迷宮災厄戦⑱-17〜己を映す鏡~
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「鏡張りの迷宮……目が回りそうですね」
気だるげな微笑を浮かべながら、鳴宮・心(正義狂いの執刀医・f23051)はそう猟兵たちへと語り掛ける。
心によれば新たな戦場は不思議の国全体が広大な鏡張りの迷宮――「鏡のラビリンス」と化しているのだという。
その国に足を踏み入れたのであれば最後――侵入者とそっくりの存在が召喚され、迎撃にあたるというのだ。
「自分とは正反対……それはまた、僕にとっては憧れますね」
その侵入者そっくりの存在――「鏡写しの私」は、既に猟兵たちが突破した「過ぎ去りし日の闘技場」で現れたオブリビオンのように、完全に同一というわけでは無い。
それは鏡写しにより合わられた存在――むしろ左右は反転され、それでいて性格も正反対なのだというのだ。
故に、心のように自身の性格を好まぬ者にとってはそれは憧れの存在……逆に己の生き様に矜持を持つ者にとっては、見るだけでも不快な存在になるだろう。
「ともあれ、その反対であることに攻略の鍵があるはずです」
戦闘力は同じであるが故に、真正面からでも十分に戦うことは可能であろう。
だが同時に、反対であることもまた攻略の糸口と成り得るのではないだろうか?
姿が左右対称であることを利用し、活路を見出すのか。
性格が正反対であることに着目し、突破口を見出すのか。
いずれにせよその差異こそが、重要な鍵となるであろう。
「それでは皆さん、お気をつけて」
軽薄な笑みを浮かべたまま……心はそう言いながら、猟兵たちをそう送り出すのであった。
きみはる
●ご挨拶
お世話になります、きみはるです。
迷宮災厄戦も後半戦。
もうひと踏ん張りと参りましょう。
●依頼について
姿が左右対称、正確が正反対の存在が現れますので、対抗して下さい。
自分のキャラクターの性格が正反対だったら……と皆様のイメージがあるかと思われますので、一言で言えばこういったキャラクターのはず……という説明はプレイング中で頂けますと助かります。
戦闘と言いつつあくまで冒険フラグメントですので、戦闘以外の方法で打ち勝ってもかまいません。
●プレイングについて
OP公開~締まるまでをプレイング募集期間とさせて頂いております。比較的少な目人数での完結となりますことをご承知おき下さい。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 冒険
『「鏡写しの私」と戦う』
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POW : 「姿が左右対称」「性格が正反対」だけならば、戦闘力は同じ筈。真正面から戦う
SPD : 「姿が左右対称」である事を利用して、攻略の糸口を見つけ出す
WIZ : 「性格が正反対」である事を利用して、攻略の糸口を見つけ出す
👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
緋月・透乃
自分との戦いかー。過ぎ去りし日の闘技場に引き続きって感じだね。
とはいえ性格も左右も反対らしいしそれはもはや別人なような気もする!
ま、敵には違いないので倒すだけだね!
私の反対ってことはネガティブで弱気で慎重で戦闘が嫌いで攻撃よりも防御が大事、ってことかな。そして右利きと。
うーん、やっぱりそれはもう私ではないような……
武器は重戦斧【緋月】を使うよ。
敵の性格を考えると、いきなり突撃は危険そうだね。
まずは武器を構えたままじりじり間合いを詰めてから、一気に猛ダッシュして突撃して罷迅滅追昇をぶっ放す!これがいいかな。
私は防御や回避よりも攻撃が得意だからね!能力が同じなら攻めに行ったほうが勝てるはずだよ!
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「自分との戦いかー」
鏡張りの迷宮を進み、緋月・透乃(もぐもぐ好戦娘・f02760)は一人そう言葉を零す。
合わせ鏡の迷宮は、やたらとセクシーな衣装の透乃の姿を延々と彼方まで写し込む。
底抜けな明るさを持つ彼女の声は、これから待ち受ける脅威に対し、どこか気の抜けたような雰囲気。
性格が正反対な自分とは、果たして自分と言って良いのだろうか……そんな取り留めも無いことを悩んでいた彼女は、ふと視界の先に異様な雰囲気を放つ己を認識し、その全ての思考を切り捨てるのだ。
「ま、敵には違いないので倒すだけだね!」
バーバリアンである透乃にとって、戦いに入れば余計な思考は邪魔なだけ。
ただ己の欲求に従い、戦いを楽しむだけなのだ。
そんな彼女が担ぐの重戦斧――緋月。
もう彼女の思考の中には、いかに手中の鉄塊を叩きつけるか否かしか存在しなかった。
「来なさい……」
明るく溌剌とした透乃に対し、鏡写しの彼女はどこか陰鬱とした雰囲気を放つ。
手に持つ獲物は同じ――しかしその構えは彼女の得意とする先の先を取るものでは無く、防御を――後の先を取るような、迎撃の構え。
服装は同じ――しかしその彼女が好んで来ている極度に露出の高い服装を嫌がっているのか、どこか恥じらいを感じる。
極めつけは左利きの彼女の反対である右利き――先ほどの悩みの答えは簡単、これはもはや完全に別人だと、すとんと腹の底に落ちるように、素直にそう実感するのであった。
「くたばれ、消え去れ、あの世の果てまで飛んでいけー!」
違和感を拭い切れない相手との闘い。
じわり、じわりと距離を詰めるように様子見をしていた透乃であったが、これ以上の様子見は不要とばかりに間合いを詰める。
その感覚こそ天才的――本能的に隙を感じた透乃が飛び出したのは、相手の呼吸が……緊張感が緩んだ一瞬。
その一瞬の隙を突いて肉薄したのであれば、後は彼女の独壇場だ。
「罷迅滅追昇!!」
咄嗟に戦斧の腹を盾としようとする鏡写しの彼女。
しかしそれはもう遅い――カウンターというのは、呼吸を合わせてこそ意味があるのだから。
機を逃したのであれば、それは反撃では無く単なる防御。
その構えた斧ごと肩から突撃した透乃は、その全体重をかけた一撃をぶちかます。
その連撃こそ猪突猛進でありながらも一気果敢に攻める一撃必殺の技。
ショルダータックルにより大勢を崩した相手に対し、その勢いそのままにぶちかますは重戦斧のかち上げだ。
「能力が同じなら攻めに行ったほうが勝てるはずだよ!」
力こそパワー。
攻撃こそ最大の防御。
鏡写しの自分が相手であれ、彼女は構わず攻め続ける。
突撃大好きなバーバリアンは、攻めてこそ勝利がその手に得られるのだと確信しているのだから。
大成功
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アウグスト・アルトナー
WIZ
相手は『非合理的で』『よく笑う』性格かと
相手にとって不利な勝負を仕掛けても、面白そうなら食いつくはず
すなわち、笑わせ対決です
先攻は譲りますよ
1分経ったら交代です
さて。ぼくは絶対に笑わない自信があります
なぜなら、父さんは言っていたんです。『辛い時は笑え』と
なのでぼくは、『辛い時にしか笑いません』
どんな面白いことをされても、笑いませんよ
ぼくの番が来たら……ダークセイヴァージョークをひとつ
「ヴァンパイアの領主が戯れに、民を殺すことにしました。
千人の民を配下に崖の上へ連れて行かせ、突き落とさせました」
「やがて、配下は血相を変えて戻ってきて、報告しました。
『全員、落下中にオラトリオになりました』」
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「なら……笑わせ対決ですね」
相対す鏡写しの自分自身を見つめ、アウグスト・アルトナー(永久凍土・f23918)は堂々と言い放つ。
その表情に茶化した様子は無く、その言葉が心の底から大真面目に言い放たれているのだということが読み取れる。
そこは今も尚激しい攻防が繰り広げられている迷宮災厄戦の一戦場――そんなほんわかした勝負が繰り広げられるはずも無い。
そう、本来であれば。
「ほう、面白いじゃねぇか」
一体何が面白いというのだろうか。
そんなツッコミを入れる者など、その鏡張りの迷宮の中には存在しなかった。
理詰めで、合理的なアウグスト――その正反対な性格である鏡写しの彼は、非合理的であり、理屈では無くその場のノリで判断をするような性格。
故に圧倒的にアウグストが有利であろうその提案に対して、鏡写しの彼は堂々と受け入れるのだ。
「先攻は譲りますよ……1分経ったら交代です」
「よっしゃぁ、いくぜ!」
アウグストの掛け声に応じるように、鏡写しの彼は動きを始める。
彼が放つは王道中の王道――変顔。
性格が正反対でありながらも左右反対なだけでうり二つの顔つきをしている鏡写しの彼は、アウグストであれば絶対にやらないような変顔を次々と繰り広げる。
しかしその様子を見つめるアウグストの視線は……まるで虫けらを見下ろすかのような、冷めたものであった。
(父さんは言っていましたね……辛い時は笑え、と)
ふと思い浮かぶのは、父の言葉。
父は何度も言っていた――辛い時は笑えと。
その父の言いつけを忠実に守らんとするアウグストは、故に辛い時にしか笑うべきでは無いと、そう思うのだ。
そんな過去の記憶に想いを馳せていれば、ふと気付けば時間切れ。
もはや眼前の鏡写しの彼の存在自体を意識の外へとおいやっていたのだが、肩で息をする様子から、全力を尽くしていたらしい。
だが、それもこれまで……己が完璧な戦略に満足をしながら、アウグストは止めを刺すべく口を開く。
「それではぼくの番ですね……ここでダークセイヴァージョークをひとつ。ヴァンパイアの領主が戯れに、民を殺すことにしました。千人の民を配下に崖の上へ連れて行かせ、突き落とさせました……やがて、配下は血相を変えて戻ってきて、報告しました。さて、何と言ったと思いますか?」
ぽかんとしながらこちらを向く鏡写しの彼を見つめ、アウグストは勝利を確信する。
これから口にするオチは誰が聞いても爆笑ものの鉄板ネタなのだから。
勝利のファンファーレを脳内に響かせながら、ゆっくりと口を開くのだ。
「全員、落下中にオラトリオになりました……だそうですよ」
「……は?」
鏡張りの迷宮に、沈黙が訪れる。
どうやらこの戦いは……長くなりそうだ。
大成功
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緋翠・華乃音
――ああ。
その存在を感知しただけで分かる。
君は、俺には“絶対に”勝てない。
そしてそれは、君も直感で理解している筈だ。
俺が極めたのは『静けさと道理』だ。
性格が正反対なら、君が極めているのは『激しさと不条理』だろう。
……能力まで正反対なら、俺に勝ち目は無かっただろうけどな。
さて、深い思考が苦手な敗因を教えてやろう。
――全て見切っているからだよ。
『激しさと不条理』というのは基本的に精神論者だ。
意志力や精神力で己よりも強者を捩じ伏せるのに適している。
翻って『静けさと道理』はある意味そのカウンターだ。
研ぎ澄まされた合理性と、条理に満ちた最適解が俺の武器。
精神論と合理性では“基本的に”後者に軍配が挙がる。
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「ああ――その存在を感知しただけで分かる」
鏡張りの迷宮を進んだ先に存在した鏡写しのもう一人の自分。
その存在を一目見た時――その存在を感知した瞬間、緋翠・華乃音(終ノ蝶・f03169)は確信した。
「君は、俺には“絶対に”勝てない……そしてそれは、君も直感で理解している筈だ」
己は決して、この鏡写しの自分には負けはしないのだろうと。
「五月蠅ぇ、やってみねぇと分かんねぇだろ!」
それはきっと自身を叱咤する為の虚勢。
額に汗を流しながらも、宵星の刀を構える鏡写しの彼。
正確は正反対でも、その身体能力も――思考能力も同等。
故に彼はきっと同じ結論に至っているはずだ――そう、華乃音は確信する。
「……能力まで正反対なら、俺に勝ち目は無かっただろうけどな」
自身が極めたのは――静けさと道理。
その全ての思考は論理的に、そして冷静に。
故に彼が選ぶのは、常に最善手なのだ。
その正反対と言うならば、激しさと不条理……だろうか。
例えその戦いぶりが勇猛果敢であろうとも、例え不屈の精神を持とうとも――深い思考の出来ぬ猪武者に負ける道理など無いのだから。
瑠璃色の刀が振るわれれば、その威力を十全に発揮出来ぬよう超至近距離へと肉薄し、それを翅のように軽い短刀で受け流す。
咄嗟に飛び退こうとする相手に対し――華乃音は逃がさないとばかりに追撃をかける。
振う刃を避けるように体勢を崩したところに叩き込むは拳銃から放たれる鉛弾。
飛び散る紅と共に我武者羅に刀が振るわれるものの、その刃は決して華乃音を捉えない。
「不思議そうだな?……敗因を教えてやろう――全て見切っているからだよ」
研ぎ澄まされた合理性と、条理に満ちた最適解。
いかに能力が同等であろうとも、精神論では勝利を掴むことなど出来ないのだ。
故に一手一手を合理的に詰める華乃音に鏡写しの彼は翻弄され……全ての動きを手玉に取られるように見切られている。
「じゃあな」
鏡張りの迷宮は紅に染まる。
飛び散る雫の隙間から覗く鏡に写った青年の顔は――酷く、冷たいものだったという。
大成功
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ハルア・ガーラント
彼女はきっと全てにおいて前向きで
いつだって強くて泣かない自信溢れる「わたし」
【WIZ】
鏡合わせのわたしなら正々堂々戦ってくる筈
[咎人の鎖]を操り応戦、彼女の攻撃は[第六感]で攻撃の瞬間を感じ取り[オーラを身に纏わせ防御]
迷いのないその動きと瞳に憧れてしまいそう
でも、わたしは恐怖を力にすることが出来るんです
怖がり勝負なら絶対に負けない!
強いあなたは恐怖を感じるまで時間が必要でしょう
同等の戦闘力、決定打を与えられないと悟った彼女は早々に攻撃手段を切り替えると予想
同じ位の強さと分かっていても、どんな攻撃がくるのか怖いものは怖い
こちらを倒そうと迫る姿に恐怖を爆発させUC発動
怖がりも悪くない、かも……?
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「貴方はきっと……と全てにおいて前向きで、いつだって強くて泣かない自信溢れるわたし」
迷宮に張り巡らされた鏡に写る己とは確かに違う存在が視線の先から歩み寄る様子を、ハルア・ガーラント(宵啼鳥・f23517)は静かに見つめる。
髪の色も、瞳の色も、淡く光る月下美人すらも同じ。
しかし鋭く細められた視線が、強く引き締められた唇が――眼前の鏡写しの彼女の気の強さがうかがい知れる。
真っすぐに伸ばされた背筋が、堂々と歩くその様が、彼女の溢れる自信と前向きさを感じさせる。
迷いの無いその動きに、思わずハルアは憧憬の念を抱いてしまう。
それは自身の気の弱さを……時に抱いてしまう後ろ向きの思考に引け目を持っているハルアだからこその感情。
自己愛に目覚めたつもりは無い――だが、その自信に満ち溢れた彼女を見て、ハルアは美しいとすら思ってしまうのだ。
「いくわよ……」
互いの距離が己が戦闘領域に差し掛かる頃、眼前の鏡写しの彼女から声がかかる。
それは正々堂々たる態度。
奇襲など考えず、正面から叩き潰す構えだ。
互いに放つは咎人の鎖。
主人の意思と共に複雑に弧を描くもの言わぬ狩人は、時にぶつかり合い、時に絡み合いながら互いの急所を狙う。
己が実力は同等――故にその鎖が互いを狙い……互いの不可視の盾に弾かれる様も、全くの同じなのだ。
「……ひっ」
堂々と迷い無く動く鏡写しの彼女。
その様に、その力強い瞳に憧れを抱くと共に――やはりハルアは恐怖を感じる。
拮抗する実力故に膠着する戦況を良しとせず、貪欲に勝利を目指し足掻く彼女が……どんな手段を用いるのか、手の内を知っていても尚恐怖を感じずにはいられないのだ。
「っ……近寄らないでください!」
ハルアの胸中に渦巻く恐怖が最高潮へと達した時――目もくらむ閃光と共に現れるのはその鏡張りの迷宮の通路を覆いつくすほどの白鷲たち。
淡く仄かに光る白鷲は相手の見た目に戸惑いながらも、恐怖に怯える主人の姿を認めれば果敢に敵へと立ち向かう。
思わず目を瞑る彼女の耳へと届くのは、力強い羽ばたきの音と呻く声。
恐怖に身を竦む彼女は、その音が落ち着いた頃……漸くその瞳を開くことが出来た。
辺りをゆっくりと見回せば――鏡写しの彼女は露と消え、辺りを白き羽毛が覆いつくしていた。
細い通路が可愛い相棒で埋め尽くされるその状況に思わずくすりと笑う。
「怖がりも悪くない……かも?」
自身の怖がりも意外と悪くはないかもしれない。
不思議そうにこちらを見つめる丸い瞳を眺め、不思議とそう思えるのであった。
大成功
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リュナ・メル
キミは僕?随分自信家みたいだね。
そんなこと僕は言わないよ。
わかったよ、キミが強いというなら
僕が相手になろう。
僕と同じ武器、リボンと拷問器具
負る?少し怖い、けどこれでいい
逆境や恐怖が僕を強くするから
僕の両腕すらもリボンに、鎖に変えよう
キミにはこんなリスク負えないだろう?
捕まえた。
僕は自分が強いなんて思ってない
だから、勝つためなら何でもできてしまう。
僕の弱さが、僕の強さなんだ。
それを欠いたキミの負け。
驕るなよ。
キミが弾けて紅いソーダ水の雨が降る
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「キミは僕? 随分自信家みたいだね」
「貴方は私? 貴方が卑屈なだけでなくて?」
鏡貼りの迷宮を進んでいたリュナ・メル(あまい劇薬・f27073)は、開口一番――刺々しく口を開く。
目の前にいるのは己とうり二つの存在。
そのルビーのように光る紅の瞳も、歩く度にたなびく白髪も、病的に白い肌も同じ。
違うのは対照的な髪の結い方と、その挑発的な瞳だ。
「そんなこと僕は言わないよ」
勝気な瞳が、どこか荒々しい雰囲気を纏う己とうり二つの存在が、どこか苛立たしい。
リュナは心の底から浮き上がる不快感を隠そうともせず、相対するのだ。
「私は貴方じゃないもの。貴方を倒して唯一になるの……だって私の方が強いから」
「わかったよ、キミが強いというなら……僕が相手になろう」
二人は同じ身長で、同じ衣を纏い、同じ顔つきをしていた。
正確は……纏う雰囲気は正反対――だが同時に、感情は同じ。
互いが互いを気に入らない……顔に出る嫌悪感は、同じものだ。
リュナはあえて武器を持ち込んではいなかった。
何故ならば相手もまた、同じ装備を纏うことが予測されるからだ。
故に慣れぬキャットファイトに挑むのだ。
(少し怖い、けどこれでいい……逆境や恐怖が僕を強くするから)
そこに恐怖を感じない、と言えば嘘になる。
だがそれで良いのだ……その恐怖が、追い込まれることが、己の力を引き出すのだから。
「キミには……こんなリスク負えないだろう?」
殴り、蹴り、掴み合う。
そうして振るう拳を、リュナは突如液化させるでは無いか。
半透明のそれはリボンのようにしなやかに――鎖のように荒々しく弧を描く。
そうして絡め捕るは――鏡写しの彼女自身だ。
「……捕まえた」
深海のソーダ水から生まれた水の精霊であるセイレーン。
肉体もソーダ水でできている彼女たちは、その身体の形状・質感・柔らかさに加え、透明度すら変化することが出来る。
しかしブラックタールのように自在に体を変化させるものはそう多くは無い。
それは彼女たちには……いずれソーダ水に還ってしまうのかもしれないという想像に、本能的な恐怖を覚えるからだろうか。
「僕は自分が強いなんて思ってない……」
ひも状へと姿を変えたリュナの腕は鏡写しの彼女の動きを止めると共に首を絞める。
苦しそうにもがき、爪を立てる彼女だが……しかしその性格故か、プライド故か――決して姿を人間のそれから変えることは無かった。
下らない、とは思わない……何故ならリュナ自身もまた、この行為に対する嫌悪感は同様に感じているのだから。
「だから、勝つためなら何でもできてしまう」
唯一つ、違うのであれば……それは己が弱いという自任と、何をしても勝つという覚悟の差だ。
「僕の弱さが、僕の強さなんだ。それを欠いたキミの負け……驕るなよ」
首を絞める液体へと爪を立てる動きが、だんだんと弱くなっていく。
必死にもがく動きが……どんどんと小さくなっていく。
そうしてその動きが完全に止まったその瞬間――身体は弾け、辺りに紅いソーダの雨が降り注ぐ。
大成功
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