迷宮災厄戦⑱-19〜アジールは遠く
●無意識の悪夢
全ての窓に鉄格子がはめ込まれている。
錆びついた鉄の匂いが、嗅覚から精神を侵していくのがわかる。いや、むしろ、それこそが最大の狙いであるといわんばかりに鉄格子は視覚からも心を締め付けていく。
逃れられるわけがないと、ここから出られるわけがないと告げられている。
それはつまるところ、もうどこにもいけないということを示していて、さらなる絶望を『わたし』に与える。
この場所において、『わたし』に与えられるのは絶望だけだ。
どんなことをしていても、何を考えていても、あるのは絶望だけ。それはどれだけ心を強く持ったとしても、どれだけ楽しいことを考えようとしても。
それこそ、幼心のあの頃に読んだ本を心の支えにしていたとしても、その不思議の国を思い描いたとしても、絶望は追いかけてくる。
その心の支えでさえ、へし折ろうとする。
『みんな』笑っているのだ。
楽しげに拳を握る。振り下ろす。鈍い音がする。鋭い痛み、鈍い痛み、穿たれる痛み、そのどれもが心と体を同時に痛めつける。
顔のない顔が、絶望に歪んだ瞬間。
オウガ・オリジンの切り裂かれた手首から吹き出すは鮮血の如き色をした『悪夢獣』。
それらは吠え猛る。
痛みを齎す者を滅ぼし尽くせと。
あらゆる絶望を齎す者を殺し尽くせと。
そうしなければ、救われる生命もないのだと言うように、吠える。吠える。吠える。
ここはアサイラム。アジールではない、心の寄る辺にならぬ、収容所―――。
●迷宮災厄戦
グリモアベースへと集まってきた猟兵達に頭を下げて出迎えるのは、ナイアルテ・ブーゾヴァ(フラスコチャイルドのゴッドハンド・f25860)だった。
「お集まり頂きありがとうございます。激しい戦いの影響か、再びオウガ・オリジンの力が増大しています」
ナイアルテの表情は予断を許さないほどに逼迫したものであった。
彼女の予知する光景は、ここ最近ずっとオウガ・オリジンの姿ばかりである。これもまた迷宮災厄戦が終盤に差し掛かっていることを意味するのだが、彼女の表情は昏い。
「今回オウガ・オリジンが存在するのは―――全ての窓に鉄格子が嵌められた、暗く陰鬱な病院です。ですが、みなさんが戦う敵はオウガ・オリジンではありません。鮮血のような赤い色をした『悪夢獣』と呼ばれる敵なのですが、この敵を……」
彼女が見た光景もまた鮮烈なるものであったのだろう。
かすかに陰る表情も隠すように微笑み、ナイアルテは続ける。『悪夢獣』と呼ばれる敵は、オウガ・オリジンの切り裂かれたような手首から噴出し続けている。
オウガ・オリジン自体をどうにかする必要はなく、噴出し続ける『悪夢獣』を殺し尽くせば、自然とオウガ・オリジンもまた消滅するのだという。
「はい……何故、オウガ・オリジンが戦えないのかと言いますと、自らの中より噴出する悪夢に苦しんでいるからです。何故、悪夢が彼女を苦しめるのかは定かではありませんが、その手首から出現し続ける『悪夢獣』も油断ならぬ敵です」
出現する『悪夢獣』は3種類。
巨大な馬型、群狼型、鋭い前歯と刃の耳を持つ兎型。この3種類の『悪夢獣』が存在する。そのどれも血液で出来ているかのようであり、オウガ・オリジンは決して戦いに参加してくることなく、常に悪夢に苦しんでいる。
ほうっておいても、『悪夢獣』を全て倒せば、自然消滅するのが不幸中の幸いであろう。
「また不思議なことなのですが、『悪夢獣』から吹き出る鮮血にまみれながら戦うことによって、有利に進むようです。『悪夢』を拭うことなく立ち向かうことに意味があるのでしょうか……私にはわかりかねますが、それでもこの行いが皆さんの助けになることは確かなのです」
未だ謎多きオウガ・オリジンではあるが、本体と戦うことなく噴出する『悪夢獣』を倒し尽くさねば、吹き出し続ける悪夢に不思議の国は押しつぶされることだろう。
そうなれば、複合世界であるアリスラビリンスの他の不思議の国に影響が出てもおかしくはない。
この不安材料を取り除くために猟兵たちは陰鬱なる病院の不思議の国に降り立ち、『悪夢獣』を全て掃討しなければならない。
「これまで以上の敵の数となるはずです……どうかご武運を」
そう頭を下げ、ナイアルテは猟兵たちを送り出す。
どれだけの悪夢が襲いかかってきたとしても、猟兵たちならば切り抜けてくれる。
そう信じて―――。
海鶴
マスターの海鶴です。
※これは1章構成の『迷宮災厄戦』の戦争シナリオとなります。
全ての窓に鉄格子がはめ込まれた陰鬱なる病院に降り立ち、悪夢に苦しむオウガ・オリジンから噴出する『悪夢獣』を全て掃討しましょう。
※このシナリオには特別なプレイングボーナスがあります。これに基づく行動をすると有利になります。
プレイングボーナス……鮮血にまみれながら、悪夢獣と戦う。
それでは、迷宮災厄戦を戦い抜く皆さんのキャラクターの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
第1章 集団戦
『『オウガ・オリジン』と悪夢のアサイラム』
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POW : ナイトメア・パレード
【巨大な馬型悪夢獣の】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【一角獣型悪夢獣】の協力があれば威力が倍増する。
SPD : 悪夢の群狼
【狼型悪夢獣の群れ】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : 忠実なる兎は血を求む
【オウガ・オリジンに敵意】を向けた対象に、【鋭い前歯と刃の耳を持つ兎型悪夢獣】でダメージを与える。命中率が高い。
イラスト:飴茶屋
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
キーシクス・ジェンダート
……これはまさに悪夢、だな。
悪夢(オウガ)が悪夢に苛まれるなんてのは、後にも先にも貴様だあけだろうよ。
戦場に到着すればUCを発動、発動直後の武器は自身の周囲に展開。
自身に最も近い敵からUCの武器とクロムスフェアで「全力魔法」から「衝撃波」
近距離攻撃しかできないなら、向こうから寄ってくるだろ?これなら血も浴びやすい。とはいえ、足元を取られないようにしないとな。あまりに血に濡れた武器は地面に叩きつけて、強化の魔法陣に変えよう。その上に立って「一斉発射」だ。
匂いは「狂気耐性」で湧き上がる何かは呑み込んで。
血の匂いは好きじゃない
くらくらして、まるで、ワインのような……感化されてないからな!
その不思議の国は、陰鬱なる光景そのものであった。
窓という窓には鉄格子が嵌め込まれ、外を伺うことも許されない。差し込む月光だけが、かろうじて外界とのつながりを連想させる。
ただ、それだけの世界。
その中で一人オウガ・オリジンは悪夢に苛まれるように蹲っていた。時折、手首を抑え呻く声だけが聞こえる。
如何なる悪夢を見ているのか、それは要として知れず。けれど、たしかにオウガ・オリジンは今、動くことも出来ずにいる。
「……これはまさに悪夢、だな」
それはこの陰鬱なる監獄の如き病院の不思議な国の様相を指して言った言葉ではなかった。キーシクス・ジェンダート(翡翠の魔人・f20914)は、蹲るオウガ・オリジンを見てそう言ったのだ。
「悪夢……オウガが悪夢に苛まれるなんてのは、後ろにも先にも貴様だけだろうよ」
戦場に降り立って、キーシクスが即座に展開したのは、ユーベルコード、再謳「六輝の魔人」(ジッターレイズ)。
六色の輝きを放つ12の白兵武器がキーシクスの周囲に浮かぶ。
それに呼応するかのようにオウガ・オリジンの手首から噴出するのは、鋭い前歯と刃の耳を持つ兎型『悪夢獣』。
次々と現れる兎型の『悪夢獣』の群れは次々に増殖していく。それこそが、オウガ・オリジンの見る悪夢の量であると言えるのかも知れない。
一斉に野に放たれるようにキーシクスへと飛びかかる『悪夢獣』。
「六輝の魔人の加護よあれ、汝が名はジッターレイズ」
放たれる六色の輝きを放つ白兵武器と青色と緑色の宝石が埋め込まれた剣が振るわれ、彼の全力の魔法が衝撃波と共に放たれる。
一瞬の攻防で兎型『悪夢獣』がひしゃげ、その身体を構成していた鮮血を迸らせ、その赤き血液をキーシクスは浴びる。
兎型故に、その攻撃の殆どは近距離ばかり。となれば、遠距離から一方的に攻撃するキーシクスに襲いかかろうとすれば、次々と『悪夢獣』はターゲットを彼に絞るだろう。
そうすれば、自ずと悪夢獣の血液を浴びながら戦うことになる。
だが、多くの白兵武器が血に濡れ、切れ味が落ちてくる。
その頃合いを持って、キーシクスは血に塗れた武器を地面に叩きつける。そうすることによって、白兵武器は魔力強化の魔法陣へと形成され、その上に立つキーシクスにさらなる力を齎す。
緑色の魔法陣が次々とキーシクスの周囲に生まれて、彼の魔法を強化していく。
「血の匂いは好きじゃない……くらくらして、まるでワインのような……」
彼の振るう青と緑の剣クロムスフェアによって放たれる魔法は次々と襲いかかる兎型『悪夢獣』を吹き飛ばし、血が雨のように彼へと降り注ぐ。
その匂いはまさに鮮血そのもの。
くらくらと、と彼が形容したように、彼は高揚していくのを感じる。それは、いつの間にか彼が得た残虐性を引き上げるように、次々と襲いかかってくる『悪夢獣』の群れを殲滅していく。
容赦のない魔法攻撃の前に『悪夢獣』は次々と鮮血を迸らせ、霧散し消えていく。
だが、キーシクスの体に募る残虐性は、増していく。
もっと、もっと、と血を欲してしまう。それこそワインを飲みすぎているような、そんな感覚に支配されてしまう。
だが、首を振る。
「感化されてなど―――ない!」
狂気の如き血の匂い。戦いを、殺戮を求める気性は、自分で鎮めることができる。どれだけ残虐性を得たとしても、彼には目的がある。取り返す。何もかも。元の世界に。あの子をの元へ。
それを思い出した瞬間、彼の視界は血風荒ぶ病院から開放される。
息を肩で吐く。くらくらとする頭を振り払い、キーシクスの前に現れた『悪夢獣』の全てを討ち果たし、口元を多いながら離脱していく。
これ以上ここにいてはいけない。そんな直感が働く。
ここは悪夢そのものだ。それはここにいるオウガ・オリジンにとっても、ここを訪れる者たちにとっても、等しく―――。
大成功
🔵🔵🔵
イサナ・ノーマンズランド
……そっか。見るからに痛々しいけれど、トドメを刺す必要はないって聞いて、ちょっと気が楽になったよ。でも向かってくる奴は仕方ないから仕留めなくちゃね。全部殺せば、キミも楽になれるのかな。……ほんの少しだけ、待っててね。
生まれる狼の群れに目掛けて、【スナイパー】ライフルによるUC「無駄なしの魔弾」での【貫通攻撃】。獲物の味を覚え、【追跡】し続ける魔弾で狼たちを狩り立てながら自身はライフルを打ち捨て群れへと接近しつつ処刑斧とショットガンの二刀流。切れ味の鈍い斧で【傷口をえぐる】執拗な【2回攻撃】で【恐怖を与え】つつ、【零距離射撃】で血の花を咲かせていく。もちろん、飛び散る返り血を拭う余裕なんかない。
降り立った不思議の国は、病院というよりも監獄と言ったほうが通りがいいほどに陰鬱なる光景が広がっていた。
窓という窓は鉄格子が嵌め込まれ、それ自体は何も問題が内容に思えたかも知れない。けれど、その光景はどうしても人の体を、病気を癒すための施設のものとは到底思えなかった。
その月光だけが照らす不思議の国にて、オウガ・オリジンはうずくまり悪夢に苛まれている。時折、びくりと身体が動くのは猟兵に反応しているからではない。
その身を、精神を侵す悪夢のせいであるのだろう。彼女が今どんな悪夢を見ているのかは窺い知ることはできない。
けれど、噴き上がるように生まれ出ずる『悪夢獣』は、群れ為す獣、狼の姿を取って次々と病院の中を疾走する。
「……そっか。見るからに痛々しいけれど、トドメを刺す必要はないって聞いて、ちょっと気が楽になったよ」
イサナ・ノーマンズランド(ウェイストランド・ワンダラー・f01589)は、グリモア猟兵から情報を得た時、そのように思ったのだ。
オウガ・オリジンは言うまでもなくオブリビオンである。それも格別たるオブリビオン・フォーミュラである。この迷宮災厄戦において、最終的に倒さなければならない存在であるのだが、目の前で悪夢に苛まれている者を直接的にでも討たねばならないということは、少し気が引けていたのだ。
「でも、向かってくるやつは仕方ないから仕留めなくちゃね」
目の前に迫るは群狼の『悪夢獣』。
その姿はまさに洪水や雪崩を思わせた。鮮血の色をした雪崩。あまりにも膨大な数の『悪夢獣』は、そのままオウガ・オリジンがさいなまれる悪夢そのものであったのかもしれない。
「全部殺せば、キミも楽になれるのかな……ほんの少しだけ、待っててね」
それはオウガ・オリジンそのものというよりも、悪夢にさいなまれる者に対する慰めであったのかもしれない。
イサナの構えるボルトアクション式の軍用ライフルに付いた高倍率スコープが群狼のうちの一匹を捉える。
「オレ様の右眼を貸してやる。――……視えたぜ」
それは彼女の身体を間借りする人格『レイゲン』の言葉。
ユーベルコード、無駄なしの魔弾(フェイルノート)。放たれた弾丸は、過たずに群狼の『悪夢獣』を討ち貫く。だが、その一射は一度では終わらない。貫通した弾丸は即座に軌道を変え、並走する群狼の一匹をさらい貫く。
その弾丸は獲物の味を覚え、追跡し続ける。
どれだけ逃げようとも、群狼である以上、同じ気配、匂いをしているだろう。こうなれば、一発の弾丸であろうとどこまでも対象を追いかけ、討ち貫き続けることだろう。
ライフルを打ち捨て、イサナはその手にポンプアクション式の散弾銃と処刑斧を構え、群狼と真っ向からぶつかる。
「鮮血……それを被りながら戦うと有利、なら―――」
至近距離で放たれたショットガンの散弾が群狼を穿つ。
その穿たれた隙間に潜り込むようにイサナの体が入り込み、鈍い切れ味の処刑斧―――『ジャック・ケッチ』が抉るような執拗なる斬撃で持って断頭の如き一撃を持って『悪夢獣』の首を跳ねる。
鮮血がほとばしり、その姿はまさに恐怖の権化。
あまりの凄惨さに群狼は二の足を踏む……かに見えた。彼等は『悪夢獣』。人を苛む存在であるというのなら、己の首の一つや二つが飛ぼうとも止まるいわれはない。
次と次とイサナに襲いかかる狼の『悪夢獣』たち。
「無駄な―――!」
放たれた弾丸が次々と群狼を霧散させ、放たれる処刑斧の斬撃が首を立ち鮮血迸らせながら、群狼の数を減らしていく。
「本当に無駄なあがき……どうあっても夢は覚める。それが悪夢であったとしても、必ず朝はやってくる。それと同じことだよ……」
至近距離で放たれた散弾銃の散弾が、飛びかかろうとしていた『悪夢獣』の体に大穴を穿ち、正大なる血の花を咲かせる。
ぱたぱたと鮮血がイサナの頬を叩く。
暖かいとも冷たいとも感じなかった。そこにあるのは、ただの液体。悪夢は生命足り得るのか、いやない。
イナサは処刑斧とショットガンの弾丸が爆ぜる音を響かせながら、群狼の尽くを霧散させ続けた。
少しでも速く、悪夢に苛まれる誰かの目が覚めますようにと祈るように―――。
大成功
🔵🔵🔵
灰神楽・綾
【梓(f25851)と】
苦しむ少女にトドメを刺せという内容なら
正直やる気出なかったんだけど
ここにいる獣を殺し尽くすだけのお仕事か
ハハッ、最高じゃないか
少しでも早く殲滅すれば
彼女も長く苦しまずに逝けるんだよね
戦場で血まみれだなんて日常茶飯事
敢えてそれを望むような戦い方をしてきたくらいだ
でもサングラスが血で覆われると困るからそこだけは注意
自身の手を斬りUC発動
Duoを構え敵陣に突っ込む
致命傷にならない程度に高速で斬りつけ敵を引き寄せる
密集すればするほど敵も同士討ちで傷付くだろう
もはや敵味方誰の血なのか分からなくなった時
それら全てを使いFerrum Sanguis生成
纏めて一気に処刑(投擲・範囲攻撃
乱獅子・梓
【綾(f02235)と】
血まみれで苦しみ悶えるオウガオリジンに
オブリビオンフォーミュラとしての威厳は無くて
ただの哀れな一人の少女に見えるな…
だな、さっさと片付けて苦しみから解放してやろう
綾は随分楽しそうだが、俺なんて白いコートだぞ
この戦いが終わったらきっと
こいつはもう使い物にならないだろうな…!
UC発動、雷属性のドラゴンを最大数召喚
俺は成竜の焔の背に乗り
上空から観察しながら綾の動きをサポート
綾の死角から攻撃を仕掛ける敵が居たら
ドラゴンにかばいに行かせる
そろそろ良い頃合いだろう
敵の群れ目掛けて一斉に雷のブレス攻撃を浴びせ
感電で動きを一時的に封じ込める(範囲攻撃・マヒ攻撃
最後の掃除は任せたぞ、綾
そこはまさに監獄と呼ぶにふさわしい光景が広がっていた。
鉄格子の形の影が落ちる病院と呼ぶのもおこがましいほどに薄暗く陰鬱なる不思議の国。その中心においてオウガ・オリジンは、これまでと違った様相を見せる。
うずくまり、倒れ込んだまま呻いているのだ。
意識があるとは到底思えないほどに、そのうめき声は悪夢に苛まれていることがわかる。それほどまでに彼女を苛む悪夢が如何なるものであるのか、この地に降り立った猟兵に知る由もない。
けれど、彼女はオブリビオン・フォーミュラ。
オブリビオンにとって猟兵とは相容れぬ存在。滅ぼさなければならない存在だ。猟兵にとってもオブリビオンは、まったく同じ存在だ。倒さなければならない。
けれど。
そう、けれどと思ってしまうのは、己の欺瞞であるか。
そう問われて猟兵がそうであると応える者は少ないだろう。欺瞞であっても偽善であっても、それでもと思わずにはいられない。
少女の姿をした者が、弱々しい姿をした者があれば、そこに憐憫の感情を想起される。
「苦しむ少女にトドメを刺せということなら、正直やる気でなかったんだけど」
灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)は正直に答えた。隠し立てることもない。それが自身の素直な気持ちであるし、隣に立つ乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)が、それを否定するとも思わなかった。
きっと同じ思いであろうと確信していた。
梓にとって、目の前のオウガ・オリジンは苦しみ悶えるただの哀れな少女に見えていた。オブリビオン・フォーミュラとしての威厳はどこにもない。
だからこそ、綾の言葉にうなずきを返す。
「ここにいる獣を殺し尽くすだけのお仕事か……ハハッ、最高じゃないか。少しでも速く殲滅すれば彼女も長く苦しまずに逝けるんだよね」
ならば、自分たちが為すべきことはたった一つである。
「だな、さっさと片付けて苦しみから開放してやろう」
それが、彼等のできる最善であった。
オウガ・オリジンの手首から噴出する鮮血の如き『悪夢獣』の姿は群狼であった。おびただしい数の狼たちが、そうはさせぬとばかりに不思議の国を疾駆する。
駆け抜ける姿はまさに悪夢の群れであり、悪意の塊のようであった。鮮血の如き色をした狼たちが、疾くオウガ・オリジンを消滅させようとする二人を許さぬとばかりに飛びかかる。
「集え、そして思うが侭に舞え!」
梓のユーベルコード、竜飛鳳舞(レイジングドラゴニアン)によって召喚される雷を帯びたドラゴンが無数に召喚される。
その群れの中を一人突っ切るように駆け抜けるのは、綾であった。
「ちゃんとついてきてね」
赤と黒の大鎌を手に、綾はユーベルコード、ヴァーミリオン・トリガーを発動させる。大振りの大鎌は凄まじき重量を誇るであろうが、彼は一息に片手で振るう。しかもニ刀。
その大鎌の斬撃は『悪夢獣』を両断し、血飛沫を浴びるようにしながら群狼の喉笛を引き裂くように、群れを両断していく。
「戦場で血まみれだなんて、日常茶飯事だよ……こんなことで止まるほど、俺たちは容易くはないよ」
それはまるで輪舞曲を踊るが如く。振るわれる大鎌が煌めく度に悪夢獣の首が飛ぶ。鮮血がほとばしり、綾の黒いコートを薄黒く染め上げていく。
彼が気に知るのはサングラスが血に覆われてしまうことくらいだった。次々と集まってくる『悪夢獣』たち。
まるで血の匂いに引き寄せられるかのように綾に殺到するも、その視覚を守護するように雷帯びたドラゴンがかばい、援護していく。
成竜となった焔に騎乗し、上空から俯瞰し綾の死角を防ぐ梓。その瞳に映るのは綾の動き。
「綾は随分と楽しそうだが……俺なんて白いコートだぞ」
血飛沫を浴びてしまえば、きっとこのコートは使い物にならなく成るだろう。だが、それでもいいと思った。
騎乗した焔が低く飛び、次々と襲い掛かる『悪夢獣』たちを討ち果たし、その血飛沫を浴びる。
不思議と不快感はなかった。
オブリビオンであるオウガ・オリジンを速く消滅させるためとは言え、それは誰かの為の戦いであるからであろうか。
綾の傍を飛ぶ雷竜たちが渦巻くように空へと舞い上がっていく。
「綾、頃合いだ! 一気に決めるぞ!」
その言葉に綾は我に返る。自身の体を汚す血が悪夢獣から自身のものか、それすらもわからなくなりかけていたところに、彼を呼ぶ声が聞こえる。
その声に導かれるように、滴る血によって形成された当適用のナイフが次々と生み出されていく。
「ああ―――!」
空へと舞い上がった雷竜たちの口腔に溜め込まれた圧倒的な雷のエネルギーがほとばしる。梓は上空から見下ろし、その悪夢獣の群れを見下ろす。
「お前たちが悪夢そのものだというのなら、いい加減にしてやれ。人の悪夢にとやかく言う筋合いはないが―――最後の掃除は任せたぞ、綾」
放たれた雷のブレスが、悪夢獣の群れを穿つ。
一斉に放たれた雷のブレスは、悪夢獣たちの動きを止め、弱らせた。次の瞬間、投擲される血のナイフ。
それは一瞬で無数の紅い蝶へと変じ、その羽の斬撃でもって群狼たちの喉笛を切り裂く。
「―――これで、悪夢が終わる、わけないだろうけれど」
オウガ・オリジンが安らかに眠ることはできないであろう。けれど、それでもと願わずにはいられない。
悪夢に苛まれるのは、その辛さを誰もが知っているであろうから。
その辛さから少しでも速く開放されるのであれば、それが例えオブリビオンであったとしても、願わずにはいられなかった―――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
空葉・千種
アドリブ歓迎
オウガ・オリジンははじまりのオウガにして『はじまりのアリス』
きっとオウガに堕ちるようななにかがあったんだろうね…
でも…私はこの戦争に勝たないといけないから
あなたのことを考える余裕はないの
【指定UC】を発動して敵を【踏みつけ】ながら突貫
敵の突進は質量差で受け止めて踏み潰し…
脚に角を刺した一角獣は自分の手で引っこ抜いて握りつぶす
全てはオウガ・オリジンを倒すため…ただひたすらに敵を【蹂躙】するよ
痛いほどに鮮やかな色…嫌な感触…哀しい表情
その全てが私の心を蝕むけど…
でも、勝つまで止まっちゃ駄目…カタストロフまでそう余裕もない
私は守りたいもののために戦争に勝たないといけないんだ…!
悪夢獣が霧散し消えていく度にうめき声が響き渡る。
鉄格子の嵌め込まれた窓から除く月光は薄暗く、その月明かりがオウガ・オリジンの心を癒やすことはなかった。
目覚める兆候はどこにもない。ただ、ただ、その悪夢に苛まれ続けることによって生み出されるは、その手首から噴出し続ける『悪夢獣』たち。
オウガ・オリジンの周囲には馬型の『悪夢獣』が闊歩している。その一体一体が、凄まじき力を秘めていることだけはわかる。そして、オウガ・オリジンが苛まれている悪夢の凄まじさもまた、同じものであったことだろう。
「オウガ・オリジンは、はじまりのオウガにして『はじまりのアリス』……きっとオウガに堕ちるような何かがあったんだろうね……」
空葉・千種(新聞購読10社達成の改造人間・f16500)にとって、オウガ・オリジンが悪夢に苛まれてうめき声を上げているのは、敵であるオブリビオンと言えど同情すべきものであったのかもしれない。
何か理由があったのかもしれないと考えることは、そういうことであろう。誰かが言うかも知れない。それは偽善であると。欺瞞であると。
他者の痛みを理解したつもりであるのではないかと。その無自覚なる無理解が他人を苦しめるのではないかと。
けれど、千種は頭を振る。
どれだけそう言われてしまったとしても構わない。
「私はこの戦争に勝たないといけないから……あなたのことを考える余裕はないの」
自分には理由がある。
戦わなければならない理由。やらなければならないことがハッキリとしているのならば、それだけに視線を集中させる。
誰かの言葉も関係がない。自分が成すと決めたことを成す。
それだけの力が彼女には宿っているのだから。
ユーベルコードの輝きが千種の体を包み込む。それは、叔母さんに(無理矢理)取り付けられた巨大化装置(オバサンニトリツケラレタキョダイカソウチ)の輝きによって、その身長を巨大化させるものである。
この姿に成ることは、彼女にとって羞恥を誘うものであったが、今はもう関係がない。恥ずかしさも、何もかも、彼女は振り払っている。
「全てはオウガ・オリジンを倒すため……!」
一気に駆け出す。
その一歩が世界を揺るがすほどの振動で持って、『悪夢獣』たちの注意を引く。けれど、どれだけ注意されたとしても千種には関係がない。まっすぐ突っ込んで、その圧倒的質量差で踏み潰すのみ!
次々と突っ込んでくる馬型『悪夢獣』たち。
それらの尽くは千種の踏みつけによって踏み潰され、まるでぶどう踏みの果実のごとくひしゃげていく。
もう履いた靴の中は、ぐちゃりと嫌な音がするほど血にまみれている。けれど、無視する。ただの蹂躙であることは百も承知だ。
「痛いほどに鮮やかな色……嫌な感触……哀しい表情……」
鋭い痛みが足首から響く。
見やれば、そこにあったのは一角獣型の『悪夢獣』の角が突き刺さっている。その痛みすらも千種は無視して、自らの手で引き抜いて握りつぶす。
それだけの握力、力が今の彼女には宿っている。
それこそが彼女のユーベルコード。どれだけ身体が大きくなったと言っても、心までは大きく出来ない。もしも、身体と同じだけの心の大きさがあれば、また違った感じ方があったのかもしれない。
心の余裕があったのかもしれない。けれど、千種の心はそのままだ。
「勝つまで止まっちゃ駄目……カタストロフまでそう余裕もない……」
だから、千種は止まらない。
どれだけの鮮血をその身で汚そうとも―――。
「私は護りたいもののために戦争に勝たないといけなんだ……!」
それは彼女の心のほとばしり。
誰かのために、何かのために、戦う理由はそれぞれあるはずだ。彼女の場合、それが護りたいもののために、というだけ。そこに何の違いもない。
吹き荒ぶ血風の中にあって血まみれの巨人は、『悪夢』を振り払い続ける。
その先にあるはずの夜明けを信じて―――。
大成功
🔵🔵🔵
マグダレナ・クールー
オウガ・オリジンは苦しんでいますね。……何故
それは、どうしてなのでしょう
ウサギを喰い続ければ、その断片からあなたを理解できるでしょうか
わたくしは、彼女をあまりにも知らなさすぎます。だから、知りたいのです。アリスを。オウガを
《ノムヨリタベルハ。チヌキカ??》
いいえ、踊り喰わないと間に合いません。血さえ飲み干して進むのです
《ケンケツカ。サクシュ、シュウカクサイ……ハーベスト!?》
そうですね、お祭りですね。アリスがこれ以上血に濡れないように。この身を赤く染めますよ、リィー
鮮血は甘んじて受け入れますが、視界の妨げにはならぬよう目元には注意をします
負傷を覚悟して迎撃を。痛みをドーピングして、狩り続けます
その世界は、不思議の国の中でもさらに陰鬱なる国であった。
彼女、マグダレナ・クールー(マジカルメンタルルサンチマン・f21320)が見てきた世界の中でも、そこは陰鬱そのものな世界であっただろうか。彼女の瞳、視界が歪む中にあってなお、その世界は陰鬱であっただろうか。
彼女の色彩とピントが狂った世界の中にあって、オウガ・オリジンは目覚めない。
蹲ったままうめき声を上げる。悪夢に苛まれている。苦しんでいる。
それは今まで見てきたオウガとオウガ・オリジンの中にあって、彼女にとっては不可解な光景であったのかも知れない。
その手首から噴出し続けるのは、兎型の『悪夢獣』たち。耳や前歯が鋭き刃となり、周囲にあるもの全てを傷つけようとする。
臆病であるのに、触れようとするものを全て切り刻む凶暴性。
それはある意味で多感な年頃の子供と同じであったのかも知れない。力のない自分、弱い自分を覆い隠すために刃で武装する。
物理的な刃であったり、言葉の刃であったり。それは誰しもが抱えるものであり、誰しもが取ってきた道であるのかもしれない。
けれど、それは言い訳にはならない。
「オウガ・オリジンは苦しんでいますね……何故、それは、どうしてなのでしょう」
だからこそ、理解できない。
自分を傷つけるのが、他者しかいないというのであれば、自身もまた誰かを傷つける刃を持っていることに気が付かないといけない。
だというのに、それに気がつけぬままに徒にオウガはオウガを食い殺す。
「ウサギを喰い続ければ、その断片からあなたを理解できるでしょうか」
それは自然なる帰結であった。
その手首から噴出し続ける『悪夢獣』がオウガ・オリジンを苛む悪夢であるというのなら、それを食し続ければ、断片からでもオウガ・オリジンを理解できるかもしれないとマグダレナは思ったのだ。
「わたくしは、あなたをあまりにも知らなさすぎます。だから、知りたいのです。アリスを。オウガを」
駆け出すマグダレナに兎型『悪夢獣』が一斉に襲い掛かる。
その前歯、耳の刃は鋭く、マグダレナの柔肌を難なく切り刻むだろう。けれど、旗杖とハルバードがそれを受け止める。
《ノムヨリタベルハ。チヌキカ??》
彼女の視界を与えられたオウガ、共生するオウガ、リィー・アルが尋ねる。
「いいえ、踊り喰わないと間に合いません。血さえ飲み干して進むのです」
彼女の一撃が悪夢獣の体を引き裂く。鮮血が吹き出し、その血を拭う暇もなく次々と襲いかかってくる兎の群れ。
それはあまりにも膨大な数であり、その数こそがオウガ・オリジンの抱える悪夢の数であるとも言えた。
これだけの悪夢に苛まれながらも、それでも眠り続ける。
《ケンケツカ。サクシュ、シュウカクサイ……ハーベスト!?》
吹き出す鮮血を浴び、彼女の衣服はすでに真っ赤に染まっている。その白い肌も、金色の髪も何もかもが赤く染まり上がる。
「そうですね、お祭りですね。アリスがこれ以上血に濡れないように」
この身を赤く染め上げたとしても、とマグダレナは謳う。
ユーベルコードの輝きが彼女を包む。
それは、słuszna przyczyna(ショクモツレンサ)。彼女の斧槍が、旗杖が悪夢獣に当たる度に、その悪夢獣たちにはアリスを傷つけ、殺し喰ったオウガである冤罪が掛けられる。
そうでなければ、殺す意味がない。
否。冤罪ではないのかも知れない。その悪夢全てがもしかしたのならば、食い殺されたアリスたちの抱えていた生命そのものであったのかもしれない。
怨嗟の声であったのかもしれない。
ならば、そこには冤罪は発生せず、正しく罪ありき者たちばかりであったのだろう。
オウガブラッドたるマグダレナからの不条理なる仕返しは、ここに正当性を得たり。
放たれ続ける攻撃の数々。
「Za mało do jedzenia.Za mało do picia....Czego mi brakuje?」
足りない。足りない。心の中よりあふれかえる言霊の如きつぶやきは、歌のように。
食べるには足りない。飲むには足りない。何が足りない。
そう、生命が足りない。喪われた生命の脈動が。この『悪夢獣』には、それが決定的に欠けている!
「その鮮血は甘んじて受け入れましょう。傷も受け入れましょう。けれど、その生命無き力による略奪は許しません。リィー!」
ユーベルコードの輝きは鮮血の如き赤き血すらも眩ませるほどに。
その輝きのままマグダレナは戦い続ける。彼女を傷つける痛みすらも、彼女の狩りを加速させていく。
その祭りは終わらない。
悪夢が、夜明けがくるまで終わることなく、マグダレナは血風の中を舞うように戦い続けるのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
アリス・クレーベル
己の過去に押しつぶされて涙するなんて、嗤ってしまうわ
自分で言ったことよ、世界で最も尊い貴方?
狼型悪夢獣の群れは動きを[見切り]、攻撃を躱して【九死殺戮刃】
血をぶちまけながら、一刀一殺で斬り捨てる
頭からかぶった血の匂い
自分のそれは嫌ってほど嗅いだから、少し気分が悪くなるけれど大丈夫(狂気耐性)
彼女にも苦しかった時があったのかもしれない
でも、それが何?
アリスたちは彼女が作り出した悪夢の中で死んでいった
それは私も同じ……
私の悪夢は貴方のせい
だから、私は貴方を許さない
苦しみなさい
ここから消え去るその時まで
「己の過去に押しつぶされて涙するなんて、嗤ってしまうわ」
その言葉は陰鬱なる病院の中に響き渡る。
月光が照らす鉄格子の影が堕ちる先に、オウガ・オリジンは蹲るようにしながら呻き声を上げていた。
悪夢に苛まれているのだと知ってはいても、言わずにはいられない言葉であった。全ての元凶。アリスが、あの子が。どうしてあんなことになってしまったのかもわからないほどに、狂おしいほどに、あらゆる意味で元凶たるオウガ・オリジンが苦しんでいる。
「自分で言ったことよ、世界で最も尊い貴方?」
アリス・クレーベル(ALICE TALE・f29099)は冷やかな視線で持って、オウガ・オリジンを見つめていた。
じわりじわりと染み出すように、オウガ・オリジンの手首からあふれかえる鮮血の如き『悪夢獣』たち。
群狼たる狼の『悪夢獣』たちは生み出されるやいなや駆け出す。
目の前にいるアリスを、猟兵を噛み殺さんと、射掛けられた矢の如き疾走でもって、その喉笛を噛み切り、己達の体と同じ鮮血でもって染め上げんとするのだ。
「―――」
けれど、その一撃はアリスの前には遅すぎる。
獣の攻撃は直線的なものだ。避けられないわけがない。ひらりと躱し、ユーベルコード、九死殺戮刃が輝く。
その瞳が輝き、瞬きをする間に放たれる斬撃は九つ。圧倒的な速度で持って放たれた一撃は狼の『悪夢獣』を元の鮮血に戻すが如く降り注ぐ血雨として絶命さえる。
勢いよく降り注ぐ血雨。
その匂い。その血は一滴たりとて己と同じものであるはずがないのに、その匂いだけは同じであった。
同じであっていいはずがないのに、ぐらりと視界が歪むほどの気色の悪さ。
暖かくも冷たくもない血。
ただの物体へと成り果てただけの証明。それを頭からかぶることによって、アリスはその瞳が輝き続けながらも、喉元よりこみ上げる何かを飲み込む。
「彼女にも苦しかったときがあったのかもしれない」
それはオウガ・オリジンもまた同じであったのかも知れないという都合のいい真実であったのかもしれない。
だが、そんなことを今更知ったところで何に成るというのだ。
それが何だというのだ。
「アリスたちは彼女が作り出した悪夢の中で死んでいった」
致命の剣が閃く。
瞬時に九つに分かたれる狼の『悪夢獣』。その鮮血がほとばしり、また彼女の体を汚す。けれど、構わない。あのこみ上げるような気分の悪さも、もう気にならない。慣れたわけではない。
ただ、それを凌駕する怒りがあるだけだ。
「それは私も同じ……私の悪夢は貴方のせい」
どれだけの苦痛があったのかしれない。けれど、それが何になる。何の慰めになる。己を、自分の大切なものを踏みにじった相手に事情があったからなんであるというのだ。
奪われた生命は戻らない。
傷つけられた傷は癒えない。
自分の傷には敏感なくせに他者への傷には疎いだなんて許されるわけがない。そんなことあってなるものか。
「だから、私は貴方を許さない」
それは宣言であった。絶対に変えることの出来ない宣言。
いかなる理由があろうとも、その悪夢から逃れることは許さない。
「苦しみなさい―――ここから消え去るまで」
放たれるは、九死殺戮刃。
きっと許すことはできないだろう。これから先にも後にも、この感情だけは消えない。
だからこそ、今は『悪夢獣』を切り刻み続ける。その悪夢を晴らすためではなく、己とあの子の見た悪夢を全て切り刻み、夜明けの向こうへ連れていくために―――。
大成功
🔵🔵🔵
人形・宙魂
ああ…胸が痛い……オリジンの、悪夢にあてられてしまったのでしょうか…
悲しくて、蹲って泣いてしまいたい…
悪夢獣の突進をジャンプし、空中浮遊で回避します。
でも、あなたたちは、止まってはくれないのですね…
羅刹紋を浮ばせ、『宙落とし』重量攻撃。
悪夢獣の背を踏みつけ、刀で首をなぎ払い、斬り落とします。
斬り落とした首を持ちあげ…
私は、猟兵。寄り添うのではなく、殺すのが、役目。
覚悟を決めて、首から落ちる血を頭から被ります。
咽かえるような血の匂い、鬼の心が笑ってる。
袖の奥から鬼縛鎖を放ち、悪夢獣を捕縛。
締め上げて『羅刹旋風』怪力で鎖を振り回し、悪夢獣ごと、武器にします。染まる前に……終わらせないと…
まさに悪夢と言っていい光景が目の前に広がる。
それは誰が見ても悪夢であると認識できるほどに陰鬱なる光景であった。窓という窓は鉄格子が嵌め込まれ、どこにもいけない閉塞感を煽るだけではなく、自身が罪悪ある身であることを否応なしに突きつけられる象徴であったのかもしれない。
差し込む月光の美しさはなく、ただただ不気味さだけが溢れてくる。その影が映し出す鉄格子がまた、己の心を苛む。
そんな光景の中に蹲って呻き声を上げる存在、オウガ・オリジンの手首からは次々と溢れるように馬型の『悪夢獣』が現れ続けていた。それは許されぬ者への痛みの象徴であるかのように、鮮血の如き色をした『悪夢獣』は終わり無く噴出を続ける。
「ああ……胸が痛い……オリジンの、悪夢にあてられてしまったのでしょうか……悲しくて、蹲って泣いてしまいたい」
人形・宙魂(ふわふわ・f20950)は、その羅刹の証たる黒曜石の角を月光にきらめかせながら、その輝きに負けぬほどの大粒の涙を眦に貯めていた。
こぼれてしまいそうな涙。
それはオウガ・オリジンが苛まれる悪夢を思ってか。オブリビオンである以上、猟兵とは相容れぬ存在である。滅ぼさなければならない。それはオブリビオンもまた同じである。
けれど、それでも落涙するのは彼女の気性が大きく関係しているのだろう。
それを偽善と、欺瞞と呼ぶ者もいるだろう。
けれど、それの何が悪いというのだ。そう感じる心がなければ、誰かに手を差し伸べることすらできはしまい。
偽善、欺瞞とそしる前にやるべきことを成さぬ、何も成さない者が口を挟んでいいことではないのだ。
鮮血の如き馬の『悪夢獣』が宙魂の眼前に迫る。
涙を湛えた視界にあってもなお、赤き体躯は鮮烈に彼女の視界を埋め尽くす。それを大地を蹴って躱す。
翻る黒髪が月光の輝きすら吸い込んで、漆黒の輝きを増す。
「でも、あなたたちは、止まってはくれないのですね……」
その身に浮かぶは羅刹紋。人食い鬼の忌むべき紋様。けれど、今振るうは彼女の異常なる体重から放たれる一撃。
踏みつけられる悪夢獣は、どれだけ嘶こうが、びくともしない重量に混乱し続ける。ずらりと引き抜かれた日本刀―――魂虚の刀身が煌き、その首を切り落とす。
「私は、猟兵。寄り添うのではなく、殺すのが役目」
それは自分に言い聞かせるような言葉だった。
己の存在とはそういうものであると。切り落とした『悪夢獣』の首を掴む。どうしようもないほどに矛盾を抱えた心臓がときめくのを感じた。
あってはならないと感じながらも、羅刹の体として正しき反応。
むせ返るような血の匂い。それを一気に―――。
「……」
頭から鮮血をかぶる。血にまみれ、その瞳が輝く。覚悟を決めた。この悪夢を終わらせるために、あの自身をも苛むオウガ・オリジンの悪夢を終わらせるために殺し続ける。
それこそが、鬼として正しいのだと、心の奥底の何者が笑う。突進してくる一角獣すらも、遅いと感じる。
袖より放たれた鬼縛鎖が、その鮮血の如き体躯を縛り上げる。
ユーベルコードが輝く。鎖の先に絡め取られた一角獣が暴れるのを気にも止めぬほどの圧倒的膂力でもって、宙魂の中で鬼が笑う。
これこそが、羅刹旋風―――!
怪力でもって鎖で絡め取られた一角獣毎振り回す鬼縛鎖。それは圧倒的な速度で持って振り回され、その先に一角獣の巨躯が縛り付けられているとは到底思えぬほどであった。
悪夢獣同士の肉と肉がぶつかる音が聞こえる。
拉げる音、飛沫する血液。もうどこにも獣の鳴き声は聞こえない。
「染まる前に……終わらせないと……」
そうつぶやいた彼女の周りにはもう、悪夢獣の姿はない。鎖の先に縛られていた一角獣は、すでに原型を留めていない。
生命が、もう彼女の周りには何一つ存在していない。
それが悲しい。悲しくて、悲しくて、涙が―――もう流れないことに気がつく。あれだけ悲しいと思っていたのに、蹲って泣きたいと思っていたのに。
溢れるように鮮血と入り混じった涙のような雫がこぼれ落ちる。
それこそが、彼女の正気そのもの。呼び水となったように涙が次から次へとこぼれて落ちていく。
「ああ―――」
ままならない。そんなふうに思いながらも、宙魂は涙する。
哀しみに寄り添うことのできない互いの存在に、彼女は涙するのであった―――。
大成功
🔵🔵🔵
三山・怯子
闇に紛れて征く
オリジンの嬢ちゃん
其処か
敵の数が多い、闇に紛れれど気付かれもする
そん時は大嵐ーーこの真黒いベースを振り回しふき飛ばし、血を浴びる
汚え
掃除でもしてやろうか、冗談だ。
おれと化物、どっちの血だかわからんな
「苦しいか」
云う。大嵐を鳴らせば、言葉と音は重みを持ち、心臓を揺らす精神攻撃。
「痛みに憎悪に屈辱に、蝕まれて苗床に成り果て
無垢ではあれなかった『人間』」
「お前の戦いを、おれは笑うものか」
揺さぶれ
丸裸にしてやれ
「絶望の底で希望を見ろ、ただ痛みを負いたくなかった!」
「ーー助けてやる」
戦意の喪失、あるいは昂りを与えてやる
うまく通れば
この旋風でーー化物をごっそり減らせる筈なんだが
さて
陰鬱なる暗闇に包まれた病棟の中を駆け抜ける鳥の物の怪―――三山・怯子(野分・f24069)の姿があった。
闇に紛れ、闇を征く。
月光が照らす鉄格子の影が斑に、その姿を照らす。その姿はまさに。誰も知らない鳥の物の怪。闇に紛れるがゆえに誰にも見えず。けれど、たしかに存在すると唸るように響くは漆黒五弦。
どれだけの悪夢がオウガ・オリジンを苛んでいるのだろう。
想像もつかぬほどの苦痛、悲哀、幾ばくかの救いを求めるような呻き声が響く。もしかしたのならば、その幾ばくかすらも風の音と共に紛れる幻聴であったのかもしれない。
けれど、そんなことは関係がなかった。襲い来るは兎型の『悪夢獣』の群れ。鮮血の如き赤き血潮で構成された、悪夢の塊。
その前歯は、耳は刃そのものであり、近づくもの全てを傷つける。優しさを持って差し伸べられた手であっても、慈しみを持って触れる指先であっても、何もかも傷つける体。
それが兎型『悪夢獣』の姿そのものであった。
誰しもが心の中に抱える刃がある。そのむき身の刃に己の心をかぶせるからこそ、人と人とは言葉をかわすことができるというのに。
「其処か」
鮮血の河の如き圧倒的な数で襲い来る悪夢獣の群れを大嵐―――漆黒五弦を振り回し、吹き飛ばしては鮮血を浴びる。
「汚え」
それが短く発せられた言葉であった。
血を浴びる。暖かくもなければ、冷たくもない。ただの液体。けれど、どうにも心がざわつく。不快そのものであった。
「掃除でもしてやろうか、冗談だ。おれ化け物、どっちの血だかわからんな」
振るう。振るう。まるで大鉈を振るうかのように漆黒五弦がふるい続けられる。放たれる一撃は、諸々に兎の頭をひしゃげさせる。
吹き出す血飛沫がまた体を汚す。それでも振るう。叩き潰す。
オウガ・オリジンの呻き声が響く。
それは怨嗟か、それとも悔恨か。わからない。わからないからこそ、人は言葉を紡ぐ。
「苦しいか」
その問いかけに答えるものはない。
構わずに大嵐をかき鳴らす。言葉と音は重みを持ち、その心臓を揺らす。その心を揺らす。
「痛みに憎悪に屈辱に、蝕まれて苗床に成り果て、無垢ではあれなかった『人間』」
人は真っ白ではいられない。
けれど真っ黒でもいられない。
白と黒が混ざり合って灰色のままに生きてゆかねばならない。ある者は黒を拭おうとするだろう。ある者は完全なる黒に染まりきろうとするだろう。
だが、無意味だ。どちらか一色にはなれない。
「お前の戦いを、おれは笑うものか」
かき鳴らす音が、言霊が、あらゆるものを揺らす。旋風(チリアクタ)の如き音がオウガ・オリジンのうずくまり、悪夢に苛まれる体を打つ。
それはユーベルコードの否定。
溢れかえるように噴出し続ける悪夢獣というユーベルコードの根源を揺さぶり続ける。音に揺さぶられ、言葉に揺さぶられ、彼女の周囲に合った『悪夢獣』たちの姿が揺らいでいく。
その悪夢が見せる現実を、あらゆるものを拭い去って丸裸にしてしまう。
「絶望の底で異貌を見ろ、ただ痛みを負いたくなかった!」
それは戦意の喪失、或いは昂り。
彼女の言葉は悪夢を切り裂く。引き裂く。叩き潰す。けれど、その深遠なる奥底までは―――。
歪む。歪む。歪んでひしゃげて、引き裂かれたような血袋が怯子の周囲に広がって霧散し消えていく。
それは旋風によってごっそりとこそぎ落とされたかのような光景であった。
もはや彼女の目の前に悪夢に苛まれるオウガ・オリジンはいない。消えたわけではないけれど、それでも目の前の悪夢は旋風に運ばれていく。
「―――助けてやる」
言葉を紡がなければ、己ではない。
ならば、言葉を紡ぎ続ける。それがどれだけ単純な言葉であったとしても、その口より紡がれたものであるのならば、その全てに責を追う。
悪夢からまだ醒めない。
けれど、必ず夢は醒める。どれだけ長かろうとも、幼年期の終わりが訪れるように―――。
大成功
🔵🔵🔵
紫・藍
藍ちゃんくんでっすよー!
歌うのでっす、歌い続けるのでっす!
楽しい歌を! 祈りの歌を! 優しい歌を!
オリジンのおじょーさんに届くように!
悲しみや恐怖を癒やせばおじょーさんより吹き出る悪夢も弱まるのでは―?
などということよりも!
そうせざるにはいられない、それだけなのでっす。
ええ、ええ、ええ。
きっと、難しいことなのでしょうが。
少しでも、少しでも、なのでっすよー。
ではでは本日の藍ちゃんくんは血化粧なのでっす。
アートで返り血な赤いドレスなのでっす!
藍ちゃんくん、忘れられがちですがダンピールですしねー。
そういうのも似合うのでっすよ?
随分な数のようでっすが、ドームいっぱいのファンたちに比べたらなんのその!
その歌は監獄の如き陰鬱なる病院にあっては、あまりにも場違いな歌であった。
明るく、けたたましく、それでいて何もかも不安すらも吹き飛ばすような生命の輝きに満ち溢れる七色のような歌であった。
「藍ちゃんくんでっすよー! 歌うのでっす、歌い続けるのでっす!」
紫・藍(覇戒へと至れ、愚か姫・f01052)は歌う。底が抜けたかのような明るさでもって、この陰鬱なる悪夢がうごめく病棟の中で高らかに、朗らかに歌い続ける。大きく口を開けて、ギザギザの歯が煌めく。
どれだけの悪夢であっても醒めない夢はない。
「楽しい歌を! 祈りの歌を! 優しい歌を! オリジンのおじょーさんに届くように!」
哀しみや恐怖を癒やすように歌う。それは何故か。そう、オウガ・オリジンから吹き出る悪夢も弱まるのではないかと。そう思ったのだ。
それは打算のように映ったかもしれない。
けれど、その真心は目の前に迫る鮮血の如き馬の『悪夢獣』を前にしても変わることはなかった。
ひらりと突進を躱す。
スカートが可憐にゆらめき、華やかなるステージとなるように。血化粧の歌い手が歌うは、藍音Cryね(アイ・ネ・クライネ)。
それは彼のあるがままの祈りや願いが籠められていた。その歌は理屈も条理も超越したものであった。
何もかもが関係ない。
何を言われようとも変わりようがない。
打算と思われても仕方のないことなのかも知れないけれど、そうせざるにはいられない。ただそれだけであった。
「心を込めて歌うのでっす! あなたに届けと歌うのでっす! 藍ちゃんくんでっすよー!」
歌が響く。突撃してくる馬の『悪夢獣』たちを躱すようにステップを踏みながら、ダンピールの歌い手は病棟の中で歌う。
「ええ、ええ、ええ。きっと難しいことなのでしょうが。それでも、少しでも、少しでも、なのでっすよー」
不可能であるかもしれない。いや、悪夢獣を消し去らなければ、オウガ・オリジンもまた消滅しない。
その歌がどこまで届いているのかもわからない。けれど、それでも歌わずにはいられない。藍はそういう猟兵であるのだ。
諦めない。
彼を取り囲む『悪夢獣』の数は増している。
「随分な数のようでっすが、ドーム一杯のファンたちに比べたら、なんのその!」
何も恐れることはない。
ただ、彼は歌い続けるだけでいい。それだけでいいのだ。そうすることが彼の藍デンティティーなのだから。
彼の歌声は悪夢獣を消し去ることはできなかった。けれど、噴出する『悪夢獣』の数は弱まったような気がした。
気の所為かもしれない。けれど、関係ない。
「歌うのでっす!」
歌い、歌い、歌い疲れても。
オウガ・オリジンが完全に霧散するまで、彼はきっと歌い続けるだろう―――。
大成功
🔵🔵🔵
城野・いばら
アカ。
トランプさんがいばらを塗り潰そうとするイロ
でも綺麗で大切なイロだわ知ってるの
だからね濡れても構わない
それでアリスを解放できるなら
気にしないわ
困っているアリスがいるなら、何処へだって飛び込むの
*動き易いように着物の袖は留めて
髪紐は、失くさないよう確り懐の中へ
伸ばすのはいばらの手
獣さんの数や力に応じて鞭の振るい方を変えるわ
数で来るなら怪力籠めた鞭で吹き飛ばし
突進には茨でお邪魔虫を
手や足を蔓で捕縛しちゃう
触れるなら気をつけて?
いばらはアリスのイロは出ないけど
かわりに棘がアナタを串刺してしまうかも
どんなにイロを重ねても
いばらの誇りまでは塗りかえれないのよ
さぁ、絶望の物語は此処でお仕舞にしましょう
そこは一面がアカ色だった。
陰鬱なる病棟の中、鉄格子が嵌め込まれた窓から月光が落とす影の形は斑。何もかもが、この地にある者の心を蝕もうと手ぐすねを退いているようであった。
オウガ・オリジンの呻き声が響く。悪夢に苛まれている。それが何に由来し、なにゆえ彼女を苦しめるのかはわからない。
その手首から噴出しつづける赤き鮮血の如き『悪夢獣』の数は圧倒的すぎた。馬の形をした『悪夢獣』の体躯は巨大であり、見上げるほどであったし、周囲に渦巻く戦いの気配や、荒ぶ血風はあまりにも鮮やかな赤色すぎて、くらりとめまいがしてしまいそうなほどに鮮烈だったからだ。
「トランプさんがいばらを塗り潰そうとするイロ。でも綺麗で大切なイロだって知ってるの」
アカいペンキはお断り。キもミドリもアオもダメなのだ。城野・いばら(茨姫・f20406)はシロ。シロイロのバラなのだから。愉快な仲間である彼女にとって、そのイロは自身を染めるイロではなかったけれど、その美しさを否定するものではなかった。
己のイロがシロであるから、そうあるべきであるという考えがあれど、今の彼女は違っていた。
「だからね、濡れても構わない。それでアリスを開放できるなら」
少しも気にすることなんてないのだ。その決意を表すように、いばらは着物の袖を止める。昔出会ったアリスからもらった白バラのリボンは、そっとなくさないようにとしっかりと懐の中にしまう。
それは彼女の印。心のしるしであり、いばらのしるしであった。
「アリスを困らせるのなら…いばらも怒っちゃうのよ?」
彼女のユーベルコードによって、彼女の手が茨の鞭(イバラノムチ)となってしなる。彼女目掛けて突っ込んでくる馬型『悪夢獣』の姿を捉え、即座に、その手足を蔓で縛り上げ、捕縛する。
動けない馬型『悪夢獣』を踏み散らすように、次々と溢れかえる同じ悪夢獣たち。多数で彼女を踏み殺さんとする群れを前にしても、いばらはひるまなかった。怯む理由がなかったのだ。
あの『悪夢獣』たる鮮血の徒は、自分だけではないアリスすらも傷つけようとするだろう。それだけはさせてはならない。力を籠められた蔓の鞭が放たれ、その巨躯を次々と吹き飛ばしていく。
「触れるなら気をつけて? いばらはアリスのイロは出ないけど、代わりに棘がアナタをくしざしてしまうかも」
噴出する血飛沫が彼女の体をアカに染める。
けれど、構わない。構わずに進む。次々と荊棘の鞭が『悪夢獣』たちを縛り上げ、打ち据え、引き裂いていく。
悪夢を終わらせるために、鮮血に染まることがアリスの助けになるのならば。このイロに染まることも無意味ではない。
「どんなにイロを重ねても、いばらの誇りまでは塗りかえれないのよ」
全てはアリスのために。あの子達を喜ばせるシロバラであるために。そのためにどれだけ鮮血に汚れようとも、降り注ぐ雨が、アリスの微笑みが、彼女のイロをまたシロイロに戻すだろう。
終わらない悪夢はない。明けない夜がないように、絶望の物語もまた同じである。
だからこそ、いばらは戦う。
あの笑顔をまた見るために。己に降り注ぐ笑顔のシャワーを浴びるために。
「さあ、絶望の物語は此処でお仕にしましょう」
微笑むシロイロのバラが陰鬱なる病棟にあって、その太陽の恵みを放つように光り輝くように、その身を染めるアカすら塗りつぶすシロで持って、『悪夢』を打ち据え続けるのであった―――。
大成功
🔵🔵🔵
佐伯・晶
始まりのアリスでもあるんだったっけ
痛々しい姿を見ると少し同情するけど
見逃すわけにもいかないからね
女神降臨を使用しドレス姿に変身
これで血に塗れても服の汚れは気にしなくてもいいね
恥ずかしいけど見る人もいないし
割り切るしかないのかなぁ
兎型悪夢獣が現れたらガトリングガンの範囲攻撃で薙ぎ払おう
返り血が激しく飛び散るだろうけど我慢我慢
通路を利用してできるだけ囲まれないように位置取り
銃撃の雨を抜けてくるのが居たら
使い魔に麻痺させたり神気で停めたりして銃撃で打ち砕くよ
この病院どういうところだったんだろう
そういえばUDCアースでも
病院がアサイラムなってた事あったね
元がUDCアースの人間なんだったらやるせないなぁ
その呻き声は、如何なる感情の発露より生み出されたものであるのか知る者はいない。おそらく、その悪夢に苛まれているオウガ・オリジンであったとしても自覚はなかったことだろう。
いや、悪夢にうなされているという事実さえ、彼女は知覚していなかったことだろう。悪辣たる自己中心的な性格。戯れに忠臣すらも殺す残虐性。
そのどれもが癇癪を起こした子供のようなものであったがゆえに、悪夢の中すら余人に伺い知れるものはなかった。
故にその手首から溢れるようにして噴出し続ける『悪夢獣』の兎たちは、前歯も耳も刃物そのものであった。
近づくものを全て傷つける剥き身の刃は、あらゆるものを引き裂く。
心優しく近づいてきたものも、敵意ある者も、何もかも傷つけてしまう刃。陰鬱たる病棟の中にあってなお、その鋭さは益々持って増していく。
「始まりのアリスでもあるんだったけ……痛々しい姿を見ると少し同情するけど……見逃すわけにもいかないからね」
佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)は、その身を宵闇の衣によって生成される可憐なるドレス姿に身を包み、鉄格子の影が落ちる病棟に舞い降りた。
「これで血に濡れても服の汚れは気にしなくてもいいね。恥ずかしいけど、見る人もいないし。割り切るしかないのかなぁ……」
ドレスの裾をつまむ。
ユーベルコード、女神降臨(ドレスアップ・ガッデス)によって強化された携行型ガトリングガンの威力と使い魔の状態異常攻撃強化、そして魔力の翼を持つ晶にとって、兎型の『悪夢獣』は取るに足らない相手であった。
病棟の通路を利用して、できるだけ囲まれないように位置取り、ガトリングガンの放つ弾丸の雨を見舞う。
次々と破裂するように穿たれ、その鮮血の如き血潮を雨のように降り注がせる。
彼女の肌を濡らす血は暖かくもなければ、冷たくもない。そんな液体であった。むせ返るような血の匂いは慣れたものではなかったけれど、悪夢獣を討ち果たし続ければ、オウガ・オリジンは目覚めること無く消滅する。
それだけが救いである。
「この病院どういうところだったんだろう。そういえばUDCアースえも病院がアサイラムになってた事あったね……」
その思索は答えを見いださせぬまま戦いが続く。
時折弾丸の雨をくぐり抜けてくる兎がいたが、使い魔と神気によって停止させられ、あえなく撃ち落とされる。
これだけの弾丸の雨の中をかいくぐるほどに猛烈なる数が存在していることが、オウガ・オリジンを苛む悪夢の数と質を伺わせる。
オブリビオン・フォーミュラである彼女すらも苛む悪夢の正体はわからない。けれど、それは同情に値するものであったのだろう。
「元がUDCアースの人間だったらやるせないなぁ……」
思わずこぼれた呟き。
世界は数多ある中の一つでしか無い。けれど、アリスラビリンスのように小さな不思議の国という世界が連なって出来上がる複合世界があるのだとすれば、世界と世界に繋がりがあったとしてもおかしくはない。
元は、どんな存在であったのだろう。
そう思わずにはいられず、けれど、晶が今できることと言えば、一匹でも多くの『悪夢獣』を討ち貫き消滅點せ続けることだけだった。
つぶやいた言葉が重みを持って彼女の心に陰らせる。
やるせない。
それはつぶやいただけの言葉であったが、この悪夢の惨禍を言い表すには十分過ぎるものであったのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
セルマ・エンフィールド
この光景に手首から噴き出す血の様な色の獣。色々と思うことはありますが……私がやることは、できることは一つだけです。
原理は分かりませんが血を浴びながら戦えば有利になる。遠距離からの攻撃は得策ではありませんね。
フィンブルヴェトを手に【銃剣戦闘術】を。迫る敵を銃剣で『串刺し』にし、『零距離射撃』で撃ち抜いていきます。
敵が多いですし、一体を銃剣で刺し貫いている隙に他の個体に襲われることもありそうですが、片手でデリンジャーを『クイックドロウ』、襲ってきたところを『カウンター』で撃ち抜きます。
生きることは戦うこと。少なくとも私にとってはそうです。
だから私は自分が生きるためにあなたと戦う……それだけです。
群狼の遠吠えが病棟の奥から聞こえてくる。
それは陰鬱なる病院の中に落ちる月光の影が鉄格子のまだら模様と共にオウガ・オリジンの呻き声を響かせた。
うずくまり、悪夢に苛まれるオウガ・オリジン。
その姿はただの少女のようでもあり、この地を訪れた猟兵に様々な感情を引き起こし、想起させたことだろう。
「この光景に手首から噴き出す血のような色の獣。色々と思うことはありますが……」
セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)もまたその一人であった。
彼女の胸に去来するもの。
彼女が出会ってきたオウガ・オリジンは、目の前にうずくまり悪夢にうなされる姿と結びつけるのは難しかったかも知れない。
けれど、どんなにオウガ・オリジンが哀れさを誘う姿をしていたとしても、オブリビオン・フォーミュラである以上、猟兵であるセルマとは戦う運命にある。滅ぼさなければならない。
「……私がやることは、できることは一つだけです」
遠吠えと共に近づいてくる群狼の『悪夢獣』の群れ。その足音をセルマは正しく聞き、その彼我の距離を図っていた。
手にするはフィンブルヴェト。その切っ先に装着された銃剣『アルマス』が氷のように研ぎ澄まされた刃を、物陰から襲う『悪夢獣』の喉元に突き立てられる。
「……原理は解りませんが、血を浴びながら戦えば有利になる……」
悪夢獣の喉から噴き出す鮮血を浴び、その髪が、肌が汚れる。血に染まる。けれど、その血は生命の通った温かさなどなく、冷たくもない、ただの液体そのものであった。
けれど、その血潮はたしかに血であることを意識させる血の匂いを伴っていた。仕留めた獣の内臓の温かさを知るセルマにとって、それは生理的な嫌悪感を齎すには十分過ぎるほどに不可解なものであった。
「―――近接戦闘ができないと言った覚えはありません」
次々と襲い掛かる群狼たちをフィンブルヴェトに装着された銃剣による銃剣戦闘術(ジュウケンセントウジュツ)によって屠り続ける。
喉を引き裂き、胴を薙ぐ。その度に鮮血がセルマの髪を汚していく。血に濡れているという感触もなければ、生命を奪っているという感覚もない。
それはある意味で手応えのない戦いであったかも知れない。ぐ、と銃剣が一体の悪夢獣の喉元に突き刺さったまま抜けない。
「―――……!」
その隙を捉え、別の群狼がセルマを襲う。
即座にフィンブルヴェトから手を離し、スカートの中に忍ばせたデリンジャーから放たれた弾丸が悪夢獣の眉間を穿つ。
鮮血が飛沫のように病棟の床に飛び散る。
「生きることは戦うこと。少なくとも私にとってはそうです……」
呻く声が響く。オウガ・オリジンの悪夢はまだ続いているのだろう。生きるとはなんであるか。戦い、戦い、その先にあるのがなんであるのか、問い続けなければならない。それこそが彼女の戦いであり、人の生である。
故に、どれだけオウガ・オリジンが藻掻くように悪夢の中を泳ぐのだとしても、セルマはその悪夢を穿ち続けるだろう。
オウガ・オリジンという運命の前に立ちふさがる壁がある限り。
「だから、私は自分が生きるためにあなたと戦う……それだけです」
悪夢獣を屠り続ける。
そうすることで悪夢と共にオウガ・オリジンが消滅するのであれば、躊躇うこと無く引き金を引き続けることだろう。
彼女が知る生きる意味を問い続けるとは、そういうことなのだから―――。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
他世界のアリス適合者がこの世界へ招かれる現象
そのトリガーは閉鎖環境(アサイラム)に閉じ込められた者の絶望でした
オリジンのこの悪夢の内容も『やはり』と言うべきでしょうか
…御伽の騎士ではない騎士の身、せめて刃振り下ろす相手の事を知ることが務めであると己に任じてきましたが…
その猶予も無い以上、この世界の為に戦う他ありません
突撃してくる悪夢獣の位置をセンサーでの●情報収集で把握し突進を●見切って脚部スラスターでの●スライディング滑走で回避
同時にすれ違い様UCを脚に向けて●なぎ払い切断
転倒した相手の動脈狙い剣で切り裂き血を浴び止め
(オリジンを見)
苦しめる為に騎士は戦うのではありません
疾く終わらせましょう
「他世界のアリス適合者が、この世界へ招かれる現象。そのトリガーは閉鎖環境―――アサイラムに閉じ込められた者の絶望でした」
血風荒ぶ陰鬱なる病棟の中に機械騎士の声が響く。
襲い来る馬型『悪夢獣』の突撃を脚部スラスターを噴出させながら、回避しすれ違いざまに収納式ワイヤーアンカー・駆動出力最大(ワイヤーアンカー・ヒートエッジモード)によって放たれたワイヤーアンカーの熱伝導と高速振動によって、その四肢を切断せしめたトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は、即座に転倒した『悪夢獣』へと剣を突き立て、その鮮血を浴びた。
白い装甲が真っ赤に染まる。
それはあまりにも単調な作業だった。数多の猟兵たちが戦いに集っていることはわかっていた。それ故に、この戦いの趨勢はすでに決まっていたと言ってもいい。
敵である『悪夢獣』の数は膨大なものであったけれど、それも猟兵達の活躍に比べれば些細なものであったことだろう。
「オリジンのこの悪夢の内容も『やはり』と言うべきでしょうか……」
次々と襲い来る『悪夢獣』を屠り続けながら、トリテレイアは独白する。
己は機械の騎士である。ウォーマシンたる体である以上、御伽の騎士そのものではない。それ故に、刃を振り下ろす相手のことを知ることこそが、彼に課せられた務めであると己自身に任じてきた。
だが、オブリビオン・フォーミュラたるオウガ・オリジンには、相手のことを知る猶予もない。あまりにも強大過ぎる存在。
猟書家たちに力の大半を奪われているとは言え、その力も戻り始めている。激戦の影響が、このような形でオウガ・オリジンを苦しめることになるとは、誰が想像出来たであろうか。
この悪夢が苛むオウガ・オリジンとは如何なる存在であったのだろうか。
それを知る時間すら無い。
なぜなら、カタストロフ……世界の終末はもうすぐそこまで来ている。
「その猶予が無い以上、この世界のために戦う他ありません」
剣が鮮血に染まる。それでもなお、その血潮が伝える温かさはどこにもない。
生命である以上、その鮮血には生命のぬくもりがあるはず。だが、悪夢獣は鮮血の如き色、噴き出す血潮であっても、冷たくも温かくもない、ただの液体としてトリテレイアの装甲を汚す。
その意味をトリテレイアは如何なるように考えただろうか。
生命ではないものを殺す。
それはある意味でウォーマシンを殺すことと同じであったのかも知れない。厳密には違うのかも知れないけれど、この剣から伝わる不確かな感触は、トリテレイアの電脳に嫌悪感というノイズを走らせる。
「―――苦しめるために騎士は戦うのではありません」
それは自然と出た言葉だった。
この『悪夢獣』がオウガ・オリジンを苛む悪夢そのものであるというのならば、この全てを討ち果たすことによってオウガ・オリジンは悪夢から開放される。
それがオウガ・オリジン消滅という形で訪れるのであったとしても、トリテレイアは、それ以上の意味を持って振るう剣とスラスターの噴出する勢いを増す。
陰鬱なる病棟を駆け回り、次々と『悪夢獣』を討ち果たしていく。
「疾く終わらせましょう」
この悪夢を、明けない夜であるかのような、この病棟を消滅させなければならない。此処はアサイラム。
決して罪ある者が逃れてくるアジールではない。許されぬ罪を重ねた結果が、この悪夢の如き病棟であったとしても、必要以上の苦しみを与えるのは、彼の炉心燃やす騎士道の中にはない。
故に、最後の『悪夢獣』を剣で引き裂く。
鮮血が全て消え失せていく。不思議の国、一つの小世界が崩壊していく。それと時同じくして、オウガ・オリジンの体も崩壊し、消滅していく。
その顔のない顔に今どんな表情が浮かんでいるのかわからない。
わからないけれど、それがどうか―――
―――でありますようにと願わずにはいられなかっただろうか。
大成功
🔵🔵🔵