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地底都市の赤いゲートキーパー

#ダークセイヴァー #辺境伯の紋章 #番犬の紋章 #地底都市

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#地底都市


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●隠された地底都市
 『辺境伯の紋章』と呼ばれる寄生虫型オブリビオンの存在。
 ヴァンパイアにさらなる強化を施す宝石のような形をした紋章のオブリビオン。その力は凄まじく、猟兵たちも激戦の末にこれを制し、幾つもの『辺境伯の紋章』である寄生虫型オブリビオンを捕獲してきた。

 これにより判明したことがある。
 ダークセイヴァーは地上世界だけではないということだ。

 ダークセイヴァーの地下には広大な『地底空洞』が存在していることがわかったのだ。それはグリモア猟兵の予知により判明した事実であり、そこに存在していたのは―――。

●番犬の紋章
「はぁ~……あふ。それにしたって退屈だねぇ」
 風切り音が響き、周囲に何かを切り裂く音がする。褐色の肌を持つヴァンパイア―――『赤の処刑人』と呼ばれ恐れられている女性はダークセイヴァー世界の地底空洞……そこに存在する『地底都市』の入り口を守護する『番犬の紋章』を喉に輝かせながら欠伸を噛み殺した。
 彼女の力は地上世界のヴァンパイアと比べても遜色ないどころではない。遥かにそれを凌ぐ実力を誇っていた。
 それ故に『番犬の紋章』を与えられているのだが、どうにも彼女は暇を持て余していた。
 番犬、門番と言われても彼女の仕事は多くはない。
 地上より来訪するもの―――つまりは、この地底都市に仇為そうとする者をゲキゲキすることが彼女の使命である。

「何もすることがないっていうのもつまらないものだね。『日課』はもうやってしまったけれど……」
 手遊びのように、その手のうちにある獲物……大鎌をくるりくるりとジャグリングのように宙へと投げては掴み、投げてはつかみを繰り返す。
 風切り音が不気味に響き渡り、それは恐怖を増長させる。彼女が今腰掛けているのは、椅子ではない。
 時折呻き声が聞こえてくる。それは彼女のものでもなければ、ヴァンパイアのものでもない。そう、地底都市には人間の存在も在るのだ。
 だが、それは地上と何ら変わらぬ扱い。
 つまりは隷属。椅子のように人間の男性が扱われているのだ。そんな彼の耳元を掠める宙に投げられた大鎌の刃。
 その度に悲鳴がか細く響く。けれど、『赤の処刑人』は特に何も感じていないのか、椅子として扱い男性の上で頬杖をついて、地底と地上を繋ぐ門を見つめ続けていた。

「何か楽しいこと、血湧き肉躍るような、興奮が欲しいよねぇ……」
 ぼそり、そう呟いた瞬間、すとん、と音がして椅子にしていた人間の男性の声が途切れる。一拍の後、ごとん、と何か重いものが落ちた音がする。
 ごろり、と『赤の処刑人』の足元に転がってくるのは、椅子として扱っていた人間の男性の生首。
 驚きに見開かれた表情でもなければ、恐怖に染まった顔でもない。
 そう、ただ己が椅子にされているという続く苦痛のままの表情。男性は己が首を断たれたということすら気がつけぬままに断頭されていたのだ。

「あ~あ……椅子壊しちゃった。『日課』をやってたのにねぇ……どうにも首を見ると斬らずにはいられないんだねぇ、わたしは」
 あはは、と軽く笑って最早人の体とは言えない椅子から腰を上げて、その壊してしまったという椅子……男性の遺骸に大鎌を振るう。
 次の瞬間、その遺骸は霧と消える。振るった大鎌が一瞬の早業によって男性の肉体を霧散させるほどの速度で持って振るわれたのだ。
「はやく退屈が終わりますよ~に。早く異端の神々でもなんでもいいから、攻めてきますよ~に」
 朗らかに笑って『赤の処刑人』は、その場でくるりと踊るように大鎌の柄を抱きしめ、未だ見ぬ闘争にうっとりとした表情を浮かべるのであった―――。

●目指すは
「お集まりいただきありがとうございます。今回の事件はダークセイヴァー。ヴァンパイアの支配する闇の世界です」
 ナイアルテ・ブーゾヴァ(フラスコチャイルドのゴッドハンド・f25860)がグリモアベースに集まってきた猟兵たちに頭を下げて出迎えた。
 だが、彼女の微笑みは硬かった。
「みなさんは『辺境伯の紋章』という言葉に覚えはないでしょうか?」
 ナイアルテの表情の硬さは、それが原因であるようだった。
『辺境伯の紋章』。それはヴァンパイアの上位存在である何者かがオブリビオンであるヴァンパイアに与えた『寄生虫型オブリビオン』である。寄生されたヴァンパイアは強力な力を持ち、通常のヴァンパイアよりも数段上の戦闘力を持つとされていた。

「その『辺境伯の紋章』は皆さんの活躍により多数捕獲され、それを与えた者に関する新しい情報が予知されたのです。このダークセイヴァー世界には地上だけでなく、地下も存在していたのです」
 驚きの事実であった。
 地上世界と同じように、地下空洞の中にもまた世界が広がり、地上と変わらない広大な『地底都市』が存在しているのだ。
 しかも、そこにはヴァンパイアだけでなく、地上との交流を断たれた地上の存在を知らぬ人間も暮らしているのだ。もちろん、地上と変わらぬ隷属の身として、だが。

「この地下に暮らす人々を絶望の下から救い出し続けていれば、必ずさらなる深層への手がかりを得られるはずなのです。ですが……」
 僅かに言い淀むナイアルテ。
 だが、意を決したように言葉を紡ぐ。
「この地を守護している『門番』の存在があるのです。『番犬の紋章』を持つヴァンパイアの力は、あの狂える『同族殺し』でさえも、ともすれば一太刀で屠れる程の凄まじき手練なのです……ですが、光明はあります。身体の何処かにある『番犬の紋章』以外には有効なダメージを与えることはできませんが……逆に、その『番犬の紋章』が身につけられている場所にはダメージを与えられるということなのです」

 ヴァンパイアという強敵。その強敵を凌げば、さらなる強敵が現れる。まるでいたちごっこのようなヴァンパイアの力関係の深淵。
 そこを覗き込まなければならないという事実、そしてそこに猟兵たちを送らねばならないという事実にナイアルテは表情を曇らせる。
 だが、それでも、と頭を下げる。
「どうか、お願いいたします。地上を知らぬ人々とは言え、絶望の元にある人々なのです。どうか、彼等を救い出して下さい」
 そして、これを、と花々の種の入った包を手渡す。彼女の予知の中にあったのだろう。それがきっと猟兵たちを、そして、地底に住まう人々の心の慰めとなるはずなのだと一人ひとりに託す。

 それは小さな、僅かな願いであったかもしれない。
 けれど、いつか大きな希望の光になることを猟兵達は既に知っている。『人類砦』。それとこれも同じなのだ。
 その願いを、とナイアルテは想いと共に猟兵たちを送り出すのであった―――。


海鶴
 マスターの海鶴です。どうぞよろしくお願いいたします。
 今回はダークセイヴァーに存在する『地底都市』へと向かい、『門番』である強敵ヴァンパイアを打倒するシナリオとなります。

●第一章
 ボス戦です。
 地底都市に存在する『門番』……『番犬の紋章』を持つヴァンパイアを打倒しましょう。
 このヴァンパイアは『番犬の紋章』が付いている部位以外への攻撃はまるでダメージを負いません。逆に『番犬の紋章』が付いている部位にはダメージが通りますが、攻撃力も凄まじいです。
『番犬の紋章』の場所はオープニングをご参照ください。

●第二章
 集団戦です。
『門番』であるヴァンパイアを倒した後、地底都市に突入し、襲い来るオブリビオン兵士達を打倒しましょう。
 もちろん、その様子は地底都市に生きる隷属を強いられる種族としての人間の人々も数多く見ることでしょう。
 皆さんの戦いぶりが地底都市に住む人々に勇気を与えることができるように立ち振舞うことができれば、続く住民たちの救出がスムーズになることでしょう。

●第三章
 日常です。
 オブリビオン兵士たちを倒し、苔類や魔法のガスによって薄ぼんやりと光るダークセイヴァーの地上とそれほど変わらない環境の地底都市に住まう人々を異変に気がついた別の地底都市のオブリビオンがやってくる前に、人々と心を通わせ、地上に待つ受け入れを表明している人類砦へと送り届けなければなりません。
 今回は転移する前にグリモア猟兵が手渡した花の種を使い、もう戻らぬ死せる家族や大切な人のために地底都市に花の種を住民たちと共に植え、心通わせ地上へと誘いましょう。

 それでは、新たに発見された地底都市に住まう人々を救い出すために強力なヴァンパイアを打倒しましょう。
 さらなる深層への足がかりとして、地底に住まう人々を芽吹いた人類砦という希望へと送り届けるための戦いです。
 皆様のキャラクターの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
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第1章 ボス戦 『赤の処刑人』

POW   :    死刑執行
【大鎌】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD   :    速やかなる執行
技能名「【先制攻撃】【切り込み】【早業】【部位破壊】」の技能レベルを「自分のレベル×10」に変更して使用する。
WIZ   :    断頭の大鎌
自身が装備する【大鎌】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。

イラスト:とのと

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はセシリア・サヴェージです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


『番犬の紋章』。その宝石の如き紋章が褐色の肌、その喉に浮かび上がる。
「あ~……ほんと退屈。退屈~……」
 地底都市の『門番』である『赤の処刑人』は手持ち無沙汰のように己の得物である大鎌をくるり、くるりと振り回す。
 どれだけの時間こうして地底都市と地上の間に座していただろうか。
 己が座る椅子は人間だ。
 こればっかりはやめられないし、やめる気もない。
 どうせ塵芥のように死んでしまう生命であるのならば、己の椅子になっていたほうが有意義な人生であったと誇って死ねるだろう。

 それが『赤の処刑人』の考える人間という隷属して当然の種族に対する感想であった。
 昔はもっと歯ごたえある生命であったように思える気もするのだが、それも遠き過去の話。
「あ~……もう、ほんっと……退屈で死にそうだよ~」
 彼女の周囲には……いや、彼女が今座す場所は小高い丘のようであった。
 いやに血の匂いが鼻につく丘。
 否。丘ではない。それは一つ一つが人間の遺骸。
 何年も欠けて積み上げた遺骸の丘ではない。たった一日でこれだけの生命を『赤の処刑人』は奪ったのだ。

「暇すぎて、丘作っちゃった。これも飽きちゃったんだけど~」
 何もしてないよりはマシであると言わんばかりの声色で大鎌を軽く振るう。
 丘がごっそりと削れ、霧散し消える。
 それは大鎌の一撃であった。その一撃はかつて地上に置いて『同族殺し』と忌み嫌われた強力なヴァンパイアですらも一撃の下に屠ることのできる力。

 その力があるからこそ、『赤の処刑人』は地上と地底を繋ぐ門番として『番犬の紋章』を与えられたのだ。
「誰か来ないかな~……もう正直、歯ごたえのある首だったら、なんでもいい。早く斬りごたえのある首を持ったやつが来ないかしら?」
 大鎌の風切り音だけが、地底に出来上がった遺骸の丘を霧散し、その生命の証すらも消し飛ばしていくのであった―――。
戒道・蔵乃祐
まずは、犠牲者の方々に弔いを

思うて詮無きことは思わず…。とは、言えど
あまりにも、遅きに失したのかもしれません
だが、それでも…


厭世的とは少し違うようだ

紋章を授かりし者ならば、貴女も相応の強者だったとお見受けします

しかし。紋章に縛られた門番の役割は、思っていた以上に不自由なものでしたか?
我が身を真に憐れむならそれこそ自害でもすれば良かった

あまりに、あまりにも、
貴女は八つ当たりで殺しすぎた!


速やかなる執行に闘法黄金律で対抗

先制攻撃と切り込みは見切りと残像のスウェーで躱し
大鎌の早業は握り込んだグラップルの武器受けとオーラ防御で弾く

フットワークのダッシュから首狩りフリッカージャブで紋章をスナイプする



「あは! なんかすごいのがやってきちゃった~」
 ヴァンパイア『赤の処刑人』はとても嬉しそうに、それこそ華が咲いたように笑った。まるで少女のように笑う姿は、仄暗い地底で見なければ、それこそ幼い少女のような、それでいて年若い女性の姿とのギャップで持って魅力的なものであったことだろう。
 けれど、それはあまりにも関係がない。
 どれだけ見目麗しくとも、巨漢と言って差し支えのない体躯に刻まれた大小様々な傷跡が残る戒道・蔵乃祐(荒法師・f09466)には、あまりにも意味のない事柄であった。
 彼が地底都市へと転移してきた時、まさに『赤の処刑人』が己の築き上げた遺骸の丘を振るった大鎌で霧散させるように抉り、切り刻んでいたときであった。

 それは戯れに殺された人間たちのものであることを蔵乃祐は一瞬で見抜いた。
 その児戯にも等しいただの暇つぶしのためにどれだけの生命がもてあそばれたのか。それを思うだけで彼の心はあまりにも―――。
「紋章を授かりし者ならば、貴女も相応の強者だったとお見受けします」
 目の前に対峙するだけでわかる。
『赤の処刑人』の放つ重圧は、地上に在りしヴァンパイアたちとは一線を画する。強烈なる重圧は、それだけで肌を焼くようであった。

 けれど、それが何の意味がある。
 どれだけの重圧を放とうとも、どれだけの強者であろうとも、蔵乃祐に退く理由は一つもない。どこにもない。
 犠牲者となった人間たち。彼等を弔う気持ちはあれど、今の蔵乃祐には、その余裕がない。遺骸もなく、その生命が存在したという証すらも消し去られた。
 そのようにして弄ばれる生命が、今目の前に起こったことだけではないことを重々承知している。
「あら、わかる? ふふ、でもだからなぁに?」
 大鎌の柄を弄びながら『赤の処刑人』は微笑む。
 それは圧倒的強者が持つ余裕そのものであった。今こうして言葉をかわしているのも、ただの余興であり、気まぐれであった。
「紋章に縛られた門番の役割は、思っていた以上に不自由なものでしたか?」
「いいえ? 別に? ……ああ! もしかして、ひょっとして、あなた椅子……ああ、人間ね。人間が死んでいるのを憂いているの? ふふ、あなたわたしが門番として縛られているから、そんな理由でやけっぱちになっていると思っていたのね」

 笑う。嗤う。
 それは有り余る嘲笑であった。
「確かにわたしは不自由で憐れに思えるように見えたのかも知れないけれど、それは間違いよ。憐れんでくれてもいいけど」
 次の瞬間、蔵乃祐の眼前に、その至近に『赤の処刑人』の顔が近づく。あら、いい男。と微笑む余裕すら、『赤の処刑人』にはあった。それだけの技量差があるのだ。
「我が身を真に憐れむなら、それこそ自害でもすればよかった」
 己の到着、そのあまりにも遅きに失することを彼は悔いた。けれど、それはあまりにも詮無きこと。
 後悔してもしきれぬ。だが、それでも……!

「疾きこと風の如く。 そして蝶のように舞い、蜂のように刺す!」
 その肉体を包むは、ユーベルコードの輝き。
 闘法黄金律(ファイトスタイル・ゴールドスタンダード)にて己の肉体は今、あらゆる斬撃を、攻撃を紙一重にて躱す歩法を持つ!
「あら、見た目以上に軽やか。蝶のように、だなんて」
 振るわれる大鎌を上体をそらして、紙一重で躱す。いや、躱しきれず、頬を裂く大鎌の一撃。流れる血など気にした様子もなく、蔵乃祐は、己の力の限りを持って拳を握りしめる。

 硬く握り締められた拳は、まさしく金剛石。その身に宿るは黄金の理。
 距離を取り、互いの視線が絡みつく。
 対峙する『赤の処刑人』が持つ大鎌が怪しく輝けば、蔵乃祐の構えは死神の鎌の如く揺れる拳。
 フリッカーと呼ばれる構えは、その拳が揺れる度に風切り音を響かせる。
「あまりに、あまりも、貴女は八つ当たりで殺しすぎた!」
 放たれるは神速の拳。
 鞭のごとくしなる巨腕が放つは最速の拳。あらゆる人間の放つ拳の中で最速の一撃は、首刈りのごとく、しなやかに『赤の処刑人』の首……喉に浮かぶ『番犬の紋章』を正確に打ち貫く。

「―――ッ!?」
 見えなかったのだろう。この拳を。
 人間の歴史はヴァンパイアの歴史に及ばぬ長さであったかもしれない。けれど、己の能力にかまけた者が、連綿と紡ぎ練磨してきた技術に追い越されぬという道理は何処にもない。
 放たれた拳の連打が、凄まじき勢いで放たれる。一撃一撃が金剛石を砕かんばかりの拳。
 穿つ一撃は的確に、狙いすまして『番犬の紋章』だけを徹底的に穿ち続ける。
「暴威の拳、骸世を穿つ―――覚えておく必要はありません」
 彼の拳は、弔いの拳。
 何もかもが遅かったとのだとしても、それでもと言い続ける。弔いは必ず。その想いを胸に拳を放ち続けるのだった―――。

成功 🔵​🔵​🔴​

髪塚・鍬丸
任務了解、だ。
攻撃力に長けた強敵か。生半可な装甲は無意味、回避力を重視して軽装の忍装束を纏い挑む。さぁ、新しい首を持って来てやったぜ。始めようか。
敵の能力が先制攻撃強化なら先手を取るのは無理か。強化した【視力】を凝らし鎌の動きを見極め【見切り】【早業】で回避を試みる。
敵の早業も強化されてやがるか。回避不可能なら影から「忍犬」が飛び出し俺を【庇う】。すまん、仇は討つ。
何とか凌げたら【死点打ち】。喉の紋章を狙う。【カウンター】で鎌を振り抜いた一瞬の隙を狙う。
奴の方が速い。武器を手離し加速。【忍者八門】が一門、骨法の【貫通攻撃】。手刀で首をはねる忍者の奥義。

直撃は避けられたか。だか、まだこれからだ。



 穿つ拳の連打が『番犬の紋章』を穿つ。
 それはあまりにも衝撃的な光景であった。地底都市を守る『門番』として、絶大なる力を誇るヴァンパイアである『赤の処刑人』が血反吐を吐いて、猟兵の拳の前に倒れたのだ。
 この地底都市が始まって以来の光景であったが、それを見ている者はまだない。
 この一体の人々は戯れに『赤の処刑人』によって殺され尽くしていた。地底都市へと向かえば、まだ隷属を強いられる人間の人々の姿はあるだろう。
「ガッ―――はッ……! ああぁ……自分の血なんて、どれくらいぶりに見たんだろう」
 己の喉元から弾けるようにして吐血した血を掌に滲ませ笑う『赤の処刑人』。その瞳は怒りに塗れていた。
 声色は震え、言葉は冷静を保っていたであろうが、それでも尚、自分が傷つけられたという事実、それこそ何十年ぶりかの流血に完全に遊ぶ気持ちが吹き飛んでいた。

「猟兵……許せない。わたしに、流血をさせたなんて―――!」
 その重圧の凄まじさたるや、地上のヴァンパイアなど目ではない。
 けれど、髪塚・鍬丸(一介の猟兵・f10718)は一歩も退かなかった。それどころか、軽装の忍び装束に身をまとい、まるで姿を晒すようにして現れたのだ。
「さぁ、新しい首を持ってきてやったぜ」
 まるで挑発するかのような言葉。
 次の瞬間、神速の如き踏み込みで持って鍬丸の首元にひたりと大鎌の刃の冷たい感触がよぎる。
 その一撃は確かに鍬丸の首を引き裂く一撃であったが、鍬丸は既のところでかがみ躱しきっていた。
 その髪の数本が大鎌に刈り取られ、地底都市の薄暗い大地に舞う。

 強化された視力があればこその回避。
 敵である『赤の処刑人』の一撃は、今まで見てきたヴァンパイアの攻撃の中でも、さらに早いものであった。
 本来、忍びである鍬丸にとって、先手を取らせることはしない。不意からの一撃、必ず自身が先手を取るものであったが、相手はそれを越えてくる。
「ならば、始めようか。ご下命如何にしても果たすべし―――だ」
 続けざまに放たれる大鎌の連撃を、躱し続ける。けれど、それは首の皮が薄皮一枚で持ってつながっているようなものであった。
 ギリギリの回避。
 もしもあと数瞬でも判断が遅れていたら、己の首と胴は泣き別れであったことだろう。

 それほどまでの実力。
「やはり強化されてやがるか―――!」
 均衡はすぐに崩れる。圧倒的な速度で持って放たれる怒涛の如き連撃は、鍬丸の回避する力を持ってしても追い込まれる。
 これが鍬丸が最初に現れた猟兵であれば、まだ油断もあったことだろう。隙を見出すこともできたかもしれない。
 けれど、今の『赤の処刑人』に油断はない。目の前の猟兵たちこそが、己の求めた強敵であるがゆえに。
「もらった、そこね―――坊や」
 放つ大鎌の不可避なる一撃。死のイメージが頭をよぎった瞬間、鍬丸をかばうように飛び出した忍犬が影より飛び出して、身を挺して主人を守るのだ。

 大鎌の斬撃に切り捨てられ、忍犬が影のように霧散して消える。
「―――すまん、仇は討つ」
 それは忍犬が生み出した決定的な瞬間だった。『赤の処刑人』は、この一撃こそが鍬丸を屠る一撃であるとして振るった一撃だった。
 故に、それは忍犬が身を挺してかばったことにより、目算が狂う。その狂いこそが、鍬丸にとっての死点打ち(シテンウチ)。

 だが、それでも『赤の処刑人』の方が速い。手にした忍具を手放し、一気に加速する。武器を捨てることもいとわない。
 更に速く。更に。更に。忍びとは刃にて敵を討つばかりではない。その心身に刻まれた忍者の業。
 それこそが鍬丸に残された最後にして最速の武器。
 骨法の一撃が放たれ、手刀が『赤の処刑人』の喉元―――『番犬の紋章』を狙う。
「もらった―――!」
 その一撃は過たず、その首を両断せしめようとして……薄皮一枚で押し止められる。
 指先の骨が軋み、鍬丸は飛び退る。

「直撃を避けられたか―――だが、まだこれからだ」
 そう、己の決死なる一撃は、『赤の処刑人』を穿つには足りなかった。けれど、それでも追い込むことはできる。
 己は一人で戦うわけではない。
 自分の後に続く猟兵達の存在がある。それを知っているからこそ、鍬丸は退く。
 憤怒の形相で己の両断されかけた頭と胴を繋ぐ『赤の処刑人』の表情を見やる。あれこそが、鍬丸の勝利の証だ。
 自分を助けてくれた忍犬に報いることができた。それを胸に抱いて、鍬丸は地底都市を疾駆するのだった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルトリウス・セレスタイト
紋章付き
確か強くなった狗だったか

オーラを無数の薄膜状に分割し周囲に展開
『刻真』を作用させ、自身への攻撃に部分的な加減速を行い「自然に」軌道を逸らすことで回避
必要そうなら回避行動も実行
目標の行動は『天光』にて随時把握
必要魔力は『超克』にて“世界の外”から汲み上げる

絢爛を起動
起点は目の前の空気
因果の原理を以て戦域の空間を支配
目標自身を含め範囲内で実行される攻撃全て、目標の喉にある「番犬の紋章」へ到達させる
軌道を変えるのではなく、発生前に因果を歪め「最初から」目標自身の喉を対象に
お前自身ならさぞ斬り甲斐があろう

自身も打撃で攻勢に
『討滅』の破壊の原理を乗せ撃ち込む

※アドリブ歓迎



 両断されかけた首をつないだ『赤の処刑人』の表情は憤怒そのものであった。
「わたしの首が? 断たれかけた?」
 逆上しても足りぬほどに、己の首が猟兵たちによって断たれようとしたことに『赤の処刑人』は怒りに震える。
 許されない。許されることではない。こんな事実を認めることはできない。
「―――そんなはずはない! わたしは『番犬の紋章』預かりし選ばれた者! わたしの力はこんなものじゃない!」
 大鎌が宙に浮かぶ。複製され、念力でもって制御される刃が次々に複雑怪奇なる機動でもって空を舞う。

「紋章付き……確か強くなった狗だったか」
 アルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)は、目の前で怒りに震える『赤の処刑人』をして狗と評した。
 すでに自身の体を覆うのは無数の膜状に分割し展開されたオーラ。
 漂う淡青の光が持つ時の原理がアルトリウスの動きを加速し、減速する。それはあまりにも自然な動作出会ったがゆえに、何か力を作用させているとは思えなかった。
 放たれた大鎌たちは、次々とオーラの防御を打ち破っていく。
 確かに力が増しているとアルトリウスは冷静に己を刻まんとする刃の軌跡を見つめ続けていた。

 身にまとうオーラの防御は、容易く破られるものではない。
 けれど、それでも『番犬の紋章』を持つ『門番』としての力は圧倒的であった。これならば確かに『同族殺し』であろうとも一刀のもとに切り捨てることのできる実力を持っているというのもうなずける。
「だが―――念力でコントールしてることが仇となったな……」
 オーラの防御が容易く破られるのならば、そのオーラの力で軌道を変えてやればいい。すでに全てを見通す瞳は全智の原理を宿している
 大鎌の刃がアルトリウスの肩を掠めて大地へと突き刺さる。
 次々と襲う刃も同じ轍を踏む。
「―――は?」
 対峙する『赤の処刑人』からすれば、何が起こったのかわからなかったことだろう。複製した大鎌は全てが必殺の一撃である。
 だというのに、すべてが目算が狂ったかのように対峙する猟兵を切り刻むどころか、僅かに掠めるに終わり、大地へと穿たれている。

 それはあまりにも衝撃的な光景であったのだろう。
「煌めけ」
 その言葉は短く、そして的確であった。己の周囲、目の前の空気を起点に空間の支配権を確立する。
 再び放たれる複製された大鎌がアルトリウスへと飛来する。
「何を―――」
 何をした、と叫ぼうとした『赤の処刑人』の喉元に次々と突き刺さる大鎌の切っ先。

 一瞬の出来事であった。
 ユーベルコードが絢爛(ケンラン)と輝いた瞬間、アルトリウスに振るわれた大鎌の全てが『赤の処刑人』の喉元『番犬の紋章』へと吸い込まれるようにして穿たれていた。
 血が噴き出す。
 呆然とした表情の『赤の処刑人』を見て、アルトリウスはこともなげに言う。
「お前自身なら、さぞ斬り甲斐があろう」
 それは空間の完全なる掌握であった。おそらく他の誰にも理解できぬであろう原理。アルトリウスのみが理解しうる力によって、放たれた大鎌の連撃は、『最初から』アルトリウスではなく、『赤の処刑人』の喉元へと突き立てられる因果を結んだのだ。

 呆然とするのも無理なからぬ。
 そこへアルトリウスが一気に踏み込む。
「理解できないか―――であろうな」
 放たれた拳の一撃が漂う淡青の光とともに板書一切の終わりを告げる破壊の拳となって、その喉に輝く『番犬の紋章』ごと、『赤の処刑人』を穿ち、貫くのだった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

村崎・ゆかり
地底都市への道か。雷撃は使えないわね。
それにしても、これほど『新世界探索!』って気にならない探索行も珍しい……。

まずは『赤の処刑人』の討滅からか。
「地形の利用」で「目立たない」ように相手の視界外を移動。
猟兵との戦闘が始まった頃に、脇から「高速詠唱」「全力魔法」炎の「属性攻撃」「破魔」「衝撃波」の不動明王火界咒を投げつける。炎が全身に絡みつけば、喉の『番犬の紋章』にも類焼は及ぶでしょ。

敵の攻撃が私に向いたら、「オーラ防御」で防ぎつつ薙刀のなぎ払いで大鎌を弾く。偶神兵装『鎧装豪腕』を喚び出して「怪力」による「盾受け」を
この先は地獄の一丁目って? 面白いじゃない!
冥府下りは神話の定番よ。まかり通る。



 己が猟兵に向けてはなったはずの大鎌の刃は、いつのまにか自身の喉を貫いていた。わけもわからずに動揺しながらも、ヴァンパイア『赤の処刑人』は立ち上がる。
 己の喉に輝く『番犬の紋章』は未だ健在である。
 度重なる猟兵の攻撃によって、たしかに消耗しているものの、己の体唯一の弱点である『番犬の紋章』は再び輝く。
「一体何……? 何が起こっているの? わたしは楽しく日々を過ごしたいだけなのに」
 地底都市において、ヴァンパイア以上の脅威たる存在はいない。
 言ってしまえば『番犬の紋章』を付与されている以上、己の力はあの『同族殺し』すらも一刀のもとに屠ることができるのだ。
 だというのに、目の前に現れる猟兵達は自分を的確に攻撃してくる。
「どいつもこいつも『番犬の紋章』ばかり狙ってくる……! 何故、わたしたち『門番』の弱点がこれだと気がつく……!」

 苛立つ『赤の処刑人』が猟兵達の攻撃に晒され、混濁する意識を立て直そうとしている影で、紫の瞳を薄暗い地底都市に輝かせる村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)が、即座に行動に移す。
「ノウマク サラバタタギャテイビャク――」
 詠唱の言葉は高速で奏でられ、その声色が一種の旋律のような音色となった瞬間、彼女の持つユーベルコード、不動明王火界咒(フドウミョウオウカカイジュ)が発動する。
 全力の力を込めた炎。
 噴出するは投げつけられた白紙のトランプから。絡みつき不浄を灼く炎は、蔦のように『赤の処刑人』の体へと絡まり、その体を灼く。
「―――ッ! この炎は……! また、猟兵というやつ!」

 ぎ、と音がなりそうな程に歯噛みする『赤の処刑人』を前にゆかりは飛び出す。巻き付いた炎を吹き飛ばさんばかりの重圧。
 炎は消えてはいないが、拘束の意味を為していない。炎にまかれながら、ゆかりへと肉薄する『赤の処刑人』の放つ大鎌の斬撃が襲う。
「まったく、これほど『新世界探索!』って気にならない探索行もないわね! 胸糞悪いのよ!」
 大鎌の斬撃を迎え撃つ、ゆかりのオーラの力。けれど、そのオーラの防御すらも膾切りのように切り裂く大鎌の刃。
 これが『同族殺し』をも一撃のもとに打倒するという『番犬の紋章』の力。
「―――鎧装豪腕、お願い!」
 呪符に収納されていた篭手型式神が出現し、大鎌の斬撃を受け止める。だが、大鎌の斬撃は、それすらも引き裂く。

「この程度かい、猟兵! わたしを困らせようとしているんだろう! なら、楽しませるってことだよねぇ!」
 嗤う『赤の処刑人』。
 それは鬱屈とした退屈の日々を忘れるような凄絶な笑み。
 猟兵達の攻撃によってダメージを追っていたことにいらだちを見せていたけれど、それでも今までの歯ごたえのない人間相手の処刑はあまりにも退屈だったのだ。
 だからこそ、笑う。
「この先は地獄の一丁目ってことね! 面白いじゃない!」
 ゆかりの薙刀が大鎌の斬撃を受け止める。ユーベルコードに寄る炎のダメージは戦えば戦うほどに蓄積していくはず。

 だというのに、未だ『赤の処刑人』の消耗は衰えを見せる段階ですらないようであった。
 けれど、確実に消耗させていく。ゆかりは後に続く猟兵たちに託すべく薙刀を振るう。
「地底に何を求めてきたか知らないが―――! まずは『門番』をってところだよねぇ。でも、それがそもそもの間違いさ。わたしに傷を負わせた奴は殺す。必ず殺す!」
 鬼気迫る憤怒たる表情。
 先程までの戦いを楽しむ表情は何処へ行ったのか。この目まぐるしく変わる表情こそが、『赤の処刑人』の本質だとでも言うべきか。
「冥府下りは神話の定番よ。まかり通る!」
 けれど、そんなことは今関係ない。
 ゆかりにとって大切なのは、この『門番』たる『赤の処刑人』をくださぬことには、前には進めない。

 この先に広がる地底都市。
 そこに虐げられる人間の人々がいる。それを解放するためにやってきたのだから。
「さあ、そこを退いてもらいましょうか―――!」
 ゆかりの薙刀の一撃が『番犬の紋章』浮かぶ喉元へと突き入れられ、その一撃を持って、さらなる消耗へと導いたのだった―――。

成功 🔵​🔵​🔴​

須藤・莉亜
「美味しそうな敵さんだねぇ。」

吸血鬼化して戦う。喉に紋章があるなら好都合。だって、僕が一番噛み付きたいとこだし。

怪力を駆使して、二振りの大鎌で敵さんを攻撃して行く。
敵さんの攻撃は動きを見切り敵さんの攻撃を避けつつ、危ない攻撃は武器受けで防ぐ。

本命は敵さんの攻撃をくらった後。
全身ぶっ壊すならともかく、一部を壊したくらいで僕の牙から逃れられると思わないでね?

大鎌が命中した瞬間に前へ踏み出し、体を高速で再生させつつ大鎌の間合いの内側に入って敵さんの首を狙う。
悪魔の見えざる手には大鎌を抑えてもらい、僕が喉に噛み付く一瞬を稼いでもらっとこうかな。

「…紋章噛み付いても敵さんの血は吸えないとかないよね?」



 穿たれた刃が『番犬の紋章』を傷つける。
 地底都市に入ってからの猟兵達の戦いは、未だ終わりを迎えていなかった。同じヴァンパイアであっても忌避すべき存在『同族殺し』であったとしても、『門番』たるヴァンパイアにはたった一太刀にて屠られてしまう。
 それほどまでの実力差。
 だが、猟兵達はそんな『番犬の紋章』が喉元に輝く『赤の処刑人』を追い詰めていた。
「―――っ! なんでわたしの、いえ……『門番』が唯一傷を追う場所が『これ』だってわかっているのかしら」
 それは『赤の処刑人』にしてみれば、不可解なことであった。
 絶大なる力を振るう『門番』にとって『番犬の紋章』こそが力の源である。体の何処を攻撃されても、傷を追ったとしても即座に再生する。
 けれど、この『番犬の紋章』だけは別だ。
 ここだけは攻撃されてしまうと、即座に回復する、ということはできない。傷はふさがったとしても、どうしても消耗は避けられないのだ。

 それを初見で持って的確に狙ってくる猟兵たちに彼女は違和感を覚えていた。
「美味しそうな敵さんだねぇ」
 須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)は微笑みを湛えて、『赤の処刑人』の前に姿を現した。
 美味しそう。
 彼の心の中を占めるのは最早、それだけであった。
 敵さん、と莉亜はオブリビオンを呼ぶ。それは親愛と殺意を込めた呼び名であった。同時に、彼にとってオブリビオンとは抑え込んでいる吸血衝動を唯一開放していい相手である。
 故に、その感情は、己の欲求のままに立ち振る舞えることに対する喜びに満ち溢れていた。

「なにかと思えば、半魔半人じゃあないの。お呼びではないのよ、半端者が」
『赤の処刑人』の声は冷ややかであった。
 生粋のヴァンパイアである彼女にとってダンピールとはすなわちまがい物であった。その言葉に莉亜は別段何かを思ったことはなかった。
 そう呼ばれたとしても、何も感じ入ることはない。
 なぜなら、今彼の心は己の吸血衝動を完全に、否―――原初の血統(オリジン・ブラッド)をも超える勢いで荒れ狂っていたのだから。

「―――全力で殺してあげるね」
 金の瞳が輝く。それは莉亜の吸血鬼としての力を覚醒させるユーベルコードの輝き。互いに得物は大鎌。『赤の処刑人』は一振り、莉亜は二振りの白と黒の大鎌を振るう。
 その一撃一撃の速度は人智を越えたものであった。互いの刃が交錯し、ぶつかりあい、火花を散らせる。
 二振りである以上莉亜の連撃が手数で圧倒できるはずであったが、『赤の処刑人』の放つ斬撃は一撃が重たいのだ。ニ刀を持って漸く凌げるほどの力の強さは、怪力を有する吸血鬼へと覚醒しても尚、劣勢に立たされる。
「その程度でわたしと張り合おうなど―――!」
 軋む腕。一撃を受け止めた大鎌への衝撃が莉亜の態勢を崩す。その隙は決定的な一瞬であった。

 凄まじい音がして、大鎌の一撃が莉亜の片腕を吹き飛ばす。
 斬り飛ばす、という表現は生易しい。斬撃の瞬間に腕が体から切り離されたと次の瞬間には、すでに莉亜の腕は霧散していた。
 それほどまでの斬撃の速度。
「とった―――!」
 だが、莉亜は足を止めない。
 斬撃が当たった瞬間、莉亜は前へと踏み出す。
「全身ぶっ壊すならともかく、一部を壊したくらいで―――僕の牙から逃れられると思わないでね?」
 なにを、と『赤の処刑人』は呟いただろう。
 何を言っているのだと。そう、今まさに莉亜は腕を吹き飛ばされるという大きな痛手を負ったはずだ。

 だが、それは―――ヴァンパイア同士の戦いにおいて、体の欠損はあまりにも意味のないものであった。
 高速で巻き戻されるようにして霧散した片腕が再生される。その手には大鎌が握られていない。
 どこに、と思った瞬間、悪魔の見えざる手に握られた大鎌の二振りが十字に『赤の処刑人』へと振るわれる。
 しかし、『番犬の紋章』の部位以外にはダメージにはならない。すぐさま回復してしまう。そう攻撃は意味はない。けれど、突き立てられた大鎌の刃は、確実のその肉体を標本の蝶に刺すピンのように大地へと『赤の処刑人』の体を縫い止める。

「……紋章に噛み付いても敵さんの血は吸えないとかないよね? ん―――どうでもいいや。なんて言ったって、ごちそうだからね」
 笑う。
 その笑う顔は、純粋なものだった。ごちそうを目の前にした子供の顔だ。
 敵としてすら見ていない。吸血鬼として覚醒した莉亜にとって、目の前の『赤の処刑人』は『門番』以下だ。
 ただの食物。
 言ってしまえば、血の入ったパッケージ。いただきます。その声が聞こえたか聞こえなかったか、即座に絶叫が響き渡る。

 それは捕食者と非捕食者の間柄を思い知らせるには、十分すぎる悲鳴を持って互いの優劣を知らしめるのであった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…会って早々申し訳ないけど、お前の役目は今日で終わりよ
後の務めは骸の海に還ってから存分に果たすがいいわ

UCを発動して各種の呪詛を付与し、
敵の殺気の●存在感を●追跡して攻撃を先読みして見切り、
無数の浮遊盾を●操縦して味方を●かばい、
●オーラで防御する●盾で受ける●団体行動を行う

…確かに、同族殺しですら一撃という情報は間違いではないみたい

…だけど、お前は一つ勘違いをしている

私は護る者ではない。お前達を狩る者よ

●野生の勘が敵の隙を捉えたら●闇に紛れた●盾で●だまし討ち●防具改造
盾を●怪力で圧潰し●息を止め●生命力を吸収する●吸血首輪化して、
●盗んだ生命●力を溜め爆破し●暗殺する●破壊工作を行う



 全身の血を抜かれんばかりの勢いの吸血。
 それが『赤の処刑人』を襲った最大の消耗であったのかもしれない。ようやくにして迫る猟兵を引き剥がし、『赤の処刑人』は這々の体で逃げ出していた。
 未だ消滅するには余力が残っていることが幸いしたのだろう。なんとか回復することができる。
「はぁ―――はぁ―――! なんであんな化け物が半端者の中にいるの!?」
 困惑と共に駆け出す。
 その『門番』としての役割を既に放棄したかのような遁走であったが、未だ『番犬の紋章』は喉に輝き、彼女に力を与える。
 未だ彼女は諦めていなかった。
 猟兵と言えど、何度もあれだけの攻撃を放つことはできまい。そう踏んだのだ。けれど、それは大いなる間違いであった。

 彼女の目の前には一人の少女が立っていた。銀髪の少女。紫の瞳が輝き、その怪しげでありながらも美しき姿。
「また―――半魔半人、半端者ばかりがわたしを邪魔する。退け―――!」
 手にした大鎌の一撃が少女へと迫る。
 その身を両断せんとする一撃は、たしかに彼女の体を撃滅させる一撃であった。だが、その斬撃は彼女―――リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)には届かない。
 浮遊する盾が大鎌の一撃を受け止める。
 たった一枚の盾では防ぐことは出来なかったことだろう。そこにオーラを上乗せし、幾層にも重ねた盾がリーヴァルディの身を守る。

「……会って早々申し訳ないけど、お前の役目は今日で終わりよ」
 本来であれば『赤の処刑人』は、猟兵から逃げおおせることができたのだ。けれど、リーヴァルディにとって、ユーベルコード、吸血鬼狩りの業・千変の型(カーライル)によって瞬時に術式を換装し、その殺気を追跡することによって『赤の処刑人』の逃走を阻んだのだ。
「……確かに、同族殺しですら一撃という情報は間違いではないみたい」
 大鎌の一撃を阻んだ積層に重ねられたオーラと盾。
 その積層が為されていなければ、今頃リーヴァルディは両断されていたことだろう。けれど、淡々とした表情が物語っている。
 この程度であるのかと。

 その表情を受けて、憤怒の形相に染まるは『赤の処刑人』。己の一撃を受け止めた半魔半人の彼女を睨めつけ、即座に大鎌を袈裟懸けに振るう。
 その斬撃は目にも留まらぬ速度であり、猟兵であっても目で追える者はすくなかったことだろう。
「……だけど、お前は一つ勘違いをしている」
 冷ややかなリーヴァルディの声が薄暗い地底に響き渡る。
 確かにリーヴァルディの盾は『番犬の紋章』輝く『門番』たる『赤の処刑人』の大鎌の一撃を防いだ。
 それは驚嘆に値するものであったことだろう。故に、『赤の処刑人』もまたリーヴァルディは守護に優れた猟兵であると認識したのだ。

「―――私は護る者ではない」
 その言葉は端的なるものであった。薄暗い地底であっても輝く紫の瞳が不敵に笑った気がした。
 次の瞬間、『赤の処刑人』の首が左右から闇に紛れた盾によって挟撃される。
「―――ガッ!?」
 呻くような声が響く。
 それもそのはずであろう。凄まじき力を誇る『門番』たる『赤の処刑人』にとっての唯一の弱点であろう『番犬の紋章』輝く喉元を狙い撃って締め付ける盾の挟撃。
 さらに盾からその生命力を吸収する気配すら感じて、『赤の処刑人』は盾を大鎌の斬撃によって切り払う。

「よくもわたしを―――!」
 だが、それはあまりにも遅い判断であった。
 防御に優れた存在としてリーヴァルディを認識していたのであれば、防御を引き裂こうとするのではなく、速度で持って翻弄すべきであったのだ。
 けれど、『赤の処刑人』は己の力に絶対たる自身を持っている。これだけ数多の猟兵たちに痛めつけられても尚、それを捨てられなかった。
 いや、捨てられるはずがない。今の今まで誰も彼女に敵わなかったのだ。歯向かうものはそれこそ虫けらのように屠ってきたのだから。

 故に、その余裕、傲慢さは、まさに油断と慢心に成り代わる。
「……もう遅い」
 リーヴァルディの掌が拳の形になった瞬間、切り払った盾が『赤の処刑人』を巻き込むように吸収した生命力を起点に凄絶なる威力で持って爆発し、その身を灼き、吹き飛ばす。
 それは奪った生命力の凄まじさを物語っている。
 爆炎が上がり、巻き込まれる『赤の処刑人』を背にリーヴァルディは告げる。

「私はお前たちを狩る者よ―――」

大成功 🔵​🔵​🔵​

七那原・望
下衆が……どれだけの命を弄んで来たのか……

【果実変性・ウィッシーズガーディアン】を発動。
【第六感】と【野性の勘】で相手の行動を【見切り】、【継戦】。常に相手の行動や大鎌の挙動を先読みしながら攻撃を回避しつつ、必要に応じてオラトリオやスタッカートの【早業】で【武器受け】を。

どれほど強力な敵でも戦い続けていれば隙を見せるはず。
その一瞬を狙って【早業】で敵の喉を素早く斬り払います。

普通ならこれで死ぬはずでしょうけど、紋章で強化されている以上、倒しきれない可能性もあります。
決して気は抜かず、再び防御と回避を行いながら再度の攻撃チャンスを狙います。
何度でも斬り刻んであげます。生きている事を後悔するまで!



 爆炎の中から飛び出す『赤の処刑人』の喉元には未だに輝き失わぬ『番犬の紋章』があった。
 それは地底都市と地上の間を護る『門番』としての役割以上に、その力を絶大なるものにする。その力は『同族殺し』をして一撃の下に下すことができるほどの圧倒的な力であり、その力を授かったことは、この地底都市において己が如何なる振る舞いをしたとしても誰も止められることのできぬ力であった。
 故に、今の状況は不可解に過ぎる。
 喉に輝く『番犬の紋章』以外の体への攻撃は意味を為さない。的確に喉の紋章を攻撃しなければ、己へのダメージにはならないのだ。
 即座に再生するが消耗は激しい。
「おかしい……わたしの紋章ばかりを狙ってくる……いつだ、いつわたしたち『門番』の急所がわかったの?」
『赤の処刑人』は忌々しげに呟きながら、爆炎のダメージが残る喉元を擦る。
 猟兵単体の力は、そこまで脅威ではない。
 けれど、ここまで的確に急所ばかりを狙われては消耗せざるを得ないのだ。
「こんなところでわたしは……あんなゴミみたいな連中とはわたしは違うの……!」

 その言葉は、『赤の処刑人』の偽らざる本音であった。
「下衆が……どれだけの生命を弄んできたのか……―――わたしは望む……ウィッシーズガーディアン!」
 それは黒き衣を纏い、紅き雷光共に現れた七那原・望(封印されし果実・f04836)の姿であった。
 紅き雷光はユーベルコード、果実変性・ウィッシーズガーディアン(トランス・ウィッシーズガーディアン)の輝き。手にした二対の黒き妖刀と白き聖剣がに纏う紅き雷光がほとばしる。
「また猟兵……! しつこいって言ってんのよ!」
 放たれる複製された大鎌たち。
 それは中を舞い、飛翔しながら己へと迫る望へと放たれる。その全てが念力によってコントロールし、複雑怪奇なる軌道を描いて、その幼き体を切り刻まんとする。

「切り拓いて! スタッカート……!」
 振るう白と黒の剣が迫る大鎌を振り払うように振るわれる。雷光纏う剣は、大鎌の刃を払い、それでも圧倒的な数で迫る大鎌は望の体を切り刻もうと迫りくる。
 赤みを帯びた黄色の影が望を守るように展開され、目にも留まらぬ速さで大鎌の刃を防ぐ。
 けれど、その一撃一撃が『同族殺し』をも屠る一撃である。影は幾度か打ち合う端から切り刻まれて霧散していく。
「あはは! やっぱりね! どこから情報を得たのかわからないけれど、防御はからっきしみたいね、猟兵ってやつはさぁ!」
 笑う『赤の処刑人』。
 望にとって、影と剣による防御は一方的な攻撃に対する対処にしかならなかった。
 それだけ大鎌の斬撃は苛烈そのものだったのだ。

 けれど、望の狙いは攻撃を受け切ることではない。
 どれほど強力な敵であろうと戦い続けていれば必ず隙を見せる。それに加えて、数多の猟兵たちが攻撃を加えているのだ。
 消耗し、焦り、動揺し続けたヴァンパイアは、望にとって強力な敵であったとしても、隙を見出すには十分過ぎる相手であった。
「―――……油断大敵です」
 振るわれた黒の妖刀が『番犬の紋章』輝く喉元を引き裂く。

 それはまさに青天の霹靂の如きであったことだろう。
 念力でコントロールしていた大鎌たちの挙動が乱れる。予想だにしない一撃に、『赤の処刑人』が動揺を強めた。
 隙はさらなる隙を生み出す。狙いすました白の聖剣が再び喉元を切り裂く。
「普通ならこれで死ぬはずでしょうけど……」
 紋章で強化されている以上、倒しきれない可能性がある。ならば、望むの為すべきことはたった一つである。
 気を抜かず、怒り狂ったような形相で大鎌を振るう『赤の処刑人』から繰り出される攻撃を凌ぐ。

 あれほど脅威に感じた攻撃も、動揺と消耗によって、ここまで摩耗している。
「何度でも切り刻んであげます。生きていることを後悔するまで!」
 再び白と黒の剣閃が翻り、『赤の処刑人』の喉元に徒花の如き、紅き鮮血がほとばしるのだった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ナギ・ヌドゥー
死の遊戯は楽しいだろ?退屈な日常が終わって良かったな。
そしてその歪んだ生からも解放されればもっと幸せになれるぜ

【ドーピング】により【リミッター解除】
【限界突破】したスピードで敵の速さに対抗
【第六感】による【読心術】をもって奴の嗜虐なる攻撃を読み【見切り】回避する
禍つ呪獣ソウルトーチャーよ、オレが躱し続ける間にUC「禍ツ骨牙」で番犬の紋章を穿て!
ほんの僅かでも当たればそれでいい
命中さえすれば敵の魂の記憶を読み取れる
奴の犯してきた咎が重ければ重いほど……次の骨牙はより正確かつ強力に紋章を穿つのだ



 鮮血ほとばしる喉元を抑えながら敗走するは『赤の処刑人』。
 地底都市において、その『門番』としての力は絶大であった。それが今やどうだ。猟兵達の攻撃によって唯一の弱点である喉元に輝く『番犬の紋章』を狙い撃ちにされている。
 それは『門番』たる『赤の処刑人』にとって不可解な出来事である。
 初見で己の唯一の強みにして弱点である『番犬の紋章』輝く喉を狙ってくるなどあり得ない話であった。
 猟兵であってオブリビオンであっても、敵の隙が多い場所を狙って攻撃してくる。だというのに、猟兵達は狙いすましたように喉ばかりを狙ってくるのだ。
「ありえない……! ありえない……! どうして此処まで徹底的に、紋章ばかりを狙ってくるの……?」
 当然の疑問であろう。
 それはグリモア猟兵の存在を知らなければ、どうしようもない事柄であった。すでに予知によって猟兵達は己が何を為すべきかを理解し、行動に移している。
 その点においても『赤の処刑人』と猟兵達の間にまたがる絶望的なまでの一手の差が『赤の処刑人』を追い詰めていた。

「死の遊戯は楽しいだろ? 退屈な日常が終わって良かったな」
 闘争を続ける『赤の処刑人』の前に、ゆらりと現れる白い髪と銀の瞳を煌めかせる青年が現れる。
「そして、その歪んだ生からも開放されれば、もっと幸せになれるぜ」
 ナギ・ヌドゥー(殺戮遊戯・f21507)は、すでに己に科せられたリミッターを解除している。ドーピングによって限界の先まで反射速度を高められ、ともすれば自傷行為にほかならぬほどの限界を越えてのリミッター解除は彼の体を蝕むことだろう。
「お前……体をいじっているわね? 一体どっちが歪んだ生よ―――舐めるんじゃないわよ!」
 神速の如き踏み込み。
 一瞬の出来事だった。それは、あまりにも素早く、瞬間移動したのではないかと思わせるほどの圧倒的な速度。肉薄する『赤の処刑人』の持つ大鎌の一撃。
 それは今まで猟兵たちと戦い、余裕を見せていた『赤の処刑人』の余裕無き一撃であった。

 一撃の下に首を狩る。

 それはナギの読心術と第六感が告げる『赤の処刑人』が捨てきれぬ嗜虐的な思考であった。
 どれだけ余裕がなくとも、どれだけ消耗しようとも変えられぬものがある。それは人もオブリビオンも変わらない。
 己の欲求に従い、過去の化身として蘇ったヴァンパイアであるのならば、なおさら顕著であろう。ナギの鼻先を掠める大鎌の一撃。
「生ある者は皆、必ず咎を背負う……禍つ呪獣ソウルトーチャーよ!」
 薄暗い地底を駆け抜けるあh、咎人の肉と骨で錬成されし呪獣。ナギの持つ拷問兵器にして、主であるナギの血を餌に変えて自立駆動するおぞましき獣。
 その全身から射出される禍ツ骨牙(マガツコツガ)が『赤の処刑人』の体を穿とうとする。
 散弾のように放たれた骨牙は、大鎌の連撃を躱し続けるナギの間隙を縫って、『赤の処刑人』の体へと吸い込まれるように貫き、その身に宿した魂の記憶を引きずり出す。

 それは圧倒的なる罪。
 重ねてきた凶行の数々がナギの脳内に入り込む。正しく『赤の処刑人』は処刑人であった。人の生命を生命と思っていない。生命と認識していないのだ。ただの道具、もしくはゴミ。そのようにしか感じていない。
 その咎の重さは常人に耐えられるものではなかった。
「―――咎が重ければ重いほど……」
 ナギがつぶやく。
 瞳は充血し、その流れ込んできた魂の記憶の尋常ならざるを物語っている。足が重い、身体が重い。それだけの重さを己も感じている。
 ぶるりと呪獣ソウルトーチャーの身体が膨れ上がる。贖えと誰かが耳元で囁いた気がした。
 それは己の言葉であったかも知れないし、魂の記憶が聞かせた幻聴であったのかもしれない。

「……その重さにいつまで耐えられる?」
 それは質問ですらなかった。膨れ上がった呪獣ソウルトーチャーの身体が弾けた瞬間、放たれた骨牙はより正確に、より強力な一撃となって一斉に放たれた。
 罪には罰を。
 ナギの指先が示すは、『番犬の紋章』輝く喉元。
 そこを穿て、と静かにナギが囁く。それは無辜なる人々を虐げ続けてきた報いを受けさせる一撃。
 骨牙の重みは、犯した罪の重さ。
「それが罰。オレが与える祝福だ」
 それはまさしく罰たる一撃。穿たれた大穴が、その重さを物語っていた―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルムル・ベリアクス
何てむごい……。犠牲者の姿に、心が痛みます。そんなに首が欲しいのなら、返り討ちにしてみせましょう。
敵の凄まじい攻撃力に対抗するため、UCでアメジスト結晶の鎧を身に纏います。犠牲者への祈り、そして絶望の中にある人々を必ず守ってみせるという決意で、結晶を成長させ防御力を増大させます。
相手の獲物は大鎌。大振りな攻撃の分、必ず隙が生まれるはずです。攻撃を結晶で受け止め、よく見て【情報収集】して技を見極めながらチャンスを待ちます。結晶を削られようとも、思いの強さでより大きく再生させます。必要であれば【かばう】で仲間を守ります。
隙をついて、フォーチュンカードの【投擲】により喉の紋章を撃ち抜きます。



 切り刻まれた遺骸は、十や百では数え切れぬものであった。
 戯れに振るわれる大鎌が奪った生命は決して戻らない。生命としてみなすことのない圧倒的支配者の振るう刃は、それこそゴミを掃除するような気軽さと鬱陶しさでもって行われていた。
 さしずめ、首を刈り取られ、放置されている人間の遺骸は、掃除するのが面倒だからと部屋の四隅に貯まる埃と同じであったのだ。
 少なくとも『赤の処刑人』はそう思っていた。
 穿たれた大穴が喉元に空いている。もう少し一撃が重たければ、それだけで首と胴が離れ、霧散していたことだろう。
 まさしく首皮一枚でつながっていた。『番犬の紋章』が輝き、その首を修復する。修復したからと言って、力が削がれているわけではない。
 消耗激しく、悪態をつくこともできずに逃走を重ねているのだ。

「なんてむごい……」
 それは鳥の頭蓋の如き仮面で顔を覆った青年の姿であった。
 むごたらしく切り離された首と胴。その意外を前に胸を痛め、悲嘆にくれていた。『赤の処刑人』にとって、それは道端に転がる浮石のようなものであった。
 退け、と穿たれた喉元からかすれるような声が響く。
 その声に仮面の青年、ルムル・ベリアクス(鳥仮面のタロティスト・f23552)は初めて視線を向けた。
 心が痛む。どうしてこのようなことが出来てしまうのか。

「そんなに首がほしいのなら―――返り討ちにしてみせましょう」
 はらりと涙が零れ落ちそうなほどに悲しげな顔をした青年に襲い掛かるは複製されし『赤の処刑人』の持つ大鎌たち。
 宙に浮かび念力でもって制御された無数の大鎌たちがルムルを狙う。
 敵の凄まじき攻撃力はすでに聞き及んでいる。かの『同族殺し』ですら一刀のもとに倒しきってしまうほどの絶技。
 それを可能にする『番犬の紋章』の力の存在もまた知っている。
 故にルムルが取ったのは、攻撃ではなかった。

「蜥蜴の悪魔よ、砕けない想いの強さを今、形と成せ!」
 大鎌の刃がルムルの首を刈り取らんと迫った瞬間、蜥蜴の悪魔ラケルタの鋭いアメジストの鱗が覆う。
 頑強なるサモン・ラケルタによるアメジストの鎧は大鎌の刃でもっても砕くことしかできなかった。
 それでも凄まじい衝撃がルムルの身体を打つ。だが、その傷みがなんであるというのだろうか。

 この地底都市で命の価値もないとばかりに絶たれてきた犠牲者たち。その祈りが。絶望の中にある人々を必ず護ってみせるという決意が、ルムルの中で渦巻く。
 感情を糧とする悪魔ラケルタのアメジストの鱗が結晶となって成長する。
 二撃目は、完全に結晶によって防いだ。
 砕けることもなかった。
「―――!?」
 それは驚異なる光景であったことだろう。『赤の処刑人』にとって、己の持つ大鎌の一撃こそが至高の一撃。
 放てば必ず首を刈り取る一撃であった。
 これまでの猟兵だってそうだ。躱すか、いなすか、どちらかであった。受け止めた防御のオーラは尽く膾切りにしてやった。
 なのに―――。

「どれだけ削られようとも、わたしは決してやめません。むごたらしく殺されてしまった人々への弔いとするために、ここでわたしが討ち果たしましょう―――!」
 続々と成長するアメジストの鱗は、すでにルムルの身体を覆い尽くして隆起していた。どれだけの斬撃が彼を襲おうとも、その尽くが弾き返される。
 理解を越えた尋常ならざる絶対防御。
 それはユーベルコードの力ではない。
 ルムルの犠牲者たちへの祈りが為し得た光景であった。感情を糧にするが悪魔であるというのならば、その感情を生み出すのがルムルである。
 彼の感情なくば、斬撃を防ぐことなどできようはずもない。

 その頑強なる鎧に阻まれ、大振りに振るう『赤の処刑人』の大鎌。それをルムルは見逃すわけもなかった。
 どれだけ隙のないヴァンパイアだとしても、一片の欠片も砕けぬほどの相手を前にして、己の全力の攻撃を放とうとするのは必定であった。
 その一瞬の間隙を縫って放たれるは、狂気宿りしタロットカード。刃の如き鋭さに変化した投擲の一撃が、『番犬の紋章』輝く喉を切り裂く。

「これが、首を狩られる傷み―――自身がなされた惨たらしき所業……その痛みと共に思い知りなさい」
 鮮血がほとばしり、アメジストの鱗を汚す。
 それはこれまで戯れのように、塵芥のように殺してきた人間たちの痛みを代弁するかの如き凄まじき痛みとなって『赤の処刑人』を襲うのであった―――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

大町・詩乃
今回は彼女の喉にある『番犬の紋章』を狙えば良いのですね。
(ナイアルテさんから花々の種の入った包を受け取って微笑み)
この種が花開くよう、猟兵として植物の女神として務めを果たします!

彼女の鋭い攻撃は【第六感と見切り】で読んで【残像】を斬らせて躱します。
躱しきれ無い場合のみ【オーラ防御】で強化した天耀鏡の【盾受け】で攻撃を弾きます。

反撃で【多重詠唱・高速詠唱】による、【光の属性攻撃】による閃光で彼女の視界を一瞬灼き、【雷の属性攻撃】で手足を痺れさせて反応速度を落とさせ、UC:霊刃・禍断旋と【神罰】を籠めた煌月で、彼女の喉に有る『番犬の紋章』を貫き、彼女の魂と邪心を粉砕します!

骸の海で悔い改めなさい!



 切りつけられた『番犬の紋章』が輝く喉元が溢れさせるは紅き血潮。
 それは今まで絶対的な支配者であり、強者として生きてきた『赤の処刑人』にとっては、屈辱以上の憤怒が体中を駆け巡るようなものであった。
「ぐっ―――はっ! あぁ、わたしの血が……! 猟兵共、が―――!」
 怒りに震える『赤の処刑人』から溢れ出る重圧が増す。
 大気が震え、仄暗い地底にあって尚、その力の奔流の如き『番犬の紋章』が喉元で燦然と輝く。
 これまで猟兵たちに与えられた攻撃の数々は、たしかに『赤の処刑人』を消耗させていた。けれど、消耗させても、これだけの力を保っているのは驚嘆に値する。
 確かに『同族殺し』をも一刀のもとに屠ることのできる力を備えたヴァンパイアであることは認めざるを得ない。

 けれど、それで足を止める猟兵など一人として存在していない。
 大町・詩乃(春風駘蕩・f17458)は他の猟兵によって生まれた隙を突くように駆け出していた。
 その手には詩乃の神力こもるオリハルコンの刃を備えし薙刀。振るう一撃は大鎌の柄によって受け止められる。
 ぎりぎりと互いの膂力がせめぎあい、消耗してるというのに詩乃を吹き飛ばすほどの力を見せた『赤の処刑人』が咆哮する。
 その咆哮ですら、詩乃の肌を重圧でじりじりと焼くようであった。
「ちょろちょろと猟兵風情が―――!」
 吹き飛ばされた詩乃をめがけて瞬時に間合いを詰める『赤の処刑人』。その速度は圧倒的すぎた。

 彼女の神としての第六感が囁く。
 あの斬撃を受け止めることはできないと。何としても躱さなければならないと。
 その斬撃が弧を描き、鋭き切っ先を詩乃の首元にひたりと悍ましい殺気でもって迫る。
 ゆっくりとした時間。
 詩乃は思い出していた。転移する前にグリモア猟兵から手渡された花々の種の入った袋。
 それは今も彼女の懐にある。誰かの喪われた心を慰めるのが花の美しさであるのならば、植物の女神として、猟兵として己ができることはなにか。
 それを詩乃はずっと考えていた。
 大切なものを扱うように受け取った種の袋。
 その花々が、この地底の世界に齎すものの意味を詩乃は理解していた。

「私の役目は―――!」
 残像を残すほどの速度で持って詩乃の身体が動く。
 ここで倒れるわけにはいかない。倒れてなるものかという彼女の意地が、圧倒的な速度で持って大鎌の斬撃を躱す。
 多重に、圧倒的な速度で持って奏でられる閃光。詩乃の掌から放たれる光は、目くらましのように『赤の処刑人』の視界を灼く。
 さらに放たれた雷撃によって、その四肢を穿つ。『番犬の紋章』以外の場所には攻撃は痛手にならぬまでも、その反射速度を鈍らせるほどの麻痺は引き起こすことができる。

 そう、それも僅かな時間であった。
 けれど、そのわずかでもよかったのだ。
「この一刀にて禍を断ち斬ります!」
 ―――霊刃・禍断旋(レイハ・カダンセン)。それは詩乃の神力が煌めく一撃である。薙刀の刃が、その名、煌めく月そのもの如き輝きを放つ。
「猟兵として、植物の女神として務めを果たします!」
 放たれた神速の突きは、『赤の処刑人』の喉元を穿つ。一閃の煌きが薄暗い地底に太陽の陽光の如き光をもたらし、『番犬の紋章』の輝きを塗りつぶす。
 それは詩乃の持つ神力の爆発的な解放であった。

「その邪なる魂を、その所業を―――」
 押し込む突きの一撃が、『番犬の紋章』を内側からずたずたに灼き滅ぼさんとする。
「骸の海で悔い改めなさい!」
 閃光が『赤の処刑人』を包み込み、地底都市の大地を穿ち吹き飛ばすのだった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レナーテ・フレンベルク
◎アドリブ等歓迎
隠された地底都市、そんな物が存在していただなんて……
故郷とは言え、知らない事はまだ沢山あるのね

■戦闘
先制攻撃が強化されると言うのなら、まずそれを凌ぐ必要があるわね
ここは【死霊障壁】を前方に展開する事で一瞬でも敵の接近を防ぎつつ、
束縛の【呪詛】で動きを鈍らせたところをヒルデに【吹き飛ばし】て貰い
一旦距離を取りましょう

さて、貴女がこれから戦うのは、貴女が今までに殺して来た人たち全てよ
【UC】を発動、これまでに彼女に殺されて恨みを抱く死霊たち全てを
この場に呼び出して戦わせるわ

そのまま呪詛で束縛されるか戦って出来た隙を狙い、
怨念を纏わせて鋭く変形させたヒルデの手刀でその喉、貫いてあげる



 ダークセイヴァー出身の猟兵にとって地底都市とは、聞き覚えのないものであったことだろう。それは、レナーテ・フレンベルク(幽玄のフロイライン・f25873)にとっても驚愕の事実であった。
「隠された地底都市、そんな物が存在していただなんて……故郷とは言え、知らないことはまだ沢山あるのね」
 彼女が足を踏み入れた地底都市は、ダークセイヴァーの地上の世界と変わらぬ仄暗い世界であった。何処を見ても鬱屈とした雰囲気に包まれ、地底都市では人間たちが隷属することが当然というように虐げられ続けているのだろう。

 轟音が響き、閃光がほとばしる。
 それは地底都市にあっては異常なる事態であった。地底と地上を繋ぐ『門番』である『番犬の紋章』を持つ『赤の処刑人』が猟兵たちによる度重なる攻撃によって追い込まれているのだ。
 レナーテを護るように巨骸たるヒルデが前に出る。衝撃が風となってレナーテの髪を撫でる。
 死霊障壁がある以上、彼女に触れることはできない。
「ぐ、うぅぅ……猟兵、め……何度でもわたしの前に現れる……! 鬱陶しいんだよ、お前たちは!」
 憤怒の形相に染まったのは、これまで幾度も猟兵に追い込まれたからであろう。それもそのはずだ。
 本来であれば『番犬の紋章』以外の部位には攻撃が意味を為さない。
 それを知るためには、一手、二手も要するはずであるのに猟兵は全て『番犬の紋章』輝く喉元へと攻撃を的確に与えてくるのだ。

 どれだけ肉体を取り繕っても、消耗していることまでは隠し通すことはできない。
「……―――ヒルデ」
 レナーテが短く呟いた瞬間、彼女の死霊障壁が大鎌の刃によって引き裂かれる。前面に全て集中して展開していたというのに、バターに刃を切り入れるように障壁が切り裂かれる。
 どれだけ消耗していたとしても、『番犬の紋章』が輝く以上、その絶大なる攻撃力は些かも衰えることはない。
 巨骸たるヒルデの腕が大鎌を受け止めるが、骨が軋む音がする。
 障壁、ヒルデの巨腕。
 それを持ってして漸く止まるほどの力。それが『同族殺し』をも一撃の下に屠り去ることができる『番犬の紋章』の力なのだ。

「ご自慢の大鎌の刃も、どうやら消耗しているようね?」
 レナーテの嫋やかな指先が示す先は、『赤の処刑人』の姿。放たれる呪詛が、その肉体を蝕もうとほとばしり、その動きを止める。
「ヒルデ―――」
 巨骸ヒルデの豪腕が振るわれ、『赤の処刑人』を吹き飛ばす。あの大鎌の一撃はそう何度も防げるものではない。
 故に一旦距離を取るための一撃。

「さて、貴女がこれから戦うのは、貴女が今までに殺してきた人たち全てよ。彼らがどうすれば満足できるのか……分かる?」
 それはレナーテの持つユーベルコードであり、『赤の処刑人』に理不尽に奪われていた生命に与えられた復讐(ディ・ラッヘ)の権利。
『赤の処刑人』の周りをぐるりと取り囲む怨霊達の数は十や百では聞かない。千とも万とも言える膨大な数の怨霊たちが『赤の処刑人』を取り囲み飲み込む。

「ばかな―――! 一山いくらもしないゴミのような生命のくせに、わたしを恨むなんてお門違いでしょう!」
 大鎌を振るう。
 振るう。
 振るう。その度に怨霊たちが吹き飛ばされ、霧散していく。最初は誰も触れることなどできなかった。
 振るわれる大鎌はまるで暴風のようであり、近づくもの全てを膾切りにして霧散させる刃であった。
 だが、徐々に方位が狭まり、振るう大鎌の柄を掴む怨霊もあれば、足元にすがる怨霊も現れ始める。
「わたしにまとわりつくな! 鬱陶しい……!」
 それは十や百では足りない抵抗であったのだろう。けれど、今、此処に集ったのは千万の怨霊たち。
 己の生命を奪った者への復讐を遂げるために集った力は、塵芥と蔑んだ生命。

「傲慢。慢心。不遜。生命を軽んじてきた貴女の負けよ」
 レナーテがくるりと日傘を回す。
 それだけでよかった。巨骸ヒルデの腕が変形する。鋭き槍の穂先のように形状を変え、その腕に怨霊たちがまとわり付き、己達の無念を晴らせてくれと願う。
 それにヒルデが頷いたような気がした。

 次の瞬間放たれた槍の如き一撃は、たしかに『番犬の紋章』輝く喉元へと放たれ、その怨霊の復讐心を晴らすように貫き、その身を苛む激痛でもって、いつまでも『赤の処刑人』が斃れるまで続く怨念となってまとわり付き続けるのだった―――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
(周囲の遺骸をちらと見)
最早、問答は無用でしょう
その大鎌、これ以上人々に振るわせはしません
騎士として討ち取らせて頂きます

(とはいえ強敵、装備の耐久を鑑み防御は一度が限度でしょうか)

センサーでの●情報収集で大鎌有効範囲を●見切り脚部スラスターの●スライディング滑走での回避重点で立ち回り
剣や盾で挑発目的の攻撃
期を見て格納銃器展開
喉の紋章へ●乱れ撃ち●スナイパー●だまし討ち射撃

流石に警戒していたようですね

紋章狙撃の示唆により射線を意識した動きをさせることでUCでの行動誘導精度を向上
完全に見切った鎌の腹を●怪力盾受けで逸らし

ここで処刑されるのは残り一人…

体勢崩した敵の喉を剣で一閃

それは貴女です



 怨念渦巻く地底にあって、『赤の処刑人』は咆哮する。
 それは己にまとわりつく怨霊たちを一気に吹き飛ばすほどの力であった。最早、その表情に苛立ちを隠すほどの余裕はどこにもなく、あるのは己を此処まで追い込んだ猟兵への怒りだけであった。
「退屈していたからって別に戦いたいってわけじゃあないんだよ、わたしは……! わたしはわたしが気持ちよく首を狩ることができれば、それでよかったんだ。なのに、なのに……!」
 喉元に輝く『番犬の紋章』の力が弱まっているのだろう。
 その輝きは今や鈍く輝くのみ。しかし、それでも未だ『赤の処刑人』が放つ重圧は凄まじい。何処まで行ってもオブリビオンであり、ヴァンパイアであることに違いはないのだ。

 周囲にはこれまで彼女が殺してきた遺骸が残っている。片付けた、と彼女が言っていたのは、僅かなものばかり。それだけ毎日当たり前のように、暇つぶしのように人間の生命は消費されてきていたのだ。
 トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は、その遺骸を捉え、何かを言うこと無く己の剣を掲げた。
「最早、問答は無用でしょう。その大鎌、これ以上人々に振るわせはしません。騎士として討ち取らせて頂きます」
「ぬかせ―――! 猟兵風情が吼える! 何が騎士だ!」
 互いの視線がかち合えば、そこにあるのは最早互いが滅ぼし合う間柄でしかないということ。どうあっても相容れぬ存在が対峙した以上、そこに残る結末は一つしかないだろう。

 アイセンサーがゆらめき、瞬時に肉薄する『赤の処刑人』の挙動を捉える。
 相手の得物は長物である。大鎌は、そのリーチこそが最大の長所であり、弧を描く刃の軌道は効率よく斬撃の鋭さを伝えるためのものだ。
「機械だろうがなんだろうが、首をもいでしまえばいいだろうさ。それで止まらないっていうのなら、その全身くまなく切り刻む―――!」
 振るわれる斬撃の鋭さは言うまでもない。
 かつて地上にあって同胞であるヴァンパイアをして忌避せしめた『同族殺し』ですらも一刀のもとに切り捨てることができるほどの実力差。
 その斬撃を受けてトリテレイアが耐えられるのはせいぜい一撃だけであった。

 故に脚部スラスターを噴かせ、立ち回る。
 それは決してあの斬撃を受け止めてはならぬという意識があってのことだった。大盾で受け止めた斬撃は、その鋭さ故に、袈裟懸けに切り捨てられ、重質量の頑強なる装甲をものともしないことを証明してみせた。
 本来であれば、破損した大盾は投げ捨てるところであるが、トリテレイアはそれをしなかった。剣と破損した盾を武器のように扱い、挑発するように立ち回るのだ。
「盾を切り裂いた程度で、そんなにお喜びになるとは―――些か気が早いのではないでしょうか? 未だ私の首はつながったままでありますよ?」
 その一言が『赤の処刑人』の逆鱗に触れたことは言うまでもない。
 方向がほとばしり、冷静さを喪ったであろう『赤の処刑人』の斬撃が嵐のようにトリテレイアを襲う。

 だが、それはトリテレイアにとって願ってもない攻撃であった。
 怒りは確かに瞬発的な力を引き上げる。
 けれど、その動きは雑な物に成り下がり、決定的な隙を生み出す。ましてや狙い部位が一点であるというのなら―――。
 放たれた格納銃器からの弾丸が『番犬の紋章』輝く喉元へと放たれる。それは必殺の間合いであり、タイミングであったが、大鎌の刃がそれを防ぐ。
「もう何度も見たよ、そういう攻撃はさ! わたしの紋章が弱点だって知っているんなら、そこを狙う攻撃だけ気にしてりゃいいのさ!」
 振るわれる大鎌。
 けれど、トリテレイアにとって、弾丸の一撃が防がれたことはどうでもよかった。
 ただ、銃撃に意識を持っていかせればよかったのだから。

「もらった―――!」
 大鎌の斬撃が、その刃がトリテレイアを狙う。
 しかし、その斬撃の鋭さ、速度はすでにトリテレイアは知っていた。袈裟懸けに切り捨てられた大盾には角度が付いている。
 その面を持って大鎌の刃の腹を叩いてそらせば、斬撃は容易に反らすことができる。
「もらった、とほくそ笑むのは二流のやることですよ―――ここで処刑されるのは残り一人……」
 大振りの攻撃によって体制を崩すように誘導せしめた技術こそが、機械騎士の戦闘舞踏(マシンナイツ・バトルワルツ)である。
 最小にして最速の動き。
 一切の無駄を削ぎ落とした動きは機械たる己の身だからこそ為し得た動きである。放たれた剣閃が『番犬の紋章』を切り裂くように振るわれ、その輝きを失墜させる。

「―――それは、貴女です」

大成功 🔵​🔵​🔵​

戒道・蔵乃祐
そろそろ終わりです
それで、満足しましたか?

こんなことが貴女の望みだったのですか?

悠久を生きる者に生の実感は、闘争に焦がれ痛みと傷を刻み
血を流す以外は何も感じない程、心を磨耗させてしまうのか

空虚な容れ物に狂った魂が縛られた呪われし命脈
この場この時のみであったとしても
断ち切らせていただく


大連珠で死刑執行の大鎌を武器受け
数珠を砕く破壊と膂力で更に刃を押し込まれる瞬間
持ち手を絡め取る数珠紐の早業で両腕を拘束
達人の智慧発動
真の力解放
羅刹天の権能を宿す神降ろし
その力を封じる!

🔴
重量攻撃で地に叩き付けるグラップルの背負い投げから
チョークスリーパー式STFで喉輪をロック
限界突破の怪力で紋章ごと首を捩じ切る



 剣閃の一撃は喉に輝く『番犬の紋章』の輝きを喪わせた。
 残るは、ただ一つの生命のみ。すでに『門番』としての力は、尽くが猟兵達によって霧散させられてきた。消耗が激しければ、紋章の力とて無限ではない。
 輝きを喪った紋章を持つ『赤の処刑人』にとって、それは死と同義であったことだろう。
 喉から溢れる流血が塞がらない。
 未だ首こそがつながっているような状態であるものの、もはや死に体である。

 何故だ、という感情しか『赤の処刑人』の中には浮かんでこなかった。
 どうしてこうなったという、焦燥だけが彼女を駆り立てる。
 逃げなければ。逃げて、逃げて、態勢を建て直さなければ。紋章の力が回復すれば、猟兵など―――。

「そろそろ終わりです。それで、満足しましたか?」
 それははじめに聞いた声であった。
 振り返る。そこにあったのは偉丈夫―――戒道・蔵乃祐(荒法師・f09466)の姿である。
「こんなことが貴女の望みだったのですか?」
 その問答は最早無意味である。蔵乃祐にとっても、『赤の処刑人』にとっても。
 蔵乃祐にとって『赤の処刑人』とは、すでに憐れなる隣人にほかならない。見る影もなく消耗しきった姿はいっそ憐れであったが、それでも彼女が犯してきた罪は灌がねばならない。
 大鎌を握りしめる手が、それを証明していた。
 悠久の時を生きるヴァンパイアにとって、『生』とは一体なんであろうか。『生』の実感なく、闘争に焦がれ、痛みと傷を刻み、血を流す以外に何も感じることがないほどに心を摩耗させてしまったことが、このような惨劇を生み出したのか。

 否。
 否である。過去の化身である以上、己の欲求のみに従って生きてきた末路がこれであろう。
「空虚なる容れ物に狂った魂が縛られた呪われし命脈……この場、この時のみであったとしても―――」
 蔵乃祐の眼前に迫る大鎌の刃。
 十全であれば、その斬撃を防ぐことはできなかっただろう。けれど、彼の持つ大連珠は斬撃を受け止める。数珠の間に挟み込まれた瞬間、その超絶なる握力で持って握り締められた大連珠が大鎌の刃を砕く。
 即座に大連珠が絡みつき、その両腕を絡め取る。

 振るうは守護明神の力。
 纏うは羅刹天の権能。神降ろしの如き膂力。
「―――断ち切らせて頂く」
 大連珠毎高速した『赤の処刑人』を裂帛の気合とともに蔵乃祐は背負う。それは大樹すらも引き抜き大穴を穿つ大地から得られる無窮なる力。
 人は二本の足で立つが故に、その大地を踏みしめる。その瞬間、人と大地は一体となりて、合理の向こう側へと力学を押し出す。

 背負投の一閃が『赤の処刑人』の背中を強かに打ち据える。
 血反吐が吐き出され、激痛が走ったことだろう。故に、蔵乃祐の手は早かった。その激痛すらも即座に与えぬようにと回された太きかいなが錠前を締めるように、その細首―――『番犬の紋章』の輝き潰えた喉を締め、神力の如き怪力で持って、その素っ首を捩じ切る。

「―――」
 救世救道を征くのならば、それこそが慈悲であろう。
 長く続く苦しみは、人の心を摩耗させる。ならば、即座に断ち斬るもまた慈悲である。
 霧散し消えていくヴァンパイアの最後の一片を見送り、蔵乃祐は地底都市の入り口を見据える。
 救いを求めることすら知らぬ者たちが今も尚虐げられているという事実。
 それを打ち砕くために己の拳は穿たれるのだと、蔵乃祐は信じて道を進むのだった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『グレイブヤードゴーレム』

POW   :    なぐる
【拳】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD   :    ふみくだく
【踏みつけ】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【の土塊を取り込み】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
WIZ   :    さけぶ
【すべてをこわしたい】という願いを【背中の棺群】の【怨霊】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。

イラスト:V-7

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 猟兵達は地底都市の『門番』である『赤の処刑人』を下した。
 激戦に継ぐ激戦であったが、それでも猟兵達の戦いはまだ終わってはいない。一刻も早く地底都市へと強行し、未だ虐げられる人々を監視するオブリビオン兵士―――グレイブヤードゴーレムたちを打ち倒さなければならない。

 一体たりとて残してはおれない。
 逃してもやれない。もしも、逃してしまえば、地底都市の人々を地上へと誘う時間がなくなるからだ。
 そうなっては本末転倒である。

 そして、もう一つの目的がある。
 地底都市に住まう人々は希望を知らぬ。オブリビオンに虐げられる日々こそが、平坦なる日々であり、日常であるのだ。
 故に希望を知らぬ者たちに、希望を知らしめるように猟兵達は戦わなければならない。希望の光にくべるは勇気である。
 猟兵達の戦う勇気は、きっと地底都市の人々に勇気という感情を湧き上がらせ、希望という灯火を灯すことだろう。

 そのために猟兵は戦わなければならない。
 誰かのために、虐げられた人々のために、その力を今、奮う時なのだ―――!
村崎・ゆかり
黒鴉召喚で地下と市内全域に「偵察」に出して走査・把握し、騒ぎを起こすならどこがいいか、人々を逃がすならどのルートかを判断する。

人々の避難誘導はアヤメに任せて、あたしは派手にいきましょうか。
広場かそこらで、始めるわ。

「高速詠唱」「全力魔法」酸性の「属性攻撃」「範囲攻撃」「結界術」で紅水陣展開。
敵が無機物のゴーレムなら、強酸はしっかり効くでしょう。
あたし自身は「環境耐性」「地形の利用」「呪詛耐性」で強酸の庭となった戦場を駆け巡るわ。
ゴーレムが崩れ始めたら、薙刀を突き込み「串刺し」や「なぎ払い」を。

さあ、いくらでも湧いて出るといいわ。ここは今、あたしのフィールドよ。侵入してくる木偶は、悉く無に還す!



 地底都市への道は拓かれた。『門番』として存在していた『赤の処刑人』は猟兵によって下され、その姿は『番犬の紋章』と共に霧散して消えた。
 残るは地底都市。
 そこに蔓延るオブリビオン兵士であるグレイブヤードゴーレムが異常を察し動き出す。人々は隷属を強いられているが、そのオブリビオンであるグレイブヤードゴーレムが動き出す意味を知らない。
 今まさに希望の灯火とならんとする者達―――猟兵たちが到来しようとは思いもしなかったのだ。

 何処までも続く仄暗い大地。
 地底都市は都市というよりも監獄そのものであったかもしれない。地上は魔法のガスが蔓延し、微かに光を放つ。
 それはダークセイヴァー世界における地上と同じような光景であった。
 人々は希望が何であるかをしらない。
 己達の生命など、塵芥のように気まぐれにヴァンパイアによって奪われるだけの存在でしかないと、徹底して叩き込まれている。
 そんな地底都市を眼下に捉え、飛ぶのは黒鴉の式神。
 村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)が放った黒鴉の視界は彼女と同調し、つぶさに地底都市を上空から観察する。

 どこで騒ぎを起こすのがいいか。
 それはゆかりにとっては関心事の一つであったが、同時に人々を逃がすのならば、どのルートが最適かを模索するためでも会った。
 人々の避難誘導は式神のアヤメに任せてもいいだろうと判断していたのだが、出現したオブリビオン兵士であるグレイブヤードゴーレムによって、それは急遽変更しなければならなかった。
「アヤメ、避難誘導は任せたわ! あたしは派手に行きましょうか―――!」
 ゆかりは駆け出す。
 地底都市のオブリビオンにとって人間の生命は、家畜以下である。自分たちの巨躯の足元で人々が潰れたとしても意に介さない。
 広場らしき開けた場所においても、それは変わらない。人間の住居など知ったことがないというようにグレイブヤードゴーレムは歩き出す。

 地鳴りが響き、建物が瓦解する。
「あたしはこっちよ! さあ、いくらでも湧いて出るといいわ―――古の絶陣の一を、我ここに呼び覚まさん。魂魄までも溶かし尽くす赤き世界よ、我が呼びかけに応え、世界を真紅に塗り替えよ。疾っ!」
 ゆかりのユーベルコードが輝く。
 その輝きを見たグレイブヤードゴーレムは、きっとゆかりの姿を捉えることなく崩れ去ってしまったことだろう。

 ユーベルコード、紅水陣(コウスイジン)。
 彼女のユーベルコードは、真っ赤な血のような、全てを蝕む強酸性の雨を降らせた。すぐにゆかりの周囲は、あらゆるものを腐食させる赤い靄の中へと沈む。
 強酸性の雨はグレイブヤードゴーレムの身体を尽く崩す。崩れきらないまでも、少し動いただけでも、その体は己の動きに耐えられずに脱落していくのだ。
「無機物のゴーレムだっていうのなら、強酸はしっかり効くでしょう!」
 ゆかり自身は環境に対する態勢を既に獲得している。
 広場は最早、強酸の庭となり、ゆかり以外の存在は生存などできようはずもない。

「ここは今、あたしのフィールドよ。侵入してくる木偶は、悉く無に還す!」
 手にした紫に煌めく刃を持つ薙刀を奮う。
 グレイブヤードゴーレムにとって、猟兵は排除すべき敵である。だが、強酸の雨降りしきる場において、ゆかり以外の存在は立ち所に崩落していくしかない。
 さらにゆかりの薙刀が振るわれれば、もろくなったグレイブヤードゴーレムなど、ただの大きな木偶人形に他ならない。

 どれだけ全てを壊したいと願ったとしても、グレイブヤードゴーレムたちには強酸の雨をどうにかするだけの力はない。
 真っ赤な血のような雨が洪水のように広場を満たす時、その場に立つゆかりだけが、地底都市に真っ赤な花を咲かせるように、強酸の雨を降らせ続けるのだった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

須藤・莉亜
「いやぁ、美味しかったねぇ。」
やっぱり、ヴァンパイアは吸い殺すに限るね。

で、次の敵さんは…?ゴーレムじゃん。めっちゃ岩じゃんか…。
テンション下がるなぁ…。

悪魔の切り売りのUCを発動し、右腕を悪魔化。
んでもって、敵さんらを無重力状態にして空中に飛ばす。
そこから高重力をかけて一気に地面に叩きつけて壊す。
まだ動くようなら、重力をさらに強めて潰し続ける事にしようか。

悪魔の見えざる手にはLadyで動きが鈍った敵さんらを攻撃しといてもらいます。

僕は左手で煙草でも吸っとこうかな。

「僕は良い吸血鬼なんで。あんなのと一緒にしないでね?」
地底都市の人たちが、僕からビミョーに距離を取ろうとするのはなんでだろ?



「いやぁ、美味しかったねぇ」
 その声はご機嫌そのものであった。長らく抑え続けていた吸血衝動の反動であろうか、それとも対峙したオブリビオンがヴァンパイアであったからであろうか。
 その吸い上げた血の滴る味は、たしかに満足行くものであったのだろう。須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)は満足げな表情のまま、地底都市へと舞い降りた。
 ひ、と小さな悲鳴が聞こえた。
 莉亜は視線を巡らせると、己を遠巻きに見つめる地底都市の住人であろう人間たちが、莉亜の姿を見て恐れおののいている。

 ああ、と莉亜は得心行った顔になる。
 どうやら吸血衝動に満足したとは言え、今の己の姿は確かに吸血鬼―――地底都市の人間たちを脅かし、搾取する側のヴァンパイアと似通った姿に見えるのだろう。
 心外出会ったが、それは理解できる心情でもあった。
 そこに地響きを鳴らし、グレイブヤードゴーレムたちの群れが、周囲の建物を破壊しながら莉亜へと歩みをすすめる。
 踏みつける足が地底都市の大地を穿ち、踏み固めると同時に己達の身体へと取り込んで、さらなる強大化を見せる。
「なるほどなぁ……攻撃と外れても己の身体の一部にするっていう一挙両得みたいな攻撃手段……でもなぁ……」
 敵さんゴーレムじゃん。めっちゃ岩じゃんか……。とあからさまにテンションの下がってしまった莉亜が居た。
「テンション下がるなぁ……でも、仕方ない」
 一欠片でも現世に出してあげるんだから、僕に感謝してよねー、と莉亜がつぶやくと、己の右腕を悪魔へと変貌させる。
 それは重力を自在に操る能力を持つ悪魔を解き放つ。悪魔の切売り(アクマノキリウリ)そのものなユーベルコードであるが、その力は絶大である。

「さあ、その身体の売りである重さを奪おうか―――」
 悪魔に明示、グレイブヤードゴーレムたちの周囲を無重力状態へと変え、ふわりとその巨躯を宙へと舞い上げる。
 同時に解除し、重力を取り戻した巨体が地面へと強烈に叩きつけられる。
 砕け、破片が飛び散る中、凄まじい振動が周囲に伝わる。それは天と地が引っくり返ったかのような凄まじき振動。
 ぎしぎしと鈍い音を立てて立ち上がろうとするグレイブヤードゴーレムを再び無重力状態へと変え、宙に舞い上がらせる。そして、また解除し叩きつける。
 それは一方的な戦いであった。

 動こうとすれば宙に舞い上げられ、叩きつけられる。
 それを何度も繰り返せば、物言わぬ土塊と変えるは道理であった。
「さて、こんなものかな―――じゃあ、後はLady……よろしくね」
 そう言って莉亜は煙草を手に取る。
 何となくもう習慣化しているようなものでは在るが、自然な仕草で戦いの最中であることを感じさせない。
 火を付ける音が響き、紫煙をくゆらせる。
 岩。
 岩って。莉亜の頭の中はそれだけだった。もっと吸いごたえのあるの敵さんがよかったと、紫煙吐き出しながら嘆息する。あのヴァンパイアはよかった。
 やっぱりヴァンパイアは吸い殺すに限る。あの美味を思い出せば、頬が緩みそうになるも、煙草の煙を吸い込んでごまかす。

 視線を感じれば、未だに恐る恐ると言った体で地底都市の住人たちがこちらを伺っている。
「僕は良い吸血鬼なんで。あんなのと一緒にしないでね」
 莉亜にしてみれば、この地底都市を管理していたヴァンパイアとは違うのだということを説明したかったのだけれど、自身もまた吸血鬼であると名乗ったことがよくなかった。
 微妙に距離を取ろうと後ずさっている光景を見て、莉亜はなんとなく傷ついたような面持で、それこそ微妙な表情のまま紫煙をくゆらせる。

 岩のゴーレムに住民からは距離を置かれ、なんとも言えない。
 そんな中、自分を慰めるように紫煙が周囲に漂い続けるのであった―――。

成功 🔵​🔵​🔴​

髪塚・鍬丸
闇に生き、影に潜むのが忍者の生き様。今回の任務も、人知れず片付けるのが本領なんだが。それじゃあ虐げられた人達の希望にはなれない。
派手にいこうか。

「万倉帯」から「忍鎧·天戎」を展開、【早着替え】で装着。
【三極の術】で更に転身。白い影と化す。スラスターを噴射して【空中戦】、空へと飛び上がる。
頭上の相手を踏みつける事は出来ないだろう。飛び上がられても【早業】で回避する。
「風魔手裏剣」の【衝撃波】を【投擲】し撃破しつつ、人々のいない場所へ誘導しよう。
広い場所へ誘導したら、上空で装束の色を白から赤へ。
人々の目に映る様に、全身のスラスターを砲門に変えて破壊光線を発射、【範囲攻撃】で敵を纏めて【なぎ払う】。



 希望を知らぬ者に希望を知らしめるには如何なる手段を用いれば良いのだろうか。
 それは髪塚・鍬丸(一介の猟兵・f10718)にとって難題であった。己の身は忍びの身。それ故に闇に生き、影に潜むのが忍者としての生き様であると、その心身には刻まれている。
 今回の任務―――地底都市の『門番』とオブリビオン兵士たちを打倒するのも、人知れず片付けるのが己の本領であると鍬丸は思っていたのだが、ことはそう簡単には済まない。
「それじゃあ虐げられた人達の希望にはなれない。なら―――派手にいこうか」
 ベルト型の携帯倉庫に手をやる。それは次元を折りたたむことによって体積と質量を無視した装備を積載、展開可能にする万倉帯。
 それより取り出したるは宇宙服を改良した忍び装束。一瞬の早着替えによって姿を変えた鍬丸はさしずめ変身したと言っても差し支えのないほどの早業であった。

「……転身」
 さらにユーベルコードの輝きが鍬丸を包み込む。
 三極の術(サンキョクノジュツ)。それは鍬丸の忍び装束にさらなる力を与えるユーベルコードである。反重力飛行を可能にする白い忍び装束に姿を変え、白い影と化した鍬丸は、地底都市を瞬時に駆け抜ける。
 地底都市へと侵入した猟兵を迎え打とうと集まってきたグレイブヤードゴーレムたちの姿を捉えると、空へと舞い上がる。
「その巨躯を利用して踏みつけることが最大の攻撃のようであるが―――」
 舞い上がった鍬丸の体は、きっと白羽根よりも軽やかに地底の空を舞う。グレイブヤードゴーレムたちが建物の損壊など気にしたようすもなく猟兵である鍬丸を付け狙うのであれば、人々への被害ないようにと、誘導するように次々とグレイブヤードゴーレムの頭上を征く。

「手前らの頭を抑えられたとあっては踏みつけることも叶うまい」
 白い影を追いかけるグレイブヤードゴーレムたちは徐々に誘導されるように広い広場へと到達する。
 そこが己達の最後の場所になろうとは露とも思わなかったことだろう。ようやく、この白い影を追い詰める事ができたとでも思ったのだろう。
 だが、それは大きな誤りである。
 即座に投げはなった風魔手裏剣が衝撃波放ちながら、グレイブヤードゴーレムの巨躯を打つ。それは足止めの一手であったが、後続のグレイブヤードゴーレムたちへと転倒し、もつれるようにドミノ倒しのような要領で次々と地面へと倒れ込んでいく。

「好機―――!」
 白い影が飛び上がり、空中で忍び装束の色が変わる。その色は白から赤へ。
 その綺羅星の如き赤き星は、人々の視線を地面から地底の天井へと向かせるには十分な輝きであった。
 鍬丸は己が忍びであることを一瞬忘れる。
 放たれるは破壊光線。忍鎧・天戎のスラスターを砲門に変えての一斉射が倒れ込んだグレイブヤードゴーレムたちの体を撃ち貫き瓦解させる。
 その輝きは確かに人々の瞳に希望の光として映ったことだろう。忍びとしては、己の流儀に反する行いであったが、鍬丸の心はどこか晴れやかであったかもしれない。

 なぜなら、赤き星の如く地底の空に浮かぶ姿は綺羅星。
 その綺羅星を見て、瞳を輝かせる人々には、生きることへの希望が宿り始めていた。流儀を曲げる。
 それは並大抵の勇気では為し得ぬことだ。
「ご下命如何にしても果たすべし―――ならば、俺は今だけ人々の心を照らす綺羅星となろう―――!」
 その姿は燦然と輝き、グレイブヤードゴーレムたちを悉く討ち果たすのであった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルムル・ベリアクス
パワーのありそうなオブリビオンですね。虐げられた人達がどんな目に遭ってきたことか……。そんな日々も今日で終わりにしてみせます。
UCで暴虐の悪魔を憑り付かせ、凶悪な姿に変身します。……わたし達とあなた達の破壊衝動、どちらが勝つでしょう?
悪魔の翼で飛び回って敵の攻撃をかわしつつ、頭を狙って牙や爪で攻撃します。怨霊を放ってきたら、熱光線の【乱れ撃ち】でゴーレムごと焼き尽くします。
もしも人々に危険が及ぶようなら、強化された肉体を活かして【かばう】で守ります。
まさに悪魔という戦いぶりで、一人のダークヒーローとしての圧倒的な力を人々に見せつけます。
これ以上の犠牲があってはいけない。絶対に、守り抜きます!



 地底都市は今や混乱の最中にあった。
 地上と地底の往来を阻む『門番』である『赤の処刑人』は猟兵達によって骸の海へと還された。
 その異常事態を察したオブリビオン兵士であるグレイブヤードゴーレムたちが地底都市を進む。
 一歩を踏み出す度に地底都市の大地は揺れる。
 背中に墓石を纏わせた姿は、人々にとって恐怖の対象でしかない。もはや恐ることにも慣れ、諦めることにも慣れてしまった人々にとって、オブリビオン兵士であるグレイブヤードゴーレムたちが逼迫した雰囲気で都市内を駆け抜けるのは見慣れぬ光景であったことだろう。
 何が起きているのかもわからぬまま、ただただグレイブヤードゴーレムに不利三粒されぬようにと逃げ惑う人々をルムル・ベリアクス(鳥仮面のタロティスト・f23552)は憐情の念と共に視界に収めていた。

 だが、今意識を向けなければならないのがグレイブヤードゴーレムである。
「パワーのありそうなオブリビオンですね。虐げられた人達がどんな目に遭ってきたことか……そんな日々も今日で終わりにしてみせます……」
 ルムルにとって地底都市の人々は護るべき対象である。例え、それがエゴだと誹られようとも、彼はその行いを止めるつもりはない。改めるつもりもない。
 あるのは人々を苛む苦しみから開放しなければという愛故に。

「悪魔よ、今こそこの肉体に融合せよ!……さて、わたし「達」を止められますか?」
 ユーベルコードが輝き、ハイブリッド・エクリプスとでも言うべき姿が顕現する。悪魔の力を憑依させた肉体はより筋肉質になり、あらゆる力が底上げされる。
 咆哮するような声が響き渡り、悪魔の力を宿した肉体が躍動する。地底都市を駆け抜ける姿は、まさに悪魔そのものでありながら、その行いは人々を護る戦い。
 悪魔の翼が広がり、ルムルが空を駆ける。
「……わたし達とあなた達の破壊衝動、どちらが勝つでしょう?」
 空を舞うルムルを追うグレイブヤードゴーレムたちが懸命に手を伸ばすも、強化されたルムルに追いすがることはできようはずもない。
 捉えられぬ速度で空を舞い、地底の天井すれすれまで舞い上がったルムルが急降下と共に己の変貌した巨大なる鉤爪を一直線に奮う。

 それは一撃の下にグレイブヤードゴーレムを両断する。唐竹割りのように両断されたグレイブヤードゴーレムの巨躯が左右に分かたれていく。
 さらにルムルを襲う墓石より飛来せし怨霊を見やれば、その赤い瞳が憐憫の念を受けて煌めく。
 開いた口より放たれた熱光線が怨霊ごとグレイブヤードゴーレムの体を融解させ、大穴を穿つ。
 その圧倒的な力は、意志なきグレイブヤードゴーレムをしてひるませるものであり、敵わぬと見れば闘争しようとあちこちの建物を墓石ながら逃げ惑う。
 その瓦礫、逃走を開始しようとするグレイブヤードゴーレムを逃すルムルではない。がら空きの背後より飛来し、かぎ爪の一撃を見舞う。けれど、その一撃は市街地へと侵入したグレイブヤードゴーレムの残骸とも言うべき体を護るべき人間たちの頭上へと―――。

「これ以上の犠牲があってはいけない―――!」
 戦うよりも、敵を倒すよりも優先すべきことがルムルにはあった。
 人間。
 この地底都市において、人の生命はおそらく軽いものであるのだろう。それは地底都市に住まう人間たちが一番よくわかっている。
 あらゆるものを諦めてきていた。
 己の頭上へと飛来するグレイブヤードゴーレムの破片。それすらも己の運命と、死せる運命を受け入れた顔をしていた。

 けれど、ルムルが守りたいと願ったのは、その生命なのだ。
 瓦礫に押しつぶされんとする人間たちを護ったのは、悪魔の如き姿を誇るルムル背中であった。
 それは打算ではない。戦いに勝つ、というのであれば、多少の犠牲に目をつむっても良かったのかも知れない。
 けれど、少しの生命も諦められない。
 それがルムルの愛なれば、護るは必定であった。助けられぬ生命があろうとも、生命を諦めることなどできようはずもない。
「絶対に―――守り抜きます!」
 瓦礫を弾き飛ばし、人々の前に現れたのは悪魔の姿をした優しき者の姿。
 人々は、その姿に畏れを抱くことはなかっただろう。
 どれだけ恐ろしい姿をしていたとしても、その行いが。その己を顧みない勇気が。どれだけ絶望と諦観に塗れた人々の心を前に進ませたであろうか。

 ルムルの勇気ある行いは、飛び火するように人々の心に希望という灯火をきっと灯したのだった―――。

成功 🔵​🔵​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
…同じね。彼らは少し前までの地上の人々と…

…絶望に染まった彼らに手早く希望を伝えなければ、
後の計画に支障が出るかもしれない以上…致し方ない

…今一時、狩人ではなく英雄として振る舞いましょうか

UCを発動して大鎌に闇属性攻撃の魔力を溜め武器改造
大鎌を巨大剣の柄に変形して長大な呪詛の光刃を形成

…遠からん者は音に聞け。近くば寄って目にも見よ…!

我こそはリーヴァルディ・カーライルなり…!

常以上の存在感を放つ"血の翼"を広げ空中戦機動で敵陣に切り込み、
残像が生じる早業で限界突破した光剣を振るった後、
怪力任せに敵陣をなぎ払う2回攻撃を放つ

…さあ、起きなさい、過去を刻むもの

この一閃、その目でしかと見届けよ…!



 地底都市から見える空は地上の底に在って天井でしかない。
 けれど、魔法のガスが仄かに光を放つ光景は、ダークセイヴァー世界において、地上の世界と変わらぬ光景であった。
 そして、そこに住まう人々もまた隷属を強いられるという点においても地上と代わりはなかった。
 それほどまでにダークセイヴァー世界においてヴァンパイア支配は盤石である。ただ、今までと過去が決定的に違うことがある。
 地上には今、『闇の救済者』たちが作り上げた『人類砦』が存在しているということだ。陽の光当たらぬ世界においても希望をは灯される。
 猟兵たちにとって、それは未だ、か細い光ではあるものの、それを絶やさぬようにとたゆまぬ努力を続けてきたからこそ、今、地底都市に住まう人々に希望を齎すことができるのだ。

『門番』である『赤の処刑人』が猟兵たちに倒されたことによって、以上を察したグレイブヤードゴーレムたちが地底都市を闊歩する。
 その一歩を踏み出す度に地響きが響き渡り、地底都市に置いて隷属を強いられる人間たちは恐れ慄くばかりであった。
 誰も彼もが、今何が起こり、これから何が起ころうとしているのか理解も出来なければ想像もできない。
「……同じね。彼等は少し前までの地上の人々と……」
 リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は、その瞳に写す地底都市に生きる人間たちの顔をよく知っていた。
 希望無くば絶望も知らないはず。けれど、そこには諦観がある。諦観は全ての絶望の始まりだ。

「……今一時、狩り人ではなく英雄として振る舞いましょうか」
 それは後の計画に支障をきたすほどの絶望に塗れた地底都市に生きる人間たちには必要なことであった。絶望しなかい者たちに希望の火を見せたとして、それを理解できぬままに終わってしまったのだとすれば、猟兵たちが地底都市にやってきた意味がない。
 故にリーヴァルディは詠唱を開始する。
「……黒剣覚醒、呪言詠唱開始。黒き咎人に断罪の刃を……」
 過去を刻み未来を閉ざす黒い大鎌に魔力が溜め込まれていく。その姿が変貌を遂げ、巨大剣の柄となり、長大なる呪詛の光刃が形成される。
 それこそが、代行者の羈束・過去を刻むもの(レムナント・グリムリーパー)。
 黒剣を手に、リーヴァルディは駆け出す。

 グレイブヤードゴーレムたちが一斉にリーヴァルディの姿を認め、大挙して現れる。その威容はさながら墓場が移動してきたというだけでは言葉が足りない。
 まるで小高い丘が大挙してリーヴァルディを押しつぶさんとするような威容があった。
 けれど、リーヴァルディは一歩も退かない。退くわけにはいかない。
「……遠からん者は音に聞け。近くば寄って目にも見よ……!」
 その声は凛と遠くまで響き渡る玲瓏なる声であった。
 己の存在をグレイブヤードゴーレムだけではない、この地底都市に住まう人間たちにも誇示するものであった。
「我こそはリーヴァルディ・カーライルなり……!」
 それは宣言であった。
 絶望しか知らぬ者たちに希望の灯火を齎す者としての宣言。掲げた長大なる黒剣が闇色に輝き、圧倒的存在感を放つ“血の翼” が羽ばたけば、その体を空へと舞い上げる。

「……さあ、起きなさい……過去を刻むもの」
 その剣閃は一瞬であった。
 彼女の姿が残像として色濃く残るほどの空中機動。それは赤き閃光となって空に刻まれ、彼女の振るった光剣の刃が、大挙したグレイブヤードゴーレムの体を一瞬のうちに薙ぎ払う。
 全てのグレイブヤードゴーレムたちが十字の斬撃の痕を刻まれ、土塊と還る。土塊は霧散し、骸の海へと還っていく。
「この一閃、その目でしかと見届けよ……!」
 放たれた剣閃は、グレイブヤードゴーレムが霧散した後にあっても尚残り続けるほどのまばゆき十字。

 その十字を持ってして、リーヴァルディは希望として掲げる。
 どれだけ強大なる支配者がいようとも、この十字の剣閃を前に逃れることは出来ないのだと。
 不死たるヴァンパイアであったとしても、リーヴァルディ自身が打ち倒すと。
 その希望の象徴たらんとする声が、地底都市に希望の喝采を生み出すのであった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルトリウス・セレスタイト
まずは殲滅か
脅威が失せればどうとでもできる

自身への攻撃は『刻真』で終わらせ対処
必要魔力は『超克』で“世界の外”から汲み上げる
天楼で捕獲
対象は棺内の怨霊含む戦域のオブリビオン、及びその全行動
原理を編み「迷宮に囚われた」概念で縛る論理の牢獄に閉じ込める

内から外へは干渉不能、逆は自由だ
対象外のものは全て何の制限も受けず、目の前にいようと内部から手は出せん
精々憤れ。それをできる思考があればだが

出口は自身に設定
真っ直ぐは進めんし、自壊の原理は止まらず、攻撃自体も自壊対象
急がねば脱出も破壊も間に合わなくなるぞ

仮に届く個体があれば打撃で対処
『討滅』を乗せて撃ち込み始末

※アドリブ歓迎



 地底都市の仄暗い世界は、魔法のガスが僅かに光を放つが故にダークセイヴァー世界の地上と同じような光景をもたらしていた。
 そんな地底都市にあって、淡青が漂うようにアルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)の周囲は別種の明るさによって満ちていた。如何なる原理において、その光が生み出されているのか、それを知る者はアルトリウスをおいて他にいないであろう。
「まずは殲滅か……脅威が失せれば、どうとでもできる」
 そんな彼の前に立ちふさがるのは巨躯を誇るグレイブヤードゴーレムの群れであった。

 地底と地上との間にたって『門番』としての役割を果たしていたヴァンパイア、『赤の処刑人』はすでに猟兵達によって打ち倒されている。
 戦闘力における本丸をすでに落とした状態であるが故に、アルトリウスの声色は余裕があった。
 どれだけの巨躯が己に迫ろうとも、それが意味を為すことはない。振るわれた巨腕の一撃がアルトリウスへと繰り出されても、漂う淡青の光と共に時の原理によって、『攻撃した』という事実だけが終わる。
 それは一瞬で時が加速したかのような現象であったことだろう。
 確かにグレイブヤードゴーレムの巨大なる拳がアルトリウスへと繰り出された。
 けれど、その一撃はアルトリウス自身へと叩きつけられることなく、空を切る。いや、空を切ったという事実すらも、ごっそりと抜け落ちている。
「―――?」
 グレイブヤードゴーレムの動揺も無理なからぬことであったことだろう。

 その原理がどれだけの魔力を要するのか想像を絶するものであったが、すでに魔力の源泉はこの世界の外にある。
 そこから汲み上げるかぎり、魔力に底はない。
「惑え」
 ただ、それだけの言葉。
 短く発せられたのはユーベルコード、天楼(テンロウ)。戦場となった地底都市において、アルトリウスが選んだのは、グレイブヤードゴーレムの背に負った棺の中にある怨霊を含む全てのオブリビオン。
 すでに戦場はアルトリウスによって掌握されている。編まれた原理に寄って『迷宮に囚われた』という因果のみが残る。
 その概念の手繰り手がアルトリウス自身。

「内から外へは干渉不能。だが、逆は自由だ。目の前にいようとも内部からオレに手は出せん。精々憤れ。尤も―――」
 その瞳が見るは、如何なる原理か。
 すでに迷宮は成った。出口として存在するのはアルトリウス自身。迷宮はまっすぐ進むことはできず、かと言って自壊の原理は終わることはない。
 グレイブヤードゴーレムたちの失敗と言えば、たった一つしかない。

 そう、アルトリウスと会敵したことである。
 出会ってしまったことが滅びの運命。どこにもいけず、かと言って立ち止まることも許されず、ただ自壊の道を辿るほか無い。
 故にこの迷宮から出る手段は一つしかない。自壊し、己の存在を骸の海へと戻るほか無い。それ以外の道はない。
「―――それをできる思考があれば、だが」
 脱出を急ぐように迷宮内をさまよい続けるグレイブヤードゴーレムにその声は届かない。

 どれだけ急いでも、どれだけさまよって、出口であるアルトリウスへとたどり着く者はなかった。
 仮に辿り着いたのだとしても、アルトリウスが脱出を許すはずもない。
 圧倒的強者が見せる片鱗は、未だ一片にも満たさず。あるのは滅びへの道筋のみ。

 今もなお、淡青の光が、地底都市を柔らかく照らすばかりであった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

大町・詩乃
(ゴーレムの背中の棺桶を見て)生きている方々は勿論ですが、死なれた方々もお救いせねばなりません。

UC発動して空を舞い、詩乃の神力【光の属性攻撃・全力魔法・破魔・浄化・除霊・祈り・範囲攻撃・高速詠唱】による、怨霊を鎮魂する浄光を周囲全体に照らし、囚われた怨霊さん達を救います。

ゴーレム達は逃がさぬ様、UCによる攻撃力強化と【雷の属性攻撃・神罰】を籠めた煌月による【なぎ払い・範囲攻撃】で纏めて斬り倒します。

防御では【第六感・見切り・空中戦】により攻撃を軽やかに躱し、又は【オーラ防御】を籠めた天耀鏡の【盾受け】で弾きます。

ゴーレムを倒した後は「もう大丈夫ですよ、皆さん。」と人々に優しく微笑みかけます。



 人の信仰とは何か。
 それは人の心に光が在るから闇が存在するように、その心の闇に向き合う結果生まれるものであろう。けれど、実在する神が存在するのであれば、その闇と向き合うのは己自身でもあり、神の責務でもあったのかもしれない。
 魂という概念が見えざるものではなく、目に見えるものとして存在するダークセイヴァー世界……その地底都市にて死せる者たちが棺桶を背に負うグレイブヤードゴーレムに囚われ、死した後も隷属を強いられるのは、あまりにも惨たらしい事実であったことだろう。

 グレイブヤードゴーレムが咆哮する。
 地底都市の『門番』であった『赤の処刑人』が猟兵に打ち倒されたという異常を察して動き出したのだ。
 人間たちは、それを見ているだけしかできない。呆然と見上げる。
 ただあの足が己を踏みつけて、己の生命がなくなりませんように。そう祈ることも忘れて、ただ見上げていた。
 その瞳に在るのは絶望より昏き何かであり、それを振り払うことなど、地底都市にあっては容易なことではなかった。
 見上げる絶望の眼に不意に映ったのは、光。
 それは地底都市の天井に溜まった魔法のガスが見せる光とは違う光であった。

「……生きている方々はもちろんですが、死なれた方々もお救いせねばなりません」
 その輝きは信仰の輝き。
 神たる大町・詩乃(春風駘蕩・f17458)の後光が差し込む姿は、絶望の眼を僅かに鈍く輝かせる。
 詩乃の持つ、神力発現(シンリョクハツゲン)により戦巫女の姿と共に光り輝く姿は、飛翔する星のように地底都市という暗闇の中で、絶望の眼を、その一点に見上げさせる。
「世の為、人の為、これより祓い清め致します!」

 その光は燦然と輝くようでありながら、どこか優しい光であった。
 詩乃野持つ神性。その発露。優しく手招くような、そんな光。グレイブヤードゴーレムたちの背におった棺桶から怨霊たちが浄化されていく。
 強引に引き込むのではなく、導くような光は、どこまでも優しく、痛めつけられた魂を癒やしていく。
「人の魂の叫びが聞こえぬ土塊の輩たちよ。生きる人々の絶望を介せぬ人型であるというのならば、私があなた達を討ち祓いましょう―――」
 グレイブヤードゴーレムたちの方向が響き渡る。
 それは力の源である怨霊たちを奪われたからにほかならず、詩乃という猟兵を打倒さんとする。奮う巨大な腕も空を華麗に舞う詩乃には届かない。
 詩乃の神力が込められし薙刀の一閃が、グレイブヤードゴーレムの巨躯を一撃の下に両断せしめる。

「人々の安寧がないのなら―――」
 続けざまに薙ぎ払う薙刀の一撃がグレイブヤードゴーレムの足を払い、打ち倒す。
 大地に沈む巨躯を前に飛翔した詩乃が軽やかに空を舞い、その光をあまねくすべての人々の瞳に照らし出す。
 彼女にとって戦う理由はいつだって、誰かのためだ。
 信仰無くば己の力は衰える一方であったかもしれない。けれど、それでも詩乃は誰かのために戦うことをやめないだろう。
「私が人々の安寧となりましょう!」
 最後の一撃は光条がほとばしるように。次々とグレイブヤードゴーレムたちが霧散し、骸の海へと還っていく。

 彼女の掌の上にはグレイブヤードゴーレムたちに囚われていた怨霊たちが光と共の浄化されていく。
 再び骸の海よりグレイブヤードゴーレムたちが染み出してきたとしても、詩乃の救った怨霊たちが再びとらわれることはないだろう。
 微笑む姿を前に人々は膝を折る。
 信仰を知らず、希望を知らぬ人々であっても、そうすることはだれに教わる事無くしっている。
 祈る姿は、どの世界にあっても変わらぬ光景であった。
 そんな彼等を前に詩乃は微笑みながら―――。

「もう大丈夫ですよ、皆さん」
 その信仰の光を、希望の灯火を彼等の心に灯すのだった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

七那原・望
アマービレで呼んだねこさん達にお願いして人々の護衛をしてもらいます。

【果実変性・ウィッシーズホープ】を発動し人々に呼びかけます。
もう、あんなのに従わなくても良いのです。
入口を封鎖していたヴァンパイアはわたし達が倒しました。
この土人形達だってすぐに全滅します。
あなた達を縛るものは、もう何もないのです。
だからあなた達はもう、こんなものを恐れなくても良いのです。

【第六感】と【野性の勘】で敵の動きや攻撃を【見切り】、回避しつつ派手に【全力魔法】で土人形を蹂躙。
人々に恐怖感を植え付けないように魔法の種類等を選びつつ、ヒロイックに立ち回ります。

希望を持ってください。その為にわたし達は来たのですから!



 鈴の音が地底都市に響き渡る。
 そこに住まう人々にとっては聞き慣れぬ音であり、それが何を意味するのかもわからなかった。ただ、その音色が自分たちに害をなすものではないことはわかった。
 けれど、その鈴の音すらもグレイブヤードゴーレムの巨躯が一歩を踏み出す地響きにかき消される。人々の瞳に映るのは、その巨躯のみ。あれは彼等にとって絶望そのものであった。
「わたしは望む……ウィッシーズホープ!」
 その声はグレイブヤードゴーレムが響かせる地響きの音すらもかき消す声だった。七那原・望(封印されし果実・f04836)はどれだけ己の振るう白いタクトの奏でる鈴の音が絶望の象徴たるグレイブヤードゴーレムの足音にかき消されようとも、その心が望むままに白い天使の羽根を広げて、地底都市の人々の前に舞い降りた。

 次々と彼女の周りに現れる魔法猫たちの姿は愛らしく、それだけで人々の心は理由のない癒やしに包まれた。初めて見る生き物であるはずなのに、どこか可愛らしく思えてくるのだ。
「もう、あんなのに従わなくても良いのです。入り口を封鎖していたヴァンパイアはわたし達が倒しました」
 それは驚愕なる事実であり、地底都市の人々にとってはありえぬ現実であった。それに目の前の少女がそれを為したのだと言われても、彼等は俄に受け入れることはできなかった。
 目の前に迫るグレイブヤードゴーレムの巨躯は、たしかに目の前の少女、望を狙っている。けれど、それでも微笑み白い翼をはためかせ、空へと舞い上がる。

「あの土人形達だって、すぐに全滅します。あなた達を縛るものは、もう何もないのです」
 その手にはあるは、果実変性・ウィッシーズホープ(トランス・ウィッシーズホープ)。勝利の果実が、望の掌の中にあるかぎり、彼女の力は、彼女を見つめる地底都市の人々の心からの願いに寄って成長していく。
 故に、彼女は白き翼を広げ、その姿でもって彼等の心を鼓舞する。彼女に迫る怨嗟の咆哮をあげグレイブヤードゴーレムを望は封印である目隠しの内側から感じ取り、素早く詠唱した全力の魔法でもって、その巨躯を穿つ。
「だから、あなた達はもう、こんなものを恐れなくても良いのです」
 望の魔法に寄って穿たれた、グレイブヤードゴーレムの巨躯が崩れるようにして霧散していく。

 その光景は地底都市の人々にとっては、希望そのものと成りえただろう。
 その感情が望の手のうちにある勝利の果実の力を強めていく。感じる。人々の願い、祈り、そして希望に湧き立つ心のさざなみを。
 今はまだ小さな波かもしれない。けれど、それは必ず大きな波となり、人々を突き動かす原動力になる。
 希望知らぬ人々に、希望を齎す。
 それが望にとっての力となる。溢れるような感情の波が視覚を封じられた望の心に力を注ぎ込む。
「希望を持ってください。そのためにわたし達は来たのですから!」
 勝利の果実が地底都市の人々の願いを受けて光り輝く。
 燦然と輝く果実は、この仄暗い地底都市を照らす希望そのもの。望の力が増していく。途方も無いほどの願いをけて、彼女という器を通して出る願いの力が、グレイブヤードゴーレムたちの巨躯を穿つ魔法となって放たれる。

 それはまさに天使の降臨そのものであった。
 天使の梯子の如く放たれた光の魔法がグレイブヤードゴーレムたちを霧散し、骸の海へと還していく。
 ゆっくりと白き翼を広げて、地底へと舞い降りた望の姿は、人々によって熱烈なる喝采を持って迎えられたのだった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
地底都市の人々を真に解放する為にはこれまでの常識を打ち砕かねばなりません
なるべく派手に戦う必要がありますね
それこそ、御伽の騎士の如くに

センサーでの●情報収集で都市を状態を把握
格納銃器の●乱れ撃ちでゴーレム達を誘導
市民に被害が及ばぬ開けた場所へ移動

拳を剣の●怪力●武器受けで逸らしUCを射出し捕縛
ワイヤーを掴んで質量兵器として●なぎ払い他のゴーレムに叩きつけて破壊してゆきます

壊れれば広場に積み上げ次のゴーレムへ
残骸を広場に積み上げ山を形成

頂上に上り自己●ハッキングで己のスピーカー音声を最大に

吸血鬼に虐げられる時代は終わりを迎えました!
明日に怯えずに済む世界を創り上げる為、皆様の力をお貸しください!



 地底都市にあって人間の生命は軽いものであった。
 無いに等しい価値。塵芥。そのように扱われ、それが当たり前のように続く世界において、どこに希望というものがあるだろうか。いや、どこにもあろうはずもない。
 魔法のガスが充満する天井が仄かに光を放つ薄暗い世界は、地上と同じであった。ダークセイヴァー世界において、人間はヴァンパイア―――オブリビオンに敗北した種族であり、隷属を強いられる存在でしかない。

 故にグレイブヤードゴーレムにとって、人間の生死は関心事ではなかった。巨躯でもって徘徊する足元にあった人間が悪いのであって、死にたくなければ避ければいいのだ。それすらもできぬ生命に価値はない。
 今まさに、踏み潰されようとしている幼き生命がある。
 地底都市にあっても人間の生命は芽吹く。けれど、希望というものを知らぬ絶望に塗れた生命にとって、己の生命への執着は如何程のものであっただろう。
 見上げるグレイブヤードゴーレムの足裏を呆然と眺める幼い子供。助けは来ない。動けなくなってしまった己の運命を受け入れようとして、その運命を―――。

 砕く銃声が響いた。
 身体が宙に浮かぶ気がした。幼い生命は、自分が今凄まじい速度で空を舞い、硬い感触に包まれていることを知る。
 見上げた。まだ身体が動くということに驚きながらも、さらにその光の揺らめきを見た。
 それはトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)の放つアイセンサーの光。今、彼が抱える幼い生命を救わんと格納銃器から弾丸を放ち、グレイブヤードゴーレムの注意をひきつけながら、奪われんとした幼い生命を空くたのだ。
「ご安心ください。貴方の生命をお守りしましょう」
 それは機械の騎士。
 その事実を幼き生命が知るべくもないが、トリテレイアは間に合ったことに安堵し、己が今御伽の騎士の如く振る舞ったことになんとも言い難い感情らしきゆらぎを覚えていた。

 地底都市の人々が集まる場所へ幼子を預け、トリテレイアは格納銃器をばらまきながらグレイブヤードゴーレムたちを人気のない場所へと誘い込む。
 グレイブヤードゴーレムたちにとって、トリテレイアたち猟兵こそが最優先で排除しなければならない対象である。
 彼を追って開けた場所へと誘導されていることも知らずに愚直に追い続けるのだ。
「地底都市の人々を真に解放するためには、これまでの常識を打ち砕かねばなりません」
 なるべく派手に戦う必要がある。
 己の姿を衆目のもとに晒し、さらにはグレイブヤードゴーレムを打ち倒す。それを成さねばならない。

 迫るグレイブヤードゴーレムの岩塊の如き拳。
 それをトリテレイアは剣を振るい、軌道をそらして躱す。次の瞬間、両腰部稼働装甲格納型 隠し腕(通常拘束モード)(ワイヤード・サブ・アーム・ノーマルスタンモード)が跳ね上がり、隠し腕がグレイブヤードゴーレムの巨躯を掴み拘束する。ワイヤーでもって牽引されたグレイブヤードゴーレムは、機械騎士の凄まじき馬力と膂力でもって振り回される。
 電流が流し込まれ、その巨躯は今やただの土塊。
 否。
 鉄球の如き質量兵器と化した一撃が、集まってきたゴーレムたちへと叩きつけられ、その身を砕く。
 一体を砕けば、即座にまた一体を積み上げるように叩き潰していく。
 土塊は次々と小高い山のように積み上げられ、トリテレイアはその頂に立つ。

 外部スピーカーの音量を最大限にまで引き上げ、トリテレイアは宣言する。
「吸血鬼に虐げられる時代は終わりを迎えました! 明日に怯えずに済む世界を創り上げる為、皆様の力をお貸し下さい!」
 そう、世界は猟兵たちが作り上げるものではない。
 この世界に住まう人々が、自分たちの手で築き上げていくものだ。自分たち猟兵ができることは、脅威を振り払うことだけ。
 それを知るからこそ、トリテレイアは剣を掲げ、己の為すべきことを為さんと、鋼鉄の騎士として人々の心を奮わせるのであった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

戒道・蔵乃祐
帝竜、魔王の様な伝承も。伝説の城塞都市や居城の情報も何もない

文明水準が低くならざるを得ない環境とは言えど、疑問を感じたことはありましたが…地下世界は盲点でした

常夜、暗闇に閉ざされし、流血と恐怖に支配された国
陽光を疎む種族であれば
存外にして自然なことだったのかもしれません
しかし
ヒトが住まうには、あまりにも劣悪過ぎる…


此処から先は防衛圏内なのでしょうが
意思無き殺戮自動人形…ただの木偶が相手とは
先ずは、砕いて進むのみ

残像、フェイントの機動力とダッシュで翻弄
踏みつけを掻い潜りジャンプ+空中戦で跳躍
三角飛びから切り込み早業の連続蹴り

土塊を取り込み肥大化し続けるならば、増えた端から削るのみ
神足通・天脚!



 思えばダークセイヴァー世界というのは、オブリビオンであるヴァンパイアに敗北した世界でありながら、敗北した世界以前に人類が何をなし、何を残しているのかを語られることのない世界であった。
 戒道・蔵乃祐(荒法師・f09466)にとって、それは不可解な事実であり、疑問に思うことであったのだろう。
 同じ荒廃した世界であっても、文明の残滓を見ることはできる。けれど、帝竜、魔王のような伝承。伝説の城塞都市や居城の情報もなにもない。
 暗闇が支配する世界において文明水準が低くならざるを得ない環境であるとは言え、彼の疑問は当然のものであった。

 けれど、その解答がこんな形で現れるとは思っていなかった。
 地底にあって空とは天井である。そこに溜まった魔法のガスがほのかに光を放ち、地上世界と同じ程度の環境を作り出している。
 陽光なく、いつまでも仄暗い世界が続く。それがダークセイヴァー世界である。
「……地下世界は盲点でした」
 そう、蔵乃祐は眼前に広がる地底都市の光景を驚愕の思いで見つめていた。
 常夜。暗闇に閉ざされ、流血と恐怖に支配された国。ヴァンパイアが陽光を疎む種族であるというのならば、この地底都市、そして彼等が地下へ地下へと向かうことは存外にして自然なことであったのだろう。
「しかし、ヒトが住まうには、あまりにも劣悪過ぎる……」

 この地底都市において人間の生命の価値は塵芥以下である。
 それを証明するように『門番』である『赤の処刑人』が倒されたという異常を察したグレイブヤードゴーレムたちが地底都市の廃墟の如き建物を突き崩して、蔵乃祐に迫る。
「此処から先は防衛圏内なのでしょうが。意志無き殺戮自動人形……ただの木偶が相手とは」
 是非もなし。
 例え、意志あるオブリビオンが相手であったとしても、彼の救世救道は立ち止まることを是としない。
「まずは、砕いて進むのみ」
 構えるは不退転の覚悟とともに。握り締めた拳は、これより相手取る土塊の拳よりも堅きを誇る鉄拳なれば。

 グレイブヤードゴーレムの足が一歩を踏み出す度に、周囲の土塊を取り込み力を増していく。
 けれど、それが一体何になるというのか。蔵乃祐にとって、如何に力を増そうとも、意味はない。ただ、この拳はあらゆる困難、難敵を打ち砕くのみであればこそ、己の信条をまっすぐに貫く矛となる。
「説破 !!」
 駆け出す速度は、その巨躯には似合わぬほどの俊敏なでもって、更に己よりも巨躯たるグレイブヤードゴーレムを翻弄する。
 己を踏みつけようとするグレイブヤードゴーレムの膝頭を踏みつけ、その巨躯を駆け上がって跳躍する。
 だが、それでも高さが足りないというのであれば、空という空気の足場を三角飛び(サンカクトビ)にて蹴り上げ、グレイブヤードゴーレムの遥か頭上まで飛び上がる。

「土塊を取り込み肥大化し続けるならば―――」
 舞い上がる蔵乃祐が空より放つは、神足通・天脚。流星のごとく空より放たれた蹴撃は、剃刀の如き鋭さで持って、まさしく足刀と成してグレイブヤードゴーレムの巨躯を削りえぐる一撃。
 凄まじき勢いと威力を齎す蹴撃は、地面をわりながら着地する蔵乃祐の背後にあるグレイブヤードゴーレムを霧散させ、骸の海へと還す。
「削り砕くのみ!」

 その光景はまさしく人智を越えた姿であったことだろう。
 ヒトの身でありながら、ヒトを超えた存在。生命の埒外の存在である猟兵としての力を彼を見つめる地底都市の人々の瞳に鮮烈に刻みつけたことだろう。
「どれだけの難敵であろうと、ヒトの敵であるというのならば、いつでもお相手しましょう。我が救世救道を阻むというのなら……その虚ろなる器、全て砕きましょう」
 迫るグレイブヤードゴーレムたちの群れを前にしても一歩も退くこと無く、蔵乃祐の拳は、脚は、土塊を砕き続けるのだった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レナーテ・フレンベルク
◎アドリブ等歓迎
なるほど……あのゴーレム達こそが、此処に住まう
住人達にとっての絶望、抗えない力そのもの

それならば、私はそれ以上の圧倒的な力を以て
その絶望を打ち砕くのみよ
自分達を虐げる絶望を容易く打ち倒す
その姿こそが、きっと彼らの希望になるはずだから

■戦闘
ここは【UC】発動
周辺一帯に彷徨う、非業の死を遂げた霊達を呼び寄せるわ
嘆き悲しむ者、恨みを抱く者、残された家族を憂う者……
それら全てをヒルデに一時的に取り込ませて、彼女を巨大化

住人もいるから纏めては攻撃出来ないけど、その分一体一体
確実に破壊していくわね
叩き潰すなり、掴んで地面から離したところを握り潰すなり
とにかく派手に力を見せつけてあげましょう



 その姿、威容は小高い山のようであり、巨大なるものを前にして人間が恐れを抱くのは無理なからぬことであった。
 人の力ではどうしようもない存在、それこそがオブリビオン兵士であり、地底都市に存在するグレイブヤードゴーレムという脅威であった。
「なるほど……あのゴーレム達こそが、此処に住まう住人達にとっての絶望、抗えない力そのもの」
 レナーテ・フレンベルク(幽玄のフロイライン・f25873)は、それを静かなる瞳で見つめていた。
 あれほどの力を前にすれば、人は反抗の意志を、抗う心をへし折られてしまう。そんな生活がずっと続いてきたのだろう。
 どれだけ世代を重ねても、拭うことのできない絶望に漬けこまれた人々が、どれだけの数いるだろうか。それを思えばレナーテは瞳を閉じて、今一度、その瞳を見開く。

 知っていると思っていた故郷の世界には、まだこんなにも己の知らない世界の顔がある。
 人々が顔を伏して絶望にさいなまれるというのであれば―――。
「それならば、私はそれ以上の圧倒的な力を以て、その絶望を打ち砕くのみよ」
 掲げる嫋やかな指が告げる。
 それは周辺一帯に存在する死霊たちや、グレイブヤードゴーレムの背に負った棺桶の中に存在する怨霊達も含めて、全ての死せる霊たちを集わせる絶対なる令。
「さぁ、集まりなさい……あなた達の力を見せてあげて」
 己の脇に控える巨骸ヒルデの姿が大きく変わる。
 敵が巨大であるというのならば、対する巨骸ヒルデの姿をも巨大化すればいい。死霊たちが、怨霊たちが、レナーテの指先から流れるユーベルコードの力に導かれて、その体を変貌させていく。

「非業の死を遂げた者、嘆き悲しむ者、恨みを抱く者、残された家族を憂う者……ヒルデ、貴方は器と成りなさい。生きとし生けるものが、必ず死せるというのならば、死の向こう側が見せる光景を―――」
 さらなる威容を持ってグレイブヤードゴーレムの群れを合わせたよりも巨大な骸と化したヒルデの腕が天高く……それこそ、地底都市の天井をこすりながら振るいあげられる。

 その巨骸の暴撃(フィーレ・グロル)の如き一撃が、グレイブヤードゴーレムを叩き潰す。粉砕され土塊となったグレイブヤードゴーレムの残骸は霧散し消えていく。
 けれど、そこで終わるわけがない。
 今までどれだけの生命が死してきたのだろう。レナーテの指先から集う死霊たちの数は尋常ならざる数であった。
 指先が力の奔流に負けて震える。
 これは、この地底都市で生命を落とした者達の嘆きに他ならない。絶望を払拭するためであるのならば、ここで指を震えさせるわけにはいかない。
 レナーテの瞳に力がこもる。
「―――ヒルデ!」
 巨骸の瞳が輝く。

 彼女の言葉に、意志に、そして集った死せる生命たちの怒りと悲しみを束ねて力と為す。
 その一撃一撃は使者の代弁。
 虐げられた者たちは見上げたことだろう。今までどれだけの自分たちの生命が、命脈が絶たれてきたのかを。
 それに怒りを見出すことすらできなかった自分たちの感情の発露を。それを代弁する一撃が、グレイブヤードゴーレムを潰す度に、人々の瞳に、拳に力が籠もっていく。否、取り戻されていく。

 宿る瞳の光は希望ではないのかもしれない。
 虐げられた者たちの怒りで、今は光が灯っただけなのかもしれない。それを希望の灯火へと変えることができるのは、彼等自身だ。
 レナーテができることは、その火を絶やさぬようにと囲い、守り育てることだ。
 故にレナーテは人々の前に幽玄のフロイラインとしての力を示し、希望への道筋を照らす篝火となるのだった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『花を咲かせよう』

POW   :    土を耕したり掘り返したり、重い物を運んだりの力仕事をする。

SPD   :    種や苗を植えやすいように整えたり、植える場所の飾りを用意したりする。

WIZ   :    土地にあった花を考えたり、花を植える場所を考えたりする。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 こうして地底都市に巣食っていたオブリビオンたちは猟兵達の手に寄って全て駆逐された。
 今や地底都市に残されているのは、隷属を強いられてきた人間たちばかりである。後は彼等を地上へといざない、保護を表明してくれている『人類砦』まで移送するばかりだ。

 だが、どれだけ猟兵たちが希望の光を見せたとしても、『此処でいい』と諦観と共に泥濘へと沈む者たちもいる。
 どれだけの血が流れたかわからない。
 人の心にある傷は容易には元通りにはならない。どれだけ浅く見える傷口であったとしても、傷ついてしまえば元に戻ることはない。

 故に人はその傷を、傷のままにしないために練磨したり、埋めたりするのだ。
 墓地もなにもない。弔うこともわからない。
 そんな彼等が、この地底都市を捨て、幾ばくかの希望の光を見出すことのできる地上へと向かうためには、何かきっかけが必要であろう。

 猟兵たちは思い出すだろう。
 グリモア猟兵が転移の前に預けた花々の種子を。彼等にとって地底とは言え、ここは生まれた場所であり故郷である。
 命を落とした親しい者たちの記憶が残る場所である。ならば、そこに何かを遺すことは間違いではないだろう。

 故に、其の種子を植え、人々の心の慰めとし、新たなる希望への旅路の第一歩を刻むのも悪くない考えであったことだろう―――。
村崎・ゆかり
いよいよ地上へのエクソダスね。
その前にこの地で最後に弔いの花を植えていくわけか。ナイアルテもロマンチストね。それで心の傷が癒えるかは分からないけど、やっておいて損はないわね。

笑鬼召喚。あなたたちは大きな墓穴を準備して。
そこに、市外で番犬に殺されたり、市内でゴーレムに殺された人たちの遺骸を降ろす。
アヤメも手伝いお願い。
救えなかった人たちには、来るのが遅くなったことに謝罪を。

あらかた埋め終えたら、笑鬼に土の埋め戻しを命じて、そこに花の種を植えていきましょう。
これはあたしたちがやったんじゃ意味が無い。地下都市の人たちにこそやってもらわなきゃ。
植え方が分からないなら教えましょ。これが弔いというものよ。



 戦いの音が終わり、人々は顔を上げる。
 そこにあったのは、絶望の象徴たるオブリビオン兵士であったグレイブヤードゴーレムたちの残骸。
 そこに立つは猟兵達。
 彼等は生命の埒外に在る者にして、彼等の救世主と成り得る者たちである。
 だが、彼等の活躍に熱狂できた者たちは多くはない。未だ、突然訪れた転機に戸惑う者達のほうが大半であった。
 地底都市に生きた彼等の心には未だ諦観と絶望が足枷のように残り続けていたのだ。無理矢理に彼等を地上へと連れ出したところで、彼等自身が自らの脚で歩みだそうとしないのであれば、猟兵たちの戦いは徒労に終わる。

 村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)はゆっくりと息を吐き出す。
 戦いの疲労はあれど、言ってしまえばオブリビオンとの戦いよりも、此方のほうがよほど難題であるように思えたからだ。
 地底都市からの大量脱出。
 すでに地上の『人類砦』との連絡は終わっているから道中の心配はない。彼女の手の中にある花々の種子の袋が指で弄ばれる。
「いよいよ地上へのエクソダスね。その前にこの地で最後の弔いの花を植えていくわけか。ロマンチストね」
 花の種子を植えたとしても、すぐに花が芽吹くわけではない。
 それで心の傷が癒えるかもわからない。けれど、やっておいて損はないとゆかりは思ったのだ。

「急急如律令! 汝ら、陣を敷き壕を巡らせ郭を築くものなり!」
 ゆかりは、笑鬼召喚(ショウキショウカン)し、周囲に子鬼の姿をした式神の群れを召喚する。
「あなたたちは大きな墓穴を準備して」
 それに一列に整列した笑鬼たちが敬礼してから、せっせと墓穴を掘り出す。今回の戦いで少なくない死傷者も出ているだろう。
 あれだけ派手にグレイブヤードゴーレムが戦ったのもあるし、それ以前に『番犬の紋章』を持つ『赤の処刑人』に殺された人々だっているはずだ。
「私も手伝ってきますね」
 ええ、お願い、とゆかりは式神アヤメに手伝いを頼み、ゆかりは改めて地底都市の人々に向き合う。

「救えなかった人達がいるのも事実。あたしたちがくるのが遅れたから……ごめんなさい」
 それは偽らざる言葉であり心であった。
 もっと速く、とだれもが思うことはあるだろう。言って詮無きことであるが、それでも失われた生命を惜しむのは当然のことだ。
 呆然としている彼等にゆかりは花の種子を手渡していく。
「弔いましょう。あなたたちの近しい人たちが、安らかに眠れるように。生きることは苦しいことの連続だけれど、それでも悪いことばかりじゃない。それを知ってほしいの」
 ゆかりは微笑む。
 今はすぐに笑い返すことはできないだろう。
 当たり前だ。誰だって、死せる親しい者を思えば、表情も固くなる。けれど、それでもあゆみは止めてはならない。
 笑鬼たちと共に死せる人々を横たえ土を掛けていく。

「最期の別れはあなたたちで……あたしたちがやったんじゃ意味がない。あなたたちだからこそ、意味があるの」
 そう言ってゆかりが手ずから教えていく。
 土をかぶせ、そこに一つずつ丁寧に花々の種子を埋めていく。これが弔いであるのだとゆかりは言葉と行動を尽くす。

 今はまだ仄暗い地の底であったとしても、いつの日にか花々に囲まれた大地になるだろう。
 人の歩みを進めさせるのは希望ではない。その胸に宿った灯火が、足を進めさせる。諦めなければ、己の生を手放さなければ、これからも足は進み続けるのだから―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

髪塚・鍬丸
ここからが本番だ。
絶望って奴はそう簡単には取り除けない。希望の取っ掛かりは作れたと信じたいが、後一押しだ。

【七方出の術】で忍装束を「野戦服」に。【コミュ力】強化。
「もう大丈夫だ。あんたらを支配してた連中は全員倒したよ」となるべく頼もしげに声をかけて安心して貰おう。
その上で状況説明、この地を離れ地上に向かう必要がある事を説明。
離れたくない人達には預かった花の種を渡そう。
「お前さん達の想いは、この花に預かって貰おうぜ。」手離したくない思い出や死者への鎮魂を託して種を植えよう。咲いた花が、人の代わりにこの地で想いを紡いでくれる。
【世界知識】【地形の利用】で種を蒔くに相応しい場所を探す手伝いをする。



 猟兵たちにとって『門番』である『赤の処刑人』に続くオブリビオン兵士、グレイブヤードゴーレムとの戦いは、これよりはじまる本当の意味での戦いの前哨戦に過ぎなかった。
 戦いオブリビオンを打倒することは力を振るえばいい。けれど、オブリビオンによって苛まれ、傷つけられた人々の生きる道はこれからも長く続く。
 どれだけ長く続いた戦いよりも、ずっと長い時間生きている以上戦い続けなければならないのだ。生きるという戦いを。
 この地底都市に生きる人々にとって己の生とはあまりにも儚く、意味のないものであった。それがヴァンパイア支配盤石たるダークセイヴァー世界での人間の価値である。

「ここからが本番だ」
 髪塚・鍬丸(一介の猟兵・f10718)は居住まいを正すように、七方出の術(シチホウデノジュツ)によって野戦服に早着替えを行う。
 彼の言葉は間違いなく、これより待ち受ける戦いがどれだけ大変なものであるかを物語っていた。
 長きに渡り絶望という諦観の海に漬けこまれた人々の心を救う。
 それは戦うことよりも、ずっと険しく困難な道である。
「絶望って奴はそう簡単に取り除けない。希望の取っ掛かりは作れたと信じたいが……」
 後ひと押しだ、と鍬丸はオブリビオン兵士がいなくなった地底都市に繰り出す。

 人々は皆どうしていいのかわからないといった体で呆然としている。
 それもそうだろう。
 支配体制を崩したのは自分たちではない。もしかしたのならば、支配する側の者が挿げ替えられただけかもしれないのだから。
 そんな彼等に鍬丸は優しげに声を掛ける。
「もう大丈夫だ。あんたらを支配していた連中は全員倒したよ」
 頼もしい雰囲気の鍬丸の言葉に、人々は徐々に状況を把握していく。それに加えて鍬丸が、この地を離れることを進める。
 地底都市しか知らぬ者たちにとって、新天地はにわかには受け入れられないものであった。

 けれど、新天地を望む者はいる。
 地上と地底、状況のそう差はないけれど、地上では今『人類砦』という新しい希望が芽吹いている。
 その希望にすがろうと立ち上がる者も少なくはない。
 けれど、此処で生まれ育った者の中には、自分たちの親しい者達が死した場所を離れがたいと思うものだって居る。
「お前さん達の想いは、この花に預かってもらおうぜ」
 そう言って鍬丸は手にした花々の種子の入った袋を手渡す。
 これは? と首を傾げるのもまた、地底に住まう人々らしい反応であった。鍬丸hは言葉を選んで告げる。

「手放しくたくない思い出があったとしても人は忘れる。けれど、これを植えることによって芽吹くものがある。花が咲けば思い出すし、死せる者へは鎮魂の手向けとなる」
 そう、咲いた花が、人の代わりにこの地の想いを紡いでくれる。
 それは信じなければ、力と成りえない言葉であったけれど、鍬丸の言葉は人々の心に響いたことだろう。
 おずおずと伸ばす人々の手に鍬丸は力強く種子を手渡す。
 生きる。
 それは難しいものだ。誰ひとりとして簡単に生きている者はいない。死せる者を想うことが後ろ向きであるとは誰にも言わせない。

 そうすることで歩みをすすめることができる者だっている。
 死を想え。
 いつかは己も屍を晒すことになるであろう。けれど、それでも歩みを進める。鍬丸はもう希望の光は示した。
 人々が鍬丸の示した土壌を耕し、種子を蒔く。
 それはたった少しの種子であったかもしれない。けれど、いつの日にか、この地が花で埋め尽くされることもあるかもしれない。

 嘗て死で溢れかえっていた地底都市が生命育んだ花で溢れる。
 それを幻視し、鍬丸は人々を地上へと警護しながら進む。戦いは続く。生きるという戦いは、死せるいつの日にか、その時まで―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルムル・ベリアクス
地上に世界があり、あなた達を守ってくれる人類砦へ行ける……。急なことを言われても、希望などない世界で生きてきたのですから、信じられなくて当然です。
犠牲者への手向けとして、共に花の種を植えましょう。共同作業の中で信頼が生まれると良いのですが。そして、彼らと共に静かに祈りを捧げます。犠牲者が安らかに眠れますように。……そしていつか、人々の希望の芽が育ち、未来へと進んでいけますように。
一歩を踏み出すきっかけになったなら、地上へと歩み始めましょう。



 地底都市に住まう人々にとって、この薄暗い地中だけが自分たちの世界であった。
 それは致し方のないことであろう。
 人間の生命は、此処ではあまりにも軽い。けれど、隷属を強いてきたオブリビオンたちは猟兵たちによって全て取り除かれた。
 それは本来であれば解放と自由を謳う革命的な出来事であったはず。けれど、地底都市の人々にとって、それは戸惑うばかりの出来事でしかない。

 なぜなら、彼等にとって支配とは抑圧であるものの、それが当たり前の現実であるのだ。自分たちに自由が与えられるとは思っても居ないことであった。
「地上に世界があり、あなた達を護ってくれる人類砦へ行ける……」
 ルムル・ベリアクス(鳥仮面のタロティスト・f23552)は自分の言葉に頭を振った。
 そう、希望などない世界で生きてきた者たちにとって、己の言葉がどこまで真実味を帯びて響くであろうか。
 信じることが出来なくても当然であるとルムルは思った。それに自分たちは、彼等にとって確かに虐げる者たちを討った側の人間であるが、彼等が自分たちを即座に信じてくれるとは思っていなかった。

 故にルムルは手にした花々の入った種子を人々に手渡す。
 これまで死せる者たち。そして、今回の戦いで犠牲になった者たち。その療法を弔おうとルムルは彼等に手を貸す。
「共に花の種を植えましょう……そうすれば、死せる人々の心もまた癒やされるはずですから」
 地底都市にあって、人々はこれまでろくに弔いを行うことはできなかったのだろう。もちろん、人々がヴァンパイアに支配された直後はそうした習慣もあったはずだ。
 けれど、世代が変わるにつれて、余裕はなくなり徐々に弔うことすらできなくなれば、どうやって使者を悼めばいいのかすらもわからなくなってしまう。

 故にルムルは使者の埋葬を手伝うのだ。
 穴を掘り、土をかぶせ、そしてその上に花々の種子を蒔く。
 そこに何の意味があるのかと地底都市に生きる人々は思ったことだろう。死せる人を埋める。埋葬する。そこまではわかっても、花々の種子を植えることまで理解できていないようだった。
「……死せる者が安らかに眠れますように。これ以上苦しむことがないようにと、祈るのです」
 その言葉はあまりにも遠くの出来事であったかもしれない。
 祈る、ということすら奪われた人々にとって、それは原始的な光景であった。かつて在りし人としての尊厳。それを思わせるルムルの祈る姿は、人々の眼に涙を浮かばせる。

 誰かのために祈りを捧げる行為は尊い。

 それを今、地底都市の人々は思い出したのだ。涙が溢れ、ルムルと共に膝を折り、祈る。死せる者たちがどうか、と。
「……そしていtか、人々の希望の芽が育ち、未来へと進んでいけますように」
 ルムルの言葉と祈りは、人々の心に再び温かい者を灯した。
 それが希望という光であったのか、それとも別のなにかであったのかはわからない。
 けれど、今はそれで十分だ。
 一歩を踏み出すきっかけとなったのならば、人は次の一歩も踏み出せる。
 そういう生き物であるからこそ、愛おしく、己の愛で護ろうと思える。ルムルは告げる。
 共に、と。
 希望の灯火は未だか細いものであるのかもしれない。
 けれど、地底に生きる人々と『人類砦』に生きる人々が合わされば、以前よりもずっと力強い光になるだろう。
 その光り輝く光景をルムルは、改めて護りたいと想うのであった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

須藤・莉亜
「いやぁ、参ったねぇ。まさかあそこまでビビられるとは…。」
ま、何もしないで帰るのもあれだし、こっそり種を植えとくかな。

眷属召喚【魔蝙蝠】を発動。眷属の蝙蝠達を召喚し、僕は毛並みが綺麗なぷりてぃーな猫に変化。
蝙蝠達には悪いけど、彼らはお留守番。猫になった僕だけで種を植えに行こう。…蝙蝠連れた猫はやばい雰囲気醸し出しそうだしね。

よし、種を口に咥えて運んでっと。
「…前足で穴掘るの意外とむずいな。」
せっせと穴を掘って種をぽーい。んでもって、土をそっと被せて完成ー。
「おやすみ。良い夢見れると良いね。」

さて、後は見つからないようにとっとと帰宅しよう。



「いやぁ、参ったねぇ。まさかあそこまでビビられるとは……」
 須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)は、開放された地底都市の人々から離れた場所で煙草の紫煙を燻らせながら、僅かに嘆息する。
 先程の戦いでグレイブヤードゴーレムから人々を助けるために戦ったところ、自分のことを吸血鬼であると―――つまりは、ヴァンパイア支配側の存在として認識されたことにより、人々の畏怖の視線がわりかし応えていたのだ。

 それもそのはずであろう。
 ダークセイヴァー世界において、吸血鬼とは支配の象徴であり、絶望の象徴でもある。けれど、莉亜自身は人々とグレイブヤードゴーレムの間に立って戦った存在でも在る。
 ある意味、人々にとっては、矛盾をはらんだ存在であることは間違いようがない。恐れよりも戸惑いのほうが大きいはずであった。
 ともすれば、ヴァンパイア同士の内乱のように思われたかも知れない。
 けれど、莉亜にとってそれはどうでもいいことだった。どう思われても構わない。人々が徒に死すこともなく、オブリビオン兵士は打倒できたのだから。

 燻らせていた紫煙放つ煙草をもみ消して、莉亜は眷属召喚【魔蝙蝠】(ケンゾクショウカン・マコウモリ)によって己の姿を一匹の猫の姿に変じる。
「君らには悪いけど、ここでお留守番しといて」
 そう言って、毛並みの良い猫が地底都市の大地を歩く。その口に咥えたのは、此処へ転移する前にグリモア猟兵から預けられた花々の種子の入った袋だ。
 何もしないで帰るのも薄情な気がして、こっそりと花の種子を植えて帰ろうと思ったのだ。
 眷属である蝙蝠たちを残したのは、単純に蝙蝠を引き連れた猫というのが、外観上とても怪しくも剣呑なる雰囲気を醸し出しそうだったからだ。

 てっしてっしと大地を踏みしめる。
 ふんわりと空気を含ませやすい柔らかい土地を探すのだが、どうにも難しい。
 妥当と思った土壌を見つけても、猫の体で掘り返すのは難儀なことだった。
「……前足で穴掘るの意外とむずいな」
 それでもせっせと穴を掘る莉亜。
 そんな猫となった莉亜を見つめる視線があったが、莉亜は気がついていただろうか。この地底都市にあって猫という生き物は珍しい。

 可愛らしい外観もあり、けれど、初めて見る生き物故に遠巻きに見る者たち―――地底都市に生きる幼子たちの姿があったのだ。
 彼等は一様に距離を保っていた。
 それは莉亜が猫に変ずるのを見ていたからだ。あの吸血鬼が何をするのか、恐ろしいけれど、あの紫の人は自分たちを助けてくれたのだと幼いが故に正しく理解していた。
 そんな人が猫に変じて何やら穴を掘っている。

「……こんなものかな」
 前足が土だらけだけれど、気にすることもなく莉亜は、種子を掘り進めた穴の中に投げ入れ、土をそっとかぶせる。
 その手付きを見ればわかる。使者を悼まないものが、あんなふうに土をかぶせるわけがない。
「おやすみ。良い夢見られると良いね」
 後は見つからないようにとっとと帰ろうと莉亜は俊敏な動きで、その場から離れていく。

 そんな猫の後ろ姿に駆け寄って、地底都市の子供らが大きな声で呼びかけるのだ。
「ありがとう―――! 助けてくれてありがとう―――!」
 その言葉に莉亜は歩みを止めない。
 だって今は猫だから。振り返ることをしない。けれど、自然と、その頬は緩んでいただろうか―――?

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…さて。英雄の真似事をして口上をのべた以上、
知らん降りして次の戦場に転移するのも無責任、ね


人々を連れて門番がいた場所、死骸の山があった地に向かい、
大鎌を大地に突き立て死者達の怨念を喰らい、
左眼の聖痕で霊魂達の残像を暗視してUCを発動

…着いてきて。その種から咲く花が何か教えてあげる

呪詛を浄化した花の精霊達に自身の生命力を吸収させ、
種をまいた地に花畑を作り祈りを捧げる

…これが花よ。地上に咲く植物の一種
人は昔から花の美しさ、儚さに様々な意味を見つけてきた

…こうして死した者達に弔いの花を手向けるのもその一つ

…この花が彼らの魂の慰めになると信じ祈りを捧げるの

…そして、旅の果てに幸せな未来が来ると信じて…



 死せる者はどこへ向かうのか。
 それを知る者は多くはないだろう。数多の世界を歩む猟兵にとっても、それを全て正しく認識している者は少ないかも知れない。
 リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は狩り人である。
 オブリビオンを、ヴァンパイアを狩ることが己の責務であると念じる者であるが、一時でも彼女は、この地底都市において英雄としての立ち振舞を行った以上、無責任に放り出して次なる戦場へと向かうことは憚られた。

 そんな彼女が地底都市の人々を引き連れ、訪れたのは『門番』として存在していた『赤の処刑人』が数多の命を持って築き上げた死骸の山であった。
 すでに遺骸は霧のごとく『赤の処刑人』によって切り刻まれて、存在はない。けれど、リーヴァルディの左眼の聖痕には、たしかにこの地において死せる者たちの姿を映し出していた。
「……限定解放。これは傷付いた魂に捧げる鎮魂の歌。最果てに響け、血の煉獄…!」
 聖痕が輝き、ユーベルコードの輝きを放つ。
 限定解放・血の煉獄(リミテッド・ブラッドレクイエム)。それは、この地に蔓延る死者たちの怨念を喰らい、精霊へと昇華せしめるための鎮魂歌。
 大地に突き立てられた大鎌を中心に、この地にある怨霊たちは全て精霊へと、その形を昇華させる。

「……着いてきて。その種から咲く花が何か教えてあげる」
 そういってリーヴァルディが人々を導く。彼等の手にはすでにリーヴァルディから手渡された花々の種子がある。
 彼等は、その種子が何であるのかをしらない。
 そして、今から何を行おうとしているのかもわからない。ヴァンパイア支配は、ここまで人の尊厳を徹底的に叩き潰しているのだ。
 弔うことも知らず、死せる生命の意味も知らないのだ。

 そんな彼等のためにリーヴァルディは呪詛を浄化した花の精霊と化した死せる生命に自身の生命力を吸収させ、種を蒔く大地―――花畑を作り上げる。
 撒いた種は成長し、花を付ける。
 その光景は地底の天井に溜まった魔法のガスが仄かに光る大地にあって、燐光を放つ花弁の光景を生み出していた。
「……これが花よ。地上に咲く植物の一種。人は昔から花の美しさ、儚さに様々な意味を見つけてきたの」
 語るリーヴァルディの言葉が人々の心の中に再び人間らしさを生み出していく。
 花を見やればわかるだろう。
 その意味を。その生の意味を。自分たちの生命の軽さを思い知らされてきた彼等にとって、自分たちの生命の本来の重みを。

 そして、死せる者達の生命の重さを。

「……こうして死した者達に弔いの花を手向けるのもその一つ……この花が彼等の魂の慰めになると神事祈りを捧げるの」
 手を合わせる。祈る姿は嘗ての信仰を想起させたかもしれない。
 弔うことすら忘れた人々であったとしても、その原始たる祈りの姿を、各々が見様見真似で真似ていく。
 最初は真似ていい。
 仮初であってもいい。その一歩がきっと人々の心に希望を灯す。喪ってしまった己たちの価値を取り戻すことができる。
 それはリーヴァルディだけでは成し得ないことだ。彼等自身が思い出し、勝ち取っていかなければならない。

「……そして、旅の果てに幸せな未来が来ると信じて」
 それは祝福であった。
 これより地底都市の人々は地上へと出る。人類砦に受け入れられたとしても、困難な道が続くだろう。
 けれど、この日のことをいつの日にか思い出して、また彼等は歩むはずだ。
 そうなることを今、リーヴァルディは祈らずにはいられなかったのだから―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

戒道・蔵乃祐
手段と目的がまるで支離滅裂ですね…
この世界は百年前からヴァンパイアに敗北していて、抵抗勢力は人間が人間らしく生きるための僅かな生存圏を死守する決死隊のみ

何時かは世界の破滅を齎すならば、何れにせよ滅んで根絶やしにされる人類は無視して構わない

だのに一方では人間を執拗に虐殺して回り、もう一方では人間を拐って飼い殺しにしている
不可解。
上位種の権力基盤に当るこの地下都市もまた、稚拙な巡回以外に統治らしい統治は一切見受けられない…


聞き耳で息のある生存者を探索
コミュ力+礼儀作法で呼び掛け
衰弱しているならば医療の心得と清潔な飲み水。兵糧丸で介抱します

返事のない方には、せめて生きていたという証を残してあげたい



 ダークセイヴァー世界の人類はオブリビオンであるヴァンパイアによって敗北を喫し、隷属という道を歩まされてきた。
 それは地上にあっては散々に見てきた光景であった。人々の生命は軽いものであった。おそらく、何処の世界を巡ったとしても、これほどに人間の命の価値がない世界はないかもしれない。
「手段と目的がまるで支離滅裂ですね……」
 戒道・蔵乃祐(荒法師・f09466)が、ダークセイヴァー世界の地底都市に抱いた第一印象は、言葉のとおりであった。
 ヴァンパイア支配盤石たる世界。そこにあって抵抗勢力と言えば『闇の救済者』たちだけであり、『人類砦』が出来上がったのも最近の出来事である。

 オブリビオンが蔓延するということは、それすなわち世界の終わり、カタストロフが起こり世界事態が終焉を迎えるということである。
 ならば、いずれにせよ滅んで根絶やしになる人類は無視して構わないものであるはずだ。
「……一方では人間を執拗に虐殺して周り、もう一方では人間を拐って飼い殺しにしている。不可解……」
 地底都市を見て回っても尚、理解が深まることはない。
 彼の耳が捉えるのは生者とそうではない者たちばかりである。先程の戦いだけではない、それ以前から続くヴァンパイア支配による隷属は劣悪なる環境を人々にもたらしてきた。
 そんな中にあって満足に生きる人々ばかりではないことはわかりきっていた。

 蔵乃祐は、他心智證通(タシンチショウツウ)によって他者の心の内を読む。
 それはすなわち、この地底都市において生存者を探索することに使われていた。瓦礫の下、家屋の中、あらゆる場所を巡っては蔵乃祐は歩き続ける。
 じゃりじゃりと珠数珠が音を鳴らす。
 息在るものは清潔なる水と兵糧丸にて救いの手を差し伸べる。
「至知百千億那由他心念正覺」
 地底に生きる人々にとっては、聞き慣れない言葉であったし、差し伸べられる手は岩のようにゴツゴツと硬い。
 けれど、それでもその手にあるの慈愛は本物であったことだろう。

 すでに息絶えた者にも手を合わせ、祈る。
 それが信仰の姿であるというのならば、人々は、その胸に絶望を拭う光を宿す。
 彼の姿は確かに巨漢の威容でもって人々の心を怖じ気させるかもしれない。けれど、その行いは全て彼の中にある救世救道に則ったものであるがゆえに、人々に受け入れられていく。
 彼の歩いた後には、人々が付き従う。
 彼が手を差し伸べれば、同じように人々は手を取り合って助け合う。
「……上位種の権力基盤に当たるこの地底都市もまた、稚拙な巡回遺骸に統治らしい統治は一切見受けられない……」
 だが、今はやるべきことがある。
 生ける者は、これからも戦いが続く。

 そう、生きるということは戦うことである。
 何も戦いとは傷つけ、傷つけられるばかりが戦いではない。もちろん、傷つく事のほうが多いだろう。痛みを伴うこともあるだろう。
 戦うことは美しくも褒められたことでもない。けれど、人には避けられぬものがいくつも人生の中には転がっている。
 それを乗り込めるだけの力もまた在るのだ。
 故に蔵乃祐は救世救道を邁進する。彼の通った轍の上を、人々が安寧と共に進めるようにと。

 死せる者には花を。
 手にした種子の袋から一粒取り出し、埋葬した土地の上に蒔く。
 いつしか花が咲くこともあるだろう。それが、せめてもの手向けであり、生きていた証を残したいと願う心。
 いつしか、蔵乃祐の背後は彼と同じようにする者たちで耐えなかったのだった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

七那原・望
【シンフォニック・キュア】で人々を癒やしましょう。

花の種……色々な種類の花があるみたいですね。
知ってますか?花にはその一つ一つに花言葉が与えられているのです。
元々は花に思いを託して恋人に……大切な人に贈る風習が発祥らしいのです。

ですから、あなた達の大切な人達に花を……あなた達の思いを贈りましょう。
花言葉はわたしが教えますから。
あなた達が選んだ、あなた達の思いを託した花を植えましょう。

そしていつか、ヴァンパイアの支配が完全になくなって、地上も地底も自由に歩ける日が来たら、あなた達の大切な人達に報告をしに戻りましょう。
きっとその時には、あなた達の思いはこの地底を埋め尽くす程に咲き誇っていますから。



 歌声が地底都市に響き渡る。
 それは七那原・望(封印されし果実・f04836)のユーベルコード、シンフォニック・キュアの力であり、彼女の自身が死せる者を思い紡ぐ鎮魂歌であった。
 地底都市にあって、人間の生命は軽い。
 どれだけ粗末に扱われてきたのか想像を絶するものであったが、それでも天使の羽を広げた彼女の歌声は、人々に共感で持って受け入れられ、彼らの生傷の耐えない肉体を癒やしていく。

 けれど、肉体を癒せたとしても、心までは癒せない。
 故に望は人々に預かってきた花々の種子を手渡していく。その袋の中を見なくても様々な種類の花の種子が入っていることが望にはわかっていた。視界を封ぜられていたとしても、それ以外の感覚で彼女は理解していたのだ。
「知っていますか? 花には、その一つ一つに花言葉が与えられているのです。元々は花に思いを託して恋人に……大切な人に贈る風習が発祥らしいのです」
 それは地底都市の人々にとって別世界のようなものであった。
 そもそも花事態を見たこともないのだろう。この魔法のガスが天井に充満し、仄かに明かりを灯す世界だけが、彼等の世界である。
 故に、望の語る言葉は、実感に乏しいものであった。

 けれど、彼女の歌声を聞いて共感した人々は違う。
 自分たちがどれだけ苦しい思いをしてきたかを自覚している。無為に奪われる生命であることが常であった世界と、そうではない世界を知っている。
 失われた生命に対する感情の名前を知らなくても、湧き上がる感情の意味は知っているのだ。
「ですから、あなた達の大切な人達に花を……あなた達の思いを贈りましょう」
 それが死せる者たちへの手向けである。
 そうすることによって人は前に進むことができる。過去との決別ではない。別離でもない。想いは残り、人々の心を燃やす原動力となる。
 花言葉は自分が教えると微笑む望。
 手渡した花の種子を見て、その花言葉を一つ一つ丁寧に人々に伝えていく。彼が選んだ、彼等自身の思いを託した花を植えようと、促す。

「今まだ、できないことですが……いつかヴァンパイアの支配が完全になくなって、地上も地底も自由に歩ける日が着たら、あなた達の大切な人達に報告をしに戻りましょう」
 その言葉は、今が最期の別れであることを示していなかった。
 そう、いつの日にか。いつになるかわからないけれど、それでもと希望を灯す言葉であった。
 望にとって、それは確約できるものだった。
 その為に猟兵は戦い続ける。誰かのためにというのならば、今まさに彼等のために望は戦い続ける。

「きっとそのときには、あなた達の思いは、この地底を埋め尽くすほどに咲き誇っていますから」
 いつか見たいと願う光景。
 人々が託した思い、願い、祈り。
 それが結実して花となり、この地底を埋め尽くすのであれば、今日という日までに失われた生命もまた、意味を成す。
 そして、再び訪れた今日の日の彼等もまた、本当の意味で救われるのであろうから―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
死者の魂の慰撫や昇華は専門家の方に任せておけば万事上手く行く筈
単純労働や調査などに回ります

…世界を渡る前、故郷しか知らぬ時分
『魂』とは比喩表現だと考えていましたが…
私も数年で変わりました 

地底都市を展望できる丘のような地形が良いですね
アンカーを地面に突き刺しセンサーで●情報収集
土壌成分を●世界知識と照合
種の生育に適した場所探査
ワイヤーで剣と大盾を繋ぎ即席のシャベルに
●怪力で場を整備

眠りについた人々が花畑で憩えるように
そして皆様が故郷に戻り、あの地で大切な方々と紡いだ思い出をここで振り返り、再び出会う為に
約束の花を植えましょう

間に合わず非業の死を遂げた全ての命の為に
安寧願い、人々と共にしばし佇み



 口さがないものは、覆面の機械騎士/機械仕掛けの騎士の振舞い(マスクド・マシンナイト)と言ったかも知れない。
 それもまた事実であると、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は正しく理解していた。
 己の立ち振舞は言ってしまえば、己自身をも欺くことであり、事を円滑に進ませるための手段に過ぎないのだと。それがウォーマシンである己の為せる全てであると。
 それは『魂』という比喩表現に踊らされないということでもあったが、今のトリテレイアは違う。
 数多の世界を渡り、戦い、経験してきたことの全てが彼の電脳の中に収められている。そのいくつもの経験が、確実に自分自身を変えてきたのだという自負がトリテレイアの中にはあった。

 トリテレイアは自身の変化をどう受け止めていただろうか。近づいていると思ったか、それとも遠ざかっていると思ったか。

 アイセンサーが揺らめく。
 彼が探しているのは地底都市を展望できる丘のような地形。
 そこならば、彼の想うことも、そして地底都市に生きる人々のこれからのことも考えることができる。
 すぐに地形を精査すれば、小高い丘が見つかる。後は土壌の問題であるが……アンカーが射出され、土壌の成分を分析していく。
 豊かであるとは言い難いけれど、ここならば花々の種子が芽吹くには問題ない成分であることがわかる。
「……ここならば」
 ワイヤーが剣と大盾を繋ぐ。
 足跡で不格好ではあったが、それは形だけ見ればシャベルのような形をしていた。人の力では、この大地を耕すことすら難しかったであろうが、機械の身であるトリテレイアにとっては造作もないことだ。

 振るわれた大盾の切っ先が大地を砕く。すくい上げ、掘り起こし、土と空気を循環させるように含ませていく。
 耕されていく土壌は漸くにして、種子を蒔くに耐えうる土壌となる。
「さて……それでは参りましょうか」
 すでに死者の魂の慰撫や昇華は専門家であろう他の猟兵達に任せておけば万事上手く行く。
 自身は耕作に勤しんだのだから、これより後の作業は地底都市に生きた人々の手で行わなければならない。

 トリテレイアは地底都市の人々を招くように引き連れて、己が耕した土地の前にて花々の種子を手渡す。
「眠りに知多人々が花畑で憩えるように。そして皆様が故郷に戻り、あの地で大切な方々と紡いだ思い出を此処で振り返り……再び出会う為に約区の花を植えましょう」
 それは花こそが、彼等の心を変えるきっかけになるはずであろうから。
 いきなりは変わらないだろう。
 即座に前向きにもならないだろう。
 人の心はいつだって頑強そのものではないのだ。波がある。硬いときもあれば、柔らかいときもある。傷つきにくい時もあれば、傷つきやすいときもある。
 故にトリテレイアは想うのだ。

 その波こそが人たる所以であろうと。
 機械の己には宿らぬ柔らかさ、柔軟さ。けれど、故に痛がり傷つきやすい。
 それを守護するための騎士としての己は今、何を想う。何を持って何のために。
「安寧を願いましょう―――」
 そうすることで人々の心が、救われるというのであれば。
 間に合わず非業の死を遂げた全ての生命の為にトリテレイア自身が願う。

 これからも人々の生きる戦いは続くだろう。
 今日というこの日は転換点であったかもしれないが、長く戦う日々に追いては一瞬だ。
 故に今は振り返るのでもなく、前を剥くのでもなく。
 トリテレイアは人々と共にしばし、佇み、今という瞬間に想いを馳せるのであった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レナーテ・フレンベルク
◎アドリブ等歓迎
ふぅ……
こんなに沢山の霊を操作したのは初めてだけど、上手くいって良かったわ
ヒルデもお疲れ様

■行動
この地に弔いの花を植える……
今を生きる者にも、死してしまった者にも
どちらの為にも必要な事ね
私も一緒に弔いましょう
今回力を貸してくれた彼らの為にも、私自身の手で

後は住人の移送だけど、中には未だ諦観に沈む人たちも居るでしょう
私は今回、そういった人の対応に当たるわ

全てを諦めてしまった人には、部外者である私たちの言葉は届き辛い
でもきっとそんな人にも、霊となった後でも心配して
身を案じてくれる家族や仲間が居る筈
その声を【UC】によって本人に直接届かせる事で、少しでも
未来へと生きる希望を持たせるわ



 未だに指先が震える。
 けれど、その指先の震えを抑えるように握り締めてレナーテ・フレンベルク(幽玄のフロイライン・f25873)は、息を吐き出した。
「ふぅ……こんなに沢山の霊を操作したのは初めてだけど、上手くいって良かったわ―――ヒルデもお疲れ様」
 隣に佇む巨骸ヒルデを労い、レナーテは魔法のガスが灯すほのかな明かりを見やる。本当に地底であるのだな、と理解する。
 地上と変わらない劣悪なる環境。
 陽の光当たらぬ世界にあって、これが世界だと知る者たちにとって、新天地とはどれだけの価値が在るものであろうか。

 けれど、レナーテは頭を振る。
 レナーテが今回集めた死霊、怨霊たちを想えば、それは詮無きことである。此処にあっては、自分たちとおなじになる。その想いは、きっと彼等にとって共通のものであったことだろう。
 故に、レナーテは花々の種子の入った袋を持ち出す。
「この地に弔いの花を植える……今を生きる者にも、死してしまった者にも、どちらの為にも必要なことね」
 死は終わりではない。
 ただ生の向こう側に行っただけのことである。それは死霊を操る術を持つ己に取っては当たり前のことであったかもしれない。
 けれど、今を生きる地底都市の人々にとっては違う。
 それを数多の世界を渡り歩いてきたレナーテはもう知っている。

「私も一緒に弔いましょう。今回、力を貸してくれた彼等の為にも、私自身の手で」
 震える指先はもう止まっていた。
 前を向くことは尊いことであるが、誰もがそれをできるわけではない。未だ諦観に沈む者もいるだろう。
 誰も彼もが震える指を抑え、立ち上がることができるとは限らないのだから。

 ―――さぁ、行きなさい。

 それは小さな言葉だった。周辺に漂う霊たちを己のユーベルコードの輝きが導く。
 攻撃の手段としてではない。
 ただ、彼等を安心させたかった。
 諦観の海に沈んだ者達に、部外者である猟兵達の言葉は、届きづらい。人は救われるのではない。自分自身を救うのだ。他者ができるのは腕を取ること、支えてやること、背中を押すことだけだ。
 故に、周辺に漂う霊たちは、死しても尚、縁者の元に集う。

「心配しないで。心配しているけれど、それは見守っているだけだから。今立ち止まることを望んではいないわ。辛いことを言っているけれど、それはいつか貴方の力になることだから」
 その言葉はレナーテの言葉か。それとも死せる者たちの言葉か。
 けれど、その宿った言葉の力は人々の心を揺り動かすきっかけに過ぎない。未来というものすら信じられなかった者たちにとって、その言葉は胸のうちに灯火を灯すに等しい力であったことだろう。

 その瞳が微笑む。
 指先の震えはもうない。此処には誰かを想い、誰かを慮るものばかりだ。
 未来というものを信じること、希望を見出すこと、生きること。
 それを望む者がいるのであれば、いつの日にか、この地底にも花が咲くだろう。今日という日の嘗てを思い出す者が、この地に帰ることを願いながら、レナーテは種を人々と共に蒔く。

 弔いの花は、いつしか希望の花となるだろう。

 それをレナーテは知っている。
 どれだけの艱難辛苦が有ろうとも、それを為し得た先にこそ玉の如き輝き放つ未来があるのだから―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

大町・詩乃
この地底で世代を重ね、希望は無くとも生き抜いてきた。
御先祖様や大切な方々が眠るこの地を去るのは忍びないという気持ちは、判る気がします。

ナイアルテさんから渡された花の種を、埋葬地を中心に各所に蒔いて水をたっぷりと注ぐ(この地の人々と共に行います)。

蒔き終わった後で、UCの神事起工を使用。
植物さんの成長促進能力を強化し、種から芽を出し、すくすくと伸びて花を付けるところまで進めます。
『亡くなられた方々には、花々が寄り添います。決して淋しくは有りませんよ。』と人々が未来に向かう気持ちが湧き出るよう説得します。

最後に、植物さんには感謝の言葉と共に詩乃の神力を分け与え、【天候操作】で慈雨を降らします。



 すべての人が新天地を夢見るわけではない。
 人は誰しもが開拓者ではないのと同じように、一箇所にとどまろうとする者もまたいるが道理であろう。
 どれだけ恵まれた天地があろうとも、『此処でいい』と思った者が、その腰を上げることは一歩を踏み出すことよりも難しいことであった。
「この地底で世代を重ね、希望はなくとも生き抜いてきた……ご先祖様や大切な方々が眠るこの地を去るのは忍びないという気持ちは、判る気がします」
 大町・詩乃(春風駘蕩・f17458)は神たる身である。だが、それ故に土着の事柄に付いて一定の理解を示す。人と交わって暮らすことを好む彼女にとって、彼等の気持ちは間違いではなかった。

 転移する前に手渡された花々の種子の入った袋を見つめる。
 これが如何なる意味をもたらすのか。己が植物を司る女神であること、この地に縁があったこと、その意味を詩乃は噛みしめる。
「皆さん、お手伝いいたします」
 そう言って詩乃は人々に混じって、死せる者たちの遺骸を埋葬していく。
 それは途方もない作業の連続であった。戦いの中、そして、自分たちが訪れるまで、どれほどの生命が散っていったのかわからない。
 それほどまでに、この地には死が蔓延っていた。人々の顔は昏い。死というものがあまりにも近すぎるものであるからだろう。

 誰も彼もが諦観に沈む。
 生きる希望というものすら知らず、ただ死せる日を待つばかりの生活が、どれだけ人間としての尊厳を踏みにじったのか。
 それを想えば、詩乃の眦に涙が浮かぶ。けれど、涙をこぼすわけにはいかない。その涙は、本来、今を生きる地底都市の人々が涙すべきものであるから。
「これより神としての務めを果たします」
 彼女自身の身体の中から溢れるように神力が天地に宿りし力と人々の願いと想いでもって、紡がれていく。

 遺骸を埋葬した土地を中心に各所に蒔かれ続けた花々の種子。
 それは他の猟兵達のものと合わせても相当なものであったことだろう。水はすでに蒔き終えている。
 これよりは、詩乃の―――アシカビヒメの領分である。
 それはまさに、神事起工(シンジキコウ)。
 高められた神力が人々の願いに寄って増幅されていく。どうか安らかでありますようにと。苦しみや痛み、その魂を苛む全てから、死せる者たちがどうか安らかに眠れるようにと願う心が詩乃の力を増幅する。

 この神力こそが詩乃が植物の女神たる所以。
 大地に蒔かれた種が芽吹き、伸びていく。それはあまりにも凄まじき光景であった。魔法のガスが天井にあって仄かに光を放つ地底にあって、圧倒的な速度で持って成長を遂げていく花々。
 蕾が開いていく。
 光が溢れるのは、詩乃の持つ神力故。
『亡くなられた方々には、花々が寄り添います。決して寂しくはありませんよ』
 その言葉は、地底都市に住まう人々の全てに届いたことだろう。
 光輝く神力と共に、人々の心に飛び火した希望への灯火が溢れていく。
 諦観が人の歩みを止め、その生命を終わらせるのだとすれば、希望の灯火は人の心を温め、一歩を踏み出す意志となる。

 ならば、心の光こそが神力そのものであろう。
 人の心が見せる信仰の光。その光を受けて詩乃の神としての力が増幅されていく。故に人と交わり、人と共に生きるのが詩乃という神だ。
「―――」
 小さく言葉を紡ぐ。
 人ではなく、人の心に希望の灯火を宿すきっかけとなった植物―――花々に詩乃は感謝する。
 あなた達のおかげで人々の心に温かさが宿ったのだと。

 そして、慈雨が降り注ぐ。
 それは地底にあっては決して降り注ぐことのない雨。
 恵みにして慈しみ、あらゆる生命を育む水。干上がった人々の心に染み渡る雨が、花々の花弁を揺らし続ける。
 いつかまた、人々が、故人を偲び訪れた時、この地底都市は、地底にありて花が芽吹き溢れる花の都として人々に呼ばれることだろう。

 地底都市に赤い花々が咲き誇る。

 まるでこの地底都市を護るように―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年09月08日


挿絵イラスト