迷宮災厄戦⑲〜黒翼のスニークプレビュー
●夕暮れ時の焼け焦げた森で
足音。気配が膨れ上がる様子。
空気の流れが変わった。
僅かに開いて閉じてを繰り返していた本をピタリと閉じて、猟書家は目を伏せた。
「――最も強い事に異論はありません。我らが"書架の王"を除けば、ですが」
モノクル越しの目に映るものはなんだろう。
「想像し肯定し、疑念の可能性を破棄する……"秘密結社スナーク"ならば可能でしょう」
実在しないものに狂気な物語を付けて、"ある"と定義する。
創作物でも"関係ない"。"ある"と肯定し、そうだと強く"定義"すれば……完全なる虚構でも信じる者にとっての真実に成り代わる。
「どうしてどうして、実在しないといえましょう。故に、スナークは実在するのでは?」
身の回り、それらがスナークではないと、なにを持って判断するものか。
「何を信じ、誰と戦うか……それと」
――同じことでしょう。
●ゆうとろどきの森の演説
「哲学的な男が、森を歩いているらしい」
フィッダ・ヨクセム(停ノ幼獣・f18408)が言うに、猟書家は、森を歩いているだけなのだ、という。
不思議と焼け焦げた跡があり、森というには半焼してから大分時間が経っている。
一体森を誰が燃やしたのか、なんて分かりきった戯れはノータッチと口を閉ざした。
「……猟兵が来るのを、薄々勘付いている奴だ。見れば分かるが、奴しかいない」
たった一人。サー・ジャバウォックだけがいる。
そう名乗る男だ、見るからに語りたがりの、落ち着いてた何者か。
「そう、だな……ヒトというよりは、ドラゴニアンに近いんじゃないか?まあ、どちらでもないかもしれないが」
見るからに強靭そうな尾が揺れて、片翼だけ出したままの翼が余計にそう思わせる。
そんな存在が、本を大事そうに持って、片手に剣を携えて散歩中。
「時間が経つのをただ待ッてる感じだ。戦況が動きに動いてから足を伸ばせばいいと思ッてるのかもな」
今のところはどこへ行く気もなく、ただ時間が経つのを待っているのである。
「なあ、邪魔してやろうぜ?……考えるだけ、暇そうだ」
呆れるような感想を漏らすグリモア猟兵が、それと、と会話を続ける。
「先にも仄めかしたがな、サー・ジャバウォックに気づかれずに攻撃、は無理だろう。てめェは初めましてこんにちはと挨拶ついでに奴の演説を聞かされる羽目になるのさ」
散歩の邪魔をする者に、男は容赦はしないだろう。
紳士的な態度ではあるが、宗教家に近い言葉で"秘密結社スナーク"の事を語る。
「……あ?本を持ッてるんだがな、その本の内容らしいぞ。姿かたちこそ誰にも見てとれないが確かに存在する秘密結社構成員であり、虚構でありながらも"真実"と語るだろう」
何を言っているのかと言われる前に、フィッダが示したのはただの白い紙だ。
「例えばだ。……この紙には何も書いてないが、突然"鋼より硬い"なんて言われたら、多少は真偽を疑うだろう? 要するに、男がするのは"自分が強いをイメージした通り、ただ信じて力を得るイメージ"ッつーやつでな」
議論する、対話するにはきっと乗ってくる。他者との会話が好きではない男が、不特定多数所属だろう"秘密結社スナーク"を操るのは理に適わない。
「やべェ奴には違いないが……なあ?アンタなら、どうするよ」
タテガミ
こんにちは、タテガミです。
この依頼は【一章で完結する】戦争系のシナリオです。
サー・ジャバウォックは先制攻撃します。いいですね?
背中に片翼と尾、竜な片手に本、片手に剣のフリースタイル紳士。
どうみても普通の紳士ではありません。
焼き払え、とか無慈悲に気軽に言えるタイプの方でしょう。
シナリオの舞台は、焼け焦げた森です。
上記を踏まえた上で、グリモア猟兵がこのシナリオ上でのギミックのようなものに関する事やプレイングボーナスになりそうなことを告げていると思いますので、よおくお読みいただけますと、幸いです。
場合により、全採用ができない場合があります。
ご留意いただけますと、幸いです。
第1章 ボス戦
『猟書家『サー・ジャバウォック』』
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POW : 侵略蔵書「秘密結社スナーク」
見えない【架空の怪物スナーク】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
SPD : ヴォーパル・ソード
【青白き斬竜剣ヴォーパル・ソード】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
WIZ : プロジェクト・ジャバウォック
【人間の『黒き悪意』を纏いし竜人形態】に変身し、武器「【ヴォーパル・ソード】」の威力増強と、【触れた者の五感を奪う黒翼】によるレベル×5km/hの飛翔能力を得る。
イラスト:カキシバ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
エヴァンジェリ・マクダウェル
事前情報を信じるなら先制攻撃への対処は「何もしない」で良いはず
やぁ、いい天気だな
少々焦げ臭いのが玉に瑕だが
そこにあってそこにないスナークとやら興味深いじゃないか是非ともスナークについて講釈いただけないかな?
雑談に興じつつ隠しもせずに攻撃の準備
ん?私は仕事をしているだけさ、そんな事より語り合おうじゃないか
あの物語が正しいならスナークは移動式の更衣室のような物を持ち歩く事もあるそうじゃないか?シュールすぎるな、面白すぎるな?是非とも見てみたいんだが!
演技でもなく雑談を楽しんだらうん、気付けば準備が出来ていた
少し離れたところから可能な限りでっかいサイコロ
投石器もどきで……ダイスロォォォル!とぶつける
●"ダイスロォオオオオオルル!!!"
さく、さくと草を踏む音がする。
ひとつ、音が重なった。来客に先に気がついたのは、老紳士だ。
「いい天気ですね」
エヴァンジェリ・マクダウェル(鍵を持つ者・f02663)はそう話しかけられた事で肩がビクッ、と跳ねた。
人に話しかけられたのは何日ぶりだったか……。
自分から赴いた場所では在るが、いざ誰かに話しかけられると心臓が飛び出すような気持ちになった。
「やぁ、いい天気だな」
――事前情報を信じるなら、だ。
――先制攻撃の対処は"何もしなくていい"のはず。
平和的に会話に応じ、老紳士から5人分くらいの距離をとって、なんとなく散歩に興じて歩く。
老紳士はその事に何も言わない。
むしろ一緒に散歩をしているのだから、誠におかしなこと、この上なかった。
「まぁ、少々焦げ臭いのが玉に瑕だが」
焼け焦げた木々の時間の経過がまだ浅い事が匂いでわかる。
エヴァンジェリもつい、その事を気にした。
「とても良い匂いとは確かに言えませんが……気にすることでしょうか」
「さあ?天気の話の次は感じたことを言ったまで。ところで、その本は……」
そこにあってそこにない内容が綴られた本。
ずばり、サー・ジャバウォックが大事そうに抱える本『秘密結社スナーク』。
「……秘密結社スナークにご興味がお有りですか?」
「興味深いと思う。是非とも"スナーク"について講釈いただけないかな?」
さく、さくと焦げた草を踏む音は全く変わらない。
「ここに在る事は証明です。信じることこそ力、信じることは疑う予知生む。疑えるということは"存在しないはずがない"という断定を殺すのです」
哲学的に語る口は、止まらなかった。
「ほうほう?」
雑談に興じつつ、実物をもした偽物を淡く"創造"しはじめるエヴァンジェリ。
形を強く主張しなければ、実物を模した偽物にもなりえない"なにか"でしかない。
「スナークはこの理論に準じて"あり得ない"と疑われてた時点で"存在する"も同じ。私は、そう定義し"あり得る可能性"を信じます」
定義がブレるときは"この定説を唱えるもの"の意志が変わった時。
散歩に興じる老紳士は信じるというのだから、この理論は簡単には崩せない。
「そういえば……"ジャバウォック"という名なんだったな。私もどこかで聞いたことが在る名称だ」
「……ほう?」
「"あの物語"が正しいなら、スナークという名称を聞いたことが在る気もする。スナークは移動式の更衣室のような物を持ち歩く事もあるそうじゃないか?」
――シュールすぎる。見えない何かが、そんなモノを持ち歩くなんて。
――全く信じられない。見えないのが残念すぎる!!
「面白すぎるな?是非とも見てみたいんだが!」
「……魅せるのは難しいですね。スナークは隠匿癖がありますので、可視化は特に。貴女は…………今何を?」
「ん?私は"仕事"をしているだけさ」
「そうなのですか?想像力が高いお仕事なのですね」
なにか意図しない目論見があるとジャバウォックは手っ取り早くヴォーパルソードを乱雑に振り回して地面を抉る。
言葉より早く、探る物理的な手段に打って出た。
隠し事がないかどうかとりあえず抉って確認すればいいだけだ――深々と巨大な爪痕が、ひとつ。
エヴァンジェリがすることが、どこかに設置された罠であるならこれで見つけられると踏んだのだろう。
二撃目、の爪が抉り取った場所にもなにもない。
「目に見えてるものしかないよ?私はそういう取引、"想像"してない」
「創造は想像から生まれるものですからね。考え方によっては、意図しないものもあるでしょう」
三度目の斬撃は、焼け焦げた木々を砕き、薙ぎ払ったが木が折れただけ。
木の向こう側に何もなく、摩訶不思議の造形物もない。
少女がなにかを信じ、何かがあると認識し、そこにあると思うものはさてどこか。
「"イメージ"は見えるものだけが全てじゃないよ。そこから突然生まれるハプニングまでが"創造"なのさ」
演技ではない狂気に染まった雑談を少し楽しんたエヴァンジェリは、ある"創造"を形作る事を思い浮かぶ。
此処がアリスラビリンスで、老紳士に出来ることならば――。
「だから答えはこうして……」
進行方向から逸れた、ジャバウォックが切り裂いた木々の更に向こう側。
ふつふつと、金属質が不可思議に泡立つ黒い何かが、投石機……砲台の主砲を此方向けて鎮座していた。
あんなもの、普通にはありえない"偽物"。あり得ない創造物。
「"ダイスロォオオル"!!」
指を一つ鳴らして叫ぶ、会話と全く関係ない宣言。
どぉおんと一つ砲台が吐いて飛ばしてきた"何か"。射出口よりはるかに大きい、最大サイズのサイコロが老紳士の上に降り注ぐ――。
「どうだ、驚いたか?」
「……肩に埃がついてしまいましたね。誠に変な方もいらっしゃるものです」
散歩中に出会った黒き白玉。驚いたかどうかの返答は、ただ服を正すだけ。
不思議で不思議の考察に付き合ったサー・ジャバウォックは散歩に戻っていった。
大成功
🔵🔵🔵
薄荷・千夜子
【雷花】
手強い敵ですが、勝機の糸掴むべく出せる手は全力で
多喜さん、守りはお任せを!
自身と多喜さんに結界術施しオーラ防御纏い守護の力に全力を
地形の利用で攻撃に合わせ罠使いで【仕込み火薬】を爆破、風圧と木々をジャバウォックに向けて吹き飛ばすことでダメージ軽減を図りながら扇形状の燎花炎刀で武器受け
ダメージは覚悟の上、激痛耐性で多喜さんが仕掛けてくださる間耐え切ってみせます!
お任せを、すでに策は打っています!
気付きました?火薬にも『毒を仕込んでいた』こと
風に乗り少しずつ、効いて痺れてきたでしょう?
早業で仕込み刀抜き毒を纏った刀で一閃
さて、この刀には何の毒が仕込まれているでしょうね?
数宮・多喜
【雷花】
ヤバっ!
『オーラ防御』を張りつつ、『衝撃波』をぶつけて剣筋を往なすしかねぇ!?
やっぱ「スナーク」の化身、「スナークそのもの」の
アンタにゃ気合入れて掛からねぇと!?
ん?「スナークは結社だ」って?
本当にそうかい?
じゃあ教えとくれよ。その書に記されてるって「スナーク」の真実を。
ほぼ何も書かれてないなら、「そんな少ない証拠ででっち上げられるものかよ」と一笑に付し、
事細かに書かれているなら、「そこまで把握している、つまりはアンタがスナークの首魁でスナークそのものだろ」
と突きつける。
そう、アタシが目論むのは『言いくるめ』て議論させ、
アタシに注意を『おびき寄せ』る事。
この隙に千夜子さん、やっちまえ!
●人を騙す者の魅力
靴音がいくつも。
紳士の散歩を阻む音がこの森に幾つも訪れていた事を、サー・ジャバウォックは気づいていた。隠れているような気配ならば、無視をしたものを。
「……乱暴な気配がしますね」
握ったヴォーパルソードを巨大化させて、気配のする方向へ無作為に振るう。
老紳士は話すような気配を感じなかったからか、突然攻撃を始めた。
まるで、――場所が分かっているかのようだった。
「ヤバッ!」
オーラ防御を、体の周囲に展開し、数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)は驚きのあまりに衝撃波を放ち、剣筋をいなすように努めた。
ぶつけられた障壁派で、一撃目は到達する前に外れた。
だが二度目、三度目が追撃してくる。
猟兵の場所が確実にばれているから、当然だ。
「多喜さん、守りはお任せを!」
薄荷・千夜子(陽花・f17474)は多喜と自分の周囲に僅かに炎属性の結界術を展開し、千夜子も重ねて、自身にオーラ防御を展開し二重に隔てた壁で、ジャバウォックの剣戟で貫かれるのをその場で耐えみせる。
膝をつかなければ、幾つも策は浮かぶもの。
「ほう?」
「……甘い!」
千夜子の発言の直後で、ジャバウォックの足場が突然爆発した。
何かを踏んだのだろうか。はたまたトラップか。
老紳士は落ち着いて後ろに飛び退いたが、凄まじい量の火薬が仕込まれていたために爆風で身体の言うが効かない。多々飛ばされる老人である。
衝撃は猟兵二人の元まで着たが、千夜子の燎花炎刀……その扇による風で爆風を軽減し、逆にジャバウォックへと向かう風を焚き付けた。木々はジャバウォックへ向けて倒れ、紳士のバランスを余計に崩してしまう。焼け焦げた木々であるがゆえに草はさほど無く、老紳士の腰に大ダメージは待ったなしだ。
二人の猟兵が――動きだす。
「やっぱ"スナーク"の化身、"スナークそのもの"のアンタにゃ気合入れて掛からねぇと!?」
老紳士が動き出す前に、多喜が飛び出した。
「……いや、スナークは結社ですよ、レディ?」
「本当にそうかい?」
多喜の言葉に老紳士は首僅かに傾げた。
「何が聞きたいのでしょうか。この老骨にも説明下さいますか?」
「じゃあ教えといてくれよ。その書に記されてるって"スナーク"の真実を」
「真実とは」
ゆっくりと立ち上がったジャバウォックは、もとの大きさに戻ったヴォーパルソードを僅かに携えて本を見た。
「書かれているものでしょうか。"スナーク"のことならば何でも書いてありますが、ソレ以外も勿論記載があります」
――事細かに書かれているってことかい?
「スナークにおいて私以上に知るものはなく、確かに存在するとしか言いようがありません」
なにしろ老紳士は"そう"定義した。
「そこまで把握している、つまりはアンタがスナークの首魁でスナークそのものだろ!」
――アタシが目論むモノは"言いくるめ"。
議論を持ちかければ、自ずとどの様な内容でもこの男は釣れたのではないか。
「そのもの、というのは……さて、どうでしょう」
そうかもしれないし、そうでないかもしれない。
確定の言葉を返さない紳士は、クククと喉を鳴らして笑った。
これで十分すぎるほどの時間が、"彼女"にできただろう。
――この隙に千夜子さん、やっちまえ!
「――まだ気づかないんですか?」
「……!!」
老紳士は、僅かに身体が動かないことを感じる。
漸く気がついた。異常事態だが、もう時既に遅し。
「何を、成されたのでしょう?」
「火薬にも"毒を仕込んでいた"だけのことです。始めから避けるべきでしたね」
すぅ、と扇から仕込み刀を抜く千夜子。
ジャバウォックが何かを喋ろうとしたが、口から出たのは言葉ではなく息だけだった。先程までと同じく語ろうとしたが、喉を焼かれたような痛みで、言葉が出なかったのだ。老紳士が身を捩り、モノクルがぽとりと落ちる瞬間までの僅かな時間。
毒を纏った刀の早業で、老紳士の身体を切り裂いた。
「――さて、この刀には、何の毒が仕込まれているんでしょうね?」
――なるほど。殺しに長けているのですね。
痺れる中で老紳士は、目を細めた。言いたげだった言葉は悟るしか無いが。
周囲に微かに香る匂いでも、誰の把握もできない毒物。
嗅ぎ過ぎては自分の身を滅ぼしかねない毒だ。
その異名を、"魔女の花"。花から茎、地中に埋まる根まで至る部分が毒物の植物。
植物の名はベラドンナ。
幻覚と、激しい猛毒がサー・ジャバウォックを襲うのだ――。
また別の、花言葉はそう、"男への死の贈り物"。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
アリソン・リンドベルイ
【WIZ 庭園守護する蜂軍団】
―――ええ、ええ。ごきげんよう、猟書家の紳士さん。
初手で攻撃されるのは不可避…として、まずはご挨拶を。可能ならば【礼儀作法、コミュ力、時間稼ぎ、おびき寄せ】で会話を試みます。・・・名乗らせていただきますね? ヒーローズアースにおけるアースクライシス…そのフォーティナイナーズの末席。アリソン・リンドベルイと申します。
【オーラ防御、覚悟、呪詛耐性、狂気耐性】で、一撃だけ致命の斬撃をこちらに引き寄せる事。私にできるのは、それだけです。……おいで、私の可愛い蜂たち…! 悪意を追尾する蜂の群れで、敵の動きを探知します。・・・悪意に対するレーダーになること、それだけに徹します
勘解由小路・津雲
そもそも「ジャバウォック」自体、本の中の本にしか出てこない、謎めいた存在。あんた自身が虚構の産物というわけか?
【作戦】
【氷術・絶対零度】を使用。問題はタイミング。
敵は一人だけ、ならば3回攻撃をしてくるだろう。それをどうしのぐか。
1回目は道具【式神】を放とう。まあ切り落とされるだろう。
2回目は【オーラ防御】+【結界術】で防ごう。まあ防ぎきれないだろう。
3回目は……打つ手がない。「この体」で喰らうことになるだろう。
「強いな、さすが猟書家筆頭。だが、あんたの虚構論には致命的な欠点がある。……もうしゃべる力がない。この鏡におれの説を映した、読んでみろ」
この体は仮初。話に興味を持ち、近づいてきたら。
木霊・ウタ
心情
想像し肯定し
そして創造するのは未来も同じだ
ないものをあるとして
ただ結果だけを詳らかにする者と
そこへ向かって歩み続ける者と
本当に強いのはどっちか
教えてやるぜ
スナーク
"ある"のか
なら簡単だ
体ごと剣を回転
同心円状に広がる炎を放つ
炎が怪物を捉え纏わりつく
その影も丸見えだ
戦闘
獄炎纏う焔摩天で薙ぎ払う
斬竜剣ごと砕く意で振う
悪意や黒翼は焼却浄化
炎の壁も展開して武器受け
受傷時は返り血の炎
もし五感奪われたら
未来を創る意志のままに焔刃一閃
そして裡なる炎が呪縛を灰にし回復
サー
積み重ねが強さを生む
観念論じゃないぜ?
それだけ時間を消費したってコト
だから虚構は
それに頼る者は脆く滅ぶのが理だ
事後
鎮魂曲
安らかに
●老紳士の散歩の行方
幾度かコホンと軽くむせこんで。
声の調子と歩く気力を取り戻した老紳士は散歩に戻る。
身に受けた傷、も毒物も。
決して影響がないとはいわないが、"無い"と定義すれば"存在しない"のである。
「またも私にご用事ですか?この様な場所までご苦労なことです。ごきげんよう」
サー・ジャバウォックは僅かに頭を下げて友好的な姿勢を見せた。
なにより、視線の先に小柄な影を見たから。
「――ええ、ええ。ごきげんよう。猟書家の紳士さん」
出会い頭に挨拶を持ちかけられて、アリソン・リンドベルイ(貪婪なる植物相・f21599)はそう答えた。
わずかに黒い悪意を背に纏い、闇の要素と取り入れた紳士は散歩の足を止め、ニコリと微笑んでみせる。ぼんやりと眠たそうな表情の少女へ、次に続けようとした様子を見て取って順番を譲ってきたのだ。
――まずは挨拶を。そう思ってたけれど……いいのでしょうか。
少しだけ悩むようにしたアリソンへ、ジャバウォックは意図が通じてないと察したようで、竜化していない手を、スッ、と上に。
「どうぞ、構わず続きを」
纏ったオーラ以外は、どこまでも紳士的な態度を崩さないようである。
「では名前を名乗らせていただきますね?」
浮遊しつつのアリソンも、礼節に気をつけて見た目相応の少女がするように、言の葉を乗せた。
「ヒーローズアースにおけるアースクライシス……そのフォーティナイナーズの末席。アリソン・リンドベルイと申します」
――おわかりですね?
アリソンがこうして猟書家の前で名乗るのは、この男が名を末席にでも残した者にも存在が知られていると悟らせる為だ。
ヒーローズアースにて行おうとしてる"悪意"の欠片。
それをアリスラビリンスから羽ばたかせてはいけない。
「レディ?時に貴女は想像を、創造として目の前に生じさせた事がおありでしょうか」
悪意の形は人それぞれ。
老紳士、サー・ジャバウォックの悪意はさてなんだろう。
本をおもむろに開き、ニヤリと笑った。
「人の黒い悪意とは、誰の目にも"見えないものです"」
本からギャーギャーと鳥のような声のような、不思議の音が飛び出した。
秘密結社スナークが、実体化したのにもかかわらず見えず、放たれたのだ。
「ここにスナークを喚ぶ私という道標があります。さて、どうしますか?私が"在る"限りスナークは消えません。私を殺しますか?何もしなければ命の保証は出来かねます」
「ならば此処にいる貴方が"悪意の塊"でしょう」
溢れ出た悪意で構成された秘密結社が何処にいるか判断できない。
だが、アリソンは感じたモノを頼りに手のひらサイズの巨大な蜂を喚んで応じる。
「……おいで、私の可愛い蜂たち……!」
ブゥウウウウウウウン。
アリソンの経験と同じ数の群れが放たれた見えない悪意の場所を音で捕獲する。
取り囲み、音を出し続けることで、此処だと主張する。
「見えない悪意を囲み、それからどうしますか?いつ何処で逃げ出すか、それを判断する術がありません」
自身をあえて標的として認識させているが、庭園守護する蜂軍団の間をすり抜けてスナークが溢れでてしまったら。
老紳士から追撃の刃がいつ飛ぶものか。緊張が疾走る――。
――創造を肯定し。形にする。
――そして、創造するのは"未来"も同じだ。
「ないものをあるとして、ただ結果だけを詳らかにする者が"サー"。――しかし、俺たちはそこ向かって歩み続けるものだ!」
木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)がアリソンより遥か遠くから走って、今追いついた。
「本当に強いのはどっちか教えてやるぜぇ!」
「……また客人が増えました、か。忙しないことですね」
「スナークは"在る"んだな?なら簡単だ」
ウタは体ごと剣を回転させて、同心円状に広がるように炎を放った。
喚ばれた蜂は何かを予感させるように忙しなく飛んでいるのだ。
攻撃を向ける、目標がないわけではない。
「"在る"なら攻撃対象、悪意の向ける先は俺達に決まってる!」
放たれた炎は、ウタの言葉と同時に見えない何かを轟々と燃やしだした。
燃えるものが在る以上、炎は威力を上げて、火力を上がる――聞こえないはずの悲鳴が上がる。
何もいないなのに、鶏肉が焼けるような匂いがする気がした。
「ほら見ろ影が丸見えだ。架空の怪物、此処に破れたり!」
「これは……」
触れた者の五感を奪う黒翼を広げ、本を燃やされるのを嫌がってか炎の波から脱出を試みたジャバウォック。
大きく広げた翼で、アリソンとウタに接敵する。
「実になってない。暴く必要のないものを全否定して全焼しても、"ない"ことにはならない」
老紳士よりも大きな翼、それが猟兵の間を抜けていく間に触れていく。
布が触れるように当たり障りなく。流れるように触れて、向き直る。二人の猟兵に闇と無が訪れた。
――悲鳴をあげようにも、敵を見つけられず傍に居たはずの蜂の姿が見えないです……!
アリソンが操る蜂の群れの感知能力が、迷宮に迷い込んだ。
「ですが……"五感"が無ければ感じようがないですね」
その手にあるヴォーパルソードを青白く発光させて、巨大化を試みる。
斬竜剣に力が溢れ、剣はみるみる巨大化して老紳士の背丈を軽く越えた。
それを悠々と竜そのもののような腕力で振り回し始める。
剣先は衝撃波となって飛ぶ。切り裂き壊し、今度こそは報復に打って出た。
「戯れを一つ。さてどうやって避けましょう?」
「……未来を創る意志のまま、だ!」
地炎を纏う焔摩天を信じ、音も感覚も何も感じない中でウタが虚空を切り刻む。
手応えを感じることはなかったが、体をズバッと突き刺されたのは……炎上して吹き出した返り血で、知った。
傷口から吹き出した鮮血は炎となって老紳士を燃やし、翼を焼却し、悪意諸共浄化を試みる。
「呪縛は自身の力で突破してこそなのさ」
"無くなってしまえば"悪意を認定しようがない。
光が、感覚が。二人の猟兵に戻ってきた。
老紳士はそれをみて、興味深いモノをみるようにニヤリと微笑みながら状況を楽しんでいる。
「面白い考え方ですね」
「いや……そもそもだ。"ジャバウォック"自体、本の中の本にしか出てこない、謎めいた存在だろ」
勘解由小路・津雲(明鏡止水の陰陽師・f07917)の声は、存在を認識したジャバウォックの斬撃で叩き伏せられて、簡単に切り裂かれる。
「あんた自身が虚構の産物というわけか?」
声の発生源は、津雲の遣う式神。
ぱらりと切り裂かれたソレが、老紳士の足元に落ちていた。
津雲は式神に術で声を乗せ、それで居場所を眩ませていたようである。
「的確な敵認定お見事。ただ正解ではあるが、外れだ。おれではない」
次の声の発生源は、また別の方向に。
まだ姿を老紳士に晒していない津雲を探し、二度目の剣戟が振るわれる。
「私自身が"虚構"。これはまた面白い事を言う御仁に出会ったものです」
「違うのか?」
「想像は貴方の思うままに。私の認識と異なるならば、"存在する"等しいのですから」
二撃めの剣先は津雲にのみ固定された。
老紳士と会話に望んだからにはターゲットが移る。
――使い所は見極めが肝心だ。
――まだ、この場ではない。此処はこの手で防がせて貰う。
「ではおれのあんたへの認識は"無"と心得ることだ」
剣戟が届くまでに、オーラを僅かに手元に集める。
結界術の行使にて、剣戟を防ぎ陰陽師は袖より"鏡"を現した。
「随分と硬い意志の示し方ですね。冗談の通じない方なのでしょうか。残念です」
――敵は一人だけ。味方などいない。
――複数の猟兵がいたとして、誰も味方であるはずがない。
津雲の考察。
――ならば"三度の攻撃"に興じるはず。
――届く範囲全てを壊し、全てを破壊する行動が……起こるのだろう。
容赦のない一度目の剣戟は、式神が受けたことで見た。
あれは壊し切り裂くためにとても特化している。
――一度目は式神が、二度目は今、一先ずの時を防いでいるが……。
どちらも防ぎきれていない。
それが津雲の自己判断だ。三回のうち、あと一回がまだ残されている。
「そうでもない。嘘も方便、という。虚構であろうが真実であろうが……そうであるかもしれない。だが、そうでないと断定することも、出来る」
――打つ手が、ない。
――三度目の構えから、既に剣戟が放たれている。では……。
「"私がいるのはあり得ない"。そうおっしゃるのですね?」
「さすが猟書家筆頭。だが、あんたの虚構論には致命的な欠点がある」
ズバァア。穢れなき儀礼服が派手に切り裂かれる。
ただの人であるならば、上と下、綺麗に別れていたかもしれない悪魔のような波動が津雲の体を通り抜けた。
「……もう、しゃべる力が、ない。この鏡におれの説を映した、読んでみろ」
こほ、と吐血。溢れる赤。
津雲の抱えた鏡が割れていない事を、老紳士は不思議と思わなかったのか、呼ばれるままに覗き込む――。
――この体は、仮初。
――話に乗ってきたとしても、存在を否定させて貰おう。
――もう十分に……近づいてくれたな。
鏡に映されていたのは、筆で書かれたような字のようなもの。揺れる"氷帝招来"。
予め、鏡は錫杖で軽く起動術式を施されていた。
目にした時点で発動する、冷気の乱舞は老紳士を激しく凍らせて、氷の刃が突き刺さる。竜の尾がその場に縫い止められて、身動きする事ができなくなった。
「……くっ!」
完全に、胡散臭い陰陽師に騙されたのだと、弁論の敗北を悟るジャバウォック。
老紳士の余裕がここに来て完全に崩壊した。
「なあ、サー?積み重ねが強さを生むんだよ。観念論じゃないぜ?」
ウタが握り込む焔摩天。
「それだけ俺らは時間を消費して、此処にいるってコト」
「……"強くないわけがない?"」
「そのとおりです。あなたが私を狙ってこないわけがない"のですから」
アリソンがサー・ジャバウォックの敵対意識を引きつけるような事を言う。
論じるのが好きな老紳士は……その言い方では、気を引かれてしまう。
「だから俺らは"虚構"だというんだぜ?それを頼る者は、脆く滅ぶのが理だ!」
凍りついて動かない者に、"毒"が漸く回りきった。
燃える焔摩天で、骨すらを砕くだろう一撃を、細やかな抵抗に振りざした斬竜剣ごと砕く。
押し込んで切り込んで、横薙ぎに振り抜いた――。
延焼に巻き込まれ、侵略蔵書『秘密結社スナーク』が徐々に燃えて欠片も合わせて全てが火の中に消えた。
ぐらり、と老紳士の上半身がズレる。
五感の繋がりが途切れ、指一つ、瞬き一つすることさえも老紳士から奪い取った。
自身の翼が猟兵にしたことを、全く同じに"やりかえされた"ともいえる。
「話し好きなとこ悪いけどな、老人なら若者に色々譲る時代が来てるんだぜ?」
胸に手を当てて、静かに口ずさむは鎮魂歌。
――どうぞ、安らかに。
消え去る老紳士が僅かに、微笑んだのはどういう意味があっただろう。
焼け焦げた森でただ、散歩していた紳士。
彼が暗躍しようとした世界を巻き込んだだろう"悪意"は――。
――これで、"無かった事に"なったのだ。
大成功
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