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迷宮災厄戦㉑〜まだ恋し仲は遠のきて

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦 #猟書家 #レディ・ハンプティ

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 吐き出し、吹き出し、蒸気が躍る。
 数多の蒸気機関から生み出されたそれは、国の至るところでゆらゆらと幽鬼のように。
 それはまるで、誰かの無念が形を持ってしまったかのよう。
「父様、見守っていてくださいね」
 嗚呼、ならば、その誰かの――在りし日の魔王の無念を晴らさねばなるまい。
 そして、それを出来るのは、どの世界を見たとしてもただ一人。
「魔女の肚から私を造った父様。あなたの無念、このわたくしが果たします」
 それはレデイ・ハンプテイをおいて他にはない。
 ぺらりと捲るは侵略蔵書。名を『蒸気獣の悦び』。
 その動作へと呼応するかのように、ざわりと、風もないのに蒸気が揺れ、形を変えた。まるで、牙持つ獣のように。
 だが、それは一瞬のこと。
 次の瞬間には蒸気機関から吹き出された新たな蒸気がその姿を隠し、再びと晴れた時にはなにもなし。
「そのためにも、まずはこの世界を抜け出さねばなりません」
 彼女が目指すはアルダワ魔法学園。
 かの世界にて混乱を、災厄を撒き散らすために。
 魔導列車の汽笛の音が、出発の時間の間近を報せていた。

「猟書家の一人、レディ・ハンプティの居場所が分かりましたよぅ!」
 広く知られるとある童話。その兎程に慌ただしくはないけれど、それでも急いで来たのだろう。ハーバニー・キーテセラ(時渡りの兎・f00548)の兎耳もあちらこちらに跳ね踊り。
「場所はぁ、遠き日の憧憬の花園という場所ですねぇ」
 そこは花園という名前こそ付くものの、実際のところはアルダワ魔法学園のような場所。
 魔導列車が走り回り、機械とそれが生み出す蒸気が揺蕩う、蒸気機関の国である。
「そこでぇ、いつものことではあるのですけれどぉ、皆さんには彼女を止めて貰いたいのですぅ」
 レデイ・ハンプティ。
 予知で見た者も大勢居ることだろうが、彼女はアルダワ魔法学園にて矛を交えたかの大魔王の娘なのだと言う。
 その目的は、アルダワ魔法学園の世界へと舞い戻り、新たなるフォーミュラとなるだけでなく、混乱と災厄を撒き散らすことなのだ。
「それを放置しておくことは出来ませんからねぇ。皆さんにはぁ、是非とも彼女がこの世界を旅立つ前にと」
 だが、レディ・ハンプティとて、凡百のオブリビオンではない。
 これまでの戦争で戦ってきた幹部級の者達と同様、その力は容易くどうにか出来るものではないだろう。
 そして、レディ・ハンプティは自分を止めに来る者達があるならば、それは猟兵であろうという意識もある。
 それらが故に、彼女と会敵した際には、ほぼ確実にその先手を奪われるものと思っていた方が良い。
 如何にその先手の行動を捌き、反撃を繰り出すかが大切となってくるだろう。
「かの敵もまた強敵と呼ぶに相応しいものでしょう。ですが、皆さんならば乗り越えられるものと信じています」
 今迄だって様々な困難を猟兵達は乗り越えてきたのだ。ならば、今回だって、きっと。
 その信頼を笑みとして浮かべながら、ハーバニーは銀の鍵を宙へと翳す。
 ――カチリ。
 錠が解ければ世界を繋ぐ扉が開き、いざや送り出す蒸気の国へ。
 戦いが、猟兵達を待っている。


ゆうそう
 オープニングへ目を通して頂き、ありがとうございます。
 ゆうそうと申します。

 二人目の猟書家への道が開かれましたね。
 蒸気の世界への侵攻を目指すレディ・ハンプティ。是非とも、その野望を打ち砕いてあげてください。
 ですが、オープニングにも触れた部分ではありますが、敵は確実にユーベルコードでの先制攻撃を行ってきます。
 それに対して、如何に防御や回避をとるか。その上で反撃をするかが大切となってきますので、プレイングの際にはご一考頂ければと思います。

 プレイングボーナス……敵の先制攻撃ユーベルコードに対処する。

 それでは、皆さんの活躍、プレイングを心よりお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『猟書家『レディ・ハンプティ』』

POW   :    乳房の下の口で喰らう
【乳房の下の口での噛みつきと丸呑み】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    アンティーカ・フォーマル
【肩の蒸気機関から吹き出す蒸気を纏う】事で【武装楽団形態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    侵略蔵書「蒸気獣の悦び」
【黄金色の蒸気機関】で武装した【災魔】の幽霊をレベル×5体乗せた【魔導列車】を召喚する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ネーヴェ・ノアイユ
これはまた……。とんでもない存在を乗せた列車が出てまいりましたね……。
とはいえ……。列車であるなら空には飛んでこない……。と、信じ空中浮遊にて空へと回避を。幽霊様の攻撃はなるべくは空中で回避を行い……。避けきれないものは全力魔法にて作り上げた氷壁の盾受けにて受け止めます。

しかし……。このままではジリ貧……。ですね。攻めに出るなら魔力に余裕があるうちに……。でしょうか。
幽霊様からの攻撃は氷壁にて防ぎながらUCのための詠唱を……。リボンから魔力溜めしていた魔力を引き出し、全力魔法にて幽霊様をなぎ倒し……。その勢いのままハンプティ様へもUCを放ちます。

あなた様を……。他の世界には行かせません……!


薄荷・千夜子
貴女を他の世界へと行かせはしません
ここで終わりにしてみせましょう

地形の利用で身を潜めつつ各所に罠使いで火薬を設置
同時に起爆することでこちらの居場所を分かりにくくしつつ爆音爆風を迷彩に、建物を壊すことで列車の進路も妨害致しましょう
魔導列車に乗るのが幽霊であるならば、祓って差し上げましょう!
高速詠唱でUC展開
『神楽鈴蘭』から放つ破魔の花弁に浄化の力を纏わせて
魔導列車だけでなく、この力はレディ・ハンプティにも…!
全力魔法でさらに風の力も強化
花嵐よ、レディ・ハンプティをも切り咲いて!!
穏やかな地へ再度の侵攻などさせません!
その侵略蔵書はあって良い力ではありません
本を狙い最後に炎の花弁も放ちましょう



 カツリ、コツリ。
 蒸気吹き出す音の中、ヒールを鳴らして優雅な歩調。
 その主こそはレディ・ハンプティ。
 目指す先はアリスラビリンス発、アルダワ行の魔導列車。
 それへと乗るために、彼女はゆるりと歩みを進める。
 カツリ、コツリ、カッ――。
 レディ・ハンプティの足音が止まる。
 猟書家にして、オウガ・オリジンのユーベルコードを奪う程の力を持つ彼女。その足を止める者があるとすれば――。
「ああ、やはり立ち塞がるのですね」
「その通りです。貴女を他の世界へと行かせはしません」
「あなた様を……他の世界には行かせません……!」
 それは猟兵――薄荷・千夜子(陽花・f17474)とネーヴェ・ノアイユ(冷たい魔法使い・f28873)に他ならない。
 ここでその歩みを止めて見せる。
 その意志に、二人の瞳が冴え冴えと輝きを放つ。
「ええ、分かっていました。私を、私達猟書家を止める者があるとすれば、アナタ達猟兵であると」
 故にこそ、二人が動くよりも早く、その障害を跳ね除けるための行動も完了している。

 ――汽笛の音が、高らかに。

 それは、駅にて停まる魔導列車のモノではない。
 もっと近くで、明らかにレディ・ハンプティの声へと反応したかのようなそれ。
「アナタ達のお相手が到着したようです」
 千夜子とネーヴェの足元、何もない筈であった地面にレールが引かれていく。
 感じるのは、ガタリガタリと明らかな振動。
 全員が伸び来た先を見れば、そこには駆ける魔導列車の姿。
 二人が飛び退き躱し、千代子は地にて着地し、ネーヴェはふわり空へ。
 そして、列車は音立て停まる。
「緊急停止、という訳ではなさそうでしょうか」
「そのようです……しかし、これは――」
 列車が目的地に停まったのであれば、当然、そこから降りくる者も居よう。
 それこそが、それらこそが、レディ・ハンプティの言う二人のお相手――黄金色の蒸気機関で武装した災魔の群れ。
「――また……とんでもない存在を乗せた列車が出てまいりましたね」
「幽霊ならば幾らでも祓ってみせますが、流石にこれは多勢に無勢。一度、態勢を整えましょう」
 列車より吐き出されるのは、満員電車もかくやの量。
 それらだけであれば如何様にでも出来るであろうが、そこに加えてレディ・ハンプティもとなれば一筋縄ではいかぬであろう。
 故に、二人が選ぶは――。
「あら、鬼ごっこですか? ……そうですね。まだ出発まで時刻もあることです。付き合ってあげましょう」
 その引き剥がしだ。
 千夜子は揺らめく蒸気の中へと跳び込みんで、ネーヴェはふわりと空への逃避行。
 それを追うように、列車と災魔達もまた一斉に動き出したのである。

 ――息を殺す。
 揺蕩う蒸気の中に身を潜め、建物の影に身を潜め、追いくる黄金から姿を隠して。
「でも、これならまだ自然相手の方が手強いです」
 ちらりちらりとすぐ傍で、黄金の輝きが往ったり来たり。
 だけれど、それは潜む千夜子の姿に気付くこともなく、右往左往。
 これが獣であるならば、鋭敏な感覚でもって匂いや音を辿るのだろう。だけれど、彼らにその様子はなく、ただ見えるものだけを追っている。背負う蒸気機関も武器が大半で、探知に使えるものである様子もない。
 故に、千夜子を見つけられない。千夜子は見つからない。雄大な自然を相手に巫女として、狩人としても共に歩んできた彼女であるからこそ。
 そして、追いかける彼らは失念をしている。
「……準備は万端ですね。ネーヴェさんの方は、大丈夫でしょうか」
 千夜子が一度退いたのは逃げるためでもあるけれど、それは同時、狩りの準備を行うためだということを。
 彼女は怯え逃げる獲物などではなく、誘い込み、牙突き立ててくる狩猟者であることを。
 潜む最中、建造物に仕込んだあれやこれやのとっておき。
 それを解き放つタイミングを図る千夜子の耳に、列車の汽笛の音が届いた。

「まさか……空も飛べるとは」
 軽やかに飛ぶネーヴェの背後、列車がレールを空まで伸ばしてガタリゴトリ。
 速度で言うのなら列車が上。されど、小回りで言うのならネーヴェが上。
 故に、彼女の身は未だと轢かれることもなし。
 ――ガチン!
 無意識ですらも生み出す氷の護り。砕けて散り舞う、きらりきらり。
 見れば、列車の窓より黄金の。災魔の大半は千夜子を追いかけているが、それでも僅か、まだ残っていたのだろう。
 それがすれ違う間際、蒸気銃から弾丸を放ってきたに違いない。
 ガチン、ガチン、ガチン。
 弾丸受け止め、氷が躍る。
 幸い、数が少ない故に弾丸がネーヴェの身へと到達することはない。
 だけれど――。
「このままではジリ貧……ですね」
 いつまでもと守ってはいられない。その氷の壁とて、幾度も幾度もと生み出せば、その分の魔力を消耗するのだから。
 それに、だ。
「……! こっちに乗ってきているのですね」
 窓から身を乗り出す黄金の奥、優雅な黒が嫋やかに嗤っていた。

「――ネーヴェさん!」

 声が、聞こえた。
 レディ・ハンプティのものではない。仲間の、千夜子の声。
 ネーヴェが眼下を見れば、そこには建物から身を乗り出すように手を振るかの彼女の姿。
 今迄、身を潜めていた筈なのに、突然のそれは何故か。
 その思考がネーヴェの脳裏でぐるりと廻る。
「こっちです!」
 だが、迷ってなどいられない。
 当然のように、千夜子の声へと反応して地上の災魔も彼女の下へと動き始めている。
 こっちと言うのならば、きっと何かがあるのだろう。
 パッと消すは浮遊の力。重力の鎖がネーヴェを捉え、その身を大地へ引き寄せる。
 だけれど――。
「氷壁よ……私をあそこへ」
 生み出すは氷の壁のスライダー。落下の速度と相まって、飛んで向かうよりも早く、早く。
 列車が氷を砕きながら、その分遅くなりながら、その後を追ってくるが、加速する彼女に追いつくことは無い。
 そして、弾丸の如く速度となったネーヴェは、瞬く間に、誰よりも速く千夜子の下へ。

「一緒に! このまま駆け抜けて下さい! 『爆破』します!」
「――! 分かり、ました!」

 辿り着いたネーヴェに届いた物騒なワード。
 だけれど、それがきっと逆転の一手。千夜子の用意した、とっておき。
 ネーヴェは千夜子の手をとり、再び空へ。
 空の列車は氷の道が邪魔をして、地上の災魔は空との距離が邪魔をして。
 飛び抜けるは、空に伸びる建築物の狭間と狭間。
 遅れて、列車と災魔が通り抜け――。
「今です!」
 爆破の衝撃と崩壊とが、それを為させなどしなかった。
 崩落の音と共に、瓦礫がレールを崩し、災魔を圧し潰す。
 レールなきならば、列車はどうなるか。決まっている。――横転だ。
 鉄を引っ掻く不快な音たて、列車が地に落ち、滑っていく。
 如何なオブリビオンとて、これではただでは済むまい。
 だが、それだけでは終わらない。終われない。
 今ぞ、全てを解き放つ時なのだから。

「束ねるは妬み。放つは憎悪。万象奪う力となれ」
 ――轟、と凍てつく吹雪が吼えた。
「咲き乱れて、破魔の鈴」
 ――鈴、と咲き誇る花嵐が彩った。

 宙より降りしきるは雪の白、鈴蘭の白。
 はらりはらりと風に舞い踊り、全てを白の彼方へと導くように。
「穏やかな地へ、再度の侵攻などさせません!」
「列車とて……車輪の芯まで凍り付けば、もう動けませんよね?
 降り積もる雪と花。その冷たさは、まるで燃ゆる炎の熱さにも似る。
 黒も、黄金も、全てが白の中へと呑み込まれ、耳の奥には静けさだけがシンと響いていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

エンジ・カラカ
アァ……誰かのムスメなのカ?
知っている、知っている
うんうん、そうだろう賢い君。
でもなァ……誰だろうとどうでもイイ……。
行こう。ヤろう。

先制攻撃対策に地形の利用をするする
アッチが速くなっている間に
赤い糸でぐるぐるにするのサ。
おびき寄せでおびき寄せながら走る

走りながらあちこちに賢い君の毒と糸を仕込むンだ
速くなるならコレも追いつかれるだろうなァ
ケド、それでイイ
近付いてくれたら開いた口に賢い君の毒を仕込む
口が開かなかったら……。
うんうん、そうダ賢い。
腹に一発、毒をお見舞いしようそうしよう

属性攻撃は炎
張り巡らせた毒性の赤い糸に炎を仕込めば
アァ……丸焦げになるねェ
タイヘンタイヘン

まだまだあーそーぼー。


フィオレッタ・アネリ
レディ・ハンプティ
あまりお父さんに似てないみたい…お母さん似なのかな?

【封印を解く】で大きくなったゼフィールに乗って【空中戦】
風精の魔術で空気抵抗を無効化、同じ速度に加速してレディの速度に対応
攻撃はゼフィールの【オーラ防御】と【ブレス攻撃】で退け、樹精の槍を撃ち牽制して先制攻撃を凌ぐよ

牽制に見せかけて陣を描くように撃ち込んだ樹精の槍から【結界術】を発動
レディを拘束して反撃するね!

《プロセルピナの石榴》で変身(口調変化)

地より生える樹精の蔦で完全に【捕縛】
根の槍の【貫通攻撃】で蒸気機関ごと攻撃
最後は強き【祈り】もて【限界突破】した石榴の花嵐にて、侵略蔵書ごと【浄化】――その身を討ち滅ぼしましょう



 踏み出す足がさくり。
 それは覆い尽くす白――雪か、はたまた花弁かが踏まれ、奏でた音。
 静寂の白を破ったのは二人。
「辺り一面真っ白ね」
「そのままネンネと眠ってくれたらイインだけれど」
 それで終わる程、易くはない。
 その言の葉がどちらかの口から紡がれるよりも早く、うず高く積もった白が弾けて黒の影。
 エンジ・カラカ(六月・f06959)とフィオレッタ・アネリ(または夏のフローラ・f18638)の前には、健在なるレディ・ハンプティが姿。
「ハロゥ」
「ええ、こんにちは。随分と、派手にしてくださいましたね」
「やったのは私達じゃないんだけれどね」
 エンジは虚ろの笑みを口元に、フィオレッタは苦笑の一つも口元に、それぞれ浮かべて白の欠片を叩いて落とすハンプティを見る。
 だが、そんな二人などお構いなしとハンプティの身体から、吹き上がるは蒸気。まるで自身の身体を清めるかのようなそれで、叩いて落としきれなかった白の残り香よ、さようなら。
「父様の跡を継ぐからには、身綺麗にもしておかないと」
 纏うは礼服であるからこそ、皺の一つもなきように。沁みの一つもなきように。
「貴女は、あまりお父さんに似てないみたいね……お母さん似なのかな?」
「アァ……誰かのムスメなのカ?」
「ほら、アルダワの――」
 オブリビオン・フォーミュラであった大魔王の娘よ。
 その言の葉聞いて、エンジの脳内記憶に合致するものがあったのか。その顔に浮かぶは、知っている、と納得の色。
「うんうん、そうだろう賢い君」
 それとも、知っているのは彼自身ではなく、彼の相棒が懐の内で小さく鳴いた――ような気がしたからか。かつて、それにも結びついたことがある、と言うかのように。
 だが、どうにせよ、だ。
「でもなァ……誰だろうとどうでもイイ……」
 どれだろうとどうでもイイ。
 ハンプティの言う父なる存在が大魔王であろうと、そのどの形態であろうと、そも大魔王でなかろうと。
 やることはいつだって、きっと何も変わらない。
 そんな身も蓋もなきに、フィオレッタの澄んだ空色がぱちくりと瞬いて。
「そう言われたら、もう形無しだよ」
 浮かんだものは、ハンプティにも向けたもの。
 だけれど、ハンプティを生み出した者――大魔王に囚われていた魔女達。それを解放した者の一人として、彼女らの望まざるの結果を知る者として、気を奮い立たせない訳にもいかない。
 エンジとフィオレッタ、その戦いへと臨む姿勢は異なれども、向かう戦意は同じ。
 高まる緊張を示すかのように、ハンプティが再びと吐き出した蒸気にぶわりと白が宙を舞った。
「私だけでなく、私を生み出した父様までもを侮辱させる訳にはいきません」
 ――来る。
 感じたのは同時。動いたのも、また同時。

「行こう。ヤろう」
 赤い糸繰る手遊びを一緒に。
「ゼフィール!」
 緑翅広げるアナタ、共に空を渡らんと。

 一際大きく蒸気の奏で。それはまるで蒸気機械そのものが唄っているかのように。
 そして、その唄がハンプティを戦場と言う名の舞台へと押し上げる。
 同じ舞台に昇らんとするはフィオレッタ。エンジはするりと裏方へ。
 互いが互いの役割演じ、どちらが最後まで舞台に立ち残れるかの即興劇。
 さあ、開演だ。

 景色が流れる、景色が流れる、景色が流れる。
 高い建造物、低い建造物、崩れた建造物。
 白、黒、赤。
 様々と。
 チラリと精霊竜の背中から後ろを見れば、そこには付かず離れずハンプティ。変わらぬ唄/蒸気音を響かせて、ピタリと。
「皆さん、追いかけっこがお好きですね」
「そうなんだろうね」
 距離を詰められぬは、フィオレッタの魔術があればこそ。彼女が精霊竜の道を、その暖かき春の風で示せばこそ。
 時に天高くと昇りつめ、ジェットコースターもかくやの急降下。障害なき空を往くと思えば、建造物の隙間を縫うようにも。
 その間も、ハンプティならざる黒がフィオレッタの視界にチラついては消え、チラついては消え。まるで瞼の裏に残る光のように、黒の名残りとばかりに赤だけがひらりはらり。
 きっと、表舞台に立たぬ誰かさんも、裏方仕事に大忙しなのであろう。
「どうしてこうも、逃げ足ばかり――」
「ばかりじゃない、かな?」
「――っと」
 背後に樹々の破片を撒いて、フィオレッタがふわり息吹きかければ芽吹きの槍が貫き伸びる。
 それをハンプティは躱し、時折砕いて、それでもなおとフィオレッタに喰らい付く。
 裏方が時間を要するのであれば、今暫く、アドリブで場を凌ごうではないか。

 瓦礫の上をするすると。
 路地の合間をするすると。
 後に尾を引き、エンジが駆ける。
 かつての時は自分が表舞台に立って駆けたけれど、今回は裏方のお仕事を。
 するする、せっせと裏方仕事。
「誘き寄せず、誘き寄せず、仕事が捗るなァ」
 ものすごい勢いで飛んでいく彼女らに巻き込まれぬよう、エンジは黒子と徹して動く。
 高き屋根から低き街並み、崩れた建物の合間合間。
 白の中を黒が駆け、目立たぬ赤が次々引かれていく。
 さあさ、準備は万端か。表舞台の演者ばかりが全てではない。舞台装置の妙を見よ。

 ――赤きが姿を現して、絡みつくは黒の四肢。

 街のあちこち駆け巡り、フィオレッタを追う内にハンプティへといつの間にやらと絡み絡まった赤い糸。
「こんなか細い糸程度が、なんだと言うのです!」
 確かに、それはか細き赤い糸。強化されたハンプティであれば容易く千切るも可能であろう。
 だが、それはか細くも身の内、意識の隙間に忍び込む猛毒。
「かまけてても、いいのかなァ」
「何を――」

「冥府の女王よ――今ひととき、わたしに力を貸して」

「――ッ!?」
 赤い糸を振りほどこうと意識がそちらに向いた刹那は、フィオレッタがその身に自由を謳歌させることの出来る時。
 その瞬間を彼女は見逃さず、その身は小さき花より大輪へと成り代わる。
「地に埋もれし樹々達よ、今こそ天へとその身を伸ばす時です」
 天真爛漫は彼方。今は厳かなるを宿し、フィオレッタはただ告げる。それだけで、地面が鼓動した。
 地より伸びる樹々。先にフィオレッタの手によって撃ちだされ、地に突き立った芽吹きの槍達。
 春の女神の祝福を受けたそれは瞬く間に成長し、ハンプティの身をより強く拘束する枷となるのだ。
「このッ、動きなさい!」
 如何なハンプティであろうとも、強固さとしなりを持ち合わせる樹々の枷を振りほどくは叶わない。
 頼みの蒸気機関もまた、その隙間にまで絡まり詰ったか細い赤い糸がために、最早、その機能を十全とは至れない。
「最初の、最初の糸にさえ気を取られなければ!」
「だかラ、言ったダろう? かまけてても、いいのかなァってさァ」
 瞳を隠したエンジの姿。その口元には、三日月のような弧の形。

「何を言ったところで、最早過去は覆りません。その身を討ち滅ぼしましょう」
「うんうん、折角ダ。もう一つの仕込みも見せておこうそうしよう」

 巻き上がる風の紅一色。ぐるりぐるりと螺旋を描き、花の嵐が吹き荒れる。
 小指に限らず、絡み絡まる赤い糸。縁を示す色の糸は今や真っ赤な炎の糸。
 轟々と渦巻き/ボゥボゥと火を撒き、それは動けぬハンプティへと。
「あ、アァァァアアアアァ!?」
「花嵐の内で眠りなさい」
「アァ……丸焦げになるねェ。タイヘンタイヘン」
 そして、黒は紅に染まりゆく。
 花びらに染められて、炎に染められて。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

フィーナ・ステラガーデン
えええ!?何それそこ口なの!?そりゃあ胸に直接栄養回るわよ!ちょっとあんたずるいんじゃないの!?必死に牛乳とか飲んで効果の出ない人達に謝りなさいよ!

さて先制対策ね!こっちの十分な詠唱が整うまで30cm以上常に離れることが対策だけれどどう間を取るかよね!
【フィーナの逃げっぷり】
1、初手から【多重詠唱、魔力溜め】にてUCは2発打つ準備しつつ脱兎
2、杖の宝石に魔力を込めてグイッと空に逃げる
3、魔道列車の屋根に乗り距離を一気に開ける
4、それでも近づいてくるなら一発目のUCにて魔道列車を破壊、車両を外すか破片で足止め(UC2発が難しいなら属性攻撃でも可)
5、時間を稼いだので【全力魔法】本体に打ち込む!


テリブル・カトラリー
レデイ・ハンプティ…悪いが、此処で倒れてもらう。

超重金属の大盾を展開、猟書家の攻撃を盾受け。
同時に大盾を踏みつけ、ブースターで体を吹き飛ばし、
猟書家に盾を押しつけつつ後方へ跳び噛みつきを回避する。

意地汚い口だ。造ったものの気がしれんな! と挑発を吐きつつ、
早業で態勢を立て直し、アームドフォートを展開、砲撃。
…ああ、魔王だったか、猟兵に倒されたあの…

魔王を慕う者であるなら、まぁ怒るか?
再度、丸呑みにしようと喰らいついてきた敵へカウンター、
クイックドロウ、銃口を猟書家へ向け『デザート・トリガー』
今度は、避けん。小太陽を顕現させ、属性攻撃。

…意地汚いと言ったのは、悪かったと思う。



 紅に染まったレディ・ハンプティ。
 ぱちりぱちりと火花が弾け、ヒトの形の炎が揺れる。
 そのまま燃え尽きるのか――否。
 かつて白を散らしたように、紅を再びと散らし、煤けた黒が猟兵へと迫る。
「意地汚い口だ。造ったものの気がしれんな!」
「えええ!? 何それそこ口なの!?」
 ハンプティの突撃を受け止めたはテリブル・カトラリー(女人型ウォーマシン・f04808)が持つ、不壊の盾。
 ぶつかり、ガチリと火花を散らし合うは盾とハンプティの牙揃う口――豊かな胸部の真下に生えそろった特大の口。
 金属の擦れる音が響く中、その異形たる口に対して驚愕へと染まったはフィーナ・ステラガーデン(月をも焦がす・f03500)。
 普段は勝気に燃ゆる目を丸々と見開き、胸に手を当て震える姿はまるで恐怖に怯えているかのよう。

「そりゃあ胸に直接栄養回るわよ! ちょっとあんたずるいんじゃないの!? 必死に牛乳とか飲んで効果の出ない人達に謝りなさいよ!」

 ――である筈もなかった。
 ある種、畏怖は畏怖として覚えているようではあるが、それはまた少し違う種類の。
 そして、震えは震えでも、恐怖というよりはどちらかというと怒り。何に対してのかは言わぬが花であろう。
 兎にも角にも、如何なる時もフィーナはフィーナであった。
「誰も彼も、父様から頂いた身体を馬鹿になさらないで!」
 意地汚い。胸に直接栄養だなんだ。言の葉の刃は的確にハンプティの心を抉る。テリブルは意図的に、フィーナは意図せずに。
 その抉られた痛みを怒りと変えたか、テリブル支える盾への圧力が増していく。
 ギリギリ、ガリガリ。
 不壊の盾が悲鳴をあげていた。

「悪いが、お前の癇癪に付き合ってなどやれはしない」

 圧し合いに分が悪いのであれば、引けばいい。
 一瞬の脱力。
 拮抗していた力を崩されて、ハンプティの身体がたたらを踏む。
 その瞬間をテリブルは逃さずと、ブースターを吹かして盾ごとにハンプティを吹き飛ばすのだ。
「きゃあ!?」
「え、その悲鳴ってどっちの口から出てるの!?」
「言っている場合ではない。先に距離を取るぞ」
「あ、ちょっと待ちなさいよ!」
 推進の力を離脱のためと変えて、テリブルの重厚が空を舞う。遅れて、フィーナの身もふわりと舞って、その後に。
 ハンプティへ盾だけを置き土産と残した二人。その飛んだ先には鉄擦れる音と汽笛の音が響いていた。

 ガタガタと揺れる足音。燻り流れる蒸気の尾。
「魔導列車でも、結構揺れるのね!」
「どんな動力だろうと、レールの上を走っていればな」
 二人着地したは走る列車の屋根の上。
 これが魔導の力で動く列車で良かった。石炭やらであれば、今頃二人して真っ黒に煤けていたことだろう。
 勿論、それで二人の戦意が翳るということはないだろうが、黒煙の中に居るよりは視界を確保しやすいと言うのは悪くない。
 そんな確保された視界の中、置き去りにしたハンプティが盾を跳ねのけ、動き出すが見える。
 ギョロリギョロリと頭を動かし、視界の絡む三者三様。
 その間も魔導列車は動き続け、二人とハンプティとの距離を引き離していく。
「でかいもんぶら下げてるから、これには追い付くにも追い付けないでしょ!」
 積み重ねた努力の証――慎ましやかなままの胸が張られ、フィーナは得意げにと身の軽さの違いを言い放つ。
 それを証明するかのように、列車は緩やかなカーブを描いて、蒸気吐き出す建物の向こうにハンプティの姿を置いていく。
「これで、暫くは時間も稼げそうね」
「……そうだな」
 ガタンガタンと列車は揺れる。二人をその背に乗せたまま。
 もくもくと吐き出される蒸気は相変わらずで、時折、嘶きのように汽笛が響く。

「――ここを通ると思っていました」
「――ッ!」
「はぁ!?」

 響いた声は上空。
 揺れる蒸気のその向こうに霞んで見えるは、ハンプティの黒。
 ドンと着地に列車を揺らし、その身は二人の向こう側――同じ列車の対極に。
「置いていくなんて酷いじゃありませんか」
「一緒に旅をする約束などした覚えはなかったが?」
「追い付くなんて、どんなトンチキよ!」
 確かに距離は稼いだ筈。だけれど、それは現実として彼女らの前に。
「ふふ、ここは私が居た国ですよ? 貴方達よりずっと長く」
 それこそが答え。
 如何なる魔法も使ってなどは居ない。単純に、ハンプティは二人の乗る列車の行先を予測し、先回りをしていただけのこと。
 先んじてこの国に根を下ろし、準備を整えていたからこその。
「幾分と消耗もしましたが、貴女達を喰らえば多少は補填も効くでしょう」
 だから、喰われなさい。
 ガチンとハンプティの胸部で牙が鳴った。
 その牙からフィーナを庇うかのように、テリブルが矢面と立つ。
「……?」
 別段、護られなくとも、と言わんとした疑問符。だが、それが浮かぶも僅かの間。得心したかのように、テリブルの影――ハンプティから見えない位置へ。
「……ふん。腹の口で語るのは魔王と同じだな」
「それは褒め言葉ですね」
「――猟兵に倒されたあの魔王と」
 ハンプティの胸の内に宿った激情が、テリブルには理解出来た。そうするために、敢えてと言葉を選んだのだから。
 列車の屋根をへこませるほどの勢いで、ハンプティが言葉もなく足を踏み出す。
 が。

「消し飛べえええええええ!!」

 その身が二人に到達するより早く、列車自体が爆炎に包まれた
 犯人は誰あろう、フィーナ・ステラガーデン。
 その爆炎により破壊され、脱線し、衝撃を撒き散らしながら横転するは列車。
 それへの反応は二つ。予めと理解して脱出できたか、巻き込まれたかの二つ。
 当然、前者はフィーナとテリブルであり、後者はハンプティ。
 ハンプティは駆けだす姿勢のまま、横転する列車ごと吹き飛ばされ、地に転がる他になし。
 そして、地に這うハンプティに差す影。

「意地汚いと言ったのは、悪かったと思う」
「おまけのもう一発よ!」

 浮かぶは小さな太陽の二つ。
 テリブルの持つ銃口の先に一つ。フィーナの掲げる杖の先に一つ。
 何故、盾を押し付けた際に追撃をしなかったのか。
 決まっている。
 生半可の火力を叩き込むより、確実にハンプティの身を削るためだ。
 何故、ここに至るまでそれを解き放たなかったのか。
 決まっている。
 相応の力を使うには、相応の時間が必要であるからこそ。
 それら故の、時間稼ぎであった。そして、今、その全てが満たされたのだ。

 ――太陽が、堕ちてくる。

 周辺の蒸気を消し飛ばし、列車の残骸を消し飛ばし、蹲るハンプティへと。
 爆発が、全ての音を洗い流した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

フェルト・ユメノアール
あの大魔王の娘……と言う事は因縁の相手だね
アルダワを守る為にも負ける訳にはいかないよ!

正面からぶつかれば押し負ける、なんとか隙を作らないと……
『ハートロッド』を体の前に構え急所をガード、レディ・ハンプティの攻撃を受け止める
多少のダメージは覚悟の上、さらに体を逸らすようにして攻撃を受け流すよ

そして、ここからがボクの腕の見せ所
攻撃によってハートロッドが弾かれたように『演技』
相手の意識がハートロッドから外れた所で本来の白鳩姿に戻し、相手に纏わりつかせる事で行動を妨害
その隙を逃さずUCを発動、カモン!【SPアクロバット】!
さらに、アクロバットのユニット効果発動!
手札を全て捨て、加速した一撃で攻撃だ!



 吹き荒れる爆炎。飛び散る火の粉。
 それらに混じって、否、それらの内より飛び出す黒。
 あちらこちらに煤を纏い、焼け跡を残すはレディ・ハンプティ。
 その肩に負う蒸気機関の力を用い、直撃はすれども致命傷へと至る前にその場を脱していたのだ。
「……ぁ、はあ、はあ」
 吐き出される蒸気の熱も、己を焼くように熱い。その熱を少しでも外へ吐き出さんと、ハンプティの息も荒い。
「あの大魔王の娘……と言う事は因縁の相手だね」
 そんなハンプティの前に現れたは、踵の音も高らかに、フェルト・ユメノアール(夢と笑顔の道化師・f04735)。
 愛用の杖を手の内で構えながら、その姿は傷ついたハンプティを前にしても油断なし。
「どきなさい。もうそろそろ、時間もありません」
 ハンプティからすれば、出来れば猟兵という脅威を退け、万全を期してアルダワへと発ちたかった。
 だが、それは猟兵達の力の前には皮算用でしかなく、傷ついた今の姿こそがその結果。
 最早、万全にてアルダワへと到達することは出来まい。だが、せめてその身がアルダワへと辿り着くことだけでも叶えねばならない。
 それこそが、彼女を生み出した存在――魔王の無念を晴らす唯一の方法にして、彼女の存在理由なのだから。
 しかし、彼女が如何なる理由を持とうとも、それが生み出すのは破壊と悲劇に他ならない。
 ならばこそ――。

「アルダワを守る為にも負ける訳にはいかないよ!」

 人々に笑顔齎す道化師として、その笑顔を曇らせる存在を放置などできない。
 相手がどれだけ強大であろうとも、フェルトにとってはそれだけで立ち向かう理由とするには十分であった。
「……そうですか。なら、押し退けてでも」
「させない!」
 ハンプティの肩で蒸気機関が不器用に唄う。
 それは不調を示す音。だが、それでも確かに機動する音。
 相対するハンプティの圧が増し、フェルトの足が思わずジリと地面を踏みしめる。
 正面からぶつかってはいけない。だけれど、退いてもいけない。
 退けば、きっとハンプテイはそのままにこの場を通り抜けて行くだろうから。
「――あ、ぐぅっ!」
 衝撃が身体に奔った。
 ハンプティの挙動に備え、身を守るようにフェルトは構えていた。
 だと言うのに、その上から走り抜ける衝撃のなんたる強さか。
 ――衝撃に、手から弾かれた愛杖がくるりくるりと飛んでいく。
 ハンプティは言葉の通り、ただ真っ直ぐとフェルトを押しのけるように進んだだけ。だが、加速し、強化されたそれは砲弾の突撃にも等しかったのだ。
 その出始め、道化師として、奇術師として、自他共への一挙手一投足への注意があればこそ捉えられたものでもあり、それ故にそれだけで済んだとも言える。
「一撃を凌いだのは見事と言いましょう。ですが、二度目はありません」
 再びに響く不協和音。フェルトの視界の中で、ハンプティが動く。フェルトの身を守るものは、もう――。

「勿論だよ。二度も受けるなんて、御免だもん!」

 ――ない筈であった。
「何を言って、あぁ!?」
 ばさりと羽音。黒を染めた白の羽。
 それは宙を飛んでいたフェルトの愛情――ハートロッド。そのもう一つの姿である、白き鳩。
 くるくると飛ぶ中で姿を変え、ハンプティの死角から不協和音に紛れてその姿を現したのだ。
 ハンプティの突撃を受け切れなかったのも、ロッドを弾き飛ばされたのも、どこまでが演技か。どこまでも演技か。
「くっ、邪魔を!」
 屈辱に塗れながらハンプティが視界遮る鳩を叩き落とし、その姿を杖へと戻す。
 だが、その視界が開けた時には、もうフェルトの準備は整っている。
 その手に翳すは一枚のカード。

「キミの行動は無駄にしない! カモン! 【SPアクロバット】!」

 叩き落とされた鳩の代わりと、再びの羽音。
 見上げれば、そこにはデフォルメされた色鮮やかな蝙蝠の姿。それがゆるりと急降下。
「なにをとも思えば、その程度ならば!」
「いいや、まだボクのターンは終わっていない! アクロバットのユニット効果発動! 闇夜の眷属よ、その力を増せ!」
 残る手札をばさりと宙に舞わせ、舞う札は輝きと共にアクロバットへ吸収されていく。それに伴い、効果の速度は矢の如く、弾丸の如くと、速く、迅く。
 突然の加速に、ハンプティの加速ももう間に合いはしない。
 ――二度も受けるつもりはない。
 フェルトのその言葉を証明するかのように、空より流星となって降り来たアクロバットが、ハンプティの身に深々と突き立つ。
 不協和音はもう響かず、ハンプティの口より強制的に押しだされた呼気の音だけが小さく響くのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

メフィス・フェイスレス
匂うわね
何人も貪り喰ってきた忌々しい匂いが
腹が減ってくるわ 狂おしい程憎らしくて

先制に対して「微塵」をばらまき起爆し足止めしつつ爆炎に紛れ突貫
激情に駆られ冷静さを欠いた素振りで胴に骨刃を突き立て
敢えて自身の体を喰わせる事を狙う
喰わせた身体を「微塵」に変換しありったけの毒性を付与した「血潮」と骨棘を体内から炸裂させ「マヒ攻撃」
「経戦能力」と欠損部位を「飢渇」で補う事で戦闘続行
動きが鈍った瞬間を本命UCで攻撃

よくも私達を喰ってくれたわね
私が血潮に毒を巡らせてる理由が分かる?
お前みたいに不用意に喰らい付いてきた奴を返り討ちにする為よ
人食いはを喰らい尽くす この身は全てその為に
喰われる痛みで悶え苦しめ


上野・修介
※アドリブ・連携・負傷歓迎

相手は強者。
チャンスはそう多くない。

――為すべきを定め、心は水鏡に

「推して参る」

調息、脱力、先ずは観る

距離を取り敵を中心に円を描くような軌道で常に姿勢を低く動き回って可能な限り被弾を減らし、視線と殺気から攻撃軌道とタイミングの予測、タクティカルペン投擲よる牽制と挑発、視線誘導で隙を作り、死角へのヒット&ウェイを狙っているように見せかける。
本命の狙いを悟られないようキッチリ死角を狙う。

相手がこちらの動きに対応しヒット&ウェイに合わせて相手にUCを使わせるように仕向ける。
UC発動に合わせて地面を打撃して加速し、口に飛び込んで丸呑みにされ、内部からUC攻撃を行う。


御狐・稲見之守
ごきげんようレディ・ハンプティ。哀れな魔王の娘よ、お前さんに正体を見せなかったお父上殿は果たしてお前さんを愛していたのかのぅ?

[POW]ああ哀れ、狐は魔女を怒らせ食べられてしまったんじゃ……なんてナ。[化術]を以て形ある姿から不定の影へと。腹中より[催眠術][呪詛]を以て彼奴に幻覚をかけてやろう。

見せるは『愛しの父様』の幻覚。彼奴が求めるは『愛しの娘よ』なんて優しい言葉かナ? しかし残念、お父上殿は彼奴を『産み落とさせた数居る災魔の一匹』或いは『道具』としか見ないであろう。そして夢の幕引きは『愛しの父様』が滅ぶ姿でさようなら。

[生命力吸収][捕食]く、ふふっ。夢は楽しんでいただけたかなァ?



 吐き出す呼気は果たしてどちらからのものか。
 顔か。それとも、胸部に奔った牙なる口か。
 だが、どちらにせよ、だ。
「匂うわね。何人も貪り喰ってきた忌々しい匂いが」
 レディ・パンプティより零れ落ちる吐息。そこに混じるナニカを感じ取り、メフィス・フェイスレス(継ぎ合わされた者達・f27547)の本能が騒ぎ立てる。
 私にも寄越せ、と。お前ばかり、と。
「嗚呼、お腹が減ってくるわ」
 今にも身の内を食い破って出てきそうなジブンを理性と憎しみで抑え込み、メフィスは自分を保つのだ。
「あちらもこちらも、血気盛んであることじゃな」
「俺には分からない感覚です」
「分かっては堪らんじゃろ。そうなれば、最早、人などではないのじゃから」
 ヒト喰う笑みは浮かべども、ヒトの味を嗜んだは既に遠き過去。故にこそ、御狐・稲見之守(モノノ怪神・f00307)からメフィスを刺激する香りはない。
 そして、この中において唯一、その味を知らぬは上野・修介(吾が拳に名は要らず・f13887)。故に、不可思議とその首をひねるばかり。
「……どうしても、猟兵というものは付いて回るのですね」
「それはそうじゃろう、レデイ・ハンプティ。妾達はそれ故の猟兵よ」
 オブリビオンと猟兵。その関係である以上、三人がハンプティを見逃す道理などない。
 そして、それ故にこそ、ハンプティの生みの親たる魔王は討たれたのだから。
「なあ、レディ。なあ、ハンプティ。なあ、哀れな魔王の娘よ」
「なん、ですか」
 言葉掛けながら無防備にも稲見之守は一歩一歩とハンプティへ近付いて。
 ――さあ、幻想を砕いてやろう。

「お前さんに正体を見せなかったお父上殿は、果たしてお前さんを愛していたのかのぅ?」

 そっと耳元で囁いた毒。耳の奥に入りこみ、心を浸す猛毒。
 それは最早、誰にも答えを出せぬ質問。
 だけれど、最もハンプティの心を揺さぶるであろうそれ。
 魔王は確かにハンプティを生み出した。されど、彼女が一度足りとてその真なる姿を見たことがないのは、予兆を見た猟兵ならば誰もが知るところ。
 そこに愛情があったのか。そこに意味はあったのか。
 その答えを持っていたであろう魔王/父は、もう居ない。言葉と答えは、決して得られない。
 ぐらりと足元が揺らぐかのような感覚がハンプティを襲う。
 そんな筈はない。あり得ない。私は父様のために、父様の無念を晴らすために。
 思考がぐるぐると渦巻いて、渦巻いて、渦巻いて。
「あ、あああ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
 オーバーフローした感情が、ハンプティの身体を突き動かす。
 その大きな大きな口を開けて、不快の原因――稲見之守の存在を喰らわんと。
 普段であれば動じなかったであろう言葉も、他の猟兵との幾度の交戦を経て消耗した心身には各段に効いていたのだ。
 そして――。
「アンタ、なんで逃げないのよ!」
「なあに、狐は魔女を怒らせて、食べられてしまったんじゃな」
 ――ああ哀れ。
「――!」
 言葉は最後まで紡げず、ヒトを喰った笑みのまま、稲見之守はバクンと丸呑み、腹の中。
 メフィスも、修介も、助けるには距離が遠すぎた。助けるために伸ばす手の代わり、ぐちゃりぐちゃりと丁寧な咀嚼の音が響き渡るのみ。
 牙が噛んで、噛んで、噛んで、形あるものであれば原型すらをも残すまい。
 よくも。なんて、誰も言えなかった。
 言えなかった代わりに、それぞれの身体が無意識えと突き動かされるままに。

「なに、私の前で食事なんてしてくれてんのよ!」
「――推して参る」

 メフィスは激情へと駆られたように、修介は心水鏡と平静のままにと駆ける。
 ガチリガチリと牙鳴らし、迎え撃つはまだ己を失ったままのハンプティの大きな口。
「吹っ飛ばすから、巻き込まれるんじゃないわよ!」
「大丈夫です。『視』えていますから」
 二手に分かれて右左。
 同時に正面から当たるではなく、挟み込むようにして。
 左より投げるは尖鋭の投擲。同時幾つもと投げ放ち、その軌道でもってハンプティの動きと視線を限定する。
 右より投げるはメフィスの黒タール。触れれば粉塵、粉微塵。ばしゃりとハンプティの周囲に散って、その意味を成す。
 ――もうもうと上がるは蒸気に非ず、土煙。
 撒かれた粉塵が爆発起こし、即席の煙幕を張ったのだ。
 その煙幕へと乗じ、右と左、ほんの一呼吸分だけ僅かとタイミングをずらし、ハンプティへと肉薄を。

 ――骨刃が肉へと食いこむ感触。
 ――拳が分厚い肉を叩いた感触。

 メフィスと修介。そのどちらの攻撃も避けられることはなかった。むしろ、それはまるで受け止められたかのような。
 土煙が晴れる。
 晴れたそこには――。
「あ、ガッ……お、マエ!」
 骨刃ごと食い千切られたメフィスの姿。そして、彼女が先に喰われたが故に、その数瞬を見切ってメフィスの身体ごとハンプティから距離を取った修介の姿。
 再び、咀嚼の音が響き渡る。
 それはまるで、わざわざ喰われに来るなど馬鹿な奴。と嘲るかのように、見せつけるかのように。
 だけれど、それは――。

「……狙い通り、ですか?」
「そこは大丈夫かって聞くところじゃないの?」
「視えている、と言ったでしょう」
「そうだったわね」

 修介には土煙の向こう側でも、視えていたのだ。
 激情に吠えながらも、メフィスが『敢えて』喰われやすい位置から突撃していたのを。
 だから、その後に何かあると踏んで、一呼吸分のタイミングをずらして修介は突撃していたのだ。
 そして、その思考は的中していた。
「よくも私達を喰ってくれたわね」
「喰わせた、では?」
「野暮なことは言わないの」
「そうですか」
 片腕失い、上半身起こすを修介に手伝ってもらいながら。それでも、その顔に苦痛はない。
「――私の味はどうだったかしら? 私が血潮に巡らせていた毒の味は」
 ぐちゃりぐちゃりの咀嚼音が止まる。
 何を。と、それは問うているかのよう。
 だから、歯を向き、とびっきりの笑みで告げてやるのだ。
「お前みたいに、不用意に喰らい付いてきた奴を返り討ちにする為よ」
 さて、馬鹿はどちらだったかしら、なんて。
 喰われた部分をタール状の液体で補って、修介の手を借り立ち上がる。
 ――Boom.
 喰われ、再構成した手を見せつければ、それを閉じて開いて。
 同時、ハンプティの内部でそれは破裂した。毒と骨棘の爆弾が。

 ――そして、本命はこれよりと。

 相手は元より強者。それを相手に、そう何度もとチャンスは訪れまい。
 だからこそ、これで決めるとして。
 メフィスはその手に人食いをこそ解すため鋸を手に。
 修介は握る拳を解き、その指の先端まで意識を通し。
 互いに用意したは、必殺のそれ。
 だが、ハンプティとて先にも触れた通り、猟書家に名を列ねる程の強者。
 ならば、如何にその身の内で爆弾の破裂起ころうとも、せめてもう一人でも喰らわねば、と本能がけたたましく身の内で叫び、身体を無理矢理にでも動かそうとする。
 人一人の身体など容易く貫く牙の生え揃った口だ。それが狙いも付けずに振り回されれば、それだけで牽制としても充分。
「悪足掻きね。もう一度、仕留めてやろうかしら」
「いえ、待ってください。……そろそろ身を隠した理由を聞いても?」
 修介が誰に問うたか。
 メフィスは隣に。修介自身もそこに。無意識に暴れ回るハンプティも。誰も欠けてなどいない。いるとすれば、それこそ最初に噛砕かれた――。

「なんじゃ、気付いておったのか」

 稲見之守に他ならない。
「あれだけ余裕を見せて、気付かない方がおかしいと思わない?」
「迫真を演じるのなら、笑みは消した方が良かったかと」
「なんじゃ、喰われる直前の儚い笑みには見えてはおらんかったか」
 声は聞こえども、姿はなし。だが、その声がどこから響いたかと言えば、暴れ回るハンプティの口の中から。
 肉は裂かれ、骨は砕かれ、最早原型も残らぬ程に咀嚼されたのではなかったのか。
 いいや、違う。
 咀嚼される瞬間、己の身を形あるから不定の影へと変え、ハンプティの腹の内より様子を窺っていたのだ。
 故に、メフィスの爆破にはひやりともしたが、それはそれ。それを表に出す程、彼女は老耄などしていない。

「どれ、ちょいと静かにさせてやろう。待っておれ」

 そして、その腹の内に潜んだを、今此処になす。
 ビクリと身を震わせて、ハンプティの意識が沈んでいく。
 ――見せるのは夢。レディ・ハンプティが求めてやまぬ、遠き彼方の夢幻。

「ハンプティよ」とその影は言った。「父様?」と彼女は聞いた。
「そうだ」と父は再び言った。「何故、私をお産みになったの?」と娘は聞いた。
「何故とはなんだ?」と父が問うた。「魔女の肚から私を造ったからには、意味があったのでしょう?」娘は聞いた。
「ない」父は断言した。「え?」娘の足元が崩れていく。
「ない」再び。「そんな、嘘です。私は、父様の無念のために」崩れる地面の中で必死に駆け寄り、縋る娘の姿。
「お前など、数を揃えるための内の一匹でしかない」
 断言は無情に。
「あ、嗚呼、嗚呼ああああ!」
 駆け寄り、縋ったた父の面影は、儚くその手の内より解れて、砕けて、滅んで、消えた。

「く、ふふっ。夢は楽しんでいただけたかなァ?」

 声なき声が、暗闇の中で愉悦と木霊する。
 ――聞きたかった答えはそうではない。求めていた言葉はそうではない。これが夢なら覚めて。悪夢なら、早く、早く。
 ドロリと纏わりつく黒い闇は、彼女のみを縛って身動きするをすらもう許さない。

「――喰われる痛みで悶え苦しめ」
「――断ち切る」

 現実の声が聞こえ来て、ハンプティの意識は夢から現実へと廻り戻る。
 同時、ハンプティの意識を焼くは白き激痛。
 鋸で同じ個所を何度も引かれるかのように、いつまでも残り続ける痛みが。
 鋭すぎる刃が通り抜けた後の、冷たくも熱い痛みが。
 それこそが、メルティと修介の刃がハンプティへと届いた証。また新たな傷が刻まれた証であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
お父上の敵討ち…いえ、遺志を継ぐことが貴女の原動力ですか
ならば私は、大魔王と呼ばれた彼の存在を討った数多の猟兵の一人として。
そして、騎士としてアルダワの安寧の為に立ち塞がらせていただきます

噛み付きの為の突撃速度と顎の開口をマルチセンサーでの●情報収集で計測
スラスターでの●スライディング滑走で敢えて『前へ』
敵の目算を狂わせた上で自己●ハッキングで●限界突破させた●怪力大盾殴打を開き切る前の牙の『側面』へ
攻撃による防御で弾き飛ばし

淑女としてその食事の作法は如何なものかと
左腕と盾を対価に諫めさせていただきました

再度迫る相手を片手の剣で牽制しつつUC起動
速度差による幻惑で虚をつく●だまし討ちで斬り捨て


ティオレンシア・シーディア
そういえばあたし、「お父様」とやらとはやり合わなかったわねぇ…

ゴールドシーンにお願いして描くのは不動火界呪の真言、さらにそれをカノ(叡智)とアンサズ(聖言)で補助。●黙殺を起動して〇破魔と浄化の弾幕バラ撒きつつミッドナイトレースに○騎乗してガン逃げかますわぁ。

…当然これじゃ幽霊はともかく本体は対処できないもの、今までのは全部仕込み。カノの別側面は「炎熱」、真言が示すのもまた浄化の「炎」。戦闘駆動と弾幕で熱された蒸気機関にイサ(氷)とハガル(崩壊)のルーンを叩き込めば。暴発は無理にしても、ダメージくらいにはなるでしょ。

仮にも「ハンプティ」を名乗るなら。最期は地に落ちて砕けるのが作法でしょぉ?



「お父上の敵討ち……いえ、遺志を継ぐことが貴女の原動力ですか」
 白く染まったレディ・ハンプティの意識の向こうから、声が届く。
「ならば私は、大魔王と呼ばれた彼の存在を討った数多の猟兵の一人として、そして、騎士としてアルダワの安寧の為に立ち塞がらせていただきます」
 父上、大魔王、敵、遺志。
 様々な言葉がハンプティの意識に落ちて、ようやく彼女の意識は心身の痛みを推して戦場に舞い戻る。
 意識清明を取り戻した彼女の前には、白銀の騎士――トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)。
「そういえばあたし、『お父様』とやらとはやり合わなかったわぁ」
 そして、流れる黒色の蜜、ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)。
 その手にリボルバーの輝きを鈍く光らせて、ハンプティが動けばそれがより速くと弾丸を放つであろうことが見て取れる。
 ハンプティは既に幾つもの戦闘を越えてきて、満身創痍に近い。
 最早、肩の蒸気機関は満足にその性能を発揮できないだろう。牙は健在ではあるものの、口に刻まれた傷はじくじくと痛む。
 どうすれば、どうすれば、どうすれば。
 その思考がぐるりと廻り、そして傍と思い浮かぶは黒鉄の。
 幾度の戦闘を経て、最初にこの地を埋めた白は既に跡形もなし。ならば――。
「既に傷だらけの様子。抵抗をなされないのであれば――」
「ちょっと、なによぉ。この音は」
「――ごきげんよう」
 最初の戦闘で雪と花に埋もれた魔導列車を再起動させればいい。
 何もなき筈であった地面にレールが引かれ、その上を傷だらけの魔導列車がガタリゴトリと通り過ぎる。
 二人が気付き、反応した時には既に遅い。
 ティオレンシアが弾丸放とうとも、それは列車の装甲に新たな傷――弾痕を刻むのみ。その進行を妨げるには至らない。
 幸いと言うべきは、ハンプティがそれを離脱のために用いた事か。
 故に、二人は最初からその軌道の外側。引き潰される心配などない。
 むしろ、それが逃走のために用いられたからこそ、攻撃の意思なかったからこそ、二人の反応が遅れてしまったのも無理からぬことであった。
「少し、出遅れましたか」
「前触れは僅かな振動だけだったものぉ。仕方がないわぁ」
「とは言え、追いかけぬ訳にもいきません」
「勿論よぉ。私はこれで行くけど、あなたはぁ?」
「良いバイクですね。ええ、ですが、私は自前の推進器がありますので」
「なら、いいわねぇ」
 逃げ去る列車に標的を定め、二つの焔がそれを追うべくと咆哮を上げていた。

「災魔は……いないのねぇ」
「既に傷だらけの車体を見るに、交戦を経ている様子。そこで失ったのかもしれません」
 じわりじわりと詰める距離。
 だが、本来であればその列車に乗っているであろう黄金の蒸気機関で武装した災魔の姿はない。
 それは、他の猟兵達との戦いの最中、既に祓われていたが故に。
 だからこそ、その追尾自体は難しいものではなかった。
「ただ、あの頑丈さは厄介ねぇ」
 列車の質量は、ヒトやその騎乗するバイクと比べ物にならないのは言うまでもないだろう。
 そして、その頑丈さもまた。今もまた、ティオレンシアが幾つかと弾丸を撃ち込んではみたが、弾痕を残すばかり。
 勿論、弾痕を残せる以上は、何十発何百発と撃ち込めば抜くことも可能かもしれないが、現実的とは言い難い。
「困ったわねぇ」
「……?」
「あら、何か言いたそうね」
「いえ、勘違いでなければなのですが、そんなに困っていらっしゃらないようにも。それに――」
「それに、何か仕掛けをしている?」
「……ええ、その通りです」
「ふふふ、お見通しねぇ」
 だが、それも普通に撃ち込み続けていれば、だ。
 ティオレンシアは列車がその姿を見せた瞬間から、ある仕込みを既にしていたのだ。それこそが――。

「C」

 弾丸に刻むは炎熱の理。
 ティオレンシアの言葉に応え、黄金が輝きを零す。
 それだけで、列車のあちらこちらに刻まれた弾丸が赤く、朱く、発熱を始める。
 瞬く間に、列車の黒が熱せられ、どろり溶けるまではいかずとも、赤熱を見せていた。
「これなら、私がそのまま吶喊しても蹴破れそうですね」
「焦らないの。仕上げはまだよぉ」
 弾丸刻む文字を変え、変えた文字こそとどめの一矢。

「I、H」

 凍てつき、崩壊へと導く二文字。
「それじゃあ、突入はお願いねぇ。私は、機関部をぶっ壊してくるわ」
「承りました。ですが、機関部まで?」
「ま、仮にもハンプティを名乗ったのだもの。最期は地に落ちて砕けるのが作法でしょぉ?」
 射撃。着弾と同時、列車の装甲は赤く熱したと同じように、瞬く間に霜降る鉄へ。
 バキリ、と崩壊の音が響いた。
 それこそは極端に熱した後からの、急激な冷却による熱疲労。
 装甲を脆くし、蹴破るをより容易くするための。

 ――二人の吐き出す焔が一層と火を吐いて、加速と共に列車の中へ。

「逃げられませんか」
「逃がしませんよ」
 列車の中で相対する白銀と黒。
 左右の壁は朽ち始め、崩れ去るも時間の問題であろう。
 だが、まだそれが健在な以上、互いにぶつかり合うは正面衝突の一択のみ。
 ならば、それに劣るトリテレイアではない。
 脚が床を踏みしめ、じりと互いに距離を測る。
 先手は――やはり、ハンプィ。
 満身創痍とも思えぬ速度で、ガバリと胸元の口を限界まで開き、そのまま諸共とトリテレイアを圧し潰すかのように。
 内部のコアがぶつかり合う距離を算出し――それを敢えてと加速することでずらす。
 それは相手の意図を崩すためのもの。
 逸らし、いなし、崩すは守りの常道。それを知らぬトリテレイアではないが故の。
「――どこへ!」
「ここですよ」
 声はハンプティの真後ろ。
 正面からぶつかり合う筈であったのに、何故。
 それは、加速を活かしたスライディング。ハンプティの目算を崩すと共に、トリテレイアはその股の下を抜く形で背後を取ったのだ。
 ――ぐるりと牙が背後を向く。
 が、遅い。
「淑女として、その食事の左方は如何なものかと」
 その牙が後ろを向き切るよりはやく、叩きつけられるは怪力の一閃。
 振るわれた大楯と左腕が、その質量のままにハンプティの口の中へと叩き込まれた。
 だが、彼女とてただ殴り飛ばされるだけではない。
 口内にあるそれらを噛砕き、もぎ取りながらと吹き飛んだのだ。

「食事と言うには、筋張っているどころではありませんね」
「申し訳ありません。鉄の身体のものですから――諦めては、下さいませんか?」
「それは無理だと、理解しているでしょう?」

 腕と守りを奪ったことで、僅かとハンプティの意識に戦意が戻る。
 ――ただ、それが諌言のために敢えてと差し出されたのだとも知らずに。
 ならば、最早、終わりを告げるに躊躇いはなし。

「……追い付けますか、私達の時間に」

 一度は列車で逃げられ、置いて行かれた。
 ならば、此度はトリテレイアの番。
 思考が加速し、白煙吐き出す程に廻り、始める。
 その中ではトリテレイア以外の全てがノロマで、ハンプティが口を開こうとしているのすらゆっくりと眺めてすら余裕がある。
 だが、もう今度は腕を差し出してやる訳にはいかない。

「斬り捨て御免……というのは、サムライエンパイアの文化でしたかね」

 もしかしたら、他の世界の文献でもあったかもしれないが。
 ゆるりと右手で刃を振っての斬り捨て御免。
 刃の通り抜けた後から、ハンプティの体液が静かに、音もなく顔を覗かせ始める。
 同時、ゆっくりと進む世界の中、機関部があげる断末魔の声が間延びしてトリテレイアのセンサーに届いた。
 もう、この場に居残り続ける理由は、ない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

エドガー・ブライトマン
レディ。もしかして知り合いかい?
キミら花の飾りまでお揃いじゃない
そんなワケないって?フフ、大丈夫。冗談さ

『レディ』は世界にひとりだけで充分だって?
そうだね、キミらしい言い分だ
左腕から、なんだかいつになく気合を感じる気がするよ

超高速の一撃は、《早業》で直撃は避けるよう身をかわす
すくなくとも丸呑みはごめんだな
受けた分は《激痛耐性》で凌ぐ

無計画に攻撃を受けたワケじゃない
キミに間合いを詰める手番を減らしてもらったんだ
《捨て身の一撃》でキミの身体にレイピアを刺す
これでキミは私から離れられない

さあ薔薇のレディ、キミの役目だ
キミの方が強く美しく鋭く逞しく容赦なくお転婆で気が強いトコロを見せてやれ!

あっ痛い!



 空に咲いた火球は地に落ちて、砕けて散った鉄の箱。
 中にあった黒も、煤けて、解れて、それでも最後の力をと振り絞り、燃ゆる海よりのそりのそり。
 まだ、諦めない。ここで諦めては、なんのためにこの世に生を受けたのか。
「アルダワに、列車に辿り着けさえすれば……」
 だが、それを妨げるは運命との出会い。
 出会う場所が、時が違えば、もしかすればまた違った運命があったかもしれない出会い。
「レディ」
 レディ・ハンプティは己が呼ばれたかと思い、振り向く。
 その先に姿あったは、エドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)。うつくしき、通りすがりの王子様。
「――もしかして、知り合いかい? キミら、花の飾りまでお揃いじゃない」
 だが、エドガーの視線はハンプティにはない。
 その視線は、手袋嵌めた左腕。
「そんなワケないって? フフ、大丈夫。冗談さ」
 だけれど、その冗談がいたく淑女の心を騒がせたのだろう。
 左腕に絡む棘のチクリチクリ。
 まるで放さぬとでも言わんばかりに。
「『レディ』は世界にひとりだけで充分だって? そうだね、キミらしい言い分だ」
 世界にひとりだけ。エドガーにとってのひとりだけ。
 故に、淑女はハンプティの存在を絶対に許してなどいられない。
 ――レディ。
 そう呼ばれるのは、自分自身だけでいいのだから。
「そうです……レディは、私。父様にとっての私だけ」
 だが、その言の葉はハンプティの燃え尽きかけた心にも火を点す。
 如何に精神世界で否定されようとも、如何に満身創痍となろうとも、その無念を継ぐと決めた自分が魔王の娘、レディ・ハンプティでなくてなんであるのか、と
「おや、キミまでやる気十分じゃあないか」
 ふらつく足取りをシャンとして、衣服が煤け破れようとも佇まいまでは失わない。
 満身創痍でありながら、ここに来て確かな存在感がハンプティに戻っていた。

 ――強敵の予感に左腕の奥に隠された狂気が、ざわりと騒ぐ。

 それを落ち着けるようにエドガーが右腕で触れれば、騒めきは静けさを取り戻す。
 静かな闘志に変わったのか。それとも、また別のなにかに変わったのか。
 しかし、これで互いに戦いのための準備が整ったことは確か。

「押し通り、私はアルダワに参ります」
「すまないね。それは見逃してあげられないんだ」

 最初から分かっていた決裂。
 ハンプティの胸部がガバリと開いて、エドガーを喰らわんとして猛然と動き出していた。

「丸呑みは、ちょっとごめんだなあ」
 ――かと言って、咀嚼されるのもそれはそれで。

 牙を躱すは随分と馴染んだ足捌き。
 数多の戦場を越えたそれは洗礼され、磨き上げられた動作のそれ。
 目を見張るほどに速い訳ではないけれど、確かに早いその動き。
 ガチン、ガチンと火花が目の前で散っては消え、散っては消え。
「傷が響いているみたいだね」
「だからと、諦められるものでもありません」
 明らかに精彩を欠いた動き。積み重ねた負傷はやはり彼女の身を蝕んでいたのだ。
 だけれど、気力だけは十二分と漲って、動きの止まる様子はない。
 精彩を欠くとは言えど、油断をすれば只では済まないであろうものがそこにはあった。
 だから――。
「これで、キミは私から離れられない」
 歯噛みの間隙。自分から詰める分の距離を相手に詰めさせて、その分の動作を『ソレ』に充てる。

 ――ポタリと流れ落ちる赤の滴。

 自分ごと刺し貫いた矜持の刃。
 輝く王子の装束が、昏い紅に染まっていく。
 痛みなどない。あったとしても、これが必要なことなのであれば気になどしない。
 誰かのために、何かのために、己を犠牲にするのがエドガー/王子様であればこそ。
「近すぎると、逆に食べられないでしょ」
「ですが、それではアナタも何も出来ずに血を零すだけなのではないのですか!?」

 ――刃を伝い、エドガーの紅がポタリとハンプティの口の中。

 それを感じ取った左腕が、一際ざわりとさざめき揺れた。
 その思考を白へと染める程の激怒によって。
 エドガーの肉の一片とて、血の一滴とて、記憶の一欠けらとて、全て私のモノなのに、と。
「お手をどうぞ、薔薇のレディ。さあ、ここからはキミの役目だ」
 差し出すは記憶の断片。
 さて、今回はいつを喰われることだろう。
 だが、これもまた必要なことだから。

 ――ざわりざわりと左腕から伸びた薔薇の蔦。捩り合い、捩じり合い、形作るは薔薇の淑女。

「キミの方が強く美しく鋭く逞しく容赦なくお転婆で気が強いトコロを見せてやれ! って、痛い!」
 一言どころか、五言ぐらい多かった。
 それこそ、鋭く容赦ない一撃が沈みゆく意識の中でエドガーを襲う。
 だが、激怒に染まっていた淑女の思考が、それによって僅かと戻ったのも確か。
 故に、淑女は呼びだされた役割をエドガーに代わって正しくなすのだ。
 勿論、彼の血の滴を一滴でも口にした、ハンプティを消すという私情も多分に含みながら。
「それが、あなたのレ……」
 お前がその名を口にするなと言わんばかりに、襲い掛かる薔薇の蔦がハンプティの口を縫った。
 そして、そこから先はただの食事。
 茨が潜り込み、抉り込み、包み込み、溶け込んだ血の滴の一滴も逃さぬと言わんばかりに。
 そして、その蔦の檻が解けた時には、もうハンプティが言葉を響かせることはない。ただ、この蒸気の国には横たわるエドガーが残されたのみ。
 静けさが戻った国の中、遠くで、誰かが乗る筈であった列車の出発を示す汽笛の音だけが木霊していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月15日


挿絵イラスト