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迷宮災厄戦㉑〜霧けぶるオレイカルコス

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦 #猟書家 #レディ・ハンプティ

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 真鍮の懐中時計。その中身を何十倍も拡大したかのような、その世界は数多くの蒸気建築が建ち並んでいた。
 あちらこちらから魔導蒸気機関がスチームの煙を吐いては、何かのために動力を送る。
 そのために空は霧に煙り、レンガ張りのプラットフォームにも怪しい影を作る。
 多くの魔導列車が行き交うその駅は薄暗く、人影はほぼないのに列車だけがせわしなく出入りしていた。
 そんな中に、喪服のよう黒いドレス姿は異質であり、よく目立っていた。
 悲嘆に暮れるような、喜びに打ち震えるかのような、顔を覆う黒いヴェールからはいくつもの感情を読み取れるようで、表情はついには伺い知れない。
 猟書家『レディ・ハンプティ』その威容を前に、近づくものは誰もいない。
 アルダワ魔法学園の、その西方にある諸王国連合を目指すという彼女の野望は、今はまだ列車を待つという段階である。
 蒸気魔法文明が盛んであるというかの場所までこの魔導列車が通じいるというのか、それは定かではないが。
 いずれにせよ、その手に抱く「蒸気獣の悦び」のもたらす暴虐の嵐を、かの世界に及ぼすわけにはいかない。

「とまぁ、そういうわけでね。猟書家と呼ばれる、今回の敵幹部の一人を捕捉した。
 名を『レディ・ハンプティ』、喪服のようなゴス服と肩から飛び出た蒸気機関がトレードマークだ」
 グリモアベースはその一角、リリィ・リリウムが資料を片手に眉を顰める。
 先のアルダワ魔法学園における戦争で登場した大魔王アウルム・アンティーカの娘であるというレディ・ハンプティは、やはりというか父のいた世界を目指すという。
 彼女の完全討伐なしにオウガ・オリジンを討伐すれば、彼女は独自の部下を得て、オウガ・フォーミュラなる存在となって、アルダワ魔法学園に侵攻することになるという。
「ただし、猟書家を完全に討伐してしまうと、その力はオウガ・オリジンに帰っていき、彼の者を強くするという、まさにどっちに転んでも厄介な展開になる。
 しかし、予知に見た以上は、オブリビオンの横行を見逃すわけにはいかない。どうか、君たちの力を貸してほしい」
 複雑そうに目を細めるリリィ。少なくない葛藤があるとはいえ、目の前の敵を見逃すもまた愚。
「今回の舞台は、魔導蒸気機関のあふれる大都市のような場所だが、レディ・ハンプティはその中の、巨大な駅のプラットフォームで列車を待っているようだ。
 駅の機能は無人化されていて、現場には標的一人しか居ない筈だ。被害は気にしなくていい。
 ただ、気をつけろ。大人しそうな格好をしているが、並のオブリビオンとは異なる個体であることを忘れてはいけない。
 いくら奇襲を仕掛けようとしても、敵の専制は免れまい。その対策を考えた方がいいだろう」
 一通りの説明を終えると、リリィは居並ぶ猟兵へと目配せをし、転送の準備を始める。
「いろいろと考えることの多い此度の戦争だが、オウガ、オブリビオンの存在はいずれ世界を滅ぼす。見逃すわけにはいかない。
 武運を祈るよ」


みろりじ
 どうもこんばんは。流浪の文章書き、みろりじと申します。
 敵ボスとの戦いです。とても立派なものをお持ちのようですが、よく見ると、閉じた口のようになっているんですね。
 つまり、そこが開くのか……。
 さて、戦争はそのボスキャラとの戦いになるので、レディ・ハンプティは必ず先制してきます。
 必ず先制してくるので、それぞれの属性に対応したユーベルコードへの対策を講じるようなプレイングを盛り込むと、いいことがあるかもしれません。
 別に対策しなかったとしても、必ず不利になる訳じゃないですが、リリィさんも言っておりますので、せっかくだからギミックに対策を盛り込むのも醍醐味であり楽しみ方の一つかと個人的には思います。
 それでは、皆さんと一緒に、楽しいリプレイを作っていきましょう。
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第1章 ボス戦 『猟書家『レディ・ハンプティ』』

POW   :    乳房の下の口で喰らう
【乳房の下の口での噛みつきと丸呑み】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    アンティーカ・フォーマル
【肩の蒸気機関から吹き出す蒸気を纏う】事で【武装楽団形態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    侵略蔵書「蒸気獣の悦び」
【黄金色の蒸気機関】で武装した【災魔】の幽霊をレベル×5体乗せた【魔導列車】を召喚する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

深島・鮫士
【梟と鮫】

・へ、やっと出てきやがったな。さて、俺とアウラはこっちの猟書家と戦ってみるか。今回もだけど、いつも信頼してるぜ。

・先制攻撃は高速接近してきての噛みつき攻撃か。確かに脅威だが対処のしようがないわけじゃねぇ。「野生の勘」「早業」「見切り」を総動員。「落ち着き」を忘れずに「カウンター」を取る。無理なら死に物狂いで回避だが、アウラに攻撃が向かうようなら無理してでもカウンターで弾いてやる。

・その後は純粋に強さ比べだ。持てる技と武器全てを使い、切り札であるアウラを守るぜ。一撃たりとも彼女に届かせてたまるかってんだ。
へ、猟書家のけったいなおっぱいよりもアウラのおっぱいの方が断然好きだしな、がはは。


アウラ・ウェネーフィカ
【梟と鮫】
とうとう猟書家との戦いか
魔王の娘との事だが、相手にとって不足はない
私達の全力を以てお相手しよう

■行動
先制攻撃対策として、私は【天舞の宝玉】を使う
天井の高い場所で、敵が高速で襲って来るタイミングを【見切り】
足で掴んだ宝玉に魔力を籠めて竜巻を生成

敵が纏った蒸気を【吹き飛ばし】つつ、風圧で動きを阻害して攻撃を回避
そのまま風に乗り、一気に飛翔する事で距離を取るぞ

後は深島さんに前衛を任せ、私は周囲を飛び回りながら
【フェザーブレット】で援護をしよう
その間に【魔力溜め】も並行して行い、十分に溜めたら【UC】を発動
強力な冷気の光線を浴びせて、その機関ごと氷漬けにしてやる
さぁ、チャンスだ。やってやれ!



 静かであり、騒がしかった。
 蒸気の霧の立ち込める真鍮の街並みの中で、激しい凹凸の建造物が建ち並ぶその只中にあって、何重にも重しで均したかのようにぴったりとしたレンガ張りのプラットフォームは、オートメーション化された魔導蒸気機関の駆動する音と、鉄のレールを鉄の車輪が渡る音、蒸気の嘶きにまみれて尚、静かであった。
 機械的に織り込まれた風景の一つであるかのような騒音の中で、蒸気の霧を踏み開くようにして歩む肉厚のミリタリーブーツと、カギ爪。
「いよいよ猟書家との戦いか。魔王の娘とのことだが……」
「何が来たって、戦って見せるさ。俺たちなら負けない。信頼してるぜ」
 無表情の中に思慮を覗かせる梟の翼の腕と足を持つキマイラ、アウラ・ウェネーフィカ(梟翼の魔女・f25573)が、その翼腕の節で口元を撫でる。
 それを不安と受け取ったのか、前を歩く大男が歯を剥いて笑みを見せる。
 深島・鮫士(深鮫流活殺刀拳術創始者(自称)・f24778)はその体の半分を鮫と化しているキマイラである。
 特にその物騒な歯並びと、刃物のように鋭利な流線形の頭部はホオジロザメのそれに近い。
 笑った顔はまさしく狩猟生物のそれだったが、割とフランクな性格もあってか、ともに行動することもあったアウラは、いい加減慣れてしまった。
「そうだな。頼りにしている」
 共に戦う上で信用に足るというのは、実を言えば貴重な存在だ。
 今はそれ以上に考えることはできないが、少なくともアウラにとって無二の存在であることに違いはない。
 長く良好な関係を築くというのは難しいことだが、多少の波風もあって当然。
 共に受けた傷跡も、乗り越えた雨風も、今という戦いの奔流の中では忘れよう。
 頼れる筋肉質な背中と、熾火のような魔力の暖かみが、或いは絆というのならば、背中を合わせられるだけの安心感があった。
 足を向ける先の、強力な存在感に物怖じすることもない。
「あら、他に人がいたなんて……あなた方も、かの魔法学園へ向かわれるのでしょうか? でもお生憎様、そこはこれから騒がしくなりましてよ」
 周囲の騒音が聞こえなくなるかのような、異質な存在感。
 華奢であるが大きく見えるのは、その豊満な胸元が原因か、或いはその優雅な所作や服装が原因か。
 悩ましげで美しいせせらぎのような声色が耳朶を打つたび、空気が固まるかのような重圧がのしかかる。
 猟書家「レディ・ハンプティ」のその全存在が、目の前に立つ二人の猟兵を否定していた。
「チッ、なんて威圧感だ」
「相手にとって不足はない。私達の全力を以てお相手しよう」
 張り詰める空気の重みをはねのけるように声を上げると、お互いに戦闘態勢をとる。
 戦意を向けるのとほぼ同時に、レディ・ハンプティの両肩から生えた蒸気機関が、激しくスチームを吐き出す。
 いくつも突き出た笛のような突起が噴出する蒸気にバグパイプのような音色を奏でる。
「煙幕か!」
「任せろ。目くらましに対抗する術はある」
 ほの暗くひたすら広いプラットフォームを覆い尽くすかのようなスチームに視界を奪われていく中で、アウラは大きく羽ばたいて飛び上がる。
 足のカギ爪にはいつの間にか握りしめられた天舞の宝玉が、封じ込められた風の魔力を放ち、その風圧が蒸気を散らせる。
 蒸気の霧の向こうから姿を現したのは、肩の蒸気機関を大きく変形させ、生み出したスチームで体をわずかに浮かせながら、滑るように移動するレディ・ハンプティの姿だった。
「はえぇな! だが、見えちまえば、問題ないぜ」
 亡霊の如く、巨大なコルセットドレスを浮かせつつ高速で近づいてくる姿に、鮫士は後退しそうになる心を押さえつける。
 まず距離をとるは定石。しかし、後ろにはアウラがいる。
 恐れることはない。見えていれば対処できる。それに、後ろにはアウラがいる。
 大きな胸元を蓄えるドレスのような装飾がわななく。
 振動で揺れているわけではない。それは閉じた口。合わさった牙の羅列。
 高速で肉薄する淑女の、淑女らしからぬ巨大な顎がぐあっと開いた。
「サメに襲われるってのぁ、こんな感じなのかね……ぬああっ!!」
 連なったカミソリのような噛みつき攻撃を、培った野生の勘や格闘技術で見切るが、その勢いはすさまじく、攻撃を逸らすのみにとどまる。
 いや、咄嗟に抜き放った刀を逆手に、流すようにすれ違い様に切りつけたはずだが、同時に牙をかすめた上腕の皮が僅かに削げる。
 振り向き、追撃に備えるが、それと同時にごうっと風が鳴る。
「うっ……竜巻ですか。考えましたね」
 アウラの宝玉に宿った魔力が竜巻を生じさせ、半分浮いているレディ・ハンプティの体はわずかに流され、アウラはその風に乗って素早く距離をとる。
「おいおい、サメを食らおうなんざ、ちょっと甘かったんじゃねえのか?」
 その注意がアウラに向かぬよう、鮫士は負傷した上腕の出血を漫画のように筋肉の収縮で止血しつつ、なおも意気軒高とばかり愛刀の活殺自在を構える。
「うふふ、そんなに食べてほしいのでしょうか?」
「やれるもんならな。早めにシメねぇと、アンモニアが全身に回るっていうぜ」
 そうして鮫士の挑発に乗るかたちで、レディ・ハンプティはふたたびその大口を開ける。
 一人でそれを相手取るのは厳しいものがあったが、鮫士が敵を抑える間、アウラは安全に呪文詠唱が行える。
 ただ、頼りきりはいけない。
「うふふ、まるでコバンザメのよう。食べちゃいたいですわ! むっ!?」
 周囲を渦巻く風に乗って高速で飛び回るアウラは、ユーベルコードに必要な呪文を練り上げつつ、魔力を帯びた鋭い羽フェザーブレットを放っていた。
 威力は抑え目だが、強風にも流されず飛来するそれが排気管に入り込むと、蒸気のめぐりが悪くなる。
「隙ありだ! フンッ!」
 気を逸らす程度の隙、だがそれも一瞬を突くには十分。
 鮫士による【一撃必殺】の突きが、レディ・ハンプティの牙を一本折り取った。
「あぁん! いやらしいお方」
 胸を止める役目もあるそれを折り取られて、淑女らしく手で覆う。背徳的な魅力があるが、鮫士にはあまり通用しない。
「へ、猟書家のけったいなおっぱいよりも、俺には断然好きなものがあるんでな。がはは」
 それが誰に向いているかは敢えて言わず、ただ、とうの向けられた本人は強風の中でよく聞こえなかったようだが。
 おっきいもんね。わかるよ。
 そして、その大きく作られた隙は、同時にアウラのユーベルコード発動の絶好のタイミングだった。
「さて、この魔法を耐え切る事が出来るか?」
 【森羅万滅】その練りに練った魔力によって発動するそれは、溜めた魔力に応じた効力を持つ。
 そして、鮫士の活躍によって十分に稼いだ時間は、それに応えられるだけの威力を有していた。
 相手は蒸気機関。
 熱による変形が少ない真鍮の蒸気機関とはいえ、急激な温度変化による金属疲労は免れまい。
 暴風に乗った凄まじい冷気の光線が、レディ・ハンプティの変形した蒸気機関を瞬時に凍結させた。
「うああっ!?」
 高熱で気化した蒸気と、急激な冷気に苛まれ、蒸気機関のあちこちが裂けて破損する。
 蒸気圧は当然低下して、彼女を浮かせる力もなくなるが、その対応は素早かった。
 破損したバグパイプのような機関を簡単にパージしてしまうと、また新たな蒸気機関が生えてきた。
「チッ、野郎、トカゲみてぇに」
「魔導蒸気たる所以か……興味深いが、厄介だな」
 ゆらりと、まだ余裕を見せながら立ち上がる猟書家を前に、二人の猟兵は戦う姿勢を崩さない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

シャルロット・クリスティア
胴体に口ですか……これは確かに、かの魔王の面影が垣間見える所ですが。
故郷でなくとも、アルダワには結構愛着湧いてるので、むざむざ侵攻を許すわけにはいきませんね!

くらい突きとなると、とにかく向こうは接近してくるのが常。
単純ですが、後退しつつマシンガンの弾幕を引き撃ちするしか対処法はありませんか……。
阻むことは出来なくとも、若干踏み込みを遅らせることくらいは。
最低でも大口を開けた瞬間にポイズンボールを放り込む隙くらいは作りたい。
本来は気化させて毒ガスとして撒くものですが、中にあるのは原液です。果たして丸呑みして無事で済みますかね。
飲み込んでも警戒するでも良い。あとは一瞬の隙で撃ち抜くのみ、です!


メフィス・フェイスレス
何人も貪り喰ってきた匂いがするわ
腹が減ってくる 狂おしい程憎らしい匂いが

先制に対して「微塵」をばらまき起爆し足止めする
足止めしたら爆炎に紛れて突貫
激情で冷静さを欠く素振りで胴に骨刃を突き立ようと至近距離まで接近
敢えて自身の体を喰わせる
喰わせる体に仕込んでおいた「血潮」入りの「微塵」を体内から炸裂させる事で動きを鈍らせる
「継戦能力」技能と欠損を「飢渇」で補い戦闘続行し再び至近距離まで接近し指定UCで攻撃する

よくも私達を喰ってくれたわね
何故この身に毒が巡っているか分かる?
お前みたいに不用意に喰い付いてきた奴を返り討ちにする為よ
人食いを喰らい尽くす この身は全てその為に
さぁ 喰らった分を返して貰うわ


小雉子・吉備
大魔王の娘が復讐に……方向は違うけど桃太郎の後日談にも似たのはあったね

〖先制UC対策:POW〗
【先制攻撃】の【高速詠唱】で【属性攻撃(爆弾)】を込めた〖時の愚鈍「スロウフールハウル」〗を【早業】で【オーラ防御】と【盾受け】併用で【第六感】で【見切り】密集させ【弾幕】の盾を展開

喰わせ

距離を低空【空中戦】で素早く取り〖なまり〗ちゃんと〖ひいろ〗ちゃんに【動物使い】で撹乱

その隙にUCを【高速詠唱】此処で出来た友達を召喚

チケちゃんは【怪力・2回攻撃】を〖黒蜜かけキビダンゴアイスバー〗で

キビは〖従雉「フェザントファミリア」〗を【高速詠唱】で【団体行動】の【集団戦術】で決める

〖アドリブ絡み掛け合い大歓迎〗



 こつこつと乾いた質量を感じさせる靴音がプラットフォームに響く。
 あちこちで蒸気機械が音を立て、無人の機関車がうなりを上げるのに、靴音が妙に響くのは、人らしい息遣いを思わせる音色だからだろうか。
「あらあら、いけませんわ」
 線路を挟んだ先に、黒い貴婦人が油をさし忘れた車輪のような笑い声を含ませた。
 相対する少女の姿があまりにも孤独に見えたのか、レディ・ハンプティのその威容からすれば、シャルロット・クリスティア(彷徨える弾の行方・f00330)のその青を基調としたアルダワ支給の制服のデザインは若々しく、頼りなげにも見えたのだろう。
 たとえ華奢なその身にそぐわぬ魔導蒸気式機関銃を担いでいようとも、猟書家たるその身には脅威足り得ぬとでも言わんばかりに。
「獲物を前に猟師が姿を見せるなど……うふふふ」
 なんとも優雅な所作であった。
 するりとホームに向かって歩を進める姿があまりにも堂に入りすぎて、たいして速くも無い筈なのに対応が遅れてしまう。
 達人の間合いが人の意を食らうかの如く、滑るようにしてホームを飛び越える黒い貴婦人のその豊満な乳房を覆う無数の牙がぐあっと上下に大きく開いた。
 つい、とシャルロットの頬を冷や汗が伝う。
「胴体に口ですか……これは確かに、かの魔王の面影が垣間見える所ですが──」
 故郷でなくとも、アルダワには結構愛着湧いている。この存在の侵攻を許してはならない。
 毒沼から人食いの巨大魚が飛び出たようなものだ。
 そんな機会になどめったに恵まれないが、目の前の脅威を女性一人という単位で数えてはならない。
 転げまわるようにして後ろに飛びつつ、シャルロットは器用に銃を構えて銃弾をばらまく。
 機関銃の掃射とは、もとより幕を張るようなものだが、猟師のそれの技術ではない。
 絶対的な存在感を持つレディ・ハンプティの抱える口腔の虚空を止めるほどのものではないが、少なくとも脱兎のごとく尻尾を巻いて逃げまわるその姿を見せつけるのには十分であった。
 銃弾の打ち付ける音に混じって、血の飛沫やぴゅうと風を切る音は、レディ・ハンプティの耳には届かない。
 生ぬるい蒸気の霧が風にあおられて渦を巻いたかと思った瞬間、色鮮やかな魔法弾の弾幕がレディ・ハンプティの視界を覆っていた。
「いつの間に……!?」
 一つ一つは大した破壊力を持たない。それを見越して虚空を見せる口腔で弾幕を諸共に食らい尽くさんとするものの、その動きが徐々に鈍っていくことに気が付く。
 時の愚鈍と呼ばれる特性を得た弾幕は、その周囲の時間を重たくさせる。
 そこでようやく、黒い貴婦人は敵が一人ではないことに思い至る。
「大魔王の娘が復讐に……方向は違うけど桃太郎の後日談にも似たのはあったね」
 雪をかぶったかのようなまだらな麻色の翼を背に持つその姿、小雉子・吉備(名も無き雉鶏精・f28322)が、マジックカードを構えていた。
「ふんふん、匂うな。何人も貪り喰ってきた匂いがするわ」
 東方妖怪の存在に気を取られた瞬間を見据えたかのようなタイミングで、またも別の声が聞こえてくる。
 羽を持つ者が上方ならば、それは下方に自身の血をばら撒いていた。
 いや、赤黒い血のように見えたそれは、彼女の飢餓が生んだ憎悪のごとき黒い滓。
 弾幕に動きを鈍らせたレディ・ハンプティは、炸裂するその黒いタールの爆炎をまともに浴びてしまう。
「腹が減ってくる。狂おしい程憎らしい匂いが」
 その爆炎に混じって、メフィス・フェイスレス(継ぎ合わされた者達・f27547)が突撃する。
 デッドマンよろしく、その身より削り出した骨刃を腕より生やし、激情のままその刃を振りかざした。
 だが、動きをだいぶ阻害したとはいえ、自ら飛び込んできたそれをただ見ているほど敵も甘くはない。
 骨の刃を突き立てた胴に、レディ・ハンプティの乳房の下の口が閉じる。
 ぼぎりと、鈍く湿った音とともに、メフィスの腕が巨大な口に挟まれる形となる。
「うふふふ、一人に見せかけて、3人で待ち伏せというわけですのね」
「くっ、離せっ!」
「あらあら動いてはいけませんわ。貴女がいなくては、他の皆さんも気持ちよくわたくしをハチの巣にはできないことでしょう?」
 醜く歪むレディ・ハンプティの口元を見上げ、メフィスは心中で毒づく。
 だが、この程度のことで自分もほかの二人も動揺はしない。
 わざわざ激情にかられる“振り”までしたのだ。
 細かい打ち合わせはしていないが、こんな展開だって、織り込み済みだ。
 元よりこの身は継ぎ接ぎだらけの死に体だ。人質になる訳がない。
 吉備や、吉備の相棒たちである青い狛犬や赤い猿がうろうろと様子を伺っている。
 弾幕を集中させるのを躊躇しているかのようにも見える。
「構うことはない。私ごと撃てェ!」
「心得ました!」
 叫んだ瞬間を待ちわびていたかのように、反応したのはシャルロットであった。
 即応してメフィスの腕を撃ち抜いて破壊するとともに、ユーベルコード【射手の矜持】で作り出した強固な木の枝の弾丸を続けざまに胸元の顎に撃ち込んだ。
 崩れ落ちるようにして身をかがめたメフィスの姿を認めて、シャルロットの射線を皮切りに、吉備も相棒たちと共に弾幕を展開する。
「自切するつもりだったけど、ホントに撃たれるとはね」
「そ、そうだったんですか!?」
「キビも自己犠牲ヒーロー的なアレかと思った!」
 ヒーロー? 顔なしの自分が?
 面白い奴だ。と、デッドマンの体をホントに心配そうにする二人に奇妙なものを覚えつつも、それが自分を狂気の坩堝に落としきれない理性的な部分の支えとする。
 ともあれ、仕掛けは成った。よくも私達を食らってくれたわね。
「何故この身に毒が巡っているか分かる?
 お前みたいに不用意に喰い付いてきた奴を返り討ちにする為よ」
 ぼんっとレディ・ハンプティの乳房が爆ぜる。爆ぜるほど大きいとか、そういうわけではなく、食らわせたメフィスの片腕に忍ばせたタールの爆弾によるものだ。
 そして彼女の血潮には、毒性を自在に操れる特性があった。
「うぐ、がが……」
 だらりと開く大顎から黒くどろりとした何かがしたたり落ちる。
「畳みかけますよ、吉備さん!」
「おっけーい! なまりちゃん、ひいろちゃん。それと雉のみんな! それとそれとぉ!」
 さしものレディ・ハンプティとはいえその身の内から爆破されてはたまらない。
 膝をついた瞬間、シャルロットはその開いた大顎に向かってポイズンボールを投げ込む。
 本来は気化させて陣中に撒く毒液の詰まったものだが、直接食わせれば、ただでさえメフィスの毒爆弾で動きを鈍らせていたレディ・ハンプティも動きを止めざるを得ない。
 そこへ、吉備もまた相棒たちをけしかけ、自身に追従する雉鶏精の霊魂たちをもけしかけ、更にユーベルコードを発動させる。
「アリスラビリンスからの縁と絆に基き、チケちゃん力を貸して」
 【召符「雉鶏精の着ぐるみな愉快な仲間」】によって、召喚カードを消費して呼び出したのは、デフォルメされた雉鶏精、吉備にもちょっと似ている着ぐるみであった。
『吉備ちゃん、お待たせりっ』
 吉備からキビダンゴアイスバーを受け取り、チケちゃんはトコトココミカルな様子で突っ走ってレディ・ハンプティを殴りに行く。
 狛犬による虹色光線、火を纏う猿の変幻自在の格闘、そして巨大な凍った串団子をぶんぶん振り回す着ぐるみ。
 動きの鈍ったレディ・ハンプティはそれらに対して防戦一方を強いられていた。
 だが、防戦に入ればそれは致命打になり得ない。
 その拮抗も、メフィスの再起により、崩れることになる。
 自身の飢餓により黒いタールが生じ、食いちぎられた片腕を補う。今はそれで充分。
 仲間の作ってくれた絶好の機会を逃すことなく、再び肉薄する。
 そうして、発動するユーベルコード。
「人食いを喰らい尽くす この身は全てその為に」
 【呑】の発動により、黒いタールのあふれる少女の頭は、異形のそれへと、食らうための形状へと変貌していく。
 その形状は、レディ・ハンプティもよく知るものであった。
 さすがに防御を解いて反攻に出るものの、その絶妙なタイミングを、猟師の銃が許すこともなく。
 狙いすましたシャルロットの木の枝の銃弾が、黒い貴婦人の防御をすり抜けて喉笛へと突き刺さった。
「おのれ、猟師め!」
「さぁ、喰らった分を返して貰うわ」
 どんっ! と、獰猛な形状に変じた捕食顎がレディ・ハンプティの半身を食い千切った。
 ……いや、身を逸らした影響でその片腕と肩の一部に至る程度に留まったか。
 しかし奇しくも、同じ腕を食らい合った形となった。
「ええい、忌々しい……!」
 ごうっと、レディ・ハンプティの蒸気機関がすさまじい勢いで蒸気を吐き出し、取り囲む猟兵たちを引き離す。
「く、まだ余力を持っているというのですか……」
「それはこっちも同じだよ。ね、みんな!」
「そうね。まだまだ、私達は食い足りない……!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

大宝寺・朱毘
【WIZ】
災魔が山盛り乗るくらいだからよっぽどデカいだろうが、形状が列車である以上はその進行方向、即ち攻撃の軌道は比較的【見切り】易かろう。
その軌道から逃れるべく全力で横っ飛び、プラス【衝撃波】を自分の持つギターに当てることで速度と距離を稼ぐ。無傷とはいかないだろうが、レディの先制攻撃の直撃を喰らうよりはいくらかマシだろう。
先制攻撃をやりすごせたら、【ザ・ライブ】で周辺の地形を舞台装置山盛りのライブ会場に変え、列車の走行を妨害。少しでも敵の攻撃の手を緩める。
そしてレディにステージライトを集中させ、戸惑うか怯むかしたら(しなくても)【全力魔法】の【衝撃波】で攻撃。
「よう本日の主役、吹っ飛べよ!」


夜霞・刃櫻
【アドリブ・連係歓迎】WIZ
やべぇーっす!?
これホントに三下の出る幕でやんすか!?
しょうがないからやるでやんすけど!

先制攻撃対策はUC【夜霞の爆窃】でひたすら突撃&撃ち合い!
無数の爆窃団の幽霊と共に『グレネード・ランチャー』『ナパーム・ランチャー』等の重火器を乱射し「爆撃」「焼却」「継続ダメージ」でひたすら燃やします
「時間稼ぎ」にもなり、他の味方と協力して仕留めてもらう
良い一撃が入ったらキメ顔をキメる
キメた後は「逃げ足」で即座に撤退!また「味方を盾にする」のも忘れない

失敗したら謝ってる暇あるんすかね?



「う、ふふふ……これがわたくし達の敵……猟兵という存在……おぞましき力」
 黒い貴婦人、レディ・ハンプティの失われた片腕が、見る間に黄金の輝きによって補われていく。
 彼女の持つ『蒸気獣の悦び』は、自身が帯びるような黄金色の蒸気機関を災魔に植え付けて強力な蒸気獣を作り出す。
 それは己にも使うことができるようで、ブリキのきこりじみた武骨な輝きを帯びたその腕は、両肩から生えた蒸気機関とよく似ていた。
 恐ろしく不死身に近いかもしれない。
 だが、いつまでも不死身とはいくまい。
 まして猟兵などという、規格外をいつまでも相手にし続けるなどバカバカしい。
「大変楽しい時間でしたけれど、わたくしも先を急ぎますので、そろそろお暇させていただきますわ」
 そうしてプラットフォームに入り込んでくるのは、彼女が目的の場所まで向かうため、やはり『蒸気獣の悦び』で召喚した魔導列車であった。
 それに乗り込まれては、いよいよ彼女に別世界への侵攻を許してしまう。
 乗車を阻止する必要があるのだが、それはただの魔導列車ではなく、それに同乗しているのはレディ・ハンプティと同様に魔導蒸気機関を搭載した蒸気獣である。
「強硬手段にでようってのか……そうはいかないよ」
 大宝寺・朱毘(スウィートロッカー・f02172)が、その線路上に陣取って、ギターをかき鳴らす。
 薄暗い駅構内、蒸気の霧の立ち込める中、なぜかどこからともなくスポットライトが当たるせいか、その刃物のように尖った印象を与える立ち姿と甘やかな声が良く響く。
 雷のような激しいサウンドは衝撃を伴い、立ち込める霧を切り裂いて列車を抑え込むのだが、いかんせん質量が違う。
 ぎしぎしっと車輪が線路を食む軌道を、もはや誰も止められることもないとばかり、大質量がうなりを上げる。
「さすがに、一人で列車を止めようってのは……無理かな」
 激しい衝撃を浴びせ続けるも、列車の進行を止められるほどではない。
 いよいよ回避が難しいギリギリまで粘っていた朱毘ではあったが、いよいよ止められぬと悟り、横っ飛びで素早く回避すると同時に衝撃波をギターに跳ね返して距離を稼ぐ。
 列車に轢かれるよりかはマシだが、自身で攻撃のための衝撃波を受けるのは、かなり効く。
 とはいえ、あの列車をどう止めるというのか……そもそも、走り出してしまったものに追いつくには……。
 と、吹き飛びながら思案する朱毘の耳朶に打つ、けたたましい金属音。
 まるで列車が急ブレーキをかけたかのような、耳をつんざく騒音は、レディ・ハンプティの呼び出した魔導列車によるものではない。
 しかし、他に走っている魔導列車はそのような激しい運用はしていない筈だが……。
 そして、朱毘の体が、誰かに引っ張り上げられたかのような浮遊感を覚えると、
「ハァッハー! テーマパークに来たみたいっすねぇー! テンション上がるでやんす」
 珍妙な叫び声と共に、それは霞の中から駆け出していた。
 霞でできた怪奇人間、夜霞・刃櫻(虚ろい易い兇刃・f28223)のユーベルコード【夜霞の爆窃】は、他の蒸気機関車とはまるで毛色の違う、あちこちにスプレー塗料などで装飾を施された幽霊列車である。
 それは、幽霊にはルールなど無用とばかり線路を無視して騒音と共に駅を突っ走る。
 そんな恐るべき列車に拾われる形で、朱毘は転げまわらずに済んだ。
「列車には列車で対抗か。考えたもんだね」
「はぁ? 何言ってんでやんすか。三下の出る幕じゃないんすよ」
「お前こそ何言ってんだ。とっくに出る幕に引っ張り出されてんだよ!」
 なんだかやる気の見えない刃櫻に声を荒げる朱毘であるが、その言葉の通り、前を行く魔導列車からキラキラとした何かが光ったかと思うと、幽霊列車の車体に無数の銃創が生まれた。
 どうやら、蒸気ガトリングで武装した災魔が車上から狙ってきたらしい。
「ああーっ! うちの大事な列車ちゃんがぁー!」
 とっくに敵中、もはや消極的にいるほうが不利であるのだろうか。
 いや、そんなことなど関係なく、大切な幽霊列車を傷つけられたことに刃櫻はいたく傷ついた。
「ん、の野郎ォ……! しょうがないから、ちょっくらキメてやるでやんすよォ……しょうがないからやるでやんすけど!」
「よし、やる気になったな。あたしにいい考えがある」
 霞である彼女、或は彼は、膨大な虚無をその精神に抱えているものの、その刹那的ともいうべき心意気は後ろ向きなモノではない。
 一寸の虫にも五分の魂。一握りの霞にも、生きている実感があるならば、たとえ刹那でも死に物狂いで生きる。
 一寸先が闇であろうとも、虚無の中を歩むのは、閃光の如き命の輝き。
 難しい言葉を並べずに単純に言うなら、ムカついたからぶっ飛ばす。
「ぶつける勢いでやるでやんすよー!」
 がりがりと列車が地面を食む。
 レディ・ハンプティの魔導列車に追いつく勢いだが、近づくほどに蒸気獣の手にするガトリング掃射を浴びることになるのだが、それを指をくわえてみているわけではない。
 幽霊列車のその屋根の上に、朱毘が立つ。まるでそここそが、舞台であるとでも言うように。
「たった今からこの場所は、あたしが支配するステージになる……ザ・ライブ!」
 走行中の激しい向かい風にも気圧されず、ギターと声を張ってユーベルコードを発動する。
 【ザ・ライブ】によって影響を与えられるのは、行き交う風景そのもの。
 そのあちこちに行き過ぎるありとあらゆるものが、舞台演出となって彼女のライブを盛り立てる。
 それは魔導列車を乗せる線路も例外ではなく、それが線路ではなくライブステージと化してしまえば、もはやまともな走行はできない。
 そして周囲に建ち並ぶ鉄柱などが舞台を照らすステージライトが魔導列車に当てられると、ハレーションによって蒸気獣も狙いを付けられなくなる。
「よーし、朱毘のアネゴが卑怯にも目を潰してくれたでやんす! 野郎ども、一斉攻撃っすよー!」
「人聞きの悪いことを言うなー!」
 隙に乗じてグレネードやナパームで武装した幽霊たちを伴って、一斉に攻撃を開始する刃櫻。朱毘の抗議の声は爆音にかき消されてしまったようだ。
 激しい爆発、爆炎が巻き起こり、速度を落とした魔導列車に少なくないダメージを与える。
「ハッハァ! 集団でボコんの気ン持ちイイ~」
 猟兵も善人ばかりではないとはいえ、仮にも世界を守るために戦ってるやつのやっていい顔なのかというようなチンピラムーブとキメ顔をキメる刃櫻に若干の呆れ顔を隠せない朱毘だったが、焼き崩れる屋根を押しのけて姿を現す黒い貴婦人の姿を認めると、その頬が引き締まるのを感じる。
「なんてこと……なんてことを……!」
 顔を覆うヴェール越しに歯噛みするその視線と、朱毘の視線が重なる。
 今しかない。ギターをかき鳴らし、全力の演奏、衝撃波を向ける。
「よう本日の主役、吹っ飛べよ!」
 車輛ごと吹き飛ばさん勢いで全力の衝撃波を食らわせるが、追撃を入れようとしたあたりで、がくんと列車の軌道が逸れていくのを感じる。
「あ、弾切れなんで、逃げるでやんす」
「えぇ……」
 刃櫻のあっさりした行動の割り切りに、朱毘も思わず脱力する。
 手ごたえはあったが、仕留めきれた気はしない。
 恨みがましい目を向けようとは思ったが、戦いが長引けば、数の差で負けていた可能性もあった。
 電撃戦は一撃離脱だ。
 それを心得ているのだろう。
 ただ、アイドル故に陣頭に立つ朱毘は仕方ないとはいえ、彼女を全力で盾にするような立ち位置で重火器を使っていた刃櫻のやり方も、なんともらしい奴、と思う朱毘であった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ユリウス・リウィウス
大魔王第一形態か。懐かしいな。なあ、おい。
だからといって、その血統を野放しには出来ん。ここで討滅する。

災魔の幽霊か。あいにく霊の扱いは俺も得手でな。
第一波は「除霊」の「結界術」で防ぎきろう。

こちらも慨嘆の亡霊たちを召喚。その怨嗟の声を俺に寄越せ。そして俺をもっと強くしろ。
二刀を振るってレディに切り込み、「生命力吸収」「精神攻撃」「なぎ払い」「傷口をえぐる」双剣の攻撃で、傷痕が交差するように切り裂いてやろう。

その間も慨嘆の亡霊たちの支援を受けつつ、災魔の幽霊の「除霊」は進めておく。
いくら亡霊を呼び出そうと無駄なことだ。お前自身でかかってこい、レディ・ハンプティ。
父親の後を追って、骸の海に還れ。


緋翠・華乃音
世界がどうなっても良いと言うつもりはないが、別にその趨勢や興亡に興味は無い。
だが猟兵として依頼を受けている以上、君をこの先へ進ませるつもり訳にはいかない。
恨んでも良いが、悪く思うなよ。


先手を打たれるのは痛手だが、そうと分かっているのなら対象の方法もある。
生半可な防御は恐らく通じない。

だったら取るべき最適解は回避だ。
そもそも先制攻撃は必中攻撃ではない。

接近しないと使えない技ならば必ず接近の過程が必要となる。
噛みつき攻撃ならば口を開く必要もある。
その予備動作を見切らせて貰おう。
一挙手一投足に至るまで全ての行動を読み――回避。

勿論この回避は反撃の布石だ。
コンバットナイフで急所に一撃見舞わせてやるよ。



「ふふ、うふふふ……このまま、このままあの世界へ……」
 レディ・ハンプティの呼び出した魔導列車は、激しい戦いを経てあちこちが炎上している。
 大量の焼夷弾と炸裂弾を貰った結果であった。
 だが、すべて負け落ちたわけではない。
 何よりもこの身は健在。
 そして走り出した魔導列車に追随する者はもはやおらず、この身はかの世界を目指すのみ。
 レディ・ハンプティもまた無傷ではないが、もはや敵がいない以上は問題ではない。
 余力を以て、彼の世界で蒸気獣を放とうではないか。
「ああ、アウルムアンティーカお父様。今参ります……」
「──大魔王第一形態か。懐かしいな。なあ、おい」
 祈りにも似たレディ・ハンプティの呟きに、がしゃりと騎士鎧の金属の足音が反応する。
 列車の客車、その屋根は焼け落ちて剥がれ落ち、風を切る音が絶え間なく耳朶を打つ。
 その中でも、騎士鎧をまとった無精ひげのその男、ユリウス・リウィウス(剣の墓標・f00045)の言葉はよく響いた。
 追撃の手は、まだ残っていた。相手にはおぞましきグリモアがあるのである。
 同じく書を持つ猟書家としては、その可能性を失念していたのは落ち度であろう。
 自嘲気味にヴェールの奥で笑いが漏れる。
「忌々しい猟兵たち……そうまでしてあの世界を守りたいのでしょうか?」
「さてな。だが、あの戦いは大変だったんだよ。その血統を野放しには出来ん。ここで討滅する」
「落ちぶれた騎士如きが、英雄にでもなるおつもり?」
「別に……」
 あまりにもあからさまな売り言葉。話に乗ることもないとは思いつつも言葉を返そうとして、それを別の猟兵がつなぐ。
「──世界がどうなっても良いと言うつもりはないが、別にその趨勢や興亡に興味は無い」
 黒い貴婦人を挟んだ後ろ側に、その人影はいつの間にか佇んでいた。
 影が染み出して立ち上がり形を成したかのような装束に白い髪。その周囲に青い蝶が舞ったかのように幻視するような眼差しは、もはや異形と化したレディ・ハンプティを射抜くかのようだった。
「ならば、そこに立つ理由は無い筈でしょう?」
「悪く思うなよ。これも仕事だ。依頼を受けている以上、君をこの先へ進ませるつもり訳にはいかない」
 血の気の引いたようなダンピールの色白の肌の奥で、緋翠・華乃音(終ノ蝶・f03169)はその心の波打ちと同様に静かな所作で腰を落とす。
 正直に言えば、左右に逃げ場のないこの広いとは言えない戦場で、わざわざ声をかけるなどというのは、手の内を狭くしてしまいかねない。
 やるなら奇襲を仕掛けて一気に。それが最もスマートであったろう。
 だが、この相手にそれをするのは不可能であると、直感が告げていた。
 緩やかな服装に蒸気機関を生やしたこの猟書家は、尋常ならざる相手である。
 理で詰めても、合理性を覆すインチキを有している。
 こういった手合いは初めてではないが、それならばインチキをされても問題がない部分で叩けばいい。
「二人いれば、勝てると思って? うふふふ……ここはわたくしの列車なのですよ?」
 ざわりざわりと、レディ・ハンプティの気配が膨れ上がるとともに、焼け落ちた周囲の座席や瓦礫が起き上がり、その陰から蒸気機関で武装した災魔の亡霊が姿を現す。
「さあ、兵力の差は逆転しましたよ。これでも打つ手はおありかしら?」
「災魔の亡霊か。だが、この落ちぶれた騎士如きが何者か、知らんようだな」
 死霊術士でもあるユリウスは、亡霊やアンデッドの扱いに心得がある。
 相手に主導権があるとはいえ、その送還も不可能ではないが、如何せんその手の霊障に対する除霊や結界術は、あんまり使わなかったせいかさほどの技量を持たない。
 とはいえ、知っているか否かの差は大きい。
 すでに消耗しているレディ・ハンプティの配下たちは、ユリウスの術に干渉されて動きを鈍くしながらも蒸気ガトリングガンなどを構えてくる。
「チィ、決まらんな。まあいい。元より、俺は泥臭く生きてきたんだ」
 敵の動きが鈍いなら、直接叩く。
 両の腰に下げた二刀を手に、ユリウスは亡霊たちを次々と切り伏せていく。
 その二本の黒剣は、血肉を食らい、魂を食らう。死霊を操り飼いならすその身にはふさわしい呪われた剣と自嘲することもあるが、その実、多くの死に触れながらも、その呪われた装備は彼を生かすために力を与える。
「無残に蹂躙されし無力なる亡霊たちよ。その怨念、一時我が身に預けよ」
 そうして亡霊たちを切り伏せるにつれ、自身もユーベルコードを発動する。
 【慨嘆の亡霊たち】が彼の周囲にその実体のない姿を漂わせ、凄惨な情景に怨嗟の声をあげれば、それだけユリウスの装備する武具は力を得ていく。
 今や滝の如く押し寄せる蒸気獣と化した災魔の亡霊も、ユリウスには問題にならない。
「いくら亡霊を呼び出そうと無駄なことだ。お前自身でかかってこい、レディ・ハンプティ」
 その数がいくら重なろうとも、それはもはや時間稼ぎにしかならない。
 だが、その時間があれば、レディ・ハンプティの背後を陣取った華乃音と向き合うこともできる。
 レディ・ハンプティの狙いは、挟まれた形を逆手にとって各個撃破しようというものだった。
 淑女と対峙する華乃音は、強く出られないでいた。
 先に仕掛けるビジョンが浮かばない。
 仕掛ければ撃ち落される。何かに。
 待ちに回るなら、レディに対して先立つものを用意すべきだったか。
 たとえば銃器や刀などだ。間合いの観点から言えば、その方が適切だったろうか。
 否、と華乃音は心中でかぶりを振る。
 懸念があった。すべてを台無しにするインチキが、こちらの対抗手段のありとあらゆるを相殺してしまいかねない。
 本物の化け物とは、こういうものをいうのだ。
 だが、怪物を倒すのは意志ある者だ。
 どれだけの脅威であっても、それは強大であるがゆえに倒れる。
 万能を目指せば、万能ゆえに稀有を見落とす。
 突出していれば、突出しているがゆえに側面を打たれる。
 強さを持つ者は、同等に弱さを併せ持つ。
「ごめんあそばせ。あまり時間はかけていられないの」
「そうだな。俺もこんな列車に長居していたくはない」
 攻撃が来るその予兆を感じつつも、益体もない会話の裏で、感覚を研ぎ澄ませていく。
 手にした『蒸気獣の悦び』を用いてくるか。あるいはあの異形の片腕を使うか。それとも、何か別のものを用意しているのか。
 攻撃に至る予兆を見逃すまいと、その一挙手一投足を観察し、読む。
 じわりと距離を詰めるその動作と、豊満な胸元を抑えるコルセットのような部分がぎちりと脈動する。
 ──あれか。
 接近して攻撃してくる。
 もはや未来視にも近づく読みと見切り。それにより仮初の未来をつかみ取れば、実践あるのみ。
 その未来の可能性を高めるべく、華乃音はユーベルコードを発動させる。
「勝つにしろ、負けるにしろ……貴方方をここから返すことはない」
「安心しろ。明日死ぬ為に今日を生きているつもりはない」
 【異理の血統】が、血の沸くほどの思考演算を助長する。
 不確定に過ぎなかった見切りは、自身に流れる異なる理の血統によって活性化された身体能力と五感がすべて補ってくれる。
 左右には避けられない。
 上下だろうか。それでは足りない。
 頭上を越えるか。跳べば捉えられる。
 ならば地を這うか。駆ければ押さえつけられる。
 必中から逃れるならば、必中と見せかければいい。
 絶望の未来こそが、活路。
 必中を肯定し、否定する。
「さあ、私の中でお生きなさい」
「──ッ!」
 声の無い疾駆が、胸元を大きく開くレディ・ハンプティの動作に完璧なタイミングで身を低くする。
 血を嘗めるかのような踏み込みはほぼ不可視といってもいい筈だったが、ぐあっと開いた口はそれすらも飲み込まんと抑えつけにかかっていた。
 見えていた。そこまでの展開が。
 ならば、そう見せかけるだけの身体能力を得ていれば、フェイントをかけて跳ぶこともできる。
 地を張っていた筈の華乃音の姿を見失ったレディ・ハンプティが下げた視界ゆえにすぐ上を取られたのに、気づくのが遅れた。
 回避は反撃の布石。
 そして見えていた。
 すでに別の猟兵が一撃を加え、折れ飛んでいた胸元の牙の一角。
 復讐の名を持つ翅の如く軽いコンバットナイフが手中に躍り出る。
「があっ!?」
 歯茎のような、骨の合間を縫うような手ごたえの先に、致命的なものを突き破った感触。
 心の臓腑。それに届いた手応えだった。
「ぐ、ふ……ふふふ……わたくしだけが、ここで死ぬわけがない……あなたもまた……」
 そのまま華乃音を抱きすくめようとするレディ・ハンプティだったが、その手がびくりと痙攣して止まる。
 その両肩から生えた魔導蒸気機関を押しのけるようにして、二本の黒剣を突き立てていたのは、おびただしい亡霊を切り伏せてきたユリウスだった。
「父親の後を追って、骸の海に還れ」
 めきりめきり、蒸気機関とを繋ぐ金属部品が剣をえぐられることによってはがれ始める。
 もはや黒い貴婦人に抵抗する力は残っていなかった。
「ああ……お父様……申し訳……」
 華乃音を道連れにしようと広げた手が、虚空の何かを掴もうと空を仰ぎ、それも力なくだらりと崩れる。
 それを確認してから、二人の猟兵はようやく刃を引き抜いた。
「ふう、やったな……残すところは」
「ああ……どうやって降りるかだな」
 動かなくなったレディ・ハンプティの亡骸を見下ろし、いまだに走り続ける列車をどうしたものかと肩をすくめる。
 彼女の死と共に、召喚されたこの魔導列車も存在を維持できなくなるだろう。
 グリモアの回収が速いか、列車が消えるが早いか……
「損な役回りだな」
「……そういう、仕事だ」
 ともあれ、敵の幹部の一角を討った。それは喜ぶべきことであろう。
 今はその脱力感に、しばし休んでいたかった。
 そんな状況でもないような気もするが、まあきっと無事に帰れることだろう。
 帰れるよな?

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2020年08月18日


挿絵イラスト