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どこか別の世界を思い起こさせる蒸気の国にて、異形の女が空を見上げていた。
大きな音を立てて走り回る魔導列車。忙しなく稼働し続ける蒸気建築。けれどこの景色には大切なものが足りない。彼女にとって大切な存在はここにない。
「ああ、父様。あなたの無念、このわたくしが果たします」
女が思うは既に亡き父。勇者と猟兵に討ち取られた愛しき魔王。
けれど大丈夫。あなたの想いはわたくしが受け継ぎます。
「この『蒸気獣の悦び』で父様の災魔を蒸気獣へ変えましょう。アルダワで大事故を起こし、わたくしでも災魔を産めるようにいたしましょう」
そうすればきっと父様の無念も晴らせます。
豪華な装丁がされた侵略蔵書を片手に女は笑う。
「どうか、見守っていてくださいね、アウルム・アンティーカ父様……!」
激しく噴き上がる蒸気の中でもその女――『レディ・ハンプティ』の言葉は、はっきりと国の中へ響き渡っていた。
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「集合お疲れ様。いよいよ猟書家との戦いも本格化してきたね。今回はその一人、『レディ・ハンプティ』の討伐に向かってもらいたい」
集まった猟兵達の姿を確認し、レン・デイドリーム(白昼夢の影法師・f13030)は言葉を紡ぎだす。
「彼女はアルダワ魔法学園の西方に位置する諸王国連合を狙っている。レディ・ハンプティはアルダワの要になる都市で、魔王の遺した災魔を使って大暴れしようと企んでいるみたいだね」
『レディ・ハンプティ』はアルダワ魔法学園のファースト・ダンジョンに封じられていた大魔王の関係者であり、彼の遺産とオウガ・オリジンの力を使って新たな災魔の王となろうとしているようだ。
「彼女がいるのはアルダワみたいな不思議の国だね。魔導列車や蒸気建築が存在する大都市みたいな場所だよ」
そう話しつつ、レンは現地とレディ・ハンプティに関する資料を配っていく。
「『レディ・ハンプティ』はこれまでの強敵同様、戦いが始まれば確実に皆より先に動くよ。その対策はできるだけ講じて欲しい」
幸いなことに敵が使用するユーベルコードは判明している。
彼女の戦法は『乳房の下の口による至近距離からの噛み付きと丸呑み』『肩の蒸気機関を使用した変身と自己強化』『侵略蔵書による災魔と魔導列車の召喚』の3つ。
自分の取る戦法に合わせて対策していけばいいだろう。
一通り説明を終え、レンは猟兵達の顔を見る。
「ここまで来れた皆なら大丈夫。大魔王と同じく彼女のこともきっと倒せるよ。良い報せが来るのを待っているから……気をつけて行ってきてね」
言葉の終わりと同時に、戦いへ向かうゲートが開いた。
ささかまかまだ
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プレイングボーナスの条件は「敵の先制攻撃ユーベルコードに対処する」です。
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こんにちは、ささかまかまだです。
猟書家戦です。がんばりましょう。
シナリオの難易度が【やや難】となっているのでご注意下さい。
また、敵は猟兵が使用するユーベルコードと同じ能力値(POW、SPD、WIZ)のユーベルコードを、猟兵より先に使用してきます。
これにどう対応し、どう反撃するかを工夫する事でプレイングボーナスとなります。頑張って狙ってみて下さい。
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オープニングが出た時点でプレイングを受付開始します。断章の追加はありません。
シナリオの進行状況などに関しては戦争の詳細ページ、マスターページ等も適宜確認していただければと思います。
それでは今回もよろしくお願いいたします。
第1章 ボス戦
『猟書家『レディ・ハンプティ』』
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POW : 乳房の下の口で喰らう
【乳房の下の口での噛みつきと丸呑み】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD : アンティーカ・フォーマル
【肩の蒸気機関から吹き出す蒸気を纏う】事で【武装楽団形態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : 侵略蔵書「蒸気獣の悦び」
【黄金色の蒸気機関】で武装した【災魔】の幽霊をレベル×5体乗せた【魔導列車】を召喚する。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
地籠・陵也
【アドリブ連携歓迎】
親の無念を晴らしたいという気持ちは……わからないでもない。
だが、だからといって関係ない人たちを巻き込むことを許すわけにはいかないんだ!
相手が召喚の術を使って数を増やすならこちらもそうするまでだ。
【オーラ防御】【武器受け】【拠点防御】【激痛耐性】で相手の攻撃を凌ぎながら【指定UC】で光の騎士たちを召喚、彼らと共に【浄化】【破魔】で災魔の力を弱らせる。
そして【高速詠唱】【全力魔法】【属性攻撃(光)】で敵の召喚獣を攻撃、再起不能にしてから本人を同じ方法で叩く。
災厄をもたらす魔の力なら俺の浄化の力が役に立つハズ……人々に"不幸"を呼ぶ"穢れ"た蒸気は全部祓ってみせる!
ネーヴェ・ノアイユ
オリジン様のことも気がかりではありますが……。ですが……。平和となった世界へこの世界から新たに火種を持ち込もうとするあなた様の行動……。アリスの一人として見逃すわけにはいかないのです…。
レディ・ハンプティ様の召喚された列車……。そこに乗っている幽霊様の攻撃をリボンに魔力溜めしていた魔力を使用し……。全力魔法にて作り上げた氷壁でまずは受け止めます。
幽霊様の攻撃。レディ・ハンプティ様の攻撃を可能な限り受けながら見つつ……。氷壁をUC状態へと変化を。
私は……。このままUCにて味方猟兵様への攻撃を盾受けしながらかばうよう行動致しますね。
全てを守ると決めたこの意地……。貫き通させていただきます……!
蓮見・津奈子
見目はとても麗しい貴婦人様ですが…感じます、その悪意。
アルダワ魔法学園、私はまだ知らない世界ですが、そこに生きる人々に災いを撒かせはしません…!
肉鉤にての蒸気機関の破壊を狙いますが、その前にお口を以て喰らいつきにくるでしょう。
丸呑みとされては一たまりもありませんので、両腕と…可能ならば両足も使って、【怪力】でどうにかその口を食い止めます。
牙が手や足に刺さって凄く痛いでしょうけれど【激痛耐性】で何とか耐え、体内のメガリスの力を全開とし(【限界突破】)、ユーベルコード発動の機を待ちます。
機が巡り次第、発現・奇鬼怪力を発動。口腔を押し広げ、あわよくば引き裂きにかかりながら、周囲の地形へ叩き付けます。
メンカル・プルモーサ
【ワンダレイ】で参加。
うん、出身世界のオブリビオンで他に迷惑掛けたくないからな……打倒するとしよう…
…まずは……他の仲間達の邪魔にならないよう魔導列車を引きつけて対処するね…箒に乗って地形…建造物を掻い潜りながら魔導列車からの攻撃を回避…
…そして浄化復元術式【ハラエド】で幽霊を祓いつつ【尽きる事なき暴食の大火】で魔導列車を白い炎に喰わせるよ…
…あとはこの育ったら白い炎を…あそこで拘束されているハンプティにぶつけてしまおう…
…延焼設定をレディ・ハンプティのみに設定…これで巻き込むようにぶつけても仲間には影響を与えずハンプティのみを飲み込むからね…安心安心…それじゃ、暴食の大火に喰われろ…
木々水・サライ
協力:【ワンダレイ】 POW
俺では、せいぜい相手のUCを止めるのが精一杯だな。
ワンダレイのメンバーの攻撃が通るように、俺は【戦闘知識】をフル活用し、UC【黒の物真似人形(イミテーション・ブラックドール)】を起動する。
対象UCの弱点は・・・そうだな・・・。"30cm以上近づかなければ攻撃が通らない"ことだろう。
メンバーが距離範囲内に入る前に、俺はこのUCで相手のUCを180秒止める。
180秒の間にワンダレイメンバーの攻撃を当てれれば、きっと勝利へと近づけると思うんだ。
……流石にこんな炎の中を近づきすぎたら、俺も黒人形も爆発しちまう。
俺自身は遠くから【拷問具】でペチペチ叩いておくよ。
アルフレッド・モトロ
【ワンダレイ】の皆で参戦
やつの攻撃は近づかなけりゃ怖くない……が!
こちらの攻撃を当てるには近づく必要があるな!
メンカル(f08301)が列車を引き付けてくれてる間に
夜野(f05352)とサライ(f28416)が無事にUCを発動できるよう
【プロトステガ】の【盾受け】【かばう】等で防御だ
二人のUCが決まればあとはこっちもんだ!
このチャンス、無駄にはしたくない!
メンカルの大火と同時に
【力溜め】からの【捨て身の一撃】で溟神獄焔撃をぶち込みに行くぜ!
ちょっと危なそうだが
【火炎耐性】と【気合い】でなんとか耐えよう
さあ白い大火と溟獄の蒼炎!
2つの炎で【焼却】だ!!
(連携アドリブ歓迎!)
尾守・夜野
■ワンダレイ
船長(f03702)のみ船長呼び
他名前←側呼び捨て
「…口の位置…私じゃなくて俺なら多分見ただけで致死ダメージをおっていたのだわ」
私(女性人格)で行かせて貰うわ
噛む、飲むという動作なら口を閉じる必要がある
でも蛇のように胃袋まで招待されるのは御免だわ
口で止まれるように目にも止まらぬ早業でカウンターとして黒纏をヤマアラシのように刺々にして広げつっかえに
そして口の中に、身代わりの宝珠を投げ込み離れましょう
そうして適当な毒でも呷りましょうか
でも私にはなーんも被害はないの
だって優秀な身代わりさんがいるのだもの!
一応戦闘終了で抜ける程度には計算してるわよ?
…計算ミスがあるかもしれないけど
●
蒸気漂う不思議の国へと訪れた猟兵達。
彼らの姿を視認し、レディ・ハンプティは形の良い唇を微かに歪める。
「あなた達が猟兵――父様の仇でしょうね。ならばあなた達の死を父様へ捧げましょう」
次の瞬間、世界が揺れた。
その場に呼び出されたのは輝く魔導列車だ。悍ましい災魔どもを乗せた巨体はドス黒い色の煙を吐き出しながら猟兵達へと迫りくる。
どうやらハンプティと同時にこの列車を相手取らなければいけないようだ。
猟兵達は顔を見合わせ、それぞれがやるべき仕事に挑みに行く。
●
「列車の対処は私達、だ……。出身世界のオブリビオンで他に迷惑掛けたくないからな……打倒するとしよう……」
飛行式箒【リントブルム】の術式を起動しつつ列車を見遣るのはメンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)。
彼女の側では地籠・陵也(心壊無穢の白き竜・f27047)が敵をまっすぐに睨みつけている。
「親の無念を晴らしたいという気持ちは……わからないでもない。だが、だからといって関係ない人たちを巻き込むことを許すわけにはいかないんだ! 絶対に止めないと……!」
「私もあの方は放っておけません……。オリジン様のことも気がかりではありますが……この世界から新たに火種を持ち込もうとする行動……。アリスの一人として見逃すわけにはいかないのです……」
ネーヴェ・ノアイユ(冷たい魔法使い・f28873)も頷きつつ大きなリボンにそっと触れる。
ハンプティの目論見を阻止し、アルダワを守る。同じ気持ちが確かな勇気を与えてくれていた。
「地上は任せて大丈夫……? 幽霊はできるだけ私が引きつけるから……」
「任せてくれ、あの列車も幽霊も全部止めてみせるぜ」
「他の方が存分に戦うためにも……私達で頑張りましょう……」
三人は顔を見合わせ頷きあい、迫りくる列車へ身構える。
まずは初撃を凌がなくては。仲間たちを守るためにも、三人の猟兵は難敵へと挑んでいく。
メンカルが箒を用いて空へと発つと同時に、列車も更に速度を上げる。
溢れ出る災魔達も蒸気機関を起動しながら猟兵達の方へと飛び立ったようだ。
「相手がたくさんいるなら、こちらもたくさんの味方を用意するまでだ」
オーラの力で周囲を守る壁を生み出しつつ、陵也は自分の内側へと意識を向ける。
あの列車も災魔達も、そしてレディ・ハンプティも。俺が止めなければ誰が止めるのだ。俺はもう何も失いたくない、だから力を貸してくれ。
「――白精顕現・光騎招来!」
陵也の使命感を核に収縮された魔力は大気中の精機を集め、そこから光の騎士が姿を現す。
騎士はそれぞれの武器を手に災魔達の元へと駆け出し始めた。
彼らを援護するように陵也も浄化の光を生み出していく。
災厄を齎す魔が相手なら陵也はとても相性がいい。彼の浄化の力は人々を不幸に陥れる穢れを祓うもの。
そしてそれが俺の役割だから。
列車から降り立つ敵へと向け、陵也はひたすらに浄化の魔法を放っていく。
合わせるように動き回る騎士達も次々に災魔を斬り伏せているようだ。
「これで降りてきた災魔は止められる。そっちは任せて大丈夫か?」
「ええ、お任せ下さい……」
陵也の声に頷きつつ、ネーヴェはリボンを握りしめた。
内から溢れる魔力が彼女に力を与えていき、氷の魔力が周囲をゆっくりと凍らせていく。
「氷の盾よ、皆を守って……!」
氷は猟兵達を守るように展開され、災魔達の侵攻を押し止める。
けれどただの氷の壁では列車の突撃までは防ぎ切れないだろう。それを悟ったネーヴェは更に魔力を集め、意識を集中させた。
「メンカルさん、列車を広い場所へと引きつけていただけますか……?」
「うん、任せて……」
仲間達を守るべく、今度はメンカルが列車の前へと身体を晒す。
そしてすぐさまリントブルムに力を籠めて、メンカルの身体は大都市の中へと滑り込んでいった。
狭い路地を選択し、できるだけ追い詰められないよう気をつけて。列車を翻弄しつつメンカルは空を舞い続ける。
しかし敵は魔導列車だけではない。まだ乗り込んだままの災魔達が蒸気機関で作った銃器によりメンカルを撃ち落とそうと試みている様子。
「危ないな……悪い幽霊にはこう、だよ……」
幽霊相手には清めの魔術だ。浄化復元術式【ハラエド】を起動して、メンカルは幽霊達を迎え撃つ。
「貪欲なる炎よ、灯れ、喰らえ。汝は焦熱、汝は劫火。魔女が望むは灼熱をも焼く終なる焔――白い炎よ、焼き尽くせ」
尽きる事なき暴食の大火は全てを燃やし喰らう。
浄化の術が乗った炎は次々に災魔達を飲み込んで、更に勢いを増していく。
延焼設定もしっかりと忘れずに。燃やしてしまうのはオウガと災魔だけだ。
「あとは……あの列車だけだ……」
そろそろ仲間の準備も整っただろうか。メンカルは再び箒を手繰り、仲間の元へと戻っていく。
それに合わせて列車も戦場へと舞い戻るが――その進行方向には、たっぷりと魔力を溜めたネーヴェが立ち塞がっていた。
「風花舞いて……一つになれば全てを守る煌めきの盾」
ネーヴェのリボンに魔力が集まる度に氷の壁は更に大きく成長していく。
折り重なる雪結晶は周囲の蒸気機関の輝きを反射し美しく煌めく。鏡面のようなその盾はあらゆるものを受け止める絶対の盾だ。
「全てを守ると決めたこの意地……貫き通させていただきます……!」
ネーヴェが一際大きく力を籠めた瞬間、氷鏡と魔導列車がぶつかり合う!
凄まじい衝撃が更に世界を揺るがすが――氷の盾は無事だ。微かにヒビは入っているが、これでもまだ味方を守る事は出来る。
列車の方もかなりの速度で走行していたため、ぶつかった時の衝撃も相当なものだっただろう。暫くは足止め出来そうだ。
「これで列車は止められました……!」
「助かった! 災魔の数も減らせたぜ!」
「こっちの炎もたっぷり育った……次はレディ・ハンプティだね……」
猟兵達も互いの成果を確認し笑顔を向け合う。
けれど戦いはまだまだ続く。レディ・ハンプティもしっかりと倒していかなければ。
●
「これだけの猟兵を喰らえば父様もきっと喜んでくれますわ。ああ、乳房の下の口がわななきます……!」
レディ・ハンプティの方も猟兵達へと狙いを定め、胸元の口をガチガチと鳴らす。
あの危険な口に呑み込まれては一巻の終わりだろう。それを防ぐためにも、まずは彼女の攻撃に対処しなくては。
「やつの攻撃は近づかなけりゃ怖くない……が! こちらの攻撃を当てるには近づく必要があるな!」
的確に状況を判断し、アルフレッド・モトロ(蒼炎のスティング・レイ・f03702)が仲間達へと顔を向ける。
「俺達が敵にデカイ一撃を撃ち込むぞ。足止めは任せて大丈夫だな!」
「ああ、俺ではせいぜい相手を止めるのが精一杯だな。だから……こちらは任せろ。全力でかかる」
艦長の言葉に頷いたのは木々水・サライ(《白黒人形》[モノクローム・ドール]・f28416)だ。
彼の側にはサライによく似た複製義体が待機しており、作戦開始の時を静かに待っている。
「それにしてもあの口……私じゃなくて俺なら多分見ただけで致死ダメージをおっていたのだわ」
二人と共に作戦を確認しつつ、尾守・夜野(墓守・f05352)は目を丸くしていた。
レディ・ハンプティの姿は大迫力だが、それ以上に夜野の男性人格には刺激が強すぎるのだろう。
女性人格の方は苦笑いを浮かべつつ、着込んだ『黒纏』の襟を正していた。
猟兵達が作戦を整え終わる頃、とうとうレディ・ハンプティが動き出す。
彼女は胸の口を大きく開き、猟兵達を呑み込まんと駆け出してきたようだ。
そこですかさずサライが皆の前に立ち、複製義体と共に迫りくる敵を指差した。
「お前のその口『30cm以上近づかなければ攻撃が通らない』だろう。それがお前の弱点だ」
「ええ、ですがそれより早く接近しきればいいこと」
サライのユーベルコードは発動したが、それよりも早くレディ・ハンプティが一歩踏み込む。
今の指摘で威力は大幅に弱まった。けれど――ユーベルコードの撃ち合いならば先に動くのは猟書家の方だ。
ハンプティの口は未だ開かれ、とうとう猟兵達へと辿り着き、そして――。
「させません!」
突如、猟兵達とハンプティの間に小さな影が滑り込む。そこに立っていたのは小袖と袴を着込んだ女性だ。
彼女の名前は蓮見・津奈子(真世エムブリヲ・f29141)。レディ・ハンプティと戦うためにやってきた猟兵の一人だ。
津奈子は両腕でハンプティの胸元の口を押さえつけ、両足でその場に力強く留まっている。
身体に牙が食い込んではいるものの、サライのお陰で重傷は避けられているようだ。
「すまない、助かった」
「こちらこそありがとうございます。お陰で彼女を押さえつけられますから……!」
津奈子は更に体内のメガリスを活性化させ、己の力を高めていく。
彼女の指はまさに肉鈎。小柄な女性とは思えない力で化け物の口を更に開き、相手の体勢を少しずつ崩しているようだ。
更に時間が経ったことでサライのユーベルコードも効力を発揮しだす。彼の力に呼応するように複製義体も能力を高め、周囲に見えない力場を生み出していく。
二人の能力が重なり合えば次第にハンプティの口元からも力が抜けていく。
「あら、わたくしの口が……」
ハンプティの胸元の口がだらりと開いた事を確認し、今度は夜野が地を蹴り出す。
「その状態なら口は閉じられないわよね。もっと大きく開いてあげるわ」
黒纏をヤマアラシのような形状に変化させ、夜野は勢いよくハンプティの懐へと飛び込んだ。
そのまま針を相手の口へと突っ込んで、更に大きく開かせて。ここまでの攻撃で彼女はすぐに口を閉じることすら不可能だ。
「さあ、どうぞ?」
そこにするりと投げ込んだのは小さな宝珠だ。血のように赤い宝石部分が小さな棘を生み出して、するりとハンプティの体内へと落ちていく。
そのまま夜野は後方へと離脱し、今度は紅茶のカップを取り出した。
「このような戦いの場で紅茶だなんて……」
「ええ。あなたへのプレゼントよ」
夜野が笑顔でカップへと口をつければ――何故かハンプティの方に異変が起きた。
彼女の身体はビクリと跳ねて、真冬の空の下にいるように震えだす。
「なっ……一体何を……!?」
「ただの毒入り紅茶よ。でも私にはなーんも被害はないの。だって優秀な身代わりさんがいるのだもの!」
そう、夜野が飲ませていたのはただの宝珠ではなく『身代わりの宝珠』。自身の悪影響を他人に押し付ける特殊な道具だ。
これを使えば強力なオブリビオンだろうと毒で苛む事が出来る。おかげでレディの動きは更に弱まることだろう。
「今こそ好機、でしょうか」
「ああ。ここで完全に敵の動きを止めよう」
夜野の作戦成功を確認し、津奈子とサライは顔を見合わせた。
三人の活躍によりハンプティはかなり弱ってきている。ここであとひと押しすれば彼女の動きを完全に止める事が可能だろう。
「もう一度起動するぞ、『黒の物真似人形』」
サライの言葉に反応し、複製義体が稼働する。二人で拷問具を握りしめれば、目指すは弱った猟書家の元だ。
呼吸を合わせ、左右それぞれからロープを投げ込めば――ハンプティの四肢は一瞬で縛り付けられていく。
サライにより能力を封じられるだけでなく、完全に身体まで拘束されては抵抗のしようもない。
そこにすかさず津奈子が飛び込んだ。彼女に宿ったメガリスからは限界を超えるような力が溢れ、それが津奈子の両腕へと駆け巡る。
両腕を全力で伸ばしたのなら、まずはその半開きの大口へ。
「捕まえましたよ……」
発現・奇鬼怪力。津奈子の細く美しい肉鈎はしっかりと化け物の口腔を押し広げ、同時に厭な音が周囲に響き渡った。
これであの大口は使い物にならなくなるはずだ。更に津奈子はレディの身体を抱え、高く高く持ち上げていく。
「一体何を……!?」
「……お覚悟を」
トドメとばかりの猟書家の身体は冷たい地上へ叩きつけられ、同時に彼女の双肩で煌めいていた蒸気機関が大きくひしゃげる。
ここまでくれば、あとは決着をつけるだけだ。
●
「よし、皆のおかげで最大のチャンスが生まれたな。ありがとう!」
仲間達の活躍に安堵の息を零しつつ、アルフレッドが最後の仕上げに取り掛かる。
そのタイミングで列車と戦っていた三人も戻ってきたようだ。
「災魔の残党は残っていますし、列車もまだ完全に無力化は出来ていませんが……それでもレディ・ハンプティが再び動くまでは時間を稼ぎます」
更に氷の魔術を展開しつつ、ネーヴェが仲間の顔を見る。
彼女は言葉通りに氷の壁を張り続け、災魔や列車達の足止めをしてくれていた。おかげであとはハンプティだけに集中できるはずだ。
「こっちも準備オッケー……大火もたっぷり育ったからね……」
「ボスを叩くんだな。俺も魔力は残ってる、あいつを絶対に祓ってみせるぜ!」
メンカルと陵也も準備万端といった風に魔術の展開を続けている。一斉に合わせればかなりの威力になるはずだ。
「あの貴婦人からは……かなりの悪意を感じます」
津奈子もハンプティから距離を置き、仲間達と合流していく。
彼女の強靭な力は猟書家の武装を壊し、かなりの力を削いでくれていた。
「アルダワ魔法学園、私はまだ知らない世界ですが、そこに生きる人々に災いを撒かせはしません……! そのために私の力を使わせていただきました。彼女はもう十全に動けないはずです」
「俺達のユーベルコードもまだ効いている。拷問具の拘束も簡単には解けないだろう」
「私の毒だってまだ効いているわ。ちゃんと効果時間は計算したし……大丈夫、ちょうどいいタイミングで切れる……はずだから私は平気よ」
サライと夜野による搦め手も敵の隙を作るために必要不可欠だった。おかげでここまでのチャンスが生まれたのだから。
「それじゃあ……最後に一発、決めようか!」
アルフレッドも自分の内の地獄を滾らせ、身体から溟獄の蒼炎を発していく。
ここから放つのは捨て身の一撃。ここまで仲間が命をかけてくれたのだから、自分もそれに応えたい。
アルフレッドの想いに合わせ、蒼炎は蒸気の中でも一際大きく瞬いている。
「……それじゃ、暴食の大火に喰われろ……」
「俺の力も……全ての穢れを払い除けろ!」
そんな彼を守るべく、メンカルの白炎と陵也の生み出す光が周囲の障害物を薙ぎ払った。
輝く光は猟兵達の道を拓き、異世界を狙う悪を穿つ力に変わる。
アルフレッドはその中を突っ切って、一気にハンプティの元へと駆けていく。
「皆が作ってくれたチャンス、無駄にはしない。そして俺の中の"地獄"よ――全部焼却し尽くせ!!」
身体を内側から焦がし尽くさんばかりの溟獄の蒼炎が、仲間の生み出す光と合わさり全てを薙ぎ払っていく。
その一撃がハンプティの胴へと打ち込まれれば――あとは全てが燃えるだけだ。
「そんな、父様……!」
最後に天を仰ぎつつ、大魔王の後継者は灰へと変わる。
その時吹いた蒸気は今までのものより少しだけ爽やかに感じられた。
●
戦いが終わり、猟兵達は互いを労う。
それぞれが出来る事を考え、全力を尽くした上での勝利だ。
簡単には止められない金属の塊や多くの化け物を押し止めるのも。
強大な敵に知略や力で立ち向かい、仲間を助ける道を生み出すのも。
輝く光で悪を倒し、全てを払っていくのも。
どれも大切な役割で、皆がそれに必死で取り組んだからこれだけの成果が得られたのだ。
その力はオウガの王すら打ち倒す希望へと変わるはず。
猟兵達はまた、次の戦いへと向かっていくのだ。
大成功
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