないよ
――天罰招来、【冀求】
五匹ほどを私の護衛に回し、残りは全て前に出す
嵯泉なら刈り取るには充分だろ
あいつを守るのが最優先だ
呪詛と氷の属性攻撃を織り交ぜ強化を図り、嵯泉の攻撃に巻き込まれないよう竜らを指揮する
全部食っちまって良いぞ――人間以外はな!

牢からは自力じゃ出られない
私だってそうだったしな
だけど一度外に出ちまえば、もう二度と、あそこに戻りたいとは思わなくなる
……だから今度は、私が手を差し伸べる番なんだ


鷲生・嵯泉
ニルズヘッグ(f01811)同道
騎馬隊か……数だけは多い様だな
まあ、どれ程の数が居ようと全て斃す迄
背は任せる――征くぞ

視線に向き、得物や馬の僅かな動きから攻撃起点を見切り
後ろへは通さぬ様、武器受けにて攻撃を弾き落とす
動きに支障が出なければ多少の傷なぞ構いはせん
ニルズヘッグの指揮があるなら心配は要らんな
――蹂刀鏖末、悉く滅せ
目晦ましを交え、竜達の合間を縫い
賦活も間に合わないほど徹底的に斬撃を重ねて粉砕して呉れよう

此処から発つ為に必要なのは歩む意志
其れを縛する恐怖と云う名の鎖、今此処で絶ってくれる
出る事が独りでは叶わぬとしても
助ける手は――伸ばされる手は尽きはしない
其の手に応えるものが、きっと在る



 大地を揺さぶる轟音が連れるは、宛ら幽海の大海嘯――。
 黯い霞を纏う軍勢が物々しく蹄鐵を響かせる大鳴動は劔呑と、猟兵の鼓膜を振るわせ、足元を揺るがした。
「わ、すげー数」
「騎馬隊か……数だけは多い様だな」
 金の麗眸に映る軍影に喫驚を零すニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)の隣、鷲生・嵯泉(烈志・f05845)は緋の烱眼を絞って軍容を視る。
 重装甲騎兵に従騎兵、騎乗弓兵を揃え、一端に「槍組」の体裁を整える小隊が幾重にも層を成す威容は、永く地底の人々を恐怖に組み敷いてきたろう。
「確かにこりゃ、ただの人間なら絶望したくもなるかもな」
 ニルズヘッグが戰塵の向こうに見える城壁に視線を移せば、殺伐たる風に外套を翻した嵯泉は短く言を添えて、
「まあ、どれ程の数が居ようと全て斃す迄」
「そーだな。私たちに数で敵うわけないってこと、教えてやろう」
 数など然した問題では無い、と――。
 片や長柄の竜槍を手に、片や禍断の刃を手に、どろどろと迫る黒叢に正対する。
 躊躇いなく爪彈く二人は、並みの人間が見れば風車に突進するより卒爾に思われたが、超常の異能を統べる猟兵にして稀有の絆に結ばれた彼等には、既に道が視えていよう。
「背は任せる――征くぞ」
「ああ、征こう」
 凛冽たる聲と飄々たる聲が互いに信を置く。
 而して間もなく疾走った影が、一陣の風に溶けた。

  †

 背を任されたからには、先駆ける嵯泉には傷一つ付けさせない――。
 颯爽と飜る『砕禍』のはためきを追うニルズヘッグは、その意志を示すかの様に黒手袋に覆われた繊指を突き出すと、灰色の空に竜翼の羽搏きを喚んだ。
「――天罰招来、【冀求】(ランドヴェッティル)。五匹は私に、残りは嵯泉を頼むぞ」
 刻下、力強く風を叩く羽音が竜の子を囲繞(かこ)む。
 世界最悪の竜に應じるは竜――総勢87躰の翼竜のうち5匹を自身の護衛に、残る82匹を前へ、嵯泉と並んで陣頭に立たせたニルズヘッグは、凍てる氷翼を輝かせる同胞に盟友を警守(まも)らせた。
「嵯泉なら刈り取るには充分だろ」
 助力は不要と守りを優先させる。
 前衛に割く数に嵯泉を大事に想う情が窺えよう、彼は身に宿した呪焔と凍気を織り交ぜ強化すると、嵯泉の太刀筋を塞がぬよう配置に気を配りつつ、竜らを指揮した。
「背襲はさせない。嵯泉は露払を頼む」
「ああ、ニルズヘッグを後ろにして振り返りはしない」
 而して盟友の竜に護られた嵯泉も雄渾と、猛然と迫る軍馬の僅かな動きや、騎士の体勢から攻撃の起点を見極め、突撃槍が水平に鋩を向けた瞬間に鏖殺の氣を暴いた。
「――蹂刀鏖末、悉く滅せ」
 云うや刻下、彼を中心に半径90m圏内に900本の刃が飛翔する。
 怜悧な刃鋩は光を隠して認識より遁れると同時、ひとたび触れるや如何な術式も無に、騎士等が受ける闇の恩寵を――漆黒の霞を切り裂いた。
「賦活も間に合わぬほど徹底的に粉砕して呉れよう」
『――ォォオオオ嗚乎嗚乎ッッ!!』
 無数の刃鋩を目晦ましに、氷竜達の合間を縫って刀を打払う。
 先ずは凄絶の劔圧を馬の足許に、鎧に覆われぬ管(脛)を斬り落とせば、馬脚を乱した隙に更に一太刀を呉れて、騎士を薙ぎ倒す。
『ブルルルルルッッッ!!』
『ズァァアアア嗚呼嗚呼ッ』
 敵の小隊が統制を失った時には、ニルズヘッグが同胞を促して、
「馳走じゃないか。全部食っちまって良いぞ――人間以外はな!」
 蹂躙――ッ!
 敵対者に容赦はせぬと竜は鋭牙に死馬を裂き、猛爪に黒鎧を寸断して、暗澹たる闇霧を屠り尽した。
 狂邪が闇の恩恵を受けるより疾く嵯泉が斬り伏せ、氷翼の竜らが小隊を捩じ伏せれば、二人の眼路には最奥部の城壁が近付いて視えよう。
 内部の居住区で息を潜めて戰闘音を聞いているであろう人々を思ったニルズヘッグは、冱ゆる金瞳に城壁を見詰めて、
「牢からは自力じゃ出られない」
 私もそうだった、と端整の脣より言を零す。
 胸にチリ、と疾走る痛みを覚えた彼は、然し前を向いて言を継ぎ、
「だけど、一度外に出ちまえば、もう二度と、あそこに戻りたいとは思わなくなる。……だから今度は、私が手を差し伸べる番なんだ」
 と、力強く踏み込む足は敵を倒して尚も止まらない。
 朦々と血煙の舞う戰塵の向こうに最大の門を見た嵯泉は、脇から襲い掛かる別の小隊を視界の脇に、決然と告げた。
「此処から発つ為に必要なのは、歩む意志――其れを縛する恐怖と云う名の鎖、今、此処で絶ってくれる」
 出る事が独りでは叶わぬとしても。
 助ける手は――伸ばされる手は尽きはしない。
「其の手に応えるものが、きっと在る」
 助く者の存在を証明せんと、目尻の端に映した邪に流眄を注ぐと同時、斬り伏せる。
 耳を劈く程の絶叫の後、夥多(おびただ)しい血を浴びた嵯泉は、軈て訪れた沈黙の後に、大門の閂が内側で動く音を聴いた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
確かに斯様な地では、食に、音に
希望となるそれに飢えような

そろそろ陽を入れねば黴まで生えかねぬ

ただの馬であったなら恨みはないが
高機動の敵なれば狙うは低空
駆けながら、這う虫の高さへと
蹄の間を縫い泳ぐ様に【暴蝕】放つ
脚だ、好きなだけ喰い荒らせ

転ばせた馬で敵集団を乱しながら
他猟兵の隙を埋める様に
足元に気を取られている所へと
翼を使い飛翔、上空から勢いそのままに騎士の首を狙う
上を怖れれば下から
下を畏れれば上から
呪詛に乗せ混乱を撒く

騎士槍は敵の体を盾に防ぎ
御役御免となれば放り投げ
裂かれ喰らわれたなら
同じ呪乗せた刃で弾き、貫き、喰らい返そう
お返しだ

…あの御方は
やれ、どちらが悪鬼だと呆れるだろうか
それとも


愛久山・清綱
強き力と魂が、捕らわれた人々を救う光となる……
拙者、愛久山清綱。此の地を覆う闇、斬り祓わん。

■闘
敵は騎兵が幾名か……ここは、一気に仕留めてやろう。
先ずは馬の足を注視しつつ仕掛ける瞬間を【野生の勘】で予測、
【残像】を見せながら横へ緊急回避。
複数の敵の攻撃を躱しつつ、騎兵を密集させるのだ。

うまく敵を集められたら、【山蛛・縛】の構え。
一撃目に中距離から【マヒ攻撃】を絡めた空間切断による
【範囲攻撃】を仕掛け、身動きを取れなくする。
仕上げは刀をすっと納刀、現れる【貫通攻撃】の力を絡めた
霊刃の嵐を起こし、一気に切り刻んでやろう。

この刃に捕らわれたが、最後だ……

※アドリブ歓迎・不採用可


シャーロット・クリームアイス
※アドリブ/連携などお任せ

おお、さっきのひとたちより、かなりパワフルな外見ですね!
あれほどの馬であれば、おそらくは水中でも走破してのけるでしょう
水に流しておしまい、とはいかないようです

手始めにサメをけしかけてみます
避けるか防ぐか、あるいはユーベルコードの効果狙いであえてダメージを受けるか……そのあたりの出方を見ましょう
ええ、サメはときに焦らすものですので!

騎士さんたちの対応方針がわかれば――言い換えれば、騎士さんたちが対応方針を定めたら、チャンスタイム!
ふたたびサメ……に見せかけて、その口の中から飛び出すは……シャコ!

シャコパンチは、一撃必倒の絶技
負傷を活かす間はありませんよ!


クロト・ラトキエ
地底にも拘らず広がる田畑。
管理された住人達…
強固なる支配。堅牢なる都市。

されど主が出るで無く、雑兵を差し向けるとは…愚策ですねぇ。
飄々と。
逆上されるなら上々。
数で来ようとも、冷静を欠けば戦力減。
此方とて一人じゃない。
僕は、民の心を鼓舞するくらい、
皆が敵を派手に蹴散らす場を作れれば良い。

騎兵は歩兵より厄介…
けれど取る動きは絞られる。
視線、馬の脚に兵の手元。位置、速度、一斉か波状か…
凡ゆるを見切り、知識に照らし、最良の次手へ。

地に沿い張る鋼糸は、馬の進路上なら速さも利用し脚を奪い、
バランスを崩し突撃槍を潜り。
動きの中、鋼糸を張り巡らせ、
纏めてUC
――拾式

檻の中で蹂躙される側、どうぞ味わいなさいませ



 南門の甕城を攻略し、外城の「郭」に出る。
 灰色の空の下に広がる田園は麦か、薄暗く痩せた土地でも育つ改良種か判然らないが、陸(ロク)な実りはないだろうとは直ぐに理解る。
 疆界を隔てた硝子越しに殺伐の耕作地を眺めたクロト・ラトキエ(TTX・f00472)は、端整の脣に寂寥の聲を紡いだ。
「宛如(まるで)箱庭ですね」
 地底にも拘らず広がる田畑。
 管理された住人達。
 強固なる支配。堅牢なる都市。
 地底の人々は、この光の届かぬ世界で幾許の年月を過ごしてきたろうと、紺藍の麗瞳が内城の壁を見詰める。
 その聲を、科白を、靜黙の裡に聽いていたジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は、炊烟ひとつ見せぬ壁の向こうでは、人々が息を押し殺して外城の様子を伺っているだろうと推察していた。
「確かに斯様な地では、食に、音に――希望となるそれに飢えような」
 己が靴底にも伝わる大鳴動。
 其が彼等の「絶望」か、大地を揺さぶる振動は重たく、大きく――差し迫る劔呑に鋭利(するど)く耳を寄せた竜が、朦々と蹴立つ戰塵を烱眼に射た。
「そろそろ陽を入れねば黴まで生えかねぬ」
 闇の帳を引き裂き、永久の絶望に楔を打つ。
 世界に選ばれた猟兵なれば、地底の大空洞に於いても其は叶おうと凛然を萌せば、隣、シャーロット・クリームアイス(Gleam Eyes・f26268)が白磁の繊手を額へ――間もなく軍容を顕かにする闇霧の騎兵隊を捉えた。
「おお、さっきのひとたちより、かなりパワフルな外見ですね!」
 精悍な軍馬に跨り、巨大な突撃槍を携える重装甲騎兵。
 漆黒のバーディング(馬鎧)に身を固めた馬の突進力こそ最大の武器になろうか、
「あれほど逞しい馬であれば、おそらくは水中でも走破してのけるでしょう。水に流しておしまい、とはいかないようです」
 大海(うみ)の色を揺らす佳瞳に邪影を映した可憐は、一筋縄では往かぬと囁く一方、如何な方法で攻略すべきかと、凛乎と機智を働かせていく。
 敵も精強ながら、其に勝る力と技を以て淘汰せねばならぬとは、愛久山・清綱(飛真蛇・f16956)も十分に心得ており、蹄鐵の轟音が連れる強大な邪氣を鋭眼に睨めた。
「強き力と魂が、捕らわれた人々を救う光となる……」
 壁を隔てているとはいえ、征野で振う力が人々を救う。
 死闘の庭の劔戟叫喚が、彼等の心を鼓舞し、希望の光へと突き動かす。
 救える魂が其処に在るなら、と淸冽なる闘志を迸発らせた若き益荒男は、霊刀『心切』の神氣を暴いて、
「――拙者、愛久山清綱。此の地を覆う闇、斬り祓わん」
 拇指球を踏み締めるや、一気に駆走った。

  †

 大地を揺さぶる轟音が連れる異様は、宛ら幽海の大海嘯――。
 轟然と迫る闇黒の霞に正対した清綱は、田園を蹴って踏み鳴らす馬の脚を注視すると、馬足や進路を予測し、己を踏み砕かんとする瞬間に横へ跳んで回避した。
 蹄鐵の音を間際に残像を疾らせた影は、一端に「槍組」を形成する軍容を観察して、
「重装甲騎兵に従騎兵、騎乗弓兵が幾名か……ここは、一気に仕留めてやろう」
 戰場を猛然と駆ける騎兵を密集させる。
 間際でやり過ごした騎兵が、轡を返して再び攻め來るのを見た清綱は、複数の突撃槍が鋩を揃えて己を狙う瞬間を聢と捉えた。
「随分と突進力がある様だが、その速疾(はや)さが命取りとなるだろう」
 怪物じみた馬脚が、巨大な突撃槍が近付く程、五感を研ぎ澄ませていく剣豪。
 周囲一帯の「生ける破城鎚」が己に結ばれた刹那、清綱は【山蛛・縛】の構えを取り、中距離から大きく一振り、空間を切断する斬撃を広範囲に疾走らせると、軍馬も槍騎士も等しくマヒさせた。
『ブルルルルルルッッ!!』
『ォォオオヲヲ嗚乎ッ!!』
 其は暗号で記された奥義が更に進化した妙技。
 避け切れぬ斬撃に身動きを止められた狂邪は、標的と決めた清綱が、劔圧を走らせた刀を鞘に収めた瞬間、ゾクリとする靜謐を感じたろうか――。
 すっと刀が身を隠すや、精悍の躯より巻き起こるは霊刃の微風。
 霊魂を断つ斬撃の風は颯に、間もなく嵐となって広がり、挙措を鹵掠(うば)った騎兵を一気に切り刻んだ!
「この刃に捕らわれたが、最後だ……」
 端整の脣を滑る聲は宛ら凛冽なる虎落笛。
 吹き荒れる霊刃の嵐はバーディング(馬鎧)を貫き、騎士の板金鎧を穿ち、赫い飛沫を連れて悉く薙倒していく。
 斯くして幾つかの小隊が壊滅した血場の中心には、津々(しとど)邪の血を浴びた鬼神が立っていた――。

「数で押そうとは愚策」
 仲間の奮迅を目尻の端に映し、風に紛れて言を置く。
 芙蓉の顔(かんばせ)は柔和ながら、紡ぐ言には随分と芒刺(トゲ)があろう。
「強大な領主の一城だったか、番犬と雑兵しか居ないとは不遇でしたねぇ」
『ッ、ッッ!!』
 今頃、別所で異変に気付いても遅かろうと、突撃槍を躱し様に嗤笑うはクロト。
 重厚な黒鎧にも皮肉めいた科白は聽こえるし、バシネット(面頬)越しには艶麗な冷笑も視える。辛辣を置いては過ぎるクロトに深紅の邪眼を赫々とさせた騎兵が、轡を返して再び突撃した。
 逆上されるなら上々。
 冷靜を欠けば馬脚は乱れ、戰力として減衰すると、烱眼に騎兵の焦燥を映した麗人は、戰場を駆ける最中に攻略の糸口を探っていた。
(「……騎兵は歩兵より厄介……けれど、取る動きは絞られる」)
 バシネット越しに覗く騎士の視線。
 軍馬の脚と、其を操る騎兵の手綱。
 編隊と陣形、馬速と進路。
 戰術は一斉突撃か、波状攻撃か――。
 傭兵の論理を礎に諸有る状況を見極め、歴戰で培った知識に読み解くクロト。
 常に最良の次手をと機智を働かせるのは、己は民の心を鼓舞するくらい、皆が敵を派手に蹴散らす場を作れれば良いと思うからだ。
(「――此方とて一人じゃない」)
 然う、単独(ひとり)では無い。
 眼鏡の奥、水鏡の如き青瞳を煌々とさせたクロトは、極めて細く丈夫な鋼糸を音も無く地に這わせると、兵馬の進軍を迎え入れるように其を手繰って馬脚を奪った。
『ブルルルルルッッ!!』
『ォォオオ嗚乎ヲヲ!!』
 猛然と疾走る程、バランスを崩そう。
 水平に構えた突撃槍が大きく傾いた刹那、無数の槍鋩を潜り抜けたクロトは、更に鋼糸を張り巡らせ、
「十三の業、内の十。【拾式】(ツェーン)――」
 断截――ッッ!!
 自在に絶つ糸の檻が、約8kmの眼路に映る邪影の一切を捉えると同時、精緻に制御された斬撃で多方向から斬り付ける。
 その絶叫と叫喚は、壁向こうの人々の耳を劈く程であったろう。
「檻の中で蹂躙される側、どうぞ味わいなさいませ」
 断末魔の叫びが灰色の空に衝き上がる中、怜悧(つめた)い、冷淡(つめた)い、ハイバリトンが沁みた。

 クロトの広範囲攻撃が無数の小隊を駆逐し、外城の形勢が一気に覆る。
 刻々と變わる戰況を、高みより具に観察していた有翼のジャハルは、更なる軍勢の接近を空気の震えで感じると、その方向に烱眼を注いで云った。
「ただの馬であったなら恨みはないが、その鐵の蹄が無辜の命を蹂み躙るなら別」
 道楽で着せられた衣装で無し、身に纏うチャンフロン(馬兜)もバーディング(馬鎧)も人々を虐げるものだと睨め据えたジャハルは、竜翼に風を叩いて颯然と、一気に急降下する。
 這う虫の高さまで墜下すれば、翼は猛然と駆ける軍馬の脚の間を縫って、【暴蝕】――餓え渇く小竜の黒叢を連れ立ち、その暴食を慰めた。
「脚だ、好きなだけ喰い荒らせ」
『――ブルルルルルッッッ!!』
 其は“かたち”を得た呪詛。
 師の死霊魔術を真似て、而して特性は使い手を映したかのような暴竜。
 羽蟲が如き群魔は敵を喰らうたび増殖し、馬速を脅かされた騎兵が次々に顛倒すれば、竜翼を駆って風を掴んだジャハルは再び飛翔し、騎士の黒兜を刎ねた。
『ゼェァァアアア嗚呼嗚呼ッッ!!』
 上を怖れれば下から。
 下を畏れれば上から。
 呪詛に乗せて混乱を撒いたジャハルは、其処が天だろうと地だろうと構わない。
 突撃槍が視界に迫れば、板金鎧が都合が佳いと敵の躰を盾と差し出し、御役御免となれば放り投げる。
 時に騎乗弓兵が射掛ければ、頬に鏃傷を疾らせた竜の子は、咄嗟に呪詛を纏わせた刃を投擲して弓兵の咽喉を貫き、小竜に喰らわせる――縦横無尽の立ち回り。
「お返しだ」
『ズッ……ゥ……ッッ!!』
 竜の力が荒ぶるほど心は沈着と、馴染みの顔を浮かべよう。
(「……あの御方は、やれ、どちらが悪鬼だと呆れるだろうか」)
 或いは、それとも。
 血雨を浴びて暴れる竜の麗顔に、竊笑が挿した。

 内城で息を潜めていた地底の民も、耳を塞ぎ、目を閉じていた訳では無い。
 闇霧の騎兵が叫喚を裂く毎に彼等は耳目を鋭敏に、猟兵の活躍に魅かれて壁に近付き、中には門脇の階段を上って身を低く城壁の向こうを覗く者まで現れていた。
 而して。
 海を見た事の無い者にとっては、数多の「世界」を知らぬ者にとっては、シャーロットの戰いは度肝を抜いたろう。
「手始めにサメをけしかけてみましょう」
 避けるか、禦ぐか。
 或いは敢えて創痍に甘んじて闇の恩寵に与るか。
 先ずは敵の出方を見んと、繊麗の指に鮫模様の魔法陣を描いたシャーロットは、深海の魔力を秘めた薄絹をふうわりと揺らすや、合計73躰のサメを一気に放った。
 手始めにサメ。
 幽海のセイレーンならではの感覚も然る事ながら、ゆうらり、漆黒の霞へと吻を向けるサメの群れの偉容も凄まじかろう。
「ええ、サメはときに焦らすものですので!」
 猛然と直進する騎兵隊に対し、巨鰭を揺らしながら獲物を探るように回遊するサメは、嘗て無い衝撃を與える。
『ブルルルルルッッッ!!』
 特に獣たる軍馬は眼路を過る巨影に動揺し、突如として馬脚を失速させると、鞍に跨る騎士も突撃槍の威力を削がれ、サメの横腹を突こうにもヒラリと躱されてしまった。
「攻めにも守りにも倦ねる、と――膠着しましたね」
 騎兵隊最大の武器である突進力の減衰を認めた可憐は、再び騎士が軍馬に拍車を掛けようとした刹那、チャンスタイム到来! とばかり花顔に微咲(えみ)を差す。
「ふたたびサメの吻撃……と見せかけて、その口の中から飛び出すは……シャコ!」
 顕現発露、【鮫武術奥義・青龍絶影破】(ワン・パンチ)――!!
 巨鰭に闇霧を叩いて一気推進したサメは、強靭な頤力で黒鎧を噛み砕くかと思いきや、鋭牙を剥き出してシャコを、そう、シャコを射出した!!
『――ッ、ッッ!!』
「シャコパンチは、一撃必倒の絶技! 負傷を活かす間はありませんよ!」
『ォォオオヲヲ嗚乎嗚乎!!』
 マリーン・シャーク・クリティカル・アーツ。略して“マーシャルアーツ”。
 鮫とシャコによる華麗なる深海武芸が炸裂すれば、面頬を叩かれた軍馬は痛撃に嘶き、騎士は黒鎧を歪に拉げられ、共に地面に叩き付けられる。
 其処に群がるは、やはり鮫――。幽海のハンターは獲物を決して逃さず、強靭なる牙に何もかもを貪るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『星鏡の夜』

POW   :    わくわく過ごす

SPD   :    どきどき過ごす

WIZ   :    静かに過ごす

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 猟兵の活躍は、壁向こうの人々に立ち上がる勇気を與えた。
 彼等がどれだけ奮起されたかは、自ずと開扉する門が示そう。
「門が……開く……!!」
 内城の居住区に立て籠もっていた人々は、我が身を絶望に組み敷いていた番犬や騎兵を討ち倒した猟兵を迎えんと、閂を外し、門を開いて、掃き清めた甃に招き入れた。
「これは――」
 最早、言葉は要るまいか。
 既に獅子奮迅の活躍が、人々の心を動かしているとは十分に理解る。
 当初、闖入者として訝しまれた猟兵は、救済者として受け容れられ、人々は地上に住む者達と同じく猟兵の聲に耳を傾けてくれるだろう。
 然し長く語らう時間もなければ、猟兵は頬の血も拭わぬ儘、口を開いて、
「周辺勢力が異変に気付いて駆け付ける前に、此処を出よう」
「既に幾つかの“人類砦”が受け入れを示してくれている」
 この城郭都市に「主」は居なかった。
 幾つかの都市を束ねる大領主が、“番犬”と手勢の兵に護らせていただけだと気付いた猟兵は、早く此処から移動しなくてはと民に指示する。
「――扨て、女子供に年老いた者達も居る集団を如何に移動させよう」
 云えば、ユーベルコードを用いて安全かつ迅速に移動しようという猟兵が幾人。
 先発隊も周辺に迷宮を敷いてくれているので、複数人で力を持ち寄れば、半日掛からず人類砦に送り届ける事が出来ようと意見を合わせた。

 ――而して。
 鏡のように星空を反射する湖面を見たのは、大空洞を抜けて直ぐの事だった。
 地上は相變わらずの常闇であったが、靉靆と棚引く雲間には瀲灔(ちらちら)と星が瞬き、足元に広がる美しい塩原が其の光を映している。
 人類砦まで、もう少し――。
 此処で少し足を休め、地底の人々に地上の美しさを見て貰おうか。
 勿論、地上の同志に彼等を預けるまで気は抜けないが、今暫くは前を見る瞳を上に――慎ましく耀く星々と、その玲瓏を投影(うつ)すを塩原を眺めてもいい。
 天地を結ぶ光に足を止めた猟兵が、靜かに、星燈の天蓋を仰いだ――。
ミルディア・ディスティン(サポート)
「サポート?請われれば頑張るのにゃ!」
 UDCでメカニックして生計を立ててるのにゃ。
 『俺が傭兵で出撃して少し足しにしてるがな?』
 ※自己催眠でお人好しで好戦的な男性人格に切り替わりますがデータは変わりません。

 ユーベルコードはシナリオで必要としたものをどれでも使用します。
 痛いことに対する忌避感はかなり低く、また痛みに性的興奮を覚えるタイプなので、命に関わらなければ積極的に行動します。
 公序良俗は理解しており、他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。むしろ積極的に助ける方です。
 記載の無い箇所はお任せします。よろしくおねがいします。


鬼桐・相馬(サポート)
羅刹の地獄の獄卒×ブレイズキャリバー
口調:冷静な男性口調(語尾に「!」がつく喋り方はしません)
「助けが必要なら手伝うよ。――内容によるが」
「任務はしっかりこなさないとな」

常に冷静で喜怒哀楽が少なく、感情が表に出ません。額の角に触られるのは嫌がります。

目的を持ち行動をする人物のフォローや手伝いをします。
有効技能がある場合は使います。
自発的に何かをしなければいけない場合は、自らの技能と照らし合わせてうまくいきそうなものを淡々とこなそうとします。
あまり誉められたことではない行動でも強固な意志を伴っていれば呆れつつも同行します。(他の猟兵を不快にさせる行動・公序良俗に反するものを除く)



 何も身一つで出立しようという訳では無い。
 或る者が「今は無き祖父母にも地上の世界を見せてやりたい」と言えば、猟兵は位牌を荷車に乗せてやったし、別なる者が「地母神を置き去りには出来ない」と訴えれば、彼等は重い石像を快く担いで運んでやった。
 其は世界に選ばれた猟兵としての身体能力の高さや、超常の異能(ユーベルコード)を操る事によって実現できた「奇跡」であったに違いない。
 絶望に沈む地底を訪れた奇跡は、そこに住む民に慥かな力を與えた。
 特に住み慣れた地を離れ、人類砦へ向かう――その覚悟は並ならぬものだったろうが、「力を貸そう」と駆け付けた鬼桐・相馬(一角鬼・f23529)の靜穩なるテノール・バリトンは、一歩を躊躇う人々を強く強く奮い立たせてくれた。
「既に地上に出て程近くにある人類砦が、受け入れを表明している」
「ほんとけ?」
「其処に行くまでは、俺達が護衛に回って追撃を退けよう」
 冷靜沈着なる佳聲に偽言(うそ)や憶測は一縷と無い。
 地上について詳述する相馬が操るは、【哭燈火】――其は地底からの脱出に同意した人々に、追手に抗う力を與え、更に一度だけダメージを無効化する冥府の加護を與える。
 端整の脣は更に言を滑らせて、
「恐怖に脚が震えるのも無理は無い。然し此処に居ては徒爾に死を待つのみ」
 反抗の兆を見せた者を赦す相手ではない、と――。
 地獄の獄卒たる彼は、血魔の稟性をよく心得ている。
 相馬は言を繕わず、唯た嚴然と現況を述べると、正に其処に信頼を抱いた者達が荷造りして移動を始める――決死の覚悟を冱ゆる金の麗眸に映した。

「追手が来ないか探ればいいのかにゃ? 頑張るのにゃ!」
 お助けするにゃ! と猫耳ヘアをふうわり揺らすは、ミルディア・ディスティン(人間のシャーマン・f04581)。
 他人の感情を読むのは苦手にて、地底の人々が漸う奮起する心の昂揚はイマイチ図りかねるものの、任務が理解ればテキパキと、地上へと向かう進路を調べ始める。
「……地底の大空洞から人類砦に向かう安全なルートを割り出せば良いんだな」
 口調が變わったのは、自己催眠で降ろした男性人格のもの。
 珈琲色の麗眸を烱々とさせたミルディアは、【影の追跡者】(シャドウチェイサー)――自身と五感を共有する黒影を闇昏の大地に馴染ませると、広大な大空洞から地上に繋がる最短の道を探り当てた。
「城郭都市が解放された事に気付いた他勢力が、増援を向かわせるかもしれないのか」
 繊指を細頤に宛て、ふむ、と思案するミルディア。
 仲間の猟兵に更なる連戰を強いる余力は無し、移動中に襲われてはならぬと凛然を萌した彼女(彼)は、更に黒影を速く疾く闇に滑らせ、索敵を兼ねる事にした。
「――地上の光を見るまでは気が抜けないな」
 必ずや無傷で送り届ける。
 己に課された任務を聢と完遂させる、と丹花の脣を結んだ可憐は、麗眸を凛々しく進路に向け、星燈の燿う地上を目指した――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ルイス・グリッド
アドリブなど歓迎

何とか助けられてよかった、あんな奴らの圧政を耐えたんだ。地上でも無事にやっていけるだろう
夜も遅いし少し休憩しないといけないな、景色を楽しむくらいなら問題ないだろ

【怪力】で移住の手伝いをした後で塩原の近くで休憩をする
休憩とはいえ見張りは必要だから【視力】と【暗視】【聞き耳】で時々周辺を【索敵】したり困っている人がいれば【救助活動】できるように構えておく
皆が暇しているようなら銀腕を剣に【武器改造】して舞を見せようか
本来は戦闘の時に使う物だから気を付けて動く



 地底の大空洞を抜け、地上に出る。
 泥濘路(ぬかるみ)に車輪を滑らせる手押し車を、後方から力いっぱい押して手伝ったルイス・グリッド(生者の盾・f26203)は、肌膚を撫でる夜風に安堵の息を混ぜた。
「――何とか助けられてよかった」
 星燈に煌めく銀の瞳に、城郭都市から脱出した人々を見る。
 荷が多く肩で息をしている様だったが、未踏の大地を踏む脚は力強く、ささやかな光に結ばれた眸には希望が灯って輝かしい。
「あんな奴らの圧政を耐えたんだ。地上でも無事にやっていけるだろう」
 永遠に想われる絶望を生き抜いてきた者達だ。
 新天地でも命を繋ぎ、芽吹いていけるだろうと人々の背中を見守ったルイスは、ここで星燈を仰ぎ、少し休憩を入れるべきかと足を止めた。
「……景色を楽しむくらいなら問題ないだろ」
 只管に荷車を押してきたが、今が頃合。
 人類砦に向かう前に、地上の風や匂いに触れて貰おうと決めたルイスは、行列の最後尾が地上に至ったタイミングで聲を張った。

  †

 休憩とはいえ、警戒はしておいた方が佳い。
 ルイスは右の炯眼に周囲を見渡しながら、地底から追手が来ないか、地上の魔獣が襲い掛からないか嚴重に見張りつつ、優れた聽覚は細かな音を拾い集め、異音か、若しか助けを求める聲がないか研ぎ澄ませていた。
「水を飲み、呼吸を整えたら――少し余裕が出て来たか」
 そして彼は周囲を観察するだけでなく、人々の表情の變化も見逃さない。
 美し星鏡を眺める人々が幾許か和らげば、ルイスは一歩前へ――鏡面の如き塩原に影を映して銀の腕を掲げた。
「――舞を見せようか」
 云うや、星燈に燿う義手は形を變えて劔に。
 靜かに滑り出るは【銀武の舞】――俊敏と強靭を兼ね揃えた舞に閃く銀の輝きは、冴え冴えと玲瓏の光を彈いて人々の目を惹き付ける。
 本来は敵を斬り伏せる技だが、先に彼の奮闘を見た者は昂奮と感動を覚えよう。
 喝采(やんや)と手を叩いてはリズムを刻む拍手を受け取ったルイスは、軽やかに踊り回る視界の中で溢れる笑顔を捉えると、凛乎と引き結んだ佳脣に、僅かに微咲(えみ)を湛えた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

矢来・夕立
絵描きさん/f04260
彼…じゃなかった…彼女とは、「予定を決めてどこかへ行こう」と話していたんです。

ご足労頂いてありがとうございます。
脅威は無事排除できましたよ。
オレもご覧の通り無傷です。

塩の湖ですから、生き物はいないんですよね。
生き物のいるほうが好きですか?
星も広義には生物みたいなものです。
鼓動のように燃えていて、ひとのように寿命がある。
最後、心臓が燃え尽きたとき。一番強く輝いて消える。
…言ってて思いましたけど、絵描きさんに似てますね。
描いて、描き続けて、それ以上ない明るさを遺して、おしまい。

オレは恒星より流れ星がいいです。
いつの間にか夜空から消えていて、
一人だけが覚えてるような終わりが。


浮舟・航
矢来さん(f14904)
危険が多いこの世界に来るのは初めてです
なるべく危ない目に遭わないように生きているので

お待たせしました
話に聞いていましたが、やっぱり強いんですね
怪我とか大丈夫ですか?首とか切れてません?

ええ、生き物がいればここまで静かにならないでしょう
確かに海や水辺の生き物が好きですが、
生き物がいなくても、この景色は好きですよ
ネットでも写真とか、映像を何度か見ました

星……
俯きがちの顔を上げれば、満天の星が輝いていて
――その話は、僕も聞いたことがあります
いちばん美しいものを最期に遺せるのなら、本望ですよね

そうですね、親近感は無くもないです
矢来さんはどうですか?

……僕は多分、覚えていますよ。



 続々と大空洞を抜け出る荷車の列を見る。
 眼鏡(レンズ)の奥、醒める様に青い瞳に、絶望から遁れてきたばかりの人々を映した浮舟・航(未だ神域に至らず・f04260)は、初めて見る世界の中に見知った顔を見つけ、彼が進路を違えて向かい来るのを靜かに待った。
 而して互いに硝子越しに佳瞳を繋ぎ、訪いを労う。
「お待たせしました」
「ご足労頂いてありがとうございます」
 なるべく危ない目に遭わないように生きている航が、不穏の漂流うダークセイヴァーに来るのは初めての事で、彼……いや、彼女の白皙に創痍の一つも無かろうかと緋瞳を結ぶ夕立を前に、喫驚(おどろ)いたような安堵したような聲が置かれる。
「話に聞いていましたが、やっぱり強いんですね」
「脅威は無事排除できましたよ」
 邪悪の血をじっとりと染ませた羽織は左手に折り畳んで。
 餘り多くを語らぬ夕立には、航がすこうし首を傾げて、
「怪我とか大丈夫ですか? 首とか切れてません?」
「ご覧の通り無傷です」
 彼が然う言うのだから、細首に巻かれた繃帯に滲む血斑は敵のものだろう。
 何処かへ行こうと決めていた事が叶った――唯だ今は、嘗て話した約束が目の前にある事を喜ぼうと、航は幾許か目元を和らげた。

  †

 一面鏡張りの塩湖に二人、影を投影(うつ)して佇む。
 天地に燦めく星燈を見渡した夕立と航は、星々の美しき耀いを邪魔せぬようほつほつと語ろうた。
「塩の湖ですから、生き物はいないんですよね」
「ええ、生き物がいればここまで靜かにならないでしょう」
 命の踏み入らぬ寂寞に、風だけが過ぎる夜。
 端整の脣を滑る言も直ぐに涼風に攫われる中、蓋し其も構わぬと聲は幾度と交わる。
 時に夕立はスッと通った鼻梁を航に向けて、
「生き物のいるほうが好きですか?」
「確かに海や水辺の生き物が好きですが、生き物がいなくても、この景色は好きです」
 好きですよ、と足元に視線を落とす航の長い睫を見る。
 ネットでも写真や映像で幾度か見た塩湖は、此度は鏡面に我が身を映し、その周りに星々の玲瓏を瞭々(ありあり)と広げている。
 宛ら星を敷くようだと航が踏むのを躊躇った時、傍らのテノールが鼓膜を震わせた。
「――星も広義には生物みたいなものです」
 鼓動のように燃えていて、ひとのように寿命がある。
 紡ぐ科白は淡然と飄然と、凡そ感情の色を示さぬ聲が耳に音を置くが、其が何処かしら儚く聽こえるのは、彼の所為か、星の所為か。
「最後、心臓が燃え尽きたとき。一番強く輝いて消える」
「星……」
 天蓋を仰ぐ夕立に促されたか、航が俯きがちな佳顔を上げる。
 見れば、常闇の帳の合間には満天の星が輝いていて――。
「――その話は、僕も聞いたことがあります」
 青き瞳を星燈に結んだ儘、言つ。
 絶景と疆界を隔てた瞳もまた水鏡の如く燦然を映し、透徹の彩を輝かせた。
「いちばん美しいものを最期に遺せるのなら、本望ですよね」
「――――」
 この時、夕立は星空を仰ぐ眼路の脇で、航の未だ神域に至らぬと云う右の繊指が僅かに動くのを見たろう。
 蓋し彼は視線は動かさず接穂して、
「……言ってて思いましたけど、絵描きさんに似てますね」
「僕、ですか」
「描いて、描き続けて、それ以上ない明るさを遺して、おしまい」
 先に星の生命なるを語った時と變わらぬ聲調で云う。
 その枯淡な科白を受け取った航は、首肯を置くように緩々(ゆっくり)と瞬いて、
「そうですね、親近感は無くもないです ――矢来さんはどうですか?」
 と、細頤を夜空に向けた儘、流眄を注いで尋ねる。
 疑問符に持ち上がる語尾を拾った夕立は、一瞬の瞥見を返して再び星空を仰ぐと、靜かに、蓋し慥かな語調で答えた。
「オレは恒星より流れ星がいいです」
 紫紺の穹に佇む恒星でなく、光の帯を引いて疾る箒星が佳い――。
 眞赭の麗眸を天蓋の燈に注ぎ、弓張月の如き横顔を見せる彼は、そっと言を足して、
「いつの間にか夜空から消えていて、一人だけが覚えてるような終わりが」
「――――」
 夜の帳を切り裂いて疾る婚星。
 噫、慥かに彼らしいと引き結んだ佳脣に共感を湛えた航は、幾許の沈黙の後にそと口を開いた。
「……僕は多分、覚えていますよ」
 たぶん、きっと。
 星鏡の夜に穩やかなメゾ(女聲)が染みた時、気付けば星の煌きを映した赫と青の双眸が玲瓏の彩を結んでいた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ハロ・シエラ
ここまで来たら、後私が出来るのは護衛くらいのものですね。
ユーベルコードで移動させる事も出来ないし、乗り物を持っている訳でもありません。
歩いて移動せざるを得ない人を守りつつ、手助けして行きましょう。
そう言う目的には、私のユーベルコードや【第六感】もきっと役に立つでしょう。

しかし、ダークセイヴァーにもこの様な美しい光景があるのですね。
この世界の地上に10年以上暮らしていながら気付きませんでした。
素敵な景色を探そう、なんて余裕はありませんでしたしね。
地下にいた方々にとっても、今までよりはマシとしても地上は楽園とは言えないでしょう。
でも、こう言う光景が……生きる希望に繋がればいいですね。



 自分の足で歩いて行きたい――。
 故郷を離れる者の中には、猟兵のユーベルコードや乗り物に頼らずに地上を目指したいという者が幾人か居た為、ハロ・シエラ(ソード&ダガー・f13966)は彼等の護衛に回る事にした。
「其の願い、其の気概。私が守り、手助けしましょう」
 泥濘に足を滑らせながら、肩で息をしながら。それでも力強く歩む背中を見守りつつ、赫緋の麗瞳が【絶望の福音】に警戒を敷く。
 瞳だけでは無い。
 ハロはスッと通った鼻梁を進路に向けた儘、五感の全てで周囲の異変を探り、大空洞にあっては追手を警戒し、地上に出れば魔獣の邪氣を探って、人々の意志と命を守った。
「ここまで来たら、私が出来るのは護衛くらいですから」
 故に、やり遂げる。
 絶望に耐え忍んで来た人々の歩む意志を尊重したハロは、その逞しい命を聢と人類砦に送り届けようと、泥塗れの靴底を踏み締めるのだった。

  †

「……ダークセイヴァーにもこの様な美しい光景があったとは」
 地底の大空洞を抜け、地上に出る。
 雲間に覗く星燈に麗瞳を結んだハロは、足を止めて小さく囁(つつや)いた。
「この世界の地上に十年以上暮らしていながら、気付きませんでした」
 見る間も無かった。
 幼い頃から吸血鬼と戰うべく劔を学ばされていたハロには、素敵な景色を探そうという余裕は無く、彼女も猟兵に救われなければ、常闇を彷徨っていたに違いない。
 暫し星鏡の世界を仰いだ少女は、靜かに言を継いで、
「……地下にいた方々にとっても、城郭に囲い込まれていた今までよりはマシとしても、地上は楽園とは言えないでしょう」
 然う、此処は未だ“楽園”では無い。
 長き吸血鬼支配に漸と反撃の兆を見せただけの大地なれば、地底に生きた人々に本当の救済が齎される日は、まだ遠く――。
 星燈の天蓋に細頤を持ち上げた儘のハロは、蓋し「でも」と口を開いて、
「こう言う光景が……生きる希望に繋がればいいですね」
 希求(ねが)う様に、祈る様に囁く。
 櫻脣を滑る佳聲が、しんみりと星空に溶けた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

麻海・リィフ
アドリブ、即興連携歓迎

星空…か…
ここ(の世界)では珍しいのではないかしら?
暗雲の多い世界だものね…

姉君の曰く、かつてはもっと雲がちだったと聞いているけれど
自然に星が出る…吉兆な気がするわ
骸の支配が揺らぎつつあることと、何か関連でもあるのかしら?

とは言え、警戒は怠らない
未だ闇は濃く、闇は未だ奴らの領域…
何を仕掛けてくるか分からないものね
かばう態勢だけは崩さない

いつか、この世界の詩人から星の歌が生まれ、溢れるようになるのかしら…
ところ変われば品変わる。それがどんな歌か…その時が訪れたら、是非聞きたいわ♪



 闇昏の大空洞を抜け、地上に出る。
 泥濘路(ぬかるみ)に足を取られて進み倦ねる妊婦を支えながら「人類砦」を目指した麻海・リィフ(晴嵐騎士・f23910)は、白皙を撫でる涼風に、不図、細頤を持ち上げた。
 颯然と吹き抜ける風の方向を辿れば、目下、翡翠の麗眸いっぱいに淸かな燦然が映り、雪原を想わせる塩原を鏡に星燈が煌々と輝いていた。
 喫驚に息を置いたリィフは、薄く開いた櫻脣より感嘆の聲を溢す。
「星空……か……地上でも珍しいのではないかしら?」
 常に暗雲が立ち込めるダークセイヴァーでは、星を見るのも難しい。
 靉靆と棚引く雲の隙間、紫紺の穹に燿う星燈は絢粲(キラキラ)と瞬き、其を見上げるリィフの血斑の染む頬や、泥に穢れた花顔を光に慰める様だった。
 生命の気配無き寂寞の塩湖に立った少女は、佳聲の囁きを涼風が攫うに任せ、
「――姉君の曰く、かつてはもっと雲りがちだったと聞いているけれど、自然に星が出るなんて……吉兆な気がするわ」
 足元に影を模る程、明るい夜は稀有(めずら)しい。
 これは宛如(まるで)、地底の絶望から遁れてきた人々を嚮導(みちび)く瑞光の様だと星空を仰いだリィフは、暫し思案して言を足す。
「……骸の支配が揺らぎつつあることと、何か関連でもあるのかしら?」
 今より向かう人類砦など、百餘年に渡る吸血鬼支配の衰微の象徴だろう。
 人類は反旗を翻しつつある、と雪白の繊手を握り込めたリィフは、然し周囲への警戒は決して怠らず、人々を脅威から庇う態勢だけは崩さなかった。
「未だ闇は濃く、闇は未だ奴らの領域……何を仕掛けてくるか分からないものね」
 深緑色の光翼が激しく光るは【ハイカラさんは止まらない】――後光が眩く燿く間は、外部からの攻撃は一切届かない。
 妙なる耀(かぎろ)いを星鏡に投影したリィフは、道を同じくした地底の人々が星空を仰ぎ、初めて見る世界の輝きに微笑を溢す様子を捉えると、そっと言ちて、
「いつか、この世界の詩人から星の歌が生まれ、溢れるようになるのかしら……」
 絶望に俯いていた人々が上を向き、仰ぐ光に希望を見出す。
 粋美なる光に勇気を得て、立ち上がる力を歌う。
 所変われば品変わる――星燈に吉兆を視た可憐は、その變容は必定(きっと)佳きものとなるだろうと翠瞳を輝かせると、端整の脣に微咲(えみ)を湛えた。
「それがどんな歌か……その時が訪れたら、是非聞きたいわ♪」
 星の歌が生まれる日は、必ずや音訪れる。
 未来に希望を見出したリィフは、爽涼の風に揺れるポニーテールに星燈を浴びながら、射干玉の黒髪に光を彈きながら、佳景を広げる星鏡を暫し眺めるのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルカ・ウェンズ
星が綺麗ね。どきどき、どきどき、縄文土器……なんでもないわ。

朝昼夜、それぞれの良さがあるのに、この世界の吸血鬼のせいで夜そして!黒のイメージが悪くなっているわ。なのでカフェ・ラッテこれを飲んでもらえないかしら。苦い?なら砂糖もあるわよ。これで【元気】になってくれればいいけど。

さらに星を見終わり人類砦に着いたら、どさくさに紛れて城郭都市で手に入れてユーベルコードを使い運んでいる物資をプレゼントするわよ。
これは、この世界が平和になったらお礼をしてもらうための投資よ、凄い!私は投資家だわ!!さらにさらに、受け入れてくれた人類砦の人達にもカフェ・ラッテと物資をプレゼントするわよ。



 泥濘路(ぬかるみ)に足を滑らせる少女を支えつつ。
 狭隘を進み倦ねる老婦人に手を差し伸べつつ。
 人々を助けながら地底空洞を抜けたルカ・ウェンズ(風変わりな仕事人・f03582)は、濡烏の艶髪を撫でる涼風に細頤を持ち上げると、紫紺の天蓋に広がる星燈を仰いだ。
「――稀有(めずら)しい。星が綺麗ね」
 靉靆と棚引く曇雲の隙間に覗く燦然。
 闇昏の穹で靜かに淸かに瞬く玲瓏は、見る者を夢想と浪漫に誘惑(いざな)おう。
「どきどき、どきどき、縄文土器……なんでもないわ」
 不意に足元の塩泥を集めて土器を作りたくなる衝動を抑えつつ(弥生はムリだけど)、赫緋の麗眸を星空に繋いだルカは、初めて見る地上の粋美に感嘆を溢す人々に云った。
「朝昼夜、時の経過毎に其々の良さがあるのに、この世界の吸血鬼のせいで夜、そして! 黒のイメージが悪くなっているわ」
「あさひるよる……?」
 長きに渡って大空洞に棲んでいた地底の民は、太陽を知らぬ。
 故にルカが云う払暁の美しさや、日中の眩さ、黄昏の寂寞などもピンと来ないのだが、彼女がその中で夜と黒が割を喰っていると、吸血鬼を悪く言っているのは理解る。
 而してルカは更に言を継いで、
「なので、カフェ・ラッテ。これを飲んでもらえないかしら」
「んん? ……なんだ、これは……?」
「苦い? なら砂糖もあるわよ」
 スッとカップを差し出し、ふわり漂流う薫香に人々の鼻腔を擽る。
 此処で一旦休憩を入れるか、荷車に身を預けたルカは物珍しそうに色を見詰める人々に塊麗の微笑を注いで、
「これで元気になってくれればいいけど」
 それに落ち着くわよ、と小気味佳く語尾を持ち上げた。

  †

 扨て、夜遅く「人類砦」に到着した地底の人々は、ルカが【変身】を以て「どさくさに紛れて手に入れた」という厖大な物資に腰を抜かしたろう。
「この世界が平和になったらお礼をしてもらう為の投資よ」
「……投資?」
「然う、投資。私、凄い! 投資家だわ!!」
 プレゼント……と言いそうになる口を噤みつつ、先見ある投資家だと胸を張るルカ。
 彼女は更に地底の民を受け容れてくれた人類砦の者達に、反逆の礎にと物資を預けると同時、カフェ・ラッテを馳走した。
「ふむ……かへらって……?」
「そうそう、カフェ・ラッテ」
 クマ型のカップ、ブラウン色を揺らす表面にミルクは白いヒゲを模って。
 蝶ネクタイも愛らしかろう、温かな飲み物を手に包み指先を温めた人々には、いつの間にか笑顔が零れていた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニール・ブランシャード
(相手が「怖くない鎧」だと分かった子供達にもみくちゃにされ、ヨレヨレになっている)
(中身の詰まっていない左腕部が歩くたびに揺れ)
うぅ、こどもは順応が早いなぁ…。
皆、思ったより元気みたいでよかった。

休憩がてら皆から離れてとばりさんの姿を探すよ。

あ、とばりさん!
この湖、すごいね!空も地面も全部きらきらだ!

あのさ、とばりさん。ぼく前から気になってたんだけど…
この世界の予知って、その…ひどい内容のものが多いでしょ?
思い出して憂鬱になったり、夢に見ちゃったりしてない?
大丈夫?

そうだ。予知の光景を思い出しそうになったら、別のことを考えようよ
今日のきれいな景色のこととか!

…あ。もしかして余計な心配だった?



 黒鎧を纏うニール・ブランシャード(うごくよろい・f27668)は、地底の人々が己の姿を怖がらないか、開扉した内城に進むのを躊躇ったが、其が杞憂だったとは子らの表情が示してくれた。
「あっ、どろどろオバケのお友達のよろいさんだ!」
「えっ、母さん……えっ」
「よろいさんっていいよろいだよね」
「いいよろい」
 噫、そうかと合点が行く。
 漆黒の騎士の突撃槍や馬蹄の音に怯えて暮らしていた彼等は、「わるいよろい」を悉く溶かした泥の怪物は味方で、その隣で奮戰したニールは「いいよろい」に違いない。
 この子達も先の戰いを見ていたのかと喫驚した少年は、少し長躯を屈めて、
「――皆、思ったより元気みたいでよかった」
 己の周囲に群がる子供達の表情を見渡し、ほっと安堵の息をひとつ。
 然し安心したのも束の間、四方八方から伸びる好奇心の手に揉みくちゃにされた彼は、直ぐにもヨレヨレになって、
「ねぇねぇ、いっしょに地上にいこー」
「手つなごー! あれ、こっちはぷらぷらだー!」
「……うぅ、こどもは順応が早いなぁ……」
 悉皆(まるで)心の壁が無い。
 両手にいっぱい繋がる子供達に感心しつつ、然し預ったからには傷一つ負わせる事なく地上に送ろうと決めた少年は、すこうしバランスを失った躰で何とか大空洞を抜けた。

  †

 紫紺の穹に瞬く星燈が一行を迎えると、子らは初めて見る景色に一斉に駆け出した。
 星の瞬きを踏み、塩原に映る己の姿を見てはきゃあきゃあと喜ぶ童心を見届けた彼は、不図、星鏡の下に見知った顔を見つけ、爪先を向けた。
「あ、とばりさん!」
「やあ、ミスター・ブランシャード。随分と子供達に好かれた様だ」
 左腕は大丈夫かな、と微咲(えみ)を添えるは、枢囹院・帷。
 ユーベルコードで物資を運んでいた彼女は、ニールが歩く度に空疎に揺れる左の腕甲に目を遣ると、当の本人がフルフルと頭首(かぶり)を振るのを見て幾許か微笑した。
 蓋しニールは勝利の為に負った代償を後悔はしていないらしく、
「この湖、すごいね! 空も地面も全部きらきらだ!」
 一面が鏡張りで、夜穹を瞭然(ハッキリ)と映して。
 ダークセイヴァーにもこんな景色があったのかと零れる感嘆には、苦労や悲嘆が滲む事は無かった。
「……君は強いな」
 薄く開いた脣を擦り抜けた言は短く、小さく、嬉々と空を仰ぐ彼には届くまい。
 柔和な視線を注ぐ帷の隣、星燈を見詰めていたニールは、不図、視線を結んで、
「――あのさ、とばりさん。ぼく前から気になってたんだけど……」
 やや躊躇いがちに口を開く。
 どうしたのかと向き合えば、彼は一語一音を丁寧に紡いで問うた。
「この世界の予知って、その……ひどい内容のものが多いでしょ? 時々思い出して憂鬱になったり、夢に見ちゃったりしてない?」
 大丈夫? と心配そうに語尾を持ち上げる。
 随分と優しい猟兵が居たものだと、一瞬、瞠目した緋瞳を淡く細めた帷は、少年が先に見せた様に頭首(かぶり)を振って答えた。
「私はそれが君達をひどい場所に送り出す者の責務と受け取っているよ。悲劇を視る者が私一人であるように願い、夢で終わらせてくれる君達に感謝しているんだ」
 憂鬱になる時もある。夢に見る時もある。
 然し己一人が味わうものなら受け容れよう、と云う帷は既に覚悟を決めている様だが、独りで負うには辛かろうと右の指先を微動させたニールは、閃いたように聲を彈いた。
「そうだ。予知の光景を思い出しそうになったら、別のことを考えようよ」
「別のこと?」
「そう、例えば今日のきれいな景色のこととか!」
 云って、右腕を天蓋へ――靉靆と棚引く雲の隙間に燿う星々を指に示す。
 帷は促される儘に視線を上へ、常闇の世界にも慥かに存在する星燈に鼻梁を向けると、その粋美な輝きは斯くも眩しい、と瞳を細めた。
 餘りの玲瓏に口脣を結んだ儘の帳を視たニールは、少し慌てて言を足して、
「……あ。もしかして余計な心配だった?」
「いいや。そうさせて貰おう」
 蓋し聲は直ぐにも返る。
 星辰の輝きを瞶めていた帷は、視線を鎧の少年に戻すや嫋やかな微笑を注いだ。
「この綺麗な景色と共に、君の優しさに触れた事を思い出すよ」
 ――優しくて、強い、君の事を。
 然れば憂鬱も悪夢も晴れよう、とニールに咲む帷の頭上では、星々がおしゃべりをするように、燦々(きらきら)、煌々(ぴかぴか)と瞬いていた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
浅瀬に尾と靴先浸し
光る砂めいた底なき天蓋を仰げば
ひと粒ひと粒の目映さが感情も思考も奪うよう

視線落とせば己の影となった水面は黒々
映す鏡が濁らぬよう、凝りは沈め
そうして遥かとおく
湖と同じように、届かぬ輝きを見上げる

かの星の光さえ見失わずいれば
底の底まで透き通ったまま駆けられる気がして
――…改めて思えば
滑稽であろうか、な

…だが
遠かろうが、滑稽であろうが
追うと決めた以上は
あの光が光のままで居られるように
添い、支え、護ろう

塩原に駆け出し羽搏き
星空へと大きな螺旋軌道描く
新天地へ向かうかれらの内
気付いた者へだけの、ささやかな祝福を
地の底にあれ
墜ちたものであれ
あの光をしるべに往けるよう
天地の星を眸に焼き付ける



 地底の大空洞を抜け、地上に出る。
 闇昏の泥濘路(ぬかるみ)を歩いた靴は随分と汚れてしまったが、道を拓き、人々を嚮導(みちび)いた証なれば其も誇らしい。
 雪原と見紛う眞白の浅瀬に、竜鱗を纏う尾と靴先を浸したジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は、涼風に誘われる儘に視線を上に、夜空に燦めく星々を仰いだ。
「光る砂めいた、底なき天蓋――」
 紫紺の穹に佇む玲瓏。
 靉靆と棚引く雲の隙間に瞬く燦然に、七彩の眸を結んだ麗人は、ひと粒ひと粒の目映さが感情も思考も奪うようだと佳脣を引き結ぶ。
 蓋し今宵の星は頭上に燿うだけでは無い。
 ジャハルが睫を落とした足許には、地上に降り立った星々が湖面に光を踊らせており、一面の鏡張りが殺伐の荒野に粋美な輝きを広げていた。
「、っ」
 彼が踏むのを躊躇ったのは、己の影が湖面を黒々と翳らせた所為。
 星鏡が濁らぬよう凝りを沈めたジャハルは、何処までも続く塩原の遙か遠くへと佳瞳を滑らせると、視線を地平線の上へ――届かぬ輝きを見上げた。
(「目には視えても、遼遠(とお)い――」)
 蓋し彼の星の光さえ見失わずいれば。
 底の底まで透き通ったまま駆けられる気がして。
 手を伸ばそうかと指先を微動(うごか)したジャハルは、蓋しチリと疾走る疼きを掌に握り込める。
「――……改めて思えば、滑稽であろうか、な」
 薄く開いた佳脣は、零れる吐息に皮肉を連れて。
 唯だジャハルは、光が遠いからと手を拱き、滑稽だからと足を竦ませる男では無い。
 星鏡の塩原に屹立した竜の子は、「だが」と囁くや眸に宿る七彩を淸冽と、
「追うと決めた以上は、あの光が光のままで居られるように、添い、支え、護ろう」
 聢と決意を言葉に變え、竜翼を広げる。
 塩湖に波紋を置いて駆け出した彼は、星空へと羽搏くや大きな螺旋軌道を描いた。
「わんわん! わんわん!」
「父ちゃん、犬ッコが急に空に向かって吼え……ああっ! 竜だ!!」
 其は。砂子の穹を翔る翼は。
 新天地へ向かうかれらの内、気付いた者へだけの――ささやかな祝福。
 地の底にあれ、墜ちたものであれ、あの光をしるべに往けるようにと冷涼の風を集めて飛翔したジャハルは、高く高く、遥か遠くを目指すと、我が眼路を燦然に溢れさす、天地の星を眸に焼き付けるのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オリヴィア・ローゼンタール
他世界のように、満天の星空とはいきませんか

【神聖竜王の召喚】で呼び出した竜王の背に子供たちを乗せ、空の旅へご案内
……戦いではないからといって、そう拗ねないでください、子供に夢を与えるのも王の仕事ですよ

地底と違い、天蓋のない果てしない大空を味わわせてあげる
あれは雲、その隙間で瞬いているのは星といいます
とてもとても遠いところにあるのですが、その輝きは私たちの元へと届いています
夢や希望もまた同じです
手の届かないところにあるように思えても、その光はいつかきっと私たちを包んでくれるのです
諦めなければ、陽の光は必ずこの世界にも……



 靉靆と棚引く雲間に覗く玲瓏――。
 夜の帳の隙間に瞬く星燈は靜かに、淸かに、その光を地上の塩原に届けていた。
「他の世界のように、満天の星空とはいきません、か……」
 涼風に染む優婉のコントラルト。
 聲の主は、オリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)。
 常闇に覆われたダークセイヴァーで、紫紺の天蓋が厚い曇雲を払う時は無かろうとも、一面の鏡張りが星の精彩を増やしてくれようか、と麗眸が湖面を捺擦(なぞ)る。
 而して丹花の脣が王を招聘したのは間もなくのこと。
「天来せよ、輝く翼の竜の王。地の底にあった者に翼を」
 佳聲が唱うは、【神聖竜王の召喚】(サモン・ドラゴン)――鋭利い爪を持つ白き翼竜を喚んだオリヴィアは、彼の背に子供達を乗せ、空の旅へと案内する事にした。
「……戰いではないからといって、そう拗ねないでください」
 血場に在っては幾らでも破壊のブレスを吹いたろうが、子守とは!
 気位の高い竜王はツンと吻を背けたが、畢竟、聖女の頼みは断れない。
「ええ、子供に夢を与えるのも王の仕事ですよ」
 莞爾と咲む麗人には敵わぬか、竜王は順番を守る子供達を何人か乗せると、冷涼の風を力強く叩き、果てしない大空へと飛び立った。
「ひゃぁぁぁああ、すんげー!! ふわふわしたのが浮いてらぁ!」
「地上にはお空の蓋がないんけ? ピカピカしたのは取れるんけ?」
 大空洞を抜けて来た疲れなど一気に吹き飛ぶ爽快感。
 きゃっきゃと喜んだ子供達が、瞳に映る諸々に興味を示せば、皆々を抱き留めた修道女が丁寧に教えてやる。
「あれは雲、その隙間で瞬いているのは星といいます」
「ほし……竜の王様なら取れる?」
 初めて見る燦然に童心が手を伸ばせば、オリヴィアは柔和な咲みを返して。
「とてもとても遠いところにあるのですが、その輝きは私たちの元へと届いています」
「……そっかぁ、遠いんだ」
「夢や希望もまた同じです」
 残念そうに眉尻を下げる無垢に、優しく諭すように言う。
 幼な心にも届くようにと、オリヴィアは一語一音に祈りを込め、丁寧に語った。
「手の届かないところにあるように思えても、その光は私たちを包んでくれるのです」
 いつか、きっと――。
 そう語る彼女の胸奥には、絶望にも抗える夢や希望が煌々と燃えていたろう。
「諦めなければ、陽の光は必ずこの世界にも……」
 必定(きっと)、かならず――。
 雄渾と羽搏く竜の双翼の上で、オリヴィアの聲が凛乎と透徹(すみわた)った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャーロット・クリームアイス
※アドリブ・連携等お任せ

おぉ、これは何とも
ダークセイヴァーの他所ではもちろん、ほかの世界でだってそうそうお目にかかれない絶景じゃあないですか!

写真を撮って、そうですね、絵葉書(ポストカード)でもつくりましょうか?
困難の多い世界だからといって、いえ、だからこそ! 娯楽や風情は重要というモノ
余裕があるから遊ぶのではなく、遊びから余裕が生まれるのです
記念、言い換えれば今日の勝利の証として、現地の皆さんに配りましょう
あ、もちろん、護送の邪魔にならない、終わり際とか休憩中とかに!

いまのうちに印象づけておけば、この世界が落ち着いてきたときに、営業もしやすいですからねぇ
おっと、取らぬうさぎの皮算用でしたか?



 泥濘路(ぬかるみ)を踏み締めながら、大空洞を抜ける。
 つと肌膚を撫でる涼風に花顔を持ち上げたシャーロット・クリームアイス(Gleam Eyes・f26268)は、一面に広がる塩原に感嘆の聲を溢した。
「――おぉ、これは何とも」
 不覚えず佳脣に微咲(えみ)が差す。
 靉靆と棚引く雲の隙間に覗く星の光は晃々煌々、紫紺の天蓋に金銀砂子を敷くと同時、地上の鏡面に極上の玲瓏を映していた。
 シャーロットは唯でさえ大きな瞳を丸々と、爛々とさせて、
「ダークセイヴァーの他所ではもちろん、ほかの世界でだってそうそうお目にかかれない絶景じゃあないですか!」
 噫、そうだとカメラを手にする。
 斯くも稀有(めずら)しい光景は、瞳に焼き付けるのみならず、フィルムに焼き付けるべきだと閃いた少女は、今の感動を切り取るようにパチリとシャッターを切った。
 方向を變えて、画角を變えて。時に人物も入れて。
 彼女が趣向を凝らして写真を撮るのは、多くの人々の瞳に映った光景と感動をカタチとして残したいからだ。
「そうですね、絵葉書(ポストカード)でもつくりましょうか?」
 ネットワーク上でなく、手に触れられるものが佳いだろうと頬笑む。
 人々と共に人類砦に運ばれる物資の中でも、絵葉書は必要不可欠なもので無かろうが、手に取って眺められる感動はそう多くないと、可憐はその重要性を知っていた。
「困難の多い世界だからといって、いえ、だからこそ! 娯楽や風情は重要というモノ。余裕があるから遊ぶのではなく、遊びから余裕が生まれるのです」
 心の豊かさは、必ずしも食で満たされるものでは無い。
 希望を灯に地上に至った彼等にとって、必定(きっと)糧になろうと確信した彼女は、人類砦に到着するまでに人数分を作り、一枚一枚を丁寧に配った。
「こちらは記念、言い換えれば今日の勝利の証として差し上げます」
 カメラの技術も知らねば、其を紙片に収める技術も魔法のよう。
 少女の厚意を受け取った人々は、喫驚するや直ぐに笑顔になった。
「おお、なんと不思議な……先刻の景色が手元で見られるなんて」
「本当、綺麗ねぇ。これなら旅立ちの日をいつでも思い出せるわ」
 ――而して。
 じっと佳景を眺める彼等は、裏側に描かれた鮫マークと文字にいつ気付いたろう。
「こうやって今のうちに印象づけておけば、いずれこの世界が落ち着いてきた時に、営業もしやすいですから――おっと、取らぬうさぎの皮算用でしたか?」
 絵葉書の裏は、謂わば名刺――。
 御入用の時には、我が独自の流通サービス〈サメール〉がきっとお役に立てるだろうと塊麗の微笑を注ぐシャーロットは、中々の商売上手であった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

七那原・望
小休憩、ですね。

きっと、とても美しい光景が広がっているのですね。
地上でもこの光景は珍しいものだと思います。
だから今の内にしっかり目に焼き付けておくといいのです。

その星の光はこの空の遥か彼方から何億年もの時間をかけて届いたものなのです。
本当の空はそれくらい果てしなくて、ステキな場所なのですよ。

【ガーデン・オブ・カルポス】を発動しておいて、欲しい人には果物を渡せるようにしておきましょうか。
お腹を満たすには少し物足りないかもしれないですけど、こういう味を楽しむ、娯楽としての食事もいいでしょう。
彼らにとっては初めての経験でしょうしね。
好きなだけ食べていいのですよ。

静かな歌も【歌いましょうか】



 肩で息をしながら、泥濘路(ぬかるみ)を踏み締める音が聽こえる――。
 大空洞を抜ける地底の人々には疲労が滲むも、人類砦を目指す歩みは斯くも力強いと、優れた聴覚に捉えた七那原・望(封印されし果実・f04836)は、肌を撫でる風の匂いや、重なり合う感嘆の聲に、一行が地上に至った事を知った。
「……きっと、とても美しい光景が広がっているのですね」
 視覚を封印していても、少女には歴々(ありあり)と理解る。
 頭上には靉靆と棚引く雲の隙間に星燈が覗き、その靜謐な瞬きが地上に降り立って天地を輝かせている事も、超感覚を有する望には瞼の裏に映るよう。
 丹花の脣は、語調は大人びつつも、幼さの残る佳聲を滑らせて、
「地上でもこの光景は珍しいものだと思います。ですから、今の内にしっかりと目に焼き付けておくといいのです」
 今日という日に相応しい佳景を。
 希望を胸に故郷を旅立った者達に、星が祝福しているのかもしれないと微咲(えみ)を添えた望は、人類砦に程近い此処を小休憩の地点として、暫し彼等を休ませた。

  †

「お腹を満たすには少し物足りないかもしれないですけど……」
 望がそう断って差出したのは、【望み集いし花園】(ガーデン・オブ・カルポス)――諸有る果物の木が生えた夜明け前の花園より摘み取った林檎や葡萄。
「これは……?」
「こういう味を楽しむ、娯楽としての食事もいいでしょう」
 どうぞ、と白磁の繊手が一人ひとりに丁寧に手渡す。
 太陽の光の届かぬ地底では決して見る事のなかった色付きの果実は、人々を喫驚させると同時、芳醇な馨と瑞々しさで疲れた身体を労った。
「好きなだけ食べていいのですよ」
 どの世界からも隔絶された花園は、実りが摘まれる事が無い。
 恐る恐る伸びる手を労るように果実を渡した望は、彼等にとって初めての体験となった夜空の星についても、食事の合間に分かり易く説明した。
「その星の光は、この空の遥か彼方から何億年もの時間をかけて届いたものなのです」
「空、か……空に蓋が無いなんて信じられないなぁ……」
「本当の空はそれくらい果てしなくて、ステキな場所なのですよ」
 不思議そうに、興味深く紫紺の穹を仰ぐ地底の民たち。
 果実が彼等の舌を慰め、星燈が彼等の目を喜ばせるなら――と思い至った望は、櫻脣を薄く開くや靜かに歌を紡ぎ、聽き入る者の耳を癒した。

 ――今日という日が、砂子と煌く星のように耀きますように。

 美しい旋律が連れる淸澄のソプラノが、星鏡の夜に透徹(すみわた)った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
嵯泉/f05845と

わ、凄え!なーなー、ちょっと見てっても良い?
急いだ方が良いのは分かってるんだけど……
へへ、ありがと!

初めて見た星空もこんな感じだったなあ。湖はなかったけど
牢屋の中って本当に何もなくてさ
こんな景色があるなんてのも知らなくて
だから、色んなものが見てみたいんだ
ん。そーだな
誰かと一緒の方が、ずっと楽しいや

あいつらもそうだと良いな
……私たちからしたら何もない世界だけど、あいつらにとっちゃ凄え場所だし

嵯泉にとってはエンパイアの外かなあ
色んなのあっただろ。UDCアースとか
――そっか
じゃ、色々満喫するのは、今からだな!

今度さ、もっと色々教えてくれよ
昔の話とか
おまえの話なら、何だって楽しいよ


鷲生・嵯泉
ニルズヘッグ(f01811)同道
ほう、確かに此れは凄い景色だな
ああ構わないだろう

そうか……ならばお前がもっと様々なものを見に行けるよう
出来るだけの協力をさせて貰おうか
独りで巡るよりも其の方が……良い、だろう
今は何も無い世界だが、彼等にとっては全てが新しい発見であり
きっと新たに「作り上げて行く」世界になるだろうさ

……私の場合、楽しい話ではなくてな
嘗て総てを喪った後、伽藍洞になった侭
まるで『お前に居場所など無い』とでも云う様に“弾き飛ばされた”
其の後は訳も解からず、死に物狂いで生きて来ただけだったな
そうだな――きっと私も“此れから”なのだろう

話すのは構わんが、楽しいかどうかの保証はしないぞ
そう、か



 地底の大空洞を抜け、地上に出る。
 泥濘を踏み締めながら闇昏の道を進んだニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)と鷲生・嵯泉(烈志・f05845)は、睫毛を擽る幽光に瞼を持ち上げると、眼路いっぱいに広がる絶景に感嘆の聲を溢した。
「わ、凄え!」
「――ほう、確かに此れは凄い景色だな」
 二人の佳瞳に精彩を映すは、淸かな星燈。
 靉靆と棚引く雲の隙間に覗く星の瞬きは煌々と、一面鏡張りの塩湖に玲瓏を降り注ぎ、天地に無数の輝きを揺らめかせている。
 美し光の揺蕩に黄金色の瞳を輝かせたニルズヘッグは、時に、急々(そわそわ)とした様子で嵯泉を見遣った。
「なーなー、ちょっと見てっても良い?」
 急いだ方が良いのは分かってるんだけど、と柳葉の眉を下げて言う盟友の葛藤と昂揚を受け取った嵯泉も難色は示さず、
「ああ構わないだろう。丁度、人類砦に程近い場所で休憩を取るべきと思っていた」
 理由ある休息にて遠慮する事は無い、と言う。
 大局を見ている様でいて、細かな所にも優しさを覗かせる嵯泉を見たニルズヘッグは、芙蓉の顔(かんばせ)を子供の様にくしゃりと崩し、
「――へへ、ありがと!」
 と、満面の咲みを注いだ。

  †

「……初めて見た星空もこんな感じだったなあ。湖はなかったけど」
 星の精彩を映す金瞳を、天に、地に。
 雪原と見紛う眞白の塩原に屈み、透徹の鏡面に繊指を沈めたニルズヘッグが、つんつんと波紋を作りながら言つ。
 星鏡にゆうらりと映る己を見ながら、彼は靜かに言を継いで、
「牢屋の中って本当に何もなくてさ、こんな景色があるなんてのも知らなくて」
 何も知らなかった。
 何も見えなかった。
「だから、色んなものが見てみたいんだ」
 と、佳脣を滑るハイ・バリトンこそ大人びているものの、光を湛える眸は童心に溢れ、好奇心と冒険心で絢粲(キラキラ)と耀いている。
 そんな彼の無垢に触れた嵯泉は、「そうか」と穩やかに口を開いて、
「ならばお前が様々なものを見に行けるよう、出来るだけの協力をさせて貰おうか」
 星の数ほど世界は在ろう。
 闇の帳に隠された向こうにも光がある様に、まだ見ぬ世界は沢山ある。
 赫緋の隻眼を紫紺の穹へと繋いだ嵯泉はそれから、そっと言を足した。
「独りで巡るよりも其の方が……良い、だろう」
 助力は惜しまない、と云う嵯泉は夜空を仰いだ儘。
 塩原に屈みつつ彼の聲を聽いていたニルズヘッグは、この科白に佳顔を持ち上げると、屈託の無い微咲(えみ)を注いだ。
「ん。そーだな。誰かと一緒の方が、ずっと楽しいや」
 独りよりずっと佳い。
 孤独を知り、仲間に囲まれる倖福を知ったからこその科白が端整の脣を滑った時、更に彼は視線を周囲へ――星燈に結ばれる地底の人々を見渡した。
「あいつらもそうだと良いな」
「……地底の民か。未踏の地によく来てくれた」
「ああ、私たちからしたら何もない世界だけど、あいつらにとっちゃ凄え場所だし」
 大空洞と違い、此処には「蓋」も「涯」も無い。
 温かな太陽の光も遠く、満腹に食べられる世界でも無いが、絶望の淵から遁れて来た者にとっては、雲間に覗く星の光さえ希望の象徴に映った。
 ニルズヘッグの言に首肯を置いた嵯泉も、ここに視線を揃え、
「――今は何も無い世界だが、彼等には瞳に映る全てが新しい発見であり、きっと新たに『作り上げて行く』世界になるだろうさ」
「世界を、作り上げていく――」
 冒険者か開拓者か、とまれ支配に抗った者達は自由だ。
 超常の異能こそ持たぬ彼等だが、その生き方は猟兵と同じく世界に選ばれたのだろうと――解放された人々を見守る二人の星眸(まなざし)は、凪の様に穩やかだった。
 而して二人は、星燈に佇む人々を眺めながら言を交し、
「嵯泉にとってはエンパイアの外かなあ。色んなのあっただろ。UDCアースとか」
「……私の場合、楽しい話ではなくてな」
 漆黒の革手袋に包まれた手が、不覚えず懐に煙草を探す。
 間もなく火を寄せた嵯泉は、紫煙の燻りに記憶を辿って、
「嘗て総てを喪った後、伽藍洞になった侭、まるで『お前に居場所など無い』とでも云う様に“彈き飛ばされた”――。其の後は訳も理解らず、死に物狂いで生きて来ただけだったな」
 こんな時、ニルズヘッグの口調は救恤(すくい)になる。
「――そっか。じゃ、色々満喫するのは、今からだな!」
「……そうだな。きっと私も“此れから”なのだろう」
 今から、これから。
 互いに新しい世界を歩んでいくと思えば、「生きる」と決めた脚も重くない。
 竜の子に成る丈の協力を為ようと約束したものの、傍らに佇むニルズヘッグこそ己の心に翼を呉れるとは、続く会話からも実感して、
「今度さ、もっと色々教えてくれよ。昔の話とか」
「……話すのは構わんが、楽しいかどうかの保証はしないぞ」
「おまえの話なら、何だって楽しいよ」
 間隙無く言葉を呉れる。
 然れば、いつの間にか彼の黄金の彩に真赭の麗瞳を結んでいた嵯泉は時を止めて、
「そう、か」
 偶には饒舌になろうかと、幽かな微笑を滲ませていた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
追っ手や周囲への警戒に、後方へついておりましょうかと。
音、気配…追跡者ならば蟲の一つだろうと注意しつつ。
地底と言うのに違和感である程の都市でしたが、
外に出れば閉塞感は和らぐ、様な…

夜と闇。
天も地も果ても無く、無数の星が瞬く――

ずっと己が裡に在った景色と似ている。
壊した無数の命〈ほし〉の聲など気にも留めず。
只、独り。
目指す宛も寄る辺も涯ても無く、
往く旅路の名は…罰、と云うらしい。

人々が休む間も気は抜かず。
只、物思うは少しだけ。
きっと、この光景は『美しいのだろう』。
例えば『命は尊い』等と云われる様に。
己には、解らないけど。

嗚呼、でも。
これを「綺麗」だと言ってくれそうなひとに、
見せたくはあった、かも



 地底にあっては追手を警戒し、地上に出れば魔獣に戒心を怠らず。
 泥濘を進む一行の後方で、宵色の麗眸を炯々と光らせていたクロト・ラトキエ(TTX・f00472)は、隊の前方には影の追跡者(シャドウチェイサー)を据え、進路の安全を確保していた。
「音、匂い、気配……蟲の一つだろうと逃さない」
 闇昏に潜む黒影と五感を共有し、邪の気配を探る。
 人々を守りながら戰う余力は無し、会敵すれば直ぐに避難をと身構えていたクロトは、肌膚を撫でる風の冷たさに麗顔を持ち上げると、その双眸に星の精彩を映した。
「……抜けましたか」
 見れば、紫紺の穹に砂子と耀く星燈。
 足元には塩原が広がり、一面の鏡張りに星の煌めきを映していた。
「先刻は地底と言うには違和感を覚える程の都市でしたが、地上に出たなら多少は閉塞感も和らぐ、様な……」
 どこまでも続く空、靉靆と棚引く雲の隙間に覗く玲瓏。
 この世界では満天の星空とはいかずとも、見上げる空に鏤められた燈光(あかり)は、初めて地上を訪れた人々に言い様のない感動を與えた。
 ――而してクロトは。
 天も地も果ても無く、無数の光が瞬く星鏡の世界を見渡した麗人は、目下、其処に在る闇昏を暫し黙して眺めていた。
「――――」
 ずっと己が裡に在った景色と似ている、と丹花の脣は結ばれた儘。
 クロトは闇夜に瞬く星に何をか重ねたか、
(「壊した無数の命〈ほし〉の聲など気にも留めず、只、独り――」)
 何より生還を得手としてきた雇われ兵が背負う過去は。
 思う侭に現在を生きる筈の男は、未だ邪血が残滓(のこ)る脣に何を囁こう。
「目指す宛も寄る辺も涯ても無く、往く旅路の名は……罰、と云うらしい」
 人々が休む間も気は抜かず。
 只、些少(わずか)に物思う。
「…………きっと」
 きっと、この光景は『美しいのだろう』。
 譬えば、『命は尊い』等と云われる様に。
 己には、解らないけど――と麗眸を縁取る長い睫毛をそっと伏せた彼は、足元に敷いた星燈を眩しそうに瞶めて、
(「――嗚呼、でも」)

 これを「綺麗」だと言ってくれそうなひとに、見せたくはあった、かも――。

「――――なんて」
 随分と稀有(めずらし)い表情をしていると、星鏡に映す己に幽かに囁いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

水衛・巽
無事敵部隊を退けることができ幸いでした
あとは砦までの護送のみ
警戒を解くわけではありませんが
多少星を眺めるくらいの余裕はあるようで

そういえば小さな子供もいるのでしたか
折角ですし雑鬼にも一肌脱いでもらいましょう
あまり見た目がよろしくないものは遠慮してもらい
他愛のない化術でも見せて楽しませてあげて下さい

本来、闇は安息や静謐を象徴するものであり
決して禍々しいだけのものではないのですが
それも明るい昼があってこそのもの

この世界の人々が闇を恐怖や圧政の象徴としてではなく
本来の意味で捉えられるようになるのはいつでしょうね



 敵の大軍勢を退け、無事に人々を解放する事が出来た。
 追手を寄越し得る他勢力には牽制を敷いたし、後は人類砦に送り届けるのみ――。
 泥濘路(ぬかるみ)を進む地底の人々を守りながら、常に警戒を怠らず大空洞を抜けた水衛・巽(鬼祓・f01428)は、白皙を撫でる涼風に結ばれたように夜空を仰いだ。
「……着きましたか」
 目下、透徹の藍瞳が星の精彩を映す。
 眼路いっぱいに広がる塩原は一面を鏡張りに、夜穹に燿う星燈を湖面に映して、天地に玲瓏を瞬かせていた。
「――多少、星を眺めるくらいの余裕はあるようですね」
 而して巽は絶景を眺むより、人々の表情の變化や周囲の様子をよく捉えている。
 未踏の地に至った彼等は、肩で息をしつつも蓋なき空の星燈に希望の灯を見ていたし、人類砦に程近い塩原は生命の姿もなければ、襲い掛かる魔獣の気配もない。
 今が頃合いかと息を置いた巽は、初めて見る地上の佳景に足を留める人々に、小休憩を提案していた。

  †

「小さな子供達もよく頑張りましたから、雑鬼達にも一肌脱いでもらいましょう」
 常に太刀の柄周りに添えていた繊指が印を結ぶ。
 佳脣を滑る言霊に寄せられるは、急急如律令――【雑鬼召喚・群】。
 ひとたび巽が命じるや、靉靆と漂流う雲や霞が形を成し、戰闘能力の無い小さな妖怪が塩原の湖面に姿を映した。
「扨て、楽しげな化術でも見せてもらいましょうか」
 疲れた子供たちも必定(きっと)喜ぶと言えば、応援や化術が得意な魑魅魍魎は勇んで塩原を征かんとするが、中には巽に引き留められる者も居て。
「あまり見た目がよろしくないものは遠慮してもらいます」
『……!!』
 これに眸を潤ませた妖怪は、「ならば」と空中一回転、鳴り物に化けるや仲間に彈いてもらいつつ、子供達の輪に入っていった。
 其を見送った巽は、漸う笑声の出始めた人集りの頭上に広がる夜空を仰いで、
「――本来、闇は安息や静謐を象徴するものであり、決して禍々しいだけのものではないのですが、それも明るい昼があってこそのもの」
 昏きは悪しきに非ず。
 陰陽の理を識る彼は、闇の役儀をよく心得ていたが、其も光あってこそのもの、と――常闇に覆われて久しい世界を眺める。
 端整の脣は靜かに言を継いで、
「……この世界の人々が、闇を恐怖や圧政の象徴としてではなく、本来の意味で捉えられるようになるのはいつでしょうね」
 と、透徹(すみわた)る空気に優艶のテノール・バリトンを染ませた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月08日


挿絵イラスト