25
朽木の生

#ダークセイヴァー

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#ダークセイヴァー


0




●燃えぬ滓
 かつ、かつん、と。石畳を叩く。
 気取った靴音がすぐ傍らで止まる。それは死刑宣告にも等しいことであると、刺すほどの静寂が物語る。
『どうした? 薄情者しか残っておらんのか』
 太い声が嫌味ったらしい粘度で空気を震わせた。
 大気に焼けるほど濃く満ちる、痛み。恐れ。嘆き。凄惨な現実から目を背けるために、散らばる物言わぬ骸と声の主を除く誰も彼もが、蹲り頭を垂れていた。
 風の揺れに薄目を開けた、青年の頬にひやりとした温度が隣り合う。耳を削ぎ落とさんばかりに近く、土を抉って振り下ろされた一本のショベルだ。精巧な銀の装飾は寂れた寒村には不釣り合いに煌めく。
『さっきのはお前の父母であったよなぁ。ふん、とんだ孝行息子を持って幸せな奴らよ。目出度いついでに主様からのお恵みだ、賢く使えよ』
 下卑た笑いが見下ろす。

 "賢く使え"。
 ――領主館の整備に励む?
 ――家族の、己の墓穴を掘る?
 ――それとも。それともこの悪鬼を、この手で?

 泥に汚れた手がショベルの柄を握りしめる。
 振り上げて、叩きつけて、ズタズタに。命乞いすら吐けぬ肉塊に変えてやる!! 目の前で惨たらしく殺された者たちのように。脳内で幾度となく再生した未来へ、しかし踏み出すことを身体が、拒んだ。
「……の、  ます」
 指が動かない。
 跪いたままの襤褸布に冷えた血が染み入る。これは父のものか、母のものか。『芸をしてみよ』『ほれ、腕が飛ぶぞ』『つまらん。実につまらんなぁ』――ああ、この腐った支配者どもは立ち向かう無謀を、あろうことか愉しんでいたのだ。 憎い、許せる筈が、だというのに。
 恐ろしい。あんな死に様は嫌だ。死にたくない。死にたくない……!
「……主様の、お役に立ちます」
 弱々しく落ちた服従の意思に、肥え太った吸血鬼は笑みを深める。
 対照的に、ずっと高みからその光景を眺め下ろしていた主様ことひとりの女は浮かぬ顔でいた。
 初めの頃こそ"恵み"を手に反抗する威勢を見せた村人たちも、知った骸が土塊といっしょくた転がされるうちすっかり意気消沈してしまったらしい。今ではあの小物の靴をも舐める始末だ。
『あぁ、まったく』
 恋煩う乙女のようにも、女は憂える吐息を零す。彼らは――私の勇者はまだ着かぬのか。遅い、遅い、ならばこの村も今日で終いとしよう。

●朽木の生
 おそらく、罠であると思います。
 猟兵を迎えたニュイ・ミヴ(新約・f02077)は、事情説明の最後にそう所感を足した。
「退屈の果ての余興……いえ、抗う志を捻じ伏せることにこそ喜悦する性質のオブリビオンは、みなさんの訪れを歓迎するでしょう」
 襲撃を受けた村は謂わば、餌だ。
 闇夜の世界にも抗い続ける、すばらしき猟兵らを誘き出す最も効果的な餌。
 ただの村人に立ち向かう力を持つ者など一握りと知りながら、女とその配下とみられる男吸血鬼は村々で虐殺を繰り広げている。刀剣や農具、敢えて武器を授け、機会を与えて見返りに命までを奪う。
 直々に下すに値する存在か、今は姿を見せぬ女は品定めに勤しむのだろうとニュイ。尤も、選ばれぬとて迎える結末は等しく死――興味の失せた残飯として飼い犬に食い荒らされるのと、どちらが幸いかなど。
「既に救えない方がいらっしゃいます。恐怖に支配されてしまって、人々は誰が敵かも分からない状態かもしれません。首魁だって闘争を求めるだけあって、きっと一筋縄ではいかない存在です。それでも……」
 それでもみなさんにしか、出来ないことです。
 ぺこりと折れたタールから溢れた光が世界を繋いでゆく。――聴こえ始めた風鳴りの音は、呻き声のようで。


zino
 ご覧いただきありがとうございます。
 zinoと申します。よろしくお願いいたします。
 今回は、ゲームの誘いを受けダークセイヴァーへとご案内いたします。

●流れ
 第1章:ボス戦(元人間の吸血鬼貴族とその従者達)
 第2章:集団戦(グレイブヤードゴーレム)
 第3章:ボス戦(決闘姫ブルーローズ・エリクシア)

●第1章について
 OPの状況直後に割り込めます。
 場所は粗末な家々が点在する村の広場。周囲には複数の村人、死体、ボスである吸血鬼の男。

 ボス自体の戦闘力は大したことがないものの、より上位の吸血鬼の力を借り受け行使します(蝙蝠の群れ、刀剣、暗黒魔法等が虚空から飛び出すイメージ)この召喚対象は第3章ボスとは無関係です。
 技能【血を捧げる】の成功は回復として判定します。
 また、ボスの命令に服従する他ない村人らは肉壁として駆り出されます。敵UC上の味方、狂信者扱いです。武器に農具等を使用しますが熟練度は低く、彼らの生死は成否に影響しません。

●以降の章について
 連戦です。例外的に負傷を引き継ぎます。ユーベルコードや技能、アイテムで回復した場合はこの限りではありません。

●その他
 導入はなく、シナリオ公開と同時にプレイング受付開始となります。
 第1章のプレイング受付は【24日(木)の日付変更時点】で終了予定です。
 補足、詳細スケジュール等はマスターページにてお知らせいたします。お手数となりますが、ご確認いただけますと幸いです。
 セリフや心情、結果に関わること以外で大事にしたい/避けたいこだわり等プレイングに添えていただければ可能な範囲で執筆の参考とさせていただきます。
175




第1章 ボス戦 『元人間の吸血鬼貴族とその従者達』

POW   :    猟兵なんぞあのお方が奇跡的に現れ蹴散らして下さる
無敵の【偉大で高貴な吸血鬼様】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
SPD   :    わ、わしのせいではないぞ!お前のせいだぞ!
あらゆる行動に成功する。ただし、自身の【失敗した時の責任をなすり付けられる味方】を困難さに応じた量だけ代償にできなければ失敗する。
WIZ   :    水が無ければ、血を飲めばよいではないか!ガハハ♪
戦闘力のない、レベル×1体の【自分に媚びへつらい持て囃してくれる狂信者】を召喚する。応援や助言、技能「【血を捧げる】」を使った支援をしてくれる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はララ・エーデルワイスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ルイス・グリッド
アドリブ・共闘歓迎

全く明らかに戦いに慣れていないのに強要するとは何事か
弱いもの虐めが楽しいとは本当にいい趣味してるよ、俺には理解できない
俺は生きている者達の盾になろう

POWで判定
【早業】と【救助活動】で近くにいる青年を他の者達と同じくらい後方に下がらせる
それから【挑発】し、狙いを自分に付けさせてから【気合い】【勇気】【覚悟】で挑む
攻撃されても【激痛耐性】で耐えて敵を【挑発】し続ける
何度も立ち上がり続ければ敵の能力に疑念を感じるだろうから、その時を【視力】と【戦闘知識】で見極め【怪力】【鎧無視攻撃】【重量攻撃】【限界突破】を使いながら、右腕の銀腕で殴りつけるようにUCを使用する


エドガー・ブライトマン
ああ、酷いことだなあ
か弱き下々を痛めつけて、何が『主』なんだ
この村を救わなくちゃ

空気を読まずに乗り込ませてもらうね
やあ、ごきげんよう村の諸君
ショベルは土を掘り耕し、土地を豊かにするために使うものさ
ねえ、そこの村人君。私はキミらを救いに来たんだよ

“Hの叡智” 攻撃力を重視
貴族君。…ウウン、貴族というほどキミは全然貴くないねえ
人々に代わって、私が相手をしてあげる

《早業》で貴族君へ間合いを詰め、狂信者には攻撃しない
《激痛耐性》があるから、多少の傷には気づきもしない

上に立つ者として教えてあげよう
ねえ、キミは無敵になんてなれやしないよ
人々を痛めつけ踏みにじり続けるキミを誰も信じない
キミは私に勝てないさ


ナルエリ・プローペ
立ち向かう為には、力や武器も、必要ですけど。
抗う気持ちがあるかないかはそれ以上に大切で。
どんなに力があっても、その気がなければ何も出来ないから。
そんな話を、前にした事があります

前を向く気持ちが欠片も無くなってしまう前に
その気持ちを少しでも思い出せるような戦い振りをしたいかな。
簡単ではないでしょうけど。

村の住人は殺さないように。
武器を弾き飛ばしたり、武器を壊したり。気絶させたり。
こう見えて、避けるのは得意ですし、耐えて傷がついても平気です。
味方が少しでも楽になるようにします。

趣味の悪いお方には
――小娘一人すぐに殺せないようでは、先が思いやられますね?
そんな風に、ちょっとからかってみましょう


コノハ・ライゼ
胸糞悪ぃンだヨ

最も早い接敵経路を*見切り飛び込むわ
命ある村人の盾は*残像駆使し避け
道がないなら*空中戦に持ちこんででも直接あのデブっ腹をカチ割りたいじゃナイ
まずは「柘榴」で一閃
反撃は*オーラ防御で防ぎ*激痛耐性で凌ぐケド
気にせずまた斬りかかる

あらぁ、随分安くみられたコト
デモたかがてめぇの知り得る強さ
想像だにしない力ってのを前にしたら、ねぇ?

煽りついでに疑念与え
傷の血を柘榴の糧に【紅牙】発動
獣牙の刃で喰らいつき*2回攻撃で*傷口をえぐって
――ああ、ナンて不味い
*呪詛じみた感想零し*生命力吸収しようか
ぎちぎちと齧りつき離れぬ牙でじっくりと*恐怖を煽りながらネ

ナンか知らないケド、気に食わねぇンだもん




『――さぁて、他の者はどうだ? そうだ、ちょうど若い娘を切らしていてなぁ。いくら味が良かろうと二食も持たんのは質が悪い、そうは思わんか』
 腹を揺らして歩みを再開した、吸血鬼の指が俯く娘の後頭部を手荒に掴み上向かせる。
 ざんばら髪の合間から覗く瞳はどんな色をして濡れたろう。舌なめずりとともに指が、顎へ。喉へ。その痩せ細った輪郭を爪が歪めた刹那のことだった。

 ガ、ゴッ!!

 音を立てたものは力無き青年の握るショベルではなく、ましてそのように生易しい道具でもない。殺すための道具だ。ひと振りの刃が、殴り下ろす形で鬼の背を強かに打ち据えていた。
『ッッ、んな』
「汚い手で彼らに触れるな」
 跳ね転がる巨体が状況を飲み込むよりうんと早く、瞬きも忘れた村人らの前に降り立つルイス・グリッド(生者の盾・f26203)の拳が一塊の蝙蝠を穿つ。ただ己の威容を示すためだけに控えさせていたであろうそれは、呆気なく掻き消えて。
「そーいうコト。胸糞悪ぃンだヨ」
 ならば鬼を飛ばしたのはコノハ・ライゼ(空々・f03130)。お綺麗なジュストコールを早くも泥に汚しながら身を起こす吸血鬼に、すうと薄氷の双眸が細まる。
 文字通り、すっ飛んできたのだ。これ以上ないとばかりに見舞ってやった手に痺れは残るが、いっそそれが心地好い。このクソ外道に与えた痛みと同義と思えば。
 妖狐の足場にされた藁葺き屋根から遅れて葺き材が散る中、もうひとつ足音が近付いていた。
「やあ、ごきげんよう村の諸君」
 汚れを拭う吸血鬼の真正面で歩を止め、彼、エドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)は平素と何ひとつ変わらぬ快活さで言う。「キミらを救いに来た」右手には、"恵み"と比べものにならぬほど美しき装飾のレイピアが握られている。
 そのショベル、賢い使い道を知っているようで嬉しいよ――と、言葉を手向ける先は背の人々だ。
 主様のため。墓穴を掘る。無謀な、死。 どれも違う。
 ショベルは土を掘り耕し、土地を豊かにするために使うもの。
 戦いは、相応しい者が。ひとたび胸元に掲げられた細剣は吸血鬼を指し、心の臓を射貫くかの如く。
「人々に代わって、私が相手をしてあげる」
『救い、だと? ……ハンッ、言わせておけば。お前たちはなぁ、誘い出されただけなのだよ! 罠とも知らずに、どこの誰とも知らぬ塵どものために死ぬ! いいや、主様を愉しませるため――だったなぁ?』
 唾を撒き散らしてがなる男が手を振り翳せば、家々から老若男女が姿を見せる。
 襤褸を纏いながらも、手にはやはり銀の恵みが握られている。表情は暗く、ただ、思考を止めて使われるまま働く限りの存在。
「あ……」
 声を落としたのはルイスの足元の青年だ。暗闇に慣れ切った瞳には、突然舞い込んだ奇跡が自分たちを救うというビジョンなど到底視えない。彼らが事を荒立てる。彼らも殺されてしまう! 引くも抜くも出来ずにいたショベルに力を込めたそこを、浅黒い手が遮った。
「始まる。下がってくれ」
 ぐわり、鈍色から銀に蠢くつくりものの腕が見かけ以上の優しさでその身を後方へ押しやる。それきりルイスは飛び出して、差し向けられた濃密な闇の気配を掴み、引き千切った。
 ――弱いもの虐めが楽しいとは本当にいい趣味してるよ、俺には理解できない。
 沸々と昂る魂が宿るか銀の右腕は姿を移ろわせる。メガリス、願いを掴み取る力、生きている者たちの盾にと念じる青年の心のまま、顕現しかける吸血鬼の頼みの綱が散らされる。
「どうした、誘っておいてその程度か?」
『……む』
 そう、"偉大で高貴な吸血鬼様"をお呼び出来なければ元々はただの人間であった吸血鬼にさしたる実力はない。前情報で男の性質を伝え聞いている猟兵が後手にまわる筈がないのだ。
 ルイスの挑発に一瞬引き攣った吸血鬼の笑みは、だが、こんなときのために手札を残してきたのだと己に酔って歪む。
『っわしを守らんか! 奉公者の家には赦しをくれてやるかもしれんぞ?』

 ――俄かに場の空気が、変わる。
 殺されずに済むのか?
 家族を守ることが出来る?

「あらぁ、随分安くみられたコト」
「まだ、主のつもりでいるんだね」
 ――もう一転。

 脂肪の塊を守るにはあまりに薄っぺらな肉の壁、どうぞと皿に乗せられたって喰らう気もおきない。コノハは自身に向け振り下ろされた鍬をするりと抜ける。畑を耕すんじゃナイんだから、と振りの遅い老人に対してのアドバイスまで付けてやって。
 仄青い残像が尾を引いて、人々の間を化かすみたく踊りゆく。
 主。目の前の男をなんと呼ばわるべきかエドガーはずっと考えていた。主君。貴族君? ウウン、どちらもあまりに似合わない。まったく貴くないのだもの。
「か弱き下々を痛めつけて。得られるものはあったかい」
 ノブレス・オブリージュのなんたるかを真に悟る王族たる少年は、投げつけられた鉄球の類をひとまとめに打ち落とす。
 跳ね散る泥を見もしない。豪奢な装束は彼らに汚されて困るものではなく、彼らのため汚れて構わぬものだ。
 人並の向こうの吸血鬼、それのみを見据え――、Hの叡智。 誓いに高められたエドガーの剣閃が瞬きを強める。未だ距離のあるうちからひとつの命を"運命"へ導かんと、不殺のつるぎが闇に閉ざされた道をこじ開ける。
 "通りすがりの王子様"。
 最初は半信半疑だった、いつかの彼の名乗り口上の意味するところが伝わってくる。
 そう思いながら、ナルエリ・プローペ(Waker・f27474)は立っていた。立ち向かうためには、力や武器も必要で。けれども抗う気持ちの有無はそれ以上に大切で。どんなに力があっても、その気がなければ何も出来ないから。――その気があるということは、すごいことだから。
「私は……、皆さんの在り方を責めるつもりはありません」
 レールを外れる難しさを知っている。ぬるい風がはたはたと娘の長い白髪を揺らして、世界の温度に馴染ませる。
 村人の暗い目がナルエリを捉えた。"なら、お前が死んでくれるのか?" 突きつけられる敵意を静かに振り仰いで、一歩。Rassemblezの洋傘に両手を添え。
「けれど、前を向く気持ちが少しでもあるのなら」
 いっしょに頑張りましょう、と願いに似て剣を抜いた。
 先行く背のように、その気持ちを僅かずつでも思い出させる戦いぶりをしたい。猟兵たちの中にあって温室育ちのお嬢様然とした出で立ちのナルエリは格好の標的となり得たが、それは同時に利ともなる。
 村人たちの目が向いている間に、ルイスは彼ら諸共屠らんと舞う蝙蝠をまた一匹殴り抜いた。
 ルイスはデッドマンだ。右腕の流体金属は都度噛み痕を呑み込んで、痛みすら、何事もなかったかの如くに鳴動する。コノハとエドガーが戦線を押し上げ本体を脅かす分、うまく意識を注げていないのだろう創造物の精度は低い。
「戦えるのか」
「ええ。そのつもりで、此処に」
 なら、頼む――と。
 すれ違い様に告げたルイスと、告げられたナルエリ。生者と等しく流れる血の珠が落ちたとて、双方覚悟の上で立っている。矢のように"次"へ駆け行く男に託された人々の、おそれを娘の剣が受け止めた。
 刃越しに震えが伝わる。
「うっ、うう、この女……!?」
「先ほどの答えですが。死にませんし、死なせません」
 傍目に圧し切られそうな腕の太さの差があったとして、ナルエリが膝をつくことはない。身を低く沈ませてから押し上げる勢いで噛み合う刃をずらし、弾いた刹那、単純な構造の装飾剣の先端部分だけを一閃のうちに断ち落とす。
 受けて、返す、攻め入る考えを捨て守りに重きを置いたパラディンの戦い。多少の傷なんて平気だ。
 平気だと朗らかに微笑う遠き面影を瞼の裏に、ユーベルコードの力に頼るまでもなく、少女は自身の為すべきことを探し――示してゆく。

 何かがおかしい。
 そう勘付く暇すら与えられない。吸血鬼は肉壁を掻い潜りやってくる者の対処に必死になっていた。開幕切り付けられた背の傷がじくりじくりと痛むのだ。ああ、腹立たしい! 敗北を予感させるようなそれにかぶりを振り、敵の姿を探す。滑稽なことに、けしかけた人間の群れは猟兵にとっての目くらましにも働いている。
『さては無敵なわしに恐れをなして……』
「キミは無敵になんてなれやしないよ。人々を踏みにじり続けるキミを、誰も信じない」
 "上"に立つ者として教えてあげよう。
 ねえ、と曇らぬ声はすぐ傍らから。 さながら風同然、舞い込んだエドガーは宝石の青に澄んだ瞳と、マント、両方の彩を残しながら脇腹を通す刺突を繰り出す。ついさっき青年相手に削ごうとしていた耳であったが、どうやら自身のものの方が先に削げることとなったらしい――とは、驚愕に見開かれた瞳は未だ気付いていまいか。
「キミは私に勝てないさ」
『ぐ、 貴様ァ!』
 久しく抜いていないお飾りの剣を求め、懐を探る吸血鬼の指が手間取る。
 早業に思わず目を奪われる村人の手からすっとナイフを解いてやって、人差し指を立てるのはコノハ。「しずかに」だか「こっちもみててね」だか。甘ったるい香が過った気がしたのなら、それは始まりに過ぎない。
 掠り傷から垂れた獣の血は柘榴の切れ味を引き上げる。まさしく、紅色の牙。僅かに届く月明かりに昏く光を返し、喰らいつく先は逆側の厚い脇腹だ。
「そうそ、ホントはこのデブっ腹をカチ割りたかったの」
 一発目から。ナンか知らないケド、気に食わねぇンだもん。 口遊み、沈ませる。
 慌て振り下ろされた鞘をなんなく躱しながら刃を横に引いてやれば、いくら上質な服を着ていようと防げぬ広がった傷口から血と脂が溢れ出た。
『ッ゛がああ!』
「――ああ、ナンて不味い」
 さてさて自身が皿に乗せられる側となった感想は如何ほどのものか? 悪食の囁きは呪詛を孕み、容易くは抜けぬ凶暴な形状をしたナイフに食い荒らされる吸血鬼の額を顎を冷えた汗が伝う。
 呆然とする村人の手から斧をもぎ取れば、振り回すことで一端の距離を作ろうと試みる男。
 無駄に蓄えた脂肪が致命傷には程遠かろうと錯覚させる。依然、こちらのペースだ。猟兵! のこのこ姿を見せおって、などと賑やかに巡る思考で腕を掲げた。
 それは。
『く、かかか! ならばそこに居れ、我が力を思い知――』
「デクならこれで最後だが?」
「そもそもキミの力じゃないだろう?」
 呼びつけんとした蝙蝠の目の前での破裂で、虚しい空振りとなる。
 ゆっくり右手を下ろし、返り血に濡れ佇むルイスの口からなんてこともなく告げられる事実に、ハッとしたとて最早遅い。借り受けているだけの力である分、どうしても再創造までに間が生まれる。戦いの中でその隙を見切っていたエドガーは、もとより脅しに屈するわけもなし、閃かせたレイピアで畳みかけ。
「残ってたとして役立ったカシラ。たかがてめぇの知り得る強さ、想像だにしない力ってのを前にしたら、ねぇ?」
 共に崩すコノハが植え付ける疑念が、尚も吸血鬼の思考を揺さぶった。
 ――拙いぞ。
 上位種の顔色を窺い、媚び諂い続けることで今の立場に上り詰めた元人間は直感的に悟る。
 この猟兵なる存在は、自らの存在を脅かし得る――――?
「ぼさっとするのが趣味らしいが」
 張り出されたルイスの左手がそのとき、お誂え向きに鬼の眼前をに影を落とす。
 五指を握りしめた逆の手が人の骨にあるまじき怪音を立てた。ギャリ、リ、目一杯に巻かれた螺子じみたそれは流体金属の織り成す槌であり。
『!!』
 一歩、退かれた分を踏み込んだ。
 引いた左と入れ替わり、渦中へ吸い込まれる風に腹に飛び込む一撃必殺の右。
「底力でも見せつけてくれると、期待しておくか」
 興味はない。ただこの調子では、見物客へ勇を示すにも役不足だ。
 ゴ、  と大気をも震わす痛撃に酷く重たい筈の肉塊の、両足がいっとき地を離れる。
 寸前。適当な民を盾にしてくれようと伸ばした鬼の手が掴んでいたものは、鋭い切っ先。他を押し下げ持ち主であるナルエリが斬り払った指が、芋虫よろしく数本飛んで宙を掻く。
 鮮血がアーチを描き大きく仰け反った男へ、銀の赤の二刃が続けざまに叩き入れられた。 その上で。
「――小娘一人すぐに殺せないようでは、先が思いやられますけれどね?」
 驕り高ぶった男をなにより叩き落としたのは、うら若き乙女から放たれた"からかい"であった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

ハイドラ・モリアーティ
――くだらねぇなぁ
いや、わかるぜ。使えねーやつはつまんねえよ
腕の一本でももぎたくなっちまう
その方が踊るのが上手なやつだって何人もいるさ
俺だってそういう風にしてやった事、結構あるよ。仕事でね

が、
俺はサディストじゃなくてね豚野郎
痩せた野郎と女子供よりもお前みたいな大きい声で鳴くやつの方が楽しめそうだろ
屠殺の時間だぜ。お前も俺を楽しませてくれや、「無敵な吸血鬼様」とやらでさ
残機無限のCRYONICS俺相手に、「信じてられるか」?その「無敵」

どうでもいいからパンピは退いてろ
は?ナイフで殺さねーだけマシだろ、蹴っ飛ばしてやってんだ
隙間作りだよ。俺は――ほんの少し空いてりゃそれでいい
カルネ・セカにしてやる


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
この手合いの連中は見慣れてるが
何度見ても不快感は募るものよなァ
まァ良いさ
私の力は、「この手合いの連中」にうってつけだ

さて、ここらで賭けといこう
貴様の「狂信者」の中に何人くらい、私の「敵」がいるのか、当ててみようじゃあないか
解答は出たか? ならば答え合わせの時間だ

起動術式、【君の隣人】
おいおい何だ、そんな顔をするなよ
村人どもが無事だって?壁にもならない?当たり前じゃあないか
呪いが追うのは私の「敵」――私を心底から殺す気でいる奴だけだ
ま、所詮、暴力による支配なんぞそこまでということだ

村人の攻撃は黒槍の受け流しで凌げよう
観念して戯れていると良い
いつまでって?貴様がそいつの仲間入りをするまでさ


鷲生・嵯泉
……相も変わらず不快な連中な事だ
廉い誘いに乗るのは業腹だが背に腹は代えられん
何より此れ以上無辜の民の血を流させる訳にはゆくまい

碌に戦い方も知らん村人の攻撃なぞ丸分かりで躱すに容易い
武器受けにて傷付けぬ程度に払って退ける

無敵?何をほざくかと思えば……
お前なんぞに『呼び出され使われる』程度の代物に、そんな力が有るものか
――遮斥隕征、逃さず穿て
視線や武器の向き等から攻撃の方向や予兆を測って見切り躱し
なぎ払いでのフェイント絡めて死角から
怪力乗せた斬撃を叩き込んでくれる

お前達は猟兵を誘き出した心算なのだろうが
生憎と自らの墓穴を掘ったに過ぎん
此れ迄の兇状の報いを其の身に刻み、疾く骸の海へと帰るがいい




 降って湧いた幸運、と、呼んでしまっていいものか。
 猟兵の手により"恵み"を取り上げられた一部の村人たちは身を隠し始める。守ろうとしたけれど、戦ってみせたけれど、武器が無いのだからどうしようもないだろう――痩せた彼らの後ろ姿を横目で追うだけのハイドラ・モリアーティ(Hydra・f19307)は、そうした甘えた思想を本来好まない。
(「しらけるやつらだぜ」)
 何のための五体満足だか。くっだらねぇ夜に拍車が掛かる。使えないやつはつまらない、ああわかるとも。
 腕の一本でももぎたくなっちまう。その通り。その方が躍るのが上手なやつだって何人もいて、ハイドラ自身そういう風にしてやったことが"結構"あった。お仕事ってことで。
 ――が。
「俺はサディストじゃなくてね豚野郎。お前みたいな大きい声で鳴くやつの方が楽しめそうだから、いーや」
 靴先の向きをつと揃える。
 その先で、女にとって一夜の標的に過ぎぬ吸血鬼は、ぜえぜえと荒れた呼吸をようやっと落ち着かせたところであった。

『ふぅ、ふふ……ふはは』
 なに、案ずることはない。もっともっと強大な吸血鬼の力を借り受ければ良いのだ。
 そのためのツテなら山ほどある。ある山里では連夜贄を捧げさせ、ある村では丸々焼き払う手伝いをし、そしてある町では――延々、尽くしてきたのだから。
 脂汗が落ち、ジュッと土に染みたかと思えば煙となって広がる。
 靄が形を成す。先に創造したものより一回り、いや二回りは大きい化物蝙蝠が牙を剥き、ハイドラまでの経路上に並ぶ只人らをほんのついでで屠らんと狂い飛ぶ。
「……相も変わらず不快な連中な事だ」
 その死線に踏み込んだ、鷲生・嵯泉(烈志・f05845)。
 廉い誘いに乗るのは業腹であっても背に腹は代えられない。怯え逃げ惑う、否、逃げる選択をも奪われた無辜の民が尚も多くいる。彼らにこれ以上、血を流させぬため。理由は唯一つで十分であると。
 ――遮斥隕征、逃さず穿て。
 秋水と銘打たれたサムライブレイドが迎える宙に銀の筋を走らせていた。衝突の刹那、斬撃は蝙蝠の半身を消し飛ばす。ユーベルコードを"殺す"、磨き抜かれた剣豪の業前。
「無敵、と言ったか? 何をほざくかと思えば」
 お前なんぞに"呼び出され使われる"程度の代物に、そんな力が有るものか。 ――続ける嵯泉の隻眼に見据えられた吸血鬼は、蛇に睨まれた蛙もかくや身を揺らした。
 どちゃ、
 ズレ落ちた蝙蝠が蠢いてひっそり再構築を始めるも、不意に叩き入れられた黒槍がすべてを潰しきる。お利口さんと指先であやす風にして引き抜いた男は、揮い手、ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)であり。
「わかるぞ。この手合いの連中は見慣れてるが、何度見ても不快感は募るものよなァ」
 げ、とあからさまに眉間に皺を寄せたハイドラへ軽く手をぐーぱーする仕草は案外と幼いもので、しかし瞬きを挟み"この手合いの連中"へと視線を戻した頃にはひややかに冷める。
 みしり。何かが罅割れる音がして。ぐっと下がって感じられる体感温度に、頭の冷えた村人もいたことだろう。
『ぐぅ……!』
 睨みあいは一瞬。
「屠殺の時間だぜ、ってか」
 人々を押しやって後退を試みる吸血鬼を、ハイドラの足は既に追っていた。黒髪が躍る。兄貴が来たっていうことは、だ。守りは度外視し前へ倒された身体は獲物に飛び掛かる蛇にも似て、投擲される石やら何やらを僅かな傾きだけで遣り過ごす。
 当然、周囲の有象無象など気に掛けるサガでもないが――。
「ひ!」
「お前の手に負えるものではない」
 今はただ、武器を下ろし身を隠していろ。短く告げて飛来物を斬り飛ばす嵯泉が、後を駆け人死にの出ぬようカバーする。碌に戦い方を知らぬ村人にとって、此処に居合わせた猟兵はただの災害に他ならぬ。 特に。嵯泉もまた、背後で膨れ上がり続ける冷気の質のほどをよく知っていた。
「さて、ここらで賭けといこう」
 両手を叩く音が乾いて響く。
 ニルズヘッグはそれから皆々の顔を一巡見渡して、最後に吸血鬼に問うた。
 この場に何人くらい私の"敵"がいるのか、当ててみようじゃあないか。 ――と。

『ふざけたことを……、こやつらが見えんとでも? 全てわしの下僕だ。わしが命ずれば、わしの手足となって死ぬ!』
「おお。わかっているなら話が早い」
 起動術式、君の隣人。答え合わせの時間が訪れて、外套を揺らしニルズヘッグの影から幾筋もの黒き塊が滲み出た。
 ボコボコ沸騰する殺意の煮凝りめいたそれは飛び交う最中にかたちを移ろわせる。『な』思わず、といった様子で口元に手をやったのは吸血鬼であった。此処にいる筈のないものが視える。嘗て己を死ぬほど甚振った悪鬼の群れが!
 なによりおそろしいのは、その塊が重ねた肉の盾を正面から通過すること。
『なん』
「おいおい何だ、そんな顔をするなよ。当たり前じゃあないか、呪いが追うのは私の"敵"――私を心底から殺す気でいる奴だけだ」
 見送る竜人は補足して肩を竦める。
 村人らはたしかに吸血鬼の側についてはいるが、それは命じられ恐怖に屈した上でのこと。憎しみの比重ではぽっと出の猟兵と今まで暴虐を働いてきた吸血鬼のどちらが大きいか? 猿でも解るお話で。
「ま、所詮、暴力による支配なんぞそこまでということだ」
『ぎいィィィィあああ!!?』
 炸裂した闇が、あわれな低能を喰らう。腕で庇おうとはしたらしいがさしたる効果はないだろう。
 残る呪詛塊と先を競い合いながらハイドラはヒュウと口笛を鳴らした。
 随分と通りやすくなった。困惑した人の波が割れて、そっちは微塵もありがたかないが今ならあの豚面の皺の数まで言えそうだ。
「兄貴ばっかじゃなく俺も楽しませてくれや、"無敵な吸血鬼様"とやらでさ」
『ぐゥぅッ……、くれて゛やる!』
 だらんと垂れた腕を抱く吸血鬼のもとから、創造物が弾丸よろしく撃ち出される。お次は刀剣か。
 怯むどころか口角を上げたハイドラは射線に残る障害物を乱雑に蹴り飛ばす。
「どうでもいいからパンピは退いてろ」
「ぅ、あっ!?」
 母さん! だとかなんとかヒステリックにあーーうるせーーーー。殺さないだけマシだろ。おかげさまでその息子と思しき輩も捌けて上々だ、眉ひとつ動かさぬハイドラが一点へ突き入れる腕は迷いなく。
『! 見たかお前たち、猟兵どもも決して救い手では――……』
「っせぇ」
 ぷぎぷぎ主張せずとも。
 カルネ・セカ(乾いた肉)にしてやる。
『ッッひぎィィ!』
 ぶつん。深々牙を立てた殺戮刃物、通称ヒュドラが肉を骨を侵食する。
「ほれ、腕が飛ぶぞだっけか? ああ豚にとっちゃ足か」
 先ほど兄が刻んだ傷を上塗りして、ねじねじ。噴出する血を構わず浴びる女は黒から赤へ。
 這い上がる痛みに死を間近に感じるからこそ、吸血鬼の足掻きも全力だ。虚空にがぱんと開いた暗黒が脅威を引き裂かんと――いいや、事実、裂いた筈であった。口は正しく閉じた。しかしハイドラは変わらず立っている。
 吸血鬼の引き攣る面をじぃと見上げて。
「見たかよ」
 俺相手にまぁだ"信じてられるか"、その"無敵"?
 笑む。 喰われた? 喰わせた。どこまでも、奈落へ招待して(無能を知らしめて)やるためだけの余興。
 埒外の再生力はCRYONICS――母なるヒュドラの不老不死が授けたもの。ひとつ、名残の毒が白い肌に弾けた。
「すまないな。悪い子じゃあないんだ」
 とは、先の母子が離れるのを手助けしてやってのニルズヘッグの声だ。不協和音と呼ぶべきほどの柔和な響き。
 その足音が近付いてきたことでハイドラは舌打ち残し席を譲る。引き抜きがてら腕片方は貰っておいて、一拍ののち、遅れて現れ出た黒剣の反撃は地面にキスする無駄に終わる。「ほぉ。無敵の吸血鬼の所有物だと聞いて、興味はあったが」うち一本が、竜人にひょいと抜かれた。
 しげしげ見つめてみる。朧な月明かりに翳したりもして。
「この程度の呪詛ではな」
 ニルズヘッグは、些か興醒めした風にそれを鬼へ返した。『!?』巨体は死に物狂いで身を捩る、だが。
 お忘れか、第三の刃は疾うに抜き放たれているということ。
「お前達は猟兵を誘き出した心算なのだろうが。生憎と自らの墓穴を掘ったに過ぎん」
 嵯泉だ。柄頭を打ち付け、吸血鬼が振り払った黒剣を今一度捻じ込んでやりながら嵯泉は手のうちの刀刃を回転させる。右から左へ滑らされた真剣を遮るものは何もなく、地を蹴り上げた踵が身体を前へ運ぶ重みをそのまま乗せた一閃が光った。
 視線。間合い。癖。同道者たちの動きと、それによって生まれる死角。すべてが綿密に計算された結果の、ほんの細い線上。一本目の衝撃に身悶えていた吸血鬼は、ただただ受け止める他なかった。
『ぐ、……ッがああ!!』
「無駄だ」
 せめて、と縋る創造の剣も兄妹にさんざコケにされたものの焼き増しでは芸が無い。災禍を祓う白刃の風が一陣、血脂を振り飛ばす刀に連れられ吹いたならば贋作は粉々に砕け散るのみ。
「此れ迄の兇状の報いを其の身に刻み、疾く骸の海へと帰るがいい」
 黒く降り落つ破片がさざめく。
 それより騒がしくド、 ド、 と早鐘を打つ心音を、肥えた男が自覚したとき。
 退かせた村人を背に立つ剣士の胴をずるりとすり抜けて、はやく仲間になろうとでも言いたげに、廻り着いた呪詛塊がその視界を覆った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳴宮・匡
◆ヴィクティム(f01172)と


他人を踏み躙って生きるやつに何を思おうと、俺が言えた義理じゃないんだろう
俺だって散々そうしてきたんだから

……でも、“いま”はそうじゃない
もう、自分に嘘はつかないと決めた

村人の方は任せたぜ
俺は――俺の仕事をする

仕込みが成るまでの時間稼ぎだ
牽制の射撃は村人に当てないように“うまく”撃ち込む
操られてるわけじゃないなら、怯んで動きを止めてくれるだろ
もしくは武器にしている農具なんかを弾いて無力化

一分? ――その六十分の一でも足りるくらいだぜ
動いていたって外さないんだ
動けない的なんて逃すほうが難しい

恨むなよ、当然の応報だ
他人を踏み躙ったなら、ゴミのように殺されるのが道理だぜ


ヴィクティム・ウィンターミュート
・匡(f01612)と

──ハッ、相も変わらずこの世界は淀んでやがるぜ
遊ぶ甲斐の無い玩具には飽きちまったか?勝手なことだ
付き合う義理は無いが、仕事なんでね
精々渇いてろよ、フリークスども

そんじゃ、奴の相手は任せる
俺は、舞台に立とうとする観客を止めるとしよう
1分もありゃあ、十分だよな?
───『Metamorphose』
醜悪で、悪意に満ちた龍。象る怪物は、そんなものでいい
所詮は小心者な連中、驚愕するには十分だ
…おっと、この間抜けそうな豚もその手合いか?ならラッキーかもな
動けないだろ?驚いちまった代償さ

さ、て…あとは演出家どものテコ入れか
何が飛ぼうが関係ない、出来るだけ死なせないだけだ
何なら、庇ってやる




 深く、深い闇に囚われたかの感覚だった。
 いっとき視界を奪われた吸血鬼は、灼ける痛みを感じながらがむしゃらに後退る。
『ヒッ、ぃい、いいい!!』
 何かに躓いてどうっと転んだ。それは自分が戯れに積み上げた骸やもしれず、誰かしらが放り出した恵みやもしれず――いずれにせよ、やっとのことで支えを掴んだのだ。
 二本で立つ人間の脚。その足首。
『クソどもがっ、コケにしてくれよって……おい、手を貸さんか!』
 つくづく使えん駒だ。そう叫び終わるを待たずして一発の銃弾が鬼の額を削って、地面に突き刺さった。
『ほ』
 頭上から降った、明確な殺意。
 チカチカ、明滅し漸く開けた視界には二人の男、ヴィクティム・ウィンターミュート(End of Winter・f01172)と鳴宮・匡(凪の海・f01612)が並び立っていた。――この村の者では、ない。
「よお。キノコでも探してんのか?」
「もっと美味いものを馳走してやる」
 傍らの銃口から昇る煙の途切れるを待たずして、二重顎を蹴り上げるヴィクティム。
『ほがァ!!』
 元来た道をスッ飛ばされてゆく吸血鬼は猟兵による包囲の中へ逆戻りときた。
 相も変わらず淀んだ世界であることで。遊ぶ甲斐のない玩具には飽きた? せめて遊べる知能をつけてから言ってほしいものだが。
「ハッ、精々渇いてろよフリークスども。 ――じゃ、あと任せた」
「ん、そっちもな」
 共に追い立てても良かったが、ギャラリーが集まってきたとあれば計画通りに。ヴィクティムが村人の相手、匡が豚野郎の相手として二人はそれぞれに役割を定めてきたのだ。
 一分もありゃあ、十分だよなぁ。
 Trick Code<< Metamorphose >>。微かなクラック音を契機に、電脳魔術士の全身は細かなパーティクルに分解される。光が収束し数秒ののち、ヴィクティムのいた場所に現れたのは長く太い胴、漆黒のヘドロに塗れた醜悪な龍であった。
「な、なんだ?」
「大蛇……」
「違う、邪竜だ! ひと噛みであの世行きだぞ!」
 プログラムが象った張り子の怪物。ユーベルコードの作用を駆使しそうと演じ分けている、が正解だとは只人に気付ける筈もない。
 どこから? いつの間に? どうして俺たちの村ばかり? 俺たちが何をしたっていうんだ!
 ――恐怖による支配は、より大きな恐怖の訪れに酷く脆く霞む。
「GRRRRRAAAAAA!」
 サービスでそれっぽく咆えてみたりもして。ヴィクティムは、あまりの事態にただただ固まる小心者どもを他人事のように眺めていた。怯え責める目、目、目。 別に痛かない。
(「ちょっくら齧って拍車かけてやってもいいが、匡がなぁ」)
 しゃあねぇ。精々働いてやるよ、Arsene以前に友として。

 始まった。
 先のハロー&グッバイが一度に込められたキックによる鼻血を零しつつも、吸血鬼はかさかさと必死に本物の村人らの陰へ回る。多くは龍に釘付けであるから、壁改め薄い布といったところだが。
 それにしてもあの男は逃げの上手さだけで生きてきた手合いだ、よく居る、よく見てきた、よく知ったタイプの。進む先に弾丸を撃ち込んでの牽制と並行で匡は分析を進めていた。
 こちらは始める、ではなく、進める。 一分もあれば?
「――その六十分の一でも足りるくらいだぜ」
 "応答"をすると、笑いが返った気がした。
 村人に対しての匡の印象は、奇しくもヴィクティムが抱いたものと同じだ。脅かせば正しく恐れる。そんな生き方をも是とする点が二人の違いであったかもしれず、匡はまた一射、盾にされ縮こまる腕が抱く銀の恵みを弾き落としてやった。
「っ!」
「退いてな」
 警告は短い。表情のない――少なくとも村人からはそう見える――匡が敵であるか、味方であるか。
 読みあぐねている様子の彼らを吸血鬼がけしかける。『何をしておる!』『殺しに向かえ!』『死にたいようだな!』……騒がしいそれらを打ち消す銃声が、都度、迷える足元へ威嚇を見舞う。
 よほど命が惜しいのだ、人間をやめた過程で己の周囲すら犠牲にしていても不思議ではない、この悪鬼は。
(「他人を踏み躙って生きるやつに何を思おうと、俺が言えた義理じゃないんだろう。俺だって散々そうしてきたんだから」)
 でも、"いま"はそうじゃない。
 もう、自分に嘘はつかないと決めた。
「なぁ。いつまでそうしてるんだ?」
『ふんっ、お前とてわしに手出しも出来まい? なんの得にもならんものに価値を見る、――であるから死ぬ!』
 丁度良いサイズ感の青年の背後で、吸血鬼がここぞとばかりに両腕を天へ広げる。
 超ド級のお偉いさんでも呼び出すのかもしれない。
「忠告してやったんだけどな」
 お目にかかれそうにないが。

 平坦に匡が零したとき。自身による創造はまだこれからだというに、落ちる巨影があることに吸血鬼は気付く。
 気付いたとて遅い。それは、直上から叩き下ろされる化龍の尾の一振りであった。
 ――ゴオッッ!!
 強烈な音に相応しい衝撃波が起これば跳ね上がる泥、人体、それでも敢えて狙いを外しておいたのだから青年の首が取れたりなんかは心配ない。ただ、吸血鬼と彼の間に致命的な空間が生まれただけで。
『――、――――!』
「待たせたな」
 で、何秒だ? 余裕綽々、目配せする先は当然。
 目を覆う青年の襤褸の端を引きヴィクティムがそうやって身を翻した瞬間、一点を見出した銃弾が燃えつくほど迅く空を裂いた。
 もう、盾の追加は叶わない。仕込みが成った……"平和的"に怪物が退けた後では。驚きをキーとして身体の自由を奪う、ただでさえ蚤の心臓をした吸血鬼がもしもまだ人間であったなら、その効果でショック死すら狙えたやもしれない。
『ぁ、ガ』
 そうと思えるほどのクリティカルであった。
 動かぬ的を逃がすほうが難しい。精密に射貫かれた片目に呆然とする男へ再度、照準を合わせながら匡は。
「恨むなよ、当然の応報だ。他人を踏み躙ったなら、ゴミのように殺されるのが道理だぜ」
 義理など蹴飛ばして。いま此処に生きる鳴宮・匡として言ってやった。
 スカッとしたとニヤつく友が視界の中にいてくれる。襲い来ていた人波がしんと止んだ、静けさに身を浸して。こころが望む、己の仕事を成し遂げる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

矢来・夕立
ひとが無様に藻掻く様子が好きなんですね。…いえ、ちょっと分かりますよ。
同じように、全員諸共、無様に殺してあげます。

今回はサポートに徹しましょう。
《闇に紛れて》狂信者どもを【暗殺】していきます。
暗殺と言えば権力者のためにあるようなものですから、本命の首を狙いたい気持ちは大きいですよ。

…ですけど、誰かしらいないと何もできないタイプでしょう。
なら、その「誰か」を殺してしまおうかなと。
そうでなくとも、虚空から色々出してくるとも聞きます。
姿を隠したまま、あちらの攻撃を妨害することにしますよ。

ゴリ押しで避けたり、無理に攻撃を通したりもできるでしょうね。味方がいれば。
で、その味方はまだ残ってますか?


穂結・神楽耶
──おいで、【神遊銀朱】。

村人たちを囲う檻になりなさい。
彼らがそこから動けぬように。
血を捧げるなど出来ぬように。
その内側で、守られるように。

さて、お邪魔立てして申し訳ございません。
あまりに愉快な劇でしたのでつい乱入したくなってしまいまして。
即興にしては上手いアドリブだと自負しておりますが。
──お気に召しまして?

そう。
それでは踊りましょうか。
攻撃手が村人なら武器を落として檻に放り込み。
吸血鬼御自ら出張ってくるなら素っ首狙って叩き落します。

別に、どう見られようと。
すべきことは変わりませんし、ならば行動するだけです。
無力な民を餌にするなどという悪逆の企みなど、
真っ向から叩き潰してこそでしょう?


狭筵・桜人
弱い奴が力に屈従することは正しいとすら思います。命を惜しむこともね。
ま、村人らは皆さんのお仕事の邪魔なので退かすとしましょう。

エレクトロレギオンを召喚。吸血鬼と村人を分断するように数で圧して割り込ませます。
吸血鬼は血の気の多い人達に任せて、私は記憶消去銃で
村人の洗脳が解けないか試してみますね。ダメそうなら気絶させて拘束。
説得している暇もないので村人からの攻撃は致命打にならない程度に避けるか受けるかしておきます。

レギオンは全機を流れ弾から村人を【かばう】盾に。
逃げ場もないし防戦一方になりますが生かせるだけ生かします。

誰が敵で誰が味方かもわからないって?
馬鹿ですねえ。こんな状況下では全員敵ですよ。




『ぐ、うぅ、うゥゥ……ッ』
 止まぬ追撃の手に駆け回る。
 捻り出した創造物を勿体の無い壁と消費し距離を稼いだとて、地を這う唸り声はいまや吸血鬼の口から漏れるばかりとなっていた。
 数刻前までは好き放題口にさせていた側が、だ。腹に背に手、腕、目。傷だらけの身体は熱を失う一方で疼く。
 血走る片目が餌を探す。
 傷を癒す、死を避ける、それが一番の急務であった。 ――その怒気に畏怖してしまったのだろう、背の低い茂みががさりと音を立てたのを獣同然の鬼は見逃さなかった。
『おいお前』
 息を呑む気配。
『おい』
 しかし、返事はなく。
 憤った吸血鬼が次にしでかすことといえば。
『わしの声が聞こえんとは、躾が足らんようだなあぁぁぁ!!』
「やあぁぁっ!」
 問答無用の"食事"だ。
 細腕を荒々しく掴み上げられ、茂みから引き摺り出された少女が宙吊りになる。骨でも折れてしまったのだ、苦悶に歪む面を万力の如き手が圧し潰してゆく。もって数秒。血を捧げよ、血が欲しい、血が……――吸血鬼は、未だ気付かない。

 りぃぃ、と。
 清浄なる鈴音が遠く近く鳴り響いていること。

「おいで、神遊銀朱」
 紅深き焔が咲いた。
 それはつめたき白刃の姿かたちをして、不埒なる腕を狂いなく刺し貫いた。
『がぁ!?』
 開かれた手指から少女が零れ落ちる。その、涙にぬれた瞳が生に瞬いていることだけを見て取って、穂結・神楽耶(あやつなぎ・f15297)はゆっくりと顔を上げた。
 長く流した艶髪を巻き上げながら撃ち放たれる幾本もの刃が、先駆けた一本に続き宙を翔ける。
 身構える吸血鬼を余所に、巨体の脇を頭上を飛び越えた複製刀は尚も物陰で息を殺し身を隠していた、か弱き者たちを囲い隔てる檻となる。
「ぃ、っ」
「たくない……?」
 彼らがそこから動けぬように。血を捧げるなど出来ぬように。
 ――その内側で、守られるように。
 事態は好転している。逃れたい、悪鬼ではなく我が身を重んじたいとの行動に出る者が増えているのは、猟兵の活躍あってのこと。それを自分のことのように嬉しく思いながら、複製ではない己自身を手に神楽耶は歩み出た。
『チ゛ィッ、次から次とォ!』
「お邪魔立てして申し訳ございません。あまりに愉快な劇でしたのでつい、乱入したくなってしまいまして」
 即興にしては上手いアドリブだと自負しておりますが。
 ――お気に召しまして?
 袖口を唇に添え慎ましく笑む花のかんばせ。殊勝に身を捧げたものなら、さぞ吸血鬼の好みの風体であったろうが。本能であちらもわかっている。
 この女は、己を、殺すことの出来る猟兵だ。

 あっちもこっちも死体がごろごろ。
 ところが鮮血を垂れ流し続ける"出来立て"はそういないのを、狭筵・桜人(不実の標・f15055)は「へぇ」と眺めた。
「今日もせっせか頑張ってるんですねぇ、皆さん」
 感心な猟兵たちだ。桜人はといえば、弱き者が力に屈従することは正しいとすら感じる。命を惜しむことも。ゆえに靴を舐める連中がそうして生き長らえてゆくというならば、それはそれで。仕事でなければ今頃は家でゴロゴロとスマホでもいじっていただろうとも。イベント期間中だし。
 連れるエレクトロレギオンがジィジィと音を立て旋回する。ひとふたが、自分の右手側を注視し静止したのが分かった。
 見てみれば、家屋の陰に佇むのは紐で腹に乳飲み子を括り付けた女だ。血豆の浮く手が銀の鍬を握りしめている。爪も髪もボロボロで、あぁ、怖いなぁなんて桜色の虚は風に揺れ、ふわり、ふわりと向き直る。
「生きたいですか?」
 やわらかく声を掛ける。
 対する女は押し黙っている。子は泣きもせず夢の中。
「私を殺してでも?」
 問いを続ければ嗚咽が拾えた。
 そうして、たどたどしくも鍬が構えられる。
「ですよねぇ」
 聞き届けておきながら桜人は、これといった前置きなく片手に抜いた銃のトリガーを引くのだ。
 迸った光線が素人を貫く。ゆっくりと崩れ落ちる身体。無駄に騒ぎが広がらぬよう、その腕を取り音を殺した桜人は誰にも届かぬほど微かに零した。
「次に目が覚めたとき、世界が変わっているといいですね」
 あるいは、弱い、自分自身が。
 ――――、レギオンが警告を鳴らす。
 ヂギギッ。羽虫の焦げる音をさせ、電磁障壁が飛来物を消し飛ばすは直後。煉瓦。小石。そんなところか。
「ころ、殺し……殺したのか? あんた、今」
 おかわりの登場だ。碌に隠れ場所もないような村であるから、どこに目があるかも分かったもんじゃない、と。
 ひとつ息を吐いて、桜人は両手を挙げれば玩具めいた銃をひらひら振ってみせる。一応はこれ、殺傷力の低い記憶消去銃なのだけれど。
「殺しなんておそろしい。あー。んー、と、文化レベルってどのくらいですっけ? ほら、お薬みたいなものですよ」
「…………だが」
「っっ騙されるな! この悪魔を主様に引き渡せ!」
 まだ話の通じる見込みのある先頭の青年を踏み倒し、更に数名の若者たちが桜人へ掴みかかろうと雪崩れ込む。いや、そうしようとしたところで。
 ズ、 と。
 そんな賑わいをありがたく掻っ攫うが如く、一陣の風が吹き抜けた。
 尻餅をついていた青年だけが、仰ぐ闇夜に浮かぶ双つの赤を見る。目が、合った。
「救えないな」
 すらりとした言の葉と振るわれた脇差の冴えはまるで瓜二つ。刃は青年の僅か頭上を通り、それ以外は収穫期の稲同然刈り取られる。矢来・夕立(影・f14904)、その人の手によって。
 捧げられることなく噴き散る血を、どちゃと濡れた肉塊を受け止める大地が吸ってゆく。
「あらら」
 瞬きの後も、桜人は眠たげな目をしたまま。
「殺していいやつでした? 今の」
「さぁ。知り合いですか」
 屋根を渡っての一仕事を危うげない着地で終えた夕立が淡々質問を横流しする先はなんと、先ほどより腰が抜けている青年だ。靴裏でごろりと転がして仰向けにした屍の面を確認させるという鬼もかくやの所業、桜人の「うわぁ」は割と本心からの。
「い、いいや……そういえば、この村のもんじゃ」
「じゃあいいやつです」
 虐殺の限りを繰り返したという余所から延々連れられているとしたら、まずもってもう"戻れない"。記憶改ざんでもどうにもならぬ、血肉に及ぶ細胞レベルの話として。切り捨てるべきは切り捨てる、それが夕立の強さであり。
「減らしておかないと、邪魔にしかならないので」
 生き長らえる術。
 絶句する青年を取り残し闇へ消える忍びに小休憩の終わりを思えば、やれやれと桜人も追うことにした。なにより、応援が足りないとレギオンたちが騒いでいる。
「そうだお兄さん。さっきから、誰が敵で誰が味方かもわからないって顔ですけど」
 馬鹿ですねえ。こんな状況下では全員敵ですよ。 ――――脅し文句に勢いよく跳ね起きて女を抱え逃げ去る背を、なんだ元気じゃないかと笑い飛ばして。

 見覚えのあるエレクトロレギオンの援護が心強い。
 刀の檻をすり抜けんとす流れ弾から村人を庇う彼らに心内で感謝しながら、神楽耶は吸血鬼との追いかけっこを続けていた。
 否、舞踏の指導と呼ぶべきか。さながら焼けた靴を履かされた咎人だ、斬撃の度に零れる炎にも追い立てられる彼奴は。辛うじて頭に引っ掛かっていた鬘も、今や黒焦げて何処へやら。
『ひィ、ひひッ、』
「変ですね? どんどん下手になる一方じゃないですか」
 次々射る白刃が逃げる先の選択肢を減らし、人々から引き離し、豊かな脂肪をじわじわと削いでゆく。
 囲いの中に身を寄せる力無き瞳に焔が、怯えの彩と混ざって揺れる。 ――怪異同士のおそろしき対決にでも映るか。別に、どう見られようと。すべきことは変わらぬものと進み続ける神楽耶は、ひとり。
『何を眺めておる、わしの道を作らんか!』
「し、しかし火を消すにも水なんてもの、すぐには……」
『お前が敷物となれぇい!!』
 手近に残っていた村人を見つけ蹴転がす鬼。
 だが、その敷物は直後消え失せる。炎に溶けた? 上手く逃げた? 最初から幻であった? 強いていうなら三つ目が近いか。
 人間を模した式がはらりと一枚、火にくべられている。それが忍術の類であったと、この状況下で正しく理解出来たのは仕掛けた当人と付き合いの長い二人くらいであろう。
『は……』
「予想通り、ひとりじゃ何も出来ないんですね」
 誰かさんと比べるみたく言う心算も無かったが、なんとなくそんな風になった。
 ひとが無様に藻掻く様子が好き? それ自体は夕立にもちょっと分かるとも、希望からの絶望で立ち往生する間抜けの拝める今なんかまさにだ。半月の弧を描き浴びせた一の太刀が正面より吸血鬼を押し留め。
 一瞬一秒を、ぜい肉の壁を背面より突き破り結ノ太刀が貫く。
「いらしてたんですね」
 神楽耶の声音が仄か綻んだところで、再び姿をくらませた忍びの応えは返らず。「もうずっと暴れ放題ですよ」などと安全圏からレギオンの応援が寄越される。三人。BGMと化した汚らしい絶叫は暫く止みそうにない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

玉ノ井・狐狛
※アドリブ、連携などお任せ

村のヤツらを盾にとって牽制する――つまりは人質作戦
いかにも小狡いおつむの考えそうなやり口だが……その手が通じるお人好しばかりでもないってモンさ

UCで「狂信者」扱いの村人連中ごと制圧する
ただの人間なら、ちょいと冷たぁくしてやりゃ、意識の喪失か、そうでなくとも身体の自由を奪うくらいはチョロいぜ
積極的に犠牲を出そうって腹でもないが、時間をかけるほうがよほどロクでもないことにならァ
血を流させる、あるいは血を吸おうとするなら、傷口や血液を凍らせてやろう
プライドの高いお貴族サマよぅ、冷凍食品は嫌いかい?

さて、集めた体力・体温を炎熱に換えて返そうか
貴族野郎のキャンプファイヤーだ


鹿忍・由紀
踏ん反り返る吸血鬼も怯える村人も転がる死体も
見慣れた光景でなんの感慨もない
気休めの言葉をかけてやることもなく
つまんなさそうに得物を握って向かい立つ

分かりやすい悪役って感じだね
小物の、とまでは口に出さずに
武器を構えてやれば村人達の肉壁が立ちはだかる

余計なことはしてくれるなって?
面倒そうに溜息ついて
吸血鬼の影へと視線を向ければ
村人を巻き込まずに目標だけを刺し穿つ
驚いて吸血鬼のほうへ意識が向く村人の隙を狙って
一気に駆け寄り躊躇いなく押しのけ肉壁を突破
遠慮なく突き飛ばしたって死ぬよりマシでしょ

あんな壁で立ち止まってくれるほど、俺が優しいと思った?
冷たい視線で見下して
高く振り上げた刃を吸血鬼に振り下ろす


ルカ・ウェンズ
高く売れそうな物を身に着けているわね。こいつを殺しても消滅しなかったら持ち帰っていいか聞いてみないと。

村人に悪党がいたら後で殺せばいいから、操らている村人の中に善良なタフガイや善良な美少女がいるかもしれないし村人が生き残ったら黒幕が悔しがると思うから村人は無視して吸血鬼だけを攻撃するわ。ユーベルコードを使い【空中戦】をしかけるわよ。

「無敵の偉大で高貴な吸血鬼……ならば太陽の力を見せてやる!」
と言いながら空から対オブリビオン用スタングレネードを投げつけて【恐怖を与える】のと【目潰し】を試みて、その隙に敵を掴み【怪力】で村人のいないところに投げ飛ばしたら怪力任せにオーラ刀でひらすらに攻撃するわ。




「私好みの悪党め~っけ」
 妙に間延びした声が降る。

「それで守られた心算たァ、ヤル気あんのかい?」
 お次は小馬鹿にした風な。

 最後に鳴ったひとつは、特段語ることすらないと踵で砂を蹴る気だるげな足音だ。

 ――実際問題、誰も彼もが品行方正なる救い手ばかりではない。
 同じ敵を相手取る立場であれ、猟兵それぞれに意思があり、目的があった。
 こうして――。
「でもちょっと見ないうちに貧乏たらしくなっちゃったのね。残念」
「まァまァ、逆さにしてやりゃァざらりってな線もあるさ」
 ルカ・ウェンズ(風変わりな仕事人・f03582)と玉ノ井・狐狛(代理賭博師・f20972)、闇と光とが交錯するが如く高みから飛び出した少女らの手元には準備万端銘々の得物がチラリ。
 一方の吸血鬼はといえば、死に物狂いで最後の機械兵器を落としたところ。血を飲むどころか息つく間も与えぬ新手の登場に蒼褪めた顔で振り仰ぐ、その顔面が閃光でまっさらに染め上げられるまでの流れは、打ち合わせ済であったかのようにスムーズであった。
「無敵の偉大で高貴な吸血鬼……ならば太陽の力を見せてやる!」
 それは対オブリビオン用スタングレネードを全力投擲したルカ流のご挨拶。細身からは想像出来ぬ怪力を有す女の一投は音速を超えたとも超えていないとも、ともかく直撃地点と目と耳とを先手打って破壊したのだ。
『なッ、にをぉぅ!』
「ふむ。囚われの美少女は保護済か……まぁいいとしましょう」
 そのまま宙で回転、鞭の如く柔軟に揮うオーラ刀で狙いの甘い反撃の蝙蝠らを弾いたルカは着地の跳ね返りを利用して一歩のうちにギュンと吸血鬼へ詰める。
 善良な村人が救われた後ならば僥倖。仮に残りが悪党だとしても後で殺せばいい。今は、一番好みを。
「素敵な指輪ね」
 骨の露出するその腕を捻り上げ、村人らの居ぬ方向への投げ飛ばしに処す。
 一直線にザ、アアァァァと猛烈な土煙が上がった。大地による磨り下ろし、そう表現する方が的確やもしれない。では周囲に控えさせられていた村人はどうだ? "主様"を助け起こしに走るもの、乱入者に恐れおののくもの、顔を見合わせこの隙にと手を引いて逃げるもの。三つ目が最も多いという始末!
 ああまったく、小狡いおつむの考えた人質作戦とはこの程度。 ――くつくつ喉を震わせ笑った狐狛は、ピッと二本指に挟んだPraying Card、霊符の数枚を宙へ解き放つ。
「陽の力。面白ぇ! どっちが上着を脱がせられるか、じゃァないが」
 競い合うもまた一興とばかり。風も無いのに躍る符が張り付いた地の四点がたちまち結ばれ、バッドレディ・スノーホワイト、範囲内に氷雪を巻き起こす結界をつくりあげる。
 格別冷え込みの厳しい中心点はもちろん吸血鬼であり、その吸血鬼へ駈け寄らんとする暗示の深い連中ほどますます足が縺れるといった寸法だ。
『ぬぐぐぐ、ぐおぉぉぉッ……!!』
「さァ死にたかねぇ奴は散った! 手足がもげたって知らねぇぜ」
 積極的に犠牲者を出す腹でもないが、時間をかける方がよほど碌でもないことになる。片手間に声を張り上げてやる狐狛もまた狐狛流の考えと力とで、この場に立っているのだ。

「余計なことはしてくれるなって?」
 ざり、ざりり。相も変わらずの足取りで結界内に足を踏み入れた鹿忍・由紀(余計者・f05760)は、これといった感情も浮かばぬ褪めた青の眼を瞬く。
 立ちはだかるのは数人の村人。見れば肩には蝙蝠が休んでいる、小悪党の言葉を借りるなら『わしの命令に背かんよう見張ってやれぃ!』であろうか。分かりやすい悪役って感じに。
 つまんないな、と思った。
「そんなに頑張る必要あるかな」
「お、おれは……おれには老いた親がいるんだ」
 寒さにか恐怖にか震える紫の唇は、尋ねてもいないのに身の上話を始める。
 その眼は、使い込まれた短剣をペンみたくさらっと握る由紀の右手を凝視している。
「従っていれば、良く働けば、一日でも長く生きていられてっ……!」
 青年の持つ銀の鎌が冷気で白っぽい。そういえば吐いた自分の息も白いなぁと、他人事のように思いつつ由紀は話の終わりを待たず歩みを再開した。ポケットに突っ込んでいた左手を引き出せば、もうそれだけで後退りする肉壁に意味はあるのやら。
 流し見る先には吸血鬼の分かりやすいシルエット。串刺すに距離など関係ない。
 ユーベルコード・インペルメント。 ――目と耳と四肢の自由が効かぬ状況で、更には腕の立つ処刑人と対峙しながら、前触れなく足元の影から生えてくる棘の群れである。
『ぎぃやあああああ!?』
 ズタズタに貫かれ、素っ頓狂な悲鳴を上げても仕方あるまい。
 背に守っている筈の吸血鬼が痛撃を受けていることにギョッとするのは肉壁一同もだ。困る。この働きが評価されなくては。困る? 奴が死ねば皆救われるのではないか? いいや、奴が死ぬとはまだ――――。
「ずっとそうやってなよ」
「う、わっ」
 未来を、生死を左右する貴重な一瞬を迷う村人らを突き飛ばし、取り残して由紀は駆ける。
 吹きつける風雪は彼らの反応を更に鈍らせ、また由紀の背を白に掻き消した。
「今のはあんたの仕業か!? う、動くな……!」
「待て! やめてくれ!!」
 農具の数々ががむしゃらに投げつけられるも、掠る程度ですら捉えることは叶わない。
 あの調子では、すり抜けざまに肩の蝙蝠がバラされたものと気付くのは何時のことだろうか。別に、どうでもいいけれど。

 ――どうする?
 ――――どう切り抜けてやれば良い?
 打開策を思いつかぬ時点で無敵の想像とは名ばかりで。結界の作用を受ける吸血鬼は、ただでさえ膂力と手数で圧し切る戦いを得意とするルカを前に防戦一方となっていた。
 オーラにより形成される刀身は、虚空に現れる魔法の類をも感知次第まとめて消し飛ばす。連撃に次ぐ連撃に押し込まれればそれもまた肉壁どもから遠のく要因となり。
「ダイヤかしら。クリスタルかしら」
『ギィ、ぃッ』
 指の一本が撥ね飛ばされる。
 大粒の宝石をパシッと宙で掴み取って、飛ばした側のルカは底冷えのする微笑みを湛えた。
『ぐ、宝石……いや金か、金が欲しいのだろうお前たちは!? 金ならやろう、たんとやる。わしはあらゆる吸血鬼に顔が利く、金に限らず手に入らぬものなどないッッ!』
 ――蓄えた富を惜しむ場合ではない。
 ――――僅かでも攻撃の手が止んだなら、わしの十八番でズドンと……。
「どっこい、アタシゃ金目のモンを求めてってなクチでもないんでね。つまりはよぅ、」
 命乞いは意味をなさない。 真っ向からぶった切る狐狛は、依然乱れなき耳尻尾をぱたと揺らして「それよりも」言葉を続けた。「火にあたりてぇな」と。
 火? その程度なら今すぐにでも、と創造し借り出さんとする。
 交渉相手を見る目のないこの小物は、自らの置かれた状況を見直す目も持たぬのだろうか。いつしか止んだ氷雪に代わって、頬に吹きつける風が孕む熱を。
「火種はアンタさ。脂の乗った貴族野郎のキャンプファイヤー、さぞ愉快だろうよ?」
 転化――、陰と陽をひっくり返すみたく、狐狛は指先で結ぶ印ひとつで"集めた"分の熱と力とを吸血鬼へ注ぎ返した。ゴオッ!! 途端に燃え立つその巨体。
 寸前にルカの刀が刈り取った装飾品の類がキラキラ宙に舞った。曰く、もったいない、と。
「私としても、あんまり美味しい話じゃなかったわ。殺さずに渡して貰うのと殺した後に剥ぎ取るの、同じことだし」
 事も無げに言うのだ。

 ああああぁ、あああああああ!!!!

 火達磨は叫び踊り狂う。
 血を、血を浴びねば!! こちらの方角に見張りをつけた村人を控えさせていた筈だ。転がるように跳ねる道の先には、願い通り逃げもしない人影が待っていた。
「暑過ぎも寒過ぎも考えものだよね」
 ただし、血を捧ぐでなく奪う側として。
 あんな壁で立ち止まってくれるほど、俺が優しいと思った? ――口をぱくぱく開閉し、何かしら問いたげにする吸血鬼へ由紀はやはり怠そうに言い捨ててやる。 振り上げたダガーは間近に燃ゆ炎に爛々と照った。
 踏ん反り返る吸血鬼も怯える村人も転がる死体も、どれも見慣れた景色に過ぎない。
「だったら手遅れだな」
 転がる吸血鬼が足されればまだ面白かろうか。
 ひややかな眼差し。そして刃が、高くからすとんと落とされる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロカジ・ミナイ
いつになったらこの世界に咲く花を見つけられるのか
そんなものは無いなんて言わないでおくれ

種子を撒いたら育つのかねぇ
でもね、世話ができないでしょ
誰かさんらのせいで人が死んじゃうからさ
だからまたここにお節介しに来たわけよ

ガハハ♪じゃねーよ
金以外なんにも足りてねぇおっさん

ため息混じりにふんわりと吐き出すのは計蒙の吐息
あわれな狂信者に向けた子守唄
抜かれちまった血液も正気も戻ってくる呪いつきよ
起きたら良い子強い子になってますように

僕の艶花も血を飲むけどね
とっても行儀がいいのよ
見習ったらどうだい
そうだそうだその土手っ腹に艶花の刃を飲ませてやろう

血が水の代わりになるんなら
この世界はとっくにお花畑だよ
クソッタレ


エンジ・カラカ
えー?なになになに?
賢い君、賢い君、遊ぶ?遊ぶ?
あーそーぼ。

賢いやつが生き延びる。
オーケーオーケー。

で?何をすればイイ?
芸?殺す?それとも埋める?
コレも賢い君もなーんでも出来る出来る。
だって賢いカラ!

自分のせいじゃなくてアイツのせいカー。
なるほどなるほど。
賢い君、賢い君、アイツの首を狙おう。

コレはふんぞり返っているヤツが一番嫌いなンだ。
上から見下ろして、適当なコトを言って楽しんでいるヤツラが嫌い嫌い。

キュッてしたら楽になるヨ。
アァ……頭の高いヤツラの力だなァ……。
もーっと気に入らない。気に入らない。

さァ……さァ、さァ、さァ!!!
あーそーぼ。




 主様――、
 いいや、吸血鬼側についていたら殺されるのではないか?

 手段が少々荒かろうと、ふと、壮年の男の胸に過った疑念は村全体に広がりつつある暗示からの解放の兆しであったろう。
 逃げねば。
 逃げ出すには重い農具を自らの意思で零す。落ちる。
 土が弾ける、とともに外へ向け転び出る、その背筋を舞い込んだ糸が撫ぜる。
「!? ひ」
 くん、と後ろへ引かれる感触。
「コレは違うなァ」
 舐めるよう間近に覗きくる肉食獣の金眼。
 呟いたきり声の主は糸とともに流れ去り、硬直した村人は次の瞬間肩に置かれる手に分かりやすく飛び跳ねた。「すまないね」先とは別の声が言う。
 ちょっとばかし張り切ってるのさ、彼。
 肉壁を掻き分け、件の吸血鬼探しに精を出す狼男エンジ・カラカ(六月・f06959)を指してロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)が笑っている。口元だけで。そう、正しくは彼"も"――あの野郎を×××したくて仕方ない。
 いつになったらこの世界に咲く花を見つけられるのか。今日だって、見下ろすなら種子の代わりに人が転がっている。
 そりゃあ世話する側が撒かれる側とくれば、花なぞどこにも在りやしない? そんなさみしいこと……。
 好まぬものだから、ロカジは金にもならぬお節介をするのだ。「気を付けていくんだよ」へたり込んだ男をひょいと跨いで越え、エンジと彼の赤き最愛が押し開いた道を辿りながらもう一匹の獣は近付く気配に目を凝らす。
「……、……来ないで!!」
 ふと。
 その道筋へ、ひとりの村娘が大きく押し出された。調理用ナイフしか縁の無さそうなか細い指先は痛ましく、なによりそれにより自らの首にあてられた刃がいただけない。
 一筋伝う赤色に汚れた銀の恵み。 ――背後には、これ見よがしに腹をさする吸血鬼がいた。
『ガハ、ハハハ! 救い手どもよ、どうするのだ? 進めば娘は死ぬ。進まねばわしの糧となる。……おっと、どちらにせよ娘は死ぬか』
 よもや地べたの泥に混じった血を豚よろしく啜り、這う這うの体で掴んだ好機とは言うまい。
 みつけた。
 どーする? どーしようねぇ。呟きと裏腹、直ぐに踏み切る気のエンジの賢い君はうずうずと揺れ広がり。
 その獰猛をマテの片手で制せぱ、ロカジは一本、包みから抜き取った煙草を銜えた。
「別嬪さんが物騒なもん持って」
 嫌んなるな、とことん。

 辛い選択のための一服?
 否。

「痕になったらどうするの」
 ふうわり、薄く、紫煙が漂う。
 "選択の必要すらない"。異変は直ぐに始まることとなる。突如としてあたりの肉壁がバタバタ崩れ落ちたのだ。
『ハッ!?』
「ガハハ♪ じゃねーよ」
 金以外なんにも足りてねぇおっさん。ロカジの吐いた声は味のしないガムの方がまだ大事にされていそうな温度感で、烟る。口にした煙草は一種の眠り薬であった。
 エレルの愛とおまじない入り・特製生薬の煙は美味かろう。
 村娘の頬がほんのりと紅に色付き始める様は、それこそ花が咲いたかの。「起きたら良い子強い子になってますように」片腕に抱き留めたその人を寝かせてやれば、もう片腕は放たれた蝙蝠を唐竹に叩き割る。
 創造物まで揃って行儀の悪いこと。
「僕の艶花も血を飲むけどね。とっても行儀がいいのよ、見習ったらどうだい」
『ぐ……』
「そーだコレだって出来る。マテと、イタダキマス」
 ダンッ! 地を蹴る音を拾ったとて、姿を捉えられるかはまた別の問題だ。一度の跳躍で吸血鬼の頭上を越えたエンジは、最中でぐるりと首へ括りつけた糸を着地の勢いを乗せ引き絞る。
 上から見下ろす奴。適当なことを言って、ぬくぬくと楽しんでいる奴らが嫌い。嫌い、気に入らない。
 拷問具である相棒はそんなエンジの胸の裡をそっと汲み上げるかの如く、軋む負荷に耐え。
「で? 他に何をすればイイ? 芸? 殺す? それとも埋める? なーんでも出来る出来る。だって賢いカラ!」
『ぁ、ガ、離せ、ごのっ――』
「――ああ、いいねぇエンジくん」
 お利口さん、そのままそこにいてね。
 吸血鬼とロカジどちらの言うことを聞くかって、そりゃあ。首を掻き毟りもがく太い指を、辰砂から糸に次ぎ新たに湧き出る紅の宝石が潰す。その頃には真ん前に迫っていたロカジは、ぬらりと鈍く照る妖刀を振りかぶって。
「見せてごらんよ、バカ食いした分」
 土手っ腹に突き入れる艶花の刃。
 治癒途中であった傷は闇医者の手で麻酔無しにて縦へ割り開かれ、中身の代わり詰め込まれる輝く石ころたちはどこかしらの御伽噺で描かれたような、罰。
 猛毒を放つ分、よほど残酷であるものの。
「あーそーぼ」
『あぎゃあァァ、ぁ』
 もっと。まだまだ。いち抜けたは許さない。
 さァ……さァ、さァ、さァ!!! 駈け寄らんとする外野を三重に狂い舞う糸が張り倒し、獣たちの狩り場を整えてゆく。爛々と光る狼の眼は休むことを知らず。
『わしの命の、水がぁッ……』
 必死になって詰め物を掻き出す吸血鬼の表皮がぐつぐつ泡立ち煮えている。
 内側から腐り落ち始めるのだ。
「水、ね」
 訂正、もとより腐りきっていて。改めて溜め息が出てしまう。
 溢れ流れくる濁った液体をロカジの靴裏が踏み躙った。痩せた大地はそんなものでも分け隔てなく吸うけれど、それだけ。――血が水の代わりになるのなら、この世界はとっくにお花畑だ。
 クソッタレ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

砂喰・ネイン
所有物の扱いが悪いのね、ここの主人は
腰巾着は豚みたいに肥えちゃって見てられない

村人が邪魔。隷属の鉄鎖で纏めて縛り上げ
死なない程度に弱ったら
離れたところに転がしときましょう
きっと碌なもの食べてないでしょうからすぐ済むわ

ねえ、貴族様
偉大で高貴な吸血鬼様はあなたを助けてくれるかしら
利用できるうちは餌を与えて世話するでしょうね
価値がないと判断されたら、どう? 心当たりはない?
蛇の眼を向けて不安をあおるように問うわ
【言いくるめ】【催眠術】

隙が出来れば毒蛇の接吻を。狙うのは腕にしましょうか
脂肪だらけで血管に通るか疑わしいわね
でも大丈夫よ。どこに刺さろうと腐り落ちるもの
あなたはあまり、美味しくないわね


久澄・真
随分ととっ散らかされたもんだな

転がる骸に向ける視線は
感慨も哀れみも愉悦も無い只の認識
誰が死んで悲しんで
そんな事俺には関係無い

悪いが慈善事業で来てるわけじゃないんでな
仕事はきっちりこなすが
それ以上のサービスなんぞ期待すんな
他あたれ

操る能面のマネキン人形盾に
壊されようが替えはいくらでもある
かと言って無駄に壊されんのも割りにあわねぇな

…ああ、いい的になってくれるやついるじゃねぇの
十指から伸ばす操り糸を吸血鬼の男へ
絡めとった贅肉の塊
向かい来る村人から身を守る盾にしてやろう

さぁて質問です
吸血鬼様はこれから何をされると思う?
3、2、1…

ああーほら
早く答えないから手が滑っちまった
なんて引いた糸が赤を生む


リリヤ・ベル
なんて、ひどい。
もとより、うつくしいばかりではないとしても。
踏みにじるように、押し潰すように、ひとのこころを塗りつぶす闇を。
わたくしは、ゆるせません。ゆるせない。
……でも。まずは、いきているひとをたすけなくては。

鐘を鳴らして、呼ぶのはみどり。
荒れる海原。波打つ蔦葉。
やわらかに、だけども途切れず、人々を飲み込み浚いましょう。
その手に持つ武器が誰かを傷つけることのないように。
望まずいのちを落とすことがないように。

引き剥がせれば一番です、けれど。
それがむずかしくとも、良いように使われることのないよう、みどりでかくしてしまいましょう。
これ以上の理不尽だって、ゆるしません。
わたくしは怒っているのですよ。




 元人間の、貴族であった吸血鬼。上質な装束も、装飾品も、鬘もなければ削ぎ落とされた肉と骨。
 その佇まいはいつしか、この寒村のどの住人よりも侘しいものとなっていた。
『――――主様! ブルーローズ様!!』
 縺れる足が後退るままに天を仰ぐ。
 己の知る限りもっとも力のある現在の頭に助力を乞うているらしいが、猟兵も知っての通り、何処かからこの戦いを眺めているであろう件の女は、命惜しさに縋る者、反逆の意志なき者を望まない。
 "せめて私を愉しませて死ね"。 もしも声が降ったとてそんなところか。
 猟兵の活躍により大半の住人が身を隠し或いは保護された地は静かなもので、死体と戦いの跡が物言わずに世の無常を語るばかり。
 ひんやりとした、黴臭い死臭だけが変わらず満ちている。
「棄てられたのね。そう」
 しゃらしゃらと鉄鎖を蛇の尾のように引き摺り、砂喰・ネイン(奴隷売り・f00866)はゆっくりと獲物との距離を縮める。もっと多くの肉の壁が築かれるかと思っていたが、命さえ度外視するならこの鎖の一振りで視界は随分クリアとなるだろう。
 吸血鬼は所有者に棄てられたばかりでなく、多くの所有物にも棄てられたというわけだ。"商人気取り"の辿る末路としてはあまりにチープな物語。
「所有物の扱いが悪い主人の腰巾着をしていて、いずれは自分の番とくらい思い至らなかったのかしら」
 しんと響き渡るネインの声に肩を揺らし、また一滴、大地へ赤黒く穢れた血を染み込ませながら吸血鬼が振り返った。半壊したその形相は、塗れた汚辱に沸々と燃えている。
『お前たちさえ現れなければ…………』
 順風満帆な日々が続いていた。支配される側から支配する側へ。好き放題に喰らい、犯し、殺す。嘗て自分を足蹴にした小貴族どもを館の門に飾って、肴に美味い血を味わう。
 誰もが頭を垂れてこう言った。「どうかお許しを」「命だけは」「死にたくない」それらすべてを一蹴してやる快楽を、享受し続けていられたというのに!

『許せん……』
 ボッ、と音を立て虚空に数多の歪みが生まれた。
 溢れ出るはこれまで以上の願いの強さで生まれた創造物。

『許せんぞ、猟兵ィィィィ!!』
 殺す。 殺す、殺す!!!!

「――ああ、まだまだ血の気が余ってんじゃねぇか」
 そりゃあいい、  十指が躍る。
 遥々来てやったってのに悪は死にましたはい解散では御笑い種だ、と。
「交通費代くらいにゃなれよ」
 爆発的に膨れ上がった殺気を一笑に付し、久澄・真(○●○・f13102)。その指先から伸びる糸に括りつけられた顔の無きマネキン人形たちはくるりくるりと共にステップを、放たれた魔なる力を受け止める壁となる。
「あ、……?」
 本来ならば自分たちが砕け散っていたであろう、肉のある方の壁は声も忘れ真を見遣った。
 そんな彼らを見返しもせずに真は前へと進むのみ。顧みることなき足元で何かの骨の砕ける乾いた音、やたら耳馴染みはあるそれにすら、感慨も哀れみも愉悦も浮かんではこない。
 誰が死んで悲しんで。そんな過ぎたこと、仕事上の関係があるわけもなし。
「持つべきものは仕事の出来る同業者、ね」
 マネキンたちとは逆側にいた只人を、巻き取る鉄鎖で足払いにして転がし守ってやったのはネインであり。
 見かけ通り碌なものを食べていないに違いない、その程度の衝撃で骨を折るようでは暫く起き上がって来ぬだろう。
「こちらへ」
 先を急ぐふたりに代わって、立ち尽くす村人の裾を引くフード頭はリリヤ・ベル(祝福の鐘・f10892)。
 こんな子どもがどうして此処に? ――子ども。たしかに彼らが"逃げ出したい"と自分から足を踏み出してくれなければ引っ張ることも儘ならぬちいさなリリヤだけれど、そう選んでくれるまでの安全を贈ることは十分出来る。
 ラルルルラ・ラルララ・ラル、鐘を鳴らして、みどり色した海を広げて。
「こわいものは、もうありません」
 魔法の織り成すまぼろしだとて蔓草は若々しく、久しく拝めていない色彩に一層目を丸くする村人たち。その間にもぐんぐん伸びるリリヤのみどりが、指に引っ掛かっているだけの農具を包め取る。本来ならば、実りを育むための道具。――誰かを傷付けることのないように。
 そして、望まずいのちを落とすことがないように。
「っ、 こいつ武器を奪って俺たちを……」
「だいじょうぶ。いたいことは、わたくしもきらいです」
 そっと彼らにしか聞こえない声は、弱さを自覚したくない自分自身に背いてでも安心を届けたかった、のかもしれない。むずかしいことなんてわからない。
 疑われることはこわくて、わるものにされるのはもっとこわくて、それでも。
 瞳逸らさぬリリヤの振る舞い、その強さに、一番に重い沈黙を破ったのは歳の近いであろう少年だった。
「もう、嫌なんだ……ずっと嫌だった、昨日までいっしょに遊んでた子が毎日」
「ええ」
「それでも僕は、ぼく、何もできなくて」
「ええ、ええ」
 涙声のひとつずつへ、相槌を打つリリヤの手に手が伸ばされる。
 縋りつく。「たすけて、くれるの?」恐ろしいあの悪鬼よりもっと恐ろしい鬼が、玩具にしているこの村を。
「……本当に?」
「ほんとうです。わたくしは、うそなんて、つきません」
 生きた人間の、あたたかな温度にちくりと胸の奥が痛んだ。嘘、ウソ、それがうそ。
 ――でも、この嘘は本当にしてみせる。 すこしだけ握り返した指に、熱が移る。

 爆裂する闇に土が岩が巻き上げられ、それ以上に肉片が舞った。
 無論、真やネインのものではない。どこかの誰かの、数日前まで家族だったものたちの残骸。
 墓をつくってやることも出来ずいたのだろう、獣の歯形まで見て取れて――――特に、記憶の奥底を擽るちいさな肢体の背景を思えばネインは真ほど乾ききってはいられない。
 はやく。
「ねえ、貴族様。ブルーローズ様に棄てられたあなただけれど、その力を借りている偉大で高貴な吸血鬼様はいつまで助けてくれるかしら」
 手繰る鎖を手元へ戻せば剣に変えて蝙蝠を裂く。
 再び空へ舞い上がって態勢を整えんとするのを、雁字搦めに引き摺り下ろし。黒剣の持つ変形機構を柔軟に使いこなすネインだからこそ、無駄にレパートリーの多い創造物からの攻撃に対応しきっていた。
 ――そんな駆け引きの最中に繰り出す問いだ。
『……なに?』
 食いついた。 ぴくりと眉を動かす吸血鬼を、蛇の瞳孔が見つめている。
 催眠術の始まりであった。
「価値がないと判断されたら。どうしましょう? 私の牙がかぷりと沈んで。その瞬間に、パッと何の力も使えなくなってしまったなら」
 経験から起こり得る未来を想像させて。
「きっと痛いわ。苦しくて、それでも巡る毒を振り払えないなんて、あなたが与えてきたどんな死よりも惨めでしょうね」
 たった一手を誤れば、すべてを失うと理解させる。
 無敵など儚い幻に過ぎない。現にこの夜、いまに至るまで吸血鬼が完全に壊すことが出来たのは数体のマネキン人形くらいのものだ。村人による襲撃をも防いだ果て、ボロになった彼ら彼女ら。
 それだって"閃いた"のならお終いである。
「いくら壊れても替えがあるっても、いやぁもっと適した替えがあるたぁなぁ?」
 いるじゃねぇの、いい的になってくれるやつが。
 ――。ネインの眼に囚われていた吸血鬼の視界にぐわりと幾重の糸が増えた。一、二と断ち斬られたところで十まで続く人形遣いの操り糸は、凶器の硬度をもってぜい肉の塊を縛り上げる。
『ぐ、ぅぅ、おお……!?』
「ほぉら」
 殴る側もこれのがきっと愉しい、そんな調子で真が軽々躍らせる吸血鬼の視界はそこで更に一回転。
 ゴッ、と重たい音立てて見事、村人が振り下ろした銀の鍬からの盾となる初仕事を全うする。
「ヒッ!? ち、ちが、今のは」
『お前は……ハ、そこの家の者だったな?』
 暫し乾いた血が彩るのみであった禿げ頭より流れ落ちる鮮血。
 憤怒の念だけで人を殺せそうな、けれど、ふたつの間は危うげなく穏やかなみどりが遮る。
「お顔をおぼえても、いみはありませんよ。役立つ日はもうきません」
 怒っているのはこちらも同じ。 踏みにじるように、押し潰すように、ひとのこころを塗りつぶす闇を。
 ゆるせません。ゆるせない。――わたくしがゆるしません、そう言ってのけたリリヤの色が逆に呑んだのだ。リリヤは逃げも隠れもせず村人の傍らに佇んでいて、恐怖に動けずいるその足元ごと蔓草の波で掬い上げ浚ってゆく。安らげる方へ、ひかりの方へ。
「さぁて」
 なにより、操り糸は未だ絡んだままであり。
「別嬪さんのに続いて、俺からも質問です。吸血鬼様はこれから何をされると思う?」
『や、めぇ……ろ』
 五、四、――真のカウントは淡々と進む。
 物理と精神の両面より狭まった鬼の気道がヒュッと音を乱し始めた。潰された蛙のそれにも似ている。見据えるネインは舌をちろり。
「そうね、さっきの答えがまだだった」
 ギギ、
「ああーほら、早く答えないから手が滑っちまった」
『!!!!』
 ギチギチギチと引かれた糸が裂いて飛ばして赤を生む。
 吸血鬼は、つめたい指が己の腕を取る光景をスローモーションのように眺めていた。眺めるばかり。創造物をけしかけ阻もうにもイメージが結べない。操り糸の所為だけではない。奇跡が訪れる、力を借り受けられるという想像が、まるで。
 "どうしましょう? 私の牙がかぷりと沈んで。……どんな死よりも惨めでしょうね"。 ――沈む寸前の白く鋭い蛇の牙が、薄い笑みのはざまに覗いている。

「あなたはあまり、美味しくないわね」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

リオネル・エコーズ
星鍵

遊びで誰かの人生を奪って、次で遊ぶ
そんな吸血鬼を俺は知ってる
吸血鬼違いだけどこれ以上誰の命も玩具にさせない

行ってアルベルト
猟兵先輩として
君の主として俺が道を作るから
それでさ
そのムカムカをあのおじさんにぶちかましておいで
ああいう事をしたらどうなるか
骨の髄まで叩き込んであげよう

流星を喚んだら周りの人を壁にするんだろうな
同じ貴族として恥ずかしいしテンサゲにも程があるよ
流星の一部は地面に撃ち込んで足止めに使ったり
彼らの農具にだけ当ててこう
ごめん
ごめんね
今は我慢して

言葉や行動で敵じゃないって伝えて
人々の壁が一時的にでも無くなれば吸血鬼にも流星を

冥土のお土産だよ
おじさんに、星の輝きを間近で見せてあげる


アルベルト・エコーズ
星鍵

戯れに人を
命を奪う者は鍵だった頃から見聞きした
湧く怒りは恐らく顔に出ない
ああしかし、

お見通しとは流石ですリオネル様
しかし道を作るのは鍵である私の役目では…?
ですが、リオネル様がそう仰るのであれば行きましょう
主の厚意を無下には致しません
貴方の為
この村の人々の為
あの肥えた吸血鬼は一刻も早く排さねば

吸血鬼が何を喚ぼうと足は止めず、駆ける
邪魔なものは薙ぎ払う
魔法はオーラ防御を展開し一時でも凌げればそれで十分
人々を盾にされたなら手加減して薙ぎ払いを

私の本体は主が持っている
私の道は、主が作って下さる
怖れる要素は欠片も存在しない
体の一部が欠けようとも剣で敵に触れ、UCを

さあ
命を弄んだ代償を支払うがいい




 きつく拳を握りしめるという行為は、肉を、心を持つものに許されたことだ。
 嘗てひとつの鍵に過ぎなかった男にその自由はなかった。だけれどアルベルト・エコーズ(ひかり・f25859)は、胸に渦巻く感情の名ならもう長く知っているように思った。
 怒り。
 戯れに人を、命を奪う悪を前に一秒と逸らせずいる視界の中で、唯一つ鮮やかな朝焼け色が揺れる。
「行って。アルベルト」
「……、……」
 主であるリオネル・エコーズ(燦歌・f04185)の言葉に、眼差しにアルベルトは答えあぐねて一拍、息を呑んだ。顔に出ていたろうか。そうして自らに意識を向けてみて初めて、固めた拳の軋みに気付く。
 何を差し置けど殴り込みたい心地だろうと。何か言う前から胸の裡を、すっかり見透かされているのだから。
「お見通しとは流石ですリオネル様。しかし、主人の道を作るのが鍵である私の役目……」
「そういうのはこの猟兵先輩に任せてよ。それでさ、そのムカムカをあのおじさんにぶちかましておいで」
 ああいう事をしたらどうなるか、骨の髄まで叩き込んであげよう。
 生真面目な台詞を遮ればどこか悪戯の誘いめく物言いをするリオネル。幼き時分みたいに。任せて、には勿論大暴れしていいよの意味も含まれていて、首から大切に下げたアルベルト本体こと百年ものの金の鍵を摘まんでみせる空気もまた凪いだもの。
 だが主にだけ伝わるものがあるように、常に側に控えるからこそ分かるものもある。
 澄んだオールドオーキッドに願いの星が燃えてみえた。
 "これ以上誰の命も玩具にさせない"。
 遊びで誰かの人生を奪って、次で遊ぶ。……リオネルにも彼奴に重ね見る過去がいる、決して忘れることなど出来ぬ悪辣が。
「――はい。それが主命とあらば」
 ゆえにこそ一礼を残し、アルベルトは往く。
 形式ばった決まり文句には主の厚意に対しての感謝と、同じだけの決意が満ちていた。わかりやすいなぁ、とか。リオネルにはやはり表情はおろか声無くとも紐解けて、すこし笑い、かざす手にCelestial blueを揺り起こす。二倍張り切らなくっちゃ。

『死なん、わしは死なんぞォォォォ!!』

 向かい風の闇夜にぱちぱちと大小の紫が瞬き、創造された血濡れし爪が大気を裂く。
 地面ごと抉って突き立つそれを剣の腹で受け流しては只管、駆ける。
 深手を負った吸血鬼に残されたものは多くないが、そんな状態の男に尚も逆らえぬ者たちはよほど苛酷な生の果てに今日があるのだろう。また先ほどの感覚、ツキリと胸元に痛みを覚えた気がしてアルベルトはその"ムカムカ"を薙ぐ剣に乗せた。
 ゴォッッ、 言葉以上、饒舌に。
 烈しく唸り上げる太刀風が立ち塞がる人々を怯ませる。実体を持つ刃だけが器用に断ってよいものを断って、無敵の概念に傷をつけたところへ道行きにつかず離れず寄り添う七彩の流星が幕引きを与える。
 星々はリオネルの遣わせたものだ。空に地に弾けて燃ゆ、その美しさに目を奪われる村人は片手の指には収まらず、アルベルトとしては脇を抜けることも容易くなる。大振りで突き進む長躯の男はよく目立ったが、なにより輝きが狙いを定めさせない。
「う、ぁ」
「くそっ、何処に……!」
 空振りした先で互いを傷付けあわんとす凶器をも、星の欠片は人知れずそっと撃ち落とした。
 ごめんね、と。
 今は届かぬ声を祈り歌のように唱え、光と降らせ。
 ――。――踏み込む一歩ごとに人の身としての己が削れゆくのを感じる。近付くほど、数撃ちゃあたる精神で乱発される創造物は執拗にアルベルトの足止めを試みて、虚空から突き出した牙が黒衣を解れさせる。
『ふふ、ハハハ……! 一直線に進むばかりとは、イノシシと変わらんな!』
 ようやく手応えを感じ始めた吸血鬼が何事か声を弾ませるが、そんなもの、遠い。
 痛みにすら身が竦まぬのは己が物に過ぎぬゆえか。否、それは本質ではない。
(「貴方の為、この村の人々の為」)
 聡明なヤドリガミは知っている。

『そらそら!』
 剣持つ指が欠け飛んで過ぎる瞬間も。
『やはりわしは上に立つべき男ッ! あの女の力なぞ無くとも……』
 裂かれた膝が一歩ごと血を噴く瞬間も。
『むざむざ貢物となりに来るとはなぁ? 愚かな、いや殊勝な』
 どの、瞬間も。
 怖れる要素は欠片も存在しない。

「ねぇ、おじさん。彼だけじゃなく俺も用意したんだよ」
 受け取ってくれる? ――冥土のお土産(星の輝き)。

 道を作ると約束してくれた、光芒は必ず差す。
 迫るアルベルトに夢中でいた間、吸血鬼の視野は狭まりきっていた。人々の命は守り、戦う術や考えのみを奪うという集中を要す戦いはふたりでいてこそ成し遂げられたこと。
(「ありがとう。結局、俺も道を作ってもらっちゃったね」)
 肉の壁はもう無い。
 渇望した食事を前に、守りはあまりにお留守だ。
『な』
 地を削り跳ね上がった流星の先駆けがアルベルトへ伸ばされた鬼の指を灼いたのを皮切りに、廻り着く流星群が上から横から降り注ぐ。煌々と照る、導きの舞台へおそれなく踏み込みながら腰だめに構えられるは誓いのBlaze glaive。
 指が欠けたのなら重ねて握れば良い。足りぬ筈がない、主の手をも借りているのだ。
「捧げるのは、お前だ」
 悪鬼へと真っ直ぐに突き入れる。
『何故、まだァ――!?』
「さあ。命を弄んだ代償を支払うがいい」
 The lock。
 つるぎは鍵へと、そしてまばゆい星々の輝きのひとつへと解けて、共に穿ち抜く。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

春乃・結希
罠だと分かっていても、それごと叩き潰す
この世界に、希望を結ぶために

ごめんなさい。でも、邪魔しないで
前に壁として立つ人達を【怪力】でねじ伏せ、距離を詰めていく
事故を防ぐためにも、大振りな『with』は使わない

UC発動
繋がれる鎖で引き寄せ、殴り、蹴り飛ばす
力と欲に溺れて、人を見下す。最低ですね
その力だって、あなた自身のものではないのに
あなたなんて、『with』を使う必要もない
自分の弱さを理解してない相手に、私が負けるわけないので

自身の負傷は無視。傷は焔が塞いでくれる【激痛耐性】
鎖で無理矢理にでも立ち上がらせ、攻撃を続行

もう、あなたを救うことも出来ないのなら
早く、この世界から消えてください


冴木・蜜
相変わらず
この世界は病んでいますね

村人の保護を優先
私は他の猟兵の支援をします
村人はお任せ下さい

体内毒を濃縮
村人と他の猟兵の間に割って庇います
多少の負傷は構わない
農具の攻撃は身体を液状化し衝撃を殺す

攻撃を受けた瞬間
すかさず注射器で『耽溺』
麻酔薬を打ち込んで無力化

手が回らないなら
擬態を解いて手を増やし
それでも足りぬなら飛び散った身体さえ利用
なるべく多くを鎮静化させ
無理にでも吸血鬼から引き剥がします

村人が微睡んでいる間に
催眠術で恐怖を上書き
そのまま吸血鬼の攻撃から庇い守りつつ
安全な場所まで逃がします

血は捧げさせません
貴方がたは私たちが守ります
そして我々は死にません

だからどうか信じて
生きて
生き抜いて


シキ・ジルモント
◆SPD
距離を取って銃で戦えば村人を盾にされてしまう
…仕方がない、ユーベルコードを発動する
獣人の姿に変身、村人を盾にされにくいよう肉薄して接近戦を挑む

戦いながら敵の攻撃パターンを覚え、隙を突いて体勢を崩して蹴り飛ばし村人から引き離す
周囲に村人がいなければ、盾や代償にすることも困難だろう
十分引き離したら急所を狙って倒しにかかる

村人は殺さない、攻撃は回避する
やむを得ない場合は攻撃を多少受けてでも止め、当て身で気絶させる

生きる為になりふり構わず、そうしなければならない時もあるだろう
…身をもって理解できる、彼等はただ生きたいだけだ
それを利用する吸血鬼のやり方は気に入らない、思い通りになどさせてたまるか




 膝を折る暇など与えさせない。
 まばゆい星々のスパークルが収束するより速く、迅く、駆け抜ける銀の狼がひとり。シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は自らの疎む獣人としての姿に身を落としてでも、一秒でも早くと悪鬼へ至ることを選んだ。
 救うべき人々へ逆に恐怖を与えたならどうする?
 ――"その鋭い爪で、牙で、私たちを殺すんでしょう?"。違う、と静止した手を赤黒く濡らすものが善悪どちらの命かなどと、見分けがつく訳もなかろうに。
 月が美しく輝いていないことだけが幸いな、そんな、夜。
 ゴッ!! 全身の発条を用いての跳躍、そこから叩きつける自らの胸裡の蟠りごとぶつけるかのシキの腕の一振りは未だショック状態にあった吸血鬼へと正しく吸い込まれた。
『が、ァッ』
「――、……」
 横ではなく上から掛かる強い力に、鬼の両足が接す痩せた大地はぴしぴしと放射状の溝を広げる。
 奥の方から寄ってきていた村の少年がそれに立ち往生するのを視界の隅にだけ見とめておいて、シキは着地時の捻りと沈みを上乗せした鋭利な蹴りで逆方向へと吸血鬼の巨体を弾き飛ばす。
「近寄るな。死にたくはないだろう」
 彼とて猟兵と吸血鬼との戦いをもうずっと眺め、頭では理解している筈だ。不用意に踏み込めば、自分たちなどひとたまりもないと。
 それでは何故か。……シキにもまた身をもって理解出来る。ただ、生きたい。酷くつめたい暗闇の中、誰もが生きる術を見失い、探している。
 ――いつか己に他の術があることを教えてくれた存在のように、示せる力であれたなら。
「そう長くはかからない」
 言葉こそ少なに、銀狼は背を向ける。前へ。

 "すべては仕掛けられた罠である"。
 だから捨て置く? だから手遅れ? だから、どうしたというのだろう。そのすべてを真っ向から叩き潰すために自分は居るのだ。
 この世界に、希望を結ぶために。
「こんばんは。お待ちしていました」
 ゴム鞠よろしく跳ね、高速ですり下ろされゆく悪鬼を"受け止めた"春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)。
 with――この男には使う必要もない愛する大剣の支えがなくとも、生傷だらけの、自前の二本の足で結希は立つ。しっかりと地を踏みしめて、腰を入れた拳は衝突の力も相俟って腹から背へ突き抜けん程だ。
『!!!!』
 ごぶりと溢れた魔物の血が、足元、終点に相応しく赤々と広がる地獄の焔にジュッと蒸発した。只人では近付くことも儘ならぬ灼熱の最中。風まで焼けて。
 地べたに両手をついて這い蹲る吸血鬼を結希は静かに見下ろす。
 例えばこんな風にして頭を下げられたって、ちっとも嬉しいなどと感じない。力と欲に溺れて、人を見下す……――眼前の男の在り方へただ「最低ですね」そう言い捨てた。
 歯軋りの音。
 否、羽音。
 背後の虚空から飛びつく創造物こと蝙蝠を肘打ちでいなし、半歩跳ぶ結希。元居た先へ高くより振り下ろされる黒剣を逆に殴りつければ硝子製のように打ち砕いた。脆い、空虚だ、借り物ばかりに彩られた力など。
「何度でも出せばいい。自分の弱さを理解してない相手に、私が負けるわけないので」
『ぐぬぅ……ッ』
 唸る吸血鬼はしかし防戦にまわる他なく、ありったけの創造を結希へぶつける間に目を皿にして打開策を探す。
 ボロボロの両手は焔に焼かれ直してただの棒きれと化していた。だが、だがまだ、一発逆転の機はある筈だ。血を――、血が口に出来れば。
 空腹が脳ミソの十割を占めたとき、ああ、やはりわしはこんな場所で死ぬ器ではないのだ!! 骸の母に寄り添う子がみえる。あれは先刻殺してやった家の者だ、善行は積んでおくものであると一羽の蝙蝠を密かにそちらへ向かわせる。
 その、矢の如く飛ぶ捕食者を。
 なにもなかった筈の、だが確かにそこにあった闇が呑み込むのは直後。
「相変わらず、この世界は病んでいますね」
 丁寧に着古された白衣が最後にばさりと翻って、人間らしいかたちを整えた。冴木・蜜(天賦の薬・f15222)は今日も今日とて憂い顔をして揺れ、佇む。
 実体はブラックタール。致死性の死毒で構成されている身は捕らえた蝙蝠程度、濃縮体内毒によりたちどころに溶かして消すことが出来る。大き目の骨だけがぺいっと吐き出され、からころ吸血鬼のもとまで転がった。――、見上げる面の絶望ときたら。
「治療の心得があるなら、頼む」
 そして当然、シキ。駆け来ていた男は道中で"回収"した気絶している村人の数人を蜜へと押し付けて、直ぐに獣爪を剥き出しにし結希に加勢する。吸血鬼を相手取っていたときより増えてみえる腕や腹の傷は、きっと加減の難しさの問題だろう。いや、努力の賜物、か。
 後で彼も診させてもらわねば――とは思いつつも蜜は、託された人々、そして自らの背後で骸に縋り蹲り続ける少年へ向き直った。
「…………」
 救えぬ命もあるということ。
 身に染みてはいるけれど。こういうとき、もっとうまく言葉を手繰りたいと思うばかりだ。
 幾多受け止めからだから飛び出したままの鍬やナイフは恐ろしかろうから、抜いて捨てておく。ぼたぼた、垂れる口元の黒も袖口で拭った。
「坊や。私の手に触れてください、悲しい、怖いことなどなくなります」
 自分から触れるのはすこしだけ怖かった、などと。顔には出さずに薄く笑む蜜を、僅かに顔を上げた少年が見つめる。母の骸を抱く手は離れるのを迷うようだったが、怒鳴りも急かしもしない蜜の優しげな空気に惹かれるものがあったのだ、やがて手が重ねられた。
 一滴ほどのモルフィウム。そうっと染み渡る黒い蜜が齎すものは、微睡みに似たやさしい毒。
「う、うぅ……ぅ、」
「お眠りなさい。夢の中であれば、まだ」
 まだ――、の先を言いあぐねている間に泣き腫らした目を閉じ穏やかに寝息を立てる無垢に、どちらが勇気を貰っているのだろう。
 他方では殺し合いの生々しい音の中、吸血鬼が何やらがなり立てている。
 血を――、血が――。村人たちへと声をからして命じているようであるが、猟兵の活躍の果て、単純な命惜しさで応じる者は最早数えるほどとなっていた。
「誰一人、捧げさせません。貴方がたは私たちが守ります。そして我々は、死にません」
 だからどうか、信じて。
 生きて。生き抜いて。 献身の怪物はその身を削り、希う。

 ぜえ、ぜえと荒い呼吸が続いている。
 只人であれば数十回は死んでいるであろう傷を負いながら、吸血鬼は尚も死を拒んでいた。
 そも癒し手がいるとは予想外だ。隙をみて倒れた者を攫おうにも、まず結希とシキによる超至近での連撃には僅かな綻びも生じない。
 思案を巡らせる間にもシキの爪が首の皮を削ぐ。サバイバル・ストラテジー、初め獣の荒々しさが目立っていたそれも、追い詰めるごとに精密性を増してきていた。 Rrrr……と、狩人は低く唸り。
 力では敵わぬ。ならば心を揺さぶるか? ――いつものように。
『ふ、ハハ、しかし猟兵といえど全ては救えんか。もとはといえばお前たちが遅いからこうなったのだぞ! お前たちが殺したも……』
「黙って」
 ぐっと奥歯を噛みしめて、殴り抜く。結希は家の陰から自分を見つめる幼子の視線を感じ、振り返ることはせず強く地を蹴りつけ踏み込んだ。手が届くものがまだ在る、 ――まだ。
 指先までを紅蓮の炎が囲いゆく。
 明確に手遅れというなら一点だ。
「もう、あなたを救うことも出来ないのなら――」
 螺旋を描き舞う焔の鎖が後退りする吸血鬼を縫い留めた。醜い顔面が命乞いに歪むが、そこから一音でも発されるより早く拳が飛んだ。
『ギッ、ぃ』
「早く、この世界から消えてください」
 ごうごうと燃え盛る炎のうち。頭蓋を砕く感触がダイレクトに響き、結希の細腕を駆け上がる。
 けれども、ちっとも痛くはなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シャト・フランチェスカ
「あのお方」かい
きみも誰かに傅いている
使われるきみが誰かを使う
そういうわけだ

これはファンレターだよ、貴族様
【鬼の居ぬ間に洗濯を
犬でないなら選択を】

そんなに多くの人を従えて
さぞや威厳ある貴族なのだろうね
《おそれや動揺で声が震えてしまうなんてこと、ないよね》?

きみも嘗ては人だったと聞いたよ
それなら人の強みは知っているはず
彼らは団結し武器を持つ
数々の歴史において下剋上が成されてきた
彼らは意思を持ち考える
本心からきみに従いたい人は何人いるの?
ひとりでは反撃できなくても
たとえば僕らが扇動したらどうだろう
叛旗は翻らないかな?

ああ、でも
きみには「あのお方」の支援があるのか
その人は絶対きみを見捨てない
本当に?


リグ・アシュリーズ
無力さを学ばせ心を折ったのね。よく人の心に通じてること。
憤りを表せば手のひらの上……。
いいわ。私達<ダークセイヴァー>流にやりましょう。

黒風を纏い、気流の刃を発動。
貴族や親玉と思しき相手へ、剣の切先で刃を飛ばすわ。
狙いは見極め。誰が心折れ、従ってるのか。
庇おうとした人ほど服従してるとみなすわ。

貴族も刃を躱そうとするなら、そうさせてあげる。
あえてギリギリ当て損ねたかのように演出。
庇おうとした村人には恐怖を、
貴族には躱したという高揚感をプレゼントしてあげる。
なすり付ける相手が少なくなった頃に特大の一撃をお見舞い。

命欲しさに屈服したのなら、同じ命の危機には怯むはず。
命取らないだけでも、マシと思って。


カトル・カール
罠とわかっていても、飛び込まなければな。…やろう。
手厚い歓迎、どうもありがとう(皮肉を言う)

戦闘力が大したことない…ならメイス担いでボス狙い
負傷は覚悟の上で一筋に狙う。雑魚はUCでなるべく多く眠らせたい。いちいち倒す手間が惜しい。

一緒に戦う仲間がいるなら、重畳。やりやすいようにサポートに回る。
主に雑魚減らし。狂信者(村人)はなるべくなら死なせたくない。UCで眠らせる。戦闘に邪魔なら横に投げて、っと。
召喚対象を一つずつ潰していく。仲間の邪魔をする個体を優先、次に…選んでいる余裕はないか。手近な個体から殴って倒そう。

ここに生まれた、そんな理由で虫けらのように潰されるのは遣る瀬ないな。


ニコラス・エスクード
嗚呼、腹立たしい
このような悪逆が野放しである事が
このような非道をいまだ許している事が
これ程までに、希望が啄まれている事が

もはや救えぬ身か
ならば全てを背負い往こう
我が身は守護者の盾である
刻まれた悲痛を、悲哀を
全てをこの背にて

そして彼奴へと刃を届かせよう
我が身を報復への刃として
刻まれた悲痛を、悲哀を、
全てを刃へと乗せて

『蒼生の盾』を以て、
我が身、我が器物を振るってみせよう
彼奴が刃に抗おうと肉壁を築こうとも
盾にて崩し、払い、突き進む
我が刃をその首に届かせるまで

その下卑た笑みを二度と浮かべぬように
その下賎な言葉を二度と吐き出せぬように
素っ首、叩き落としてやろう


ロキ・バロックヒート
あぁ、可哀想に
主様とやらは村の中から英雄でもひょっこり現れると思っているの?
無理無理、彼らからは絶望したこえしか聴こえない
恐怖で終わるなんてつまんないよね
こーんな気力もなにもかも失った子たちよりも
ずんぐりで可愛い君が踊る方がきっと“主様”とやらも楽しいよ
影がはしって切り裂けば
茶番の【終幕】の始まり
ほら面白可笑しく遊んで頂戴

ねぇそこの君、と村人に
君だよ、武器を握り締めたままの
きっと今なら後ろから
それでがつんとすればやれるかもよ
憎いでしょう?許せないでしょう?
甘く優しく囁いて導く
喜んで打ち据えにゆくなら手伝うし
怯えて戸惑ってなにもできなくても逃げても
どちらでも慈しんで慰めてあげる
よく頑張ったねって


リンセ・ノーチェ
アドリブ・連携歓迎

敵味方もわからず絶望してても
心の底の助け求める声が僕に響くから護り戦う
「シユ」
この世界の友達の名を呟く
あの真白な【勇気】をこの人達にも届けるよ
「ゆっくりで大丈夫
落ち着いてください
助けに来たから
少しでも多く護るから」
【優しさ】籠め声掛けUC使用し敵に向かう
言葉届かず、斃れる人がたくさんいても
残る命を決してあきらめない
召喚存在を含む敵の攻撃を【見切り】躱し
バディペットの友フォルテと意思疎通に【野生の勘】も使い連携し敵に【フェイント】をかけその陣をかき乱してく
牧羊もしくは狩りの応用だ
「偉大や高貴はあるのかも知れない
でも無敵じゃない」
敵UCを否定し銃と杖の【二回攻撃】を撃ち込んでくよ




 あぁ、可哀想に。
 初めに抱いたその感情は目の前染める光景に対してか、愚かな吸血鬼らの考えに対してか。
 いずれにせよこの、絶望に塗れた環境で生きてきた或いは死んできた人々の中からある日ひょっこり英雄が現れるなんて、かわいい夢物語。ロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)はふたつだけの瞳をゆるりと伏せれば今一度世界に耳を澄ませてみる。
 ――"でも、すべて今日で終わりかもしれない"。
 なになに?
 ――"私たちが終わるって意味じゃない"。
 ――"見たよ。守ってくれた、助けてくれた"。
 うんうん。
 ――"殺せなかった。だって、本当に殺してやりたいのは"。 ……そうか、すこしは希望を持てたんだねぇ。もうひと工夫してやれば化けるかな?
「よかった、恐怖で終わるなんてつまんないもの。ね、ずんぐりで可愛い君が踊る方が"主様"とやらも楽しそうでしょ?」
 自分が死ぬ筈ない、死んでたまるかとこの期に及んで抗うあわれな吸血鬼くん。
 運命は常に神様のてのひらの上ということ、教えてあげたいなぁ――ロキが願うならつまり、蜜の楽園は腐れ落ち、破滅が唯一の救いとなる。ちょこんと揃えた足元から一斉に飛び立つ影はおよそひとの形をしていなかった。
 ぐわり、 名状し難い影の切り裂きにも消耗しきった吸血鬼は暴風の最中同然煽られる。上手、上手、吹き飛ばされて泥だらけ、それでもまだ立とうとしてる。いつまで持つか。どれだけ持つか。
「ほら、面白可笑しく遊んで頂戴」
 踵を鳴らせ。終幕を始めよう。

 おやおや。まぁ。
 こちらの方から憶えのある声がしたかと思いきや。
『力を、力を……わしに力を、奴らを八つ裂きにする力を……』
 シャト・フランチェスカ(侘桜のハイパーグラフィア・f24181)が見つけたのは、バウンドを繰り返して転がされてきた肉の塊であった。ぶつぶつと繰り返される呟きと、虚空に向けて垂れ下げるこうべ。ボロボロのそれが件の吸血鬼であると認識できるポイントは、最早その二点くらい。
(「素敵だね。素敵に悲劇だ」)
 Abyssus Abyssum InvoCAT、インスピレーションがどっと湧いてきて。
 羽ペンがすらりと線を描けばシャトの手の中にはたちまち一通分のウタが出来上がる。
「"あのお方"かい」
 まだ力は借りられそうかな、と穏やかに問う傍らの折紙遊び。半分へ、角を折って、その逆側も。
 ――。宙を泳いだきれいな紅色のインクの粒は、空腹の彼にとても美味そうに映ったろう。食い入るような眼が自分を見つめてきたとき、シャトは淡い微笑すら湛えてやって出来たばかりのウタを紙飛行機として飛び立たせる。
「差し上げるとも、これはきみへのファンレター」
 "鬼の居ぬ間に洗濯を。犬でないなら選択を"。
「あれだけ多くの人を従えていた、さぞ威厳ある貴族様だ。見たところ今はひとりだけれど、《おそれや動揺で声が震えてしまうなんてこと、ないよね》?」
 嘗ては人だったと聞いたきみ。
 人の強さを知っている筈のきみ。団結し、武器を取る、そうして繰り返されてきた下克上の歴史を知らぬ筈がないだろうに、想像したことは一度もなかった?
 僕らのような扇動者が訪れて、痛めつけきたすべてが叛旗を翻す日の訪れを。
 その、おそろしさを。
『ぐ……ぅ』
 綴られたウタはひとつのルール、破ってしまえばさて、どうなるか。
 たのしげなやり取りを小耳にはさみながら、ロキもまた目的のものを目の前にしていた。「そこの君」肉の壁はすっかり減ってしまっていて、やぁと歩み寄っても力無く地面を見つめ続けるものが大半。
 みすぼらしい装いをした女だ。
「鍬って言うんだっけ。立派なつくりだよねぇ、ギラギラしててさ、とっても固そう」
 握った銀の恵みだけ誰の血にも汚れず、いや汚せず、銀のまま。
「使わなくていいの?」
 問えば、下がっていた肩がぴくりと跳ねた。
 視線が絡む。それにロキは太陽みたいに笑んで、桜色の乙女とオハナシしている襤褸雑巾の背をすっと指し示した。
「今なら使いたいように使えるのに」

 憎いでしょう? 許せないでしょう?
 なにをされた? どうしてやりたい? なにを思って生きてきたの?

 "扇動者"は甘く優しくとろとろと蜜を流し込む。 ……――ひりつく静寂は、三秒と続かなかった。
「っ、うぅ……うああぁぁあああ!」
 転び出るようにして駆け出す女が、憎らしき悪へ鍬を振る。
 ガインと大岩を叩くみたいな音が鳴った、だけ。
 猟兵が刻んだどの傷よりも浅い、ほんの虫けら程度の反抗。反動でよろめく女へと、血走った鬼の片目がぎょろりと動く。ほぼ時を同じくして虚空から現れ出でたアンティークナイフの束、それから的たる女を遠ざけてみせたのは、どこにそんな力があるのか不思議なほど華奢なロキの右腕であった。
「はいそこまで」
 よく頑張ったねぇ、とあやすみたいに慈しむ。
 ロキに抱き寄せられた女との僅かな空白を、憤るまま埋めんと乗り出す吸血鬼へ「始まったね」とシャトが告げれば操り糸でも残っているかの如くに鬼の身はぴしりと軋んだ。
「うぅん、力も増しては見えなかったな。"あのお方"はなんて?」
 "格下"たちにいいようにされても。その人は絶対きみを見捨てない。――「本当に?」。
 うたう、うたう。
 絶望の日とは今日のこと。
『ひッ……ィ、――ギ!?』
 レターの効果だろう、おそれるまま喉を震わせた吸血鬼の口から零れるものは血のあぶくのみ。舌でも噛み切りかけたろうか、口を押え身を丸める醜態を晒したところで、頼みの綱の力の創造はシャトの指摘通り遅れるばかりだ。
 ――そうそう、惨めで救えぬ己に気付いたってそう簡単には死ねないものさ。
「ほら皆、そっちの君や君たちも。今なんかもオススメだなぁ」
 すっかり観客気分でロキが声を上げた頃には、更に数人が農具を手に駆け来ていた。
 これでもかと叩きつける先は猟兵ではなく吸血鬼。「よくも!」「くそ野郎!」「死ね!」弾みで誰かの瞳から零れた涙のひとしずく、案外枯れぬものなのだと目で追おうものなら、あぁやっぱりこっちの方がうんと面白い。


『えええい退けぇええ! 愚民どもが、このわしにィィッ!!』
 真っ赤な涎を撒き散らし吠える吸血鬼。全身には"恵み"で掻き毟られた蚯蚓腫れが浮き、痛み以上に苛立ちがそのまま放射されたかの如く闇の力があちこちで爆ぜた。
 だが、猟兵たちは追い詰められた小物にも一切の慢心を抱かない。
 ただの勝利ではない、より尊きを目指すが故に。

「貴様が民の善し悪しを語るか」
「もうこれ以上、傷付けさせない」
 輝く白き大盾が、鷲の翼が闇夜を裂いて翔ける。
 加護受けしふたつの鉄壁の守護は、倒れたもの、隠れるもの、見守るもの、未だ害意を掲げるもの、誰もを分け隔てなく背に抱き。

 ――あぁ、心のままにぶん殴ってやったのだ、これで家族のもとへ逝くなら文句はないとも。……なんてやり切った表情を震える足で気取るのはお門違いだ。
 悪鬼を殴りつけた弾みで銀のショベルが折れ、無防備となった青年。
 その肩を後ろへ引っ張ることで入れ替わりに前へと飛び出す褐色肌の女は、どこか嬉しげに口角を上げながら「後は任せなさい」と言った、ような、気がした。
「私達<ダークセイヴァー>流を見せてあげる」

「手厚い歓迎、どうもありがとう」
『!!?』
 気を抜けば失せかける意識の中、吸血鬼が次に知覚したものは己をまたもや殴りつける鈍器の類であった。
 だが違う。村人連中とは比較にならぬスイングの速度、先ずは足からという憎しみより効率を重視した冷静な狙い、そしてなにより施してやった覚えのない一層撲殺に適した形状――――。
『――りょぉッ、へ』
「ご明察。さんざん叩かれて脳も肥大化でもしたか?」
 メギィッだかバギュッだか、異音をあげて吸血鬼の膝は粉砕骨折する。
 いいやむしろ、砕けた骨片が肉を皮を破って撒き散らされた。バットのように軽々血濡れメイスを一回転、肩に担いだカトル・カール(コロベイニキ・f24743)は皮肉に皮肉を積み上げて。
 地べたに腹ばいになる吸血鬼を、続けて風の刃が襲う。
 闇に馴染む黒き剣風。ゆえに捉え辛く、たとえ万全なる五体満足であったとて逃げ去ることは叶わなかったろう。「あら、お友だちは?」とは、無骨な鉄塊揮うリグ・アシュリーズ(風舞う道行き・f10093)。
 守ろうとしてくれる人は、ほんのそれっぽっち?
 リグは斬撃を飛ばすことで、吸血鬼の周囲に残っていた村人の服従度合いを見極める策でいたのだ。結果からすれば偶然近くに居てしまった……だとか、反応を示した数人でさえその程度の熱意に見えたけれど。
『ヒッ……ひぃ! ……?』
 しかし。しかし、だ。
 最初から最後まで役立たずの村人どもへの強い憤りを覚えながらも、吸血鬼はそこではたと気付く。
 リグの放った風の刃は、あれだけの数と威力を見せつけながらもまるで自分に当たっていないではないか! ――この期に及んで、それを自らの優位であると錯覚する底無しの無能には気付かぬまま。

『やはりなぁ……ふふ、ヒヒ、 ヒハハハハ!!』

 そうして両脇に控えていたものたちが逃げを打つ前に、その手首をガッと掴んだ。
 残された片目だけを、狂月の如くに光輝かせて。
『覇道に邪魔が多すぎたのだ。わしには下僕も主も不要……、こやつらもすべて喰ろうて、すべてに引導を渡してくれるわ!』

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『グレイブヤードゴーレム』

POW   :    なぐる
【拳】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD   :    ふみくだく
【踏みつけ】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【の土塊を取り込み】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
WIZ   :    さけぶ
【すべてをこわしたい】という願いを【背中の棺群】の【怨霊】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 そうして世界を掌上に運らせ、享楽の日々は一層の華々しさへ……。
 等々、夢を抱いて人の身を捨てた日のことを思い返していたのかもしれないが。結局のところ、吸血鬼が長台詞すべてを言い終わることは叶わなかった。

 ――――シユ。
 暗夜の世界、ひとりで立ち向かうことがどれだけ勇気のいることか。
 そしてその勇気は、ちいさな女の子にだって持つことが出来るということ。
(「君が教えてくれたね。この人たちにも届けるよ、僕たちの……」)

 雪のはじめのひとひらが音もなく辿り着くように。
 それでいて、力強く。迷いなく一直線に舞い込んだヒポグリフ、その背に跨る少年猫リンセ・ノーチェ(野原と詩と虹のかげ・f01331)の短剣が不埒な手を翔け抜け様に斬りつけたのだ。
『ッ゛ぐ』
「さぁ!」
 オブリビオンの行いに胸裏の火を燃え立たせながらも、リンセの声は救いたい人のために。
 一瞬のことで状況に追いつけずいた鬼の傍らの女は、声に呼ばれ、次に凛と光る二色の瞳に瞬いた。"大丈夫"。"護るから"。頷いて。そもそもが大した力の残されていなかった悪鬼の手を自ら振り払い、駆け出す。
 吸血鬼にしてみれば最後のチャンスであった。
 あれを逃せば? 逃せば、どうなる。
『――させん!!』
「此方の台詞だ」
 心底から念じ、描き出した理想の力の具現はしかし不明瞭な靄のうちから掻き消される。
 そうとさせたのは剣ですらない、盾である。ニコラス・エスクード(黒獅士・f02286)が殴りつけた白妙の円盾の表面にジュワジュワと泡立つ闇は、光に溶かされているかの。
 この不朽の盾は人々の悲痛が、悲哀が、共に手を触れ支えるものだ。
「其処に居ろ」
 踏み出す一歩一歩も、同様に。
 目も逸らせぬほど完全に気圧されている。あちこちの感覚の薄れた吸血鬼は、もう一方の手に掴まえていた男がこの機に乗じ離れた後であるとも未だ知らない。
 だからこそ。
『あと一歩でもわしに寄ってみろ、こやつを』
「どいつだ? 自分で見てからものを言えよ」

 繰り返す。

 ガゴォッ!! 助走付きで飛び込んだカトルのメイスによる強打が炸裂すれば。
 音と衝撃に割れた頭の中を揺さぶられている間に。
「次は当たるかしら。心配だわ、ねぇ」
 逆巻く黒き風。ひとつの竜巻であるかの如く、高速回転を伴って斜めに切り込むリグがいる。
 ダーク・アセンション。この地獄へ踏み込んだそのときから、否、常に魂の奥底に抱く願いが彼女を埒外のものへと近付けている。 力を。為すための力を。
 ――リグと吸血鬼。願いの名までは同じであったとしても、覚悟のもと使うと覚悟もなく使ったつもりとでは。
『ぬおぉぉぉぉ!!!?』
 先ほどは"避けた"なんてことのない攻撃。  と、同じ? まさか。
 粉と砕けながら剥がれる石畳がコンマ秒ののち己の辿る運命だと、そりゃあ誰の目だって否定したくもなるとも。全身全霊をもって願った奇跡は、ああ、たしかにふたつの間に今までで最も強力であろう"吸血鬼様"を創造してくれた。
 憶えている!
 たった腕の一振りで村々を焼き払った、あれはそういえばわしの領だったか、精鋭の騎士たちがバッタバッタと薙ぎ倒されて、それから。必死に思い返す、無敵を信じ込む、その通りを再現する、…………。
 だが。
「偉大や高貴はあるのかも知れない。でも、」
 迫るおぞましく大きな手へ自分から飛び込んでゆく、リンセ。
 少年を背に乗せ羽ばたくヒポグリフ、フォルテが一声鳴いた。同調するかの如く。先を続けるかの如く。そうだね、とリンセはほのかに笑んで――創造の爪の間を鮮やかにくぐり抜けた。
「無敵じゃない」
 上へ。下へ! 縦横無尽の"おちょくり"は小回りの利くケットシーとその友だから出来ること。
 もしも無敵が実在するならば、猫一匹撃ち落とせぬのはどういった理屈だろう? リンセはそのちいさな身を以て勇敢にも証明し、悪鬼を高みから引き摺り下ろしてゆく。
『ふぐ、グッ、うぅぅぅう』
 足が動いたのならばきっと地団駄を踏んでいたところだ。吸血鬼が遮二無二なってリンセを追うほどに、一時的に膨れ上がっていた創造力は激減し、ものの数十秒と経たず空舞う蝙蝠は小指の先より短い牙が生えたてのひらサイズだけ、となっていた。
(「あとは」)
 どおぅっ! 頃合いとみたリンセは右手側の空を空撃ちする反動でフォルテを急旋回させ、振り返りざま走らせる硝子ペンの氷刃の一閃に蝙蝠たちを断つ。
「……どうだったかな?」
 銃口を合わせた先で、血にも怒りにも顔を真っ赤にする男へはもう一発。
 ――――。
「あれが本来の貴様自身の眷属か」
「まぁ、かわいいんじゃないかしら」
 ――。
「とうとうひとりね」
 大盾の守りの陰より迸る黒風が、動けぬ肉の塊をズタズタに裂いて吹き抜けた。

 ぱらぱらと死骸が散り落ちる。
 まだ、だ。

 まだ。
 手はある、自分がこの場で猟兵の相手をしてやっている間に、蝙蝠どもを飛ばして適当な餌を――……。
「……と、でも考えるこったろうと思ってな」
『ッ!?』
 ギラギラとした鬼の視線が這いまわる、その考えることの読みやすさときたら。「こいつは値がつきそうにもないか」蝙蝠片をぺいっと放り、カトルは首を傾ける。
 存分に探してくるといい、などと言いたげな面持ちをして。
 枝角に引っ掛かっていた吹雪の名残、淡紅の花弁が落ちる。まさか自分だけが三本以上の腕を持つとでも思うのか、こちらはチームプレーだ。皆々がこの場で吸血鬼の相手をしてやっていた間に、孤立している者や猟兵にも怯える者、そういった"狙い目"を桜の癒しで眠らせちょっと運んでやっただけのこと。
 ――ここに生まれた、そんな理由で虫けらのように潰されるのも、そういうものとただ見過ごすのも遣る瀬ない。
 今頃は後方の猟兵のもとで穏やかにすやすや、であろう。
「そこそこ骨は折れたが、働き分の儲けはあった気がしてるところだ」
『ぐぬうぅぅぅ…………!!』
 その面を見てると、とまでコケにされた吸血鬼は逸る衝動に任せ猟兵らに掴みかかる。
 肉。 かけら。
 血の一滴でも良い!! がむしゃらに宙を掻く手は、無論届く筈もなかろう、前へぬうと踏み出した重厚な黒き鎧にぶち当たってべきぼきと裏返るまで。
「…………」
 ニコラスであった。
 地べたから見上げるからには聳え立つ山の如き、その威容。もはや見下ろす男に対しての役目を終えた円盾ではなく、手には大剣が引きずられている。
『……わ、 わしを殺すのか』
 ごぼごぼ、ごぼ。
 血泡で濁って聞き取り辛い声が慈悲を乞う。
『わしもまた嘗て、いいや今でも魂の核はお前が護るべき人間であるのだぞ? それを……』
 ニコラスの装い、振る舞いが正道を人民のため歩む騎士に映ったためであろう。
 だがニコラスはこのような輩のために今の道を、人の身を得たのではない。ついぞ観察眼を身につけることのなかった愚か者を前に、――――、大きく振りかぶられた鉄塊剣がぐおんと風を哭かせる。
「首を出せ」
 その下卑た笑みを二度と浮かべぬように。
 その下賎な言葉を二度と吐き出せぬように。
「終わりをくれてやる」
 "最後に何か言うことはあるか"の"何か"に返事をする意味がないのと同じだ。
 ニコラス・エスクードは咎人殺しである。数多の穢れた血を啜ってきた断頭台の刃だけが粛々と落とされる。
 執行装置には無い心が勢いを増させるのだから、微塵のつっかかりもなき断面は美しくもあった。軽く、軽く叩き上げられた生首が跳ねて転がる。
『ぎ、ぎぎ』
 てんてん、
『ぜェええんぶわしのものだ……ぜん、ぶ、ぜ……』
 てんと。
『ひゃは、はは、ハ――ギュッ』
 転がり着いた先で、大地ごと串刺して深々突き立てられた黒剣が最後。
 溢れ出る液体は赤から直に黒へ移ろい。抗うこと、人間であることから逃げ続けた男は世界に骸すら残せることなく、どろりどろりと崩れ溶けていった。
 ひとしずく、玉の汗が零れてそれに混ざる。
 剣の柄を両手に握りしめ暫くそのままでいたリグは、長く落としたひと呼吸の終わりに顔を上げたなら、いつも通りに勝気に笑ってみせる。睨み据える先に、未だ影無くとも。
 見ているんでしょう?
「次があるなら早くして」
 せっかく呼ばれてあげたんだもの、――と。


 予兆として、微かな振動を感じ取った者もいただろう。
 直後のことであった。強烈に膨れ上がる地響きとともにそこかしこで地面が隆起し、罅割れの下から同じ色をした巨大な指が現れたのだ。
 ァァオオオオ、オォ、オオオ――……。
 身の丈は人間の数倍あろうか、ゴーレム、泥や砂で構成されたそう呼ぶに相応しい巨人たち。近くは今宵流れた血も未だ乾かぬ村の内、遠くは村の外からその巨体がゆうらりゆらりと迫り来る。
 近付くほどに、土塊のあちこちから枯れ木のような歪な突起物が飛び出しているのが見て取れる。
 あれは。

「いや……どうして」
「お前……」
 誰かの母で子で父で、想い人で、――――人間、だったもの。
 さっきまで転がっていたものを含め、支配の日々でまともな墓をつくってもやれなかった犠牲者たちが、その一部が生前より元気に揺れている。土の塊が一歩を踏み出せば、弾みでぼろぼろ吐き落とされ潰れる程度の空っぽ。
「わ、わたしを……うらんでる?」
「仕方なかったんだ! あいつのためにも俺まで死ぬわけにはいかなかった、ごめん、ごめんよぉ、ゆるしてくれぇぇぇ……!」
 恐怖も。悲嘆も。後悔も。一抹の安堵も、
 何も分からぬ幼子がぱちくりと瞬く傍らで、"見殺しにした"者たちが震えあがる。声を、より大きくゴーレムの咆哮が掻き消す。歩みは止まらない。
 もしも死して入り混じった魂たちが動かしているとするならば、だからこそか、それらの動きは特定の誰かを探すものには見えない。ただ、生きている者すべてへの  に満ちている。

『生かしておいて良かったわ。けれどただの土の塊なんて、勇者にはすこし退屈かしら』
 ああ、ほら、救ってみせて。誰かの無力が貴方たちの力――、でしょう?
冴木・蜜
無辜の人々の亡骸をあのように弄んで
そして其れをただの土塊だと?

こんな暴虐は許されない
あれはただの土塊などではない
彼らには静かな眠りが与えられるべきだ

流石にこれほど大きな相手となると
私の毒の身一つでは手に余る
彼女の力を借りて
他の猟兵の皆様のサポートを致します

体内UDCを活性化
己の毒を調製、試験管に詰め
巨人が足を踏み出す先に投擲

試験管が踏み砕かれたら
栄養剤の飛び散ったその足に向け『貪食』
体内UDCを差し向け
その土の身体を苗床に
動けぬよう地に縫い付けて差し上げましょう

さぁお嬢さん
足だけと言わず
思う存分喰らい啜りなさい
そして
好きな様に咲きなさい

眠り逝く彼らに花を手向けてやって下さい
似合いの色を
どうか


春乃・結希
……いま私は凄く機嫌が悪いです
さっきの吸血鬼も最低でしたけど、更に最低ですね
この闇の世界でいくつも見てきた、私の大嫌いな『絶望』
『with』……貴方と私で、海に還そう

UC発動
巨大化した『with』を【怪力】で振るう
いつも側にいて、一緒に歩いて来て、『with』の特性を知り尽くした私なら
大きくなったところで何の問題もありません
『wanderer』で強化した脚力で大地を踏み締め、重心移動により大質量を攻撃への勢いへと転化
踏み砕こうとする足さえ弾き返す

せめて安らかに。って、祈ることしか出来ないけど
あなたたちをこんなにしたやつは絶対叩き潰して……
ううん……ぶっ殺してやります【覚悟】




 響き渡る咆哮に。許しを請う慟哭に。肌が、ひりつく。
 衝き動かされる感覚を覚えながら、結希は手繰り寄せた大剣の柄を握りしめた。優しく抱き返してくれる手のある筈もない。しかし踏み出すには、それだけでよかった。
 ゴッ、  叩きつけられる土の拳に望むところと打ち付けた剣の腹。暴風が、"恋人"をくるむ布を剥がしてゆく。
「私は……」
 現れた黒の刃は自ら布を裂きながら伸び、広がる。
 そうして結希が横へと滑らせれば、脆い指の数本をたちどころにブツ切りにして風の中へ飛ばした。
「いま、私は凄く機嫌が悪いです」
 この、闇の世界でいくつも見てきた"絶望"。大嫌いなそれを不可逆的な形で目の前に見せつけられて。
 長大な剣も引き切らぬうちに結希を前へと跳ばすのは、履いたwandererがごうごうと噴き上げる蒸気の馬力。剣の重みに振り回されるようにして一周分翻った身体は、遠心力をそのまま乗せてゴーレムへと回転斬りを叩き込む。
 願いに応じ巨大化した"with"、恋人を振り回す細腕には先の戦いでついた細かな傷がもう数多。
 次は。
 その傷を改めて視界に収めることもせずに、駆ける。
 数歩後退した巨体へ果敢に詰める結希の背を、彼女と対峙するゴーレムを――件の女に言わせたところの土塊を、蜜もまた見つめる。千切れながら揺れる死だけが昏く蜜を見つめ返す。
 無辜の人々の亡骸をあのように弄んで、そして其れをただの土塊だと?
「……。こんな暴虐は許されない」
 あれはただの土塊などではない。彼らには、静かな眠りが与えられるべきだ。
 ぼたと地面に垂れ落ちた己を引き留めず、いいや、裡なる怪異の抑止力たる極彩の油膜が流れ出るのも是として蜜は呻き声に振り返った。新手がやってきている。土人形は動きこそ鈍いが、適当な一挙一動だけで多くを破壊してしまう。 大切もそれ以外も等しく取り込み、台無しにする。
 望まずとも?
「似ていますね」
 わたしたち、とすべて言い終え痛みを覚える前に。貪食を解き放つ。
 試験管たっぷりに揺れる死に至る毒――己自身を、振り撒く。その硝子を掴む手も同じに黒く、差し出した手の動きに従って手首までが溶け落ちた。びしゃりと散った蜜の中にいくつもの種子が蠢く。
「お目覚めの時間ですよ」
 お嬢さんと、そう囁きを届ける先はゴーレムではない。蜜の声に枯れた大地にぽつとひとつ蕾が開いた。赤い、赤い、血のように赤い花。
 それがさきがけだった。花から一斉に伸び広がる走出枝が、眼下なぞ気にも留めずに地を踏み鳴らす土の足を這い上がる。
 拘束を厭うた巨体が種子を踏み砕く。結果としてより内へ内へと取り込む。つめたい苗床の腐った水を吸い上げて、育つ花の根が一面に張り巡らされる。 すべては束の間のことだ。
「思う存分、喰らい啜りなさい。そして、好きな様に咲きなさい」
 眠り逝く彼らに花を。
 似合いの花を、どうか。
 喰い荒らされて苦しいのだろう――目と鼻の先の蜜を叩き潰そうと足掻く拳は。縋り、伸ばされる手のようで、振りほどくのはすこしだけ気が引けた。
 けれども生者と死者、トリアージは初めから終えているから。
 赤々狂い咲く花に侵食され尽くす様に背を向けて、蜜は流れるみたく景色へ溶けた。

 頭上高くから打ち下ろされる土塊の足裏は、大槌ほどに力強い。
 "潰されておしまいだ!"。
 村人らが目を覆うのも無理はない。結希が尚も立ち続け、あまつさえ真っ向からそれに拮抗し受け止めるなどと誰が予想出来ようか。
「――――……」
 大剣を支える肩が外れた風な感触。 だが、痛くはない。
 膝が軋み、両脚がめり込む地面が割れた。 痛くは。
「っ゛、ぅあああ!」
 踏みしめた大地を蒸気の噴射で蹴り上げ、弾く。ほぼほぼ体当たりだ。すかさず返した刃。砕けた地表を抉りながらの渾身の斬り上げはゴーレムの足を断つに留まらず、腰にまで牙を埋める。
 体勢を崩した巨体が今後こそ少女を圧し潰さんと傾き始める。掛かる重みすら剣という杭で押し留め、
(「with!」)
 強く心に念じる。渦巻く絶望を払いたい、貴方と私で、海に――。
 ――還そう、
 更にと踏み込んだ刹那、闇色の剣に光が走ったろうか。
 結希の想いに呼応した大剣は更にと身幅を増し、その切っ先をゴーレムの背まで突き出させる。腰元から徐々に広がっていた罅が全身へ伝い広がった瞬間のことであった。
 半ばまで進んでしまえば、抵抗は軽い。
 ザン、と、真っ二つの土塊の上半分が降り注ぐ最中を、斬り抜けた勢いのまま駆け抜ける結希。背後でどっと倒れ伏す腰から下が、追い風を吹き付けるかたちで少女の身を押し出した。
 転がる。withを盾のように掲げ滑り込んだ先、走出枝たちがしゅるしゅる道を開けて先を急かす。
 奥で蔦葉に巻き取られた巨人が立往生しているのが見えた。黒に近い赤、愛らしい花が咲いている。それらを毟り取ろうとするゴーレムの手は、必死だ。生きようとしている。まだ生きているつもり。 ――結希は剣身を地面に対して平行に、寝かせながら踏み切った。
「せめて安らかに、なんて……祈ってもいいですか」
 とても殺しながら吐く台詞ではなくて、我ながらに声は苦味を帯びた。けれど、だけれども。
 あなたたちをこんなにしたやつは絶対叩き潰して……。
「ううん……、ぶっ殺してやります」
 交錯、一閃のもとに、またひとつと朽ちた命に終止符を打つ。
 眺め上げる蜜は飛び散る残滓を避けることもせず、彼らの傍らにぽつんと佇んでいた。
 遅れてひらと舞い落ちてきたはなびらがタールの澱に浸かる。地響きによるものとはまた違った穏やかな波紋が伝う。いつの間にやら、こんなにも溶け出してしまっていたものかと、自らを省みることのない怪物はそんな風にぼんやり思った。
 祈り。――祈り……。
「お好きな花でも、聞けたのならよかった」
 やがてはすべて黒に染まるのだから、意味などないだろうか。
 自問自答に果てはなく儘、身を分けたUDCは花開き続ける。静かな眠りを。手向けと呼ぶには汚れ過ぎても、まごころを込めて。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

シキ・ジルモント
◆SPD
取り込む土塊に亡骸が巻き込まれている
…これを期待してゴーレムを嗾けたとしたら、度し難い

銃を扱い易い人の姿へと戻る
踏みつけは大きくその場を離れ回避、ユーベルコードで脚部を攻撃する
一度当てたら弾倉を入れ替え、同じ個所へ何度もユーベルコードを叩き込み脚の破壊を狙う
脚を崩して動きを止めたら他の部位にも攻撃、ゴーレムを完全に撃破する

攻撃の際は亡骸の無い場所を探す
その為に動き回れば傷に障るかもしれないが、リスクを負ってでも成すべきだ
生き残った村人と親しい者の亡骸もあるなら、彼等の目の前で破壊するわけにはいかない

村人達を救おうとするなら敵を排除するだけでは足りない
これ以上の悲劇を防がなくてはならない




 ゴーレムが大地を揺らしてゆら、ゆらと踏み出すごとに地表に転がっていたものが巻き取られ、その一部となる。鈍く銀に輝くハンドガン、シロガネから吐き出された空マガジンが泥濘に消えゆくのを後目に、跳躍して間を取ったシキの狼の尾に誘われるようにゆっくりと巨体が顔を向ける。
 アア、ウウウ、と耳が拾う呻きはそこに取り込まれた亡者たちの声、なのだろうか。
(「……度し難い」)
 スライドを戻すと同時に宙で半身を捩じれば、次弾を撃ち出す。
 替えたばかりのマガジンの中身も惜しみなくすべて。着弾、右足――に届く前にシキへと伸ばされていた土の指が炸裂して、土砂が血液めいてぼたぼたと零れ落ちた。
 手をつき損ない、前のめりに姿勢を崩すゴーレム。先に崩しておいた左足も効いているとみえる。
 危うげなく着地を終えたシキは冷静に照準を合わせながら、ボコボコと泡立つ風に伸び縮みする"材料"の姿に静かに眉間の皺を深めた。背、胸、胴、……効果的と思わしき箇所にほど密集している様は、尚更に趣味の悪さが窺えて。
 溶けかけの肉の、落ち窪んだ眼窩が。首から上だけで此方を見つめている。
「兄さん!! やめてくれよ、あんたはもう死んだんだ!!」
 背に、取り込まれた死者の縁者であろう声変わり前の少年の慟哭が響く。
 死んだ、もう戻らない、大切なものをそうと認める辛さ。それはシキ自身よく知っている。今、この引き金を引く、たったそれだけで二度目の別離を突きつけるのは容易いということも。

(「いいや」)

 出来ない。そうするわけにはいかない。
 彼らを救うには敵を排除するだけでは足りない――任された仕事以上の働きを、どうしても望んでいる。
『オオオ、オォォォ』
 銃口は沈黙したままに、ゴーレムが振り上げた足裏が叩き込まれる。
 どおっ、と、滝に打たれたかの衝撃だ。押し込まれ、背後の家屋に叩きつけられるシキの口から詰まった呼気が零れた。
「ぐ、ぅ」
 喉をせり上がる熱を鉄の味として知覚する。
 ゴーレムの重量にぶちぶちぶちと悲鳴を上げる己が身体を感じながらも、シキは、土砂に呑まれる寸前で引き抜いていた片腕を持ち上げるのだ。腹に胸に食い込む重みを押しのけ逃げるためではない、戦うため。
 この距離であればよりやりやすい。通り道の計算をも終えた的へ、銃口を定める。
(「亡骸は……、帰す」)
 この負傷は、切り捨てるべき甘さか。
 否、否。己が己で在るための傷ならば。
「……っふ」
 ぜ、と息を吐き切った。
 かざした腕の下がるに任せ見舞う連射は、偶然のようでいて土塊の"誰もいない"箇所を縦に撃ち抜いてゆく。
 死者たちが、吸い込まれる弾丸をぼんやりと見送っていた。

 ミシリ、  軋んだものはどちらの身体か。
 たちまち穴は裂け目へ繋がり、裂け目は崩落を生み――――直後には、ぬるくやわらかな汚泥は飛び散り左右に別たれる。
 ともにずるずる零れ落ちる骸はまだヒトのかたちをしている。地面に衝突するのを支えてやりたい思いこそあったが、肉体は緩慢としてうまく末端まで渡らない。
 どちゃ。
 ゆえに、落下物はシキが伸ばした両手にちょうど降りかかりながら地に墜ちた。
 指にすり抜けるものの感覚と、妙な生温かさ、
「兄さん……? あぁ……」
 そして後方からふらつく足取りで寄って来る足音を耳に捉え、シキはただ、一度の深い呼吸の間だけ目を伏せた。
 まだ出てくるな。見るべきではない。――? 「邪魔は、させない」結局、ひとつだけ口にして。
 赤黒い汚れを払いもせず、取り落としていた愛銃のグリップを握り直す。寄る辺を得たかの如く指先の痺れは収まり、彼らの最後のひとときに水を差さんと迫る影を迎え撃つ。
 そうだ。
 立ち止まるわけには、いかない。

成功 🔵​🔵​🔴​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻

サヨ…
哀しみに厄災に満ちているね
カグラに識っておけと送り出された場所
渦巻く憎悪に目眩がするよ

カグラの結界で攻撃を防ぎいなし
櫻宵を援護するように切り込みその腕を、足を、命をなぎ払って切断する

心が重い
哀しみに暮れる必要がある命は此処にはなかったのに

死にたくない
そんな哀しみが伝い刀振るう腕が鈍る
噫、しまった

櫻宵!!?

鈍い音
私の大切な桜が折れて
花が、

ぁあ、角が…
折れた欠片を拾い握りしめ縋る
どうして私なんかを庇ったの
私は、しにはしないのに…
どうしてきみが!

…わかったよ
厄災を斬る
よくも私の櫻を
(何より許せないのは私自身だ

そう、まだ

もう躊躇わない
傷つけさせない
そなたを守る

その哀しみと憎悪と厄ごと
斬る


誘名・櫻宵
🌸神櫻

痛みと哀しみに満ちた世界
まだ転じて生まれたばかりの私の神に見せるのは抵抗あるわ
(『前』のあなたならともかく)
カグラはどういうつもりかしら

カムイは私が守る
浄化と破魔を刀に纏わせて
朽ちた命を抉り力を吸収し
桜と変える神罰と共に衝撃波放ちなぎ払い

優しすぎる神を咄嗟に庇う

カムイ!!

衝撃と片角がへし折れる痛み
そんなのに構ってられないわ
大丈夫?
どうしてって
私はもう二度と
『あなた』が「死ぬ」ところをみたくなんてないから
絶対に守るわ

アレは厄災
哀しみと罪の厄
躊躇わないで
憐れむなら斬ることよ
奪われたくないなら戦うことよ
それが彼らの救いになるの
喰桜は救う為に邪を喰らい斬る刀

さぁ往くよ
刀を構えて
まだ終わってない




 新たな世界に降り立った、朱赫七・カムイ(無彩ノ赫・f30062)の歩みはどこかぎこちない。
 花が無い。一息、また一息と確かに呼吸している筈が重苦しい空気に――憎悪に、咽てしまいそう。
「大丈夫? カムイ」
「……うん」
 けれど、誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)の桜は今日も艶やかだ。
 やさしい呼び掛けにほっとする。一方の櫻宵はといえば、やはり拭えぬ不安があった。まだ転じて生まれたばかりの彼に見せるにはあまりにも厳しい世界、自分が守らねばと屠桜の太刀を握る手にも力がこもる。
 その刃身の赤にふわりと桜花が咲いた。
 枯れぬままに攫う太刀風。清めと破魔の祈りは略式なれど刃に込めて、揺れ、叫ぶゴーレムへと櫻宵が先制の一撃を見舞う。土が、肉が、混じり合った身体が削れ飛んで、ぼんやりと中空を漂っていた亡者らの視線がふたりへ注がれる。
「っ」
 背を走る悪寒に息を呑みながらもカムイは続く。
 供に連れるからくり、カグラの指が印を結べば生じた色無き結界が叩きつけられる拳を鈍らせた。合間をするりと抜け、駆けゆく桜龍の背を追い彼のものとよく似た朱砂の太刀を抜く。血を吸い上げた風な色彩も、桜吹雪に霞めば春陽の下の如くやわらかい。
 ゆえにおそろしいものは、戦いそのものではなかった。
 櫻宵が舞い、カムイが支える。友となってそう日も経たぬ筈がまるで数十年、それ以上に永く共に在ったかの連携には乱れなく、二人分の斬撃は次々にゴーレムから人のかたちを奪いゆく。手を。腕を。足を。頭の次には、命を。
 あと一度手を振り下ろすだけですべて奪える。 その段に至って、カムイは耳を傾けてしまったのだ。

 ――いやだ。
 ――たすけて。
 ――しにたくない。

 咆哮に紛れる嘆きの数々。重みに、清らな心が傾いた。
 哀しみに暮れる必要がある命など此処にはなかったというのに。刀を振るう宛を見失い地面を削る。ぬうと落ちる影に背後を取られたと悟ったときには、もう手遅れ、 の筈だった。
「カムイ!!」
 相手取っていた一体を躊躇いなく斬り捨てながら櫻宵が片手を伸ばす。
 春染めの袖が風孕みはためいて、その様まで艶やかで――鈍い音。パッと弾けて跳ねた彼の血が頬に降りかかるまで、いや、降りかかってもカムイは一歩とも動けなかった。
「っ、う……」
「さ  さよ」
 では、足元に転がったものは何だろう?
 はなびらが赤く染まっていて。枝角。ああ、彼の。私の大切な桜の。
 ――。認識した途端、カムイの世界は急激に廻り始めた。
 片角から溢れる血に構いもせず斬りかかる櫻宵と、押しやられ、守られた自分。縋る風に膝をつき拾い上げた角はてのひらの中で更に砕け、崩れてゆく。
「ぁ あ、角が……どうして私なんかを、どうしてきみがっ!」
 ぐにゃりと視界が歪む。眩暈にも似た焦燥。
 庇う必要などなかったのだ、この身は枯れも朽ちもしないというのに。己の過ちがうつくしい桜花を散らせ、友にその血を流させた。また。 ――"また"?
 時間にしては数秒にも満たなかったろうが、敵の只中で跪くなど殺してくれと言っているようなものだ。腕が掴まれる。弾みで引き戻されハッとして顔を上げたカムイのことを、てのひら伝いの温度とともに櫻宵は変わらず見つめてくれている。
「大丈夫よ。私も、あなたも」
 ゆっくりとした、幼子に言い聞かせるかの語調であった。
 包みこむように順に指を折り畳みカムイに今一度刀を握らせ、手を重ねる櫻宵。
 どうして? 私はもう二度と、"あなた"が"死ぬ"ところをみたくなんてないから。
「絶対に守るわ」
 優しすぎる私の神様。
 淡い微笑みは花でありながら、散り際の寂寞を窺わせない強さがある。
「……櫻宵、きみは」
「それにね、カムイ。アレは厄災、哀しみと罪の厄。躊躇わないで」
 ひとつ、言葉を呑んで手の中の術を確かめるべく視線を落としたカムイへ続けて櫻宵は囁く。瞬いて上げた視線の先では、神罰……桜の剣舞をもろに喰らったゴーレムが頭を振り手当たり次第を殴りつけているところだ。
 その度に降り落つはなびらは、本来であれば汚泥が育めはしない色。
 絲華。龍に喰らわれた果てに咲くならば、苦しみも僅かでも晴れようと――そうとは思えど、カムイの刀は散らすのみ。とても櫻宵の真似は出来ない"気がした"。だがそんな心をひっくるめて、守ると櫻宵は言ったのだ。
「憐れむのなら斬ることよ。奪われたくないのなら戦うことよ。それが彼らの救いになるの」
 喰桜は救う為に邪を喰らい、斬る刀。
 厄災を斬る。あなたにはそれが出来ると、何故だかずっと昔から知っている風に深くに響く声が、カムイを立ち上がらせる。「……わかったよ」そうと手を解けば、信を乗せた頷きが返る。
 振り仰ぐゴーレムは既に半分ほどが桜花として消え失せていた。
 さぁ往くよ。 薄紅の嵐が、纏わり未来へいざなう。
 刀を構えて。まだ、終わっていない。
(「そう、まだ」)
 次の一歩が何より許せぬカムイ自身を踏み越える。
 もう躊躇わない。傷つけさせない。そなたを守る、と――薙いだ切っ先が触れる端から蕾が綻ぶ。哀しみ、憎悪、厄、彼らを構成するすべてを斬り通して、右から左へ抜ける最後には水面を跳ねる魚に似て境界がふつんと揺らいだ。
 風が膨らむ。解ける刹那、二色の桜がともに散りゆく。
「…………」
 さあさあ注ぐ花雨の下に最早嘆きは聴こえない。
 うまく、出来たろうか。喰桜を鞘に納め振り向けば、どこか泣き出しそうな顔をした待ち人がいて。やはり角が痛むのだろう。駆け寄るカムイの剣幕に、これまた不思議に幸せそうに笑うのだ。

 痛みと、哀しみと災厄に満ちた世界。
 カグラ。どんなつもりで送り出したのか私/私には分からなかったけれど。ひとつだけ確かなことがあるとすれば、それは――――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

矢来・夕立
※可能なら単独希望

現世に首を突っ込むんじゃない。
…けど、役には立つな。
怨念を集められる。

【神業・影暗衣】。ナイフで首を切る。
代償がなんであれ、鬱陶しい声が俺を動かす。

――膳立ては済んだ。
俺を怨むようなやり方で殺してやる。
住民らは無力だが、俺はそうでない。
痛みもなく葬ってやれるが、しない。

元々高効率で働いてる。少しくらい“遊び”に割いてもいい。
水練で刻む。牙道で刺す。黒揺で死ねないところに穴を空ける。蝙蝠に食わせる。
最後に俺が殺す。
自分の意志でそうなったのではないものを、惨たらしく。
悪行だろうがそれでいい。
お前らの怨みだって見当違いだ。
そいつをこっちに向けろ。
地獄道まで道連れにしてやる。




 べったりと濡れた貰い物のナイフを、どうしようかと一拍だけ考えて、上着のポケットに押し込んだ。
 使い捨てのくせ。それが夕立の、人の子らしい逡巡の最後であったろう。
 掻き切った首元から溢れる赤がびしゃびしゃ跳ねる。
 なんてことはない、手札の一枚だ。神業・影暗衣、膳立てに流す血はこれまで重ね来た悪事を詫びるでなく、これから重ねゆくための儀礼に過ぎない。
 殺せ。(死ね。)殺せ。(死ね。)殺せ。(死ね。)殺せ。(死ね。)殺せ――、声がする。頭蓋の内でぐわんぐわん反響する。先の見えぬトンネルに立つのは誰だ。
「現世に首を突っ込むんじゃない」
 けど、役には立つな。
 誰が、誰に向けた言葉かも知れず。"降りた"。ふらついた夕立の真隣を巨大な足裏が踏み抜いて、身体は軽く、投げ出されるにも近く飛ぶ。抜き取る苦無状の式神がその風に遊ぶ。
 ゴーレムの足の間ではちょっとしたアトラクションめいて腿や脛にぶら下がる腕たちが夕立を迎えた。券を示す代わりに式を。殺しの道具は散弾と化し見舞われる。
「ほら」
 のたうつも腕しか持たぬのだ、逃れられぬ成れ果て。叫びはゴーレムから上がる仕組みらしい。へぇ、そう。
 苦無、とはいうが、苦しみ無く殺してやる気は毛頭なく。
「怨めよ」
 それが出来る技術を夕立は持つが、それでは"効率"がわるい。
 村人へ向けられていると思しき分の恨み辛みも一身に集めるには、並の殺しではぬるすぎる。
 肉のシャワーが降って、ドドド、とめり込んだ暗器の群れが空へ突き抜ける。所詮は土である以上やわい箇所もあるらしく、出来立ての穴から顔を出す腐った順番待ちを飛来した式の蝙蝠が引き摺り出しながら喰らった。
 獰猛な肉食獣みたく。左右に揺すって放り捨てる。
 バウンドした罅割れ頭を一瞥もせず、踏み砕いて過ぎるは主。
 二、三……と。
 ゴーレムの蹴りつけが飛ばす礫で抉れた腕も常ならだらりと垂れる頃合いであろうが、依然纏わりつく声に身を預けるだけで不思議と無茶が効いた。きっと後で痛む。爪が剥げているなどと要らぬ追及を受けるかもしれない。 だが、それでも、この手が殺す。
 すべて、すべては未だ生きる人々の安心と安全を願う善意から?
 ――――笑止。 悪行だろうがそれでいい。
「お前らの怨みだって見当違いだ。そいつをこっちに向けろ、地獄道まで道連れにしてやる」
 それがいい。

 手裏剣が削ぎ落した手首を踏みしめて、肩へ。口を開ける空洞へ次を幾つか投げ入れてやれば気管でも詰まったか、第一あるかも知らないが、ともかく空気だけ吐くそこをなぞる雷花がより狭める。
 叩き込まれ口内に留まり切れなかった鉄もとい紙屑が喉、胸、土塊のあちこちから飛び出した。
 頽れる背には真新しい、胴から上だけに寸断された死体が三つ四つ並んでいる。
 おや、そちらは先ほどの。
 うそつけ。いちいち憶えているとでも。――夕立の手元より羽搏く殺意が風を、肌を裂いた。二度殺せたならより"うまい"、仮に再会だとて以上も以下もありはせず。
 トッ トッ トッ。
 規則正しい音の後には黒百合が整然と、三つ四つ並んでいる。 散らすは手ずからの一閃。
 花見を楽しむ人心地も持たず土塊を足蹴に飛び降りれば、背で巨体が崩れて溶けた。
 這い、伝い来る汚泥が彼らに残る微かな意思のようだ。それだって、駆けゆく怨敵の踵にすら追いつけない。夕立は繰り返す。粛々と繰り返すのみ。己を高めてくれるこの力を、はて、怨念というんだったか。
(「結構なことだ」)
 囀るばかりのその無力、枷になり得る筈もなく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

狭筵・桜人
お墓かあ。土を被せて石なんか置いてみたり、弔い?
生きてたって証拠を残して何になるのやら。
墓参りなんてしたことないから解りませんけど。

やぁしかし、あなたたちの心遣いも無駄でしたね。
ほらほら、誰一人として成仏なんて出来てませんよ。

さて、あの突起物。村人へのただのあてつけかもしれませんが
わざわざ取り込んでいるってことはリソースである可能性が高いですね。
――『愛なき隣人』。死者の声を横取りしてやりましょう。
私は動きを止めるだけ。始末は誰かがつけるでしょう。

生者が羨ましいですか。それとも怨めしい?
まあ死人の言葉に興味はないんですけどね。
一度殺されてるのに歩き回ったりしたら、また殺されちゃいますよ。


穂結・神楽耶
──荼毘に伏せ、『結火』。

迷える魂は煙と共に空へ昇るものです。
間違っても、そんなところで叫ぶものではありません。
だからもうお眠りなさい。
これ以上、誰かの破滅を願わないで。
何時か愛した子を、妻を、隣人を。
……こわしてしまおうだなんて、思わないでください。

泥も砂も、けして燃える素材ではないでしょう。
けれどこの焔は破滅。
素材は燃やせずとも、それを動かすエネルギーを燃やしてしまえば動かなくなるものかと。
神焔拝領、散りなさい。
例え簡素でも墓で遊ぼうなんて行儀の悪い。

……こんな救いしか齎せない。
そもそもこれが救いかどうかさえ分からない。
───ごめんなさい。
どうか恨んでください。そうして静かに眠れるのなら。




 わたくしの焔はこんなにもちっぽけなものだったろうか、
 ――……と、立ち止まりかけて。おそれを払うためにまた刀を振るう、塗り重ねる。神楽耶のもとには幽世の蝶が絶えず火の粉となって滲み出る。
 対峙する土塊たちは、まるで先に救った人々の焼き直しの構図だ。炎の囲いに閉じられて、うまく身動きが取れずにいる。
 彼らにまともな理性はない。赤々と燃え盛る炎へ腕を足を突っ込んでは、わざわざ生者へ聴かせる風に苦しみを訴える。

 眠りを――――。
 すべてを還すには、どれほどの熱があれば足りるだろう?

「――荼毘に伏せ、"結火"」
 迷える魂は煙と共に空へ昇るもの。間違っても、そんなところで叫ぶものではない。
 だからもう、お眠りなさい。 猛火の勢いに比べずっと穏やかに、されど消されず、神楽耶の語り掛けは舞い踊りゆく黒焔蝶が彼らのもとまで届けるかのよう。
「これ以上、誰かの破滅を願わないで」
 想い慈しみあう人々の横顔を、後ろ姿を、見送った景色を思い返す。
 此処とは違う場所。けれど、同じ命に何の違いがあろうか。
「何時か愛した子を、妻を、隣人を、……こわしてしまおうだなんて、思わないでください」
 こわしながら、乞う。
 燃ゆる柄を握りしめる。願いの熱は軽々と融点を飛び越える。ゴーレムの肌はどろりと溶けて、中に収められたものが地べたへ辿り着く頃にはそちらもまた炭か灰かの塊だ。
 救い、だろうか。
 神楽耶はその答えを持たない。ごめんなさいを火にくべた、破滅を齎す神焔が、煌々と夜闇を灼いている。
「そう。私たちのクニじゃ埋める前にああやって、跡形無く燃やすんです」
 後方。戦いの行方を見つめるばかりの只人の間にひょっこりと紛れ込んで、桜人が言った。
 どうして――、と、遺体の扱いにショックを受けていた何人かがびくりと肩を揺らす。「それにしても、お墓かあ」構わず続けるあたりほぼほぼ独り言なのだろう。 弔い? 生きてたって証拠を残して何になるのやら。
 墓参りなどしたこともない。黴臭い石に両手を合わせて、うーん……解らないけれど。
「やぁしかし、あなたたちの心遣いも無駄でしたね。ほらほら、誰一人として成仏なんて出来てませんよ」
 す、と少年が指差す方角には炎を逃れた個体が揺れる。
 吐かれ続ける怨嗟の声。溶け落ちていって今や静かな者たちと、どちらが安らぎ幸せそう? さすがに問いやしなかったが、顔を背ける老人たちの反応で知れたことだろうとも。
 あーあ。
 くそ熱い。桜人は視線を赤へ戻した。此処から眺めて放っておけば、あの女神様がきっとひとりで終わらせてくれる。
 振り返ることなく前に立つ。流る黒髪が炎の彩に透けて、ご本人が燃え盛っているかのようだ。

 ――神楽耶という存在はいつも目の前のものに手を伸ばすとき、引かれる自らを勘定に入れない。
 ――なくなってしまっても構わない。救えたのなら、それが我が身のよろこびであると、そればかり。

「やめてくださいよ」
 仕事人間の自分が言えた台詞じゃないかもしれないが。不器用なひとだと思う。
 あんな顔してまで、やることなんだろうか。 第一、
「報告書に書くことが増えちゃいますから」
 人類にとって有益な猟兵を目の前でむざむざ溶け消えさせた、などと、マイナス査定をくらうに決まっている。
 と、と人の群れを押しやって歩き出した桜人の右手が落とす影が不可思議なゆらめきを見せた。
 足元から引き摺り出すみたく指を滑らせれば、影は付き従いしゅるしゅるとかたちを持つ。
『ア、アァ、オ……』
 愛なき隣人。そんな呼び名もあるけれど。
「とっとと済ませましょう」
 そうして爪弾いた途端、飛び出した。
 横殴りの雨のような。黒い影の塊たちがゴーレムのもとへ押し寄せるまでに、瞬きが出来て一度、二度。
 腕をかざしわっと我が身を庇う人間らしい反応をみせる土塊であったが、足元に弾け溶け込んだ怪異を防ぐことは出来ない。この影は、うまいうまいと呪詛を喰らう。怨念が原動力の土人形は軋みながらその歩みを止める他なく。
「生者が羨ましいですか。それとも怨めしい?」
 返事もない。
 ざり、ざりり、後ろ手に指を組み、逆に歩み寄りながら桜人は彼らの周囲をぐるりと半周回った。
 糸が切れた風に――もとから切れているとはいえ――項垂れる中身の、飛び出した腕のはしっこを、ちょっとだけ引っ張ってみる。けれども秒で手放した。紫色にひえた肌。どうみたって死んでいるから。
(「やっぱり、墓参りって徒労だよなぁ」)
 風圧でふわふわの髪が掻き乱される。それは、次々に沈黙してゆくゴーレムのラスイチの拳が、桜人の数センチ手前の宙で止まったときのことだった。 傾けた首をもとに戻す。頬に触れる汚れを拭い、
「穂結さーん」
 出番ですよーとあっけらかんとし手を叩く桜人。
 "やりやすい"ようにしておきました。ハイ、どうぞ。ってな朗らかさですすすと脇へ退くピンク頭の調子のよさったら。決して向ける宛てを誤らぬよう、破滅の焔の制御に心尽くしていた神楽耶の瞬きにあわせ周囲でぽぽっと蝶が弾ける。
 釣られて、すこし笑った。
「其処にいたんじゃ燃えますよ」
「おおこわ」
 ――。神焔拝領、散りなさい。
 おかげと言ってはなんだが、すべては一振りのうちに終えられた。
 彼が黙らせた彼方と、己が溶かした此方。繋ぐ白銀の軌跡に沿って巻き起こる爆裂。赤から黒へ、映ろう業火と衝撃の波に呑まれ不浄なる誰も彼もが声無く朽ちゆく。
 ――――眠りを。 焼ける空気にそうっと混ぜた、再びにして最後の願い。
「……どうか恨んでください」
 そうして静かに、眠れるのなら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カトル・カール
なりは人間でも、死体は死体で、もう生き返ることはない。
大切な相手がいるんなら、耳を塞いで目を閉じて待っていてくれ。
姿は損なってしまう。すまない。だがこんな、死者を弄ぶ行為は一刻も早く終わらせる!

趣味の悪い土塊だ…
『散華』に持ち替え、関節を狙ってたたき切る。
二足歩行の形をしているんで、足狙いで動きを止めてから顔、無理そうなら腕を落とす。

自分の命をギリギリで守ってる時に、大切な人が死にかけても助ける余裕なんてないだろう。
食うに困らない、平和な時に思い出して死ぬほど後悔するんだ。
どうこう考えても過去は変えられないのに。




「ぁ」
 蠢く土塊の中に。中に、光るルビーの髪飾り。恋人から贈られたのだと、はにかみながら見せびらかしてきた姉の居る風景は今も記憶に新しい。
 どうして何も言えなかったのだろう。どうして、引き止めなかったのだろう。愛する人の死に吸血鬼へ掴みかかる姉から、その頭が傍らに転がされても尚、目を逸らし続けることしか出来なかったのだろう。
 ――いかなくちゃ。はやく。
 ごめんねって言って、あんなきもちのわるい場所から引っ張り戻して――――、

「もう、死んでいる」

 飛び出した村娘の手を掴んだのは、求めるその人ではなく、見知らぬ浅黒い肌の男だった。
 振り払おうとしても指は強い。痛いのではなく、固い。男――カトルは漸く自分に焦点のあわさった揺れる瞳を静かに覗いて、それから何度目かの台詞を繰り返した。
「なりは人間でも、死体は死体で、もう生き返ることはない。大切な相手がいるんなら、耳を塞いで目を閉じて待っていてくれ。……ここからは俺たちの領分だ」
 娘の視線がふっと落ちる。
 口元に残った笑みの形だけが夢見たままで、それがどうにも居た堪れずに、生まれ持った顔立ちほど非情にはなれぬカトルは今一度あの豚野郎を叩きのめしたい心地でいっぱいになる。
 握りつぶしてしまわぬよう娘の手を離した。
 支えもなく立ち竦む痩身に、すまないと一言、言い置いて踵を返す。どう戦おうと"姿"は損なってしまう。
「……だがこんな、死者を弄ぶ行為は一刻も早く終わらせる!」
 駆ける。 メイスを染め上げた血は乾けども、沸々と滾る情動にキリはない。
 らしくもない? そうだろうか。――死を厭い、戦場を離れ、気儘な暮らしを選んだ我が身の根底にもまた、大切であった人々の死に顔が絶えず焼き付いているというのに。
(「趣味の悪い」)
 間近に迫るゴーレムによる槌の如き拳の振り下ろし。
 思考を断ち切るには十分のそれに感謝のひとつでも告げてやろうか。「は、」乾いた笑いが精々だ。直ぐに対応し直撃を弾いたカトルの手から引き換えにメイスが吹き飛ぶ。だが、構わない。
 形見のひとつである鉄塊剣、散華。マントを翻して掴み取る本命の一本が、とろとろと地面に穴を開けた拳を引き戻すにも鈍い土塊の片腕を叩き斬る。
 ――!! ――――ッッ!!
 悲鳴に止まらず肘のあたりからザックリと。転がす。
 自重でズレ、前のめりに倒れそうになるならば当然、逆の手も地面に突き立てられる。咄嗟に自らを支えようとする、悲しいかな二足歩行の――元人間の性。
「貰った」
 そんなことは予測済と。駆け抜けての黒き横薙ぎが柱めいた残りを飛ばした。
 膝をつくゴーレムの足や胴にも裂傷が及ぶ。零れ落ちるは土砂だけではない、様々な形をした肉の塊がべちゃべちゃ散った。
 においというのは不思議なもので。
 いま、自分が誰で、何時の何処に立っているものか、錯覚させることがある。――ああ。あの肉は×××の×××で、だったらはやく×××しなきゃ、だとか。
 腐臭に誰のどれ等と違いがある筈も無かろうに、と、もう片側で冷ややかに分析できるのはカトルに戻る心算がないからだ。過去は過去。どうしたって変えられず、踏み出すしかない。
「せめて、じゃないが。置いていってやってくれ」
 ぬかるみに足跡を残しながらカトルは、尚も立ち上がらんと藻掻くゴーレムへと歩み寄り、刃を頭部に突き入れる。
 仕上げは殺し直す目的だけに非ず。吐き落とされた、ルビーを抱く簡素なつくりの首飾りを拾い上げる。それを首に飾っていたであろう持ち主は最早見る影もない。
 束の間だけあたりが静かになったから、か細い啜り泣きが背に届いた。
 汚れも構わず装束の端で拭き取ってやる。マシになったら渡しにいこう。罅はどうにもならないな。――――、どうして人は。"自分の命をギリギリで守っているときに、大切な人が死にかけていても助ける余裕なんてない"。正しい選択をしたと信じたくとも、食うに困らない、平和な時に思い出して死ぬほど後悔するのだろう。

成功 🔵​🔵​🔴​

ライアン・フルスタンド
不採用含め全て歓迎だ。
キャバリア並みかそれ以上の巨体に土みたいな体…こ、こんなんで生物なのか…!?

あの巨体にこの数じゃ接近戦は不利だ。エリス・カスタムの背面にエレレメンギを接合、空中戦を仕掛ける。
武器はバズーカ等爆発系を装備。血が出ない相手でも破壊すれば動けなくなるはず、だよね?
仲間がいる事を想定してスリーエル・ライフルの出力を低めて運用。混戦の場合は無理に使わない。
投擲などで反撃があれば引き付けて避け、味方の攻撃の隙を作るよ。

皆、犠牲の上に生きる事を後ろめたく思ってる。でもしょうがないじゃないか、そうしきゃ生きられないんだ。
弱い奴が悪いんだ。
あの化け物にも教えてやる、人間様の怖さと強さを!


ハロルド・リード
アレが生きてたって言うのかよ。
土の塊には人が眠っているって。
己れが探しているモノはソレじゃないなァ。

ソイツに意思は有るのか?
己れは死んだヤツとか分からねェ。
アレが埋葬してやれなかったヤツラなら
己れの周りに群がって来るだろ。

機体には乗らない。
両手の銃で仕留める。
有利な地形に隠れて仕留める。
あーあー、かったりィ。
全部全部、纏めて埋めたら楽なのになァ。

わかってる。

怨みとかどうでもいいンだよ。
後ろめたい事を怨みだとか喚いてよォ。

くだらねェ……!


【アドバンテージ・アンサー】




 グレイブヤードゴーレム。
 嘗て生きていたものたちを取り込んで巨大化した土の塊は、尚も届かぬ叫びを上げ続けている。

 怨念が動かすのだという。
 俄かには信じ難い話だ。
 アレはハロルド・リード(scrap・f30129)の知る人のかたちとも、その終の寝床とも似付かずに。
「まァたハズレか」
 探しているモノとは、違う。敵として確かに互いを認識している筈だが、特段群がっても来ない。
 かったりィとぼやくハロルド。ただ、脆い土の肌はただの銃弾の通りも良く、小回りの利く生身での戦いを選んだ利点をフルに活かせる点はツイていた。
 遮蔽物には奴ら自身の死骸も役立つ。戦場のそこかしこ転がったそれが如何に悍ましいナリをしていようと、常日頃からゴミ山に通い詰める男には些事だ。拳、足裏、狙いの甘い叩き下ろしへのお返しに二丁のアサルトライフルをぶっ放す。
 引き付けると同時に後退し、誘い込んだ家屋の合間でゴーレム同士の渋滞を引き起こす。――……なぁんてことまでいとも容易い。 生きた中身の入っている相手とは大違いだ。
(「パァーッと焼き払ってヤりてェなァ……一列にお行儀よく並んでよォ」)
 盛り上がりもしないそれを淡々と処理しながら、惜しむらくはその一点。
 そしてその一点も、答えに導かれるように、直後には他者の手によって叶えられる。
「あれが今回の戦争相手か」
 ライアン・フルスタンド(ヒューグリーム決戦の悪魔・f30184)。
 月を隠し黒く影を落として、ごうごうと突風を巻き起こして。彼を乗せ空をゆく人型二足歩行機動兵器、エリス・カスタムの背には機甲の翼エレレンメギが炎の尾を引いている。
 ――生物なのか?
 射程にゴーレムの群れを収めながら、奇しくもハロルドと似た疑問を抱くライアン。交戦で損傷したらしき部位からも血が流れているようには見えない。土で出来ているのか。ならば、お手軽再生される前に一気に決めてしまうのが得策だろう。
「ちょっと吹っ飛ぶかもしれないけど、命の代わりなら文句はないよな」
 この世界でどの程度通用するのか、試し打ちにも良い。ぐわんと薙がれた土の腕を翼で裂いて潜り抜け、機体は更に高くへ昇る。レバーを引く。ペダルを押し込み、コンソールを弄る。飯を食うのと同じくらい慣れた操作だ。
 指令を受け取ったエレレンメギはギュイと音を立て、スリーエル・ライフル――超広域殲滅兵器の充填が完了したことをライアンに報せた。 反転して地に向き直る。砲口と化した腕を、突きつける。
 すると指一本で人は殺せる。

 光条描き放たれるレーザー。
 "一応"出力セーブされているといえどもその膨大な熱量は、家屋周辺に集っていた一塊を家ごと一直線、灼き払った。
「へェ」
 ゴテゴテに改造が施されてはいるが、あれは、キャバリアの一種か。
「あァ……居るとこにゃ居るモンだ」
 塵混じり、余波の風に焔めいて好き勝手躍る長髪を掻き上げながら、ハロルドは機影へ薄ぼんやりとした眼差しを向ける。丁度良い、都合が良い、利用して楽が出来る。土塊どもは奥の方まで、轟音を立てるデカい的に釘付けだ。
 用済みとなり、吐き出された空マガジンが次に席を譲り転がる。その間にもゴーレムはベビーベッドから見上げるモビールにはしゃぐ幼児みたく手を振り上げる。飛ぶ鳥を落としたがって。
 光景は無論コックピットからも見えていた。軽く機体を左右に揺さぶってやるだけで空振りを誘発できる、欠伸の出そうな作業にライアンは息をつく。
「なんだ。見掛け倒しにもほどがあるな……実は自爆したりしない、よね」
 量産型にはお馴染みの機能を警戒するなどして。
 殲滅は徹底的に行う。欠片の甘さも命取りとなる。荒んだ戦場で叩き上げられた精神性は、凶暴性と言い換えても差し支えはない。トリガーのうちひとつを押し込めば、直前の見下げた台詞を自ずから裏切る量の対オブリビオン用爆弾が機外へ放出された。
 追尾性を有していなくとも、ゴーレムの鈍さでは回避など到底間に合わない。
 精々が腕を振り回して叩き除けることだ。 だが。
『オォ、アアァ ――ァ?』
 爆発に巻き込まれる前から、頼みの綱である腕が吹き飛ばされるではないか。
 一体だけではない。三、五、……次々に。 乱射。下方より銃撃されていると勘付くおつむが仮に残っていたとて、閃光が弾の通り道と赤髪の射手の立ち位置を白く眩ませただろう。
 爆音が連鎖する。
 音が、像が、消し飛ぶ。
 エリス・カスタムのセンサーはもとより土塊の内側に生体反応を捉えていない。
 ゆえに、そこから焦げ落ちるヒトの名残を見出すのはライアンの肉眼のみであった。――生き残った方の村人は、謂わば彼らの死があってこそ生を得たわけだ。戦いと何も変わらない。仕方なかった、と繰り返していた男の言う通り。
「しょうがないじゃないか」
 皆、犠牲の上に生きる事を後ろめたく思っている。
「弱い奴が悪いんだ」
 ――でも、そうしきゃ生きられないんだ。

 あの化け物にも教えてやる、人間様の怖さと強さを!
 自らが生み出した炎の壁を裂き、新手に向かい飛び立つキャバリアは冷ややかで、傷付かず、血も涙もない死神にでも映るだろうか。世界が世界だけに。
 彼が振り撒いていった爆炎がひとまず人命は害していないことに抱き合う村人らが気付くのは、恐らくもっと後になる。
「鈍臭ェ」
 土塊へ向けたものか、人々へ向けたものか。
 ただの独り言か。いずれにせよ、物陰よりゆらり現れ出たハロルドは連射の過熱でバレルの裂けた銃を投げ転がした。ヒッと女の息が詰まるのを、感情の窺えぬ銀が眺め下ろす。
 スペアを引っ張り出しつつ、次に視線の流れる先は地面だ。
 ゴーレムの特別密集していた地点に大穴が開いている。多少"ゴミ"が詰まってはいるが。
 ああ、実にお誂え向きな。
「穴、掘る手間が省けたンじゃねェか」
 そうだ。まとめて埋めちまえ、とハロルド。
 あちこちに散らばすままだから探しモノが見つからない。すぐ失くす。なくして…………「わかってる」村人の誰一人未だ口を開いていないというのに、ひとりで話を進めて去る男はきっと奇異であったろう。
 どうだっていい。ハロルドもまた彼らの答えに微塵の興味もなかった。支度が整えばバイバイする、そういった瞬きの間ほどの異文化交流ってやつだ。
 "そんな雑な扱いをしたら、死者がどう思うか"?
 思い? 怨みとか。本当に、どうでもいい。
「どいつもこいつも。てめぇが後ろめたい事を怨みだとか喚いてよォ」
 許されたい。罰されたい。委ねて楽に生きたがる。
 そういえば今日は何かを探して此処に来た。
 ジャコン、
 と、手にする鋼鉄が苛立ちをぶつける先、敵を求めて宙を舐める。
「くだらねェ……!」
 何処だ。どこに? その実、此処には在りもしないものを探しながら。――微かに息衝く土塊の側頭を、物の序でのように銃弾は吹き飛ばして、記憶の片隅にも留めない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ロカジ・ミナイ
墓荒らし?屍体損壊?
土から生えるのは花だけにしてもらいたいな

…会えて嬉しい死体とそうじゃない死体があるってのは
大きな声じゃ言えないけど、ある
僕なんて大抵の身内の死体には会いたくないもんね
掘り返してでも抱きしめたいほどの死体なんてひとつふたつよ

けども
人のしがらみもまた
愛と同じく死者をこの世に生かし続けるんだってこと
側から見るとよく分かるねぇ
だってご覧よ、あの複雑な絡まり様と、あっちの方の涙声
一体全体、何を恐れているんだか
愛の方がしつこそうだけども?ヒヒ

それにしたって死体団子にされたんじゃ
死ぬに死に切れねぇだろう
…外科処置でなんとかなるかい?
一個一個、こう、切り離してさ
もう一度おやすみ、二度寝しな


エンジ・カラカ
賢い君、賢い君、見殺しにしたヤツラだって。
どーする?
アァ……うんうん、そうしよう…。

ぜーんぶ纏めて土に還そう!
大きく息を吸って、ワッ!て吐き出す。
見殺しにした?
うんうん、賢い賢い。
自分の命が大切だった?
アァ……そうだろうなァ…。

コノ世界は賢い者しか生き延びれないンだ。
今更恨みだのなんだのなンて言われてもなァ……。
生き延びた方が賢かった。
それだけだろう?

なら、アレが何だろうが
生き延びる為に戦う。
ソレダケー。

コレとあーそーぼ
走って、ゴーレム同士をぶつけて遊ぶ
全部、全部、土に還したら
アァ……墓くらいは作ろうカ……。

掘るのも得意だケド、埋めるのも得意なンだ。
……大きなゴーレムは遊びやすいなァ。




「殺風景が過ぎるとは言いやしたがさぁ」
 墓荒らし? 屍体損壊? ほらほら色を足してやりましたよって?
 土から生えるのは花だけにしてもらいたいものだ。
 ロカジはやっぱり溜め息吐いて、先の燻ぶる煙草を手の甲でお行儀悪く揉み消した。火の粉が零れる。
 膝を折ったまま、再会にはしゃぎもしない人々の嘆きを薄情なものとは思えない。
 会えて嬉しい死体とそうじゃない死体があるってのは、大きな声じゃ言えないけれど、ロカジにも「ある」。
「僕なんて大抵の身内の死体には会いたくないもんね。掘り返してでも抱きしめたいほどの死体なんて……」
 ひと、ふた。
 あのつめたさのぶり返す指が、折られて僅かばかりの灰を落とした。
「ロカジーン、コッチの山は大きいヨー」
「はいはいはいっと」
 一足お先にと土弄りに興じ、ぶんぶんぶんと手もとい糸を振るエンジが何やら呼びつける。
 自らのテリトリーで飽き飽きしながら延々遊ぶときと同じ、どろんこ狼は襤褸切れぶりに拍車が掛かり、あれじゃ地面から湧いて出た亡者と間違われたって仕方ない。
 さて、お仕事お仕事。と、歩み出したロカジの背を先ほど寝かせてやった村娘が蹲りながら見上げていた。「母が、」涙ながらに。
「そうかい」
 赴く足取りは変わらない。サーカスもかくやのとんでもねぇ絡まり様をしながら熱心に此方へ空洞を向けるアレが、ではお母様なのだとして。
 人のしがらみもまた、愛と同じく死者をこの世に生かし続けるのだとつくづく実感するばかり。舌に残る苦味を思う。
「恐れるこっちゃないよ」
 愛の方がしつこそうだけども? ――ヒヒ。

「見殺しにしたヤツラかァ」
 うぅーん。襤褸布を引き裂きゴーレムの足裏をすり抜けつつ、エンジは考え事をしている。
 ぶちぶちと千切れたのは布だけだ。甘い、甘い毒滴る糸は途切れることなく男のトリッキーな立ち回りに寄り添い続けている。
 辰砂が吐き出した宝石片をナイフのように握りながら、すれ違う巨大な足を掻っ捌くエンジ。お砂場遊び。赤、赤、赤と、すきな色を埋めて掘って。
「自分の命が大切だった。アァ……そうだろうなァ……」
 加えて生者へ同調すれば亡者は、ゴーレムは怒りをぶつけるみたく足を踏み鳴らす。肝心の的はぬるぬる捉えきれぬというのに、勢いで互いの足すら踏みつけてしまう、愚かしい行いだ。
 見殺し、は悪いこと?
 それは違う! 賢いこと。
「コレは知ってる、賢くないヤツは死んだって文句は言えないンだ」
 今更恨みだのなんだのと。生き延びた方が賢かった。それだけ。
 どの世界もそう。賢い者しか生き延びれず、他者の犠牲を踏み固めた上に一本の蜘蛛糸に巡り着く。生は競争。闘争で、無秩序。
 つまりは目の前にある土人形たちは、こわしていいもの。
 ダロウ? 賢い君。

 ワッ。

 安心を――賛同を――答えを得た人狼の咆哮は、牙を剥きだしにして怨嗟の声に齧りつく。
 食い潰す。卓上に並べられた悲劇の風味をじっくり咀嚼し味わうでもなく、吐き捨てる。その吐き捨てられた滓こそが音の圧に砕け散った土塊の数々であり。
「呼んどいてそいつはなしよ」
 ひぃ~~と耳に指栓詰めながらやって来たロカジが、余りものの足裏を打ち落とす。
 弾みで鞘より解き放たれた妖刀はぎんぎらぎんと咲き誇り、よろめいた土っぽい足が再び地を踏む瞬間をバッサリ縦に断った。わんわん、鞘を拾いに走ったエンジが人様の鞘で敵を殴打しているのが見える。頭が痛いったら!
 一応、それ人間なんだけれど。
 エンジはまるで気にした素振りがない。生き延びる為に戦う、生き物が当たり前に持つ本能に従って、現世を駆けずっているだけ。あーそーぼ、と振り上げた手には爪の代わりに糸が光る。宝石片をピンとしていつの間にやら何重もの糸を通されていたゴーレムは、指の動きに従いぐらついた。
「満足出来たら土に還してあげようねェ」
 ガッ、 ガゴッ、 巨大な人形同士をぶつけて遊ぶ。
 全部、全部。土に還したら。
「アァ……墓くらいは作ろうカ……」
「だとさ。期待しとくといい」
 掘るのも埋めるのもお得意のエンジが言うのだ。細かに削られ砕けた結果、拘束の隙間からすり抜けたゴーレムならロカジが丁寧に紐解いてゆく。闇医者による外科処置とくれば、麻酔も何もあったもんじゃないが――それでも、死体団子よりかは幾分マシと。
 入りたい墓は別々だろう。
「もう一度おやすみ、二度寝しな」
 ひとつをふたつへ、ふたつをみっつへ、通す刀がバラして落とす。
 最後のひとつはてっぺんに腰掛ける例の死体だ。赤い糸がぐんと引かれ、首を晒すかの格好で跪いた土人形。土から骸になった山を踏み越えるロカジ。飛燕めいた軌跡を描き辿り着いた艶華が、パッと咲いて散った。
 山が崩れる。
 ぼすん、と、背中からやわらか肉の海に落ちた狐がうええと舌を出すのを狼は嬉々とし覗き込む。
「ソレは?」
「うん? うーん……美人の涙にゃ弱くってねぇ」
 オペの成果として引き摺り出した、骨と皮だけの身体をずるりと持ち上げる。そんなロカジの周りをぐるぐるとするエンジは尚も遊び足りぬようで、余所の餌場までたったかと。墓づくりはしばし延期――といったところか。一方のロカジは痛む腰を摩りつつ、元来た方へと歩み始めた。
 ずるり、ずるりと今日だって、花の代わりに赤黒の彩が引かれゆく。
 掘り返してでも抱きしめたいほどの死体。もしもこれがそうだと言うのならば、届けてやるのが人情ってものだ。
 次こそ大事にするといい。どんな形であれ、ね。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ナルエリ・プローペ
村の人たちは、一生、忘れたくても
死を迎える時まで、貴方達の事を忘れられないんじゃないかな
自死を選ぶ方が楽な人も、いるでしょうね

出来る事なら、どうか赦しを
弱さや恐れる事は誰にでもある、自然な事だから
それは罪では無くて、安易に生を諦めてしまう事や
不必要に自分を罰する事が罪、じゃないかな
神さまも、そうお答えになると思います

あの人たちも苦しんでいるから許せ、という訳ではないですよ
助けて貰えなかった事も、死の感覚も消えないでしょうから
その分、私がお相手します

単純な力比べでは、苦しい所ですが
死者を出来る限り傷つける事の無いように
不必要な土塊を丁寧に削ぎ落しましょう
何処かに核となる部分があればそこを狙います




「出来ることなら、どうか赦しを」
 揺れ、迫る、悍ましき化物ゴーレムを見上げるナルエリの心を大きく占めるものは、今だっておそれや怒りよりも、人が人へと向けるまっさらな願いであった。

 助かった村人たちはきっと、これから先のうのうと生きていけるものではなくて。
 死を迎えるその時まで、彼らのことを忘れられないのではないか。一生――忘れたくとも。自死を選ぶ方が楽な者だって、いる筈だ。
 ナルエリは思う。
「弱さや恐れる事は誰にでもある、自然な事だから……」
 己が胸に手を添えて、感じる。
 罪とは何を指すのだろう。幾度も読み返した聖書の頁、耳にした教え、そして。――本当の罪は。安易に生を諦めてしまうこと。不必要に自らを罰すること。
「それこそが罪、じゃないかな。神さまも、そうお答えになると思います」

 語り掛ける声はどのように響くのか。
 まっくらな眼窩。空っぽの容れ物を叩いたときと同じ静けさ。
「あの人たちも苦しんでいるから許せ、という訳ではないですよ。助けて貰えなかった事も、死の感覚も消えないでしょうから」
 それでも、ナルエリは、言葉を尽くすのをやめなかった。
 あくまでその生と死を尊重する。
 一方通行でも構わない。教会の中、未だ見ぬ神へ祈りを捧げるようで己が心と語らうひとときに似た静寂の果て。組んだ指を解く代わりに、Rassemblezの刃を抜くのが終わりであり、始まりとなった。
「だからその分、私がお相手します」
 ――踏み込む。
 ――オオォォオォォオオ!!
 一歩のそこは互いに有効な間合い、びりびりと肌を震わす叫びとともに飛んできた蹴撃は、しかし直線的だ。まともに受ければ骨の数本は持っていかれそうな脅威も、残像を散らすのみならば意味は無い。
 巨大な爪先が触れる直前に身を捩ってステップを踏んでいたナルエリは儘、すぐ傍らを重々しく踏み抜いた足に接地と同時の斬撃を見舞う。一瞬にして線は二筋。ゴーレムが新たに取り込まんとする石や砂を吹き飛ばし、その表皮をも削ぎ、うちに収められたものを露出させる。
 九死殺戮刃、意識せずともそうあれと手足が術を知っている。
(「……手を、」)
 掴めたなら良かった。
 揺れる亡者のそれと僅かに指先がすれ違う。逆側の足裏が頭上へと落とす影を察すれば、深追いはせずにそちらを斬り刻む回数が五を数えた。
 抉れた土と土との合間をくぐり抜けるナルエリ。
 自然巨体の背面を取る形へ持ち込めば、その広い背に剥き出しとなった骸の数々を目の当たりにすることとなる。怨念にて動く土塊。核、というものがもしもあるのなら、恐らくは。
「お辛かったでしょう」
 ちいさく息を零した。
 あわい紫の瞳の彩は瞬きの度に深まって、色を増す。巨体が揺れてぐうわり振り返る。でたらめに叩きつける拳――――、しかし土煙の晴れた其処に既に娘の姿は無く。
 とん、と踏みしめる足は肩にあった。
 腕を躱すでなく、礫を受けようが逆に飛び込み足場に使うという肝の据わった判断は並大抵の人間に真似出来ぬものだろう。肌には浅くない赤の線が走り、仕立ての良い旅装も砂埃塗れで。
 少女は自らを凡庸と語る。
 戦いの行方を見守る人々の瞳にはまた違った姿として映っていると。例えば――、自らも誰かの先行く背になれていると知る日の訪れは、きっともっと、歩き続けた先のこと。
「失礼を」
 声とともに閃かせた斬撃の数が三。
 蹴って跳んで、滑り落ちる景色の中で刃を埋めた背から朽ちた命を解放することに、そのすべてを捧げた。
 あれほどに泣き喚いていた土塊がぎくりと軋む。
 ォ、オォ、――と、尾を引く嘆きが風に溶け消えたのなら。
 片手片膝をつき獣同然しなやかな着地をこなしたナルエリは、立ち上がって服を払えば巨体へゆっくりと歩み寄って、一度目には取れなかった手をも引いた。
「お待たせしました。さぁ、眠るのなら……ともにゆきましょう」
 ――、皆さんがお待ちですので。
 終ぞ返る声無くとも、いつかは赦しあえる世界を願って。

成功 🔵​🔵​🔴​

アルベルト・エコーズ
星鍵

随分と大きな敵だと思えたのは始めだけ
ああ、死者も生者もあれでは安らかに眠れない
それに、

参りましょうリオネル様
大丈夫です
短い時間ですが手足はそれなりに回復しました
私はまだまだ動けます(手をグーパー
あのゴーレムを、止めましょう

標的は主の狙いに合わせUCで足を狙う
崩れた分動き辛くなれば止めやすくなる筈
殴られては再生した指がぽろりと欠けそうなので
拳を受けないよう距離を保ちながら
そしてリオネル様の盾になりつつ、UCを

背中の棺群に在る怨霊の声
消す術があればと思うも無い今は、今の私に出来る事をひたすらに

貴方の望む道がありそれを塞ぐ物があるのならば
私は何度でも扉を開き、その先へと繋ぐ
鍵とはそういうものだ


リオネル・エコーズ
星鍵

ゴーレムの大きさ以上に
巨体から覗く存在に目を奪われる
散々人々を傷付けて奪ってるのに
まだ、

ぐるぐるなりそうな思考がアルベルトの声でリセットされる
…ありがと
うん、行こう
止めよう

自分達に近いとこから止めにいこうか
全てを壊したいって叫びに怨霊が応えるそれを、俺は止められない
だって彼らは生きてた頃に戻れない
助からなかった事を無かった事に出来ない
だけど壊す為に揮われる拳と進む為の足は、止められる
アルベルトへの攻撃もさせはしない
無数の鍵と一緒に流星で砕いて、砕いて
終わりにしよう

救ってみせてっていうならお望み通り
…全てを救うなんて出来ないけど
生者も死者もこれ以上何かを奪われないよう
何度だって星を降らせるよ




 とても、とても大きな土の巨人は世界さえ違えば豊かな緑なんかを茂らせて、動植物の憩いの場となっていたのかもしれない。
 それがああして骸を抱くのみであるなどとは、皮肉な話だ。
 リオネルもまた、見つけてしまった。垂れ、突き出し、揺れ動く朽ち果てた人々の姿を。
(「散々傷付けて奪ってるのに」)
 誰が。
 何の権限があって、どうして――。
(「まだ、」)
 ――ぐるりと思考が渦を巻く。ひとりきりならば、きっとその昏い底に沈んでしまっていたような夜。
「参りましょう、リオネル様」
 先刻の頂き物のお返しをするみたいに、傍らで従者が穏やかながら芯を感じさせる声を上げた。
 下げた視界から盗み見れば、頭を……撫でようとしてやはり立場上思い留まったのだろうか……微妙な宙で固まった筋張った手に、ふすと笑いが零れてしまうのも仕方のないこと。
「……それどこで覚えてきたの?」
「いえ……」
 遠き記憶の中の奥様であったかもしれない。なんなら茸であったかも。
 さぁ、と何事もなかった風に身を引きふいと前向くアルベルトの手指は、そも先の戦いで痛ましいことになっていた筈だ。「うん……」リオネルの視線はまずそちらを追うが、当の本人は素早く察して手をぐーぱー開いて閉じて。しっかり五本は揃っていることを示す。
 まだまだ動けます。いいえ、働かせてください。
 それこそが至上の――――なんて難しい話になりそうだったから、片手を前に出しリオネルは主特権で遮った。ありがと、とだけ伝える。胸の嫌なつっかえがすとんと楽になって、きっともっと上手に星を呼べる気がした。
「止めよう」
「はい。あのゴーレムを、止めましょう」

 すべて、すべてをこわしてしまいたい。
 咆えるグレイブヤードゴーレム。
 幾人もの声が折り重なって聞こえる地響きの如き嘆き。死者も生者もあれでは安らかに眠れはしまい、アルベルトを走らせる第二の理由がその鎮魂。 第一は、
「そのお願いは聞けないんだ」
 ごめん、と最早救えぬ御魂へも心を寄せる敬愛すべき主人。
 この地で無惨にも殺された怨霊は土塊と同じ想いでいるであろう。彼らこそが衝き動かしていると考えても、正しかろうか。――リオネルにはあの衝動を止められない。だって、彼らは生きていた頃には二度と戻れない。
 死んだ命は祈りの歌を耳にせず、時は不可逆で、助からなかった過去を無かったことになど出来ない。
(「だけど。未来は……壊す為に揮われる拳と進む為の足は、止められる」)
 落涙のように星が降る。
 背の高いゴーレムたちは地上のなにより一番にその熱に灼かれて、その石に砕かれて、ちいさくなってゆく。
 七色の光の彩がなめらかな表面に照り返して、綺麗だ。
 綺麗だと思った。アルベルトはリオネルが想いのまま降らせる星々に添わせる形で、宙に練成する己が本体の分け身を撃ち出す。鍵、ではあるが、熱心な手入れが施されたブレードの切れ味は剣のそれに勝るとも劣らない。
 光の奔流を泳ぎ切って、ゴーレムの足には直ぐに無数の鍵が突き立った。
 回して捻じ込む先は大地。まぶしい、などという感覚を持つのかは知れないが、流星に対し腕を振るうことに躍起になっていた土人形は踏み出そうとした足ががくんと失敗してから漸く苦悶の声を漏らした。
 ――来る。
 砲弾めいた拳の叩き下ろし。しかし随分と縮んだ身の、一撃は本来に比べずっと圧が無く。
「と、」
 そうはさせない。指もやれない。この身にはまだ利用価値があるのだ。瞬時の判断で攻撃から防御へ転じさせ、合間に挿し込む鍵数本がアルベルトの身代わりに衝撃を受け砕け散った。
 半ばで折れ、地面に突き刺さる鍵。鞘から剣を抜く風にそれを拾う流れで投擲すれば、ゴーレムの指数本を吹き飛ばし引き分けには余りある成果を叩き出す。そう、執事らしく。スマートに。
 そしてなにより、彼への追撃はリオネルが黙ってはいない。
「アルベルト」
「は」
 一歩後ろへ。黒衣が翻ったかと思えば、その布地の色を染め変えるほどの間近に流星が飛び込んだ。
 ぐわりと逆側の五指を広げてアルベルトを鷲掴みにせんとしていたゴーレムは、滾々と湧く怨み、痛みで動く盲目さが災いして腕の付け根までを一度に吹き飛ばれることとなる。
 ジュッと命の焼ける音。
 慟哭。焦げた肉の臭い。飛び散る――……、
 凄惨な絵図の中にあっても、地に落ちていた鍵の破片は吹き上げられてキラキラと光を返す。
「こちらで」
 バスタードソードの一振りが天の星と地の星、ふたつの輝きを繋いだ。
 土塊の胴に刻まれるものは名前の無い星座だ。いつか夜の空を指さし語らった生が、いずれ物言わぬ骸として地を這う様、深き絶望を消す術を持たぬ己を無念にも思う。けれどもアルベルトには出来ることがある。誠意誠心、リオネルの供として。
 扉を開き、望む先へ。
(「鍵とはそういうものだ」)
 ――――リリ、。
 土煙上げて倒れ伏す巨体を飛び越え、鍵同士の擦れ合う音。
 無数のそれと呼ばわれた極光の星が連れ立って、起こす光輝の風の中、歪をあるべきかたちへと還してゆく。

 "救ってみせて"?

 お望み通り。何度だって願い、星を降らせよう。
「……すべてを救うなんて、出来ないけど。これ以上はひとつだって渡さない」
 生ける者からも、死した者からも。
 休むことなく飛び続ける翼の、険しきその道を選んだリオネルの決意をのせた言の葉。今はまだ独り言に過ぎぬとしても、傍らの男の胸を確かに打った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヴィクティム・ウィンターミュート
・匡(f01612)と

随分とまぁ、良い趣味をしてるこって
あの土くれに何を思うかは勝手だが、オーディエンスは黙っとけ
今からアレをもっかい殺すんだよ。文句は受け付けないぜ
黙って見てな

匡、俺ぁアイツらにストンピングをさせないようにする
ちょいとばかし"残り滓"が転がると思うが、俺からの小粋なプレゼントとでも思ってくれ
踏みつけるにはよ、脚が必要だよな
そんじゃあ、『突然脚が消えちまったら』どうなると思う?
──切除開始、『Amputae』
一斉に脚を指定、切除転移を実行
今ここに残るのは、脚を切られてストンピングを封じられた木偶の坊だけだ
さ、バランスの取れない連中だ…楽な掃除だろう?
プレゼントへの文句は…無しで


鳴宮・匡
◆ヴィクティム(f01172)と


罪の意識ってやつがあるだけいいさ、こいつらに人の心があるってことだ
“ひとでなし”はそんなこと、気にしたりしないからな

ああ、いつでもいける
始めようぜ

ヴィクティムが足を“切除”した敵から狙っていくよ
踏み下ろすはずの足を落とされれば、バランスを損ねるだろう
そのタイミングを狙って撃つよ

この土塊を動かしているのが死したものの情念だとして
歪んだかたちで彷徨うことも、生者を害することも
望んだことじゃないはずだ

それを救ってはやれないけど
囚われてどこにも行けなくなった命を
あるべき場所へ送ってやることだけならできるから

せめてもう二度とその眠りが妨げられることのないように
……おやすみ




 吸血鬼に震え、ドラゴンに震え、ゴーレムに震え。
 さっきの邪竜は……等々といまだに引き摺っている格別の臆病者たちの囀りを鳴り止ませるには、突き立てる指一本で事足りた。
「オーディエンスは黙っとけ」
 ヴィクティムがぴしゃりと言う。
 もう鋭い爪は引っ込んでいる筈だが、ヒッと喉嗄らして頭を伏せるあたりすっかり負け犬根性が染み付いているとみえる。好まぬ湿っぽい空気に眉間にも皺が寄るというもの。
「あの土くれに何を思うかは勝手だが、今からアレをもっかい殺すんだよ。文句は受け付けないぜ。黙って見てな」
「あー……ほら、汚れるぞ。って今更か」
 地についた両手、その腕を引っ張り上げてやって、匡も口を開く。
 さっさと背を向けるヴィクティムは当たりこそ強いが高効率でもある。己が信条、完勝を目指す……余計な被害を増やさぬためには、私情を省いた事実をストレートに叩きつけることも結果的に近道だ。
 ボロボロに泣き腫らした一般人には、少々気の毒かもしれないが。
 さてこの男は肉親を、恋人を、一体誰を亡くしたのか。 匡とて長話をするつもりはない。
「罪の意識ってやつがあるだけいいさ、人の心があるってことだ。"ひとでなし"はそんなこと、気にしたりしないからな」
 進むため悔やむことは悪いことでは、ない。……と、今は思う。
 ただ元気づけるようにぽんぽん、と軽く肩を叩けば匡は同じ手に異邦人――黒塗りの拳銃を握って。
「お出ましだ」
「ああ。始めようぜ」
 平静とした足取りで、ホログラムに指を触れプログラムの実行を始めたヴィクティムの後を追った。

 作戦はシンプルだ。
 邪魔なものを削ぎ落として、メインを叩く。
 ――ちょいとばかし"残り滓"が転がると思うが、俺からの小粋なプレゼントとでも思ってくれ。
 とは、よく言ったもので。
「切除開始」
 Warp Program<< Amputate >>。ヴィクティムが電脳ゴーグル越しの"世界"をスワイプすれば、現実に干渉するコードがそこにあったものを消し飛ばす。
 実際には消失しているわけではない。切り離され指の移動先に転移するだけだ、今ならそう、ゴーレムの腰から下だけを目の前から「ひょいっ」と。
 群れ、集い、ご自慢の踏みつけを披露しようとしていた矢先の出来事であった。
『ア?』
 ラグじみて一拍ほど宙で静止していた土塊たちが、ごろりごろりと積み重なりながら一斉に墜ちるは直後。
 切断音は機械的に、平坦に、ギロチンを落とすそれによく似ていて。
「文字通りの木偶の坊、っと。どすどす騒がしかったからな、足が無いだけで大分可愛く見えんじゃねえか」
「……本当、敵に回したくない奴」
 ――腰から下の転移する先はこの場合、匡の横手であった。
 残り滓、改め残された足が倒れ込みバタ足をする。「可愛くはないし」とんでもプレゼントを押し付けられた匡はといえば、煩さ半分不憫さ半分試射ついでの一発目をくれてやった。静まる。痛みはない、のだろうか。わからない。
「だが助かってんだろ?」
「まあな」
 手口の容赦無さなんて互いに言いっこなしの日々だ。短く返せば、それからすっと腕を滑らせ、友の言うところのメインたる上半分へと。
 両の拳を地面に突き立て身を起こそうとするゴーレム。二発目はその左手へ。左手の、人の名残へ。
 水面に林檎を落とした風に亀裂線を広げつつ、弾痕が穿たれる。がくんと崩れる体勢。続けざまの銃声。隣へ。その隣へ。また隣へ。……楽な掃除だろう? ああ、ヴィクティムの言う通り。
『オオォォ、アァ、アァアア』
 助けてと叫び散らす、弱い、自力で逃げ出すことも叶わぬ標的――か。
 匡はかぶりを振る。土塊を動かしているのが死したものの情念だとして、歪められたこれは「助けて」ではなく「殺してやる」の集合体。情をかけるということは、即ち新たに害されるものが生まれるということだ。
「お前たちが連れていった人は、そんなこと、望んじゃいなかったはずだ」
 ……救ってはやれないけれど。
 囚われてどこにも行けなくなった命を、あるべき場所へ送ってやることだけならできるから。
 リロードの後も構えた銃を下ろさぬ匡に対して、ゴーレムが残る拳を振り上げたとき。
 腹這いの巨体の頭を守り得るものが何ひとつ無くなったその一瞬を、最短で終わらせる、最も好ましい瞬間と死神の眼は射抜いた。
「……おやすみ」
 せめて。
 二度とその眠りが妨げられることのないように。真鍮の咢が噛み砕く。
 長く尾を引く銃声の後、力なく地面に伏した上体が盛大に巻き上げた土煙が目に染みて、すこしだけ痛んだ。「行くぜ」背をどつかれてわっと前に折れつつ、匡も声の主、ヴィクティムの歩みに並ぶ。
 ――そういえば、他の足はどこ行ったんだよ。
 ――もいっちょバラして飛ばしといた。
 指がヒマだったんでな。頭上に戻したゴーグルをコツコツ示し事も無げに言う電脳魔術士の仕事ぶりときたら。今頃、どこかの誰かが突如として現れたバタ足の怪に腰を抜かしていないといいが……見渡せば、死と生の境目を見失い、あたりを彷徨う土人形はもう随分と減っていた。
「もっと心込めたプレゼントしてやりてぇ奴もいるしよ」
「はっ……言えてる」
 或いは自分たちの痛み、悼みを乗り越えての奮戦こそが、奴にとって最高のプレゼントか。
 反吐が出る。 「急ごうか」持ち替えた突撃銃にそっと食い込む指の強張り、教えられ、自覚してしまえばいつかほど"ひとでなし"ではいられない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

玉ノ井・狐狛
※アドリブ、連携などお任せ

死人をネタにした嫌がらせ
――ったく、いかにも性悪の考えそうだなァ、おい?
どこのお偉いさんが元締めかは知らないが、やり口に意外性がないぜ

知れてるネタ。つまり、対処に必要な手札は揃ってんだよ
ひらたく言うなら、特効ってやつがな
UC使用――動力と攻撃性の根源、死霊自体を削ってやる

アタシぁ俗物でな。真っ当な手順での成仏ってやつにゃこだわらない
が、とっととこの世から消える段取りくらいはつけてやらァ

どうしたところで死人は死人だし、脚本の趣味は倒錯してる
素直につきあってやる義理があるかよ
ご不満があるなら、そろそろ出てくることをオススメするぜ、監督サマ?


鹿忍・由紀
どうせこれもどっかから見て笑ってるんだろうなぁ
猟兵を呼ぶためにふっかけられた村人は災難だったよね
見殺しにさせられたことも分かんなくなっちゃってさ
震える人々を見て思えども
単純なただの感想でこれといった情はない
いちいち他人の命にまで責任なんて持ってらんないし

他人事みたいに思いながら刃を宙に浮かべてく
弱点を探るべく攻撃を避けやすいよう近付かないまま『影雨』を
どれだけ刃の雨を降らせても
乾いた土が濡れることはないだろうけど
削り取るくらいは出来るだろう
他の猟兵との戦い方を見つつ
ダメージが通りやすい場所を見極め
一点集中させて抉り取ってやる

そんなに猟兵に会いたいならさっさと出てきたら良いのに
面倒増やさないでよ




 想いを、力を尽くしてあちこちで戦いを繰り広げる猟兵。
 背に庇う構図の村人。対峙する怪物の辿った、辿る悲劇。

 ――どうせこれもどっかから見て笑ってるんだろうなぁ。
「猟兵を呼ぶためにふっかけられた村人は災難だったよね。見殺しにさせられたことも分かんなくなっちゃってさ」
 ある種の賑わいから距離を置いて、量産品のダガーを手に転がす由紀はそんな感想を零していた。
 本当にただの感想だ。激情だとか、ましてや涙だとか。すこしも滲まぬ声はすぅーっと空気に溶けて、別に誰に向けたものでもない。
 いちいち他人の命にまで責任なんて持ってらんないし。
 とはいえ職務放棄で棒立ちしているかとそうでもなく。手にした得物とよく似た、ただし影一色の刃の束が折り重なってははぐれてと宙でくるくる遊んでいる。
「……あれでいっか」
 とは、墓地――ただの荒地に見えるが――にて起き上がったばかりで鈍臭く歩み出す土人形に白羽の矢を立てての呟きだ。なるべくローカロリーで事を終えたい。景色の中より得た情報は、感情ではなく戦術として役立てる。
 怨念やその出所である人間部分を削ぐのが、一番"楽"だとはもう見当をつけている。
 すい、と手を翳す由紀。
 その腕に纏わりながら次々飛び立つ刃群。
 それに時を同じくしてまた違った暗がりから歩み出た影は、白銀に染まった瞳を瞬きのうちに本来の琥珀へ戻して、成る程なと組んだ腕を解いた。一体何人"使って"るんだか。
「死人をネタにした嫌がらせ。――ったく、いかにも性悪の考えそうだなァ、おい?」
 どこのお偉いさんが元締めかは知らないが、やり口に意外性がないったらない。知れてるネタ、ゆえに足元をすくわれる。
 狐狛と、その狐狛の切った手札、大鎌を携えた死神。タロットカードより喚び出され傍らに控えしあの世の番人は、このような半端な場所で彷徨っている魂を手ずから引き摺り込みにきたとみえる。 まさしく"特攻"ではないか?
「やってやんな」
 何人だって構いやしない。ひとつ指示を飛ばせば黒はローブの下零れる尾をたなびく霊の靄みたく伸ばして、儘、翔ける。
 ゴーレムにしてみれば突如として挟み込まれるかたちだ。
 人間がそうする風に、左右へブレる注意が致命的な間をつくりだす。彼らに残された唯一の活路はダッシュで詰めて揮い手ふたりに殴りかかることであっただろうが――愚鈍な土の塊である時点で、話にもならない。
 初めに辿り着いた影の雨へ腕を振るうも、魔力由来の実体なき刃は掻き消えては即座に再構成され静かな暗殺者の如く狙い来る。土や岩で固められた箇所と違い、腐った肉やスカスカの骨が繋ぐ箇所は酷く脆い。
 暴れるほどに滴って濡らす液体は、まるで土塊そのものに血が通っているかの。
「まずそ」
「まったくだ。鼻も曲がっちまうってェの」
 腕の一本が早速落ちた。
 種に反しもとより血を喰らう趣味はない由紀のうんざりとしたぼやきに、いつしか其処に立っていた狐娘も同調する。あ、どーも、みたいなごく浅い会釈を受け耳を動かす狐狛。由紀としてみればなんとなく、あの力は先刻のお役立ち吹雪を齎したそれと同種であると察したわけである。
 あの――、視線の先では、死神の鎌が大上段から振り下ろされていた。
 踊り狂う影のダガーに削られ、割られ、罅の走ったその頭部へだ。
「アタシぁ俗物でな。真っ当な手順での成仏ってやつにゃこだわらない」
 ガギィッと金属同士が殺し合うような音が響いたのは瞬間で、岩すら断ち切り進む刃が大いに勝った。しかしてこの刃の振り撒くものはより深淵なる死――……殻の内に閉じ込められた怨念たちにこそ、鋭利に届く。
「――が、とっととこの世から消える段取りくらいはつけてやらァ」
『ア、ァァ、オ゛オ゛ォォォ!!』
 反魂禁止法、おいでませ極楽へってなところか。 すべてはタロットの啓示のままに。
 うるさ。まったくだ。という顔をするふたり。ぐらんぐらんと揺れる巨体が好きな方向へ倒れ始めるその前に、鎌の一撃に穿たれた溝を通り流れ込んでいた由紀の複製ダガーが、荒々しく食い破り、引き裂いては千々に散らした。
 もとより一体目はお試しのつもりでいたのだ。
 仮説に確証を得たところで後はもっと楽にやれるだろう。 ああ、あいつなんて、と伏した目を向けた先へ渦巻きてざあざあ向かう影の雨は、やはり死神と息が合うのか、お次は回転する鎌が庇う腕を寸断している間に一塊となって腹を抉り抜いている。
 正しくは腹に埋もれていた死骸を。
 扉をこじ開けた、更に奥を。  眺める由紀にも、狐狛にも「待った」をかける心算はない。
「あれ、わざわざ埋めたのかな。吸血鬼って暇人が多いよね」
「あァ。何を期待してンだか、どうしたところで死人は死人だし、脚本の趣味は倒錯してる」
 大方、苦しみ喘ぎながらも罪無き人々の魂に刃を向ける、その困難を乗り越え立ち向かう勇者……なぁんて筋書きに心躍らせていたのだろうが。
 結果は御覧の通り。
「そんなに猟兵に会いたいならさっさと出てきたら良いのに」
「ご不満があるならそろそろ出てくることをオススメするぜ、監督サマ?」
 ――面倒増やさないでよ。
 ――素直につきあってやる義理があるかよ。
 どうやらこのふたりの招待客に至っては、構想の初めの段階から頓挫しているらしい。

 ぶちまけられて以降一瞥もされぬまま、あたりに散らばる肉やら土塊が風に転がってゆく。
 明け方、目覚めを誘うかのつめたい風だった。高き空にも吹き渡る、ぬくぬくと夢を見ていられるのも今のうち、と物語るような。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロキ・バロックヒート
ああ
ここのぜんぶが遊び場だったんだ
楽しかった?
でも案外詰まんないことするんだね
さっきの醜くて可愛い子の方が面白かったかも

あーあ
ひと際おおきい嘆きのこえがこだましてる
きっとこの子たちは今日のことを忘れない
ずっと哀しんで後悔して懺悔し続けて
生きてる方が地獄になって
この地の底から這いあがるのは難しくて
ほら世界の哀しみの仲間入り
今でもちょっと耳が痛いぐらい

ぜーんぶこわしたい?わかるよ
こんなことが起きる世界なんて壊れてしまえばいい
でも壊すのはおまえじゃないの
【救済】が必要なのはおまえも一緒だよね
魂を光が灼けばただの土塊
隣人のような親しさで近寄って寄り添う
もとはひとだったものを撫ぜて
いい子だね
さあおやすみ




 首枷から途切れた鎖がじゃらりと揺れる。
 ロキが右を、左を眺めては戦場を歩くからだ。焼けた、濡れた大地を等しく裸足で踏みしめて、それでいて何処にも存在していないような歩みで。足跡を影が呑む。
 ――此処の全部が遊び場だったんだなぁ。
「楽しかった? でも案外、詰まんないことするんだね。さっきの醜くて可愛い子の方が面白かったかも」
 まるで連れ立って歩いているかのように語り掛ける先は、件の女主人。
 楽しいよ、と代わりにわあわあ応えてロキの前に姿を見せるのは、土塊と化したヒトの残滓ばかり。

 ――なにもできなかった。
 ――ごめんなさい。
 ――ころしてくれ。

 あーあ。
 何倍も濃くて巨大な影の作り出す暗がりで、神様は嘆息した。
 ゴーレムにではない。ちょっと前まではまた頑張ってみようとしていた彼らが、ひと際おおきい嘆きの声を上げていることに。
「耳が痛いや」
 ひっきりなしに木霊する。きっとこの子たちは、今日のことを忘れない。
 ずっと哀しんで後悔して懺悔し続けて、生きてる方が地獄になって、この地の底から這いあがるのは難しくて――――ほら、世界の哀しみの仲間入り。
「おまえには、聴こえないかな」
 視線だけ上げて見遣る土人形はロキに比べてうんと気楽だ。
 死者は。叫びたいことを叫び散らして、誰の願いを叶える必要も、耳を傾ける必要もなくて。開いたままの口からだらだらと涎を垂らすみたく穢れた土砂が零れ、しかしそれはロキに降りかかる前に光のうちに失せる。
 光だ。
 いつからか、向かい合うふたつの合間にオーブにも似た眩い光が無数に漂っている。
『ウウゥ、ゥアアァァア……!』
 ダンッ!!
 高まる衝動任せにゴーレムが高くから腕を叩き下ろした。直撃すれば大地が捲れ上がるであろう暴力にもロキは一歩とて揺らがず傷付かずに、やはり鎖だけが鈍い音立て風に遊ぶ。
 すべての事象が彼を避けるかの"奇跡"――、望まずとも、影に集う光は膨れ上がる。
「わかるよ」
 すこしだけ微笑み。
 ロキは言った。
「ぜーんぶこわしたい。こんなことが起きる世界なんて壊れてしまえばいい」
 でも、壊すのはおまえじゃないの。
 それから、ロキは宙で静止させられている大きな拳へ手を触れた。
「救済が必要なのはおまえも一緒だよね」
 そして光を解き放つ。
 滅びと救いは表裏一体であろうとも。幾筋、幾筋にも差す魂を灼く閃光が、土人形の身を余すことなく貫いた。
 突き抜ける。未だ遠くを彷徨っていた者をも巻き添えに、ほろほろと崩壊してゆくゴーレムは、それを動かす者さえ祓われてしまえば本当にただの土塊へと戻るのだ。

 ――あぁ、私の…………、

「そう。愛されていたんだ」
 ひとつ、涙落とされ広がる波紋みたいに世界に声が増えた。
 さやさや耳打つ哀しくもやさしい嘆きに眦を緩め、土の中もう原型も分かり辛い形をして埋もれるひとだったものに、ロキは歩み寄る。
 裸足にひやりとした水を踏む。
 構うことなく膝を折れば、寄り添えぬ声の主の代わりに隣り合って手を触れ、撫ぜる。
「いい子だね」
 壊さず、壊された犠牲者を慈しむ。惜しまれるほどの生、か。
 おまえにも聴こえたらよかったのになぁ、と、今一度だけ呟いて。
 触れてしまえばすこし羨ましい。
 枷のない首、軽くなった身体、愛――……それでもロキは隣人として、望まれる神様として最後の言葉を贈った。声音は子守唄の如くにやわらかく。 あたたかく。
 さあ、おやすみ。

成功 🔵​🔵​🔴​

クロト・ラトキエ
遅参しといて申し訳無いですが。
恐慌状態の方々を鎮める…
又は頭に血を上らせる?
兎に角、気を保たせる為に。

えー…酷な事を申しますが。
死人は死体です。もう恨みも怒りも何も抱かない。
あの土塊みたいな物。

だから、壊します。
嘗ての彼らは知りませんが、後で丁重に弔ってでもやってくださいな。
全て、終わらせるんで。

向き、速度、手足の動き…
見切り、攻撃を喰らうは避けつつ。
あの体躯なら…
UCの水の魔力で攻撃力補強。
ナイフ投擲、楔として打ち込み罅を入れ、
鋼糸で巻き勢い付けて断ち斬りたく。


『誰かの無力が力』ね…
大いに的外れですけど?
他を弱者と見做してしか成り立たぬ力など、貧相な…
あぁ、貴女はそういう類でした?
これは失礼


コノハ・ライゼ
よくまあ色々思い付くコト
ソレが元はナニでどうしてそうなったかとか、興味はねぇケド

右人差し指の指輪に口付け、片刃の長剣へ変える
動き読んで反撃*見切り躱しつ
*空中戦の要領でその辺のモノや敵を足場に跳び亡骸切り離すポイントを探るわ
其処へ刃で斬り込んだら*傷口を抉るよう*2回攻撃
そうやって次々切り落としていきましょ
拳にゃ当たりたくねぇケド*オーラ防御纏わせた「灰雷」を盾に
壊されても威力は殺してやるヨ

ソレがかつて何であったにしろ、中身は空っぽ
死は全ての終わり、死のその先を弄ぶ者がいるなら
ソレはそいつに都合よく歪められたモノでしょ
救いとか知らないケド、ソレがあるとヒトに笑顔が戻らねぇってのは分かるからネ




 もしもーし。生きてますかー。
 ――……それが、震え蹲る村人を覗き込んでのクロト・ラトキエ(TTX・f00472)第一声であった。
 ホラー映画じみたぎくしゃくとした動きで顔を上げる男へと「あぁ良かった」と微笑む。やわらかで、実に人の好さそうな笑みから繰り出される次の台詞が「えー……酷な事を申しますが」で、その次が「死人は死体です」だとはまさか思うまい。
 あぁ、だってこの男はブツブツブツブツと今にも舌でも噛み切りそうな思い詰めようをしていたのだ。
 死者のために生者が死ぬなどバカバカしい。
 そう無駄に使い捨てる命があるのなら、ストックとして頂きたいくらいだとも。 ――ですからね、と続けるクロトは土塊を指し示しながら続ける。ただの死体が恨みや怒りを抱くものかと。だから、壊すと。
「あ……」
「嘗ての彼らは知りませんが、後で丁重に弔ってでもやってくださいな。全て、終わらせるんで」
 その間これでも噛んどきますか? と冗談めかし差し出すハンカチ。
 それは結果として、認めたい、認めたくない、認めなくてはならない悲痛な現実に涙の止まらぬ目元へ押し当てる用途に使われることとなった。

 一瞬が生死を別つ戦場において、万が一にでも飛び込んでこられたら堪らない。
 彼らの嘆きが奴らを惹き付けることも考えられた。一歩敵中へ踏み入ったクロトが巡らせる視線は鋭く、先に奴ら……ゴーレムとの戦いを繰り広げる青年を見る。
「あらヤダ、また随分とわんぱくなコト」
 コノハだ。
 出会い頭の巨大な拳の一撃を翳す左手に迸る灰雷の相殺で受け切ったコノハは、砕け舞い散る光の障壁の中、右人差し指の指輪に口付けを落とした。
 するとどうだ、丸腰に見えたその手にすらりと夜空映す長剣が伸びる。
「元がナニで、どうして、は興味もねぇケド……」
 空っぽの器。歪められた死と、死の先。――てめぇの都合で弄ぶ輩の存在は。
「捨て置けねぇな」
 すぐさまに片刃のそれを薙いで弾き、後方へ跳躍、己に適した間合いへ持ち込むコノハ。
 それというのがちょうどクロトの側だった、というわけで。
「ご一緒しても?」
「大歓迎!」
「では」
 返事の終わりを待つまでもなく、クロトの手元よりパッと宙へ放出される鋼糸が十本。
 目にも止まらぬ指捌きで辿る軌跡がひとつの陣として結ばれ、俄かに青白く光り輝いたかと思えば、刹那にどっと溢れる水に包まれた。
 水の鞭、とでも呼ぶべきか。マジックナイトならではの瞬間的なトリニティ・エンハンスがクロトの"切れ味"を一層に高める。なにやら着想得たらしきコノハは「イイネ」と薄く笑い、ひと撫で、己が長剣を形作る空模様を雨天へと移ろわせて。
 何もかもがざあざあ降りの戦場だ。
 穢された土を洗い流し、夜明けとまでは言わない、それでも晴れ間へ向かうための。
「お互い好きにやりましょ」
「サーンセイ」
 ニ、として視線交わすでもなく同時に得物を振るう二者。
 たゆたう水滴を散らしながら、先ずクロトの投擲した黒のスローイングナイフは総数五、敢えて巨腕に薙がせれば残念そちらはダミーということで、追加で五。とととととん、とリズムもよろしく土塊に刺さり等間隔の傷をつける。
 そこへナイフとは逆側から駆け込んでいたコノハが蹴りかかる寸法だ。狩りをする際の獣同然、思い切りの良い踏み切りからの狙い澄ました踵が炸裂、柄も見えぬほどに深々ナイフを押し込んだ。本命は――、
「コッチなんだケド、ネ!」
 ナイフを、鷲掴まんと伸びる指を蹴り上げ、駆けのぼる空へ。
 両手に斬り上げる長剣をガガッと岩肌へ突き立てたまま進ませ、てっぺんへ抜け出た途端、返した刃に加速と重力とを乗せた叩き下ろしが近くで揺れていた骸を土の寝床ごと刈り取った。
 オオォォォオオオッッ!!
 ともに弾けた雨水が、土塊の顔面を溶かしてじゅうううと酸でも撒いたかの音を奏で始める。
 続け様の痛手に憤るか間近で耳にする絶叫の圧ときたら、引っ込めている耳尻尾でも逆立ちそうな心地だけれど。
「戴いてくわヨ」
 後ろ詰まってるし、と笑い飛ばす余裕があった。
 小脇に亡骸を抱えたコノハが飛び降りれば、即、後ろ――ヒュンヒュンヒュン!! 超速で上下左右から、風裂く音立て襲来した水の鞭がゴーレムを幾重にも幾重にも縛り付ける。好機に際し、抜け目なきクロトであった。
 互いに"好きにやっている"わけだが、染み付いた殺し(狩り)の知識(勘)、スタイルがかちりと噛み合い益を生む。
「親切なことで」
 席を譲ることも、盗みのご挨拶もわざわざ死体を取り除くことも。
 揶揄というよりも、眩しがるようにフッと目を細めてはクロトの十指の糸がクロスする形で絞られた。
 ギシ、ギギ、 穿たれ、楔と化したナイフ数本を基点として土の肌に走っていた罅が、狐との追いかけっこと鞭もとい糸の締め付け、そして染み入って溶かす二重の水の気によりたちまちに広がって、繋がって、
 あとは。
「どぉん、とね?」
 弾け飛ぶまで。内で爆風でも生じたかの如く、四散して。
 ヒュン、と一振りリールを巻き取り、極細の鋼糸をグローブに納めればクロトは手首を摩った。まぁ、厚みあるだけはありますねぇなどと涼しい顔をして。
 "誰かの無力が力"。大いに的外れな物言いをしやがっていた、ブルーローズ様とやらを眺め透かすよう空を仰いだ。
「他を弱者と見做してしか成り立たぬ力など、貧相な……あぁ、貴方がそういう類って話なら、これは失礼」
 見えているのなら聞こえてもいるのだろうと盛大な皮肉をひとつ。
 全く、お会いできるのが楽しみだ。
「まだイケそ?」
 と、この一戦前にもそこかしこへ切り落としていた人間、だったものを回収し終えたコノハがとにゅっと声掛ければ一転、柔和な空気纏いもちろんと振り返るクロト。
「それで、どうするんです? それ」
 見遣る小山はやはりどれも既に息の無い、死体でしかない。
 集めて――……そういえばあまり考えてはいなかった。真っ当な弔いの作法も知らぬなら、まして腹に入れる気もおきない。腰に手を当てるコノハはすこしばかりあたりを見渡して、ちょうど先ほどクロトが話をした一団だろうか、こちらを見つめる村人らを見とめる。
 現実を受け止める覚悟が出来たというのなら。
「そうね……後のことは任せましょっか」
 歪みの果ての化物から、ただの死体、彼らの縁者に戻った骸。空っぽを再定義するのはいつだって人だ。
 救いがどうこうなんて知らないけれど。彼らがいつか笑顔を取り戻すためには、夜明けだけではない、きっとこのピースが必要不可欠だと思うから。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

リグ・アシュリーズ
一気に片付けるわ。
……あまり長い間、眺めさせたくないもの。

黒剣で斬り結び、少しずつ土を削ぐように戦うわ。
相手は墓土と怨念の集合体。なら、切り離して小さくすればいい。
人を襲う手を、進む足を。
誰にも危害加えなくてすむよう、少しずつ、なくしてあげる。

踏みつけが来たら、ギリギリまで見極めて力を解放。
体勢崩させるのに最も効きそうな場所を刀身で打ち付け、
そのまま一気に斬りかかるわ。
狙うは背中、産み落とされる朽ちた生。
もう戻らないなら迷わず、村人たちが見なくてすむよう砕くまで。

貴方達も生きる方を選んだなら、生きてみせて。
あの場に正解なんて、なかったわ。
それでも一度選んだなら――背負って生きるしか、ないのよ。


リリヤ・ベル
ゆれている、伸ばされた手を、わたくしは取ることができません。

うらんでいるのでしょうか。憎んでいるのでしょうか。
……、どのような理由があっても。
おやすみなさいを言わないと、いけないのです。

天からひかりをまねきましょう。
その歩みを留めるように。
あなたたちの苦しみが分かるとは言えません、けれど。
でも、これからさきもずっと苦しいのは、さみしいことだと思うのです。

苦しみや悔いが残っても、悲しくて怖い終わりであっても。
死んだひとを忘れないことは、いきているひとにしかできません。
……もう一度、おやすみなさいを言うことだって。

手を取ることはできません。
それでも、そうできる場所をまもることは、できるのです。




 真っ黒な空に真っ白なたくさんの手が揺れている。
 助けてほしいの? 怒っているの? うらんでいるの。憎んでいるの。――わからない。
 だけれども。
「ごめんなさい。……、おやすみなさいを言わないと、いけないのです」
 わかったとしても。どのような理由があっても、手を取ることは出来ない。
 逃げず向き合うリリヤが睫毛を伏せて、胸元を握りしめる手を解いて、その手で招けるものは彼らの悉くを焼き尽くす裁きであるのだ。
 ジャッジメント・クルセイド、天からの光が降る。
 稲光めいた筋を大気に散らして、それでいて音も無く降り注ぐ。
 眩い白が脇を駆けゆくリグのくろがねの剣をも染めた。彼女と同じだ、両手は既に塞がっていて、これは傷付けるための力。一息に片付けて、これ以上生者らの苦しみを長引かせぬための。
「こっちよ」
 光の奔流に爪先を消し飛ばされぐらりと傾きかけるゴーレムへ、一飛びに斬り込むリグ。
 掬いあげる刃で強度の落ちた巨腕を割れば、土のかたまりとともに比べてちいさな腕たちもまた宙に舞った。地に落ちる前に焼かれて消える。リリヤは指先を向けて、光を。
 低く物悲しげな咆哮が一体から他の個体へと伝播して、どれがだれの痛みなのだろう。
 何度でも追いかけて、転びかけて、でも追いかけて。こわい音を敏感に拾う耳でもその進路に立ち塞がり、蹴りのひとつで潰れてしまうであろう自らを正しく理解しながらも、尽くす。
「わたくしはっ……あなたたちの苦しみが分かるとは言えません、けれど。でも、これからさきもずっと苦しいのは、さみしいことだと思うのです」
 このまま彼らを見送ってしまえば、いつか後悔する。
 リリヤだけではない。
「苦しみや悔いが残っても、悲しくて怖い終わりであっても。死んだひとを忘れないことは、いきているひとにしかできません」
 彼ら自身も。
「……もう一度、おやすみなさいを言うことだって」
 墓を、作りたいと言っていた。
 作ろうとしていた。きちんとしたお別れをするために、今も彼らを愛し、想ってくれている人たちが確かに生きて居る。
 そんな人たちを守ること。そう出来る場所を守ることは、手を取れなくても出来るから。
「行かせません」
 足の震えは怖さであっても。
 心の震えは――――きっと、強さだ。

 ゴーレムの足裏が無慈悲に打ち付けられる。
 フードがぶわりと大きく巻き上げられて、  けれども、それだけ。完全な衝突の前に、奔った黒き影が足の側を飛ばしていた。ここに至るまで繰り返し斬り結ぶことで大いに抉れた土は、リグの鋭き刃に耐えられない。
「小さい子にばかり度胸試しさせたんじゃ、ね」
 勇気をもらっちゃったとお姉さんらしい笑みを浮かべ、更に一歩。
 地を踏んだ瞬間のことだ。
 さあぁぁ、 と、リグの爪先から脛までをアッシュグレーの獣毛が覆う。
 リバーサル・トリガー。それは覚悟に彩られる、狼――真の姿の解放を意味していた。
 踏みしめ、跳ぶ。これまでとなんら変わらぬ一挙であれ獣のそれに近付いたリグの足は、瞬発的な筋力を発揮し身体を打ち上げる。勢いは、地面で跳ね返ったひとつの弾丸のように。瞬く間に巨人の頭上を取った大剣の振り下ろし、その刀身が頭部を強かに殴打した。
 ゴッと激しく砕けながら前へと傾ぐゴーレムは、よろめき自然と背を晒すことになる。
 それこそがリグの狙いであった。
 背に密集する骸――、
 もう戻らないのなら、迷わず。村人たちが見なくてすむよう。
「――はああぁ!!」
 砕く。
 殴打の弾みで宙へ投げ出される身体の、重みと捻りをすべて込めた斬りつけ。腿へ腰へとぶわりと進む獣化の呪いをも厭うことなく、いっそそうして得た膂力すら上乗せしての斬撃は着地までの束の間に数十と振るわれた。
 ザザザザザザ! 音が遅れて聞こえるほどの、それは嵐だ。
 最後にどっと切っ先が地面に刺さる頃には、土もヒトも何もかも、粉々に混ざり積もった小山だけ其処に残される。力を振り絞った分、重たい反動に片膝をついてふっと息を吐くリグの周囲を降り注ぐ光の柱が護衛する。
 同じ結末を見据え、リリヤもまた戦っていた。
「ありがとう」
「いいえ。それに小さくは……いいえ」
 とうぜんのことをしたまでです、と台詞選びこそ大人だが喋りそのものはたどたどしく。
 すっくと立ち、救えない、救いを待つすべてを見渡した上で自分に出来ることをする。リリヤが駆け回る限り微かずつ歌う鐘の音は、ともすれば本人も知らぬうち、去りゆく誰かの慰めのひとつとなっているかもしれなかった。
 新たに伸びる土塊の指が守る光に焦げ付く中、地面を断ち割りながら黒剣は再び引き抜かれる。礫を飛ばして儘、斬りつけるリグの踏み込みに押されるのはうんと巨大である筈のゴーレムの方だ。
「言ったでしょう。私達はダークセイヴァー、何度来ても同じことよ」
 力強く、言葉をも叩きつける。
 闇を祓う者としての戦いを見せると約束した。

 "どうして"。
 続く戦いと嘆きの渦中、傷だらけのリグに問う者がいた。
 命あるからだと、剣から手を離すことなくリグは答えた。
「貴方達も生きる方を選んだなら、生きてみせて」
 あの場に正解なんて、なかったわ。
 それでも一度選んだなら――――背負って生きるしか、ないのよ。

 背にした人々の眼差しを感じる。自分たちよりもうんと華奢であったり幼い少女が矢面に立ち、痛みと恐怖を越え絶望に抗い続ける光景は、彼らに何を齎すだろうか。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ルイス・グリッド
アドリブ・共闘歓迎

黒幕はさっきのと負けず劣らずいい性格をしているらしい
本当は助けてやりたかったがな
その姿じゃ安らかに眠れないだろう、すぐに崩してまた眠らせてやる
橙の災いは爆破だ、その足を砕いてやる

SPDで判定
【悪路走破】して近づき【大声】で【挑発】することで攻撃を誘発
【早業】【見切り】で回避してから、眼帯を外して義眼のメガリスを使う
瞳を橙にして【全力魔法】【属性攻撃】で【爆撃】の災いを敵の足に使い爆破
それから銀腕を【武器改造】で槌に変えて【先制攻撃】【怪力】【地形破壊】【重量攻撃】【鎧無視攻撃】をしながらUCで攻撃


ルカ・ウェンズ
なるほどゴーレムに取り込まれているのは死体なのね。本当にこの世界の吸血鬼はろくなことしかしないわね。

まだ生きているなら掘り出したり引き剝がしたりして、味方に怪我を治したりサイボーグに改造できるか聞いてみようと思ったけど、死んでいるのなら陸戦の王者これでパワーアップした昆虫戦車に頼んで【一斉発射】これで遠くから敵に向けて攻撃してもらうわよ。

次は、まだ残っている敵を攻撃。まずは【オーラ防御】で敵の攻撃を防いで、切るよりも殴ったり蹴ったりした方が破壊しやすそうだから、私の【怪力】パンチ!怪力キック!怪力タックル!これで敵を素早く破壊するわ。




 ――黒幕はさっきのと負けず劣らずいい性格をしているらしい。
 ――本当に、この世界の吸血鬼はろくなことしかしないわね。
 眼前の光景に対してのルイスとルカの感想は、ぴたりと一致していた。
 誰もが死の後に目覚めるわけではない。一度きりの生をあのような形で奪われた無辜の人々、そしてその暴虐を阻止出来なかったという仕様が無い現実に、加えてルイスは己の核の――……エンジンの軋みを感じている。
 嫌な心地だ。
「駄目だな。すくなくとも、見える範囲の奴らは」
 もう手遅れだろうとルイス。
「そう。じゃあお願いね? 私のかわいい子」
 とは、ルカが傍らの巨大昆虫戦車のひんやりボディに手を触れての一声。
 返事だとでもいうのか、履帯に代わり金属製の多脚がガッチャガッチャと踏み鳴らす。その度に背の重武装が物騒な音を立てるのだ。それだってルカ目線では愛らしいもので、にまりと笑えば振り下ろす手が始まりを示した。
 死んでいるのなら躊躇いなく。
「――撃てぇ!」
 ッッドォン、 盛大な量の煙吐いて。
 昆虫戦車に備えられたすべての火砲、機関銃がぐりんと回転し一方向目掛け、火を噴いた。
 図体が巨大化しているならば弾丸も巨大。銃弾とて砲弾だ、それがさながらレーザービームのように際限なく撃ち込まれるのだから的に選ばれた側はひとたまりもない。
 では元々が砲弾だった場合――……鉄球、だろうか。
 ガゴォッ!! と、豪速で飛び出し土塊へぶち当たる様は家屋の解体工事の様相。どういった原理か体内での装填速度も通常の数倍も早く、つまりは昆虫戦車は文字通りのモンスターと化していた。
「これが我が陸戦の王者の力よ」
 さらりと手ずから掻き上げるでもなく、吹き荒ぶ心地の好い爆風が長髪を躍らせルカのオーラを盛り立てる。
 そこかしこに土人形の残骸が飛び散り、ヒトのパーツは転がり、大小のクレーターは無数。地形はまさに悪路。
 その強襲に紛れる形で駆け出したのがルイス。出鱈目な大攻勢の巻き添えとならず生身で乗りこなせているルイスもある種、人間離れしている。もっとも既に人間を終えているのだが――それはさておき、だ。
「……まあ同じ崩すなら、半端よりはずっと良いな」
 じわりじわりと削られるより、一瞬の高火力で跡形無く消え失せる方がずっと。
 死ぬ側の目線に立ちつつルイスは左目の眼帯を抜き取る。燃える大地に染め上げられるわけではない、そこに嵌め込まれた義眼――メガリスそれ自体が橙に色を灯した。
 映った者へ色に応じた災いを齎すイリダセント・ウィッシュ。
 橙の災いは、"爆破"。
「災難続きでなんだが、あと少しの辛抱だ」

 ――――、――オオォッ!!

 ルイスの進路で立ち往生していたゴーレムの両足が吹き飛んだのは、直後のことだ。
 やけに鮮やかなオレンジ色した爆炎は使い手当人が飛び込んだ途端に幻のように霧散する。そしてひと踏みに飛び出したとき、ルイスの銀腕、もうひとつのメガリス埋め込む右腕は武骨な銀の槌へと早変わりしていた。
 ――下半身を失い呆然と崩れ落ちるゴーレム。
 ――その落下に角度を揃え、うんと力強く振り抜かれる槌。
 ふたつのものが激突したとき、もう何度目かの轟音とともに大気を震わす衝撃が走った。
 一度きりではない。一瞬ごと自在に形状を移ろわせる流体金属だからこその右も左も無さで、腕を振るうルイスの駆ける道一筋に沿って次々に土人形は残骸として叩き上げられ、転がされ、潰されてゆく。
(「……本当は助けてやりたかったがな」)
 目の合うソレが時折ヒトの名残を持っていようと、迷うことは許されなかった。
 この身は生者を守る盾。せめて――、速やかな眠りを贈るまで。
 落ち窪んだ黒と、橙。瞬きの間にすれ違えば、往く背に届く爆裂音。弾け、猛火に呑まれる骸は痛み怨みを叫ぶ間もなく灰へ還るのだ。ルイスよりも年若いであろう命まで、ああ、完全なる死の底へ。
「――ッ。敵は此処だ! どうせ誰でも良いんなら、殺せるものなら殺してみろ」
 敵中にありて、ルイスは語気を強め一人でも多くを引き受けると誓う。
 そしてその"衝動"が如何に不当に捻じ曲げられ、安らぎから遠ざけるものかを教えてやる、と。
 そうやってルイスが線で攻略する中、ルカは面を戦車に任せ自らは点での攻略に乗り出していた。
「とうっ」
 虫頭部より跳躍、ザザザザァと地面を削り取りながら三点着地を決めたその手は――――徒手。
 削れた足元を更に凹ませての強烈な蹴り上げを見せるスタートで、ルイスを追うばかりの、暢気にも背を向ける土人形へと躍りかかった。残骸を踏み跳び、浮いて……拳を、叩き込む! 砲撃の雨霰に虫食い状態となったゴーレムなど風の前の塵に同じ。背の骸群を容易く突き抜けて。
 援護射撃というべきか、接地までの間に砲弾が炸裂する爆風にも身を預け更なる加速と回転を得たルカは、飛来する鎌じみた鋭利な蹴りでまた別の一体の首を刎ねてゆくのだ。
 オーラ刀や蛇腹剣といった仕事道具を持たずとも、その身そのものが黒き刃であるが如く。
「うーん、やっぱりこの子もダメ」
 点々、屠りゆく土の中からひとりの生き残りでも見つかろうものなら治療にゾンビ化にサイボーグ化――……どんな形であれ、強く生きてみればいいじゃないとも思ったのだけれど。
「残念ね」
 と、ルカがすうっと片手を空へ翳せば。
 それを合図として、綺麗に主だけ避けて撃ち込まれる昆虫戦車の暴力的な破壊が、残骸までも跡形無く消し飛ばした。

 駆ける、翔ける。
 道の先を首謀者の首と見据えながら。
 赤々と焦げ付き彩られる大地にその熱が不要となるまで、ふたりの猟兵は走り(戦い)続ける。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

リンセ・ノーチェ
【Folklore】
アドリブ・連携歓迎

サヴァーさんとユーンさんが来てくれた
「ありがとうございます…!」
シユと皆との思い出の白い小石を懐深く握りしめれば二人の勇気ぶんさらにあたたかい
サヴァーさんの紡ぐお月さまの癒しとユーンさんの齎すお日さまの力が満ちてゆく
出会った時よりも二人は寄り添いあって立ち
それ以上に僕達は信じあっていて
二人に甘えてぐっすり休んだ後みたいな元気が湧いてくる
「行こう」
僕達は二人に照らされ輝く星々
フォルテの陽動とUCの夜鷹の隠密追跡を活かし【フェイント】や【見切り】も使い怨霊の群れをかいくぐり
ゴーレムに銃で風の【属性攻撃】を撃ち込む
いつか大岩をも穿ち失くす風の、いつかを今にする嵐


サヴァー・リェス
【Folklore】
アドリブ・連携歓迎

リンセに合流
あの石を…今も大切にしている、知っている
私にとっても大切、よ

リンセもユーンも…他の仲間も、そしてこの地の皆を
たすける、まもる、ともに未来へ
その想いこめ…UCを歌う
二人みたいに、お日様の香り…しないけど
月のあかりは、すべてに優しい
未来は…怨む霊には、響かない
でも、すべてこわしたいきもち、くるんであげる
【第六感】が『こう助けるの』と、ささやくままに、皆を【オーラ防御】でまもるとき…怨霊を、オーラにくるみ…【祈り】…光にかえてゆく
ユーンの祈りと、違うのは…わるいことでは、ない
ちがうから、シンフォニー
愚かでも眩しい…いのちの煌き、歌い上げる、どこまでも


ユーン・オルタンシア
【Folklore】
アドリブ・連携歓迎

リンセに合流しサヴァーと支援を
彼らとの出会いを彩る白は我が瞳にも清らかに残る色
この世界とて闇に染まらぬ光を抱く

猟兵と民を未来へ導くUCを【祈り】詠唱し続ける
怨霊には届かず猟兵と民の生きる誇りと喜びを呼び覚ます言の葉
「村の皆様はどうかそのまま安全な場所に
あなた方の想い
確かに私達が受け取り力と成しましょう」
血気盛んに飛び出す者が出ぬよう呼びかける
魔をも包み宿すサヴァーの透明な姿は道違えど好ましく各々の領分を果たす
我がUCは命寿ぐ森に舞う日の光を招来す
「心置きなく、リンセ」
戦闘力の高揚が行き渡れば【援護射撃】【制圧射撃】の技術惜しまず弓矢に乗せ、彼や猟兵の援護を




 猫ひげを揺らして吹きつける風がつめたい。
 空飛ぶフォルテの背にて低く身を屈めて、リンセはなるべく空気抵抗を減らすように、そのスピードが高まるようにと頑張っていた。
 ちらりと肩越しに後ろを見遣れば、黒い夜空をバックにゴーレムの群れがゆらゆらついてきているのが見える。
(「よかった」)
 それに怯えるよりもほっとするのは、リンセの目的が村人たちから自分へとなるべく多くのゴーレムの意識を引き付けることにあったため。
 流れ弾のひとつだって生ある者を害することのないように。間近を飛んで、くるっと回って、足元をくぐり抜けて――村の外、開けた方へ方へと只管に友と向かうのだ。
「このまま……、 !」
 もうすこしだけ――……しかし。ゴオオォォと不吉な地鳴りが轟いたかと思えば。
 その道筋に突如として大地を火山めいて弾き上げ、生まれ出る新手の一体が身を起こす。
 回避は、
 いや、間に合わないっ!
 それでも目を瞑り諦めるよりも戦うを選び拳を固めるリンセのすぐそばを、追いつき追い越し、闇を裂いて飛び込んだ一筋の光があった。
 矢、だ。弓の矢。それはゴーレムの土の肌へすとんと突き立った刹那に、きよらな緑を芽吹かせる。
 単純な衝撃以上にたじろいで後退する様は、邪なる者が聖なる者を厭う仕草に似ている。この力は――。目を見張るリンセのもとに、雲に月が隠れていてもやわらかな月光は降り注ぐ。

 ふわり、
「リンセ。……怪我はない?」
「お待たせしました、リンセ」
 梟の羽根一枚と、お日さまの香り。

「――サヴァーさん! ユーンさんっ!」
 窮地に駆け付けてくれたのは、サヴァー・リェス(揺蕩ウ月梟・f02271)とユーン・オルタンシア(森の声を聴く・f09146)、リンセの大切な友だちだった。
 表情と声色とをぱあっと華やがせる少年猫の傍らへ、サヴァーとユーンはそっと寄り添う。
 ふたりは彼がシユとの思い出のことも大切にしていると知っている。ふたりにとっても、大切なものだから。
 対するゴーレムはなんとか浸食する葉っぱを引き抜いたところで、仲睦まじい空気を纏う三人を羨むかのようにひときわ大きな咆哮をぶつける。
「ありがとうございます……! 怪我はなんてことないよ、それよりも今は……」
「……そう。かなしい、声ね」
 擦り傷だらけでも男の子らしく胸を張ってみせるリンセの気持ちを汲んで、サヴァーは頷けば伏し目がちなその眼差しをすっとゴーレムへ移した。
 すべてをこわしたい、気持ち。
 そしてサヴァーの、リンセとユーン、他の仲間、なによりこの地の皆をたすける、まもる、ともに未来へ向かいたい気持ち。
 二つは決して相容れない。 けれど。
「くるんであげることは……できる、わ」
 喉に手を触れる。世界を震わせる歌を。シンフォニック・キュアを、シンフォニアは傷付いたすべてのものへ捧ぐ。
 やさしい、サヴァーの歌声は月の明かりみたいだ。眩し過ぎず、熱過ぎず、心地好い。
 繊細なその響きに人知れず笑みを深めたユーン。ふたりとの出逢いの日と同じだ。彩るあの白と同じように、闇に染まらぬ光は――この地にも、きっと。
「村の皆様はどうかそのまま安全な場所に。あなた方の想い、確かに私達が受け取り力と成しましょう」
 サヴァーが過去に死したものへも声を届けるならば、ユーンは背に守る、未来を生きるべきものへ呼びかける。
 血気盛んに飛び出すものの居ぬように。はたして言葉は歌事とともに染みわたり、先刻からのリンセの勇敢な戦いぶりもあっただろう、反発する様子はひとつも見られなかった。
 月と日。
 祈りの形は違えども、尊重し、耳を傾け高めあうことが出来る。友だち、だから。
(「すごい……」)
 手を閉じて開いて、痛みの失せたことも実感しながらリンセは心の裡で今一度ふたりに感謝を贈った。
 不思議に湧いてくる力は陽だまりのようにぽかぽかとして。まるで、ふたりに甘えてぐっすり休んだ後みたいな元気。
 ――これで。
「心置きなく、リンセ」
「……ん」
 ユーンの声と、背に触れるサヴァーの指先。
 握る頼もしきAurora。力強くひとつ頷いて、リンセが駆け出せばフォルテが共にと羽ばたいた。
「行こう」
『オオオオォォオオオ――!!』
 癒しを祈る歌声に、腕を振り回し荒れ狂うゴーレム。跳ね上げる砂礫が猟兵たちを襲うが、それは誰かを傷付ける前に浄化され細かな光の粒へと変わる。
 フォルテの背に飛び乗って一路突っ切るリンセもまた光に抱かれ、毛並みは白銀ほどに染まり輝く星々、その一等星。
 五指を開いた巨大な手が、翼を折り、叩き落とさんとぐわんと迫るけれど――恐れることはない。
「……おねがい!」
 リンセにはたくさんの友だちがいる。
 ひとえに前を見据える白き猫に纏わる星が弾けて分かたれたかと思えば、たちまちにひとつの像を結ぶ。"星を纏いてみる夢は"。闇色の輪郭を星で飾ったうつくしき夜鷹の姿がそこにあった。挨拶だろうか猫のふかふかな毛並みに擦り寄った夜鷹は直後翼を傾けぐんと強く加速して、フォルテとはゆく空を別つ。
 ちょうどゴーレムの拳ひとつ分ちょっとの間隔。
 ふたつにひとつ、こわすべきを迷った土の掌は空を切り、ばさあっと大気を叩いてフォルテが上空へ抜け出た。リンセの狙いが定め易いように。
 心通じ合うリンセは勿論、準備万端だ。ぴたり、ゴーレムの頭へ定めた銃口が風の渦巻く魔法弾を撃ち出した。

「――もう一度、力を貸してね」
 これはいつか大岩をも穿ち失くす風の、いつかを今にする嵐。

 胸元、リンセの片手が布越しに握りしめるのは約束の真っ白の小石。
 一、二、三と瞬く毎に月と日の光をも取り込んで大きさを増す勇気いっぱいの魔法は、身を庇おうとゴーレムが翳した残りの手をも吹き飛ばしながら炸裂する。
 地面に跡を引き摺りながらうんと遠くまで押しやられる土塊は、その途中でバラバラになって崩れ落ちた。
 一方、わあぁぁああんと叫んで弾けた風の圧に、大きく背側へと放り出されるリンセとフォルテはサヴァーのオーラがクッションめいて包んで守る。
「ぅ、わわっ」
「……がんばった、ね」
 弾むリンセのちいさなちいさな手を引いてあげるサヴァー。
 改めて前を見遣れば、直撃を受けたゴーレムのみならず周囲で蠢いていた数体も強烈な余波を浴びてまともには立てない状態になっていた。
 一対一の状況に持ち込めていたのは、空ではぐれた後も夜鷹が気を引いていてくれたおかげだろう。その夜鷹も今はフォルテの頭の上にとまり、リンセを覗き込んでいる。
「ううん、みんなが居てこそです」
「ふふ、思う心こそリンセの美徳ですね」
 代わって陽動を担ってくれているのはユーン。いいや、ここまできたなら陽動よりも制圧、が正しいか。森の加護受けしクロースはためかせ次々に射かける矢もが魔法の類みたく、緑伴って崩れかけの土や砂に染み込んだ怨念を祓いゆく。
 咆え、荒れ狂っていたことが嘘のように、静かに終わりを受け入れてみえる"過去"の姿。
 主たる要因はサヴァーの歌声にこそあった。
 リンセが先のゴーレムを見事崩してみせたそのとき、彼へとそうしたのと同じだけ丁寧に、歌に込めた祈り――祈りで編まれしたゆたう銀月の光は、解放され散りゆく魂をもそうっとくるんでいたのだ。
 ひとりがさみしくないように。
 次の最期こそは、癒しの中で。
 どこまでも――……愚かでも眩しい、いのちの煌きを愛し歌い上げると心捧げたサヴァーだから出来たこと。

 きれい。
 鎮魂は疎か、もう長くまともな墓を掘ることも許されやしなかった地だ。
 淡く照らす白色の彩へぽつりそう呟いたのは、背に守り通せた村人のようだった。なにかを眺めてそうと感じられる心の落ち着きは、ならば三人だから渡せたもの。
 天より降るでなく、天へと昇る。 この夜もきっと、誰かの――そして信じあい、寄り添い見上げる三人の大切になる。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

エドガー・ブライトマン
やれやれ、とことん悪趣味らしい
生きている命も、死んでしまった命も救われなきゃいけない
私にそうする義務がある

ゴーレムと村人の間は譲らず、位置関係は維持したいな
生きている命を救うためさ
ねえ、ゴーレム君。こっちをごらんよ
私は通りすがりの王子様
つまり、キミの相手は私ってコトさ!

死してなお、魂は土に囚われてはいけない
死んだ魂は空に昇り、星となって輝くんだ
私の国ではそう云われている

ゴーレム君が踏みつけるより早く、この剣を届かせればいい
マントを脱ぎ捨て、《早業》で間合いを詰め
《捨て身の一撃》として“Jの勇躍”
多少当たったって、私は痛みに鈍いから気にしないさ

哀れな命が星になるまで、剣を止めない
私は義務を果たす


ニコラス・エスクード
蠢く墓標とでも言うべきか
あれが何を以って動くのか
アレが何を思って蠢くのか
後悔か、憎悪か、恐怖か

そのいずれであろうとも
そのいずれでなかろうとも

死を賜った命は救われねばならぬ
囚われ続ける事など許されはしない
もはや命を助ける事は叶わねど
その魂だけは救わねばならぬ

故に墓は墓へ、土は土へと
安寧なる寝床へと戻さねばならぬ
吠え猛る住処では
安心して寝る事など適うまい

我が黒鉄の同胞らと共に
迫り来る剛腕を確りと受け留める
返す刃は血を啜らせたブラッド・ガイストにて
土塊の身を喰らい削り断ち落とす

一度で足りねば二度でも、三度でも
彼の身が魂を捕え続ける限り
我が身が救うことを諦めぬ限り
この刃を止める事などありはしない




 死んだ魂は空に昇り、星となって輝く。
 死してなお、魂は土に囚われてはいけない――――ああ、今は遠き祖国の言い伝えをなぞりながら、淡い煌きたちをエドガーもまた見送ったろうか。
 もとより澄み渡り、このほど尚更に明度を高めた瞳は、そうして目の前に残る哀れな命へと再び向けられた。
「ねえ、ゴーレム君。キミらも遅れてはならないよ」
 ――こっちをごらん。通りすがりの王子様が相手だ。
 名乗りとともに右手に閃く銀薔薇のレイピア。花弁を舞わせる代わり、朧な月明かりに光を散乱させ斬り込む。
 立ち塞がる障害をひとつずつ払い除けるようで、エドガーの心は其処により大きな闇を見ていた。
(「……やれやれ。とことん悪趣味な真似を」)
 自ら陣頭に立ち手を下す分、惨たらしい姿のヒト、だったものが目に飛び込むのだ。
 生きている命も、死んでしまった命も救われなければいけない。……私にそうする義務がある。ひと振り、ふた振り、土の肌へ罅を生むと同じだけ己が胸裡に刻み付ける。
 咆えるゴーレムは、その腕を完全に崩壊させることも厭わずエドガーへ拳を下ろす。
「っ!」
 さりとてエドガーにとって痛みは譲る理由とならない。下手に回避を試みて、砕け飛ぶ礫などが背の村人を傷付けることの方がずっとおそろしいことだ。腰を落として左手を添え、頭上で横へと寝かす剣で大槌を受け止めんとした、ときのことだった。
 ガキィィと鈍い音立てて、落ちてきていた筈の拳が逆に打ち上げられたのだ。
「……迷うか、死して尚」
 紫、呪怨の彩。甲冑の内より焔を揺らめかせては、かち当てた鉄塊剣を手にニコラスが其処にいた。
 激しく弾きあったのだから、二の太刀の出は遅れるだろう――といった理屈はこの男に通用しない。腕を手首を這い上がり、ざわりざわりと鉄塊へ纏わる血か炎かがその形状をより禍々しく、より馴染みよく"つくりかえた"。
 そうして、返す刃そのものが意思持ち喰らい掛かるかの勢いでゴーレムへ飛び掛かる。
 土の内へ囚われし物言わぬ骸が、風の圧にばったばたと躍る。蠢く墓標とでも言うべきか。後悔、憎悪、恐怖――……彷徨い嘆く理由がいずれであろうとも、なかろうとも、囚われ続ける事など許されはしない。死を賜った命は救われねば。
「その、魂だけは救わねばならぬ。……其処よりは寝心地の好い寝床へと、我らで導いてくれよう」
 墓は墓へ、土は土へ。
 導く、戻すために屠るブラッド・ガイスト。

 軌跡に沿って紫炎が舞う様は、呪われし力であれ確かに、美しかった。
 ご、ぉ、あアアアぁ!! 後引く衝撃音が偶々ヒトの悲鳴に似るのか、それとも。
 胴を喰い潰されひしゃげたゴーレムの上下の動きは、大いにチグハグと乱れた。足は退こうとする。腕は殴ろうと――――僅かにだけ繋がっているふたつは捩じ切れかけ、しかしその両方とも叶わぬ理由が、疾うに地を蹴っている。
 王の帰還を示す――旗を振るかのように青く白い衣がばさりと宙に躍った。

「そう。心配はない、私らはそのために居るんだぜ」
 それはエドガーの身に纏うマントであった。――どわっ、と視界を覆われ惑うゴーレムを衣の上から斬りつける細剣の一閃。Jの勇躍。 不思議なことに、決して傷付けられぬ誇りのようだ、マントは無傷のままに土塊だけが縦にも両断される。四つのブロックと分かたれて向かう地面。
 きっと、土へ還るも早かろう。
 ひらり落ちる青空色を左手に掴んで巻き取り、エドガーは尚も駆けた。
「騎士君!」
「任された」
 皆まで言わずともニコラスもそのつもりで動いている。エドガーの着地を狙い伸ばされた別の腕をシールドバッシュで叩き潰し、盾の上の辺を削り細かな火花を散らしながらぐんと突き入れる鉄塊剣でその腕の根本、土塊の上体をも潰した。背へ、怨念までを貫く。
 これでまた、一。
 とんでもない力技をいとも容易くこなすニコラスだ。
 黒獅の甲冑は揺れるごと重みと歴史ある軋みを奏でて、次の瞬間、身を翻す儘だんと地を踏み大きく振りかぶれば右手の鉄塊を投擲した。
 ――ぐぁっ!!
『オ、オォォ、ァ……  ガッ』
 そう、断頭台の刃は"首を落とす"という本来の務めに立ち返ったまでである。
 ゴーレムからしてみたならさぞ理不尽な数秒に思えたことだろう。金髪の男を壊すためにと踏みつける足裏は到底視認出来ぬ神速の斬撃の嵐で無に帰され、かと思えばその事実を呑み込む前に視界は――頭は――ぐりんと逆方向を向いて。断たれ、ズレ落ちるのは自分の頭ときた。 もっとも、土塊にはそれを嘆く心も宿ってはいないけれど。
 ズウゥゥゥンと背から地面へ崩れ落ちたゴーレムの身体は、バラバラに砕け、それぞれが一度限り跳ねる。死骸を背後にエドガーが黙祷を捧ぐのは一息の間で、直ぐ、刃毀れひとつしていないレイピアをくるくる回して腕の疲労を確かめた。
 うん、まだまだ。
「それにしても助かったよ騎士君。えーっと……」
「ニコラス、と。もう暫し貴殿の盾を担わせて頂く上で、其れではあまりに不便だろう」
 真面目が過ぎて堅苦しくすらあるヤドリガミの声にぱち、と瞬けばエドガーは頼もしいなぁと肩を揺らして朗らかに笑った。そして自らの、王子として、存在としての名をフルネームで告げ返す。
 己が、己である限り。
 ともに眼差しは救うべき命を見据え続け、幾度だって剣を盾を構え直すのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ハイドラ・モリアーティ
【ROCK】
――アー、マイクテス、よし
オイオイおセンチになってんじゃねーよ
生きてる奴らまで死人みたいな顔しちゃ意味ねーだろ
俺のこと不謹慎が服着たガキだって思う?思っちゃう?
じゃあお前たちはもっと不謹慎

よく見ろ
お前らの愛したやつは、家族は、ダチは、隣人は!
ああいう土くれで、妙な感情押し付けちゃうような奴らだった?
違うだろ。じゃあ、お前たちが否定しろ
俺の声に続いて祈れ
負け犬どもは今が吠える時だろ
シンプルに俺たちに「何もかも救ってくれ」って叫べ!
一匹で吠えんな、全員でだ――救難信号を拾うのが俺たち猟兵だよ
そうだろ?兄貴とそのオトモダチさん
さァ、DEUS EX MACHINAの時間だ――楽園にご招待!


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
【ROCK】

煩いなァ
ただの集合体に個人を見出すな
死者の悲鳴は全部遮断出来るが、生者のはそうもいかない
したい懺悔があるならその命が尽きてからにしろ。その方が対等であろう

これじゃ集中出来やしねえ
頼むぜハイドラ、全力で吠えてくれ
じゃ、有言実行ってことで
死んだ奴らに味方になってもらおうか

――起動術式、【災いの輝杖】
恨め、呪え、存分に
世界じゃあない
貴様らを取り込み尚足りず、遺ったものまで奪い取らんとする怨敵を
非道な殺し方のお陰で怨みが尽きんな

裡側からの崩壊ってのはどんな気分がするんだろうな
土塊が苦しむかどうかも知らんが
安心しろ
痛みも苦しみも絶望も、嵯泉が全部刈り取ってくれるさ

うーん……何人なんだろ……?


鷲生・嵯泉
【ROCK】
お前達とて其れを引き摺った侭では何処へ行く事も叶うまい
後悔も恨みも、悉くを断って呉れよう
其れが望まぬ死へのせめてもの手向けだ

叫ぶ祈りも煽動する呪いも、何れ変わらぬ力と得よう
護る為に、伸ばされる手に応える為に、此の刃は此処に在る
――殲遍萬猟、木氣を纏え
雷纏わせ怪力乗せた斬撃で以って、偽りの命を絶ち斬ってくれる
安心するが良い、長引かせはせん
刃を重ねて一つに撚り合わせ、一気に全身へと振り落とす
土塊へと還る迄、此の刃は止まらんぞ

幾ら生者の足を引こうとした処で其れは無意味な行いに過ぎん
恨みに凝った仮初の命では何を為す事も出来はしないと心得ろ

――其れはそうと……お前、一体何人弟妹が居るんだ




 煩いなァ。
 ニルズヘッグが耳を押さえるのを、ハイドラは些か訝しむように見遣って、それから「あァ」と合点がいった。
 うるさい、というのは、生者の嘆きだ。死者はこの際いい。ニルズヘッグには遮断が出来る。
 オブリビオンであるただの集合体に個人を見出す。見たところこの場には猟兵を止めんとするほどの錯乱状態にある者はいないようだが、それでもいちいちしくしくと涙を零されては集中出来やしない。
「したい懺悔があるならその命が尽きてからにしろ。その方が対等であろう」
 一向に顔を上げぬ人々へ一声だけ放って。じ、とハイドラを見返すニルズヘッグ。
 うぐ、と息を呑むハイドラ。この空気は。
「ひとつ頼まれてくれるか?」
 ――これである。

 刃で削る土の表皮は、人体よりかは堅い。
 だがそれまでだ。今日までにも竜の鱗やら何やらを断ってきた嵯泉としては、障害のひとつに数えるまでもなく。
(「しかし惨い、な」)
 迎える刀で彼我の交錯する勢いを乗せ斬り飛ばす、足裏に取り込まれた肉塊は既にもとの姿を連想出来ぬ襤褸となっている。
 視界の端でその塊が大地に弾み、砕け、溶けた。左右の足の高さがちぐはぐとなれどゴーレムの歩みは止まらず、一様に生ある者を追い蠢く。――嵯泉もまた、何を目の当たりにしようと譲らず、道を塞ぐ。
 其れを引き摺った侭では何処へ行く事も叶うまい。
「後悔も恨みも、悉くを断って呉れよう。其れが望まぬ死へのせめてもの……」
「気負い過ぎるなよ」
 いつの間にやら傍らにやって来ていたニルズヘッグが、生真面目な友に向ける言葉は淡泊なまでのひとつ限り。
 その程度の重みで崩れる膝ではないと熟知している。
 どこで油を売っていたのか、問いたげな鋭い一瞥に手を振って一応はすまんのポーズを。直に楽しいことになる、と、……そぉんな調子でいるのだろうなとありあり想像出来るのだ。"後"を任せられた側のハイドラには。
「ったく……――アー」
 ――ザザッ。
 啜り泣き。
 通夜か葬式めいたその最中に、無機質なノイズが走る。
「マイクテス、よし。 オイオイいつまでもおセンチになってんじゃねーよ」
 黒ボディに青ライン、イカついハンディメガホンは声の主ハイドラの手によく似合う。硬質なその横腹をとんとん叩いていたハイドラは適当な木箱を幾つか押し転がしてやれば、それらにだんと足乗せ"壇上"へ。
 片目を眇め挑発的に、人々を見渡して女の姿をしたオウガブラッドは切り出す。
「まだ生きてんだろうが? それともとっくに死んでんのか?」
 生きてる奴らまで死人みたいな顔しちゃ意味ねーだろ、と。
 ――――。
 ――。
 どうやら始まったらしい。
 ちらと後ろに視線をやった嵯泉へ、心配ないさとニルズヘッグ。振り下ろされる拳にふたり同時に左右へ飛び退けば、特に打ち合わせたわけでもないが、互いを補い高め合う戦いを自然とこなす。
「どの程度相手にした?」
「三、四といったところか」
 右の次に落とされた爆撃ばりの左を、腰を落とした頭上に翳す刀一本で受け止めてみせる嵯泉。
 柄を握る指に微かな光の筋が走ったかと思えば、瞬時に木氣、雷として呼び起こされ・放出された無形の斬撃が返す刃となりゴーレムを襲う。
「ふうむ。だったら、そろそろ理解してくれるといいんだがな」
 たたらを踏む巨体の足に絡みつくものは。この地に漂う、呪詛に惹きつけられし霊魂。災いの輝杖はニルズヘッグの手にて既に振るわれていて、ああ、非道な殺し方のおかげで怨みの尽きることはないらしい。
 味方につけてしまえばこれ程に心強いことはない、術者はそう微か寂しげに笑う。
 恨め! 呪え! ――存分に。
「世界じゃあない。貴様らを取り込み尚足りず、遺ったものまで奪い取らんとする怨敵を」

「だが……、母さんは、最後までずっとおれを信じてた」
 ぽつり。 随分と長いこと静まり返っていたようにも思えたが。ハイドラの投げかけた言葉に対して、何かに耐え忍ぶかの沈痛な面持ちをして、握った拳を膝に置いた青年が言った。
 悪鬼に抗う強い息子。誰かのため、立ち上がれる男にと信じ育て上げてくれたのだ。実態としてはどうだ、ひとり戦う母の死を前に指一本動かせぬ臆病者が其処にいただけで。彼女の手が震え最後に伸ばされたのは、幻滅に他ならなかったのだと考えている。
「裏切った」
 清く正しい人だった。
 代わりに自分が死んでいればと――、そればかりを、
「ア? ――ハッハ、ハハ! よく見ろよ」
 ぶつんと断ち切る堰を切ったハイドラの笑い。不謹慎などと知ったこっちゃなく、メガホンを持ち替えながらゴーレムどもの方を指さしてみせる。
 どろどろ、ただ頭に手足が二本ずつあるってだけの土の塊。
 口を開けばす~ぐ死ねだ殺すだ、実際のところ中身が"誰"なのか分かったもんじゃない。そのへんの野良犬かもよ。
「清く正しいィ? お前らの愛したやつは、家族は、ダチは、隣人は! ああいう土くれで、妙な感情押し付けちゃうような奴らだったって?」
 木箱を渡るハイドラの背後では今まさに戦いの真っ最中だ。
 流れて飛び込んできた泥の塊が彼女の一歩前の足場を抉り潰したが、まるで気にした素振りなく我が物顔で歩み、睨め、がなる。
「よく見ろつってんだろ」
 思わず頭を抱えた青年の胸倉を掴んで引き起こす暴挙もセット! 刺さりゃしない。一応、これでも爪は整えてるんだ。年頃の女らしく。うそ、ナイフの取り回しがしやすいから。
 ともあれ、だ。 ともあれとハイドラは戦慄く蒼白の頬をぺちぺち叩きながら続けた。「違うだろ?」。
「違うと、爪の先ほどでも感じたならお前たちが否定しろ」
 俺の声が聴こえてるんならな。
 祈れ。負け犬ども。
「シンプルに俺たちに「何もかも救ってくれ」って叫べ! 一匹で吠えんな、全員でだ」
 ――救難信号を拾うのが俺たち猟兵だよ。
 そうだろ、とハイドラの眺めやる先で応えるかの戦いの音。あとは静まり、メガホンを通す必要はなくなっていた。
 違う? 死ね、ではなくて。そういえば、何か……もうひとつ、祈られた筈だった。最後に。
 手は触れて。   、と。
 雑にべしゃっと放り出された青年は受け身を取り損ね泥を被るが、自ずから顔を上げたその瞳はもう先と違う。この眼、どういうときの人間がするもんか分かるか? 屑程度でも掻き集めりゃ起こせる炎、の前の燻ぶる煙。
 火をつけるのは何も"不謹慎が服着たガキ"の呼び掛けだけではない。ニルズヘッグ、嵯泉、ここに至るまでの――彼女の言うところの猟兵たち、の行いを、目を伏せ閉ざしたつもりで誰もが受け取っていた。
「マシな面にゃなったじゃねーか」
 ハイドラがハッと鼻で笑えば。
 眠らせてくれ。このまま。我々を、彼らを、何もかもを救ってくれ。
 終わりを。希望を。明日を。猟兵。貴方たちが"そう"であると信じさせてくれ、……、重なり過ぎてよくわからなくなった願いが沈黙を破り徐々に満ち満ちた。

      ゴツゴウシュギ
 さァ、DEUS EX MACHINAのお時間だ。
「オーケー。――楽園にご招待!」

 景気良く鳴らす指はさながら悪魔の契約成立。 さりとて。
 多くの音が溢れかえっている中、後方、妹のそれが何故だか拾えてニルズヘッグは先とは色の異なる笑みを深める。
 人々の声が力になる、などとヒロイックな展開に酔い痴れるのもまた一興。先の豚男が好んだどんな美酒よりも美味かろう、世界は――もっと、そうあるべきなのだ。
「さてどうする? そちらさんは声が負けているんじゃあないか」
 と、ゴーレムへ。 すべてをこわしたい。 叫ばれる昏き念は影が光に居場所を奪い返されるが如く、掠れ始めている。
 彼奴にも声は聴こえるか。
 見据えたところで土は土。生憎と、隣り合う友と違い嵯泉には亡者の声は聴き取れない。ただ、刀を通して語らうのみ。
「安心しろ、長引かせはせん」
 短く告げる剣豪の斬撃。動きの鈍った土人形の表側を、根にも似た痕刻みながらいかづちが穿ち。
 ニルズヘッグが使役する霊魂は開いた穴から内側へ染み入って、暴れまわることでその身体の結びつきをボコボコに解れさせてゆく。
 殴り、蹴り、体当たり、……足掻きのすべては、望まれ、約束した"ハッピーエンド"が笑っちゃえるほどに捻じ曲げた。
 オオオオォォ、アァァ――ァ。
 悉く空振る。反対に自壊するばかり、滝か涙か土塊たちより零れる土砂。死して尚、かなしみから逃れられぬならば不幸な話だ。
 恨みに凝った仮初の命では何を為す事も出来はしない。そう、嵯泉は思う。生者の足を引いたとて、無意味、精々が共倒れが関の山だというのに。
「心得、弁えろ。還るべき場所へ、還る時が来た迄だ」
「痛むか。苦しかろうな。だが嵯泉は義理堅い奴でね、約束通りそれも終わりだ」
 長く垂らしたニルズヘッグの髪を無遠慮に前へと吹き乱す、風。
 十。いや五十。もっとか、束ねられた刃の薙ぎはゴーレムが取り込みきれなかった細かな砂や石を巻き上げて、空を渡る。放った嵯泉は次の手を繰り出すこともせず、志の強固さを思わせる黒塗りの鞘に刀を、収めた。
 鍔に触れればちき、と微かな音が立ち。
「……斯うした形での手向けしか、知らんからな」
 岩雪崩の様相だ。幾つもの巨体が、粉々に眼前に崩れ落ちる。
 全うした。
 ――。砂とともにしんしんと降り積む静寂を破ったのは、少々間の抜けたくしゅん、だ。
 見遣ればニルズヘッグが鼻を擦っている。いや粉っぽくて、と悪びれぬ笑みはすっかり平時のそれであり。
「――其れはそうと……お前、一体何人弟妹が居るんだ」
「うーん……何人なんだろ……?」
 踵返す嵯泉の問いに指折り数えるニルズヘッグ。
 貢献を称えろと押しかける筈がなんだか居た堪れない心地になりつつ、ハイドラはポケットに手を突っ込んで足元の土の塊を転がした。軽い。今や何も入っていない、すかすかのそれは容易く砕けて還るもののひとつとなる。
 怨念。それは確かに存在したのだろうけれど。
 価値が無くたって生きている、生きたい、……生きてほしい、と叫ぶ願いの方が、すこし以上に強かっただけだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『決闘姫ブルーローズ・エリクシア』

POW   :    凄牙惨爪斬&シェイドストリーム
【長剣と短剣による連続攻撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【暗黒魔法】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    ミッドナイトブルーローズ
自身の装備武器を無数の【青い薔薇】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ   :    魔女殺しの銀焔
自身の身体部位ひとつを【魔術や呪いを無効化する銀色の炎】に変異させ、その特性を活かした様々な行動が可能となる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠神楽火・銀月です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



『――……素晴らしい』
 銀の炎が空に躍った。
 それは瞬く間に人の身をかたどって、星無き夜空にひとりの女が現れる。
 舞い降り、爪先からふうわりと触れる地を踏んだ女は何かを見渡すように視線を巡らせた。

 弱き民に代わり傷付き戦う強さ。
 嘆きにも足を止めずに殺し続ける強さ。
 嘆きに共感しながらも、心を鬼にして殺す強さ。
 支配を甘受する、つまらぬ民にもやがては抗う志を持たせる――――その、強さ!

『お待ちしていて良かった。勇者……いいえ、ダークセイヴァー、でしたか? 貴方がたがずっとこの地に残っていてくだされば、私もずっと退屈せずに済むのでしょうけれど』
 素晴らしいと、女にして吸血鬼、ブルーローズ・エリクシアは先の言葉を繰り返しなぞった。
 でも、駄目ね。そうして薄く笑む。ブルーローズの視線は身を縮めるも逃げはせず睨み返す村人らをデザートに数えながら、最後に猟兵へと戻された。腰に佩く剣に手を触れる。
『そんな貴方がただからこそ……』
 恍惚と薔薇色に頬を染め。
 両手に不揃いの銀の刃を抜いた風が、刃身以上に深く大地を抉り傷付ける。舞い散る死骸、舞台が整うまでに消えていった諸々には目もくれずに。
『私の手で。地べたを這いずり回っていただきたくて、仕方がないの』

 血塗れた瞳は大好物を映し爛々と輝く。
 終わりの、始まりだ。
リンセ・ノーチェ
【Folklore】
アドリブ歓迎
部位欠損NG

UC夜鷹とバディペットのフォルテに敵を攪乱させ僕も銃と杖で【二回攻撃】
僕の武器は魔法を帯びるからUCで防がれるかも知れないけど諦めず撃つ
変化する場所は一つだけ、全身だとしても僕には共闘経験と【野生の勘】がある
動物達の【フェイント】で僕の攻撃を隠すようで、それも罠(【罠使い】)
そう、敵に隙を作り、ユーンさんに繋ぐよ!
敵の攻撃は【見切り】躱す
敵の花びらは綺麗だけど、でも違う
「ユーンさんの世話する森の花のほうが、優しくて、活きてる」
サヴァーさんの治癒もある
痛いだけでまだやれるんだ
ぐっと堪える
村の人達にシユや他の村の様子を話して【勇気】づけるんだ
負けないよ!


サヴァー・リェス
【Folklore】
アドリブ歓迎、部位欠損NG

リンセ達が、果敢に挑むのを…支える
UCをもっと、もっと響かせて…【オーラ防御】をもっと、もっと広げてゆく
リンセ達とユーンの狙いは…幾度も共に戦ったから…わかる
わかったうえで、私の意志はひとつ
まもって、いやす
リンセも、リンセのお友達も、ユーンも…そして、傷ついたらみんなが悲しんでくれる、私のことも
敵の花びらの攻撃はかわし辛いかも知れなくても、まもりながら、避けることも…ちゃんと、する
【第六感】で教えるのが、間に合わない時は…【念動力】で回避の手助けを
【激痛耐性】で痛みに少し、強い私は…敵には、退屈かも…知れないけれど
「私は、…梟」
地面には、縛られない


ユーン・オルタンシア
【Folklore】
アドリブ歓迎
部位欠損NG

リンセと動物達の攻撃が更に激しく
その内に信頼を感じ睫毛伏せるのは一瞬より短く
その陽動に紛れ弓矢で彼の【援護射撃】を行いつつ
敵と距離を取り機を窺う
感知し辛い夜鷹も【聞き耳】【視力】【暗視】で微かな羽音や空間の揺れを捉えて

敵は魔術と呪いを無効とする、では我が神への【祈り】満ちる『恩寵』では?
それすら通さないとしても部位は一つ、また全身としても術の解ける瞬間に
リンセの齎す敵の隙を【見切り】逃さずUCで攻撃
悪意の花弁は私の森へ一片たりと届かせない
見切り、耐え、友の歌が癒すならば
神の愛と生きる【覚悟】で次を繰り出すに躊躇も憂いもなく
「有難うございます、リンセ」




 対峙する決闘姫ブルーローズ・エリクシア。
 殺気、それどころか狂気すら感じるその佇まいに、野生の本能が危険を知らせリンセの柔毛もざわりと逆立つ。
 その状況にあって、リンセが案ずるのは自分たちよりも後ろに控える只人たちのことだ。戦えるリンセだってこんなにも、ぞくりとする。ならば。彼らは何故逃げ出さずに――――。
「信じて、くれてるんだね」
 ――救うと、守ると誓った。心優しきエルフの友の言葉も、皆の戦いも確りと響いている。
 誰かのために傷付くのなら怖くない。
 リンセの勇気はユーベルコードで呼んでいた夜鷹とバディペットのフォルテ、動物たちへも伝わって、ほぼほぼ同じタイミングで飛び出すから誰が一番初めに「やろう」と決めたのか分からないみたいだ。
 うつくしい、信頼関係。
「お約束は守ります」
「私にも……お手伝いを、……させて」
 眩しき勇姿に睫毛を伏せるも一瞬未満のこと。ユーンとサヴァーも同じ。示し合わせずとも、わかる。各々のすべきことをと自然体で手指が動く。
 ユーンは眼前翳す、聖樹の一部である弓へ。サヴァーは胸元に握る、スマッジングフェザー。シンフォニアたるオラトリオの唇から零れ始めた癒しの歌声は大きなものではないが、なぜだかすとんと心へ届く響きをして。
 獣使いの銃士にアーチャー、それにクレリック? いいえ、歌うたいかしら。
『まあ、勇者ご一行といった顔ぶれ。こんな寂れた村までようこそ』
「……っ!」
 そうさせた張本人が、よくも! キッと眼差しを強めたリンセ。駆けながら拳銃を両手に構え、撃ち出す弾丸が微笑むままのブルーローズへとびゅんと力強く向かう。
 しかし女に焦った様子はない。"自覚"があるからだ。
『――ふふ』
 彼らが下で、自らが上。反抗の果ての結末を知った風な顔をして。短剣握っていた側の手を悠然と前へ。するとどうだろう、ごおう、ごう、肌色は一瞬にして銀へ、銀色をした炎へ移り変わった。
 炎がたちまち弾丸を呑み、溶かす。精霊銃Auroraが放つ力は使い手であるリンセの力と密接に絡み合い、魔力を帯びている。だからこそ魔女殺しの銀焔と呼ばれしブルーローズの力と相性が悪い、そう思われた、が。
「ご安心なされるのは早いかと」
 ひとりではない。
 ひゅひゅんっと二連の風切り音を立て、山なりに射られたユーンの矢は炎の壁を飛び越え真っ白な肌を掠める。
 それを契機として――いいや、リンセが攻撃を仕掛けた頃には、既に――間合いへと進んでいたフォルテの引っかきが、舞い降りざまにもう一筋の傷を見舞った。
『!』
 間髪入れず吸血鬼の薙ぎ払いが空間に奔るが、代わる代わるに飛び交って攪乱する白と黒、フォルテと夜鷹の双方を同時に落とすことは叶わない。
 ならばと選ぶ手は一度にして複数を消し去ることの出来る、青薔薇の花弁。ミッドナイトブルーローズ……、空へと投げやり、夜鷹の一羽を刺し貫いた短剣が同時に弾け飛んだ。
 無数の青い花弁へと散る。
 雪の代わり、降る、闇夜に淡く輝く花々は綺麗だ。だけれども、でも――。
「ユーンさんの世話する森の花のほうが、優しくて、活きてる」
「有難うございます、リンセ」
 そのひとひらを撃ち抜いて、リンセは尚も銃を杖を、無駄かもしれなくとも持てる限りの魔力を込めて揮い続ける。払えぬ分が彼や彼の友へ降りかかろうものなら、狙い澄ました矢がそれを射貫いて地へと縫い付ける。
 攻め手は、二人が。ならば自らはと、くるくると錐揉み回転をして落ちる傷付いた夜鷹を、その場へと降り立ったサヴァーが器のように重ねた両手のひらに受け止めた。
「……よいこ」
 まもって、いやす。
 ユーベルコードで召喚された鳥は、痛みを覚えないのかもしれない。
 けれども、弱弱しい星々の点滅を楽にしてあげたい。一心でそっと胸へと抱けば、羽飾りがふわりとやわらかに揺れて、幾度だって奇跡を呼び起こす。――歌を。――声を。 致命傷であった筈の傷がじわりと塞がれ、指先に甘えた夜鷹は直ぐに飛び立って戦線へと舞い戻るのだ。
(「もっと――……届く限りの、……すべてを」)
 シンフォニック・キュアは満ちる月の加護とともに広がりゆく。
 前で戦っていてもその穏やかな光を感じられるから。
 銀炎の熱に曝されて、青薔薇の乱舞に裂かれても、皆で戦っていられる。

 定石を踏むのであればサヴァーから屠るべきであると、決闘姫の異名を持つブルーローズも考えたろう。しかしぺちぺちと、相殺こそ出来ても相殺に手を割かせるリンセが特にその一手を阻む。
『おもちゃの銃など、私には効かぬと分かりませんか?』
「ぅあっ」
 まるで事が上手く進まぬ苛立ちを叫ぶ風だ。口振りは冷静でも、ごおっと火勢を増した焔の放射は苛烈に少年猫の足元を払った。
 諸共吹き飛ばされ、玩具、と呼ばれたAuroraが弾んでは地を滑る。破壊こそは幾重にも祈り重ねられた月のヴェールで防がれたが、ケットシーの腕の丈ではとても届かぬ距離だ。
 リンセ、とその名を呼ばれたか。或いは動物のこころを聞き取ったか。
 ふるふると頭を振るリンセは「大丈夫」を示した。
 長剣での追撃に駆け出さんとするブルーローズの足元へは即座に牽制の矢が射られ、睨みあいの一瞬。リンセは。
「だい、じょうぶ……! っ痛いけど、でも、でもまだ動くんだ。皆がそうさせてくれるんだ……! 世界が暗闇に鎖されているとしても、人の心までは鎖せないんだっ!」
 シユや、旅の中で出逢ってきた強さたちのことを想う。等身大、咆えるような魂からの叫びは、第一にリンセ自身を奮い立たせるものであって。同時に、それを耳にした村人たち、そして友たちにも同じ気持ちを抱かせる。
 辛くたって生きてゆくのだ、生きられるのだ、生きていてよいのだ、
 そんな命の放つ輝きがなにより尊く愛おしいのだ。
「……リンセ」
『ふふっ! ははは、貴方はまったくもって理想的な勇者でした!』
 愚直で、恐れ知らずで! 戯れ言をと一蹴する吸血鬼の放つ猛火、気力でぐぐぐと身を起こす少年猫。ほんの瞬きの間ほどの"最後の瞬間"だとて、その一瞬に、リンセを支える手はいくつも伸ばされていた。
 初めに訪れた異変は、狙いも正確に飛び立った筈の炎弾が合間の地へと落ちたことだ。強い吹き下ろしの風、はたまた舞い降りた鳥の趾に押さえつけられたが如く。
 させはしない。決して、と猛禽の双眸を見開くサヴァーの強い念がそうさせた。
 念動力――……超常の現象を理解する間も与えず、リンセの身体とAuroraをはっしと掬い上げるのは本物の風を伴い飛び込んだフォルテ。同時に仕掛ける夜鷹の群れは吸血鬼側へと飛び、攪乱を担い、命じられたり言葉を交わすわけでもないのに、動物同士までもが連携をこなす。
『ほう……?』
「理解を求めは致しません。ただ、脅かさせも致しません」
 ブルーローズは歪に口角を上げザンッと薙ぐ長剣で数羽の鳥を落とすが、落ちて生まれた僅かな隙と間、必ず訪れるであろうその機を射線と見極め既にユーンの矢が放たれている。
 これこそは暁の恩寵。
 リンセの想いに重ねた祈り。胸裡で唱えた聖句は、差し込む一条の光芒のすがたを得て突き進む。
 闇を照らす。 魔術や呪いの類を軽々と捻り潰してきた銀の炎を、真っ向から割り裂く。
 夜明けを望むには、遅すぎる夜などありはしない。果てなく続くかのようで、僅かずつでも、確かに――。
「――明けているんだ」
 失せる炎の道を、立ち上がったリンセの愛銃から撃ち出された魔法弾が辿った。
 暁の女神と極光の精霊とが手を結べば、光はより輝きを強めてブルーローズの視界を、その身を灼く。夜鷹を断つ際に振り抜かれていた長剣は守りに用いるには遅すぎて。
『ぐ、ぅ、ああああああッ!』
 とはいえ、間に合ったとして敵ったかどうか。
 信じ、願う、村人たちには、いずれにしても同じ結末が見えていた。

 青い花弁が、はらりはらりと落ちる。
 制御が乱れたようにあちこちで。光の収束したあとには軽く数メートルは押し込まれた吸血鬼が、焼け爛れた肌から煙を上げながら、休ませる気などなく駆け来る猟兵たちを見遣った。
 散開するリンセと動物たち、会の姿勢を整えるユーン。そんな頼もしき仲間を支えるため、歌声を絶やさずにいるサヴァー。吸血鬼の傷は増える一方だが、癒し手を抱える猟兵側は何度だって立ち向かうという意志を体現し、立つ。
『…………そう、そう、そうでしたか』
 ちゃりりと音を立てて剣を構え直すブルーローズ。
 構えに乱れは無く、呼吸は平静だ。
『斬り甲斐があるというもの』
 しかしその眼差しには愉悦だけではない、剣呑とした、いつか女自身が下々のものへ抱かせていた色が滲み始めていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シャト・フランチェスカ
2
ロキ(f25190)と

お姫様は地べたを這えと仰せだけれど
どうだい、ロキ
僕はしたくないし
きみにもさせたくないな

青い薔薇の花言葉は嘗て「不可能」
今は「夢が叶う」なんだって

文豪がペンを執ったなら
或いは神様が定めたなら
不可能なんて言葉は消えて、

《私》の【反魂】も視て頂戴?
みんな素敵な眼になった
演出に負けない脚本を仕立てなきゃね

宙に万年筆を走らせれば
インクは毒を孕んだ雨に
花弁の嵐はどろどろに融かしてあげるの

そうよ
もっと怒りを滾らせて声をあげて

ねえ神様
私はいつもここにいたのよ
《シャト》の内側
はじめましてがサヨナラなんて嫌だから
また一緒に遊びましょうね

お姫様も楽しんでいる?
あなたの花言葉は何かしら!


ロキ・バロックヒート
2
シャトちゃん(f24181)と

私―俺様の“役目”は終わったようなものだけど
せっかくだから遊んであげる

そうだねぇシャトちゃん
俺様はお望み通りにしても構わないけど
君の希みを聴くことにしようか

青い薔薇の花言葉なら俺様も知ってるよ
「不可能」を「可能」にするなら
【神血】をもって叶えよう
ねぇもっと希いを言ってごらん
村人たちに喚び掛ける
きっと叶うよ
心の儘に叫んで
哀しみの淵から這い出ておいで

俺様たちは扇動者らしく
奇跡をもってペンをもって
かれらの「夢を叶え」てあげようか

やぁシャトちゃんの裡の“誰か”
はじめまして、またね
楽しかった?
君は満足したのかな

この雨は復讐劇にはきっとぴったりだね
さぁどんな花が咲くんだろう




 ほらほら、もっと応援しちゃおう!
 ――とは、拮抗した戦いの行く末を見守る村人の列に混ざり込み、ロキが告げたのだったか。
 傍らのシャトも彼らにとっては記憶に新しい顔だ。吸血鬼に立ち向かうきっかけをくれた二人。友好的に呼び掛けるロキとは違い、シャトのどこかひんやりとした瞳は敵へと向けられている。
 より具体的には、その振り撒く花弁たちへ。
「青い薔薇の花言葉は嘗て"不可能"、今は"夢が叶う"なんだって」
「ああ、それなら俺様も知ってるよ。俺様たちにぴったりだよねぇ」
 くつくつ、と袖を口にあてロキが笑う。
 文豪がペンを執ったなら。或いは神様が定めたなら、不可能なんて言葉は消える。 ――ぴったりだ!

「始めようか」

 万年筆を、翳す。 ユーベルコードの発現。瞬いたシャトの纏う気が変わった……いうなれば魂の質が変わったと、知れるのはロキくらい。
 くるくるくるっと慣れ親しんだ紙面へそうするみたいに、筆跡はすべらかに躍った。まぼろしではない。インクの滲みは喜びに跳ね、溢れ、垂れ落ちるならば歓喜の涙だ。
 すくなくとも、今日はね。
「ねぇあなたはどうしたい? どんな御伽噺がお好きかしら?」
 別人のように声音を弾ませるシャト。
 その筆先についと指された村娘はロキに肩を叩かれて、潰れ、充血した両目を手で覆いながらちいさく零した。「だれも、痛くないお話」この世界においては夢のまた夢! ――それでも。
 ステキね、と、ころころ笑うシャトの筆は止まらない。
 きっと叶うよ。甘やかに内緒のはなしを囁くトーンでロキは言う。
「目を開けて。その証拠にほら、もう痛くもない筈だ」
「…………?」
 恐る恐ると開かれた娘の黒い瞳が、淡い桜色の筆跡を映り込ませる。綴られたものが文字なのか記号なのか、よくわからないけれど。よくわからないということが分かる。 視えている?
 ぶわぁ、――と、途端に桜色が瀟洒な帯のように宙いっぱいに広がった。
 若しくは枝垂れの桜。或いはその様は、炎にも似ていたろう。

 折角、みんな素敵な眼になったんだ。
 演出に負けない脚本を仕立てなきゃ。 そう口遊んだシャトが好きなだけ溢れさせたインクは今、淡紅の毒と化している。
 吹きつけ襲い来る青薔薇をやんわり出迎え、どろどろと溶かして。
 取り込んだうえで膨張し、空をゆく雲となって吸血鬼へ降らせる雨もまた毒だ。
「誰も、にあなたは含まれていないみたいね」
『そう……あのとき殺しておくべきだったかしら』
 憎しみ、怒り、立ち向かってくる動機となれば面白いと命だけは取らずにいてやったというのに、当の本人は猟兵たちの後ろでこそこそと。
 つまらぬ軟弱者が。降り注ぐ雨を斬り飛ばしつつ、村娘へ注がれた殺気立つ赤の眼光を遮るのは前に出たロキであった。
「大丈夫」
 もっと、心のままに願えばいいとロキ。
「他のみんなも。神様と文豪に直でお便りの届くキャンペーンだ、"君たちは絶対に傷付かない"から」
 さぁ! 希って。
 ぱくんっ。 不意に。シャトが防いでくれている青薔薇の刃が辿り着いたわけでもないのに、人々へ差し伸べたロキの腕が手首から付け根まで縦に大きく裂ける。とろりと零れる血はやけに粘性を帯びていて、糖度の高い、林檎を砂糖で煮詰めた風な香が漂った。
 確かに砂糖漬けと同じ、実のところ表皮の内側はもうぐずぐず!
 だが首無しマリア像にだって構わず祈りをぶつける者がいるように、誰もそのことを気に留めないし、ロキも彼らを厭わない。
 そんな世界だから。そんな気分だから。そんな醜さもいとおしいから。 ――神様だから。

 痛いのは嫌だ。悲しいのは嫌だ。隣人を失いたくない、おいしいものが食べたい、あたたかい光が欲しい、
 ねがいごとを夢想する平穏が欲しい。

 ねがいの行き着く先は、世に巣食うオブリビオンが絶えること。
 揃い始めた村人たちの声の圧は、豚貴族を袋叩きにしたときよりも強固で前向きなものとなり吸血鬼の顔を顰めさせる。
『ッぐ!』
「頭に響くかしら?」
 そうよ、もっと怒りを滾らせて声をあげて。
 願う声に背を押され、その実現のためにまた一歩と歩み出すように、毒の雨脚も勢いを増す。
 しとしとから、ざあざあを経て、ごうごうへ。横殴りのそれを払うことは最早不可能と判断したブルーローズは、傷付いた肌より染み入り、肉を骨を、血をかき混ぜる激痛を連れ駆け出した。一路、シャトのもとへ。
『良いでしょう、先ずは貴方を!』
 ぶおんと振りかぶった長剣が大地を波立て、土の津波を奔らせた。
 礫が頬や腕を掠めてゆく。ああ、肩にもドッと穴が。 けれども佇む文豪はその場を離れることなく筆を走らせる。なにせ書き物の途中なのだ、フアンの皆が待っていて。
「ふふ……楽しいわ、ね」
 ゆめもうつつも境は無い。
 筆先がくうるり新たなアトを生めば、土砂は桜吹雪に変わる。
 ほんのり染まるほっぺたにはり付いたひとひらを摘まんであげて、ひょいとロキがそれに並んだ。綺麗だねーって不思議がることもなく。
 ――ねえ、神様。
「私はいつもここにいたのよ。はじめましてがサヨナラなんて嫌だから、また一緒に遊びましょうね」
「やぁシャトちゃんの裡の"誰か"。はじめまして、またね」
 復讐劇にぴったりの雨の下、朽ちた切り株の根本に、ぽふんっと一輪だけの花が咲く。「死んだ奴の願いでも?」問うた青年へもちろんと頷いたロキが齎した、いくつめかの奇跡だった。
 男は咄嗟に目の前強く優しく広がる桜景色の美しさを思ったのだろう、花の姿かたちはどこか桜に似ている。
 死者の血を吸い上げて咲く、だなんて、だったら"きっとまた逢える"。
「約束よ」
 ぼたぼたぼたとパズルのピースよろしく肉片を零す傍らの神を、シャトの中のシャトも当然の如く受け止めている。
 瞳には、攻め込むを諦め青薔薇を手元へ呼び戻した吸血鬼が映っている。まぁ、傷だらけの顔をして。
「お姫様も楽しんでいる? あなたの花言葉は何かしら!」
『おかげさまで。貴方がたの首を手にしたい、私の夢は叶えてくださらないの?』
「それは出来ない相談だなぁ。俺様はお望み通りにしても構わないけど、先にシャトちゃんの希みを聴いたもの」
 ね。 ね、と視線交わし合うシャトとロキ。

 ――死ねないよ。死ねないの。
 死を超えて縛り付けられている。それが幸せでも、不幸せでも――。

 ブランカ・ローザ、そしてネクタル。
 "奇跡"の代償として差し出したものを振り返ることなく、よく似た淡い笑みを湛えながら。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

誘名・櫻宵
🌸神櫻
2

青薔薇の花言葉は「神の祝福」でしたっけ
あなたなどに倒されたくないわ
カムイの事だって踏み躙らせはしない

そんな彼の姿に微笑む
そうよカムイ
斬るべき厄災よ
あなたは厄災を斬るもの

ひとのすきな優しい神様
さぁ往きましょう

桜花のオーラを纏いカムイへの攻撃を庇う
破魔の斬撃で闇を裂いて
カムイの隙は私が塞ぐ

―咲いているわ
爛漫に

我が神の為、神楽を舞いましょう
『朱華』
衝撃波と共になぎ払い
カムイが斬った傷を抉る
桜化の神罰を滲ませ
薔薇を桜へ塗り替え
生命喰らって咲かせ裂く

桜さくら
狂うように乱れ咲け
私の神の為

暗黒放たれたなら浄化し斬り祓い
蹂躙し返してあげる

カムイと共に戦える事がこんなにも嬉しい
ええ共に
斬り拓きましょう


朱赫七・カムイ
⛩神櫻

「不可能」とも言うよ、サヨ

哀しみを
絶望を
孤独をうみだすもの
踏み躙るもの
蹂躙するもの
これが斬るべき厄災なんだね

ひとは決して弱くなどない
どんなに愚かでも
醜くても
うつくしい
『私』はそんなひとがすきであった

生命はそなたの玩具ではない

私は櫻宵の神だ
これ以上
サヨの前で無様を晒すなどできない
サヨを傷つけるなんて、
守るという覚悟をかためて龍の角の欠片を握る

『桜守ノ契』―守ってみせる

…私の櫻は咲いているかい?
カグラの結界と防御を櫻宵へ

早業で駆け、見切り躱しながら切り込むよ
サヨの剣舞に合わせて防ぐものごと切断する
斬撃と共に不運な厄を約す神罰をあげる

薔薇が桜へ変われば私の糧になる

櫻宵、共に
きみとなら斬り破れる




 人々の声が聴こえる。
 哀しみ、絶望、孤独――悪鬼に踏み躙られた痛苦の日々の果てに、救い願う声が。
 ひとを愛する優しき神は、そのひとつひとつに心を寄せるかの如くにいっとき瞼を伏せていた。傍らで立つ微かな鯉口を切る音にその瞼を開けば、横顔に感じる気遣わしげな視線に対して「大丈夫」と。
 もう、胸の焼けつく眩暈はしない。
 此方へ振り返る巨悪を前にしても、風無き夜の桜のように凪いだ心地だ。
「……あれが斬るべき厄災なんだね」
「そうよ、カムイ。斬るべき厄災――そして、あなたは厄災を斬るもの」
 さぁ往きましょう。
 櫻宵の声が尚更にそう感じさせる。穏やかで、綺麗なのに、生命力に満ちていて。
 そんな桜の隣に在れることを、場違いに嬉しく思う。カムイは先の戦いで折れてしまった桜龍の角の欠片を握りしめた。私は櫻宵の、神。これ以上、サヨの前で無様を晒すなど出来ない。サヨを傷付けるなんて――決して。
(「守る」)
 すきなものを。
 ひとも、桜も。

 桜守ノ契。 誓い果たされた今、神罰が下るべきは誰で、下すべきは誰か。
 その術を今、正しく知っている。
 往こうと返す代わりに前を見据えて踏み込んだ。カムイが抜いた朱砂の太刀にいま再びの桜花が舞う。
『ふっ……他力本願の弱者のためなんて、命を懸ける価値があるかしら? 精々が……』
「生命はそなたの玩具ではない」
 ひとは決して弱くなどない。どんなに愚かでも、醜くても――うつくしい。"私"はそんな彼らがすきだった。
 精々が撒き餌、との言葉の続きを打ち付ける刀の清く硬質な音が阻む。出迎えの長剣の一閃をカムイがそうして受け止め、次いで喉元を狙う短剣を差し入れる切っ先で払うのが櫻宵だ。
 傍らのひとを守るという志の高さにおいて、櫻宵とて譲る気はさらさらない。
「思い違いをしてもらっては困るわ。私は私の神のため、よ」
 刺すほどに強い視線と視線、刃と刃がかち合った刹那にぶわりと巻き起こる桜吹雪。
 桜花の守護はカムイの人形、カグラが発動を合わせた結界がより堅牢なものとし、跳ね飛ばすようにブルーローズを押し返す。一方のカムイの太刀には追い風となってはなびらが纏わった。朱と、薄紅。混ざり合う。似ていて異なる色彩は、それだけで、櫻宵が力を貸してくれているのだと胸を打つ。
 ああ、おそれるものなど。
「……私の櫻は咲いているかい?」
「――咲いているわ」
 爛漫に、と、零す櫻宵の瞳いっぱいの春。
 咲かせてみせたカムイの一文字の軌跡はすとんと吸血鬼の骨肉を削ぎ、防護にあてる心算だったのだろう、周囲に寄り集まっていた闇の気配を霧散させた。
『ぐ、うぅっ、随分と仲がよろしいようね』
 良いでしょう。それでこそ! 弾かれて飛んだ短剣をそのまま薔薇の花弁へと解いては、裂かれた血を振り落とし青き嵐を呼ぶ吸血鬼。狙うは二人同時だ。高め合い想い合う二人――、引き裂くほど、より美しい戦い(絶望)を見せてくれる筈!
「っ」
 互いに互いを守ろうと考えている櫻宵とカムイはほぼ同時に前へと踏み出す。
 けれどもカムイの袖をつと後ろへと引いたのはカグラだった。思わず振り返るカムイとは反対に、櫻宵は「分かっているじゃない」とでも言いたげに眦を緩め。
 青薔薇の暴風が桜色を呑み込んだ。
「サヨ!」
 やわらかな花の集いのようでいて、その性質は刃だ。
 皮膚から芯へ向けて僅かずつざりざりと、幾人もを薄っぺらな肉の山に変えてきた強大にして慈悲無き拷問法。
 ――だが。
 ふふ、と、渦中のひとは上機嫌にも笑いを落とす。
「そう……これがあなたの花ね? 待ち草臥れていたところなの」
 さぁ! 今こそ神楽を舞いましょう。 先ず初めに嵐を裂いて突き出たのは、屠桜の一振りであった。
 朱華。ほのかに花色を映し込みながら白銀に冴える剣閃が、円筒を上下に割る風にぐるりと弧を描き瞬いた。
 一周、終点は綺麗に始点と結ばれる。上と下とに別たれた青薔薇の嵐が切り口から順に薄紅へ――桜の嵐へ染め変えられてゆくのは、直ぐのことだった。
 桜、さくら。
 狂うように乱れ咲け。我が神の御前。
 散り急ぐ花弁もが慶び詠う、それは触れたものを己が糧に、桜に変える、覚醒した桜獄大蛇の為せる業。
『……まぁ? 手品がお上手、けれど!!』
「させはしない!」
 常ならば長剣をも花弁に変え、塗り替え直す試みも出来たろうが、吸血鬼の眼前にはカムイがいる。そしてその心は絶望へ傾いてなどいない。心配させて、と頬を膨らませるなんてのも後でいい。
 迫る桜花の吹雪にちらと目線が逸れた一瞬すらも、櫻宵が託してくれた機ならば見逃せない。カムイは即座に斬りかかれば鍔迫り合いになる刀を滑らせて引き、拮抗を崩した上で横に寝かせた刃で吸血鬼の腹を狙い二の太刀を浴びせた。
 無論、此方側へも敵の剣の通り道が出来る。
 だが、信じているからおそれない。
 櫻宵が尊んでくれる自分自身の力、そして櫻宵が添わせてくれた桜の加護。
『っつう……!』
 二色の花弁は斬撃だけでなく、悪意敵意をも跳ね返す風に。
 真正面なのだ。走り、確かにカムイを斬り捨てた筈の吸血鬼の剣はしかし、ユーベルコードの起こす奇跡により彼を覆い守る桜のみを断つに終わる。はらはらと血の代わりに散る花弁。そこに本物の血を飛ばすのは悪鬼ばかり。
 喘ぎ、腹を押さえたたらを踏むその耳は、目は、間近に舞い込む花嵐を捉えていた。
 この私が、追いつかない? 斬り上げ、闇色の風起こす長剣で散らさんとするも。
「青薔薇の花言葉は、神の祝福――……だったら私には間に合っているもの」
 薙ぐ半ばで一本の刀とがっちり噛み合い止められる。
 桜吹雪の只中に、玉肌に幾重と傷を負いながらも凛と麗しく立ち続ける櫻宵がいた。
「不可能、とも言うね」
「ならそちらをお返ししてあげようかしら」
 ――私とあなたで。
 ――ああ。そなたと、私で。

 共に。
 彼方が二刀ならば此方は二人。否、廻る刻を越え抱く魂をも含めればもっと。
 そして二人の太刀筋は、初めからふたつでひとつであるかの如くぴたりと補い合っている。渾身の力で櫻宵が跳ね上げた長剣と。その未来が必ず訪れると信じ、既に踏み込んでいたカムイの刀と。
 一瞬の終わりに、もうひとつの花言葉、夢叶うを勝ち取ったのは何方か。

 色褪せた地へ艶やかに降り積む桜絨毯へと、取り落とされた長剣が沈む。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

エンジ・カラカ
2

コレはお前と遊びに来た来た。
うんうん。ココはいつも頭の高いヤツラがいる。
お前も頭の高いヤツだなァ。あーそーぼ。

うんうん。
へぇへぇ、その炎は厄介な炎カ。
アァ……賢い君、賢い君、アノ炎は君の炎よりも弱い。
うんうん。

薬指の傷を噛み切って君に食事を与えよう。
コレの血を飲んだ君が毒の炎を与える。
狙うのは手と足、簡単に殺しはしないサ。

賢い君は賢いカラ心得ている。
で、頭の高いヤツ。
お前は楽しかったのカ?コレはぜーんぜん楽しくないなァ
アァ……賢い君、賢い君、燃やそう。
飽きた。

賢く無ければ生き延びれない!
お前は賢くないカラココでばーいばい。
もう遊べないネェ。


ロカジ・ミナイ
2
嬢ちゃんを心配させない程度の治療はしてある

ねぇ、聞いたかい?ここに残って欲しいんだって
猟兵ってモテるねぇ!
けども僕にはこのお姫様のお願いは聞けないのよ
何せさっきのあのこの方が先に目が合って
先に僕に縋ったから
僕のハートは早い者勝ちなのよ
あと……言いにくいんだけど、あんまり趣味が合わないっていうか
料理下手でしょ?肉団子の作り方が雑

この地に僕の血液をくれてやる気は無い
全部この妖刀に喰らわせるのさ
欲張りなお姫様を斬るために

僕らは強いよ
どのくらいかって?君より強いくらい強い
その強さに痺れさせてあげよう、ビリビリと
これ以上強いものにはもう出逢えないよ
なんでかって?そりゃあねぇ、……バイバイだからさ




 花も見頃というやつだ。
 端から青に戻り始めた絨毯を吹き上げて、エンジの赤糸が舞い飛んだ。
 君、の愛した色へと近付けるには、やはり一度まっさらにしてしまうしかないみたい。賢い狼は知っているから、それ以外の綺麗なものを手に掛けることになんら疑問を抱かない。
『っ! このまじないは』
 早急に剣を拾い上げるべきところに面白くはない妨害だ。咄嗟に腕を銀炎に変えた吸血鬼が宙を薙ぐも、いきもの同然ぐねりと裂けて捻じれて躱す糸。
 おちょくるような光景は、さて何方が遊ぶ側で、遊ばれる側なのか。 糸を手繰るエンジはにまりと嗤う。
「はろぅ。コレはお前と遊びに来た来た、ソレは賢い君でー、コッチはロカジン」
「ご紹介に与りまして光栄の至り。ははぁ、ふぅん、成程なぁ……」
 そんな狼男の斜め後方、顎を摩りしげしげと品定めするかのロカジが見遣る先でブルーローズ・エリクシアなるお姫様は傷付きながら立っている。何やら"此処に残ってほしい"んだって? 猟兵ってモテるねぇ!
 悪かない。ちょっと陰のある顔立ちとか、とげとげしいオーラとか。折れそうな四肢とか。
 いいやふくよかはふくよかで素晴らしいんだけど、とりあえずそれより何より、ううーんってな点が二つある。
「ま、巡り合わせってやつかな。僕のハートは早い者勝ちなのよ」
 さっきのあのこの方が先に目が合って。先に僕に縋ったから。
 ていうか。
「料理下手でしょ? 肉団子の作り方が雑」
『――は?』
 先ほどのゴーレムが姫様お手製だとしたら、毎晩出されちゃたまらない。
 言いにくいんだけど……的なきもちを下がり眉で表現するロカジに対して、次なる手を警戒し構えを取っていた吸血鬼は豆鉄砲を食らったかの面をする。
 そうして腹を押さえていた片手のべったりした赤黒が汚すのも構わず顔を覆えば、くつくつと肩を揺らした。
『……ッは、はハハハ!! ええ良いでしょう、では貴方で練習させてもらうとします!』
 そうだとも、戦場こそが己が調理場。
 下に見られて黙ってはいられない。恥辱の念がそうさせるのか、ぐわりと勢いを増した炎を鞭の如く振るい、取り落としていた双剣を弾いて手繰り寄せ――。
「ハハハ! うるさーいなァ……」
 ――その銀色のもうるさい、とひとりごちたのはエンジ。
 苛立ち混じり噛み切った薬指から垂れた鮮血が、賢い君こと拷問具のぬらりとした艶を増させている。それに、増したのはうつくしさのみならず。儘、血が燃え立ったかの臙脂の火が糸から漏れ出でている。
 双子の炎。毒の炎。お食事はしずかにたのしみたい派の辰砂としてもブルーローズは失格らしく、そもそもその鏡面にはエンジ以外映っていないほどお熱いので、  ジュウッ!! と。
 彼方が鞭なら此方は矢、先よりうんと獰猛に赤糸が女の腕の炎へ飛び掛かった。次々、次々に。
『効くものか!』
「アァ……賢い君は賢いカラ心得ている」
 大事なのは後のこと。
 銀炎に燃え尽きたかに見えた糸は、だが、混ざり込み蝕む形で確かに爪痕を残すのだ。飛び交う炎たちの下を滑り込んで掻い潜る形でロカジもまた、斬り込んでいる。銀に赤は目印にも良い。ここが的のどこどこですよって、気立てのよいこは気遣いが違う。
 チリリと火の粉割って、駆ける勢い乗せた斬り上げ。その斬撃に対応しようと実体化させた腕で剣を振るったとき、吸血鬼は初めて目を見張ることとなる。
 重い……! そして、熱い。
『何を』
 肌を裂いて内より燃えだす赤き毒の炎。
 腕に留まらずめぐる半身を焼くそれに、観賞よろしく細められるエンジの眼差しに、ハッと息を呑んだ。――……魔術でも呪いでもない猛毒? 「愛だねぇ」だとかなんとかしみじみと呟くのはロカジであって。
「今日は貸してやれる胸も無いのが残念だ」
『っ、ゥ』
 ザンッ!
 出の遅れた長剣を押しのけ、我が物顔で通るは妖刀。
 豚や肉団子を食い荒らしたのみならず、ロカジ自身の流した血をも吸い上げた刃身は尚も貪欲に牙を光らせる。纏う紫電の影が荒れ狂う八つ首の化物じみて地を舐めた。ああ、散った血痕まで余さず欲するかの。
『戯れ言ばかりを、』
 半身を庇うように引く代わりもう片手、短剣を突き出し吸血鬼は切り返しを試みる。だがロカジの脇、背からにゅっと顔を出す赤糸の束がそこに絡み付いた。先っちょをいくらか燃やしたところで糸なのだ、容易く追加がやってくるという現実。右へ引く筈が左――、ロカジの胴とは真逆へ在り得ぬ力で引っ張られ、女の足は地からやや浮いたろうか。
 だぁん、と、そのまま地へ叩きつけられるのを逆手に突き立てる短剣でギリギリ防ぐ。
 必ず追撃が来る! 身を跳ね起こす過程で、即座に土を削り上げながら返す刃を振り抜いたはいいが、しかし。追撃を打てたであろう張本人らは、距離を詰めることなく女を眺め下ろしていた。

「繕い物が上手。うん、高得点」
「ダロウだろう?」
 結果として空振る短剣を余所に、ロカジが指先で戯れつついた賢い君のピンと張った糸が揺れる。

 赤々とした火の粉が零れる。
 怒りと――焼け付く痛みのぶり返すのを感じたブルーローズはぎりりと歯噛みし、両手に持ち替えた長剣による刺突に踏み切る。向かい来る糸の合間に切っ先をくぐらせるのは素人芸では無いが、とはいえ素人でないのは猟兵も同じだ。
 僕らは強いよ。どのくらいかって? 君より強いくらい強い。
「その強さに痺れさせてあげよう、ビリビリと」
 あらよっと、と。引き続き舐め腐った――雑談に興じる風を見せていたロカジの刀が空を撫ぜれば、相手方の空振りとはワケが違う、迸るいかづちが夜と鬼の視界を瞬間真っ白く染めた。
『なぁっ!? あ、あァァ、ガ』
「白、白。良かったネ。で、頭の高いヤツ。お前は楽しかったのカ?」
 コレはぜーんぜん楽しくないなァ。撃ち込まれる雷撃に躍る姿へと、白の最中でエンジが言う。指先に触れて一日を問う賢い君も――もっとも、元からだけれど――すっかり冷え切っていて。
 飽きた。
 燃やそう。賢くないこの女もまた、灰へ変えてしまおう。
『楽し、い……ですって?』
 間髪入れずどっと襲う、焼ける赤糸のすべてを打ち払い切れず咳き込む吸血鬼は攻めあぐね後方へと跳躍する。
 合間に滲み出た闇色の魔球が壁を担うが、構え直した二振りの剣は始まりよりも随分と重たそうだ。
『ええ。今宵の愉快さときたら、貴方がたには地べたが格別に似合いそう……!』
「ははっそうかいその意気だ、なにせこれ以上強いものにはもう出逢えないよ」
 なんでかって? そりゃあねぇ、
「バイバイだからサ。もう遊べないネェ」
 ロカジの台詞を分捕ったエンジと、ああーと溜め息つくロカジと。
 押し黙る吸血鬼の手の中で、長剣が青薔薇の花弁へと変わってゆく。だとして二人して、慈しみたいお花はこれじゃないわけで。
 燃やそう、燃やそう。 ゆらめく赤もその火勢を増す。
「――そう。ソノイキだ、簡単に殺しもしないサ」
 打ち棄てられた亡者のシルエットをして狼男の襤褸外套がばさばさと、迫り来る風に揺れた。
 うんうん。コレは飽きたけれど。賢い狼の耳だから知っている。文字通りに全身全霊の怨み辛みをぶつけたいものは、もっとずっといーっぱい、いるようだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

矢来・夕立
2
どうせ痛いままならもう一回切ります。
絵面が不評なんで、隠れたところで。

捕れたての…怨念? っぽいもの。
アレを今使えるなら、仇討ちの構図にできますね。
いたぶり殺された人びとの成れの果てですもん。
正気を欠いたかのように見えたかもしれませんが、今後のシゴトに使えるからやったんです。
悪趣味に悪意で返すのも楽しかったですよ。オレはイジワルなので。

そう。イジワルなんで、長く楽しませてあげたりしません。
オレと一合すら打ち合えないまま始末する。
《闇に紛れる》。背面から一発で殺す。
殺せなきゃ逃げて、何度でも闇討ちします。

口説き文句のセンスは悪くないんですが、オレが言う側なんですよね。
地べたに這いつくばれって。


穂結・神楽耶
2

やれるものならどうぞ御随意に。
そう易々折れては差し上げられませんけれど…
そういうのがお好きなんでしょう?
――踊って差し上げます。
どうぞ、余所見なさらないでくださいね。

【尅珀燠手】、起動。
炎熱を知覚できる範囲がすなわち敵の無効化範囲だと心得ます。
狙うべき箇所が秒単位で変わるなど、刃の距離ではよくある話。
だから踊りましょう。
刀で受け、神器て弾き、炎熱のオーラ防御で守り。
確実に斬り果たせる瞬間は耐えてこそ訪れるもの。

――一瞬、力を抜く。
それが誘いだと分かっていても食らい付きたくなるように。
歓迎に炎を、すぐさま本命の薙ぎ払いを差し上げます。
ご満足頂けるリードでしたか?
それでは、さようなら。


狭筵・桜人
2.

うわあ。戦闘狂って苦手なんですよねえ。
闘争は手段であって、目的にしたって何も生み出さないじゃないですか。
戦う理由、頼めばいくらでも用意してくれそうですけど。

あんなのに正面からぶつかるとかムリなので支援に回りまーす。
『code/S.B』。肉薄する猟兵自身か、その武器を隠しましょう。
迷彩を利用して味方を【かばう】盾にも出来ます。
私自身は彼女の気でも惹きながら逃げ回りましょうか。【逃げ足】勝負。

屈辱を与えるのが趣味ですって?やれるものならやってみてくださいよ。
その前にあなたが地べたを這いずり回ることになるでしょうけどね!

……煽り耐性なかったらどうしようかな。
私が死ぬ前に殺してくださいね、皆さん。




 は、は、と浅い呼吸がひっきりなしに零れる。
 ナイフは月の陰に落ち、縺れる足が表へと歩み出た。どうせ痛いままならと首筋に幾重刻んだ生傷とそこから溢れる血で、服が乾く端から濡れるので、風邪でも引きかねないと――ああ、ああ、夕立の思考はあちらへこちらへ。
 失血死のラインを疾うに超えていそうな身体が、では何故二足で動いているかといえば、怨念様様なのだろうとも。半ばまで暗幕の降りた視界に、ちかちかと目障りなほど青く眩く乱舞する花弁を捉えている。
「……、ケ、た」
 みつけた。
 死ね? いいや、殺せ。かひゅっと空気を鳴らす喉が己の裡に命ずる。
 お前が適任だ。お前が。「そう、私たちが」。
 やれよ。「そう、殺されたのだから」。 殺してやる。
 つま先より頭のてっぺんまで蠢いて湧く"とれたて"の暗闇に身を委ねれば、あらゆる方向に肉を骨を引き摺り回される痛みの永遠に続き、ほんの少しだけ夕立の呼吸は楽になって――――あとは、

 あとは?

「あ、  あぁ゛ぁ゛ぁあ゛ぁぁぁ!!」
 浮遊感、躍り出る身体。手には、刀。
 喉を裂いて声を溢れさせているのは夕立であって、夕立ではない。
 殺して、集め、ご丁寧に此処まで連れてきてやった怨念どもだ。降ろした少年の身をストッパー無しに動かす、奴らは吸血鬼が憎い。それと同時に、当然ながら己を殺し直した少年へも牙を剥くわけで、つまるところ――。
『!!』
 どっ、 と。ブルーローズは瞬間、背を貫く灼熱を感じたろう。
 ほんの寸前まで気配がなかった。背後の闇より不意に現れ出た夕立を、吸血鬼はいなし損ねる。花と化している長剣では間に合わず、短剣では短すぎる。結果として体当たる勢いで背に突き立つを許すこととなった刃にぐらりと前へ傾ぎ、踏みしめた足を軸に後方へ短剣で斬り返すが既に夕立は飛び退った後だ。
『がふっ、ふ、……ふふ? 次は……貴方はどなた?』
 ぼたぼたぼたと二者の間に落つ血肉が騒がしい。
 夕立の首筋にはピッと新たな線が刻まれたが、今更。
「どっ……ちが、先に死ぬか、ゲームしましょ、か」
 ――つまるところ、そういうことだ。複数の怨敵を目の前にした怨念を宿すなどという危険行為、ぐつぐつ渦巻く呪縛に制御権は取って取られてで、夕立の声はいよいよ枯れている。
 お好きでしょうと思う通りには続けられず。だけれども、ちかりと同じ色して射竦める眼が物語っていた、やもしれない。
『面白い……!』
 視線の交錯は一瞬。一息に降り注ぐ青薔薇を切り裂きながら夕立は駆ける。逃げる。次のそのときまで。吐きつける血で汚して、黒に近付けて。闇へ引き込んで、闇のひとつに溶けて。前後不覚で心臓とズタズタの手足だけがやけに忙しなく駆けたがる。
 血、だと思ってはいるが、吐くそのひとつひとつが言葉でもあった。
「死ね」「ぐちゃ」「惨たらしく」「臓物を」「殺す」「ぐちゃぐちゃ」「殺せ!!」――何人分かの。"どなた"? 仮に答えたところで彼の女は、つまらぬ命のひとつひとつを覚えてもいないだろう。
 イジワル同士楽しませてやる義理などない。殺せ、可及的速やかに。に、にと鳴り響く灰の世界にふと花びらが止んだ。
 代わりに影が。
 地にふわふわ影を落とし、どこかで見たような小型の機械たちが音も無く浮いている。薔薇の花を受け止めながら。
「本当の本当に大暴れしちゃって、まぁ……」
 やだやだこれでは戦闘狂同士のバトルに迷い込んじゃったカワイソウな私、だ。
 構わずどうぞお好きにと言いたくとも、これは仕事で、それに……片方は知った顔。すれ違う夕立を呼び止めず、桜人は色んな風でぼっさぼさに混ぜられた髪を梳かしては漸く呼吸を整えたらしき吸血鬼へ向き直った。
 呼びつけた小型機械兵器が散発的なレーザー光線で気を引いていた。一度に薙ぎ払われる様にはゾッとしないものがあるが、"猟兵を隠す"という役目としては十分だ。現に夕立の姿を見失ったらしきブルーローズは忌々し気に吐息を零して。
『――そう。貴方もゲームの参加者ね?』
「いやぁ。どっちかっていうと只の通りすがりでー……」
「なんて話は通りませんよねぇ!!」
 この間、一秒となく。
 真空波じみた斬撃が飛んでくるのを紙一重で躱し、いやすこし頭のてっぺんが削げたかもしれないが、ともかく桜人は駆け出した。
 追撃の際々ずつを縫うようにすり抜けてゆく。合間に飛び交い、盾となって真っ二つになる機械がばちばちと末期の息を吐く。ああはなりたくない。なりたくないというのに、何故、どうしてまたこんな役回りを――……上がりそうになった息を、どんと自分の胸を叩き叱咤する。
「ふっ、でも……屈辱を与えるのが趣味ですって? おにごっこが趣味に変えたらどうですか、わたし、ごとき、に追いつけないようではっ」
 やめろ。地面や宙を蹴ってゴムボールか何かの如く跳躍、距離を詰めてくる化物相手に自称只の人間が出来ることなど知れている。
 例えば。  待った、死体に躓いた。
「ふぐぅっ」
 どべしゃああと頭から泥濘に突っ込む桜人は即座に身を起こそうとするも、ついた手へ投擲された短剣が突き立つ。
 死にたくなけりゃ腕を捨てろ、とな。ドラマか何かで見た光景も、体感するとなるとまた別だ。痛いし、熱いし、脂汗は出るし、それに意外に絶叫は出ない。
「っ、ぅう……」
 抗い、デカい口を叩いたものと同じ口で、息を震わせちいさく呻く様はさぞ楽しく映ったろう。とっ、と真ん前に降り立つ吸血鬼は花より戻した長剣の切っ先で顎を上げさせ獲物を見下ろした。だくだく、流れ出る血が広がってゆく。
『鬼ごっことやらの鬼は、つかまえた相手でどう遊んでも良いのよね?』
「やれるものなら。……その前にあなたが地べたを這いずり回ることになるでしょうけど、ね」
 やめろってのに。口が動く。片腕を握りしめながら、尚も啖呵を切る桜人へ三日月めいた笑みが降ったとき。
 もうひとつ。
 盾程度の役にしか立たぬ鉄屑に見せかけた機械兵器たちが織り成すトリック・光学迷彩の風景を歪ませて、月をも断つ斬撃が降っていた。
 ザ、ァ、と枯草が揺れる。
 夕立であった。桜人の奥の手は夕立に闇に潜むだけではない、より質の高い意識外からの強襲を可能にさせて。
「這いつくばれ」
 ゆえに刃が抉るのはブルーローズの側。
 先より深く、背だ。臓腑にまで届けと深く。吸血鬼は自らの力を誇示しようとする、力を込める、呼吸する度思い出すだろう、二度も無様に与えられた背の傷を!
 そしてそれを齎らした者を。昏く淀んだ、紅い眼の奥底に無数に見とめただろう。"どなた"、の答。
『な、ぁ』
「……は。 ほら、オレが、言う側だ」
 笑わせているのは夕立であって、夕立ではない。
 折れ、先に膝を土で汚したのは女。突き立てた背と刀に凭れるようにずるりと、それきり崩れる少年"たち"は、影も残さぬ炎の渦中に消えた。そう。いつしか足元には赤々とした血ではない、炎が広がっていて――。

「まだ、まだまだ楽しみ足りないご様子で」

 ――入れ替わりにその炎よりぬうと現われ出、身を引かんとする吸血鬼の腕を掴み取る女が……神楽耶が居る。炎の海を呼ばわった張本人が。
 続きを踊って差し上げます。どうぞ、余所見なさらないでくださいね?
『くっ』
 受けた刀傷に、這い上がる熱に、眉を顰めた吸血鬼は直ぐに掴まれた側の腕を銀焔に変えることですり抜けようとするも、赤々とした焔は勢いを増し追い縋る。神楽耶の逆の手には抜身の刀。殺意満載に突き入れるそれが、対峙する女の脇腹をこそいだ。
 ぐっと息を呑む吸血鬼が叩き下ろす長剣がそれ以上を進ませず阻むが、間髪入れず逆手で繰り出される柄頭の殴打を神楽耶は後ろへと上体を倒し躱してみせる。品良く切り揃えられた黒髪の毛先だけがぱらぱらと取り残され、銀に赤に照らし出され――ほんの薄皮一枚の先を横切る暴力にも、瞬きの一度なく、意識を注ぎ、見通す。
 尅珀燠手。発動済のユーベルコードは、自らの炎熱の及ぶ範囲の出来事を神楽耶に精確に知覚させる。
 その力は瞬間的な未来予知の連続めいていた。
 夕立が倒れることも知っていた。知った上で、踏み越えた上で、勝ちを掴みにゆく。立場が逆なら彼だってそうした筈だ。――なにより。
「這わせて――折ってくださるんでしょう、わたくしのことも?」
『っ……いいでしょう、お望み通りに!』
 ガガガガガガ!!
 一秒、二秒という刹那に鳴り響くそれが削り合う刃同士の立てる音と気付ける者がどれほどいよう。
 合間に紛れ込んだ炭が木っ端に吹き飛ばされる。
 二者を囲って燃え上がる紅蓮は鎮まる様子もなく、ごうごうと強まる一方だ。それはそうだろう。炎は神楽耶で、神楽耶が炎、死線を切り結ぶほどに闘志と感覚は研ぎ澄まされ尚の事"視えてくる"。
 隙が無い。ではどうするか? 単純なこと。
(「左脇から……」)
 一、と、逆袈裟の斬り上げへ斬り下ろしを噛ませ。
(「次に」)
 もう一方。赤き炎の守護を破り突き出る銀に燃ゆ鬼の手へ、神楽耶は己が首を晒すのだ。
 息を、力を抜いた。細い首にガッと五指が絡む。"捉えた"! 瞬間肉を得、実体化した吸血鬼のそれが。首をへし折らんと力を強め――しかし。
 ――口元に弧を描いたのはひとりの女のみならず。
 ごおうっ!!
 このときを待っていたとばかりに。生じた天を衝く業火の柱が互いを繋ぐ腕を焼き、そして仰け反る吸血鬼の胸から顔面へは直後刀傷がぱっ……くりと一筋。火柱ごと断ち、神楽耶が奔らせた本命のひと薙ぎであった。
『ちィッ!』
 誘われた、と身をもって気付く。
 力任せに蹴り飛ばし距離を取らんとするブルーローズ。
「っ――……ひゅ、ふは、……ふ、お里が知れますよ」
 だが微かな挙動、ほんの踏み込みの強弱の変化ほどの前兆を読み取った神楽耶は片腕を間に捻じ込み胴への直撃を防いだ。重く鈍い音が立つが、相手のそれに比べれば。一瞬にして炭化した片腕はいくらオブリビオンだとて満足に動かせまい。
 後に繋がる傷を与えてやった。「ご満足頂けるリードでしたか?」赤々濡れる面を見るに、尋ねるまでもないだろうか。神楽耶自身も骨をやられた気道が狭まりつつあるのを自覚するが、まだ時間はある。下すべき敵が見える。刻んでやろう。粉微塵に――――と、ざりりと靴裏が地面を擦る。
 彼我の距離わずか数歩。
 ともに刃を振り翳す、かに見えたが、神楽耶は柄に添えていた指をスッと唇へ運んだ。
「ですが、斬り刻めるのはわたくしだけではありませんし?」
 以前までの己ならば後先考えず踏み込んだだろうとも。
 だとして今は。信じ頼ってもよいものが、増えた。炎熱の範囲に知覚した"飛来物"に備え、冷静にいち早くの離脱を選んだ剣士が飛び退くのを牙を剥き出しにした戦好きが斬撃にて追う。
 待て、の声は、ざあああああと集う機械の群れが二者の間を遮って吹きつけたことで、薄れて。
「流石。ないすたいみんぐ、です」
「あんまり期待されても私困るんですけど」
 ガギィッ。火花散り弾かれる吸血鬼の剣。なんだかんだとボロッボロのまま支援に入った桜人は溜め息がちに、だが健在な逃げ足で嵐のすべて斬り捨てられる前にと駆け抜ける。
 傍を飛ぶ数機の集まりには激闘の間に回収したのだろう、気を失った夕立が引っ掛かっている。死に顔にしたって安らかだ、文字通りに憑きものが落ちたかの寝顔を晒して。
 仰ぐ空には視界いっぱいの星雲――手を伸ばせば届くのではないか。そう錯覚するほど間近に、銀河が迫ってきていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルイス・グリッド
アドリブ・共闘歓迎
欠損なし

まあ、こういう奴だと分かってはいたがな
覚悟もしているつもりだ、好きな様にかかって来いよ。性悪女
この攻撃でも彼らが受けた痛みの億分の1にも達していないだろうがな

SPDで判定
【視力】【暗視】【聞き耳】で【情報収集】し【戦闘知識】や【見切り】【早業】で攻撃を回避
多少は【覚悟】【勇気】【気合い】で攻撃を受けても、目のメガリスの橙の災いの爆発【爆撃】を【全力魔法】【スナイパー】で当てて視界を奪い敵の【体勢を崩す】
それから【迷彩】【悪路走破】で近づき、銀腕を【武器改造】で剣にして【先制攻撃】【怪力】【早業】【捨て身の一撃】を使いUCで攻撃する


ルカ・ウェンズ
仲間の昆虫戦車に私のかわいい子と言ったら、一児の父の父ですからと言われてしまったわ・・・こやつめ、ハハハ♪
それはそれとして黒幕も出てきたし真の姿を開放。強そうだし囲んで叩かないと、くらえ!初撃からユーベルコード!

敵が吸血鬼かどうか分からないけど吸血鬼は流れる水の中では動けないと聞いたことがあるから【天候操作】で雨を降らすことができないか試してみるわ。快晴にしたいけど、この世界では難しそうだし、おのれ!吸血鬼めが!

それに敵のユーベルコードを少しでも防ぐために【オーラ防御】で身を守り【残像】で敵を惑わしながら戦うわ。近寄られないように電撃で牽制もしないと【ブレス攻撃】これで感電してくれないかしら?




 銀河の正体は次元をも引き裂く斬撃であった。
 否、斬撃、と呼べるだろうか。星が爆発を起こすように連鎖的に世界が弾け、千切れ飛んでゆく。赤茶けた土も、折れた農具も、誰かさんの骸骨も、すべて闇に引き摺り込んでは宙を漂う者――真の姿を解放したルカは、自らもまた暗黒の一部と化しながらこてりと首を傾いだ。
「囲んで叩く場面よね?」
「ああ、認識通りだが。精々、エンジンだけは食べ残してくれると助かる……!」
 片やルイス。土塊たちを葬ったその足で駆け来た二人だ。
 突如として周囲を斬り飛ばされ、そして自身も血すら零れぬ異様な切り傷を幾筋刻まれたブルーローズは、闇をも恐れず果敢に跳ぶルイスの闘志露わに燃ゆ橙の眸に漸く危機を認識して短剣を薙いだ。
 未だ距離がある。ならば狙いは。
『――散りなさい!』
「当然、そう来るだろうな」
 剣を花弁に変えての牽制。姿をくらませ、その間に逆側の長剣で一突き、と、大方そんな心算だろう。
 ルイスとて伊達に傭兵をやってはいない、武器を持つ人型相手ならば尚更考えの読みやすさが違った。ぐわりと渦を巻いて吹きつける青薔薇に対して、足は止めず先ずは真逆の熱と光を有するメガリスで対抗する。義眼をはめこんだ左目が"敵"を捉えれば、たちまちに二者の間に爆発が生じた。花弁が束になって吹き飛ぶ。
 そうでなくとも熱されぐんにゃりと萎れた花弁は、猫の爪程度の引っかき傷しか齎さない。それらを腕で弾き落としつつ、染め変えた色の中を駆けるルイス。
『くぅっ』
 閃光から目元を庇う吸血鬼。 そして。
「とりあえず……色々邪魔!」
 闇のうちに真紅の二つの点が、禍々しく光を放つ。
 不発に終わった花を直ぐ手元へ戻し接近戦に備えんとするのを尚も阻むのが、ルカ。手を振るえばひゅん、ひゅひゅひゅんとした軽い風切りの音が鳴るが、実際に宙に開いた裂け目はもっと夥しい数をしていて。
 裂け目の向こうは異次元、とでもいうのか、吸い寄せられる花弁たちはそれきり戻っては来ない。
「それに、ちょっと焦げ臭いわね」
 剣へと戻りかけた花弁の集合を遅れさせる。ルカのお掃除はそこで満足と休むことなく、もう一手。溶け落ちた翼にも見える無数の影を震わせながらより高くへと飛び立った。
『逃げる気かしら、  ――ッ!!』
「防いだか。だが!」
 間置かず、ぎゃりりッと火花を上げるは銀の刃と変じたルイスの右腕と、ブルーローズの長剣。
 爆炎を切り抜けるとともに外套の有す迷彩を機能させたルイスの、その足取り、微かな空気の揺れを察知出来たことは決闘姫を名乗るだけがある。しかし反応が後手にまわった女の側は腕の構えが多分に詰まっている。圧し切られる、そう直感した膝蹴りが紫電の速さで繰り出されるも、それを見越して左拳を合わせるルイスの方が一歩先をゆく。
「ここからだ……!」
 飛び退くことも出来たろう。それでも、前へのみ向かう。一度死した、無理の利く身体は一挙一動毎に血を零せど、地獄にともに置いてきた痛みも恐れも竦む要因となり得ない。
 拳が伝わす衝撃。ルイスが与えた膝蓋骨がぐにゃりと陥没するかの痛打に、片膝を折りかける鬼はだが熾烈な戦いに――待ち望んだこの夜に、瞳へ狂気的な色を灯し咳き込んで笑った。至近だ。ルイスへもまた、血が吐きつけられる。
『っ、う、面白い得物を使うのね……! よく見せてくださるかしら』
「性悪女と長話する舌は持っていない」
 だとしてルイスは笑いも怒りもせず、そして拭いもせずに血濡れた頬のまま噛み合っていた剣を弾き上げた。
 互いに正面が開く――、短剣を手にしていればこの一瞬を縫えたであろう女と違い、面白いと評されたルイスの右腕のメガリスは自在にその刃身を移ろわせている。
 ああ、乞われずとも見せる心算だとも。
 土塊と化した命を屠ったものと同じ、手と業。銀武の舞のお披露目だ。
 ギギィッと骨が悲鳴を上げるかの音だけ残し、およそ人間には実現不可能な速度で"刃自体が"跳ね回る。短剣から長剣まで、一閃ごとに大小バラバラな銀の筋が宙へ散らばるのだ。ルカの引き起こす次元断つ斬撃とはまた違う、実体があり、それでいて捉えられぬ連続攻撃。
『ぐううぅぅぅ!! ッあああ!!』
 胸を、腹を、一瞬ごとにより深く割り開かれながらも吸血鬼が突き出した長剣は触れる刃に左胸から逸らされ、ルイスの腹を貫いた。ぶつんっ。断裂する内臓が何事か叫ぶが、それよりも行き交う剣閃の音の方がずっと騒がしい。
 ――この攻撃でも、彼らが受けた痛みの億分の一にも達していないだろう。
 丈夫な器を持つモノ同士の、何方かが頽れるまで退くことのない決闘。 ――――では何が差を分けるのか、突き抜けた長剣を握る鬼の手首を左手に掴み取って、ルイスは。
「……その程度の覚悟だとでも?」
「お熱いところ邪魔するわ」
 ルカの機に繋げる。

 永遠にも思えた二者の殺し合いは、その実、十秒ほどの出来事であった。
 ちょうど吸血鬼の後方の空、ルイスには窺える角度へ降り来ていたルカがでは何を画策していたかといえば、こうだ。
「本当は快晴にしたいのだけど。今はこれで我慢しておきましょう」
 空の、彼女の背後に夜を薄めるほど濃い色の雲が呼び集められている。雨雲だ。びかびかとした……後光にしてはおどろおどろしい原色の閃光を背負う手が振り下ろされれば、その雲たちから一斉に矢の如き鋭い雨粒が降り落ちる。 天候の操作。伝承では吸血鬼は水の中では動けないと聞いたけれど、さてどうかしら?
 ――いずれにせよ。
「それもこれもこんな世界にした奴らの所為ね」
 急ぎ主の加勢へとざあざあ復帰していた青薔薇たちは、豪雨の勢いに打ち下ろされ、再び地面へと縫い付けられることとなる。
 土が流れ、死臭が沈む。甲虫戦車が大いに暴れたことで刻まれた荒々しいクレーターもちょっとは誤魔化せることだろう。ひとつずつ穴を埋めるなんて、金の香りのしない苛酷な肉体労働は御免であるし。 行き先を吸血鬼と見据え、ぎゅんっと残像を残しカーブで滑り降りるルカに対して、追いつけるものは最早何もいない。
 水飛沫が散る。 黒塗りの影がぱっくり、口と思しき箇所を開いた。
 直後吐き出されるブレスは電流を帯び、吸血鬼が次の手を打つより先に到達する。暗黒の魔法を練り、対峙するルイスを突き飛ばすよりも早くだ。ギッ、と、引き攣った喘ぎを漏らすもしかし手首は固く握り込まれており抜け出せず。
『はな、……』
 離すと思うか? とはいえ共に死に直してやる気もない。纏う覇気で電流を受け流しつつ、無論流す先は長剣という金属で繋がれた吸血鬼であって、猛スピードで迫るルカを視界に収めながらもルイスは此処に来て初めて薄らと笑ってやった。
「痛むだろうが。相応の報いを味わうことだ」
『――――!!』
 着弾点へと一等凶暴なクレーターをもうひとつ追加して。
「喰らいなさい」
 グワッと咲いた人喰いのコスモス、次元を裂く黒爪のひと薙ぎが、遂にブルーローズ本体を捉えたときのことだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
描写/2
共闘/結希(f24164)
これまでの共闘経験によって、戦況やその視線から意図を読み協調行動を試みる

前衛を任せた結希の隙を埋め、また敵の移動を阻むように牽制射撃で援護する
結希の死角へ敵を立ち入らせず、思う存分剣を振るえる状況を作る

花弁の合間にユーベルコードで反撃
回避されないタイミング、結希が敵を引き付けた隙を突いて確実に撃ち込む
その瞬間を逃さない為に、花弁の被弾も覚悟の上で怯まず常に敵から目を離さない

全く同感だ。あれのやり方は気に入らない、必ずこの場で討伐する
共に戦う者の信に応える為、どれだけ傷が増えても交戦を続ける
体が動くなら、まだ戦える
全てを救えないとしても、まだ出来ることはある筈だ


春乃・結希
2・『with』の破損のみNG
共闘・シキ(f09107)

言葉は無くとも、過去や今回の共闘の経験から
目配せだけで意思疎通

UC発動
正面から突撃
あの人なら、きっと…!
死角や隙はシキさんが全てカバーしてくれると信じ
『with』と『wanderer』でひたすら攻め続ける【覚悟】
シキさんへの注意を逸らし、確実にUCを撃ち込んで貰うために

浮遊で距離を取ろうとしても、力尽くで引き摺り下ろす【怪力】
翼も花弁からの盾になるかもしれない
死なない限り、身体は焔で動かせる【激痛耐性】

あなたは私の中の嫌いランキング上位です
絶対ぶっ殺します
いま私が一緒に居るのは『with』だけや無いから
この世界の希望を
これ以上潰させない




 裂かれた胴を押さえよろめく吸血鬼。その、口から零れ落ちた血が地へ着くか否かといった時点でジュッと蒸発する。
 降り注いでいた雨粒も同様だ。"何かに、消し飛ばされている"。
『――ぁ』
 吹きつける熱風。生命の色をした眩い火の粉、そうして僅か上方より叩き下ろされるは大剣の重量。
 地が砕ける。突風が爆発めいて弾けた。
『ぐ、うう!?』
「なによりです。……まだ、立っていてくれてっ!」
 飛び込んだ炎の塊は低く地を削り取るように、勇壮なる翼で風を叩く結希であった。
 結希は人間だ。本来持ち得ぬ筈の、背に広げた緋色の翼は強烈なまでの自己暗示によって呼び起こされた、いわば魂の発露。噴出する炎のかたちをしたそれがごうごうと闘志を轟かせ、空を焦がし、敵を焼く。
 ――逸る。
 ――――この"大嫌い"を、はやく、はやく!
『舐められた、ものですね!』
 吹き飛ぶブルーローズは暴風に煽られながらも長剣をくるくる回し前へと構える、が、爆炎を纏い、着地を挟んでぐんと踏み切った結希が飛び掛かる力と速さの方がうんと苛烈だ。
 真正面からブチ抜く!
 斬り上げて――殴りつける。ガゴォッと響き渡る快音は、剣が立てたものというより、鈍器のそれに近かろう。
「初めに言っておきましょうか。あなたは私の中の嫌いランキング上位です」
 寸でで挟む短剣で直撃こそ防いだ吸血鬼であったが、衝撃を殺しきるには軽すぎる。あばらは折れ、横殴りに弾き飛ばされた先の大地で盛大に肉を擦り下ろされることとなった。――吐き捨てる血液量はすっかり危険域で。
『……ハ、残念ね、ひとりで飛び込んでくるような命知らずはとても大好きなのだけれど』
 しかしその双眸は煮え滾る風に淀みを増す。
 未だ戦いを捨ててはいない。
 追撃を加えるため間髪入れず飛び立つ結希に対して、投げ遣る短剣を花弁へと変じさせ渦を放つのだ。良い自己紹介が聞けたではないか! この剣士は怒りに盲目となっている、村の者たちにも多かった、突っ込むしか能のない典型的な――。
「都合の良い玩具だと思ったなら、残念だったな」
 ――玩具になると、確かにそう思って。

 ダァンッ。

 直後に飛来する一発の銃弾が短剣を弾き飛ばす光景など、まるで予測が出来ていなかった。
 正真正銘の一発目、なにせ前兆となる殺気すらなかった。 結希よりもいくらか後方、煙を吐く銃を突きつけるシキはあらゆる面で熟達した射手であった。
 盲目は何方だというのか。飛ばされた短剣は結希よりも大きく離れた地面に突き立って花弁へと解け、当然それでは彼女の真っ直ぐな加速に取り残される。羽ばたきがまた、寄り付くものを押しのけ、燃やした。
「言い忘れていてすみませんね。私、ひとりじゃないので」
 握りしめる大剣、with。それに正確な射撃を行ってくれた猟兵、シキ。
 そう、結希は無策と無鉄砲とで戦っているわけではない。信じられる、任せられると思える仲間が後ろからも支えてくれるから、燃える己の心にずっと正直でいられる。
『ぐ……!!』
 歯噛みしたブルーローズの取った手は、逃げではなく攻め。その暇もなかったというのが正しかろうが、女もまた戦場に身を置く者。"到底自分に敵わぬ者"ばかりを相手にしてきた腕が鈍っていようと――、呼吸ほどの間に練り上げた暗黒魔法が、漆黒の大剣とかち合う。
 ジュウジュウと燃やし、それを蝕み返し、そして燃やすという束の間の力と力の拮抗。
「はあああああ!」
 ザンッッ!! と突き抜けた結希はそれだけではない、シキの連射した複数の銃弾をも纏う火の粉のひとつのように連れていた。
 この、一瞬にだ。 フルバースト・ショット、惜しみなく捧げられたシロガネの牙は、螺旋を描きながら炎熱に溶け消えるではない、むしろ鋭さを増して少女を追い越し先ず鬼の肩を貫く。
『な』
 血を飛沫かせ、どっと押し込まれる身体。
 手にした長剣が狙いを乱され空を切る。
「もう、一発ッ!」
 鉄塊の如き強かな斬撃が、――炸裂した。

 結希とシキ。
 二人はこの夜のみならず、いくつもの戦場で背を預けあった戦友でもある。
 ――全く同感だ。あれのやり方は気に入らない、必ずこの場で討伐する。
 それは、共に駆け来る最中、結希が口にした決意にシキが重ねた言葉だ。前で戦う少女だけではない、男もまた決めていたことがある。"信に応えるため"。どれほど傷付くことがあろうと、構わず、すべてを銃弾に込めると。
「……狙いたいのなら狙えば良い」
 大遅刻で舞い上がった青薔薇の花弁が眼前へと迫れど、その分も結希への負担が減るまで、だ。シキは極々平静と、シロガネのスライドを引いた。落ちたマガジンが跳ねる。その音が最も大きく鼓膜を震わすほど、不思議な静けさがあった。
 いま、再装填した全弾用いて花吹雪を撃ち抜けば相応の結果が得られると戦慣れした頭はシミュレートしているが、すっと腕を持ち上げた先で銃口は倒すべき存在へと合わせる。
 理不尽なる離別に嘆き、悲しむ人々とすれ違いながら此処まで来た。
(「全てを救えないとしても、まだ出来ることはある筈だ」)
 次の一歩を。
 足音ではなく、銃声が示す。

 さあ、さあああああと金属同士の擦れあう音を立て花弁が舞う。赤色に染まって。
 強烈、と、そう評す他ない結希の一撃とともに舞い込んだ銃弾に更に大きく消耗した吸血鬼はだが、反抗する者に痛みを与えてやったと愉悦する間もなく剣を振るっている。
 真っ向より向かい合う一刀同士の戦い。軌跡に暗黒魔法を添わせ手数を増やす、種として強大なオブリビオンに対して、結希も決して遅れを取っていない、wandererの蒸気加速が変則的な動きを可能にさせる。逸らした首の横をヒュッと過ぎた剣に散る血の珠は、ほぼ同時に火の粉と化して。
「絶対に……ぶっ殺します」
『――――、』
 黒である筈の眼差しもまた炎へと近付く。ぞくりとするものがあった。
 この世界の希望を。これ以上、潰させない。 ――強固な意志によって立ち続ける戦士の姿は。
『綺麗ね』
 踏み躙ってあげたならどんな顔をするかしら? ボロボロでも"悪癖"に笑みを歪めるブルーローズは、とはいえあまりに分が悪い、大剣の薙ぐ風に乗じて宙に浮いての後退を目論見る。
 無論、置き土産に拳を打ち付ける剣のその腹へ闇の爆発を叩き込むのも忘れない。さすればさしもの結希であれ怯むと、その、読みまでもがまさか甘いとは。
「させ、ない」
 思うまい。 手首の肉が弾けたのだ、頼りの剣が跳ね飛ばされ、その両手は血だらけ。
 血だらけのまま。一時とはいえ、結希はwithを自ずと手放して。浮遊した吸血鬼の胸倉を引っ掴み、全力の頭突きをブチ当てた。
『!? ぁ、ぐ』
「っ、……!!」
 行かせるものか!!!!
 だって銃声が聴こえたのだ。花嵐の向こうから。尚も一緒に戦ってくれている人の"声"が!
 引き摺り下ろす。この場に留める。
 視界を血が伝う所為だけでなくて。剥き出しの骨の白を、業火が舐めて暖色に近付ける。
 筋組織の削げ落ちた腕だ。本来ならばまともに動く筈のないそれを、強烈な自己暗示が動くものとして認識させた。withと共にある私は。withの手を取れずとも、私は――――、今は。

 負けはしない、と、言ったのは何方だったろう。

「また、無茶をするな」
 ――――。
 築いた道を通って正しく辿り着いた銃弾が、次々に鬼の身へ捻じ込まれるのは直後。
 遅れて響き渡るひとつの銃声は結希のほど近くから。その、最後のおまけの特注弾がブルーローズを大いに跳ね転がすこととなる、これはwithの分だとちょうどそんな具合で。
 制御の弱まり、地へ落ちた薔薇の花弁を踏みしめる足音。
 振り返るまでもなく並ぶ、音の主もまた全身血塗れといった惨状だ。そんな彼から拾い上げる鉄塊剣をほらと差し出され、手を伸ばす、結希は。
「シキさんこそ」
 ちょっとおかしそうに眉を下げて、引き結び続けていた口元を緩めた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

エドガー・ブライトマン
2
◆左腕のみ、負傷すると赤い花びら、どろりとした泥のような血が出る

キミはブルーローズ君というのかい
名前にはどこか親しみを感じるけれど、私の知るバラとは違うみたい
彼女は、ワガママで高飛車で気が強くて嫉妬深くてかわいらしく…
何より、か弱きものを虐げるようなコトは、決してしない

それはキミが冠するには過ぎた名前だ
名を天に返し、キミは骸の海に帰りたまえ

傷はいくつかあるけれど、気にせず行く
別に痛くないし
ただ左腕は攻撃を受けないよう《かばう》

《早業》で間合いを詰め、長剣と短剣の攻撃には私も剣で対抗
ブルーローズ君が暗黒魔法とやらを放つより早く

キミにも紹介しよう。さっき話した私のバラ
さあレディ、後はキミの仕事だ


ニコラス・エスクード
【2】

何とも陳腐で芸の無い台詞だ
幾度も幾度も、もはや聞き飽きた言葉だ
無為無聊を嘆くその傲慢さ
二度と吐けぬようにしてやらねばな

我が身である盾を構え相対する
盾である我が身を以って立ちはだかる
身を包む黒鉄の同胞らと共に
この仮初の身を一つの刃として振るうが為に

幾千の刃が襲い掛かろうとも
万魔の闇が迫り来ようとも
盾として創られ、盾であり続ける我が身が
敵前より退く事などありはしない

我らが鉄の一片と成り果てようとも
この身は刃を受け留める為にあり
この身に抱いた復讐の意思を振るう為にある

「素ッ首、叩き落としてやろう」

その瞳が二度と輝かぬように
その口が二度と大言を吐けぬように
報復の刃にて、一刃を呉れてやろう




 地べたを這い蹲れ、と。
 何とも陳腐で芸の無い台詞だ。幾度も幾度も、もはや聞き飽きた言葉だ。……こと、この世界に生きるニコラスにとっては。
「無為無聊を嘆く傲慢さ。二度と吐けぬようにしてやらねばな」
「ああ。ところで、キミの名前は――……ブルーローズ君といったかな」
 エドガーと、ニコラス。
 押し寄せる猟兵たちの確かな力と勢いに、痛み分けとはいえ押されつつある吸血鬼はじりりと間合いをはかる。
 痛み分け? そう思いたいのは当人だけかもしれなかった。
 微かな一挙ごとにぼろ、ぼろぼろと血肉と炭化した諸々が零れ落ちてゆく。感覚。
「ちょっと親しみを覚えただけさ。その上で、私の知るバラとは違うと、改めて思っているところ」
 返る声はなく、別に真名を聞き出してどうこうなんてつもりはないんだけれど、と続けるエドガーのレイピアの鞘が鳴った。剣そのものは既に抜き出され、口振りと裏腹に抜かりなく前へと構えられている。
 いつでも殺し合えるその距離で。
 "彼女"はワガママで高飛車で気が強くて嫉妬深くてかわいらしく……、なにより、か弱きものを虐げるようなコトは、決してしない。「それはキミが冠するには過ぎた名前だ」俄かに強まった語気が、始まりを意味する。

『……ッ!!』
 ヒュンッッ、と、地を蹴り上げる吸血鬼の踏み込みは嘗てなく速い。
 初手より、全力で。足元とへ伝わせた魔法によるものだろう、おごり高ぶる様子はそこになく。しかし見極めてついてきたエドガーの剣は寸前でそれを受け取め、女の身体を上へと流す。『――ああァ!』まだだ。無理な体勢から空を蹴り、宙で身を捻っての連続攻撃。重ね合わされた二刃が直上から降り、エドガーの身を刻む。
 か、と、思われたが。
 そんな展開もまた、当人だけの願望に過ぎない。
 現実に伝わったのは柔い肉にナイフを通すそれではない、分厚い鉄塊を拳で殴りつけたかのふざけた手応え!
「引き受けよう」
 嘗て守護者が誇った、そうしてニコラスをそうあるべきと終生形作る、盾としての本領発揮だ。
 強襲を連携に阻まれ舌打ちを零しつつも、しかしブルーローズの本命はここからである。これで良い。これで。
『……良いでしょう!! その冑、剥ぎ取ってあげるのが楽しみだわ』
 瞬間、二連の斬撃が呼び起こす暗黒魔法・シェイドストリーム。擦れ合う剣と盾との間に、猛烈に膨れ上がった闇の魔力が爆発する。黒色の渦が天まで揺らめき、そして四散する。
 大地が捲れ死した者の残骸が飛び交う。 痛みの暴風。
 だが。 刮目せよ、とばかり。
 盟のミクラーシュ――盾たる己自身を構えたニコラスの背後へは、一筋とてそれらの禍々しさは届かない。触れる端から掻き消される如く。黒獅の甲冑は光輝を呑むが、闇をもまた内へと抱え込むかのようだ。
 ――事実、ユーベルコードは既に発動している。
 レクス・タリオニス、やがて届けると誓う報復の刃に向けて、全ての痛みを力へと変えるため。幾千の刃、万魔の闇、いずれも恐るるに足らず。
「分かったよ、ニコラス君」
 金糸がばらばらと"只の風"に躍る中、庇われる立場となったエドガーは聡くその志を理解した。先の共闘もある。ならば自らが取るべき選択はひとつきり。
『さぁ……! 仁王立ちで死ぬとは、騎士の誉れかしら?』
 今宵、邪魔され続けた絶技の成功に良い気分になっているブルーローズは左右の剣を振り払い、トドメを打つべく駆け出している。それに相対するかたちで、大盾の脇より飛び出したエドガーが側面をついた。
「楽しそうだね」
 だんっ! 踏み、跳ぶ。
 多くをニコラスが引き受けてくれたとて、闇の残滓はひたひたと気道に潜り込む。奴らはその爪牙で臓腑を引っ掻き、掻き回す。とはいえエドガー自身、そも人並の痛覚というものを有していなかった。痛みに歩みを緩めることはない。意識して守るものは唯一痛む左半身――主に左腕、そこに宿る赤薔薇のみで済んで。
 エドガーの左腕からぼたりと垂れ、零れ落ちるのは泥じみた血。
(「レディ。いつも悪いけれど、今日ももうすこしだけ付き合っておくれ」)
 二撃目。 ニコラスへ向けブルーローズがクロスさせた双剣の片方、焦げて握りの甘い方を斬り上げる細剣によって跳ね上げた。
 すうと息を吐けば血の味が。同じ、血の色をした双眸がぐわりと己へ動いたことを知りながらも、いいや知ってこそ、薄く笑いかける。「キミにも紹介しよう」と。――さっき話した私のバラ、
「さあレディ、後はキミの仕事だ」

 ざわと空気が震える。
 左手の、手袋を破り捨てたのはエドガーではない。その下から這い上がる黒き茨たちであった。
 マイ・フェア・レディ、お手をどうぞと差し伸べられた手は恭しくも、姫はその実、青ではなく、赤。手の甲にぽっと咲いた赤薔薇は刹那にその花弁を可憐に舞わせる。

 茨が、吸血鬼の手に残る長剣の刃に絡んだ。
『……な、ぁ!?』
 弾かれた、のみならず攻撃と拘束。瞬き二度ほどの間にこなしてみせるエドガーへと驚嘆したとて彼の姿を直ぐ見失う。
 ひら、ひらりと躍る赤薔薇の花弁が見掛けによらぬ鋭き獰猛さをもって視界を染め上げるのだ。肌へ触れれば喰らいつき、内へ入れば食い荒らす、王子が先ほど口にした通りのじゃじゃ馬ぶりで!
『ア、ぎ、ぁぁあああッ』
 絶叫。異様な角度へひねり上げられた手指から長剣は離れ、べっと吐き捨てられる。
 今、すぐに、拾わなくては――――、曝される暴力の花嵐に思考ばかりが空回りするが、何かお忘れではないだろうか?
 今一度震える空気、震わす黒。 それが残像刻んで豪速で薙がれる無骨な大剣の一振りであると知るのは、衝撃の波に斬り飛ばされた後のことだ。
 ザザザザンッと岩を砕くかの波音。
「……ふむ」
 鉄塊剣を叩きつけた大地に真っ直ぐな亀裂を生じさせ、仁王立ちして死んだ――などという妄言をも打ち払った、揮い手はニコラスである。
 割れた冑から覗く素顔は、はたして女の望んだような苦痛に歪むそれとは程遠く精悍に研ぎ澄まされたまま。
「報いようにも、痛みが足らんな」
 言ってのけた。
 歩み出ればぱらぱらと欠け落ちる鎧はそれなりのダメージを受けている筈だが、まるでそうと感じさせぬ風貌。伝い落ち、足元へ生まれた血だまりだけが生命体らしさを示している。
「ふ、お邪魔しちゃったかい?」
 ティータイムを終え気儘にひとやすみ、しゅるると茨を泳がせるレディに触れながらエドガーはそんな彼に肩を揺らした。次に、あられもない吹っ飛び方をして美しかった顔立ちの見る影もなくなった青のお姫様へ。
 飛び散った歯が何かの種のように。しかし彼の女が輝ける命を芽吹かせる日は、決して訪れぬのだ。
『……、ゥ、うう゛』
「おっと。無理に喋らなくともいい、キミがすべきこともひとつだ。その名を天に返し、骸の海に帰りたまえ」
 ゆらり身を起こす吸血鬼は噴き出す血を荒々しく拭っては忌々しげに唸る。
 さぞご立腹なのだろう。その、色濃く放たれる怒気も殺気もあってないように見下ろすニコラスは粛々と剣を構え直した。べったりぬめって濡れた刃身も、もとより引き斬るというより叩き落す用法なれば化粧に艶を増した程度の別しかなく。
 然すれば、このあたりで。
「如何した? 来るが良い。次の一刃にて素ッ首、叩き落としてやろう」
 予感に揺れる瞳へと、幾分も真実味を増した死刑宣告を。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冴木・蜜
2
引き続き他の猟兵のサポートを
皆さまの盾となり
治療薬として戦線を支えます

体内毒を濃縮
身体を液状化し
目立たなさを活かして物陰を渡り
物理攻撃を身体を捻じ込んで庇います

対象が複数ならば
より重傷の方を優先しつつ
身体を広げて対応
出来るだけ多く引き受けます

物理攻撃であるのなら
身体を液状化すれば問題ない
…まぁ痛みはありますが

攻撃を受けたら
飛び散った血肉を利用し『供犠』
なるべく多くの猟兵を治療した上で強化
身体が動く限り這いずり回り
皆さまを支えてみせます

身体強化はお手の物
麻酔を御所望であればそのように
魔法薬にもなってみせましょう

毒は薬に 薬は毒に
私は何にでもなってみせる
誰一人として倒れさせてなるものですか


鹿忍・由紀
2:欠損NG

毎日退屈ってのも生きづらそうだね
だからって付き合ってやろうとも思わないけど
ここできっちり終わらせなくちゃなぁ

ぐっと背伸びしてから向かい立つ
避けきるのは無理だと判断して
傷付くのも躊躇わず敵を真っ直ぐ見据えて飛び込む
痛みに反応する時間も無駄でしかない

接近してダガーで一閃
そのまま敵の攻撃を出来るだけいなして
致命傷は避けるよう立ち回る

やっぱ無理か、と呟いて
応戦しつつ耐えるのが難しくなれば
『虚空への献身』で加速して回避
纏った血から杭を作り上げ
お返しと言わんばかりに叩き込む
振り払おうとしても深く深く刺し貫いて
楽しげな吸血鬼を冷めた目で見る

ほんと、嫌になるくらい強いよね
さっさと消えて無くなってよ


ナルエリ・プローペ
[2]
良かった。姿が見えないので、逃げたのかなと思いました。
退屈なのでしょう。なら、今日は退屈しないと思いますよ。
少し前まで、私も似たようなものでした。今もあまり変わりはないかな。
何もかも与えられて、何一つ不自由は無かったから。

でも、地べたを這う感覚は、きっと経験した事が無いでしょう?
私も無いんです。私も貴方も、一度這ってみれば――退屈なんて言えないかも。どちらが先かな。

残像と先制攻撃で彼我の距離を詰めて、痛みには怯まずに剣を交え
物語は、勇者が悪者を退治したら、世界が変わるけれど
でも現実では、怖くても逃げずにいる
この村の方たちが、少しずつ世界を変えていくんです
見くびると、痛い目に遭いますよ




 勇気づけられる。
 知った、格好良いひとたちの戦いぶりに。
 凄い彼らみたいになれる? ――その答えは未だ、うまく分からなくとも。

「もう、退屈なさっていないようですね」
 良かった。姿が見えないので、逃げたのかなと思いました。
 ザッと晴れた二色の花嵐、その奥から歩み出る声の主、ナルエリへと鬼の眼がぎょろりと動いた。
 退屈。すこし前までナルエリもこの女と同じだった。何もかも与えられて、何一つ不自由は無い。ほどほどの旨味が約束され、代わり映えなく連綿と続いてゆくであろう日々、緩慢なる死とも呼べそうな――日々。今もあまり変わりないのかも、とすら。
「でも、地べたを這う感覚は経験したことが無いんです。……どんな気持ちかな?」
『ッこの、女ァ!』
 吼えるブルーローズは広げる翼めいて双剣を振り、払い、駆け出す。
 飽き飽き、冷え切っていた心はナルエリの指摘通り、猟兵との死闘を通してぐつぐつ煮え立つかのようだ。冷静に戦場を見通すべき、との重ね来た経験もこれでは。
 踏み出した足元へ舞い込むスローイングナイフが一本。
『!!』
「毎日退屈ってのも生きづらそうだね。だからって付き合ってやろうとも思わないけど」
 正確に足の甲を射抜くそれに足を取られがうんと前傾した上体、首スレスレを薄皮を斬り飛ばしながら過るものがもう一本。こちらはもう少し頑丈なダガーで、揮い手たる由紀の手を離れず収まっていた。
 ハッと息呑み視線を巡らせればナルエリの姿もそこにはない。
 空を切った短剣に一喜一憂することなく、むしろ斬り掛かったそのままの勢いに乗った由紀の回し蹴りが鬼の横腹へ炸裂する。オーバーサイズ気味のジャケットが自由に風に膨らんで。『ガッ ぁ』空気を吐いて跳ね飛ぶ鬼、行き先では剣を抜いたナルエリが銀閃の軌跡を光らせる。
 ――敗、北?
 ――――まさか!! 私こそが決闘姫。
『ぐ、うぅぅ!!』
 滑る大地へざりざりざりと深く爪を立て、剥げるそれにも構わず己の身体を押し留めるブルーローズにも意地があった。衝撃を殺し切れずに浮き上がった身は宙へ投げ出し、体操選手かのようにナルエリの頭上を宙返りで過ぎる。
 刹那、天と地で再び交錯した二人の眼差し。
 ギィンッ! 剣を振るうもまた同時、だ。銀の光が弾き合い、欠片の星屑を散りばめる。
『死、ねぇッ』
「聞けません。今はまだ」
 瞳を狙う、叩き下ろしの短剣の追撃を翳す腕で受けるナルエリ。骨が半ばで刃を止めた。眼差しは逸らさぬまま。
 ぶわりと飛び散った血は何方のものかはわからない。その色に染まる前にと、痛みにも怯むことなく突き出した切っ先が吸血鬼の胸へ鋭いお返しをする。「っ」ナルエリが腕を振るえば、転げ落ちるように飛び退くブルーローズ。
 流れる時の一瞬ごとに斬り結ぶ女たちの姿を、割れた大地を軽々駆け跳んでゆく由紀だけではない、ブラックタール……蜜もまた硝子越しに見据えた。
(「血が」)
 己の力が必要となるときは、いつも誰かが傷付いていたり、悲しんでいるとき。
 血の気の引く心地がするのは気分の問題だけではない。ごぼりと気泡を浮かべ、濃縮される体内毒が支度の出来たことを告げるから。――それでは、求められる通り。望む通りに。
 弾けるが如く液状化した蜜の白衣だけが風に飛んだ。
 本体は、由紀の落とす影に忍ぶようにして地を這い進んでいる。呼吸を整え、死線に極限まで神経を集中したナルエリがユーベルコードの域にまで高められた守りの型にて一太刀のうちに吸血鬼の長剣を打ち下ろしたとき、ぐっと体勢を崩す身へ由紀が迫る。
 次こそ捉えた。
「混ぜて」
 無視はするけれどされるのは気に障る、みたいな、猫のような一声。
 噛み付く刃は女の爛れた剥き出しの背へずぐりと突き立って、新鮮な呻きを上げさせる。――荒れる血の赤が、双つ、残像を残して振り返る。視認した頃には薙がれていた長剣の刃が、頭の位置を過ってゆくのを膝を折って際々で躱す由紀だ。
『――――!!』
 まさに猛攻。剣舞のそれでナルエリを押し返したブルーローズの刃が己の全方位を囲い埋めるように吹き荒ぶ。
 ちょっとした魔力も帯びているらしい、剣の起こす風に触れるだけでチリリと臓腑の焼ける感覚もセット。
 そんな暴風を眼前にして、ひゅっ、ひゅんっと肌や毛先を切り落としてゆく刃を"見て"避けている由紀も只者ではない。主にはeager eyes――、眼球に装着した高度演算デバイスの仕業だ。もらってもいいものだけもらう。流しておくべき血を。躱す労力を最小限にまで削ぎ落とした、ある種、無駄のない身のこなし。
『ッこの!』
「おっ、と」
 その拮抗を崩したのは、噛み合うダガーよって短剣を逸らされた吸血鬼が無手で繰り出した拳であった。
 ぽぉんと宙舞う短剣と、黒々とした闇の瘴気纏う拳。ふたつに描かれる放物線と直線を「あ、これは無理なやつだ」と粛々と受け入れる由紀がいて、そして受け入れることを良しとしないもうひとりが。
 ぐちゅんっ。
 由紀の足元から合間に伸び上がり、闇より黒く、弾けた。

「っっっ……!!」
 ぼたぼたぼたと中身が落ちて穴が開く。
 突き抜けた拳は左胸近く、心臓の位置。――……ニンゲンであれば、だけれど。そう、盾として己を使ったのは蜜であった。
 ブルーローズは一拍、虚を衝かれたかのように瞬いた。しかし直ぐにその手を銀の炎へと移ろわせる。溶かしてしまうのが最善に思える、そんな不思議でいて馴染みある手応えだったから。
『魔物の類ではないですか。どうして人間側に?』
「ぅ……あ、ぁ、ああぁ……」
 とめどなく零れ落ちるタールのからだ。
 身体中を杭に穿たれるようだ! 踏み躙る炎に、言葉にぎりりと歯を食いしばる蜜。鼻をつく、有毒な黒煙と臭いが濃く漂い始めた。けれども、吸血鬼はこの期に及んで蜜のような存在に"夢中"になっていてはいけなかった。
 たとえ一秒たりとて。
 ぴたりと揃った、二連の斬撃がその身を斬りつけるのは直後のこと。
「余裕と見えますが」
「さっさと消えて無くなってよ」
 ナルエリと、由紀。
 十字に奔った軌跡が、欠け落ちた黒き蜜の隙間を通してブルーローズへ辿り着いたのだ。『ッ』痛撃に息を呑んだ女は持ち上げていたタールを放り出して飛び退る。追撃阻止のため薙がれる炎の海にもすかさず踏み込み、詰めるナルエリ。
 由紀はといえば、剣と剣との苛烈なぶつかり合いにすっかり刃毀れしたナイフの一本を、くるりと回してポケットへ押し込んだ。
「…………はぁ」
 それにしても。
 ある程度の怠さ……精々、這い蹲る程度の負傷は甘受する気でいた身としては一気にイージーモードになったというか。楽で嬉しいけどいいのかなぁ、なんて、びたびたに崩れ落ちたブラックタールの青年の、とりあえず腕らしき部位を引き上げ後方へ押し遣る程度のことはする。人並みに。
 ひゅー、ひゅうと呼吸に混ざる水音がした。虫の息っぽい、が。
「痛くないの? 俺に恩を売っても大金が振り込まれたりはしないよ」
「……そういう、のでは、……ないので」
 お構いなくとふいと顔を背ける蜜は崩れてしまったひとのかたちを気にしているのだろうか。由紀としてはどちらだってなんだって構わぬことだ。まあ、この機を活かさぬほど愚鈍ではないってだけで。
 供犠、触れた手から、爆ぜた蜜の血肉が分け与える強化薬の流れ込むのを感じる。
 ゆえに、借りるねとだけ言い置いた。 ――駆ける。質の高められた一歩が、ぐんと身体を強く前へと飛ばした。
 地を踏む際に最も大きさを増す影に、滴り落ちる血の赤がぴちゃんと混ざる。その度に鍾乳石めいてメキメキと生える杭は、黒と赤とが入り混じり歪な形をして、なにより、獰猛に宙へ舞い上がる。
 虚空への献身。由紀のユーベルコードは、ナルエリと一対一の状況を作り出さんとし撃ち込まれた青薔薇の花弁の集まりのど真ん中を穿って四散させ。
「お返し」
 ほら、との、緩やかな腕の一振りにてドドドドドド!! ――と、すべてを一斉に射出した。
 さめた由紀の眼。流した血の量を補って余りある毒蜜の薬効も相俟って、その身の一部が形作った杭たちは、とてつもなく荒々しく風を哭かすというのに!
『は、』
 拙い。
 直感で悟ったブルーローズの足が惑いにいっとき乱れ、見落とさず、すかさず縫うナルエリの細剣の餌食となる。
 ぶしゃあと鮮血を飛沫かせる、青薔薇。剣は。ああ、花にして――、ではもう一方をと逆の手を動かすがしかし、どうにも感覚が鈍いのだ。 なにせ、気付かぬ間に剣の柄を取り落とすほどに崩壊が進んでいたのだから。
『なに……?』
「触れたでしょう。私に」
 答えをくれてやったのは蜜であった。
 劇毒としての性質を持つからだは、べたべたにこびりついた先、ブルーローズの片手を蝕み始めている。毒は薬に。薬は毒に。何にでもなってみせる、執念と献身。
 空想の物語の中によく出てくる、最弱のスライム(魔物)と同一視すべきである筈がない。
 同じことですよ、と引いた剣を突きつけるナルエリは静やかに語り掛けた。
「物語は、勇者が悪者を退治したら世界が変わるけれど。でも現実では、怖くても逃げずにいる……この村の方たちが、少しずつ世界を変えていくんです」
 見くびると、痛い目に遭いますよ。
 ――数多の杭に射貫かれた、苦しさに吐息を零すぱかりの吸血鬼には、何も言って返すことが出来ずに。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

リオネル・エコーズ
星鍵

今度は地面を這いずり回ってほしいだなんて
注文の多い領主だね
…それでいて生者も死者も大事にしない

貴方の未来は、貴方が思うよりもきっと短いよ

それを証明しに行こうかアルベルト
ここまで来たんだ
きっちりやり遂げなきゃ
一緒ならそれが出来るって思うから、笑顔で声をかけ俺は空へ

UCで流星を引き連れ全速力で飛び続ける
流星の間を武器・魔法が抜けてくるかもしれないし
敵の挙動はしっかり見て、感じて
放たれた物は魔鍵で叩き落としたり
オーラ防御をセットにした空中戦の要領で防御・回避
流星が無効化されるなら
それが追いつかないくらい、アルベルトの動きに合わせ次々に

未来を望む暇も与えない
この村の未来は、村の人達のものだ


アルベルト・エコーズ
星鍵
2

この世界ではあのような領主が殆どとはいえ
生者も死者も
穏やかな眠りどころか未来や来世すら描けなかったろう
だからこそ主の声に頷きを返す

証明しましょう
この世界に在るのは暗闇ばかりではありません
闇が薄れれば見えなかった他の光も見えるようになる
空へ向かう音を背に、私は前へ

剣と槍の両方を手に斬りかかり、連続攻撃には武器受けで対処
本体が無事であれば動けるが戦えない状態にまでなる気は無く
片手、片腕までならば許容範囲
駆ける足と揮う腕・手さえあれば食らいつくのに十分
主の流星も共に在る
直撃を受けぬようオーラ防御も展開し、UCを
相手の手数が多いのならば
こちらも数を増やすのみ

領主の務めは今日限り

未来から
出ていけ




 まだだ。
 まだ死ぬ気はない、と、女の魂が力の限りに叫んでいる。震えている。
 ――けれど。いかに心優しきリオネルであっても、その悲痛に同情といった念を抱くことは出来なかった。
 生者も死者も大事にしないオブリビオン。初めに地を這うことになったのは、結果的に自分の側だったようだけれど。
「貴方の未来は、貴方が思うよりもきっと短いよ」
 告げて、ざりりと土を踏み前へ出るなら、傍らからも同じ音が立つ心強さがある。
 付き従う男、アルベルトはただ静かに首肯するのみだ。
 "この世界ではありきたり"などと片付けたくはない。生者からも死者からも、穏やかな眠り、未来、来世を思い描く権利、勝手気ままな愉悦のためにと奪われて良いものでは決して。
「それを証明しに行こうかアルベルト。ここまで来たんだ、きっちりやり遂げなきゃ」
「はい。どこまでもお供させていただきます」
 証明しましょう、リオネル様。
 朝を思わす、真っ直ぐな風切り羽をピンと並べて、勇壮なる両翼が風に向かい開かれるその様が誇らしい。この世界に在るものは暗闇ばかりではない、アルベルトは同じだけ光を知って、想って。

 一緒ならそれが出来る。

 闇を薄れさせよう。見えなかった他の光を、彼らにも。
 笑みひとつ残しザアァと風掴む羽ばたきの音を背に、アルベルトは三度、主たるリオネルの矛と盾となることを望んで担い前へと駆け出た。上空、主の青き魔鍵が落とす星の輝きはプラネタリウムのように足元へも空を生み出している。
 戦いの余波でボロボロに傷付いた大地であれ、だからこそ踏み間違えることはない。
『……、いいえ、私の未来は』
 ゆらり、迫る気配に双剣を手に"繋げた"吸血鬼が血濡れるまま振り返る。
 来る、
『貴方がたを殺す今夜から、より華々しく始まるの……!』
 予備動作無しの魔女殺しの銀焔は、同じ色した髪の毛が解け広がるみたくに燃え立って二人を迎えた。
 これまで片腕や手を炎に変えてきたものとは比べものにならぬ熱量と範囲、まさしく地獄の焦土と化した地上へは、神秘を孕む極光の流星も辿り着く端から燃え尽きてしまう。
(「それでも」)
 ある程度読めていたことだ。
 リオネルは動じることなく、羽ばたきを強めながら全速力で星を振り撒いてゆく。痛打こそ与えられずともその眩さを阻むことは何人にも出来ない。いいや、むしろ、弾けて消える瞬間こそ最も光り輝くような。
 ぱぱぱぱぱぱん!!
 炸裂の最中をジグザグに駆け抜けるアルベルトは七彩に移ろい染まり、手にしたWhite blitz――アリスランスの白銀を閃かせる。さながら、いかづち。間近に迫る、燃ゆ髪をした吸血鬼の銀はその衝撃波にろうそくの火のように震え。
『そこ!』
「甘い」
 長剣を振り抜くが、照る光の影響か些か狙いが甘い。
 逆の手にはBlaze glaive、こちらも剣を取り回したアルベルトがそれを剣対剣で弾くや否やの短剣による追撃をも受け止めた。両手に長大な得物を扱うという行為を、持ち前の適応力と長躯とが難なく可能にさせている。
 となれば吸血鬼の次の手は。
「――宙(そら)の使者よ」
 練った暗黒魔法を纏わすことでの力押し。
 僅かな挙動も見逃さぬよう、眺め下ろしているリオネルが女の周囲へ薄らと漂い始めた闇の気配を集中的に撃ち抜いた。翼の呼ぶ風もまた清浄なる技のひとつであるかの如く、ぶわりとそれらの残滓を吹き消す。
 邪魔だ。あの、鳥が――天地より攻めるという作戦は実際に有効に働いていた。吸血鬼の眼は二つしかなく、二者を同時に視界に収めることは叶わない。主従の息の合ったコンビネーションが益々に鬼の心を焦らせて。
『っ……貴方も仕える者なら、ねえ、これは如何かしら』
 "狙い"を改める。
 度々鍔迫り合いになるアルベルト狙いで銀炎を噴き上げさせるようでいて、宙でぐねりその角度を変えた火炎の放射は空へと伸びた。咢で喰らいつくべくリオネルへと一直線! 絆を悪用し隙をつこうという薄汚い手法であった。
 速い。
 だが。
 アルベルトとは存在の根幹がエコーズ家の守り人なのだ。守護の手筈は疾うに、当然に、手厚く展開されている。
 リオネルと襲う炎との合間、不意にしゃんっと軽快な音立て湧き出る金色の鍵の数々は、組み上がって盾の如く。銀の業火を浴びようと溶けず、ただくるくると宙で回転し火を散らしたのちには鋭利な鍵山側を落下先――吸血鬼へ向けぴたりと揃った。
 ドドドドド!!!!
 機関砲の斉射と言われても違和感の無い破壊力で、飛び、刺す。
『ぐ、ああああッ!?』
「何が如何、だったのかまるで分からないが」
 おまけに。
 こいつは狙い目だと判断されていたリオネルまでもが合わせた攻勢に出る。纏っていた銀炎の多くを調子づいて放射に用い、残るも鍵たちが次々吹き飛ばしたことである意味の丸裸状態となっていた吸血鬼へは、遂に星々の光もが痛打として降り注ぐこととなる。
「主っていうのは、使ったり守られたりばかりじゃないんだよ。……貴方たちは本当に、貴族や姫様の風上にも置けないな」
 先の豚貴族もそうだ。自分を良い気分にさせるただの道具みたいに、命のことを扱って。
 ――リオネルの最も許せぬ手合い。
「この村の未来は、村の人達のものだ」
 声色は波立たずとも、滾る想いは力にこそ現れている。一際大きな流星は燃ゆ隕石を伴って、悶える脳天へとおかわりを叩き込んだ。こうなれば魔術の無効どうこうの話ではない、物質的な圧力に地面へと縛り付けられるほどの重みを感じる吸血鬼。
『ッ――、――――!!』
「アルベルト」
 真に信頼しあう二人ならば、逐一命じ、命じられるまでもない。
 リオネルの繋いでくれたひと時の間にめいっぱいに引かれていたランスは、準備万端に。ぐんと。真っ直ぐ。無数の鍵と星々、それらの織り成す目くらましの幕を裂いて、堂々たる一撃を見舞うのだ。
「領主の務めは今日限り」
 そして告げる。

 未来から、  ――――出ていけ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
2

綺麗な炎よねぇ、超相性悪そうで残念ダケド

強い方が、ってのは同感でさぁ
ケドただ喰らいたいだけなの、オレは
そう、その頸ナンてとても美味しそうじゃなくて?
勿論タダで頂けるとは思ってないケド、傷の痛みなら慣れてっからご心配なく

煽りつ誘いつ、自身の影より【黒嵐】の影狐生むわ
思惑通り部銀焔への変異を誘えたらもうけもの
動き見切って躱しながら踏み込むのに最適な距離を探り
先ずはその炎へ囮の旋風を
反撃のカウンター狙い2回攻撃でもう一度
炎のない箇所へ旋風起し縛りつけましょ

獲物は大人しい方が扱いやすい――って学んだばかりでネ
隙つき「柘榴」を突き立て傷口を抉り、生命を啜らせてもらうわ
そんな炎じゃ、食欲は失せなくてよ




「あら」
 随分と"おいしそう"になった吸血鬼の様へ、くすりと笑った。
 それがコノハのご挨拶であった。

 ヒヒュンッ。即座に投げ遣られる剣の破片か何かを、読んでいたかの如くに頭の傾きだけで避けるコノハ。
「まあ怒ンないで。強い方がイイってのは、正直同感でさぁ。ケドただ喰らいたいだけなの、オレは」
 多くの皆のように闇だ民だと語るつもりもない、語れる舌を持っているとも思わないし。
 どうどう宥め、告げるように前へ出した両手が何気なく袖口に潜れば、するりと血色の鉱石ナイフが光りながら姿を見せる。「その頸」。今にももげそうな色付いた首。「とても美味しそうじゃなくて?」。親しげに微笑みかけては続けるのだ。
 ――。
 プッと噴き出したのは何も返しはせぬ吸血鬼ではなく、コノハのやや後方から顔を出したクロト。
「趣味がよろしい」
 だとか! ああ、少なくとも夢見るお姫様よりはよほど。
 勇者とかダークセイヴァーとか、そんな存在を己に重ねられても見当違いに程がある。他の猟兵ならばいさ知らず、"強さ"も的を射ていないし。配下はアレで、果ては足元さえ見えていない……――。
「あ。眼鏡でも使われては?」
 特に意図したわけではないが、こちらのご挨拶は今しがたの空振りについての揶揄も含むかの台詞と化して。
 二人して煽る煽る、とはいえ互いに思惑があってのことだ。
 コノハには狙いを明かすことで頭部の銀焔化の誘発、クロトには今より殺し合う相手の観察。

 ――やりやすい方が良いものね?
 やり過ぎて多少傷付いたところで、死なない限りは減るものもないのだし。

『……くく』
 微かに喉震わすブルーローズが、幽鬼のそれに近しき足取りの一歩を踏み出す。

成功 🔵​🔵​🔴​

クロト・ラトキエ
2:
※但し欠損NG


勇者とかダークセイヴァーとか、また随分な見当違い。
…いえ、他の方々は別として。
宣う『強さ』はどれ一つと的を射ず、
配下はアレで、
果ては足元さえ見えていない…
眼鏡でも使われては?

慇懃無礼。
その間も敵の視線、敵意、殺気を読み、
体幹、構え、地を空を蹴る足を視、
速度、癖、得物捌きを焼き付ける。
見切る全てを、活かし。
UC励起。
対地も対空も己には同じ。
自らの血でも鋼糸を濡らし、花弁を散らし、敵を巻き斬り苛立たせ…
誘き寄せ。

長短二刃。
不服しか無いが…

俺も、最も得意とする間合い。

暗器使いの元剣士。
右に新月、左に青薔薇。
唯式・幻を乗せ、
呉れて遣るのは希望では無く…

骸の海で永劫、退屈に溺れるといい



『っよく吠えること!!』
「どっちがっての」
 対峙する形で踏み込む、と見せかけて、踵を鳴らしたコノハは手のナイフを振るうではなく足元より影を解き放った。
 するりと身を起こす影は管狐の姿をして。一匹が三匹、三匹が十匹へ……瞬く間に枝分かれしながら飛び立つ。互いに互いを軸として回ることで生ずる旋風は渦を起こして、同時に鎌鼬の切り傷を持ち、大気中に散らばる煤や礫を裂いてゆく。
「あちらもヤル気みたいですねぇ」
 とは、物言いばかりゆったりとしながら構えを取るクロト。
「ま、元々ダダで頂けるとは思ってないしネ」
 そしてコノハ。地をだんっと踏みしめ跳躍したブルーローズは、対抗して放った薔薇の花嵐に飛び込み逆回転の渦を生じさせている。
 影と花。真っ向よりかち合い、切り裂き合うふたつは千々に裂けて繋がってを繰り返し。
 その渦を突き抜け、降下からの、振り下ろされる重たい長剣の奇襲。ギィンッと受け止めることが出来たのは、危うげなくクロスされたクロトの剣があるからだ。右に新月、左に青薔薇。長短二刃、スタイル被り、不服しか無いが――。
『まあ――、二刀流もお使いになるの?』
「昔取ったなんとやらでして、ね!」
 暗器使いの元剣士であるクロトはそう言い捨てて二刃を押し切るように払った。
 放り出される身体。血塗れの口元をどこか嬉々とし歪め、片手片膝をつきながら着地をこなす吸血鬼はだが、着地の瞬間を狙い襲い来るものたちに寸ででハッと振り返る。否、振り返る暇も完全には無かった。視界に収めた影の狐は、誰の悪食がうつったか棘持つ青薔薇をも食みながら。鬼の頭目掛けがぱりと口を開けて。
『ッ』
 頭部を銀焔へ――、この距離でもその対処が間に合ったことは、先のコノハの台詞以来心のどこかで警戒を強めていたためだろう。
 まさかその警戒心が裏目に出るとは。思いもせぬまま、わあっと炎をたなびかせる。
「よろしく」
 にたり、
 笑う親玉妖狐の、薄氷めいた一声が影狐たちに次の指示を与えるのが直後。
 統率の取れた彼らは無策に炎へ突っ込むでなく直前で急旋回、宙で上下へばらばらと分かれ大気を波立てる。尾のはためきが翼のそれのように、ごおっと起こす旋風は先ほど以上の強さで花の壁の無い吸血鬼を殴りつけて。
『な、っ……な!?』
 本命は首狩りではないのだ。
 黒嵐の本質は、拘束。銀焔化していない身体そのものをその場へ縛り付けること。狐の狙いを察して火の手を広げたとて後手に回る。第一、そちらの制御にばかり集中していては。
 一瞬に瞬く光。ヒュオンッと切れ味も抜群の鋼糸が側面より迫っている。この糸は。「今は専らこっちがメインです」やはり。空より眺め下ろしていたときと同じ、手慣れた様子で繰るクロトが其処にいる。炎と花が散るほど、読み、視やすくなってきてよいなぁなんて。
「おやー、動きが単調になってきてますよ? ほら、右、左、左」
『く……』
 酷く鈍い身体。斬り払わんとし立てた長剣を手首ごと巻き取る鋼糸、花弁へと解け抜け出る長剣、弱まりゆく銀焔。
 踊らされている感覚すら、ある。こと吸血鬼には。
 ……複雑に取って取られてと絡み合う、すべての事象があまりに高速で過ぎ行く戦場だ。 そして忘れてはいけないのが、たったかと駆け来るコノハ自身。管狐らが多くを食み引き受けたから、当の本人は変わらず涼しい顔でいられるというもの。
 あんな炎じゃ食欲は失せなくてよ、お姫様。
「気分はいかが? 獲物は大人しい方が扱いやすい――って学んだばかりでネ」
 イタダキマス。獣が赤々、牙を剥く。
『……そうね、とても、素敵よ!』
 炎は封じられ、剣は二本とも花弁へと変えてしまった。その花弁をも飛び交う鋼糸がミリほどの単位にズタズタと散らしてしまう中、吸血鬼が選ぶことの出来るカウンター手段といえば突き出す手とそこに纏わす闇の力のみ。
 ナイフと拳。ズッ、と、互いにぶつける力が弾け合う。
 ああ、けれど。

 ぶつんっ――……。
『あ?』
 ぶつかる直前でズレ落ちた手首では、闇の力も発揮されず霧散するまでか。

「では、ご相伴にあずかるとしますか」
 随分と暗色の深まった眼をして、もうひとりの狩人、クロトは朗らかにもそう言った。
 唯式・幻。
 およそ視認の可能な速度を超えその手の双剣が走っている。これに手首を落とされたと? それとも、糸に? ――たとえ最先端の眼鏡をしていようと見えるものは同じで、考えたところで無駄なこと。思案より先に味わう答えはひとつ。
「骸の海で永劫、退屈に溺れるといい」
 避けられない。

 パッと、咲いて、咲かせて。呉れて遣るのは希望では無く。
 一閃にして九度、駆け巡る斬撃の嵐を受けた吸血鬼は高空で煽られる凧のように踊り狂った。

「――ゴチソウサマ」
 終いの柘榴は宣告通り、頸を撫でて。

成功 🔵​🔵​🔴​

鳴宮・匡
◆ヴィクティム(f01172)と


悪いけどこっちは一途なんでね
お前なんかに目をくれてやる余裕はないんだ
退屈は紛れたんだろ、さっさと退場してもらうぜ

誰が下がるかよ、お前の被弾に比例して俺の心労も増えるんだ
援護してやるから確実に止めてくれ

自動小銃の射撃で花弁を迎撃
弾幕で押し返すんじゃなく
花弁ひとつひとつを捉えて最小の労力で撃ち落とすよ
無駄弾をくれてやるつもりはない

全ては撃ち落とせないだろう
相応に傷を貰うのは覚悟の上
ヴィクティムの邪魔さえさせなければいい
一瞬であれ相手の動きが止まったなら――十分だ

持ち替えた拳銃に“影”を収束させて放つよ
【終の魔弾】はお前の滅びを識ってる
――下らない奸計の報いを受けな


ヴィクティム・ウィンターミュート
・匡(f01612)と 2

ケッ…大層なラブコールじゃねえか
退屈しのぎ程度にしか思ってないようだぜ?余裕綽々だな
──カウンターで奴を止める
負傷を抑えたいなら俺の後ろに居ても構わないぜ?
せめて撃てるようにはしといてくれ…俺が出来るのは一発勝負だけだ

【先制攻撃】で最速行動
──祈りと起源を、この手に握りしめて
血の熱狂すら凍り付くような、静かな冬を此処に
銃口をぶらすな、たとえ花弁が俺を突き刺しても
相討ち?いいや、俺は死なない
この『停滞』と『鎮静』が、お前に死の終幕を刻み付ける

花弁も、その熱狂的な渇望も…何もかもが、凍り付いた
こうして2人で銃構えて並ぶとはな…匡!
あとは任せた…イカれ女に土を食わせてやれ




「ケッ……大層なラブコールじゃねえか。ひとのことを退屈しのぎ程度によ」
 地べたを這いずり回ってなんたらかんたら……。
 おい聞いたか今、ってな厭そう~~な顔を隠しもしないヴィクティムが耳を叩く仕草までしているのに、大袈裟とは感じぬほど、匡もやれやれといった感想であった。
 一方的に想いを寄せられたところで、なぁ。
「悪いけどこっちは一途なんでね。お前なんかに目をくれてやる余裕はないんだ」
 退屈は紛れたんだろう? ならさっさと退場してもらうぜ。 ――返してやれるものは、銃弾のみだ。
 と、まぁ、多くの猟兵がまったく同じ気持ちでいたのだろうとも。いざ対峙する、ボロボロのブルーローズには拒まれた形跡は無数目立てど、愛された形跡はまるで無い。
 あの状態で尚も立ち、戦うか。先を無くした手首へ直に短剣の柄を押し込む様など、まさに戦狂い、そも弱った標的相手に手を抜くなどという心算もさらさら持たぬ二人はほんの一瞬目配せを交わす。
「――カウンターで奴を止める。負傷を抑えたいなら俺の後ろに居ても構わないぜ?」
「は? 誰が下がるかよ、お前の被弾に比例して俺の心労も増えるんだ。援護してやるから確実に止めてくれ」
 バチッと火花を散らしてみるのは一瞬だ。
 止める。ヴィクティムが「一発勝負になるがな」とでも約束するならば、それは必ず訪れる。気遣いを突っ返せどヘマをしてその好機に乗り遅れるような匡ではなく、つまるところ互いに固く信じあって、得物に手を掛けた。
 にしても、こうして二人で銃構えて並ぶとはな?
 ご不満か?
 いいや――。

 ――殺意に反応する動物か何かのようだ。
 長く、炎の一部と化していた銀髪を振り乱して向き直る決闘姫。初めに比べ随分と刃の欠けてしまった長剣が、ぼろぼろと一層に解れたかと思えば青色の花弁へと染まった。
 その変化を視認するよりも早く、並び立つ互いは行動を始めている。
 ヴィクティムの手には、ある春の日に遺された短銃。少なくない傷の刻まれたそれの冷ややかな表面を辿り、指はトリガーへと触れた。
(「……決めたもんな」)
 死にたくないから恐ろしいからって逃げ回る奴をこの村でももう何人も見て来た。
 自分が逃げたから大事な奴が死んだ? 奴らに覚えたなんとも表現し難い靄は、その出処をヴィクティム自身が一番よく知っている。――辿った道、だから。辿ったうえで、辿り着いた今で、だからこそ引けるトリガーで。
(「見ててくれ」)
 亡き友へ捧げる祈りもまた、銃弾へと込める。満たすまで。
 血の熱狂すら凍り付くような、静かな冬を此処に。
 豚貴族や土塊の相手をガツガツと担っていたときが嘘のように、しんと心を鎮めるヴィクティムの傍らで――そんな彼を茶化すこともせず、吹きつける花嵐の先駆けを先ず弾いたのは匡の放った自動小銃の銃弾であった。
 キィッと思わず硬質な音が響き渡り、成程、命中が分かりやすくていい。
 外す気もないが。
 肩肘に、力は込め過ぎない。反動も必要以上に押さえることなく、むしろそのブレをも計算に入れておいての連射は恙なく行われてゆく。長い付き合いの銃なのだ、僅かな癖だって十二分に理解していて。入れ違いながら面で襲いくる花弁を、点ごとに落とし続けるという並大抵の集中ではこなせぬ業をこなしてみせるのが匡という男である。
 より鋭利であるものを。
 より前面にあるものを。
 より、ヴィクティムの邪魔となるものを。
 ――と、花弁が一枚落ちるごとに、空薬莢が一個転がる。
 散弾や榴弾ではないのだ、当然ながらすべては撃ち落とせない。辿り着いた花嵐の一部は――それでも大分と数を減らされて――二人を呑んで、その肌を引っ掻き切り裂く。
「痛えぞ」
「文句言うな。もういいのか?」
「ああ」
 待たせたな、と、返すヴィクティム。時間にして数秒も経っておらず、実質的に待った待たせたの世界ではないのだが、ジョークのひとつとして笑い飛ばせば。
 "そして、全ては魔弾が黙らせた"。
 祈り届け――突きつけ、倒すべき敵から微かも揺らがずにいた銃口が撃ち出したものは不可視の魔弾。停滞と、鎮静。射線上に佇んで血を流し続ける吸血鬼へと、青薔薇の防護をもあってないものとし辿り着く。

 パアンッ。
 銃声無くとも肉が弾ける音が届く不思議があって。
『ぁぐッ……!?』
 吸血鬼の呻き声には驚愕の色が勝っていた。それもそうだろう、単純なダメージだけではない、何処から辿り着いたのかすら読めぬ何かに射貫かれたその刹那から花弁の制御が大いに乱れ始めたのだ。
 冬に降り積もった雪の下、静かな、眠りに誘われるかのような――――落ちてゆく。次々に。役割を放棄して。
『何を、』
「そら、解説役の出番だ匡。イカれ女に土を食わせてやりな」
「その面倒事担当みたいな言い方やめろよな……でも、お見事って言っておく」
 ちゃき、またまた微かな音で構え直された匡の銃は拳銃へ持ち替えられていた。Stranger、閉じられた道をこじ開けるにうってつけの。花弁を落とすお仕事も終わって、次のフェイズ、実弾ではなくその銃口へと収束させる"影"を。
 放つ。
「お前の滅びを識ってる」
 終の魔弾。
「――下らない奸計の報いを受けな」
『させっ』
 るものですかと向かい来る影へ短剣を薙ぐタイミングを合わせ、抗う姿勢をみせるブルーローズ。
 しかし花弁たちが力無く地へ落とされたように、自らを燃え滾らせていた熱情がどこか翳ってしまったのを感じる。腕が重く――足もそうだ、動きが、此処は斜め後方へでも右から引いて抜けた後詰めるべきで……それから――……、ガウンッッ。
 ずるずるずると沈む思考もが冬に鈍ってしまえば、なんとも都合の良い的になる。
「お前よりもさっきの貴族の方が、まだ生きるのが上手だったよ」
「すっげーロックだぜそれ」
 花弁を振り落としては肌という肌に走った傷の数なんかを競い合う、痛みをまったく気にも留めぬ二人の前、炸裂した影はぐずりと解れる女の身を押し込みながら更にその内へ吸い込まれるようにして失せていった。
 失せる? より正しくは、そうではない。破滅の因果が既にその身の内を満たしていると、物言わずとも語るのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カトル・カール
2:欠損も大破もOK
アド連携OK
POW

結構なご趣味の黒幕か
あんたはずっと支配者で、虐げる側なんだな
たまには自分が虐げられて、地べたを這いずり回るのはどうだ
違う景色を見ていれば退屈する余裕はない
…踏み潰される痛みを知れ

メイスで連続攻撃を受ける、足りなきゃ散華も使って
『武器落とし』で長短の剣を奪う
そいつを捥ぎ取れば暗黒魔法は撃てないだろう?

前に出て負傷を恐れず攻撃
兄弟が見たら戦下手を笑われそうだが。
安全圏から他人の命を食い荒らす奴は死ぬほど嫌いでな
どちらかが動かなくなるまで全力で行かせてもらう


リリヤ・ベル
【2】
ひとびとの嘆きも苦しみも、わたくしの怒りも。
あなたには、歓迎すべきものなのでしょうか。
待ち望んでいたものを与えることになるとしても。
わたくしは、ゆるせません。ゆるさないと、言ったのです。

鐘を鳴らして、呼ぶのははがね。
渦巻き切り裂くつるぎのつむじ風。
炎にかき消されるなら、その視界を遮るほどまで。
取り囲んで、機をつくりましょう。

声を、きいたのです。
手を見送ったのです。
なにも、なにも、無駄にはいたしません。
あなたを還すのは、誰のためでもない、わたくしの意志。

……、その炎がのみこむのは、この世にないもの。
わたくしを消すことは、できない。

炎に溶けるはがねの陰から、みどりのきばを突き立てましょう。


玉ノ井・狐狛
※アドリブ、連携お任せ

おいでませ、監督サマ
つっても舞台に上がりゃァ立場はイーブン
やっとハンデなしのゲームになったな?

基本方針は刀で応戦
霊力で▻オーラ防御や身体能力の▻ドーピングを噛ませりゃ、膂力の差はいくらか埋まる
さっきまで、呪いやら血ィやらがごろごろあった場所だ。リソースにゃ困らねぇ

銀の炎が来たら►旭で吸収
一回見せたら警戒されるだろうけどな
攻めを焦らせるだけでも意味があらァ

狙うのは、相手が勝機を手品(術や呪いの作用)に恃んだタイミング
それを▻見切り、プールしといた鬼札を切る(UC
炎化で攻撃をやり過ごし、同時に相手の術を無効化

決めの一手を外せば、残るのは隙と、あとはせいぜい吠え面くらいだぜ




 静かなものだ。
 身に受け続けた痛撃に、ひとしきり呻いたブルーローズの声が長く細く、それこそ化物か何かのようにとびきり目立って風に溶けている。
 そこに混ざるのは鐘の音。
 真鍮の鐘を歩みの支えとするように抱きしめ、ひょこり、リリヤは顔を上げた血だらけの悪鬼と目が合おうと息も呑まずに睨みつけた。
 つよい、強い怒りがあった。
「そんなすがたになっても、ひとの痛いや苦しいは、わかりませんか」
 女は何も言わない。
 ひゅうと呼吸を落ちつけて、だらりと垂れた腕に双剣を光らせている。
「ひとびとの嘆きも苦しみも、わたくしの怒りも。あなたには、歓迎すべきものなのでしょうか」
 女は何も言わず。
 ただ、ニイィィ、と裂けた唇を歪めわらった。
 ――駆け出す。最早人間のそれとかけ離れて"握る"二刃を振り上げながら!
「わたくしは、ゆるせません。ゆるさないと、言ったのです」
 ゆるせない。待ち望んでいたものを与えることになるとしても、――跳ねるように向かい来る鬼を、リリヤの響かせる鐘音が迎え撃つ。
 その愛らしくもどこか儚げな調べに呼ばれ、二者の間にワッと沸き立つものは鋼の剣たちだ。地面から生え伸びたのでまるで亡者の腕のような。先の、土塊の中の、取れなかったものが胸裡にはちらついてチクリと刺す痛みが残る。
(「でも」)
 でも。
「――ひとつ借りるぞ」
 ザッと色取り取りの装束はためかせ飛び込む影、カトルの声がそんな束の間を過去にした。鋼の剣を流れる風に掴み取ったカトルはブルーローズへ向け槍投げよろしく投擲する。猛進していた女は『!』と目を見開けば、攻撃のため携えていた剣のうち一本を防御のため振るう他なくなる。
 ギイッ! 難なく弾いた、は、いいが。
「あんたはずっと支配者で、虐げる側だったんだな。自分が虐げられて、地べたを這いずり回るのはどんな心地だ」
『つう……!』
 間髪入れずに自前のメイスを叩きつけるカトルのその勢いに、軽く数歩は押され戻される。
 体格差もあったが、なによりここに至るまで流し続けてきた血が吸血鬼の足さばきを怪しくさせた。ふら、と流れかけた一歩をすかさず払い、胸倉を掴み引き倒すカトル。
「違う景色を見ていれば退屈する余裕はない。だろう?」
 踏み潰される痛みを知れ。 ――顔面狙いの殴打が、一発。女が咄嗟に目の前に翳した短剣へ罅を走らせながら、叩き込まれた。
『ッッッッ、 ぁ』
 跳ね上がって転がる肉体を四つん這い、獣同然な必死さで止めた吸血鬼の頭上よりまたひとつ影が濃く落ちる。
 リリヤでもカトルでもない、新手。「おいでませ、監督サマ」そして何方よりも楽しげに声掛ける、狐狛であった。ズオッと縦に風裂いて振り下ろされるは幻想籠絡"纏女"、磨き澄まされたサムライブレイド。
 鬼の長剣がそれに対応して持ち上がる。ただのそれだけでは完全に力負けしていたであろうが、その剣を握る腕が銀焔へと変わったのなら話は別だ。一段飛ばしに最大の火勢まで至る有様は余裕の無さ、命懸けの表れなのだろうとも、フッと笑み浮かべた狐狛は逆の手に突き出す羽根ペン、旭にて炎を受けた。
 迦楼羅天ゆかりの優れものは溶けるどころか、逆に炎を傅かせてみせる。
 狐狛のみを避けるかたちで二股に裂け空へと打ちあがった銀の炎の柱は、ついでにがしゃがしゃと迫る鋼たち――リリヤが巻き上がらせた剣の嵐の通り道ともなる。ひゅんっひゅん!! すかさず飛び退いた狐狛の後を埋めるように、刃が降って注いで。
『ぐうううぅぅ!!』
 ギギギギギギ!!
 身を捩って跳ね起き、駆け出しつつ、半身だけを後方へ向け迫る嵐と斬り結んでは弾くブルーローズ。すべて突き刺さってもおかしくのなかった"隙"であったが、剣技の腕そのものは未だ衰えてはいぬらしい。
 ただし、無茶をする度に身体は崩れ――。
「逃げられると思うなよ」
 ――すくい上げる風にしてスイングされたメイスが、疎かな前面を強かに殴った。
 かひゅっと空気を吐いて折れる身体。背に、落とし損ねた刃の群れが次々に突き立って鮮血を飛沫かせる。既に深々と抉られていた穴からは臓物が覗けて、そうしてそれが刈り取られて。
 死が。
 直ぐそこまで、

 ぁ、
『ああッ! 私は……! あぁぁ!!』
 途端、ごおうととびきり大きな音を立てて吸血鬼の全身が銀色に炎上する。
 ぐるんと横一周分振るわれた長剣は藻掻くように荒々しく、火の粉を散らしながらカトルと、鋼の剣らを斬り飛ばした。「っ」灼熱感とともに腹を掻っ捌かれた痛みは、当然痛みとして、ある。
 あてた手を濡らす血の量からしても、まあ軽傷の粋は飛び越えているだろうとも。
(「……は。兄弟が見たら、戦下手を笑われそうだ」)
 だとして、もう片手に握りしめた得物を手放しのこのこと身を隠す気はさらさらない。カトルは。
「止まってやるかよ。安全圏から他人の命を食い荒らす奴が、悪いが死ぬほど嫌いでな」
 炎へと自ずから突っ込む。
 枝角に咲いた花は瞬く間に灰になった。
 角自体も、きっと外側は焼けついてしまったろうな。だが。
「どちらかが動かなくなるまでだ」
「気に入った」
 ――殴りかかる男が宣告したルールの酔狂さに口笛を吹いたのは狐狛。そう、そう、賭けるもんのデカいほどアタリもデカいのが世の真理! 伸るか反るかなら、なあ?
 ザザン!! メイスと刀、ふたつの暴力に前後から挟み込まれた吸血鬼は浮遊することで逃げ道を作る。作ろうと、素早く地面を蹴りつけたまでは良かったのだ。
「いいえ。あなたはもう、飛べません」
 飛び上がった頭を削るほど近く、速く。
 空より降り、取り囲む形で地へ突き立った鋼たちがその身をぞろりと囲う。リリヤの鐘音が響き渡る。
 すこし気を緩めれば暴発しかねない危険で大きな力を、彼女もまた行使している。誰も彼もが懸命だ。――声を聴いて。手を、見送って。過ぎ来たすべてなにひとつ無駄にしたくないから。
「あなたを還すのは、誰のためでもない、わたくしの意志」
『く……! 邪魔を』
 道を断たれたじろぐ吸血鬼は自らの全身を今再び炎へ変えることで"檻"を抜け出さんとする。
 が――。
「よっとォ!」
 ギュンッ!
 その身が実体あるうちに、軽々と檻を飛び越えて降り来た狐狛が大上段から刀を振り下ろしていた。
『ッが! この……力は!』
「分かるかい? ちょっくら拝借したって寸法よ、テメェの生み出してくれたブツを」
 狐狛が刀に吸わせていたものは、この夜、ブルーローズが村人に流させた血。乾いて久しいそれであるが、怨念というものは濁り淀み留まるものだ。沼の底のように濃縮されたそれを霊媒の延長で帯び、ゆえに振るう刀は"何人もの人間が押した"かの重みを持つ。
 膂力の差をそうして小手先で埋めて、斬り通す。
『ぐ、』
 余りの勢いに、儘、地面へと突き刺さった長剣。大きな隙を晒した吸血鬼であるが剣を手放して銀焔で狐女を焼かんと殴りかかる程度の冷静さは持ち合わせていたらしい。――残念なことに逆効果なのだが。
「待ってたぜ」
 銀枠紙札。 切られる鬼札。
 先ほど防いでおいた"魔女殺しの銀焔"を、狐狛もまた借用出来るのがこちらの手品の醍醐味だ。ごおうっと舞い立つ炎はどこか金色味を帯びて、そうしてブルーローズの銀と相殺しあった。
「粋って奴か」
 呆気にとられる顔面へ――メイス!
「ハハ! 霊魂連中もヒマしてりゃあ寄ってきな、今ならコイツを叩っ斬る気分が味わえるぜィ」
 それから胸へは刀。
 言語にもならぬ絶叫が上がり、がむしゃらに振り回される長剣の隙間を傷も厭わずくぐり抜け、最後に一本のルーンソードが通された。両手で、いや、全身で抱き込むように刺したリリヤの手元で、剣に込められし風の精霊力が爆発する。
 それは先の相殺と、本人の消耗が大きすぎて弱まっていた銀焔を掻き消して――――。
 ううん。きっと、あこがれの人の持たせてくれた剣が起こす風の方が、うんと強かったのだ。

『――――、――!』

 浮き上がり、墜ち、転がるブルーローズは満身創痍で暫し地を滑る。
 やがて噴き出す己の血の、血だまりに拳を打ち付けるようにしながら執念だけで身を起こした。その拳も最早お飾りのように感覚が薄い。
『ダーク、セイヴァー……』
 絶望を感じさせる呟きが、ぽつんと落ちる。
 狐狛は肩に担ぎ直した纏女を弾ませ、ただ、笑みを深めた。
「さ、どうする? アンタの手番だ」
 選びな。 勝負の行方はもう、決まったようなもんだが。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ハイドラ・モリアーティ
【ROCK】

オイ、このドSお姉様め
俺が次は相手してやるよ
悪いけど、アンタが思うほど大したもんじゃない
勇者のおこぼれを頂く盗賊がいいとこのみみっちいクソガキ
だから、さっさと殺してくれねえ?痛いのは嫌いだし
それとも従順だと燃えない?じゃあ、――ちょっと抵抗してやるよ、クソババア
弱いもんいじめてイキリ散らしやがってよ。ダセェと思わねえの?綺麗なお召し物が泣いてるぜ

て、とこまでが俺のプランね
俺は強敵相手じゃ足手まといだ
俺は呆気なくぶっ殺されて、【Doge】!
アッハハハ!クソガキに抵抗されてびっくりしちゃった?
もーっとビビったほうがいいぜ。後ろにこわぁい二人が待ってんだ
そんじゃア、お世話様
素敵な夜を。


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
【ROCK】
よく見るっちゃよく見るタイプだな
私には良く分かんねえけど

……あいつは幾ら死んでも大丈夫って知ってるけどなあ
ともあれハイドラの作った隙は逃さない
天罰招来、【氷獄】
痛覚と意識だけは残しておいてやる
腕も足も目も口も動かない――気分はどうだ?最高?そりゃあ結構
そういえば、呪詛も魔術も受け付けん焔があるんだってな
どこを動かしたら嵯泉に勝てるか決めてみろ
あと一秒でな
……って、おまえじゃ一秒も要らないか

精々苦しみに苦しみ抜いて死ぬと良い
地獄の底でもう一度殺してやるから楽しみにしていることだ
私の可愛い妹に要らん苦しみを与えた奴を、私は決して許しはしない
惨めに地べたを這いずるのはそちらだ、地虫


鷲生・嵯泉
【ROCK】
……あの手合いは唯々面倒だ、鬱陶しい

其の落ち着き振りから問題無いと覚りはしても
矢張り眼前で倒れる様を見る事になるのは色々と赦し難い
其の身を以て贖わせてくれよう
……何より氷獄の竜が赦しはしまい
奪われるとはどういう事か、確と刻まれろ

整えられた膳立てを前に、成すべきは唯一つ
機は逃さん……秒すら不要だ
――刀鬼立断
怪力乗せた全力の踏み込みで以って接敵
もう何処へも行けぬ様に脚を
二度と得物を振るえぬ様に腕を
何者の命も奪えぬ様に首を
――全て、刎ね飛ばしてくれる

地を這いずる心地はどうだ
其の醜い心根に相応しく能くと似合いの姿だ
疾く潰えろ、過去の残滓
再び地獄にて責め苛まれる時を、骸の海にて待つがいい




 ざあざあと噴き出すだけの血が身に残っているとは、そちらの方が不思議なくらい。
 己から溢れ出る色を見上げながら、ハッ、はと浅い息を弾ませるブルーローズ。とはいえ放心するには早い、パーティは途中なのだから。
「こっちはこっちで、また負け犬っぽさの滲み出る面になったもんだ」
 悪魔の足音がする。
 ご機嫌な、軽薄な、弾むそれが直ぐ傍らで止まった。
「どうだいドSお姉様。ここいらでボーナスタイムってのは?」
 覗き込む女は、ハイドラ。勇者なんて大したものじゃない、そのおこぼれを頂く盗賊がいいとこのみみっちいクソガキさ――、とかなんとか自己紹介を始めてやれば、まだヤる気があるようでなにより、反射のような速さで長剣が振るわれた。
 剣になったり花になったり忙しいやつ。「おっと、」大事なことを言い忘れたではないか、楽しませてはやるけれど痛いのは嫌いだって!
 ザンッッ!
『……ああ、つまりは貴方、殺してほしいのね?』
 両足をもぎ取ってくれていた可能性もある横薙ぎだったが、痛い割に即死性の低いアレは御免だ。
 軽やかに跳躍して後方へと着地したハイドラはばさばさとうるさい髪を撫でつけつつ、ンー、と返事を考えた。そうそう、仰る通りではあるんだが。
 それ(従順)だと燃えない?
「弱いもんいじめてイキリ散らすのが精々なクソババアに、最後のチャンスってヤツ?」
『――ふふ』
 俄然ヤる気が湧いたらしき二の太刀は、見たところ手ぶらなハイドラに対して完全に殺す気で来ている。
 先までの負傷を感じさせぬ瞬時の踏み込み、からの刺突は薄っぺらな娘の胸を容易く破って。「ンぐ」いきものの反射として息が詰まる間に、一気に腹まで引き下ろされた。間の骨? 初めからなかったみたいに。
 がぼっと塊の血を吐きつけて、痙攣だとか一通りのお約束をなぞりながらもハイドラは剣を握るボロッボロなブルーローズの手を撫でやる。ちょうどいま腹のあたりにある手。応援する風に。
「オイ、オイ……いいのかァ? こんな程度で! お姉様の今生の殺し納め!! もっとパァーッとやんなよ! アッ、ハハハッ、ハハハハ」
『はぁ、ッは……!』
 笑いを上げながら殺されてゆく。
 あからさまに異様な光景だ。しかし完全に夢中になっている――もはや囚われている――吸血鬼は幾度となくその剣を捻じ込み直して、段々とか細くなる笑い声なんかに想い馳せて、自らがユーベルコードが罠張る深みへ誘われていることに気付かない。
 Doge、
 久方ぶりに確かめた優位に立つ快感ってのは天にも昇る心地だろうなァ! で、だ。そっからの直滑降が当店イチオシ病みつきコースなんだけど、勿論味わってくだろ? ――口ん中窮屈でそんなつらつら喋れないけども。万感の想いを込めて、ハイドラはブルーローズの手を掴みました。
「ざん、ねん。タイムオーバーだ」
 "ちょうど良い致命傷"。お返しするため。
「そんじゃア、お世話様。素敵な夜を」
 条件を満たしたユーベルコードの発現。
 ドゴォッ! ――と、途端、己の体内から生じた爆発に弾け飛びながら目を瞬く吸血鬼。『――?』赤ん坊かってな純な疑問の表情、これこれこれだよとニヤけたハイドラもまた思いっきり咽て脱力した。あー。あー……、崩れ落ちる、かと思ったけれども、子猫よろしくぶらんと首根っこを掴み上げるのは兄の手か。
「……ハイドラ」
 辛気臭い声に反応はしてやらない。糸の切れた人形みたく。
 だってさ、こう、ハデに死んじまった感を出してる方が。
「ありがとうな」
 面白いもんが拝めるからだよ。

 膨れ上がる氷獄の竜の殺気はそのまま、冷気となって伝い広がる。
 大気中に散っていた血飛沫や何やかやが細かな結晶と化して疎らに降り注いだ。その、戦いの痕跡を踏み潰し、ニルズヘッグが歩み出る。ハイドラ――妹はいくら死ねど"大丈夫"だと知ってはいて作戦に取り込んだ。だとしても。
 転がって飛んだ先でどうにか身を起こさんとしている吸血鬼へと、暇を与えずの天罰招来、氷獄。
「痛覚と意識だけは残しておいてやる。惨めに地べたを這いずる覚悟は良いか、地虫」
 片腕の竜爪へと収束した冥府の冷気が、振り下ろすままに地表を抉り的へ奔った瞬間であった。
 肉体を傷付けることなくその神経回路を破壊する。ある種の拷問じみた闇の力を、素面で行使する。身を呈してくれた妹を想う、その怒りは正当なものであるといえよう、ゆえに共に立つ嵯泉も咎めたてることなどせずに。
「…………」
 軽い、預けられたハイドラの身体を寝かせてやれば後に続いた。
 抗わせておいて殺しを愉しむ――吸血鬼。あの手合いは唯々面倒で、鬱陶しい。娘の血でぬめる手に刀を抜いて、誓うは、整えられた膳立てに報いるだけの刃の冴え。
『……!! ――ァ、ギ』
 一方のブルーローズはといえば辛苦の真っ最中にあった。
 まるまま返された胸から腹にかけての傷もなら、脳髄の繊細なつながりひとつひとつを掻き混ぜられてぐちゃぐちゃと繋ぎ直されるみたいな、その、もはや理解の及ばぬ痛み。痛み? 痛みと呼べるかも、わからない。腕も足も目も口も動かずに、繰り返し押し寄せる波に魂を削られる。
 死ぬ。死ぬ。死ぬ、……抗おうと――本能が手指を動かさせるが、傍目には震えているだけ。奪い続けた身が奪われ続け。
 気分はどうだ。ニルズヘッグは問うも、当然答えなど期待しちゃいない。
「最高? そりゃあ結構。そういえば、呪詛も魔術も受け付けん焔があるんだってな。どこを動かしたら嵯泉に勝てるか決めてみろ、あと一秒でな」
「……不要だ」
 秒すら不要、と此方は嵯泉。
 うう、ううぅうぅとくぐもった唸り声を上げる吸血鬼の瞳に銀の魔炎が微かに揺れる。いっぱしに生きたがって。けれど、それはともすれば、迫り、映り込む刃身の白銀がそうと見せただけかもしれなかった。
 ――刀鬼立断。
 ごくごくシンプルな、斬り下ろしの一閃。ゆえにこそ鮮やかな。鞘に結わえられた赤き紐がはたんと太刀風に揺れて、また元のように垂れた頃にはひとつ仕事は終わっている。静かなものだった。
 吸血鬼の、炎毒に焦げ爛れ、刃に傷付き、泥だらけの足が飛んだ。
 もう何処へも行けぬように。
 次に残っていた腕が。
 二度と得物を振るえぬように。
 そうして少しも勿体ぶって興ずることなく、首が。何者の命も奪えぬように――――、撥ね、飛ばされる。
「地を這いずる心地はどうだ。其の醜い心根に相応しく能くと似合いの姿だ」
『ァ』
 膝立ちとなっていた吸血鬼の身は、一瞬のうち支えるものをすべて失ってどちゃりと地べたへ崩れ落ちた。
 この夜だけで幾度舐めたか分からない土の味。それももう分からなくて、転がる頭は最後に村の方角を向いて止まった。とんでもない竜の呪詛の所為で、バラけた今も痛みと意識だけが継続している。村人たちが此方を見て。笑っている、のか。自分たちが戦い勝った気で。
 ――歪めて、殺してやりたいな。
 ――――殺してやろう!!
 淀んだ思念が、折れて投げ出されていた短剣を青薔薇の花弁へと舞わせようと解き始めて、とはいえ浮き上がる前にストンッと耳を通された刃がやはりただの剣へと戻した。徹底した仕事ぶりをみせる、嵯泉であった。ジュウッと音立てて朽ち始める死骸を見とめてから、やっと男は鞘に手をかける。
「疾く潰えろ、過去の残滓。再び地獄にて責め苛まれる時を、骸の海にて待つがいい」
「ん、今ので終わりか? 多めに呪っておいたからな、精々苦しみに苦しみ抜いて死ぬと良い。地獄の底でもう一度殺してやる、楽しみにしていることだ」
 傍らのニルズヘッグの見下ろす眼光の冷え込みときたら、未だにまさしく絶対零度。
 アハハ、マジにおっかねーの!
 死にゆく女とは反対に、お馴染みのつくりのおかげでぼややーっと意識の戻ってきていたハイドラは、からからの喉を鳴らして笑った。ほぉら屑でも役立てるだろ。土の味はするが、まあ、――生きてんだし悪かないよ。


 嵐のような一夜はそうして過ぎていった。

 自由だ。
 転がっているショベルを己の意思で拾い上げて。憎かった豪邸を壊して良い。
 全員分の墓を作っても。或いは、いずれ差し込むと信じることの出来た陽光のため、畑を耕しても。

 村人たちは暫く、自分たちの代わりに沢山傷付いた猟兵へ下げた頭を、今度は命じられたわけでもないのに上げることが出来なかった。
 その多くを取り返してくれた、大切な者たちの骸を直視することは、まだどうにもおそろしい。
 今も命ある者たちは結局が、逃げ続け、惑い続け、縋り、頼り続けてきた者ばかり。正義や信念、強さといった、いつかからこの夜までに目にした幾つもの背からは程遠い、どこまでいっても半端者なのだろう。
 だが、生きている。
 そんな自分たちにでも許された生を、明日からどのように歩いてゆくべきか。多くのものが繋ぎ与えてくれた静けさの中で、蹲り、じっくりと――……考え始めていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2020年10月28日


挿絵イラスト