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迷宮災厄戦㉑〜黄金の娘(レディ・ハンプティ)~

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦 #猟書家 #レディ・ハンプティ

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●レディ・ハンプティ
 ああ、父様。魔女の肚から私を造った父様。
 私にも正体を見せなかった、いとしい父様。
 あなたの無念、このわたくしが果たします。

 女の熱を閉じ込めた、熱い吐息と共に乳房の下の口が戦慄く。かちかちと歯が擦り合って耳障りな音が響くのを、女、レディ・ハンプティは微笑みを以て歓迎する。侵略蔵書を片手に浮かせ、金の歯車に金の建物、近代建築で有りながら、煉瓦を敷き詰め、絶えず金の歯車が回り、そこかしこで空を覆う程の多量の蒸気が上がり、環状に敷かれたレールを魔導列車が超過速度で車輪を回し、汽笛を上げる。
 アルダワを思わせる魔導蒸気文明の大都会の姿が、その世界を埋め尽くす。
「貴方方が来るならば、わたくしにとっては本望と言えましょう」
 
●グリモアベース
「皆のお陰で迷宮災厄戦は終盤じゃな。猟書家の居る所に皆を送るよ。少しの間じゃが、此処で一息入れりゃあ良えと思う。皆の尽力に感謝するよ」
 海神・鎮(ヤドリガミ・f01026)は頭を下げ、資料を配って行く。労い用の菓子や食事、飲み物を用意していると、それらの載った卓から好きな物を取って、休息を取るよう、猟兵達に勧めた。
 自身はアリス・ラビリンスについて、掻い摘まんで説明していく。聞き流して良さそうだ。
「耳にタコが出来るほど聞いとるじゃろうが、小さな世界が連なって出来とる世界でな、オウガってオブリビオンが支配しとる。人肉を好んどって、アサイラムって世界から迷い込んだアリスを食べようとしょうる。現地民は愉快な仲間達や、時計ウサギじゃな。住んどる所を綺麗に整えるんじゃけど、それも支配者のオウガが美しい地獄に変えとるってのが現状じじゃ」
 茶を一口含んで、資料を捲り、次は今回の戦争の概要を話していく。
「此処に少し前から暗躍しとった、今から乗り込む猟書家って勢力が暗躍しとって、オブリビオン・フォーミュラのオウガ・オリジンを書架牢獄に拘束、世界改変ユーベルコードを盗み出した後、オウガ・オリジンが此処を脱獄して、開戦って流れよ」
 なるべく短く纏めたつもりだが、それでも長くなったことを謝罪し、本題に入る。
「今回案内する先は、猟書家、レディ・ハンプティの居る蒸気世界じゃ。レディ・ハンプティの初手は皆より早え。ユーベルコードは資料に纏めとるから、どう対処するか、考えておいてな」
 レディ・ハンプティは侵略蔵書、蒸気獣の悦びと、乳房の下の口を主体に戦う。彼女の目論見は他の猟書家と同様、フォーミュラに成り代わり、侵略蔵書の力によって、世界に再び混乱を齎す事だ。
「強敵である事には間違い無え、やり方は皆に任せる。信頼しとるよ」
 最後に鎮は丁寧に深く頭を下げ、猟兵を送る準備をし始めた。



●挨拶
 紫と申します。今回は戦争シナリオ【迷宮災厄戦㉑〜猟書家『レディ・ハンプティ』~】となります。

●シナリオについて
・目的:レディ・ハンプティの打倒です。
・ギミック:敵は必ず先制攻撃をしてきますので、対抗プレイングを考えてみて下さい。
・ステージ:人は居ません。蒸気文明の大都会。故に建造物や遮蔽物が非常に多く、そこいらに蒸気文明の産物や部品も多数転がっています。

※【猟書家『レディ・ハンプティの使用UC】※
●POW【乳房の下の口で喰らう】
 【乳房の下の口での噛みつきと丸呑み】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。

●SPD 【アンティーカ・フォーマル】
 【肩の蒸気機関から吹き出す蒸気を纏う】事で【武装楽団形態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。

●WIZ【侵略蔵書「蒸気獣の悦び」】
 【黄金色の蒸気機関】で武装した【災魔】の幽霊をレベル✕5体乗せた【魔導列車】を召喚する。

●最後に
 なるべく一所懸命にシナリオ運営したいと思っております。
 宜しくお願い致します。
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第1章 ボス戦 『猟書家『レディ・ハンプティ』』

POW   :    乳房の下の口で喰らう
【乳房の下の口での噛みつきと丸呑み】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    アンティーカ・フォーマル
【肩の蒸気機関から吹き出す蒸気を纏う】事で【武装楽団形態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    侵略蔵書「蒸気獣の悦び」
【黄金色の蒸気機関】で武装した【災魔】の幽霊をレベル×5体乗せた【魔導列車】を召喚する。
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ジズ・レオリー
郷愁。異世界にてアルダワを想起する機を得るとは
何とも不思議な感覚だ

列車本体は回避を優先
神出鬼没にも思えるが大きさが難点のはず
アルダワに近い場所ならジズにも相応の地形の利が有ろう
念のためオーラで防御固め
レールの軌道・汽笛・振動等から方向を予測し見切りつつ
可能なら車輪に念動力或いは土属性魔法で妨害を
祈念。僅かでも反撃の時間稼ぎになれば

悪しき乗客が溢れたら囲まれぬよう注意
Zの書を用い高速詠唱で魔法攻撃を展開
ある程度捌いてレディを視認できたら【不待ノ礫】
貴殿が抱く悪しき企て…敵意を向けるに相応しかろう

一矢。ジズの成果は微々とても戦況が好転するならば良し
麗しくも哀しき猟書家よ
貴殿の思い通りにはさせるまい


村崎・ゆかり
これは、アルダワの延長戦か。いいわ。大魔王の置き土産、ここで討滅してあげる。

「式神使い」で偶神兵装『鎧装豪腕』起動。「全力魔法」の「オーラ防御」を纏わせて、レディの土手っ腹の口に噛みつかせる。
上手くいけば、「怪力」で顎を外すことも出来るかしらね?

『鎧装豪腕』が口を押さえている間に、「降霊」で執金剛神降臨。
胸の下の口の射程外から、長物のリーチを活かして「串刺し」にするわ。

――猟書家がこの程度で終わるはずないわよね。
武装楽団形態になる前に執金剛神の独鈷杵で動きを止めて、災魔の幽霊には「式神使い」「範囲攻撃」で千羽鶴をけしかけて「除霊」。
サー・ジャバウォックよりはまだ対処のしようがある相手だわ。


有栖川・夏介
ついに猟書家までたどり着きましたか…。
私のやることはただ一つ。
「貴女の首を刎ねます」

処刑人の剣を手に、敵との距離を一気に詰める。
至近距離になれば敵の攻撃がくるはず。
急所に当たらないように【見切り】で回避しつつ【オーラ防御】と【激痛耐性】で受けるダメージを軽減。

こちらも攻撃力を重視した【姿なき猫が笑う】を発動。
敵の首を狙って至近距離からナイフを放つ【捨て身の一撃】

先の攻撃が当たっても当たらなくても、そのまま手を休めることなく次の攻撃へ。
処刑人の剣をふりおろし、敵の首を狙う。
「女王は言った。首を刎ねよと。……さあ、サヨナラの時間です」


勘解由小路・津雲
なるほど、ここはアルダワに雰囲気が似ているのだな

【作戦】SPDを想定
蒸気機関は蒸気の持つ<熱>エネルギーがベースになっているはず。アルダワ由来ならエネルギーの大本は魔法によるものだろうが、原理はかわらないはず。ならば

まず後鬼に主砲の魔力供給のため玄武を預け、離れた場所に待機させる。魔道砲の冷気攻撃でパワーダウンを狙う。あとは敵を挑発し、おびき寄せるとしよう

「あんた、魔王の娘といったか。じゃあおれは親の仇といったところか?」

あとは遮蔽物など【地形の利用】をし、【結界術】などで身を守りながら必死で逃げる

目的の場所まできたら後鬼の主砲を後から発射
すかさず玄武を受け取り【氷術・絶対零度】で追撃といこう


シーザー・ゴールドマン
【POW】
父の無念を娘が果たす。美しい話だね。
まあ、予知された時点で見果てぬ夢となるのだが。
親子二代の悲劇と見るべきかな?
ともあれ、骸の海で再会できると良いね。

先制対策
UCの特性上接近してくるのでギリギリまで引き付けて、丸呑みせんと開けた口にカウンターで衝撃波を叩き込みます。
(第六感×見切り×カウンター→衝撃波)

『ウルクの黎明』を発動。
大魔王の娘というだけあってスペックは高い。だが、経験が不足しているね。
増大した戦闘能力でオーラセイバーを振るって戦います。
大技は剣の横なぎから発生する、真紅の斬断波(衝撃波×範囲攻撃×なぎ払い)
ステラと/◎


ステラ・リデル
【WIZ】
どのような形であれ肉親の情がレディ・ハンプティにはあるのですね。
彼女を倒しても侵攻は防げませんが、その規模は小さくなります。
……倒させてもらいましょう。

先制対策
魔導蒸気文明の街並み、その合間を縫って飛行(空中浮遊×念動力×空中戦)して魔導列車の動きを制限。
常に有利な空間を維持するように災魔の幽霊を破邪魔法(破魔×範囲攻撃×全力魔法)とオーラセイバーで漸減していきます。

『青い光の衣』を発動後は敵の攻撃を敢えて受けて戦闘力を向上。
特大の破邪魔法で幽霊を滅した後にレディ・ハンプティに挑みます。
大技はオーラセイバーによる神速の突き
(鎧無視攻撃×貫通攻撃×怪力)
シーザーと/◎


天星・零
【天星花】

【戦闘知識+世界知識+情報収集+追跡】をし、戦況、地形、弱点死角を把握し警戒、敵の行動を予測し臨機応変に敵の攻撃に対応

万が一がないように第六感も働かせておく

※防御は【オーラ防御】で霊力を生かし壁を作って対応、威力軽減、防御を図る

先制攻撃は上記技能を駆使し、※をしたり
万が一の為【第六感】も働かせる


遠距離は十の死とグレイヴ・ロウを戦況により使用


近接はØ

指定UCを発動し惨憺蓮華

『ふふ、死霊とは使うものではなく協力し合うものです。さぁ、増える増える恨みの花。僕のお友達と一緒に遊びましょう』

増殖しながら敵を一緒に攻撃してもらいます


雪華・風月
【天星花】
アルダワの魔王ですか…
彼の魔王と相まみえることはありませんでしたが
はい、仇である猟兵である我らとアルダワに災厄をもたらす彼女で合うはずもなく…
今はこの刃を振るうのみです!

災魔の霊が相手ならば、雪解雫に『破魔』の力を!
『見切り』『カウンター』にて斬り伏せ…
あっ、列車は躱せなさそうなので澪さん、お願いします!

澪さんの遠距離攻撃時、『援護射撃』に黒塗を『投擲』
アイコンタクトと同時に外す振りをして影を縫い止めます!
零さん!

トドメは零さんの武器に合わせて『切り込み』を


栗花落・澪
【天星花】

災魔の幽霊、なら破魔は効くかな
先制攻撃は【破魔】と念のために【激痛耐性、呪詛耐性】を組み合わせた【オーラ防御】で対処
召喚後の攻撃手段がわからないから近付かせないように
もし列車ごと特攻されたら翼の【空中戦】で
もー、長時間はむりだからね!?
風月さんごと抱えて回避を

光魔法の【高速詠唱、属性攻撃】で遠距離攻撃
着地のたび地に★花園の破魔を広げ魔に対する障壁を展開
全員を護りつつ敵に隙が生じたら2人にアイコンタクト

僕が破魔しか使えないと思った?
残念でした!
【指定UC】を発動
炎の【全力魔法】で花園ごと燃焼攻撃
不意打ちダメージを与えつつ
狙いは零さんのUC展開のために
広げた破魔を消し去る事
今だよ零さん!



●侵略蔵書「蒸気獣の悦び」
 敵の視野からは遠く、環状線を走り回る蒸気列車からも姿を隠せる裏小路。煉瓦で出来た近代様相、黄金色の高層住宅が立ち並ぶ、その狭間に、猟兵達は降り立った。
「ようこそ、わたくしの劇場へ……あなた方のご来訪を、心よりお待ちしておりました。歓迎致します。開幕と参りましょう!」
 何処へとも無く宣言し、影色のフリルスカートを摘まみ上げ、レディ・ハンプティは優雅に一礼をする。手元に浮いている、無骨な装丁の本が独りでに捲れて行き、彼女が望む頁を指し示す。
「赤き石が産む黄金の同胞は、願いを汽笛と共に歌いましょう。行く道に有る希望を線路に変えて、石炭を回しましょう。いとしい父様の子、いとしい同胞、世界の終わりまで、黄金の喜悦を歌い上げましょう……!」
 レディ・ハンプティの周囲に、15両編成の魔導列車が世界法則を無視し、召喚される。社内の黄金色の蒸気機関が、戦前に立つ悦びに唸り、幽霊達が煙を上げる。
 彼女が侵略蔵書をなぞる度、線路がその場で敷設されて行く。線路を辿り、縦横無尽に黄金都市を魔導列車が駆け巡る。

●一目に散る
「郷愁。異世界にてアルダワを想起する機を得るとは」
 ジズ・レオリー(加護有れかしと事有れかしと・f13355)は異なる色の双眸に、金色の都を写し入れ、アルダワと良く似た、無人都市の営みに、戸惑いに似た感覚を覚える。
「何とも不思議な感覚だ」
 細い路地裏でも、そこかしこで回る歯車、空を覆う程の蒸気の雲、蒸気機関の駆動音、超過速度気味では有るが、定期的に鳴り響く蒸気機関車の汽笛、此処がアリス・ラビリンスである事を忘れそうな程に精巧な造形世界。アリス・ラビリンスがそう言った世界で有る事を知っていても、この温かな違和感を払拭する事は、慣れるまで難しい。
「成る程、ここはアルダワに似ているのだな」
 式を放ち、見に徹しながら、勘解由小路・津雲(明鏡止水の陰陽師・f07917)は金属鏡に目を落とし、後鬼に裏路は狭いと、呼び出す時期に頭を巡らせる。集まった皆に通信符を渡し、式を付ける。
「渡した方は通信符だ。何処でも良いから、身に付けといてくれよ。奴さんは既に動き始めてる。場所が割れるのは時間の問題だ。本人は動けねえみてえだがな」
動くのは2両の魔導列車。しかも線路は都度敷設されている。足は速く、摺り合わせる時間はそう無さそうだ。それが侵略蔵書の力なら、線路を敷設している間は、その場から動けない可能性も考えられる。
「じゃあな、先に行くぜ」
 裏小路を縫って都合の良い場所を探す。幸い高低差が多く、砲撃手を置く場所には困らない。
「あれが突っ込んでくるのも考慮しないといけないが……」
「列車の方はお任せを。此方で気を引いた後に対処します」
「協力。同行と連携を申し出よう。アルダワに近い場所なら、ジズにも地の利が有ろう」
 通信符から、ジズと、生真面目な女性、ステラ・リデル(ウルブス・ノウムの管理者・f13273)が名乗りを上げる。津雲が断る必要は無い。列車の方は二人に任せる算段となりそうだ。
「私も手伝うわ。魔導列車の監視は……速度にも依るけど、基本は任せてくれて良いわ。必要なら、そのまま式で迎え撃つわね」
 村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)は通信符で伝えると同時に、予め霊力を込め、折っていた千羽の鶴を、蒸気雲の立ち込める空へ放つ。雲に隠れて上空から都市の様子を伺わせる。多量の目視情報は愛用の霊符に写す。行動速度は制限されるが、それも二人が抑え込む間だ。
「暫くは、護衛に回りましょう」
 無感情な声は有栖川・夏介(白兎の夢はみない・f06470)のものだ。状況から、監視に手を回すゆかりの護衛が必要だろうと判断し、足音を消し、都市の壁を跳ね、彼女の後を付いて回る。
「ふむ……手が余るね。レディからのお誘いだ。一人くらいは、受けるのが礼儀というものだと思うのだがね」
 等と通信符を切り、隣に居るステラにシーザー・ゴールドマン(赤公爵・f00256)は問い掛ける。暫しの沈黙の後、部下としての義務的な言葉が返ってきたのを、シーザーは満足したように黄金瞳を細め、一つ頷いた。
「すぐに参ります」
「まあ、数は多いからね。対群戦闘の経験値稼ぎには丁度良いだろう。楽しんで来ると良い。さて、其方の手を聞いておこうか」
「三十六計、逃げるに如かずってな。天候は所により絶対零度。何、通信は送るさ」
 赤い礼装に身を包んだ男は変わりなく。手は見せているのだから、記憶の端程度には留めているだろう。猟兵ならば意図は伝わる筈だと、津雲は支援砲撃地点を見定める。

●天星花
「他の皆はそんな感じみたい。僕等も魔導列車と幽霊をどうにかしよう。幽霊……なら、破魔は効くかな?」
 栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は琥珀色のサイドテールを遊ばせながら、警戒を他に任せ、裏小路を歩く。
「それでは、わたしも雪解雫に破魔を施しておきましょう」
  雪華・風月(若輩侍少女・f22820)は黒い髪を纏めている、青い髪留めのリボンを軽く締め直すと、所持する刀の内の一振り、白柄に手を掛ける。空いた手で印を結び、青い鞘を細い指でなぞると、茫洋と白光が浮かび、破魔の加護が刀剣に宿る。
「では、動きを立てていきましょう。周囲の警戒は引き続き、お任せ下さい」
 金眼赤目が柔らかに微笑むと、短い金色の髪が僅かに揺れる。天星・零(零と夢幻、真実と虚構・f02413)は、周囲を計算しつつ、思考を巡らせる。15両編成の魔導列車3本、そこに属する災魔の幽霊は、此方で処理する様、算段を整える。陽動は受け持ってくれる方が居る。此方はそれを引き継ぐ形になるだろう。
「お二人……特に栗花落さんが破魔の手を使うならば、僕は必然、後手に回る形になりますね」
「じゃあ、事前に邪魔しないようにした方が良いかな」
「お願いします」
「わたしは、足止め役を兼ねて行きましょうか。列車の突撃は、澪さん、すいませんがお願い致します」
「長時間は無理だからねー」
「承知しております」
「後は臨機応変に、ですね。身を潜め、場所を変えつつ、機を伺いましょう」
 黄金都市の裏小路を。、3人組がそれぞれ警戒しつつ、通信符から送られてくる情報に気を配りながら、移動する。

●誘導戦線
 ゆかりの放った式の目を頼りにしつつ、ステラも宙空へと飛び上がり、魔導列車の位置を探していく。ジズも、懐かしさを感じる風景に、建造物の配置構造を、人形出有りながら、感覚で理解していく。アルダワと全て同じとは行かないが、十分に応用は効きそうだ。建造物の配置を利用し、物陰に身を隠しながら、ひた走る。
 上空から、青い瞳が自由軌道で走り回る3本の魔導列車を捉えるも、もう2本が見当たらず、すぐさま感知を目視から魔力感知を重点に変更。蒸気の雲が持つ魔力量は濃く、その類の感知を許さない。一瞬で思考を切り替え、ステラは雲に身を隠すのを止め、急降下を決行した。あたかも、地上の列車しか見えていない愚者を装った急襲。
 気付いた災魔が応戦に出る。一両の兵数は約60。地上列車の一両から、釣り出しに成功したのを見て、急速上昇。突出した災魔を、両手に出現させた光剣で容赦なく切り上げ、斬断する。
 そのまま、白金の指輪に青色のオドを込め、増幅。必要な単語を複数繋ぎ合わせ、短縮詠唱とする。即ち、破魔、範囲、渾身。形の良い口唇が僅かに空気を震わせる。
「圧縮解放……ハレルヤ」
 掌中に生まれる青の奔流が、周囲の災魔数十を強制的に浄化する。残された蒸気機関が落下して、空虚な音を立てる。下に気を取られていると読んだレディが、運中に潜ませていた魔導列車を、頭上から超高速の突撃を試みる。
(……釣れましたか、冷静さは欠如していると、考えても良いものでしょうか?)
 好機を逃さないのを優秀とも見れる。分かっていたかの様なタイミングで、身体を水平に翻す様に回転させ、寸での所で擦れ違う。
 車窓から出て来る幽霊をすれ違いざま、光剣を列車ごと抉る軌道で薙ぎ払えば、線路が宙空に敷設されて軌道を無理矢理に変更する。過重負荷など無かったかのような戦線離脱。そこで、ステラは立ち眩みを覚えたように、ふらりと身体を揺らす。大立ち回りの疲弊を伝えるように何かを呟く。挙動の間に災魔の一撃を食らい、反撃の手立ては無いと、他の災魔に次々と包囲されていく。
(災魔の知能は低い様です……此方は滞り無く終わりますね)
 受け取った符を通し、思念のみを伝え、ステラは偽装を施した蒼光の衣を纏ったまま、今度こそ墜落し、魔導列車を地上へと繋ぎ止める。不自然な二度目の落下、通常ならば、警戒するだろう。敵の動向を推測しながら、時を待つ。

●砂毒
「理解」
 線路の自由敷設とは言え、絶対的な自然の摂理を超える事は無い。多少の重力を無視しているのは、遠目から見ても明らかだったが、線路の先にしか存在できず、脱輪すれば、立て直しは手間だろう。ましてやそれが、宙空敷設ならば、地上に引きずり出すことも可能だ。転倒すれば只の箱。それは地上の3本も例外では無い。
 レールの敷設パターンは少女を追う。警戒対象が他には居ない、つまり他の索敵は上手く行って居らず、無意識の内に、彼女の術中に嵌まっている。
 雲から降りてくる2両を確りと目視出来る高層建築の屋上で、古びた羊皮紙の本を片手で広げ、銀のインクで綴られた幾何学模様的な字体に目を落とす。
「祈念。それが物質で有るならば、原理には逆らえまい」
 独りでに捲られる書の一文、目的の一文をなぞる。車掌は居らずとも、車輪は回り、線路をなぞる。砂嵐とも思える砂埃がジズの周囲を取り巻き、布地の耳飾りを激しく揺さぶって行き、強襲する列車2両の車輪部品に、蛇の如く絡み付く。車輪の溝を始め、細部部品に入り込む。全ての車輪が、作られた溝を無くす。急停止装置を働かせようと、脱線を始めた車体が宙を舞い、墜落する事は免れない。加え、下には停車した3本、互いに絡み、食い合いながら、彼女の目論んだ大事故を、皮肉にも別の形で実現させた。
「追撃。悪しき乗客を、砂漠の蛇は許しはしない」
 銀の魔法文字を更になぞる。絡み付いた砂埃が流砂の様に集合し、顎無き蛇を作る。緩慢に、幽霊の蒸気機関に入り込み、詰まらせ、機能不全を起こさせる。全ての気筒を塞げば、熱の行き場を失い、自ずと爆ぜ、その火気が連鎖爆発を引き起こしていく。形無しの砂蛇は尚も緩慢に滞留し、這いずり回り、獲物を砂毒で絡み取って行く。

●サンクトゥス
 薄く纏ったオドの鎧が、敵の一撃一撃を深く、冷たく身に刻む。無抵抗なのを良い事に、包囲から殴打、蹴撃、蒸気熱、斬撃、毒撃、爆撃、あらゆる攻撃に曝され、ステラは全てを頭に刻んでいく。動作の無駄、付け入る隙、思考の隙間、頭の回る物、回らない物、特性、この列車は重量級ばかり、黄金色の蒸気機関の搭載が足枷となっているのだろう。小回りの利く者が一切居らず、本来ならば効率的に車内を満たせる筈が、1両に60体しか詰めない理由はそこに有る。そうして、ステラが全く攻撃を受け付けていない事実に次第に気付いた頃に、友軍の列車が互いに衝突し、勢いの侭、周囲の建造物を薙ぎ倒しながら絡み合う蛇の如く、揉み合い、失速しながら宙空を走る。レール敷設を妨げる様に、地面に現れた多量の流砂が全ての列車を丸ごと包囲し、乗客に牙を剥く。
「見事な手際です」
 一瞬にして混乱に陥った軍勢を見、使用出力を見極め、白金の指輪に魔力を集中。2言、3言加えながら、小さな球体を創造する。圧縮と開放を繰り返し、凝縮されて行く破魔の蒼光。
「聖なるかな、万軍の神なる主。圧縮開放……サンクトゥス」
 不浄のみを祓う聖光。人差し指程度までに圧縮された球体。その封印を解く。一瞬にして開放された破邪の蒼光が、災魔の幽霊のみを青の灼光が飲み込み、存在を抹消する。断末魔の悲鳴を上げる悲鳴すら無く。次に目を開けば、周囲一帯に、蒼白のオドが舞う。
「残存戦力の掃討も時間の問題でしょう。シーザーの元に向かいます」

●花に影縫い、焔に一蓮、蜘蛛の糸
 魔導列車が建造物を突き破り、3人の隠れ進んでいた裏小路に突っ込んでくる。 零は二人に声を掛けながら、霊力瘴壁を瞬時に多重展開。勢いが粗方死んでいるならば、事足りるだろう。
 残る二人は上空への離脱を図る。打ち合わせ通り、澪が風月を抱え、白翼をはためかせ、飛んで来る瓦礫を、障壁を張り巡らせて対処し、手近な瓦礫の山上に着陸する。
 事故など意に介さず、幽霊の災魔が、手近に居た零を襲撃する。動きの鈍い大型災魔の幽霊の挙動を予測しながら、機敏に攻撃を躱し、懐に入り、短剣の長さで顕現したθを急所に突き立てる。幽霊と言えども、痛覚が有ったならば、怯む場所は同じだ。掻い潜っては目を潰し、指を削ぐ。間に合わなければ即座に障壁を作り出す。小さな身体と、たった一つ、武器の特性を利用して、零は効率的に戦力低下を実行する。
 纏わり付いていた流砂が、蛇のように災魔の足を取るのも手伝って、思った以上にスムーズに事が運ぶ。
「……今はこの刃を振るうのみです!」
 彼の魔王と相まみえた事は無い。されど、彼女と此方が噛み合う道理は無い。腰を落とし、距離を詰めた風月が、青鞘から剣閃を残す度、災魔の身体が光と消える。抜けば変幻、仕舞えば無形、敵の動きを見切り、後の先気味の一閃が、霊魂を浄化する。程なく、やや上方からの支援砲撃、身代わりの証である聖痕を翳しながら澪が歌う様に詠唱を紡ぐ。
 楽園に種を撒こう。光が芽吹いて花となろう。寄る辺を無くした者の寄り添う。主よ、憐れみ賜え、救い給え、守り賜え。
「楽園に春は来たりて」
「影無き真昼は無きと知れ」
 隣の風月と一瞬視線を交わし、地上に向けて放たれる破魔の花園、花弁一片すら霊魂に害を為す。逃れようとした災魔を、風月の影を狙った黒塗りの短刀が、動きを縫い止め、拘束する。それすら逃れた災魔には、零が足に短刀を突き立て、縫い止める。広範囲に及ぶ浄化の花園が、湧き出る災魔を容赦無く浄化していく。
 漸く本領と二人の元に合流し、瓦礫に手を当て、動作の止まった敵群に、十字墓石を突き立てる。かち上げられた場所に澪の楽園が降り注ぎ、領域を拡大していく。周囲一帯が満たされた所で、澪がもう一度視線を投げ掛けた。
「僕が破魔しか使えないと思った? 残念でした! 囓られた知恵の実と蛇の啓示。狂おしい程の熱情で、楽園を焼こう。Pousser la limite!」
 体内に封じられた魔力の器を開放する。体内で渦巻く魔力の奔流を制御、聖痕を通し、発生する花園を、炎に変換し、花弁を焼き尽くす。清浄の楽園が消え、反転した焦熱の地獄が顔を出す。
「今だよ零さん!」
「ふふ、死霊とは使うものではなく協力し合うものです。さぁ、増える増える恨みの花。僕のお友達と、一緒に遊びましょう」
 有る山奥の谷深くのお話です。そこには世を儚んで死んだもの、殺され捨てられたものが寄り合った、骸の蓮が咲くそうです。そうして、新たな骸を待つのだそうで。
 語る言葉に、蓮の姿をした巨大な肉塊が、腕を広げながら宙を舞う。引きずり込む様に炎上する災魔の蒸気機関を掴むと、ぼとりと腕が落ちる。地に沈み、黒々とした呪詛が染み込み、新たな蓮の肉塊が増殖する。自壊しながら進む度に、周囲を亡者の蓮が埋め尽くす。零はその内の一枚に飛び移りながら、短剣を災魔に振るう。合わせて風月が斬り込むと、それが周囲一帯に残った、最後の個体だった。

●事態は進む
「君の居場所を見付けるのは、そう難しい事では無かったね。レディ」
「正面から堂々とおいでになるなんて、素敵な方ですね。ダンスに誘って下さるのかしら?」
 魔導列車の操作に専念していたレディが、その声に振り向きながら、ゆっくりと歩み寄り、乳房の下の口を開く。長身のシーザーよりも巨体名身体は、丁度シーザーを頭から丸呑み出来る位置だ。高速で迫る鋭利な牙を、落ち着き払って光剣を出現させ、一閃。オドで形成された深紅の衝撃波が、レディの巨体を交代させた。
「父の無念を果たす。美しいアリアだ。親子二代の悲劇の舞台を、最前列で踊ると言うのは役者冥利に尽きるね」
「いいえ、その様な喜劇になる予定はありませんわ。物語の結末はハッピーエンドと、相場が決まっていますもの」
「やる気があるようで何よりだ。さあ、暫しの間、楽しませて貰おうか」
 微笑みを崩さぬレディに、シーザーは紅色のオドを纏い、二振りの光剣を両掌に作り出す。無手のレディが、気筒から蒸気を吹き上げ、巨体と、見目に似合わぬ速度で踏み込み、躍り掛かる。一の手は豪腕による、正面から押し潰すような拳打、これを捉え、側面に入り込みながら両断を試みると、力が乗り切る前に勘良く腕を引く。すぐさま振り向き、はしたないとぼやきながら、前蹴りでシーザーを追撃する。
 これには感心したように声を漏らしながらも、攻撃を避けながら、伸び切った足を切り落とそうと入り込めば、大きく口を開き、丸呑みにしようとする。
「大魔王の娘と言うだけあって、スペックは高いね」
「お褒めに預かり光栄ですわ」
「ダンスの誘いには満足して頂けたかな。レディ」
「いいえ、全く。この演目はあなたが死ぬまで。わたくしが父様の無念を晴らすまで、満足することはありません」
「おう、その無念ってのが、魔王の仇ってえなら、おれのことだ。向ける相手が間違ってるぜ。観客席も飽きてきた。そろそろ、舞台に上がらせて貰うぜ」

●逃亡劇
 レディ・ハンプティがシーザーに気を取られている間に、魔導列車は一時制御が緩み、猟兵の介入を許し、思惑通りに事を運ばせた事を、彼女は感知出来なかった。暫く後に魔導列車5本は纏めて制圧され、残った猟兵達はレディ・ハンプティに焦点を絞っていく。
「あなたが、わたくしのお父様の仇だと言うのですか……?」
「おう、そうだ。何度も相手取って、やった。こっちだって戦争だ。命賭けてたんだからよ。恨みっこ無しだと思わねえか?」
 悪人のように方唇を釣り上げて、レディ・ハンプティの注意を自身に向ける。背に見える蒸気機関が甲高い音と共に、順に煙を噴き上げて、身体を震わせた。吹き出した煙が管を巻き、レディの身体を覆っていく。黄金色の鍵盤が影色の衣服を取り巻いて、レディが指を滑らせると、無言で津雲を超高速で、口で丸呑みしようと、襲撃する。壁を背にしていた津雲を襲うには、側面からが有効だが、思考が飛んだレディは正面からの襲撃を選択。予め予想していた津雲が、少し早めに側面に飛ぶ。噛み砕かれた建築物の破片が飛び散り、身体を擦るも、通路を辿り、背を見せて距離を取る。
「あんたにとって、そんなに許せない事だったとは思わなかったぜ。残念だな、まだおれは無事だ。演目の幕引きは遠そうだな」
 黄金色の鍵盤をかき鳴らし、蒸気機関が雄叫びを上げて、津雲を極めて直線的に追走する。大通りから裏小路まで、彼女の協力もあって地図製作は万全、ルートに全く陰りは無い。縋られ、四肢を捥がれそうになった一撃を、仕込んだ符による3点結界で阻み、背を向け、肩を喘がせて逃げる。次第に道筋が複雑になっていき、最後には行き止まり、逃げ場を無くし、津雲は腰を抜かした様にへたり込む。
「鬼ごっこは、もう、お終いですわ」
「……ああ、そうだな。終いだ」
 覚悟を決めたように目を閉じる。それが合図だ。更に後方の高層建築の屋上から、召喚した二足歩行戦車、後鬼が静かに主砲を励起する。媒介に借りた玄武の力を増幅し、主の合図と共に砲塔内で収束し、凝縮された冷気を、射出する。冷気を纏う白亜の光帯が、蒸気雲の下に伸びて、レディ、ハンプティの蒸気機関を打ち貫く。気筒が塞がり、内部に結露を起こし、冷却された心臓部は、最早、エネルギーの生成工程を復元出来ず、完全に停止した。裏小路の中でも少々広めのこの場所は、後鬼が降り立つのにも不足無く。手筈通りに、上からレディ・ハンプティに負けじとの重量鉄騎が津雲の傍に降って来る。故郷に似た世界に、かつて協力していた存在の娘との対面に、後鬼は二つ頭を振り、津雲に玄武を渡した。
「そうか、お前さんにとっちゃ、ちょいと複雑かもな」
 予め仕掛けていた多重法陣の中心部を、錫杖で突く。封をされた術式が、波紋のように解かれ、周囲に広がっていく。
「氷帝招来、破……っ!」
 周囲を絶対零度の氷気が覆う。周囲の物体を例外無く凍結させ、白亜の凍土と化しながら、氷刃が更なる冷気を周囲に振り撒いていく。生者の居らぬ絶対凍土。氷雪の世界が、熱と蒸気を追いやり、顕現する。その世界で、レディ・ハンプティは身体の大半の熱を奪われながら、ゆっくりと体内に残った内燃機関で、熱を孕ませる。

●自由にならねど
「論証付与……此の礫は雨垂のごと、待たず。麗しくも哀しき猟書家よ。貴殿の思い通りにはさせるまい」
 後鬼が送った合図、途中、伝えられた所定位置、レディ・ハンプティへの猟兵の追撃は間断なく行われていく。レディが抱く蒸気獣による悪しき企ては、ジズが敵意を持つのに相応しい。圧縮された礫の雨がレディ・ハンプティの身体を容赦なく打ち付け、釘付けにする。
「貴方は、此処で討滅するわ」
 釘付けにされたレディ・ハンプティは、出力を奪われた状態ですら、ゆかりの行動よりも早く、距離を詰める彼女に反応し、乳房の下の口を開く。
「オン ウーン ソワカ。四方の諸仏に請い願い奉る。其の御慈悲大慈悲を以ちて、此の時此の場に御身の救いの御手を遣わしめ給え!」
 踏み込みと同時に52の霊符をばら撒き、収納されていた一対の籠手型式神を呼び出し、開かれた口に殴り込み、迎え撃つ。自身はその間に印を切り、甲冑纏う守護善神を呼び出す。抵抗する口の出力は凍結で随分と弱っており、鎧装豪腕が上下の顎関節を徐々に徐々に外して行く。最後に小気味の良い音と共に、顎が外れる音がした。
「好機は逃しません……貴方の首を刎ねます」
 ゆかりが目標達成と共に飛び退くと、夏介の赤目が妖光を宿す。味方の行動を見切り、絶好のタイミングで距離を詰め、ゆかりの影から、敵の首に至近から小刀を投げ付ける。強い覚悟に呼応して、放たれた小刀が赤い光輝を宿す。首元を刺し貫いた小刀に、レディの身体から体液が流れ落ち、気を取られた所で、金剛神の独鈷書が突き立ち、腹に穴を開けられる。
「女王は言った。首を刎ねよと。さあ」
 ぐらりと前のめりになったレディに、切っ先の無い赤の刀身が振り下ろされる。断頭台に立たされた囚人の首が、薔薇の花弁を散らす。
「……サヨナラの時間です」
 切り落とした首無しの猟書家が、尚も四肢を動かし、尚も猟兵に襲い掛かる。
「予知された時点で、見果てぬ夢だったからね」
「レディ・ハンプティに挑むには、少々、遅かったでしょうか?」
「悔やむ必要は無いよ。ステラ。合わせたまえ」
 光剣を深紅のオドが俄に彩る。出力を失い、首を落とされ、腹に穴を開けられた状況でも、彼女は尚、高い戦闘能力を残している。
「仰せのままに。それでは一手、お付き合い頂きますよ、レディ」
 蒼光を宿す光剣を圧縮、魔力の密度を高めながら、細剣に形状を変化させ、ステラが低く中段に構える。主の気紛れに合わせるように、短く呼気を吐き、次にはその姿が消え、レディ・ハンプティの片足を神速の弾丸が食い千切り、機動力を奪い去る。折り返し、宙空から腕を貫くと、振り向く前に、紅のオドがレディを跡形も残さず斬断する。
「経験不足だ、骸の海で、父と再会出来ると良いね」

●終幕
 ジズはもう暫く、郷愁に囚われた様に、半壊したこの街を歩く。抱いた不思議な感覚をゆっくり味わっている様にも見える。
 ゆかりは疲弊した身体で、すぐに返されるのも億劫だと、アヤメを呼び出して暫く、身体を休めるように共に過ごした。
 夏介は感慨無く、暫く皆の様子を観察した後、何時の間にか姿を消した。
 津雲は後鬼に、レディ・ハンプティとこの場所について、少々突っ込んで話してみる。解答は郷愁と、少しの苦味だった。
 シーザーとステラは黄金都市を少々の間見て回る。アルダワとの差異と、この都市の材質が気になったようだ。
 零、風月、澪の3人は、澪が魔法の反動で寝付いてしまったのを見て、良い寝床を確保したあと、目が覚める迄、待つ事にした。
 こうして、迷宮災厄戦の一幕は、ゆっくりと幕を下ろす。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2020年08月17日


挿絵イラスト