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迷宮災厄戦⑱-2~遥かなる残照

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦 #オブリビオン・フォーミュラ #オウガ・オリジン #一人称リレー形式

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●アリスラビリンスにて
 そこは無色透明の海。
 魚の影はない。悠然と泳ぐ海亀もいなければ、優雅に舞うグラゲもおらず、素早く這い回るカニの姿も見えない。静かに鎮座するサンゴも忙しなく揺れ続ける海草もない。
 しかし、一人の少女がいた。
 青いエプロンドレスを着た少女。
 墨で黒塗りされたかのような顔のその存在を『少女』と呼べるかどうかはさておき。
 死の世界さながらの海中を漂いながら、無貌の少女――オウガ・オリジンはニヤリと笑った。
 到来を予感しているのだ。
 胃の腑を満たしてくれるであろう獲物たちの到来を……。

●グリモアベースにて
「美味そうなチーズケーキだろ? アリスラビリンスのケーキの木になってたんだぜー」
 伊達姿のケットシーが猟兵たちの前でチーズケーキを見せびらかしていた。
 グリモア猟兵のJJことジャスパー・ジャンブルジョルトである。
 瞬く間にチーズケーキをたいらげると、JJは本題に入った。
「こんなに美味いもんがある世界を滅ぼすわけにはいかねえよな。つーことで、アリスラビリンスを救うために迷宮災厄戦でまた一暴れしてくれや。『また』じゃなくて、初参戦の奴もいるかな? まあ、それはさておき……今回の戦場は『涙の海の国』ってんだ。名前からも判ると思うが、大海原が広がってる国だぜ。端っこがどうなってんのかは判らねえ」
 もしかしたら、端など存在しないのかもしれない。アリスラビリンスの他の国々と同様、『涙の海の国』は常識が通じない不思議な国なのだから。
 そして、オウガ・オリジンが現実改変ユーベルコードで作り上げた国なのだから。
「オウガ・オリジンの数ある分身の一体がその海の中をゆらゆらと漂ってやがるんだ。それを倒してほしいわけだが、そう簡単にはいかねえ。船上や空中から攻撃しても、なんやかやで防がれちまうんだ。だもんで、水中戦を挑むしかない」
『なんやかや』とやらについて問いただす猟兵は一人もいなかった。訊いても無駄だと判っているからだ。
「水中戦っつっても、特別な装備や技術は必要ないぜ。普通の海と違って、水の中でも呼吸ができるから。そんかし、『折れない心』ってやつが必要になってくる。『涙の海』の名は伊達じゃねえのよ」
 その海の水に触れると、自然に涙が溢れ、過去の悲しい思い出が蘇ってくるのだという。
 しかし、ずっと海中にいるはずのオウガ・オリジンは平然としているらしい。涙を流すような心など持ち合わせていないのか、あるいは悲しい体験をしたことがないのか。おそらく、前者だろう。
「つまり、悲しい記憶がフラッシュバックする状況の中で、血も涙もないような敵と戦いを繰り広げなくちゃいけないってことだわな。心身ともにキツい戦いになるだろうが……なあに、大丈夫。おまえさんたちなら、きっと悲しみを克服して、オウガ・オリジンに打ち勝てるはずだ」
 信頼を応援に変えて猟兵たちを励ました後、JJはふと虚空を見上げた。
「かく言う俺にも悲しい思い出があるんだ」
 表情も声音もいつになくシリアスである。
「五年前の夏……いきつけの食堂が潰れちまったんだよぉ! めっちゃ安くてボリューム満点のメニューばかりの良い店だったんだぜ! 味はいまひとつだったけどなー」
『いいから、さっさと転送を始めろや!』という思いを視線に込めてJJを睨みつける猟兵たちであった。


土師三良
 土師三良(はじ・さぶろう)です。
 このシナリオは1章で完結する戦争シナリオです。執筆ペースがゆっくりめなので、スピードを重視されるかたは御注意ください。

●戦闘とプレイングボーナスについて
 殺風景な海の中でオウガ・オリジンと戦います。呼吸はできますし、水圧もありません。しかし、猟兵の悲しい記憶が次々と蘇り、心を押し潰そうとしてきます。
 記憶の詳細は自由に決めてください。『愛する人を失った』や『信じる者に裏切られた』などのシリアスな路線でいくもよし。『期間限定スイーツを食べ損ねた』や『お? PBW用アドレスに新着通知だ。もしかして、長きに渡るリクマラがついに終わる時が来たのかな……って、「【第六猟兵】お知らせが更新されました」かよぉー! 成長限界とか知らせてくれんでもええわ!(号泣)』などのネタっぽい路線でいくもよし。
『過去の悲しみを克服しつつ戦う』という行為をプレイングに盛り込むと、プレイングボーナスがつきます。
 なお、前述した通りに呼吸等はできますが、普通に喋ることはできません。コンビやチームで参加する方々は意思伝達の手段を用意しといたほうがよろしいかと(『絆がめっちゃ強いから、以心伝心でなんでも通じる!』というのもアリですが)。
 それでは、皆さんのプレイングをお待ちしております。

 ※オープニング発表直後からプレイングの受付を開始します。

 ※基本的に一度のプレイングにつき一種のユーベルコードしか描写しません。あくまでも『基本的に』であり、例外はありますが。
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第1章 ボス戦 『『オウガ・オリジン』と嘆きの海』

POW   :    嘆きの海の魚達
命中した【魚型オウガ】の【牙】が【無数の毒針】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる。
SPD   :    満たされざる無理難題
対象への質問と共に、【砕けた鏡】から【『鏡の国の女王』】を召喚する。満足な答えを得るまで、『鏡の国の女王』は対象を【拷問具】で攻撃する。
WIZ   :    アリスのラビリンス
戦場全体に、【不思議の国】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。

イラスト:飴茶屋

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●オウガ・オリジン
 おお、来た!
 来た!
 来た!
 奴らは美味なる晩餐。
 そして、恐るべき敵。
 ……いや、もう恐れる必要はない。
 わたしの分身を何体も倒した(しかし、忌まわしき猟書家どもも何体か倒してくれた)奴らといえども、この涙の海でまともに戦うことはできないだろう。
 さあ、来い!
 来い!
 来い!
 悲しみに魂を蝕まれ、空っぽの存在になり果てるがいい。
 残った体はわたしがいただく。食らいつき、噛み砕き、飲み込み、消化してやる。
 肉片一つ残しはしない。
 
リーヴァルディ・カーライル
思い出すのは依頼《水葬》での出来事…
敵の術中に嵌まり記憶を失い大切な人と殺し合い…

…今でも鮮明に思い出せる。彼の肉を裂く感触が忘れられない…

…視界が滲み、心臓が早鐘を打つ
思えばあの日から、このユーベルコードは使っていなかった…

…だけど、それももう終わり。過ちは繰り返さない
どれだけ想い出が牙をむこうが、もう立ち止まったりしないわ

"血の翼"に魔力を溜め空中戦を行うように水中を切り込み、
敵の攻撃を残像が生じる早業で見切りカウンターでUCを発動

限界突破した怪力の右腕任せに呪詛を纏う大鎌を乱れ撃ち、
斬撃のオーラで防御ごと敵をなぎ払い傷口を抉る闇属性攻撃を放つ

…この業は、私の心に土足で踏み込んだ報いと知れ



●幕間
 仰向けの状態で水面と平行に海中を漂う無貌の少女。
 その姿を見た者は、水に沈みゆくオフィーリアの絵を連想するかもしれない。
 もっとも、無貌の少女――オウガ・オリジンは絵の中のオフィーリアのように死を迎えようとしているわけではなかった。
 逆に死を与えるつもりでいるのだ。
 突如、水面を突き破り、別の少女が現れた。
 オウガ・オリジンに挑まんとする猟兵の一人。オウガ・オリジンからすれば、死を与えるべき第一の犠牲者。
 銀の色の髪を波打たせ、闇の色の礼服を揺らめかせ、血の色の翼を羽ばたかせて、少女は海中を降下していく。
 オウガ・オリジン以外にその姿を見る者がいれば、地上に舞い降りる天使の絵を連想するかもしれない。
 あるいは悪魔の絵を。
 もちろん、少女は天使でも悪魔でもない。
 ダンピールだ。

●リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)
 魔力で構成された赤い翼で水をかき、オウガ・オリジンに向かって潜っていく。深く、深く、深く。
 水中なのに息ができる。おまけに視界も鮮明。
 しかし、喋ることはできない。
 にもかかわらず――
『おまえに名前を呼ばれると不快な感覚がしたけど、当然よね』
 ――声が聞こえてきた。
 オウガ・オリジンが語りかけているわけじゃない。それはわたし自身の声。かつてダークセイヴァーで敵の術中にはまり、大切な人と殺し合いを繰り広げた時の……。
『おまえは私の……討つべき敵だもの』
 声に続いて、鼓動が聞こえてきた。それもまた、わたし自身の鼓動。早鐘のように打っている。
 鮮明だったはずの視界が滲んだ。
 耳を塞ぎたくなった。
 目を閉じたくなった。
 だが、そうする代わりにわたしはユーベルコードを発動し、吸血鬼化した。体の一部だけを。『過去を刻むもの』という名の(この状況に相応しい名だ)黒い大鎌を保持する腕だけを。
 思えば、あの日からこのユーベルコードは使っていない……だけど、それももう終わり。過ちは繰り返さない。忌まわしい記憶が牙を剥こうとも、二度と立ち止まったりしない。
 視界がまた鮮明になった。翼に魔力を込めて、オウガ・オリジンに向かって突き進む。速く、速く、速く。
 すると、オウガ・オリジンの傍に人影が出現した。豪奢な衣装を纏い、火かき棒のような拷問具を携えた女。
『大鴉とかけて、書き物机と解く。その心は?』
 脳裏に声が響いた。今度のそれはわたしではなく、オウガ・オリジンの声。
 その謎かけにわたしは答えを返すことができなかった。もとより答えるつもりもなかったが。
 例の女がニタリと笑い、こちらに上昇してきた。問いに答えられぬ者を拷問具で攻撃する――そういうユーベルコードなのだろう。
 瞬く間に女は攻撃圏内に入り、拷問具を突き出してきた。
 ただし、その『瞬く間』はこちらのスピードには遠く及ばない。
 攻撃を見切り、女の横を通過し、オウガ・オリジンに肉迫。
 そして、わたしは『過去を刻むもの』を振るった。
 何度も、何度も、何度も。
 オウガ・オリジンの華奢な体が斬り刻まれ、無色透明の海水がどす黒い血の色に染まっていく。
 あの時の……そう、大切な人の肉を裂いた時の感触が手の中に蘇った。
 いや、蘇ったのではない。ずっと、手と記憶に染み着いているのだから。忘れられずにいるのだから。

 わたしは『過去を刻むもの』を振るい続けた。
 これはわたしの心に土足で踏み込んだ報いと知れ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

メラニー・インレビット
――この世界に迷い込まれたアリス様のお世話をさせていただく事、
それがわたくしめの喜びでございました
ですがアリス様は皆、オウガの餌食に…
無力だったわたくしは、
それを目の前にしながら、何も出来なかったのでございます…
ああ、あの時わたくしめに勇気が、力があれば…!


――この悲しみを思い出すのは何度目だろう?
繰り返す程に、胸の痛みが激しくなるようだ
だがこれは悲しみの記憶であると同時に、
オウガどもへの尽きる事無き怒りと憎悪の根源……
死神の名を借りてまで我が戦う理由なのだ

覚悟するがいい、オウガ・オリジン
今この海を満たす涙は貴様を潤す甘露などではない
貴様の最期の時を刻む標だと知れ!



●幕間
『これはわたしの心に土足で踏み込んだ報いと知れ』
 静かながらも激しい怒りの思念がオウガ・オリジンの脳に抉り込まれた。深く、鋭く、容赦なく。
 もちろん、物理的な攻撃――大鎌による乱れ斬りも続いてる。
『なにを言うか! 土足で踏み込んできたのは貴様たちのほうだろうが! わたしの領域に! わたしの世界に!』
 オウガ・オリジンは憤怒の思念を返したが、大鎌を操るリーヴァルディには届いていないようだ。仮に届いたとしても攻撃の手が緩むことはないだろうが。
(この流れはマズい……体勢を立て直そう。反撃はそれからだ)
 海水を染める自身の血を煙幕代わりにして、オウガ・オリジンは大鎌の乱舞から逃れた。
 しかし、逃れた先には別の敵が待ちかまえていた。
 小柄な時計ウサギの娘だ。
 彼女は奇妙な杖を手にしていた。
 小さな鐘と大きな時計が先端に付いた杖。

●メラニー・インレビット(クロックストッパー・f20168)
 傷だらけのオウガ・オリジンが泳いできます。
 しかし、わたくしめの目に映っているのは彼女の姿だけではありません。
 何人ものアリス様が見えるのでございます。
 彼女らや彼らは、わたくしめが猟兵として覚醒するより前に出会った方々。
 この世界に迷い込まれたアリス様のお世話をさせていただくこと――それがわたくしめの喜びでございました。
 ですが、アリス様は皆、わたくしの前でオウガの餌食に……。
 泣き叫んで命乞いをするアリス様もいれば、正気を失って哄笑するアリス様もいましたし、すべてを諦めて静かに死を受け入れるアリス様もいました。最期を迎えようとしているのにわたくしめに感謝を伝えてくれたアリス様もいましたね。
 しかし、どなたの場合であれ、わたくしがなにもできなかったという点は変わりません。
 ああ、あの時のわたくしめに勇気があれば!
 力があれば!

 わたくしは……いや、我は思わず目を閉じた。
 そして、すぐにまた見開いた。
 今は亡きアリス様たちの幻影が消えた。
 オウガ・オリジンも視界から消えた。青白い壁が現れて、我らを隔てたからだ。壁ばかりでなく、床と天井も形成され、我を閉じこめた。といっても、この即席の建造物は単純な牢獄ではない。左右には曲がり角があり、振り返れば、曲がりくねった通路が見える。迷宮を作り出すユーベルコードなのだろう。
 しかし、なんの問題もない。
 万物の時の流れを司る杖――その名も『時杖クロノス』を我は迷宮の壁に突き立て、死神の刻印を付与した。
 杖の上部に備わった時計の中ですべての針が目まぐるしく回転し、壁が脆くも崩れ去っていく。
 壁の向こう側にいたオウガ・オリジンの姿が再び視界に入った。その顔に目鼻があれば、驚愕の表情を浮かべていることだろう。強固な壁がいとも簡単に破られたのだからな。
 覚悟するがいい。今、この海を満たす涙は貴様を潤す甘露などではない。貴様の最期の時を刻む標だと知れ!
「ぐぼぉぉぉーっ!?」
 オウガ・オリジンが口なき口から苦鳴を吐き出した。大量の気泡ととともに。
『クロノス』を突き出し、奴の顔面に刻みつけてやったのだ。先程と同様、死神の刻印を。
 このような会心の一撃を与えてもなお、我の胸を苛む悲しみの記憶は消えない。むしろ、胸の痛みはより激しくなっている。
 だが、消えることなき悲しみは尽きることなき怒りの根源でもある。
 この怒りがある限り、我は戦い続けるだろう。
 死神インレビットの名を借りて。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
アドリブOK
右手に胡、左手に黒鵺(本体)の二刀流

一番は主を失った事。
でも猟兵になってからは、幾ら思って言葉を重ねても通じあえない、聞く耳すら持たれないと分かった時は、なんで俺は心を持ってしまったのだろうと。
想いがあっても何も為せないならば、存在意義すらないのではと考えてしまった。
それでもどこかで信じて今は戦場に立つしかないのだけれど。

基本存在感を消し目立たない様に立ち回る。隙を見てマヒ攻撃を乗せた暗殺のUC剣刃一閃で攻撃。
敵の攻撃は第六感で感知、見切りで回避。
回避しきれないものは本体で武器受けで受け流し、カウンターを叩き込む。
それでも喰らってしまうものはオーラ防御、激痛耐性で耐える。



●幕間
 インレビット――それはあらゆる命に死を齎す黒いウサギ。
 メラニーの故郷で語られているその伝承をオウガ・オリジンが知っているかどうかは判らない。
 しかし、インレビット/メラニーの恐ろしさは思い知ったはずだ。
「ぶばばばばぁーっ!?」
 苦悶の叫びと大量の気泡を同時に海中に撒き散らすオウガ・オリジン。
 メラニーが付与した死神の刻印は、対象を急激に老化させる。もし、オウガ・オリジンの顔面を塗りつぶしている深淵のごとき闇を剥がすことができるなら、老婆のような相貌が露わとなるだろう。
 周囲に漂う無数の塵(メラニーが崩壊させた迷宮の壁の残滓だ)をかき分けるようにして、顔のない老婆はメラニーの前から逃げ去った。
 しかし、すぐにまた新手に行く手を塞がれた。メラニーが現れた時と同じように。
 今度の『新手』は銀髪碧眼の男。右手にサムライブレイドを持ち、左手に黒い大振りのナイフを持っている。
 オウガ・オリジンが知るはずもないが、そのナイフこそが男の本体だった。
 そう、彼はヤドリガミなのだ。

●黒鵺・瑞樹(境界渡・f17491)
 オウガ・オリジンと目が合った……ような気がした。目も鼻も口も見当たらないから、本当のところは判らない。
 だが、俺が接近していることに気付いたのは間違いないだろう。
 俺は体を捻り、足をかき、死角に回り込んだ。奴の体から流れ出ている黒に近い赤の血潮を隠れ蓑にして、距離を詰めていく。水中での機動にはそこそこ自信があるんだ……なんて言うと、簡単にやってのけているように思えるかもしれないが、実は必死なんだ。この海に入った時からずっと、悲しい記憶に押し潰されそうになっているから……。
 俺にとって一番悲しい出来事は、魂を得てすぐに本体『黒鵺』(言うまでもなく、俺の仮初め姓はこれに肖ったものだ)の主を喪ったこと。
 だが、猟兵となった後に味わった幾つもの悲しみも消えてはいない。どんなに想って言葉を重ねてもなにも通じなかったり、そもそも聞く耳すら持たれなかったり……。
 想いを抱いていても、なにも為せないのならば、俺に存在意義なんてないんじゃないか? 心なんか持たなかったほうがいいんじゃないか? そんなことを考えたのは一度や二度じゃないし、これからも同じような考えを頭の中でぐるぐると巡らせることだろう。
 だが、それでも……俺は生き続け、戦い続ける。
 生き続けるしかないから。
 戦い続けるしかないから。
 俺はオウガ・オリジンの後方に回り込み、サムライブレイド『胡』(大磨上のせいで茎が原型を留めていないので、本当の銘は判らない)で背中に斬りつけた。
「――!?」
 オウガ・オリジンは声になってない声を発すると、振り向きざまに腕を薙いだ。
 その動きに合わせて、魚の形をしたオウガがどこからともなく飛び出してきた。数は三匹。
『胡』を振り上げ、一匹目を両断。
 体を反転させて、二匹目を回避。
 三匹目が脇腹に食らいつき、牙を立てた。
 だが、この程度の痛みなら、耐えられる。悲しい記憶がもたらす痛みに比べれば、なんてことはないからな。
 三匹目を体にくっつけたまま、俺は自身の本体たる『黒鵺』を振るい、オウガ・オリジンに斬撃を浴びせた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

フェリリアンヌ・カステル
あぁ――蘇りますわ
悲しみに彩られた、忌まわしき記憶の数々が

ゴミを財宝だと偽られ、金を毟り取られた記憶
大金を得て意気揚々としていたらスリに遭った記憶
一銭も持たぬまま、独り寂しく路地裏で夜を明かした記憶

くっ、どれもわたくしの未熟さ、不甲斐なさ故に齎されたもの
いわば黒歴史ですわ

しかし! 今のわたくしは昔とは違うのですわ!
数多の悲しみ苦しみを乗り越えて、一流……いえ、二流ぐらいの……商人としてここに立っているのです!

喰らいなさい!
わたくしの稼いだ金貨による必殺技【ゴーイング・マイウェイ】!
全財産溶かしてやりますわ!

※アドリブ&他PCとの絡み大歓迎



●幕間
 体を大きく仰け反らせるオウガ・オリジン。
 それは胸を斬り裂かれた衝撃によって生じたリアクションだったが、途中から能動的なアクションに変わった。体を更に仰け反らせ、『黒鵺』を持つ瑞樹の手を蹴りつけた反動で斜め下方に退避。数メートルほど深度を下げたところでまた仰向けの体勢を取り、今度は真横に突き進む。
 瑞樹の攻撃圏から脱するまでにさして時間はかからなかった。
 だが、事態が好転したわけではない。
 第四の猟兵の攻撃圏に入ってしまったからだ。
 その猟兵は若い女だった。
 金色の瞳、豊かな胸、蒼い刀身の魔剣、腰から下げた革袋、いかにもセレブ御用達といった衣装――特徴溢れる容姿と出で立ちだが、その中で最も際だっているのは瞳だろう。
 オウガ・オリジンを見据えているそれは『双』眸ではなかった。
 女は額に第三の目を有していたのだ。

●フェリリアンヌ・カステル(怪奇人間の冒険商人・f26579)
 ああ、JJ様の仰ったとおりでした!
 海に入った途端、脳裏に蘇ってきたのです。
 忌まわしき記憶の数々が。
 たとえば、ウン年前のあの出来事。

『どうですか、姐さん? このすんげー財宝は!』
『……でも、お高いのでしょう?』
『いえいえ。せいいっぱいベンキョーさせてもらいますぜ。これくらいでどうっすか?』
『まあ、お買い得! いただきますわー!』

 ゴミ同然の代物を財宝だと偽られ、大金(いえ、その時はお買い得だと思ったのですが)をむしり取られてしまったのです!
 他にもこんなことがありました。

『上機嫌ですなね、フェリリアンヌさん』
『はい。投機がちょっと成功しまして、臨時収入がありましたの。ああ、財布が重くて困っちゃいますわー』
『まあ、羨ましい』
『おほほほほ。この幸せを皆さんにも分けて差し上げたいですわ』

 分けて差し上げるどころか、財布を掏られてしまいました! なぜ、あんなに重い財布を掏られたのに気付かなかったのでしょう?
 そして、極めつけはこれ。

『………………』

 はい。音声はありませーん。
 なぜなら、無一文で、一人寂しく、薄汚い路地裏で、空腹と寒さに耐えつつ、夜をあかした時の記憶だーかーらー!
 くっ……悲しいだけじゃなくて、腹が立ってきましたわ。ゴミを掴ませたペテン師や財布を盗んだ掏摸ではなく、自分自身に対して。どの出来事もわたくしの未熟さや不甲斐なさ故に齎されたものなのですから。
 しかし! 今のわたくしは昔とは違います! 艱難辛苦を乗り越えて、一流……とは言わないまでも、二流? うーん……まあ、オマケして一・八流くらいの商人としてここに立っているのです。もとい、泳いでいるのです。
 おそらく、腰に下げたこの革袋の正体にオウガ・オリジンは気付いていないでしょう。水に潜るための重りかなにかとでも思っているかもしれません。
 確かに重りの役目も果たしていますが、この中にぎっしりと詰まっているのは……金貨です! そう、一・八流の商人であるわたくしが時にはコツコツと貯め、時にはがっぽりと稼いできた金貨なのです!
 これらを活かす時が来ました!
 喰らいなさい、オウガ・オリジン! わたくしの必殺技『ゴーイング・マイウェイ』を!
 全財産、溶かしてやりますわぁーっ!
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

木霊・ウタ
心情
オリジンが創り上げたんなら
きっと哀しい体験が海になる位あって
けど忘れちまってんだろう

可哀そうに
骸の海へ還してやろう

記憶
元アリスのオウガ達

こんな残酷な世界で只一人
家族や友はなく
助けもなく
堕ちるしかなかった

俺は間に合わなかった
手を差し伸べてやれなかった

亡霊共が俺を見てる

克服
判ってる

後悔や悲しみを己の一部とし
未来へ進む
それが命あるものの責務だ

裡から溢れる紅蓮が海を染め
海が見せるオウガの亡霊を燃やし尽くす

戦闘
獄炎なんで水中も関係ないぜ

爆炎によるジェット水流で突撃や回避

獄炎纏う焔摩天を薙ぎ払い
炎の水渦で魚や牙を吹き飛ばし燃やす

刺さった針は炎で灰にし
毒そのものも焼却

突撃し炎刃一閃
海ごと断つ

事後
鎮魂曲



●幕間
 フェリリアンヌの魔剣『ディープ・ブルー』がオウガ・オリジンの体を刺し貫いた。
 オウガ・オリジンは回避を試みなかったわけではない。
 しかし、躱すことができなかった。
 先手を打つことを試みなかったわけではない(対リーヴァルディ戦で用いた問いと拷問具のユーベルコードで攻撃しようとしたのだ)。
 しかし、上手くいかなかった。
 いや、オウガ・オリジンの回避や迎撃が上手くいかなかったのではなく、フェリリアンヌの攻撃が上手くいきすぎたのだ。金貨を代償にして行動を成功に導くユーベルコード『ゴーイング・マイウェイ』の作用である。その結果、腰の革袋を満たしていた金貨は文字通りに泡と消えてしまったが。
 あまりにも大きい代償に涙するフェリリアンヌ。
 その隙にオウガ・オリジンは逃走した。
 そして、これまでがそうであったように、また別の猟兵――鉄塊剣を持った少年にあっさりと捕捉された。
 しかし、これまでと違って、その少年がオウガ・オリジンに向ける眼差しには憐憫の色が滲んでいた。

●木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)
 目の前にオウガがいる。
 オウガ・オリジンだけじゃない。
 今までに俺が倒してきた元アリスのオウガたちが並んでいるんだ。もちろん、本物じゃなくて、この涙の海が俺に見せている幻影に過ぎないんだが……幻影だと判っていても、俺の胸は締め付けられた。
 確かに奴らはオウガだ。倒すべきオブリビオンだ。
 しかし、最初は人間だった。アリスだった。こんな残酷な世界に迷い込み、ただ一人で生き抜いた末に……堕ちるしかなかった存在。
 俺はそいつらを助けてやれなかった。
 手を差し伸べてやれなかった。
 だけど、いつまでも悔やんではいられないし、悲しんでもいられない。この後悔や悲しみを己の一部とし、未来へ進まなくちゃいけないんだ。
 それが命ある者の責務だから。
『責務』を全うするため、俺は行動を起こした。
 右手に持った鉄塊剣『焔摩天』の刃に左の掌を走らせる。
 傷口から噴き出したのは血ではなく、地獄の炎だ。ブレイズキャリバーである俺にとっては血も同然だけどな。
 炎はオウガの幻影たちを焼き捨てたが、オウガ・オリジンは素早く後退して、それを避けた。
 JJの話によると、オウガ・オリジンは涙の海の影響を受けないらしい。
 だけど、この国を作ったのはオウガ・オリジンなんだよな。
 ってことは、奴さんには悲しい記憶が海になるくらいあったんじゃねえか? そう、すべての悲しい記憶を涙に変えて流して流して流しまくって、海になるまで流し尽くして……そして、忘れちまったのかもしれない。
 だとしたら、可哀想だよな。帰してやろう。こんな涙の海なんかじゃなくて、骸の海へ。
 もっとも、当人は帰るつもりはないらしく――
『えーい! 忌々しい!』
 ――トゲトゲしいテレパシーだかなんだかを俺の心にぶつけてきた。
 もちろん、それだけで気が収まるはずもねえ。魚雷みたいなものを何発もブッ放してきやがった。いや、『雷』の部分はいらなかったようだ。よく見ると、魚だった。というか、魚の形をしたオウガだった。
 俺は地獄の炎を真横に噴き出し、魚たちを回避した。地獄の炎のジェット水流だ。
 すぐさま、炎の方向を後ろに変えて、オウガ・オリジンに突進。
 そして、スピン。『焔摩天』を水平に振り抜きながら。
 刀身から炎が迸り、水を蒸発させて突き進み(まるで水が切り裂かれているように見えた)、オウガ・オリジンの腹んところに真一文字の傷を与えた。

 ごめんな、オウガ・オリジン。
 こういう形でしか救ってやれなくて。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ネーヴェ・ノアイユ
ネーヴェね、膨大過ぎる魔力の影響で体も心も壊れそうだったの。
制御が出来ない力の暴走。そのせいで張り裂けそうな痛みで心も不安定。いつネーヴェが災害となってもおかしくない状況だったわ。
だからね、大人達はネーヴェを頑丈な病室みたいなとこに閉じ込めたの。
ずっと寂しかった。痛くて苦しかった。だけど……。

ですけど……。ただ一つ温もりがありましたね。
私が普通に生きられるようにとこのリボンを贈ってくださった方。あの時は人が怖くてお礼も言えませんでしたが……。
だからこそ私はこのリボンと共に生きて帰るのです。あの方にちゃんとお礼を伝えるために……!

UC使用の際はリボンに魔力溜めしていた魔力を全て使用して行います。



●幕間
 ウタから強力な一太刀を受けたオウガ・オリジンであったが、二太刀を受ける前に撤退することができた。
 しかし、猟兵たちの包囲網から逃れることまではできなかった。
 傷だらけのオウガ・オリジンの前に現れたのは、大きなリボンをつけた少女。年齢は十二か十三といったところ。髪は白いが、今までに攻撃を仕掛けてきた猟兵たちの中では一番幼く見える。
 オウガ・オリジンは久しぶりに邪悪な笑みを浮かべた。どんな表情をしたところで、黒塗りの顔に変化はないが。
(この小娘ならば、容易に倒せるな)
 早計である。思わぬ苦戦を強いられているために判断力が鈍っているのだろう。
 アリスラビリンスという不条理な世界において、外見の印象と戦闘能力を直結させてはいけない。他ならぬオウガ・オリジンも体格だけなら『小娘』の範疇に入るのだから。
(しかし、食いでははなさそうだ……)
 己の判断ミスに気付かないまま、オウガ・オリジンはリボンの少女に向かっていった。

●ネーヴェ・ノアイユ(冷たい魔法使い・f28873)
 記憶の大半を失ってしまった私にとって、過去の出来事がフラッシュバックするのはむしろ望ましいと言えるでしょう。たとえ、それが悲しい過去だったとしても。
 しかし、この海が見せてくれたのは、わたしが朧気に覚えている範囲の過去だけ……そう、どこかに……幽閉されていた……頃の……。

 ネーヴェはね、頑丈な病室みたいなとこにずっと閉じ込められてたの。
 悪いことをしたわけじゃないよ。でも、悪いことを起こしてしまうかもしれなかった。ネーヴェのせいで、いつ大災害が起きてもおかしくなかったの。
 だって、ネーヴェの魔力はとても大きすぎたから。
 魔力が大きいせいで、体がいつも痛かったから。
 体が痛いせいで、心もすごく苦しかったから。
 心が苦しいせいで、魔力をまともに制御できなかったから。
 しょうがないよね。うん、しょうがない。
 だけど……その病室みたいなところは寒くて、狭くて、寂しくて……体もずっと痛いままで……心もずっと苦しいままで……。

 ですけど、ただ一つ温もりがありましたね。
 私が普通に生きられるようにと、このリボンを贈ってくださったかた。あの時は人が怖くて、お礼も言えませんでしたが……。
 だからこそ、私はこのリボンとともに生きて帰らなくてはいけないのです。
 いつの日か、あのかたにちゃんとお礼を伝えるために!
『――!』
 言葉になっていない思念が伝わってきました。
 オウガ・オリジンが罵倒しているのでしょう。あるいは威嚇? しかし、恐れはしません。
 私はユーベルコードを発動させました。リボンに貯めていた魔力をすべて使って。そう、すべてです。余すところなく。
『――!』
 オウガ・オリジンが二度目の罵倒もしくは威嚇を発すると同時に眷属を召喚しました。魚の形をした三匹のオウガたち。
 槍の穂先にも似たそれらが凄まじい勢いでこちらに迫り……しかし、私に届く前に吹き飛ばされました。
 半秒ほどの間を置いて、オウガ・オリジンも吹き飛ばされました。
 正確に言うと、弾き飛ばされたのです。
 私がユーベルコードで生み出した巨大な拳によって。
 魚型オウガたちもオウガ・オリジンもその拳を視認することができなかったようですね。まあ、無理もありません。
 ここは無色透明の海の中であり、私の拳もまた無色透明の氷で構成されていたのですから。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルーチェ・アズロ
SPD
アドリブ等歓迎

悲しさ
親が殺された記憶、崩れた日常、狂った祖父、それで自分は
涙がでる。悲しいというのはこういう物だろう
死別も離別も転落も悲しい
だがそれで終わる自分ではない、自分は終わっていない
憎い。憎い。憎い憎い憎い。殺してやる。貴様ら全て殺してやる

憎悪の炎が燃え上がる。悲しみなど薪でしかない種火でしかない
悲しいよとメソメソ泣くだけで自分の剣(憎しみ)は止まらない

拷問具は激痛耐性と気合と限界突破で耐え
次第に見切り野生の勘ダッシュ薙ぎ払いで回避もできるか

焼却
総て燃やしてやる総て燃えて尽きればいい

お前の満足な答え?なら返してやるよ
縊り殺して首を並べてやる。それまで手前が灰になってなければなあ!



●幕間
 暗黒を思わせるオウガ・オリジンの顔。
 そこに備わっているともいないともつかぬ瞳が七人目の猟兵を捉えた。
 顔の一部に包帯を巻いた女児だ。ネーヴェよりも更に幼い。十歳にも達していないかもしれない。
 しかし、オウガ・オリジンは油断しなかった。
 ネーヴェの件で懲りているから。
 そして、女児の出で立ちが尋常なものではなかったから。
 前述したように包帯を巻いてるのもどこか不気味だったが、オウガ・オリジンの顔と同じような色合いの甲冑に至って不気味どころの話ではなかった。
 長大な剣も目についた。刀身だけでも女児の身の丈(百二十センチ)ほどもあり、おまけに錆に覆われている。
 血の色の錆。
 もうすぐ、そこにオウガ・オリジンの血も加わるかもしれない。

●ルーチェ・アズロ(血錆の絆と呪い・f00219)
 たぶん、今、あたしは泣いている。
『たぶん』が付くのは、涙でできてる海の中にいるせいで、自分が本当に涙を流しているかどうかがはっきりと判らないから。
 まあ、涙の有無はさておき、悲しんでいるのは間違いない。これが悲しまずにいられるかってんだ。辛かった記憶が次々と頭の中にぶり返してくるんだから。
 父さんと母さんが殺された時のこと。
 イカれちまったも同然の(でも、言ってることは正しい)祖父さんのこと。
 腐れオブリビオンどもと自分自身の血に塗れまくった戦いの日々のこと。
 死に別れたり、活き別れたり、ただひたすら戦い抜いたり、どこまでも墜ちていったり……ホント、悲しいことばっかりだった。
 だけど……だけどよぉ……それで終わるようなあたしじゃねえ。いや、それで終わっちまったら、あたしじゃねえんだ。
 そうだ、あたしは終わらねえ。
 オブリビオンを殺し尽くすまでは。
 憎い憎い憎い憎い憎いオブリビオンを殺し尽くすまでは。
(殺してやる! 殺してやる! 貴様ら、全員、殺して、やるぅーっ!)
 心の中であたしは吠えた。海の中じゃなかったら、実際に声を出して吠えていただろうな。
 言っとくけど、『貴様ら、全員』ってのは間違いじゃねえぞ。敵はもう一人じゃない。オウガ・オリジンの奴、派手な格好をしたババァを召喚しやがったんだ。
『首のない熊がベッドの脇に立っている。さて、その熊はなにを求めている?』
 水の中だっていうのにオウガ・オリジンの声が聞こえてきた。イカれ野郎の戯言みてえな質問だが……これはアレか? 満足できる答えを返さないと、攻撃を食らっちまうとかいうユーベルコードか?
『首のない熊がベッドの脇に立っている。さて、その熊はなにを求めている?』
 もう一度、オウガ・オリジンが尋ねた。
 ババアのほうはドでかいペンチみたいな拷問具を開けたり閉じたりしながら、ニタニタと笑ってやがる。
(知ったことか!)
 心の中で叫ぶ。
 そして、俺はオウガ・オリジンに突進した。ユーベルコードで自分を強化しながら。
 ババアが立ち塞がり(いや、『立ち泳ぎ塞がり』って言うべきか?)、例のペンチモドキで俺を挟み込んだ。
 ペンチの鋏が左右の脇腹に食い込んでくる。これが問いに答えを返せなかった代償か。クソッ、めちゃくちゃ痛ぇ……ってな風に弱音でも吐くと思ったか?
 ニヤニヤ笑いを浮かべているババアに笑い返して(確かめようがないが、鬼気迫る笑顔を作れたと思う)、俺は剣を思い切り振るった。
 これは父さんが使っていた剣。そして、父さんと母さんを刺し貫いていた剣。涙の海に入るまでもなく、この剣を手にする度に、目にする度に、悲しさがこみ上げてくるが……メソメソ泣いていたところで、憎しみが消えるわけじゃない。
 血の錆に覆われた刃が縦横無尽に風を……いや、水を切り、俺を挟んでいたペンチモドキも打った切り、ババアの体も真っ二つにした。
 次はおまえだ、オウガ・オリジン。満足できる答えが欲しけりゃ、くれてやる。ただし、満足するのはあたしのほうだけどな。
『おまえを縊り殺した後、首をねじ切って、他のオブリビオンどもの首と一緒に並べてやる』
 これがあたしの答えだ!
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヒトツヒ・シカリ
POW
アドリブ歓迎

悲しかった
弱くて戦えなくて、怖くて戦えなくて、皆は世界を守るために居るのに
自分は部屋で膝を抱えて震えるだけで
そんな自分が情けなくて悔しくて悲しかったし、今だって強いなんて言えない
けれど流れた涙の海に溺れたりしない
涙は尽きるし乾く。動き続ければそうなる。だから、動くんだ。今

力を貸してくれた人たちと手を繋ぐ
弱い自分を助けて代わりに戦ってくれた人たちと手を繋ぐ(UCにより桜の真の姿へ変身。自我は本人

この踊りがただの踊りの分けがなく、ただの歌でもなく
くるりひらりと舞い散る桜花の動きで打ち据える
花も涙も枯れていく。咲けば散るのが世の定め

どちらが先に尽きるのか
いざ尋常に!勝負しようか!



●幕間
『さあ、しょーね入れてやっちゃろうか!』
 桜の精を思わせる和服姿の少年が覚悟の思念を発した。
 それをぶつけられたのはオウガ・オリジン。ルーチェの猛攻から逃れた(さすがに縊り殺されこそしなかったものの、深手を負わされた)矢先、少年に行く手を阻まれたのである。
 もっとも、最初に現れた時、この少年は今のような姿をしていなかった。獣の耳と尻尾、それに鳥の翼を持ったキマイラの男児だったのだ。年頃はルーチェと同じくらいだが、外見だけで判断するなら、脅威度は彼女よりも低かった。少なくとも、オウガ・オリジンの目にはそう映った。その時点では。
 それを知ってか知らずか、和服姿の少年に変わる前の男児はオウガ・オリジンにこう言ったものだった。
『いびせえ顔じゃのう』

●ヒトツヒ・シカリ(禊も祓もただ歌い踊るままに・f08521)
『いびせえ顔じゃのう』
 と、ウチはオウガ・オリジンに言うたった。声に出したわけやのうて、強う念じただけじゃけど、たぶん聞こえとるじゃろ。
 こうやって相手を挑発できるのもウチの心に余裕があるから……っちゅうわけでもない。これは空元気みたいなもんじゃ。本当は、この海に入った時からもう悲しうて悲しうて堪らんけんね。
 おきらくごくらくなキマイラフュチャーで生きてきたウチみたいな奴でも、悲しいことはいっぱい体験しとるんよ。主に猟兵になった後じゃけど。
 いちばん悲しいのは、ウチが戦えんかったことじゃ。猟兵やっとる仲間たちは世界を守るために戦っとるのに、ウチは膝を抱えて震えてばかりじゃった。ぶち弱いけん……ぶち怖いけん……。
 ほじゃけど、いつまでも悲しんでおるつもりはない。流す涙はいつか尽きるし、流した分もちゃんと乾くんじゃ。動き続けりゃあ、もっと早うに乾く。
 じゃけん、動く!
 今度は空元気と違うけんね。この前、『闘技場の国』っちゅうところで所謂『成長回』的な体験をしてきたばかりじゃが、ウチはもっともっと成長せにゃいかんのじゃ。
 今までに助けてくれた人たち。
 弱いウチの代わりに戦こうてくれた人たち。
 その全員の姿を思い浮かべて、心の中で手を握って回り――
『さあ、しょーね入れてやっちゃろうか!』
 ――ユーベルコードを発動! 真の姿に変身じゃ。
 オウガ・オリジンのほうもしょーねを入れたんか(ただの悪あがきかもしれんけど)、腕をブンッと振って、三匹のオウガを召喚しよった。オウガゆうても、マグロになりそこねたサンマみたいな形の小せえ奴らじゃけどもね。
 その魚型オウガどもはがいなスピードで突進してきよった。
 ほじゃけど、いかにスピードが凄かろうと、『成長回』を経たウチの目には止まって見える! ……いや、それはさすがに大袈裟じゃけど、なんとか見切って、踊るようにくるりくるりと何度も回り、魚型オウガどもを躱した。ただ躱しただけじゃないけん。回ってる間に着物(さっきまではこげな物は着とらんかったけど、変身した時に衣装も変わったんじゃ)の袖の中から武器を取り出したよ。
 その武器――『意富加牟豆美の扇』をウチは開き、薄桃色の扇面をちらりと覗かせて、すぐにまた勢いよく閉じた。水の中じゃなかったら、もっと小気味よい音がするんじゃがのう。
『花も涙も枯れていく。咲けば散るのが世の定め』
 挑発した時と同じように念じてみた。聞こえとるといいんじゃけど。
『どちらが先に尽きるのか……いざ尋常に! 勝負じゃ!』
 そして、ウチはオウガ・オリジンに打ちかかった。
 くるりひらりと舞い散る桜の花片のような動きで。
 本当に散るのは相手のほうじゃけどね。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

マリアドール・シュシュ
アドリブ歓迎

アリラビ戦争の冥鏡の一件以降、
今までの依頼含め忘却した悲しい過去が全て蘇る
海の中で鮮明に辛くて負の記憶思い出す

故郷の紛争で自分を庇い育て親を目の前で亡くした事
依頼で救えず散った命
宿敵が自分へ宛てた言葉

マリアは星芒の眸に全部閉じ込めて
幸せで楽しい物語だけを綴ってきた

痛いのも
苦しいのも
きらいよ

けれど
もう

…あの子に押し付けちゃったの
最後まであの子は絶望でいようとしたわ
本当は、

未来を見ているようで
マリアは自ら閉ざしていたわ
逃げていたの
これでは愛しい人の隣になんて…

だからね

蜜金の雫石を目から零し笑う
溢れた強い願いに応え体中が光る
迷わず出口へ
竪琴で旋律奏で
世界を謳う

総て抱えて
寄り添って、進むわ



●幕間
『頭部に桜の枝がない桜の精』とでも呼ぶべき姿になったヒトツヒに何度も打ち据えられたオウガ・オリジン。
 今、彼女はクリスタリアンの少女と対峙していた。
 猟書家たちの中に『プリンセス・エメラルド』なる者が名を連ねていたこともあって、クリスタリアンに対するオウガ・オリジンの憎しみはとても深い……などということはなかった。この『はじまりのアリス』にして『はじまりのオウガ』は生きとし生ける者を等しく憎んでいるのだから。
 クリスタリアンの少女の出で立ちは戦場に相応しからぬものだった(その点ではオウガ・オリジンも同じだが)。フリルやレースで飾られたドレスを纏い、ミニチュアサイズの竪琴を腰に付けている。表情も緩やかだ。
 しかし、オウガ・オリジンは油断することなく(幾度もの苦闘を経て学習したのだ)、ユーベルコードを発動し、一瞬にして迷宮を築いた。
 メラニーを閉じこめた、あの迷宮である。あるいは『メラニーに崩壊させられた迷宮』と言うべきか?
(先程は容易に破られてしまったが――)
 少女の姿が迷宮の壁に覆い隠される様を見届けて、オウガ・オリジンは心中で呟いた。
(――今度はそうはいかんぞ)

●マリアドール・シュシュ(華と冥・f03102)
『ベリアには、幸福のお裾分けなんていらないの。絶望がベリアで、幸福がマリアちゃんである限りは……』
 さっきまでマリアがいたのは海の中。
 今は違う。ううん、海の中ではあるのだけれど……海の中の迷路にいるのよ。オウガ・オリジンがユーベルコードで作り上げた迷路。
『ベリアには、幸福のお裾分けなんていらないの。絶望がベリアで、幸福がマリアちゃんである限りは……』
 あちらに行って、こちらに戻って、右に曲がって、左に折れて、袋小路で引き返して……オウガ・オリジンを見つけるため、マリアは泳ぎ続けた。
 でも、見つからない。
『ベリアには、幸福のお裾分けなんていらないの。絶望がベリアで、幸福がマリアちゃんである限りは……』
 さまよっている間、忘れていたはずの悲しい記憶が次々と蘇ってきた。
 育ての親がマリアを庇って死んでしまったこととか。
 マリアが救うことができなかった人たちのこととか。
 それに――
『ベリアには、幸福のお裾分けなんていらないの。絶望がベリアで、幸福がマリアちゃんである限りは……』
 ――打ち倒したばかりのあの娘のこと。
 彼女がマリアに宛てた言葉がずっとリフレインしている。
『ベリアには、幸福のお裾分けなんていらないの。絶望がベリアで、幸福がマリアちゃんである限りは……』
 その言葉はもう聞きたくない。あの娘のことも思い出したくない。マリアは痛いのも苦しいのも嫌いなの。幸せで楽しい物語だけを綴っていきたいの。
 けれど……。
『ベリアには、幸福のお裾分けなんていらないの。絶望がベリアで、幸福がマリアちゃんである限りは……』
 マリアはずっと逃げてきた。こんなんじゃあ、愛しい人の隣にいる資格なんてない。
 だからね。
『絶望がベリアで……』
 掌で水をかき、足の甲で水を打ち、迷路の中を進んでいく。
 前へ。
 ひたすら、前へ。
 もう迷わない。
『幸福がマリアちゃんである限りは……』
 気が付くと、目の前にオウガ・オリジンがいた。どうやら、マリアは迷路を抜けることができたみたい。
 慌てながらも(表情が見えないから、本当に慌てているのかどうかはよく判らないけれど)、こちらに襲いかかってくるオウガ・オリジン。
 でも、マリアがユーベルコードを発動させるほうが早かった。
 腰に下げていた『黄金律の竪琴』が大きくなったかと思うと、弾けるようにして無数の水晶に変わった。
 ジャスミンの形をした水晶よ。
 それらは小さな熱帯魚の群れみたいに水中を駆け、オウガ・オリジンを撃退してくれた。

 いつの間にか、あの娘の言葉は聞こえなくなってる。
 でも、消えてしまったわけじゃない。
 それはマリアの中にある。マリアが嫌いだったもの――痛いことや苦しいことと一緒に。
 また痛くなったり、苦しくなったりするかもしれないけれど、構わない。
 すべて抱えて、寄り添って、進むわ。
 前へ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

馬飼家・ヤング
・アドリブ連携超展開大歓迎!

涙の海?悲しい記憶?
人生うまいもん食うてワハハと笑えば怖いもんないわい
飛び込めー(どぼーん)

……思い出した
花も恥じらう青春時代
思春期男子の例にもれず、いっちょまえにモテを目指してた
雑誌や恋愛マニュアル片手に、合コンナンパに精出す日々
「ヘイ彼女、わいと一緒にたこ焼きキメへん?」

「えー、チビ・デブ・ダサのテレビウムはないわー」
「面白い人なんだけどねー」
「お友達でいましょ?」

ウワァァァァン!!お前ら結局イケメンがええんかーい!

だがしかし、今のわいはあの時の貧弱な坊やとは違う
【バ美肉】パワーでイケメン王子にへーんしん!(キラッ☆彡)
ポジティブシンキングでナイスショットや!!



●幕間
 マリアベルの追撃をなんとか振り切ったオウガ・オリジン。
 傷口から血の糸を引いて海中を突き進むその姿は、遠目には魚雷に見えるかもしれない。
 だが、魚雷ならぬオウガ・オリジンは何物にも命中することなく、停止した。
 爆雷ならぬ猟兵が前方に降下してきたのだ。
(……な、なんだ、アレは?)
 アリスラビリンスの珍奇な種族を見慣れているオウガ・オリジンといえども、その猟兵の姿には当惑せざるをえなかった。
 身長は四十センチ足らず。体は丸みを帯び、頭部はタコヤキに似ている。身に着けているのは、紅白のストライプの三角帽子、タコヤキ柄のアロハシャツにおでん柄のサーフパンツ。
 おそらく、種族はテレビウムだろう。テレビウムの集団の中にいても浮いて見えるのは間違いないが。
 しかし、世界は広い。このような者が決して浮いて見えることのない土地もある。
 UDCアースの『ナニワ』という街だ。

●馬飼家・ヤング(テレビウムのちっさいおっちゃん・f12992)
 オウガ・オリジンに向かって、こうスイスイスイーっと泳いどるんやけど、水が冷たくて気持ちええわー。やっぱり、夏は海やねー。
 はぁ? 涙の海ぃ? 悲しい記憶ぅ?
 そんなもん、ポジティブ大将軍と呼ばれたこのヤング様に効くわけないやろ! 人生、うまいもん食うてワハハと笑っとけば、怖いもんなんてあらへん、あらへーん! ワハハハハハ……ハハハ、ハハ……あ? あかん。思い出した。思い出してもうた……。

 嗚呼、あれは花も恥じらう青春時代。
 思春期男子の例にもれず、ワイはいっちょまえにモテを目指しとった。雑誌や恋愛マニュアルを参考にして、時には合コン、時にはナンパ。
 せやけど、モテの波に乗れたことなんて、ただの一度もあらへんかった。
 可愛いA子ちゃんの時も――
『ヘイ、彼女! わいと一緒にたこ焼きキメへん?』
『えー! チビ・デブ・ダサのテレビウムはないわー』
 ――玉砕!
 セクシーなB美ちゃんの時も――
『新世界の通天閣で愛を叫ぼやないかーい!』
『一人で叫んでれば?』
 ――玉砕!
 気だてのいいC江ちゃんの時も――
『人生という舞台の上でワイの永遠のツッコミ役になってんかー!』
『お友達でいましょ』
 ――玉砕!
 そして、Dやんレトリィバァの時も――
『おはょ……』
『無理無理無理無理無理っ!』
 ――いや、挨拶しようとしただけやないか! なに速攻でフッてくれてんねん!
 もう泣けてきた! めっちゃ、泣けてきたぁーっ!
 ウワァァァァン!

 ……と、号泣するとでも思った? ざんねーん! 今のワイはあの時の貧弱な坊やとは違うんや!
 ユーベルコード『バ美肉(バカウケ・ビューティホー・マッスル)』を使うて、ダイナマイトでウルトラスーパーセクスィーボデーなキラキラ☆イケメン王子にへーんしん!
 まっ、たく、簡、単、ダ! (はい、若い人は置いてけぼりでいくよー)
 お? オウガ・オリジン(めんどくさいから、こっから先は『オージン』って略させてもらうで)が手下のオウガを召喚しよった。なんか、良き友新喜劇に出てくる成金ババアみたいにド派手かつ悪趣味な格好したオウガやな。うわー、よう見たら、表面に押しピン(ヒョージュン語では『画鋲』とか言うらしいで)をぎょうさん貼り付けたハリセンを持ってるやん。えげつなー!
 せやけど、成金ババアはハリセンをバシバシ鳴らすばっかりで、攻めてくる気配があらへん。
 ははーん。判ったで。これは『オージンの謎々に答えられんかったら、ババアが押しピン付きハリセンで攻撃してくる』みたいなユーベルコードやな……とか思っとったら、案の定、オージンが謎々っぽいことを言ってきよった。
『朝は二本足、昼も二本足、夜も二本足――』
 ずっと二本足かーい! 立ちっぱなしにも程があるやろ! 座れ! 頼むから、座ってくれ!
『――しかし、猛虎が勝ち鬨をあげた時のみ天空を翔け、水底に潜む者は誰だ?』
 そんなもん、アホでも判るっちゅうねん。
(それはサーネル・カンダースの人形じゃーい!)
 と、ワイは心の中で答えを叫んだった。あの人形はいつも直立不動やけども、半神トラトラーズが優勝した時だけは胴上げで宙を舞って、最後は道頓堀にドボーンやからな。
『せ、正解だ……』
 オージンが悔しそうに呻くと、ハリセンのババアが煙みたいに消えよった。
 ほな、反撃いくでー! キラッキラなイケメン・パワーでドォォォォォーン!
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

アレクサンドラ・ルイス
マックス(f28856)を伴って参戦
戦場に出るのは本意じゃないが、マックスに経験を積ませたい
俺に何かあっても一人でやっていけるように

大きめのサングラスで目元を完全に隠し、表情は見えない
攻撃は主にマックスにさせるように指示を出す
俺はクソでかい機銃を携えてはいるがマックスを庇いきるのが仕事だ

抜けない針の毒に徐々に侵されつつも普段と変わらぬ表情で戦い続ける
力尽きた後に立ち上がるのは――、あの日の、俺だ

敵の爆撃で教会ごと吹っ飛んだ神父の身体を探し回って
ようやく見つけたのはロザリオだけ
……泣くな
泣くんじゃない
まったく、ガキだな。ちくしょう
大丈夫だ。いつかきっと、悲しさ以外のことも思い出せるようになる


マクシムス・ルイス
私は鍛錬など必要ない、普通の犬として生きていければ十分だと
先日も言ったのですが
我が主(f05041)は心配性のようで――泣いているのですか、アル?

サングラスに遮られた目元が、どこかいつもと違うような
おっと、違和感に気を取られていたら叱られてしまいました
指示通り敵に噛み付きましょう

鏡の女王には以前の主人を救えなかったことを問われ
胸に去来するのは“坊ちゃん”のことばかり
子犬だった私を必死に助けようとしてくれた、彼もまた子供でした

――けれど、もう過ぎたこと
今の主はこの人なのですからね
人間は悲しくなると目から水が出るのでしょう?
海に似た味のそれを、私はよく知っています
さあ、アル
私が舐めて差し上げますよ



●幕間
(なぜだ?)
 深い水の底でオウガ・オリジンは困惑していた。『キラキラ☆イケメン王子』なるものに変身したヤングの猛攻によって満身創痍になったものの、まだ息絶えてはいない。
(ここは涙の海。悲しみを知らぬわたしのほうが有利なはずなのに……なぜ、こんなにも傷を負わされているのだ?)
 どんなに頭を捻っても、その答えを見出すことはできなかった。
 代わりに別のものを見出した。
 こちらに接近する二人の猟兵だ。
 いや、一人と一匹と言うべきか。前を行くのは、銀の被毛を有するアフガン・ハウンドだった。所謂『賢い動物』だろう。
 後ろにいるのは、筋骨隆々たる巨漢。頭髪が一本もなく、両目は濃いサングラスに隠されている。
 実にインパクトのある外見だったが、携えている武器もまたインパクト抜群だった。
 歩兵が携帯することなど想定されていないであろう巨大な重機関銃だ。

●アレクサンドラ・ルイス(サイボーグの戦場傭兵・f05041)
 水中で身構えるオウガ・オリジンに向かって、柄のない大きなモップがゆらゆらと漂っていく。
 アリスラビリンスらしいシュールな光景に見えるが、特大サイズのモップの正体はマックスことマクシムスだ。
 犬が泳ぐ様というのはえてしてユーモラスに見えるもの。犬かきで水中を進むマックスの場合もその例に漏れないが、敵への距離は着実に詰めている。意外と泳ぎが得意なのか、あるいは涙の海が持つ不思議な力のせいか(なにせ、呼吸ができるんだ。犬が潜水できても不思議はあるまい)。
 しかし、後者が正解だとしても、この海に感謝することはできない。『不思議な力』とやらが齎すのは良いことばかりじゃないんだからな。
 そう、JJが警告していた通り、悲しみの記憶が蘇ってくるんだ。
 事実、俺の視界の中では現在の光景と過去の光景が二重写しになっていた。前者は水中なのに鮮明(これも不思議な力のせいだろう)だが、後者はぼやけている。
 過去の俺は泣いていたからだ。
 泣きながら、ずっと探し続けていた。
 爆撃で教会ごと吹っ飛んだ神父の体を……。
 しかし、見つけることができたのはロザリオだけ。かつて神父の手首に巻かれていたそれは……今、俺の首から下がっている。
 二重写しの視界の中でマックスが振り返った。俺が泣いてるとでも思ったのだろう(断じて言うが、泣いていたのは過去の俺であり、現在の俺は涙なんぞ一粒も流しちゃいない)。俺は過去の光景を意識の外に追い出し、『敵に集中しろ』とマックスに合図を送った。
 奴が前方に向き直るとほぼ同時に敵の数が増えた。オウガ・オリジンが別のオウガだかなんだかを召喚したんだ。
 その新手は貫禄たっぷりの老婆だった。けばけばしいドレスを着て、スパイクがびっしりと生えた金棒を持っている。
『なぜ、貴様は以前の飼い主を救えなかったのだ? それとも、救わなかったのか?』
 オウガ・オリジンの声らしきものが脳裏で響いた。おそらく、マックスにも聞こえている。いや、そもそもマックスに向けられた問いなのだろう。間違いなく、これはユーベルコードだ。答えを返さないと、攻撃を受けてしまうというタイプの……。
 マックスは返答しなかった。犬かきで敵に近付いていく動きに変化はない。しかし、なぜか先程までのようにユーモラスには見えなかった。
 拷問具を手にした老婆が皺だらけの顔を変な具合に歪めて(笑っているつもりか?)マックスに向かって飛び出し……いや、泳ぎ出してきた。
 俺も泳ぐスピードをあげ、マックスの横に並んだ。重機関銃『ドロレス』を腰だめに構え、老婆めがけて連射。さっきは『涙の海に感謝する気になれない』と言ったが、水中でも銃火器が作動する点については感謝すべきかもな。
 何発かの弾丸を浴びて老婆が仰け反った。その隙にマックスがオウガ・オリジンに突進……するかと思いきや、俺のほうを見ている。
 連射を続けながら、俺は顎をしゃくって『敵に集中しろ』という意を伝えた。これで二度目だぞ。まったく、世話のかかる奴だ。
 まあ、世話のかかる奴だからこそ、俺はここにいるんだがな。現役を退いた身でありながら、こうして任務に参加したのは、こいつに経験を積ませるためなんだ。
 マックスよ、おまえは一人でやっていけるようにならなくてはいけない。
 俺になにかあった時に備えて……。

●マクシムス・ルイス(賢い動物のレトロウィザード・f28856)
 やれやれ。なぜ、アルは私に荒事の経験を積ませようとするのでしょう? 私は普通の犬として生きていければ、それで充分なのですが……。
 とはいえ、このような状況下で『普通の犬』のように振る舞うことなどできるはずもありません。
 まずは自分への気合いと敵への威嚇を兼ねて、猛々しい咆哮してみますか。
「う゛ぉうぉごぼごぼごぼ……っ!」
 うーむ。呼吸ができる特殊な海とはいえ、水中で吠えるのは無理があったようです。あまり猛々しい感じにはなりませんでしたし、海水を飲んでしまいました。しょっぱい。
 しかし、オウガ・オリジンの注意を引きつけることはできたようですね。機関銃を連射している(水中なので、弾丸の軌跡がはっきりと視認できます)アルをそこに残し、私はオウガ・オリジンに向かって再び泳ぎ出しました。
 彼女のほうは私に向かってきませんでしたが、代わりに別の者たちを寄越してきました。魚のようなオウガを何体か召喚し、放ってきたのです。
 相打ちも視野に入れて、私は前進を続けました。魚型オウガたちもまっすぐに突き進んできます。そして、正面衝突! ……とはいきませんでした。魚型オウガたちは少しばかり軌道を変えて、私の横をすり抜けたのです。援護射撃(あんな大口径の銃器を乱射するのは『援護』の範疇を超えてるような気もしますが)をしているアルを狙ったのでしょう。
 彼のことは気掛かりでしたが――
『敵に集中しろ』
 ――先程の指示が私に振り返ることを許しませんでした。
 今は攻撃あるのみ。間合いを広げようとするオウガ・オリジンの側面に回り込み、思い切り首を突き出して、肩をがぶりと噛んでやりました。口を開けたせいで、また海水を飲んでしまいましたが……しょっぱい。
 オウガ・オリジンは私を振り払い、傷を押さえながら、黒く塗り潰された顔をこちらに向けました。目に相当するものは見当たりませんが、睨みつけているつもりなのでしょう。
『なぜ、貴様は以前の飼い主を救え……ぬぁ!?』
 オウガ・オリジンが先程と同じ問いを投げかけてきましたが、すべてを言い終える前にまた噛みついてやりました。最初の攻撃で味を覚えましたから、命中力と威力は上昇しています。
『なぜ、貴様……ふぁっ!?』
 三回目の噛みつき。
 オウガ・オリジンの問いを聞いて動揺していないわけではありません。問いかけられる前から……この海に入った時から、以前の飼い主である『坊ちゃん』のことが胸に去来しています。
『坊ちゃん』は、子犬だった私を必死に助けようとしてれました。彼自身もまだ子供だったのに……。
 けれど、もう過ぎたこと。
 そう、過ぎたこと。
 私の今の主はアルなのです。
 オウガ・オリジンの背後に回って四回目の噛みつき攻撃を見舞った時、そのアルの姿が視界に入りました。なんと、彼は昏倒していました。脇腹に一体の魚型オウガが食らいついてます(しかし、他の魚型オウガはすべて倒したようです)。そいつに毒かなにかを注入されたのでしょう。
『敵に集中しろ』という言いつけを破り、助けに行くべきか……と、逡巡するまでもありませんでした。どこからともなく、助っ人が現れたのです。アルのユーベルコードの産物でしょうか?
 その助っ人――アルにどこか似ている少年は、アルの使っていた重火器を構え、銃口をこちらに向けてきました。
 私はオウガ・オリジンの体を蹴りつけて離脱。
 次の瞬間、くぐもった連射音が水中に響き、何発もの銃弾がオウガ・オリジンの体を粉微塵にしました。

 水面から顔を出し、息を深く吸って、吐いて、また吸って……水の中にいた時も呼吸はしていたのですが、こうやって外で普通に吸ったり吐いたりするほうが落ち着きますね。
 犬かき(些か侮蔑的なこの呼称については言いたいことが沢山あるのですが、今は我慢しましょう)でちゃぷちゃぷと泳いでいる私の横では、気を失ったアルが仰向けの状態でぷかぷかと浮いています。
「……泣くな。泣くんじゃない……まったく、ガキだな。ちくしょう……」
 これは寝言? あるいは譫言でしょうか? ユーベルコードで召喚した助っ人の少年に語りかけているつもりなのかもしれませんね。オウガ・オリジンが死ぬと同時にあの少年も消えてしまいましたが。
「……大丈夫だ。いつか、きっと……悲しさ以外のことも……思い出せるようになる……」
 夢の中で語り続けているアルに私は鼻先を近付けました。
 彼の顔はびしょ濡れ。さっきまで水の中にいたのですから、濡れているのは当然なのですが、それだけが原因ではないような気がします。ほら、人間は悲しくなると、目から水が出るのでしょう?
 私が舐め取ってさしあげますよ、アル。

 ……しょっぱい。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月31日


挿絵イラスト