●遠い遥か記憶の彼方
かつてそれはUDCアースにあった。
長い、長い眠りだった。
……ふと。
誰かが呼んだのだ。
覚えている、と。
おまえのことを、おぼえているよ、と。
その言葉が、
ないはずの胸に──こころに、沁みて。
長く忘れていた、止まっていた何かが動いて。
それを、抱きしめてしまったのだ。
●思い出は胸の中に
「お集まりありがとなー、猟兵諸君。今回のご案内は、毎度おなじみ、カクリヨファンタズムの世界の危機でーす」
はい、拍手ー。わー、ぱちぱち〜〜〜。
……じゃないわ。
「いやだって。こう毎日のように世界滅びかけてたらな、飽きるだろ。しんどいし。なんかこう、ちょっとでもアゲたくならねぇ?」
そんなことをのたまうグリモア猟兵は黒髪のチャラ男(?)、エリオス・ダンヴィクトル。
アゲなくていいから説明をしろ?
ごもっとも。
「今回の予知は今言った通りカクリヨファンタズム。あの世界ってなんか時空が歪んでるとこあるだろ? お隣UDCの過去の遺跡とかがぐっちゃ〜なってるっていうか」
で、だ。
「みんなにやって欲しいのはその遺跡の中にいた忘れられた存在……古代兵器だかなんだか知らんが、まぁ俺が見たのはでっかい機械、だな。そいつについた骸魂を払ってやることだ」
本来なら、遺跡の奥で眠っていただけだったはずの失われた文明の遺産。だが悲しいかな、流れ着いた骸魂はその全盛期を知る古い馴染み“だった”もの。ソレは古代機械と混ざり合って、オブリビオンとして世界を崩壊させようとしている。
「……あんまりいい気分の依頼じゃないし、結構厄介な相手でもある。乗り気じゃなけりゃ、ここで帰ってくれていい」
オブリビオンとなってしまったからには、骸魂は倒さなければならない。そうすれば古代の機械はまた、永の眠りにつくのだろうが。
「まぁ、終わった後で暇だったら。……どっかでそいつらを偲んでやってくれればいいさ」
それも、別に強制はしない。
「ま、そんなワケで崩壊し始めてるカクリヨの迷宮からスタートだ! 迷ってもいいからちゃんとたどりついてくれよ?」
パン!
軽く手を叩いて気分を入れ替え、最後にまた雑な説明を投げると、エリオスはきみたちを見回す。残りたい者が残ったなら、転送を開始するだけだ。
それじゃみんな、頼んだぜ。
「Good Luck」
みみずね
初めまして、あるいはこんにちはお久しぶりです。体力ふにゃふにゃ駆け出しマスターのみみずねと申します。オープニングをご覧いただきありがとうございます。
今回はちょっとシリアスめ、でもふざけるときにはいつも通りふざけます。執筆はゆっくりペースでいこうかと思っております。一度目で書ききれなかった場合には再送をお願いするかもしれません、ご了承ください。
●第一章(冒険)
崩壊しつつある世界の歪みによって生じた迷宮です。迷ったり迷わなかったりしてください。
●第二章(ボス戦)
なんか古代のやばそうなマッシーンとの対決です。難敵じゃないかなーと思います。え、妖怪じゃない……? 付喪神的な妖怪ですよたぶん。
●第三章(日常)
再び眠りにつくことになるソレにお別れを。あるいはそこで普通に過ごすこと自体が救いになるのかもしれません。
プレイングの受付開始は各章、追加情報が入り次第となります。詳細はマスターページなどをご覧ください。
その他、受付終了や再送のお願いなどの情報はマスターページやTwitter(マスターページに記載)にて随時情報を更新する予定でおりますので、必要に応じてお手隙の際にでもご確認くださると幸いです。
第1章 冒険
『曼殊沙華の迷宮』
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POW : いつかは抜けると信じて、ただただ進み続ける
SPD : 目印を用意するなどして無限ループを防ぎつつ突破を試みる
WIZ : ループの法則性を調べ、突破方法を見つけ出す
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ざわり、ざわり
足元を揺れる草
空には日も月も星もなく、
広がるのは薄暗闇
果たして方向は分からない
わかるのはただ、華が咲いているということ
華が 華が 華が どこまでも見渡すかぎり
あかい曼珠沙華のはなが 咲き乱れている
進むべきは前か、うしろか、
はたまたそれ以外か
分からずともいまは
進むしかないのだ
▼マスターより
普通に歩いてるとループして永遠に抜け出せないと思われる迷宮です。
なんかいい感じに切り抜けてください。(迷ってるだけのプレイングをしても判定の成否には影響はしません)
朱酉・逢真
心中)しんどいかァ。マ・そうよな。いつ死ぬかわからンなァ(*わからないのは)どこの誰でもおンなじだろうが、カクファンはあんまりハッキリしすぎっからな。見えなきゃ忘れられンのに。やあしかし、いいとこだねェ。冥府みてェで落ち着くぜ。
行動)行けども行けども同じ場所。ループするってこた空間そのモンが閉ざされてンだな。界(*空間)の結び目。結界の《目》。そォいうのンを扱う術にゃ秀でてる方でね。よォく見て、見つけて、解いてやろう。奇跡(*ユーベルコード)・腕力は必要ないさ。不自然に《かたい》とこを丁寧にほどきゃア―――そゥら、出られたぜ。
●むすんでひらいて
「しんどい、かァ」
マ・そうよな。
グリモア猟兵の言葉を思い出し、朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)は心の中で同意する。
いつ死ぬかわからんなァどこの誰でも同じだろうが……この世界は。カクファンはハッキリしすぎっからな。
見えなきゃ忘れられンのに、とも思う。この世界は色々なものがよく見え過ぎだ。
生と死の狭間なんて、言葉にすれば仰々しいものだがそんなものはどこにでも転がっている。いつ誰が突然落ちるか分からない、だが見えないように蓋がしてあるはずの境目は──この世界では少し違う。
かつての故郷から逃れ、生き延びたものたちはこの世界の生者。そして辿り着けずに死したものたちの霊魂が骸魂……。すでに死者であるはずのものたちは、この世界に流れ着いては生者に取り憑く。度々引き起こされる世界の危機は、つまり彼ら死者が毎日のようにこの世界に流れてきているという事実をも示している。彷徨った同胞が死してなお意思を持ち、縁あったもののところへ帰り着く。
あァ、ソイツは確かに、“しんどい”だろォよ。
この世界に住む妖怪たちにも、それを止めてくれと頼まねばならないグリモア猟兵にも恐らく。
それはさておいて、だ。
逢真はまた一歩、足を進めてみる。周囲を見渡せばどこまでも続く赤い花の園。真っ直ぐ続く一本道。
「やあしかし、いいとこだねェ」
ゆれる、ゆれる。ゆらゆらと誘うように揺れる曼珠沙華。ギラギラうるさい太陽どころか、月明かりすらない、朧げな空間。そこはまるで。
「冥府みてェで落ち着くぜ」
冥府。それはすべてのいのちの、魂の行き着くところ。逢真にとっては……故郷というのは少し違うが、往なれたところだ。
くうるり、くるり。歩けど続くその道は、進んでいるようでいて一歩も進んでいないようでもある。行けども行けども同じ場所。いわゆるループする類の迷宮のようだ。
ループするってこたァ、だ。
空間そのものが閉じている。どの道も外へとは“繋がっていない”代わりに──続いた道がどこかで最初の場所と“繋がっている”、ということだ。
つまりそこには界の結び目がある。結界の《目》と言ってもいい。紐を輪にするときを思い浮かべりゃいい。結び目があるなら、ほどけばいいだけ。
さてサテこれは。
逢真は目を細める。そォいうのンの扱う術には秀でてる方でね。得意なのサァ。
「……ン」
宙空をよく見て、それから手を伸ばす。なァに、そう難しいことじゃあない。奇跡も腕力も必要ではない。重要なのは見つけること。そしてからそれをほどいてやること。
そら、空間の不自然に《かたい》ところを丁寧にほぐしてやれば……。
果たして、逢真の前にはぷつりと曼珠沙華の道が途切れ、その向こうに青空が広がっている。
「そゥら、出られたぜ」
笑い、踏み出す。
ざわり、ざわり。風もないのに花が揺れる。振り返らずに、青空の下へと進む逢真を見送るように、赤い花がゆれていた。
大成功
🔵🔵🔵
箒星・仄々
失われた文明の遺産さん
さぞ寂しかったでしょう
お可哀想に
事情は気になりますが
やるべき事を
骸魂さんを還し
機械さんをお助けし
世界を救いましょう
炎の魔力で蛍火
浮遊する灯に
一面の曼殊沙華
雰囲気満点で幽世らしいです
世界の歪みが生んだ迷宮
即ちその歪みが何処かにある筈
竪琴の弦をポロン
ループする閉じた空間なら
同じ音が返って来るでしょう
そしておそらく或る方向から返ってくる音が
他の音に比べて
戻りが少し早いか遅いはず
そこに歪みがあります
UCや風の魔力を使用
音を感知
全身の毛や髭で振動も
何度か繰り返して当たりをつけたら
ランさんに立ち乗りし
魔力纏い歪みへ突撃
UCで攻撃力強化
空間をばりんを割って
或いはぽよんとすり抜けて脱出
●ほたる火、はなぞの、ひびくおと
箒星・仄々(ケットシーのシンフォニア・f07689)は説明を受けたオブリビオンと骸魂について考える。『古代』と呼ばれるほどの旧い、古い歴史があるのであろうそれ。
失われた文明の遺産さん。どれほど長い月日を過ごしたのでしょうか。さぞ寂しかったでしょう。……お可哀そうに。
如何なる理由があって今の事態になってしまったのかは気になりますが、まずはやるべきことを。骸魂さんには骸の海に還っていただいて、取り憑かれてしまった古代の機械さんをお助けし。そう、ひいてはこの世界の崩壊を止めるという、大切な仕事があるのですから。
さあ。
仄々はほうと息をつく。まずはこの暗い道に灯りを。
炎の魔力はぽつぽつと灯り、蛍火に。仄々の行く先を、足元を柔らかく照らし出す。
「ああ──」
淡い光が、一面の曼珠沙華を幻想的に見せていた。
(まさに幽世、という雰囲気ですね)
普段なら東洋妖怪などが嬉々として驚かしにくるのだろう。今はそんな場合ではないが。
さて、いつまでも風景を眺めているわけにもいかない。
仄々は改めて周囲を見渡す。終わりのない花の園。崩壊する世界の歪みが生んだ迷宮。……歪みから生まれたというのなら、即ちその歪みがどこかにあるはず。
ポロン、と仄々は竪琴を鳴らしてみる。弦をひとつだけ弾いた音は周囲に響き、すぐにまた静寂が戻ってくる。ポロン。もうひとつ。反響する音は、どこまでも続くように見える景色とは反対に、どこかすぐそこで跳ね返ってきているように聴こえる。まるでまあるいホールの中にいるように。
ポロン。少しだけ移動して、もう一度竪琴を奏でてみる。ケットシー全身のもふもふ毛皮にも、おひげの先までも神経を尖らせて。返ってくる音に耳を澄ませる。
音とはつまり、空気の振動。風の流れ。仄々はまた少し移動しては竪琴を奏でる。ポロン。幾度目か。
はじめはまあるく、どこからも同じように反響していた音が、あるところからズレはじめた。近付くごとにそのズレは分かりやすくなっていく。この閉じた空間の歪み。完全な丸ではない、いびつになったその部分。
「そこ……ですね」
仄々は前方斜め上の空間に狙いを定め、ランさん(正式名称はカッツェンランツェ、ねこのやり)(全長5mあるおっきなお魚さんである)にさっと立ち乗りする。
行きますよ、と勢いつけて。魔力で攻撃力を底上げしたランさんは、仄々を乗せてただの空間にしか見えないそこに突っ込む。
すると。
かしゃん。
薄い硝子細工が割れるような音がして、何もなかったそこに穴が開いた。
からからと空の破片が散っていく。仄々はそれを横目に見ながら一直線、赤い花園から青空の広がる外へと脱出したのだった。
成功
🔵🔵🔴
エメラ・アーヴェスピア
あら、古代機械?それは気になるわね、一体どんなものなのかしら
調べる為にもしっかりで撃滅しないと、ね
…それにしてもカクリヨは本当に不安定よね…
さて、よくわからない迷宮ね…とりあえず『ここに始まるは我が戦場』よ
ドローンを大量に間隔をあけて配備して【偵察】、【情報収集】よ
他にも隠されたものが無いか【失せ物探し】、罠が無いかの【罠使い】の知識ね
そしてドローン自体を目印に迷宮を歩いてみましょうか
この迷宮、先にどんなものがあるのか…そもそも抜けられるのかしら…?
…さぁ、猟兵の仕事を始めましょう
※アドリブ・絡み歓迎
●うかび、さがし、とんで
あら。古代機械、ですって?
グリモア猟兵の説明を聞いたエメラ・アーヴェスピア(歩く魔導蒸気兵器庫・f03904)はその言葉に興味をひかれる。それは、気になる。
(一体どんなものなのかしら)
機械と言っても色々あるし、兵器にしても古代のものであるとなれば、現在では失われた技術が使われているものもあるかもしれない。
是非とも調べさせてもらいたい。
(その為にも、オブリビオンはしっかりと撃滅しないとね)
やらなければならないことは確認しておく。……それにしても、カクリヨって本当に不安定よね……。
カタストロフの尽きないこの世界を思って、エメラはほう、とひとつ小さなため息をつく。
さて。
ふわりと金髪をなびかせたエメラはもう一度辺りを見回す。見渡す限り咲き乱れる赤い花。薄暗く、遠くは見通せない。
「よく分からない迷宮ね……」
壁があるなら壁沿いに行けばどこかに出口があるのだろうけど、そうでもない。ただひたすらに花と、花に囲まれた一本道が続くばかりだ。
「ま、とりあえず」
こん、かこん、ころん。エメラが取り出したのはどこにでもあるエネルギードリンク缶……のように見えるが、中には機械が詰まっているそれ。投げ出されたそれらは地面に落ちてぶつかる前に変形し、偵察用魔導蒸気ドローンの姿になる。
次々と空中に放り出されたそれらは一定の間隔をおいて周囲に配備される。
隠されたものはないかしら?
トラップはない?
生体反応は?
少しずつ警戒の範囲を広げるが、特に何も見つかるものはない。安全を確認すると、エメラはゆっくりと一本道を進んでいく。展開したドローンの位置は変えない。そうして、少し進むごとにまた新しいドローンを数体ずつ放っていく。こうすれば、少なくとも一度行った場所に戻ることはないはずだ。
(この迷宮……)
かさり、かさり。進むごとに、足元の葉が揺れる。花がゆらゆらと、重い頭を揺らす。
その道の先にどんなものがあるのか……それとも、先なんてないのかしら……?
まさか!
エメラは脳裏によぎった自分の言葉を否定する。迷宮である以上どこかに出口はある。抜けられないはずがないのだ。
「さあ、猟兵の仕事を始めましょう」
まずは、この迷宮を踏破することからね。
歩を進めるごとに展開したドローンは百を超えた。それらすべてを同時に制御するのはなかなかに集中力の要る作業だが、そこは腕の見せ所だ。真っ直ぐに続いているように見えるその道を歩き続けることしばし、それは見え始めた。
「……最初に出したドローン」
ぐるりと一周して、スタート地点に戻ろうとしていた。なるほど、終わりのないようにもみえる迷宮……だがしかし、そこがスタートであり終わりであるということは、エメラが今いる場所こそが、ここまで一度も見えなかった道と道の継ぎ目である可能性が高い。
さらに偵察用ドローンを追加して、慎重に周囲を探る。あと数メートルの範囲に、必ず『ソレ』があるはずだ。
果たして。
スムーズに飛んでいたはずのドローンの一つが、ゆらりと歪な動きをみせる。ごく僅かな、普通なら見落としてもおかしくない、わずかな揺らぎ。エメラはそれを見逃さなかった。
「……そこ、かしら?」
そっと、エメラはドローンが引っかかったように見えたその方向へと踏み込む。
ふぅっ。
強い風が吹き抜けたような心地がして、エメラは軽く息を呑んだ。足元は草ではなく石畳。今までの薄暗い空間から、急に青空の下へと踏み出していた。
「ん。正解……みたいね」
迷宮からは無事脱出できた。
ところでドローンはどうなってしまっただろうか……と意識を戻すと、さっきまでに配備したその全てがエメラの周囲に集合していた。ぶつかっていないのが不思議なくらいだが、機能はそのままにちゃんと作動していた。墜ちたものも壊れたものもない。エメラが迷宮を抜けたのと同時にあの迷宮から出てきたのだろう。良かった。
胸をなでおろす。さあ、しかし、仕事の本番はここからだ。
エメラは改めて気合を入れ直した。
大成功
🔵🔵🔵
杼糸・絡新婦
ん~なかなかの絶景。
さて、どうしていこうかなあ。
【第六感】を頼りに進んでいく。
錬成カミヤドリで鋼糸を召喚し、
適当な距離で曼珠沙華に巻きつけて
一応、目印にしていく。
彼岸に咲く花でもあるけれど、
この世界ではどうとでも取れるわなあ。
兵器のお役目御免とかええことでもあるけれど、
それで忘れられるのも物であるが故、悲しいところよな。
とはいえ、今はひとまず進みましょか。
●さわり、こころ、むすんで
「ん〜、なかなかの絶景」
ぐるり、辺りを見回すのは杼糸・絡新婦(繰るモノ・f01494)。見渡す限りの赤いはな。一面に敷き詰められた曼珠沙華。その中を一本だけ伸びる道を、絡新婦はゆく。
さて、どうしていこうかなあ。
考えながらでもいいだろう。絡新婦はあやとりの糸を繰るように、鋼糸を召喚しては曼珠沙華の茎に結びつけていく。適当な距離ごとに結んでいけば、目印になるだろう。あとはどうなるか、第六感任せに歩いてみてから考えよう。
それにしても、いい眺めだ。
曼珠沙華……別の名を彼岸花。その名が示す彼岸とはつまり、現世とは異なる世界、いわゆる異世──あの世のことだ。
とは言っても、ここはカクリヨファンタズム。UDCアースから見れば彼岸と言われてもおかしくないこの世界ではまぁ……どうとでも取れるわなあ。
あの世もこの世も。彼岸も此岸も。ゆらゆら揺れる、あのはなみたいに。
さわり、さわり、絡新婦の歩みに合わせてはなは揺れる。
絡新婦はこの迷宮を抜けた先に在るという古の兵器に思いを馳せる。兵器というのはひとを傷付けるためのものだ。……それがお役御免いうのはええことでもあるけど。
ヤドリガミである絡新婦には、それでも、それが少し寂しい。物であるが故に、役目が終われば忘れられてしまうことが、悲しい。
(……悲しいところよな)
物であればこそ、使われて役目を終えるのも本望だ。だがそれでも……。
ふるる、と首を振って、絡新婦は考えを振り払う。
とはいえ、考えても仕方がない。今はひとまず、進みましょか。
さわ、さわり。指先で操る鋼糸に引かれ、花が揺れる。もういくつめの目印だったか。数えてはいないが、その新しい結び目は確かに間違わずに迷宮を進んでいることを示している。……しかし、すでにそこそこの距離を歩いた気がするが、景色は一向に変わらない。
あとどんだけ歩くのやろなあ?
分からないが絡新婦の勘もまた、糸の目印同様にまだ正しい道を進んでいると告げている。
深く悩むこともあるまい。道は一本道だ。しばしこの絶景を堪能しながら歩いたって、どこからも誰からもバチが当たりやしなかろう──
大成功
🔵🔵🔵
水澤・怜
闇の中一面の彼岸花と、町を焼く火と流れる血…一面の赤
目の前の光景が一瞬かつての故郷の光景と重なる
このまま迷い続けたら…ふと気が揺らぐも
それを引き戻したのは何時からか足元にいた首に桜飾りと紅白のしめ縄を巻く白犬…故郷の幻朧桜の成れの果て
『あの時君に力を貸したのは私なんだから!しっかりしてよ!』
(だが【シロ=犬】と認識している怜には何かよく分からんけどシロがわんわん吠えてるようにしか見えないのだった。残念!)
…だが確かにここでは視覚中心の俺よりお前の五感の方が有利かもしれん
少し力を借りられるか?
UCで共有したシロの感覚を頼りに歩き、自身も地面に印を刻みつつ【情報収集】
突破口を見つけられればいいが…
●いけっちゃ、わん、わん
月明かりもなく、星も一つもない暗闇。その闇の中、一面の曼珠沙華が咲いている。地面を埋め尽くすほどのあか、赤、赤──。
それはかつての故郷を──炎に巻かれる町と、そこに流れた真っ赤な血を──彷彿とさせて。
ぐらり。水澤・怜(春宵花影・f27330)は地面がゆらぐような感覚に陥る。
このあかがどこまでもつづくのだろうか……?
このままさまよいつづけたら、
この赤い朱いあかいろにのまれてしまったら……?
『わん!』
揺らぎかけた精神を引き戻したのは、何時からか足元にいた小さな白犬の声だった。
『わん!!』
その首には桜飾りと、紅白のしめ縄。よく見ればその姿はうっすらと透けていて、ただの犬でないことが分かる。しかしてその正体は、怜の故郷にかつて咲いていた幻朧桜の成れの果てである。
影朧の襲撃で町が燃えたとき、駆けつけた怜に力を貸したのも彼女であった。
(あの時君に力を貸したのは私なんだから!)
『わん!!!』
(しっかりしてよ!)
『わん!!!!』
「シロ……そんなに吠えなくても……いや、すまない。俺は正気に戻った」
……懸命な皆さんにはもうお分かりだろうが、この白犬……一生懸命語りかけているが、その全てが怜には『わん!』というただの犬の鳴き声にしか聞こえていないのである。怜からしてみればよく分からんけどシロがわんわん吠えている。分からんけど。
……いや。
「いや、待てよ……」
だが冷静になってみれば、こんな薄暗い迷宮である。確かにここでは視覚情報を中心に見てしまう人間の俺より、犬である(ではない)シロの五感を頼るほうが有利かもしれん。
目の付け所は悪くないと思う。怜は膝を折り、真摯にシロに話しかける。
「少し力を借りられるか、シロ」
『わん!(シロじゃないっての!)』
「(まるで『分かった』と答えたようだ!)よし、頼むぞ、シロ!」
『わん!!(だからシロじゃな……仕方ないなあ!!)』
……多少(?)の行き違いはあれど。
シロと感覚を共有した怜は慎重に迷宮を歩み進んでいく。念の為、ときどき地面に印をつけながら、一本道をゆく。
歩いても歩いても、景色が変わる様子はない。だが、印をつけた場所を通らないところをみると、今のところ同じ場所をぐるぐる歩かされているわけでもなさそうだ。
「突破口を見つけられればいいが……」
怜はシロと共有した五感に神経を集中させる。ヒトより鋭いヒトならざるものの感覚が伝わってくる。目には見えない……匂い?
いや、気配と言うべきだろうか。何分人にはない感覚なので説明するのは難しいが、それは確かに。
「この、辺り……」
そっと、手を伸ばしてみる。一面の曼珠沙華。そのはなの香りにはもはや鼻が慣れてしまったが、ある一点からだけ、別の匂いがするのだ。それは、赤い花とはもっと別の……慣れ親しんだ、薄紅色のはなの香り。
(桜の、気配……?)
『わん!』
何かを警戒するようなシロの声。それをきっかけにしたように、
「……っ?!」
世界がぐるりと反転したような感覚に襲われた怜は、気付けば──石畳の上。広がる青空の下に立っていた。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『原初の古代機械兵器』
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POW : ここから先には通さんよ……
単純で重い【UC、異能、装備効果を無効にする機体から】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : もう、誰も亡くしたくないの!
【UC、異能、装備効果を無力化する重火器】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : キサマラハ、マタワタシカラウバウノカ?
【UC、異能、装備効果を反射する脚部の龍】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠大神・狼煙」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●おかえり
(嗚呼、社守のからくり) (神守のからくり)
(わたしはかえってきた)
(かえってきた)
(お前はもうずっとここで、守り続けていてくれたのだね)
(おまえは) (いてくれたのだね)
(ありがとう) (ありがとう)
(ごめんね) (ごめんね)
・・・
が、響く──
●古代兵器
キリキリ……キシッ キリキリ……キッ ギッ……
それは軋んだような音を立てて猟兵たちの前に立ちふさがる。
響くのは複数の声。
『コの……先は……聖域』 「こないで」
『神のやしろ』 『立ち入ることまかりならぬ』
「傷付けたくないの」 『触れるな』
『ダマれ』 「二度と」 「お願い」
『 近 づ く な ! ! 』
咆哮。
この機械が一体如何なる時代の如何なる文明によるものなのか──全くの不明ながらも、それは【敵】を認識することによって急速に動きを取り戻していく。軋む音ももはや無く、明確な敵意をもって猟兵たちと対峙する。
さあ、猟兵たちよ。なすべきと信じることをなすがいい。
▼マスターより
予告どおりなんかでっかい古代兵器です。物騒ですね。
とは言えこの世界のオブリビオンですので、正体はいつも通り妖怪(古代兵器さん)+骸魂。みんなで叩けば怖くない。ダメージさえ入れば骸魂は骸の海へと還り、旧き古代兵器は沈黙します(するはずです)。
敵のUCにいい感じに対応したいい感じのプレイングをするとなんかボーナス的なものが発生すると思います。
杼糸・絡新婦
今なおお役目果たすその姿、立派立派
幕引きなれど、派手にいこうや、
最後の大舞台、後悔せんようにな!
鋼糸を絡めるようにして攻撃し、
【フェイント】や「ほれほれ、この程度かい?」と
【挑発】をいれ敵の意識をこちらへ誘う、
また味方への攻撃を【かばう】ことで、
こちらへきた攻撃を【見切り】でタイミングを図り
脱力して受け止め、
オペラツィオン・マカブルを発動させる。
排し、返せサイギョウ。
●カラリ、からくり
「ははあ、門番かい」
咆える古代兵器を前に、なるほどなるほど、と杼糸・絡新婦(繰るモノ・f01494)は頷く。お役御免になってからどれほどの時間があったのだろう。古代と呼ばれる旧くからその背後にある聖域とやらを守ってきたのだろう。ああ、よくぞ。
「今なおお役目果たすその姿、立派立派」
だがしかし、その役目はもう、終えねばならないのだ。
「幕引きなれど」
否、これで幕引きなればこそ。派手にいこうや。
「最後の大舞台、後悔せんようにな!」
絡新婦はその本体でもある鋼糸を操る。機械の巨躯を翻弄するように、ときにフェイントを入れながら絡めとるように攻撃を繰り返す。
「ほれ、この程度かい?」
からかうように言っては、素早く身をかわしてその攻撃をいなしていく。ほんの数秒前に絡新婦がいた空間に、重火器の弾丸の雨が降り注いでいく。まともに喰らえば戦闘不能に陥るのは避けられないだろう。だが、その威力を確認できた。
いける。
「来ぃや」
一声。
鋼糸を繰りながら銃撃の間隙を縫う。機を図る。リスクの大きい技だ、失敗はありえない。煽り、躱し、誘導し、また避ける。繰り返し続け機を伺う。
そしてその銃口がまた絡新婦を捉えたその刹那。
ほんの一瞬。
絡新婦は全身の力を抜いた。完全な脱力状態でなければこのユーベルコードは発動しない。失敗すれば蜂の巣になるのはほぼ間違いないが、成功すれば敵の攻撃を完全に無効化できる。
【オペラツィン・マカブル】──!
銃撃の衝撃で身体が浮いたようにも見えただろう。実際、吸い込まれるように弾丸はその身体を撃ち抜いた。……ように見えた。
脱力状態から戻った絡新婦はぱちり、と目を見開く。大きなダメージを確かに“受けた”。だがそれを“引き受ける”のは彼ではない。
「排し、返せ、」
それは狐人の姿をしたからくり人形。仮衣を着た風雅な外見のそれは、かつて絡新婦の持ち主が作ったものを模している。その名は、
「サイギョウ──!」
応じてサイギョウからは発されるエネルギーはまさしく今オブリビオンから受けた攻撃と同等のそれ。
『オオ、ォオ……!!!』
直撃を受けた古代兵器は苦悶の声を上げる。ガジャリ、と、どこかの部品が崩れる音がした。
「……」
絡新婦はそれをただ黙って見上げた。兵器はもう、こちらを認識できていないようだったので。
(お役目はもう、終わったんや)
本来ならもうとっくに、終わったはずのモノに。どうか、このからくり仕掛けの門番に、静かな眠りが戻らんことを。
大成功
🔵🔵🔵
エメラ・アーヴェスピア
これはまた…見た事のない様式ね
それにどうやら…強力な効果もある、と
気を抜くとやられるのはこちらね、気を引き締めていきましょう
攻撃の大部分をUCによる兵器召喚で補っている身としては本当に相性が悪いわね…!
とりあえず、当たらなければなんとかなりそうね
「騎乗鎧」に騎乗し、ローラー【ダッシュ】で距離を取り、「武装群」から騎乗鎧用の重火器を召喚装備、射撃を放つわ
さらに『我が砲火は未来の為に』、中型の狙撃砲(命中力重視)を召喚、本体を騎乗鎧を追尾するように設定し、移動砲台として砲撃も追加ね
砲撃に関しては脚部に当てない様に本体狙いよ
さぁ、撃ち砕かせてもらうわ
※アドリブ・絡み歓迎
●キリキリ、きしみ
「これはまた……」
眼前の巨大な古代兵器を前にして、エメラ・アーヴェスピア(歩く魔導蒸気兵器庫・f03904)は思わず嘆息する。
「見たことのない様式ね」
古代の機械と聞いて確かに興味はあったが、これほどのものとは。しかもどうやらかなり物騒な能力を備えているときた。
(気を抜くとやられるのはこちらね)
改めてエメラは気を引き締める。
『ヲ、ォオォオオオ!!』
ぶん、と大振りな攻撃が目の前に振り下ろされる。古代兵器の腕部によるそれは、容易く地面に大穴を穿った。
(なんてパワーなのよ!)
しかも、攻撃手段の大部分をユーベルコードによる兵器召喚に頼るエメラには、ユーベルコードを封じてくる兵器の攻撃はあまりに相性が悪い。一度当たればそれだけでほぼ無力化、ともなりかねない。
とは言え、相手の攻撃がかなり単調であることは既に見た。
(……とりあえず、当たらなければなんとかなりそうね)
そう判断したエメラは騎乗鎧に騎乗し、ローラーダッシュで高速で古代兵器から距離を置く。彼女の騎乗鎧──陸戦型高機動魔導蒸気騎乗鎧は元々高速戦闘を想定した魔導蒸気兵器だ。回避に専念すれば絶対に敵の攻撃には当たらない自信がある。
だが無論、ただ逃げ回るつもりなど毛頭ない。工房から武装を転送、騎乗鎧用の重火器を召喚し装備させ射撃攻撃を放つ。さらには【我が砲火は未来の為に】を発動し、中型狙撃砲を召喚する。本体は騎乗鎧を追尾するように設定してやれば、移動砲台としての砲撃が可能になる。脚部には当てないように、確実に本体を狙う──!
「さぁ、撃ち砕かせてもらうわ」
エメラの声を引き金に、一斉に古代兵器へと銃弾が降り注ぐ。
『……の、……れぇえええ!!』
古代兵器はのたうち、エメラと騎乗鎧を攻撃すべく腕を振り回すが、高速で回避軌道を描く二足のそれを捉えることはついぞなかった。闇雲に周辺の地形を破壊することにしかならない。
ガシャリ、グシャリ、と大きな音を立てては空振り、その隙をついた狙撃砲による攻撃をただ一方的に受けるしかない。
『通さん、ここは……通さん……』
それでも古代兵器は絞り出すように吼え、攻撃を繰り返す。
ただこの場所を守るためだけに造られた兵器。当時の技術の粋が詰められているのであろう機械。エメラの知識と技術を持ってしても解析し再現できるかどうか分からない古代の叡智。
猟兵が視界に入ればただ【敵】と認識して暴れまわるその姿からは、ただ想像するしかできないが、きっとかつては……。
──いや。
今は考えまい。
軽く頭を振り、考えを振り払うと、エメラは次の攻撃の構えをとった。
大成功
🔵🔵🔵
箒星・仄々
嘗て世界を救った兵器さんも
兵器さんを覚えていた骸魂さんも
幽世の滅びを望む筈がありません
お止めしましょう
風、炎、水の魔力で水蒸気を拡散
霧を発生
因みに魔力で生んでいますが
自然現象なので無効化できないですよ(えへん
霧は間もなく晴れるでしょう…
その間に炎と水で光の屈折率操作し光学迷彩
更に風で音を操作
足音や息遣いが漏れぬ様に
五感以外のセンサーが発動する迄の
此方を見失った僅かな間に
疾風の速さで駆け接敵
その関節部や目へ炎の刺突
過熱を誘います
内部へのUC…無効化できますか?
兵器さん
一人静かにあるのはお辛かったでしょうか?
御免なさい
骸魂さん
兵器さんを覚えていて下さり
ありがとうございます
海でお休みを
終幕
鎮魂の調べ
●クルリ、ふりまわし
彼らが一体何をしたというのだろう。何を望むというのだろう。
咆える古代兵器を前に、箒星・仄々(ケットシーのシンフォニア・f07689)は考える。
誰かの為に戦ったはずの兵器も、その兵器のことを覚えていて……縁ある者として戻ってきた骸魂も。そのどちらだって、この世界の崩壊なんて望むはずがないのに。誰も望まないことを、結果的に引き起こしてしまっている彼らを、ならば自分たちこそが、
「……お止めしましょう」
静かに決意を口にした仄々は、魔力を編みはじめる。水の魔力で空気中の水分を集め、火の魔力で熱し、風の魔力に乗せて霧を発生させる。霧はあっという間に辺りを覆い尽くし、少なくとも肉眼ではもはや互いに互いを認識できないほどである。
もちろん、これはただの霧でしかない。故にこそユーベルコードを無効にする攻撃では無効にできず……一吹きの風でも霧散するし、センサーが起動すれば視界を遮るだけの役割すら果たさなくなる。無論、時間経過でもゆっくりと霧は晴れていくだろう。
だが仄々が必要としたのはそれまでのわずかな時間のみだ。
もう一度、水の魔力を手繰り炎と合わせた光の屈折操作で光学迷彩を作り出し、さらには風の魔法で音を操れば、足音や息遣いさえ含めて、仄々の全てが古代兵器の死角へと消える。
(霧は間もなく晴れるでしょう……)
仄々の思った通り、古代兵器が大きくその腕部を振り回したことにより、霧は一瞬の間に吹き飛んだ。だが、その攻撃の振るわれた場所……霧を出す前に仄々がいたその場所に、仄々はもういない。
『──!!』
疾風。
兵器が霧に紛れて消えた仄々を再認識するより速く。まさに風の如き速度で接敵する。炎の魔力で熱を帯びた刺突は兵器の関節部や、露出したセンサー類を的確に狙って繰り出される。
応じようとする兵器はしかし、知覚できない小さなケットシーを正確に狙うことはできない。乱暴に腕を振り回しては辺りを破壊するだけだ。その腕も、関節部への重ねての攻撃で一部が動かなくなりつつある。
(……兵器さん)
名前は分からない、ただそれに心の中で話しかける。
ひとり静かに在るのお辛かったでしょうか?
(そして骸魂さん)
兵器さんを覚えていて下さり、ありがとうございます。きっと、兵器さんも嬉しかったことでしょう。
けれど。けれど彼らの再会は──あってはならなかったことなのだ。
(どうか)
せめて骸の海で安らかにおやすみを。
祈りを込めて、仄々は鎮魂歌を奏でる。どうか彼らがこれ以上、苦しまないですみますように。
大成功
🔵🔵🔵
水澤・怜
「傷付けたくない」という言葉が何を傷つけたくないのかは俺には分からない
…が
骸魂と機械の双方が本当に戦いを望んでいるのかは疑問だな
もし骸魂が一方的に機械を操り戦わせているのであれば…止めねばなるまい
相手の攻撃が来る前に【先制攻撃・早業】で敵の攻撃の前にUC発動
青藍で【投擲・スナイパー・マヒ攻撃】
【二回攻撃】で手数を増やす
機械の駆動部、関節部を集中して狙い動きを阻害(UC使用不可時も同じ
敵の攻撃は【残像・早業・見切り】で慎重に回避
能力使用不能時接近戦は避ける
お前の立つその先に何があるかは知らん
だが…お前の相方は本当に戦いを望んでいるのか?
それで馴染みなどとは…笑わせるな
追加ダメージが入れば御の字か
●ケリを、つけに
水澤・怜(春宵花影・f27330)は古代兵器の声を聴く。
曰く、『触れるな』
曰く、「こないで」
曰く、『神のやしろ』
曰く、──「傷つけたくない」
その言葉が何を表しているのか。誰が、何を傷つけたくないと言っているのかは分からない。……だが、どうやらこの声は機械と骸魂のそれぞれの声だ。
ひとつの声は「傷つけたくない」、と。こうなると、双方が本当に戦いを望んでいるかが疑問になってくるな。もし、骸魂が取り憑いたことによって、一方的に機械を操り戦わせているのであれば……止めねばなるまい。
怜は駆ける。兵器の一撃は重いが、その分単調で読みやすい。素早く、しかし慎重に攻撃を回避し、距離をとる。地面に大穴を穿つほどの攻撃をまともに喰らってはいられない。
彼が手に携えているのは青藍──桜が刻印された、本来は医療用のメスだ。だがその強度は投擲武器としての使用にも耐えるほどのものである。
一撃、二撃と迫りくる攻撃を見切りながら、怜はその攻撃を繰り出している腕の関節部を狙ってメスを放つ。形状はどうあれ、稼働部は多くの生体、機械に共通した弱点だ。さらに発動したユーベルコードは、命中した相手の身体に棘を生やし、その動きを制限する。
キチ、カキリ。
ぎ。 ガ ギリリ。
的確に狙われ続けた腕の関節が、とうとう悲鳴のような軋みを上げて崩壊し、
『この、 先 』
それでも何か言葉を続けようとする兵器を、怜は静かに見上げる。
「お前の立つその先に何があるかは知らん」
遥か古代の兵器が守るものが何なのかなど、知りもしない。だがしかし。
「だが……お前の相方は本当に戦いを望んでいるのか?」
グジャリ。
またひとつ、音を立てて兵器のからだが崩れていく。
『ォオ、ォ、オオオ……』
少しだけ弱々しくなった咆哮に紛れて、またひと片、
──「ごめんなさい」
小さな声が聴こえた。
やはり、声の主は戦いなど望んでいないのだ。機械と骸魂が一つになったオブリビオン──だが、その意志はひとつでは、ない。
「それで“馴染み”として帰ってきたなどと……笑わせるな」
縁を手繰り寄せ、それで『ひとつになった』など、お笑い草だ。誰にも望まれていない戦いを繰り広げ、さらには誰も望んでいない世界の崩壊を招きながら。
……加えて言うなら、この戦いを終えても、誰の望みも叶いはしないというのに。
「もう終わりにしよう」
この無意味な戦いを。望まれない戦いを。
桜の精は、戦いを止めるために、またひとつメスを投げた。
大成功
🔵🔵🔵
朱酉・逢真
心情)ひ、ひ。撃つかい? いいよォ、撃っても。どうせ死にゃあしない。マ・近づくなってンなら近づかんよゥ。ああ、それよかハナシをしようぜ。
行動)撃ってくるってンなら眷属どもを楯にするが、そうでなけりゃあそのまま話そう。近づかず、座り込んでな。なァお前さん、名前はなんだい。ここにゃアどなたさんが祀られてンだい? お前さんはなンでここを守ってる? 二度とッつうなら誰かが前に来たのかね。いまは誰が帰ってきたんだい。語っておくれ、その未練。心残り。思い出。目的。ああ、ハナシを聞かせてくれよ。すべて吐き出して俺に見せとくれ。お前さんを教えておくれ。美徳醜悪執着後悔。ぜェんぶ赦(*あい)して労ろう。
●……コトン。
「こないで」『近づくな』「こないで」『触れるな』
……繰り返される言葉。腕をもがれ、身体は軋み、もはやほぼ動けなくなった兵器から漏れるのは、ヒトの如き言の葉の数々。それでも敵意を露わに眼前の【敵】へと重火器の銃口を向ける。
だがしかしそれを見て、朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)は口の端を歪めた。
「ひ、ひ。撃つかい?」
逢真はにぃ、と笑う。
「いいよォ、撃っても」
どうせ死にやしない。死ねやしないのだ。そんなもので気が済むのならいくらでも撃てばいい。
だが。
「マ・近づくなってンなら近づかんよゥ」
へらり、笑って見せて。なァ。お前さん。言いたいことはそれだけかい?
喋るってことは、何か言いたいことがあるんじゃないのか。
寄るな、触るな、近づくなってンで三拍子。嗚呼、そりゃ分かったさ。寄らんし触らんし近づかん。それでいんならハナシをしようや。
すとん、と逢真はその場に座り込む。まるでその場で花見の酒盛りでも始めようとでも言うかのように。
「なァ。お前さんの名前はなんだい」
おそらくは予想外だったのであろう言葉に、機械の動きが止まる。眼前のそれは猟兵である。つまりはオブリビオンにとっての天敵である──しかし、近づくなと言うなら近づかない、と言うこれは。一切の攻撃の素振りを見せないこれは。果たして敵であるのか、否か。
これまであまりに当然に機械的な動きをしていた兵器が、不自然に動きを緩めた。
それを見ながら逢真はさらに言葉を続ける。
「ここにゃアどなたさんが祀られてンだい?」
「なンでここを守ってる?」
「さっき、『二度と』ッつうたのなんだい。誰かが前に来たのかい?」
「いまは誰が帰ってきたんだい」
次々に、投げかける。さあ、語っておくれ、教えておくれ。その未練、心残り、思い出も、目的も全部ぜんぶ。そのハナシを聞かせておくれ。全て吐き出して俺に見せとくれ。何も心配するこたない。美徳醜悪執着後悔。ぜェんぶ赦(*あい)して労ろう。
・・・・
なァ、お前さんは、なんだい?
その、逢真の問いかけに。
『……二度と』『二度と失うまいと』
「ごめんなさい」 「ごめんなさい」
二重の声が、重なって響いた。
しわがれた男の声は“守護者”と己を呼んだ。名ではない。ただその機能として社とそこにあるものを守るのだと。
涼やかな女の声は木霊を名乗った。ただ旧く、かみやしろの奥に咲いた桜の──神木と呼ばれる木に宿るものであったと。
帰ってきてしまった、と女の声は嘆いた。守るものがなければ眠っていたはずのものを起こしてしまった、と。
失いたくなかった、と男の声は吐露した。否、今も失いたくはない、と。彼女を守ることこそが、己の存在の意義であるのだから、と──
「そゥかい」
全ての話を聞いた逢真は、ゆっくりとうなずいた。
ああ、大丈夫だ。何も怖いことなぞない。あるべき姿に戻るだけだ。特に嬢ちゃんは──もう、還りたがってるンだから。
逢真はそっと手をかざす。彼らの未練は十分に喰った。神威でもって、終わらせよう。痛みはない。苦しみもない。骸魂を導いてやって──それで。全てが終いだ。
残った古代のからくりも、役割を終えたとばかりに動きを止めた。
最後にひとつ。
コトン、と音を立てて、中枢パーツが地面に転げ落ちた。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 日常
『忘れられた神域』
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POW : 神社に参拝する
SPD : 御神籤を引く、桜を愛でる
WIZ : 花より団子、飲食を楽しむ
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●境内にて
果たして世界は崩壊の危機をまぬがれ。
現在のカクリヨファンタズム、その場所には遥か古代からほぼ変わらぬ姿の神社がある。
かつてと違う点があるとすれば、ご神木と呼ばれていた木が枯れてしまっていること、それと当然ながら行き交うヒトが妖怪に変わったことだろうか。ただ、境内中に季節を無視して狂い咲く桜は──伝えられるところによると──昔からこの神社に咲いていたものだという。
境内を散歩するもよし、茶屋に立ち寄ってみるもよし。次にいつ訪れられるか分からないこの場所で、あとほんの僅かの時間、あなたの好きなように過ごすといい。
箒星・仄々
お二方が守り慈しまれたこの場所を
思い思いに過ごすことが
何よりの弔いですね
序に妖怪さんたちとも交流
沢山喜びや愛情を感じていただけると嬉しいです
まずはお参り
妖怪さんたちの幸せと共に
絡繰さん木霊さんの安寧を祈願
今は場所は違うかもしれませんが
いつかは
神主さんがおられば
神社の謂れや
神木、絡繰さんの事をお尋ねします
少々気になりましたので
もし枯れたご神木に芽吹き
或いはその根元に新たな芽吹きがあれば
些少ですが力添えをさせて下さい
三魔力を注ぎ
芽の気・血・水を整えます
魔力漢方~
いつの日か楽しみにしていますね
境内の桜はご神木さんの同朋や子供達でしょうか
お花見をされている妖怪さん達にご相伴
弦を爪弾き賑やかに過ごします
●思いやりと、共に
さて、どうやってこの時間を過ごそうか。箒星・仄々(ケットシーのシンフォニア・f07689)はひらひら散る桜の花びらに鼻をくすぐられながら考える。
この神社を守っていた絡繰さん。守られていたご神木の木霊さん。お二方が守り慈しまれたこの場所での時間を、せっかくですからゆっくりと平和に満喫して帰るのが、きっと彼らへの何よりの弔いになると信じましょう。
まずはお参り。桜に囲まれた石畳の参道を抜けて、神社のほうへ。立て札に書かれた通りの手順でしっかりと。ケットシーの小さな手を合わせて祈る。参道でもすれ違いに挨拶に応じてくれた妖怪さんたちの幸せも、絡繰さんと木霊さんの安寧も込めて心からの祈願を。
(今は違う場所かもしれませんが)
猟兵として、今は彼らを一緒にしておくわけにはいかなかったけれど、それでもいつかは、と。そう、願いを込めて。
お参りを済ませて、仄々は本殿の中をそっと覗き込む。神主さんはいらっしゃるでしょうか?
「はーいニャ」
……ニャ?
「神主をお呼びですニャ?」
ニャーんと出てきたのは猫又の神主さん。事情を聞くと、元々は神社の床下で暮らしていた三毛猫さんだったとか。それでUDCからのお引越しのときに人間のいなくなったこの土地で過ごすことにして……今では真似事ながら神主をやっている、と。
「それではちょっと、お伺いしたいのですが……」
かくかくしかじか。仄々はこの神社の謂れや、ご神木と絡繰について訊いてみる。しかし、神主さんは首を振る。
「吾輩が神主になったときにはもう、言い伝えは途絶えていましたのニャ。人間さんの持ってた古文書の一番古いのにも、ご神木はすでに枯れてたってあるニャ」
そもそもこの神社がいつからあるのかも、人間さん時代でも分かっていなかったらしい。人間から妖怪へと引き継がれたときの断絶以前にも、最初の人間さんが引き継いだときに何かしらの断絶があったらしく──
「絡繰っていうのも初めて聞いたニャ」
忘れられた遺跡、遥か古代の失われた文明──確かにそう聞いていた。
「……そうですか」
仄々はしょんぼりと耳と尻尾を垂らす。なんとなく分かってはいたが、誰も覚えていないのは悲しいことだ。
「あっ、でもですニャ。ご神木の場所は今でもちゃんとありますニャん!」
神主さんに教えられ、本殿よりさらに奥に踏み入れた仄々。確かにそこには立ち枯れたままの──不自然なほどに、枯れたままの大きな桜の木が、注連縄に飾られて立っていた。
そっと触れてみるが、命の息吹は感じない。だが、その幹にこつん、と額を当てた仄々に応えるように、周囲の桜たちがざわめいた。
ああ──そうでしたか。
彼女はもういなくとも、その子や同胞たちが、この神域に在る。この境内で感じる清浄な空気は、きっと彼らが在るから存在するのだ。
記憶も、記録も、もはやどこにも残ってはいない彼らのそれは──でも確かに、受け継がれているのだ。
そう納得した仄々は、もう一度参道まで戻ってくる。お花見を楽しんでいた妖怪さんたちのところへ。ご相伴に預かる代わりに、竪琴を取り出して。
「一曲いかがですか?」
やんや、やんやの宴会騒ぎ。仄々が爪弾く楽しげな音に、いいぞ、いいぞと声が上がる。喜びや愛情をもらった妖怪たちもご機嫌で。
そうして日が暮れていく。
どうかここにいるみんな、みんなにとって。今日が楽しい日として残りますように。
大成功
🔵🔵🔵
杼糸・絡新婦
(境内でサイギョウを踊らせながらのんびりしている)
曼珠沙華の後は桜かい、
ほんま色々楽しませてくれる場所でもあるなあ。
あれだけ派手にやったんや、
記憶にゃ残るで。
人の世であっても案外お話ぐらいで残るもんやで、
まあ、あんたさんらはのんびりしとき。
その方が、自分も楽しい記憶で残せるしな。
ほなサイギョウ、あと少し散歩でもしよか。
●モノ語りと、共に
石畳の上で踊るのは仮衣姿の狐人人形、サイギョウ。操るは杼糸・絡新婦(繰るモノ・f01494)。境内の片隅はなかなか居心地も好く、桜を見るに程よい青空。
「曼珠沙華のあとは桜かい、ほんま色々楽しませてくれる場所でもあるなあ」
赤い花の次は薄紅色。何やら花に縁付いた依頼であったことだな、と振り返る。初めは暗がりの曼珠沙華。あれも美しかったが、突き抜けた空の下で見上げる桜もまたよいものだ。
「……あれだけ派手にやったんや、記憶にゃ残るで」
神社の境内への入口には、長らく皆から『なんかのオブジェ』だとしか思われていなかったた古代のからくり。世界崩壊の瀬戸際で逃げ惑っているうちに何やらずいぶん形が変わったそれについての噂は、妖怪たちが口々に言い広めていく。
なあ。人の世であっても案外お話は残るもんやで。ここは人の世ではないが、伝えるものたちはいる。お話のはじめは、例えばそう、『むかしむかし、あるところに──』なんてな?
まあ、あんたさんらはのんびりしとき。その方が、自分も楽しい記憶で残せるしな。
「ほなサイギョウ、あと少し散歩でもしよか」
そう言うと、絡新婦は改めて辺りを見回した。行き交うのは妖怪。絡新婦と小柄なからくりの狐人が並んで歩いていても、誰もなんの違和感も覚えない。むしろ神社という場所柄にしっくりくるくらいだ。
桜の花は狂い咲いて永劫の花の盛り──
ゆっくり歩きながらの花見も、悪くはなかろう。
旧き社の境内を、いつか伝えられるであろう物語に思いを馳せながら。のんびり、ゆったり過ごしていった。
大成功
🔵🔵🔵
水澤・怜
咲き誇る桜、枯れた神木…世界は違うのにどこか故郷の光景と重なって
可能なら神木を見に行きたい
この木に何が起こり、何故こうなったのかは気になるが…
まぁ木霊は還ってしまったようだし今更知る由もないか
神木に語りかけるかのように独り言
俺の故郷にもかつて神木…町のシンボルの幻朧桜があった
俺はたまたま生き残り、たまたま桜から力を得た
…偶然得た力に溺れた事もあった
あの桜が何を思い何故俺に力を貸したのかは分からんが…
力を得た事も今ここにいる事もきっと何か意味があるのだろうと、今は思う
もしそちらにあの桜がいるのなら聞いて欲しいものだがな
『…私はここにいるよ?』
少し離れた桜の木の陰から一声、犬の鳴き声がした気がした
●思い出と、共に
辺りに咲き誇る──否、季節を無視して狂い咲く桜たちを前に、水澤・怜(春宵花影・f27330)は体が竦むのを感じた。ここはカクリヨファンタズム、全く別の場所だと理性では理解している。
だが──咲き誇る桜、枯れた神木……それは、サクラミラージュの己の故郷の光景とどこか重なってしまって。
足が向くままに境内を歩く。神社とはいえ、妖怪たちがかつていた人間を真似てその姿を維持しているだけの場所だ。怜がふらりと本殿の裏へと回っても咎めるものはいなかった。
「……これが、」
ご神木、と呼ばれていたもの。今は枯れてしまっている大きな桜の木。
(この木に何が起こったのか……)
分からないことだらけだ。宿っていたという木霊も還ってしまったようだし、今更知る由もないか。
半ばの諦めを抱えつつ、怜は立ち枯れた桜を見上げる。
「……俺の故郷にも、かつて神木……町のシンボルの幻朧桜があった」
サクラミラージュにあってはよくある町の風景。町の中心に咲く幻朧桜。それを囲んで生きる人々、生まれてくる桜の精たち。
だがその風景はある日──なんの前触れもなく、壊れた。町は焼け、中心にあった桜も今はない。だがその混乱の中、怜は生き残った。
「たまたまだ。俺はたまたま生き残り、たまたま桜から力を得た」
桜に語りかけるように、独り言を続ける。
「偶然得た力であったが故に……力に溺れたこともあった」
得た力を何に使うべきかを見失ったことがあった。ただひたすらに力を振るっていたことがあった。そうして戦い続けた先に……今がある。
「あの桜が何を思い、何故俺に力を貸したのかは分からんが……」
だが、きっと。力を得たことも今ここにいる事も、何か意味があるのだろうと今では思える。
どんな意味かは分からないが、と怜は苦笑する。それでもきっと無意味ではないと思うのだ。
「なあ……」
桜の木霊。もしそちらに彼──いや彼女? ともかく、あのときの、あの桜がそこにいるのなら訊いてほしいものだがな。
一体何故自分に。何故あのとき。どうして、なんの意味があって、と……。
なんの答えも期待していなかったその問いかけに、
((……私はここにいるよ?))
少し離れた桜の木の陰から一声、犬の鳴き声が応えた気がした。
大成功
🔵🔵🔵
朱酉・逢真
坊っちゃんと/f22865
心情)ああ、よく来た。よく来た。ここはいずこのかみやしろ。神と桜と守護者の墓場。ぜんぶが終わっちまったところさ。
いっちまえばエンドロール中だが、いっぺん閉じッとなかなか開かんってンでなァ。せっかくの機会と声かけたしだいさ。
行動)あわせて浴衣に《服》を《編み直す》。毒が触れんよう気ィつけながら、境内ン中をご随伴。
さァさ語ろう彼らの歴史。からくり仕掛けの墓標となった、ひとりの守護者と桜のハナシだ。
語り歩いて、みくじをひいて。ああ、頼むよゥ。俺は触れん。
そうそう、眷属に持たせた中枢パーツ。神木の根本に埋めてやろう。
坊っちゃん、手伝っちゃくれんかね?
雨野・雲珠
かみさまと/f16930
事務所の掃除してたら
物影からかみさまの声が聞こえたものですから、
UCで慌てて浴衣に着替えて、
そのままぴょんと影に飛び込みました。
この唐突さもすっかり慣れっこです。
かみさまー!
…ここは?
妖怪たちと、年経たお社。狂い咲く桜たち。
何より、既に事が終わったあとの気配。
かみさまが猟兵としてうんと勤勉なのは存じてますから…
…ひょっとしなくとも、お仕事帰りですか?
聞かせてください、今日は一体どんな?
お話を聞きながら、こちらの神様にご挨拶。
あ、おみくじ…かみさま、おみくじひいたことありますか?
ふふふ。じゃあ二人分俺が引きます!
(心の臓みたいなものと理解)
もちろんです。喜んで!
●よりそい、共に
それは突然のことではありながら、しかしいつものことだったので。
なんのことかと問われれば、それは今からほんの少し前の話。
いつものように事務所の掃除をしていた雨野・雲珠(慚愧・f22865)のことである。物陰から知り合いの呼ぶ声がする。これだけ聞くと何事かと思うかもしれないが、雲珠にとってはもはやこれもいつものことだった。
「かみさま?」
呼ばれたからにはさあ行こうと、慌てて浴衣に着替えてぴょんと影に飛び込む。唐突ではあるけれど、すっかりそれにも慣れっこだ。
はて。飛び込んだ先にとすんと落ちた桜の子。
「かみさまー!」
雲珠は件の知り合いを呼ぶ。
「ああ、よく来たよく来た」
背中のほうから声がして振り返る。そこにいたのは朱い目をした声の主、雲珠の知り合いである朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)だ。
「……ここは?」
改めて問うてみる。
見回すと、行き交うのは妖怪たち。見える建物はひとつ、年経たお社。それにぐるりと狂い咲く桜たち。
「ここはいずこのかみやしろ。神と桜と守護者の墓場だ」
いずこと問われても具体的には逢真も知らぬ。ただ、どういう場所であるかだけは知っているので教えよう。
「……なるほど?」
その言いぶりも含めて、何やら既に事が終わったあとの気配。
かみさまが猟兵としてうんと勤勉なのは存じてますから、ひょっとして。いえ、
「ひょっとしなくても、お仕事帰りですか?」
きいてみると。正解、とかみさまは応える。
「ぜんぶが終わっちまったところさ」
終わりも終わり。映画でいうならエンドロールも流れようというタイミングである。ただ、エンドマークが表示されるまでにはまだ時間がある。だから。
「いっぺん閉じッとなかなか開かんってンでなァ。せっかくの機会と声かけたしだいさ」
逢真は語る。曼珠沙華の迷宮をくぐってようやく辿り着く場所。遥か古代に連なる地。いずこともしれぬ神域たるこのかみやしろは、もう一度来ようとしてもそう簡単にいくかどうかは分からないのだ。
「なるほど。それで」
見上げる雲珠は浴衣姿で。境内を歩くにはぴったりの衣装だ。逢真もまた《服》を編み直し、浴衣姿でご随伴と決め込んだ。
「聞かせてください。今回はどんな?」
逢真は雲珠の問いかけににいと笑う。
さァさ語ろう彼らの歴史。からくり仕掛けの墓標となった、ひとりの守護者と桜のハナシだ。
かくて語られる物語を聞きながら、参道をゆく。こちらの神様にもご挨拶を、と雲珠は参拝へ。雲珠の祀る“神”とも、隣をあるく“かみさま”ともまた別の“神様”。……どんな神様かは存じませんが、礼儀は正しく。
「……あ、おみくじ」
参拝したすぐ横に目で入ったのはおみくじ。
「かみさま、おみくじひいたことありますか?」
答えはなんとなく分かっていたけれど、訊いてみる。逢真は手を軽く振ってみせた。その意味はきっと、『触れん』。他所様の神域であるなら尚更、迂闊にどこぞに触れて穢してしまうわけにもいかないだろう。
そもそもかみさまが神様に運勢を教えてもらうことって、よほどの機会がないとなさそうですけどね。
「ふふふ。じゃあ俺が二人分引きます!」
「ああ、頼むよゥ」
一回目は自分の分。二回目はかみさまの分。それぞれ確認して読み上げて。雲珠は末吉。怠らねば叶う。かみさまは吉。待ち人来たる。
「そうそう、」
忘れるところだった。なんのことかと不思議そうな雲珠に、眷属に持たせていた中枢パーツを見せてやる。あのからくりの守護者が遺したものだ。
こいつを、神木[かのじょ]の根本に埋めてやろうと。
「坊っちゃん、手伝っちゃくれんかね?」
「もちろんです」
喜んで!
と、二つ返事で答えた雲珠。中枢パーツなるものはからくり仕掛けの真ん中にあるものらしく、これがないと動かないもの……ひとで言えば、心の臓のようなものだろうか。
逢真の眷属から受け取ったそれはからくりらしく無機質で、……でも、とても大切なものであるという気がした。
「……ゆっくりお休みになってくださいね」
手を合わせ、そっと語りかける。古い旧い桜の木の根本。木霊の墓標となったからくりの、その墓標は木霊の宿っていたご神木だ。
かみさまが語ったそれは、ついさっきの。でも、遠い、とおい日々の物語。
『昔々、あるところに……』
●桜の木の下には
今はただ からくり仕掛けの墓標がそこにある。
大成功
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