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冬に曙

#サムライエンパイア

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#サムライエンパイア


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「狐と狸がドンパチして、人里がうっかり巻き込まれそうなんだわ。ちゃちゃっと討伐してきてくんね?」
 集まる猟兵の眼前。適当な椅子に腰掛けながら多々羅・赤銅(ヒヒイロカネ・f01007)が語る。足下では、彼女のグリモアと思わしき、赤青に燃ゆる炎のような不定形を踏んだり転がしたり好き放題。てん。つま先でグリモアを蹴り上げ手元にキャッチ。
「ちなみに私はきつねそば派」

「予知先サムライエンパイア。妖狐の方は……元は祀られた高位のお狐様だったらしいが、まーなんの因果か行方不明。再び人里に合間見えた時には首は無く。その怨嗟か否か、災い撒き散らす魑魅魍魎と化した」
 こんこん。両手で手遊び、狐の形。首無し狐故に、その手はすぐにひらひらと形を崩す。
「それを、鼻がいい事に。妖狐と因縁持つ、化け狸の大将が嗅ぎつける。刀だ槍だ鉄砲だ、ご丁寧に小狸兵団召喚して全面戦争さ」
 たぬたぬ。狐の手遊びよりも鼻先丸めて、狸のつもり。指先を開閉させ、ばうばう吠える真似事だ。
「人里巻き込まずに合戦場でやれってんだ。幸いなとこと言や、狐の出没は、まだ日も昇らぬ未明からって事ったな。まだ誰も起きてきてねえ。一般町民を巻き込む心配はしないでいい」
 猟兵一人一人の顔を眺め、やる気に満ちた顔にはニヤリと笑みを向け。不安げな者にはやや穏やかな顔で頷いて。大丈夫さと、言外に。
「狸とやり合う頃には曙だろうが、やつら白昼堂々まみえる積もりだからな。狐を鎮め次第、東側に向かえば、民家の無いエリアで狸兵団とこんにちはできる。ちと忙しいが、避難促すよか楽さ。さ、現地に直接送るからもう武装しといていいぞ。あと」
 席から立ち上がり。赤銅は、己の首に手を当てる。横に、一撫で。
「首、羨ましがられるぜ。気をつけな」

「まー全部終えたら、近場には冬でもよく釣れると噂の川がある。朝っぱらから忙しねえんだ、ゆるるーっと、大物でも釣るといいんじゃね」
 こんなん。両手で大物サイズの目安を提示。でかい。
「その上、辺りにゃ狂い咲きの冬桜付きさ。……それに惹かれて来るんかもなあ、狐も狸も」
 冬の川辺に散る桜花。さぞや美しかろう長閑だろう。想いを馳せながら、グリモアの炎は転送開始のために眩く揺れた。


小林
 ご覧頂きありがとうございます、こばやしです。

 内容はオープニングの通りの運びです。
 一章、暗い最中に灯る狐火。妖狐戦。
 二章、冬の空はよくよく赤く染まる。狸大将戦。
 三章、日も登り淡い青空。狂い桜舞う魚釣り。

 冬の朝の、表皮と鼻腔が痛くなるあの感じ。嫌いではありません。
 それでは皆様のプレイング、お待ちしております!
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第1章 集団戦 『憎しみに濡れた妖狐』

POW   :    神通力
見えない【波動】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
SPD   :    鬼火
【尻尾から放たれる怨嗟の炎】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    心眼
【常に相手の思考を読んでいるかのように】対象の攻撃を予想し、回避する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●未明

 空にはまだ、陽の気配の一つもない。
 しんと静まる冬夜は皮膚を刺す。
 
 黒に落ち込む路の先に、紫の狐火が灯る。
 ひとつ、ふたつ、それは無数の群れと成す。
 妖狐の、向ける先すら失った憎悪が、現るる猟兵どもを矛先に定めた。
 熱気にも似た怒りが、冷えた皮膚を乱暴なまでに撫でるだろう。

 首無し妖狐が、肉厚な尾を振り、ありもしない喉で、高く高く、人世に吼ゆ。
 不協和音めいて、幾重にも重なり、冬の夜をこうこう鳴らす。 
 
シェーラ・ミレディ
狐、狐か。UDCアースやサムライエンパイアでは、神の使いだとか御神体そのものだったりするようだが……まさか、首がないとは! 落ちぶれたものだなぁ……。
因縁があるという狸に惨めな姿を晒させるよりも、僕らが仕留めてやるのが情けというものだろう。何、すぐに楽にしてやるさ。

夜中とはいえ、狐は火を纏っているのだ。見失うことはないだろう。更に、広範囲に弾幕をはれば避けられまい?
彩色銃技・華燭之典で夜の闇に火花を散らすぞ。狂い咲く花弁と舞う血肉と、さて、どれが一番見頃だろう。

嗚呼、狐は首に執着しているのだったか。
頭がない狐の攻撃は察知しにくいだろうし、首を庇いつつ飛び跳ねて、狙いを絞れないようにしておくぞ。



●鮮烈
 遠く、紫炎が見える。闇夜に紛れず怨嗟を証するその焔を、眇め見る紫瞳が一対。ドールの透き通る模造虹彩の奥を、焔が照らす。
 甘みを帯びる溜息混じりに抜くは精霊銃『花紅柳緑』。引き金に、細い指をかけ。声変わりを知らぬ、作り物の少年の声。
『ーー遠慮するな。馳走してやろう!』
 銃声の堰は切られた。瞬間。注ぐは滝の如く。回避行動など取らせぬとばかりの弾丸は、紫焔を目印に弾幕を成す。弾数は丁度、百花繚乱。季節外れの花火の如く鮮やかな精霊弾が、街灯などもない黒の夜を、鮮烈に照らし上げる。
 撃たれ、撃たれ、紫焔が潰え、赤青緑の火花が咲く。シェーラ・ミレディ(金と正義と・f00296)は百の弾丸を吐かせ切るとーー首を抑え後方に跳ぶ。全身を襲う三重の衝撃波。弾幕を、その高さ、威力、それらを予知し躱しきった数匹の妖狐の神通力が、生意気な人形の首を寄越せと牙を剥いたのだ。首を庇った腕は斬り裂け、破片が舞い、高い音を立てて落ちる。鋭く呼吸、白い息の尾。気管の無事は確認できた。
「……自分のものでもない首を欲しがるとは。落ちぶれたものだなあ」
 その言葉は、はたして狐どもの気に障ったろうか。怒りのままに神通力がシェーラを狙うシェーラは己の細い首を守る様首を縮め、片腕を盾に、縦横無尽に跳んで見せる。
 この狐どもも、もとは神の使いでり、因縁のある狸に、その気高く鋭い狐の目を向けるなども、していたのだろう。されど今はこんな作り物さえ欲しがる始末。哀れだと、瞼を半目下げる。神通力が顔面を切り裂く。横に一閃、二閃、少年の美貌を出鱈目に切り裂く。抉れた鼻先と頬に冷たい空気が滑り込み不愉快だ。
 それでも彼は涼しげな眦。また号砲を吐く。鮮やかな火花と、狐の血が未明に弾ける。紫の焔がいくつか消えた。
「そんなていたらく。因縁のある相手には、見せたくないだろう」
 吐息と同じ白の煙を吐く銃を取り回し。あわれな狐を殺める情けの花は、まだまだ咲き乱れる。

成功 🔵​🔵​🔴​

千桜・エリシャ
まあ!自分の首を狙われるのは初めてですわ!
そう……あなたたち、首がありませんものね
ふふふ……御首がいただけないなら、こういう趣向もたまにはいいかもしれませんわ
いいでしょう、付き合って差し上げます
――あなたたちの気が済むまで、それで怨嗟が癒えるならば

さあ、鬼ごっこの開幕ですわ!
鬼さん、こちら。手の鳴る方へ
私を捕まえられるかしら?
でも私、ただでは捕まって差し上げませんから――
私に触れようとしたならば、先制攻撃で捕まえる隙は与えず
鬼火は高速移動で見切って回避か花時雨を開いてオーラ防御しましょう
相手に隙を見つけたら2回攻撃で畳み掛けますわ

獲物が牙をむくこともありますの
このほうが、おもしろいでしょう?



●美しく散れ
「まあ! 自分の首を狙われるのは初めてですわ!」
 細首に執着する狐火を、撒いて、払いて、飛び退いて。
 若い娘の声は、濁り知らず。張り詰め凍てる空気の中でも、艶やかに揺れる薄花弁の如く、可憐でいる。
 狐どもは捉えられぬ怒りに炎を増やし、四方より降り注がせる。
 娘の唇が薄く笑む。炎が退路を断つよりも疾く、前へ高速起動。桜花舞う番傘を背に広げ、襲い来る炎を防いでしまう。る、る。淑やかな仕草で傘を回し。落ちる狐火すら、千桜・エリシャ(春宵・f02565)という夜桜を、華やがせるものに過ぎぬ。
 てん、てん。細い指を打ち合わせ、底冷えする空気を鳴らす。
「鬼さんこちら、手のなる方へ。あら、あら。捕まえてはいただけませんの?」
 細められた眦は泥む夜光。狐数匹がエリシャを捕えんと、群れる、群れる。炎が駄目ならば複数連携で狩るのみぞ。一匹は後ろに回り込み、二匹は前方左右より。爪が冬を裂く。隙間を縫うようエリシャが遊ぶ。落ちる花弁を掴もうとしても、風圧で滑り抜けるのと同様に。舞、舞、ああ、つまらない。
 抜刀。墨染色の刀身が、視認さえ赦さず左右二振。狐の身体は袈裟斬りとなり、ばらり斜めに別たれ崩れ落ちる。その傷口からは、まるで桜が吹き零れるよう。開いた道に、はしゃぐように前へ駆け。首への爪撃を空ぶった狐にくるり向き直る。
 咲いて、散っては、また咲いてーーわらべ歌のように殺意を歌う。
「あなたがたの怨嗟。執念。無念。その程度だなんて、言わないでくださいまし」
 る、る。番傘が回る。
 狐は、畏れた。エリシャの纏う怨念を。それを纏い微笑むエリシャを。
 さて、狐は最後の痛みを感じた、ろうか。畏れた隙に、刀は滑らかなまでに肉を断つ。十字斬り。ずしゃり。肉片と化して、消えていく。

 エリシャが切り落としてきた首どもは、こんなところで散るエリシャを赦さない。もっともっと、凄惨に。血湧き肉踊り憎悪渦巻く戦さ場の果てに、全てに怨まれ死んでくれなければ。どんな地獄よりも美しく死んでくれなければ。彼らの怨嗟は晴らされぬ。故に。彼女に首を斬られる瞬間の眩さを知らぬ、首無し狐どもなどに、彼女をくれてなどやらぬ。

「ねえだって、首を落とされてなお動く方なんて、そうそういらっしゃいませんのに」
 ああたのしい、つまらない。次の鬼は、どちらさま。

大成功 🔵​🔵​🔵​

芥辺・有
首を無くしてまで戦争とはご苦労なことだ。
狸と狐で何の因縁があろうが私には関係ないし。まあ、さっさと倒させてもらうよ。

始めに一発、先んじて銃弾を撃ち込んで。
素早く近づいたら、蹴っ飛ばすなり刺すなり撃つなり何なり、特に手段には拘らない。手数多めに攻撃していこうかな。
もし囲まれたんなら回し蹴りで吹っ飛ばしたりしとくか。

狐どもの攻撃がきそうな嫌な予感がしたなら、まあ、第六感ってやつか。そしたら蚦蛇で他の狐を絡めとって盾にでもするよ。

ユーベルコードを使うときは杭で掌でも引っ掻いて。……元から攻撃受けて傷ついてんならそれを利用させてもらうけど。


ルイス・アケーディア
アドリブ、連携は歓迎

血の通った首なら斬り甲斐もあるんだろうが、情緒のないからくり仕掛けだ。悪いな。

向こうがこちらの攻撃を回避しようとするなら好都合。
狐火の灯りに忍ばせるように、罠の作動トリガーのワイヤーを張り巡らせて。
避けた先でワイヤーに引っ掛かるように誘導して斬りかかる。
無事に罠に掛かれば、『出口のない処刑部屋』を発動、ゆっくり介錯してやろう。

冬の朝に外に出ると、寒さに肌を刺されるよう、らしい。どのような感覚なのだろうな。
斬られても血の一滴も滲ませられない……お互い、辛い化生だな。




 芥辺・有(ストレイキャット・f00133)の白い指が、引き金を引いた。黒の聖霊銃が零度の空気を劈いた。
 夜に溶けるような女の一撃に狐が落ちる。居場所を突き止めたとばかりに首無し狐の群れが、銃声の方面へ向けばーー有は、すでにその群れの正面。先制、二撃三撃続く銃声、もう片手では黒い杭が狐の心臓を重く貫き、引き抜きひるがえし次を穿つ。
 かこめ、かこめ、籠に囲うよう狐は集う。炎で攻撃を阻害しつつ、爪で皮膚を破るのだ。首を欲しがる腕を、また杭で薙ぎ払って。
 血が出るのは構わない、が、両手両足の手数で攻めても、これ以上囲まれては面倒だ。挑発的に、無感動に、有は首元を開いた。服の下に滑り込む冬気に、肌が粟立つ。そんな細首に、狐は寄越せ寄越せと我先に一斉に飛び掛かるーー白い脚が鋭く旋回。回し蹴り、狐が触れた先から吹き飛ばす影色のブーツは、彼女を砥ぐクランケヴァッフェのひとつだ。
 攻撃ついでに距離を取り直し、矢継ぎ早く、息継ぎ一つ。ひとりで相手取るには多すぎるくらいの狐を寄せたが、否、否、丁度いい。腿や首回りに滴る血を指の腹で撫で、ぴ、と周囲に撒けばーー雫は赤い杭へと成る。その数、飛び散った雫の数だけ、つらつらと。逃がさない。赤い杭が数多、狐どもを襲う。狐どもの先読みを、その手数で無理やりに超えていく。列列椿の名のままに、生ぬるい赤を吹き散らす。

 されど百発百中とはいかぬ。射線を読み、血杭に貫かれるのを免れきった狐は、一層憎悪を煮え立たせる。
 燻る椿め! 我が身体を、よくも、よくも!
 まだまだ狐の数はある。怒りのままに、狐火の火力が上がる。紫弾を眺め見、有が息を吐く。どこまで避けられるだろうか。雪色の翼を広げた。


 されど飛んだのは、紫の狐火よりも先に、再びの血杭。後ろから貫かれ血を吹く狐を正面で見た有の瞼が持ち上がる。自分の使役外に、あの杭を、動かすのは?
 ルイス・アケーディア(ストーンヘンジ・f08628)の念動力が、有の血杭を拾い上げ狐を串刺しにしたのだ。狐の思考読みは、有に割かれていた。故にルイスの狙いは読む事叶わず、首無し狐がその場に倒れた。
 狐の読みの外にいた理由、としては。ルイスは浮遊型のウォーマシンだ。高所を浮遊している事も、理由だろうが。なにより、ルイスには血が通わない事があったやもしれない。
「事後承諾だが。借りたぞ」
「いいよ。使い捨てより、コスパがいい」
 降り注ぐ無機質な男の声に、同じく淡々と有が返した。
「そうだろう。そう言うと思った」
 ルイスは話を合わせるように適当ぶいた。念動力で、他の狐にも刺さったままの杭をずるりと引き抜きーー数多の血杭が、再び夜闇に浮かぶ。
「さあ。逃げてもらおうか」

 血杭の雨が降る。雨を狐が掻い潜る。貫かんとする杭を、狐は時にその素早さで、時に波動で弾き。そうして逃れた先の狐を、時に有が撃ち始末する。
 ルイスの素っ首を破壊せんと波動も飛ぶが、衝撃に機体が強く揺れれど血は飛ばぬ。
「落とし甲斐の無い首で悪いな。情緒のないからくりだ」
 それすら狐は羨むだろう。ならば、ならば、首を落とされてもお前には怒りも痛覚もない事だろう。我々もそうであったなら、どんなにか楽だった!
 その狐の声を、情緒無き機体が理解したかは、わからないが。ルイスは瞼を半ばほどまで下げる。
「そんなに荒ぶるな」
 狐火の熱に耐えながら、それを光源に杭を打つ、打つ、まるで群れを一箇所に追い込むようにーーそのからくりは、ある瞬間に全て繋がるのだ。
「寛いで、行くといい」
 作動、ワイヤーと針が地より突き出、文字通り狐を一網打尽。脚を貫かれ、腹をくくられ、腕を地に縛り付けられて。霜柱の突き立つ冬の土に、狐どもは強制的に伏せられた。怒りに暴れれば、針とワイヤーは肉に一層深く食い込み痛みを伝えるばかり。ルイスが攻撃に紛れ張り巡らせた罠型ユーベルコード、それは例え外だとしても彼がかつて存在した古代遺跡と同様に、出口のない処刑部屋を創り上げた。部屋に壁の有無は関係ない。逃れられない、出られない。その事実さえ有れば良い。

 ルイスが近付く際にも、狐はワイヤーに雁字搦めにされながらも尚暴れた。爪がルイスを掻くが、痒いという感覚さえも機体は知らない。
 血の一滴も溢させる事のできぬ狐は辛かろう。溢してやる事も叶わぬ化生で、すまないな。血も涙も無く、かつては人を護ったのだろう狐を、丁重に介錯する。


 それでも、いまだ未明。殺めるべき狐を、有は一体ずつ。ルイスは範囲に攻撃を降らせる。
 故に、ルイスの側は比較的安全圏、かつ攻撃を避け切った狐を撃つには格好の場。自然と二人の連携は成る。

「……冬の朝に外に出ると。刺されるようと聞くが」
 上より降るルイスの声に、有は一瞬視線のみを向け、応じる。
「ああ、寒いよ。冬に刺し殺されて、死ぬ人間なんかもいるし」
「そうか。死に至り得る程の感覚か」
「うん」

(細かく教える必要も無いだろう、あんな感覚)

(あの白い息は、いったい、どのようなからくりで吐かれているのだろう)

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

エン・ギフター
狐と狸の争いってのはあらゆる局面で起こるモンなんだなあ
肉が不味いやつ同士つるんどけって思やするけども
まとめて鍋にすんぞコラ

こんな中身スッカスカの首羨んだってしゃーねえだろ
ちゃんと手前のやつ回収しに行っとけ
海に還りゃ立派なのが胴体待って寂しくしてんじゃねえの、お狐さんよ
まあ、あんたの恨み辛みぐらいは覚えといてやるから
好きに八つ当たりしてから逝きゃいいさ

どこ焼かれようがお構いなし
多少の痛みは気合で乗り切って勘を頼りに密集してそうな所へ
味方巻き込んだら事だ、攻撃前には周囲を確認しとく

頭がなくて寂しんなら、せめて羽根で飾り付けてやろうか
出来栄えの評価は――あんたらが首を見つけたときにでもあっちで聞くわ


リンタロウ・ホネハミ
やぁっとおいでなっすたっすね!
寒い寒いと待ってたオレっちらを温めてくれるんすかねぇ、あの変な炎で?
ま、んなわけねぇっすよね、はっはっはっ……
そんじゃま、寒くなってた懐を温めるために
"骨喰”リンタロウ、お仕事がんばるっすよ!

こんな真っ暗闇で戦うってんなら、やっぱ【〇〇六番之卑怯者】っすね
蝙蝠の骨を食ってユーベルコード発動!
超音波ソナーを発して敵の位置を常に把握
ついでに奴らが飛ばす鬼火も把握してその軌道を読んでやるっす!
そうして近づいて、片っ端から奴らをこの骨剣"Bones Circus”でたたっ斬ってやるっす

獣を狩るって意外と簡単っすねぇ
傭兵やめたら猟師にでもなるっすかね?

アドリブ大歓迎



●くらがりの
「狐と狸の争いってのは。あらゆる局面で起こるモンなんだなあ」
 エン・ギフター(手渡しの明日・f06076)が両手に握るカトラリーで、炎熱を掻き分け、振り払う。さながら軽すぎるクリームの取り分けにも似た手つき。甘くもない、腹が膨らみもしない炎を払い、炎が飛んでくる方向を、見定めている。
 炎の眩さのせいで、目が『慣れることがない』のがこの戦線での悩みだった。視界が常に明滅するようだ。轡の中でため息ひとつ。
「肉が不味いやつ同士仲良くつるんどけよ。まとめて鍋にすんぞコラ」
「えっ、これが終わったら鍋料理振舞ってもらえるんすか!?」
 エンは眼差しのみを後方へ向ける。骨の大剣を振り回し炎を払いのける男が、こちらによそ見をしながら笑っているのが見える。リンタロウ・ホネハミ(Bones Circus・f00854)は、目が合った事に、鍋の確信を得た。
「いやー寒くて寒くて震えてたんで、その誘いは願ったり叶ったりっすね!」 
「不味いっつったばっかだろ、あいつらの肉」
「いっすよいっすよ、肉が食えるだけで万々歳じゃないっすかぁ。ねえ、あんたが鍋振る舞ってくれるなら、オレ、闇夜の案内はできるっすよ」
 がり。コウモリの小骨を、リンタロウが噛み砕く。
「少なくとも、オレにゃ明暗関係なく360度お見通しっす」
 超音波ソナーを身に宿し、攻撃の把握に特化するのだとリンタロウは言う。
「へえ。便利だそりゃ。そんなら、一丁頼んでみっか」
 エンが、加速用に翼を広げる。リンタロウもまた、地を蹴り、狐を斬り伏せにかけた。エンとはまるで逆方向。二人、背を向けた状態で。

「そっち三時と七時の方向から狐ェ!」
「もう当たってんだけど。言うの遅ェぞ」
「ええーっ!?生きてるってことでチャラにしてください!」
 互いに狐をたたっ斬りながら、冷える夜に声を張る。喉に冷気が滑り込み、頭が冴えるようだが、なんとグダグダな連携だ!否、一人でやるよりは、俄然被弾は抑えられている。エンは方向を教えられることで急所は防ぐには十分。リンタロウは後方からの攻撃がほぼほぼエンに向かうため、前方の狐のみを叩き潰していればいい。
 エンが駆ける。狐の頭数ーー奇妙な数え方だーーの多い一帯にその身を突っ込み、勘も活かし狐を引き付ける。燃える箇所が増える。腕、頬、脚。
 ただ、リンタロウは的確に骨の剣をふるいながら疑問に思う。エンは急所を庇いこそ、するが。どうにも攻撃を避け切ろうという気概は感じられないーー狐の炎が、爪が、エンに群がっていく気配ばかり感じる。皮膚が焼け爛れる匂い、肉が削がれる音。
「ちょっと。あんた、引きつけすぎじゃあ?」
 振り返りもせずにリンタロウが言う。
「いいんだよ」
 エンが、炎を薄く纏う翼を天へと広ながら、応じた。
「八つ当たり先くらい欲しいだろ。それに俺も、お陰様で、遠慮なくかませる」
 ーー黒羽が、月明かりを浴びてぎらりと眩い。
 弱った得物を殺さんと飛びかかる狐の壁に向けて。黒嵐。硬質化した翼が一斉射。狐の胴を、尾を、首を、エンを取り囲む全てを刻み貫く刃。この密集度なら仲間への流れ弾の心配もない。後方のリンタロウに飛んだところで、ーーリンタロウは骨の剣を大振りにし叩き落とすのみだろう。見えるつったでしょ。にやり自慢げに笑う。
 狐どもを黒羽で飾り立てるよう羽のむしろと作り替える。どしゃりどしゃり、落下する狐を見下ろしながら、エンは立ち上がる。こめかみを、指ではじく。
「こんーな……頭スッカスカの首。羨んだってしゃーねぇだろ。ちゃんとテメエのやつ回収しに行っとけ」
「え?なんすか、スッカスカって、物忘れ激しい方?それとも骨粗鬆症?骨食います?」
「骨せんべいだったら考える」

 ようやく、目が慣れた頃に。あたりに倒れていたのは、黒い羽根飾りを首から幾重にも突き立てた狐たち。
「ああ。そこそこ似合うんじゃねえの。羽首」
「そうゆう神霊はいそうっすね。いやあ、優しいっすねえ」
「どうだか」
 真の当事者がただの侮蔑と取ったか、それともお気楽に喜んだかは、いずれ聞く事も、あるだろう。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

マリアドール・シュシュ
アドリブ歓迎

「マリア、この地へ降り立つのは初めてなのよ!
ふふ。見たことない景色が沢山なのだわ。とっても楽しいの!(一回転し笑顔)
でも今はこの戦いを鎮めなくっちゃ。人に迷惑をかける喧嘩はだめなのよ!め。
マリアは(食べた事あるか怪しいが)両方好きですのよ」

白いケープ着用
ドレス翻し戦闘態勢
竪琴構える
揺れる妖狐の尻尾に合わせ舞い踊る様に【パフォーマンス】
音色に【マヒ攻撃】を付加し演奏で遠距離攻撃

【華水晶の宴】で19体の一角獣召喚
14体を四方八方から一斉攻撃
4体は合体し強力な一撃食らわす
1体は自身の護衛

「どうして災いをもたらす存在になり果てたのか分からないけれども、あなたの心が泣いている気がしたのだわ」



●天上の
 美しい少女の話をしよう。
 神は銀の絹糸、瞳は丁寧に作った蜂蜜細工。声は鈴の音、冷えた肌は彼女が水晶の身である事を物語る。
 くるり、髪とケープに空気を含ませて1回転。冬の月明かりと、紺青の晴天が少女に注ぐ。マリアドール・シュシュ(無邪気な華水晶・f03102)ははしゃいだように竪琴鳴らす。
「マリア、この地へ降り立つのは初めてなのよ!
ふふ。見たことない景色が沢山なのだわ。とっても楽しいの!」
 少女の目には、味気ない田園と山脈も煌めいて見える事だ。
 そんな場違いなまでに眩い少女を黙らせようとしてか、妖狐は尾を振り炎を使役する。狐火が、マリアドールへと向かう。
 ろ、ろん。鳴る竪琴。
 呼ばれ出づるは十九体の水晶一角獣。マリアドールへ向かう怨嗟の炎を、その前肢で即時ひき潰す。
「狐さんがたも、とってもふわふわ!触ったらどんなに素敵な手触りかしら。ブラッシングもしてさしあげたいの! けど、けれど、まずはマリア、叱っちゃうのよ」
 ろ、ろ。音色に合わせ、マリアドールが踊る。妖狐達も、視力という概念で見ること叶わずともーーこんな、海も空も超えた天界の調度品のような娘は、見たことはなかっただろう。
「ーー人に迷惑をかける喧嘩は、だめなのよ! め!」
 十九のいななきが、天高く重なった。

 一角獣のうち十四は、手分けし四方八方より狐を貫き、時に追い立てる。
 一角獣のうち一は、マリアドールに向かう炎や念動力をその身体で受け止める健気な護衛。
 狐どもがマリアドールを仕留めようと掛ければ、マリアドールの白い指が竪琴を撫で、その音の心地よさに、思わず竦んでしまうのだ。
 その立ち竦みが、十四による追い立てをより確実なものとする。
「狐さん、狐さん。この竪琴の音、もしかして好きかしら?ーーそんな風に、マリアの音を好いてくださる方が、どうして天災もたらすように成り果ててしまったのかしら」
 一角獣と共に舞うように。さながらステージの上であるように。統率のとれた一連は、見るものの心を奪いながらも、確かに戦いを続けている。
 気付けば狐の群れはひとところに誘導されていた。マリアドールの側で力を温存、練り上げていた残りの四の一角獣が、蹄を鳴らし一斉に駆けた。
 抵抗の狐火さえも一角獣は貫いて。怨嗟などに主人の身は焼かせぬとばかりに。
 嘶き、疾駆、衝撃音、地響き。美しいとは呼べぬ激しい音の後に残るのは、倒れた狐と微笑み続けるマリアドール。
「わからない。どうして狐さんが私たちを怨むのか、きっと、私には、わからないわ。けれども、あなたがたが、泣いているような気がしたのだわ」
 これでおしまいにしましょうね。
 転調、子守唄の音色を、この朝にささげましょう。

 ああ、うつくしいむすめだった。
 この目で視ることかなわずとも。
 怨嗟を向けるのも、ばからしくなるようだった。
 ああどうか、おまえは、その蓋を開けぬまま。どうかわからぬままに。
 妖狐が、ありもしない瞼を閉じる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天秤棒・玄鉄
 恨み辛みで、数まで増やしてやがんのかね。ま、寒い夜にゃ火は有難えが、寝てる横にゃちと眩しすぎんだろ。
 そのナリの成り行きゃ知らねえが、悪いな、ぶっ叩くぜ。

 紺の闇に手足が悴むのを、動いて解すように突貫。
【第六感】に任せたアドリブ戦法。
 火に焼かれようが【激痛への耐性】に任せて【捨て身の一撃】覚悟で突っ込み、【クイックドロウ】さながら【喧嘩棒術、颪】でぶち抜きにかかる。
 
 当たらなくとも、引き付ければ他の猟兵が仕留めてくれんだろう。多対多の喧嘩は、手数で連携を崩すが吉ってな!
 ……流れ弾にゃ、気ぃつけっかな。

アドリブ、絡み描写歓迎です。


学文路・花束
狂い咲きの桜に惹かれたかって? 
ああ、そりゃあ、絵描きのさが。
惹かれもするさ。
冬の暁前と、美しい妖の獣達にも。

アートによるデッサン。
催眠術により“これは自分の物である”と補強して。
数多の首無等に、描いた狐の首をユーベルコードで乗せる。
我らの首も欲しかろうが。
真に欲しいのは、これ、ではないか。

挑発であると受け取った子等は。
闇雲に守りも忘却して、おいで。
満たされた子等が居るのなら。
そのまま安らかに昇ると良い。

どちらでもいいのさ、構わない。
僕ら猟兵にしたって、好きなように狩りにきたのだから。
(凍風、夜、マフラーの下、しん、とわらう。)
(ばちり、髪や翼の花火が強く爆ぜた。)



●喧嘩艶花
「そェいりゃぁッ!!!」
 一声が夜天を貫く。電光石火の如き踏み込み伴うその棒術一撃で先ずは不運な狐を海へと還す。彼の本体である天秤棒の模倣品を振り回す男は天秤棒・玄鉄(喧嘩魂・f13679)である。暗がりの中を直感任せに喧嘩殺法と参ろうぞ。
「へっ、恨み辛みで数まで増やしてやがんのかね? 寒い夜にゃ火は有り難えがーー」
 狐が炎を殺到させる。玄鉄が不敵に笑み、短く呼吸。炎が壁を成す前に、その鋭い刺突の構えで炎を突き破り、捨て身めいて肉薄する。二、三と狐を薙ぎて払いて大立ち回り。その棒術、洗練ーーとは行かずとも、百年培われた町人の熱い喧嘩魂が、玄鉄を熱へと駆り立てる。
「炎は、ちぃと眩しいのがな! まだまだ起きるにゃ早ぇだろうが、お狐どもも気持ち良く二度寝にでも洒落込もうや!」

 哀れな首無し狐に、冬の桜。それらに惹かれてきてみれば。
「……その上喧嘩の花と咲かされては、」
 心浮くのが絵描きのさが。
 学文路・花束(問十二、・f10821)は夜色の風貌を冬に溶かしつつ、ぱちりぱちりと線香花火が爆ぜる音。鉛筆は木屑と墨の香り。冬に透き通って、鼻腔をくすぐる。
 雄々しく笑い喧嘩を成す精悍な男と首無し狐。舞台の丁々発止めいた一膜に、足りぬものはーーこれ、だろう。素早くクロッキーに黒で描き取れば、絵と現実と乖離した部分が浮かび上がり、紫へと色合いが変じ。狐にそれを付け足しに、飛んだ。
 中央で天秤棒を奮っていた玄鉄は声を上げた。あぁ?急に首が生えたがどうゆう事だ?即時、攻撃を警戒し、棒を防護の構えを取るが。それは花束の『グラフィティスプラッシュ』により描き足された首であると同時に、狐の冥府への土産。その首はたしかに何匹かの狐の無念の魂を食い潰した。
 倒れ伏していく狐を玄鉄が見下ろし、開けた視界に口笛一つ。

「いい絵を、見させてもらった。筆が乗るよ」
「へえ、今のはお前の業かぁ。首のお裾分けたぁ、優しいんだが皮肉なんだかわからねえがな!」
「さあ、その辺りは。当の狐たちの、受け取り次第」

 その遣り取りに割り入るように、一層高いほえ声が鼓膜を揺らすだろう。
 塗料に生命力を蝕まれながらも、玄鉄と花束に怒りを覚えた狐が吠えたのだ。塗料の首は狐の意思に連動し、口を開き、目には光を宿し、筆跡の毛並みは風を受けて揺れている。

「なぁんだ、せっかく良い首貰ったのに、不服かい。元の首より美男子に描いて貰えなかったかぁ?ま、不服ってんなら、しゃあねえな」
「ああ。挑発と取られても、いいんだ。好きなように描き、好きなように受け取る」
 それが美術だと花束が言外に言う。
 それもそうか。玄鉄が天秤棒を構える。
「……まだ、ここで描いていても、良いだろうか」
「おう、勿論。とびきり良い男に描いてくれよ!」
 玄鉄が吼えるなり、再び冬の炎へ果敢に突貫。駆け込み踏み込み、焼ける熱に耐え、牙を天秤棒で受け、打ち上げ、獣の喉を突く。描き手がいるときては、一層興も乗ると言うものーー良いところ見せようじゃねえかい! 玄鉄の動きは疲れを見せる事なく、一層速く、勇猛に!
 激しい益荒男と悲しげな狐の応酬を、花束が刻み付けるようにクロッキー。今度はその描き取られた狐と益荒男が、お前はすでに過去だと退けにかかるのだ。
 そうだとも。首をなくした恨みも、それを猟兵に退けられる怒りも、偽の首を与えられる怒りも全て過去としよう。心踊る「今」を紙面に刻みながら、花束は狐の安寧も欲している。
「オォラ、次ィ!!」
 玄鉄の天秤棒と、花束の髪に埋もれる火花が、ひときわ激しく鳴った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルフトゥ・カメリア
【団地】
はッ、元が祀られた存在だろうとこうなっちまえば世話ねぇな。テメェ自身が厄になる前にさっさと骸の海に蹴り返してやるよ。

ノアの行動を把握し、ヘイトを自分に集める行動を取る。
手首の古傷を掻き切って地獄の炎を溢れさせ、バスターソードに纏わせて突っ込む。脚でもなんでも叩き斬って動けなくしちまえば、あの巨体は良い的だ。【怪力、2回攻撃、鎧砕き、フェイント、だまし討ち】
波動が見えなかろうが、炎の海にしちまえば軌道は読めんだろうよ!【第六感】

万が一、ノアが狙われた場合は【武器受け、かばう、オーラ防御、カウンター】
ぼさっとしてんな!
罵声の割には自分がいる限りは傷付けさせないと身を呈す、傲慢な守護天使。


ノア・コーウェン
【団地】
元がどんなにいい人であったとしても、怨みで他の人に迷惑をかけるようなら、少々可哀想ではありますが…しっかり退治してあげましょう!

ルフトゥさんが引きつけてくれている隙に【破魔】の力を込めたガチキマイラでガブッと【暗殺】の一撃を喰らわせましょう!行けるようならそのまま【二回攻撃】です!
続けて攻撃ができるかどうかや、動くタイミングで動けばいいかは【野生の勘】も頼りにしていきます!

優先的に狙われるようなら、申し訳ありませんが回避に専念させていただきます!避け続けて隙が出来るようならまた改めて攻撃再開です!負けませんよ!



●遠慮と傲慢
 ルフトゥ・カメリア(Cry for the moon.・f12649)は紅椿の鮮烈な赤色の瞳。狐の群れを睨め付けて、横目にノア・コーウェン(がんばるもふもふ尻尾・f02485)を一瞥。
 ノアは緊張を解そうとふんふんリズミカルに呼吸。心臓と共に体全体を揺らし、身体を馴らす。少年にとって、これは、初陣だ。
「倒しますよっ……元が、どんな良い人であったとしても、怨みで他の人に迷惑をかけるようなら……!」
 克己の呟きを耳にして。ルフトゥは、鼻で短く笑った。
「ああ、こうなっちまえば世話無ぇな。……おい、テメエも面倒かけんなよ」
「は、はい!」
 黒い翼と、灰色の獣が、それぞれの歩幅で一歩、駆け出した。

 ルフトゥが手首を掻き切れば、そこから噴き出すは地獄の炎。それをバスターソードに纏わせ、大振りに振り回し狐を狩る。
 一振りごとに、炎が畦道の枯れ草を焼き、霜柱を溶かす。広がる炎が、冬の夜道を舐めていく。
 それは眩く、暴力的な炎。狐の紫炎と合わさり、肌を刺すような寒さを融解する。
「テメエら自身が厄になる前に、さっさと骸の海へ蹴り帰してやるよ!」
 狐がこれ以上破壊を行う前に。踏み込む一歩、狐を叩き斬る剣は、確かに狐達のかつての在り方を護るために。されど狐はその傲慢を拒絶する。怒りをあらわにルフトゥを焼き殺そう、引き裂こうと疾駆した。

 そして、ルフトゥが護るものは狐の誇りのみならず。

 炎の眩さに隠れるように。獅子の大口が突如、現れた。狐の首から先ーー胴部めがけ正面からかぶりついた。振り払おうと暴れた狐の肉を、獅子の牙は食い破り、後ろへ跳ぶ。
「ーーありがとうございますルフトゥさん! 失礼しますっ、狐さんがた!」
 それはノアのガチキマイラ。暗殺を駆使し、呪われし魂を不意打ちも同然に食い破った。破魔の乗った牙は、狐の身体を綿あめの如く容易く割いた。
「礼なんざ、言ってる場合か。そのくらい当然出来ねえじゃ困る。おい、もう波動も避けられるだろ? 俺が庇う必要なんか無ぇよな」
「えっ、ええっ、波動、と言いますと」
 耳慣れぬ言葉にノアが戸惑う。次の瞬間にはノアの眼前が暗くなる。バスターソードが、塞いでいた。炎は恐ろしく明るいのに、剣の影はこんなに黒い。そのわずか一瞬遅れて、空気の層を突き破る鈍い音とともに炎が一斉に後ろに揺らぐ。オーラ防御を突き破らんばかりの衝撃に潰れそうな内蔵と声を、ルフトゥは飲み下してみせる。
「今のだよ。ボサッとしてんな!」
「わ、わっ……!」
 庇われたのだ。そしてルフトゥには、その狐の所作が全て見えていて。僕は全く分からなかった。炎の揺れを見ろと言われても、全てに追いつく自信はない。その未熟さのせいで。自分が子供であるせいで。また庇わせる事に、なるならば。
「ーーわかりました! 僕は、僕にできることをしますので!」
 ノアは獅子の牙を解き、最も身軽な姿を取る。
「回避に、専念させて頂きます! 隙をみて攻撃しますので……ルフトゥさんはどうぞ、僕のことは構わずに!」
「そんな賢しいこと、出来るのかよ。構うか構わねえかは俺が決める。精々奮闘するんだな」
 小さな舌打ち混じりーー否定の響きはない。呼吸の際に、唇が触れた音。ーーに、天使がこどもに応じた。

 ルフトゥがヘイトを集めながら狐を屠る。ノアが要所要所で暗殺めいて着実に狐を噛みちぎり屠る。
 邪魔にならないように頑張らねば。こどもでありながらひたすら慎重なノアの動きは、自然とヒットアンドアウェイを成立させる。
 アウェイが間に合わないと踏んだ時には、ルフトゥがすかさず剣を割り込ませ、狐を斬る。
 この人がこの戦いで追う傷は僕のせいだろうか。
 炎の逆光で黒くそびえる背を見ながら、ノアが下唇を噛む。
「負けませんよ……!」
 この言葉を、強がりではなく、本当に、しなきゃ。
 ノアの小さな手足が、冷えた泥を飛ばして何度も駆け、またもう一匹、狐を千切りとった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セラ・ネヴィーリオ
ん、首が欲しいのかい?
あはは死んじゃった子の魂にはよく言われるねえ
あげてもいいけれど、彼らはきっと他の首も求めるでしょう?
ならそれは"おいた"だよ
さ、骸の海へ帰ろうねえ

『しらたま』を体に溶かし【残火】起動
さあ行くよ力を貸してと、裡に在って僕でない魂に声をかけ
起こしたらやることは一つ
欲しいんでしょう、おいで?と手を広げてお狐さんに向かうよ
鬼火は打ち払う。神通力は歯を食いしばって耐える。心を読まれたら逃げる以上の速度で追う
迎撃を抜けたら…抱きしめて、あげたいけれどね。それで救われる子らでもなし
僕が連れて行くから。一思いに打ち貫くよ

冬の冷気、いいよねえ
命の熱と赤が際立つよね

(アドリブ歓迎連携お任せ)



●攫い上げる
 ちからをかして。
 セラ・ネヴィーリオ(涅槃西風・f02012)が少年の甘い、されど張った声で呟いたならば。呼びかけに魂が応じ、四肢に熱が宿る。武術家の魂が、少年に、己が知る全てを与えるーー
 撃鉄を起こそう。
 さ、いくよ。

 冬の冷気を突き破る踏み込み一歩。達人技の縮地が、少年を狐の敵陣のさなかへと連れ出した。
 その機動は狐が逃れるよりも早く。そりゃあそうだ、この身に宿した武術家の魂は、少年の思考よりも速いのだ。読んで避けられる筈がない。
 炎が襲来せば、白い手の甲が鋭く振られ、空気の層ごと炎を払う。空気のうねりに、吐き出す白い息ごと右に左に掻き揺らぐ。
「ーーは、あっ……。あはは、首、欲しいのかい? 死んじゃった子の魂にも、よく言われるけど」
 物量により払いきれなかった炎は、セラの白い細首を撫でる。そんな事が何度もあった。足掻くようでもある前肢も、同様に首を掠めるのが、見ていてただ痛ましかった。されど。一撃。足掻く狐をまた掌撃を加え吹き飛ばす。
「君、僕の首だけじゃ満足できないでしょ?」
 君が本当に欲しいものは骸の海の底。
 それに目をそらし、命あるものを欲するならば。
「なら、それは、おいただよ。おいたする子には、あげませんっ」
 め。幼子を嗜めるごとき声と共に、踏み込み震脚が地を抉る。狐どもの念動力による全身への衝撃に、首を守りつつ無理矢理かぶりついた。白い髪が、はらはら後ろへ飛ぶ。
 そう、この細首をあげることはできないから。
 ならばせめて、僕が連れて行ってあげる。
 武術家の魂も、セラの熱に応じ、きっと胸中で呵々と笑ったろう。寒さの痺れをこれっぽっちも感じない。
 手を伸ばし縮地、その前肢をまだ幼さののこる手で掴む。引き寄せ、震脚、さあ帰るよと振り返る動作で、狐の腹に発勁、重撃。狐の、用途のない内蔵が、皮膚の下で破裂した手応えの後、だらりと狐の身体は垂れた。
 さ、君の番だよ。
 声に出すより早く残火は舞う。立ち止まる事なく、狐どもの無念を次から次、その手で受け止め、奪って行く。
 ひとつずつ、ひとつずつ。全部の子と、きちんと手指を絡ませるように。

●よあけ

 東より金色が射す頃。
 狐は全て、還された。

 体に灯る熱が、冬の寒さを和らげる。
 炎が身体に残っているようだ。

 さあ、朝に見惚れるのも、休むのも、道中で。
 東へ向かおう。
 この狐どもに会いたがっていた者が来るのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『狸大将』

POW   :    怨魂菊一文字
【かつての己を岩戸へ封じた霊刀の居合抜き】が命中した対象を切断する。
SPD   :    焔の盃
レベル×1個の【盃から燃え上がる狸火】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
WIZ   :    八百八狸大行進
レベル×5体の、小型の戦闘用【狸兵団】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は神月・瑞姫です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


【5日のうちに冒頭更新予定です】
●曙囃子

 でん、どん。で、け、とんでん。
 東より、狸戦団のお通りだ。憎っくき狐を打ち倒し、天を取るは狸大将!
 でん、つく、どん、でん。で、け、つ、く、でん。

 腹を、足取りを、武器を鳴らし、その狸囃子は横一列。
 曙は、空のみならず、地の隅々まで赤く染め上げる。それはそれは見事な景観であった。
 朝日を背負う兵団その中央に、数倍恰幅のいい大狸が見える。あれが狸大将であると、誰の目にも明らかだ。

 狸どもは、猟兵を前にすると進行を止める。盃にとくとく酒を注がせた大将が、一歩、前へ。
 大将が語る。低く、緩慢に。されどその声は、よくよく通る。

『ああ。ああ、てめえらーーいや。みなまで、言うなぁ。分かってんだ。狐どもの、あの殺気が、どんどん薄れて……すっかり、しなくなっちまったかんなぁ。殺したんだろ? てめえらが。』

『だから言ったろぉよぉ、狐よぉ。人間の味方なんざしたって、いい事も無い。人間に執着したって、ろくな事ぁ無え。ーー人間は、ひでえなあ。守護してくれてたお狐さまの首を取ったのみならず。落ちて尚、あたしらとの逢瀬すら邪魔すんだ』

 なみなみ注がれた酒に、口をつけ。狸大将は一息に飲む。
 ああ。とむらいだ。そうぼやいた声を合図としたか、子狸兵団が一斉に銃口を向ける。

『あの狐を殺していいのは。首を取り、貶めた張本人か。ここが人里となる前から、ずうっと喧嘩してた、あたしら狸だけだって。ああ、看板でも、立てときゃよかったなぁ』

 片手に盃、片手に大太刀。呵々大笑が響き渡る。

『ここまで来たんだ。わかってんだろぃ?このままにしておけば、あたしらは、あの妖狐を貶めた人間を鏖殺するってなあ。さ、じゃ、まずは。あたしらの邪魔をした張本人である、てめえらーーそうなんだろ?違うたぁ言わせね。てめえらから、みなごろしと、いこうかい!ええ!』

 大将の劈く雄叫び、さながら法螺貝の音色。火縄銃に火が灯る。高い炸裂音が冬を裂き、猟兵どもを殺しにかかる。散った狐どもにも届くだろう。この合戦の、開幕が。
リンタロウ・ホネハミ
あー、すんませんっすね
正直あんたらの因縁だのなんだの、これっぽっちも情が沸かねぇんすわ
こっちは仕事だから斬るだけなんで
ま、恨むなら過去にすっきり気分爽快になるまで喧嘩をやりきれなかった自分を恨んでくださいっつーことで

……こんだけ煽れば指揮も乱れたりしてくんねぇっすかね?
まあどう転ぼうがオレっちがやることは変わんねぇっす
カメレオンの骨を食って【〇八七番之隠伏者】を発動するっす!
そんで奴の率いる狸兵団を片っ端から不意打ってぶった斬ってくすよ!
他の猟兵達が狸の大将との戦闘に集中できるようにね
体力の消耗は「気合い」でなんとか持ちこたえるっす

アドリブ大歓迎




「あー、すんませんっすねっ……ととぃ!あっぶねえ!」
 リンタロウ・ホネハミ(Bones Circus・f00854)が頭を呑気に掻いたところを、火縄銃の乱射に襲われる。身体をアクロバットに捻り、弾道を避けつつも小馬鹿にせんとため息ひとつ。
「正直、あんたらの因縁だのなんだの、これっぽっちも情が沸かねぇんすわ」
『ほぉう』
 狸将軍の片眉が上がり、管楽器の低音の如き、くぐもった相槌が、空気を貫いて届く。
「こっちは仕事だから斬るだけなんでーっちょちょちょああ」
 狸大将の目配せ一つで、銃が飛び、次の装填までの間に弓矢を降らす。それを骨剣に身を隠しで弾き臆病者ーーの、フリ。弾丸を剣で振り落とす事も可能ではあるが、それをすれば後回しにされ攻撃が他の仲間に向くだけ。それはリンタロウの望みではない。奴らの統率、それを崩す事こそ、リンタロウの目的である。
 剣を担ぎ直す内心は、飄々。
「人が話してる時には腰を折らないって聞教わった事ねーんですか!?」
『知らねえなあ。撃たれて終える程度の話なら、しないで、いいんじゃあねえかい?』
「まあまあ、そこはそう言わず。こちとら、タメにもならねえ長ったらしい話聞かされたんすから、こっちの言い分も聞いてって欲しいんすよねえ」
 懐から骨を取り出し、齧り砕く。
「そう、恨むならーー過去にすっきり気分爽快になるまで、喧嘩をやりきれなかった自分を恨んでくださいっつーことで!」
 リンタロウが噛み砕くは、カメレオンの骨。【〇八七番之隠伏者】、迷彩能力を頂戴したリンタロウの姿が、あさぼらけの中に消えた。

 ーー落ち着け、騙されるな。
 狸大将が指示飛ばしつつ、見えぬリンタロウの居場所を探る。見えぬ敵によるゼロ距離奇襲に、戦線はあっという間に統率は崩れていく。
 リンタロウは居場所をくらますよう、一撃薙いでは駆けて離れ、一団しとめては突如下がるーーを、鋭く繰り返す。
 耳をそばだてれば、リンタロウの足音も呼吸も見聞きできるが、並び立つ狸兵団が戸惑う音に、冷静なリンタロウの足音などかき消されてしまう。身一つ隠すなら、ざわめきの中。
 狸大将が、見えぬ姿を眇め見る。

 てめえよお。人間から見たあたしらに、情が湧かねえのなんざ、当たり前だろおい。言葉にするまでもなく、よお。
 それをわざわざ言葉にして、煽りの真似事してくれるってえのは。それこそ、てめえの、人へのーーそして、あたしらを舐めない、笑わない、情なんじゃねえんかい。え?

 激しい動きと、潜伏者の代償が重なり、心拍数はひどく上がり。聞きつけられまいと堪える息は器官を圧迫し痛めつける。そんな苦しみは気合で押し潰し、尚も、斬、跳、斬を、たった身一つで繰り返す。
 狸大将は思う。その味方への献身に、賞賛の一つも送りたいが、姿が見えぬのでは声の掛け甲斐もない。態とらしく虚空へ笑う。リンタロウも、はたしてそれを汲んだ、ろうか。焦燥にじむ大将の歪んだ笑みに、リンタロウもまた、頑丈な歯列をむきだして笑う。

成功 🔵​🔵​🔴​

有栖川・夏介
※アドリブ歓迎

罪なき者を巻きこもうというのなら、どんなに正当な理由があれど、それはただの災厄。すぐに止めなくては。
微力ながら尽力させていただきます。
「……刑を執行します」

処刑人の剣をかまえ、相手との間合いをはかる。
【絶望の福音】で攻撃を回避しつつ、隙をみて敵との間合いを詰めていき、ここぞという距離まできたら【怪力】で思い切り剣を振り下ろし【鎧無視攻撃】
バラバラに動く狸火には特に注意しておきましょうか……。
自分以外の猟兵が狙われ、危険が及ぶようであれば【覚悟】して【かばう】

……人間すべてに非があるわけではない……。
狐と喧嘩がしたいのでしたら、その続きは黄泉の国にて、どうぞ。




 瞬間、殺意ーーなどと人間めいた感情を名付けるのも烏滸がましい程の寒気が、狸大将を襲った。
 音も無く懐、視線を下げる間も無く手元の鞘で辛うじてそれを受ける。冷え切った音が甲高く響いた。
「ーー残念です」
 薄緑の髪が視界の下に見える。残念そうでさえ無い、淡々とした声が下方より美しく淀む。有栖川・夏介(寡黙な青年アリス・f06470)は、その処刑人の剣を引き、後方へ飛んだ。
「仕留め損なう予定は、ありませんでした」
『……ええ、おい。底冷えするような一撃、だったなあ。そう残念がるな。誰が打ち込んだかもわからねえまま、死ぬにゃあ惜しい、一撃だったんだから』
 狸大将の手が、今もしびれている。これだけの体格差をもってして尚、狸大将を押し切りかけるほどの怪力がその体躯には宿っていた。
『あんた、名前は』
「有栖川、と」
『長えな。ありすだ』
「……どうぞご自由に」
 狸大将は、どうせここで死する罪人だ。名前などすきに呼ばせればいい。有栖川は瞼を伏せがちに、もとい、鋭く大将との間合いを見る。
『なあありすよお。その底冷えする一撃は、そのほっせえ人間の体で、どれほど殺せば辿りつけるんだぃ』
「さあ。数えようとしたことすら、ありませんので」
 兵団の発砲音を耳に、再びの疾駆。弾丸の下をくぐり抜けるように、低く有栖川は距離を詰めた。狸大将が盃を傾け、炎を浴びせんとする。
『そう言うな。酒の肴に聞かせろや』
「仕事中の飲酒は厳禁ですので」
『つれねえなあ』
 その炎を見切り、剣で弾く。その起動も、狸大将もまた見切っているかのごとく、避ける先々に炎を遊ばせる。そう、
遊びめいているーー不愉快だ。
 狸大将の殺意が、情さえ伴う熱であるなら、有栖川の殺意は血も通わぬからくりのごとき。有栖川を構築する、冷え切ったシステムの一つと呼べる。
「貴方の怒り、正当な理由があるかと感じましたが。喧嘩、ですらなく、もしや遊びをしたくているのですか」
『正当。 正当! ああ、は、は、は! 優しい、優しいなあありすよぉ!』
「…………、刑を執行します」
 炎の雨の中。有栖川がーー脚に怪力を込め、残りの距離を一歩で詰め切る。大将の目が丸く。口元は笑み、刀身が閃く。
 それよりも、一瞬早く。有栖川の処刑の剣が、すべらかにふり抜かれた。鎧さえも肉の如く切り裂いて、狸大将の胴を横薙ぎにした。
「狐と喧嘩をしたいのでしょう。その続きは、黄泉の国にて、どうぞ」
 遊びで喧嘩をし、人を理不尽に憎み、だのに笑う。その狸大将に向けて生じる胸の内の感情は、もはや生理的嫌悪にさえ近い。
 狸大将が汚い声で笑う。肉は削げ、血は流れるに、その瞳のぎらついた殺意や、大将たる堂々たる態度は健在である。それを有栖川は、赤く冷えきった目で眺むのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シェーラ・ミレディ
逢瀬ときたか。流石、大将ともなれば粋のわかる洒落者と見える。
こうなればぜひ狐とも言葉を交わしたかったものだが……つくづく、首がないのが惜しいなぁ!

大将よ、あの世の狐に伝言を頼めないか?
「人形が一体、酷く残念がっていた」とか、なんとか。
──嗚呼、駄賃は弾丸だ。

銃を抜き、「一目鐘情」で先制攻撃。
盃を狙い撃ちたい所だが……まぁ、そう巧くはいくまい。手傷を与えられたなら良しとしよう。
狸火は第六感や見切りで避け、逃げ回りつつ念動力で消火を試みる。無理なら撃ち落とすか、他の者に任せるぞ。

狐に付けられた傷が痛むが、何。狐は強敵だったと誇るなら、怪我があるくらいで丁度いいさ。多少は狸の溜飲も下がるだろうよ。




 恋に落ちるのはいつだって唐突である。
 その衝撃を宿した弾丸を彼にくれてやりたいと感じたのは、人形なりの賛美だった。
 夜明けの戦を、逢瀬と呼んだのだ。粋の分かる洒落者と、弾丸と刀で語らおう。

『……恋、ねえ』
 シェーラ・ミレディ(金と正義と・f00296)の詠唱を耳にした狸大将が、撃ち抜かれた指先を盃の下に見ながらぼやく。
『てめえが、あたしに言いたい事ぁ、よおく わかる』
 シェーラの狙いは盃を撃ち落とすことだったが、なるほど大将の打たれ強さは格別か。指を数本吹き飛ばされれど尚ーー大将の強がりらしく、表情が歪んだのは視認できたがーー酒を飲む様を静かに睨める。狸火が灯る。銃口を大将に向けたまま、回避行動のためにシェーラの狭い足裏が地を蹴った。
『べっぴんだったろ? 狐は』
 熱が篭った声音、冬を焼く炎。紫の瞳が炎を鎮火せんと念動力を込め睨む。
「ああ。言葉なす事ができたなら、是非とも語らってみたかった」
『おお、そうだろうともよ。だが、だめだなあ。てめえみてえな美しいガキに口説かれたら、あの狐、ころっといっちまわぁ』
 ひとつ、ふたつ、消えれど、狸大将の熱に呼応するように炎は底を知らずに発生する。キリがないか。否、キリが無くとも続ければスキは生まれよう。だから無駄な鎮火を続けながら走る。炎と人形の鬼ごっこ。
「では、あの世の狐へ、伝言は頼んでも無駄だろうか? 人形が一体、酷く残念がっていたーーと」
『おう。てめえの口で伝えにゃ、心ってのには響かねえもんよ』
「成る程。手厳しい」
 指先が失われた事で、盃が持ちづらいのか。炎の操作精度は落ちたように見える。ならば、と、シェーラは炎を避け、兵団を時に減らしつつ、銃弾を繰り返し叩き込む。
『それよか、なあ、てめえ、身体が、痛ぇんじゃあねえか? あの狐に、やられたか?』
「ああ。ーー怪我人は戦場に出るな、などとは、言ってくれるなよ。狐は強敵だった。ならばその好敵手にも遭いたくなる、そうだろう?」
 叩き込まれる銃弾を、盃の盾が防ぎ、防ぎーーひときわ高い音。盃にヒビが入り、指を酒がつたいこぼれていく感触が、狸大将に伝わる。ああ、これは。さすがに、ちいと、よくねえな。
「怪我はあるくらいで丁度良いさ」
『は。生意気なガキだ、なあ』
 賞賛だ。狸と人形が、相互に、威嚇めいて微笑んだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルフトゥ・カメリア
【団地】
はッ、どの道、俺たちにとっちゃテメェらも狐も同じこと。過去の亡霊だ。なら倒さねぇ道理はねぇよ
俺たちは今を生きてる。どんな理由があろうが、過去なんざお呼びじゃねぇんだ
テメェがどう思おうが、あの狐はもう逝った。骸の海に還った。次はテメェらだ

古傷掻っ捌いて、地獄の炎をバスターソードに伝わせ【鎧砕き、怪力、2回攻撃】を叩き込み、時に【フェイント、だまし討ち】。刀は溶かせ、炎は飲み込め、そう簡単に押し負ける煉獄じゃねぇ
何方かに危険がある場合は【武器受け、かばう、オーラ防御、カウンター】で割って入る

己の生命そのものの瑠璃唐草の炎を高らかに燃やし、何もかも弔いの火に焚べ、燃やし尽くそう。【破魔】


ノア・コーウェン
【団地】
きっと、きっと僕が、僕たちが、あなたの矜持を損なってしまったのでしょう…。
ですが、あなたが害をなすものであるのならば、僕は全力で、あなたを倒させていただきます…!【覚悟】は…決めてきました…!

他の方が攻撃をしやすいように【目立たない】ようにしておきましょう!
武器の苦無に【毒使い】で学んだマヒ毒を塗って【マヒ攻撃】を【2回攻撃】です!
攻撃をしっかり当てるために【フェイント】や【だまし討ち】も入れていきます!
相手が他の方に気を向けている時には【忍び足】で近づいて【暗殺】です!
自分に対する注意外からの攻撃は【野生の勘】で察知して回避です!

僕は…守られなくてもいいように……全力で頑張ります…!


セラ・ネヴィーリオ
【団地】
狐さんのこと、大事だったんだね
代わりにはなれないけど、君たち、戦り合わないと納得しないでしょう?
【覚悟】笑む。相手になるよ。さあさ狐を屠った手はこちら
弔うならば、手の鳴る方へ!

って煽れば『楽しく』なる手合いだろうね
はい、おいで【残桜】ちゃん。きみもこういうの好きだよね
まずは一閃、首を目掛けて風の牙
それで片が付かないなら暴風に乗って彼女と朝駆けだー!
銃弾に晒されたら、うん、まあその場の位置どりで何とかしよっか
風が吹けば目も潰せる
目くらましになるかい?ノアくん
あとルフくんの炎に風を送って火勢の支援
怨も縁も、燃やして、お狐さんたちのとこまで送ってあげてね

笑って。笑って。さあ、交じり逢おうか




「狐さんのこと、大事だったんだね」
 セラ・ネヴィーリオ(涅槃西風・f02012)のやわい声が、空気に深く染み入りながら、耳へと渡る。
『確認するまでも、無えだろう、おい?』
 薄耳を微動だにさせぬまま。狸兵団の槍部隊を差し向ける。小さな、されど確りと統率された動きの小隊が、セラを串刺しにせんと八包囲埋めればーーそこへ駆け込む薄紫の髪と黒い翼。薙ぎ払う炎の剣が、ルフトゥ・カメリア(Cry for the moon.・f12649)だ。煉獄の炎は一振りで子狸を蒸発させ、骸の海のあぶくと還す。片眉上げる狸大将を、紅い瞳が一瞥。
「ああ、確認するまでも無え。テメエらがあの狐に執着してようが、どの道、俺たちにとっちゃテメェらも狐も同じこと。過去の亡霊だ」
「うん、それはそうなんだ。だったら、せめて」
 ルフトゥに頷きながら、セラが掌を前へーー狸大将へ向けるよう構える。
「狐さんたちの代わりにはなれないけど、受け止める」
「は、いい度胸だが、できるのかよ。務まるのか?」
 大将ではなく、ルフトゥが笑った。煽るような口調ではあれど、信頼の色を帯びて。
「できるよ。やる。だって、ーーー君たち、戦り合わないと納得しないでしょう?」
 微笑むセラはやわい雰囲気でありつつも、揺らぐ事の無い芯を持つ。狸の煮え切らぬ感情に寄せる声に、狸大将は、あえて小馬鹿にするように口端を上げた。
『なら、どうしてくれる?』
「相手になるよ」
『こんなちびすけが、かぁ? そっちの、黒翼のが、まあだ手応えありそうだがなあ』
 セラの眼差しが、それはどうか、と問う様に、真っ直ぐに狸大将を見据えている。白い指が、朝焼けに照らされて金を帯びる。風が吹く。狸大将の鼻腔を、狐の残り香が擽ぐるーーそれは誰よりも、セラの手から香っている事に気付いたのは、こうして対峙して、漸く。
「狐を屠った手はここだ」
『ああ、』
「弔うならば、手の鳴る方へ!」
『そう、みてえだなあ! その度胸勝ってやろうじゃあ、ねえかあ、よお!』
 呵々として、嬉々として。大将の脚が、重量の一歩を踏み出す。

 それを突き飛ばすような風が正面から吹き荒び、先の猟兵につけられていた袈裟斬りの傷に抉り込む。その激痛に、狸大将の目が見開かれた。
『な、ぁ、』
 風刃、とは、思わなかった。更に重ねて。後方より飛来する苦無が、狸大将の装甲の隙間を縫う様に突き刺さる。されど痛みは大した事はない、少なくとも今抉られた正面と比べれば。
 されど苦無といえば。忍者の技法である。
『ああ、おい、ーー兵団! 潜んだ野ネズミを殺し尽くせ!!』
 身に覚えがある。大将が急いて声を上げた。そう、忍者の技法は痛みや直接の殺傷能力のみではない。毒や麻痺といった効果が、後々必ず顔を出すだろう。それを識るからこそ、隠れながらでなければ攻撃できぬような脆弱な忍びを、兵団の数に任せて殺す事を、大将は選択する。
『なあ、白髪のぉ。その手で、あたしを屠るかと、思ったのによお。風、とは、つれねえじゃあねえかぁ。おい?ええ?』
「ちょーっと大将さんもこれでやるには、僕の身体が小さいかなーって。それに」
 黒い翼が、ひときわ強く空気を打ち。羽ばたき、大将の後方。虱潰しに、忍びと呼ばれた猟兵を探し騒ぐ兵団の中心へと飛び込んでいく。
「仲間と、ここに立っているから」


「まけ、負けませんよっ……!」
 草の背丈に隠れるよう、ノア・コーウェン(がんばるもふもふ尻尾・f02485)は身を潜めつつ。子狸兵団に探し回されてながらも、隙をついては小さな攻撃を入れ数を減らし、その間にも大将へ毒を積み重ねる隙を伺い続ける。

 ノアは思う。きっと、きっと僕が、僕たちが、彼らの矜持を損なった。それでも、彼らは害なすものである。上から降る槍から一人幼い身を隠しながら、覚悟を反芻する。だから全力で、彼らを倒すのだと。
 一人寒い最中、地べたに腹を付け隠れる覚悟を。迷惑にならぬようにと怯えを押さえつけて一人立ち回る覚悟を。罪悪感を押し潰して、自分にできる事を成す覚悟を。
 子狸から隠れるのみならず、大将への接近も諦めぬ。頼らない。諦めない。それはみっともない、だろうか。否、否。強く、賢しく、か弱い子供が命をかける。

 そんな子どもの足掻きを、上空から見つけ出す天使がいる。決してその勇敢さを、無駄にはさせない天使がいる。
「見てられねえ」
 舌打ち、極短く毒付いて。急降下、纏うオーラ防御の風圧が草むらを円形に押し潰した。害なすものだけを弾き、仲間を内側に取り入れるように。視線が、一斉にルフトゥに集約。
「探し物なんざ、見つからねえよてめえらには」
 ルフトゥが翼を広げ、威圧の如く挑発する。その翼の影に、たしかにノアを隠しながら。
 守られた、からといって立ち止まってはならぬ。子狸兵団を受け持つと言わんばかりの背に、ノアもまた背を向け走る。
「探し物の手伝いをする気は無えがーー送り届けくらいは、してやるよ」
 武器を振るえば。襲う銃弾を、あるいは刃を、煉獄に溶かして呑み込んだ。その圧倒的な熱にたじろいだ狸どもから、さあ恐怖を取り払い安寧を送ろうか。青空色の炎が噴き上がる。炎は、すでに命ですらない者たちを弔うために、哀れな外敵を等しく呑んで、光の柱の如く、天へと向かう。

 セラと、大将が、笑いながら打ち合う。
 狸大将の刀を、セラが風で受け流す。それを幾度も繰り返す。
 風の刃で肉や装備を抉られながらも、心煽られた狸大将は、セラの手を斬り落とす事を望んでいた。刀が朝日を反射しぎらついている。
「っもお、これは君のための手じゃあないからあげられないってー……!」
『連れねえなあ。いいだろうよ、手の二本や三本くらいよお』
「あげられなーい!」
 マヒ毒も効いてきているのだろう。大将の動きは些か鈍く。されどマヒ毒を射たれたにもかかわらず、これほど動ける大将が屈強である。
 ならば、さらに毒を重ねれば? セラはそれを待つためにそこに居る。
 ねえ、僕は君を頼りにするよ。
「手はあげられないよ、手を下す事はできるけど」
『上手いこと、言うじゃあねえかよ』
 言葉遊びで、笑って。

 狸大将の動きが、がくんと止まる。

『な』
 何が!? 大将が焦燥で見れば、両脚にノアの苦無が深々と突き刺されていた。幾度目かの毒の塗り重ねと、そして刃による物理的縫い止め。そして足元で怯えたように、されどその瞳に確かな意志を燃やし続けるノアの姿があった。
『ーーな』
 狸大将の口元が、歪んだ。それは確かに笑みの形。ノアを待っていた、セラと同じ、かたち。
 セラの迷いなき風刃。狸大将から、激しい血飛沫を上げさせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

芥辺・有
狐も、狸も、人も。誰も彼もが、自分の都合だろ。
わざわざお前らの事情を汲む道理もないし。
ここでけりをつけるよ。

靄が形作るようにして背後に影が現れる。
何度聞いても慣れない、呼ばう声と笑い声に一瞬だけ顔をしかめて。
うんざりする心持ちでそれを身に纏う。

みなごろしね。すればいいさ。できるならね。

些細な傷は気に留めず、第六感の告げる、危ないと感じる攻撃だけは見切って避けられるように。
奴らが動くより、尚速く。

小狸など薙ぎ払って。傷なら呆れるほどあるだろうから、流れる血を炎へ変えて燃やしてやる。
持てる速さで大狸に迫ったなら杭にのせた炎で刺し穿ち、傷口をえぐるようにして攻撃するよ。


犬曇・猫晴
なんだい、自分が殺せなかったから嫉妬してるのかい?
なんとなく分かるよ。自分が育てに育てた最後のお肉を取られると凄くムカつくもんね
でも、だからと言って八つ当たりで皆殺しはやりすぎなんじゃぁないかな?
お山に帰るなら今のうちだぜ?
じゃなきゃ君は後悔することになる

【POW】
おーけいおーけい、退かないのは理解した
良い刀。だけどぼくの得物には一歩劣る
居合を剣鉈で滑らせる様に逸らして接敵。
その後はその大きなお腹を目一杯叩こう

やっぱ退いてくれない?たぬきはストライクゾーンじゃないけども、動物の見た目をした敵と戦うのってやっぱ慣れないや。
あ、駄目?
じゃあ、しょうがないね

負傷・アドリブ歓迎




「狐も、狸も、人も。誰も彼もが、自分の都合だろ」
「いやー。あれはねえ、嫉妬してるんだと思うぜ」
 芥辺・有(ストレイキャット・f00133)のぼやきを、犬曇・猫晴(亡郷・f01003)が聞き拾った。金の瞳が、微笑む猫晴を見る。
「自分が育てに育てたお肉をさらわれると、ムカつくのと一緒だよ」
「……その気持ちはわかるけど。わざわざ奴らの事情を汲む道理は、無いし」
「うん、無いさ」
 兵団を崩され、身を切られ、毒がその身に回って、なお。堂々と立ち、血を吐き笑う大将を。有は呆れすらはらんで眺めて。猫晴は微笑むまま。
「でも僕は嫉妬がわかるから、ちょーっと、大将さんに直接挨拶してくる。ね、子狸のほう任せていい?」
「いいけど」
「ありがとう」
 有に笑いかけ気さくに一言。猫晴は地を蹴った。一瞬、静かに耳を塞ぐような有の仕草を視界端に収めたが、振り返るつもりもない。

 ああ、ほんとうにうるさい。
 有の身を、黒い靄が包んで行く。
 有の手が無意識に耳を掻いていた。どうせ塞いだところで止まない声なのに、身体は一瞬反射してしまって心底呆れる。
 靄が有を呼び、笑う。有は不愉快を吐き出すようにため息。不快感を置き去りにすべく、細身の身体が、その座標から消え失せる如く、瞬間推進。
 大将に向かった猫晴を狙う子狸の後ろに現れれば、杭の一振りでその頭蓋を吹き飛ばす。それにより有に集まる銃口を眺め、瞬きの速さでその眼前。回し蹴りが鮮やかに一薙ぎ。何が起きたかわからぬまま、死んでゆく子狸が殆どだ。
 戦場、軽やかに縦横無尽。前の戦いで受けた傷から流れる血がぱ、ぱ、と何度も飛び散る。
 わらいごえがする。なにかを失い、何かを削らなければままならぬ、無様な戦いだとでも笑うのか。それで結構だ。もしも、もしも、本当に名は体を表すならば。有は、何かを失っても、全てが有る。ーーなんて、思ってもいない事を、笑い声への言い訳として胸中に浮かべ。
 子狸に背を向けため息ひとつ。振りまいた血が、一斉に炎となり、残る子狸を一切焼き払う。命の対価は命でしかない。有に払えるものは命だ。いい等価交換じゃないか。

 みなごろし、なんて。宣言しないでも、気付いたら終えてるくらいで、ないと。


 そんな命の炎を背景に。冬の炎の光のさなか、狸大将の血を吐く居合を、猫晴の剣鉈が受け流し距離を詰める。ひゅ。互いに短い呼吸。
 
「いい刀」
『やらねえぜ』
「いやあ、遠慮するよ。だって、僕の得物のほうが上等だ」
『は。一体どこで打ってもらった刀だ?』
「ううん、刀じゃなくて」

 猫晴が、更に一歩、抉りこむように踏み込み。その脚を主軸に、全力の打撃を、傷口めがけ、ねじり込む。
 衝撃、肉が波打つ音。
 穿風、極々シンプルな近距離打撃。その衝撃は傷口から身体全身に響き渡り、内部の骨まで砕く程。
『っか、は』
「こっちの事ね。あ、得物の話」
『は、は、は……っげ、ぉえ。 違い、無え、なあ、あ』

 狸大将が己の刀で身を支え、なおもその身体は壁か山の如く立っていた。
 痛みを忘れるために、大盃を飲み干す。その酒すら血色に染まっているのが見て取れる。そしてまた、酒が湧く。ヒビの入った盃から、ぼとぼとと酒は垂れ落ちるため、炎の出力は落ちているが、それでも、大将の戦意を表すように。

「ーーね。やっぱ退いてくれない? 狸はストライクゾーンじゃないけどさ、やっぱ動物の見た目の敵と戦うのって、慣れないや」
『できねえ相談だ、なあ』
「やっぱり?」
『それに、おい、てめえ、なあ、』
「何だい」
 瞬間。血が咲いた。
 猫晴の身体が斬られていた。痛みすら数旬遅れて訪れるような、一斬。
 刹那よりも早く居合が振り抜かれていた。火事場のなんとやら、とか、戦さの意地、だとか、そういったものを猫晴も警戒していなかった訳ではない。ただ、それ以上にーーここで倒れられぬ、弔いのための気概だとか。さまざまな熱が、狸大将の命を生かす。死ぬまでは生かす。
『どうだよ これでもまだ、情けをかけてえか? 尻尾巻いて逃げるあたしらが、見てえか? え?』
 激痛に、苦笑。ごめん。と、謝る代わりに、剣鉈を掴む手指に力を込めた。ーーーしょうがないね。最後まで戦人でありたいなら、それを心より、よしとしよう。
「最後まで付き合ってあげるよ、大将。後悔して」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルイス・アケーディア
理解できんな。
狐とお前たちは、敵対していたのだろう?
殺す手間が省けてよかったじゃないか。

子狸兵団に接近してユーベルコードを発動、子狸の持つ武器を浮かせて制御を奪う。
いいモノを持っているな。没収だ。
取り上げた武器は取っ替え引っ替えして攻撃に使い、もう武器として使えなさそうなものは、操ったまま斬撃への盾にする。

死んだら過去に置き去りになって消えるだけだ。
誰が殺したか、どうやって死んだかに意味などない。
だが、命をなくして尚続く縁が、奴らにさえあるとすれば。……ああ、羨ましいだなんて、まったく思っていないとも。

☆アドリブ・連携は歓迎




「理解できんな」
 狸大将が、声に視線を上げる。青くほの光るルイス・アケーディア(ストーンヘンジ・f08628)の身体は、朝方の遠い月にも似ていた。
「狐とお前たちは、敵対していたのだろう?
殺す手間が省けてよかったじゃないか」
『なあんでえ。てめえよお、本気で、言ってんのか』
 負傷も毒も累積している狸大将が、くつと口端を上げる。足踏み。その音色を召喚音に、新たな子狸兵団がその身を地よりもたげた。がしゃら、がしゃら、兵装を鳴らす。
『いや、いや。無理もねえ、か。血の匂いがしねえ……垢の匂いもしねえ。てめえに、あたしらの在り方なんざ。』
 瞬きさえ知らぬルイスを見上げ、大将が言葉をこぼす。ルイスに、狸と狐の在り方は理解できない。されど、それでも、狸大将がルイスという機体に向けたものが、憤慨や殺意ではない事だけは辛うじて理解できた。
 子狸兵団が、上空を狙い、弓を、あるいは銃を構え。されど獣の小さな指が、それらを引くことは叶わない。銃と弓矢、はたまた防具が浮遊し、手の内からすり抜ける。混乱のままに目で追えば、それら装備はすでにルイスの管理下。巻き上げた防具は、ルイスの防護壁を成す。手のひらと、動きが連動。手のひらを下へ向け、ゆっくりと下げれば、周囲に浮遊させた鏃と銃口もまた、下へと一斉に向く。
 発砲、矢と火の雨と化す。ある狸はそれに容易く消え失せる。ある狸は大将を守るべく身を盾とする。その盾の裏側で、狸大将がただ静かにルイスを眺め付けていた。
 ーー刹那だった。抜刀居合。岩をも切り裂く一撃。大将の一斬りは、もしルイスが防護を張っていなければ、身体ごと持っていかれていたに違い無い。届かぬもどかしさに、大将が憎らしげに笑うのを、ルイスが、見下ろし続ける。
 ばらり、ばらり、金属片と化した子狸の武装が、下へと降り注ぐ。
『そんなにあたしの配下の武装が気に入ったかい』
「ああ。いいものを持っていたのでな」
『そうだろう、そうだろう。いいもんだから、返してもらったぜ』
 斬り裂き、壊し、使えなくなったものを返されたところで、笑う理由がルイスには分からない。物の用途、物の破壊。狐が、ひとに殺され、ひとの前で死した事に感情をあらわにしていた部分と重なる可能性は、感じるが。
 そこに、意味は感じない。
『ああ、おい、おい。んな物欲しそうな顔されたって、くれてやらねえぜ?』
「ーー誰が。」
 そうだとも、意味も、ましてやそんなしがらみへの羨望もありはしない。的外れにほざく狸大将を一言で、否定した。

成功 🔵​🔵​🔴​

エン・ギフター
信心向けてた鰯の頭も
腐りゃ棄てんのが人間様でな

けれどまあ
それだけでもないのは
あのお狐さんも知ってたんじゃねえの
結局は悪い賽の目を見ちまったようだが

鳶に油揚げ持ってかれた狸が騒ぐんじゃねえよ

真っ当な決闘だろうと
周囲の被害に目瞑ってやれねえ程度には
人間様至上主義やってるもんでな
勝てば官軍、力比べだ
仇討ちしてえならかかって来るといい

まだ首無しの焔の方が熱かったがなあ
挑発向けつつに勘で間合いを探る
まあ攻撃食らいそうなら食らうまで
懐飛び込めたなら狸大将の盃狙って伸ばす手へと喚ぶ腐山羊の頭
噛み砕いて武器落としとなりゃいいんだが

友を悼む気持ちは立派なもんだ
同じとこに送り届けてやるから
あっちで仲良く喧嘩してな




 信心向けてた鰯の頭も、腐れば棄てるのが人間様。
 されどその信心に虚偽はないのもまた人間様の有り様で。

「ってえのは。あのお狐さんも、知ってたんじゃねえの」
 エン・ギフター(手渡しの明日・f06076)が言葉を吐く。狸兵団のものだった、破壊された武器防具を爪先で蹴る。
『ーーなんだ。てめえも、そう、思うかぁ』
「ん。結局は、悪い賽の目を見ちまったようだが」
『ああ、くそ、悔しいねえ……ぽっと出のよお、こんなまぜこぜの若者に、んなこと言われちまうのはよお』
 狸大将が盃を揺らす。体に積もる痛みをさらに誤魔化そうと酒を飲み、飲み。朝焼けに透き通る酒を揺らし、炎をぽつりぽつりと灯すのだ。
『んだから、てめえを今から、焼き鳥にしてやらあなあ』
「はいはい。鳶に油揚げ持っていかれた狸が、騒ぐんじゃあねえよ」

 赤い朝焼けと炎飛び交う最中に、黒い翼は一際鮮やかであった。
 炎を避け、間合いを探る。大将はエンを追い詰めんと炎を巧みに操る。右に跳べばそこに炎があり、それを割けば背の付け根が焼かれる。されど、すでにヒビが入った盃から放たれる狸火など。
「ーーまだ首無し狐の炎のほうが、熱かったなあ」
 挑発的に呆れる眼差し。炎を翼ではたき落とし尚駆ける。
『強がりも大概にしとけよ小鳥ぃ。肉はじっくり炙るもんだろぉ』
 火力が落ちているのは確かである。挑発に乗るように大将が声を上げ笑った。火力が足りないならば数で焼け。炎がいくつも、いくつも灯る。増えた手数を眇め見て。ーー一撃一撃の火力は、これにて落ちた。故に、エンは一閃の如く、正面突破せんとする。
 大将が目を見張る。炎を向かわせれど、エンがそれを突き破る。髪に燃え移った火を風で消し飛ばす。最大速度を出せる距離も、しっかりと計っていた。一瞬で懐、大将を見上ぐ。
 
 弾き上げた盃が天を舞う。酒が飛び散り、目を細め。それを噛み砕くはーーエンの手に宿った、腐敗に爛れる八木の頭。盃を、まるで煎餅のように噛み砕き、咀嚼するーー

 感心すら込めて、狸大将が空になった手を見ていた。
「……どうよ、食われる側に回った気分は」
 すでに懐、間合いを離脱したエンの声が、小さくなりゆく咀嚼音を背景に、冬に馴染む。
『ああ……いやあ、そうかあ。どうしてくれんだよ、向こうで狐と飲み交わす盃がなくなっちまったろうが』
「あ? 首無し狐に何を飲ませるって?」
 エンの応答に、狸大将が天を仰いで笑う。一本取られただの何だのと、楽しげですらある様は。
 友に逢わせる甲斐がある。
「ほら、ちゃんと送り届けてやるから。向こうで仲良く喧嘩して、今の話も、ちゃんと狐にしてやんな。そんで笑われて来りゃあいい」
『首無し狐が、何を笑うって?』

大成功 🔵​🔵​🔵​

マリアドール・シュシュ
アドリブ歓迎

(ああ、なんということ…
マリアは何も分かっていなかったの
もし他愛無いじゃれ合いだったのなら…)

「これからやろうとしてるわたしのことは恨んでもいいわ。
でもどうか、どうか全ての人間があなたが思い描くひとではないと、知って欲しいのよ。
怒ってる?そうよね、虫が良い話だもの。
でもね、わたしもここを退くことは出来ないのよ。
最後の大喧嘩、しましょう」

狸大将の言葉に驚く
目を伏せた後、笑み見せて竪琴構える
敵の攻撃を遠距離の演奏攻撃で【カウンター】
【茉莉花の雨】使用
竪琴を花弁へ
祈りのポーズで行き場のない想いと共に咲き馨る旋律を降らす

(今日の悲しみをマリアはマリアでいるために忘れてしまうから、せめて…)




 戦う力も残り少なくなった狸大将の前に立つは。調度品の如き水晶少女。それはマリアドール・シュシュ(無邪気な華水晶・f03102)と名付けられている。
 その表情は、確かに曇っていて。少女が少女であるゆえの眩さを、傷物にしている。
 竪琴ひとつ抱き抱え、炎に焼かれた
黒い草と土の上に立つ様子は、痛ましくすらある。
 されど。
「ーーこれからわたしのやろうとしていることは、恨んでもいいわ」
 決してその声は、か弱い謝罪は紡がない。怨まれる覚悟を持って、可憐に笑ってみせましょう。曇りは忘れてしまいましょう。
「でもどうか、どうか全ての人間があなたが思い描くひとではないと、知って欲しいのよ」
『ほ、おう、 ? だがなあ……人間はしょうもねえ奴ばっかだからなあ……いちいち確認すんのも、面倒だあ。だからあたしらは、殺すのさあ。』
「そうよね、怒っていいの。けどそれを、わたしたちもゆるしてあげないだけ」
『違い無え。嬢ちゃん、よおく分かってるじゃあねえか』
 兵団を召喚はもう出来ない。炎のための盃も砕かれた。故に、大将が握るのは、このたった一振りのみ。
 その刀身だけで、マリアドールの背丈を裕に超える。されど重なる戦闘で溢れた刃は、マリアドールにもひどく悲しく見えた。
『嬢ちゃんは、そんな綺麗なべべでよお。どう戦うんだい』
 狸大将が腰を落とし、構えを取る。マリアドールもまた、祈るように眼を伏せ、竪琴を抱え直す。可憐な微笑みだけは絶やさずに。
 空はすでに薄青かった。
『見せてくんなぁ!!!』

 怒号と共に振り抜き居合、鋭い斬撃がマリアドールを破砕せんと振るわれた。されど反撃のために魂を向けていたその細指が、竪琴の弦を鳴らす。
 無数の花びらが咲いた。それらはジャスミンの花びらをかたどった水晶だ。花弁の柔らかさをもって、刀にまとわりつき斬撃を防ぎ、水晶の鋭利さを持って狸大将の腕に、身体に、縦横無尽に突き刺さり、朝日を反射して咲き誇る。プリズムの如く、周囲に虹色の光が落ちていた。

『……は。あー…………。綺麗だなあ、こりゃ』
「ありがとう、狸さん。狐さんとのおはなしのお茶菓子の代わりくらいには、なれたかしら」
『おう、おう。あいつはなあ、こうゆう景色が、好きだったからなあ』
 花水晶に埋もれる視界のなか。狸大将が膝をつく。
 今日という日を、悲哀として忘れなければならない。その痛みを、今だけでも抱え、見つめて微笑むマリアドールを、けものたちは気高いと呼ぶことだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

千桜・エリシャ
夜が明けても、この身の昂りは未だ――
ああ、そう
そちらに御首がございますのね?

ごきげんよう、狸の大将様
ふふ、脂が乗っていて斬り甲斐がありそうな首ですこと……
あら、あら?怒っていらっしゃるの?
いいではありませんの
あなた方だけで愉しむなんて意地悪仰らないで
私も仲間に入れて欲しかったのですから
――だから、あなたの御首。私がいただきますわね

あら、小さな狸さん
あなた方に興味はございませんの
私が欲しいのは強者の御首のみ――蹴散し大将へ肉薄
見切りで隙を見つけたならば呪詛載せた刃で2回攻撃をお見舞いしますわ

安心なさって
手向けの花はちゃんとご用意してありますから
嗚呼――あなたはどんな花を咲かせてくれるのかしら




「ああ、そう」
 蕩けるような。されど、凍てつく刃の冷たさの如き、声であった。されど不思議と、聞いた者の武人の心を奮い立たせる。呪いめいてーー
「そちらに御首がございますのね?」
 千桜・エリシャ(春宵・f02565)は墨色の刃を抜き身に、謳い語る。
『ああ。……随分恋しげに謳うじゃねえかよ、嬢ちゃんよお。相当な狂人と見た』
「まあ。初対面の女に狂ってる、だなんて、不躾な大将さんですこと」
 エリシャが淑やかに、されど確かに嘲笑めいた声を乗せて跳ねる。この女の悲鳴を聴きたいと、強者に思わせるようであるのだ。
 狸の大将が、付いていた片膝を上げる。
『てめえにゃあよお、首の無い狐どもは、どう、見えた』
「……あら、あら?怒っていらっしゃるの?」
 巨刀を構える。切っ先のすぐ下に、エリシャの頭が来るような位置だ。されどここが、エリシャの間合い。
 空気がひりついている。寒さが喉に滑り込むが、それも直ぐに熱を帯びる。喉から少女の声が紡がれる。
「そうですわね。少々、物足りませんでした。だって御首が無いのですもの」
 瞬きの間。大将の刀が振り下ろされた。音さえ無い、斬撃。エリシャのいた地点が深く抉られている。されどそこには血の一滴さえも無い。
 まるで、桜の花びらが、刀身に滑り落ちてくるような軽やかさで。エリシャが、その刀身の上に、降り立った。
「だから」
 着物の袖が、空気をはらみながら落ち。爪先が、大将に向く。
「ーーあなたの御首、私が頂きますわね」
 これは狂気だ。狂気という名の、美しい夢。戦さの熱量。冬の朝の火。芳醇な酒。
 血を吐く狸の口角が、鋭く持ち上がった。

 ふり落すように捻られた刀から舞い降りる。大将の刀の下を、桜は低く低く駆け、その刃が再び下りるよりも先に肉薄、最早幻覚の如き疾さで距離を殺す。懐、斬撃、呪詛の込められた刃は傷の痛みの一層強める。そう、例えるなら傷口に熱湯を掛けられるような、傷の中を怨嗟に掻き回されるような激痛。血が止まる事は無い。されど何故、どうして、この女に怯える気持ちが湧かないのか。斬り合いたいと思ってしまうのか!
『いい女だ、なあ』
「ありがとうございます。けれど、褒めてもーー手向けの花しか、お渡しできませんわ」
 大将の巨大な刀を、細い腕と刀で受け止め、流し、舞うようにひた斬って。低く滑った大将の刀に再び飛び乗らば、駆け上がり跳躍。さながら、冬に桜が狂い咲く。
 この女を撥ねたいと思った。
 されど、今は、ただ見惚れたいと思った。
 エリシャの刀が、大将の首にあてがわれる。

 これはわずか一瞬のやりとりだ。
 肉を、刀身が冷たく斬る手応え。
 皮膚をさき、脂を割り、太い血管を撫でるように斬る。
 命の、際というものは、どうしてかゆっくりと感じるものだ。
『なあ 地獄でも 遭えるかい』
 喉が破られる前に、と、大将がぼやく。脳が分かれる前に、と、大将が刀を振り上げる。
 その刀を避けるよう、エリシャが再び飛び跳ね、大きな首を一気に、掻き切り、重い頭部が、転がり落ちた。

 血柱があがる。血の霧雨と化す。さらに赤い花が、傷口から咲き溢れていた。
 着地。雨を避けるように、エリシャが傘を広げる。ばたばたと、汚い雨音が降り注ぐ。
 転がる首を、とろりとした眼差しで見下ろしながら。少女の表情が、淡く笑った。
「まさか。狐さんとの逢瀬、ゆっくり楽しんでくださいまし。浮気者さん」

大成功 🔵​🔵​🔵​

天秤棒・玄鉄
 は、長々とよく騙らあ。
 あの憎し哀しで暴れるだけの怪物が逢瀬の相手ってか。
 そいつぁ違わぁな、大将。
 其奴等ぁ、疾うに死んじまってたさ、なあ。
 弔いに囃子が似合いだってんなら片棒担いでやる。存分に奏でようや、喧嘩囃子って奴をよ。

 もう生者の時間だ、叩き起こしても文句は無えだろう。
 四肢の負傷も【覚悟の上】【捨て身の一撃】。「喧嘩棒術、熾」で強化回復しながら、起こす【衝撃波】で【なぎ払い】、ぶつけて【武器受け】、【だまし討ち】【カウンター】も【グラップル】からの【投擲】も駆使して盛大に暴れてやる。

 もう朝ぼらけか。そら、夜行性の獣は寝んねの時間だ。仲良く夢で喧嘩してな。

アドリブ、絡み歓迎




 狸大将の首が、桜纏う鬼により、見事斬り落とされた。噴き出す血の雨が降る中、誰もがそれで終わりだと思った事だろう。

 されど。血が噴くと言う事は、心臓が動いているという事なのだ。
 心臓が動いているならば、それは、未だ生きているのだ。

 狸大将の身体が、殆ど引きずるようにしながらも、それでも立つ。
 刀を掴む。切っ先を、勘で向ける。
 弔いだ、と言った相手である狐と同じ姿で、最後まで争う事を大将は望む。
 
「は。まぁだ暴れたりねえのかよ」
 天秤棒・玄鉄(喧嘩魂・f13679)が、降る血を顔に身体に浴びながら呆れたように笑う。そこに嘲笑や侮蔑の色は一切無く、気風の良い表情だ。
「あの憎し哀しで暴れるだけの怪物が逢瀬の相手……ってえなら、似た者同士ときたか。お似合いだなあ大将」
 担いでいた天秤棒を肩から下ろし、構える。あれほど饒舌だった狸大将からの言葉は、当然、無い。
「其奴等も、てめえも、疾うに死んじまってんだぜ、なあ」
 すでに怨念により複数体に増えていた狐と違い、未だ肉の身体におさまる狸大将は、思考を通す術がない。故に、ここからは、肉体に記憶されたもののみが残る。
「弔いに囃子が似合いだってんなら、片棒担いでやる。ーー存分に奏でようや、喧嘩囃子って奴をよ」
 踏み込む音が、鼓の如く空気を震わせた。血を吸った大地は、ぬかるんでいる。

 捨て身の接敵、四肢関節を破壊せんと棒術で突撃。内側の骨がへし折れる音がするが、痛みを伝達する先も無いのか狸大将の身体は動いた。刀が滅茶苦茶に振り下ろされる。それを時に弾き、避け、薙ぎ払い、時に斬られ、玄鉄に熾の華が咲く。嗚呼こんな意地の争い、一瞬たりとも退くものか。喧嘩魂が肉体を活性化し負傷を塞ぎ、さらに天秤棒に心の炎が灯る。口に入った血を吹き出して。
「そぉらそらそら、鳴らしてこうやぁ!」
 巨大な身体も、最もも染み付いた動きを繰り返すことが主らしく、癖さえわかれば玄鉄も慣れたもの。鉄を仕込んだ天秤棒による武器受けが、金具を打ち鳴らし、喧嘩囃子の拍子を刻む。
 ぎん、ぎん、ごんどんしゃぁん。
 ごん、ぎん、しゃん、ずっ、だ。
 休止符とばかりに、炎纏う天秤棒で、衝撃波伴う薙ぎ払い。刀が衝撃に浮き上がった所を、膝へ向かい天秤棒を突き出す鋭い突撃、打ち付け、更に駆け込み。その丸い膝を、拳が粉砕した。
 硬いものがこなごなと割れていく手応え。
 自重に耐えられず膝が折れ、狸の巨体が地に沈む。
 だおぉん。
 囃子を締める告げる太鼓の如く。

「そおら。もう朝ぼらけ、夜行性のけものはねんねの時間だ。仲良く夢で喧嘩しな」

 倒れた首からは今も血がわずかに流れている。放っておいても死ぬだろうが、ーー玄鉄が、天秤棒を、大将の心臓へと突き刺す。寝るのは早い方がいい、眠い時も、苦しい時も。
 それきり。もう大将の身体は動かない。血飛沫もこれにて雨上がり。
 
 薄水色の空。小鳥のさえずり。霜の白が泥を化粧し、遠くでは人間の営みが既に始まっている。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『ゆるり太公望』

POW   :    量より質。大物狙いの一本釣り!

SPD   :    質より量。とにかくいっぱい魚を釣る!

WIZ   :    釣った魚を料理したり、他の人の釣ってる姿をぼーっと眺めたり

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 争いも終え、グリモア猟兵に語られていた場まで来てみれば、なるほどたしかに穏やかに流るる川と、寒さの前ではなんと奇妙な桜の大樹。
 その花弁を、川に草むらに惜しみなく注ぎながら、堂々としたものだ。
 
 釣竿や餌は、貸してくれると言う。
 なんせ宴が違いのだと言う。料理に並べる魚を集めるために、人手は欲しい。
 宴を楽しみにする釣り人が、それはそれは浮かれた笑顔で語ってくれた。

 桜を楽しむも良い。魚釣りにほうけるも良い。大物を釣り盛り上がるも、空いた腹に塩焼きを入れるも良い。
 今しばらく、穏やかなひと時を楽しむとしよう。
●誤字
 なんせ宴が近いのだと言う。
リンタロウ・ホネハミ
あ~~くっそ疲れたっすわぁ……
やっぱカメレオンの疲労度はヤバいっすねぇ……
だが!しかし!この疲れも宴となれば吹っ飛ぶってもんっす!
さぁ、斬った張ったの後はやんややんや騒ぐのが傭兵の流儀ってのを見せてやるっすよーー!!

釣っては焼いて釣っては煮て、片っ端から魚を食っちまうっす!
任せてくださいよー、「釣り」も「料理」もちっとは齧ってるんで!
自分が釣ったのも他人が料理したのも楽しくいただくっすよ!
なぁに、浴びるほど酒を飲んだ酔っぱらいのすることなんだから許すっすよー!

そうして騒いでりゃ、おこぼれ与ろうとした狐や狸が出るかもしんねぇっすね
……ま。切った張ったじゃないなら、一緒に楽しめるんじゃないっすかね




 前夜、ならぬ、前昼祭。
 この寒い最中に暖をとる意味でも、調理は賑わっていた。宴の本番は夜の予定
らしいが、その為の準備だとか、景気付けだとか、なんやかんや理由をつけて釣りと調理と酒を繰り返す者達はいる。いるものだ。そしてリンタロウ・ホネハミ(Bones Circus・f00854)もその一人である。
 子供のような笑みと揚々たる態度で魚を次から次に釣り上げる。
 今も、魚をまた5匹ほど釣り上げ、調理場に戻ってきたところだ。
「いや〜、やっぱり疲れた時には飯っすよ、飯! 食って遊ばねえと、癒えるもんも癒えねえっすからね!」
「ああら、なんだいお兄さん、また釣ってきてくれたの! 上手いもんねえ、川の神様にでも愛されてんのかしら?」
「いやあ、そうなら嬉しいっすねえ。それならおこぼれに預かりまくるだけっすしね! あ、お姉さんずっと調理してるっしょ?オレ代わるっすよ。オレの料理の味見してもらっていいっすか?」
 我が物顔で乗り込んで来てくれるリンタロウは、それはそれは頼もしく。声をかけられた女性も、気分良く場を継げるというものであった。

 釣りたての焼き魚、味噌を溶いた魚のアラ汁、甘塩っぱい煮付け。着々料理を仕上げていく。その仕事振り、食べる事飲む事も忘れぬ懐っこさに、あっという間にリンタロウの周りにはやれこれ美味しい、これを頼む、これも食べていいよ、飲め飲めと大賑わいである。
「もう、私お兄さん気に入ったからこれもあげる! 本当はねえ、このお酒秘蔵なんだけど、ここの魚と味噌に合うんだあ」
「おっ?そいつはそいつは、お言葉に甘えて……っんーまい、はぁ〜〜……五臓六腑に染み渡るう……!」
「でしょう?でしょう? うっふふ、喜んでもらえて嬉しいねえ!」
「なんでえ兄ちゃん母ちゃん、いい酒飲んでんなら俺にもわけてくれよぉ!」
「だーめ、あんたもちゃんとこの兄さんみたいに働いたら分けてやるよ!」
 住民達のやり取りに、リンタロウが魚の小骨ごと咀嚼して笑う。
「わはは、怒られちまいましたねえ?代わりにこっちの魚は一口いかがっすか?めっちゃ美味いんすよ!」
 お酌をしてもらい、やいのやいの。
 料理の炎、酒のぬくみ、人々の熱で、冬に川辺の風が心地よいくらいだ。
 その上桜が咲いていては、春先のような錯覚さえしてしまう。このままきっと浮かれて、この昼祭も規模が膨らんでいくに違いない。

 そんな大騒ぎとなってしまえば、狸や狐が寄ってきても関係もない。薮から覗く視線ーーけものの気配に、リンタロウが魚を1匹、2匹、投げてやる。
 がさささ! がさっがさ。勢いのいい食い付きに、ほろ酔いのリンタロウもご満悦というものだ。
「あーあー、まだまだあるんすから、仲良く食うんすよぉ」
 かっ、かっ! 牙を鳴らす音。喧嘩には、発展しなさそうで、あるが。
 切った張ったも、何もない、ぬくみを分け合う冬の宴の場くらいは。
 神の使いだ、妖怪だ、害獣だ。人間都合で好き勝手呼ばれるならば、人間都合で宴の仲間と呼ぶのも、自然な事であろう。
 肉体疲労の気だるさを、酒と笑いで押し流して。草薮からゆれる尾に眦細めていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

三岐・未夜
端っこでこっそりと。
赤銅の依頼だから、協力は、したかったのだ。
狐退治の端っこに、僅かばかり。

とはいえ、此処に来てから何かやることがある訳でもない。
ひとが多くて、ちょっとこわいし。
だから、すみっこで静かにしている。
魚とか、不器用な自分に釣れる気もしない。

桜の下で、ぼんやりと。
塩焼きを食べながら時間を潰す。
不思議だ。自分の世界じゃ、まだ桜なんて咲いていないのに。世界を跨ぐと、こうして季節外れのお花見まで出来てしまうらしい。
塩焼きをあまり綺麗とは言えない感じに食べ終わったら、落ちて来た桜の花びらを一輪手に取って。
帰り際、こっそりとグリモア猟兵の髪に花を飾って行った。
先に帰ってよう。




 賑わう調理場、釣り場、そのどちらからも離れる、一本の桜の木の下に、座り込む玄狐ーー三岐・未夜(かさぶた・f00134)がひとり。
 冬風にはらはら落ちる桜雨を浴びながら、勇気を出して貰ってきた塩焼きをちびちび嚙る。正直、魚の丸焼きは、あまり惹かれない。美味しそう、とは思うし、実際美味しいが、骨と内臓で不器用な自分には食べにくいし。何より、多分、ひとりなのがいけない。ちょっとお味が、出した勇気の割には、合わない。
 ちびちび齧っていると、見慣れた薄紅梅と空色の髪色を見つける。桜咲く青空の下だと、あの派手な頭も保護色になってしまうものか。春色保護色頭も視線に気付き、未夜のもとへ大股で歩み寄っていった。グリモアも刀も、今は釣竿と桶に変えて。
「いたいたぁ。どしたん、逢いに来てくれても良いじゃん?」
 迷わずどっかり隣に座り込んだ。未夜の髪にわんさかついた花びらを、愛でるように払ってやりながら、多々羅・赤銅は笑った。
「……赤銅、いつも人が多いところにいるんだもん。そっちが来てよ」
「拗ねんなよ、ごめんって。お疲れさん、魚美味い?」
「んー。鮭の切り身の方が、好き」
「分かる。食べやすさって調味料なんだなーって思うよな」
「……ってことは、もしかして赤銅、もう食べたの」
「うまかった。釣りたての魚は骨も意外とやーらかいぞ」
 他愛無いやり取り。未夜が疑わしくも、それなら、と、小骨を気にせず噛り付いてみる。よく噛んでみれば、なるほど骨も食感のアクセントと味がいいのだ。
 桜の花びらが、ちるちる散る。ほれ見て釣れた。ほんとだ、かわいい。とか。今年の団地の桜も楽しみだなとか、そういえば団地の桜はまだちゃんと見たことないなとか。一足先に見れてラッキーだったなとか、世界を跨ぐとこんな事もあるんだねとか。ほの白い息を吐きつつ、他愛無い話をする時間は、未夜にとっても穏やかなもの。だが。
 こうして話す間にも、行き交う猟兵のみならず一般の民からも手ふりめぐばせ軽い挨拶の耐えない、人懐こい赤銅の隣にいるのは、胸の内が少し落ち着かなかった。大げさな名前をつけるならそれは疎外感だろう。大げさな名前をつけるなら、だが。
 未夜が、立ち上がる。赤銅の隻眼がそれを追う。
「僕、先に帰るね」
「そ? そう……そーか、おっけ。送るよ」
「うん」
「うわ尻尾すっご。すっご。めっちゃピンク。可愛い。」
 ばふばふ尾の花びらを大人しく払ってもらう。ありがと、と言葉を継ぎ足しながら、赤銅の髪に軽く触れる。こっそり拾っていた桜の花を紙に飾ってみたが、ーー地毛が地毛だ、目立たない。さて、赤銅はもちろんだが、周りの者達もいつ気付くだろう。
 そんな様子を想像しほくそ笑む未夜の隣で赤銅が立ち上がり、燃ゆるグリモアを起動する。視界が光で埋まっていって、鼻腔に、地球の、排気ガス混じりの匂いが流れ込む。この光が晴れれば、団地までひとっ飛びに送られている事だろう。
「来てくれてありがとな。来てくれるって思ってた」
 境界線を越える際に聞こえた明るい声には。耳と尾を揺らし、それはそれは素直に、応じておいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

有栖川・夏介
※アドリブ歓迎

釣り、というものをやったことがないんですよね。
解体…あ、いえ、捌くことは経験があるのですが、人に振舞えるほど料理が得意というわけでもないですし……。

………。
これも何かの縁、ということで釣りに挑戦してみよう。
……この釣り竿に餌をつけて川に投げ込めばいいのか?
作法がよくわからないので、他の人の様子を観察してから実践することにします。

要領を掴めてきたらいざ実践。
ぐい、とひっぱられる感触に釣り竿を引き上げる。
釣れたら嬉しいし、ばらしてしまったらそれなりに悔しい。
のんびり釣りを楽しもう。


芥辺・有
川縁に座り込んで、ゆるゆると釣糸をたらすよ。
魚を釣るってよりはまあ、散る冬桜を眺めながらぼうっとする。
冬桜ねえ。季節外れの花見って感じもするけど。……ま、花筏とかも、なかなか綺麗なものなんじゃない。
これでお酒でもあればなお良かったんだけど。

魚は気づいたら釣竿を引っ張る程度。
腕もないし勝手が分からないんじゃあ大して釣れやしないだろうからね。
もし万が一釣れでもしたなら、そこらの釣り人にでもくれてやるさ。




 冬の川辺を、紫煙が燻り、溶けていく。
 桜の花びらが、水面を埋めている。
 芥辺・有(ストレイキャット・f00133)の垂らす釣り糸は、花筏の中で静寂を保っているが、それを気にするでもなく。ただ、長閑なひと時を味わう。
 季節外れの花見は、春の陽気とはまた違った味わいだ。薄桜が子供の涙のようにはらはら注いでいく。有終の美に、惜しみなく向かう。

 それを眺め呆けていても、有の感覚は鋭敏だ。指先に伝わる竿の手応えを見落としはしない。見落とさないだけで、大物が釣れるとは言っていない。糸を引けば引っかかったのは小魚。慣れないながらに丁寧に魚を桶へと移す。するり、するり、浅い水の中を泳ぎ始めたのを確認してから、次の餌を釣り針につけ、水面に垂らした。

 その様子を見て、こうかと真似る緑髪が、少し離れた隣にいる事には、まあ、自然と気付けた。
 有栖川・夏介(寡黙な青年アリス・f06470)が、有を見よう見まねで針に餌をつけ、花筏の中へと糸を垂らす。
 が、有栖川の視界には、向こう岸から釣り糸を遠く「投げる」姿が見える。割と複数。おや、この隣の少女は投げていないのに、どちらの作法が正しいのか。小首を傾げていた。
 
「……私、素人だよ」
「あ。……見ていたの、気づかれてしまいましたか。不愉快でしたら、申し訳ありません」
「いいや、そこは、別に。素人の真似しても釣れないよって、教えただけ」
「ですが、すでに一匹」
 有栖川が、証拠とばかりに、小魚の泳ぐ桶を手のひらで指し示す。それを有も横目で確認しながら、煙草の灰を、隣に置いた灰皿に落とす。
「食べるところもないような奴だけど」
「素人、ですので。大漁を求めるよりは、身の丈にあったものから求めたいと思いまして」
「……まあ、それも、妥当」

 冬の魚というのはもともと釣れにくいものだ。魚も寒い時には縮こまる、そこは人間と同じ。それも相俟って、垂れる糸は時折吹く風に遊ばれ、波紋を描くばかり。
「……釣れませんねえ」
「それもいいんじゃない」
「焦りは禁物ですね」
「釣りより、料理の方が得意そうだよね、お前」
「そう見えます……? 解体……あ、いえ、裁く事は経験がありますが。人に振る舞える程では」
「ふうん」
 ほつりほつり、談笑、と言うほどではないにせよ、雰囲気のままに言葉が時折交わされる。有が退屈を持て余す、というよりは、退屈を味わうように。桶に指を入れてみれば、小魚が怖いもの知らずに寄ってきて、皮膚を少しついばんだ。
「お酒でもあれば、なお良かったんだけど」
「おや。先につまみ食いのように飲んでいる集まりはあったようですよ、向こう側に」
「ほんと?……次釣れたら、貰いに行こうかな」
「私達の餌が無くなるのと、お酒が無くなるの、どちらが早いか、ですね」
 ああ、もしかしたら、私の餌がうまくついていなかったろうか。そんな一抹の不安を覚え、釣り糸を上げようとした時だ。その不安は即座に解消された。上がりかけた糸を食い止めるように、確かな手応えが糸を引く。
「あ」
「あっ」
 手応えだけでも、有の隣で泳ぐ小さな彼よりもずっと大きいとわかる。釣竿を興奮と冷静のままに、素早く引く。
 桜の花びらを突き破り、銀の魚がしなやかな身をうねらせてお出ましだ。鱗に濡れた花びらがついて化粧のようである。銀の体にわずかばかり空の青が映り込んでなお美しくーーそこで強めにひとうねり。
「あ」
「あ」
 空中で回転、全身を使い針から逃れた魚が、再び川の中へと吸い込まれていった。着水音はそれはそれは静かに。
「……ああー」
「ああ……」
 ーーおいおいなかなか大物だったな。下流に行くぞ、あれ釣りてえな。見ていた数人の若い釣り人が、やいのやいの魚の影を追っていく。有栖川は、眉を下げて笑みながら、糸を引き上げた。
「……食いついて貰えただけでも、幸運でしょうか、今のは」
「……魚いる?」
 すい、と差し出される有の桶。首を横に振る有栖川。
「そちらは、あなたのお供ですから。……もう少し、釣ってみようと思います」
「なら。お酒飲む?」
「お言葉に甘えて」
 立ち上がり、貰ってこようかとカップを二つぶん振るような仕草をしてみせる有に、有栖川は頷き応じながら、次の餌を取っていた。悔しさを楽しむ事は出来たはずだ。次は、釣れた喜びを、楽しみたいと思う。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エン・ギフター
花が咲いてる近くなら寒くないかと思ったが
そうでもねえな

桜の枝下に腰下ろして
釣りやってる奴らと桜を眺める
魚は食うのが専門なんでな

宴に出せねえ雑魚を焼いたヤツを肴に
徳利と猪口を二つずつ分けて貰ったんで
まずはあのお騒がせだった狐狸へと供えもん
合掌して拝むんがこの国流だったか?

腹が減っては戦ができぬ、だ
どっちも首拾ってから楽しみゃいい

なあ、あっちで戦やったとしてどっちが勝つと思う
とは、もし赤銅見つけられたら聞いてみるか
俺は狐が上手と見るぜ
色恋とは違うんだろうが
狸の大将はどうにも惚れた弱みがありそうじゃね?
賭けてもいいと笑っとく

桜ってのは惜別と邂逅の花だったか
今日に似合いだなあ、いい景色だ




 焼いた小魚は文字通り肴。桜の根元に二つ、透き通る酒が揺れる猪口を置き、合掌。骸の海までは届けられずとも、ここで暫し、戦い敗れた彼らへと拝むのは、生者の自由だ。
 羽飾りつけた狐と、罅入りの盃ゆらす狸を拝み終えたら、軽く献杯。争うならばちゃんと飯食ってから楽しめよ。現世からひとごとのように祈ってやった。
 後はゆるりと、釣りの穏やかな賑わいでも眺めていよう。魚は釣るより食う専門だし、それに、彼らが殺しそびれた景色であるから。
 未明から朝にかけての騒ぎを知る民は、ごく少人数いるかもしれないが。多くのものは、知らずのうちに他人の誇りを傷つけ、命を狙われていた事など知らない。冬の桜をただ贅沢に味わう。その傲慢を、平和と呼ぶのだろう。

「なーに、それ私の分?」
 ーー降ってきた、とびきり馴れ馴れしい声に視線を上げれば。今回の予知者であったグリモア猟兵が、飲むものの居ない猪口を覗いていた。し、その手には既に酒の瓶が握られているのだから。がめつい。エン・ギフター(手渡しの明日・f06076)は呆れたように息を吐いた。
「もう飲んでんじゃねえか。狐と狸の分だよ、手ぇ出すと供物に手を出しただの祟ってまた湧いてくるぞ」
「なーんだ残念。優しいじゃん。昨日の敵は今日の友って?」
「そこまで暑苦しいもんでもねえけどな。ま、罵倒しあった訳でもなし、このくらいはな。生者からのおごりだ」
「そーかそーか。いいねえ、それでは赤銅鬼様が狐どもの代わりに酌してやろう。させろ。おら猪口出せ」
「新手の押し売りかよ」
 言いつつも貰えるものは貰うとしよう。自分の酒を煽り、空になった猪口を赤銅へと差し出せば、たぽん、瓶の中で酒が待ってましたとばかりに跳ね、注がれる。
 エンに注ぎ終えれば赤銅はちゃちゃっと手酌。桜に背を預けながら猪口を傾ける様子を横目に、降りしきる桜花と酒精と魚の香ばしさが香る。
 そんな最中、試しに、エンは問うてみる。
「なあ、あっちで戦やったとして、どっちが勝つと思う」
「あっち? ああ、あいつらか」
「そう、あいつら。俺は狐が上手と見るぜ。賭けてもいい」
「そうかあ? 私狸だと思うなあ。遠目に見聞きしただけだがーーあの刀を振るえるのは強者だぜ。子狸も見るに人望もあるとみた。この瓶かけてやってもいいぞ」
「それ此処の酒だろ」
「いや私の持ち込み酒」
「まじかよ」
 どやどやと瓶を出してみせる赤銅に、エンは驚くやら呆れるやら感心するやら。仕事中に飲むなよ、と、冗談半分に肩をすくめたら。賭けられたものは、貰うとしよう。この勝負には自信があるとばかりに、エンが口を開く。
「首を無くす前の狐がどうだったかは知らんが、少なくとも現在は、狸の方が戦術の広がりがあったのは事実だな。けど」
「おう。けど?」
「狸の大将は、どうにもーー惚れた弱みがありそうじゃね?」
 赤銅が、右目だけで瞬いた。
 色恋とは違うんだろうが、と付け足したエンの猪口に、桜の花びらが滑り込み。音もなく沈んだのを皮切りに。赤銅が声を上げ大笑した。
「ふっははは、あっははそーーかそーか成る程なぁ!? あーそりゃだめだ、惚れた弱みはだめだわははは狸の負けだな!」
 おお予想はしていたがこの女声が大きい。エンが獣の耳をべたりと伏せ、手でも抑えながら見上ぐ。
 赤銅は立っているのも億劫になったか、腰を落とし空へと笑う。供え物の酒が、その際の衝撃で波紋を描く。
 うるせえな、と酒を供えられた何者かが苦笑したかもしれない。
「だろ? 惚れたからには、少しでも長くやり取りしたくなるタイプと見えるからな、あの大将は」
「あーーまったくもってすっかり同意だ、あの首も大将が落としたかったろうな〜、嫉妬じゃん」
「んじゃ、賭けは俺の勝ちってことで」
 置かれた酒瓶に指を掛け、にいと紅い瞳が笑う。
「おうおう持ってけ持ってけ、好きに飲め」
 赤銅も手を下から上へ振りながら、未だに笑いの尾を引かせていた。

 惜別と邂逅。散る薄紅が、現世を祝う如く爛漫と咲き誇り、花びらはやわらかな風ひとつで散り、陽は穏やか、川のせせらぎも耳に心地よい。
 今日に似合いの、いい景色だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シェーラ・ミレディ
──終わったか。兵どもが夢の跡……と〆るには、些か記憶から消え去りそうにない敵だったが。
狐も、狸も。どうにも深く印象に残っていてなぁ。
どれ。骸が残っているなら、弔うくらいはしてくれよう。
酒が呑めないのが残念だ。せめて振りだけして、狸の盃に注いでおくか。
……そちらでも、やはり喧嘩をしているのだろうか。狸の口上から察するに、口喧嘩を傍で聞く分には随分と楽しそうなんだが。耳にできないのが残念だ。
……ところで誰か、夜通し働いた僕にも塩焼きをくれ。人形でも腹は減るのだ。くれぐれも大きいのを頼むぞ。

──嗚呼、そういえば、狐に付けられた傷があったな。いつか、気が向けば直すとしよう。


ルイス・アケーディア
釣り。大昔に、一度だけ見たことがある。
遺跡に来た物好きな旅人が、大して生き物の気配もしない池に釣り糸を垂れていた。

微かな記憶を頼りに釣りを始めてみる
……釣れないな。
近くにいる釣り人なり猟兵なりに声を掛けて、コツでも聞いてみよう。

あの頃は、釣りに食糧を得る以外の目的を感じられなくて。
1匹ずつ掛かるのを待つなど非効率だ、と考えていた。
……まあ今も食糧獲得のために効率が良い方法だとは思っていないのだが、
桜を見る人々にせよ、あの狐と狸にせよ。
意味がない、無駄に思えるような行為こそ、かけがえのない意味があるのかもしれないな。

もう一度糸を垂らしてみる。
さて、今度は釣れるだろうか。


天秤棒・玄鉄
 のんべんだらりと釣糸垂らすかね。

 ……の前に、血流さねえとだな。
 下流で流して、釣りに勤しむとしよう。
 
 ああ、学文路の奴が描いてやがったデッサンやらも見てえな。
 そこらにいりゃあ、いいが。

 釣れても釣れなくとも、まあそれはそれ。
 釣れたら焼いて食う。
 軽く流して塩焼きか。
 新鮮な川魚は肝の苦味と甘味がたまんねえんだ。
 徳利と猪口が欲しくなるねえ。

 釣れなくとも、まあ狂い桜見ながら呆けるとするぜ。

 いや、細やかに楽しいもんだ。やっぱ死ぬもんじゃあねえよなあ。





 珍妙な取り合わせ三点盛り。

 ひとり、青く輝く青年型巨兵、ルイス・アケーディア(ストーンヘンジ・f08628)が糸を垂らしながら、隣の者に声をかけ。
 ひとり、見目麗し、白磁の人造少年、シェーラ・ミレディ(金と正義と・f00296)が話しかけられれど首を傾げ。
 それからひとり、気風の良い町人風の宿神、天秤棒・玄鉄(喧嘩魂・f13679)が、くしゃみをしながら、歩み寄った。

「おうおうどうだよ釣れてっかい?」
 サムライエンパイアの世界観から見ればあまりに奇妙な大小の人造物ーーとはいえ、この世界の住民からは一切違和感なく映っているがーーの、特に大きい側の横に座る。この世界の住民と共通点の多い猟兵の登場に、釣りに戸惑っていたシェーラとルイスは期待を込めて目を僅かに見開く。
「いいや、僕は釣りはしていないが……こちらの彼がな。コツは無いかと気になるそうなのだが、君は何かわかるだろうか」
 シェーラはルイスを一度見上げて目で指しつつ。ルイスは水面の静けさを確認。こうゆう……不明点が多い時、人間はよく首を横に倒すので。ルイスもそれを真似るだけ真似て、己の状況を伝える。
「釣れないんだ。大昔にーー一度だけ、遺跡で、釣り糸を垂らす物好きな旅人を見た事はあるのだが」
「はーん。そんなら、コツなんざその旅人が十分教えてくれてんじゃねえか。焦らない事が最大のコツだってよ。餌はちゃんと付けてんだろ?」
 川中を覗き込む玄鉄に針先を見せようと、竿を引き上げかけるルイスの動きをシェーラが手を伸ばしてやわらかに制止。
「ああ、先程見せてもらったところ、そこは問題ないように見受けられた」
「そんなら、あとはぼーっと酒でも飲みつつ桜を眺めるだけだな。お、向こうで酒と魚配ってるみたいじゃねえか、お前らは飲むか?」
「いいや。俺には不要だ」
「僕は一杯貰いたい。頼めるだろうか?」
 見るからにウォーマシンであるルイスからの飲まぬ返事は予想の範疇だ。されど少年からの言葉には、玄鉄の眉が上がる。
「お? 小童くらいの歳に見えるが飲める口か?ダメ元でも聞いてみるもんだな」
「いや、いや。僕は飲めないさ、見ての通りの……少年であり、高級品なのでね」
「はぁん? そんならどうして」
 問いに、シェーラが微笑む。ルイスの影で見えなかったがーー赤い盃が持ち上げられた。罅が入った巨大なそれは、この場にいる猟兵誰しも見覚えがあるだろう。狸の大将の、炎呼ぶ盃だ。
「せめてもの弔い酒をと、思ってな」


 それから玄鉄が両手一杯塞いで戻ってきたのはすぐのこと。釣竿、釣餌、酒、魚。今度は先とは逆側、シェーラの隣に腰を下ろした。
「ほらよ、貰ってきたぜ。盃出しな」
「頼む」
 赤い盃は、人間が持つには些か大きい。シェーラが両手を使って差し出し、玄鉄がそこに酒を注ぐ。器の大きさこそあれど、戦いで罅が入っている故に少量のみ注ぐ。酒は命の水だ、溢すなんざとんでもない。きっとあの大将も、そこは理解を示すだろうと踏む。
 盃を置き、シェーラはあやかし共の安らかな骸の旅を祈る。その隣で玄鉄は己の釣竿に餌を括り糸を放る。
「ま、そう捧げたくなる気持ちも分からぁ。大将も喜んでんじゃねえか」
「ふふ。酒があれば、向こう側での口も一層回るだろう。奴らの口喧嘩を、傍で聞くぶんには、楽しそうだったからな。耳にできないのが、残念だ」
 笑み、魚に手を伸ばす。人形とはいえ腹は減るのだ、失ったエネルギーを取り戻すように魚を食べる。庶民的で原始的な味だ、されど自然の旨味と甘味は口にする者全てへの恵みとして注がれる。そんなシェーラの表情に、猪口を傾ける玄鉄の気分は良い。
「新鮮な川魚はよ、肝の苦味と甘味がたまらねえんだ」
「鮮度が命、という言葉の意味がわかった気がするな。確かにこれは、美味いものだ」
 そんなやりとりの逆隣では、ルイスが相変わらずただ静かに待っている。桜の花びらが落ちるたびに、波紋が広がる。
「……そういった行為が、俺には無意味で、無益なものに映る」
 機体は人間らしい身じろぎ、瞬き、呼吸と言った微動さえせず、ただそこで岩のように在り、語る。
「狐と狸の争いも、この、釣り、という行為も」
「の、割には続けてんだな」
「焦らない事が最大のコツだと教えられた」
「飲み込みが早いじゃねえか」
「君、釣りの才能があるぞ」
 語るルイスに、玄鉄とシェーラが頷く。褒められて気持ちが上昇するわけでもないが、とりあえず、糸は上げてみた。餌が無かった。魚に上手いことさらわれたか、川の流れにさらわれたか。それを冷静にあげていくルイスが少々シュールで、無礼かもしれないがシェーラは軽く笑ってしまったし、玄鉄は次があるさと前向きに明るい。そして何より、桜を眺める目が、誰も彼も穏やかである事に、ルイスは気づいている。こういったものこそが、かけがえの無いものなのだろうかーーそれを理解できる者達に、ルイスは羨望を馳せる。

「っとと、引いた引いた……っしゃ、釣れたぞ!」
「おお、立派な魚だ。是非とも食べてみたくなる……!」
「あ?しゃあねえなあ、俺の獲物だが食わせてやろうか。お前も怪我してるみてえだしな」
「あ。ああいや、この傷はーー」
 からから交わされるやり取りと、今なお静かな己の釣り糸を見比べて、ルイスは羨望を馳せる。俺も釣ってみたい。

 町人の宿神は、魚と酒を喰らい花を愛でる娯楽を味わいながら。細やかに、楽しげにぼやく。
「やっぱ死ぬもんじゃねえよなあ」
 そう思うだろう?と言わんばかりの、視線には。
 巨兵の青年は、無意味や非効率の価値を思考しながら。
 人形の少年は、価値あるその身に負った傷を、少量残したまま。
 満場一致で頷いた。
 空の青さと桜吹雪が、誰しもに平等に注がれる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ノア・コーウェン
セラさんと一緒に参加
宴…なるほど…。そうなるとやはり大物を狙った方がいいんですよね…?
では…いざ釣り糸を垂らして…。大きいの…釣れますかね…?
大きいの釣りたいですけど…大きいの釣れても力がありませんよね…。
ですががきっと…一人では難しくても二人で力を合わせれば…!きっと…!おそらく…?
セラさんの方にお魚がかかって、難しそうであれば…協力して釣りあげましょう!
釣りあげられたら…ハイタッチ…ですか…?なんだか少し恥ずかしいですが…い…いえーい…です…!
釣りあげられなくても綺麗な桜を見ていたら…きっと負けた気にはなりませんよね!

そうですね、今日は、少なくとも今日だけは、楽しみましょう。精いっぱい。


セラ・ネヴィーリオ
ノアくんをお誘いして参加
さー大物狙うぞー!ってそれぞれ釣り糸垂らし
「やっぱりさー宴会にはおっきいお魚あった方がテンション上がらない?上がるとも!」
ということでチャレンジチャレンジ!頑張るぞー!
まあ、ひとーつ心配があるとすれば……僕ら肉体派かっていうとパワーはないんだよねえ
ということで!もしどっちかの竿に大物がかかったらお互いヘルプに入るよ!
川の大物と力比べだね。ノアくん準備はいい?いちにーのー、そーれ!
釣り上げられればハイタッチ!
負けちゃっても、桜の下で笑いあえればそれはそれで!

今日はねえ、お花見とお祭りを楽しまなきゃいけないんだよ
それが生きてる者の務めってやつさ!


橘・ワセ
どう、釣れてる?
あはは、冗談だよ。え、何、ウチも釣りしていいのかい?
……じゃ、一丁頑張ろうかね!

釣りは自信ないし、それどころかやったこともないけど
なんか釣れたら嬉しい!ってぐらいの気持ちで
その場で少しつまむぐらいなら、ささっと調理してあげたいな
今の時期は塩焼き?刺身?まぁ、そのぐらいなら用意できるさ
あ、でも宴が本番の席なんだから、全部食べちゃだめだからね!

連携アドリブ歓迎




「やっぱりさー宴会にはおっきいお魚あった方がテンション上がらない?」
「あ、上がります!」
「そうだろう、上がるとも!」
「おっきいお魚さんがきらきらしてるとすっごく上がります!」
「そうだとも、上がるとも! ね!」
 花筏の下へと糸を垂らし、やいのやいの無邪気なはしゃぎ声。セラ・ネヴィーリオ(涅槃西風・f02012)とノア・コーウェン(がんばるもふもふ尻尾・f02485)は寒さに負けない風の子であった。
 二人とも釣りは初心者。されど用意周到に情報は収集するタイプ。行き当たりばったりのようでありつつ、釣竿を貸してくれるおじさんに、どうゆうところが釣れますかとか、どんな餌が好かれますかとか、気をつけねばならない事とか、一通り聴き終えていた。子供好きのおじさんは、穴場まで教えてくれたのだ。これはもう!大きいお魚が釣れるはずである!
「おっきいお魚釣ったら、みんなも喜んでくれるだろうなあ」
「はい、きっと喜んでくれます! ……セラさんは、どんなお魚料理が好きですか?」
「ん?僕はねえ、そうだなあ、」ーー

 ーーとは上手く行かないのが世の中である。会話は絶えない為退屈ではなかったが、天高かった太陽も気づけば少々西側にずれている。おや、もうそんなに経っていたかと気付いたのはセラが先。
「……釣れないね?」
「釣れませんねえ……」
「やっぱりお魚も食べられたくないんだねえ」
「それは……そうですね……お魚さんにも、お魚生があるんですもんね……」
「何だい、かわいい盛りの子達が辛気臭い顔しちゃって! 不作かい?」
 そんな、少年二人の落ち込みを割いていく、少女のあっけらかんと明るい声がした。爛漫咲いた花のようにはっきりと、されど飴玉のような幼さの残るその声の主は、橘・ワセ(甘露と酸味・f00563)という。二人の隣に座り込む。同じ未発達な年頃の子を見つけて、嬉しかったのかもしれない。
「なーに釣りなんて時の運だよ、もし釣れなくてもみんな上手いこと釣ってるみたいだから、焦んないで大丈夫さ」
「ふーむぅ。そうゆうものかあ。そうだよね」
「ううん、アドバイスありがとうございますっ。けどやっぱり、みんなに出来る事が出来ないと、少し、申し訳なくなるといいますか……。はっ、い、いえ、落ち込んでるわけではないのですが……!」
「ええ? ウチも釣りは自信ないよ? やった事もないし。けど釣れたら嬉しい!って気持ちはわかるな」
「そうそう。あ、よかったら釣り、してみる?」
 セラに渡される釣竿に、ワセの裏葉色の瞳がぱちり、嬉しそうに瞬いた。
「いいの?やりたい! よしよし、みんなに出来る訳じゃないぞって事を楽しもっか!」
 それはさり気なく釣れない宣言だ。それでもそこに残念な気持ちはひとかけも無い。
「さんせーい!」
「それは!それは楽しいのでしょうか!?」
 わわわ、と慌てるノアを、少年少女のまあるい無邪気な瞳が一緒にとらえる。もちろん!と一片の疑いもなく返される言葉は、まるでノアには勇気の塊のように聞こえたかもしれない。

ーー、ぴく

 それに、釣竿も、頷いたようだったーー筈は、無い。
 あれっ。あっ。
 セラの目が大きく瞬き、
 慌ててノアの手を釣竿ににぎらせた。
「ノアくんノアくん!引いてる引いてる、釣竿持って!」
「えっえっわかりました! 持ちました!」
 わあああ。ノアの小さな体が真っ直ぐ立てない。大物だ。二人の目が歓喜に見開き、咄嗟にノアの身体を支え、共に釣竿を握る。
 さあ戦いだ。三人の少年少女と、川の主の!

「わひゃ、水の中から引っ張られるってこんなに大変なの? 大丈夫かい、イタチくん!」
「落ち着いて、持っていかれないように腰を落として!」
「はい、こうですね! 離しませんよっ、頑張ります……!」
「そう、そう、大丈夫。ノアくんなら離さないって、僕は信じてるし、僕もノアくんを水浸しになんてさせないからね……!」
「すごいじゃないかイタチくん、この手応え、ちゃんと釣れたら宴も大賑わいだ!」
「ノアと申しますぅぅ」
「あっ僕はセラです、君は?」
「あっは、今自己紹介? 良いね、私、ワセ!」
 水面の下では、黒い大きな影が左右に揺れ、少年たちを引きずり込もうとしているようだった。三人で踏ん張り、目配せする。
 いつのまにか、その騒ぎに、大人たちまでなんだなんだと集まって来ていた。
「ははっ、注目の的じゃないかウチら。かっこ悪いとこ見せられないね。いんや、かっこわるくても、きっとみんな笑って迎えてくれる」
「いえ、いいえっ。負けませんよ、大丈夫です、だってぼくたち」
 せーので引き上げるよ。賛成。わかりました。
 タイミングを見はからう。合わせる。三人分の呼吸を、合わせて。
 ノアは。魚が、身をひねろうと、引く力を弱める一瞬を、見逃さなかった。
「あなたより大きな魚と! いつも一緒なんですから! あなたの動きなんてっ、お見通しですーーー!」
「「「せええーーーのぉぉ!!!」」」

 天高く。魚が上がる。
 それは正に、誰が見ても、本日一番の大物、宴の花に相応しい。
 太陽の逆光を浴びながら落ちてくるその姿を、一番後列のワセが両の腕を離し、走り、差し出し。そして、見事にキャッチした。重く、強く、激しいその命を、確かにその細腕に、おむかえさせていただく。

 湧くは喝采。見守っていた大人たちからの、湧き上がる拍手。口笛。大人たちの喝采と、魚を抱えて喜ぶワセ。
 少年たちは少女に駆け寄り、歓喜のままに、はっきりとその手を、打ち鳴らし合わせた。




 まつりまつりて、たてまつる。
 数多の命を散らしながらも、現世を生きる者たちは、命に感謝をささげつつ宴を始める。
 妖怪合戦、ここに円団。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月19日


挿絵イラスト