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迷宮災厄戦㉕〜The Permanent One

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦 #猟書家 #ブックドミネーター

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●絶対零度の君臨者
 その男は、時すらも凍てつく極寒の地にて一人佇んでいた。
 蒼く霜を纏った竜の翼を揺らし、男は思索に向けていた意識を現実へと引き戻す。
「……そろそろ、刻限か」
 本を閉じるような優雅な仕草で思考に区切りをつけた男は、そのまま血のように紅い瞳で『こちらを見た』。
「見ているな、『六番目の猟兵』達よ。いずれ、私の未来見の臣民も取り戻しに行くが、今はその時ではない」
 捕食者に睨まれるが如き衝撃。未来視を行っていた猟兵の思考が凍り付く。
 よもやそんな筈は、とはじめは思った。だが、これは現実だ。
 この書架の王はこちらが『視ている』事を知り、あえて堂々と未来視を通し宣戦布告をしてのけたのだ。
 その行為が、余裕が、この存在の危険性を物語る。
「何を守り誰と戦うか、考え続けるが良かろう――ゆめゆめ、油断せぬ事だ」
 氷のような響きを残して声が響く。戦場で会おう、六番目の猟兵達よ――と。

●永久氷壁を打ち破れ
 未来視に見えた光景に、ぶるりと未だに寒気が起こる。
「まさか、予知の最中に見つかるなんて……」
 身動きの取れぬ、意識だけの世界。その中で射抜くような視線を浴びたリグ・アシュリーズは、感じた警戒感を露わにしたまま依頼のあらましを端的に語る。
「とっても強大な相手になるけれど、お願いしていいかしら。書架の王――ブックドミネーターを討伐してほしいの」
 その威厳を、身をもって感じただけの事はあり。リグの声にはいつになく、緊張感が漂っていた。

 多数の世界への侵略を企てる、猟書家達。
 その主というだけあり、書架の王の能力は際立って高い。
「ブックドミネーターはね、時間すらも凍てつかせる蒼い氷の魔法を扱うの。単純に戦力を増しただけでも、侮れない力を発揮するわ」
 彼の王の戦力の源は豊富に蓄えられた世界への知識だ。
 オブリビオンとして過ごす悠久不変の時の中で世界を見、書を漁ってきたのだろう。
 その知識に基づく魔法は全身を覆い、素手ですら万物を凍てつかせる凶器と化す。
「早期決着を試みても、厄介な策を講じてくるわ。オブリビオンを召喚して、眷属みたく従えて襲ってくるわ」
 蒼氷を纏うオブリビオンは、並よりも強化された状態で出てくる。
 人によっては因縁の敵と対面するかもしれないが、所詮全ては紛い物だ。
 ブックドミネーターを倒す事ができれば、彼らも同時に消えるだろう。
「そしてね、彼には時間凍結の秘法があるの。信じられない事だけど、攻撃を受けた時の時間自体を凍らせることで与えられた傷を『なかった事にする』反則技よ」
 こちらは瞬時に発動する為、対策を取ることは非常に困難を極めるだろう。
 しかし、打ち破る手もなく挑めば苦戦は必至。
 どうにかして抜け穴を探し、こちらの攻撃を通す事が必要となる。

 説明を終えたリグは、重い空気を振り払うように笑顔をみせる。
「今回戦う相手は、明らかに強敵よ。でも考えてみたら、私たちこれまでも勝てるかわからない相手にいっぱい挑んできたものね」
 経験してきた戦いの数々は、思い返せばどれも順風満帆ではない。
 けれど、その事が逆に猟兵たちに自信を与えてくれる。
「うん。もう怯まないわ! だから、皆にはあらためてお願いしたいの」
 漂った緊張感を拭い去るように、リグは悪戯っぽく笑みを見せ。
「訳知り顔でたたずんでるイケメン気取りの『ドミーちゃん』をぶっ飛ばしてきて!」
 明るく、茶目っ気たっぷりな声と共に――グリモアの道は開かれた。


晴海悠
 お世話になっております! 晴海悠です。
 猟書家を統べる書架の王が遂に姿を現しました。
 皆様のご活躍を、格好よく描かせて頂きたく思います。
 どうぞ存分に力を奮って下さいませ。

『シナリオについて』
 1章のみで完結する戦争シナリオです。
 また、下記のプレイングボーナスに沿って行動すると、戦いが有利になります。

 プレイングボーナス……敵の先制攻撃ユーベルコードに対処する。

『1章:冒険』
 猟書家『ブックドミネーター』。
 アックス&ウィザーズ世界への侵略を目論む、猟書家達の主です。
 この敵は必ず先制してユーベルコードを放ってくるため、防御して反撃するための作戦が重要となります。

 なお、敵はプレイングにて指定されたものと同能力値のユーベルコードを対応させて使用してきます。戦いの性質上、複数のユーベルコード・複数回のユーベルコードを使用する事はおすすめしません。

『プレイング受付について』
 シナリオが公開された時点で受付を開始します。
 また、締め切りについてはマスターページにて告知致します。

 頂いたプレイングは力の及ぶ限り書かせて頂きますが、万一キャパを超えた場合は以下の基準で選ばせて頂く予定です。
「工夫により高い成功率が見込めるもの」
「キャラの個性が十分に現れているもの」
 先着順ではありませんので、じっくり考えて書いてみて下さい。

 また、複数名でのご参加は2~3名までとさせて頂けるとありがたいです。

 それでは、魂の震えるプレイングをお待ちしています!
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第1章 ボス戦 『猟書家『ブックドミネーター』』

POW   :    「……あれは使わない。素手でお相手しよう」
全身を【時間凍結氷結晶】で覆い、自身の【所有する知識】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
SPD   :    蒼氷復活
いま戦っている対象に有効な【オブリビオン】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ   :    時間凍結
【自分以外には聞き取れない「零時間詠唱」】を聞いて共感した対象全てを治療する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

大豪傑・麗刃
速度上昇はわたしも使うが、あれは小回り効かないのだよなあ。今回の敵もそうあってくれる事を祈りつつ先制対策。
まず全力ダッシュ。この時一直線ではなく左右移動や曲線軌道等のフェイントを加える。そして軌道上に存在感を持つ残像をいっぱい残す。
これぞ秘技!変態影分身!
速度は相手が上だが、相手が突っ込む距離よりわたしが回避する距離が短い事でカバー。んで小回りきかないから分身をまとめて薙ぎ払えなければいいなあ。

ユーベルコード解禁後は

これが最後の戦いだ!気合を入れるのだ!
だってきみの能力は

結晶

すなわちこの戦いは

決勝戦

なんちゃって。

とギャグで相手のペースが乱れ結晶が平常通りの力を発揮しなくなった所を二刀流で斬る。


塩崎・曲人
テメェが猟書家の親玉って奴か
悪いが企みはお釈迦にさせてもらうぜオイ

初撃はオブリビオン召喚か
どんな奴が来るかは知らんが
活かし方は召喚主次第なのがミソだな
奴はオレを知らない
それが付け入る隙だ

召喚されたら格闘戦で牽制しつつ時間を稼ぐぜ
オレに強い相手だ、無茶はできねぇが
捕まらないように逃げ回るぐらいなら何とかなる
逃げ足には自信あるんでな!

で、こっちの準備が出来たら反撃のUC【最後の手札】を発動だ
まさか鉄パイプで暴れるチンピラが魔法使ってくるとは思わんだろ?
特に魔法使い系の強い奴程『魔法が使えるのにそれに頼らない』ってシチュが想像できねぇ
「その思い込みが命取りだ!喰らいな!」(雷の精霊魔法ドーン)


イサナ・ノーマンズランド
時間凍結水晶ね。持ってる弾丸じゃ、抜けるか心配だな……。久しぶりにアレを使おうか。レイゲン、準備しといて。

敵の先制攻撃は、合法阿片をキメた【ドーピング】での【激痛耐性】で我慢。敵が素手で勝負しようと言うなら、接近戦を挑んでくる筈。『カズィクル・ベイⅡ』のパイルバンカーを地面に撃ち込み固定しつつ【盾受け】で攻撃を受け止め、【伝承殺業:破邪滅法】を発動。ドミネーターを食い止めたカズィクル・ベイの裏側から巨大な大鎌による【貫通攻撃】を仕掛ける。

……時間を凍らせる氷とやらは、オマエの表面を覆っただけだろ?
オレ様の処刑鎌は、その中身だけ斬り捨てる。
上辺を如何に取り繕おうとも……その罪までは隠せねえ。


ヴィクトル・サリヴァン
へー、書架の王という位なんだからお爺さんなのかと思ったけど。
人は見た目に依らないって事かなと軽口叩きつつ。
しかしやろうとしているのはとんでもない事、なら叩きのめしてやらないとね。

可能なら他の猟兵と連携。
到着したら水属性の魔法で周囲に水をできるだけの量を展開しておく。
向こうの口元注視しつつ詠唱の気配を感じたら水を操り鞭のようにし叩きつけ。
狙いは向こうの周囲に水を散らす事、攻撃重なり再びの回復狙おうとした瞬間水を一斉に相手の頭に集め呼吸を奪う。
頭水に包まれてても詠唱可能かは知らないけど隙はできるはず、そこにUCで竜巻と海の属性合成した海水の竜巻で呼吸封じつつ体力削ってやろう。

※アドリブ絡み等お任せ



●凍てつく嵐
 骨の髄まで凍てつきそうな世界に、空間の主の冷ややかな声が響く。
「……来たか」
 書架の王、ブックドミネーター。彼の視線の先では、着物の裾をたなびかせて大豪傑・麗刃(変態武人・f01156)が立っていた。
「フハハ、わたし達に単独で挑もうなど笑止千万! 麗刃ちゃんにかかればきみなど赤子の手をつねるが如し」
 ふっと呼吸を止めて一秒書架の王を見つめ、用意していたセリフを言い放つ。
「わたしが刀の錆抜きねぎトロになってやるのだ!」
 威勢はいいがどこか可笑しな啖呵に、びょう、と一陣の風が通り過ぎる。
「お前が、なるのか」
 至極冷めた声で書架の王が返すのを聞いて「え、今のツッコミ?」と塩崎・曲人(正義の在り処・f00257)は目を瞬かせたが、すぐに気を取り直し。
「テメェが猟書家の親玉って奴か。悪いが企みはお釈迦にさせてもらうぜ、オイ」
「是非ともそうして貰いたいものだ。全てが想定通りに運ぶのも面白くはあるまい」
 挑発めいた曲人の言葉にも、書架の王は悠然とした構えを崩さず。なお、合間で「無視するなー!」と反復横跳びする麗刃は見ぬふりをすると決めたようだ。
「へー、書架の王という位なんだからお爺さんなのかと思ったけど。人は見た目に依らないって事かな」
 落ち着いた声に微塵の緊張も滲ませず、ヴィクトル・サリヴァン(星見の術士・f06661)は軽口すら叩いてみせる。
「しかしやろうとしているのはとんでもない事。なら、叩きのめしてやらないとね」
 話しながらも使命は忘れず。三叉鉾の柄をしっかりと握り、敵の攻撃に備える。
 猟兵達の先、いまだ静かに佇む書架の王。肌に張り付く霜は、陽光を反射して煌めきを返す。それがただの結晶ではない事を感じ、イサナ・ノーマンズランド(ウェイストランド・ワンダラー・f01589)は警戒をいっそう強くする。
「時間凍結の結晶ね。持ってる弾丸じゃ、撃ち抜けるか心配だな」
 伝え聞くその名前からも、並大抵の防御力ではなかろう。弾が停められてしまう事も想定し、身体を間借りしているという自身の別人格へ呼びかける。
「久しぶりにアレを使おうか。……レイゲン、準備しといて」
「小手先の策を講じようと一向に構わん。但しこちらは力でお相手しよう――真っ向勝負は、お前達も好む所だろう?」
 刹那、王の周りで風が吹き荒れる。ダイアモンドダストのような輝きを散りばめ、渦巻く瓢風。それは見るからに、突撃の準備のように思われた。
「私が命を賭ける場所は、此処ではないのでな。押し通らせて貰おう」
 大気中の水分すら凍てつかせる氷の結晶。それは書架の王以外のものの動きを許さず、烈風を纏って四人へと迫る。
「ちょあー!」
 触れるものを引き裂く風となって迫りくる書架の王を、麗刃が紙一重で回避する。
 たとえ全力で駆けようが、彼の王に速度で勝る事はない。だが書架の王の速度が上がれば上がるほど、僅かな動きに反応するにも微調整を要する。
 麗刃はそこに賭けた。左右に躱し、或いは曲線上に駆け、ちょこまかと残像を残しながら敵を翻弄する。
「これぞ秘技、変・態・影分身! どれだけ速くても小回り効かなければ避けようはあるのだ!」
 実は分身をまとめて薙ぎ払われれば一網打尽なのだが、そうならない事を内心で祈りつつ麗刃は書架の王の攻撃を躱し続ける。
 と、ここで書架の王が口を開く。
「実は分身をまとめて薙ぎ払われれば一網打尽と知って、そうならない事を祈っているな?」
「……ドキリ!」
 翼から迸る衝撃波。身動きを止めた麗刃を音の津波が襲う。間もなく到達しようかというそれを、身を滑らせて曲人が割り込み、阻んだ。
「ってぇな……!」
 義理堅さ故か、逃げ回る予定がつい割って入ってしまった。胸ポケットに入っていた頑丈なスマホに鉄パイプ、硬い物で身を守っていなければどうなっていたか分からない。
「成程。軽薄そうに見えて周りがよく見えている。泳がせておくには些か危険か」
 僅かに滲む、警戒の声色。手を翳した王の足元に、魔法陣が開く。
「客人はもてなさなくてはな。何、世の中にはこのような便利な物もあるのだろう?」
 魔法陣より現れたのは、巨大な戦車。蒼氷に包まれたキャタピラが悲鳴の如き駆動音を鳴らし、自らの意思で曲人の背を追い回す。
「な……! 格闘戦が通じねぇじゃねぇか!!」
 逃げ足には自信があったが、それも追いかけるような砲撃の雨にあってはいつまでもつか分からない。戦う相手に適したオブリビオンが呼ばれるという書架の王の力は、ここに来て厄介な働きを見せていた。
「ここはどうやら、俺の出番かな」
 周囲に水を展開していたヴィクトルが、三叉にわかれた銛の先で地面を小突く。吹き上がる水飛沫が戦車を押し流し、崖の方へと追いやっていく。
「助かるぜ、砲撃浴びなきゃこっちのモンだ!」
 邪魔な乱入者をリングから蹴落とすように。ダメ押しとばかり蹴りを入れた曲人の先で、戦車が崖から転げ落ちた。

●電光
 召喚されたオブリビオンを退けた猟兵達。しかし、ブックドミネーター本体の猛攻はいまだ収まらない。烈風を纏って向かい来る敵の姿に、イサナは棺桶型の兵器を地に突き立て固定する。
「ここは覚悟を決めるしかない、か」
 地面に杭を打ち固定した、棺桶型兵装『カズィクル・ベイⅡ』。大方の衝撃には耐えられるだろうが、いかに衝撃を削ごうと敵は的確にイサナの急所を貫いてくるだろう。
 せめて痛みだけでも誤魔化せるよう合法阿片の粉を吸い、衝突に備える。
「まずは、お前からだ」
 書架の王が速度を増し、冬の嵐のような衝撃がイサナを襲った。

 時をも凍らす結晶が、棺桶の表面でピキリとひび割れる。
 魔力で限界まで強化された、書架の王の徒手空拳。衝撃の後に立っていられる者などいない――いや、いないはずだった。
「……どうした。オレ様を始末するんじゃなかったのか」
 血を吐きながらもイサナは未だそこに立っていた。
 通常なら耐えきれる痛みではない。だが、無理を押してでも耐えに耐え、接近戦を仕掛けてくるのを待つ。それがイサナの作戦だった。
「なかなかの胆力だ。だがその傷で何が出来る?」
 ひゅ、と苦しげな息を吐き、イサナは笑顔さえ作ってみせる。その手に握られるのは、巨大な大鎌。
「オマエこそ、この距離でどう躱す。時間を凍らせる氷とやらは、オマエの表面を覆っただけだろ?」
 警戒した王が後ろに飛び退く動きを見せるも、遅い。
 棺桶の裏側から振るわれた大鎌が、狙った獲物以外を全て突き抜けブックドミネーターの腹へ刃を滑り込ませる。
 グリムリーパー、或いは死神の鎌か。透過する大鎌の斬撃が、深々と書架の王のはらわたを斬り裂いていた。
「上辺を如何に取り繕おうとも……その罪までは隠せねぇ」
「……貴様」
 想定外の事態に遭おうとも、判断は瞬時に。時間凍結の秘法、今しがた受けた傷を『なかった事にする』詠唱を書架の王は紡ごうとする。
 だが、それも妨害がなければの事。
「おっと、そうはさせないよ」
 ヴィクトルの展開した水は、何も戦車を押し流す事が目的ではない。本命は書架の王――ふりまいた水を呼び水として生み出した水球は、王の詠唱を止め、治癒を封じる罠として機能していた。
「……!」
 水球を瞬時に凍らせ、砕く。しかし抜け出した王を更なる水竜巻が即座に覆う。
「キミのそれは厄介な力だって分かってるからね。力ずくで封じさせてもらうよ」
 いかに零時間詠唱といえど、呼吸も許さぬ竜巻に飲まれては傷を塞ぐ事も叶わず。そして治癒の力にも限度があるのか――時間を稼ぐうち、王の傷は最早覆しようのない事象としてその身体に残った。
 書架の王の優位が揺らぐ。好機と見て、戦場全体に届かせようと麗刃が吼えた。
「ここからが正念場だ、皆気合を入れるのだ!」
 軽くこぶしを握って突き上げ、猟兵達を鼓舞せんと声を張り上げる。
「だってきみの能力は結晶――すなわちこの戦いは」
 バン。バン。ババン! 謎の効果音と共に、麗刃の顔がドアップになり。
「決勝戦、なんちゃって。あーっはっは!」
 一段と、冷たい風が戦場を駆け抜けた。
 唐突にぶっこんだギャグにも王とイサナは表情を変えることなく。唯一曲人だけが物言いたげな視線を麗刃に寄越した。
 相手にするまいと決めたのか、書架の王は眉すら動かさず曲人へと迫る、が。
「変態影分身!! 無視するななのだー!」
 唐突に割り込む麗刃のブレッブレな二刀流にペースを乱され、思うように標的が定まらない。
「サンキュ、味方までペース乱されてるが今のは正直助かったぜ……!」
 軽く礼を言った曲人が、両手を掲げ、指先に稲妻の光を散らせる。
「さっき追いかけ回された礼はたっぷりするぜ。見てな……!」
 曲人が特大の魔力を放つのを見て、書架の王は初めて驚きの表情を見せる。
「貴様……魔法使いか」
 書架の王の声にも、計算済みだとばかりに曲人は笑ってみせる。
「鉄パイプ握ったチンピラが魔法使うはずねぇってか? その思い込みが命取りだ……喰らいな!」
 電撃の網が、書架の王を取り巻くように広げられ。まばゆい閃光と共に、その身を焼き尽くしていった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

エンティ・シェア
蒼氷を纏うオブリビオンね
うちの二人は思うところがありすぎるからな
動揺でもするなら可愛いもんだが…いいよ、任される

あっちの攻撃は一先ず各種耐性駆使して耐える
意識さえあれば、上等だ
餌時で白狼を呼び出して、数体だけ残して合体させる
小さいままの数匹は、毛皮に紛れて潜ませて
出されたオブリビオンにでかいのが食いついてる間に、本体へ
できるだけ近い所から飛びついて、奇襲してやれ

生憎、目に見えてるもんにしか手を伸ばせねぇちっぽけな存在でしてね
あんたが行こうとしてる世界は俺の大事な場所だ
ようやくの平穏をぶち壊されてたまるか
あんたをぶちのめしたい…その割には小さい牙で恐縮だがな
戯れてやってくれよ、書架の王とやら


卜二一・クロノ
 神のパーラーメイド×精霊術士、22歳の女です。
 普段の口調は「女性的(私、あなた、~さん、なの、よ、なのね、なのよね?)」、敵には「神(我、汝、~である、だ、~であろう、~であるか?)」です。

時間の流れを停滞させたり逆転させたりといった技を使う相手には容赦しません。
光陰の矢は、先制攻撃対応のユーベルコードです。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!


レオナール・ルフトゥ(サポート)
 誰かの面倒を気づいたら見ているような、
 近所のお兄さん、もしくは保護者的ポジションです。
 荷物番から料理まで頼まれれば意外になんでもやります。
 料理に関しては頼まれなくても率先してやります。

 基本的に穏やかな性格をしていますが、甘いわけではありません。
 可愛い子には旅をさせよ精神。

 全体を見るようにし、必要な場所へ行きます。
 無駄な争いは厭いますが、納得できるものであれば容赦はしません

 他おまかせします。


泉宮・瑠碧
書架の王…天上界に何があり
君が、望むものも…知りません
あの世界に害を成すとも…
実は、あまり思ってはいません

…けれど、止めます
君の臣民の傍には、きっと、私の仲間が居るから

風の刃を放っては
風の精霊にも願って
彼の口から発する音の振動を止めます
詠唱には違いないなら
音を止めても駄目でしょうか

通常の被弾なら
魔力や冷気の流れによる第六感で
氷の精霊の囁きで方向やタイミングを見切ります
回避不可ならオーラ防御で逸らします

子守唄で永遠揺篭を
完全に眠らずとも
少しでも意識が揺らげば注意や集中が散漫になる筈
そして、風の精霊に願い
死角から刃を放つ様に

時の精霊…
居るのなら、彼に帰り路を教えてあげて
もう、躯の海で休める様に…



●禁忌の術
 ほとばしる閃光の収まった後。腹の傷を魔力で塞ぐ書架の王に、新たな猟兵が足音を立て迫った。
「蒼氷を纏うオブリビオン……ね」
 何かしら思うところがあるのか。エンティ・シェア(欠片・f00526)は、敵が呼び出すものの正体を声に出して反芻する。
 何故かは分からぬが。心の奥深く、深層に眠る魂がざわつくのを感じた。
「動揺でもするなら可愛いもんだが……いいよ、任された」
 今、表に出ている人格はエンティの中で『俺』と名乗る者。不気味さを漂わせる書架の王を前にし、彼自身も複雑な心境であったが、他の二人の人格よりは割り切れるだろうと戦いを買って出たのだった。
 そして、彼とは異なる心持ちで挑む猟兵がここに一人。
「時の流れを意図的に、しかも己が為に操作しようなど……不遜にも程があろう」
 身に纏う神獣の毛皮で寒さを凌ぎ、卜二一・クロノ(時の守り手・f27842)が威厳と怒りに満ちた言葉を紡ぐ。
 彼女が生を受けたのは、時間の干渉を受けぬ極寒の地。時空の守り人として静かに時の流れを見つめていたトニーは、しかし時の流れを止める敵の出没を知る。
 それは時の監視者として、およそ看過できるものではなく。
「よもや取り返しがつくとは思わぬ事だ――神罰を受け、贖うがよい」
 寒さのみならず、ひりひりと痛みさえ感じる空気が辺りに漂う。しかし一触即発の空気の中にあって、エルフの乙女はあえて落ち着いた声で呼びかける。
「書架の王……天上界に何があり、君が望むものが何であるかも、知りません」
 フードを目深に被ったまま告げる、泉宮・瑠碧(月白・f04280)。その声に、他の者と違って敵意の色は滲まない。あるのはただ、憐憫の色。
「あの世界に害を成すとも、実は、あまり思ってはいません」
「……ほう」
 少女のこぼした言の葉に、興味を惹かれた書架の王が続きを促す。
「けれど、止めます。君の臣民の傍にはきっと、私の仲間が居るから」
 しかして続く瑠碧の言葉は、やはり戦う決意を示すもの。瑠碧の意思に従い、風の精霊が彼女の周囲を取り巻いていく。
「うん……まあ、そうなるよね。無用な争いであれば、避けたいところだけどね」
 レオナール・ルフトゥ(ドラゴニアンの竜騎士・f08923)は眼前の敵が相容れない事を知りつつも、他の猟兵より些か躊躇いがちであった。
 その迷いは、無益な争いを嫌う彼自身の気質によるもの。本当はこうして此処に立つより、台所に立っている方に喜びを感じるのだから無理もない。
 だが、日々を営む人々の命まで奪う相手であるならば。
「――どうも、君は放っておいてはいけない部類のようだから」
 納得に足る理由があるなら、容赦はせず。レオナールの覚悟を示すかのように、彼の手に竜騎士の槍が握られた。
「戦う結末が変わらぬのであれば、問答は無用であろう。私も時間が惜しいのでな」
 言葉の終わりは、バキバキと音を立てて形成される氷結の音に飲まれ。時間をも凍らす結晶を纏い、書架の王がトニーの元へと音速を超える速度で迫る。
「くっ……何たる力……!」
 腕を交差させて耐えるも、迫る風圧だけで吹き飛ばされそうだ。神罰を与えると決めた手前、多少の怪我と引き換えにでも負けるわけにはいかない。
 しかし、こちらに先んじて襲い来る敵は無対策で乗り切れるほど容易ではなかった。受けた攻撃を神罰をにして返す矢も、この猛威を一度受け切らねば発動できぬ。
 このまま烈風に切り刻まれるのを待つのみか――嫌な想像をしかけた時、王の一撃を阻む者がいた。
「僕が支えるよ。だから、前を向いて」
 突撃の軌道をそらすように、レオナールが竜騎士の槍を投げ入れる。飛んだ槍はぎりぎりの所で王の進路を変えさせ、トニーは何とか直撃を免れた。
「……助かったわ。この恩は、後で必ず」
「どういたしまして。今は一先ず、あの敵を何とかしよう」
 トニーの申し出に、レオナールは微笑みで返し。時守る女神もまた、その声に頷くのであった。
 王の突撃に巻き込まれかけた瑠碧が、風の流れを読んで攻撃を躱す。冷気が重力に逆らって飛び交い、風は氷礫を運んで地に叩きつける。その様に、瑠碧は思わず息をのんだ。
「っ……!」
 この荒れ狂う脅威は、自然界のものではない。風の精霊たちが恐れ、嘆き、泣き叫ぶのを聞いた。
 精霊たちを宥め、共に戦うよう呼びかける。
「このまま好きにさせては、皆傷つくばかりです、から。……お願い、します」
 秘策を伝えると共に、牽制を兼ねて次々と風の刃を放つ。書架の王を取りまいていた気流が乱れ、氷の結晶が剥がれ落ちた。

●喰らいつく牙
 猟兵たちの身を挺した守りに、書架の王の飛翔は遂に押し留められた。しかし王も然るもの、間髪入れず次の手に移る。
「この手に裂かれるのを拒むか。なれば、獣と戯れているがよかろう」
 掲げた手より氷片が落ち、そして書架の王は異形を呼ぶ。
 地に描かれた方陣。何処とも知れぬ深淵より呼び出された獣には、獅子の頭、蛇の尾、鷲の翼が備わっていた。
 キメラ――キマイラフューチャーの陽気な住人とは似ても似つかぬ、悍ましき合成獣が咆哮をあげる。
「あれは……手懐けるのは無理な類だな」
 エンティは今現れた獣をそう評す。自身も猛獣を操る手前、その獰猛さは身体の特徴だけで見て取れた。
 それでも書架の王本体の攻撃よりマシと、その身で受け止める事を選んだが。
「……意識さえあれば上等、か」
 身を焼く炎熱の痛み、食い込む牙より駆け巡るものは毒か。倒れぬよう足で踏み堪えながら、些か強引な手を選んだ事を自覚する。
 出方の分からぬものを受け止めるには相応のリスクがある――だがそれでも堪えたならば、次はこちらの番だ。
「出てこい、餌の時間だ」
 現れたのは白い毛並みを持つ、小さな狼の群れ。やがて合わさった群れは巨大な魔狼となり、雄たけびをあげながら合成獣へと駆ける。
 背中の毛皮に、密命を受けた数体の小さな伏兵を忍ばせて。
(「いいか、よく聞け。できるだけ近い所から飛びついて、奇襲してやれ」)
 声を潜めての指示を聞き届け、小さな狼たちを乗せた魔狼が走り去る。その背中越しに見える王の姿を、エンティは見据えていた。
(「あんたが行こうとしてる世界は俺の大事な場所だ。ようやくの平穏をぶち壊されてたまるか」)
 魔狼が合成獣と組み合う合間に、猟兵たちが足元を駆け抜ける。
「じっとしててもらうよ!」
 爆発的な闘気を注ぎ、レオナールが飛竜の如き槍の一撃を書架の王へと投げ込んだ。体表近くで爆ぜた闘気は鎖となって両者を繋ぎ、レオナールと王の間で命がけの綱引きが繰り広げられる。
 王は何事かを口から発し、傷を癒そうとしたが――周囲の大気が、微塵も揺れぬ事にここで気づく。
「詠唱には、違いないのなら……その音を、止めるまで、です」
 瑠碧の指示のもと、風の精霊たちが身を挺して大気の流れを止めていた。振り払われた精霊たちに代わり、今度はトニーが敵を足止めする。
「これは神に牙剥いた仇なるぞ。その身を以て神罰を受けよ!」
 先ほど受けた攻撃の余波を利用し、天より光の矢で書架の王を貫く。急所を深々と射抜いた矢は、そのまま光の鎖となって繋ぎ止める。
 更には牙持つ小さき狼たちが、隙を突いて王の喉元へと駆け上がる。
「これは……潜ませていたのか」
「……生憎と。目に見えてるもんにしか手を伸ばせねぇ、ちっぽけな存在でしてね」
 天上界へと手を伸ばす王に、そうはさせじと食らいつく猛獣の牙。小さくとも、狼達は確かにエンティの意思を受け継いでいた。
「あんたをぶちのめしたい……って願いの割に、小さい牙で恐縮だがな」
 ――戯れてやってくれよ、書架の王とやら。
 パチンと指を鳴らせば、狼達は王の喉に深々と牙を食い込ませる。
 そして。多数の者に囲まれ気取られた王が、異変に気付いた時には全てが手遅れとなっていた。
 ぱらりぱらりと落とされるそれは、眠りの精がもたらす魔法の砂。
「時の精霊……もし居るのなら、彼に帰り路を教えてあげて」
 それは砂男の運ぶ、揺り篭の唄。王を取り囲む姿無き精霊が、眠りの粉の効力をますます強め。
「もう、骸の海で休める様に」
「……余計な、真似を」
 オブリビオンとしての存在すら揺らがす眠りの粉が、書架の王をかたどる輪郭を朧気にしていった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

黒玻璃・ミコ
※美少女形態

◆行動
辿り着きましたよ、ブックドミネーター
全てを知ったか如く語る傲慢、打ち砕いてみせます

念動力を以て私も空を飛び
積み重ねた戦闘経験と五感を研ぎ澄まして攻撃を捌き
重要な臓器はその位置をずらした上で即死だけは避けましょう
第一波を凌いだら反撃開始です

時間凍結氷結晶で全身を覆ってるのは痛いぐらい理解しました
ですが覆って居るのはその身だけであり魂まではかないませんよね?
ならば逃げ惑いながらも
この地形を凍結させる力…生命力を略奪して構築した
【黒竜の道楽】を以てその傲慢を喰らいましょう

正直なところ貴方の思惑は判りません
ですが、今を生き選び続けているのは私達なのですよ

※他猟兵との連携、アドリブ歓迎


戒道・蔵乃祐
全智全能の知龍が相手
未来視は使えないようですが
同等の演算能力で総て、何もかもが予測と思惑の内なのでしょう

それでもこの闘志の火を、凍えさせられぬ様に強く!


蒼氷復活を相手取る

第六天魔王『織田信長』
弥助憑装!

嘗ての彼のお方は侍国に天下布武を敷き
世に安寧を齎さんとした貴き御方
家臣の弥助殿からは自分に近しい血統を感じさせられる

『逆賊の十字架による肉体変異』を金剛身のオーラ防御と武器受けで押し防ぎ
グラップルと怪力で組み合う

破魔+除霊で信長様に、冥府魔道から一時の浄化を!

最短ルートをフェイント+残像で躱し
追跡+切り込みで知龍に迫るダッシュ
写し取った肉体変異で限界突破の重量攻撃を放つ!

不敬!不遜!極まれり!


ジャハル・アルムリフ
…随分と目の良いことだ

視界も、時間も思いの侭
あの傲慢も致し方無しか

元より器用な術や立ち回りは不得手
猟書家を正面に見据え
――避けられぬならば、防ぎきる術よりも

第六感頼りの捨て身
ほぼ直線で駆けながら
目では捉えられぬだろう飛翔の瞬間僅かに身を躱す
斬られようと裂かれようと構わない
ただ一撃、生き残りさえすればいい

二撃目、こちらへと向かってくる刹那に
受けた傷から生み出す【怨鎖】
手指のように、網のように猟書家へと伸ばし、絡め
捕らえた一瞬を逃さず、怪力以て地へと引き墜とす
其方が素手なれば此方も刃は使うまい
抜いた短剣握った拳打ち込まんと

消えよ、書架の王
お前は危険だ
我が主に及ぶことがあってはならぬ故


イスラ・ピノス
あんまりな強敵でちょっと気後れしちゃうけど
友達の世界、好きにさせる訳にはいかないもんね。
更に別の世界も狙うなら余計だよ。

『WIZ』
治療なら先手もなにもないよね。
迷わずシェイプ・オブ・ウォーターを使うよ!
詠唱も自分で聞くことも出来ない深海の中なら治療はできないでしょ。
水の中なら何を凍らせても僕も速さには自信あり
ソーダ水の雨を降らせ続けるし対応してみせるよ!
あとは攻めていかなくちゃね。
持ってる武器でヒット&アウェイ
治療を封じることを一番に気を付けて油断なくいくよ!



●海より青く
 存在を揺らがす眠りの粉を、翼をはためかせて振り払い。自身の形を取り戻した書架の王の元へ、最後の猟兵たちが駆けつける。
「辿り着きましたよ、ブックドミネーター」
 吹き荒ぶ烈風に阻まれて尚、その意思は挫けず。ここまでの攻防を受け継ぎ、黒玻璃・ミコ(屠竜の魔女・f00148)が遂に書架の王の元へと至る。
「全てを知ったか如く語るその傲慢、打ち砕いてみせます」
 念動力で空に浮かび上がるミコは、人の形こそしていたが。その身に秘めるのは竜屠る魔力――揺らめく黒水晶の輝きが、少女の輪郭をぼかして垣間見える。
「その耳、エルフの者かと思ったが。……同じ長命の者でも、お前は禄でもない中身のようだ」
 瞬間、凍てつく眼力がミコの高度を奪う。僅か睨んだだけで魔力を削ぐ書架の王。その眼差しに、ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)はグリモア猟兵の言葉を思い返す。
「……単に目の良いばかりか。随分と便利な目だ」
 予知を通して射抜かれた――その言葉が真実ならば、書架の王の視野は千里眼と呼ぶに相応しい。
「視界も、時間も思いの侭。とあらば、あの傲慢も致し方無しか」
 ただ広い視界を持つだけでなく、その視野を以て発揮される干渉力。時すらも凍らせ操る敵――そんなものを外に出せば、他の世界の命運がどうなるかは想像に難くなく。
 自らが師と、主と仰ぐあの御方にも、その魔の手は及ぶのだろう。
「お前は、危険だ。我が主に及ぶことがあってはならぬ故」
 白亜の翼をその背に広げ、ジャハルは戦いの体勢に入る。空駆ける供には取り回しの良い短剣を選び、黒き意思をその手に秘めた。
「やれ、今度は全智全能の知龍が相手ですか」
 血管の浮き出た太い手に、戒道・蔵乃祐(荒法師・f09466)は大連珠を握りこむ。クリスタリアンの魔導士に、世界征服を企む虚構の紳士――戦場を駆け、これまで多くを相手してきた蔵乃祐だが、眼前の龍の脅威はその経験を以てしても計り知れぬ。
「未来視は使えないようですが。同等の演算能力で総て、何もかもが予測と思惑の内なのでしょう……それでも」
 敵を評価しつつも、その口元はわななくように震え。戦いの予感に恐怖は吹き飛び、滾る思いだけが身を焦がす。
「この闘志は篝火のように強く! 容易く凍えさせられるとは思わぬ事です!」
 黒の殺意。星の献身。そして蔵乃祐を燃ゆる炎とするならば、最後に残る彼女の思いはそれら三者とは遠く離れていた。
「あんまりに強敵すぎても、ちょっと気後れしちゃうけどね」
 水の髪を揺らし、イスラ・ピノス(セイレーンの冒険商人・f26522)は海の持つアクアブルーの色のように澄んだ声を響かせる。
 彼女が求めるのは闘争ではなく実りある商い、そして愉快で楽しい事のみ。益のない事に精を出すばかりか侵略を企てる猟書家は、イスラにとって邪魔者でしかない。
 決して愉快には思えぬ相手。だが、イスラにも戦う理由があった。
「友達の世界、好きにさせる訳にはいかないもんね。更に他の世界も狙うなら余計だよ」
 澄んだ青の瞳の奥底に、思い浮かべるは友の姿。出会ったある者はこの不思議の国を、ある者は財宝溢れる世界を生まれ故郷とし、こよなく愛していた。
 そしてイスラ自身にとっても、そこは守った世界――或いは、守りたい世界。
 戦う理由など、それで十分。強い頷きに合わせ、髪が雫を散らして大きく跳ねた。
「オウガ・オリジンでなく、まず私と戦うか」
「どっちもだよ!」
 書架の王の声に抗議するように、イスラが声を響かせる。猟兵たちの選択を受け止め、王は深く頷く。何を守り誰と戦うか――考えよと言ったのは、彼自身だった。
「それも良かろう。――ならば、止めてみせよ」
 知識を鎧に、時を凍らせ。ブックドミネーター、本の支配者が空を駆けた。

 音速を超え、書架の王が迫る。
 素手とは言ったが、その身を氷晶でくまなく覆い。くわえて魔力で増強したとあっては、生半可な力で防げるものではない。
 故にジャハルは、あらかじめ決めた通りに動く。
(「元より器用な立ち回りは不得手。避けられぬならば――」)
 ――防ぎきるよりも。
 迫る蒼氷の輝きを拒む事無く正面に捉え、蒼と白亜の条光が交差する。
 煌めいて落ちる鱗は誰のものか。
 目で捉えていては間に合わぬ一瞬、第六感とも呼べる危機回避の感覚にて、ジャハルは動きを僅かに横に逸らしていた。
 斬られようと裂かれようと構わない。ただ初撃を、生き残りさえすれば。捨て身に賭けたその望みは叶い、ジャハルは失墜寸前となりながらも致命傷を避けた。
 そして書架の王に捕捉された猟兵が、もう一人。
(「この軌道、この風切り音……真っ直ぐこちらへ、来ますね」)
 積み重ねた戦いの記憶が、ミコの脳裏で警鐘を鳴らす。これは生身で受けていいものではない、と。
 当たり所が悪ければ意識は絶たれ、戻らないだろう――深く思考する間もなく、衝撃波すら生む音速の手刀がミコを刺し貫く。
「っ……!」
 臓腑の焼け爛れるような鈍い痛みに支配されながらも、ミコは自身がブラックタールに生まれた事を内心悦んだ。融通の利かぬ人間の身であったなら、今ごろミコは即死していたかもしれない。
 心の臓を貫かれる手前、臓器の位置をずらすという荒業。肉体に負担のかかる手段ではあったが、敵の初太刀は無効化できた。
 光の双剣で焼き切るように返せば、深手を嫌って書架の王は距離を取る。
 用心深い王は即座に、受けた傷を治そうと試みた。

 不意に、天から透き通った色の雨が降り注ぐ。
 雨雫に気泡を宿して降りしきるそれは、セイレーンの得意とする力。雨に歌い、水面に遊び、形なき水の輪郭を知る者なればこそ。
「傷の治療なんてさせないよ!」
 イスラの呼ぶ雨は戦場を深海と同じ景色に塗り変え、味方を泡で優しく包み――仇敵のみを深い海に沈めていく。
 好機に迷いなく力を解放し、イスラは悪戯っぽく笑みを浮かべる。これまでにも水の竜巻、気流と様々な手が打たれたが。治癒を無効化する一手は、此度は永続する罠となって功を奏した。
「深海の中なら、呪文も唱えられないし聞くこともできないでしょ!」
 思念の波に乗って書架の王の声が届く。
『確かに治癒は封じられたが。これで万策尽きる程、手札は少なくないのでな』
 書架の王の声が終わると同時。海の底に、蒼白い光がこぼれた。

●その者、絶えて久しく
 それは、生命とは程遠い不吉な色をしていた。ここまでの戦いを見ていた一部の者は、書架の王が第三の刺客を放ったのだと理解する。
 蒼氷復活――過去の怨敵を蘇らす力は、ここに来てその真髄を露わにする。
 まずはじめに、炎が舞った。刀の舞いが水中に日輪を描き、黒の甲冑が垣間見える。
 かつて見た面立ちに、ジャハルが見間違いかと眉根を寄せる。そして遂に、当時の戦いを伝え聞く蔵乃祐がその名を呼んだ。
「……信長、様」
 天下布武、唯我独尊――オブリビオン・フォーミュラとして名を轟かせ、猟兵達を苦しめたその影が、蒼氷を纏い立っていた。

 討たれざまの死相を色濃く浮かべたまま、信長が目を開く。
「喚ばれたかと思えば、またも戦乱の世か。久しい感覚よ」
 蒼氷を纏い蘇った信長がその身に宿すは、弥助アレキサンダーの力。既にその影はなくとも、手にしたメガリスから気配が漏れ出ていた。
 逆賊の十字架を掲げ、その肉体は崩れるように鳥類のものへと変貌していく。
「此処は僕が相手取ります! 巻き込まれないよう散開を!」
 蔵乃祐が叫び、残りの三名が一斉に散る。
「人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如し――いざ、死合おうぞ」
 刹那。刀が閃き、血飛沫が上がった。
 肩口に食い込む、鋭い切れ味の刀。それを押し留めるのは、蔵乃祐が鍛えに鍛え手に入れた肉体そのものだ。
 金剛身――最も硬い鉱石にあやかりそう名付けた堅固な肉体をもって刀を防ぎ、溢れんばかりの怪力で敵を押し返す。
「く……流石は、天下人となり得た御身。貴方ほど強き御方がなぜ此処に呼ばれたか、理解したくともし難いですね……!」
 信長は問いかけるような声に鍔迫り合いを以てのみ応え、ギリリと肩に刃を食い込ませる。メガリスの力で鳥の異形と成り果てたその耳に、蔵乃祐の声は最早人語として届いていないのか。
 蔵乃祐にはこの状況を打破する手立てがあった。仏門を捨て破戒僧となっても、技術は強く憶えていた。しかし祓えば過去の亡霊は、物言わぬ侭消えていくのみ。
 そうするより他にないのか――口惜しさが、胸に満ちる。
「天照らす日輪よ! 彼の御方を冥府魔道より解き放ち給え!!」
 ぎちり。蔵乃祐の手の中で大連珠の数珠玉が音を立てる。破魔の力が蒼氷を砕き、信長の幻諸共に天へと昇らせる。
「……せめて、この力で」
 後には何も残らぬ。言葉の一つさえも、信長が残した物はない。
 だが、金剛の身をもって直に受け止めた一撃――その感触だけが、蔵乃祐の手に確かな手ごたえを残していた。

 先にブックドミネーターと矛を交えていた者たちは、やがて信長の脅威が退けられたものと知る。後から蔵乃祐が追いつき、こちらへ参じようとしている――だがその頃には既に、互いの疲労も色濃くなっていた。
「存外にしぶといようだが。次を喰らえば耐えられまい」
 ジャハルへと迫る書架の王に、黒い何かが絡みつく。
 先に受けた傷より流した血が、飛沫となって纏わりついていた。
「爆ぜよ――そして、鎖せ」
 黒血はいま、傷口を開く鍵となって王の体の表面で爆ぜる。黒く染まりゆく血が鎖を編み、書架の王とジャハルを繋ぎ止めた。
 著しく行動を制限する鎖。もがく王の元へ、咆哮をあげながら蔵乃祐が迫る。
「僕の知る、彼のお方は! 侍国に天下布武を敷き、世に安寧を齎さんとした貴き御方……!」
 信長だけではない。家臣の弥助からも、蔵乃祐は自身に近しい血統を感じていた――それだけに、ブックドミネーターの所業は許せるものではなく。
「不敬、不遜! 極まれり!」
 金剛身で受け止め転写した、肉体変異。信長と同じ異形化の力すらも借り受け、限界まで重量を乗せた拳をめり込ませる。
 頬骨を打つ、鈍い殴打。その一撃を封切りとして、数多の攻撃が降り注いだ。
 血の鎖が動きを縛り、激しい掌打が身を打ち据える。書架の王は幾度となく治癒を試みたが、戦場を深海に塗り変えたイスラの力は未だ活きていた。
「何度だって雨を降らせちゃうよ!」
 とぷんと景色が沈む音すら立て、ソーダ水の雨が深海を生み出す。
 身動きを阻む水中も、イスラにとっては快適なもの。自在に泳ぎ、王が詠唱の素振りを見せる度に武器で突いては阻害する。
「負けないよ! 何を凍らせても、水の中なら僕だって自信あるからね!」
 投げ舵輪でしたたかに打ち、布槍で突き刺した次の瞬間にはその場を離れ。屈強な戦士より打たれ強くはない分、決して攻撃を喰らわないようにしながら、仲間がされては嫌なこと――すなわち、治癒の力だけは確実に食い止め、戦い続ける。
『……どこまでも邪魔立てをするか』
 書架の王の声に、はじめて焦りの色が混じる。イスラが時間を稼いでくれる事に感謝しながら、ミコは黒の魔力を編み上げる。
「時間凍結の氷結晶……その硬い氷がくまなく全身を覆っているのは痛いぐらい理解しました」
 いまミコが編むのは、先程逃げ惑いながら簒奪した生命力。地形を凍結させる程の力を吸ったなら、魔力の糧とするには十分だろう。
「ですが、覆っているのはその身だけ。魂まではかないませんよね?」
 ミコの唇が冒涜的な調べを奏で、ある存在を称える。呼応するように溢れ出た魔力は、影に潜む黒竜の姿をかたどった。
 影より出し黒き竜。この竜が好んで食むのは負の想念――すなわち書架の王の傲慢に満ちた心を喰らい尽くす。
『――! この力……お前、は』
 唇で何事かを紡ごうとした王の言葉を皆まで待たず、ジャハルが血の鎖で強引に手繰り寄せる。
「其方が素手なれば、此方も刃は使うまい」
 素手には素手、拳には拳。ただしその手には抜き身の短剣を握りこみ、確実に仕留める黒い意思をしのばせた。
「消えよ、書架の王」
 拳で打ち抜くと同時、隠した牙が鋭く貫く。黒曜石のような漆黒の刀身が氷を穿ち、書架の王の身を護っていた蒼き氷が砕け散る。
 そのまま突き入れられた短剣は王の中核、脈打つものに達した。
 傷は深く、零れる命を不可逆のものとし、書架の王自身の時を止めた。

●悠久不変には程遠く
 静かに溜息を零すように、王は天を仰いだ。
「……終わりか。呆気ないものだ」
 身体の罅割れる感覚。死の感触は、魂が知っていた。
「直接矛を交えず、十分に策を練れば勝利出来たかもしれんが……まあ、いい」
 本の支配者は、少しばかりの諦観と共に言葉を終える。

 ――書架の王の知る所に依れば。
 時間とは、変化の動態だ。動かぬ過去のものであろうと、時の流れに身を置けばその影響は免れない。

 最期の瞬間。
 自身を倒した今を生きる者たちを瞳に映し、王は静かに目を閉じた。
 胸に達したその傷が示す。たとえオブリビオンとなり、骸の海より這い出ようとも。

 永久に生きる者など、誰一人としていないのだと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月19日


挿絵イラスト