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迷宮災厄戦⑱-20〜シリアルキラーは時鐘に隠れて

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦 #オブリビオン・フォーミュラ #オウガ・オリジン #夕狩こあら #斬り裂きの街の探偵

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「或る不思議の国に迷い込んだオウガ・オリジンを捕まえて欲しい」
 場所は、常に灰色の霧に覆われる「迷霧の国」。
 十九世紀の英国を想わせる近代都市世界に行方を晦ましたオウガ・オリジンが、其処で無辜の市民を戯れに殺し続けている、と――枢囹院・帷(麗し白薔薇・f00445)は淡々と説明を始めたが、彼女が幾分にも怒りを覚えているとは、声色に示されよう。
 帷は鋭い口調で先ずは経緯を語って、
「度重なる激戰の影響か、『オウガ・オリジン』の中に眠っていた『無意識の悪夢』が、現実改変ユーベルコードで具現化してしまったらしく、現在、彼奴は悪夢の中で連続殺人を愉しんでいる」
 悪夢の世界は都市も市民も虚構の産物にて、それも偽の犯罪と思えば、そうだろう。
 然し虚か真か関係なく、殺人を愉しむ事は許し難いと語気を強めた帷は、事件の片鱗を話し始めた。
「未だ不明な点が多いが、肉体を毀損された被害者の刃跡から凶器は特定されている」
 凶器は一本のブッチャーナイフ。
 肉屋が畜獣の皮を削ぎ、骨を分断するのに使うような屠殺用ナイフを使ったか、切断部が非常に綺麗だったとは、二体目の被害者を発見した肉屋の証言。
「オウガ・オリジンは必ず左臂を斬り落とし、其処に“Done”(やった)と刃先で刻んで立ち去っている」
 証拠を置いて去るとは迂闊なのか大胆なのか、或いは犯行を誇示しているのか。
 然し悪夢の世界の市民達は、これらを手掛かりに犯人を見つけて捕まえる事は出来ず、彼等はこの猟奇的連続殺人に怯えながら、霧の街を歩くしかない。
「この犯人の正体を知る事が出来るのは、『不思議な探偵』に扮した猟兵のみ。君達だけが、動かぬ証拠を集めた時に現れる『夢の手錠』を犯人の手に掛ける事が出来るんだ」
 霧の街を歩き、犯行現場を探ってみたり。
 次の犯行を予測して、更なる被害を食い止めたり。
 霧の中に隠れる犯人を見つけたなら、「夢の手錠」を掛けて、消滅させて欲しい。
「悪夢を終わらせて欲しいんだ。君達ならそれが出来ると思う」
 緋色の瞳を猟兵に注いだ帷は、ぱちんと弾指するやグリモアを召喚して、
「頼むよ、名探偵諸君」
 云って、信を置く者達を光に包んだ。


夕狩こあら
 オープニングをご覧下さりありがとうございます。
 はじめまして、または、こんにちは。
 夕狩(ユーカリ)こあらと申します。

 このシナリオは、『迷宮災厄戦』における第十八、細分類第二十の戦場、『オウガ・オリジン』と切り裂きの街を攻略する、一章のみの冒険シナリオ(やや難)です。

●戦場の情報
 灰色の霧に包まれた不思議の国「迷霧の国」。
 オウガ・オリジンの中に眠っていた「無意識の悪夢」が、現実改変ユーベルコードによって具現化した世界で、19世紀のイギリスを想わせる都市景観も市民も「偽物」ですが、彼等が感じる恐怖や痛みが偽物かどうかは分かりません。

●敵の情報:シリアルキラー『オウガ・オリジン』
 オウガ・オリジンは此処で「猟奇的な連続殺人犯」である事を愉しんでいます。
 『不思議な探偵』(猟兵)に『夢の手錠』をかけられない限り消滅せず、この世界の住民を次々に殺していきます。

●プレイングボーナス『手がかりから犯人の行方を推理する』
 このシナリオフレームには、特別な「プレイングボーナス」があります。
 これに基づく行動をすると、戦闘が有利になります。

●リプレイ描写について
 フレンドと一緒に行動する場合、お相手のお名前(ID)や呼び方をお書き下さい。
 団体様は【グループ名】を冒頭に記載願います。
 複数での参加者様は一括採用のみで、個別採用は致しません。

●プレイングの採用について
 早期完結を目指し、10名程度の採用とさせて頂きます。
 プレイングの締切はマスターページにてご連絡致します。

 以上が猟兵が任務を遂行する為に提供できる情報です。
 皆様の武運長久をお祈り申し上げます。
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第1章 冒険 『斬り裂きの街の探偵』

POW   :    被害現場を中心に地道な聞き込みや調査活動をして、証拠を集める

SPD   :    被害現場にいち早く駆けつける事で、犯人を特定する証拠を集める

WIZ   :    現場に残された手がかりを元に推理し、犯人を特定する証拠を導き出す

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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 最初に殺されたのは、この街を象徴する「大時計塔」の管理人だった。
 ここからは全てが見渡せると、齢60の老爺は誇らしげに語っていたものだが、悲運な事に彼の悲鳴は齒車の音に隠され、発見される迄に大時鐘は二度も朝を告げた。

 警察に犯行予告が届くようになったのは、二人目の被害者が発見された時だった。
 当初、市警察がこの事実を秘匿した為に、犯人は警察だけでなく、新聞各社にも同様の犯行予告を送り、各社が競って記事にすると、この猟奇的な事件は世間を震撼させた。

 新聞記者は語る。
 我々が『霧』(ミスト)と呼ぶシリアルキラー(連続殺人犯)は、先ず何処かの新聞社に手柄を寄越すように犯行声明文を送る。
 其は皺くちゃに揉まれた新聞紙の切れ端に『I do』(やる)とだけ書かれてあり、記者はその翌日か翌々日の内に誰かが猟奇的に殺された事を詳細に書くことになっていた。
 その日の新聞は飛ぶように売れた。

 噂好きの娼婦たちは、切り裂かれた左腕を見て晴々(せいせい)していた。
 見て御覧なさい、殺された者は皆、愛する誰かと結ばれた証を薬指に嵌めている。
 犯人は嫌味に指輪を輝かせる者に制裁を下したのよ、と――。

 パン屋の若い娘は、猟奇殺人など興味がないと言った。
 彼女は懇意の男に、旧道に架かるレンガ橋で求婚を受けるのだと嬉しそうに語った。
 そこで結婚を約束した者達は、倖せになれるのだと――昔からの言い伝えを信じているようだった。

 迷霧の街は、既に二十人も殺した者については、尋ねると何がしか答えてくれる。
 最も警戒すべきは、今朝、或る新聞社に『I do』なる紙片が投げ込まれたこと。
 残念な事に、その者は約束を違えた事が無い。

 ――今日、人の皮を被った魔獣は動き出すだろう。
大門・有人
不採用含め全て歓迎だ。
SPD対応
偽物か本物かなんてのは、考えるだけ意味はねえ。それを決めるのは俺たちじゃないはずだ。

スピード勝負。ガンバーバイクで被害現場にいち早く駆けつけ、可能な限りの証拠を集めよう。
仲間がいれば手に入れた情報は全て共有する。
探すべきは左臂に執着のある人物か、左臂や被害者の共通点。
犯人を特定する証拠を入手した場合も他の猟兵たちとの証拠を合わせて確実に捕らえられるよう協力するぜ。

オウガ・オリジンを見つければUC始動、取り押さえるか狙われる者がいればそちらを守る。
貴様とは違っていたぶる趣味はない。
苦痛も恐怖も要求しない。消失した先だけを考えろ。無が何だったか、思い出させてやる。


シキ・ジルモント
◆SPD
迅速に被害現場へ向かう
時間が経つと失われてしまう証拠や痕跡を探す為だ
足跡や遺留品…後は、匂いか

現場に残った香や血のにおいは追跡に利用したい
犯人や凶器に現場に残ったにおいと同じ物が付着していれば、追う事ができるかもしれない
ナイフで臂を斬り落とすような事をすれば大量の血が凶器に付着している筈だ
それだけ大量の血のにおいであれば、多少拭おうと簡単には消えたりしない

手掛かりを見つけたらユーベルコードを発動、手掛かりを元に犯人を『追跡』する
証拠品と合わせて犯人を捜索したい
匂いであれば狼へ変身して嗅覚を利用
狼の姿は好まないが…本当の人ではなくても、これ以上の被害者を出さない為に出来る限りの事はしたい


リーヴァルディ・カーライル
…こういう謎解きは不得手なんだけど…
流儀を曲げてこの地に来ているのだもの
弱音を吐いている場当たりじゃ無いわね

…左臂を切り落として、というのが気になるわ
犯人は左腕に何か執着がある、と推察できるけど…さて

最新の犯行現場にてUCを発動して、
"地縛鎖・獣化"の呪詛に魔力を溜め●防具改造

…相当量の血液が凶器に付着したのは間違いない
その痕跡を追う事が出来れば、犯人の元に辿り着けるはず

地縛鎖を用いて●地形の利用して現場に存在する血の臭いを探り、
警察犬のような●野生の勘で犯人の臭いの足跡を●追跡出来ないか試みる

…やはり私に探偵の真似事は似合わない
狩人は狩人らしく、獲物を追い詰める事にしましょう


カイム・クローバー
…胸糞悪ぃな。この世界が幻だろうと造り物だろうと、個人的に放っておく気はないね。こっちは『便利屋』さ。探偵ごっこも苦手じゃない。

UCで情報収集。警察を訪ねて情報を知りたい。いきなり訪ねても門前払いがオチって?見えた予知の内容を語る事で信用させるさ。――パン屋の娘の話も合わせてな。
殺された男女の比率を知りたい。殺された写真も見せてくれ。死に至る原因は?背後からか正面からか?二十人ってのは犯行があった際に必ず一人だけだったのか?
もし、もしも。正面から殺されていたとしたら。逃げた形跡が無いなら。恐らくそいつは相手を警戒していなかった事になる。――つまり、街の誰かの犯行。それも警戒されないような――


神狩・カフカ
【朱桜】

はっは!こりゃ劇場型犯罪ってやつじゃねェか!
奴さん、殺人を楽しんでやがるな?
姫さんは知らねェだろうが、おれは人の世では探偵の真似事もしててなァ
今日はおれの助手ってことで頼むぜ?

最初の殺しで注目されなかったから標的を変えたんだろうよ
それが最初の被害者と噂の人物像が違う理由サ
そンじゃ被害者の片割れにでも話を聴きに行こうか
最後に見た被害者の様子でも聴き出せば、次の犯行現場や犯行時間の予測もつくかもしれねェ

ああ、狙われる奴の予想はつくぜ
薬指に指輪をはめているやつだ
あのパン屋の若い娘かそのお相手が危ねェかもしれねェな
先回りすれば食い止められるかもしれねェ

へェ…
そンじゃ、手錠を掛けるのは任せたぜ?


千桜・エリシャ
【朱桜】

あなた、随分と慣れた様子ですわね?
へぇ…探偵ね…
山神である大天狗ともあろうお方が人の世のいざこざに顔を突っ込むなんてね
あなたの助手だなんて不愉快極まりないですけれども
まあ、楽しそうだから付き合って差し上げますわ

そういえば噂と最初の被害者の人物像が一致しませんわね?
ふぅん…噂として持て囃されるような人物を殺す方針に変えたということかしら
殺すことそのものよりも、目立つことが目的みたいに感じますわ
随分と回る口ですこと
ではあなたの推理が当たっているか見届けに参りましょうか

手錠を掛けるのはお任せを
なんて言ったってあなたの助手ですもの
それくらいやり遂げてみせますわ
一刀で斬り捨てたなら
――捕まえた


シビラ・レーヴェンス
墨(f19200)と共に捜査。

旧道にかかるレンガ橋で見張っていよう。
極力橋全体を見渡せる場所を探して見張る。
待ち合わせをしている態でいようと思う。
…といっても限界がある【小さい援軍】も使う。
オーラ防御と狂気耐性を纏わせる。
次に継戦能力と限界突破で能力を底上げする。
私の手元に一人。他は橋を包囲するように配置。
墨の子も一人つけて貰う。

パン屋の娘らしい女を発見したらその女をつける。
身の危機を護れるぎりぎりの距離を維持してになるな。
援軍の『私』も女を見守れる場所に配置する。

私が他人に目をかけるのは珍しい?
…それもそうだな。だが…。
幸せになろうとする者が被害に遭うことはない。
と思っただけだ。他意はない。


浅間・墨
シビラさん(f14377)と捜索。
レンガ橋へシビラさんと一緒に行きます。
記者さんが言う娘さんが気になるので。
…シビラさんも気になるんですね?ふふ♪

そ…それ…それから…ですね。あの…その…。
わ…ワザと…薬指に銀の…指輪を…嵌めます。
す…凄く…恥ずかしいですよ。これ…はぅう。
そして目立つように見せながら橋で立ちます。
【式『小墨』】を召喚して助けて貰います。
シビラさんに一人渡し他は橋の周辺に配置です。

シビラさんと同じく娘さんの周辺にいます。
即時犯人に対応する為に鯉口を切っておきます。
指輪で私が襲われるかもしれませんから。
不自然にならないように注意しておきますね。
これ以上被害者を増やさせません!


矢来・夕立
事前情報では二人目以降の話ばかりでしたね。
一人目の姿がまるで見えないのが不思議だったんですよ。
最初に“これで二人目だ”と言った人がいるはずです。
なんで“これで二人目だ”って分かったんでしょうか。
この発言の出所を辿れるだけ辿ってみます。
行きついた人に訊いてみますよ。

【紙技・琴問】。
『一人目の被害者について知っていますね』。

オレがアタリをつけてるのは新聞関係者です。
記事の載った新聞が売れるって分かってるわけですからね。
これを逆手に取った模倣犯の可能性も捨てきれませんが。

犯人でないならなぜ一人目について知っているのか、納得行く説明をしてもらいます。
少し痛いかもしれませんが、腕を削ぎはしませんよ。


玉ノ井・狐狛
とりあえずは現場やら被害者やらをチェック
夢の住人たちの捜査が上手くいかない「ルール」なら、事前情報をまずは疑っておかないとな?
▻視力▻暗視▻偵察
ミスリードがとくにないならないでイイ

いずれにせよ、犯人サマは相当な派手好きだ
予告状、死体に刻まれた文字、ついでに得物にも外連味があらァ
つまり思想や嗜好、または強い情念に因っての犯行さ

そこをジャマしてやる
千里眼で適当に声のデカい住人を何人か見繕って、UCの幻術でそいつらを騙す
「『霧』サマの次の犯行が行なわれた」幻覚を見てもらおう

自分の「演しもの」にケチをつけられたら、犯人サマもご立腹だろ?
なにもせずにはいられないハズだぜ
あとはボロを出してくれりゃァ結構だ


リダン・ムグルエギ
正直、わかんないわね
アタシなら…殺された老爺の妻が真犯人を炙り出すために、老爺の死を連続殺人事件に組み込み、犯人に見せつけ怯えさせるために事件を…とかの筋書きにするけど
妄想が過ぎるか

方針は地道な調査と誘導
最初に新聞記者や口コミを聞いて
向かうのは最初の現場
『霧』の町を見渡せる時計塔の頂上
歯車が煩いここで気配を殺し町を見下ろし
異常を観測できたら、携帯電話か糸を結んでおいた大時鐘を鳴らし猟兵達へ伝えるわ
念のため、犯人ココ、ってプリントした超大きな布と矢印シールを用意
シールを貼って塔からぶら下げ誘導するの
全てを見下ろせるなら
どこからでも見えるでしょ

犯人を猟兵達が既に追い詰めてたらアタシは不要ね
任せたわ



 昨晩から降り続けた雨は朝方に止み、石畳の道路に水溜りを作っていた。
 灰色の空を映す水鏡に、四輪に分離するんじゃないかという分厚いタイヤを潜らせるは大門・有人(ヒーロー・ガンバレイにして怪人・トゲトゲドクロ男・f27748)。
 愛騎『ガンバーバイク』に跨った彼は、濡れたタイヤの跡を石畳に置いて、迷霧の街を風の如く疾走する。
 行き先は、これまで殺人が行われた犯行場所。
 有人は過去の被害現場を調べる事で、可能な限り証拠を集め、犯人像や犯行傾向に迫ろうとしていた。
「最初の現場は、時計塔の内部。次の現場は、靴屋の勝手口だった」
 それから仄昏い裏路地、川沿いの道路の側溝……と、犯行の順番通りに巡る。
 かなり地道で手間の掛かる作業だが、機動力に優れた彼は幾分にも迅速であったので、比較的早期に犯人の狙いを掴む事が出来た。
「現場の地形に一貫性が無いのは、場当たり的に行われた殺人でなく、標的を絞っているからだろう」
 ブン屋が『霧』と言って煽り立てる連続殺人犯は、場所を選ばず、人を選んでいる。
 恐らく、人通りの尠い路地で誰かを待ち伏せをするような性格でなく、標的と決めた者が一人になった處に襲い掛かっているのだろう。特定の者を殺すなら、その方が良い。
 而して彼は街を疾る中で、飛ぶ様に過ぎ去る景色や擦れ違う人にも注視しており、
「犯人が人を選んでいるなら、被害者の共通点を探れば、次の標的も絞れる筈――」
 この中に、次の被害者が居るかもしれない。
 若しかその者をつけ狙う『霧』も居るかもしれない。
 そう思えば元々鋭利(するど)い眼光は更に烱々と研ぎ澄まされていく。
「――偽物か本物かなんてのは、考えるだけ意味はねえ」
 漆黒の烱眼の目尻を過ぎ行くものが真か虚かは、己を動かす力にはならない。
「それを決めるのは俺達じゃない筈だ」
 有人は淡然たる言を置いて、次なる現場へと疾走った。

 犯行現場は現時点で20箇所。
 自らも『カスタムバイク・レラ』に跨り、有人と手分けして現場の検分に当たっていたシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は、犯行の地点を地図に落とし込むうち、円の範囲と中心点から、犯人が鳥瞰を得ている事に気付いた。
「円の中心には、街の象徴となる時計塔……犯人は此処から街を眺めた可能性がある」
 何の為にか。
 恐らく標的を探す為だろう。
 最近は新聞の影響で多くの市民が『霧』と呼ぶ様になった連続殺人犯は、大時計塔から視える範囲で、次の得物とする者の目星を付けていると思われる。
「……そして被害者達には、視覚的に共通する特徴があるのだろう」
 犯人は標的を立場や境遇でなく、見た目で選択している――。
 或いは見た目から判明る何かを基準に犯行に及んでいる――。
 気付きを得たシキは、最後に死体の検分に当たった大学病院を訪ね、餘りの事件の多さに検分が間に合っていないという直近5件、つまり5体の死体の検分を願い出た。
 犀利に全身を巡った烱眼が長く繋がれるのは、矢張り、切断された左臂。
 端整の脣は靜かに言を滑らせて、
「ナイフで臂を斬り落としたなら、大量の血が凶器に付着している筈だ。それだけ大量の血のにおいであれば、多少拭おうと簡単には消えたりしない」
 現場に残った臭いと、被害者の血の匂い。
 足で稼いで得た情報は多いが、その全てを秀でた嗅覚に刻んだシキは、【ハンティングチェイス】――警察犬より耳目を鋭く、猟犬に勝る執拗さで、匂いを追跡し始めた。
「狼の姿は好まないが……出来る限りの事はしたい」
 被害者が本当の人でなくても。悪夢に描かれた物語であったとしても。
 これ以上の哀しみを、被害者を出さない為に、全力を尽くす。
「――急ごう。次の事件が起きてからでは遅い」
 より五感の優れる狼と變じたシキは、白銀の耳をピンと立て、冱ゆる青瞳を煌々とさせながら、力強い脚で霧の街を駆けた。

 異世界の事に興味の無かった少女が、動いた。
 謎解きや推理は不得手と自覚しつつ、動いた。
 其処には、彼女を突き動かすだけの陰惨が、悪夢が、狂気があったのだろう。
「……今は流儀を曲げるべき時。弱音は、吐かない」
 リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は、最新の犯行現場にて検分を終えると、【吸血鬼狩りの業・千変の型】(カーライル)――地縛鎖を垂らすや、大地に根差す魔力と、この地に纏わる情報を吸い上げた。
「……昨晩の雨で多くの血痕が流されたと、警察は言っていたけれど……被害者の血は、哀しみは、雫と伝って大地に染みている……」
 地元警察は気付くまい。
 慥かに雨は多くの証拠を流してしまったろうが、リーヴァルディの瞳には、多種多様な術式を行使する呪騎士の瞳には、事件当初の惨憺の景が歴々(ありあり)と映る。
 少女は菖蒲色の麗瞳に元の血痕を追いながら、そっと声色を落として、
「現場にこれだけの血痕があるのだから、相当量の血液が凶器に付着したのは間違いない……その痕跡を追う事が出来れば、犯人の元に辿り着ける、筈……」
 血は厖大な情報を有する。
 呪詛と魔力を溜めた地縛鎖は、現場に存在する血の臭いを調べ、鋭い「勘」と「感」、そして客観的情報から、犯人の匂いの足跡を辿る事にした。
 途中、同じく血の匂いを手掛かりに捜索に出ていたシキと合流する。
「――同じ血の匂いを追う仲間か」
「……其々に追跡していた猟兵が方向を揃えたなら……真実は近い」
 霧に包まれる都市で、視覚より嗅覚で犯人を追わんとした彼等の判断は見事に奏功し、遂に二人は拭い切れぬ殺伐の匂いが「或るアパート」から漂っている事に気付いた。
「匂いは此処で終わっている……いえ、此処から溢れている……」
 それはベッドシットのような貧困者用アパートでは無い。
 立派な職業に就く者が、会社から宛がわれたような――リーヴァルディはその玄関口に記されたアパート名称を読み、一瞬、時を止めた――。

  †

「ふむ。本官(わたし)が知る探偵とは随分と格好が違うが、君の先見と推理は、本官が知る探偵の其を遥かに超えている」
「そりゃどーも」
「是非に見て頂きたいものがあるのだ。――こちらへ」
 カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は便利屋なれば、探偵業も扱せよう。
 いきなり市警察を訪問し、市民の恐怖と興味を煽る連続殺人事件の予知を語った彼は、門前払いを喰らう處か、事件を担当する刑事に迎えられ、捜査本部に通された。
「君が言ったパン屋の娘については、我々から親御さんにも話し、保護させて貰う」
「そうして貰えると助かるぜ。大変な時期だろうが……」
「うむ。明日には推理がご堪能な人気の小説家をお招きしようと思っていたくらいだ」
「慥かに、どんな手段も取ってでも捕まえたい相手だろう」
 警察と仲良くしておくと良いのは、何処の世界も同じだろうか。
 カイムは【話術の心得】(トーク・マスター)で一気に警察の信頼を得ると、狭い資料室に山と積み上げられた紙を、並外れた視力で読み通していった。
「殺された男女の比率と、事件発覚当時の写真も見せてくれ」
「被害者20人の内、男性は1人、残る全てが女性。これが遺体発見時の写真だ」
「被害に遭った男性は、最初の時計塔の管理人だけか……」
 死因は失血死とショック死。
 背後を強襲されたり、擦れ違い様に脇腹を刺されたり。最初に重傷を與えた後に胴部へ刃を複数回、左臂の切除は被害者が意識を失った後に行われている――というのが死体の検分に当たった医師の見解だ。
 刑事の説明を傍らに、現場の写真に烱眼を落としていたカイムは佳聲を鋭くして、
「被害者の足跡に、逃げた形跡が無い……恐らくそいつは、ナイフで襲われるまで相手を警戒していなかった事になる」
 物盗りや虞犯少年なら、被害者はある程度警戒して歩いたろう。
「犯人は、この街に馴染んだ誰か……それも警戒されないような人物だ」
 若しかある程度、社会的地位か名誉を持つ、分かり易い職業にある者では――。
「…………まさか、な」
 流暢に語っていたカイムが、端整の脣を引き結んだ。

 殺害現場を巡る者が居れば、警察を訪ねて資料を洗う者も居る。
 迷霧の街に降り立った猟兵が様々なアプローチで犯人に迫る中、私立探偵の様に被害者の近親者に接触を図る者が居た。
 神狩・カフカ(朱烏・f22830)である。
「――はは、宛如(まるで)劇場型犯罪じゃねェか」
 妻が『霧』に腕を斬り落とされたと、怒りを打擲(ぶつ)けてきた夫も、ブン屋が名を付けて煽る猟奇殺人犯の見世物(シヨウ)に陥っていると、佳脣より皮肉が零れる。
「この様子じゃ奴さん、主役を楽しんでやがるな?」
 女の悲鳴も、男の嘆きも。新聞の記事さえ。
 奴には全て喝采(オベーション)に聽こえようと言うカフカの、弧月の如き玲瓏の横顔に流眄を結んだ千桜・エリシャ(春宵・f02565)は、淡く金絲雀の聲を囀った。
「あなた、随分と慣れた様子ですわね? 随分と回る口ですこと」
 被害者の近親者という、話を聽くにはデリケートな相手から、斯くも丁寧に有益な情報を引き出していく能辨には舌を巻いた、と――。
 櫻脣を滑る佳聲の小気味佳く語尾を持ち上げる艶麗に、彼は答えて、
「姫さんは知らねェだろうが、おれは人の世では探偵の真似事もしててなァ」
「へぇ……探偵ね……山神である大天狗ともあろうお方が、人の世の紛紜(いざこざ)に顔を突っ込むなんてね」
 幾許か荊辣を帯びる言にも、秀でた鼻梁はその儘、麗し金瞳の彩を寄越すカフカ。
 彼も『不思議な探偵』として血の舞台に上がろうと言うのか、靉靆と燻る紫煙の間より塊麗の微笑を注ぐ。
「姫さんは此処じゃおれの助手ってことで頼むぜ?」
「……あなたの助手だなんて不愉快極まりないですけれども」
 並の女なら籠絡される極上の微咲(えみ)を、ついと視線を逸して流したエリシャは、丹花の脣に溜息ひとつ置いて時を挟むと、彼にこそ一歩を促した。
「まあ、楽しそうだから付き合って差し上げますわ」
 白磁の繊指が捺擦(なぞ)るは、被害者の親族を書き連ねた紙片。
 次の訪問先へ、乙女色の麗瞳が嚮導を示せば、カフカは吃々と竊笑しながらエスコートの手を差し出し、二人、霧の街を歩き始めた――。

「こうやって聞き込みを続けていると、犯行現場に一貫性は無くとも、犯行時間は大体、夜の八時頃に集中しているのが判然(わか)る」
「其は夜告げの鐘の時刻……この鐘が鳴ると、街の人は店を灯りを消し、家の門を締め、子供を寝かせるのが慣わしになっている、という事でしたわ」
 時計塔の大時鐘は、朝と夜に二回、一分間に渡って鐘を響かせる。
 厳粛にして荘重な鐘の音が、この猟奇的な連続殺人と如何関わっているのか――「時」に目を付けた二人は、自ずと第一被害者である時計塔の管理人に注目する事となった。
「そういえば最初の被害者は、巷で噂される人物像と一致しませんわね?」
「最初の殺しで注目されなかったから、標的を變えたんだろうよ。それが最初の被害者と噂の人物像が違う理由サ」
「ふぅん……噂として持て囃されるような人物を殺す方針に變えたということかしら」
 殺すことそのものよりも、目立つことが目的か――。
 新聞を読んだ市民がより興味を持つように、犯人を選んでいるのか――。
「……いや、待て」
 カフカが礑(はた)と足を留め、仲間の猟兵から入った情報を見る。
 被害者は最初の老爺を除いて全員が女性。左手の薬指には指輪を嵌めていて、既婚者である事が確認されている――その差異が、一人目の被害者の凡庸さを浮き立たせる。
「これは推理だが」
 カフカは凛然を萌した麗眸をエリシャに注ぎ、
「一人目は“目的”の為の殺人だった。次なる殺人を行い易くする為の下地だった」
「下地? では、今回の連続殺人には時計塔が大きく関わると……?」
 聲色が變わる。空気が變わる。
 つと視線を上に、嚴然と屹立する時計塔を眺める賢い助手に首肯を添える。
 彼は更に言を足して、
「ここからは、確実性の高い未来予測だ」
 犯人は、薬指に指輪をはめているやつを狙っている。
 十分に下地を整えた上で、確実に殺しに来る。
「……あのパン屋の若い娘かそのお相手が危ねェかもしれねェな。先回りすれば食い止められるかもしれねェ」
 黄金色の隻眼が烱々と研ぎ澄まされていくのを見たエリシャは、匂い立つほどに花顔に艶笑(えみ)を湛えると、かろり、石畳に跫を置いて、
「では、あなたの推理が当たっているか見届けに参りましょうか」
 と、旧道に架かるレンガ橋へと向かった――。

  †

 連続殺人犯は、薬指に指輪を嵌めている者を殺している。
 街の人の中には、古い言い伝えに肖(あやか)り、此処で指輪を渡す者が居る。
 殺めた者の左臂を斬り落とし、更に『Done』(やった)と刻むくらいなのだ。余程強い嫉妬か嫌悪感で「愛する人と結ばれた」者を殺めているのだろう、と――此処に言い難い不穏を覚える猟兵が居た。
「旧道にかかるレンガ橋を見張ろう。パン屋の娘が危うい気がする」
「…………」(こく、こく)
 シビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)と、浅間・墨(人見知りと引っ込み思案ダンピール・f19200)である。
 待ち合わせをしている素振りで景色に溶け込んだシビラは、更に【小さい援軍】(アウクシリア)――合計81体のちびちびシビラを手掌から召喚し、漆黒の面紗(ベール)に貌を隠した守り人を、手元に1体、墨に1体、残りは橋全体を包囲するよう配置する。
「どうも此処で獲物を探しているように思えてならない」
「……シビラさんも……気になるんですね?」
 ふふ、と小さな小さな微咲(えみ)を溢す墨も準備は万全。
 旧街道の歴史的な街並みを眺める観光客として溶け込んだ可憐も、密かに【式『小墨』】(コスミ)――70体の手のひらサイズの墨を橋の周辺に配置し、着物袴姿のちびちび墨に周囲を見張らせる中、手元に残した1体をシビラの護衛として協力させた。
 行き交う人々は、彼女達を気に留める事も無かろう。
 この旧道は街の主要道路としての役目は終えたが、美しい景観を楽しめる観光スポットとして人気があり、周囲の人は其々に緩然(ゆっくり)と流れる時間を満喫している。
 ――然う。
 人通りの多い此処に居るだけでは、果して「誰が指輪をしているのか」は、街の人々も、殺人鬼も、探偵(猟兵)も、よく瞭然(わか)らないのだ。
 現地に立ったからこそリアルな発見を得たシビラは、ここで不図、淸冽と耀ける金瞳を上に――この街の象徴たる「大時計塔」へと注いで、
「例えば、あの高さからなら……多くのものが見えるだろうか」
「…………!!」
 彼女の科白に何かヒントを得たか、墨がハッと花瓣と色付く脣を開く。
 絹糸の様に繊細な聲は、やや戸惑いがちに囁(つつや)いて、
「……そ、それ……それなら、ですね。あの……その……」
 月白の繊手を小袖に滑らせた墨は、中からそうっと「銀の指輪」を取り出した。
「わ……ワザと……此処で、目立つように……銀の……指輪を……嵌めたら……」
 唯だ「薬指に指輪を嵌めている者」を獲物として探す事は難しい。
 然し「薬指に指輪を嵌めようとする者達」は、非常に目立つ。
 求婚(プロポーズ)は人生で一度きりのオーラを漂わせるだけに、動作も、纏う空気も、多くの者の目に留まるだろうと、小さな手掌に銀の指輪を乗せた墨が言えば、「成程」と合点したシビラが其を取った。
「――左手を。指輪を嵌める」
「こ、これは……す……凄く……恥ずかしいですよ」
「やるしかないだろう」
「……はぅう……」
 多くのカップルが此処でやり遂げてきた事を行う。
 片膝をついて愛を捧げ、見つめ合って永遠を誓った後に、指輪を嵌める――。
 然れば橋を潜る河のせせらぎも、行き交う人の笑顔も、皆々が「新しい愛が生まれた」と温かな拍手を注いでくれる。
(「――これだ。間違いない」)
(「はい、犯人はこの光景を慥かに見ています」)
 そうっと持ち上げた麗瞳の彩で、聲なき言を交すシビラと墨。
 二人の視線は自ずと上へ――霧掛かった灰色の空に尖塔を突き刺す、大時計塔の見張り台に結ばれた。

  †

 一人目の被害者は時計塔の管理人。
 二人目以降の被害者は、全て女性。
 各新聞社は挙って「幸せな未来を絶たれた若き娘たちの死」を扇情的に書き連ねたが、この連続殺人事件が猟奇的であるばかりに埋没してしまう「歪」に注目する者が居た。
「――事前情報では二人目以降の話ばかり、今もブン屋が煽るのは老爺の死以外です」
 矢来・夕立(影・f14904)である。
 玻瑠(ガラス)を隔てた眞赭の冷眸に、昨夜の雨で濡れた側溝の新聞を一瞥した彼は、手柄を奪い合うように書き競う記者にアタリを付けていた。
 図書館に足を運び、過去の記事を洗った夕立は、他紙に先駆けて第一報を打ったA誌の或る記者に接触を図った。
 質問はこうだ。

 “一人目の被害者について知っていますね。”

 掛ける術式は【紙技・琴問】。
 端整の脣を擦り抜ける冷艶のテノールを追って記者に這い寄った式神は、嘯けば咽喉に噛み付く虚實の審判者。
 ヒヤリと首に触れる紙垂に慄いた記者は、「警察のプレスクラブ」から情報を得たと、白地(ありのまま)を話し始めた。
 Press club(記者クラブ)。其は警察署内に専用の記者室を設け、取材対象側から独占的に情報提供を受ける私組織にて、構成要員はかなり絞られよう。
「――その中に、最初に“これで二人目だ”と言った人がいる筈です」
 あなたが知っている人だ、と眼鏡の奥の緋瞳が冱ゆる。
 夕立は、記者が思い浮かべたであろう人物を共有する様に言を嚮導(みちび)く。
「思うに。その方はなんで“これで二人目だ”って分かったんでしょうか」
 初報では殆ど関連性の見出せぬ二つの殺人事件を結び付けた者は。
 そこから始まる猟奇的な物語を記事として売った者は。
 研ぎ澄まされた刃の如く迫る質問に息を飲んだ記者は、震える脣で答え、
「ッッ、あいつは……取材に行くと言って出掛けたんだ」
「何処に」

 ――全てが見渡せる「大時計塔」に、と。

 須臾。
 黒羽の羽織が飜った。

  †

 此処は『オウガ・オリジン』の中に眠っていた「無意識の悪夢」。
 且つ現実改変ユーベルコードによって具現化した世界なれば、犯人側に有利に動くのは止む無し、唯だ初手から劣勢を敷かれるのは避けたいとは、勝負師ならではの感性か。
「ミスリードがとくにないならないでイイんだ」
 街の人々から寄せられる情報が正しいか、これまでの捜査に手抜かりがなかったか。
 事件現場を巡り、被害者の状況を具に洗った玉ノ井・狐狛(代理賭博師・f20972)は、情報の取捨選択を嚴格にして精度を高め、犯人の性癖と傾向を探り出した。
「犯人サマは相当な派手好きだ。殺人の予告状、切断した腕に刻まれた文字……ついでに得物にも外連味があらァ」
 随分と猟奇的な物語を愉しんでいるように見える。
 何かしらの思想や嗜好、或いは強い情念を世間に斬り付けるように、劇場型殺人の主役を演じているのだと、端整の脣を滑る佳聲は幾許にも冷ややかだ。
「犯人サマの頭の中には、理想を投影(うつ)した台本があって、その通りにならないと癇癪を起こすかもしれない」
 好きに遊んでいる處に邪魔が入ると、腹を立てる子供のように――。
 何なら大いに邪魔をして遣ると、櫻脣を小気味佳く持ち上げた狐狛は、霧中の千里をも見通す異能を以て何人かを見繕うと、【入場無料の闇芝居】(ナイトメア・フィーバー)――市民の口から喫驚(おどろ)くべき内容を叫ばせた。

「嗚呼、嗚呼……ッ! やめてくれ……霧の街が血煙に染まってしまう!!」
「俺の娘が何をしたッて云うんだ!! 嫁入りの娘を!!」
「これで21人目じゃないか! 街から人という人を消すつもりかッ!!」

 街頭で声高らかに商品を売っていた者達が、あちこちで叫び出す。
 ブン屋が煽る『霧』なる殺人犯が次の犯行に及ぶ“幻覚”を視た者が大声でわめけば、周囲の者達も俄に恐慌(パニック)に陥る。
 その様子を明歴(ありあり)と捉えた狐狛は、「扨て」と街中を見渡して、
「自分の『演しもの』にケチをつけられたら、犯人サマもご立腹だろ? なにもせずにはいられないハズだぜ」
 ――今に破綻(ボロ)を出す。
 その時を決して見逃すまいと、琥珀色の麗瞳が烱々と玲瓏を帯びた。

  †

「――正直、わかんないわね」
 靉靆と漂流う霧の中に、吐息を混ぜる。
 殺害現場の検分や、街の人々のクチコミなど、事件に関する一通りの情報を足で稼いだリダン・ムグルエギ(宇宙山羊のデザイナー・f03694)は、己と最初の現場――霧の町を見渡せる大時計塔の頂上に行き着いていた。
「分かんなくなったら、スタートに戻るのが良いのよ。たぶん」
 多分、と囁(つつや)く佳聲は、間もなく齒車に噛まれる。
 大きな輪転音を響かせる時計塔は、煩いが街を一望できよう。
 何か異常を見つけたなら直ぐにも仲間に報せる算段だと、大時鐘と繊手を繋いだ『服飾師の糸』を見詰めた佳人は、最初に接触した新聞記者との会話を思い出していた。
「アタシなら……殺された老爺の妻が真犯人を炙り出すために、老爺の死を連続殺人事件に組み込み、犯人に見せつけ怯えさせるために事件を……とかの筋書きにしたけど」
 妄想が過ぎたか、と自嘲めいた溜息を置く。
 此処は『オウガ・オリジン』が殺人を愉しむ為の舞台にて、本人が良しとすれば、今の妄想もより猟奇的に演じるだろうと、終ぞ晴れぬ灰色の空を仰ぐ。
 ――その時だった。

『ッッ……!! 何故、わたしが動かぬ裡に殺人が行われている……!?』

 男の聲だった。
 加之(しかも)、聽き覚えのある聲だった。
(「うそ……先刻、アタシが話を聞いたブン屋じゃない……!!」)
 尖塔の頂に居る上に、気配を殺したリダンに向こうは気付くまいが、眼下の男の左腕に巻かれた報道用腕章はよく見える。
(「慥かに、記者なら……ここの管理人に腕章を見せれば時計塔に入れる……」)
 捜査中の警察にも入れる。
 取材なら昼夜を問わず張り込める。
 街の者は何の警戒も抱かず、腕章をする者に口を開く――!
 地道に足で稼いだからこそ、拾い集めた欠片(ピース)は一気に真実を暴こう。
(「……最初の殺人は視野を得る為……同時に事件を視る者を排除したのね……!」)
 ああ、そうだ。
 街を攻める時には、先ず物見を殺す。
 連続殺人を行う時も、己が行動を見られぬよう「街の監守」を殺めたのだと――足許の殺人犯の意図を読み切ったリダンは、直ぐに大きな布を広げた。
(「念の為に用意した道具が役に立ったわ。犯人は……“此処”よ!!」)

 ――犯人ココ☟

 ダイレクトな文言をプリントした大きな白布と矢印シールは、狭霧の靉靆(たなび)く街にあっても明瞭と視えたろう。
 刻下、街中の猟兵が視線を集めた。

  †

「全てを見下ろせるなら、どこからでも見えるでしょ」
 時計塔の最大の特徴であり、連続殺人事件の最大の鑰である視野を攻略したリダンが、文字通り「高らかに」犯人の居場所を告げた。
 目下、塔の屋根に蹄を立てた彼女は、フェンスから身を乗り出す男を俯瞰しており、

『畜生……ッ、同時多発事件など、わたしの筋書きには無い事だ……!』
 模倣犯か? 便乗犯か?
 とまれ、わたしの「物語」に勝手に筆を入れる事は許さないッ!

 動揺している今が捕縛の時か――否。
 彼女は己が出来る事は此処までと、時計塔に集まり来る猟兵の精悍に次手を預けた。
「任せたわ」
「任されました」
 継ぐは夕立。
 犯人と同じ新聞社の記者に接触していた夕立は、比較的早期に大時計塔に至り、犯人と同じ目の高さで、彼の同僚にも投げかけた「質問」の内容を少し變えて問うた。
「――此処で起きた事件を、連続殺人事件の“一人目”と数えたのはあなたですね」
『何を、言って……ッ、ッ!』
 真実を言わぬ限り、腕にヒヤリと触れた式紙は噛みも締めも為よう。
 痛撃に顔貌を歪めた男は、咄嗟に指を入れて紙垂を千切らんとするが、『式紙・朽縄』は指一本の猶予も與えず、きり、きり、と締め上げていく。
「オレはそんな趣味はないので、腕を削ぎはしませんが」
『ッ、ッッ……!!』
『締めるくらいはします』
 咽喉を縊れば喋れまいと、手首を締める今回こそ本命。
 夕立が白黒ハッキリさせましょうと、長躯を屈めて覗き込むは、齢30頃の男――。
「質問を變えましょうか、ミスター・カウエル」
『ッッ、わたしの、名を……!!』
 男が喫驚を見せた時だった。
「――ジョン・ロイド・カウエル。それがお前の名前だな」
「お前の部屋から、大量の血の着いた衣服を見つけたわ」
 新たなる猟兵が現れ、おぞましき連続殺人事件の犯人の名を告げる。
 シキとリーヴァルディだ。
 夕立は同僚から名を聴き出したが、二人は事件現場や被害者の血の匂いを辿って殺人犯の住むアパートを突き止め、そこがA新聞社の買い上げた社員向けのアパートであった事から、借主の名を割り出していた。
 管理人に頼んで部屋を見せて貰った二人は、其処で得も言われぬ惨憺を視たろう。
「腕を斬り落とすなどすれば、大量の血を浴びた事は間違いない。事実、お前の部屋は、拭い切れぬ血の臭いに満ちていた」
 20人もの血の匂いを混ぜる者など、犯人以外に居ようかと鋭眼に睨めるシキ。
 証拠品として、べっとりと血糊の着いたシャツを差し出せば、男は忌々しそうに悪態を吐き、シキを睨め返す。
『……こんな物で、わたしが殺ったと証明できるものか……!』
 尚も男が否定するなら、リーヴァルディは話は無用と地縛鎖を操って、
「……やはり私に探偵の真似事は似合わない。狩人は狩人らしく、獲物を追い詰める事にしましょう」
『ッ、何を……!!』
「凶器を見せてもらう」
 血の臭いを辿り、スーツの裏ポケットに滑り込んだ鎖で金属の音を叩く。
 次の瞬間、カランと音を立てて床に轉がるは――ブッチャーナイフ。
 屠殺に使う職業用ナイフは、中々手に入れる事の出来ない代物だとは、全ての情報を精査した狐狛なら出所を顕かに出来ただろう。
「肉屋の厨房から一本のナイフが消えたのは、半年前の事だ。丁度この頃、地域誌を担当していた『霧』サマは、取材中に手癖の悪さを披露した様だ」
『豈夫(まさか)……そんな馬鹿な!!』
「そら、どんどんボロが出てきた」
 ハンチング帽の下に隠れた凶相が、ギリギリと歪んでいくのが判然(わか)る。
 完璧主義な男は、今の様に過失(ミス)を指摘されるのを殊更嫌がるし、己の計画通りに事態が動かねば、過度のストレスを受けるのだ。
 狐狛は嚇怒して震える男に飄然と云って、
「扨て、アタシらを振り解いて何処に行こうか」
 己が描く物語に水を差す騒擾を止めに行こうか。
 それとも、当初の計画通り「レンガ橋」に獲物を求めようか。
 さぁ何処に往く、と広がる景色に手を遣る狐狛に、男は歯切りして聲を絞った。
『ッ、ッッ……そうか、お前が仕組んだのか……!!』
 何故なら、想定していた景色とまるで違う。
 現下、街の数か所で「21件目の犯行が成された」と喊ぶ者が居る中、己が「獲物」を漁っていた旧道のレンガ橋は観光客が激減しており、霧を裂いて凝視すれば、件のパン屋の娘が――懇意の男に求婚され、誓いの指輪を受け取っているではないか!!
『!? ……如何いう事だ……!!』
 交通規制を敷いたのは、地元の警察。
 そして新しい愛に結ばれた二人を見守るは――シビラと墨。
「二人には大事な日であったようだから、止めるより行った方が良いだろう」
「……はい……!」(こく、こく)
 実際に橋で指輪を嵌めたからこそ、二人は犯人の獲物の狙い方が理解った。
 標的が判明し、更に時計塔から此方を視ているのだと理解れば、橋中に包囲網を敷いた二人なら十分に守れる。
 観客は少なくとも十分に幸せそうな男女を見た墨は、鈴振るような聲を滑らせ、
「私も……シビラさんも……娘さんの事が、一番……気になっていたので……」
「私が他人に目をかけるのは珍しいかもしれない。だが……幸せになろうとする者が被害に遭うことはないと思っただけだ。他意はない」
「はい……これ以上……被害者を、増やさせません……!」
 雪白の繊指は刀の柄頭に――鯉口を切っておく。
 仮令(たとえ)男が時計塔を飛び降りて、槍の如く襲い掛かって来ても、小さなシビラと小さな墨が血を許すまい。
『ッ、ッッ……畜生ッ!』
 万全の守りを見下ろした男は、進路を絶たれて地団太を踏むしかなかろう。
 同時に退路を断たれたとは、時計塔の周辺に集まり始める警察車輛に示される。
「――進退窮まったな」
 パトカーから降りてきたのはカイムだ。
 犯行時間が夜間に集まる事から、比較的自由に移動できる職業の者にしか犯行に及べぬと読んでいた彼は、腕章ひとつで市民に聲を掛けられる記者の中でも、警察の捜査状況に詳しい者が怪しいと、記者に渡した情報を全て洗っていた。
 そしてカイムは、この世界の人々にも陰惨な事件の犯人を「知る権利」はある筈だと、警察と共に殺人鬼の下へやって来た訳だが――。
『はは、は。こいつ等に犯人を教えた處で何になる? この世界は虚構で、偽物で、全てが悪夢の創造物だって言うのに!』
 時計塔から嗤笑を降らせる帽子の男。
 追い詰められて『オウガ・オリジン』の片鱗を見せたか、男は時計塔を包囲した車輛の赤色灯を見下ろしながら、吃々と歪笑(えみ)を噛み殺す。
 蓋しカイムは侮辱される彼等に代わって言を突き付け、
「……胸糞悪ぃな。この世界が幻だろうと造り物だろうと、放っておく気はないね」
『不思議な探偵さんは慈善事業者かい?』
「いや、『便利屋』さ」
 いつも通りの便利屋。
 悪夢の世界が舞台だろうと、請けた仕事は解決に嚮導くだけだと云ってのける。
『――はっはっは!!』
 Rubbish !(馬鹿げてる!)
 偽物の殺人劇に何を言っているのかと、男が肩を竦めた時だった。
 男の背後に頭ひとつ大きな影が差し、其の視界を昏くする。
「愚かにも貴様は夢の住民だ。警察に突き出すのが筋だろう」
『――ッ!!』
 刺す様なカヴァリエバリトンに息を飲み、頤だけを背に送る。
 見れば、【変身】(フラッシュ・チェンジ)にて強化外骨格を纏った有人が、スーツの襟首を攫んでおり、己の足元には、ぼた、ぼた、と音を立てて零れた旧い内臓や皮膚が、牛革のシューズカバーを濡らしていた。
 何処か恍惚を覚える匂いが鼻腔を掠めた――刹那、視界は疾り、胸が圧される。
 有人に襟首を攫まれた儘、時計塔を墜下したのだと気付いたのは、間もなくだった。
「貴様とは違っていたぶる趣味はない」
『……ひ、ぁ……っ!!』
「消失した先だけを考えろ。無が何だったか、思い出させてやる」
 有人は苦痛も恐怖も要求しない。
 時計塔から地面までの降下も、警察に「犯人の顔を見せる」以外の目的は無し、有人は襟首を抑えた儘、集まった警官が顔を検められるよう取り押さえた。
 記者クラブの組織員として警察に出入りしていた男を知る者は、あまりに凡庸な顔貌をした殺人鬼に、最初は発語を躊躇ったろう。
「ッッ……ッ……ジョン・ロイド・カウエル、君が犯人だ!」
『……ハハハハハ!! 20件も見逃してきた無能がよく言う!!』
 その表情から全てを読み取った男が、遂に形姿を變える。
 ハンチング帽を脱ぎ捨てた男は、忽ち『オウガ・オリジン』に――少女と身を縮めた隙に有人の拘束を振り払い、警察車輛を潜って逃げようと踵を蹴った。
「此処は“わたし”の世界! 全てがわたしの望む通りにならねばならぬ!!」
 善良な市民が残虐に殺される悪夢の世界!
 生まれたばかりの幸せが屠られる非道の世界!
「無惨な物語が善良な市民を惹き付ける限り、この世界は終わらないのだ!!」
 少女は再び庭を駆け回れるか――否。
 その脚が霧の街に溶ける事は、もう無い。
「――捕まえた」
 跫に差し入る凄艶のソプラノ。
 聲主はエリシャ。
 疾走るは、【桜花葬送】(コノハナ・フューネラル)――桜鬼に囚われた怨嗟の叫びが櫻片と吹き荒び、美し妖し斬撃となって少女の脛を断ち切ッた!
『アァァアアア嗚呼ッッ!!』
 逃げる足を斬られた『オウガ・オリジン』が激痛に大地を輾轉(のたう)てば、そこにカフカが聲を降らせて。
「演劇か遊戯か、とまれ終幕だ」
『……くっ……っ!!』
「主役(たてやく)にゃ引けねェ幕を、おれ達が引いてやンだよ」
 彼は飄然と云ってのけるが、カフカもエリシャも、凄まじい機動だった。
 レンガ橋に至り、パン屋の娘が若者と共に来るのを見た時には、一層の警戒をした二人だったが、時計塔に大きな目印が掲げられるや、周辺の警備をシビラと墨に任せ、一陣の風と疾走した。
 正に犯人の進路を逆に辿ったカフカは、此処で仕損じれば必ずや「己の物語」を書き続けるであろう狂気を見据え、硬質の手に顕現(あらわ)れる『夢の手錠』を揺らす。
 佳脣を滑るハイ・バリトンは婀娜に語尾を持ち上げて、
「手錠を掛けるのは任せたぜ?」
「なんて言ったってあなたの助手ですもの。それくらいやり遂げてみせますわ」
 勿論、と流眄を結んだエリシャが、手錠を受け取る。
 猟兵が集めた証拠の数々は、ここに『夢の手錠』となって具現化し、激痛に悶えて土を攫む両手首を聢と繋いだなら――連続殺人事件の犯人は、霧となって消失した。
『ッ、ッッ……ッ……――』
 奇しくもこの時、時計塔が長針を眞上に、午後八時を告げる。
 毎日變わらぬ夜告げの鐘を一分間、街中に響き渡らせた大時鐘は、再び齒輪車を回して針を進めた。

 あと数時間もすれば、新聞社は競って朝刊を擦り始める。
 昨日、初めて連続殺人犯『霧』は予告した殺人に失敗した、と――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月26日


挿絵イラスト