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【旅団】『お友達』とのお遊戯会~アメイモンの迷宮

#キマイラフューチャー #【Q】 #旅団 #状態変化

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 これは旅団シナリオです。
 旅団『魔獣の森の人形館』の団員だけが採用される、EXPとWPが貰えないショートシナリオです。


 ここは深い深い森の中に立つ無数の人形で溢れかえる人形館。
 応接間にて旅団員達が寛ぐ中、突如として応接間の扉が勢いよく開かれる。何事かと旅団員達が扉の方を見てみれば、館の主であるシエナ・リーレイ(取り扱い注意の年代物呪殺人形・f04107)が笑顔で立っていた。

「みんなに頼みたい事があるんだ!とシエナは話を切り出します。」

 開口一番のシエナの言葉に団員達の間に緊張が走る。
 シエナは見た目は可愛らしい少女だがその実態は100近い年月を数多の所有者を呪い殺して渡り歩いて来た恐るべき人形を器物とするヤドリガミだ。
 オブリビオンであろうと親愛と好意を向けて仲良くなろうとする一方で気分が高揚としてくるとオブリビオンも慄く凶行を無意識の内にやらかすというその称号に恥じない問題児である。
 そんな彼女からの頼みとなれば下手しなくても酷い目に遭う可能性が高い。シエナとは良くも悪くも付き合いの長い旅団員達が警戒するのは当然の事であった。

「わたしの『お友達』と遊んで欲しいんだ。とシエナは要件を告げます。」
 シエナの告げた要件に彼女の『お友達』を良く知る旅団員達は青褪める。シエナのいう『お友達』とは館内の至る所に存在する人形達の総称だ。
 問題はこれらの人形がオブリビオンを筆頭とした生物の亡骸を素材として作られている上に人形の中に素材にされた生物の怨念と魂の残滓が残っている危険物である事だ。
 そして、『お友達』はシエナの器物が生み出す呪詛を動力に動き出し、シエナのお願いに反しない範囲で惨劇を引き起こすのだ。
 そんな『お友達』と遊ぶという事は疲れる事も怯む事もないオブリビオンと戦う事と同義であった。

「遊び場の準備は既に終わっているから準備が出来たらすぐに来てね! とシエナは遊び場への移動を始めます。」
 団員達が止める間も無くシエナは何処かへと駆け出していってしまった。団員達が恐る恐るシエナが残していった書置きを見てみれば遊び場とはキマイラフューチャーのVR施設であった。
 この時点で旅団員達に『お友達』との遊戯をサボるという選択が断たれてしまった。それどころか早く行かないとシエナが現地のキマイラ達まで『お友達』との遊戯に誘う恐れがあり、そうなればキマイラ達は目も当てられない事になってしまうだろう。
 こうして人形館の旅団員達はシエナのやらかしを止めるべくキマイラフューチャーへの急行するのであった。


野根津
 こんにちは或いはこんばんわ、野根津です。

 今回は旅団「魔獣の森の人形館」専用のシナリオとなります。

●目的
 シエナが呼び出した『お友達』という名のオブリビオンとのお遊戯会という名の戦闘をする事。
 参加者の皆さんは真面目に『お友達』の打倒を目指しても良いですし、成す術もなく『お友達』に蹂躙されても問題はありません。

●『お友達』 
 シエナと敵対した為に凶行の餌食となり亡骸を人形にされてしまったオブリビオンです。その力は生前には遠く及びませんが人形の体故に決して疲れる事も怯む事もありません。
 人形には魂の残滓が籠っているものの、残滓に残されているのは生前に特に執着していた行為に関するものだけなので意思疎通は困難です。
 原則として『お友達』は生前に執着していた行為を参加者達を対象に行おうとしてきます。

●その他
 本シナリオに登場する『お友達』は対象を何らかの物品に変える能力を持っています。
 故意に『お友達』にやられる場合はどんな物品に変えられるかの指定をお願いします。
 但し、変化過程の描写等で盛大なキャラ崩壊等が起こる可能性がある為、それを踏まえた上でシナリオに参加して頂けると幸いです。

 尚、本シナリオは旅団シナリオ故に余程の行動をしない限りを原則として大成功となります。
 なので普段は苦戦・失敗判定を恐れて出来ないようなやらかしも存分にして頂いて大丈夫です。
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第1章 冒険 『ライブ!ライブ!ライブ!』

POW   :    肉体美、パワフルさを駆使したパフォーマンス!

SPD   :    器用さ、テクニカルさを駆使したパフォーマンス!

WIZ   :    知的さ、インテリジェンスを駆使したパフォーマンス!

👑1
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 シエナが残していった書置きを頼りにキマイラフューチャーのVR施設へと辿り着いた旅団員達を出迎えたのはキマイラ達の人だかりであった。
 キマイラ達に事情を聞いてみればVR施設の入り口に面白そうな装飾が施されたので集まったものの施設内には入れて貰えなかったという。
 どうやら一般人を『お友達』とのお遊戯会に巻き込まない様に注意する程度にはシエナの理性は残っていたようだ。
 人垣をかき分けてゆけば施設の入り口はお化け屋敷を思わせる装飾が施されいた。一際目立つ社を背負った狐の頭を持つ蜘蛛が今回相手となる『お友達』なのだろう。

「みんな、待っていたよ!とシエナは笑顔で出迎えます。」
 暫くして施設の扉を開いてシエナが現れた。シエナは旅団員達が揃っている事を確認すると施設内の状況と『お友達』についての説明を始めた。

「まずは施設内の説明からするね。とシエナは施設内部の説明を始めます。」
 シエナが言うには施設内部は足元が見えなくなる程度の霧が立ち込めた迷宮になっているという。更に一定時間経過する度に内部構造が変化するという。
 更に今回の相手である『お友達』、シエナ曰く蜘蛛さんは何らかの方法で迷宮の構造と迷宮内の生物の大まかな位置を把握しており、最寄りの生物に迷うことなく迫るという。

「蜘蛛さんは異世界の神様で不思議な力を持っているんだよ。とシエナは『お友達』の説明を始めます。」
 どうも、今回の『お友達』は元々UDCアースの邪神だったようで視覚を通じて生物の体を改竄する能力を持っているらしい。
 具体的には邪神を直視した生物や邪神に直視されてしまった生物は何らかの物品に変えられてしまうという。
 改竄の力は『お友達』にされてもなお強力であり一度物品にされてしまえば邪神がシエナのスカートの中の世界へ帰るか破壊されない限り猟兵であろうと単身で元に戻る事は困難であるという。

「蜘蛛さんに改竄されちゃった人は直ぐに安全な場所に運ぶから安心してね。とシエナは皆に避難所を紹介します。」
 旅団員達がシエナの指差した先を見てみればいつの間にか立派なショーケースが設置されており、暇を持て余したキマイラ達がショーケースを眺めたり叩いたりしていた。
 改竄された者にどんな末路が待ち受けているのかとても良く分かる光景であった。

「準備が出来た人から中に入ってね! とシエナは迷宮への突入を促します。」
 こうして旅団員達はシエナに促されて邪神な『お友達』が待ち受ける迷宮へと足を踏み入れるのであった。
水野・花
視覚を通じて能力を発動すると言うことは見られただけで駄目ってことですよね。

では、視界に入らないようにに遠くから弓矢でよーく狙って……あれ、なんだか身体が動かなくなってきました……。あ、そういえばこっちから見るのも駄目なんでした!

みるみるうちに身体が白く染まって行きます!これはいわゆるマネキン人形になっていってます……。
わあ、弓を引き絞ってた腕が抜けました!
さらに反動で弓を持ってた方の腕も飛んでいきました!
そんなことしてるうちに蜘蛛さんにバッチリ直視されて完全マネキン人形に……。

(そのままバランスを崩して倒れて全身がバラバラに……)


御影・雪乃
ここは、定期的にこういうことが起きてる気がしますね…

とりあえず私だけでも無事なら最後にみんなを回収できますし、『雪結晶アーマー』を身代わりにしたり、なにかに紛れて【迷彩】で隠れるなどして、生き残ることをがんばりましょう

シエナさんのお友達がひととおり遊んだところで『フローズン・ブラスト』で動きを止めて捕まえたいところ
そろそろ遊びの時間は終わりです
おとなしく…キレイに…凍ってくださいね…♪

…どうせ最後には全部戻すのです、他の芸術品たちも、氷でキレイに飾ってあげましょうか…フフフフ


最終的に攻め側になればだいたいのシチュはOK
元気に動いたり叫んだりはNG


シトー・フニョミョール
★アドリブ歓迎、武器利用、手遅れ寸前もOK

迷宮ですか、迷宮。こういうの苦手なんですよね。しかも相手は場所も分かってると来た。
なんでも直視したものを物品に変えるのですから、直視しなければいいと。

というわけで、この神の飛翔で迷宮ごと粉々じゃー!

…うぐぐ、思った以上の強度です。早いところ脱出を――

(機体から脱出しようとした所でばくんという音と共に体が動かなくなる。
音が響く度に真っ二つのシトーの身体が機体もろとも変形し、1対のガントレットになる)

なんだかぼんやりする…

(ばくん ガントレットに宝石がちりばめられていく)
(ばくん 石のガントレットが黄金に変わっていく)

思考も食われ、ただのガントレットに…


ポーラリア・ベル
お遊びお遊び、れっつごー!
【ヒエムス・アミークス】でお友達の冬妖精も呼んできたの。
皆で冬風吹かしましょー♪

きっとここが暗いのは、クリスマスの準備をする前なのだわ。
氷の光で飾りをつけるわ。あっちこっちに飾りをつけるわ。
雪も沢山ふらせるのー

蜘蛛さんに出会ったら、一緒に遊びましょーって目も合わせるし狐さんにもこんにちは手掴みぶんぶん踊りに誘うから、
あっという間に物にされちゃうわっ
クリスマスの飾り、ランプ、ベル、テーブルにお更にフォークにと冬妖精製の家具や小物が立ち並んじゃって、冬の(妖精を象った)お部屋が出来上がっちゃうわ。
ふぇあぁ、まさかあたし達が飾りにされちゃうなんてー。的に慌てたりするの。




 キマイラフューチャーの無駄に高度な技術により形成された洞窟状の迷宮を『魔獣の森の人形館』の旅団員達は進んでいた。先陣を切るのはポーラリア・ベル(冬告精・f06947)と彼女ユーベルコードにより呼び出された沢山の雪妖精達だ。
「お遊びお遊び、れっつごー!」
「「「れっつごー!」」」
 無邪気で悪戯好きな冬の妖精であるポーラリアはシエナからのお願いを素直に受け止め、お友達の冬妖精達と共に『お友達』との遊戯を楽しむ気でいる様だ。
 そんなポーラリアの後ろを水野・花(妖狐の戦巫女・f08135)と御影・雪乃(ウィンター・ドール・f06012)が追従する。

「ここは、定期的にこういうことが起きてる気がしますね。」
「うちの旅団ってわりとやらかす人が多いですからね……。」 
 雪乃の呟きに花が苦笑しながら答える。
 人形館で一番やらかすのがシエナである事は確実なのだがシエナ以外にも何かと理由をつけてやらかす者が多い。お陰で旅団員達は大なり小なりその手の事柄に耐性が出来てしまっていた。
 そして、会話をしながら進む雪乃と花の少し後ろではシトー・フニョミョール(不思議でおかしなクリスタリアンの従者・f04664)が物憂げな表情で歩いていた。

「迷宮ですか、迷宮。こういうの苦手なんですよね。」
 シトーはジョブとしてバトルゲーマーを嗜んでいる。本来ならば遊戯の類とも言える迷宮探索はシトーの独壇場の筈なのだが、実は彼女はゲームが下手であった。
 今も悟られない様に振る舞っているがその内心は3人と逸れまいと必死であった。

『縺セ縺溘♀縺シ縺医↑縺翫@縲ゅa繧薙←縺上&縺?シ』
 突如として迷宮内に悍ましい咆哮が響き渡る。そして、咆哮に合わせるかのように迷宮に異変が起きた。

「わわっ! 急にまっくらになったよ!」
「まさか、これがシエナさんの言っていた迷宮の内部構造の変化ですか?」
「内部構造の変化というレベルじゃないですよ!」
「ぬわぁああああ!?」
 突如として部屋が漆黒に闇に包まれたかと思えば地面が激しく波打ち始めたのだ。それは事前にシエナに伝えられた内容から4人が予想していたものを遥かに超えていた。
 地面の動きは凄まじく雪乃、花、シトーの3人は波打つ地面に翻弄されて立ち上がる事すら儘ならない。宙に浮かんでいる為に地面の影響を受けないポーラリアと冬妖精達も漆黒の闇の中で動くのは危険と判断したのか、一か所に寄り集まるとその場に留まった。
 そして、暗闇が晴れれば洞窟状の迷宮は石造りの迷宮に変貌を遂げ、旅団員達は分断されていた。



「おぉ~!」
「どーくつがつーろになってるよ!」
 暗闇が晴れ内部構造の変化が終わった迷宮を見渡した冬妖精達が迷宮の変貌ぶりに驚きの声をあげた。
 デコボコな土の壁は整った形の石を積み上げて造られた壁となり、床も同様に平滑な石畳に変化している。それは妖精のポーラリアなら利用可能であった隠れ場所がなくなるという『お友達』と戦う上では不都合な変化であった。
「わぁ! 準備がやりやすくなったわ!」
 しかし、そんな迷宮の変化に対してポーラリアは喜びの声をあげる。元よりポーラリアの目的は『お友達』の討伐ではなく『お友達』と楽しく遊ぶ事だ。
 とある理由から遊ぶ前のやるべき事があると考えていたポーラリアにとってこの変化は好都合だったであった。
「じゅんび?」
「なにするの~?」
「おしえておしえてー!」
 冬妖精達はポーラリアが何かの準備をする事を知らなかったのか口々に問い掛けてゆく。お友達の問い掛けにポーラリアはうっかりと言わんばかりに自身の額を小突いた。
「言い忘れていたわ! ……皆はここが暗いのはなんでだとおもう?」
 ポーラリアが冬妖精達に問い掛ければ冬妖精達は様々な回答を返してゆく。ポーラリアは妖精達の回答にくすくすと笑うと正解を発表する。
「皆、間違っているよ。ここが暗いのはねぇ……クリスマスの準備をする為なの!」
「そうなの!?」
「そっか! くらくないとサンタさんがこれないもんね!」
 ポーラリアの回答に冬妖精達は驚くがすぐに納得した。ポーラリアの考えは見当違いなのだが生憎とそれを突っ込める者がこの場にはいない。
 そして、ポーラリアは冬妖精達に自身がやろうとしていた準備の説明を始める。説明を聞いた冬妖精達はポーラリアが行おうとしている準備を手伝う意志を示した。

「それじゃあ、皆で冬風吹かしましょー♪」
「「「ふかしましょー!」」」
 ポーラリアの号令と共に冬妖精達が迷宮内に散るとそれぞれの作業を始めた。
「かべにかざりをつけていくよー!」
「雪も沢山ふらせるのー♪」
 冬妖精達は迷宮の石壁に様々な形の氷で出来た飾り物を取り付けてゆく。そして、後を追う様にポーラリアが冬の魔力を迷宮の天井に注ぎ込んでゆく。
 すると迷宮内に雪が降り注ぎ雪に触れた氷の飾りが仄かな光と共に膨大な量の冷気を放出し始めた。ポーラリアがやろうとしていた準備、それは迷宮を氷の装飾で飾り付ける事だ。
 ポーラリアは迷宮が暗い理由をクリスマスの準備と判断したのは先に言ったとおりだが、同時に飾り物が全くない事に疑問を抱いていたのだ。
 そして、シエナの事前説明から『お友達』が蜘蛛である事を知ったポーラリアは『お友達』は飾り付けをしたくても出来なかったと判断した。
 なのでポーラリアは『お友達』の代わりに迷宮の飾りつけをする事を決意したのだ。
 繰り返す様だがポーラリアの考えは見当違いなのだがそれを突っ込む者が不在なのでポーラリア達が止まる事はない。迷宮が雪と氷の飾りで埋め尽くされるのにそれほど時間はかからなかった。

「これなら『お友達』も大喜びだよ! ……あれ、皆がいない?」
 飾り付けが無事に終了した事にはしゃぐポーラリアはお友達の冬妖精達の姿が見えない事に気が付いた。
 ポーラリアは皆が先に行ってしまったのだろうかと首を傾げながらもクリスマス仕様となった迷宮を進み始める。暫くして広い空間に辿り着いたポーラリアは奇妙な物を見つけた。
「テーブルなの?」
 どういうわけか迷宮の広場にガラステーブルが設置されているのだ。ポーラリアが近づいてみればテーブルの上にはランプやクリスマスツリーの飾り等の雑貨品にお皿やフォーク等の食器類が置かれている。
 テーブルに置かれた品々を観察してみれば模様や飾りは雪の結晶や妖精を思わせる意匠が施されていた。更にテーブルも調べてみればやはり同様の装飾が施されている。
「なんだか凄く気になるけれどまずは皆を探すのが先決だよ!」
 迷宮に置かれた奇妙な品々に何故か既視感を抱いたものの、ポーラリアは何処かへと消えた冬妖精を探す事を優先しその場を後にした。
 そして、ポーラリアはある物が通路の曲がり角へ消えてゆくものを見つける。それはポーラリアが施設に突入する前に見た蜘蛛の看板が背負っていたものと瓜二つであった。
「あれは……きっと蜘蛛さんなの! 蜘蛛さんポーラと一緒にあそびましょー!」
 今回のお遊戯会の主役を見つけたポーラリアは遊びに誘う為に突撃する。

 ばくんっ!

 そして、曲がり角を曲がり蜘蛛の全身を視認した瞬間にポーラリアの脳裏に咀嚼音が鳴り響く。するとポーラリアの身体が動かなくなりそのまま降り積もった雪の上へと墜落した。

(体が動かないし……声もだせないの。)
 突如として身じろぎは愚か声を出す事も出来なくなった事にポーラリアは困惑した。辛うじて動かす事の叶う視界を総動員して辺りを見回してゆく。
 手始めにポーラリアの目に入ったのはシエナの『お友達』である蜘蛛だ。位置の関係もあって全身を見渡す事は叶わないがそれでも蜘蛛の状態を確認する事は問題なく出来た。
(蜘蛛さん全身がまっしろなの。)
 蜘蛛の体は全身が霜に覆われており、所々凍り付いている場所すらあった。ポーラリア達が行った前準備によって迷宮が極寒の世界となった結果、『お友達』の体が凍結し始めているのだ。
 もしも蜘蛛が生きていれば余りの寒さに体を震わせていただろう。しかし、今の蜘蛛は命亡き『お友達』であり、凍結によって動きが鈍る以上の影響はなかった。

「蟇偵>縺ァ縺」
 やがて『お友達』はポーラリアの存在に気が付いたのか、その場で方向転換を始めた。その動きは酷くゆっくりであったものの、8つの眼を持つ狐の頭部がポーラリアへと向けられる。
 ポーラリアは艶やかな蜘蛛の瞳を鏡代わりに自身の状態を確認する事を思いついた。そして、必死に目を凝らし漸く自身の姿を確認する事に成功したポーラリアは唖然とする。
(ふぇあぁ……あたし、ベルになってるのー。)
 蜘蛛の瞳に映っていたものは青いガラスで出来たベルであった。ベルには天使の衣装を着た妖精の装飾が施されており、それはポーラリアにそっくりであった。
 そう、『お友達』を視認してしまったポーラリアは『お友達』の力によってその身体をガラスのベルに改竄されてしまったのだ。
 ここにきてポーラリアは冬妖精達も同様に『お友達』を視認して何らかの物品にされてしまった可能性に気が付いた。
(まさか、あたし達が飾りにされちゃうなんてー。)
 ベルにされてしまった事に慌てふためくポーラリアだが今のポーラリアはガラスのベルでありただ慌てる事しか出来ない。やがて、『お友達』はポーラリアを見つけたのか視線をポーラリアへと向けた。

 ばくんっ!

(あれ……なんだか……いしきが…………。)
 ポーラリアの脳裏に先程とは比べ物にならない程に大きな咀嚼音が響いたかと思えばポーラリアの意識は急速に薄れそのまま消失した。
「縺偵▲縺キ」
 『お友達』はポーラリアであるベルを一瞥して鳴き声を上げると何処かへと去っていった。
 こうしてポーラリアと冬妖精達は『お友達』の最初の犠牲者となるのであった。



「いくら何でもあれは反則です。しかし、これは不味い事になりましたね。」
 シトーは仲間と分断された上に現在地の確認も儘ならなくなった状況に頭を抱えていた。迷宮を見渡せば洞窟は石造りの迷宮に変貌しており、壁は何故か氷の飾り物で装飾され雪が地面に軽く積もる程に降り注いでいた。
「早く皆と合流したいですが相手は迷宮の構造とこちらの居場所を把握していると来た。下手に動けば鉢合わせしかねないですね。」
 どの様な手段で『お友達』が把握しているのかは不明だが緩い条件で発動するほぼ一撃必殺の技を使う敵が相手なので下手に動く事は憚れる。故にシトーは『お友達』を迎撃する為の策を考える事にした。

「確か『お友達』は直視した者を物品に変えるのですから……直視さえしなければいいと。」
 顎に手を当てシトーは考え込む。『お友達』の能力は視認を条件に発動するが裏を返せば視認という条件を満たさなければ『お友達』の能力に曝されない事を意味している。
「問題はどうやって視認せずに戦うかだけど……そういえば、壁の材質が変わってますね。」
 ふとシトーは迷宮の壁が土の壁から石の壁になっている事に気が付いた。おもむろに壁を殴ってみれば壁は砕けて破片を辺りに撒き散らしてゆく。
 砕けた壁は直ぐに元通りになるが砕かれた石壁の破片は消える事無く残り続けていた。
「ぬっぬっぬっ……いい事を思いつきましたよ。」
 地面に散らばった破片を見つめていたシトーは怪しい笑みを浮かべると迷宮の壁を壊し始めた。当然、壁は直ぐに修復されてしまうが数分もすればシトーの周囲は大小様々な石で埋め尽くされた。
「これで準備は完了……というわけで、『鳥だ、飛行機だ、いや、シトーなんぬ!』」
 シトーが詠唱と共に飛び上がれば周囲に散らばった石がひとりでに浮かび上がりシトーの体へと殺到してゆく。数秒もすれば石で出来た戦闘機が出来上がっていた。
 石の戦闘機は轟音と共に離陸すると機銃掃射をしながら飛翔を開始する。シトーが思いついた『お友達』への対抗策、それは【神の飛翔】によって創り出した戦闘機で迷宮諸とも殲滅する事であった。

「この神の飛翔で迷宮ごと粉々じゃー!」
 ユーベルコードによって形成された戦闘機から放たれる機銃は迷宮の壁を容易く貫き、続けて行われる突貫で迷宮の壁が粉砕されてゆく。更に生態ユニットと化したシトーの演算により室内で出していけない速度を維持しながらも迷宮を擁するVR施設の壁に激突する事無く迷宮を蹂躙してゆく。
「高速で飛翔するシトーを視認できるものならしてみろってもんです!」
 もはや怖い物は何もないと言わんばかりに迷宮を飛び回るシトー。だがシトーの快進撃は長くは続かなかった。
「あれ、機体の制御が効かない? 翼がもげてる!?」
 突如として戦闘機が制御不能に陥ったのだ。慌てて戦闘機の状態を確認してみればあろうことか主翼の片側が丸ごと消失していたのだ。
 どうやら調子に乗って戦闘機を飛ばしている内に迷宮の壁以外のナニかにぶつかってしまったらしい。予想外の事態にシトーが慌てた直後、戦闘機は墜落した。

「ふぅ、猟兵じゃなければ死んでました。とはいえこのままだと危ないので早いところ脱出を……。」
 墜落しVR施設の壁に衝突した戦闘機は真っ二つになっていた。序に生態ユニットとして戦闘機と一体化したシトー自身も綺麗に2分割されてしまっていた。
 普通に考えれば致命傷だがシトーは鉱物生命体クリスタリアンの猟兵だ。真っ二つになる程度なら割と簡単に治せるし、最悪真の姿を晒せばなんとかなってしまう。
 とはいえこのままだと無防備にも程があるのでシトーは立て直しの為に戦闘機の残骸から脱出を試みる。だが、それが叶う事はなかった。

 ばくんっ!

「えーっと…えーっと。体が動かない?」
 脳裏に咀嚼音が響いたかと思えばシトーの体は突如として動かなくなったのだ。困惑するシトーはその身が戦闘機諸とも粘土の如く変形している事に気が付けない。

 ばくんっ!

「周りが大きくなってる?」
 更に咀嚼音が響き渡ればシトーの体は変形を加速させると共に縮んでゆき、1対の腕を思わせる形状へと変化してゆく。

 ばくんっ!

「なんだか周囲が眩しくなってきました……それに、からだのちからがぬけてきた……。」
 更なる咀嚼音で形状が変化したシトーの体が黄金に染まってゆく。更に黄金に染まった身体が黒を基調に白の縞が入った宝石、オニキスで装飾されてゆく。

「これって……もしかして……。」
 シトーはこの段階に至って自身の置かれた状況を悟った。そして、視線を必死に巡らせてみればそれは見つかった。
 そこには全身が霜に覆われ、一部が凍り付いた『お友達』が佇んでいた。背中に背負っている筈の社はなく、代わりに石の戦闘機の主翼が突き刺さっている。
 そして、社に奉納されていた人形は『お友達』の頭の上に横たわり『お友達』と共にシトーへ視線を向けていた。

 ばくんっ!

 脳裏に一際大きな咀嚼音が響くのと同時にシトー・フニョミョールの意識は霧散した。

「鬟溘∋雜ウ繧翫↑縺」
 シトーへと視線を向けていた『お友達』は鳴き声を上げると再び徘徊を開始した。そして、『お友達』が去った跡にそれは残されていた。
「…………。」
 それは1対の黄金のガントレットであった。随所に戦闘機や人を思わせる形状をガントレットは『お友達』を視認し『お友達』に視認されてしまったシトーの成れの果てである。
 やがて迷宮に放置されていたシトーであったガントレットを何処からともなく現れた蜂を思わせる少女達が持ち去ってゆく。
 こうしてシトーも黄金のガントレットとなりシエナの用意した避難所へと運ばれてゆくのであった。



「洞窟があっと言う間に雪の降る迷宮になるなんて相変わらずキマフューの技術力は高度です……。」
 花は数分前とは比べ物にならない程に寒くなった迷宮を呆れた様子で見渡す。雪に関してはポーラリアの仕業なのだがそう疑われても仕方ないのがキマフュー驚異の技術力だ。
 その身を寒さに震わせながらも大きな狐の耳を立てて盛んに周囲を見回しながら迷宮を進む。迷宮が寒くなったのは困りものだが降り注ぐ雪は花に大きなメリットを齎していた。
「洞窟の時には『お友達』の足音が聞こえなかったんですよね。」
 花は洞窟状の迷宮を探索する最中、常に聴覚による索敵を行っていた。しかし、『お友達』はその巨体に反して足音を全く響かせなかったのだ。
 だが、石造りとなった迷宮には雪が降り注ぎ花の靴が隠れる程度に降り積もっている。この降り積もった雪が『お友達』の歩行を雪が踏みしめられた際になる独特の音という形で把握する事を可能にしたのだ。
 こうして『お友達』の位置を把握可能となった花はいつでも矢を射れる様に弓をつがえると探索を再開した。

「視覚を通じて能力を発動すると言うことは見られただけで駄目ってことですよね。」
 花は聴覚による索敵を続けながらも『お友達』の能力を再確認する。『お友達』の能力は発動条件の気軽さの割にその効果は極めて凶悪だ。
 見られるのが駄目である以上、花に取る事が出来る手段は限られて来る。考えた末に末に花は一つの戦法で行く事を決める。
「ここは『お友達』がまともに視認できない程の距離からの狙撃でいきましょう。」
 花は通路の奥を見据えながら呟く。迷宮の壁に設置された氷で出来た装飾から放たれる光で僅か照らされている為か目を凝らせば思いの外遠くまで見渡す事が出来る。
 ユーベルコードによる補助も併用すれば索敵や位置取りでしくじらない限り『お友達』に視認される前に捕捉する事が出来るだろう。
「後は狙撃に最適な場所探しですね。『お友達』と鉢合わせしない様に注意しないと……。」
 斯くして花は『お友達』と戦う為に狙撃に最適な場所を求め迷宮の探索を開始した。

「ここで待ち伏せするのが良さそうですね。」
 迷宮を彷徨い始めて暫くして花は漸く狙撃に最適な場所を見つけ出す事が出来た。その場所は強化された視力を最低限活かせる程度の広さがあり、攻撃後の退路も確保されていた。
 狙撃地点を見定めた花は瞳を閉じると耳をすまして『お友達』の位置を探り始めた。やがて『お友達』が花に向けて接近を始めた事を察知すると花は瞳を開くと弓を構え精神を集中させてゆく。
 精神の集中に伴い花の眼が研ぎ澄まされてゆき通路の最奥が朧気ながらも見えて来た。花はいつでも矢を放てるように弓を引き絞り始めた。
 そして、通路の曲がり角から『お友達』の頭が飛び出した。
「よーく狙って……そこです!」
 花は『お友達』の頭に狙いを定めると矢を放った。矢は『お友達』に向けて一直線に飛ぶと『お友達』の8つある瞳の内の1つを貫いた。
 しかし、『お友達』は頭に矢が突き刺さった事に対しなんの反応も見せない。今の『お友達』は呪詛で動く人形であり痛覚が機能していない為に瞳が潰れた事によって視覚が狭まる以上の影響はないのだ。
 そして、『お友達』は矢が飛んできた方向に顔を向けるが花の身体が改竄される事はなかった。
「この調子で他の眼も潰してしまいましょう。」
 作戦が予想以上に上手くいっている事に花は調子づき『お友達』の残りの瞳も潰さんと弓を再び引き絞る。だが、『お友達』の全身が曲がり角から出た瞬間にそれは起きた。

 ばくんっ!

「あれ、なんだか身体が動かしづらくなってきました……。」
 花の脳裏に咀嚼音が鳴り響いたかと体が動かしづらくなってきたのだ。当然、そんな状態で狙いを定める事が出来るわけもなく花は焦り始める。
 やがて、『お友達』が花に向けて近づいてゆき『お友達』の姿を明確に視認出来るようになると更なる異変が起きる。

 ばくんっ!

(……身体が白く染まって……あれ、声が出ない? わぁっ、私の腕が!?)
 花の体が不自然な程に白く染まると共に体が全く動かせなくなり、声すらも出せなくなってしまったのだ。更に身体の変化に合わせる様に矢が花の意に反して放たれる。
 この時、花は放たれた矢と共に自身の弓を握る腕が飛んでいくのを目にした。同時に彼方へと飛んで行く自身の腕の断面から自身の状態を悟った。
(私の体……マネキン人形になっています……。)
 飛んでいく花の腕の断面には金属の接続具が取り付けられていた。花の体はマネキン人形と化していたのだ。
 腕が飛んだのは矢を放った際に弓に生じた反動に腕の接続部が耐え切れなかったのだろう。
 それでも矢を放った衝撃で全身が倒れずに済んだのは日頃の鍛錬の賜物だったのかもしれない。
(『お友達』には視認されていない筈なのに……あっ……そういえばこっちから見るのも駄目なんでした!)
 能力の発動条件を満たしていない筈なのに自身の体が改竄されてしまった事に花は混乱する。そして、『お友達』の能力発動条件として『対象が『お友達』を視認する事』もある事を思い出した。
 だが、その事に今気が付いたところでもはや後の祭りである。体の殆どがマネキン人形に改竄されてしまった花に『お友達』から逃れる術はない。
 そして、『お友達』が花を視認できる距離まで接近した。

 ばくんっ!

(あっ…………。)
 脳裏に一際大きな響くと共に花の視界が純白に染まり同時に意識も薄れていった。
 
「縺セ縺?鬟溘∋雜ウ繧翫↑縺」
 『お友達』は花の成れの果てを凝視する。花は瞳まで純白に染まり、その意識も消失してただのマネキン人形と化している。
 やがて、『お友達』は一声鳴くとその身を翻し何処へと去ってゆき、マネキン人形は1人その場に残された。
「…………。」
 暫くして花であったマネキン人形の元に蜂を思わせる少女が集まってくる。少女の一人がマネキンの頭を掴み、飛び上がろうとするが勢い余って頭が外れてしまった。
 頭が外れた際の衝撃でバランスが崩れたのかマネキン人形は大きく揺れるとそのまま石畳に向けて倒れてゆく。

 がしゃん!

 幸い、雪がクッションになったのか石畳に倒れ込んだマネキン人形が壊れる事はなかった。しかし、全身のパーツが外れてばらばらになってしまった。
「…………。」
 マネキン人形が倒れた音を聞きつけたのか、至る所から蜂の少女達が集まってきた。少女達はバラバラになったマネキン人形を避難所へと運び始める。
 少女達の掴み方が悪いせいか運ぶ途中でマネキンが身に着けていた衣類等が脱げてゆくが、少女達は気にする事無く飛んで行く。
 こうして身体をマネキン人形に改竄された花はバラバラの状態で避難所へと運ばれてゆき、跡には彼女が身に着けていた衣類が散らばるのであった。


「菴募?縺ォ縺?k縺ョ?」
 旅団員達を次々と餌食にした『お友達』は最後の獲物を餌食にすべく自身の眷族からの情報を頼りに迷宮を彷徨っていた。
 しかし、いくら探しても獲物は見つからない。今も不自然な盛り上がりこそ見つかるが肝心要の獲物の姿は影も形もないのだ。
「螢√?蜷代%縺?°縺ェ縲」
 やがて、ここにはいないと判断したのか『お友達』は不満げな鳴き声をあげると何処かへと去ってゆく。
「……行ったみたいですね。」
 そして、『お友達』がその場を去ってから少しして不自然な盛り上がりの中から雪乃が顔を出した。

「私だけでも無事なら最後にみんなを回収できますし、生き残ることをがんばりましょう。」
 雪乃は迷宮で仲間と逸れた直後から自身の姿を隠す事に手段の確保に努めていた。
 迷宮内に雪が降っていた事からスノウパラソルを広げる事によって降り注ぐ雪の量を増やし、スノウパラソルに雪を積もらせる事により即席のスノーカモフラージュを作り上げたのだ。
 その後は時折現れる『お友達』を隠れ蓑でやり過ごし、『お友達』が居座るようであれば雪結晶アーマーで作り出した囮で引きつける事によってその場から逃れる事に成功していた。
「それにしても、あの『お友達』は随分とポンコツですね。」 
 雪乃が作り出した隠れ蓑は即席故に何かが隠れている事が丸わかりな代物であり、囮も『お友達』の能力を顧みれば即座に見破られても可笑しくはなかった。
 しかし、『お友達』は隠れ蓑を間近で見ても隠れている雪乃に気が付かず、囮も自身が直視しても存在が改竄されない事に疑問を抱く事もなく追いかけてゆくのだ。
 それはシエナによって『お友達』にされた影響かそれとも元よりこうであったのか。雪乃が判断を下すには聊か情報が足りなかった。
「何れにせよ、楽に生き残れそうなのは幸いです。」
 『お友達』がこうもポンコツならば後は自身が行動を誤らない限り危険はないだろう。雪乃は当初掲げた目標が予想以上に容易に達成できそうな事に安堵した。

「戻って来るまでの間隔が、だいぶ短くなりましたね。」
 既に両手で数えきれなくなる程に行われた『お友達』の襲撃を凌いだ雪乃はスマートフォンの時計を見ながら呟く。
 最初の内は一度襲撃を凌げば再襲撃までに数十分程度の間があった。だが今は5分も経たないうちに再襲撃を受けている。
「どうやら、皆やられてしまったようですね。」
 雪乃は襲撃の間隔が短くなった原因を『お友達』が襲撃する対象が自分以外にいなくなった為と判断した。それは雪乃が掲げた最後まで生き残るという目標が達成できた事を意味していた。
「そろそろ遊びの時間も終わりです。」
 目標を達成できた以上、雪乃に『お友達』を放置する理由はなくなった。いい加減、『お友達』も満足できたであろうと考え雪乃はお遊戯会を終わらせる為に行動に移った。

「繧?▲縺ア繧翫>縺ェ縺」
 『お友達』は未だに最後の獲物を求めて迷宮を彷徨っていた。眷族は依然として不自然な盛り上がり以外は何もない場所を知らせるばかりで役に立たない。
 獲物が目の前の盛り上がりに隠れている事に気が付く事なく『お友達』は苛立ちの混ざった鳴き声をあげる。そんな『お友達』の足元にある不自然な盛り上がりから声が囁かれる。
『氷漬けにしてあげる。』
 囁き声に合わせる様に『お友達』の足元から極寒の冷気を纏った雪が吹き荒れる。雪は『お友達』の体を触れた部分から瞬く間に凍り付かせてゆくが『お友達』はその事に気が付かない。
 それどころか凍り付いている事に気づかぬまま動こうとした為に『お友達』の脚が大きな音をたてて砕けてしまった。足が砕けた為に石畳に横たわった『お友達』の体を雪が包み込んでゆく。
「縺ェ繧薙〒縺?#縺代↑縺???」
「おとなしく……キレイに……凍ってくださいね……♪」
 雪乃の心なしか艶やかな囁き声と共に『お友達』はその身を完全に凍り付かせた。

「そろそろ大丈夫、でしょうか?」
 『お友達』の足音や鳴き声が聞こえなくなってから暫くして雪乃は隠れ蓑から出ると辺りを見渡す。フローズン・ブラストの猛威に晒された迷宮は青白く凍り付いておりその一角に大きな氷の山が佇んでいた。
 雪のが氷の山に近づき目を凝らしてみれば中には体の至る所が欠損した『お友達』が封入されていた。
「しまっ…………どうやら、身体は改竄されないようですね。」
 『お友達』を直視してしまった事に焦る雪乃だが一向に身体が改竄される事はなかった。どうやら今の『お友達』を見る分には身体が改竄される事はないらしい。
 それが『お友達』が倒された事による物かそれとも直視という判定が雪乃の想像以上に厳しい為かは分からない。それでも『お友達』が無力化されたと判断して良さそうである事に雪乃はため息をつく。
 暫くして迷宮の壁に罅が入ったかと思えばそのまま崩壊して細かい粒子へと変化してゆく。数分もすれば迷宮は影も形もなくなり、代わりに広大な白い空間が広がっていた。
 更に何処からともなく蜂を思わせる少女達が飛来すると氷の塊と化した『お友達』を何処かへと運び始めた。どうやら、お遊戯会は終了したらしい。
「それじゃあ、皆さんを迎えに行きましょう。」
 雪乃は『お友達』の餌食にされてしまったであろう仲間達の様子を見るべくVR施設の出口へと歩き始める。途中、見覚えのある衣類が床に散乱していたので嫌な予感を覚えながらもそれを回収してゆく。
 そして、VR施設の出口の扉に辿り着いた雪乃は意を決して扉を開くと施設の外へと足を踏み出した。


「予想以上に愉快な事になっていますね。」
 遊戯の勝者に握手をして貰おうと群がって来るキマイラ達を押しのけながら脱落者の避難所へ辿り着いた雪乃はショーウィンドウの中を見て苦笑する。
 ショーウィンドウの中には雪乃の予想通り、『お友達』の餌食となった旅団員達が飾られていた。
「これは冬妖精達でしょうか?」
 最初に目についたのはガラスのテーブルとその上に置かれた食器の数々だ。これらの品々は青や白を基調にした色合いに冬や妖精をモチーフにした可愛らしい装飾が施されている。
「あぁ、やっぱりそうなっていますか。ご愁傷様です……。」
 続いて目についたのは花の成れの果てであろうマネキン人形だ。弓を左手に持ち何かを射抜こうと構えたポーズを取るマネキン人形はあろうことか衣類を身に着けていなかった。
 どうやら運搬の際に衣類を全て落とされてしまったらしい。幸か不幸か局所は簡略化されてツルツルであり、落とされた衣類の代わりと言わんばかりに一糸纏わぬ身体にモールガーランドが巻き付けられ、気持ち程度に隠されていた。
「もしかして、これがシトーさんとポーラリアさんですか?」
 ショーウィンドウ内にシトーとポーラリアの成れの果てであろう物品がない事に雪乃は首を傾げる。だが、改めて花のマネキン人形を見てみればその腕にシトーとポーラリアの成れの果てと思われる品々を身につけていた。
 マネキンの両腕には黄金のガントレットが取り付けられている。ガントレットの指パーツや手甲部分に施されたオニキスの装飾の造形からそれがシトーの成れの果てである事に雪乃は気が付いた。
 そして、本来なら矢を掴んでいる筈の右手は青いガラスのベルを掴んでいた。ベルには天使の衣装を纏った妖精の飾りが取り付けられており、その妖精の顔はポーラリアにそっくりであった。

「これはこれで良いのですが、少し物足りないですね。」
 ショーウィンドウに飾られた旅団員達の成れの果てを組み合わせて形成された芸術品を眺めていた雪乃だが、芸術品に何かが足りない気がしていた。
 何が足りないのかと雪乃は顎に手を当て考え込む。そして、雪乃は唐突に閃いた。
「そうです、氷の装飾が足りないのです。」
 どうやら雪乃は閃いたのではなく魔が差したらしい。明らかに雰囲気の変わった雪乃にキマイラ達が怯える中、雪乃はショーウィンドウの中へと入ると花のマネキンを弄り始めた。
「どうせ最後には全部戻すのです、氷でキレイに飾ってあげましょうか……フフフフ。」
 そして、マネキンを弄り終えるとショーウィンドウの中に極寒の冷気を吹き込み始める。冷気は瞬く間にショーウィンドウ内の品々を凍り付かせていった。
 雪乃が冷気を吹き込む事を止めて暫くして花のマネキン人形はその様相を大きく変貌させていた。
 マネキン人形の身体に巻きつけられていたモールガーランドは取り払われ、弓の弦代わりと言わんばかりに弓と右手に繋げられている。更に右手は雪乃が回収していた矢を掴んでおり、ポーラリアであったベルは矢の先端に取り付けられていた。
 そして、モールガーランドが取り払われてしまったマネキンの身体には沢山のつららが垂れ下がっていた。

「素敵な姿になりましたね♪」
 雪乃は新たにつららによる装飾が施された花であったマネキン人形をうっとりと眺める。今のマネキン人形は果敢に敵に挑むも破れてしまった者と呼ぶのに相応しい姿であった。
 全身に生えたつららはマネキン人形の局部を覆い隠しているものの、見方によってはつららが逆に厭らしい物に見えてくるだろう。

「折角ですから、後で皆が見られるように記録しておきましょう。」
 雪乃はスマートフォンを取り出すとカメラ機能で芸術品となった旅団員達の姿を撮り始めた。
 こうしてシエナの『お友達』とのお遊戯会は多数の犠牲者を出しながらも無事に終了するのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月16日


挿絵イラスト