迷宮災厄戦②〜ディストリビュート・マイ・ペイン
●
体が痛い。
斬られた場所が、囓られた場所が。腕が、脚が、腹が、顔が鼻が耳が頭が。
痛い。
痛い、いたい。
痛い、いたイ、イタイ痛い、痛イいたいイタイ――!
早くここに来るアリス達にも知らせてあげないと。
私はこんなにも痛くて苦しくて、そして死んだのだということを!
あなただけ帰るなんて、そんなの、許さないから。
●
アリスラビリンスに存在する、迷宮のように入り組んだ巨大な図書館の中に一人の少女が囚われていた。
「その図書館自体が一つの国となっており、その少女というのは『はじまりのアリス』にして『はじまりのオウガ』――オウガ・オリジンが捕まっていた場所なのです」
静かな口調で語る時計ウサギの老紳士、セシル・ダッシュウッドが懐中時計のふたをぱちりと開くと、ホログラムのように幾つもの映像が周囲に現われた。
押し寄せたオウガの大軍勢が、そこかしこに集まっては他の世界から「アリス」を召喚する儀式が行われている。
「このままでは召喚されたアリスが、無為に巻き込まれることとなってしまいます。どうかその前に首謀者であるオウガを倒して頂きたいのです」
首謀者たる少女「エリシア」は、扉にたどり着く前にオウガに食べられて命を落としたかつてのアリスだという。
「オブリビオンとしてアリスラビリンスに戻ってきた彼女は、今際の時に感じた痛みを他のアリスに味合わせようと襲いかかっていきます。
皆さんには儀式を行うオウガの群を潜り抜け、素早くエリシアに接近し、彼女を倒すことが肝要になります」
どうかよろしくお願いします、とセシルが一礼すると、懐中時計の歯車がカチリと鳴る。
鐘の音と共に開いた門を潜り、猟兵達は戦場へと赴いた。
水平彼方
同じ痛みを味合わせることと、置いて行かれたこと。
エリシアは自分と同じ思いを味あわせるために、多くのアリスを召喚しようとしています。
どうかこれを阻止してください。
●このシナリオについて
このシナリオは戦争シナリオです。
完結を優先させて進行します。
なるべく多くの方を採用させて頂きたいと思いますが、場合によってはプレイングをお返しさせて頂きます。
●プレイングボーナス
オウガの群れを潜り抜け、エリシアに素早く接近する。
プレイング受付はOP公開後からとなります。
よろしくお願いいたします。
第1章 ボス戦
『『永遠に迷い続けるアリス』エシリア』
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POW : 繰り返される死の痛み
【自身がオウガに食われた時の感覚が蘇ること】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【敵に同じ感覚を与えられる形態】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD : 私が追い求めた物の迷宮
戦場全体に、【様々なトラップが仕掛けられた無数の扉】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
WIZ : あなただけが帰ることは許されない
【運命を切断する裁ち切りばさみ】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
イラスト:ままかり
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠幻武・極」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
エドガー・フォーサイス
◎
そんなに痛いんですか、それは可哀想に――なあんて言うと思いました?
残念ながら僕は性格が悪いんです、同情を求めるなら他所へお願いしますね
先ずは儀式魔術の破壊からですね
「指定UC」を「全力魔法」で精度を高めながらオウガ達に撃ち放ちますね
あなた達に無慈悲な慈悲を、その魂は僕が有効に活用しますからご安心を
血煙やオウガ達の肉片が舞うならこちらのもの、存分に目隠しとして活用しつつ箒の「空中浮遊」で不規則な軌道を描きながらエシリアさんに接近しましょう
こんにちは、そしてさようならですね?
少女はオーブから呼び出した僕の「カミサマ」に余すところなく食べて貰いましょう
まあ、今の僕では止めを刺す事は難しいでしょうが
●
食い破られた肉が、折られた骨がまだ痛い。
早く誰かと共有しなくちゃ、じゃなきゃ私の気が治まらない。
「あア痛い、イタイ」
呻くようなエシリアの声に、男の声が被さった。
「そんなに痛いんですか、それは可哀想に」
宥め賺すような声にエシリアがはっと顔を上げると、エドガー・フォーサイス(傾奇のアガペ・f28922)の静かな表情が視界に入った。
「――なあんて言うと思いました? 残念ながら僕は性格が悪いんです、同情を求めるなら他所へお願いしますね」
一転して期待を踏みにじるような言葉に、エシリアは不快感を隠さず裁ち切りばさみの尖った先端をエドガーに向けた。
ありったけの魔力を注ぎ込み作り上げた剣が、幾何学模様の軌跡を描きながら飛翔し、針の筵となって儀式を行うオウガ達を貫いていく。
エドガーは箒に跨がると、不規則な放たれた矢のように接近する。
「あなた嘘つきね。パンケーキよりも軽い言葉じゃちっともお腹が膨れないわ」
エシリアが細い腕で顎門のように刃を開くと、ばちんっと音を立ててエドガーの腕を切った。
しかしエドガーは血に塗れ滑る腕を指揮棒のように振るい、残った魔法剣を掻き集めると一斉に放つ。
「こんにちは、そしてさようならですね?」
最初で最後の挨拶を交した二人は、一触即発の緊張感の中で交錯し、永遠に離れていった。
成功
🔵🔵🔴
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友。
第一『疾き者』のほほん忍者
一人称:私/私たち
対応武器『漆黒風』
苦しみはわかりますが、放っておく道理はないですねー。
生前請け負った任務と似てますしー。犠牲は出したくありませんからー。
そう、生前『鬼』とも言われた私の矜持にかけて、ね。
(口調『複合型悪霊』。語尾伸ばし消滅)
【暗殺】の要領で。【地形の利用】で駆け抜けられる場所は【ダッシュ】し、慎重に行く場所は【忍び足】。
目標を見つけたのなら【早業】で指定UC使いつつの武器を【投擲】。
敵の攻撃は【見切り】、しばらく戦ったあとに離脱。これは一人だけで行う任務ではないので。
※他三人(全員武士)
『あいつが一番怖い』
仇死原・アンナ
アドリブOK
アリス達を救う為にも…
そしてアリスだった彼女の魂に救済を…!
【変身譚】により黒きケルビムへと変身し[ジャンプとダッシュ]で
空中へ飛翔しよう
オウガの群れに[空中戦で切り込み]
群れ成すオウガ共を潜り抜けつつ手足を妖刀で切り落とし
[部位破壊]で妨害し彼女の元へ近づこう
迷路に仕掛けられた罠を[視力で見切り]、力尽くで突破しよう
襲い来る罠を武器で[なぎ払い吹き飛ばして]ゆき
罠による負傷は[激痛耐性]で耐えよう
迷路を突破したら妖刀を抜き胸目掛けて[早業で串刺し]、
深く[傷口をえぐり生命力吸収]で彼女の恨みと魂を[浄化]してやろう…!
彼女の魂が安らかに眠れるように[祈り]を捧げよう…
●
獄炎を纏った仇死原・アンナ(炎獄の執行人・f09978)が駆ける。
「アリス達を救う為にも……そしてアリスだった彼女の魂に救済を……!」
その身は既に異形の天使へと転じていた。束の間得た黒い翼で強かに空を打つと、本棚を蹴り、弾かれたゴムマリのようにぐんと伸びていく。
すれ違い様に群れなすオウガの手足をアサエモン・サーベルで切り落としながら、地獄の中に地獄を作り上げていく。
その影を行く馬県・義透(多重人格者の悪霊・f28057)は速く、静かに。存在すら感じられず、切られ倒れ伏したオウガは滅したことすら気づく事なく消滅していく。
そうして開いた道の先に見えたエシリアを見て、義透は値踏みするように彼女を見た。
「苦しみはわかりますが、放っておく道理はないですねー。
生前請け負った任務と似てますしー。犠牲は出したくありませんからー」
緩い口調とは裏腹に、視認できないほどの速さで漆黒風を投げ放つ。
忍び寄った義透の死角からの奇襲に肌を傷つけながら、エシリアは得物を振るい応戦する。
「そう、生前『鬼』とも言われた私の矜持にかけて、ね」
聞こえ届いた声は仄暗く、聞いただけで首筋に嫌なものが走り抜けた。
悪寒を振り払うように首を振ると、襲い来る相手を見て軽やかに踏み込むと義透目がけてはさみを振り上げる。
見た目からは想像がつかない思い一撃を受け止めて、殺しきれなかった勢いで押し込まれた拍子に肩を斬られながら、飛び退きながら漆黒風を投擲する。
「あなたも邪魔するのなら、切ってあげる。このまま私を置いて帰ることは許されないわ」
「違う。アンタはここで終わり」
罠が仕掛けられた扉の迷路を力尽くでこじ開けたアンナが、エシリアへと迫る。
降りかかる罠を錆色の乙女でなぎ払い、たった一つの出口目がけて猛進するアンナ。
神経を焼くような痛みは疾うに慣れている。ひたすら耐え、いつもと同じように体を動かすだけだ。
義透の姿が影に溶けるように消える直前、急所を狙い澄ました手裏剣が飛来する。
大ぶりのはさみを器用に操って弾き落とすも、崩した体勢だけはいかんともし難い。
最後の扉を開け、真っ直ぐに飛ぶアンナが再びアサエモン・サーベルを抜き、勢いもそのままにエシリアの体を串刺しにして貫いた。
「その魂が安らかに眠れるよう……」
痛みも、それから生じる苦しみも、ここで終れるように。
祈りを込めた一撃を刃に込めて、アンナは最後まで貫いた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ロビン・ダッシュウッド
セシルの案内なら行かない訳にはいかないね
それにほら、可愛い女の子がなりふり構わず鋏を振り回すのを見ているのは趣味じゃない
エシリアにも装う楽しみを思い出して欲しいんだ
さあ、僕のこの衣装を見てご覧
美しい衣は熾天使の羽根となって僕を羽ばたかせてくれる
【熾天使の羽ばたき】を唱えて羽根を得たら、12枚の羽根で上昇
オウガの群れは上空でやり過ごし、飛んでくるものは高速で振り切る
『真珠貝の羅針盤』(失せ物探し)でエリシアを見つけたら『運命の縫針』で鋏を縫い止める
その鋏が命中しないようにね
武器を封じたら『お妃様の魔法鏡』(読心術)を手に話しかける
「帰りたいかい?」ってね
それが彼女の願いなんじゃないかな
●
巨大図書館の中で、青いリボンが風に煽られた羽毛のようにひらりと跳ねた。
「セシルの案内なら行かない訳にはいかないね。
美しき衣達よ。天界の大いなる熾天使の羽根となって僕を羽ばたかせておくれ」
ロビン・ダッシュウッド(時計ウサギの服飾家・f19510)の言葉を合図に、たちまち清浄なる光が溢れ、身に纏うオートクチュールの白い衣から六対十二枚の羽根を背に負った熾天使へと姿を変える。
「さあ、僕のこの衣装を見てご覧」
高く飛び上がりオウガの群をやり過ごすと、空まで追ってきた敵はぐんとスピードを上げて振り切っていく。
真珠貝の羅針盤が指し示す先で、一人の少女がロビンを見上げていた。
「時計ウサギ……。ああ、ここに来るアリスの案内と言ったところかしら」
そんなことはさせないわ、と手に持った裁ち切りばさみの刃を広げたエシリアの一撃を、手に持った運命の縫針で受け止める。
「帰りたいかい?」
ありのままの姿を映す魔法鏡に映ったのは、道に迷ったままのアリスの姿。
「……違うわ。私は、私と同じ痛みをアリスにあげるのよ」
それなのにのうのうと帰っていくアリスを見過ごすことは出来ない。
「ふうん、そうかい?」
鏡に映った素顔の少女を否定すべく、無言ではさみを振るうエシリア。
「嘘とは醜く縒れたもの、穴や傷を塞ぐその場凌ぎの取り繕いでしかないんだよ。
どうせ身に纏うのなら、幸福を縫い止めた素敵なドレスの方が君には似合う。
それにほら、可愛い女の子がなりふり構わず鋏を振り回すのを見ているのは趣味じゃない」
少女を飾るのは、武器でも涙でもない。
それ故にロビンが願うのは一つ、エリシアにも装う楽しみを思い出して欲しいということ。
ロビンの言葉にエシリアは答えない。
ただ、見ない振りをしていた傷が、じくじくと痛むのを感じて、再び目を背けた。
大成功
🔵🔵🔵
鈴木・志乃
もう一人じゃない。
貴女を置いて行ったりしない。一緒に帰ろう?
もう痛いことも、何も無いから……。
UCに催眠術を織り交ぜて精神攻撃。
幸福な幻想で自身の位置を地面の別の場所に錯覚させる。私はその隙に風に舞い上げられて、オウガの死角からエシリアを探すよ。
痛みを他人に与えても、貴方の痛みは消えることがない。
他の誰かをさ迷わせても、貴方が一人の事実は消えない。
これ以上誰かを呪って、自分も呪わない為に。貴方が安らかに眠れるように。
エシリアを発見後UC発動。今度も彼女にとって幸福な幻想を見せる。
まだここに迷い込む前、元の世界にいた時のこと。
そのまま全力魔法の夢に包み込んで、その衝撃波でなぎ払い攻撃。
ファルシェ・ユヴェール
◎
なるべくオウガの群れの手薄な辺りに見当を付け
一度目を伏せ、愛用の帽子を上げれば瞳は赤に染まり
強化した身体能力で身を低く
儀式の合間をすり抜けるように走り抜ける
振り返らず、しかし背を攻撃され難いよう、多少のフェイントを織り混ぜて
到達出来たなら
敢えて真っ向から接近戦を挑む
……死に瀕するような痛みは、知っています
過去のそれに近い、思い出すような、別物のような
耐えきれぬ程の其れを
小さな少女の身で
再び味わってまでも他者に向けるのは
……
くるしくても助けもなく
寂しくて、心も、身体も、ただ痛い
辛かったのですね、と
これから斃す彼女に言えるのは、それだけ
既に彼女は救われる事はなく
癒される事は無いのかもしれませんが
トゥーリ・レイヴォネン
【アドリブ連携歓迎】
【面白そうな展開であればプレイング無視OK】
「痛いの、は……やだよね。分かるよ、よく……知ってる」
目標
・まっすぐ「エリシア」の元へと歩き、その頭を肉切り包丁で割ってあげる
行動指針
・連携先から細かい指示がある場合、それを全て実行できる地頭の良さはない
・使用UCの目標をエリシアに。視認出来ないのであれば、ただまっすぐ進んで使用条件を満たすだけ
・単純に進み、殺す
心情
・「エリシア」の気持ちは痛いほどによく分かる。痛覚のあるゾンビたる自分も、今まさにそのような状況だ
・あれが間違ってるとは言わないし、同情もする。だから、殺してあげたい
ノイシャ・エインズワース
◎
お前は忘れられなかったのだな、今際の時の苦しみを。
辛いだろう、苦しいだろう。永遠である事は良いことばかりではない。
忘れられない、忘れてはならない。覚えていたい、覚えていなければならない。
罪と罰にまみれた憐れな女は私一人で十分だ。
――――――その苦しみから開放してやろう。
オウガの数が少しばかり多い、<誘惑>で引きつけ他の者達を先行させながらオウガを処理する。
目処がついたところで<闇に紛れる>で離脱を図って前線に追いつく。
エシリアが迷路を作り出したならばUCを使ってナビゲートの役割をするつもりだ。切り込むのは他の者に任せる、私はサポートに回るさ。
●
黄金の髪と瞳が、服喪する黒に神秘的に映えた。
召喚されたアリスがもたらす悲鳴と絶望を求めていたのか、ノイシャ・エインズワース(永久の金糸・f28256)を見たオウガ達の視線を奪っていった。
静かに歩を進める様は、慌ただしく戦況の変わる中では異様に映る。
だが、それでも目で追ってしまうような「何か」が彼女にあるような気がして目が離せない。
その姿がするりと闇に溶けるように消えた後、意識がふわりと浮き上がったような心地がして、空や本棚がぐるりと周り床へと変わる。
万華鏡のように移ろう世界。例えそれが幻想だとしても、幸せな夢を見ながら逝けるのなら幸運なのかもしれない。
翼を広げ風に乗り宙へ舞い上がった鈴木・志乃(ブラック・f12101)が眼下の群を見やると、虚ろな目をしてぼんやりと佇むオウガ達が見えた。
天地が上下左右入り乱れる中を俯瞰する志乃は、彼らの死角からエシリアの姿を求めた。
動きを止めたオウガ達を見たファルシェ・ユヴェール(宝石商・f21045)は、なるべくオウガの群れの手薄な辺りに見当を付けると、一度目を伏せ愛用の帽子を持ち上げる。
鍔に隠された瞳が真紅に変わり、吸血鬼として覚醒するファルシェ。
制御可能なぎりぎりのレベルまで上昇させると、身を低く伏せ一気に走り抜ける。
緩急織り交ぜた優雅な軌道と、荒々しく地を蹴る人外の力。
さながらその姿は、獲物を求める獸そのものであった。
その後に出来た道を、トゥーリ・レイヴォネン(タナトスのオートマトン・f26117)が一歩一歩迷いなく進んでいく。
愚直なほど真っ直ぐに、だが微塵の迷いを感じさせぬ足取りは、思考を排したオートマトンそのもののよう。
「儀式を邪魔するのはあなたたちね」
声をかけられた時も、その方向を真っ直ぐに見た。
白と黒のフリルと、紫のリボン。大きなはさみ。
そのまま次の一歩を踏み出そうとしたトゥーリの目の前に、一枚の扉が現われた。
邪魔なそれを蹴散らしながら進むも、次から次へと扉が現われる。
肉切り包丁で壊してしまおうか、と振り上げたその手を止めたのはノイシャだった。
「事象観測……、お前の未来を導いてやろう」
周囲に展開させた魔導術式へと周囲の状況をインプットし、高速演算による予想から出口を探る。
「こっちだ」
再び迷いなく進み始めたトゥーリが、出口までたどり着くのにそう時間はかからなかった。
「もう抜けたのね」
「迷わなかった、から……」
ぽつりとそう答えたトゥーリがゆっくりと歩み寄る。先んじて距離を詰めたファルシェが、ステッキの柄を捻り仕込まれた刃を抜く。
「……死に瀕するような痛みは、知っています」
「そう、ならもう一度味わってみる?」
はさみを構えたエシリアの表情が、みるみる醜く歪んでいく。
手足が千切れ、骨は砕かれ、腹を牙が食い破る生々しい痛み。
「イタ、い、ああ、痛い!」
滑らかな直線が不規則に尖り、広げた刃が大口を開けた。
僅かに逸らしきれなかったファルシェの頬を浅く裂いて、エシリアは尚も斬りかかる。
その姿を見てファルシェは嘆息した。
「耐えきれぬ程の其れを小さな少女の身で再び味わってまでも他者に向けるのは、……くるしくても助けもなく。
寂しくて、心も、身体も、ただ痛い。辛かったのですね」
何よりもその心の痛ましい姿に、憐憫のため息を吐いた。
「痛いの、は……やだよね。分かるよ、よく……知ってる」
ファルシェの言葉にこくりと頷いたのはトゥーリだった。
痛覚のあるゾンビたる自分も今まさにそのような状況だからこそ、エリシアの気持ちは痛いほどによく分かる。
痛み苦しみを知って欲しいという気持ちも、トゥーリは間違っているとは言わないし同情もする。
「だから、殺してあげたい」
そう願うのは、何度目かの死が唯一の幕引きだとも知っているからだ。
「お前は忘れられなかったのだな、今際の時の苦しみを」
「忘れられる、わけ、ないじゃないっ」
「痛みを他人に与えても、貴方の痛みは消えることはないよ。
他の誰かをさ迷わせても、貴方が一人の事実は消えない」
「それでも……!」
恐怖と痛みに、息も絶え絶えに喘ぐエシリアを、冷たい黄金色が見下ろしていた。
「辛いだろう、苦しいだろう。永遠である事は良いことばかりではない。
忘れられない、忘れてはならない。覚えていたい、覚えていなければならない」
何故ならノイシャの永遠は、贖罪の道だからだ。痛みの記憶を再生し、自責の念に打ちひしがれる痛みこそがノイシャの選んだ道だった。
「罪と罰にまみれた憐れな女は私一人で十分だ。
――その苦しみから開放してやろう」
闇を見透かすような慧眼が、未来の福音を紡ぎ出す。
「これ以上誰かを呪って、自分も呪わない為に。貴方が安らかに眠れるように。
もう一人じゃない。貴女を置いて行ったりしない。一緒に帰ろう?」
志乃がそう願いを込めると、エシリアの周囲に空から銀貨の星が降り注いだ。周囲の本が光となって空気に溶けて行き、世界に幸福な幻想を生み出す風となってエシリアを包み込む。
「もう痛いことも、何も無いから……」
それは「アリス」としてこの世界に迷い込む前の、一人の少女として存在していた頃の夢を紡ぐ。
動きが止まった一瞬に、志乃は風を集めてなぎ払う。
吹き飛ばされた体を追いかけると、トゥーリは肉切り包丁を振り上げた。
夢見心地の中で微睡むエシリアの頭部を、そのまま斬り付けた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
伊能・龍己
ジャスパー先輩(f20695)と
相棒……?わ、かっこいい
いいんですか?一緒に乗りたいっす
素早く倒していきましょう
俺も【黒雨】を使って、吹き飛ばすように広範囲へ雲を広げます
威力重視で押し流しつつ、進行方向を邪魔しないように動かし方には気をつけますね
たどり着いたら、氷の属性を雨雲に込めて【先制攻撃】
なぎ払うように逃げ場を潰して、攻撃していきますね
【天候操作】しつつ、目くらましにも雨雲を使います
……おぉ、先輩かっこいい
……どうしようもなくなって、行き場がない恨み、ですね
目の前の敵が前はどうあれ、今はオウガで倒すべきもの
ちょっと悲しくなりましたけれど、振り切っていきます
ジャスパー・ドゥルジー
龍己(f21577)と!
腹にナイフ滑らせ抉った肉を用いて【ジャバウォックの歌】
相棒の魔炎龍を召喚して騎乗するぜ
龍己はどう?一緒に乗るか?
相棒の炎のブレスでオウガ達を蹴散らしながら進む
討ち漏らしたやつがいたらナイフを投擲して仕留めるぜ
こうしてのうのうと生き延びてる「アリス」が憎いか?
恨みも痛みもぜェんぶ受け止めてやるよ、かかって来な
なんてな、格好つけてみたけど
ほんとは痛いのが大好きなだけだったりして
変態?誉め言葉だぜ
龍己や相棒に攻撃が向かいそうなら
相棒を旋回させ俺が【かばう】
【激痛耐性】で動きは止めず
心地好さに舌なめずりひとつ
あんたの痛み、貰ったぜ
もう感じずに済むように、炎で焼き尽くしてやる
●
頭から血を流すエシリアを見て、ジャスパー・ドゥルジー("D"RIVE・f20695)はにんまりと唇の端を釣り上げた。
そのまま腹にナイフ滑らせ肉を抉り取ると、恭しく捧げ持つ。
するとたちまち黒い炎が包み込み、相棒であり文字通り身を共にする魔炎龍ジャバウォックが姿を現した。
「相棒……? わ、かっこいい」
その姿を伊能・龍己(鳳雛・f21577)はきらきらと目を輝かせ、見上げてはため息を零した。
「龍己はどう? 一緒に乗るか?」
「いいんですか? 一緒に乗りたいっす」
ジャスパーの思わぬ誘いに甘え、嬉々としてジャバウォックの背に乗る龍己。力強い羽ばたきと共に宙へと舞い上がると、炎のブレスを吐き出してオウガ達を蹴散らして進む。
龍己もまたジャスパーに頼り切りではいられない。
「素早く倒していきましょう」
古の兵法書によれば、兵は神速を尊ぶという。
「願います。黒い空を、大雨を」
――吹き荒ぶ野分の如く。
願いを聞き届けた逆さ龍が雨雲を呼ぶと、炎に焼かれたオウガ達は叩きつけるような暴風雨によって本棚や床、天井へと強かに身を打ち付けた。
それでも耐えた骨のあるオウガは、漏れなくジャスパーの放ったナイフによって息の根を止めていく。
傍に居たオウガが悲鳴を上げて倒れたのを見て、エシリアはようやく二人の方へと顔を向けた。
「ああ、まだいるのね」
頭から血を流しながら、忌々しげに二人を見上げるエシリア。
「こうしてのうのうと生き延びてる『アリス』が憎いか?」
挑発するようなジャスパーの言葉に、エシリアは応えず睨み付けるだけ。
「……どうしようもなくなって、行き場がない恨み、ですね」
エシリアの最期を知るわけではない。目の前の敵がどのような死に様であったとて、今はオウガで倒すべきものだ。
「ちょっと悲しくなりましたけれど、振り切っていきます」
雨雲に寒気を纏わせ、辺り一帯を雲中のように煙らせる。
雨に混じり鋭い氷を降らせて、エシリアの体を裂いていく。
新たな痛みに表情を歪ませながら、エシリアは大きなはさみを振りかぶり龍己へと斬りかかる。
「恨みも痛みもぜェんぶ受け止めてやるよ、かかって来な」
「……おぉ、先輩かっこいい」
感嘆する龍己の視線を受けて片目を瞑ったジャスパーは、どうやら満更でもない様子。
「邪魔、なのよ!」
「龍己!」
とっさに龍己を突き飛ばし、エシリアの攻撃を受けたジャスパー。胸元から腹に掛けてざっくりと開いた傷口を見て、顔をしかめ――
「なんてな、格好つけてみたけど。ほんとは痛いのが大好きなだけだったりして」
チェシャ猫のような笑顔を浮かべ、指先で傷をなで上げるジャスパー。
「あなた、おかしいわ。身の毛がよだつ変態ってこういうものを言うのね」
「変態? 誉め言葉だぜ」
信じられない、といったエシリアの視線を受けて、呵々と笑ったジャスパーが軽く相棒の肌を叩いて合図を送る。
「あんたの痛み、貰ったぜ。もう感じずに済むように、炎で焼き尽くしてやる」
高温の炎に焼かれるエシリアの姿が消えるまで、ジャスパーは彼女の存在を刻むように見つめ続けた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ヘンリエッタ・モリアーティ
【悪と凪】
――それじゃあ、早いとこ蹴散らしちゃいましょうか
ああ、可哀想に。痛いわよね。とても苦しいでしょう
可哀想に。理解してあげられる
【打ち砕く無限の扉】、発動
匡、援護をお願い。蜘蛛の子を散らすから
一匹残らず殺し尽くして
まず右足で大軍の一部を蹴り殺す。一匹爆ぜたら怪力からの衝撃波で大軍をドミノ倒し
これを左足で、右腕で、左腕で
計4回かけて蹂躙してやる
とても可哀想ね。あなたの痛みはあなたのもの
理解してあげると言った
嘘だよ。ごめんね
――悪い大人は信じちゃいけない
匡が仕留め損ねるとは思えない。だから、これは一応念押し
4回というのも嘘。5回目。
可愛い頭に頭突きしてあげる。夢から醒めて
悪夢は終わりの時間だ
鳴宮・匡
【悪と凪】
オーケー、さっさと片付けよう
首魁まではまだ遠いしな
ハティが切り開いた道をオウガへ向かって進む
彼女の力は信用してるけど、数が数だ
撃ち漏らしが出る可能性はゼロじゃない
それを排除するのがこっちの仕事
射撃で止めを刺していくよ
憂いなくオウガと相対できるように努める
そうだな、殺されるのは痛いし、苦しいだろう
生憎、それをわかってやれるほど殊勝じゃないけど
その痛みから解放するくらいはしてやれる
一撃目は武具へ
破壊はできなくていい、衝撃で相手の態勢を崩すのが狙いだ
大きな武器だ、弾かれれば引きずられてバランスを崩す
――本命はこっち、【死神の咢】で頭を砕く
痛みなんて感じる間もないよう精確に射抜くよ
もう眠りな
●
見渡す限りオウガの群。その全てが砂糖に群がる蟻のように、アリスを求め、機械的に呼んでいた。
「――それじゃあ、早いとこ蹴散らしちゃいましょうか」
「オーケー、さっさと片付けよう。首魁まではまだ遠いしな」
有象無象に持つ興味などない、と断じたヘンリエッタ・モリアーティ(悪形・f07026)がそう宣言すると、鳴宮・匡(凪の海・f01612)は粛粛とBR-646C [Resonance]の銃把を握った。
「匡、援護をお願い。蜘蛛の子を散らすから。一匹残らず殺し尽くして」
ヘンリエッタの右足がしなやかに舞い、放った一撃が大群の一角を蹴り殺す。原型を留めることが出来ず一匹が爆ぜて消えると、追い打ちを掛けるようにして押し寄せた衝撃波が津波のように群を飲み込み、群をドミノ倒しのように崩れていく。
「4回」
意味ありげな数字を呟くと、次いで左足、右腕、左腕と反復すれば、辺り一帯は爆心地のように何もかもが消し飛んだ後だった。
宣言通り計4回の攻撃で、ヘンリエッタは蹂躙の限りを尽くした。
かろうじて耐えたとしても、焼け野原に残った一本の電柱のようにその存在は異彩を放っていた。
そこに、乾いた銃声が一つ。
ヘンリエッタが切り開いた道を進む匡が、その幸運さえも摘み取っていく。
彼女の力は信用している。だが、数が多すぎる。
撃ち漏らしがでる可能性はゼロではない。
コンマ以下の可能性を排除し、ゼロにするのが匡の仕事だ。そこに引き金を引くという行為の意味や憂いという情を挟む余地を努めて潰しながら、より平坦に、フラットに感情を宥めて引き金を引いていく。
ペンペン草も生えないような荒れ地の中で、細いシルエットが照準器の先に映り込む。
僅かに構えを解き両目で少女の姿を捉えると、彼女が頭から血を流し、身体中が傷だらけだということが分かった。
「痛い」
ぽつりと、そう一言だけ呟くと、血と痛みに塗れた顔を二人へ向けた。
「ああ、可哀想に。痛いわよね。とても苦しいでしょう。
可哀想に。理解してあげられる」
ヘンリエッタの言葉に、エシリアははっと目を見開いた。
「とても可哀想ね。あなたの痛みはあなたのもの」
心の裡を見透かしたような言葉は、天啓のようにすら思えた。
「そうだな、殺されるのは痛いし、苦しいだろう。
生憎、それをわかってやれるほど殊勝じゃないけど、その痛みから解放するくらいはしてやれる」
再び構えた匡が、エシリアへ一撃を放つ。
狙いはエシリアではなく、彼女の持つ大きなはさみ。あれだけ大きな武器であれば、勢いよく弾かれれば引きずられてバランスを崩すことは必須。
――本命は。
アリスの肉体を喰らうオウガではなく、死神が大口を開けてエシリアの頭を『喰った』。
「……いぃたああぁあっ!」
つんざくような悲鳴を上げて
彼女は正真正銘の化け物だった、頭蓋を撃ち抜かれて尚、エシリアは止まらない。
滅茶苦茶にはさみを振り回し、駄々をこねる子どものように喚き散らす。
「理解してあげると言った。嘘だよ。ごめんね。
――悪い大人は信じちゃいけない」
流れるように紡がれる虚構と、織り交ぜられた本当。最早エシリアには、どれが本当なのか分からなくなっていた。そしてそれを曰う彼女は、人の皮を被った得体の知れないものの様に思えた。
「4回というのも嘘」
5回目。胸ぐらを引っ掴んで、乱暴に引き寄せる。
「可愛い顔だけど、これで夢から醒めて――悪夢は終わりの時間だ」
骨を砕くような頭突きに、目の前で火花が散る。
最早悪夢すら見る余裕すらなく、エシリアの意識は暗闇に沈んでいった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
【野生】
痛みを得たことに同情せんではない
だがそれを他者に振り撒くことは、愛と希望には程遠い
己で終わらせようという想いにならなかったのは
さて――オウガが故か、否か
万事任せてくれ
派手にやろう
失礼、レディ。その目論見は壊させてもらおう
天罰招来、【冀求】
喚び起こす八十一の竜の群れを以て、最短距離に一直線、穴を空ける
此度の仕事はその穴を護ることだ。竜の誇りを以て――やれるな、同胞
私も氷の属性攻撃と呪詛でもって、出来る限り広域の足を止めてやろう
行ってくれ、ロク!
その足と、炎を信じよう
同じ苦しみを与えるばかりでは誰も救われないのだよ、レディ
――どんな痛苦も背負って笑う覚悟が、一つでもあれば良かったのになァ
ロク・ザイオン
【野生】
同じ苦しみを呼ぶと、苦しみは癒えるのかい
…おれには、そのこころがわからないけれど
それしか見えないのなら、もう、あれは病だ。
……派手なのは嫌いじゃない。
やってくれ、ニルズヘッグ。
おれが、あの病を灼き落とす。
(ニルズヘッグの喚ぶ竜たちは、さぞかしオウガの群れの目を惹くだろう
竜の拓く道を【ダッシュ】一直線に病の本陣へ
懐に飛び込んでしまえば己の刃の間合いだ
鋏は【野生の勘】で躱し
【早業】の「烙禍」で病を炭に)
…それとも。共に泣いてくれるものが、欲しかったかい。
土に、花に巡れ。
……永遠は苦しいから。
森の糧に、なるといい。
●
傷付き、頭を砕かれ。それでも永遠に迷い続ける少女は、止まらない。
「イ、た……」
残った右目を動かしてぐるりと辺りを見回すと、未だ見ぬアリスを捜し求めた。
「同じ苦しみを呼ぶと、苦しみは癒えるのかい」
灼けた声帯から漏れる嗄れた声で、ロク・ザイオン(月と花束・f01377)は問いかけた。
「ソウよ。だって、伝えないと、わからないでショウ?」
言葉で伝えたところで、ひとは半分も伝えられない。アリスがどれだけ泣き叫んでも、オウガには一欠片も伝わらないのと同じように。
だから帰れない苦しみも、食われた痛みも。すべて味わわせるのだとエシリアは言う。
「……おれには、そのこころがわからないけれど。
それしか見えないのなら、もう、あれは病だ」
「痛みを得たことに同情せんではない。
だがそれを他者に振り撒くことは、愛と希望には程遠い。
己で終わらせようという想いにならなかったのは、さて――オウガが故か、否か」
痛みとは人を成長させる種であり、土であり、腐らせる水でもある。
極めて理不尽な、利己的なエゴの押しつけだった。だがニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)が表情を曇らせたのはそこではない。
嘆くとすれば、そこには愛と希望がないということだろう。
「万事任せてくれ、派手にやろう」
「……派手なのは嫌いじゃない。やってくれ、ニルズヘッグ。
おれが、あの病を灼き落とす」
二人が言葉を交したのが、交戦の合図だ。
「失礼、レディ。その目論見は壊させてもらおう」
――天罰招来。
先行するニルズヘッグが高らかに宣言すると、産声を上げ背に氷翼を広げて飛び立った。
八十一の竜の群は、ニルズヘッグとエシリアを直線で結ぶ――いわば最短距離を飛び、一直線に駆けていく。
うごめひしめくオウガの群に穴を開けると、傍らのロクへと振り返った。
「行ってくれ、ロク! その足と、炎を信じよう」
閉じようとする穴を、オウガを凍らせ呪詛で蝕むことで維持しながら、ニルズヘッグは叫んだ。無言で頷いたロクは、ニルズヘッグの敷いた一本道を迷うことなく駆けていく。
目指すはこの戦の病巣、永遠に迷い続けるアリスだった少女、その一点のみ。
「アァ、あ、いた、ああぁっ!」
最早言葉にならない悲鳴を上げて、エシリアは裁ちばさみを振り回す。
それをロクは考えるのではなく、直感で感じたままに体を動かし潜り抜け、懐へと飛び込んだ。
烙印刀から零れ落ちた炎が、野火の如く病を焼いて焦がしていく。
「同じ苦しみを与えるばかりでは誰も救われないのだよ、レディ」
「救われなくてモいいのよ。わかれば、それで」
「……それとも。共に泣いてくれるものが、欲しかったかい」
「いらなイ、そんな人は、現われなかった」
天邪鬼な答えとは裏腹に、潜む孤独と絶望を感じ取ったものの、ロクの病んだ耳は美しい歌となって響いていた。
「土に、花に巡れ。……永遠は苦しいから。森の糧に、なるといい」
命は巡る。朽ちて倒れたとしても、土に還り花となってこの世を謳歌すれば良い。
灼け爛れて真っ黒な炭となって、そうして燃え尽きたとしても、その体は新たな命となって巡るのだ。
雪のように白い灰となって崩れていく少女を見送りながら、ニルズヘッグがぽつりと呟いた。
「――どんな痛苦も背負って笑う覚悟が、一つでもあれば良かったのになァ」
壊れていたニルズヘッグが仲間に支えられ、ようやく歩き始められたように。背負いすぎても信じられるものがあれば、エシリアは救われたのかも知れない。
絶望の最中に尽きていった少女の心を空想しするニルズヘッグに、ロクは低く唸り声を上げた。
「痛みの中でしか、生きられない。そんな、病だってある」
今し方消えていった少女のように、炎の中で焼かれながら生きるような、そんな人生を歩むものもいる。
その最中で分け与えるのは痛みではなく、見出すための愛と希望であり、それが救済に繋がるのだと信じている。
そんな形の良い理想を掲げながら、果たして今回の彼女はどうだったのだろうと思い巡らせながら、最期の一片を見送った。
大成功
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