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迷宮災厄戦⑩〜逃げ道は選ばない

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●ハートの女王が住んでいた城
 そこは複雑な迷路のような城だった。
 入り口は一つであるが、出口はたくさん。出来の良い迷路アトラクションのようであった。ただ、一点を除いては。
 迷宮と化した城の中を、嘗ての城主であるハートの女王を模した『女王の石像』が徘徊している。
 それは触れたものを場外へと強制テレポートする能力を有していた。
 これもまたオブリビオンであることには違いない。だが、攻撃能力は皆無に等しく、ただ必ず触れたものを場外へとテレポートし、この『ハートの女王が住んでいた城』より先には進ませないのだ。

 全てが過去形で語られるこの城は、オウガ・オリジンによって戯れに殺された忠臣『ハートの女王』の怨念が籠められている。
 この迷路と化した城を全て攻略すれば、怨念は消え、この『ハートの女王が住んでいた城』より先の道へと至ることができる。

 だが、迷路を攻略するだけならばいざしらず。
 城内を徘徊している『女王の石像』の数は多い。迷路の地形を利用して『女王の石像』と追いかけっ子じみた迷路攻略を行なわなければならない。
 それは通常の迷宮を攻略するよりも、さらに難易度の上がることだろう。
 だが、それでも猟兵達は道を拓かなければならない。
 その先に目指すオウガ・オリジンや蝋書家がいるのだから―――。

●迷宮災厄戦
 グリモアベースへと集まってきた猟兵達に頭を下げて出迎えるのは、ナイアルテ・ブーゾヴァ(フラスコチャイルドのゴッドハンド・f25860)だった。
 彼女は微笑み、猟兵達に迷宮災厄戦の次なる戦場の説明を開始する。心做しか、表情が少し和らいでいるのはどういうことだろうか。
「お集まり頂きありがとうございます。迷宮災厄戦の新たなる戦場『ハートの女王の住んでいた城』が開放されました」
 猟兵達が戦いによって制圧した場所が増えたことによって、新たなる戦場への道筋が拓かれたのだ。
 今回猟兵たちを送り出す場所は『ハートの女王の住んでいた城』と呼ばれる、城内が迷宮へと変貌した城である。

「はい、城内は全て迷宮と化しています。迷宮を踏破する……だけであるのならば、何の心配も無いのですが、城内には『女王の石像』と呼ばれる触れた者を場外へと転移させる……つまり、強制テレポートさせる石像が多数徘徊しています」
 なるほど、迷宮をただ踏破するだけでなく、障害となる石像がいるということなのだ。さらには場外にテレポートされ、再び最初からやり直しとなるのは時間のロスにもなる。

「勿論、『女王の石像』もまた弱いオブリビオンであるので、倒すことも出来ます。強制テレポートされるまに撃破して逃げる、という手も有効でしょう。ただ、数が多いですので、皆さんから触れても『触れた』とカウントされ、場外テレポートされてしまいますので、注意が必要です」
 普通に追いかけっこのように逃げた方が楽というわけである。

「私が今回予知したルートは、入り口から、大食堂、大浴場、バルコニーというルートになります。このルートを沢山の方が踏破すれば、この迷宮と化した『ハートの女王の住んでいた城』に渦巻く怨念は薄まっていくことでしょう」
 ナイアルテが予知した迷宮ルートは3つの場所を抜けていくことになる。
 その全てが迷宮となっているため、大食堂は巨大化した食器や椅子やテーブルが所狭しと敷き詰められて迷図となり、大浴場は更衣室から浴場が迷宮となっている。
 バルコニーに飛び出せば、城外に脱出完了というルートになっているようだった。

 勿論、その道程には『女王の石像』が目を光らせている。
 かの石像たちと追いかけっこをし、躱し、大食堂、大浴場、バルコニーのルートで駆け抜ける必要がある。
「今回、皆さんに戦うべきオウガは存在しません。戦いはまだまだ続きますが、このへんで体を動かしてリフレッシュするのも良いかも知れません」
 などとナイアルテはニコニコしている。
 彼女の表情が和らいでいたのは、こういうことであったようだ。オウガとの戦いは危険度が高い。傷つく者もいるだろう。
 だが、今回に至って言えば、『女王の石像』はただ城外にテレポートするだけ。傷つくことはあまりないからだ。

「それでは、皆さん。迷宮踏破、よろしくお願いいたしますね」
 微笑んでナイアルテは猟兵たちを転移させていく。
 だが、ちょっとまってほしい。確かに危険度は低いかも知れないが、パルクールよろしく『女王の石像』と追いかけっこするのは、普通に戦うより疲れるのでは?
 そういう猟兵の言葉を聞いて、ナイアルテはキョトンとする。

「……ぱるくーる、楽しいですよ?」
 体を動かすことが楽しい。
 そう感じる者もいれば、できるだけ楽をしたいという者だっている。そのことをナイアルテは微妙に理解しないまま、ぐいぐいと稀に見る押しの強さで猟兵たちを転移させるのだった―――。


海鶴
 マスターの海鶴です。

 ※これは1章構成の『迷宮災厄戦』の戦争シナリオとなります。

 ハートの女王の住んでいた城の迷路と化した城内に徘徊する多数の『女王の石像』と追いかけっこをし、決められたルートを駆け抜け踏破しましょう。
 怨念渦巻く迷路を踏破すれば、踏破しただけ怨念は薄まり、次なる戦場への道が開けます。

 ※このシナリオには特別なプレイングボーナスがあります。これに基づく行動をすると有利になります。

 プレイングボーナス……地形を利用して女王の石像と追いかけっこする。

 今回は、『大食堂』『大浴場』『バルコニー』の順のルートになります。
 このルートを駆け抜け、脱出すれば、シナリオ成功となります。徘徊している『女王の石像』はオブリビオンですが、弱いオブリビオンですので、皆さんの一撃で壊れますが、触れた瞬間にアウトとなり強制テレポートされてしまいますので、ご注意ください。

 それでは、迷宮災厄戦を戦い抜く皆さんのキャラクターの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
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第1章 冒険 『女王の石像から逃げろ』

POW   :    女王の石像の集団に追いかけられながら、迷宮内をマラソンしつつ迷宮を探索する

SPD   :    女王の石像に見つかる度に、全速力で振り切って安全を確保しつつ迷宮を探索する

WIZ   :    女王の石像に見つからないように隠れ潜みながら迷宮を探索する

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

夢ヶ枝・るこる
■方針
・【POW】使用
・アド/絡◎

■行動
成程、面白そうな場所では有りますねぇ。
頑張ってみましょう。

『FRS』『FSS』を展開、【銀翼袍】を使用し『低空飛行』で参りましょうかぁ。
これで『大食堂』の『食器』や『大浴場』の『水場』等の『足を取られかねない地形』は或る程度無視して進めますぅ。
また【銀翼袍】は《弱い認識阻害を伴う、強力な『崩壊の波動』》を放射出来ますから、これで『石像』の認識を阻害すれば逃げ易く出来るでしょう。
行き止まり等で囲まれかけた場合は『崩壊の波動』に『FRS』『FSS』の[砲撃]&[範囲攻撃]を合わせ、触れない様に破壊しつつ道を開きますねぇ。

何とか無事に辿り着けると良いのですが。



「成程、面白そうな場所では有りますねぇ」
 かつて、オウガ・オリジンの忠臣であったというハートの女王。
 戯れに殺されてしまったが故の怨念が今でも渦巻く『ハートの女王が住んでいた城』は、どこもかしこも迷路と化し、あちらこちらに、触れられれば強制テレポートする『女王の石像』が闊歩する一風変わった戦場となっていた。
 そんな迷路に挑む猟兵の一人、夢ヶ枝・るこる(豊饒の使徒・夢・f10980)は、両腕の固定砲台と空中浮遊する砲台、8枚の小型ビームシールドと共に、ユーベルコード、豊乳女神の加護・銀翼袍(チチガミサマノカゴ・ギンヨクノショウゾク)によって得た飛行能力でもって、城内を低空飛行して進む。

「頑張ってみましょう……そんな意気揚々と言いましたけど、数、多くありませんか!?」
 るこるの低空飛行に合わせるように『女王の石像』が凄まじい勢いで、彼女を追いかけ回すのだ。
 城内という屋根のある場所では、彼女の飛行能力も安全の面を考えれば障害物の少ない低空を飛ばざるを得ない。さらに大食堂の食器や大浴場の水場などの足を取られかねない地形であっても、空を飛んでいれば影響を受けずに無視して進めると踏んだのだ。

 だが、実際に城内へと突入した瞬間、彼女を追いかけ回す『女王の石像』の俊敏さだけが誤算であった。
 彼女を追いかけ回す物言わぬ『女王の石像』。オブリビオンであるのだが、物言わぬ石像が淡々と自分を追いかけてくる様子は、あまりにもB級映画のようであった。
「進めば進むほどに数が多くなってますぅ~!」
 そう、彼女が低空飛行でルートを進行する度に、惹きつけられるようにして『女王の石像』が追いかけてくるのだ。

「なんで!? なんでなんです!? ユーベルコードの効果で認識阻害が働いているはずですのに~!」
 そう、彼女のユーベルコードは弱い認識阻害が行なわれている筈。
 それ故に『女王の石像』は侵入者として、るこるを捉えるはずはないのだった。なのに何故こんなにも大量に追いかけてくるのか……。それは彼女が自覚せぬ誘惑する力故。
 そう、どれだけ崩壊の波動に晒されていたとしても、崩れ落ちたとしても、それでも追いすがるだけの魅力が彼女にはあったのだ!

 そんな彼女を壁際に追い詰める『女王の石像』たち。
 だが、オブリビオンと言えど、弱い存在。技量高まった猟兵である、るこるの的ではない。
 一斉に放たれる砲台からの砲撃が一斉に包囲する『女王の石像』を打ち砕く。
 包囲を打ち破って一気に飛び出す、るこる。
「もぅ~! なんでいつもいつもこんなに私にばっかり~!」
 ひ~ん、と涙目になりながら囲いを破った、るこるはバルコニーへと一気に駆け込み城外へと飛び出す。

 ゴールを突き破らん限りの勢いで飛び出したるこるは、振り返って城内を見やる。そこにあったのは、『女王の石像』たちが、るこるを求めて次々とバルコニーから城の外へと滝のように流れ堕ちていく光景であった。
 その瞳は狂喜に彩られたように爛々と輝き、るこるは改めて飛翔能力を得ていてよかったと胸を撫で下ろすのであった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月代・十六夜
次は食堂!何か飯でも出んのかな?流石に敵地で飯はやめとくか…

まぁ気を取り直して、基本は【韋駄天足】での【ジャンプ】での高速移動だな。
閉鎖空間でのピンボール軌道なら任せとけってんだ。
んー、大食堂はちょっと視界が通りづらそうだし、【聞き耳】と【野生の勘】を働かせつつ用心して進むかね。
普通なら通れないようなオブジェクトも飛び越えられるし、相手に意表を付いて進もう。
更衣室はともかく大浴場はいかにも滑りそうだな。どうせ滑るなら【韋駄天足】で上げたスピードを殺さずに浴場で【盗ん】だ石鹸で滑って大加速!
そのままバルコニーに飛び込んでフライハーイ!って感じで!



 迷路ひしめく『ハートの女王が住んでいた城』。
 その迷路を踏破しなければ、オウガ・オリジンによって戯れに殺されてしまったハートの女王の怨念は晴れず、オウガ・オリジンや蝋書家のいる戦場へと至ることができない。それ故に、迷路などという本来面倒な場所は避けることができない場所となっていた。
 だが、猟兵達は臆すること無く城内の迷路へと突き進む。
「次は食堂! なんか飯でも出んのかな?」
 そう言って城の入り口から大衝動へと飛び込んだ月代・十六夜(韋駄天足・f10620)は、大食堂の様子を見て、なんとなしにそう口にした。
 食堂であるから、食材の一つや二つありそうなものである。そうでなくても、食堂と効くだけでなんだか美味しそうな匂いがするのだから不思議である。

「……流石に敵地で飯はやめとくか」
 一瞬だけ、もしも食事が出されたら食べてしまおうかという考えが彼の脳裏をかすめたが、今は迷宮災厄戦である。もしも、食べてお腹が痛くなったりだとか体調不良にでもなってしまったら、それこそ物笑いの種であろう。
 今回は目の前に美味しそうな食事が出てきても、安定のスルー。そう心に決めて十六夜はユーベルコード、韋駄天足(イダテンソク)にて駆け抜けていく。
 時に床を蹴り、壁を蹴り、自由自在に障害物を乗り越えていく。

「飯は出ないけど、『女王の石像』は追っかけてくるんだね!?」
 閉鎖空間でのピンボール機動ならば任せておけ、と意気込んだ瞬間、彼の目の前に現れたのは食事ではなく、石像。
 そう、この城内の迷路には『女王の石像』と呼ばれる、触れられれば強制的に城外へとテレポートされる弱いオブリビオンが存在しているのだ。
 危うく勢いよく駆け抜けていた十六夜は、石像に触れてしまいそうになるが、そこは持ち前の機転によってスーパーボールのように壁と床を蹴って跳ねるようにして躱す。

「あっぶな―――……聞き耳っていうか、野生の勘っていうか……用心しておいてよかったぜ」
 気を取り直して、ユーベルコードによって地面を蹴ることに寄って高速で自身を打ち出しながら、障害物をクリアしていく。
 石像は相変わらずあちらこちらに点在している。彼の五感が研ぎ澄まされ、石像の動く僅かな振動すらも聞き逃さずに食堂を駆け抜けていく。

 その先に広がっているのは大浴場。
 更衣室から抜け出て駆け抜けるも、大浴場の床は城らしく大理石で覆われている。「これは、もしかしなくても、つるんって滑るやつだな。なら……」
 十六夜は、手短にあった石鹸を手に取る。ユーベルコードによって引き上げられた彼の移動速度を殺さずに活かす方法、それは―――。

 それは見事な滑走であった。
 手にした石鹸を投げ、その上に類まれなるバランス感覚で乗っかり、大浴場の大理石を滑走する。あまりの速度に石像達は一切反応できなかった。
 例え反応できていたとしても、彼のユーベルコードの力と石鹸と大理石の間に発生している摩擦力は反比例するように速度を増し、圧倒的な速さで大浴場を駆け抜けた。

 だが、それでも出過ぎた速度を落とすためのブレーキがない。
「いいや! ブレーキなんて必要ないぜ!」
 そう、今の彼を止められるものなど誰も居ない。
 スピードの乗った暴走列車の如き十六夜。彼は弾丸のごとく一直線に大浴場を突切り、バルコニーへと飛び出す。
 目指すは、このルートのゴールであるバルコニーから望む先、空だ!
「このまま、フラーイ! ハーイ!」
 勢いよくバルコニーの外、大空へと足元に履いた下駄のような石鹸を蹴って、飛び出す十六夜。
 それは見事な射出であった。
 猛烈なる勢い。石鹸の泡が尾を引くように空に掛けられ、光が反射して、十六夜の空を飛ぶ軌跡となる。

 キラキラと光り輝き、虹を生み出し……彼の後にバルコニーへとゴールを決める猟兵たちを、きっと祝福することだろう―――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

セルマ・エンフィールド
迷路を突破すれば怨念が消えるというのは不思議なものですね。
まぁ、怨念と対話をして鎮めなければいけない……というのは専門外ですし、こちらの方が分かりやすくていい。

倒すことはできるけれど、触れられた瞬間に外に転移させられるということでしたね。
要は、近づかれるより早く撃ち抜けばいい。いつも通りです。

接近されるよりも早く【クイックドロウ・四連】で石像を撃ち抜きつつ進みます。

大食堂は巨大化した食器などの物陰に石像が潜んでいる可能性もありますし、死角になっているところの傍を通る際はより注意をしていきましょう。
大浴場は濡れた足元を氷の弾丸で凍てつかせれば一度に複数の石像を足止めできそうです。



 そこは見渡す限りの迷路であった。
 かつての『ハートの女王の住んでいた城』は、戯れにオウガ・オリジンによって殺された忠臣『ハートの女王』の怨念が渦巻く魔城と化していた。
 入り口はたった一つ。しかし、その迷宮の数はおびただしいものがある。先行したりょうへいたちの『女王の石像』に追い立てられる声が聞こえる。
 どの戦場に言ってもオウガが存在し、戦いを余儀なくされているが、今夏は違う。
 この城の迷路を突破し、残留するハートの女王の怨念を薄れさせていけばいいのだ。どちらにせよ、この戦場の迷路を消さなければ、オウガ・オリジンには辿り着くことができない。

「迷路を突破すれば怨念が消えるというのは不思議なものですね。まぁ、怨念と対話して沈めなければいけない……というのは専門外ですし、こちらの方がわかりやすくていい」
 そう言ってセルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)は、迷路の入り口たり城門をくぐった。
 確かに人の情念である怨念を払うというのは、並大抵のことではできないだろう。思いが強いからこそ、死した後もこうやって世界に残り続けるのだから、相対するこちらも生半可な気持ちでは取り込まれてしまう。
 それならば、迷宮を踏破するだけで怨念が薄れるというのであれば、それは歓迎すべきことだった。

 セルマはルートの最初の関門である大食堂へと足を踏み入れる。
 巨大化した食器やテーブル、椅子などが散財していて、見通しが悪いことこの上ない。さらに、この迷路の中に闊歩する『女王の石像』の存在を忘れてはならない。
「倒すことは出来るけれど、触れられた瞬間に外に転移させられるということでしたね……」
 そう、触れたものを強制的に城外へとテレポートする能力を有する『女王の石像』の存在が厄介なのだ。
 ただでさえ、迷路を踏破するというのは時間がかかる。
 迷宮災厄戦はまだ始まったばかり、ここで躓くわけにはいかないのだ。

 次の瞬間、セルマの青い瞳がきらめく。
 食器の死角から飛び出してきた『女王の石像』を一瞬で撃ち抜く氷の弾丸。
 銃声は一発分しか聞こえなかったが、『女王の石像を打ち貫いたのは、4つの弾丸。そう、目にも留まらぬ、クイックドロウ・四連(クイックドロウ・クアドラプル)。
「要は近づかれるより早く撃ち抜けばいい。いつもどおりです」
 目にも留まらぬ早業。
 手にしたデリンジャーは元々彼女が隠し持っていたものだ。それを一瞬の内に4連射する技量は凄まじい。

 こうなると、もはや彼女にとって死角からの攻撃は無意味である。
 彼女が『女王の石像』を知覚した瞬間に放たれるデリンジャーの弾丸が、『女王の石像』を容赦なく打ち貫いていく。
「こういった込み入った場所は、必ず死角から襲いかかるのがセオリー……まして、相手は触るだけで良いのですから、無理に待ち構える必要もない……ですが、相手が悪かったですね」
 次々と手にしたデリンジャーで『女王の石像』を討ち貫いていく。悠々たる足取りでセルマは大食堂を抜け、大浴場へ。

 こんなときでもなければ、ゆっくりとお湯に浸かりたい気分であるが、そうも言っていられない状況だ。
 やるからには手早く。
「―――ですから、無駄です」
 彼女に散々に打ち砕かれてきた『女王の石像』たち。その恨みを晴らさんと、石像達が大浴場の濡れた床を滑走してくる。
 ふぅ、とため息を着くセルマ。群れ為す石像たちの滑走を前にしても、その表情は些かも崩れることはなかった。

 デリンジャーから放たれる氷の弾丸を床へと打ち込んだ瞬間、濡れた床は凍結し、石像達の動きを止める。
 一網打尽とはこのことだろう。念の為、動けない石像たちを氷の弾丸で打ち砕いて大浴場を歩む。
「さて、あとはバルコニーだけですか……と、あれがゴール?」
 セルマの視線の先には先行した猟兵の残した虹の架け橋。
 ここまで来れば、もうゴールしたも同然。セルマにとっては、この迷宮は簡単そのものであったことだろう。
 絶対零度の射手にとって、この程度の迷路は在って無きもの。確かに良い休憩担ったと思いながら、セルマは虹の先に繋がる戦場へと、思いを新たにして進むのであった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フロッシュ・フェローチェス
スピードホリックの真骨頂、今こそ見せる時、なんてね。ルートごとに、想定したものがあるか、無いか、それも分かれ道になりそうだけど……無かったとしても、走り切るだけ。

食堂はまずテーブルを利用しよう。床を走るより、テーブルの上を駆けた方が、途中でスピードを落とさずに済むはずだ。けれど飛び移る先は慎重に……残像使ってでも、回り込ませないよ。
大浴場は最初はそのまま走り、途中で……水上歩行ならぬ走行、さらに加速式励起でスピードに乗り、壁を走らせてもらう。

最後のバルコニーでは床と、手すりの上を交互に走り、危うければ、壁を蹴ってそのまま跳び越してしまおう。そして……ラストスパートでUCを使うよ。念には念をだ。



 迷宮踏破はスピードが肝要である。
 特に今回の迷宮災厄戦において、スピードとは重要視されることであったことだろう。
 フロッシュ・フェローチェス(疾咬スピードホリック・f04767)は、『ハートの女王が住んでいた城』の城門をくぐり、その先に広がる迷路を見遣って、スピードホリックたる彼女の心に火が灯るのを静かに感じていた。
 頭の中でシュミレートが行なわれる。
 グリモア猟兵からの情報では、迷路となっているルートは、大食堂、大浴場、バルコニー。
 このルートで駆け抜ければゴールでき、迷宮踏破となる。彼女の頭の中ではすでにルートごとに想定した障害への対策がインプットされている。
 後は、それを実行するだけだ。
「スピードホリックの真骨頂、今こそ見せるとき―――なんてね」
 駆け出すフロッシュの緑色の髪が残光となって、迷路となった『ハートの女王の住んでいた城』に閃いた。

 第一の関門である大食堂に入った彼女がまず利用したのはテーブルだ。
 巨大化した食器や家具がひしめく大食堂において、床はテーブルや椅子の足、食器などが散財する障害物の多い場所。ならば、テーブルの上はどうだろう。
 障害物が少ないのではないかと彼女の事前のシュミレートがはじき出す。テーブルの上に駆け上った彼女が見たのは、数々の食器。
 なるほど、と僅かに微笑む。障害があればあるほど、それを躱してゴールしたときの達成感は大きいものだろう。
「なら、さ! アタシのスピードに付いてこれるかい!」
 駆け出す。残像を残すほどにスピードで駆け抜ける彼女の体に追いすがる『女王の石像』達。その手が触れようとしても、刹那の瞬間に彼女の緑色の残光が残るばかり。

 次々と食器の合間を抜け、飛び、着地しては一分の好きもなく駆け抜けていく。
 大浴場へと突入しても、彼女の速度は一向に衰えることはない。濡れた床も、彼女の足捌きの前には無意味であった。
「これまた大きなお湯が張った……けどね!」
 体に刻まれた加速の術式……超速術理『加速式』によって、彼女の速度が上がる。迫る『女王の石像』たち。
 だが、彼女は慌てない。背中に迫る『女王の石像』たちを置き去りにする速度で持って、お湯の張った浴場へと突っ込む。
 凄まじいほどの水しぶきを上げて、水上歩行ならぬ水上走行を可能にする圧倒的な速度。そのままスピードに乗ったフロッシュは壁へ飛び、壁面を駆ける。

 その光景はあまりにもでたらめな光景であったことだろう。
 見るものが見れば、あまりにも荒唐無稽。
 夢でも見ているのではないかと疑う壁走り。一気に駆け抜けたフロッシュは、バルコニーへと飛び出す。
「ラストスパート!」
 ユーベルコード、廻砲『P・X』(ヒートアドバンスピーエックス)が発動する。
 術理によって強化された速度をさらに大幅に加速させるユーベルコードの効果は凄まじい。
 念には念をとシュミレートしていた彼女にとっては、駄目押しであったことだろう。だが、彼女を追っていた『女王の石像』たちにとっては、目にも留まらぬ速度で駆け抜ける彼女は緑の残光にしか映らず。

 その残光のみを迷路に置き去りにしたまま、フロッシュはバルコニー外へと飛ぶ。
 目の前には先行した猟兵の残した虹の架け橋。
 洒落たことをしてくれる。
 そう思いながら、フロッシュは次なる戦場へと緑の残光を刻む圧倒的スピードでもって、駆け抜けていくのであった―――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

村崎・ゆかり
迷路か。壁壊すより普通に進んだ方が早いんだろうなぁ。

黒鴉召喚。黒い鳥形の式たちを迷路の中へ送り込み、進路の情報や『女王の石像』の位置などを把握するわ。
邪魔する『石像』は不動明王火界咒で破壊して進み、大食堂~大浴場~バルコニーのコースを進む。

ある程度進むごとに式を飛ばして、先の様子を確認していくわ。『振り出しに戻る』はノーサンキューよ。

追ってくる『石像』には笑鬼召喚で組み上げた子鬼型の式の相手でもしていてもらいましょう。
『石像』が囮に引っかかるかは分からないけど、時間稼ぎになればそれでいいわ。

それにしても、怨念で自分の城を迷路にするって、『ハートの女王』ってどういう性格のオウガだったのかしらね。



「迷路か。壁壊すより普通に進んだほうが早いんだろうなぁ……」
 それはつまり、特別な条件がなければ、壁を壊して進むという発言にほかならないのだが、村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)は特に気にした様子もなく、ユーベルコード、黒鴉召喚(コクアショウカン)によって召喚されたカラスに似た鳥形の式神を迷路となった『ハートの女王の住んでいた城』へと解き放つ。

 すでに先行した猟兵達が砕いた石像の数々が、五感を共有した黒鴉の式神たちから送られてくる。
 触れた者を城外へと強制的に転移させる能力を持つ『女王の石像』こそが、今回の冥球島波においてはもっとも警戒すべき障害である。
 先んじて式神を送り込んだのは、『女王の石像』のみならず、通路の情報などを把握するためだ。
「さて、情報はこんなところね。振り出しに戻る、なんていうのは双六くらいでいいのよ。今回はノーサンキューよ」
 そう言って、ゆかりは城内へと駆け出していく。

 順調な滑り出しで、『女王の石像』の位置を黒鴉の式神で探知し、躱していく。
 石像たちに感知されて追いかけられるのは、あまり彼女の好むところではない。
「っと、それにしても、怨念で自分の城を迷路にするって、『ハートの女王』ってどういう性格のオウガだったのかしらね」
 次々と現れる『女王の石像』を白紙のトランプから噴出する炎で焼き払いながら考える。
 忠臣であったということまではわかっているが、オウガ・オリジンが戯れに殺したという所を考えると、上司に振り回される哀れなる中間管理職という言葉が頭に浮かぶ。

 何処の世界だって、いつでも理不尽を被る役割を持つ者がいるのは変わらないのかも知れない。
 大食堂を進み、大浴場に差し掛かると再びゆかりは黒鴉の式神を飛ばす。情報はこまめに更新していかないと行けない。
「戦場は常に刻々と変化するものだからね。っと、まだ追いかけてくるのね」
 彼女の背後から迫る『女王の石像』の群れ。
 あれを一々相手にするのは、面倒この上ない。放つ馬鹿笑いする子鬼の式神の群れが次々と壁のように組み上げて石像の侵攻を食い止める。
 その間にゆかりは大浴場のつるつる滑る床を駆け抜ける。
 こんなときでもなければ、湯船にゆっくりと浸かって疲れを癒やしたいところであるが、そうも言ってられない。

 バルコニーへと駆け込めば、外には石鹸のシャボン玉が作り出す虹の架け橋。
 先行した猟兵の残したものだろう。中々に小洒落たことをしてくれる。そう思ってゆかりはバルコニーから外へ一気に駆け出す。
 空を舞うように飛べば、風が頬を撫でる。この先にオウガ・オリジンや蝋書家の存在する戦場がある。
「たまにはこういう運動をしっかりするのもいいわね」
 追いかけられる面倒さは別として、こんなふうに心地よい汗を流すのも、たまに悪くない。
 そんなふうに思いながら、ゆかりは黒鴉の式神たちに運ばれるようにして、ゴールである虹のかけ橋をくぐり抜けるのであった―――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

ソナタ・アーティライエ
戦わずとも迷宮を踏破すればよい、と聞いてほっとしました
争い事は苦手……です

迷宮には迷宮をもって対抗してみます
加護を与えてくださっている神様からの贈り物【天の回廊】
祈りによって発現した自身の創造する迷宮で周囲の空間を支配し
相手との距離に余裕があれば、空間を入れ替えて身を隠したり遭遇を回避したり
至近遭遇であれば、空間断絶による防御で触れられないよう対応しますね

これでかなりの安全は確保できるかと思いますけれど
相手の数も多く迷宮内ゆえの死角もあるので
[聞き耳]や[第六感]による警戒を怠らず
不意打ちを警戒しながら進みます

アドリブや他の方との連携歓迎です



 オブリビオンと戦うことを宿命付けられた猟兵といえど、戦うことを忌避するものだっている。得意であると思えない者だっている。
 それを責める者はいない。
 誰にだって事情があるし、誰にだって人に晒せない思いだってある。だからこそ、ソナタ・アーティライエ(未完成オルゴール・f00340)は、ほっとしたのだ。
「戦わずとも迷宮を踏破すればよい……争いごとは苦手……です」
 彼女の心優しさは時に戦いに不向きなものであろう。
 けれど、時に優しさは全てを救うこともあるだろう。人という生命が強くなければ生きることが難しいのは当たり前のことである。
 だが、優しくなければ生きる資格すらないのだから。

「迷宮には迷宮を持って対抗しましょう……迷える子羊、導く御手……」
 彼女のユーベルコード、天の回廊(ソウテンニサクイチリンノハナ)によって、戦場となった『ハートの女王の住んでいた城』の迷路と化した大食堂、大浴場、バルコニーを彼女のユーベルコードに寄って迷宮を上書きにする。
 彼女の祈りは、彼女に加護を与える神からの贈り物によって顕現される。この場の空間支配の権能は、すでにソナタの手の内にある。
 この効果はきっと彼女が迷路を飛び出せば消えてしまうだろうが、彼女が進むうちは、この戦場となった迷宮全てが彼女の手のひらの上だ。

「石像と言えど、壊すのは偲びありません……」
 ソナタの接近を感知して『女王の石像』が迫る。
 その手に触れてしまえば、如何に空間を支配するソナタと言えど、城外にテレポートされるといルールは無視できない。
 けれど、彼女の迷宮となったこの場に置いて、彼女に振れることができる者は存在しない。
 接近してきた『女王の石像』とソナタの間になる空間を入れ替え、瞬時にソナタの姿は迫る『女王の石像』の目の前から消える。

「ふぅ……危ないところでした……」
 大食堂に相当する迷宮を抜け、大浴場へ。
 すでにソナタの迷宮に寄って上書きされた大浴場は彼女のテリトリーである。空間支配の権能において、彼女の安全は高い水準で持って約束されている。
 けれど、彼女は油断しない。
 弱いとはいえ、オブリビオンである『女王の石像』の数は多い。迷宮という死角多い場所において、数の多さは武器だ。
 どれだけ空間を支配できても、数で圧されれば捌くことができなくなるだろう。
 そうなれば、ソナタと言えど城外テレポートに寄って振り出しに戻ってしまう。故に、彼女は聞き耳を立て、時には彼女の第六感を頼りに迷宮を進む

「あっ―――!」
 不意打ちのよに迷宮の影から現れる『女王の石像』。それを空間断絶による防御に寄って触れられないようにしながら、ソナタは仲良しの銀竜アマデウスと共に迷宮を駆けていく。
 怖くないかと言われたら、きっと怖いと言うだろう。
 けれど、彼女は戦場に赴く。それは彼女よりもずっと怖い思いをするであろう、アサイラムより召喚されるアリスたちのため。
 彼女は優しい。

 だからこそ、誰かのために戦おうとするだろう。己の恐怖を二の次にしてでも、誰かの心のために戦える優しさが有る。
 優しさは武器ではない。
 けれど、力ではある。
「さあ、次なる戦場へ……いきましょう、アマデウス」
 銀竜と共にソナタはバルコニーへ飛び出し、目の前に広がる虹の架け橋を見据える。飛び出すのはわずかに恐れも抱かせる。

 けれど、先行した猟兵の残した虹が迎え入れてくれる。
 誰かのために戦うものにこそ、優しさという力が宿るのであれば、ソナタの戦いは、きっとまだまだこれからも必要とされるものであったことだろう―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリス・フェアリィハート
アドリブや連携等も歓迎です

ここが
ハートの女王さまの住んでいたお城…
特にこの大食堂は…食器が
とってもおっきいです…☆
――って…
ゆっくり見物してる暇は
ないみたいですね…

【動物使い】や【動物と話す】で
バディペットの
『リリー』と『キティ』に
先導して貰いつつ
自身も【第六感】【情報収集】【地形の利用】等を使って
逃げるルートを確保しつつ
『女王の石像』から逃げて
大食堂、大浴場、バルコニーのルートで駆け抜けます

もし囲まれたり捕まりそうに
なったら
もし可能なら
【早業】でUC発動
女王の石像の動きを
一時的に止めて
その隙に逃げちゃいます☆

『それにしても…ハートの女王さまって、どんな方だったのかな…?』
(逃げつつ想像)



「ここがハートの女王さまの住んでいたお城……」
 見上げる城門は遥かに高くそびえている。威厳に満ちた城。けれど、今は迷路と化した怨念渦巻く城だ。
 それを見上げて、アリス・フェアリィハート(不思議の国の天司姫アリス・f01939)は感嘆するようにつぶやいた。
 城門を抜け、最初の関門である大食堂へと足を踏み入れる。この城は元々、オウガ・オリジンの忠臣であるハートの女王の城であった。
 だが、オウガ・オリジンの戯れに寄って殺されたハートの女王は死して、その怨念で持って城を迷路に変えてしまったのだ。

 その迷路がアリスを出迎える。
 巨大化した食器やテーブル、椅子などがひしめき、彼女の行く手を阻んでいる。
「わあ……特にこの大食堂は……食器がとってもおっきいです……☆ ―――って……ゆっくり見物している暇はないみたいですね」
 そんな彼女の言葉通り、次々と現れる『女王の石像』。それは触れられてしまえば、即座に城外へとテレポートされてしまう恐るべきオブリビオン。
 だが、それだけなのだ。
 攻撃してくるわけでもなく、猟兵という侵入者を感知し、城外へとてポートするだけ。攻撃するのが目的ではなくて、猟兵を足止めすることこそが最大の目的であるようだった。

 迫る『女王の石像』の姿は異様だった。数が多いからこそ、そう感じるのかも知れない。アリスはバディペットである白い子兎のリリーと黒い子猫のキティに先導され、壮大なる追いかけっこを始める。
「追いかけてくる……やっぱりいっぱいいるのですね」
 逃げる彼女を追いかけて『女王の石像』が群れを成して移動してくる。リリーとキティが、迷路の中を迷わないようにと先導してくれるおかげで、彼我の距離は一定を保って移動できている。
「次は……あっち、こっち……ええっと」
 アリス自身の第六感や、リリーとキティから与えられる情報も手伝って、逃げるルートは万全だ。
 大食堂を抜け、大浴場へ。

 つるつるとすってんころりんと滑ってしまいそうな床を走るアリス。
 ああ、でもどうしたって足がよろけてしまって転んでしまう。心配そうに駆け寄ってくるリリーとキティ。大丈夫、と声をかけようとして、背後に迫る『女王の石像』の姿に気がついた瞬間、彼女はユーベルコードを発動させていた。
 空間に出現した『兎の穴』から、一度に複数羽もの懐中時計を身につけた白兎たちが飛び出す。
「お願い、白うさぎさん!」
 彼等は一斉に、アリスに迫る『女王の石像』たちの時間を混乱に陥らせる。ゆっくりなのか、はやいのか、時間の感覚の狂った『女王の石像』たちは右往左往し、その隙にアリスは立ち上がって大浴場を駆け抜けていく。

 転んでしまって打った膝小僧は痛むけれど、それでも自分にはリリーとキティがいてくれる。
 アリスは共にバルコニーへと駆け抜けると、そこにあったのは虹の架け橋。
 先行した猟兵が残してくれたゴールの場所。
 あそこまで飛べば、この迷宮は踏破したことになる。リリーとキティがアリスの肩に捕まる。
「しっかり、捕まっておいてね……」
 そのままバルコニーから飛び出すアリス。きらきらときらめく虹の彼方へと彼女の姿吸い込まれるようにしてゴールへと一直線。

「それにしても……ハートの女王さまって、どんな方だったのかな……?」
 ゴールへと駆け込みつつ、アリスは考える。
 オウガ・オリジンに戯れに殺されてしまった怨念が渦巻くほどであるのだ。気になるのも無理はない。
 けれど、すでに居ない者。もしかしたのならば、何時の日か、ハートの女王のオブリビオンとも相対することがあるのかもしれない。

 彼女の想像との答え合わせは、いつの日にか点と点を結ぶことになるのかもしれなかった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

椎宮・司
なるほどねえ
いやーこの歳になって駆けっことは思わなかったけれども
ま、たまにゃこーゆーのもいいかねえ

【擬・神懸かり】の高速移動で一気に駆け抜けるとしよう
何事も足場の確保と足捌きが基本サ『足場習熟』

大食堂はテーブルと椅子が迷路になってるってんなら
その上を走らせてもらおうか!
更衣室はいいとして大浴場は…うーむ、滑りそうだ
技術だけじゃどうにもならんなこれ
だとすれば足をつく回数減らすしかないね
三段跳びの要領だ、ここも一気に飛び越える!
あとは、バルコニーか
欄干の上が良さそうだ、足捌きにゃ自信ありサ
後は脱出出口に飛び降りる!

はー、いい汗かいた
けど、こりゃ戦争終わったら筋肉痛だねえ…歳はとりたくないもんだ



 かつてオウガ・オリジンに戯れに殺されてしまった、ハートの女王。その怨念が渦巻く『ハートの女王の住んでいた城』は今まさに迷路と化していた。
 何故そんなことになってしまったのか、猟兵達は知る由もない。けれど、確実なことは、この迷路を踏破しなければ、オウガ・オリジンの存在する戦場まで駆けつけることはできず、またこの城に渦巻く怨念も払うことができないということだ。

 迷路の中をごりごりと嫌な音を立てて闊歩する『女王の石像』。
 触れられてしまえば、即座に城外へとテレポートされてしまう不条理なるルール。戦闘が起きない、という点においては戦い通しの猟兵たちにとっては、喜ぶべき事態であったのだが……。
「なるほどねえ。いやーこの年になって駆けっことは思わなかったけれども……」
 椎宮・司(裏長屋の剣小町・f05659)は、すでにユーベルコード、擬・神懸かり(シンジルモノハスクワレル)によって、椎宮神社の御守から解き放った神気を纏い、大食堂の迷路となっている巨大化した椅子やテーブルの上を駆け抜けていた。

「ま、たまにゃこーゆーのもいいかねえ」
 飛んだり跳ねたりする、というのはオブリビオンとの戦いにおいて攻撃を回避したりする際に用いられる手段であるから、問題ないのだとしても、『女王の石像』から追いかけ回されるという経験はそうあるものではないだろう。
 なにせ、触れられてしまえば、即座に城外にテレポートされてしまうのだ。
 中途半端に進んでから振り出しに戻るのも嫌だが、初っ端から振り出しに戻されるのは、それはそれでカチンと来る。

 故に司は大食堂の巨大化したテーブルや椅子の上を飛び跳ね、駆け回る。
 背後をちらと見れば、石像の群れが想像以上に多いことに驚かされる。
「これもあれもそれも、あたいのあふれる神気のせいかねえ……なんて、冗談言ってる場合じゃないのサ!」
 何事も足場の確保と足捌きが基本である。
 どんな不安定な状況であっても、肝心要なのは体幹である。大食堂を走り抜け、司は大浴場へと突入する。

 更衣室は問題なし。
 ばーん! と勢いよく扉を開けて、湯気煙る浴場へと駆け出せば、床がつるつる滑る事滑る事。
「技術だけじゃどうにもならんなこれ! なら、三段跳びの要領だ、おっこも一気に飛び越える!」
 足を踏み出す度につるりと滑るというのであれば、その踏み出す足の回数を減らせばいい。試行回数が減れば、当然失敗も減るであろうという目論見だ。

 ほっぷ、すてっぷ、じゃーんぷ。

 そんな声が聞こえてきそうなほどに軽快な足の運びで司は、一気に大浴場をクリアする。
「あらよっと……とと、後はバルコニーか。ふむ欄干の上が良さそうだ。おっと、あそこに見えるは虹……ってことは、ゴールか」
 先行した猟兵が石鹸の泡によって築いた虹のかけ橋が見える。
 あそこまで駆け込んでしまえば、迷宮踏破と相成るわけである。誰であるかわからないが、粋なことをしてくれる。
 そんなふうに思いながら司は細い欄干の上を駆け抜ける。足捌き、足技には自信ありの彼女にとって、この道は簡単すぎた。

 一気に駆け抜け、虹の架け橋かかるゴールへと飛び降りる。
 すと、と華麗に着地して司は額に浮いた汗を拭う。
「はー、いい汗かいた。けど、こりゃ戦争終わったら筋肉痛だねえ……年はとりたくないもんだ」
 世の女性が目を見開きそうなことを言いつつも、司は次なる戦場へと駆けていく。
 まだまだ迷宮災厄戦は始まったばかり。
 筋肉痛はきっと遅れてやってくる。それが年を召した証拠なんて思いたくはないけれど、それでも、司は己のできることを成すために駆けていくのであった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セレシェイラ・フロレセール
追いかけっこなんていつぶりだろうね

魔法の桜の傘を開いて風の魔法を唱え、ふわりと天井近くへと舞い上がろう
風の魔法で傘をコントロールしながらゴールを目指すよ
傘を開いて空を飛ぶなんて、まるで物語の主人公みたい
そう、だって此処は童話のような『不思議の国』
今この時ばかりは『綴る』ことはお休みして、物語の主人公を演じてみようか
さあ、物語の始まりだ

鬼さんコチラ、手の鳴る方へ
手は鳴らさないけれど、桜の花びらを風に乗せて進行方向とはあさっての方へひらりはらり
桜に気を取られている隙に進行方向へ強い追い風を吹かせよう
今度は突風で鬼さんを驚かして怯ませてみようかな

ゴールは即ち物語の終幕
ふふ、楽しかったよ



 純粋に何事も楽しむことが出来る者は、あらゆる意味において強い者であったかもしれない。
 それが例え、死せる者の怨念がうずまき作り上げた迷路の中であったとしても、心にゆとりのあるものには怨念すら関係がないことを示すように、セレシェイラ・フロレセール(桜綴・f25838)の広げた桜綾なす魔法の傘が風の魔法を捉えて、ふわりふわりと春の花が飛ばす種子のように、天井近くまで舞い上がっていた。
「追いかけっこなんていつぶりだろうね」
 楽しげに微笑みながら、眼下に蠢く『女王の石像』を眺める。空を舞い飛ぶ彼女は、『女王の石像』の格好の的だった。

 注目を受けて、セレシェイラは益々持って微笑みを強くする。彼女が唱えた風の魔法のコントロールは完璧だ。
「傘を開いて空を飛ぶなんて、まるで物語の主人公みたい」
 総言葉がこぼれ出る。
 桜色の髪を風になびかせながら、魔法の傘が風を受けて、ふんわりふんわりと進んでいく。
 いつもであれば、彼女は物語の主人公ではない。綴手だ。けれど、彼女は思うのだ。
 ここはアリスラビリンス。童話のような残酷で美しい世界が広がる『不思議の国』。ならば、ここで彼女がするべきことは『綴る』ことではない。
 物語の主人公を演じてみようと彼女は微笑む。
「さあ、物語の始まりだ」

 ふわりと風の魔法が効力を失って、彼女の体を大食堂のテーブルの上へと舞い降ろさせる。すた、と彼女の靴が柔らかな音を立ててしまえば、どこからともなく『女王の石像』が溢れかえる。
 誰も彼もがセレシェイラに触れ、彼女を城外へとテレポートさせようと狙っている。けれど、セレシェイラは取り囲まれたとしても微笑みを崩さない。
「鬼さんコチラ、手の鳴る方へ」
 くす、と微笑んで手を鳴らすことはしないけれど、桜の花びらを風に乗せて、再び風の魔法で持って空へと舞い上がるセレシェイラ。

 桜の花びらが舞い散る光景は、それは見事なものであった。
 美しい不思議の国であっても、その桜色の美しさは不変でありながらも、変わりゆく、移ろいゆく儚さを持って『女王の石像』たちの気を引いた。
 けれど、それは一瞬のものであった。
「さあ、強い追い風よ、吹いておくれ」
 セレシェイラの魔法の風が強く彼女の傘を捉えて、一気に大食堂を抜けて、大浴場へと駆け抜けていく。

 すと、とまた大浴場のよく滑る床へと降り立てば、またも『女王の石像』が迫る。
「ふふ、今度はどうしようかな。どうやって撒こうかな……えいっ」
 また微笑んでセレシェイラが突風を吹かせ、『女王の石像』たちを吹き飛ばしながら、空へと舞い上がる。
 バルコニーへと抜けていく彼女の瞳には、突風に煽られてドミノ倒しになる『女王の石像』達の姿があった。
 あれでは当分追いかけてこれないかもな、と思いながらセレシェイラはバルコニーの欄干に降り立つ。

 ゴールはどこかな? と視線をめぐらせれば、そこにあったのは先行した猟兵が残したであろう虹の架け橋。
 大浴場の石鹸を失敬して造られた架け橋は、まるで迷宮を踏破した猟兵たちを祝福するように見事な虹色を描いている。
「ふふ、楽しかったよ」
 くるりとバルコニーから、大浴場へと視線を向ける。
 彼女を追ってきた『女王の石像』たちが漸くドミノ倒し状態から開放されて、彼女を追いかけんとする。

 けれど、楽しかった追いかけっこは、もうゴールまで来ている。
 即ち、物語の終幕。
 だからこそ、セレシェイラは微笑んでお別れをする。いつだってそうだ。物語の最後はハッピーエンドの笑顔がいい。
 彼女が綴る桜色の硝子ペンが紡ぐ物語はいつだって、笑顔で締めくくりたい。
 そう思いながら、セレシェイラは再び広げた傘と風に乗って、虹のかけ橋をくぐり抜けるのであった―――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

佐伯・晶
数が多いのはちょっと厄介だなぁ
使い魔やドローンを先行させて
通路の先の様子を伺いつつ進んでいこう
やり過ごせるならそれに越した事はないからね

あとは石像が何に反応して追いかけてくるのかわからないから
複製創造で光学迷彩服や消音ブーツを創って
視覚や聴覚を消してみたり
空中浮遊して振動を消してみたり
邪神の繰り糸で自分を球体関節人形に変えて操り
生命反応と体温を消してみたりしようか

その上で走って逃げ回りつつ
ワイヤーガンを使用して立体的に移動したり
切断性の糸を射出して静かに倒したりして移動しよう

どうしても戦わなければならなくなったら
神気で石像の時間を停めて攻撃を防ぎつつ
ガトリングガンの範囲攻撃で薙ぎ払って進もうか



 強制的に城外へとテレポートさせる『女王の石像』の厄介さは、何もその転移能力だけではない。
 その圧倒的なまでに配備された数にもあるのだ。いくら弱いオブリビオンであるといえども、数で圧することができるのであれば、如何に猟兵が強力な力を持っていたとしても、触れてしまった瞬間に城外へとテレポートされてしまい、元の木阿弥、振り出しに戻る、という驚異的な時間稼ぎを可能とされてしまう。
 それは迷宮災厄戦においては、最も忌避すべきことであったことだろう。

「数が多いのはちょっと厄介だなぁ……」
 故に、佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)のぼやくような呟きは、正しい。彼女は即座に作り上げた使い魔やドローンを先行させて迷路となっている大食堂の通路の先の様子を伺いつつ進む。
 迷路というのは死角が多い。どこに『女王の石像』が潜んでいるかわからない。不意を討たれて、振り出しに戻るなんて、まっぴらごめんであった。
 それにやり過ごせるのであれば、それに越したことはない。無駄に戦って、これから戦わなければならないオウガ・オリジンや、その他のオウガたち……猟書家たちとの戦いに体力は温存しておかなければならないからだ。

「石像が何に反応して追いかけてくるかわからないっていうのもなぁ……」
 しかたない、と晶はユーベルコード、複製創造支援端末(ブループリント・ライブラリ)によってUDC組織から提供された光学迷彩服や消音ブーツを作って、『女王の石像』が感知に使うであろう視覚や聴覚から得られる情報を遮断しようと試みるのだ。

 そのどれが功を奏したのかわからないが、今の所順調に迷宮踏破は推移している。
 時々空中浮遊して振動自体を消したり、自身を球体関節人形という生命反応や体温を消したりと、様々なことを試しすぎたせいで、どれが有効であったのかわからなくなってしまったのだが……。
「ここまで試行錯誤すれば、もう大丈夫かな……」
 これまでゆっくりとした速度で様々な道具を試してきた晶は、時間を掛けても本末転倒だと思ったのだろう。
 その上で駆け出した瞬間、一斉に『女王の石像』が晶に反応する。
 見えていない、生命ではない、音を立てていない。体温もなければ、振動すらしていない。
 なのに反応したということは!

「一定の速度以上で動いている者に反応するのか!」
 ならば、と晶はワイヤーガンを使って、壁や天井を利用して立体的に駆け抜ける。
 幸い、大食堂は巨大化した食器やテーブルなどで、立体的に動くには向いている。一気に駆け抜け、大浴場へと突入すれば、待ち構えるようにして『女王の石像』たちが立ちふさがる。

「あーもう! ホント数だけは多いんだから!」
 彼女の体の内に存在する邪神の神気、禍々しきオーラが『女王の石像』たちの時間を止める。
 その一瞬で携行型ガトリングガンの斉射によってばらまかれた弾丸が『女王の石像』達の体を打ち砕いていく。
 種は割れた。ならば、後はもう駆け抜けるのみ!

「どうあっても追いかけっこしないといけないんだから、ハートの女王さまって実は意地悪な人なんじゃないかな!?」
 そんなふうに今はもう亡きハートの女王の性根を想像するしか無い晶は、続けざまに大浴場へと駆け込み、つるりと滑る床に難儀をしながらバルコニーへと飛び出す。
 そこ広がっていたのは、虹の架け橋。
 シャボン玉がぷかぷかと浮かぶ様子は、アリスラビリンスらしい光景であったことだろう。ゆっくりと眺めていたい気にもなる光景であったが、迷宮災厄戦はまだまだ始まったばかりだ。

 急いでバルコニーを飛び抜けると、虹のかけ橋をくぐり抜け、次なる戦場へと駆け出す。
 この戦場を踏破すれば、目指すオウガ・オリジン、そして猟書家たちのいる戦場もまもなくのはずだ。
 戦いの気配が色濃くなっていく戦場にあって、この『ハートの女王が住んでいた城』は、確かに一時の清涼のようであったのかもしれない―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒髪・名捨
●女王の石像に見つかる度に、全速力で振り切って安全を確保しつつ迷宮を探索する
走るのはオレがやる。
ルート選択は寧々の『野生の勘』に任せた。

つーわけで、逃走!!
『ジャンプ』と天駆で石像の頭上を駆け抜けたり、『闇に紛れる』ことで躱したり…スタングレネードを『投擲』して『目潰し』…潰れる目があるのか?

●大食堂
はぁはぁ、入ると同時に扉を閉めて、速攻で机でバリゲート。時間を稼ぐ。

●大浴場
タイルは滑るから、天駆で空を走って水場の上に着地と同時に『水上歩行』
石像なだけに水場に落ちてら。

●バルコニー
よし。外に出た。
バルコニーの落下防止柵の上を足場に、天駆を利用して駆け抜ける。
石像がこんな場所走れるわけねーだろ。



 役割分担とは、得意なものが得意でないものを助けるためのものである。
 凸と凹が合わされば、互いの欠点を補って余る存在となれよう。それは互いに認めあった間柄であるのならば、なおさらのことであったかもしれない。
「いやいや……それにしたって多すぎる」
 オウガ・オリジンの忠臣であったハートの女王が戯れに殺されてしまってからというもの『ハートの女王が住んでいた城』は怨念渦巻く迷路と化していた。
 その迷路の中に存在する『女王の石像』。触れてしまえば、城外にテレポートされてしまうという驚異的な能力に寄って、猟兵達は石像に触れない、触られない、という足枷を負ったままの追いかけっこに興じるハメになったのだ。

 グリモア猟兵は、パルクールみたいで楽しいはずと言ったが、限度が有る。
 数が! と黒髪・名捨(記憶を探して三千大千世界・f27254)は叫びそうになるのをこらえて、全速力で迷路の中を駆け回る。
「走るのはオレがやる。寧々はルート選択、任せた」
 頭に載せた喋る蛙、寧々がてちてちと名捨の頭を叩いて、方向を指示する。喋れるのだから、喋った方が早くない? と思いがちであるが、名捨の走る速度が早すぎるために舌噛みそうだからという真っ当な理由であった。

 その圧倒的スピードとユーベルコード、天駆(テンク)によって得た空中を蹴ってジャンプできる能力に寄って、大食堂の迷路を駆けていく。
 石像がめの前に現れれば、空中を蹴って大脱出。時には闇に紛れて躱したり……ためにしとスタングレネードを投擲して目潰しをしてみたが、効果はうすそうだった。
 なにせ、石像である。
「潰れる目がなかったかー」
 だが、一つ、光に反応しているわけではないということがわかっただけでも儲けもの……と思った瞬間、逆に場所が割れてしまったのだろう。
 名捨の元にわらわらと、どこにこんな数が居るのだというほどに『女王の石像』たちが集まってくる。

「やばい……マジで……!」
 一気に大食堂へと駆け込むと扉を締めて、力業でテーブルや家具でバリケードを作る。
 時間を稼げれば、と思ったのだが、それはこの大食堂に『女王の石像』がいないことが前提である。くる、と顔を前に向けた瞬間、目があった。
 何と?
 石像と!

「やってられんくらい数多い……!」
 慌てて駆け抜け、大浴場へと滑り込む。今度は滑る床が名捨を襲う。空中を蹴って進めば、如何に滑る床があろうと無関係である。名捨を負ってきた石像達が次々と浴場のお湯を張った湯船に沈んでいく。
「石像なだけに水場に落ちてら」
 よ、とお湯の張った水面に足をつけ、水黽の如くすいすいと進む名捨。ちら、と背後を見れば、湯船から這い出てくる『女王の石像』。
 しつこすぎる……! と戦慄しながら名捨は、急ぎバルコニーへと飛び出す。

「よし、外に出た」
 そのままバルコニーの落下防止柵の上を足場に駆け抜ける。流石に石像がこんな場所を走り抜けることなどできない。
 そのまま、先行した猟兵が作り出した、ゴールたる虹の架け橋へと飛び込む。
「どっと疲れた……なんであんなに執念深いんだ……元になった女王の気質か何かか……?」
 考えても詮無きことであるが、名捨は些かげっそりした面持ちのまま次なる戦場へと駆けていく。
 
 まだまだ迷宮災厄戦は始まったばかりだ。
 こんなところで躓いている時間はない。寧々が頭の上でそのとおりだというようにふんぞり返る。
 なんで寧々がそんなに偉そうなのだろうと思いながらも、いらぬ一言を言えば、きっとぺちっとまた頭を叩かれることは想像に難くなかった。
 故に名捨は、言わぬが華のまま、戦場へと駆けていくのであった―――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

殺風景・静穂
あら、面白そう
迷路も鬼ごっこも、私、得意よ?

石像の気配を感じたらユーベルコードで幻覚を創って、そこに隠れてやりすごしたり、幻覚を動かして石像の注意を引き付け、その隙に場を離れる……という作戦でいきましょう
問題は、それぞれの場所で、どんな幻を創るか、かしら
大食堂は普通に隠れる物陰がありそうだから、ごちそうでも作って意識をそちらに向けます
石像も食物に惹かれるのかしら?
まあ、本来ない筈のものがあれば、それはそれで注意を引けるわよね
大浴場では視界を遮るほどの湯気を創る
床には、石鹸を転がしておこうかしら
バルコニーでは「逃げる猟兵」の幻を囮にします

せっかくの機会だもの
追いかけっこのスリルを楽しみたいわね



 迷路とは2種類あるように思える。
 人を楽しませる娯楽としての迷路。人を閉じ込めて永遠に出さぬようにするための迷路。
 そのどちらもが人の方向感覚を狂わせるものであることは間違いない。それに不安を覚えるのも人として当然の真理であったことだろう。
 だが、『ハートの女王の住んでいた城』に存在する迷路を踏破するに当たって、訪れた猟兵、殺風景・静穂(計算ずくの混沌・f27447)にとって、迷路とは不安を煽るようなものではなかった。
「あら、面白そう。迷路も鬼ごっこも、私、得意よ?」
 彼女の優雅な立ち振舞は、その姿に現れるようであった。物静かな雰囲気がある黒髪の女性。常に余裕ある態度を崩さないのは、それが彼女の矜持であるからだろうか。

 急ぐでもなく、かといってゆっくり、というわけでもなく静穂は城門をくぐる。
 注意しなければならない点は、迷路となっている城内のルート。大食堂、大浴場、バルコニー。
 そして、その迷路の中に蠢く『女王の石像』だ。
 触れただけで強制的にテレポートされてしまうという驚異的な能力は、ことこの迷路の中では異常に鬱陶しい能力である。
 猟兵達の時間を奪う、という意味ではこれ以上にないほどに効果的な能力であった。
「ええ、でも……それじゃあ、つまらないもの。せっかくだから、鬼ごっこ、しましょう?」
 そう言って静穂は大食堂へと歩みをすすめる。
 石像の気配はあちらこちらに。ユーベルコード、舞陽炎(マイカゲロウ)によって生み出された五感すら惑わす幻覚を生み出し、石像達の気を引く作戦なのだ。

「石像も食物に惹かれるのかしら? まあ、本来無い筈のものがあれば、それはそれ注意を惹けるわよね」
 生み出された幻覚は、正しくごちそうであった。色とりどりの、オードブル。今まさにここは大食堂。これからパーティも各屋という幻覚を見せられている石像達は動きを止める。
 困惑している様子が、石像であっても見て取れるほどだ。静穂は、その様子にくすくす微笑みながら、物陰に隠れ、紛れるようにして大食堂を後にする。

 進む先にあるのは大浴場。
 つるりと滑る床が特徴的な迷路であるが、そこにも『女王の石像』たちは存在している。
「これだけ滑るのであれば、注意深く進みたいところだけれど……数が多いわね?」
 彼女を追いかけ回す石像達の数は、どんどんと増えていく。
 認識されれば、されるほどに数が増すのだろう。ならば、と生み出す幻覚は視界を遮る程の湯気。さらに彼女は微笑んで石鹸を無数に転がしていく。

 大量の湯気の幻覚で持って撹乱したはずが、確実に静穂を捉える石像達。
 だが、彼等の進撃は中途半端に終わる。静穂が床に転ばせていた石鹸たちに足を取られ、石像達がすってんころりんと横転して床に叩きつけられ砕けていくのだ。
「弱いオブリビオンって聞いていたけれど……ころんだだけで壊れてしまうなんて……ごめんあそばせ?」
 おかしそうに笑いながら静穂はバルコニーへと逃げていくように駆ける。

 バルコニーから身を乗り出せば、その先にあるのは虹の架け橋。ゆっくりとその光景を眺める余裕があるのは、彼女のユーベルコードに寄って生み出された『逃げる猟兵』の幻覚のおかげだろう。
 今まさに『女王の石像』たちは、その幻影を追いかけて明後日の方角へと走っているのだから。
「せっかくの機会だもの。追いかけっこのスリルを楽しみたい……なんて、ちょっと贅沢だったかしら。それじゃあ、ごきげんよう」
 明後日の方角へと向かう石像たちに別れを告げ、静穂はバルコニーから飛び降りる。
 その視線の先には虹の架け橋。
 あれをくぐり抜ければ、迷路を踏破したことになるのだろう。先行した猟兵が残したものであるが、虹の下をくぐり抜ける光景は、それだけで微笑むに値する光景であったのだった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
オウガ・オリジンへの道の解放条件たるこの城の踏破
石像が無かろうと立ち止まる暇はありません

…騎士の様に鮮やかに突破するのは接触禁止の条件などで今回は断念しますが…。

脚部スラスターでの●スライディング滑走移動
センサーでの●情報収集で地形構造や石像接近を●見切り回避
石像に追いつかれる危険があれば格納銃器で足元にUC入りの弾を●スナイパー射撃し、移動妨害

大浴場…種族柄、こうした設備に入るのは滅多にありませんでしたね
それはさておき、良く滑るならそれを利用するまで
予めUCを表面に塗布した大盾にスケートボード宜しく●騎乗
自己●ハッキングでのバランサーの調整で乗りこなしとスラスターの噴射で一気にバルコニーへ



 迷宮災厄戦におけるオウガ・オリジンの存在は、強大過ぎる存在であった。あまりにも強すぎるがゆえに、猟書家と呼ばれる存在達が、その力を奪わなければ苦戦は必至だったことだろう。
 だが、今ならば。
 絶好の機会を得たようにも思えるし、最大の危機を迎えたとも言えるかもしれない状況にあってもなお、猟兵達は希望を捨てない。世界のために戦うことをやめない。
「オウガ・オリジンへの道の解放条件たる、この城の踏破……石像があろうとなかろうと立ち止まる暇はありません」
 トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は、『ハートの女王の住んでいた城』の城門を前にして、見上げる。
 その城に渦巻く怨念は、戯れに殺されてしまった忠臣の嘆きか。それを慮る暇すらないのがオブリビオン・フォーミュラとの決戦である。

「……騎士のように鮮やかに突破するのは、接触禁止の条件などで今回は断念しますが……!」
 脚部スラスターが火を噴く。滑走状態に入ったトリテレイアが、大食堂へと滑り込む。自体は一刻を争うのだ。
 アイセンサーが煌き、大食堂の地形構造を把握する。さらにこちらへと接近してくる動体反応……『女王の石像』の存在を感知する。
 触る、触られただけで城外へとテレポートされてしまう恐るべき力を持つ『女王の石像』は石像と言えどオブリビオンである。
 油断などするはずがない。

 滑走しつつ、接近する石像を躱しながら、迷路を踏破していく。
 それでも大食堂という巨大化した食器やテーブル、椅子などの足がトリテレイアの巨躯ゆえに行動を阻害する。
「御伽噺の魔法の薬ほどではありませんが!」
 格納銃器から放たれる銃弾。そこに籠められていたのは、対襲撃者行動抑制用薬剤(ノン・フレクション)。石像自体を狙うのではなく、床を狙って放たれた弾丸から噴出する薬剤が、床の摩擦抵抗を極限まで減らす。

 そう、摩擦抵抗が極限まで減らされるということは、踏ん張ることができないということだ。トリテレイアを追い立てていた石像たちは、その自重を支えることもできずに、その場で横転し砕けていく。
 それをアイセンサーで捉えながら、トリテレイアは先を急ぐのだ。
「なるほど。弱いオブリビオンと聞き及んでいましたが……横転しただけで砕けるとは……石像であるがゆえですね……」
 その姿を哀れに思いながらも、これ以上振り返ることはしない。
 大浴場への扉を開け放ち、突入すれば、トリテレイアにはあまり縁のない光景が広がる。

「種族柄、こうした設備に入るのは滅多にありませんでしたが……」
 床がつるりと滑る仕様になっていることをアイセンサーでいち早く分析していたトリテレイアは、即座に対応する。
 格納銃器に装填されていた対襲撃者行動抑制用薬剤に封入されてた薬品を己の大盾に塗布する。
「ふむ―――これならば!」
 大盾を床に起き、スケートボードよろしくスラスターでもって地面を蹴る。摩擦抵抗を極限まで減らされた大盾の表面は、よく滑る大浴場の床と同じく凄まじい速度で持ってトリテレイアの巨躯を滑走させる。

 彼でなくても、殺人的な速度の出たスケートボードの如き大盾の上でバランスを取ることは難しかっただろう。
 だが、己のシステムに介入し、オートバランサーを切り、状況のパラメーターを逐一入力し、制御することに寄って、絶妙なるバランス感覚を得てトリテレイアは、大浴場を疾駆する。
「仕上げに、これです!」
 スラスターの噴射を強め、益々速度を増したままバルコニーへと突入すれば、後は一直線に外に浮かぶ虹の架け橋へと飛ぶのみ。

 先行した猟兵が描いたであろう石鹸の泡による虹の架け橋。
 それは紛れもなくゴールを意味する。迷路を踏破した者へのご褒美であろう光景をアイセンサーに捉えながら、トリテレイアは、次なる戦場へとスケートボードと化した大盾と共に滑走していくのであった―――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルネ・プロスト
実際少し気を抜いて楽しむ余裕あるからいい場所だよね、ここ
遊び半分で侵入されまくる女王の怨念にとってはたまったものではないかもしれないけど

基本的には『安寧』の魔力で空中浮遊、宙を飛んで進んでいくよ
一番警戒すべきなのは入り組んだ大食堂かな
ここはUCの未来観測も併せて不意の接敵を避けるようにしよう
余裕があれば物陰に隠れてどのルートを進むのが一番楽かも観てみようかな
全部の糸(可能性)を辿るのは無理でも、2~3本の数分後の未来を覗くくらいならなんとか

大浴場まで来てしまえば後はもうこちらの物
『安寧』介した魔術で浴場の水を操って、ルネの進行方向と逆方向に水流を造って女王像達を押し流してしまえばいいものね



 猟兵とは常に戦いの中に身を置く者たちである。
 此度の迷宮災厄戦に置いて、オウガと戦う戦場ばかりの中にあって、オウガと戦うことのない戦場は稀有なるものであったのかもしれない。
 それが『ハートの女王が住んでいた城』である。
 かつてオウガ・オリジンによって戯れに殺されてしまったハートの女王の怨念が産み出した迷路と化した城。
 その怨念を晴らし、迷宮を霧散させないことには、オウガ・オリジンは勿論のこと、猟書家のいる戦場へと至ることができない。
 さらにこの迷路はただ踏破することはできない。迷路の中に点在する番人とも言うべき『女王の石像』が跋扈しているからだ。

 その石像に触れてしまえば、城外へと無条件にテレポートされてしまい、振り出しに戻ってしまう。この場にこのような迷路を敷いたのも、うなずける。
 これは猟兵達の進撃を遅らせる時間稼ぎの戦場であると言えよう。
「でもまあ、実際少し気を抜いて楽しめる余裕あるからいい場所だよね、ここ」
 ルネ・プロスト(人形王国・f21741)は、手にした月長石の飾られた月の魔力を宿す杖『安寧』を掲げながら、城門をくぐる。
 彼女にとって、オウガと戦わずに済み、なおかつ遊園地のアトラクションの如き迷路を踏破するのは、迷宮災厄戦においては心に余裕が持てる戦場であったに違いない。
 それは他の数人の猟兵たちにとっても同じことであった。
 城外へとテレポートするという『女王の石像』も戦闘力を持たない、弱いオブリビオンである。いざと成れば砕いてしまえばいい、という位であるから、生命の危機に瀕することもないであろうことが、益々持ってルネの心に余裕を齎せていた。

「遊び半分で侵入されまくる女王の怨念にとってはたまったものではないかもしれないけれど……」
 もしかしたのならば、迷宮を全て踏破すると怨念が消えるというのは、数多くの侵入者によってハートの女王の怨念もまたゲンナリしてしまって消えてしまうからではないかと、そんなことを考えてしまう。
 それはないか、と苦笑してルネは月長石の杖、安寧のちからでもって空中浮遊し、宙を進む。

 大食堂に入れば、そこは彼女が懸念していた通り、入り組んだ迷路であった。
 巨大化したテーブルや食器が所狭しと敷き詰められ、彼女の行く手を阻む。
 だが、彼女のユーベルコード、十糸伝達・運命観測(マリオネット・サージネイトフォーサイト)が導き出す運命の糸に干渉することで予測される不意の接敵を尽く排除した行動は、彼女の歩みを幾分楽なものにしたことだろう。
「全部の糸をたどるのは無理でも、数分先の未来を覗くことくらいならなんとかなるもんだね……」
 彼女にとっての最大の難関である大食堂を危なげなく突破し、大浴場へと至る。

「ここまで来てしまえば後はもうこちらのもの」
 月長石の杖を介した魔術がきらめく。浴場の水を操り、自身の進行方向とは真逆の方向に水流を作り出すのだ。
 そうしてしまえば、宙を往くルネにとっては無関係でも彼女を負う『女王の石像』たちは溜まったものではない。
 ある程度の重量がある石像たちであっても、魔力に寄って操作された水流の流れは強く、たちまちに押し流されてしまうのだ。

「ふふ、ずるくってごめんね。おいかけっこはここまで」
 ルネは微笑んでバルコニーへと飛ぶ。
 欄干へと足を乗せると、遠くに見える虹の架け橋を見据える。彼処がこの迷路のゴールなのだろう。
 先行した猟兵が作り出したシャボン玉が煌き、虹の架け橋をいつまでも形作っている。
 そこへ飛び込み、ルネは新たなる戦場を目指す。
 迷宮災厄線はまだ始まったばかりだ。誰と戦い、何を護るのか。考えることは多いけれど、それでもルネは進む。
 その先に、きっとより良い未来を手繰り寄せる糸を彼女はもう手にしていたのだから―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

愛久山・清綱
パルクールは故郷でよくやったぞ。
障害物にまみれた道をかわしつつ進み、ビルから
ビルへ飛び移り大技を決める……勿論羽なし。

といっても今は戦故、使うが。

■決
追いかけてくる石像は相手にせず、ひたすら走り
距離を取るよう心がける。

三十六計逃げるに如かずでござる。

■行
先ずは食堂でござるな。障害物を【ジャンプ】で
飛び越えショートカットしつつ移動するか。
同時に【念動力】を使って周囲の物質を操り、
追跡を邪魔するか。

浴室では【空中戦】能力を用いて羽ばたき、
低空【ダッシュ】で滑らず行くぞ。

仕上げはバルコニーの柵から勢いよく落ち、
再び【空中戦】の要領で羽ばたき脱出だ。
勿論アクロバットも忘れんよ。

※アドリブ歓迎・不採用可



「パルクールは故郷でよくやったぞ。障害物にまみれた道を躱しつつ進み、ビルからビルへ飛び移り大技を決める……勿論、羽は使わずにだ」
 そう語っていたのは、愛久山・清綱(飛真蛇・f16956)である。故郷の街並みを思い出して、あの頃のやんちゃな己を思い返す。
 硬い建物の壁やパイプ、配管、いろいろな障害物を己の体を駆使して、飛び跳ね、躱し、スピードに乗るあの感覚は、確かに楽しいものであった。

 そんな感慨に耽るのも、ここまで、と言うように清綱は己の羽を羽撃かせる。
 あの時は使わなかった羽であるが、此度は違う。
「今は戦故、勿論使わせてもらうとしよう」
 ぐ、と足に力が籠もる。
 望郷の念が胸に広がるが、それは今は胸の奥底にしまうべきものだ。今は戦場にあって、オブリビオンであるオウガ、猟書家たちの野望を打ち砕く時である。
「いざ―――!」
 駆け出す清綱の足は力強かった。筋肉が躍動する。
 ああ、とあの頃の若い衝動を思い出しながら、大食堂へと駆け込んでいく。追いかけてくる『女王の石像』のことなど気にも駆けない。
 ただ、ひたすらに走り、距離を取ることだけに心を砕きながら、駆け抜ける。迷路といっても、単純なものだ。行き止まれば、引き返し、跳び箱のように羽を広げてショートカットしてしまえばいい。

「むっ、また行き止まりでござるか! 失敬!」
 とん、と巨大な食器を飛び越え、奥の道へと飛び込んでいく。追いかけてくる石像たちを気にはしていなかったが、それでも追いすがる石像の存在は確かに鬱陶しいものがある。
 ならば、と少しだけ悪戯心が芽生えるのも仕方のないこと。念動力で周囲に在った食器や椅子を移動させ、バリケードのように積み上げて、己の追跡を断念させる。

 続けざまに大浴場へと飛び込めば、そこはつるりと床の滑る湯気煙る迷路であった。
 ここですってんころりんと滑ってしまっては、大幅な時間のロスだ。
 この戦場は猟兵への時間稼ぎにすぎない戦場であるのならば、ここで時間を無駄にするわけにはいかない。
「何も禁じ手というわけでもあるまいし……此度は存分に使わせてもらおう!」
 猛禽の翼を広げ、清綱は低空飛行で滑空しながら大浴場の湯気に紛れながら、石像達の追跡をかわし、バルコニーへと突っ込んでいく。

「バルコニー、ここが指定されたルートの最終関門……と、あれに見えるは、虹、であろうか……?」
 視線の先には先行した猟兵が設けたであろう虹の架け橋。石鹸の泡によるシャボン玉が光を受けてキラキラときらめいている。
 あの先が、この迷路のゴールであろう。中々に粋な計らい、と笑いながら、清綱はバルコニーから勢いよくバク転しながら飛び降りる。

 重力に引かれる己の体と、浮遊感を感じる内蔵の感覚が清綱の頭の中をクリアにしていく。
 恐怖はない。不安もない。あるのは、己の五体を十全に扱うことができるという高揚感だけだ。
 再び広げた猛禽の翼が風を受け、空へと舞い上がる。
 目指す先は虹の架け橋。
 あの先に、清綱たち猟兵が求めるオウガ・オリジンや猟書家たちのいる戦場へと至る道がある。

「迷宮災厄戦……いまだ戦いは始まったばかりだが……久方ぶりに体を戦い以外で動かすのは、心地よいものだ」
 風を頬で受け流しながら清綱は戦いのさなかであるが、微笑まずには居られない。
 故郷の風を僅かに懐かしく思いながら、猛禽の翼を広げて、清綱は先を急ぐのであった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月06日


挿絵イラスト