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迎桜

#サクラミラージュ #宿敵撃破 #転生

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#サクラミラージュ
#宿敵撃破
#転生


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●或る神の厄と約
 これは罰だ。
 大切なあの『約束』を、なくしてしまった私に与えられた厄災の罰。
 心が影に蝕まれるのが解る。
 世界への恨みや憎しみばかりが募り、私が私ではなくなっていく。
 時間がない。もう私の刻は残されていない。
 いずれ私は完全な影となる。おとしたくなかった記憶さえも朧気になり、この存在自体が大蛇の呪と厄そのものとなり、世界を滅ぼすだけのモノに変じてしまうだろう。
 その前に――。
 逢いに行こう。もう待ってはいられない。迎えに往くよ、君を。
 他の誰でもない、きみだけを。私が『君』を守る。私は、きみの神なんだから。

「噫、待っていて……『   』――」

 誰かの名前を呟いた三つ目の男は携えていた神殺の太刀、喰桜を仕舞い込んだ。
 そして、彼は一羽の鴉に姿を変えて空に飛び立っていく。
 影を纏いながら桜の空を舞うその厄神の姿は、何処か寂しげに見えた。

●華火と黒鴉
 桜花絢爛。
 ひらりと桜が躍る、千年桜が咲き乱れる桜の館にて。
 過ぎゆく夏の季節を送り、新たに訪れる秋を迎える。館では今、ささやかな御祭がひらかれていた。
 桜源郷でのひとときは穏やかだ。
 朱塗りの橋かかる池には鯉が游ぎ、ゆらりと揺らめく花弁が花筏をつくる。
 橋のまわりには様々な露店屋台が並び、空には昼間に咲く華火があがっていた。
 それは神への感謝や願いと一緒に花々を詰めた特別な華の火。打ちあげられた願いの欠片は、あえかな極彩の花弁となって天に咲き誇る。
 空から落ちてくるその花を掴めば、込めた願いが叶うと云われている。

 そんな催しを遠くの木々の枝葉の間から見つめるモノ達がいた。
 幻朧桜の薄紅に混じって、ひとひらの黒桜がはらりと舞う。枝に止まって華火の御祭を眺めているのは黒い鴉達だ。
 そのうちの一羽は三つ目。その他の鴉は丸くてつぶらな瞳を桜の館に向けている。
 神性を失った黒い鴉達はじっと華火を見つめていた。どうやら三つ目の鴉は打ち捨てられた社にとどまっていた彼らを連れて、この場にやってきたらしい。
 彼らは招かれなければ敷地に入れないという神としての不思議な特性を持っており、桜の館に自ら入ることは出来ない。
 しかし今、御祭に訪れていたひとりの少年が鴉達に気付いた。林檎飴を片手に持った少年は桜を見上げ、鴉に呼びかける。
「どうしたんだ? お前達も華火を見たいのか」
『…………』
 三つ目の鴉は何も答えずに少年を見下ろす。すると彼は早合点をしたのか、笑みを浮かべた。鴉だって祭を楽しむ権利はあると思ったのだろう。少年は彼らを手招く。
「そうか、それなら――『おいで』!」
 その言葉が厄災の神と黒鴉を華火と桜の館に招く切欠となってしまった。
 影朧達は翼を広げ、枯れかけた黒桜を散らせながら一気に館へと侵入していった。その羽ばたきは厄となり、破壊と混乱を齎すものとなっていく。
 そして、運命は廻りはじめる。

●櫻を迎えに
 誰かを探し求めている三つ目の神が桜の館に現れ、全てを破壊し尽くす。
 そのような未来が見えたとして、ディイ・ディー(Six Sides・f21861)は仲間達に事件解決への協力を願った。
 現れるのはくろがらすと、櫻喰いの厄神――神斬と呼ばれる者。
 神斬は桜に強い思い入れを持っているらしい。
「ちょうど其処では昼間の華火祭が行われていてな。賑やかさだとか、桜の美しさに誘われたのか、或いは……。兎に角、黒鴉と厄神は影朧と化していて、元あった理性もかなり削られちまってるみたいなんだ」
 見えた予知では、黒鴉が屋台を荒らしていき、その後に現れた三つ目の厄神が館全体を桜杜の神域としていく。
 黒桜の花弁が舞い散る領域ではあらゆる存在が枯れ、滅されてしまう。
 だが、猟兵であるならば即座に枯死させられることはない。
「迎え撃って戦って、影朧達の侵攻を阻止してくれ。それで、だ。迎撃するには華火の催しに参加するしかない」
 一般の客が訪れることはある程度は抑えられるが、それによって賑わいが消えてしまえば神斬も黒鴉も桜の館には誘われてこないかもしれない。
 それゆえに猟兵が祭りを楽しみ、館で過ごすことで予知通りの展開になる。
「影朧が訪れるまでは平和だからな。自由に祭りを回って、屋台を巡ったり、願いを乗せた華火を眺めたりしていればいいぜ」
 屋台は林檎飴にかき氷、かすていらやチョコレヰトなど甘いものが多く並ぶ。
 華火は空に上がると花弁が舞い、それを上手く掴めると願いが叶うと云われる。願掛けをしてから華火を見上げて、手を伸ばしてみるのも良いだろう。
 そして、頃合いを見て誰かが鴉達に『おいで』と呼び掛けて招けばいい。
「祭りの後は気の抜けない戦いになる。けれど、お前らなら無事に解決してくれるって信じてるからな。頼んだぜ」
 ディイは仲間達に信頼の宿った言葉を向け、先ずは楽しんで来いと告げた。
 何かを想い、求め続ける黒き神。
 彼が望み、強く願う事柄とは。そして『約束』とは、はたして――。


犬塚ひなこ
 今回の世界は『サクラミラージュ』
 桜の館の御祭に誘われた影朧達を退治することが目的となります。

 今回は🌸【9/3の朝8時30分】🌸からプレイング募集を開始します。
 それ以前に頂いたプレイングは採用できかねますのでご注意ください。

●第一章
 日常『うちあげ華火』
 とこしえの桜咲く桜源郷でのひととき。
 屋台や昼に咲く花火を楽しむことが出来ます。まだ敵への警戒は必要ないので御祭そのものをお楽しみください。
 華火に願いをかけ、落ちてくる花弁を掴むとその願いが叶うと云われています。掴めるか否かは決め打ちして頂いても、お任せ頂いても大丈夫です。可否お任せの場合は掴めなくても平気! という気持ちで挑んでくださると幸いです。

●第二章
 集団戦『くろがらすさま』
 かつては神の使いとして崇められていたカラス。崇める者が居なくなった今は神性を失い、人間を襲う存在になっています。転生の望みはないので、これ以上人を穢さないうちにきっちり倒してあげることが救いに繋がります。

●第三章
 ボス戦『『櫻喰いの厄神』神斬』
 災厄司る三つ目の男神。黒鴉達をすべて倒すと姿を現します。
 出現と同時に、常時発動UC「桜杜ノ神域」を使い、辺りを桜の森に変えます。
 神殺の太刀、喰桜での卓越した剣術を駆使して戦い、万物を桜に変え枯死させる黒桜を扱います。また、誰かと何かの約束をしたらしいのですが、それを思い出せずに苦しみ、求める人物以外を問答無用で斬るという行動に出るようです。

●転生について
 ・参加者様の大多数が説得を行う。
 ・どなたかの言葉が相手の心に深く響いたとき。
 ・宿敵主様が転生を望み、言葉をかける。

 上記いずれかを満たした時、転生の可能性があるものとさせて頂いております。
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第1章 日常 『うちあげ華火』

POW   :    露店や屋台を巡って楽しむ

SPD   :    舞い散る花弁をたくさん掴まえる

WIZ   :    打ち上げ華火に願いを込め祈る

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●桜の園
 其処は美しい桜源郷に佇む春暁の館。
 永久に花を咲かせる千年桜が見守るという、春暁の桜獄。
 その名は迎櫻館。
 今日という再会の日に、此処で桜と華火の祭が始まる。

 ――桜花 今ぞ盛りと 人は言へど 我れは寂しも 君としあらねば。
 
花色衣・香鈴
【月花】
華火が咲いて、花びらが降ってくる
わたしが発作で吐き出す物なんかより余程綺麗な、
「…佑月くん?」
振り返ればそこに、海底の島や幽世で助けてくれた優しい人が居た
ええと
「何かお願い事でも?」
お仕事前の自由時間にしても、見るからには何か…
「ご、ごめんなさい、答えたくないならいいんです」
わたしは…
「無いです、特に何も」
だって先がない、見えない
だから願うなんて

「え、」
呆けるわたしの前で彼は花びらが雨の中を踊る
その姿が眩しくて
…わたしにもこうなれた可能性があるのか、何かを失くしてるのか
わからないけれど
…ん?わたしと?
「どなたか他の方じゃなくていいんですか」
他に約束もないから構いませんが…不思議な人です


比野・佑月
【月花】
「んー、内緒。香鈴ちゃんは?」
「ふぅん、そっか。実はさ、俺も大したお願いがあるわけじゃないんだよね。」
願い事についての会話。
内緒とはぐらかしたのは彼女の願い事を聞き出す為だったけど。
無いなら無いで仕方ない。

…でもさ、もっと気楽に何か欲しがったっていいんじゃない?
そんな気持ちを込めて、くだらないことでいっぱいの
自分の欲しいものをたくさん挙げ連ねながら花掴み。
「――お腹いっぱいになること。それから、」
「香鈴ちゃんと一緒に華火を見たいかな?」
最後はやっと捕まえた花びらを彼女にかざすようにしながらの決め台詞。
不思議そうに聞き返されても
「そう、香鈴ちゃんと見るのがいいな。」と笑顔でダメ押し!



●華火の祭
 真昼の空に華が咲く。
 館に満ちる櫻から舞う桜花に混じって、華火の花弁が空から舞い降りてきた。空に向けて腕を伸ばせば、掌の横をひとひらの桜が擦り抜けていく。
 花色衣・香鈴(Calling・f28512)は空に咲いた華と、散りゆく花を見比べた。
 どちらも綺麗だ。
 花吐き病の自分が発作で吐き出すものなんかより余程。
 そう思ったとき、香鈴は誰かの気配を感じた。振り向いてみると、其処には――。
「……佑月くん?」
「香鈴ちゃんも来てたんだね」
 比野・佑月(犬神のおまわりさん・f28218)が手を振っていた。香鈴にとって、彼は海底の島や幽世で助けてくれた優しい人。
 歩み寄ってきた佑月に軽く会釈をして、香鈴は桜の祭を示す。周囲の人々は降りゆく華火の花を掴もうとしており、彼もそうなのかと考えた。
 ええと、と少し戸惑いがちに佑月を見上げた香鈴は、おずおずと問う。
「何かお願い事でも?」
 仕事前の自由時間にしても、こうして花を見に来たからには彼にも何かあるのかもしれない。そう思ったから聞いてみたのだが、佑月は人差し指を自分の口元にあてた。
「んー、内緒」
「ご、ごめんなさい、答えたくないならいいんです」
 そんなんじゃないよ、と佑月はそっと笑う。答えたくないからではないのだと香鈴に告げた彼は、逆に問いかけ返す。
「香鈴ちゃんは?」
「わたしは……無いです、特に何も」
 だって先がない、見えない。だから願うなんて――。
 香鈴が胸裏に思いを秘めて俯くと、佑月は尻尾を軽く揺らした。
「ふぅん、そっか。実はさ、俺も大したお願いがあるわけじゃないんだよね」
 願い事についての会話は静かに巡る。
 先程に佑月が内緒だとはぐらかしたのは、彼女の願い事を聞き出す為だった。けれども本人が無いというのだから仕方がない。
 しかし、香鈴は願わないというよりも願えないといった様子に思えた。
 その瞬間、新たな華火が空にあがる。
 香鈴が視線を上に向けたことに倣って佑月も空を見上げた。咲いた華が弾けて、天上から地面に向けて花が落ちてくる。
 その際に彼はちらりと香鈴を見遣った。
「……でもさ、もっと気楽に何か欲しがったっていいんじゃない?」
 そんな気持ちを込めて、佑月は空に手を伸ばす。
「え、」
 思わず呆けてしまった香鈴の前で、佑月は少し得意気にくるりと回ってみせた。花雨と踊るような彼の姿が眩しくて、香鈴は目を眇める。
(……わたしにもこうなれた可能性があるのか、何かを失くしてるのか)
 わからないけれど、と胸中で独り言ちた。
 そんな中で佑月は自分の欲しいものを次々に挙げ連ねていく。
「――綺麗なものが見れますように。楽しいことに出会えますように。お腹いっぱいになりますように」
「お願い、たくさんあるんですね」
 佑月が並べていくちいさな願いを聴き、香鈴は双眸を緩く細めた。
 ひらり、ひらりと花弁が二人の周囲に舞う。
「それから、」
「……それから?」
 更に佑月が言葉を続けたことで、香鈴は首を傾げた。
 まだ願いがあるという表情をしている彼の言葉の続きを待つ。すると、香鈴にとって想像もしていなかった思いが紡がれた。
「香鈴ちゃんと一緒に華火を見たいかな?」
 そして、彼は花を掴んだ。花弁の雨の中でたったひとつの願いを手に取った佑月は、少女に向けて花を手にした掌をかざす。
 わたしと? と疑問を抱いた香鈴は冗談かと思い、佑月が掴んだ花を見た。
「どなたか他の方じゃなくていいんですか」
 不思議そうな少女に対して、佑月は明るい笑顔を浮かべてみせる。
 他でもない、キミが良いから。
「そう、香鈴ちゃんと見るのがいいな」
「他に約束もないから構いませんが……不思議な人です」
 香鈴から了承の言葉が返されたことで佑月の口許に更なる笑みが咲いた。この願いなら花に望まなくても香鈴自身が叶えてあげられる。
 二人は一緒に天を振り仰いだ。
 そして、華火が上がる。
 様々な願いを乗せて、心と想いを彩るように――空に華が咲いていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朧・ユェー
【月光】

彼女の手を繋ぎ眺める
えぇ、とても綺麗に華火が上がってますねぇ
青空がとても艶やかですね。
おや?黄色と青?僕達みたいでしょうか?

神など居ないとずっと思っていた。
でももし存在し、祈りを願いを叶うというなら
傍にいるこの子が幸せに
この子をそして大切な子達を護れる力を僕に…
おや?ルーシーちゃんの願い事はきっとステキなのでしょうねぇ

彼女が手を離れ舞う花びらを掴もうと走り出す
転びそうになった彼女をひょいと抱き上げると
ふふっ、花びら掴めましたか?
きっと叶いますよ

そっと掴んだ花びら
願いは叶うだろうか

屋台で何か食べましょうか?
じゃ一緒に綿飴を食べましょうね
彼女を抱いたまま屋台へと


ルーシー・ブルーベル
【月光】

華火って夜だけだと思ってた
青空に咲く華もきれい

ゆぇパパと手を繋いで
パパ!黄色と青のお花が咲いてる!
今の大きかったわね
ええ、そっくり!

ルーシーが信じる神様はいないけれど
空に祈りたくなる気持ちは少し分かるの
パパは祈りたい事はある?
ルーシーはあるわ
パパやみんなに楽しい事がたくさんありますよう
イヤな事は出来るだけ少なくなりますよう

がんばれる所はがんばるけど
その他は助けてくれたらって
ふふ、パパのお願いもきっとステキね

あっ、花びらキャッチしなくちゃ!!
走りだしてつんのめり
それでもと宙で合わせた両手は、祈るよう

ありがとう、パパ
見て、花びらあるわ!

ほっとしたらお腹すいちゃった
うん!ワタアメあるかしら?



●素敵なお願い
 空を彩る華とひかり。
 手を繋いで天を眺めていた少女から、わぁ、と感嘆の声が零れ落ちた。
「きれいね。青空に咲く華もすごいわ」
 花火は夜だけだと思っていたのだと語り、ルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)は朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)を見上げた。
 繋いだ手を握り返したユェーは、ひらひらと落ちてくる花を眺める。
「えぇ、とても綺麗に華火が上がってますねぇ」
 青空がとても艶やかで、良い心地がした。そうして更に空に華火が打ち上げられ、新たな彩の花弁が舞う。
 ルーシーはひときわ大きく花開いたものに目を向け、嬉しげに空を指差す。
「パパ! 黄色と青のお花が咲いてる!」
「おや? 僕達みたいでしょうか?」
「ええ、そっくり!」
 此処に訪れた者を祝福していくかのように、花弁は可憐に舞っていった。
 願いと共に花を天にあげる華火。
 其処には神への感謝の気持ちも込められているのだという。
 ユェーはこれまで神など居ないとずっと思っていた。しかし、もし存在して祈りや願いを叶えてくれるというなら――。
 ユェーが思いを確かめる中、ルーシーも神について考えていた。
 自分が信じる神様はいないけれど、空に祈りたくなる気持ちは少し分かる。そして、ルーシーは繋いだ手を引いてユェーを呼ぶ。
「パパは祈りたいことはある?」
「そうですねぇ、ありますよ」
 笑みを浮かべたユェーは穏やかな視線を少女に向けた。
 ――傍にいるこの子が幸せになるように。
 それから、この子や大切な子達を護れる力を自分に与えて欲しいということ。
 彼が何かを願っているのだと感じながら、ルーシーは語り出す。
「ルーシーもあるわ」
「おや? ルーシーちゃんの願い事はきっとステキなのでしょうねぇ」
 そのとき、更なる華火が空に咲いた。
 ルーシーは丁度良いと感じて天から散る花弁を見上げていく。
「パパやみんなに楽しい事がたくさんありますように。それと、イヤな事は出来るだけ少なくなりますように――」
 がんばれるところはがんばるけれど。もし、自分ではどうしようもないことが起きたときに加護があるように、と少女は願った。
「やはりステキですねぇ」
「ふふ、パパのお願いもきっとステキね。あっ、花びらキャッチしなくちゃ!!」
 そうしてルーシーは手を離して駆け出した。
 空から降ってくる花はもう少しで地上に辿り着くだろう。舞う花弁を掴もうとして上を見ていたルーシーは、足元の小石に気付かずにつんのめってしまう。
 宙で合わせた両手は、祈るように。
 けれども、転んじゃう、と思って痛みを覚悟したとき。身体が宙に浮いたような感覚をおぼえ、ルーシーは思わず瞑っていた目をひらいた。
「大丈夫でしたか?」
 ユェーが転びそうになった自分をひょいと抱き上げてくれたのだ。そのことに気付き、ルーシーは平気だったと答える。
「ありがとう、パパ」
「ふふっ、花は掴めましたか?」
「見て、花びらあるわ!」
 転びそうになった代わりにルーシーはちゃんと花を掴んでいた。
「良かったですねぇ。きっと叶いますよ」
「ええ!」
 嬉しさを抱きながら、ルーシーは掌の中の花をそっと見つめる。同様にユェーもいつの間にか花を掴み取っていた。
 願いは叶うだろうか。
 その答えはまだ此処では分からないけれど、叶えばいいと想った。
「ほっとしたらお腹すいちゃった」
 今日の記念として、花を大切に仕舞い込んだルーシーは賑わう屋台の方に視線を向けていく。甘い香りや食欲をそそる匂いがふんわりと漂ってきていた。
「屋台で何か食べましょうか?」
「うん! ワタアメあるかしら?」
「じゃ一緒に綿飴を食べましょうね」
 そして、ユェーは少女を抱いたまま屋台へと向かう。
 願いと祈り。その想いが聞き届けられる日が来ることを楽しみに待ちながら――。
 こうして、少女と青年が過ごす穏やかなひとときが流れていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

日下部・舞
莉亜(f00277)と参加

「華やかなお祭りね」

この世界はどこか幻想的な空気があると思う
咲き誇る幻朧桜、寄り添うような影朧がそんな気持ちにさせるのか
ふと迷い込みそうになる私を、莉亜の声が現実に引き戻す

「リンゴ飴ならあそこじゃない?」

私は隣の屋台でカキ氷を買っている
食べ歩きながら、花びらの話にコクリと頷く

「莉亜は何か願い事があるの?」

ないんだ?
けど、試しにと言う彼の言葉はなんだか新鮮だ
掴めたらなんかラッキー、それくらいがちょうどいいんだと思う

「私もやってみようかな」

頭上に手を伸ばす
掴めなくたってなんともないし、掴めたらなんかラッキー

「願い事は、ちょっと苦手だけど」

叶うなら、後で花見酒に誘ってみよう


須藤・莉亜
【舞(f25907)と参加】
「なかなか良い雰囲気なお祭りだねぇ。花見酒したい…。」
仕事が終わったら一杯飲みたいなぁ。
ところで、林檎飴はどこに売ってるのかな?僕好きなんだよねぇ、あれ。

舞に見つけて貰った林檎飴を食べながら、彼女と一緒にお祭りを見物。
「かき氷も美味しそう。後で僕も買ってこようかな?」

「そういえば、花を掴めたらなんかラッキーなんだっけか。」
試しに掴めるかやってみようかな?掴めるかどうかはそんなに気にしない。願い事も特にないしねぇ。



●幸運の願い
「華やかなお祭りね」
 美しい桜源郷で開かれている催しを眺め、日下部・舞(BansheeII・f25907)心に浮かんだままの感想を言葉にした。
 桜に満ちたこの世界は、何処か幻想的な空気があると思える。
 咲き誇る幻朧桜。
 其処に寄り添うような影朧。
 それらがそんな気持ちにさせるのかと舞は考えていく。光と影の象徴であるふたつの存在を思う舞の思考は、少しずつ深淵に迷い込んでいくかのようだった。
 同時に桜の園にまで迷いそうになる。
 そんな舞を現実に引き戻したのは、須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)の声。
「なかなか良い雰囲気なお祭りだねぇ。花見酒したい……」
 莉亜は桜が舞う空を眺め、片手を庇代わりにして片目を眇めた。
 仕事が終わったら一杯飲みたいなぁ、と思いを零した莉亜はゆっくりと祭りの様子を見つめている。
「本当に綺麗ね。時間を忘れてしまいそう」
 舞は先程から空に上っている華火の様子を見て、双眸を細めた。
 綺麗だねぇ、と答えた莉亜も暫し空をのんびりと眺めていく。そうして少し後、彼は屋台の方に興味を示した。
「ところで、林檎飴はどこに売ってるのかな?」
「林檎飴ならあそこじゃない?」
 周囲を見渡す莉亜に対し、舞は来るときに見かけた屋台の方を指差す。
「本当だ。僕好きなんだよねぇ、あれ」
 行こう、と莉亜が誘ってくれたので舞もその後ろについていく。林檎飴の屋台の隣にはかき氷屋台もあり、莉亜が飴を買っている間に舞も氷を購入した。
 華火がもっとよく見える場所に向かうことにした二人は、のんびりと其々に手にしたものを食べ歩きながら進んでいく。
「そっちのかき氷、どう?」
「冷たくて程よい甘さね」
「美味しそう。後で僕も買ってこようかな?」
「飴を食べ終えたらそれもいいね」
 他にも屋台は多くあり、食欲をそそる香りが漂っている。二人は一緒にお祭りを見物しつつ、降りゆく花の景色楽しむ。
 そういえば、と言葉にした舞はふと思い立つ。
「莉亜は何か願い事があるの?」
「どうかなぁ、特にそういうのはないしねぇ」
「ないんだ?」
 返ってきた声は曖昧なものだったので、舞は軽く首を傾げた。其処から朱塗りの橋に歩を進めた莉亜は頭上を振り仰ぐ。
「そういえば、花を掴めたらなんかラッキーなんだっけか」
「願いが叶うらしいけど」
「試しに掴めるかやってみようかな?」
 莉亜は片手を天に伸ばし、ひらひらと宙に舞う花弁を捕まえようとする。けれども彼は掴めるかどうかはそれほど気にしていない。
 試しに、という彼の言葉と姿勢はなんだか新鮮だ。
 掴めたらなんかラッキー、という物言いも舞は気に入っていた。きっと、真剣に願うよりもそれくらいがちょうどいいのだろうと思える。
「私もやってみようかな」
 舞も頭上に手を伸ばして、風に乗って近付いてくる花に指先を向けた。掴めなくたってなんともない、と考えた舞の掌にひらりと一枚の花が舞い降りる。
「すごいね、おめでとう」
「ありがとう。願い事は、ちょっと苦手だけど」
 掌を覗き込んでくる莉亜に頷きを返し、舞はひとひらの彩を瞳に映した。
 莉亜は願いはないと云っていたけれど、先程にそれらしいことを口にしていたことを思い出した。それは花見酒がしたいというちいさな願いだ。
 叶うなら後で花見酒に誘ってみよう。
 舞は花弁をそっと握り締め、林檎飴を食べ終えた莉亜の横顔を見つめた。
 一枚で二人分の願いが叶う。
 きっとそれこそが、何だかラッキーという気持ちの結果なのかもしれない。
 そして、二人は朱塗りの橋から引き返していく。
 その目的は勿論、この祭の屋台や景色を愉しむこと。こうして二人の時間は穏やかに巡り、彼らなりの楽しさが満ちてゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
アドリブOK
WIZ

火薬ではなく花を詰め込んだんだものなのか。年間通して桜咲くこの世界らしい。
屋台は気になるけど甘いのは苦手だから華火を見る。
人々が願いを込めた華火。
花開くようにって事なんだろうか。そういやUDCとかで「桜咲く」って合格をいうんだっけか。
願いが叶うって事なのかな?

当たるも当たらぬも八卦というし、願い事をして花弁を掴めるか試してみようか。可否はお任せ。
人の事は好きだけど、自分のせいで害されるかもしれない恐怖がいつも付きまとう。
そんな自分だけど、心の信となる大切な存在ができるかどうか。
掴めるように精いっぱい手を伸ばす。欲しいと願う気持ちは本当だし、掴めないなら真摯に努力するだけだ。



●伸ばした手
 空を見上げれば、色とりどりの花が咲いた。
 黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は昼間の華火に関心と感心の両方の気持ちを抱く。
「火薬ではなく花を詰め込んだんだものなのか。すごいな」
 桜が咲くこの世界らしい景色だと感じつつ、瑞樹は天を振り仰ぎ続けた。屋台は気になったが、今はこうして華火を見る方に興味が湧いている。
 ひゅう、と高い音が聞こえたかと思うと新たな華火が空を彩った。
 人々が願いを込めた華の灯。
 きっと、あのように願いや祈りが花ひらくように、ということなのだろう。
 思えば『桜咲く』という言葉は縁起がよく、合格という意味にも通じるのだったか。花がひらいて、実を結ぶことが由来になっているのかもしれない。
「願いが叶うって事なのかな?」
 瑞樹は自分なりの思いを抱き、ひらりと舞ってきた花弁を見遣る。
 当たるも当たらぬも八卦。
 そんな言葉もあることなので、瑞樹は自分も何かの願い事をして花弁を掴めるか試してみようと思った。
 瑞樹は人のことが好きだ。
 けれども、自分のせいで害されるかもしれない恐怖がいつも付き纏っている。
 そんな己ではあるが、心の信となる大切な存在ができるかどうか。
 瑞樹はあらたに近くに舞ってきた花に手を伸ばした。掴めるようにせいいっぱい、どうか、と願いを込めて――。
 そして、一瞬後。
 花弁はするりと指先を擦り抜けていった。
「……駄目だったか。仕方ないかな」
 ひとひらの花を掴むということは難しいものなのだろう。
 だが、瑞樹は必要以上に落ち込むことはなかった。見れば周囲の人達も花が掴めなかった、惜しかった、と話している。
 こういった可否は運次第でもあることを瑞樹はよく知っていた。
 それに願掛けが叶わなかったからといって、願いそのものが何処かに消えてしまうわけではない。欲しいと願う気持ちは本当だ。それに、と瑞樹は天を見上げる。
 掴めないなら真摯に努力するだけ。
 いつか、裡に抱いた願望が果たされる日が来ることを夢見て――。
 瑞樹は暫し、空に咲く華模様を眺めていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
祖霊への親愛のように
全ての影朧やオブリビオンへの転生は願われるべきだと思う
未熟な怒りや苦しさのあまり
願えなかったことはあるけれど

彼等の苦しい願いが優しい願いになるように
彼等が優しい過去に戻れるように

彼等は未来の私達
生は死を選べない
死の間際に
満足して逝けるとは限らない
死の一瞬だけで
それまでの生きざま全てがそうであろうと思われるのは
あまりに哀しいことではなかろうか

幻朧桜と化して後
虫に食われ
獣に食まれ
人に伐られて終わる刻
私は優しく終われるだろうか

貴方の願いが叶うと良い
貴方達が優しい願いに戻れると良い

祭りの喧騒の中
菓子を頬張りそぞろ歩きながらそう思う

貴方の
私の
「願いが叶いますように」
花弁に手を伸ばす



●願いは唯一
 桜舞う世界の最中で懐うことはひとつ。
 御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は空を見上げていた。
 祖霊への親愛のように全ての影朧やオブリビオンへの転生は願われるべきだと思う。
 それこそが常に桜花が抱く想いだ。
 未熟な怒りや苦しさのあまり、桜花自身が願えなかったことはあるけれど、それでも、と願い続ける思いは本物だ。
 空にひらく華を見つめる桜花は裡に宿る思いを巡らせていく。
 彼等の苦しい願いが優しい願いになるように。
 そして、彼等が優しい過去に戻れるように。
 彼等は未来の私達であり、生は死を選べない。死の間際に満足して逝けるとは限らず、遺恨を抱いてしまうかもしれない。
 死とは、生きとし生けるものが無意識に忌避するもの。それゆえにただ穏やかでいられないことは多々ある。
 死の一瞬。
 ただそれだけで、それまでの生きざま全てがそうであろうと思われるのはあまりに哀しいことではなかろうか。
 そんな風に考える桜花の瞳には空が映し出され続けている。
 思うのは、幻朧桜と化した後。
 虫に食われ、獣に食まれ、人に伐られて終わるやもしれない刻。
(私は――)
 優しく終われるだろうか、と疑問めいた思いが桜花の中に満ちていく。きっとそのときが本当に訪れるまで答えは解らない。
 穏やかに、誰も害することなく朽ちて消えていくのかもしれないし、誰かや何かを呪って恨みながら死んでいくのかもしれない。
 できれば前者であればいいと願っても、叶うとは限らない思いだ。
 そうして、桜花は賑わう祭に目を向けた。屋台通りには人が行き交い、朱塗りの橋の方には舞い散る花を掴もうとしている人もいる。
 貴方の願いが叶うと良い。
 貴方達が優しい願いに戻れると良い。
 そんな思いを抱きながら、桜花はゆっくりと歩を進めていく。その手には綿菓子が握られており、彼女はそっと口許を近付けた。
 祭りの喧騒の中、菓子を頬張ってそぞろ歩く。この時間はとても穏やかだ。
 そんな中、不意にひらひらと花が舞ってきた。
 あれを掴んでみようと思い立ち、桜花は片手を伸ばす。
 貴方の、私の。
「願いが叶いますように」
 桜花は思いを込めた言葉と共に掌を広げた。
 そして――その思いに応えるかのように、其処にひらりと一片の花が落ちてきた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふわぁ、アヒルさん、花火ですよ。
綺麗ですね。
あれ?アヒルさんそんな遠くで何をしているんですか。
ふえ?招かれないと敷地に入れないって、アヒルさんはいつ神様になったのですか。それにここはもう敷地の中ですよ。
さてはこの後に現れるカラスさんに対抗意識を持ったのですね。
大丈夫ですよ、アヒルさんはいつも通りにしていればいいんですよ。
ほら、花火が終わってしまいますよ。
早く見に行きましょうよ。



●アヒル神様
 真昼の空に華火が上がっていく。
 天で花ひらいていった軌跡を目で追い、フリル・インレアン(大きな帽子の物語はまだ終わらない・f19557)は瞳を大きく開いた。
「ふわぁ、アヒルさん、花火ですよ」
 見上げた空からは散った花弁がひらひらと舞ってきている。
 火花ではなく花の欠片であることが不思議で、それらは青空を美しく彩っていた。
「綺麗ですね」
 フリルは暫し華火の景色を眺めて楽しんでいた。
 しかしそんなとき、フリルはアヒルさんが近くに居ないことに気が付く。きょろきょろと辺りを見渡していくと、やっとアヒルさんを見つけた。
「あれ? アヒルさん、そんな遠くで何をしているんですか」
 どうやらお祭りが開かれている領域から少し外にいるようだ。アヒルさん、ともう一度呼んでみたフリルは、その理由を知る。
「ふえ? 招かれないと敷地に入れないって……」
 アヒルさんはいつ神様になったのですか、とフリルは少し可笑しさを覚えた。離れているとはいえアヒルさんは既に敷地の中。
 さては、この後に現れるカラスに対抗意識を持っているのだろう。
 可愛らしいところもあるのだと感じたフリルはアヒルさんを手招いた。これで招かれことにもなり、アヒルさんは此方に来られるだろう。
「大丈夫ですよ、アヒルさんはいつも通りにしていればいいんですよ」
 思った通り、招いたことでアヒルさんはフリルの近くに歩いてきた。そうしているとまた空に華の灯が打ち上げられる。
 花は艶やかだ。そして、賑やかで楽しい雰囲気が満ちた。
「ほら、花火が終わってしまいますよ。早く見に行きましょうよ」
 空を指差したフリルはもっと華火がよく見える場所を目指していく。その後をアヒルさんが追い、ふたりはお祭りを楽しんでいった。
 そうして、暫し後――。
 落ちてくる花弁を掴もうと四苦八苦しているフリルの横。アヒルさんの嘴には、空から降ってきたひとひらの花弁がそっと咥えられていたという。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

グウェンドリン・グレンジャー
ヴィリヤ(f02681)とー

昼間……の、ファイアーワーク……ううん、この場合……は、フラワーワーク……?
華火、花弁も、楽しみー、わくわく

屋台、私……は、唐揚げ、買うよー
サクラミラージュ、でも、やっぱりあるんだねぇ、地鶏
(ご当地名物地鶏唐揚げ、産地の違うものを食べ比べる。どっちも美味しい)
甘い物、見た目カワイイ。ヴィリヤ、羨ましい

お願い事、せっかく……だし
ヴィリヤは、何、願うー?
私……は、なんとなく、心に漂う、モヤモヤ……の、正体が、掴めますように、って
たまには、テツガクテキも、考えるグウェン、だよ
花弁掴み、ガンバルゾー
ね、念動力とか……で、なんとか……掴めたら、いいな……


ヴィリヤ・カヤラ
グウェンさん(f00712)と。

昼間に上がる華火かぁ。
花火だったら夜だけど昼間に見るのも良いね。
降ってくる花弁も綺麗だしね。

それに甘いものもいっぱいだし!
色々あって迷うけどチョコのお菓子にしてみようかな。
グウェンさんは動物系しか食べられないんだっけ、
何か食べられるのがあった?

あと、願い事が出来るんだよね!
折角だからやっていこう。
グウェンさんはどんな願い事にする?
私はどうしようかな……
もっと強くなれますようにかな。
上手く掴めたら嬉しいけど、
掴めなくても頑張ってなんとかしちゃうもんね!



●花に願いを
 空を彩る花が宙に美しく舞う。
 まもなく上がるという華火の様相を想像すれば、期待が満ちていく。
「昼間に上がる華火かぁ」
 ヴィリヤ・カヤラ(甘味日和・f02681)が青空を見上げると、グウェンドリン・グレンジャー(Pathetic delicate・f00712)も倣って頭上を振り仰いだ。
「昼間……の、ファイアーワーク……ううん、この場合……は、フラワーワーク……?」
 無表情ながらもわくわくとした様子を見せたグウェンドリンに頷きを返し、ヴィリヤも花がひらくときを心待ちにする。
「花火だったら夜だけど昼間に見るのも良いね」
「華火、花弁も、楽しみー」
 降ってくる花弁もきっと綺麗に違いないから、と語ったヴィリヤにグウェンドリンが同意を示す。そして、ふたりは先ず屋台の方に歩き出した。
 綿飴に林檎飴。
 一口サイズのかすていらや、かき氷。
「甘いものもいっぱい!」
 ヴィリヤは周囲を見渡し、どれにしよかと悩む。すると少し先の屋台にチョコレートを用いたお菓子が並べられていた。
 色々あって迷ったが、ヴィリヤは柘榴を用いたチョコレート菓子を選んだ。味わって食べよう、と決める彼女の傍らでグウェンドリンがじっと視線を向けている。
「甘い物、見た目カワイイ。ヴィリヤ、羨ましい」
「グウェンさんは動物系しか食べられないんだっけ」
 何か食べられるのがあった? とヴィリヤが聞くと、グウェンドリンは屋台の向こう側を指差す。甘いものが並ぶ屋台の奥にはグウェンドリンのお目当ての屋台があった。
「私……は、唐揚げ、買うよー」
「美味しそうだね。色々買っていこう」
「サクラミラージュ、でも、やっぱりあるんだねぇ」
 店先で注文をしながら、グウェンドリンは地鶏唐揚げへの思いを馳せる。産地の違うものを食べ比べたりすれば更に美味しさを感じられるだろう。
 何だか楽しそうなグウェンドリンの様子を感じ取り、ヴィリヤも近くの屋台をそっと覗き込む。桜色の綿菓子が見えたので、ついでにそれも買っていくことにした。
 そうして、ふたりは其々に買ったものを食べ歩きながら祭を練り歩く。
 すると少し離れた場所で華火があがった。
 一筋の軌跡を描いて空に昇っていく、ちいさな光。
 それが花ひらく瞬間を眺めたグウェンドリンとヴィリヤは、空から舞ってくる花弁に目を奪われていた。
 ひらり、ひらりと舞う花は想像通りに美しい。
 暫し華火の様子を眺めていたヴィリヤはふと思い立ち、落ちてくる花に手を伸ばす。一枚目は指先を擦り抜けていったが、まだまだ華火は上がるらしい。
「そうだ、願い事が出来るんだよね!」
「お願い事、せっかく……だし」
「折角だからやっていこう。グウェンさんはどんな願い事にする?」
 こくりと頷くグウェンドリンに向け、ヴィリヤは問いかける。対する彼女は少しだけ考えた後、そっと口をひらいた。
「私……は、なんとなく、心に漂う、モヤモヤ……の、正体が、掴めますように、って」
 たまには哲学的に。
 考えるグウェンだよ、と答えた彼女は少し真剣でもあった。そして、グウェンドリンはヴィリヤにも聞いてみる。
「ヴィリヤは、何、願うー?」
「私はどうしようかな……。もっと強くなれますようにかな」
 空を見上げたヴィリヤが、再びあがった華火に目を向ける。次の瞬間には空から花弁が舞い、地面に向けてふわふわと落ちてきていた。
「花弁掴み、ガンバルゾー」
「うん、頑張ろう!」
 グウェンドリンとヴィリヤは空に腕を伸ばして、其々に気合を入れる。しかし、ひらひらと風に舞う花弁はなかなかの強敵だ。
 掴もうとしてもひらりと宙に舞い上がる花。
 その軌道をじっと見つめるグウェンドリンは、むむ、とちいさな声をあげた。
「ね、念動力とか……で、なんとか……掴めたら、いいな……」
「大丈夫だよ、グウェンさん。ほら!」
 ヴィリヤは頭上を仰ぎ、次の華火が上がっていく様子を示す。掴めなくたって何度も、何回だって挑戦すればいい。
 願いや夢を掴むということは、きっとそういうことだ。
 そうして二人は何度目かのチャレンジで、お互いに花を掴み取ることに成功した。
 願うが叶うか否か。
 それはまだ、誰も知らない少し先の未来の話となる。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

緋翠・華乃音
【蝶月】

楽しそうにしている彼女を見ているだけで、
嬉しく思えてしまうのは単純過ぎるだろうか。

本音を知ってか知らずにか、
伸ばされた手に自分の少し冷たい手を重ねた。

願い事は無いよ。

そう言った自分は、
どこか憐れみにすら似た物寂しげな笑みを浮かべていたと思う。

帰る場所がある。
それはなんて幸せなことだろう。


短冊に書いて飾るとか
流星に乗せるとか
水に星を映すとか

おまじないなんて
数えきれない程にある。

人はどうしてそんなにも、
願いや祈りを“何か”任せにするのか
今でも理解できなくて。

頬を撫でるように落ちてきた花びら
反射的に掴んで。

迷ったけれど。

ならば叶えてみせろと、
絶対に叶わない願いと共に
掴んだ花びらを風に流した。


ルーチェ・ムート
【蝶月】

わー!すごい人だね、華乃音
楽しそう!
ボク、あんまりお祭りって行ったことないんだ
だからね、華乃音と来られて嬉しいな
頬がふにゃりと緩んじゃう

キミがどこかに消えたりしないように、って本音は飲み込んで
逸れないよう手を差し出すよ

華火!綺麗だね
華乃音はお願い事ってある?

ボクのお願いは実はもう叶ったんだ
ずっと帰る場所が欲しかったんだと思う
無意識なんだけどね
今、帰る家が出来てすごく満たされてる

見上げた横顔が寂しそうで
孤独に閉じ込められてるみたいで
繋ぐ手に力を込める

新たな願いがふたつ
キミの帰る場所になれますように

彼が神様に挑むみたいに花弁を摘むものだから
華乃音が勝てますように

花びらを掴めたかどうかは――



●願うことの意味
 賑わう人々の姿とふわりと漂う甘い香り。
 祭に満ちている明るい雰囲気はとても好ましくて、良いものに思えた。
「わー! すごい人だね、華乃音。楽しそう!」
 ルーチェ・ムート(十六夜ルミナス・f10134)は明るい笑みを浮かべ、桜の館と幻朧桜が織り成す景色を眺める。
「ああ、そうだな」
 その姿を見守る緋翠・華乃音(終ノ蝶・f03169)の表情は然程は動いていなかった。しかし、楽しそうにしている彼女を見ているだけで嬉しく思えてしまう。
 単純過ぎるだろうか、と思ったことは言葉には出さず、華乃音は朱塗りの橋に向かっていくルーチェの後についていく。
「ボク、あんまりお祭りって行ったことないんだ」
「それなら丁度良かった」
「だからね、華乃音と来られて嬉しいな」
 ふにゃりと頬を緩ませたルーチェは本当に楽しそうだ。めっぱいに嬉しさを感じているらしい彼女は双眸を細める。
 ――キミがどこかに消えたりしないように。
 そんな本音は飲み込んで、逸れないようにしよう、と手を差し伸べた。
 華乃音は思いを知ってか知らずか、伸ばされた手に自分の少し冷たい手を重ねる。ルーチェはその手の感触も心地好いと感じつつ、橋の上に歩を進めた。
 手を繋いで空を見上げる。
 すると其処に華火があがり、青空は花弁で満たされていく。
「華火! 綺麗だね」
 ひらひらと宙を舞い、風に乗って自由に空を翔ける花はとても美しい。ルーチェは傍らの彼を見上げ、花に纏わる願いの話について問いかけてみる。
「華乃音はお願い事ってある?」
「願い事は無いよ」
 しかし、彼はすぐに首を横に振った。
 そんな風に答えた華乃音は、どこか憐れみにすら似た物寂しげな笑みを浮かべている。
 そっか、と頷いたルーチェは自分のことについて語っていく。
「ボクのお願いは実はもう叶ったんだ」
 ずっと帰る場所が欲しかった。これまでは無意識ではあるがそう思っていた。
 そして今、帰る家が出来た。
 すごく満たされているから、今日は自分のお願い事はしなくても良い。そのように話したルーチェの口許には笑みが咲いていた。
「帰る場所か」
 そう思えるところがあるのは、なんて幸せなことだろう。
 華乃音は思いを声にすることはなく、更に上がっていく華火の軌跡を見遣る。
 願い事。
 短冊に書いて飾るとか、流星に乗せるとか、水に星を映すだとか。
 おまじないなんて数えきれない程にある。それらを聞いたり思ったりする度に、華乃音は疑問に感じることがあった。
 人はどうしてそんなにも、願いや祈りを“何か”任せにするのか。
 今でも理解できない。
 華乃音の横顔は何だか寂しげで、ルーチェは握った手に軽く力を込めた。
 まるで彼は孤独に閉じ込められているよう。もしかすれば、自らそうなるように振る舞っているのかもしれない。
 それでも繋いでくれた手は離さないよう、ルーチェは胸中にそっと願いを抱いた。
 新たな願いがふたつ。
 キミの帰る場所になれますように、と――。
 そのとき、舞う花弁が二人の近くに落ちてきた。華乃音の頬を撫でるように落ちてきた花が橋の下に滑っていこうとする。
 しかし、そうなる前に華乃音は反射的に花を掴んでいた。
 それはたった一瞬の出来事。
 僅かに逡巡して迷ったけれども、華乃音は掴み取ることを選んだ。おまじないや願い事になんて頼ろうとは思っていない。
 ならば叶えてみせろ、と絶対に叶わない願いと共に掴んだ花びらを風に流した。その姿を見ていたルーチェも、そうっと手を伸ばす。
 彼が神様に挑むみたいに花弁を掴むものだから、願いを重ねてみたくなった。
 ――華乃音が勝てますように。
 そうして、ぎゅっと閉じたルーチェの掌の中。おそるおそる自分の手元を覗き込んだルーチェの瞳には、ちいさな花弁が映った。
 願いと想い。
 それらはきっと、形がないからこそ形にしたくなる。
 繋いだ手も花も取り零さないように二人でいたい。ルーチェが願う思いが叶えられていくかはきっと、傍らに立つ彼次第。
 花は空を彩って閃く。
 ルーチェと華乃音が共に眺める華火の時間は、もう暫し続いていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鈍・しとり
珍しく屋台には寄らず
橋の欄干に腰かけて華火を眺める
天地自在に咲く華があろうとは
これ程見事なものはそうないわね

火など恐れる私ではないのに
どうしてか身を焦がされる思いだわ
美しいこと


高い高い天より下る八百万の花びら
お前達のどれほどが無事に
誰かの手のひらへと辿り着けるのか知ら
その手が伸ばされていたとして


お前ははずれよ、
よりによって鬼の手に堕ちてしまうなんて
なんて

ひとは、あんなにも遠いそらに
こんなにも小さなものに
心を寄せられるのね
わたしは…

…止めましょ
この私が願いごとなど
まして神頼みなどと


あえかな花片
胸の変わりにせめて
胎を満たして頂戴な
雨の降る前に
火の咲くうちに

――嗚呼 懐かしい味。



●そらとこころ
 賑わう屋台。明るく響く人々の声。
 それらから敢えて離れ、鈍・しとり(とをり鬼・f28273)は朱塗りの橋に向かった。
 屋台通りから聞こえてくる声は次第に遠くなっていく。歩を進めたしとりは、誰もいない橋の欄干に腰かけた。
 しとりは空に昇っていく華火を眺める。
 ひとすじの軌跡を残して天に向かうそれは、譬えるならば花の種。空で花ひらけば、数多の花弁がひらひらと舞って空を彩る。
 その花々は、もとは地上に咲いていたもので――。
「天地自在に咲く華があろうとは、これ程見事なものはそうないわね」
 しとりは舞い散る花を振り仰いだ。
 火など恐れる己ではないのに、今日はどうしてか身を焦がされるような思いが巡る。
 美しいこと、と言葉にしたしとりは暫し空を眺め続けた。
 高い高い天より来たる、八百万の花びら。それらの多くは川辺に散って流れていく。地面に落ちたもの。樹の影に隠れてしまったもの。
 花の行方は様々。
「お前達のどれほどが無事に誰かの手のひらへと辿り着けるのか知ら」
 その手が伸ばされていたとして、願い通りに掴めることは少ない。それゆえに皆、あのように夢中になっているのかもしれない。
 遠くに見える子供たちがはしゃぎながら華火の花を追っている姿を見つめ、しとりはそんなことを考えていた。
 そして、しとりは掌を胸の前にそうっと掲げる。
 其処にひらりと舞い落ちてきたのは、淡い色を宿した一枚の花弁。
「お前ははずれよ、」
 よりによって、鬼の手に堕ちてしまったから。なんて、と微かに冗談めかした言葉を落としたしとりは花弁を見下ろす。
 それから、ふたつを比べていくように空を見上げる。
 ひとは、あんなにも遠いそらや、こんなにも小さなものに心を寄せられる。それに対して自分は、と考えたしとりの花唇から無意識に言葉が零れ落ちた。
「わたしは……」
 しかしすぐに首を横に振ったしとりは、考えることをやめる。
 この私が願いごとなど。まして神頼みなどと。
 しとりは掌の上のあえかな花片をもう一度だけ見つめる。たった一片のちいさなものに願いを込めたりなどはしない。
 だから胸のかわりに、せめて胎を満たして頂戴な。
 雨の降る前に、火の咲くうちに。
 そのとき、風が吹き抜けていく。しとりの指先から舞い上がった花がふわりと浮いて、その唇にそっと触れた。
「――嗚呼 懐かしい味」
 しとりは双眸を静かに細め、感じたままの思いを声にする。
 そうして、華火が空をふたたび彩った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

周・助
終夜くん(f22048)と。
アドリブ、マスタリング歓迎です。

※終夜くんの前では一人称:私
_
沢山の屋台がどれも美味しそうで目移りしちゃって。
戦いが控えているというのに…眼前の光景に躍る心を抑えきれず…。
「終夜くんのおすすめとかあったら教えてください。私、迷っちゃって…」
そして彼が示した、そのふわふわに瞳輝かせ
「わたあめ…?雲みたいで、」
綺麗ですねと。見たことも食べたこともなくて興味津々に。
…きめた!
「終夜くん!わたあめ食べましょう、わたあめ…!」
そう言って彼の手を引いて、きらきらと見上げた。

_
(その綿飴は、とってもとっても美味しくて。
おいしいですね、と子どものような笑顔になったのでした。)


空・終夜
助(f25172)と
アドリブ可

祭りの屋台は誘惑の塊
助と同じくして目を輝かずにはいられない
祭りの甘い香りに惹かれる
甘味が好きだから

ん、チョコレートは
いつも美味しいのを食べているから…

でも、そう…だな。祭りと言えば…

目で探したのは――綿飴
その屋台を見つけると
すっ…と指をさす

「どの甘味も好きだが
祭りに来ると…綿飴が必ず食べたくなる」

食べた事あるか?
仄かに笑いかけて首を傾げる

「きっと…とても笑顔になる甘さだ
そう…食べると口の中で甘く溶ける幸せの雲…」

手を引かれると
輝くその表情に和ましい気持ちになる
助の手を握り返すと

「…おっきいの作ってもらおう」

綿飴食べた彼女が笑ってくれたらいいと…心の中でひっそり願う



●甘い綿飴とちいさな幸せ
 祭の屋台は誘惑の塊。
 そして、天から降りそそぐ花は魅惑の香。
 華火が空に咲いて、花弁が可憐に館にひらり、ふわりと舞っていく。
 賑わう華火祭の最中で目を輝かせる者が二人いた。それは周・助(咲か刃・f25172)と空・終夜(Torturer・f22048)だ。
 食べ物に甘味、屋台に並ぶ品々はどれも美味しそうで目移りしてしまう。
「おお……いっぱい、だな……」
「はい、たくさんです」
 この後には予知された戦いが控えているというのに、助は眼前の光景に躍る心を抑えきれずにいた。しかし、それは終夜も一緒。
 屋台通りに満ちる甘い香りに惹かれるのは彼も同じらしいのだと感じて、助は何だか嬉しい気持ちを覚えた。
 そうして、助は問いかけてみる。
「終夜くんのおすすめとかあったら教えてください。私、迷っちゃって………」
「ん、任せろ」
「ぜひお願いします……!」
 願われたことに対して軽く胸を張った彼が頼もしく感じた。助は少し先を進んでいく終夜の後を歩いていく。
 傍から見れば、それは親鳥についていく雛のようにも見えて可愛らしい。
 そうして、終夜は辺りを見渡す。
「チョコレートは、いつも美味しいのを食べているから……」
「そうですね、普段から頂いていますから……」
 一番に目に飛び込んできたのはやはりチョコレートを扱う店。柘榴のチョコが気になりはしたが、折角なので今日は先ずお祭りらしいものを食べたい。後でじっくり見よう、と決めた終夜は歩を進めていく。
「でも、そう……だな。祭りと言えば……」
 次に目で探したのは――綿飴。
 屋台を見つけた終夜が、すっと指さした先を見つめた助は軽く首を傾げた。其処にはわたあめと書かれた暖簾が見える。
 遠目からでもわかるのは、ふわふわとして柔らかそうな白いもの。わあ、と瞳を輝かせた助は期待を膨らませる。
「わたあめ……?」
「どの甘味も好きだが……祭りに来ると、綿飴が必ず食べたくなる……」
 どうだろうか、という視線が向けられたことで、助は終夜と綿飴の屋台を交互に見比べた。ふんわりとした雰囲気は終夜に似ている。色は違っても何となくそんな気がした。
「雲みたいで、綺麗ですね」
「食べた事あるか?」
 仄かに笑いかけた終夜に対し、助は見たことも食べたこともないと答える。
「どんな味なんですか?」
「きっと……とても笑顔になる甘さだ」
 終夜の言葉から、彼は綿飴が好きなのだと察した助はじっと屋台を見る。
 ちょうど新しいものを作っている途中らしく、ふわふわが少しずつ大きく形成されていく様子が物珍しかった。
 それならば、決めた。助は興味津々に綿飴屋台の方に向かっていき、終夜を呼ぶ。
「終夜くん! わたあめ食べましょう、わたあめ……!」
「ああ……行こう」
 助は好奇心のまま彼の手を引き、きらきらとした表情で見上げた。そうすれば終夜の口許にも淡い笑みが咲く。
 終夜は助の手を握り返し、和やかな気持ちを覚えた。助の輝く表情には期待が満ちていて、自分まで嬉しくてわくわくする気分になってくる。
「すみません、ひとつ頂けますか?」
「……おっきいの作ってもらおう」
 助と終夜が綿飴を注文すると、屋台の店主が快く答えてくれた。くるくる、ふわふわと棒に巻かれていく白い雲めいた砂糖菓子。それを見ているだけで楽しい。
 そうして、暫し後。
 桜の樹の傍までやってきた二人は、それぞれの手に持った綿飴を頬張る。
「いただきます……!」
「ん……。甘い。食べると口の中で甘く溶ける幸せの雲……」
 とけていく甘さに少し驚いた助の隣で、終夜はいつも通りの美味しさに頷く。びっくりはしたけれどすぐにもう一口を頬張った助は更に瞳を輝かせていた。
「美味い、か……?」
「はい、おいしいですね」
「そうか……よかった」
 二人の間に砂糖のように甘く柔らかな微笑みが満ちる。
 とってもとっても美味しい綿飴と、緩やかに流れていく祭の時間は快さを連れてきてくれるものだ。
 彼女が笑ってくれたらいい、と心の中で願っていた終夜の願いはすぐに叶った。まるで子どものような無邪気な笑顔は、心から今を楽しんでくれている証。
 こんな時間がずっと続けばいい。
 言葉にしないではいても、二人が抱く思いはきっと同じで――。
 そして、華火祭のひとときはゆったりと過ぎてゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フレズローゼ・クォレクロニカ
🐰館年少部

お祭りなんだ!
お気に入りの浴衣着てルンルン気分でかけていく!
今日は一華くんも兎乃くんも一緒なんだ!
心もわくわく満開

どこから巡ろうか!
迷惑なんてかけてないよねー兎乃くん!
ボクらはマブだもんね!
一華くんは未来の……ふふ!内緒!

屋台巡りにGO
ボクはこれだよ
チョコいちご串!
かすていらも食べる
チョコレートの桜は絶対食べる
かき氷は勿論イチゴ味
兎乃くんのいいなー
すきなの?
美味しいなら一口頂戴!
冷たくて美味し!
競走ならボクだって負けないね
全屋台制覇してやるのさ!

こういうのを華より団子というんだっけ?
林檎飴をもりもり食べつつ
華火の花弁に手を伸ばす

大好きな人達がずっと笑っていられるように
願いをこめてさ


誘七・一華
🌺館年少部

華火なんてはじめてだ
コマ、ずっと俺にくっついてるけどどうした?
マコ!勝手に走ってくなよ

フレズと零時と一緒に祭りを巡る
零時とは初めて遊ぶな
フレズ、迷惑ばっかかけてるんじゃないだろうな?

俺も兄貴から小遣いもらったんだ
何か食べようぜ
桜チョコレートにかすていら、林檎飴に…暑くなったらかき氷もだ!
桜綿あめもあるかな
フレズはやっぱそれか
零時のもうまそうだ

どれから食べるか悩むな
まぁ、俺なら全制覇できるはずだぜ
競走するか?
負けないぜ!

弾けた華火の音に舞い散る花弁
かすていらを頬張りながら
穹見上げて手を伸ばす

花弁掴めるかな
やってみようぜ!

兄貴が

誘七に、帰ってきてくれますように

なんて願うのはいけないかな


兎乃・零時
💎館年少部

華火祭…めっちゃ楽しみ…!(そわ

確かに一華とは初めて遊ぶもんな
沢山遊ぼうぜ!
フレズに迷惑なんてかけられてないぜ?一緒に遊ぶの楽しいしな!
まぶってやつだ!
未来の…?
くっ、内緒なのか…!(気になる

俺様もお金は十分持った!
GO-!
桜関連の食い物も
チョコバナナやカステラもいっぱい食う!
かき氷はメロン味
あ、冷やしパインもあるんだ
結構好きだぜ!
一口?いいぜ、はい!(食べてたパインをずいっと差し出す

競争するってんなら俺様も負けねぇぜ…!
全部平らげてやるさ!

確かそれで合ってたよな
華より団子って
チョコを飲み込み
落ちる花弁を反射的に掴む動き

願いがあるとするならば
楽しい時がずっと続きますように、とかだな



●願いは花咲く
 澄んだ空に華火があがる。
 快い音と共に天に花が咲いて、花弁がひらひらと宙を舞った。
 フレズローゼ・クォレクロニカ(夜明けの国のクォレジーナ・f01174)は頭上を振り仰ぎ、苺月の瞳を輝かせる。
「お祭りなんだ! 一華くんも兎乃くん、はやく行こう!」
 赤い白薔薇とトランプ柄のお気に入りの浴衣を着て、ふたりを呼ぶ。そうすれば嬉しさと楽しさがいっぱいになって、空に咲く花のように心もわくわくで満開になった。
「華火祭、めっちゃ楽しそう!」
「昼の華火なんてはじめてだ」
 兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)と誘七・一華(牡丹一華・f13339)はフレズローゼの後に続いていく。
 その際に一華は自分の傍についている狛犬を見下ろす。
「コマ、ずっと俺にくっついてるけどどうした?」
 暁色を宿す阿像の方は何かを警戒しているのか、ずっと一華から離れようとしない。対する桜色の吽像はというと、駆けていくフレズローゼと零時を追い抜く勢いで屋台通りへと向かっていっている。
「マコ! 勝手に走ってくなよ」
 コマの様子に違和を覚えた一華だったが、すぐにマコを追って走り出した。
 狛犬はきっと、この後に起こることを感じ取っていたのだろう。けれども今はめいっぱいに楽しむ時間。
 少年と少女達は元気よく、賑わう屋台へ踏み出してゆく。
「そういや零時とは初めて遊ぶな」
「確かに一華とは初めて遊ぶもんな。沢山遊ぼうぜ!」
「二人と一緒で嬉しいんだ!」
 フレズローゼを真ん中にして横に並ぶ三人はわいわいと言葉を交わしていく。
 どこから巡ろうかと少女が問いかけ、零時が「全部!」と答えたことで、ひとまず全てを回って何があるか確かめていく流れだ。
「フレズ、零時に迷惑ばっかかけてるんじゃないだろうな?」
「迷惑なんてかけてないよねー兎乃くん! ボクらはマブだもんね!」
「フレズに迷惑なんてかけられてないぜ? 一緒に遊ぶの楽しいしな! そうそう、まぶってやつだ!」
「まぶ……それって親友ってことか?」
 いいな、と一華が双眸を細める。するとフレズローゼは一華くんも特別なのだと告げて、大きく胸を張る。
「一華くんは未来の……ふふ! 内緒!」
「未来の……? くっ、内緒なのか……!」
 気になるが秘密と言うなら零時もこれ以上は聞き出せない。楽しげなフレズローゼと内緒が何なのか考える零時を見つめ、一華は静かに笑った。
 そうして、一行は店を見て回る。
 食べたい物の目当てはついた。それにお小遣いもばっちりだ。
「二人は何食べる?」
 一華が問うと、フレズローゼは近くの屋台を指差した。
「ボクはこれだよ。チョコいちご串!」
 それからチョコレートの桜は絶対に食べたい。かき氷は勿論イチゴ味で、かすていらも桜味と抹茶味のどちらも買いたい。
 フレズローゼがめいっぱいの希望を語ると、零時もぐっと意気込む。既にいちご串を買い求めているフレズローゼに続き、零時はチョコバナナを手にしていた。
「俺様はチョコバナナだろ。あとカステラもいっぱい食う!」
 かき氷はメロン味に決めている。
 一華もふたりに合わせてかき氷を選ぼうと決めつつ、まずは桜チョコレートを頼んでいた。三人がチョコ関連の甘味を手にして歩く様は可愛らしい。
「桜チョコレートにかすていら、林檎飴に……桜綿あめもあるかな」
「あっちにあったよ、一華くん!」
「あ、冷やしパインもあるんだ。買って来るかな」
 次々と屋台を巡り、好きなものをたくさん抱えていく三人。苺にメロン、桜シロップのかき氷を持った彼らはまだまだ屋台を巡っていく。
「兎乃くんのいいなー」
 そんな中、フレズローゼは零時の冷やしパインを眺めていた。
「これ、結構美味くて好きだぜ!」
「すきなの? 美味しいなら一口頂戴!」
「いいぜ、はい!」
 零時が歩きながら食べていたパインをずいっと差し出せば、フレズローゼが遠慮なくぱくりと頬張る。
「冷たくて美味し!」
「零時とフレズ、本当に仲がいいんだな」
 二人の様子を見ていた一華がぽつりと呟くと、零時は屈託のない笑顔を向けた。
「一華も食うか?」
「え、いいのか?」
「もちろん!」
 差し出された冷やしパインを、一華が遠慮がちに齧る。そうすれば冷たくて甘酸っぱい味が広がり、ちいさな笑みが浮かんだ。
 フレズローゼは大好きな人達がこうして仲良くしていることを嬉しく思う。
 何だか楽しくなってきた一華は屋台通りを示していく。
「どれから食べるか悩むな。まぁ、俺なら全制覇できるはずだぜ。競走するか?」
「競走ならボクだって負けないね。全屋台制覇してやるのさ!」
「競争するってんなら俺様も負けねぇぜ……! 全部平らげてやるさ!」
 一華の言葉に対して、フレズローゼと零時が其々に掌を握り締めて闘志を燃やす。三者三様の負けない、という気持ちが巡り、そして――。
 持てる限りの屋台御飯と甘味を持ち寄った三人は、館の桜が美しく咲く見晴らしの良い一角に腰を下ろしていた。
 まるでピクニックのように周囲に広げた屋台の食べ物達は色とりどり。
 みっつ仲良くかき氷が入っていた空の容器が並んでいて、焼きそばやたこ焼きの容器も綺麗に平らげられた証として積み上げられている。
「美味しかったね!」
「まだまだ行けるぜ!!」
「二人ともすごいな。俺もまだ大丈夫だけどな」
 競争は小休止して、三人は果実飴やチョコなどの甘味をのんびりと頬張っていた。フレズローゼは膝の上にマコを乗せて、もりもりと林檎飴を食べつつそっと笑う。
「こういうのを華より団子というんだっけ?」
「確かそれで合ってたよな。華より団子ってこういうことだ」
 零時もチョコを飲み込み、空を見上げた。しかし今は団子もとい甘味と華を同時に楽しむことだって出来る。
 その証に、空に華火があがっていった。
 かすていらを分け与えたコマを撫でた一華は、弾けた音を聴き、高い天から舞い落ちてくる花弁を瞳に映す。
 それから一華は降る花を示した。
「あの花弁、掴めるかな。やってみようぜ!」
「こっちの勝負でも負けないぜ」
「うん、やってみるんだ!」
 風に乗って近付いてくる花をしっかりと見つめ、少年と少女達は腕を伸ばす。
(兄貴が誘七の家に、帰ってきてくれますように)
(楽しい時がずっと続きますように)
(大好きな人達がずっと笑っていられるように!)
 華火の花弁に願いを込めて。
 そして、握った掌に願いの欠片を掴むことが出来たのは――。
「あれ、掴めてる」
「一華くん、すごい!」
「おお! やったな一華!」
 まるで自分のことのように喜んでくれる二人にありがとう、と視線を返し、一華は花弁を大切に握り締めた。
 本当に帰ってきてくれるといいな、と少しの期待を馳せて。
 桜の樹の下で三人は笑いあう。
 花は掴めなくてもフレズローゼの願いも、零時の思いもきっと叶っていくはず。たとえ困難が訪れようとも、三人は乗り越えられる力や護りを宿しているのだから。
 そして、穏やかなひとときに花のような笑みが咲いていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アンリエット・トレーズ
🌼揺羊

お祭りというのはこんなに人が集まるのですね…
ええ、メリル。手を繋ぎましょう
屋台も色々あって目移りしてしまいますが…
端から端まで、海の時のように?

よい考えですね
たくさん食べることなら任せてください
れもん味。メリルと同じかわいい黄色ですね
ではアンリエットはぶるーはわいとやらにします、青いので
メリルもどうぞ
あーん

林檎飴と杏飴に迷う最中
彼女の声と華火の音に空見上げ
お願いごと…
メリルはどうします?
アンリエットは――
逢いたいひとが、いますけれど
きっと、自分の足で逢いに行くべきですから

おや
花びらキャッチの上手なかき氷さん
その隣に自分のとったもう一枚をのせ
良かったですねメリル
お願い事パワー二倍ですよ


メリル・チェコット
🌼揺羊

わあ、すごい人……!
はぐれないように手繋いでいこっか
どうする? 端から全部回っちゃう?
かき氷、メリルはレモン味にしようかな
ひとくちあげるね
ふふ。あーん!

わっ。華火、始まったよ!
なにか願掛けしよう!
どうしよっかな……アンリエットちゃんは?
……そっか。逢いたい、ひと
王子様を待つだけのお姫様よりも
そっちの方がアンリエットちゃんらしいね
メリルもお願い、決まったよ!

なかなか掴めない……!
手強いね!
あっ、でも見て見て
かき氷のてっぺんに花びら!
わ、ありがとー!

メリルがお願いしたのはね
アンリエットちゃんがそのひとに逢いにいくまでの道のりに、つらいことがありませんようにーって
これはお願い、叶っちゃうね!



●叶える想い
 賑わいに満ちる桜の館。
 其処に訪れた少女達は楽しげな人々を眺めて、各々で双眸をぱちぱちと瞬いていた。
「わあ、すごい人……!」
「お祭りというのはこんなに人が集まるのですね……」
 メリル・チェコット(ひだまりメリー・f14836)は驚きながらも、瞳にきらきらとした期待を宿している。その隣に立つアンリエット・トレーズ(ガラスの靴・f11616)の眼差しは僅かに揺らいだだけだが、興味の色が少し見えた。
 屋台通りには特に人が多く、メリルはアンリエットに手を伸ばす。
「はぐれないように手繋いでいこっか」
「ええ、メリル。手を繋ぎましょう。屋台も色々あって目移りしてしまいますが……」
 ふたり一緒なら見て回るのも苦ではない。
 そんな風に語ったアンリエットとメリルの手がやわく繋がれた。
「どうする? 端から全部回っちゃう?」
「端から端まで、海の時のように?」
「うん! せっかくだから何があるか見ていこう」
「よい考えですね」
 たくさん食べることなら任せてください、と胸を軽く張ってみせたアンリエットに、メリルは頼もしさを覚えた。
 そうして二人は歩き出していく。
 甘い香りが漂う一角。屋台に並んだ甘味はどれも魅惑的だ。
 まずかき氷を目にした二人は、あれを一緒に買おうと決めた。しゃりしゃりと氷を削る音は心地好くて、メリルの口許に笑みが満ちていく。
「かき氷、メリルはレモン味にしようかな」
「れもん味。メリルと同じかわいい黄色ですね」
「えへへ、かわいかな? アンリエットちゃんは何にするの?」
「ではアンリエットはぶるーはわいとやらにします、青いので」
 これで自分達と同じ色。
 レモンとブルーハワイのかき氷を手にした二人は歩きながら、冷たくて甘い氷を食べ進めていく。その際にアンリエットがじっとメリルの手元を見つめていた。
「そうだ、ひとくちあげるね」
 メリルが、あーん、と片手を差し出せばアンリエットがぱくりとレモン味のかき氷を頬張る。爽やかな味が広がっていくことを確かめ、彼女もメリルにお裾分けをする。
「メリルもどうぞ」
 差し出された青の氷が少女の口許に添えられた。
 冷たくてやさしい。そんな気持ちが二人の間に巡っていく。
 そうして、少女達は更に屋台通りを進んでいった。次に見えたのは果実飴が並べられた可愛らしいお店。
「どちらがいいでしょうか」
 アンリエットは林檎飴と杏飴のどちらかを選ぼうかと迷う最中、メリルが空を示す。
「わっ。華火、始まったよ!」
「本当ですね。お花が咲いています」
「飴、どっちも買って華火を見に行こう!」
 はやくはやく、と手を引いたメリルに合わせてアンリエットは両方の飴を買ってついていった。楽しげにきらきらと輝くメリルの瞳は期待に満ちている。
 それから見晴らしの良い朱塗りの橋に向かった二人は天を振り仰いだ。
 続けて花ひらいていく華火が弾ける度に心地好い音と愛らしい花弁が空に舞う。
「なにか願掛けしよう!」
 彼女の声と華火の音を聴きながら、アンリエットは少し考え込んだ。
「お願いごと……メリルはどうします?」
「どうしよっかな。アンリエットちゃんは?」
 何かが思い浮かんだらしいアンリエットだが、メリルにも問いかけてみる。ちょっと考えてみるね、と答えたメリルに対してアンリエットはゆっくりと言葉を紡いだ。
「アンリエットは――逢いたいひとが、いますけれど、」
「……そっか。逢いたい、ひと」
「きっと、自分の足で逢いに行くべきですから」
「王子様を待つだけのお姫様よりも、そっちの方がアンリエットちゃんらしいね。それならメリルもお願い、決まったよ!」
 その答えを聞いたメリルは、願いを込めて空に手を伸ばした。
 しかし、ひらり、ふわりと風に揺れる花はなかなか掌に収まってくれない。
「なかなか掴めない……! 手強いね!」
 一生懸命に頑張るメリルだが、掴むのは至難の業。されど次の瞬間、少しだけ強い風が二人の間に吹き抜けていって――。
「おや」
「あっ、でも見て見て。かき氷のてっぺんに花びら!」
「花びらキャッチの上手なかき氷さんですね」
 メリルが持っていたレモンかき氷の上に淡いピンク色の花がちょこんと乗った。するとアンリエットがいつの間にか手にしていた花弁をそっと其処に乗せる。
「良かったですねメリル。お願い事パワー二倍ですよ」
「わ、ありがとー!」
 すごい、と明るく笑んだメリルは幸せいっぱいの表情を湛えた。これでメリルの思いが叶うと感じつつ、アンリエットはゆるりと問いかけてみる。
「お願い事は何だったのですか?」
「メリルがお願いしたのはね、アンリエットちゃんがそのひとに逢いにいくまでの道のりに、つらいことがありませんようにーって!」
「アンリエットのこと?」
「これでお願い、叶っちゃうね!」
 自分のことのように喜んでくれるメリルの眼差しは優しい。
 アンリエットはこくんと頷き、ありがとうの代わりに林檎飴を差し出す。自分で掴む願いと、応援の為願い。そのふたつがあれば、きっといつか――。
「わ、アンリエットちゃん! また華火があがったよ!」
「きれいですね」
 空を彩る華が二人の瞳に映る。
 そして――其処にふたたび、明るい笑みが咲いてゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蘭・七結
【比華】

とこしえの桜華
薄紅の花びらがはらはらと舞っているわ
とてもうつくしいわね、あねさま
白日に咲く華火だなんて不思議ね
如何なる彩を見うつすことが出来るのかしら

屋台を巡ってみましょう
わたしは、そうね。桜飴をいただきたいの
以前訪れた桜祭にて口にしたもの
うつくしい桜のひとから教わったのよ
このお祭りにも、あるのかしら

……ええ、然と憶えているわ
遥か遠い彼方の記憶
あなたと見うつした薄紅たちのことを

晴天に咲く華火のうつくしいこと
みて、あねさま
花びらが落ちてきたわ
掬いとることが出来るかしら

込める願いごとは、わたしだけのひみつ
進むべき道は、わたしの足で歩んでゆくわ

ありがとう
あねさまのしあわせは、なゆのしあわせよ


蘭・八重
【比華】

咲き誇る桜華
いつ見ても舞う姿は美しい。
えぇ、素敵ね、なゆちゃん。
蒼空に咲く不思議な花火
貴女とのまた一つ新しい想い出

あら、屋台があるのね。
桜飴美味しそうだわ、私も頂こうかしら
えぇ、そうね。あると良いわね

なゆちゃんは覚えているかしら?
あの時一緒に見た桜華も美しかったけれど、今とは違う事を

空に咲き舞う美しい華火
なゆちゃんあちらに舞ってるわ
彼女の手を握り花びら舞う方へ
繋がってない手の上を花びらが舞い落ちる

昔のなゆちゃんはきっと私の願い事と一緒と言ったでしょう
変わった貴女、でも何故かしらそれが嬉しいの
えぇ、私も秘密よ
でもきっと私の願いは貴女にはわかってしまう

だって私の願いは貴女なのだから



●幸福の色
 咲き誇るとこしえの桜華。
 薄紅の花びらがはらはらと舞っている景色はいつ見ても可憐で美麗だ。
「とてもうつくしいわね、あねさま」
「えぇ、素敵ね、なゆちゃん」
 蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)が花舞う空を見上げれば、蘭・八重(緋毒薔薇ノ魔女・f02896)が嫋やかに頷く。
 ひらり、ひらりと咲いて散った花弁が空を彩っていた。
「白日に咲く華火だなんて不思議ね」
 如何なる彩を見うつすことが出来るのかしら、と七結が淡く微笑む。
 八重も蒼空に咲く不思議な花火を見つめた。此処からまた妹との新しい想い出がまたひとつ増えていくのだと思うと、口許が自然に緩む。
 姉妹は暫し空と花が織り成す景色を眺めていた。そうしているだけでも穏やかで楽しい心地が巡るのだが、此度の催しはまだこれだけでは終わらない。
「あねさま、屋台を巡ってみましょう」
「あら、屋台があるのね」
 七結が誘う先を見遣った八重は、ぜひとも、と答えた。屋台には何が並んでいるのかと八重が興味を示すと、そのみちゆきを誘うように七結が歩き出す。
「わたしは、そうね。桜飴をいただきたいの」
「桜飴美味しそうだわ、私も頂こうかしら」
 それは以前に訪れた桜祭にて口にしたものだと語り、七結も先を見つめる。ふわりと甘い香りが漂う屋台通りは賑やかだ。
「うつくしい桜のひとから教わったのよ。このお祭りにも、あるのかしら」
「えぇ、そうね。あると良いわね」
「見て、あったわ」
 あねさま、と八重を呼んだ七結はそっと其方に駆けていく。その後を追い、八重も歩を進めていった。
 そうして、目当ての桜飴をそれぞれに買った姉妹は朱塗りの橋の方に向かっていく。
 其処では空に咲く華火がよく見える。
 八重は甘い飴の味に舌鼓をうちながら、徐に妹に問いかけてみた。
「なゆちゃんは覚えているかしら?」
 あの時一緒に見た桜華も美しかったけれど、今とは違うことを。
「……ええ、然と憶えているわ」
 二人が語るのは、遥か遠い彼方の記憶。あなたと見うつした薄紅たちのこと。
 それ以上の言葉は二人の間には不要だった。
 晴天に咲く華火がうつくしい。舞う花の色が綺麗だと思えるのはきっと、あの彩が心を映したものだから。
 何も感じないままに花を見ても美しいとは思えない。
 けれども、今は――。
「みて、あねさま。花びらが落ちてきたわ」
「そうね、なゆちゃん。あちらにも舞ってるわ」
「掬いとることが出来るかしら」
「行ってみましょう」
 八重は七結の手を握り、花が舞う方へと進んでいく。
 そうすれば、二人の繋がってない方の手の上に花弁が舞い落ちてきた。どんな願い事をしたのかは語らない。
「込める願いごとは、わたしだけのひみつ」
「ふふ。昔のなゆちゃんはきっと私の願い事と一緒と言ったでしょうね」
 七結から零れ落ちた言葉を聴き、八重は過去と今を思い比べる。
 彼女は変わった。
 でも、何故かそのことが嬉しいと思えた。
「進むべき道は、わたしの足で歩んでゆくわ。あねさまも、内緒?」
「えぇ、私も秘密よ」
 八重はあえかに微笑んだが、きっと自分の願いは七結にはわかってしまうだろう。
 ――だって私の願いは貴女なのだから。
 その思いを感じ取った七結は、ありがとう、という言の葉を姉に贈る。
「あねさまのしあわせは、なゆのしあわせよ」
 穏やかな景色の中に嬉しさが満ちた。
 この気持ちも、心地も、これまでのみちゆきがなければ感じられなかったもの。
 今というひとときを過ごせることこそがきっと倖せというもの。
 そうして、姉妹は天を仰ぎ続ける。
 あの花の欠片が叶える願いを思いながら、華火の音が止むまでずっと――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティア・メル
十雉ちゃん(f23050)

十雉ちゃんははなびって見たことある?
ぼくは昼間のはなびは初めてだよ
夜のは見た事があるんだけどさ

んに!しゃりしゃり音がするよ
かき氷だって
一緒に食べよう

ぼくはねーオレンジのシロップ
あう…頭がきーんってするよ
あーんしあいっこ
美味しいねっ

空を仰げば降り注ぐ花びら
十雉ちゃんはお願い事ってある?
んー?全部お願いしちゃってもいいんじゃない?

にゃはは
お願い事をぼくに使うのは勿体ないよ
こんなにかぁいい友達の事を忘れたりしないしさ
たぶん

ぼくの願いは十雉ちゃんのお願いが叶う事かな
手を伸ばして、えいっ
ふふふー掴めたよん
これで十雉ちゃんの願いはきっと叶うね

さーてとっ
声を重ねて、
おいで


宵雛花・十雉
ティアちゃん(f26360)と
大事な友達
飾らない、気弱な素の自分で

オレも夜に咲く花火は見たことあるけど
昼に咲く華は初めてかな

うん、一緒に食べよ
オレはブルーハワイにする
お祭りでかき氷を食べるなんて、なんだか懐かしい
冷たくて美味しいね
じゃあティアちゃんも、あーん

お願い事か…
なんだろ、オレって欲張りだから
欲しいものはたくさんあるけど
オレのお願いが叶う事?…ふーん、そう

忘れん坊なティアちゃんが
オレのこと忘れませんように

わざと相手に聞こえるように言ってから
ひらひらと戯れるように舞う花弁に手を伸ばし、捕まえる
ふふ、そうだね
これできっと叶う
2人分のお願いなんだから

一頻り楽しんだら声を重ねて言うよ
おいで



●招く声
「十雉ちゃんははなびって見たことある?」
 賑わいに満ちた館の通りを歩き、ティア・メル(きゃんでぃぞるぶ・f26360)は傍らを歩く宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)を見上げた。
「オレは夜に咲く花火は見たことあるけど、昼に咲く華は初めてかな」
 もうすぐ華火があがるという空を軽く見遣り、十雉は答える。ふふ、とちいさく笑ったティアも十雉に合わせて頭上を振り仰いだ。
「ぼくも昼間のはなびは初めてだよ。夜のは見た事があるんだけどさ」
 楽しみだな、と言葉にしたティアはそのまま屋台通りを目指していく。頷いた十雉もその後に続き、甘い香りのする通りを見遣った。
 するとティアがぱっと表情を輝かせる。どうやら何かを見つけたらしい。
「んに! しゃりしゃり音がするよ」
「何の音?」
「かき氷だって。一緒に食べよう」
「うん、一緒に食べよ」
 ひんやりとした雰囲気が満ちた店先へと歩を進め、二人はシロップを選んでいく。
「ティアちゃんは何にする?」
「ぼくはねーオレンジのシロップ」
「オレはブルーハワイにする」
 そんなやり取りを交わしながら、二人はそれぞれのかき氷を手にした。お祭りでかき氷を食べることが何だか懐かしく思え、十雉の口許に淡い笑みが宿った。
 橙と青の氷を其々に手にした二人は桜の樹の下に向かう。
 十雉は幹に背を預け、ティアは根本に腰を下ろす。さっそくしゃくしゃくと氷を崩して口に運んだ十雉に倣い、ティアも思いきってひとくちを頬張った。
「冷たくて美味しいね」
「あう、頭がきーんってするよ」
「大丈夫? ゆっくりね」
「んに……。でも美味しいねっ そっちはどう?」
 頭を抑えているティアに穏やかな笑みを向け、十雉はそっと一口分を差し出す。
「じゃあティアちゃん、あーん」
「あーんしあいっこだね」
 ティアもまた同様に十雉に自分のかき氷を差し出し返した。
 冷たいけれどあたたかい。不思議な気分を覚えた十雉は片目を淡く細めた。
 ゆっくりと甘い心地を楽しむ中、楽しみにしていた華火が空にあがりはじめる。弾けた音に反応したティアが空を仰げば、降り注ぐ花が見えた。
 風に舞う花は可憐だ。
「十雉ちゃんはお願い事ってある?」
「お願い事か……。なんだろ、オレって欲張りだから」
 ティアは花を見つめながら十雉に問う。
 すると十雉は願いが多すぎるのだと答えた。しかし、ティアはそれを何でもないことのように受け止めて首を傾げる。
「んー? 全部お願いしちゃってもいいんじゃない?」
「そう、かなぁ」
 ティアの屈託ない言葉と笑みに十雉の心も仄かに緩んでいく。そしてティアは降ってきた花に手を伸ばした。
「ぼくの願いは十雉ちゃんのお願いが叶う事かな」
「オレのお願いが叶う事? ……ふーん、そう」
 えいっ、とティアが掌を握り締めるとその手の中に花弁がひらりと収まった。
「ふふふー掴めたよん。これで十雉ちゃんの願いはきっと叶うね」
 にゃはは、と楽しげに笑むティア。その隣で十雉はわざと相手に聞こえるように願いを言葉にしていく。
「忘れん坊なティアちゃんが、オレのこと忘れませんように」
 彼もひらひらと戯れるように舞う花弁に手を伸ばし、そうっと願いの欠片を捕まえた。対するティアは不思議そうな顔をしている。
「お願い事をぼくに使うのは勿体ないよ。こんなにかぁいい友達の事を忘れたりしないしさ。――たぶん」
 最後に付け加えた言葉は極小さく落とされた。
 けれども十雉はそれを聞き逃さず、願っておいた方がきっといい、と呟く。
「でも、そうだね。これできっと叶う」
 何せ二人分のお願いなんだから、と言葉にした十雉はもう一度空を見上げた。見れば遠くに黒い影が見えた。おそらくはあの予知の鴉達だ。
「さーてとっ」
 行こう、とティアは十雉を呼ぶ。
 そうして二人は声を重ねて、かれらへと声を掛けた。

 ――おいで。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月舘・夜彦
【華禱】
倫太郎殿と屋台を見て回ります
差し出された手は、いつも通りに繋いで

甘いものは貴重というのもありますが
いつでも戦えるようにと、仕事柄お酒は飲まないようにしておりましたし
煙草といったものも、本体の簪に影響が出てしまうのではと思うと
日常で楽しめるものと言えば食事になってしまったのだと思います

簡単なように見えて、不規則に落ちるものを掴むのは難しいかもしれません
願いを心で唱え、花弁を掴む

この先も戦いは避けられぬもの
ならば幾度戦おうとも生きて帰れるように

明確でなければという決まりはないです
それを願った上で、如何行動するかを示さねば

さて、帰りに屋台に行きましょう
カステラ、また食べたいです


篝・倫太郎
【華禱】
いつも通り手を繋いで
のんびりと屋台を見て回ろう

夜彦……甘いもの、好きだよな
エンパイアじゃ甘いものが貴重ってのもあるんだろうけど
甘いもの食べてるときの夜彦って
気配が緩々になるから、俺にとっても悪いもんじゃない

そいや、花弁掴めると願いが成就するんだっけ?
そ、だな……
願う事なんてあんま多くないし
今までも沢山してきたから
それでも欲を出して言うなら

これまで願った事が叶うよう、
努力し続ける意志を持ち続けられるように

ってところかな?
曖昧過ぎるとダメだろか?

夜彦の応えに笑って
舞う花弁に手を伸ばす
指先に触れた花弁を落とさないよう
ぎゅっと握り込んで笑う

夜彦、一口カステラの屋台がある
ん、帰りに買いに行こうぜ



●願いの本質
 今日は桜が舞う世界で過ごす日。
 いつも通り手を繋ぎ、のんびりと屋台を見て回る。
 篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)から差し出された手を握り返し、月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)は屋台通りの賑わいを瞳に映した。
 並ぶ店々からは甘い香りが漂ってきている。それらを興味深そうに眺める夜彦の様子が可愛らしいと感じつつ、倫太郎は穏やかに笑む。
「夜彦……甘いもの、好きだよな」
「そうですね、甘いものは貴重というのもありますが……」
「ああ、エンパイアじゃ甘いものが貴重ってのもあるんだろうけど」
 倫太郎は辺りを見渡している夜彦に頷き、彼が語る言葉に耳を傾けていく。
 夜彦のはこれまで、いつでも戦えるようにと酒は飲まないようにしてきた。煙草といったものも、本体の簪に影響が出てしまうのではと思うと咽めなかった。
 それはどちらも生来と仕事柄。
「日常で楽しめるものと言えば食事になってしまったのだと思います」
「なるほどな」
 倫太郎は夜彦の言い分に納得をする。
 酒や煙草といった一般の趣向を控えている分だろうか。甘いものを食べているときの夜彦は気配が緩々になるので、倫太郎にとっても悪いものではなかった。
 林檎飴に綿菓子。
 桜のチョコレヰトやかき氷。
 それぞれに売られている甘味を眺め、時には味わいながら屋台を巡る二人は、ふと空を見上げる。其処には花を華麗に散らす華火があがっていた。
「そいや、花弁掴めると願いが成就するんだっけ?」
「そのように言われているようですね」
 ひらひらと空から舞ってくる花を見つめ、倫太郎と夜彦は見晴らしの良いところへと歩を進めていく。
 周囲ではわあわあとはしゃぎながら花をつかもうとしている子供達がいる。夜彦はまだ誰も掴めていないらしい一団を見遣った後、花弁の軌道を目で追っていった。
「簡単なように見えて、不規則に落ちるものを掴むのは難しいかもしれません」
「そ、だな……って夜彦?」
 そういった後に夜彦はすぐに花弁を掴んでいた。
 願いを心で唱えた彼は目を閉じる。この先も戦いは避けられぬもの。
 それならば――。
(幾度戦おうとも生きて帰れるように)
「すごいな夜彦。それじゃ俺も」
 言葉にしない願いを祈っている様子の彼に倣い、倫太郎も舞い落ちてきた花に腕を伸ばす。そうすればひらひらと倫太郎の手の中に花が落ちてきた。
 しかし倫太郎にとっては、願うことなどあまり多くはない。
 今までも沢山してきたから。それでも、欲を出して言うなら――。
「これまで願った事が叶うよう、努力し続ける意志を持ち続けられるように。ってところかな? 曖昧過ぎるとダメだろか?」
 その声を聞いた夜彦は緩やかに首を振り、ちいさく笑む。
 願うことは自由。
 それゆえに何がよくて何が駄目だという規定は存在しないはず。
「大丈夫ですよ、願いは明確でなければという決まりはないです。それを願った上で、如何行動するかを示さねば」
 倫太郎に告げながら、己を律するように言葉にした夜彦。
 対する倫太郎は夜彦の応えに笑って、指先に触れた花弁を落とさないようぎゅっと握り込んだ。花に願うのは切欠で、叶うかどうかは結局己次第。
 きっとそういうことなのだと理解した倫太郎と夜彦は花を手にしたまま歩き出す。
「さて、帰りに屋台に行きましょう」
「夜彦、一口カステラの屋台がある」
「カステラ、また食べたいです」
「ん、買いに行こうぜ」
 同じ思いと言葉を交わしながら、二人は再び賑わう屋台通りに向かっていった。これからもまた二人で過ごす穏やかで心地好い時間が続いていくのだろう。
 繋いだ手は離さずに。
 掴み取った花弁も思いも、何処かに落としてしまわぬように――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】
昼に上がる華火というのも良いものだねぇ
スカイブルーのバックに
色とりどりの華がよく映える

手にはイチゴ味のかき氷
お祭りの屋台の定番だよね
いやぁ人にご馳走してもらうかき氷は
より一層美味しく感じられるなぁ

ひらひらと舞う花弁って
簡単に掴めそうで案外難しいよね
花弁キャッチに失敗して
バツが悪そうにこちらを見る梓が
何だか微笑ましくてふふっと笑っちゃう
いいよいいよ、こういうのは所詮は願掛けだし
もともと俺は早く死ぬだろうなって思っているし
嫌味でも何でもなく本心で

俺も一つ、何かを想い
花弁に手をのばすと…
吸い込まれるように掌の上に落ちてくれて
やったね、と笑みがこぼれる
花弁にどんな願いを込めたかは…秘密


乱獅子・梓
【不死蝶】
華火が打ち上がったあとに
天から降り注ぐ花弁もまた見事で
結婚式だとかお祝い事にも
使われそうなパフォーマンスだな

手にはレモン味のかき氷
綾の分はまた上手いこと奢らされてしまった…
今度出かける時はちゃんと財布持たせないと

そういえば花弁を掴めれば
願いが叶うんだったか
じゃあ試しに
いつも無茶ばかりする綾が
早くおっ死にしませんように、っと

空いてる手を伸ばして花弁を掴…めずに
スカッと逃げられる
……な、なんか悪い
早死にしませんようになんて願いをかけて外すと
まるでそういうことみたいじゃないか
いやいやいや、朗らかに言うんじゃない

見事キャッチに成功した綾に
何を願ったんだと聞いても
返ってくるのはいつもの笑顔だけ



●掴み取る願い
 空に花が咲き、色とりどりの花弁が舞い落ちてくる。
 スカイブルーの爽やかな色彩を背にして降ってきた花を眺め、灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)は上機嫌に語った。
「昼に上がる華火というのも良いものだねぇ」
 空の色に華がよく映えて、地上からの眺めもとても良い。乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)も綾に頷きを返し、次々とあがる華火を見つめていた。
 二人は今、桜の樹の傍に腰を下ろしている。
 華火が快い音を立てて打ち上がった後、天から降り注ぐ花弁もまた見事だ。
「結婚式だとかお祝い事にも使われそうなパフォーマンスだな」
「感謝と願いが込められてるんだっけ。素敵だね」
 満足気に双眸を細めた綾の手には、手にはイチゴ味のかき氷がある。
 対する梓の手にはレモン味のかき氷があり、二人はその味を楽しみながら景色を見つめていた。やはりかき氷はお祭りの定番中の定番だ。
「いやぁ人にご馳走してもらうかき氷はより一層美味しく感じられるなぁ」
「……また奢らされた」
 実は綾の分は梓が払っており、彼が上機嫌なのはそれが理由でもある。
 今度に出かける時はちゃんと財布持たせないと。そんな静かな決意を抱いた梓は今回は諦め気味に、かき氷を食べ進めていく。
 綾もまた、のんびりと氷を口に運んでいった。
 そうして二人のかき氷の容器がすっかり空っぽになった頃。
 再び華火が空にあがった。
 天を彩る光景を暫し眺めていた梓は、ふと或ることを思い出す。
「そういえば花弁を掴めれば願いが叶うんだったか」
 そうだね、と答えた綾も地上近くまで落ちてきている花を見渡した。花の欠片はひらひらと風に流されては舞い上がり、軌道を読み辛い。
「簡単に掴めそうで案外難しいよね」
「それでも物は試しだ」
 立ち上がった梓は風が流れてくる方向を見遣り、手を伸ばす。
 がんばれー、と見守る綾。ひらりと近付いてきた花弁に掌を向ける梓。
 そして――。
「いつも無茶ばかりする綾が早くおっ死にしませんように、っと」
 梓は願いと同時に手を握る。
 結果はハズレ。擦り抜けていった花弁は遠い彼方に飛んでいってしまった。だが、もう一枚の花が近くに流れてきた。今度こそ、と空いてる手を伸ばして花弁を掴――めずに、またもやスカッと外して逃げられる。
「……な、なんか悪い」
 花弁キャッチに失敗した梓は、バツが悪そうに綾を見た。対する綾はその姿が微笑ましく感じて、ふふっと笑う。
「いいよいいよ、こういうのは所詮は願掛けだし」
「早死にしませんように、なんて願いをかけて外すとまるでそういうことみたいじゃないか。だから……」
「もともと俺は早く死ぬだろうなって思っているし、大丈夫だよ」
「いやいやいや、朗らかに言うんじゃない」
 嫌味でも何でもなく本心で語る綾に向け、梓は首を横に振る。そんな綾だからこそ、あんな願いを掛けたのに何だか本末転倒だ。
 どうするか、と考えて空を見上げる梓の横に綾も佇む。
「俺も一つ、何か――」
 そう想って花弁に手を伸ばすと、まるで吸い込まれるように花弁が綾の掌の上に落ちてきた。やったね、と笑みを零した綾の手元を覗き込んだ梓は感心する。
「何を願ったんだ?」
「……秘密」
 綾が花弁にどんな願いを込めたかは明かされなかった。
 結局は返ってきたのはいつもの笑顔だけで、梓は肩を竦める。それでも、このひとときの中に満ちていく心地は悪いものではなかった。
 そして、二人はもう暫しの穏やかな時を過ごしていく。
 花に願えずとも、それで叶わなくなるわけではないと分かっているから大丈夫だ。
 彩の傍らで、梓はそっと思う。
 どうか、死とは遠いこんな時間が長く続いていくように、と――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

唄夜舞・なつめ
へぇ、
桜かァ…いいな。
最近はアイツと依頼で『猫』になったり『妻』になったりで忙しかったからな…今日はゆっくり花見でも楽しむかァ!

ンし!そうと決まれば
屋台で酒と氷菓だな!
おっちゃん!
ビールと棒氷菓15本!
?だァいじょうぶ!俺ァ氷菓が主食だからよ!そんな簡単に腹は壊れねぇンだ!あんがとなー!
…っとと、ンだよおっちゃん。
…華火?ヘェ…掴めっと願いが叶う…か。おもしろそーだな!いってみるわ!さんきゅ!

酒と氷菓を嗜みながら華火に願いをかける
『 』を教えてくれ。
俺を、教えてくれ。
そして今度こそ幸せに歳とって、
幸せに……死なせてくれ。

(ゆっくり手を伸ばし)
さァ…俺のこの我儘な願い…
叶えられっか…?



●空白の何か
「へぇ、桜かァ……いいな」
 唄夜舞・なつめ(夏の忘霊・f28619)は頭上を仰ぎ、桜の木を眺める。
 思えば最近は猫になったり妻になったりと忙しかった。今日はゆっくり花見でも楽しむかァ、と意気込んだなつめは屋台通りにも目を向ける。
「ンし! そうと決まれば屋台で酒と氷菓だな!」
 賑わう通りに向かったなつめは、きょろきょろと辺りを見渡してみた。
 すると其処には酒を扱う店があった。
「酒と棒氷菓十五本!」
 威勢よく注文をすれば、老人店主から訝しげな視線が返ってきた。どうやらあまりの大量注文に心配されているようだ。
「そんなにひとりで食べるのかい?」
「?だァいじょうぶ! 俺ァ氷菓が主食だからよ!」
「それなら構わないけれど……」
 はいよ、と渡されたのは注文通りの酒と氷菓。お腹を壊さないように気をつけるんだよ、と告げられたことでなつめはニッと笑う。
「そんな簡単に腹は壊れねぇンだ! あんがとなー!」
 そのまま去ろうとすると、店の人があまり急がなくてもいいと呼び止めた。首を傾げたなつめは立ち止まり、何かまだ用があるのかと問う。
「……っとと、ンだよおっちゃん」
「待ちなアンタ、アタシは『お姉さん』だよ?」
「え!?」
 おっちゃん、と呼び掛けた相手は女性だったようだ。お年を召している中性的な見た目だったため、なつめも勘違いしてしまったらしい。
「まぁいいよ。もうすぐ華火があがるらしいからね、見ていったらどうだい?」
「……華火?」
「そうさ、アタシは祭と聞いて余所から出店しに来た者だけれどね。綺麗らしいよ」
 それに、と店主は語っていく。
 その話に耳を傾けたなつめは、うんうんと頷いていった。
「ヘェ……掴めっと願いが叶うか。おもしろそーだな! いってみるわ!」
 お姉さんさんきゅ、と手を振ったなつめは見晴らしの良い場所に駆けていく。そうして彼は酒と氷菓を嗜みながら、華火に胸中で願いをかけてみた。
 
 ――『  』を、教えてくれ。
 ――俺はだれか、教えてくれ。

(そして今度こそ幸せに歳とって、幸せに……死なせてくれ)
 ゆっくりと手を伸ばしたなつめの掌の上には、一枚の花弁が乗っていた。
「さァ……俺のこの我儘な願い……叶えられっか……?」
 言葉にした思いは風にとけていく。
 誰も答える者のいないこの場でたったひとり、なつめは暫し空を見上げていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユヴェン・ポシェット
ミヌレとクーと共に、屋台巡りをしつつ桜の花を楽しむ

華火の舞い散る花弁を小さな脚で取ろうとしているミヌレとクー。
願いがあるのか?それとも、綺麗な花が気になるだけなのか…

…願い、か。
望みだとか願いだとか…以前は好きではなかった。自分の中のそういったものを認めてしまうのが怖かったんだろうな、ずっと。
自分に心境の変化があったのがいつかわからないが、今ではこういうものに触れるのも悪くないと思っている自分がいる。
掴めるだろうか。
「良い布に出逢えますように」、そんな願いをかけ、手を伸ばす。
テュットのマントをダメにしてしまったので…良いものが見つかると良いな、と。
まあ、結果はどうあれ見つけるまで探すんだけどな



●探しものはきっともうすぐ
 ゆったり、のんびりと祭の屋台を巡る。
 嵐の前の静けさとでも言うべきか、祭のひとときは穏やかに過ぎていた。
 ユヴェン・ポシェット(opaalikivi・f01669)は槍竜のミヌレと、狐のクーと共に甘い香りの漂う屋台を見て回っていく。
 時折、風に揺れる桜の樹や花を楽しみながら歩く心地はとても良いものだ。
「あれが華火か」
 空に昇ったひとすじの光を見上げ、ユヴェンは双眸を細めた。天で咲いた花は風に乗って四方に散り、ひらひらと花弁が落ちてくる。
 それに気がついたミヌレとクーは懸命に花弁を追い、ぴょこんとジャンプしたり前脚で掴もうとしたりと大いにはしゃいでいた。
 舞い散る花弁と戯れているふたりを眺め、ユヴェンは問いかけてみる。
「願いがあるのか?」
 するとミヌレ達はその通りだと示すように何度も跳ねた。
 綺麗な花が気になるだけかとも考えたが、ミヌレとクーなりに考えがあるらしい。ユヴェンは近くの桜の樹の傍に座り、ふたりの様子を見守っていた。
 そして、ふと考える。
「……願い、か」
 思えば望みだとか願いだとかいったものは、以前は好きではなかった。好ましくないと思っていた理由は、自分の中のそういったものを認めてしまうのが怖かったゆえ。
 ずっとそうだった。
 今になって思うと、前までは明確な理由も解らずにいた気がする。
 心境の変化があったのがいつかはわからないが、こういうものに触れるのも悪くないと思っている自分がいる。
 仲間が増えたからだろうか。或いは――。
 何となく思考を纏めながら、ユヴェンはひらりと舞ってきた花弁に手を伸ばす。ミヌレもクーもまだ掴めてはいないらしく、楽しみながらも四苦八苦していた。
 掴めるだろうか。
 そう考えつつ、ユヴェンは掌を掲げた。
「良い布に出逢えますように」
 少し前の戦いでテュットのマントをダメにしてしまったので、良いものが見つかると良いな、と。そんな願いをかけていると風が吹き抜け、まるで吸い込まれるようにユヴェンの手に花弁が乗った。
 その様子にはっとしたミヌレとクーが、すごいすごいと言うようにユヴェンに駆け寄ってきた。花弁が飛ばないよう、そっと掌を握り締めたユヴェンは薄く笑む。
「次はミヌレとクーの分を掴むか」
 願いを叶えるためのおまじないは何度だって挑戦しても良い。
 立ち上がったユヴェンは駆け出したふたりの後を追い、歩を進めていった。
 その先でまた、鮮やかな華火が上がってゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

水標・悠里
満天の桜を見て、なんて季節外れなんだろうと思う
いつでも咲いている
私にとって忘れられない景色を、刻むように

喧噪から離れてぼうっとしながら見上げる
偶に降ってくる花弁を見送り
つまみ上げては放すの繰り返し

願い事は叶わない
人の道を踏み外すこの願いを、叶えてはいけない
恋い焦がれるように憧れて
燃えて尽きる、そんな感情など
私ごと燃えて弾けて消えてなくなれば良い

花なんぞに形を残さず
灰となって塵になればそれで

一番はきっと
そんなことを考える自分が嫌い

春になる前に
この思いが花実為す前に
冬に閉ざされ眠ったまま
見えないところに埋もれていれば良い
きっとそれが一番の幸せだと思う
ごめんなさい

私の願いは



●桜はまだ遠く
 なんて季節外れなんだろう。
 桜を見てそう思ったのは、水標・悠里(魂喰らいの鬼・f18274)にとって、この世界の在り方はあまり馴染みがないからだ。
 自分が居たあの場所では、桜は春だけのものなのに。
 この世界では、こんな満天の桜はいつでも美しく咲いている。
(私にとって忘れられない景色を、刻むように――)
 悠里は祭の喧噪から離れ、暫しぼうっとしながら桜を見上げていた。
 偶に降ってくる花弁を見送り、落ちたそれを摘み上げては放すの繰り返し。何の意味もないことは分かっていたが、そうすることで気を紛らわす。
 皆が願いを叶えるために、空や風に手を伸ばしているようなことは出来ない。
 誰もが本当にそれだけで願いが叶うのだと信じているわけではないことを、悠里はちゃんと知っている。それでも、彼は願いの花には手を伸ばさない。
 視線の先では子供達が笑いながら駆けていった。
 背が伸びますように。
 好きな子に振り向いてもらえますように。
 子供達が花に込める願いが聞こえた。けれど、と首を横に振った悠里は落ちていた桜の花弁をふたたび掴んでから離す。
 あのような可愛い願いであれば、きっといつかは叶うだろう。
 己が裡に抱いている願い事は、叶わない。
 人の道を踏み外すこの願いを、叶えてはいけない。
 恋い焦がれるように憧れて燃えて尽きる。そんな感情など自分ごと燃えて弾けて消えてなくなれば良いと思っていた。
 されど、己が抱いた願いは消えない。
 だからこそ花なんぞに形を残さず、灰となって塵になればそれでいい。
 一番はきっと、そうだ。
 そんなことを考える自分が嫌いだということ。
 悠里はぼんやりと桜の花を眺め続けた。華火があがって空を彩っても、屋台通りから賑わう声が聞こえても、悠里はそちらに目を向けたりはしない。
 桜だけが今の彼にとって思いを向ける対象だ。
 何も語らぬまま、悠里はただ思う。
 春になる前に。
 この思いが花実為す前に、冬に閉ざされて眠ったままで――。
 何もかも、見えないところに埋もれていれば良い。
 きっとそれがただの幸せだと思うから何もしない。してはいけないのだと考えて、悠里はじっと春の象徴を瞳に映していた。
「ごめんなさい」
 零れ落ちた言の葉は誰にも聞かれず、風に乗って消えていった。

 私の願いは――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜霞・よすが
綺麗な桜に楽しいお祭り
それは普通のことのはずなのに
今日は違うみたいな不思議な感じがする
なんでだろう?って
みんなの会話とか日々を思い返してみた

俺は最近になってみんなと知り合ったから
知らないことがたくさんあって
お祭りの誘いもあったけど
あえて一緒に行かなかったのも本音だよ
だけどみんながざわついてたから
きっと関係あることなんだって

前に館で華火があがったことあって
俺さ、一番最初に花弁掴んだんだ
だからまた掴めるかな
ううん、掴んでみせるよ
俺の幸運信じていいよな?

そしたら空を見上げてひとり願うんだ
皆が願ってること信じてること
俺もその輪の中にに混ぜてくれた
優しい櫻の龍のひとが思うこと
望むカタチになるようにって



●空に咲く
 賑わう人々の声と、華火が上がる快い音が聞こえた。
 綺麗な桜に楽しいお祭り。いつも通りの館。それは普通のことのはずなのに、今日は少し違う不思議な感じがする。
 夜霞・よすが(目眩・f24152)は首を傾げ、なんでだろう? と考えてみた。
 そして、みんなの会話や日々を思い返していく。
 よすがが迎櫻館に訪れ、みんなと知り合ったのは最近になってから。知らないことがたくさんあって、お祭りの誘いもあったけれども、あえて一緒には行かなかった。
 それも本音であり、よすがの選択だ。
 だけどみんながざわついていたから、きっと関係があることなのだと感じていた。
 だからこそ今、よすがは此処にいる。
 そのとき、青空に大きな火と花が咲いていった。
「華火だ。やっぱり綺麗だな」
 空を彩り、ひらひらと舞う花を見上げたよすがは手を伸ばす。
 こういったときに偶然にも発揮できた運がある。それを思えば、今回だってまた同じように花を掴めるような気がした。
「掴めるかな。ううん、掴んでみせるよ」
 風が吹き抜け、空から降る花を揺らめかせている。
 よすがは軽く駆け出して、風に舞う花がゆく方へと足を進めていった。もう少し、あと少しで掴める距離にまで花が落ちてくる。
「俺の幸運、信じていいよな?」
 よすがはすぐ近くまで舞い降りてきたひとひらの花を掴もうとした。
 次の瞬間、花弁が指先を擦り抜けていった。
 しかし、それで終わりではないことをよすがは知っている。視線で花を追い、しかと瞳で捉えたよすがは更に手を伸ばして掌をぎゅっと握った。
 そうすれば一度は逃げた花が、よすがの手の中にしっかりと収まる。大切なのは運だけではなく、一度は駄目でも諦めないことだと知れた気がした。
 つかまえた、と掌の中の花弁を覗き込んだよすがは、そのまま空を振り仰いだ。
 そして、ひとり願う。
 みんなが願っていること、信じていること。
 自分もその輪の中に混ぜてくれた、優しい櫻の龍のひとが思うこと。
 それが、どうか――望むカタチになるように。
 よすがなりの願いを花弁と華火に込めて、桜の館への懐いを馳せる。華火はまだ上がり続けており、祭のひとときは巡っていく。
 この後に巡る戦いや邂逅を思い、よすがは暫し華火の空を見上げ続けた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

壱織・彩灯
亜厂(f28246)と

このひととき、働くことなど忘れて
天の華へ想いを馳せればよいこと
なあ、猫よ、と楽しいことは遠慮なく混ざろう

噫、何処かで鴉の鳴き声か
俺の鬼灯の仕業かと思ったが…
あかりちゃんは童歌も詳しいのか?
きょとんと首傾いで

花弁を摘んで、
――なんと、まあ、俺にも落ちてきてくれた
そうだな、ひとは面白きことを産み出してくれるから
全く飽くことなど、無いままだ
願うよりも奪うのが性分だが…、
そうだなあ。今だけは、ひとつ願ってみるか?
『たくさんの世界で美酒に出逢えますように』
俺らしいだろう、と戯けた調子でころりと咲みを

さあ、先ずは此処の美味い酒を
甘味はあかりちゃんのお勧めを頼ろうか


五月雨・亜厂
彩灯(f28003)と

こんにち歩くは出稼ぎ世界
華火が上がるらしいと店の話題になっていたし
どうだいひとつ酒吞の若人
声掛け連れ立つ

昼からなんと黒いこと
鴉、鴉、何故鳴くの、っと
まるで幽世のよう、思わないか?
はてさていつか、遠い昔に聴いたような?

願掛けがあるらしい
あまり考えたことがなかったなあ
人の子は面白い、ああ今は自分も人の子だ
見目だけならばと三つ尾を揺らしてからから笑う
願うた事はあるか?
旨い酒に出逢えるように、にゃあんてな
にゃあごとひとつ、手招き仕草
おやおやまあまあ、同時に同じ
我らきってもきれぬ、酒のこと

屋台で仕入れた甘味携え
酒の肴に話もひとつ
おすすめ、そうさな
かすていらはどうかな、そこなお代官様



●酒と甘味
 こんにち歩くは出稼ぎ世界。
 そんな風に語った五月雨・亜厂(赤髪の黒猫・f28246)の傍らを、壱織・彩灯(無燭メランコリィ・f28003)が歩いていく。
 彼はそう話したけれど、このひとときは働くことなど忘れても良い時間。
 天の華へ想いを馳せればよいことだと考え、彩灯は祭の景色を眺める。華火が上がるらしいと聞いた亜厂も空を仰ぎ、彩灯に声を掛けた。
「どうだいひとつ酒呑の若人」
「なあ、猫よ」
 楽しいことは遠慮なく混ざろうといって、彩灯も賑わう通りを示す。
 しかしそのとき、二人の耳に鳥の鳴き声が届いた。
「噫、何処かで鴉の鳴き声がするな」
「あちらか。昼からなんと黒いこと。鴉、鴉、何故鳴くの、っと。まるで幽世のようだと思わないか?」
「俺の鬼灯の仕業かと思ったが……あかりちゃんは童歌も詳しいのか?」
 軽く歌い出した亜厂に向け、彩灯はきょとんと首を傾ぐ。対する亜厂は軽く考え込むような仕草を見せて答えた。
「はてさていつか、遠い昔に聴いたような?」
 鴉は気になれど今は楽しむ方が先決。
 あまり警戒してしまっても双方によくない影響を及ぼすかもしれないと考え、彩灯達は先に進んでいく。
 そうしていると空に華火が上がった。
 天を彩った花々が風を受け、更に鮮やかな様相となって祭を飾る。
 ひらり、ひらりと落ちてきた花弁。偶然にもそれを摘むことが出来た彩灯は、ぱちぱちと幾度も瞼を瞬いた。
「――なんと、まあ、俺にも落ちてきてくれた」
「願掛けがあるらしいな。あまり考えたことがなかったなあ」
 彩灯の手の上を覗き込んだ亜厂は感心したような視線を向けた。聞くところによると人は花に願いを込めているらしい。
 その間にも幾つかの華火が空に打ち上げられていった。
 ひとつずつを見てみれば、それはただの火であり、何の変哲もない花だ。しかしそれらを組み合わせたものに人は焦がれ、願いを込めたりもする。
「人の子は面白い」
「そうだな、ひとは面白きことを産み出してくれるから、全く飽くことなど無いままだ」
「ああ今は自分も人の子だ」
 亜厂は見目だけならばと、三つ尾を揺らしてからからと笑った。
 そうして、亜厂は続けて問う。
「願うた事はあるか?」
「願うよりも奪うのが性分だが……、そうだなあ。今だけは、ひとつ願ってみるか?」
 彩灯は掌の上の花弁を掲げ、思いを声にしてみた。
「たくさんの世界で美酒に出逢えますように」
「旨い酒に出逢えるように、にゃあんてな」
 そうすれば亜厂も声を合わせて、彩灯の願いに思いを重ねる。俺らしいだろう、と戯けた調子でころりと咲む彩灯と、にゃあごとひとつ手招く仕草をする亜厂。
「おやおやまあまあ、同時に同じ」
 我らきってもきれぬ酒のこととあらば、何としても叶って欲しいもの。そのように感じた亜厂は双眸を緩く細めた。
「では、早速叶えに行くとしようか」
 彩灯が見遣ったのは、先程通ってきた屋台の一角。
 さあ、先ずは此処の美味い酒を手に入れて、甘味を酒の肴として集めにいこう。あかりちゃんのお勧めを頼む、と告げた彩灯が歩み出せば、亜厂も其処に続く。
「おすすめ、そうさな」
「何かあったか?」
 亜厂が屋台を見回している最中、彩灯は期待混じりの視線を向けた。そして暫し後、亜厂は或る店を指先で示す。
「かすていらはどうかな、そこなお代官様」
「悪くはないな。ひとつ、貰いに行くか」
 連れ立った二人は歩を進め、心地好い祭の喧騒の中へと踏み出していく。
 その後ろ姿を、遠くの樹枝に止まる鴉達がじっと見つめていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

宵鍔・千鶴
菫(f14101)と

着飾る傍らの彼女の涼し気で雅な浴衣に
転ばぬよう自然と差し出す手も慣れたもの
…よく似合ってる、

館の桜はいつも優しく包んでくれて
安心する、此の場所が好きなんだ
菫にも見せられて良かった
…俺を?
ふふ、想い出してくれるなら
きみに桜を贈ろうか、なんて戯れひとつ
馨る屋台に目移りは当然
さて、甘味の制覇付き合ってくれる?
半分こなら楽勝かも

極彩に咲く天の花から
はらはら溢れる花弁へ伸ばす手は
――ああ、やっと俺の元へ来てくれた

共に掴めた花びら翳して笑みも綻び
願いは、
『菫が幸せに在れますように。』
だって、結局きみが笑ってると俺も嬉しいから
一緒に居るよ

小さな幸せの欠片を掴んで
もう少し俺と夢を見よう


君影・菫
ちぃ(f00683)と

浴衣で着飾るのは初めての
装いは大人、中身はいつもの童女のまま
繋いでくれる手はいつもと同じくやさしくて
ふふ、ちぃはやっぱおとーさんやなあ
安心するもの

ここ、ほんに綺麗やね
ちぃの好きな場所、うちも見れて良かった
あんな、うち桜を見るとちぃを思い出すんよ
未熟なこころがあたたかくなる心地

屋台のあちこちに目移りしながら
ん、もちろん
半分こなら欲張っても楽勝やんね?

空に咲いた華からはらりと舞う花びら
倣うように手を伸ばせば

――ふふ、つかまえた

翳した花びら
うちの願いはなあ、
『ちぃと一緒に居たい』
もう叶っとるんやけど
これからも、そうだとええなあて

しあわせの形は花びら
ちぃ、うちにもう少し夢をみせて



●倖せのひとひら
 祭に合わせた装いで桜の通りを歩く。
 彼女の涼し気で雅な浴衣姿は美しい。転ばぬよう自然と差し出す手も慣れたもので、宵鍔・千鶴(nyx・f00683)は淡く笑む。
「……よく似合ってる」
 言葉と共に差し出された手を取り、君影・菫(ゆびさき・f14101)も双眸を細めた。
 浴衣で着飾るのは初めて。
 装いは大人だけれど、中身はいつもの童女のまま。繋いでくれる手はいつもと同じくやさしくて、菫は安心の気持ちを抱く。
「ふふ、ちぃはやっぱおとーさんやなあ」
 手を取り合って先に進めば、賑わう屋台と行き交う人々が見えた。そして、何よりも印象的なのはやはり桜。
 館の桜はいつも優しく包んでくれる。
「ここ、ほんに綺麗やね」
「此の場所が好きなんだ。菫にも見せられて良かった」
「ちぃの好きな場所、うちも見れて良かった」
 菫が感嘆の言葉を落とすと、千鶴が桜の樹を見上げた。互いに心地好い思いを抱いている中で、菫がふとした思いを声にする。
「あんな、うち桜を見るとちぃを思い出すんよ」
「……俺を?」
 未熟なこころがあたたかくなるのだと菫が語れば、千鶴の口許に笑みが咲く。
 そうして千鶴はそっと歩き出した。
「想い出してくれるなら、きみに桜を贈ろうか」
 そんな戯れをひとつ落として、千鶴は屋台の方へと菫を誘っていく。
 馨る屋台に目移りは当然。菫も同様に周囲を見渡して、嬉しい、と答えた。
「さて、甘味の制覇付き合ってくれる?」
「ん、もちろん」
 頷きと一緒に視線が重なる。そして、次の瞬間。
「半分こなら楽勝かも」
「半分こなら欲張っても楽勝やんね?」
 ほとんど同じ言葉が紡がれ、二人は顔を見合わせた。考えていることが同じだと知って何だかおかしくなる。
 そして、笑いあった二人は甘味の屋台をひとつずつ巡っていった。
 やがて千鶴達は華火がよく見られる場所へ向かう。ちょうどそのとき、青空を彩る華が天に咲いていった。
 極彩に咲く天の花は幾つもの軌跡を描きながらはらはらと舞う。
 願いを込めて、ひとひらを掴めば叶う。
 華火に纏わるいわれを思い返した二人はそれぞれに花を見つめた。
 溢れる花弁を掴めるように。願ったことを確かなかたちに出来るように、と思いながら菫は千鶴に倣うように腕を伸ばした。
「ふふ、つかまえた」
 最初に花を掴み取ったのは菫。
 掌の上に乗った花弁は愛らしくて可憐だ。千鶴は菫の微笑みもまた可愛らしく思えて、良かった、と花を見遣る。
 それから千鶴は視線を戻して、ひらりと舞い落ちてきた花を瞳に映した。
 風に揺蕩う花は気紛れでなかなか掴むことが出来ない。けれども諦めずに手を伸ばし続ければ、漸く一枚の花が千鶴の手の中に収まった。
「――ああ、やっと俺の元へ来てくれた」
 共に掴めた花を翳せば、更なる笑みが綻んでいく。そして、二人はどんな願いをしたのかと互いに聞いた。
「うちの願いはなあ、『ちぃと一緒に居たい』。もう叶っとるんやけど、これからも、そうだとええなあて思って」
 菫が答えた言葉を嬉しく思い、千鶴も自分の願いを告げていく。
「俺は『菫が幸せに在れますように』にしたよ」
 だって、きみが笑っていると嬉しいから。
 願いは絶対に叶えられる。
 一緒に居るよ、と伝えた千鶴と、そっと首肯した菫の思いと視線が再び重なった。
 華火の花と混ざって桜の花弁がふわりと空に舞う。
「ちぃ、うちにもう少し夢をみせて」
「もう少し俺と夢を見よう」
 桜源郷で掴んだのは、ちいさな幸せの欠片。
 きっとこの時間と心地と、花こそが――二人にとってのしあわせの証。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

誘名・縁
🌸迎櫻館

甘やかな香りに誘われるように
華火祭りを漂い泳ぐゆく
賑やかな様子に桜が笑んで心も華やいでいくよう

千織のあねさま、碧のあにさま!
慣れぬ人混みに流されそうになりながら緩り昼の華火を楽しむのです
さくらも今日は満開に咲いて笑むようで
笑みを重ねてご馳走を頂きましょう
あら、碧のあにさまが林檎飴を選んでくださるのです?
それはいっとう甘やかで美味なことでしょう
縁はとなりの桜飴も欲しいですの
千織のあねさま、チョコレエトも召し上がりましょう?
とと様の作るチョコレエトのように美味しいのです
美味なる花に頬を綻ばせ

華火に手を伸ばす

とと様と、名も知らぬはずのあの神の―願いがとげられますよう
さくらも祈っているのです


橙樹・千織
【迎櫻館】

祭の賑わいと香りに耳と尻尾がそわり
昼の花火は初めてなので楽しみですねぇ
とはいえ、まずはお祭りを巡りましょうか
お二人とも何処か行きたいところはありますか?

あら、りんご飴…小さいものもあるのですねぇ
どれが美味しいか、碧さんに目利きをお願いしようかしら
縁さんの桜飴も美味しそうですねぇ

チョコも美味しそうですねぇ
ええ、そうしましょう
ふふ、桜のチョコレートは外せませんねぇ
碧さんもチョコいかがですか?

あら、華火が…
空に咲く華を見上げ心で願うのは
『館のみなさんの幸せな日々と大切なものを護れますように』
そうと手を伸ばし、花弁が落ちてくるのを待ってみましょう
※掴めるか否かはお任せ


劉・碧
🌸【迎桜館】

人で賑わう祭りの中へ、先へ先へと進んでいく千織(f02428)と縁(f23531)を追いかける
甘い匂いがそこかしこ漂っているが気にすまい

「美味いやつ選んでやるから、ちっと待ってな」
目利きは得意だ、色々見比べて条件に合う林檎飴を選んで手渡そう

それぞれが思い思いに過ごしている様子を楽しむとしよう
「桜のチョコか…成る程、外せないな」
「ん…縁が好きなの選びな」
俺もひとつ桜飴をいただこう
チョコも桜飴も、皆で食べると美味いな

華火が昼間に見えるのは不思議なものだ
変わらぬ桜景色と桜花火
──さて、酒は無いが悪い気はしねぇな
見上げる先の華火へ、皆の先行きに幸いあれと手を伸ばす


(※掴めるかはお任せ)



●縁を結んで
 甘やかな香りに誘われるように華火祭を進む。
 祭の賑わいは心地好いもので、心も浮き立っていく。
 橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)は耳と尻尾をそわりと揺らし、誘名・縁(迎桜・f23531)は心のままに視線を巡らせた。
 人々の笑顔や声が溢れる様子に桜が笑んで、気持ちまでも華やいでいくようだ。
「昼の花火は初めてなので楽しみですねぇ」
「千織のあねさま、碧のあにさま! 行きましょう!」
 まずはお祭りをまわりましょうか、と千織が誘うと縁がこくりと頷く。慣れぬ人混みに流されそうになりながらも、縁はご機嫌だ。
 館のさくらも今日は満開に咲いていて、まるで微笑んでいるかのよう。
 先へ先へと進んでいく二人を追いかけるのは劉・碧(夜来香・f11172)だ。
 人で賑わう祭の最中へ進めば、甘い匂いがそこかしこから漂ってきたが、碧は特に気にはしないようにする。
「お二人とも何処か行きたいところはありますか?」
「まあ、どうしましょう。たくさんあって選びきれません」
 振り返った千織が碧達に問うと、縁が楽しげな笑みと共に正直な答えを返した。
 すると碧が歩を進め、手近な屋台に二人を招く。
 どうやら其処は果実飴を扱う店らしい。
「美味いやつ選んでやるから、ちっと待ってな」
 目利きは得意だ、と告げた彼は店先に並ぶ林檎飴を選んでいく。碧が良いものを探してくれている間に千織と縁も屋台を覗き込む。
「あら、りんご飴……小さいものもあるのですねぇ」
「碧のあにさま、宜しくお願いしますね」
 目利きに自信があるならきっとそれはいっとう甘やかで美味なはず。そうしていると、碧が数ある品々の中から選び取った姫林檎飴を二人に手渡す。
「ほら、これが美味いはずだ」
「ありがとうございます、碧さん」
「艶めいていて綺麗です。あと、縁はとなりの桜飴も欲しいですの」
 飴を受け取った千織と縁は彼に礼を告げる。そして、縁は屋台横に置いてある別の飴にも興味を示した。
「ん……縁が好きなの選びな。俺もひとつ桜飴をいただこう」
「桜飴も美味しそうですねぇ」
 和やかな心地が巡り、三人は甘やかさを感じながら屋台通りを進んでいく。少し歩いた先には更に甘い香りが漂っていた。
「チョコも美味しそうですねぇ」
「千織のあねさま、チョコレエトも召し上がりましょう?」
「ええ、そうしましょう」
 縁と千織は様々な甘味が並ぶ一角に向かう。
 柘榴のチョコに花型で桜味のチョコ菓子など、先程の飴にも負けないくらいの煌めきと甘さが其処に宿っている。
 碧は、それぞれが思い思いに過ごしている様子を眺めて楽しんでいた。
 そんな中で桜型の菓子を選んだ千織が碧を呼ぶ。
「ふふ、桜のチョコレートは外せませんねぇ。碧さんもチョコいかがですか?」
「桜のチョコか……成る程、外せないな」
 千織の傍に歩み寄った碧は興味深そうに屋台に並ぶ菓子を見下ろした。縁はというと、既に購入したチョコを頬張っている。
「とと様の作るチョコレエトのように美味しいのです」
 美味なる花に頬を綻ばせ、縁はご満悦。
 向こうで食べよう、と少女達を誘った碧も桜のチョコレートを包んで貰った。
 そうして、一行は朱塗りの橋の上に差し掛かった。
 其処は空も桜も屋台もよく見通すことの出来る場所で、自然と三人が立ち止まる。此処で風を受けながら暫く過ごすのも良いと感じて、碧は橋からの景色を瞳に映した。
「チョコも桜飴も、皆で食べると美味いな」
「はい、とっても美味しいですの」
 碧は双眸を静かに細め、縁もにこやかに甘味を楽しんでいく。
 それから暫し後。
 快い音が響いたかと思うと、空に向かって華火があがりはじめた。
「あら、華火が……」
「始まったな」
「見てください、お花が次々にあがっています」
 千織が空を振り仰げば、碧と縁も天に眼差しを向ける。
 華火が昼間に見えるのは不思議なものだ。それも火ではなく花が咲くからだろう。変わらぬ桜景色と櫻華火は好いものだ。
「――さて、酒は無いが悪い気はしねぇな」
 碧は見上げる先の華火へ、皆の先行きに幸いあれ、と願って手を伸ばす。
 千織も空に咲く華に向けて、心の中で願った。
(館のみなさんの幸せな日々と大切なものを護れますように)
 そうっと手を伸ばした千織は無理につかもうとはせず、花弁が落ちてくるのを待ってみる。そうすればまずは碧に、続けて千織の方に花弁が流れてきた。
 それも、たくさん。
 風によって流れてきた多くの花が朱橋を彩ったことで、自然に二人の手に花弁が集まってきたのだ。何という偶然か、それとも必然か。
 緩やかに眸を緩めた縁も両手を華火の花に伸ばした。そして、白桜の娘は希う。
「さくらも祈っているのです」
 ――とと様と、名も知らぬはずのあの神の願いがとげられますよう。
 どうか、呪も厄も解けてゆくように。
 願ったことをただ思うだけで留めさせないために。
 櫻はあえかに綻んでいく。想いを迎えて、桜花として咲かせるが如く――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
🌸櫻沫

桜も笑顔も満開ね
微笑ましく見渡せば心も華やぐわ
浴衣を纏い桜林檎飴を齧りリルを撫で

リル…私
花火って好きなの
昔から
何だか懐かしくて
大切な何かがおちてくるのではないかって

気配と予感を感じる
魂の底から込み上げる想いを
抑えるよう微笑んで

ひとつ感謝を込めて舞う
祭りには神楽を奉納するもの

『櫻華』

己の桜と共に
想いと祈りを満開に込めた特別な華火
あなたに届くようにと願い込めて打ち上げてもらう

華火と共に想い咲かせて招く

あいたい
敬愛する師匠に

すくいたい
魂の絆結ばれた大切な友達を
私達の神様を

そしてまた、一緒に

前見据え心を決めて
舞う桜を掴みとる

みている?
届いている?

降りておいで
あなたの櫻の元へ

おいでなさい

硃赫神斬


リル・ルリ
🐟櫻沫

たまーや!
また華火があがった!

ヨルとお揃いの浴衣着て
花チョコレエト掬いですくった沢山のちょこを食べながら歓声をあげる
ヨルははぁとの桜綿飴だ
カナンとフララは一緒にお花見してる
桜が好きなのかな

僕を撫でるその手が震えてるようにも思えて優しく握り大丈夫と伝うよ

…降りてくるんだよ
大切な想いがさ
君にとっての大切な華を隣で迎えられる
僕は幸せだな

櫻が神楽を踊るなら僕は歌うんだから!

嗚呼!それは特別な華火になるね
ヨル?これは誘の持ってた桜?
櫻の桜と一緒に込めてもらおう
龍の桜と一緒に咲き誇るように

僕の望みは君の望みが叶うことだ
願いと共に空に舞咲く桜花をそっと捕まえる

幕が上がるね

大丈夫
君の神様に
きっと届くよ



●迎える櫻
 天を彩り飾るように花がひらく。
 華火の音と幽かなひかりを眺める最中に、快い掛け声が桜の樹の下に響いた。
「たまーや! また華火があがった!」
「きゅきゅー!」
 リル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)と式神ペンギンのヨルが両手を広げ、はらはらと舞う花弁に手を伸ばした。
 先程に寄った屋台の花チョコレエト掬いですくってきた、たくさんの菓子を食べながら歓声をあげるリル達はとても楽しげだ。
 ヨルはハートの桜綿飴を楽しんでいて、カナンとフララは一緒に桜の枝に止まって花見をしている。きっと二羽とも桜が好きなのだろう。
 誘名・櫻宵(貪婪屠櫻・f02768)はお揃いの浴衣を着たふたりを見つめ、双眸を淡く細める。そんな櫻宵もまた、祭にあわせて浴衣を纏っていた。
「桜も笑顔も満開ね」
 微笑ましく感じたままに賑わう迎櫻館を見渡せば、心も華やいでいく。
 櫻宵は片手に持った桜林檎飴を齧り、傍に寄り添うリルを撫でた。舞い散る花を見つめながら、櫻宵は何処か遠い目をする。
「……リル」
「櫻、どうしたの?」
 リルを撫でてくれる櫻宵の手が、ほんの少し震えているように思えた。
「私ね、花火って好きなの。昔から何だか懐かしくて」
 譬えばそう、空に花が咲いた後に大切な何かがおちてくるのではないか。そのように感じているのだと櫻宵が語ると、リルはその手を優しく握り返す。
 重ねあった手の柔い熱を感じながら、櫻宵はリルを見つめた。其処に言葉はなかったが、リルには櫻宵が抱いている思いの欠片を感じ取った。
 大丈夫、とリルが眼差しで伝えれば、櫻宵は静かに頷きを返す。
 気配と予感がする。
 もうすぐだ。あと少しで再会の時が訪れるのだと告げるが如く、魂の底から込み上げる想い。それを抑えるように櫻宵は微笑んだ。
「リル、華火に感謝を込める舞を見てくれるかしら」
「もちろんだよ。櫻が神楽を踊るなら僕は歌うんだから!」
 リルから真っ直ぐな返事が戻ってきたことで、櫻宵は佇まいを整えていく。
 神への感謝や願いを込めて舞うのが神楽。ひそやかではあるが、御祭は神楽を奉納するものであるから、どうしても此処で舞っておきたかった。
 櫻宵が舞いはじめたのは『櫻華』。
 捧げて、攫って、纏って、囲って――咲き誇れ。
 その艶やかな仕草と舞を見つめ、リルは璃華の歌声を響かせていく。その間にも華火があがり、ヨルと蝶々達は舞華を見つめていった。
 降りてくる。
 大切な想いが、求めて迎える思いが、今此処に。
 櫻宵にとっての大切な華を隣で迎えられる自分はとても幸せだと感じて、リルは歌を紡ぎ続けていく。
 はらり、ひらりと桜の花が風に舞う。
 時間は過ぎゆき、真昼の青空が徐々に暮れなずんでいく。
 神楽を踊り終えた櫻宵が天を振り仰げば、それまでとは少し違った華火が桜咲く空に大きく広がっていった。
 それは己の桜と共に、想いと祈りを満開に込めた特別な華火。
 あなたに届くように。
 願いを込めて、昼間の御祭が終わる時間に打ち上げて貰うように願ったものだ。
 櫻宵は、あの華火から舞う桜花がすべて地上に舞い降りたとき、共に想い咲かせて神を招こうと心に決めていた。
 あいたい。
 敬愛する師匠に。
 櫻宵が空を見上げていると、リルも同じ方向をあえかに見つめる。
「特別な華火だったね」
「ええ、私から師匠に向けての贈り物よ」
 二人が風と夕暮れ空に揺れる桜花を眺めていると、ヨルがリルの浴衣の裾を引いた。
「きゅ!」
 どうやら、先に落ちてきた桜を掴まえたことを報告しているようだ。
 あの華火には、誘の持っていた桜も入れて貰っていた。
 ヨルが頑張って掴んだその花弁はきっと、ともだちのペンギンの元にもう一度戻ってきたくて落ちてきたのだろう。
 櫻の桜と一緒に込めた花は、龍の桜と一緒に空に咲き誇ってから舞い降りてくる。
 カナンとフララが肩に羽ばたいてきた様子に気付いたリルは二羽を招き、自分もヨルに倣って片手を伸ばす。
 そうして、リルは己が抱く思いを櫻宵に伝えた。
「僕の望みは君の望みが叶うことだ」
 願いと共に空に舞咲く桜花をそっとつかまえて、リルは穏やかに微笑んだ。
 櫻宵もリルに笑みを返し、空を彩っていた花に腕を伸ばす。
 すくいたい。
 魂の絆結ばれた大切な友達を、私達の神様を。
 そしてまた、一緒に。
 もう泣かない。拗ねたり、思い悩んだりする自分は疾うに乗り越えた。これまでに進んできたみちのりと、刻んだ軌跡が今の自分――誘七・櫻宵を形作っている。
 望夢で有り得たかもしれない未来に気付いた。
 黄昏を越え、暁色の景色と過去を見つめ直した。
 迷宮にて愛とは違う戀を識り、水葬の街で愛しい人魚のすべてを見届けた。
 前世の夢を垣間視て、魂を同じとする彼と出逢った。桜わらしに宿った彼と過ごした日々から別れを経たことで、ひとつの思いを重ねた。
 愛とは、心とは。未だ明らかな解は掴めずとも、それも解りかけている気がする。
 前を見据え、心を決めた櫻宵は舞う桜を掴みとった。
「みている? ねぇ、届いている?」
 華火は迎櫻館だけではなく、遥か遠くからだって臨めたはずだ。櫻宵が遠い空へと問いかける様を見守り、リルは間もなく訪れるときを思う。
 これから夜の帳が下りる代わりに、櫻と黒桜の舞台が始まる。
「幕が上がるね」
 大丈夫。君の神様にきっと届いているから。
 空は完全に夕色に染まり、刻の移り変わりを報せていた。常に添うてくれる人魚に心を寄せ、櫻宵は桜の館を取り巻く樹々の向こう側に呼びかけていく。
 降りておいで、あなたの櫻の元へ。
 招かれなければ訪れられぬ神を呼ぶために、櫻宵は其の名をはっきりと呼ぶ。
「おいでなさい」

 ――硃赫神斬。

●終わりと始まり
 夕刻を迎えたことで昼間の華火祭のひとときは終わる。
 訪れていた人々も、屋台の者達も名残惜しさを感じながらも館を後にした。
 桜の館に残るのは影朧と化した神達を待つ猟兵達だけ。呼び掛けて招く声を聞き、遠くの桜樹でじっとしていた黒い鴉達が羽撃きはじめた。

 そして――暮れなずむ夕焼け色の空に、黒影が朧に舞う。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『くろがらすさま』

POW   :    雑霊召喚・陰
レベル×5体の、小型の戦闘用【雑霊】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
SPD   :    おねむりなさい
【ふわふわの羽毛】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
WIZ   :    みちしるべ
【勾玉】から【光】を放ち、【視界を奪うこと】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●或る神使の末路
 嘗て、くろがらす達は人間が好きだった。
 人々は社にお供えをして祈り敬い、鴉達を神の使いとして崇めていた。
 しかし、時代を経ていく度にいつしか信仰は薄れていき、祀られていたはずの黒鴉達の存在も人々から忘れ去られた。
 その経緯は誰が悪いというものではない。
 形有るものも無いものも、何れは廃れるということを表している。そうして、かれらは人が好きだったということも忘れて、神性を失った。
「お前達も同じだね」
 三つ目の神はそんな黒鴉と自分を重ね合わせ、此処まで連れてきたのだが――。
 静かに首を横に振った彼は、そうではないのかもしれないと考えた。
「いや、私が同じに成っていくのかな……」
 くろがらすに紛れていた三つ目の神鴉は、人に敵意を向けるかれらを見遣る。黒い鴉達は人を憎むだけの存在に成り果てていた。
 招かれればすぐにでも桜の館に飛び立ち、容赦なく人を襲っていくだろう。
 三つ目の神は未だ堪えているが、間もなくすれば呪に意識を塗り潰され、人への憎しみや怨嗟を撒き散らす者に変わる。
 鴉も神も、本当は人が好きであったというのに。
 悲しみと苦しみを知り、影朧という存在に成ったが故に、どうしようもないほどに他を憎むものに変じてしまう。
「まだ……駄目、だ……。この子達のようになる前に、はやく……きみに――」
 神斬は敢えて身を潜める。
 しかし、黒い鴉達は桜の影に隠れた彼を置いて、桜の館へと飛び立っていった。

●影朧と神性
 時刻は過ぎ行き、夕暮れ時。
 昼間の御祭は終わりを迎え、夜の帳が下りはじめる頃に戦いは始まる。

 おいで、おいで。おいでなさい。
 猟兵に招かれ、呼ばれたことによって黒い鴉達が桜の館に羽撃いてきた。愛らしい見た目をしているくろがらすだが、その瞳に光は見えない。
 どうやら視認した相手を襲うだけの危険な影朧になってしまっているようだ。
 館の屋根に、桜の樹の枝へ、或いは地上に。
 各々に飛び込んできたかれらを放っておけば、この館が滅茶苦茶にされてしまう。今は姿を現していない櫻喰いの厄神、神斬との戦いに至るまでに、黒鴉を残してしまっていては戦いも不利になる。
 猟兵達がすべきことは、哀しき存在でしかない黒い鴉達を屠ること。
 そうすれば危機のひとつは退けられ、くろがらす達も罪なき誰かを傷つけてしまう前に骸の海に還せる。
 影朧となっても神の使いであったことは変わらない。
 嘗ては人が好きだったという鳥達の心をこれ以上、穢してしまわぬように。
 今こそ、猟兵としての力を揮う時だ。
 
鈍・しとり
だから私達は恐れて止まぬ
忘れるとはこのこと
忘れられるとはこのことだ
かくも恐ろしい


嗚呼、散らさないで
折角川にすら咲いたものを
可哀想なこと
花もお前達も

鳥よ
お前達は過ぎし日のわたし
明くる日の私だわ

嗚呼、痛々しい
おいで、目隠しをしてあげる

『あの目が欲しゐ』

散った桜を見ぬように
変じた仲間を見ぬように
何も襲わないで済むように
もう哀しまないで済むように
とりあげてあげる、穢れごと

そうしてお眠り
大丈夫よ
一羽も遺さぬ
皆で……神さまを待ってておやり



●存在の忘却
 桜の花弁が夕空に舞う。
 淡い紅彩の花に混じって、黒い桜と羽根が空の色に混ざっていた。
 桜の館を破壊するかのような勢いで飛んで来た黒鴉を見上げ、しとりは感情について思いを馳せてゆく。
 人にとって、妖にとって、そして神にとっても――忘却とは恐怖にも等しい。
 それまで善良であったはずの存在を影に落とし、在り方まで変貌させてしまう。
「だから私達は恐れて止まぬ」
 しとりは自分の元に舞い落ちてきた黒い鴉の羽根に腕を伸ばした。祭の時分に掴み取った花弁とは違って、羽根は手を擦り抜けて地面に落ちる。
 忘れるとはこのこと。
 忘れられるとはこのことだ。
 かくも恐ろしい、と感じたしとりは羽根の主を捉える為に駆け出した。地を蹴り、空舞う翼を追った彼女は黒鴉に呼び掛ける。
「嗚呼、散らさないで」
 敷地内の一本の桜樹に突撃した黒鴉は破壊の意思を持っていた。折角川にすら咲いたものを、としとりが声を向ければ、その黒鴉がくるりと振り向く。
「可哀想なこと」
 花もお前達も、と告げると黒鴉は威嚇の鳴き声をぴぴぴと響かせた。それと同時に周囲に何の形も持たぬ雑霊が現れる。
 それらが此方に向かってくると察し、しとりは双眸を鋭く柔く細めた。
「鳥よ」
 しとりは己の身に霊力を巡らせていく。
 雑霊は此方の身を貫かんとして迫ってきたが、しとりは地面を蹴って跳躍した。そうすれば突撃は避けられ、反撃の機が訪れる。
「お前達は過ぎし日のわたし。そして、明くる日の私だわ」
 忘れ去られた者が辿る末路。
 嗚呼、それはなんて痛々しい。それでもしとりは目を背けることは出来ない。その代わりに、と黒鴉と雑霊を見詰めた彼女はそうっと手を伸ばす。
「おいで、目隠しをしてあげる」
 ――『あの目が欲しゐ』
 青き血を籠めた神の舌から紡がれれば、言霊が力となって周囲に廻った。
 散った桜を見ぬように。
 変じた仲間を見ぬように。何も襲わないで済むように。
 そして、もう哀しまないで済むように。
「とりあげてあげる、穢れごと」
 しとりは自分が持てる限りの力で以て雑霊を散らした。其の力はやがて黒鴉にも届き、言霊は影朧を穿つ一閃となる。
 ぴ、と苦しげな声があがったが、しとりは攻撃を止めなかった。
 こうすることこそが本当は人が好きだったという、かれらのためだと信じている。
 静かに、穏やかにお眠り。
「大丈夫よ。一羽も遺さぬよう、送るから」
 そして、皆で。
 お前達を思って此処に連れてきた、神さまを待ってておやり。
 倒れ伏したくろがらすに、しとりはもう一度だけ手を伸ばした。指先で鴉に触れた彼女はその瞼をそっと閉じさせてやる。
 すると鴉の姿はゆっくりと消えていき、骸の海に還っていった。
 一羽目を見送ったしとりは顔をあげて立ち上がり、次の鴉を探すために駆けていく。
 襲撃と攻防。
 桜が廻りゆく此の戦いは未だ、始まったばかり――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

鞍馬・景正(サポート)
※サポート不要の場合は却下でお願いします。

「戦働きこそ武士の本領――参る」

◆キャラ指針
サムライエンパイア出身。
実直で真面目な性格の青年武士。

どんな敵にも怯まず、侮らず。全力を尽くして対峙します。

本人の性格的に真っ向勝負を好みますが、必要なら他猟兵の支援に徹したり、一般人がいれば救助や保護を優先します。

◆戦闘
接近戦では剣術や組討、遠距離なら弓を使用。
羅刹の【怪力】と、武術稽古で培った【見切り】を活かした戦法が得手。

状況によって味方や一般人を【かばう】盾となったり、愛馬に【騎乗】もします。

UCは相手に応じて適切なものを。

◆備考
アドリブ、連携歓迎。
悪事や不正、他猟兵への迷惑行為等はNGで。


日東寺・有頂(サポート)
 人間の化身忍者×アリスナイト、19歳の男です。
 普段の口調は長崎弁風+αで「オイ(一人称)・やんね・アンタ・〜や・〜やけん・〜たい・〜と?」などですが
「〜ですー・〜ますー」とですます語尾を伸ばしてみたりもします。
ノリが軽く暢気でマイペース。おとぼけながらも戦いは愉しみます。
化身忍者的な戦術にはまだ疎くシノビな自覚も薄いですが、時にそれっぽく振る舞いたがります。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、怪我は厭わず積極的に行動するばいね。他の猟兵に迷惑をかける行為はせんです。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしませんヨ。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいしますー。



●送るべきもの
 夕暮れ時。
 美しき桜が風に揺れる場所。
 千年桜が咲き乱れる桜の館が影朧に襲撃されていると聞き、彼らは此処に訪れた。
 此度の敵は神性を失い、人を襲うようになった黒い鴉達。
「あらー、随分と可愛らしい見た目しとーねえ」
 日東寺・有頂(手放し・f22060)が空を舞う黒鴉を見上げると、鞍馬・景正(言ヲ成ス・f02972)も片手を庇代わりにして頭上を仰ぐ。
「然し、彼らは倒すべき存在なのですね」
 景正は影朧達が桜の館を破壊するのだと悟り、虎落笛の名を冠する剛弓を構えた。
 敵の気は彼が引いてくれる。
 そう感じた有頂は大きく伸びをして自分の身体を解した。敵の襲来に備えるための準備運動代わりだ。
 そして、次の瞬間。
 空に向けて打ち放たれた景正の矢が黒烏の翼を掠めた。上手く命中していないように見えたが、敢えて景正がそう射っただけだ。
 狙い通り、矢を放った此方に気付いた影朧の意識が二人に向く。近くの桜の樹に突撃しようとしていた黒鴉は軌道を変えた。
「来ます。ご準備を」
「おう。気合もやる気も充分やけん」
 景正は即座に濤景一文字を構え、滑空してくる黒鴉に刃を向ける。
 同時に有頂も琥珀色の瞳で敵を捉えた。先程に認めた通り、今回の敵は見た目だけは可愛らしい。されど、その瞳には敵意が宿っている。
 視線を受け止めた有頂はカッと目を見開いた。すると、周囲に敵を惑わせる幻術の力が巡っていった。
 驚いた様子で周囲をきょろきょろと見渡した黒鴉は、不思議そうに翼を広げる。
 どうやら有頂や景正以外の何かが見えているのだろう。それは嘗て祀られていた神社かもしれないし、遠い日の情景なのかもしれない。
 何にせよ、景正達は相手を切り伏せるのみ。
 人に害をなす存在と成り果てたものが、元は神の使いであるならば被害を齎す前に斬るのが道理。たとえ今の黒鴉が此方に敵意を向け続けていとうとも、そうすることが猟兵としての使命のはずだ。
「当流が守護神、建御雷に願い奉る――神征の剣、貸し与え給え」
 景正が刃を振るえば曇耀の力が巡りはじめる。
 彼の眼差しに邪心は欠片もなく、ただ真っ直ぐな意思が見て取れた。稲妻を放った景正は周囲に結界を張り巡らせ、黒鴉が建物を破壊しないよう防ぐ。
「それ、最高に格好よか」
 ばってんオイも、と更に幻術を深くした有頂は景正の援護を行っていった。二人とも忍びに縁があるからか、自然に上手く連携が巡った。
 対する黒鴉は雑霊を召喚し、ふわふわの羽毛を放ってくる。
 霊の衝撃と共に抗い難い眠気までもが広がっていったが、景正も有頂も膝をつくことはしなかった。それに今、有頂の力は羽毛の能力を敵に放ち返している。
『……?』
 ふら、と黒烏の体勢が揺らいだのは眠気が巡った所為だろう。
 有頂はこれが好機だと読み、景正に呼びかけた。
「こいから行きますよ、っと!」
「――参る」
 地を蹴って一気に敵との距離を詰めた有頂に続き、景正も刃を振るうために駆ける。有頂が素早く背後に回ったことで、黒鴉は翻弄されてしまう。
 そして、彼は景正に目配せを送った。
 次の瞬間――荒波の如き威を感じさせる刀が刹那の間に振り下ろされる。斬り裂かれた黒鴉は地に落ち、戦う力を失った。
 周囲に舞っていた羽毛がふわり、ふわりと風に乗って散っていく。
「おやすみ、静かに眠るとよか」
「どうか安らかに」
 二人は葬送の言葉をそれぞれに告げ、消えていく神の使いを見送った。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

日下部・舞
莉亜(f00277)と参加

「誰そ彼時よ」

日が沈み、けれど夜ではない薄闇の刻
手の中の彼女の時間が始まる

「起きなさい、夜帷」

呼び声に彼女が目覚める
夜帷はかつてのUDCで、その躰を素材にした長剣だ

鴉たちを夜帷で【なぎ払い】
【目立たない】影を滑るように疾駆して的を絞らせない
雑霊を呼び出すなら【深淵】を発動
鴉たちと雑霊全てを攻撃する

「莉亜は?」

彼は無数の蝙蝠と化していた
なるほど、音波を使えば視界を奪われても問題ない
莉亜の『捕食』を邪魔するつもりはない
もとより彼のほうが実力は上、任せて大丈夫だろう
雑霊たちを屠ることに専念
人の形に戻るなら、

「お腹いっぱいになったの?」

メインディッシュはこれから始まるわ


須藤・莉亜
【舞(f25907)と参加】

UCで身体を無数の蝙蝠に変えて戦う。敵さんの攻撃で視界を奪われても、蝙蝠状態ならそんなに問題ないしね。
「舞、雑霊の方は頼んで良いかな?僕幽霊は嫌いなんだ…。だって不味いんだもん。」

舞の攻撃する場所の反対側の敵さんらを主に攻撃。
全方位から敵さんに噛み付いて、血と生命力を奪って殺しにかかる事にしようか。
んでもって、奪った血と生命力で蝙蝠を増やして、更に吸い殺すペースを上げて行こう。
一応、舞のサポートに何匹か回しとこうか。
手助けが必要じゃなければ、適当に応援でもしとこっと。

お腹いっぱいになったかって?
「全然足りないねぇ、これぐらいじゃ。」
ま、メインに期待かな?



●移りゆく時
 夕暮れの色が天に満ちている。
 空の色を眺めた莉亜は其処に舞う黒い影を見遣り、舞に呼びかけた。
「舞、雑霊の方は頼んで良いかな?」
「構わないわ」
「僕、幽霊は嫌いなんだ……。だって不味いんだもん」
 頷きを返した舞に理由を告げ、莉亜は其処から姿を消す。引き受けたからには迫ってくる黒鴉と霊を相手取るべきだろう。そして、莉亜にも何か考えがあるのだとして、舞は彼の行く先を敢えて確かめないまま身構えた。
「誰そ彼時よ」
 日が沈み、けれど夜ではない薄闇の刻。
 このひとときになると舞の手の中にある彼女の時間が始まる。
「起きなさい、夜帷」
 舞の呼び声に彼女が静かに目覚めていく。名を呼ばれた夜帷はかつてのUDCで、その躰を素材にした長剣だ。
 舞は滑空してきた鴉と雑霊に刃を向け、夜帷を一気に薙ぐ。そうすれば刃が夕闇の中で薄く燦めいた。同時に暗黒物質が周囲に生まれ落ち、雑霊が穿たれる。
 舞は影を滑るように疾駆し、敵に的を絞らせないよう立ち回っていく。
 その力はさながら、深淵の如く。
 鴉と雑霊すべてを狙った攻撃は深く、夕闇に紛れながら巡った。
 舞が敵を相手取っている間に、莉亜は身体を無数の蝙蝠に変えていった。これならば敵の攻撃で視界を奪われても大丈夫だ。
(よし、いけるかな。蝙蝠状態ならそんなに問題ないしね)
 莉亜は舞の攻撃する場所の反対側に回り込み、深淵を避けた個体を狙っていく。
 任せた分だけ、此方は自分が担う。そう決めていた莉亜は全方位から敵に噛み付き、血と生命力を奪って殺しにかかった。
 更に奪った血と生命力で蝙蝠を増やし、吸い殺すペースを上げて行く。
 そのとき、周囲の霊を地に落とした舞が周囲を見渡した。
「莉亜は?」
 それまで舞は視認できていなかったが、彼が無数の蝙蝠と化していることを察する。敵は勾玉から光を放っているが、蝙蝠であれば影響は受け難いだろう。
「なるほど、音波を使えば視界を奪われても問題ないのね」
 舞が納得する中、その通り、と示すように蝙蝠が羽撃いた。そして、莉亜は霊を相手取ってくれた舞へと何匹かの蝙蝠を飛ばす。
 その子達が自分へのサポート要員だと感じた舞は軽く礼を告げた。
 そうして、舞は再び踏み込む。
 自分達を襲おうとする黒鴉に狙いを定め、さらなる捕食を続けようとする莉亜の援護に入っていくことを決めた。
(手助けは必要じゃなさそうだから、適当に応援でもしとこっと)
 果敢に立ち回る舞を見た莉亜は蝙蝠の羽を揺らして、見た目通りの応援に回る。
 舞は莉亜の邪魔にならぬよう動き、夜帷を振るっていった。黒鴉は再び雑霊を召喚したが、彼女の刃が容赦なくそれらを斬る。
 もとより莉亜の方が実力は上。任せて大丈夫だろうと考えているゆえに、舞は雑霊を屠ることに専念していく。
 そうして攻防が巡り、霊が消えた頃。
 莉亜が人の形に戻ったことを知り、舞は彼へと問いかける。
「お腹いっぱいになったの?」
 すると彼は首を横に振り、薄く片眼を眇めた。
「全然足りないねぇ、これぐらいじゃ。ま、メインに期待かな?」
「ええ、メインディッシュはこれから始まるわ」
 二人の元に新たな黒鴉が飛んできている。莉亜と舞は敵を見据え、此処からも続く戦いへの思いを強めていった。
 暮れゆく空模様はゆっくりと夜の色へと変わっていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
アドリブOK
右手に胡、左手に黒鵺(本体)の二刀流

せつないな。
信仰や忘れ去られていく事はどうしようもないけど。好きだった思いが反転してしまうのは、それはとても悲しい。
同時に自分もそうなるんじゃないかと不安にもなる。

視認した相手って事はあえて姿を晒さないといけないのか。厄介だな。
普段は隠密だが覚悟を決めて、マヒ攻撃を乗せた暗殺のUC五月雨で攻撃。自由に飛ばなければ多少は楽になるはず。
接近した個体とは直接武器で対処。攻撃は第六感で感知し見切りで回避。
回避しきれないのは本体で武器受けで流し、カウンターを叩き込む。
それでも喰らってしまうものはオーラ防御、激痛耐性で耐える。
眠気防止は本体で自分を刺す。



●自傷
「……せつないな」
 元は神の使いだったという黒い鴉を見つめ、瑞樹はふと呟く。
 時の流れは誰にも止められない。
 今という存在は絶えず過去に代わり、消費されている。それゆえに信仰や忘れ去られていくことはどうしようもない。
 しかし、好きだった思いが反転してしまう。それはとても悲しいことだと思えた。
 瑞樹は右手に胡、左手に黒鵺を構える。
 黒い鴉が此方に向かって飛んでくることを察し、瑞樹は戦いの準備を整えた。戦闘態勢を取りながら思うのは、一抹の不安。
 いつか、自分もそうなっていくのではないか。懸念の種がまたひとつ、瑞樹の心の奥に植えられていった。
「いつも通りに戦うと拙いな」
 目立たないように姿を隠してしまえば敵は瑞樹に見向きもせずに、館や桜の樹を破壊にしてまわるだろう。
「あえて姿を晒さないといけないのか。厄介だな」
 冷静に判断した瑞樹は隠密行動をしないことを決め、覚悟を決めた。
 そして、彼は鴉の気を引くように刃を大きく振るいあげる。その動きに気が付いた黒鴉は何も映らぬ黒い瞳を瑞樹に向け、勢いよく滑空してきた。
 対する瑞樹は麻痺の力を乗せた暗殺の一閃を振るう。
 複製した本体を差し向ければ、刃が五月雨の如く敵に舞っていく。数々の刃は黒鴉の翼を貫き、動きを制限していった。
 自由に飛ばなければ多少は楽になるはずだ。
 そう考えた瑞樹は一片の容赦もなく、次々と黒鵺を操っていく。
 それでも接近してくる相手は直接、胡で対処する。羽毛すらも斬り裂き、敵の攻撃を第六感で察知した瑞樹はその動きを見切った。
 しかし、回避しきれないものもある。そのまま本体で受け流した瑞樹は一気にカウンターを叩き込んだ。
 だが、ふわふわの羽毛は眠気を誘い、瑞樹の意識を奪おうとしている。
「これは本当に、厄介な――」
 身体がふらつき、瑞樹は片膝を付いてしまった。だが、何も抵抗せずに眠らされるわけにはいかない。先程に決めた覚悟を思い出した瑞樹は黒鵺を握る手に力を込めた。
 刹那、その刃が自分に突き立てられる。
「……まだ、だ……」
 痛みは意識を覚醒させた。こうして自分を傷つけることは不利にも繋がると分かっていたが、眠ってしまうよりは幾分も良い。
 立ち上がった瑞樹は敵を見据え、両手の二刀をしっかりと握った。
 最後まで此処で戦い続けることを心に決めて――。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

ルーシー・ブルーベル
【月光】

くろからすさん達はひとが好きだったのね
だから忘れられてしまってさみしいんだわ
だれかを恋しい気持ちは分かる
さみしい気持ちも、よく解るの
……ええ、切ないわね

そうね
このコ達も本当は人を傷つける事を望んでいないでしょう
だから、こっちにおいで

ゆぇパパの手をとって【ふわふわなお友だち】
やって来るくろがらすさまを包んでしまいましょう
ふわふわと痛くない様に
パパをねらう子を最優先よ
その爪も牙も、光も届かせはしない
ルーシーの目が見えなくなっても羽音に耳をすませるわ
おいでと手をさしのべれば一直線に来て分かりやすくなるかしら?

さあ、おやすみなさい
ずっと人を好きでいてくれてありがとう

ええ、本当に
心からねがうわ


朧・ユェー
【月光】

忘れられた、くろがらすさま達
人を憎むほど悲しくて寂しかったのかもしれないね
それは人も神も悪くないけど
切ない話だね、ルーシーちゃん

だからといって人を傷つける事は許される事ではないね。
この子達が誰かを傷つける前に還してあげようねぇ

ルーシーちゃんと手を取り
何匹も漆黒ノ鏈のチェーンで絡めて動きを止める

あぁ、本当にルーシーちゃんは優しい子だね
きっと安らかに眠ってくれるはずだよ

そんな優しくて僕の可愛い娘を傷つけるのは誰でも許さないよ

僕も優しく還してあげようか
大丈夫、少し眠るだけ
せめて痛く無いように
暴食グールが屍鬼になり
丸呑みで還していく

どうか今度はそのまま人を愛し続けられます様にと
お願いしようねぇ



●還るべき場所へ
 信仰が失われ、善良な存在が影に落ちる。
 忘れられた存在が辿ってきたであろう過去を思えば、何だか妙に胸が痛んだ。好きだった人達が社に訪れなくなり、誰も自分達のことを思い出そうとはしない。
 嘗て祀ってくれた人達は寿命を迎えて先に逝ってしまった。ずっとそれを見送り続けて、憶えてくれている者がいなくなって。いつしか、かれらは忘れられた。
 だから、きっと――。
「さみしいんだわ、とても」
 ひとが好きだったという鴉達を見つめ、ルーシーは自分が感じた思いを言葉にした。
 恋しい気持ちは分かる。
 さみしい気持ちも、よく解ってしまった。
 ルーシーの視線の先を目で追い、ユェーも黒鴉達を思う。
「人を憎むほど悲しくて寂しかったのかもしれないね。切ない話だね、ルーシーちゃん」
「……ええ、切ないわね」
 盛者必衰、或いは栄枯盛衰。
 時の流れはある意味で残酷で、人も神も悪くないけれど。身構えたユェーに倣い、ルーシーも戦いへの思いを巡らせる。
 黒鴉は放っておけば桜の館を傷付けてしまうだろう。
 しかし、此処に自分達が居る限りはそんなことはさせない。ユェーは万年筆を手に取り、敵に差し向けた。漆黒ノ鏈の名を冠するそれは瞬く間に鋼のチェーンに変わる。
「だからといって人を傷つけるのは許される事ではないね」
「そうね」
「この子達が誰かを傷つける前に還してあげようねぇ」
「このコ達も本当は人を傷つけることを望んでいないでしょう」
 ――こっちにおいで。
 ルーシーが黒鴉達を呼ぶと、黒い翼が空から舞い落ちてきた。同時に二人へ狙いを定めた黒鴉達が飛んでくる。
 ユェーが握ってくれた手を握り返し、ルーシーはぬいぐるみを抱き締める。
 ふわふわなお友だちから伸びた丈夫な綿が周囲に広がり、突撃してくる黒鴉をふんわりと包み込んだ。
 その機を狙ったユェーは漆黒のチェーンで以て相手を絡め取っていく。
「くろがらすさま、ごめんなさい。痛くないようにするわ」
 ルーシーは影朧を気遣いながらも、自分にとって大切なものを守る。ユェーを狙う個体が入ればそちらに綿を向けて動きを阻んでいった。
 しかし、黒鴉達も反撃に入る。
 勾玉から光が放たれることで眩さが辺りを包み込んだ。
 ルーシーは敢えて目を瞑る。その爪も嘴も、光さえも彼に届かせはしない。羽撃く翼の音に耳を澄ませたルーシーは手を差し伸べた。
「おいで、こっちよ」
 そうすれば誘われた黒鴉達が一直線に彼女へと迫ってくる。されどユェーがそれを許すはずがない。
「あぁ、本当にルーシーちゃんは優しい子だね」
 痛くないようにすると宣言した少女の言葉を思い、ユェーは漆黒ノ鏈を振るう。鋼の鎖で容赦なく敵を穿った彼は鋭い視線を差し向けた。
「でも、僕の可愛い娘を傷つけるのは誰であっても許さないよ」
 その身体をチェーンが捕らえたことによって何枚もの羽が地に散っていく。ルーシーは更にぬいぐるみを抱き締め、綿で鴉達を優しく包み込んだ。
「さあ、おやすみなさい」
 それによって眠るように黒鴉がぱたぱたと伏していく。
「きっと安らかに眠ってくれるはずだよ」
「ええ、本当に。心からねがうわ」
 ユェーの声に頷きを返したルーシーは消えていく影朧を見送った。ユェーはまだ倒れていない敵に視線を向け、更なる攻撃に入る。
「僕も優しく還してあげようか。大丈夫、少し眠るだけ」
 せめて痛くないように、と彼は呟きを落とした。すると体内に埋め込まれた刻印――暴食のグールが屍鬼となる。
 それは自分の血だけでは足りず、目にするモノ凡て食して喰らい尽くした。
 丸呑みされた黒鴉はそのまま骸の海に還される。
 そのとき、倒されていく影朧が零した悲痛な鳴き声が辺りに響いた。
 ルーシーは唇をきゅっと噛み締めたが、すぐに気を取り直してゆく。其処から紡いでいくのはかれらの冥福。
「ずっと人を好きでいてくれてありがとう」
「どうか今度はそのまま人を愛し続けられますように」
 ユェーも己の思いを声にする。
 そうして二人は互いの手を握り合い、哀しき黒鴉へと其々の願いを手向けた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

比野・佑月
【月花】
「ありがとう、香鈴ちゃんも無茶はしないでね」
掛けられた声に嬉しさを滲ませながら、得物に手をかけ敵を見据える目は鋭く。

「…おいで、饗。向かってくるヤツ全部食べちゃいな」
呼び出した黒犬の霊である饗には空中で暴れて貰って、
俺自身は飛鉄短刀『穿牙』を片手に寄ってくる敵を斬り払うよ。
饗に暴れてもらってる分、俺の方は状況把握の余裕もあるかな?
傍らで力を振るう彼女の様子を伺い、襲われそうな場面があれば援護
「ごめんね、格好つけさせて貰っちゃった」

――昔も、堕ちた今でさえも。人に縛られるだなんてね。
つくづくツイてないとこ悪いけど、さっさと羽を散らしてしまえ。
冷えた心の内は悟られないよう笑顔の下に。


花色衣・香鈴
【月花】
お祭りの終わりを寂しく思う暇はないみたい
夕暮れにカラスの群れってちょっと不気味だけどこれはそれだけじゃ済まないから
「…来ますよ、佑月くん」
ふわりと魔力糸の羽衣を纏って、その端の方を両方とも掴む
からんと鳴るのは双子鈴
「あの、」
この人が戦うのは見た事が無い
「…お気をつけて」
わたしも別に強くはない
無理はしないでとは言えなかった

UC発動、…はいいけれど、思ったより雑霊が鬱陶しくて呼び出してる敵自体に当て難い
これじゃジリ貧
「きゃ…!…ぁ、ありがとう」
うう、情けない姿見せちゃった
佑月くんの犬さんが取り零したのを雑霊でもオブリビオンでも構わず叩く様なやり方に切り替える
迷惑かけられない、頑張らなくちゃ



●浄化と閃牙
 穏やかな昼間が過ぎ去り、黄昏が訪れる。
 祭の終わりを寂しく思う暇はなく、不穏な黒い影が空に舞っていた。
 夕暮れに鴉の群れ。その光景は不吉で少しばかり不気味だ。けれども今の状況はそれだけでは済まないことだと香鈴は知っている。
「……来ますよ、佑月くん」
 佑月に呼びかけた香鈴は魔力糸で編まれた羽衣をふわりと纏った。その端を両方とも掴めば、双子鈴がからんと鳴り響く。
 その音を聞き付けたらしい黒鴉は飛ぶ高度を落とし、香鈴達に向かってきた。
「随分と多いね。でも、やるしかないかな」
 あのまま飛行させておくと佑月達の背面にある桜の館や、美しい桜の樹が破壊されていくだろう。それゆえに敵の意識が此方に向くのは都合がいい。
 佑月が身構える中、香鈴はそっと声を掛けた。
「あの、」
「どうかした?」
 思えば彼が戦う姿はまだ見たことがない。軽く首を傾げて問い返す佑月に向け、香鈴は何とか選び取った言葉を送った。
「……お気をつけて」
 自分も別に強くはないから。無理はしないでとは言えずにいた。すると佑月は双眸を緩く細めて頷く。その瞳には確かな嬉しさが滲んでいた。
「ありがとう、香鈴ちゃんも無茶はしないでね」
「……はい」
 佑月は香鈴が言えなかったことを代わりに告げてくれた。頑張らなきゃ、と香鈴は胸中でそっと意気込む。
 佑月は穿牙の名を冠する飛鉄短刀を手に取った。
 得物に手をかけたなら、此処からは倒すべき敵を見据えるだけ。その視線は先程とは変わって鋭く差し向けられていた。
「おいで、饗。向かってくるヤツ全部食べちゃいな」
 佑月は黒犬の霊を呼び、空中へと解き放つ。滑空してきた黒鴉は自分が相手取り、空の敵には饗に任せる狙いだ。
 突撃してきた黒鴉をしかと捉えた佑月は素早い一閃を放つ。
 対する敵は周囲に雑霊を召喚してきた。自分達を取り囲んだ霊に対抗すべく、香鈴は浄撃を紡いでいく。
 双鈴の羽衣に飾られた青翡翠と紫翡翠の宝玉が揺れた。
 その瞬間、霊力弾が辺りに幾つも浮かぶ。その力は辺りの敵を穿ちながら巡っていくが、どうにも敵の数が多すぎる。
 雑霊を散らすことは出来ているものの、それらを呼び出している敵への霊弾は当て難いうえに防がれてしまっている。
 これではジリ貧だと感じた香鈴は一歩後ろに下がった。
 しかしそのとき、彼女の死角にあたる方向から雑霊が迫ってくる。佑月は香鈴がそのことに気付いていないと察し、自ら其方に踏み込んだ。
 はっとした香鈴が身を引くと、彼は刀で霊を斬り伏せていく。
「きゃ……!」
「大丈夫だった?」
 思わず声をあげてしまった香鈴に振り向き、佑月は問いを投げた。無論、佑月は完璧に敵を防いだので彼女が傷付けられてはいないと分かっている。それでも、聞いてしまうのは心配であったからだ。
「……ぁ、ありがとう。平気……。うう、情けない姿見せちゃった」
「ごめんね、格好つけさせて貰っちゃった」
 恥ずかしそうに頭を振った香鈴に向け、佑月は穏やかな笑みを見せる。今も饗に暴れて貰っている分、自分には状況把握の余裕もあった。
 だから気にすることはないし、格好良い所が見せられたから大丈夫。そんな風に佑月が笑ってくれたので、香鈴は少しほっとした。
 そうして、二人は雑霊を蹴散らしていく。その際に思うのは黒鴉達のこと。
「――昔も、堕ちた今でさえも。人に縛られるだなんてね」
「好きが反転する……。悲しい、ですね」
 黒鴉は負の感情から影に落ちてしまったもの達だ。本来は善良であったはずのものがこうして悪意のみで動いていることは酷く悲しい。
 しかし、だからといって手を抜いたり、無用の情けを掛けたりする理由はなかった。
「つくづくツイてないとこ悪いけど、さっさと羽を散らしてしまえ」
 佑月は穿牙を振るい、雑霊ごと鴉を切り裂く。
 傍らに立つ香鈴に、冷えた心の内が悟られないよう笑顔のまま――ただ只管に。
 そんな彼の役に立ちたいと願い、香鈴は浄撃の力を更に紡ぐ。
(迷惑はかけられないから、もっと頑張らなくちゃ)
 香鈴は佑月の黒犬が取り零した雑霊を狙い、一体ずつ確実に霊力弾を放った。こんなに美しい桜の景色を穢さぬよう、懸命に。
 其々の戦い方で敵を穿ちながら、二人は互いを気遣いあった。
 そして――護るための戦いは更に巡っていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティア・メル
十雉ちゃん(f23050)

んにに、かぁいい子たちだねっ
十雉ちゃんはどうやって戦うの?

じゃあ、ぼくがサポートするよん
十雉ちゃんに傷一つ付けさせないから安心して

あまやかな毒の声に誘惑蕩けて魂ごと捕縛しよう
君たちが望む夢はなーに?

十雉ちゃんが雨に濡れないように
沙羅の華夢を十雉ちゃんの周りに纏わせるよ

いってらっしゃい、十雉ちゃん
気を付けてね

くろがらすさま達が心地良い夢を見てくれてたらいいんだけど
例え悪夢でも離したりしないよ
君達はもうぼくのもの

十雉ちゃーん、おかえりーっ
ぎゅーってして確認しよう
傷はない?大丈夫?

あの子たちがあるべき場所に
せめて良い夢を見ながら眠れたなら
桜ひとひらに願ってみた


宵雛花・十雉
ティアちゃん(f26360)と

大好きだった人間に裏切られて、憎しみに囚われてしまったんだね
…可哀想に
ここはオレに任せて
穢れを祓うのは巫女の役目だから

オレにはティアちゃんがついてる
守ってくれる
だから恐れずに進むよ
いってきます

勾玉からの光は『第六感』で察知した後『結界術』で防いで

鴉達に肉薄すればUCの炎に『破魔』と『浄化』の力を乗せて焼き払う
人を憎むのにも疲れたでしょう?
もういいんだよ
送ってあげるから、ゆっくりお休みなさい

ただいま、ティアちゃん
オレは大丈夫
ティアちゃんの方こそ怪我はない?

ひらりと舞い降りた桜の花弁を掴んで
鴉達がいい夢を見られるよう
彼らの魂が迷いなく還るよう
彼女の願いに重ねて祈るよ



●眠りの先へ
 黄昏の色が空を染めていく。
 その最中に現れたのは夜よりも深い色を宿す黒い鴉達。
「んにに、かぁいい子たちだねっ」
「……可哀想に」
 かれらの姿を瞳に捉えたティアと十雉は正反対の思いを抱いていた。見た目の可愛らしさに着目するティアに対して、十雉は黒鴉の過去に目を向けている。
 黒鴉達は大好きだった人間に裏切られたと感じたのか、やり場のない憎しみに囚われてしまっているに違いない。
「十雉ちゃんはどうやって戦うの?」
 彼が一歩前に踏み出すと、ティアが軽く首を傾げて問う。竜胆を手にした十雉は、この薙刀が自分の得物だと示す。
 曲がりなりにも神の使いであるならば、穢れを祓うのは巫女の役目。
「ここはオレに任せて」
「じゃあ、ぼくがサポートするよん。十雉ちゃんに傷一つ付けさせないから安心して」
 ティアは十雉へ淡い笑みを向けた。
 その眼差しと言葉を受け、十雉は薙刀を握る手に力を込める。
 自分には彼女がついてくれている。守ってくれると伝えてくれた。だから恐れずに進むのだと決め、十雉は迫りくる黒鴉を見つめる。
「いってきます」
「いってらっしゃい、十雉ちゃん。気を付けてね」
 二人の背には桜花絢爛の館があった。其処に鴉が到達する前に自分達の方に意識を向けさせ、破壊を防ぐのが今の役目。
 ティアはあまやかな毒の声を紡いで、かれらに誘惑の力を向けた。
 十雉達に気が付いた黒鴉は翼を広げて地上に向かってくる。
 その際に黒烏の勾玉が光り輝き、此方の視界を奪おうとした。対する十雉は勾玉から閃光を防ぐべく、結界術を周囲に張り巡らせる。
 その間にティアは魂ごと黒鴉を捕縛しようと狙っていった。
「君たちが望む夢はなーに?」
 問いかけながら、ティアは十雉にも意識を向ける。彼が雨に濡れないよう、沙羅の華夢を十雉の周りに纏わせていく。
 そうすれば黒鴉達は死毒の雨の穿たれ、甘い夢を見せられていった。
 かれらが視るのは嘗ての社。
 人々が参拝に訪れていた過去の光景は、今はもう何処にもない夢の果て。
 それは心地好い夢に思えて、二度と戻らぬものであるがゆえに、黒鴉にとっては悪夢にも近いものだった。
「ごめんね。でも離したりしないよ。君達はもうぼくのものだから」
 敵を幻の海に捕らえたティアは惑飴の力を更に強めていく。深淵を映しているかのような鴉の暗い瞳の奥には憎しみが満ちていた。
 十雉は鴉達に肉薄し、纏う炎に破魔と浄化の力を乗せる。
「人を憎むのにも疲れたでしょう?」
 問いかけても答えはないと知っていても十雉は語りかけていった。黒い羽を焼き尽くしながら、己の思いを伝えていく。
「もういいんだよ」
 送ってあげるから、ゆっくりお休みなさい。
 思いを込めた紅蓮の炎が更に解き放たれ、椿めいた軌跡となって巡った。
 甘やかな歌と大輪の焔。重なったふたつの力が黒鴉達の羽根を散らし、言葉通りに永遠の眠りに落としていく。
 自分達の周囲に居た敵がすべて散ったことを確かめ、十雉はティアの元に戻る。
「十雉ちゃーん、おかえりーっ」
「ただいま、ティアちゃん」
 腕を伸ばしてぎゅっと十雉を抱き締めたティアは、その顔を覗き込んだ。己の手で鴉を葬ったことで少し寂しげな雰囲気を纏っている気がした。
「傷はない? 大丈夫?」
「オレは大丈夫。ティアちゃんの方こそ怪我はない?」
「んに、平気だよ」
 十雉は頷き、ティアもおかげ大丈夫だと答える。
 そんな中に何処からか桜の花弁がひらりと舞い降りてきた。それを掴んだ十雉は鴉達がいい夢を見られるように、と願いを掛ける。
 あの華火のようにはいかず、この花に思いを叶える力はないかもしれない。それでも十雉は願ってやまなかった。
 彼らの魂が迷いなく還るように。
 あの子たちがあるべき場所に還れるように。
 ティアも彼の手の中にある桜の花に思いを寄せ、一緒に思いを紡いでいく。せめて良い夢を見ながら眠れたなら、と桜のひとひらに願って――。
 重ねた思いは夕暮れの空の下で廻ってゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

緋翠・華乃音
【蝶月】

敵の姿が可愛らしかろうが、
手に持つ刃の煌めきが翳ることはない。

どんな理由があろうと敵なら倒す。
余計なことは考えない。

考えてしまえば戦えなくなるかも知れないから。
情一つで仲間に背を負ける自身の危うさを、
嫌というほど理解している。

いや、違うな。
この戦いの目的は倒すことではない。
烏滸がましいのかも知れないけど、
君の言うとおり救ってあげよう。

終の静寂。

さながら方程式を解くように。
ただ静謐に最適解を導き出す。

もう目を瞑ろうと黒鴉の攻撃が当たることはない。
葬送歌が終止線に至る前に、黒鴉へ終止符を。

戦闘のさなかでも優しい歌は心地好くて。
今度は二人きりの時に歌って欲しい、
なんて我儘を言ってみたりして。


ルーチェ・ムート
【蝶月】

くろがらすさんの見た目がかわいくて
倒すことに躊躇いそうになる自分を戒める

骸の海におくってあげることが救いなんだから
纏う白百合の花で華乃音のおーら防御を

華乃音が強いことは知ってるけど、守りたいと思う
守らせて?

破魔を宿す歌声で紡ぐは奇跡
華乃音を守る歌を
くろがらすさんたちへの葬送歌を

眠気を催し感覚を麻痺させるくれなゐの鎖を紡ごう
くろがらすさんたちを捕縛するよ

最期は眠るように
せめて何の苦痛もなく、終わらせたいから

戦場で羽搏くキミを見つめる
キミを想うよ
キミを想う歌を歌うよ
くろがらすさんたちが、かつて人を想ってたように

くれなゐの鎖が解けたなら
キミに傷がないか思わず駆け出していた



●歌と命
 丸い姿につぶらな瞳。
 桜の館に現れたのは一見は可愛らしい姿の黒鴉達。その瞳に光は宿っておらず、敵意が見えるが、愛らしい見た目であることは変わらない。
「可愛い……」
 ルーチェは空から現れた影朧に向け、思わず感じたままの言葉を落とした。
 しかし、隣で華乃音が鋭く身構えたことで首を横に振る。彼の眼差しは揺らがず、確りと相手を敵と見做している。
 敵の姿がどれほど可愛らしかろうが、手に持つ刃の煌めきが翳ることはない。
 どんな理由があろうと敵なら倒す。
 余計なことは考えない、と示すような雰囲気が華乃音から感じられた。
 かれらを倒すことに躊躇いそうになっていた自分を戒め、ルーチェは華乃音の傍でそっと身構えていく。
「骸の海におくってあげることが救いなんだから、可哀想なんて思っちゃいけないね」
 戦って屠ることこそが影朧に堕ちたかれらへの救い。
 ルーチェは自分の思いを確りと持つ。
「……行くぞ」
 其処に告げられたのはたった一言。その言葉と同時に華乃音は地を蹴った。
 上空からは此方の存在に気付いた黒鴉が滑空してきている。うん、と頷いたルーチェは己が纏う白百合の花を舞わせて、華乃音へと護りの力を宿した。
 華乃音が強いことは知っている。けれど、守りたいと思う気持ちは止められない。
「守らせて?」
 お願い、とルーチェが掛けた言葉に頷きの代わりに視線を返し、華乃音は瑠璃色の刃を敵に差し向けた。
 黒い鴉達。かれらの境遇を考えてしまえば戦えなくなるかもしれないから。
 それゆえに何も感情は向けない。
 情一つで仲間に背を負ける自身の危うさを、華乃音は嫌というほど理解している。
「――いや、違うな」
「華乃音?」
 刃を振るった彼がふとした言葉を落としたことで、ルーチェは首を傾げた。華乃音は、この戦いの目的は倒すことではないと考え直す。
 そして、ルーチェが紡いだ先程の言葉に思いを重ねた。
「烏滸がましいのかも知れないけど、君の言うとおり救ってあげよう」
 刹那、解き放たれたのは終の静寂。
 さながら方程式を解くように、華乃音はただ静謐に最適解を導き出す。その一閃は黒鴉を正確無比に貫いてゆく。
 されど未だ敵は多く、周囲に眠りを誘う羽毛が浮遊している。
 ルーチェは羽の力に惑わされぬよう白百合を纏ってから、破魔を宿す歌を紡ぐ。奇跡の歌声は華乃音を守りながら黒鴉への葬送歌に変わっていった。
 更にくれなゐの鎖が周囲に広がり、標的を捕縛していく。
 ルーチェの一手は華乃音が敵を確実に屠るための布石となった。華乃音ならば一瞬でやってくれると信じている。
 最期は眠るように。
 せめて何の苦痛もなく、終わらせたいから。
 その願いに応じるようにして華乃音が動いた。もう目を瞑ろうと黒鴉の攻撃が当たることはなく、一撃も外さない。
 ――葬送歌が終止線に至る前に、黒鴉へ終止符を。
 華乃音はルーチェの歌声に合わせ、次々と黒烏を地に伏せさせて眠らせていく。
 ルーチェは戦場で羽搏く彼を見つめ続けた。
 キミを想うよ。
 キミを想う歌を歌うよ。
 くろがらすさんたちが、かつて人を想ってたように。
 戦いのさなかであっても優しいく響く歌は心地好い。自分達の周囲に集った最後の敵を斬り伏せ、華乃音はルーチェの方に振り向く。
 同時にルーチェもくれなゐの鎖を解き、華乃音の方へと駆け出した。キミに傷がないか、痛くはないかといったことを問う前に、華乃音はちいさな我儘をルーチェに告げる。
「今度は二人きりの時に歌って欲しい」
「……うん、もちろん」
 交わした言の葉と視線はとても優しく穏やかなものだった。
 そうして、二人は空を見上げる。夕暮れの色を覆い隠すような黒鴉の群をすべて倒すまで、かれらの尊厳と桜の館を護る為の戦いは終わらない。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

周・助
終夜くん(f22048)と。
アドリブ、マスタリング歓迎です。

_

…好きだったものを忘れ、傷つけてしまう。
でもそれによって一番傷つくのが黒鴉様方であるならば、
私は──剣を、抜きます。

「お任せを」
終夜くんとクロくんの背は必ず護りましょう。
攻撃は刀で受け流し、カウンターを。
また、彼らとの連携を意識。
呼吸を合わせ、ユーベルコードを発動。

…果たして私のこれが黒鴉様の救いになるのかなんて解らない。
けれど、この刃に
──祈りを込める。

黒鴉様の空隙を縫う様、一閃

「──おやすみなさい」

痛くして、ごめんなさい。
どうか、どうか──安らかに。


空・終夜
助(f25172)と
アドリブ可

人に忘れられる事
好きを忘れる事
どれほどの痛みを伴ったのか
その愛らしい目には、嘗て光が沢山灯っていただろうに

黒鴉とて罪はない…
罪で魂が完全な闇に陥る前に――

罪なき者を、骸の海へ送ろう

ざん…とネックレスで掌を裂く
血が滴ると、不意に
己の使い魔である鴉が傍らに飛んでくる

「…行きたいのか?」

問えば
鴉は真っ直ぐ黒鴉を見ていた
…なら、行こう

動物使い/武器改造
UCの血で武器を創る力で
使い魔…クロの爪と嘴に刃を装着

「助、クロは人が好きな鴉なんだ
黒鴉を救いたいみたいだ
一緒に戦ってやってくれ…」

――Amen.
祈り言葉を捧げ
UC多重詠唱
血で創る鉄鞭を持ってクロと助と連携して攻撃を撃ち込む



●桜の加護
 好きが嫌いに変わってしまう。
 それはどれほどに辛く苦しいことなのだろう、と思った。
 嘗ては好きだったものを忘れて傷つけてしまう。黒鴉達は最早、そうすることしか出来なくなった存在だ。
 今現在、助と終夜にとって大事な場所である迎櫻館が襲われかけている。
「終夜くん……」
「ああ……分かって、いる……」
 助から名を呼ばれた終夜は静かに頷きを返した。
 人に忘れられること。
 好きという感情を忘れること。
 そうなるまでにどれほどの痛みを伴ったのか。その愛らしい目には、嘗て光が沢山灯っていただろうに。
 何も映してないような真闇の瞳からは感情が見えない。否、唯一見えるのは敵意というたったひとつのものだ。
 影朧となったかれらは破壊を求めている。だが、それによって一番傷つくのが黒鴉であるならば、助とて黙っていられない。
「私は――剣を、抜きます」
「守ってみせる。俺達の、力で……」
 黒鴉とて罪はない。
 罪で魂が完全な闇に陥る前に。罪なき者を、骸の海へ送ろう。
 終夜が語った言葉に対し、助も同意を示す。黒鴉達がこのようなことを行うしか出来ないように、自分達もこうやって迎え撃つしかない。
「来ます、終夜くん」
 館だけではなく、終夜の背は必ず護ると決めた助は空を振り仰いだ。
 見れば、黒鴉達は此方に気が付いて突撃しようとしている。終夜は襲撃に備え、ざん、とネックレスで掌を裂いた。
 血が滴ると同時に、不意に彼の使い魔である鴉が傍らに飛んでくる。
「……行きたいのか?」
 終夜が問うとクロは真っ直ぐに黒鴉を見た。形は違えど何か思うことがあるのかもしれない。そう判断した終夜はクロに呼びかけた。
「……なら、行こう」
「クロくんも、お護りします」
 助は刀を構え、距離を詰めてきた黒鴉を視界に捉える。
 ――壱の剣。椿一閃。
 冬の静寂を纏う居合の一撃が、敵が舞わせてきた羽毛を切り裂いていく。同時に終夜が己の血を武器として創りあげ、クロの爪と嘴に刃を装着した。
 眠りを誘う羽は助とクロによって地に落とされ、効果を失っていく。
 夕暮れの下に黒の羽根が散る。其処へ風に乗った桜の花がさらさらと流れてきた。どうしてか二人はそれが守護のようだと感じる。
 不思議な感覚だったが、とても心地の良いものだった。
 その間にクロは懸命に戦う。
 私も、と鴉の援護に入った助を見て、終夜は声をかけていった。
「助、クロは人が好きな鴉なんだ。……あの黒鴉を救いたいみたいだから、一緒に戦ってやってくれ……」
「お任せを」
 その声に応えた助は敵の攻撃は刀で受け流し、ひといきに反撃に入る。
 果たして自分の刃が黒鴉の救いになるのか。それは解らない。けれど、と顔をあげた助は握る刃に力を巡らせた。
 そして、其処に深い祈りを込める。
 黒鴉の空隙を縫うように一閃を振るえば、一体目の相手が地に伏した。
「――おやすみなさい」
 痛くしてごめんなさい。どうか、どうか――安らかに。
 助が消えていく黒鴉を見送る中、終夜とクロは次の一体に目を向けていた。爪と嘴の刃は羽毛を斬り裂き、突撃してくる黒鴉ごとすべてを穿つ。
「――Amen」
 祈り、心からの言葉を捧げた終夜。彼と助の思いはひとつ。
 屠ることでかれらを救うということ。
 更に力を紡いだ終夜は血で創る鉄鞭で以て、クロと助が斬り込んでいく中に一閃を撃ち込んでいった。
 羽根が散り、桜が舞って、影朧が力を失っていく。
 痛む心は奥底に隠してただ只管に戦う。これが今の自分達がすべきことなのだと己を律し、終夜と助は機を合わせて地を蹴った。
 戦いは未だ続く。
 決して、この後ろには行かせない。
 大切な人達がいて、春のようなあたたかな思い出が宿る、あの館だけには――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふえ、え…、カラスさん達が入り込んできたら、なんだか眠気がしてきました。
えっと、こんな時はガジェットショータイムです。
こ、これはアヒルさん?
いえ、この赤いとさかは・・・ZZZ。
ふえええ、やっぱりにわとりさんです。
それにしても起こすときは優しく起こしてほしいです。
他のみなさんには鳴いて起こしていますけど、私だけつつかれていませんか。



●眠りを覚ます声
「ふえ、え……」
 お祭りの終わりを名残惜しく感じていたフリルは空を見上げた。
 夕暮れ時が訪れて、黒い鴉達が敷地内に入り込んできたと思った途端、周囲に羽毛が舞う。それと同時に妙に強い眠気が襲ってきた。
「ふぇ……」
 こくり、こくりと船を漕いでしまったフリルはすぐにはっとする。
 あれは影朧で、この場が襲われかけている。自分もひとりの猟兵として役に立ちたいと考えたフリルは眠気と戦いながら腕を掲げる。
 普段とは違ってふやふやとした動作だが、フリルは懸命に力を紡いだ。
「えっと、こんな時はガジェットショータイムです」
 えい、と力を込めれば傍に何かが現れる。
 どうやら鳥型のガジェット達のようだ。フリルは出現したガジェットを不思議そうに見下ろし、どうすれば良いのかを考える。
「こ、これはアヒルさん? いえ、この赤いとさかは……」
 ――ZZZ。
 思考を巡らせながら一瞬だけ寝てしまったフリルは、慌ててぶんぶんと首を振った。
 いけません、と眠気を振り払った少女は改めて鳥ガジェットを見つめる。どう見てもニワトリだ。コケコッコ、と鳴いているので絶対にそうだ。
「ふえええ、やっぱりにわとりさんです」
 しかし眠気に対してのガジェットならばこの形で正解だ。何故ならニワトリとは朝を知らせて眠りから起こすもの。
 きっと影朧の羽毛攻撃が来ても、鳴いて皆を起こしてくれるに違いない。
「やりました、これで影朧の力を封じ……ZZZ」
 また寝てしまったフリルをニワトリが突いて起こす。その痛みに飛び起きたフリルはまた自分が寝てしまったのだと気付いた。
「ふぇ!? 起こすときは優しく起こしてほしいです」
 ニワトリガジェットはアヒルさんのように厳しい。他の仲間には鳴いて起こしていくようなのだが、フリルだけ突かれている。
 なんと、フリルについているニワトリはとさか帽子を被ったアヒルさんだった。
 アヒルさんのように、ではなく本人(本鳥)だったのだから当たり前だ。
 ふええ、と再びあがった少女の声は少しばかり悲痛で――。
 けれどもこれが彼女達のいつもの戦い方。
 そうして眠りを誘う羽毛の脅威は、ニワトリの声によって晴らされていく。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

御園・桜花
「忘れたのは、想いを繋げず絶えたのは。きっと、私達ヒトなのでしょう。神使への願いが絶え、自らが神使であることも忘れ。苦界に落とされた恨みのみが身に残る…お可哀想に」

UC「召喚・精霊乱舞」
破魔の属性持つ光の精霊召喚し雑霊含め敵に追尾攻撃
敵の攻撃は第六感や見切りで躱す

「想い繋げず果てるはままあることでも。それ故に歪んだ貴方達を、見捨てることはできません。私も、繋げなかった。繋ぎたかった。どうか転生して神にお戻りを。難しくても、せめて骸の海で心安らかに揺蕩えるよう」
崩れた梁の隙間から覗く青い空
瓦礫の山と嘗て人だった成れの果て
自分の原風景を思い出しながら、くろがらすさま達の転生願い慰め乗せた鎮魂歌歌う



●祈りが届かずとも
「忘れたのは、想いを繋げず絶えたのは――」
 桜花は空に羽撃く黒い鴉を振り仰ぎ、桜の代わりに舞う黒い羽を捉える。
 人が好きだったという神の使いは今、人を襲うものへと変わっていた。其処から感じた思いを言葉に変え、桜花はそっと語っていく。
「きっと、私達ヒトなのでしょう」
 神の使いへの願いが絶え、自らが神に仕えるものであったことも忘れた黒鴉。
 かれらはとても哀しい存在だ。今はこの館を破壊することや、居合わせた人々を襲うことしか考えられないらしい。
「苦界に落とされた恨みのみが身に残る……お可哀想に」
 桜花は黒鴉を手招き、自分の方に注意を向けさせた。そうすればかれらは此方に飛んできて、館を破壊するのをやめるだろう。
 予想通り、黒鴉達は桜花の姿を見つけるやいなや、翼を広げて滑空してきた。
「来ましたね」
 ――おいで精霊、数多の精霊、お前の力を貸しておくれ。
 同時に桜花は精霊を召喚していく。
 かれらが敵意を持っているのならば、桜花も真正面から受け止めるだけ。
 精霊は破魔の力を纏い、眩いほどの光を乱舞させていった。対する黒鴉は雑霊を召喚し返したが、それも桜花には予測済みのことだ。
 敵に追尾攻撃を行うように精霊達に告げた桜花は、自分が攻撃を受け続けてしまわぬないように立ち回る。
 確かな形すらない霊は数が多いが、一体ずつは弱い。
 雑霊からの突撃は第六感で察知して、しかと見切って躱した。
「想い繋げず果てるはままあることでも。それ故に歪んだ貴方達を、見捨てることはできません。私も――」
 繋げなかった。繋ぎたかった。
 桜花は自分の境遇と、かれらの辿ってきたであろう過去を重ね合わせた。
 過ぎ去ってしまったものは戻らない。
 現在、今というものも消費されて過去になっていく。選び取ったもの、選べなかったもの、どれも等しく過ぎていくだけ。
 桜花は精霊と共に黒鴉を蹴散らし、かれらに呼びかけていく。
「どうか転生して神にお戻りを。それがたとえ難しくても、せめて骸の海で心安らかに揺蕩えるよう祈っています」
 桜花は願う。
 崩れた梁の隙間から覗く青い空。瓦礫の山と嘗て人だった成れの果て。
 自分の原風景を思い出した桜花は懸命に思いを紡ぐ。
 黒鴉達の転生を願い、精一杯の慰めを乗せた鎮魂歌をうたいながら――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

篝・倫太郎
【華禱】
喪われた信仰の果て、忘れ去られた結果
そうだとしても……元は神サマやその使いだったなら
人を傷つける存在になり果てる事を
それでいいとは言えねぇからな……

ちゃんと止めて還してやろうぜ、夜彦

拘束術使用
射程内の総ての対象を鎖で攻撃と同時に拘束
夜彦の攻撃が通り易いよう
可能な限り一ヶ所に纏める感じで鎖を引き絞る
名を呼んでタイミングを合わせ
一息に片を付けちまおうぜ

拘束から逃れた敵と召喚された雑霊は
衝撃波と破魔を乗せた華焔刀のなぎ払いで対応

出来るだけ家屋や敷地に被害が出ないように立ち回りには注意し
敵の攻撃は見切りと残像で回避
但し回避する事で夜彦や家屋に被害が出そうな場合は
回避せずにオーラ防御で防いで凌ぐ


月舘・夜彦
【華禱】
神であれ神の使いであれ、人が在り崇めているからこその存在
祈り敬い崇めるのも人、忘れ去るのも人
……悲しくも避けられぬ運命でも牙を向ける理由にしてはなりません

嘗て彼等に向けた想いは本物だったからこそ
それさえも壊してしまうのは悲しい
――止めなくては

敵の数が多いので範囲攻撃を使用
倫太郎の声掛けを合図に仕掛けます
拘束術で敵が集まっている所
または分散している場合は少しでも集中しており拘束されている敵へ二刀流剣舞『襲嵐』
狙った敵を起点に嵐を繰り出し、周囲の敵を巻き込む

その後はダッシュして接近
2回攻撃となぎ払いにて残りを一掃

敵の攻撃は武器受けにてその場で対処
刃で攻撃を受け止めた後カウンターにて斬り返す



●共に戦う
 喪われた信仰の果て、忘れ去られた結果。
 それらが喩えそうだとしても、元は神の使いだったならば敬いを忘れてはいけない。
「人を傷つける存在になり果てる事を、それでいいとは言えねぇからな……」
 倫太郎が思いを言葉にすると、夜彦も同意を示した。神であれ神の使いであれ、人が在り崇めているからこその存在。
 祈り敬い崇めるのも人、忘れ去るのも人。
「……悲しくも避けられぬ運命でも牙を向ける理由にしてはなりません」
 夜彦は太刀の鞘に触れ、夕空を舞う黒い影を見上げた。倫太郎も倣って空に視線を向けていく。黒い鴉達は二人に気付き、今にも襲い掛かってきそうだ。
 嘗て彼等に向けた想いは本物だったのだろう。
 それさえも壊してしまうのは悲しい、と考えた夜彦は刀の柄に手を添えた。
「――止めなくては」
「ちゃんと止めて還してやろうぜ、夜彦」
 倫太郎も華焔刀を構え、夜彦の横に並び立つ。
 すると何羽もの黒鴉が雑霊を呼び起こした。形のない霊体は夜彦達の元へと飛んできて、体当たりをくらわせようとしてきた。
「敵の数が多いですね」
「それならこうするだけだ」
 夜彦の声に応えるように、倫太郎が拘束術を使用する。射程内の総ての対象を鎖で攻撃と同時に拘束して動きを阻む作戦だ。
 雑霊は弱いらしくその一撃で消えていく。だが、一度の行動で穿ちきれないほどの敵がいることも事実だ。倫太郎に合わせ、夜彦も夜禱と霞瑞刀を振るった。
 二刀流剣舞――襲嵐。
 嵐のように広範囲を巻き込む無数の斬撃が周囲に広がり、霊と鴉を穿った。
 その間に倫太郎は更に動く。
 夜彦の攻撃が通り易いよう、可能な限り一ヶ所に纏める勢いで鎖を引き絞った。
「頼む、夜彦!」
 そして、名を呼ぶことでタイミングを合わせる。夜彦は倫太郎の声掛けを合図にして、もう一度仕掛けていった。
「お任せを」
「一息に方を付けちまおうぜ」
 夜彦と倫太郎は頷きあい、それぞれの攻撃を放ち続ける。
 拘束術で敵が集まっている所、または分散している箇所を狙って、拘束されている敵へと襲嵐を振るう夜彦。
 夜彦が狙った敵を起点に嵐を繰り出して周囲の敵を巻き込む中で、倫太郎も新たな鎖を解き放った。拘束から逃れた敵、そして敵が召喚する雑霊。
 それらを衝撃波と破魔を乗せた華焔刀で薙ぎ払い、倫太郎は戦う。
 二人とも、出来るだけ家屋や敷地に被害が出ないように立ち回っていた。敵の攻撃は見切りと残像で回避して衝撃を避ける。
 しかし、避けることで夜彦や家屋に被害が出そうな場面が訪れると、倫太郎は敢えて攻撃を受けにいった。
 オーラの防御で防いで凌ぎ、痛みを堪える。
 その姿を頼もしく思いながら、夜彦も敵に向けて駆けていく。
 距離を詰めた夜彦はニ回攻撃からの薙ぎ払いで以て、残る敵を一掃していた。
 相手からの攻撃は武器で受け、その場で対処する。刃で受け止めた後、反撃の一閃で敵を斬り裂いた夜彦は黒鴉達を鋭く見据えた。
「まだ数は多いようですね」
「何にしたって蹴散らしていくだけだ。眠らせてやるためにもな」
 華焔刀を構え直した倫太郎も視線を影朧に差し向ける。
 そうして、戦いは続いていく。
 倫太郎と夜彦。支え合う二人の連携は見事に巡り、桜の館への被害を抑えていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

唄夜舞・なつめ
…夜桜見ながら酒盛りはお預けってか?…ったく、しゃァねえなぁ…。

目に光の無い鴉たちを見て、
自分の濁った黄昏色の瞳を思い出す。

…あぁ、そうか、お前らも…
ーー忘れちまったのか。

『好き』だったやつも
ーーー『自分』さえも。
俺と…一緒だな。

…仲間になってやりてェけどよ、
わり。決めたんだ。
今回の『いのち』は無駄にしねェって。
最初で最後かもしれねェんだ。
こんな、いつもと違う世界は。

アイツがーーー涼しい声で起こしてくれた世界は。

だからよ、
俺はお前らの様にはなれねェ。
まぁでも、好きだったやつを
無意識で傷つけるなんて
お前らも辛ェだろ。
だから、代わりに楽に
『死なせて』やるよ。
俺には訪れない

ーー『死』をくれてやる。



●救いという死
「夜桜見ながら酒盛りはお預けってか? ……ったく、しゃァねえなぁ」
 なつめは空に胡乱な視線を向け、夕暮れの色を見遣る。
 其処に混じっている黒い影はこの場には相応しくない存在だ。本来ならば夜まで続いたであろう華火の祭は、彼らの襲撃によって半ばで終わってしまっている。
 目に光の無い鴉たちを見て、なつめは自分の濁った黄昏色の瞳を思い出す。
「あぁ、そうか、お前らも……」
 ――忘れちまったのか。
 かつて『好き』だったやつも、『自分』さえも。
「俺と、一緒だな」
 なつめは此方に迫ってくる黒鴉を振り仰いだ。同じであるからこそ気持ちがわかる気がした。黒い鴉達が持っているあの破壊衝動も、自分が抱くものに似た感情から生み出されているものかもしれない。
「……仲間になってやりてェけどよ、わり。決めたんだ」
 身構えたなつめは黒鴉達に語りかける。
 なつめが紡いでいく言葉は、自分自身にも言い聞かせていくものでもあった。
「今回の『いのち』は無駄にしねェって。最初で最後かもしれねェんだ」
 こんな、いつもと違う世界は。
 アイツが――涼しい声で起こしてくれた世界は。
「だからよ、俺はお前らの様にはなれねェ」
 そう宣言した彼は竜神の力を呼び起こしていく。対する黒鴉達は雑霊を召喚したが、完全竜体になったなつめは構わず飛翔していった。
 雑霊達がその風圧に煽られて揺らぐ中、なつめは一気に攻勢に入る。
 其処から轟くのは数々の雷。
 背にした桜の館にまで一体たりとも行かせはしない。そんな意思が宿った雷撃は次々と雑霊を貫き、黒鴉までも穿っていく。
 彼らは哀れに変貌してしまった影朧だ。容赦はいらない。
「まぁでも、好きだったやつを無意識で傷つけるなんてお前らも辛ェだろ」
 なつめは黒鴉達を見遣る。
 その眼差しには昏い色が宿っていた。だから、と竜の頭を左右に振ったなつめは更なる力を紡いだ。そして――。
「代わりに楽に『死なせて』やるよ」
 自分には訪れない、それを。
 眠るように落としてやると告げたなつめは、ひといきに雷撃を落とした。
「――『死』をくれてやる」
 言葉と共に、彼の周囲に飛んでいた黒鴉が地に落下していく。それらは黒い羽を散らしながら悲痛な声をあげ、地面に衝突する前に消え去った。
 骸の海に還されたかれらの羽根もまた、風に舞って散っていく。
 その様を見下ろしたなつめは、何処か羨望にも似た不思議な感情を抱いていた。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

ユヴェン・ポシェット
クー。そうか、悲しいのか…あの鴉達の姿が。
だが危ないから俺から離れないでくれ
俺達には終わらせる事しかできない。
だから、せめて。彼らの存在を一緒に憶えていてやろう?そして暫く目を閉じていてくれ、まだお前には見せたくはないから。

…いくぞ、ミヌレ。
UC「halu」使用。自身の身体から柔らかい蔓を伸ばし懐にいるクーを優しく覆う。衝撃からも視覚からも守りたいが為に。
そして手を伸ばす。くろがらす達を誘う様に腕を木の枝へと変えて、近づけばその腕を揺らしなぎ倒す。腕を戻せば手には槍。きちんと終わらせる為に刺し貫く。

やるべき事をやるだけ。それは今も昔も変わらない
…だがクーは、まだ知らなくても良いと思ったんだ



●終幕をこの手で
 傍に連れている稲荷狐が悲しげに鳴いた。
 その眼差しは、空から現れた黒い鴉に向けられている。
 ユヴェンは敵意を持つ彼らの出現に対して身構えながら、白狐のクーを見下ろした。
「クー。そうか、悲しいのか……あの鴉達の姿が」
 白狐もまた稲荷狐として神の使いであった存在だ。クーとて、傷付き弱らなければあのように眠っていなかったはず。きっと何か通じるものがあるのだろう。
「だが、危ないから俺から離れないでくれ」
 クーを護る形で一歩前に踏み出したユヴェンは、此方に向かい来る黒鴉を見据えた。
 あの鴉達にどのような過去があり、ああなっているかを知ったとしても、今の自分達には歪んでしまったものを終わらせることしかできない。
 ユヴェンの思いを感じ取ったらしいクーは尾をしょんぼりと下げた。
 狐の様子に気が付いたユヴェンは、大丈夫だと告げていく。
「終わらせることしか叶わないが……だからこそ、せめて。彼らの存在を一緒に憶えていてやろう?」
 ユヴェンが問いかけると、クーは顔をあげた。
 人が好きだったということ。影朧となっても、人を求めていること。意識は破壊へと向かっているが、黒鴉達にはまだ人への思いがあるはずだ。
「クー、暫く目を閉じていてくれ、まだお前には見せたくはないから」
 未だ小さな白狐には死を目の当たりにして欲しくはない。
 ユヴェンが願うと、クーは素直に従った。
「……いくぞ、ミヌレ」
 竜槍に呼びかけ、己の身体から柔らかい蔓を伸ばしたユヴェンはクーを懐に入れ、優しく覆っていく。それは衝撃からも視覚からも守りたいが為。
 そして、手を伸ばす。
 腕を木の枝へと変えたユヴェンは黒鴉を誘った。滑空してきたかれらが攻撃範囲内に近付いた一瞬を狙い、腕を揺らして薙ぎ倒す。
 刹那、その腕は通常のものに戻った。ミヌレの竜槍を構え直したユヴェンは、かれらの影朧としての生を終わらせる為に地を蹴る。
 一点に狙いを定め、刺し貫く。
 それは一瞬のこと。その直後、懐のクーがユヴェンにしがみついた感覚がした。
「もう少し我慢していてくれ」
 白狐に声を掛けたユヴェンは身を翻し、次の一体に視線を向ける。
 やるべきことをやるだけ。
 それは今も昔も変わらないが、幼いクーはまだ知らなくても良い。そう思ったからこそ、こうして戦っている。
 哀しき出来事を引き起こさないための戦いではあるが、黒鴉は苦しげに倒れていく。
 残酷に見えてもこれが自らの使命だ。
 ユヴェンは竜槍を握る手に力を込め、次々と影朧を落としていった。
 どうか、安らかに。
 敢えて言葉にはしない思いを胸に抱き、ユヴェンは戦い続ける。
 この先に繋がる未来が、より良いものであるようにと思って――。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

グウェンドリン・グレンジャー
ヴィリヤ(f02681)と

私、は……ヴィリヤの、期待に、答えなきゃ
……真っ直ぐ、行って、ぶっ飛ばす、しか、出来ない、けど
(腰から黒い翼を生やし臨戦態勢)

くろがらす、さま。私も、鴉、だから。親近感……でも、倒す。ごめん
全力魔法、浄化乗せた、Feather Rain……で、雑霊召喚・陰……で、増えた、雑霊、一気に、消す
ヴィリヤー、今なら、本体、当てれる、よー

Black Tailを、伸ばして、怪力……で、薙ぎ払うように、近くのくろからすさま、攻撃
遠く、なら、Imaginary Shadowで、念動力……の、衝撃波、当てる
もしくは、呪殺弾、飛ばす

ねえねえ、くろからすさま
今……寂しい?……そっか


ヴィリヤ・カヤラ
グウェンさん(f00712)と。

私はグウェンさんが思いっきり戦えるように、
戦場を広めに見ながら危なそうな敵を落としていこう。

宵闇で近接ならそのまま、
遠くなら蛇腹剣にして倒していくね。
敵が集まってる所があるなら【燐火】で焼き鳥にしちゃおうか。
【燐火】なら視界が塞がれても広めな範囲にばら撒いたら敵に当たるかもしれないしね。
グウェンさんが本体の周りを綺麗にしてくれたら、
一気に【燐火】で焼いていくね。

っと、グウェンさん、こっちは気にしないでいいからね。
……って言った手前心配させないように頑張ろう!

くろがらすも敵じゃなかったら可愛いしモフモフしたかったな、
次はモフモフさせてくれると嬉しいな。



●散り逝く翼
 迫り来る黒鴉。
 災いを齎すものとなった影朧が自分達の方に向かっていることを察し、グウェンドリンとヴィリヤは身構えた。
 楽しかったお祭りの時間を思えば、この場を破壊しようとする相手は許せない。
 それが嘗ては神の使いであったとしても止めるのが道理だ。
「グウェンさん、やろう」
「うん……止めて、あげないと、ね……」
 ヴィリヤの呼びかけにはグウェンドリンへの期待と信頼が宿っている。グウェンドリンが思いっきり戦えるように、と考えたヴィリヤは戦場を見渡す。
 自分達に狙いを定めた敵だけではく、まだ空にいる敵を視界に入れたヴィリヤは多角的に状況を判断しようと決めた。
 グウェンドリンはその思いを感じ取り、そっと考えを巡らせる。
(私、は……ヴィリヤの、期待に、答えなきゃ)
 真っ直ぐ行って、ぶっ飛ばすしか出来ないけれど。それが自分のすべきことだとして、グウェンドリンは腰から黒い翼を生やした。
 臨戦態勢を取ったグウェンドリンに合わせ、ヴィリヤも敵に狙いを定めた。
「くろがらす、さま。私も、鴉、だから。親近感……でも、倒す」
 ごめん、と告げたグウェンドリンは翼を広げる。
 黒緑に輝く美しい鴉の羽根が夕闇の中で鈍く光り、黒鴉が召喚していた雑霊を一気に蹴散らしていった。
「流石はグウェンさんだね」
「ヴィリヤー、今なら、本体、当てれる、よー」
 グウェンドリンが瞬く間に雑霊を倒したことによって、黒鴉への射線がひらく。
 彼女からの呼びかけに頷いたヴィリヤは地面を蹴り、地上近くまで下りてきていた敵へと黒剣を振るった。だが、驚いた黒鴉が空に舞い上がる。
 距離を離されるかもしれないと感じたヴィリヤは、宵闇を鞭状の蛇腹剣に変形させた。
「逃さないよ。纏めて焼き鳥にしちゃおうか」
 ヴィリヤが見上げるその先には、まだ此方に下りてきていない黒鴉もいる。
 丁度良いと判断したヴィリヤは青い炎を周囲に紡ぎ出していった。
 ――炎よ熱き刃となって射抜け。
 対する黒鴉も勾玉から眩い光を放ってきた。しかし、燐火は黒鴉が放つ光を裂く。ヴィリヤの視界が塞がれても突き進む炎の刃は、次々と敵を穿っていった。
 次の瞬間、光が散らばる。
 好機が訪れたと感じたグウェンドリンは黒い生体ウィップを伸ばし、空中の黒鴉達をひといきに巻き込んだ。
 薙ぎ払われた一体の黒鴉が別の黒鴉にぶつかって地に落ちてくる。
「……撃ち、落とす、よー」
 このまますべての敵を此方に引き寄せようと考え、グウェンドリンは黒い影や羽根、蝶を空に舞い飛ばしていった。
 彼女の見事な動きを見つめ、ヴィリヤも燐火を迸らせていく。
「っと、グウェンさん、こっちは気にしないでいいからね」
「大丈、夫……」
 衝撃波と呪殺弾、青い炎の刃で以て敵の力を削り、グウェンドリンとヴィリヤは一体、また一体と黒鴉を屠った。
 気にしないでと言った手前、グウェンドリンに心配されないように頑張りたい。ヴィリヤは懸命に燐火を放ちながら、地面に転がっている焼け焦げた黒鴉を見下ろす。
 この子達も敵ではなかったら可愛くて、モフモフしたかった。
「次はモフモフさせてくれると嬉しいな」
 骸の海に還っていく鴉を見送ったヴィリヤはいつか廻る命を思う。そして、グウェンドリンは最後の一羽を黒い翼で貫き、落ちた姿を見下ろした。
「ねえねえ、くろがらすさま。今……寂しい?」
 問いかけられた黒鴉は弱々しく鳴いた。その意味は分からなかったが、グウェンドリンは何となく意思を理解する。
「……そっか」
 黒い羽が風を受けて空に舞い、消えていく。
 そうして、グウェンドリンとヴィリヤ達の周囲に現れた黒鴉は全て散った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蘭・七結
【比華】

黒い翼を持つ鴉たち
嘗ては神性に仕えていたものたち
……そう、あなたたちも

あなたたちの眸は
何を見うつして、何を捉うのでしょう
嗚呼、突き刺すような憎悪を感じる
ひとを好いて、あいしたもの
その想いが変じ、転じてしまったのね

お出で、此方へお出で
ほんとうに染まってしまう前に
あなたたちを送りましょう
消滅こそが救済であるとは思わない
けれど、憎悪の一片だけでも
あなたたちから払うことが出来るのなら

多くの雑霊に取り囲われているよう
薄紅の花が漆黒に隠れてしまう
溢れ出でる憎悪も哀しみも
あたたかな春の嵐で攫いましょう

春の花が、サクラが力を添えてくれた気がする
薄紅と紅のふた紅をかさねて
あなたたちを彼方へと送りましょう


蘭・八重
【比華】

あらあら、可愛らしい子達だこと
小さな神様なのね

人を愛し、でもその愛ゆえに人を憎んだ
えぇ、その気持ちわかるわ
誰も気づいてもらえない、誰も信仰してもらないのは淋しい事

私もなゆちゃんに会わなければ人を、いえ世界を憎んだかもしれないわ
この子達を悲しむ優しいなゆちゃんの姿を眺めてほんわりと微笑む

あの時もそうだった優しい光、私の愛おしい妹
貴女がこの子達を助けたいというならば私も手伝いましょう
死が幸せとは言わないわ
でもその憎悪からは解放される

噤む黒キ薔薇
薔薇達が可愛い子達を捕まえて還していく

桜と薔薇が舞う
あぁ、とても美しい



●桜舞う
「あらあら、可愛らしい子達だこと」
 桜の館に現れた黒い鴉達を見遣り、八重は茨の黒薔薇を咲かせていく。
 かれらから感じるのは敵意。それゆえに彼女も戦いの準備を整える。その傍ら、七結はあの冬の出来事を思い返していた。
「小さな神様なのね」
「……そう、あなたたちも」
 八重の声を聴きながら、七結は黒い翼を持つ鴉たちを瞳に映す。
 嘗ては神性に仕えていたものたち。記憶の中にある健気な白い鳥達を思い、七結は胸元をそっと押さえた。
 今、対峙している黒い鴉達の眸は闇のように深い色が沈んでいる。害意しか見えない視線を受け止め、七結はそうと身構えた。
 ――あなたたちの眸は何を見うつして、何を捉うのでしょう。
 突き刺すような憎悪を感じるゆえ、きっと思いを問いかけても何も聞いて貰えない。
 けれども確かなことがある。
 かれらは嘗てはひとを好いて、あいしたもの。
「想いが変じ、転じてしまったのね」
「人を愛し、でもその愛ゆえに人を憎んだ。えぇ、その気持ちはわかるわ」
 七結の言葉に頷きを返した八重は思いを巡らせていく。
 誰にも気付いて貰えない。
 そして、誰からも信仰して貰えないのは淋しいこと。
(私もなゆちゃんに会わなければ人を、いえ世界を憎んだかもしれないわ)
 鴉達を見て過去を思っている優しい妹。その姿を眺めた八重はほんわりと微笑む。七結は姉からの視線を感じながら、片手を空に向けた。
「お出で、此方へお出で」
 こうして呼びかければ、招かれたと思った黒鴉達が地上に下りてくる。
 かれらの眼差しは依然として強い。けれどもまだ何かを傷付けたわけではない。桜の館を襲おうとしているが、此処で止めてしまえば罪を成す前に封じられる。
 ほんとうに悪いものに染まってしまう前に。
「あなたたちを送りましょう」
「えぇ、貴女がこの子達を助けたいというならば私も手伝いましょう」
 七結の隣に立った八重は黒鴉に向け、鋭い棘の茨を放った。其処に合わせて七結もあかい牡丹一華を舞わせて、影朧達を囲っていく。
 消滅こそが救済であるとは思わない。
 けれど、憎悪の一片だけでもあなたたちから払うことが出来るのなら――。
 七結が真っ直ぐな眼差しを影朧に向け返している様に、八重は光を感じる。
 あの時もそうだった、優しい光。
 私の愛おしい妹。そのようにちいさく言葉にした八重は、敵が雑霊を召喚していく様子に気が付く。気をつけて、と告げた八重は凛とした声を紡ぐ。
「死が幸せとは言わないわ」
 でも、此処で屠ればその憎悪からは解放される。
 二人は同時に華と茨を解き放った。彼女達の周囲には多くの雑霊がいて、館に咲く薄紅の花が漆黒に隠れてしまっている。
 それはまるで、溢れ出でる憎悪や哀しみの色のようだ。
「あたたかな春の嵐で攫いましょう」
 七結は牡丹一華の花嵐で黒い霊達を散らし、あらたな色に塗り替えていく。
 その力が廻ることで、雑霊はすべて消えていった。
 そこに合わせて動いた八重は、黒薔薇で以て可愛い子達を捕まえては還した。鞭が撓る度に黒鴉が地に落とされ、あかい華の軌跡がその身を包み込む。
 そうして、攻防が巡る度に一体ずつ影朧が倒れた。
 戦いが続いていく最中、何処かから桜の花がひらひらと落ちてくる。ふと顔をあげた七結は手を差し伸べて、ひとひらの花を受け止めた。
「これは……」
 この春の花が、サクラが、力を添えてくれた気がする。
「あぁ、とても美しいわ」
 桜と牡丹一華と薔薇が舞う景色を見つめ、八重も不思議な力を感じた。
 薄紅と紅。
 ふた紅をかさねて、かれらを彼方へと。
「あなたたちが何も憎まなくても良い世界にいけるように――」
 そして、七結は黒鴉に最後を与えた。
 倒れゆくかれらの眸が一瞬だけ桜の色を映す。そのことがどうか、僅かでも救いになっていればいい。そっと願い、二人は骸の海に還るものたちを見送った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

水標・悠里
信仰が絶えれば消える
誰からも忘れられれば人もまた
消滅の瞬間とは死か忘却か
どちらを指すのだろうね

僕はどちらかというと――僕に関わるもの全て忘れて欲しいかな
解決にはならないけど
それが良い未来だって信じている
それが出来ないから
僕は苦しいよ

忘却を封じる痛みの呪いは
焦がれ狂おしい復讐心にも似て
とても痛いから

悲しい
怖い
それすらも忘れてしまった?
覚えているなら聞かせておくれ

さあ語ろうか
生まれついて殺めることを定められ
殺されることを運命づけられた
鬼達の黄泉語り

もうお帰り
冷たい水底は優しく静かな場所だよ
道が分からないなら僕が案内しよう
それが役目だから

さあ目を閉じてお行きなさい
そして僕のことなど忘れておくれ



●黄泉語りと桜
 信仰が絶えれば神は消える。
 誰からも忘れられれば、人もまた消えてしまうのだろうか。
 消滅の瞬間。それは肉体の死か、それとも忘却か。
「どちらを指すのだろうね」
 悠里は誰に語るでもない言葉を落とし、頭上を振り仰いだ。その視線の先には夕暮れの空の色と、其処に交じる黒い鴉の姿があった。
「僕はどちらかというと――僕に関わるもの全て忘れて欲しいかな」
 悠里は茫洋とした声で思いを零す。
 それはきっと解決にはならないけれど、悠里はこれこそが良い未来だと信じていた。
 しかし、それが出来ないことは悠里自身がよく知っている。
 ――僕は苦しいよ。辛いよ。
 胸の奥が掻き毟られるような感覚をおぼえ、悠里は唇を強く噛み締めた。
 忘却を封じる痛みの呪いは、焦がれて狂おしい復讐心にも似ていて、とても痛い。
 目の前に現れた黒鴉も或る意味でそうなのだろうか。
 好きだという感情を忘れて、人への形にならない思いだけは憶えている。悠里にとって、かれらはそのような存在だと思えた。
 悲しい。
 怖い。
「それすらも忘れてしまった?」
 覚えているなら聞かせておくれ、と悠里は黒鴉達に語りかける。地上に下りてきたかれらからの返答はないが、それでいい。
 周囲に黒鴉しか居ない今、其処に穏やかに笑う化け物はいない。
 魂喰らいの鬼となった少年は、自分の傍に羅刹の剣豪と羅刹の妖剣士を呼ぶ。
 さあ語ろうか。
 生まれついて殺めることを定められ、殺されることを運命づけられた鬼達。
 その黄泉語りを、今此処で。
 悠里の前に立ち、黒鴉へと刃を振るうのは彼の姉である鬼と、精悍な顔つきの青年。彼女達が一手を繰り出す度に黒鴉の羽根が散らされる。
 敵の勾玉から光が放たれようとも羅刹達は怯まず、悠里に傷ひとつ付けさせぬように立ち回り、鋭い剣戟を披露した。
「もうお帰り」
 人を、或いは館を襲ってしまう前に。
 地に落ちていく黒鴉を見つめ、悠里は呼びかけた。
「冷たい水底は優しく静かな場所だよ。道が分からないなら僕が案内しよう」
 それが役目だから。
 そう告げた悠里は羅刹達に願い、黒鴉へと止めを見舞った。貫かれた黒い鴉達は息絶え、骸の海に還されていく。
「さあ目を閉じてお行きなさい」
 そして、僕のことなど忘れておくれ。
 まるで世捨て人の如く哀しげに語った悠里。その傍にもまた、館の千年桜から桜の花が舞ってきていた。その花はささやかな加護となって、そっと少年に添う。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

宵鍔・千鶴
黒き羽根が堕ちゆく
淡い桜の地に色濃く遺す

きみたちは
わすれたの、大事なものを

救いたいと、彼自身が願い神を招いたこと
手がまだ届くならば、
迎えて欲しい
だって後悔はして欲しくはない
自ずと……、
彼も迎えられると俺は信じてる
だって彼はいつも
俺たちを笑って出迎えてくれるこころが還る場所を
与えてくれたもの
ならば返すのもまた、
こころだよ

この地は、俺にとっても
護るべき、
……護りたい美しき場所
ふわりと掠めた花弁に刃を翳してオーラ防御に包むは桜色

皆が大切にする此処を
壊すならば相応に俺も対処をしよう、
憎悪を向けてくるがいい
闇色は慣れたものだよ

烏羽一枚くちづけて
さあ、参ろうか



●桜への懐い
 夕暮れ時は何処か寂しい。
 その理由は楽しかった時間が過ぎ去り、空が昏く暮れゆくからだろうか。
 千鶴は天を見上げ、黒き羽根が堕ちゆく様を見つめる。淡い桜の地に色濃く遺す黒。それは夜の色にも似ていて、夕焼け以上の寂しさを連れてきたように思えた。
「きみたちはわすれたの」
 大事なものを。
 千鶴は自分の方に飛んできた黒鴉が敵意と害意しか宿していないことを感じ取り、そうっと問いかけてみた。
 けれども、かれらから明確な答えは返ってこない。
 元より答えなど求めていない問いだったが、そんな風に成り果ててしまった黒鴉の姿はとても悲しいものだと感じた。
 身構え、戦いへの思いを強めた千鶴は館の主のことを思う。
 救いたい。
 そう語った彼自身が願い、神を招いたこと。その思いを大切にしたかった。
 手がまだ届くならば、迎えて欲しい。
 千鶴がそのように思う理由は、決して後悔をして欲しくないから。自ずと彼も迎えられると千鶴は信じている。
「だって、そうだ」
 自然に言葉が零れ落ちた。それと同時に千鶴の口許にもちいさな笑みが浮かぶ。
 彼はいつもやさしく微笑んでいた。
 自分たちを笑って出迎えてくれる、こころが還る場所を与えてくれた。
 それならば返すのもまた――。
「こころだよ」
 千鶴は心を失くしてしまった黒鴉達に燿夜の刃を差し向ける。相手は哀しき存在ではあるが、大切な館と天秤にかければ、倒すことを選択するしかない。
 それにきっと、情けをかけるよりも屠ってやった方が影朧のためにもなるはず。
 血染め桜の打刀を真っ直ぐに掲げた千鶴の傍に、何処からか飛んできた桜が添う。千年桜の花だ、と思った直感は間違ってはいない。
 自分にも確かな桜の加護があるのだと知った千鶴は力を巡らせた。
「この地は、俺にとっても護るべき、いいや……護りたい美しき場所だ」
 己の思いを確かめ、千鶴は黒鴉を見据える。
 ふわりと掠めた花弁に刃を翳して、防御の力に包むは桜色。狂咲く華、飛沫く雫はかぐやの落涙。周囲に舞いはじめた千鶴の桜は千年桜の花弁と重なり、黒鴉達をやさしく覆うように広がっていった。
「皆が大切にする此処を壊すならば、相応に俺も戦おう」
 憎悪を向けられても、闇色は慣れたもの。
 ひらりと飛んできた烏羽の一枚にくちづけて、千鶴は更に己の力を紡いでいく。
 ――さあ、参ろうか。
 幾度でも咲かせて葬送るのが、今の自分の役目。
 千鶴の眼差しは強く、鋭く――そして慈悲を以て、影朧達に向けられていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

フレズローゼ・クォレクロニカ
🐰館年少部

来たね、鴉!
兎乃くん、一華くん
迎え撃ってやろうじゃないか!
館はボクの家、壊させる訳にはいかないんだよ!

…ボクの彫刻作品達を壊されたら気絶ものなんだ!
大丈夫さ一華くん!
キミはちゃんと守るからね!
フフン頼もしい!
兎乃くんはボクの背中を任せるさ

ぴょんと跳ねてかけて宙に描くのは魔法の絵画
桜吹雪にトランプ…触れたら爆発する罠を仕掛けて破壊工作
華火のように弾けさせてあげる!
おっと危ない
トランプのオーラで身を守り
全力魔法で吹っ飛ばす

箒に乗った兎乃くんとも連携さ
かつてのキミらを穢さぬように
塗り替えたげる!

…櫻宵が自分の願いを抱くのを初めてみた
だから叶えさせたい
……神様にちゃんと会わせてあげたいのさ


誘七・一華
🌺館年少部

お前は居るだけでいい
禍に関わるな、戦に関わるなと言われ続けて
俺は戦えないってずっと思ってた
…独りなんだって

でも零時もフレズも優しくて
兄貴の館はいつも桜が咲いて暖かくて
ここに居ると俺も笑顔になれる
いつの間にか、大切な場所になっていた

俺だって守れる…守るんだ!
2人の足を引っ張らないように、下がった所から2人を支援するぜ!
怖いけど引けないんだ
フレズ、零時
俺は俺の身くらい守れる
2人は鴉を!

破魔矢をぎゅと握りしめ2人を守るよう祈り
「祓詞」
破魔の矢で2人が狙いやすいよう鴉たちの動きをとめるんだ
コマ達だって俺を庇って守ってくれる

俺は2人を折鶴のオーラで守る

好きだったものを傷つける前に
お前達も眠れ


兎乃・零時
💎館年少部

来たか…よ、よぉし!
やろう、フレズ!一華!
守りたいと願うやつがあんなに居るんだ!
ならそれに応えるまで!

よく言った!
その意気だぜ、一華!
戦う時も何より大事なのは、何よりも気持ちだからな!
諦めなけりゃ負けることは決してねぇのさ!

あぁフレズ!背中は思いっきり任せとけ!


箒の「クリスタル」に乗り【操縦×空中浮遊×空中戦】!
UCで鴉に向け光属性攻撃
俺様自身も光の軌跡、勝利の道を描くのだ!
パルに援護射撃頼み
フレズともしっかり連携だ!

クリスタルには意思がある
なら視界が潰れても移動を箒に委ねりゃいい
目潰し攻撃には慣れてるからすぐ回復して再突貫だ!

鴉ら自身の望みじゃないならなおさら!
すぐさまぶっ倒す!



●桜咲く
 ――お前は居るだけでいい。
 禍に関わるな、戦に関わるな。そう言われ続けてきた。
 誘七の家に半ば閉じ込められる形で過ごしてきた一華は、自分は戦えないものなのだとずっと思っていた。
 所詮、自分はお飾り。ただそれだけの存在で――独りだ、と。
 然れど今は違う。顔をあげれば、両隣には身構えるフレズローゼと零時がいる。
「来たね、鴉!」
「来たか。よ、よぉし!」
 迎櫻館を守るため、空から訪れた黒鴉を見据えた二人は戦う準備を整えていた。
「零時……フレズ……」
 一華は無意識に彼らの名を呼ぶ。
 二人とも、とても優しかった。それにこの館はいつも桜が咲いていてあたたかくて、此処に居ると自分も笑顔になれる。
 いつの間にか、迎櫻館は一華にとっても大切な場所になっていた。
「どうしたんだい、一華くん」
「いや、俺も負けてられないと思ってさ」
 フレズローゼが首を傾げると、一華は何でもないと頭を振る。
 本当は――元に予知されたという未来では、一華が黒鴉と神を引き入れてしまうことになっていたという。しかし、櫻宵が代わりにそれを行ってくれた。
 何も知らなかったが故に災いを招いてしまう。そんな自分にならなくて良かったが、その分だけ皆に報いたいと一華は感じていた。
「兎乃くん、一華くん。あの子達を迎え撃ってやろうじゃないか!」
「そうだな、この館は壊させたりしない」
「やろう、フレズ! 一華!」
 迎櫻館はボクの家だと主張するフレズローゼに答え、一華と零時は大きく頷く。
 それに、と零時は戦いが巡りはじめた周囲を見渡した。守りたいと願って戦っている人々があんなに居る。ならば、自分もその思いに応えるまでだ。
「それじゃあ二人と、も……わあああっ!?」
 そのとき、フレズローゼが悲鳴をあげながら駆け出した。その声はとても慌てたものであり、少女は脇目も振らず西館の方に向かっていく。
「どうしたんだ、フレズ!」
「西館に鴉が……?」
 少年達は驚いたが、すぐにフレズローゼの後に続いて走っていった。どうやら黒鴉の一団が西の方に飛んでいっているようだ。
「あっちにボクの彫刻作品があるんだ! わあ、鴉が速い!! 待てーっ!」
「そいつはまずいな。よし、クリスタル!」
 慌てるフレズローゼの声を聞き、零時は魔導箒に飛び乗った。空を翔ける零時を先頭にして、一華とフレズローゼも懸命に駆けたのだが――。
 西館に到着した時、何かが崩れ落ちる音がした。
「――!!??」
「あれは……兄貴の像!?」
「等身大櫻宵像が……!!」
 三人が見たのは、フレズローゼによって作られた彫刻が黒鴉によって縦真っ二つに破壊されている様子だった。ああ、とわなないてふらりと倒れそうになったフレズローゼを、一華がとっさに支える。
「まだ途中だったのに……ボクは、ああ……ボクはもう……」
「しっかりしろ、フレズ!」
 彼女を抱きかかえた一華は他の彫像が突かれていく様から、影朧の悪意を感じた。
 はっとしたフレズローゼは気絶寸前だったが、未来の旦那様(仮)に抱かれていることで何とか気を取り直す。
「大丈夫か、フレズ。こいつらは俺様が蹴散らす!!」
 箒で素早く翔けた零時は他の彫刻や、真っ二つになった櫻宵像がこれ以上の被害を受けないように敵を牽制して回った。特に可愛い仔ペンギンの像は守らなければいけない気がして、零時の立ち回りにも力が入る。
「何で兄貴の像が裸なのかは分からないけど……」
 一華は自分の足で立ったフレズローゼの背を支え、自分の中に生まれた思いを言葉にしていく。今は未だ像だけだが、館自体が壊される前に黒鴉を止めたいと思った。
「俺だって守れる。守るんだ!」
「よく言った! その意気だぜ、一華!」
「大丈夫さ一華くん! ボクだってキミをちゃんと守るからね!」
 少年の決意を聞き、二人も力強い言葉を返す。
「戦う時も何より大事なのは、何よりも気持ちだからな! 諦めなけりゃ負けることは決してねぇのさ!」
「フフン頼もしい! 兎乃くんはボクの背中を任せるさ」
「あぁフレズ! 背中は思いっきり任せとけ!」
 そういって前に出たフレズローゼと零時の後ろに一華がつく。怖くて今にも足が震えそうになったが、此処はどうしても引けない場面だ。
「俺は俺の身くらい守れる。二人は鴉を!」
 破魔矢を握り締めた一華は、大切な友人達を守れるよう祈りを籠める。
 足元には狛犬のコマとマコがついてくれていた。
 その間にフレズローゼは思いきりぴょんと跳ねて駆けて、宙に筆を走らせる。其処に描かれたのは魔法の絵画。
 桜吹雪にトランプ。触れたら爆発する罠を仕掛け、少女は黒鴉を誘い込む。
「華火のように弾けさせてあげる!」
 対する黒鴉は三人を敵と見做し、勾玉から眩い光を放った。眩しいと感じたフレズローゼと一華は思わず目を瞑ったが、零時だけは止まらない。
 紙兎のパルに援護射撃を頼みながら、零時はクリスタルと共に黒鴉へ吶喊した。
 自分自身も、光の軌跡と共に勝利の道を描く。
 強い意志と共に放たれた魔力の光線は真正面から黒鴉を貫いた。眩い光の中でそれが出来た理由は、クリスタルに翔ける軌道を任せたからだ。
「また来るぜ! 気をつけろ!」
 それに零時は目潰し攻撃には慣れている。黒鴉の攻撃に気が付いた零時は二人に呼びかけ、光に備えろと伝えた。
「おっと危ない」
「コマ、マコ!」
 フレズローゼはトランプで作った障壁を纏って身を守り、一華は狛犬達を呼んで迫りくる光の衝撃に備えた。
 その際に一華が祓詞を唱えると、光の中から鈴音が響く。
 一瞬だけ現れた鬼姫の霊が破魔の矢を打ち放てば、黒鴉が一気に貫かれた。
「好きだったものを傷つける前に、お前達も眠れ」
 今だって、一華は黒鴉達にも御祭を楽しむ権利があると思っている。しかし、大切なものを奪われてしまうなら容赦は出来ない。
 折鶴を飛ばすことで零時達を護ろうとする一華の視線は真剣だ。
 フレズローゼは箒に乗った零時と機を合わせながら、更に筆を振るった。
「かつてのキミらを穢さぬように、塗り替えたげる!」
 胸の内に咲く華は、桜。
 少女が天から降り注がせた花に混じって、千年桜がある方から風に乗って来た花弁が周囲に舞いはじめた。
 どうしてか、その桜花が自分達の加護になってくれている気がした。
 花を描いて黒鴉を地に落としながら、フレズローゼは櫻宵のことを思い返す。
 櫻宵が自分の願いを抱くのを初めてみた。幼い頃からずっと櫻宵を見て、その背を追いかけてきたフレズローゼだからこそわかる。
 あの願いは本物だ。
 ――だから叶えさせたい。櫻宵を、神様にちゃんと会わせてあげたい。
 フレズローゼは筆を握る手に力を込めながら、もう片方の手を桜の花に伸ばして掴み取る。その様子を見た零時もまた、自分の周囲に舞っていた桜花をぱしっと掴む。
 昼間は掴めなかったが、今はこうして花を手にすることが出来た。
 それならばきっと。否、絶対に。
「願いは叶うよね!」
「ああ、すごいな二人とも」
「この調子でこいつらを送ってやろうぜ!」
 フレズローゼの言葉に一華が頷き、零時は光の魔力を紡いでいく。館を護るだけではなく、本来は人が好きだったという黒鴉を救うために。
「破壊が鴉達の本当の望みじゃないならなおさら! ぶっ倒す!」
 刹那、光の道が戦場に現れた。
 それは未来に続くかの如く、描かれた花や破魔の矢と重なって影朧を照らす。
 そうして、西館に現れた影朧達はすべて倒された。
 やった、と声を掛けあって互いの手を重ねる少年達と少女。彼らを尚も護り続けるかのように、やさしい桜の花が咲いては舞っていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

誘名・縁
🌸迎櫻館

鴉様方がいらっしゃいましたわ
かの神様のお使いかしら?
光映さぬ眼も嘗ては人を笑顔を映して笑んでいたのでしょうか

いけませぬ
その桜は縁の大切な仲間
館は縁がうまれ咲いた場所
壊させませぬ

千織のあねさまと碧のあにさま
2人を桜吹雪でお守りします
決して怪我などなさらぬよう
衝撃波で吹き飛ばし、縁は支援と守りに徹しまする
戦ごとは得意ではありませぬが
縁もかれらをすくいたい

眠夢絢爛―喪った心さえも慰めて

少しの間
海に到るまで、瞬きの間だけでも
嘗ての鴉様の御心を思い出せたなら

巡ること叶わずとも
縁は祈りまする
優しき御心を抱いていた
神使いの彼らへ戻れたならばと

さくらと共にお眠りなさい
縁達があなた様方の厄を
祓いまする


橙樹・千織
🌸迎櫻館

鴉達が…来ましたね
私達を見ているようで見ていない神使達
いえ…恐らく、かの神からのものではないでしょう

好きだったものを傷つける前に
神使たる黒鴉のまま、眠りにつけるように
破魔を、祈りを込めて歌唱しましょう

此処は…数多の縁が紡がれる場所
迎櫻館は、みんなが帰る場所
失うわけにはいかない
私が護るべき場所

縁さんからの支援にそっと微笑みまた前を向く
桜のオーラと結界術で守護を施し、刃を握る

櫻龍の彼の意志を見届け
そして望みを実現する道に繋げるために
まずは黒鴉達を

マヒを誘発する衝撃波でなぎ払い
敵からの攻撃は動きを見切り回避してカウンターを

眠りなさい、深い深い海の底…
優しき桜の夢と共に


劉・碧
【迎桜館】
黒鴉か…信仰が消えて神性も無いとは、ザマぁねぇな
祀られて崇められ、祈られ持て囃されて、人間から興味が失せれば害為す存在となるだと?
とんだお笑い草だな
それでも神の遣いだったと敵意を向けるなら…その誇りを胸に掲げて不帰と成れ

千織と縁を前に立たさぬよう、黒鴉の動きを注視して動く
黒鴉が襲撃を始めれば銀月を投擲して蹴散らす
接敵するのであれば掌底や肘打ち、
膝蹴り等武器を使わず一撃に重みを乗せていく
俺が傷つくのは構わない
ただ館の他の奴らに危害を加えこの地を穢すなら、許す事はできない
故に俺は得物を振るい、拳を振るおう

在りし日を思い出せてるかい?
なぁ、アンタは神の遣いなんだろ
なら、忘れないでくれよな…



●桜に想ふ
 千年桜に至る道の途中。
 三人は影朧から桜を護るために、戦いへの思いを強めていた。
 空から舞い降りた黒い鴉達は此処までに多く斃され、次々と骸の海に還されている。しかし、地上に下りずに千年桜に向かってくる個体も何体かいた。
 皆の護りを擦り抜けてきた鴉を迎え撃つことにしたのが縁と千織、碧だ。
「鴉様方がいらっしゃいましたわ」
「……来ましたね」
 縁と千織は静かに身構え、飛んでくる黒鴉を振り仰いだ。黒い姿は此処に来ると予知されている三つ目の神にも似ている。
「かの神様のお使いかしら?」
「いえ……恐らく、かの神からのものではないでしょう」
 縁が首を傾げると千織が首を横に振った。どうしてかそのような気がするのだと語る千織に頷き、縁は黒鴉達を招く。
 御出なさいまし、と呼ぶ声に導かれた鴉達が此方を見下ろしていた。
 光を映さぬ眼も嘗ては人の笑顔を映して笑んでいたのか。縁達には過去を推し計ることは出来ないが、今のかれらの眸は何も映していない。
 自分達を見ているようで見ていない神の使いを見据え、千織は藍雷鳥を構えた。
 碧も黒鴉を睨め付け、銀月の刃を差し向ける。
「信仰が消えて神性も無いとは……」
 其処から先は言葉にはしない。それを声にしてしまうとどうなるか、碧とてしかと解っていた。黒鴉から放たれる憎悪めいた感情が深くなるだけだ。
 それゆえに思いは胸の裡に鎮める。
(祀られて崇められ、祈られ持て囃されて、人間から興味が失せれば害為す存在となるだと? とんだお笑い草だな)
 負の感情を受けてきたからこそ、影朧は陰と成り得る。
 堕ちてしまった元神使に対して猟兵が出来るのは屠ることだけ。相手からの害意を敢えて受け止めて骸の海に還すのみ。
 そのとき、千年桜の方から幾つもの花弁が舞ってきた。
 ふわりと吹き抜けたやさしい風に千織が振り向く。これまでよく眺めてきた桜の樹から、今日は特別に不思議な力を感じる。
 縁は淡く双眸を細め、どうかお護りを、と千年桜に願った。
 そして、三人は滑空してきた黒鴉を迎え撃つ。
「いけませぬ」
 あの桜は縁の大切な仲間。館は縁がうまれ咲いた場所。
 決して壊させませぬ、と宣言した縁は千年桜の桜に重ねるように桜吹雪を周囲に散らしてゆく。千織は桜色の加護を感じ取りながら、花唇をひらいた。
 好きだったものを傷つける前に。
 神使たる黒鴉のまま、安らかな眠りにつけるように。
 破魔の力と祈りを込めて、千織は歌いはじめる。
「此処は……数多の縁が紡がれる場所。迎櫻館は、みんなが帰る場所――」
 失うわけにはいかない。
 この場所こそが私が護るべきもの。
 千織の歌声が響く中、碧は地を蹴った。その勢いに乗せて銀月を投擲した彼は千織と縁を前に立たさぬよう立ち回っていく。
「――神の遣いであったと言うのならば、その誇りを胸に掲げて不帰と成れ」
 鋭い言葉を向け、碧は黒鴉を引き付けた。
 すると敵は雑霊を召喚する。形のない霊達が三人を取り囲んでいく最中、碧は掌底や肘打ち、膝蹴りで以て対抗した。
 数が多くとも、一体ずつ確実に蹴散らしていくだけ。
 一撃に重みを乗せて雑霊を相手取る碧に続き、千織も桜の防御壁と結界術を併せて、自分達に守護を施す。
 近付いてくる霊がいれば握った刃を振り下ろし、敵の数を減らしていった。
「千織のあねさま、碧のあにさま。おきをつけて」
 縁も黒鴉までの道を塞ぐ雑霊を衝撃波で吹き飛ばし、二人の支援と守りに徹する。
 戦ごとが得手ではなくとも、今は縁も力を尽くすとき。
 かれらをすくいたい。
 千年桜が見守る春暁の館をまもりたい。
 縁が抱いている思いは、同様に千織も宿していることだ。縁からの支援に微笑みを返した千織は藍の薙刀を振るい続ける。
 何よりも、桜龍の彼の意志を見届けるべく。望みを実現する道に繋げるために。
 まずは黒鴉達を、と決めた千織の眼差しは真剣だ。
 千年桜に敵の破壊の意志を届かせぬため、彼女達は全力を賭す。
 碧もまた、雑霊や眠りを誘う羽毛を散らしながら拳や刃を振るっていった。
 己が傷つくのは構わない。
 ただ、鴉が館の者に危害を加えてこの地を穢すなら許すことはできなかった。白銀を抱く月明の如く、碧が投げた銀月が標的を貫く。
 再び千織が彼に合わせて動き、麻痺を誘発する衝撃波を解き放った。
 徐々に雑霊が減り、眠りを誘う羽が斬り払われることで黒鴉の力も削られていく。勾玉から目眩ましの光が放たれようとも、前に出た千織と碧は決して怯まない。
「在りし日を思い出せてるかい? なぁ、アンタらは神の遣いなんだろ」
 それなら、忘れないでくれ。
 碧は敵に呼びかけながら、屠るための容赦のない一撃を餐わせていく。
 其処から幾度も攻防が巡った。
 今こそ好機だと察した縁は二人の背を見つめ、両手を胸の前で重ねる。
 ――眠夢絢爛。
 紡がれていく魅惑の香。甘い夢華は喪った心さえも慰めていくように、あたたかな春の色を周囲に満たしていく。
 少しの間でいい。
 骸の海に到るまで、瞬きの間だけでも、嘗ての鴉の御心を思い出せたなら。
 いのちが巡ることが叶わずとも縁は祈る。優しき心を抱いていたはずの、神使いの彼らへ戻れたならばと願って、縁は懸命な思いを桜の香に込めた。
「さくらと共にお眠りなさい」
「眠りなさい、深い深い海の底……優しき桜の夢と共に」
「縁達があなた様方の厄を祓いまする」
 祈り続ける縁と共に千織は歌う。心からの思いを伝えていくように、優しく――。
 そして、黒鴉達は地に伏した。
 一先ずはこれで襲撃は防げただろうかと三人が周囲を確かめたとき、桜の樹を目指していた一団から少し遅れて飛翔してきた鴉が見えた。
 その数はたった二羽だが、縁達に見向きもせずに千年桜の方に向かっていく。
「これは拙いか……?」
「いいえ、大丈夫です」
 碧が空を往く敵を見遣って身構えたが、千織は首を横に振る。
 そうした理由はただひとつ。縁も敢えて向かう必要はないとして、そっと頷いた。
「桜の元には、とと様達がいらっしゃいますもの」
 縁の言葉に宿っている信頼は揺るぎない。
 そうして三人は最後に残った黒鴉達との戦いの行方を、彼の二人に託した。
 春を謳う人魚と、館の主である桜龍へと――。

 桜花絢爛。風に乗った花弁が夕空に翔けた。
 もう誰も昏い夜の孤独になど埋もれさせないと語るかの如く、桜は天涯に舞う。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
🌸櫻沫

人が好きで神性を失い憎悪に支配された鴉達

どうやら神斬が襲えと命じたわけではなさそうね
あの神はそういう神ではないもの
でも
…嫌な予感がする
もしやあなたはこの子達のような状態に…?
ならば
何があなたを蝕み壊して…

はやく
あなたに―

…私はこの館を
皆を守る
今はこの子達を送ることが先
リル、いきましょう
千年桜が折れたら一大事

中庭に降り立つ鴉達
人魚の歌声に戯れるように
蕩けた鴉達を破魔の斬撃千々に散らしてなぎ払う
哀しみも苦しみも皆、美しい桜と咲かせましょう
「浄華」
穢させはしない
桜の神罰重ね斬り咲いて

命じられてなくとも
神が連れてきたならば神の使いと同じ
神使いとして咲かせおくり…救うわ

そして
あなたも

…来い、神斬


リル・ルリ
🐟櫻沫

来たよ、櫻
ヨルが鴉達を威嚇している
大丈夫だから僕らを応援してて

心を光を
愛をおとした鴉達
苦しいのかな
哀しいのかな
全部が無くなってしまったのかな

櫻、先ずはこの子達を
綺麗な桜と共におくってあげよう

ここは僕の居場所
僕の家
壊させないよ

千年桜の咲く中庭へ駆けつけて
櫻宵と桜を守るよう水泡のオーラを巡らせる

歌唱に鼓舞をこめ
添える光は破魔の桜
歌う「魅惑の歌」
憎悪ごと蕩かしておとしてあげるよ
誰も傷つけなんてさせない
櫻!今だよ!

憎悪ではなく慈しみを君達に
神使いの鴉達を神使いのまま
龍と共に咲くといい
もう憎まなくても傷つけなくていいのだと
想い重ねて歌い続ける

少しでも救いになればいいな

嗚呼、守ろう
君の大切な存在を



●そして、あなたも
 中庭に咲く千年桜から数多の花が舞っていく。
 この館を護るために集った人々に守りを与え、あえかな加護と感謝を宿すように。
 華やかに舞う桜は迎櫻館中に広がった。
 対するのは嘗ての神性を失い、憎悪に支配された黒い鴉達。かれらは館を襲撃しているが、どうやら神斬が襲えと命じたわけではなさそうだ。
 彼がそういった卑劣な神ではないことを、櫻宵自身が一番よく知っている。
「師匠……」
 櫻宵は血桜の神刀、屠桜を抜いて身構えていた。
 館の中心でもある千年桜が折られでもしたら一大事だと感じ、リルを誘って此処に訪れたのはつい先程。敷地内では至るところで戦いが繰り広げられており、既に櫻宵とリルも何体かの黒鴉の動きを止めて屠ってきた。
 そして今、二人は中庭に近付いてくる気配を感じて戦闘態勢を整えている。
「来たよ、櫻」
「何だか嫌な予感がするわ」
 これまで見てきた黒鴉達はひとへの憎悪や忌諱に満ちていた。
 影朧となったものがこうなるならば、神斬もあの子達のような状態になっているのかもしれない。しかし、それならば何が彼を蝕み壊しているのか。
 櫻宵が空を振り仰ぐ中、ヨルが鴉達を見つけて威嚇をはじめた。館を護るために集った猟兵達の合間を潜り抜け、中庭にまで辿り着いた二羽だ。
 リルはヨルを中庭の茂みに隠し、待っていて、と告げる。
「大丈夫だよ、ヨル。僕らを応援しててね」
 きゅ、と仔ペンギンから良い返事が聞こえたことでリルはそっと頷いた。そして、二羽の鴉達が中庭に舞い降りた、次の瞬間。
『さくら、サクラ――』
 幼子のような声が櫻宵とリルの耳に届いた。
 誰の声なのか。周囲を見渡してみても影朧と自分達しかおらず、二人は黒鴉が発した言葉なのだと理解する。
「この子達が喋っているの?」
『ことしもきれいにさいたよ』
 もう一羽が語りはじめたことで、櫻宵は警戒を強めた。黒鴉達が千年桜を見て呟いたのかと思ったが、その黒い眸には何も映っていない。
 まるで、誰かが言葉にした音をただ繰り返しているような雰囲気が感じられた。
「もしかしてだけど……」
「そうね、あの言葉は――」
 リルも櫻宵も、黒鴉の言葉が元は誰のものであったのか気付きはじめている。
 ちいさな翼を広げた鴉達はこちらの様子など構うことなく、子供のような声で更なる言葉を紡いでいく。
『イザナ。きみと、もっといろんなせかいをたびしたい』
『けれど、わたしはきみとのやくを、おとしてしまった』
 誘。
 その名が呼ばれた時、二人は確信した。あれは神斬の言葉だ、と。
 おそらく彼の神が鴉の傍で胸裏にある思いを落としていたのだろう。独り言めいた神の言葉を覚えた鴉は、こうしてそれを伝えに来ている。
『みつからない。みつからない、どこにもない』
『きらわれる。それだけはいやだ。きみにあいたい。あえない』
「師匠……?」
 櫻宵はすぐに黒鴉達に斬り掛かることができなかった。神斬の心を知りたい。たとえそれが思いの欠片であっても、聞き逃すことは出来ない。
『これはばつだ。やくそくを、なくしてしまったわたしへの』
『イザナ……ああ、イザナ……。サヨ……サヨだけは、きっと――』
 鴉を通じて齎された言葉は悲痛な響きを孕んでいる。
 リルはしかとそれを聞きながら、絡まった運命が少しずつ紐解かれようとしているのだと感じていた。
「あの神は、櫻のことを心配してたのかな」
「……。師匠は私を斬ったのに?」
 リルと櫻宵の中に疑問が浮かぶ。すると鴉達は妙なことを語り出した。

『ごめんね、ごめんね』
 ――桜姫、キミからイザナの約束を貰うよ。呪いの狙いはキミだから。
 ――キミの力ごと、もらうよ。ごめんね。

『こんなこと、したくなかった。にくまれる。でも、きみがおちずにいられるなら』
 ――その大蛇の呪、目覚めた分だけを斬り裂いて、私が貰いうける。
 ――半分だけ、喰らってあげる。

 黒鴉は僅かに残っていた神通力を使ったようだ。
 かれらを通じて硃赫神斬の思いの欠片が伝わってきた。感じられた神の記憶は断片的であったが、欠けていた謎が埋まったような気がする。
「噫……はやく、あなたに……」
 あいたい、と言葉にした櫻宵は屠桜の柄を強く握り締めた。
 鴉は神の使い。
 神性を失っても尚、こうして使いとしての役目を果たした。
 しかし同時に、やるべきことは終わったとばかりに黒鴉達が威嚇の鳴き声をあげる。はっとした櫻宵は刃を影朧に差し向け、リルも泡の防御壁を巡らせた。
「……私はこの館を、皆を守る」
 今は鴉達を送ることが先だと心に決めた櫻宵は、リルと視線を交わしあう。
「先ずはこの子達を綺麗な桜と共におくってあげよう」
 リルは憎悪を剥き出しにしている黒鴉を薄花桜の瞳に映した。
 心を、光を、愛をおとした鴉達。
 かれらは苦しいのか。それとも哀しいのか。或いはそんなものも全部、失くしてしまったのかもしれない。
 先程とは打って変わり、害意を向ける影朧鴉。
 勾玉から光を放った黒鴉は完全に神性を失っている。きっと神斬もこのような状態になっているのだろう。
 櫻宵は刃を振るいながら、覚悟を決めた。
 師匠がどのような存在になっていても迎え入れる。彼はずっと自分を救いたいと考えてくれていた。いつまでも師匠に助けられてばかりの弟子ではいられない。
 二人は師弟であると同時に友だ。
 リルは櫻宵の思いを感じ取り、自分はずっと彼の傍に添うのだと決めた。
「ここは僕の居場所。僕の家なんだ。壊させないよ」
 歌唱に鼓舞を込めて、添える光は破魔の桜。リルが謳いあげる魅惑の歌は、鴉に宿る憎悪ごと蕩かしていく。
 誰も傷つけなんてさせない。誰も苦しませはしない。
「櫻! 今だよ!」
「ええ!」
 櫻宵はリルの声を受け、屠桜を振りあげた。
 美しい人魚の歌声に戯れるように蕩けた鴉達に向け、破魔の斬撃を千々に散らして薙ぎ払う。伝えてくれてありがとう、と告げた櫻宵は浄華の桜嵐を巻き起こした。
「哀しみも苦しみも皆、美しい桜と咲かせましょう」
 その尊厳も、心も穢させはしない。
 桜の神罰を重ねて斬り咲けば、花筏の池が広がる。
 黒鴉は命じられて此処にやってきたのではない。自分達を共に連れてきてくれた神のためを思い、正しき形で使いとしての力を振り絞った。
「憎悪ではなく、慈しみを君達に」
「最後まであなた達は神の使いだったわ。だから咲かせて葬送り、救うわ」
 二人の思いは同じ。神使いの鴉達を神使いのままとして送る。龍と共に咲くといい、と告げたリルは更に謳い続けた。
 もう憎まなくてもいい。何も傷つけなくていい。想いを重ねて歌を響かせる。
 そして――櫻宵の一閃が二羽の鴉をひといきに穿った。
 裂いて、咲く。
 鴉達の身体が桜花となって消えゆく最中、リルは両掌をそっと胸の前で重ねる。
「嗚呼、守ろう。君の大切な存在を」
 リルの眼差しは遥か遠く、深い夜の色に染まっていく天に向けられていた。
 櫻宵も刃を鞘に収めぬまま穹を仰ぐ。
 夕暮れは過ぎ去り、桜の宵を越えて、再会の刻が訪れる。ふたつの魂が最初に出会った、大切なあの夜の日のような空気が迎櫻館に満ちていった。
 櫻宵はもう一度、彼の神の名を呼ぶ。
「……来い、神斬」
 何度でも、幾度だって招こう。運命は既に交差しているのだから。


●愛呪
 黒き鴉達は猟兵達の手によって全て葬送される。
 神の使いは無辜の民を誰も傷つけることなく、骸の海に還されていった。
 襲われた館の被害は西館の一部のみ。他は敷地内の桜の枝が数本折れた程度だ。此処に集った者達の力があったゆえ、館の破壊は防がれた。
 しかし、未だ戦いは終わっていない。
 一度は静けさが戻った桜の館。
 その領域が歪み、何処からか枯れた黒に染まった桜の花が降ってきた。
 昏い夜の色に交じるように――桜喰の厄神が抱く厭悪が世界に滲みはじめる。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『『櫻喰いの厄神』神斬』

POW   :    桜喰ノ厄神
【3つ目に映す全てを桜に変じる櫻神の権能】に覚醒して【桜を持つあらゆる存在を枯死させ滅する厄神】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD   :    『常時発動』桜杜ノ神域
戦場全体に、【侵入した存在を桜樹と変え枯死させる桜の森】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
WIZ   :    桜守ノ契
全身を【黒桜花弁に変え、攻撃を無効化し跳ね返す厄】で覆い、自身の【今までに喰らった桜と周囲に咲く桜花の量】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は誘名・櫻宵です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●花冷えの先
 赫を宿した黒翼が舞い、一羽の鴉が桜の館に舞い降りた。
 それは鴉に姿を変えていた影朧、神斬だ。敷地内の片隅に降り立てば、まるで黒百合が咲くようにして鴉は人の姿に戻る。
「……」
 櫻喰いの厄神、神斬は無言のまま辰砂色の双眸を桜の館の奥に差し向けた。そして、それまで閉じていた額の第三の眼をひらく。
 途端に禍々しい力が広がり、周囲の景色が桜の森に変貌しはじめた。
 その瞬間。
 世界が変わっていくと同時に、影朧の過去が断片的な光景となって巡った。

 厄を齎すとされた神、『硃赫神斬』は孤独だった。
 しかし或る日、花火が咲く夜に生涯の友と呼べる存在に出会った。彼は厄神である自分を厭わずに笑ってくれた。
 ただそれだけで、孤独な神の心は救われた。
 神斬が彼と過ごした数多の情景の欠片が、周囲に映し出されては消える。
 共に街へ繰り出した日。
 剣術の教えを乞うた日。
 穏やかな社で語り合った日。
 ささやかでも楽しく、満たされた日々だった。だが、それも永遠には続かない。
 寿命を迎えた友は或る約束を遺して先に逝った。
 神斬は彼を見送り、その子孫を見守っていくことになった。そして、神斬は彼の子孫に降り掛かった呪いと厄に気付き、代わりに自分がそれらを受けた。
 呪いとは人が何かを憎む故に生まれる力。
 人は優しくもあるが、同時に残酷でもある。自分の意に反すれば排他しようとして雑言を浴びせ、虐げる。この世に影朧が生まれるのも、そういった負の感情のせいだ。
 やがて神斬はそんな世界の在り方を憎みはじめていた。
 それこそが己が最も厭う感情であることも、気が付けぬまま――。
 約束と呪い。
 絡まった様々なものに縛られ、己を失った存在。それが今の神斬だ。

 朽ちかけた社。墨色に染まった桜。
 桜の館の領域はやがて、神斬によって桜杜の神域へと完全に変化させられた。
 この館の周辺に居た者達は、否応なしに枯死の力が廻る桜森に閉じ込められ、何処とも知れぬ森の中に散り散りに飛ばされていた。
 気を抜けば、黒桜花弁が齎す枯死の力が身体を蝕む。此処はそんな領域だ。
 周辺は一変している。
 しかし、桜の館の中央に咲いていた千年桜だけは変わらず其処にあった。
「彼処にいるんだね、イザナ」
 嘗ての友の名を呼んだ神斬はもはや正気ではない。世界への憎悪を募らせた影朧として、意識を塗り潰され、記憶さえも曖昧になっている。
 遥か昔に亡くなった友と、その子孫の違いも分からなくなっているようだ。
 今の神斬を突き動かすのは『友に逢いたい』という感情と衝動だけ。
「――私の櫻は咲いたかい?」
 約束は思い出せない。しかし、それでもいい。
 君じゃなきゃいけない。はやくきみにあいたい。また笑って欲しい。
 神殺の太刀、喰桜を鞘から抜いた神斬は千年桜を目指して進みはじめる。彼の目的はただひとつ、あの千年桜の樹を枯らすこと。
 あの桜を斬る。どうしてそうしようと思ったのかは分からない。
 今の神斬はそれすら深く考えられずに、破壊の意志を向けるものに成り果てていた。
 千年桜への道を邪魔をするならば誰であっても斬り伏せる。そんな意思が、影朧と化した神から感じられた。
 
●おとしものを探しに
 戦場は墨色の桜が咲き乱れる森、桜杜ノ神域。
 猟兵が守るべきものは、優しく美しい花を咲かせ続ける千年桜。
 迷路になった黒桜の森を進めば、同じく千年桜を目指す影朧と出会うだろう。
 呪いに冒された黒桜の力を纏った神斬は手にした太刀、喰桜と神の権能を駆使して猟兵達を斬り、隙を見て逃げながら何としてでも目的の場所に向かおうとする。
 彼はこのままでは正気に戻れない。
 転生を望むにしろ、完全に滅ぼすにしろ、桜杜の神域と化したこの館を元に戻すためには一度は彼を倒さなければならない。
 救いたいと願うならば、刃や拳を交えて力を尽くすしかない。
 そして言葉と思いを掛けて、彼に世界の優しさを思い出させ、その身に宿る呪いを浄化させることが出来れば――。

 この物語の結末はまだ決まっていない。
 櫻と神と、約束と呪いの果て。此処からどのような未来が巡るのか。
 それは、桜の元に集った者達の意志次第。

 ――思へども 験なしと 知るものを なにかここだく わが恋ひわたる。
 ――瀬を早み 岩にせかるる 滝川の われても末に あわんとぞ思う。
 
ティア・メル
十雉ちゃん(f23050)

移ろっていく景色は心模様
神様の想い
胸がきゅうっと切なくて苦しい
こんな感情知らないけど
とても大切なんだって事はわかるよ
十雉ちゃんにはどう見える?

うん
桜を守ろう
きっとそれが神様を護る事に繋がるはずだから

黒曜の花びらはこっちの攻撃を跳ね返すみたい
でも、負けないよ
あなたの攻撃自体を封じてみせよう

桜の花びらと沙羅の花びら
どっちがこぼれ散るか

一瞬でも隙を作れれば良い
その隙が後に繋がっていくから

十雉ちゃんの声が聞こえてくる
神様への想いが輪になって戦場へ満ちるように
それこそがぼくら皆の強さになる

これは神様への祈りの歌

そうだね
あなたの櫻と出逢えますよーにっ
きっと櫻もあなたを待ってるよ


宵雛花・十雉
ティアちゃん(f26360)と

巡る光景に胸がちくりと痛む
友達との思い出
友達との約束
どれも神様にとっては大切なものなんだね
イザナ、か

オレ、あの千年桜を守りたい
それから神様のことも
その為にはあの樹を、花を失っちゃいけないような
そんな気がするんだ

他の仲間の為に隙を作れたならそれでいい
今は一緒に守るための力を
沙羅の花を咲かせよう
力を分け与えるように少女の手に手を添えて
言霊の力で花飴を強化する

桜も沙羅も
散らせたりなんてしない

うん
オレにも聞こえるよ
この場所は強く優しい声で満ちてる
なんて温かな場所なんだろう
例え全てが枯れてしまっても
まるで春みたいに

恐れないで
あなたが櫻を求めるように
櫻もきっとあなたを待ってる



●闇と光
 宛ら深く巡りゆく深淵の如く。
 薄紅で満たされていた桜の館が、墨色の桜の森へと変じていた。
 心すら昏く孤独なものに暮れ堕ちたようで、己までもが黒い桜に変貌してしまうのだという感覚が奔っていく。
 嘗て、厄を司る神は世界にひとりぼっちだった。
 しかし、『彼』との出会いで神斬は独りではなくなる。彼に出会う前の自分がどうやって生きてきたのか忘れてしまうほどに、神斬の心に彩が宿された。

 けれど君はもう何処にもいない。
 君が笑ってくれる世界を忘れられない。だから、あの約束を――。

●邂逅
 浮かんでは消えて、移ろっていく情景。それは神斬の心模様。
 友達との思い出。
 友達との大切な約束。
 ただそれだけを胸に、厄の神は此処まで来たことが分かった。
 垣間見えた感情と記憶を受け止めた十雉とティアの胸がちくりとして、きゅうっと締め付けられるように切なくて苦しくなる。
 それは周囲に広がった桜の森が齎す、鈍い痛みの所為だけではないだろう。
「どれも神様にとっては大切なものなんだね。イザナ、か」
 十雉は神が求める存在の名を口にする。
 そっと頷いたティアは胸元を押さえ、神様の想いを自分の中で考え直していく。こんな感情は知らない。けれども彼らにとって大事な過去であることはわかる。
「十雉ちゃんにはどう見える? どうすればいいと思う?」
 ティアが問いかけると、十雉も胸に手を当てた。
 深く考えるまでもない。今は感じたままに動けば良いのだと思った。
「オレ、あの千年桜を守りたい」
 それから神様のことも。
 その為にはあの樹と花を失ってはいけないような気がするのだと十雉が語ると、ティアも同じ気持ちだと答えた。
「うん、桜を守ろう」
 きっとそれこそが神斬を護ることにも繋がるはずだから。
 思いを確かめあった二人が顔をあげると、周囲の黒桜がざわめいた。来る、と察したティアは真っ直ぐに桜の奥を見つめる。
 黒曜を思わせる花弁がはらりと舞ったと感じた瞬間、鈴の音が響いた。
 彼の神が纏う衣に結わえられた銀の鈴から鳴る音色だ。
「――イザナ」
 求める彼を呼ぶ神斬の声が二人の耳に届く。
 相手は狂おしいほどに彼だけを思っていて、自分達など眼中にないのだと分かった。現に三つ目のどれにも此方の姿は映っていない。
 しかし、ティアも十雉も構うことなどなかった。
 他の仲間の為に隙を作れるならばそれで良い。今は守るための力を紡ぎ、次に繋げていけばいいと知っているからだ。
「大丈夫だよ。ぼくたちは邪魔をしたいわけじゃないから」
「そう、オレ達は影を祓うだけ」
 言葉と同時にティアが沙羅双樹の花弁を迸らせ、十雉が兵ノ言霊を巡らせた。
 あの黒い花弁は攻撃を跳ね返すようだけれど怯みはしない。あなたの攻撃自体を封じてみせるのだとして、ティアは謡った。
 沙羅の花を咲かせる彼女の掌に、十雉がそっと手を添える。
 言霊で以て花飴の廻りへと力を分け与えた十雉は、決して神斬から目を離さない。
 身体が軋む。
 その理由は、辺りに満ちる墨桜が自分達までも桜に変じさせようとしているからだ。神斬が現れるまでは何とか耐えられていたが、彼の姿が見えたときから桜変の力が更に強くなったようだった。
「負けないよ」
 黒桜の花と沙羅双樹の花。どちらが先に零れ散るか。
 ティアがそんなことを思って力を紡ぎ続けているのだと気付き、十雉は頭を振る。
「桜も沙羅も散らせたりなんてしない」
 想いの花を。そして、ティアを。此の身に宿る力で以て守りきる。
 十雉の声を耳にしたティアは、神斬への想いが輪になって戦場へ満ちているようだと感じ取っていた。自分達だけではない。皆が様々な思いを持って、影に堕ちていく神をすくいあげようとしている。
 守りたいという願い。それこそが、ぼくらの――ひいては皆の強さになると信じた。
 ティアが謳うのは優しい神様への祈りの歌。
 神斬が振るった一閃は十雉が薙刀で受け止め、ティアへの斬撃を防ぐ。
 衝撃は重く、黒桜の呪が身を蝕み続けた。されど二人は膝を折ったりなどしない。
「十雉ちゃん、聞こえてる?」
「うん、オレにも感じられるよ。この場所は強く優しい声に満ちてる」
 森の桜は闇色に染まっているが、薄紅の桜が時折どこかから飛んできていた。きっと千年桜の花弁だ。
 加護の桜が沙羅の花と重なり、影朧としての神斬の陰を削ぎ落としていく。
 なんてあたたかな色と優しい場所なのだろう。
 たとえ全てが枯れてしまっても、まるで春みたいに心を包んでくれる。紅桜が未来に進めと後押しをしてくれているかのようだと十雉は感じていた。
 そのとき、神斬が不意に口をひらく。
「……花が、」
 ――沙羅双樹の花の色。
 盛者必滅の理をあらはす。おごれる人も久しからず、唯春の夜の夢のごとし。
 神斬は和歌を紡ぐように幽かな声を落とし、沙羅の花を神殺の太刀で裂く。喰桜を切り返した彼はそのまま身を翻すと、桜森の更に奥へと進むべく地を蹴った。
 十雉もティアも彼を無理に追おうとはしない。
 たったひととき。此の場で影朧の力を削げただけでも、自分達の役目が果たせているのだと解っているからだ。
 恐れないで。
 強く願う思いを込めた眼差しを向け、十雉は遠ざかる神斬の背に告げていく。
「あなたが櫻を求めるように、櫻もきっとあなたを待ってる」
 ティアもそっと頷いた。
 紅い組紐は血の色で、神斬自体も深い夜のように真黒だけれど。その心はきっと桜の彩で満ちていたはずだから。
「あなたの櫻と出逢えますよーにっ。きっと櫻もあなたを待ってるよ!」
 だから決して道を違えないで。
 求めてやまぬ存在に逢うために駆ける桜と厄の神。その姿をしかと見守り、ティアは十雉と共に手を振った。
 はじまりを見送った二人が抱く思いはひとつ。
 どうか、ふたたび出逢えますように。

 ❀

 ――あらざらむ この世の外の 思ひ出に 今ひとたびの 逢ふこともがな。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

日下部・舞
莉亜(f00277)と参加

「やることに変わりはないから」

莉亜の言葉に頷く
願い、望み、祈り、約束、全てを殺す

影を滑るように疾駆して【先制攻撃】
喰桜の斬撃は夜帷で【受け】て【怪力】で押し返す

「莉亜」

私と入れ替わり前に出る吸血鬼
普段は感情の見えない彼が心なしか楽しそう

「でも、ずいぶんと無茶をする」

【目立たない】ように立ち回り援護に徹する
敵が逃走の気配を見せれば【深淵】を発動

敵自身と行く先々に暗黒物質を放って退路を断つ
枯死のダメージは【肌】の痛覚遮断で【継戦能力】を発揮
状況に応じて莉亜を【かばう】

「隙を作るから見逃さないで」

喰桜を捨て身で受ける
片腕が躰を離れて宙を舞う
刃が食い込むことで敵の動きを止める


須藤・莉亜
舞(f25907)と参加

「へぇ、なんか事情がありそうだねぇ。」
まあ、良いや。敵さんだし、殺してから考えよう。

敵さんの攻撃を舞が押し返した隙に前に出つつ、UCで吸血鬼化。
「了解っと。」

攻撃は奇剣を持たせた悪魔の見えざる手と自身の牙と爪で。
自分の体が桜に変わるなら、その部位を奇剣を持たせた悪魔の見えざる手に斬り落としてもらい、その後に即再生。
悪魔の見えざる手達は見えないし大丈夫でしょ、たぶん。

「無茶は舞もしてるような気もするけどねぇ。」
彼女が捨身で作ってくれたチャンスは逃さない。全力で噛み砕いて吸い殺しにかかる。

「後でお酒を奢るよ。」
鬼でもたまには恩を返すってものだよ



●桜の血
 周囲に広がっていく墨色の桜森。
 不思議な雰囲気が満ちる社の森の様子を確かめていく莉亜は、軽く片眼を閉じた。
「へぇ、なんか事情がありそうだねぇ」
 此度の敵である影朧、彼の神には何やら深い感情があるらしい。閉じていた瞼をひらいた莉亜は、まあ良いや、と頭を振る。
 自分達は事情に踏み込むことは出来ないし、きっとそうするべきではないだろう。
「敵さんだし、戦ってから考えよう」
「やることに変わりはないから」
 同意を示した舞も桜の森を見渡しながら身構えた。
 ひとたび戦いになれば莉亜は衝動のままに全力を尽くす。舞も同じくそうあろうと心に決めて、莉亜の言葉に頷きを返した。
 願い、望み、祈り、約束。全てを殺す。それくらいの勢いで挑まねばいけない戦いが目の前に迫っていた。そう感じた理由は――。
「来たね」
「ええ」
 墨桜が舞う彼方からひとつの影が近付いてきていたからだ。それが影朧だと察した二人は即座に攻撃に転じていく。
 舞は影を滑るように疾駆して先制攻撃を狙った。
 だが、相手は多くの黒鴉を従えるほどに陰に堕ちた影朧。宿す力も強まっている。舞よりも先に動いた相手は携えた刃を振りあげた。
「邪魔だよ」
 無感情に、たった一言だけを告げた神斬は鋭い斬撃を放つ。それを夜帷で受けた舞は己の怪力で以て刃を押し返した。そして、舞は暗黒物質を迸らせる。
「莉亜」
 同時にその名を呼べば、舞と入れ替わりに莉亜が前に出た。
「了解っと」
 返事の声と共に巡っていくのは原初の血統の力。
 彼は瞬く間に金の瞳の吸血鬼に覚醒した。敵の攻撃を舞が押し返して深淵で包んだ隙を狙い、莉亜は神斬の傷口から散った黒い桜を掴み取る。
 彼処から舞ってきたということは、これは影朧の血のようなものだ。
 普段は感情の見えない莉亜が心なしか楽しそうに思えた。舞は彼が血を吸うように桜を喰らう様を瞳に映していた。だが――。
「不味い……」
「桜の血が?」
 苦虫を噛み潰したような声色で莉亜が呟いたので、舞は思わず問い返す。
「前に吸血した幽霊みたいに不味いんだ、これ」
 美味なる血を期待していたのに神斬はメインディッシュには成り得なかった。残念そうに肩を落とした莉亜だったが、戦いをやめる理由にはならないとして身構え直す。
「ずいぶんと無茶をする」
「無茶は舞もしてるような気もするけどねぇ」
 舞と莉亜は言葉を交わし、改めて櫻喰いの厄神を見遣った。其処から舞は目立たないように立ち回り、共に戦う彼の援護に徹していく。
 気を抜けば黒い桜が宿す枯死の力が身を蝕んでしまう。
 莉亜がふと気付いた時、自分の身体が桜花のように散りそうになっていた。莉亜は即座に奇剣を持たせた悪魔の見えざる手を用い、その桜を斬り落として貰う。
 その後、莉亜は身に宿る力で己の体を再生させた。そうして彼は枯死に対してはこのように対応しようと決める。
(悪魔の見えざる手達は見えないし大丈夫でしょ、たぶん)
 しかし、気になるのは舞だ。
 果敢に立ち回っている彼女は、神斬の退路を断つように暗黒物質を解き放ち続けていった。されどその身は枯死のダメージに冒されている。
 それでも舞は肌の痛覚を遮断し、己に宿る継戦能力を発揮していた。
「舞、その躰――」
「問題ないわ」
 莉亜からの案じる言葉を敢えて振り切る。既に身体の一部が桜と化している舞だが、それすら些事だというように敵の姿を強く見据える。
 対する神斬は桜の合間を抜けながら、逃走の機会を計っていた。
 舞は察する。目立たないように動くままではおそらく、完全には止められない。
「隙を作るから見逃さないで」
「分かった」
 舞は敢えて敵の真正面に駆け、その姿を顕にした。
 咄嗟に神が振るった刃を捨て身で受ける。守りはわざと考慮しなかった。そうすれば、舞の片腕が躰を離れて宙に千切れ飛んでいく。
 その瞬間、莉亜が動いた。
 腕を失いながら桜森の中に倒れ込んだ彼女が、捨身で作ってくれた好機。これを絶対に逃してはいけないと思った。
「血は吸わないよ。けどその不味い呪い、少しだけ掻き消してあげるねぇ」
 噛み砕くのは神斬の身に宿った呪詛の一部。
 見えざる手と共に鋭い攻撃に移った莉亜は、宣言通りに影朧の身を穿った。
「……!」
 その瞬間、神斬から数多の黒桜が散る。やはりあれが血の代わりなのだと確信した莉亜は、相手が黒の桜に紛れていく様を敢えて見送った。
 敵は逃げていく。
 その後を追うことも出来た。しかし、そうしなかったのは此処に舞がいるからだ。
「追わないの」
「あの一撃で十分でしょ」
「……でも」
 片腕を押さえている舞に対し、莉亜は首を横に振る。
「そんなことより、後でお酒を奢るよ」
 鬼でもたまには恩を返すってものだよ、なんてことをいつものように軽く語る莉亜。深手を負った舞の傍についた莉亜は、神斬が向かっていった桜森の奥を見つめる。
 自分達の一手は確かに深く巡った。
 今はただそれで良い。
 血も不味かったし、と少し冗談めかして付け加えた彼は静かに舞を見下ろした。

 ❀

 ――わびぬれば 今はた同じ 難波なる 身をつくしても 逢はむとぞ思ふ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

比野・佑月
【月花】
憤り。呪いなんてものを生み出す人間への怒りなのか
それに振り回される存在への哀れみなのかさえわからない。
わからないのに脳裏にチラつく過去の情景に苛立ちだけが募っていた。

「香鈴ちゃん…?」
耳が捉えた声の主にこの光景は似合いやしない。
苛立ちを振り払い、迷路を野生の勘が警鐘を鳴らす嫌な気配のする方へ。

「…ありがとう。香鈴ちゃんのおかげで暴れられそうだ」
UCで複製したトラップを操り、四肢に喰らいつかせて移動を阻害。
二丁拳銃でも逃れようとするのを牽制したり、力を削いだり。

清廉な鈴の音。暖かな力に包まれている間だけは心も凪いだから。
――これ以上先へはいかせない。
それが俺がキミにあげられる優しさだ。


花色衣・香鈴
【月花】
「ぅぐ…っ」
一瞬発作かと思った、けど
「な、に…?」
さっきまでと全然違う景色
飛ばされ、た?
それに
「……っ」
何もしないでいるとじんわり回る悪心
多分呪いの類
今は抵抗できてるけど…長引かせるべきじゃない
!、そうだ
「佑月くんは…!?」
一瞬本来の目的も忘れて駆け回り、見つけた姿に走り寄る
「何か怪我は、」
怖いからじゃない
こんな所に彼を孤立させられないって思うから
「…なら行きましょう、長居は無用です」
迷路の正解ルートなんて知らない
でも禍々しい気配や何処かで上がる筈の戦闘音の方向に近づける様に進めばきっと、
っ見えた、
「佑月くん、わたしの傍にっ」
両手を組む
UC発動
わたしの祈る間、何にも彼を蝕ませたりしない



●祈りの先へ
 桜の館の景色が森の情景に変わった瞬間。
 身体が浮いたような感覚がしたかと思うと、気付けば知らない場所に立っていた。
 墨色の桜が舞っている。
 それまで一緒にいたはずの香鈴が見えず、佑月は視線を巡らせた。周囲は黒い桜が咲いているばかりで、彼女の姿は何処にもない。
 代わりに感じたのは影朧の神が辿ってきた記憶の断片と感情の欠片。
 負の感情が生み出す誹りや侮蔑、歪んだ思い。それらを受けた大切な人が傷付いていくことに、神斬もまた心を痛めていたようだ。
「何だ、これ」
 佑月が抱いたのは憐憫や感慨でもなく、憤り。
 呪いなんてものを生み出す人間への怒りなのか、それに振り回される存在への哀れみなのかさえ判断がつかない感情だった。
 わからないのに、断続的に脳裏にチラつく過去の情景。それに対しての苛立ちだけが募っていった。
 しかし、自分の感情よりも今は香鈴を探さなければ。
 駆け出した佑月は桜の森を往く。自らが、或いは香鈴までもが黒い桜へと変じさせられてしまう前に。必ず彼女を見つけ出すと決めて――。

「ぅぐ……っ」
 視界が暗転して、胸を衝くような鈍い痛みが広がった。
 一瞬、いつもの花吐きの発作かと思ったけれど、どうやら違うらしい。香鈴は黒い桜が舞う景色を見渡す。
「な、に……? 飛ばされ、た?」
 さっきまでと全然違う景色の中に、誰かの記憶が巡っていた。
 嬉しい。楽しい。苦しい。悲しい。嫌だ。寂しい。君がいない。君に逢いたい。きみだけでいい。きみが――。
 断片的ではあるが、あの影朧の感情が伝わってくる。
「……っ」
 何もしないでいるとじんわりと悪心めいたものが香鈴の裡に侵食してきた。周囲の墨色の桜がそうさせていて、自分も花に変えられているのだと気が付いた香鈴は、呪いを払うように頭を横に振った。
 抵抗は出来るが、こんな力をいつまでも長引かせるべきではない。
 何とか状況を把握した香鈴は、其処ではっとする。
「! そうだ。佑月くんは……!?」
 香鈴は一瞬、影朧絡みの本来の目的も忘れて駆け出した。
 呪桜に身を蝕まれる感覚があったが、それよりも佑月が心配だ。彼が自分よりも強いと分かっていても安否だけでも確認したかった。
 もし、彼がこの黒桜の力に蝕まれてしまったら――。
 最悪の想像をしてしまうのは、そうなって欲しくはないから。そのとき、霞む墨桜の向こうから誰かが駆けてきた。
「佑月くん!」
「香鈴ちゃん……?」
 その名を呼べば、彼も名を呼び返してくれる。
 一先ずの安堵を覚えた二人は互いの元に駆け寄り、無事を確かめ合おうとした。
「何か怪我は、」
 しかし、香鈴がその言葉を言い切る前に妙な気配が辺りに満ちる。はたとした香鈴と佑月はそれが影朧のものだと悟った。
 佑月は香鈴を黒桜から護るように前に立ち、それまで抱いていた苛立ちを振り払う。
「行こう」
「行きましょう、長居は無用です」
 佑月の呼び掛けに香鈴が頷き、二人は警鐘を鳴らす嫌な気配のする方へ向かった。
 二人が思うことは似ている。
 彼女にこの光景は似合いやしない。こんな所に彼を孤立させられない。互いへの思いが胸の裡に秘められていることは知らぬまま、佑月と香鈴は歩んでいく。

 そして、幾らか進んだ先。
 りん、りん、と重い鈴の音がした。舞う桜が色濃くなり、その奥から漆黒と血色の衣を守った影朧――神斬が姿をあらわす。
「君達も、私を阻むのかい」
 おそらく此処までに何人かの猟兵と刃を交えて来たのだろう。佑月と香鈴に気付いた神斬は淡々と問いかけてきた。
 言葉は平坦でも禍々しい気配が溢れ出している。
 その身に宿る呪詛を感じ取り、香鈴は咄嗟に両手を組んだ。
「佑月くん、わたしの傍にっ」
 その瞬間。神斬が纏っている重い鈴音を掻き消すように、香鈴が鳴らす禍祓いの鈴が楚々と響きはじめる。
 ――わたしの祈る間、何にも彼を蝕ませたりしない。
 想いが宿った音色を聞き、佑月は二丁拳銃を構えた。更に黒鉄製のトラバサミを周囲に広げた彼は香鈴に笑みを向ける。
「……ありがとう。香鈴ちゃんのおかげで暴れられそうだ」
 清廉な鈴の音。あたたかな力に包まれている間だけは、心も凪いでいく気がした。
 佑月はふと、違和に気付く。
 神斬がいつまで経っても攻撃をしてこない。血色の刃を構えてはいるが、じっと佑月と香鈴の姿を見つめているだけだ。
 香鈴が巡らせている祈りの壁が攻撃を遮断すると悟ったからだろうか。しかし、理由はそれだけではないように思える。
「邪魔をしないなら、それでいいよ」
 護り、守られながらも相手を守護する姿勢。神斬は二人のそんな姿勢から何かを感じ取ったらしく、刃を振るわなかったようだ。
「君達は斬らなくても良い」
 踵を返し、佑月達に背を向けた神斬はもう遠くを見ている。
 香鈴は戸惑いながら、どうするかと問う視線を佑月に向けた。背を晒している神斬に銃を向けることは出来る。トラバサミを襲い掛からせることだって出来た。
 されど佑月はそうしない。
 これ以上、先へはいかせないこと。それこそ佑月が彼の神にあげられる優しさだと思っていたが、違う気がする。
「逢いたいだけ、なんですね。大切なひとに……」
 香鈴が感じたままの思いを言葉にしたとき、佑月の心も決まった。
「良いよ、行くといい」
 深い理由までは察せないが、神斬が自分達の姿を見て、何らかの心を僅かに取り戻したことは解った。僅かだが、神斬が遠ざかることで侵食する桜の呪も弱まっていく。
 佑月と香鈴は敢えて影朧を見送った。
 そして、彼らは考える。
 この桜の森をどうにかするために動けることがあるはずだ、と。
 神斬を見送ったのはいいものの、未だ戦いは終わっていない。それゆえに此処で出来ることを探そうと決め、香鈴と佑月は視線を交わしあった。
 祈りと従犬の力を駆使することの出来る、二人の活躍の軌跡はもう少し続いていく。
 それが語られるのは暫し後になるのだが――。
 運命は今、動きはじめた。

 ❀

 ――長らへば またこの頃や 忍ばれむ 憂しと見し世ぞ 今は恋しき。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朧・ユェー
【月光】

花びらが舞う
どんな色でも美しいが何故だか切なくなるね

小さくでも大きな存在の手
温かい、そしてこの手を離さない

そうだね、かみさまは優しい
優し過ぎるから全てを呑み込んでしまうだね
それが哀しみや闇だったとしても

貴方の本当の苦しみを救えるのは僕たちじゃ無いだろう
でもせめて少しでも救えるので有れば
えぇ、そうだね。ルーシーちゃん。

道化
死へと救われる死へと導こう

貴方も大切なモノが居たのならわかるだろう
この小さな手は救いたい
僕はこの子護る為なら死神にでもなれる
貴方の『君』僕にとってのこの子だから。


ルーシー・ブルーベル
【月光】

墨色の花びらが舞うたびに
自分の中の何かも散っていく
ええ、まるで涙みたい

ゆぇパパの手をはなさない
この温かさがあるなら
かみさまと相対するのも怖くはない

かみさまって皆、やさしすぎるのね
あなたがだれと
どんな約束をしたのかは分からないけれど
大切なのは伝わるわ

あなたはすごくがんばったのね
約束が大切で
支えになっているのはルーシーも同じだから
あなたには見つけて思い出して欲しい
ね、ゆぇパパ
そのお手伝いをしましょう

だから今はあなたをとめる
破魔と浄化の力を乗せた花弁を広げ導いて
かみさまをお迎えする時は
ふたりの周りにまとわせる
例えかみさまでもパパに害をあたえるのはだめ
あなたの「君」は
わたしにとってのパパだから



●『君』
 墨色の花弁が幻影の社森に舞う。
 桜はどんな色でも美しいと感じるが、この花を見ていると何故だか切なくなる。
「胸が締め付けられるようだね」
「ええ、まるで涙みたい」
 ユェーは神斬が齎した桜の森を見つめ、ルーシーも瞳に墨桜を映した。
 その花が舞うたびに、自分の中の何かも散っていく。此処にいるものを桜樹と変え、枯死させる力が巡っているようだ。
 しかし、ユェーもルーシーもその力に耐えている。
 何もしなければ桜に成り果てるだけだが、猟兵として戦う意志が呪に拮抗していた。
 二人は手を繋いでいる。
 ルーシーの掌はちいさい。けれども彼女はユェーにとって大きな存在でもある。温かくてやさしい、この手を離さない。
 ルーシーもまた、ユェーの手を決して離さないと決めていた。
 この温かさがあるのなら、厄と呪に満ちた神と相対するのも怖くはないから。
 黒い桜の景色の中で二人は強く手を握りあった。
 やがて、遠くから鈴の音が響いてくる。
 音が鮮明になっていく度に、周囲に巡る黒桜の力が強まった。これは神斬が接近してくる気配だと察したユェーとルーシーは身構える。
「かみさまって皆、やさしすぎるのね」
「そうだね、かみさまは優しい」
 あの呪いの根源は元々、彼自身に宿っていたものではないらしい。きっと優し過ぎるから全てを呑み込んでしまうのだろう。
 それが哀しみや闇だったとしても、彼の神は受け入れた。
 神斬が近付いてくる。
 その前に立ち塞がったユェーは彼や自分達に呪いの力を感じながら思う。
(――貴方の本当の苦しみを救えるのは僕たちじゃ無いだろう)
 でも、せめて少しでも救えるのであれば。
 ユェーがそう考えたとき、ルーシーが神斬へと語りかけていく。
「あなたがだれとどんな約束をしたのかは分からないけれど、大切なのは伝わるわ」
 館の光景が今の桜の森に変じたとき。
 ルーシー達は断片的な彼の記憶や思いを感じ取っていた。
「あなたはすごくがんばったのね」
 約束が大切。
 そのことが分かった。そして、それが支えになっているのはルーシーも同じなのだと少女は語っていく。
「あなたには見つけて思い出して欲しい」
「…………」
 対する神斬は何も答えなかった。ただ、邪魔をするなら斬ると告げているような視線を向けているだけだ。
「ね、ゆぇパパ。そのお手伝いをしましょう」
「えぇ、そうしよう。ルーシーちゃん」
 ユェーも彼女と同じ思いを感じたのだと示した。神斬から殺気と敵意を感じたユェーは道化の力を巡らせていく。
 ――救われる道へと導こう。
 それが死へと続くものであっても、影朧は救われる。
 刹那、ユェーが発動した死神ジョーカーの大鎌の一振りが周囲すべてを穿った。無差別に広がる刃の衝撃は神斬や黒桜、傍にいる者にまで広がっていく。
 ルーシーはその痛みに耐えながら、しっかりと神斬を見つめた。
「今はあなたをとめるわ」
 破魔と浄化の力を乗せた花弁を広げ、導くように。
 ルーシーは自分達の周囲にも釣鐘水仙の花を纏わせていく。倒しきるのではなくて、影朧の身に宿る呪いを少しでも祓うのが自分達の役目だ。
 ユェーは死神の力を放ち、黒桜を散らしながら神斬に語っていく。
「貴方も大切なモノが居たのならわかるだろう」
 この小さな手を救いたい。
 自分はこの子を護る為なら死神にでもなれるのだと宣言して、刃を振るわせ続ける。
「貴方の『君』は、僕にとってのこの子だから」
 その瞬間、何も語らぬ神斬がユェーの身を切り裂こうとした。漆黒の鏈で受け止めたユェーの身体が大きく揺らぐ。
 はっとしたルーシーはそれまで自分達に纏わせていた花を一気に解き放った。
 例えかみさまでも、彼に害をあたえるならば容赦はしない。
「あなたの『君』は、わたしにとってのパパだから」
 誰にも大切なきみという存在がいる。
 そのことを示していくかの如く、ブルーベルの花が黒桜を覆い隠していった。それによって神斬は身を翻し、二人の前から逃げ去ろうとする。
「大切な、きみ……」
 不意に神斬が何かを呟いたが、その言葉の意味は知れぬまま。
 しかし二人の攻撃のおかげか、彼を蝕む呪いが少し弱まった気がした。
 呪詛の根は深く、完全に掻き消すことは出来ないが今はこの一手が未来を繋いでいくものになるはずだ。敢えて神斬を追わなかったルーシーとユェーは、桜森の奥を目指す神斬の背を見送った。
「あえるといいわね、『君』に」
「そうだね……」
 ルーシーとユェーは再び手を繋いだ。
 そうして、少女は願う。
 どうか、自分達のように――彼と彼の大切なひとの心が巡り逢えますように。

 ❀

 ――忘らるる 身をば思はず 誓ひてし 人の命の 惜しくもあるかな。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「愛し恋し…貴方には此方に宿世の方がいらっしゃる、そういうことなのですね。ならば私から、転生を促すのは違うことなのでしょう」

UC「幻朧の仇花」使用
前線で制圧射撃したり桜鋼扇振るったりして縁ある同士が邂逅しどんな形であれ此処での別れを終える迄千年桜を守る
敵の攻撃は第六感や見切りで躱す
桜への攻撃は盾受け又はカウンターからのシールドバッシュ
「この桜が、貴方の約束の核、もしかしたら貴方自身かと思いますので。逢瀬を終える迄、守り抜かせていただきます」

「縁ある者同士で辿り着いた答えなら。何度の逢瀬でも転生でも協力いたします。それが宿世の方の共生だと思いますから」
転生なら勿論手伝う
どうあれ最後は鎮魂歌で送る



●桜の懐い
 愛しさと恋しさ。
 桜の森に広がっていた記憶の欠片や感情の断片を、桜花は見て感じた。
「貴方には此方に宿世の方がいらっしゃる。そういうことなのですね。ならば――」
 桜花はすべてを察している。
 それであるなら、自分から転生を促すのは違うことなのだろう、と。
 しかし現在、櫻喰いの厄神は本来の己を失っている。このまま宿縁の者に逢わせたとしてもよくないことが起こるのは想像に難くない。
 桜の森の最中、遠くには千年桜が見えた。
 此の場が異空間に変わったとき、桜花も飛ばされてしまったのだ。
 祭の中でも見えていたあの桜を傷付けさせはしない。桜花は其処に向かっているであろう神斬の気配を察し、其方へと駆けていく。
 まだ千年桜には近付けていないが、視認できるところに影朧がいるというのならば向かうしかない。
「お待ちください」
「――誰だい?」
 桜花が駆けていく神斬に呼び掛けると、彼は振り返った。
 それと同時に桜花は幻朧の徒花の力を発現させていく。神斬の周囲に黒い桜が舞っている様とは反対に、桜花は自分を薄紅の桜吹雪で覆った。
「咲き誇れ徒花。敵の力を我が糧に――!」
 桜鋼扇を振るった桜花は、神斬へと鋭い一閃を放つ。
 縁ある同士が邂逅し、どんな形であれ此処での別れを終える迄。こうして間接的にでも千年桜を守るのが桜花の役目だと思えた。
 対する神斬は邪魔をするなら斬ると告げるように、紅い血色の刃を振りあげる。
 鋼扇と刀。
 ふたつの得物が衝突して、重苦しい鈴音と金属同士がぶつかる鋭い音が響いた。
「あの桜が、貴方の約束の核、もしかしたら貴方自身かと思いますので。逢瀬を終える迄、守り抜かせていただきます」
 桜花は凛と宣言する。
 これは彼の邪魔をしているのではなく、より良い未来を紡ぐための攻撃だ。
「……」
 神斬は何も答えなかった。
 おそらく言葉で伝えても今の神斬には理解して貰えない。刃を重ねて分かったが、影朧として世界を憎む彼は、心まで闇に染まっている。
「縁ある者同士で辿り着いた答えなら。何度の逢瀬でも転生でも協力いたします。それが宿世の方の共生だと思いますから」
 それでも桜花は自分の思いをめいっぱいに伝え、力を紡ぎ続けた。
 どんな結末を迎えたとしても最後は鎮魂歌で送ろう。これだけは揺るがないのだとして、桜花は桜鋼扇を振るいあげた。
 そして、幾度かの攻防が巡った後。
「これ以上は意味がないね」
 そういった神斬は隙を突き、ひらりと踵を返して逃げ出していく。
 邪魔をするのではないならば、桜花と剣戟を交わすことに意味はない。そのように感じたゆえの行動だったのかもしれない。
「貴方は……ああ、本当は――」
 やはり優しい神なのだと察した桜花は、其処に救いの欠片を見出す。
 桜花は彼を無理に追いはしなかった。この先に続いていく戦いと、心の行方を見守るために出来ることを探す。
 それが次にやることだと考え、桜花は黒い桜が舞う景色を見つめた。
 この桜の彩がすべて薄紅に戻ったとき、きっと何かが成される。そんな予感が桜花の中に巡っていた。

 ❀

 ――人もをし 人も恨めし あぢきなく 世を思ふゆゑに 物思ふ身は。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
アドリブOK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流

垣間見えた光景に胸が痛む。悲しいなんて言葉では足りない。
だからこそ止めなくては。

真の姿に。
迷路のより力を感じる方向(呪詛)にUCや第六感を駆使して向かう。
止めるためには隠密とか言ってられないしな、神斬を見つけたら進路を阻むように立ちふさがり一声かける。
あんたの友人はもういない。会う事は叶わないんだ。
敵の攻撃は第六感で感知、見切りで回避。
回避しきれないものは本体で武器受けで受け流し、カウンターを叩き込む。
それでも喰らうものはオーラ防御、激痛耐性で耐える。
権能には呪詛耐性でなんとかしのぐ。

世界を憎む心はわからないけれど、でも生涯の人と会えた事は羨ましいよ。



●憂いと羨望
 桜景色の中に垣間見えた光景。
 過去を映した日々の情景に胸が痛んだ。それは悲しいなんて言葉では足りない。それほどの親愛と、友を思う心を強く感じ取った。
「だからこそ止めなくては」
 瑞樹は己の中に生まれた思いを言葉にして、右手に胡、左手に黒鵺を握る。
 普段通りの二刀流の構えを取った瑞樹は、真の姿を解放した。そして第六感を働かせて周囲の様子を探る。
 黒い桜の迷路の中から、より呪詛を感じる方向に向かった。
 いつもは目立たぬよう立ち回る瑞樹だが、神斬を止めるためには隠密行動などしていられない。そのことをよく理解している瑞樹は鈴の音を聞いた。
 おそらく、神斬の衣に結わえられたそれが音を出しているのだろう。
「……見つけた」
 神斬を見つけた瑞樹は、その進路を阻むように立ち塞がった。周辺が桜の景色に変わったとき、瑞樹も神斬の記憶の断片を見ていた。
 あれが本当ならばイザナという存在はもう居ない。魂が転生していたとしても彼がそのまま戻ってきたわけではない。
 記憶の欠片しか見れなかったのでああなった経緯は瑞樹には理解しきれていないが、神斬はきっと、そのことすら分からなくなっているのだろう。
「あんたの友人はもういない。会う事は叶わないんだ」
 敢えて強い言葉を選び、瑞樹は黒鵺と胡の刃を振るった。対する神斬は刀を振るい返すことで攻撃を受け止める。
「そんなことは……」
 無い、と言い切った言葉と共に神斬が瑞樹に刃を突き放った。
 鋭い一閃が瑞樹の身に食い込んだが、更に深く貫かれる前に黒鵺で刃を押し返す。激痛を堪えた瑞樹は身構え直した。
 桜の権能は呪詛であるがゆえ、なんとか耐性で凌ぐことが出来る。
「世界を憎む心はわからないけれど、でも生涯の人と会えた事は羨ましいよ」
「…………」
 対する神斬は無言だ。
 其処から幾度も、神斬と瑞樹の剣戟が鳴り響いた。敵は強く、ひとりで相対するには分が悪いかもしれない。
 瑞樹がそう感じて地を蹴ったとき、神斬も地面を強く蹴りあげた。
 此方が後退すると察した敵は踵を返す。しまった、と感じたときにはもう、神斬は戦闘から離脱していた。
 黒桜の森に舞う花弁に紛れ、神斬は駆けていく。
 されど瑞樹が戦いで受けた傷は深く、今すぐには追えなさそうだ。
 友人はもういない。そう告げた瑞樹の言葉が心を蝕んだのだろう。神斬は求める人がいると確信している千年桜のもとへ急いでいるのだ。
 其処で瑞樹は改めて気が付いた。神斬はただ、最後に友に逢いたいだけなのだと。
「……逢えると良いな」
 懸命な思いを感じ取った瑞樹は刃を下ろし、その背を見つめて見送った。

 ❀

 ――あはれとも 言ふべき人は 思ほえで 身のいたづらに なりぬべきかな。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

月舘・夜彦
【華禱】
己が身を犠牲にした末
その始まりも理由も忘れてしまう……他人事ではないのです
私も道を踏み外せば彼のようになっていた
人の為と殺生を重ね、記憶を失い彷徨う夜叉のように

だからこそ止めなければ
……私が彼だったなら止めて欲しいと思うから

夜叉を発動
倫太郎にはまた心配させてしまうでしょう
ですが、挑む相手が相手だからこそ本気で行かねばならない

基本は鎧無視による2回攻撃
攻撃を受けようとも激痛耐性にて怯まず生命力吸収を付与した刃で
体力を回復・継戦能力で戦闘を続行

敵の攻撃は視力にて動きを読み、瞬時に対応
残像にて回避、または回避が困難であれば武器受けにて防御
いずれにせよ、凌いだ後にカウンターのなぎ払いで斬り返す


篝・倫太郎
【華禱】
神斬の在り様は、夜彦に似てる気がする
普段の夜彦じゃなくて……
俺が至らせたくないと思う『夜叉』という在り方に

だからかな……
止めたいと思う
最初にあったのは友への優しい気持ちだけのはずだから

千年桜の元へ急ぐ
途中で遭遇したら
一時的な時間稼ぎにしかならなくても
神斬の足止め

拘る理由があるのなら
護る事にも意味はあるはずだから

夜彦が夜叉に変わる
そのタイミングに合わせて防御力強化に篝火使用
心配はするけど、信じてるから俺は俺の役目を果たす

破魔と衝撃波を乗せた華焔刀でなぎ払い
千年桜に向かわせないように立ち位置に注意して立ち回り

敵の攻撃は見切りと残像で回避
回避不能時はオーラ防御で防ぐ
夜彦を狙う場合も同様に対応



●桜の方へ
 己が身を犠牲にした末、その始まりも理由も忘れてしまう。
 それは夜彦にとって他人事ではなかった。
(――私も、道を踏み外せば彼のようになっていた)
 人の為と殺生を重ね、記憶を失い彷徨う夜叉のように成り果てていたに違いない。
 黒い桜が舞う中に佇む夜彦の傍ら、倫太郎も景色に思いを重ねていく。
 神斬の在り様は夜彦に似ている気がすた。
(普段の夜彦じゃなくて……俺が至らせたくないと思う『夜叉』という在り方に)
 言葉にはしないが、思うことは同じ。
 夜彦の身を案じているらしい倫太郎の懸念と気持ちが空気越しに伝わってきた。そして、二人は同時に顔をあげて口をひらく。
「だからこそ止めなければ」
「だからこそ止めなきゃな」
 言の葉が重なった。
 はたとして視線を交わしあう。そうですね、と頷いた夜彦は更に思いを紡いだ。
「……私が彼だったなら止めて欲しいと思いますから」
「ああ。最初にあったのは友への優しい気持ちだけのはずだから」
 倫太郎も首肯する。
 そして、二人は身構えた。千年桜はまだ遠い場所にあるが、すぐ近くから鈴の音が聞こえてきたからだ。それと同じくして周囲に舞う墨色の桜が色濃くなっていく。
 夜彦は夜叉を発動した。
 自身に蓄積した穢れにより鬼に覚醒した彼は、刀を扱う鬼神へと変じる。
 こうすることで倫太郎にはまた心配させてしまうだろうが、挑む相手が相手だからこそ本気で行かねばならない。
 倫太郎は一瞬だけくしゃりと表情を哀しげに歪めたが、自らも篝火の力を巡らせた。
 災魔を祓う焔の神力、災魔を喰らう水の神力、そして災魔を砕く風の神力を纏った倫太郎は此の力で夜彦に添おうと決めた。
 たとえ一時的な時間稼ぎにしかならなくても良い。呪詛を纏う神斬の足止めをすることがやるべきことだと感じた。
 きっと、そうだ。
 拘る理由があるのなら、護る事にも意味はあるはずだから。
(心配はするけど、信じてるから)
 俺は俺の役目を果たすのだとして己を律し、倫太郎は破魔と衝撃波を乗せた華焔刀で影朧をなぎ払いにいく。
 夜彦も鎧無視の力を乗せたニ回攻撃で以て、神斬に切り掛かった。
 二人の一撃を避けた神斬は鋭い眼差しを向けてくる。
「邪魔をするな」
 冷え切った声色からは何処か必死さも感じられた。二人は知る由はなかったが、神斬は別の猟兵に「友に会うことは叶わない」と言われて焦燥を覚えているようだった。
 そのため、神斬からの攻撃は激しい。
 されど夜彦は斬撃を受け止めながら、激痛を耐えた。怯むことなく生命力吸収を付与した刃を振るい、体力を回復していく。
 其処に宿っているのは決して刃を下ろさないと誓う、継戦への意志だ。
 倫太郎も夜叉となった夜彦と共に、千年桜に向かわせないように戦う。立ち位置に注意して立ち回る倫太郎はふと気付く。
「なぁ、アンタ。誰かに会いたいんだっけ」
「…………」
 倫太郎が問うと、神斬はこくりと頷いた。影朧の闇に冒されてはいるが、その瞳の奥には純粋なまでの友への思いが見えた気がする。
 しかし神斬は千年桜への道を阻む夜彦と倫太郎に更なる斬撃を仕掛けてきた。
 夜彦はその攻撃と動きを読み、瞬時に対応する。残像にて回避して、それが困難であれば武器受けにて防御した。
 いずれにせよ、凌いだ後にカウンターのなぎ払いで斬り返すのが夜彦の戦法だ。
 倫太郎も敵の攻撃を見切りと残像で躱し、オーラ防御で防ぐ。だが、先程から気になっていたことがある。
「夜彦……」
「――はい」
 倫太郎は彼の名を呼び、敢えて華焔刀を下ろした。そうすれば夜彦も夜叉の姿を解除する。二人はもう気が付いていた。
 影朧と云えど、大切な誰かに会わせずに倒すことはしてはいけない、と。
 そして、巡った攻防によって少しではあるが神斬の力を削げている。神斬が切り掛かってくるのも自分達が千年桜への道を塞いでいるからだ。
「行けよ、この先に」
「私があなただったなら、最後に一目でも会いたいと思いますから」
 倫太郎と夜彦は道をあけた。
 あのまま戦っていても良かったが、神斬と自分達を最初に重ね合わせた二人だからこそ気付けた。呪詛を削り、力を削った今ならば行かせられる。
 神斬は二人を一瞥した後、千年桜への道を進んでいった。もし万が一のことが起こったとしても桜に集う猟兵の力で何とか出来るはず。
 そう信じた二人は神斬を態と逃した。
 少しばかり似ているからこそ、希望に向かって行って欲しいと願って。

 ❀

 ――君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひぬるかな。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

フリル・インレアン
ふええ、あの方が神様なんですね。
私なんかじゃ、手も足も出ませんよ。
どうしましょう、アヒルさん。
ふええ、アヒルさんに桜が咲いています。
これが神様の力ですか。
そして、この桜を枯らしてしまうユーベルコード。
いえ、桜を枯らせる厄神の力を得る強化のユーベルコードです。
でしたら、お洗濯の魔法で強化効果を落としてしまえばいいんですね。
あなたの厄神の力を祓ってみました。
何か思い出せそうですか?



●僅かな解呪
 黒い桜がひらひらと舞う。
 異空間に取り込まれ、呪の桜に蝕まれながらもフリルは神斬を見つけていた。墨色の桜を纏う影朧からは禍々しい雰囲気が感じられる。
「ふええ、あの方が神様なんですね」
 きっと自分なんかでは手も足も出ない。鋭い神刀が自分に突き刺さる未来を想像してしまい、フリルはぎゅっと帽子のつばを握った。
「どうしましょう、アヒルさん」
 お付きのガジェットに助けを乞うフリル。だが、すぐに「ふええ」という驚きの声があがってしまった。
 なんとアヒルさんに桜が咲いており、その身がはらはらと散りかけている。
 アヒルさんは助けてくれない。それに自分も、もう少しすればこうなってしまうのかもしれない。アヒルさんがこれ以上、散ってしまわないようにぎゅっと抱いたフリルは、それまで怯えていた心を頑張って消した。
「これが神様の力ですか」
 この桜を枯らしてしまう力をなんとかしたい。
 否、桜を枯らせる厄神の力を得る強化のユーベルコードをどうにかすればいい。強い眼差しを神斬に向けたフリルは自分のすべきことを悟った。
 恐るべき力であっても、ユーベルコードであるならば――。
「そうです、お洗濯の魔法で強化効果を落としてしまえばいいんですね」
 名前こそのんびりしたものだが、フリルの魔法にだって確かな力がある。どんな頑固な汚れも落とせる上に、その効果をはたき落とす力がフリルに宿っていた。
 えい、といつものように力を振るえば神斬が怪訝な顔をする。
「お洗濯……?」
「あなたの呪いの力を少し祓ってみました。何か思い出せそうですか?」
 フリルは知っている。
 この魔法ですべての呪を祓えるわけではないし、一時的なものでしかない、と。
 しかしそれでいいとも思っていた。黒桜と大蛇、厄災。絡まる神の権能が齎す呪詛がほんの少しだけ弱まればいい。
 そうすればきっと、正気を失った神斬の記憶も少しばかり戻ってくるはず。
「サヨ……」
 すると神斬は誰かの名前を呼ぶ。
 フリルに攻撃はせず、ふらふらと歩いていく神斬は額を押さえていた。そして、僅かに振り返った神斬はフリルに告げる。
「少しだけ、何かが晴れた気がする。……礼を言うよ」
 おそらく完全に記憶を取り戻したわけではないのだろう。しかしこれはきっと神斬が辿る道をひらく一歩になった。
 神斬は千年桜を目指していく。
 同時に身を蝕む桜呪も弱まった。そして、フリルはアヒルさんを再び抱き締める。
 どんな結末が訪れるのかと、そっと想像を巡らせて。

 ❀

 ――久方の 光のどけき 春の日に しづ心なく 花の散るらむ。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

唄夜舞・なつめ
闇に飲まれた黒桜
気に入らねェ世界の度
死んでは生まれることばかり考えていた
あの頃と同じ色

…くっだらねェ
いつまで悪者ごっこで
遊んでるつもりだァ
お前みたいな

『笑顔』が好きで

『友』が大好きで

ーー誰よりも『優しい』ヤツが

悪役なんか務まんねェンだよ
へったくそが!

だから…『終焉らせてやる』。
そのふざけた一人芝居をなァ!



…寂しかったんだろ。
『好き』だから。

ひとりで我慢したんだろ。
『優しい』から。

『人を慈しむ心』を
知ってるから。

…ばァか。たまには思いっきり我儘言ってやりゃあいーんだよ
お前の大好きな『人』にな

そろそろくるんじゃねーの
お前の大切なヤツ

全部終わったら、今日の話をツマミに一緒に酒盛りしよーぜ



●対峙
 闇に飲まれた黒桜。
 なつめにとって、目の前の光景はそのように思えていた。
 自分にとって気に入らない世界の度、死んでは生まれることばかり考えていた――あの頃と同じ色だ、と。
「……くっだらねェ。いつまで悪者ごっこで遊んでるつもりだァ」
 なつめは墨色の桜の奥から現れた神斬を見据え、辛辣にも聞こえる言葉を紡いだ。
 神斬は喰桜を構え、三つ目でなつめを睨みつける。
 敵意を向けてくるならば、或いは邪魔をするならば斬る。そのように告げる視線がなつめを貫いていた。
 しかし、なつめは怯まずに告げていく。
「お前みたいな『笑顔』が好きで、『友』が大好きで――誰よりも『優しい』ヤツが悪役なんか務まんねェンだよ」
「君は私の何を知っているの?」
 神斬は純粋な疑問を問い返した。初めて会うと思われる者が自分の在り方を代弁していることを不思議に思ったようだ。
 対するなつめは言葉尻を強くする。
「へったくそが!」
「…………」
 神斬は刃を向けたまま、なつめの動向を探っていた。詰られてるのか、親身になってくれているのか判断がつかないようだ。
「だから……『終焉らせてやる』。そのふざけた一人芝居をなァ!」
 なつめは強い言葉を口にしたと同時に力を解放して、完全竜体へと変じた。
 其処から放たれる夏雨と共に、激しい雷や稲光が迸る。神斬はそれらを避ける為に地を蹴り、雷撃を喰桜で弾き返した。
 攻防が巡る。その間にもなつめは神に呼びかけていく。
「寂しかったんだろ」
 好きだから。
「ひとりで我慢したんだろ」
 優しいから。
 そして――人を慈しむ心を知っているから。
「君に何かを言われる筋合いはないよ」
 語っていくなつめに向け、神斬は首を振った。なつめ本人ではなく、そのように称される自分ではないのだと示すような拒絶だった。
 その様子を見たなつめは頭を振り返す。
「ばァか。たまには思いっきり我儘言ってやりゃあいーんだよ」
 お前の大好きな『人』にな、となつめは宣言する。そして彼は、周囲を見渡しながら予想を言葉にした。
「そろそろくるんじゃねーの、お前の大切なヤツ」
「いいや、私のところには来ないよ。私は……嫌われたから」
 だから自分から会いに行くんだ、と神斬は何処か寂しげに言った。失望されていてもいい。ただ、最後に逢いに行きたいだけだ、と。
 神斬はなつめから放たれる雷撃を避け続け、隙を見て黒桜の中に紛れるように姿を消した。これ以上の対峙は無意味だと感じたからだろう。
 なつめはそのことに気付いたが、無理に追おうとはしなかった。それなら行けよ、と神斬を見送ったなつめはその背に呼び掛ける。
「全部終わったら、今日の話をツマミに一緒に酒盛りしよーぜ」
 猟兵が勝利すれば彼は死を迎える。
 彼が転生したとしても記憶を失う。言葉にした思いが叶わないことを知りながら、それでもなつめはそう呼び掛けられずにはいられなかった。

 ❀

 ――明けぬれば 暮るるものとは 知りながら なほ恨めしき あさぼらけかな。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

ユヴェン・ポシェット
墨色の桜…美しくもあるが少し悲しくも感じる。何故だか俺はこの色も嫌いじゃないと思った。
それが枯死の力を持つと分かっても

千年桜と呼ばれるあの樹へ向かうのを止める気はない
あるのだろう?強い想いが。
だが傷付けるのならば、立ち塞がらせて貰う
ミヌレ、クーを頼む

UC「halu」使用
右腕を、白に薄紅をのせた花をつけた桜の枝へ
左腕を、墨色の…枯死の力を持たぬ只の桜の枝へ

こうする事はきっと俺にとって分が悪い。
だが、とても大切なものなんじゃないのかとも思えて。少しでも大切な何かを思い出すきっかけとなれば
これは珪化木。そう簡単にやられはしない
太刀を持つその手を枝で掴み、自身の桜花の枝で相手を貫く

それでも行くんだろう



●桜の記憶
 宵色の世界。其処に散りゆく墨色の桜。
 その光景は美しくもあるが、悲しくも感じる。しかしユヴェンは何故だか、この色も嫌いではないと思っていた。
 身体に鈍い痛みが走っているのは桜が枯死の力を持つからだ。
 それと分かっても尚、ユヴェンは周りに広がる桜の情景に心を寄せた。この領域の力によって宝石の身が桜樹に変じようとも構わない。
 そんな思いを抱きながら、ユヴェンは近付いてくる影朧の気配に意識を向けた。
 神斬が向かうのは千年桜の元。
 ユヴェン個人は、彼があの樹へ向かうのを止める気はなかった。
 鈴の音と共に黒桜の向こうから神斬が現れたことを確かめ、ユヴェンは問いかける。
「あるのだろう? 強い想いが」
 会いたいと思うことを否定したくはなかった。
 ユヴェンとて、思う人に会いたいと願わないわけではない。たとえ道を違えた相手だとしても再会を望む心はあって当然だ。
 それにユヴェンは予感している。自分にとっての宿縁もまた、いずれ繋がるのだと。
 だが――。
「傷付けるのならば、立ち塞がらせて貰う」
 ユヴェンはミヌレにクーを守るように願い、自らも身構えた。
 そうして彼は己の力を巡らせてゆく。
 右腕は白に薄紅をのせた花をつけた桜の枝へ。左腕を墨色の枯死の力を持たぬ只の桜の枝へと変化させたユヴェンは神斬を見据えた。
 こうする事はきっと自分にとって、分が悪いと分かっている。
 自ら桜になれば神の権能から成る呪いが身体を蝕むだろう。それでも、ユヴェンは敢えてその形で神斬に挑む。
 桜の花に込められた思いは如何程のものなのか。
 様々なものが絡まって、呪いとして纏うことになった花ではあるが――それは神斬にとって、とても大切なものなのだと感じていた。
 桜を想い、桜を纏う。
 影朧となっていても、彼も元はきっと優しい存在だったはず。
 ユヴェンは自分だけで相手を倒そうとは少しも思っていなかった。この力が大切な何かを思い出す切欠となれば良いと考え、持てる限りの力を振るう。
「退いてくれないかい」
「いや、俺はその呪いを少しでも砕く」
 宣言したユヴェンは深く踏み込む。己の身が傷付こうとも構わない。ユヴェンは危険を顧みず、神斬が太刀を持つその手を伸ばした枝で掴み取った。
 纏うのは珪化木だ。捨て身で神斬に向かってもそう簡単にやられはしない。
 神刀が振るい返されようともユヴェンは怯まず、自身の桜花の枝で相手を貫き――其処に一片の桜を咲かせた。
 はっとした神斬は、自分の腕に薄紅の桜が咲いていることに気が付く。
 ――懐かしい色だ。
 ――君と一緒に眺めた彩。君を待ちながら眺めた色。
 一瞬、ユヴェンの中に神斬の感情が流れ込んできた。神斬がすぐさまユヴェンとの距離を取ったことで意志は感じ取れなくなってしまったが、そのことが知れただけでも良いと思えた。
 今の一撃で呪いを僅かに祓えたと察したユヴェンは、千年桜への道をあける。
「それでも行くんだろう」
「嗚呼、『君』に逢いに――」
 ユヴェンが呼び掛けると、神斬は独り言ちるような声を落として駆け出した。
 望む形で逢えると良い。
 そう願いながら、ユヴェンは遠くに見える千年桜を見つめた。

 ❀

 ――心にも あらでうき世に ながらへば 恋しかるべき 夜半の月かな。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィリヤ・カヤラ
グウェンさん(f00712)と。

おとしものはちゃんと見つけないとね。
でも、説得は苦手だから話を聞いてくれるように
敵を弱らせる感じでいこう。

敵の動きは手や視線にも注意して
出来るだけダメージは少なくしたいな。
グウェンさんのフォローにも入りやすくなるかもだし。
影で月輪を実体化して影の茨で敵を縛ってみるよ、
茨の刺のダメージと少しでも気を逸らせたら
攻撃のチャンスに出来るしね。
もし桜の花弁に変わったら月輪で包んでみるよ。
攻撃出来そうなら【氷晶】を進路妨害も含めて使っていくね。

グウェンさんが危なそうだったら、
宵闇も使って割り込むね。
私も戦うのは後ろだけじゃないからね。


グウェンドリン・グレンジャー
ヴィリヤ(f02681)と

おとしもの、見つからない……の、かなしい。たいへん
(こくこく頷く)

ヴィリヤ、ありがとう
私も、自分の、身、守る……大丈夫
Butterfly kissは、防御力
オーラ防御、周囲……に、展開
Mórrígan……クランケヴァッフェの、翼、は、攻撃、受け流すため、だけに

厄神……さん
私、別の世界……の、邪神……の血、引いてる。先祖……戦いの女神
信仰、してくれた、人達……守ったり、ちょっかい出したり、敬われてた……けど、
長い、時の、中……で、邪神、オブリビオンに、なった
そういう、先祖が、いる……から、あなたの、気持ち、ちょっとだけ、分かる

……転生……とか、して、みない……?



●輪廻転生
 或る神が失くしたもの。
 それは友との約束という、とても大切な記憶と思いだという。
「おとしものはちゃんと見つけないとね」
 墨色の桜が舞う異空間にて、ヴィリヤはグウェンドリンと共に周囲の気配を探る。
「おとしもの、見つからない……の、かなしい。たいへん」
 ヴィリヤの言葉を聞き、グウェンドリンもこくこくと頷いた。辺りには黒い花弁が舞っていて、不穏な空気が満ちている。
 遠くから鈴の音が聞こえたことで影朧が此方に近付いてきているのだと分かった。ヴィリヤは警戒を強め、相手を迎え撃つ準備を整える。
 自分は説得が苦手だと自負していた。それゆえにまずは話を聞いてくれるように敵を弱らせるのが自分の役目だとヴィリヤは思っていた。
 そして、影朧が現れる。
「君達も邪魔をするのかな。もしそうなら容赦はしないよ」
「そうだね、そういうことになるかな。グウェンさん、話の方はよろしくね」
 ヴィリヤは敵を見据え、グウェンドリンを守る形で布陣した。
 見つめるべきは敵の動きと、手や視線。出来るだけダメージは少なくしたい。特にグウェンドリンには、と考えたヴィリヤは影で月輪を実体化していく。
「ヴィリヤ、ありがとう。私も、自分の、身、守る……大丈夫」
 クランケヴァッフェの翼を広げたグウェンドリンは、自らも攻撃を受け流せるのだと伝えて身構えた。
 そして、その間にヴィリヤは影の茨で敵を縛ろうと試みる。
 その動きを察した神斬は茨を刀で以て切り裂いた。茨の刺で少しでも気を逸らせたら、攻撃と説得のチャンスに出来るのだが――。
「強いね」
「うん、なかなか、速い」
 ヴィリヤとグウェンドリンは影朧の強さを身をもって知った。それほどに彼の纏う呪いや影朧としての絶望が深いのだろう。
 そのうえ、二人の身体はこの領域の特性によって桜に変わりはじめている。
「これは……!」
 ヴィリヤは咄嗟に月輪で自分達を包み込み、桜化を防いだ。神斬が近付いてきたことで異形化の力が強くなっていったので、何とか抑えなければならない。
 ヴィリヤは説得と語りかけに回るグウェンドリンを護る為に氷晶を紡いでいく。進路妨害も含めた氷の刃が神斬に突き刺さっていく中、グウェンドリンが話を始めた。
「厄神……さん」
 グウェンドリンはぽつり、ぽつりと語ってゆく。
「私、別の世界……の、邪神……の血、引いてる。先祖……戦いの女神。信仰、してくれた、人達……守ったり、ちょっかい出したり、敬われてた……けど、」
 長い時の中で、邪神――オブリビオンになった。
「そういう、先祖が、いる……から、あなたの、気持ち、ちょっとだけ、分かる」
「…………」
 グウェンドリンが話したことに神斬は無言で耳を傾けていた。
 ヴィリヤは警戒を続けながら彼女に危機が訪れないよう前に出る。グウェンドリンの横にしっかりと並び立ったヴィリヤは、いざとなれば宵闇も使って二人の間に割り込もうと決めていた。
 ヴィリヤの頼もしさを感じながら、グウェンドリンは呼び掛ける。
「……転生……とか、して、みない……?」
「……。そう言われて、出来るものじゃないよね」
 すると神斬は何処か哀しげに首を振った。転生をしようと誘われて承諾して、それで解決になるならばどれだけ良かっただろうか。
 するともしないとも答えなかった神斬は、グウェンドリンとヴィリヤを見つめた。
 第三の目が妖しく光る。
 その瞬間、ヴィリヤとグウェンドリンの桜化が進行した。
「……っ、グウェンさん」
「ヴィリヤ……大丈、夫……?」
 身体からはらはらと桜が散る。鈍い痛みと共に均衡を崩した二人は支え合うように互いに手を伸ばした。
 その隙を突いた神斬は彼女達を攻撃することなく桜の森の奥へと姿を晦ませる。
 敢えて戦いを放棄した影朧の姿はあっという間に見えなくなった。しかし、グウェンドリンの言葉は無駄ではない。
 こんな自分にも転生を持ちかけてくれる人がいたというだけで、神斬の心に何らかの変化が訪れるだろう。
 彼が離れたことで桜化の力も弱まっている。
 そうして立ち上がったグウェンドリンとヴィリヤは、影朧と桜に思いを馳せた。

 ❀

 ――今はただ 思ひ絶えなむ とばかりを 人づてならで 言ふよしもがな。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

緋翠・華乃音
【蝶月】

――君を見ていると、どうしてか哀しくなる。

自分と重なる部分があるからだろう。
或いは面影を見てしまっているのかも知れない。

けれど、君を認めてしまえば、
約束を守れなかった自分の成れの果てを
肯定することになってしまう。

君の3つ目も、俺の瑠璃の瞳も、
見つめている先は過去に違いないけれど。
俺は世界を憎しんだりはしない。

だって、
この世界は元より残酷なものだから。

君の憎しみは、裏を返せば期待だったのかも知れないな。
それはそれで桜が咲くように美しいものだけど。

還るべき場所が在っても還る為の手段を持たないなら、
本当に迷子になっているのは――君だよ。

握られた手に感じる確かな暖かさ。
自分は独りじゃない。


ルーチェ・ムート
【蝶月】

かみさま
大きな意味を持つその言葉を大事に含む
かみさま、何かをなくしちゃったんだね
それなら取り戻さなきゃ
その為に此処へ来たんでしょう?

赫縁で華乃音と自分のおーら防御
けがれなき桜を咲かせる為に
ありったけの想いを込めて
どうか、その優しいゆびさきで終をあげて

みんなのかみさま、誰かのかみさま
きっとその声はあいを紡ぐ為に
きっとその手は誰かと繋ぐ為に
きっとその足は大切な人の元へ向かう為にある

だから壊しちゃだめだよ
約束はたいせつだって知ってるもん
果たさなきゃね

独りぼっちみたいな眼差し
此処にいるよ
伝えるように華乃音の手を握って
櫻の散り際を見届けよう
儚くて、けれどいっとう美しい、いのちが咲き誇る時間を



●大切な約束
 墨色の桜が散っていく。
 花々は美しいとも表せるが、悲しみの方が強く感じられた。
 華乃音は桜の森に満ちる変化の呪力に耐えながら周囲の様子を確かめる。ルーチェも彼の傍につき、遠くから聞こえてくる鈴の音に耳を澄ませていく。
 あの音こそが、神斬が近付いてくる気配だ。
 かみさま。
 大きな意味を持つその言葉を大事に含み、ルーチェは千年桜がある方向を背にして立つ。華乃音も宵星の刀を構え、彼の神の到来を待った。
 そして、黒い桜が強い風に舞った瞬間。
「邪魔をしないで」
 淡々とした声と共に二人の前に神斬が現れた。此処まで何人もの猟兵を相手取り擦り抜けて来たのだろう。ルーチェ達もまた、自分を阻むものだと捉えているようだ。
「――君を見ていると、どうしてか哀しくなる」
 華乃音は神斬への言葉を落とす。
 何処か自分と重なる部分があるからだろう。或いは彼を通して面影を見てしまっているのかもしれない。
 華乃音が刀を差し向けたと同時に、神斬も喰桜を向け返した。
 ルーチェは彼と自分を守る為に赫縁をふわりと広げて、防御陣を巡らせる。
「かみさま、何かをなくしちゃったんだね」
「…………」
「それなら取り戻さなきゃ。その為に此処へ来たんでしょう?」
「……嗚呼」
 神斬はルーチェからの呼び掛けに静かに答えた。
 二人は此処で神斬を屠ってしまう心算はなかった。ただ迎え撃ち、力を削ることに留めるのみ。そうしようと決めたのは、彼の神に約束があると知ったからだ。
 元の景色が今の桜杜の神域に変わるとき、華乃音もルーチェも彼の記憶を垣間見た。
 そして、華乃音は思いを重ねる。
「とても哀しい。けれど、君を認めてしまえば――」
 約束を守れなかった自分の成れの果てを肯定することになってしまうから。
 神の三つ目も、華乃音の瑠璃の瞳も、見つめている先は過去に違いないけれど。
「俺は世界を憎しんだりはしない」
 ――だって、この世界は元より残酷なものだから。
 宣言にも似た言の葉を紡いだ華乃音は地を蹴った。其処から繰り出すのは鋭い斬撃。それは洞察と合理の極みであり、千の戦場に対応する千の戦術のひとつ。
 神斬が刃を振り上げることで華乃音の一閃を受け止める。だが、華乃音は即座に取り出した拳銃の銃爪を引いた。
 弾丸が神斬の身を貫く。華乃音が果敢に戦うで、ルーチェも歌声を響かせていく。
 けがれなき桜を咲かせる為に、ありったけの想いを込めて――。
「どうか、その優しいゆびさきで終をあげて」

 みんなのかみさま、誰かのかみさま。
 きっとその声はあいを紡ぐ為に。きっとその手は誰かと繋ぐ為に。
 きっとその足は大切な人の元へ向かう為にある。

 ルーチェが紡ぐ、甘く溶ける蠱惑的な天声の歌声。
 その美しい声を背にしながら、華乃音も更なる攻勢に入っていく。
 厄神の力を駆使して立ち回る神斬。その瞳は時折、華乃音達の後ろを映していた。ただ、あの千年桜の元に向かいたい。そんな意志が感じられる。
「君の憎しみは、裏を返せば期待だったのかも知れないな」
 それはそれで桜が咲くように美しいものだけど、と華乃音はちいさく言葉にした。
 しかし、還るべき場所が在っても還る為の手段を持たないなら。
「本当に迷子になっているのは――君だよ」
 告げた声と同時に華乃音が鋭く疾い斬撃を見舞った。宵星の一閃が神斬の衣を裂き、幾つかの銀鈴を切り落とす。
 ルーチェは歌を紡ぎながら、自分なりの言葉を神斬へと伝えていく。
「壊しちゃだめだよ。約束はたいせつだって知ってるもん」
 だから果たさなきゃ。
 そして、彼に約束を果たさせる為にルーチェ達は力を振るい、神斬を歪めている影と呪いの力を打ち祓っていく。
 神斬と幾度も剣戟を交わした華乃音が地面を蹴り、ルーチェの隣に戻ってきた。
 櫻喰いの厄神も、華乃音自身もなんだか独りぼっちみたいな眼差しをしているように思えてならない。そう感じたルーチェは彼の手に腕を伸ばした。
 ――此処にいるよ。
 そう伝えるようにルーチェが華乃音の手を握る。
 握られた手に感じる確かなあたたかさを覚えた華乃音は、ふと実感した。
 ――自分は独りじゃない。
 すると、二人の様子を見た神斬が刀を下ろす。
 手を握り返す華乃音。そして、ルーチェ。彼らの姿を一瞥した神斬は戦う意志を消し去り、踵を返して去ろうとした。
「君達の在り方は、とても美しいね」
 そのように告げた神斬の心境は分からない。だが、二人に危害を加える気がなくなったことだけは確かだ。彼がそうした理由はきっと、華乃音達が戦うことで呪の一部を削ぎ取ったことにも関係している。
 最初に言葉を交わしたときと比べて、僅かではあるが正気に戻っているようだ。
 ルーチェも華乃音も、神斬を追おうとはしなかった。
 往くべきところへ進む。その背を見つめて、そっと見送るだけに留める。
 二人が思うことはひとつ。
 此の後に続く、櫻の散り際を見届けよう。
 儚くて、けれどいっとう美しい、いのちが咲き誇る時間を。

 ❀

 ――玉の緒よ 絶えなば絶えね 長らへば 忍ぶることの 弱りもぞする。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蘭・七結
黒く侵食された薄紅が散る
黒き神さま、うつくしいひと
その眸には何を映しているの

墨染の景色に真白の蝶が舞う
あなたも、彼から感じるのね

『ラン』、共に

冠する耀きは金糸雀の祝愛
宿す双翼で天へと舞い立つ
両の手に宿すのは彼岸と此岸の華
嘗てはあかく塗れた双刀
今や守護するための刃
あなたと云うひとりのこころを、護る

切っ先に込めるのは破魔と風の能
すべての呪詛を薙ぎ払えずとも
たった一糸のひかりでもいい
闇から抜け出す糸口と成れたのならば

サクラの花を枯らしてはダメ
嗚呼、けれど

あなたの求む櫻は、あなたの眸で
あなたが見映さなければいけない

確信などはない
けれど理解る気がする

あなたが求むひとが
あなたを待つひとが
この先に居るのだと



●春へ往く
 散る、散りゆく。黒く侵食された薄紅が散っていく。
 それはまるで、誰かの心が枯れ落ちていくかのように思えた。
 七結の眸には桜の社が映っていた。朽ち欠けた社は屹度、何処かに本当にあるものを映し取って顕現したのだろう。
 神斬が関係する社だったのかもしれないと感じた七結はそっと振り向く。
 其処には神斬本人が立っている。先程から重い鈴の音が響いてきていたので、彼が訪れたのだと気が付いていた。
「黒き神さま、うつくしいひと」
 その眸には何を映しているの、と七結は問いかける。
 神斬は桜の社を見た後に七結に目を向けた。此方が社に危害を加えるわけではないと察したらしい神斬はもう一度、桜の神域を見つめていく。
 彼から攻撃は放たれない。
 だが、其処に狂気を齎す呪詛が潜んでいることは分かった。
 七結の傍、墨染の景色の中に真白の蝶が舞う。
「あなたも、彼から感じるのね。――『ラン』、共に」
 白蝶に呼び掛けた七結はそうっと指先を伸ばす。其処に止まった蝶々から薄紅の彩が広がっていった。
 冠する耀きは金糸雀の祝愛。
 七結は白蝶の神性を宿し、眞白の双翼を羽撃かせた。天へと舞い立つ彼女、その両の手にあるのは彼岸と此岸の華。
 嘗てはあかく塗れた双刀。其れは今や、守護するための刃となっている。
 この刃で呪いを削ぐ。
 そして――。
「あなたと云うひとりのこころを、護るわ」
 狙うのは神斬本人ではなく、其処に渦巻いている大蛇の呪いそのもの。それが何であるかは深く知らないが、七結はそれこそが祓うべきものだと感じ取っていた。
 蝶の導きの元、切っ先に込めるのは破魔と風。
 すべての呪詛を薙ぎ払えずともいい。たった一糸のひかりでも構わない。
 此の一閃が、闇から抜け出す糸口と成れたのならば――。
 その思いを一心に抱え、七結は戀鬼の守刀を振るいあげた。対する神斬は黒桜花弁となってそれを躱し、厄として跳ね返す。
「君も邪魔をするの?」
「いいえ。けれど、サクラの花を枯らしてはダメ」
 神斬からの反撃に耐え、七結は首を横に振った。その瞬間、辰砂色の眸と金糸雀の眸が真っ直ぐに交差する。
 ――あなたの求む櫻は、あなたの眸で、あなたが見映さなければいけない。
 七結は眼差しで以て意志を紡ぐ。
 確信などはない。けれど、理解る気がした。
 守刀とした刃を差し向けた七結は蝶が羽撃くように、神斬へと翔んだ。この一閃に賭けるのは望み、叶えるべき結びへの路。
 あなたが求むひとが。
 あなたを待つひとが、この先に居るのだと伝えるように。
 眞白のひかりと共に残華が路を繋ぐ。斬撃は呪いの表層を剥ぎ取り、神斬を冒している狂気のこころを斬った。
「すすんで、あるいて――結んで」
 どうか、と願った七結は千年桜への道を示した。神斬は七結からの言葉を受け、刀を下ろして進みはじめる。
 朽ちた社を越えて、ただ逢いたいと願う魂のもとへ向かうために。

 ❀

 ――冬ながら 空より花の 散りくるは 雲のあなたは 春にやあるらむ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

蘭・八重
ひらひら舞う。
あぁ、散るとは切なくそして美しい。

ふふっ、貴方が神様ね。
憎悪に包まれた姿とても素敵ね
でも、今の貴方は心から本当に憎んでいるのかしら?
貴方、ただ大切な人に逢いたいだけなのでしょう。

私も大切な子がいるわ
あの子が居なくなったら私も世界を憎むかもしれはい

でもそれでは大切な人は喜ばないって知ったのよ。
噤む黒キ薔薇
貴方の歩みを止めるわ

完全に止まらなくても
次の方へとつなげる為に

そしてその方達の声を聞きなさい
きっとそれが貴方と大切な人の答えとなるかもしれないわよ。



●春の向こう側
 墨色の桜の花がひらひら舞っている。
「あぁ、散るとは切なく――」
 そして、儚いからこそ美しい。そのような言葉を口にした八重は朽ちた社の方角から進んできた影朧、神斬を見つめた。
「ふふっ、貴方が神様ね」
「退いてくれないかい。私には往くべき場所があるんだ」
 神斬の言葉は粛々としたものだった。その身には呪いの力らしき何かが渦巻いているように思えた。薄まっている箇所もあるが、呪は未だ彼の神の中に根深くある。
 そう感じた八重はくすりと笑み、神斬に告げてゆく。
「憎悪に包まれた姿、とても素敵ね」
「……」
「でも、今の貴方は心から本当に憎んでいるのかしら?」
「…………」
「貴方、ただ大切な人に逢いたいだけなのでしょう」
 神斬は何も答えない。
 だが、八重には解っていた。神斬は元より悪しきものではないのだと。
 厄を司る神ではあるらしいが、それは権能の話。彼自身が抱くこころと在り方自体はきっと厄でもなんでもないのだ。
 八重は社の向こうで妹がそうしていたように、自分も彼の呪いを祓おうと決めた。
 鞭のような鋭い棘の茨の黒薔薇を手にした八重は、神斬に言葉を掛け続ける。
「私にも大切な子がいるわ」
 もしあの子が居なくなったら――自分も世界を憎むかもしれない。でも、と顔を上げた八重は世界に憎悪を向けない理由を語る。
「憎んでも、恨んでも、それでは大切な人は喜ばないって知ったのよ」
 八重は黒き薔薇を振るい、鋭い一閃を見舞った。
 貴方の歩みを止める。
 しかしそれは逢いたい人への道を塞ぐ意味ではなく、呪いを抱いたまま歩んでいくことを止めるという意味だ。
 呪詛が完全に止まらなくとも、次の方へとつなげる為に。
「皆の声を聞きなさい」
 八重は茨で周囲の黒桜を裂き、感じるままの言の葉を神斬に送った。確信はなくとも、予感はしている。
「きっとそれが貴方と大切な人の答えとなるかもしれないわよ」
「私は……」
 神斬は何かを呟き、八重へと喰桜の一撃を放ち返した。反撃はたったそれだけ。そのまま彼は八重の隣を擦り抜け、千年桜に向かって駆けてゆく。
 呪いの残滓を零しながらも、唯只管に。
 その後ろ姿を見つめた八重は茨の黒薔薇を下ろし、彼が往く先に続く未来を思った。

 ❀

 ――花さそふ 嵐の庭の 雪ならで ふりゆくものは 我が身なりけり。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

鈍・しとり
神とはどんな存在か
朧になれど識っている
憶えているよ
陰りはじめた神よ
貴方も同じなのでしょう
神の心の宿りを誰か知る

桜の
貴方の杜の何と美しいこと
けれどこの身遍くわたしの界
わたしは貴方の眷属に非ず
私の厄はわたしだけのもの

だから大丈夫
全てを無理に喰わずとも
大丈夫なの
わたしは決して枯れぬのだから

私の枯れぬ朽ちぬ
あかし戀
私の雨も美しいのだとお見せしたい
けれどこの桜を
貴方と、誰かの咲かせたものを
濡らし散らすのはあまりに忍びないから
今は

『あの目が欲しゐ』
御身を蝕む視力、暫し賜ろうぞ

花は刹那
刻は残り少ないのでしょう
このうえ無為に削りたもうな
神よ

神よ、
貴方も同じなのでしょう
貴方の想う
貴方を想う人の為に
御加護あれかし



●神隠の言霊
 墨色桜が舞い散る花の森にて。
 いつかのように、しとりは空を振り仰いだ。
 櫻喰いの厄神の力によって辺りは昏い景色になっている。黒桜の合間から見える空は曇天。月も出ているはずなのだが、それは深く覆い隠されていた。
 しとりは考える。
 神とはどんな存在か。朧になれど識っている、憶えている。
「陰りはじめた神よ」
 しとりは天から視線を落とし、桜霞の奥から現れた神斬に呼び掛けた。
「……」
「貴方も同じなのでしょう」
 無言のまま喰桜の刀を構えた神斬に対して、しとりは思いを語る。
 神の心の宿りを誰か知る。
 桜の、貴方の杜の何と美しいこと。
 少し離れた場所に顕現した桜の社を見ていたしとりは、そう告げてゆく。其処に悪い感情はなく、しとりは神斬の存在を認めていた。
 けれど、と彼女は錆刀を構える。
「この身遍くわたしの界。わたしは貴方の眷属に非ず、私の厄はわたしだけのもの」
 だから大丈夫。
 地を蹴ったしとりは千代砌の刃を振りあげた。
 其処に籠めるのは言霊。
 青き血を宿す雨眸。黒き桜を宿す朱の神眸。
 対峙する二者の刃が衝突した。
「全てを無理に喰わずとも、大丈夫なの。わたしは決して枯れぬのだから」
 しとりが斬るのは彼の神に宿る呪いだけ。
 それ以外は決して傷付けぬと決めていたし、己が厄に屈しない決意も秘めていた。
 私の枯れぬ朽ちぬ、あかし戀。
 此の雨も美しいのだとお見せしたい。けれども、この桜を――貴方と、誰かの咲かせたものを濡らし散らすのはあまりに忍びないから。
 今はただ、一時的に奪うのみ。
「――『あの目が欲しゐ』。御身を蝕む視力、暫し賜ろうぞ」
 神斬の斬撃は刀で受け止め、代わりにしとりは言の葉を紡ぎ返した。
 花は刹那。
 この黒桜が散るしかないように、刻は残り少ないのだと解った。
「このうえ無為に削りたもうな、神よ」
「私は……最期に、ひと目だけでも……」
 しとりが神斬との距離を取る。すると彼はふらつきながら、千年桜がある方向へと歩み出した。しとりはその後を追ったりはしない。
 求めるものが先にあるのだから、その邪魔をしようとは思わなかった。
「神よ、貴方も同じなのでしょう」
 そして、神斬を見送るしとりは先程と同じことを声にする。それから、言葉にはしない願いめいた思いをその背に送った。

 貴方の想う、貴方を想う、其の人の為に。
 御加護あれかし。

 ❀

 ――時鳥 汝が鳴く里の あまたあれば なほ疎まれぬ 思ふものから。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​


 
●幕間
 硃赫神斬は進む。
 黒く染まった墨色桜の森の中でひときわ目立つ、薄紅の千年桜を目指して。
 此処まで何人ものひとびとが立ち塞がった。彼らを擦り抜け、或いは見送って貰いながら、神斬はただ逢いたい人の元へ急ぐ。
 祭の華火を鴉達と見ていた時、胸の奥に渦巻いていた憎悪。
 どうしてか今は、それらが少しだけ薄まった気がした。途切れ途切れにしか紡げなかった言葉も、徐々に発せられるようになっている。
 それでも狂おしい程の感情が未だ根深く残っていた。身を蝕み続ける呪いに抗いながら、神斬は目指す場所へと少しずつ近付いていく。
 そんなときだった。
「あれは――」
 神斬はふと、地面に降り積もった桜の花弁の中に倒れている何かを見つけた。
 三つ目を凝らして見てみると、それは人の形をしている。はっとした神斬はそれがよく知っている顔だと気付き、思わず名を呼んだ。
「イザナ!」
 倒れた何かに駆け寄る。君が何故、君がどうして、こんなところで。
 逸る気持ちを押さえて近付いてみれば、それは真っ二つに割れた彫像だと解った。
「そんな……イザナが像に……?」
 神斬は困惑した。
 彼は知る由もないが、この辺りは迎櫻館の西にあたる場所だ。其処には迎櫻館に住むある少女が作ったアート作品が置かれており、先程の黒鴉との戦闘によって彫像が破壊されていたのだ。
 何をどうしていいか分からなかった神斬だが、暫くして冷静さを取り戻す。
「違う、これはただの像か……」
 割られたイザナもとい櫻宵像に手を伸ばした神斬は、精巧に作られたその顔をそっと見下ろした。何故に服を着ていないのかは考えないようにして、神斬は像の頬を撫でる。
 像が作られるということ。
 それは神が必要とする信仰という点において、最も尊ばれることだ。
「きみは……誰かに好かれているのかな。こんなに立派な……」
 不思議と像からは嫌な雰囲気はせず、神斬のこころは僅かに綻んだ。立ち上がった神斬は戦いによって裂けていた己の外套を脱ぎ、それを彫像にそっと掛けてやる。
 外套に結わえられていた鈴が、りん、と鳴った。
 そして、神斬は未だ少し遠くにある千年桜を三つ目に映す。
 未だ混濁している思考の中で、神斬は思いを巡らせていった。
 きみは、もう独りではないのかもしれない。どうしてかそんな思いが浮かんだ。
 ならば――。
 それを確かめに、本当のきみに逢いに行こう。
 この心が潰れてしまう前に。この身体が、朽ちて散ってしまう前に。
 
フレズローゼ・クォレクロニカ
🐰館年少部

櫻宵と同じ姿の龍と神
親友
言葉で表せない大切な存在
溢れる想い
…逢いたいよね

千年桜の加護を胸に抱く
桜を斬らせちゃダメさ
守る
大切なもの全部

一華くんと兎乃くんと合流
2人とも無事?
ボクらは見えない糸で繋がってるから当然

桜を描いて魔法を放ち兎乃くんを援護

一華くんはこの身を呈して庇い守る
彼は絶対に神に傷つけさせない

櫻宵の大事な友達!
ボクだって救いたい!

大切に重ねた日々を憎しみで潰さないで
櫻宵を守った優しい神様
世界は辛いものばかりじゃない
憎悪を憎んで同じになったらダメさ
呪い砕いて
キミを取り戻すんだ
神斬を、櫻宵は待ってる



桜の宵に咲き誇る桜華火を描く
哀しみも孤独も絶望も塗り替えて
満開の笑顔が咲くように


誘七・一華
🌺館年少部

兄貴…いや始祖?
巡る神の過去に並ぶ2人
わかるのは互いの信頼と2人の強い絆

転生があるなら
始祖は多分
今の兄貴なんだろう

廻る運命を想い覚悟を決める
神斬様はイザナ…誘七の守り神だったんだ
誘七は豊穣で
不思議と災いが起きない地
ずっと守ってくれてたんだ
迷い苦しみ荒ぶる神魂鎮めるのも陰陽師の役目

フレズ!零時!
いこう!
2人が無事じゃなきゃ駄目だ
結界術で防御し七星の符を巡らせ援護する

祈りこめて感謝を伝う
ありがとう神様
ずっと守ってくれて
心からの気持ち
お陰で俺達、誘七は幸だ
今度は俺達が貴方をすくう!
桜も神様も皆
守りたい

想い込めて心放つ
馴染みある気配あるその呪を解くように

貴方の願いはきっと
桜と一緒に咲いてる


兎乃・零時
💎館年少部

初手UC


二人無事
一安心

俺様も無事だ!
あぁ
行こう!

俺が望むは
誰一人欠けず
友の望み果たす事!
三つ目
てめぇも欠けちゃ駄目だ

その呪厄
お前受けてたな
なら
俺が取れても良いよなぁ!

厄災の神がそうなる程
抱えた

呪い
狂気の原因全て
余さず奪う!

今なら出来る!

無意識に
藍玉の杖
大剣へ武器改造

怪力任せに切り込み
攻撃受け止め
呪厄狂気枯死
纏めて生命力吸収
友に被害届かぬ様

攻撃は俺以外へ届かせねぇ!

お前の目冴える程の一撃
ぶちかます!
光属性攻撃×限界突破×全力魔法×切り込み

光刃!

約束
正気
一片でも取り戻さぬ限り通さねぇ!

お前の望みはなんだ
斬る事じゃないだろ
望み
願い
狂気の中だろうと消えるものか!
お前の真の望みは!なんだ!



●血脈
 迎櫻館の光景が桜の森に変わった直後。
 それまで三人で居た少年達と少女は散り散りに、見知らぬ場所に飛ばされていた。
「フレズ! 零時!」
 一華は二人の名を呼び、周囲を見渡す。
 身体が痛い。辺りに広がる墨色の桜が齎す力が巡っているうえに、周辺には断片的な神斬の記憶が浮かんでは消えていた。
 その最中に見えた姿に一華は疑問を覚える。
「兄貴……いや始祖?」
 巡る神の過去に並ぶ神斬と誘七の始祖。何も事情は分からないが、ただひとつ理解できたのは互いへの信頼と、二人の強い絆。
 転生という巡りがあるなら、始祖の魂は櫻宵となって還ってきたのだろう。
 廻る運命は自分の知らないところで始まっていた。
 一華は兄を想い、覚悟を決める。
「神斬様はイザナ……誘七の守り神だったんだ」
 誘七の領地は豊穣の地であり、不思議と災いが起きない家だった。
 ずっと守ってくれていた。
 それを今、一華はやっと知ることが出来た。それならば迷い苦しみ、荒ぶる神魂を鎮めるのも陰陽師としての役目だ。一華は無意識に木刀を握り締めていた。
 それは嘗て、櫻宵と一緒に行った温泉街で買って貰った宝物だ。
 しかし、今はフレズローゼと零時を探すべきとき。そう感じた一華は朽ちかけた社を抜け、黒い桜の道を駆け抜けていく。
 そのとき、近くに漆黒の人影が見えた。
「――! 神斬様!?」
 しまった、と言いそうになって一華は口を噤む。フレズローゼ達より先に、一華がたったひとりで神斬と出会うことになってしまったのだ。
「君はイザナの息子かい?」
 ゆっくりと振り返った神斬は一華を見遣り、不思議なことを口走った。
 確かに誘七の家の息子であることは確かだが、何か雰囲気が違う。すると神斬ははたとして、緩く首を振る。
 曖昧になった記憶が過去に飛んでいるのか、神斬は始祖イザナの子孫のひとりと一華を重ね合わせてしまったようだ。
 彼に攻撃の意思は見えない。それは一華が守るべき一族の血を引いているからかもしれない。誘七の血筋を見守っていた神斬は彼のこともよく知っていた。
「違ったね。始祖の後を継いだ子によく似ているけれど、君はサヨの……」
「兄貴の?」
「ああ、おとうさんのいうことはよく聞いているかい?」
 神斬は妙なこと言う。まるで櫻宵のことを語るように問いかけてきたのだ。
「兄貴は兄貴だぜ。父様は今は関係ないだろ」
「そうか、君は未だ――」
 怪訝な顔をした一華を、神斬が哀しげな眸で見つめた。第三の目は閉じており、本当に危害を加える気がないことだけは分かった。

●友情
 同じ頃、少し離れた桜の一角にて。
 フレズローゼもまた、神斬と始祖の記憶の欠片を見ていた。
 櫻宵と同じ姿の龍と神。二人は親友であり、強い絆と感情が其処にあった。言葉では表せないほど大切な存在だったことが断片的であっても伝わってくる。
 溢れる想いはとても切ない。
「……逢いたいよね」
 フレズローゼは先程に掴んだ薄紅の桜をそっと握った。千年桜の加護を胸に抱き、顔をあげた少女は同時に絵筆を握る。
「大切だったなら、桜を斬らせちゃダメさ」
 守る。
 大切なものを全部。
 フレズローゼの裡に生まれたのは、大好きな櫻宵のこと。そして、始祖と櫻宵を大切に想っていたであろう神斬への思い。
 そのためにまずすべきことは、一華と零時を探すこと。
 特に一華は誘七の血に連なる者。
 絶対に彼を守るんだ、と心に決めたフレズローゼは決意を言葉にしていく。
「命に代えても――」
 少しばかり不穏であっても、そうしなければ守れないこともある。そして、フレズローゼは駆けていく。
 少女は桜の社を抜け、何方とも分からない墨花の迷路を勇敢に進んでいった。暫くすると、何処かから自分を呼ぶ声が聞こえてきた。
「フレズ! 一華!」
「兎乃くん、こっちだよ!」
 それが零時の声だと気付き、フレズローゼは声のする方向へ手を振る。
「良かった! 一華は居ないのか?」
「まだどこにも姿が見えないんだ……あっ!」
「どうしたフレズ!?」
 合流した二人は安堵する間もなく、まだ見つけられない一華への心配を抱いた。そのとき、フレズローゼが何かを見つけて指をさす。
 それは黒い外套が掛けられている、例の櫻宵像だった。
 この辺りが館の西館だと察したフレズローゼと零時だが、同時に嫌な予感もした。
「黒い服なんてなかったよな?」
「うん……もしかしたら、」
 神斬が此処を通って、外套を像に掛けていったのだろう。二人がそのような結論を頭に浮かべた瞬間、離れたところから驚きの声が響いた。
『――! 神斬様!?』
 一華の声だ。
「まずいかもしれねぇ。フレズ!!」
「うん! 兎みたいに全速力でいくよ、兎乃くん!」
 櫻喰いの厄神と少年が邂逅してしまったのだと知り、零時とフレズローゼは声がした方に全力で駆けていった。
 どうか、どうか。一華が無事であるように願って――。

●呪詛
「イチカ、君はね……」
 神斬は何かを語ろうとしていた。何が告げられるのかが気になる。しかし、神斬の身体に纏わりついている呪詛も蠢いていた。
 警戒しながらも木刀を構えた一華がどうすべきか迷っていると。
「一華くん!」
「無事か、一華!!」
「おや、誰か来るね」
 神斬は此方に向かってくる少年と少女に気付き、言葉を止めて後ろに下がった。
 フレズローゼは一華が襲われていないことに安堵しながら傍につき、零時は二人を守る形で前に布陣する。
 次の瞬間、神斬からの敵意が増幅した。
「邪魔をする気だね。おいたをするなら、お仕置きかな」
「させるか!」
 神斬が喰桜の刃を向けたことで、零時も力を解放する。その途端、彼の身体が眩い光に包まれた。光が止むと、其処には想像上の大人の姿に変身した零時が立っていた。
 端整な顔つき。
 凛とした瞳の長身の青年。
 その姿で神斬と対峙した零時は真っ直ぐに告げる。
「俺が望むは誰一人も欠けず、友の望みを果たす事! 覚悟しろ、三つ目!」
「……」
「しかし三つ目、てめぇも欠けちゃ駄目だ」
「面白いことを言うね」
 三つ目と呼ばれたからか、神斬の第三の目が開いていく。危険だと感じたフレズローゼは咄嗟に筆で桜を描き、零時を援護する魔法に変えた。
「一華くんはボクの身を挺してでも守るよ。兎乃くんは戦いに集中して!」
「おう!」
 零時は振り向かぬまま、フレズローゼへの信頼を宿した返事をする。少女が一華を守るなら、自分は彼女を守ればいい。そうすれば二人とも守れるとして――。
「違うんだ、フレズ。神斬様は……」
 なにか大切なことを伝えてくれようとしていた、と一華は言おうとしたが、既に神斬は殺気にも似た雰囲気を纏っている。
 戦いは避けられないのだと察した一華は意を決し、折り紙による結界術を巡らせた。
「守るって言っても、二人が無事じゃなきゃ駄目だからな!」
「もちろんさ! それに神斬は櫻宵の大事な友達だからね。ボクだって救いたい!」
 大丈夫、と答えたフレズローゼは一華に笑みを向けた。
 そして更なる桜を描きながら、思いを籠める。
 大切に重ねた日々を憎しみで潰さないで。
 呪いを斬り受けることで櫻宵を守った優しい神様。お願い、どうか。世界は辛いものばかりじゃないから――。
「憎悪を憎んで同じになったらダメさ」
 呪いを砕いて、必ずキミを取り戻す。何故なら神斬を、櫻宵が待っているから。
 一華も七縛符の力を巡らせながら、祈りと感謝を伝えてゆく。
 ありがとう神様。
 ずっと守ってくれて、ずっと見てくれていて。これは、心からの気持ち。
「お陰で俺達、誘七は幸せだ。今度は俺達が貴方をすくう!」
 一華は宣言する。
 桜も、神様も、兄貴も、友達も皆――守りたい。
 後方から援護に回っていくフレズローゼと一華の思いを感じ取り、零時は踏み出す。その際に思い返していくのは、この世界の中で垣間見えた、呪いのやりとり。
「その呪厄、お前も受けてたな。なら俺が取れても良いよなぁ!」
 青年姿の零時は心に決めた。
 厄災の神がそうなる程に抱えた厄、呪い、狂気。その原因の全てを余さず奪う、と。
 零時は無意識に藍玉の杖を大剣へと変じさせ、一気に駆けた。
(今なら出来る!)
 そして零時は怪力任せに切り込み、神斬から振るわれた攻撃を受け止め、その力を奪いに向かった。
「お前の目が冴える程の一撃を、ぶちかます! 行くぜ、光刃!!」
 約束、正気。
 一片でも取り戻さぬ限り、神斬はこの先に通したりなどしない。そんな決意と心意気は少年の限界以上の力となって巡った。
 呪、厄、狂気、枯死。
 零時は大剣の一撃で以て、それら全部を纏めて吸収することに成功した。
 だが――。
「ぐっ……あああ、あぁぁあ――!!」
 呪いをすべて奪い取った零時は、突如として苦悶の声をあげて倒れ込む。
「零時!」
「どうしたんだい!?」
 一華とフレズローゼが急いで彼の元に駆け寄った。あまりの激痛にその身は、青年から少年のものに戻っている。
 そして大蛇の呪いは零時の身を蝕み、物凄い勢いで命を削っていた。
 零時は呪詛に耐えようとして胸を押さえる。
(何だこれ! こんな呪い、おかしい……!! こんなに苦しくて、こんなに憎悪に満ちていて、こんなに痛くて……。櫻宵の中にはこんなものがあって、神斬はこれほどの呪いを受けて立ってたのか!?)
 痛い。苦しい。寂しい。憎い。
 次第にただそれだけしか考えられなくなっていく。零時は苦しみの声をあげる。抵抗を諦めたわけではなく、そうしていなければ耐えられそうになかったからだ。
「ああ、呪いが……! 零時、しっかりしろ!」
「兎乃くん! 兎乃くん!!」
 一華が符で呪いを祓おうとして、フレズローゼも零時の手を握る。しかし呪いは深まるばかりで、零時を死に至らしめようとするだけ。
「駄目だよ……それは、誘七の者以外には致死の毒だから……」
 そのとき、攻撃に押されてふらついていた神斬が近寄ってきた。一華も何となくではあるが、この呪はそうに違いないとして頷く。
 馴染みある気配を感じる呪。
 何とか解こうとしたが、あまりにも強い力は今の一華では解けないことも解った。
 悔しい。
 自分にもっと力があれば。
 そう考える一華の横を通り過ぎ、神斬は零時に手を伸ばした。ごめんね、と告げて瞬時に零時に刃を突き立てた彼は呪いを吸収し直す。
「ほら、これで……良い……」
「――!」
 それによって零時が勢いよく上体を起こし、神斬を見上げた。痛みも傷もあるが、呪いはすべて神斬の元に戻っていた。
 一華とフレズローゼが零時を支えて安堵していると、神斬はふらりと歩き出す。
「さようなら、子供達」
 君達の優しさと強い思いは受け取ったよ。
 それだけを告げた神斬は呪いを纏いながら、千年桜に向かって歩いていく。
 零時はその背に向けて叫ぶ。
「待てよ、三つ目! お前だって誘七の血筋じゃないだろ! それなのに――!」
 あれほどに痛いというのに。
 あんなに苦しいというのに。
 それを抱えて耐えて尚、神斬は逢いたい人の元に向かっていく。
「お前の望みはなんだ。斬る事じゃないだろ! 狂気の中だろうと消えるものか! お前の真の望みは! なんだ!!」
 零時は後ろ姿に問う。しかし、呪いの残滓が彼の身に痛みを与えた。
 はっとした一華は友達の手を強く握る。こんなところで誰も失いたくない。だから、無理はいけない、と。
「零時、暫く安静にしてないと駄目だ」
「そうだよ兎乃くん。悔しいけど、今は見送ろう」
 フレズローゼも神斬の背を見つめ、筆を強く持った。そして、少女は桜の宵に咲き誇る桜華火を描こうとする。
 哀しみも孤独も絶望も塗り替えて、満開の笑顔が咲くように――。
 しかし、その色彩は黒い桜に打ち消された。
「あれ?」
「厄神の力が弾いたのか?」
 首を傾げたフレズローゼの隣で、一華も描いた華火が散ってしまった理由を悟る。
 されど少女はめげなかった。
「そうみたいだね。でも、うん……そうだ! 二人とも、聞いてくれる?」
「何だ、フレズ」
「俺にできることなら手伝うぜ」
 少女は先程、桜杜の神域にも西館の像が残っていたことを思い出しながら、名案が浮かんだのだと話した。
 零時の力が回復したら始めよう、と決めたフレズローゼは少年達に告げていく。
「あのね――」
 そして、運命の歯車は少しずつ、ひとつずつ廻っていく。

 ❀

 ――面影の 霞める月ぞ 宿りける 春やむかしの 袖の涙に。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 
●壱の神楽、『艷華』
 一方、その頃。
 千年桜の元で櫻宵は神楽を舞っていた。
 しゃん、と櫻宵が手にした鈴が鳴る。ひらり、ひらりと舞う薄紅の桜の下で舞い踊るのは、神を迎えるためのもの。
 それは誘七に伝わる七つの神楽、其の壱。艷華――アデカグラ。

 捧ぐは愛しき神の為に。
 祈りを、願いを、貴方に伝えましょう。

 そして其の舞に呼応するように、桜杜の神域に或る記憶の光景が廻っていく。

 ❀

 穏やかな春の宵。
 月夜の光の下。屋敷の縁側にて、厄神と竜神が和綴じの本を覗き込んでいた。
「イザナ、それは?」
「和歌集だ。人の子が記した心の文、とでも呼ぶべきか」
 街で気になったから買ってきたという書をひらき、竜神は厄神へと幾つかの歌を詠んでいく。その書には恋の歌が多く並べられていた。
 ――雪降れば 冬籠りせる 草も木も 春に知られぬ 花ぞ咲きける。
 ――風通ふ 寝覚めの袖の 花の香に かをる枕の 春の夜の夢。
 竜神が声に乗せて詠む歌のひとつひとつを、厄神は聴いていた。ひとが短い言葉の中に籠めた思いを感じ取り、厄神はもっと詠んで欲しいと願った。
 頷いた竜神も彼の為に声を紡ぐ。
 ひとの恋も想いも、なんと儚いのか。そして、なんとうつくしいのだろう。
 月の夜に和歌を詠む。
 それはいつしか、二人で過ごす日常のひとつになっていた。
 
周・助
終夜くん(f22048)と。
アドリブ、マスタリング歓迎です。

_

……だめですよ、かみさま。
斬ってはなりません。
その桜は私たちの大事なもの、それ以上に──

──きっと、貴方の大事なものだから。

▼戦闘
迷うことなく刀を抜きましょう。
攻撃を出来得る限り、受け流し──
「…う…っ!」
──…一撃一撃が、重い…!
それでも根性と矜恃で以ってして可能な限り凌ぎますが、…怪我だけでなく腕の一本くらいは覚悟します。

「…はい、終夜くん!」
終夜くんと息を合わせ、攻防戦の刹那の空隙を見逃さず
捨て身の一撃にて、ユーベルコードを発動
…擦り傷でも負わせられたのなら上々。
我が刃と雷を以って、
櫻宵さんへ──繋ぎます!


空・終夜
助(f25172)と
アドリブ可

神斬は約束を思い出せないまま
自分の大切なものを斬ろうとするのか?
――それじゃダメだ
その黒にいくら体を蝕まれようとも
また…また、大切な奴に笑ってほしいのに
憎悪に潰されて、その感情に任せて櫻宵に刃を向けるな

約束があるなら思い出せ…
それはアンタのあるべき世界の在り方のはず

・戦闘
攻撃に迷いはしない
これは大事な戦い
できる事をするまで

しかし
敵の攻撃を受ける助を見ると
何故だか体が勝手に動く
護る為に助の肩を支え
一歩前に出て、攻撃を引き受ける形でかばう

コイツは、枯らさせない

「…まだ、いけるな?
一緒に…やるぞ…」
助と呼吸を合わせ、捨て身の一撃でUC

――醒めろ
アンタが櫻宵と向き合う為に



●護り、守られて
 深い呪いと憎悪の気配が近付いてくる。
 墨色の桜に満ちた世界で、助と終夜は神斬を待っていた。
 此処は千年桜に程近い場所。少し遠くで物凄い呪いが渦巻いた気配を感じながらも、二人はこの場で影朧を迎え撃つ心算でいた。
 そして、時は巡り――助達の前に神斬が姿をあらわす。
「退いて……くれ……」
 苦しげな様子で声を絞り出した神斬は喰桜の刀を二人に向けた。いよいよ形振り構っていなれなくなっていることは誰の目にも明白だ。
「……だめですよ、かみさま」
「あの桜を、呪いを、約束を……」
 神斬が呻く様を見遣り、助はそっと言の葉を紡ぐ。
「斬ってはなりません。桜は私たちの大事なもの、それ以上に――」
 きっと、貴方の大事なものだから。
 助は鶯丸の名を冠する刀を向け返し、首を横に振る。この神は破壊に愉悦を覚えているからそうしたいわけではない。
 助も終夜も、館がこの森に変化していくときに彼の過去を垣間見た。
 厄災の神であっても心はやさしかった。
 そんな神斬が、大切な友との約束を思い出せないままでいる。
「自分の大切なものを斬ろうとするのか?」
 それでは駄目だ。
 終夜もまた、いけないと神斬に告げた。その黒き桜にいくら体を蝕まれようとも、狂気が廻っていようとも、やってはいけないことがある。
「また……また、大切な奴に笑ってほしいだけなんだろう。憎悪に潰されて、その感情に任せて刃を向けるな」
 影朧としての思いはきっと、大事に積み上げてきた過去まで壊してしまう。
 終夜は真っ直ぐに神斬を見つめた。
 助も迷うことなく刀を抜き放ち、神の出方を窺う。そして、次の瞬間。
「……斬る」
 神斬が地を蹴り、助との距離を詰めた。助、と終夜が呼ぶ声に頷いた彼女は神斬からの攻撃を受け止め、勢いを流す狙いで刃を掲げる。
 だが――。
「……う……っ!」
 思わず苦悶の声が零れ落ちた。受けることは出来るが、衝撃が身体に響く。
 助は刃を振るい返したが、神斬は間髪容れずに次の斬撃を解き放った。
(一撃一撃が、重い……!)
 言葉すら発せない。ただ受け止めることしか出来ず、助は刃を強く握る。それでも根性と矜恃が彼女の中にあった。
 可能な限りは凌いで、受け流す。されど腕の一本くらいは覚悟していた。そのように助が考えたとき、神斬が三つ目をひらいた。
「助――」
 その目に映されればどうなるかは予想ができた。
 咄嗟に駆けた終夜が助の身体を引き寄せ、彼女が桜に代えられることを防ぐ。そのまま終夜は神斬を見つめ、諭すような声色で語っていった。
「約束があるなら思い出せ……それはアンタのあるべき世界の在り方のはず」
 コイツは、枯らさせない。
 護る為に助の肩を支えた終夜は一歩前に出て、攻撃を引き受ける形で庇う。
 助を救けたことで影朧の刃が終夜の腕を掠っていた。
 流す血の一滴。其処に聖なる祈りを籠めた終夜は、その血を媒介にして紅き聖剣を顕現させてゆく。
 其処から放つのは鋭い一閃。
 迷いはしない。これは大事な戦いであるから、己が出来ることをするまで。
 その間に助は体勢を立て直し、終夜と共に神斬へと切り込んでいく。
「……まだ、いけるな?」
「はい、終夜くん!」
「一緒に……やるぞ……」
 助に呼び掛けた終夜は神斬から決して目を離さない。そして二人は呼吸を合わせ、捨て身の勢いで影朧へと其々の刃を振るった。
 巡る攻防。戦の刹那の空隙を見逃さず、助は己の力を最大限まで高めた。
 ――桃華双雷。
 神斬が纏う色濃い呪いを祓うべく、助は跳躍した。その下を駆けていくのは終夜だ。
 遥か頭上からの降り注ぐ天まで裂くが如き双雷。紅き聖剣による、魂に宿る罪や負のみを斬る一閃。
 その二つが重なった瞬間、神斬が声無き声をあげた。
「……!」
 掠り傷でも良い。確かに当たれば呪いを一時的にでも裂くことが出来るはず。現に神斬が纏う呪が少しだけ剥がれていた。
 今一度、と攻撃の機を掴み取った助は更に動く。其処に終夜も続いていった。
「我が刃と雷を以って、櫻宵さんへ――繋ぎます!」
「――醒めろ。アンタが櫻宵と向き合う為に」
 二人が強く願い、刃に籠めるのはただひとりへの思い。
 其処で攻撃を止めた助と終夜は千年桜の方角に視線を向けた。呪いの一部を祓い、次に繋げたならば後は神斬を見送るだけ。
 そして、駆けていく彼を見つめた終夜達は互いの健闘をそっと称えあった。

 ❀

 ――世の中に たえて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 
●弐の神楽、『鶱華』
 千年桜の元で櫻宵は神楽を舞ってゆく。
 次に踊るは誘七に伝わる七つの神楽、其の弐。鶱華――ジンライカグラ。

 昂くたかく、舞い跳び踊りて貴方の元へ。
 桜嵐は龍の祝福。

 そうしてまたひとつ、神斬の記憶が桜杜の神域に映し出されていく。

 ❀

 あれは暑い夏の日だった。
 禁足地と呼ばれる硃赫山に駆けてくる者がいた。
 その子は泣いていた。きっと父親に酷く叱られて、我慢できなくなって家を抜け出して我武者羅に駆けてきた先が此処だったのだろう。
 少年の様子を見ていた神斬は、暫し何もしなかった。
「わっ!?」
 だが――その少年、櫻宵が獣道の最中で足をとられて斜面を転がり落ちた。勢いのままに木々をへし折り、地に叩きつけられた櫻宵を放っておくことが出来なかった。
 神斬はすぐさま傍に降り立ち、少年に声をかける。
「大丈夫かい?」
 櫻宵はふいに差し伸べられた白い手に気付き、血と涙と土埃に汚れた顔をあげた。
「何とか平気……」
「そう、良かった」
 その手を取った櫻宵。それこそが、櫻宵が神斬の姿をはじめて見た瞬間だった。櫻宵は痛みを堪えながらに問う。
「どうしたの? どこか痛いの?」
 そのように尋ねたのは、今にも泣きそうな顔で神斬が笑っていたから。
 
 ――また、逢えたね。
 
宵鍔・千鶴
墨色の桜森、
黒き花弁が侵食したとて

噫、ほら、
千年桜は変わらずにそこで
見守るから
枯らせも散らせもさせないよ

皆の想いもひとつ
加護に導かれ其処へと辿る
優しい筈の神が黒に塗れた世界など、
目醒めて欲しい、
君が求めたものは、
笑って欲しいと願うものは
櫻は綺麗に咲いているよ

燿夜を抜いて淡桜の防御は
大切なものを
共に戦う彼等を護る為に
往くのならば
俺はこの身を捧げるも厭わない
あかを纏いて
残花の花を降らせよう、

厄を御身に宿しても
護り友人との愛しき繋がりを
重ねた貴方は
厄神と呼ぶには余りに
美しく優しく、気高き御人

一一どうか、
ふたりがまた花開く刻を
咲かせられますように、



●高潔なる魂
 墨色の桜森は黒一色。
 薄紅に満ちた館の景色を変貌させた桜の森。その黒き花弁が侵食したとて、千鶴は絶望も恐怖も抱かなかった。
「噫、ほら、」
 振り返ればよく知った千年桜の彩が見える。
 黒き森の中、たったひとつだけ変わらずに咲き誇る淡紅の花は可憐でうつくしい。
 千年桜は変わらずにそこで咲いて、見守ってくれているから。
「枯らせも散らせもさせないよ」
 千鶴は近付いてくる影朧の気配を感じ取り、其方に目を向けた。
 近くには館の仲間達もいる。加護に導かれ其処へと辿る、皆の想いもきっとひとつ。
 優しい筈の神が黒に塗れた世界に落ちることなど、誰も望んでいない。
「邪魔を、しないで……」
 千鶴の元に現れた神斬は掠れた声でそんな言葉を紡いだ。
 おそらく呪いの巡りが深くなっており、自我を保つのに精一杯なのだろう。このままでは憎悪のままに全てを壊す存在に成り果てる。
 目醒めて欲しい、と千鶴は願う。
「君が求めたものは、笑って欲しいと願うものは――」
 櫻は、綺麗に咲いているよ。
 そう告げた千鶴は血染め桜の打刀、燿夜を抜いた。其処から巡る淡桜の防御は大切なものや共に戦う皆を護る為のもの。
「往くのならば、俺はこの身を捧げるも厭わない」
 千鶴は神斬に纏わり付く呪いを少しでも斬り裂こうと狙い、大きく地を蹴った。
 あかを纏いて。
 朱華の耳飾りが煌めかせて。
 千鶴はその最中に残花を降らせてゆく。対する神斬は泣き出しそうな表情で千鶴の刃を受け、反撃に入った。
「君を斬りたくはない。お願いだ、ただ……」
 逢いたいだけ。
 言葉を交わしたいだけ。
 どうして邪魔をするんだ、と神斬は千鶴の刀を弾き返した。
 彼は自分を見失いはじめている。ただ逢わせれば桜を散らせるだけ。それすら己で解っていないからこそ、千鶴達が止めなければならない。
「厄を御身に宿しても約を護り、友人との愛しき繋がりを重ねた貴方は……」
 影朧としての破壊の衝動を抱えながらも戦う神斬。
 その姿は悲しいけれど、戦っているからこそわかる。その心の奥にはまだしっかりと親愛なる存在への想いが残っていた。
「……厄神と呼ぶには余りに美しく優しく、気高き御人だね」
 千鶴にとって彼は気高き者と呼ぶに相応しい。そして、千鶴は残花の一閃で神斬の呪の一部を斬り裂き、道を譲った。
 ――どうか。
 自分の傍らを擦り抜けて駆けていく神斬を見送り、千鶴は願っていく。

 ふたりがまた花開く刻を、咲かせられますように。

 ❀

 ――桜花 散りぬる風の なごりには 水なき空に 波ぞ立ちける。
 

成功 🔵​🔵​🔴​


 
●参の神楽、『朱華』
 桜の加護が舞に宿っていく。
 櫻宵が演じるのは、誘七に伝わる七つの神楽、其の参。朱華――ハネズカグラ。

 龍眼が瞬き、桜獄は開きて。
 八岐大蛇の呪印が這う――其れは嘗て、美しい櫻龍鱗だった。

 やがてまたひとつ、神斬の記憶が桜杜の神域に映し出されていく。

 ❀

 遥か遠い秋の頃。
 紅葉が風に舞う、色付いた山の最中でのこと。
 ふとしたときにイザナは、家族というものが欲しいと口にした。すぐにイザナは何でもないと言ったが、神斬はその言葉こそが彼の心の奥底に眠る願いだと察した。
 それから、季節は巡り――。

 或る千年桜の女神と龍神は祝言をあげることになった。
 二人を引き合わせることになったのは神斬だ。
 かの女神は厄神である神斬が鴉となって桜枝に止まっても嫌がらなかった。それをイザナに話したことが切欠となり、逢瀬を重ねて、桜姫と櫻の龍はめでたく夫婦となった。
 神斬は彼らの契りを見守り祝した。
 友に家族が出来たことを誰よりも歓んだのもまた、神斬本人だった。
 
水標・悠里
先に逝った友との約束
懐かしい
理由は判らない、けれどそう感じる
誰と誰の…
何でだろう

君を見ていると姉さんと居た時を思い出すんだ
見守ること選び死ぬ筈だったんだ
死んだ先で見守るだなんておかしな話だけど

僕達は約束と呪いに縛られて
結果道を踏み外した
それは僕達だから良い

ねえ、咲耶
傍らに寄り添う蝶を、姉の名を呼ぶ

目覚めることなく朽ち逝く春
それが僕の理想だから
僕の生きた道、その全てを
彼女が生きた道へと書き換える

青から薄紅へ
笑う姿はいつぞやの様に
この花を咲かせる為に命をかけた

…たとえ神さまだろうと
この子は簡単に散らせはしないわ
ねえ、貴方は本当に望む花を枯らせたいの
私に構っている場合ではなくて?
嗚呼、結果が楽しみね



●約の果て
 先に逝った友との約束。
 それを思うと、何故だか懐かしいと感じた。
 悠里自身、そう思った理由は判らない。けれども確かに感慨深くなった。
「誰と誰の……」
 何でだろう、と悠里が呟いた直後。前方に影が現れる。
 少し離れた場所にある千年桜を背にして立っている悠里は、その人影が此度の相手である神斬だと察した。
「君を見ていると姉さんと居た時を思い出すんだ」
「……この先に、行かせてくれないかい」
 語りかけた悠里に対して、神斬はその背後にある千年桜を示す。しかし悠里は首を振り、まだ行かせられないと答えた。
「見守ること選んで死ぬ筈だったんだ。死んだ先で見守るだなんておかしな話だけど」
 悠里は語る。
 館の主が神を迎える準備を整えるまでの時間稼ぎとして、粛々と。
「僕達は約束と呪いに縛られて、結果、道を踏み外した」
 それは僕達だから良いのだと悠里は静かに告げていった。そうして、悠里は傍らに寄り添う蝶を――姉の名を呼ぶ。
「ねえ、咲耶」
 そうすれば蝶々が少年の傍に寄り添った。
 目覚めることなく朽ち逝く春。それが僕の理想だから。
「僕の生きた道、その全てを」
 ――彼女が生きた道へと書き換える。
 その途端、彼の纏う彩が青から薄紅に変わった。それは悠里のユーベルコードだ。
 可能性も夢も、何一つ叶わなかった世界をみせるもの。悠里の意識が消えて、その瞳は桜色になり、彼と瓜二つの姉、『咲耶』が顕現する。
 今此処に、悠里という少年は居ない。
 笑う姿はいつぞやのように、この花を咲かせる為に命をかけた少女のもの。
 咲耶は神斬を見据える。
「……たとえ神さまだろうと、この子は簡単に散らせはしないわ」
 朔の刃を構えた咲耶は神斬へと切り込む。
 鋭い一閃が相手の喰桜で受け止められ、剣戟の音が戦場に響き解った。
「ねえ、貴方は本当に望む花を枯らせたいの?」
「…………」
「私に構っている場合ではなくて?」
 神斬は何も答えずにいる。咲耶は其処で時間稼ぎはもう良いと判断して、神斬が進むべき道をあけてやった。
 神斬はそのまま身を翻し、千年桜の元に急ぐ。
「嗚呼、結果が楽しみね」
 咲耶はその背を見送り、そうっと桜の樹に背を預けた。そして咲耶――悠里は眠りに落ちた。目覚める時にはきっと、この結末を見届けられるだろうと信じて。

 ❀

 ――忘るなよ 宿る袂は 変はるとも かたみにしぼる 夜半の月影。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​


 
●四の神楽、『浄華』
 しゃん、しゃん、と神を迎えるための鈴音が響く。
 次に舞うは誘七に伝わる七つの神楽、其の四。浄華――コトホギカグラ。

 清らに清廉に咲き誇る桜は祝福の証。
 神降りる桜は祝を咲かせる。

 其処から映し出されていく光景は、櫻宵と神斬が過ごした日々の記憶のひとひら。

 ❀

 少年と神。
 あの夏の出会いから季節は移り変わり、冬が巡ってきた。
 薄く積もった雪の上で櫻宵は木刀を構えていた。目の前では神斬が木の棒を構え返しており、いつでも斬り込んできなさい、と告げている。
「師匠、覚悟――!」
 櫻宵は全力で木刀を振るいに駆けた。
 夏の日から言葉と交流を重ね、櫻宵は神斬を師匠と呼ぶようになっていた。
 山には妖も多く出没した。
 しかし神斬は真紅の刀で以て、瞬く間に妖を葬ってくれた。
 そんな風に強くなりたいと感じた櫻宵は剣術指南を強請った。そうして神斬は剣の指導をするようになった。
「惜しかったね、その太刀筋では読まれてしまうよ」
 思いきり振り被ったものだから、櫻宵の木刀は躱されてしまった。代わりに木の棒がひょいと振るわれ、その先が櫻宵の桜角に軽く触れる。
「また負けちゃった。師匠は強いなぁ……」
「いいや、サヨは筋がいいよ。それに剣の腕は、私よりも『彼』の方が――」
「師匠?」
 不意に神斬が哀しげな目をしたので櫻宵は首を傾げる。師匠は時折、いまにも泣き出しそうな、悲しそうな、そして寂しそうな――焦がれるような顔をするのだ。

 時は過ぎて、春。
 少年の剣術が随分と上達した頃。
 桜が美しく舞う中で、神斬は嘗てイザナから賜った刀のひとつを櫻宵に授けた。
「この刀は、神刀『屠桜』。邪を祓い屠り咲き誇る、桜の牙のひとつだよ」
「くれるの? 師匠の大切な刀じゃないの?」
「私には『喰桜』があるからね。……サヨ、この刀は守るために振るうんだよ」
 優しく撫でる掌と認められた嬉しさ。
 ずしりと重い刀がとても嬉しくて、当時の櫻宵は遥か過去から巡る縁になど気付けぬまま、桜花と共に飛び跳ねるように喜んでいた。
 
劉・碧
【迎桜館】

千織と縁を見つけ千年桜を共に守る
特に縁に危害が向かないよう身を呈す

慈悲深き神の頃を思い出せ
アンタはまだ憶えてる筈だ
だから此処に来たんだろ
短命の人間が忘れてしまうことと
神が心喪うことは意味が違う
だからアンタはまだ憶えてる筈なんだ


取り戻せ
失った過去を
友の声を
桜の色を
今のアンタにこの桜は薄紅に見えるのか?
アンタのこと櫻宵は待ってるぜ
これ以上待たせちゃダメだ
…だって、友達なんだろう?

神斬に言葉が届くか分からないが、まぁ…届かない態で相手しねぇと、返り討ちを喰らいそうだ

拳に思いと加速させた戦闘力を乗せてぶん殴る
真に神ならば我が拳ごと受け止めよ
そして…戻ってこい、アンタの場所へ


橙樹・千織
🌸迎櫻館

神斬…迎えましょう
櫻宵さんが招いた貴方を

少しでも、一言でも多く
彼の言の葉を届けるために
その呪を憎しみを
此処に置いてゆけ

桜に集った人々と千年桜へ糸桜と山吹のオーラ防御を

手にする刃に破魔と浄化の祈りを纏わせて前に出る
華と散らすは藍焔華
藍雷鳥でなぎ払い斬り結び
跳ね返されようと傷がつこうとも前へ

私が持つ全てを尽くし
その身に纏う呪と憎しみを散らす
神を鎮める為の巫女である
その先は、貴方を迎える櫻が担う

きっと
白珠の人魚たる彼が歌うだろうけれど
でも歌わせてほしい
櫻龍の彼を護るため
彼の望みが叶うよう祈るため
届くかどうかはわからないけれど
彼を支えるために全てを込めて

美しき桜が満開に咲むのを見ていたいから


誘名・縁
🌸迎櫻館

桜ざわめく
桜迷路はあなたのお心の様

とと様に似た龍と神様の暖かな日々
傍らに咲く桜
穏やかな優しい神だと伝わる笑顔
もう戻らぬ昨日に胸が締め付けられる

あなたに千年桜を斬らせてはいけない

千織のあねさまと碧のあにさまを支援し
言葉を紡ぎ続け
2人がいる
縁は大丈夫

過去は戻らずとも
未来はここにあるの
桜は散って
再び咲く

どうか呪に染めないで
暖かな日々を
憎しみ以上の幸を思い出して
神斬様
あなたのあいした存在を

何故そんなにも約束を取り戻したいのです?
約が無くてもお2人には絆があるのに
約束が必要な理由が…

祈りと慰めを込め桜吹雪を舞わせ
癒しの光で2人を癒す

2人の邂逅に
言祝ぎを

神様にも幸が咲き誇り
繋がるように祈りまする



●祈桜
 あえかな花を咲かせる千年桜の御前。
 一面が墨色の桜で覆われた領域の中で、其処だけには薄紅の彩が宿っている。
 桜がざわめく。
 はらはらと散る黒花弁は涙のようで、深い闇が心を影に染めていく。
「きっと、この桜迷路はあなたのお心なのですね」
 縁は千年桜を守るように立ち、徐々に近付いてくる不穏な空気を感じ取った。
 一度は散り散りになっていたが、その両隣には千年桜を目印にして駆けてきた碧と千織も控えている。
 千年桜の方からは神楽の舞と鈴の音が聴こえて来ていた。
 それと同時に神域と化した周囲に広がっていくのは、神斬の過去の光景。
 櫻宵に似た龍と神様のあたたかな日々。
 そして、別れと出逢い。
 辺りに映し出されていく情景から、神斬は穏やかな優しい神だと分かった。そのことが伝わる笑顔はもう、今の彼にはない。
 もう戻らぬ昨日に胸が締め付けられるようだったが、縁は強く前を見据えた。
 館に咲く桜は、縁にゆかりのある樹でもある。今も周囲に舞っている淡紅の花は加護を与え続けてくれていた。
 こうして、樹の元で櫻宵が神楽を舞う度に過去の光景が巡る理由は――千年桜の御力と神斬の権能が呼び合っているからだ。
 そして、いよいよ此の場に神斬が訪れる。
「神斬……迎えましょう。櫻宵さんが招いた貴方を」
「下手に斬らせはしねぇぜ」
 千織は藍焔華と藍雷鳥を構え、碧も拳を握り締めた。
 千年桜を共に守る。特に縁に危害が向かないように、碧も身を挺する心算でいる。
「退いて……くれ……」
 俯いた神斬は三人を見ずに、苦しげに呟く。
 彼を影朧へと落とすことになった感情と、櫻宵から奪った呪いが深く廻っており、身を蝕んでいるようだ。
 此処までに彼の行く手を阻んだ猟兵達が呪いを一時的にでも切り祓ったはずだが、神斬の心は押し潰されかけている。
 おそらく限界が近いのだ。それが直に感じられるほど、呪いは彼を冒していた。
 碧はその様子に気付き、神斬に呼び掛ける。
「慈悲深き神の頃を思い出せ。アンタはまだ憶えてる筈だ」
 だから此処に来たんだろ、と語りかけた言葉に、神斬が顔を上げた。
 しかし、彼らが自分を阻んでいるように立っているのは変わらない。喰桜の紅い刃を差し向けた神斬は、退いてくれ、としか言わなかった。
 呼んでいる。
 懐かしい神楽の音色が、舞が――。
 千織は神斬の姿に痛々しさを覚え、唇を噛み締める。
 少しでも、一言でも多く、彼の言の葉を届けるために尽くしたい。だから、と千織は神斬へと思いの言葉を告げた。
「その呪を、憎しみを、此処に置いてゆけ」
 あのままの状態で櫻宵の元には行かせられない。そのような気持ちを抱き、千織は桜に集った者達と千年桜へと、糸桜と山吹の防御陣を張り巡らせた。
 縁も淡い光を広げ、傍にいる二人を援護し続けることを決める。
「あなたに千年桜を斬らせはしませぬ」
 ひとりで立ち向かったならば敵わなかっただろう。けれども今は千織と碧がいる。とと様と、てて様もこの後ろにいる。
 縁は大丈夫、と言葉にした桜の精は神斬を見つめた。
 この力で呪いを祓う。
 そう決めた碧は千織と共に地を蹴り、神斬との距離を一気に詰める。
 短命の人間が忘れてしまうことと、神が心を喪うことは意味が違う。
「アンタはまだ憶えてる筈なんだ」
「忘れていないからこそ、狂おしいまでに願っているのでしょう?」
 碧が振るう狂拳に合わせ、千織も手にする刃に破魔と浄化の祈りを纏わせた。華と散らすは藍焔華。持ち替えた藍雷鳥で薙ぎ払い、斬り結ぶ。
 たとえ斬撃が神斬の刃に跳ね返されようとも、己に傷がつこうとも前へ、只管前へ。
 前線で戦う二人の背を見つめ、縁も光を生み出した。
 過去は戻らずとも、未来はここにある。
 桜は散る。
 しかし、再び廻り咲く。
「あなたも識っているはずです。縁も、あなたの想いを知りましたから」
 絶対に救ってみせるのだと示し、少女は祈り続けた。
「……イザ、ナ……」
 戦いながらも神斬は想うひとの名を呼ぶ。巡りゆく季節や日々の移ろい、誘七を代々見守ってきた彼の心の奥底に残っているのは友への想い。
 二人の間にあるよすがはそれほどに強く、これほどの絆が其処にある。
 そのことをしかと感じた碧は先程よりも強く呼び掛けた。
「取り戻せ」
 失った過去を、友の声を、桜の色を。
「今のアンタにこの桜は薄紅に見えるのか? 櫻宵はアンタのことを待ってるぜ」
 己の凶脚で以て、心を闇に染める呪いを穿つ。
 そうすれば彼の正気が少しは戻っていくのだと信じて、碧は戦い続けた。
「これ以上待たせちゃダメだ。……だって、友達なんだろう?」
「…………」
 神斬は何も答えなかったが、それでも構わない。
 其処に千織が斬り込みに入った。己の持つ全てを尽くすと誓った彼女は、神斬の身に纏う呪と憎しみを散らすべく刃を振りあげた。
 千織は神を鎮める為の巫女である。それゆえにその一助となるのが今の役目。
 この先は、貴方を迎える櫻が担うけれど。
 それにきっと、白珠の人魚たる彼が歌うだろうけれど――千織とて謳う。歌わせてほしい、と願った千織は花唇をひらいて歌いはじめる。
 櫻龍の彼を護るため。
 彼の望みが叶うよう祈るために。
 届くかどうかはわからない。否、届けと祈って。彼を支えるために全てを込めた。
 縁も千織の思いを察し、両手を胸の前で重ねる。
「どうか呪に染めないで」
 暖かな日々を。
 憎しみ以上の幸を思い出して。
「あなたのあいした存在を」
 神斬様、と呼んだ縁は櫻宵とイザナと過ごした日々の光景を思い返し、伝える。
 そうして少女は神斬に問いかけた。
「何故そんなにも約束を取り戻したいのです?」
 約が無くても二人には絆があるのに。約束が必要な理由が縁には分からなかった。
 すると神斬は重い口をひらく。
「私だけが、裏切ってしまったから。あの約束だけは、おとしてはいけなかったのに」
 そのとき神斬の瞳の端で何かが反射した。
 約束すらもう分からない。
 私は嫌われた。憎まれた。君の友ではなくなる。
 それは涙のようだった。しかし、本当にそうだったのかは分からない。
 黒い桜が彼を覆い尽くすように巡り舞い、鋭い斬撃が碧と千織へと向けられた。はっとした縁は祈りと慰めを込めた桜吹雪を舞わせ、癒しの光で二人を包む。
 神斬を見据え、碧は一気に踏み込んだ。
 拳を加速させて思いを乗せ、これまで以上の渾身の力で殴打する。
「真に神ならば我が拳ごと受け止めよ。そして……戻ってこい、アンタの場所へ」
「美しき桜の景色を思い出してください」
 満開に咲むのを見ていたいから、と伝えた千織は櫻雨の剣舞を見舞った。それによって神斬を押し潰そうとしていた呪が僅かに弱まる。
 これで逢わせられる。
 彼を、櫻宵とイザナの魂に。
 呪の揺らぎをはっきりと感じ取った縁は、そっと道をあけた。
「――二人の邂逅に、言祝ぎを」
 薄紅の桜が舞う。
 碧と千織も千年桜へと続く路を譲り、神斬に視線を向けた。これ以上は彼女達と戦う必要はないと察した神斬は櫻を目指す。
 その背を見送った三人は、この先に巡る宿縁の邂逅を思う。

 其処に幸が咲き誇り、総てが繋がるように。
 それは――何よりも冀う、祈りの桜想。

 ❀

 ――忘らるる 身を知る袖の 村雨に つれなく山の 月は出でけり。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 
●伍の神楽、『櫻華』
 櫻宵が舞う神楽は止まらない。最後まで、終わりまで。
 続けて踊るのは誘七に伝わる七つの神楽、其の伍。櫻華――ニエカグラ。

 一つ約束を果たしたならば、一つ願いを叶える。
 其れが神と龍の取り決め。

 其処から再び、神斬と桜龍が辿ってきた過去の光景が神域に巡っていく。

 ❀

 幾度も季節が巡った。
 平穏な日々が過ぎていた。しかし、それも永遠には続かない。
 イザナ――信仰を失った龍神、イザナイカグラの力は弱まっていた。即ち其れはいずれ人の子と同じように死を迎えるということ。
 神斬と桜の女神はイザナの為の神楽を領地の民衆に広めていた。
 おかげで僅かな力は戻ったが、彼が生き長らえる力には成り得なかった。
 神斬は嘆き悲しんだ。
 しかし、イザナと神斬は未来に続く約束を交わしていた。

 別れが近付いてきた或る日、二人はいつもの屋敷の縁側で過ごしていた。
 よく憶えている。その日も他愛ない話をして、そして――ふたつの約を繋ぐ。
『もっと色んな世界を旅しよう』
 それは神斬が求めた約。
 するとイザナは笑って頷いて、もうひとつの約を紡いだ。
『―――――、―――――』
 記憶にその言葉は残っていない。
 それが今の神斬が何処かにおとしてしまった約束だ。

 やがて、イザナイカグラは桜と成る。
 桜女神の姫と共に、この地を守るために桜樹となったのだ。その豊穣と繁栄を授けていく証の神木は今も尚、咲き誇っている。
 かけがえのない友との別れを胸に刻んで見送り、行く末を見守ると心に誓った日。
 それこそが神斬にとっての長い、とても永い孤独の始まりだった。
 
リル・ルリ
君の求める友と約はこの先に

久しぶり
神斬
櫻宵とイザナの神様で親友

水壁巡らせ
想いと破魔こめて歌う「光の歌」
彼に届け呪を祓うよう歌い
言葉かけ続ける

イザナは君をずっと案じてた
櫻宵はいつも君の話をする時笑う
無邪気に
楽しそうに
幸せそうに
大好きで大事だと

有難う
櫻が呪に喰われぬよう
守ってくれて
君は呪から櫻宵を救いたいんだろ
笑って欲しいんだろ
君が大蛇に負けてどうする
櫻の師匠
彼を忘れるな!

渾身の力
尾鰭で殴り伝う

思い出せ
過ごした日々のこと
好きなんだろ
共に世界を旅したいんだろ!

約をなくしたと素直に伝えばいい
櫻宵もイザナも
嫌わない


櫻が咲く
七つ目を咲かせるのは
君だ

僕は櫻宵と未来へ往く
その時は君もおいで
転生を
君の未来を望む



●六の神楽、『宵華』
 あと少し、もう少しで繋がる。
 櫻宵は一心に神楽を舞い続け、リルは光を導くために歌う。
 心を込めて踊り謳うは誘七に伝わる七つの神楽、其の六。宵華――ヨイカグラ。

 迷い果て宵の漄。
 かえろう、私達の桜郷へ。おかえりと迎えるから。

 揺らぐ記憶は神斬の感情と共に、過去と現在を結ぶ約となって映されていく。

 ❀

 禍を、厄災を。
 呪いというものは、いつだって世に溢れている。
 今日もどこかで誰かが誰かを呪って、傷付けて、命や心を奪っている。

 誘七の家には、始祖の代から咲く神代櫻があった。
 それは富と繁栄を齎す樹。
 だが、いつしか桜の在り方は歪んだ。より美しく花を咲かせて繁栄を確実なものにする為に、誘七の者は木龍として生まれた子を桜樹に捧げていた。
 そして、櫻宵もまた桜の木龍として誕生した。今代の生贄になる者だ。
 それをよく思わなかったのが櫻宵の母だった。

 神斬は櫻宵と接するうちに、その背に蠢く八岐大蛇の呪いを知った。
 母に刻みつけられたという呪印は痛みを齎している。それに触れて直ぐ、神斬は理解した。それは蝕むもの。侵食して侵すもの。魂を変容させようとするもの。
 執念の形であり、母の愛でもある。
(これは……この子を贄としてつれてゆく『神』を必ずや滅してみせるという、狂気じみた愛なのか)
 神斬は恐ろしいほどの愛を悟った。
 齎された大蛇は育つ。
 悲しみを、孤独を、恐怖を喰らって。育つ程に呪を深めて糧を求める。
 美しい桜が、呪に染まる。
 ――イザナが、サヨがきえてしまう。
 神斬は、いつか向けられる大蛇の呪いの矛先を知った。
「……桜姫」
 約が契られた以上、約が桜姫の元にある限り、呪いの矛先は変えられない。

 時は過ぎ、神斬は櫻宵を郭から連れ出した。
 また逢えたと喜ぶ弟子に向け、神斬は喰桜を抜き放つ。
 厄と災の神である自分しか呪いをどうにかすることは出来ない。寧ろこの日のために自分は厄を司る者として在るのだろうと思えた。
 そのためには櫻宵ごと呪を斬るしかない。それでも――。
(こんなこと、したくなかった。ごめんね、きっと嫌われる。憎まれる。でも……)
「師匠?」
 何も語らぬまま刃を振り上げた神斬に対して、櫻宵が困惑の声をあげる。
(それでいいよ。きみが堕ちずにいられるなら)
 言葉の代わりに涙を流して、神斬は櫻宵の呪いへと刀を差し向けた。
 その大蛇の呪を。
 目覚めた分だけを斬り裂いて、自分が貰い受ける。
(半分だけ、喰らってあげる。そしたら暫くは大丈夫だろうから)
 そして、神斬は櫻宵を斬った。
「――!」
 絶望の表情で、血に濡れた櫻宵は力なく崩れ落ちる。命に別状がないことを確かめ、その場から去った神斬は、ずっとそのときの櫻宵の表情を忘れられないでいた。
 泣いてほしくなんてなかった。
 笑っていて欲しいのに。
 いつだって、君には――『きみ』にだって、笑っていて欲しいのに。

 そうして、千年桜の近くに居た者達は神斬に宿る呪いの根源と、彼がこれまで辿って来た孤独と親愛の道を識った。
 神斬が桜を斬ろうとしているのは、彼の中に八岐大蛇の呪いがあるからだ。
 されど彼は未だ誰も殺めていない。先に進む為に邪魔するものへと刃を向けはしても、誰の心も貶していない。
 硃赫神斬が、優しい神としていられるうちに。
 今こそ、ひとつの結びを。

●送り櫻
 すぐ傍で咲く千年桜を背にして、人魚は月光めいた尾鰭を揺らす。
 誘七の神楽を舞う櫻の為にリルは歌い続けていた。そして、此方に近付いてくる気配を感じ取ったリルは顔をあげる。
 ――君の求める友と約はこの先に。
 深い呪を纏い、それに抗いながら此処まで訪れた神斬をリルが迎える。
 神斬と入れ違いに、ヨルは縁の元に向かっていった。その姿をそっと見送ったリルは神斬に呼び掛ける。
「久しぶりだね、神斬」
 彼は櫻宵とイザナの神様で、親友。
 柔く細めた薄花桜の瞳を彼に向け、リルは以前の邂逅を思い出した。あれは魔法の夢の世界でのこと。呪いに深く冒されはじめていた神斬が夢に侵食してきた時に、リルは彼に睨み付けられていた。
「君は……あのときの人魚――」
 神斬もリルを見遣る。
 これまで戦った猟兵達が呪いの一部を削いだお陰か、神斬の記憶は朧気ではあるが戻っているようだ。襲撃に訪れた当初はイザナと櫻宵の違いすら忘れていたが、今は少しだけ思い出しているらしい。
 リルは泡沫と共に水壁を巡らせ、其処に想いと破魔を籠めた。
 其処から再び、光の歌を紡いでいく。
 彼に届け、と願う。
 その呪を祓って、僅かでも正気に戻った彼と櫻宵を逢わせるために。
「イザナは君をずっと案じてたよ」
「……」
 リルも櫻宵と一緒に、桜わらしに宿ったイザナの魂と幾らかの日々を過ごしていた。其処から感じ取った思いを言葉にしながら、リルは静かに語りかけていく。
「櫻宵はね、いつも君の話をするときに笑うんだよ」
 無邪気に、楽しそうに。幸せそうに。
 大好きで大事だと語る櫻宵の言葉を、リルは誰よりも多く受け取っていた。
「……サヨが?」
 リルの言葉を聞いた神斬は驚いたような顔をする。
 嫌われている。憎まれている。
 それでも構わないと思って、最期にひと目でも逢うために此処に来たというのに。
 そのイザナが、櫻宵が、自分を案じてくれていた。笑って話してくれている。とても信じられないという顔をした神斬は宙に揺蕩うリルを見上げた。
 そうして、リルは淡く笑む。
「有難う」
 櫻宵が呪に喰われぬように守ってくれていて――。
 僕の大切な櫻を、と付け加えたリルは神斬へと呼び掛けていった。
「君は呪から櫻宵を救いたいんだろ。笑って欲しいんだろ」
「嗚呼……そうだ、私は……」
 はっとした神斬が喰桜の柄を強く握り締める。自分は櫻宵に守るために使えと告げて、屠桜を受け渡した。
 その自分が守れなくてどうするのか。呪いに押し潰されてしまって堪るものか。
 神斬はリルの言葉によって己を鼓舞した。
「君が大蛇に負けてどうする。櫻の……櫻宵の師匠、神斬。彼を忘れるな!」
 リルは懸命な言葉を紡ぐ。
 人魚は震えている様子の神斬へと素早く游ぎ寄り、激励と叱咤代わりの一撃を与えに向かう。歌うのではなく、この身で――。
 身を翻したリルは渾身の力を振るって、尾鰭で神斬を殴り抜いた。
「!」
 それによって神斬の身が揺らいだが相手は反射的に喰桜を振るい返す。尾鰭と鱗に刀傷が刻まれたが、こんな痛みが何だというのか。
 イザナも神斬も、そして櫻宵もこれ以上の痛みと苦しみを抱いていたはずだ。
 血が滴るのも構わず、リルは思いの丈を告げていく。
「思い出せ、過ごした日々のことを」
 あの約束を。
「好きなんだろ。共に世界を旅したいんだろ!」
 忘れていたって誰も嫌わない。
 すべては呪いから櫻宵を救うためだと分かったから、誰も憎まない。
「約をなくしたと素直に伝えればいい」
 櫻宵もイザナも、君が大切で大好きなままなのだから。
 リルの強い思いは神斬へと真っ直ぐに伝えられていく。三つ目が大きくひらき、彼は人魚の言葉に嘘偽りがないのだと悟った。
「そうか……」
 しかし、神斬に宿る大蛇の呪いは完全には祓えていない。
 櫻宵を思い出し、イザナとは違うと思い出せても、憎悪の根源は未だ千年桜に向いているらしく――。
「私はイザナも、櫻宵も守る。そのためにはあの桜を……」
 斬る。
 歪んだ宣言をした神斬はリルを擦り抜け、神楽を舞う櫻宵の元に駆けていった。
 追おうとしたリルだったが、先程に斬られた傷の痛みが深い。痛みに対してちいさな声をあげたリルは何とか耐え、神斬と櫻宵が対峙する姿を見つめた。
 きっと櫻が咲く。
 神楽も終わりへと近付く。
「七つ目を咲かせるのは、君だ。……櫻」
 神を冒す呪いを斬り祓うのは他でもない櫻宵だ。
 いとしい桜龍への想いを向け、リルは神斬の背に思いを向けていく。

 僕は櫻と未来へ往くから。
 その時は君もおいで。転生を、君の未来を望む。だから、一緒にいこう。
 此の邂逅の後に巡る、新しい世界へと。

 ❀

 ――かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​


 
●七の神楽、『咲華』
 爛漫芽吹いて、守護桜。
 言祝ぎ咲かせて、清明に。私はあなたをすくう護桜龍。
 謳い、呼び、迎える。
 それは誘七の力を宿す神楽の最後のひとつ。

 咲華――イザナサヨ。

 いま此処に七つの舞が奉納される。桜の元、神を迎え入れる準備は整った。
 千年桜の下、櫻宵はそれまで閉じていた瞼をひらく。
「来なさい、硃赫神斬!」
 神楽の力を巡らせた櫻宵の姿は、始祖の桜龍神へと変わっていった。
 桜色の竜の尾、爛漫に咲いた桜枝の角。しだれ桜の翼に、桜花弁のような美しい鱗が手足にあらわれていく。
 艷やかに鶱び、朱を浄める櫻は宵に咲く。
 ただ、貴方を救う為だけに。
「――イザナ、サヨ」
 七つ神楽の終わりを見ていた硃赫神斬は魂の名を呼ぶ。
 ふたつの魂が邂逅する。これまで繋いできた縁をその手にして、或いは此処まで重ねてきた想いを果たす為に。
 そして此処から、最後の戰いが巡りゆく。
 
誘名・櫻宵
逢いたかった
大好きな師匠

師匠を蝕む呪は私の呪
あの時私を救ってくれた

桜を斬る
大蛇の意思ね
させない
呪に私の神を穢させない

決意と共に挑む
友を縛る厄を断ち斬り
呪縛から解放する為に

師を超え示す

今度は私が神斬を救う!

孤独に寄り添い教えてくれた
共に過ごす日々の幸
刀振るう意味
暖かさ


全て糧に咲いた
伝えたい事が沢山ある
私も神斬も独りじゃない

出逢ってくれて有難う
誘の想い共にのせ
祈りと共に神楽を舞い
守る為
刀振るい
呪をなぎ祓う

言祝ぎ桜を親友へ

救ってみせる

『廻り帰ってきた
その時も私の友に』
有難う
約束守ってくれた

神斬の願いは


転生を受け入れて
廻り帰ってきたらまた友になろう

世界を旅しよう

迎えるよ
何度でも招く

また一緒に生きたい



 ❀

 ――白鳥の 飛羽山松の 待ちつつぞ わが恋ひわたる この月のころを。

●約束
 社の森から風に乗って流れてくる黒い桜。
 桜枝の角と翼から、儚く舞っては浮かぶ薄紅色の桜。
 互いの彩を宿す桜を境界線にするかのように、神斬と櫻宵は向かい合っている。まるで再会を祝すかのように、それまで曇天だった夜色の穹から月が覗いていた。
 逢いたかった。
 もう一度、相見えたかった。その声を聞いて言葉を交わしたかった。
 やっと、逢えた。
 千年桜の前で対峙した櫻宵と神斬の思いが重なる。
 大好きな師匠。大切な弟子。そして、かけがえのない友。深い縁を紡いだ者同士、再び廻り逢うことを願っていた気持ちはどちらも同じ。
「イザナ。それに、サヨ。其処をどいて」
 しかし、神斬の瞳は櫻宵の背後にある千年桜を映している。
 桜を斬れば呪いは果たされる。櫻宵が、そしてイザナが解放される。呪いに冒された神斬の中には間違った考えが満ちていた。
 彼を蝕む呪は元より、櫻宵へと宿されたものだ。
 神の使いであった黒鴉の言葉から、そして神域と千年桜が重なる此の異空間で次々と映し出されて巡った神斬の記憶と感情から、櫻宵は全てを理解していた。
「師匠、駄目。それはいけないわ」
 櫻宵はもう知っている。
 あのとき、神斬が自分を斬ったのは呪いから救うという理由があったのだと。
 堕ちるだけだった己の手を、掴んでひきあげてくれたのが彼だ。
「いいや、その桜は斬る。そうすれば……」
 櫻宵は救われる。
 そういって譲らない神斬の意志は今、大蛇の呪いそのものを映し出している。
 違う。あれは神斬の本当の心ではない。
 櫻宵は始祖から師匠に渡り、其処から継いだ神刀――屠桜を鞘から抜き放った。
「させない。呪に私の神を穢させない」
「サヨまで私を邪魔するのかい」
 対する神斬は、神殺の太刀――喰桜の刃を櫻宵に向け返す。
 二振りの紅い刀が真正面から対峙した。彼の中に宿る呪いを完全に祓わない限り、戦いは避けられない。
「あなたが路を違えようとしているなら、止めるのが弟子の役目よ」
「それなら、やるしかないね」
 神斬は櫻宵を押さえてから千年桜をどうにかする心算だ。闇と呪い、そして歪みきった愛に染まった三つの眸が櫻宵を映し込んだ。
 奪った櫻神の権能が巡る。
 桜を持つあらゆる存在を枯死させ、滅する厄神の力がこれまで以上に深く迸った。
 そうしてしまえば櫻宵自身を苦しめることになるというのに。神斬の意識は桜を斬るということだけに注がれていた。
「……く、ぅ――」
 櫻宵の身体に軋むような痛みが走っていく。
 だが、決意と共に師匠に挑むと決めたゆえに櫻宵は決して怯まない。以前ならば逃げ出していた。何もかも諦めて泣いていただろう。
 今は違う。
 友を縛る厄を断ち斬り、呪縛から解放する為に此処にいる。
 師を超えて示してみせよう。そのために櫻宵は凛とした声で宣言する。
「今度は私が神斬を救う!」
 言葉と共に枝垂れ桜の翼がおおきく開かれた。桜花弁の鱗が、空に浮かぶ月の光を反射して淡く燦く。
 両者の刃が振り上げられ、一気に薙がれた。
 屠桜と喰桜。
 対の紅刃が激しく衝突して鈍い音を響かせ、刀が重なる度に黒と薄紅の桜が散った。
 譲らない、譲れない。どちらも救う為に刀を振るっている。
 しかし、神斬と大蛇の呪のやり方は何かを犠牲にする方法だ。対する櫻宵の思いは、これ以上は何者も犠牲にしたくないというもの。
「――サヨ!」
「……神斬!」
 互いの名を呼びあった二人の桜刀が重なる。鍔迫り合い、間近で互いの瞳を覗き込める程の距離で力と力が拮抗していた。
 彼もまた孤独であったはずなのに、櫻宵の孤独に寄り添い、教えてくれた。
 共に過ごす日々の幸せを。
 刀を振るう意味を。ひとへの思いを、あたたかさを。そして――愛を。
 戀を識らず、愛を無為に喰らっていただけの過去。
 自らも大蛇の呪いに身を蝕まれていた嘗ての日々から、すくいあげてくれた神。
 そして、櫻宵自身も自ら咲いた。
 師匠の教え。館で共に過ごすひとびと。桜の志を重ねた友。寄り添ってくれる人魚。
 全て糧に、咲き誇った。
 ――ねぇ、師匠。大切なひとが出来たのよ。
 ――ねぇ、師匠。あなたにお礼を伝えたいの。
 話したいことがたくさんある。神斬が居ない間にあった出来事、彼がまだ知らないこれまでの櫻宵の軌跡。剣だけではなく、言葉を、思いを告げたい。
 両者は地面を蹴りあげ、互いに後方に下がった。それでも眼差しだけは逸らさない。
「私も神斬も独りじゃないわ」
 櫻宵の角から、そのことを示すように桜が舞ってゆく。
 出逢ってくれて有難う。
 この身に宿るイザナイカグラの想いを共にのせて、祈りと共に神刀を振るう。
 流れるように神楽を舞い、刃を重ねて。
 守る為に、呪を薙ぎ祓う為に、言祝ぎの桜を親友へ――。
「救ってみせる」
 櫻宵がもう一度、確かな言葉を発したとき。神斬の瞳に影が差した。
「……私には救って貰う価値などないよ」
 だって、約束を忘れてしまったから。おとしてしまったから。
 リルに伝えてしまえと告げられたからだろうか。それまで決して口にしないでおこうと決めていたであろう神斬の思いが零れ落ちた。
「イザナとの約束ね」
 櫻宵が確かめるように言葉にすると、神斬の顔が哀しみに沈んだ。
 たとえ嫌われていなくとも、憎まれていなくとも、約を落としたことは変わりない。だから自分は桜の呪を破るのだと神斬は主張した。
 櫻宵は穏やかに笑む。
「師匠、私達は友達よね。あの日も確かめたじゃない」
「あの日?」
「ええ、あなたが旅に出るといった日――」

 ❀❀

 別れの日。暫く旅に出ると神斬が伝えた夜。
 幼い櫻宵は泣いて、泣いて、嫌だ嫌だと駄々をこねた。自分も一緒に旅をするのだとあまりにも泣くものだから、神斬は櫻宵を連れて少し離れた街へと、小さな旅をした。
 其処で丁度ひらかれていた祭で縁日を楽しみ、一緒に花火を眺めた。
 穹に咲く華は美しい。
 神斬は花火が好きになっていた。それは出会いを象徴するものだったから。
「ねえ、師匠」
「なんだい、サヨ」
「私達はいちばんの友達だよね。こういうのを、しんゆうっていうんでしょ?」
 櫻宵は花火が上がる中で、確かめるように神斬に聞いた。
 神斬は息が詰まるような感覚をおぼえながら、そっと頷いてみせた。
「そうだよ、私達は友だ」
 ずっと――変わることなく。この先も、これからも。
 思いの全ては伝えなかったが、櫻宵は安堵した様子で神斬に寄り添った。そうしていつしか疲れて眠ってしまった櫻宵を家に送り届け、神斬は旅立った。

 ❀❀

 刃と刃が衝突し続ける中で、二人で過ごした記憶が巡る。
 懐かしいね、と神斬が呟いたが、彼は自分にはもう友の資格などないと考えている節があった。しかし櫻宵はそうではないのだと首を振る。
「神斬との約束は、もう果たされている」
「……イザナ?」
 櫻宵の口から紡がれた声は、どうしてか始祖を思わせるものだった。同じでありながらも違う存在だと神斬も解っていたが、思わず嘗ての友の名を呼ぶ。
 既に櫻宵とイザナの思いも心も重なっていた。魂の記憶が、胸の奥にある。
 それゆえに櫻宵は識っていた。神斬がおとしてしまったという、約束の言葉を。

 ――『廻り帰ってきた、その時も私の友に』――

 櫻宵はイザナが願った約を声にした。
 その言葉を聞いた神斬は喰桜を振り下ろす手を止める。
 そうだ。そうだった。輪廻を経て戻って、還ってきたならば、また友になろうと言ってくれたのだ。
 神斬は思い出した。厄や呪で雁字搦めになった記憶の果てで、告げられた約を。
「噫、嗚呼……。私は、約束を既に……」
「有難う、神斬。遠い約束を守ってくれて」
 一つ約束を果たしたならば、一つ願いを叶える。
 それが神と龍の取り決め。
 イザナの願いは果たされているのだから、次は神斬の願いが叶えられる番だ。否、この先でもずっと二つの願いを、約束を廻らせよう。
 転生を受け入れて廻り帰ってきたら、また友になろう。
 そして、世界を旅しよう。
「硃赫神斬。あなたを迎えるよ、何度でも招く。また一緒に生きたいから」
 櫻宵は、事実を知って微かに震えている神斬へと刃を向けた。
 そのために彼の宿す呪いを斬る。影朧としての存在を祓って、転生への路を示す。
 そう決めて、櫻宵は屠桜を振りあげた。
 今こそ師の教えを守る。本当に護るための刀を振るうべく、此の刃で厄を斬る。
 刹那、神斬の身を刃が貫いた。だが――。
「駄目だ!」
 深々と刺さった刃から逃れ、神斬は叫ぶ。約束は守れていた。しかし此処で自分がそのことだけに満足して転生を受け入れたら、どうなるのか気付いたのだ。
 櫻宵には八岐大蛇の呪いが残る。
 それは自分が救われるだけで、櫻宵が救われることにはならない。そう考えた神斬は喰桜を手放し、瞬時に黒い鴉の姿に変じた。
「私はこのまま滅されるよ。ごめん、サヨ。ごめんね、イザナ……」
 此処まで力を削がれた以上、神斬の存在は放っておいても消滅する。それゆえにこの呪いを持ったまま消えようと決めたらしい。
「師匠!」
 櫻宵の呼ぶ声も聞かず、黒神鴉は天高く舞う。
 漆黒の闇に、呪と共にとけきえてしまおう。それが幸いの結びだから。
「櫻! 神斬は?」
 そのとき、リルが傍に泳いできた。
 出来るならばリルが櫻宵を抱えて神斬の後を追いたかったが、先程に刻まれた傷の痛みがそうすることを阻んだ。
「待って……駄目よ、神斬……!! それだけは……!」
 櫻宵は手を伸ばした。
 届かない。届きそうにない。いけない、こんな終わり方は――。
 悲哀の声が、深い夜の狭間に響いた。
 
●華火
 遡ること、ほんの少し前。
 黒い桜が舞う迷宮内に佇む桜の杜の手前。其処には、これまでに神斬と刃を交わして見送った者達が集められていた。
「――ということでね、華火玉を探して欲しいんだ!」
 皆を集めた張本人であるフレズローゼは胸を張って周囲を示した。今でこそ此処は桜杜の神域になっているが、元の敷地は迎櫻館だ。
 西館にあった彫像が存在していたことから、館にあったものも幾つか神域に巻き込まれているはずだとフレズローゼは考えていた。
「皆も見たよな、神斬様と始祖イザナの出会いの光景を」
 一華は華火を探す理由を皆に伝えていく。
 イザナと神斬は花火が咲く夜に出会った。あの日が印象的だったからこそ、こうして記憶の欠片が神域に映し出されたはず。
「神斬は色々と忘れてるみたいだからな! 華火で思い出させてやろうぜ!」
 零時がそう告げていくと、集められた仲間も納得していく。
「成程な。記憶を呼び起こすための華火か」
 ユヴェンはそれは名案だと少年と少女達に告げ、自分も手伝うと申し出た。
「んにっ! それなら協力するよ」
「オレ達だってまだ役に立ちたいからね。行こうか、ティアちゃん」
「十雉ちゃん、あっちを探してみよう」
 ティアと十雉は頷き、連れ立って桜の森の奥に向かっていく。
 昼間に行われていた華火祭は影朧の襲撃で夜の前に終わってしまった。本来ならば夜になっても華火が打ち上げられる予定だったので、華火玉も残っているはずだ。
「半ばショック療法のようなものね」
「でも、面白そうだからいいよ」
 舞は仲間から癒やしの力を受け、何とか立てるようになっていた。莉亜はそんな彼女の傍につき、お酒を奢るのはもう少し後かな、と軽く語る。
「パパ、ルーシー達はあっちね」
「えぇ、行きましょうルーシーちゃん」
 ユェーの手を引いた少女が示したのは東館がある方角。頷いたユェーもルーシーの手を握り返し、最後まで出来ることをしようと決めた。
「華火玉ですか……」
「俺らはあの辺に行ってみようぜ」
 倫太郎も夜彦の手を取り、其処から猟兵達による華火玉大捜索が開始される。

 神斬が遠ざかったからか、森の枯死の力は弱まっていた。
 それでも此方を害する力が全くなくなったわけではない。瑞樹とフリルは警戒を解くことなく、黒桜の迷宮を進む。
「ん? あそこにある桜色の玉、華火じゃないか?」
「ふええ、でもひとつしかありません」
 さっそく一個目の華火玉を見つけたが、きっとそれだけでは足りない。二人が周囲を見渡していると近くにいたなつめが別の方向を指差した。
「お、あっちだ! もう一個あるみたいだぜ」
 黒い桜の中に埋まっている華火玉を見つけたなつめは、これも酒を酌み交わす約束のためだとして双眸を細めた。
 そして、この探索で誰よりも活躍したのは佑月と香鈴だ。
 彼らもまた、何か自分達に出来ることをしたいと考えていた。更に二人の力は華火を探すのに最適なものだったのだ。
「香鈴ちゃん、桜の力の抑えは頼んだよ」
「はい、がんばります」
 従犬を複製して捜索にあてた佑月は、香鈴の祈りの壁に大いに頼った。
 禍祓いの鈴が楚々と鳴り響いている間は佑月も枯死の力を気にせずに動ける。黒鉄の犬罠が桜が降り積もった地面を隈なく走っていけば、次々と華火玉が見つかった。
「これできっと、あの神様も……」
 そして、佑月だって守ることが出来る。香鈴は信じる力を胸に抱き、黒桜迷宮の先をそっと見つめた。
 彼らが見事に華火玉を集めたことで準備は着々と進んでいる。
 ルーチェと華乃音は再び華を空に咲かせる為、打ち上げる場所を選んでいった。
「華乃音、身体は大丈夫?」
「問題ないよ」
「良かった。かみさまの結末、綺麗に咲くと良いね」
 花のようにルーチェが笑う様を見つめ、華乃音は静かに頷いた。そうして運命は進み続け、グウェンドリンとヴィリヤも打ち上げの準備を整えながら考える。
「厄神……さん……転生、したいけど、できないって、思ってたみたい……」
「そうだね、何か事情があったのかな」
 二人が語るのは、転生を呼び掛けたときに感じた神斬の思いだ。
 想像するしかないが、本心が望むままにあって欲しいと感じた。そうやって転生に思いを馳せるのは桜花も同じ。
 もうすぐ華火を打ち上げる時間だ。
「今ここに、鎮魂歌を」
 そして、祈りを捧げる桜花は空を見上げる。その近くでは八重が、月と雲が揺らめく天を振り仰いでいた。
「綺麗な月が出ているわ」
「陰りは消え、光は届く。そのような詩でも詠えそうね」
 頷いたしとりは、先程まで出ていなかった月が美しいと感じていた。
 神斬は去り際に和歌を詠んでいた。それは彼の思いを表す詩だったが、桜森で出会った人々へと感じた思いの証でもあったようだった。
「サクラの花が、咲くわ」
 七結も最後に向けて打ち上げられる華を想う。きっともうすぐ、花がひらいて結ぶ。
 己がそうであったように。白の神から黒の神へ。今こそ最後を見届ける刻。
 七結は天を仰ぐ。そうしていよいよ、運命の瞬間が迫る。

 ところかわって、加護を巡らせ続ける千年桜の近く。
「助、動けるか……?」
「何とか平気です。終夜くんは?」
「俺も……大丈夫」
 終夜は傷ついた助の身を支え、そっと問いかける。答えた助も彼を案じた。互いが無事だとわかると、二人は一先ずの安堵を抱く。
 其処では深く傷ついた者の手当と癒やしが行われていた。
「……――」
 悠里は力を使い果たして眠っており、その傍には碧が付いている。
「神斬、なかなかの手練だったな」
「流石は櫻宵の師匠だ」
 碧の言葉に千鶴が答えた。彼らの横では、千織が千年桜で繰り広げられている師匠と弟子の剣戟を静かに見守っている。
「櫻宵さん……」
 何かあれば自分達が身を挺してでも櫻宵を守りに行く。
 それまでは動向を見つめるだけに留める。それが迎櫻館の仲間達の共通の思いだった。
 そんな中で、縁の元にいたヨルが何かに気付いて駆けていく。
「きゅ!」
「どうかしましたか? 待ってください、縁もいきまする」
 縁はその後を追った。
 迎櫻館の者達は戦いを見守っていたが、ヨルはフレズローゼ達が華火をあげようとしていることに気が付いたようだ。
 てちてちと懸命に走るヨルは、一枚の桜を手にしていた。
 それは昼間に掴んだ桜。イザナが持っていたという花のひとひらだ。
「きゅう! きゅー!」
「ヨル?」
「お願いします。この花弁を華火に入れて欲しいそうですの」
 準備を整えていたフレズローゼの元にヨルが訪れ、縁は仔ペンギンの思いを代わりに告げた。勿論だと快く答えたフレズローゼは、零時達と共に点火に取り掛かる。
 打ち上げの手順は知らない。
 だが、思いきり火を付けてドーンとやれば何とかなるはずだ。
「それじゃあ行くよ! 点火!」
 フレズローゼが仲間達に合図を送ると、方々で一斉に華火の打ち上げが始まった。
 一華はその様子を眺めながら、神斬への思いを空に向ける。
(受け取ってくれ、俺達の思いを。貴方の願いはきっと桜と一緒に咲いてるから)

 そして――。
 桜杜の神域を包み込む月夜の空に、勢いよく華火が咲いた。

●咲華
 同じ頃、神斬は翔けていた。
 鴉の姿となった彼は大切な友を救うために逃げていく。
 このまま此の魂は消える。転生は望めないが、これでいい。己の消滅と共に大蛇の呪いの半分を消せたならそれこそが永く生きた意味だ。
 櫻宵の呼び声が聞こえたが、振り返らない。最期にきみに逢えただけで十分だ。
 しかし、その瞬間。
「!」
 神斬鴉が飛ぶ空に、幾つもの華火が花ひらいた。
 咲いて、咲いて、咲き誇る。
 夜空を彩る大輪の祓火の花。
 その光景が櫻宵とリルの瞳にも映った。焔華が咲いて闇にとけていく。そしてまた、華が咲いて――。
 神斬が空から落ちてきた。
 音と光、花に驚いた彼は落下の最中に人の姿に戻っていた。
「師匠!」
「神斬!」
 そのまま地に叩きつけられた彼の元に、櫻宵とリルが駆け寄っていく。哀れなほどに血と土埃に塗れた神斬。起き上がろうとした彼に向けて、櫻宵は手を伸ばした。
 次は掴んでみせる。もう離さない、と。
 刹那、記憶が重なる。
 イザナと神斬が出逢った花火の夜。
 神斬が硃赫山で櫻宵を見つけた夏の日。
 どちらの出逢いでもこうして手を差し伸べ、或いは差し伸べられた。
 神斬が顔をあげる。哀しみと恐れに塗れた男の顔は、今にも泣き出しそうに歪む。
「きみは、嗚呼、君は……」
 気付けば神斬は櫻宵の手を握り返していた。
「もういいのよ、師匠」
 そのとき、華火から舞い落ちた桜のひとひらと、千年桜から飛んできた花の欠片が櫻宵の肩にふわりと触れる。
 其処から不思議な力が巡り、櫻宵と同じ貌をした者が厳かに顕現した。
「あれは――」
 櫻宵は目を見開き、その人影を瞳に映す。
 彼こそが誘七の始祖である存在。イザナイカグラだ。
 透き通った姿をした彼はどうやら、櫻宵の魂の欠片が形となったもののようだ。
『神斬』
「イザナ!」
 これまでよく頑張ってくれた。お前のことはずっと櫻宵を通して見ていた、とイザナの魂が神斬に告げていく。
 それは桜の絆が起こした奇跡だ。
 もし此処が神域ではなければ、この場が迎櫻館ではなくて、千年桜がなかったら。
 華火の祭がなければ、西館の彫像が壊されなければ、そして何よりも此処に集った人々の力がなかったとしたら。
 神域の空を飾る華火玉に誘の桜が込められなければ、絶対に起こり得なかった。
 全ての力と想いを受けていなければ――。
 屹度、イザナイカグラは硃赫神斬の前に現れることが出来なかった。
「イザナ、ごめん。私はサヨの呪いを……」
『解かなくて良い』
「どうして……?」
『櫻宵はお前の弟子だろう。その弟子は剣の腕でも師を超えた。数多の愛を受けて成長してきた。友でもある弟子の力を、師匠が信じずにどうする?』
 イザナは、自分達を見つめている櫻宵とリルを見遣ってから神斬に問う。
 櫻宵にはリルがしっかりと寄り添っていた。
 その姿は愛を喰らうだけの悪龍には見えない。誘七櫻宵として、ひととして生きると決めた心が感じられた。
『呪いなど、いずれ己の力で祓える。そうだろう?』
 イザナは次に櫻宵に問いかける。
「ええ、勿論よ」
 櫻宵はずっと考えていた。師が半分だけ持って行った呪いを己の身に戻そう、と。
 そうすることが神斬を救うたったひとつの方法。
 その答えを聞いたイザナは満足したように首肯し、櫻宵を促す。
 ――神斬の呪いを斬れ、と。
 櫻宵はそっと神斬から手を離し、屠桜を握った。その背を押すように千年桜の花が舞い、黒い神域を薄紅に染めあげていく。
 誘七櫻宵と硃赫神斬。
 見つめあう二人の姿を、此処に集った誰もが静かに見守っていた。
「これは守る為の刀」
 清かな言の葉が紡がれる。
「神斬、今此処で――あなたを廻る天へと葬送る!」
 刃に籠めるは桜龍神の力。そして櫻宵は何処までも真っ直ぐで清廉な一閃を、己の神に振り下ろした。
 刹那、呪いが刃を伝う。身体に完全な愛呪が流れ込んでくる。
 されど櫻宵は堪えた。それに呪いだけではなく、桜の力も感じられる。
 愛が何かとは、もう知っていた。母の愛、子孫への愛、戀から続く愛、師匠の愛、友としての親愛。
 すべてを抱えている今、この深い呪いだっていつか己の力で御せる。
「……立派になったね、櫻宵」
 そして神斬は、最期にはっきりと弟子であり友である櫻宵の名を呼んだ。やがてその身は黒い桜となって散る。
 それと同時にイザナの姿もひとひらの薄紅桜に変わった。

 千年桜の花が舞う。
 墨色の神域は薄れて消え、元の迎櫻館の景色へと戻っていく。
 影朧としての闇は祓われて、神斬に宿っていた呪いは在るべき場所に収まった。
「櫻、二人を見送ろう」
「そうね、リル」
 櫻宵達は宙に舞っている二枚の桜花弁を見上げる。
 片方は神斬。もう片方は一時的に櫻宵から離れたイザナの魂の欠片だ。どうやらイザナは転生の廻りを迎える神斬に付き、出来る限り送っていくようだ。
 既に櫻宵と始祖の魂は同一のものだが、欠片を添わせることくらいは出来る。
「いってらっしゃい、神斬」
 櫻宵は涙を堪え、月夜に舞い躍る桜の花を振り仰いだ。
 其処にリルが水想の歌を重ねる。葬と愛の歌聲が響き渡る中で、幽かな話し声が櫻宵達の耳に届いた。
「イザナ、先ずは何処を旅しようか」
『幽世はどうだ。お前と一緒になら、往ける気がする』
「そうしよう。嗚呼、楽しみだね」
 そして最期に神斬とイザナの声が重なり、櫻宵に向けて或る和歌が紡がれた。

『――命あらば逢ふこともあらむ我が故に はだな思ひそ命だに経ば』

「――春雨の降るは涙か桜花 散るを惜しまぬ人しなければ」

 櫻宵は返歌を紡ぎ返す。
 別れを詠んだ詩ではあるが、其処に哀しみの思いは込めなかった。千年桜から散る花もまた、二人の神の旅路を見送るように空に舞っていく。
「あなたがずっと待っていてくれたから、今度は私が待つ番かしら」
 櫻宵は地面に置かれていた喰桜の刀を手に取り、桜が舞う穹を見つめ続けた。
 これからも未だ呪や誘七の家に纏わる出来事は続いていく。しかし今宵、華火のもとに救いたいひとを救えた。
 此処から何を為し、よすがを繋いでいくかは自分次第。
 苦痛や困難が待っているだろうが心配などないと思えた。何故なら、櫻宵には帰る場所がある。迎櫻館という場所が、此処に集ったひとびとが、いとおしいから。

●迎桜
 想いと約は巡る。
 何度散っても咲き誇り、幸を結ぶ春の花のように。いつかまた、廻り逢える。
 そのときは歓び迎えよう。美しく咲う桜と共に――。

 ❀
 

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年09月26日
宿敵 『『櫻喰いの厄神』神斬』 を撃破!


挿絵イラスト