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死人戦線

#アポカリプスヘル

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#アポカリプスヘル


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●チームD
「おい、誰かさっさといって死んでこい」
 ボスのあんまりといえばあんまりな一言に、思わず笑う。
「そんなんで目眩ましになる? ていうかボスちゃんと拾いに来てくれる?」
 一番若いブルーノが鼻白んで問う。
 もし特攻させられるとしたら、彼になるだろうから。
「戻って来られたらな」
「そんなの当てになんない! 俺やだかんね!」
 ぎゃーっとブルーノは嫌がった。こう、皆の命が掛かっているのに、妙に言葉が軽い男である。
「あたしが行くよ」
「本気か、ドリス」
 見かねて手を上げたドリスに、思わず問うていた。彼女は額に走った痛々しい縫い目に手を置いて、溜息を零す。
「そりゃ、離脱までの殿をぼっちゃんに任せるのは不安だけどさ――トチっても台無しじゃないか。あたしたちは何度死んでもやり直せるけど、死に甲斐のない戦いは嫌だよ」
 朗らかに笑って見せる。確かに、幾度も蘇るにしたって、希望の或る死に方がいい。
 大切なものを守るために、こんな躰になって生きているのだから。
 ボスの声が端末から響く。そろそろ動き出さねばならぬらしい。手入れの済んだ戦車に乗り込みながら、とても真摯な声音で告げる。
「――援護する」
 愛銃を片手で抱えたドリスは惘れたように俺を睨んでから、不敵に笑った。
「当然さね、サイモン」

●救援の手を
 廃病院が見える。
 否――薄汚く半壊しているが、器用に修復されて、電気の走るフェンスなどで覆われている。この病院は無数のオブリビオンによって包囲されていた。
「貴様らからすれば、朽ちた病院に見えるだろうが、これは立派な拠点(ベース)だ。中には少なくない人間が暮らしているのである」
 ヴィリ・グロリオサ(残影・f24472)は解りやすいように映像化して、拠点の窮地を見せた。あまり口数の多い男ではないため、説明は簡潔にしたいらしい。
「この拠点にはデッドマン四人の防衛チームがいる。生者の戦士もいるが――基本、彼らが中心となってこの拠点を守ってきたのだ」
 死を恐れぬ戦士であれば、数が少なかろうが、身を犠牲にして拠点を守れる。
 実際、そうして幾度か難を逃れ、この拠点を維持してきたのだ。
 だが、今回の襲撃はそれでは済まぬ。包囲が厳しい事もあるが、それ以上に、一体の強力なオブリビオンが病院の天井より侵入し、奇襲を仕掛けて来るのだ。
 それと知らず、正面からの防衛に力をいれれば、脱出を計ろうとする弱者を守りきれず、拠点は崩壊することとなるだろう――。
「幸いなのは、予知が繋がった事であろうな……これより、貴様らを直接、襲撃地点に送り込む。奇襲を阻止し、防衛チームに合流し、残るオブリビオンを片付けろ」
 説明は以上である――とヴィリは口を閉ざした。
 それから、やや考えるようにして、言葉を付け足す。
「これも人類の存続をかけた戦いのひとつである――そう胸に刻み、向かうのだ」


黒塚婁
どうも、黒塚です。
一度はデッドマンをずらりと並べたい。そんなことだけを考えていたのでした――。

●章構成
 1章:ボス戦『ジャックレイヴン』
 2章:集団戦『ロスト・レイダース』
 3章:ボス戦『『大炎嬢』バーニング・ナンシー』

 ずっと戦闘です。
 派手にぶちかまそうぜっ的な雰囲気で戦えます。
 戦場状況は導入にて説明致します。

●プレイングについて
 各章、導入によるご案内の後、プレイング受付とさせていただきます。
 導入部に具体的な日時を加えますが、変更があった場合の告知は雑記・Twitter等でいたします。
 また、内容問わず、全採用はお約束出来ません。
 ご了承の上、ご参加いただけたら幸いです。

それでは、皆様の活躍を楽しみにしております!
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第1章 ボス戦 『ジャックレイヴン』

POW   :    トキシックフェザー
【両翼】から【血液で汚れた無数の羽根】を放ち、【血液に含まれる神経毒】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD   :    オールモストデッド
【腐食、腐敗を促進させる毒ガス】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    デッドレイヴン
自身が【敵意】を感じると、レベル×1体の【屍鴉】が召喚される。屍鴉は敵意を与えた対象を追跡し、攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠鈴・月華です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●防衛戦
 ボスはソーシャルディーヴァだ。端末を通じて俺たちや拠点の皆に指示を送る。
 ブルーノとドリスはガンナー。どっちもやたらと重い銃を自在に振りまわす。どちらかといえば、ブルーノよりドリスの方が射撃の腕は上で、狙撃に回ってもらった方が心強いのだが、度胸の問題で今日の囮はドリス。
 周囲を取り囲む敵は、いつも以上に不気味だった。生者の略奪者にはない、陰鬱な気配。それでいて、こちらに向けてくる殺気は痛いほどに強烈だった。
「これは警備班じゃキツイだろうなあ」
 ブルーノがのんびりという。声音はともかく、意見には同意だ。命を守ろうとする戦い方では直ぐに制圧されてしまうだろう。
「入れるわけにはいかないねぇ」
 ドリスが厳しい眼差しを敵陣に向けた。同時に、それは自分の命運への覚悟を思わせた。
 俺は戦車で、敵を翻弄し戦線を崩す役割だ。そして、掻き乱した戦場の中心にドリスをおいてくる――ドリスは皆が脱出するまでの時間を稼ぎ、無事なら俺が援護しつつ回収。無理なら持ち込んだ爆薬で敵を巻き込み自爆して、後々復活することになる――即座に復活したところで、戦況が改善しない間に復活しても、堂々巡りだからだ。
 優先すべきは、拠点の皆が無事に逃げる事。俺たちは生と死を巧く利用して、嵐をやりすごす。
「準備は良いか」
 俺がドリスと目配せし、彼女が頷いた――その時だった。
『拙い、拠点の上に化けガラスが――』
 端末から、珍しく焦ったボスの声が響いた。

●鴉と、狩人
 天井をぶちぬいた巨大な鴉。ところどころ腐敗した異形であるが、その獰猛さ、殺意の高さは対峙すれば解る。生ある者を憎悪する――否、飢餓だ。果てしない飢餓が、それを突き動かしているのだった。
 大鴉と対峙するように、猟兵たちは転送されていた。
 周囲を見渡せば、大小の瓦礫が散乱している。さっきまで天井だったものの破片だ。それ以外は、基本的には何も無い空間だった。コンクリートの作りの屋根裏は、防衛のために二重で塗り固められていたらしい。
 階下で人々がざわめく気配はするが、入口近辺を埋める瓦礫のお陰で、こちらにはやってこられぬようだ。
 ならば、余計な犠牲者が出る前に、さっさと片付けてしまおう。

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【プレイング受付期間】
9月5日(日)8:31~9月8日(火)22:00頃

一般人への影響などは考えず、戦闘だけのプレイングで大丈夫です。
防衛チームもこの戦闘には関わりませんので、お気になさらず。
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囁石灯・銀刃郎
拠点が無くなると寄れる場所減るから困るのよね。
ソーシャルドローンで近くのネットワークにハッキング
手短に、もしもし、こちらデッドマン。化けガラスはまかせて

覇気を纏ったカタナを抜き放ち、なぎ払い、剣圧で毒ガスを吹き飛ばし
ここも拠点の一部でしょ。あんまり汚さないで頂戴

『ミュータントカメレオン』
片腕を水銀の粘体生物に変えて射出。相手に取り着かせて動きを封じる。
環境耐性。簡単に腐ったりしないわよ、私の銀の身体は

ダッシュ。即行接近して、刀を振るう
どれぐらい切り刻んだら死ぬかしら。それとも焼かないとダメ?
早業で何度も切り刻み、属性攻撃。
ヴォルテックエンジンから電流を生成、電撃で焼却する。
死ね、オブリビオン。


シキ・ジルモント
◆POW
天井を破壊して登場とは、随分と派手にやってくれたものだな…
物資も人手も乏しいこの世界では、修復も楽ではないだろうに

銃の射程を活かして交戦し、接近戦は控える
敵の放つ羽根は、天井から落ちた瓦礫を遮蔽物として影に隠れる事で直撃を防ぐ
ひとまず身を隠したら遮蔽物になりそうな大きさの瓦礫の位置を確認、羽根の射線から外れる位置の瓦礫へ走り滑り込む

こちらを射線に入れる為に体の向きを変える瞬間なら羽根の射出は止まるはずだ
その隙にユーベルコードを発動、敵の両翼と頭部を狙った連続射撃で反撃
怯んだり体勢が崩れる等で敵の行動が止まったら、間を与えず追撃する

悪いがどれだけ飢えていようと、喰わせてやれるものなど無い



●衝突
「天井を破壊して登場とは、随分と派手にやってくれたものだな……物資も人手も乏しいこの世界では、修復も楽ではないだろうに」
 静かに息を吐いて、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は忌々しげにジャックレイヴンを見やる。
 今回はその慎重な備えが、いきなり被害を与えぬよう働いた。だが、再び備えるために、どれだけの苦労が必要になるだろう。
 まったくその通り、囁石灯・銀刃郎(ミュータントファントム・f24401)も鋭い眼差しで彼に倣う。
「拠点が無くなると寄れる場所減るから困るのよね」
 奪還者としての苦労は、猟兵であれども同じ――否、地球上の乏しい灯火を、これ以上消されるわけにはいかぬ。
 銀刃郎はカタナを抜きながら、黒く浮かぶ円盤に伝言を託す。
「手短に、もしもし、こちらデッドマン。化けガラスはまかせて」
 ドローンに搭載された人工知能「ケヴィン」が、この拠点に張り巡らされたソーシャルネットワークにこの言葉を伝えてくれるだろう。
 オーラを載せれば、彼女の刃は蒼く輝き出す。
 ちらりと視線を向ければ、シキは銃を構え、瓦礫の影に身を置いていた。なるほど銃使いか、判断した銀刃郎は前のめりに体重を掛けた。
 対峙する大鴉はといえば、ゆるく身じろぎした。
 じっくり眺めようとも、マスクに覆われた鴉の表情は読めぬ――元より、鳥の顔色など読めるものではないが。ただ、油断ならぬ敵意がこちらに向けられている。
 すかさず鴉は、両翼を広げた。射掛けた黒羽が雨のように視界を埋める――シキは瓦礫を蹴って盾にしながら、別の瓦礫の影へと逃れる。
 銀刃郎を巻き込まぬよう対角へと彼は走り、牽制の銃撃を数発、放った。むしろその注意をこちらに向け続けるために。
 血液で汚れた羽は、コンクリート作りの床に深々と刺さっていく。まるで機関銃のようだ。
 薄い瓦礫ならすぐ蜂の巣だろう。シキは大きく迂回するように、駆る。
(「射出範囲はかなり広い――だが」)
 身体を転回させるほどに置き去りにすれば、羽は止まるだろう。その一念で、彼は動く。
 実際、それは大きな隙を作り出していた。
 大鴉の背より、銀刃郎が距離を詰めようと地を蹴っていた。だがそれは、彼女に一瞥すらくれず、大きく身体を震わせただけだった。
 漂い始めるは、ひどい腐臭。
 鼻をつく、饐えた臭い――どんな化学薬品かも、判断が付かぬ。横一文字に薙いだ蒼い剣閃が、それを吹き飛ばす。
「ここも拠点の一部でしょ。あんまり汚さないで頂戴」
 冷ややかに銀刃郎は告げる。
 されど、それでは収まるまい――思い切り吸い込まねばそれでいい。一瞬の隙間に潜り込むように、彼女は刀を握らぬ片手を突き出した。
 だいたい、と唇の端を持ち上げて、挑発する。
「簡単に腐ったりしないわよ、私の銀の身体は」
 銀刃郎の片腕は解けて消える――否、見えない水銀の粘体生物へと変性し、射出され、鴉に纏わりつく。
 同時、鴉の翼も搦め捕られ、放出していた羽が停まった。
 瓦礫の向こうから飛びだし、低く構えたシキの青い双眸は、鋭く的を捉え――視線の高さに揃った銃口が吼えた。
 輝くような光が、鴉の黒い躰に吸い込まれる。
 連続に轟いた銃撃は、鴉の頸から腹までを一直線に弾く。朱が、臓物が、無防備に爆ぜていく。これらも、毒を帯びているのだろう――強い臭いが、離れたシキまで届く。
 くぐもった悲鳴を鴉はあげた。
 挟み込むように、銀刃郎の刃が上背に落とされていた。腐肉が黒い羽毛の間から覗いて、またも耐えがたい腐臭を放つ。
 怯む彼女ではないが、直接浴びるのは抵抗があった。素早く身を翻して距離を取ると、再度、剣を振るう。
「どれぐらい切り刻んだら死ぬかしら。それとも焼かないとダメ?」
 水銀の肉体を泳ぐ微細機械群が、電流を紡ぐ。
 全身に電撃を纏いながら、『囁石灯』を維持した彼女は高々剣を振り上げるが同時、息を吐きながら剣を振り下ろす。
「死ね、オブリビオン」
 そこからは止まらぬ。電流を纏った刃は幾重にも斬撃を重ね、斬り裂くと同時に、灼く。
 白い煙を上げて、鴉の身体は戦慄く――。
 くぐもり、濁ったガァガァという悲鳴に、弾丸の装填を終えたシキは嘆息した。
 もどかしげに頸を動かすその姿が。
 傷の痛みに吼えるというよりは、近くに獲物の臭いがするのに、食らいつけない――そんな歎きに見えたのだ。
 だが、憐れみなどない。すっと前に差し出した銃口は、程よく冷めている。
「悪いがどれだけ飢えていようと、喰わせてやれるものなど無い」
 代わりに鉛玉をたらふく、腐った胃に収めてやる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

柊・はとり
ただの高校生だった俺も最近はこの世界に慣れて
でも身体を蝕む痛みだけはいつまでも消えない
今日も明日もどうせ満身創痍だ

聞いたかコキュートス
奴らも死に甲斐のない戦いは嫌だってよ
『すみません、よく聞こえませんでした』
ああはいはい都合良い時だけだんまりな

鴉…鴉ね
あまり好きじゃないんでやり易い
喰われても死にはしないがよした方がいいぜ
文字通りの冷血漢なんでな

連戦に備え体が欠けないよう温存
UC【第三の殺人】で潰す
溢れる殺気を殺す理由もない
仲間にたかる分まで誘き寄せる気で挑発

鳥頭か?冷たいって忠告したろ
俺にホイホイされた小鴉共が纏めて凍れば万々歳だ
死骸を振り払い本体を叩く
…寿命の代わりに何を削られてるんだろうな


マガラ・オーエン
でけぇ烏だな。
中身がぼろぼろ出てるけど大丈夫か。
デッドマンに対して襲撃者も屍なんて、難儀だなぁ。
屍人に親近感が湧かないといえば嘘になるからな。
アタシの持ちうる限り手助けしよう。

よっしゃ!撃つぞ。
武器はアサルトライフル。装備はガスマスク。
烏に気づかれないうちにUC発動。
煙ったいのが苦手な奴がいたらすまんね。

紛れて、移動。暗殺するように制圧射撃。
屍鴉は適宜乱れ撃ちしつつ、取りこぼした分は懐剣で切り込み迎撃。
防衛チームに何かあれば援護射撃で応戦しよう。
大勢でわいわいやるのは楽しいねぇ。
賑やかなのは良いことだ。



●相殺
 アサルトライフルを担いだマガラ・オーエン(猿女・f25093)はジャックレイヴンを眺めて、はー、と声をあげた。
「でけぇ烏だな。中身がぼろぼろ出てるけど大丈夫か」
 肉は腐りかけが美味いというが。これは食っても美味そう……は通り過ぎてるな。
 まあ、自分は食べる気などなくて。拠点の皆に振る舞うのも憚られるなら、容赦なく蜂の巣にしてやれるというものだ。
 もっとも、敵を食糧とみているのは、この大鴉の方らしいが。
「デッドマンに対して襲撃者も屍なんて、難儀だなぁ」
 アンタもデッドマンか、と少年――マガラにとっては、少年と呼んでよさそうだ――を振り返る。
 ゆっくりと頷くだけの相鎚を返して、柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)は大鴉を見つめる。
 ――それにしても、死に損ないは、頑丈だ。
 ぼろぼろと腐肉を周囲に落とし床を汚しながら、ジャックレイヴンは羽を繕うように、首を捻り身じろぐ。すると再び、姿勢が変わったことで、汚い中身が落ちる。小さかった洞が、抉られて広がっているのだろう。
 ああ、嫌だな、と素直に思う。他人の痛みを自分の痛みと捉える精神は持っていないが『あれもまた動く屍の姿』だと思うと、身につまされるような、嫌な気分だ。
(「ただの高校生だった俺も最近はこの世界に慣れて、でも身体を蝕む痛みだけはいつまでも消えない」)
 はとりは、小さな吐息をこぼして、偽神兵器に話しかける。
「聞いたかコキュートス。奴らも死に甲斐のない戦いは嫌だってよ」
『すみません、よく聞こえませんでした』
 AIを搭載し意思持つ氷の大剣は、おきまりのフレーズを言う。
 そうかよ、彼は片頬だけで笑んだ。
「ああはいはい都合良い時だけだんまりな」
 ――まあ、愚痴っても仕方ない。
「今日も明日もどうせ満身創痍だ」
 それが我が運命。何処にも届かぬよう独りごちて、冷たい双眸は改めて敵を見定める。
 大鴉はぶわっと大きく身を震わせると、闇が噴き出す――どれも、鴉だった。どいつもこいつも口の端から赤い何かを滴らせた屍鴉どもが、一斉に羽ばたき、二人の頭上を埋める。
「鴉……鴉ね」
 正直、好きとはいえない。ゆえに、破壊に躊躇いを覚えない。
 鋒を下げながら、はとりはそれらへ告げる。
「喰われても死にはしないがよした方がいいぜ――文字通りの冷血漢なんでな」
 警句は、如何に響いたか。
 ギャアギャアと鳴いて滑空を始めたそれらの声に、マガラはゆっくりと銃を構え直す――しかし、彼女はのんびりと遥か下、地上で奮闘しようというデッドマンたちを一瞥した。到底目の届く範囲ではないが、まるでその姿を見ているかのように楽しそうに笑う。
「屍人に親近感が湧かないといえば嘘になるからな。アタシの持ちうる限り手助けしよう」
 よっしゃ! 撃つぞ、言うなり、ガスマスクを素早く身につけると、天に向かって連射する。
 狙いは、鴉ではなく――。
「あわれ救いの明は消え―恋し恋しと雨が降る」
 降り注ぐスモッグが周囲を覆い尽くす。
「煙ったいのが苦手だったらすまんね」
 暗灰色の世界で、オレンジの髪が踊る。楽しそうな銃撃の音が響く。数体を落とされながら、仕切り直しとばかり、屍鴉達は大きく旋回した。
「――問題ない」
 目を細めたはとりであるが、短いいらえを放つと、臆すことなく前へと進んだ。
 大鴉の敵意と、はとりの敵意がぶつかった。途端、彼の身を蒼き炎が包み込む。烟る中でも鮮やかに、蒼い光を狙い屍鴉どもは一群となって飛来する。この環境に適応したマガラよりも、格段に目立つためだ。
 鴉は翼をすぼめ、弾丸のように次々とはとりの身体を貫くべく衝突し――。
「鳥頭か? 冷たいって忠告したろ」
 凍っていく。
 彼の炎に触れた鴉は次々凍り、それを撫でるように剣を振るう。さすれば、粉々に砕けて煙に紛れる。
 今ふるったのは理不尽な暴力ではない。正当防衛だ。そのまま大鴉目掛けて、はとりは駆ける。
「はは、いいね」
 言って、マガラは引き金をひく。大鴉にしてみれば、煙を突き抜けて弾丸の雨あられが突如と閃く。驚きなどを示す敵ではないが、幾度屍鴉を召喚しようとも、それははとりに向かい、銃撃が止むことはない。
「大勢でわいわいやるのは楽しいねぇ。賑やかなのは良いことだ」
 着弾する輝きさえ確認すれば、彼女は適宜場所を変えながら、再装填して掃射を繰り返すだけだ。
 間を開けず、こちらの銃撃を意識させるようにして、はとりへの注意と共に、彼の足音を消してやる。
 ゆえに――大鴉は蒼き炎の接近を、その冷たさを感じるまで気付かなかった。
 奔る一刀は頸を狙い、真っ直ぐに落とされた。がちりと受け止める肉の堅さに、はとりは焦るでもなく、煙の中に退く。何度でも、斬りつけてやれば良いだけのこと。
 視界をも覆う蒼い炎は未だ彼に脅威的な力を与え続けている――代償に、『何か』を削って。
「……寿命の代わりに何を削られてるんだろうな」
 はてさて、問うたわけでは無いが。コキュートスの涼しい電子音声が、『すみません。その検索結果は、見つかりませんでした』と静かに告げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

終夜・嵐吾
せーちゃん(f05366)と

カラス相手、物足りんのではと思ったがそのようなことなさそうじゃね
ふふ、悪そうなカラスじゃね~
おしゃべりする必要もなさそうじゃ

せーちゃんどうする?
斬るか?それとも叩き落すか?
同じようなこと問うて笑う
わしは燃やしたい
ぼたっと腐った身が落ちてくるのいやじゃし
虚もあれは触りたくないといっておって、手をかしてくれんようじゃ~

向かってきたのは全部燃やしてしまお
せーちゃんが落としたものも、すべて
狐火ひとつは小さくとも集わせて盛れば
はは、いい燃えっぷりよ
塵一つ残さず、全部全部燃えてしまえ
ああ、こうして燃やすのはこんな楽しかったかの

遊びに出かけた友は楽しそうじゃ
ええ太刀筋が踊っとるわ


筧・清史郎
らんらん(f05366)と

確かに、お喋りしたところで、聞き分けの良い鴉さんではなさそうだ
ならば早々に躯の海にお引き取り願うだけだな

らんらんは、引き裂くのか?燃やすのか?
成程、では俺はらんらんが燃やしやすいよう鴉どもの翼を捥いでやろう
本体の大鴉は勿論、屍鴉の翼を数多の桜花弁の刃で斬り裂いていく
あとは友が全て燃やしてくれるだろうからな

楽しそうに燃やす友の姿に微笑みながらも
俺も少しは遊んで貰おうか、と
隙あらば、数多の狐炎灯る戦場を駆け大鴉の元へと
敵の動向に注意を払い、攻撃は見切り躱し、屍鴉の翼を斬りつつ
花霞に融ける様な残像を駆使
俺はこっちだ、と笑みながら
握る刀で、首を刎ねるかの如き連撃をくれてやろう



●花焔
 腐肉が周囲に飛び散っている。ジャックレイヴンの頸から腹まで、真っ赤に染まり、中身がぼろぼろと露出していた。
 だが不吉なる使徒は、グググ、とマスクの下で呻きながら、猟兵たちを睨んでいる。
 頑丈じゃのう、終夜・嵐吾(灰青・f05366)は素直に感嘆してみせた。
「カラス相手、物足りんのではと思ったがそのようなことなさそうじゃね」
 戦い甲斐がありそうではないか。のう、と友を軽く振り返る。
「ふふ、悪そうなカラスじゃね~おしゃべりする必要もなさそうじゃ」
「確かに、お喋りしたところで、聞き分けの良い鴉さんではなさそうだ」
 首肯を返した筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)は、紅瞳を細めた。途端に、少しばかり空気が冷える。
「ならば早々に骸の海にお引き取り願うだけだな」
 而して、その表情を微笑みに改める。微かな緊張も、駘蕩たる空気も、嵐吾は気にせず、そうじゃの、とのんびり受け止めて、問いかける。
「せーちゃんどうする? 斬るか? それとも叩き落すか?」
「らんらんは、引き裂くのか? 燃やすのか?」
 奇しくも、清史郎も同じように問うていた。
 はは、と明るい声をあげて嵐吾は笑い、すぐに返答する。
 元々、決まっているからだ。
「わしは燃やしたい。ぼたっと腐った身が落ちてくるのいやじゃし――虚もあれは触りたくないといっておって、手をかしてくれんようじゃ~」
 右の頬にそっと手を寄せる。かぐわしき花の香りが漂う。本当に眠っているのか、狸寝入りかはわからぬが、それが答えらしい。
「成程、では俺はらんらんが燃やしやすいよう鴉どもの翼を捥いでやろう」
 ふふと清史郎が声を抑えて笑うのは、友の中にあるものの美学を知ってだろう。
 柄を下げて、大鴉に向き合う。鍔を指先で押せば、蒼の輝きが覗く。
 然し、それは放たれる前に指先から溢れ、消える――。
「舞い吹雪け、乱れ桜」
 刀は乱れ舞い散る桜へと変じ、その殺意に呼応し、大きく翼を振るわせた大鴉から、屍鴉が放たれる。
 二人へ向かい方向を定め羽ばたいたところに、桜の花弁が迎え撃つ。
 音もなく、それはふわりと舞う。軌道の読めぬ桜花の優雅な揺らめきと、一直線に獲物を狙う屍鴉どもが交わった瞬間。
 朱が爆ぜる。
 肉を、翼を、無造作に食いちぎるように、花弁は鴉どもを屠る。進路から放たれ、すっぽりと群れを包み込んでいるならば、かの花嵐から逃れる術はない――。
 翼を斬り裂かれ、黒い羽を散らしながら――一群の中心にあるものが、仲間を盾に難を逃れて滑空する。
 而して、死線を突破したそれらが、嘴から全身で突進して来るを、次に襲うは視界を埋め尽くすほどの炎。
 落ちた羽、腐肉すらあっという間に灼き焦がす熱が、待ち構えていた。
 ぽつりぽつりと灯った炎は抱えるほどの火球となりて、次々と屍鴉を呑み込む。
 炎上するのは一瞬の事。あっという間に黒の腐肉は、赤い花となり、灰として風に消えていく。
 そして、彼らの元には、羽から溢れた柔らかな毛すら、届きはしなかった。
「はは、いい燃えっぷりよ。塵一つ残さず、全部全部燃えてしまえ」
 唄うように嵐吾は言い、重く枝垂れた花を愛でるように手を翳す。
 方向を変えた火球が、別の角度からの襲撃に応じて、鴉どもを翻弄する。
「――ああ、こうして燃やすのはこんな楽しかったかの」
 嵐吾の琥珀の双眸は、赤の耀きを秘めて、きらきらと輝いている。
 空には刃なる桜花が、焔が起こした風にも負けず、気儘に舞っていた。屍を屠る競演が、あまりに鮮やかで、無造作でありながら、日頃の己達の戦い方に似て面白い。
「楽しそうだな、らんらん」
 炎で遊ぶ友を前に微笑みながら、しかし少々手持ち無沙汰であった清史郎は、桜の花弁をくいと操り、己の周囲に呼び戻す。
「俺も少しは遊んで貰おうか」
 太刀を叩きつけるように薙ぎ払い、改めて増殖した屍鴉を両断する。絶命しようがすまいが、炎がすぐにその死骸を絡めて灰とする。
 ゆえに、桜に混ざる黒色はすぐに数を減らし、自ら仕掛ける花霞の中を駆けながら、清史郎は手招き笑う。時折炎が陽炎を招き、その影は正しく儚く歪に、正体を曖昧にした。
「俺はこっちだ」
 繚乱する花弁の中で、ひらりひらりと幽玄と躍り、その花弁は大鴉の前で一刀に収束する。
 桜花から蒼き一振りへと姿を戻したそれを手に、清史郎は流れるように振り下ろす。翼を広げて、至近より飛び立たせた屍鴉ごと、彼は斬って更に踏み込む。
 大鴉の肉は硬く、表面の羽毛はあっさりと毛羽立つが、巧く刀を滑らせるらしい。
 ただ、それすら正確に捉えて見せよう。
「ええ太刀筋が踊っとるわ」
 太刀風と共に炎が空へ昇る。眩しそうに目を細めて、その煌めきを見つめ、楽しそうに斬りかかる友の姿に、嵐吾は声を発して笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アレクサンドラ・ルイス
ユエ(f02441)の『ありきたりな美談』に僅かに反応するが
「若い連中は無茶をする」とだけ返す
(その“ありきたりな美談”を自分もやってきた
そして何も掌の中には残らなかった)

味方の攻撃予備動作・詠唱の間
ヘドヴィカ制圧射撃で大鴉の動きを封じ込める

鴉なら視覚が主体だろう
前に出て派手に動き注意を引き付ける
頭のいい奴なら物騒な玩具を持っているだけで反応してくれる

鴉に左腕を捥がれ、機械化された身体の内部が露出
「美味くないだろう。返せ、そいつは高かったんだ」
――カネもかかったが代償も高くついた
ヘドヴィカを右手一本で軽々と操りUCの左腕と同時攻撃

愛称で呼ばれる度に舌打ち
「黙らないとケツから弾丸ぶち込むぞ」


ユエ・イブリス
アポヘル

サーシャ(f05041)と
「『命を捨てて』は、いかにもありきたりな美談だね」
実際に命を賭し戦う者は多くはない
ましてや実際に捨ててみせるとは恐れ入る
彼らの『命』の在り処は、どこなのだろうね

それにしても醜悪な鳥だ
屍には炎が似合いだろうが、これ以上の暑さは願い下げる
悪魔召喚、氷の剣に氷の【属性攻撃】、ついでに氷結の【呪詛】を
「私が命ずる。滅びを」
敵の目を狙って【空中戦】を仕掛けよう
足元の注意が疎かになるように

「サーシャ、君にセンチメンタルは似合わないと思うよ?」
※サーシャ呼びは純粋な嫌味
「おや、お気に召さなかったかい」

羨ましいことだ
何かを懸命に守ろうとするなど
到底、私には向かぬ仕事だ



●瑕疵
「『命を捨てて』は、いかにもありきたりな美談だね」
 相も変わらず、ユエ・イブリス(氷晶・f02441)は澄ました微笑を湛えている。
 重力から解放されたように自由な妖精は、時に事柄を物語のように評価する――『ありきたりな美談』、今回であれば、そういう言い回し。
 厳めしい表情で敵を見据えるアレクサンドラ・ルイス(サイボーグの戦場傭兵・f05041)の眉間が、僅かに動いたか。
 然し、男は微動だにせぬままに、短く答えた。
「若い連中は無茶をする」
 はたして、彼のいらえが内包する何かに、ユエは気付いただろうか。柘榴石のような双眸を、僅かに細めたものの、素知らぬ風に空に浮かんでいる。
(「その“ありきたりな美談”を自分もやってきた――そして何も掌の中には残らなかった」)
 腐臭、瓦礫と埃の臭い。立ちこめる薄灰の土煙。喚起される郷愁は、刹那に消える。
 幻影を追えるほど、丁寧に向き合っていない。
「――実際に命を賭し戦う者は多くはない。ましてや実際に捨ててみせるとは恐れ入る……彼らの『命』の在り処は、どこなのだろうね」
「お前の興味はそれか」
 こんな泥臭そうな戦場に訪れるなど、常に嘯く妖精の気まぐれからは遠い。アレクサンドラの言葉に、ユエはふっと微笑み、肯定も否定もしなかった。
 然しすぐにその柳眉を顰め、緩やかに高度を定める。薄羽を振るわせて、纏わり付く空気を片手で払う。
「それにしても醜悪な鳥だ。屍には炎が似合いだろうが、これ以上の暑さは願い下げる」
 袖に隠れた燻し銀の腕輪、呪われた宝珠が耀き出す。
「我が呼び声に応え、現れよ」
 低く抑えた声音が朗と唱えれば、氷の剣を手にした悪魔クロセルが顕れる。その姿は、天使のごとく白い光を纏い――ユエによく似た容貌をしていた。
 その肩口に浮かぶ位置より、彼は悪魔に命じる。
「私が命ずる。滅びを」
 ふわりと翼を羽ばたかせ、悪魔は宙を駆った。
 空気を凍らせながら空を奔り、剣を振り上げ大鴉に迫れば、視界を埋め尽くす屍鴉の群れ。ぎゃあぎゃあと叫き、血のあぶくを吐きながら、それらは悪魔と二人に向かって飛来する――。
 小さな嘆息ひとつ。烈火が爆ぜるように、続いて、吼えた。
 屈強な腕が支えるアサルトライフルはユエの詠唱時より大鴉に向けられていた。アレクサンドラも前に駆けながら、黒い羽の襲撃を躱す。
 まるで彼の足跡のように刺さる羽は血液に汚れ、それは神経毒を孕むというが――。
「生体の殆ど残っていない俺に何処まで効くんだか」
 ひとりごちて、両腕で構えた愛銃は大鴉の目を狙う。マスクで覆われているが、視力はあるらしい。頸を時折回すから、間違いない。
 暫し掃射するも、落ち着いては狙えない。黒い翼を広げた大鴉の攻撃はしつこく追ってくる。
「チッ」
 僅かに撃っては、走り、撃つ。その傍らに、凍り付いた屍鴉の死骸が落ちてくる。床と接触するなり砕けていく。死骸の雨を目眩ましに、瓦礫も使って狙いやすいところへと、ひとたび位置取る。
 ユエ本人はどうしているか確認するのは難しいが、彼の召喚した悪魔は屍鴉を次々と撫で斬っている。優雅な所作で黒き群れを斬り裂いて、呪詛を刻んで退けていく。
 巧く一塊に集めた悪魔は身体をしなやかに捻ると、渾身の一刀で斬り伏せ、勢いを載せた儘、大鴉に向かって滑空する。
 合わせ、アレクサンドラも距離を詰めた。瞬時翼から射出された羽が左腕を掠める。びり、と表面が痺れた。だが関せず、銃を突きつける。
 悪魔が掲げた氷の剣が光を受けて強く煌めく。鴉の目へ滑り込む一刀。厭ったか、反撃か、大鴉は頭を下げて旋回した。
 同時に、接近していたアレクサンドラの左腕が激しく軋んだ。大鴉の全身の負荷が掛かって、折れた。
 見誤るなど、らしくもないミスだ。恐らく、神経毒を軽く食らって反応が鈍ったのだ。
 だが、その断面から血液が滴ることもなく――砕けた機械のパーツがぱらぱらと躍る。覗くのは機械化された『生身』。
「返せ、そいつは高かったんだ」
 渋面で告げると右手で銃を取り直す。両腕を前に伸ばす形で、大鴉の後頭部を直に狙う。
「――カネもかかったが代償も高くついた」
 然れど。生き残ることに善悪などないさ――左腕が、ガトリング砲に変じた。
 両の腕がそれぞれに、火を噴く。轟き唸る斉射は大地ごと揺らし、大鴉を吹き飛ばす――悪魔の鋭い剣戟が、更に追い込みをかける。白き翼を広げて、苛烈に空を蹴ってマスクの頬を裂いていた。
 落ちた腕を拾い上げた男の背後から、揶揄うような声が飛んできた。
「サーシャ、君にセンチメンタルは似合わないと思うよ?」
 何処に居たのか、汚れ一つないユエが平然と口にした呼び名に、アレクサンドラは舌打ちし、強く睨む。
「おや、お気に召さなかったかい」
 サーシャ、と敢えて彼が『女性のような愛称』を繰り返すと、アサルトライフルの銃口を後ろへと無造作につきつけた。
「黙らないとケツから弾丸ぶち込むぞ」
 ふふ、とユエは笑いながら彼から距離をとった。
 ――命を賭けるほどの、傷も。使命感も。彼“サーシャ”は識っている。
「羨ましいことだ。何かを懸命に守ろうとするなど――到底、私には向かぬ仕事だ」
 囁きは、そよ風に溶けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鹿忍・由紀
随分と空がよく見える建物だね
ゆっくり眺めさせてはくれないみたいだけど
大きく開く空と大鴉を認めれば
つまんなさそうに小さな瓦礫を均すように踏み分ける

飢えってのはつらいよね
空腹を紛らわすのをちょっとだけ手伝ってあげようか
冗談めいた口振りで大鴉に語りかけながら
辺りの影から幾つもの刃を浮かべて
向かってくる羽根と相殺させる
足りないなら足りるまで
次から次へと撃ち勝てるまで
撃ち負けた分はきちんと躱せるよう
視線はまっすぐ逸らさずに

舞う羽根を突破したならそのまま攻撃へ
狙いは腐敗が進んで崩れる腹部
腹いっぱい喰らいなよ
欠けた部分を満たすかのように
無数の刃で埋め尽くして
これじゃまだ足りないか
おかわりもあるよ、食いしん坊


シリウス・クロックバード
人類の存続をかけた戦い、か
——あぁ、間違い無いだろう。これはまた、良い話を聞いたよ
胸に刻んでおこう

腐敗した巨大鴉か
病院の天井をぶち抜いてくるとは困りものだね

我らは死を恐れず、永遠の死を知らずとも
彼らが居る大地を先に失っては、元も子もない

剣矢で掌を切り、血の匂いは誘いに似るかな
君の飢えは俺では満たされないだろうけど…一時、その心を貰い受けることはできるだろう

敵意と共に剣矢を番え放ち
先に来るのは巨大鴉か、連れの屍鴉か
傷は気にしないさ。本来これは弓が無くとも機動できる

忘れ時の星を喚ぶ
射貫くべきものを見失いはしない
包囲し、貫こうか。例え零距離でもね

逝くが良い。落ちてきた鳥たち
今はただ——骸の海へ



●刺貫
「随分と空がよく見える建物だね」
 開放感に、天を仰ぐ。鹿忍・由紀(余計者・f05760)微かに吹く風に髪を躍らせ、うっすらと曇った、まあ概ね、晴れていると言っていい。
 だが気分爽快とは言い難い。無視しがたい腐臭が、すぐ傍にある。
「――ゆっくり眺めさせてはくれないみたいだけど」
 惘れ混じりに息をこぼし、小石ほどの瓦礫を均すように踏み分けていく。
 そんな彼とジャック・レイヴンを挟んで対峙するは、シリウス・クロックバード(晨星・f24477)――腐敗した巨大鴉か、と敵を見据えひとりごちる。
 転送直後より妙に目立つ大きな瓦礫の上。奇しくも戦場を見下ろす形だ。
「病院の天井をぶち抜いてくるとは困りものだね」
 オマケに腐臭と腐肉とを撒き散らす。迷惑千万、駆除すべき存在。シリウスにとっての認識も、確かにその通りであるのだが。
「人類の存続をかけた戦い、か――あぁ、間違い無いだろう。これはまた、良い話を聞いたよ。胸に刻んでおこう」
 思い起こして浅く笑う。解るものには解る嘲弄。
 ゆっくりと距離を詰めていく由紀と、シリウスの視線は一瞬だけ交わる。秘めたる術こそ解らぬが、得物は一目瞭然。ならば、役割は自ずと分かれよう。
 シリウスは切り替えるように、深呼吸をひとつ。
「我らは死を恐れず、永遠の死を知らずとも――彼らが居る大地を先に失っては、元も子もない」
 細めし新緑の瞳は射手として狙いを定めながら、剣矢の刃に掌を当て、血を滲ませた。
 この匂い注意がこちらに惹けるだろうか。さて、大鴉は興味を持ったか。軽く振り返ってくるが、それは敵意に反応したのやもしれぬ。
「君の飢えは俺では満たされないだろうけど……一時、その心を貰い受けることはできるだろう」
 自然と浮かべるは、微笑み。
 構わず番えた剣矢を放つ。ぶわりと黒い影が震えて大鴉から分離する。数多の羽ばたきと、不快な鳴き声が一挙に寄せる。
 然しその瞬間はあまりに無防備。
 動から静へ。凪いだ空間に、さらりと通過する声音。
「飢えってのはつらいよね。空腹を紛らわすのをちょっとだけ手伝ってあげようか」
 冗談であり、冗談でもなく。
 薄い青の双眸は静かにジャック・レイヴンを見つめている。
 由紀の身体は既に地を離れていて、手にはダガーが不気味に煌めいた。くぐもった鳴き声が大鴉の喉から響く。それは再び翼を広げ、最後の距離を詰める男へ、血濡れた羽を放出する。
「貫け」
 小さく彼が囁けば、その影から顔を覗かせていた夥しい数のダガーが地から放たれ、射貫いていく。
 結び合う黒と黒の筋を軽やかに駆けて、由紀は大鴉へと迫る。視線は絶えず、敵へ。
 正面から見極めて羽を打ち消し、躱す。毒もつ羽と共に、腐臭が纏わりついてくるが、由紀にとっては何のことも無い。好まずとも、慣れた臭いだ。
 臆す理由も、顔を背ける理由もない。
 片や――まさしく腐敗を集めたような屍鴉の群れを集め、シリウスは皮肉そうに唇に笑みを刻む。
「随分と腹をすかせているようだ。やはり、死肉に惹かれるのかな?」
 射掛けた姿勢の儘、瓦礫を跳ねて、群れを誘導する。一列になってくれれば食い破りやすい。この弓は荷電粒子砲でもある。多少はひとまとめに消し飛ばせるのだ。
 だが使役される鴉をちまちま削っても意味は無い。大鴉を纏めて視野に収める位置に。距離を詰めゆく由紀と競り合っている間に、舞台を整えるべく。
「いつか夜は明けるとも、星々は君の輝きを残す」
 無造作に解き放った一射――反動にシリウスの結った銀髪がふわりと浮かぶと、風が啼く。
 彼を起点に迸るは、星を宿した《剣矢・アルコル》――無数に枝分かれしたかと思うと、幾何学模様を描き複雑に飛翔し、鴉を大小ともども囲い込み、一斉に刺し通す。
 屍鴉どもは果敢にシリウスへと突撃を敢行したが、剣矢に四方八方から襲われ、地に落ちていく。
「逝くが良い。落ちてきた鳥たち。今はただ――骸の海へ」
 祈るような声音に従うように。赤で彩られた鴉どもは、ぼとぼとと落下していく。
 大鴉もまた、動きを制限するよう翻弄の動きを見せる剣矢に、判断を迷わせたらしい。
「もう結構喰わせて貰ってるんだね」
 懐で、無感動な言葉が響いた。
 はっと退こうが、もう襲い。真っ赤に中身を覗かせた腹部の前に、金の髪がちらりと見えた。由紀はダガーを手にしているが、それ以上に、影から顔を覗かせた無数の刃が、最後の号令を待っていた。
「腹いっぱい喰らいなよ」
 白皙の貌は、不敵さすら滲ませぬ。ただ、退屈そうに。煩わしいものを片付けるだけ。
 射出されたダガーは腐敗し、骨を覗かせた中に潜り込む。欠けた部分を満たしてやるかのように。実際、見た目は黒くなった。一瞬だけ。
 暫くすれば、より強い赤と腐肉が噴き出すことだろう。
 だが、その前に、また埋めてやると由紀は言う。
「これじゃまだ足りないか――おかわりもあるよ、食いしん坊」
 返事は無い。剣矢が、深々と喉を突き抜いて、くぐもった音すら漏れなかった。まあ、はっきりノーとわめけたところで、二人の猟兵が手を緩めることは無いのだけれど。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

祓戸・多喜
いきなり鉄火場ね!
この下の人達護る為にまずはこのイケてないカラスぶっ飛ばしちゃわなきゃね!
もっとどーんと攻める方が好きだけども…防衛戦も得意なのよ、アタシ。

基本支援重視で行動。
転移してきたら足場しっかりした場所探しつつ毒の羽を回避。
野性の勘と視力で軌道読んで念動力で逸らしたり速射で撃ち落としたり。
何か汚いし当たったら大変そうだし!
いい感じに狙撃に向いてそうな場所見つけたらそこでUC発動、剛弓に矢を番え攻撃態勢に。
人々を害する障害、そんなもの全部跳ね飛ばしちゃう!って気合で矢を連射しこの大鴉を落とす!
迎撃の羽は矢でぶち抜いて、正確に翼を射抜いて機動力を潰してあげるわ!

※アドリブ絡み等お任せ🐘


レイ・オブライト
死人のささやかな生き甲斐を奪わないでやってほしいもんだが
鳥にゃあ理解できねえかな

となれば拳で解らせるまでだ
この階に関しちゃある程度騒いで問題なさそうだな。向かってくる鳥や羽根を『衝撃波+属性攻撃(Vエンジン製の電気)』で打ち落とし
巻き上げた土煙に突っ込み、鳥に近接した状態で【一撃必殺】削っていく
過程で多少負傷しようが捨て置く。肉体の動きが鈍ったところで放電(意志によるもの)に支障はないと踏む
そんな作戦だ

…外が騒がしいか
早いとこ終えてあっちと合流してえところだな
いくら屍体だろうと、死ぬのが趣味ってこともねえだろう

※アドリブや連携歓迎



●破砕
 ジャック・レイヴンは身を起こす。その羽毛はひどく乱れ、自らの腐肉で汚れている。周囲に漂う腐臭もかなりのものだ。
 周囲の瓦礫は戦闘の果て、随分と背を低くしており、屋上だというのに砕かれた砂塵がもうもうと立って、煙たい。
「いきなり鉄火場ね!」
 祓戸・多喜(白象の射手・f21878)は大きな耳を動かし、ふんと意気込む。
「この下の人達護る為にまずはこのイケてないカラスぶっ飛ばしちゃわなきゃね!」
 巨大和弓をくるりくるりと回して構える。
 体躯に見合う大きさゆえに、弦の音は実に重く、神経質に鳴いた。引く方は、軽々と当然のように菱形のフォームをとってみせる。
「もっとどーんと攻める方が好きだけども……防衛戦も得意なのよ、アタシ」
 任せてーっと、気楽にも聞こえる多喜の声に、向こうに位置する男は肩を竦めた。
 帽子の鍔から覗く金の眼光は、鋭く、大鴉を射貫く――喉からぼとぼとと血と肉を零した大鴉は、空気の抜ける音だけを繰り返している。
 さてこれは、生きているのか屍なのか――オブリビオンゆえの頑強さであろうが、
「死人のささやかな生き甲斐を奪わないでやってほしいもんだが、鳥にゃあ理解できねえかな」
 確かに効果的な奇襲だが、無粋極まりないと、レイ・オブライト(steel・f25854)は嘯く。まあ、誰の差し金でも構いはしないのだ。
 ふと、彼の眉が微かに動いた。
「……外が騒がしいか」
 ガンガンと、下から小突くような音が続く。恐らく、階下で屋上とのルートを開通させようとしているのだ。
 ――こちらの連絡は、銀刃郎がしている。事情がわかったうえでやっているのだろう。
「手早く終わらせないといけないみたいね――」
 レイの言葉に、状況を察した多喜がいう。
 それに軽く頷き、応じる。
「早いとこ終えてあっちと合流してえところだな。いくら屍体だろうと、死ぬのが趣味ってこともねえだろう」
 徐に一歩を刻み、レイは細く息を吐く。肺の空気を循環し、ヴォルテックエンジンの駆動を確かめる。
「となれば拳で解らせるまでだ」
 地を蹴る。
 合わせ、多喜も駆る。幾度目かの応戦に学んだのか、そうせねば両者を射程に収められぬからか、後ろに退きながら大鴉は翼を大きく広げた。
 付け根の深い刀傷で取れかけているが、羽を放出するのに問題は無いようだ。
 混凝土すら貫く血塗れの黒羽が、二人を狙って低く奔る。丁度、それぞれの腰を狙う高さだ。
 足場の吟味を怠らず、多喜は直感的に脚を止める。
 集中が間に合えば軌道も逸らせるだろうか――然しひどい飢餓の呪いに、念動力は阻まれる。すぐに番えた矢を放つ。
 続けて斬り込んでくる羽も軽く横へ跳んで躱しながら、束ね持つ矢を器用に継いで、射貫く。
「何か汚いし当たったら大変そうだし!」
 絶対に掠めたくないと多喜は震える。猟兵でも、華の女子高生なのである。腐肉とか血とかがついた羽を受け止めたくはないのだ。生理的に。
 ある意味では剛毅な心構えだと、レイは全身より電流を滾らせながら、ぐっと身体を締めた。
「この階に関しちゃある程度騒いで問題なさそうだな」
 囁き通り。思い切り踏み込み、拳を叩き込む。
 羽が触れる前に、放たれた空砲は雷纏う衝撃波となって、前方より迫る羽を撃ち落とす――拳の生み出した飆が、砂塵を舞い上げ、彼はその中を一気に突き進んだ。
 追撃の羽が残っていれば、その血の気を帯びぬ膚を傷つけるやもしれぬ。
(「例え、身体に異常があろうとも――意志に影響はないだろう」)
 神経毒の影響も、衝動を動力とする屍人の身であれば。実際、浅く掠めた羽はあったが、彼の躰が鈍ることはなかった。
 弾丸のように土煙を突き破ったレイが大鴉を撃つ。低く繰り出された打撃は、一撃では済まず、電光石火と数段重ねて鴉を圧す。
 だが、どうにも、この大鴉は全てが鈍い。血走った真っ赤な視線がこちらを見たかと思うと、大きく嘴を振り上げ、顔で薙ぎ払う。
 軽いステップで退いたレイを追いかけるように、翼を乱暴に広げて躍る。
 だが、丁度鴉を中心に見上げた先――矢を引き絞った象人のシルエットが視界に入った。多喜自身が、淡く光を纏い輝いていた。
「人々を害する障害、そんなもの全部跳ね飛ばしちゃう!」
 その身は、神。
 障害を退ける絶対的な力を一矢に籠めて、彼女は、放つ。
 剛弓から射られた矢は、レイにしても、見えなかった。光を越えて大鴉を捉えたと認識できたのは、その身を貫通した矢が彼の傍に刺さったからだ。
 頸から腰を射貫かれた大鴉は、天を仰いで戦慄いていた――未だ消滅に足りぬのは、惘れた頑丈さである。
 憐憫など浮かべず、レイは膝を曲げて前へ跳んだ。撓んだ腕は電流を堪え切れぬような音を立てて、解放の一瞬を待っている。
 砕くならば、二つにひとつ。既に彼は定めていた――撃たれ、抉られ、ずたずたになった腸だ。肋骨が崩れそうな腐肉を守るように残っているが、レイは構わず打ち込んだ。
 澱んだ赤を覗き込むような位置から、半身捻って加速させた打撃。
 骨を砕けば、後は柔らかい。突き進んだ拳は、その奥の核をも叩き潰す。
 すると、大鴉は吹き飛ぶ直前のように微細な震えを見せて――刹那、ぱんと弾けたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ロスト・レイダース』

POW   :    バリアブルランチャー・バーストモード
自身の【虚ろな瞳】が輝く間、【背負った四連バリアブルランチャー】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
SPD   :    バリアブルランチャー・イージスモード
【四連バリアブルランチャーの自動迎撃モード】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ   :    レイダース・カムヒア
自身の【略奪物】を代償に、【レベル分の人数のロスト・レイダース】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【四連バリアブルランチャー】で戦う。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●共闘願い
 侵入口を塞ぐ瓦礫が取り除かれたのは、大鴉が消えたのとほぼ同時。
 屍鴉の死骸はそれの消滅に倣い、周囲に撒き散らされた腐肉やらも消えていた。痕跡として、腐臭だけが、浮き世にしがみつくように漂っていた。
 それすら蹴散らし、駆け上がってきた武装した数名の一般人が、猟兵たちへと畏敬に満ちた視線を送る。
「通信は聴きました! 窮地を救っていただいたようで――ありがとうございます!」
 礼を告げるも、慌てたように、ひとりが端末を取り出し、猟兵たちに向けて音量を上げる。
『助かったぞ、恩に着る。噂通りだな』
 聞こえてきたのは、おそらくソーシャルディーヴァの声だ。
 猟兵の存在は時折おこるネットワークジャックから、実力を含め知っているらしい。
『そこまで行けなくて悪いな。こっちも仲間の援護に俺の目が必要でな。悪いが、降りてきてもらえるか――下の包囲も、手伝ってくれると解釈しているが?』
 ぶっきらぼうな口調だが、声は少女のものに聞こえた。
「すみません、ボス口悪くて……ご案内します」
 端末をもっている青年が申し訳なさそうに頭を下げて、階下へと誘う。
 聞こえてるぞ、と端末から声が響いたが、別に機嫌を損ねたような様子は無かった。

 未だ生きているという病院の搬送用エレベーターをつかって一気に一階まで降りると、かつては職員用の通用口だったのだろうゲートを抜けるよう案内される。
 屑鉄を積み上げて作られた見張り台の頂点に、ヘッドフォンのような端末をつけた少女がいた。
 振り返ってこちらを向いた少女の容貌は、頭の先から首まで真ん中にまっすぐ縫い傷が走っている。切断後の縫合といった傷具合から、彼女がデッドマンなのは間違いない――十四、五の外見をしているが実年齢は不明だ。
「よう、手間かけたな。俺が此処のボスだ……役職もあるが、そういう名前で通ってる」
 彼女は肉声でそう名乗ると、すぐに戦場へ視線を向ける。
「うちのバカどもには、深追いさせないよう手前で食い止めさせてる。あの雑魚も強い。こっちは寡兵。ぶっちゃけ、何度死んでも勝てそうにねぇ」
 顎で示す方角から、けたたましい銃撃の音が聴こえる。
 少女の端末を通じて、泣き言が飛んでくる。
『ちょっとボス! 向こうの指揮官まで、何十もバケモンが連なってるんだけど! 反撃えげつないんだけど!』
『喋ってる暇あるなら、ミサイル再装填して! 腕一本くらいで泣き言いうんじゃないよ!』
『……十時方向に斬り込んで敵を引き寄せる。しっかり狙え』
 三者三様の在り方が聞こえる。あからさまな溜息をついて、少女は猟兵たちを見る。
「やかましくてすまねぇな。派手な死に花咲かせるのもやぶさかじゃねぇが、それなら勝ち目が欲しい。手ェ、貸してくれるか」
 ――口調とは裏腹に、存外、真摯な眼差しであった。

●略奪依存症患者
「このっ!」
 ブルーノが乱暴に、とっておきの小型ミサイルを起動する。次、このクラスの武装を拾えるのは何時だろう。
 着弾成功。だが、俺もドリスもまったく笑わず追撃を重ねる。
「――クソ」
 舌打ちしたのはドリスだ。その心境は痛いほど理解出来る。
 もうもうと上がった土煙が晴れていく。抉れた大地にいくつかの死体が折り重なっている。だが、それを踏みしめて、ゆらゆらと、連なる敵は絶えずこちらに銃口を向けている。
「……獲物――……エ、ノ」
 略奪のことしか考えていない。略奪後に、それをどうするかなど、一切感じられない。だが、奪うのだ、という明確な意志が――じわじわと近づいてくる。
『援軍が来た。死ぬ前に戻って来い』
 ボスが言う。
「包囲されてから、言われてもなぁ!」
 まったくだ。今だけはブルーノに同意したい。

=============================
【プレイング受付期間】
9月13日(土)8:31~9月15日(火)22:00頃
※再送の可能性があります

防衛チームは取り囲まれていますが、援護してもいいですし、無視しても大丈夫です。
彼らと何かしらの会話をしたい場合は、この章だけ可能となっています。

また、大変もうしわけないのですが、事情で19~21日の時間が使えないので、全体に急ぎ足な受付になっています。
ただプレイング内容の内訳によって、後日プレイング再送をお願いする可能性があります。
=============================
囁石灯・銀刃郎
やったらめったら突っ込んだら流石に蜂の巣かなぁ…
包囲してるってことは、目は防衛チームに向いてるかしらね?

生成した電気を体の神経に流し、ドーピング。
反射速度を強化してダッシュ。
早業、最小限の動作で銃撃を回避しながらカタナを手に、

『銀光流閃』
覇気の飛ぶ斬撃をUCでねじ曲げて、
防衛チームを包囲してるレイダーを斬り捨てる

オブリビオンにやるものなんてない。ってね。
やっほー、ご同類。大変ね。私は突っ込むけど、
まだやる気あるなら援護よろしく。

第六感、ジグザグに走りながら銃撃をオーラ防御。
覇気を纏った刀の残像で銃撃を弾き、途中のレイダーを切り飛ばしながら駆ける。
…そういえば、私がデッドマンって分かるかしらね?



●揚々と
 ヴォルテックナノマシンが紡ぐ電流が全身を駆け巡る。賦活された彼女の肉体は、弾丸の如く、敵陣へと斬り込んでいく。
「やったらめったら突っ込んだら流石に蜂の巣かなぁ……」
 こうなった己を、容易く捉えられようか――囁石灯・銀刃郎は思えど、絶対ではない。何せ敵の数は多い。
「包囲してるってことは、目は防衛チームに向いてるかしらね?」
 なれば、先手はとれよう。
 鞘に収まったカタナの鯉口を切りながら、速度を落とさず、何かを取り囲むように連なっている一群へ、銀刃郎は跳び込む。
 ロスト・レイダーズはふらふらと芯の無い動きをしている。
 知っていようがいなかろうが猟兵たちには関係ないのだが、彼らは禁忌の技術を纏い略奪だけが全ての存在となっており――当然、正気も失っている。
 彼らが反応するのは、自我というよりも、纏う装備。四連バリアブルランチャーが敵を認識し、略奪者を動かしているらしい。
「ノ……えもの……」
 時折なにやらもごもごと喋っているが、獲物、獲物と繰り返しているだけ。
「皮肉ね、こいつらはオブリビオンだけど生身で……でも、致命的に死んでるのね」
 変幻と動くアームの先、四つの銃口が此方を見る。
 銀刃郎の唇から放たれたのは、気合いを籠めた呼吸のみ。
 進路へ、真っ直ぐに加速する――彼女の右手が斜めに走り、目の前のレイダーを腰から両断する。
 周囲のレイダーが、装甲の下の虚ろな瞳を輝かせる。
 それらの背負った四連バリアブルランチャーが光線を放つ。光の筋を転がるように銀刃郎は躱して、丸くなった姿勢から、一気に跳ぶ。
 一筋、掠めていったが、水銀の身体に疵は残らない――。
 風切りの音は、彼女自身の手脚が起こしている。素早い納刀から、姿勢を崩しながらの居合い。覇気を絡めて、縦軸に並んだレイダーズをひとまとめに斬り薙いだ。
「オブリビオンにやるものなんてない。ってね」
 ふっと零したのは笑いの息。骸となったオブリビオンの上を跳んで、彼女は駆け続けた。脚を止めれば、銃撃の餌食だ。
 ジグザグに走り、回避しきれそうもない一撃は、カタナで弾く。蒼く輝く刀身は、彼女のナノマシンと連動している証。多少のことでは、疵付いたりしない。
 蒼い剣閃が走る度、密集する略奪者どもは次々倒れる。自慢のバリアブルランチャーが容易く斬り落とされ、剣風に――実際、銀刃郎は体当たりに柄での殴打も交え――弾き跳ばされていく。
 返した刀でざっくりと斬る。正気のないレイダーは、ああ、とか、うう、とか呻く程度で、生命力を欠片も感じさせず沈んでいく。本当に息絶えたのか、疑わしい程だ。
「わあ」
 短髪の男が間の抜けた声を上げた。ゴーグルをしていて、顔立ちはよくわからないが、頬と鼻柱を横断する縫い傷が特徴といえた。
「銃口を下げるなっ」
 すかさず叱咤されている。はは、と銀刃郎は笑いつつ、
「やっほー、ご同類。大変ね。私は突っ込むけど、まだやる気あるなら援護よろしく」
 片手をひらりと振って、進路に向かってカタナを振り下ろす。
 風のように突破していった彼女の姿に、「はー、猟兵って凄いんだなー」とまたも暢気な感想をこぼす男に、女が蹴りを入れた。
「いい、どんなに強くても傷は負う。援護できるか解らないけど、戦うんだよ!」
 威勢の良い叱咤。
 銀刃郎が防御とカタナを閃かせようとした瞬間、戦車の主砲が轟いて、レイダーの銃口を吹き飛ばした。
 振り返らないまま、彼女は口元に仄かな笑みを浮かべ――。
「……そういえば、私がデッドマンって分かるかしらね?」

大成功 🔵​🔵​🔵​

シリウス・クロックバード
何度死んでも勝てそうに無い、か
——いや。仕事と行こうか

防衛チームの援護となるようにまずは砲撃を
求めがあれば応じよう。この弓は荷電粒子砲でね
火力はある

二丁拳銃で銃撃しながら前に出る
相手の状況は常に確認を
そのランチャー、至近距離でも使う気はあるかな?
俺は零距離でも構わないよ

略奪、か
何が、君達をそうしたのか—いや、憂いは戦場に不要か

砲身を拳銃で打ち上げて軌道を逸らす
全て防げるとは思わないさ
銃弾で迎撃出来れば良い。傷は気にする身ではないからね

この地は、この世界に生きる人々のものだ
奪わせはしないよ
敵を引きつけたところで月予見命を起動

生憎、今日は死ぬ気は無いんだ
足りねば弓も引こう。星々が告げる終わりの時だ



●星々が告げる終わり
「何度死んでも勝てそうに無い、か」
 彼方を見つめる深緑の双眸を細め、シリウス・クロックバードは此処には無い戦場をいくつか思い出す。デッドマンであれば、物理的な死からは幾らでも蘇ることができる。
 それはあくまで便宜上、死と呼ぶべきものではない通過点である。敗北――否、この身が滅びぬ限りは、それすらないと……。
 ふるりと頭をふって、彼は銃に触れる。
「――いや。仕事と行こうか」
 両手に黒の二丁拳銃の重みを確かめると、地を蹴る。病院の近辺は綺麗なものだが、数メートルもゆくと焦げた線がいくつか走っている。弾痕で抉れたところもある。
 どうやら敵も、光学兵器と実弾兵器を使い分けているらしい。
 奇縁に、ふ、と口元に笑みを浮かべて、シリウスは一挙にロスト・レイダーズどもの元へ駆った。
 両手を平行に構え、数発打ち込む。片や、彼自身は射線を回避するように僅か周りこみながら、身を屈めて滑り込む――。
「そのランチャー、至近距離でも使う気はあるかな?」
 虚無を湛えた視線が、シリウスを見ている。その身が後ろに傾くのは、背負う四連バリアブルランチャーが本体を引っ張るよう、アームを下げたからだ。
 反面、上のアームはシリウスを覗くように銃口を傾けている――。
「俺は零距離でも構わないよ」
 良い度胸だ、と双眸を笑みで細め、彼は腕を突き上げる。
 同時、薄硝子の向こうで、虚無の瞳が輝く。
 四つのランチャーはけたたましく吼えた――シリウスはその中心で体当たりのように跳んだ。銃身で銃口を撥ね除けるよう叩きつけると、別の銃口に銃撃を放つ。
 四方に開くよう躍りながら、脚や腕に掠めていく銃弾程度は無視を決める。くるり、身を翻して、右の銃で殴りつけながら、別のレイダーへ左で銃撃を放つ。
 どれもこれも、自我のようなものは消失している。この世界に曾て存在した彼らは、果たしてこんな永遠を願ったのだろうか。
「略奪、か。何が、君達をそうしたのか――いや、憂いは戦場に不要か」
 死して尚、今を生きるシリウスは、軽く目を閉ざす。
「この地は、この世界に生きる人々のものだ。奪わせはしないよ」
 レイダーズへ叩きつける言葉は、穏やかな口調ながら、厳かな響きを持ち。
 刹那、彼らの頭上が、暗くなる――兆しも無い儘、重い暗雲が空を包んでいた。
「暗雲より招く矢雨。さぁ、追いかけっこをしてみようか」
 上空に降り注ぐ、矢の雨――。
 遮ることもできぬそれに、レイダーズは為す術も無く貫かれていく。それらの影で免れたレイダーも、仲間の死に慌てふためくこともなく、シリウスへと狙撃を続ける。
 彼も油断はしていない。顔面を、四肢を狙って二丁拳銃を巧みに操りながら、降りしきる矢を誘導する。
 ひゅ、風を切ってレーザーが頬を掠めていく。灰色の髪の先が少し消えた。
 全く見ていなかったその一撃を躱せた理由は、何てこともない。一歩をただ踏み出しただけ。幸運すら、此処に在るのなら。
「生憎、今日は死ぬ気は無いんだ」
 俺の死に場所は、――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

終夜・嵐吾
せーちゃん(f00502)と

とりあえず数を減らすに越したことはなさそじゃね
囲まれてるのを破ってもええけど、今のままではまた囲まれてもおかしくなさそじゃし
んではせーちゃん、いつもの如く
そそ、そんな感じで楽しくやろ
虚も次は一緒に遊んでくれるて

獲物と言うておるけれど、簡単に狩れるほど易いもんではないんじゃよ
ほれ、そっちから楽しそうな顔して刃振る箱がくるしの
わしも負けてはられんから、虚の爪借りて攻撃を
攻撃受け傷を負うのも気にせずまっすぐ向かう
その弾打つもん、ねじきって壊す気で一撃を

時折戯れに敵を押し付けてみたり
あ、これもいつもと変わらんか
今日はせーさまと呼んで茶化しながら遊ぶ暇はあるかの、なんて笑って


筧・清史郎
らんらん(f05366)と

いくら死んでもやり直せるとはいえ
防衛にあたる彼等も死なないに越した事はないからな
まぁそう難しく考える事もないだろう
ああ、いつもの如く斬っていけばいい話だな、らんらん

包囲状態を逆手に取り一掃しようか
敵を多く巻き込めるよう、花霞纏う残像駆使し踏み込み
数多の水の矢を見舞おう
弱った敵や防衛する彼等狙う敵を抜いた刀で優先的に叩き斬る
友は助太刀不要だろうしな(微笑み
時に競い、時に連携し、友と戯れる様に立ち回ろう
せーさまと呼ばれれば、微笑みと敵への一閃で応えようか

傷は厭いはしないが、敵の攻撃は残像駆使し見切り躱そう
下手な鉄砲も数打てば当たると言うが
残念だが、俺には中々当たらないな



●花が嵐
 ロスト・レイダーズを指揮するものに至るため――そして、包囲した防衛班の面々を、救援するには。
「とりあえず数を減らすに越したことはなさそじゃね」
 終夜・嵐吾が言葉にした結論は、シンプルであった。異論は無いと、筧・清史郎は首肯する。
「いくら死んでもやり直せるとはいえ、防衛にあたる彼等も死なないに越した事はないからな」
 猟兵のデッドマン達はそれぞれだろうが、ボス曰く、なんやかんや言って、一応、死は彼らにとって、まあまあ怖いものらしい。痛みも――勘違いに等しいものだとしても、あるらしい。
 それは、治療に充分な資材もなく、猟兵と違いユーベルコードを自在に操れるわけではないから、不便が長引くためだという。
 ならば、死ぬ前に救ってやろうと、素直に思う。
「囲まれてるのを破ってもええけど、今のままではまた囲まれてもおかしくなさそじゃし……」
「まぁそう難しく考える事もないだろう」
 首を捻った嵐吾に、にこりと清史郎は笑って見せる。軽く刀の柄を叩いてみせれば、友も全てを察して、破顔した。
「んではせーちゃん、いつもの如く」
「――ああ、いつもの如く斬っていけばいい話だな、らんらん」
 二人並ぶ。目の前には鈍く光る銃口がうねるって、波のように見えた。本来ならば敵の数に絶望するところだが、彼らにとっては――。
「そそ、そんな感じで楽しくやろ。虚も次は一緒に遊んでくれるて」
 それは心強いと、清史郎が微笑んだ。その紅の瞳が、細くなる。事も無げに遊ぶと称した二人は、戦場に躍る。
 真っ直ぐに駆ける二人の足元を、牽制の銃撃が抉る。笑うような気配がして、清史郎が速度をあげて先に行く。足並みを揃えようとか、そういう考えはあまりない――信頼、というべきか。互いに、この程度の相手を前に、助け合う必要は無いと確信している立ち回り。
 桜の意匠が凝らされた蒼き刀が光を受けて輝いたのを横目に、嵐吾は右目の妖に、遊ぼ、と語りかける。
「戯れに、喰らえよ」
 右目の眼帯より黒き茨が這い出て、右腕に獣の爪を形成すると、無造作に前方を掻き裂く。
 銃弾ごと跳ね返す、平行な掻き疵と共に、一体のレイダーは地に倒れ込む。意図せず、その背に守られたレイダーがいたが、焦点の合わぬ瞳は、こちらを見ていない。ただ背負うバリアブルランチャーが彼に反応し、標準を合わせていた。
 その口元は脈絡も無く、獲物、と呟く。
「獲物と言うておるけれど、簡単に狩れるほど易いもんではないんじゃよ」
 柔和な笑みをお返しに、嵐吾は下から煽るように爪を振り抜く。
 態勢を崩したレイダーへ、すかさず距離を詰めてその頭を掴むと、近くに友が描く桜の幻影を見る。
「ほれ、そっちから楽しそうな顔して刃振る箱がくるしの」
 妙に印象に残る残像と共に、敵陣を縫うように駆け抜け、実像たる清史郎が刀の鋒を静かに下ろす。剣舞の如き所作の最中、彼はひとつ唱える。
「舞い降れ、桜雨」
 ――荒野に、雨が降る。
 それらは桜花弁纏いて、レイダーズの放つ弾丸を、当人どもを、悉く撃ち抜いていく。
 きらきらと輝く飛沫の狭間を剣が走り、別の耀きを刻みつける。
「よっ、せーさま!」
 嵐吾の冷やかしに、はは、と清史郎は声をあげて笑う。その笑顔の耀きとは裏腹に、軽やかに身を翻すと、背に迫った生き残りを無情に斬り伏す。
 不思議と、斬っても斬っても、レイダーズは何処からか湧いてきた。数が増えれば、弾幕が厚くなるのだが、涼しい顔で彼は身を返すと、更なる水の一矢を放ちながら、剣戟を見舞う。
「――ああ、わしも負けてはおれん」
 虚に語りかけながら、嵐吾は強く地を蹴った。爪の残像は黒い影を描く。上を向いたアームの先をへし折って、デタラメに放たれる光線の狭間を潜り抜ける。
 彼を狙うランチャーは兎に角、止め処ない。弾丸が尽きる事は期待するだけ無駄じゃろうな、ひとりごち、転がるレイダーを射線に投げ飛ばして距離を詰める。
 その際も、無造作に駆けるものだから、時に掠めていくレーザーで、ひりりと膚が傷む。髪を一房、灼いたものもあろう。
 だが、嵐吾もまた楽しそうに笑って爪を薙ぐ。ぐるりと頭部が回って、レイダーが倒れる。空を掻き裂いて、後ろまで衝撃が至る。
 不意打ちに仰け反ったレイダーの肩に爪を立て、腰まで深々貫く。その身体を軽々飛び越した勢いで――後ろにぼうっと立っていた一体を、突き放すように蹴り飛ばす。
「あや」
 ――それが、丁度、清史郎の間合いに跳んでいった。
 あぁ、と無意味な声をあげたレイダーのランチャーが、清史郎の前で弾ける――刹那、アームがぷつりと断たれていた。
 清史郎は身を反転すると、その胸を貫いた。すべてがひとつの流れで完結する、無駄のない動きであった。
「突然の飛び入りも鮮やかに処理するとは、流石じゃの!」
「褒めてくれるのは構わないが、それではまた俺が勝ってしまうぞ?」
「それはいかん」
 でも別に毎回負けているわけではないが、と嵐吾は不敵な笑みを浮かべると、清史郎よりも先にと、次の敵群へと挑みかかる。
 躍動するたび、ふわりと浮く尾も楽しそうだ。
 ひゅ、と鼻先を焦げた臭いが飛んでいく。まさに流れ弾――身体を傾いで躱すと、刀身を返して、清史郎は友を追いかける。
「下手な鉄砲も数打てば当たると言うが、残念だが、俺には中々当たらないな」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鹿忍・由紀
何度死んでも守りたいものって何なんだろうね
よく分かんないけど、そんなに生きたいんなら今回は手伝ったげようか

俺はお人好しじゃないから
生きるつもりがないなら置いてくよ

少年達を背に敵の軍勢を涼しい顔して見渡して
無謀にも見える様子で躊躇いなく突っ込んでいく
『暁』で射線を読み銃弾の雨の中を潜り抜けて
軍勢の足並みを掻き乱してやる

連続攻撃中で動けなくなった敵なら
簡単に急所を狙ってナイフを突き立てられる
何の感慨もなく切って、刺して、引き抜いて
力が抜け落ちるその身体を盾にして
単純作業かのように淡々と潰していく

ほら、お望みの獲物が飛び込んできたんだからちゃんと仕留めなくちゃ
なんて冗談めかして敵の意識をこちらへと


マガラ・オーエン
いやはや。
同病相憐れむじゃないが…死んでたって何度もは死にたくないよなぁ。
これ以上は死なないように、手助けに行くぞ。

目立たないように囲まれたヤツらの所へ移動。
ギリギリまで迫ったら、味方に当たらないよう焙烙玉を投げる。
煙に巻いて混乱させているうちにUCで攻撃さね。
敵の反撃が来る前を注意深く息を潜めて待ち、こっちに向けて撃とうとしたところで見切り、早業で移動。

あとは目立たないよう移動、焙烙玉を投げるを繰り返し。囲まれた奴らの傍に近づき、傍の敵は暗殺するように懐剣で攻撃しよう。

うまく助けられりゃ良いんだがな。
運も死んでるってなっちゃ皮肉だな!



●煙の向こう
「いやはや。同病相憐れむじゃないが……死んでたって何度もは死にたくないよなぁ」
 個人差はあるだろうが、まあ、動けないほど傷つけられて、地面に転がるなんて、楽しいことじゃない。マガラ・オーエンは「これ以上は死なないように、手助けに行くぞ」と、笑う。
 漂ってくる硝煙の臭いが濃い。遠くで幾重と輝く光は、先行する同胞だろうか。
 前方の風通しは少し良くなった。防衛班の姿も十分見えるし、その先の群れも視認出来る。依然、窮地は続きそうな気配だ。
「何度死んでも守りたいものって何なんだろうね」
 土っぽい風の只中で、鹿忍・由紀はひとりごちる。
 実力及ばぬ戦場であったとしても――戦いに向かうしかない、彼ら。
 死にたいか。死にたくないか。そんな迷いよりも、結果よりも、命をかけて、何かを守るということ――自分には、わからない。
 彼の彫像のような横顔は、微塵も揺らがぬ。
「よく分かんないけど、そんなに生きたいんなら今回は手伝ったげようか」
 ざくりと土を踏む。周囲には骸が転がっていた痕だけ残っている。戦闘の果て、暫しするとそれらの亡骸は、骸の海に還るのだろう。
 戦線は猟兵が押し上げて、防衛班はじりじりと下がっていく。だが、それを容易く許さぬのが、かの敵だ。獲物から略奪できるものがあるならば、しつこく追いすがってくる。
「クソッ、さっきの人が片付けてくれたのに、また増えるのかよ!」
「油断するからさね、単細胞」
 ガンナー二人がレイダーズを近づけまいと、一斉掃射する。
「……待たせた」
 戦車の主砲が轟く――敵を次々吹き飛ばし、黒い道を作る――が。
「うわあ、また新手だ」
 疲れたような声音で、ひとりが天を仰いだ。出来た道を埋めるように、一定の歩調を刻む虚ろな表情が居並び、こちらを見ている。揃い背負った銃口がぎらりと此方を向く。
 その瞬間、何かが炸裂した。
 もうもうと立ち上る白煙を突き抜けて、彼方から飛来した銃弾がレイダーの装甲を砕き、額を穿った。
 倒れゆく間に、もう一撃。また、ひとつ。
 的確な狙撃で着実にヘッドショットしていく。さっと靡くオレンジ色の髪を、三人は煙の中で見る。
 四つの銃口が同時に閃く。光線が鮮やかに靄を照らした。
 けたたましい音が続く。自動迎撃モードに変化したランチャーが、見えぬ射手――マガラを捉えようと連射を続ける。まさに銃弾の防壁であるが、その間にマガラは身を潜め、弾倉を交換した。
 ゆっくりと先程とは違う方角へ移動すると、硝煙も、白煙も収まりつつあるところへ――マガラはもう一投、焙烙玉を放り込む。
 相手が振り返るよりも先に彼女は撃つ。
 絶え間ない銃弾の音が次々響き、薄いモノが砕ける音が続く。
「ほええ、速くて正確、凄腕だぁ」
「こら、ブルーノ、ボサっとするな! 後ろッ!」
 いまいちぽやっとした声音がマガラの腕を賞賛する間に別の一群が接近してくる。
 彼らのすぐ近くを、ふらりと横切るは、由紀。
 一時、脚を止めて、悠然と周囲を一瞥する――その貌は、涼しく。一切の恐怖、緊張、或いは昂揚のひとつすら、浮かべておらぬ。
「俺はお人好しじゃないから、生きるつもりがないなら置いてくよ」
 前を見た儘告げるなり、彼は駆け出した。
 それが、ごく、当たり前であるかのように。身一つ、戦場に投げ出す。
 迎え撃つは、マガラさえ離れて凌いだ弾丸の雨。無差別に襲い来る無軌道な掃射――それを、由紀は緩急を付けた足取りで、躱す。
「四つあろうが、八つあろうが――同じだよ」
 レイダーズの身体の向きも、視線も当てにならぬ。だが皮肉にも、それらが背負うランチャーの狙いは正確だ。銃口の傾き、銃撃を始める前兆。それらを読み切って、翻弄するように由紀は疾駆した。
 銃撃の薄くなった一筋を捉えれば、彼は一足で駆け上がり、レイダーの胸元に、すとんとナイフを突きたてる。
 手首のスナップで掻き裂いて、柄を握り直し、確りと頸を掻き斬る。装甲に守られていようと、ぐっと頭を引けば充分隙間ができた。
「ほら、お望みの獲物が飛び込んできたんだからちゃんと仕留めなくちゃ」
 周囲のレイダーズを、由紀は煽る。彼らが言葉をちゃんと聴いているかは解らないが、反応はあった。次々に銃口が此方を向く――。
 襟首を掴んだままのレイダーを盾に、彼は正面から突っ切った。
 火花が爆ぜる最中を躍り、由紀は淡淡と刃を振るう。その切れ味が鈍る事はなく、躊躇いのない踏み込みで、銃撃を悉く回避する。
 跳弾が足首あたりを掠めていこうと、予測出来ていれば、小石を蹴り上げ相殺できる。
「へー、よくやるねぇ」
 小休止、装填を終えたマガラが、そんな由紀を眺めて笑う。やり方は人それぞれ、流れ弾を食らって倒れるのは出来れば避けたい。
「ほら、もう一丁」
 幾度目か、焙烙玉を投げ込む。見事な剣戟を見せられたからではないが――そっと懐に備えた脇差を意識する。
 飛び出すなら完全に不意討ちの機に。身に染みついた戦い方は、きちんと身を守るし、戦果を上げるものだ。
 防衛戦という言葉に、郷愁が過ぎるか――さて、女の黒き瞳は前だけを見据え、砂塵舞う戦場に銃器を突きつける。
「うまく援護できてりゃいいんだが――運も死んでるってなっちゃ皮肉だな!」
 マガラはあっけらかんと笑って、引き金を引いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユエ・イブリス
サーシャ(f05041)と

命の在り処は何処なのか
死すら終焉でも開放でもなく
ならば『終わり』は何処にあるのか

『家』、帰る場所、居場所、護るべき場所
或いはそれら全て
ああ、今は笑いはしないさ
彼(サーシャ)には、彼ら(デッドマンたち)には必要なもので
私には不要だった、それだけの事だ

数を頼む連中は無粋でいけない
いちいち一つずつ相手をする必要があるかい?
【氷の竜巻】を召喚、【属性攻撃・風】
氷礫に鎌鼬を織り混ぜて吹き荒れさせよう
上手く避け給えよ?

君の言う通り、この服で君の服が十は買える
汚さぬよう、せいぜい盾にさせて貰うよ


アレクサンドラ・ルイス
ユエ(f02441)と防衛チームの撤退援護

体を張って“家”を護る連中に少なくないシンパシーと
未だ護るものを持っている彼らに僅かばかりの羨望を以って
「死ぬことに慣れすぎると退き際を見誤るぞ、気をつけろ」

左腕のダニエラを剥き出しにしたままドロテアで掃射、退路を拓く
生身の身体を失くすと痛みに鈍くなる
機械から伝わるのはエラー信号だけだ

敵から受ける傷に頓着せず庇い続け
どんどんボロボロになって機械部分が露出
(ダメージ描写歓迎)

ユエの攻撃の余波から防衛チームを守り
人工皮膚が破れ金属製の眼窩が露出
…チッ
高い着せ替え人形みたいな見てくれのくせにやることが雑だぞ
UCで眼球に内蔵されたレーザー砲で敵を焼き払う



●“家”
 大鴉に奪われた左腕は、未だガトリングガンの状態の儘。右手だけで巨大な機銃を操り、アレクサンドラ・ルイスは、ロスト・レイダーズを射貫いていく。
 体を張って“家”を護る、ことへのシンパシーと。
 まだ護る“家”を持つ彼らへの、僅かばかりの羨望――。
 その所為だろう、ついつい、先達めいた戒めのような事を告げてしまった。
「死ぬことに慣れすぎると退き際を見誤るぞ、気をつけろ」
 どの口が言うのだと、変わらぬ表情の下で自嘲する。三者の、真摯な眼差しはアレクサンドラの言葉を真面目に受け止めているようだった。
 その表情を見て、やはり、過去の自分も同じような表情をしたことがあるのだろうか、と考えてしまう。
 現実に引き戻すのは、五感と言うよりは脳裡に走る警告音。
 ――けぶる硝煙。音声を消したくなる騒音と、全身を揺さぶる振動。
 撃てども撃てども尽きぬ敵影が、悪夢の最中のような戦いに似て――、どうしようもなく、昂ぶる。
 囲まれた彼らへの救援と駆けつけ、戦う間に、その時代に戻ったような郷愁があった。
 先にユエ・イブリスからかけられた『君にセンチメンタルは似合わないと思うよ?』という言葉を思い出して、眉間に皺を寄せる。
 反撃の銃弾が生身を削っていく。然し、痛みが遠い。
 機銃の重みを諸ともせず、唇を噛みしめ、仁王立つ。
 目の前に光線が奔る。頬を削いでいく。だが、退くわけにはいかぬ。
 後方に、防衛班を庇っているのだ。ユエはどうでもいいが――なんやかんやで、自分で何とかできる男だ――身を以て盾にして、彼は反撃する。
 全身の至るところで火花が弾け、被弾しているな、と思う。だが、それだけだ。
 正面から食らう分、正面から鉛玉を返す。本来は戦車用の機銃であれば、一撃で頭を果物のように粉砕できる。
(「生身の身体を失くすと痛みに鈍くなる――機械から伝わるのはエラー信号だけだ」)
 さて、肝心な生身が何処まで残っていたか。アレクサンドラにも記憶にない。人と機械の境界が曖昧ならば。己の人間らしさとは。
 くだらねえと一蹴し、敵の動向に目を配る。そして、同時に、件のユエはどうしたのだと思う。まあ、いつも通り勝手気ままに動く妖精であるが。
 はてさて、そのユエは彼の頭上で悠然と戦場を眺めていた。
 果ての無い荒野――遮るものもなく、命の名残も虚ろ。余所の世界にも、滅びかけた土地は沢山あるが、この地は一度、完膚無きまでに破壊されている。
 ゆえに死者すら、精一杯に生きている。戦って、生き残ろうとしている。
(「命の在り処は何処なのか、死すら終焉でも開放でもなく――……ならば『終わり』は何処にあるのか」)
 彼は双眸を細めた。そこは、茶化すような色は無い。
「『家』、帰る場所、居場所、護るべき場所……或いはそれら全て――ああ、今は笑いはしないさ。彼には、彼らには必要なもので……私には不要だった、それだけの事だ」
 彼、で眼下のアレクサンドラを見て。
 彼が忌々しそうに、泥臭く、敵と銃弾の応酬を交わしていることに、微笑んだ。
「苦労してるね、助けてあげようか」
「……時々、お前がどうしてそこまで他人事でいられるのか、理解に苦しむ事がある」
 そりゃ他人事だからね、と妖精は軽く言い。
「むしろ理解出来ないのは、君のやり方だ。いちいち一つずつ相手をする必要があるかい?」
 作り物のような水晶の剣を抜いて、その刀身に手を当てた。空に止まり、魔力を編む姿は、神性なるものか、魔性なるものか――。
「数を頼む連中は無粋でいけない」
 涼やかな声音で告げると、増殖を続けるレイダーズへ、鋒を向ける。
 突如と、氷の竜巻が生まれた。
 何もかも吹き飛ばす無慈悲な氷の礫が、風の魔力に乗って吹き荒れる。
「上手く避け給えよ?」
 揶揄と、微笑。
 突風が身を斬り裂き、氷塊が貫く。バリアブルランチャーによる反撃など、意に介さず呑み込んでいく。激しい風がレイダーズの足元から身体を浮き上がらせ、消し飛ばしていく。
 確かにあっという間に片付きそうだ。
 だが、広範囲を巻き込もうというその力は、細やかな制御が叶うものではなく――。
 勢力を拡大し、広がっていく氷の疾風から、防衛班を護るためにアレクサンドラが踏みとどまって食い止める。
 一際尖った氷の刃が、彼の目許を抉っていった――出血はない。ただ、人工皮膚が破れ、金属製の眼球が露出してしまう。
「……チッ。高い着せ替え人形みたいな見てくれのくせにやることが雑だぞ」
 幾度目の舌打ちか。
 アレクサンドラの苦情に、ユエは涼しい顔を崩さない。
「君の言う通り、この服で君の服が十は買える。汚さぬよう、せいぜい盾にさせて貰うよ」
 皮膚も義手も、まあまあ値が張るぞ――と言いかけたが、やめておく。栓の無いことだ。
 好きで庇っている。ならば、好きに戦おう。露出したなら、もう熱の事は気にしなくて良いのだと、眼球に秘めた内蔵兵器を解き放つ。
 レーザー砲が、地面に這いつくばって耐えているレイダーズを灼き尽くしていく。
 ――これ以上の余計な感傷が、脳裡を占めぬように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
◆SPD
防衛チームとの共闘を重視
ボスから要請を受けた援軍だと告げて、戦線に加わる

防衛チームと同じ範囲へ攻撃を行い敵を押し返す
包囲されているなら外から攻撃を仕掛けて包囲を崩し、被害を極力抑えたい
彼らがあまり無茶をしないように防衛ラインの安定を意識
…いくら蘇るとは言え、目の前で死なせたくはないからな

余裕が出来たら前へ出る
ユーベルコードの効果で敵の攻撃を察知、初撃を回避して空振りさせ、その隙にカウンターで射撃を撃ち込む
攻勢に出て敵を減らすと同時に、奴らの狙いを引き付けたい
防衛チームの後退・攻撃の起点となる隙を作れるかもしれない
使えると判断したら遠慮なく利用してくれて構わないと、防衛チームに伝えておく


祓戸・多喜
共闘ね、了解!
大ピンチだけどまだこれから、逆に全部くしゃくしゃにする気合いで行かないと!

防衛チームの人達がいるだろう場所に全力ダッシュ!
邪魔をするなら鼻で薙ぎ払い通連念動力で操ってガンガン蹴散らしていくわ!
もし周囲に大量に敵居るならUC起動、空に矢を放ち周囲全てを矢の雨で撃ち抜いてやるわよ!
その際念動力で矢の軌道変え味方には当たらぬように調整。
自動迎撃ランチャーでもこの降り注ぐ光の矢を弾くのはしんどいんじゃない?
まあ真上に注意向いたらアタシが剛弓に別の矢番えて撃ち抜くけどね!

防衛チーム発見したら援軍来たわよー!と呼びかけつつ周囲の敵蹴散らし救出。
休むにはまだ早いわよ!

※アドリブ絡み等お任せ🐘


柊・はとり
囲まれてやがる…絶体絶命だな
四の五のぬかさず敵陣に斬り込む

ほらこっち見ろ、新鮮な偽神兵器だ
ポンコツだが結構強い
儚い命や兵器より奪い甲斐あんだろ
威力は自分の身体で感じてみろよ
その時間があればだけどな

斬撃と共に敵を挑発しわざと迎撃を喰らう
無事じゃすまないが望む所だ…覚悟決めて行く
【第四の殺人】切り裂き城は俺が傷つく程効果を発揮する
速攻で敵をなぎ払って突破口を開いてやる

あんた達、こっちだ!走れ!
兎に角敵を減らす事に集中
助ける理由なんて共感したから、しかないだろ
俺はあんた達を生かしたいと思った

もう死んでるとか言うなよ?お互い様だ
ボスが待ってる、後は任せとけ
屍は拾いに来なくていいぜ
俺も無駄死にはごめんだ


レイ・オブライト
よお
やってるな

ただ、無駄撃ちはよしとけ。明日以降に使やいい
包囲された奴の援護を優先
【Blast】『地形破壊』
散れ
敵ではなく大地を穿ち、地割れと逆さ雷に敵を幾らか巻き込む目論み
デッドマンは素人でもなし、軽く声掛けときゃ避けるかするだろう。多少千切れても身軽になれたってな話だ(冗句)
取りこぼしは『覇気』+格闘で対処。砲撃に対し『属性攻撃(電気)』をかちあわせ半ばで炸裂させ、お仲間の巻き込みと爆炎に紛れての接近、攻撃を狙う

(意志の感じられない敵に)ったく、どっちが屍体だかな
どっちもか
……それにしたって
こいつら(デッドマン)の生き生きしている、なんて表現が相応しい戦いぶり
命を懸ける宛がある
幸せなことだ



●命ある限り
「共闘ね、了解!」
 ウインク一つ、祓戸・多喜はボスに投げると、軽やかながら重い一歩を踏み込んだ。
「大ピンチだけどまだこれから、逆に全部くしゃくしゃにする気合いで行かないと!」
 告げるなり、豪快に駆け出す。
 巨体――間違いなく巨体であろう――が全速力で突撃してゆく。進路にはまだロスト・レイダーズが残っている。銃口を向ける前に、速度に乗った多喜が鼻を振るう。
 撓った長い鼻は強靱な鞭のごとく、重い音と共にレイダーズを吹き飛ばす。気付かれる前に仕掛け、銃口を向ける間も与えない。
 更に、念動力で遠くへ弾いて、後顧の憂いも退ける。兎に角、力いっぱいに投げ飛ばしたが、オブリビオンならば遠慮する必要などあるまい。
 長い鼻で向かう敵をどんと薙ぎ払いながら、彼女はずんずんと前進する。しかし、それも次第にままならなくなる――。
 ずらりと四つのランチャーを多喜に向けたレイダーズが壁を作っている。
「もう、邪魔ね」
 ぶわんと怒りの感情に従って、大きな耳が動く。
 走りながらも手から話さなかった剛弓を、大きく撓らせ、矢を番える。引き絞る動きは一息に。
 ひらり、スカートの裾を翻し、ランチャーの射程外で脚を止めると、空へ向け、電光石火の早業と空に放たれた一条の矢は、何処までも高く昇り――消えた。
「纏めて撃ち抜く!」
 やがてそれは巨大な光の矢となりて、大地に降り注ぐ。
 まるで流星の如き矢の雨は、レイダーズを次々と射貫いて彼女の道を作り出す。
「自動迎撃ランチャーでもこの降り注ぐ光の矢を弾くのはしんどいんじゃない?」
 得意げに、多喜は鼻を揺らす。
 再び和弓に矢を番えると、前進を再開する――。
「まあ真上に注意向いたら、別の矢番えて撃ち抜くけどね!」
 さて、実際、光の矢に対し自動迎撃モードを発動させたことで、レイダーズ周辺は、光線と実弾が飛び交っていたが、どれも見当違いな方向に誘導され、安全な筋道が出来ていた。
 彼女が作り出した道を駆けながら、柊・はとりが忌々しいと小さく嘆息する。
「囲まれてやがる……絶体絶命だな」
 既に指揮官を探し先行する猟兵もいるというのに、略奪を求めるものどもは尽きぬようだ。際限を知らぬよう湧き続けるレイダーズが、列を成している。
「一気に殲滅といくには、手が足りないんだろう」
 レイ・オブライトが静かに言う。そういうものなのかもしれない――シキ・ジルモントは、小さく頷いた。
 この世界では、充分な物資を持たぬ。何処かから発掘した武器を、武装を。
 作り出そうにも材料から足りぬ。
 その結果が、これらオブリビオン、ロスト・レイダーズという存在を生んだように。
「急ごう」
 シキの短い言葉を、誰が否定しようか。猟兵に当たらぬよう念動力でコントロールされた光の矢の下、レイダーズの波が一度収まっている間に、皆は一気に防衛班まで追いつく。
 だが、あと少しの距離を、ぞろぞろと敵が囲んでいる。光の矢を放った多喜は、残党の処理も含め、まだ此処まで追いついていない。
(「――やるしかないか」)
 瞬き一つせず、敵を見据えたはとりが前に進む。手にする氷の大剣を、ひけらかすように掲げると、
「ほらこっち見ろ、新鮮な偽神兵器だ。ポンコツだが結構強い」
 声を上げる。虚無の視線が、はとりに集まったような気がした。
「儚い命や兵器より奪い甲斐あんだろ――威力は自分の身体で感じてみろよ……その時間があればだけどな」
 両手で柄を握る。偽神兵器が耀き出し、その光が更に視線を集めたような気がする。
「この傷を見ろ。一本だけ違う凶器が使われた証拠だ」
 起動のフレーズ。腕を下ろして一歩踏み込みながら、大きく薙ぐ――。
 九つの斬撃が距離を物ともせず惚けたように断つレイダーズを斬り裂いた。たった一撃で、立派な惨殺死体のできあがり。
 先刻から確信するに、仲間の死に動揺することもない奴らであろうが――無機質な動きで揃って、はとりを見つめた。全身を嫌な気配が舐める。
「獲物――」
 どの個体かが、ぽつりと零す。一斉に、ざわざわとエモノ、という音声が連続して響き始める。
(「無事じゃすまないが望む所だ……」)
 大きく息を吸う。
『柊 はとり。この敵を 単独で処理した場合 負傷率は80%……』
「うるせえよ」
 コキュートスが勝手に分析を始める。大体、一人じゃ無い。入力はしていないが、一人では無い。シキの案ずるような視線に、はとりは頷く動作だけ返して、前へと躍る。
 銃弾が視界を埋め尽くす。
 動けなくなるような傷だけ避ければ、傷付く事で、彼の一撃はより凶悪に閃く。
『命令を 実行します』
 下から上に、隙を厭わず振るう。斜めに走った斬撃が、レイダーズをただの血潮に変えた。
 赤い靄を貫き走る光線が、肩を捉えた。焦げた臭いがするが痛みはない。勝手に迎撃してくる実弾が頭部を狙ってきたが、これは斬撃に至る姿勢で庇える。
 その代わり、無防備となった四肢の表面が、爆ぜた。いくつか穿たれらしく、赤黒い孔が出来たようだが、はとりは止まらぬ。
 不格好を厭わず、横薙ぎに振るう。
 更に威力を増した一刀は、視界の限りのレイダーズどもの頸を落とし、暴発するランチャーが帯のように爆炎をあげた。
 勿論、他の猟兵たちも、彼の戦いを眺めていたわけではない。シキは斃れた敵どもの上を駆けながら発砲し、死に損ないに止めをやり、レイは拳でバリアブルランチャーごと破壊する。雷を通す拳であれば、制御を失わせて、反撃の暇もない儘に地に伏せる。
 やがて、お待たせ、と地を揺らさんばかりの疾走で多喜が駆けつけた時には、包囲の壁は完全に崩れていた。
「あんた達、こっちだ! 走れ!」
 血に濡れながら、はとりは防衛班の面々へと声を掛けた。
 重ね、多喜が声を張り上げる。
「援軍に来たわよー!」
 はっと気がついた三人は正面の敵を警戒しつつ、振り返る――。
「わッ、あんた、すっげー疵だらけ……」
「コラ」
 途端、素っ頓狂な声をあげた男を、女が肘で小突く。
「指示通り、とっとと走れ――迷惑になる」
 戦車の男が二人に告げると、合流するように彼らは此方に向かってくる。邪魔な敵は、はとりが再び屠る。
 銃撃を身で庇うような勢いで受け止めたはとりに、戦車の男は眉を寄せた。
「疵だらけだ――なんで、そこまで」
「助ける理由なんて共感したから、しかないだろ――俺はあんた達を生かしたいと思った」
 はっ、と息を吐き出し、はとりは不敵に笑う。
「もう死んでるとか言うなよ? お互い様だ。ボスが待ってる、後は任せとけ」
 ゆらりと傾けた氷の剣は冴え冴え輝いていたが、彼の凍てつくような瞳も強い光を放って、デッドマン達を見つめていた。
「俺の傷の心配もいらない。……わかるだろ」
 その声音に、眼差しに――ただ彼らは、深く頷いた。
 見届けたはとりも首肯を返すと、彼らが後退出来るように眼前の敵を斬り裂き続ける。
 単身で躍るように見せて、レイダーズの接近を許さぬ狙撃は、矢であったり、銃弾であったりした。
 崩れ落ちたレイダーの影から跳びだして来たシキが、素早く防衛班の元へ駆けつける。
「解っていると思うが――俺達はボスから要請を受けた援軍だ」
 短く告げながら、牽制の銃撃を忘れず、彼は振り返った。
「ああ、助かった――既に何人かの猟兵が殆どを切り崩していってくれたというのに、このザマだ」
 答えたのは、戦車に乗った男だった。彼の額から頭部には、派手な縫い目が斜めに走っている――その横顔から、疲労は感じない。
「銃弾は」
 シキが短く問うと、大丈夫よ、と女が答える。
「此処で生き残れるなら、ありったけをつぎ込んでやるさね」
 空になった弾倉を取り出し投げ捨て、彼女は敵陣を睨んだ。今にも突っ込んでいきそうな威勢の良さはある――否、そんなことはしないだろうが――元々、爆弾を持って自爆する作戦の備えもあったはずだ。
「えーまだ頑張るの……」
 二人よりは若そうな外見の男は溜息を零すが、口とは裏腹に、銃口は確りと敵に睨みをかかせている。
 気付いて、シキは微かに目を細めた。
 彼らは、死を間近に感じながら――。
 虚無を湛えた略奪者どもとは、違う耀きを身につけている。生きるための希望を、守るための希望を忘れていない。
 再度、死なせるわけにはいかないと彼は、特別表情を変えぬ儘、思う。
「よお、やってるな」
 口の端に笑みを浮かべ、レイが親しげに声を掛けてきた。
 それぞれの武装がまだ生きていること、戦意が死んでいないこと――窮地は脱しつつあること。レイは一瞥で彼らの心理を見抜いた――というよりは、元々用意していた、助言を向ける。
「ただ、無駄撃ちはよしとけ。明日以降に使やいい」
 ひらりと片手を振ると、彼らを背に庇うように変わらぬ歩調で先へと進んでいく。
「ああ、もうひとつ。地面に注意しな」
 思い出したように一言、今度は警告を放つと、お先に、と飛びだしていく。
 レイダーズはじりじりと距離を詰めており、銃口も等しくこちらを捉えている。間合いに入れば蜂の巣であろう。
 そんな中央へ、生身を投げ出す暴挙――と見えて、レイの身体は既に半身を開き、腕は攻撃の前触れと撓んでいた。
「散れ」
 その拳が大地を垂直に撃てば――割れた。甚大なる破壊はひとりの拳より紡がれ、地底から唸るような轟きが聞こえる。
 刹那、亀裂より、噴き出すように雷が迸る――割れた地に立っていたもの達は、呑まれ落ちると同時に雷に灼かれ、不可思議な動きをしながら崩れ落ちていく。
 そして、その亀裂が、敵とこちらを分断する境界となる。
 唯一の問題といえば、仲間や防衛班を巻き込む可能性があることだが――。
「多少千切れても身軽になれたってな話だ」
 冗談一つ。彼らも素人でもなし、警告もした。問題無かろうと――デッドマンらしい考え方で、レイは振り返らず、追撃に向かう。
 転んで、両手脚も視界も下を向いていたが、銃口だけは揃って彼を見ていた。けたたましい銃撃が、レイを迎え撃つ――。
 練り上げられたオーラが、ヴォルテックエンジンから生み出される電流を湛え、拳より先に砲撃とぶつかって暴発した。
 連射されている事が災いし、爆破が跳ね返って、更に連鎖する。逆流する熱の揺らめきの中、鋭い打撃を食らわせ、装甲ごと破壊する。
 すかさず、視界の高さに広がりゆく爆風の下を潜って、距離を詰め、増えたレイダーを蹴り飛ばす。無造作に見えて、軸を捉えた一撃は後方のレイダーまで巻き込んで隊列を崩す。
 拳に返る感触は、あまりにも軟弱。連打も数発で、ぐにゃりと身体が曲がって、倒れ込んでしまう。
 だらりと弛緩した身体と、勝手に動く、バリアブルランチャー。当人は視点も定まらぬ程に虚ろで、殴っても、死にかけても、幽鬼のようにふらふらとしたままだ。
「ったく、どっちが屍体だかな。どっちもか」
 覇気が無い、というか、芯が無いというか。
 皮肉を効かせるならば、魂が無い、といったところか。略奪に魅入られて、オブリビオンまで堕ちたにも関わらず、その戦いは武器任せ。
 背後では、奮闘する防衛班の気配がある。撤退のための戦い方に切り替えたはずだが、彼らは言葉とは裏腹に、どうも好戦的な傾向がある。何となく、目を見れば解るのだ。
(「……それにしたって、こいつらの生き生きしている、なんて表現が相応しい戦いぶり――」)
 片や、限りある命を誤魔化しながら、生きるために戦う者達。
 そういつかこの仮初めの命は、衝動を失って消えてしまうかもしれぬ――まあ、そんな感傷を、レイは覚えた試しは無いが。
 ただひとつ、気持ちの良い戦い、というのは存在する。
「……命を懸ける宛がある――幸せなことだ」
 金の眼差しは、ますます鋭く。レイは腰を落として拳を作る。

 ――遠方に派手な雷と、爆風が混ざる。比較的近くでは剣風が血を躍らせ、次々と撫で斬っていく。目に見えて近場の脅威は減っている。
 彼らだけでも撤退出来るはず――ならば、己も先へ向かうべきだろう。
 判断を下したシキは、防衛班を再度振り返る。
「無駄撃ちは不要なのは同意だ。だが撤退のために、まだ戦う必要はあるだろう――俺達のことは、使えると判断したら遠慮なく利用してくれて構わない」
「有り難い」
 戦車の男が、深く首肯した。
 それを合図に、シキも前へと駆る。
 レイダーズは主に最も近くで戦うはとりに意識を向けていたが、自動迎撃モードが反射的に標的を変えるのか、迫り来るシキへとアームを傾けた。
 ランチャーが一斉に火を噴いた瞬間、傍らに着弾した背後からの砲撃が、敵共を一気に蹴散らした。更に、小気味良い掃射音が続く――。
 シキを囮に、集中砲火で、道を開いてくれたらしい。
 口では色々言うが、三人はよく戦う。諦めはもっていない。拠点と、仲間を守るのだ、という意志を強く感じる。
 だから、厭う人狼の性質――獣の感覚に頼ることを厭わない。
「……いくら蘇るとは言え、目の前で死なせたくはないからな」
 囁き、軽く息を吐く。
 狼の耳を欹て、すべての感覚を鋭敏に保ち、弾丸の雨を潜り抜けていく。
 風が流れる方角すら、膚が捉える。意識しないようにしている尾が彼の躰を支え、アームを伸ばすランチャーの狭間を潜り抜け、本体の鳩尾を撃ち抜く。
 胸を貫いたものは仰け反り斃れた――然し、シキの眼差しは微塵も隙はない。周囲の気配を察して、身体は次の動きに移っている。
 即座、半回転ほど振り返り、腕を振るう動作と共に発砲する。頸の後ろを撃たれたレイダーはずるりと膝から崩れ落ちた。身を低くしゃがみ込むようにして、飛び出す。
 脚を止めれば的になる。乱射力が高い相手の前では、兎角、休まず奮う事だ。
 敢えて銃撃を待ち、尽きるまで回避し、一撃で撃ち倒す。例え囲まれようと、シキは冷静さを失わず、冷静に立ち回る。
 後ろで何かが発射されるような、独特の音がした。強靱なる弦が奏でる音と、威勢の良い多喜の声が届く。
「休むにはまだ早いわよ!」
 降り注ぐ光の矢――敵どもの注意が軽く削がれたところへ、シキは弾丸を叩き込む。
 光の矢は、多喜の念動力でコントロールされているらしく、猟兵には当たらない。概ね上を狙うレイダーズの足元低くを駆ければ、危険は薄い。
 それでも、間近を動くシキを、狙う銃口はある。
 咄嗟に、迫りくる敵の顎を蹴り上げる。その身体は宙に浮かぶ間、再び降り注いだ光の矢に射貫かれて消滅した。
「いつまで其処にいるつもりだ?」
 ふと、静かになった戦場で、はとりが後方へ問いかけた。彼は振り返らなかったが、またしても傷が増えている。返り討ちにした数のほうが多いのだが、どうにも実感が湧かない。
「屍は拾いに来なくていいぜ。俺も無駄死にはごめんだ」
 防衛班の三人は、その背が、笑っているように見えた――ゆえに、彼らは最後に、こう叫んだ。

「――また生きて会おう!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『『大炎嬢』バーニング・ナンシー』

POW   :    心頭焼却
レベル×1tまでの対象の【首・腕・足を狙い、燃える右手で何れか 】を掴んで持ち上げる。振り回しや周囲の地面への叩きつけも可能。
SPD   :    斬捨御炎
【業火を纏った剣による灼熱の斬撃 】が命中した対象を切断する。
WIZ   :    木端炎陣
【全方位に放った灼熱の炎 】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【が広範囲で炎上し続け】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はピオネルスカヤ・リャザノフです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●燃える女
 ――何もかもが憎い。
 煩わしい。
 この身を焦がす炎が、熱くて、苦しくて、でも死ねないのだ。
 奪え、という声が頭に響いて煩い。
 それがいつか、誰かに指示されたのか、嗾されたのか、自分の妄想だったのかすら、もう記憶にない。
 奪って奪い尽くせば、いずれこの熱を鎮められる――儚い願い。
 いずれ、略奪の果てに、願いが叶う。
 胸が昂ぶると血が更に熱を増して、身体を苛む――苦しい、苦しい。
 だから力を振るう。何処までも戦い奪い尽くしてやろう。
 この世に『終わりが無い』ことなど、ないのだから。

●枯れ地の決闘
 猟兵達は圧倒的な破壊を以て、ロスト・レイダーズの壁を突破する。防衛班は無事に撤退し、残るは指揮官だけだ。
 略奪を指揮するものは、枯れ果てた荒れ地の中央に、ただ立っていた。
 ある一定の範囲から、土は乾ききり、ひび割れている。だが、そのオブリビオンの姿を見れば、原因は明らかであった。
「ハッ、あの略奪ジャンキーどもじゃ相手にならないか」
 笑い、迎え撃つ女は、顔の半分が燃えていた。
 身体の所々から噴き出す炎は周囲の熱をあげ、空気は揺らめいている。オブリビオン――『大炎嬢』バーニング・ナンシーは、絶えず熱を放ち続けていた。
 然し不敵な笑みを浮かべていた女は、急にぐうと呻くと、燃える手で己の顔を覆う。
「ああ、熱い……熱い――なあ、お前達、この血の熱を下げる方法をしらないか――」
 本当に苦しそうに、女は尋ねてくるが――。
 答えを口にしようが、すまいが同じ。
 苦痛によるものか、その身から放たれる炎が弱く収まれば、元の強気な女へと豹変する。
「できないなら死ね!」
 なれば、こちらの答えも同じだ。

 ――生か死か。シンプルな問答を。

=============================
【プレイング受付期間】
9月28日(月)8:31~10月1日(木)中
=============================
囁石灯・銀刃郎
あー、デッドマンの同類?まなんでも良いけど……
そんなに熱を下げたいなら、殺してやるわよ!

片手で持った散弾銃で範囲攻撃。
相手の動きを観察(情報収集)、戦闘知識から動きを見切り、掴み攻撃や斬りかかりを回避。もう片方の手に持った拳銃と散弾銃を合せて零距離射撃。

……!
炎の剣が避けきれない。と判断し、即座に銃を手放し、早業。
……しぃいいいい!
『刳風抜刀』蒼気を纏わせたカタナでオーラ防御。
カタナで剣を受け止め、カタナから覇気の斬撃を吹き飛ばし、剣を弾く。
カタナは……後で鍛ち直しかな、これは……

返すカタナで、大炎嬢を袈裟切りにし続けて二撃、三撃と可能な限り、斬り返す。死ぬまで。


鹿忍・由紀
随分暑苦しそうだけどそれってやっぱり暑いのかな
生きてる限り辛いんなら、終わりにするのも手だと思わない?
肯定されるとは微塵も思ってない調子で話す
答えを口にしようがすまいがこちらも同じで
終わりにする事には変わりない

近付くと暑そうだなぁなんて
面倒そうに目を細めて眺める
相手の様子を観察しつつ間合いを計算して
出来るだけ早く的確に、切り裂いて離れる
攻撃を受けても何事もないよう耐えて
…あっつ、自分が燃えるなんて俺には耐えられないね
無表情のまま悪態をつく

暑いのから解放されたいんならさっさと大人しくやられてくれれば良いのに
暴れなければ苦しいのだって一瞬だよ、きっと

それでも生きたい気持ちは分からないでもないけれど



●熱源が求むるは
 『大炎嬢』バーニング・ナンシーを見やる囁石灯・銀刃郎の瞳は冷たい。当然だろう、オブリビオンへの憐憫など、彼女にはない。
 ましてや、彼女はこの襲撃の首謀者であり、殺気に満ちている。武器を捨てて手を取り合うなんて展開にはなり得ない。
「あー、デッドマンの同類? ま、なんでも良いけど……そんなに熱を下げたいなら、殺してやるわよ!」
 威勢良く挑発しつつ、無防備に斬りかかるほど、銀刃郎も直情径行ではない。
 一歩近づくだけで膚に伝わる熱気に、銀刃郎はじっと相手を見つめて距離を測る。無論、際立った苦痛を感じるわけではない。だが『特殊な肉体を持つ』己に、そんな感覚を与えてくるのだ。油断はすまい。
「熱い――ああ、この熱を……」
 向けられた殺気に反応して、ナンシーの纏う炎が、一層強く揺らめいた。
 へえ、と青き双眸を細めたのは、鹿忍・由紀であった。
「随分暑苦しそうだけどそれってやっぱり暑いのかな」
 さらりと話しかけながら、真っ直ぐと進み――ある程度の距離で、歩みは止めて、相手を観察する。白い貌は、相手に興味をもっていない。
「生きてる限り辛いんなら、終わりにするのも手だと思わない?」
 投げやりな問いに、いらえは求めぬ。
 応であれ、否であれ、なすべきことは変わらない――終わりを。ただ刻みつける。
「近づくと暑そうだな」
 誰に聴かせるためでもなく、由紀は呟く。面倒くさそうに細めた瞳を、銀刃郎は振り返らなかったが、言葉だけで同意した。
「そうね」
 言うなり、くるりと肩越しに回した銃身が、敵を捉える。すかさず、銀刃郎は撃った。
 撃ちながら、銀刃郎は横に跳んだ――相手の様子を窺うためだ。驚くべきことに、ナンシーは特別回避しようとも、銃弾を払いのけようともしなかった。連続する破裂音と同じ数だけ、女の体は穿たれた。
 散弾によって飛び散る赤は、彼女の前で艶やかに花咲く。
 途端、水蒸気が散ったような熱が迸り、赤靄となり、炎になる。
 熱の尾が揺らめく。仰け反っていた女の狂った瞳が、銀刃郎を見た。刹那、十分な間合いを、ナンシーは一足で詰めると、絡めた黒鉄の剣がしなやかに胴を払ってきた。
 銀刃郎は飛び退く。剣の間合いは、測定済みだ。
 刀身は彼女に触れず、銀刃郎は地に転がりながらナンシーの脇へと立て続けに銃撃しようとするや、違和感を両腕に覚えた。
 炎が、刀身を伸ばしている。直接斬られるのに比べれば、さしたる傷ではない――だが、変幻自在な炎の斬撃は、躱しきれぬ。
「……!」
「ははははは!」
 ナンシーは狂ったような笑いをあげて、業火を纏った剣による灼熱の斬撃を振り下ろす。
 判断するや、銀刃郎は両手の銃を手放し、カタナを抜いた。
 蒼気を纏わせたカタナが、呼応し、青く輝いた。高い音、鈍い感触、銀刃郎の腕すら痺れるような怪力。じりりと痛む、火傷。
「……しぃいいいい!」
 口から溢れるは裂帛の気合い。銀刃郎は膝立ちから全身を跳ねるように振り抜いて、一閃で打ち返す。無数の飛ぶ斬撃がナンシーを斬り裂きながら、吹き飛ばす。
 かなり乱暴な反撃をした――戦闘継続は出来そうだが、少し歪んだカタナへ視線を落とし、彼女は溜息を吐く。
「カタナは……後で鍛ち直しかな、これは……」
 だが、彼女の殺気は未だ尽きぬ。
 ナンシーは数メートルの距離を引き離され、俯きながら「クククッ」と肩を震わせていた。斬撃による創から新たな炎を吹き上げて、内と外、苛む熱に狂気の笑みを湛える。
 死角から、鋭い斬撃が走った。風を斬る音が先に走り、ぱくりと開く創が後から追いつく。静かに身を沈めた姿勢からダガーを見舞った由紀は、吹き上げる炎に視線を動かす。
 本当に、血が燃えているのだ。
「……あっつ、自分が燃えるなんて俺には耐えられないね」
 無表情の儘、悪態で注意を引く。
 ナンシーが剣の応報と共に振り返った時には、彼は既に距離を取っている。先程見極めた、炎も及ばぬ距離まで一足で駆ると、反動を重ねて前に跳ぶ。
 相手の剣が完全に振り下ろされた虚を突くように、距離を詰める。
 その度、鞴で高められたような熱気が膚を舐める。最早、近づくだけで焦げるようだ。
「暑いのから解放されたいんならさっさと大人しくやられてくれれば良いのに」
 続ける悪態は、忌々しそうに。されど、由紀の声音はさらりと風のように通り抜ける。
「絶ち切れ」
 接触の瞬間、更に加速する。頸を狙って、彼は身体を捻る。正面からねじ込むように差し込めば、腕に炎が絡んだ。
 乱暴な反撃を、腹に感じる。由紀の思考よりも早く、身体が動く。相手と距離をとるためにもう一刃、肩へと垂直に下ろして腕を這いながら、後ろへと退く。
 熱が、いつまでも付いてくる――不快に視線を落とせば、上着に炎が移っている。無造作に叩いて消しながら、由紀は再度、敵を見る。何の感情も持たぬような虚ろな瞳で。
「暴れなければ苦しいのだって一瞬だよ、きっと」
「ふははははっ」
 女は笑う。笑っている。きっと、血がそうさせるのだ。狂気の表情と、躍動する身体と、燃える血。生きた儘、火をつけられたものが、転がって火を消そうとするように。戦わざるを得ないのだ。
 それが、何よりも。渇望の証に見えて、そっと息を吐く。
 ――楽になれ、なんて。どの口が言うのかなとは思うけど。裡で皮肉をひとつ吐き出し。身を僅かに屈めた由紀が仕掛けるより先に、銀刃郎が青い刀身を掲げて斬り込んでいた。
 殺しに慣れた身体は、すかさずナンシーの隙を見出す。全身に魔力を回して速度を上げながら、由紀も続く。
 生きても炎。傷付いても炎。死んでもいずれ、骸の海より、この苦痛と共に蘇る――。
(「それでも生きたい気持ちは分からないでもないけれど」)
 幽かと消した気配から、刃を振るう。由紀の鋭利な刃運びに、躊躇いは一切なかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

マガラ・オーエン
景気よく燃えてるなぁ。
もしやオタクも焼けて死んだ身か?
お揃いなんて燃えちゃうぜ。

怪力を警戒して、距離をとって援護射撃。
隙ができたら暗殺するように早業で移動。
火炎耐性で相手の腕をグラップルして掴もう。

熱を下げる方法なら、やっぱりこれだろうなあ。
まずは頭を冷やした方が良い。
そんなに怒りをぶちまけてちゃ、お天道様だって怒っちまうもんさ。
まァ、怒っても何しても。神も仏も死人までは救ってくれないだろうがね。
掴んだまま近距離でUCを発動、死人お得意の雷落としだ。

それはそれとして勿体無いからな。
片腕ちゃんはきちんと回収しておこう。



●死人に遭うては
 赤い髪を、炎が吐き出す風にたなびかせ、『大炎嬢』バーニング・ナンシーは立っていた。全身から吹き上げる熱気で、景色を巻き込み歪んで見える。
「景気よく燃えてるなぁ。もしやオタクも焼けて死んだ身か? お揃いなんて燃えちゃうぜ」
 マガラ・オーエンの揶揄を、ナンシーはどう捉えたか。
 獣のように、前のめりに跳びだした。マガラと捉えようと前置きも無く猛然と駆けて来る。
 片手で銃を構えながら軽やかに距離を維持し、おお凄い、と彼女は素直に賞賛した。それはナンシーがほぼ全身を炎で包んでいたからだ。
 よくみれば、膾のように斬り刻まれた創から、滴る血の代わりに燃えているのだ。
「熱イィ――」
 濁ったような声をあげて、けたけたと笑う様は、狂っているようにしか思えないが――。
 物陰に身を潜め、素早く狙撃する。それが凄まじい熱を帯びて、転がり出る。
 ふう、とマガラは吐息を零す。その間に再びアサルトライフルを構えて、詰まる距離に構わず掃射した。火気の塊へと至近距離でぶっ放すのは、ぞっとしない判断だが、致し方なし。
 ほぼ狙いを外さぬ連射の前に、相手は怯まぬ。纏う熱が弾丸を弾くこともあるのだろう。しかし、皮膚が穿たれようと、女はマガラに掴みかかろうと腕を伸ばす。
「情熱的だなあ」
 しみじみと、彼女は零す。
 細めた視線でナンシーの身体の軋みを見切り、息を細く吐きながら、マガラも腕を伸ばす。頸を狙って伸びた腕を、逆に掴んで固める。炎が身を灼くが、多少は気にしない。
「熱を下げる方法なら、やっぱりこれだろうなあ。まずは頭を冷やした方が良い」
 鮮やかな火焔の色をした髪を靡かせて、マガラは微笑む。
 女の纏う熱で、咥えた煙草はあっという間に消し炭だ。勿体ない。
 肩をすくめて宥めるように囁く。
「そんなに怒りをぶちまけてちゃ、お天道様だって怒っちまうもんさ」
 その、穏やかな声音の儘に。ぐっと握った指の圧は相手の腕を砕かんばかりに強める。
 相手も相手で、掴まれた状態から、マガラを振りまわそうと腕をあげる。めりめりと軋む筋肉の音に、よく頑張るな、と素直に感心する。
「神を殺して仏を売って―何の救いがあるものか」
 膨大な電流が、ナンシーの思考も視界も白く染め上げる。
 マガラの、腕を掴んだ右腕が、身体より離れていた。身体を奔る電流が流れ込み、ナンシーを灼いた。
 黒煙を吐いて倒れ込む女の姿に、慈愛に似た視線を送り、マガラは死人お得意の雷落とし、だと嘯いて。
「――まァ、怒っても何しても。神も仏も死人までは救ってくれないだろうがね」
 爆ぜた片腕拾い、朗らかに笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
◆SPD
奴は自分が奪う側だと信じて、全く疑っていないようだが…
逆だ、今度はこちらが奪わせてもらう
生かす為に戦った先とは違う、相手を斃し終わらせる為に戦う

味方へ援護射撃を行いつつ相手の行動を観察
こちらに向けての斬撃の構えを見たら即座にユーべルコードで反撃する
回避が困難な斬撃の瞬間に、剣に邪魔されない射線を見極め、通したい(『スナイパー』)
防御は考えず全ての意識をこの一射に注ぐ
斬撃を繰り出されるより速く引き金を引き、攻撃を成功させる事だけを考える

危険だからと守りに転じては好機を逃すと判断した
危険も必要コストと割り切り撃破を優先し、必ずこの場で奴を斃して骸の海へと還す
そうすれば、その熱も鎮まるだろう


シリウス・クロックバード
あぁ、随分と熱いね。
君を——憂うのは侮辱だろうね。

銃弾の雨では福音には程遠い、大弓を構えていこうか
剣矢による牽制を。矢が溶かされないと嬉しいね

得物は炎か剣か
零距離射撃にも慣れはあってね。詰められれば剣矢を短く放ち

灼熱の炎が迫れば片腕をあげよう。足りねば身体を半分
下手に強化されても困るし、この熱じゃ俺を焼き尽くすには程遠い

痛みには慣れているんだ。うん、死ぬ気じゃないよ
俺がもし今日死んだとしても、まだ生きている奴がいるからね

義眼をフルに起動し、皆に呼びかけよう
荒唐無稽な願いをここに
彼女を救う程の星々の輝きをこの手に

星の隕鉄を束ねた矢よ、顕現せよ
希求の果て、我らが矢は——せめて、君の眠りに届くように



●射手
 全身から黒い煙を吐きながら、『大炎嬢』バーニング・ナンシーはぎこちなく立ち上がった。
「アアアァア!」
 立てども、立てども――その身を苛む熱は引かず。創から吹き上げる炎は紅蓮と燃ゆる。
 白煙が立ちこめる。蒸気のようなものか。ナンシーは憎らしげに猟兵を睨む。
「熱が下がらない――ああァあ、寄越せ……」
 ずるり、ずるりと地に剣を擦りながら、彼女は呻いた。
「あぁ、随分と熱いね。君を――憂うのは侮辱だろうね」
 灰色の髪を風に躍らせながら、シリウス・クロックバードは大弓を下げる。剣矢を番えて、徐に構える。十字を描く弓矢は、祈り。
 福音を与えるに相応しい――そんなものを、あの女は望んでいないだろうけれど。
 音程の狂った声をあげて、ナンシーは駆け出す。その足元を、数撃の弾丸が穿つ。彼女は振り返るが、その姿は見えぬ。
 地形の起伏に身を伏せ隠した男は、そっと息を吐く。
「奴は自分が奪う側だと信じて、全く疑っていないようだが……逆だ、今度はこちらが奪わせてもらう」
 呟いたシキ・ジルモントの脳裡には、拠点で身を寄せる人々、必死に戦っていた防衛班の面々の姿が過ぎった。
 命を守るための戦いから、奪うための戦いへ――平穏を、勝ち取るために。
 ナンシーは暫し、どちらに仕掛けるかを惑った。だが、彼女は姿を見せるシリウスを優先して、再度駆け出す。
 彼も慣れたように短く構えると、即時放つ。誘うように飄飄と跳び退く。
「逃げるなッ」
 ナンシーが怒鳴った。内容はそれだが、濁った怒声は、喉をやられているからだろう。剣を乱暴に振るい、炎を四方へと放つ。炎の斬撃がシリウスや、シキを直接捉えなくとも、戦場に熱が広がる。
 炎上を続ける大地も、飛び道具を擁する二人には然程影響は無い――はずだが、シリウスは炎の上に立ち続けた。
 身が焦がしながら、延焼範囲の制限となる。
「これが君の痛みかな? だとすれば、たいしたものではないね」
 さらりと言い、シリウスは笑った。
「痛みには慣れているんだ。うん、死ぬ気じゃないよ――俺がもし今日死んだとしても、まだ生きている奴がいるからね」
 不倶戴天の存在――己がこの世に存在し続ける、衝動の源。
 その、右目――義眼の奥で、世界に接続し、ソーシャルネットワークに呼び掛けた。
「荒唐無稽な願いをここに――彼女を救う程の星々の輝きをこの手に」
 掌を天に向け、力の収束を待つ。地を力強く駆って、ナンシーが迫る。大きく振り上げた剣が炎を煽る。
「星の隕鉄を束ねた矢よ、顕現せよ」
 赫く一矢が、シリウスの手に収まる。手早く番えて正面から跳び込んでくる女へと射掛ける。
 その距離が剣の間合いに入るまで、彼は待つ。赫く矢を限界まで引き絞り、新緑の瞳を鋭く細めた。
「希求の果て、我らが矢は――せめて、君の眠りに届くように」
 十分引きつけ、放つ。
 渾身の一矢はナンシーの肩を貫く。剣戟は止まらない。然し、シリウスは片腕を犠牲に、少ない血を零しながら、さらりと退いた。
 斬撃を重ねようと大きく身を傾いだ時、彼女はその白銀の髪を、青の眼差しを捉えただろうか。
 息を潜め位置取り、待ち構えたシキは肺から全ての酸素を吐き出すように息を吐き、吸う。一瞬止めた呼吸と共に、時間が止まったように感じる程の集中。
 振り切った斬撃が纏う、炎の揺らぎさえ、シキは見極めて腕を伸ばす。わざわざ、こんなところから撃つ必要はあるまいと、射手ならば思うだろう。
 しかしナンシーの膂力が生み出す跳躍力や破壊力は、常人より鋭いシキの感覚をもっても、精度を損ねそうであった。実際、先も牽制射撃と援護射撃も織り交ぜたが、疵を厭わぬ女の剣を鈍らせることはできなかった。
(「危険だからと守りに転じては好機を逃す――」)
 それは、他ならぬシリウスが証明して見せた。的が近づけば、好きな所が射抜けるという道理。
 ――しかし、熱い。膚を舐める炎、大地を埋める炎。
 酸素が薄く、息苦しい。
 こんなところで戦うのは――こんなところで銃を使うのは、愚かしいのでは無いかと思うほどに。
 全身を炎で覆われた女は、剣を持つ左肩を射貫かれても、速度を変えなかった。だが、他者を追撃する二合目。振り下ろされるまで最も時間の掛かる姿勢。
 シキは、引き金を引く。
 両手で構えたハンドガン、見上げる姿勢で懐に潜り込み――尽きるまで、撃つ。
 骨まで揺らすような衝撃がナンシーの身体で爆ぜる。肩、胸、腰、愛銃の限界を引き出す早撃ちながら、狙いは正確無比であった。
「必ずこの場であんたを斃して骸の海へと還す」
 身は庇わない。後ろから、冷静な一射が、剣と叩き合い、ナンシーを一歩後退させる。その隙に、もう一度。
 炎の色に染まった銃口を突きつけシキは告げる。
「そうすれば、その熱も鎮まるだろう」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

終夜・嵐吾
せーちゃん(f00502)と

大炎嬢…その名の通りじゃな
しかし、わしのほうが炎の扱いは上手じゃろ
わしは熱を下げる方法は知らんのじゃ
熱を上げる方法は知っておるがな

しかしここにおるんはわしだけではないしの!
せーちゃん、共に力合わせてあの炎をねじ伏せてやろか
わしの炎にせーちゃんの力を重ねてましましにしておくれ

友の躍らせる花弁の刃に炎を纏わせ、共に沿わせ
それに狐火いくつも束ねて炎の奔流としよう
せーちゃんの力重なれば、負ける気はせんね
あとは上手にあやつって、あのおなごにあててしまお
どちらの炎のが強いか、勝負じゃな

さぁ、わしの炎を貰っておくれ
友の前では負けるわけにはいかんのでな
汝の炎を焼き尽くしてしまおう


筧・清史郎
らんらん(f05366)と

指揮官は炎の使い手か
俺は熱を下げる水も操れるが、それでは少々面白くない
折角、一等美しい炎を放つ友と在るのだからな
友の狐火を、より燃え上がらせる方が楽しそうだ

ああ、らんらん
では俺は、らんらんの炎をましましにするべく、桜吹雪を吹かせるとしよう

扇広げ、友の成した炎の奔流を煽る様に
数多の桜花弁の刃を舞わせ、鮮やかな炎に彩りと力を乗せよう
狐火を成し操る友の邪魔をされぬよう、扇翻し
広範囲に放つ衝撃波の連撃にて敵の灼熱の炎を相殺
どちらの炎が強いか…まぁそれは分かり切っているがな

楽しそうに燃やす友の姿に笑み宿しながら
瞳に映る鮮やかなそのいろを煽り、共に敵の炎を焼き尽くそうか



●風に、炎華
 指揮官は炎の使い手か、筧・清史郎はしげしげと相手を見つめ、頷いた。
 燃えさかってるのーと、終夜・嵐吾は笑う。傷付けば傷付いただけ、『大炎嬢』バーニング・ナンシーはその血を燃え上がらせた。満身創痍の身は、もはや炎の化身といっても過言では無い状態であった。
「大炎嬢……その名の通りじゃな」
 その姿を上から下まで見つめると、勝ち誇ったように彼は胸を張る。
「しかし、わしのほうが炎の扱いは上手じゃろ。わしは熱を下げる方法は知らんのじゃ――熱を上げる方法は知っておるがな」
 眇めた隻眼は不穏に輝く。しかし、それを直ぐに人なつっこい笑みで隠すと、傍らで扇を揺らめかせる友を見る。
「しかしここにおるんはわしだけではないしの!」
 さて、友の期待を受け止めた清史郎は優雅に己を扇ぎながら、微笑みを深める。
「俺は熱を下げる水も操れるが、それでは少々面白くないな」
 その眼差しは、先程と変わらず、隙なく相手を観察し続けている。
「折角、一等美しい炎を放つ友と在るのだからな――友の狐火を、より燃え上がらせる方が楽しそうだ」
 扇の動きを止めて、彼は言う。意を得たり――嵐吾はよし、と意気込む。灰青の耳がぴんと跳ねる。
「せーちゃん、共に力合わせてあの炎をねじ伏せてやろか。わしの炎にせーちゃんの力を重ねてましましにしておくれ」
「ああ、らんらん。では俺は、らんらんの炎をましましにするべく、桜吹雪を吹かせるとしよう」
 戯けるような二人の会話を、敵は黙って聴いている――わけもなかった。
「ほざけ!」
 ナンシーは大剣を薙ぎ払い、駆けだした。彼女の辿る軌跡が、炎上していく。炎のカーペットを足蹴に、二人へ迫る。
「確かに、火力は強そうじゃな。ついでに、蛇のようににょろにょろと」
 嵐吾は息だけで笑って、狐火を呼ぶ。ぽつぽつと浮かび上がった炎は、彼の意志に従って、程よい大きさにくっついて広がる。
 綺麗な球体は術者の示す通りに、駆けてくる女へ向かっていく。
 身を倒すようにして、ナンシーは剣を薙ぐ。炎を伴う烈風が、狐火のひとつを容易く掻き消す。
「クハハハ!」
 ナンシーは高らかに嗤う。
 ――だが、二人は冷静さを崩さない。清史郎など、扇を開いたまま、舞でも披露しようかと言わんばかりに、懐を開いた。
「舞い吹雪け、乱れ桜」
 囁きと共に、桜花が乱れる。下げた刀がはらりと溶けるように消えて、無数の桜吹雪と変じたのだ――ひらひらと優雅に舞う小さな花弁は、ひとつひとつが刃となって、ナンシーを刻み込む。
 正面から押し寄せる桜の奔流に、嵐吾は狐火を重ねた。
 桜は燃えることも無く、ひらりと刃を躱し、炎はそれに沿って剣戟の合間をかいくぐる。
 花弁が彼女の身を包む炎を裂けば、その傷口を灼くように炎が走る。
「せーちゃんの力重なれば、負ける気はせんね――どちらの炎のが強いか、勝負じゃな」
 自信を漲らせる嵐吾の言葉に、ひらりと衣を翻し、炎の範囲を躱しつつ清史郎が頷く。
「どちらの炎が強いか……まぁそれは分かり切っているがな」
 彼が涼やかな青の扇で空を煽げば、花弁の流れが駆り立てられるよう加速して、ナンシーに襲い掛かった。
 彼女は、剣を大仰に振り翳したかと思うと、裂帛の怒声と共に前へと跳んだ。
 頭からそれに突っ込んだことで、彼女の頬が軽く裂けた。傷口から炎がちろりと溢れる姿は、まるで炎を吐く怪奇のようだ。
 剣閃が炎を纏い、炎と交わる。
 身を燃やす血はナンシーに出鱈目な膂力を与え、桜花も狐火も、斬り裂くことができた。
 だが、その動作ひとつひとつは大振りで、無駄が多い。ゆえにひとつを反撃で消し飛ばそうとも、攻撃を集中して受けてしまう――背に、四肢に、灼き焦がす炎が纏わり付く。
「さぁ、わしの炎を貰っておくれ」
 いっそ、その声音はふんわり穏やかに響いた。心からの贈り物であるかのように、嵐吾は狐火を叩き込んでいく。
 彼の狐火は、同じ炎であれど、当然ながらナンシー全く違うものだ。炎だからと、平然としていられるものではない。
「ア゛アァァ……」
 あまりの熱に、ナンシーは頭を振り乱し、濁った悲鳴をあげる。それでも剣を振り乱し、動き回れるのは、高い耐性をもっているからなのだろう。
 誰の台詞でもないが、諦めてしまえば熱も冷めるのでは無いか――然し、この世界に存在する限り、生きているがゆえに、苦痛に身体が跳ねる。
 悶えながら戦う女に対し、二人は飄飄としたものだ。迫る炎を軽い調子で躱し、二人分の力を代わる代わる、或いは同時に叩きつけた。
「友の前では負けるわけにはいかんのでな。汝の炎を焼き尽くしてしまおう」
 ――朱朱と、大地が燃えている。
 敵も、敵が放った炎上する地も、友が放った業火も――。
 何もかもが、赤い。
 紅の双眸を楽しそうに細めた清史郎が扇をすっと垂直に振り下ろした。剣を振るうときと同じ、流麗な所作で。
 桜花が炎を割って、道を作る。
 ひゅ、と風が唸ったのは一瞬のこと。ナンシーの片腕が、派手な飛沫を撒き散らした。
 ――それは炎では無く、血液であるようだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

祓戸・多喜
え、そんなの知らないわよ。
いっそ燃え尽きる位一度派手に燃えちゃえばいいんじゃない?
でも一人でね。周りを巻き込んでとか論外だし…アタシ達は生きていきたいんだし!

基本は支援中心に弓で攻撃。
近づかれたらあの炎の武器にざんばらりんされそうだし近づく前に撃つべし撃つべし!
早撃ちと狙撃で足元狙い動きを封じつつここぞのタイミングでUC発動!
一気に矢の嵐浴びせかけて押し切ってやるわ!
強いものが勝ち生き残るのが野性の証明よ!
もしダメじゃないなら味方の誰かに掠める程度に矢を放ち寿命守ったり。

あと防衛チームの人達を守る様に意識。
燃やされちゃ大変そうだしまだまだ頑張ってこー!と励ましたり。

※アドリブ絡み等お任せ🐘


レイ・オブライト
死に続けてるか、生き続けてるか
似たような存在でありながら我々を隔てるもの。それは……
なんつう小難しい話をする気はねえさ。ここで会ったなら強い方が勝者で生者だ、知りたけりゃ奪ってみろ
地形の炎上を覇気の衝撃波で押し返し、此方からも積極的に間合いを詰めよう
炎の中は電流の通り道にも最適だ。格闘に交えて属性攻撃(電気)伝わせ、不意を打って斬撃の出なんかを鈍らせてやれりゃあいい
まあ、オレ自身死んでる側だ。必要に応じて生きてる奴の盾程度にゃなるし
どうせ吹っ飛ぶ腕なら焼却を恐れてやる道理もない
敵UCに真っ向から対抗する形で【Vortex】

生憎と待たせてるんでな
道こそ示すが、その先はあんた自身で探してくれ


柊・はとり
頭がよりにもよって炎使いとはな…
不利は承知し常以上に冷静な立ち回りを意識
熱を下げる方法なんざ簡単だよ
冷やせばいいならやってやる

負傷は厳しいが継戦能力を活かし戦う
炎は直撃するより避けた方がマシだ
偽翼を発動し一旦空中へ退避
天候操作で雨を降らせ戦場全体の炎の勢いを削ぐ事を狙う

この程度じゃあんたには響かないだろ
凍れよ
UC【青薔薇学園】発動
俺も全力の氷属性攻撃を放つ
味方の援護も兼ねつつ茨が溶けるまで敵を拘束
締め上げる

誰だって死んだら冷たくなるぜ
だが息のあるうちに少しは力抜いとけ
腐っても世紀末でも俺は『探偵』だ
焼死体にも殺人鬼にもなりたくないね

骸の海へ帰れよ
また生きて会ったら何度だって凍らせてやる
じゃあな



●渇仰
「頭がよりにもよって炎使いとはな……」
 柊・はとりは吐息を零す。
 相性が悪いのは、手にする偽神兵器に演算させるまでもない。お互い様、ともいえる。
「熱を下げる方法なんざ簡単だよ。冷やせばいいならやってやる」
 冷徹な外見とは裏腹に、はとりには疲労もあれば、恐怖もある――乱心したような女の姿。されど、片手で大剣を構えた姿は、身が竦むほどの殺気を放っている。
「ヴゥ――熱イ――」
 おおよそ女の口から放たれるには、低く濁った声音で――『大炎嬢』バーニング・ナンシー』は髪も乱れた状態で、剣を握る左腕の半ばを赤く染めながら、呻いていた。
 己の纏う炎が、熱い。
 己の流す血が、熱い。
「熱を……熱ヲ下ゲる方法を――」
 彼女はまるで幽鬼の如く、ずるずると剣を引き摺りながら、猟兵達へと距離を詰める。
「え、そんなの知らないわよ。いっそ燃え尽きる位一度派手に燃えちゃえばいいんじゃない?」
 不快そうに鼻を軽く薙いで、祓戸・多喜が突き放す。
「――でも一人でね。周りを巻き込んでとか論外だし……アタシ達は生きていきたいんだし!」
 言葉と共に、彼女は剛弓に番えた矢を、次から次へと射出する。
 音階すら疎らな叫びをあげながら、ナンシーは前へと跳んだ。
 振り上げた刀身は炎を纏い、矢を呑むなり灼き焦がしていく。断続的に降り注ぐ矢の雨を、哮る女は気にしなかった。
 熱気に青い目を眇めつつ、浅く呼吸を整えて、はとりは後ろへ跳んだ――否、飛翔した。その背には、氷の双翼が生えていた。コキュートスが紡ぎ出した氷の翼は、精製の折、苦痛を伴う。
 冷や汗を悟られぬよう、高く舞い上がると、すかさず剣の力を解き放つ。
 細かな氷塊が天を覆い、熱に晒され雨になる――ザァっと音が立つほど降り出した驟雨は、地上を朱く染める炎を鎮めるために。
 ナンシーは雨に濡れても、熱源で有り続けた。むしろ、雨が触れる前に蒸発して、周囲は霧が掛かる。
 靄を熱で斬り裂きながら、其れは走る。闇雲といってもよい、特攻――最早ナンシーが理性的な振る舞いを見せることは、ほぼ無くなっていた。
 死にたいほどに身を苛む熱は、生きている限り消えぬ――皮肉な事に。
 追い詰められれば追い詰められるほど、力を引き出す為に熱が高まる。毛細血管の先から、発火してしまう。
「死に続けてるか、生き続けてるか。似たような存在でありながら我々を隔てるもの。それは……」
 重々しい口調で、レイ・オブライトは語りかけ――なんてな、と肩を竦めた。
「小難しい話をする気はねえさ――ここで会ったなら強い方が勝者で生者だ、知りたけりゃ奪ってみろ」
 呼吸は短く、レイは覇気を放った。
 瞬発的に弾いた気の破壊力を以て、延焼を続ける炎を消し飛ばし、道を作る。
 そのまま、低い姿勢で駆け出す。
 レイとナンシーは程なく衝突する――膚を焦がす熱と、膚を走る電流とが狭間で幾度となくぶつかり爆ぜる。
 青と赤の小さな閃光が揺らめく。
 屈強な拳が、ナンシーの出鱈目な剣戟を殴り逸らす。レイの聴覚が、唸る音を捉えて、頸を下げる。すぐさま頭を狙った横払いは、全くどんな筋力で剣をねじ伏せれば可能なのか。
 片腕を振り上げながら、残った片手で、彼女はレイの拳を掴もうと腕を伸ばす。
 灼熱が身を炙るを厭わず、レイも拳で、脚で、相手の狙いを冷静に見極めながら躱し、外す。ぐっと後ろ脚を引いて、相手の剣を誘い、剣を振り下ろしきったタイミングで踏み込む。
 腕が撓らせ、知っているか、と彼は囁く。
「炎の中は電流の通り道にも最適だ」
 その胸に、とんと拳を当てれば、ナンシーは呻き、身を折って跳び退く。全力で殴られた以上の衝撃が身を貫いて、唇から煙が立っていた。
「グガァア――」
 彼女は獣じみた声をあげたが、乱暴に頭を振る。水蒸気を纏い、思い出したかのように上を狙って斬撃を放つ。
 はとりは、咄嗟に身を傾け高度を下げた。熱を纏う斬撃が、彼がいた宙を裂く。熱波だけでも、届くならば、空中も安全とは呼べぬのだろう。
 息も吐かせぬ勢いで、レイが踏み込み、多喜が矢を射る。だが、炎と躍るナンシーを仕留めるために、もっと根本的な一撃が欲しい。
 ――そこに、矢が落ちてきた。一射で九つ、回避のしようもない鋭い矢が、ナンシーの四肢を貫く。誰が放ったかなど、確認するまでもない。
「どんどん行くわよー!」
 彼女はくるりと長い鼻で矢を掴みながら、握る弓を赫かせ、多喜は矢を番えて強く引く。
「溢れ出るこの想いこそ青春の力!」
 清らかな光が鏃に収束していく。解き放てば、煌めきが軌跡となり、炎を裂き貫く。
 弧を描いて降り注ぐ矢は、いずれも狙いを外さない。
「強いものが勝ち生き残るのが野性の証明よ!」
 勇ましく鼻を振り上げ、高らかと告げると、多喜は更なる矢を番えて狙いをつける。外見からは印象に薄いが、元々彼女は早撃ちを得意としている。
 弦を引くのも難しい屈強な弓矢であるが、ゆえに威力は約束されている。力一杯引き絞った時点で放てば、後は狙い次第である。
 心配なのは、代償に払う自分の寿命くらい――。
 そんな心もひとつあろうが――多喜の矢は、レイの身体ギリギリを掠めて飛来した。被弾しても彼は厭わぬであろうが、攻撃の邪魔をするわけにはいかぬ。
 怒濤の援護射撃で、ナンシーは下手に動けなくなる――事は無かった。
 だが理性なきオブリビオンは前へと身を躍らせた。時に眉間にすら及ぶ矢を怖れず、目の前のレイを仕留めようと剣を振るう。
 彼女の全身に紅い筋が伝い、足元にぽたぽたと血溜まりを作る。
 果たして、レイは炎も剣戟も怖れなかった。
 死した身体をもつ彼は、突き出した拳が燃えようが――譬え、女の狙い通り、掴まれようと、関係なかった。
 幾度目かの交錯。剣の一打を捨てて、ナンシーが跳び掛かる。腹を矢が貫いて、噴き出した血潮で、同時に深く右腕を繰り出していたレイの視界が遮られた。
「あっ」
 思わず声をあげたのは多喜だ――ナンシーが、彼の右腕を掴んだ。ぐ、と指先が力を籠めたのが見える。
 レイの上半身に炎が伝い、一気に燃え上がる。
 降り注ぐ雨は、消火に足りず、救いにはならぬ――はとりは、そっと息を吐く。覚悟を決めた瞬間、彼の氷のような双眸は人間らしい色を消す。
「この程度じゃあんたには響かないだろ――凍れよ」
 集中は一瞬。凍れよ、という言葉のおわり、静謐な動作で剣を差し向けた。
「青薔薇はどこに消えたのか。重要なのは「なぜ」の方だ」
 探偵が思考すると同時。
 ナンシーの全身を、氷の荊が捕らえる。忽然と出現した美しき氷の檻に囚われた熱源の女は、レイの腕を掴んだ儘、身動きが取れない。
「誰だって死んだら冷たくなるぜ。だが息のあるうちに少しは力抜いとけ」
 氷の翼で滑空しつつ、はとりは囁きかける。
 残りは自嘲。
「腐っても世紀末でも俺は『探偵』だ――焼死体にも殺人鬼にもなりたくないね」
 告げる言葉のさて、飛んだまま死んで落下すれば、死因は何となるのだろう。
 まあ、今回は――死ぬ前に、決着を見届けることは出来そうだ。
「見事な彫刻じゃねえか――まだ苦しいか」
「――……」
 ナンシーが如何なる表情を浮かべたか。荊の力で炎が引いた――それでも腕を振りほどくことなく、レイは腰を落として、前へと奔る。
「付き合え」
 その全身から放たれる、膨大な電流。覇気と共に放出される雷が、レイを青く染めた――視界を占める光に、先刻、一度同じ目に遭ったことを、ナンシーは思い出しただろうか。
 彼は腕を掴まれたまま、力任せに右腕を振り抜いた。
 雷閃が空を裂くように――轟きも刹那。
 拘束しあう腕が、双方、弾け飛んでいた。レイは拳をナンシーの右肩に叩きつけ、電流を解き放つ。肉体が自壊するほどの圧を、厭わず放った。
 結果、己の右腕も消し飛んだが、彼は涼しい貌をして告げた。
「生憎と待たせてるんでな――道こそ示すが、その先はあんた自身で探してくれ」

 雷霆が駆け抜けた後、 氷の荊は、役目を終えたように砕けて消えた。
 はとりも、無事己の脚で地上に降り立つ。一分も掛からぬ決着で、絶命せずに済んだ事に、死者の身で安堵するのも複雑であるが――彼が降らせた雨は、周囲の炎は鎮火し、今も尚、枯れた大地を癒やすように静かに滴る。
 猟兵たちの前に残されたのは、片腕が千切れた女がひとり。
 足元は己が汚した血で染めて、忌々しげに正面に立つ彼を睨む。燃え尽きる寸前の、最後の燭のように、ナンシーは煌煌と燃えていたが、すぐにその炎も消える。
「骸の海へ帰れよ。また生きて会ったら何度だって凍らせてやる」
 じゃあな。
 ゆっくりとした動作になったのは、負傷と疲労のせいだ。
 はとりは女の頸へと氷の大剣を振り下ろし――略奪劇の幕を閉ざしたのだった。

●そして、変わらぬ明日を
「やってくれたようだな」
 少女がヘッドフォンに手を当て呟く。
 ――勝利したという報告があった。防衛班は全員無事に戻って来た。周囲を取り囲んでいたレイダーどもは消え去り、平穏で、何も無い荒野だけが残された。
 人々は歓喜に湧く。生きている事を喜び合う。
 破壊の嵐をやり過ごし、全員で生き延びて、物資も無事であるという軌跡。
「彼らに感謝せねば……色々と、参考になったしな」
 サイモンが浅く笑う。滅多に笑わない男が笑ったと、ブルーノが目を丸くする。
「あの戦い方は、無理だって!」
「甘えたこと言ってるんじゃないよ。毎回、巧く行くわけじゃないんだから」
 ぽこんとその後頭部を叩いて、ドリスが説教する。
 猟兵たちが如何に凄かったかの掛け合いや、彼らの武勇伝を聴きたがる人々の波を掻き分けて、ボスが一喝する。
「死に損ないどもが喧しい。五体満足なら、とっとと建物の修復に向かえ!」
 少女の怒声はスピーカーというスピーカーで拡散されて、皆の耳を痺れさせる。
 しぶしぶと拠点内へと戻っていく人々の最後尾。
 彼女は荒野を振り返って、一言投げた。
「皆が無事でよかった――ありがとよ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月08日


挿絵イラスト