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ダウンフォール・ステイメン

#ダークセイヴァー #同族殺し

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#ダークセイヴァー
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#同族殺し


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 ――その衝動に終わりは来なかった。

 それは、夜闇に光差す満月の夜。
 事はとある領地、領主たる吸血鬼が君臨する城で起きた。
「……何事か。今宵、美しい月が出ているというに」
 月明り射し込むステンドグラスの下、玉座に座したまま配下の吸血鬼らしき女と戯れていた。老獪なる領主が鋭い眼で玉座の間へ飛び込んで来た配下を睨む。
 同じく吸血鬼の――それでも貴き一族の出だが――配下は文字通り血相を変えた様子で頭を垂れた。
「ご報告をッ! 先程、西の関所を何者かが急襲! その後調査に当たった我が兵達が全滅、現在城下の町で不審火が相次いでおり、混乱が広がっております!」
「痴れ者めが。どうせレジスタンスでも来たのだろう……近頃は強力な戦士が同族を狩っているとも聞く、適宜族長を向かわせるなりして対処せよ」
「そ、それがっ!」
 言い淀む。
 老獪なる領主の男は、配下の様にユラリと。侍らせていた女の手を霧のようにすり抜けて歩み寄る。
 ヴァンパイアの中でもとりわけ強力な魔力を漂わせ、領主は静かに続きを促した。
「……申せ」
「は、はッ! 件の賊、城下にて集めた目撃情報によれば……吸血鬼ではないかとっ!」
「……」
 無言。
 一拍置いて。噴き出す血飛沫に次いで玉座にしなだれかかっていた女の悲鳴が上がった。
 目にも止まらぬ手刀でもって貫いた領主は、配下の腹部に手を突き刺したまま。その指に絡む臓物を全て引きずり出して蹴り倒した。
「ぎゃッぁああぁぁぁ……!!」
「立て。我が命にかけてその襤褸で敵の喉を締め上げて参れ」
 冷たい、冷酷なその声音に配下の男は血反吐を吐きながら震え上がり。その場を退室する。

 玉座の間に、凄まじい重圧が奔る。
「同族殺し……か。忌々しきは、漁夫の利を得んとする輩の存在よ……ッ」

●混戦へ挑む
 猟兵を集めたシック・モルモット(人狼のバーバリアン・f13567)は真剣な表情で告げる。
「おさらいするぞ。
 みんなにこれから飛んでもらうのは、ダークセイヴァ―のヴァンパイアの根城だ。
 通常ならこんなにいきなり飛んでもらうのは危険なんだけどな。今回は都合が良いんだ」
 シックは語る。
 これから先。ダークセイヴァ―のとある山岳地帯で、その地に君臨するオブリビオンが支配している領地に『同族殺し』とオブリビオンの間で忌避されている者が現れる。
 これは、猟兵の間でも俄かに聞いた事があるかもしれない。狂気、或いは強すぎる思念に基づいて自ら他オブリビオンを殺して回る者の呼称だ。
 その特性は非常に凶暴、残忍、個体によっては強力なヴァンパイアすら下す事もある。対話を挑むには難しい相手だった。
 そんな同族殺しが現れた事により、現在吸血鬼の領地には混乱が広がっており。同時にそれらは、あくまでも痕跡に基づく発火に過ぎない。
 つまり、今。領主の城に同族殺しのオブリビオンが迫っているということなのだ。
「これは良い機会だと思う。どっちがやられても、猟兵からすれば残ってる方を倒せばいいんだから。
 ただ、この同族殺しって奴が何を思って行動してるのかまでは見えないんだ……城を守護してる中でも強力なヴァンパイアはそっちにかかりきりになるかもしれないけど、雑兵や一部のオブリビオンが奔走している所に遭遇する事は充分に考えられると思う」
 シックは猟兵達に「くれぐれも気をつけて」と念を押して言う。
 あなたはそれに首肯し、グリモア猟兵のテレポートに備えるのだった。


やさしいせかい
 初めましてやさしいせかいです、よろしくお願いします。

「シナリオ詳細」

『第一章:集団戦』
 ロケーションとしては領主の城、庭園での集団戦から入ります。
 相手は狼男の能力を有したヴァンパイア一族『トルメライの狼族』の侍女頭率いる猟狼部隊との乱戦になります。
 場は既に『同族殺し』が通った後であり、フィールド全面を血溜まりが覆っている惨状です。(環境利用可能要素)
 その他に、庭園内は比較的広いものの、観葉植物や石像が並んでいます。
 敵を撃破して同族殺しの進んだ先へ向かってください。

『第二章:ボス戦』
 トルメライの狼族が一人『末子ロウ・ハーモニー』が相手です。
 城内・ダンスホールにて負傷したオブリビオンと近接戦になることが予想され(戦場の環境に関しては第二章OP時の描写に基づく)
 行く手を阻む彼女を退けて同族殺しを追います。
 環境に応じて戦闘に工夫を加えると判定に+あったりします。

『第三章:ボス戦』
 第二章からほぼノンストップで始まるボス戦です。
 敵は単騎です。
 既に直前まで戦闘していた痕跡があり、生半な会話には殆ど応じませんが場合によってはその限りではありません。
 前章参加済みの方など、希望があればダメージや疲労が蓄積している状態を描写します。(【疲労orダメージ有】などの表記のあるプレイングに対応します)

●当シナリオにおける描写について
 三章全てにおいて描写(リプレイ)中、同行者または連携などのアクションが必要な場合はプレイング中にそういった『同行者:◯◯』や『他者との連携OK』などの一文を添えて頂けると良いかと思います。
 また、三章通して戦闘オンリーなシナリオになると思われます。

 以上。
 皆様のご参加をお待ちしております。
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第1章 集団戦 『付き従う者共』

POW   :    主の為ならば、この身など惜しくはありません
自身の【心臓】を代償に、【従順な狼の群れ】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【鋭い牙と爪】で戦う。
SPD   :    主様からのご厚意、ありがたく受け取ってくださいね
【人間から絞った血液を混ぜた紅茶】を給仕している間、戦場にいる人間から絞った血液を混ぜた紅茶を楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
WIZ   :    貴方も、私達と共に仕えませんか?
【蠱惑的な声で、仕える主の素晴らしさ】を披露した指定の全対象に【死ぬまで主に仕えたいという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 静寂に包まれた満月の夜は一変した。
 闇の中に潜む恐怖に震える城下町の民達は、言い換えれば自らの領主にさえ背かなければ安全を確立されると、そう思っていた。
 しかしこの夜を境に、彼等は絶対などないと今更知る事となるのだ。
 城下町に広がる火災は山岳地帯ゆえの立地と風向きの悪さから、未だ消火の目途が立っていない有り様だったのだから。
 事の下手人は人間では分かり得ない存在。
 このダークセイヴァ―にて最高の知名度を有する種族は『ヴァンパイア』だが、まさか今こうして起きている騒動の数々が一人によるものとは思わないだろう。

 大きな狼を象った石像が立ち並び、血の池の如き噴水が水音を奏でる庭園。
 本来は丁寧な清掃と芸術的なセンスのもとで切り取られた花園が広がっている筈の城内前庭だったが、この夜に限っては見るも無残な凄惨さに包まれていたのだった。
「……う、ぐッ……まさかこれほどまでに、差が…………!」
 目の前に迫る者のニオイを嗅ぎ取れるのは同じ吸血鬼だけだ。
 だが――臭い以外、何も、赤錆の鎧と剣。それしか分からなかったとしたら。
 異様。
 血を啜るべき吸血鬼が地に伏せ、警備の狼達ですら相手にならず蹴散らされていた。漂う血臭はいずれも死の香りを纏いしヴァンパイアのものしかない。
 つまり、何の感慨もなく振り返りもせず。城の中へ堂々と入り込んで行く鎧騎士は聖なる力を持った闇払いのそれではないという事だ。
 信じられない物を見た心持ちのまま、吸血鬼の侍女は城の最奥に座す主の下へ一報を入れる。
 そして。その時だ。

 ……今宵、彼等の敵は同族殺しだけではなかった。そういうことだった。
エウロペ・マリウス
漁夫の利だろうと、支配から解放させるために利用させて貰うよ

行動 WIZ

【空中戦】【空中浮遊】にて、空中での戦闘
敵に的を絞らせぬように常に動き回りつつ、敵や他の猟兵の動きを確認しておく

「闇を穿つ射手がつがえしは白銀の矢。白き薔薇を持たぬ愚者を射貫く顎となれ……射殺す白銀の魔弾(ホワイト・フライクーゲル)」

【属性攻撃】の氷属性による火力強化を
【高速詠唱】で手数を
【誘導弾】で命中率を共に強化して攻撃するよ

心を強く震わせたりされないように【覇気】と【結界術】で防御
悪いけれど、ボクは誰かに仕えるつもりはないよ
もう、誰かの所有物として心を殺される生活はこりごりなんだよ




 大きく舌打ちした吸血鬼の侍女は、口笛を鳴らし。前庭奥に聳える巨大な狼像の上に跳躍する。
 血の滴る唇の端を舐め取り。女は毅然とした声音で告げる。
「ここが何処か、理解しておいでですね。この城は我等トルメライの高貴な御方の座す、月光に魅入られし者が潜る神聖なる社に他なりません! 命乞いし、引き下がるならば! 一度なら見逃しましょう!」
 赤々とした瞳が爛々と猟兵を睨む。
 数瞬の後に、彼女の脇を黒い影が過ぎる。それは背を僅かに丸めた狼だった。
 その場に現れた狼は庭園の彼方此方に見える肉片、白毛の狼の骸とは別種のようだった。
 やがて、猟兵達の気配が濃くなったのを見た侍女頭の女は再度大きく舌打ちをした。
「……王の御心のままに」
 警告が意味を成さなかったと、そう判断した。その行動は一貫していて、覚悟の強さゆえに動作が速い。
 猟兵の前に複数の侍女服を纏ったオブリビオンが何処からともなく駆け付け、そして。多くの血飛沫が舞った。

 眼下で繰り広げられるは、下位の吸血鬼ゆえに大きな力を使う際に見せる代償行為。自らの心臓を捧げる事で強力な魔物を使役するものだ。
 それを、冷静に見極めたエウロペ・マリウス(揺り籠の氷姫・f11096)が見逃さない。
「――闇を穿つ射手がつがえしは白銀の矢。
   白き薔薇を持たぬ愚者を射貫く顎となれ――……」
 悪寒でも走ったか、侍女頭が夜天を仰ぐ。
 降り散る氷の鱗粉。満月が静かに照らし出す天上にて白い翼を震わせたエウロペが開く、白銀の円陣。奔る魔力は凍てつくように静かで、しかし吹き付ける冷気は刺すように鋭く荒々しい。
 散開せよ。そう口を開きかけた吸血鬼の眼前で閃光が瞬く。
「……――射殺す白銀の魔弾」
 『ホワイト・フライクーゲル』。紡がれた詞をトリガーにして放たれた一矢、冷気が爆散して氷の魔弾が無数の散弾となってオブリビオン達に降り注ぐ。
 赤い結晶が歪な体型の狼と共に宙を舞う。
 濛々と立ち昇っているのは粉塵ではない。強烈な冷気だ。
 凍結した血潮が爆ぜ飛ぶ最中を、無事だった他の吸血鬼と狼が庭園のベンチ軒屋根を足場にしてエウロペを追撃する。
 獲物を前にして飛び掛かって来た狼の鋭い爪が、エウロペの足下で空を切る。
「フーッ……! おのれ、降りて来い! 漁夫の利を得んとする卑怯者めらが!」
「漁夫の利だろうと、支配から解放させるために利用させて貰うよ」
 淡々と言い放ちながら。新たな魔弾を編み出して眼下の庭園に放つ。
 時折飛行するエウロペを狙った投擲や攻撃が来ることもあるが、リーチの差ゆえにオブリビオン達は他猟兵との対峙もあって完全に威力を削がれ。あまつさえその攻撃はいずれも彼女の張った結界に阻まれ、回避されている。
 優秀な後衛が前衛よりも厄介なのは常。
 獰猛な唸り声が重なり、怒声混じりの号令が掛かる。夜天を舞う氷の魔術師を落とせと。

(……ふぅん)
 文字通り涼し気に、しかし油断はせず戦況を俯瞰しながら魔弾を繰り出している最中。エウロペの結界術が不可視の圧を受けた。
 視線を巡らせれば、侍女頭が先の狼の巨像に跨り何らかの呪術を発動させていた。
 囁く声が、中天のエウロペの耳をくすぐる。
「そのチャームでボクの心を震わせる事はできない。悪いけれど、ボクは誰かに仕えるつもりはないよ。
 もう、誰かの所有物として心を殺される生活はこりごりなんだよ」
 僅かに、結界の内から膨らんだ覇気が侍女頭の放った魅了を弾き飛ばす。
 驚愕に見開かれた吸血鬼の女を見下ろして、エウロペは氷の魔弾を以て返礼としたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
紅茶を愉しみゃいいっつゥが、俺は指の先まで疫毒のカタマリ。素手でカップでも掴もうもンなら…ああ、崩れっちまった。マ・それでも楽しみ方はあるのさ。
残滓とはいえ《水》の権能。紅茶で空中に水の像を作って戯(*あそ)んでいよう。そォやって俺は楽しみながら、周囲の血溜まりから槍なり作ってお嬢さんがた(*敵)を串刺しにしよう。
おやお気に召さなかったかね。俺を殺しにかかるかい? 紅茶を楽しまずに襲うってンなら、お前さんがたも遅くなるんじゃねえかい。俺はずゥっと紅茶で楽しく遊んでいるさ。同時に血の槍を飛ばしてるンだ。だから遅くはならないよ。襲ってくるならちょうどいい。そいつから静かになってもらおうか。ひ、ひ。




 丁度イイ休憩所があるじゃねえかい。
 そんな、呑気な声が吸血鬼の侍女達の額に青筋を走らせた。
「紅茶を愉しみゃいいっつゥが、俺は指の先まで疫毒のカタマリ。素手でカップでも掴もうもンなら……ああ、崩れっちまった」
「キサマ……! その、食器は我が主が愛用されている希少な硝子細工の……」
「マ・それでも楽しみ方はあるのさ」
 どこまでも飄々とした声音は一切ブレず。怒れる侍女の前でぐずりと潰れ、或いは粉微塵になって風に消えて行くティーセットを見せつけていた。
 しかも――庭園に聳える巨大な狼像の上に、椅子とパラソルまでセットした上で。男は寛いだ様子をいつまでも見せていたのだ。
 激しさを増す前庭の中で、頭から血を流す侍女頭の女が牙を剥いて男に向かって叫ぶ。
 だがどれだけ凄まれようとも、この凄惨な庭を一望する彼にとっては穏やかな風景にさえ映っているのかも知れない。
 そう思わせるだけの余裕を携え。
 朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)はパチンと指を鳴らした。
「この紅茶はそっちのテーブルに並べられていてね。勿体無いとは思わないのかい? 折角の茶を粗末にするのも悪いからねえ、手が空いてないなら俺が淹れてやろう」
 昏く、引き攣ったような笑い声が鳴る。

 次いで巻き起こったのは、赤き水の奔流だった。
 それらは逢真が操る。彼がかつて有していた残滓、《水》の権能だ。
 熱い湯気香る紅茶がふわりと彼の周囲に鍵盤の如く広がって、それらが波打つ様を見せつけたかと思いきや。庭園の各所に散見する血溜まりが同じように宙に浮いてうねり始めたのである。
 伸びるポリマー水流が大蛇の如く庭園を巡り、波打つ滴から漂う血潮の香りが噎せ返るほど濃くなる。
 唸る狼達に混ざり吸血鬼の侍女が駆ける。
「がッ!?」
「おやお気に召さなかったかね」
 バツン。という、何かが弾ける音。
「俺を殺しにかかるかい? 紅茶を楽しまずに襲うってンなら、お前さんがたも『流儀』に則る必要があるんじゃないのかねえ。
 ひ、ひ。俺はずゥっと紅茶で楽しく遊んでいるさ、お前さんがたの必死な姿でも茶菓子代わりに……ねえ」
 うねる血潮の蛇。
 駆け寄って来ていたオブリビオン達は例外なく、そのポリマー水流のような血液が槍となって一挙に侍女達を貫き。更なる血飛沫が舞っていた。
 吸血鬼。ヴァンパイアのオブリビオンの中には稀に、かねてより主の定めた制約が存在する。
 侍女達が血の槍を避けられなかったのも、それが原因だった。彼女達は気品を重んじる主の制定に従い、客人に振る舞った茶を粗末には出来ず。穏やかな心を持たねばその身を蝕む呪いが起動する。
 血の混ざった紅茶を宙で弄ぶ逢真は、怒りに震える女達を見下ろす。
「襲ってくるならちょうどいい。そいつから静かになってもらおうか。ひ、ひ」
 逢真は加減などしない。その必要はない。
 ただ彼は弄び、余興に笑みを溢すだけだ。これは、仕事でもあることが実に彼にとって――都合が良かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木霊・ウタ
心情
どんな過去が同族殺しを生んだのか
ちょいと気になるけど
確かに好機だ

明けない夜はないってことを
吸血鬼へ教えてやるぜ

戦闘
狼の群れが飛び出すと同時に
血溜りへ破魔の念込めた炎を這わせ広げて
煮立たせる

獄炎は四肢
そして体へと延焼し
炎で押し包む
更に鼻や口から体内へ

仲間が燃える音や臭いは
狼の感覚や戦意を削ぐだろう

そんな浮足立った奴等の中へ飛び込み
獄炎纏う焔摩天で薙ぎ払う

侍女
生きて務めることが主の為って思うけど
そんなご主人じゃないみたいだな
可哀そうに

吸血鬼相手に話しても無駄か

海へ還してやる
紅蓮に抱かれて休め

事後
侍女や狼、この戦いの犠牲者
そして同族殺しの怨念への鎮魂曲
安らかにな




 乱戦状態となった庭園を見渡しながらも、木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)は焔摩天を薙いで周囲一帯に破魔の念を籠めた獄炎を放った。
 激しい唸り声。壁を駆け抜けて来た、歪な体型をした狼が獰猛に牙を剥いてウタの元へ跳び掛かってくる。
「どんな過去が同族殺しを生んだのかちょいと気になるけど……確かに好機だ。
 明けない夜はないってことを吸血鬼へ教えてやるぜ!」
 気合いを入れ直したウタから広がる炎が激しく息巻いて。呪詛でも籠ってそうな周囲の血溜まりが煮立ち、劇臭と共に立ち昇る白煙の中で少年の全身が一瞬、炎に包まれる。
 狼達が、錐揉みしながら振り抜いた牙と爪をウタに繰り出す。
「行くぞ」
 瞬間。ウタから獄炎が爆発し狼達を弾き飛ばした。
 炎の渦中へ落とされた狼達は苦しみ悶え、鳴き叫ぶ。だがそうして唸り吼える毎に体の内へ入り込む炎は容赦なく焼き尽くそうとするのだ。
 その凄まじい光景に、難を逃れた吸血鬼や狼が足踏みして躊躇する。
 一歩でも迂闊に踏み込もうものなら四肢から焼かれ、邪悪な魂に染まった彼等を離さない獄炎は、およそ人を喰らって来たオブリビオン達にとって恐ろしい最期を遂げさせるだろう。
 何よりも、仲間の燃え尽きる間際に発する臭気と声が、生物の持つブレーキに働きかけるモノがあった。

 炎の向こうで、何かが砕かれる音が鳴り響く。
「――ひッぃ!?」
 炎が波打ったと思った瞬間。浮足立っていた吸血鬼の侍女達を赤々とした一閃が薙ぎ払う。
 短い悲鳴すら掻き消す焔の渦巻く音は、そのままウタの体躯を伝い流れるエネルギーの力強さを物語る。
 吼える獣。囲い込むべく、魅了をも駆使して。少年へ殺意が一点集中する。
 新たに狼を呼び寄せ、使役する為に心臓を捧げる侍女も居るのを垣間見たウタが目を細めて。微かに憐みの眼差しを向ける。
「……生きて務めることが主の為って思うけど、そんなご主人じゃないみたいだな。可哀そうに」
「くッ、下賤な人間が!!」
 激情に駆られて突貫して来る侍女とウタの揮う焔摩天が衝突し、数瞬の拮抗の果てにその青白い肌を覗かせた首を一太刀の下に断って見せる。
 踏み込み、滑るウタは焔摩天の火力を増して。力のある言葉を刻まれたその刀身を振り上げて駆ける。
「吸血鬼相手に話しても無駄か――海へ還してやる」
 飛び掛かる無数の敵を前に、獣では決して届かない覚悟の炎を燃やす。
 紅蓮に抱かれて休め。その手向けの言葉と共に、少年は剣を振った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ブラミエ・トゥカーズ
異種であるが同族である為、殺意は低い。
【SPD】
普通に楽しむ。新鮮な物なら猶更である。
とはいえ、地面の物を使われるとさすがに怒る。
貴族同士の応対として。

普段の血紅茶はUDCアースで仕入れたパック紅茶と廃棄輸血や動物の物であるため、本格的な物は嬉しい。

余一人で飲むのも味気がない。
貴公も付き合ってはくれぬかな?

この状況で楽しめと誘う。
そうして、相手の行動速度を低下させる。
自身は特に急いでいない。
生者が関わっていないため。
歓待が済んだら、霧になって奥へと進む。

貴公の歓待は楽しめたぞ。
職場に困れば余に文を寄こすと良い。
余の領地は狭いがメイドなどおらぬ故な。
履歴書と妖怪ポスト?に届く便せんを渡す。




 壮絶な、仲間の奮闘の傍で。
 庭園端のテラスに集まった吸血鬼の侍女達は困惑した様子で目の前の光景に停止していた。
「余一人で飲むのも味気がない。貴公らも付き合ってはくれぬかな?」
 男装の麗人。流れる黒曜石のように無機質で美しい黒髪は、戦場を吹き抜ける風に時折揺られて。
 ブラミエ・トゥカーズ(”妖怪”ヴァンパイア・f27968)は鮮血を交えた紅茶に頬を緩ませ、目の前で狼狽した様子を見せている侍女達にカップを傾けた。
 彼女の足下で呻いているのは、ブラミエに攻撃を加えた侍女だ。
 ブラミエの装いに乱れは一つもない。他の侍女達は苦しみ悶えている様子の仲間を前にして怒りを発露させたものの、直ぐに彼女達はブラミエから漂う臭気に気付いて足を止めていた。
 吸血鬼。それも彼女達の主であるトルメライの一族と同じく並外れた力を持った存在。
(……体が)
 重い。
 眼前でティータイムに興じる麗人の放つオーラは、とても優美で、幽かな死の気配を纏っている。
 特に恐るべきはこの状況で一切の呪縛に侵されていない事。それは……つまり心の底からこの時を愉しんでいる事に他ならない。
 自分達さえ、この状況を前に余裕などある筈もなく。体を制約が蝕んでいるというのに。
 給仕を主な仕事としている吸血鬼は、いる。次第に焦れた女達は事態の解決を求めた末に、仲間の一人へ冷たい視線を促した。

「おお、よくぞ来てくれた。
 久方ぶりの本格的な茶だ、余が一人で楽しむには幾分か口寂しく思っておった所よ」
 前に進んで来た侍女をブラミエが静かに見つめると、彼女は礼を尽くした仕草で卓に着いた。
 それから、あくまで侍女は客人――それも格式高い貴族をもてなすための所作を以て紅茶を淹れ始める。
 他愛無い、ごくごく僅かばかりの雑談。
 体を蝕む制約が緩んだのか、相対する侍女も最後は笑顔を交え。

 ……暫く後に、ブラミエは席を立った。
「貴公の歓待は楽しめたぞ。職場に困れば余に文を寄こすと良い、余の領地は狭いがメイドなどおらぬ故な」
 そう言って彼女は霧となって消え、後に残された封筒を前に侍女は崩れ落ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…今まで何人もの同族殺しを見てきたけど、
彼らの多くは自らの大切なものを奪われ、
その怒りや悲しみから狂気に陥った者が多くいたわ

過去の戦闘知識から同族殺しには手出しをせず、
"風精の霊衣"で音や臭いを絶ち、存在感を消して闇に紛れ行動する

…同族殺しの騎士。吸血鬼のお前に同情する気は無いけれど…

…お前も何か大切なものを奪われたのかしら?

第六感が自身や同族殺しの危機を捉えたらUCを発動
血溜まりや紅茶に限界突破した魔力を溜めて血杭を乱れ撃ち、
敵の傷口を抉り生命力を吸収する早業の血属性攻撃を行う

…何も血を操るのはお前達、吸血鬼だけの特権ではないもの

…その身で存分に味わうが良い。主からの厚意とやらをね?




 もうすっかり、古風で豪奢な雰囲気は崩れ去っていた。
 凍てつく冷気漂う氷柱は薔薇園を崩し、縦横無尽に駆け巡る血の奔流は、炎は、まるでこれまでオブリビオン達がこの世界……領地で行って来た事の清算を迫られている様だった。
 しかし、猟兵達の戦いに吸血鬼達のような凄惨で残酷な。人の命を軽んじた行為は無い。
 あってもそれは、ダークセイヴァ―における闇の歴史の中で幾度と見て来た『人』の範疇に過ぎないのだから。

 リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は、壁際に転がっていた遺体を見下ろす。
 現在参上している猟兵達の中にはいない切り口。壁ごと切り裂いたその刃の痕には、計り知れない程の憎悪が滾っている事が伺える。
 戦闘音鳴り響く中。彼女は。
(……今まで何人もの同族殺しを見てきたけど、彼らの多くは自らの大切なものを奪われ、その怒りや悲しみから狂気に陥った者が多くいたわ。
 ……同族殺しの騎士。吸血鬼のお前に同情する気は無いけれど……お前も何か大切なものを奪われたのかしら?)
 流体を纏う。柔らかく、強かな風が銀髪を覆う。肌を伝い流れる気流はリーヴァルディの身から発せられる気配を消してくれていた。
 彼女は、城を見上げる。
 他の猟兵は気づいていない。今こうしている間にも『同族殺し』はトルメライの一族を刻み、領主の元へ全速で向かっているのだ。
 外回廊に点在する窓に次々に付着して行く鮮血は、あの赤錆びた騎士の足跡だ。

 今は、手を出さない。
 そう決めてリーヴァルディは前庭奥に見据えたテラス口へ足を運ぶ。
 月明りに靡く彼女は、音も無く往く。それはこの夜闇の中に在って、余りにも悠然に映った。
 存在感を消した彼女に構う者はいない。
「……まるで見せつける様ね」
 テラスに足を踏み入れ、シャンデリアが揺れる城内の明りに視界が一転すると。彼女の眼前のエントランスホールに無数の吸血鬼が壁に磔にされていた。
 滴る血液は、神に対する叛逆を示さんとする逆十字を刻んでいる。
「ゼェ、ゼェ……貴様、止まれッ……っ!?」
 声が響く直前、リーヴァルディの体を包んでいた風の衣が弾け暴風を生む。
 全身から血を流しながら。背後を取ったつもりでいた吸血鬼の侍女頭は不意に生じた風に煽られ、身を強張らせた刹那に周囲で紅蓮が走った。
 先の戦闘時にイヤというほど体感させられた獄炎。フラッシュバックが、初動を遅らせ――突如足下から突き立った血杭に全身を打たれ、貫き飛ばされる。
「がっ、ふぁああ……! 馬鹿な、これはッ! 生命力を奪って……!?」
「……何も血を操るのはお前達、吸血鬼だけの特権ではないもの」
 侍女頭の背筋を怖気が走った。
 致命傷といえど、即死には至らない筈の刺突。所詮はイェーガーの披露する一芸だと一笑に付す事も出来た……だが、そうはならなかったのだ。
 傷口が目に見えぬ程の微細な刃、或いは棘に抉られ、穿たれた風穴からとめどなく鮮血が噴き出していた。一瞬で地面の血溜まりを利用した、恐ろしく精密な血流操作だ。
 生命力を奪われ、遂に絶命せんとする侍女頭が、リーヴァルディを睨みつけた。
 カツン。と鳴り響くは、侍女頭が吹き飛んだ先でテーブルを倒して転がったティーカップ。
 ポットに注がれていた熱いその紅茶を、リーヴァルディは視線だけで操って杭にする。
 侍女頭の目が見開かれる。
「――その身で存分に味わうが良い。主からの厚意とやらをね?」

 断末魔も無い程にあっさりと、彼女はトドメを刺した。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『暴威をふるうもの』

POW   :    アッシュ・ローズ
単純で重い【粉塵と鋭い砂礫を広範囲にまき散らす爪】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    赤月の残響
【出血と聴覚異常をもたらす魔性の咆哮】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    永遠の断絶
全身を【敵を斬り刻み攻撃を阻む漆黒の旋風】で覆い、自身が敵から受けた【あらゆる行動(治療行為含む)】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠リグ・アシュリーズです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 古城を突き抜ける咆哮が、衝撃波となってダンスホールを震わせる。
 チェーンが吹き飛び。豪奢なシャンデリアが煌びやかな雨を降らせて、技巧を尽くされた純白の大理石に落ちる。
 黒い瘴気。古い血のヴァンパイアが度々有する特異能力。
 トルメライの狼族とは、その名の通り。狼男の能力を有した吸血鬼に他ならない。
 狡猾な生き方をしてきた一部の者達と異なり、力を求めて進化の一途を辿った彼等は、吸血鬼が持ち得る霧状化や蝙蝠への変身能力を失った代わりにパワーに満ち溢れているのだ。
 その体を覆う瘴気は正しく力の具現化。暴力の可視化である。
「兄者ァ!!」
「応……ッ!」
 そんな化け物が一対。
 クロスを描いて宙空に躍り出た二体の狼男は、よりその牙と爪を鋭くさせ。血のオーラを纏って赤錆の騎士へ大上段からの一撃を見舞う。
 稲妻が落ちたに等しい轟音、空気が引き裂かれ衝撃波が雪崩れ込む最中。
 ――血を帯びた一閃は瞬く間に二体の狼を切り捨てる。

 ダンスホールの壁が左右同時に崩落した。
 強烈な耳鳴りが場に在ったあらゆる硝子を超震動によって粉砕する。真空の刃が幾重にも連なり、空気中を奔った波紋の破壊力は標的を両断して尚も衰えない。
「…………」
 壁一面を濡らす黒い血。
 赤錆の騎士はそれを一瞥するだけで、その場から離れて行く。
「はぁ……はあぁ……ッ」
 震える、吐息。
 視界が、反転する。天井に突き刺さった赤錆の剣を取りに跳躍して来た赤錆の騎士と、兜下の眼光と、少年の吸血鬼は目が合った気がした。
 引き抜かれ、激痛に悶えながら堕ち行く少年は。何故か赤錆の騎士にトドメを刺される事はなかった。

 その理由を、今に彼は思い知る事となる。
 惨い姿になった二人の兄を見下ろし、絶望の狭間で怒りに震えた彼を見つけた――猟兵達によって。

「……消えろ。僕はいま――――機嫌が悪い」

 人間。それも、仇敵の臭いだと気付いた少年はその身を狼へと変身させる。
 死んだ兄たちと彼の実力は、同等。しかしこの夜、この時だけ、少年は狂える怒りによってある種の限界を越えていた。
 その姿は狼男ではなく。完全な獣、暴威をもたらす狼と成り果てた。
 ああ、"彼女"こそ本来は祝福されし未来を得たはずの悲劇の子――トルメライが末子。
 ロウ・ハーモニー。
エウロペ・マリウス
悪いけれど
消えろと言われて、素直に引き下がるような覚悟でこの場に立っていないよ

行動 WIZ

変わらず、【空中戦】【空中浮遊】で空中での戦闘
【結界術】と【オーラ防御】を併せて使用して、防御面を強化

そんなに濃厚な殺意を向けられるなんて心外だね
恨むならば、今まで散々罪無き人々を虐げてきた己自身を恨めばいい
だからー

「反転する九天。指嗾し闊歩する死神。羈束する楔を以て、終幕へと導け。愚者の磔刑(プレヘンデレ・カウサ)」

動きを止めたら、
氷の【属性攻撃】による【誘導弾】で攻撃

どのような理由があり、同族殺しがキミを見逃したかは知らない
言葉を交わせば、或いは……と、いうのは、ボクの下らない感傷なんだろうね




 憎悪を滾らせ。怒りに震える。
 灰色の体毛は風も吹かぬ中で異様にざわついている。つまり、ダンスホールへ射し込む月明かりに照らされ輝く紅い瞳や牙と同様、吸血鬼にとっての武器と成り得るのだろう。
 荘厳な舞踏の会場へ足を踏み入れながら、エウロペ・マリウス(揺り籠の氷姫・f11096)は他の猟兵達が言わない事をまずハッキリとさせる。
「悪いけれど。消えろと言われて、素直に引き下がるような覚悟でこの場に立っていないよ」
 ダンスホールの中央で唸る狼を前に一歩も下がらず。エウロペは荘厳かつ広大な中で空へ身を滑らせる。
 ゆっくりと。目を細め。
 少女が中空を飛翔しくるりと回る姿を見せつけている間、秒毎に怒気が膨れ上がって行く狼を余所に。エウロペの体を幾重もの結界が格子状に張り巡らされ、冷気漂う蒼白のオーラが包んでいく。
 防御に偏ったその前準備を、果たして狼族が末子は宣戦布告と受け取った。
 先の『同族殺し』との戦闘では遅れを取った彼女だったが、今現在――猟兵と切り結んだとしても同じ結果になるかと自問すれば。答えは否だ。
 人の言葉を棄て。獰猛な感情に突き動かされるがままに、激昂する狼……ロウ・ハーモニーは爪先を大理石へと刻み付ける。
「なら……!」
 跳躍。
 エウロペの眼下で消えるその姿は残像、次の瞬間に大量の硝子が粉砕される音が鳴り響いた。
 オーラに遮られながらも罅割れる結界。瞬時に天井部へ達してから振り下ろした巨大な鋭い爪をガリリと立てたロウが忌々し気に大きく裂けた口を開く。
「貴様もッ……あの同族殺しの騎士も、殺すゥゥッ!」
「そんなに濃厚な殺意を向けられるなんて心外だね。恨むならば、今まで散々罪無き人々を虐げてきた己自身を恨めばいい」
「グルゥッ!」
 パン、と小さく爆ぜる。
 氷結。突然霜が張った爪先に気付いたロウが身を捻り、翻し。空気を叩いて壁面を駆け抜けながら距離を取って警戒する。
 不可視の冷気がダンスホールを吹き荒ぶ。エウロペからすれば、距離を取るなら好都合だった。
 頭に血が昇った獣にしては冷静だが。それだけだ、と。
「反転する九天――指嗾し闊歩する死神……羈束する楔を以て、終幕へと導け」
 降り積もる獄氷が生む結晶。月明りが白く濁り、空気は凍える。
 彼女の操る氷の秘法は有り得ぬ事象をこの場に、この時だけ此処に。真に生物が抗えぬ領域の使者を召喚する。
 詠唱。それも明らかに、特異な気配を発する類。
「――愚者の磔刑」
 数瞬の空白は、その場にい猟兵のいずれかが白くなった息を吐いている事にロウが気付くには充分だった。
 それはダンスホールに舞い降りる。
 凍りついた青薔薇に彩られし大鎌、莫大な冷気が有する気配は死の気配と酷似している。
 人が真に恐れるのは死である。故に……駆け抜けるロウがその死神を目にした瞬間に驚愕に染まった事は自然。
 直後に飛来する楔型の十字架がロウを貫いて壁画に突っ込み、白い粉塵を撒き散らして。血飛沫が上がったのと悲鳴は同時だった。
 叫び、磔にされた狼は全力でもがく。
 だが足掻けば足掻くほど、その楔は深く肉を抉り。強烈な冷気が血を凍らせるのだ。
「ぐあぁあああ……?! ッフー! フーッ! 殺してやる、僕は必ず殺すぞ! 蟲ケラども、がぁぁあっ!!
 ぜっ……はッ……があああああ!! 裏切り者にッ! 下賤な輩がぁあああ!! よくも僕を、僕達をォオオ!!」

 凄まじい怒気に任せて切り裂く爪は十字架を破壊できずとも、背にしている壁を抉り出す事は出来るだろう。
 エウロペもそれは予見していた。重要なのは、確実に仕留めるが為の布石。
「どのような理由があり、同族殺しがキミを見逃したかは知らない。
 言葉を交わせば、或いは……と、いうのは、ボクの下らない感傷なんだろうね」
 これだけ抵抗するオブリビオンを放置するからには、何かの意図があるのではとエウロペは思案する。
 その一方で、彼女の前に――ダンスホールの天井部を覆い尽くす程の魔弾が投影されていく。時間は彼女の味方であり、魔弾に籠められた冷気は周囲の温度を急降下させる。
 浮かび上がる青い魔弾が次第に氷花と化していく光景に、ついにロウが全身の毛を逆立てて拘束を脱する。
「ぐ……ッ、あれは……まずい!!」
 漆黒の疾風が渦を巻いて。エウロペの固定していた魔弾の嵐から逃れようと動く。
 しかし、みすみす逃す筈もない。

 次の瞬間に放たれる一斉掃射。
 狼族が誇る血統でも抗えぬ程の物量と破壊力はダンスホール奥の壁を破壊して、天井の一部を崩落させるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…どうやら同族殺しは先に進んだみたいね
随分怨まれているけど、彼に何をしたのかしら?

第六感が捉えた敵の気合いや殺気を戦闘知識に加え、
敵の行動を先読みして攻撃を暗視して見切り回避する

…迂闊に近寄れば細切れにされるのね
確かに厄介な能力だけど…無駄よ。私には通じない

…今からお前に吸血鬼狩りの業を披露してあげるわ、トルメライの狼

シャンデリアを呪詛のオーラで防御して怪力任せに投げ、
その隙に闇に紛れて敵の死角に切り込みUCを発動

大鎌を武器改造した双剣に限界突破した魔力を溜め、
残像が生じる早業で双剣の2回攻撃を乱れ撃ち、
無数の魔刃で傷口を抉る闇属性攻撃を放つ

…業、と呼ぶにはあまりスマートじゃなかったかしら?




「……どうやら同族殺しは先に進んだみたいね。随分怨まれているけど、彼に何をしたのかしら?」
 響き渡るロウの咆哮。半壊したダンスホールの隅に転がっていた亡骸を前に、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は首を傾げていた。
 凄惨な骸だ。一太刀の下に命を断たれたとも見えるが、その実。恐らく幾重にも刃をぶつけなければ強固な吸血鬼の骨を断てはしまい。
 強烈な憎悪を同族殺しの手口から感じる一方、リーヴァルディには亡骸の傍に立つ霊が見えている。
 トルメライの一族。このダンスホールに待ち構えていた彼等は兄妹だ。
 激昂のままに吼える狼を、慈愛の籠った眼で見る消えかかった霊魂はしきりに「逃げろ」「我が妹」と繰り返していた。
 消滅しかけて尚、怨嗟を覗かせる霊魂から目を逸らし。現状敵となっている狼へリーヴァルディは視線を向けた。
 そこで。
 夥しい数の閃光が瞬き、冷気が吹き荒れる中でダンスホールを崩落が襲う。
 健在だったシャンデリアも落ち。磨かれた大理石の壁画は霜衝く薄氷に覆われ、凄惨な状況となる。
 だが。咆哮は続いた。
「グゥゥッ……!!」
 数多の魔弾に打たれても、ロウは全力を振り絞って漆黒の魔力を其の身に。高速で回転しながら躍り出た狼の体躯はチェーンソーの如く、循環する暴威のオーラが触れる物全てを破壊して駆け抜けて行った。
 手近な獲物とみたか。リーヴァルディに繰り出される回転刃。
 ドッ、と石を砕いて奔る衝撃波を切り裂いて後退する銀髪の乙女は。冷静にロウを分析した上で後ろに視えた金の鎖――シャンデリアを細い足先に引っ掛け、直後にリーヴァルディは怪力を以てそれを宙に投げ放つ。
「……迂闊に近寄れば細切れにされるのね。確かに厄介な能力だけど……無駄よ。私には通じない」
 漆黒の回転刃と化した狼は、凍てついた大理石を砕き割って撒き上げながら跳ぶ。
 しかしその獰猛な獣が天を仰ぎ見るよりも先に。飛翔したリーヴァルディは左眼に妖光を浮かべて空中のシャンデリアを掴み、軸となる金属柱を握り潰す。
「……今からお前に吸血鬼狩りの業を披露してあげるわ、トルメライの狼」
 噴き出す殺気。
 ロウの全身を襲うは、獣と堕ちたが故に開放された第六感に等しい感覚。それが危険を示唆していた。
 リーヴァルディという半魔の少女が見かけ以上の強敵だと察したのは……果たして、兄たちを屠った同族殺しと酷似した物を感じ取ったからか。
 真実が明らかになることは無い。少なくとも、怒りに吼える狼と成り果てた彼女には。

 シャンデリアが横薙ぎに振り払われ、宙を駆けようとしたロウの巨躯を殴り飛ばす。
 正確には、弾かれたのだろう。
 暴威の風が切り刻む速度よりもリーヴァルディの振り抜いた一撃が重く、鋭かったのだ。
 錐揉みして舞う。ロウの視界の最中に、銀の軌跡が頭上で朱く弾けたのが見える。
「~~~~ッッッ!!?」
 身を翻して着地しようと試みた後ろ足が何かに刈り取られる。
 激痛。出血。悪寒。
 瓦礫と化した地面にバウンドして転がるロウに、赤々と輝く剣閃が次々に襲い掛かった。
 空気が切り裂かれる音すら聴こえない。赤黒い閃光が瞬いた後に襲う刃は、数が合わず、咄嗟に放った破壊の爪ですら空を切って。次に自分が切り裂かれていたのだ。
 これは――吸血鬼を狩るに足る技だ。
 ロウの脳裏にもう一度蘇る、赤錆びた騎士の姿が。残像さえ交えて一方的に連撃を繰り出して来る乙女と重なる。

 ――黒閃が連続した直後。古城の一画が完全に崩壊した。
 濛々と立ち昇る白煙や、盛大に崩れ落ちて来た瓦礫を避けながら。リーヴァルディは瓦礫の下に吹っ飛んで行ったロウを見遣りながら冷笑を浮かべた。
「……業、と呼ぶにはあまりスマートじゃなかったかしら?」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ブラミエ・トゥカーズ
うむ、人相手なら兎も角、話も通じぬ相手に無様を晒せば不機嫌なるのも仕方ないであろうな。
とはいえ、貴公まで獣に落ち切るのは残念であるな。

【WIZ】
元は違えど吸血鬼同士は千日手と考える。
人との決闘ではないので、正々堂々とはしない。
回避せず相打ち狙い。
かすり傷一つ与えればそれは発動する。

貴公は腫瘍という物を知っているか?
そう、己自身でありながら己を害する狂った血肉であるな。

血液に感染する病であり、病の力は宿主に依る。
増強する力と一緒に病の増殖、転移力も増加する。

余は数滴の薬にも勝てぬ弱者であるが、貴公には如何程に効くであろうかな。
貴公達が吸血鬼で良かった。お陰で余が暴れるには最適な環境であったぞ。


木霊・ウタ
心情
身内が滅ぼされたんだ
さぞ辛いだろうな

そして俺達には守りたい命や未来がある
押し通るぜ

戦闘
怒りに我を忘れた子供か
駆け引きなく突っ込んできそうだ
油断はしないけど
そこに突く隙はあるかも

更に負傷や
それによる支障も
遠慮なく突かせてもらうぜ

爆炎噴出のバーニア機動で爪を回避・受けながら
体ごと剣で円弧描き円周状の背の高い炎壁を周囲に

撒き散る粉塵や砂礫は炎壁で焼却

敵が粉塵で姿隠しても
俺に近づくには炎を突っ切るか
頭上から来るか
二択

炎に突っ込んだり
頭上から飛び掛かるまでのロスが
拍子を読ませ
迎撃の準備をさせてくれる

爆炎噴出で加速・跳躍し間合い詰め
紅蓮の刃で薙ぎ払う

ロウ
…悪ぃ
紅蓮に抱かれて休め

事後
ロウや狼族へ鎮魂曲



●"慟哭"
 届かない。
 どれだけ足掻いても、爪を、牙を立てても。自分から大事な物を奪っていく奴等はいつだって高みにいる。
 思えば百年ほど前に蘇る以前――ただの吸血鬼だった頃を思い出そうとして。真っ先に思い至ったのは、牙を剥き出しに近付いて来た兄達だった。
「ゼェ……ゼェ……」
 屈辱。
 あるのはそれだけだ。
 華よ花よと育てられた先に待ち受けていたのは、胎違いの兄によって吸血鬼一族を受け入れさせ。女としての自分を捨て研鑽する事を強いられる日々だったのだ。
 ロウ・ハーモニーは瓦礫を背で押し上げ。粉塵の向こう側に視える景色に目を細めた。
 闇の向こうにあるのは光ではなかったか。
「――我が友。アイリーンよ……白薔薇の君は今も、地の底で泣いているのか」
 ミシリ、と。狼と成り果てた体躯が、更に膨らむ。
 表皮の下を覆う金属めいた硬質な膜。骨格に、何か別のものが纏わりついて。やがてそれらは身の内に収まらずに、皮を破いて関節から突き出た棘が禍々しく月明かりの下に晒される。
「赦しは……乞わない。
 人も、吸血鬼も、等しく。私には所詮夢幻の狭間に出た脇役でしかない。
 く、ふふふ……! 我が偉大なる父、『アロ』はさぞ驚く事だろう。同族を地の底に埋めた結果が、一族の破滅なのだからな!!」
 獣に堕ちた吸血鬼は、最後に残された自我さえ手放そうと。
「今宵。誰も生きては還さぬ!! 兄達も、このロウ・ハーモニーも! 父上も、ベルツェハイドの御大もッ!!
 キサマ達も――ここで、畜生の血と妄執に犯されて朽ち逝くのだ」
 何かが。砕け散った。


 絢爛だったホールの崩壊に続いて、ついには城が半壊しつつあるのを見上げたブラミエ・トゥカーズ(”妖怪”ヴァンパイア・f27968)は頭を振った。
「うむ、人相手なら兎も角、話も通じぬ相手に無様を晒せば不機嫌なるのも仕方ないであろうな。居城もこれでは殊更だ」
 同情半分。都合良く勧誘出来た吸血鬼の侍女を思い出して「これなら案外勧誘に応じるかもしれぬな」などと首肯と共に笑みを溢す。
 そんな時、粉塵舞う崩壊したダンスホールに旋風が巻き起こる。
 轟く咆哮は最早、狼らしい気高さも棄てた化生のそれに聴こえた。
「とはいえ、貴公まで獣に落ち切るのは残念であるな?」
 漆黒。
 ブラミエの眼前に一瞬で迫る巨躯は、禍々しくも"暴威を奮う者"として覚醒した姿だった。
 空白。
 暴威を奮う者が、振り抜いた貫手の爪は鋼さえも切り裂くだろう。ブラミエは僅かに思案を巡らせただけで、その場から一歩も動かずに。
 ただ……彼女は黒剣さえ抜かずに手刀を薙いだ。
 直後、凄まじい烈風が瓦礫をも吹き飛ばして。轟音と血飛沫が上がる。
「……!」
 その場の数人が動こうとしたのを、制止する手があった。
 脇腹を抉られたブラミエは丸太のようなその腕を撫で、同時に口を開いた。
「…………が、ルゥゥッ!?」
「――貴公は腫瘍という物を知っているか? そう、己自身でありながら己を害する狂った血肉であるな。
 血液に感染する病であり、病の力は宿主に依る。増強する力と一緒に病の増殖、転移力も増加する。
 余は数滴の薬にも勝てぬ弱者であるが、貴公には如何程に効くであろうかな」
 過呼吸にでもなったかのように喘ぐ怪物を前にして、悠然とそれを語ったブラミエは。次の瞬間に繰り出された振り下ろしを霧と化して躱す。
 空を切った拳が地面を、床を砕いて崩落させる。
 階下のエントランスを通して爆風が流れる最中、怪物ロウは全身を蝕む『何か』に身が侵されている事を実感する。
 毒。などという生易しいものではない。ブラミエに傷付けられたのはカウンターの手刀によって動脈を傷つけられただけだったのだ。
 毒は、排出すればいい。だがどうしたことか、怪物ロウの躰には確かに異物が混入して尚も増殖しているではないか。
「貴公達が吸血鬼で良かった。お陰で余が暴れるには最適な環境であったぞ」
 霧化してエントランスホールの傍に置かれたソファに身を沈めるブラミエは、涼やかにそう言った。
 睨む朱い眼光。男装の麗人は果たして、その華奢に見える肩を小さく竦めただけで流す。
「侍女達のもてなしも中々であったぞ」
「ガァアアアアアアッ!!!」
 怒りは頂点に達した。

 轟音。咆哮。爆音。衝突刺突、高速で突撃する怪物がエントランスを破壊して。
 ブラミエがダンスホールへと舞い降りた直後、階下から飛び上がった巨躯が血反吐を吐きながら漆黒の烈風を纏って突っ込んで来る。
「押し通る!」
 刹那に噴き出す火炎。割り込みをかけながら、確実に隙を突いたのは木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)だ。
 刃に"焔摩天"の梵字が刻まれた大剣を振るい薙ぎ。回転する怪物ロウの突撃を押し返そうとする。
 肉が焼ける臭い。一瞬の迎撃に尾を斬り飛ばされた怪物が身を翻す間もなく、ウタの焔摩天は獄炎を放出して火力と威力を増してみせる。
 切り裂く衝撃の爪と獄炎の刃が衝突して。ウタはその鋭く禍々しい爪先が焼き切られた所へ追い撃ちをかけていく。
 演舞と見紛うも激しい打ち合い。二足となった怪物ロウの反射神経は常軌を逸しているが、背負う金色の炎を爆発させては剣閃を繰り出すウタもまた圧倒していた。
 息つく間もない剣戟の最中、気合いを籠めて。少年は声を絞り出す。
「身内が滅ぼされたんだ、さぞ辛いだろうな……!
 けど、分かってるんだろ。あんた達もそうして滅ぼした、死よりも惨い最期を、押し付けたんだ。
 そして……俺達には守りたい命や未来がある!」
 怪物の執念を笑う気にはなれない。だから、ウタは。全身全霊を以て剣を振る。胸の内で繰り返す。
 ――押し通る。
「は、ァァ――ッ!」
 力で支配して来た歴史を持つ貴族ほど、ダークセイヴァ―においては恐ろしい数の悲劇を孕んでいる。
 ウタの炎はその連鎖を断ち切る刃だ。吸血鬼が忌み嫌うとされている太陽にも似た光を爛々と放つその姿は、怪物ロウの背筋を冷たい物が撫でる事だろう。
 背後で静観していたブラミエもまた、感心したように眉を上げてその光景を見遣る。

 慟哭。咆哮を上げ怪物ロウから放たれた衝撃波をウタの焔摩天が切り上げで霧散させ、飛び込んで来た漆黒の烈風をブラミエが受け止める。
 否、それは受け止めたのではなく。ブラミエが余裕の表情で前に出て来た瞬間に怪物ロウが手を止めたのだ。
 少年の姿が、怪物の足下へ潜り込む。
「ッ!!」
 バン、と床を砕いて飛び上がった怪物ロウの足裏を爆炎が焦がす。
 薙ぎ払い一閃を繰り出したウタの体躯は留まらず、背部の獄炎が火を噴いた直後、滑るように宙へ逃れた怪物を追って刃が振り上げられる。
 鋭く伸びた黒爪が刃を弾く。
 折れ飛ぶ爪から血が噴き出すのと同時に、黒剣を抜いたブラミエが中空にあった怪物ロウの背に降り、十字に切り裂く。跳ぶ鮮血が濁る。
 その後墜落した怪物ロウの周囲を濛々と粉塵が舞う。しかし。ウタの身から溢れ出す獄炎は視界を塞ぐ事を許さない。
 吹き荒れる炎の渦が円を描いて、猟兵の周囲を覆う。
(あの動きは……怒りに我を忘れた子供だ)
 ウタは、敵の行動パターンが力を増す毎に単純化されている事に気付く。
 焔摩天が火を抑え。大剣が熱を持ち始める。

「なかなか多芸であるな、少々着物に障るが」
「あ、それはごめ――」
 頭上を覆う影。
 微かに煤の着いた裾を見せるブラミエは視線を向けるまでもなく、ただ跳躍したウタに微笑みかける。
 漆黒の風は全てを切り裂くが、防ぐ物ではない。
 濃密な魔力で覆われた怪物ロウが錐揉みして牙と爪を繰り出すその下。ウタは爆炎による反作用を利用して加速、腰溜めの構えから薙ぎ払う。
 瞬間。血が爆発した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
心情)秩序(*ロウ)か。いい名前だ。力なき秩序なんざ、口約束にすら及ばんからなぁ。その点、お前さんは名前負けしてねェようでなによりさ。かわいそうたァ思わんし、怒りも嘲笑も向けねェさ。その不遜さ。家族愛。絶望・怒り。ヒトとなんら変わらぬ、その無様。ああ、かわいらしいこったねェ。
行動)俺はすっとろいンでね。逃げ回るためにも仔を喚ぼう。おいで、フェンリス狼。狼の速さにゃ狼で対応するさ。こいつの背に乗っかって、天井壁床自在に駆け回る。相手さん怒り狂ってンなら、辺り構わずぶち壊しながら追ってくるだろう? ならうまく誘導して、最後に天井まるっと落ちるようにしてみっか。墓標代わりだ。兄貴たちと埋まりな。




 ――鎮魂歌。
 遠い、意識の向こうに。寄り添うような音色の、絃を弾く音が、耳に入って来る。
 赤く染まった視界は濁った血に穢されたまま。全ては歪みを孕んだまま、世界は回る。

「秩序――ロウか。いい名前だ」
 赤い瘴気は全方位に向かって、漆黒の風と等しい破壊を秘めて吹き荒れる。
 半壊した古城の回廊を駆け抜ける『フェンリスヴォルフ』は朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)を背に、上下左右と重力を無視するかのような三次元機動を描いて疾走を続ける。
 古城に響く鎮魂。それは、直前まで赤く血に染まったヴァンパイア狼である怪物ロウの相手をしていた猟兵の少年が掻き鳴らして送る曲だ。
 その怪物の肉体は既に限界に達していた。
 凄まじい勢いで細胞を侵す悪意に満ちた腫瘍は、超常のオブリビオンであろうともその血の一滴に至るまで穢し尽くして見せたのだ。
 焼かれ、侵された。獣と果てた女吸血鬼は自我を失い、完全な暴走状態と化す。
「力なき秩序なんざ、口約束にすら及ばんからなぁ。その点、お前さんは名前負けしてねェようでなによりさ」
 無言。
 否、自我無き瀕死の吸血鬼が何を思って逢真を追っているにせよ。そこには虫と同程度の知能しか残っていないのだろう。
 だから反応は何も返せない。返さない。爪と牙を剥いて、全力で獲物を狩る為に駆けるのだ。
「かわいそうたァ思わんし、怒りも嘲笑も向けねェさ。その不遜さ。家族愛。絶望・怒り。
 ――ヒトとなんら変わらぬ、その無様―― ……ああ、かわいらしいこったねェ」
 逢真が腰掛けている狼は、自由だ。
 何者にも縛られる事無く風となって。ただ在るがままに、逢真の意思に呼応して参上し駆け抜ける。
 だが、逢真は積極的にロウを討とうとはしなかった。
 何故か。など、誰も彼に問う者はいない。
 ただその双眸は静寂さを内に秘め、迫りくるロウの爪が空を切っても眉を動かしもせずに見つめ続ける。
 そのうち、怪物は壁や天井を破壊し始める。逢真の跨る狼フェンリスに届きかけた凶刃は、寸での所で空を切っては無機を破壊した。

 逢真はその都度。ロウを見遣る。
 そして彼は言葉通りに微笑を携えて怪物を見下ろしてみせるのだ。肉体は死に近づき、その心も虫食いに。しかし業火で炙られようとも諦めぬ殺意の塊は、今こうして逢真を追いながら赤々と血に濡れた眼から涙を流すほどに、歪と化した在り方が愛らしかったのだ。
 そうしている間に。
 終わりの見えぬ逃避は、丁度何を思ったか。古城を漂っていた鎮魂の奏曲が止んだ時と同じくして訪れた。
 気付けばそこは凄惨な姿と化した前庭。巨大な狼像を前にして、古城から鈍い悲鳴が轟いていた。
 フェンリスが跳ぶ。
 逢真がその上でふわりと風に煽られながら、僅かな無重力感の狭間。追いかけて来た怪物ロウを見下ろして告げる。
「墓標代わりだ。兄貴たちと埋まりな」
 古城から轟いた悲鳴――それは彼が誘導して、古城の構造上最も脆くなる箇所を重点に破壊した結果。更なる崩壊が始まった音だった。
 赤く血に染まった獣は月明かりに照らされる逢真を仰ぎ見て、流れる涙もそのままに。崩れ出した古城の瓦礫と共に狼像の下へ姿を隠された。

 ……それから、辺りが静かになった頃。
 再び鎮魂が流れ。そしてこの夜最初の決着が着こうとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『赤錆の騎士』

POW   :    強撃
【瞬時に間合いを詰め、二刀の剣】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    致命へと繋がる
【剣による打ち払い】が命中した対象に対し、高威力高命中の【刺突】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
WIZ   :    切り裂き詰める
対象のユーベルコードに対し【超常すら切り裂く斬撃】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
👑8
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はフィーナ・ステラガーデンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 崩壊するトルメライの城。
 猟兵達は瓦礫から逃れながらも、一部の者達はその最中に瞬く気配の奔流に意識を集中させていた。
 それは強力なオブリビオンの気配。吸血鬼と吸血鬼が醸し出す濃密な、血の臭い。
 しかし最たるは……激しい怒りの感情が空気を伝い流れていたのである。
「分かっているのか……! ここで私を刃にかけようとも、貴様は終わりだ。
 早計に過ぎた。貴様は、よりにもよって猟兵どもを呼び寄せる真似をするとは……!」
 崩れ落ちた瓦礫の上に降り立つ、狼男の吸血鬼。
 長く古い時代から君臨して来た獣の血は、ここ死闘の時を経て覚醒していた。
 だが、しかし。
 相対する赤錆びた鎧騎士の男はそれを越えて見せた――何の異能も、魔術も使わず。ただ己が技量と『怒り』のみで。
 そうだ。狼族が首領、当主たる男はここに来て畏怖すらしていた。弱小の吸血鬼一族が今更、なぜこれほどの力をつけたのか。

「……己が目覚めた時」
 赤錆の騎士は、悠然と剣を握り歩み出す。
「城は……百年の時を経ても変わらなかった。
 変わっていたのは我が娘と、息子が、異形と成り果てて救われていなかった事だけ。
 棺桶に封印されていた己を除き、妻も友も、魂の死によって汚染されていた。
 ……我が娘を当主に据え置いた己も確かに許されまい。だが、お前たちが。このベルツェハイドにした事もまた……赦しを乞うても意味は無いと知れ」
 朱き剣閃が宙に軌跡を残す。
 残像すら浮かんだそれは、数瞬の後に衝撃波を交えて。ただ高速で繰り出されただけの斬撃は疲弊していた狼族の領主を切り崩した。
 両腕を落とされた領主アロ・トルメライは苦痛と絶望に屈する。
「ぐああああぁぁぁ……!! 擦り寄るだけが能の、『下位』が、どうして今更……!
 ふ、ふざけるのも大概にするがいいッ! 貴様らとて身に覚えがない仕打ちではなかっただろうに! 力を求めるがばかりに、あろうことか死霊術にまで手を染めた貴様等ベルツェハイドが、土の下に城ごと沈められるのも道理!」
 それは因果応報だ。そう豪語する瀕死のアロは、人間態となって蒼白の顔面で赤錆の騎士を見上げて叫ぶ。
 そこに。そのアロの姿に――
「貴様に誇りは、ないのか!!」
 ――獣らしい誇りは微塵もなかった。

 一刀の下に首が落ちる。
 崩壊した古城。吸血鬼の侍女達が逃げ惑う最中、赤錆の騎士は振り返った。

「………………」

 猟兵達を見つめる赤錆の騎士は、剣を揺らして踏み出す。
 月明かりが照らす瓦礫の上で。戦いは始まった。
木霊・ウタ
疲労/ダメージ有

心情
家族を殺された父親、か

既に復讐は果された
家族や一族がいる場所へと還ることを
願っていると思う

戦闘
瓦礫に足とられぬ様注意

剣風を炎の奔流として放ちながら
敵間合いに捉えられぬ様
獄炎で背面跳躍

いつまでも捌けるとは思っちゃいない

赤錆が間合い詰める動きに乗じて
背面から炎噴出し此方からも間合い詰め
獄炎纏う大剣で薙ぎ払う

敵の剣速が上かもな
覚悟の上だ

傷口から噴出させた炎で敵斬撃を減弱・押し返し
勢い留めずに焔摩天を振り抜く

炎にUC織り交ぜ
理不尽を灰に
赤錆が海で家族や一族と共にある未来を願う

ロウを討たなかったのは
娘さんの友達だったからか
想いあればきっとまた逢えるだろう

紅蓮に抱かれて眠れ

事後
鎮魂曲


ブラミエ・トゥカーズ
領主は倒された後であるか。
首を斬られて死ぬとはこちらの吸血鬼は生き物の様であるな。
貴公も首を斬られたら死ぬのか?

【WIZ】
余は内定の決まったメイドを護らねばならぬ故にここは貴公に任せよう。
己も従業員だと?貴公は派遣ではないか。
とはいえ、今の世は粗末に扱うと契約の妖が煩いか。
追加報酬は安心せよ。貴公の本来の職場にも話は通しておこう。

従者:
地蔵菩薩
幾多の路に在り、迷い人を護り導くモノである。
迷う魂があれば彼は何者であっても慈悲を持って導くであろう。
召喚武装:
現世用依代。超常でもなんでもない、よくあるお地蔵さんである。
UCと信仰により、何故か頑丈。
彼は救う者である。

おん かかか びさんまえい そわか


朱酉・逢真
心中)復讐は済んだかい? 気は晴れたかね。ひ、ひ。晴れちゃなさそうだ。お前さんら、ヒトによく似てるよ。かわいいねェ。マ・なんでもいい。《過去》は殺さにゃならん。そういうお仕事だ。
行動)《毒》を宿した眷属《獣・鳥・虫》どもをどっさり向かわせよう。軽く払われっちまうだろうがそれでいい。毒は積み重なる。痛みただれ溶解しびれアッパーダウナー多幸に焦燥。ひとつなら無視できる。100でもお前さんなら耐えられらァ。だがその10倍、さらに10倍となったらどうだね? 俺まで届いたら切ってもいい。なんせ、俺こそがいちばんの災毒。この世すべての《病》と《毒》だからな。
先に還って、家族を待ってなよ。親父さん。


エウロペ・マリウス
振り上げられてしまった剣は、
納めるべき鞘を失って、後はただ闇雲に誰かを傷つけるだけ、か
キミにも事情はあるだろうけれど、
ここで止まれない以上、止めて上げるのもボク達の役目だね

行動 WIZ

攻撃を相殺するというならば、
ボクは、相殺されること前提の魔術を行使するまでさ

「虚実を喰らう獣。纏い・砕かれ・混濁に沈み、朔に眠れ。華鏡は虚月に彷徨う(ルナ・スペクルム)」

動きを封じられた隙に、
【属性攻撃】の氷属性による火力強化
【高速詠唱】で手数を増やした
【誘導弾】で命中率を共に強化して攻撃するよ

せめて幸福な幻を
それと、謝罪させてもらうよ
キミは、届かない月に向かって吠える獣ではなく、
己の誇りを振りかざす者だったよ


故無・屍
ちぃと到着が遅れたが…、
そうか、『あいつら』の親父か、お前。
同族殺しの割には意識が残ってるモンだな。

いいことを教えといてやる。あいつらはお優しい『救い手』どもの足掻きで浄化された。
…その上で、お前がどうするか。
今度こそ衝動に呑まれてただ暴れるだけの木偶になるか。
それとも、ここで滅びて塵に戻るか。

救いを求めてなんざいねェのは端から分かってる。
お前が選んで、抗うなら抗え。
……今からやることは変わらねェんだからよ。

相手の攻撃には第六感、見切り、残像にて対応し、
怪力、2回攻撃を交えUCを発動
消耗した味方が狙われるならかばう

俺はお前を救わねェ。
だが、他の奴がそうじゃねェとしたら…、
まァ、諦めるこったな。



●――『赤き一閃』
 瓦礫の中に混ざっていた硝子を踏み抜く音。
 シャン、と鳴るその音は。まるで夜風に吹かれた鈴の音のようで。
「復讐は済んだかい? 気は晴れたかね。ひ、ひ――晴れちゃなさそうだ。お前さんら、ヒトによく似てるよ。かわいいねェ」
 踏み砕いた硝子片の下で蠢く影。
 同族殺し。赤錆の騎士と向き合う朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)の足下、背にする影から。続々と、毒の瘴気纏う蟲や鳥獣を解き放って見せる。
 蠢く小さな生物の集合体は見るも悍ましい姿で、オブリビオンの前に顕現する。
「……マ・なんでもいい。《過去》は殺さにゃならん。そういうお仕事だ」
「――――」
 返す言葉は無い。
 否、言葉は不要だと。逢真が召喚した眷属達が殺到した事で互いに理解していた。
 元よりこれは、少なくとも彼にとっては。言葉を交わすよりすべき事がある。
 そして相手にしてみれば。
「領主は倒された後であるか。
 首を斬られて死ぬとはこちらの吸血鬼は生き物の様であるな。貴公も首を斬られたら死ぬのか?」
 敵は一人ではなく、その力を侮る事は許されない相手なのだ。
 蠢く毒の眷属が瓦礫の上を猛進する様を見下ろし、ブラミエ・トゥカーズ(”妖怪”ヴァンパイア・f27968)がその身から妖力の一端を可視化して見せる。
 黒く塗り潰される景色。
 金切り音が二つ。真っ黒に染まったキャンバスに白線が入り、次の瞬間には二振りの赤錆びた長剣を手にした騎士が無言のままに剣を振り回す。
 バシャ、と。波飛沫が如き音が夜天に響いた。
「余は内定の決まったメイドを護らねばならぬ故にここは貴公に任せよう」
 味方の眷属が蹴散らされている様を前に悠然と、ブラミエは己が妖力を糧に喚び寄せた者へ心を交わす。
 傍らに顕れるは、彼女が用意した『依代』に合わせ現界せし地蔵菩薩である。僅かな空白の間に、何事か言葉を交わし合った彼等は――互いに意識を向け合うのみで、視線は赤錆の騎士へ差し向けられる。
 くく、とブラミエが笑う。
「己も従業員だと? 貴公は派遣ではないか……とはいえ、今の世は粗末に扱うと契約の妖が煩いか。
 追加報酬は安心せよ。貴公の本来の"職場"にも話は通しておこう」
 空気が引き裂かれ、空間が捻れる。硝子が歪むかのような音が鳴り響いたのと同時に夜闇の中で剣閃が夥しい数の毒虫を吹き飛ばした。
 数拍。
 その間にブラミエと最低限の言葉は交わしたのだろう。ブラミエが言葉を切ってから静かになっていた地蔵菩薩は、不意に。
 ……何故かブラミエの用意した依代から召喚された『お地蔵さん』を両手に。地蔵の頭部を掴み、すらりとした足を着物の裾から伸ばして。右膝を曲げ、左膝を伸ばしながら両手の地蔵を腰溜めに構えていた。
 錫杖を持たずに取ったその構えを見てもブラミエは一度頷くだけで。彼女は真言を唱える。
 空気が渦を巻いて飛躍する。
 慈悲深き菩薩が取った初動は、果たして。赤錆の騎士へ鋭い殴打を見舞う所業だった。
 打ち合う。逢真の操る眷属が舞う最中を跳躍して距離を詰めた菩薩が、地蔵を巧みに振り回して長剣とぶつかり、無数の火花を散らす。
 そんな中で赤錆の騎士が揮う剣が妖しく輝く。
「……!」
 が、菩薩が放った後光によって目を眩まされたか。何らかの動作を封じられた騎士は物理で破壊しにかかる。
 衝撃と毒汁が撒き散らされる戦場。

 ――夜風に、冷気と熱気が交わり合う。
「……既に復讐は果された。それでも剣を下ろさないのは、俺たちに何を求めてるんだろう」
「或いは。振り上げられてしまった剣は、納めるべき鞘を失って――後はただ闇雲に誰かを傷つけるだけ、かもね。
 彼にも事情はあるだろうけれど、ここで止まれない以上、止めて上げるのもボク達の役目だね」
 恐らくはこれが此度の最終局面となるだろう、と。木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)の傍ら、冷気携えた瞳でエウロペ・マリウス(揺り籠の氷姫・f11096)は現状を見据えて術式を構築していく。
 轟音と金属音は鳴り止まず、夜闇の中で幾度も閃光が瞬いていた。
 このまま立ち尽くしてしまう訳にも行かず。ウタは肩口から飛び立つ『迦楼羅』に続いて駆け出した。
 猟兵の気配はより濃さを増し、赤錆の騎士に向かう闘志が重なって行く。
「……新手か」
 鎧兜が真横に弾かれ、歪んだバイザーの下でだくだくと血液が滴り落ちる。
 だが、赤錆の騎士と対峙していた菩薩の身もまたボロボロになりかけていた。息こそ上がっていなくとも、僅かに重くなった体を奮い立たせた騎士は毒煙の中で構え直す。

 そして。
 刹那に奔る閃光――赤き一閃の下に菩薩は消滅した。

●――『月下に堕ちる』
 感嘆の声と共に一瞬だけ、ブラミエはこめかみに手を当てた。
「追加で呼び戻すことになるとは……中々懐が痛むではないか」
 雇用契約書の内容に後でケチつけられるやもしれぬ。と彼女は頭を振ると、再度ユーベルコードを起動すべく集中を始める。
 消滅した菩薩に代わり襲い掛かる逢真の眷属。鳥や獣が次々に飛び掛かる波を相手に、赤錆の騎士は一歩も退かずに切り裂いて迎え撃っていた。
 そこへ着弾する、一筋の炎。
「……」
「俺も相手になるぜ同族殺し」
 一瞬交わされる視線。
 病毒の渦を赤き一閃が消し飛ばす間もなく飛来するは炎の奔流。ウタの身から溢れ出した獄炎が剣風に乗って放たれた、火の海が赤錆の騎士を飲み込むべく殺到する。
 バン、と何かが爆ぜる。それは、ウタの放った熱風を阻む壁の出現だ。
(瓦礫で壁を……)
 答えに至るのと回避行動は同時。
 ウタの耳元を鋭い風が通り抜け、背後の瓦礫と共に逃げ惑っていた吸血鬼の眷属が吹き飛んだ。
 背面跳躍。体表を伝う獄炎が、ウタの背にした部分だけ削がれて。翼を失ったかのように一瞬の空白が生まれる。
 しかし、少年は堕ちず。
「虚実を喰らう獣。纏い・砕かれ・混濁に沈み、朔に眠れ――華鏡は虚月に彷徨う!」
 ルナ・スペクルム。
 ウタが片手で地面を打つ様にした屈伸運動からの短い跳躍。額の、かつての傷痕から零れるような焔が軌跡を描いて反転した彼は、回転斬りによって追撃の真空刃を相殺してみせる。
 三者の視線が点と点を繋ぐように結びつく。つまり、エウロペから上空へ伸びた巨大にして銀の円筒。夜天に君臨する月を映し出す円筒の内は万華鏡と化し、幾何学模様を描いて、魔性と神秘なる門を地上に開く。
 
 ……その光景は、この場においては余りに幻想的に過ぎた。
 これは龍の招来。ウタの背後で生まれ落ちた、純白にして月明りを映し出す巨大な龍が咆哮の代わりと言わんばかりに光り輝いて。赤錆の騎士へと一直線に奔った。
「……!」
 動き出す、焔。
 ウタが獄炎を放出する大剣『焔摩天』を振り被り、金色の炎と共に変則的機動を伴って飛翔する。
 二振りの長剣が目にも止まらぬ剣速で一閃を放つ。
 赤き一閃。それは猟兵達の操る超常をも切り裂く規格外の一撃。
 一定の法則の下でしか機能しない、が。物理的事象を伴う威力へと昇華させているならばその限りではなく。
 夜天を舞い降りて来た巨大龍を十字に斬り裂いたその一閃は、"エウロペの期待通り"の効果をもたらした。
 爆ぜる銀光。閃光とは別の、冷気を携えた吹雪の到来。
 血も凍るような吹雪が雪崩れ込むように赤錆の騎士を打った瞬間、白銀に染まった幕の外から赤々と燃ゆる火焔が奔った。
「紅蓮に抱かれて、眠れ……!」
 極炎を纏った大剣は少年の意思に呼応して、その一撃の間際に激しさを増す。
 赤錆の騎士を肩口から切り裂いたその瞬間。ウタと騎士の間で紅い雪が噴き上がった。
「……見事だ。よもや美しき幻想の前に、今の私が……」
 移り変わる視点。
 兜が転がり落ちた後に見上げた赤錆の騎士の目には、吹雪など何処にも在りはしなかった。
 吹雪の向こうに視えた黒髪の少女も。白い花を少女に添えている青年騎士の姿も、全ては己が万華鏡に映し出された夢幻だったと。瓦礫に倒れ行く騎士は悟った。
「……私は」
 空気に溶け行くは血ではなく、血を模した何かだ。
「……私は、もう会えないのだろう」
 雪の結晶。紅い光を放つ幻想の欠片は、夜天に溶け行く最中で。不意にその軌道を変える。
「私が逝く先にあの子達はいない……のだ。イェーガー……狩人どもよ」
「ッ!」
 殺気。ズン、と重い衝撃波が後方へ飛んだウタの前で爆発した直後。赤錆の騎士はその悲痛な表情と白髪を垂らした姿で起き上がっていた。
 手に取ったのは、復讐を果たした仇敵の亡骸。その内から引き摺り出した心臓だ。
 握り潰し、啜る。
「そこな……名も知れぬ貴き同胞よ。そなたは……美しいな」
 既に次の地蔵菩薩を喚び出したブラミエに、視線が往く。
「命を吸う者がどうして醜くも人を捨て去れるものか……だから、トルメライは滅んだ。そしてそれを過去の私は……何も気付かなんだ」
 ああ、と。ウタの前で月明りに晒された素顔が歪む。

「我が名は、今は無き名。かつてベルツェハイドを家名とした者……一族の悲願を名とした愚者の末路を、具現化せし影なる朧なり」
 満月を仰ぎ見るその顔は引き裂かんばかりに歪んだ笑みを孕んで。
 彼は自らを――ルナティック・ステイメンと名乗った。

●――『救われた者/堕ちた者』
 つい最近、聞いた名だとその男は気づく。
「ちぃと到着が遅れたが……そうか、『あいつら』の親父か」
 瓦礫と化した惨状の古城へとやって来た故無・屍(ロスト・エクウェス・f29031)は、今がグリモア猟兵の言っていた局面の一つだと察する。
 そして同時に。同族殺しと成り果てた者が、いつかの地の底で看取った少女達に縁ある者だとも。
「同族殺しの割には意識が残ってるモンだな」
 勢いよく掴み取って薙ぐ。湾曲した刃が特徴的な漆黒の大剣。
 夜天に瞬く魔法陣から轟く、万華鏡が顕現と共に斬り落とされ爆ぜる破片。夜天を引き裂いて金色の炎が一条の矢と化して降り注ぐ。
 月光に照らされた中で巻き上がる瓦礫はいずれも赤い一閃に細切れにされ、次いで瓦礫の下から波打ち、黒々とした柱となって突き立った毒気が醜悪な煙幕となって同族殺しをその場に縫いつけている。
 それら光景を前に、屍は……走る。
 前へ踏み込んで。仲間の隣を、降り注ぐ瓦礫を横目に、深緑の眼光が揺らぐ。
「……いいことを教えといてやる。あいつらはお優しい『救い手』どもの足掻きで浄化された……その上で、お前がどうするか。
 今度こそ衝動に呑まれてただ暴れるだけの木偶になるか。それとも、ここで滅びて塵に戻るかッ」
「此の身果てるまで、歩むまでだ! 見届けるがいい狩人!!」
「そうか、よッ! どっちにしろ俺はお前を救わねェ。だが、他の奴がそうじゃねェとしたら……まァ、諦めるこったな!」
 肉薄して衝突する。一対の赤錆の剣と漆黒の大剣。
 鍔迫り合いとなった両者の間に散る火花は次第に激しく、互いの刃が熱を帯びて赤々と光を放ち始める。
 どちらが先か。刃が跳ね上がり互いに弾かれる。
 瓦礫は既に吹き飛び、地面を露出した上を踏み砕いて屍は全力でステップを刻み振り払われた剣撃を躱す。
 凍てつく空気。
 屍の残像をルナティックがクロスして斬った直後、頭上から降り注いだ氷の魔弾がその場に白い塔を築き上げる。
 立ち込める冷気。蠢く黒い毒人形が、後光と共に躍進する菩薩と並んで氷柱へ突っ込んで行く。

「ひ、ひ。随分と粘るじゃねぇかい」
「勝手が分かって来たのであろう。自らの命を賭す行為は『慣れ』が入る事で研ぎ澄まされるか、鈍るというもの」
 毒に侵されて随分経つと逢真が笑う隣で、ブラミエがエウロペの放った魔弾の残滓で雪だるまを作り弄ぶ。
 彼女は悠然と、死闘の最中に身を投じて行く味方と敵を見比べ。それから淡々と言った。
「あれは割れたガラス片のような物であるな」
 地響きを伴い繰り広げられる戦いを前に、ブラミエは差し当たり。近場を逃げ惑っていた吸血鬼の侍女を保護する事にした。
 さて、と彼女は顎に手を触れ思案する。
(どうなるであろうな)
 彼女の視界の端を駆ける、銀髪の少女の姿を見遣り。
 自らとは根本的に異なる在り方の吸血鬼が、果たしてどういう末路を辿るのか。ブラミエは興味が尽きなかった。

 氷の魔弾に加えて『ルナ・スぺクルム』を波状攻撃として降らせるエウロペは、最高峰の前衛と拮抗する同族殺しを見つめる。
「……長く持つとは思えないけれど。このまま放置するのも何だろうか、ね」
 ダメージの蓄積は動きに出る。
 研ぎ澄まされた剣閃は更に鋭く、踏み込んだ物となって猟兵に襲い掛かり。それと比例してカウンターを貰った際の傷も深く、毒の進行も増しているようだった。
 しかし放置していれば如何にエウロペや後衛が補助しようと致命傷を貰いかねない。なれば、と。氷の寵姫と呼ばれた彼女は策を一つ練る。
 
 ――敵の剣速が上なのは承知の上だった。
 だが、だからこそ。ウタは己が信念を燃やして正面から打ち合い、断ち切る事を選んだ。
(ロウを討たなかったのは娘さんの友達だったからだ。歪んでも、想いは確かに在る。
 ……きっとまた逢える筈だ。必ず、海に還っても……!)
 屍と並び、背から噴き出した獄炎で味方の残像に質量を持たせる。
 金色の炎が刃を覆い。赤錆びた長剣と打ち合う。
 踏み込む。
 絶対に、退かない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…あの兄妹は既に呪縛から解き放たれて眠りについたわ

…お前も彼らと同じ場所に葬送してあげる

UCを発動して"怪力、御使い、仮面、韋駄天、盗人、
破壊魔、暗殺者、闇夜、息止め、迷彩"の呪詛を付与

●闇に紛れる●迷彩の●オーラで防御して●存在感を消し、
気合いや殺気、●息を止める●暗殺術で敵の眼を●盗み気配を遮断

…あの城で猟兵を導いてくれた返礼よ、男爵

…吸血鬼狩りの業を馳走してあげる

敵の●追跡から逃れ武器改造した"写し身の呪詛"を放ち、
●破壊工作を施した残像を●ダッシュで切り込ませて、
攻撃されたら大爆発を起こす●だまし討ちを行い、
大鎌を●怪力任せになぎ払う2回攻撃を行う

…お前なら必ず返してくると思っていたわ




 散発的に降り注ぐ氷結術式は次第に、瓦礫の山を氷塊と化して戦場を覆い始める。
 そんな中でも炎の刃は、漆黒の中に在る変幻自在の刃たちは無数の剣戟を生み。赤錆の騎士を四方八方から連携して追い詰めて行く。
 砲撃の如く飛び交うお地蔵。氷の破片が散る影から湧き出す猛毒噴く眷属達は、いずれもオブリビオンを死へと誘う。
 激しい乱戦の最中。
 リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は彼等の剣閃、魔力の残光残像に紛れて。
 睫毛の先に赤錆びた刃が触れる距離にまで近付いても尚、完全に気配を断っている。揺れる銀髪の下で光る妖光は誰の目にも止まる事無く。
 ただ舞踏の如く吸血鬼狩りの乙女は、二振りの魔剣を奮う騎士の耳元で囁いた。

「……あの兄妹は既に呪縛から解き放たれて眠りについたわ。
           お前も彼らと同じ場所に葬送してあげる――」

 瞠目。
 確かに吐息が、熱が、触れた。その事実にルナティック(狂気)を自称する吸血鬼は僅かに走った戦慄を振り払うかのように、両の剣を力任せに薙ぎ払った。
 砕かれる氷塊の裏側。リーヴァルディは冷笑と共に自らに数多の呪詛を重ね掛けする。
(あの城で猟兵を導いてくれた返礼よ、男爵)
 幾何学模様が幾重にも連なった帯が少女の身を包み、やがてそれらが不可視のベールとなって彼女を覆い隠したその時。宙を舞う氷塊を赤き一閃が両断する。
 だが、しかし。
 ルナティックの懐へ滑り込んだリーヴァルディは虚空より手に取った大鎌を鈍く閃かせ、彼女の左眼が哀れな吸血鬼を捉える。
「ッぬ、ゥ……!」
「……吸血鬼狩りの業を馳走してあげる」
 静かな一閃。首を刈る事に特化した一振りを、白髪の騎士は間一髪で後ろへ跳ぶ事で躱す。
 空気を切り裂く音さえしない。訝し気に、眉根を顰めるルナティックを今度は頭上から兜割り気味に振り下ろされた炎の大剣が直撃することで一転する。
 クロスして受けた炎の大剣。その熱と光に焼かれて肉が焦げるも、一瞬の弛緩から繰り出した押し出しだけで少年を吹き飛ばす。
 焦り振り向くルナティックの眼前に、大鎌を高速で回転させ躍り出る少女の姿が映る。
 一刀の下に切り裂く。
 だが……少女の像は罅割れ、次の瞬間には無数の氷の残滓へと姿を変えてしまう。
「何ッだとぉおおァ!!」
 中空にて氷獄の名を冠する魔杖を揮う、オラトリオの精霊術士が不敵に笑う。
 刹那。氷塊によって作り出された鏡面とは反対の――背後を取ったリーヴァルディが黒き一閃を放った。
 ……慟哭し、咆哮する赤錆の騎士は。果たしてその瞬間に全ての幸運を使い果たした。
 黒き一閃を、第六感的な『勘』で後ろ手の切り上げで弾いた直後。返すもう一振りが少女の首を刎ねたのだ。
「――――あ」
 小さく、一刀に断たれた首から漏れる声。
 猟兵の死。
 どういったものか知る由も無いが、その瞬間確かに赤錆の騎士ルナティックは勝利を確信した。

 ――数瞬後、彼の両眼を莫大な閃光が焼くまでは。

「……お前なら必ず返してくると思っていたわ」
 月下。
 中規模な爆発に吹き飛ばされ錐揉みする赤錆の騎士を眼下に、リーヴァルディは強かにそう言い放った。
 その姿は断頭台のように、見開かれた紅の瞳に文字通り焼き付いて。
 身を捻り、力任せの怪力によって振り回され薙ぎ払われた大鎌の二撃がルナティックを切り裂いて氷に覆われた大地に叩きつけた。
「――――ッッ……!!」
 声にならない苦悶の吐息。
 内臓が全て挽肉と化すような、左右から訪れた異次元的断罪。たったこの一瞬で、彼はそれまでの数百年の記憶が全て脳裏を過ぎった。
 渦巻く、後悔と無念の残滓。憎悪と殺意、自虐の念が混ざり合い赤黒いオーラがルナティックの身を覆う。
 変異の兆候。
 しかし、彼は。それを抑え込んで立ち上がろうと剣を大地に突き立てた。
「――謝罪させてもらうよ。キミは、届かない月に向かって吠える獣ではなく、己の誇りを振りかざす者だったよ」
 全ての幸運を。彼は使い果たしたばかりだった。
 冷気が、白銀がオラトリオの氷姫に導かれて幾度目かの顕現を果たす。月光を乱反射させ覗き見る者を夢幻に閉じ込める万華鏡は、破壊によって完成する龍を空から生み落とした。
 リーヴァルディが、炎纏う少年も、闇に紛れる清濁併せ持ったパラディンも。一斉にルナティックから距離を取った。
 致命傷に喘ぎながらも二振りの魔剣を揮う赤錆の騎士は、自身の血に溺れながら天を仰いだ。
 爆ぜ飛ぶ。広がる薄氷。
 ……そして上空へ駆け上がっていく黄金の軌跡が、次いで上空より爆炎を叩きつけた。

 ――戦場を吹き荒れる爆風。
 それは。瞬間的に冷やされ、熱された事で発した莫大な上昇気流だった。
 満月の明りが近くなったことで目を開いたルナティックは、焼け焦げた眼の奥で辛うじて視えた物に感嘆の声を漏らす。
「……あ、ぁぁ……!」
 上空に舞い上げられた彼の眼には、確かに。

 かつて男が愛した城が、妻が、子供達が居た。
 そこには確かに在ったのだ。温かな陽の光に包まれながら笑う、かつて名のあった男が喪った全てが。

「……理不尽を、灰に」
 白い焔を傷口から溢れさせ、猟兵達に。リーヴァルディに刺し貫かれた吸血鬼、『同族殺し』を少年は月下の夜天で地獄の炎で一つの未来を燃やし尽くした。

大成功 🔵​🔵​🔵​


●堕ちた魂はいずれも
 ……爆心地も同然の惨状だった古城跡には、氷雪と獄炎が消えて行くに連れて静寂さを取り戻して行った。
 この地を治めていたトルメライの狼族はこの夜滅んだ。
 虐げられ、支配されていた人々も今一度仮初の平穏を取り戻す事だろう。
 その一方。
 光の中で優しく笑って逝った騎士を見送った少年は独り、瓦礫に座って鎮魂を奏でていた。

 ――否。独りではないかもしれない。
 見回せば、彼の周りには戦いを終えて煙管で一服して月見に興じている男がいる。
 偶然残っていたテラス端の椅子とテーブルを持ち出し、今後の契約内容について何事か吸血鬼の侍女と相談している吸血鬼の麗人がいる。
 少年の鎮魂曲に耳を傾け、二振りの魔剣を地面に突き立て瞼を閉じる。そんな吸血鬼狩りの乙女がいた。
 遥かな旅路に祈りを送るのに、形式は必要ない。
 荒れ果てた死んだ薔薇園を前にした一人の男は、その深緑の瞳を揺らし。目を細めて、かつての自分の残滓たる光を枯れかけた蕾に与えている。
 勿論。長居する必要もない。
 頬に触れる雪の結晶を掬い取って空へ放つオラトリオの少女は、舞い上がって行くそれが月に吸い込まれていくように見えた気がした。

 ……奏でられるギターの旋律。
 それは、堕ち行く者を救った温かな記憶の鎮魂歌だった。


             【ダウンフォール・ステイメン】Fin.

最終結果:成功

完成日:2020年09月17日
宿敵 『暴威をふるうもの』 を撃破!


挿絵イラスト