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それでも幼子は

#UDCアース #呪詛型UDC

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●若き天才に迫る脅威
 東京都内の某所に、腕の良い女性パティシエが居た。
 まだ二十代後半と若いが、本場フランスで十年近く修行したとあって、その技量は確かなものだ。その女性パティシエ──弓山香奈枝には四歳になる娘、美乃梨が居た。
 毎朝、幼い美乃梨を近くの保育園まで送り届け、勤務先の有名洋菓子店で目一杯働き、そして夜には母子ふたりで狭いながらも清潔で幸福感溢れる小さなアパートで、楽しく過ごす。
 ろくでなしの夫とは三年前に離婚し、女ひとりで美乃梨を育てている香奈枝だが、彼女は常に前向きで、いつも笑顔を絶やさない女性だった。
 そんなある日、香奈枝の勤める洋菓子店に見慣れない中年客が姿を見せた。

「弓山さんというパティシエさんが、いらっしゃるかね?」

 その中年客は、小出と名乗った。
 小出は香奈枝を呼び出すと、探偵事務所の所属を示す名刺を手渡し、香奈枝の前夫から香奈枝の居場所を探り当てるように依頼を受けたことを、妙に凄みのある低い声で打ち明けた。
 香奈枝の顔は、見る見るうちに青ざめていった。

「どうか……このことは、あのひとには内密に願えませんか?」
「そうですなぁ。まぁ、弓山さんのお考えひとつ、ですな」

 それだけいい残して、小出は洋菓子店を去っていった。

●邪神教団に繋がる道
 グリモアベースのブリーフィングルーム。
 アルディンツ・セバロス(ダンピールの死霊術士・f21934)は、三々五々と集まりつつある猟兵達を前にしてうろうろと左右に歩きながら、熱い紅茶をすすっていた。

「今回は邪神そのものは不在だけど、邪神を崇める集団が妙な動きを見せていてね」

 曰く、当然のように人間社会の中で一般生活を送っているが、どうやら邪神教団の為に良からぬ手段で日々、資金集めに勤しんでいるらしい。
 邪神ではないが、既にオブリビオンへと身を墜としている為、大きな災厄をもたらすことはないものの、矢張り討伐する必要がある。
 今回、セバロスは女性パティシエ弓山香奈枝の周辺に、その影を見た、という。

「既に敵は、弓山香奈枝さんと接触を取り始めているかも知れない。何とか彼女と接触し、邪神教団の出方を伺って欲しい。勿論、最終的には、件の教団を叩き潰すつもりでね」

 猟兵達は、今回の任務は案外簡単かも知れないと安堵の表情を見せたが、しかしセバロスの面は妙に厳しい。どうやら、一筋縄ではいかないと考えているようだった。


革酎
 こんにちは、革酎です。

 今回は強敵らしい強敵は現れませんが、弓山香奈枝と幼い娘の美乃梨に降りかかる災厄を通じて、如何にして邪神教団へと辿り着くかが鍵になるでしょう。
 途中、香奈枝と美乃梨には悲しい運命が容赦無く迫りますが、猟兵の任務は飽くまでも邪神教団の討伐ですので、強い気持ちで挑んで下さい。

 第一章では、香奈枝が勤務する洋菓子店に赴き、香奈枝と接触を取って下さい。
 第二章では、邪神教団の信徒がどこに潜んでいるのかを突き止めます。
 第三章では、邪神教団を率いる幹部の討伐です。
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第1章 日常 『ウィークエンド・シトロンを食べよう』

POW   :    優しい甘みを味わう

SPD   :    爽やかな酸味を味わう

WIZ   :    共に過ごす人とのひとときを味わう

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

故無・屍
…誰かに重ねてるわけじゃねェ、守るだのなんだのと正義を振りかざしたいわけでもねェ。
依頼を受けたから対象を斬る為に接触する、それだけだ。

――その筈なんだ。 そうじゃなきゃ、ならねェんだよ。
…そんな感傷を抱く資格なんざ、俺にあるわきゃねェだろうが。


演技の技能を用いて香奈枝に接触、
努めて友好的に見えるように。

このレモンケーキ、甘さと酸味が絶妙なバランスじゃあないですか。
きっとご店主の努力の賜物なんでしょう。
…あぁ失礼、こう見えて俺……私も少しばかり料理を嗜む者でして。

――ご店主、何やらお悩み事があるので?

接触の後はUC使用、暗殺技術を応用しての潜伏、
目立たない、情報収集の技能を使用し
店内の様子を伺う



 その洋菓子店には、イートインコーナーが併設されている。
 陽射しが強く眩しい、ある夏の日の午後。故無・屍(ロスト・エクウェス・f29031)は一般客を装って件の洋菓子店を訪れた。
 アイスコーヒーとレモンケーキを注文し、最も奥まった席に腰を下ろす。そこは店内をまとめて観察するには丁度良い場所だった。
「このレモンケーキ、甘さと酸味が絶妙なバランスじゃあないですか。食感もしっとりしているし、コーヒーだけでなく、紅茶にも合う味わい……実に素晴らしい」
 惜しみない賛辞を贈る屍に対し、応対に出た美しい女性パティシエが、はにかんだ笑みを浮かべ、柔らかな物腰で頭を下げた。
「これだけの品質を造り上げられたのもきっと、努力の賜物なんでしょう……あぁ失礼。こう見えて俺……私も少しばかり料理を嗜む者でして」
 屍は言葉を繋げながら、女性パティシエの胸元にちらりと視線を這わせた。その位置に掲げられたネームプレートには、弓山の文字が見えた。
 この女性が、邪神教団討滅の為の接触対象である弓山香奈枝であることは、ひと目で分かった。
「お気に入り頂ければ幸いです。どうぞごゆっくり……」
 とても子持ちのバツイチとは思えない程の輝く笑顔に、屍は心が浮足立ちそうになるのを必死に抑えた。
 相手は、任務遂行の為に接触する対象に過ぎない。感情の動きはご法度だ。
 それは屍自身にも、よく分かっていた。だが、事前に余計な情報を仕入れ過ぎていたのが、拙かったのかも知れない。
 香奈枝と、その幼い娘の美乃梨に対して、屍はある種の感情を危うく抱きそうになってしまった。そのことに対しても屍は、己を内心で叱責しなければならなかった。
 ともあれ、任務だ。屍は更に言葉を続けようとしたが、その時、汗だくのワイシャツが鬱陶しい中年男が店のエントランスに現れた。
 香奈枝は一瞬だけ、表情を曇らせた。その顔色の変化を屍は見逃さない。
「大変申し訳ございません。少し、失礼致します」
 屍に対して心底申し訳無さそうに頭を下げてから、香奈枝はそのワイシャツ中年男と共に店の裏側へと去っていってしまった。
 残された屍はトイレに行く風を装い、香奈枝と中年男の後を追った。
 洋菓子店裏側の狭い路地で、中年男は香奈枝にねっとりとした嫌らしい口調で何かを迫っている様子だった。屍は静かに耳を傾け、その中年──小出という男が香奈枝に何を突きつけているのかを探った。
(……金か。それも結構な額だな)
 小出は、香奈枝の別れた夫に現在の香奈枝の所在を報告しない代わりに、香奈枝が美乃梨の為に必死に貯蓄していた学資を全て巻き上げようとしている様子だった。
(あの小出という奴が邪神教団と何か繋がりがあれば、こっちも大手を振って手を出せるんだがな)
 まだ今少し、情報が足りない。小出には、仲間が居るかも知れないことを考えると、この洋菓子店での張り込みを続ける必要がありそうだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アウグスト・アルトナー
「ごちそうさまでした。美味しかったですね、ユーリ兄さん」
レモンケーキを食べ終え、正面の誰も座っていない席に声を掛けます

さて。香奈枝さんがお店の裏から戻ってきたら、声を掛けましょう
もし小出も一緒だったら、お金を渡しましょうか
「手を引いてください」
お金だけが目的の小物なら、これで良し
邪神教団関係者だったとしても、なんらかの動きはあるでしょう

香奈枝さんには、まずこう囁きます
「DV。酒乱。虐待。ストーカー」
これだけ並べれば、どれかには反応するでしょう
「お悩みですよね。……さぞ、お辛かったことでしょう」
【慰め】を述べます

「あなたも娘さんも、このままでは危険です」
「ぼくはその危険を除くために参りました」


アイ・リスパー
「わぁっ、洋菓子店ですか!
これは片っ端から食べ比べをして、どのケーキが一番美味しいか決定しないといけませんね!」(じゅるり

……はっ!
い、いえ、別に任務のことを忘れていたわけではないですからね!
ただ、電脳探偵として、一番美味しいケーキがどれかという命題を明らかにしなければならないだけなのです!

「というわけで、ここからここまで全部お願いします!」

あ、領収書お願いしますね。宛先はUDC組織で。

「さて、きちんとお仕事もしないといけませんね」

昼間は洋菓子店のイートインコーナーでケーキの全制覇を目指しつつ弓山香奈枝さんを見張ります。

夜は【スワンプマン】で分身を呼び出して見張らせておきましょう。



 洋菓子店のイートインコーナーは、この日もそれなりに盛況だった。
 今日は日曜日ということもあってか、親子連れで店を訪れている客の数も決して少なくなかった。そんな中でアウグスト・アルトナー(永久凍土・f23918)は、ふたり掛けの小さなテーブルに席を取り、レモンケーキに舌鼓を打ち、香りの良いアイスティーで喉を潤していた。
「ごちそうさまでした。美味しかったですね、ユーリ兄さん」
 フォークをソーサーに軽く置きながら、アウグストは正面の、誰も座っていない席に静かな声を流した。
 アウグストはしかし、ただお茶菓子を楽しみにきた訳ではない。彼の視線は、店内から姿を消したままの香奈枝をそれとなく追い求めていた。
 そのアウグストの視界の隅に、別の猟兵の姿があった。アイ・リスパー(電脳の天使・f07909)である。
 アイは壁際のカウンターテーブルに腰を下ろし、何枚もの空になったソーサーを重ねていた。回転寿司よろしく、制覇したケーキの皿を本日の戦果とばかりに積み上げているのである。
(お、美味しい……何て美味しいんでしょうッ! ここは電脳探偵として、一番美味しいケーキはどれなのかという命題を明らかにしなければ、帰ることは許されませんねッ!)
 アイは物凄い勢いで新たに一個のケーキを胃の腑に収め、その極上の甘味にしばし恍惚の悦びを得た。
 ちなみに、この洋菓子店のケーキはレギュラーオーダーで四十種類を超える。アイは、それらを全て平らげてみせようという妙な使命感に燃えていたのである。
 勿論、猟兵としての任務も忘れてはいないが、今この場に於いてはケーキ全制覇への強い思いが彼女の全身を支配していたといって良い。
 そんなアイの幸福感一杯の姿を、アウグストは苦笑混じりに眺めている。アイがあれ程に喜ぶのも、無理は無い。確かにこの店のケーキは美味いと、アウグスト自身心から認めていた。
 そのアウグストの視界で、気になる人影が姿を見せた。まだ幼い。せいぜい、幼稚園児ぐらいだろうか。Tシャツに短パンとまるで男の子のような格好だが、別の店員が、
「あら美乃梨ちゃん、いらっしゃい」
 と、声をかけているのを耳にした瞬間、その幼い少女が香奈枝の娘であることを瞬時に悟った。
 美乃梨はどこに座ろうかと店内を見渡しながら、ふらふらとイートインコーナー内を彷徨い歩いていたが、ふと何かに惹かれるように、アウグストの目の前で足を止めた。そのつぶらな瞳に、驚きの色が浮かぶ。
「おにーさんの髪って、凄く綺麗」
「ふふ……何だか照れますね。でも、ありがとうございます」
 柔らかな笑みを返しながら、アウグストは内心で少しこそばゆい感覚を覚えた。
 美乃梨の存在に、アイも当然ながら気がついてはいた。店員が新たに別のケーキをトレイに乗せてカウンターテーブルに近づいてきた時も、領収書はUDC組織宛てにお願いしますと大胆にいい放ちながら、その視線はちらちらと美乃梨の姿を捉えていた。
 と、そこへ香奈枝が店内に戻ってきた。裏口から調理場へと引き返してくる様子を、アウグストもアイも決して見逃さなかった。
(さて、きちんとお仕事もしないといけませんね)
 新しく運ばれて来たケーキをひと口頬張りつつも、アイは視線で香奈枝を追い続けた。が、驚いたことに香奈枝自身の方からイートインコーナーへと足を向けてきた。
 が、よくよく考えれば、娘の美乃梨が店に遊びに来ているのだから、それも当然の話だった。
「みのちゃん、ケーキ食べる? 何が良い?」
「えっと、あのおねーさんが今食べてるのが良い」
 美乃梨は丁度、アイが食しているブルーベリーチーズケーキを小さな手でぴっと指差した。アイはソーサーを手にしながらストゥールを回転させ、これですかと笑いながら軽く掲げてみせた。
「うん、それそれー」
 美乃梨は無邪気にテーブルの間を小走りで駆け抜け、アイの元へと位置を移した。
 この瞬間を逃すアウグストではなかった。彼は、幾分硬い表情のままで彼のテーブルの傍らに佇んでいる香奈枝に、他の客には聞こえぬ程度の声量に抑えて語りかけた。
「DV、酒乱、虐待、ストーカー」
 香奈枝は驚いた様子で、アウグストに面を向けた。対するアウグストは涼しい顔で、香奈枝の視線を真正面からじっと受け止める。
「お悩みですよね……さぞ、お辛かったことでしょう」
「失礼ですが、どちら様でしょう? 警察や役所の方ではなさそうですが……」
 香奈枝は不自然にならぬ様、飽くまでも接客を装い、丁寧な物腰でアウグストに向き直った。
「あなたも娘さんも、このままでは危険です。ぼくはその危険を除く為に参りました」
 まるで音が聞こえるかの様な勢いで、香奈枝はごくりと息を呑んだ。驚いているというよりも、信じられないといった反応だった。
「でも、だって……あのひとは余りにも恐ろし過ぎて、誰も助けてくれようとはしてくれなかったのに……」
「ぼくは相手がどんなに恐ろしくても、一向気にしない方なんです」
 アウグストはアイスティーの残りを飲み干す。その間も、彼の視線は香奈枝の驚きに満ちた美貌を捉えたままだ。信じて良いのかどうか──香奈枝の中で激しい葛藤が湧き起こっているのが目に見えて分かった。
 その時、アイが美乃梨を伴って香奈枝の傍らへと近づいてきた。
「美乃梨ちゃんっていうんですね。さぁ美乃梨ちゃん、お母さんに何が食べたいか、教えてあげましょう」
「うん。みのちゃん、このケーキが良いー」
 美乃梨はアイが手にしているソーサーをぴしっと指差した。
 その時、アイは美乃梨や他の客には見えない角度で、UDC組織の身分証をちらりと香奈枝に見せた。香奈枝には詳しいところまでは理解出来なかっただろうが、アイとアウグストが政府或いはそれに近しい何らかの機関の所属だということが、その一瞬で呑み込めたらしい。
 香奈枝は、意を決した表情を見せた。アウグストのテーブル上に置かれているアンケート用紙を手に取ると、その紙面上に一連の文字を綴った。
 そこには、湾岸無双と記されていた。
 アイは電脳空間で咄嗟に情報を検索し、湾岸無双とは一体何なのかをすぐに調べ上げ、アウグストにもそれとなく伝えた。
 この湾岸無双とは首都高湾岸線を根城にしているスピード狂のチーマーということで警察にマークされているが、その実態は一般市民を食い物にする暴力集団、所謂半グレと呼ばれる存在であるらしい。
 香奈枝は一瞬だけアウグストとアイに懇願するような視線を送ったが、次の瞬間には柔和な母親の顔に戻り、美乃梨の手を引いてショーケースへと歩き去っていった。
「次は湾岸無双ですね」
「小出とかいう探偵さんも、どうやら何らかの関わりを持っていそうです」
 アイの電脳検索結果の中には、湾岸無双の集合写真もヒットしていたが、その写真の中に小出の顔も写っていたのだという。
 スワンプマンを起動して洋菓子店に電脳分身の見張りを残しつつ、アイは残りのケーキを速攻で平らげ、店を飛び出した。
「さて……連中の狙いを突き止めますか」
 小出とは、夜の湾岸線で顔を突き合わせることになりそうだ──椅子から腰を浮かせながら、アウグストは軽い予感めいたものを覚えた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 冒険 『走り屋達の噂』

POW   :    直球で聞く。

SPD   :    レースで親睦を深める。

WIZ   :    お土産や色仕掛けで懐柔する。

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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

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 苦戦🔵🔴🔴
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 夜の首都高湾岸線を頭上に眺める、港湾区域の一角。
 蒸し暑い海風を浴びながら、何台もの改造車がコンクリートの埠頭を埋めるようにして、集まってきている。その中に、日中洋菓子店を訪れて香奈枝と接触した中年探偵の小出の姿があった。
「んで、香奈枝からはばっちり巻き上げてきたのか?」
「そりゃあもう……伊地知さんの名前を出したらすっかりビビッてね。スマホですぐに振り込み決済までさせましたよ」
 伊地知と呼ばれた若い男は、腹を抱えて笑い出した。
 だが、次の瞬間には表情を改め、小出と連れ立って岸壁方向へと歩き始める。
「教団は次に、何ていってきてる?」
「取れる奴からは徹底的に搾り取れ、という指示です。あんたの元奥さん、まだ持ってそうですかね?」
 小出に問われ、伊地知はふぅむと腕を組んだ。
 それからひと言ふた言、伊地知の耳元で何かを囁く。
「成程、そいつぁ良い。で、誰が実行するんです?」
「俺がやるさ」
 伊地知、即ち香奈枝の元夫は一台の改造車に乗り込むと、エンジンを噴かせて夜の首都高速へと駆けた。
アウグスト・アルトナー
首都高ですか
ぼく、運転はできないんですよね
飛行して、道路脇の照明灯の上にでも止まれば、安全でしょうか

見下ろして、行き交う車を観察します
湾岸無双はスピード狂……明らかな速度違反をしている車を探しましょう

見つけたら【嘘から出た実】で車の動きを止めます
「あの車、だんだんスピードが落ちて、非常駐車帯に止まって動かなくなるんですよね」

運転者に話を聞きましょう
「あなたは、湾岸無双の一員でしょうか」
「お金を集めているそうですね。どこに流しているのか、教えていただければ悪いようにはしません」
「でなければ、こうです」
拳銃『NIX-03MN』を【クイックドロウ】し、相手の額に押し付け【零距離射撃】の構えをとります



 首都高速湾岸線の道路脇に、規則正しい間隔で設置されている道路照明灯。
 そのうちのひとつの投光器カバー上にに、アウグスト・アルトナー(永久凍土・f23918)はぼんやりと路面を眺めながら、のんびりと腰かけていた。
 自動車の運転が出来ないアウグストは、道路照明灯上から路面を行き交うヘッドライトの数々を静かに観察し続け、目的の車を根気良く探し続けていた。
 程無くして、異様に速度を出しているスポーツカータイプの改造車が一台、他の車を押しのける様に我が物顔で走り抜けてゆくのが見えた。
「あの車……段々スピードが落ちて、そのうち非常駐車帯に停まって動かなくなるんですよね」
 アウグストの声は当然、件の改造車の運転手の耳には届いていない。だが不思議と、その車は次第に速度が衰えてゆき、アウグストが予言した通りに手近の非常駐車帯へと吸い込まれるように車体を寄せていった。
 車が完全に停止したのを見定めてから、アウグストは道路照明灯上から闇の中へと体躯を躍らせ、羽毛のような軽やかさで路面上に舞い降りた。
 アウグストが近づくと、運転席の若い男は呆けた表情でハンドルを握ったまま、何故自分はこんなところで停車したのだろうと自問しているように見えた。その運転席の窓を、アウグストがこんこんと軽くノックする。
 薄いガラスの壁がゆっくりと下降し、運転席の男とアウグストの間に会話の通り道が生まれた。
「あなたは湾岸無双の一員でしょうか?」
「な、何だよ……だったら、何だっていうんだ?」
 男の反抗的な態度に、アウグストは内心でやれやれと小さく肩を竦めた。簡単に口を割ってくれそうな雰囲気は欠片も無かった。
「あなた方はお金を集めているそうですね。どこに流しているのか教えて頂ければ、悪いようにはしません」
「あぁッ!? てめぇいきなり何訳分かんねぇことほざいてやがるんだッ!?」
 男は強い口調で吠えながらドアを押し開こうとしたが、叶わなかった。アウグストがいつの間にか手にしていた拳銃の銃口が、男の額に押し当てられていた。
 ごくりと喉を鳴らして、男は先程までの威勢が嘘のように泣きそうな顔を見せた。
「教えて頂けないなら、こうです」
 アウグストは空いた左手で一度握り拳を造って顔前に掲げ、すぐにぱっと開く仕草を造った。頭を銃弾で撃ち砕くぞというパフォーマンスだ。
 男は、二度三度、頷き返した。
 曰く、湾岸無双が集金活動を行っていることは確かだが、自分達下っ端は一切関わっておらず、全ては幹部連中と、小出という探偵もどきが何とかいう宗教団体と連携して行っているとのことだった。
 湾岸無双を取り仕切っているのは川本、大見、伊地知の三人で、今夜はいずれも、その宗教団体の本部へ立ち寄る予定らしい。
「その本部ってのがどこにあるのかは、俺も知らねぇ。詳しく知りたきゃ、川本さんか大見さんにでも聞いてくれ……」
 伊地知は用事があるとかいって、先に車をどこかへと走らせているのだという。伊地知がどこへ向かったのかも気になるが、川本と大見の両名はまだ湾岸無双の溜まり場である埠頭でのんびりしている頃だという。
「さて……どこから攻めたものでしょうか」
 アウグストは拳銃を懐に仕舞い込みながら、路面上を静かに歩き始めた。

成功 🔵​🔵​🔴​

故無・屍
…これ以上無駄な時間はかけられねェな。
『知ってる奴』に直接聞かせてもらうとするか。

直球で聞く方針を選択
UCの使用、及び目立たないの技能を使用し潜伏しつつ、
湾岸から小出が離れ孤立するタイミングを見て
人気のない場所に引き摺り込み後ろから首に刃を押し当てる。
ロングコートのフードを目深に被り、顔は見えないように。

声は出すんじゃねェぞ、それと指一本も動かすな。


アンタに聞きたいことがあってな。
何のこたぁ無ェ、懐に詰まってる『収穫』の話だ。
そいつは誰の指示で、どこに持ってこうって腹だ?
協力者がいるならそいつの名前と、今どこに居るかも吐け。

アンタの顔ももう覚えた。この場を凌ごうが逃げられると思うんじゃねェぞ。



 再び、埠頭の岸壁周辺。
 湾岸無双のメンバーが自慢の改造車を並べている一角には、体格の良い若い男が何箇所かに分かれて屯しているが、その中に、先程伊地知と別れた小出の姿もあった。
 小出は、湾岸無双を取り仕切る三人の幹部のうちのふたり──川本と大見の両名と、缶ビール片手に談笑していたが、誰かからの着信を受けると、胸ポケットからスマホを取り出しながら倉庫脇の陰へと歩いてゆく。
「あぁ伊地知さん……着いたんですね。どうです、取れそうですかね……そりゃ良かった。じゃあ朗報を待ってますよ」
 オンフックボタンを操作し、再び川本と大見の元へ戻ろうとした小出だが、不意に強い力で倉庫の外壁へと全身を叩きつけられた。
 長身の頑健な男が小出の首根っこを鷲掴みにし、小出の肉体前面を倉庫の外壁に、力任せに押し付けていたのである。小出は何とか視線を後方に向けようとしたが、相手の男はロングコートのフードを目深に被り、顔がよく見えなかった。
「大声は出すんじゃねぇぞ。それと指一本も動かすな」
 感情を押し殺したような声の中に、相手を黙らせる迫力があった。加えて、小出の首筋には冷たく、そしてちくりと軽い痛みのある感触が生じていた。刃物が押し当てられていることはすぐに分かった。
「アンタに訊きたいことがあってな」
 フードの男は、抑揚の無い声で低く囁いた。
「何のこたぁ無ぇ。懐に詰まってる収穫のことだ……いや、今どきは電子決済ってのが主流だから、アンタが管理している口座に流れた収穫、でも良いんだがね」
 この男は俺のことを──俺が何をしているのかを知っている。小出は口の中が急激に乾くのを感じた。
 更にフードの男は問いかける。小出の集金は誰の指示なのか。そして集めた金はどこへ流れるのか。
「きょ……教団だよ。俺も詳しくは知らないが、川本さんか大見さんかに聞けば、分かるんじゃないかな」
 それは、決して嘘ではなかった。
 湾岸無双が、とある邪神教団の集金組織であることは小出も知っているが、その詳細を握っているのは幹部の三人だけだった。湾岸無双の他の連中は、この事実をうっすらと知ってはいるものの、幹部の三人が恐ろしい為か、誰も異を唱えようとはしないらしい。
 小出が香奈枝から奪った金は一度、別の口座へばらばらに振り込まれ、所謂マネーロンダリングで綺麗な金へと洗浄される。その後、教団が管理している架空会社の口座へ振り込まれるという寸法らしい。
 その架空会社の口座に関しては、小出は何も知らなかった。
 直後、小出の背後から気配が消えた。小出を抑えつけていた男は一瞬にして姿を消した。
 だがどういう訳か、声だけは不気味な程にはっきりと聞こえてきた。
「アンタの顔も、もう覚えた。この場を凌ごうが、逃げられると思うんじゃねぇぞ」
 冗談じゃない、と小出は腹の内で地団太を踏んだ。
 こうなったら伊地知に相談して、自分も教団の仲間に加えて貰うしかないと腹を括った。

 小出を解放した故無・屍(ロスト・エクウェス・f29031)は、倉庫の陰から陰へと密かに移動しながら、奥歯を噛み締めていた。
 これ以上、無駄な時間をかけることは出来ない。
 何か、拙いことが起きようとしている。
 屍の直感が、そう囁きかけていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ハズキ・トーン(サポート)
「仮面って邪魔だよねぇ」
 仮面を付けているものの、しょっちゅう外します。仮面は帽子感覚。

丁寧な口調の割にはノリはよく、色々な事に興味を持ちます。

 ただ、攻撃する。という行為が驚くほど苦手な為、出来る限り回避すべく、別の事に意識を向けさせたりとのらりくらり躱しがち。
 戦闘時は野生の勘やら逃げ足やらを駆使して避けつつ、『生まれながらの光』で負傷者等の救助を優先とした行動が多め。
 
 回復する必要がなければ他UCも使用します。
 
 あとはおまかせします。


鯉澄・ふじ江(サポート)
怪奇ゾンビメイド、16歳女子
誰かのために働くのが生きがいの働き者な少女
コイバナ好き

自身が怪物寄りの存在なので
例えどんな相手でも対話を重んじ問答無用で退治はしない主義

のんびりした喋り方をするが
これはワンテンポ間をおいて冷静な判断をする為で
そうやって自身の怪物としての凶暴な衝動を抑えている
機嫌が悪くなると短文でボソボソ喋るようになる

ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し
自身の怪我は厭わず他者に積極的に協力します
また、例え依頼の成功のためでも
自身の矜持に反する行動はしません
 
何でもやります、サポート採用よろしくおねがいします!

(流血、損壊系のグロ描写やお色気系描写もOKです)


マヤ・ウェストウッド(サポート)
「近くで"眼玉"が落っこちてたら教えておくれよ。それ、アタシのだから」
◆口調
・一人称はアタシ、二人称はアンタ。いかなる場合でも軽口と冗談を欠かさない
◆癖・習性
・獣人特有の嗅覚で危機を察知できるが、犬耳に感情がそのまま現れる
・紅茶中毒
◆行動傾向
・普段はズボラでとぼけた言動や態度をとる三枚目ながら、ここ一番では秩序や慣習には関わらず自身の義侠心の赴くままに利他主義的な行動をとる(中立/善)
・戦場では常に最前線でラフな戦い方をとるが、戦いそのものは好まない。弱者を守る事に自分の存在意義を見出している
・解放軍仕込みの生存技術を活かし、役に立つならステージのギミックやNPCを味方につけて戦う



 鯉澄・ふじ江(縁の下の力任せ・f22461)の奇怪な姿は、今回ばかりは夜の闇に紛れていたのが幸いし、湾岸埠頭の倉庫街を呑気に徘徊していようとも、誰かに見咎められるということは一切無かった。
 だが、縫い目が目立つ面には渋い表情が浮かんでいる。湾岸無双のメンバー達が立ち話している様子に、陰からじっと耳を傾けていたのであるが、邪神教団に関する情報はとんと聞こえてこないのである。
 と、そこへ仮面を手にしたハズキ・トーン(キマイラの聖者・f04256)が、軽い足取りでふじ江の傍らへと歩を寄せてきた。こちらはそれなりに収穫があったのか、表情は決して暗くない。
「何かぁ、耳寄りな情報、ありましたぁ?」
「はい、勿論。教団名から所在地まで、ばっちりですとも」
 ハズキの中性的な容貌は、薄闇の中でも思わずはっと息を呑んでしまいそうになる程に美しい。
 これ程の美貌なのだから仮面で隠すのは勿体無いのでは思ったふじ江だが、当のハズキも仮面は常時装着している訳ではなく、割りと普通に、まるで帽子を脱ぐような軽い感覚で外すことが多いらしい。
「教団名は骸民衆というらしいんですけど、まぁ正直、名前なんてどうでも良いんですよね」
 妖艶に笑うハズキに、ふじ江は小首を傾げた。
 聞けば、崇めている邪神は余り聞いたことが無いような、極めてマイナーな代物らしい。教団の知名度も恐ろしく低い為、日々資金集めに奔走しているような体たらくらしい。
 湾岸無双の幹部である川本と大見の会話を盗み聞きしたのだから、情報としての精度は高いといって良い。実際のところ、川本も大見も資金を提供することで、自分達も骸民衆教団の幹部入りするのは、最早秒読み段階らしい。
「じゃぁ、ここでさくっとぉ、ぶちのめしちゃいますかぁ?」
「私はただ殴るというのは、余り得意ではありませんので……そのお役は、お譲りしましょう」
 だが、今の段階ではまだ川本も大見も邪神教団幹部に正式に認められた訳ではない為、オブリビオンに堕したとはいえない。このふたりを叩きのめすには、矢張りもう少し、様子を見る必要があるだろうか。
 どうしたものかと思案を巡らせていたふじ江とハズキだったが、その空気が一変した。
 マヤ・ウェストウッド(フューリアス・ヒーラー・f03710)が珍しく真剣な表情で姿を現した。何やら、緊迫した空気が伺える。
 一体何事かと、ふじ江とハズキは思わず顔を見合わせた。
「さっき出ていった伊地知って奴なんだけどね……どうやら、香奈枝んとこに行ったらしい」
 そのひと言を受けて、ふじ江とハズキは瞬間的に表情を引き締めた。小出からなけなしの貯金を巻き上げられた上に、伊地知などという凶悪な輩に迫られては、香奈枝は完全に追い詰められることになる。
 すぐにでも救援に向かう必要があるかも知れないのだが、残念ながら香奈枝の住所は猟兵の誰にも情報として公開されていなかった。
 マヤが調べたところでは、香奈枝は凶暴な夫から娘と共に身を隠す為、役所に依頼して秘密裏に引越しした上に、住居表示も第三者には公開しないよう頼み込んでいたらしい。
 だが、伊地知は教団の情報力か何かを駆使して、香奈枝の住所を調べ上げたらしい。或いは、小出の調査能力を利用したかも知れない。
 いずれにせよ、香奈枝と美乃梨の母子に危険が迫っていることは間違い無かった。
「ちょっと、他の猟兵にも連絡を取って香奈枝の住所を早急に調べることにするよ。アンタ達は、教団の所在地が本当に正しいか、ウラを取っててくれるかい」
 マヤの指示に、ハズキとふじ江は静かに頷き返した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】

……きな臭いねぇ。
こういう臭いは、アタシは苦手なんだ。
こそこそ動いて、裏から誰かを締め上げるってのはさ。
しかも良かれと思って打った手が、
今この時は裏目に出てるなんてね……。
いいさ、法の仁義を通した術なら、法の仁義で押し通るまでさ。

この時間で動かせるなら警察しかないかな。
カブで即座に警察署へ乗り付けて、
「DVの被害者が元の加害者に再接近されている」と告げる。
もちろん口八丁手八丁、『コミュ力』駆使して動くよう『言いくるめ』るよ。
役所との連携なんかも『法律学』で抜け道を探し、
その綻びの『傷口をえぐる』様に取り運ぶ。

そうして緊急配備を敷いて貰いながら、
迎え打とうじゃないさ!



 湾岸無双が屯している埠頭に程近い大通りを、数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)は愛用のカブを飛ばして疾走していた。
 何か、嫌な予感がする──多喜の直感が、事態の急を告げていた。
 やがて多喜は、この地域一帯を管轄する警察署の駐車場へと飛び込み、猛然たる勢いでカブから飛び降り、そのまま玄関の受付ロビーへと走った。
「ちょっと良いかいッ! 地域防犯課の担当者を呼んで欲しいんだけどさッ!」
 多喜は、DV被害者が元の加害者に再接近されている旨を告げた。
 深夜であり、且つ凶悪犯罪の少ない地域でもある為、警察署の受付ロビーはひと気が少なく非常に閑散としていた。応対に現れた署員ものんびりしたもので、多喜の言葉を話半分に聞きながら、それでも一応、地域防犯課へと取り次いでくれた。
 それから待つこと数分。現れたのは、しかし、何故か地域防犯課の署員ではなく、強行犯罪を対象とする捜査一課の中年刑事だった。
 でっぷりと太った体躯が特徴的なその中年刑事は、西尾と名乗った。
「そのDV被害者というのは、どこに住んでるんですかねぇ?」
 妙にねっとりした口調で問い返してくる西尾に、多喜は不信感を抱いた。その不信感がどこからくるのかは分からなかったが、この刑事は何かおかしい、と多喜の直感が語っている。
 それでも、多喜は香奈枝と美乃梨を守る為には緊急配備が必要だと頭を切り替え、他の猟兵が調べ上げていた香奈枝の住所を告げた。
 すると西尾刑事は、あぁそこなら、既にうちの署員が駆けつけてますよと軽い調子で応じた。
 一瞬目を白黒させた多喜だが、西尾刑事は更に驚くべき情報を口にした。
「何でも、シングルマザーが刺殺されたそうですな。今のところ容疑者は不明……行きずりの強盗か何かじゃないですかねぇ」
 この時、多喜は犯人が元夫の伊地知であろうと咄嗟に当たりをつけた。そして同時に、目の前でのほほんと笑っているこの西尾刑事が、伊地知の仲間ではないかという疑いを抱いた。
 そうでなければ、この余りに呑気で適当な対応は、説明がつかない。
(骸民衆とかいう邪神教団は……警察にも手を廻してるって訳か)
 法の番人たる警察が、裏で悪事に加担している。多喜が押し通そうとした法の仁義は、既に失われていたという訳である。
(きな臭い、なんて表現じゃ生温過ぎたね。腐ってるよ、こいつら……相当に、腐り切ってやがる)
 幼い子を残して死にゆく運命を負わされた若き母親は、どれ程に辛かっただろうか。
 多喜ははらわたが煮えくり返る思いだったが、表面上は冷静さを保ちつつ、踵を返して警察署を出た。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 集団戦 『邪教の潜伏幹部』

POW   :    らっしゃい、景気はどうだい?実は噂なんだけどさ…
【何気ない日常のやり取りの中】から【急に事件に関連する重要そうな噂話】を放ち、【無意味かもしれない情報収集活動】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD   :    アレさぁ、また挑戦してみたいね!
【一度失敗したイベントを今度は成功させる】という願いを【ご近所さんや同じ教団の信者】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。
WIZ   :    いやあよかった、助けてください困ってるんだ。
【事情は知らないが自分と仲の良いご近所さん】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 邪神教団『骸民衆』の教団本部は、湾岸埠頭に程近い廃工場の奥にあった。
 そこに湾岸無双の幹部である伊地知、川本、大見の他に、小出と西尾刑事、そして教団の幹事長を務める金山という初老の男の姿があった。
「香奈枝の死亡保険は、全部君が貰えるよう手を打っておいた。後はその一部を教団に収めてくれれば、それで結構だよ」
 金山は、香奈枝の生命保険を裏で操作し、死亡時の保険金を伊地知が受け取れるように手を打った、というのである。
「娘さんには一銭もやらなくて、良いのかい?」
 西尾刑事がねっとりとした口調で訊いたが、伊地知は軽くせせら笑った。
「あんな餓鬼に未練はねぇ。第一、俺は子供が嫌いなんだよ」
 伊地知の正直過ぎる程に正直な応えに、川本と大見は大声で笑った。それでこそ湾岸無双の幹部だ、といわんばかりに。
 香奈枝殺しは結局、行きずりの強盗殺人ということで早々に迷宮入りすることになった。当然ながら、これは西尾刑事が裏で手を廻して伊地知に捜査の手が迫ることを未然に防いだ訳だ。
 伊地知が逮捕されると、当然骸民衆にも警察権力が迫ることになる。それは、教団幹部のひとりである西尾刑事にとっても非常に都合が悪かった。
 だが、彼らは知らない。
 既に猟兵がこの教団本部の所在地を突き止めている、ということを。

 警察署の、遺体安置室内。
 薄暗い室内に、今や物言わぬ骸となった香奈枝の遺体が、静かに横たわっていた。
 その傍らに、美乃梨がぽつんと佇んでいる。
「ママ、晩御飯の時間だよ……起っきして。ご飯の準備、みのちゃんもお手伝いするから」
 美乃梨は、母が永久に目を覚まさないことを理解していた。いや、理解している筈だった。
 だがそれでも、母の目覚めを信じようとしていた。
 それは、単なる願いに過ぎない。
 母ひとり子ひとりで生きてきた幼子の、無垢な願いだった。
アウグスト・アルトナー
真の姿を解放
四肢を含む全身から翼を生やした異形と化します

……香奈枝さんは幸せになるべき人でした
身勝手な欲から彼女の道を絶ったあなた方に、報いを
もう、容赦は一切しません
あなた方教団幹部が全員死ねば、骸民衆は終わりです

【先制攻撃】で【クイックドロウ】、拳銃を抜きます
まずは伊地知を狙い射撃
弾丸には【呪詛】を込め、【呪殺弾】として放ちます

おそらく敵はご近所さんを呼んで盾にしてくるでしょう
その場合は拳銃を置き、両手を挙げて……
【騙し討ち】です
左足にはめた『必要な枷』を花びらに変えます
【鈴蘭の嵐】。対象は、『呼び出されたご近所さんと猟兵』を除いた全員
つまり、伊地知、川本、大見、小出、西尾、金山を攻撃します


セツナ・フィアネーヴ
気分の悪いことをしてくれる……
亡くした者は帰らなくても、それでも、できることはさせてもらう

何やら裏工作やら手回しが得意なようだが、
ここには情報収集や記録が得意な猟兵もいるのだろう?
ならば、お前達が闇に葬ろうとした悪事、暴かせてもらう……!

失敗した儀式が何かなど知らないが、関係はない
「お前たち教団の行動、協力者、詳細はどういったものだ?」という質問とともに災禍のピコピコハンマー【舌禍の笛槌】を召喚

相手の攻撃には第六感や結界術で対応し、
隙を見つけ笛槌による「命中時に失言や恥の暴露を強制する打撃」で攻撃。隠しておきたい事を全てうっかり失言してもらう

残念だったな。「闇に葬られる」のは、お前達の命だけだ



 骸民衆の教団本部が置かれている廃工場は、周辺に中小の金属加工工場が幾つも並んでおり、夜間はひとの往来が少なくなる。
 それでも各工場は24時間フル稼働しており、何か騒ぎが起これば、たちまち周囲はひとだかりに埋め尽くされてしまうだろう。
 そんな中でも、アウグスト・アルトナー(永久凍土・f23918)とセツナ・フィアネーヴ(災禍貫く竜槍・f26235)の両名は廃工場の裏手から、堂々と内部へ踏み込んでいった。
「全く……実に気分の悪いことをしてくれたものだな」
 黒っぽい衣服で闇の中に半ば溶け込んでいる格好のセツナだが、逆にその隠密性を打ち消すかのように、まるで炎の息吹を噴き出すかの如く静かな怒りを滲ませた。
 だがセツナ以上に怒り心頭なのは、アウグストの方であった。
「……香奈枝さんは、幸せになるべきひとでした」
 その立ち居振る舞いこそは極めて冷静であったが、抑揚の無い控えめな声量の中に、今にも爆発せんばかりの怒気が含まれている。邪神教団の幹部連中に対しては、最早一切の容赦はしないという決意の表れだろう。
 セツナは香奈枝や美乃梨とは直接の面識は無い。そんなセツナでさえ、絶対に許すまじという程の怒りを抱えているのだ。昼の洋菓子店で、香奈枝と美乃梨親子の微笑ましい姿を目にしているアウグストに至っては、いわずもがなであった。
 セツナは事前に他の猟兵から仕入れていた情報を手に、廃工場内を進んだ。幹部連中は一箇所に集まっているのか、或いはそれぞれの居場所に分散しているのかは定かではない。
 だが決して広くはない廃工場内だから、どこかで何か騒ぎが起これば、必然的に全員が何らかの動きを見せることになるだろう。
 更にセツナが奥へ進もうとした時、アウグストがふと、脚を止めた。鉄階段から続く中二階の扉が開き、そこから人相の悪い男三人が姿を見せたのである。いずれも若い。
 その三人が湾岸無双の幹部である伊地知、川本、大見であることは、すぐに分かった。
 アウグストは、その瞬間に姿を変えた。四肢を含む全身から大小幾つもの翼を広げ、明らかに人外の──それでいて妙な美しさを感じさせる異形の存在へと変化したのである。
「な……何だ、こいつらッ!?」
 鉄階段を下り切ったところで、伊地知が声を裏返して叫んだ。川本と大見はアウグストが解放した真の姿に一瞬驚きの表情を浮かべたものの、すぐに手近の床から鉄パイプを拾い上げ、臨戦態勢に入った。
 だがそれよりも早く、川本の横合いから、セツナが不意打ちに近いタイミングで災禍のピコピコハンマー『舌禍の笛槌』を振り下ろした。川本は避けることも叶わず、肩口に強烈な一撃を浴びた。
「お前たち教団の行動、協力者、詳細はどういったものだ?」
「そ、そんなもん決まってんだろうッ! 役所とか警察とか、その辺で色々甘い汁を吸ってる連中だッ!」
 セツナの問いかけに対し、無防備に近い形で思わず口を滑らせた川本だったが、地頭が弱い所為か、それが失言だということにも気づいていない様子だった。
 伊地知と大見も、セツナの攻撃に度肝を抜かれたらしく、アウグストへの注意が完全に逸れていた。その瞬間を逃すアウグストではない。ホルスターから素早く抜いた拳銃から、一発、二発と呪詛を込めた弾丸を伊地知の肩や腹に叩き込んだ。
 情けない悲鳴をあげて、伊地知はその場に崩れ落ちた。だが激痛に見舞われるばかりで、すぐに命を落とすということはない。
 と、そこへどこに潜んでいたのか、わらわらと教団員が廃工場内に群がり出てきた。大見が何らかの方法で召喚したものと思われる。
「知ってるぜ、確か猟兵って連中らしいな……今までは絶対勝てなかったが、今度は斃せるかもなッ!」
 大見の言葉に、教団員達が歓声を上げて応じる。
 一方的に盛り上がっている大見や教団員共に対し、アウグストはふんと鼻を鳴らした。直後、足枷が鈴蘭の花弁へと姿を変え、廃工場内を埋め尽くす程の激しい花吹雪を巻き起こした。
 相手が何も知らない一般人ならば兎も角、目の前に居るのは教団員ばかりだ。ならば、手加減してやる必要も無い。幹部連中のみならず、教団員も全てオブリビオンと化している。即ち、その存在もろとも消し去っても何の問題も無いということだ。
「ひぃッ! た、助けてくれッ!」
「か、金ならやるッ! い、命だけはッ!」
 大見と伊地知が必死の命乞いを見せたが、アウグストの心には一切、響かなかった。
「……身勝手な欲望から、彼女の道を断ったあなた方に、報いを」
 獰猛な勢いで、花吹雪が廃工場内を吹き荒れた。だが数秒後には、鈴蘭の花弁は一斉に姿を消し、廃工場内は再び闇の静寂に包まれた。
 先程までと異なるのは、そこに大量の死体が転がっていることであろう。
「……おっと、これじゃあもうこいつらから失言は出てこないな」
 セツナは苦笑しながら、小さく肩を竦めた。
 尤も、闇に葬られるべきは骸民衆の幹部や教団員のみであるという事実に変わりは無い。
 残る幹部は金山、西尾刑事、小出の三人だけであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

故無・屍
……クソが。



アイテム:闇夜の衣を纏いUCの使用、及び目立たない、暗視技能にて
工場内に侵入
気付かれないタイミングを見計らい、早業の技能にて幹部を個別に、
あるいは複数人を同時に始末する

正面戦闘を行うことになった場合は怪力、2回攻撃、なぎ払いにて
戦闘を展開


…手前ェらにかける言葉なんざ無ェ。
仕事だから斬る。それだけだ。


仕事を終えた後は、情報収集の技能を使用し伊地知の口座を調べ金を取り戻し、
その後香奈枝の縁を調査、
美乃梨を引き取って貰えそうな家庭を調べ
自分の名は明かさず養子縁組の依頼、及び取り戻した金を養育費として全額譲渡する。


…ガキの事なんざ知ったことか。
ただ、半端に仕事を終わらせたくねェってだけだ。



 廃工場内は、にわかに慌ただしくなった。
 伊地知、川本、大見の三人が何者かに殺害された上に、少なくない人数の教団員も一斉に骸となって、敷地内のそこかしこに横たわっている。
 電気は通っていない為、持ち運び式のバッテリーに繋いだ照明や、懐中電灯等が廃工場内のそこかしこを照らし出す。
 金山と西尾刑事、小出の三人はそれぞれ複数名の教団員を率いて、何者が骸民衆の教団本部内に潜入したのかを暴き出すことに心血を注いだ。
「くそッ……何がどうなってやがるんだッ!?」
 怯えと怒りがないまぜになった複雑な声を低く漏らしながら、小出は廃工場敷地内の、雑草が生い茂る裏路地へと足を踏み入れた。
 ここで、小出はふと妙な感覚に襲われた。後方に続く筈の教団員達の足音が、聞こえないのである。まさかと思って振り向き、懐中電灯でたった今通ってきたばかりの裏路地を照らし出した。
 そこで小出は危うく、甲高い悲鳴を漏らしそうになった。彼に付き従っていた筈の教団員が全員、その場に昏倒していたのである。
 と思った次の瞬間には、頭上から何か大きなものが落ちてきた。否、正確に表現するならば、舞い降りてきたというべきだろうか。
 その巨大な影──故無・屍(ロスト・エクウェス・f29031)は無言のまま刃を振り下ろし、小出の頭を頂から綺麗に叩き割った。
「また会ったな……といっても、もう聞こえねぇか」
 既に小出は絶命している。
 屍は無論、生前の小出とは言葉を交わすつもりも無かったし、命乞いの暇も与える意思は無かった。
 ただ、これは仕事だ。仕事だから、手際良く済ませた。それだけのことだ。
 だが何か別の感情が、この時の屍を突き動かしたのかも知れない。彼は裏路地に倒れた小出の死骸の懐をまさぐり、携帯電話を取り出した。そこに、香奈枝から奪った財産と、伊地知の口座に振り込まれた全ての金の情報が入っていた。
 屍はそれらの全額を、UDC組織を通して美乃梨の為に作った口座へと移動した。既に美乃梨の今後については、縁戚に対して養子縁組を組むよう依頼を投げてある。勿論、匿名ではあるが、UDC組織が代わりに色々と手を尽くしてくれていた。
(……ガキのことなんざ、知ったことか)
 半ば自分にいい聞かせるように、屍は唇の内側で小さく呟いた。
 彼はただ、中途半端に仕事を終わらせたくなかっただけだと、自分自身を納得させようとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒沼・藍亜
ほんと、腹が立つ

色々想うとこはあるけど細かいことは後方スタッフに任せて、
ボクはエージェントの仕事っすよ
……これぐらいしか、出来ないっすし

目立たないようこっそり侵入し、同時にスカートの中から体内の粘液状UDCを床に広げ、
一定以上広げたらそこから複数触腕を伸ばし一気に捕縛

ご近所さん?
「何も知らない一般人をこういう案件から遠ざけておく事」がボクら組織の仕事っすよ?
記憶消去銃改で記憶を消し、スタン弾でそのまま気絶してもらいます

それじゃ【きらいきらいだいきらい】
「これ」を見た人にとっての「心を抉るような姿」に映る幻影を召喚
アンタにとってこれが何に見えてるか知らないけど

心抉る幻影に、体も心も抉られてしまえ


数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】

法の番人が、聞いて呆れやがる。
アンタがやった事は、人の道にも悖る非道な裏の所業さ。
その桜の代紋、お天道様へ返上しやがれ!

そう、アタシは西尾刑事を執拗に『追跡』する。
警察無線も傍受して『情報収集』し、
ドンドンと追い詰めていくよ。
……クーラーボックスを抱えながらね。

奴を見つけたら、厭味ったらしく
「やあ、探したよ」と『コミュ力』で油断させながら
クーラーボックスの中身……サメの脳みそをぶちまける。
命乞いも、嘘八百の方便も聞いてやるよ。
何しろそいつを被った時点でアンタは終わりだ。

裏の業には裏の業。
【これがアタシの禁じ手】だ。
どうだい、生きながら他の邪神の贄になる気分はよ……!



 廃工場周辺には一時、近隣住民が何事かと寄り集まる気配を見せていたが、今は全くといって良い程に静まり返っている。
 厳密にいえば、近隣住民が廃工場に足を運ぼうとしていたのは事実なのだが、黒沼・藍亜(人間のUDCエージェント・f26067)が本人達も気づかぬうちに背後へと忍び寄り、片っ端から気絶させていったのである。しかも記憶もきっちり消しているから、彼らが目覚めた時には何が起きたのか、何も分からず仕舞いであろう。
 尤も、その程度のことはエージェントたる藍亜には雑作も無いことだった。細かい後始末はUDC組織に任せておけば良いとばかりに、兎に角藍亜は近隣住民を廃工場の敷地内に足を踏み込ませぬ様、事前準備をしっかり整えておいたのである。
(ほんと、腹が立つ)
 今回の任務を請け負った時点では、ここまではらわたが煮えくり返る程の怒りは湧いていなかった藍亜だが、香奈枝が無情にも命を奪われた事実を知った際には、骸民衆の幹部連中は絶対に許してはならぬという断固たる覚悟を抱いて、この廃工場に足を踏み入れてきた。
 既に他の猟兵達が四人の幹部を仕留めた。残るはふたり──藍亜が照準を定めたのは、金山であった。
 今回の陰謀の黒幕であり、この男さえ居なければ香奈枝が命を落とすことも無かった筈だ。
 その金山は、廃工場内で起きた想定外の事態にひたすら狼狽え、何とか命からがら脱出しようと必死になっていた。
 だが、金山は動けなかった。藍亜が仕掛けた粘液結界に足腰を封じられ、文字通り捕獲されてしまっていたのである。
「な、なぁ、あんた……私はこう見えて結構、裕福な方でね。助けてくれたら、それなりに謝礼は出すよ」
 卑屈なまでの低姿勢で揉み手を見せる金山に対し、藍亜は努めて表情を消したままそっと正面に近づく。そこで藍亜がさっと右手を振り上げると、金山はその場に恐怖の表情で凍り付いた。
 とてつもなく恐ろしいものに遭遇したように、金山は全く身動きが叶わない。
「アンタにとってこれが何に見えたのか知らないけど……身も心も、存分に抉られて貰うっすよ」
 その直後、金山の口からこの世のものとは思えぬ程の奇怪な悲鳴が響き渡った。人間は、これ程の恐怖に満ちた叫び声をあげることが出来るのか──藍亜ですら呆れるぐらいの、情けないばかりの悲鳴だった。
 金山は何の抵抗も出来ぬまま、藍亜が放った最大の恐怖に呑み込まれ、その場で絶命した。

 その頃、西尾刑事はひとり廃工場を飛び出し、自身が運転してきた捜査専用車に乗り込んでキーを廻した。だがどういう訳か、エンジンがかからない。
 何がどうなっているんだとひとりで大いに焦っているところへ、運転席の窓がこんこんと軽いノック音を響かせた。西尾刑事が窓外に怯え切った視線を送ると、そこに数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)の姿があった。
「やあ、探したよ」
 何故かクーラーボックスを小脇に抱えている多喜は、妙にわざとらしい笑みを浮かべた。勿論、その瞳は笑っていない。寧ろ、獰猛な程の殺意がゆらゆらと湧き立っていた。
 多喜は西尾刑事を追い詰める為にあらゆる情報収集と追跡を怠らなかった。絶対に探し出すという執念が、西尾刑事を動かぬ車両内に追い詰めたといって良い。
 西尾刑事は恐怖におののいて、そのでっぷり太った体を助手席側まで退かせた。多喜は相変わらず厭味ったらしい笑みを浮かべたまま、ゆっくりと運転席のドアを開いた。
「さっきはどうも。ちょっと教えて欲しいことがあってね」
 多喜の穏やかな声に西尾刑事は幾分緊張を解いたようだが、しかしそれも、ほんの束の間だった。多喜は不意にクーラーボックスの蓋を開け放ち、中に入っていたもの──鮫の脳みそを狭い車内でぶちまけた。
 西尾刑事は、撒き散らされた不気味な物体を頭から被ってしまった。
「な、何だこれはぁッ!?」
「……どうだい。これがアタシの禁じ手さ。アタシが訊きたかったのは、生きながら他の邪神の贄になる気分ってやつさ」
 粘っこい悲鳴が、車内のみならず、周辺の路地にまで響き渡った。しかし、助けに来るものは誰も居ない。
「て、てめぇッ! 俺にこんなことして、ただで済むと思ってんのかッ!?」
「……法の番人が聞いて呆れるね。アンタがやったことは、ひとの道にも悖るってことを、よぉく思い知るんだね」
 いいながら、多喜はさっと手を伸ばし、西尾刑事の警察手帳を奪い取った。
「桜の代紋はお天道様に返上だね……いや、あんたの場合はお天道様もそっぽ向いちまうか」
 多喜は、警察手帳を近くのどぶ川へと放り投げた。しかし西尾刑事は抗議も出来ない。既に白目を剥いて、恐怖に歪んだ表情のまま絶命していた。
 ボンネット上にゆっくりと腰を下ろしながら、多喜はタブレットをUDC組織の情報網に接続した。
 美乃梨は、これからどうなるのだろう。
 親類縁者やUDC組織の後始末班がそれなりに生活の基盤を築いてくれるだろうが、美乃梨の心に深々と残った傷は、どうにもならない。
「ほんと、無力だね、あたしらは」
 多喜は深々と、大きな溜息を漏らした。
 香奈枝は、死んだ。たったひとりの愛する母を、美乃梨は突然失ってしまった。
 だがそれでも──幼子はひとりで生きていかなければならない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月26日


挿絵イラスト