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星墜鏡のエレジア

#ダークセイヴァー #辺境伯の紋章 #番犬の紋章 #地底都市

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●星墜ちし
 キラキラと輝く明りが天を埋め尽くす。
 夜に包まれた世界だが、この地底でも同じように夜だけが存在していた。
 煌めく光は青白く灯り。
 星の息吹のように瞬き世界を照らす。
 光が落ちる水面は凪ぐように静かで、まるで磨き上げられた鏡のように空を映す。
 天と地と。
 ふたつの星空に包まれた世界には――ほら、願い星の欠片が落ちた。

●届かぬ願い星
 ダークセイヴァーは、今も尚オブリビオンであるヴァンパイア達に支配されている。
 けれどその情勢は、猟兵達の活躍により徐々にではあるが確かに変わってきていた。『辺境伯の紋章』の捕獲も、その成果の一つだ。
「ダークセイヴァーには、隠された地底都市があるみたいなんです。そこには、地上との交流を絶たれながらも生活している人々がいます」
 捕獲の結果、得られた情報をラナ・スピラエア(苺色の魔法・f06644)は言葉として紡いでいく。ダークセイヴァーの今の状況は、やはり平和とは縁遠いもの。地上から隔絶されていた地底都市も、それは同じようだ。むしろ隷属を絶対とされるこの地底都市は、地上よりも悲惨な場であるかもしれない。
「だから、皆さんには彼等をヴァンパイアの脅威から救い出して。地上へと導いて来て欲しいんです」
 悲しげに伏せた苺色の瞳を上げると、ラナは真っ直ぐに猟兵達を見遣り言葉を零す。
 彼等の中には、地上と云う存在を知らない者たちもいる。
 地に上がり、ヴァンパイアの支配が及ばぬ人類砦へと向かうことはとても勇気がいることだろう。けれども、地底都市に閉じこもっているよりは、ずっとずっと明るい未来が待っているだろうから。
 だから、勇気づけて導いて欲しいとラナは語った。

 地底都市の入り口は、大きな洞窟の奥になる。段々と地に潜っていくかたちなので、最奥が地底にまで到達しているとはなかなか気付きにくいだろう。
 逆に言えば、そこまで苦労せずに到達することは可能だと云うこと。けれど、吸血鬼に支配されているこの地で、簡単に物事は進まない。
「地底都市の入り口には、門番がいるんです。しかも、かなり強力みたいで」
 一撃で数多の人々や敵を葬ることが出来る程だという。普通に戦ったのでは、猟兵と云えど太刀打ちできないだろう。――けれど、その強さにも秘密がある。
「その敵には、どうやら『番犬の紋章』と云う寄生虫型のオブリビオンが付いているみたいなんです。強力なのは、その紋章の力みたいなので」
 その寄生虫型のオブリビオンを優先して叩けば、その後は難なく門番を倒すことが出来る。紋章は右肩辺りに、ぼんやりと赤黒く光っている。大人の拳分くらいの大きさはあるので、狙うことは十分可能だろう。
 敵は人間はただの煩わしい害虫程度に思っている故に、力を用いることに戸惑いは無い。性格としてはかなりの面倒くさがり屋なようで、門番の仕事自体は近付いて来たものを片っ端から殺している程度の仕事ぶりのようだ。
 紋章を持つ敵を倒した後は、そのまま地底都市へと侵入することになる。そこには地上と変わらない夜の世界が広がっており、荒れ果ててはいるけれど住居と人々。そして数多のオブリビオンが居るだろう。
 敵はぬいぐるみのような愛らしい姿をしている。けれどその見目に反して、狡猾さと残忍さを持った立派なオブリビオン。彼等は猟兵の姿を見れば、一斉に襲い掛かってくる。
 特に怖いのは悪夢を見せる霧だろうが、紋章を持たない彼等は猟兵達ならばあまり苦労せずに倒すことは可能だろう。
 厄介なのは一般人を守りながらの戦いとなること。絶望に染まり切った瞳と、苦痛に歪んだ表情が大好物だと云う彼等は何をするか分からないので、その辺りを重視した立ち回りをする必要がある。

「無事に敵が倒せたら、少しの平和が訪れます。折角だから地底都市を楽しんで下さい」
 この地底都市には、本物の空は無いが不思議な魔法のガスにより本物の星空のように天井が見えるようだ。暗闇の中、流れる雲のようなもやに、瞬く星々のような煌めき。それは、この世界の本物の夜空よりも美しい景色かもしれない。
 地底から溢れた水はどこまでも澄み、湖のように広がる。天に瞬く星々を鏡のように映したその湖は、まるで夜空が地上に現れたかのように美しく、地底とは思えぬほど幻想的な景色が見られる。
 地底水に満たされたその場は、冷たさを感じるが。まだギリギリ素足で踏み込むことは出来るだろう。闇故にその深さは分からないが、そこまで奥に行かなければ浅いところで星にその身を委ねることが出来るはずだ。
「見るだけでも素敵な湖なんですけど、ここには星の欠片が落ちてくるそうなんです」
 ――それは、この湖が『星が落ちた湖』と呼ばれる由縁。
 天井から煌めきが落ち、小さな水音を立てる。その辺りを探せば仄かに灯る星型の小さな石が見つかるだろう。
「人々はささやかな願い事をこの星に託していたみたいんなんですけど……ヴァンパイアに支配されてからは、この湖に近付くことは禁止されていたみたいで」
 だからこそ、今宵は特別な一夜となるだろう。
 人々も、そして猟兵も。湖に眠る星の欠片を手にして、どのようなことを願おうか?
 この地に訪れる平穏は、僅かの間。すぐに別のヴァンパイアが現れ、この平穏を壊してしまうだろう。だからこそ、この一時を大切にし――彼等を、平穏な場へと導いて欲しいとラナは祈るように猟兵達へと声を掛ける。
「少し説明が長くなりましたね。……皆さん、お気を付けて行って来て下さい」
 一瞬伏せた瞳を上げると、ラナは柔らかな笑みと共に猟兵達を送り出す。

 彼の空は彼等にはどのように映っているのだろう?
 本物では無い天と地の星空。
 けれどその煌めきに願いを託したいという想いは、同じ輝きを宿している。


公塚杏
 こんにちは、公塚杏(きみづか・あんず)です。
 『ダークセイヴァー』でのお話をお届け致します。

●シナリオの流れ
 ・1章 ボス戦(『愁魔』メルスィン・ヘレル)
 ・2章 集団戦(ワイリー男爵)
 ・3章 日常(星鏡の夜)

●1章について
 敵は『番犬の紋章』という寄生虫型のオブリビオンを身体に宿し強化しています。
 紋章に対する攻撃以外はろくにダメージを与えられません。
 どのように狙うかを重視して頂けると、描写がしやすくなります。
 技能を記載する場合は、込める意志や詳細な方法をご記載ください。ただの羅列では判定致しません。

●2章について
 場所は地底都市の中。
 星の瞬く夜の下の、住居や一般人が居る中の戦闘です。
 敵は猟兵を優先して狙いますが、必要ならば一般人を殺めることに躊躇はしません。
 どのように守り、戦うか。その辺りを重視して頂けると描写しやすいです。

 また、WIZで攻撃した場合のみ『悪夢を見せる黒い霧』を放ちます。どのような悪夢に、どのように立ち向かうのかを考えて頂ければ。

●3章について
 『星が落ちた湖』と呼ばれる湖。
 空は満天の星空模様。星空を映した湖の水面も、まるで星空のように輝いています。
 地底都市なので本物の星空ではありませんが、魔法のガスによりほぼ本物と変わりません。
 水位は人々のくるぶし位までの位置が入れる範囲です。それ以降は深くなるので禁止です。
 星の欠片と呼ばれる、星の形をした淡黄に輝く小さな石が眠っています。この地の人々はささやかな願い事を欠片に託しています。

 どのように過ごすかはご自由に。
 住人に声を掛けることは必須ではありません。
 先の戦いで。楽しむ皆様の姿で。十分彼等は興味を抱くでしょう。

●その他
 ・全体的に心情重視での描写予定です。
 ・同伴者がいる場合、プレイング内に【お相手の名前とID】を。グループの場合は【グループ名】をそれぞれお書きください。記載無い場合ご一緒出来ない可能性があります。
 ・途中からの参加も大丈夫です。
 ・1章と2章は4~10名様の少人数を想定しております。
 ・3章は多めに採用出来ると思いますので、3章だけのご参加はお気軽にどうぞ。
 ・受付や締め切り等の連絡は、マスターページにて随時行います。受付前に頂きましたプレイングは、基本的にはお返しさせて頂きますのでご注意下さい。

 以上。
 皆様のご参加、心よりお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『『愁魔』メルスィン・ヘレル』

POW   :    はあ面倒……害虫が視界に入ったら潰すしかないもの
単純で重い【『悪魔の脚』による上空からの踏みつけ】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    しっしっ……寄らないでよ汚いなあ、消えて?
【自在に伸縮し鞭のように撓る『悪魔の尻尾』】が命中した対象を切断する。
WIZ   :    殺した後に汚れを落とすのが一番面倒なんだよね……
【飛翔し、一瞬で敵に接近して『悪魔の爪』】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はピオネルスカヤ・リャザノフです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●怠惰の門番
 深い深い闇への入口へ――。

 長い長い洞窟を歩き続けて、どれ程の時間が経っただろう。
 天井や壁には光る苔が生えている為、明かりには困らない。けれどゴツゴツとした石に囲まれた景色は変わること無く、歩み続ければ時間の感覚など忘れてしまう。
 道行は下り坂のようで確かに下がっている。けれどそれは普通に歩けるほどの緩やかなもので、どれ程下っているのかは全く分からない。途中昇っていても、傾斜が強くなっていたとしても、分からないようになっているのは意図的だろうか。
 カツリと響く足音が、洞窟内に響き渡る。
 時間の感覚も、地上との距離感も分からなくなってきた時。
『……何? あんたたち』
 闇の奥から聞こえてくる声があった。
 人影の中、歩みよれば光苔により照らされるのは人型の少女。
『来客なんて珍しい。はあ……、門番とのしての仕事をしないとじゃない』
 面倒くさいなあ。そんな言葉をぶつぶつと、隠すことなく少女は零す。
 細身の身体ながら筋肉はしっかりと付いている彼女の脚と腕には、古の大悪魔の血を引く証であるように人とは遠い存在。背に携えた翼に、額から伸びる角もまた彼女がヴァンパイアなのだということを証明していた。
 そんな彼女の細い右肩には――確かに灯る、紋章が宿されている。
 少女は大きな岩に腰掛けたまま、気だるげに瞳を伏せ重い重い溜息を零す。
 殺気など感じない、少女の姿。
 けれど油断すること無かれ。彼女にとって人間などただの害虫。脅威でも無ければ殺すことに躊躇などしない存在。だから敢えて殺気を出す必要も無いのだ。
 そんな思考を基に、寄生により更なる力を得た彼女からの攻撃は――例え歴戦の猟兵であろうと、耐え続けることは困難だろう。
 彼女を倒すには、強化の素であるそのオブリビオンである紋章を狙うしかない。

 ぽうっと灯る、右肩の紋章。
 それはまるで猟兵達を嘲笑うかのようだった。
宵雛花・十雉
【双月】
ユェーは父親のような存在

深い闇の向こうには何があるのだろう
得体が知れないからこそ惹かれてもいて
つい闇の中に溶けてしまいたくなるのを、繋がれた手が引き止める

ありがと
でも転んでもユェーが助けてくれるんでしょ?

大丈夫、戦えるよ
足手まといにはなりたくないし…
そのせいでユェーが怪我したら、嫌だもん

『第六感』で察知した攻撃を回避して
狙うは彼女の右肩の紋章、忌々しき寄生虫
【厄祓い】で紋章だけを攻撃してあげる
ふふ、オレたちとアンタ、害虫はどっちかな?
悪い虫は祓わないと、ね

ユェーの攻撃はオレほど優しくないから、覚悟してね
ああ、真っ赤な華がすごく綺麗だ
いつまでも見ていられないのが残念だけど


朧・ユェー
【双月】

十雉くん足元に気をつけてくださいねぇ
深い深い闇
ふらりと何処かへ行きそうな君
君が囚われない様にと離れず手を握る

どうやら彼女が門番の様ですねぇ
相手がヴァンパイアという事は気にする事無い
僕達を邪魔する敵かそうじゃないかだけ
十雉くん大丈夫かい?
えぇ、十雉くんが怪我しないようにね

彼の攻撃は何処か優しく救える様な攻撃だねぇ

どうやらあの右肩の紋章を先にどうにかしないといけないみたいですねぇ

だったらそれを喰らい尽くせばいい
貴女の真実はどこだい?
嘘喰
本体の身体の中に棲まうオブリビオンの姿だけ察知し死の紋様と変え、それのみを喰華達が喰らい尽くす

嗚呼、紅が美しい
でも君を紅くには染めれない




 深い深い闇が全てを覆う夜の世界。
 その中に存在する地底都市は、外を知らぬ狭い空間で――。
(「深い闇の向こうには何があるのだろう」)
 目元が染まる細長い瞳を細めながら、宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)は静かに心に想う。闇とは、全てを包み隠してしまうもの。未知で得体の知れぬからこそ、惹かれてしまうのだと彼は想うが。
「十雉くん足元に気をつけてくださいねぇ」
 傍らで言葉と共に手に触れた熱に、十雉は現実へと戻される。よく知った声色と、よく知った体温。――その先へと視線を移せば、仄かな光苔に照らされた傍に朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)が金色の瞳を細め微笑んでいた。
 光苔の光がふわふわと舞い落ちれば、ユェーの白銀の髪が煌めく。
 その輝きに目を奪われたように十雉は息を深く吸うけれど――彼の浮かべた笑みと言葉に応えるように、触れた熱を返すように握る。
「ありがと。でも転んでもユェーが助けてくれるんでしょ?」
 ――そう、それは闇の中に溶けてしまいたくなるのを、この繋がれた手が引き留めてくれたように。彼が紡ぐ言葉には更なる笑みを返して、ユェーは静かに頷く。
 ふらりと何処かへ行ってしまいそうだと、思ったから。離れないように、囚われないようにとこの手を繋いだのだ。
 ちらちらと散る光粒を払うように片手を振り、靴音を響かせて歩んだ先には――岩に腰掛けた少女が、退屈そうに欠伸を零していた。
「どうやら彼女が門番の様ですねぇ」
 真剣さが感じない彼女の様子に、微かに眼鏡の奥の瞳を細めユェーは紡ぐ。
 彼自身も、この地に根深いダンピールである。けれど、相手が縁深いヴァンパイアと云う存在であることを、気にすることは無い。
 彼の中では、ユェー達を邪魔する敵か、そうでないかの二択だけ。
「十雉くん大丈夫かい?」
「大丈夫、戦えるよ」
 長身の自分よりも更に高い傍らの彼へと視線をやれば、こくりと頷く姿が見えた。
 足手まといにはなりたくない、自身のせいでユェーが怪我をしたら嫌だと。想う気持ちは心からのもので――だからこそ、十雉は覚悟を決めたように唇を結ぶ。
 研ぎ澄まされる感覚。洞窟という限られた空間の中、全ての息吹を感じる気がする。
『面倒くさいなあ……』
 ふたりの姿を捉えると、敵は溜息と欠伸が混じったような息を零すと――そのまま、背の翼を用い天へと昇る。距離が離れても、彼女の右肩に宿る印はしっかりと見えて。
 すうっと十雉は狙いを定めるように瞳を細めると、そのまま息を吐きながら凛の花を振るい衝撃波を生み出す。
 狙うは、彼女の右肩の紋章。忌々しき寄生虫。
 風を起こし、宙を浮かぶ彼女を真っ直ぐに捉えたその波は――肉体への傷では無く、敵である彼女の厄だけを落とす。技に更なる力を込めて、宿る力を払うように。
「ふふ、オレたちとアンタ、害虫はどっちかな?」
 悪い虫は祓わないと。真っ直ぐに敵を見据え、傷をつけずに戦う十雉を見て。ユェーの口許には自然と笑みが浮かんでいた。
(「彼の攻撃は何処か優しく救える様な攻撃だねぇ」)
 それが十雉らしくて、すぐ傍でこうして戦えることがどこか嬉しくなる。
 そのままユェーは視線を十雉から、敵である少女へと移す。彼女は右肩の異変に気付いたのか、肩を押さえている。――そのまま羽ばたくと一気に降下して、十雉の身体へと力強く襲い掛かる。
 狙うは、その細い肩の紋章。
 それならばどうするのか。
 ――だったらそれを喰らい尽くせばいい。
 キラリと光苔に当たり、眼鏡が光った。そのままユェーは手をかざすと、地を破壊したところで十雉に襲い掛かる少女へとひとつ言葉を零す。
「貴女の真実はどこだい?」
 紡ぐ言葉と同時に、少女の白い身体に浮かび上がるのは死の文様。そのまま全身に広がっていけば、無数の喰華がその身を喰らい――少女は強くなる痛みを抑えるように、悲鳴を堪えながらぎゅうっと右肩を強く押さえつける。
「ユェーの攻撃はオレほど優しくないから、覚悟してね」
 苦しむ彼女を見遣りながら、十雉はどこか冷静に言葉を零す。
 歪んだ動きで翼を揺らし、帯びた熱を逃そうとするかのように暴れる少女。そんな彼女の右肩に咲くは、美しき紅の華。
 ――ああ、真っ赤な華がすごく綺麗だ。
 瞳を細め、溜息混じりに十雉の口から零れた言葉。
 それは微かなものだったけれど、ユェーの耳にはしっかり届いていた。
 ――闇に咲くは、紅くには染められない美しき華。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ソラスティベル・グラスラン
なんだか、やる気の無い悪魔さんですねえ
もっと元気よくいきましょうよ!『勇者』としても滾るというものですッ!

此処に誓うは不退転の意思
魔を討つ勇気ある者たれ!これがわたしの【勇者理論】!!(防御重視)
【怪力】を籠めて盾を構え、【怪力・見切り】
力尽くと熟達の盾技で受け流す

地形破壊を竜の翼で飛び避け、
擦れ違いざまに彼女の右肩へ大斧の一撃を

恐ろしい力を前にしても、常に【勇気】を胸に前へ前へ
逆押し返すように、ぴったり正面から接近戦
常に狙うのは『右肩』、時に大斧や盾で、時に拳で殴りつけ

消えず、潰れず、面倒
それを成すは即ち、勇気、気合、根性!
あらゆる手で、泥臭くも必ず勝利を手にする、それが『勇者』です!




 光苔が世界を淡く照らす中。岩に腰掛けた少女は、重い重い溜息を零しながら自身の持つ鋭い爪を抱く指先で頭を掻く。
「なんだか、やる気の無い悪魔さんですねえ」
 猟兵達を前にしても、臨戦態勢どころか立ち上がりもしないその様子を見て。ソラスティベル・グラスラン(暁と空の勇者・f05892)は青空のような大きな瞳をぱちぱちと瞬きながら言葉を零した。
 そのまま彼女はしっかりと前を見据え、気だるげな少女を瞳に映すと。
「もっと元気よくいきましょうよ!」
 『勇者』としても滾るというものですッ! と、強く語る彼女はどこまでも真っ直ぐで。夜しかないこの世界では眩しいほど。
『なあに? 暑苦しい……』
 それでも少女は気だるげで、ひたすらに面倒くさいと云う気持ちを隠さずにいる。
 けれどソラスティベルは引くことなく、そのまま武器を構える。――そう、だってソラスティベルに向けられる眼差しは。気だるさの中に確かな殺意が滲んでいるから。
 口元に笑みを浮かべる彼女の心に宿るのは、不退転の意志。
 魔を討つ勇気ある者たれ。――それが、彼女の勇者理論。
 強き心を柱として、彼女は守りを固めるとそのまま手にした盾を構え敵との距離を詰めた。ひらりと流れる太陽のような長い髪。背に携えた翼が音を立て、斧を握り直す。
『ちっ、仕方が無いなあ』
 場が戦場へと移り変わり、少女も仕方無しと言わんばかりに自身も背の翼を羽ばたかせると――ソラスティベルより高くへと飛び上がり、そのまま勢いよく急降下した。
 細身の少女とは思えぬ重さが、ソラスティベルの身を襲う。歯を食いしばり、ぎりぎりとその重さに盾で耐えれば地面が崩れていく。そのまま彼女は渾身の力で盾を振るい、敵の身を振り解くとそのまま手にしていた大斧で敵の細い肩へと刃を向ける。
 伝う鮮血。
 けれど肩の灯る紋章は消えること無く、まだまだ敵に力を与える寄生虫は健在だと云うことが分かる。だからソラスティベルは油断すること無く、斧を構え様子を伺う。
 先程受けた一撃は、確かに重いものだった。
 けれど彼女は怯むことなく、勇気を胸にひたすらに前へと駆けて行く。
 敵がその身を振るえば上手く受け流し。
 大斧で、盾で、拳で――僅かな隙も逃さずにソラスティベルは敵の紋章を狙い討つ。相手は怠惰ながらも戦闘となれば俊敏で、確かな力を持っていることが分かる。
 消えず、潰れず、面倒。
 それを成すのはすなわち、勇気、気合、根性――そう想うから。
「あらゆる手で、泥臭くも必ず勝利を手にする、それが『勇者』です!」
 自身を奮い立たせるかのように、彼女は高らかにそう語った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

イヴン・バーガンディ
故郷の世界
過去にトラウマはあれど、苦しむ人々のことを思い
…猟兵の自分にできることをしたい、と

腹立たしい相手だが、感情を乱されないように一撃に集中したい
情けなどない、全力だ

装備は銃と鉄魂剣

紋章の位置を確認
紋章が見える距離を確保して戦う

敵の動きに注意を払う
上空に飛行したら攻撃態勢に入ったと見ていつでも避けられるようにしておく

相手の脚の一撃が地に接触し、動きが一瞬止まったように見えた時、ユーベルコードを使用
紋章を狙い引き金を引く

一発でも当てられれば、そこから炎で浸食できると期待
隙やチャンスを逃さずに外れても何度も挑戦

うまくいけばそれ以降は、大剣で紋章を狙う。

「世界を破滅に導く害虫…それはおまえだ。」




 此処は、故郷の世界。
 イヴン・バーガンディ(ダンピールのブレイズキャリバー・f29503)の胸に宿る苦しみは、過去に抱いたトラウマの記憶。けれど今も尚苦しむ人々が居ると思えば、猟兵となった自分の出来ることをしたいと、強く想い今此の地の土を踏みしめる。
 目の前には、やる気の感じられない敵。
 右肩に灯る紋章は彼女の力の源なのだろう。その位置を確認し、狙うように赤い瞳を細めると――彼は頷き、剣を構える。
『はあ? 戦う気なの?』
 面倒くさいと、繰り返すように紡がれ言葉。そのやる気の感じられない姿を見れば、イヴンの心には腹立たしさが湧き上がってくる。
 けれど、感情を乱されないようにと呼吸を整えて。戦闘に集中しようと彼は想う。
(「情けなどない、全力だ」)
 きゅっと唇を結び、余裕げに目の前で石に座りぶらぶらと足を揺らす少女を見つめ心に想う。そのまま重たげな剣を難なく振るうと、彼は敵の元へと駆け出した。
 振るわれる剣。勿論敵も黙って傷を受けるわけはなく、素早くその場から跳ねると背の翼を羽ばたかせる。
 ガキン、と。刃が岩に当たる音が洞窟内に響き渡る。
 同時に耳に届くのは、羽ばたきの音。高い宙へと飛ぶ彼女は、尚も欠伸をひとつ零し危機感や真剣さを感じない。その様子がまたも一瞬だけイヴンの心をざわつかせたが――こうして上空にいるということは、攻撃態勢だと云うことに気付き彼は構える。
 いつ、どのような攻撃が来ても――。
 構えるふたつの影。
 じっと見つめ合い、お互いの出方を伺っていれば――ぴちょんと落ちた水音を合図にするように、敵はイヴン目掛けて降りてくる。
 キラリと輝く鋭い爪。その爪を受け止める為に剣では無く、イヴンは銃を手に取ると引き金を引く。音と共に放たれた弾丸は、宙を飛びながら燃える炎のナイフへと変形した。
 その切っ先が狙うは、輝く紋章。敵の弱点。
 けれどどこかしらに当たれば、炎で浸食出来るだろうとの期待も込めて――すっと切っ先に合わせ赤い軌跡が描かれる。追い打ちを掛けるように、イヴンは大剣を手に。
「世界を破滅に導く害虫……それはおまえだ」
 前へと出て剣を振りかざしながら、静かにそう語った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
【双星】
アドリブ◎

吸血鬼の支配がない場所なら
今よりずっと快適だろうよ
絶対、連れてってやろうぜアレス

まずは門番をぶっ飛ばす…けど
アレスがいるとはいえ、ちまちまやって消耗戦じゃまぁ不利だろうな
そんなら、俺は剣らしく
一撃ででかいのをキメてやるよ

アレスが作る隙を逃さないように
こちらを警戒されないように
最低限の回避をしつつアレスを支援する…ふりをする
いやまぁちゃんと歌で鼓舞はするけれど
本命はこっちだ
靴に風の属性の魔力を送りいつでも駆け出せるように
同時に【青星の盟約】
攻撃力を最大に
力を溜めて、全力の魔法を剣に乗せる
あとは瞬間を見極めて
アレスが受けたその瞬間
一番無防備な、攻撃の最中を狙って
最大の一撃を穿つ!


アレクシス・ミラ
【双星】
アドリブ歓迎

ああ。…地上にも光が、希望が増えつつある
地底の闇から、僕達が導こう。セリオス

確実に門番の紋章を狙うなら、僕が盾として前に出よう
セリオス、任せたよ

悪いが、そこを通してもらうよ
敵の意識を僕へと引き付けるように先制攻撃の光の衝撃波を放ち、存在を示す
此方に意識が向けば、脚鎧に光属性の魔力を充填
疾って一気に距離を詰め、剣で斬りかかろう
僕を鼓舞するセリオスへ意識が向かう隙など与えないくらいに!
そして、上空からの攻撃の予兆を見切れば
全てを受け止める覚悟で盾を構え【無敵城塞】発動
ーー潰される訳には、行かないんでね
狙うは受け止めてる間の一瞬の隙
それを突くのは僕では無い
紋章ごと穿て、セリオス!




 深い深い地下深くに住まい。外を知らぬ人々。
 そんな場ですら吸血鬼達に支配され、平和な人生を歩めぬ人々が此処には居るという。
「絶対、連れてってやろうぜアレス」
「ああ。……地上にも光が、希望が増えつつある」
 強い決意を言葉にするようにセリオス・アリス(青宵の剣・f09573)が零せば、傍らを歩くアレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)静かに頷きを返した。
 全てが支配され、絶望のような世界だったけれど。猟兵達の長きの努力により、僅かだけれど平和と呼ばれる地も出来始めている。
 此の世界で、人々を救い導けるのは自分達しかいないから――。
「地底の闇から、僕達が導こう。セリオス」
 アレクシスもまた、強き決意を言葉にし。真っ直ぐにセリオスの瞳を見つめた。
 だからまずは――目の前で立ち塞がる、強大な門番へと立ち向かわなくてはならない。
『何? アンタ達邪魔者?』
 だったら死んで貰うだけだと、つまらなそうに零す彼女からはあからさまな殺意は見えない。けれど、零す言葉は物騒で。自然と零れるからこその恐怖が、そこにはあった。
 細い右肩に灯るは力を宿す紋章。
 確かに強大な力を持っている彼女との戦いは、いくらこちらが多勢とはいえ消耗戦では不利だろう。何よりも、相手の攻撃は相当に重そうだ。
 ならば――すっと瞳を細めた後、セリオスは覚悟を決めたように純白の剣を手にすると。敵を見据えて武器を構える。
 そんな彼の姿を見れば、意志は簡単に伝わって来て。アレクシスはセリオスと、門番の文様を交互に見遣ると自身も白銀の剣を構えた。
 特定の箇所を狙うことは難しい。
 けれど、ふたりならば。その難しいことも可能だろう。だから、自身は盾になるのだと。強い意志と共にアレクシスは一歩前へと踏み出す。
「セリオス、任せたよ」
 アレクシスの口から零れた言葉が、まるで戦いの合図のように。その瞬間敵は羽ばたき宙へと浮かび、追うようにアレクシスは足を踏みしめた。
 遠ざかる背中を見送るように見つめるセリオス。
 前へ出て、重い少女の攻撃を受け止めながら。アレクシスは少しでも敵を追い詰められるようにと意識して光の衝撃波を放つ。
 ――自身へと引き付けようと。アレクシスが動いていることはセリオスには十分に分かる。だから歌で彼を鼓舞し、しっかりと支援をするが。それは全て、本命では無い。
 とんっとつま先で何かを確かめるようにセリオスは地を叩く。
 目の前には、急降下しアレクシスへと襲い掛かる敵の姿。その様子を見てセリオスは溜息を零すと、青星の力をその身に宿し力を溜める。
 剣へと乗せた力は、今すぐにでも放つことは出来る。
 けれど、まだだ。一番良いタイミングを狙わなくては――目の前でアレクシスが圧し掛かる敵へと対抗するように、刃で受け止め押し返す。
「――潰される訳には、行かないんでね」
 不敵に笑んで見せるけれど、圧し掛かるその力は細身の少女とは思えぬほどの力。
 敵の意識は、変わらずアレクシスへと向いている。今ならばと――彼は視線を敵から反らさずに、セリオスへと想いを乗せれば。伝わる意志の元、すぐ傍で何かが煌めいた。
「紋章ごと穿て、セリオス!」
 ギリギリと歯を食いしばり、全ての力を用いて敵を跳ね退けると、アレクシスはそのまま距離を置いた。
 そう、欲しかったのはこの一瞬。
 彼の跳ねる言葉の直後。振り下ろされるは純白。――先程の煌めきは、光苔の明かりを浴びたセリオスの剣の切っ先だった。
 研ぎ澄ました感覚は、確かに敵の細い細い肩を狙う。息を乱した彼女の、小さな肩に灯る紋章へと。落とされるその一撃は、最大の力を込めたものだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エルネスト・ナフツ
面倒かえ?
我も面倒だ。
闇しか無いこの世は我も安心する。
我の故郷だからな。
けどな、此処はちぃとばかし眩しい。

娘。人ならざるもの。
我を通してはくれないか。
……そう言って言葉の通じる相手だったら良かったものを。

闇の騎士。お前の力を発揮する時だよ。
あの娘を退かしてくれよ。
我はあの先に行きたい。
我は高みの見物でもしておくよ。

人ならざるものよ。
お前はたいそう愛おしい。
仕事をしたくないのなら、我を先へ通してくれても良かろうに。
通したらもう門番の仕事はしなくても良いだろう?

神を害虫と口走るなんて
あゝ、我の駒が怒り狂うであろうね。
あれに意思があるなど到底思えないがな。




 面倒だと。
 ただそう紡ぐ彼女を映して、エルネスト・ナフツ(神の聖者・f27656)は長い漆黒の髪を揺らしながら小さく首を傾げた。
「面倒かえ? 我も面倒だ」
 それは思いもよらぬ同意の言葉で。ただひたすらに気怠そうな敵はぴくりと反応をした。けれども、動きはしないその様子は正に怠惰を表しているかのようで。少女のそんな反応を前に、エルネストは小さいながらも芯の通った声で言葉を紡ぐ。
 闇しかないこの世は、我も安心する。
 だって、此処はエルネストの故郷だから。
「けどな、此処はちぃとばかし眩しい」
 ふるりと首を振り、眩しそうに瞳を細め紡がれる言葉。そのまま彼女は灯るような青い瞳を前へと向けると。
「娘。人ならざるもの。我を通してはくれないか」
 淡々と、そう零していた。
 目の前の敵は、エルネストとはさほど変わらない背丈だろう。けれど神である彼女は相応の言葉で語り掛ける。
『通すわけには、いかないんだよね。私にだって一応、やらないといけないことがね』
 面倒くさいけど。繰り返すように紡ぐ彼女の言葉を聞いて、エルネストはひとつ息を吐く。言葉の通じる相手だったら良かったけれど、はっきりと言われてしまったのなら仕方が無い。彼女は一歩足を踏み出し、黒のワンピースの裾を躍らせる。そのまま炎を抱く杖を構えると――現れたのは、古代の戦士の霊。
「闇の騎士。お前の力を発揮する時だよ。あの娘を退かしてくれよ」
 淡々と零される言葉。
 我はあの先に行きたいと。高みの見物でもしておくよと。
 どこか人任せのような言い方なのに、それがごく普通に聴こえるのは気のせいか。騎士は了解をしたと言いたげに腰を折ると、剣を構え敵との距離を縮める。
 振るわれる剣を受け止めて、爪で対抗する少女。
 そんな彼等の様子を見て――静かに、エルネストは瞳を細め言葉を紡ぐ。
「人ならざるものよ。お前はたいそう愛おしい」
 仕事をしたくないのなら、エルネストを先へ通してくれても良いだろう。そうすればもう門番の仕事はしなくても良いだろう。
 静かに語られる言葉。その言葉に、戦士と戦いつつも少女は返す。
『……私にはね、力があるから。害虫なんて敵でも無い』
 その言葉と共に、不思議と辺りにざわりとした感覚が満ちた。すうっと瞳を細め、長い袖から覗く細い指で口元を押さえたエルネストが溜息を一つ。
「あゝ、我の駒が怒り狂うであろうね」
 ――神を害虫と口走るなんて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティア・レインフィール
ヴァンパイアに苦しめられる人々を救う為
先ずは、目の前の門番を倒さなくては

しかし、番犬の紋章ですか
そこを狙わない限り、倒せないのは厄介ですね……それならば

シンフォニック・キュアを歌唱して皆様の援護を行いつつ
私の存在を邪魔と感じた敵の攻撃を待ち受けます

私に接近したのと同時に紋章に向けて
鮮血のミセリコルディアを振り下ろします
歌では、紋章へは届かないかもしれない
けれど神に祈りを捧げ、破魔と浄化の力を込めた刃は
邪な力である紋章に、多少なりともダメージを与える筈

傷を癒すのは私の得手
傷付けられても、倒れる前に癒せば戦えます
例えどれだけ痛もうと、何度だって繰り返しましょう
全ては、悪しきヴァンパイアを倒す為に




 柔く笑みを口元に浮かべ、ティア・レインフィール(誓銀の乙女・f01661)は静かに、祈るようにその細い指を組む。
 ヴァンパイアに苦しめられる人々を救う為。先ずは、目の前の門番を倒さなくては。
 強き覚悟を胸に宿し、穏やかな瞳で捉えるのは小さな少女。まだまだ幼い外見の彼女だけれど、その存在は世界を滅ぼすオブリビオンだから――ティアは戸惑うこと無く、武器を構え深く深く息を吐く。
「しかし、番犬の紋章ですか」
 ちらりと視線が捉えた、灯る紋章を見てぽつりと零れる言葉。
 細い腕に、一か所だけ灯るその紋章を狙わなければ倒せない。それは随分と厄介だと思うけれど――やるべきことを、救える人の為にと彼女は背筋を伸ばした。
 息を深く吸い、その唇から零れるは優しき癒しの歌。
 洞窟内に響き渡る澄んだ音色は世界を震わせ、数多の人の傷を癒すけれど――だからこそ、敵の目にも留まりやすい。数多の人との接近戦を繰り広げていた彼女だけれど、ティアが厄介な力を持っていると察し翼を羽ばたかせ近付いてくる。
 そのスピードはかなりのもので、普通の人では追いつけないほど。
 ぐんぐん迫るその姿を――ティアは、逃げること無く見据えていた。細い指に握られるは、洗礼が施された短剣。近付き、足先の爪でティアを狙う彼女の元へと自分から一歩近づく。揺れる耳元の青い雫。そのまま彼女は深く深く息を吐きながら、戸惑い無くその短剣を敵の紋章へと突き刺していた。
『っ!?』
 癒しの術を用いる、か弱そうな少女の一撃に少女は瞳を開き声なき声を上げる。
 そのまま鮮血が零れる肩を庇いながら、自身の身を守るように距離をとった。
 ――歌では、紋章へは届かない。
 けれど神に祈りを捧げ、破魔と浄化の力を込めた刃は。邪な力である紋章に、多少なりともダメージを与えられるとティアは想ったが。その推理は的中していたようだ。そして、ティアのような見目の女性が振るうからこそ、効果がある。
 それは、力を強めた敵には僅かな傷なのかもしれない。
 もしかしたら、紋章に突き刺された刃はかなりの深手なのかもしれない。
 痛みに悲鳴は上げず。きつくこちらを睨む彼女からはその傷の深さは伺えない。
 けれど、その隙に。ティアは再び癒しの歌を奏で、この地で共に戦う者達へと癒しを施していく。それが、彼女の出来る最善だから。傷付けられても、倒れる前に癒せば戦えると知っているから。
「例えどれだけ痛もうと、何度だって繰り返しましょう」
 芯の通った強気言葉で、彼女は紡ぐ。
 ――全ては、悪しきヴァンパイアを倒す為に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

尭海・有珠
レン(f00719)と

地底の星を楽しみにすれば
現状を直視はしても
この地の、昔の陰鬱な想いからは多少は目を逸らせる

仕事等放り出してくれれば此方としても楽なんだが
お前の様なヴァンパイアと同種の血を引いているかと思うと気も滅入るがね

目配せして私は下がりレンとは別方向へ
狙いは右肩の紋章一点
≪暁の流星≫で、まずはレンの投げた槍とは別方向から誘導し魔力弾を叩きこむ
2回攻撃と多重詠唱で間断なく次を撃ち込んでいく
「ああ、任せろ」
直前のものとは軌道を変え、10発をばらばらに誘導すれば
全てに対応はし難かろう
敵が飛びかかってきた時は…レンの傍に跳ぶ
悪いな、盾にして

虫だとしても猛毒の虫なんだ
それもかなりしぶといやつだ


飛砂・煉月
有珠(f06286)と

懐かしの地を映しながら
変わんないなって融けた音
けれどキミと地底の星巡りをしたいから
さ、行こっか

ホント、何もしてこなければ楽なのにな~って軽口ひとつ
目配せをして、オレは正面から囮に
ハクを槍に戻し勢い良くダッシュして
こっちと言う様に力任せに槍投げ
注意を引ければ掴みはオッケー

その後は鮮血城塞を展開
さあ、盾のお仕事だ
不安も怖さもない
キミが確実に成し遂げると知っているから
――ね、有珠?

被弾で激痛に苛まれようと構わない
辺りが破壊されたとて立ち続けたらオレの勝ち
有珠が傍に来た時には、どんどん盾にしていいよって
存分に、なんて笑う

なあ、知ってる?
虫だって案外やるよ
しぶとさは一級ってヤツだよ




 常夜の世界に重い空気。
 それは――飛砂・煉月(渇望の黒狼・f00719)の赤い瞳には常に映り続けた景色で。
「変わんないな」
 ぽつりと、零れた言葉は消えゆくように儚いもの。
 外の景色が変わらなければ、この地下へと続く洞窟内もどこか重苦しいもので。ふうっと息を零しながらも、彼は傍らを見た。
 さらりと流れる美しき黒髪。光苔の光が落ち輝く尭海・有珠(殲蒼・f06286)の青の瞳は、深い海を宿しているかのようで。キラキラと瞬くその色の先には、光苔の更に先――この先に待つという、天に輝く地底の星空を思い描いていた。地底の星を楽しみにすれば。現状を直視はしても、この地の、昔の陰鬱な想いからは多少は目を逸らせるから。
 静かに小さな溜息を零す有珠。
 光が落ちる彼女の横顔を見ながら、煉月は心に想う。キミと地底の星巡りがしたい。
「さ、行こっか」
 口元に笑みを浮かべ紡ぐ彼に静かに頷き、また一歩踏み出せば――彼等を待ち受ける強大な敵の姿が。翼に角に、人とは違う手足。異形とも思えるその姿に、有珠は言葉にはしないが自然とその瞳を細めていた。
(「お前の様なヴァンパイアと同種の血を引いているかと思うと気も滅入るがね」)
 有珠はオブリビオンでは無く猟兵。けれど、ダンピールとしての血を持っているということが、僅かでも彼等と近しい存在であると想い細い腕を手で押さえる。
『あんた達は……、邪魔者ね』
 疑問では無く、既に固まった意志を敵である少女は零す。
 けれども戦闘の態勢らしき態勢は整えない。欠伸をして、見るからにやる気の無さそうなその姿。――けれど、このまま何もせずに見過ごしてくれるとは思っていない。
「ホント、何もしてこなければ楽なのにな~」
 思わず煉月の口から零れる本音。しかし、油断せずに彼は鮮血の盾を構えると有珠へと視線を向けた。交わる瞳と瞳。こくりと有珠は頷くと、彼女は一歩引き――そのままふたりは真正面から同時に敵と対峙することなく、別々から武器を構える。
「ハク」
 名を呼べば彼の肩に留まっていた白銀の竜が、一瞬で槍の姿へと変わる。柄をしっかりと握り、彼が敵へと一気に駆け出せば――有珠は海の宝珠を抱く杖を構え呪文を唱える。
 彼女の眼差しの先は、敵の右肩で灯る紋章一点のみ。
 ぽうっと辺りに浮かぶ青の光。
 くるりと仄かな光苔だけが照らす世界を輝かせると、そのまま強き輝きは真っ直ぐに敵の――小さな印に向かって飛び爆ぜる。爆ぜる音とすぐ後に、敵との距離を詰めた煉月の槍の切っ先が敵を狙うが。敵は素早く立ち上がり、一瞬で距離を取った。
 確かにダメージは与えた。けれどまだこれだけ俊敏に動けるのだから、先に聞いていた通り相当な腕前なのだろう。気だるげだろうと、戦いが出来ない訳では無い。相手は此処の門番を任されている程の実力者なのだと、改めて感じふたりは武器を構え見据える。
『ちっ、思ったよりやるじゃない』
 舌打ちと共に傷を庇うように腕に手を添える少女。よろめくことなく彼女は翼を羽ばたかせ、天へと舞い上がると――そのまま一気に急降下し、鋭い爪を光らせた。
 その煌めきが狙う先を捉え、煉月はきゅっと唇を結ぶ。
 槍を握る力が強まる。手にした盾と共に、確かに高まる自身の力。
「さあ、盾のお仕事だ」
 口元に笑みを浮かべ、彼は真っ直ぐな言葉を零す。
 相手が強大だろうと、不安も怖さも無い。
 だって、キミが確実に成し遂げると知っているから――。
 舞い降りた敵の攻撃から有珠を守るように駆ければ、その鋭い刃は煉月の盾へと当たり重い金属音を奏でた。狭い空間に響く音色。ギリギリと力を込め、耐える彼は。
「――ね、有珠?」
 信頼を帯びた言葉を、彼女へと掛けた。
 その言葉に杖を構えていた有珠は、笑みを浮かべると小さく頷きを返す。
「ああ、任せろ」
 淡々と、冷静に――そのままひとつ杖を振るうと、再び辺りには魔法の弾が生み出される。慣れた手付きで、戸惑いなく有珠はその弾を操ると。先程とは違う軌道で光は戦場を駆け、10の弾は別々に敵の身へと襲い掛かる。
 悲鳴を上げ、煉月との距離を少女は取る。盾である彼よりも、攻撃手である有珠のほうが優先度が高いと気付いたのだろう。すぐに向きを変えると、有珠目掛けて近付いてくるが――敵の刃を振り下ろした先には、煉月が居た。
「悪いな、盾にして」
「どんどん盾にしていいよ」
 彼の背から有珠が声を掛ければ、煉月は笑顔で答える。
 それが自身の役割だから。激痛に苛まれようが構わないと、覚悟は出来ている。例え辺りが破壊されたとしても、最後まで立ち続けていれば勝ちだから――。
「なあ、知ってる? 虫だって案外やるよ」
 鋭い爪を向ける少女を間近で見据え、煉月が語れば。有珠は彼の背から口を開く。
「虫だとしても猛毒の虫なんだ。それもかなりしぶといやつだ」
 振り下ろされる槍。続く魔法弾。
 それらは確かに、敵の体力を奪っていく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

バンリ・ガリャンテ
面倒くさいだなんて言わないでよ。
あなた。だって、この為だけにあるのだろ?

この女、何ゆえ過去から這い出たのだろう。
人を蔑み億劫に息ついて。
身体に飼った虫の力を誇っている。
かわいそ。
お前には嗚呼、先なぞあろう筈もない。

かったりぃかい?互いになんの感慨もないなら
始まって早々終わらせよっか。
やぁしかし強いんだね。あなた。……の、虫。
挑発がてら嗤って、此方を狙って跳ぶ身体を確り捉える。
「BURN BURN ME」
右肩に向けて差し向けた指を炎が割る。
そして失せる。
奔れ。あなたの血潮の代わり。
紋章虫さんを内側から焼き飛ばすんだ。
そう、腕ごと。

さてこうなりゃ可愛そうで。
今度は俺が、溜息ついちまうんだ。




 光苔の光だけがある、つまらない世界の中。
 ただただ面倒くさいと溜息を零す少女を前にして――。
「面倒くさいだなんて言わないでよ」
 バンリ・ガリャンテ(Remember Me・f10655)はひとつ言葉を零していた。
 あなた。だって、この為だけにあるのだろう? と、息と共に。
 その言葉を受けて、少女は不思議そうに瞳を緩くひとつ瞬く。面倒くさいは面倒くさい、何がおかしいのかと不思議そうに。
『私はただ、ここに座っていたいの』
 さっさと消えてくれる? そんな風に少女は語る。その為ならば、自身の力を使うことにも戸惑いなど無いのだろう。そんな意志を感じ取れるような言葉だった。
 だから、バンリはひとつ重く息を吐く。
(「この女、何ゆえ過去から這い出たのだろう」)
 人を蔑み、億劫に息ついて。
 身体に飼った虫の力を誇っている彼女。
 ぽうっと灯るは右肩の紋章。その光が彼女に強大な力を与えていると、バンリは知っている。だから、ついこんなことを想ってしまったのだろう。
「かわいそ」
 零れる言葉はとても自然に。
 けれども、それがバンリからの本音。お前には先などあろうはずも無いから――。
 そのまま彼女は、武器を手にすると敵との距離を詰めた。射程内。もう、面倒くさいなど言っても居られない程の、危険な距離。
 一瞬の出来事に少女は驚いたように瞳を見開き、その身を守るように身体を引く。追い掛けて、バンリはその身へと近付いて行く。重い重い一撃を繰り出されればその身で受け止めて、彼女の力に素直に驚いたように吐息を零す。
 圧し掛かる体重を弾くように離すと、距離を置いたバンリは自然に笑った。
「やぁしかし強いんだね。あなた。……の、虫」
 少女の姿から、その視線は灯る模様へと。そのまま挑発のように彼女はひらひらと戦場を駆けると、彼女の鮮やかな髪をその目で捉えようと辺りをきょろきょろと少女は伺う。
『私は私。怠けていても実力があるの』
 そう紡ぐ敵の言葉からは、まだ真剣さは感じられない。だから――その隙を狙うかのように、バンリはひとつ呪文を唱えた。
 自身の腕を引き裂けば、溢れるのは鮮血。
 仄かな灯りゆえその色は分かりにくいが、零れ落ちたその鮮血は――地獄の炎となり一気に噴き出すと、小さな少女に向けごうっと音を立てながら舞い上がった。
「奔れ。あなたの血潮の代わり」
 燃え上がる地獄炎は少女の細い腕を包み込み――そのまま身を焦がし、内側から紋章に宿る寄生虫を焼いていく。
 燃える色は熱を帯びていく。バンリに燃え移ることは無いけれど、その炎を見れば彼女の鮮やかな瞳もどこか悲しげに細められて――見届けるように彼女は、溜息を零した。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ワイリー男爵』

POW   :    我輩に鮮血を捧げよ
【手下である蝙蝠の大群】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    我輩に愉悦を捧げよ
【手を叩く】事で【全身を緋色に染めた姿】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    我輩に絶望を捧げよ
【両掌】から【悪夢を見せる黒い霧】を放ち、【感情を強く揺さぶること】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●来客が捧げしモノ
 門番を討ち、扉を開いたその先には――此処が地下だとは思えないほどの、普通の街並みが広がっていた。
 建物が立ち並び、人々の行き来がある。
 天には星のように瞬く空模様が映り、ふわりと肌を撫でる風も冬が近づく秋そのもの。
 そして俯き……怯えるような人々の姿もまた、地上と同じだった。
 此処は地上の支配から逃げ出した、人々の楽園などでは無い。この場にまでヴァンパイア達の制圧は進み、理不尽な苦痛を味わわせてきたのだろう。
 機嫌次第で人々を虐げ、弄り、殺める。
 それはただ快楽を求めるかのように、残忍で不快なヴァンパイアらしい行動。

『おやおや、来客とは珍しい』
 猟兵達の姿に気付き、声を上げたのは――住民である人では無く、愛らしいぬいぐるみのような姿をしたコウモリだった。
 シルクハットに蝶ネクタイ。眼帯のように片目を隠したその瞳には、大きなボタンが飾られている。手は無いが宙に浮いている手袋は、意志を宿す手のように指が動き形作る。手首に飾られたマントのような布を揺らし、羽を羽ばたかせる彼等は愛らしい見目とはどこか不釣り合いな紳士然とした物言いで言葉を零す。
『門番は何をしているのでしょう?』
『しかしまた、随分と弄り甲斐がありそうな者達ですな』
 所々から集ってくる者達。こんなにもどこにいたのかと思いたくなるほどだが――彼等こそが、この地で人々を支配するヴァンパイア。愛らしい見目に惑わされること無かれ、彼等は確かな狡猾さと残忍さを持っている。
『さあて、我らの前にいらしたからには歓迎してあげませんと』
『皆様は我々に何をくださいますか』
 恭しく、慇懃無礼に語る彼等。
 その言葉は楽しげであるけれど、その先に待つのは鮮血の結末。
 ――語る彼等を遠巻きに見遣る人々を猟兵が見ても、彼等は視線を合わせない。
 ただ俯き、何かが起きると云うことを分かっていながら時間が過ぎ去るのを待つだけだ。抗っても、叫んでも、全てが無駄だったと分かっているから。この場から逃げることすら、彼等が不愉快だと思えば攻撃の対象となる。
 だからせめて、自分にその害が降りかからないように。
 祈るように、見て見ぬフリをするだけが、精一杯。
セリオス・アリス
【双星】アドリブ◎
一気に距離詰め連続で斬る
護りはアレスがやってくれるだろうから
俺は攻撃に専念して

ああ、くそ
霧ってこれか

広がる悪夢は周りの
助けたい街の人達がすべて地に伏す姿
壊れた街が、人が、滅んだ故郷に重なって…
そこには、アレスの死体も…
息を詰めて叫びそうになるけれど
差し込む光にはっとする
ずっとそばにある
これは…アレスの光だ
ああ、そうだ
アレスは死んじゃいねぇ

つーか、
この光景を現実にしない為にも
悪夢なんかで足をとられてる場合じゃねぇよなぁアレス…!

目を開けて、前をみる
アレスを鼓舞するように
街の救いを示すように
歌い上げるは【赤星の盟約】
何時だって希望をくれる俺の光と共に
切り開いてやろうぜ、この先を!


アレクシス・ミラ
【双星】
アドリブ歓迎

セリオスを、人々を守るように戦おう
両掌を向けられればかばうように
盾を構え―、…っ!

…辺りを見回せば
守りたかった街が壊され
助けたかった人々が倒れている悪夢の光景
それが、吸血鬼に滅ぼされた故郷の街と重なって見えて
さらに光景の中に
セリオスの、屍が、あって
上手く、呼吸ができない―

―聞こえた歌に我に返る
ずっと傍で聞いてきた歌声
…しっかりしろ
この地は滅んでいない
セリオスは死んでいない!

【天誓の守護者】で剣を振るい
霧を払うように光を周囲に満たす
ああ、そうだ
僕達はこの地の運命を変え…そして、未来へ導く為に来たんだ!
彼の歌に力が湧く
いつだって導のように強く在る僕の光と共に
この剣で切り開こう!




 アレクシス・ミラは瞳を閉じて、深く深く息を吐いた。
 彼の背後にはセリオス・アリスが、いつものように佇んでいるのが分かる。彼を、そしてこちらの様子を伺うこの地の住人を、守るように戦おう。
 それは、騎士としての彼の誓い。
 瞳を開けて、朝空の瞳で前を見据えた時。その視界には夜闇に流れる黒髪が見えた。純白の刃を手に、駆けるセリオス。そんな彼に向け、敵の両掌から放たれるは黒の霧。
 霧散し、世界を覆いつくすその霧から。彼を守ろうとアレクシスは前へと飛び出し、自身の盾を構える。
「ああ、くそ。霧ってこれか」
 遠い遠いところで、耳に届いたのはセリオスの声だった――。

 霧を払うかのように、セリオスが剣を振り回せば。不思議なことにそこには黒の霧は無かった。恐る恐る薄目を開けて、辺りを見回せば――そこに広がるのは、無残な光景。先程まで彼を眺めていた、助けたいと思っていた街人達は皆、地に倒れ伏していた。
 生きている人影は無い。嘲笑っていたヴァンパイアの姿も見えない。壊れ果てた家屋の中、天で瞬きを映す星空だけが変わらなくて――。
「っ……!」
 思わずセリオスは、唇を強く噛み締めていた。
 壊れた街が、人が、滅んだ彼の故郷に重なる。
 ギリリとさらに強く唇を結べば、つうっと血が口元を伝った。けれどセリオスは気付かずに、恐る恐る足を踏み出す。何かを、探すかのように。
 辺りを見ても、倒れる人々だけしか見えない。
 誰か、誰か――。
 心の言葉は強くなる。一歩踏み出し、辺りを見て、探した先には――。
「っ!!」
 ――アレス。
 闇夜でもよく分かる、美しき金の髪。騎士らしき甲冑。よく知るその姿を見て、セリオスは声にならない声で名を呼び――そのまま息を詰めた。
 今にも叫びそうになるけれど、音が口から漏れない。ただ、荒い呼吸が零れるだけ。
 こんな、彼の姿など――戸惑うように、否定するように彼が首を振った時。暗き天から、差し込む光が見えた。
 常に夜に包まれたこの世界に、このような光はありえない。何かと想い、顔を上げればその光はずっと傍にあった光のように感じて。
「これは……アレスの光だ」
 光へと手をかざし、セリオスの口から無意識に言葉が零れていた。
 そうだ、アレスは死んじゃいねぇ。
 温かなその光を前にして、セリオスは俯いていた顔を上げ天を見上げる。
 そう、この光景は放っておけば現実となる可能性の世界。
 けれど、抗えば……必ず防ぐことが出来る世界。
「この光景を現実にしない為にも、悪夢なんかで足をとられてる場合じゃねぇよなぁアレス……!」
 今は姿の見えぬ彼の名を呼び、セリオスは深く深く息を吸い込んだ。

 恐る恐る盾から顔を上げれば――アレクシスの前に広がる光景は、滅ぼされた街並みと倒れ伏す人々。けたけたと愉快に笑う吸血鬼。
 全てを守ると誓った。それは騎士の誇りである。
 けれど、守れなかったこの光景が胸が苦しくなる。
 それは護れなかった苦しさだけでは無い。アレクシスの故郷が、吸血鬼によって滅ぼされた光景と重なって見えるから。
 苦しい、苦しい。
 救いを求めるようにアレクシスが一歩踏み出した時――彼の足元に転がるのは屍。
 その人を見て、彼ははっと瞳を見開いた。
 長い黒髪。閉じられた瞳の色は分からないけれど、白きその肌を持つ彼は――。
「――っ」
 名を呼んだ。けれどその名は言葉にはならない。
 苦しい、呼吸が出来ない――。
 跪き、俯き、胸を押さえる。
 何が起きているのか、考えるように思考を巡らせたとき――。
 歌が、聞こえた。
 微かな音。けれど耳に届いたその歌に、アレクシスははっと顔を上げる。
 これは、聞き間違えるはずが無い。ずっとずっと、傍で聞いてきた歌声。
「……しっかりしろ。この地は滅んでいない。セリオスは死んでいない!」
 叫びと共にバチンと両頬を叩く音が響いた時――目の前には、歌を紡ぐセリオスの姿があった。朝空の瞳が開かれたのを確認して、セリオスは口許に笑みを浮かべる。
 すうっと故郷の歌を奏でるのを止め、彼はアレクシスへと手を伸ばす。
 確かに伝わる温もり。屍の冷たさとは違う、生きた人の熱。
「何時だって希望をくれる俺の光と共に。切り開いてやろうぜ、この先を!」
 笑みと共に紡がれた言葉に、アレクシスははっと瞳を見開いた。
 瞬間、剣を振るうと同時に辺りには光が包まれる。
「ああ、そうだ。僕達はこの地の運命を変え……そして、未来へ導く為に来たんだ!」
 強く語るアレクシスの瞳に、迷いも恐れも無い。
 自身がやるべきことが、そして先程立てた誓いを忘れてはいないから。
 辺りの霧を払うかのように照らされた世界にて、彼は慣れた手付きで剣を構える。
 力が湧くのは、彼が紡ぐ歌が共にあるから。
 いつだって導のように強く在る僕の光と共に、この剣で切り開こう。
 ――夢から覚めたならば、互いの光が常夜の世界を照らすだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

バンリ・ガリャンテ
やぁまるきり夜空じゃないの。
地底で星の光に出会うだなんて…
あの輝き、安らいで眺めたいね。
敵どもを素通りに俯く人々へ。
口を噤んでていい。顔を上げられんでいい。
あとほんのもう少しばかり、待っていてね。

今日であなた方の永き夜は終わる。
此方の星々ともお別れさ。
今日こそがあなた方の旅立ち。
訣別の光を焼き付けて。

「HERE WITH ME」
高らかに口ずさめば皆さんの耳に届き、その心と身体は不屈となる。
だけど安心して。蝙蝠は立ち所に薙いで落とし、炎の壁で奴等を阻んで護るから。
俺には見えるんだ。
皆さんの痩せた踝が跳ね、地上を踏み締める。
かの大地からもいつか積年の闇が退く。
吸血鬼たちを焼き、決意の狼煙にしよう。




 天に煌めくのは、星とは違う瞬き。
 それは輝く石なのか。はたまた魔法によるものなのか。その事実は分からないけれど。
「やぁまるきり夜空じゃないの」
 バンリ・ガリャンテはどこか眩しそうにピンク色の瞳を細めると、瞬く星を見上げる。
 ゆっくりとだが、確かに地底へと潜った筈。それなのに、地底で星の光に出会うだなんて――その不思議さに感嘆の吐息を零しながら、あの輝きは安らいで眺めたいと思う。
 しかし、今それは叶わない。
 辺りには、愉快そうに笑うヴァンパイア達。
 俯き、震える人々。
 嗚呼――。
 その光景を見て、彼女はふうっと息を吐いた。彼等に何か、と望むことは無い。そのまま口をつぐんでいて良い、顔を上げられなくても良い。
「あとほんのもう少しばかり、待っていてね」
 優しい声色で、けれど確かに辺りに聴こえる声で、彼女は言葉を零す。その声に彼等は驚いたように顔を上げたけれど――すぐにまた、俯いてしまう。
 そう、今日で彼等の永き夜は終わる。
 そして美しき、此処の星々ともお別れだ。
 今日こそがあなた方の旅立ちだから――。
「――」
 すうっと深く息を吸うと、バンリはそのまま歌を口ずさんだ。
 それは無敵の戦歌。高らかに奏でられるその歌は、敵を殺めるものでは無い。歌の届いた人々の心に届き、不屈の魂を宿すもの。
 ざわりと辺りの人々が反応する声が聴こえる。
 そうだ、一歩踏み出す勇気が彼等には無かった。全てに絶望し、俯く彼等は前を向くことが出来なかった。だからその支えとなれるようにと、バンリはこの歌を紡いでいく。
『……これは?』
 彼女の歌を耳にして、不思議そうに男爵は首を傾げる。
 彼等にとってはただの耳障りな歌なのだろう。けれど、彼女が何かをしていることは辺りの住民を見れば分かる。住民を殺めるよりも、先にバンリを殺すほうが良いと判断した彼等は一斉に蝙蝠を放つが――その大群は、バンリが腕を振るえば撃ち落され。次なる対象である住民へと向けば、炎の壁がその道を阻む。
(「俺には見えるんだ」) 
 すうっとバンリの瞳が細められるのと同時、地上を踏み締める足音が聞こえる。
 彼の大地からも、いつか積年の闇が退くのだと――その音にバンリは確信する。
 さあ、吸血鬼を焼き、決意の狼煙にしよう。
 ――それはまるで、訣別の光のように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朧・ユェー
【双月】

アレがヴァンパイア
見た目は可愛らしいですが

あの様な快楽の仕方は不快ですね
にっこりと微笑むも何処か笑っては居ない

【暴食グール】が次々に敵を喰べていく
恐怖と怒りを与えて【獄導】へ

黒い霧で視界を覆う
十雉くん危ないと彼を庇う様に覆い被さる
十雉くん大丈夫ですか?
助けたはずの彼が真っ赤に染まる
手にはべったりと紅血
視界が黒から赤へ
赤、紅、赫、朱…
嗚呼、俺はまた助けれなかったのか
俺のせいで失ってしまうのか

頬に衝撃が走る
紅い視界が無くなり十雉くんの心配そうな顔が覗く
嗚呼、この子を護ると迎えに行くと約束したのに僕が囚われてはいけませんね
正気に戻してくれてありがとうねぇ
もう大丈夫ですよと
優しく彼の頭を撫でる


宵雛花・十雉
【双月】
ユェーは父親のような存在

あんな風に人をいたぶるなんて…許せないよ
彼らを助けて解放しよう

ユェーの援護のために放つ【八千代狩】には、敵の目を自分たちの方へ惹きつける役目もあるんだ
『第六感』で次の敵の攻撃を察知して
もしも敵が周囲の人々を攻撃しようとすれば、自分の身より何より優先して『結界術』で彼らを守るよ
絶対、傷付けさせたりしないから

黒い霧から庇ってくれたユェーの様子がおかしい
どうしたの?大丈夫?
彼の名を呼ぶけれど返事はなくて
どうしていいか考えた末、ユェーの頬を思い切り平手で打つ

ユェー、大丈夫?
オレの声、聞こえる?
よかった…
前にオレが正気を失った時、友達にこうして貰ったから
痛かったらごめんね




「アレがヴァンパイア」
 目の前でふよふよと漂い、楽しげに笑みを浮かべるワイリー男爵の姿を見て。朧・ユェーはぽつりと言葉を零した。
 その見た目はデフォルメされた蝙蝠のよう。抱きかかえられそうな大きさも相まって、ぬいぐるみのようで愛らしいけれど――彼等の浮かべる笑みは、愛らしさの欠片も無い。
 心の底から快楽を求め、残虐な思考が読み取れる。
 にっこりと笑むその姿は、何処か笑っては居ないようにも見えて。
「あんな風に人をいたぶるなんて……許せないよ」
 ユェーの視線が男爵に向いていた時、傍らの宵雛花・十雉は言葉を零しきゅっと大きな手を握っていた。俯き、震える人々の姿が彼の白い髪から覗く瞳に映る。その姿は、彼等ヴァンパイアが数多の残虐を繰り返してきた証明だ。
 愛らしい見目になど騙されない。
 彼等は確かにヴァンパイア。此の地を支配する悪しき存在。
 そしてふたりは、彼等を倒し世界を救いへと導く猟兵。
 だから――迷うこと無く十雉は握っていた掌を開き、宙へとかざすと千代紙を作り出す。その紙は紙飛行機の姿へと折りあがり、そのまま破魔矢へと変形すると真っ直ぐに男爵に向け突き刺さる。
『っ!?』
 不意の攻撃に彼は驚く。辺りの男爵達もざわつくようにその翼を揺らした。
 次々と放たれる破魔矢は集う男爵達を襲っていく。それは、ユェーが攻撃する隙を作り、注意を此方へと向ける為の策でもあるが。
『随分と好戦的な方ですね』
 にやりと、常に浮かんでいた敵の笑みに。どこか悪しき感情が込められた気がする。
 それは僅かな変化。けれどその変化を十雉は逃さなかった。はっとすると顔を上げ、前髪の覆わぬ左目を辺りへと移す。一般人は、変わらず此処にいる。彼等の性格から、次に何をしようと考えているかはすぐに分かった。
 大丈夫、距離はまだある。
 ばさりと敵が翼を羽ばたかせ、移動しようとした時――十雉は一瞬の間に辺りに結界を張り一般人と敵の間に境を作った。
「絶対、傷付けさせたりしないから」
 誓うように紡がれるその言葉。
 十雉の口から零れた言葉に、震え恐怖でその場に座り込んだ人々は顔を上げる。幼子を抱える女性、年老いた弱々しい男性。数多の人が皆、十雉を見つめる。
 そして、結界に戸惑う敵のその隙を狙うように――動き、敵を捉えたのはユェーだった。体内に埋め込まれた、瞳のような印がざわつく。全てを貪ろうと、暴れるような気がする。その意志を彼は放つと、敵の小さな身を無数の手が包み込んでいく。
 数多の手が包み込んでいけば敵はばたばたと小さな足をばたつかせ。苦しみもがくように地を転がる。確かな手応えにユェーは唇を結ぶが――その瞬間、視界が黒に染まった。
「っ!?」
 ユェーは息を飲むと、咄嗟に前に出る。
 覆う視界は別の男爵からのものだろう。一般人に手を出せない今、多勢は全て彼等に向けて攻撃を仕掛けてくる。包まれる黒霧が視界を覆っていく。せめて、せめて――十雉の元へは届かぬようにと、ユェーは大きな身体で十雉を包み込みその霧を受け止めた。
「ユェー!?」
 突然の彼の重みに、十雉は驚いたように声を上げる。
 段々と重くなる彼の身体。大丈夫かと胸元を軽く叩き、様子を伺う中――ユェーの意識は薄れていった。

「十雉くん大丈夫ですか?」
 ユェーは覆い被さり、腕の中に居る彼の名前を呼ぶ。
 そのまま起き上がり彼の無事を確かめようとすれば――そこに居る筈の彼は、真っ赤に染まっていた。真白の髪も、首元の柔らかな毛も、上品なその装いも。全てが、赤く染まり元の姿が分からないほど。
 その姿に息を飲み、ユェーは咄嗟に距離を取る。
 その時彼の肩から離れた手は――べったりと、鮮血に染まっていた。
 気付けばユェーの身も赤に染まり、視界が黒から赤へと染まっていく。
 赤、紅、赫、朱……。
 嗚呼、俺はまた助けれなかったのか。
(「俺のせいで失ってしまうのか」)
 苦痛が嗚咽となり喉から零れる。俯き、血に染まった掌を強く強く握り締め、地面を強く叩いた時――。
 バチンッ。
 鋭い音。頬に伝わる痛み。
 その瞬間、視界は赤では無く白が見えた。
「ユェー、大丈夫? オレの声、聞こえる?」
 赤かった視界に映るのは、白に穏やかな明かり色の瞳を持つ十雉の姿。両頬を包むように手を添えて、心配そうにユェーを見ている。その姿は決して赤には染まっておらず、記憶に残る彼のいつも通りの姿だった。
「……十雉くん?」
 思わずユェーは、確かめるように彼の名前を呼ぶ。
「よかった……」
 名前を呼べば、返ってくるのは安堵の息と言葉。そのまま彼は近付けていた顔を離すと、心配そうにユェーの左頬を見る。
「前にオレが正気を失った時、友達にこうして貰ったから。痛かったらごめんね」
 確かに、じんじんと左頬が痛む気がする。その痛みと熱を確認するように、ユェーは自身の頬へと手を触れた。
 その手は、赤には染まっていない。
 嗚呼――。
 きゅっと手を握り、彼は現実を確かめる。
「この子を護ると迎えに行くと約束したのに僕が囚われてはいけませんね」
 俯き、ぽつりと零れた言葉はごく小さなもの。
 十雉を助けようとした行動で、どれほど彼を心配させてしまっただろう。けれど、彼を守ることが出来た。彼が居たから、戻ってこれた。
「正気に戻してくれてありがとうねぇ」
 もう大丈夫ですよと、言葉を添えつつユェーは十雉の頭を優しく撫でる。
 その手が触れた白の髪は、決して染まらない。
 気付けば黒い霧はすっかり晴れ、元の星瞬く世界が見える。
 にやにやと楽しそうな笑みを浮かべる男爵も居れば、夢から覚めたことに落胆する者もいる。そんな意地の悪い彼等に向け――ふたりは立ち上がると、更なる力を解き放った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

イヴン・バーガンディ
1人の犠牲者も出したくないんだ…
ヴァンパイアの好みは自分の身をもってわかっている
だから対処は可能だ

一般人を巻き込まないように、彼らとは距離を取る
敵の注意を惹くために挑発
自分から敵に近づき
袖をまくり、腕を切り裂く(ユーベルコード使用)
噴き出した炎と、振りかざした剣、そして不愉快にさせる言葉
「いいだろう、相手をしてやる」

攻撃を受けた振りをして、険しい表情
「ムリだ…!」と絶望的な素振りを見せる
…こういうのは正直苦手だが、人々の為
敵が面白がって集まってきたら、1個体ずつ確実に叩きたい

大人より自己を制御できない子供のほうが危ない
一般人の方に向かう敵を見つけたら優先的に狙う
回り込んで体を張って止める




 ひとりの犠牲者も出したくない。
 それは、元傭兵であるイヴン・バーガンディの強い強い願いだった。
 覚悟を強く握る拳に込めて、彼はヴァンパイアの好みを考える。大丈夫、彼等の好みは十分過ぎるくらい分かっている。かつての、彼の経験から――。
 とんっと足を迷うこと無く踏み出して、彼はふわふわと漂うオブリビオンへと近付いた。愛らしい見目には惑わされない。彼等が狡猾な、忌々しい存在だとは痛いほどに分かっているから――辺りを見て、俯く人々との距離を確認すると。
 彼は、腕を露出すると白い腕を勢いよく無骨な剣で切り裂いた。
 すると、その腕からは滴る鮮血では無く。溢れるように地獄の炎が噴出する。暗がりに灯るようにその炎を手に宿したまま、彼は握っていた剣をかざすと。
「いいだろう、相手をしてやる」
 辺りの男爵に向け、挑発するかのように言葉を零した。
 彼の一連の動きと言葉に、男爵達は『ほう……』とどこか興味を抱いた様子。
『いやいや、なかなかに勇敢な青年だ』
『我等と戦う自信がおありのようで』
 変わらず慇懃無礼な物言いで、面白がるように男爵達は言葉を紡ぐ。――その言葉に裏にある意志は。その、勇敢な彼の悲痛な表情と叫びを見たい。そんな愉悦。
 そのまま彼等は浮いた手を宙へとかざすと、現れたのは数多の蝙蝠。闇夜に集う漆黒は、キイキイと甲高い鳴き声をあげながら彼等の指示に従いイヴンの元へと飛んでいく。
 漆黒の大群をしっかりとイヴンはその赤い瞳で捉える。唇を結んだまま、彼は――素直に、その大群の攻撃を受け容れた。
「ムリだ……!」
 頭を庇うように腕を上げ、慌てたように対象が定まらない素振りをする。その戸惑いのある切っ先は決して敵を捉えること無く、キイキイとどこか楽しげな鳴き声と共に蝙蝠達はイヴンの体力を貪っていく。
 手にした剣でいなすことも、噴出した炎で敵を蹴散らすことも出来た筈。
 けれど彼は、敢えてその単純な攻撃を受け容れる。
 それは――全て、ヴァンパイアである奴等を油断させる為。
 いきなり圧倒しては、彼等は自身が優位に立つ為に一般人達へと手を出すだろう。だからイヴンは彼等と距離を取りつつ、敵を油断させる為にわざと自身を弱く見せる。
 蝙蝠に覆われてイヴンは見る事が出来ないけれど、男爵は面白そうに笑みを浮かべている。まともな抵抗も出来ずに襲われるイヴンの姿を見て、彼等は囲うように集ってくる。
『おや、口だけですか?』
『猟兵というのも大したこと無いですな』
 ――視界が通らなくとも、彼等の声が近付いてくることで距離は分かった。
 敵に察されないようにと注意をしながら、敵がトドメを刺そうとすぐ傍に来た瞬間。
 イヴンは、改めて地獄の炎を戦場に溢れさせる。
『なんとっ!?』
 その炎は蝙蝠だけでなく近付いて来た男爵達の身をも包み、強く強く燃えあがる。すっかり油断していた敵には抗う余裕も無く、そのまま一瞬で塵となり消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

尭海・有珠
レン(f00719)と

目を逸らし時が過ぎるのを待つ諦めの色には、私も覚えがある
私の挙動、言動、些細な事で目の前に人間が肉塊になる日常があったから

自分の身より他人を守る方がまだ得意だ
レンを…そうか
分かった、だが私はレンのことも守る
≪涯の青≫でレンも、周囲の人々も守るんだ
人々はよりさりげなく、≪涯の青≫で逃げる支援としたい

抗う力なき者に立ち上がれと私は言えない
私もかつてはそうだった、諦めていたのは私も同じ
それでも手を貸す者が、手を差し伸べる者が
庇い共に戦う者がいたら
その手を取ったって良いと思う
私もそう
自分が死ぬのは怖かった
それ以上にその環境から逃げたかった
君達も逃げていいんだよ、私が君達を守るから


飛砂・煉月
有珠(f06286)と

噫――知ってる、
諦めの景色を
逃げる視線を
刹那に物云わぬ肉塊と成る事も
…嫌なくらい、見てきた

ね、守りながら戦うのは得意?
此処の人たちを、
…オレも?
有珠はホント強いね

立ち上がれとか
勝ち取れとか
オレがした事を求めたりはしない
でも諦めの盾には未だ成れないから
せめて、抗う背を

逃げる事をキミ達が選ぶなら路は切り開く
有珠、キミの様に優しい手は差し伸べられないけど
行ってきます

態と己の血を流し紅狼覚醒でハクを赫狼に
敵の前へ立ち
――赫いの好きだろ?と
相手に血液が有れば
減った分は牙を突き立て吸血で
青に護られながら征く、之く

振り向けない弱さ
けれど背に温かさを知っているから
ひとりではないのだと、唯




 ふわふわと漂うヴァンパイア。
 彼等の動きを意識し、じっとその場で耐える人々の姿。
 噫――知ってる。
 吐息と共に飛砂・煉月は、景色を瞳に映しながら心に想った。
 諦めの景色を。逃げる視線を。刹那に物云わぬ肉塊と成る事も。
(「……嫌なくらい、見てきた」)
 微かに俯き、きゅっと唇を結ぶ。
 思い出されたその記憶に、微かに身体が震えている気がする。そんな彼の傍らで、尭海・有珠(殲蒼・f06286)も同じように辺りの景色を眺めていた。
 目を逸らし、時が過ぎるのを待つ諦めの色。それは自身にも覚えがあったから。
 有珠の挙動、言動、些細な事で――目の前で人間が肉塊になる日常、その光景は瞳を閉じれば鮮明に思い出すことが出来る。
 ふうっと、心を落ち着かせるように吐息を零した時。不意に「ね、」と声が聴こえた。
 何かと思い有珠が瞳を開き、顔を上げれば煉月の真紅の瞳が真っ直ぐにこちらを見ている。自分の姿が映ったその瞳を見返して、有珠は不思議そうに小首を傾げた。
「守りながら戦うのは得意?」
 そう問い掛けられれば、有珠はひとつ瞳を瞬いた後――静かに、ひとつ頷いた。
「自分の身より他人を守る方がまだ得意だ」
 そう、自分よりも煉月を。
 その想いは伝わっただろうか? 笑う彼の姿を見れば、そこに彼が含まれているとは気付いていない様子。此処の人たちを、という言葉からもそれは窺い知れた。だから有珠は、改めて唇を開く。
「分かった、だが私はレンのことも守る」
「……オレも?」
 有珠のその言葉に、煉月は驚いたように瞳を瞬き。辺りへと向けていた眼差しをまた少女へと向ける。海を映した瞳は真っ直ぐと、偽り無い想いを宿していて――。
「有珠はホント強いね」
 くしゃりと、笑みを零しながら煉月は呟いた。
 頷きをひとつ、そのまま彼は覚悟を決めたように前を見る。
 目の前に展開されるのは、有珠が紡ぎ出した魔法障壁。空と海の青々に黒の霧は当たると、見るも無残に霧散していく。
 黒に染まった視界は、一瞬で晴れていき――その様子を見て住人達は、驚いたように息を飲んだ。ヴァンパイアに対抗する力を、有珠が持っていることに。
 そのまま彼女はカツリと、靴音を響かせ一歩前へと出る。
 さらりと流れる漆黒の長い髪。澄んだ海の瞳は前を見据え、此方を見る住人をひとりひとり、その瞳に映していく。
 彼等のような、抗う力無き者に。立ち上がれとは言えない。
 自身も、かつてはそうだった。諦めていたのは彼等と同じ。
 それでも手を貸す者が、手を差し伸べる者が、庇い共に戦う者がいたら、その手を取ったって良いと、そう想うから。
 誰だってそう、自分が死ぬのは怖い。それは有珠も同じだった。
 けれど、それ以上にその環境から逃げたいと想う気持ちもあったから――。
「君達も逃げていいんだよ、私が君達を守るから」
 しっかりと言葉を零しながら、有珠は再び魔法障壁を作り敵の攻撃を防ぐ。大丈夫、この程度の力ならば破られはしない。此処一帯の人々を守ることも出来ると、数多の経験を積んだ彼女はその瞬間確信していた。
 ――そんな、彼女の言葉は重いもので。
 魔法と共に言葉を紡ぐ有珠の姿を見て、煉月は呼吸を整えるように深呼吸する。
 立ち上がれとか、勝ち取れとか。
 自身がした事を求めたりはしない。
 でも諦めの盾には未だ成れないから――せめて、抗う背を。
「逃げる事をキミ達が選ぶなら路は切り開く」
 ――有珠、キミの様に優しい手は差し伸べられないけど。
 行ってきますと言葉を残して、煉月は愉快に笑いながら魔法を紡ぐ男爵へ向け駆け出した。敵が数多の蝙蝠を煉月のように放てば、守るように有珠が青の壁を作り出してくれる。キイキイと甲高い声を上げながら、散りゆく蝙蝠達。その隙をつくように煉月は自身の腕を刃で切り裂くと――どくん、と首の後ろが鼓動した気がした。
 高まる力は自身では無く武器の封印が解かれる合図。
「ハク」
 ふうっと息を吐きながら、名を呼べば名の主である白銀竜はひとつ鳴き声をあげ彼の傍からするりと抜けていく。その姿は段々と白銀竜から赫狼へと変貌し。
「――赫いの好きだろ?」
 笑みを浮かべ、小首を傾げながら煉月が紡いだのとほぼ同時。ハクがその鋭い牙で、敵の腹へと喰らいついていた。
 溢れ出る鮮血は、非人型であるヴァンパイアとて同じもの。溢れ、零れ、世界を赤に染め上げていくその鮮血は、鮮血を力の源とする狼の更なる力となる。
 大丈夫、いつだって青が護ってくれている。だから怖くなどない。
 ぽたりと、煉月の腕から伝う鮮血が地を濡らす。
 振り向けない弱さ。
 けれど背に温かさを知っているから。
 ひとりではないのだと、唯。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『星鏡の夜』

POW   :    わくわく過ごす

SPD   :    どきどき過ごす

WIZ   :    静かに過ごす

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●願いの夜
 全ての敵を倒せば――住人達の感想は、信じられないというものだった。
 長きに渡る制圧に、理解が追い付かない。敵のいない世界を、彼等は知らない。
 だからどうしたものかと戸惑うように、けれど零れる笑みは幸せの証だった。
 此処に居ない、家の中で身を潜める者に伝えようと駆け出す者も居れば。その場で泣き崩れる者も居る。天を見上げて震える者も居る。
 ひと時の解放と、そして未来を描く彼等は――とても、輝いて見えた。
 この先の彼等には。きっと新たな人生が待っているのだろう。

 さあ、星を探しに行こう。
 天に瞬く星々の元、鏡のように星を映す湖には何が眠っているだろうか。
 靴を脱ぎ、素足を浸ければ夏を過ぎてしまった為大分冷たいけれど。戦いで火照った身体を冷やすには丁度良い程だろう。水温ならば、まだ夏の気配が残っている筈。
 どこまでも透き通るその湖は地底から湧き上がった水。無害だが生き物はいない。だからこそどこまでも澄んだ、凪ぐ鏡のような美しさを持っている。
 天と地の境が分からなくなったその場は、まるで星空の中を歩いているかのよう。
 歩みを進めれば生まれる波紋が星空を歪ませ、不思議な世界へと迷い込ませる。
 
 ほら、今空から。
 星の欠片が落ちたよ。
飛砂・煉月
有珠(f06286)と

薄れた赫の匂いに一度大きく息を吐き
諦め薄れた彼らの願いなら届けばいいなって
今、なら

背から届く音と暖かさに
此方こそって振り返ればいつものオレの筈
ね、星巡り始めよっか
手を差し出してぬくもりさえ一緒がいいと
いつもより言の葉が甘えたなのは自覚済みで
痛みだって、オレが選んだんだ
でも気にしてくれてアリガト

空を仰ぐも気になるのは星映し湖面
有珠、あそこ行こ!
靴を脱ぎ素足で誘うは星の中
ふたり分の靴番は槍竜に任せて

波紋は軌跡
冷たさで熱を鎮めて
ゆったり一緒に星空を歩こ
握った手は確かなものにして
どれも綺麗だけど
キミの蒼が一番綺麗に見えるのは…どうしてだろ?
何でもないよって頬を掻いて
へらりとゆるむ


尭海・有珠
レン(f00719)と

住人の様子に安堵の息
解放に戸惑うのでなく悦びを感じるなら
彼らは前に進めるだろうから

ありがとうな、と労いにレンの背を優しく叩く
差し出された手に瞬き一つして手を取ろう
今日は何だか甘えただな
結局痛い思いばかりさせてしまって悪かった

心待ちにした星巡り
空を仰げど、気になるのは星映しの湖
地下世界で果があるのは分かっているのに
どこ迄も行けそうな気がして、誘われる侭
無造作に靴を脱ぎ棄て、足を浸しながら星の中へ

冷たさと、立つ場所――自分の今を一瞬だけ見失い
不意に足が竦みそうになるけれど
レンの手の温もりが自分を『今』を教えてくれる
どうした?と視線に気づいて振り向く自分は
きっと仄かに笑んでいる




 キラキラと輝くのは満天の星――のような煌めき。
 一面に広がるその煌めきは、果てなき空のようにどこまでも続き。同じように地に広がる煌めきの鏡も、果てが分からないほど続いている。
 その美しき輝きへと、身を委ねるかのように。足を浸し、嬉しそうに祈る人々の姿を見れば。尭海・有珠は海の瞳を細め、口許に柔らかな笑みを浮かべた。その唇から零れる安堵の息と共に、彼女は想う。――解放に戸惑うのでなく悦びを感じるのなら、彼等は前に進めるだろう、と。
 すうって、その安堵の傍らで深く深く息を吸う飛砂・煉月。
 胸に届く空気は、水気を帯びた澄んだもの。
 もう、先程のような満ちた赫の匂いは薄れている。水が、風が、此処が地底とはいえ存在する不思議な存在が、全て流してくれたから。故に、徐々にこの微かに遺った匂いも含めて消し去ってくれるだろう。
 煉月はその事実に頷き――合わせて、解放された喜びに浸る人々を眺める。
 かつて彼等は制圧され、全て諦めていた。そんな彼等の諦めがひと時でも薄れている今、彼等が星に託す願い事ならば届けば良いなと、彼は想う。
 そんな事を考えながら、住人を眺めていた時。とんっと背に触れる感触に、煉月は何かと瞳を瞬き振り返った。
「ありがとうな」
 そこに居たのは有珠。彼女の青い瞳を捉え、その温もりと優しさに煉月は笑みを浮かべると、彼は此方こそと紡いだ。
 ――その姿は、いつものオレの筈。
 星の夜のように辺りは暗いけれど、天の瞬きと、瞬きを受けた水面がふたりを照らしているから。お互いの顔は問題無く視認出来る。だから煉月はその口許の笑みをやめることなく、そっと自身の手を差し出して――。
「ね、星巡り始めよっか」
 ひとつ、言葉を零した。
 その言葉と、差し出された手に有珠はパチリと、大きな瞳をひとつ瞬く。そのまま自然に、差し出された手に自身の細い手を重ねた。
「今日は何だか甘えただな」
 繋がる熱を確かに感じながら、有珠は紡ぐ。そう、煉月だっていつもよりも随分と甘えたなことは分かっている。先程の戦いでの痛みを、気にしてくれる有珠の言葉は優しく、温かく、煉月の心へと落ちていくようで――。
「でも気にしてくれてアリガト」
 痛みだって、オレが選んだんだ。そう返しつつも、しっかりとお礼を告げた。
 揺れるひとつの繋ぐ手。
 その先に待つ天と地の輝きはふたりを誘っているかのように輝きを帯び――。
「有珠、あそこ行こ!」
 惹かれるようにその深き青を見ていた有珠に向け、煉月はいつもの晴れやかな声色でそう語るから。有珠はこくりと頷いて、共にふたりは靴をその場に脱ぎ捨て駆け出す。
 ――駆ける際ハクへと願えば。彼はその任を了解したと言わんばかりにひとつ鳴く。
 パシャリと響く水音。浸した足元が地底水の冷たさに満たされ、星々を歪ませる波紋があちらこちらに生まれていく。
 キラキラと輝く星空の中、歩んでいけば此処がどこまでも続く永遠の世界のような気がしてくる。それは外では無い、地底だからこそ感じる不思議な感覚なのかもしれない。
 その冷たさが、戦いで火照った身体を鎮めてくれるようで。心地良さそうに赤い瞳を細める煉月の横で――有珠は、一瞬だけ自分の今を見失っていた。
 細い足に伝わる冷たさにか。
 果てなど無く見える、遠い遠い星空映しにか。
 それは分からないけれど、不意に足が竦みそうになり前へと踏み出せなくなった。
 けれど、くいっと手を引かれる感覚に。現実へと意識が戻されればそこには赤が。
「ゆったり一緒に星空を歩こ」
 笑顔と共に、手を引く煉月の瞳にはしっかりと有珠が映っていて。伝わる手の温もりは、自分に『今』を教えてくれていると想う。
 彼女がパシャリと仄かな水音を立て、一歩近付けば伸ばされた腕は近くなる。
 距離が近くなり、瞳に映る彼女の姿も近くなる。漆黒の髪は夜に溶け込むようで、キラキラと輝く星に負けぬ瞳は、その蒼が深く深く吸い込まれるようで――。
 不思議そうに、眩しそうに、煉月はパチパチと瞳を瞬いた。
 ――どれも綺麗だけど。キミの蒼が一番綺麗に見えるのは……どうしてだろ?
 それは一瞬の間だったのかもしれない。けれど、近付いても立ち止まった彼の腕を、今度は有珠が少し引くかたちになっていて。
「どうした?」
 振り向き尋ねれば、交わる瞳の先に意識が宿ったのに気が付く。驚き、また瞳を瞬いて、……その後「何でもないよ」と紡ぐ煉月の姿は、いつも通りの姿。
 へらりとゆるむその口許に釣られるように、有珠の唇も仄かに笑んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻

これが星空?
本物ではないとしても…美しいね
絶望の中に秘められていた希望のようだ

初めて観る光景に瞬きながらもいっとう美しいと感じいるものは
星鏡の上
桜と共に舞う親友(きみ)
私の大切な巫女の姿がこの上なく美しい
こんな美しい場所で、私の為に
私の為だけにと奉じられる神楽に心が満ちていく
星空に浮かぶ波紋に舞う薄紅が奇跡のようだ

そなたはいつも、私を招いてくれるね
花笑み誘う櫻宵の手をとり、星空を映した水面を歩む
まるで星の海の上に立っているかのようだね

星の欠片を見つけたよ
流れ星に願いをかけるように
大切な櫻の掌におとす
噫、けれど
星になんて願わないでと唇に人差し指を添える

サヨの願いを叶えるのは
私でありたいから


誘名・櫻宵
🌸神櫻

美しい星空ね!
地底だとは信じ難いわ
地底の星空は私も初めて見るの
一緒ねカムイ

そうだわ
私の神様、星と共にあなたに神楽を奉じるわ
いつまでもあなたの清らな心が
この星空のように澄んでいるように
祈りを込めて
跳ねる水滴に桜が舞って星湖に春の花筏をつくる
あらカムイったら、褒めすぎよ
照れちゃうわ
あなたは私を喜ばせるのが得意ね

おいで
手を差し伸べ
星空散歩をしましょうか

不思議
世界にはこんな不思議がたくさんあるのね
握られた掌の中に星空の欠片がおとされる
綺麗…星に願いをかけたら叶うかしら?

もっと色んな所を旅してみたいわ
いつか約した願いを言霊にするその前に
言を塞がれ瞬く

願いを叶えられるのは
―他でもない、私の神様だけ




 吸い込まれそうに深い深い闇の中、瞬く天の輝きは青白く。
「美しい星空ね!」
 感嘆の吐息の後、負けぬ輝きを桜霞の瞳に宿して誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)は声を上げた。此処が地底だとは信じ難い。そう感じてしまうほど、その星空は見事なものだった。そんな彼の傍らで、驚いたように深く深く息を吸い込む青年。
「これが星空?」
 吐いた息と共に零れた言葉には感嘆の意が含まれている。
 初めて見る『星空』と云うもの。その吸い込まれそうな美しさに驚いたように桜の瞳を瞬いて。朱赫七・カムイ(約彩ノ赫・f30062)は浸るようにこの情景を見つめる。
 例えこの星空が本物では無いとしても、とても美しいと想う。
 そんな、呆けるように立ち尽くす彼の姿に。櫻宵は笑みを浮かべると――。
「地底の星空は私も初めて見るの。一緒ねカムイ」
 彼の名と共に、一緒だということを言葉にする。
 そう、一緒だ。
 その輝きは絶望の中に秘められていた希望のようで、だからこそこんなにも惹かれるのだろうか――不思議そうに櫻宵へと視線を送れば、彼は笑みを浮かべ「そうだわ」と何かを閃き、仄かに頬を染めながら楽しそうに唇を開く。
「私の神様、星と共にあなたに神楽を奉じるわ」
 その言葉の後、彼が足を一歩踏み出せば水音と共に足元に波紋が生まれる。
 散る小さな水粒を受け、生まれる波紋は大小様々。瞬く星空はその波紋が生まれる間歪み――そして、段々とその揺らめきが収まれば再び鏡のように映す。
 不思議な光景。
 その星の輝きは美しいけれど――何よりも、美しいのは目の前で舞う櫻宵自身。
 跳ねる水滴にはらりと舞うは、淡色の桜の花弁。ちらちら舞うその花弁が水面へと落ちれば、小さな波紋を作り出した後春の花筏を作っていく。
 ――それは、櫻宵からカムイに向けて。いつまでもあなたの清らかな心が、この星空のように澄んでいるようにとの祈りを込めた優雅な舞い。
 櫻と共に舞う親友(きみ)の姿。
 その姿を瞳に映せば、大切な巫女の姿はこの上なく美しいと想いカムイは溜息を零す。
 吸い込まれるほどに美しいこの場で、自身の為に、自身の為だけに奉じられる神楽に心が満ちていくのを感じる。
 感覚と共に零れる言葉は無意識だっただろうか。けれどその言葉を聴いた櫻宵は、嬉しそうに笑ってくるりと優雅にこちらを見る。
「あらカムイったら、褒めすぎよ。照れちゃうわ」
 浮かべる笑みはいつものように優雅で、そんな彼から零れるからこそ桜の花弁も神秘的な存在に見えるのだろうか。
 星空に浮かぶ波紋に舞う薄紅――それはまるで奇跡のようだと、想っていた時。
「おいで」
 差し出される櫻宵の掌を見て、櫻宵の顔を見て、カムイは笑みを浮かべる。
「そなたはいつも、私を招いてくれるね」
 言葉と共に自身も手を伸ばし、彼の手へと重ねていく。伝わる熱を確かに感じながら、歩むは星映す水鏡。今からふたりで歩むは星空散歩。まるで星の海に立っているようだと感じ、カムイが辺りを見た時――すぐ傍らで煌めきが、水面へと落ちた。
 何かと想い手を繋いだまましゃがみ込み、水中を探せば何やら固い感触が。その固いものを掴み上げてみれば――ぼんやりと灯る、欠片がカムイの掌に。
 その輝きは淡い淡いもの。
 けれど闇に支配され、星空しかないこの場では一等強く輝く星のように想えて。
「星の欠片を見つけたよ」
 カムイは櫻宵の名を呼ぶと、彼の握られた掌の中にその欠片を落とした。
 ぼんやりと灯るその光をかざせば、まるであの瞬く星空の中のひとつのようで。
「綺麗……星に願いをかけたら叶うかしら?」
 溜息と共に零れるそんな言葉。もっと色んな所を旅してみたいと、言葉を紡ぐ前に零れるのを止めるかのように、唇に差し出されるカムイの人差し指。
「噫、けれど」
 ――星になんて願わないで。
 その行動と言葉に、櫻宵は少し驚いたように瞳を瞬いた。
 瞬かれた桜霞の瞳をしっかりと見て。カムイは桜の瞳に彼の姿を映しながら唇を開く。
「サヨの願いを叶えるのは、私でありたいから」
 それはカムイの願いでもあるかのようで。彼の口から紡がれたその言葉に、櫻宵は思わず笑みを浮かべる。
 そう、桜龍の心に宿る願いを叶えられるのは――他でもない、私の神様だけ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蘭・七結
【彩夜】

何処までも続いてゆく星の海
なんとうつくしい光景なのでしょう

結いだ紐を解いて
あかい靴を脱いで
晒した裸足を水の内へと浸す
……まあ、つめたい
身に染みてゆくよう
平気よ。ルーシーさんは如何?

少しずつ、歩んでみましょうか
星映す水鏡をひずめたのなら
ゆらゆらと星たちがうたう

しゃらりと流れた曲線を見うつし
おちた方角へと、あなたの手を取り歩んでゆく
宇宙のなかを歩んでいるのだと
そう錯覚をしてしまう

幼い指さきが掬いあげた子を見やり
そのあいらしさに頬が緩むよう
なゆの願いは、そうね
縁を結んだ人々の幸福が続きますように
憂いも嘆きも払いのけて
やさしい笑顔をみとめ続けたい

星たちと解けあって
このひと時に浸っていましょうか


ルーシー・ブルーベル
【彩夜】

わあ……!
天も地も星でいっぱいだわ!

靴を脱いで裸足になって、
そうっと水に触れれば入れば
……ひゃっこい!
な、なゆさんはへいき?
ルーシーは……だいじょうぶ

なんとか慣れてくれば浅瀬を歩いて行く

歩む度に生まれる輪
ルーシーの輪となゆさんの輪
交わっても乱れず
拡がるのが楽しい

あ!なゆさん、あっちで何かが落ちる音がしたわ
行ってみない?
天地曖昧な路を繋ぐ手のぬくもりを頼りに

小さなかわいい星の子を手ですくって
なゆさんなら何を願う?
応えを聞いては顔が綻ぶ
ステキな願いね

ルーシーは
大事なひとが幸せになりますように、かしら
ありきたりなお願いなのだけど、心から思うの

本物ではない星空
でもこの時はニセモノでは
けして無い




「わあ……!」
 満ちた輝きの世界に、思わずルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)は感嘆の言葉と共に、星に負けぬ輝きを大きな青い瞳に宿す。
「天も地も星でいっぱいだわ!」
 きらきらと瞬く天の星模様。その光を映した鏡のように凪いだ水面も輝きを帯び、そこは世界中が星に満たされたような空間。
 ルーシーの口から零れるその言葉は、星の煌めきを帯びたかのように輝いている気がして。蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)は小さな少女の言葉に柔い笑みを浮かべて、自身もこの美しき世界へと身を委ねるように足元へと細い指を伸ばす。
 綻ぶは赤い紐。
 覆う赤い靴を脱いで。
 白き足を星の落ちる鏡へと落とせば――。
「……まあ、つめたい」
「……ひゃっこい!」
 ちゃぷりと響いた水音と共に、上がる言葉はほぼ同時に。
 陽の光を浴びない地底水故か。その冷たさは今の季節を考えれば幾分か冷たさが勝っている気がする。けれど、星空を映すほど澄んだその水は身に染みていくようで。
「な、なゆさんはへいき?」
 視線を下げる程の小さな少女が見上げて問い掛けてくれば、七結は柔らかな笑みと共に平気だと応える。そのままルーシーは大丈夫かと問い掛ければ、彼女は大丈夫だと応えるけれど。きゅっと両手を握っているところから、まだこの冷たさに驚きを隠せない様子。
 くすりと優しい笑みを零して、七結は語る。
 ――少しずつ、歩んでみましょうか。
 彼女の優しい言の葉に、ルーシーはこくりと頷くと。慣れてきた足を水面から上げ、また水面へと浸し歩んでいく。歩む度に水音が上がり、生まれた水滴は水鏡に波紋を作りゆらゆらと世界を歪ませ揺らしていく。
 その波紋を見つめれば、ルーシーは冷たさも忘れたように楽しげに歩みを進めていく。彼女の作り出した輪と、七結の作り出した輪。そのふたつは同じ大きさで、交わっても乱れることなく、遠く遠くへ拡がっていく。
 その揺らめく姿は、まるで星たちがうたうかのようで――。
 瞬間、瞬きに合わせるかのようにひゅうっとひとつ煌めきの軌跡が見えた。
 淡い曲線。煌めく色は闇夜の世界だからこそ強く光り、微かな水音を立て消えてゆく。
「あ! なゆさん、あっちで何かが落ちる音がしたわ」
 瞬間、上がる声へと視線を落とせば。キラキラと覗く左目を輝かせる少女が音のほうへと指を伸ばしていた。行ってみない? と問い掛けられれば、勿論頷きと共に七結は少女の小さな手を取り歩み出す。
 繋がる掌から伝わる温もりは、心地良く。
 天と地の境が分からなくて、曖昧な道程でも迷わず進める。
 宇宙の中を歩んでいるのかと。錯覚する感覚も繋ぐ温もりが溶かしてくれるよう。
 彷徨うように、踊るように――ゆっくりと歩んだ少女たちは、水底が光る一点へと手を伸ばした、小さな少女の手が水の中から外へと出れば。その手の中には、輝きが。
 ほうっと零れる溜息はどちらからだろうか?
 淡く淡く輝く星は、天と地の届かぬ映し星とは違い確かに届いた希望の光。だからだろうか、人々がこの星に願い事をするのは。輝きがふたりを照らせば、くれないとあおの瞳はまるで強く瞬く星々のようにキラキラと輝いている。
「なゆさんなら何を願う?」
 その小さな輝きに幸せそうに頬を緩めていた時、七結に向けルーシーからの問いが。
 その言葉に七結は一瞬、考えるように視線を逸らし。口元へと細い指を当てるけれど。
「縁を結んだ人々の幸福が続きますように」
 憂いも嘆きも払いのけて。やさしい笑顔をみとめ続けたいから――。
 ふわりと花咲くような唇から零れたのは、どこまでも優しい言葉だった。
 そんなことを紡ぐ七結の姿も、そして彼女の願いも。とてもステキだからか、ルーシーの顔も思わず綻ぶ。
 そのまま彼女は掌の星をころりと転がすと、一瞬考えた後唇を開いた。
「ルーシーは。大事なひとが幸せになりますように、かしら」
 ありきたりなお願いだけれど、とも想う。けれど、それは小さな少女の心からの願い。そんな優しき少女の姿と心に、七結は口許の笑みを深めて少女へと眼差しを送った。
 掌で煌めく星と、天と地に瞬く星。
 どこまでもどこまでも続くその輝きは、全てが手を伸ばせば届くものでは無いけれど。
「星たちと解けあって、このひと時に浸っていましょうか」
 ひとつ息を深く吐いた後。一瞬見上げた視線を再びルーシーへと落とすと、七結は優しく言の葉を紡ぐ。
 繋いだ手から伝わる温もり。
 その温もりは、ルーシーがきゅっと手を握ると更に強くなった気がして――確かめるように、ふたりは再び星の海へと足を伸ばした。
 これは、本物ではない星空。
 でもこの時はニセモノでは、けして無い。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティア・レインフィール
きっと今まで、多くの苦しみや悲しみに耐えてきた人々
それから解放された姿に、私も喜びを感じます

地上にはまだヴァンパイアは居て
これからは違う戦いが待っているのだとしても
支え合える人々が居るのなら、きっと大丈夫です

住人の方々に声を掛けて、希望する方と共に湖に向かいます
星の欠片は、皆様のこれからの心の支えの一つとなる筈ですから

子供や老人の方に手を貸しながら、私も星の欠片を探します
星の輝きの美しさを言葉の代わりに、思わず星の歌を口ずさんで
乞われたら教えて、一緒に歌いましょう

密かに星の欠片に託す願いは
お母様と、教会の兄弟達が主の御許で幸福で在る事
――いつだって、そう願っていますから




 世界の果てまで続くかのように、どこまでもどこまでも続く瞬きの世界。
 冷たき水を、輝く星々を。一面に眺めながら人々は喜び、笑い、涙を流していて――解放された瞬間を味わう住民達の姿に、ティア・レインフィールは穏やかに笑んだ。
 きっと彼等は、今まで多くの苦しみや悲しみに耐えてきた人々なのだろう。
 その苦痛から一時でも解放されたその姿に、まるで自分の事のように喜びが満ちる。
 此処は、ヴァンパイアが支配する世界。
 地上にはまだヴァンパイアは居て、彼等の本当の平穏はまだまだ先のこと。これからは違う戦いが彼等を待っているのだろうけれど――支え合える人々が居るのなら、きっと大丈夫だとティアは想う。
 祈るように組んだ手を解くと、彼女は心地良さそうに湖を歩む少女へと声を掛けた。共に歩んでも良いかと聞けば、ティアより少し年下であろう彼女は頷きを返してくれる。
 ちゃぷりと響く水音がふたつ。
 生まれる波紋はふたりの動きに合わせ世界に広がり、ぶつかり、消えていく。
 何かが落ちる水音の中。
 星の欠片を探す人々の姿を見れば、ティアはそうっと笑みを浮かべると唇を開く。
「星の欠片は、皆様のこれからの心の支えの一つとなる筈ですから」
 良ければ一緒に探そうと、語り掛ければ彼等は頷いた。
 するとティアとここまで歩んだ少女も一緒になり、冷たい水へと手を伸ばす。
 闇の中。水中に落ちた光はすっかり光を吸い込まれてしまっているのか。浅い水中では小さな小さな欠片はまるで宝探しのよう。小さな子ではなかなか検討をつけられず、老人は腰の痛みを感じ背を伸ばしている。
 なかなか見つからないからこそ、願いを掛けるという伝承があるのか。
 ティアが水面の輝きをその瞳に映し、星に負けぬ輝きを抱いていた時――他とは違う、輝きを感じて細い手を伸ばしてみる。
 そうっと優しく包み込むように。掌を水中から上げてみれば――彼女の手の中には、確かに温かな光の欠片が輝いていた。
 その輝きが、光が。あまりに温かく神秘的で、思わずティアは息を飲む。
 そのまま――彼女の蕾のような唇から紡ぎ出されるのは、星の歌だった。
 世界に満ちる歌声は、ティアの唇からだけでなく段々と広がり。静寂が包んでいた世界に広がり共鳴する。
 人々の願いを聴き、幸せを感じ、ティアの掌の星の欠片が一層強く瞬いた気がして。
 ティアはそっと瞳を閉じて、思わずその瞬きへと願いを託していた。
 母と、教会の兄弟達が。主の御許で幸福で在る事を。
(「――いつだって、そう願っていますから」)
 遠く遠く響く歌声に、想いを乗せて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

氷雫森・レイン
湖の水面の上を飛んで進む
申し分なく美しい光景
これもまた、この世界の側面
「…私の弟子は、此処を知っているのかしら」
薬草と紅茶の師弟関係となった、人の子たる青年の顔を思い出す
この世界は未だオブリビオン・フォーミュラを倒せておらず、問題の根幹を解決していない
私の故郷、A&Wは逆にそれが終結した
彼も、ただひたすら故郷とその安寧の奪還だけを願った私の声に応えて戦場に参じてくれた
「だから次は…」
次にこの世界で決戦の火蓋が切られるのならその時は
「今度は私が守ってみせる」
そう
願いではなく、私は此処に誓いに来たの
落ちる星…私にはどのくらいの大きさかしら
そう思いながらこの誓いをかける星を求めて念動力の手を伸ばした




 きらきらと輝く星々の光を、まるで吸い込むかのように輝く薄い翅。
 小さな身体で輝く水面を羽ばたきながら、氷雫森・レイン(雨垂れ雫の氷王冠・f10073)はその美しい光景に溜息を零していた。
 この美しき世界も、この世界の側面なのだ。
「……私の弟子は、此処を知っているのかしら」
 思い描くのは、師弟関係となった青年の姿。
 人である彼は自分よりも随分と大きいけれど、弟子であるゆえ特別な想いが宿るのだ。
 此処は、未だオブリビオンが満ちる危険な世界。猟兵達の活動により徐々に情勢は変わってきているが、まだ大きな戦いは起きていない。問題の根幹を解決出来ていない。
 天の瞬く輝くを見上げると、レインは思い出す。
 自身の故郷――武器と魔法と竜の世界では、一度大きな戦いを果て平穏が訪れている。
 そして、彼がその戦いにて。ただひたすら故郷とその安寧の奪還だけを願ったレインの声に応えて、危険な戦場へと参じてくれたことを。
「だから次は……」 
 零れる言葉は、瞬く星空に吸い込まれていくよう。
 けれどレインは、小さな掌をぎゅっと握り。星に誓うように言葉を紡ぐ。
 そう、次にこの世界で自分の世界のように。大きな戦いが起きた、その時は。
「今度は私が守ってみせる」
 小さな小さな彼女から紡がれる言葉は、見目に似合わず強きもの。
 そう、レインは願いでは無く。誓いに此処まで訪れたのだ。
 その戦いの時はそう遠くは無いのかもしれない。まだまだ先なのかもしれない。その未来はレインには予想することは出来ないけれど、いつその瞬間が訪れても良いようにと決意を固めておくことは大事だから。
 ぽちゃりと響いた水音に、水面を羽ばたいていたレインはその場に止まる。
 あの音は、星がすぐ傍に落ちたのだろうか。
「落ちる星……私にはどのくらいの大きさかしら」
 人々にとっては欠片と呼ばれるほど小さなもの。けれど小さき存在である彼女にとってはどの程度なのだろう。不思議そうに思いながら、手を伸ばせば彼女は水面に触れることなく、不思議な力を用いて水中を探す。
 星映す闇鏡の中、一等強く輝く光。
 そう、この輝きに彼女は誓いを掛ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
【双星】アドリブ◎

おお!マジで星空が2個あるみたいだ!
中に何があるんだろうな
興味津々湖を覗きこみ
差し出された手に目をぱちくり
ははっ、アレスからそういうこと言うなんて珍しいじゃん
ご機嫌で手を握り返してふたりで歩く

無事でよかったなとか
新しいとこでもうまくやってけりゃぁいいなとか
色々あるけど
今はこの景色を堪能したい
まあ、俺の一番星は隣にいるヤツだけど

星の欠片か
どうせアレスは生真面目にここのヤツらが新天地で幸せに~っとか考えるんだろうから
俺はアレスの幸せでも願ってやるか
ああ、それか
(少しでも“俺と”いることが
アレスの幸せでありますように)
…って、これはねえな!

そうだな俺は
明日外でも星が見れるようにかな


アレクシス・ミラ
【双星】
アドリブ歓迎

いつもならセリオスが僕の手を引く事が多いけれど…
湖を覗き込む彼に手を差し出す
見に行ってみよう、セリオス
誘いに輝いた笑顔と手の温度に目を細める
星を探しに…と思ってたが
(すぐ傍で輝く君こそが僕にとって…一番星、だな)

しっかり手を繋いで湖を歩こう
…おや、これが星の欠けらかな?
今日、僕達が守れた街の方を見る
…彼らはここからなんだ
いつか…彼らや皆が冷たい夜闇に怯える事なく
笑い合って、星を見上げる事ができる世界になれるように
(そんな世界を…君の隣で見られたら)
…なんて、この小さな欠けらには大きすぎるし
それは、僕らの手で作る物だったね

だから、願うのは…
今日は皆がよい夢を見れるように、かな




 天を見上げれば瞬く輝き。その輝きを映す鏡のように凪いだ海もまた瞬き――。
「おお! マジで星空が2個あるみたいだ!」
 その美しき情景に、セリオス・アリスは声を上げた。
 どこか弾むような色を宿したその言葉と共に、中には何があるのだろうと好奇心を秘めた瞳が覗き込むのは闇深い湖の水面。
 そんな彼の背中を見て――アレクシス・ミラは、自身の手を差し出した。
 いつもならば、セリオスがアレクシスの手を引くことが多い。
 けれど今は、自分から。
「見に行ってみよう、セリオス」
 顔の横に差し出された彼の掌と言葉に、セリオスは少し驚いたように瞳を瞬いている。そんな彼の様子を眺めるアレクシスの口許には、柔らかな笑みが浮かんでいた。
「ははっ、アレスからそういうこと言うなんて珍しいじゃん」
 いつもの笑みをじっと見返して、ついついセリオスからも笑い声が漏れる。そのまま彼はアレクシスの手を取ると、立ち上がり招かれるように星が落ちた湖へと踏み出した。
 すぐ傍で花咲くように開いた笑顔。伝わる掌の温もり。
 星を探しに、と思っていたけれど――。
(「すぐ傍で輝く君こそが僕にとって……一番星、だな」)
 その熱を確かめるように微かに掌に力を込めて、存在を確かめるかのように揺らして。想うアレクシスの傍らで、セリオスは辺りへと視線を移す。
 人工の明かりが無い此の場は、ほぼ闇に包まれている。天の星々と足元の星が世界を照らしてはくれているが、それは先が見える程の頼もしいものでは無い。
 けれど、だからこそ――この地へと足を踏み入れることが出来た喜びを、人々は隠すことなく味わえるのだろう。
 いつごろから、この地への立ち入りが禁止されていたかは分からない。何故、禁止されていたのかも分からない。全てはヴァンパイアの気まぐれな嫌がらせだったのかもしれない。――けれど、喜び、足を浸し水音を立て、星を探す彼等の姿は確かに此処にある。
 彼等にはこの後、新たな地へと向かって欲しいと思う。
 慣れた地を手放すことは恐ろしいことだけれど、きっと支配に怯えない幸せな日々が待っていると信じたいから。新しい所でも上手くやっていければと、祈る気持ちが湧き上がり。セリオスはふう、とひとつ深い深い息を零した。
 願いたい。彼等のことを。
 けれど今は――この景色を堪能したいという気持ちが強い。
 繋いだ温もりの先には、いつだって隣に居る彼がいる。星明かりが落ちた金の髪はキラキラと輝き、一番星に相応しき煌めきを宿している。
 そんな耽る彼の隣で、水音が響いたのに気付いたアレクシスは足を止める。
 何かが降って来て、水面へと落ちていった。不思議そうに手を伸ばし、浅いその水中を探ってみれば――ゆらりと淡い輝きが、姿を見せた。
「……おや、これが星の欠けらかな?」
 大きなアレクシスの掌に握られた、淡い淡い輝き。
 星型のそれを天へとかざしてみれば、一等大きな星が咲いたよう。
 そっと瞳を細めて、騎士である彼が願うのは――この地の住民たちの平穏を。
 微かな笑い声が聴こえる。水音が響いたのが聴こえる。そう、その音は確かに、アレクシスとセリオスたち猟兵が守った街の人々のもの。
 彼等の物語は、ここから始まる。
 だからアレクシスが輝く星に願うのは――。
(「いつか……彼らや皆が冷たい夜闇に怯える事なく。笑い合って、星を見上げる事ができる世界になれるように」)
 優しく瞳を細めて、柔らかな笑みを浮かべて祈る彼。星の光に照らされたその横顔を眺めていたセリオスには、アレクシスがどんな願いをしているかは簡単に予想出来た。
 そう、彼は生真面目な騎士だから。
 だから、という訳では無いが――自分は、アレスの幸せでも願ってやるか。
 いや、それとも。
(「少しでも“俺と”いることが、アレスの幸せでありますように」)
 一瞬の浮かんだ言葉。けれどその言葉はどこか不思議で、瞳を見開き彼は首を振るう。
「……って、これはねえな!」
 思わず零れた言葉に、アレクシスは顔を上げ不思議そうに笑みを浮かべる。何でも無いと首を振るセリオスの姿を見て――また、彼は微笑むのだ。
 そう、願った世界を――君の隣で見られたら。
 そんな願いを掛けたくもなるけれど。ささやかな願いを込めると伝えられる、この小さな星の欠片には大きすぎる願いだろうか。
 そう、それに――。
「それは、僕らの手で作る物だったね」
 小さな小さな声で零れた声は、吐息と混じり星空の世界へと消えていく。
 恐怖に包まれたこの世界に、光が射していることは確か。それは彼等猟兵が、全力を尽くし事態を対処してきたから。ならばこの先の幸せだって、紡げるはず。
 だから、今アレクシスが願うのは――。
「今日は皆がよい夢を見れるように、かな」
 どこか晴れやかな笑顔で、天の星を見上げたアレクシスは言葉を零す。
 その言葉にセリオスは、小さな笑い声を零すとそれなら、と願いを続ける。
「俺は、明日外でも星が見れるようにかな」
 ――どうか、どうか。
 ――彼等の旅立ちには温かな祝福が降り注いでいますように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朧・ユェー
【双月】
彼は大切ないとおしい子

とても美しい世界ですねぇ
平和になった世界、喜ぶ人達を微笑みながら眺めた後

せっかくだからと裸足になって彼の手を引いて星を映す湖のへ
とても冷たいですね、十雉くん

鏡の様な美しさ、天と地が無い世界
吸い込まれそうになりますね。
ふふっ、十雉くんがつかまってしまったら
僕は迎えに行きますよ

星の欠片ですか?
では僕も探してみましょう。
ん?僕の願い…そうですねぇ。
じゃ僕も内緒です。

懸命に探す彼にいとおしい想うと同時に
違う感情が心に刺さる
でもそれはひっそりと心に秘めて


宵雛花・十雉
【双月】
ユェーは父親のような存在

綺麗な星空
思わず見惚れてしまいそうなくらいに

自由の身になって喜ぶ人たちを見ていると、オレまで嬉しくなっちゃうな

裸足になって袴をたくし上げて、恐る恐る湖へ
うん、冷たい
でもすごいや、まるで星空の上を歩いてるみたい
上も下も星でいっぱいだから、なんだか吸い込まれちゃいそうだね

ねぇねぇ、星の欠片が見つかったらユェーは何を願う?
オレ?オレの願い事は…な、内緒
え、ユェーも内緒?
気になるじゃない…まぁ、お互い様なんだけどさ
煌めきが落ちたのを見れば、一生懸命に星の欠片を探すよ

…馬鹿だなぁ、オレ
こんなことで期待しそうになるなんて
心の中でそう独りごちた




 天に瞬く星空と、その光を映す透き通る水面。
 どこまでも、どこまでも――果て無き世界のように錯覚する情景。
 本物では無いその美しき星空に、無意識に宵雛花・十雉は溜息を零していた。そう、思わず見惚れてしまったのだろうか。
「とても美しい世界ですねぇ」
 不意に漏れたその吐息に自分で気付いた時、傍らから聴こえる声に十雉は顔を向ける。瞳を細め、辺りを見遣る朧・ユェーの口許には穏やかな笑みが浮かんでいる。
 此処は、今一時の平和が訪れた世界。
 人々の近付かなかった、今までは静寂に包まれていた星落ちた湖は今は人影がまばらにあり。星の落ちる水音では無く、人々が歩む音が響いている。
 生まれる波紋も数多。あちらこちらに波紋が生まれ、映す星を歪めればまた星が瞬く。
 彼等の姿を見れば、ふたりの心にも温かなものが満ち――これはきっと、嬉しさなのだろう。自然と綻ぶ口許。そのまま彼等は顔を合わせると、どちらからともなく一歩踏み出した。自由の身になった彼等のように足を解放し、ぱしゃりと水音が響き渡る。
「とても冷たいですね、十雉くん」
「うん、冷たい」
 ひんやりと伝わる冷たさに、どこかくすぐったそうに笑うユェー。彼とはどこか対照的に、濡れないようにと袴をたくし上げる十雉は恐る恐るといった様子だった。
 一歩踏み出せば水音と共に波紋が生まれ――果てへと伸びるように広がっていく。
 天にも、地にも。
 瞬く星々はこんなにも眩しく、闇夜の世界を優しく照らすようで――。
「でもすごいや、まるで星空の上を歩いてるみたい」
 どこか年齢に似合わぬ幼さを宿した十雉の眼差しは、星空が落ち赤く煌めく。上も、下も星でいっぱいだから、なんだか吸い込まれちゃいそう――そう紡ぐ彼の眼差しも、まるで星が瞬くように輝いている。
 そんな笑う十雉の姿を見て。ユェーは穏やかな笑みを浮かべていた。
 天と地が無い世界。まるで鏡のような美しさ。吸い込まれてしまいそうなこの景色に。
「ふふっ、十雉くんがつかまってしまったら。僕は迎えに行きますよ」
 十雉の零した言葉に、くすくすと小さな笑い声を零しながらユェーは紡ぐ。暗闇に。美しき世界に。連れて行かれてしまっても、いつだって、何度だって。迎えに行くという言葉は温かく――先程の夢から覚めた瞬間を思い出し、十雉は瞳を伏せて笑っていた。
 チカリと輝きが天から落ちる。
 それは遠い遠い光の軌跡。それは流れ星の欠片だろうか。落ちる光を見届けた後、「ねぇ」と十雉の声掛けにユェーは小首を傾げる。
「星の欠片が見つかったらユェーは何を願う?」
 ささやかな願いを掛ける石――そう伝承されるその石に、一体何を願おうかと。尋ねる彼自身の願い事は内緒とだけ。そう紡ぐ彼の姿にまたひとつ笑みを落として。
「じゃ僕も内緒です」
 そっと口許に人差し指を当てて、ユェーは重ねるようにそう紡いだ。
「え、ユェーも内緒? 気になるじゃない……まぁ、お互い様なんだけどさ」
 その言葉と仕草に、ぱちぱちと瞳を瞬いて。気にした様子で十雉は微かに唇を尖らせるけれど、逸らした視線が追うのは次なる星の軌跡。もっと近くに落ちれば、水音で、生まれる波紋で、手を伸ばせば星が見つかる筈だから。
 耳を澄まし、きょろきょろと辺りを伺うそんな懸命な彼の様子を見ていれば。ユェーの心にはいとおしいと想うと同時に違う感情が刺さる。
 気付かぬ程微かに、唇を結び。胸元に手を当ててユェーはその刺さった感情を確かめる。それは、今零してはいけないもの。だから彼は――胸に当てた手をそっと離すのと同じように、その感情はひっそりと心に秘めた。
 辺りを懸命に探す十雉には、そんなささやかなユェーの変化には気付けない。
 折角ユェーも一緒に探してくれているのに、なかなか見つからないことに少しの不安が宿っていた。星が落ちるとはいうけれど、それは今で良いのだろうか。
(「……馬鹿だなぁ、オレ」)
 こんなことで期待しそうになるなんて。
 果てまで続くような世界を見ながら、十雉は小さな溜息と共に心に想う。
 瞳を細め、その期待が消えゆきそうになった時。
 ちかり、落ちゆく光の軌跡。
 そのままぽちゃりと響いた水音は、ふたりの間に。
 ――ほら、君が手を伸ばせば。
 ――願いの欠片はその手にしっかりと握られる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

バンリ・ガリャンテ
煌めきが降る。俺の頭上から足元へ。
さよならと囁くように墜ちて、まるで宇宙のおわり。
これまでの悲しみの歴史を、
皆さんの悲しみの終わりを、微笑んで涙して見送る光なんだ。
素足を水面に進めて星たちへ会いにゆく。
冷たい。湖水に満ちた皆さんの哀しみが、沁みるように冷たい。
宥めるように。そっと掌に掬った欠片に語りかけるよ。
あなた方、皆さんを見守ってらしたの。
きっと辛かったね。
彼らが苦しむさまに、ただ瞬いて寄り添うしかなかったね。
ねぇあなた方。俺に願って。
人々に会えずとも、願いを託され続けたあなた方の声を俺に、きかせて。
そう。誓うから。
きっときっと、失われることのない光のもとへ
皆さんを連れてゆくと、誓うから。




 きらりと、煌めきが降るのが見えた。
 その輝く軌跡を淡色の瞳で追い掛ければ、それはバンリ・ガリャンテの頭上から足元へと落ちゆく光。その光は――さよならと囁くように堕ちて、まるで宇宙のおわりのよう。
 そう、これまでの悲しみの歴史を。
 強き存在に支配され、人と思えぬ扱いを受けて、希望も見えないその世界から――。
(「皆さんの悲しみの終わりを、微笑んで涙して見送る光なんだ」)
 バンリは心に想うと、きゅっと唇を結び胸元で手を握った。
 闇夜の世界では、いくら星明かりが眩くとも辺りの人の姿はよく見えない。
 けれど声が、水音が、跳ねる足音が――喜びを語っているような気がする。だからバンリも彼等に続くように、靴紐を解くと裸足になって。そっと星湖へと足を浸ける。
 星たちに、会いに行く為に。
 ちゃぷりと響く水音は微かなもの。けれど夜の空気が辺りの音を吸い込んでいるからか。バンリの耳にはやけに大きく響いた。
「冷たい」
 沈めていけば感じる心地に、思わず彼女は言葉を零す。
 その冷たさは、湖水に満ちた皆の哀しみが沁みるようで――だからこんなにも、冷たく感じるのだろう。
 暗い暗い水面には、瞬くような星空が映る。キラキラと輝き、吸い込まれそうな程美しいその水中へと、そうっと掌を伸ばしてみれば――彼女の小さな手には、星が訪れた。
 ふっと小さく笑みを零し、掌の中で淡く淡く輝く星を彼女は見る。
 微かに、鼓動するかのように明滅している気がする。温かく、夜の世界を微かにだが照らすその光が愛おしくて、愛らしくて。バンリは光が映り輝く瞳を細めると。
「あなた方、皆さんを見守ってらしたの」
 ――きっと辛かったね。
 優しく、優しく。星の欠片へと語り掛けた。
 彼等が苦しむ様に、ただ瞬いて寄り添うしかなかったね。
 ねぇあなた方。俺に願って。
「人々に会えずとも、願いを託され続けたあなた方の声を俺に、きかせて」
 そう、誓うから。
 きっときっと、失われることのない光のもとへ。皆さんを連れてゆくと、誓うから。
 それは、バンリの星に掛ける願いのような誓い。
 そのままそうっと唇へと星を寄せれば――瞬きが一瞬だけ、不規則になった気がした。
 まるで、バンリの言葉に星の欠片が応えているような気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

イヴン・バーガンディ
戦いが終わり、住民たちの姿を遠くから見ている

「星が落ちた湖か…」
その景色を見て、この闇の世界も捨てたものじゃない、と。
闇の中に輝く光が、心に希望を与えるならば…

ブーツを脱いで、湖に入る
しばし、委ねていたい…。

自分の娘と同じくらいの子に目がいってしまう
目が合うと、自然に笑み
短い言葉を交わし…

「星の欠片…」見つけられるだろうか
歩きながら、湖の底に目をやる

願い…もし願うとしたら、
大切な人の願いを叶えられる奇跡を起こす
その力を得ることだ。

過去の記憶を巡る…
あの日々が、今の自分を形成して、強くしてくれた
でも、まだ物足りないんだ
求めるべきものは、この先に。

星の欠片を見せたら、喜ぶかな…




 闇に染まり続けるこの世界で、天と地を覆う星々の輝きは世界を照らす温かな光。
 だからだろうか。彼等が、住民達がこんなにもこの場を愛しているのは。彼等は喜び足を浸し、天から落ちゆく星の欠片を手にし祈るように瞳を閉じる。
「星が落ちた湖か……」
 そんな彼等を遠目から眺めていたイヴン・バーガンディは、ぽつりと零していた。
 キラキラと輝くその瞬きは、本物では無いという。
 けれど、天にも、地にも。果て無き地のように続くその景色は溜息が零れる程美しく。この闇の世界も捨てたものでは無い、とイヴンは想う。
 そう、光の中では星の瞬きは掻き消えてしまうもの。
 闇の中に輝く光が、心に希望を与えてくれるのは常夜の世界だからなのだろう。
 イヴンはそのままブーツを脱ぐと、そうっと水面へと足を伸ばす。
 微かな水音。生まれる波紋が世界を歪ませ、どこまでも広がっていく。思った以上に冷たさを感じ、一瞬身体がびくりと反応するが――浸してみれば心地良さが包み込む。
 星々に包み込まれる中、ひとりの少女の姿を見掛けイヴンは思わず目で追っていた。
 それは、彼女が自身の娘と同じくらいの年頃だったから。
 彼女は星湖の中を楽しむように歩いており、イヴンの傍を通る時に瞳が交わる。自然と彼の口許に笑みが浮かべば、少女も笑みを返してくれた。
 息と共に零れる言葉。
 イヴンの挨拶に少女はしっかりと返してくれるけれど、すぐ傍に何かが落ちてきた水音に反応し水中へと意識を移してしまう。
「星の欠片……」
 落ちてきたものが、星の欠片だということはイヴンも分かった。
 自分にも、見つけられるだろうか。
 広い広い、果てまで続くようなこの鏡の中で。落ちゆく願い星の欠片を。
 ささやかな願いを掛ける光の欠片。もしもイヴンが願うとしたら――大切な人の願いを叶えられる、奇跡を起こす。その力を得られるようにと。
 過去の記憶を巡る。
 あの日々が、今の時分を形成し、強くしてくれた。
「でも、まだ足りないんだ」
 ぎゅっと拳を握れば微かに震えている。
 まだ、足りない。求めるべきものは、この先にあるから――。
 ぽちゃんと微かに響いた水音に反応し、波紋を作る足元を探るように見遣れば。仄かに星々の色では無い輝きが宿っている。手を伸ばし、そうっと持ち上げてみれば――温かな明かりが、イヴンの掌で輝いている。
 ――星の欠片を見せたら、喜ぶかな。
 その光を見ながら心に想うイヴンの眼差しは、とても柔らかなものだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月27日


挿絵イラスト