●夕宵島という、切り取られた夏の避暑などはいかがでしょうか?
ジリ、と。空から、目に見えるのならば矢のように光が降り注いでくる。
岩崖をもえぐるのではないかと錯覚するような日差しに、蜃気楼のように陽炎が揺らいで見える、綺麗でありながらも裸足で歩くなどという夢すら見せない、熱せられた砂浜の島。
グリードオーシャンにおいて、コンキスタドールから解放された島の一つだが、解放されてもこの日差しと熱を目の当たりにして、長居したいという存在は稀だった。
だが、広がる澄んだ青い海が橙色に染まる頃、この島の有り様は一変する。
●グリモアベースにて
「グリードオーシャンにおいて、夕焼けの景色が美しい島がある」
夏の避暑に興味は無いだろうか、そう声を掛けてきたグリモア猟兵レスティア・ヴァーユ(約束に瞑目する歌声・f16853)は、誘いに耳を傾けた猟兵たちにそう切り出した。
「グリードオーシャンにて解放された『アックス&ウィザーズ』から落ちてきた島の一つなのだが。
それが朝と昼は灼熱の太陽が全てを容赦なく照らし、依頼以外では到底近寄れるものではない。
しかし、一転。日が傾き始めると一気に気温が下がり、海の広がりを感じられる水平線を夕焼けが照らす絶景へと変わるという。
日が完全に沈めば、時間と共に潮騒の音色が響き、天上に星がきらめく静謐な空間へと変わっていくのだと」
ふむ、と。そこまで語り、一息おいてから言葉を続ける。
「昼間は地獄のような場所なのだが、日さえ傾けば避暑には最適だと思われる。
アリスラビリンスが緊迫した状態であることは重々承知しているが、戦争だけではいくら猟兵といえど正気を保てない時もあるだろう。
その中の一日、数時間でも息抜きにあててみるというのはどうだろうか」
休息も重要な任務。
そう、言葉を句切りつつ、レスティアは告げた。
「花火や何か必要な道具など、避暑に必要と思える道具ならば何を持ち込んでも構わないし、こちらもゆっくり寛げるよう、事前準備から最大限の努力をしよう。
――夕方、夜ということで、明かりが心許ない事もあるかも知れない。私も夜は属性魔法で各所に明かりを灯していこうと思っている。
皆で各々に楽しんでもらえればと思われるが、用があるならば声を掛けてくれれば雑用位はこなせるだろう。……バーベキューの火の付け方一つ知らないが。
では、どうかよろしく頼む」
それは避暑の話ではあるのだが、依頼と変わらない固さで、そのグリモア猟兵は周囲を見渡し一礼した。
春待ち猫
初めまして、こんにちは。春待ち猫と申します。
まだシナリオ数が少ない新米ですが、どうか宜しくお願い致します。
●シナリオについて
プレイングの募集期間は、畏れ入りますがマスターページへと記載させていただきます。出来る限り迅速に記載させていただきますので、大変御手数ですが、ご確認をお願い致します。
●シナリオの舞台
このシナリオでは、舞台となります島は、既に猟兵達によってオブリビオンから解放されたものとなります。
あたりに邪魔する者の気配はなく、完全に猟兵の貸し切り状態です。
※このシナリオは【日常】の章のみでオブリビオンとの戦闘が発生しないため、獲得EXP・WPが少なめとなります。
この度は、日が傾き掛けた夕暮れ時から宵の時間、それから夜へ。
太陽が眩しくない時間と共に、自然に移り変わっていく不思議な色合いの海を傍らにして、自由に夏のバカンスを楽しんでいただけます。
●楽しみ方の一例
夕焼けの海に、思いの丈を叫んでいただく。
手持ち花火を持ち込んで、手持ち花火など。お一人での線香花火も魅力的です。
夜の星を見上げながらBBQ!
夜のビーチバレーも風情があっていいじゃない!
みなさまの思い思いに、夕暮れ~深夜のお時間の間で、夏のレジャーを楽しんでいただけます。
今回のグリモア猟兵レスティア・ヴァーユも、日の傾いていくビーチを明るく照らす、照明係として駆けずり回っていますので、お声掛けいただければ登場致します。
それでは、どうか宜しくお願い致します。
第1章 日常
『猟兵達の夏休み』
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POW : 海で思いっきり遊ぶ
SPD : 釣りや素潜りを楽しむ
WIZ : 砂浜でセンスを発揮する
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
スピーリ・ウルプタス
「あわよくば熱砂の上を灼熱の痛みと共に歩きたい、とも思いましたが。
そうですね、皆様に倣ってここは一つ、平和に思いを馳せてみるのもご一興」
楽しんでる方々が居たらお邪魔にならぬよう、
(目が合えばニコニコ一礼なんぞして)一人離れた波打ち際にて。
足首が濡れるのも構わず
「日中が業火とは思えぬ冷たさですね、冷たくて心地よいです。
成程これがギャップ萌え……素晴らしき島ですね」
彼方の水平線を見つめ
「……この罪深き身が、これほど穏やかで美しい景色の中に居られるとは。
背徳感というものでしょうか、中々に胸が締め付けられて気持ちが良いです」
恍惚と微笑んで
周囲で賑わいや花火の色がちらつけば、うっとり傍観
【アリガトウゴザイマス! ご褒美です!!】
夕暮れの砂浜と陸地の境目に男が一人。
遠くで潮騒が小鳥のさえずりのように聞こえてくる。白く泡立つ群青色の波を、夕日の光が表層を撫でるようにオレンジ色へと染めていく。
「ああ……! あれが、美しい夕暮れの太陽でも染めきれない、濃紺の波の本性……! このようなものが見られるとは――ぞくぞくしてしまいます」
その瞳に宿している感情は、紛うことなき『恍惚』であった。
――スピーリは『とある禁書』に宿ったヤドリガミである。その持ち主は、過去においてはスピーリを愛読しており、その都度、他人に見せることのないよう『固く縛った上で、厳重に仕舞っていた』――それを繰り返すこと、ヤドリガミになるまでみごと百年。
そうして肉体を得た禁書は、己が受ける様々な刺激に対して、常に『愛と快感』を伴い感じ取る身体になっていた――早い話が、このヤドリガミは『全てにおいて、さまざまに愉悦を感じるドM』となって、今生に爆誕したのである。
「あわよくば熱砂の上を灼熱の痛みと共に歩きたい、とも思いましたが。
そうですね、皆様に倣ってここは一つ、平和に思いを馳せてみるのもご一興」
しかし一応、スピーリにも悦楽にもんどり打つ行為が社会一般にとって『ご迷惑である』という自覚はある。その為、行動はいつもこっそり密やかに執り行ってきたものだ――ただ、秘め事には背徳感が伴う為、それすらも趣向である可能性は否定は出来ない。
流れ来る風に、他にも人が増えてきたのを感じ取りながら、砂浜を歩く。
通り掛かった他の猟兵に、スピーリは、先の砂浜の一件については、見事何もなかったかのように笑顔と共に一礼して通り過ぎた。
愛は幅広く。
『社会的冷たい目』というご褒美は、最終手段であろう。
辿り着いた先は、人気の更に少ない波打ち際。
さらさらと、海の水音が澄んだ音を鳴らしては、砂と共に足元近くまで寄せ返してくる。
スピーリはその中にゆっくりと足を踏み入れた。撥水のしっかりとした革靴であるが、踏み出した先は波の弾ける音と共に、スピーリの足先を受け止めるように浸していく。そして同時に、波を踏み砕いた以外の箇所から漣が押し寄せ、あっという間にスピーリの足首までを浚うように濡らしていった。
伝わるのは、己の得た人の身に受ける海水の感触。本であっては浴びることの叶わなかった、水という存在の温度。
「冷たい。ふむ、なるほど」
日中温まっていた水の温度は、既にその底に広がる大海に寄せるように冷え切っていた。
「日中が業火とは思えぬ冷たさですね、冷たくて心地よいです。
成程これがギャップ萌え……素晴らしき島ですね」
ここはとても良い島だと、スピーリは思った。
そこらの坦平な美女を見るよりも、ギャップ萌えの眼鏡美女の方が、遙かに人の心に響くに決まっているのは世の摂理である――この島は、その体現なのだ。おそらくは。
それからどの程度の時間が流れただろうか。
夕日が落ちたのを目にした。
夜は空の藍色を深くし、写し取るように海の色を染め上げた。
花火が上がり始めている。上空の月が海面を照らし星のように燦めいた。
「……この罪深き身が、これほど穏やかで美しい景色の中に居られるとは。
背徳感というものでしょうか、中々に胸が締め付けられて気持ちが良いです」
周囲に人はいない。
人がいれば入水者と勘違いされそうなまでに、スピーリはうっとりとした恍惚を浮かべ、水位が上がり足首までもが完全に水に浸った海の中に佇んでいた。
今――この光景に。この世界に、
己という存在を、責め問われているような気がする。
スピーリは、それを喝采の拍手のように全身全霊に浴びながら、敢えて答えを出すことはなく。
ただ悦楽と共に、遠くの活気と花火の鮮やかな色合いを、夜よりも暗い黒の瞳に写していた。
大成功
🔵🔵🔵
シェフィーネス・ダイアクロイト
ア○
お任せ
*経歴はプロフの参照。父の死の真相知らず
水着は黒色
…少し整理がしたい
棄てきれていなかった過去を本当に棄てる為に
深夜で消灯
闇に紛れ夜の海へ
軽く游ぐ
泳ぎ方はびいどろ人魚の様に美麗
メガリスの眼鏡で深海魚など観察
(ボート上の茶会にてあのセイレーンが所持していたペンダント
奴が伝えてくる内容次第で何か判るだろうが…
亡き母は或る海賊が父を殺したとよく話していた
アリエ・イヴは私の父を知らない
書物には彼の父の名が記されていた
eilla…私は一度殺し損ねた)
海に銀月が浮かぶ
菫青色が曇る
不要の塊
塵の山
危険因子は排除…した後が酷く面倒故に放置していたが
2つの指輪翳し海へ沈む
このおもいは
貴様は何処まで私を乱す
●それは、消して止まらぬ刻み時計の音に似ている
深夜、とつとつと、島の端から煌々と灯っていた白い魔力光が消えていく。
「……」
明かりの落ちた陸続きの崖の上に、シェフィーネス・ダイアクロイト(孤高のアイオライト・f26369)は立っていた。
彼の着用する黒の水着はとても似合うものであったが、当の彼の心境は、そのような気分とは大きく掛け離れたものだった。
真下には海が闇色の口を開けている。彼は足場を軽く蹴ると、無駄一つないフォームでその中へと飛び込んだ。
必要最低限の水音は、恐らく他の猟兵にも気付かれることはなかったであろう。シェフィーネスは一度、ドルフィンキックで勢いと共に海の深みへと潜り。その後は、脚に寄り添う泡すらもたおやかに舞うような、まるでビードロに映り込んだ人魚のように、澄み切った柔らかな動きで静かな海中を泳ぎ始めた。
側に、先の見通せぬ暗い段差がある。身に着けたままのメガリス、glasscopeを通して目を向ければ、それは遙か彼方にいる、少し歪な深海魚の姿を捉えて彼へと届けた。
ずっと、考え事をしていた。
この間のボート上の茶会にて、とある存在が持っていたペンダントを目に留めた時。思わず――奪い取ろうとしていた。
『それは自分の母のものだ』と心の何処かが叫び声を上げていた。
しかしそれは、この手が、この心が――自ら棄てたはずの、過去の記憶。
(棄てきれていなかった過去を、本当に棄てる為に――)
その為に、シェフィーネスはほんの少しの時間だけ、己の心に整理をつけにきたのだ。
過去。或る島が、コンキスタドール達の襲撃を受けた。
それによって、統治責任者だった父は――敵ではなく、それにまぎれた或る海賊の男によって殺されたのだと、自分は母から何度も聞かされて育った。
今となっては顔も覚えていない父。だが動乱の後、父の肩書きは呪詛のように自分と母を苦しめた。
責任問題だと、土地を奪われた。財産を奪われた。騙され、身ぐるみを殆ど剥がされた。
だが、戦場となり父が命を落とした家と、家紋の入った一丁の銃だけは『忌まわしい、怖ろしい』そう言われて誰も手をつけはしなかった。
母は何度でも言った。『父は、ただ、或る海賊に殺されたのだ』と。それは、壊れたオルゴールが繰り返し歪な音を立てるように。
そして心身が衰弱しきった母は、その身を海に委ねて、投げ捨てた。年端もいかない自分を残して。
そこから自分が海賊となるのに、大した時間は掛からなかったと思う。
『オウガブラッド』の利便性に感謝しながら、全てを焼き払い、船を手に入れ、シェフィーネスは全てを焼き棄て島を出た。
それから、数十年。何の因果か、戻って来て尚、誰も手を付けずに廃屋と化した屋敷の倉庫で、自分は一冊の本を見つけた。
手記。劣化していて内容は殆ど読めない。だがそこには、既知と呼ぶには因縁深い、とある海賊の『父親』の名前が刻まれていた。
思わず、相手に自分の父の名を問うていた。もしかしたら、お前は『父を殺した海賊の息子なのではないか?』と。
だが、嘘をつくことを知らない相手は、ただ純粋に『知らない』と答え――
ザンッ、と波を打つ音で我に返った。
シェフィーネスは、気が付けば海面に弾けるように顔を出している自分に気付く。
深海を潜ることへの耐性があれども、どうやら記憶を追いすぎて身体が勝手に動くほどに、息の苦しさすら忘れていたことに、ようやく後から理解した。
天上に浮かぶ銀色に光る満月が、不意を打つように瞳に刺さる。
瞬間、月光と共に脳裏へ浮かんだものは、自分の短剣に刻まれた送り主の名前。
(eilla……私は一度殺し損ねた)
明瞭に浮かび上がる。あの時、剣を握った己の手を包む温かさ。刃が向けさせられたその先を――
あの時の相手の行動は、こちらが一瞬素で驚く程の、到底理解が及びつかない理不尽で出来ていた。
「……フン、ここまでか」
思い起こせば、心に虫でも涌いたかのような不快感が喉元まで駆け上がる。
後の不明な記憶整理の情報は、母のペンダントを持つ存在に、こちらへと伝えるようにと告げている。ひとまずは、それを元に行動をすれば良い。
ふと、瞳に入れていた満月が薄ら雲で翳り、それを映していた菫青色の硬質な瞳も彩を失い曇り染まった。
今、意識に相対するのは、不要の塊。
廃するべき塵の山。
――今まで、心が僅かでも霞む危険分子は、全て排除して来た。
ただ、アレは後の面倒から放置してきた。そう自らが自分の意思で、面倒故に放置してきた……はずだ。
指先で、かちり、かちりという音が耳に届く。
指を掲げれば、そこには一対の指輪型のメガリスが、雲を抜けた月光を受けて一際大きく輝いた。
「……」
無言で、シェフィーネスはバンと水面を叩き付けるように、海の中へ潜り沈んだ。
――どこまでも、かき乱される。
こうして荒れる心は、まるで大時化の波間のようだった。
かちり、かちり。普段は耳に届かない指輪の音が聞こえてくる。
まるで誂えられたかのような、誰かの榛の瞳と燃えるような髪を彷彿とさせる紅玉は、今この瞬間も音を立てた――それは、まるでシェフィーネスに、何かをうながしているかのように。
大成功
🔵🔵🔵
地籠・凌牙
【地籠兄弟】アドリブ歓迎
ほら陵也!こっちこいよ!
何言ってんだよ報告書と戦闘で缶詰したっていい結果も何も出ねえっつーの。息抜きは大事だよ。
今は俺が引っ張る側になるなんてなあ……俺はずっとお前に手を引っ張られていくんだと思ってた。
花火しようぜ花火!あまり派手なのは俺が火傷するからしょぼいのしか持ってきてねえけどな。
エインセル花火初めてだから興味ありまくりだな!でも陵也の言う通り危ないからな?猫缶食べながら見ような。
俺だと運が悪すぎてすぐ落ちるけどな……じゃあ俺も同じので。
焦らず取り戻していけばいいさ、だからそんな顔すんなよ。
俺は陵也の笑顔が見られるなら、それでいいんだ。お前の笑顔が好きだから。
地籠・陵也
【地籠兄弟】アドリブ歓迎
えっと、いいんだろうか……こんな時期に。
……ううん、確かにその通りか。根を詰めすぎても良くないもんな……
不思議だな、昔は俺がそう言ってお前の手を引っ張っていたのに、今は逆だ。
そうだな、夏と言えば花火だ。
昔みんなで花火しようとしてお前だけ火傷してしまったんだったか?
エインセル、危ないからあまり近づいたらダメだぞ。
線香花火が最後まで落ちなかったら願いが叶うんだったよな。
じゃあ……こういった時間を過ごせる日が少しでも増えるようにお願いしよう。
たった二人の家族に戻ってしまったからこそ、お前との時間を大切にしたい。
俺の心はまだ戻らないかもしれないけど……
うん、ありがとう。
●在りし日から、これからも
静寂を満たす濃紺の空が、黄昏を海の水平線の向こうへ完全に追いやってしばらく。
満月の煌めく夜空の元に、グリモアベースから到着した、比翼連理の喩えも大げさではない二人の猟兵が姿を現した。
「ほら陵也! こっちこいよ!」
手に持つ空のバケツに何かを入れた地籠・凌牙(黒き竜の報讐者・f26317)が、後ろを気にしながらも、しっかりとした声に軽い心の高揚を乗せて、自分の対の名前を呼ぶ。
「ああ、うん」
次いで姿を見せたのは、兄である地籠・陵也(心壊無穢の白き竜・f27047)――後ろには、とても愛くるしい小さな羽根の生えた猫の使い魔『エインセル』を従えている。
しかし陵也の様子は、胸に抱えている心配事により、近日の日常以上に心許なく感じられた。
「えっと、いいんだろうか……こんな時期に」
口をついたのは、罪悪感で言葉を濁した躊躇いだった。
――彼ら猟兵は、今アリスラビリンスにて行われている『迷宮災厄戦』の真っ只中だ。戦況は刻一刻と変化しており、特に陵也にとってその現状は一刻の猶予も赦されないものだと思われた。
その中で、弟である凌牙から出されたバカンスの話。不安に思いながらも、一応は誘いに応じる形でここまで来た。だが、やはり現地に来てしまえば数時間でも戦場を放置することに不安と緊張の方が先立ってしまう。
表情を曇らせる陵也の足元を、エインセルが「にゃあ」と鳴きながらついてくる。
「何言ってんだよ。報告書と戦闘で缶詰したっていい結果も何も出ねえっつーの。息抜きは大事だよ」
兄弟が手を焼いているのは、迷宮厄災戦の戦場だけではない。戦闘の後はその成果として報告書も提示しなければならず、今は完全に机に向かうか戦うかの二択しかない。特に今回は情報が戦力同等にものを言う。だからこそ、少し気を張らなければならない、と思っていたのだが。
「……ううん、確かにその通りか。根を詰めすぎても良くないもんな……」
凌牙の言い分はもっともだ。戦場に出る機会と共に、立ち向かわなければならない報告書類が倍々に増えていく様というのは、確かに悪夢めいたものを感じざるを得ない。
そう思えば、やはり今日は残りの時間でゆっくりと過ごすのも悪くないのかもしれない。そう思った陵也の気配を感じったのか、いつしか先行気味であった凌牙が隣に戻って来ていた。
そして凌牙の右手が、躊躇いなく陵也の左手を掴むと、今までいた岩陰から広々とした砂浜の方へと走り出す。
「行こうぜ、早く!」
つられて走り出せば、凌牙の楽しみが伝わって来るかのように、ビーチサンダルが砂浜を鳴らす音が心地良く響き始めた。
「今は俺が引っ張る側になるなんてなあ……俺はずっとお前に手を引っ張られていくんだと思ってた」
小走りで進みつつ、凌牙は、一つの実感をその場に置いた。
ふとした既視感――凌牙の記憶には、それが鮮明なまでに残っている。
『――大丈夫。何があっても絶対に俺が一緒にいるから』
他の記憶は曖昧だが、そう告げて自分の手を握り語り掛けてくれた、凌牙は過去でもあるその兄の姿を決して忘れることはない。
「不思議だな、昔は俺がそう言ってお前の手を引っ張っていたのに、今は逆だ」
凌牙の声に合わせて、その目に困ったように微笑む陵也が見えた。
陵也の記憶は、そして心は、身を寄せていた孤児院がオブリビオンに襲撃された際に貪り喰われた。
だが、今も。こうして一つ――思い出せた。
時間を重ねれば、いつか、虚無にも似た己の心を埋められる日が来るだろうか。
そのような後をついていく陵也の中にあった既視感は、それでも今確かに、一つの僅かな記憶として、己の胸にあるココロノカケラに落ちた気がした――
「花火しようぜ花火!」
波打ち際の数歩前、降り注ぐ月光と共に、少し離れた所ではあちこちに浮いた魔力球が柔らかく白の光を注いでいる。
手元は明るい。陵也とエインセルを伴った凌牙は、濡れていない砂浜にバケツを降ろすと、さっそくグリモアベース経由で持ち込んだ、色とりどりの手持ち花火を引っ張り出した。
「そうだな、夏と言えば花火だ」
開けた袋を傍らに置き、花火の準備を始める凌牙に、しみじみと夏らしさを感じて陵也も頷く。
「まあ、あまり派手なのは俺が火傷するからしょぼいのしか持ってきてねえけどな」
「……ああ。昔みんなで花火しようとしてお前だけ火傷してしまったんだったか?」
それは昔、孤児院の皆で花火をした時のこと。大きな吹き上げ式の花火をしようとして事故が起き、火花が凌牙に一斉に降り注いで火傷を負った事件があった。
凌牙の持つ存在特性――《穢れを喰らう黒き竜性(ファウルネシヴォア・ネグロドラゴン)》――の影響に鑑みれば、自分がいなければ怪我をしたのは他の誰かであったかもしれない。そう思えば、凌牙としてはさほど悪い事ではなかったが、可能であれば避けたい事柄でもあった。
ふと「にゃ~ん」とエインセルが可愛く鳴いて、開けられた花火の袋の臭いを嗅ぎ、凌牙が手に取った一つの手持ち花火の先端についている薄紙を、手でちょいちょいと遊ぶようにじゃれつき始める。
「エインセル、花火初めてだから興味ありまくりだな!」
毛並みがふわふわの白猫にも楽しみが伝わったのかと、凌牙から嬉しそうに声が上がる。
「エインセル、危ないからあまり近づいたらダメだぞ」
「だな。陵也の言う通り危ないからな? 猫缶食べながら見ような」
諭すように告げられた陵也の言葉に凌牙も同意して、一旦花火を置くと、傍らに出していた猫缶を開けて、先にエインセルへと差し出した。
「にゃ~ん」先程より少し声音高めに鳴いたエインセルが、猫缶を食べ始める。それでも花火の開始を待つように時折目線を上げて、こちらを見た。
「それじゃ、始めるか!」
その視線にうながされるように、凌牙は陵也にも花火を一つ持たせると、意気揚々と火を付けた。
――色とりどりの火の花が綺麗に舞っては散っていく。柄の先で激しく吹き上げたかと思えば、しんと静かになるさまは美しくも物寂しく、花火は次々に水の入ったバケツ行きとなり、残すは線香花火と他種類がわずか数本。
「線香花火が最後まで落ちなかったら願いが叶うんだったよな」
陵也が口にしたそれは線香花火のおまじない。線香花火に火を付けて、願い続けて最後まで落ちなかったら、その願いが叶うというもの。
「俺だと運が悪すぎてすぐ落ちるけどな……じゃあ俺も同じので」
華々しいものにずっと手を出してきた凌牙も、陵也に合わせるように線香花火を手に取った。
「何を願うんだ?」
何とは無しに聞いた凌牙の言葉に、陵也は少し考えてから口を開いた。
「じゃあ……こういった時間を過ごせる日が少しでも増えるようにお願いしよう」
静かに口許に微笑みをかたどり告げられた内容に、凌牙は少し意外そうに目を見張った。
平穏の大事さを、凌牙も良く知っている。だが、願い事なら、もう少し欲を張っても良いのではないか――そう思う間にも、陵也の手元にある線香花火に火が付けられ、パチパチと火花が跳ね始める。
「……たった二人の家族に戻ってしまったからこそ、お前との時間を大切にしたい。
俺の心は――まだ戻らないかもしれないけど……あ」
火玉がぽとりと、想いと反比例するように地面へ落ちる。
しかし、陵也がそれに湧き上がる感情を向けるよりも早く。凌牙は次の線香花火を兄の元へと差し出した。
「焦らず取り戻していけばいいさ、だからそんな顔すんなよ。
――俺は陵也の笑顔が見られるなら、それでいいんだ。お前の笑顔が好きだから」
落ちて沈黙した線香花火への想いを上書きするように。凌牙は自分の線香花火に火を付けた。
再び二人の間で華を散らし始めた線香花火をよそに、凌牙が陵也の受け取った花火にも火を付ける。
それは、先の陵也の想いを継ぐように、指の先でまた音を立て閃光と共に輝き始めた。
「……うん、ありがとう」
線香花火が形にしてくれた兄の願い。
ならば、自分も手の先の灯火にそれを願おうと凌牙は決めた。
ただ――いくつ火玉が落ちようとも。いっそ線香花火が全て無くなってしまったとしても。自分はその願いを諦めはしないだろう。
その先に。今まるで幸福が伝わってくるような、この兄の笑顔と共に在れるというのであれば。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
セリオス・アリス
【双星】
ア◎
せっかく海なのに泳いじゃいけねぇんだろ?
例えば?
ははっ!いいな、それ
なんだか胸の奥がくすぐったくて
笑いだしそうなのを堪えながらエスコートされる
落ちないようにって口実で
アレスの腰にしっかり腕をまわし
前に横座りで乗れば顔がよく見えて
早速良い眺めだな、なんて
ハッ…、すっげーな!
星を反射する水面に息をのむ
同じものをうつしてるはずなのに空にあるのとは違う感じがするのは何でだろうな?
海と空
どっちもキラキラ眩しくて
星に溺れてるみたいだ
ん、どうした?
何でもない…真っ直ぐ素直な顔でアレスを見返す
ふいに手を伸ばし
風で乱れたアレスの髪を整えるように触って
変なアレス
あっ見ろよアレス!
あそこなんか跳ねたぞ!
アレクシス・ミラ
【双星】
ア◎
夜の海を泳ぐのはおすすめできないな
でも、海を楽しむ方法は他にもあるよ
例えば…
空から、なんて如何かな
【耀光の天馬】を呼び
先に跨がって
僕の前に乗せるように馬上から手を差し出して手助けを
彼の耳元で告げよう
―しっかり掴まっていて
海を走るように
水面近くを飛ぼう
星の海のような景色に…
ふと、
先日、ある依頼で…彼から「すき」と言われたのを思い出す
あれから、あの言葉と僕の知らない微笑みが…妙に気になってしまって
…セリオス
先日の事なんだけど…
あまりに普段通りな彼に思わず
…いや、何でも無い
全く気にしてなさそうな様子に
あれに深い意味は…?しかし…なんて
少しだけモヤっと
…ああ、でも、今は
この笑顔を見ていたい
●降り注ぐ星に太陽は霞む
「むー……」
『夜の海を泳ぐのはおすすめできないな』――アレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)のその一言で、セリオス・アリス(青宵の剣・f09573)のバカンス計画は、白紙に限りなく近くなった。
むくれながら波打ち際を並んで歩く。浜辺から見る海の闇はこちらを誘うように波音を立てている。
心地良い気温とはいえ、季節は夏。泳げば絶対に気持ちよいと思うのに。
「セリオス……」
先程から不満げな様子を隠さないセリオスに、アレクシスが声を掛ける。呼び掛けの先が無いのは、聞くまでもなく自分の言葉のせいで、ここでの楽しみがお預け状態になっているセリオスの機嫌が良くないことを分かっているからであろう。
「わーってるよ。せっかく海なのに泳いじゃいけねぇんだろ?」
特に心得がある訳でもない以上、確かに夜の海は危険にあふれている。それはセリオスにも分かっている事だ。
だが、浜辺を歩く以外にせっかく来た海が楽しめないだなんて――
「でも、海を楽しむ方法は他にもあるよ」
その心に触れたように、アレクシスが提案する。
「例えば?」
「例えば……
空から、なんて如何かな」
アレクシスが歩みを止める。
それにつられるように立ち止まったセリオスの瞳が大きく見開かれた。
その言葉が何を示しているのか理解して――セリオスは思わず口を開いた先から、感嘆と共に嬉々とした笑いを零した。
「ははっ! いいな、それ」
不機嫌など、掻き消えるときには一瞬だ。提案がアレクシスのものであれば尚のこと。
『天駆ける翼よ、一条の耀光となりて――』
アレクシスのユーベルコードが紡がれると、真夜中の闇に鋭い太陽の光が差した。
【耀光の天馬】――ヴェガス。鋭い陽光の羽根を持ち空を駆ける白馬は、聖騎士であるアレクシスの友と言える存在である。
先にヴェガスに跨がったアレクシスは、自然とセリオスを前にと、相手に手を差し出した。
セリオスもアレクシスの手を当然のように取ろうとしてから、ついその光景を自分以外の視点から想像した。
アレクシスは名実共に王子である。非の打ち所がない程に王子であると、セリオスは千人いればその千人全てに何の疑いなく言い触れて回れる自信がある。だとしたら、そのような相手に白馬からエスコートされる自分のポジションは――
「……ん? セリオス?」
「あ、いや。何でもねぇよ」
胸の奥、心でたとえればその中心が、何やらとてもくすぐったい。
それが笑い声として零れそうになるのを、変な形に口端が上がる程度にまで抑えて、セリオスはアレクシスの手を取った。
「……この座り方だと危ないか? ――まあ、捕まってれば落ちないだろ」
置いた台詞は半分口実。アレクシスの前で、その胸を中心に身を置くと、セリオスはそのまま横座りに騎乗した。そして言葉と共に、アレクシスの腰に片腕を回してしっかり掴む。
肩が相手に密着して、顔の距離がとても近い。整いすぎても困らないという典型のような、アレクシスの顔の造形。長いまつげに、体格の安定感と共に凛とした雰囲気漂う姿勢の良さも相まって、セリオスは『もし万が一、カミ的な存在がいるのならば、そいつは二物を与えないどころか、余裕で三物くらい与えてくるな』と改めて実感した。
(でも、早速良い眺めだな……なんて。
今はからかうシーンじゃないよな)
そんな言葉を呑み込んだ矢先、
アレクシスが、そのセリオスの耳元でそっと囁いた。
「――しっかり掴まっていて」
優しい声。セリオスの顔が一気に熱を持った。
――先程の言葉を、口に出して言ってしまえば良かったと思った。
「ハッ……、すっげーな!」
セリオスから大きな感嘆の声を上がった。
二人を乗せたヴェガスが海の上を駆け抜ける。飛翔と共に水面の際を走れば、その後を追って水面が一斉に、高らかに謳い上げるかのように波立ち、白馬の二人を出迎えた。
ふとセリオスから、これから波打つ定めが決まっている前方一面の海を目に、息を呑むのが伝わってきた。
「――同じものをうつしてるはずなのに、空にあるのとは違う感じがするのは何でだろうな?」
セリオスのそれは、明瞭な答えを求めているものではないのは分かっていた。だが、ふと気になって改めてアレクシスも同じものを瞳に入れる。
そこには、凪いでいる暗色の海が、煌々とした空の星が放つ光を写し取っていた。そして、微細ながらも揺れる波間に、星の光が燦めき滲む海に対して。正面の水平線を境目に、そこには決して相容れる事のない揺らぐことのない満天の星があった。
同じ闇色でもここまで違う。だが、
「海と空。
どっちもキラキラ眩しくて――星に溺れてるみたいだ」
腕の中の存在が告げる言葉は、アレクシスにも的確に感じ取れた。
今、視界の全てを染める、自分の世界を包み込むような星散る世界。
そこで、アレクシスは胸にふと、さほど遠くない以前に見た空を思い出していた。
――あの時も、澄んだ星々の光が降り注いでいた。
目の前の存在に目を向ける。
このような星空の下で、彼はただ自分に「すき」と――
「……」
愛しい幼じみた笑みとも、美しく静かな微笑みとも取れた。それはアレクシスが『初めて見る』表情だった。
あれ以来、今胸にいる存在を見る度に思い出すことがある。
浮かべられた言葉が、渡された言葉の意味が、何故か不思議な程に心に引掛かって。
「……セリオス
先日の事なんだけど……」
アレクシスの呼び声に、瞳いっぱいに星の燦めきを映していたセリオスがこちらの方を向く。
「ん? どうかしたのか?」
――星と同じだけの好奇心を輝かせ、こちらを見返すセリオスは、あまりにも、いつも通りの彼だった。
「……いや、何でも無い」
アレクシスは自分の胸に、自覚の出来ない思いが湧き上がるのを感じた。言葉にするならば、どこか原因不明のやましさにも似た思いに、一瞬でも浸ってしまったことへの羞恥が一気にあふれそうになる。
「……?」
思わず顔を僅かな朱に染めて逸らしたアレクシスを、セリオスが不思議そうに見つめ返した。
視界の端に入るセリオスの表情は、真っ直ぐで、今の自分のように心に差した雲のような影すらもない、どこまでも純粋なものだった。
セリオスは何気なく手を伸ばすと、ヴェガスと共に駆け抜けてきた風で乱れたアレクシスの髪をそっとなでつけて、
「変なアレス」
と、笑った。
あの時とは違う、やはりいつも通りの笑顔で。
(あれに深い意味は……? しかし……なんて)
その瞬間――太陽は、初めて己の心に翳りを見せた。
――では、あの時の親友の言葉にも、微笑みにも、最後に染まって見えた頬にすら、
あれらは全て、何でもないもので――
「……」
否、自分はどうしてそのようなことを思うのだろうか。
親友が笑い、語り、こちらを気遣い、頷いてくれる。それで十分だ。十分なはずだ。
それなのに。自分は今、一体何を思おうとしていたのだろう?
もしや、自分は、
『今の幸福以上の、何かを求め――』
「あっ見ろよアレス!
あそこなんか跳ねたぞ!」
また一つ、親友の瞳は光に輝く。海に跳ねた飛沫が綺麗な波紋を広げていたのを指差して、きらきらとした表情をこちらに向けた。
瞬間、アレクシスの最後の思考は、浮かび上がる前に無意識と意識下の狭間に呑み込まれるように消え去った。
何かを思った。だが自分は、一体何を思ったのだろう。
「あ、また跳ねた!
やっぱ何かいるぞ、アレス!」
そのようなアレクシスに、セリオスの輝く満面の笑みが映る。
(……ああ、でも、今は。
この笑顔を見ていたい――)
「そうだね。
行ってみようか、何か泳いでいるのかもしれない」
――もう、手放さないと、守ると誓った笑顔こそ至上。
アレクシスは、先の胸に残る微かな燻りを押しやって。その心の隙間に、変わらぬ親友への愛しさを込めて微笑んだ。
大成功
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