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たとえ児戯と謂れども、この想いは消ふことなく。

#カクリヨファンタズム

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#カクリヨファンタズム


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●機械仕掛けの願い
 お前さんはほんに私を可愛がってくれたねぇ。
 話しかけても答えもしない、ただ微笑むだけの私を、かわいかわいと撫ぜてくれて。
 ゴミ屑から出来た機械仕掛けの私のことを、まるで愛し子のように愛でてくれたじゃあないか。
 そんなお前のことを、私ゃ嫌いじゃなかったよ。いいや、むしろ好いていた。
 だからさ、お前さんがもう二度と還って来ないと知った日にゃあ、泣けないはずの歯車仕掛けがぽろりと油涙を零したものさ。
「時よ巻き戻ってくれ、私とあやつが永遠に共にいられるように」

 願いを聞き入れた世界は運命は逆巻きあげ、お前さんが生きたまま私の目の前に現れる。そして私を抱き上げて、また可愛かわいと頬を撫ぜ髪を鋤き服を延ばしてくれた。
 これがこの世の幸福か。嗚呼、私は、機械仕掛けのくせに人間らしい感情を持ってしまったのか。
 でも、この幸を二度と奪われたくはない。お前さんが私を愛でるこの時間こそ永遠なれ。
「時よ止まれ、お前は美しい」
 例え世界が崩壊したとしても、私ぁお前さんと共にあれれば其れで良い。

●機械仕掛けの愛
 あるところに、機械細工を生業とする青年がいた。青年は様々な工具や道具を作る中、趣味で一体の人形を作り上げた。名もないそれを青年は大層可愛がり、服を着せ変え、髪を梳かし、美しい瞳をはめ込んだ。
 人形もまた青年の愛を一心に受け、動けはしないもののいつも微笑みを返していた。
 忙しい青年の仕事が終わった後の、ゆったりとした一人と一体だけの時間。それは会話などなくとも幸福な時間だった。青年は人形に宙を浮かぶ機能を付けたり、時刻を知らせる機能を付けたり、改造に余念がなかった。人形もまた飽きずに新しい機能を付けてもらえることを喜んでいた。
 しかし、幸福な時間は長くは続かない。青年は不慮の事故で死んでしまった。人形はそのまま青年と共に火葬され、幽世へとたどり着く。そして、ようやく自分で歩けるようになった脚で、青年を探した。来る日も来る日も、歯車がさびつくことさえ厭わずに。
 漸く出会った青年は、既に人の範疇を越え、世界に仇名す存在となっていたけれど、人形にとってはどうでもいいこと。
「お前さんと出会えたことが、私の一等の幸せだよ」
 そう言って二人は寄り添い、一つの影となる。時が止まり、世界が崩壊しようと構わない、また二人一緒にいられるならと――害なす者と戦う決意を心に秘めて。

●グリモアベースにて
「人と無機物でも、心通わす事があるのだな」
 書類に目を通したグリモア猟兵、天帝峰・クーラカンリ(神の獄卒・f27935)は集まった猟兵達へ資料を配布した。中には敵の来歴などが書いてある。とある青年と人形の儚くも愛おしい程の友情を、美しいととるか気持ち悪いととるかは各々次第だが。
「一人の妖怪人形が、世界の崩壊を招く一言を唱えてしまった」
 大地は割れ、天は怒り、草木は萎れ、急速に進むカクリヨの世界。それを食い止められるのは、猟兵達だけだ。
「まずお前たちには迷宮屋敷に向かってもらいたい」
 オブリビオンとなってしまった青年を吸収した人形は、機械仕掛けの迷宮を作り出したのだという。其処は奥深く、絡繰り仕掛けで、現代技術にも劣らない仕掛けが沢山詰まっているそうな。その深奥で、青年と共に人形は猟兵を――二人を引き裂く悪鬼を待っている。
「敵対者は『棄物蒐集者・塵塚御前』。廃棄場から世界を作り上げた青年の最高傑作だ。塵塚御前は廃材を武器に、時には自身と同じく名もなき妖を手え期待させて来る。決して油断はしてはいけない」
 最終目標は青年と塵塚御前を引き剥がすこと。どんなに残酷で、哀しい結末が待っていようとも、そうしなければカクリヨの崩壊は防げない。当然二人は抗うだろうが、そこは猟兵の武力と話術で何とかしてほしい。
 ああ、そうそう。とクーラカンリは資料の一番後ろに頁を捲って、猟兵達に甘い言葉を投げかける。
「すべてが終わったらご褒美がある。移動式遊園地だそうだ。中でも回転木馬が有名らしい。回る間だけ見える夢は、前向きに乗れば未来・後向きに乗れば過去が見られるんだとか。何とも不思議な遊具だな」
 どうにか青年と塵塚御前を引き剥がし、物語を終焉へと向けてくれと、クーラカンリは尊大な態度を崩さぬまま猟兵達を送り出した。


まなづる牡丹
 オープニングをご覧いただきありがとうございます。まなづる牡丹です。
 今回はカクリヨファンタズムにて、青年と人形の紡糸を断ち切っていただきます。

●第一章
 『迷宮屋敷』
 絡繰りで構成された、異次元屋敷です。怪談は逆転し、窓を開けば崖っぷち、天上を歩き地には扉。ところどころ歯車が回っているので、壊してみるのも手かもしれません。
 PSWは参考程度に、各々ご自由な考えで進んでくださいませ。

●第二章
 『棄物蒐集者・塵塚御前』
 青年に愛されてヒトの心を手に入れた人形です。青年と離れることを激しく拒否します。詳しくは2章断章にて。

●第三章
 『来し方行く末』
 回転木馬に乗ることが出来ます。前向きに乗れば未来・後向きに乗れば過去が見られるそうですよ。それが真実であれ虚構であれ、信じるのは貴方次第です。

●プレイング送信タイミングについて
 1章は断章が投下されたタイミングで送っていただいて構いません。
 2章以降はMSページにてプレイング受付期間を告知いたしますので、お手数ですがご確認お願いします。
 (基本的に断章を投下した次の日よりプレイングを受付致します。申し訳ありませんがそれ以前に送られたプレイングは返金とさせていただきますのでご了承ください)

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております!
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第1章 冒険 『迷宮屋敷』

POW   :    直観頼りにとにかく進む

SPD   :    きちんとマッピングしながら進む

WIZ   :    壁を壊して進んでもいいんだろう?

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 その迷宮は時空がねじれていた。天が地に、扉の先に道はなく、階段は四方八方へ延び、まるでだまし絵。
 誰かが扉を開ければどこかの扉がしまり、天井を歩くものにとって地面はこちら。階段を降りていたはずなのにいつの間にか上っている。全くもってややこしい。

 君達はこの迷宮を踏破し、深奥で待つ塵塚御前の下へ行かねばならない。どのように進むかは君達次第……。
政木・朱鞠
悲しい恋物語だけど…同情したからってこの世界を骸の海に沈めるわけには行かないもんね…。
咎を犯させないのも慈悲と信じて、ここは冷徹にトラブルの解決を目指すしかないね…。

行動【WIZ】
一定時間で変化するとはいえ『迷宮屋敷』の組変わりにある種の法則が有るんじゃないかと仮説を立てて行動する。
屋敷内に感覚共有した『忍法・繰り飯綱』を先行させるように放ち【追跡】や【情報収集】で探索していくよ。
時間は掛かるかもしれないけど、ここは敵の掌の上だからこそトライ&エラーの積み重ねで正解を見つけないとね。

もし、絡繰りの影響を受けず破壊可能な壁は『風狸ノ脛当』で突破して道を切り開くようにしたいね。

アドリブ連帯歓迎




 人形と青年の悲しくも美しい恋物語。でも、同情したからってこの世界を骸の海に沈めるわけにはいかないと、政木・朱鞠(狐龍の姫忍・f00521)は意を決して立ち上がった。咎を犯させないのも慈悲と信じて、ここは冷徹にトラブル解決を目指すしかない。
 さて、迷宮が如何に入り組み変幻自在であろうとも、組変わりにある程度の法則が有るのではないかと仮説を立て、朱鞠は屋敷内に【繰り飯綱】を放つ。先行するようにわっと四方八方に飛び出していった子狐に似た分霊は、全て朱鞠と感覚を共有している。
 時間はかかるかもしれないが、此処は敵の掌の上。だからこそトライ&エラーの積み重ねで正解を見つけなければ。
「それにしても広いね……あ、もう入り口もない」
 こうなったら先に進むしか手はあるまい。子狐たちが確認した安全と思われる道を、一歩一歩確実に進んでいく。奥へ進むにつれて、天地無用の迷宮に呑まれ、段々と自分の存在が曖昧になるような錯覚すら覚える。意識を保っていられるのは卓越した情報収集能力のお陰で、己の立ち位置を見失っていないから。何もわからないところに於いて、情報は一番の武器。追跡すれば自ずと往くべき道が見えてくる。
「迷うっていうのも、慣れたら案外楽しいものだね」
 天に掛る床、落ちてこない家具、昇ったら降りる階段、空中にぽつんとある扉。見ていて飽きない、というのはこの事か。子狐たちも大いに広大な世界を満喫しているらしく、遠くまで行っている。
 ふと、ちょくちょく見かけるボロそうな壁。この豪華絢爛な迷宮には相応しくない。子狐たち程度の力では影響されないようで、立ち止まって手で叩いてみる。コンコン、と響く音。壁の向こうに空間がある証拠だ。朱鞠は両手を構え片足を引き――身を捩って思い切り『風狸ノ脛当』をぶちかました!!
 ガラガラと崩れる壁。威力が高すぎてその上の階段にまでひびが入っている。しかし、想った通り壁の向こうは蝋燭の火が灯された、薄暗い通路が朱鞠を誘っている。
「隠し通路ね、なんだか沢山ありそうな予感」
 子狐達を集め崩れた壁の中に先行させると、おいでおいでと呼ばれる。安心して進んで大丈夫なようだ。一匹抱き上げて一緒に先へと進む。子狐は鼻をくんくんとさせて気配を探っているようだ。朱鞠もざっと通路を見渡してみる。西洋の燭台、和のぼんぼり、中華風の提灯。何もかもないまぜになった世界に、幽世も現世もそう変わらないのだなと感じる。想いを乗せて、世界は回る。そこには国も種族も関係なく、ぐるぐるぐるぐると。
「人形は幸せだったのにね。こんな迷宮に引きこもってないで、早く引っ張り出してあげなくちゃ」
 新しく開けた場所に出ると、今度はジャングルのように木々が生い茂り蔦がそこいら中にぶらさがっている。子狐達はあっちこっちで遊んで楽しそうだ。やれやれ、随分とイカれた迷宮ですこと! と、朱鞠は溜息を吐きながらも先へ進んだ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

仇死原・アンナ
…いろんな愛の形があるもんだね
しかしまぁ…愛故に世界を滅ぼされては困る…

絡繰り迷宮…魔法学園での戦争で見た迷宮とはまた違う…ともかく…

【変身譚】で黒き天使になって飛翔し奥まで進もう
目を回さぬように[地形耐性と足場習熟]で足場に気を付け
迷宮を行こう

あちこちの扉に入ったり怪談を登ったりして
奥へと進める正しき道を[情報収集]してゆこう

正しき道の近くにある歯車を鉄塊剣の[怪力と地形破壊]で破壊し
後から来る同行者達への目印として歯車を破壊してゆこう…

ここでも歯車がカチコチ回っている…
それだけじゃなくあちこち歪んでいる…
目が回って滅入りそうになる…
さっさと抜けないと…




 魔法学園で見た迷宮とも、不思議の世界で見た迷宮とも違う、絡繰り仕掛けの迷宮に挑む仇死原・アンナ(炎獄の執行人・f09978)。漆黒の翼を生やした黒きケルビム形態となり、上下左右の入り組んだ迷宮を進んでいく。
 それにしても、いろんな愛の形があるものだなと思う。人と人だけでなく、動物にだって愛があるとは知っているけれど、そんな種族をも越えた愛がそこにあるなんて、素晴らしいことだと思う。けど。
「しかしまぁ……愛故に世界を滅ぼされては困る……」
 愛は世界を救うものであって、滅ぼすものではないのだと教えてやらねばならない。目を回さぬよう足場を常に意識し、地形を覚え慎重に奥へと身をやるアンナ。その先に待っているのは沢山の扉、歯車、階段に壁と天井。あちこちの扉に入ってはぽっかりと開いた穴に吸い込まれそうになったり、階段を昇っている心算が下っていたりと、可笑しな迷宮は走者の行く手を阻む。
 奥へと進める正しい道を正確に情報収集し、ひとつひとつ潰しながら、開拓しながら脳内の地図を埋めていく。どうやらこの迷宮は規則性があるようで、ひとつ階段を昇れば別の階段が隆起し、一枚扉を開けたらひとつ襖がしまるような、ギミックが随所に隠されているようだった。
「謎解きはそんなに得意じゃないんだけどね……正解が分かると楽しいかもしれない……」
 正しき道の近くにある歯車を、怪力一刀の鉄塊剣で地形ごと破壊し、後から来る猟兵達への目印としていく。この迷宮はまるで生きているようだ、後続が呑まれてしまわぬように気遣いも忘れない。
 あそこでも、こちらでも、歯車がカチコチ回っている。それだけじゃない、あちこち歪んで、捩じれて、正常に動いているところなどありやしない。くるくると目が回って滅入りそうになる。
「さっさと抜けないと……」
 さもないと、アンナ自身この迷宮に呑まれてしまう。此処は迷宮でありながら来訪者を喰らう妖怪の巣。ただの人間では生きて出ることは叶わない場所。だからこそアンナ達のような猟兵が選ばれた。とはいえ、そんな普通じゃない者でも同じところを回って似たような箇所を虱潰しに暴いていては気が滅入ってくるというもの。
「迷子を楽しむ趣味はない、かな……」
 そう言いながら再び後続の為に歯車を破壊する。扉は蝶番ごと叩き壊して向こう側を見えるようにして、襖は全部開けて、階段箪笥の中身は片っ端から出していった。中には貴重な品もあったようだが、アンナにとっては価値のないもの。放置して危険なものがないか探る。
 ようやく抜けた先にあったのは出口……ではなく重厚な扉。一際固そうで、幾重にもガラクタで埋め立てられている。直観的に、ここが深奥なのだと思った。この奥に、待ち人がいる。中から感じるオーラも禍々しい。さて、漸く抜けたんだ。悲しいけれど、お前の恋慕を引き裂こう――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

有澤・頼
「大切な人と一緒にいたい気持ちはわかる。でも駄目なんだよ。こればかりは…」
あんまり、敵に肩入れしないように心がけているけれど今回はちょっと他人事とは思えないんだよね。

【SPD】
迷宮か…厄介そうだな。マッピングしながら進もうかな。
マッピングしていくと確実におかしな箇所とか見つけられそうだし、進んでいく時には「聞き耳」「情報収集」を駆使しながら進んでいくよ。些細なこともヒントになるしね。

「さてと、この厄介な迷宮を突破しようか!」
感傷には浸る暇はないからね。さっさと、突破しようか。




 ここも違う、あそこは行き止まり、じゃあこっちが正解? いやいや、この扉床についてるけど? そんな風に丁寧なマッピングを心掛けながら、厄介な迷宮を有澤・頼(面影を探す者・f02198)は歩み進めた。
 普段、というか。心掛けてあんまり敵に肩入れしないようにしているけれど、今回はちょっとばかし他人事とは思えなかったので此処に来た。その心の裡を知るのは本人のみだが、人形と青年の恋物語に、年頃の乙女としては思うところがあったのか。
 ひとつひとつ地図に罰印をつけていくと、確実に可笑しな場所が存在するのが見えてくる。例えば逆向きに動く歯車だったり、引く扉がひとつだけ押す扉だったり。どんな小さなことも見逃さないように、聞き耳を立てて壁の向こうを探ってみたり。
 ここではどんな些細なことも情報となり、つまりは深奥へと続く路となる。歩き疲れることも知らず、一歩ずつ先へ進む頼の足取りは軽い。感傷に至っている暇はない、さっさと突破しなければ、カクリヨファンタズムの崩壊が進んでしまう。
「さてと、この厄介な迷宮を突破しようか!」
 先人が作った足跡や傷跡を頼りにしながら、奥へ奥へと進んでいくと、赤に丸と青に罰の描かれた障子で出来た襖が現れる。何だこれ、と思っているとぴらりと落ちてきた紙。見ると『「甘藍」の読み方はキャベツである』と書かれている。いや、知らんがな、と頼は心の中で盛大にツっこんだ。あ、あま……? ええいままよ、こういうのは大抵正解が書かれているもの!! と、根拠のない自信で赤丸の方へ手を一度ずぼっと突っ込み、中身を探る。特に違和感はない。自分の勘を信じて身体ごと身を入れれば、正解だったようで軽快な音と紙吹雪が辺りに散らばった。なんだ此処は、クイズ番組か、と思ったが、隣の青罰には奇妙なヌメリが一面に施されていて、正解してよかったなぁと心から思うのであった。
 それからも謎の絡繰りやらクイズやらに阻まれながら、頼はようやくマップの端から端まで制覇した。外枠を埋めたならあとは真ん中を埋めるのが定石。どこかしらにショートカットやヒントが隠されているかもしれないと、再び歩き出す。幸いにも遠くで猟兵の足音も聞こえる。自分ひとりで此処を攻略しているわけではないというのは、安心感があった。
「ここまで来て引き返せない……っていうかもう後ろに道もないし。張り切って前に進むかなー!」
 いきなり飛んできた鉄球に吹っ飛ばされたり、頭にタライが降ってきたりと、愉快痛快な迷宮であるが、頼にとってそんなのは関係ない。自分が出来る最善手で最良の路を切り開くのみ――!

成功 🔵​🔵​🔴​

クロム・エルフェルト
*アドリブ・連携・その他色々歓迎

[POW]
大事にしてくれた人を想う気持ちは解るけど
世界に崩壊の災禍を齎すのなら、見過しは出来ない。
第二、第三の御前を生み出す訳にはいかないから
貴方達の未練を断つ刃となろう。

畳の真ん中に襖、開けば階段。
降りて行くつもりが、気付けば昇り。
……これは大変、まるで狐に化かされているよう。
廻る歯車に古銭を咬ませ、暫しの間休んで貰おう。
これだけ精密な仕掛けだもの、壊すのは可哀想。
仕掛けを止めつつ進めば、確実に辿り着く筈。

なるべく早く、御前のもとへ。
過去の残り香にあやされて見る夢は『甘い毒』。
長く見る程、心を蝕まれる。……私の、ように。
彼女の苦しみを、長引かせちゃいけない。




 畳の真ん中に襖、開けば階段。降りて行くつもりが気付けば昇り。……これは大変、まるで狐に化かされているよう。むしろそうだったら楽だったのに、とクロム・エルフェルト(半熟仙狐の神刀遣い・f09031)は思う。異次元の迷宮はクロムの行く手を阻み、先へ進めば遠ざかり、近寄れば反転する不思議な世界。遊園地にでも置いたら楽しいんじゃないかと思ってみるも、これはオブリビオンの罠。とても一般人には耐えられない。
 廻る歯車に古銭を噛ませ、暫しの間休んで貰う。これだけ精密な仕掛けを壊すのは可哀そうだと、極力迷宮に危害を加えないようにして進む。それにしてもだ、大事にしてくれた人を想う気持ちは解るけど、世界に崩壊の災禍を齎すのなら、見過ごしは出来ない。第二、第三の御前を生み出す訳にはいかないから。
「私が……あなた達の未練を断つ刃となろう」
 どんな恋物語も、終焉は訪れる、それはハッピーエンドかもしれないし、悲恋かもしれない。どちらにせよ終わらせなければいけないのなら、せめてこの手で。
 遠くでどんちゃん騒ぎの行列が歩いている。この迷宮に入り込んでしまった一般妖怪だろうか。――いいや違う、これはクロムをおびき出す為の仕掛けの一部だ。現に行列の皆は笛太鼓に紛れて武器を隠し持っている。そんなものに、私はひっかからないけど、と遠くでぼぅっと見つめていると、古銭を噛ませた歯車がぎぎぎぎと音を立て始めた。そろそろ限界かもしれない。
 行列を後ろに聞きながら、歯車仕掛けの扉を開けてクロムは先へと進む。遠くで「クロム!」と叫ぶような声がしたが、何も聞かなかったことにして先へ進んだ。どうせここは妖の館。信じられるのは自分だけ。誰かが泣く声も、怒鳴る声も、そして己を呼ぶ声も……全部が全部、幻だ。
「……気味が悪い。早く、抜けよう」
 心なしか歩く速度を速める。そんなクロムを嘲笑うかのように、迷宮は深く深く、クロムを奥へと招き入れる。でもかえってそれは好都合、此処の深奥に塵塚御前は居る。だったら、歩けるだけ歩いて、進めばいい。襖を開けて見える下へと続く階段は、降ってるうちに昇って天上へ。そこには小さな天窓があり、ガっと力を入れて開けてみれば、満点の星空。外へと出てしまったのかとも思ったが、其処は小さな小部屋だと気付くのに時間は掛からなかった。
「人を惑わす……狐狸のほうがよほど優秀ね」
 壁を壊し、星空を崩せば、硝子のように割れた部屋は散り散りになってクロムに降り注ぐ。それをパンパンと払いのけて、星に隠された豪奢な扉を見つけた。我楽多のバーケードが幾重にも重なったそこは、中から溢れ出るオーラを隠しきれていない。
 どれも人の思い出がつまっていそうなものだった。人形、筆、箪笥に看板、鏡、自転車……。誰かが使い使い古したそれらは、今や御前を守る盾である。それらをひとつずつ退けて、扉の開錠を試みるクロムだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

テイア・ティアル
多分、とか
恐らく、とか
そんなもので此の気持ちを形容してしまったら
自分に、彼の人にも失礼な程

――屹度、わたしは恋をしていた

天と地の境目も朧ろな一面の青
何時だって歯が浮く様な心地の、あいのことば
可愛い、可愛いのだと撫ぜてくる骨張った手の温もり

美しい思い出と、昇華させるのは難しい
けれど、駄目なのだよ
自分の我儘で、世の理を曲げてしまうのは
ひとのこの寿命を――

「出来る事なら、わたしだってやりたいさ」

……はて、我ながら何を言っておるのやら
感傷的になってしまっていけないなあ

絵画の中の様な迷宮が
酷く、心の均衡を乱す
線引きが曖昧に為る

何となく判るんだ
此のドアを開けた先に居るって事
類は何とやら

或いは

同族嫌悪、かな




 カツカツと踵を鳴らし、まるでだまし絵のような世界を歩くテイア・ティアル(パラドックスブルー・f05368)。胸にはブルースターの小枝を差し、かしゃんかしゃんと鎧の立てる音も気にせず進む。何処を歩いても全く進んだ気がしないが、そこは百を生きるヤドリガミ。急がない、慌てないをモットーに。
 塵塚御前。我楽多から生まれた、人形。ある種青年の愛を受けて育ったその御前様は、年数こそ足りないかもしれないがヤドリガミだったのかもしれない。屹度その青年も、御前様も、知らないうちに戀をしてしいたのだろう。
 その気持ちなら、私だって分からなくはない。多分、だとか。恐らく、だとか。そんなものでこの気持ちを形容してしまったら、自分にも、彼の人にもあまりにも失礼な程――屹度、わたしは恋をしていたから。
 天と地の境目も朧な一面の青。何時だって歯が浮く様な心地の、あいのことば。可愛い、可愛いのだと撫ぜてくる頬張った手の温もり。恥ずかしくて、くすぐったくて、それが心地よくて。その時のテイアには微笑む事すら出来なかったけど。確かにそこに絆があった。
 美しい思い出と、昇華させるのは難しい。……けれど、駄目なのだよ。自分の我儘で、世の理を曲げてしまうのは。ひとのこの寿命を――。
「できる事なら、わたしだってやりたいさ」
 襖を開けて提灯と風車の並ぶ通りに出る。やれ、まるで日本の縁日のようだなぁと想い乍らテイアはゆらりゆっくりと歩いていく。風の方向と風車の向きが逆だったり、提灯が緑だったり紫だったりするのはご愛敬。ここは常識の通用しない場所、今更そんな事で驚きはしない。
 ……――はて、我ながら何を言っているんだかなぁと先ほど自分で口に出した答えを探る。全く、感傷的になってしまっていけない。此処はこころまでもねじれて歪めさせてしまうのか? だとしたら厄介だ。私に彼の人を――今更どうこうなど出来やしないけど、もし、このカクリヨなら……と。そんな考えは吹き消して。
 絵画の中の様な迷宮が、酷く、心の均衡を乱す。線引きが曖昧に為る。
「人のかたちになったなら、ひとらしく振舞うべきだろうからね」
 道を抜けた先、襖を開けたら今度は長い長い階段。一歩昇るごとに重力は反転し、天が地に、地が天に入れ替わる。わたしの行きつく先はどこだろう。天国かな、地獄かな。あの人がいればどちらでも良いけど――きっとのほほんと、また天上も煉獄も関係なく、行く当てもなく旅を続けているんだろうなぁと想った。
 そうして上りきった先。幾重にも重なったガラクタの山。その奥にギリギリ見える扉のような隙間から感じるオーラ。
 何となく判るんだ。このドアを開けた先に、愛されたお人形が居るって事。類はなんとやら、とはよく言ったもので。
 わたしと御前様、似てるようで違う。或いは此れは、同族嫌悪、かな――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カイム・クローバー
こいつはなかなか愉快な催しだな。歩いてるやら、落ちてるやら。ま、焦っても仕方ねぇ。マイペースに行くとするか。

UCを使用して各所の扉を【鍵開け】しつつ、恐らく先に歩いたであろう猟兵の後を【追跡】。不自然な破壊や痕跡を辿って行けば自ずとゴールに辿り着くだろう。…厄介なのは、内部が変化してる可能性があるのだけは捨てきれねぇってトコだな。………扉の先に道がねぇ。おいおい、此処まで来て、振り出しかよ。
そうなってくると後は【第六感】任せに進むか。面倒なら魔剣で歯車やら壁やらを叩き壊してもいい。
案外、道ってのは隠れてる可能性もある。
此処も退屈はしねぇが、少しばかし刺激には欠けるトコなんでな。抜けさせて貰うぜ




「こいつはなかなか愉快な催しだな。歩いてるやら、落ちてるやら」
 かと言って焦っても仕方がない。カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)はマイペースに歩みを進めていく。天上も床も、扉も襖も、下手したら宙に浮いた見えない路も、全てが歪んだこの空間で、頼りになるのは己が感覚のみ。
 人の歩いた足跡を見つけ、後をつける。鍵のかかった扉も、カチカチと弄ればすぐに開く。恐らくは先行した猟兵のつけた目印にも地図にマッピングを施し、ひとつ進んでは戻り、一歩いっぽ行く先を絞っていく。不自然な壁は叩き壊してみれば、奥底に続いている道。わざとらしく目立つように破壊された痕跡を辿っていけば、自ずとゴールに辿り着くだろう。
 しかし厄介なのは、この迷宮屋敷では内部が常に変化しているという事だ。痕跡通りに進んだからといって、その先に待っているのが本来あるはずのものとは違う事だってある。ほら現に、扉の向こう側には道が無くて真っ逆さまに落ちるだけ。
「おいおい、此処まで来て振り出しかよ」
 各所に残された痕跡がアテになることもあれば、ならない事もある。結局楽をして進むことは出来ず、自分の足で正解を導き出さなくてはならない。そうなってくるともう頼りになるのは第六感。自分の勘と運。それでも、結構自身があった。勘は利く方だし、正解に好かれやすいとでも言うべきか、そういう星の元に生まれた自覚がある。
 あっちだこっちだとだまし絵の世界を闊歩してはたまに見つける先人の痕跡。やっぱり道は合っている。あとはどのくらいの距離があるのかだが……この如何にも色の違う壁なんかは、壊しても問題ないな? 急ごしらえの補修かと手で触ってみれば障子のようにズボっと突き抜ける。壁ですらなかったようだ。
「突貫工事なつくりだぜ。ま、その分隠しきれないもんも多いよな?」
 案外、道ってのは隠れてる可能性もある。扉の向こうが道とは限らない。畳のド真ん中に空いた絡繰り仕掛けの縦エレベーターに乗って、上なんだか下なんだかに向かうと、その先には箪笥の中から怪しげな光が放たれて。ええいままよと直感が向かう限りに飛び込んだ。
 ごちん、と上から落ちてきたはずなのになぜか脚ではなく頭からぶつかる珍事にはもう慣れっこ。それよりも目の前の重厚な扉がガラクタの山で堰き止められながら佇んでいるのが気になった。恐らく、此処がこの迷宮の深奥だろう。
「此処も退屈はしねぇが、少しばかし刺激には欠けるトコなんでな。抜けさせて貰うぜ」
 魔剣を手にガラクタを吹き飛ばし、手にした扉はひどく重い。錆びついてはいないようだが、まるで金庫のようだった。これが頑なな御前の心かと思いながら、カイムは意を決して扉を開いた――!

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『棄物蒐集者・塵塚御前』

POW   :    歯車地獄―壊す事もそれなりに得意なのですよ。
【自身の体の内部 】から【圧搾破砕用に変形した複数の巨大歯車】を放ち、【任意の全対象の関節接続部等を破壊すること】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD   :    鉄骨抄―喚け、笑え、叫べ。お前の声を響かせよ。
【名を失った”妖怪”百鬼夜行 】【名を与えられなかった”妖怪”百鬼夜行】【名を封じられた”妖怪”百鬼夜行】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ   :    忘霊遊郭―御足は其方の瘡蓋一枚。いざ来たれ。
いま戦っている対象に有効な【対象の心身の傷に刻まれた忘れ・失せモノ 】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は飾宮・右近です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 人形に名はない。青年は生前、あえて彼女に名前をつけることはしなかった。「名前があったら一日中名前を呼んでしまうからね」なんて、嬉しい事を言ったりして。それでも良いのにと思う人形は、最早ヒトと同じ思考を持っていたことを、青年は知らない。
 その人形も今や廃材と瓦落多の主。人形と一緒になった青年は様々な要素を集合させて、彼女を愛した。塵を集め、屑を組み合わせ、青年と人形の邪魔をする者を退けるだけの力をその身に搭載する。歯車は人を噛み殺し、名を与えられなかった全ての者へ共感の声を響かせ、そして敵対者の心の傷を肉体的に抉る。
「お前さん方、私とあの人を引き剥がそうって言うんだろう? 知っているさ、そんな事。この世の理が崩れ始めた時から。……でも、それの何が悪いって言うんだい?」
 人形は至極不思議な様子で尋ねる。分からなかった。世の中の恋人たちは愛を謳歌しているというのに、何故私達にそれが赦されない。不条理ではないか、そんなのは。
「私ぁ離れる気はないよ。説得するだけ無駄さ。でももしお前たちがどうしてもって言うんなら……その時は私を壊す事だね」
 ――でも、私の中にいるあの人に指一本触れてみなよ。その時は極上の苦痛を味あわせてやるからさ。

 名前のない彼女は、何時からかだろう。周囲の妖怪たちから『塵塚御前』と呼ばれていた……。
仇死原・アンナ
喋る口はあれど聞く耳持たぬか…何も言うまい…
死を以て二人を別つ為に私はここに来た…
行こうか…ワタシは処刑人…

敵の歯車攻撃には
[ジャンプ]で回避し
歯車の軌道を[視力で見切り]
鉄塊剣を振り回し[範囲攻撃と鎧砕き]で打ち砕こう

被弾しても体内より生じる地獄の炎で傷口を防ぎ[激痛耐性]で耐え抜こう

鉄塊剣を構え[ランスチャージしつつダッシュ]で敵向けて突進し
彼女と想い人諸共[鎧無視攻撃で串刺し]貫こう
【聖処女殺し】を発動し彼女の中にいる想い人を力尽くで引きずり出そう

想い人を引きずり出したら刀身に纏う地獄の炎で[焼却]し
その身と魂を[浄化]し消し去ろう…

斯くして時は進む…美しい物も醜い者もすべて彼の世…か…




 懇々と一方的に語る口はあれど、愛する者からの声しか聞く耳をもたぬ人形・塵塚御前。斯様な相手に、こちらももはや何も言うまい。死を以て青年と御前の二人を別つ為にアンナは此処まで来たのだから。
「行こうか……私は処刑人……」
 果たして殺すのは人形の肉体か、心か、青年の姿をした骸魂か。それは戦いの内で決める。これより先は人形遊びと言うには少々手荒。遊戯にふける歳はとうに過ぎたけど、命宿った御前の相手をしてやろう!
 長い髪を振り乱して、御前は衣服に隠された機械仕掛けの腹部のまさぐると、操り喰らう圧搾破砕用に変形された巨大歯車をいくつも産み落とした。それが吹き飛んだり転がってきたりしてアンナを狙う。地面から来るものは軽やかにジャンプで躱し、飛来するものは軌道を予測し見極めて確実に武器で受ける!
 じんわりと痺れるような、鈍重な一撃。こんなものを食らったら痛いどころの話ではない。関節という関節、筋という筋をズタズタにされてしまうだろう。掠めた歯車の擦り傷を、体内より生じた地獄の炎が癒していく。痛みには耐えられる方だけど……趣味じゃあないね、とはアンナの心の裡。
 鉄塊剣を振り回し、軌道が重なった巨大歯車を見計らい纏めて叩き割るように打ち砕く! ガシャン、と壊れた音がして倒れた巨大歯車は、二度と立ち上がることなく文字通りのガラクタへと戻った。
「おやまぁ、酷いねぇ。その子もあの人が私に組んでくれた一部だってのに」
「お前の造りはしらないけど、『いい趣味』してたんだね、お前の作者は」
 よよよ、と泣き真似をする御前にアンナは煽るような一言を放つ。ぴくり、と御前は固まり、次いでギロリとアンナを睨んだ。そうだ、漸く。漸くお前は――私の声を聞いたな。
 握りしめた鉄塊剣に力を込め、十分にチャージ出来たと思ったら全力で御前に向けて突進! 走っている間も巨大歯車が行く手を阻むけれど、大丈夫。その軌道は所詮絡繰り。一定の方向にしか動けない。それを見切ったアンナは巻き込まれないルートを導き出して走り抜ける。
 御前の胸を想い人諸共、貫く。がしゃん、と音がするも御前は動き続け、ばしっと接近したアンナを叩き落した!
「!」
「あの人に触るんじゃないよ」
 その硝子玉か宝石未満のクズ石で出来た瞳が、アンナを怒りの眼差しで見つめた。着物の下から生み出した巨大歯車同士で鉄塊剣を挟み込み、グググっと動きを封じ込める。四方に展開され花開いた地獄の炎を纏った刀身が、めらめらと燃える。鉄製の巨大歯車にはあまり効果がないのか、逆に熱せられたそれは刀身を歪ませる。
 御前は青年を傷つける者を許さない。私の中でひとつになった青年を、護ろうと必死だった。その為には、こちらも考えがあるのだと怒りに任せ冷静さを失うようなことはない。
 想い人を引き摺り出して、地獄の炎で焼却・浄化してやろうと思ったが……これはもう少し壊さないと、彼奴には届かないかとアンナは身動きの取れなくなった鉄塊剣を一度手放し、距離をとって別の獲物で御前と相対する。
「壊すよ。骸魂の方をだけど」
「やってみなよ、戦しか知らぬような女武者」
 ちゃきりと構えた武器が狙うは御前の核。そこさえ見つけられれば、あるいは――!

成功 🔵​🔵​🔴​

有澤・頼
「大好きな人と離れたくない気持ちはわかるよ。私も同じ。でも、いつか必ず別れなければならない時が来るんだ」
どんなに望んでも永遠に一緒になんてありえないことなんだから。

敵の攻撃には「見切り」や「残像」で避けていくよ。
こちらの攻撃はまず敵に「フェイント」をかけてスパッと斬ってユーベルコード「穢(ケガレ)」
で敵に攻撃をするよ。

「やっぱり他人事だとは思えないね…」
彼女にはちょっとだけ肩入れしそうになっちゃうな…でも、それだといけないね。気を引き締めていこうか。




「大好きな人と離れたくない気持ちはわかるよ。私も同じ。でも、いつか必ず別れなければならない時が来るんだ」
 そう語り掛けた頼の瞳に映るのは、在りし日の影。心中を考えたこともあったっけ、なんて思い出すのはあの人のこと。でも、そうはならなかった。それが今の自分に繋がっているのかな、なんて考えたら少しは前向きになれるかな――などと心に秘める。
 別れは誰にでも平等に訪れる。どんなに望んでも永遠に一緒なんてありえないこと。だってもしそうなら、誰だって……いや、これ以上は止そう。私とこの人形は、違うんだと決意を改める。
「そんなのは浮世の話だろう? ここは幽世、現世の雁字搦めの理とは違う」
「違わないよ。永遠なんてもの、世界中どこを探したってない。別れもまた必然だから……だからこそ、貴いんじゃないかなって、私は思うよ」
「じゃあお前さんを永遠の底に落としてやろう。別れが必然なら、死もまた同じだろう?」
 自嘲気味に呟いた御前は忘霊遊郭……相手の心身に刻まれた失せものを召喚する! 頼の前に現れたのは、いつぞやの幻影。眠っていたはずのものを起こされて少し動揺はしたけれど、頼は怯まなかった。幻影の攻撃を見切り避けていく。無意識的に分かっていたのかもしれない。当たったら、あの頃の思い出が穢れてしまうと。だから全力で躱さなければならなかった。一発でも食らうわけにはいかない。
 逃げているばかりでは勝負はつかないと判断し、頼はわざと背を見せてフェイントを仕掛ける。そこに現れた『失せもの』に、スパっと小気味良い音すら立てて縦に呪詛を斬りつけた! 癒えない傷跡から肉体が崩壊し、風に吹かれた砂埃のようにそれは消えて行く。
「ははぁ、お前さんも抱えていたのかい。忘れられない失せものってやつをさ」
「――さぁ、どう思う?」
「どうでもいいね。私たちは静かに二人で居られればそれで良いのに、それを壊そうとするお前さんらが憎いだけさ」
「塵塚御前。お前はやっぱり、ここでお別れすべきだよ。この世界の為じゃない、お前たち二人の為に」
 互いを愛したならば、尊重し合うならば、お互いの幸福を願え。青年は骸魂、もう二度と世界の輪に戻ることは出来ないけれど……過去を背負い昇華されることは出来るだろう。御前だって、いつか本当に朽ち果てて、心までも溶けたなら、青年と同じ過去の夢の続きを見られるかもしれない。でも、今の一人と一体ではそれは叶わない。
 頼は刀を構え御前を前にすると、先程の幻影と戦った影響か、薄ら昔を思い出した。あの頃に良い思い出ばかりではないけれど、それでも――。
「やっぱり、ちょっと他人事だとは思えないね……」
 なんて、少しばかり御前に肩入れしそうになってしまうけれど、それではいけないと頭を振って脳裏に浮かんだ幻想を振り切る。さぁ、気を引き締めて行こう。御前は未だ戦う意思を捨ててはいない。だったらこちらも、全力で引き剥がすだけ――!

成功 🔵​🔵​🔴​

クロム・エルフェルト
生前の彼と貴女達に骸魂の災禍が降るならば
彼は貴女を守る為、骸魂に立ち向かっただろう

……ねえ、雅な人形の想い人
『世に仇成す芥の塊』
貴方の大切な存在に、そんな汚名を着せるの?

思考の手鞠は『彼』に投げた
これより語らいは不要
問答の間に、[催眠術]を織り込んだ[結界]を気取られないよう拡げる([騙し討ち])
"一度のみ、鉄骨抄発動と同時に僅に目が眩む"

虚を突き、此方もUCを発動
放たれた百鬼は捨て置き、
我が身に触れる前に蓮華躑躅を放つ
百鬼に心を喰われるのは承知の上
その痛みは甘んじて背負う
でも――これで互角、ね

憑紅摸に[焼却]で焔を纏い、霞に構える
此処より先は剣豪の本領([早業][カウンター])、篤と御覧あれ




 青年は人形に、理想と浪漫の両方を織り交ぜていたのだろう。だからこそ深く愛しながらも、穢すこともなく純粋な気持ちのまま一人と一体の関係は築かれていた。しかし今や人形は御前の名を持つ動く理想。骸魂となった青年が手放すはずもなく、また御前も愛する者が戻った喜びを自ら手放したりはしない。
 そんな深い絆を持った生前の青年と人形。彼らに骸魂の災禍が降るならば、青年は人形を守る為に骸魂へと立ち向かっただろう。だというのに! クロムのふくよかな尻尾がふわりと揺れた。
「……ねえ、雅な人形の想い人。『世に仇成す芥の塊』――貴方の大切な存在に、そんな汚名を着せるの?」
「…… ……」
 水面に一滴の雫を垂らすように、クロムは思考の手鞠を『彼』に投げた。御前は何も答えない。唯、何か感情が揺らいだのか胸をぎゅっと抑え俯きため息をひとつ。御前の裡に居る『彼』に、声は届いたのか。それを確かめねばならないが、これより語らいは不要。
 喋りながらも張った催眠仕込みの結界を、ふさふさと尾の振動で拡げていく。その自然な仕草故に御前は術に気付いていないようだが、むしろ騙し討ちには丁度いい。あとはあちらが仕掛けてくるのを待つだけだ。
「……お前さんには分かるってのかい。やっとあの人に出会えたこの気持ちが。私はどんな汚名を被ろうと、石を投げつけられようと構わない!」
「そう」
 心臓がありそうな位置に拳を置きながら、御前は叫び百鬼夜行の名を呼ぶ! ――瞬間、朧に眩む視界と意識。ぐらりとよろめいたのは微弱ながら確実に効く結界の効能。虚を突かれた御前はクロムの姿を見失う。どこだ、どこだ、私たちを断つ者はどこだ!
 首筋にも埋め込まれた硝子玉の瞳が、脇から迫るクロムを捉えた! 放たれた百鬼は捨て置き、クロムの身に触れる前に仙狐式抜刀術・蓮華躑躅を解放するッ! それは、真正面から。否、左右から。或いは背後から。多次元の存在すら思わせる殆ど同時のよっつの斬撃!! 閃く刃は早業と言うにはあまりに鋭利。ザシュ、がこんっと御前の本体から歯車やら螺子やら発条が落ちる。
 合わせてクロムの腹部や背中にも衝撃が走った。追いついた百鬼夜行はクロムの心と体を蝕んで、意志の力を奪ってゆく。これが御前の痛みだというのなら、甘んじてそれを背負おう。
「――これで互角、ね」
 痛い、苦しい、切ない、哀しい。気持ちがズタズタになるような、鬱屈とした気分になる。このまま刃を振るっても、恐らく御前の服を破るくらいしか出来ない。「嗚呼、そうだったんだ」とクロムは想う。人を愛するとは、かくも強く、弱く、頼もしく、恐ろしいものなのだと。理解したところで同調はしないけど、これは『彼』の痛みでもあるんだねと。だったら猶更、負けられない!
 愛刀である憑紅摸に全てを焼き尽くす焔を纏い、霞に構える。――此処より先は剣豪の本領。速さと技術の融合、相手の動きに合わせた翻し、畳み掛ける執念。全てをひとつにして、彼らへと立ち向かう。
「かかってきなさい、愛し意図しの糸仕掛け。私の断ち切る想いと、貴女の頑丈に編まれた強さ……どちらが強いか。侍の業、篤と御覧あれ」
 抜き身の刀身と御前の鋼の腕がぶつかり合う。軋む程の鍔迫り合いを制したのは――!

成功 🔵​🔵​🔴​

カイム・クローバー
確かに二人の仲を引き裂こうってんだから、理不尽な話だぜ。けど――世界が壊れちまえば、お前らの生きた証も無くなっちまう。

説得の言葉なんて聞く耳、持たねぇか。ま、構わねぇさ。これは俺の仕事だ。勝手にやらせて貰うぜ。
百鬼夜行に銃口を向けて。迫る妖怪に【二回攻撃】と【クイックドロウ】。四方を囲まれるトコまでは想定済だ。囲まれた時点でUC。
妖怪諸共、塵塚御前…青年の骸魂を撃ち抜くぜ。
彼女は彷徨い探し続けて来たらしい。彼女以外に青年の名前を知る者は居ないだろう。だから…
なぁ、アンタの主人の名前を聞いても良いか?…言ったろ?『勝手にやらせて貰う』ってよ。
…覚えておくのさ。腕の良い機械細工師が居たって事を、な




 世の中は理不尽な事ばかり。降水確率10%なのに土砂降りで、あんなに頑張った作品は床に落とされて壊れたり、いつも歩いていた道が突然崩れてしまったり、世界の全てが二人の仲を引き裂こうとしたり! 嗚呼全く、なんて不条理なんだろう。どうしてその対象が、あの人と私なのだろう――。
 御前はきらりと光る硝子玉の瞳の奥で、そんなことを考えていた。しかもだ、折角再会した愛する者との時間を、また奪おうなんて考えている奴らが居る。なんて憎たらしいんだろう! とてもじゃないが応じられない。
「お前さんらはひょっとして、理不尽の化身なのかい? こんな世界、いっそ滅びたって私は構わないけどねぇ」
「どうかな。まぁ、世界はそんな事ばかりってのは同感さ。けど――世界が壊れちまえば、お前らの生きた証も無くなっちまう」
「そんなもの、在ってどうするのさ。私は今がいい、あの人とのこれからが欲しいんだ」
「はっ、説得の言葉なんて聞く耳持たねぇか。ま、構わねぇさ。これはおれの仕事だ。勝手にやらせてもらうぜ」
 ふん、と興味なさそうに御前はカイムに向かい名も無き妖怪・百鬼夜行を送り出す。魑魅魍魎妖怪跋扈の群れが四方八方から襲い掛かる、が、それは想定内。百鬼夜行に銃口を向けて、迫る妖怪どもにバンッバンッと高速の二連撃。逃げ場なんていらない、広範囲に敵がいるというのなら、カイムにも手はある。弾丸が尽きるまで、腕を交差させ双魔銃を撃ち鳴らす! バババババッっと鋭い鉛の嵐が、百鬼夜行を貫き落としてゆく。
 押し寄せる妖怪どもで中々御前にはたどり着けないが、此方は長距離の武器。隙間を狙って御前の胸を一発の弾丸が貫く! 血も出ない。相手は人形なのだから。がくっと傾いた御前だったが、直ぐに自らの身体を形成する塵屑を胸に詰めて更にカイムを責め立てる!
「痛いねぇ。あの人みたいに人間だったら死んでただろうさ」
 撃っては装填を繰り返し、妖怪どもを屠っていくが、それも限度がある。まだ余裕があるが……いや、余裕がある内に聞いておきたいことがある。御前は青年を求め彷徨い続けて来たらしい。御前以外に青年の名を知る者はいないだろう。だから……。
「なぁ、アンタの主人の名前を聞いても良いか?」
「あん? どうして」
「言ったろ、『勝手にやらせて貰う』ってよ。……覚えておくのさ。腕の良い機械細工師が居たって事を、な」
「……いくお。育む男と書いて、いくお。あの人にぴったりの名前だと、お前さんも思わないかい」
 育男、とカイムは反芻し、しっかりと心に刻む。思い出はぬくりと暖かい。現に、青年の名を呼んだ御前の表情はうっとりと恍惚の笑みを浮かべていた。御前にとって最愛の名に、カイムは語り掛ける。
「なぁ育男サンよ、あんたらの思い出が、全部なくなっても良いのかよ。思い出だけじゃねぇ、最後には彼女だって呑み込まれる。それでもあんたは、彼女と共にいるってのか?」
 機械細工師がたったひとり産み出した、人形との最愛の物語。ここがお終いなんて勿体ない。なぁ、この世界は理不尽だらけだが……だからこそ、一際光るものがあるんだぜ――。

成功 🔵​🔵​🔴​

テイア・ティアル
テイア――ティティ、ティティ
わたしに名前をくれた彼の人の聲は今でも鮮明に記憶している
嗚呼、お前さんの持ち主は

――賢明な判断をしたのだな

名前は、呪いだ
棄てるには惜しくて
けれど一番呼んで欲しい人はもう居ないのだもの
呪縛だよ
いとおしい者を呪おうと意図する者は居なくとも

然して、其の姿で愛の形を説くなど笑し
天寿を全うした者を見送ってやれないで
何が戀だ、何が愛だ
ひとりでは何も出来ない、只の臆病者じゃないか

そんなものは、死への冒涜だ

……はは、すまないね
ババアが熱くなってしまった
まあ、老婆心として云うのなら――

もう、良いじゃないか
解放して、おやりよ
お前さんも、其方の者も

だって、そんな在り方
何方も辛いだけだから




 昔のひとは、本当の名前を隠して過ごしたそうだ。本当の名前を知られたら、相手に魂を握られてしまうから。だから、名前は呪いだ。
『テイア――ティティ、ティティ』
 懐かしい声、今だって思い出せば心を打つ。棄てるには惜しくて、けれど一番呼んで欲しい人はもう居ないのだもの。呪縛だよ、これは。いとおしい者を呪おうと、意図する者はいなくとも……名前というのはね、それほどまでに大切で、恐ろしいものなんだ。だからさ、嗚呼。
「お前さんの持ち主は――賢明な判断をしたのだな」
「何だい、名も無い私を馬鹿にしているのかい。名を持って百を生きた、愛されたお人形様は」
 同じ人形である……とはいえ片方は二百とちょっとを過ごしたヤドリガミではあるけれど、想うところがあったのか、御前は不機嫌を隠さずテイアに苛つきをぶつける。名前を与えられなかったというのは、御前にとって心残りのひとつだった。何でもいい、壱号でも試作機といった捻りの無い名前でも、人間のような名前でも。もっと奇抜で個性的な名前でも。『個人である証』が欲しかった。
「お前さんの主か、あるいは作者か。名付け親のそいつが逝ったとき、お前さんは悲しくなかったのかい。それともそのビスクの身体に、情愛なんて湧かなかったと?」
「これはこれは。其の姿で愛の形を説くなど笑し。天寿を全うした者を見送ってやれないで、何が戀だ。何が愛だ。ひとりでは何も出来ない、只の臆病者じゃないか」
「――願うことも、お前さんは駄目だと言うのか。私は寂しいんだ、哀しいんだ。もう離れたくないだけなんだ!」
「そんなもの、死への冒涜だ」
 御前は早世した青年の死を認めたくなかった。本当ならもっと一緒に居られた。もっと愛されたはずだった。それなのに世界は、私たちを裏切った!
 憎々しげに、最後は叫ぶように呟いた御前に、馬鹿らしい、とテイアは嘆いた。先に逝った彼は虹の麓で屹度待っている。其処でわたしが見聞きした現世の話を沢山強請るだろう。わたしも、彼の冒険譚を聞きたい。だから、死は哀しくはあっても寂しくはない。なんて、すまないねと笑う。ババアが熱くなってつい語ってしまった。まぁ、老婆心として云うのなら――。
「もう、良いじゃないか。解放して、おやりよ。お前さんも、其方の者も」
 じぃっとテイアを睨む御前を通し、青年を宿した骸魂にも告げる。だって、そんな在り方、何方も辛いだけだから。折角『名前を付けて貰わなかった』縛られない愛を、受け入れておやりよ。ともすれば、お前さんは持ち主の声に壊れたように縋ってしまうだろうから。それに。
「名前なんかなくたって、お前さんたち、幸せだったのだろう?」
 その思い出を自分の手で穢すような事はよせ。この世界が崩壊すれば、どうせいずれ二人を引き離されてしまう。だったら、自らの意思で手放すべきだ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

政木・朱鞠
付け焼刃の同情じゃこの子を救えないみたいだね…。
愛しい人と離れ難い気持ちは汲んであげたいけど…今の状態では制御出来ない力を振り回すだけで記憶や思いも救われないまま全てを忘れてしまって、世界ごと骸の海の底に沈んでしまうよ…。
青年との思い出を失わせないため、今は私達が貴方の暴走を一旦閉幕させてあげるね…。

戦闘【POW】
近接する戦闘はちょっと危険かもしれないけど、足止めのため武器は拷問具『荊野鎖』をチョイスして【鎧砕き】や【鎧無視攻撃】の技能を使って体に鎖を絡めて動きを封じたいね。
心情的な攻撃なのかもしれないけど…『忍法・咎狐落とし』で咎の魂と本来の意識を切り離せれば良いんだけどね。

アドリブ連帯歓迎




 御前と青年の絆は、そんじょそこらの鈍では切れない程に強く、固く、頑丈だと、全身から放たれるオーラがそれを物語っている。朱鞠はいっそ同情してしまいそうになるが、付け焼刃の感情では御前は救えない。
 愛しい人と離れ難い気持ちは汲んであげたいけれど、今の状態では制御出来ない力を振り回すだけで、記憶や思いも救われないまま全てを忘れて世界ごと骸の海に沈んでしまうだろう。青年との思い出を失わせない為にも、今度は朱鞠たちが、御前の暴走を一旦閉幕とさせてやることにしよう。
「なんでお前さんがそんな辛そうな顔してんだい? 辛いのはこっちさ」
「あなたの想いが伝わってくるから。でも、私達はあなたを助けたい。青年との再びの別れは辛いだろうけど……過去だけに目を向けるのはやめよう? あなたは彼に作られたなら、堂々と、彼がいなくても歩けるはずよ」
「よしてくれ。私にはあの人が必要なんだ。そんなに引き剥がしたいなら、私を壊しな。一緒にいられないなら、意味がない」
 御前はぷはぁと煙管を吹かすと、どうやって隠していたのか、服の下から巨大歯車を幾つも排出し朱鞠へと向ける。このまま接近するのは少々危険だ。足止めの為にと拷問具から『荊野鎖』を選び、鎧をも砕く技で歯車を止め、分厚い装甲すら貫通する技で御前の身体に鎖を放つ!
 御前もそう簡単には巻き込まれてたまるかと、機械仕掛けの脚でガシャガシャと離れたり弾いたり。鎖は蔦薔薇のように幾重にも重なり、棘を以て御前の元は何だったかも分からぬ金属の脚を捉えると、そこからするすると身に食い込み縛り上げる! ぐっ、と御前は体を捩ったが、棘が喰いこむばかり。
 嗚呼、あの人が作ってくれた柔肌が――。御前は暴れるのを已め、動きを止める。そしてじっと朱鞠を睨んだ。
「やってくれたね。それで? どうするんだい、私を壊すのかい」
「いいえ……試させて頂戴。もしかしたら、あなたを壊さなくても、骸魂と分離させられるかもしれない」
「分離してどうするのさ」
「骸魂は……倒すよ。あなたは、これから一人で、過去を背負って生きていくべきだから。それが永遠を生きられない青年の想いじゃないかしら」
「……」
 御前はむすっとした表情を崩さずに、瞳を閉じた。自身が頑ななように、この猟兵とかいう奴らも相当に頑固なようだから。――私が私として歩むことに、あの人が意味を見出してくれるっていうんなら……やってみせなよと、いっそ振り切った想いで。
 忍法・咎狐落とし。浄化の炎が御前の身を包み、鎖が熱を持つ。人形に熱さは感じないはずなのに、御前は暖かみを感じていた。青年と過ごした素晴らしい日々が、ひとつひとつ蘇り心を打つ。そうだ、どうして忘れていたんだろう。私とお前さんは、言葉などなくても通じ合っていたというのに……強欲な私が、それ以上を望んでしまっていたのだな――。
『行きなさい、私の最高傑作』
 どこからか聞こえた声と同時に、青年の意識を持つ骸魂と御前の本来の意識の線がぷつりと切れたのが物理的に見えた! 御前の身体からふわりと浮き立った骸魂、断つなら今しかない! 朱鞠は一瞬の痛みも与えない暗殺の技術で以って、骸魂に渾身の一撃を加える! ぼっと咎の魂は揺らめく炎によって焼け天へと昇った。
「……気分はどう? 塵塚御前」
「哀しいさ。でもま、悪い事ばかりじゃない。あの人が最後に願ったことを、叶えにいかなきゃならないからね」
「最高傑作を見せびらかすこと?」
「そ。あの人はねぇ、私にお願いごとなんかしなかったっていうのに、今更になってするんだ。悪い奴だね」
 鎖を解いた御前はぼろぼろで、表情もいまいちすっきりした風ではないが……文字通り憑き物が落ちたように軽やかにぱんぱんと身体を叩いたり腕を回しながら調子を確認している。どうやら動けるようだ。
「礼は言わないよ。でも、また会う事があれば……その時はよろしく」
 そう言って御前は猟兵に背を向け、脚を引き摺りながらも去っていった。その背中が見えなくなるまで、朱鞠はずっと見守る。遠くでは移動式遊園地の幻想的な曲が流れ、新たな門出を祝福しているかのようだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『来し方行く末』

POW   :    アトラクションを楽しむ

SPD   :    屋台やパレードを眺める

WIZ   :    回転木馬に乗って夢を見る

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 くるくるくるくる。機械的でありながらどこか幻想的な音楽を奏でながら、移動式遊園地の回転木馬は馬と馬車を上下させながら回る。不思議なもので、それは前向きに乗れば未来が、後ろ向きに乗れば過去を垣間見ることが出来るのだとか。これも幽世が見せる幻か。
 あなたは先を夢見て前を向いてもいいし、、思い出に浸ろうと後ろを向いてもいい。或いは何も見たくないと言うなら、他の遊具で遊んでも良いだろう。
 ひとときの幻想が、あなたのこれからの力になりますように――。
有澤・頼
「……」
(後向きに乗れば過去を見ることができるのか…)

【WIZ】
回転木馬を後向きで乗るよ。
あれは…子供…子供が3人いる。みんな見たことがある。あれは小さい頃の私たちだ。
毎日、実験台にされて泣いてばかりでいつも2人には助けてもらってばかりだったな…
「一緒に逃げて3人で自由になろう」
うん、君の提案がどれだけ私たちに勇気を与えてくれたことか。なんで君だけ死んでしまったのか。今でも考えちゃうんだ。

もし、君にまた会えることがあったら私は…
ううん、もしもの話なんてない。ただ、今だけは少しだけ彼のことを思いたい。




 回転木馬の前で一度立ち止まり、回るそれを眺める。後ろ向きに乗れば過去を見ることができるのか、と頼は意を決して南瓜の馬車に乗り込んだ。向きはもちろん、進行方向とは逆だ。
「…… ……」
 視界が薄らと霞がかったように白くなり、次いで子供の声が聞こえる。声のする方、馬車の外を覗きこめば、子供が三人。みんな見覚えがある。それは、小さい頃の頼とその親友たちだった。ぼんやりとしたした視界に、くっきりと子供たちだけが浮き彫りになる。
 毎日実験台にされて、泣いてばかりだったあの頃。頼はいつも二人に助けてもらってばかりだった。うんと泣いたこともある、しくしくとすすり泣いたことも、暴れるように泣いたことも。それでも二人は、頼に寄り添ってくれた。頼自身、どんなに泣いても二人なら自分を見捨てないという確信もあったからこそ素直に泣けたのだろう。
「一緒に逃げて三人で自由になろう」
 ――うん、君の提案が、どれだけ私たちに勇気を与えてくれたことか。それなのに……どうして。なんで君だけが死んでしまったのか。今でも考えちゃうんだ。
 無意識の内に太ももに置いていた握り拳が震える。彼はもういないという事実を改めて突きつけられたような気がして。でも、過去を見たいと望んだのは己自身なのだ。辛かった過去から頼を護る大事な思い出が、映画のワンシーンのように流れる。目が離せない。
 ――ほら、また私が泣いている。今度はどうしたのかな……嗚呼、覚えてる。あの時は確か……。君は私の手をとって、彼は私の話を懇々と聞いてくれている。そして二人とも、優しく慰めの言葉を掛けてくれた。どうしてかな、昔のことの割には、鮮明に覚えてるね。それもこの回転木馬のせいなのかな?
 過去は戻らない。頼たちは、過去から来たる亡者どもと戦っている。即ち、過去とは力なのだ。それは今の頼を形成し、強くする。戻らないからこそ、未来へ向かって歩くことが出来る。心の傷は未だ癒えきらないけれど、それすら力に変えて。立ち止まっている暇はない。向かう先に何があるかは分からないけれど、でも大丈夫。思い出が頼の中にある限り、歩み続ける。
 馬車の外の景色は不思議な感覚だった。今までは自分目線だったけれど、こうして三人が寄り添っているものを俯瞰で見ることになろうとは。その事実が、急速に頼を現実に引き戻す。これは現実ではないと、世界そのものが訴えている。でも、今くらいは感傷に浸っても良いだろう。
「もし、君にまた会えることがあったら私は……」
 否。もしもの話なんてない。ただ、今だけは少しだけ、彼の事を思いたかった。この一時の霞が晴れるまで、頼はまた泣き虫だった自分に戻ったかのような気持ちで、それでも雫は零さずに、子供たちの姿を眺めていた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

政木・朱鞠
「ふふ…楽しそうな事してるね、私も混ぜてもらおうかな?」

行動【WIZ】
ノスタルジックなお膳立てに乗らないのは不粋だよね。
過去の思い出はちょっと美化されちゃっているけど頭の中に有るし…。
見るなら未来だけど、いきなり先の事を見せられた所で実感がわかないんだろうな…。
とりあえず…未来に向かって座って、自分が『欲望にとらわれた未来の自分』を戒める意味でも誓いを改めるよ。
どんな光景が見れるかわからないけど…まあ、良くても悪くても夢として楽しんでしまいたいね。

これは個人的な自慰行動だけど…迷った魂が幽世に辿り着けるよう願って。
『フォックスファイア』を使って篝火の様な炎のモニュメントでも作ってみようかな。




 一時だけ貸し切られた移動式遊園地。其処でくるりくるくる、猟兵を乗せて回転木馬は廻る。他のアトラクション……回る椅子に小さな車を運転出来るものなんかもあったけど、朱鞠は過去と未来を見せるという此れが気になった。
「ふふ……楽しそうな事してるね、私も混ぜてもらおうかな?」
 ノスタルジックなお膳立てに乗らないのは無粋だと、階段を昇り回転木馬に乗り込む。向きは……少し迷った。過去の思い出はちょっと美化されているけれど頭の中にあるし、見るなら未来だけれど、いきなり先の事を見せられた処で実感が湧かないだろう。
 一歩踏み出して、朱鞠は馬に前向きに跨った。とりあえず、だ……自分が『欲望にとらわれた未来の自分』を戒める意味でも誓いを改めてみようと。どんな光景が見られるのかは分からないが、良くても悪くても夢として楽しんでしまおう。どうせ幻、幽世が見せる泡沫。楽しまなければ損というものだ。
 朱鞠を乗せて回り出すと、ぼんやりと視界が白んでくる。まるで靄が掛かったようで、周囲がよく見えないが……じっとりと、しかし確実に、回転木馬から流れる音楽とは違う音がする。目を凝らしてみれば、靄の中には年配の、狐の耳にふさふさの尻尾、そして腰には一振の刀を携えた女が見えた。
 ――あれは、私だ。
 直感的にそう感じた朱鞠は、その妖狐の姿を見つめる。すると、靄の向こうの妖狐の周りには続々と人が集まって来た。見覚えのある者も、知らない顔も、色々。音楽じゃない、これは人々の喧噪だ。彼らは何か喋っていることは分かるが、雑多な音の集合はよく聞き取れない。
 代わりに誰か――知ってる顔の口元を凝視する。読唇術で何を口にしているのか探ろうというのだ。『お・う・お・う』……相応? 灯篭? いや違う……知ってる顔も、歳をとっている。心なしか言動も下手だ。彼らが口にしているのは――。
「長老……」
 嗚呼、私は成し遂げたんだ。かの名刀を取り返す事も、咎負う者を屠ることも。全てを終わらせて、組織へと戻ったのだ。自由な生活を謳歌して、自分のやりたいことを堪能して……そして決心がついたのだろう。血筋と誇りを胸に、組織の長となることに。
「本当、実感湧かないね……」
 思わず笑ってしまう。今はそれを言い訳にして期待から逃げているのに、結局そこに収まるなんて。でも、そんな未来もありかもね、とも想う。いつになるか、そもそも実現するかはあやしいけれど!
 最期に、個人的な自慰行為に他ならないものの、迷った魂が幽世に辿り着けるよう願って、朱鞠は篝火のような炎のモニュメントを作り出す。幾つもの狐火は円を描いたりうねったりと、様々な姿で魂を魅了した。どうか此の世に、平安が訪れますようにと願いながら――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

幽遠・那桜
カイムさん(f08018)と。
カイムさんもいたのですね!
別のお仕事の時に見た、懐かしい男の子の事も気になりますが、未来も気になりますね。

過去の事を言われたら、墨染に。
過ぎたこと、転生前の事だろうけど……なら、パッと見て帰ろ。

転生前の私は、ただの人間。母と姉と私で住んでた。
でも、母の虐待に姉が壊れ、姉に協力する形で私達は母を殺し殺人鬼に。
姉の行いは、幸せそうな子供を殺すまで加速する。でも、私はいいのかって思ってた。
その時に、男の子と会った。優しいその子が好きになって……でも。
姉が、その子を、殺した。

怒りと悲しみのあまり私は姉を殺して、そして自分も……。

カイムさん……こっち来ないでっ!!


カイム・クローバー
那桜(f27078)と。

心配しなくても輝かしい未来が待ってるさ。
だが、今はそれより――自分の事を知るべきじゃないか?
前に言ってたろ?記憶がねぇって。

那桜から墨染へと変わる姿を目の当たりにして。
彼女の過去の一端を探して受けた依頼だったが、憎まれ口を叩きながらも大人しく座ってくれるのには安心する。
俺は木馬には乗らない。過去を目の当たりにするんだ、何が起きてもおかしくねぇだろうから、側に付いているつもりだ。
大人びた振りをした幼い友人に付いててやる事が、俺が出来る最良の選択だろうし。

様子が変わったら強制的に木馬から引き剥がす。
こっちに来るな、か。悪いが、黙って見てられねぇさ。嫌ってくれても結構だぜ?




 「おや」なんて口にして、幽遠・那桜(微睡みの桜・f27078)とカイムは互いに手をあげて軽く挨拶した。こんなところで出会うとは、なんとも奇遇な。或いはこの移動式遊園地から流れる軽快で幻想的な音楽に、二人して引き寄せられたか。
「カイムさんもいたのですね! 遊園地だなんて、何だか似合いませんが」
「俺は一仕事終えてきたところでね」
 くるりと拳銃を一回転させて、無事終えたぜの合図。それにやんわりと笑みを返し、那桜はふいと横を向いて、上下しながらくるくる廻る回転木馬に目をやった。乗ってみるべきは未来か、過去か。いつぞやの仕事の時に見た、懐かしい男の子の事も気になるが、同じくらい未来も気になる。
「このメリーゴーランドは過去も未来も見えると聞きました。悩みます……どちら向きに乗るべきでしょう」
「心配しなくても輝かしい未来が待ってるさ。今はそれより――自分の事を知るべきじゃないか? 前に言ってたろ? 記憶がねぇって。いい機会じゃねぇか」
「なるほど、一理あります。では……」
 木馬に一人乗り込む那桜。カイムは搭乗しない……那桜は過去を目の当たりにするのだ。何が起きても可笑しくないだろうからと、即座に動けるよう傍に付いておく。大人びた振りをした幼い友人に付いててやる事が、己に出来る最良の選択だろうと考えた故に。
 ゆっくりと、那桜を後ろ向きに乗せて、回転木馬は動き出した。機械的な幻想曲がやけに耳につく。――過去の事を言われたら『墨染』に。過ぎたこと、こと転生する前の事だろうが……なに、それならパっと見て帰ればいい。いつでも来い、とやや緊張気味に気を張って身を構える。
 一方のカイムは、憎まれ口を叩きながらも大人しく座席に座った那桜に安心していた。彼女の過去の一端を探して受けた依頼だったのだ。ここまで来てやっぱり見たくない、では骨折り損というもの。
 じわりと、先程まで晴れやかだった視界が、霧がかったように白む。その先に、なにかいる。あれは人……自分自身だ。やはり過去を見せるか。ならばと那桜は意識を『墨染』に委ねる。その変貌する姿を目の当たりにしたカイムは嫌な予感がした。その予感が当たらなければ良いが、とは思うが……いざとなったら、この手で助け出せばいい。その為に、カイムは此処に居る。

 過去は事実を見せつける。それが幸せなものとは限らない。過去という真実が心に押し寄せた。
 ――転生前の那桜は、ただの人間だった。攻撃的な母親と、今にも砕けそうな姉、そしてまだ『私』であった私の、三人で暮らしていた。しかし、母親は姉を肉体的にも精神的にも追い詰めるように虐待を繰り返し……ついに姉は壊れてしまう。
 耐え切れなくなった那桜と姉は協力する形で母親を殺害し、殺人鬼となった。そうなった姉の行いは、幸せそうな子供を殺すまで加速する。でも、これで良いのかと那桜は感じていた。このままでは何も解決しない、誰も救えない。
 そんな折りに、那桜は或る男の子と出会った。優しい男の子、那桜の荒んだ心を癒してくれるその子をすきになったけど……姉はその子を、殺した。「優しい子は幸せだから」と、躊躇いなく。
 怒りと悲しみのあまり、那桜は姉を殺害し、そして自分も……!
「カイムさん……こっち来ないで!!」
 そんな言葉は聞く耳持たず、様子の変わった那桜をカイムは急ぎ強制的に木馬から引き摺り下ろした! 那桜の中だけにかかっていた霧は急速に晴れ、現実に引き戻される。手にも額にも、ぐっしょりと汗をかいていた。
「こっちに来るな、か。悪いが、黙って見てられねぇさ。嫌ってくれても結構だぜ?」
「……いえ。助かりました……」
「その様子じゃ、あんまり気分のいい過去って感じじゃなさそうだな」
「……ごめんなさい」
 今はまだ、言えない。言いたくない。カイムを信用していないわけじゃないけれど、那桜にとってもまだ整理のつかないことを、誰かに教えたくはない。俯く那桜に、カイムは笑いも、かと言って怒るでもなく、いつもの調子で言う。
「構わねぇよ」
 伝えるべきこと、伝わってほしくないこと。色々あるけれど、今はまだ、この距離感で良い。いつか過去の全てを受け入れることが出来たなら、その時は――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クロム・エルフェルト
未来は己の眼で見定める、から
先に進む為に、過去を知りたい

馬をそっと一撫で、後ろ向きに乗って眼を閉じる
お師様……大胡秀綱という名以外、貴方の素性を私は知らない
一体、どの時期でオブリビオンになってしまったのか

厳しかった修練の光景
朝餉をよそい、差し出してくれる時の優しい眼
……そう、修練時以外では、じいじと呼び慕っていたね
ずっと遡っていく映像
そして、突如始まる『彼の生前の時代』

あぁ、つまり……そんな
私を拾った時点で、既に骸の海の者だったなんて
『お前は道を違えるな』
この言葉の意味、漸くはっきり繋がった
大胡秀綱……いえ、上泉武蔵守信綱様
この御恩は必ずや……私の剣で返しましょう




 未来は誰かの手ではなく、己の眼で見定めたい。だから、先へ進む為に過去を知りたいと願うのは、唯の自己満足なのだろうか。それでも良い。懐かしい思い出も、知らない思い出も、必ずや『力』としてみせる。
 一度止まった回転木馬の馬をクロムはそっと一撫でし、後ろ向きに乗って眼を閉じる。ゆったりと動き出した回転木馬に揺られ、瞼の裏に映るはあの頃のこと。厳しくも暖かい、大切な記憶。
 お師様……大胡秀綱という名以外、彼の素性をクロムは知らない。一体どの時期で、どの過程を経て、オブリビオンになってしまったのか。過去を見せるという幽世の遊具よ、どうか教えておくれ。

 朝餉をよそい、差し出してくれる時の優しい眼。……そう、修練時以外では、じいじと呼び慕っていたね。二人で食べる食事は豪華なものではなかったけれど、美味しかったのを覚えてる。そんなのほほんとした生活や、激しい修練の日々をずぅっと遡っていく映像。そして、突如始まる『大胡秀綱、彼の生前の時代』。
 ――嗚呼、嗚呼……なんてこと。つまり、そんな。私を拾った時点で、お師様、アナタは既に骸の海の者だったなんて。クロムは瞼の中で瞳が震えるのを感じていた。とうに死んだはずの者が今を生きている、とは、つまりそういう事。何故、という念が拭えない。彼ほどの練者が、どうして。
『お前は道を違えるな』
 いつぞや、お師様はそう言ったね。その言葉の意味、当時はまるでピンとこなかったけれど……漸くはっきり繋がった。まるで緩んでいた糸が張り詰めたかのように、強く。クロムは心の中で言葉を反芻する。『お前は』――お師様、アナタは違えてしまったんだね。剣の道も、人の道も――。
 ならば、大胡秀綱……いえ、上泉武蔵守信綱様。この御恩は必ずや……私の剣で返しましょう。
 想いの強さなら、お師様。アナタが教えてくれた。剣術の腕前も少しは上達した。覚悟も、今やより強固なものとなった。全部ぜんぶ、お師様が居てくれたから。その御指南の行く末を、どうか身を以って感じて下さいね――。
 彼の姿が薄ぼんやりと霞んでいく。それと同時に、彼の声も遠くなり、代わりに機械的な音色で奏でられる幻想曲が耳に入ってくる。クロムはそっと眼を開いた。納得したような、スッキリしたような気分だった。
「お師様……」
 懐かしいあの声、大きな掌、冴え渡った刃、じいじと懐くクロムをあやした彼は、もう居ない。しかし、事実を知った今、ヒリつくような心の傷は、ほんの少しくらいは癒えたのだろうか。傍らの刀にそっと触れてみる。刀は語る。刻は戻らない、過去が覆ることはないと。だから、受け入れよう。アナタと己自身の為に。
 回転木馬を降りたクロムは、両手を組んでうんと縦に伸びる。そうして幽世の天に想うのだ。――大丈夫、私は今日も明日も生きていく……刀を振るい、骸の海よりいずる者を断ち、お師様を斬り滅する時まで。
「待っていて」
 この秘めた刃が本懐を遂げるその日を――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

テイア・ティアル
ヒュペリオン――ヒュペル
わたしの、いとおしい、こいびと

あなたが居た世界を
何時か亦、出逢う筈の未来を

何方を向けば良いのか判らなくて
思い出に縋る事は赦されるだろうか
其れとも、前を向けと怒るだろうか

まさか
たましいが宿ったなんて識ったら驚きでひっくり返るだろうね
恨み辛みも
愚痴も、沢山あるさなんて
前を向く

一緒に燃やして欲しかった
一緒に睡りたかった
『ヒュペリオン』の妻の名前を与えておき乍ら
ひとりで何処かに行った薄情者

だからわたしも、勝手にする
ティティはまだまだ旅を続けるよ
待ってるのに草臥れてしまう位、うんと
友達を作って
色んなものを見聞きして

其れで何時か――
其の手を握る事が叶ったなら
今度は、逃さないからな




 過去か、未来か。コツンと鳴らして搭乗の階段を昇った踵が、あと一歩踏み出せない。あなたが居た柔らかくも煌めいていた世界を……何時か亦、出逢う筈の未来を。何方を向けば良いのか、テイアには判らなくて。思い出に縋る事は赦されるだろうか。其れとも、前を向けと怒るだろうか。
 教えておくれよ、ヒュペリオン――ヒュペル。わたしの、いとおしい、こいびと。過去の栄華に縋る英雄のように昔を思い出したい気持ちも、夢見る乙女のように燦々と輝く世界に目を向けたい気持ちも、両方嘘じゃなくて。だからこそ、迷う。
 尤も、まさかたましいが宿ったなんて識ったら、驚きでひっくり返るだろうね。恨み辛みも愚痴も、沢山あるさなんて、じっと不吉とまで言われた色違いの瞳を閉じて……再び開いた時には、決心がついていた。前を向く。豪奢な馬車に進行方向通りに乗り込んで、動き出すのを待った。回転木馬は幻想的な音楽を奏でながら走り出す。
 靄のように白む視界に映るのは、相変わらず姿かたちの変わらぬ人形と、その魂を宿したひとの身体。ヤドリガミは肉体的に成長しない。老いて死ぬことはない。だから、これが何時のテイアなのかは分からないけれど、今よりなんだか晴れ晴れしい表情をしている気がしないでもない。

 一緒に燃やして欲しかった。一緒に睡りたかった。
 『ヒュペリオン』――高みを行く光明神の妻の名前を与えておき乍ら、ひとりで何処かに行った薄情者。いつもわたしを連れて何処へでも行ったくせに、最後のさいごで残して逝くなんてあんまりじゃないか。この恨み、そう簡単には晴らさないよ。……なんてね、屹度あなたの顔を見たら、直ぐに赦してしまいそうだけど。
 そんな薄情者は、草臥れるほどの時を、あちらでうんと待たせてやる。あなたがそうしたように、わたしも勝手にする。ティティはまだまだ、旅を続けるよ。色んなものを見聞きして、沢山の人と出会い、自分のこころの赴くままに。
 其れで何時か――わたしが朽ち果てて、あなたの元まで辿りつき、其の手を握ることが叶ったなら……。
「今度は、逃さないからな」
 幾度箒星が巡ろうと、常世の全てを廻りつくそうと。絶対に、今度こそ、共にあろう。ひとりと一体、いや今は二人になるのかな? 連れ立ってまた旅に出よう。あの頃のように、あなたが笑って、わたしが微笑み返して。寂しい夜も、憂鬱な長雨も、二人なら恐れることはない。そしていつしか果てへと至ったら……二人で眠りにつこう。

 靄が晴れて、馬車の外にはもう幽世の騒がしくもゆったりとした時間が流れていた。嗚呼、幸せな未来だなと、テイアは満足気に馬車を降りる。恐らく、先の長い話になるだろう。でも、こんな結末が待っているというのなら、遥か旅路もいと楽し――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月06日


挿絵イラスト