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ダウンフォール・スティグマ

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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●そこに物語はない
 夜の帳が下りて、月明りさえ沈もうかという夜更けの頃。
 それは、ある寒村地で囁かれた噂。
 何故か寝苦しさを覚え、何気なく冷たい井戸の水を被っていた哀れな少年が聞いてしまった誘いの声だ。村の直ぐ傍に聳える山向こうから風に流れてきた音色は、果たして歌唱のそれに近かったのだ。
 少年は、自らの髪の毛先から滴り落ちる水の音に混じって聴こえる。少女のものだろう声に耳を向けてしまう。
 悲鳴ではない。ただ、聞いているだけで背筋を指でなぞられるような、意思とは無関係に体がぶるりと震える音色だった。
 嫌悪感がないことだけが異様に思えた。

 少年は、静かな村の中をゆっくりと歩いて往く。
 灯りも無いような深い暗闇の中だ。彼は何となく、手を前に突き出しながら山の方へと向かって行ってしまった。
 子供心ながらに適当な所で戻ろうと、もう少しだけ近くで聞いて見たいという好奇心が彼の足を不穏に前へ前へと動かしていた。
 彼は――その後、村には戻らなかった。

●מוותמוותמוותמוותמוותמוותמוותמוותמוותמוותמוותמוות……
 絶叫する。
 光などない。見える篝火は、魂魄の持つ色がそう映るだけ。
 絶叫する。
 暗がりの底で影は手にした刃を引く。切るのではなく、刈るために。
 絶叫する。
 赤い赤い赤い粘着質な。黒いモノが一面に飛び散る。
 絶叫する。
 踏み潰す。跳ねる粘液。噎せ返るような鉄と排泄物が入り混じった臭気が揺れる。
 絶叫する。
 手の平を滑り落ちる雫。掴んだままの柔らかな『それ』に刃を押し当てて、削いでいく。
 絶叫する。
 傍で佇む少年の霊魂は怯えていた。彼の周囲で渦巻く魂魄のいずれもが、恐怖に打ち据えられていた。
 絶叫する。少女。
 ピタリと動きを停め。笑って、少女は振り向いた。

●悪夢から醒めて
 青い顔をしたシック・モルモット(人狼のバーバリアン・f13567)は、小柄な体躯を小さく縮めて言った。
「……頼む。ダークセイヴァ―に渡って欲しい」

 少女は油のような汗粒を額に浮かべ、予知した事を猟兵達に語った。
 ダークセイヴァーのとある小さな寒村地が数日後、村民達の消失によって地図から消えるということだった。
 原因は例によってオブリビオンの仕業だ。少女の姿をした吸血鬼のような存在だったという。
 その様子は狂乱の一言に尽きる。訳も分からず歌う様に絶叫しながら、少女は殺戮の愉悦に浸っていたのだ。
「ただ……詳しい場所が分からないんだ。とても暗い、土と木の葉の匂いがしたのは分かってる。
 私はその村で最初に消えた子供が向かった山に手掛かりが在ると思う。
 麓から見た外観ではわからないけれど、古い森で、かつオブリビオンが潜んでいるなら何があっても不思議じゃないしね」
 思い出すのも辛そうな姿でシックは続ける。
「……暗闇の中で、無数の屍があった。あれは村人以外にも死んでる」
 或いは古くに騎士団のような組織が立ち入り、そして死した場の可能性があるとシックは推測する。
 まさか闘技場のような場所が山に在るとも思えないが――何かがあるのだろう。

 猟兵達はシックの話をひとしきり聞き終えると、足早に彼女に導かれて行った。


やさしいせかい
 初めましてやさしいせかいです、よろしくお願いします。

「シナリオ詳細」

『第一章:冒険』
 詳細はリプレイ開始時に描写致しますが、皆様は地下墓所のような空間を発見し、オブリビオンの手掛かりを追います。
 ロケーション内には敵の気配はないものの多くの霊魂が漂っており、同時に明りの無い中で探索する事を強制されるでしょう。
 エリア内の調査を進めたり、何らかの情報収集スキルやエリア特性に応じたプレイングで成功判定を得て下さい。(最悪エリア内の壁を破壊しまくるのも手ではあります)

『第二章:集団戦』
 複数の強力なエネミーと交戦します。
 (第二章OPの描写)環境に応じて戦闘に工夫を加えると判定に+あったりしますので気分に合わせて戦略を練ってみては如何でしょう。

『第三章:ボス戦』
 最後にオブリビオンと戦闘となります。
 その能力は集団戦となり得るスキルも有しており、強力なエネミーとなります。
 対話の難しい相手ではありますが、プレイング次第で救済の余地がある相手です。
 第三章OP描写に応じて適宜対応をしてください。

●当シナリオにおける描写について
 三章全てにおいて描写(リプレイ)中、同行者または連携などのアクションが必要な場合はプレイング中にそういった『同行者:◯◯』や『他者との連携OK』などの一文を添えて頂けると良いかと思います。
 また、第三章において苛烈な戦闘描写・負傷描写に抵抗が無い場合に『負傷OK』の一文があれば大成功時でも細かな判定数値や状況に応じて描写されます。

 以上。
 皆様のご参加をお待ちしております。
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第1章 冒険 『光の届かない地下墓所』

POW   :    恐怖心を抑え込み探索する。

SPD   :    死者の眠りを妨げないように慎重に探索する。

WIZ   :    呪いや怨霊を祓いながら探索する。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●忘れ去られた墓所
 その場所には、漂う異質な空気に導かれるがまま、現地入りした猟兵の誰かが辿り着いた。
 意外にもそこは村から直ぐ傍にあった山の中腹程に隠されていたのだ。
 土と木の葉の下から覗く石畳の階段。
 照明も無ければ光が入る隙間も無いような、踏み込んで行けば前後の感覚が失われてしまいそうな暗闇。頭上を仰げばそれも解る。山の木々に遮られている事で、日光はおろか夜の帳に陰が増した様な陰鬱さを醸し出しているのだから。
 進む、石畳階段の奥。
 闇に閉ざされた先にあったのは、果たして古いカタコンベのような場所だった。

 ――何処からか吹いた風に、少女の歌声が混ざる。
吉柳・祥華(サポート)
『妾の存在意義とは何ぞや?何ゆえに此処に在るのかぇ?』

旧き時代に祀られていた龍の化身で在ったが
護るべき国は民は既に無いのに何故…自身が現世の『神』として顕現したのかを思案と模索する戦巫女

物腰は柔らかく絶えず微笑を湛える優美な女性であるが
過去の出来事から人(他人)に対しては意外に辛辣…
優美に微笑を浮かべるが実は目が笑っていない

ユーベルは指定した物をどれでも使用
その辺はMSの采配に任せます(意外な使い方とか参考になるから)

基本、他の猟兵に迷惑をかける行為はしないが
必要なら悪乗りはする流れ(他の猟兵と同意と言う設定で)
まぁ…流石に依頼の成功の為と言えど公序良俗に反する行動はNG

連携アドリブ等はお任せ




 淡い光が揺れる。
 地下墓所へと降り立った吉柳・祥華(吉祥天龍・f17147)は、冷たく静かな闇の中で辺りを見回した。
「なんじゃのう、この漂う魂の澱みは。とても安息と安穏を約束された埋葬だけではこうはなるまい」
 揺れる。
 祥華が手繰り寄せるように指先を伸ばした先、その爪先に小さな光がポツポツと震えながら集まってくる。
 彼女が纏う霊力ゆえに、濃い瘴気の中で溺れた霊達を半ば強制する形で降霊できてしまったのだ。
 だが、それは言い換えれば掬い上げるに等しい。微笑を浮かべる祥華は指先を伝い登って来た光を手の上で弄ぶ様にくすぐる。
「言葉を失くして久しいか。良いじゃろう、妾の手の中で今一度現世で最後の眠りに就かせてやっても」
 冷たい闇の中。光の奔流が渦巻いて祥華を中心に、光の柱が立ち昇る。
 集う魂達は行き場を失い、意思を喪失し、存在を闇に呑まれた『成れの果て』に他ならない。それらは祥華が僅かに四神獣の力と加護を以て張った結界の内で、逝けなかった幽世への道に就いて行く。
 力を籠める訳でもない、ただ標を示すだけだった。

「眠れ。安らかに」

成功 🔵​🔵​🔴​

レイ・オブライト
恐怖、悲嘆、無念、絶望
胸糞悪いことこの上ねえが。『聖痕』の疼痛が道標、か
救い求める思念があるなら、強弱でおおまかな方角程度は察せるかもな。怪しい地点は『覇気+属性攻撃(電気)』吹かせ照らす

腐った肉、血や死の臭気。嗅ぎ慣れてる分、素通りってことはないだろう『環境耐性』
死者の寝床をぶっ壊すのは本意ではない。道を作る『地形破壊』は最低限、だが必要なら躊躇なく
もっとも、この世界の死体も大人しく眠ってるのは少なさそうだが
霊の類は碌に見えない
そもそも死んじまった奴はそこまでだ
……破壊は手(鎖)で触れるのみ【Lava】ついでに霊魂が巻き込まれたって、救いとぬかす気はないが
あんたらで最後になる

※アドリブ他歓迎




 恐怖、悲嘆、無念、絶望。
 環境の中で渦巻くそれら負の感情は、レイ・オブライト(steel・f25854)にはあくまでも『識る範囲』のものでしかない。
「胸糞悪いことこの上ねえが。『聖痕』の疼痛が道標、か」
 黴臭い中に混じる死臭。墓所にしては風化が浅く、レイは絶えない疼痛に眉根を顰めた。
 その歩みは灯りの皆無な中にあって迷い無く。視線を向けるだけ無駄と分かっているからだろう、前を見据えたまま地下空間を進んで行った。
 ――人が安息を得るのは決まって眠に就く事だ。
 だから、壁に背を預け蹲る亡骸を見つけたレイはそれがどのような死の際だったにせよ。冷たい石の上を這いずるように、魂は未だ彷徨い続けているのだろうと思った。
(霊の類は碌に見えない)
 疼く。足は自然とその痛みに背くのではなく、根源に向かう。
 そもそも死んじまった奴はそこまでだ。そう誰に語るでもなしに、口の中で唱えた。
 言うまでもなく『彼等』こそ一番理解していることなのだと、彼は虚空に向かって歩いて行く。

 それは。異常に過ぎた。
 彼には霊魂の類を見ることが出来ず、故にこの場に渦巻いた瘴気を知る由も無い。
 夜目に慣れる事も出来ぬ闇を作り出す真っ只中を、男はただ己にだけ伝わる疼痛に従い歩を進めたのだ。
 だから、それはおかしい事だった。時にその右手側に壁が迫り、左手に書斎が通り過ぎようと、その歩みを妨げる物はついぞ彼の前には現れなかった。
 如何な構造の建物だろうと、そこには限りがある。
 レイはただの一つも壁を壊す事無く、死者が徘徊する中を悠然と歩き抜いた。

 そして遂に――レイは青い光が満たす空間に出た。
「……」
 闘技場。どれほど歩きどのような道を辿ったかも定かではない。
 だがレイは最後に、自身の歩んで来た背後を一瞥した。
「ちゃんとついてきたか」

大成功 🔵​🔵​🔵​

木霊・ウタ
他者との連携OK

心情
村人たちを助けてやりたかったぜ
残念だ

必ず吸血鬼を倒し
これ以上の悲劇を防ぐぜ

行動
迦楼羅を掌サイズで召喚
灯に

音を探りながら慎重に進む

霊魂の気配を感じたら
静かにギター爪弾く

少なくとも敵とは思わないだろうし
誰かと話したいって思ってるかも
こんなとこを彷徨ってる位だもんな

霊魂たちがやって来てくれるのを静かに待つ

来ないかも?
構わないぜ
哀悼と鎮魂の演奏でもあるんだから

来てくれたら事情を問う

俺は命を玩具にする奴は許せないんだ
未来は命の重みだから、な

何があったのか
どうして欲しいのか
教えてくれ

伝えて欲しい事とか
やって欲しいことがあれば
遠慮なく言ってくれよな

霊魂たちの力になれるよう尽力する




「……村人たちを助けてやりたかったぜ」
 暗闇の中、木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)は道中で見かけた村を思い出す。
 グリモア猟兵の言っていた事を辿る。
 今は少女の歌唱めいた誘いはなく。予知にあった絶望よりも前の段階に自分が居る事に、ウタは僅かな安堵と共に『救われなかった彼等』を思い胸を痛めた。
 それは、有り得た様で『辿らなければ行き着く事の無い未来』であるがゆえに。彼は金色の焔が散り行く様を見つめながら、残念だと呟く。
「必ず吸血鬼を倒し、これ以上の悲劇を防ぐぜ」
 改めて決意を胸に少年は闇の奥へと足を進めて行く。
 彼の標となるのは、金色の炎を燕尾が如く揺らし、ぽつぽつとその羽を落としてくれる。掌サイズで召喚された『迦楼羅』だった。

 ウタの道標でもあり灯となった神鳥は声を発せず。ただ静かに闇を照らして少年に真実を見せる。
 そこに広がっているのは――書庫だ。
 黴の臭気に混ざり、人が有する『死の香り』を纏った。誰かの記録が並んでいた。
 音を探りながら慎重に進むウタは、その手に『ワイルドウィンド』を携えて。静寂に包まれた闇の中で時折、何者かの気配を感じては静かに……その手にあるギターを爪弾くのだ。
(いつまでもずっとこんな暗くて空気が濁った中にいたら、きっと寂しいよな。こんな所にもしも、取り残されちまったりしたら……誰かと話したいとか、思うかもしれないよな)
 ウタは静かに。書庫から伸びる闇に包まれた長い回廊を行く。
 彼の鳴らす静かな音色は、霊的な御業はなくとも確かに鎮魂のそれである。人が人を想い捧げる音色に、何ら違いはない。
 伸びる回廊。舞い散る金色の羽根がウタの歩に従い、まるで幽世へと続く標のように光の残滓を残して行く。
 ウタは――足跡を誰かが辿って来る事を予感していた。
 この地下墓所のような怪奇空間に漂う霊魂。或いは、死者の思念のような物があると、少年は半ば確信していたのだ。

「………… つれて いって …………」

 だから。
 突然背後から、耳元へ囁かれたその声にウタは何も驚きはしなかった。
 彼は静かに弦を鳴らし、一言問う。
「ここで何があったんだ……?」
 一瞬。ウタの前方を羽ばたいていた迦楼羅がその首をこちらへ回し、目が合う。
 少年は気づいていた。闇に覆われたこの"城"は、人の死で塗り固められたものだと。
 その背景に、その根源にあるもの。それは命を玩具のように弄ぶ行為。彼が許せない事だった。
 静寂。いつしか、ウタの進む先には回廊が途切れ、広大な庭園が現れた。
「――未来は命の重みだ。
 教えてくれ。俺はどうしたらいいのか、何を……あんた達は伝えたいのか。出来ることなら俺は協力したい」
 枯れた薔薇園。その中央をウタは歩きながら、耳元で微かに聴こえる女性の吐息に再び声をかけた。
 力になれるよう尽力すると、そう付け加えて。

 やがて。ウタはその歩を止めた。
 迦楼羅が行く先とは別に、何かを見つける。彼の意志に応じ旋回する神鳥が、その灯火で庭園に落ちていた物を照らし出す。

「………… どうか あの子を すくって …………」

 青い薔薇の花弁が闇の奥へと続いていた。
 ウタの返した答えに、迷いはない。
「任せてくれ」

成功 🔵​🔵​🔴​

臥待・夏報
闇に紛れて情報収集、ね。
おっけーおっけー。夏報さんの出番だ。

墓所というからには棺があって、副葬品もあるだろうか。
予知で示されたオブリビオンは、金銀財宝に興味のありそうな性質には見えなかった。副葬品はたぶん関係ないから、荒らされてたら整えておこう。
棺の中身……は、この世界じゃ使い道がなくもなさそうなのが嫌なとこだよね。
でも、それを確認するのは最終手段にしておきたい。

基本的には、壁に右手をついて、少しずつ叩いて、空洞がないか確認する地道なお仕事をしよう。
暗闇の中でも、右手法と音の判別は有効なはずだ。

夏報さん霊感ないから、墓の主人の気持ちは知ることができないな。
許していただけてると嬉しいんだけど……




「闇に紛れて情報収集、ね。
 おっけーおっけー。夏報さんの出番だ」
 冷たい空気を肌に感じながら、臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)はエコーロケーションの意味も兼ねて声を上げた。
 響き、微かに木霊する夏報の声。その反響に「ふむん」と首肯した彼女は壁に右手をついて進んで行く事にした。
 彼女は、墓所というからには棺があって、副葬品もあるだろうかと予想する。
 予めグリモア猟兵から聞かされたオブリビオンは金銀財宝に興味のありそうな性質には見えなかった事から、それは関係ないかもと思いつつ。せめて荒らされている様なら整えておこうと首を振った。
 トン、トントン。
 暫し進んでは右手に触れた壁や物を少しずつ叩き、暗闇の中でその手に触れる物の中に空洞がないか、周囲の状況を地道に把握していくのである。
 とても、地道だ。何やら遠くで囁き声が聴こえた気もするが、それは風が壁や物を通り抜ける際に鳴る音だと彼女は知っている。
 道中。書庫の様な場所に出た事で夏報は半ば喜々として棚の内の一冊を手に取ったが、どれも黒く滲んでいてとても読める状態ではなかった。
 ゆえに。さりげなく発見した細い脇道へ彼女は入って行った。
 暗い。灯りの無い世界。
 夏報は黴臭い中に微かに死臭の混じる中を進みながら、この後発見するかも知れない『棺の中身』についてどうするかと思案を巡らせる。それは、この世界では使い道がなくもなさそうなのが嫌なところだ。
 吸血鬼のセオリーとは、即ち死者というルーツが根幹にある。非常に、躊躇われる。
 しかしそこは、件の予知の内容を踏まえて鑑みるなら突然戦闘になることはないとも思う。何にせよ『それ』を確認するのは最終手段にしておきたい。

 ――そう思っていた矢先に、夏報は思わぬ当たりを引いてしまった。
「これは……夏報さんやっちゃったかなぁ」
 アンニュイな雰囲気が暗闇のせいで余計に浮き彫りに。指先、手先に冷たい汗が滲む。
 夏報はほんの僅かに、空気を鼻で吸い込む。
 気がつけば彼女の周囲は黴臭さよりも、それまで漠然とした気配しかなかった『死の臭い』で溢れかえっている。そして、彼女が今触れているものは間違いなく、棺の類だった。
 書庫を見つけた時、一瞬夏報の頭にはこの地下空間は実は墓所ではないのでは? という考えも浮かんでいた。
 まず床は上等な大理石を敷き詰められたものであり、時に風に揺れて頭上で音を鳴らすシャンデリアもあったのだ。恐らく、この地下墓所は城に近い構造をしているのだと、彼女は想像していたのである。
(夏報さん霊感ないから、墓の主人の気持ちは知ることができないな。
 許していただけてると嬉しいんだけど……)
 冷や汗を流しながら夏報は壁に保管され並んだ棺の数々を撫でるように歩き進む。

 一つ、二つ、三つ、四つ。
 九つ、十つ。十五、十六、十七、十八……。

 多い。
 墓所にしては、このような開けた空間に置くにしても、多すぎる。
(オブリビオンの気配じゃない。けど、死体の気配も……)
 一瞬脳裏をよぎった最悪の展開から首を振り、夏報は冷静に棺の中を音で確かめる。
 内部は、彼女の見立てが正しければどれも『空白』だ。何も無いし、魂のそれすら封じられている事は無い筈だ。霊感はないが。
 しかし、立ち込めている死臭は。どう考えても風化していないものだ。
 つまり。
「……おや?」
 そこまで思考を巡らせていた拍子、手が不意にかくんと空を切った。
 指先でなぞるように移動していたはずだが、棺の縁沿いをなぞっている最中にその手が吸い込まれたのだ。
 夏報は、灯りの無い中で自身の手を少し伸ばし、周囲を探った。

「この棺桶、開いてる……ッ!? 今のは?」
 触れた棺の感触から導き出されたその事実は、彼女の指先に纏わり付いた血液と長い髪の毛によって彼女の思考を一瞬遅らせた。
 直後。部屋の奥から響き渡った馬の嘶きが、まるで刻限を迎えた時計の鐘の音のように聴こえて来たのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

故無・屍
…フン、叫びながら縊り殺すたぁ喧しそうな相手だな。
それが依頼だってなら、俺はそいつを斬りに行くだけだ。


狂気耐性にて精神を強く保ちつつ、
UCの使用、及び暗視による汚れ仕事の経験を応用した探索を行う。

情報収集、学習力にてマッピングを行いつつ周辺を調査し、
罠使いの技能にてトラップの類にも注意。

その他第六感、野生の勘、聞き耳にて周囲の状況には常に気を配っておく。

……それとも、もしかしたらお前らの方が
ここに関しちゃ詳しいんじゃねェのか。


可能であれば祈りの技能にて
漂う霊魂を相手に情報収集を試みる。
こちらにそれほど敵意の無さそうな者をえらんで。

…ここでの祈りの作法なんざ知らねェから、
日本式なのは許せよ。




 ――音も無く、闇に溶け込んだ彼を誰が見つけられようか。
 布擦れの音さえ漏らさず。完全な暗闇の中に在っても幾ばくかの視界を得て、故無・屍(ロスト・エクウェス・f29031)は広大な地下墓所を駆け抜けて行く。
「……フン、叫びながら縊り殺すたぁ喧しそうな相手だな」
 闇の奥で囁き声が木霊しようが、駆ける彼の腕を掴もうと何者かが手を伸ばそうが関係ない。屍は半ば無心で涼し気に探索を遂行する。
 これは依頼なのだ。相手が誰だろうと、彼は其を斬りに行くだけである。

 渦巻く怨嗟。嘆きの思念は色濃く、死臭は新しい。
 近場の村人のものではないだろう。屍たち猟兵は『予知された結末』を回避するために来ているのだから。
 では"これらは何者なのか"という一つの疑問符が生まれる。
「きな臭ェな。この構図……こういうことか」
 片手間にマッピングしながら地下墓所を往く最中、屍は浮き上がって来た脳内の地図へ一筆付け加えた。五つの棟を繋ぐように、複数の回廊が繋ぐ広大な『城』こそがこの地下墓所の正体であると彼は推測する。
 屍は一度立ち止まり。未だ足を運んでいない棟へ続く回廊を見遣る。
(この世界の貴族っていやぁ、察しはつくが)
 書庫があった。
 貴賓室があった。
 アトリエがあった。
 恐らくは――この城の主を描いた絵画が、エントランスから連なる階段踊り場に飾られていた。
 屍は目を細める。ここにあるのは、墓ではない。確かにこの城には人の営みがあり、誰かが生きていた名残がある。
 カチリ、と。ある棟へ至る鉄扉を開く際に謎の異音が鳴った。
 屍は寸分のずれも無しに自身へ急制動をかけ、ワイヤーを用いた罠を看破した上でそれを除去した。
 そして。
 屍の視界が青く染まる。灯火だ、青い焔が燭台の頂点で小さく揺れていたのだ。
「祭壇、か。何を崇拝していたんだか」
 静かに。屍はその場を去ろうとする。留まる事はしない。ここには何も無い。
 祭壇上に祀られるように安置された棺は、中身を空にして久しい。祭壇場をぐるりと一瞥しながら、屍は回廊へと戻って行った。

 そうして、幾ばくかの時が流れたのを屍は自身の体内の変化に応じて判断する。
 切り上げである。これ以上は何も出まいと、そう結論付けた。
「……なぁ」
 闇に包まれた城の天井を仰ぎ見る。
 最早、彼はこの城が何故"地中に埋まっている"かなど微塵も興味は無かった。ただ、城ごと此処を墓標として、棺の役目を付した者の意図は事の真実に通じている気がしていた。
 だからこれは確実性に欠けた最後の手段だ。
 屍は祈る。祈祷術には程遠くとも、語りかける手段として手を合わせ跪いた。
「ここに関しちゃ、お前らの方が詳しいんじゃねェのか。
 誰でもいい。臆せず、俺の言葉に応えろ――ここでの祈りの作法なんざ知らねェから、日本式なのは許せよ」
 シン、と。耳が痛くなるほどの静寂が流れる。
 屍には分かっている。先まで流れていた風が止んでいる、つまりこれは肯定か思考の間に生まれた空白なのだと。
 彼は待つ。
 漂う夥しい数の霊魂のいずれかが、敵意を除いた者だけが彼に応える。その時まで。
「……お前らを殺したのは、何者だ」
 瞼を閉じて、屍が問う。
 静かな、空気の流れさえ停止したかのような空白の間。微動だにせず彼は待ち続けた。


「【………… 我が 娘 也 …………】」


 はっきりとした声音で、屍の唇が言葉を紡ぎ。耳元で自身とは全くの声帯をした、何者かの声が響く。
 ――どこからか吹いた風に屍は顔を上げた。
 周囲には誰もいない事を一度確かめてから、彼は。屍は風が強く流れて来る方向へと向かい行くのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
…この歌声の主がどんな存在で、どんな過去があったとしても、
今を生きる人々を悪戯に傷付け脅かすのならば、私の敵よ

左眼の聖痕に魔力を溜め周囲の霊魂達を取り込みUCを発動
残像として暗視した彼らの怨念や呪詛を耐性と気合いで耐え、
心の中で祈りを捧げて浄化を試み協力を呼び掛けるわ

…私は声無き声、音無き嘆きを聞き届けるもの
この地に縛られし未だ鎮まらぬ魂達よ、我が声に応えよ

…貴方達の無念、怨嗟、そして絶望は私が引き受ける
貴方達が受けた痛みは倍にして返してあげる

…だから、どうか教えてほしい
この地で一体、何が起きているのか…

"葬送の耳飾り"を用いて彼らの声を聞き、
全身を怨念のオーラで防御して空中戦機動で先に進むわ




          『もうじき時間……くる』
     『誰かいないの』                   『痛い痛い痛い痛い』
『お母さん……どこ……』     『いやああああああ!!』
   『手が、ない。わたしの、手が、ない』      『ああ、旦那様……』
  『逝きたくない』      『なぜここを出られんのだ! 誰か、誰か!』 『あは』
           『あはは』     『お嬢様は、何も悪くはありません。悪いのは……』      
     『化け物!! 化け物ぉぉおお!!』        『すいませーん、出してくださーい』
                        『あははは』

 一歩、踏み出す毎に。彼等の声はリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)に囁き、声無き声をぶつけ続ける。
 今の彼女は、謂わば深い深い大穴の底を覗き込もうとしているに等しい。
 深淵の闇を覗く彼女の背を押す者はいないだろう。けれど、時に人は深すぎる闇を覗いた事で自らの肉体を保つバランスを失う事がある。
 もしも一時でも……囁く怨嗟の思念に我を忘れる様な事があれば、たちまちリーヴァルディの精神は死霊どもの玩具に成り果ててもおかしくはないのだ。
「……そう。貴方達は祈りと安らぎを求めていたのね」
 リーヴァルディは、声を聞くことが出来ると知れた霊達に付き纏われて尚。その精神は不動を表していた。
 彼女の身は墓所へと踏み込んで暫く、濃密な怨念を羽衣のように纏っていた。闇の中に在った霊魂だけでなく、場に溜まった死霊怨霊の類が相手でもリーヴァルディは物怖じせず、浮遊する思念体に向かって首肯を返す。
 普段はパープルの瞳も、今は左眼だけが淡い血の色に染まり。周囲の霊魂と魔力を取り込んでいく中で更に輝きを増していく様だった。
 左眼を通して流れ行く残像を暗視しながら。リーヴァルディは身に纏った魂達の声に応えようとその場に立ち止まり、体を水面に浮かせるように力を抜いた。

 深く。息を吸う。
 『葬送の耳飾り』は周囲の霊魂の声を常に教えてくれる。だが、それは死者達の音無き嘆きの全ては聴かせてくれない。
 彼女は祈りを捧げ。その身を渦巻く怨念と呪詛に抗いながら浄化さえ試みようとする。
 宙を舞う霊魂の群れに波が立った。
 恐るべき精神力だった。殺到する、数多の霊魂を相手にリーヴァルディの魂は一切揺らがなかった。
(――私は声無き声、音無き嘆きを聞き届けるもの。
 この地に縛られし未だ鎮まらぬ魂達よ、我が声に応えよ――)
 流れ込む、名も無き者達の思念が。妖しく鱗粉を散らす少女へと吸い込まれる。
 そして今一度。
 死者達へ語りかけられた。
「――貴方達の無念、怨嗟、そして絶望は私が引き受ける。貴方達が受けた痛みは倍にして返してあげる。
 ……だから、どうか教えてほしい。この地で一体、何が起きているのか――」
 赤黒い怨念が、目を逸らさずに虚空を見つめていたリーヴァルディの前で姿形を以て顕現する。
 名も、存在も、命さえ奪われた城にかつて在った者達の無念が形を成したのだ。
 そしてここに真実は語られる。

 失われた物語は此処に、確かに在ったのだと告げるように。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『死地を駆け抜けるチャリオット』

POW   :    駆け抜け、弾き、轢き倒す戦車
単純で重い【チャリオットによる突撃】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    馭者による巧みな鞭
【絡めとる鞭】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    全力による特攻
自身が操縦する【ゾンビホース2頭】の【身体を鞭で強く打ちスピード】と【突撃による破壊力】を増強する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●全ては過ちの下に轢き潰された
 猟兵達が自ら歩き、そして導かれた先にあったのは、地中に沈んだ古城の地下闘技場だった。
 青い炎が爛々と妖しく照らし出されたそこには。
 夥しい数の屍が積み重なり、尚も囚われ続ける魂が嘆きと恐怖、怒りの怨嗟を唱え続けている。
 救いなど此処にありはしない。ただ、例え死者だろうと逃がさず。不滅を強制されながら死の苦しみを与え続けるのだ。

 死霊たちの生んだ残像が、虚空に浮かび上がる。
 観客席で湧いた歓声には狂気の一端を感じさせ、沸々と戦意が込み上げて来るように細工された呪術式が猟兵達にさえ奇妙な高揚を与えるのだ。
 そんな中。死者に導かれ辿り着いた猟兵の一人は闘技場の中央へ目を向けた。
 青い、炎に包まれた人型が佇んでいる。

「――退け 生者ども。
 此処より先に在るのは未来永劫救われぬ魂達の象徴。眠ることさえ赦されず。神の悪戯に起こされ魂の安定を棄てた、我が主の寝床があるのみ。
 安寧は無い。安息は無い。安穏は無い。この私が貴様等に用意できるのは死だけだ。
 ……だが退くなら見逃そう。最早、我が主を慰める事も生者の魂では叶わないのだ」

 人型。死霊『ベルツェハイドの騎士』は静かな口調で言った。
 だが、彼は知らない。猟兵には退けない理由がある、そしてこれから遠くない未来に死霊の主であるオブリビオンが人を喰う。残虐に、凄惨なまでに、人を殺すのだ。
 ゆえに猟兵達の答えは一つだった。

「……ならば、ここで死ね。
 来るがいい生者ども! 我が名は主に忠誠を捧げし者、グレゴリウス・ベン・ベルツェハイド!
 貴様等を、ここで! 肉塊に変えようとも! 我が主の慰めにもならん!
 ――なればその魂をここに捧げ、せめて彼女の狂気を飾る花となるがいいッ!!」

 膨らむ怨嗟纏う瘴気が、闘技場の中心で爆発する。
 青い炎はグレゴリウスを包む。
 そして、足下から水面へと浮上したかのように召喚された死霊のチャリオットへ騎乗すると、死霊の叫びが激しく闘技場に轟き、魂さえ震わせるのだった。
 ある猟兵に、死霊の一人が真実を懺悔する。

 ――――かつてこの地に在った小さな城には、ある一族が住んでいた。

 吸血鬼、ベルツェハイドの血族である。
 彼等は代々男爵(バロン)として時代の力あるヴァンパイアの下に仕え、そして享楽を捧げる事を至上として来た。
 それは勿論。全てが灰に帰した後でも、オブリビオンとなって尚その在り方は変わらなかった。百年前に復活を遂げた彼等は当時の有力な貴族に取り入ることで、更なる力を得ようと考えたのだ。
 しかし、その目論見は失敗に終わる。
 欲を欠いて力を追い求めた結果、出た杭を打たれる結果を生んでしまったのだ。
 つまり……彼等一族は中途半端に力をつけた所を、真に力を持ったオブリビオン達に潰された。

 彼等が求めた力を、その時の当主に『植え付ける』事で覚醒させ。滅ぶ様に仕向けた。
 ――どこまでも弄んだ皮肉だった。

 かくして、ベルツェハイドは恐ろしい力を持った当代の主によって潰される事となる。
 時の権力者達がオブリビオンの力を使い、城ごと土の下に沈めたことで逃げ場を失った一族の者や捕らわれていた人間達は。抵抗虚しく悲惨な最期を遂げたのだ。
 全てが死に絶え、光すら奪われた城の中。正気を失ったベルツェハイドの当主は訪れた静寂に今度は狂い始める。
 土を掘り返そうにも、城を覆った土砂には何らかの力が働き鋼の様だった。術者が何者かに討たれるまで途切れることは無い。故に、ベルツェハイドの当主が辿り着いた答えは最悪の方向へと向かう。
 たしかに一族は死んだ。オブリビオンだった者達は絶望的だが、果たして全員がそうだったか。肉体の蘇生は難しくとも、そう――魂ならば此処に留めることが出来るのでは。
 ……ベルツェハイドの当主は、自らが手に掛けた城内の者達。全ての霊魂を城に縛り付けた。
 そして『彼女』はたったひとり。自らを愛した実の兄を奏者に選んだのだ。

 自らの孤独を、狂気を、破壊衝動、殺人衝動を解消するために。
 彼等は死者の魂を百年に渡り殺し続けたのだ。

 ……そして今、彼等は物語を失って尚続く殺戮に魂を病んだ。
 猟兵は、向かい来る死霊の騎士の叫びを聞くだろう。この城は最早ただの墓標に非ず、救いはどこにも無いと――――
サンディ・ノックス
※アドリブ・連携歓迎

変えられた妹は兄だけを選び
兄は妹に応えた
…吸血鬼でもヒトと変わらないところはあるんだね
救うなんて烏滸がましいことは言わない
終わらせてあげる

本心は隠し戦いで吐く言葉は攻撃的なものを選ぶ
上辺しか知らない者の同情は相手の想いを軽視するだけと思うから
「お前の主を慰めるものはもう無いんじゃない?無意味なことはやめなよ」

胸鎧と一体化、全身黒鎧姿に変身
敵の突撃は基本的に動きを【見切り】回避
隙を作るために【怪力】を活かし大剣に変形させた黒剣で【武器受け】、魔力を高めて発生させる【オーラ防御】と併せて攻撃を受け止めることも行う

大剣だけで戦うと思わせて指定UC発動
背から武器を生やし攻勢に出よう




 外観から測れる物理的質量よりも、明らかにその蹄が地を打つ音に力強い憎悪が籠められ重音を奏でていた。
 死霊馬が嘶きと共にグレゴリウスの騎乗するチャリオットを連れて駆け抜ける。ともすれば、地を踏み抜きかねない脚力、馬力は、生ある者には出せない出力を秘めていた。
 闘技場を、青い炎が包む。
 一歩でも足を踏み入れた者を逃さず。これは、死者さえも縛る呪縛の壁だ。
(変えられた妹は兄だけを選び。兄は妹に応えた……吸血鬼でもヒトと変わらないところはあるんだね)
 炎の内側。闘技場に囚われても尚、物憂げな表情はあってもサンディ・ノックス(調和する白と黒・f03274)の顔に汗は一つもない。
 咆哮と共に迫る死霊の騎士を見遣るその目には、幾ばくかの感情が籠るのみ。
「――救うなんて烏滸がましいことは言わない、終わらせてあげる」
 それは口の外へ出るには囁かな。ある種の呪文のように、死霊の騎士へは届かずに消えてしまう。
 サンディはこれより、自らの本心の一切を秘める事を決意する。
 同情で救えるなら傍らで朽ちている亡者のいずれかが、とっくに慰めの言葉一つで城の主とやらの魂を癒していたかもしれない。
 上辺だけでは、相手の想いを軽視するだけだ。

 故に――今更何を語る事も無い。
「お前の主を慰めるものはもう無いんじゃない? 無意味なことはやめなよ」
 仄暗い力が渦巻いて。サンディの柔和な表情を闇が覆う。
 瞬間、疾走するチャリオットの突撃を紙一重で見切ったサンディの姿が。血管の様に張り巡らされた赤い紋様を全身に浮かべ、その標に従い広がって行く黒き鋼が全身鎧となって彼を包み、守護する。
 黒鎧。
 血の様に赤いバイザーが下りた兜の下、死霊の騎士が宿すものよりも深い闇の気配を漂わせたサンディの眼光が揺らぐ。
「下らない。こんなので轢き潰せると思ってるなら、それはお前の主も落胆するだろうさ」
 刹那、闘技場の石畳が爆ぜる。死霊の騎士が繰り出した突撃による衝撃波が周辺地形を破壊し、身を捻り、跳躍したサンディを瓦礫が打つ。
 だが、瞬く間に暗夜の閃きがそれら全てを打ち落とす。
 死霊の騎士グレゴリウスが叫んだ。
「ほざけ! 挑発には乗らんッ!!」
 とても通常のチャリオットではありえない軌道を描いて急旋回した死霊の騎士が、その手に握った鋼の鞭を揮う。
 空気を引き裂く鋭い、斬撃に等しい一撃。目算でチャリオットの全長数倍の射程にもなろうそれを、サンディは――ショートソードだった暗夜の剣を大剣へと変形させて迎え撃つ。
 踏み込みからの薙ぎ払いで弾いた鞭が踊り狂う蛇の如く滑り、弾かれた足元からの一撃をサンディの大剣は音速で斬り払う。
 切先から生じる衝撃波が鞭を、眼前に到達したチャリオットを引く死霊馬を切り上げた。
 吹き飛ぶ瓦礫に混じる粘液状の血液。
 しかし、青い炎を噴出させて再度迫るチャリオットの速度に馬を介して与えたダメージの効果は見えない。
 黒い一閃がチャリオットを削り、瘴気を孕んだ血潮が闘技場を穢す。
 何合かの打ち合いの末。交差するサンディと死霊の騎士が互いに暗い眼光を鈍く光らせた。

 急旋回する最中、死霊馬をそれまでとは異なる力を流して鞭を揮うグレゴリウスを前に。大剣を大きく上段の構えで迎えようとするサンディが対峙する。
「まずは、貴様からだッ! 逝ねェいッ!!」
「驕りが過ぎるんじゃないか、それは――!」
 全力の突撃。踏み鳴らす蹄が衝撃波を纏い、暴風を衣に疾走するチャリオット。
 対するサンディは死霊馬の嘶きが眼前、即ち間合いに入ったその瞬間に鋭い一声を上げた。
 姿勢を低く、這うように跳んだサンディの黒鎧の背から。漆黒の十文字槍が飛び出す。
 死霊馬の振り下ろした脚を大剣が横一閃にして切り飛ばすと同時、背から伸びた影の如く、無数の漆黒の穂先が束となりチャリオットごとグレゴリウスを射貫いた。
「~~ッ……な、にッ!?」
 瞬間。壮絶な破壊音が鳴り響くのだった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​


●醜悪なる奏者
 壮絶な破壊の音が、死霊の騎士が叫ぶ痛烈な声と交わり闘技場に響き渡った。
 炎の外で半ば歯痒くも一時様子を見守っていた猟兵達は、ほんの一瞬、決着を予感する。
 しかしそうはいかない。
「……これが、我等の仇敵が誇る力……!」
 声が、青い炎が揺れる。
 対峙していた猟兵から繰り出されたユーベルコードの力に貫かれた死霊馬のチャリオットは、瞬く間に灰となって崩れ去っていた。
 その代わり。何処からともなくグレゴリウスの声が響く。
 其の身は討たれたとばかり思われたグレゴリウスだったが、闘技場の中央に灯った妖焔を起点に姿を現したのである。
 不死……否。
「ここで貴様等を飾るには、些かの代償を要するか……!
 嗚呼……! 我が愛する妹よ。アイリーンよ! 私を縛るその鎖、此の身に連なり全てを呪う縛鎖を此処に! 我が、手に!」
 "オブリビオン"『死霊の騎士グレゴリウス』は自らの権能を、自らが課せられた呪いを手繰り寄せる。
 手繰るその赤錆びた鎖は彼にとっての祝福だ。愛する者が最後の正気を手放す間際に填めた、孤独から逃れたいという願望が生んだ呪詛の枷なのだ。
 男は両手を掲げ、その呼び声の下に。

 ――天に昇る事を赦されず。そして、諦めた霊魂どもを繋いだ楔を引き寄せたのだ。
 観客席で湧いていた歓声が、闘技場を囲んでいた青い炎が、溢れんばかりの憎悪を骨組みにして災厄の受肉を果たす。
 猟兵達を阻んでいた炎は消え去った。
 だが、次いで彼等の前に現れたのは無数の死霊馬とチャリオットだった。
「言った筈だぞ、ここが貴様等の墓場だとなッ!」
 憎悪を滾らせた死霊の声が轟いた直後。
 猟兵達は広大な地下闘技場に現れた無数のチャリオットを前に、戦闘を開始する。
湊戸・絢星(サポート)
『まー、ボクに任せておいてよ』
 普段の口調は「くーる(ボク、キミ、だね、だよ、だよね、なのかな? )」です。

◆性格
クールにみせてゆるゆるノリと勢いで生きている
真顔で冗談を言います
雪が好きです

◆戦闘
アリスランスで戦う
ドラゴンランスは二刀流したり子ドラゴン状態で援護してもらったり

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!


星川・杏梨(サポート)
『この剣に、私の誓いを込めて』
 人間のスーパーヒーロー×剣豪、15歳の女です。
 普段の口調は「聖なる剣士(私、~さん、なの、よ、なのね、なのよね?)」、時々「落ち着いた感じ(私、~さん、ね、わ、~よ、~の?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。

性格はクールで凛とした雰囲気です。
常に冷静さを念頭に置く様に努めており、
取り乱さない様に気を付けています。
戦闘は、剣・銃・魔法と一通りこなせます。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!




 胸を打つ様な衝撃が奔る。
 奔走し、駆け抜ける死霊馬のチャリオット達は召喚者であるグレゴリウスの意思に呼応して猟兵達を襲っていた。
「わちゃわちゃしてきたね、少しボクも頑張ろうかな」
 つい先ほどまでの炎のカーテンは取り払われたものの、今度は強制的に全員が戦闘に加わっている。恐らくはこうして混戦となることで死霊の騎士は個々の隙を伺っているのだろう。
 肩に乗せていた子ドラゴンを一度見て、それから湊戸・絢星(雪華のアリス・f19722)は自身の横合いから伸びて来たグレゴリウスの鞭をアリスランスで弾いた。
 身を反らし、チャリオットが通過する。衝撃波が絢星の体躯を宙に浮き上がらせるのと合わせ、彼女は自ら地を蹴って後方転回する。
「チャリオットの御者……グレゴリウス、チャリオットを着地点にして移動しているのね。狙って仕留めるのは難しいか」
 眩い閃光を放ち、自らのドラゴンと融合を果たした絢星が地に降り立った傍。星川・杏梨(聖炎の剣士・f17737)が流星の聖剣を振るい構える。
 濛々と、噴き出す様に瘴気と粉塵が駆け抜ける闘技場は乱戦の極みだ。敵のチャリオットも一騎や二騎どころではない。
 ならば、と。
「――『メカニカル・コマンド』!」
 燐光が瞬き、杏梨の足下を起点に広がった方陣から武装した機械人形が飛び出す。
 轟音。
 竜騎士となった絢星が一っ跳びで直近のチャリオットに躍り掛かった所で、身を伏せた杏梨の頭上を無数の弾丸が飛び交う。
 杏梨の号令の下で繰り出される弾幕が周囲を駆け回っていた死霊馬を一時怯ませ、その隙に月明りが如く差し込んだ絢星のチャージランスによって各個撃破に持ち込んで行った。

「ォォォオオオッ!!」
 小隊規模の機械人形を不意の一撃が襲う。数体吹き飛んだそれは、魔力を纏った鞭によるもの。猛るグレゴリウスの咆哮が闘技場に響く。
「……! っく!」
 軌道を悟らせない。杏梨が鞭の方を注視した直後、背後から突如全力で突撃を仕掛けて来たチャリオットにグレゴリウスが乗っているのに気付く。機械人形達が発砲するが、間に合わない。
 ガシャ、と壮絶な金属の潰れる音が重なり合う。
 咄嗟に躱した杏梨の肩へ浅い傷が走る。集中が途切れたか、或いは人形達のダメージ故か、杏梨の召喚した機械人形が消滅した。
 急旋回するチャリオットが、再度その戦車に主を乗せて迫る。
「……来なさい! 正面から、迎え撃って見せる!」
「左に同じ。ボクもお手伝いするね」
 示し合わせたわけではなく。機が合う。
 聖剣を薙いで駆ける杏梨に並んだ絢星が片腕に絡め取ったアリスランスを軸に、周囲に氷雪を散らして背から翼を生やしての飛翔からチャージを仕掛けに行く。

 ――無数の剣戟と踊る槍撃が、闘技場に舞う。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
…貴方達はこの城に魂を縛られ、殺され続けてきたのね

…百年もの永き間。死の眠りを与えられる事も無く…無惨な


…ならば騎士よ、私はお前にこう返しましょう
私の名前はリーヴァルディ・カーライル

お前達、吸血鬼を狩る者。そして、その呪わしき命運を終わらせる者よ

今までの戦闘知識から敵の殺気を暗視して突撃を見切り、
"写し身の呪詛"の残像を囮に闇に紛れ懐に切り込みUCを発動

…さあ。貴方達の致死の記憶、絶命の痛苦の返礼を与えなさい

前章で霊魂を取り込んだ左眼の聖痕に魔力を溜め、
生命力を吸収する無数の結晶で敵を乱れ撃ち、
怪力任せに大鎌をなぎ払う二回攻撃を放つ

…お前の主も後から葬送してあげるわ。眠りなさい、安らかに


故無・屍
…発端はオブリビオン同士の潰し合い、か。
それで城一つ丸ごと埋め立てるたぁ派手なことをするモンだ。


生憎俺は手前ェらを慰めに来たわけでも無ェし、
狂気を彩る花とやらになる気もねェ。

ただ、依頼だから斬りに来た。それだけだ。

まずは情報収集、偵察にて
戦場の術式の核を探し、
可能であれば破壊する。


その後相手の動きを観察し、突っ込んで来る攻撃に合わせUCを発動
カウンター、怪力、破魔、早業、2回攻撃の技能にて
より正確で威力を増した反撃を狙う。
まずは馬を狙い、機動力を削いだ上で戦闘を展開


…『終わらせる』くらいはしてやる。
お前らに死後なんてモンがあるのか知らねェが、
『その先』でなら、少しはマシな従属が出来るだろうよ。


木霊・ウタ
心情
…救いのない哀れな話だけど
まだこれから
せめて出来ることはあるぜ

命を護り
そして
ここに縛り付けられた魂や当主を還し
弔ってやろう

戦闘
迦楼羅を身に戻し炎の翼として顕現
その翼をジェット噴射の如く
チャリオットの突撃の勢いが乗る前に
一気に間合いを詰める

突進に対し
爆炎や翼で横ないし上方へ回避し
すれ違いざま
獄炎纏う焔摩天で薙ぎ払う

鞭が来るかもな
構うもんか
攻撃優先で
その鞭ごと砕き焼き払うつもりで振るう

怪我を獄炎の物質化で補う

すれ違った刹那
敵が背中を見せた時が本命だ
身を返し剣風を炎の奔流に変え放つ

騎士
女性から「あの子を救って」と頼まれた
あんただって主を
妹を救ってやりたいだろ?

事後
騎士や魂の安らかを願い鎮魂曲




 ――傍らで真実を語っていた霊は既にいない。
 リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は、霧散し行く霊魂の行先を見つめて瞼を閉じた。
 死霊馬の嘶きに、耳を傾ける。
『……ダレカ ワタシ ヲ コロシテ……』
『……カラダ ガ ナゼ ナゼ……』
『……コワイ イタイ ネムラセテ グレゴリウス サマ アイリ サマ……』
 激しい憎悪を奔らせて叫ぶチャリオット達は、城に漂っていた霊魂や死霊達だ。
 永き年月の果てに魂さえ囚われた彼等は、己を死の苦痛で縛るグレゴリウスに逆らえず。其の身をホースに変えられて尚、生者さえ飲み込もうと怨嗟と悲痛の声を囁いていた。
 瞼を開ける。
 そこには。リーヴァルディの眼前に迫る一騎のチャリオットがあった。
「……貴方達はこの城に魂を縛られ、殺され続けてきたのね――百年もの永き間。死の眠りを与えられる事も無く……無惨な」
 その哀れな魂に、彼女は静かにそう言って。優しく両手を広げて迎え入れるかのように、一歩、前に踏み出す。
 チャリオットは暴威を振り撒く。迫る蹄が、美しい銀の髪に触れる。
「ならば騎士よ、私はお前にこう返しましょう」
 しかし死霊馬の蹄は少女の清らかな相貌を引き裂く事は無かった。
 空を切り、石畳を爆発させて瓦礫が飛ぶ。
 走り抜けたチャリオットの後方で、リーヴァルディは真紅に濡れた魔眼を開いて地に降り立った。並ぶ紫紺の瞳には磨かれた刃よりも鋭いものを携えて。彼女は先まで多くの死霊が沸いていた観客席を疾走するチャリオットに細やかな指先を向ける。
「――私の名前はリーヴァルディ・カーライル。
 お前達、吸血鬼を狩る者。そして、その呪わしき命運を終わらせる者よ――」


 ドッ!! と石畳が砕け散る間際に金色の炎が吹き荒れる。
 猛る炎が噴き出す。各所で戦闘が始まって直ぐ、木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)はその身に金翅鳥『迦楼羅』を宿して炎の翼を顕現させていた。
 後方一直線に伸びる火線。疾走していたチャリオットさえ焼き尽くすその勢いに文字通り乗ったウタは炎の翼を大きく羽ばたかせ、闘技場の天井へ到達する。
 振り翳すは、迦楼羅に劣らぬ業炎を纏った大剣。『焔摩天』である。
「――――」
 すう、と。呼吸を行うその一瞬だけ翼が消失。
 天井がガリリと引き裂いた焔摩天から無数の火花が散ったその時、数瞬無重力の中にあった彼の体が、突如背から猛烈な勢いで噴き出した炎によって急加速、急降下した。
 猟兵達の頭上を金色の炎が照らす。
 闇夜に在る者。死霊となって魂を穢されし者どもが慄くその閃光が奔った直後、焔摩天を振り下ろしたウタが二騎のチャリオットを両断した勢いもそのままに闘技場を滑り横断。
 爆炎が噴き出す着弾点を背にして止まらずに駆ける。
「……救いのない哀れな話だけど。まだこれから、せめて出来ることはあるぜ」
 炎がウタの体を滑らかに伝う。
 速度を一切落とさずに駆け抜ける彼は火矢の如し覇気を纏い、その速度ゆえに不死鳥の嘶きのような音が響き渡る。
 チャリオット。死霊馬が彼の光に怯える……それと同時に、言い様のない憎悪が集中した。
「幾らでもかかってこい。俺はここに、命を護りに来た!」
 少年の意思に応えるべく増した火力が、更に剣を加速させる。
 正面。後方。闘技場各所から浮上した追加のチャリオットが一斉にウタへ集中する。いずれも全力の突撃。青い、死者の炎が金色の炎を囲んでいた。

 ウタは奥歯を噛み締める。
 命を護り、そして。この城に縛り付けられた魂や当主を還し弔ってやる。
 それこそが自身の出来ることなのだと確信して。少年は迷い無く翼を羽ばたかせて大剣を手放した。
 正面のチャリオットがその刺々しい戦車を叩き付けるべくドリフトする、手前。ウタの体が炎の翼で身を包んで回転しながら飛び越えた瞬間、戦車の下から突き上がった焔摩天の業炎がウタごとチャリオットを燃やす。
 一瞬で炎に包まれた戦車を割って、炎の勢いで飛んだ焔摩天がウタの手に戻る。
 死霊馬に仲間などの意識は無い。燃え上がるチャリオットを潰して跳んだ後続が、横から駆け抜けて来たチャリオットを更に踏み台にしてウタに大質量の体当たりをぶつけようとした。
 それを、"黒の一閃"と金色の一閃が薙ぎ払う。

「……発端はオブリビオン同士の潰し合い、か。それで城一つ丸ごと埋め立てるたぁ派手なことをするモンだ」
 滑空するウタの無事を傍目に、故無・屍(ロスト・エクウェス・f29031)が湾曲した黒刃の大剣を二度、三度と振って調子を確かめる。
 影から出て来たかのように揺れる屍の姿を目にしたウタは一瞬目を丸くして、一度だけ親指を立てて見せた。
 それに頷きつつ。屍は天井を見上げる。
「灯り点けてくれた礼代わりだ、仕事が捗るってな」
 大剣が屍の頭上を真一文字に振るわれる。数瞬遅れて鳴り響く空気を引き裂かれた悲鳴に次いで、その衝撃波は闘技場の天井にあった"何か"を破壊した。
 ここまでの間に彼が戦場を観察していた際、ウタが発した炎によって場に漂う呪術式の核を見つけていたのだ。
 爆ぜ飛ぶは無数の髑髏。
 散り行くその様を仰ぎ、屍は次に足下から急浮上してきたチャリオットを蹴りつけて真上に跳躍した。
「生憎俺は手前ェらを慰めに来たわけでも無ェし、狂気を彩る花とやらになる気もねェ……ただ、依頼だから斬りに来た。それだけだ」
 陽動。看破。
 それまでのチャリオット達の動きを観察して、既に屍は相手の戦術を殆ど見切っていた。故に真上へ跳んだ背後から振るわれた不意打ちに、彼は難なく反応して見せた。
 チャリオットの上を渡り歩く、死霊の騎士グレゴリウス。その紅き眼光に昏いものが宿る。
「そら、よォッ!!」
 片手で振り抜いた大剣に次いで逆手で繰り出す白き直剣。回転し、背中への鞭を切り飛ばした上で死霊馬とグレゴリウスをカウンターに切り刻んで屍は飛び越えた。
「ぐ、ぬあゥゥッ……!」
 炎が爆ぜ、消える死霊。
 足元のチャリオットへその場で反転し、兜割りの要領で叩き切った屍が視界を巡らせる。


(猟兵が我が身を打つ毎に、己の存在が失われていく……)
 闘技場の彼方此方で閃く光。
 轟音と衝撃波。吹き荒れる炎に次ぐ剣閃。鳴り止まぬ、破壊と消滅。
(成らぬ……このまま、消える訳には行かん……あの子を、独りにする訳には……)
 死して尚オブリビオンとなり果てた男は膝を屈する最中に乞願う。
 更なる力を求める。
(この身が尽きても行かせるものか……)
 手を、伸ばした先。

「 ……さあ。貴方達の致死の記憶、絶命の痛苦の返礼を与えなさい 」

 駆け行くチャリオットが織り成す壁の向こうから闇よりも深い影が、冷たく囁いた。
 空間を切り開いたかのような黒。一対の扇と化した死者の翼は、内包する無数の生命力を吸収する杭となって打ち出される。
 それら黒き散弾はチャリオットを引き裂き、死霊馬を無垢な霊魂へと爆散させて死霊の騎士グレゴリウスを撃ち抜いた。
「~~~ッッ……ご、ぼっぉォ!?」
 驚愕に見開く。
 グレゴリウスの知らぬ存在。それは代行者の羈束。死を超越せし者。
 目の前でリーヴァルディの手から超大に伸びる大鎌は、如何にしてもグレゴリウスがまともに受ければ消滅は免れない神秘を有していた。
 しかしそれよりも、身を引き裂かんばかりの"苦痛"に戸惑いと嗚咽を漏らす。
 生命を失って久しい死霊の身を叩いたのは、最早二度と知るまいと信じていた痛苦のそれだ。
「思い出したでしょう」
 グレゴリウスは、紫と赤の妖光を目にする。

 幾度目かの咆哮が闘技場を震わせる。
 転移した死霊の騎士がチャリオットへ飛び乗り、持ち得る全ての力を纏って鞭を奮い突撃する。怨念と死の気はそれだけで弱き生命を深淵へと引き摺り込む呪いを秘めていた。
 だがそれを許すほど、猟兵は甘くない。
「グレゴリウス!」
 気付けば並走するように飛翔するウタの姿がそこにあった。
 炎の熱波がチャリオットを焦がした瞬間、死霊の騎士から振るわれた巧みな鞭が変則的に襲う。
 切り飛ばし、ローリングして躱す。少年の眼がカッと見開かれる。
「女性から! 『あの子を救って』と頼まれた。あんただって主を、妹を救ってやりたいだろ? これで良いのかよ!」
 死霊が唸る。指を鳴らし、ウタの足下から急浮上したゾンビホースが突撃する。
「もっと出来る事があるんじゃないのか……! 本当に、これで!」
 大剣から放たれる業火の奔流。吹き荒れる爆炎がチャリオットを吹き飛ばした後に、ウタがグレゴリウスを睨みつける。
 瞬間。少年の炎纏う利き腕を鞭が捉えた。
「できる事などありはしない。"私にはこれ以上何も出来はしないのだ"!!」
「っ……!」
 刹那、ウタの持つ全ての力が一瞬だけ消失しようとする。
 が――呪縛の鞭に捉えられた腕の内から金色の炎が噴き出して、半ば引き千切るかのように迦楼羅が拘束を解いた。
 そして同時に、大剣を肩に担いだウタがチャリオットに取り付いて蹴りつけた。
 奔る業炎の一閃が死霊馬とグレゴリウスを切り裂く。
 だが浅い。
 天井の空間が揺らいだ瞬間、チャリオットと共にリーヴァルディの頭上へグレゴリウスが落下してくる。
「おおおぉぉぉ……ッ!」
 闘技場を駆け抜けていた全てのチャリオットが消える。
 青い炎が走り。疾走する蒼白の火線がウタやリーヴァルディ達を囲むように五芒星を描いて、死霊馬の嘶きが大気を震わせた。
 全車突撃の陣。

「……『終わらせる』くらいはしてやる。
 お前らに死後なんてモンがあるのか知らねェが、『その先』でなら、少しはマシな従属が出来るだろうよ」
 一角。リーヴァルディの大鎌が纏う影から抜け出した屍が、振り被った大剣を逆袈裟に斬り放つ。
 奔る真空波が死霊を霧散させ、闘技場観客席にまで達して爆風を生む。
 開いた空間へと身を滑らせたリーヴァルディが、その身を翻して銀髪が宙に流れる。
「お前の主も後から葬送してあげるわ」
 堕ちる。死の奴隷が、まるで首を差し出すように。
 リーヴァルディの大鎌は二度胸に懐くかのように揺れる。

 恐ろしく、静かに揮われた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


●それは、全てが還る音色

 ……断末魔は無かった。
 少女の華奢な腕から放たれた信じ難い程の怪力は、"それ以外の要因"も重なった事で全ての音を置き去りにして振り抜かれたのだ。
 それは蝋燭の火を吹き消す間際の空白に等しい。
 それまでの戦いの中にあった音は一瞬で消え失せたのだ。
「……眠りなさい、安らかに」
 次第に。淀んだ空気が埃臭い土の香りだけに変わっていく。パラパラと落ちる瓦礫の音だけが戦場の名残だった。
 少女はその場で大鎌を下ろし、人知れず手向けの言葉を添える。
 青い炎は残滓すら残さず消え失せている。
 積み上げられた骸も無く、漂う死臭も今は夢幻のように失せて。誰も彼もが静寂の中で佇んだまま暗闇の奥を見つめていた。
 
「あれは……」
 そんな中。一人の少年が暗く染まった闘技場の一画を指差した。
 彼の目に映っているのは。闇の中に浮かび上がるように輝く白い花弁だ。
 当然、そこには誰もいない。
 ただ意味ありげにぽつぽつと、地面に並べられた白い花が道標のように崩れた壁の穴へと向かっていた。
「先に行くぜ。まだ仕事は――終わっちゃいねェからな」
 闇の中から踏み出す、深い緑の瞳が揺れ。ブオンと風を薙いで揮う大剣と共に、白い花が示す先へと進んで行く。
 一人、また一人と猟兵達はそれに続いていく。少年はそれを見送りながら、ゆっくりと愛用のサウンドウェポンを手に取った。
 そのギターが鳴らし紡ぐのは安らかな鎮魂曲。
 まだ、終わっていない。終わっていないが。それでもこの場を去るには必要な事だと彼は音色を捧げながら思い、目を閉じる。

「……」
 死した者達へ捧げられる鎮魂歌。
 闘技場に寂しく鳴り響くその音色を聞き届けながら、少女は白い花が並ぶ方をじっと見つめていた。
「そう」
 暫しの間。彼女は小さく肩を竦めて、そちらへ近付いて行く。
「貴方が、彼を導いたのね」

 死霊にも、彷徨う霊魂になる力すら残されていない。脆い思念体を前に少女は目を細めた。
 彼女の問いに――"名も知れぬ少女の霊"は頷いた。


第3章 ボス戦 『ゼラの死髪黒衣』

POW   :    囚われの慟哭
【憑依された少女の悲痛な慟哭】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    小さな十字架(ベル・クロス)
【呪われた大鎌】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
WIZ   :    眷族召喚
レベル×5体の、小型の戦闘用【眷族】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は吾唐木・貫二です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●死死死死死死死死死死死死死死死死…………
 少女は喘ぐ。
 果てしない渇きはとっくの昔に限界を越え、自らを縛る呪いは死さえも赦さない。
 少女は喘ぐ。
 声も、出せない。身体は、動かない。何も、聴こえない。
 少女は喘ぐ。
 無限だ、これに終わりはない。彼女の物語はずっと昔に喪われたのだから。
 少女は喘ぐ。
 喪われた、と思い至る度に発狂する。何も無いのに『なぜ過去がある』のかと気付いてしまうからだ。
 少女は喘ぐ。
 誰かが自分を愛してくれていた。誰かが、自分を憎んでいた。誰かが、自分を。
 少女は喘ぐ。
 不意に、何かの意志が混入する。それは少女を内側から食い破り、遂に何かが決壊したような気にさせた。
 少女は喘ぐ。
 軋む身体は自らの意志を無視して、渇いた肉体を無理矢理生かす為に、漂う霊魂を喰らっては吐き出すことでエネルギーの循環を図る。
 少女は喘ぐ。
 舌の上を滑る魂は震え、奥歯で噛み潰した拍子にぶちゅりと。苦くて甘い果汁を溢れさせた。
 少女は喘ぐ。
 少女は喘ぐ。
 少女は目を開く。
 少女は、自分と瓜二つの弱々しい霊体を見下ろして。
 "少女"は。自分と瓜二つの血に染まった、蠢く黒髪を纏う怪物を見上げる。

「――――ぎ、ぎひッッ」

 吹き散らす様に、涙を浮かべていた弱々しい霊体を黒い刃が薙ぎ払う。
 だらだらと唾液を溢して、壁に磔にされていた少女は自らを縛っていた鎖を引き千切る。
 バラバラになった鎖と共に、鎖の先を持っていた白骨化した亡骸が崩れ落ちた。
 その亡骸が纏う鎧プレートにはうっすらと、『グレゴリウス』なる文字が刻まれていた。
 少女は灯りの消えた祭壇上へと落ちて。音も無く着地する。
 糸の切れた人形を揺り動かして立たせるように、少女は立ち上がって。蠢く黒衣を肢体に食い込ませて歩き出す。
 自らの背丈を遥かに越えた大鎌を携えた少女は、周囲を漂う霊魂を品定めするように見回して――やがて闇の奥から近付いてくる足音に気付いた。

 ――そこは古い時代に築かれた礼拝堂だ。
 並ぶ長椅子は朽ちかけ、積み上がった埃は闇の中で舞う。
 少女が背にする祭壇奥に見える巨大なパイプオルガンは、黒いシミに染まって罅が入っている。

 礼拝堂へ足を踏み入れた猟兵は、果たして目の前の少女にどんな感想を懐くだろうか。
 あなたを目にした彼女は叫ぶ。
 その声は震え、歓喜と絶望に染まった狂気を抱いて。獣よりも恐ろしい機敏さと手足を用いて天井や壁を駆け、這い回り、手に持ち口に加えた巨大な鎌をその首に向け振るうのだ。
故無・屍
…死体になってなお妹を止めようとするかよ。


想起するのはかつての記憶。
『バケモノ』の襲撃を受け、虫の息のまま『殺して』と懇願する妹に、自分はその白刃を以て心臓を貫く以外に゛何もできなかった゛。

…ならば、自分に『彼』の意思を背負う資格など無い。
それを有する者が居るとするならば――


UC、継戦能力、かばうの技能にて癒し手、守り手に専念する

自分の手は、もう『殺す』以外の道は持ち得ない。
だが、そうでない者が居るのならば。
…僅かでも、少女の救いを掴もうと、そう願う者が居るならば…


――足掻いて見せろよ、『救い手』共。
お前らがそれでも曲がらねェってなら、
俺にはもう伸ばせない場所にも手が届く可能性はあるだろうよ。


レイ・オブライト
喪った、だが
"忘れられない"

本当に全て失くしたのか? お前は
纏わりつく慟哭に何がどう痛もうと『覚悟』の上で突き進む
『属性攻撃(電気)』の『衝撃波』、音と光で都度塗り返し
格闘で応戦。女の鎌が巻き添えにこれ以上その眷属を屠るなら『かばう』
……家族ぐるみでうるせえぞ
たとえ半身くれてやっても『限界突破』 動く
深く刺さるほど好都合っちゃ好都合だ。引かれる前に『怪力』柄か腕かを掴めれば、契機とし【Crucifixion】
銀の杭で百殺す先はどうにも臭え黒衣そのもの。そんな狙いだ
あの世に着てくにゃ襤褸過ぎる。仮にも貴族のお嬢様がよ

花を手向けてくれる奴が確かに、いた
十分じゃねえか


※負傷OK。アドリブ他歓迎


リーヴァルディ・カーライル
…成る程、植え付けられた力とは、あの黒衣の事だったのね

…私は貴女達の遺志を、想いを力に変えて過去を討つものよ

…待っていて。今、その呪縛から解放してあげる

戦闘知識から慟哭は"風精の霊衣"のオーラで防御し、
負傷は自身の生命力を吸収して治癒

…これで最後よ。力を貸して

魂を取り込んだ左眼に破魔の魔力を溜めUCを発動
呪詛を浄化して光の精霊化した魂達に武器改造を行い、
無数の精霊剣を空中戦機動の早業で切り込み眷族を乱れ撃つ

私が背負った皆の意志を、ここで全て解き放つ…!

第六感が捉えた殺気から闇に紛れた敵を暗視して見切り、
両手を繋ぎ限界突破した精霊剣のカウンターを行い、
戦後、UCを再発動し魂達を解放し祈りを捧げる


サンディ・ノックス
負傷OK
アドリブ・連携OK

彼女が吸血鬼なのか、ただの動く屍なのかは関係ない
グレゴリウスは心から妹を案じていた
彼を滅ぼした俺達はアイリーンも滅ぼす義務がある
俺が今戦う理由はそれだけだよ

全身黒鎧の姿のまま交戦
主な目的は【時間稼ぎ】
呪詛や狂気に分類される俺の力で攻撃すると状況を悪化させる可能性もあるから

UC伴星・暴食の大剣を発動し肉体の一部から大剣を作り出す
荒れ狂う彼女から放たれる攻撃、何とかUCは阻止したい
『朔』を彼女の脚や腕に向かって【投擲】、動きも妨害しよう

攻撃されても武器でいなしたり(武器受け)魔力を高め【オーラ防御】
【激痛耐性】で痛みに耐え戦いの手は止めない
身を守る手段に乏しい同業者は庇う


木霊・ウタ
負傷Ok

心情
吸血鬼とはいえあんまりだ
アイリーンやその一族を解放し
海へ還してやろう

戦闘
その慟哭は助けを求める声に聞こえる
辛かったよな
苦しかったよな
もう大丈夫だ
俺たちが終わりにしてやる

獄炎纏う焔摩天で慟哭を切り払う
高熱が空気歪めて音の伝播を歪め
鋭い振りが空気を裂く

もし慟哭が心を侵食して来ても
絶望に沈む事はない
光が迦楼羅が道を照らしてくれる
侵食する闇を獄炎が喰らい祓う

あんたの悲しみ苦しみ絶望
確かに受け取ったぜ
変えられない過去を受け止めて
そうじゃない未来を目指し創り上げていく
それが猟兵だ

炎刃一閃
炎にUC織り交ぜ
理不尽を灰に帰し
アイリーンが赦され安らかを得る未来を

事後
ベルツェハイド一族へ鎮魂曲
安らかに




 ――見覚えが、あった。
「……成る程、植え付けられた力とは、あの黒衣の事だったのね」
 ずっと以前。
 何かの拍子にリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は猟兵として、関わった事がある。
 人を侵して冒して犯す。冒涜的それはとある呪詛や怨嗟の中で、宿主を利用するタイプのオブリビオンだった。
「死髪、黒衣……?」
 連なり。瞠目と共に囁かれた声。
 サンディ・ノックス(調和する白と黒・f03274)もまた奇縁だと思わずにはいられない。彼もまた、知っていた。
 だが。だが、そこにある明確な違和感の差は――眼前で虚ろな瞳を揺らしている黒衣纏う少女の方にあった。
 これは。かつて猟兵達に狩られた黒衣の意識、意思たるものが喪失している。
(……救えるのか、これを)
 闇の奥で佇んでいる少女は、ともすれば小さな風ひとつで倒れてしまいそうだった。細い肢体。身の丈の倍はあろう黒刃の大鎌を抱える彼女は、今にも崩れ落ち、折れてしまうのではと危惧させる。
 しかしサンディ達の正面から流れ込んで来る瘴気の濃さは尋常ではない。
 地下礼拝堂は、闘技場を隔てる壁の奥に秘されていた。こうまで隠したのは、何者だったのか。想像するまでもないだろう。
(……死体になってなお妹を止めようとするかよ)
 想起されるは、故無・屍(ロスト・エクウェス・f29031)の過去の記憶。

 ―― " 殺し…て…… " ――

 刹那。屍の脳裏を過ぎる、かつて己の手で心臓を貫いた……妹の姿が重なった。
 何も出来なかった。白刃を以て心臓を貫く以外に、あの時の自身には何もできなかった。
「ッ――!」
 グレゴリウスは、自らが死の連鎖に囚われながらも。オブリビオンとなって尚も、妹の為にまさに死力を尽くしていたのだ。
 その事実に至った直後。屍の体は驚くほど自然と、半ば無意識の内に動いていた。
「……俺に、『奴』の意思を背負う資格は無ェ」
 視界の中で起きた変化に脳が混乱しかけるも、屍は眼前に振り下ろした白刃で黒刃を受け止めながら奥歯を噛み締める。
 背後でリーヴァルディが数歩下がる。音と、気配で、屍はいつになく現状を俯瞰して。
「"それ"を持つ奴が居るとすれば――それは、俺じゃねェンだ」
「ぎ、ひッッぁっは♪」
 バギンと。大きく火花が闇の中で散った。
 屍が切り上げ気味に弾いた大鎌は少女の細腕を軸に空気を切り裂いて回転し、その遠心力を以て、変則的な軌道を描いてその場から跳躍した。
 少女の喘ぎ声が微かに鳴った瞬間。戦いの火蓋は切って落とされたのだ。

 ――奇しくも、動き出したのは全員同時だった。
「ッは、ぁあははァッ!! ぎッ、は――――ァァッ!!」
 宙を舞う。
 空気を切り裂き、壁と天井部が打たれ軋みを上げた瞬間。猟兵達の下へ一直線に少女の体躯が降り立った。
「……家族ぐるみでうるせえぞ」
 幾つもの閃光が瞬く。
 低い声が響いたのと同時に鋭い呼吸の音が、波の引きの如く鳴る。紫電と覇気が闇の帳を引き裂いて穿つはレイ・オブライト(steel・f25854)の拳だった。
 衝撃波さえ伴う右ストレートに絡み着く少女の華奢な肢体。黒衣が蠢き、物理法則を無視した動きでレイの腕を駆け上がろうとした。
 しかしそれを許さない。瞬間的にレイの体表を伝い爆ぜた紫電によって少女を宙に吹き飛ばす。ふわりと、空白のような一瞬で白銀の鎖と爆炎が追走して行く。
 レイに並ぶ木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)の背中が翼のように獄炎を噴いて。黒衣の少女に『焔摩天』を腰溜めに振り被ってから獄炎の一閃を繰り出す。
 炎と紫電が爆発する。
 熱風に混ざって空気中を奔る電流。パチパチと弾けるその音を聞きながら、礼拝堂に散見する長椅子を踏み砕いてサンディが疾走する。纏う黒鎧は帯電して鈍く光り、闇の中に飛び込む事でその存在を漆黒に染めながら踏み込んで行った。
 フッ、と軽い衣擦れの音。サンディが駆け抜けた先、熱風が晴れたその瞬間に浮かび上がったのは黒き巨大十字架。
 高速で迫るバタフライツイストから成る大鎌の回転斬り。眼前に振り下ろされた、頭蓋を砕くその一撃を、サンディの肩口から飛び上がった漆黒の大剣が遮り阻む。
「……君が吸血鬼なのか、ただの動く屍なのかは関係ない。
 グレゴリウスは心から妹を案じていた。彼を滅ぼした俺達は……アイリーンも滅ぼす義務がある」
 刹那に語りかけるその言葉は、目の前の少女以外にも寄せる様で。その思いは、自分の戦う理由として響く。
 黒刃の大鎌が滑る。少女の体躯はしなやかに、サンディの動きについてくる。
 懐へ入り込もうとする彼女へ牽制の回し蹴りを打つ。空気を叩いたその衝撃、髪の束を打つだけに留まったその脚を黒衣が絡んで引き寄せる。
 紫電が奔る。
 礼拝堂の古びた床板が爆ぜ飛び。一瞬で踏み込んで来たレイの体躯はさながら重戦車の様な圧力を以て、黒衣の少女を大鎌ごと横に殴り飛ばした。
 壁に何かが打ち付けられる音。
 しかし次の瞬間には頭上を何かが這う音へと。少女の絶叫を合図に悪意が降り注ぐ。
「あぁァァァ――!!」
 慟哭が、地下礼拝堂を震わせる。
「……これは、血の眷属……」
 降り注いだ小型の眷属。醜悪に歪めたその表情は、あらゆる苦しみに喘ぐ咎人の様。
 リーヴァルディの前に躍り出た屍が湾曲した刃を薙いで切り飛ばす。
 腐った血。黒衣の眷属、それは――死者の魂を用いて縫い上げられた人形だ。
 眉根を顰める屍の一方。リーヴァルディの側から淡い光が、眩く閃いて礼拝堂を照らし出した。
「……私は貴女達の遺志を、想いを力に変えて過去を討つものよ……待っていて。今、その呪縛から解放してあげる」
 霧散し行く眷属から漏れ出た仄暗い瘴気が、リーヴァルディの元へ集まる。
 その霧は小さく丸くなり。やがて彼女の差し出した掌の上をくすぐるように歩いて、伝い歩いた先で輝く左眼へと飛び込んでいく。
 眩いその光は、果たして。
「これで最後よ。力を貸して――私が背負った皆の意志を、ここで全て解き放つ……!」
 無数の霊魂が、眷属を討つ度に零れ落ちた死者の思念が。リーヴァルディの内に吸収され昇華されていく。
 眩い閃光は白く。その輝きを放つ彼女は聖女の如く、集め束ねたベルツェハイドの者の魂を浄化して見せたのだ。
 そして今。
 大鎌を咥えた少女が天井部にしがみついた姿のまま、一筋の滴が落ちる。
「――――ぅ、あ」

 少女には視えたか。
 眩い閃光が途絶えた次の瞬間。闇の中にハッキリと映し出された純白の精霊剣の内に、己を吸血鬼に変えてから幾百年もの間、たった変わらぬ愛情を注いでくれた兄の姿を。
 場に溢れ出す聖なる奔流。その中心に孕んだ愛しき人の気配、姿が……黒衣の中に囚われた少女には視えた。


 涙を流す少女の姿に偽りなどあるものかと、炎纏うウタは静かに剣を握り締めた。
 一瞬。少女の白い肌を伝い流れ落ちた滴を見逃さなかったのは、意味がある。
 この城でウタが見聞きし感じた全ては、意味があるのだ。そうに違いない。
「――もう大丈夫だ。俺たちが終わりにしてやる」
「ぎ、ッ! ン、んッ……ぁはッあ、ぁぁああああああ――――ッ!!!」
 確信は、決意を更に固くさせ。ぐるんと目を揺らし、闇を照らす精霊剣を目にした少女の慟哭がこれまで以上の音響を炸裂させた。
 まだ何処かに残っていたのか。礼拝堂の各所に散っていた硝子が全て割れる。
 数瞬遅れて波打つ衝撃波。莫大な音波が全ての音を消す最中、ウタが獄炎を撒いて跳躍し少女から放たれた慟哭の衝撃波へ焔摩天を一閃させた。
(……辛かったよな……苦しかったよな)
 炎が膨らむ。ウタには、少女の慟哭が助けを求めるそれに聴こえていたのだ。
 凝縮された爆炎は、コマ送りで次第に光の塊となり。ウタの揮う焔摩天を通して空間に"歪み"を生じさせた。それは――莫大な高熱が空気を歪め、音の伝播を歪めたのである。
 斬り払う。たったそれだけでウタと少女の間に爆裂が巻き起こり、礼拝堂を激しく揺さ振って軋ませる。
 炎が一条の火線となってウタを乗せ、距離を詰めた少年の剣が鋭く、空気を裂いた。
 黒衣が深々と切り裂かれ、そこから鮮血が漏れる。
「ッッ……ぎいぃ!!」
 慟哭を打ち破られてのカウンター。
 その瞬間を境に、少女の動きが一線を越える。
「がぁあッ――!」
 バキリ、と。骨が砕かれる音。
 ウタの眼前で広がるその光景は、怒りさえ覚えるものだった。
「……吸血鬼とはいえあんまりだ……!」
 少女の身の内側から肋骨を砕き割って飛び出した、黒い触腕が如き髪の束。それらは一瞬で形を変え、歪な人形のようになった直後にウタへ襲いかかった。
 激痛に泣き叫ぶ少女に思わず手を伸ばしそうになったウタを、横合いから飛び込んで来た屍が庇う。
 白刃と漆黒の大剣が縦横無尽に駆け巡り、火花を散らして少女の不意の一撃を彼が防ぐ。
 黒衣が蠢く。床板と天井部に一瞬で伸びた黒髪が糸のように少女を宙に引き上げる。
(……こいつを救う。そう願うなら)
 屍は、少女を追わずに。自身の手の中で溢れた光の残滓をウタの負った掠り傷に当てる。
 冷たく鋭い眼差しと、決意に燃える眼差しが交差する。
(――必ずアイリーンやその一族をここから解放し、海へ還す!)
(――足掻いて見せろよ、『救い手』共)
 言葉は交わさず。互いに視線を虚空に消えた少女の方へ移す事で、思いを新たにする。

 少女の絶叫。
 闇が、蠢いて。礼拝堂奥から這い回り出て来た無数の眷属が、慟哭の先で構える猟兵達へ駆ける。
 黒剣が唸り、精霊剣が静かな剣閃の下にそれらを蹴散らす。
 漆黒の大剣を振るい薙ぐサンディがその刃を床板に突き立て、直後に全方位に無数の黒刃を下から突き上げて眷属を吹き飛ばす最中。ウタが慟哭を斬り、リーヴァルディの操る精霊剣が闇の奥から群がる眷属を全て斬り払って見せる。
 精霊剣の操作に集中し、祈りを捧げるリーヴァルディを屍が守護する。
 闇の空間を飛び交う黒衣。
 目に見えぬ悪意は、既にリーヴァルディが精霊剣の輝きで暴いていた。一瞬で軌道を見極めたレイが壁を蹴り跳躍する。
「気付いてるかよ」
 宙を舞う鎖は、縛る為にあるのではないと。奔る覇気と共に彼は証明する。
 大鎌と二合打ち合う。振り下ろした拳に次いで繰り出した踵落としが、黒刃を刃毀れさせ。紫電を伴い打ち下ろした頭突きに少女が錐揉みして吹っ飛ぶ。
 だが、レイの身が引き寄せられる。一瞬で纏わりついていた黒衣が、彼を引き摺り込んでいた。
 刹那。至近で慟哭がレイの全身を打つ。
 ――だが、しかし。
「……本当に全て失くしたと、お前は思っちゃいねえだろう」
 狂気に歪む少女の眼が見開く。
 慟哭。少女の叫びを真っ向から耐え抜いて見せたレイの顔が、黒く濁った瞳の中に映る。
「聞きゃあ、お前らが "こうなった" のはオブリビオンになってからだってな。
 喪ったのは一度じゃねえんだろう。多くを喪った、だが"忘れられない"のがお前の――」
 ドン、という重い音が続く。
 突き出す黒刃。レイの懐を貫いた大鎌は食い込み、少なくない量の血液を闇の中に零して。
「――お前の、強さだ」
 背後から駆け寄る味方の足音。その刹那に奔る衝撃波が、味方も少女も吹き飛ばして。男は悠然と幽かな紫紺のオーラを漂わせて立ち上がる。
 屍がレイの治療に当たろうとするが、それを手で制止したレイは強く踏み出す。
 真っ直ぐに、闇の奥で蹲って喘ぐ少女の方を睨みつける。
「来いよ」
 バキリ、と。刺さっていた大鎌を掴んで砕き、刃を引き抜いて捨てる。
「俺たちは何処に居る?」
 その言葉に空気が膨らんだ。


 少女の身体は限界だった。
 蠢く黒衣は、少女アイリーン・ベルツェハイドの身を侵していた呪いは猟兵達を前にしてより強力になりつつある。
 しかし、肝心のエネルギーが足りない。
 戦う為に消耗するは、僅かな霊魂を糧にしたものと。少女の肉体が持つ生命力のみ。力こそ増しても、衰弱する一方なのだ。
 ならば。
 黒衣の内に眠り、奥底で嗤う魔女は強かに唇を舐める。
 リーヴァルディ。あの、グレゴリウスすら浄化して見せた女の肉体を奪う。その為にアイリーンの肉体を使い潰せばいい……新たな肉体さえ手にすれば、充分に釣りは出るのだから。
「ぎ、ッひひひ……あッあはははァッ!!」
 狂乱の下、少女の内から黒髪が血飛沫を上げて溢れ出す。
 慟哭。眷属の召喚、そして……己が黒衣で織り成す大鎌を再生成して。猟兵達に挑む。
 無数の眷属をけしかける間際、"黒衣の魔女"はその手を床に押し当てて叫んだ。
「ッ……まさか」
 ウタと肩を並べていたサンディが異変に気付く。
 前に出たリーヴァルディが自らを覆っていた『風精の霊衣』で眷属を相手取っていた仲間を庇う最中、礼拝堂を襲う振動が、それまでとは異なる衝撃波を以て震動させていたのだ。
 乱れ撃つ無数の精霊剣が眷属達を霧散させる。闇の奥でザワザワと姿形を変える少女の姿を目の当たりにしたリーヴァルディの左眼が疼いた。
(……恐らく、これが最後ね)
 濁った黒眼と目が合う。
 少女アイリーンを侵す黒衣の魔女は、歪んだ笑みを見せていた。

 ――数瞬の空白の後、全員の体が浮遊感に包まれる。
 床を伝い流れた慟哭は礼拝堂を崩壊させ、床板の下にあった梁さえも全て粉砕して。礼拝堂の更に下に続く空洞へ崩落させたのだ。
 暗視を以てしても見えぬ底の深さ。
 礼拝堂にあった祭壇やパイプオルガンなど、全てが落ち行く狭間に黒衣の魔女が縦穴の側面へ髪を這わせ、空中で機動戦を挑んで来る。
「迦楼羅!!」
 咄嗟に叫んだウタに呼応し爆ぜる爆炎。
 リーヴァルディに迫った黒衣の魔女を打ち上げた火の鳥が、糸引くように上空へ舞い上げた少年の体へと戻りながら獄炎を焔摩天に宿す。
 金色の炎が照らし出す中で壁を蹴り、三度の跳躍を経て黒衣の魔女へと辿り着く。
 煌めく精霊剣が暗い闇の中を飛翔する。地面はまだ遠く、空中で髪を使い軌道を変えた黒衣の魔女へウタの刃はまだ届かない。
 だが、焔が黒衣の端を焦がす。叫ぶ声は、徐々に掠れが混じり始めていた。
「~~ッ! あんたの悲しみ苦しみ、絶望。確かに受け取ったぜ!
 変えられない過去を受け止めて! そうじゃない未来を目指し創り上げていく! それが猟兵だ――!」
 宙で身を翻し黒刃を奮う少女を前に、受け止めるとばかりに獄炎を噴出させる。
 火花が、焔と瘴気が散る。
 無数の剣戟に混ざる血飛沫はウタのものも含まれている。少女は決死の姿勢だ、手を抜けば、この狭い中空で手痛い傷を負いかねなかった。
 袈裟斬りを弾く大鎌が、空中で縦横無尽に回転して振り回され、風と焔を切り裂く黒刃が変則的に揮われる。
 だが、その軌道が逸れる。黒衣の魔女の手首に絡み着いたワイヤーが一瞬震えた直後、次いでサンディが下から漆黒の大剣を突き出す。
 黒髪が散る。
 鮮血の代わりに髪が、少女の内から溢れ出て。それら黒衣の持つ力の全てがサンディの前で露わとなる。
 終わらぬ浮遊感。
 堕ち続けていた彼等は、いつしかその速度が減じて。無数の閃光が瞬いたその時、遂にその場に留まるようになる。
 彼等は予感していた。
 これが、最後の一幕になると。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年09月10日


挿絵イラスト