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胎内回帰でリフレッシュ♪

#グリードオーシャン #お祭り2020 #夏休み

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「みんな疲れてるでしょ? こんなタイトル開くくらいだし」
 何やらわけのわからないことを宣いながら、臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)はグリモアベースに持ち込んだホワイトボードを指し示す。
 プロジェクターで投影された映像には、グリードオーシャンの青い海、どこかの島の美しい砂浜が描き出されている。オブリビオンの気配など全く感じられない、穏やかな日常――あるいはバカンスという名の非日常がそこにあった。
「よーし、夏報さんそんな君たちにぴったりの旅行プランを紹介しちゃうぞ。戦争だし、あつはなついし、どこの世界も色々大変だし――ねえ、もう、いっそ」
 へにゃりと笑って。
「人生、やり直してみない?」

 ――『胎内めぐり』というものを御存じだろうか。
 おおまかに説明すれば、光ひとつ届かない洞窟や地下通路を、灯りを持たずに手探りで進むという修行の一種だ。その暗闇を母親や大いなるものの『腹の中』になぞらえて、行きて帰れば新たな生を得ることができるとされている。
 UDCアースにおいては京都・清水寺のものが有名だが、各地に類似の風習がある。サムライエンパイアやサクラミラージュ出身の猟兵にも、何か思い当たるところはあるかもしれない。

「この島の海岸にも洞窟があって、似たような風習があるんだよね。元々の世界の影響なのかはわからないけど」
 洞窟内はそのほとんどが暗闇で、足首あたりまで浸かるほどの海水に満たされている。水着、もしくは濡れても構わない服装は必須になるだろう。
「といっても、そんなに危険なわけじゃないよ。度胸試しくらいの感覚かな?」
 具体的には、足元で海の生き物がうごめいたり、首筋に海藻のかたまりが落ちてきたり、吹き込む風が女の悲鳴に聴こえたりはするかもしれない。まあ、楽しいハプニングの範疇である。
 行きは十数分、帰りは来た道を引き返すだけ。日帰りの冒険にはぴったりのお手軽体験だ。
「でね、洞窟の一番奥の一帯は――ちょっとだけ明るいんだ。夜光ゴケみたいなのの群生地があって、ほんのり青く光るんだよ。一見の価値はあると思うね」
 そこには海水のない平らな場所や腰掛けやすい岩もあり、ひと休憩と洒落こみながら絶景を満喫できる。

「おおむねロマンチックだし、おそらくカップルとかで来るといいんじゃないかな? たぶん、きっと」
 適当なことをほざく夏報の背後では、プロジェクターから映し出される『胎内回帰』の四文字が虹色に輝いていた。チラシでよく見る感じのフォントで。もう、何もかも台無しである。
 疲れているのはお前じゃないのか。
 そんな君たちの疑念をよそに、転移の光があたりを包む。


八月一日正午
 ほずみ・しょーごです!
 気温がアラサー通り越してアラフォーの日々が続いておりますが、皆様すこやかにお過ごしでしょうか。ほずみは今にもキレそうです。
 というわけで、海は海でもひんやり涼やかになれそうなシナリオをお届けします♪♪♪

「真っ暗闇の洞窟でドキドキワクワク大冒険!」
「ロマンチックな薄明かりの中でのんびりまったり」
 今回はこの2パターンで、【1名様・1グループ様につきどちらか片方のみの描写】となります。ご了承ください。
 ご指定があれば臥待が同行します。

●暗闇について
 胎内めぐりという名の肝試しです。
 あくまで物理的な暗闇なので、アイテムやUCで照らすことは可能です(他のお客様に影響がないものとして描写します)。イチャイチャすればよいのではないでしょうか。胎内回帰で。

●薄明かりについて
 洞窟の一番奥にある、夜光ゴケの群生地です。
 お互いの表情がぼんやり見えるくらいの明るさと、座ったり寝ころんだりして休憩できるほどのスペースがあります。イチャイチャすればよいのではないでしょうか。胎内回帰で。

●注意
 このシナリオは、既に猟兵達によってオブリビオンから解放された島が舞台となります。【日常】の章のみでオブリビオンとの戦闘が発生しないため、獲得EXP・WPが少なめとなります。
 プレイング募集開始時期は、MSページにて追ってお知らせします。よろしくお願いします。
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第1章 日常 『猟兵達の夏休み』

POW   :    海で思いっきり遊ぶ

SPD   :    釣りや素潜りを楽しむ

WIZ   :    砂浜でセンスを発揮する

👑5
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

零井戸・寂
★レグルス

いやちょっと違うと思う。
物の例えってやつだよ夏報が言ってたのはさ……聞いてる相棒?
目ぇキラッキラだな……

……そうかい。
君も大概奇妙な星の下に生まれてるよな。(話半分で聞いてる体を装いつつ進んで……進……)

……思ったよりなんかゾワゾワすんなこれ
ヒッ な、なんだ風か
今胎とか言うのやめてくんない!!?
いいから進……(べちゃ)
ワァァァァァなんか貼りついてる幽霊何これ眼鏡がヌタヌタする嫌だァァァァァ(※ナマコです)

い、いや光んないでいいよ……

……写真とか撮ってさ
あと海岸で貝殻とか砂とか取って持ち帰ろう

すてらが喜ぶかなって
生の海も知らないかもだし

出掛けられるようになったら海にも連れてきたいんだ


ロク・ザイオン
★レグルス

ここが母の胎の中……
(どこかズレた軸でキラキラ目を輝かす)
おれは知らない。
……おれは多分、胎から生まれたものではないし。

(暗くて様々ないのちの気配が犇めいている(水中のうごめき))
(淀みなく風通しもよい(幽霊めいて吹き渡る風))
これはよい胎だ…(森番の感性です)
おそれないで
母の胎だぞ
でも元気があるのはよいことだ
強い仔になるな(慈母の微笑み)

……そんなに怖いなら光るか?


(あの子が、今も健やかに生きているのは、嬉しい)
いいよ。おみやげ。
じゃあヒトデはどうだい。星だし。かっけー。
生きてるのはだめ?
…そう。


犬飼・満知子
大冒険コース
【アタチャ】

水着に薄手のシャツを羽織って参加。
サンダル装備で足元対策も万全。

こういうの、怪談かなにかで聴いたことあります。まっ暗闇の中で段々時間の感覚がなくなって、右も左もわからず、自分が起きているのか寝ているのかさえ……。
あの〜、リサさん?佐藤さん?居なくなってないですよね?

リサさんから投げられたものを取り損ねて顔に張り付いたり。
ひぁっ!?なんですかこれ!ぶよぶよしてます!

あ……すごい髪(UDC)が伸びてる。大丈夫、大丈夫。危険はないって夏報さんも言ってたし……。
警戒したUDCが触手を伸ばしまくって髪の毛お化けみたいになって明るみに出ます。
佐藤さんに驚きつつそのまま記念撮影。


佐藤・非正規雇用
【アタチャ】

■コース
真っ暗闇の洞窟でドキドキワクワク大冒険!

■準備
ウェットスーツで参加、チームや臥待さんと一緒
「へぇ、"胎内"巡りか。俺は卵生だからイメージが沸かないな」

■道中
犬飼に名前を呼ばれても、怖がらせるために返事をしない

(しかし、本当に真っ暗だな……。
誰が何処にいるのかも分からないぞ)

手探りで進むと、ぶみゅっと柔らかいものが
女の子かと思って飛びつくと、その正体は
ナマコやクラゲ等の現地の水棲生物

■洞窟奥
「あれ、どうしたの?」
明るい場所で、神妙な表情のヴァシリッサに気付く

先程の水棲生物に刺されて、誰か分からないくらい顔が腫れている
髪の伸びた犬飼と顔を合わせて驚く

その顔のまま皆で記念撮影


ヴァシリッサ・フロレスク
大冒険コース
【アタチャ】
なんでも歓迎!
水着に軽くラッシュガードを羽織り参戦。

フフッ、夏報ちゃんも気合入ってンじゃない?似合ってるヨ♪
エスコートヨロシク♪

卵生?そりゃでっかい目玉焼きが作れそうだねェ、フフッ♪

月もなぁンも無いと、夜目が利いてもホント真っ暗だねェ?
ン?なんか踏んだ?取敢えず拾って、ハイ♪マチコちゃんパース♪ナニかって?知らない♪

右へ左へちょっかい出しつつ。
フッと無言に。

胎(はら)ン中、か。

やりなおせたら、違ったンかな

ん。いんや、なンでも無いさ♪

ってアハハ!なンだいダンナ、その顔?
ホラ、夏報ちゃんもマチコちゃんも、ってファッ!?

折角だ、絶景バックに皆で並んで肩組んで、スマホで自撮り♪


ロニ・グィー
アドリブ大歓迎!

なんか適当に楽しむ!

●つきあって
一人だと飽きるから!
夏報お姉ちゃんと、他にもあぶれたような子がいれば!
組や班分けであぶれた寂しいこどもと組むのは先生のやくめでしょ!
夏報お姉ちゃ……おね……
●(外見)年齢差を一考する
おねえちゃん!

●探検を楽しむ●こどもの疑問
胎内回帰♪体内怪奇♪胎内回帰♪
うーん……
おかーさんの中ってどんな感じだった?こんな感じ?
おかーさんってどんな感じ?
おかーさんになるってどんな感じ?ボクでもなれる?

●古く古く父無く母無く
失礼しちゃうな ボクだって昔のことは(少しは)覚えてるよ!
最初に降った雨の一粒のこと、海が一握りの塩水だったことだってね!
うん、思い出してきた


風見・ケイ
引っ張り出した去年の水着――上はラッシュガードにして、パーカーも羽織っておきます。
手袋はマリングローブに変えて。

新たな生なんてこれ以上はいらないけど、少しは夏っぽいことをしておこうかな。

夏報さん。ちょっとイチャイチャしに行きません?
……ジョークです。(自分で言っておいて恥ずかしい)
海の肝試し、付き合ってもらえないかな。

危ない箇所は夏報さんの手をとって。こちらからお願いして、怪我させられませんから。
少しだけ、子どもの頃の――放課後の冒険を思い出してしまう。
あの路地裏ではひとりだったけど、この洞窟では夏報さんとふたり。
夏報さんはどういうコトしてた?

地中の星空の下なら、他愛ない話も思い出になるかな。


安喰・八束
(気配もなく、無明の闇から不意に、響く声)
おう、臥待。
(近いかも知れないし、遠いかも知れない
しかし、ついてくる)
灯り? 要らんよ。暗さも修験だろう?
(軽い笑い声)
イヤ、おっかなびっくり通る奴らが面白くてな。
…わざわざ驚かしちゃいねえよ。俺は其処まで悪童でもねえぞ。
(乱れない、一定の足音)
…まあ、何だ、お疲れさん。
それで、人生やり直せそうかい?
(灰色に光る一対の瞳)
もう、やり直すも何もねえからなあ、俺は。

(何かしら、光が当たれば
浮かび上がる人影に笠はなく
狼の耳と尾の輪郭)
じゃあ何故来たか?
そうだなあ…
…やり直すも何もねえ、ってのを、確かめに来たのかもな。



●パリピのすなる海なるもの
 青い空。白い雲。その鏡写しのような波打ち際。
 切り立った岩に囲まれた小さな入り江に、『胎内』たる洞窟はぽっかりと口を開けていた。
 この島における胎内巡りは、夏の行事、成人の通過儀礼として親しまれており、地元住民によってある程度の整備や飾り付けが施されている。それを荘厳な社のようだととるか、……ちょっとした観光地のようだととるかは、まあ、人それぞれといったところで。

「さ、――思う存分イチャつくよ!」
 青春と言えば海、すなわちグリードといえばオーシャン。要するに暗闇や絶景にかこつけてイチャイチャすれば良いのだろうと解釈した猟兵の一団は、その儀礼的側面などどこ吹く風でノリノリであった。
 黒が基調の大胆な水着に、鮮やかなヒマワリ色のラッシュガードを軽く羽織って。その右手にはもちろん、身の丈程の長さを持つ射突杭『スヴァローグ』が携えられている。
 ヴァシリッサ・フロレスク(浄火の血胤(自称)・f09894)、女もまだまだ盛りの二十五歳。夏の思い出作りと意気込んで参戦してみたはいいものの、肝心要のイチャイチャなるものが果たして何であるのかについてはいまいち理解が及んでいない様子であった。射突杭いらないと思うよ。
「へぇ、『胎内』巡りか」
 佐藤・非正規雇用(ハイランダー・f04277)はといえば、漆黒の巨躯を実用性重視のウェットスーツに包んだ出で立ちである。
 強面ゆえに鋭く見えて実はそうでもない視線が、入口横の看板に注がれていた。風習のあらましや意義がとくとくと説明されている、観光地にありがちなアレである。……しかして、かなり竜寄りのドラゴニアンである彼としては、どうしても引っかかる点がひとつ。
「俺は卵生だからイメージが沸かないな……」
「卵生? そりゃでっかい目玉焼きが作れそうだねェ、フフッ♪」
「むやみに有精卵使わないで。というか、この場合はなんて言えばいいんだろ……胎内初体験……?」
「色々やめましょうその表現!?」
 公序良俗の彼方へと飛んでいく会話をすかさず止める小柄な姿は、犬飼・満知子(人間のUDCエージェント・f05795)、花の女子高生。
「えっ、何かダメだった?」
「いえ……そのう……」
 ツッコミに解説を求められると、恥じらって言葉に詰まるお年頃である。露出低めの清楚な水着にさらに薄手のシャツを羽織り、歩きやすいサンダル装備で足元対策も万全。おそらくこの場で最もイベントの主旨を把握している常識人ではあるのだが、いかんせん、この面子に囲まれてしまっては押しが弱い。
 助け舟を求めるようにして、今回の引率役へそろりと視線を移してみるものの。
「なーにがイチャイチャだ。真面目に胎内回帰したまえ」
 こっちも駄目そうだった。
「夏報さんは何か嫌な事でもあったんですか……?」
「だって三十七度だぞ。胎内回帰するしかない」
 グリモア猟兵臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)、名前のわりに暑さの苦手な秋生まれ。言動はオープニングの時点で既に胡乱だったが、いよいよ斜め上の虚空を見つめ始めている。
「フフッ、夏報ちゃんも気合入ってンじゃない?」
 本人はともかく、その服装はヴァシリッサの評する通りに気合十分。黒のインナーにカーキ色のジャケットを組み合わせたシンプルなアウトドアスタイルだ。首元を彩るターコイズブルーの襟の裏地と、腰のあたりに纏わりつくピンク髪の少年がアクセントとなっている。
「似合ってるヨ♪」
「いや何ですかそのピンクの子!?」
「神様だよ!」
 ひょい、と能天気な笑顔が覗く。ちゃっかりと良い位置を確保しているのは、神様特権というよりはお子様特権。ロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)の可愛らしさの前には全てが無罪だ。纏わりつかれている当人が無頓着なだけとも言うけれど。
「だって途中は真っ暗で何もないんでしょ? 絶対一人だと飽きるから!」
「この人数ならじゅうぶん賑やかな気もするけどなあ」
「もー! 組や班分けであぶれた寂しいこどもと組むのは先生のやくめでしょ!」
「今日の夏報さんは女教師かあ……」
 あぶれているようにも寂しそうにも見えないけれど、まあ、こどもではあるだろう。実年齢と種族は置いておくとしても、目を離したら何をしでかすかわからないという点においては。
「というか、きみ、神様なのに割とそういうの詳しいね……?」
 世知辛い学生時代をぼんやり思い浮かべつつ、夏報は改めて集まったメンバーを確認してみる。グリモアベースに居た顔が数人見当たらない、が、そもそも自由行動なので特に問題はないか。
 そんな事より。
 ――岩陰でこそこそとしている一名が、あぶれた寂しいこどもとやらに見えなくもなかった。

 マリングローブに包んだ五指を、結んで、開いて、ひらひら回して。
「……大丈夫そう、かな」
 馴染んでいない手袋に変えると、やっぱり少し不安だった。袖口に隙間がないかを入念に確かめていると、不意に後ろから肩を叩かれる。
「わ」
「おっ、今日は君か」
「……夏報さん」
 白黒とする赤青の瞳は、風見・ケイ(星屑の夢・f14457)の主人格こと『慧』を示すもの。
「荊だったらどうするんですか……。投げられても知りませんよ?」
「ま、最近は目を見なくても大体わかるから」
 そう言ってへらりと笑う友人の顔に、右手に走った緊張を解く。
 ……引っ張り出した去年の水着は、結局そのままでは着られなかった。上はラッシュガードにして、パーカーの前も合わせ気味にして、やっとかっと『肌』を隠すことができる。
 ここまでして島に来ておいて何だけれど、新たな生なんてものにあやかりたい訳じゃあない。これ以上どんな命を得たって、どうせ自分は同じような生き方をしてしまうのに違いないから。ただ、少しは、夏っぽいことをしておこうかなと思っただけで。
 つまり、これも、とことん俗な動機なのだった。
「じゃあ夏報さん、――ちょっとイチャイチャしに行きません?」
 と、茶化そうと試みてみたものの。ぱちくりと瞬く彼女の表情を見ると急激に恥ずかしさが勝る。
「……ジョークです」
「ジョークを自分でジョークって言っちゃうと面白さ半減だぞ。……どしたの風見くん、何か気になることでもあった?」
「いや、あえて言うなら……、そのピンクの子は?」
「神様だよ!」
 実はここまでずっと居たロニが、夏報に纏わりついたまま勝利のブイサインを掲げる。
「案内役はボクが先約だもんねー! ねっ、夏報お姉ちゃ……、……おね……」
 普段ほとんど考えるということをしない少年は、珍しく年齢差について一考した。神と人の子を比べる尺度は存在しないので、ここは外見の問題である。だって姉弟に喩えるには少々、……否、己の三大欲求は、真理よりも無難さをもって呼称を選べと囁いている。
「おねえちゃん!」
 よくできました。
「ま、子供なら仕方ないかな……」
 賑やかなほうが楽しいでしょうし、なんて苦笑で、慧は何かを飲み込んだ。さっきは妙な言い方をしてしまったけれど、今度はいつもの涼やかな言葉遣いを心がけて。
「海の肝試し、付き合ってもらえないかな」
「おっけーおっけー、今回の肝試しはたぶん安全だよ」
 夏報が歩き出したのが、出発の合図代わりになった。ぞろぞろと他のメンバーが続く光景は、イチャイチャがどうとかいうよりは最早ツアーガイドの様相である。
「初体験でも安全?」
「だから佐藤さんはそれ止めましょう!?」
「こんだけ猟兵が揃えば何の心配もないねェ、夏報チャン、エスコートヨロシク♪」
「ああそうだ、マスター、」
 振り返って、最初の注意事項。
「スヴァローグはちゃんとロッカーに預けてね」

●さらば光よ
 一方その頃、外の光がぎりぎり届く洞窟内部にて。
「いやロッカーあるのかよ……」
 チラシによくあるフォント程ではないけれど、若干の台無し感は否めない。なんというか、舞台装置に現実を捻じ込まれると良くない意味で目が醒める。
 史跡の良さとか、民俗学の面白さとか、そういうものを同年代の連中よりは解するつもりで。けれど、こうした詰めの甘さもまた観光地の味わいと受け止めるにはまだまだ青い。零井戸・寂(FOOL・f02382)は概ねそんな少年であった。
「必要性は分かるけどね」
 さほど多くない手荷物をふたりぶん、鉄の扉に封じ込めて。……さあ行くぞ、なんて声を掛けるより先に、よくよく見慣れた赫色がレンズ越しの視界の端を掠めた。
 跳ねる三つ編みの先端だ。

「ここが母の胎の中……」
「いやちょっと違うと思う」
 そうやって斜に構えた寂とは対照的に、ロク・ザイオン(月と花束・f01377)の瞳は一等星もかくやとばかりに輝いていた。
 森か、森ではないか――その一点に特化した彼女の価値基準は、往々にして細かな間違い探しに興味を示さない。洞窟に一歩足を踏み入れた瞬間の、圧倒的な暗闇と静謐の気配が全てだった。よく濡れた岩のぬめり。塩を含んだ水のにおい。彼女の五感は、ただ其処に在る自然に注がれている。
 どこかズレてはいるものの、ひたすら真っ直ぐな軸である。
「物の例えってやつだよ、夏報が言ってたのはさ……」
 かといって、ロクの語彙力で胎内回帰がどうのこうの言いふらされては流石に困る。自分の名前を添えられようものなら社会的ななんかがお屋敷みたいに爆発する。……軌道修正を試みるのも、相棒としてのいつもの務めだ。
「こう……」
 下世話にならない表現を思春期の脳細胞から必死に検索。
「度胸試しっていうか、苦難を乗り越えて、ひとつ上の男になるみたいな」
「深い、な。これなら何百匹でも産める」
「聞いてる相棒?」
 その深いって絶対にこっちの話のことじゃあないよなあ。そんな溜息もそこそこに、上機嫌な彼女を追って、横へと並ぶ。
「目ぇキラッキラだな……」
 その輝きも、反射する光すら届かなくなれば見えなくなってしまうのだろう。ぬるい海水をひたひた蹴って進むほど、ふたりは闇へと呑まれていく。
「胎内って、こんなに暗いもんなのかね」
「おれは知らない」
 ゆらゆら踊っていた三つ編みが、足首あたりの水面を打つ。
「……おれは多分、胎から生まれたものではないし」
「……そうかい」
 話半分の体を装う。
 確かに彼女が口にするのは『ととさま』と『あねご』ばかりで、そこには母親に相当する単語も、家族なるものが持つべきニュアンスも含まれていないように思えた。寂だってその意味くらいは察していたし、だからこそ、掘り返すようなつもりもない。
 相手の全てを知らないと不安だなんて臆病者の発想だ。共に闇を行く僕らに、そんな必要があるものか。
 ――そういえば。口癖だったその呼び名を、最近あんまり聞かないな。
「君も大概、奇妙な星の下に生まれてるよな」
 その星の光も届かないくらい奥まで進んだら。
 案外、君にも本当に、新しい生があったりするのかもしれない。

●古く古く父無く母無く
 最初のゆるい曲がり角を手探りに越えると、いよいよ正真正銘の暗闇だ。五感のうち最も重要とされるひとつが、まるで用を為さなくなる。
 入れ替わりに鋭くなっていくのは触覚だ。肌を撫でる水が、風が、夏らしい温度から遠ざかって冷えていく。母のぬくもりというよりは、死者の国を訪れる神話を思い出すような。
「胎内回帰♪ 体内怪奇♪ 胎内回帰♪」
 ……聴覚に届くのは、ロニ特製の気の抜けた即興胎内回帰ソングなのだけど。
「子供は無邪気ですね」
「だねえ」
 慧の隣で伸びをする夏報の輪郭が、段々と見えなくなっていく。
「夏報さんなんて、涼しくなった途端に胎内回帰連呼してたのが恥ずかしくなってきたところだよ……」
「本当に暑いの嫌だったんですね……」
「母親の心がわかって恐ろしいー♪」
 ワンコーラスが終わる頃には、いの一番に飛び込んでいったロニの姿もすっかり闇に沈んでいた。うーん、という唸り声が前方から聴こえると思うのは、先程までの位置関係を覚えているからにすぎない。洞窟の中に互いの声が反響して、じきに、それもわからなくなる。
「おねえちゃんおねえちゃん、おかーさんの中ってどんな感じだった?」
「え」
「こんな感じ?」
 唐突なこどもの疑問に慧が思わず足を止めると、すかさず夏報の声が継ぐ。
「さすがに昔すぎて覚えてないかなあ……。こんなに涼しくはなかったんじゃないかと思うけど」
「ふーん、そもそもおかーさんってどんな感じ?」
 たとえば海が母親だとか、空が父親だとか、ふたつが交わって大地を産むのだとか、そういうおとぎ話は人間向けの表現だ。本物の神様であるロニからすれば、人間が『母親』と呼ぶ役割は縁遠いものである。
「……どうだろう。うちのお袋は、あんまりおかーさんって感じの人じゃなかったから」
「んー? でもさあ、その人をおかーさんって感じじゃないって思うんなら、おかーさんがどんな感じかは知ってるってことになるんじゃない?」
「鋭いな、君は」
 理屈は通るね、と、間を置いて。
「うまく言葉にできないだけかもね。もう子供じゃなくなっちゃったから」
「あ、じゃあさ! おかーさんになるってどんな感じ?」
「う」
「ぶ」
 格好つけた直後に喰らうド直球。盛大に言葉に詰まる夏報の横で、息を潜めていた慧も思わず吹き出している。
「おかーさんってどーやったらなれるの?」
「そりゃそう来るよなあ!」
「ボクでもなれる?」
「あっそう来るの!?」
 考え中だと示すようにうんうん唸る。こういう時にコウノトリだのキャベツだの言ってはぐらかさないところが、このお姉さんの『先生』っぽいところであった。
「……猟兵だし、神様だし、そこはユーベルコードとかで何とか……? ってか、君こそ天地創造とか覚えてないの?」
「む、失礼しちゃうなっ、ボクだって昔のことは覚えてるよ!」
 少しは、と小声で付け足して、ロニは胎内ならぬ太古を想う。

 うまく言葉にできないこと。
 年月とともに忘れてしまうこと。
 それはたとえば、生まれたての赤ん坊だった星のこと。この岩壁が煮えたぎる泥だった頃のこと。
 液体と気体が分かれていくなか、最初に降った雨の一粒のこと。今でこそ母なるなんて言われる海が、ほんの一握りの塩水だったこと。
 酸素という毒に冒されるよりずうっと前の、世界を揺らす風のこと。

「――うん、思い出してきた」
 その瞬間。
 一際強い風がひとつ、ごう、と唸って洞窟の中を吹き抜けた。

●イチャイチャってなんだ、夏
 暗闇のなか、洞窟の岩壁に添えた手のひらの感触だけが生々しい。
 髪の逆立つような緊張を、気取られないよう満知子は進む。
「月もなぁンも無いと、夜目が利いてもホント真っ暗だねェ?」
 そんなヴァシリッサの声だけが聴こえる。普段なら絶対に見失わない真っ赤な髪も、鋭い眼光も、正確な位置は分からない。おおまかに並んで歩けてはいるんじゃないかと思うのだけど。
「というか、まだ外は昼間ですよね……。なのに、ここまで暗いだなんて」
 洞窟に入ってまだ間もない――筈だ。少なくとも、日が沈むほどの時間が経っている訳がない。そうやって自分に言い聞かせているという時点で、既に認識が歪み始めている。
 ……怪談だったか、噂話だったか、他愛のない友人との会話で聞いたことがあるっけか。物差しにするもののない真っ暗闇の中で、段々と時間の感覚がなくなって、右も左も、前も後ろも、最後には上と下までわからなくなって。
 自分が起きているのか、寝ているのか。そもそも今まで生きていた世界は本当に存在しているのか。犬飼・満知子の人生はどこかの胎児が見ていた夢で、この洞窟から出た瞬間――なんて想像を、ぶんぶんと頭を振って吹き飛ばす。
「あの〜、リサさん? 佐藤さん? ……居なくなってないですよね?」
 返事は、ない。

 ――しかし、本当に真っ暗だな……。
 なんて言葉を、佐藤は声に出さずに飲み込んだ。
 どうやら胎内回帰というのは度胸試しの一種らしいし、ちょっとくらい女の子を怖がらせておくのもイベントの一環というやつだろう。別に嬉しいハプニングとかを期待しているわけではない。断じてない。
「あの……、あの! 誰かー!?」
 不安げな満知子の声も、おそらく同じ悪戯心でさっきからだんまりのヴァシリッサも、何処に居るのかまったく分からない程の暗闇だ。
 とはいっても、落ち着いてさえいれば確かに安全な道だ。足元は意外と平坦だし、壁伝いに進めば基本は一本道だ。そろそろ慣れたな、ぐらいの気持ちで前方の虚空を探る。

「ン?」
 靴裏の妙な感触に、ヴァシリッサは歩みを止めた。
 とりあえず拾い上げて確かめてみる。たぶん現地の水棲生物か何かだろうが、クラゲなんだかナマコなんだか。いまいち判断はつかないけれど、一通り撫で回したところ、どうやら毒はないらしい。
 ならば、と牙を剥いて笑う。
「ハイ♪ マチコちゃんパース♪」
「ひあっ!?」
 声の方向に投げ渡せば、更なる悲鳴が返ってきた。
「顔! 顔にー! なっ、なんですかこれ!」
「知らない♪」

 ……ぶみゅっ、と柔らかいものが、佐藤の手のひらに収まった。
 岩壁とは明らかに異なるぶよぶよとした質感。女の子の悲鳴。彼の状況判断は一瞬であった。これは即ち――。
「役得……!?」
 違うと思うよ。
「あ、コッチは毒あるっぽいねこりゃ」
 しかし佐藤が我に返る間もなく、ヴァシリッサが適当に投げ捨てた何かが顔面にクリーンヒット。
「うおおォォ!?」
 すっかりイチャイチャ的な何かを誤認している佐藤のこと、肌に走るぴりぴりとした刺激に気付く暇もない。……クラゲへの頬ずりを堪能するために壁から手を離した結果、しばらく集団とはぐれて迷子になる羽目になるのだが、それはまた後のお話である。

●たぶん森、部分的に森
 海の底には、ひややかな死が横たわっているような気がしていた。
 それが浅慮であったことを、今のロクはよく理解している。肌を刺す塩水の中にも森はある。苛烈な環境こそが織り成す理が存在する。
「……思ったよりなんかゾワゾワすんなこれ」
「キミもそう思うか」
 暗い中に、様々ないのちの気配が蠢き犇めいている。この浅い水に棲まうのはとりわけ小さき者たちだ。足先をつついているのは何かの稚魚であろうか。捕食者のいないこの揺籃で命を蓄え、いずれは海原へと巣立つのかもしれない。きっと、そうだ。
 愛おしさに目を細めると、鋭い突風が頬を撫でていく。
「ヒッ」
「ン゜」
「な、なんだ風か」
 吹き渡る、残響の音色もまた美しい。腐ったもののにおいがしないのは、淀みなく風通しの良い証拠。赤子のすこやかな呼吸まで聴こえてくるような心地がした。
「これはよい胎だ……」
「今胎とか言うのやめてくんない!!?」
 一方の寂といえば、先からずっと森番の感性に置いてけぼりである。いやまあ流石に付き合いが長い以上は慣れたものだが、それは置いてけぼりに慣れただけである。何を考えているかが解るのと、同じことを考えるかどうかは全く別だ。
 ……というわけで、自分の考えていることをまとめて振り払う。この水はただの海、この音はただの風。女の泣き咽ぶ声などでは断じてない。時々ガチの悲鳴も聴こえてくるが、たぶん他の参加者のものだろう。
「いいから進……」
 べちゃ。
「ワァァァァァなんか貼りついてる幽霊何これ眼鏡がヌタヌタする嫌だァァァァァッ」
 どこぞの騒ぎより飛来したナマコによって冷静沈着なロールプレイはあえなく決壊。眼鏡特有の早口が洞窟内の音響効果に加わった。
「おそれないで、――母の胎だぞ」
「シリアス依頼にありがちな溜め方してみたところでクソ企画だからなコレ!!!」
「ジャックは強い仔になるな」
 元気があるのはよいことだ、とでも言いたげな、慈母の微笑みが浮かんで見えた。光ひとつ届かない闇の中でも、絶対に彼女はそうしていると確信できる。うーんこの野郎。野郎じゃないが。
「……そんなに怖いなら光るか?」
「い、いや光んないでいいよ……」
 とりあえず、君は其処に居るのだし。
 これはあくまで暗闇を楽しむ催しな訳で、雰囲気を壊すのは出来るだけ避けるべきだろう。僕らは問題外として、肝試しにかこつけてイチャイチャしに来た参加者だって居る筈だ。
 何も見えないからこその醍醐味ってやつがあるんじゃなかろうか。そういう人たちにとっては。

●正体見たり
「はぐれたなこりゃ」
「完全に、……はぐれましたね」
 所在を確かめ合う声は、何度このやりとりを繰り返してもふたつきり。
 ……突然、風が強くなって。ところどころから悲鳴が響いてきて。とりあえず危なそうな騒ぎからは離れておこう、と、手をとって足を速めた結果がこれである。
「他の面々はともかく、ロニくんは本当にどこ行ったんだろ? お子様見失ったらまずいよな――」
「あ、」
 夏報のどこか呑気な声が遠ざかるのを感じとって、慧は慌てて手を伸ばした。服の裾らしき布に触れる。彼女の気配が立ち止まる。
「……風見くん?」
「もう少しこのまま、……誰か来ないか、待った方が」
「まあ確かにな、下手に動かないほうがいっか」
 宙を迷っていた指を、今度は向こうから包まれる。手袋越しの感触を、しっかりと繋ぎ直すようにして。
「そういえば、イチャイチャしに来たんだっけ?」
「いきなり何言い出すんですかっ」
「君が最初に言ったんじゃん……」
 そのまま引き寄せられる力に任せると、手近な岩壁に並んで寄り掛かるような形になった。耳元に届くくすくす笑いに溜息で返せば、喉につかえた不安感も吐き出されて消えていく。
「もう、……夏報さんまで迷子になったらかないませんよ」
「子供扱いされるほど学年離れてないってば」
「いやそんなつもりじゃなくて。ほら、こちらからお願いして、怪我とかさせられませんから」
「そもそも僕の立てた企画なんだけど……真面目だなあ、君は」
 互いの表情は見えないまま、肩のあたりに体温の気配だけがある。真っ暗闇に、冷たい空気。ふと流れた沈黙に、女の声によく似た高さの風の音が重なった。
 ……去年の肝試しは、どっちが誘ったんだっけ。
 突然言葉少なになった彼女も、もしかしたら揃ってあの夜のことを考えているのかもしれない。それはそれでなんだかくすぐったいけれど、たぶん、こんな時にするべき思い出話じゃあなかった。
「少しだけ、子どもの頃を思い出すな」
「海とか行ったの?」
「近くに海はなくって、――放課後の冒険。暗くて湿っぽい、こんな感じの路地裏とかに入り込むのが好きで」
「悪い子だなあ」
「そうですよ」
 昔どころか、今のほうがずっと。
「悪い子です。真面目なんかじゃないですよ」
 あの路地裏ではひとりだったけど、今はこの暗闇の中でふたりきり。誰かが近付いてくるような気配もなくて。
「ね、夏報さんは――」

「おう、臥待」
 無明の闇から、不意に低い声がした。

「っわ」
「ひゃ!?」
「――と、風見か。生まれ変わりの調子はどうかね」
 そこで初めて、ひたり、と濡れた足音が響く。位置を知らせるようでいて、近いのか遠いのかすらも判然としない。……しかし、その落ち着いた声色には、二人ともよく覚えがあった。
「やっさん……。見かけないなと思ったら」
「なんだなんだ、雉が鉄砲喰らったような顔しやがって」
「雉が鉄砲喰らったら普通に死ぬからね!?」
 気の抜けたやりとりに、各々肩の力を抜く。――けれど慧は、あれ、と小さく呟いて、空いた指を口元に運んで首を傾げた。
「顔、見えるんですか? 灯りもないのに」
「灯り? 要らんよ。暗さも修験だろう?」
 安喰・八束(銃声は遠く・f18885)の軽い笑い声が、それ以上の追及を煙に撒く。

「イヤ、おっかなびっくり通る奴らが面白くてな」
 夜目が利く彼が言うには、慧と夏報の二人はかなり洞窟の奥まで来ている部類らしい。
 他の連中の殆どは、半ばあたりで海鼠や海月を投げつけ合っていたとかなんとか。だったらむしろ自分たちは、先に終点まで行ってのんびり待った方がいいだろう――という訳で、残り短い旅の道連れと相成ったのだが。
「だからってわざわざ驚かすことないじゃんか、ねえ」
「全くです」
「……まあそう拗ねなさんな、俺は其処まで悪童でもねえ心算だぞ」
 そんなやりとりを続ける声は、やはりどうにも距離が掴めない。しかし、後ろから追ってついてくるのは確か。正体さえ知っていれば、乱れない一定の足音はむしろ頼もしい。
「絶景、楽しみです。今年の夏はあんまり遊べなかったから」
「戦争も予知もキツかったもんね。あと三十七度だし」
「……まあ、何だ、お疲れさん」
 というか、娘二人を見守る父親のようですらあって。
「それで、人生やり直せそうかい?」
「どーだかね――」
 へらり、と、いつもの笑顔で誤魔化そうと振り返った夏報だけが、――灰色に光る一対の瞳を視た。

「――あ、光」
 前を向いたままの慧が嬉しげに言う通り、暗闇にほんのりと青い光が差している。
 浮かび上がった人影には、いつも被っている笠の輪郭がなかった。身に着けているものだけで人間を判別している訳じゃあないけれど――人間、人間?
「夏報さん、……安喰さん?」
 一拍遅れて慧が振り返った瞬間には、狼の耳も尾も闇へと溶けて消えている。
「やっさんは来ないの……?」
「その先は極楽浄土だろう? 畜生道にゃ似合わんよ。……もう、やり直すも何もねえからなあ、俺は」
「じゃあ、なんで」
「そうだなあ――」
 距離の判る声がした。遠く離れていくのだと、はっきり判る声だった。
「――やり直すも何もねえ、ってのを、確かめに来たのかもな」

 ぼんやりと立ち尽くす夏報の手を、慧が光の側へ引く。
「行きましょう」
「ああ、うん、そうだ、」
 切り替えるようにぱっと笑って。
「さっきの話の続きは?」
「いや、……大した事じゃないですよ。悪い子の頃、夏報さんはどういうコトしてた?」
「んー、マンホールの下とか探検したっけなあ」
「さらっと凄くないですか」
 この地中の星空が極楽浄土だったとして、人生をやり直せるかは知らないけれど。
 二人の他愛ない話は、きっと今生の思い出になる筈だ。

●きみをおもう
 ――しばらくして。
 最後の曲がり角を抜けたロクと寂を出迎えたのは、水底の国を思わせる視界一面の青だった。
 壁から天井までを埋め尽くす夜光ゴケの淡い光が、黒い海面に細波となって映り込み、星空のように揺れている。
「おお、こりゃ映えるってやつだ」
「いのちの輝き……」
 感じ入っているロクを横目に、寂はスリープモードにしていた情報端末を再起動する。スマートフォンサイズの高性能コンピュータも、この絶景を前には単なるカメラに過ぎなかった。
「ねーねー、これ剥がして持って帰っちゃダメ?」
「多分ダメでしょ、ていうかロニくん本当どこ行ってたの」
 やいのやいのと騒ぐお子様とお姉さんの姿をフレームから外してぱしゃりと一枚。映えがどうだとか言ったけれども、別にSNSでバズろうだなんて考えている訳ではなく。
「……写真もだけどさ。あとで海岸出たら、貝殻とか砂とか取りに行こう」
 流石に夜光ゴケは駄目だろうけど。……ささやかな思い出の欠片を、持ち帰りたい理由がある。
「すてらが喜ぶかなって。生の海も知らないかもだし」
「ん。いいよ、おみやげ」
 その名前に、ロクの頬も自然と綻んだ。毎日よい食事を摂って、この頃は体も動かすようになったのだと伝え聞いている。病んだ巣で死にかけていたあの子が、今も健やかに生きているのは、それだけで嬉しい。
 彼女も、生まれ直したのだろうか。灰に還って芽吹くのではなく、ひとつの苦難を乗り越えることで。
「……出掛けられるようになったら、海にも連れてきたいんだ」
「楽しみ、だな」
 自分が海に森を見つけたように、すてらも海に星や花を見つけられたらよいと思う。
「じゃあヒトデはどうだい。星だし。かっけー」
「いや……こう、生きてるのはダメかな。飼い方わからんし」
「……そう」
 星がだめなら花か、と想いを巡らせて。
「だったら貝殻な。桜のやつがある。前に港の店でみた」
「桜貝か……。探してみる価値はあるかな」

 散らない桜の花弁を瓶詰にして飾ったら、彼女は喜んでくれるだろうか。
 死なないもの。腐らないもの。ずっと傍に置いておけるもの。寂がそういう風に考えたのは単なる現実的な判断で、感傷などではない筈だった。

●グリシャンの奥地に謎の髪の毛お化けを見た
「よーし、多分もうすぐ絶景だ♪ イチャイチャする準備はOK?」
「わ、私もうヘトヘトです……」
 ヴァシリッサが右へ左へとちょっかいを出すのはいつものこととして、満知子の胸ではひとつの心配事が膨らんでいた。淡い光が近付くほどに、懸念は確信へ変わっていく。
 ――髪が、伸びている気がする。具体的にはリサさんが投げた何かが顔に張り付いたあたりから。
 満知子の身体に宿っているのは、髪に寄生する一種のUDCだ。それだけなら猟兵にはよくあることで済ませられるが、制御不能のこの子たちは、彼女の意思と関係なく勝手に行動してしまうことが多い。
「……大丈夫、大丈夫」
 洞窟内に危険はないと夏報さんも言っていた。少なくとも、敵となるオブリビオンがいる訳じゃない。皆あくまで暗闇を警戒しているだけで、何かを攻撃したりはしないはず。
 それでも万一、悪意のない悪戯に反応でもしたら大変である。必死に息を潜めていると、ふっ、と無言の時間ができた。
「胎《はら》ン中、か」
 薄明かりが、神妙な表情を照らし出す。
「やりなおせたら、違ったンかな」
「あれ」
 続いて、それに気付いた佐藤も光のもとで顔を上げる。
「どうしたの?」
「ん。いんや、なンでも無いさ♪ ――って」
 そう、なんとそこには、硬そうなドラゴニアンの皮膚をわらびもちのように腫らして、最早誰だか分からないくらいデフォルメの利いた佐藤の姿が。
「アハハ! なンだいダンナ、その顔?」
「おおむね貴女のせいなんだよなあ!」
「あ、居た居た。遅いよマスター、みんなで最後だよ……って」
 迎えとばかりに駆け寄ってきた夏報も、怪訝な顔で首を傾げて。
「どちら様……?」
「入口で会いました!!」
 くふ、と声を噛み殺すヴァシリッサの笑みに、先程の陰は微塵も残っていなかった。折角だからこの顔のまま皆で並んで肩でも組んで、記念撮影でもすれば話の締めとして完璧だろう。ちょい、と満知子を手招きしようとして。
「ファッ!?」
「……う、ううー、すみませーん……」
 のそり、と姿を現した巨大な触手の塊に、本日一番の悲鳴を上げることとなったのが――この話の締めである。

●胎児よ胎児よなぜ踊る
 ――小さな子供は、生まれる前のことを憶えていることがあるのだという。
 それを嘘ととるか真ととるかは人次第。どちらにしても大抵は、月日が経てば次第に薄れていくものだ。さて、今日という日の『胎内記憶』を、明日からの命を生きる君たちはいつまで憶えていられるだろうか。

 まあ、わざわざ難しく考えなくとも。
 瓶詰にしたお土産に。スマートフォンの画像欄に。あるいは、心の片隅に。ひと夏の冒険の思い出は、確かに残っていることだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年09月07日


挿絵イラスト