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きみのしっぽ

#カクリヨファンタズム

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#カクリヨファンタズム


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●祭
 肌も容姿も巌の如き妖怪が、手首を丸めて「にゃあ」と鳴く。
 薄っぺらくてひょろりと長い妖怪は、水を払う柴犬のように全身をぐるんぐるんとしならせる。
 美しい翼手を持った妖怪は、その翼手を頭上に立てて、鷲爪の足でぴょんぴょん跳ぶ。
「西山の、それはもしかして兎かね?」
「なんだ東川の。兎以外の何に見えるってんだい、失礼な。そういうテメェは――」
「おっと、いけない。今日の私は栗鼠だった」
 見知った顔を茶化したのはいいが、己が中途半端だったことに思い至った妖怪は、蛇の下半身をくるりと丸め、口いっぱいに木の実を放り込んで頬袋を膨らませた。
 表の山から裏の山へと続く路は、普段は獣しか通らないような細道であろうに、今日は数多の妖怪が奇怪な姿で行き交い、練り歩く。

●郷、或いは業
「変てこな祭だよ」
 陽気な妖気を連・希夜(いつかみたゆめ・f10190)はケラと笑うと、手にした団扇をつと見遣り、思い出したみたいに「めぇ」と羊の鳴き真似に興じて、また笑う。
「って、笑ってばっかじゃ話が先に進まないね。面白いのは確かだけど、この祭の主催者がオブリビオンなんだよ」
 祭と言っても、屋台や踊り舞台が整えられたような祭ではない。
 装束、仕草、或いは声で『獣』に扮する祭だ。
 ただの山間の道だったろうそこは、いつの間にやら巨大な祭会場として整えられ、数多の妖怪たちでごった返す。
「妖怪たちはお祭が放つ妖気に操られてる状態……っていうのが一番的確かな。当然、会場を用意したのもオブリビオン。とどのつまりがこの混沌――もとい、諸悪の根源がオブリビオンってこと」
 奇妙な祭と侮ることなかれ。主催が主催ゆえに、傍観を決め込むのは極めて危険。妖怪たちも真似事を続けていたら、やがて己が真実何者であったかを忘れてしまうやもしれない。
「まぁ、肩肘張らずに行ってもらえたら幸い。ほら、業に入っては業に従えとか言うじゃない?」
 ――正しくは『郷に入っては郷に従え』だが。音が同じのを良いことに、希夜はいつもの気楽さで猟兵たちをカクリヨファンタズムの然る地へ送り出すべくグリモアを発動させるのだった。


七凪臣
 お世話になります、七凪です。
 面白祭をひとつお届けに参上しました。

●シナリオ傾向
 ネタorほのぼの。
 もふ成分多め。

●シナリオの流れ
 【第一章】冒険。
 …いろんな動物になりきって、お愉しみ。
 【第二章】集団戦。
 …可愛らしい敵と戯れつつの戦闘。詳細は導入部を追記します。
 【第三章】ボス戦。
 …面白おかしく戦闘。詳細は導入部を追記します。

●プレイング受付・シナリオ進行状況について
 プレイング受付期間や、シナリオ進行状況は【運営中シナリオ】にて随時お知らせ致します。

●その他
 状況により『プレイングの再送』をお願いする可能性があります。
 参加を検討頂く前に、個別ページの【シナリオ運営について】を必ずご一読下さい。
 全員採用はお約束しておりません。予めご了承ください。

 皆様のご参加、心よりお待ちしております。
 宜しくお願い申し上げます。
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第1章 冒険 『けものみち』

POW   :    自らの肉体を傷つけるなどして正気を保つ

SPD   :    あらかじめ備忘録となるものを所持しておく

WIZ   :    魔法や道具で進むべき道を拓く

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●しっぽのはじまり
 祭会場であるのを示すよう、道には錦が敷かれていた。
 けれども元は獣道。自然と心は獣に寄る――否、気付くと心のみならず姿形まで、いつもと違う獣に寄ってきているではないか。
 おそらく、祭の妖気に中てられたせいだろう。
 行き交う妖怪たちを掻き分け進み、祭の主催者であるオブリビオンが要るらしい裏山を早々に目指すのもかまわない。
 呑気な気楽さに惑わされぬよう、痛みでもって理性を繋ぎ止めるのも一つの手だ。
 しかし折角の機会だ、状況を楽しむのも乙なもの。
 すれ違う妖怪たちと笑いあうのも良し、一緒になって羽目を外すのも好し。
 ――郷に入っては郷に従え、だ。
 飛ぶも跳ねるも自由。中空を泳ぐことだって、きっと出来る。
 人の器用さは失われるかもしれないが、新たな体験はきっと愉快痛快。
 
【事務連絡】
 
プレイングの受付は、事前の個別ページでのお報せ通り、9/14の12:00(正午)にて締め切っております。
ご了承くださいませ。
ジャハル・アルムリフ
…業、
竜は獣に含まれまいな、と尾を見て
なれば昨今とみに好ましき獣を
師より賜った角ではあるが致し方なし
同じく賜り物、睡眠用の黒い角帽子を被る

影かたちだけなれば
ぴんと立ったくろい猫の耳――に見えようか
郷、否「ごー」である

踊る歩調の妖怪達を横目に
気侭な散歩道のよう
愉快そうな「獣」たちを眺めるのは
ふむ、悪くはない

しかし揺れる薄の穂が
左右を往復し前ゆく尾が
妙に気になるのは何故だろうか
つい伸びそうになった爪を押さえ――…爪?
まじまじ手を見る
尾も毛深すぎる
掌の、謎の柔らかい球で頬に触れ
もしや、師は喜ぶのでは?

なればと一層、足取りは軽く
…本当に軽いな
何、けものの誘惑ごときに負けはせぬ
一夜の戯れよと錦を踏んで



●業? 郷? いいえ、「ごー」です。
 浮かれた妖怪たちの足取りは、鳴らぬ祭囃子の調べのようだ。
 生来の質に反した獣に扮するせいで、気持ちが大きくなっているからかもしれない。
「……業」
 常であれば輪に加わることを躊躇してしまいそうな雰囲気を前に、ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は至極まじめな顔で考え込む。
 ちらと背へ遣った目に映るのは、ひたひたと地を叩く竜の尾だ。
 ジャハルの持つ竜の性も、大分類では獣に属すると言えるだろう。けれどこの祭の主旨的には含まれない気がする。
 だとするならば。
「……」
 こくりと独りジャハルは是を頷くと、手荷物の中から黒い角帽子を取り出す。とってもふかふかでもこもこのそれは、所謂ナイトキャップと称されるものだ。
 槍の穂先の如く頭上に峙つ二本角で帽子を傷付けぬよう、ジャハルは慣れた仕草で角帽子を装着する。
 ――この角も。
 ――この角帽子も。
 いずれも師より賜りしもの。厄介に思うことなどないし、粗末にすることなぞ言語道断、以ての外。
 それになにより。
「……」
 足元に落ちた影に、ジャハルは目尻を下げる。
 帽子のおかげで丸みを帯びた影の輪郭線は、予想通りに三角耳がピンと立った獣に見えた。そう、昨今とみに好ましく思っている猫のそれだ。
「郷――否、」
 緩む頬で、思い浮かんだ言葉にジャハルは異を唱える。
 これは『郷』ではない。まして『業』でもなく。
「『ごー』である」
 ――ジャハル・アルムリフ、31歳。竜の武人な偉丈夫は、そもそも此の地に降り立った瞬間から、祭の妖気に中てられていたのかもしれない……?

 する、する、と。
 くろねこの心地でジャハルは躍る歩調の妖怪たちのあいまを縫いつつ、風変わりな『獣』たちを横目に見る。
 塀の上を気ままな散歩道に変える猫とは、いつもこんな気分なのだろうか。
 悪くない想像に、ジャハルは「ふむ」としたり顔になってしまう。
 だが気のせいだろうか。月の光を浴びて銀色に輝く薄の穂が、やけに気になる。確かに見惚れる美しさだが、そういうのとは違う心地だ。
 戸惑いに視線を他所へ放ると、今度は誰とも知れぬ妖の背でゆらゆら左右にいったりきたりしている尾がジャハルの心を逸らせる。
(「む、いかん」)
 無意識に伸ばしてしまいそうな爪を、ジャハルは押さえようとして――そこでハタと気付く。
「……爪?」
 疑問が口を吐いて出るのも当然。ついまじまじと見入ってしまう程度に、ジャハルの手には狩りに有用そうな立派な爪が生えていた。さらに異変は爪のみに留まらない。
「……」
 ドキドキと鼓動を高鳴らせて返した掌には、柔らかな黒い球が並んでいた。振り返った尾は、いつの間にやら随分と毛深く――角帽子にも劣らぬふかふかのもふもふになっている。
「!!!!」
 ――これは、もしや。
 ――師が喜ぶのではあるまいか!!!!!
 師が、ジャハルのふかふかの尻尾を枕にお昼寝をする。師が、柔らかな手の球を頬に当ててほっこりする。師が、爪切りを嫌がるジャハルを全力の笑顔で追いかけてくる。
「――くう」
 脳裏に過った光景に、ジャハルの足取りは一層軽くなる。メンタル面でだけでなく、物理面でも。
 身も心も、ますます獣化しているのかもしれない。だが、愛らしいけものの誘惑ごときに負けるジャハルではない。
(「けものでは、師の背を預かることが出来ぬ故な」)
 ふふん、とジャハルはご機嫌に鼻を鳴らし、一夜の戯れよと艶やかな錦の道の中央へ躍り出る。
 惜しむらくは、肉球がピンクではなかったことだろうか――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
『違うモノ』になるってぇのは楽しいケド
それは元の自分に戻るアテがあるからこそ、デショ
ま、今はこのお祭に乗っかるとしましょうか

そうねぇ、狐。ナンて言ったら怒られるかしら
まあ大目に見て頂戴、いつもまっとうな(?)人間のフリしてンのよ
狩衣のような装束纏いそろりそろりと忍び歩き
中指薬指の腹をを親指と付けて顔の前に、こゃ~んと鳴いて
ふふ、油揚げじゃあアタシはツレナイのよ、なあんて

そのうち耳も尻尾も自然と外に
でもそれが、それこそが本性だナンて祭囃子の中では気付かれやしない
ゆらぁりゆらり、この道中を楽しむとしマショ

ずぅっと違うモノに成り済まし生きてきたンだ
『己』を見失ったって、どうってコトないもの



●嘘から出た何とやら
 皮肉に肩を聳やかし、コノハ・ライゼ(空々・f03130)は斜めに見る。
 そも『違うモノ』になれるのを楽しめるのは、元に戻れるという前提があるからだ。
(「甘ちゃんネ――なんて言ったらカドが立つかしラ?」)
 滲む想いは胸に秘し、コノハはこれみよがしの笑顔を作る。
「ま、今はこのお祭に乗っかるとしましょうか」
 ククと喉を低く鳴らすのは僅かの間だけ。貌と共に気持ちを切り替えたコノハは、胸の前に構えた両の手の、中指と薬指の腹を親指の腹にくっつけた。
「こん、こん、こゃ~ん」
 ぴんと立った人差し指と小指は尖った耳。
 一匹、二匹と拵えた狐を、コノハは両頬あたりで幾度も鳴かす。
(「怒られたりしない……わよネ?」)
 獣に扮する祭だ。扮するということは、装うこと。しかし日頃は上手に上手に真っ当――果たして、道徳的な意味で真っ当か否かは不明だが――な人間のフリをしていても、コノハの本性は妖狐。
 つまりコノハは、扮したのではなく、正体を晒しただけ。
 だが注意深く周囲を見遣るコノハの目に、浮かれた祭は変らず浮かれたまま。誰もコノハを咎める様子はない。
 どうやら受け入れられたらしい。或いは、祭の主催者に細かく追及する気がないのか。
(「後者に油揚げ一枚、なあんて?」)
「アタシは油揚げじゃあツラレナイわよ」
 嘯きつつ、コノハは狩衣を模した衣装の袖をひらりと翻し、仮初めの獣たちにそろりそろりと紛れてゆく。
 足音を消すのは、狩りをする獣の嗜みだ。
 瞳の奥の青い灯を消さぬのは、狐の賢しさ。
 ――こん。
 ――こん。
 ――こゃ~ん。
 すれ違う妖怪たちと酒を交わすように袖を擦り合わせ、コノハは祭道中をゆく。
 ――ゆらぁり、ゆらり。
 ――ゆう、ゆう、ゆうらり。
 風に遊ばれる柳の様な歩を進める度に、境界が曖昧になってゆく。
 気付けば、尾がふさりふさりと揺れていた。耳もまた、にょきりと頭上に生えて、乱痴気騒ぎを聞く。
 でも、扮する祭だ。誰一人、其れがコノハの本性であることに気付く者はいない。正しくは、気にかける者ないない――かもしれないが。
 ならばそれでいい。
 扮することを装って、コノハは忍び歩く。
 紫雲に染めた髪が、中空にぽかりと浮かんだ月の光に銀に輝き、尻尾につられて揺れている。
 柔らかな毛先に頬を擽られ、コノハは剣呑に獰猛に微笑む。
 ――戻れる?
 ――戻れる?
 ――本当に?
「知らないワ」
 ずぅっと違うモノに成り済まして生きて来たのだ。それは『己』を見失うことと、何が違うと言うのだ。
「アタシは、アタシ。それで、オシマイ」
 何もかもがイマサラ。例え祭の妖気に中てられたままでも、コノハは「どうってコトはないワ」と嗤うのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユノ・フィリーゼ


不思議でおかしなおまつり
きちんとお仕事は、するけれど
どうしても試してみたいことがある
だって此処でなら。もしかしたら
(空飛ぶ鳥にもなれるかもしれない…!)

敷かれた錦の少し外れた所で
何の変哲もない両手に願い込め
一度二度、翼の様にはためかせたら
地を蹴り空へと、飛び出す

上手くいかなくても諦めない
だってひな鳥なんだもの
飛び方は失敗から、学ぶのよ

めげずに空へ向かってぱたぱた
ふと感じた不思議な感覚に
瞑った目を開けば広がる空の世界

わぁ…!!
自由におよぐって、こんな素敵なのね…!
嬉しくなってその場でくるりと宙を一回転
道行く妖怪さん達に、
よろこびの歌をさえずりながら
楽しく路の先を目指しましょう



●風
 化石みたいにぐるりと渦を巻いた石は、きっとヒツジの角。
 身体に墨を塗りつけている妖怪は、シマウマかパンダのつもりだろうか。
 浮かれた足が刻むリズムは祭囃子のようで、ユノ・フィリーゼ(碧霄・f01409)の踊り心を誘ってくる。
(「不思議で、おかしなおまつり」)
 銘々勝手で自由な装いは眺めているだけでも楽しい。おかげでユノは仕事中であるのを忘れてしまいそう。
 大丈夫、忘れていない。
 仕事は、する。きちんと、する。
(「――けれ、ど」)
 陽気な妖怪たちとすれ違い、月光に美しく映える錦のはずれまで辿り着いたユノは、深呼吸をひとつ。
 すぅ、と吸い込んだ大気が心を軽くする。
(「ううん。心だけじゃ、なくて」)
 抗いがたい誘惑に、ユノは今だけ身を任す。だってこれは、お仕事の一環。
 どうしても試してみたかったこと。此処でなら、もしかしたら――。
 瞼を落とし、ユノは力を抜いた両手に意識を注ぎ、願う。途端、頬を擽る風の香りが変わったのは気のせいかもしれない。
 だがユノは走り出した鼓動のままに、両手を一度、二度と大きく上下させた。
「――!」
 風を孕む心地に、目を見開く。そのまま地を蹴れば、軽くなったユノの身体は中空へと飛び出した。
「わ、あ」
 ずっと、ずっと。空飛ぶ鳥になってみたかった。
 叶った夢にユノは髪と同じ鮮やかな青い翼を力強く羽搏かせる――が。
「おやおや、お嬢ちゃん大丈夫かい」
「力を入れるのは離陸の時だけでいいんだよ。後は風が好きにしてくれる」
 不格好に地面に転げ落ちたユノを案じて、連れ合いと思しき妖怪二人が駆け寄ってくる。狐と狸の面を被っているが、背の翼を隠そうともしない彼らはおそらく天狗。空のプロフェッショナルだ。
「ありがとう!」
 貰った助言にユノは素直に礼を告げ、真新しい翼の感触を確かめる。
 一度や二度の失敗で諦めるつもりは毛頭ない。なぜなら今のユノは巣立ちの時を迎えたばかりのひな鳥も同然なのだ。
 心配そうに近くに佇む天狗たちににこりと笑み、ユノは空を仰いで再び目を閉じる。
(「風……」)
 頬を擽る風を、いつもより強く意識して。軽やかに遊ぶ毛先で、流れを掴む。
 チャンスは一瞬。
「、っ!」
 高い舞台へ跳び上がるみたいに、強く蹴り出す。それに合わせて、しなやかに全身で羽搏く。
 感じたのは奇妙な浮遊感。
 今まで覚えたことのない不思議な感覚に、ユノは瞑っていた双眸を世界へ解き放ち、息を飲んだ。
「わ、ぁ……!!」
 錦の上で手を振る天狗たちが、どんどん小さくなっている。
「素敵」
 ほんの少し翼を傾けただけで、天狗たちの頭上を旋回できたことに、ユノは自由に泳ぐ素晴らしさに感嘆を零す。
 嬉しくなって、くるりと宙を一回転。危うくバランスを崩しかけたけれど、翼の一掻きですぐに美しい軌跡を取り戻す。
 仮初の魔法だ。祭を終わらせれば、この夢の一時も終わる。
 ――ならば、それまで。目一杯、精一杯。
 ユノはよろこびの歌をさえずり、世話焼きな天狗たちに空から手を振った。
(「楽しく路の先を目指しましょう」)
 夜天だというのに、月明りが眩しくて、山間を渡る錦は遠くまで見渡せる。
 そこにユノは、誰より浮かれ調子の黒い尻尾を視た気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鈴丸・ちょこ
【花守】
獣の俺に獣になれとは面白ぇじゃねぇか
まぁ無粋はしねぇが仕事はこなす――って事でだ、今から俺は獅子だ
そしてぷりん(らいおん)が猫だ、良いな?
(謎の鬣をつけたり、ぷりんにねこと書かれた前掛けを下げたりして)
ああ、お前と鴉は鳩な(伊織の言葉に被せて即決)
ほらぽっぽ、豆をやろう
ちなみにぴよこは格好良い鷹で、亀は可愛い針鼠らしいぞ

――しかしこうも獣染みた空間だとあれだな、狩猟本能が疼くな?(祭の興に乗りつつ、爛々とした目でじ~っと鳩達を見て)
冗談だ、お前らひょろっこくてまずそうだしな

さぁ鬼が出るか蛇が出るか、楽しみな獣道だな
俺は獅子だ、そんなもんで死にゃしねぇよ(しゃきんと爪出し強そうなポーズ)


呉羽・伊織
【花守】(お供の雛やら亀やら鴉やらもぞろぞろと――お散歩じゃないんだぞ、と言っても楽しそうだとついてきた模様)
まぁちょこニャンは獣の皮もとい猫被った野生のオッサンだしネ
ココは初心に返る(?)のも…ってソレで良いのぷりん!?
俺は面もあるし鴉で良(と言う前に被せられ)
もっと格好良いのないの!(抗議の橫で鴉こと鳩は普通に豆を食べている!)
ああ、ウン、ぴよこも亀も楽しそーだし(どや顔の鷹と甲羅がとげとげな針鼠見て)もう何でも良いわどーにでもなれ☆

…取って食わないでネ?
(鷹からも何気に隙あらばつついてやろうという気配が!)

全く、百獣夜行ってか!
好奇心は何とやらになるなよ、獅子サマ!(豆をヤケ食い気味で)



●百獣夜行、珍道中
 つぶらな瞳の『ぴよこ』が、未成熟な翼をむじゃきにばたつかせている。
 先日助けてもらったらしい亀も、好い笑顔で錦の上をずりずり這いずるし。いつからか寄り添っていた鴉に至っては、道行く妖怪たちの頭を突いては舞い上がり、舞い降りては突いたりを繰り返している始末。
「ああ、もう。お前たち、お散歩じゃないんだぞ!」
 窘めたところで祭の陽気に中てられた愉快なお供たちの自由が収まるわけもないと知る呉羽・伊織(翳・f03578)は、救いを求めるように傍らへ目を遣り――絶句した。
「……なんだ?」
「え、あ。い、いや」
「何をどもってやがる」
「えーあー……ちょこニャン?」
「はぁ? お前の目は節穴か? 今日の俺はちょこ獅子だ」
 なんとか言葉を捻り出した伊織をねめつけているのは、猫サイズの黒獅子だ。鬣にみたてた髭が微妙にアンバランスなのは、文字通り『とって付けた』からだろう。
 だって黒獅子は賢い動物の鈴丸・ちょこ(不惑・f24585)が扮したもの。貧民街に捨てられた子猫が数多の試練をくぐり抜け、逞しく育ってなお愛くるしさ抜群の黒猫なちょこが「獣の俺に獣になれとは面白ぇじゃねぇか」なんて肩で風を切りながら『獣』を装った姿。つまり、見てくれは確かに獅子だが、サイズ感的にも、くるんとうるるっとした瞳的にも、思わず抱きしめてもふっとしたいくらいに超ぷりてぃー。例え中身が猫の皮を被った野生のオッサン(四十超え)であったとしても、だ!
 放心しかけた己を取り戻すべく、ノンブレスの勢いで脳内解説に勤しんだ伊織は、しかしちょこの傍らに控えていたぷりん――美味しい名前に反し、凛々しいライオン――が振り返ったところで、「うっ」と憐みの息を飲む。
「……って、ソレで良いのぷりん!? 本当に!?? 後悔してない?」
「さっきからお前はどうしたってんだ。俺のぷりんが何に後悔する必要がある?」
「え、え……えええ、だって……ネ?」
 皆まで言わせるなと告げる目線から、伊織は懸命に顔を背ける。真正面から現実を受け止め続けたら、吹き出さずにおれない気がしたのだ。なぜなら、立派な体躯のライオンには、「ねこ」と大きな文字で描かれた前掛けが――。
(「なァる、ほど。ちょこニャンが獅子でぷりんがねこで。主従で入れ替わってるわけね……って理由は分っても、ビジュアル的に、こう、こう、こうっ」)
「ああ、お前と鴉は鳩な」
「えええ!?」
「ほらぽっぽ、豆をやろう」
 挙句に反論を挟む隙さえ与えられず、伊織は鴉と共に鳩を命じられた。自分は面もあるし鴉で良いと主張する前に、華麗に野望を潰された。
「せめて、もっと格好良いのないの!」
「おお、鴉は食いつきがいいな。ほれ、もっと食え。たんと食え」
「どんだけ豆もってきてるのヨ! っていうか、鴉も当たり前に豆を突いてないで――っ」
「よーしよし。ぴよこは格好良いのがいいか。じゃあ鷹だな。亀は、可愛らしい針鼠が似合うな」
 体格的には伊織が勝っていても、年齢的にはちょこの方が遥かに格上。古来、亀の甲より年の劫とも言うように、伊織はちょこに抗えない(勢い負けしてるだけかもしれないが)。
 おかげで気付くと、ぴよぴよ愛くるしかったぴよこは、黄色い嘴と眼光を鋭くしているし、亀は固い甲羅を刺々しい針山に変えて丸まっている。
 一体全体、此れはどういう状況なのだ。
 カオスと称するのが最も似合いなシチュエーションは、笑うしかない。笑い飛ばすしかない。
「うん。どーにでもなれ☆」
「ほほう。腹を括ったか? ところで、こうも獣染みた空間だとあれだな、狩猟本能が疼くな」
 開き直った鳩その壱――もとい、伊織をちょこがやけに爛々と輝く眼差しで見つめる。心なしか、身体もさっきまでよりちょっとだけだが膨らんだ気がしないでない。
「……取って食わないでネ?」
「――冗談だ。お前らひょろっこくてまずそうだしな」
「何、ナニ!? 最初のびみょ~な間は何!? 一瞬、本気で考えてなかった??」
「まさか。さすがの俺も子分は食わない」
「信用ならないんだけどー、どー、どー」
 月光に鋭い爪をキラリと煌めかせるちょこの奇妙な迫力に、伊織は半歩後退る。そんな伊織を、後方から狙うのは鷹ぴよこだ。
 前門の虎後門の狼――ならぬ、前門の獅子、後門の鷹。果たして鳩の運命や如何に!?
 だが食物連鎖の下層が血を見るより早く、頂点の王者が錦の道を先頭に歩み始める。
「さぁ、鬼が出るか蛇が出るか。楽しみな獣道だな」
 爪を隠すことなくしゃきーんと閃かせ、ちょこは征く。
 何せちょこは獅子だ。プチっとサイズだけれども、そんじょそこらの獣になぞ負けやしない(多分)。
 続く針鼠亀は堂々と、ぴよこ鷹は勇ましく、ねこぷりんは軽やかに。
「全く、百獣夜行ってか!」
 すっかり最後方を任された鳩伊織は、鳩鷹と共に豆をヤケ喰いしながら冗句を嘯く。
「好奇心は何とやらになるなよ、獅子サマ!」
 もし殺されるとしたらそれは猫ではなく、こんな奇祭を催したオブリビオンだ。
 確信と自信を胸に、今宵一面白仲間たちはカクリヨファンタズムの夜を渡る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
みんなどうぶつになってるっ

おしりふりふり
手を体の横に添えて
わたしはねえ、ひよこだよピヨっ

すれ違う妖怪たちにご挨拶

とりさんはいるかな
わあ、きれいなつばさだねっ
え、わたしも?
わ、ほんとうだっ
手にはねがはえてるっ

うれしくてたのしくてばさばさばさ
空はとべなくたって
つばさを持ってるともだちとおそろいになれたみたいで
両手を広げながらあちこち走り回る
ぽてぽて
シュネーを頭にのせて

妖怪たちの空飛ぶ姿を見上げ
もしかして飛べないかなってもう一度翼をはためかせるけれど
ふーんっ
うーんっ

乗せて飛ぼうかと言ってもらえたら
いいの?
目を輝かせて
つかの間の空の散歩

そのまま羽ばたかせればひよこでもとべちゃうかもっ
ふふ、たのしいねっ



●黄色いひよこ
 世界には、たのしいことがいっぱいある。
「うわあ」
 祭囃子が奏でられている風でもないのに、踊るリズムに聞こえる妖怪たちの足音に、オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)の仔猫色の眸はきゅるりと輝く。
「みてみて、シュネー。みんなどうぶつになってるっ」
 宿り木みたいに右手に座らせていた少女人形を、オズは胸の高い位置に抱き直し、桜色の瞳にも奇妙だけれど愉快な妖怪たちの扮装ぶりを映す。
 傘を背負って身を低くしている一つ目小僧は、亀になっているのだろうか。毛糸玉のような妖怪たちが寄り集まって「にゃあにゃあ」鳴いているのは、生まれたての子猫を装っているのかもしれない。
「じゃあ、わたしは――」
 何にしようかオズが考えたのは一瞬。だってすぐに閃いてしまったのだ。こういう時は難しく悩むより、思いつきに任せるのが吉。
 あとは実行あるのみ!
「ぴよっ」
 ひょいっとシュネーを肩に乗せ、オズは両手を腰のあたりに添えて、ちょっぴりお尻を突き出し、右に左にふりふり。
「わたしはねえ、ひよこだピヨっ」
 ふりふり、ピヨピヨ。
「あら、黄色いひよこさん。かわいらしいわ」
「ありがとう!」
「お、ふかふか頭のひよこかぁ。ちょいと撫でさせてもらっていいかい?」
「ふふふ、いいよ」
 妖怪たちとオズはにこやかに挨拶を交わし、錦の上を込み合う方へピヨピヨふりふり進んで行く――そして赤から始まり、黄色を経て真っ青に変わる翼を持つ白い貌の妖怪――雪女と出逢った。
「すごい! きれいなつばさだねっ」
「すごい! きれいなつばさだねっ」
 そっくり繰り返された雪女の言葉に、けれどオズはぱちりと目を瞬く。だって言われた通りに、さっきまで普通だったオズの手は、今は黄色いもふもふの翼になっていたのだ。
「わ、ほんとうだっ」
「わ、ほんとうだっ」
「手にはねがはえてるっ」
「手にはねがはえてるっ」
「……」
「……」
「……ふふっ。君はオウムさんになっているんだね?」
「……ふふっ。大正解!」
 思わぬ出逢いに、オズの胸の中で歓喜の蕾が膨らみ、鮮やかに花開く。心にまで翼が生えたみたいだ。
「ピヨピヨ、ぴぴぴ」
 楽しさと嬉しさをさえずりながら、オズは黄色い翼をばさばさばさ。ひよこのそれでは空を飛ぶことは叶わないけれど、立派な翼を持っている友達とお揃いになったみたいで、また喜びが増す。
 ぽてぽて。
 落っことさないよう羽の手でシュネーを肩から頭のてっぺんへ移動させ、オズは錦の上をあちらこちらと走り回る。
 ぽてぽて、ぽてっぽて。
 勢いをつければ、滑走路を飛び立つ飛行機のようだ。そういえばと見上げると、翼ある仮初めの獣たちが悠々自適に空散歩している。
 ――もしかして?
 わたしも飛べるかも? なんて、オズも「えーい」「ふーんっ」とぴよぴよ翼をばたつかせるけど、ひよこはひよこ。
「連れて行こうか?」
「連れて行ってくれるの?」
「もちろん、友達でしょう?」
「ともだち!」
 だけどオズがしょんぼりするより早く、さっきの雪女がオズとシュネーを空へと攫う。
 月が煌々と輝く宙は、妖怪たちでごった返す山間より、空気がひんやりしていて気持ち良い。遠くには、小さな集落が幾つも見える。
 今ならば、どこまでだって飛んでゆけそうだ。
 大きくなった心がオズを真っ白な翼をもつ白鳥に進化させるまで、あとすこし。

大成功 🔵​🔵​🔵​

尾白・千歳

さっちゃん(f28184)と

ほわ~なんだかとっても楽しそうな感じ!
うん?私もちゃんと獣になってるでしょ
ほら、狸!
…え?見えない?
おかしいなぁってあれー?なんで耳が出てるの?
隠したはずなのに…ギャー今度は尻尾が!
もういい!じゃぁ私、狐になる!
いつもなってるから、これならできるもん!

むむっ、笑ってるさっちゃんはどうなの!?
…は?あるぱか?それ、何?
私、知らない(写真見て
へぇ~ちゃんと実在してるんだ

擦れ違う妖怪たちと笑顔で挨拶
コーン!
さっちゃんも挨拶しなよ
えー?泣き声知らないの?
やっぱり出鱈目なんじゃ…(疑惑の目
ほらぁ妖怪さんたちも知らないって
空想の生き物なんじゃないのぉ!?
私ズルくないもーん!


千々波・漣音

ちぃ(f28195)と

オレは神格高い竜神だけど
仕方ねェから獣になるか!(実は張り切ってる
ちぃはソレどんな珍獣だよ…
狸…?狸って耳4つもあったかァ?尻尾も出てるぞ、おい
(揶揄う様に笑うが、心では何それ超可愛いと悶え
狐…ぷっ、ソレ普段と変わらねーじゃねェのっ(可愛いがすぎる!

あ?オレ様はUDCアースで見たアルパカさんだ
もふもふでゆるかわだろ!(どや
って、架空じゃねェから!?
ほら!(触れ合った時の写メ見せ

おう、挨拶…あれ、アルパカって何て鳴くんだ…?
…アル、パカ!(適当
何その疑惑の目!?
はァ!?空想じゃねェし!
パカ次郎と触れ合って友達になった時の写メ見せただろ!
てか、お前の狐の方が何かずるくね!?



●幼馴染の公式
 妖怪そのものは目新しくもなんともない。
 だって尾白・千歳(日日是好日・f28195)も妖の一人だし、連れの千々波・漣音(漣明神・f28184)も竜神――つまりカクリヨファンタズムに端を発している。
 祭だって津々浦々種々雑多。けれど『獣に扮する』祭はやっぱり斬新で珍しい。
「ほわ~」
 浮かれた同族たちの様子に、千歳の足取りも自然と軽くなる。よくわからない祭だが、楽しそうなのは間違い。
 錦が敷かれた道を奥へと進めば、もっといろいろな獣たちと出逢えるのだろうか。惹かれる興味に、千歳は「神格の高い俺が獣だと?」「ま、まぁ。仕方ねェから付き合ってやるケドよ」と俺様な不平不満を零している――実は張り切っている本心を隠す口ばかりな悪態であるのは明らかだが――漣音の背中を、ツンと引く。
「ねぇ、さっちゃん。向こうにも行ってみよ……」
「っ!」
 『うよ』まで続くはずだった千歳の語尾が遮られたのは、振り返った漣音が盛大に吹き出したせい。
「なっ、いきなり何よ」
「いや、だって。ちぃ、ソレどんな珍獣だよ……」
 その四つの耳は何なんだと揶揄われ、千歳は慌てて自身の頭に手を伸ばす。
「え? あれ、おかしいな?」
 狸のつもりだったんだけど、と口ごもりながらワサワサと輪郭線を辿った千歳の顔が、ある時を境に真っ赤に変わる。
「あ、あっ、えっ?」
 可笑しい。ちゃんと狸のまぁるい耳を生やしたつもりだったのに、両サイドにツンと尖った三角の耳が立っているではないか。
 これはもしや、本性であるところの狐耳の方を仕舞い忘れというヤツ?
 赤かった顔が今度はザァと青褪める。
 往々にしてミスが発覚した場合は、慌てては駄目だ。何故なら容易に次の惨事を招くから。
 しかし理解っていても、実践できるかはまた別の話。ちなみに齢だけなら百一歩手前だが、見てくれは十代そこらの千歳にそんな小難しい芸当ができる筈もなく――。
「っ、ギャー」
 しっかり隠したはずの尻尾まで顕わにし、千歳は百面相で右往左往。
 千歳本人にとっては一大事だ。だが、漣音にとっては別の意味で心臓に悪かった。
「っ、いいもん。いいもん。こうなったら私、狐になる! いつもなってるから、これならできるもん!」
「狐? ……っぷ。ソレ、普段と変わんねーじゃねェのっ」
(「軽率に、可愛いが過ぎるだろう……!!!」)
 親の欲目、或いは痘痕も靨。揶揄うように笑いはするが、千歳の色鮮やかな一挙手一投足に漣音のハートは射抜かれまくって止まらない。何だったら、息まで止まってしまいそう。
 ――オレの幼馴染が可愛すぎる件(まがお)。
 貴い神格は何処へやら。一途な不憫属性を如何なく発揮する漣音は、胸中で素数を数えて平静を取り戻そうと試みる。
 が、その目論見は肝心の千歳に向けられた水で果たされた。
「むむっ。笑ってるさっちゃっはどうなの!?」
「あ? オレ?」
 予想していなかった話題転換は、漣音にとって救世主であり、また違う扉を開く鍵。
「俺様はUDCアースで見たアルパカさんだ。もふもふでゆるかわだろ!」
 貴い神格以下略などや顔漣音の装いは、確かにもふもふだ。心なしか、首もぬらりひょんとまではいかないまでも伸びている気がしないでない。
「あるぱか? それ何? 私、知らない」
「は? 架空じゃねぇからな。ほら!」
 疑う千歳の視線に、漣音はやおらふもふの懐を漁るとスマートフォンを取り出し、実際にアルパカと触れ合った時の写真を突き付けた。
(「……パカ次郎は今頃どうしてるんだろうな」)
 思い返された過日に、漣音はほっこり和む。されど和んでいる間に、「へぇ~ちゃんと実在してるんだ」と納得した千歳の興味は、漣音から失われて次へと移る。
「こんばんは、コーン!」
「ああ、好い月の夜にゃね」
 何時の間にやら妖怪たちの輪に千歳は溶け込み、にこやか笑顔の挨拶を交わしまくっているではないか。
「その羽、綺麗コーン。雉?」
「当たりケーン」
 その時だった。置いてきた漣音の遠い目に千歳が気付いたのは。さすがに放っておくのは良くないと、千歳は漣音を呼び込む。
「ぼーっとしたら駄目だよ。ほらほら、さっちゃんも挨拶しなよ」
「お、おう。挨拶な……挨拶?」
 急かす千歳に悪気はない。されど思わぬトスに漣音は窮地に陥る。
(「アルパカって何て鳴くんだ?」)
 どうしてパカ次郎との一時を動画に収めておかなかったのか。先に立たぬ後悔に、漣音は「ええい、ままよ」と適当を決め込むことにする。
「……アル、パカ!」
 ――適当は適当でも、適当に過ぎた。
「……さっちゃん?」
 漣音へ向ける千歳の目が、疑惑に満ち満ちている。そんな貌も可愛いけれど、いや今はそんなことを悠長に堪能している状況ではない。
「やっぱり出鱈目なんじゃ……」
「はァ!? 空想じゃねェし! パカ次郎と触れ合って友達になった時の写メ、さっき見せただろ!」
「……パカ次郎、ねぇ? ねぇねぇ、みんな。アルパカなんて知ってる?」
「いや、此処の連中に訊いたってだな――」
「ほらぁ、やっぱり妖怪さんたち知らないって」
「いやいやいやいや? いや? そもそもお前の狐の方がずるくね!?」
「ええー、何のことかわかりませーん。私ズルくないもーん!」
 狐の耳に、狐の尻尾。さらには陽気な妖気の影響からか爪も鋭くなってきた千歳と、ふわもこ加減が増してゆく漣音。
 幼馴染たちの丁々発止の遣り取りは、周囲を生暖かい笑顔にしながら、暫く続くのであった。まる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

小日向・いすゞ

【狐剣】
体育座りで丸まって座り込む

え?何っスかセンセ
どうみてもあるまじろでしょう

あっ、待って欲しいっス
転がされると汚れるっス!
あるまじろもおしゃれはするっスから!
あとあるまじろも転がって移動はしないっスよね?!

外敵から身を守るために更にぎゅっと丸くなる

それに何っスか、その気取った歩
へえ、へえ
センセはあっしをいつもそういう目で見ているンスね
婿様は良く観察してるっスねェ
喧嘩売られてるなーって顔をする

でもそれじゃ狐じゃなくて小日向家の妖狐っスから
ちゃんと狐にならなきゃァだめっスよ
狐の声はコンに聞こえる事はほぼないっスからね

そりゃあっしは妖狐っスから

その鳴き声…やるきっスね!?
体を大きく見せる威嚇


オブシダン・ソード

【狐剣】
縁日で買ったお面とそれっぽい尻尾で
そうだよ、今日の僕は狐というわけさ
コンコン(ハンドサイン)

一応ほら、妖狐の小日向さんちに婿入りした身だからね
狐と言えばこう…鼻を上げてお高く止まった感じで、気取った歩き方をすればいいんでしょう?
どうだい先輩狐のいすゞ……いすゞ?

そう、君はアルマジロなんだね…転がして移動する?
まあまあ遠慮しないで――あっ閉じこもった

いやあ、いつもではないけれど
気取って歩いて止め足でだまくらかす感じじゃなかったっけ
喧嘩売ってるつもりはない

え、でも君いっつもコンって言ってない?
えーっと
悲しげに鼻を鳴らすみたいに、鳴き声を真似る

お、なになにやる気?(威嚇返しの構え)



●五秒前
 いつもの黄昏色の外套に代え、そこらの縁日で買った子供騙しな狐面で顔を覆ったオブシダン・ソード(黒耀石の剣・f00250)は、モデルウォーキングのような歩みで模造品の狐尾をふさりふさりと左右に振る。
「コンコン、コンばんわ?」
「嗚呼、今晩は。お狐様も好い夜を」
 山間に敷かれた錦を流れてきた金魚の装いの妖怪へ、オブシダンが両手で作った狐――影絵によく用いるハンドサイン――を添えて挨拶すると、粋な応えがぽいと返った。
(「おお、受け入れられている」)
 ヤドリガミではあるがオブシダンはこれでも一応、妖狐の小日向さんちに婿入りを果たした身。ならば獣に扮する妖怪の祭に参じるにあたり、オブシダンのチョイスは問答無用で狐ただ一択。
(「そうそう。狐と言えばこう……鼻を上げてお高く止まった感じで」)
 幸い、手本は傍らにある。
(「気取った歩き方をすればいいんでしょう?」)
 そんなこんなで、愉快な妖怪たちが行き交う錦はランウェイに早変わり。見上げてくる観衆は不在だが、オブシダンは脳裏に誰かの姿を思い浮かべ、その動きに倣って乙に澄ます。
 自分的には、なかなかの完成度だと思う。
 だが正しい評価は真の狐によってこそ下されるもの。
「どうだい先輩狐のいすゞ……」
 斯くしてオブシダンは小日向・いすゞ(妖狐の陰陽師・f09058)に訊ねようとして――固まった。
「……いすゞ?」
 先ほど脳裏に浮かべた誰かさんが、所謂『体育座り』でちょこんと丸まっているではないか。
「いすゞ?」
 繰り返し呼んだところでようやく声が届いたのだろう、僅かに首が傾げられ細い眼差しが寄越された。
「え? 何っスかセンセ」
 オブシダンの当惑を露ほども察せぬいすゞの反応に、オブシダンの中で何かが疼く。
「何っスかって、そっくり返していい?」
「え? え? どうみてもあるまじろでしょう」
「――そう。君はアルマジロなんだね」
 想像の斜め上をゆくいすゞに、オブシダンの狐面の下の貌がイイ笑顔になった。
「なら転がして移動する?」
 ――あ。これは本気のやつっス。
 ここにきてようやくいすゞは諸々を悟る。
「待って欲しいっス。転がされると汚れるっス」
 まあまあ遠慮しないで、なんて嘯きながら伸びてきたオブシダンの手に、いすゞは慌てふためく。これでもいすゞは由緒ある陰陽師の家系に一人娘だ。しかも十八という花も恥じらう乙女なお年頃。錦は敷いてあっても、地面を転がされるなんて堪ったもんじゃない。
「あるまじろもおしゃれはするっスから! あとあるまじろも転がって移動はしないっスよね?!」
 今にも襲い掛かられる予感に、いすゞはアルマジロのキモチになってみる。迫る外敵から身を守るには、どうすれば良いだろう。生憎、逃げ隠れできそうな物陰はない――ならば。
「あっ、閉じこもった」
 いすゞ、猫背を遥かに超えて丸まった。膝をぎゅぎゅうっと掻き寄せ、頭を脛にくっつけんばかりの勢いで丸まった。だってアルマジロだもの。試しにその背中に触れたオブシダンの指には、甲羅ばりの硬さが伝わる。なるほど、これが祭の妖気の影響か。
「……」
「……」
 両者共の沈黙に、オブシダンは手持ち無沙汰を紛らわす為に、再び常のいすゞを真似て歩く。そこに他意はなかった。けれど、そういう時に限って目敏い者は現れるのだ。
「――何っスか、その気取った歩」
 気付くと身体は縮こまらせたまま、いすゞがオブシダンをじぃと見ていた。
「何って、君の真似だけど」
「あっしの、真似? へえ、へえ。センセはあっしをいつもそういう目で見ているンスね」
 ぶわり。アルマジロの背に隠しきれないいすゞの尾が膨らむ。
「いやあ、いつもではないけれど。気取って歩いて止め足でだまくらかす感じじゃなかったっけ」
「――……婿様は良く観察してるっスねェ」
 多くを表わす『センセ』から、オブシダンのみを表わす呼称に変えたいすゞの周囲が、狐火のようにユラと揺らめく。
 防御の構えを解き、ゆっくりと立ち上がるいすゞの剣呑に眇められた眼は、口よりも雄弁にいすゞの心情を物語る。
(「喧嘩、売られたっスね」)
 とは言え、肝心のオブシダンにその気は――良くも悪くも――ないので、状況は急斜面を転がり落ちる勢いで悪化の一途を辿るの待ったなし。
「婿様、さっきコンコン言ってたっスよね?」
 いすゞの口許が、薄い笑みを模った。
「そうだね。だって君いっつもコンって言ってない?」
「はい残念っス。それも含めて今の婿様は狐じゃなくて、小日向家の妖狐っスから。つまり、このお祭の主旨に添うならちゃんと狐にならなきゃァだめっスよ」
「え、でも君だって――」
「そりゃあっしは妖狐っスから。そも狐の声はコンに聞こえる事はほぼないっスからね」
 いすゞが振り翳したのは、詭弁ではなくキャラクタライズされぬ獣の真実。ぐうの音も出ないど正論。
 故にオブシダンは真面目に思案し、記憶を漁り、確かこんなんだったかと悲し気に鼻を鳴らすみたいに、啼いてみた。
 だが、しかし。その聲はよりにもよって威嚇のそれ。
「その鳴き声……やる気っスね!?」
 吹っ掛けられた喧嘩――またしてもそんなつもりはオブシダンにはなかったのだが――に、アルマジロを忘れたいすゞが髪も尾も逆立てるだけ逆立てる。
 身体を大きく見せて優位を取ろうとする野生のマウントだ。
「お、なにやる気?」
 そしてやられたからにはオブシダンだってやり返す。
 威嚇と、威嚇返しの構えと。始まる未来の夫婦漫才(仮)は、他の妖怪たちにとっては格好の祭の余興。
「はぁ? 何言ってくれてるんっスか。先に仕掛けて来たのは婿様の方っスからね」
「いやいや、君だと思うよ」
 ――銘々勝手で無責任な声援が飛ぶまで、あと五秒。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ねこまたすねこすり』

POW   :    すねこすりあたっく
【もふもふの毛並みをすり寄せる】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【ねこまたすねこすり仲間】の協力があれば威力が倍増する。
SPD   :    いつまでもすねこすり
攻撃が命中した対象に【気持ちいいふかふかな毛皮でこすられる感触】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【次々と発生する心地よい感触】による追加攻撃を与え続ける。
WIZ   :    きもちいいすねこすり
【すねこすり】を披露した指定の全対象に【もっとふかふかやすりすりを味わいたい】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●しっぽのしっぽ
 浮かれた様子の妖怪たちを、まるで見て回るように動く黒い尻尾がひとつ。
 不思議と気にかかるその尻尾に、猟兵たちは錦の上を裏山の方へとにゃあにゃあわんわんひらひらごろごろ、ずんずん進む。
 そんな猟兵たちの足元に、ふんわり毛玉が纏わりついてきたのは、裏山の麓にして、錦の終わり。背負った山に月明りさえ遮られた、朽ちかけの村が見えた頃。

「ふにゃあ」
「ふにゅう?」

 すりすり、すりすり。
 猟兵たちの愛らしく擦り寄る毛玉は、擦り寄るのが脛なあたりで想像がつくだろうが、いわゆるすねこすり――もどきだ。
 なぜ『もどき』かと言うと、思い切り姿がねこに寄っているせいだけでなく、尻尾が猫叉よろしく二本に分かれているせい。
 ――なんて細かなことはどうでもいい。というか、そんな気持ちになる。
 だって可愛らしい毛玉がすりすりしてくるのだよ?
 もふもふしてくるのだよ? つぶらなひとみで見上げて、撫でて撫でてってしてくるのだよ?
 いったいこの誘惑に誰が耐えられよう(まがお)(まぁ、中には平然としていられ人もいるにはいるだろうが)。
 すねこすりもどき『ねこまたすねこすり』たちは一応オブリビオンではあるが、戦闘力は限りなく低い。
 思う存分もふってあげれば(攻撃)、骸魂は浄化(撃破)されて、害のない妖怪に戻るだろう。
 まぁ、問答無用で蹴倒しても構いはしないが。
 けれど先の尻尾が気にかかったのと同じように、どうしてだかこのもふもふは心行くまで堪能する方が『喜ばれる』気がした。
オズ・ケストナー
わ、なになに?
もふんとした感触に足元を見て

かわいいっ
ころころしてる
しゃがんでもしょもしょなでなで
もふもふだっ

ふにゃー
言葉はわからないけど
同じように鳴いてみて
答えが返ってきたらうれしくなって笑う
うんうん

いっしょにあそぼっ
ガジェットショータイム
鈴の鳴るおもちゃのボール
色と音が違うそれをころころ

どの音がすき?
ころがしてみせながら
あつまってきた子たちを撫でてもふもふして
動けないくらい足元がうもれるのもたのしくて
あったかいねえ

ねころびたくなっちゃう
あ、でもすねがこすれたほうがいいのかな?
撫でながら尋ねるけど
最終的にはごろーん
だってきもちがいいんだもの

おひるねはしていられないけど
撫でつつちょっぴりうとうと



●陽だまりの夜
 音もなく錦の果てに舞い降りたオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)は、地に着いたばかりの足に纏わりついて来る感触に「わっ」と瞳を丸める。
 最初は毛玉の正体が分からずに慌てた。だけど「落ち着いて」と言うみたいに頭上のシュネーが小さな手でコツンとしてくれたおかげで、驚嘆に狭まりかけた視野が急速に広がって。
 そしたら後は、いつも通り。
「――かわいいっ!」
 花開く新たな興味に、オズの両腕は白鳥の翼から人のそれへと戻り。ぺたりとしゃがみ込むや否や、もふんとした毛玉へ伸びた。
「さわっていいかな? いいかな? いいよね?」
 驚かせないよう優しく声をかけ、円らな瞳が自分を見てくれたのを確認してから、オズは茶トラの毛並にそろりと触れる。
「……もふもふだっ」
 魅了されるまでは一瞬だった。
 ふかふかでもふもふに埋もれた指先が、柔い温もりに包まれる。堪らず水を掬うみたいに両手で柔らかく抱き上げると、鳶色の眼と視線の高さが合った。
「ふにゃー?」
 ――ふにゃあ。
「!! シュネー、シュネー。ねえ、聞いたシュネー。わたしたち、おしゃべりできたよ」
 分からないなりに真似て鳴いたら、同じ答えが返って来たことにオズの貌は蜂蜜みたいに甘く蕩けた。
 オズの金色の髪に埋もれたままのシュネーも、いつもよりそわそわしている気がする。
 そしたら、もう。一緒に遊ぶしかないではないか!
「ガジェットショータイム!」
 すっくと立ち上がったオズはシュネーを頭から降ろして空へと謳い、お月さま色のボールを幾つか顕現させた。
 りぃん、ろぉん、きぃん。
 シュネーがころころと転がす度に、それぞれ星の音を奏でる鈴のおもちゃに、茶トラの子だけではなく、三毛に黒、キジ白の毛玉――ねこまたすねこすり達が寄り集まってきて、ふにゃあふにゅうまぁお、と大合唱。
「どの音がすき?」
 訊ね乍ら撫でると、さらにたくさんのねこまたすねこすり達がオズに甘えて近づいてくる。
 すりすり、挨拶のように一匹一匹がオズの脛に額を擦りつけては、鈴で遊び。遊んではまた、オズに擦り寄る。
「あったかいねえ」
 まるで雲の上に立ったみたいだ。シュネーが埋もれてしまわないよう抱え上げたオズは、けれど次の誘惑に心を揺らす。
 このまま寝転がったらどんな気持ちだろう?
 毛玉たちはすねこすりだから、オズが立っていた方が喜ぶのかもしれないが、抗い難い誘惑は入道雲のようにむくむく膨らんで、あっという間にオズの心の中をいっぱいにする。
「ねえ、いっしょにごろーんしていい?」
 膝を折り、最初に懐いてくれた茶トラの喉元をくすぐりながら訊ねてみると、目を細めたねこまたすねこすりは「ふみゃあ」ととびきり可愛らしく鳴いてくれた。
 ――これはきっと「いいよ」ってことだ!
「ありがとう」
 逃げる素振りを全くみせない茶トラをシュネーと一緒に抱え上げ、オズは他のねこまたすねこすり達を潰さないよう、ゆっくりその場に横たわる。
 お腹の上の温もりは、春の陽だまりにも似て。
「シュネー、も。もふもふ、あったか、い……?」
 すっかり寝入るわけにはいかないけれど。みゃうまう鳴く聲と和やかさに浸され、オズは一時の舟を漕ぐ。

 ――まうにゃおふにゃあ。
 満たされた魂が浄化されて逝く。
 ――りぃん、ろぉん、きぃん。
『よろこんでもらえたかな?』
 鈴音に混ざって聞えた子供の声は、ただの幻聴なのか、はたまた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

榎本・英


…………嗚呼。猫だね。
足許に擦り寄ってくる様はナツそっくりではないか。

無言で愛でよう。
とても愛らしい貌だ。
丸くてふくよかで、毛並みもとても良い。
一体どこの猫なのだろうね。

いや、倒すべき相手だったね。

あまりにも愛らしいので倒すべき相手と言う事も忘れていたよ。
何か欲しいものはあるかい?
私の家に来る猫は、味噌汁の出汁を取った煮干しが好きだよ。

生憎、餌らしい餌はないのだがね。
……この猫たちに紛れて見慣れた仔猫がいるね。
ナツ。故郷の仲間だよ。
沢山遊んでもらいなさい。

嗚呼。分かった分かった。
私も勿論、彼らと遊ぼう。



●ねこざんまい
 足元に纏わりついてくる毛玉――ねこまたすねこすり達へ、榎本・英(人である・f22898)はじぃと視線を落とす。
「……………嗚呼」
 猫だね――と。短くない沈黙の果てに口を吐いて出たのは、見た儘の感想にして、不可思議な感慨。
 高い鳴き声も、ぐりぐりと足元に額を押しつけてくる様も、そのまま全身を摺り寄せてくる姿も。甘える仕草の全てが、使い魔の一匹――仔猫のナツにそっくりだ。
 此処に蝶の一羽でも飛んでいたら、無邪気に追いかけたりするのだろうか。
 脳裏に浮かんだ庭先の光景を、『今』に重ねる英の目は三日月のよう。おそらく自身では意識していないだろう柔和さを全身から醸し、英はそろりと膝を折る。
 途端、白い毛並のねこまたすねこすりが英の膝の上へよじ登ろうとし始めた。
 てちてちと伸ばされる手の肉球は、やはりナツとそっくりの綺麗なピンク色だ。堪らず両脇に手を差し込んで抱き上げると、愛くるしい顔立ちが間近に迫る。
 ふくふくしくて、まんまるだ。真っ白な毛並は艶々しているし、毛玉だって見当たらない。
(「……いったい、どこの猫なのだろうね」)
 抱き上げた白い毛玉を膝の上に降ろし、英は輪郭線を辿るように柔らかく撫で。
 そこでふさふさの尻尾が二又に分かれていることに気付いて、我に返った。
「……嗚呼」
 ――そういえば。
 これは猫ではなかった、と今更ながらに実感する。
 猫でないどころか、本来ならば武力で以て倒さねばならぬ相手だ。
(「あまりにも愛らしいので、『そういう』相手ということも忘れていたよ」)
 うっかりと言えば、うっかりだけれど。英の貌に描かれるのは失笑や自嘲ではなく、どこまでも凪いだ穏やかさ。
 だってこんなにも愛らしいのだ。しかももふっているだけで浄化されると聞いたし。
「……何か欲しいものはあるかい?」
 私の家に来る猫は、味噌汁の出汁をとった後の煮干しが好きだよ――なんて語りかけながら、随分と英に懐いた様子のねこまたすねこすりへやんわりと尋ねると、「ふみゃう」とお行儀のよいお返事と共に、頭を手に摺り寄せられる。
「おや、そんなに撫でて欲しいのかい? いいよ、それくらいなら幾らでも」
 生憎と、餌らしい餌は持参しなかった。だからそれくらいはと求められるに任せて撫でていると、英の懐がもぞもぞと動き出す。
「ナツ」
 お仲間の呼び声に、起こされたのだろう。
 寝惚け聲で鳴く仔猫を英は懐からひっぱり出して、月明りに煌々と照らされる地面に降ろす。
 するとナツはあっという間に、幽世の猫たちと戯れ始める。
「うん、そうだ。故郷の仲間だよ。沢山遊んでもらいなさい」
 けれども仔猫は、英の見守る姿勢に「みゃおん」と不満を訴えた。
 ――みゃあん。
 ――みゃあうん。
 繰り返すそれは、変わらず英の膝に陣取るねこまたすねこすりへの嫉妬――先ほどは華麗にスルーしたくせに!――と、一緒に遊ぼうと主を誘う聲。
 そしてこんな風に甘えられては、英にはとても否やは唱えられやしない。
「嗚呼、分かった分かった」
 本日三度目の嘆息は、目尻を下げながら。膝の上のねこまたすねこすりを抱え上げ、英はナツに従い妖猫会議へと参陣を果たす。

 人であると騙る人でなしも、猫たちの前では形無しも止む無し。
 猟奇的な夜も悪くはないけど、こんな優しい夜もまた悪くない。しかもこれで『勝利』を勝ち取れるのだから、文句無しだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
…けだまだまり…

とくと見よ、お前達と揃いだ
浴衣の袖から覗く
すっかり黒毛に覆われた手や尾を一振り
どうだ、お前達の十倍はあろう

馴れ馴れしさも今宵は受け入れ
両手でそれぞれ纏めて撫で転がす
木登りの練習場と化した背は諦め放置
そこ争うな、順番だ
うむ、この肉球に酔いしれるがいい
腹を見せるものらへと得意げに告げる

ぽつねんと中々輪に加われぬ
一回り小さな黒毛玉を見つければ
長い尾先で掬い取り
仕方のない奴だと
くっついた朽葉を払って掌へ包む

ふと脳裏を過ぎった懐旧に手が止まる
…こんな風であったのやもしれぬな
そうと懐に抱えた黒猫に首を傾げ
錦の上へと、毛玉等とともに転がる

隠れた月のかなたへ向かう骸魂たちを
遠くまで見送れるよう



●懐旧
 みゃあうみゃあう鳴きながら、浴衣の裾から覗く足の間を『8』の字を描きながら無限にいったりきたりする毛玉もいる。
 ふがふがと息を荒げつつ、帯飾りのタッセルにじゃれつく毛玉もいる。
 足元を覆い尽くさんばかりの勢いを、ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は今にも悟りが開けそうな眼差しで見つめ、考え込む。
(「……けだまだまり……」)
 状況的には、まさにそれ。
 幼い時分ならいざ知らず、育ちに育った今、こういったものとは縁遠い自覚がジャハルにはなきにしもあらず。
 ――だが。
「とくと見よ、お前たちとお揃いだ」
 裾を割ってそろりとその場に座り込んだジャハルは、星が並ぶ黒い袖からやおら己の黒き手を伸ばす。
 黒い肉球にふさふさの獣毛でおおわれたそれは、不意の出来事に目を丸くした毛玉たちとそっくりだ。
「どうだ、お前達の十倍はあろう」
 ふふんと自慢するよう鼻を鳴らし、これまた見事な毛並と化した尻尾をふさりふさりと左右に振ると、後ろにいた毛玉――ねこまたすねこすり達が一斉に群がる。
 そこから先は、ねこまたすねこすり達によるジャハル争奪戦の勃発だ。
 一房長い髪と戯れるもの、足に額を擦りつけるもの、エトセトラ。
 特に膝の上と背中は激戦区。
「爪はあまり立ててくれるなよ?」
 さながら木登り練習場の様相を呈してきた背で、登っては滑り落ちるを繰り返す毛玉らには眉を八の字にして。見事に膝の上を勝ち取った猛者たちは、両手で纏めて撫で転がす。
「そこ争うな、順番だ」
 他を押し退けようとするものとは、鉄拳制裁よろしく拳を額に押しつけ力比べ。
 少々乱暴な気もする扱いだが、時に液体にもなろうかという猫に通じる妖だ。ジャハルの一挙手一投足にはしゃいだ声をあげ、遂には無防備に腹を晒すものまで現れる。
「仕方ない、お前にはこの肉球に酔い痴れる栄誉を授けよう」
 無遠慮にパーソナルスペースに踏み込んでくる馴れ馴れしさは、時と種によっては忌むべきものだ。が、今宵に限っては『特別だ』とジャハルは嘯き、また得意げに鼻を鳴らす。とっておきの肉球マッサージを施すのだって吝かではない。
 ――陽気な妖気に中てられた故の触れ合いだ。
 屈託なく笑う己をジャハルはそう言い訳し、ふと目に留まったことさら小さな黒い毛玉へ尾を差し向ける。
 輪に加われずに居た黒は、勇気を出せずにいたのか、単純に力負けしていたからか。
「みゃあう? まあお!」
 不意に寄越された救いの手に戸惑いをみせたものの、すぐにしがみついて来た黒毛玉をジャハルは尾で器用に掬い上げると、両手でそっと包み込む。
「仕方のないやつだ」
 頭に被っていた朽ち葉を払ってやると、黒曜の瞳と目が合った。
「ふみゃあ」
 稚い声に自然と目尻を下げ、小さな額を指の腹でやんわりと撫で――と、そこでジャハルの手がふと止まる。
(「……嗚呼」)
 脳裏を過る懐旧の視点は、己のものではなく、おそらく師のもの。
「……こんな風であったのやもしれぬな」
 想像に過ぎないことは分っていた。少なくとも、自分はこんなに愛らしい姿ではなかったはずだと、ジャハルは己を省みる。
 それでも師が手を差し伸べてくれたのは、――。
「そんな顔をしてくれるな」
 無垢に一途に見上げる黒曜へジャハルは僅かに首を傾げ、そのままゆっくりと錦の上へ背を倒す。
 途端、数多のねこまたすねこすり達が寄って集ってジャハルを登り、温かくて柔らかな毛並を頬へ、鼻先へ、喉元へと擦り付け、押し当てる。
 壊れそうな可愛らしいものからは恐れられてばかりのジャハルにとって、夢のような一時だった。それはねこまたすねこすり達もまた。
 ごろごろと喉を鳴らし、二又に分かれた尻尾を気紛れに揺らし、顔を洗って、欠伸をして。
 心ゆくまで愉しんだなら、彼ら彼女らは夜天に架かる虹の階を渡って逝くのだろう。
 きっと星が登ってゆくような光景だ。
 そうしてジャハルは、山影に隠れた月のかなたまで伸びる光の軌跡を、最後のひとつまで目で追うのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャト・フランチェスカ


僕の信念を聞いてくれるかい
目には目を
もふもふにはもふもふを

というわけで出番だよ

おこめ
きみは火力を抑えめに、燃やさないように
こむぎ
きみは適度にひんやりさせてくれ
おもち
ひたすらもちもちするんだ
それがきみのおそろしさだからね

ていうか、なんだ?
なんなんだこれは?
キャラ崩壊なんてどうでもいいな
いや
キャラというわけではないのだけど

ふふふ
頬が緩む
いっぴきくらい連れて帰ってもバレなくない?
敗因はねこでした、ありがとうございました

……うん?
僕は何をしにきたんだったか
ふと我にかえってしまうのが悪い癖
もふもふしにきたんだよね?

相棒の猫たちも心なしか
いつもよりもふもふつやつやしているし

もふられ足りない子はいるかい?



●猫の楽園
 シャト・フランチェスカ(侘桜のハイパーグラフィア・f24181)の信念は、目には目を、だ。
 やられたら、やりかえす。つまり、もふもふには、もふもふを!
「というわけで出番だよ――Cat-astrophe!」
 敷かれた錦の終わりでシャトは柔らかく靴の踵を鳴らすと、今にも山陰に隠れそうな月に向かって軽やかに唱えた。
 途端、炎を纏う猫と氷を纏う猫、そしてとびきり大きくてもっちもちの猫が現れる。
「さあ、おこめ。きみは火力を抑えめに。くれぐれも燃やしてしまわないように」
 ――みぎゃ!
「こむぎ。きみは適度にひんやりさせてくれ。その方が、猫団子は形成されやすい」
 ――みゃあああお。
「そしておもち。きみはひたすらもちもちするんだ。だってそれがきみのおそろしさだからね」
 ――ふ、ふしゃー!?
 シャトの指示ごとに移ろう同種の姿に、何が始まったのだ集い始めていたねこまたすねこすり達もおおわらわ。
 遠慮がちに揺れる灯へはそろりと近付き、ほんのり贅沢設定のエアコンくらいの冷たさには二匹、三匹と重なりまるまり。そして鞠のように跳ねそうな大きなもちもちへは、対処が分らず固まって。
「ふふ、ふふふ」
 喚んだ猫と、妖の猫と。種で括るのは好まぬシャトだが、愛する猫の共演に頬は勝手に緩んでしまうし、頭上に生えた枝角では桜の花が咲き綻ぶ。
(「――ていうか、なんだ?」)
(「もしかして、キャラ崩壊とかいうアレか?」)
 今の自分を傍から眺めたなら、ちょっとした不審者かもしれない――ただし猫好きは往々にしてそういうものなので、同志にはいたく共感されると信じている。
 それに。
「いや、そんなのどうでもいいな」
 猫の前では全てが無力。理に叶おうとすることの方が誤っている。
 斯くしてシャトはきっぱりすっぱり腹を括ると、猫たちの観察に全霊を注ぐ。
 どうやら一番人気はおもちらしい。最初こそ驚いたようだったが、やはりもちもちの効果は万国万種共通。よじ登られてはクッションにされ、ぴこっと爪を立てられては弾み返され、繰り返し突進しているねこまたすねこすりまでいる。
「ふふふ、ふふ」
 笑いが止まらないとはこのことだ。
 いっぴきくらい、連れて帰ってもバレなくないだろうか?
 これだけいるのだ。全部倒さなければならない、なんて道理はあるまい。まぁ今回に限っては「敗因はねこでした」も大歓迎だし、むしろ「ありがとうございました」の心地だが。
 ――と徒然なるままに思考を巡らせ、序に近寄ってきたねこまたすねこすりを抱き上げたところで、シャトは「……うん?」と我に返った。
「僕は何をしにきたんだったか」
 真顔で考える。
 考える。
 考える。
 考えた――が、やっぱり愛らしい猫たちにこれ以上の追及は断念する。
 そも、ふと我に返ってしまうのは悪い癖なのだ。こういう時は、心置きなくどっぷり浸かってこそ!
「そう、そう。僕はもふもふしにきたんだよ」
 今日の出逢いはどんな物語になるだろう。筆執る嗣洲沙熔の貌を僅かに覗かせ、シャトは猫猫浪漫にダイヴする。
 手を伸ばすと、三毛が額を押しつけてきた。その隙にも、ハチワレが脛にふかふかの毛並を摺り寄せてくる。
 心なしか、相棒の猫たちもいつもより毛艶が良い。
 嗚呼、此処は猫の楽園(ぱらいそ)。
「さあ、もふられ足りない子はいるかい?」
 群がる子らを踏まぬよう十分気をつけて、シャトはねこまたすねこすり達が浄化されるくらいに満足するまで、彼ら彼女らをもふもふしまくるのであった。もふ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

尾白・千歳
さっちゃん(f28184)と

わぁ、かわいい~!
猫?違う?
うーん、可愛いから何でもいいか!
撫でてほしいの?
いいよーいっぱい撫でてあげる!
うわぁすっごいもふもふでふかふか
癒されるねぇ…(ほわん
え?さっちゃんのはいらない
なんかそれ変だし

私の尻尾が気になるの?
む、猫じゃらしじゃないんだけど…
お礼にちょっと貸してあげてもいいよ!(尻尾であやし
ホント気持ちいいなぁ(もふもふ
…え?もふもふすると尻尾が止まる?
しょうがない、じゃぁもふるの我慢して…
って、ちょっとさっちゃん!
何、猫さんにアピールしてるの!?
横取り?私に負けたくないからって…
猫さんに構って貰いたいの?
アルパカだっけ?
それがダメなんじゃない?


千々波・漣音
ちぃ(f28195)と

く、お前の方が可愛いんだがそれは!(心で悶え
まァ仕方ねェから、もふかわアルパカな神格高いオレの事も、もふっていいぞ?
はァ!?変って!(地味にショック

ん?すりすり慰めてくれるのか?
てか聞いてくれよ、ちぃがな…(何故か猫に恋愛相談
…でもほら、もふってる姿も超可愛いだろ…!(からの、安定の俺の幼馴染が可愛い件

てかちぃ、猫達に遊ばれてねェ?
助け船出してやるか
みろ!オレの、猫を虜にする猫じゃらし捌き!(ぴこぴこ
これで尻尾も大丈夫…って、別に猫横取りしてねェし!?
何その理不尽っ
てかアルパカ可愛いだろ!

…でもまァ、いっか
もふもふと戯れるちぃ、可愛いがすぎる…!(顔覆い心で悶えるアルパカ



●幼馴染の公式・すれ違い編
「わぁ、かわいい~!」
 ねこまたすねこすり達を目にするや否や、尾白・千歳(日日是好日・f28195)は黄色い歓声を上げて毛玉の海へ飛び込んだ。
 千歳の足に最初に擦り寄ったのは、ふかふか真っ白な毛玉。それからキジトラ、サバトラ、黒、灰と増えて、みゃうみゃう大合唱での大歓迎に千歳が身動き取れなくなるまであっという間。
 しかし千歳はこれっぽっちも慌てた風でなく、むしろ満面の笑みを浮かべて真っ白な毛玉をひょいっと抱き上げる。
「ねえ、あなたはだぁれ?」
 猫にそっくりだが、二又に分かれた尻尾や、まんまるボディはマンチカンにしたって手足が短すぎた。
 間近で見れば見る程、正体不明で千歳はことりと首を捻る。
 でもその思案も長続きはしない。
「うーん……可愛いから何でもいいか!」
 長く生きていれば細かい事はどうでもよくなる、というのを体現でもするみたいに、千歳は毛玉たちを優しく掻き分け、その場にそっと座り込む。
 当然、群がっていた毛玉たちは我先にと千歳をよじ登り始め、みゅあみゅあと口々に高く鳴く。
「撫でてほしいの? いいよー、いっぱい撫でてあげる!」
 これは甘えたいと訴えているのだ。
 血に潜む獣の本性で察した千歳は目を細め、まずは手の中の白い毛玉を膝の上へ乗せ、さらに乗せられるだけの毛玉をまとめて抱え上げる。
 あとは思う存分、撫でるだけ。
 シャンプーをするみたいにわしゃわしゃと掻き混ぜても、毛玉たちは嫌がる素振りは全く見せず、もっともっとと強請って頭を上げて千歳の手を追う。
「うわぁすっごいほふもふでふかふか……癒されるねぇ」
 膝の上の幸せに、千歳の貌もゆるふわのほわんほわんだ。と、なれば――。
(「……く。お前の方が可愛いんだがそれは!」)
 ――心の拳をぐっと握り締め、千々波・漣音(漣明神・f28184)はひたすら無言で身もだえる。
 百も承知な事実だけれど、幼馴染が可愛すぎて辛い。毛玉に塗れているのなんて、まさにお花畑に降臨した天使そのものだ。
 古来女子はふわもこに弱いと漣音も聞いたことはあった。しかしここまで効果覿面とは! けれども遅きに失したとは――齢99であろうと――漣音は思わない。今の漣音はふわもこの頂点に君臨するアルパカだから!
「なぁんだ、ちぃも子供だな。けど、まァ仕方ねェからもふかわアルパカな神格高いオレの事も、もふっていいぞ?」
 今日だけの特別だ、と漣音はもったいつけて千歳の傍らへ歩みを進める。
 が、寄越されたのは期待と真逆の視線。
「え? さっちゃんのはいらない。なんかそれ変だし」
「え?」
「いらない。変だし」
 ――え?
 ご丁寧にも繰り返された否定の二句に、漣音は地味にショックを受けて固まった。
 おかしい。こんなことがあるはずがない。いやでも確かに『変』って言われた。
「……ん?」
 呆然と佇む漣音のふわもこの足に、三毛の毛玉が擦り寄ったのはその時だ。「ふにゃーお」と優しく鳴きながら一度、二度と額を押しつけてくるのは、憐れんで――もとい、慰めてくれているよう。
「……お前、オレの気持ちを分かってくれる、のか?」
 つれなくされたばかりの漣音の心に、毛玉のもふもふ具合はよく染みた。むしろ染み過ぎた。
「ありがとう。オレの事を分かってくれるのはお前だけだ――なぁ、聞いてくれよ。ちぃがな……」
 斯くして始まる恋愛談義。普通、こういうシチュエーションで可愛らしい小動物に悩みを打ち明けるのは女子の側なんじゃないかなと思わないでないが、恋する男子のハートは硝子のハートなので迂闊なツッコミはしないにこしたことはない。
 というか、だ。そも隣で自分のことを語られているにも関わらず、千歳がそっちに興味を示すことは皆無。
「え、私の尻尾が気になるの? む、猫じゃらしじゃないんだけど……でも、まぁ。もふらせてもらったお礼に、ちょっと貸してもあげていいよ!」
 ――等とツンデレモードまで発動させつつ、ふんわりふさふさ狐尾で毛玉たちを優しくあやすことに千歳は夢中。
 されどそんなとこまで漣音にとっては可愛いのだ。とにもかくにも可愛いのだ。可愛くって仕方ないのだ。『オレの幼馴染、ちょっと可愛すぎない!?』案件なのだ。
(「ああもうなんでどうして――ん?」)
 そんなこんなで幼馴染の可愛らしさに頭を抱えていた漣音は、「ホント気持ちいいなぁ」とうっとりする度に千歳の尻尾の動きが止まっていることに気付く。
 どうやら千歳自身は無自覚らしいが、止まる度に毛玉たちが「みゃあああ」と不満を訴えるせいで状況は理解しているようだ。
(「いや、そこで不満はないだろう?」)
 何たる毛玉の傲慢。許し難し――とまでは流石に思わないが、ここは毛玉に遊ばれている千歳へ颯爽と助け舟を出す好機。
(「――よし」)
 決意すれば、男らしく決行あるのみ。
「すまん」
 律儀に三毛の毛玉に詫びを告げた漣音は、やおら千歳の方に背中を向けると、短いながら最高にもふもふな尻尾をぴるると振り始めた。
 ――ぴるる。
 ――ぴるるるる。
 ――ぴるぴるぴるぴる。
(「これで少しは毛玉の気をこっちに引けるだろう。そしたらちぃも心置きなくもふれ――」)
「……さっちゃん」
 漣音の行動は、千歳に存分にもふってもらいたいと願ったが為のものであった。そこは間違いない。
 けれどもその漣音の背中に千歳が放ったのは、地を這うような低い声。
「ねぇ、何してるの」
「え?」
 感じた不穏に振り返ると、千歳の目は完全に据わっていた。
「え? じゃないよ。その変てこ尻尾のぴるぴるは何? 猫さんたちにアピールしてるの!? もしかして横取り? 私に負けたくないからって……」
「…………」
 ――なんでどうしてそうなった!!!!
 とんだ勘違いだ、言いがかりだ、理不尽だ!
 喉まで競り上がった訴えを漣音は根性のみで腹の底へ封じめる。毛玉の事はすぐに察せられるのに、漣音のことは微塵も察してくれないのでしょう。同じもふもふなのに……!
 もしかして意図的ですか? そうなのですか!?
「なぁ、ちぃ……」
「そもそもアルパカだっけ? それがダメなんじゃない?」
 絞り出した縋る訴えもすげなく袖にされ、ついに漣音は砂と化す。
 もし一連の言動に悪気の一つでもあったなら――いや、あったらあったで絶望するが――切り込む新たな糸口を探す手立てもあったろう。されど千歳に一片の曇りもないから始末に負えない。
「……でもまァ、いっか」
 ねぇあっち行こう、と抱えられるだけの毛玉を連れて自分から遠ざかる千歳の背中を、漣音はやっぱり愛おしく見る。
 だって、どうしたって、もふもふと戯れる千歳は可愛すぎるのだ。可愛すぎるのだ。可愛すぎるのだ!!
「ほんと、可愛いに過ぎるだろ……パカ」
 顔面をもふもふの両手で覆い、アルパカ漣音は人知れず悶々とするのであった――不憫。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

小日向・いすゞ
【狐剣】
野性味が全く無い猫っスね
猫じゃないっスけど

いやあうちの猫は特別愛想が無いっス
…それにしたってっスけれど

餌が違うンスかね…
ふかふか撫でる

普段から猫慣れしてる力を見せてやると良いっスよ
でもセンセ
もっと猫を呼ぶにゃァ寝転がった方が良いっスよ
すねこすりっスし、寄ってこなくなる可能性もあるっスけれど

そうそう
寝転がったソードの上に座り
猫を抱き上げて撫でる
地べたに座ると服が汚れるっスからね
――ははあ、さっすがセンセ!
博識っスねェ
敷いてる自覚はある

やっぱり横に寝転がって
猫を抱えてわしゃわしゃ
今日はあっしはあるまじろっスから
あるまじろは汚れる事なんて、多分気にしないでしょう?

うーん
確かに
ふかふかっスしね


オブシダン・ソード
【狐剣】
わあ、この子達すごい寄ってくるよ、いすゞ
うちで飼ってる猫とは愛想が雲泥の差だね…
屈んで手を伸ばして、足にぶつかってくる子達を思うさま撫で回していこう
なんか無闇に手触りが良いね…毛並みが良いのかな…

ああ、なるほど猫は上から来られるの苦手なんだっけ?
躊躇わず横になるよ僕は
うんうん、視線の高さが合ってる方が身近に…

何で椅子代わりに
――ははあ、これがほんとの尻に敷くってやつだね
あんまり気にしないでそのままモフモフを堪能しようか
敷かれてる自覚はまあまあある

狐とアルマジロが仲良くなれるかは謎だけど、今はいつも通り隣に並んで
なんかもういっそ眠くなってくるね…



●いつもの隣
「ふにゃあ?」
「みにゃあ!」
 こちらに気付いた途端、群れて足元に纏わりついてくる毛玉たちに、オブシダン・ソード(黒耀石の剣・f00250)は「わあ」と驚きの声を上げた。
「この子達すごい寄ってくるよ、いすゞ」
 戸惑うように名を呼ばれた小日向・いすゞ(妖狐の陰陽師・f09058)も、チラと視線を落として――嘆息する。
 野性味が無いにも程がある猫たちだ。
(「猫じゃないっスけど」)
「うちで飼ってる猫とは愛想が雲泥の差だね……」
「いやあうちの猫は特別愛想が無いっス」
 さっそく屈みこんで猫もどき――ねこまたすねこすり達を思うさま撫で回し始めたオブシダンが引き合いに出した猫に、いすゞの眼差しが遠くなる。
 オブシダンが言うのは、UDCアースに買った家で共に暮らす黒猫のことだ。種が(一応)違う以上、比較対象としては相応しくないかもしれないが――。
「……それにしたってっスけれど」
 ふぅ、と諦めるように長い息を一つ吐き、いすゞはこんがり焼けた狐色に近い茶白の毛玉を抱き上げ、やんわりともふる。
「餌が違うんスかね……」
 何故だか好い匂いまでしてきそうな手触りに、すっかりモフ塗れになって狐の面を奪われそうになっているオブシダンも是を頷く。
「うん、無闇に手触りが良いよ、あっ、ちょ、それは駄目だって……毛並が良いの、か――ああ、だから。それはっ」
「何やってるんっスか、センセ」
 普段から猫慣れしている力を見せつける好機と煽る気ではいたいすゞだが、既に如何なく発揮され過ぎているというか、ねこまたすねこすり達の人慣れ具合が圧倒的で肩を竦めるくらいしかできない。
 余程、擦り寄りたいのか。それとも、喜ばせたいという愛嬌の塊なのか。
 そうして浮かんでは消え、消えては浮かぶ想像をお手玉のように遊ぶうち、いすゞはピンと閃く。
「そういやセンセ。もっと猫を呼ぶにゃァ寝転がった方が良いっスよ」
 ――すねこすりらしいから、寄ってこなくなる可能性もあるけれど。
 念のために付け足すつもりだった注意は、しかし「ああ」とオブシダンの即座の反応に飲み込まれる。
「なるほど、猫は上から来られるの苦手なんだっけ?」
 どうやら地面に転がることにオブシダンは微塵の躊躇も抱かぬらしい。気にかかることと言えばやはり狐の面の行方くらいなのか、わらわらとよじ登てくる毛玉たちにオブシダンは目尻を下げた。
「うんうん、視線の高さが合ってる方が身近に……」
「そうっスね」
 この時のオブシダンの胸中は、まさに狐につままれたようであったろう。だって不意にいすゞが寝転がったオブシダンの上に座り込んできたのだ。
「ああ、やっぱり人懐っこいっスねェ」
 しかもあろうことか、そのまま毛玉たちと戯れ始めるではないか。
 とは言えここで怖気づくオブシダンではない。
「何で椅子代わりに?」
 率直に問えば、三色毛玉を「高い高い」と掲げていたいすゞから、闇をも飲み込むような目線が放られた。
「地べたに座ると服が汚れるっスからね」
「成る程」
 そういや先ほども転がされるのを嫌がったっけ、とオブシダンは思い出していすゞの言い分を納得する。
「――ははあ、これがほんとの尻に敷くってやつだね」
 婚家に婿に入った身だ。嫁に尻に敷かれるのもまた然り。というか、物理的に敷かれる前から、尻に敷かれている自覚はまあまああるオブシダンだ。
「――ははあ、さっすがセンセ! 博識っスねェ」
 そして同じ音色で笑い始めたいすゞの方も、敷いてる自覚は多分にある。勿論、物理的な意味合いではなく。
 けれども存外しっかりした座り心地に、いすゞは毛玉へ息を吹きかけながら内心で首を傾げる。オブシダンが黒耀石の剣のヤドリガミであることを思えば、ふにゃふにゃのふかふかでないのは当たり前かもしれない。が、妙に据わりが悪い。
「まぁお」
「ああ、やっぱり高い処は嫌っスか」
 こそばゆさに鳴いた毛玉を盾にとり、いすゞはころりとオブシダンの隣に身を横たえた。
「ほうら、こうしたら高い高いも怖くないっスよね」
「いすゞ」
「ああ、髪をわしゃわしゃ噛むのはやめるっス」
「いすゞ?」
「今日のあっしはあるまじろっスから。あるまじろは汚れる事なんて、多分気にしないでしょう?」
 きっちり二度、呼んだ後。寄越された応えは微妙に曖昧で。だが「そんなこともあるか」とオブシダンはやっぱり納得する。
 今日の二人は狐とヤドリガミではなく、アルマジロと狐。果たして仲良くなれるかは謎だけど、結局のところいつもと同じで横に並ぶ。
「なんかもういっそ眠くなってくるね……」
 居心地の良さにオブシダンは全身から力を抜く。
「うーん、確かに。ふかふかっスしね」
 オブシダンの方から雪崩てきた毛玉たちに頬を摺り寄せながら、いすゞも目を閉じる。
 そうすれば聞こえるのは、甘えて鳴くねこまたすねこすり達の声だけ。
 二人の満たされた気色に、やがて毛玉たちも癒され還って逝くのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユノ・フィリーゼ
あれは、……ねこ…?
…妙に胸がざわめくのはこの姿のせいかしら

降りるのが少し躊躇われる中
にゃぁ、と甘えたように呼ぶ声
見上げる瞳はどこかうるりと寂しげにみえて

気がつけば地に着いた足
足元くすぐるやわい感覚に、きゅんとなる心

恐る恐る伸ばした翼で
ふわりと頭を躰をなでなでなで
…ずるい、ずるいわ!
こんなにふわふわだなんて…!
私の羽根も触り心地抜群だけど
きみ達にはかなわないね(なでなで)

鳥と猫が仲良しだって
おかしい事なんてない
このままおうちに連れて帰れたら…??
…だ、だめだめ!まだ、お仕事中なんだから

両手の翼でそっと躰を抱え
すりっと頬寄せ、抱きしめる
全部終わって元の日常に戻ったら
きっとまた一緒に遊びましょうね



●未来の約束
 ――トクリ。
 不自然に鼓動が高鳴った。
 そっと胸に手を押し当てれば、その速さを知ることが出来るだろう。が、ユノ・フィリーゼ(碧霄・f01409)の両手は今、空を翔る青い翼と化している。
 いや、だからかもしれない。
「あれは、……ねこ……?」
 眼下にころころ転がる一見無害な小動物に、ユノが奇妙な胸騒ぎを覚えてしまうのは。
(「どう、しよう……かしら」)
 仕事を遂行する為には、降りないわけにはいかない。と理性では理解はしても、『本能的』に躊躇われてしまう。
 ――爪を伸ばされて引っ掻かれたら?
 ――羽を毟られてしまうかも?
 ――そしたら、そしたら……。
「「にゃぁ」」
「!」
 指先まで冷えていくみたいに竦みかけた翼が、下からの愛らしい合唱にぴくりと跳ねた。
 甘えた呼び声なのだとはっきり分かるそれに、先ほどまでとは違う旋律を心臓が奏でる。ましてや、届かぬところに居るひとを見上げる寂し気な瞳を見てしまったら、もう――。
「にゃあお」
 気付くと錦の端をユノの足は踏んでいた。
 そしてその足にはすぐさま猫によく似た妖たちが嬉しそうに群がってくる。
 お日様をめいっぱい浴びたみたいなふかふかでふわふわの毛並みが、ユノの肌をやんわりと擽り包む。まろやかな温もりが、空で冷えた体をやんわりと解かす。
 すりすりと額を強めに押し付けてくるのは、ユノを逃がすまいとするせいか。
「――っ」
 きゅんっ、とユノの心が蕩けるように疼いた。
「なぁう?」
「うみゃう?」
 擦り寄ってきているのは、碧玉の瞳をした灰色の毛並の二匹。顔立ちから、兄弟か姉妹なのかもしれない。
 牙を剥いてくる様子がないのを確かめて、ユノは恐る恐る二匹へ翼を伸ばす。
 触れる時は驚かさないようやんわりと。そしてふんわりと撫でた。
「……ずるい、ずるいわ……!」
 あとはもう、魅了されるだけ。
「こんなに、ふわふわだなんて……!」
 みゃあお、みゃあおと強請られるままに膝を折り、ユノは青翼で灰色の二匹のふかもこ加減を堪能する。
 二匹の方も、ユノの羽根の柔らかさが心地よいのか、目を細めてコロロと喉を鳴らし出す。
「ふふ、私の羽根も触り心地抜群でしょう? きみ達にはかなわないみたいだけど」
 食べられてしまったらどうしよう――なんて危惧していたことを綺麗に忘れ、ユノは猫もどきの妖との一時を楽しむ。
 様々な種の人々が、数多の世界を渡る世だ。鳥と猫が仲良しになることだって、おかしなことじゃない。
(「このままおうちに連れて帰れたら……??」)
「……だ、だめだめ。だめよ、私! まだ、お仕事中なんだからっ」
 過った誘惑を、ユノは首と翼をふるふる振るって掻き消す。
「みゃーう?」
「まぁあう?」
 遊んでくれる優しい翼の人の突然の行動に驚いたのか、二匹が揃って首を傾げた。
「……何でもないわ」
 堪らず、ユノは二匹纏めて翼で抱え、頬を寄せる。
 ――温かい。
 ――柔らかい。
 満たされたなら、この二匹も澱を雪がれて、『元』に戻るのだろうか。
 そうなったらいい。
(「いいえ。その為に、私は進むの」)
 最後にもう一度、頬を摺り寄せ、ユノは二匹に別れを告げる。だがそれは永遠の別離ではなく。
「きっとまた一緒に遊びましょうね」

大成功 🔵​🔵​🔵​

鈴丸・ちょこ
【花守】
ほう、この俺にすりすりしてくるとは良い度胸だな
どこからでもかかってくるが良い
獅子らしく堂々と受けて立ってやる
鳩達も気圧されんなよ
(伊達に不惑は超えていないとばかりに、脛どころか全身ふるもっふ状態でも動じてない――寧ろ俺の毛並に恐れ戦け、返り討ちで極楽を魅せてやろうとでも言いたげな得意顔)

(普段は気安くすりすり等しない
か、此は戦であり攻撃であるという事で全力でもふり返している!)
よし、ぷりんも自慢の毛皮で迎え撃ってやれ――何なら挟み返してやるか!
(最早何がにゃんだかわからないけだまみれ)
おい骨を抜かれてにやにや手を緩めるなよ、鳩!
――鷹と針鼠が嫉妬気味だが、そこはまぁ責任取って何とかしろ


呉羽・伊織
【花守】
あっなにこれまって…ふわふわするというかそわそわするというか…!
気圧されるというか毛圧されるというか!
(普段獣にすらフラれ気味なせいか、熱烈あたっくふぁーれむ…もといけだまはーれむに落ち着かない様子で)
ちょこニャ…獅子サマもまってなにそれすごいつよい視覚攻撃が俺にささる!(あまりの光景におしくらけだまんじゅう~とか訳のわからない悲鳴をあげて)

いやこんなにゃーにゃーされたらにやにやするしかないじゃん!
っ…此処は誘惑に負けても勝負に勝てば問題無いよネ?
(既にお供達はわりと自由にもふもふ仕合っている!
が、微妙に痛い視線&針や嘴も時々ちくちく!)
いやコレは浮気じゃなくて仕事だから仕方ないの~!



●ふるもっふサンド
 漆黒の鬣を洗髪剤のコマーシャルよろしくふわぁっとさせた鈴丸・ちょこ(不惑・f24585)は、「ほう」と不敵に口の端を上げた。
「よもやまさか、この俺にすりすりしてくるとは。小動物ながら、よい度胸ではないか」
 すり。
 すり。
 すりりりり。
 先ほどからちょこへは、小動物と称した――なお、体格差はほとんどない。ちょっぴし膨らんだ気がするちょこでも、大差ない――毛玉が擦り寄ってきている。
 白、黒、灰に、キジトラ、サバトラ、茶トラにサビ、三毛にキジ白サバ白、茶白。此処は猫の毛並みの品評会かと言わんばかりの種々雑多な毛玉――改め、ねこまたすねこすり達が、みゃうみゃう、まうまう、なーおなお、と口々に鳴きながら、ちょこにすりすりすりりりり。
「うむ。俺は逃げも隠れもしない。何故なら、王者だからな。どこからでもかかってくるが良い」
 ちょこ、獅子の貫録を如何なく発揮して、超絶オトコマエにねこまたすねこすり達を受け止める。
 相手の性質はすねこすりだ。つまり、すねにすりすりする事を最も好む。されど今のちょこは、普段のしっとり艶々黒猫を遥かに凌駕し、獅子のもふもふ感も手に入れている。特に鬣と尻尾の先のもっふもふぶりは、ねこまたすねこすりをしても魅力的。
 ふにゃあぼふん。
 白い毛玉がちょこに埋もれると、マーブル模様みたいだ。
 なあああんぽふ。
 黒い毛玉がつっこむと、まるっきり一体化してしまう。
 もふられ慣れた毛玉たちにとって、ちょこの毛並は母の胎内、或いは極楽浄土。
「――ふ、畏れ入ったか」
 りりん、りん。
 首に巻いたリボンの鈴をいつもより高く鳴らし、ちょこは返り討ちにした毛玉たちへとどや顔を見舞うのであった。

 一方その頃。
「あっ、なにこれまって……ふわふわするというかそわそわするというか……っ!」
 呉羽・伊織(翳・f03578)は伊織でねこまたすねこすり達に全力でデレていた。どれくらいデレているかというと、折角の無駄に(無駄に)整った顔が残念極まりなくなってるくらい。
 この状態で酒場に繰り出したら、多分、遍く女性にそっぽを向かれる。見なかったフリをされる。
 ――だが、仕方あるまい。
 それだけねこまたすねこすり達はもふもふなのだ。気圧されるっていうか、毛圧される。
 しかも顔面偏差値は高い割に、伊織はもてはやされることに縁がない。とどのつまりが、獣にすらフラれがちなものだから、ねこまたすねこすり達の熱烈な歓迎ぶりにどうしたって戸惑ってしまう。
(「え、あ、も、もしかしてこれが熱烈ふぁーれむ、ってヤツ? いや、けだははーれむ???」)
 果ては挙動のみならず、思考までもが落ち着きを失いぐらっぐら。
「なぁん?」
「みゃおん?」
「ああああん、んっ」
 ヘーゼルとアンバーの二対の瞳にきゅるんっと見上げられ、伊織は仰け反り身もだえた。もう、どうしていいか分からない。こういう時はこの道のプロフェッショナルに救いを求めるより他になし。
 然してねこまたすねこすり達に夢中だった伊織は精神力を総動員してちょこの方を向き直り――。
「ぬう、どうした鳩。毛玉ごときに気圧されるなよ」
「――な」
 ――呼吸さえ忘れて固まった。
(「え、これって、どういう??」)
 伊達に不惑は超えていない事を体現するよう、ちょこはどっしり構えてねこまたすねこすり達にもふられている。
「臆するな。此れもまた戦いだ。もふられることは即ち、敵への精神攻撃だ」
「……あ、う、うん?」
「よし、ぷりん。挟み撃ちだ」
「………………っあ~、あ~、ああ~っ。おしくらけだまんじゅう~~っ」
 視覚的暴力にいよいよ伊織の精神が崩壊した。だってちょこと「ねこ」と前掛けをしたライオンのぷりんが、ねこまたすねこすり達をサンドしたのだ。ふるもっふサンドだ。
 もしかしなくてもここが地上の楽園? 毛玉の聖地???
 ふるもっふに満たされたねこまたすねこすり達も、にゃあにゃあ可愛らしく鳴き続けているお陰で耳も幸せだし、いっそ永住してやろうかって気にもなる。
「おい骨を抜かれてにやにや手を緩めるなよ、鳩!」
 飛んだちょこの叱咤に、伊織は前のめりに息巻く。
「いやこんなにゃーにゃーされたらにやにやするしかないじゃん!」
 さっきから針鼠亀やぴよこ鷹、鳩鴉の視線が痛い気がするが、伊織は考えないことにした。この千載一遇のモテ期を無駄にするわけにはいかない。多少、お供たちに嫉妬されてもだ(後に暫く冷遇されるの待ったなし)。
「ちがう。コレは浮気じゃなくて仕事だから、仕事だから、仕事だから仕事だから仕方ないのよ~」
 もふもふもふもふもっふもふ。
 ちょことぷりんの間に飛び込むのだけはギリギリ我慢して、伊織はねこまたすねこすり達を思う存分、撫でもふる。

 斯くして狂乱のふるもっふタイムは、ねこまたすねこすり達が浄化され、ただのすねこすりに戻るまで続くのであった。やったね!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
あらぁ、油揚げじゃツラレないケド、これはツラレちゃうかも

一度不思議そうにぱちり瞬いたら、適当に腰を下ろして
お客サマに笑顔になって貰うのがオシゴトなのよ(とかなんとかいう口実で)
さあさ、遠慮なくいらっしゃい(自分に都合よく誘導するのが常)

ぽんと膝を叩いて、甘えてくる子を乗せたらもふもふごろんむにむに(攻撃)
ほら、ソッチのコは喉を撫でてアゲル。この辺り(眉間)も好きでしょう?(攻撃)
大きな銀の尻尾でふわふわゆらゆら、遊ばせて(誘惑)
順番よ、ちょっと待っててネ

まあ美人に囲まれてしたい放題だナンて
怪しいモノに騙されてるとしか思えないンだけど(思ってない)
ぜぇんぶ、もふってから考えましょか



●狐の戯れ
 コノハ・ライゼ(空々・f03130)の薄氷の瞳に、さぁと虹が差す。
「にゃあお」
「あら、あら、あらァ」
 てとてとと短い足を精一杯に逸らせての出迎えは、ツンと気取ったお狐様の居丈高さえ崩してしまう。
(「油揚げじゃツラレないケド、これはツラレちゃうかもだワぁ」)
 真っ先に駆け寄って来たシャムみたいなポインテッド柄が、黒い鼻先をコノハの足元でくんっと鳴らし、それから白い額をスリリと押し付けてきた。
 柔らかくて、温かくて、甘やかで、優しい触れ合いに、コノハは一度、不思議そうにぱちりと瞬く。
 ――コレは、何てイキモノかしら??
 名前は『ねこまたすねこすり』だと知っている。だのに、膨らんだ疑問の風船は萎む気配がない。
 そうする間にも、一匹、二匹と足元の毛玉が「みゃあみゃあ」「まうまう」「うーうー」と増えていく。
 ただ唸ってるだけみたいに鳴き方が下手くそなのは、一番小さなサビだ。
「ん、もう。そんなんじゃ、お出迎え失格よォ? だってお客サマに笑顔になって貰うのがオシゴトだもの」
 ふふ、と口元を和らげ、コノハはふわりとその場に腰を下ろすと、「さあさ、遠慮なくいらっしゃい」とサビへ向けて膝を叩く。
 ぽん、ぽん。
 弾む音色とねこまたすねこすりからすればとても大きな手の平に、サビがいそいそと近付いて来る――が、一番乗りを果たすのはポインテッドだ。
「まあ、まあ」
 驚いた声を上げるが、実際こうなることをコノハは分っていた。
 いの一番でやってくるだけの脚力を持つコと、不器用な小さなコと。どっちが早いかなんて、試すまでもないコト。
 分かっていて、けしかけた。独占欲を競わせた。自身の目と心が弾むままに。
「にゃあん」
「ハイ、ハイ」
 どうだ、とばかりに膝の真ん中で鳴くポインテッドを、コノハは少し乱暴な手つきでわしゃわしゃむにむにと掻き混ぜた。これくらいを喜ぶと思ったからだ。案の定、ポインテッドはごろりとひっくり返って腹を見せる。
 ――ふわん。
 愛らしさに、コノハの胸の裡の風船がさらに膨らむ。
(「ええ、そうネ」)
 不思議なんて、ウソ。ホントはちゃんと理解ってる。コレは、可愛らしい生き物への庇護欲。らしくない、感情。
「ほら、アナタは喉を撫でてアゲル。ふふ、この辺りも好きでしょう?」
 左手ではポインテッドの腹を撫で、右手はようやく膝を登りきったサビに向け。鍵みたいに曲げた指で喉元を擽ったかと思うと、指先でひっかくみたいに眉間を撫でた。
 そうする間にも銀の狐尾をゆらゆら揺らし、たくさんのねこまたすねこすりたちを魅了する。
「巨大猫じゃらしの効果は絶大ネ?」
 押し寄せるねこまたすねこすりの波を「順番よ?」と自分のペースに巻き込みいなし、コノハは至福の時間を味わい尽くす。
「こんな美人に囲まれてしたい放題だナンて、怪しいモノに騙されてるとしか思えないンだけど」
 くふりと含み笑いに混ぜる自嘲も、真っ赤な嘘だ。
 騙される前に騙くらかすくらいはお手の物。だってコノハはお狐様だから。
「後の事はぜぇんぶ、もふってから考えましょか」
 勝って帰るのは確定事項。考える、なんてのもポーズで嘯き。
 ――でも。
 こんな祭を誰が主催したのかは、油を灯す爪先くらいは気になった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『魔童クシャ』

POW   :    二徳とんで五徳捨て
自身に【炎】をまとい、高速移動と【爪の斬撃による衝撃波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD   :    類を真似て嫉みを喰う
【爪】による素早い一撃を放つ。また、【体の一部を猫化する】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ   :    其は極楽浄土の使者
【金棒】で武装した【人間】の幽霊をレベル×5体乗せた【火車】を召喚する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は八榮・イサです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ゆめのしっぽ
「おお、あいつら全部いったにょか~」
 『彼』は朽ちかけの村から陽気な声と共に現れた。
「まったく、ずるいもんにゃ」
 空へ登る星のように消えて逝くねこまたすねこすり達の骸魂を手を翳して見送る彼の顔つきは、吐いた悪態に対して穏やかだ。
 まるでこの展開を望んでいたみたいに。
 ――いや、きっと望んでいたのだ。
 だって彼は朽ちかけの村に生まれた最後の子ども。
 賑わいから離れた地にあるが故に、捨てられ、忘れてゆく村で育ち、賑やかさに憧れた子ども。
 そんな子どもに、気紛れな骸魂が憑いたのが『彼』。
 別に良い事をしようなんて気はサラサラない。ただ奇妙な祭を催そうとする企みと、子どもの想いが偶然、一致しただけ。
 『彼』も子どもも、気分屋な猫であったのが、奇跡であり、運命であり、そして幸い。
「それじゃあ、おいらもそろそろ本気出すとするにゃ!」
 キラン。
 猟兵たちを前に、自慢の爪をキラリと立てたかと思うと『彼』――魔童クシャは朽ちかけた村に向かって踵を返す。
「お前さんらにゃんか、サックリやるにゃ!」
 すたこらさっさ。
 言動と行動が一致していない気がするが、おそらく物陰からサックリやるつもりなのだろう。
 斯くして最後の童と猟兵たちのおにごっこがはじまる。

 相手は童だ。
 強かに叩きのめす必要は、多分ない。
 追いついて、捕まえて、お仕置きを一発ずつ食らわせたなら、やがて還って逝くだろう。
 そして、もしかすると。追いかけっこの最中に、仮初のけもの心をくすぐるものや、思い出の欠片――かつての賑わいの面影であり、琴線に触れるもの――に出逢うこともあるかもしれない。
オズ・ケストナー
わあ、おいかけっこ?
まてまてーっ

ぽてぽて
追いかけていたらだれかのたのしそうな声が聞こえた気がして
なんだろ?
ひょこっと覗き込む

すこし開けた草の坂
お手製のソリで滑り下りていく影
子供同士、大人と子供

楽しそうな笑い声にわくわく
――あれ、今おりてったのはさっきの子?

わたしもっ
ガジェットショータイム
おおきな葉と蔓のソリにまたがって
しゅっぱーつっ

ぐんと風を切って出発したら
知らないうちにガジェットで加速
彼の背中が見えて
わーっどいてどいてーっ
どーん

わーっ、ごめんねっ
ふふ、でもたのしかったねえ
もういっかいやりたいっ

いっしょにあそべたらうれしいけど
とちゅうで逃げられたらはっとしてまた追いかけ
おいかけっこも、たのしい



●童の宵
「え? え?」
 くるりと踵を返した少年を、オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)はぽかんと口を開けて見送った。
「え、と。にげっちゃったね、シュネー――あわわ」
 腕に抱いた少女人形に問うと、まるで姉が弟を叱咤するみたいに小さな手でぺちぺちと叩かれる。
 白い頬もほんのり上気しているようだ。そこでオズはシュネーに急かされていることに気付く。
 ――おいかけるの?
「おにごっこ?」
 相変わらず自信なさげに語尾を掠めさせると、シュネーが「そうよ」と言わんばかりに胸を張る。
 ――なるほど、そういうこと!
 得心に、オズの貌が満面の笑顔に彩られた。
「まてまてーっ!」
 そして転がるように走り出す。
 月明りも届かぬ暗がりに溶けてしまいそうな背中だ。でもぴこぴこ揺れる尻尾だけは見失わない。
 半分以上壁が崩れた家の角を曲がって、にょっきり伸びた三角の街路の横を走り抜け、砂利の坂道をぽてぽてと駆け上がる。
「――ん?」
 楽しそうな声が聞えた気がしたのは、坂を登りきった時。
 聳えていたのは、大きなお屋敷に似合いの立派な石壁。けれどその石壁もあちこちが崩れていて、人ひとりが通れそうな隙間がある。
「なんだろ?」
 狭い隙間だ。疵付けないようシュネーを高く掲げで、オズは「よい、しょ」と潜って、きょろりと周囲を見遣る。
 骨組みしか残っていないが、思った通りのお屋敷の敷地内だ。変わったところはない。しかし裏手に続く生け垣の門が妙に目に留まる。
「いってみよう」
 ドキドキ。心臓を跳ねさせながらオズは先へと進み――不意に開けた視界に「わぁ」と声を上げかけ、慌てて両手で口を覆った。
 裏庭は、なだらかな草の斜面。そこをお手製のソリで滑り降りていく影が複数。
 顔を見合わせているのは、子供達。見守っているのは、きっと大人。親子のように一緒に乗っている影もいる。
「ふふ」
 はっきりとした声は変らず聴こえない。でも彼ら彼女らが楽し気なのが伝わってくるせいで、オズはますます嬉しくなる。
 仲間に加わったら、みんな消えてしまうだろうか?
 それとも歓んで迎えてくれるだろうか?
「――あれ?」
 逸る気持ちに行動を委ねてしまいたいのと、見守っていたいのと。温かな悩みに頭を悩ませていたオズの視界に、ぴこんと揺れる尻尾が再び映る。
「今、おりてったのは……もしかして、さっきの子?」
 首を傾げると、シュネーがまた手を跳ねさせた。しかも今度は両手だ。
「そうだね、おいかけなくっちゃ」
 ――と、いうのは建前で。オズは「ガジェットショータイム!」と高らかに謳って、オズは大きな葉っぱのソリを出現させると、蔦の手綱を引き寄せ飛び乗った。
「いこう! わたしもっ」
 おっこちないようシュネーは後ろから背中にしがみつかせ、オズは斜面をぐんぐんぐんぐん下ってゆく。
 風を切る心地は最高だ。
 朽ちかけの町並も、不思議と輝いて見える。
 そうする間にも、ソリはずんずん加速し、小さかった背中があっという間に大きくなった。
 ぶつかるかも、と思った時には既に遅し。
「あぶないよー」
「ふえ!?」
「わーっどいてどいてーっ」
「いや、無理だにゃ!?」
 振り向いた子供の眼が、零れるように大きく見開かれる。伸びた爪でソリごとオズを斬り裂こうとするも、勢いに負けた魔童は正面からソリとぶつかって、しゅーんと空へ跳ばされ、くるくるっと回転しながら地面に落ちた。
「っ、あ、あぶにゃいにょな!」
「ごめんねっ、ごめんねっ。でも、じょうずなちゃくちだったよ!」
「そ、そうでも、ないにゃ」
 オズの掛け値なしの称賛に、照れた悪童がぽりと頭を掻く。
「ふふ、たのしかったねえ。もういっかいやる?」
「それは御免被るにゃ!」
 されど二度目のお誘いは御免なようで――だって撥ねられなければならないのだから!――、悪童クシャはまたしてもすたこらさっさと逃げ出す。
 しかしこれも追いかけっこ。
 両者が本気で殺し合うのでなければ、愉快な戯れ。
「よおし、おいかけよう!」
 軽妙な掛け合いに煌めいていた赤い瞳を思い出し、オズはまた走り出す。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鈴丸・ちょこ
【花守】
よし、狩りの時間だな
あまり目の前をちょこまかされると、いよいよ狩猟本能が滾ってならねぇ(先刻以上に爛々と、目の色変えて爪をしゃきん!)

じゃあ行くぞ、鳩と奇妙な仲間達
お前らが餌食にならねぇよう、獅子奮迅の活躍を見せてやろう

――む、余所見は禁物だぞ鳩
だがまぁ、懐かしい気分を否定はしねぇよ
(俺も昔は束の間の休息に、戦友とささやかに遊んだものだと目を細め)
(実際は休息どころか、紐や独楽に飛び掛かりはっするしていた青き日々)

然し今は、そうして鍛えたこの狩りの技を遺憾無く発揮する時――

さぁ追い詰めたぞ、坊主
俺とぷりんのこの爪とお前のその爪――どちらがより凄い猫パンチを放てるか、決着をつけてくれよう


呉羽・伊織
【花守】
(俺目線だとちょこ獅子も中々ちょこちょこしてて可愛く見えるんだケド――とは口が避けても言えず!)

おう、幾ら獣の祭でも(――例え鳩扱いでも!)、流石に狩られる側になるのは御免だ
頼りにしてるぜ、鬼ごっこのプロ達!

(何て意気揚々と進んだ先、ちょっとした木の実や、使い古された独楽を見つけ)
あ、美味しそう…独楽も懐かしいな
(嘗て恩人と襤褸屋に潜む中、小さな幸いや楽しみを分け合っい過ごした日々を思い出し)

――っと、分かってる!

さて、悪戯が過ぎる祭と遊びはそろそろ終わりだぞ
(ゴッドハンドぱんちにひえ…と思いつつ、UCで爪の応酬掻い潜って軽く小突きに)
良いコは家に帰る時間だ――骸の海まで送り届けよう!



●悪童vs獅子&鳩
「ふふふ――狩りの時間だな」
 よし、と静かに息巻く鈴丸・ちょこ(不惑・f24585)を、呉羽・伊織(翳・f03578)は気取られぬよう細心の注意を払って横目に盗み見る。
 いまさら遠慮するような仲ではない。だのにどうして気取られぬよう振る舞っているかと言うと、伊織が考えていることをちょこに知られるわけにはいかないからだ。
(「うん、まぁ……俺目線だと、ちょこ獅子もちょこちょこして可愛く見えるんだ、ケド?」)
 祭の影響なのか、いつもより体格は良くなっているが、そもちょこは賢いにゃんこだ。
 にゃんこがどれだけ大きくなっても、サイズ感はたかが知れてる。いや、ノルウェージャンフォレストキャットくらいなら迫力もあったかもしれない。しかしちょこは子猫感満載の愛らしさ。
 つまり、『人』サイズの伊織からしてみたら、どうしたってかわいい。もさもさふわふわの鬣が生えていたってかわいい。きゅるんとした金の瞳が、いつもより獰猛になっていたってかわいい。
 ――が。
(「口が裂けても言えねぇ。死んでも言えねぇ」)
 思ったままを伊織が口にしないどころか、察せられぬよう振る舞うのは、ちょこの中身が四十路のオッサンである事を熟知しているせい。あと、声だって渋い。
「ん? どうした、鳩」
 くるるっぽーと囀ることもなく黙したままの伊織を不審に思ったのか――そもそも伊織は鳩じゃないし。鳩の役割ふられて、美味しく豆をつつけるけど心の底まで鳩に染まったわけじゃないし――、ちょこがチラと視線を寄越してきた。
 狩猟本能を掻き立てられている眼差しだ。下手を打ったなら、問答無用の猫パンチ――もとい、爪を隠さぬ獅子パンチが来る。
「いや、何でも?」
 故に徹頭徹尾素知らぬふりを伊織は貫き、「準備は万端なようだな」と当たり障りのない台詞を放った。
 ちなみにちょこが準備万端なのは嘘ではない。近場に植わっていた木肌で研いだばかりの爪は、月明りさえ届かぬ暗がりでもキランと鋭く煌めいている。
 と、その時。
 獅子の丸みを帯びたちょこの耳が、ぴくりと蠢いた。
 不審な物音を聞きつけたのだ。そしてそれは、邂逅するや否やすたこらさっさと逃げ出した悪童の足音と同じリズム。
「行くぞ、鳩と奇妙な仲間達。ああ、針鼠亀は急がなくていいからな」
 今やすっかり針鼠となった亀を気遣うちょこのオトコマエぶりに、伊織のハートが「トゥンク」と高鳴ったかどうかは不明だが、音もなく走り出した漆黒の獅子の背を伊織はすかさず追う。
「おう、幾ら獣の祭でも、流石に狩られる側になるのは御免だ。頼りにしてるぜ、鬼ごっこのプロ達!」
 ――例え、扱いは鳩のままでも!
 ちょっぴり涙ぐましい伊織の胸の裡を知ってか知らずか――知っていても多分、スルーだろう――、ちょこは獰猛な牙が覗く口元をニッと吊り上げた。
「任せろ。お前が餌食にならねぇよう、獅子奮迅の活躍を見せてやろう」
 実際、ちょこは速かった。
 ちょこまかと逃げ回る悪童に食らいつき、それでいて伊織たちがはぐれぬよう足跡を残して導く。
 時折聞こえる「わぁ」とか「ひゃあ」とか言う悲鳴は、背中に爪を掠められたり、着物の裾に食いつかれそうになった悪童が堪らず口にしたものだ。
 しかし――。
(「あ」)
 崩れかけた井戸が真ん中に設えられた、小さな広場に出たところで、伊織の赤い眼は地面に吸い寄せられる。
 井戸端に、小さな木の実や、使い古された独楽が転がっていた。
(「美味しそう」)
 ころころとした灰褐色に、伊織の遠い日の腹が鳴る。なめらかな肌の木の実に楊枝を突き立てただけの独楽も懐かしかった。
 それらはいずれも、嘗て恩人と襤褸屋に潜んでいた頃の記憶と重なるものたち。
 小さな幸いや楽しみを分け合い、過ごした日々の象徴。
 伊織の変化を目敏く拾ったちょこが、律儀に足を止めて振り返る。
「――鳩、余所見は禁物だぞ」
 当然、発したのは叱咤だ。何せ『狩り』の最中なのだから。けれど語気に棘が無いのは、ちょこにも覚えがあるせい。
 その昔、戦友らと束の間の休息に興じたささやかな遊びは、今なおちょこの心を温める。正しくは、休息どころか、紐や独楽に飛び掛かって超絶ハッスルしていた青い日々だとしても(だってちょこは猫だもの。猫だもの。猫だから仕方ないったら仕方ない)!
 然し今は、そうして鍛えた狩りの技能を如何なく発揮する時。
「征くぞ、鳩」
「――っと、分かってる!」
 叱咤ではない発破の音色に、伊織は首を左右に振って幻想を払うと、翼と化した両腕を大きく撓らせた。
 夜気を孕んだ羽がしなやかに撓んで、鳩伊織を空へ舞い上がらせる。
「さて、悪戯が過ぎる祭と遊びはそろそろ終わりだぞ」
 開けた視界ならは、小さくなりかけていた悪童の背中もはっきり見えた。一度、二度と、鳩伊織は大きく羽搏き、此処へ彼らを導いたオブリビオンへ迫る。
 どうして此処へ連れて来たのか、理由は知らぬ。それでも悪意だけとは思えなくて、伊織はいつもより柔らかく風を切った。
「――何処までも飄々と」
「にゃに!?」
 空からの襲撃者に、悪童クシャの足も止まる。
「良いコは家に帰る時間だ――」
 帰り、還るのは骸の海。されど同時に、巣食われた誰かは救われる。
 くるりと中空で身を翻しながら鳩伊織が蹴りを呉れ、悪童の上体が傾いだところにちょこ獅子が組み付く。
「さぁ追い詰めたぞ、坊主」
「ひい」
 牙を剥くちょこ獅子に、クシャが身体を丸めた。そこへちょこ獅子と猫ぷりんが特大猫パンチをダブルで繰り出す。
「俺とぷりんの爪と、お前の爪――どちらがより凄いか、決着をつけてくれよう」
 ――っぱーん。ぱーん。
 華麗な二発が、左右それぞれからオブリビオンの頬を張った。
 見た目にインパクト大な猫パンチ――伊織曰く、ゴッドハンドぱんち――は、触りはソフトなれど威力は絶大。
 まともに直撃を喰らった悪童の身体は地面を鞠のように跳ね、伊織の頭上をも越えて飛んで行く。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

尾白・千歳
【漣千】
えぇー逃げた!
あの子行っちゃったよ、さっちゃん!
早く追いかけて!
だって、あの子なんか猫みたいだし
きっと初めてみるものとか好きだよ!(断言
だから、パカ次郎…だっけ?
出鱈目な生き物とかきっと好きだよ!

うーん、なんかダメそうだねぇ
さっちゃんにしかわからない魅力なんじゃない?
警戒されてる気がする
そうだ、私の蝶々さんで気をひいてみようかな
ほらほらっと上手く気をひくことが出来たらめっちゃドヤって
あぁ、やっぱり出鱈目な生き物には荷が重かったかな~(ふふん
へぇ~動物園にいるんだ~
一緒に行ってあげてもいいよ
(いなくても慰めてあげよう

お仕置きするなら今がチャンス!
私の蝶々さんのおかげだから!
感謝してね!


千々波・漣音
【漣千】

ふ、神格高い上にもふもふなオレ様だ、すぐ追いつくぜ!
って、オレが追いかける理由、それ!?
パカ次郎は固有名詞だし、出鱈目じゃねェ!
まァ確かに、アルパカの魅力で寄ってくるかもしれねェな…

よし!って追おうとするけど
…あれ、アルパカってどう走るんだ?
く、何でオレ、パカ次郎の動画撮ってないんだよ…!
くそ、ドヤるちぃが超可愛いっ(心で悶え
だから出鱈目じゃねェし!?
…じゃあ今度、アルパカさんいる動物園連れてってやるよ!(さり気に誘う

ああ、悪い子はお仕置きだ
炎の爪はバス停ぶん回した衝撃波で相殺し
バス停でおしりをぺん、だ!

まァお前にしては上出来じゃね?って
ちぃの事も褒めてやってもいいけどな!(てか可愛い



●幼馴染の公式・新しい約束編
 姿を現したかと思ったのは一瞬で、件のオブリビオンはあっという間に逃げてしまった。
 幾人かの猟兵が、弾かれたように追いかけていったのが少し前。
 それから「どうしよう? どうしよう?」と尾白・千歳(日日是好日・f28195)がわたわたするのを、「慌てる姿もやっぱり可愛いぜ……!」と千々波・漣音(漣明神・f28184)が密かに身悶える――傍目にはきっとバレバレな気がしてならない。だのに千歳が気付かないのは良いことなのか、悪いことなのかっ――ことたっぷり十分弱。
 寝て待った果報は、空から落っこちてきた。
「ぎゃふんっ」
 漫画みたいな潰れた声を発した割に、中空でくるりと回転した『それ』は、しなやかに地面に着地する。
 そうして警戒するよう周囲の様子を窺い、千歳と漣音の存在を察するや否や、数歩分のバックステップで間合いを取った――かと思うと、またぱっと身を翻して駆け出す。
「……っ! あぁー、逃げた!!」
 一瞬の出来事すぎて反応は僅かに遅れたが、今度こそはと千歳が息巻く。
「みてみてさっちゃん! あの子、また行っちゃうよ。早く、早く、追いかけて!」
(「ひぃっ!?」)
 漣音の編み上げ手甲の紐を、千歳がぐいと引っ張る。
 千歳としては手近なものを掴んだだけだろうが、あわや手を握られたかもしれないという事案発生に、漣音は胸中ですっとんきょうな叫びを上げる――が。しかし。
「だって、あの子。なんか猫みたいだったし。きっと、初めて見るものとか好きだよ。だから、えぇと……パカ次郎?? だったっけ?? そういう出鱈目な生き物とかもきっと好きだよ!」
 ――千歳、きっぱりすっぱり断言。
 段ボール箱ないかな、とか、トンネルもいいかも、とか、いっそ地面に輪っかを描いちゃおうかな、とかぽそぽそ付け足しながら断言。
「え――あ、って。オレが追いかける理由、それ!?」
 神格高くて、しかももふもふで。ついに千歳もオレの溢れんばかりの頼り甲斐に感付いたのか。もしかしていよいよオレ様の時代到来!? と、浮足立ちかけた漣音のハートが、がらがらと音を立てて崩れ落ちる。
 千歳が漣音に「追いかけて」と言ったのは、漣音を頼ったのではなく、猫の習性を頼った結果。そも、パカ次郎は固有名詞で、種を表わす単語ではナイ。
「言っとくが、アルパカは出鱈目じゃねェからなっ」
 言い募りたいことは山ほどあれど、「さっちゃん!」と千歳にいつになく輝く瞳で見つめられては、半分も口にできず。だがそれでも「ヤバい、目ェキラキラさせてるちぃ可愛すぎるっ」と役得感で心をいっぱいにしてアルパカ漣音は颯爽と走り始めた。
 されど、二歩、三歩と足を進めたところで漣音の動きがピタリと止まる。
「……」
「……さっちゃん?」
「……ちぃ、アルパカってどう走るんだ?」
「……え?」
 固まった漣音へ問うた千歳は、錆びた玩具のように振り返った幼馴染の発した尋ねに、意識が飛んだ(一瞬)。
「く、何でオレ、パカ次郎の動画撮ってないんだよ……!」
「……」
「ああ、オレにパカ次郎を召喚する能力があったら……っ」
「……なんかダメそうだねぇ。わかった、うん。うーん、うん」
 漣音の苦悩を悟った眼に映し、千歳は菩薩の境地に開眼した。うん、これは駄目だ。同情したのか、逃げてた猫っぽい子ども――悪童クシャも足を休めてこっちをチラチラしている。
 うん。うん。無理☆
「ね、綺麗な蝶々でしょ?」
 此方を気にかけながらも、近付いてこないのは警戒しているからだ。漣音という概念を頭の端っこへ押しやって、千歳は自ら打って出る。
「でも、今はよそ見してる場合じゃないんじゃない?」
 す、と取り出した紙片は数枚。それらは千歳の手から離れると、ひらひら華麗に舞う蝶に姿を転じた。
「ちょうちょにゃあ!」
 途端、後ろに反っていた魔道の猫耳がピンと立った。そして一目散に蝶たちへ駆け寄り、掴まえようと躍起になる。
「うにゃっ、こやつめ!」
「にゃにゃ! ひらひらはしっこい連中にゃっ」
 おもちゃにじゃれつく猫のような魔童の姿に、千歳は「ふふん」と笑って漣音を見遣った。
「あぁ、やっぱり出鱈目な生き物には荷が重かったかな~」
 ドヤァ。
(「くそ、ドヤってもちぃは超絶可愛いっ。ちょっと顎をしゃくってるせいで、首筋がっ――ああ、いやそうじゃなくて。ああでも、ピンって耳がたって可愛いのは猫じゃなくてちぃの方だし。やっぱそうだしっ」)
 全力で見せつけてくる千歳のどや顔に、またしても漣音の胸中に「オレの幼馴染が可愛すぎて辛い」ストームが吹き荒れる。
 この流れでふと漣音は気付いた。アルパカを出鱈目出鱈目言う千歳へ、本物のアルパカを見せてあげればいいんじゃないかって。さりげな~く、誘えばいいんじゃないかって!
「ったく。だから出鱈目じゃねェって言ってるだろ。今度、アルパカさんがいる動物園へ連れてってやるよ」
「へぇ~、動物園にいるんだ~。それなら一緒に行ってあげてもいいよ」
「! っ仕方ねェから、約束してやるよ」
 いえす、いえす、いえす!
 漣音、千歳が心の中で「いなくても慰めてあげよう」と憐みと優しさが綯い交ぜになった想いを抱えているとは露とも知らず、不承不承を装いながら大歓喜していた。ちゃっかり『約束』を取り付けちゃうくらいに。
「じゃあ、今度ね。ところでさっちゃん、お仕置きするなら今がチャンスだよ」
「ああ、そうだな」
「私の蝶々さんのおかげだからね? 感謝してね??」
「まァ、お前にしては上出来じゃね?」
 小柄な千歳が漣音を見上げる角度も、自慢気なお澄まし顔も、意気揚々ともふもふに拍車がかかる狐尾も。
 どれもこれもが目に入れても痛くない可愛さで、虚勢を張っていた漣音は刹那「うっ」と夜天を仰ぐと、山陰に隠れて見えない月を「今日も綺麗だなァ」などと褒めて間を繋ぎ、深呼吸の後に『漣神社前』と記されたレトロなバス停をそっと構えた。
 大人を引っ掻き回す悪戯っ子にはお仕置きが必要。
 けれど約束のきっかけを作ってくれた悪童には感謝もしてたりしちゃったりして。
「うにゃ?」
「――神罰を受けろ」
「うにゃにゃあ!」
 フルスウィングの速度はやや控えめに。あと致命傷になりやすい頭部などは避けて。そしてお仕置きといえばやっぱり、ということで漣音は魔童クシャのお尻をぺしーんとバス停で叩くのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

小日向・いすゞ
【狐剣】
とは云え
人を襲うのは良くないっスよ

がんばれがんばれ
鼓舞は0
センセが追い立てて来るのを
管狐を喚んで、敵襲を警戒しつつ待つっス
今日は管もあるまじろっスから、管に結界の符も張っておくっスよ

きっと、お祭りだったんでしょうね
賑やかな過去の気配を遠くに感じながら、符を手に

ここは行き止まりっスよ
センセが敵を追い立てて来たら、管をけしかけるっス!
防御もできる賢い子
行くっス、管…あるまじろ!

…センセ?

敵に符を鋭く放ちながら、肩を竦めて
――妖狐はズルいモンっスからね
さあさ、行くっスよセンセ

そういう事らしいっスから、メ!って言いに来たっスよォ
人を襲うと人が危険っスからねェ
その子を返して貰うっスよ、骸魂くん!


オブシダン・ソード
【狐剣】
無邪気そうで咎めづらいけど
遊びに付き合うついでに一発懲らしめてあげようね

いすゞの援護を受けやすいところまで追い立てるのを目標に
それまでは…えっ足速くない?
衝撃波とか見えてる攻撃にはオーラ防御を駆使しつつ、追走

足は僕の方が長い(はず)だからね、障害物も跳び越えて…
うう、きつい…

大通りで立ち止まったら、過去の光景なんかも察せられるかな
天気雨。嫁入りの狐が行列を作るとか
そんな日もあったのかもね

ああ、ごめんぼんやりしてた

いすゞが迎撃の手を打ってくれたら――ねえこれ僕を囮にしたってこと?
なるほど、僕はまだ狐の修行が足りないらしい

素早く距離を詰めて、逃げられる前に蹴っ飛ばしてあげよう
はい、捕まえた



●そして、今日も今日とて
 フード付きのマントに、赤い紋様の刻まれた、左手用グローブ。黒い刀身の剣も、金の装飾が施され、魔術の媒介としての機能も高い。つまり、傍目にはオブシダン・ソード(黒耀石の剣・f00250)は術士の気配を漂わす――が、彼は黒騎士だ。
 肉体労働も不得手ではない。それこそ人間椅子にされても狼狽えることなどない程度には。
(「それにしても、だよね」)
 ハードル走よろしく崩れかけの塀をひょいと越え、オブシダンは獣の軽やかさに舌を巻く。
 フード付きのマントに代えて狐面を被る今宵のオブシダンは、狐の眷属。果たして真性妖狐の小日向・いすゞ(妖狐の陰陽師・f09058)がこれほどまでに身体能力に優れるかは分からないが、浮かれた奇祭の効果はオブシダンに未知の感覚を味合わせてくれている。
 とはいえ、やっているのは鬼ごっこだ。逃げる悪童を追う、追う、とにかく追う。
 地の利が悪童にあるからか、童ならではのはしっこさ故か。隘路を突き進んだかと思えば、崩れかけの軒下に潜り込み、枯れ色をした樹をするすると登ったかと思えば、斑に瓦の落ちた屋根を渡る悪童を追うのは一苦労だ。
 オブシダンに分があるのは、足の長さくらい。直線の疾走や、障害物を跳び越える時には間合いを詰められはするが、他は明らかに悪童に遊ばれている。
「うう、きつい……」
 それに持久力は得られなかったらしく、気紛れに寄越された衝撃波をオーラの壁で弾いたオブシダンは、ほんのり空が近くなった屋根の上で「はぁ」と疲れた息を吐く。
「はっはっはー、まだまだだにゃ!」
 両手を腰に当てて踏ん反り返る悪童は、見たまんま無邪気ないたずらっ子だ。
(「センセ、すっかりやられちゃってるっスね」)
 見上げる視界に二人を映し、いすゞは取り敢えず適当に「がんばれがんばれ」と鼓舞する気のない声だけ発する。
 咎めづらい相手だとオブシダンが思ったのと同じに、いすゞも一抹のやり難さを感じてはいた。
「とは云え、人を襲うのは良くないっスよ」
 聞かせるつもりのない説教をぼやくいすゞが町一番の通りだったろう箇所から動かないのは、悪童を憐れみ手控えているから――ではない。
「夜の守日の守、大成哉賢成哉、」
 アルマジロになっているせいか、いつもより強張る背を伸ばしていすゞは細い管を空へ掲げる。
「秘文慎み白す。管狐、疾う疾う如律令!」
 そうして陰陽師らしく唱え終わると、管の中からにょろりと可愛らしい働き者が現れた。
「さぁさ、管……じゃなくってあるまじろも、これを持っておくっスよ」
 管狐、改めあるまじろ。いつもと違ってごつごつしている背中に違和感を覚えているようだが、渡されるままに結界符を咥える。
「これで完璧っス」
 くふり、といすゞは片頬を吊り上げた。
 後は策が成るのを待つだけである。オブシダンや悪童の声でBGMには事欠かぬとはいえ、暇は暇だ。
 となれば目線は自然と周囲へ馳せられる。
「ふーん」
 元から細い目を更に細めて、いすゞは寂れた町並みにかつての賑わいを視た。
「きっと、お祭だったんでしょうね」
 月光さえ届かぬ暗がりにも多くの妖怪たちが行き交い、笑みを交わす。頭に葉っぱを乗せた子狸が転んだら、すれ違っただけの顔無しが駆け寄っていた。
 ――が。
「っ、にゃに!?」
「はい。ここは行き止まりっスよ」
 オブシダンに追い立てられて転がり込んで来た悪童を、いすゞは幻の感傷をさらり払って出迎える。
「待ち伏せとは、卑怯だにゃ!」
 後方から迫る足音に、いすゞを正面突破する道を選んだのだろう悪童が加速した。
「卑怯上等っスよ。行くっス、管……あるまじろ!」
 重力を無視するように跳ねた悪童が閃かせた鋭い爪を、いすゞはあるまじろに防がせる。
「さすが管、じゃなくってあるまじろっス。防御もできる賢い子っス!」
 後はバランスを崩した悪童を符で囲い込むだけ。そこでいすゞは、首を傾げる。
「……センセ?」
 てっきり血眼になって追いついてくると思ったオブシダンが、何時の間にか呆と立ち尽くしていた。
 けれどいすゞの呼び声に、狐面の男の肩が跳ねる。
「ああ、ごめん。ぼんやりしてた」
 ――天気雨が降っていた。
 ――月明りは届かなくとも、日の光は届く大通りに、細い、細い、雨が降っている。
 ――ゆるゆる進むのは、中央に花嫁を守る行列。
 ――真っ白な角隠しから覗くこんがり美味しい色の三角耳は、きっと狐のもの。
(「狐の嫁入り――なんて、ね」)
 垣間視たいつかの景色からオブシダンは抜け出して、そこでふと気付く。
「……あれ、もしかして。ねえこれ僕を囮にしたってこと?」
 いすゞの援護を受けやすい場所まで悪童を誘導するつもりであったが、状況を冷静に判断すると、辿り着く答はひとつしかない。
 そして肝心のいすゞはといえば、
「――妖狐はズルいモンっスからね」
 常の調子に戻ったオブシダンにぱちりと瞬いたかと思うと、したり顔で更に符を構えるではないか。
「なるほど、僕はまだ狐の修行が足りないらしい」
「何、ぶつぶつ言ってるっスか。さあさ、行くっスよセンセ!」
 マイペースで狡い狐は、納得に浸かる暇さえ許してくれぬらしい。狐面の下でくつりと笑ったオブシダンは、一足飛びに悪童へ肉薄する。
「僕には関係ないよね?」
「へ!?」
 脈絡なく絡まれた悪童がきょとりとするところへ、問答無用で繰り出すのは純然たる蹴りの一撃。
「はい、捕まえた」
 己の意思に関係なく空へ放られれば、流石の悪童も自身の制御を失い、あとは落ちるだけ。
「その子を返して貰うっスよ、骸魂くん!」
 例え悪気がなかったとしても、骸魂は骸魂。今後、人に危害を加えぬとも限らぬし、何より取り憑かれた妖怪は解放してやらねばならない。
「特大の、メ! を喰らうっス!」
「ひにゃあああああ……ああっ」
 斯くしていすゞは、年長者の務めとしていたずらっ子へ符とにょろりあるまじろによる特大デコピンを浴びせるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
へぇ、鬼ごっこってワケね
じゃあ狐と猫……ねこ?まあイイわ、どちらが勝つか勝負といきましょ

そうネ、たぶん捕まえて片を付けるのは簡単なコト
でも錦の道も、もふネコちゃん達も堪能させてもらったから
君とも気のすむまで遊ぼうか

追いつきそうになったら何かに邪魔されたり、時には朽ちた家屋に登ったり
そうやって付かず離れず*追跡を続けましょうか

ふふ、お狐様を騙そうだなんて思わないコトね
ナンて言いながらも触り心地の良さそうなモノにはつい気を取られたり
でもすぐに匂いを追って追い付くわよ

ねぇ、満足は出来た?
楽しかったならその気持ちのまま、おゆきなさいな
【天片】で賑やかに送ってアゲルわ



●狐に薄
 古今東西、悪戯っ子はすばしっこいものと決まっている――かは定かではないが。
 瞬きの間に尻尾を巻いて退散した悪童の背中を脳裏に描き、コノハ・ライゼ(空々・f03130)はくふりと口元に月弧を描く。
「鬼ごっこ、ってワケね」
 へぇ、と前置いた感嘆から既に含み笑いが滲んでいる。
 山陰に潜む朽ちかけの町は、そもそもさしたる規模ではない。追いかけていった猟兵たちと随所で遣り合っているのだろう。じぃと立って耳を澄ましていれば、歓声やら悲鳴やらが方々から聞こえてくる。
 遠ざかったり、近付いたりする音は情報源だ。
 然してコノハは、かけずり回るには適さぬ装束であるのを言い訳に、静かに――そして愉快に――好機を待つ。
 途中、手持無沙汰の余りに空を眺めた。聳える山が邪魔をして、碌に月さえ望めぬ夜空だ。風情に欠けるし、何処か寂しくも感じる。
(「あら、アタシったら」)
 もしかしたら、寂寥の積み重ねでこの町は廃れてしまったのかも、なんて感慨に浸りかけたところで、コノハは『らしくなさ』を自覚し僅かに眉を顰めた――その時だ。
「うにゃにゃあっ! こっちにもいたにゃ!!」
 廃屋の土塀を突き破り、件の悪童が飛び出してきた。しかも厳つい金棒を構えた幽霊たちを乗せた火車を引き連れて。
「まァ、ご挨拶」
 とはいえ物音に接近を察していたコノハは慌てることなく優雅に火車の突進を見切ると、ほんのり焦げかけた狐尾をぱたぱたと振って風を起こす。
「そうネ、今度はアタシの番。さぁ、狐と猫……ねこ? アナタ、ねこかしら? まあイイワ。どっちが勝つか勝負といきましょ」
「にゃに、勝負だと!?」
「そうよ。鬼ごっこ勝負。得意でショ?」
「にゃはははははー!」
 コノハの提案に、悪童からの是はなかった。なかったが、高笑いと共に尻尾を靡かせ、悪童は野放図に朽ちた景色の中へ消えて征く。
 そこで、初めて。コノハは動いた。
 躍るように、地を蹴る。古式ゆかしい装束だろうと、実際にコノハの挙動を妨げることはありはしない。そんな無駄な動きをコノハがするはずがないのだから。
 ひらり。袖と裾と装飾と尻尾で風を切って、コノハはあっという間に悪童に肉薄する。
 おそらく、捕まえて片を付けることは容易いだろう。
(「でも。錦の道も、もふネコちゃん達も堪能させてもらったから」)
 いずれ狩らねばならぬオブリビオンであるのは間違いないが、悪意を感じぬ――どころか密かに謝意さえ抱く童へ、大人げなく本気で振る舞うつもりはコノハにはない。
 むしろ彼の気が済むまで付き合うことさえ吝かではない。
「へっ、へ~んにゃ! 追えるもんなら追ってみ――にゃに!?」
「ハイ、ざぁ~んねん?」
 隘路に逃げ込まれたら、僅かの衝撃にも崩れそうな塀の上を駆けて待ち伏せした。
「ちっ、ならこうにゃっ」
「あらまァ、本物の猫みたいネ」
 少しの凹凸を活かして屋根に上られたら、一足飛びで間際に着地してみせた。
「ふふ、お狐様を騙そうだなんて思わないコトね」
 決して追い詰め過ぎない距離を保ち、コノハは悪童クシャと戯れる。きっと『童心に返る』とはこういうことを言うのだ。肝心の『童心』をコノハは知らないけれど。
「……これならどうにゃ!」
「まあああ!」
「ふははは、おいらのとっておきにゃ!」
 共に走った時間はどれくらいか。多分、そう長くはあるまい。けれど不思議な充足感の果て、悪童が飛び込んだ先にコノハはまろやかな吐息を零す。
 月光届かぬ地の銀世界。一面に、薄の穂がさらさらと謳っている。
 あまりの見事さに、追いかけっこの最中なのを忘れてコノハは見入った。
「狐にススキ野原なんて、分かってるじゃナイ?」
 しかしコノハが悪童を見失うことはない。狐の嗅覚が、獲物を逃す筈がないのだ。
 銀色の綿毛を連れて、コノハが再び走り出すまであと僅か。
 悪童へ華麗に追いついたなら、お狐様はニコリと微笑むのだ――ねぇ、満足は出来た? と。
 そして楽しい気持ちを抱かせたまま、彼を空色の風蝶草の花弁で包み込むだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
さびしんぼうの童子が大将なれば
覚えるのは納得

角帽子は仔竜の頭へ
…だいぶ大きいが
良いか、今宵のお前は空飛ぶ猫だ
共に遊べ
崩れかけた壁の裏に先回りさせ
仔竜の尾先を覗かせ誘う
目を凝らし耳澄ませ小さな気配を探り
掛かった童子を巨大な猫竜人として迎えよう

むう、逃げ足が速い
待たぬか

骨組み残した家屋は遊具のようで
仔竜と共に掴み飛び越え擦り抜けて
上手いではないか、悪童
狗尾草の茂みを突っ切れば
なぜか手に数本のそれ
これは――やはり、業なのか

嘗てもこんな風に庭園へ
金色に染まった、高い草葉の間へ師を追った
追う口の端が微か上がる
仕置きの拳骨は手加減してやらねばな

…それから、名を聞いておけるだろうか
また何時か訪ねてやれるよう



●呼ぶ音
「然もありなん」
 言うだけ言ってサクッと逃げた童子の後姿に、ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は得心を頷いた。
 さびしんぼうの童子が大将ならば、愉快なばかりな奇祭も、ねこまたすねこすり達と触れ合う道中も、何もかも合点が行く。
 捨てられ、忘れてゆく村で育つ中。童子は親からかつての賑わいを聞いたのだろう。
 憧れただろうことは想像に難くない――ひとりぼっちはさみしいから。
「……ふむ」
 ジャハルの脳裏に感傷めいたものが過った。が、きっとその心はこの場に似つかわしくないと悟った無骨な男は、やおらふかふかの角帽子を脱ぐと、付き従う青い瞳の仔竜の頭に被せた。
「ピギャ?」
 まったくサイズの合わない角帽子に、首まで埋もれた仔竜が疑問を鳴く。困惑した風ではないのは、角帽子の肌触りが最高なせいか。
(「師からの賜り物ゆえ、此れも然もありなん」)
 くふ、とジャハルの口の端が上がる。上がったまま、ジャハルは角帽子の縁を幾度か折って、仔竜の視界を確保してやると、その瞳を覗き込んだ。
「良いか、今宵のお前は空飛ぶ猫だ」
「ピギャ?」
「ピギャ、ではない。ぴにゃ、だ」
「ピ……ピ、ニ゛ゃ?」
「上手いぞ、そうだ。そして共に遊ぶのだ」
「ピギャ!」
 遊べ、という命の嬉しさに、さっそく「にゃ」と鳴くのを忘れた仔竜改め空飛ぶ猫が、翼を羽搏かせて暗がりへ消える。
 決して闇雲に飛んだわけではない。小さきものの気配は、小さきものの方が敏い。遊びたい盛りなら猶の事。
 斯くしてジャハルは空飛ぶ猫を追いかけ寂れた町を駆け、とろとろと歩く影を見つけると、物陰にぱっと身を潜ませた。
 ここまで随分と遊びつくしたのか多少疲れた風ではあるが、件の童子――悪童クシャで間違いない。
 なれば、とジャハルは空飛ぶ猫に崩れかけた塀の影から尻尾だけを覗かせさせる。
「!?」
 ふ~るふる。ふるふる。
 竜の鱗は何処へやら。いつの間にか角帽子と同じ質感を手に入れていた空飛ぶ猫の誘う尻尾の仕草に、悪童の目の色が文字通り変わった。
「……うー」
 低く唸りながら、悪童が近付いて来る。警戒しているのではない、既に空飛ぶ猫の尻尾に夢中になっているのだ。
 そろり、そろり。狩人の足取りで悪童が迫る。
 そして。
 悪童が尻尾に飛び掛かろうと跳ねた直後、万歳ポーズでジャハルは塀影から飛び出す。
「うにゃあ」
「みぎゃああ!!!!!」
 ――悪童の反応は顕著だった。それはそうだ。自身より体格に遥かに優れた黒い猫竜人が現れたのだから!
 仰天した悪童は、魅惑の黒肉球に目を留めることなく、全身の毛を逆立て一目散に逃げて行く。
「むう、逃げ足が速い――否、鬼ごっこの挑戦状か?」
 であれば受けて立つのが武人の倣い。いや、今宵は武猫か。
「これ待たぬか」
「待てと言われて待つ阿呆はいないにゃー!」
 よほどジャハルの事が怖いのか悪童は振り返りもせずに叫ぶと、朽ちて骨組みだけになった屋敷へ駆け込んだ。大柄なジャハルでは追ってこれないという算段だろう。
 しかし繰り返すが今宵のジャハルは武猫。いつもに増して身が軽いし、空飛ぶ猫という最高の相棒もいる。
「先に征け!」
「ピ、ピに゛ャ!」
「うわっ、とぉ」
 すいっと先行した空飛ぶ猫が追いつくと、悪童は鴨居に飛びつき上の階に跳ね上がった。
「上手いではないか、悪童」
「当たり前にゃ! おいらを誰だと思ってるにゃ!」
 ひょいひょいひょいと、床板の抜けた木枠を悪童が駆け。追うジャハルは脚力にものを言わせて距離を詰める。
 そうするうちに楽しくなったのだろう、悪童の口から笑いが零れた。
「やるにゃ、オッサン!」
「おっさんではない、猫竜人だ」
「なんにゃそれ」
 けらけら腹を抱えながら悪童が招いた火車をジャハルへけしかける。でも乗っているのは頼りない金棒を構えた幽霊ばかり。「ぴぎゃ!」と愛らしい見た目に反して怪力な空飛ぶ猫が組み付くと、あっという間に消えてしまう。
「くう、こうなったら奥の手にゃあっ」
 廃屋を抜けた悪童が、転げるように坂道を下る。当然ジャハルも追いかけ、気付けば草むらへ足を踏み入れていた。
 がさごそと草の海を掻き分け、ジャハルは進む。一切の余所見はしなかった――はずなのだが。
「――むぅ」
 何時の間にやらジャハルの手には、空飛ぶ猫の尻尾のような穂を持つ草が握られているではないか。
「……やはり、業なのか」
 どうやら狗尾草の茂みだったらしい。抗えぬ猫の業にジャハルは眉間に皺を寄せ、肉球の手で穂を弄ぶ。
 そこで、ふと。薄暗いばかりであった世界に薄日が差し、銀色の穂が金色に変わる。
(「嗚呼――」)
 憶えのある景色に、ジャハルは胸の裡で深い息を零す。
 そうだ。嘗てもこんな風に庭園で、高い草葉の間を駆けて師を追った。
「……仕置きの拳骨は手加減してやらねばな」
 予期せぬ邂逅は、瞬き一つで元の景色に戻ってしまった。されど胸に灯った温かな火を、ジャハルは悪童への慈しみへと変える。

「そなた、名は?」
 やがて遊ぶだけ遊んで十二分に満足し、愛の籠ったお仕置きに骸魂が還った後。
 ジャハルはぽつんと残された猫叉の童に問う。
「音呼(ねこ)」
「ほう。良い名だ」
 金色の目をした童は、呼ばれた名にニカリと笑う。その屈託ない笑顔に、ジャハルはいつかの再会をひそかに心に誓った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユノ・フィリーゼ
やっと会えるお祭りの主催者さん
私あなたに伝えたい事があるの

空から密やかに地上を眺めれば
視界に映り込むゆらゆら尻尾
宵に紛れていても、ここからじゃ丸見えね

音を忍ばせそぉっと背後から声を
かくれんぼ?それとも鬼ごっこかしら?
ねぇ、何をして遊びましょうか

誘うように地上を宙をとんではねて
ご自慢の爪は福音の力も借り
くるりと躱し一回転
ふふ、何だかダンスをしてるみたい

楽しい夢のような時間
いつまでも続けばいいと思うけど
…あんまり遅くなると叱られちゃうね
あなたのかえりを待ってる人に

身を翻しぎゅっと手を掴んで握り、向ける笑顔

夢を、叶えてくれてありがとう
今日この時は私の宝物よ
願わくばあなたの夢も、叶えられていますように



●幸せの――
 うっとりと見惚れてしまいそうな自身の青い翼を、一度、二度と柔らかく羽搏かせ、空の住人となったユノ・フィリーゼ(碧霄・f01409)はまろやかな微笑みを浮かべながら眼下を眺める。
「やっと、会えたね――お祭の主催者さん」
 ふふ、と軽やかに囀るユノの目には、地上で繰り広げられるてんやわんやの一部始終が映っていた。
 だってここは空だ。水平に見ると入り組む町も、朽ちかけのおかげもあって俯瞰の目線であれば頗る見通しが良い。つまり、追いかけられる様子も、逃げ回る様子も、最中に戯れる様子もユノには筒抜けだ。
 やんちゃな妖怪に骸魂が憑いたのかもしれない。はしっこい悪童は猟兵たちを害そうとするようで、なかなか本気で害することなく、むしろ状況を楽しんでいる節さえある。
 そこに元の子供の性格が垣間見えている気がするから、やっぱりユノは笑顔になるしかない。
「あら?」
 狐の青年と猫の男に追いかけられていた悪童が、四方を土塀に囲われた井戸の中に身を投げた。
 あわや惨事かと気は急くも、聞えてこなかった水音にユノはおおよそを悟る。
 周囲を注意深く観察すると、近くにもうひとつ井戸があった。
(「きっとここね」)
 当たりを付けて、ユノはその井戸の際へと舞い降りる。そして――。
「こんばんは。かくれんぼ? それとも鬼ごっこかしら?」
「うにゃああああ!!???!」
 無防備な背へ不意にかけられた声に、井戸から顔を出したばかりの悪童は、文字通り飛び跳ねて驚いた。
「ええええ、なんでにゃ!?」
 水の枯れた井戸は、地下で繋がっていたのだろう。とっておきの秘密通路で追っ手を撒いた悪童は、ユノとの遭遇に赤い目を白黒させて、しゃっと爪を身構える。
 『猫』対『鳥』の構図再びだ。
 けれど先ほど存分にねこまたすねこすり達と戯れたユノに怯えの色は滲まない。
「ねぇ、次は何をして遊びましょうか」
「ふしゃー!」
 襲い掛かって来た悪童を、ユノは誘うように地面近くを飛んで、跳ねて、未来を見て来たかの如くクルリと躱す。
 ステップ&ターン。まるでダンスを踊っているようだ。
「ふふ」
 なかなかユノを掴まえられないことに、悪童は苛立っていた――のは始めのうちだけ。やがて目新しい玩具を与えられた猫みたいに、目を輝かせ始める。
「こらっ、逃げるにゃ!」
「逃げていたのはあなたじゃないの?」
「それはそれ、これはこれ、にゃ!」
 猫のしなやかさで距離を跳ねた悪童を、ユノは空へ躱す。めげずに伸ばされた爪へは、爪先でちょんっと降りてみせた。
 まるで、ではなく、本当に二人でリズミカルなダンスを踊る。
 しっくりと馴染んだ翼は、どこまでもユノを自由にしてくれた。
 楽しい、夢のような時間。
 ――そう、これは夢。
 ――オブリビオンが見せる、終わらせなければならない夢。
 ――永遠に続けさせてはいけない夢。
「……あんまり遅くなると、叱られちゃうね」
「うにゃ?」
 花咲くワルツのリズムから、哀切を帯びた嬰ニ短調の調べに転じたユノに、悪童が首を傾げる。
 血色が似合う彼は、間違いなくオブリビオンだ。
 でも、ユノは彼に伝えたいことがあった。
「あなたのかえりを待ってる人、きっといるもの」
 ――帰る。
 ――還る。
 憑かれた子供と、骸魂の両者を思い遣り、ユノは最後と決めたターンで悪童の手を掴み――きゅっと握り締める。
「夢を、叶えてくれてありがとう」
「なんの、ことにゃ?」
 何を言われているか分からない風の悪童へ、それでもユノは朗らかに笑みかけた。
 ――ありがとう。私の夢を叶えてくれて。私の鳥の翼を与えてくれて。
「今日この時は、私の宝物よ」
 ふたつの足音が聞こえてくる。
 きっと狐の青年と、猫の男だ。
 ユノは悪童が逃げ出してしまわぬよう、感謝で握っていた手に力を込める。
 ――ありがとう。
 ――あなたにもきっと幸いが訪れる。
「願わくばあなたの夢も、叶えられていますように」

 悪童は還った。
 残されたのは、ひとりぼっちに戻った幼い妖怪だけ。
 だが彼は程なくして独りではなくなる。
 何故なら、愉快な祭という夢から醒めた妖怪たちが、「美しい青い鳥をみた」「歌声もたいそう綺麗であった」と口々に触れ回ったから。
 噂を聞きつけた妖怪たちが、朽ちかけの町を訪れるようになる。中には住みつくものまで現れた。
 気の好い妖怪たちばかりだったのは、天の悪戯か、それとも恵か。件の世話焼き天狗たちがいたのは、運命を感じざるを得ないけれど。
 青い鳥。それは幸せを運ぶと言われる鳥――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月06日
宿敵 『魔童クシャ』 を撃破!


挿絵イラスト