迷宮災厄戦⑱-5〜トロンプ・ルイユの幻想画廊
――不思議なふしぎなお屋敷は、天地がぐにゃりと捻じ曲がった騙し絵の世界。
さっきまで上っていた筈の階段が、いつの間にか下りのものへとすり変わっているのに始まって――絵の向こう側には道があり、ずっと廊下が続いていると思ったら、其れは壁に書かれた絵であったりもする。
――くす、くすくすくす。絵画のなかで微笑む少女は果たして、本物なのか偽物なのか。額縁に手をかけながら、そろりそろりと曲がり角を窺ってみれば、微かな灯りの下でうっすらと、金の髪が見え隠れした。
――ああ、気をつけて! 『彼女』に見つかったらお終いだ!
迷宮のあるじは、決して倒せないから。それでも、騙し絵に惑わされること無く、お屋敷に隠された真実を――『心臓の小箱』を見つけることが出来たのなら。きっと魔法が解けて、すべては元通りになるだろう。
ああ、足元には青い空が描かれて、見上げた天井には白と黒のチェス盤みたいな大地が広がっている、そんな風景にくらくら眩暈がしてくるけれど。
ようこそ、我らの愛しきアリス――無数の絵画に彩られた、トロンプ・ルイユの幻想画廊へ。
其処は、オウガ・オリジンが現実改変ユーベルコードで作り上げた、どこまでも続く『お屋敷迷宮の国』なのだと、シーヴァルド・リンドブロム(廻蛇の瞳・f01209)は告げた。
「騙し絵と言うものを、実際に目にした者も多いと思うが……其処は建物全体が騙し絵のようになっている、厄介な場所のようなのだ」
それは、存在しないものをあたかも存在するように見せかけたり、錯覚を与えて遠近感を狂わせたり――そんな虚実入り乱れる屋敷のなかで、オウガ・オリジンに立ち向かわねばならないのだそうだ。
「しかも、言葉通り『無敵』の存在となって、だ。……時間稼ぎは可能だが、それでも限界はある」
掴まったら其処で敗北になるだろうと前置きしつつ、それでも敵の弱点は存在するのだと彼は言う。それは屋敷の中に隠された、『心臓の小箱』を見つけて壊すこと――つまりオウガ・オリジンから逃げ回りつつ、小箱を探すよう探索を進めていけば良い。
「ずらりと絵画が並ぶ、ギャラリーのような廻廊が何処までも続いているようだが、絵画そのものにも気をつけて欲しい」
少女が描かれた絵画のなかに、絵の振りをしてオウガ・オリジンが潜んでいるかも知れないし、ただの風景画だと思っても、その先の部屋に続いていたり。
――壁に並んだ扉がどれも偽物の絵で、その中にひとつだけ本物の扉が混ざっていることだってありえるし、天地が逆さまに作られた部屋では、天井から突き出た階段に、頭をぶつけないよう注意した方が良さそうだ。
「……屋敷全体が薄暗く、照明も限られている。不用意な灯りはオウガ・オリジンに居場所を知らせるようなもので、真偽を見定めるのは大変だろうが、どうかこの迷宮を攻略してきて欲しい」
偽りの中に潜む真実を見つけて、トロンプ・ルイユの先へ――元あった現実の世界へと戻れるように。
柚烏
柚烏と申します。こちらは『迷宮災厄戦』のシナリオとなります。戦場は⑱-5で、オウガ・オリジンの『お屋敷迷宮の国』での冒険になります。
●シナリオについて
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、戦況に影響を及ぼす特殊なシナリオとなります。なお、下記の内容に基づく行動をすると、ボーナスがついて有利になります。
※プレイングボーナス……追いかけてくるオウガ・オリジンをうまく出し抜く。
●『お屋敷迷宮の国』について
騙し絵の絵画が並ぶギャラリーで、建物自体もトリックアートのようになっています。エッシャーの絵のような、どうなっているのかよく分からない階段だとか、天地が入れ替わってしまったような建築だとか、一見して何処をどう進めば良いのか分からないような迷宮になっています。
そんな中で、無敵のオウガ・オリジンが襲い掛かって来るので、どうにか逃げて『心臓の小箱』を探し出して下さい。
こんな騙し絵や絵画があれば面白いなとか、こんな所に宝を隠していそうとか、プレイングに書いて下さればなるべくリプレイに反映したいと思います。
※ただし、どの能力値で判定するのか、ユーベルコードを指定しない場合は、プレイング内に記入をお願いします。
●プレイングにつきまして
シナリオ公開がされたと同時に、プレイングを送って頂いて大丈夫です。『~8月27日一杯』までの受付を目安とし、以降はプレイング数が成功度に達成した時点で締め切りとなります(マスターページの方でもお知らせをします)
なお、戦争シナリオと言う特性上、シナリオの完結優先で執筆を致しますので、ご了承頂ければ幸いです。特に内容に問題が無くても、採用せずにお返しと言うことも出て来るかと思います。
今回は8月中に完結に持っていくことと、こちらのスケジュールの関係で、多くても【10名様ちょっと】の採用になるかと思います。
難易度は「やや難」ではありますが、不思議な世界での冒険を楽しむような、雰囲気重視でリプレイを書いていけたらと思っています。それではよろしくお願いします。
第1章 冒険
『オウガ・オリジンと「心臓の小箱」』
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POW : 無敵のオウガ・オリジンの前に立ちふさがる(撃破は不可能ですが、時間を稼ぐことは可能です)。
SPD : 無敵のオウガ・オリジンから逃げ隠れしながら、「心臓の小箱」の在処を探す
WIZ : 「心臓の小箱」の隠し場所を推理し、可能性の高い場所を徹底的に捜索する
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ネーヴェ・ノアイユ
薄暗い場所を選びながら移動することで……。探索用に纏った黒いローブを活かしつつオリジン様に見つからないように探索を。この際に人物が描かれている絵画には近づかないようにいたしますね。
天地が逆さまの部屋にて階段で頭をぶつけながら進んだ先にてさらに薄暗い部屋の地面にポツンとお魚様の絵画がある部屋へ。お魚様の上を歩いてみると地下の隠し部屋へと落ちていきます。
かなり薄暗い隠し部屋には壁や床。天井にまで様々な深海魚様の不気味な絵が。その中でも壁に一際大きく……。不気味に描かれた深海魚様の裏になにかないかを恐る恐る調べます。小箱があればUCにて作り出したナイフで破壊を。
何もなければ引き続き探索を頑張ります。
朱酉・逢真
心情)いや、いや。すげェとこだなァ。絵画で見ンのたァ迫力が違ぇや。空中に浮いてっとしか思えねえ階段、途中で虚空と同化しちまってる柱。つかあるいてたらいつのまにか壁に立ってンだが。やァおもしろい。絵画世界か。物語の世界を名乗るだけあらァな。ひひ。
行動)ちび(*幼年期)のナリで行こう。自力で飛べっし、小さいから隠れやすかろう。追われたら階段の裏に隠れて、たっくさんの《虫》を集めて人の形っぽくしたのを追わせよう。いまの俺はちびだから、移動するときゃでかい《獣》の腹に捕まってりゃ見えまい。床には気を張るがね。《鳥》どもを放って『心臓の小箱』を探させよう。見つけたら俺がおとりになる。そのすき箱を壊しな。
ノエル・クラヴリー
口調(私、あなた、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)
「WIZ」
アドリブ、絡み歓迎
「トリックアートってとても面白いですよね・・・ってあら!今回は依頼でしたね、集中しなければ」
なんの変哲もない絵でも、一見同じような絵でも、心臓の小箱がある場所なら何か他との違いがあるはずです、そういった絵画に当たりをつけて探してみますね。
もしオウガ・オリジンに遭遇したならUC【鷹狩り】を使用、鷹に目眩ましをさせます。その間に私はその場から離れます。
「こんなに面白い絵画がたくさんあるのにじっくり見られないなんて・・・もう!帰ったら美術館に行きます!」
――薄闇に包まれた『お屋敷迷宮の国』は、まるで真夜中の美術館へこっそり忍び込むような心地がして、ノエル・クラヴリー(溢れ流るる星空・f29197)の身体の裡では、ちかちかと星空が瞬く気配がした。
「トロンプ・ルイユ……トリックアートって、とても面白いですよね。……って、あら!」
そうして思わず、故郷の歌を口遊みそうになったところで――ノエルの金の瞳が瞬き、彼女は引きずりそうな程に巨大な斧を、改めてぎゅっと握りしめる。
「……今回は依頼でしたね、集中しなければ」
「いや、いや。それにしても、すげェとこだなァ」
しかし、そんなノエルの気持ちも分からないでもない、と。闇に溶けるような黒髪を舞わせ、軽やかな足取りで回廊を進んでいくのは、朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)であり。三観の一柱の力を用いて、幼年期のすがたに化身した彼は、その小柄な体格を活かしての探索を行うことにしたらしかった。
(「絵画で見ンのたァ迫力が違ぇや」)
――幾何学的なオブジェの幾つかは、逢真も美術書か何かで目にしたことがあったかも知れないが、現実改変ユーベルコードはそれを実際に生み出してしまうのだから無茶苦茶だ。
「最初から、人物画には近寄らない方が良いでしょうね」
ぐにゃりと曲がった壁にかけられた絵画は、額縁までもが捻じ曲がっているようで、見つめるネーヴェ・ノアイユ(冷たい魔法使い・f28873)の足元が、ぐらぐらと崩れていくような――何とも不安定な感覚に襲われたりもしたけれど。
(「……灯りのそばも、相手に気づかれ易くなりそうなら」)
雪のように白い髪を、黒のローブですっぽりと覆い隠しつつ、ネーヴェはオウガ・オリジンに見つからないように、空から突き出すエンタシスの森を進んでいったのだった。
「白い円柱……ああ、うっすらと光って、中に星が閉じ込められているみたいですね」
「頭をぶつけないよう……に、……っっ」
――まるで自分たちと共鳴しているように、瞬きを繰り返す幻想的な天の柱を、興味深く見上げているのはノエル。その隣で、ネーヴェがごつんと頭をぶつけてしまったのは、柱に紛れるようにして顔を覗かせる階段だった。
「へぇ、空中に浮いてっとしか思えねえな」
一体、如何なる絡繰を用いているのか――逢真の手を伸ばしたそれは透明な水晶で出来ていて、その先では白い柱が途中で、虚空と同化してしまっている。
「……ひひ、流石にあそこへ飛び込むのは、止めといた方が良さそうか」
そうしてぐるりと回り込むようにして、行く手に見える扉へと向かう一行だったが、歩いているうちに地面は壁になっていって、目的の扉は足元で顔を覗かせている始末である。
「絵画世界か。物語の世界を名乗るだけあらァな、と」
やァおもしろい――幼い口元をつり上げて笑う逢真だったが、次の瞬間には眷属である獣に掴まって、一気に跳躍を行っていた。
「――あァ、こっちに来な」
くすくすくす、と無邪気な笑みを浮かべながら、突如として彼に襲い掛かったのは、オウガ・オリジン――無敵の追跡者と化した迷宮のあるじを引き付け、無限階段の方へと向かっていく逢真は、同時に眷属の虫をひとの形に模って囮にしていく。
(「……私の鷹も、目眩しに向かわせましたから」)
(「了解。今の内に、箱を探しな」)
更にオウガ・オリジンの視界を遮り、少しでも時間稼ぎをしようと動いたノエルに、逢真も鳥たちを操ることで応えていくと。床の扉を開いて、その先の部屋へ飛び降りていったネーヴェは、壁一面に掛けられた魚の絵画の向こう側へ――隠し部屋となった薄暗い部屋の奥へと、どんどん落下していったのだった。
「まあ……ちょっと不気味ですけど、こちらには不思議な姿の深海魚様が」
――まるで海の底へと落ちていくように、絵画の裏側には、様々な深海魚たちが描かれていて。その中でも、一際大きい深海魚の絵にネーヴェが歩み寄ると、後から飛び込んだノエルの方も、何か違和感のようなものを感じとったらしい。
「なんの変哲もない絵でも……小箱のある場所なら何か、他との違いがあるはずですよね」
「……ええ、この赤い目。もしかすると、仕掛けになっているのかも知れません」
そうして――爛々と光る深海魚の目に宝石が埋め込まれているのを見て取ると、ネーヴェは自身の魔力を氷のナイフに変えて、一息に深紅の宝石を砕いていったのだった。
「上の方で……何か変化が起きた、のかも?」
――何処かで仕掛けが作動したような、そんな振動を確かめたノエルだが、其処で隠し部屋の中を振り返ってやるせない様子で溜息を吐く。
「こんなに面白い絵画がたくさんあるのに、じっくり見られないなんて……もう! 帰ったら美術館に行きます!」
大成功
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ヴォルフガング・ディーツェ
騙し絵は成熟した文明の証であるが…いやはや、怪物の手に掛かれば空恐ろしい代物に成り果てるものだ
【指定UC】を駆動
メカニック」で強化した魔導ゴーグル「ヘルメス」を通して単なる騙し絵か、オリジンかを分析しつつ探索
何もいない絵には電子魔術でマーカーを打ち込む
電子マッピングも同時に行い、屋敷の構造を把握
通常入り込まないような場所にこそ心臓はありそうだが…さて、な?
ふむ、螺旋階段が延々と続く絵…こんな騙し絵もあるのだな
絵の中に掛けられた家族の肖像…これは、ひょっとしてオリジンの…
襲撃されたら「オーラ防御」で氷域の盾を作り攻撃を交わしつつ、手近な絵に「ハッキング」
マーカーを通じて絵の中を飛び回り撹乱しよう
花房・英
結構楽しそうなとこなんだけどな
オウガ・オリジンさえいなけりゃ…無敵なんだろ、怖…
Rosa multifloraを足元に壁にと這わせながら、道を辿る
音立てないように、音や気配に意識を集中させる
隠すなら何処だ?
俺なら隠さず自分で持っとくけど…
小箱、なら例えばドレッサーの上とか
装飾品を仕舞うところとか
木を隠すなら森の中、みたいな感じで
そういう絵画があれば、念入りに調べる
騙し絵で落とし穴を見かけてビビったりしつつ
ここを探すのは俺一人じゃないんだから、焦らず慎重に進んで行く
万が一遭遇してしまった場合は、
蝶に相手させつつ逃げて時間稼ぎ
騙し絵は、成熟した文明の証である――と、ヴォルフガング・ディーツェ(誓願の獣・f09192)は言った。ひとの視覚を、心理的な側面も踏まえて分析した上で、新鮮な驚きを与える娯楽とすること。
「……いやはや。しかし其れも、怪物の手に掛かれば空恐ろしい代物に成り果てるものだ」
ヘルメスの双目鏡越しに見つめるそんな世界で、彼はオウガ・オリジンの気配を探りつつ、何もない絵画へと電子マーカーを打ち込んで目印をつけていく。
「結構、楽しそうなとこなんだけどな」
――と。電脳魔術を駆使して、迷宮の攻略を行うヴォルフガングの様子を、電脳空間で共有する花房・英(サイボーグのグールドライバー・f18794)の方も、魔法の薔薇を這わせて探索の足掛かりにしていっているらしい。
「……オウガ・オリジンさえいなけりゃ」
「ふむ」
無敵なんだろ、と溜息を吐いた英の隣で、今までの道程を地図に出力し終えたヴォルフガングが、或る一点を指し示して小首を傾げた。
「通常入り込まないような場所にこそ、心臓はありそうだが……さて、な?」
「あ、此処……何もない、ただの絵しかない場所だと思ったけど」
オリジンの気配も無く、先へ進む為の通路も無かった筈の場所に、今になって反応が現れたことを英も訝しんでいるようだったが――もしかしたら、他の仲間が仕掛けを作動させるなりして、迷宮に変化が現れたのかも知れない。
(「隠すなら何処だ? 俺なら隠さずに自分で持っとくけど……」)
――だが、不死性を閉じこめた小箱を常に持ち歩くのだとしたら、その利点は失われるだろう。何かの拍子に箱が壊れたらそこで終わりなのだ、やはり手の届かない安全な場所に仕舞っていると考えるべきか。
「……何だ。果物、か」
やがて――英の伸ばした野薔薇の蔓が、無造作に床の上で転がる林檎を捉えていくと。突き当りの壁に掛けられていた絵の向こうに、延々と続く螺旋階段が伸びているのが目に入ってきて、思わず息を呑む。
「ああ、騙し絵のなかに、騙し絵――」
果物を組み合わせて描かれていた人物の顔が、魔法が解けたかのように、元の果物に戻って辺りに転がっている――その様子を確かめたヴォルフガングも、絵画の奥の階段を覗き見て納得がいったようだ。
「……こんな騙し絵もあるのだな」
重力までもが捻じ曲がっている螺旋階段の絵は、絵の裏側が床になっており、上へ上へと昇っていこうとする己の意志に対して、実際はどんどん絵の奥に向かって吸い込まれていくような状態らしい。
――認識とのずれ、それによってちぐはぐに動きそうになる手足。五感の大部分が知覚で占められているのを改めて実感した英ではあるが、薔薇のつたう感覚を頼りに、音や気配に意識を集中させていくと。
「階段の真ん中に、穴か。……何でも有りだな」
それでも、迷宮を進んでいるのは自分ひとりでは無いのだから、焦らず慎重に進んでいこうと顔を上げて。螺旋階段の外側に飾られた、何処かの家の風景を描いた絵画の群れをじぃっと眺め――時折、手を伸ばして絵の中の箪笥やドレッサーを実際に探っていると、ヴォルフガングの方で何かを見つけたらしい。
「絵の中に掛けられた家族の肖像……これは、ひょっとして……」
――何処かで目にしたような金色の髪が、直後にざわざわと蠢くと、絵の中の少女がオウガ・オリジンに変わってふたりに襲い掛かる。
「――来た、か」
先ず動いたのは英だった。電脳空間から呼び出した蝶の群れが、彼の感情の機微に沿って追跡者の行く手を阻んでいくと、ヴォルフガングは氷域の盾を翳しつつ、手近な絵画にハッキングを行って一気に回避を行った。
(「相手は、随分焦っている様子だな……ならば」)
――『心臓の小箱』の在処はすぐ近く。この幻想画廊も、そろそろ終点だ。
大成功
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イア・エエングラ
灯りの下の、窓枠に
そうっと手伸べてみるけれど
指先が触れるのは硬い壁なの
やあ、や、不思議ね、騙されたねえ
ご機嫌に歩く地面はひび割れて落ちる空のよう
見上げれば逆さの駒が落ちるのかしら
楽しいことね、面白いのね
通り過ぎる時にはクリスタライズで融け込んで
光の屈折を騙す今だけ、僕も一緒のまがい物
揺れない灯が揺れるよな錯覚と一緒に探し物
枝隠すなら森の中、小箱ならば、どこかしら
今にも傾いて落ちそうな、壁掛け棚に手を掛ける
いろんな小瓶に小箱を並べたそこは
ほんとはまっさらな壁だけど
そんなふうにたくさん、お荷物あるとこ探して見よかしら
ね、出っ張っているよに見えるそこは
開けた穴を隠す内緒の絵で、あるかしら
――ぐるぐる回って墜ちていく、螺旋階段の果ての向こうに、仄かな灯りがともってイア・エエングラ(フラクチュア・f01543)を誘う。
「……やあ、や、不思議ね」
終点間際の、ぽつりと浮かんだ窓枠へ、そぅっと手を差し伸べてみるけれど――背伸びをしたイアの指先が捉えたのは、硬い壁の感触だけ。
「騙されたねえ」
だけど、そんな風変わりな宝探しさえ楽しむように、泡沫の声が弾けていけば。白と黒の世界に蒼褪めた星が瞬いて、赤い目をした深海魚がイアの方へと顔を覗かせた。
「おや、……あなたは、ほんもの?」
額縁から顔を出し、イアの装束を咥えたその魚は、彼を秘密の場所へと誘うように――更なる絵の中へと引き摺り込んでいく。
(「楽しいことね」)
そうして――まるで鏡合わせの、何処までも続く世界を旅していくかのように、再び天地が入れ替わっていくと。イアの踏みしめた大地はいつしか、ひび割れて落ちる空に変わっていて、見上げる頭上では逆さまの駒が、今にも落ちて来そうな形で固まっていたのだった。
(「……面白いのね」)
――ご機嫌な様子で歩く空は、ひび割れた段差を越えていくのが大変そうに思えたけれど、自身の姿を周囲に融け込ませていけば大丈夫。
(「僕も一緒の、まがい物」)
光の屈折を騙す今だけ、イアもトロンプ・ルイユの舞台に上がり、揺れない灯が揺れるよな錯覚と一緒に探し物をしていくのだから。
(「枝隠すなら森の中、」)
溶けていく丸時計が、枝のうえで積み重なって時の流れを曖昧にしていくなかで、滝となって流れ落ちる水は水路を巡り、再び滝となって堂々巡りをする。
(「……小箱ならば、どこかしら」)
――今にも傾いて落ちそうな、壁掛け棚に手を掛けてみれば、ほんとはまっさらな壁である筈なのに。彷徨うイアの指先が、棚に並ぶいろんな小瓶や小箱のあいだを行ったり来たりしているうちに、ふと何かに気づいたらしく荷物の奥へと伸ばされていった。
(「ね、出っ張っているよに見えるそこは――」)
透明な自分を見つけて、オウガ・オリジンが向かってくるよりも早く――銀の短剣を手に、全てを終わらせてみせるのだと。
(「開けた穴を隠す内緒の絵で、あるかしら」)
――掴んだ小箱に仕舞われた彼女の心臓へ、真っ直ぐにその刃を振り下ろしてしまえば。
ぱきん、と乾いた音を立てて、偽りの迷宮はあるじと共に砕け散っていったのだった。
大成功
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