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流してそうめん/黙してカニ(作者 藤野キワミ
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●島の海岸を臨む、
 その城――日本家屋を思わせるいで立ちだが、随所に品の良い装飾が施されている――は、ざわざわと浮足立っていた。
「それは、まことか! カニか!」
「へい、お嬢! 前の浜に、それはもう、うじゃうじゃと」
 カニが発生した。
 浜にうようよ、赤いカニは陽の光を浴びて、キラキラと輝く。
 まさに、海からの宝物――この上ない贈り物に、城内の者は勇み足だ。
 この城の主にして、島の長たる朱華の耳にもその報せは、当然届いた。
「カニ、食いたい! カニ!」
 天真爛漫に黒瞳を煌かせた幼い城主は、彼にカニをたくさん捕まえてくることを命じた。
「はねずは! はねずはカニを食いたい!」
 溌剌と笑み、手をパンっと叩いた。耳元で美しい貝殻のイヤリングが涼し気に揺れる。
「あと、はねずはそうめんも食いたい! しゅーんと流れるやつじゃ! 竹もついでに集めて参れ! あ、カニも流そう! しゅーん! しゅーん!」
「へいっ、お嬢の頼みとあらば!」
「やったー! カーニー! そーめーん! しゅーんしゅーん!」
 はしゃぐ朱華を愛で、側仕えの男――名を、紺次郎という――は、やわい笑みを頬に刻み込んだ。

●大きく嘆息したのは、
 ハニーブロンドに琥珀色がまだらに混じる短髪が飾る、性が曖昧な面立ちの羅刹だった。
 前髪を掻き分けて生えるのは、三本の黒曜石の角――否、一本は根元から砕け折れている。
 長い睫毛が縁取る紫の猫目が、猟兵たちを見つめて、二度瞬いた。
「グリードオーシャンのある島で、カニが大量発生したの。
 それが、ただのカニなら良かったんだけど、海岸に湧いたカニはコンキスタドールで、島の男たちでも、あの数相手じゃあさすがに対処できない。だから、行って助けてあげてほしい。
 カニそのものは特に強くもないんだけど、生け捕りにしようって躍起になってるから、ちょっと男たちが邪魔になるかも。
 でもそのカニね、びっくりするくらい美味しいの。
 ほんと、目玉とびでるくらい美味しいの」
 そんなのアタシだって食べてみたいとぼやいた志崎・輝(紫怨の拳・f17340)だった。
 このカニを捕まえてほしい。このカニを食べたがっている子がいるのだ。
「名は朱華――はねず。十歳ほどの女の子で、城の主。島中の人間からべらぼうに愛されてる子で、この子のお願いはなんとしても叶えてしまいたくなるみたい」
 だから朱華のお願い事である、「カニ」にまっしぐらになっている。
 それだけではない。
「えっと……こう、なんかぼわわーんってした、こう、んー、きらきらーってしてて、どーんって感じの影だったのは、確かなんだけど……そんなコンキスタドールに襲われるの」
 城の男たちの得物が陽に反射したきらめきか、カニの甲羅のきらめきか、打ち寄せる白波のきらめきか――とにかく、そういうキラっとしているものに惹かれてくる狂気が視えた。
 カニを捕まえているとどこからともなく現れるようだ。こちらも腕に覚えのある男たちでも太刀打ちできない。
「どんな敵なんだ?」
「こう……」
 輝は腕を広げて大きくマルを描く。
「ぼわーんってしてるの」
 説明になっていないが、ぼわーんでどーんな敵だということは分かった。
「以前、そういう宝飾が大好きな人がいたとかいないとか、紺次郎さんが言っていたけど――あ、そうそう」
 輝は思い出したように、付け加える。
「アンタらに頼みたいことは、もうひとつあって。この島の名前を考えてほしい――城の人たちからは、やれゴクラク組だ、やれハネズ会だって、物騒な名前しか候補に上がらなくって、朱華が困ってるの」
 できれば、穏便な名前を。
 輝は苦笑をひとつ、折れた羅刹角を補完するようにグリモアが光を放ち始める。
「いい感じに解決してくれるよな――コレがきれいに片付いたら、流しそうめんが待ってる。カニも食える。朱華が、城の女たちと流しそうめんの準備を進めてる」
 ほかにも城にある温泉を解放してくれるとのことだ。
「そうめんに欠かせない具はなに? きゅうりはコレくらいで足りるかな。最近知ったけどハムって美味しいんだな、あとちっこいトマトも持っ、」
「待て待て、なにしてんの」
「えっと、流しそうめんの準備? そうめんとカニが流れてくるだけみたいだから、他にもいるかと思って」
 もてなす気満々の輝の頭上でグリモアがきらめく。
「アンタらを信じてる――おいしいそうめんが待ってるからな!」
 繋がる先は、潮の香りが充満する、眩い浜辺。





第3章 日常 『えも言われぬ美しき城』

POW食事に舌鼓を打つ。
SPD従業員の舞や音楽を楽しむ。
WIZ温泉で疲れを癒す。
👑5

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●城というには、少し――
 趣はかなり違うやもしれない。しかし、彼らにとってそこは紛うことなき城だ。
 居館の裏手には川が流れている。
 その川の底からは温泉が湧き上がっていて、湯溜まりがいくつか出来上がっていた。
 その中のひとつ――居館から一等近いところに設けられ、やや即席感のあるものが、猟兵のために解放された湯溜まりの一つだ。杭が二本打たれて、その間に帆布が渡された簡単な仕切りがあるだけの、開放感しかない風呂だった。
 入ってもいいが、湯温が低いっつー文句は聞かん。それと、朱華お嬢の教育に悪ィから素っ裸は許さん――とのことだった。
 河原ではかまどが組まれ、いくつもの大きな鍋が今か今かと出番を待っていた。
 猟兵たちがパンダから守り抜いたカニの山(と、いくつかのもちもちパンダぬいぐるみ)を見せると、宴の準備に追われていた女たちも色めき立つ。
「かーにー!! カニ! カニ! かーにー!」
 大盛り上がりの朱華は、ぴょんぴょこ跳ねまわる。
 黄三二が竹を割り始め、紅樺紅鳶兄弟はその竹を繋いで流し台を組み立てていく。
 銀と鉄は女たちに代わり、カニの殻を割って解体し食べよいように加工していく。かまどの上に広げた網の上にカニをのせて焼き始めるのは、紺次郎だ。
「こんじろー! こんじろー! 焼けたか? もう焼けたか?」
「まだですお嬢、危ないので桜のところにいてくだせえ」
 言って紺次郎は鉄とカニの番を代わる――そんなことはお構いなしに朱華は、そうめんを湯がく女の元へと急いだ。
「さーくらー! そーめーん! もう流せる? もう流していい?」
「まだです朱華様、お水を引いてからです。じきに紅鳶が水を流してくれますよ――ああ、朱華様、鍋が危ないのでここではしゃいではいけません」
「お嬢、箸と椀です」
 黄三二によって作られた歪な竹箸と竹椀が朱華に渡された。
「兄貴たちの台はもう出来あがるんで、もうすぐそうめんも流せやすよ」
「紅樺ァ! なにちんたらやってやがる! 代われ!」
「へい兄貴、すんません」
 朱華は男たちの怒鳴り声は聴き慣れたもので、驚きもしない。
「お嬢、ワシがあっちゅう間に組んできやすんで!」
「やったー!! しゅーん! しゅーん! かーばー! なあなあ、カニはもう食うてもいい?」
 待ちきれない朱華は、銀が紅樺へと引き継いだかまどの周りを跳ね回る。
 彼女が怪我をしないよう注意をはらいながら、いまにも焼き上がりそうなカニを見る紅樺は、気忙しい。だから彼は少しだけ朱華の気を逸らす。
「お嬢、ワシァ、竹刈りながら考えとったンですがね。やっぱり、シマの名は、ハネズ会でいいじゃあねえですか」
「いやじゃ! かわいくない!」
「お嬢は可愛いです!」
「そういうことじゃない! もっとほかの名前でないといやじゃ!」
 朱華を見守る女たちも、困ったように顔を見合わせていた。
 それは、紺次郎も同じで、苦笑を禁じえなかった。彼の赤茶の眼差しが猟兵たちをとらえた。
「いやあ、お見苦しいとこを……まあ、こんな具合で、俺らの島の名前もまだ決まっとらんとこですが……世話ンなった礼をちっとさせてくだせえ」

「かーしらー! そうめん流しましょう! 準備できやしたー!」

 竹の流し台を水が走る。
 歪な竹箸と竹椀が配られ始める。流し台へと移動する前に、紺次郎は少し言いにくそうに、「あと、――お願いなんですがね」と、そっと声を落とした。
「お嬢には、俺がべそかいちまったこと、ナイショにしといてくれやせんか」
 彼は、そう言って笑った。




お待たせしました。これより流しそうめん会場へとご案内いたします。
メインは流しそうめんとカニです。とんでもないメニューは出てきませんが、メジャーでシンプルなカニ料理なら頑張ります。島の女性陣が。
そうめんが流れてくるのと同時にカニも一緒に流れてきます(どんな形状なのかは、御随意に)
そうめんの具は、きゅうりとハム、ミニトマト、海苔、ネギなどなど……定番と思われるものは用意があります。これらは流れてきません。
河原には前章までに出てきた男たち全員と、朱華、その他世話役の女性陣がいます。彼女らは彼女らで楽しんでおります。放っておいてくれても構いません。
あと河原では志崎が流しそうめんの手伝いをしながら、カニの爪をもくもくと食っています。ひとりでは……というときにでも使ってください。しかし、名前を明確に呼ばれないかぎり、リプレイに出てくることはありません。
また当シナリオの舞台となりました、この島の名前をまだまだ募集しています!
どんな名前になったかは、三章のリプレイ内で発表いたします。
プレイングは、【9/16(水)8:31~9/17(木)8:30まで】受け付けます。短い期間となりますがご容赦ください。
それでは、みなさまのプレイングをお待ちしております。