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迷宮災厄戦⑱-2〜悲嘆の涙海、哀哭の追想~

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦 #オブリビオン・フォーミュラ #オウガ・オリジン

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●忘れたくても忘れられない傷
「いきなりこんなことを聞くのも何だが……みんなは、自分の過去と向き合ったことはあるか?」

 招集に応じた猟兵たちを前に、地籠・陵也(心壊無穢の白き竜・f27047)は問いかける。

「ああ、すまない。答えたくないならそれで大丈夫だ。
 あまりにも失礼なことを聞いているのは事実だから……多分乗り越えた人もいれば、今もまだ目と耳を塞いでいる人もいると思う。
 この話をしたのは俺が予知したものと関係しているからなんだ」

 陵也の予知によると、オウガ・オリジンは今自らの現実改変ユーベルコードで想像した『涙の海の国』の水底深くに座しているらしい。
 水中での戦いとなるが別に呼吸も可能で水圧の影響も受けることはない――だが、海水に触れると各々の辛く苦しい過去の記憶が強制的に呼び覚まされてしまう。
 だが、オウガ・オリジンはその影響を全く受けない――正確に言うなら思い出しても冷酷無比である為何も思わない――為、その過去の追憶を何とかして乗り越えなければ戦うことすらままならないのだ。
 だが倒さねばならぬからと無理やりに向き合ったところで何一つ良いことにはならない。
 故に向き合う自信のない者に行かせたくないと陵也は言う。

「自分の辛い記憶と向き合うことは、オブリビオンと戦うことの何倍も、何十倍も辛くて苦しいことだと俺は思っている。無理に乗り越えようとしたところで明るい未来なんてない、むしろ今よりももっと辛い傷を負ってしまうことになる……俺は、みんながそうなってしまうのは嫌だ。
 だから申し訳ないが、ふるいにかけるような質問をさせてもらった。
 ただ……向き合う勇気がまだ持てないでいても、どうかそれを恥ずかしいと思わないで欲しい。
 それぐらい辛くて苦しいものなんだから向き合えないのは当然なんだ。決して悪いことじゃない」

 これを予知した陵也自身も、過去にオブリビオンに家族を奪われて以来"喪失への恐怖"から抜け出せないでいる状態だ。
 ただその恐怖が原動力に"結果としてなっているだけ"で、誰しもがそうではないことは彼も十二分に承知している。
 全員が全員簡単に向き合えるものであったならば、オウガ・オリジンはこのような国を作り上げることはない。
 冷酷無比……言い換えれば他者を何とも思わぬ鬼畜であるが故に、皆の過去の傷を呼び起こそうとしているのだから。

「でも――それでも行くというのなら、俺は止めない。その勇気を尊重するし、尊敬する。みんなが乗り越えられるように祈っているよ。
 そして必ず、オウガ・オリジンを倒して……生きて帰ってきてくれ」

 グリモアベースの転移陣が開く。
 猟兵たちが涙の海の国へ向かうと同時に、陵也の肩に乗った子猫が彼らの無事を願うようににゃあと鳴いた。


御巫咲絢
 猟兵たちのー!過去を乗り越えるエモカッコいい姿が見たーい(欲望ダダ漏れ)!!
 こんにちはこんばんはあるいはおはようございます、初めましての人は初めまして新米MSの御巫咲絢(みかなぎさーや)です。
 当シナリオをご閲覧頂きありがとうございます!初めての方はお手数ですがMSページをご覧頂いた上で以下にお目通しをお願い致します。

 ぼくのかんがえたさいきょうもんすたーとかそんな面白いパターンも出てきましたが、そんな中戦争シナリオ6本目としてお送り致しますのはVSオウガ・オリジンin涙の海の国。
 各々の辛く悲しい記憶を乗り越えてオウガ・オリジンに渾身の一撃を見舞ってくださいませ。
 判定「やや難」となっていますが先制ユーベルコード攻撃はありません!やったね!
 このシナリオには以下のプレイングボーナスが存在しています。

●プレイングボーナス
 過去の悲しみを克服しつつ戦う。

●プレイング受付について ※必読!!※
 OP承認時から受付を開始致します。
 今回は皆様の過去と向き合う内容を描写する為、可能な限り解釈違いを避けるべくプレイングを頂きました方お一人お一人のプロフィールや参照先等を見ながら記述のない部分に関してはこちらで補完して描写しようと思っていますのでリプレイお返しにめっっっっっっっっっちゃくちゃお時間を頂くことになると思います。
 なのでどうしても描写してもらいたい!という方は「再送前提も視野に入れた上で」プレイングを投げて頂きますようお願い致します。
 その為他の戦争シナリオよりも受付人数が非常に少なくなるであろうのと、また「プレイングと設定を確認した上で書きやすい方から」採用させて頂く為プレイング内容によっては不採用になる可能性が非常に高くなっております。
 以上の内容をご理解の上、プレイングのご投函お願い致します。
 MSの読解力が足りなくて解釈違いになったらごめんなさい!!!(土下座)

 では、皆様の素敵なプレイングをお待ち致しております!
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第1章 ボス戦 『『オウガ・オリジン』と嘆きの海』

POW   :    嘆きの海の魚達
命中した【魚型オウガ】の【牙】が【無数の毒針】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる。
SPD   :    満たされざる無理難題
対象への質問と共に、【砕けた鏡】から【『鏡の国の女王』】を召喚する。満足な答えを得るまで、『鏡の国の女王』は対象を【拷問具】で攻撃する。
WIZ   :    アリスのラビリンス
戦場全体に、【不思議の国】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。

イラスト:飴茶屋

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●深海にて邪悪は嗤う
 ――ははは!猟兵たちよ、やはりくるか。

 転移した涙海の奥底から響き渡る歪んだ少女の声。
 ……オウガ・オリジンだ。

 ――ここは貴様らの忌々しき過去の坩堝。容易に戦えまいな?何故なら貴様らは過去というものに縛られる。

 ――貴様らの嘆きと苦しみの自滅ショーを水底から楽しく鑑賞させてもらおうじゃあないか。
アハト・アリスズナンバー
――これは、オリジナル・アリスの記憶。そして立ち向かうべき過去です。
UCを起動して、主導権をオリジナル・アリスに変更。


私の最後の記憶。
あの日扉を通れなかった私の記憶。
やっとの思いで見つけた扉。でも、それは私でない誰かの扉。
隣を歩んでくれたアリスの彼の扉だった。

そうして私は死んだんだ。オウガに喰われて、彼の復讐の道具にされて。

……ようやく、あの時の借りを返せるわ。
【第六感】で気配を感じつつ、最高速で突っ走り、【ランスチャージ】
そのまま【零距離射撃】で今までのアリス達の無念を込めた【呪殺弾】を叩き込んであげる。
未来は今を生きる者の為にあるの。私と一緒に過去に沈め。アリスの亡霊。



●過去に墓標を、未来に標を
 先陣を切って飛び込んだのはアハト・アリスズナンバー(8番目のアリス・f28285)だ。
 ……それだけで、涙が堰を切ったように溢れ出す。
 水泡がまるで迷路のように彼女を多い、床には過去の光景が映し出される――それはアリスラビリンスのどこかにある"扉"。
 ああ、とアハトは声を漏らす。

「(――これは、オリジナル・アリスの記憶)」

 アリスズナンバーはアリス・グラムベルという一人のアリス適合者の遺伝子から生まれたフラスコチャイルド。
 オリジナル・アリスである彼女との交信も行う彼女たち全員がアリス・グラムベルの記憶を所有している――即ち、アリスズナンバー全員"アリスズナンバーでありアリス・グラムベルでもある"ということなのだろう。
 故にこの涙海はアリス・グラムベルという少女に刻まれた過去の傷を想起しようとした、というのであれば辻褄が遭う。
 まあ、オウガ・オリジンはそんなこと考えて作ったのではなくただこちら側が苦しみ呻く様を見たいが為に"最も有効な過去の傷"を反映するようにしているだけかもしれないがそんなことは今ここにおいては瑣末事だ。
 大事なのは――これに立ち向かうべきは誰なのか、ということ。アハトは迷わずユーベルコードを起動した。

「権限譲渡を申請、『肉体の操作権限を一時的にオリジナル・アリスに移行』」
『――オリジナル・アリス、承認します』
「『同調開始』」

【シンクロニティ・オリジナルアリス】――オリジナルであるアリス・グラムベルに自らの身体の操作権限を譲渡することで彼女が表舞台に立つ、アリスズナンバー全員が所有しているユーベルコード。
 アハトの身体を借りて再び権限したアリス・グラムベルは溢れ出る涙と共に過去の記憶を追想する。

 ――私の、最後の記憶。

 あの日、扉を通れなかった私の、記憶……

 ……

   ……

 それは必死にオウガたちから逃げ惑っていた地獄のような日々。
 逃げても逃げても、あいつらは追いかけてくる。
 何度心が折れそうになったかわからない……絶望の余りオウガになってもおかしくはなかった。
 でも――それでも、人でいられたのは。

『アリス!あと少しで扉だ!』

 自らの隣を歩んでくれた、もう一人のアリスの少年の存在があったから。
 彼自身も怖くて怖くて仕方なかっただろうし、数え切れない程心が折れそうになったことだろう……
 でも彼は、それでも笑顔を作って私を励ましてくれた。
 頭の良い彼の機転のおかげで難を逃れた機会も数え切れない程だった、だから扉だって見つけることができた。
 ……けれど。

『――これ、私の扉じゃ……ない』

 震えたように私は言った。
 その言葉だけで彼は察したのだと思うけど、確かめるように扉に触れて。
 そこで初めて彼は絶望したかのような顔を私の前で見せた。
 何故かは知らないけど、彼は私を先に帰そうとしてくれていた。
 だから私は、彼がしてくれたように落ち込んでいる彼を励まそうと声をかけた……今ならわかる、あの時私はとても残酷なことを言ってしまったのだと。
 でも私の意図を賢い彼はすぐに理解して、笑顔を浮かべてありがとうと言ってくれた――それが作り笑いだなんて気づく余裕がこの時の私にはなかったけれど、彼の笑顔で心が安らいだ。

 そして、その瞬間に私はオウガに喰われた。
 彼の目の前で何も為す術なく……
 意識も感覚も消えていく中、私を呼ぶ彼の声と涙でぐしょぐしょに濡れたその顔だけがただただ脳に焼き付いた。

 そして私は、彼の復讐の道具として。
 たくさんの"アリスズナンバー(むすめ)"たちの母親になった。
 私の、そして私ように扉を見つけられず失意のままオウガに喰われていったたくさんのアリス――彼女たちの無念を晴らす為に。

『もう君や、君のような子たちを生み出させはしない』

 ――ええ、それは私も同じ気持ちよ。
 私はもう"過去の産物"となった。
 だから、今を生きる人たちの為に――まだ希望が残されたアリスたちを無事に帰す為に。
 ここで終わりにしなくちゃいけない。

 それに……

「……ようやく、あの時の借りを返せるわ」

 過去の泡沫たちによって作られた迷路の道を迷いなく最高速で突っ走る。
 涙は止まらないがその顔に一切の迷いはなく、近づいていくオウガ・オリジンの気配をひしひしと感じながら、武器を握りしめて力を込める。

 ――はははははは、そうかそうか。思い出したぞ。

 ――貴様、あの時喰ったアリスだな?貴様の血と肉は実に美味だった。絶望に満ちた叫びを聴きながらの食事よりも心と身体が満たされる素晴らしい時間だったよ。

 ――どうやってここに現れたかは知らぬが、その時の礼ぐらいは言っておいてやろう。

 その言葉にアリスは答えない。
 ただ真っ直ぐに、倒すべき敵を倒す為にひたすらに走る。
 力を込め続ける斬竜剣ヴォーパルソードの青白い刀身は美しくも禍々しい光を帯び始めていた。
 それは過去へ手向ける墓標にして、未来を生きる者の為の澪標。

 さあ、オウガ・オリジンの気配は最早目の前だ。
 剣を振るえ。決して手放すな。
 その表情すらわからぬ漆黒の顔が歪んでも最後の最後まで気を抜くな。
 これは自身の全霊をかけた一撃、それを通さなければ何とする!
 過去の怨嗟に十字架を突き立てろ――!

 迷路を飛び出すと同時に、オウガ・オリジンの身体をヴォーパルソードが貫いた。
 黒一色でどこにあるかわからぬ口から漏れる苦痛の呻き、だがアリスはまだ止まらない。

「き……さま……ァッ」
「……未来は、今を生きる者の為にあるの」

 刀身の輝きがより一層強さを増す。
 それはオウガ・オリジンを内から焼き尽くす裁きの光焔、今まで彼女によって蹂躙され儚く散った多くのアリスたちの無念と怒りを込めた呪いの一撃。

「私と一緒に過去に沈め、アリスの亡霊……!!」

 自らを諸共に巻き込みながら、渾身の呪殺弾はオウガ・オリジンを内側から焼き尽くしていった――

成功 🔵​🔵​🔴​

アスカ・ユークレース
★アドリブ、再送可

アレックス。かつて道を違えたあの子。使命に囚われ狂ってしまった女。行き違ったまま救うことのできなかった妹。私は……あの時どうすれば……

なんて、泣いている暇などないですね。生きて、強くなれと託されたのですから。背負って生きると、寄り添われたのですから。

UC発動。機械鳥の刃にて拷問具を一辺残らず破壊します。
爆撃と炎の属性攻撃のおまけもつけてオリジンごと徹底的に。
乙女の古傷抉った罪は、重いですよ。

あら?また、涙が……駄目ですね、私ったら。振り切ると決めたそばから、これですから。



●金緑石の夢は――
 涙海の底へと潜るアスカ・ユークレース(電子の射手・f03928)の脳裏に過るのは。

「(……アレックス)」

 アレックス――アレキサンドライト。
 とある世界のとある計画の実験体として、生まれを同じくして……道を違えた妹。
 あの子は自らの使命に囚われ狂ってしまった。
 本当は、本当は肩を並べて共に戦いたかったけれど……そうすることを運命は許してはくれなくて。
 生命を終わらせることでしか、止めることができなかった。

 私は――あの子を救うことが、できなかった……

 今でもその最期の瞬間を思い出す度に胸が締め付けられる。
 涙が溢れそうに――ああ、ここではどうやっても涙が溢れてしまうんだったっけ。
 自らの瞳から涙の水泡が水面へと上がっていくのを見上げてからより深くへと潜っていくアスカ。
 やがてはその最奥まで至りオウガ・オリジンの姿を視認する。

 ――ここまでよくこれたものだ、貴様ももしや感傷などというものは持ち合わせておらんのか?

 けたけたとこちらには見えない口を綻ばせて嗤いながら、オウガ・オリジンは一つの鏡をアスカの手前へ放り投げた。
 ぱきん、と鏡は砕けて粉々になる。

 ――とまあ、そんな挑発をしたところで余興にも何もならん。もっと面白いものは用意してやったがな。

 アスカは目を見開く。砕けた鏡に妹の姿が映ったのだ。

「アレックス……!?」

 それだけではない。
 まるで過去の記録映像を再生するかのように、アスカとアレックスの戦いの一部始終も映し出され――だが、アスカの放った矢がアレックスを貫いたところで、その光景は途切れただの鏡に戻った。
 再びその瞬間を目にしてしまったアスカはその場に崩折れ、溢れる涙を抑え切れない。
 この悲嘆の涙海は各々の辛く苦しい記憶を想起させ、決して消えることのない影のように付き纏ってくる……
 それは誰であろうと例外ではなく、そこに追い打ちをかけるように二度も妹の最期をこうして目にしてしまったとなれば、精神的なダメージは計り知れないものだ。

 ――ふふ、いい顔をする……そうだ、わたしが見たいのはその顔だ。

 ――貴様には一つ問うてやろう。

 ――"妹は貴様にどのような救いを求めていた"?

 それは決して答えが出ることのない残酷な問い。
 アスカ自身、結論を出すことのできない……即ち、答えられない問いかけだった。
 
「(私……私は)」

 胸を締め付ける後悔と悲しみに押し潰されそうだった。
 道を違えてしまった私とあの子。
 再び道を交わらせる為にはどうしたらよかったのだろう?
 どうすれば、あの子が使命に狂わずに済んだのだろう?
 
「私は……――ぁぐっ!?」

 失意に暮れ始めつつあるアスカの首根を、鏡の破片から現れた女――鏡の国の女王が掴んだ。
 空いている片手に構えた鞭をぱぁん、と撓らせれば鋼鉄の処女が音もなく姿を現す。
 アスカを待ち構えるかのように扉を開いたその中に、鏡の国の女王はアスカを乱暴に放り込む。

 ……私は、あの時……どうすれば……

 想いを巡らせる。妹に想いを馳せる。
 鋼鉄の処女の扉がゆっくりと閉まり始める中、最期のあの瞬間をもう一度振り返る――

『             』
『……、…………、――』

 二つの言葉を思い出す。
 どちらも、あの戦いの時に自らにかけられた想いの籠った大事な言葉。
 片方は愛しい彼から、そして、もう片方は――あの子から。

 二人の想いにして――願い。
 それがアスカの心に再び光を灯す。
 
「……ああ。私ったら、危うく敵の術中に嵌るところでしたね」

 先程までの絶望を、希望と未来を見据えた決意が色濃く塗り潰すように瞳に炎が宿る。
 そう、これは涙海の特性と鏡に映る光景の相乗作用を利用したオウガ・オリジンの罠だ。
 何故なら、あの光景は意図的に"都合が悪くなるように繋げた取り上げた"ものだから。
 アスカと妹の戦いと問答"のみ"を映した上で妹を殺す瞬間までで"切り取られていた"――悪意あるバッシングにも似た要領である。
 あの戦いの中で大事な人が言ってくれた言葉も、最期を看取るその時妹が言ってくれた言葉も、あの鏡が映し出した中には一つとして入っていなかったのだ。

「泣いている暇などない……
 生きて、強くなれと託されたのですから。背負って生きると、寄り添われたのですから……!」

 アスカの周りを機械の羽根が舞い、鋼鉄の処女を粉微塵に切り裂いていく。
 ――それは妹が所有していたメガリスの力の残滓。
 ユーベルコード【ナヴィガトリア//金緑石の終わらぬ夢】。
 アレックスの『裁姫』としての力が生み出した断罪の煌鳥が、アスカの武器として今ここに顕現しオウガ・オリジンと対峙する……!

 ――何だと……貴様、答えになっていないのに何故抜け出せた!

 オウガ・オリジンは信じられない、あり得ない、と言った様相。
 深海の奥底で、炎を纏った機械鳥たちと共にアスカは目の前の倒すべき敵を睨みつけ――

「――乙女の古傷抉った罪は、重いですよ」

 その一言と共に、機械鳥たちへと合図を送るように『フェイルノート』の引鉄を引いた。
 殺到する機械鳥、その数にしておよそ400匹近く。
 オウガ・オリジンは鏡の国の女王を盾にしようとするが、たった人型のオウガ一人を盾にしたところでその群れはびくともするワケがない。
 機械鳥の群れが敵を飲み込み――派手な爆音と共に火柱が立ち上る。
 水と火の関係の概念すらも焼き尽くし、太陽の代わりとなるかのように水底を照らした後に跡形もなく消え去った。

「……ありがとう」

 自分の元に戻ってきた機械鳥を一羽、その手に止まらせて微笑む。
 役目を果たした鳥は満足げに鳴くとすぅ、とその姿を消して。
 一時の夢が終わりを告げた後、アスカはグリモアベースに帰還するべく踵を返す。

「――あら?また……」

 ぽろぽろ、ぽろぽろ……また涙が溢れてきた。
 拭っても拭っても、止まらない。頬を伝っては、水面へと昇っていく――

「……ダメですね、私ったら。振り切ると決めたそばから、これですから」

 背中を震わせながらも、涙の水泡たちを追いかけるかのようにアスカは水面へと上がっていく。

『――――』

 そんな姉の姿を見て、困ったように微笑む妹の声が、聞こえたような気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

波桜宮・郁
昔色々とあったけど、もう今更だろう。

(血の気が引き震える体に悔しげに)…っ!?(もうとっくに乗り越えてると、そう思ってたのに)私もまだまだ、か…。

確かに辛い事は沢山あった。
酷い扱いをされた事や理不尽に人が死に次々と減って恐ろしかった事件もだな。
‥でもっ、今の私は昔みたいなただの無力の女の子じゃない…そして唯一の生き残りとしてこんな所で立ち止まってはいられない!!

UCは拒魔犬を喚び、【破魔】属性を付与し【なぎ払い,範囲攻撃】を。
【見切り,第六感】で回避をし、間に合わなければ【早業】【カウンター】や【吹き飛ばし】だ。

それに…あたしはもう、一人じゃないから。

アドリブ大歓迎



●支えてくれる誰かがいるということ
「(昔色々とあったけど――)」

 もう今更だろう。波桜宮・郁(波打つ残花・f16520)は自らの過去をそう俯瞰していた。
 だからこの涙の海を潜るのも問題はない、もうとっくに乗り越えたのだから、と。
 涙の海へ潜れば蘇る、乗り越えた過去の光景――
 
 『嫌だ!嫌だ!死にたくない!死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない助けてくれぇえええええ゛!!』
 『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい許してゆるしてくださいおねがいしますたすけてたすkエ゛ッ』
 『やだあああああああ!!!おとうさあああああん!おかあさ、あ゛ッ――』

 気まぐれで殺される人々の断末魔が鮮明に思い出される。
 逃げ惑う一人ひとりを、人が考えうることのできない残酷な方法で乱雑に殺していくあまりにも非道な"暇潰し"。
 悲鳴のシンフォニー、生臭い血の匂い、骨の折れる音、ぐしゃりと"ナニカ"が潰れる音……100人以上もの罪なき人々が理不尽に殺される光景を目の当たりにするまさに地獄と呼ぶべきその有様――

「……っ!?」

 身体の震えが止まらない。
 顔からは血の気が引き、恐怖は涙腺を刺激し雫が頬を伝っていく。
 自分を抱きしめるかのように腕を組み、震えを無理やり押さえつける郁の顔は過去の恐怖に少しだけ塗り潰されながらも、悔しさの方が全面に出ていた。

「(もうとっくに乗り越えてる……そう思ってたのに)」

 自分が思っている以上に、自分の中であの地獄は相当強く焼き付いていることを実感させられた。

「私もまだまだ、か……」

 ぽつりと、悔しさをにじませた呟きが水面へと飛んでいく。
 そんな郁をあざ笑うかのような歪んだ少女の笑い声が響く――過去のトラウマを想起させられながらも、オウガ・オリジンの膝元までは辿り着くことができたようだ。
 たくさんの毒魚たちを侍らせながら、過去を振り切れていない様を嘲笑うようにくすくすと笑っているオウガ・オリジン。

 ――乗り越えたと豪語する割には何と無様な姿だろうなあ?中々楽しい余興だったぞ、褒めてやろう。

 あからさまな挑発。
 それに怒り狂って突撃するのは簡単だ、だがそれを狙っているのがわからない程郁は冷静さを失ってはいなかった。
 確かに乗り越えてると思ったのにそうではなかったのも事実だし、それを突きつけられた以上否定はできない。
 だが、自分の中ではっきりしていることまで霞んで見えなくなったワケではない。

「……確かに、辛いことはたくさんあった。酷い扱いをされたことや、理不尽に人が死に次々と減って恐ろしかった事件もだな」

 あの時はただ怖くて怖くて逃げるしかできなくて。
 逃げて、逃げて、逃げて……そうして命からがら抜け出した先でも神の理不尽な遊びに巻き込まれ……
 今に至るまで、本当に散々理不尽な目に合ってきたものだと自分でも思う。

「でも――でもっ、今の私は昔みたいなただの無力な女の子じゃない……!」

 あの時は力も何もなかった、けれど今は違う。
 猟兵としての力を手にしたことで無力からは脱した。

「そして……唯一の生き残りとして!こんなところで立ち止まってはいられない!!」

 あの地獄を抜け出した唯一の存在だからこそ、自分は前に進まなければならない。
 力を手にしたのはきっとそういう意味があるに違いないのだと、郁は確信している。
 あの残虐極まりない行為を二度と誰にも行わせない為に、悲劇を繰り返さない為に――そして前へと進む為に!

「"神々に連なる神獣よ 我が贄と喚び声に応じ その御力を貸し給えと、祓へ給ひき嫁給ふと申す事を 聞食せと恐み恐み白す"!」

 ユーベルコードの起動祝詞を高らかに謳い上げ、霊力を注ぎ込むとそれは魔を拒む犬の姿となって形を成し、破魔の力を纏ってオウガ・オリジンへと突撃。
 オウガ・オリジンは興が冷めたかのように侍らせる毒魚たちを犬へ、そして郁へとけしかけた。
 拒魔犬は毒魚の牙を簡単にへし折り、その突進で一斉に蹴散らしていく。
 その身に噛み付けば浄化されるかのように黒い淀みが水面へと上がっていく――だが、何匹かの毒魚は郁へと向かった。
 その鋭利な牙を突き立て、毒で陵辱せしめんと襲いかかる魚たち。
 それらの動きを見切ってはかわし、回避が間に合わなければ残った霊力で衝撃波を放って吹き飛ばす。
 時には敢えて無防備に見せかけることでカウンターに持ち込んで勢いを崩し、あっという間に毒魚たちは海の藻屑と化す。

 ――ちぃっ、何故だ!たかだか人間一人如きの癖に何故抗える!何故その過去に呑まれぬ姿を見せられる!

「……」

 郁は目を伏せ、もうひとつの記憶を掘り起こす。
 それは命からがら逃げ出した先で見舞われた、また別の神による暇を持て余した質の悪い遊び。
 今度こそもう死んでしまうのかと思ったその時――手を差し伸べてくれた人がいた。
 彼のおかげで私は今ここにいるし、力を手にして前に進むことができている。
 一人でだったらきっと立ち向かえなかっただろう。それは郁だけではない、誰だってそうだ。
 人間である限り、一人で生きていくことなどできはしない。
 支えてくれる誰かがいるから、こうして前を向いていける。
 郁には心から信じられる相手は助けてくれた彼しかいない……だけどそれでも前を向いて生きていくには十分だった。
 呪われ子だと避けられ続け、関係を築くことができなかった自分に手を差し伸べてくれる誰かが一人でもいてくれたことが、何よりの力になる。

 ……ありがとう、あなたのおかげであたしは前を向いていける。

「――あたしはもう、一人じゃないから」

 心の中で彼への謝意を改めて告げると共に、決意の一言。
 魔を退ける一撃が、オウガ・オリジンの喉元を確かに食いちぎった――!

成功 🔵​🔵​🔴​

落浜・語
主様やセイさんに置いて逝かれた事が悲しい事ではあるけれど…
常盤色になった左目からは涙がでない。やっぱり『おれ』は泣けないのか
(かなしけれど、かなしくないから)

確かにお二人には置いて逝かれたけれど。それを『おれ』は恨んだり憎んでるだろうけど。
主様との約束は、いろんな物事を見聞き経験してこい、だから。セイさんとの約束は、忘れないでくれ、だから。
俺は、大切な人と今を見るよ
(それでもぼくは、かこをみつづける。でも、もう)

【オーラ防御】と【毒耐性】でオウガの攻撃から身を守りつつ、ループタイに【力溜め】し、花弁として放つ。魚は焼き魚にでもしてしまおうか。

(うらまなくて、いいかな)
涙は海に溶けて

アドリブ歓迎



●置いていかれた――否、残されたモノ
 落浜・語(ヤドリガミの天狗連・f03558)もまた、己が過去の悲しみを想起する。
 
「主様やセイさんに置いて逝かれたことが悲しいことではあるけれど……」

 自分――の本体である高座扇子――を愛用していた人。
 そして付喪神であった頃から自分を見てくれて可愛がってくれた人。
 二人の噺家は天寿を全うして旅立った……自分を置いて。
 この海の力によるところもあるだろうが、思い出したらぽろぽろと涙が溢れてきた。
 けれど、右の紫眼からはぽろぽろ涙が溢れるのに反して左の常磐色の眼からは涙が溢れることが全くない。

「――やっぱり、『おれ』は泣けないのか」
「(かなしいけれど、かなしくないから)」

 語が問いかけると、左目が象徴する存在……『かたり』はぽつりと呟くように答えた。
 かたりにとっても語にとっても、あの二人は敬愛すべき人で無二の存在。
 だからこそ置いて逝かれたことが悲しかった。
 何故旅立つ際に自分を連れていってくれなかったのか、と。
 かたりはその複雑な感情を"恨み"と定義づけて抱かずにはいられなかった。
 故に悲しいけど悲しくない、だから涙が出てこない。
 その主張を聞いた語はそうか、と返して再び涙海の底へと潜る。
 涙が水泡となって水面に昇る中、語はかたりへと向けて口を開く。

「確かにお二人には置いていかれたけれど。……それを、『おれ』は恨んだり憎んでるだろうけど」

 その言葉にかたりは何も返さない。

「主様との約束は、いろんな物事を見聞き経験してこい、だから」

 語は、何故自分は置いていかれたのかの理由を察していた。
 大事にされていた高座扇子だからこそ、自分の周りだけでなくより多くを見て、触れて、聞いて欲しい。
 たくさんのモノを見て、触れて、聞いて、確かめたことをその口から多く語り聞かせて欲しい――そう願っていたのだろうと。

「セイさんとの約束は、忘れないでくれ、だから」

 そして、一番近くで主を見てきた自分にしかできないことを託されたのだ。
 敬愛する師が残したモノを、その魂を。これからの世代へ語り継げるだけ語り継げて欲しいと。
 だから、自分が共に行けなかったことは仕方がないのだ。"約束した"のだから。
 置いて逝ったのではなく、"残された"――それが語にしか、かたりにしか、できないこと故に。
 それに、約束を護ってからでないと後を追ったところで蹴り返されるのは見えている。
 だから――

「俺は、大切な人と今を見るよ」

 そう告げて、語はかたりから目の前の敵へと目を向ける。
 水底に座すオウガ・オリジンは心底不服そうにこちらを見ていた。
 理由は聞かずとも分かる、過去に悩み苦しむ様を一つを見せない語に対して苛立ちを募らせている――それ以外にないだろう。
 聞くつもりのない者に聞かせる噺もなく、語は黙って戦闘態勢に入る。

「(……それでもぼくは、かこをみつづける)」

 かたりがぽつりと呟く。

「(でも、もう――)」

 偶然にもそれが戦いの合図となったかのように、オウガ・オリジンたちが従えている毒魚たちが殺到。
 毒魚が大きく口を開け、語の腕に食らいつく――だが膜のように展開されたオーラの障壁にぱきんと弾かれ、掠めた程度の傷しか残せず終わる。
 その掠り傷からも毒が染み込まないワケではないが、語は元から毒への免疫を持っていた。
 完全に突き刺さらなければ耐性で毒素を推し殺せる程度だと判断し、護りを固めながらループタイに力を込める。
 『Brodiaea』――守護の花言葉を関する花が飾られたそれが段々その花の通りの色に輝いて。

「――"何人も呪いも越えられぬ壁となりて、我を護り理に背く骸を還す力となれ"」

 ユーベルコードの起動詠唱を唱えると同時にループタイだった花弁が水底を舞う。
 それは語の盾にして武器。主を護り、敵を焼く守護の炎。
 毒魚たちは次々とその身を焦がしては地に落ちて、オウガ・オリジンを護る者がいなくなる。
 だがオウガ・オリジンは抵抗できなかった――否、その守護の焔を放つ花弁の美しさに思わず見惚れてしまったのだ。
 美しいものを好む彼女は、その守護の花弁の美しさに目を惹かれずにはいられず思わず手を伸ばす。
 そして――触れた先から、炎に焼き尽くされていった。

 かたりはそれをぼうっと見ながら、今までを振り返っていた。
 大好きだった二人に置いていかれたことが悲しくて辛くて、悔しくて、恨まずにはいられなくて。
 だから悲しいけれど悲しくない。置いていったことが許せないから。
 その一点だけをずっと、ずうっと恨み続けていたけれど、語が告げた通り、二人との"約束"があるのなら。
 それ故に、自分はここに"残された"というのなら……

「(……うらまなくて、いいかな)」

 自分に言い聞かせるように、問いかけるように呟く。
 常磐色の左目から雫がつう……と頬を伝って海に溶けていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木々水・サライ
[アドリブ歓迎] WIZ
俺の過去は両親を幼い頃に殺されたってぐらいだ。だがその程度、誰にでもあるだろう?
……ああ、まあ、俺にとっては一番辛い思い出ってことになるんだろうけどな。
だが、過ぎ去ったものと書いて、過去。俺は今そんなものに縛られる時間はないんだ。

UC【着飾る白黒人形(ドレスアップ・モノクローム)】、並びにアイテム【黒のタキシード】と【黒鉄刀】を準備。いつでも対応できるように刀は構えておく。
タキシードは幻影とは言え父と母の前に立つからだ。いつもの服装は出来ねぇよ。

迷路を脱出すりゃオウガ・オリジンにたどり着けるんだろ?
んなら、礼をくれてやんなきゃな。「会わせてくれてありがとよ」ってな。



●再び"会えた"という何よりの事実
 涙海の底へと向かう木々水・サライ(《白黒人形》[モノクローム・ドール]・f28416)を、水泡の迷路が迎え入れる。
 その水泡一つ一つに映し出される光景は皆一様に同じだった。
 赤子である自分を抱きかかえて必死に走る母親と、そんな母親を支えて走る父親――

「(……ああ、こんな人たちだったのか)」

 サライには両親の記憶がほとんどない。
 この涙の海は本人が覚えていない記憶すらも掘り起こしてまで過去と向き合わせようとしているようだ。
 そして、掘り起こされたことから聡いサライは何となく、覚えていないのではなく"忘れた"のかもしれない……とは、思った。
 だからといって何があるというワケではない。
 何故なら――

「(両親を殺された程度、誰にでもあるだろう?)」

 そう、両親等の肉親を殺されたのは自分だけではない。
 家族を奪われたことのある猟兵は決して少なくないのだ。
 確かにサライにとっては一番辛い思い出であることに間違いはないのだろうからこうして想起させられたのだろうが――

「(過ぎ去ったものと書いて、"過去"。俺は今そんなものに縛られる時間はないんだ)」

 そう、過去は所詮過去にすぎない。戻ることができなければこれからの未来の分岐によって変わるワケでもない。
 迷路を進むと、記憶の中の両親が幻影となって迷宮のあちらこちらを走り回っている光景まで目に映り始めた。
 サライはそこで足を止め、黒鉄刀を鞘から抜くと共にユーベルコードを使用する。

「(幻影とは言え、父と母の前に立つからには――な)」

 普段使いのシースルーコートから黒のタキシードへとドレスチェンジして奥へ進む。まるで両親の幻影を追いかけるかのように……
 あくまで記憶を幻影として投影しているだけであり、自分が干渉したところで両親の行動は何も変わりはしない。
 だが、それでも両親に会ったという"事実"も変わらない、普段の装いで相対するのは失礼というもの。
 ふわりと電磁力で浮かび、即座に出口へと向かおうとした――その時、両親の幻影が自分へと声をかけてきた。

「――! ――――!!」

 いや、違う。恐らく自分の記憶にある限りでは最後の記憶が再現されているのだ。
 両親の死後、サライはある医者に引き取られ彼の下で育っている……恐らく、その医者に預けた瞬間だ。
 何を言っているかはわからない。
 だが幼い息子を託そうとしている二人の言葉がどういうものであったか――それは例え声として聞き取れずとも何となくわかる。
 それに、生きて欲しいと願っていなければ誰かに託すなんてことはないだろう。
 過去は過ぎ去ったものと書いて過去と読む、何をしようと戻れないし変えられない。
 だからきっと、この戦いがなければ両親が何を想って自身を預けたのかということにすら想いを馳せることもなかったかもしれない。
 赤子を託して出ていったところで、両親の幻影が姿を消す。
 直後サライはその黒のタキシードの機能を全開し、迷路の中を光のような速さで駆ける。
 迷路を脱出すればオウガ・オリジンは目の前だ。気配が段々と近づいてきているのが手に取るようにわかる。
 黒鉄刀を強く握りしめ、一気に踏み込んだ!

「オウガ・オリジン!!お前には礼をくれてやんなきゃなァ!!」
 ――ちぃっ、そのまま溺れていればよかったものを!

 過去の記憶を見ても何一つ迷いのないサライの顔に、オウガ・オリジンは苦虫を噛み潰す。
 距離は完全にサライの間合いに入る。
 防御も回避も、反撃も、『黒い瞳の四白眼』が演算予測して完全に潰し切った。
 その上で大きく黒鉄刀を振り被り、一閃――!

 ――何故だ、何故どいつもこいつも過去に縛られぬ!人の分際で!もっとも尊いわたしより遥かに劣る猟兵如きがァァァァ……ッ!!!

 それがオウガ・オリジンがサライの目の前で発した最後の言葉だった。
 血の一滴すらつかなかった黒鉄刀を、血を払うように振って鞘に仕舞って。

「会わせてくれて、ありがとよ」

 黒い靄となって消えゆく姿に、手向けるように礼を告げる。
 余韻に浸る暇もないと言わんばかりにすぐに踵を返して水面へと昇っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ネーヴェ・ノアイユ
私にとっての悲しみ……。突然記憶がなく……。自分のことすら分からない、まま……。ただオウガから怯えて逃げるしかなかった。そんな毎日がただ悲しくて……。力を持つオウガに妬ましくて……。目の前の理不尽に憎悪していた日々……。

ですが……。私は猟兵になれたのです。そして……。多くの仲間と出会い……。日々を過ごし……。共に戦う。そんな日々が私を変えてくれました。強くもしてくれました。
だから……。今度は私が誰かのために存在する猟兵になりたい。その為にもオリジン様。そのために私はあなた様をも越えていきましょう。
弱いアリスだった私。猟兵としての私。どちらの私にとっても切り札だったこの総て凍てつく猛吹雪で……!



●猟兵として
「(私にとっての、悲しみ……)」

 ネーヴェ・ノアイユ(冷たい魔法使い・f28873)には何かを語れる程の記憶がない。
 語れることがあるとすれば、この頭につけている大きなリボンがとても大切な物であるということと氷の魔法が得意であるということの二つだけ。
 そんな彼女にとっての辛い記憶――それはアリスとしてアリスラビリンスを逃げ惑っていた日々に他ならなかった。
 迷路はまるでそれを再現するかのように、床一面にオウガから逃げ惑うネーヴェの姿を映し出す。

『嫌……嫌、こないで……っ!!』

 息を切らしてただひたすらにオウガから逃げては隠れ潜み、生き抜くことに尽力していた日々。
 いつまでこんな日々が続くのだろう?
 そう思う度に悲しくて何度も泣いた。
 他のアリスがオウガに弄ばれる瞬間を目の当たりにしたことだってある。
 蹂躙され陵辱され、その腹の中に収められていく様を見て、何故こんな理不尽な目に私たちが遭わなければならないのかと憎悪も抱いた。
 力を持つオウガが羨ましく、妬ましかった――自分の無力さが恨めしかった。

 何で私はこんなところに呼ばれたの?
 何で私には何も記憶がないの?
 何で、どうして?わからない。わからない、何も……何も――!

 自身にとってもっとも親しく、かつ最も辛い記憶を思い出してネーヴェはその場に崩折れる。
 見たくないと目を覆う。
 そんな彼女をくすくすと笑う歪な少女の声。

 ――無様だな、アリスよ。だがわたしにとってはその絶望こそが何よりもの供物だ。

 ――さあ、その血と肉でわたしを満たしにこい。嘆きというスパイスで仕上げられたアリスの肉程美味なものはない。

 オウガ・オリジンの声が響くと、迷路が形を変える。
 まるで自分を玉座へと招くかのように先程よりも単純な道のりがネーヴェの前に広がった。
 このまま向かえば、自分はきっと何もできずに食べられてしまうのだろう。
 ……そういうワケにはいかない。今自分は"アリスとして"ではなく、"猟兵として"ここにいる。 
 そう、確かにあの時はただの無力な弱いアリスだったけど今は違う。
 
「――私は、猟兵になれたのです。そして……」

 猟兵になってから出会った、たくさんの仲間たち。
 十人十色、千差万別――色々な人がいるけれど、皆「オブリビオンを倒し、世界と人々を救う」という目的は一緒だ。

「多くの仲間と出会い……日々を過ごし……共に戦う。そんな日々が、私を変えてくれました――強くもしてくれました」

 彼らの強さが、優しさが、ネーヴェの空白だった心のキャンバスに様々な色を塗ってくれた。
 記憶を失くした自分にとって、今一番大切だと言える日々の記憶を与えてもくれた……
 猟兵のみんなが手を差し伸べてくれたから、今ここにいるのだと。
 そう出口の向こうを見据えるネーヴェの顔に、先程の絶望の色はなかった。
 ゆっくりと一歩一歩を踏みしめる足元に吹雪が舞う。

「だから……今度は、私が誰かのために存在する猟兵になりたい」

 その決意を口にし、ネーヴェはユーベルコードを起動する。

「その為にもオリジン様。私はあなた様をも越えていきましょう」

 "束ねるは妬み"。
 "放つは憎悪"。

 一つずつ紡ぎ上げる詠唱が、ネーヴェが纏う吹雪をより強く、大きくしていく。
 それは"万象を奪う力"となり――

「弱いアリスだった私、猟兵としての私――どちらの私にとっても切り札だった、この"総て凍てつく猛吹雪"で……!!」

 吹き荒れる猛吹雪、それはさながら涙の深海に突然発生したブライニクル。
 迷路も、オウガ・オリジンをも飲み込んで――ネーヴェが出口を出た時には、目の前に座すオウガ・オリジンは白銀の棺に抱かれて眠っていた。
 不思議の国を水泡で模した迷路の奥に鎮座する白銀の玉座はまるで神秘的な光景にも思えなくはない。だが――

「無理に乗り越えようとしたところで、今よりももっと辛い傷を負ってしまうことになる……でしたね」

 グリモア猟兵が向かう前にかけた言葉を復唱する。
 ここは悲嘆を呼び哀哭を追想させる涙の海。
 涙で溺れてしまうぐらいなら、凍りつかせて封印してしまった方が良いかもしれない。
 いつか誰しもがその傷と向き合えるようになる、その日までは――
 ネーヴェは凍りついた水底を後にし、グリモアベースへと帰還するのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ワイルディ・フェジエア
「あー、過去の悲しみか……」
そういえばあったな、夜の街で適当に女を引っ掛けた時に
追っ掛けてきた野郎が。マジでヤの付く自営業の野郎共でさ、おっかなくて逃げてきた
乳が大きくて最高にいい女だったんだぜ…
それ以降、夜の街に出られなくなったのがトラウマなんだよな

 この事件に対してこう感じ、猟兵として参加します

 煙草で【落ち着き】をキめて、その辺をうろつくヤツを【追跡】
 FDでなんやかんや水中を【運転】し巧みに操りドリフトしながら
 窓から顔を出して【閃光弾、ハンドガン】を『魚型オウガ』『オウガ・オリジン』に向けて射撃

 最大の目的は、敵の足止めをする事です
 その為なら、車の板金破損はやむを得ないものとします



●悲しみの大きさには個人差があり、比較というものは無粋につき
「あー、過去の悲しみか……」

 ワイルディ・フェジエア(戦場猟兵『小隊長』・f07949)は涙の海を潜りながら思いつく限りの過去の悲しみを掘り起こしていく。
 自身の過去にそこまで執着するような程の悲しみがあっただろうか、まずそこから始まるようだ。
 ある意味、この涙の海の国を攻略するに当たってはその方が良いのかもしれない。

「……そう言えばあったな」

 ――そう、あれは夜の街で適当に女を引っ掛けた時だ。
 それはそれは、この世のものとは思えぬ美しい女だった。
 器量よし、ボディよし、そして何より乳が良し。
 そのたわわに実った二つの豊満な果実の張りと潤いは目視するだけでもダイレクトに伝わってくる最高の鮮度……
 ああ、今でもあの素晴らしさは思い出すだけで胸の奥底から熱いものがこみ上げてくる!あの極上の乳には早々出会えるもんじゃあない……!!

『暇なら俺と一つドライブでもどうだい?悪いモンにゃしねえぜ』
『ふふ、こんな夜にドライブ?どこへかしら』
『そりゃあ、お前さんの行きたいところ何処へでもさ――ああ、でもよかったら俺のおすすめのスポットにも連れていきたいとこだがどうだい?』
『お上手な人ね。いいわ、付き合ってあげる』

 こうして、素晴らしい一夜を過ごすことに――なった、ハズだった。
 ハズだったの、他に目をつけてやがった男がこっちの肩を引っ掴んでガンを飛ばしてきやがった。
 面倒だからその手を振り払ってさっさと極上の女とドライブと洒落込もうとしたというのにそいつはおっかけてきた。
 それも……それも、右翼思想の街宣車引っさげて爆音で音楽流しながら猛スピードで……!!

『待てやゴルァ!!!その爪剥いで耳引っ千切っぞこのボケナスゥゥウ!!!』

 相手にするつもりがなくてあしらおうとしたのが運の尽き。
 ガン飛ばしてきやがった男は……そいつは当時の街でも屈指の右翼思想を掲げるヤのつく自営業だったのだ。
 怖い、めちゃくちゃ怖い。いやマジでこんなん失禁モノでもおかしかないぐらい怖かった、それぐらいの恐怖。
 女がいる手前ちびりそうな情けない様を見せるワケにはいかないからと何とか必死こいて撒いて、女を安全なところに下ろして逃げ帰ってベッドに潜ってさっさと寝た。

 それ以降、夜の街に俺は出られなくなった。

「トラウマなんだよな……ああ――乳が大きくて最高にいい女だったんだぜ……」

 あの美しい姿は今思い出しても色褪せない。
 ああ、運命の歯車が少しでも噛み合わせが違ったならあの女と共にベッドで一夜を過ごせたかもしれない……惜しい、実に惜しい。
 と、しみじみと思いながらワイルディは煙草に火をつける。
 涙の海は自然の摂理も少しだけ覆すのか、水中でもその火が消えることはない。
 ふう、と煙を吐いた後愛車であるFDに乗り込み、先程から姿が見えていた魚を刺激しない程度の距離を保って追跡する。
 直感的にこいつを追えば標的までにたどり着ける気がしたのだがそれは当たりだった。
 魚が泳いでいった先にはぐでん、とだれていたオウガ・オリジンの姿。
 距離としてはまだ気づかれていないと見てもよさそうである。

「さぁて……いきますかねえ」

 ワイルディはアクセルを思い切り踏み込み突進!猛スピードでオウガ・オリジンに肉薄する!

 ――猟兵!?あのくだらん過去は貴様か!!
「くだらねえなんざ失礼なこと言ってくれるなァ!!!悲しみのデカさや規模なんてもんは人それぞれで比較すんのは無粋なんだよお嬢ちゃん!!」

 真っ直ぐ突撃すると見せかけて絶妙な距離でドリフト、同時に窓から閃光弾を投げつける!
 眩い光がぱぁん、と弾け魚たちがその場にしなしなと落ちていく。
 おのれ、とオウガ・オリジンは新たに毒魚を召喚しけしかけるが、それを華麗なハンドガンの手捌きで一匹一匹確実に鎮めるワイルディ。
 それらを掻い潜った毒魚はFDに突撃、牙をその車の板金へ、ガラスへと突き立てる――が、本人ではなく車が破損したならまだやりようはある。
 エンジンが壊れていないのを確認し、猛スピードで発信から二度目のドリフト。毒魚たちは流石に勢いに乗り切れず牙を折られると共に振り落とされた。

 ――おのれ、おのれ!ちょこまかと!!

 オウガ・オリジンの苛立ちが限界に達したのか自ら前に出て仕留めようと突貫してくる。
 ワイルディは焦ることなく閃光弾のピンを引き抜き、数個一気に投げつけた。
 そのうちの一個はオウガ・オリジンの顔面に見事クリティカルヒット、そして起爆。
 爆発に肉が焼ける音と共に、歪んだ少女の絶叫が響く。閃光弾だけではなくそれによく似せた手榴弾もばら撒いていたのだ。
 傭兵たるもの、あらゆる策を用意してターゲットを仕留めるのは当然でありその為ならカモフラージュの一つや二つも行ってなんぼというもの。
 オウガ・オリジンは顔が焼けた苦痛に呻き蹲っている……足止めとしては上々だろう。
 ワイルディはFDのアクセルを再び踏み込み、足早にグリモアベースへと帰還した。

「(あー、今回の修理代いくらかかっかなあ……)」

成功 🔵​🔵​🔴​

イヴ・クロノサージュ
★"物語の扉"
グリモア猟兵さまが自由に設定して物語を御作り下さい
(アドリブ歓迎/再送可です)

――

●過去
私は、かつて地球に住まう日本の女子高校生(現実世界)でした
異世界召喚に巻き込まれて
財閥を持つお金持ちのご令嬢として生誕しました

死神の娘、機械の男の子、そしてオブリビオンたち
それぞれ皆物語がありました
だけど……

「私は……何者なのでしょう。
何のために生まれてきたのでしょうか?」

●対策
イヴ自身彼女の最大の悲しみは【何も思い出せない事】
過去を思い出して、前向きな気持ちになった時【ラビリンス】を抜けます

●戦闘
宇宙戦艦の主砲をオリジンに向けて放ちます
使用する技能はこの世界を救いたいという【祈り】の技能のみ



●物語の扉
 水底の迷路が、イヴ・クロノサージュ(《機甲天使》―― Save the Queen.・f02113)を迎え入れる。
 ゆっくりと足を踏み入れ、出口を探しながらイヴは過去を思い出そうとする――。

「私は……」

 出口を求めて彷徨うイヴの表情は暗いものだった。
 涙の海は彼女の過去の記憶を映し出さず、ただ水底に揺れる不思議の国のような迷路が彼女の前に佇んでいるだけ。
 ――そのことが彼女の最大の悲しみに他ならなかった。

 イヴは今でこそミレナリィドールであるが、かつては地球出身の身である。
 日本在住のごく普通の女子高生であったが、何らかのきっかけにより異世界に招かれ――財閥を持つ裕福な家庭の令嬢として新たな生を受けることになった。

 ……と、いう記憶は確かにある。
 あるのだが、"それ以外が何も思い出せない"のだ。
 自分が何故異世界に呼ばれたのかも、何故今ここにいるのかも……いくら記憶を掘り起こそうとしても見つからない。
 死神の娘や機械の男の子と出会い、過ごした記憶や多くのオブリビオンとの戦いの記憶はあるというのに。
 彼や彼女たちには、皆それぞれの物語があった――なのに、イヴには何もない。

「私は……何者なのでしょう」

 自分が生まれた理由がわからない。
 自分が呼ばれた理由がわからない。
 どうして今自分はここにいるのだろう。

「何のために、生まれてきたのでしょうか」

 わからない。
 自分のことが、何もわからない。
 自分が一番わかっていなければならない自分のことが何もわからないのだ。
 どうして?そう思う度に悲しくて涙が溢れてくる。
 自分の存在意義がわからないことがこんなにも苦しいものだなんて思わなかった。
 誰か、ねえ誰か、私が何者なのかを知っている人はいませんか……?
 迷宮の中心で、イヴは一人崩折れ顔を覆った。

 『ねえ、イヴを帰してあげようよ』

 ふと、そんな声が聞こえて思わず顔を上げる。
 目の前には幻影のように透けた何人かの人物が集まって話をしている姿……
 ああ、とても懐かしい感じがする――この人たちを覚えていると、自分の心が告げていた。

『だが、それにはとてつもない時間がかかる。少なくとも僕たちが生きている間、いや……この星が再び滅びを迎えるまでの途方も無い時間がなければあの領域には辿り着くことができないぞ』
『それでもわたしたちのわがままでイヴを呼んだようなものなんでしょ?だったらちゃんと帰してあげなきゃダメだよ。
 イヴの本当の家族のところに帰してあげなきゃ……!』
『そうですね。そのまま放っておくこともできたのに、私たちと一緒に戦ってくれた。イヴには感謝してもし切れない。だから報いなければ――!』

「(ああ……そうだ。私は仲間に送り出されたんだった)」

 当時、その世界は緩やかに滅びを辿っていた。
 そしてそれを止める為の力を持つ魂を降臨させるべく行われた儀式により、イヴはその異世界での生を受けたのである。
 最初は裕福な家庭の令嬢だと信じて疑わなかったけれど、たくさんの数奇な運命により世界の救世主として歩むことになりやがてはその事実を知る。
 放っておいて帰る為の術を使うという道もあった――けれどそれでもしなかったのは、この異世界も好きだったから。
 仲間たちとの絆を断ち切りたくなかったから……
 この幻影は、そうして世界を救った後の話が映し出されたものだ。
 世界を捨て置いて帰ることもできたであろうに世界を救うべく最後まで共に戦ってくれたことに仲間たちは心から感謝していて……今生の別れになるとわかっていながらイヴを送り出してくれた。
 かつての記憶を思い出し、帰りたいと泣いていたことを皆知っていたから……イヴが手にするべき本当の幸せを手にして欲しいと、願って。

「……ああ、何故忘れていたのでしょう。こんな大事な、温かい人たちのことを……」

 きっと途方も無い時間が経ってしまって、絶望に心が塗り潰されていたのもあるかもしれない。
 思い出すだけ辛いと、無意識に封じていたのだろう。
 けど、実際に思い出してみたら辛くも何ともない。
 それどころか、絆を思い出せたことにより自分の目の前の道が少しだけ明るく見えてきた。
 この迷路だって抜け出せる気がしてくる。
 イヴは立ち上がり、しっかりと前を向いて再び迷路の先を征く。

 ――気に食わん。そのまま沈んでいればよかったものを。

 オウガ・オリジンは心底不機嫌そうに水底の玉座に座っていた。
 
「私は沈むワケにはいきません。私のことを想って送り出してくれた方たちがいるから。
 今私と共に戦い、私を同じ道を歩んでくれる方たちがいるから。皆さんの為にも私は貴女を倒し――このアリスラビリンスを救ってみせましょう。一介の猟兵として!」

 イヴのその決意の言葉と共に、水面から光が下りる。
 自らが操る《宇宙戦艦》クロノトロン=ユニットからの砲撃だ。
 【《重力波砲撃》クロノトロン=ブラスト】――どのようなオブリビオン、そう例えフォーミュラであってもその強力な重力波の前に抗うことはできないその一撃はオウガ・オリジンを一撃にて屠り去る。
 水底の玉座も、不思議の国を模した迷路も、黒い靄となって水面へ上がっていく……

「(いつか帰るその時がくるまで、私は猟兵として世界を救うべく手を伸ばしましょう。それがきっと、今私がここにいる理由なのです)」

 靄を見送りながら決意を胸に。
 オウガ・オリジンが消滅したことにより、涙の海も存在が揺らぎ始め崩れ始めている……
 この戦争が終わった後、アリスラビリンスにこのような嘆きの坩堝が生まれないことを祈りながら、イヴはグリモアベースに帰還した――

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月24日


挿絵イラスト