迷宮災厄戦⑱-19〜テニエルに捧ぐ
●アリスラビリンス:暗く陰鬱な病院の国
『あああああああ!!』
すべてのオウガに君臨するもの、はじまりのアリスでありはじまりのオウガ。
傲岸不遜であり絶対無敵であるはずの、そうあるべきのオリジンは、
鮮血に染まった獣どもの只中で、少女めいて悲鳴をあげ、悶絶していた。
『と、止まらぬ……悪夢が! 我が悪夢が、収まらぬ……!!』
無意識下に封じられていた――あるいは取っておかれていた――悪夢の獣ども。
現実改変の力を触媒に血肉を得たそれらは、歌い、踊り、鳴き、そして喜んだ。
『これも、猟兵どものせいだ……おのれ奴らめ、おのれ、おのれ……!!』
手首を抑えながら、オウガ・オリジンは苦痛と絶望に悶え苦しんだ。
獣どもは生まれ続ける。己らの誕生を寿ぎ、昏い闇の中で産声を上げ続ける。
●グリモアベース:予知者、ムルヘルベル・アーキロギア
「……自らの無意識の悪夢すらも無秩序に現実化してしまうとは、恐ろしい力だ。
これはワガハイの個人的な所感だが、このままではもっとよからぬことが起こる」
少年めいた賢者は己の見たものを伝え、真剣な面持ちで呟いた。
「オウガ・オリジンが力を取り戻しきる前に倒すには、まず悪夢の獣を斃さねばならぬ。
その数はすさまじく、一体ごとの戦闘力も高い。僥倖なのは、本体が動けぬことか」
予知で垣間見た通り、オウガ・オリジンは悪夢がもたらす苦痛にのたうち回っている。
ゆえに、到達さえできれば殺すのは容易い。問題はその道のりである。
「悪夢獣はひたすらに生まれ続けている……それこそいまも、無限のようにな。
それらを蹴散らし前へ進むには、ひとりの力ではまず不可能であろう」
ゆえに、猟兵たちは協力し、この殲滅戦に当たらねばならない。
「悪夢獣そのものは、狼や馬といった獣の姿をしたごく原始的なオブリビオンどもだ。
倒すほかに道を拓く方法はない。状況は一刻を争う、オヌシらの力を貸してくれ」
そしてムルヘルベルは、持っていた本を閉じた。
「とある国の小説家は、こんな言葉を遺したそうだ。
"我々は時折、悪夢から目覚めた瞬間に自分を祝福することがある。
ならばきっと我々は、死んだその瞬間も自らを祝福することだろう"」
少年めいた賢者の面持ちは複雑だった。
「……敵ながら苦しみ続けるのは哀れなものだ。終わらせてやってくれ」
その言葉が、転移の合図となった。
唐揚げ
馬刺しです。オウガ・オリジンとの決戦シナリオになります。
無秩序に生まれる『悪夢獣』を倒し、オリジンに到達しましょう。
オリジンそのものを攻撃するプレイングは特に必要ありません。
シナリオを完結する時点で採用された方が、オリジンへの到達者となります。
悪夢獣をどう蹴散らし前へ進む(もしくは道を開く)か、考えてみてください。
本シナリオは採用期間を特に設けず、適当なタイミングで完結させます。
全員採用になるかはその時の状況次第ですので、ご了承ください。
第1章 集団戦
『『オウガ・オリジン』と悪夢のアサイラム』
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POW : ナイトメア・パレード
【巨大な馬型悪夢獣の】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【一角獣型悪夢獣】の協力があれば威力が倍増する。
SPD : 悪夢の群狼
【狼型悪夢獣の群れ】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : 忠実なる兎は血を求む
【オウガ・オリジンに敵意】を向けた対象に、【鋭い前歯と刃の耳を持つ兎型悪夢獣】でダメージを与える。命中率が高い。
イラスト:飴茶屋
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●アリスラビリンス:暗く陰鬱な病院の国
窓は鉄格子が嵌められ、空は黒雲渦巻き見通すこともできぬ。
錆びた医療機器と天井から滴り落ちる得体のしれない液体。饐えた匂い。
死すらも尽き果てた病院の闇の向こうから、鮮血の獣どもがくる。
こだまめいて響き渡るのは、己の生み出した悪夢に苦しむ始原の悲鳴。
それは、数多の生命を喰らったモノにはそぐわぬ声。
地獄がそこにあった。
エドガー・ブライトマン
暗闇や苦しみはすべて終わりにしてあげよう
悪夢や地獄の中にだって、王子様は現れるのさ
ひかりを差し込んでみせようか
まずはこの道をひらかなくっちゃ
どいてくれるかい、悪夢獣君の諸君
……いや、聞こえないか
一つ一つが手強いなら、それぞれ確実に仕留めて進まなくっちゃ
あんまり使いたくないけれど、仕方ないな
“Eの誓約”
9倍に増えた攻撃回数で、より手早く悪夢獣君を倒して進む
動きが素早いなら脚を狙おう
吠えて威嚇するなら喉を狙おう
世界を救うためなんだから、コレも仕方ないよねえ
ひとつ倒したら、《早業》で攻撃対象を次から次へと切替え
多少の傷は《激痛耐性》があるから気づかないさ
苦しみしか無い世界なんて
そんなの私が許さないさ
●ひかりをもたらすものの視座
暗闇に差し込む陽光のように、エドガー・ブライトマンはさっそうと征く。
立ちはだかるは悪夢の獣。鮮血を凝り固めたような、醜悪な仔ら。
「……どいてくれるかい、諸君」
エドガーの穏やかな警告に、悪夢獣たちは唸り声と咆哮で応えた。
そもそも言葉が聞こえているのかすら、曖昧なところだ。
エドガーは頭を振った。そんなことは、試す前からわかっていたのに。
「……ここは昏いね。とても昏い、そして陰鬱とした世界だ」
嵌め殺しの窓。
天井から落ちる錆びた液体。
誰も立ち入らないままうず高く積み上がった埃。
「私はキミたちを生み出した"彼女"を救いたい。ただそれだけなんだよ。
……それでも、どいてくれないかい。悪夢獣くん。キミたちは――」
再びの咆哮。……エドガーは、嘆息する。
相変わらず言葉が通じないことに? いや、そんなことは"わかっている"のだ。
「私は何をしているのだろうね」
わかっていてもなお、無益な行いを続けようとしていた自分自身の浅はかさに。
わかっていた。こうするしかないということは。
あまり使いたくないとか、それらしい建前はいくらでも思いつく。
ただ、やると決めたならば、そこからはもう簡単な話だった。
「これがキミたちの、そして私の運命なんだ」
剣が煌めくたびに獣は死んだ。いや、そもそもあれらは生きているのか。
光の如き剣閃。立ちはだかる獣どもは面白いように斬り裂かれ、滅びていく。
颯爽と歩き出す。王子様は、いつだって前を見て歩き続けるものだ。
心の痛みに足を止めたり、無意味なことに煩わされるなんてあってはならない。
だからこうするべきだった。こうするのが正しい。脚を斬り喉を貫く。
「世界を救うためなんだ」
誰に対しての言葉だろうか。応えるのは咆哮ばかり。
「苦しみしかない世界なんて、そんなの私は許せないんだよ」
応えるのは唸り声ばかり。あとは、ぴゅうという剣閃がかき消してしまう。
エドガーは歩く。ただ歩く。殉教者のように、あるいは孤独な隠者のように。
「この世界にひかりをもたらそう! 私はそのために来たんだ!」
溌剌とした声。応えるものは誰も居ない。なにせ彼が殺してしまうから。
暗闇に差し込む陽光は、きっと希望の象徴なのだろう。
ならその"向こう側"――差し込む陽光の後ろは、どうなっている?
光に包まれた楽園の如き世界? それとも、光の背はやはり暗闇なのか。
エドガーは征く。悪夢を終わらせるため、世界に光をもたらすために。
光のような疾さの剣は獣という闇を払い、世界の規矩に日差しをもたらす。
彼が進んだあとには、同じ闇だけがあった。
獣も悪夢すらもない、虚無という名の闇が。
大成功
🔵🔵🔵
黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺(本体)の二刀流
狼は群れで生きる生き物だ。
…彼女は、オリジンは。社会や人の群れに脅威を感じてきたんだろうか。
可能なら存在感を消し目立たないようにして、隠密行動の上で進んでいく。
が、叶わないならUC五月雨と柳葉飛刀の投擲を同時に行う事で数を減らしていく。
出来れば戦場は廊下のような直線的な場所で仕掛ける。完全に囲まれるぐらいなら、挟撃の方がマシだ。
両手の刃の間合いに来たものは直接二刀で迎撃。
敵の攻撃は第六感で感知、見切りで回避。回避しきれないものは本体で武器受けで受け流し、カウンターを叩き込む。
それでも喰らってしまうものはオーラ防御、激痛耐性で耐える。
●ただまっすぐに
黒鵺・瑞樹は息を殺し、鮮血の悪夢獣どもの目をかいくぐって進んでいた。
この病院めいた不思議の国では、身を隠すような場所には事欠かない。
しかし獣の数は異常だ……瑞樹の神経はすり減り、緊張の連続を余儀なくされた。
(社会や人の群れに脅威を感じていたのか、あるいは……)
悪夢獣の見た目は醜悪で、それでいて他者への敵意に満ちている。
それがオウガ・オリジンの心の奥底に封じられていた無意識の悪夢なら、
オブリビオンとなる前の彼女はどんな存在だったのだろうか?
はじまりのオウガ。
はじまりのアリス。
……おそらくはまだ何もないこの世界に迷い込んでしまった少女。
(俺たちは、いつだって対処療法ばかりだな)
瑞樹はこころの中でひとりごちた。もしも救えたならば猟兵は彼女を救ったろう。
だが、そうはならない。もはや彼女はオブリビオン・フォーミュラであり、
こうして暴走する獣どもの群れが示している――倒す他にないのだと。
「……"それしかない"っていうのは、なんであれ苦いものだ」
瑞樹は声に出した。長い長い廊下が、彼の前に立ちはだかっていた。
闇の中にいくつも赤い眼光が浮かび上がる。瑞樹は嘆息し、自ら仕掛けた。
複製された飛刀が雨のように風のように降り注ぎ飛び回り、獣を切り裂く。
狼型の悪夢獣はばらばらに斬り裂かれ、血の塊に変じてびしゃりと飛び散る。
それを踏み越えて新たな獣が来る。瑞樹はひたすらにまっすぐ進む。
「悪いが、通してくれ。俺にはやるべきことがあるんだ」
傷を恐れず前に進む。廊下であれば側面から襲われることはない。
敵は正面にいる。殺しに来るならば、その前に殺すまで。
――いや。最初に殺意を見せたのは、こちらか。なにせ我々は、
「お前たちを生み出したモノを殺すために、前に進まなければいけないんだ」
かつて孤独であったろう少女を、この手で殺すためにここへ来たのだから。
成功
🔵🔵🔴
神々廻・カタケオ
…ひっでぇ叫びだな。これが例のオウガ野郎の声だってか?
本体は動けねぇって話だが…ッハ、聞いてた通り動けねぇでも十分な物量ってわけか
いいぜ、いいじゃねェか!最ッ高に燃えてきやがる
UCを発動。獣共の群れを突っ切ってオウガ・オリジン本体を目指す。
敵はこんだけいンだ。あーだこーだ考えたとこで足を止めりゃ俺もそこで止まる。だったら致命傷は避け、あとは蹴散らしいなしながらの強硬突破ァ!
来いよケダモノ共。生まれて何も為さねぇままくたばるなんざてめぇらも不本意だろ?俺の喉を食い破ってみせろ!俺のどてっぱらに穴の一つでも開けてみせろ!
俺は全力でてめぇらを蹴散らす。ほら、止めねぇとママの首落としちまうぞ?
●命なきもの、命要らぬもの
横合いから狼型の悪夢獣が飛びかかる。
神々廻・カタケオはぎろりと睨み返し、嗜虐的な笑みを浮かべた。
喉笛狙いの噛みつき。これが首筋に触れるか否かのところで、逆に敵の喉を掴む。
そして、無造作に力を籠めた。ぐじゅり、と嫌な音がして、肉と骨が砕ける。
ミンチめいて飛び散る死骸。カタケオはこれを思いきり振り回す。
屍体の残骸を目眩ましに、真上に跳躍。背負った鉄塊剣の柄を握りしめた。
「そうやってバカみたいに集まってっから――こうなンのさ」
空中でぐるりと一回転。刃に灯った青い炎が、放射状にばらまかれた。
高温の蒼炎は足元に群れた獣どもを火だるまにし、そして骨まで焼き尽くす。
カタケオ、着地。そのときにはもう、床の上には灰の山だけがうず高くあった。
「さあ、次だ」
カタケオは敗北者どもの残骸を一瞥すらせず、床を蹴立てて前に進む。
ごうごうと風が耳元で鳴る。ここちよい唸りだ。そしてあの獣どもの咆哮も。
ただひとつ癪に障るものがあるとすれば、絶え間なく響き続けるこのこだまか。
「……ひっでぇ叫びだな」
それは、悪夢が生み出される苦痛に悶えるオウガ・オリジンの絶叫だ。
病院を模したこの不思議の国に、こだまのように響き渡っている。
カタケオは顔を顰めた。闘争はいい、それはむしろ望むところだ。
獣どもはどいつもこいつも歯ごたえ十分で、殺意に溢れている。とてもいい。
だがこの声は、胸糞が悪かった。カタケオは舌打ちして、思考を切り替える。
「まァいい……さア、次はどうした。俺を殺しに来いよケダモノども!」
廊下を走る。前方の闇の奥から、鮮血で染め上げられた悪夢獣が飛び出してきた。
カタケオは口元に笑みを浮かべた。鉤爪めいて強張らせた片手にチカラが満ちる。
ああだこうだと考えるのは、カタケオの性分ではない。
救うだの、護るだの、臍で茶が沸くような文句も、彼にはなじまなかった。
ただ命を奪い合う純粋な闘争。主義も、信念も、信条も関係のない戦い。
それこそがカタケオの望み――彼は狼の群れにまっすぐ飛びかかる!
「生まれて何も為さねぇままくたばるなンざ、てめぇらも不本意だろ!?」
飛びかかってきた狼どもを鉄塊剣で滅殺。その奥から来た個体を鉤爪で鷲掴み。
頭部を青い炎で燃やしながら握り潰し、返り血を浴びながら凄絶に笑った。
「俺の喉を食い破ってみせろ。俺の土手っ腹に穴の一つでも開けてみせろ!
俺は全力でてめぇらを蹴散らす――止めねぇと、ママの頸落としちまうぞ?」
もはやどちらが獣か、どちらが悪夢の産物なのかわからない。
羅刹の男は呵々大笑しながら、闇の中をひた走っていた。
成功
🔵🔵🔴
ユーノ・エスメラルダ
オブリビオンですので、倒さなければなりませんが…
ですが、この悲鳴は、無視することもできません
『電脳ヒヨコさん』に【騎乗】して移動しながら、UCによる【祈り】で悪夢たちを倒します
どうか、彼女の苦しむ時間がすこしでも短くなりますように
願わくばその苦しみが和らぎますように
どうかこの暗く陰鬱に、ほんの一時で良いので、ささやかな温かみを
ダメージは『光のヴェール』の【オーラ防御】で軽減します
【激痛耐性】と痛みに対する【覚悟】も加えて、誰の血とも解らず濡れていくのもいとわずに【祈り】を続けましょう
猟兵は簡単には死にませんから無茶が出来ます。それを今、ここで行いましょう
●刃ではなく祈りを
鮮血の悪魔獣たちは、ただ純粋な殺意と闘争心を剥き出しに襲いかかる。
それはなぜだ? 無意識の悪夢という、純度の高い悪意から生まれたからか?
あるいは、オブリビオンの一部として猟兵への敵意を抱くがためか?
それとも――母たるオウガ・オリジンを護るために、そうしているのか?
答えはわからない。
問うたところで、悪夢獣たちは答えないだろう。そのための言葉を持たない。
だから猟兵に出来ることは、ただ悪夢獣どもを殺し前に進むだけ。
……けれどもユーノ・エスメラルダは、刃ではなく祈りを与えようとした。
痛みではなく救いを。苦しみではなく安らぎを、と心から祈った。
「命と引き換えでも構いません。だから、どうか」
両手を握りしめて祈り続けるユーノの言葉を、もしも仲間が聞いたならば。
ユーノを叱り、きっと嘆いたことだろう。どうかそんなことは言わないでくれと。
ユーノもそれは分かっている。無茶をするなと何度労られたことか。
心配をかけてしまうのは心苦しい。だから彼女はここにひとりできた。
猟兵は生命の祝福者。世界の法則の埒外にあるものであり、命すらも操るもの。
傷はユーベルコードを使えば治る。心の痛みは笑顔でごまかせばよい。
光のヴェールを纏い、ユーノはただ祈る。獣たちの安らぎと、そして。
「だから、どうか――オウガ・オリジンの、彼女の苦しみが和らぎますように。
この暗く陰鬱な世界に、ほんの一時でいいから、ささやかな温かみを――」
祈りは無益で、無力だ。それ自体が何かを害することも変えることはない。
光のヴェールを突き抜けて獣の爪が、牙がユーノの肌を、肉を、骨すらも傷つける。
血がとめどなく流れる。だがそうした獣は光に触れて滅びるのみ。
獣どもは自己の崩壊を恐れぬ。そんな知能は、やつらに存在しない。
ユーノもまた、絶え間ない痛みを必死に耐え凌ぎながら、ひたすら祈り続けた。
「……っ、どうか、この暗闇の世界に、光を……っ!」
その祈りは誰に捧げたものか。神か、あるいは別の超越存在か。
誰でもいい。ほかの猟兵でも、なんなら猟書家でも構わない。
だから、あの嘆きを。少しでも和らげてあげてほしい。
たとえ相手がオブリビオン・フォーミュラであろうとも……。
「ユーノはいくらでも苦しみます。だから、どうか、どうか……!」
聖女は祈り続ける。血まみれのありさまで。
それは苦行者のように痛々しく、生まれたての赤子めいて無垢であった。
成功
🔵🔵🔴
ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡みも歓迎!
彼女はいつも楽しそうだね
ボクはアリスくんたちってなんだか苦手なんだよね
もっと楽しめるのに、しない
もっと自由にできるのに、しない
もっと生きられるのに、しない
でも彼女は違う
見ていて飽きない
楽しい!
●ひかりあれ
さぁ可愛いプリマドンナが待ってるよ!
みんなタイトルロール(英雄役)を目指してがんばって!
鮮血の魔獣には暗闇が似合うって?ボクはそう思わないね!
さあ、ショータイムだ!!
特大[白昼の霊球]くんでぱーーっと目も眩むほどに世界を照らして
小さくは砲弾くらい、大きくは小天体くらいの球体くんたちを上空からがんがん降らせていくよ
おっと気を付けてっ
玉に転んで奈落落ちなんてつまらない!
●神の視座、人の生き方
ロニ・グィーは思う――世の中は、もっと自由にあればいいのに、と。
この世界には無限の娯楽と喜びが満ちていて、誰もがそれを享受出来る。
快楽の源が毎秒ごとに生産される。最高の世界だ。小躍りしたくなってしまう。
だから人々はもっと、楽しむべきだ。
生きることを、
死ぬことも、
味わえるすべてを味わって、もっともっとと欲望を燃やせばいい。
……だから、"そうしない"人々のことが、ロニは苦手だった。
アリスたちがまさにそう。出会うアリスたちはみんな苦しみ嘆いていて、
その過酷さを楽しもうとしていない。苛烈な運命に挑む喜びを見いだせていない。
もっと楽しめるのに。
もっと自由にできるのに。
もっと生きられるのに。
どうして、彼女たちはそうしないんだろう?
「その点キミは大違いだよねえ、オウガ・オリジン! いつだって楽しそうだ!
見ていて飽きないよ。苦しんでいるその姿も、ボクはとっても楽しいからね」
ロニは謳うように行って、鮮血の悪夢獣の群れを霊球で平らげていく。
まるでそれは光の塊のようだ。天井を突き破り落ちてくる流星そのもの。
鮮血の悪夢獣たちは、ただ殺し食らうためだけに猟兵を襲う。
それを叩き潰す。破砕と轟音の只中にかき鳴らされるは苦悶の絶叫。
闇の奥から響き渡るオウガ・オリジンの悲鳴。ロニは耳を澄ませた。
「うんうん、ショータイムに相応しい。悪党は苦しんで苦しんで倒れてこそだもの。
それが誰もが愛する大団円の秘訣さっ! さあ、かわいいプリマドンナよ!」
ロニは芝居がかった様子で言い、指揮者を気取って両手を振る。
白き球体は落ち続ける。獣を喰らい、滅ぼしあいながら。
「これが最期のショータイムだ。暗闇なんか蹴散らしてしまえ!
いっとう派手なタイトルロールのために、みんながんばれ! あはははは!」
人ならざる少年は笑い続ける。それは人の笑みではなかった。
人と同じ視座を持てぬ神の笑い声。苦も楽も等価値とみなすモノの。
「生きることって、こーんなに楽しいんだもの!」
ある意味では、彼こそが誰よりも孤独な演者だった。
成功
🔵🔵🔴
カイム・クローバー
(鮮血の獣共を見やり)へぇ、盛大に歓迎してくれるみたいじゃねぇか。
数が多いってのは聞いてたが…こいつはそこそこ楽しめそうだ。
無造作に踏み込むぜ。包囲するなら勝手にしな。美味そうな餌が歩いてきてる程度の認識だろうが、俺に言わせたら『この程度、障害にもなりゃしねぇ』のさ。
二丁銃を構えて、【二回攻撃】。撃ち抜いたトコで【挑発】。
腹減ってるんだろ?『喰われそう』になるのは慣れっこだ。だから、こう言ってやる──喰えるもんなら喰ってみろよ?
【二回攻撃】に【クイックドロウ】。【早業】を使い空中でマガジンを交換。集団にUCを叩き込むぜ。
やれやれ。コートに血が付いちまった。クリーニング代は別途で請求しねぇとな
清川・シャル
この響き渡る声…におい…嫌な感じですね…
悪夢…親族から、お前さえいなければと疎まれる声
うるさいです、聞きたくない
父様と母様が死んだのはシャルのせいかもしれないけど、でも今生きてるのは、2人が生かしてくれたのはシャルです
それを大事にするのが2人への恩返しです
そう信じて
ぐーちゃん零を一斉射撃、氷の魔弾をぶっ放して
身動きを封じたらそーちゃんを握りしめて走ります
迷いを断ち切るように、呪詛を帯びたなぎ払い攻撃
チェーンソーモードにして振り回しです
第六感で避けてカウンターで反撃します
今生きてる場所がシャルの居場所
迷わない
●スレイ・ザ・ナイトメア
晴れぬ闇。獣の唸り声。そして、苦しみ続ける少女の悲鳴。
この胸のむかつくような空間そのものが、結実した悪夢の具現化だ。
けして精神的な悪影響を及ぼすような呪詛はない――しかし、
清川・シャルはその雰囲気から、己のトラウマを想起せずにはいられなかった。
(お前さえ居なければ)
(あのふたりも死ななかったろうに)
(呪われた忌み子め!)
「……うるさいです、聞きたくない」
脳裏に蘇るのは、嫌というほど聞かされた血族から疎まれる声。
己の存在を邪魔だとみなす、恐れと憎しみと嫌悪の入り混じった、あの眼差し。
「私は……シャルはっ!!」
シャルは叫ぶ。グレネードランチャーを乱射し、馬型悪夢獣を滅殺する。
それは悪夢獣のチカラではない。この不思議の国の呪詛でもない。
否応なく引きずり出されたシャルのはらわた、彼女自身が抱える闇だ。
「シャルは……生きるんです、父様と母様にこの御恩を返すためにも……っ!!」
声は消えない。冷たい眼差しは止まない。当然だろう。
それは魔物が生み出したものでも、不思議の国が呼び起こしたわけでもない。
はじめから、シャルの内側にあるもの。彼女の心に刻まれた傷跡なのだから。
「だから! 邪魔しないで――邪魔、するなっ!!」
桃色の棍棒をチェーンソーモードで振り回し、一角獣型の獣をミンチにする。
歯を食いしばりながら前へ。視界は幻影と闇がまだらに入り混じっていた。
(お前のせいでふたりは死んだ)
(お前が殺したも同然ではないか)
(なのになぜ、お前だけがのうのうと生きている――!)
「うるさい、うるさいうるさい……うるさいっ!!」
氷の魔弾をばらまく。獣を斃す。だがその屍を乗り越えて次が来る。
「――あ」
シャルは油断していた。いや、己の中の幻影に囚われすぎていた。
唖然とする彼女を轢殺しようと、鮮血の馬型悪魔獣の蹄が振り下ろされ――!
……蹄が地面を、肉を砕く音の代わりに、銃声が響き渡った。
あまりにも聞き慣れた魔銃の咆哮。弾丸は、不埒な獣の頭を吹き飛ばす。
頭部を失った馬型の悪夢獣は、そのままよろめいてどう、と倒れた。
「どうしたシャル、らしくもねえな。戦いの最中に余所見でもしてたのか?」
「――カイム!!」
振り返ったシャルの嬉しそうな声に、カイム・クローバーは肩をすくめてみせた。
そして、さらに二挺拳銃を撃つ。弾丸がシャルのすぐそばをかすめた。
闇の奥。不意打ちのチャンスを狙っていた狼型悪魔獣が、悲鳴を上げて倒れる。
「ここは戦場だぜ。ぼうっとしてたら、お前でも危ないだろ?」
「……ごめんね。ちょっと、雰囲気に飲まれちゃったみたい」
シャルは弱々しく笑う。カイムは、そんな彼女の頭にぽんと手を置いた。
「気にすんなよ。なにせ俺がここに来たんだ。あとはもう任せてくれていいぜ」
「……ううんっ! 私も戦うっ。もう大丈夫だから!」
すっかりいつもどおりの元気溌剌な様子を見て、カイムはこくりと頷いた。
「ああ。お前はそうやって元気でいるのが一番"らしい"よ」
気遣うような言葉も、慰めの言葉も、ふたりの間には必要ない。
彼が隣にいて、彼女がそばにいる。それが、何よりも力を引き出すからだ。
まるで闇を照らす太陽のように、三つのマズルフラッシュが暗闇を切り裂いた!
「さあケダモノども、かかってきな! 食えるもんなら食ってみろよ!」
「シャルはさいきょーですよ! カイムは同じくらい強いんですからっ!!」
氷と紫雷の魔弾が、闇をつんざき馬鹿げたラプソディをかき鳴らす。
シャルは腹の底から笑った。あんな幻影に悩んでいた自分が莫迦みたいだ。
自分には帰る場所がある。帰りを待ってくれる人がいる。そうだ、そうとも!
「シャルが生きてる今この場所が、シャルの居場所で、帰る場所なんです!
――私はもう迷わないっ! 行こう、カイム! こんなとこ、さっさとぶっ壊しちゃおう!!」
「ああ、賛成だ。コートが汚れちまわないうちに、片付けるとしようか!」
BLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAM!!
弾丸を撒き散らし、行く手を阻む獣を吹き飛ばし、切り払い、二人は駆け出す。
まるで先を急ぐように。かけっこ競争のように屈託なく笑いながら。
向こうに回した獣も闇も、これっぽっちも怖くはなかった。
「遅れんじゃねえぞ、シャル!」
「そっちこそもたもたしてたら置いてくよ、カイムっ!!」
かけがえのないひとが、隣で笑いかけてくれるのだから。
さあ、今こそを悪夢をぶっ飛ばすときだ!!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
マリア・マリーゴールド
◆れっくす(f13470)と
ほぁ。
びょいんデスなー。
おうまサンもいるマスネ。
でもー、あんまりヨクナイデス。
あなたたち、わるわるサン。
……マリィめっ、てシタイデスケド、今マリィ「刃使うな」言われてるデス。
だから、マリィの刃使うのはれっくすの仕事。
おーけー?
……任せるマスよ、れっくす。
「刻器転身:断頭剣」。
マリィのからだ、ギロチンソードに変えるデスヨ!
身動きとれネのであとはまるーっとれっくすにお任せデス!
……ひゃ、なんかゾワゾワするデスー!くすぐっテ!えっち!!
……うー、血でぺっとり。
変な気分デス。
はやく帰テシャワー浴びテーデス……。
……調子わるわるデス?早く帰テ休むデスヨーれっくす!
レクス・ロスト
○マリアf00723と
えーと、うん。そうそう。アレ悪者ね
(独特な表現を理解するのに少し時間がかかりつつ)
……マリアの刃?
どこにもそんなものないようなーー
(剣に変身したのを見て)ああ、そういえばキミはヤドリガミだったね
(変身した剣を軽く何度か振り)
手にしっくりくるね。これなら使いこなせそうだ……マリア、ちょっとくすぐったいかもしれないけど我慢してね
(剣に自らの魔力を流し込み強化を加え)
いや! えっちじゃないから!
魔力で強化してるだけだから!
さあ、少し暴れるとしようか!
派手にやりすぎたかな……血の匂いが身体中に染み付いて少し気分が悪いね(吸血衝動を隠すように顔を覆いつつ、気分が悪いと言い訳して)
●血の陶酔を受け入れよ
「れっくす、れっくす、ひとつお願いしたいことあるデス」
「ん? どうしたんだいマリア、藪から棒に」
安全を確認していたレクス・ロストは、マリア・マリーゴールドの方を見た。
「マリィ、自分で"めっ"てシタイデスケド、いま「刃使うな」て言われてるデス。
だから、マリィの刃使うのはれっくすの仕事。おーけーデスカ?」
「……マリアの刃? それって、マリアの武器ってこと? けど……」
レクスはマリアの姿を確認する。彼女は武器らしいものを持っていない。
以前同行した時も、あくまで拷問器具を召喚しただけだ。刃とは一体?
「よくわからないけど、マリアが闘えないっていうならお安い御用だよ」
「ホントデスカ? ……任せるマスよ、れっくす」
マリアはそう言うと、おもむろに髪とヴェールをなびかせ口訣を唱えた。
「――"刻器転身"」
「う……っ?」
マリアの身体は純白の光に包まれ、つかの間レクスの視界を灼く。
思わず目の前にかざした手を下ろすと……そこには、白い剣がひとつ。
いや、ギロチンソードとでも呼ぶべきか? ひどく無骨で、恐ろしい見た目だ。
剣の強みは多様性と機能性だ。しかしそのフォルムはあえてそれを殺している。
ただ頸を落とすことだけを考えた、不気味で恐怖を喚起するデザイン。
「……ああ、そうか。キミは、ヤドリガミだったね。"それ"がキミの姿なのか」
レクスは合点すると、おもむろに純白の柄を握った。そして刃を手に取る。
まっすぐな直刃の刀身には、誇らしげに刻まれた"X"の英数字。
『コレが"刻器転身"デス! マリィのからだ、こうなると身動きとれネデス!』
「なるほど、だから俺に任せるってわけだね。オーケー、わかったよ」
レクスは剣を軽く振るう。風を斬る音はごう、ごうと大剣のようだ。
刀身は思ったよりも肉厚で、華奢だと感じたのは刃の角度がえぐいからだろう。
純白の色合いにそぐわぬ、どこまでも特化した作り。レクスは息を呑んだ。
(これは……マリアがこの姿を想像したのか? あるいは最初からこうなのか?
どちらにせよ、まるでギロチンそのものだな……処刑刀とも違う質感だ)
あの可憐な少女が"こう"なるというのが、余計にアンバランスさを引き立てる。
レクスをなによりも不安にさせたのは、柄の手触りがしっくり"きすぎる"ことだ。
それは『使い手を選ばぬ』ということ。マリアがそう望んでいるわけではない。
この断頭剣は、おそらく幼い子供ですら大人の頸を落とせるだろうということだ。
そこまでの機能美を、なぜ彼女は求める? なぜ、あそこまで無垢に……。
『……れっくす? どしたデスカ?』
「あ、ああ。いや、なんでもないよマリア。これなら使いこなせそうだ」
マリアの声で我に返ったレクスは、刀身を指でなぞり魔力を流し込んだ。
「ちょっとくすぐったいかもしれないけど我慢してね……っと」
『ひゃ、なんかゾワゾワするデスー!! えっち!!』
「いや、えっちじゃないから! 魔力で強化してるだけだから!」
さっきまで心の奥底に湧いていた畏怖めいた感情は、あっさり消え去る。
そうだ、刃がどんな作りをしていようと、これはマリア自身なのだ。
ならば使い手である自分が、必要以上に恐れを抱く必要はないだろう。
(マリアが俺の頸を斬るわけでもあるまいし――)
レクスは心の中でひとりごちて、そこでふと気付いた。
……恐怖を抱いたのは、その実マリアの無垢さや刃の作りに対してではない。
(ああ、そうか。俺は――)
獣どもが来る。刃を構える。きん、と純白の断頭剣が震えた。
("やりすぎる"ことを、恐れたのか)
レクスは駆け出した。刃は羽根のように軽かった。
魔術強化のおかげか、はたまたマリアの変形した断頭剣の切れ味ゆえか、
悪夢獣どもの頸を狩る仕事は、ぞっとするほどに楽だった。
これといった手応えを感じる間もなく、肉に差し込めばあっさり刃は通る。
骨太な頚椎もまるでバターのようだ。少し、楽しくなってしまったくらいに。
気がつけばふたりは、無数の屍の上で、血まみれになって腰を落としていた。
「これだけ仕留めれば、あとの猟兵も先へ進みやすいだろうな……お疲れ、マリア」
レクスがそう言って刃を放り投げると、マリアは元の姿に戻った。
だが剣にこびりついていた血は、その純白の衣装を容赦なく汚している。
「ごめん。出来るだけ血は拭ったんだけど、全部は拭き取れなかったよ」
「んーん、ダイジョブデス! ちょっと変な気分デスが……それよりも」
マリアは屍の上に腰掛けたままのレクスの顔を覗き込んだ。
「マリィよりも、れっくすのほうが顔色わりーデス。調子わるわるデス?」
「うん? ああ……そうかな。昏いせいでそう見えたのかもね」
レクスは反射的にマリアから目を背け、その視線を手でかざして遮った。
「ただ……気分は悪いな。早く帰って血を洗い流そう」
「デスネー。早くシャワー浴びてーデス。れっくすも休むデスよ!」
「……そうするよ」
レクスは言わなかった。血のせいで、吸血衝動が強まったことなど。
否応なく立ち込める血のにおい。鮮血の芳香が本能を刺激する。
(いい気分じゃないな、これは)
レクスは嘆息して立ち上がった。反対に、マリアは妙に元気がよさそうだった。
「……マリア、ちょっと変な注文をするんだけど」
「ん? どしたデスカれっくす?」
「次はもう少し、切れ味が悪い姿になってくれると嬉しいかな」
「??? どしてデス? わるわるさんやっつけるには切れ味いいほうがいいデス!」
「そうなんだけどね……」
レクスは言葉にしようとして、やめた。
――頸を落とすのが、いつの間にか楽しくなっていたなどとは、言えるわけもない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
朱酉・逢真
心情)よォ、“アリス"。苦しそうだなぁ。お疲れさん。この声も届いてねえだろうから俺は勝手に喋るのさ。いまお前さんが居るとこは、さぞやキッツいンだろう。夜は明ける直前がいっとう暗いし、病は治りかけがいっちばん辛いと相場が決まってンだ。つまりだ。いま猟兵たちが、お前さんの芯に迫ってンのさ。ああ、俺は救わないし癒やさない。同情も憐れみも向けやしないさ。ただ慈しむだけだ。それはそれとして、お仕事はするがね。
行動)おいで。そして薙ぎ払っておやり、アズ坊。眷属たちは俺の盾と、取りこぼしの片付けだ。《恙》のチカラを分けてやろう。悪夢を片付けておやり。もっとも俺らの存在そのものが、アリスにとっちゃ悪夢だがね。
●夢と現の間より
「――?」
手首から生まれ続ける悪夢獣の痛みに苦しんでいたオウガ・オリジンは、
不思議の国に生まれた"違和感"に、苦しみすらも一時忘れて振り返った。
だが当然、見返すものはない。鮮血の悪夢獣は闇に消えていく。
『なんだ、いま、たしかに何か……』
……何か、底知れぬものが"ここ"に来た気がする。
苦しみに正気を失った己が、こうも正気づくほどの何か。
あるいは――自分は、"それ"に救いでも感じたというのか?
『なんでもいい……終わらせろ、この痛み、この苦しみを……あああああっ!!』
そして再び、狂気のうねりがオウガ・オリジンを出迎えた。
獣どもの咆哮に混じり合い、途切れた悲鳴が再び国中に響き渡る……。
「……よォ、"アリス"。苦しそうだなぁ」
そのサイレンじみた悲鳴を聞きながら、朱酉・逢真は言った。
オウガ・オリジンまではまだ遠い。この声も、届いているはずはない。
"だからこそ"逢真は勝手に喋り続ける。
その身を護るのは、周囲に侍った巨大な有翼三首の蛇だ。
蛇――アズダハーはその三つの首で、狼どもを次々に飲み込み、食い殺す。
逢真の周囲には無数の《鼠》や《虫》が集まって、壁のように守っていた。
「これだけの悲鳴だ、鬼畜外道のお前さんがこンなに苦しみ悶えるなんてな。
お前さんが居るとこは、さぞやキッツいンだろう。こんなに昏いンだもんなぁ」
夜は明ける直前がいっとう暗く、病は治りかけが一番辛いものだ。
悲しみの海にすら染まらぬ鬼畜が苦しみ悶える。それは本人にとっても屈辱だろう。
だがそんな"アリス"を『救う』ために、多くの猟兵たちが闇を駆け抜ける。
逢真はその生命の気配を感じていた。いとおしく可愛らしい生命たちの暖かさを。
同情、憐れみ、あるいは哀しみ。憎むものも居れば嫌悪するものもいた。
「アズ坊、露払いだ。手当たりしだいに喰らっていきな。俺は気にしなくていい。
この悪夢どもを片付けてやりゃ、猟兵たちもさぞかし楽が出来るだろうさ」
逢真は進む。蛇が喰らい開いた道を、眷属たちを従えてそぞろ歩く。
「――ああ、しかし。"アリス"にとっちゃ、俺らの存在そのものが悪夢かね」
憐れみも同情も、憎悪も嫌悪もあれにとっては不要だろう。
自分以外のすべては玩具か、さもなければ食い物なのだから。
「ひひひ。本当にかわいらしいこった。慈しんでやるよ、アリス」
その神の笑い声すら、あれはきっと憎悪して憤怒して嫌悪するだろう。
それでいい。己は夢でも現でもなく、その狭間、外側に在るものなのだから。
「――かみさまが来たよ。もう少しでおしまいだ、頑張りな」
神はただ愛でるだけだ。求められようと、拒まれようと。
大成功
🔵🔵🔵
銀山・昭平
なるほど、つまり悪夢の獣を食らいつくし、悪意の底からオリジンとやらを追い出せば良い、って話なんだべな。
それなら、ちょうど良いユーベルコードがあるべ。
……ぐっ、ぐお、グオォ……!!
◆戦闘(真の姿の間は高圧的な口調で)
(UC【暴却なる忘食】に合わせる形で技能【リミッター解除】も使い、真の姿になって戦います。暴走気味に悪夢獣を食い殺し、生の肉に狂喜しながらも、躰に噛みつき、喉元を食いちぎり、はらわたを牙で食い漁るかのように戦います。)
(鮮血に塗れ鱗やトゲも、全て赤黒く染まっていくように、ゴーグルを血で汚しながらも、「悪夢獣を喰らい、この世界や、名も知れぬ少女?を救う」という誓いを忘れぬように……)
●獣を食らう獣
『グルォオオオオッ!!』
竜の如き咆哮をあげ、獣は――銀山・昭平は、悪夢獣どもを食らう。
悪意の底より生まれし鮮血のけだものどもを、獣の王はひたすらに蹂躙する。
咆哮に含まれるのは侮蔑、そして狂喜。生の血肉を味わう悦び。
馬型悪魔獣どもの喉元を食いちぎり、はらわたを牙で食い漁り、歓喜する。
『我は巨龍なり!! 悪夢から生まれしけだものどもよ、愚かな獣どもよ!!
貴様らはすべて我に喰らわれるために生まれたのだ。絶望せよ、憎悪せよ!』
血が病院の壁を汚す。その壁を轢き潰し蹂躙しながら竜は進む。
一角獣の角が鱗に突き刺さる。巨龍は、意外そうにそれを見下ろした。
『――我に歯向かうとは。よほど苦しんで死にたいと見えるな!!』
突き刺さったままの角ごと獣を振り回し、そして壁に叩きつける。
巨竜は大口を開け、砕け散った壁の残骸ごと一角獣をばりばりと喰らった。
ただし、一撃では殺さない。脚を砕き、先端からゆっくり咀嚼するのだ。
鮮血の悪夢獣は悶え苦しむ。悶え苦しみながら、角で鱗を砕こうとする。
『喰らわれながら我を貫こうとするか? 愚か! どこまでも愚かなり!!』
めき、ばきばき……骨と肉をミキサーめいて混ぜながら残骸を吹き飛ばす。
虫の息の一角獣は壁に叩きつけられ、悶えた。そこへ巨龍の肉体!
ダンプカーじみた巨体が、壁を砕きながら一角獣の悪夢を叩き潰す……。
血の歓喜。肉の悦楽。巨龍は飢えが満たされる感覚に欣びを抱いた。
ただ頭の片隅にこびりつくように残っていたのは、ただひとつの誓い。
(おお、獣どもよ。退け。我は救わねばならぬのだ)
――誰を?
(名も知れぬ少女を。我は救わねばならぬ。だから貴様らは邪魔である)
少女を? なぜだ?
わからぬ。だが、それは為さねばならぬことであるはずだ。
ゆえに巨龍は暴虐を尽くす。ひたすらに喰らい、殺し、蹂躙する。
少女を救おうという誓いとは真反対の、残虐な蹂躙で獣どもを殺し続ける。
(我は救わねばならぬのだ――もはや、その理由すらもわからぬが)
巨龍はたしかに強大で恐ろしかった。
ただその姿は、どこまでもがらんどうで痛々しく思えた。
成功
🔵🔵🔴
千桜・エリシャ
【朱桜】
デートだなんて連れ出されて来てみれば…
ここで、デート…?
は?期待するわけないでしょう?
あら、私のことをよくご存知ですこと
ふーん…なんだか試されているみたいで癪ですけれど
ここまで来て戦場から背を向けるなんて出来ませんもの
では、私の実力
とくとご覧あれ
扇を取り出せば扇いで風と雷雨を巻き起こし
吹き飛ばすようにして道を切り拓きましょう
あら、憶えてましたのね?
持っていては悪いかしら
…!何よ!また調子がいいことを…
別に他意はなくてよ
このほうが実力がわかりやすいでしょう!
この男への今までの鬱憤を晴らすように扇いで
…?わかりましたわ
あら、よく燃えること
気分がいいですわね
ふふ、さっさと先へ行きますわよ!
神狩・カフカ
【朱桜】
デートしようぜ❤って姫さんを連れてきて
あ?デートにゃ違いねェだろ?
それとも何か?期待したのかァ?
はっは!冗談よ!
でもよ、お前は戦場が一番高揚するだろう?
ま、あれだ
おれが離れてる間にどれだけ強くなったのか見てやろうと思ってな
さーて何をするのかと思えば
ははァ、そいつァおれがやった扇じゃねェか
まだ持ってたのかィそれ
いやいや、とんでもねェ!
…お前は相変わらず可愛いなと思ってな
ンじゃ、おれも手伝ってやるか
ちょいとエリシャ
そっち風だけに絞ってくれねェか
よォし、いい具合だ
火を焚べるように紅い花を咲かせて
向かってくる奴に延焼させて
ほォら、よく燃えるじゃねェか
景気がいいこって
へいへい、仰せのままにお姫様
●朱桜/裂いて散る花/火となりて
『デートしようぜ❤』
……だなんて、あの男が猫なで声で言う時点でおかしいと思っていたのだ。
しかし悲しいかな、幾許かの期待を抱いて来てしまった自分が妬ましい。
案の定そこは暗闇に閉ざされた悪夢の世界。響き渡るのは咆哮と悲鳴ばかり。
「…………はあ」
千桜・エリシャは顔に手を当てて重い溜息をついた。
「あ? なんだよ秘めさん、あれか? 実は期待してたのかァ?」
「……は? そんなの期待するわけ無いでしょう?」
ぎろりと睨まれれば、神狩・カフカは愉快そうにかっかと笑った。
その表情がかつての彼とまったく同じで、懐かしさを感じるのがなおさら嫌だ。
エリシャはカフカの顔を見ないようにした。そして、頬をふくらませる。
「はっは! 冗談よ! だがよ――お前は戦場(ここ)が一番高揚するだろう?」
「……ふん。私のことをご存知とばかりに言わないでくださる?」
「つれないねェ。あっちはおれたちを歓迎してくれてるってのに」
顎でしゃくってみせれば、闇の中にいくつもの眼光がぎらりと煌めいた。
エリシャは拗ねるのをやめて、一歩前に出る。カフカはにたりと笑みを浮かべた。
「おれが離れてる間にどれだけ強くなったのか、見せてくれよ。なぁ?」
「……なんだか試されてるみたいで癪ですけれど。まあいいわ」
戦場に来た以上。そして、こちらに向けて敵意を放射する相手が居る以上。
もはや背を向けはしない。エリシャはそういう性質(たち)の女である。
「では、私の実力どうぞご覧あれ。――ただし、あなたも働きなさいよ?」
エリシャは肩越しにそう言うと、おもむろに扇を一つ取り出した。
カフカは隻眼をちらりと見開く。意外そうに……あるいは、嬉しそうに?」
「何をしでかすのかと思いや、そいつァおれがやった扇じゃねェか。
まーだ持ってたのかィ、それ。物持ちのいいこったねェ? はっは!」
エリシャはカフカの軽口をスルーして、扇を振るった。
するとたちまち風が渦巻き、雷鳴とともに闇を獣ごと吹き飛ばす。
ごろごろと雨雲が天井近くに現れて、突き刺すような雨で血を拭った。
「しかもまァちゃんと使いこなしてるみてェだ。ずいぶん使い込んだのかね?」
「……なによ、いちいち癪に障ることを。持っていてはいけませんの?」
「いやいや、とんでもねェ!」
カフカは肩をすくめてみせる。そしてにこり、と優しい微笑みを見せた。
「お前は相変わらず可愛い、って。そう思っただけだよ」
「――!!」
エリシャは、自分が生娘めいて頬を赤らめてしまっていることを自覚した。
なによりもそれが腹立たしい。きゅっと眦を決して前を向く。
後ろでカフカがくつくつ笑っているのが聞こえる。余計に恥ずかしくなった。
「また、調子のいいことを! 言っておくけど、別に他意はなくてよ。
私が刀で斬り伏せるよりも、このほうが実力がわかりやすいでしょう?」
「ほお、言うねぇ。おれじゃお前の手さばきが見えねえからってか?」
「そういうことですわ。さあ、あなたもさっさと働きなさい!」
カフカは肩をすくめて歩みだすと、おもむろに煙管の紫煙をくゆらせた。
「そっち風だけに絞ってくれねェか。あとは任せな」
「……まあ、いいですわ」
エリシャはおもいきり強く突風を巻き起こす。鬱憤を晴らすように。
するとカフカは煙管を逆さにして、風にとん、とんと灰を載せた。
渦巻く灰はたちまち彼岸花の花びらに変わり――そして、ぼん、と燃え上がる。
「ほォら、よく燃えるじゃねェか! いい具合だなァ?」
「あなたがしでかしたことだと思わなければ気分もいいのですけど」
「こりゃしたり。よほどおれが気に食わんのかね」
「当たり前ですわ!!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐエリシャの様子に敵わないとばかりに手をひらひら。
「わぁった、わぁったよ。からかいはなしだ、そろそろ次に行こうや。なぁ? お姫様」
「……その軽口と、小馬鹿にした態度もやめてくだされば最高ですわね!」
エリシャは拗ねた様子で云うが、声音ははずんで足取りも軽やかだった。
カフカはふっと笑う。その姿は、彼が覚えていた頃からちいとも変わっちゃいない。
(少なくともさっきの台詞は、嘘でも冗談でもないんだがねェ)
なんて台詞は、言葉にせずに心にしまっておくことにした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
フェルト・フィルファーデン
悪夢……そうよね。誰だって悪夢なんか見たくないわよね。
ええ、だからこそここで、終わりにしましょう。
まずは高速で空を飛び回り敵の気を引いて1箇所に集めるわ。
【フェイントを使い攻撃を躱しつつ行先を誘導。
いざとなったら騎士人形の【盾で受け身を守りましょう。
充分に集まったらUC発動。
さあ、眠りなさい。これである程度の敵は無力化出来たはず。
……あとは、終わらせるだけ。
ウイルスの濃度を最大限に。苦しみも痛みも無い永遠の眠りに誘うわ。
【限界突破】
おまけに、電脳魔術で幸せな夢をプレゼント。
これがアナタの夢の具現化だと言うなら、それを癒せば……なんてね。
ええ、ただの自己満足よ。
それでも、最期くらいは、良い夢を。
●醒めぬ眠り
殺意と敵意に狂った鮮血の悪夢獣たちが、床に伏せて寝息を立てる。
あれほど荒れていたけだものと同じ生き物には思えない、安らかな寝息。
すやすやと眠る獣たちの寝息は、やがて静かに途切れた。
悲鳴もなく、
断末魔もなく、
憎悪の雄叫びもなく。
「……そうよ、静かに眠りなさい。苦しみも痛みもなく、永遠に」
フェルト・フィルファーデンは、眠り逝く獣たちの間をそぞろ翔ぶ。
まるでそれは、戦没者たちの墓をめぐる王女のようであった。
こうして眠り息絶えてみれば、悪夢獣たちの寝顔のなんと安らかなことか。
奴らは純粋な悪夢の顕現であるがゆえに、憎悪以外には何も知らぬ。
純化された殺意。ならばその殺意を取り去った姿は、ただの獣と変わらない。
やがてその姿はどろりと粘体化して、床に広がる血のシミに変わった。
「……死して、亡骸を遺すことも出来ない。本当に、哀れな獣たちね。
あなたたちは、生まれるべきではなかった。だからせめて、最期だけは」
フェルトは、かつての自分ならばこうはいかなかっただろうと思う。
オブリビオンは憎むべき仇であり、敵であり、絶対に相容れぬ存在だ。
己の絶望と憎悪をないまぜにして、希望で覆い隠してがむしゃらに殺す。
否、殺してきた。こんなふうに、哀れみを以て看取ることなど出来たろうか。
(わたしも、変わってきたのね。今日までの戦いを経て)
己は友を得て、想いを抱き、愛を声高に叫ぶくらいに変わったのだ。
嬉しくもあり、恐ろしくもある。そのうち、覚悟すらも忘れてしまうのではと。
国を奪われすべてを失ったあの時の、燃えるような憎悪すらも。
「……いいえ」
フェルトは首を振った。何があろうと、それだけは忘れはすまい。
戦う理由。オブリビオンを滅ぼす理由。それだけは、決して失うまいと。
こんなことは自己満足で、オウガ・オリジンを癒やすことなど出来はしない。
彼女を包む悪夢の帳は分厚く重たく、希望の光など届きはしないのだ。
いや、その希望の光自体を、彼女はきっと憎むのだろう……。
「それでもわたしは、アナタの最期が、いい夢であればいいのにと思うわ」
相手はオブリビオン・フォーミュラ。幾人ものアリスを惨殺した外道中の外道。
……それでもこの泣き声は、胸を締め付けられるほどに辛かった。
「悪夢に苦しめられる気持ちは、わたしだってわかるもの――」
声は決して届かない。
だとしても少女は謳い続ける。
夢と希望は、いつしか世界も救うはずだと。
大成功
🔵🔵🔵
霞末・遵
ああ、そうだね。死ぬに死ねないのはとても辛い
生きるにしても死ぬにしても、はっきりさせないとね
さて、若者たちが進むための道を作るのもおじさんの役割か
おじさんのやる気次第だけど弾ならいくらでもあるからね
とりあえず悪夢が密集してる辺りに幽世式ランチャーを一斉発射で制圧射撃
……うん、かっこいい!
リロードに手間がかからないのは評価すべき点だな
速やかに二回攻撃。無限湧きって厄介だね
でも少しの穴くらいは作れたんじゃないかな
あとは若者たちが少しでも快適に進めるように周りの悪夢を減らしていこう
まだ実用化に至ってない試作品ばかりの展覧会ではあるが
援護射撃、弾幕……撃つだけなら問題ないさ
子供を救ってやっておくれ
●それは硝子細工のように壊れやすくて、だから
どれだけ苦しくても悲しくても辛くても、死はそう簡単にやってこない。
ヒトの中には、老いる前にさっさと死にたいなどと嘯く若者もいる。
太く短く――そんなものは幻想だ。死神がそこまで優しいものか。
霞末・遵は知っている。死に瀕したものが感じる時間がどれだけ永いものか。
それでいて忍び寄る闇は恐ろしく、心を不可逆に傷つけてもう戻らない。
妖怪となった今でもそう思う。あんなものは、二度と味わいたくはない。
だから遵は子供に触れられない。近づくことも恐ろしくて考えたくないのだ。
ああ、だが。響き渡るこの、か弱き乙女の絶叫は。
「――そうだろうなあ。辛いだろうなあ」
遵を思わずひとりごちらせるぐらいには、哀れで惨めだった。
「でもね、残念ながらおじさんは、君を滅ぼしに来たんだ。そう、殺しに」
トランクケースのロックを解除して軽くゆすると、ぱかりと開いた。
すると中から馬鹿げた量のロボットアームが突き出す。先端にはランチャー。
「だからとりあえず、獣(きみたち)はまるごと吹き込んでもらおうか」
シュパウ――KRA-TOOOOM!!
「うん、かっこいい! リロードに手間がかからないのは評価点だなあ」
遵はうっとりとした様子で言いながら、爆炎の中をカツコツと歩み抜ける。
闇の奥に浮かび上がるいくつもの眼光。トランクを閉じる。そしてまた開く。
ガチャリ――KRA-TOOOOOM!! 幽世式ランチャーの一斉射撃機構は大好調だ。
「無限湧きって厄介だね。道を開けるだけでも一苦労だよ……」
けれどこれだけ派手にぶちかませば、敵の狙いはこちらに来るだろう。
自分で開けた穴を通るにせよ、別ルートを使うにせよ、
きっと後続の若者たちは楽になったはずだ。うん、そう思うべきである。
「悪夢獣、だったかな。君たちにも悪いとは思うよ。ただね」
がちゃり。トランクケースが開く――爆音。噴煙。そして火炎。
「生きるにしても死ぬにしても、"はっきりさせないといけない"んだ。
それが一番苦しまなくて、そして楽になれる。どうせ死ぬとしてもね」
その間でのたうち回ることほど、辛いことはこの世にはない。あの世にも。
「――私は子供が怖いんだ。君たちのあるじだってそうさ」
爆音の中で、遵はひとりごちる。
「だから任せるしかないんだよ。私は、情けないことだけれどね」
火炎がその青ざめた顔を照らす。
子供。己を殺したもの。無邪気で、無垢で、だからこそ恐ろしいもの。
……けれども硝子細工のように壊れやすくて、だから、遵は。
「私が頑張るからさ――代わりにどうか、"子供"を救ってやってくれ」
その言葉が若者たちに届くかどうかはわからない。
けれども遵は、祈るしかないのだ。無力に、無益に、無性に。
ただひたすらに、祈るしかないのだ。
大成功
🔵🔵🔵
リンタロウ・ホネハミ
【屍斬血牙】
なぁるほど、たしかに悪夢みてぇな数と見てくれしてるっすねぇ
夢に出てきたなら思わず回れ右してトンズラしそうっすけど……
ご生憎様、ここって現実なんすよね
そりゃあもう、オレっちってばダクセで魔獣を斬るのも仕事にしてたっすから
こんだけ多数を相手にするならとにかくスピードが命!ってなわけで
豹の骨を食って【〇八三番之韋駄天】を発動するっす!
ヴィクティムと前衛後衛を交代しながら着実に前進してくっすよ!
前衛のときは視界に入る獣共を全て薙ぎ払い、
勢い失って後衛になったら視界に入る獣共全てに矢をブチ込む!
ハッハァ!!この勢いでオリジンとこまで行きますか!!
おいおい、テンション下げてる暇ァねぇっすよ!!
ヴィクティム・ウィンターミュート
【屍斬血牙】
楽しい愉しい獣狩りってやつだ
傭兵さんは獣相手の経験豊富なのかね?ま、あろうが無かろうがやれるだろうけど
悪夢でも現実でも、獣が世を脅かすなら駆除されるってことを教えてやるぜ
んじゃリンタロウ、最初は前を頼むぜ
討ち漏らしと視界外から来る奴らは俺が仕留めておく
セット、『電脳無辺』
思考も身体能力も、電気信号のような速度を得ておく
リンタロウの進む勢いが緩くなったらスイッチ、俺が前に出る
武器のメインをナイフと左腕の仕込みショットガンに切り替え
首と眼球をメインに狙って突き刺し、撃ち抜く
はぁ、山ほど血を被るだろうな
お前って血を被ると昂るタイプ?
俺は全然だ
ドラッグ使うのに慣れちまったせいかもしれねえな
●ビースト・ハント
この昏く陰鬱な世界は、ふたりにとって慣れたものだった。
リンタロウ・ホネハミは、故郷であるダークセイヴァーを思い出す。
ヴィクティム・ウィンターミュートは、薄汚れた路地裏を思い出していた。
悪夢のような現実。そんなもの、ふたりにとってはやはり"慣れたもの"だ。
……だからといって、彼らがそこに喜びを見出すはずもないのだが。
「オラオラオラオラァ!! さっさとどくっすよぉ!!」
狼型の悪夢獣よりもなお早く、リンタロウは魔剣を振るい喉笛を潰す。
通常、狼は群れの長(アルファ・ウルフ)に率いられているものだ。
だが、悪夢獣にそんなものはない。すべてが長であり、すべてが群れだ。
おそらく、思考すらも並列化している。後衛のヴィクティムは推測した。
ゆえにスピードが第一。敵が連携攻撃をする前に、先の先を得て殺す。
リンタロウの作戦は正しく、それが狼型の悪夢獣どもを蹴散らす最大の要因だった。
残像すら生み出す速度で踏み込み、剣を振るう。敵が放射状に吹き飛ぶ。
四足で受け身を取ろうとする悪夢獣に二度目の踏み込みで近づいて、縦に両断。
短距離スプリントめいた全力全開の戦い方だ。当然、スタミナの減りは早い。
「ヴィクティム!!」
……と、リンタロウが叫んだときには、もう灰色の風が横を通り過ぎていた。
そして銃声。ヴィクティムの左腕に仕込まれたショットガンのマズルフラッシュ。
横合いから飛びかかる敵をナイフで刺殺し、眼球を貫いた屍体を盾にする。
同族の屍体に食らいついた狼型の悪夢獣を、散弾がぶち抜き息絶えさせた。
「言われねえでも観察してるから安心しな。ニューロンリンクすりゃ余計早いが」
「あー、そういうのはオレは勘弁っすよ。身体が資本なんで」
「サイバネなんざしねえに限るよ。んじゃもうしばらくは俺が前に出る」
ヴィクティムは軽く言うと、サイバネをオーバーロードさせて敵を殺しに殺した。
蹂躙と呼ぶにふさわしい大立ち回り。リンタロウはあとに続きながら顔を顰める。
(相変わらず、寿命をドブにしてるような戦い方してるっすねコイツ)
サイバネに詳しくないリンタロウでも、あれが無茶であることはひと目で分かる。
おそらく代償である痛覚すらも、サイバネで無理やりねじ伏せているのだろう。
無茶に無茶を重ねるようなものだ。当然、生身の部分がすり減っていく。
だがこの状況では、その前のめりさが力強くもあった。
呼吸を整えタイミングを待つ。ヴィクティムは觀察で気付けるのだろうが、
こちらはそうもいかぬ。あいつが限界を迎えた瞬間を声より早く察知せねば。
そうしてふたりはクランクめいて交互に入れ替わりながら獣どもを殺す。
あとに残るのは死骸と銃痕、そして斬撃が床や壁をえぐった亀裂じみた痕。
……なによりも、くるぶしまで浸かろうかというほどの鮮血である。
獣の群れを抜ける頃、ふたりは全身が返り血まみれになっていた。
「あー、しんっでえなあ畜生!!」
獣の群れがぱたりと止んだとき、リンタロウは声を大にして叫んだ。
「テンション上げてねえとやってらんねえっすよ! ほらヴィクティムも!!」
「……お前、血を被ると高ぶったりするタイプなのか? 吸血鬼みてえだな」
「それは心外っす! こっちゃ気合入れてんすよ気合を!!」
はあー、とリンタロウはため息をついた。こっちまで引きずられそうだ。
「骨の魔力も無限じゃねえんす。それともヴィクティムはやる気出ねえっすか」
「……まあな。ドラッグを使うのに慣れちまったせいかもしれん」
コンバット・ドラッグの常用は、多くの場合自律神経を失調させる。
ヴィクティムは完全なジャンキーである。中毒症状はサイバネで中和していた。
代わりに訪れたのは、魂が磨り減るような離脱症状。感覚の摩耗と鈍麻。
「夜も眠れねえ、痛覚をオンにしてるときですら最近は鈍くなってきた気がする。
そのうち俺は、笑うことも出来なくなっちまうのかもしれねえな」
「だったらそんな生き方、やめちまえばいいんじゃねえの?」
リンタロウの言葉に、ヴィクティムはぎろりと睨み返した。
リンタロウは顔を濡らす血を拭い、くつくつと笑ってみせる。
「……ンなツラ出来るなら、まだそんな心配はいらねえと思うっすよ」
「冗談きついぜチューマ。こっちはシリアスなんだがな」
「だから、それをやめろっつってんすよ。獣相手にゃ気合で勝たねえと!!」
「その役はお前に任せる。それにはそぐわねえ」
「あーもうそういうとこ!! しみったれてんなあ!!」
ヴィクティムはニヒルな笑みを浮かべた。それは作り笑顔ではなかった。
「お前がそう言ってくれてるうちは、たしかに俺はまだ磨り減っちゃいねえのかもな」
「……さあ、次っすよ次!! 先はまだ長いっすからねえ!!」
駆け出すリンタロウを追ってヴィクティムも走る。そして冷えた頭で考える。
いまの自分がたどる未来はどれだろうか。
誰も居ない路地裏でゴミみたいにくたばる分相応の道か。
あの悪魔のような自分に成り果てる未来か。
もしくは――そのどちらよりも恐ろしく、虚無的な最期か。
(どうであれ、ろくなもんじゃねえだろう。だが、それでいいのさ)
死ぬに死ねない自分がくたばるのだとしたら、それ相応の時なのだろうから。
燃えるような活力を持つチューマの姿は、羨ましくもあり頼もしくもあった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鳴宮・匡
生きるのは悪夢と同じだった
いつまでも、望んだ楽園(かこ)には還れなくて
ただ一人で、どうしてかもわからないまま彷徨ってた
……昔の話だ
連れがいないなら好都合
【涯の腥嵐】でひとつ残らず刈り取っていくよ
影で編んだ銃には残弾もない、いくらでも戦える
攻撃はしっかり見切って余計な被弾を避けるよ
自分の血じゃダメなんだろ――なら余計なコストを払う気はない
ああ、そうだよな
生きていくのは痛いし、苦しいんだ
だからって、もう、“死”とか“滅び”とか
そういうものに縋るつもりはないから
……かわいそうだ、なんて
相変わらず、そんなことは思ってやれないけど
せめて、この悪夢は散らしてやるよ
俺が生きるために、この先も生きていくために
●回顧録
――罪も痛みも感じなくても、記憶は鮮明に残っている。嫌というほどに。
それは、自分のこの優れすぎている眼によるものなのだろうか。
あるいは自分にも、郷愁などという人間らしい感情があるのだろうか。
鳴宮・匡にはわからない。結局のところ、それはどうでもいいことだとも思う。
どうあれ過去を忘れることなど出来ない。出来るのは、我慢することだけだ。
痛みに、苦しみに、もう届かぬ楽園/過去の寂寥感に耐えること。
きっとそれが、世の大人たちの云う『成長する』ということなのだろう。
……痛みなら我慢するのは得意だ。生きてる間ずっとやってきたことだから。
人を殺す心の痛みも、
泥を食む体の痛みも、
ないものだと思えば消え去ってしまう。いや、消し去ってきた。
実際のところは、ただ心の奥底に沈めて、見ないふりをしていただけ。
今の自分にとっては、それを自覚することすらどうしようもなく苦しい。
終わらない闇のようなものだ。――そう、この悪夢の世界のように。
今はどうだろうか。
日々は楽しい。
愛というものを自覚して、敬愛を、友愛を向けてくれる奴らがいて。
自分の想いを自覚して、そして逆に自分に愛情を向けてくれるひともいた。
応えてもらえない苦しみ。応えてやれない苦しみ。どちらともを味わっている。
安らぎ。穏やかさ。己には似つかわしくない、許されないもの。
膝を抱えることなく、それを胸張って世界に誇ることも、ずいぶん出来るようになった。
ただどうしても痛みは消えない。疑問も苦しみも消えることはない。
一生そうなのだと理解はしている。ただ少し――いや、とても怖かった。
得たものはいずれ失われる。友も仲間も愛も安らぎもいつかは消えてなくなる。
永遠などありえない。自分たちは永遠を否定し続けているのだから。
自分が先か、彼らが先か、近いか遠いか、何もかもわからないけれど。
いつか"終わり"はやってくる。逃れ得ぬ死が、すべてを刈り取っていくのだ。
生きていくのは痛い。
生きていくのは苦しい。
喜びの絶頂で死ねたらどんなに楽だろう。
苦しみを味わうことなく滅びたらどんなに楽だろう。
「――……もう俺は、そんなことに縋ることはやめたんだ」
鳴り響く銃声の、殲滅の砲火の中で、匡は呟いた。
立ちはだかっていた獣どもが、弾幕に貫かれて姿を消した。
闇の中を駆け抜ける。反響する悲鳴が少しずつ大きくなる。近づいている。
可哀想とは思えない。あれは殺すべき敵であり、そこに呵責などない。
けれど、せめて。血に塗れた自分にも出来ることがあるとすれば。
(――この悪夢は散らしてやるよ。俺が生きるために)
楽になれるぞと手ぐすねを引いて誘惑する、死の闇を退けるために。
いつか終わりが来るとしても、その終わりをせめて笑顔で迎えるために。
――いつか、心からの笑顔を浮かべられるように。永遠を否定し続けよう。
人はいずれ死ぬ。竜であろうと怪物であろうと神であろうといつかは死ぬ。
"だからこそ命は美しい"。ありきたりな言葉を、心から信じられるように。
その時まで匡は前を向く。どんな暗闇であろうと、その先に光があると信じて。
大成功
🔵🔵🔵
ロク・ザイオン
(何もかも、歓喜と祝福のうたに聴こえる。
けれども、見ればわかる。
これがそんなものではないことは)
母だから、哭くのか。
それとも。
……お前は、悪い夢の中で、
望まぬものを生んでいるんだな。
(敵意を、抱けるはずがない)
(獣の湧き出す源を【野生の勘】で察知
「轟赫」八十四を二つに分け、そちらへ一直線に伸ばしながら【ダッシュ】
敵陣を貫く炎の壁を道とし、なお襲い来る獣は【早業】の烙印刀、閃煌二刀で【なぎ払い】【焼却】しよう
炎で方向を示せば、他の猟兵だってきっと動きやすい)
このうたを、
悪夢を、終わらせに来たよ。
●悲鳴
聖なるかな。
聖なるかな。
聖なるかな。
響き渡るうたは、そんなふうに賛美しているようにしか聞こえなかった。
歓喜と祝福。世に生まれ落ちたことを寿ぎ喜ぶ、世界を賛美するうた。
ああ。その事実は、ロク・ザイオンにとってグロテスクな感情を想起する。
"本当は違うのだ"という痛感。
そうとしか聞こえぬ歪んだ己の耳朶への怒りと諦め。
かつてその歓喜のうたに酔いしれていた、自らの獣性への嫌悪。
吐き気をもよおすほどのマーブル模様の感情が押し寄せて、過ぎ去っていく。
速度がそれを洗い流す。殺戮に汚れた身は殺戮でしか濯げないのだ。
殺す。憎悪ではなく、敵意でもなく、ただ終わらせるという意味で。
刃で切り裂き、喉元を貫いて一撃で命を終わらせ、死骸を灼く。
うたが聞こえる。世界の輝きを謳い上げるような、尊ききれいなこえが。
(母だから、哭くのか)
獣を殺す。
喉を貫いて殺す。
眼窩を貫いて殺す。
口蓋を貫いて殺す。
はらわたを裂いて殺す。
肛門から真っ二つにして殺す。
手足を削ぎ落として殺す。
突き刺した刃から中身を焼いて殺す。
毛皮ごと全身を火だるまにして殺す。
殺す。
殺す。
殺す。
うたに酔いしれて殺戮を喜び受け入れ愉しんだ夜があった。
癒えぬ記憶。拭えぬ悪夢。血の汚れはもう二度と落ちることはない。
なら、血で上書きするしかない。それが嫌悪をもたらすとしても。
「ごめんな」
殺す。
刃で殺す。
炎で殺す。
指で殺す。
腕で殺す。
脚で殺す。
牙で殺す。
殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す――哭きながら、殺す。
「お前たちは、母にすら望まれなかった。生きていてはいけない獣だ」
望まれたかどうかなど関係はない。生まれたならそれは一個の命だ。
命は命であるだけで価値があり、権利がある。義務などない、自由なのだ。
それでも、殺さねばならぬ。それらは病葉であり障害であり、そして。
「あの"うた"を喜ぶなら、おれは、殺さねばならないんだ」
炎があかあかと足跡を照らす。血に塗れた哀れなおんなの足跡を。
――殺さねばならない。
いのちを、けものを、望まずして産み続けるこのうたのあるじを。
オウガ・オリジン。あしきゆめに苦しむもの。小さく、か弱く、そして邪悪なもの。
病葉。少女。いつくしむべきもの。まもるべきもの。生きるべきもの。
けれども、彼女は。いのちを奪って、喰らって、ほろぼしてしまうから。
「――ごめんな」
その言葉は誰に向けたものだろう。
けものどもか、
うたのあるじか、
あるいは、自分が殺めてきたものに対してか。
「おれは、終わらせなきゃいけない。――終わらせるんだ。この悪夢(うた)を」
ロクは哭いていた。こぼれた涙は炎に融けて消えていく。
全身が裂けるほどに痛かった。傷のせいじゃない、心の痛みだ。
ああ。けれどなんて恥知らずなことだろう。鼓動は一足ごとに跳ね上がって。
痛みが生命を肯定する。証明する。それが、自分の実在と生存を示している。
「おれは、みんなと、生きたいんだ」
生きるために何かを殺す。それは当然の摂理。なのに、ああ。
「……いたいよ。おれも、死にそうなくらいに、いたいよ」
この痛感こそが、生きることだというのなら。
――ととさま。あねご。どうしてこれを、おれに教えてはくれなかったのです。
どうしておれは、森を出てようやく、こんなものを知ったのです。
おれはこんなにも痛くて苦しいのに。もうととさまもあねごもいてくださらない。
「ああ、あ――ああ。アアあ。ああああああ!!」
ロクは哭いた。世界を賛美する歓喜の歌を、喉が裂けるほどに謳い続けた。
「ああァああAアアあ――!!」
涙も血も炎も尽きるまで。ただ、謳い続けた。
大成功
🔵🔵🔵
月凪・ハルマ
こりゃまたキツい。オウガ・オリジンの悪夢ねぇ。
……アリスだった頃の名残、なのかな?
◆SPD
数には数で対抗だ。戦場到達後、即座に【魔導機兵連隊】発動
召喚したゴーレム達と共にオリジンを目指す
もっとも、一体一体が相応に強いらしいからな
こちらは複数の機体で足止めして各機体の消耗を減らしつつ、
(【継戦能力】)俺がとどめを刺す、って形でいこうか
自身への攻撃は【見切り】【残像】【武器受け】【第六感】で回避
基本的に接近戦はゴーレムに任せ、手裏剣の【投擲】で攻めつつ
隙を見て【早業】で接近。魔導蒸気式旋棍の打撃か破砕錨・天墜の
【捨て身の一撃】でとどめを狙う
ま、此処でこれ以上苦しむ必要もないだろ
それじゃ、おやすみ
●贖いの価値
オブリビオン・フォーミュラ――オウガ・オリジン。
はじまりのアリスにして、はじまりのオウガ。
この地獄を生み出した張本人であり、いくつものアリスを殺したもの。
そして喰らい、力を増し、取り戻した力でオウガ・オリジンは苦しんでいる。
「……オウガ・オリジンの悪夢、ねえ」
前衛を召喚ゴーレムたちに任せ、月凪・ハルマは周囲の景色を見た。
廃病院めいた闇の世界には、生き物の気配は一切感じられない。
これが、アリスであった頃――あるいはその前に、奴が居た場所なのか?
それとも「孤独な悪夢」の心象風景として生み出されたカリカチュアなのか。
求めたところでその答えはわかるまい。オウガ・オリジンが答えるとも思えぬ。
そしてなにより、戦いには不要だ。なにせ敵はオウガ・オリジンではない。
彼奴が生み出す悪夢の獣――制御の効かぬ鮮血の殺意の群れなのだから。
魔導ゴーレムたちは、波濤のように迫りくる狼型の悪夢獣を全力で受け止めた。
相当の戦闘能力を持った悪夢獣だが、その行動は極めて単純かつ直線的だ。
つまり、理性がない。ハルマに突破口があるとすれば、そこしかない。
(一瞬でも止めてくれればいい。そうすれば――殺せる)
ハルマは魔導ゴーレムの巨体に隠れ、一瞬で闇の中に溶け込んだ。
悪夢獣は恐ろしい。だが、闇は鮮血に染まりし獣どもの味方ではない。
たとえ敵が生み出した闇の中であろうとも、それを利用するのが忍びの業。
ハルマは暗闇に乗じて敵集団の背後を取り、爆破手裏剣をばらまいた。
KRA-TOOOOM!! 背後から爆撃を受けた狼型の悪夢獣は為す術もなく炎に飲まれる。
振り向いて攻撃しようとしたならば、タイミングを合わせたゴーレムが突撃。
その拳を叩きつけ噛みつきの出掛かりを潰す。無言のコンビネーションプレイ!
「生みの親はともかく、お前らまで苦しむ必要もないだろ」
悶絶する狼型悪夢獣の喉笛を、ハルマは一瞬の斬撃によって裂いた。
そして横から噛み付いてきた悪夢獣を旋棍で迎撃し、ごきりと首をへし折る。
「……どうせ見るならいい夢を見ろよ。おやすみ」
オブリビオン・フォーミュラ。それは、諸悪の根源。
だとしても、こんな悲鳴をあげながら苦しみ続ける必要はないはずだ。
贖いはもう済んだ。少しでも早く終わらせるために、ハルマは闇へと挑む。
成功
🔵🔵🔴
ジョン・フラワー
アリスが助けを求めてる
僕も行かなきゃ!
とにかくいっぱい倒せばいい?
怖いものが全部いなくなったらアリスは嬉しい?
それなら任せて! おおかみ頑張っちゃうよ!
暗くて不気味な場所だけど、おおかみって暗い場所得意なんだ!
ほら、悪い狼がたくさんいるだろう。えっ、普通に見えてる?
それじゃあ早速退治だ! 木槌の餌食になっちゃえ!
なぎ払いと吹き飛ばしで壁の染みみたいにしちゃうぞ!
継戦能力はあるし元気もまだまだ十分!
囲まれても衝撃波で散らしてあげるよ!
馬だって正面から勝負だ! 後ろになんて下がらないよ!
すごいパワーで突進してくるならこっちだってすごいパワーで叩き返しちゃうもんね!
粉々になっても知らないんだから!
●アリスのために
アリスが。
アリスが呼んでいる。
喉を枯らしそうなくらいの大きな声で、高く高く鳴いている。
なら助けに行かなきゃ。だってそれが僕の仕事なんだもの!
「待っていてね、アリス。きっと痛いのだろうね、暗くて怖いのかもしれない!
そんなに泣かなくても、僕が来たのだから心配ないよ。アリス、今行くよ!」
ジョン・フラワーは底抜けに明るく言い、闇の奥へと飛び込んだ。
暗闇の中にいくつもの光――眼光。狼型の悪夢獣の群れが現れた。
一体一体が強力なオブリビオンである。ジョンは、きょとんとして首を傾げた。
「どうしてこんなところに、悪い狼がたくさんいるんだろう。不思議だなあ。
おおかみは僕だけで十分なのに。どうやら僕も見えているみたいだし、仕方ない!」
響き渡るオウガ・オリジンの悲鳴は、ジョンの耳に届いているが聞こえていない。
そもそも彼は、オウガ・オリジンという個を認識していない。
誰かが助けを呼んでいる。苦しい、怖い、辛いと泣いて叫んでいる。
ならばそれは"アリス"であり、僕が助けねばならない可愛いアリスなんだ。
だからいつも通りに遊びだけ。木槌を振り回し、狼型の悪夢獣を打ちのめす。
ぐしゃんっ!! と自動車衝突事故のような轟音とともに、血のシミに変わる獣。
凄惨な戦いだ。武器を振り回すジョンは明るく笑っていたが。
「おおかみは暗い場所が得意なんだ! キミたちは悪い狼だから、まだまだだね。
僕を止めることなんか出来ないよ。だって、アリスが僕を呼んでるんだから!」
ぶんぶんと衝撃波を巻き起こし、飛びかかってきた狼どもを吹き飛ばす。
腹を見せた悪夢獣に襲いかかって、そのままぐしゃんと床に叩き潰した。
鮮血が飛び散る。ジョンのはつらつとした笑顔を返り血が汚す。
ジョンはまるで汗を拭うような顔で血を拭い、散々たる周囲を見渡した。
「さあ、それじゃあ急ごう。待っていてねアリス、すぐに僕がたどり着くさ。
かわいいアリスの泣き声なんて聞きたくないもの。僕はおおかみだから!」
たしかにそれは助けを求める泣き声で、それはアリスでもあった。
もはや人食いのオウガに成り果てていようと、ジョンには違いはない。
彼は暗闇に勇気を胸に挑む。"かわいいアリス"を救い出してあげるために。
純粋すぎる明るさは、正義とも悪ともつかぬまったく別の何かだった。
成功
🔵🔵🔴
ロカジ・ミナイ
おいおい、ここは獣医じゃねぇよ
ずっと腑に落ちないでいるのよ
なんで医者と獣医と分けられてんのか
人も狼も狐も、おんなじ獣じゃないの
……でもすまないね、獣よ
僕はお医者に躾けられたから
どうにもここにお前らがいることが穢らわしい
すまないね、すまないね、おなじ心臓持ちだってのに、こんな
そんな風なことを、なく様に囁きながら
殺虫剤を噴霧するみたいに刀を振るう
出鱈目に舞う太刀筋は出鱈目な数を斬るはずさ
狐火に灼かれる方がよかったかい?残念だったね
皮肉で滑稽なものに
人は共感と救いと、同情をしる
怒り罵る、動けぬ乙女
病院の
止まらぬ血
病棟の奥に棲む少女は
俗世に生きられぬ故そこにいる
あわれすぎてこわいほど、逢いたくないね
●サナトリウムのあの娘は
「――……すまないね、獣よ」
ロカジ・ミナイは悲しげに瞼を伏せ、狼型の悪夢獣を真っ二つに両断した。
切断された残骸も一瞬で四、八、十六にバラバラに解体されて床に転がった。
無慈悲な剣。憂いを帯びた表情とは、まるで別の生き物めいて不釣り合いだ。
ロカジは剣を止めない。歩みも止めない。切なげに眼を伏せたままただ、斬る。
「僕はお医者に躾けられたからさ。腑に落ちなくても、腑分けするしかないんだ。
どうにもここにお前らがいることが穢らわしい。だから、我慢ならないのさ」
たとえ、人も狼も狐も、おんなじ獣だとしても。
ロカジは獣医ではなく"医者"だ。人を直し、人を治すものだ。
たとえ当人が獣の血筋、精髄を喰らって奪うモノであろうとも。
獣に寄り添うことは出来ない。獣の糧となってやることは出来ない。
だから殺す。惜しむように鳴きながら、苦しむように啼きながら。
声だけ聞けばそれは慚愧の塊。されど刃はジグザグで出鱈目で無造作だった。
「すまないね」
横薙ぎから縦に。縦から横に。ジグソーパズルのように獣を切り裂く。
「おなじ心臓持ちだってのに。こんなふうに、腑分けしてやるしかない」
首と脚と肢とを繋げるようにバラバラにする。まるで殺虫剤をばら撒くように。
声も、眼差しも、表情も、雰囲気すらも哀切に溢れているのに。
手首から先は機械のようだった。己に出来ることを当然にやっていた。
殺せる。ロカジならば、悪夢の獣などあくびをしながらでも殺すことが出来る。
だから、そうする。慚愧も哀切も憐憫も、共感も同情も刃には乗せない。
出鱈目な剣は出鱈目な数の獣を殺し、出鱈目な数の骸を遺してただ進む。
黙祷などない。哀悼などない。死んだそれらは、もはや獣ですらないただの残骸。
いや、こいつらは最初からそうなのか。なら哀れみの声はすべて偽りか?
「すまないね」
詫びる声も言葉も眼差しも、その雰囲気も何も偽りの皮肉でしかないのか?
ロカジは好んで道化師を演じる滑稽な役者に過ぎないとでも?
ならば彼は、どうしてここに来たというのか。
怒り、罵り、動けぬままに闇の中で悲鳴を上げる乙女の声。
耳障りな悲鳴が響き渡るこの地獄。悪夢じみた悪夢にわざわざ来たのか。
ただ皮肉で嘲笑うために? ただ滑稽に茶化してみせるために?
否である。ロカジの声も言葉も表情も、その雰囲気も思いもすべて真実だ。
獣と人は同じいのちであるはずなのに、違うものとして扱われてしまう。
それは変えようのない事実。変えてはならぬ境界線。ロカジはどちらに立つ。
人か。――人は、斯様に無慈悲に獣を、いのちをバラすことなど出来まい。
獣化。――獣は、こうも皮肉で滑稽な姿をして、懊悩することなど出来ようか。
どちらでもなく、どちらでもある。半端者はそれゆえにどちらにもなれぬ。
人でも獣でもなく、いのちを持ちながらいのち持たぬあの少女のように。
サナトリウムの奥の奥、救いを待つ乙女でありながら人食いの怪物たるそれ。
ああ。響く声はなんとも可哀想で、だのにそこに優しさはない。
人の情はない。オブリビオン・フォーミュラ。君臨するものの無慈悲がある。
オウガ・オリジンという、当然のように少女を食らう鬼の冷酷さがある。
「逢いたくないね。こわくてこわくて仕方ない。だからお前はそこに居るんだろ。
人のかたちをしているくせに獣のようで、だから誰にも寄り添えず寄り添われない」
そして無意識から獣が生まれる。ただ貪欲に血を求めるだけの獣が。
共感と救いと同情は、皮肉で滑稽なもののなかにこそ宿る。
自分の姿はさぞかしアイロニカルで、そしてコミカルなのだろう。
この思いも、この刃も。どっちも己が思うままやっていることなのに。
「僕にはお前は、治せやしないんだよ」
だから殺すしかない。
溢れ出る獣を。同じいのちとして、ただ殺してやるしかない。
人でも獣でもないものは、機械的に刃を振るう。出来ることをする。
積み重なる獣の死骸は、まるで男の無力さを形にしたかのようだった。
大成功
🔵🔵🔵
穂結・神楽耶
鷲生様/f05845と
これが悲鳴の代わりだとしたら、相当に苦しいのだと思います。
…ええ。多くを斬り果たせばそれだけ早く終わるでしょうから。
迅速に参りましょう。
ならば遠慮なく、奔らせて頂きます。
追い越していきますよ──【影追白雨】!
鷲生様の放つ斬撃を追い風に、只々前へ。
立ち塞がる獣が多いなら斬撃の回転数を増やせばいい。
目の前の総てを薙ぎ払い、道を拓きます。
防御は考えない。
負傷は考慮に値しない。
敵の牙すら前進の勢いに変えて。
囲まれたとて一点を突破。
始原の悲鳴が響く方向を目指し駆けましょう。
それはきっと獣の数が多い場所です。
本当に痛いのはわたくし達じゃない。
それでも───斃さねばなりませんから。
鷲生・嵯泉
穂結(f15297)同道
さて生憎と憐れんで遣れる程心は広くない
だが……余計な痛苦を与え続ける必要もあるまい
発生元に近い程数も増えようから、其の方向へと向かう
今更血に塗れる事を厭いはしない
視界を奪われる事のみ注意し、躱すか防ぐかするとしよう
――壱伐覇壊、掃討開始だ
五感の情報と第六感の先読みで以って攻撃は見切り躱し
なぎ払い交えて「道」を拓く事を優先し、囲ませぬ様に立ち回り
穂結へと向いた攻撃は阻み落として届かせん
……穂結、お前なら衝撃波の“波”にも乗れよう
心置き無く奔るが良い
振り抜いた刃の後、怪力を脚へと回して遅れず追い
遺す事無く悉くを斬り払う
夢は何時か覚めるもの……悪夢ならば早い方が良かろうよ
●獣のかたちを取る理由
あるものは、悪夢獣をオウガ・オリジンの憎悪のかたちと取った。
あるものは、悪夢獣をオウガ・オリジンの恐怖のかたちと取った。
あるものは、悪夢獣をオウガ・オリジンの殺意のかたちと取った。
穂結・神楽耶はどれでもない。彼女はただこう感じた。
「――……これが、この獣たちが、あれの悲鳴の代わりなのだとしたら」
憎悪でも、
恐怖でも、
殺意でもなく。
ただ苦しみ、悶え、絶望し、何も出来ずにあげる悲鳴のかたちなのだと。
あらゆるオウガに君臨し、鬼畜外道の冷酷さでアリスを喰らう不思議の国の王。
ハートの女王の首を刎ね、鏡の女王を鏡に変えてしまうおぞましき暴君。
それは寄る辺なきもの。並ぶものなきもの。フォーミュラとは頂点であり孤独。
おぞましき怪物の奥底に隠されていたのは、刃でもなければ針でもない。
……自分自身の棘で自分を苦しめてしまう、哀れな娘の悲鳴でしかないのだと。
「それはきっと苦しいのでしょう。このこだまする怨嗟の声よりもずっと。
わたくしたちには想像も出来ないほどに、孤独で、辛く、寂しいのだと思います」
「……どうであれ、私には関係のない話だ」
そんな神楽耶の言葉を、鷲生・嵯泉は冷たく、無慈悲に一蹴した。
「辛く苦しく絶望しているからといって、憐れんでやれるほど心は広くない。
あれはどうしようもない人食いの化け物で、これでもかと屍を曝してきた。
同胞であり部下であるモノすらも玩弄し、貶め、そして君臨した化け物だ」
「…………」
「――だが、"それがどうした"」
嵯泉の言葉に、うつむいていた神楽耶は、はっと顔を上げた。
「斯様に苦しみのたうつ必要などどこにもない。もたらすべきは死のみだろう。
……余計な痛苦を与え続ける必要もあるまい。穂結、疾くこれらを斬り捨てるぞ」
「……はい、はいっ!」
神楽耶は、己の懊悩を、嵯泉がくだらぬと一蹴するかもと思っていた。
けれどその思い込みのなんと浅はかなこと。彼は冷徹でも冷酷ではないのだ。
彼は知っている。刃振るうものの責務、越えてはならぬ一線というものを。
人食いの怪物。鬼に君臨せし始原。そんなものは、苦しみを与える理由にならぬ。
憐れみはない。だが下卑た嗜虐もない。ただ一秒でも疾く終わらせてやるのみ。
それを阻むために、悲鳴のこだまが、鮮血で染まりし悪夢の群れが飛び出した。
ふたりは同時に刃を抜いた。苦しめるためでなく、終わらせるために。
兵法に曰く、殺人刀と活人剣と云ふものあり。
一の悪を斬り殺すは殺人刀であり、之を以て十を活かすを活人剣と云ふ。
殺すも活かすも所詮は表裏一体、どちらが欠けても成り立たぬ。
殺さずして悪を討つことは敵わず、活かすために殺さずは通じない。
剣の具現たる少女と、剣を振るい続けた男はそれを知っている。
最速かつ最短をひた走る。阻む闇と獣とを、その刃で一閃し踏み越える。
瞬きよりも疾く、刹那よりもなお疾く、閃くように、煌めくように、斬る。
守りなど考えず。牙が肉を削ぎ、爪が骨を抉ろうと、ふたりは足を止めない。
道を『斬り』拓く。敵の血と、己の血とが、足元で混ざりあい標となる。
残酷と誰かは云うのだろう。情けなくして振るう剣のなんと軽薄かと。
言わせておけばよい。刃を振るう重みも、痛みも、己だけが知っていればよい。
獣どもに罪はない。これは、ただ苦しみの泥濘から生まれたこだまでしかない。
憐れみは不要。憎悪も不要。ただ斬るべきを斬り前に進むべし。
なぜならば。声が聞こえるのだ。君臨者とは思えぬ悲痛な声が。
正道を謳うにはあまりに血を流しすぎてしまった己だけれども。
こんないたいけな声を聞いて走らずして、何が剣士か。何が猟兵か。
感謝などないだろう。見返りもない。しかしそれでいい。剣とはそういうものだ。
克己は自らのためであり、積み重ねた武は己だけのために在り、剣もまた同じ。
ならばこそ、足を止める理由はない。痛みなどで、この脚を止められるものか。
「……穂結。我が"波"に乗れ。心置きなく"奔る"がいい」
「承知いたしました」
嵯泉は剣を薙いだ。『間』という概念をも断ち切る絶無の剣。
剣閃は衝撃を産み衝撃は波となり、見えざる波動が闇にこだまする。
神楽耶はその目に見えぬ波に乗った。ごうごうと風が耳元で唸る。心地よい。
速度は魂を洗い流してくれる。痛みも悩みも、何もかもを。
振るう刃は羽根のように軽く、怖くなるほどに手応えもない。
それが恐ろしい。この恐怖を感じるうちは、きっと自分はまだ人の側だ。
「――本当に痛いのは、わたくしたちじゃない。だとしても」
鬼は討たねばならぬ。
憎悪でも恐怖でも殺意からでもなく、ただそうある世界に戻すがために。
過去は、終わらせねばならぬ。それが摂理であり、彼女たちの願い。
剣豪があとに続く。ふたりは色ある風のように闇を駆け抜け獣どもを切り裂く。
レールのようになびく血の色は、その凄絶なまでの覚悟が描き出した絵画のようだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
水衛・巽
原初のオウガが苦悶する悪夢とは
果たしてどんなものなのでしょうか
別に知りたいとも思いませんけど
どれほど凄惨なのかという興味はあります
部屋から廊下等への開口部で待ち受け
ボトルネックになった悪夢獣を狙いましょう
結界術でさらに間口を狭めておき
一度に多数が通れぬよう対策します
限界突破した高速詠唱でもって
矢継ぎ早に悪夢獣を処理、迅速に殲滅する
かなりの量の返り血を浴びるでしょうが別に構いません
それが嫌ならここには立っていないでしょう
ああ、血と言えば生命力とは切っても切れぬ仲
これだけの数を相手取ればかなり消耗するでしょうが
生命力吸収と覚悟で乗り切れるやもしれない
もっとも、あまり出所については考えたくないですが
●焔を生み出すもの、炎が生み出すもの
『GRRRR!!』
「まず、ひとつ」
水衛・巽は部屋の入口入ってすぐに待ち受け、悪夢獣を一撃で断首した。
そして一歩踏み込む。後続の悪夢獣が、飛びかかるより先に縦に両断する。
「ふたつ」
ウサギ型、というとどうしても小さく可愛げのある姿を想像しがちだが、
実際に相対する悪夢獣はそんな生易しいものでないことを、巽は理解した。
牙を剥き出しに、双眸をちぎれんばかりに見開くそのさま。
鮮血で構成された全身はグロテスクなまでに膨張し脈動している。
まるでウサギという生物を、子供の落書きめいてカリカチュアライスしたもの。
「――みっつ」
飛び込んできた悪夢獣を、大きく飛び退りながら横薙ぎに一閃。
ギリギリまで、しかしけして触れぬところに牙を伸ばしたまま、また首が跳ぶ。
着地。……悪夢獣の肉体はどろりとゼリーめいて溶け崩れ、血となった。
「あまり、この獣どもが"何"によって作られたのかは考えたくないですね」
巽は返り血を拭いながら剣を払う。
あかあかとした血はオイルのように燃え上がり、そして巽の周囲を回遊した。
闇の奥に新たな気配。巽は眦を決し、衛星めいて燃える狂焔を投射した。
「焼き尽くせ、朱雀」
刃に振られて加速した焔は鳥の形に変わって、さらに強く猛々しく燃える。
焔は闇を切り裂くようにして飛翔、その奥から来る獣どもを先んじて燃やした。
巽は駆け出す。足を止めて斬っているだけでは、この列は途切れないのだ。
道を開くためには前へ進まねばならぬ。止まれば、悪夢に飲まれる。
(晴れぬ闇。陰鬱とした世界……これは原風景があるものなのでしょうか)
朱雀の焔を逃れた敵を斬り殺しながら、巽はよそ事めいて考え続けた。
あるいはこれが、アリスとなる前のオウガ・オリジンが居た場所なのか?
はたまた、"暗く陰鬱な世界"というある種の共通幻想から生まれたものか。
真偽は定かならぬ。おそらく、オウガ・オリジンすらも覚えていまい。
これは無意識の悪夢。あれにすら制御しきれぬネガティブイメージなのだ。
「どれほど凄惨なのか、興味は尽きないですが」
焔の結界で己を護る。その焔を燃やすのはオウガ・オリジンの血だ。
人食いの化け物の血。つまり、人を食らって得た生命力、薪である。
それを利用することに呵責はない。悔やんだところでいのちは戻らない。
「――それで命を落としていては本末転倒。すべて斬るのみ」
巽は瞑想的に言う。焔はゆらめき闇を払った。そしてまた駆け出す。
けれども、燃える炎は闇を払いつつ新たな影を生む。
光があればどこかに影が生まれる。駆け抜ける巽の伸ばす影法師のように。
巽は振り返らず、省みることもない。足を止めれば悪夢に囚われてしまうのだ。
響き渡る悲鳴にも耳をくれず、ただ奔る。瞑想的に斬り続ける。
……そうするしかない。今このときだけは、ただ無心でいなければ。
冷静と揺籃の間に心が揺れる。戦いながら懊悩出来るほど、巽は器用ではない。
血が飛び散り、そして燃え上がる。それは獲物を貪食する獣の牙に似た。
大成功
🔵🔵🔵
ヒルデガルト・アオスライセン
罪業が沈底し大気が澱んでいる
およそ療養に相応しくない不全な地だ
何より光が射さない
貴女は一体どんな目に遭ったというのか
肌を切って血を垂らし、生者の痕跡を残して、匂いで誘き寄せ。他方面の影を吸い寄せて手薄にします
悪夢獣を剣で分断して返り血を頂きます
同胞の血じゃないだけ10000倍マシよね
血で目が見えなくともイーコアが悪の存在を逃さないわ
致命打を砂の外套を囮にした残像で躱し、元気一本で立ちます
足元の影を沼地のように広げて、後戻り出来なくしてあげる
集まったところで盾を爆発させて範囲攻撃、血の雨を降らせます
大物量の雪崩れ込みには、浄化で大剣の刃を伸ばして暗雲を裂きUC
回転切りの一斉攻撃で悪夢を晴らします
●光射さぬ地より
「……ッ」
ヒルデガルト・アオスライセンは、呻き声を顰め面で噛み殺した。
最初に遭遇した獣どもがもたらした血は、業腹だが利用する価値がある。
ゆえに、傷を覆わず癒やさず、逆にその血をぽたぽたと撒き散らす。
まるでお菓子の家を目指す純朴なきょうだいめいて、パンくずのように。
そこかしこから飢えた獣の気配を感じる。――これでよい。
『GRRRRR!!』
「そこね」
神血(イーコア)が、心臓の脈動とともに不浄なるものの気配を知らせる。
ヒルデガルトは目で見ず肌で感じ、触れることなく視ることで敵を察するのだ。
背後から飛びかかる悪夢獣。回避と攻撃が一体になった斬撃で首を刎ねた。
地面を転がる首は別の悪夢獣に対する牽制。崩れ落ちる巨体を足蹴に跳ぶ。
一角獣型の悪夢獣が飛び出す――その前足を、路傍の石めいて生首が遮った。
臓物を貫くと見えた角は少女の柔肌を浅く裂くに留まる。苦痛に顔を顰める。
(光射さぬ不全の地で生まれたけもの。吐息すらも大気を澱ますかのよう)
ヒルデガルトは一角が通り過ぎるより先にそれを掴み、ぐるりと引っ張った。
きりもみ回転しながら着地することで、一角を合気道めいて投げ飛ばしたのだ。
獣は弓なりに軌道を描いて浮かび上がり、そして落着。轟音と衝撃。
クレーターを生じさせながら叩きつけられた身体が、ばしゃりと血に変じた。
返り血がヒルデガルトの顔を朱に染める。ぺろりと、舌が這いずった。
「血が欲しいの――だなんて言うと、あの鬼どものようね」
新たな獣の気配。ヒルデガルトは一角獣を真似るように剣を突き出した。
そして可能な限り身を低く構えると、一気呵成の勢いでまっすぐと吶喊する。
地を均す杭めいた悪夢獣の前足を刈り取り、そのまま上へ。胸筋を断つ。
ぶちぶちと筋肉のちぎれる感触。邪魔な獣を真っ二つに両断し、さらに前へ。
巻き上げられた血が天井に飛び散り、そしてぽたぽたと垂れる。血の雨だ。
『『『GRRRRR!!』』』
「そんなに血が欲しいなら、あなたたちにもあげましょうか」
光の盾が膨れ上がり、そして爆ぜた。血と霊性が混ざりあい炸裂する。
一網打尽の爆裂。束の間瘴気は消し飛び、清冽な空気を胸いっぱいに吸った。
剣を両手で掴み、刃を数倍にまで拡張する。霞構えで再び地を横に跳ぶ。
だんっ、と左足で強く床を叩き、全身を躍動。一角による歓迎を迎え撃つ。
二方向から突き出された角が肩口と脇腹を裂く。返礼が敵をなます斬りにした。
巨大化した浄化剣による横薙ぎ。獣どもは胸部あたりで真っ二つとなる。
一回転。――二回転、三回転! 勢いを殺さずむしろ加速する!
「退きなさい! 罪業の獣が、私を止められるものかッ!!」
凛とした声。剣閃は闇に残光として残り、膨れ上がり、そして爆裂。
螺旋を描く流星は獣も闇も裂きながら悪夢を晴らしていく。血だけがあとに残る。
これがかつての追憶であろうと、想像から生み出されたものであろうと、
どうでもよい。不浄なる闇は光を以て払い、悲鳴があればこれを止めてみせる。
悪を討つことでそう出来るならば、ヒルデガルトは躊躇なくそうする。
――たとえ、悲鳴をあげるものと、討つべき悪が同一だとしても。
(貴女がただ傷つき虐げられるだけのものであれば、言葉も交わせたでしょうに)
それが口惜しくはある。けれども、足を止める理由にはならない。
外套をなびかせて、ヒルデガルトは前へ踏み出した。
――悪夢の闇は、もうすぐ晴れる。
大成功
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矢来・夕立
蛇さん/f06338
●方針
姿を隠して進行
ラーガを盾にして矢来が致命傷を入れる形
あの真っ黒いツラもいい加減見飽きました。
これが最後のシゴトになるでしょうか。我々らしく、小賢しく行きましょう。
【紙技・化鎮】。
敵意センサーの精度は分かりませんが、蛇さんのそれだと勘違いしてくれれば重畳です。
傷を受けたなら受けたほど強くなる。真正面からやり合う。
そういうのは、盗人とはかけ離れている。
後ろから見ていてそう思います。
この戦法は、その“後ろから見ている真打がいるから”なんですが。
囮役、どうもお疲れ様でした。
“ニンジャ”へのご期待にお応えする義務がありますね。
――首狩りウサギの何するものぞ。御首頂戴いたします。
バルディート・ラーガ
矢来の兄サン/f14904
おお、オオ、こいつアまた不気味な国ですこと。
潜むにゃア都合も良さそですが。コレが奴サンの内なる片鱗なンですかねエ。
数は敵サン方に軍配アリ、真っ向勝負はしたかねエ。
まずは兄サンのお力を……ヒトガタをお借りして、隠密と洒落込みやす。
無論、この敵意を一切気取られずに進むのはちと無理筋。
後への布石をこそ、見えねエうちに抜かり無く示し合わせやす。
向かい来る兎共、あっしが極力「かばう」形にて引き受けやす。
ヒヒヒ、どうぞこの蛇めを刻ンで下さいまし……
血イが流れる程に地獄の炎も燃え上がり、敵サンの目エも引きつける。
なるッたけ暴れて隙を稼ぎ、後は。とくと見やがれ、ニンジャのお手並みを!
●テニエルに捧ぐ
ジョン・テニエル。名高き不朽の名作に絵の彩りを添えた男の名だ。
しかし風刺を能くした彼は、ルイス・キャロルの世界観を理解しきれなかった。
"――かつらの中のスズメバチ? そんなものは芸術の域を"逸脱"している"。
彼はことあるごとに奇妙奇天烈な不思議な世界と描写に疑義を見せ苦言を呈し、
けっきょくは『鏡の国のアリス』が、ルイスとの最後の仕事となったのだ。
はたして、もしその士爵がいまもなお生きていたのだとすれば。
この世界に蔓延る悪夢の獣どもを見て、どんな感想を漏らしたことだろう?
『鏡の国の~』は、テニエルにとって様々な意味で"思い出深い"作品となった。
後年彼は、鏡の国を描いたことで自らの"描く力"が減退したとまで言っている。
ルイスの描く世界は強烈すぎたのだ。士爵を辟易させるほどに。
しかしいまなお、かの氏が描いた世界は、金字塔として打ち立てられている。
……生まれたる悪夢の獣どもは、その名誉を穢すかの如き異形であった。
「おお、オオ、こいつアまた不気味な連中ですこと……ヒヒヒ」
バルディート・ラーガは襲いかかる獣どもを打ち殺し引き裂いて殺し、
だくだくと全身から血を流して朱に染めながら、それでも不敵に笑っていた。
傷口からあふれる炎は地に溢れることはなく、ちろちろと蛇の舌めいて揺れる。
……否、正しく言うならば、穴蔵から顔を覗かせる狡猾な蛇そのもの。
"蝕む簒奪者"。バルディートの"転んではただで起きぬ"の性根が結実したような、
被弾是反撃となる無駄のないユーベルコード。燃え上がるのは地獄の黒炎だ。
傷を与えた獣は焔の蛇によって応報を知る。喉元に噛みつかれ息絶える。
バルディートはただ腕を伸ばせばよい。傷が彼にさらなる力を与えるのだ。
黒炎の蛇が啜った精髄は失われた生命力を補填し、歩く力をくれる。
実に、無駄がない。何事も効率的に利用してこそのシーフと言えよう。
「まったくしんどィ役回りでさ……ええ? それもこれも、お前サンのせいだ」
かつん、こつん。
ダンスホールめいて開けた闇のなか、バルディートの足音が高く響いた。
その中央。手首を抑え、傷ついた獣のようにうずくまり嗚咽する少女が居た。
……ただしくは、少女のかたちをした、少女ならざる化け物が。
「オウガ・オリジン。よォやく辿り着きやしたぜ。だがちと休憩――」
ふらりとよろめいたバルディートに、闇の奔流が飛びかかった。
正しくは生まれたばかりの獣の群れ。蛇は辟易した表情で陰気に笑う。
喉笛狙いの噛みつきを倒れながら身を翻すことでかろうじて回避。
浅く裂かれた傷口からぼっ!!と黒炎が飛び出て、蛇の牙が反撃を終えた。
目には目を、喉笛狙いには喉笛を。噛まれた獣はくろぐろと燃え上がる。
「油断も隙もねエときた! で? 次はどいつが出てくンで!」
バルディートはやけっぱちめいて叫ぶ。八方からうぞうぞと現れる獣。
オウガ・オリジンはこちらを省みない。否、そもそも気付いているかどうか。
バルディートもいよいよ終わりか。彼は観念したように大きく腕を拡げた。
「あーア、いやンなっちまいやすよまったく! そオいうわけなンで――」
にたり。蛇の笑みは、諦めた弱者のそれではなかった。
「"そろそろ働いてくださいや、兄サン"」
直後、闇の中で何かがうごめき、弧を描くようにして獣どもを仕留めた。
牙を、角を、爪を尖らせてバルディートに襲いかかるはずだった獣ども。
それらは炎で燃やされようと、代わりに深い傷跡を残していただろう。
いかな猟兵とて、四肢をもがれ数十に引き裂かれれば死ぬ。当然のことだ。
心臓の鼓動を止めれば死ぬ。薪がなければ炎は燃えぬ。地獄であろうとも。
だから必殺のはずだった。……いや、必殺の間合いでは、あった。
ただしそれは獣どもにとってではなく、闇に隠れた矢来・夕立にとってだが。
「――首狩りウサギの何するものぞ。ってとこですかね」
はじめからそこに居たように……事実そうなのだが……夕立が立ち上がる。
役目を終えた式紙がぽろりとこぼれおち、焦げるようにして灼けた。
首をこきりと鳴らす。逆手に構えた苦無の血を、ぶん、と振るって払った。
「ヒヒヒ! さアすがはニンジャの手管だ、お見事でございやすねエ!」
「それはどうも。大道芸がご希望なら別の出し物もありますけど?」
「いやア、そういう派手なのはもっと明るいとこで頼みやす。ここはちと暗すぎる」
ちろちろと舌を覗かせつつ冗談を叩くさまは、いかにも盗人らしくない。
あの戦い方もその性分も、闇に生きるものとしてはいささか派手すぎるものだ。
……が、いまさら夕立が、バルディートを腐すこともない。
そういう性質(たち)であることはこの戦いを通じて知っていたし、
だからこそ自分は十全に働けた。燃える焔の生み出す影に紛れることで。
夕立は冷たい視線をオウガ・オリジンへ向ける。獣が生まれる気配は、ない。
「さすがに無尽蔵というわけでもないですか。先駆者に感謝ですね」
「兄サンも人が悪い、じゅうぶんに数が削れるまで待ってらっしゃったでしょうに」
「戦術の範疇ですよ。……さて」
ツカツカと少年は歩み寄る。逆手に握りしめたままの苦無を振り上げた。
「雑魚を露払いしておしまいというのも、"ニンジャ"としては微妙ですし。
御首頂戴、とでも言っておきましょうか。何か言い遺すこと、あります?」
『…………ぜだ』
オウガ・オリジンは呻いた。夕立の相貌はぴくりとも揺るがない。
こうして処刑めいてもったいぶっているのも、そのプライドを踏み躙るため。
君臨する強者の顔に泥を塗ってやることは、夕立の悪癖と言ってよかった。
『なぜだ、なぜ、わたしをさっさと殺さない……』
「その苦しんで悶えてるさまがたまらなく見たかったからです」
ヒヒヒ、とバルディートが後ろで嗤った。同意? 皮肉? さて。
「あなたはフォーミュラでしょう。つまりオウガの頂点、この世界の支配者。
オレとしてはこの世界自体はどうでもいいんですが、そういうのが気に入らない。
……で、実際どうです、気分は。あなたの手勢は全部狩り尽くしましたよ」
『忌々しい天敵め。わたしを嘲笑うためにここまで来たのか』
夕立は大鉈を振るった。オウガ・オリジンの両腕が肩から脱落する。
絶叫。冷たい瞳はぴくりとも揺るがない。
「質問の答えは?」
『…………ふ。は、ははは』
オウガ・オリジンは煮え立つように嗤った。怒りがあった。
『もう、どうでもいい。わたしは疲れた。もうたくさんだ、もう十分だ。
何がフォーミュラだ。何が君臨者だ。いまのこのわたしがらしいとでも!?』
「面白いくらいに無様ですね」
『それで満足できない貴様はよっぽどの"欲しがり"だ、餓鬼め』
夕立の相貌は揺るがない。
「滑稽でいいことです」
『――……わたしの悪夢は、終わる。貴様のそれは、どうだろうな?』
「あなたほど無様にのたうち回ることはありませんよ。お疲れ様でした」
大鉈がもう一度振るわれた。見飽きた黒い面を穿つ鋒。絶叫。
そしてオウガ・オリジンは霧散する。闇が薄らぎ世界が崩壊を始めた。
「……兄サン。いつになく饒舌でございやしたねエ?」
「手間取らされましたから。蛇さんも何か言ってやりたかったですか?」
「いンや、あっしはそういうのは不慣れなモンで。ヒヒヒ」
「よく言いますね。こんな後始末にわざわざ同行しておいて」
「我ながら悪趣味だと思いやすよ……っと! 他意はございやせンぜ、ヒヒ」
「構いませんよ。よく言われますしオレもそう思います」
ふたりは話しながら踵を返す。闇の世界は心地よいくらいに身に馴染んだ。
「――……しかし、ひとつだけ思うことがあるとすれば」
バルディートは肩越しに振り返る。
「"お前の悪夢はまだ続くぞ"って台詞。ありゃ捨て台詞としちゃ大したモンだ」
「…………」
夕立の相貌は変わらない。双眸は遠くを見ている。
「少なくとも、あんなふうに救いを求めて蹲るつもりはありませんがね」
「ヒヒヒ。死ンでも御免ってツラぁしてらっしゃる」
「其処まで変化ありますか? オレの顔」
「もののたとえでござンすよォ。兄サンの顔が読めたら賭けは負けなしでさァ」
「いい趣味してますね、蛇さんも」
悪夢。……なるほど、生きることは暗中模索と言えなくもない。
特に夕立のそれは、ままならぬ現実と己の業に苦しめられるようなもの。
さながら絵画家の士爵が、"かつらの中のスズメバチ"に苦しめられたように。
求めど手の届かぬものがこの世には多すぎて、ならば諦めてしまえばいい。
せめて諦めたふりをしておけば、余計な感傷に流されることもないのだ。
それでも、守りたいものがある。冷笑してきたそんな言葉が己にもあった。
口になどすまい。顕しもすまい。ただ、この技巧で為せればいい。
何も守れず生かせないとしても、殺され奪われる前に殺してしまえばいい。
……その積み重ねが、巡り巡って自分を殺す因果になるとしても。
「悪夢なんてものは、悪夢だと考えるからより悪くなるものでしょう」
「ポジティブシンキングってヤツだ! 兄サンらしくねェでさ!」
「そう言えるほど、あなたはオレを知ってますか?」
じゃれあいめいた皮肉に、蛇は喉を鳴らして嗤った。
「少なくとも、あンたのそれが嘘じゃねェことがわかるぐらいには」
答える言葉はなかった。それが、ある意味で肯定とも言えた。
大成功
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