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迷宮災厄戦⑪~透明の鏡面空間

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦

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 そこは全方位に鏡面がある空間だった。
 鏡面、それはときに姿見であったり、ときにドレッサーであったり。大型の三面鏡かと思えば、ただ寝台の上に手鏡があるだけであったりと様々だった。
 鏡の林立。そう言える光景だったが、しかしそんな形容では収まらなかった。
「――空中にもあるなんてなあ……。“鏡の女王”の執念か?」
 空に浮かぶ天井鏡や、最早砕け散った破片群を見上げながら、女が呟いた。
「ネエネエ。僕ラノ所ニモ猟兵、来ルッポイヨ。鏡ニ何カ尋ネテミタラ?」
 呟くに合わせて、女の頭上から声が落ちてきた。帽子のようにそこへ身を置いていた猫だ。
「アホ。この鏡は何でも、そりゃもう何でも答えてくれるけど、『この不思議の国内部の事』限定やねん。つまり、この戦場についてだけ。
 ――まだこの戦場におらへん者について尋ねても、しゃあない」
「フゥーン……。ジャア、猟兵ガ来タラ、何尋ネルノ?」
 うちら二体一対のオウガなんやから自分でも少しは考ええよ……、と思いながらも、女は答える。
 即答だ。
「――何処で何しとるか聞いて、速攻でソコ向かって食う」
「今、“速攻”ト、“ソコ”デ掛ケタ?」
 手持ちの肉の前にお前から食うたろか。


「“迷宮災厄戦”……。アリスラビリンスの命運を賭けた“戦争”は我々が確保した、うつつ忘れの城を中心として全方位で戦端が開いていますの」
 猟兵たちの拠点、グリモアベースでフォルティナは言う。広げるのは迷宮災厄戦の戦場マップだ。
「皆様に向かっていただきたいのは、“真実を告げる鏡の間”と呼ばれる場所ですの」
 マップで表すと、うつつ忘れの城の右上に表示された区域を指で刺し、言葉を続ける。
「この鏡の間は、オウガ・オリジンに戯れに殺されたかつての忠臣「鏡の女王」の怨念が籠もった国です。あちこちに「真実の鏡」が生えており、鏡に質問すると「この不思議の国内部の事」限定で何でも答えてくれますわ」
 何でも、それはつまりどれほどか。
「敵の位置や死角……ユーベルコードの弱点……。この戦場の内部にあるものの情報なら何でも答えてくれます。全知と言っていいのかもしれませんね」
 つまり、
「強力なオウガ……つまりオブリビオンが、皆様の位置も、手札や手数、人数やユーべルコードの弱点すらも……。ありとあらゆることを把握して戦闘を仕掛けてきますわ。
 ――しかしそれは皆様側も同じですの。……“何でも答えてくれる鏡”、お互いの手の札が全て露わになるこの戦場だからこそ、これを有効活用した者が勝者となるでしょうね」
 敵の話に移りますわ、と言って新たな画像を用意する。オブリビオンだ。
「オウガ・嗤い猫と飢婦人……。猫型オウガを頭に乗せた、人肉を好む女性型オウガですの。大型の肉切り包丁を持ったその姿の通り、アリスを捕まえて美味しく料理する事に執着しており、最近は猟兵の味がとても気になるとか」
 他の戦場でも現れているようですわね、と敵のユーべルコードも合わせて説明しながら。
「肉切り包丁で攻撃するというスタンダードなものから、ミルやお肉を使ったユニークなユーべルコ――、と私が説明してますが、これらの情報も現地の鏡に聞けば解ることですわね」
 ユーべルコードの内容どころか、その弱点すらも解る世界なのだ。
「鏡面で囲まれた歪んだ戦場でありながら、全てがお見通しの透明化の戦場。――皆様のご武運を祈ってますの」


シミレ
 シミレと申します。TW6から初めてマスターをします。
 今OPで32作目です。アリスラビリンスの依頼は二回目です。
 不慣れなところもあると思いますが、よろしくお願いいたします。

 ●目的
 ・敵オウガ(オブリビオン)の撃破。

 ●説明
 ・アリスラビリンスで戦争イベントが始まりました。戦場の奥地にいるオブリビオン・フォーミュラや猟書家の元へ到達するため、猟兵達は戦場を進んでいきます。
 ・その道中、“真実を告げる鏡の間”と呼ばれる戦場があります。答えれば何でも答えてくれる不思議な鏡が、そこら中にある戦場です。
 ・この戦場では、鏡に尋ねれば敵の位置やユーべルコードの弱点など、この戦場に限りありとあらゆることが知ることが出来ます。

 ●プレイングボーナス
 以下に基づく行動をプレイングに書いていただければ、プレイングボーナスが発生します。

 プレイングボーナス……鏡に有効な質問をする。

 ※プレイングボーナスとは、プレイングの成功度を複数回判定し、最も良い結果を適用することです(詳しくはマスタールールページをご参照下さい)。

 ※注意!
 鏡は、敵の位置や死角、ユーベルコードの弱点など、この国の内部にあるものの情報ならなんでも答えてくれます。が、あまりに猟兵個人(場合によってはオブリビオン)に対するセンシティブな質問は避けてください。

 ●他
 皆さんの活発な相談や、自由なプレイングを待ってます!!(←毎回これを言ってますが、私からは相談は見れないです。ですので、なおのこと好き勝手に相談してください。勿論相談しなくても構いません!)
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第1章 ボス戦 『嗤い猫と飢婦人』

POW   :    テーブルマナー「肉を切る前に噛り付かない」
自身の【頭上にいる猫型オウガの瞳】が輝く間、【肉断ち包丁】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
SPD   :    代用品の効かない良い調味料
【宙に浮かぶ巨大ソルトミル&ペッパーミル】から【大量の塩胡椒の嵐】を放ち、【激しい視界不良と止まらないくしゃみ】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ   :    不思議の国で一生を終えて自分の元に届けられた肉
戦闘中に食べた【スパイスたっぷりの肉の丸焼き】の量と質に応じて【多幸感と共に新鮮な肉の刺身が食べたくなり】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアリュース・アルディネです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



「――――」
 来たな、と飢婦人は直感した。頭上の嗤い猫も身を震わせる。
 猟兵だ。距離は解らないというか、知らない。鏡だらけの世界で視界は悪いし、遠近も狂いそうなのだ。
 だが押し寄せる気配というものは否が応でも解る。
 ……気配殺しとったとしても、結局鏡に聞いたら解るしな。
 例えばこんな風にだ。
「鏡よ、鏡よ――」
 戦闘が始まる。
 互いがどこにいて、何者で、どんな攻撃を使い、それを何処から放ち、威力はどれほどか。
 互いが互いを知り、対策し、しかしその対策も、全知によって既知だ。知り尽くしている。
 だがそれ踏まえたうえで、
「肉! 肉ダヨ!」
 戦闘が始まるのだ。
ニレ・スコラスチカ
全知の鏡、ですか…それに聞けば、わたしの罪を償う方法も分かるのでしょうか。

…今は、感傷に浸っている場合ではありませんね。すぐに思考を切り替え、鏡に敵の戦術を聞き出します。

敵はわたしが【超過】の代償に倒れる事を狙い、塩胡椒の煙幕で視界と動きを封じて持久戦を仕掛けてくる…なるほど、わたしのユーベルコードも割れているようです。

しかし戦場に鏡が点在しているならば、逐一敵の位置を聞けばいい。目を閉じて戦っても無問題です。外套を口に当ててくしゃみを対策し、鏡の情報に従って【追跡】。【超過】による【怪力】で攻撃します。

能力が分かっていても、実感として強化した速さは分からないでしょう。それが命取りです。




 ニレは鏡が空中にすら散乱する空間の中へ降り立った。転移だ。
「これが……」
 見渡す視界のいたるところに、鏡やそれに準じる物が浮いている。この一つひとつが、いわゆる“魔法の鏡”なのだ。
 聞けば、答えをくれる鏡……。
 夢のようだと、そう思う。
「……これに聞けば、わたしの罪を償う方法も分かるのでしょうか」
 手近にあった鏡に触れ、そう言ってみるが鏡から答えは返ってこない。
「…………」
 当たり前だと、鏡の中の目が細まったのが見える。この鏡が答えるのはこの不思議の国、即ちこの戦場についてだけなのだ。己が背負った罪はこの戦場ではなく、この戦場には無い。
 もっと遠い世界の過去のことだ。だから鏡は答えない。
 それだけのことだ。
「――――」
 それだけで、すぐに思考を切り替えた。感傷に浸っている場合ではないのだ。細められた目は先ほどと同じだが、そこに込められた感情は先ほどとは違う。
「教えてください――」
 手に触れた鏡に、尋ねていく。


 そこでオウガと猟兵の両者は、鏡から答えを得た。
「――十四号洗礼聖紋、全開」
 一方がユーべルコードによって身体能力を強化するということを。少女の全身に彫られた刺青が力を放ち、少女の全身の様子が変わっていく。
 それはただ直立して行れば目に見えた変化では無かったが、疾走を開始した瞬間、解った。
「――!」
 異常なまでの身体強化だ。一歩で数メートルを優に越し、加速の乗った今、最早十メートル以上を跳ぶように行く走りは、周囲の鏡を手に持った拷問器で薙ぎ倒し、真っすぐに敵へと向かっていく。
 しかしそのユーべルコードが、弱点として多大な代償を後で支払うということを同じく鏡で知ったもう一方は、
「なら代償払うときまで粘るだけや……!」
 対策としてのユーべルコードを放ってきた。


「……来ましたね!」
 上空、そこに突如として大砲のようなシルエットが浮かんだのをニレは見た。身の丈を優に超えるそれはしかし大砲ではなく、木製の巨大ミルだった。
「――――」
 塩と胡椒、その二つのミルが動き始めた瞬間を強化された視力で捉えた。直後。
「……!!」
 二連の砲が一斉に唸りを挙げた。砲口から礫のような物が重力に従って落下してくる。砕かれ終わった内容物だ。
 内容物を破砕するロータリー部は巨大で、最早駆動といった言葉が適当だ。そしてそこから砕きの音は止まらず、途切れない。
 一斉という勢いで放たれていく礫の大群は風に乗り、鏡面に跳ね返り、やがて縦横無尽に散らばっていくが霧散するわけではない。
 大量だからです……!
 文字通り嵐のように内容物が降り注ぎ、身体強化で駆けていくこちらを包み込んだ。
「……っ!」
 一瞬にして視界が塞がれた。こちらへ迫り来たときは白塩と黒胡椒のマーブル模様だったが、嵐の中に包まれると全ての色が混ざり合い、灰色だ。灰色の闇の中、一寸先も見えなかった。
 そして何より胡椒だ。くしゃみや涙など、やはりその特性としてこちらの感覚器を封じてこようとするが、
 しかし事前に知っています……!
 魔法の鏡に尋ねておいたのだ。敵の狙いはこちらが身体強化の代償を支払ってるときだ。呪縛か流血か毒か、どれになるかは解らないが、その明確な隙を突いてくる。
 つまりここで手をこまねいていれば、時間が経つだけで、敵の思う壺だ。
「……!」
 強化された知覚において刺激物は危険だ。なので駆け続けながらまず真っ先に目を閉じ、息を止めた。そのままフードを被り、外套の襟を手繰り寄せて顔の前まで持ってくると、そこで留める。簡易的なマスクだ。
 マスクで口元を覆い、瞳を閉じていれば周囲の嵐からの被害は軽減される。そして駆けている途中、拷問器である"祝福処刑鋸"で砕いておいた鏡の破片に、外套の中で尋ねた。
「教えてください……っ」
 マスクの下で僅かと言えど口を開けば、舌から喉まで刺激が来た。外套を潜り抜けてきた香辛料の打撃だ。
 強化された感覚では、刺すようにも焼けるようにも、刺激が普段よりずっと鋭敏に感じられたが、それあるうちは己の感覚が生きている証として、えづきを抑えながら言葉を続けた。
「敵の居場所を……!」
 敵の現在位置だ。当たり前だが、敵はこの嵐の中にいないだろう。こちらへの時間稼ぎが目的なので、わざわざ胡椒を浴びる意味が無いからだ。
 いるとすれば嵐の外周だと思うし、返って来た鏡の答えもそうだ。目を閉じていても、方角と距離を聞いただけで敵の位置は解る。
 しかし、
「もう一度同じ質問をします……!」
 己は再度の質問をした。すると、
「――――」
 答えとして返って来た敵の位置が、先ほどとは違った。
 移動しているのだ


「肉! 肉カラ離レテル! 何デ逃ゲルノ!?」
「向こうがこっち向かってくるからや!」
 速攻で片を付けるつもりだったが、思いの外敵が元気だと、飢婦人は思う。
 敵は代償のある身体強化でこちらへ高速で接近。それに対し己は、カウンターとしての塩と胡椒の嵐で阻害、代償の時間まで粘るつもりだったが、
「――!!」
 鏡を割る音が背後から連続している。敵が嵐の中と言えど止まらず、真っすぐにこっちへ向かっている証拠であり、
「敵が耐えてこっち来ることも、解っとったけども……!」
 そしてその音が段々と大きくなってきていた。
 彼我の距離が詰められているということだった。
 速い。
 鏡に尋ねた結果、敵が嵐の中を接近してくることは知っており、それを元に想像していたが、実際の敵は想像よりずっと速かった。
 けどこっちが逃げ切ったら……!
 敵は代償を支払うことになる。なので今、己が取る選択は逃走の一手だ。と、そう思った時、一際大きな破砕音が鳴ったかと思えば、嵐の中から影が飛び出してきた。
「!!」
 弾丸のような勢いで視界に現れた黒い外套を見た瞬間、敵が大跳躍でこちらを追い越したのだとしる。先ほどの破砕音は、踏み込みによって鏡が砕け散った音だ。
 敵が宙で身を回し、振り返ることでこちらと正対する。
「――――」
 嵐を抜け、ゆっくりと開いていく瞼の中。緑の瞳が確かにこちらを見ていた。
「嗤い猫……!」
 頭上の猫が毛を逆立てる気配を感じながら、己も肉切り包丁を振り上げようとしたが、
「――遅いです」
 鏡台の一つに着地した猟兵がやはりそれを踏み込みで破砕し、こちらへ突撃してきた。
 激突する。
 猟兵が手に持っていた処刑具を大上段に振り上げ、嗤い猫からこちらまで一気に振り下ろした。
 それは斬撃と言うより、怪力による打撃だった。食いでの無さそうな痩せた少女だと、そう思っていた身体からとは思えない筋力を、全身に浴びる。
「ぁああ……!!」
 地面に叩き伏せられた己を中心として、衝撃に煽られた周囲の鏡が一斉に爆散していくのを、倒れた視界から見ていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

フェルト・ユメノアール
いくら鏡が何でも答えられると言っても時間が限られている以上、複数の策には対応しにくいはず!
速攻で嗤い猫と飢婦人を探し出して倒しちゃうよ!

鏡への質問は相手の居場所と相手がする質問かな?
相手の質問を知れればそれを利用して対応しにくい策を打ち出せるかもしれない
それさえ分かればあとは……これだ!

ボクは手札からスペシャルゲストをご招待!
現れろ!【SPミラーマジシャン】!

ミラーマジシャンの効果で作り出した鏡で自分の虚像を作り出して相手を攪乱
『トリックスター』で死角から奇襲を仕掛ける!
でも、お楽しみはこれからだ!
白鳩姿にした『ハートロッド』を『動物使い』で操り相手を攪乱、その隙を突いて接近、急所を一閃するよ




 転移を終え、鏡で囲まれた空間の中でフェルトは顎に手を当てていた。
 ……何でも答えられる鏡、ねえ。
 この戦場の特色である周囲の鏡のことだ。この戦場内限定であるが、尋ねればどんなことも教えてくれるという。例えばそれは敵の位置であったり、ユーべルコードの弱点など多岐にわたる。が、
 ……と言っても時間が限られている以上、複数の策には対応しにくいはず!
 あらゆる情報を知れるというのは強力な反面、やりとりは口頭のみなのでどうしても時間が掛かる。万全を期すれば期するほど、初動が遅れるのだ。
 なので自分が質問した内容は二つだった。一つは、
「鏡よ、鏡。――相手の居場所を教えて」
 オウガの現在位置だ。敵の位置を知ることは必須であり、急務だ。やがて鏡に方角と距離付きで映ったオウガの映像を見て、敵の現在位置を把握する。
 近い……というか、接近してるね……。
 なので、急ぎ次の質問をした。それは、
「鏡よ、鏡。――相手は何を質問したの?」
 相手が、鏡に対して何を質問したかだ。これを知れば、相手が何を狙っているのか解る。
 果たして鏡は答えた。
「――飢婦人様が尋ねられた質問は、二つあります。一つは、フェルト様と同じく『相手の居場所』です。そしてもう一つは――」
 一息。
「フェルト様と同じく、『相手が何を質問したか』です」
 向こうも同じだった。相手がどう出て来るかを最小の質問として聞いていたのだ。つまり今接近してきている敵の狙いはこちらと同じく、
 速攻……!
 その答えにたどり着くのと、己がユーべルコードを発動するのは同時だった。
「――ユニットカード、SPミラーマジシャン!」
 腕部に装着したデバイス、ソリッドディスクに差し込んだカードを媒介にして、周囲に立体映像として現れた姿はシルクハット姿の装飾華美な人影だ。
「…………」
 人影はフェルトの近くに立つと一礼し、ステッキを振り上げていく。そんな最中、鏡の声が続いた。
「質問は以上でよろしいでしょうか。であれば、フェルト様の質問によって飢婦人様の質問も満たされたため、飢婦人様にこの回答を――」
 が、
「――今聞いたから結構やで」
 跳び込んで来た声の後、破砕音に掻き消された。
 オウガ・飢婦人だ。たった今たどり着き、こちらの眼前にあった鏡を砕いたのだ。
 破砕を逃れ、僅かに残った鏡台の上に飢婦人は立つと、
「初めましていただきます」
「肉ゥ――!!」
 そこを蹴って、すれ違いざまに肉断ち包丁を薙いできた。
 己の姿が両断される。


 ……!?
 オウガ・飢婦人はすぐに異変に気付いた。
 今、自分は猟兵のすぐそばを通り過ぎ、手に持つ包丁で断ったはずだが、手応えがおかしかったのだ。
 すれ違った背後、そこで高音を響かせる砕きと散りばめの感触は、人体の手応えでは無い。
「鏡!?」
 今までそこに居ると思っていたのが、鏡面に映っていた虚像だと気づいた時には、すでに向こうは次の一手を放っていた。
「――――」
 猟兵、否、猟兵の虚像の近くに立っていた黒服が一礼した直後。頭上すらも含めたあらゆる場所に、先ほどの猟兵が再度現れたのだ。
 無数と言っていい数の猟兵が、一斉に口を開く。
「――さあ、楽しいマジックショーの始まりだよ!」
「……!」
 周囲の鏡面に反響した声だったが、音源と思わしき方向の鏡群を瞬間的に薙いだ。が、外れだった。
 いない。
 それを見て、己は迷わなかった。
「鏡! 実像の猟兵は――」
 どこや、とそう聞く前に、答えが来た。
「……っ!?」
 答えはしかし言葉ではなく、刃だった。
 死角から突如飛来したダガー、それがこちらの身体を突き刺してきたのだ。
 上半身から下半身にかけて縦一列、焼けるような痛みが来る。等間隔で身体から生える装飾華美なダガーは、正しく曲芸のような連投の結果だった。
「ドースル!?」
 敵の居場所は勿論、ユーべルコードの弱点なども鏡に聞いている暇は無い。どこにいるか解らない敵に隙を見せられない。
「なら周囲全部ごと吹き飛ばすだけや……!」
 自分達のユーべルコードならそれが出来る。塩と胡椒の巨大ミルによる香辛料の嵐で辺り一面をぶちまけるのだ。自分達も巻き込まれるが、仕切り直しにはなる。
 なのでそうしようと、頭上に手を振り上げたのと同時。周囲の虚像達も一斉に動いた。


 オウガがユーべルコードを発動しようとした瞬間を狙い、フェルトはダガーであるトリックスターを持った手とは逆の手を振り上げていた。
 そこに握られているのはロッドだ。名をハートロッドという。
「お楽しみはこれからだよ!」
 声を送った先でオウガが警戒を露わにするが、その周囲は全て虚像だ。虚像の全てがハートロッドを振り上げ、そして、
「……!」
 一斉にロッドの姿を変化させた。一瞬にして、ロッドが白鳩に似た使い魔へと姿を変えたのだ。
 飛び立っていく。
「ちぃ……!?」
 勿論、実像の使い魔は己が放った一羽だけだ。しかし周囲全てに虚像があるオウガにとって、一羽が羽ばたけば無数の使い魔が羽ばたいたことになる。
 オウガの周囲が、白一色で埋め尽くされた。
 その機に乗じて己は飛び込んで行った。手に持つトリックスターは順手から逆手にスイッチ。投擲ではなく接近による一撃を狙ってだ。
「――どうだった? ボクのショーは」
「!!」
 オウガが振り向くが、遅い。
 それより早く己の刃が、敵の急所を一閃した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

佐藤・和鏡子
鏡に敵を後ろや横から確実に轢くにはどのコースを通ればいいか聞きながら運転します。
ライトをハイビームにして猫型オウガと飢婦人の目を眩ませてユーベルコードと回避行動を封じ、轢殺のユーベルコードを使用して確実に轢けるようにして突っ込みます。
(運転で対応します)
運転技術で狙い、蹂躙と吹き飛ばしで殺傷力アップの私の定番コンボで仕留めます。
それでも斬りかかって来たら運転技術でかわすか、救急車の車体で防ぎます。




 戦場が二種類の音に支配されている中を、オウガ・飢婦人は走っていた。そして走りながら、疑問していた。
 ……おかしいやろ!?
 現状だ。響き渡る音の一つは鏡が砕け散る音であり、これはこの不思議の国においてはそれほどおかしくはない。
 さっきから絶え間なく連続しとるのが問題やねん……!
 それは何故か。戦場を支配する二種類目の音が原因だった。
「――!!」
 騒々しく大気を震わせるそれは、大出力の機関が駆動する音だった。
「何で救急車が爆走しとる……!?」
 その救急車に、先ほどから自分達は追われている。状況の理解が進まぬままとりあえず逃げている中、頭上の猫が叫んだ。
「キ、キルマーク! キルマーク描イテアルゼ、アノ救急車!」
 マジでどういうことやねん……!!


 転移が済んだ和鏡子がまず初めに行ったのは、周囲の鏡の中から手ごろな鏡を拾うことだった。
「少しお借りしますね」
 言って一つの手鏡を拾うと、共に転移してきた救急車に乗り込んだ。年代物のアメリカ車は全体的に大型で、車高も高い。ステップに上がって運転席へ座るのも、この身長では一苦労というか、ちょっとコツがいる。明らかに想定されていない設計だからだ。
「うーん……と、ここがいいですね」
 そうやって乗車した後、ハンドルの側に目を向けた。そこは自家用車であればカーナビが設置されている部分だが、この車は旧型であるし何より救急車なので諸々の機器がマウントされている場所だ。
 そこへ手鏡を吊り下げるように置いた。
 ……これで準備は万端ですね。
 では、と呟いた後、己は鏡に向かって問いかける。
「鏡よ、鏡……」
 問いかける内容は一つだった。
「――敵を後ろや横から、確実に轢くためのルートを教えてください」
「…………」
 問うた瞬間明らかに鏡が沈黙した気がするが、しばしの後、
「――――」
 結果が鏡面に表示された。正しくカーナビのように自車と目標を繋ぐルートだった。
 それだけで充分だった。己は頷き、
「行きます」
 キーをイグニッションに差し込み、捻った。
 行くのだ。


 和鏡子は行った。慣れた足捌きでクラッチを繋いで安定させると、そこからはアクセルをベタで踏んでいく。
「――!!」
 急加速特有の唸りを挙げ、車のタイヤが不思議の国の大地を噛み、そしてそのまま車体が前へ進んでいった。
 前進は吹き飛んでいくような勢いで、地面は別に整地されているわけではない。運転は荒れるがそれを自分の技能を持って抑え込み、ナビに従ってハンドルを捌いてく。
「……!」
 加速とハンドリングの度、車外で鏡の砕け散る音が聞こえてくる。たった今も、宙に浮いた姿見を弾き飛ばし、飛沫のように破片が散らばっていくのがフロントガラスの視界の中で見える。
 しかしそんなことは気にしていなかった。己にとって重要なのは敵の追跡であるし、そして何より、
「!! いました……!」
 飛沫の向こう側に、オウガ達を見た。
「……!?」
「――!!」
 こちらに背を向け、何か互いに言い合いながら二対一体のオウガが全力ダッシュで逃走している。
 背中を向けてくれているなら好都合ですね……!
 こちらとしては背後から轢く気しか無いのだ。正対して何らかの対抗措置を取られるのは面倒であるし、不意を突く意味でも死角から轢くのが一番だった。
 そしてナビも、先ほどから鏡面いっぱいに直進指示だけを表示している。なので己も表示に従っていく。
 無論、現状のような逃走も面倒なので、
「逃がしません!」
 ヘッドライトをハイビームに固定し、敵の背後から一気に照らした。
「!?」
 周囲の鏡による反射は、辺り一面を莫大量の光で埋め尽くす。逃走中だったオウガ達が、間近で炸裂した光に視界を奪われ、明らかにたじろいだ。
 それは追われている最中とすれば致命的であり、時速百キロメートルを越すこちらにとって一瞬の隙は、彼我の間にある数十メートルを一瞬で詰めることが出来る。
 もはや不可避の距離となった両者だったが、
「……くそ、が……!!」
 叫ぶと同時。光で埋め尽くされた中でも敵の片割れである猫型オウガの目が光ったのが解った。
 瞬間。光の海の中から肉断ち包丁が飛び出してきた。飢婦人が投擲したのだ。
 包丁ごとき、車体の装甲で防げますが……。
 ユーべルコードで強化されたその一投は今、九倍に増加して迫ってきている。分化された攻撃はしかし攻撃力が落ちておらず、一投でもフロントガラスに衝突すると危険だ。
「……!」
 なので己はすぐさまハンドルを切って、車の後部を前に振った。
 尻尾を振るような動作で車体側面を前に押し出せば、それは防御と同時に攻撃も兼ねた突撃となる。
「――!!」
 分化した肉断ち包丁が車と激突した激音が九度、鳴った。そしてその直後。
「が、ぁっ……っ!?」
 二対一体のオウガを弾き飛ばした重音と振動が、ハンドル越しに伝わってきた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リコリス・ガレシア
基本はおっとりした少女

「ねぇ、鏡さん。お相手さんの調味料はどれくらい離れれば苦しくないの?」
距離を聞いた後、敵がミルを召喚したら帽子をその場に残しリコの姿が消えます。
残像を伴う縮地で移動し範囲外から胡椒を眺める少女。
夜のような黒髪、血のような赤眼、彼岸花模様の着物。帽子の代わりに般若の面を斜めに被るクールな人格へ切り替わり
「なるほど、聞いていた通りだな」
「では鏡よ。相手は自分の胡椒で苦しむか?」

右手で左手首を掴み抜刀した神剣を隻腕で構え、UCで雨雲を呼び出しながら縮地で逃げる

暴風雨で粉塵を洗い流し吹き飛ばし、敵が驚いた隙に雷落としからの一刀両断。または、雷撃で粉塵爆発を起こし吹っ飛ばして斬る。




 空中すらも含めて鏡が並ぶ幻想的な空間、そこを歩く人影があった。キャプリンを被ったピンクのウェーブ髪姿だった。
 その姿は様々な鏡に映っていくが、しかしやがてその動きが止まった。
「――――」
 一つの鏡の前で立ち止まったのだ。この世界でそれが意味することは一つしかない。
 少女、アイリスは首を傾げながら茶の瞳を鏡に向けた。
「ねぇ、鏡さん。お相手さんの調味料はどれくらい離れれば苦しくないの?」


 アイリスは思う。聞くべきは敵のユーべルコードの詳細だと。それはユーべルコードの仕様と、そう言っていいかもしれない。
 敵が使うユーべルコードが解るんだものね……。
 相手がいつ、どのタイミングで、どんなユーべルコードを使うか鏡に聞けば解るのだ。後はそれに対して己がどう対処するか、という点だが、
「……まあ正確には、対処するのは“私”じゃないんだけど……」
 そう呟いている間に、鏡が鏡面に情報を見せてくれた。敵のユーべルコードの一つである巨大ミルを使った胡椒の嵐、その効果範囲が図式や時に映像で分かりやすく表示されている。
 成程……。
 目の前の具体的な数値や映像を漏らさず見て、そしてそれを周囲の風景とも見比べる。敵がユーべルコードを使用した際のイメージを脳内で描きながら、
「――じゃあ行こっか」
 己は、瞬間的にその場を離脱した。
 何故か。
「――!!」
 敵がこちらを視認し、二連の巨大ミルを空に召喚していたからだ。


「速……っ!?」
 猟兵へユーべルコードを叩き込もうとしたオウガ・飢婦人は、相手が正しく目にも止まらぬ速さで移動したのを見た。回避だということはすぐに解った。
 今、視線の先で、猟兵が被っていた帽子だけが宙に残っている。それもすぐに塩胡椒の二連砲弾が着弾することによって、衝撃波に煽られていった。
 が、それに視線を向けている場合ではない。
「……ッ!」
 頭上の嗤い猫と共に急ぎ視線を振り、それだけでは足らずと首も、身体も振って敵の行く末を追おうとするが、間に合わない。常に残像だけしか視界は捕らえられず、猟兵本人は遙か先だ。
 回避するのは事前に解っとったが…!
 己が鏡にした質問は、「相手が何を問うか」だ。なので、相手が鏡に何を問うたかは知っている。こちらのユーべルコードの効果範囲を聞いたのだ。それはつまり、効果半径から逃れる散弾を付けていることは明白だった。
 ユーべルコード、“代用品の効かない良い調味料”……。
 上空の巨大ミルからの塩と胡椒の嵐で、対象の動きを一時的に封じる能力だが、それはつまり対象次第でその効果範囲も変わってくる。
 対人であれば半径十メートル前後が一つの目安か。しかし猟兵の鏡への問いを聞き、己は効果半径を数十メートルに拡大した。半信半疑というか、やれるものならやってみいや、とそういうことだったが。
「――――」
 やられた。
 灰の嵐の中に猟兵はおらず。スカートの端に、
「――は?」
 調味料の粉すらも付けず、とそう思ったのだが、違う。
「……? サッキマデ、服、フレア系ダッタクナイ?」
 フレア系とか言葉知っとんのかい、と思いながらも相方の言う通りだ。淡く広がりを持ったワンピース姿だったはずだが、
「着物……!?」
 彼岸花模様だ。しかし変わっているのは衣服だけではなかった。髪もピンク色から夜のような黒髪に変り、瞳も茶から血のような赤眼へ、そして帽子を被っていた頭には般若の面を斜めがけにしていた。
「――なるほど、聞いていた通りだな」
 警戒するこちらに構わず、猟兵は冷ややかな目で調味料の嵐を見ていたかと思うと、おもむろに口を開き、右手で左手首を掴みながら言葉を続けた。
「では鏡よ。――相手は自分の胡椒で苦しむか?」
「……!?」
 追加の質問と共に、猟兵が左腕を引き抜いたのを見た。


 抜刀。“鬼”としての人格を宿らせたリコリスは左腕を引き抜くことで、それを果たした。
「……!」
 視線の先、調味料の嵐を挟んだ向こう側でオウガが動き出すのが見える。大方、相手もこちらの動きに対処しようとしているのだろう。
 嵐を迂回するルートではあるが、こちらに急いで駆けつけようとするが、己は縮地で距離を取りながら、
「――遅い」
 左腕を、左腕を形成していた神剣・天叢雲剣を天に掲げた。その刹那。
「――――」
 全天が、暗雲に包まれた。たった今引き抜いた、天叢雲剣による天候操作の結果だった。
 戦場全てで一気に影が落ちる中、次に生じたのは暴風だった。己の背後から、前方へ。つまりオウガ達に向けて駆け抜けた風が、鼓膜を荒々しく叩いた。
 暴風はまず調味料の嵐とぶち当たり、双方が持つエネルギーを周囲に広げたが、すぐに後から押し寄せた追加の突風が全てを押し流していく。
 衝突によって砕け散った嵐はそのまま突風に流され、進路の先にいるオウガ達を一息に飲み込んだ。
「……ッ!!」
 調味料の打撃によって視覚を封じられ、そうでなくても暴風によってオウガ達の身動きが制限される。苦しむオウガ達の様子を、調味料で薄れた景色の先に見ながら、口を開く。
「相手は自分の胡椒で苦しむか? その答えは、是だったな」
 そうでなければ向こうはもっと効果範囲を広げ、こちらの回避の難易度を上げようとしただろう。しかし相手は、己が生み出した胡椒に苦しむ。
「そのまま、苦しみ続けろ」
 右手一本で構えた天叢雲剣、それを軽く振ることで全ての風が途端に動きを変えた。塩と胡椒だけでなくオウガすらも突風で押し飛ばさないように、オウガを中心とした渦の流れを形成し、向こうがそうしようとしたように、やはり調味料の嵐でオウガ達を閉じ込めたのだ。
 見る視界は嵐でぼやけているが、何とか逃れようとするオウガ達の姿があった。
 やがて、
「――!!」
 風の後には雨が降ってきた。それは荒々しい雨で、そして雷鳴を伴っていた。
 暴風に相応しい激しい雨、暴風雨だった。瀑布のように降り注ぐ雨は戦場全てを洗い流し、塩と胡椒の嵐すらも洗い流され、中に封じられていた敵すらも見えた。
「ク、ソが……!」
 嵐が無くなったとはいえ雨で視界はけぶる。そんな中でも、満身創痍という様子のオウガの姿はよく見えた。
 そんな相手に、己は告げた。
「――行くぞ」
 それだけだった。それだけで、立っていた大地を蹴り飛ばし、暴風雨の中、敵へ向けて突っ走っていった。こんな状況では、聞こえるものも聞こえない。
「!?」
 敵がこちらの接近に気付いたのも、最早至近と言っていい距離になってからだった。
「――――」
 己と敵の視線が合った。だが次の瞬間には、莫大な光で視界全てがホワイトアウトした。
 落雷だ。事故や天災では無く、己が命じた人為的な“それ”が眼前のオウガ達へ直撃したのだ。
「クソ、がァ……!!
「終わりだ……!」
 あまりの光量によって、光の白と影の黒の二色しか存在しない視界の中、隻腕一本で持った神剣を、上段から敵へ振り下ろした。
「――!!」
 庇うように掲げられた肉断ち包丁ごと、一刀両断だった。
 オウガ達の身体が二分され、そしてそれで終わりだった。
 オウガが、永遠に沈黙したのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月20日


挿絵イラスト