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迷宮災厄戦⑧〜微睡みに愛を歌う

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦

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●座礁する空
 その地には、数多の船が寄り添っていた。漣は遠く——鏡写しの美しい湖面が、押し寄せる小舟たちに押しつぶされる。僅か、見える湖面はキラ、キラと星々の輝きを映していた。
「ふふ」
「ふふふふ」
「あはははは」
 座礁する船達の向こう、その端に高い塔のような天文台があった。美しい天文台から零れ落ちる少女たちの声は賑やかに、楽しげに——だが、瞳の向こう、獣のような残虐さを見せて望遠鏡を撫でた。
「さぁ。見つけたわ。わたしたちと遊びましょう?」
「とびっきり愛してばらばらにしてあげるもの!」

●微睡みに愛を歌う
「迷宮災厄戦、お疲れ様。またひとつ、力を貸して頂けるかしら」
 アリスラビリンスでの戦争——迷宮災厄戦。
 オブリビオン・フォーミュラ「オウガ・オリジン」は、「猟書家」と名乗る者達に力の殆どを奪われたという。猟書家達は、オウガ・オリジンから奪った現実改変ユーベルコードによって「他世界の侵略」を開始しているのだ。
「オウガに猟書家、それに猟兵の意図が絡み合っての三つ巴となれば——えぇ、少しでも動いておきたいもの」
 シノア・プサルトゥイーリ(ミルワの詩篇・f10214)はそう言って、向かうべき世界の名を告げた。
「美しい星空が広がる、不思議の国よ。その場所は、湖面に沢山の船があるようなの」
 湖に落ちることは無いだろう。湖面は船船が押し寄せ、足場となっている。小舟から帆船、とどれも随分と古びた船が多いが、足場として使ったところで壊れることは無いだろう。
「オウガがいるのは、高い塔のような天文台よ。探さなくてもすぐに見えるわ」
 それは、この世界の中では、とても高い塔だからだ。
「場所が分かるのは良いけれど、一つ問題があるの。天文台の最上階から、オウガ達からの遠距離攻撃が来るわ」
 天文台の最上階に陣取ったオウガたちは、望遠鏡で猟兵達を発見し、一方的に遠距離攻撃を浴びせてくるのだ。
「上を取った以上使ってくる、というつもりでしょうね。接近技しか持たないオウガでも、望遠鏡を覗いている間は「まるで敵が目の前にいるかのように」その技を使うことができるの」
 オウガ・閉幕のアリスは近距離での打撃攻撃を持つが——見つけられれば、足元を崩されるだろう。
「船はすぐに流れ着いてくるけれど、足場を盛大に失ってしなうのも困るでしょう」
 対策が必要となる、ということだ。
「そうね、見つからないように接近できれば有利に戦えるはずよ」
 かれらが望遠鏡で見つけるより早く、速度を見せるか。何か壁を用意するか。
「船を上手く使って身を隠すのも良いでしょうね。辿りついた先にいる閉幕のアリスは、可愛い少女外見を持つオウガよ」
 無害なアリスのように振る舞い、人を騙しては襲ってくる。振りまかれる「愛」の攻撃は、獲物にかける幻覚に近い。
「愛されているように思ったり、愛してしまうように思ってしまったり、するそうよ」
 えぇ、けれど勿論。
「愛しているから、貴方を倒すわ。とも言えるもの。——どうか、かれらの言動には気をつけて」
 微笑んで、シノアはグリモアの灯りを灯した。武運を、と静かに言い添えて。


秋月諒
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「迷宮災厄戦」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

●プレイング受付について
導入追加はありません。公開時から受け付けております。
0時を過ぎる場合は翌日の8:31〜だと締め切り的にハッピーです。
システム上、送信可能な限りは受付中です。
締め切りの告知は特別行いません。

状況によっては全員の描写はお約束できません。予めご了承ください。

●プレイングボーナス
『望遠鏡に発見されない工夫をする。』


●同行について
プレイングに【名前+ID】若しくは【グループ名】を明記してください。
キャパシティ上、複数の参加はお二人までとさせて頂きます。
プレイングの送信日は統一をお願い致します。
失効日がバラバラだと、採用が難しい場合がございます。

それでは皆様、ご武運を。
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第1章 集団戦 『閉幕のアリス』

POW   :    ハートボム(打撃武器運用)
単純で重い【ハートボム】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    ハートボム(投擲武器運用)
【接触地点で大爆発するハートボム】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    ハートボム(射撃武器運用)
レベル×5本の【愛】属性の【着弾地点を貫く、ハートボム】を放つ。

イラスト:銅貨

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

アルデルク・イドルド
【船上戦】ってのには少々覚えがあってね。
船の上を四方八方に飛び移りって訳には行かないがそれなりに上手く立ち回りは出来るだろうさ。
船が攻撃されたら沈んじまうに別の船に飛び移れ。まったくあんなのを食らったら大抵の船は沈んじまうな。俺の船じゃなくてよかったぜ。

すまないな俺の愛ってやつは一つだけしかないしやるやつはもう決めてるんだ。
だから簡単にもらったりあげたりはできないんでね。
だから、その攻撃はお断りだな。【挑発】
グリードコインによる【援護射撃】を展開。
UC【剣乱舞踏】発動【属性攻撃】海で強化。



 何処までも広がる夜の空は、吸い込まれる夜の海に似ていた。星々は航海を知る者にとっては導だ。心地よく吹く風に、揺れる黒髪をそのままに、船を渡る。小さく聞こえた水音に、アルデルク・イドルド(海賊商人・f26179)は息をついた。
「こうも大量の小舟が流れ着いてきているとはね」
 星々を眺める湖の世界であったこの地は、オウガがあの天文台に居座った影響か、無数の小舟が流れ着き、押し寄せる世界と変貌していた。
「ま、足場と思えばありがたいんだが」
 よっと、とアルデルクは船を渡る。飛び移った先で、傾ぐ船体とて海賊たる男にとって然程不思議な事ではない。
「船上戦ってのには少々覚えがあってね」
 船の上を四方八方飛び移って——という訳にはいかないが、立ち回りは理解できる。傾ぐ船体には前に出て、完全に傾ききる前に飛び移る。着地は——と、そこまで考えたところで、チカ、と視界の端が光った。
「——来たか」
 告げると同時に、生じた爆発に身を飛ばす。僅かに焼ける感覚が残る。意識を奪おうとする熱の力に、アルデルクは軽く肩を竦めた。
「そいつは、願い下げでね」
 飄々とひとつ告げて、次の船へと飛び移る。身を隠さずに行く分、相手には見つかりやすいが——足を止めなければ、行けるだろう。この場で撃ち落とされることはない。何より——海賊として、船の上から落とされる気は無かった。
「まったくあんなのを食らったら大抵の船は沈んじまうな。俺の船じゃなくてよかったぜ」
 妙にピンクな上に、妙なハートも飛んでいる。
 あれが、オウガのオマケか、それとも愛の証か。
「……やれやれ」
 は、と息を吐く。見れば、天文台はもうすぐだった。
「ふふふふ」
「来たわ。やって来たわ!」
 辿りついた天文台には少女の楽しげな声が聞こえていた。鈴を転がすような声音の向こう、瞳の奥に、少女の見目とはまるで違う——残虐な気配が見える。
「いらっしゃい。いらっしゃい。見知らぬひと。わたしたちと遊びましょう?」
 蕩けるような甘い笑みを浮かべ、白ウサギのぬいぐるみを抱きしめて閉幕のアリス達は微笑んだ。
「とびっきり愛してあげるもの」
「すまないな俺の愛ってやつは一つだけしかないしやるやつはもう決めてるんだ」
 甘くあまく、蕩けるように響いたアリス達の言葉に、アルデルクはそう言った。
「だから簡単にもらったりあげたりはできないんでね」
 口元笑みを浮かべ、たったひとつの愛を思って、アルデルクは静かに告げた。
「だから、その攻撃はお断りだな」
 ひどく美しい笑みを浮かべ、海賊は挑発する。ピクリ、と反応したアリス達が一斉にアルデルクを見据えた。
「それならそれなら!」
「わたしたちを愛するようにしてあげる!」
 ぴょん、と跳ねたアリスがぬいぐるみをぽん、と放り投げれば無数のハート型のボムが降り注いだ。
「これはまた」
 多いな、と小さく笑って、アルデルクはピン、とコインを弾く。躍るグリードコイン達がハートのボムを撃ち抜けば直撃は避けられる。
「さぁ、踊らせてやる」
 衝撃が、指先へと届く前に呼び寄せるは魔法剣。海の属性を持つ剣が躍るように飛び回り、閉幕のアリスへと沈む。
「——っぁ」
「まだ、まだ、遊び足りないの、に……!」
 ボムが叩き付けられようとも、強化された魔法の剣はアリス達を包囲するように飛ぶ。
「言っただろう? 俺の愛ってやつは、もう決めてるんだ。って」
 ふ、と笑みを浮かべ、アルデルクは魔法剣を向ける。星空を遠く眺め、オウガ達との戦いが加速しようとしていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ラブリー・ラビットクロー
クロゼ(f26592)と
クロゼの事はししょーやくろぜと呼ぶ

らぶ一人だと難しーけどししょーならきっと上手くやれるなん
マザーもそー思う?
【よくわかりません】

煙幕の中クロゼと逸れないよーに行動するぞ
マスクとゴーグルつけてるから煙も閃光もへーき
煙と閃光に紛れてこっそり塔に忍びこむのん

敵の精神攻撃は狂気耐性で
え?
これが愛なんだ?
らぶはずっと独りだったから愛なんてわかんない
でも
ししょーと一緒の毎日のほーがずっとあったかくてずっと楽しくて
こんなの愛じゃない!
ししょーとらぶのほーが愛なんだ
ししょーこっちを向いて!
らぶの愛のほーがホンモノなんな!マザー!ライトでくろぜを照らすの!
【フラッシュライトを起動します】


クロゼ・ラビットクロー
ラブリー(f26591)と
ラブリーのことはラビィと呼び普通の口調
他の人には敬語。混ざっても問題無し

船の上を渡って行くのか。
それじゃあ早速。
今回使うグレネードは発煙弾だ。
僕とラビィはガスマスクをしているので煙の中でも問題なく移動できる。
これであっさり近付けるなら苦労も少ないけど、念には念を。
閃光弾も用意しておこう。これも目くらましとしては効果的だ。
煙で身を隠せば煙から出てきそうな場所を注視するんじゃないかな。
その辺を狙って投げてみるか。

愛? はて、なんで僕は戦ってたんだっけ……

ん? ラビィ? そうか……思い出した。
僕は奴らに爆弾を届けに来たんだったな。



 満天の星空の下、湖面を揺らす風が僅かに、耳に届く。沢山の小舟が流れ着き、ひしめき合う世界にラブリー・ラビットクロー(とオフライン非通信端末【ビッグマザー】・f26591)は、ぱち、と赤い瞳を瞬かせた。
「船がいっぱいだぞ」
 小舟——という以上は浮いているのだろう。トン、と降り立った先、とりあえず今の足場は少しばかり大きな船であった。二人、乗っても大きく揺れることはない。
「これが、この国の景色か」
 クロゼ・ラビットクロー(奇妙なガスマスクの男・f26592)は天文台の位置を視界に収める。この世界で一番高い場所は、一番目立つ場所だ。行き先が分かっているのはありがたい。
(「それで、狙撃はあそこからか」)
 足を止めていれば、それこそ簡単に捕まるのだろう。探されている気配だけは、この国に降り立ったときからずっとあった。
「船の上を渡って行くのか」
 座礁して船は、天文台まで続いている。距離と足場の不安定さと、開けた空間を覗けば——足場が確保されている分、十分だ。
「——見えた」
 道筋をひとつ掴み、視線を上げたクロゼの横、ぱっとラブリーは顔を上げた。
「らぶ一人だと難しーけどししょーならきっと上手くやれるなん。マザーもそー思う?」
【よくわかりません】
 きっぱり、と届いたマザーの返答は今日も厳しい。むむむ? と小さく首を傾げてみせるラブリーを視界に、クロゼは用意の品を取り出す。
「それじゃあ早速」
 クロゼはグレネードのピンを抜く。用意したのは発煙弾。それにこれの効果は——……。
(「上げてある」)
 カン、と手前の船上に投げつける。瞬間、広がった白い煙が周辺を満たした。濃い煙は吸い込めば咳き込んでしまうだろうが、クロゼもラブリーも、ガスマスクをしているのだ。問題無く移動ができる。
『こっち』
 立ちこめる煙の中、指でクロゼは行き先を示す。トン、と二人続けて移動をすれば、チカ、と僅か遠くで何かが光った。
「——来る」
 轟音を覚悟して、一気に船を移る。居場所は捕まれてはいない。立ちこめる煙に気がついた程度だろう。
「これであっさり近付けるなら苦労も少ないけど、念には念を」
 用意しておいた閃光弾を叩き付ける。チカ、と一瞬、強く生じた光とて——クロゼとラブリーの敵ではない。
「行こう、ラビィ」
「行くぜ、ししょー!」
 煙と光の中、迷い無く進んで行けば続く狙撃もない。身を低め、素早く移動した二人はこっそりと天文台へと足を踏み入れた。
「——これが、塔?」
「天文台、か。確かにこの世界を見るためにあるものだったみたいだけど」
 ラブリーの言葉に、クロゼはそう言って僅かに眉を寄せた。見つけたのは爆発の痕跡。天文台の屋上へと続く階段は煤に汚れ——やがて、くすくすと笑い合う声が耳に届く。
「ふふふ」
「あははは。いらっしゃい、いらっしゃい。見知らぬ貴方」
「いらっしゃい、いらっしゃい。見知らぬ誰か!」
 それは、閉幕のアリスたち。可愛らしい少女の見目で、白いウサギを抱きしめてにっこりと笑った。
「うさぎさん」
「うさぎさんがいるのね」
「らぶのこと?」
 小さく首を傾げた次の瞬間、たん、と閉幕のアリスが地を蹴った。近い、と半ば反射的に身を飛ばす。
「ラヴィー」
「ししょー。らぶは——……」
 だいじょうぶ、と応えるはずの声が、爆風で空を切った。床を叩いたハートボムが避けた先まで衝撃波を飛ばしてくる。
「——ぁ」
 一瞬、くらり、とラブリーの視界が揺れた。くすくすと、甘く笑い合うアリス達の声が耳に届く。うさぎさん、と誘う声。
「大丈夫よ。わたしたちが愛してあげるもの」
「え? これが愛なんだ?」
 蕩けるように甘く響いた声にラブリーは瞬く。愛と言われても分からないのだ。知らないから、そんな風に言われてもピン、と来ない。
「らぶはずっと独りだったから愛なんてわかんない」
 でも、とラブリーは顔を上げた。くらり、と揺れる視界を振り払う。
「ししょーと一緒の毎日のほーがずっとあったかくてずっと楽しくて。こんなの愛じゃない!」
 声を上げる。張り上げるのはたったひとつの為。爆風の向こう、立ちすくむししょーに届ける為。
「ししょーとらぶのほーが愛なんだ」
「愛? はて、なんで僕は戦ってたんだっけ……」
 大量のハートボムが降り注ぎ、僅か、足を止めたクロゼは肩口に傷を負っていた。二度、三度と瞬いたのか。それでも返事のない人に、ラブリーは声を張り上げた。
「ししょーこっちを向いて! らぶの愛のほーがホンモノなんな!」
「困ったうさぎさん! 捕まえなくちゃ……!」
 爆風の向こうから、ぐん、と伸びてきた手より早く、ラブリーは飛んだ。
「マザー! ライトでくろぜを照らすの!」
【フラッシュライトを起動します】
 飛び込んだ先は、クロゼの傍。ぱっと、照らす強い光にアリスたちが驚いたように手を引き——、ゆっくりとクロゼが顔を上げた。
「ししょー!」
「ん? ラビィ? そうか……思い出した。僕は奴らに爆弾を届けに来たんだったな」
 だから、ならば。
 ポケットの中、用意していた最後のグレネードをクロゼは放り投げる。派手な爆発こそ、押しつける愛を吹き飛ばして、この世界を取り戻すための贈り物だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
暗色の外套を纏い、夜に紛れ。
夜目は其れ也に。
灯は用いず星を頼りに塔へ駆ける。
帆船の帆柱、大型の側の小型船…
塔よりの射線を遮る場に身を隠し乍。

己なら如何視るか…
経験を辿り。探す者の心理、行動を想定する。
動く物を追う、灯りを気にする、隠れ場所の予測…
ならば逆手に取ろう。
攻撃が他へ向いた時に移動と簡易の罠設置。
後は鋼糸を用い、発光液、鳴子、布を動かす等、
敵の意識を他所へ向け移動…を繰り返し。

塔へ着く…或いは万一見つかったなら。
流石に向こうの攻撃も来ましょう。
遮蔽物あらば盾としつつ。
さんざ好き勝手してくれた其処へ、全弾放つは
――捌式

愛?
それは困りましたねぇ。
欲した相手ほど…
…壊したくなる性質でね、俺は



 湖を走る涼しげな風が黒髪を揺らしていた。静かな夜の気配だ。湖面など、とうに見えずとも空気だけは残る。夜気を吸い込み、クロト・ラトキエ(TTX・f00472)は暗色の外套を引き寄せた。
「……」
 夜に紛れ、た、と音もなく小舟を渡る。足音、殺すように板を踏み、傾ぐ先に身を沿わす。灯りは使わず、満点の星空だけを瞳に映した。
「——さて、左ですか」
 この国において、天文台以上に高い建物は無い。行き先を定めるのは容易く——だが、あちらが「見つけようとしてくる」のであれば、ただ進む訳にもいかない。
 キュイン、とふいに明後日の方向で何かが駆ける音がした。狙撃だ、と分かった分、クロトは帆船の帆柱に身を寄せる。塔からの視線を遮ったまま、不用意には動かずに——ふ、と息を吐いた。口の中、カウントを刻む。着弾までの時間。風向きは——流石に関係はないか。
「そこは、噂の望遠鏡の力でしょうか」
 夜目は其れ也にきく。
 クロトが少し前に抜けてきた船が破壊されていた。通った道がばれた、というよりは船に残った揺れを見ただけなのだろう。
 ——そう、見ているだけ、だ。
 望遠鏡から得る視覚情報だけで、オウガ達は狙撃をしてきている。爆発音と衝撃を思えば規模はそれなりに大きく、ついでに妙なハートが飛ぶ。ピンク色の煙だけが、風とは関係の無い方向に揺れていた。
(「恐らくあれは、獲物を探して揺れていた」)
 効果を与える先がいなければ、消滅する類いだ。どれもが「見える範囲」で展開される。ならば、考える事は一つだ。
「己なら如何視るか……」
 薄く口を開き、クロトは息を吸う。経験を辿り、探す者の心理、行動を想定する。
(「動く物を追う、灯りを気にする、隠れ場所の予測……」)
 先の狙撃は動いたものを追っていた。そして、オウガ達は猟兵達よりも先にこの国に居た者だ。だからこそ、天文台の屋上を支配している。ならば——……。
「この国を知っている」
 座礁する船たち。小舟の数はまだしも、大きな船の場所がどこにあるか、隠れ場所を予測するだろう。灯りも使えば目立つ。
「ならば逆手に取ろう」
 口元、静かに笑みを浮かべカウントを刻む。二度目の衝撃が船に近づいてきたそこで、クロトは次の船へと一気に飛び移る。タン、と着地した先、大きな船を経由して小舟まで行く。移動の合間、設置した簡易の罠を鋼糸で引けば——キリリリ、と夜を切り裂く音と共に鳴子が派手に音を鳴らす。カランカラン、と響く音よりは、揺れるそれが——囮だ。
 ——ゴォオ、と風を貫く音と共に、爆発が生じる。砕け散った船を視界に、構わずクロトは前に進む。敵の意識を余所に向けたまま、飛び越えた先の船の上、片足を軸に振り返った男が夜の闇に鋼糸をひく。チカ、チカと発光液のかかった布が翻り、オウガ達の視線を引く中、夜闇に紛れた男は天文台へと身を滑り込ませた。
「ふふふふ」
「あははは。ふふふふ」
 螺旋階段は、爆煙に汚れていた。外壁が破壊されていないのは塔の頑丈さか。
「いらっしゃい。見知らぬ誰か」
「いらっしゃい。わたしたちと遊びましょう?」
 塔へと辿りついたクロトを出迎えたのは、可愛らしい少女の姿をしたオウガ達であった。
 閉幕のアリス。
 少女の姿を被っているだけに過ぎないのは、目で分かる。
「壊れるまで愛してあげるから!」
 ぴょん、と跳ねて白ウサギのぬいぐるみを掲げたアリス達に、クロトは身を横に飛ばす。然程広い場所では無いが——遮蔽物が無い以上、距離を稼ぎ、攻撃のタイミングをずらす。一瞬とてクロトには十分だ。さんざん好き勝手してくれた其処へ、全段放つは。
「――捌式」
 十三の業、内の八。儚き朧と侮る勿れ。
 舞い踊る鋼糸が、網のようにクロトの前を滑り。投げつけられたボムを切り裂き払い——アリス達を貫き、散らした。
「困ったひと、困った人! 愛してあげるって言ったのに!」
 敵意を剥き出しに、瞳に滲む殺意を隠すこと無く告げるアリス達にクロトは静かに微笑んだ。
「愛? それは困りましたねぇ」
 しゅるり、鋼糸が舞う。纏う黒の衣を躍らせて、晒した顔でクロトは告げた。
「欲した相手ほど……壊したくなる性質でね、俺は」
 傲岸不遜もそのままに。

大成功 🔵​🔵​🔵​

テリブル・カトラリー
デカイ帆船はともかく、小舟では私の様な重い躯体は沈みそうだな・・・
ならいっそ、沈むか。

あえて湖の中に水没し、『戦争機械・蒼い戦機』発動
湖底を飛翔能力で進み、天文台近くで浮上。
高速移動、ブースターで自身を吹き飛ばし加速。シールドを展開

仮にシールドを抜けてきても、超重金属の装甲と継戦能力で突っ切る。

爆破攻撃をシールドで盾受け。天文台へ到達。
大型汎用機関銃で制圧射撃、アームドフォートで砲撃。
ミサイル爆撃の一斉発射でたたみかけ、閉幕のアリス達へ範囲攻撃。

愛されようが愛そうが、少女だろうとオブリビオン。情け容赦は、ない。



 満天の星空の下、水音が囁くように世界に残っていた。深い藍に似た空は深い闇の宇宙とは違う。星々の煌めきも又、あの地とはまるで違い——一度だけ、空を仰いだテリブル・カトラリー(女人型ウォーマシン・f04808)は、流れ着く船船を見た。
「……座礁している、だったか」
 押し寄せる船船は何処から生まれているのか。
 オウガによって占拠される前は、この地は湖上に船が浮かぶ穏やかな地であったのだろう。今や、数多の船が浮かび、押し寄せる地だ。行き先の天文台こそ、見つけるには容易いが——行くには、少しばかり問題があった。
「デカイ帆船はともかく、小舟では私の様な重い躯体は沈みそうだな……」
 ウォーマシンたる身だ。飛び移っていくこと自体に然程問題は無い。だが、足場の船の方が保てるか、という問題がある。オールのついた小舟や、それよりは少しばかり大きな帆船では、テリブルを支えるには足りない。
(「濡れた程度で破損する身では無いが……」)
 どうせ沈むのであれば、とテリブルは思う。
「ならいっそ、沈むか」
 呟いたそこで、マシンへルムが熱源の接近を告げる。軌道予測は直撃では無いが、いずれ探し出すための狙撃か。
「……」
 ならば、と口にすることさえ無いままに、テリブルは小舟に飛び移り——バキ、と砕ける音を聞く。派手に破損する船に、天文台にいるアリス達が気がついたか。狙撃を警戒するアラートが響き渡り——だが、爆発が生じるより先にテリブルの躯体は湖の中に——沈んだ。
「……」
 湖底へと足をつく。瞬間、蒼い装甲を身に纏ったテリブルは、軽く大地を蹴った。ふわりと浮いた躯体は水中行動さえ容易に行う。身を浮かせ、滑るように一気に飛翔するように湖の中を進めば天文台に辿りつくのはすぐのことだった。
「うふふふ」
「ふふふふ」
「出てきたわ。見つけたは見知らぬ貴方!」
 天文台の近くで浮上し、ブースターで己を一気に加速させる。身を低め、半ば地を滑るように滑走すればオウガ達の姿が見て取れた。
「隠れていた貴方を捕まえないと」
「だってだって、沢山愛してあげるもの!」
 笑い告げるオウガ——閉幕のアリス達の瞳が怪しく煌めいた。ぴょん、と一つ跳ねれば周辺の空気が入れ替わる。熱源の接近が急速に告げられ、鳴り響くアラームを無視してテリブルは大型汎用機関銃を向けた。
「きゃ」
「まぁ。まぁ。遊んでくれたっていいじゃない!」
 文句を言うように告げて、たん、とアリスの一人が地を蹴り——来た。近い、と思う瞬間、展開したシールドにハートボムの一撃が届く。爆発の衝撃は、叩き付けられた打撃に似る。
「さぁ、これでわたしたちと遊んで——……、な……!?」
 笑い告げたアリスがアームドフォートに沈む。砲撃に天文台ごと潰す手もあったが、あれは恐らくそう簡単に壊れない、この世界のモノだ。
「愛されようが愛そうが、少女だろうとオブリビオン」
 ミサイル爆撃の一斉発射で畳みかけ、熱した銃口を視界に静かにテリブルは告げた。
「情け容赦は、ない」

大成功 🔵​🔵​🔵​

高塔・梟示
情緒のある眺めだな
戦いの最中でなければ足を止めたいところだが

無人の船に、火の付いた煙草を投げ焼却
敵の意識を其方へ向ける

身を隠し、まずは出方を観察しよう
望遠鏡の向きを視認出来れば
格段に動き易くなる筈だ

さて、星空を跳ぼうか
船から船へ、遮蔽物を使い身を潜めつつ
敵の視線を縫い、目立たぬよう早業で飛び移る

見つかったら仕方ない
標的を定め難いよう
残像を生みながら駆け抜けるとも

天文台に着いて奇襲可能なら
視認次第ドロップテーブルで吊上げよう

わたしの愛をご所望かい?
…宜しい、ならば差上げよう
この死の腕に抱かれたまえ

爆発されちゃ敵わない
攻撃は残像でいなし
絞縄でマヒしている間に
鎧砕く怪力籠めた、標識の一撃を叩き込む



 深く、吸い込まれるような夜の空に星々が煌めく。月明かりなど無くとも星々の煌めきだけで進めるような、満天の星空がそこにはあった。
「情緒のある眺めだな」
 一度、空を見上げるように視線を流し高塔・梟示(カラカの街へ・f24788)は息をついた。
「戦いの最中でなければ足を止めたいところだが」
 足を止めれば居場所を見つけて、あの妙な爆発物が届く。狙撃と言えば確かにそうなのだが——如何せん、あの爆風と色味が合わなかった。ついでにハートも飛ぶ。
(「爆煙に何か仕込みがあるというよりは、あれが話に聞く「愛」か」)
 この地の天文台にい座すオウガ達は愛を語り、精神に染み込ませてくるという。何かを探すように揺れた爆煙を思うに、標的を探しているのだろう。幸い、足場には困らない。行く先も見えている——何処に居ても妙に見つけられる感覚も、探されている感覚も梟示の好むモノでは無かったが。
「……さて、見てみるか」
 火をつけた煙草を、然程愉しむ暇も無いままに無人の船へと投げ込む。コロコロと転がった煙草が小舟を燃やすまでそう時間は掛からなかった。
 ゴォオオ、と船が火を上げる柱となれば、チカ、と何かが光った。
(「——来るか」)
 次の瞬間、叩き付けられるボムの一撃が、燃える船へと届いた。爆発の衝撃が周囲の船さえ散らしていく。派手に壊れていく音を聞きながら、離れた船上に背を預けていた梟示は静かに息を落とした。
「北か、望遠鏡の向きは」
 最初の空ぶった一撃、それに今の一撃もだが常に一定のルールがあった。攻撃が届けられるものである以上、射線が通る。向かう先と、方向がどうしても生じるのだ。左から右へと、攻撃は来ていたとなれば望遠鏡の向きも理解できる。
「……まあ、足場は少々無くなったが」
 何処から狙われているか分からない状況よりは、格段に動きやすい。
「さて、星空を跳ぼうか」
 ふ、と息を落として梟示は足場を蹴った。爆発の余波を受けた小舟の先にだけ片足を乗せて、近場の船へと飛び上がる。とん、と軽く手で触れ、軽やかに身を持ち上げた男は、船の縁を蹴るようにして、望遠鏡の死角へと入り込んだ。夜風を纏えば、琥珀色の髪が揺れる。
「……」
 星が、近い。
 軽やかな跳躍と共に、夜に身を馴染ませる。帆船の柱に身を隠す。狙撃は今のところ無い。オウガ達は梟示の姿を見失っているのだろう。
 見えなければオウガ達にとっては「いない」に等しい。
「……さて」
 近づいてきた天文台を前に、最後の三隻を飛び移る。はたはたと揺れる衣をそのままに、着地をすれば巨大な天文台が目の前に迫っていた。
「……気がつかれてはいない、か」
 くすくすと笑い合うオウガ達の声だけが、耳に届いていた。隠す気など欠片もないのか、囁き合い、甘く言葉を交わす。
「ふふふふ」
「ふふふふ。さぁ、探しましょう。見つけましょう」
「とびっきり愛してばらばらにしてあげるもの!」
 見目ばかりは少女のそれであった。だが、中身がまるで違う、と梟示は思う。旧き神の一柱たれば、その瞳は核たるものを見抜く。
「影踏むばかり粛々と」
 魂を黄昏に導く燭台の持ち手——死神であるが故に。
「きゃ……!? なた、何時の、間に……!?」
 頸部へ垂れる絞縄はしゅるりと巻き付き、閉幕のアリスをつり上げた。
「わたしの愛をご所望かい? ……宜しい、ならば差上げよう」
 この死の腕に抱かれたまえ。
 囁くように静かに、落とされた言葉にアリスの体が凍り付く。絞縄に動きを封じられたアリスの周囲が熱を帯びていく。
(「爆発されちゃ敵わない」)
 真横から迫る一体を残像で交わし、梟示は標識を力一杯マヒしているアリスへと叩き込んだ。
「——まあ、わたしを、こわすなん、て……!」
 ぐらり、とアリスは崩れ落ちる。残る閉幕のアリス達も多くは無い。——後、少しだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺(本体)の二刀流

戦争でなけりゃでなければ、いい場所なんだろうな。

さて素直に船の残骸を遮蔽物として先に進むか。
さらに存在感を隠し目立たないようにしてさらに発見されづらくする。
遮蔽物が見当たらない、もしくは少ない場所ではUC写月で分身を作り出し、進みたい方向とは別の方向に進ませて攪乱を狙う。

戦闘では基本存在感を消し目立たない様に立ち回る。そして可能な限りマヒ攻撃を乗せた暗殺狙いの攻撃を。
敵の攻撃は第六感で感知、見切りで回避。
回避しきれないものは本体で武器受けで受け流し、カウンターを叩き込む。
それでも喰らってしまうものはオーラ防御、火炎・激痛耐性で耐える。



 夜の風に、銀色の髪が揺れていた。結い上げた銀糸がさらさらと靡き、冷えた夜の空気を吸い込んだ黒鵺・瑞樹(境界渡・f17491)は満天の星空に息を落とす。
「戦争でなけりゃでなければ、いい場所なんだろうな」
 本来、この地は数多の船が座礁するような場所では無かったのだろう。夜空を映す鏡たる湖は船に覆われ、隠されるように姿を失っている。ギィイ、ギィイ、と軋む音は何処からとも無く船が流れ着いている音だろう。身を寄せ合い、時に切り裂くようにして数多の船がこの地には流れ着いていた。
「さて素直に船の残骸を遮蔽物として先に進むか」
 行き先が分かっていて、道もあるのであれば——後は、行くだけだ。
 船の残骸に身を隠しながら、瑞樹はトン、トンと次の船へと渡っていく。沈み駆けた船に片足を預け、たん、と一気に次の船へと飛び移る。素早く、帆船の柱へと身を寄せたのは遮蔽物が少ない場所だったからだ。
(「今まで、見つかっていなかったことを思えば……見えなければ、狙撃も発生しない、か」)
 存在感を欠くし、目立たぬように身を隠し手きた。足音に関しては、途中で関係無いのも分かっている。
「なら、見られてしまえば良いだけか」
 ふ、と息を落とし、瑞樹は意識を集中させる。展開する術式にでは無く、周囲の警戒の為。揺れる髪もそのままに、ただ、一言を告げた。
「そっちはよろしく」
 姿を見せたのはもう一人の自分。分身だ。行くべき道と逆の方角へと向かった分身を目の端に、瑞樹はその身を闇に滑らせる。満天の星空の下、嘗て持ち主であった人がそうしたように、軽やかに駆け、船を渡ると分身の向かわせた方角で爆発が生じた。
「それなりの衝撃があるみたいだな」
 衝撃は二度。狙撃によるものだ。一度は、残骸を遮蔽物に躱したのか。偶然か。恐らく次は精度を上げてくるだろう、と瑞樹は思った。だが、それならば——……。
「意識は、向こうに向いている」
 攪乱が成功している今が、仕掛ける時だ。
 最後の足場を飛び越え、一気に天文台に向かう。螺旋階段に踏み込み、その気配を捉えたときに息を——殺した。
「ふふふふ」
「あはははは。さぁ潰してしまいましょう?」
 甘く甘く蕩けるように笑うオウガ——閉幕のアリスの背に黒鵺を突き立てる。肩に触れ、深く核を砕けば振り返ったアリスが声を引きつらせた。
「なんで、わたしの後ろになんて……!」
「……」
 ぐらり倒れ、消えていくオウガから黒い大振りのナイフを引き抜く。真横から迫るアリスに、瑞樹は身を回した。
「——な……!」
 右に構えた胡からの薙ぎ払い。衝撃に、僅か蹈鞴を踏んだアリスが不服そうに声を上げた。
「もう、困った人ね。見知らぬあなた! それならそれならわたしだって!」
 両手をかかげ、放り投げられたのはハートボムだ。
「いっぱい、遊んで愛して壊してあげなきゃ!」
「——」
 瞬間、爆発の衝撃が叩き付けられた。身を、横に飛ばす。殺しきれなかった衝撃は、己の本体たる黒鵺で受け止めた。
「なん……!」
「見えたから、だな」
 何故を紡ぐアリスへと、カウンターを叩き込む。回避の足から踏み込み、二刀を舞うように振り下ろせば閉幕のアリス達が崩れ落ち消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィクトル・サリヴァン
高い所とってもダメだって教えてあげなきゃね。

湖を泳げるかを確認。
可能なら湖にダイブし舟の下に隠れ泳ぎながら天文台を目指す。
シャチの色って上下から見えにくいカラーリングなんだって。
呼吸は船の影で一息ついてすぐに潜水。
泳げないなら船の上を渡ってくよ。
大きな船を選びながら天文台から隠れるよう柱や大きな箱等を活用。
攻撃で足場崩されたら湖に落ちるふりしてUC起動、空シャチ召喚して水面ギリギリを飛ばして彼らを足場、或いは乗騎代わりにして移動。

天文台に辿り着いたら中を上り屋上へ、そして空シャチを全て合体させ一体にし突撃!
投擲ボムは俺が水魔法で水弾作り先にぶち当て爆破位置をずらして対応。

※アドリブ絡み等お任せ



 深い夜の闇に息を落とす。水の匂いが、微かに残っていた。これ程の船があり、浮かんでいるのが分かるというのに水の匂いが遠い。ヴィクトル・サリヴァン(星見の術士・f06661)の顔を撫でていくのは、濡れた木の匂いと爆発の名残だった。オウガの遠距離攻撃が齎したのだろう。
「それにしても湖だっけ。大型船はいないみたいだけど、座礁している船の雰囲気を見る限り……」
 よっと、と飛び乗った先でヴィクトルは、船の間から湖面に指を滑らせた。
「うん、泳げそうだね。飛び込むときに気をつけないと危ないけれど……」
 主に船にぎゅっとされそうな感じがするが、タイミングを見て飛び込めば——行ける。
「向かうべき道はできるしね」
 チカ、と目の端で何かが光った。急速に近づいてくる力の気配に、座礁している船達が揺れる。見えた隙間に、迷い無くヴィクトルは飛び込んだ。舟の下を潜るように泳いでいけば、最初の爆発以外大きな揺れは生じない。
(「うん、見失っているみたいだね?」)
 シャチの色は、上下から見えにくいカラーリングだという。
 舟の下に隠れながら泳いでいけば、オウガ達の望遠鏡には完全に見つからないようだ。
「——よいしょ、と」
 舟の影を使って、呼吸に顔を出す。一息ついて、またすぐにヴィクトルは湖の中へと潜った。湖底は昏く——だが、水は澄んでいた。オウガがいなければ舟も、こんなに押し寄せてはいないのだろう。
(「きっと、湖面に映る星も綺麗だったんだろうけれど」)
 水中を蹴って、舟の影を探すようにヴィクトルは身を回す。湖面を仰ぐには舟の影。満点の星空は遠く——ただふと、夜の海を思う。
「……」
 伏せる瞳は一度だけに、ヴィクトルは強く水を蹴った。少しばかり大きな舟の周囲を辿るように泳ぎ、湖面に顔を出す。
「やっぱり、近かったね」
 僅かな湖面に、影が映っていたのだ。長く伸びるそれは、この地で最も背の高い建物の影。オウガの待つ天文台。望遠鏡では、流石に足元までは探せまい。一気に、螺旋階段を駆け上がれば星見のように、望遠鏡を構えていたオウガ達が笑みを浮かべていた。
「ふふふふ」
「あはははは。いらっしゃい、見知らぬ貴方」
「いらっしゃい見知らぬ誰か!」
 閉幕のアリスたちは少女の姿で笑みを浮かべ——だが、その瞳は決して笑わず。殺意を持ってヴィクトルに告げた。
「さあ遊びましょう。かくれんぼうさん! 壊れるまで愛してあげるから!」
「それは困るかな」
 たん、と床を蹴って、放り投げられた白ウサギのぬいぐるみが光を帯びる。あれは強化か。だが——。
「阻ませてもらおうかな」
 三又銛で床を叩く。瞬間、虚空より飛び出たのは空のシャチ。空中を泳ぎ、舞う空泳ぎたちの姿。
「海ばかりと思ってたら痛い目見るよ」
 空を行く群れは、軽やかに空に跳ねて、一体の空シャチへと合体して——行く。その衝撃に、強化を紡ごうとしていたアリスが弾き飛ばされる。蹈鞴を踏み、だが、跳ねるように顔を上げたアリスが困った子、と低く告げる。
「えぇ、困った子!」
「困った子は、私達が捕まえなきゃ! せーの!」
 かけ声と共に、アリスが放ったのはハートボムだ。流石に数が多い。
「こういうときは先にぶつけた方が——早いよね」
 水弾を紡ぎ、ハートボムを弾く。接触地点で大爆発するボム達がヴィクトルに届くより先に、空で炸裂した。
「うん、成功かな?」
 ちょっと暑い感覚はあるが、それだけだ。傷も無く、空シャチも元気に泳いでいるのであれば。
「止めさせてもらうよ、キミ達を」
 満点の星空を眺める地で、駆ける空シャチがアリス達を倒していく。——終わりまで、あと、少しだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

乱獅子・梓
【綾(f02235)と】
覗くだけで目の前に居るかのように
上方から一方的に攻撃出来るなんて
どんなチートアイテムだ
さすが不思議の国といったところか

向こうから俺達が認識出来なくなればいいわけだよな
ならば、UC使用し、辺り一帯を闇夜に変える
月の光も星の光も届かない暗黒だ
これで目視で俺達に狙いを定めるのが困難になるだろう

焔の背に乗って一気に天文台まで行きたい所だが
流石に闇夜いえども敵に見つかりかねない
ここからは綾のクロークに一緒に入れてもらい移動…
あー、やかましい!さっさと行くぞ!

到着したら焔を成竜に変身させ
炎属性のブレス攻撃で蹴散らす
ボムがこちらに着弾する前に
高熱のブレスで爆破させてやる


灰神楽・綾
【梓(f25851)と】
こういうの何て言うんだっけ?タワーディフェンス?
しかもこっちが侵入者側か

梓に闇夜に変えてもらったあと
UCで雷属性のオーラ纏うナイフを生成
それを出来る限り遠くへ投擲
更に念動力でクルクルと動かし
敵にナイフの存在をアピール
目視しづらいこの状況では
ピカッと光るナイフに自然と意識が向くだろう

その隙に、黒揚羽で梓と一緒に身体を覆い
闇に紛れながら目立たないように移動
って流石に男二人じゃ狭いなぁ
梓、身体大きすぎ

到着したら、ナイフ構え
君達の言う愛は「殺し愛」ってところかな?
いいね、望むところだよ
射撃動作が見えた瞬間ボム目掛けてナイフ放つ
暴発で怯んだ隙に畳み掛けるように急所目掛けて攻撃



 深い藍色の空に、星の煌めきがあった。満天の星空は、月明かりなど無くても世界を照らすようだ。軽く差し出した手に、煌めきが映り込んだ気がしたのは——サングラスに映った所為か。ふ、と息を落とすと灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)は座礁する舟達を見た。
「足場の確保は完了、ってとこかな? 押し寄せても壊れる事は無いみたいだね」
 それでも——熱だけは、残っている。
 外気としての暑さでは無い。爆発が発生した時の変化だ。火薬の匂いを微かに残し、どろりと甘い魔力の気配が吹く風と共に消えていく。
「……」
 糸目の瞳は緩むこともないままに、気配を追って笑う。人畜無害の似合う笑みは、だが、忌々しそうに息を吐く男の声に、小さな瞬きを生んだ。
「梓?」
「覗くだけで目の前に居るかのように上方から一方的に攻撃出来るなんて、どんなチートアイテムだ」
 オウガは天文台の屋上にいて、そこから望遠鏡を覗き込む猟兵達を探しているのだ、という。その結果は、そこら辺にある爆発の名残だろう。炎は消えても、焼けた木々と熱を帯びた湖の気配は変わらない。ひとまず、船長室へと続く扉の陰に身を置いて、乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)は、つい、とサングラスを上げた。
「さすが不思議の国といったところか」
 揺れる銀色の髪をそのままに、梓は天文台へと目をやった。この世界で最も高い建物は、その居場所を堂々と知らせながら悠然と建っていた。
「こういうの何て言うんだっけ? タワーディフェンス?」
 しかもこっちが侵入者側か、と綾は口元に笑みを敷く。行くべき先は分かっていて、さぁどうぞ、と言わんばかりに道があって。だが、歩き出せば——否、立ち止まっていたところで、攻撃が来る。チカ、と目の端、何かが光った。
「——来たか」
「そうだね」
 ゆるり笑みを敷いた——相変わらずの笑みの向こう、右とだけ声を落とした綾に息をつく。立ち止まって話ばかりもしてはいられない。手近な舟へと飛び移る。後方、ガウン、と派手な爆発が生じた。
「派手なこって。——だが、見て狙っているというなら」
 新しい舟へと飛び移り、座礁する斜めの足場で、パチン、と梓は指を鳴らした。
「向こうから俺達が認識出来なくなればいいわけだよな」
 ひらり、ひらり、紅い蝶が舞う。暗闇で行く路を照らすように、導くように。
「美しいだろう? 闇に輝くこの紅は」
 笑うように梓が告げた次の瞬間、この地は紅い蝶が舞う闇夜へと変貌を遂げた。
「月の光も星の光も届かない暗黒だ。これで目視で俺達に狙いを定めるのが困難になるだろう」
「——じゃぁ、これはオマケで」
 手にしたナイフに、雷光をのせる。バチ、と一瞬見せた白い光と共に、虚空へと綾はナイフを放った。くるくる、と念動力で動かしていれば、予想通りに狙撃が来た。
「落ちたか?」
「まだ大丈夫。気を引けてはいるみたいだね」
 何せ見えにくいこの状況では、ピカッと光るナイフに自然と意識が行くだろう。——だが、それを「見て」いる以上、いずれナイフでしか無い事には気がつく。
 だからこそこれは、時間稼ぎだ。
 ひらり、と綾は黒揚羽で梓と自分を覆う。群れる黒のアゲハチョウの姿をしたクロークは、ふわりと柔らかに闇夜に躍り、肩を付ける二人を隠す。——隠してはいるの、だが。
「流石に男二人じゃ狭いなぁ」
 身長で言えば、梓の方が上で。ひらひらと、闇に慣れた瞳で長身を見た。
「梓、身体大きすぎ」
「あー、やかましい! さっさと行くぞ!」
 後方、追いかけるように爆発が生じる。クロークで身を包まねば——危なかっただろう。次、と声をかけることなく、慣れた様子で二人舟の上を渡っていく、慎重に進んでいけば無事に天文台の姿が見えた。
「ふふふふふ」
「あはははは。いらっしゃい、見知らぬあなた」
「いらっしゃい、見知らぬ誰か! わたしたちの世界を真っ黒にしてしまったひと!」
 それは少女の姿をしたオウガ。頬を膨らませ、可愛らしい姿を取りながら殺意を隠すことの無いこの天文台の支配者——閉幕のアリス達がそこには居た。
「梓、人気だね」
「いるか、その人気」
 だいたい、相手はあれだぞ、と梓は告げる。くすくすと笑い合う少女たちの姿の奥——どす黒い何かは、獲物として梓と綾を見ていた。
「さぁ遊びましょう」
「さぁ、愛してあげるから。壊れちゃうまで!」
 ぴょん、と跳ねたアリスがぬいぐるみを放り投げる。次の瞬間、ハート型のボムが空に舞った。
「君達の言う愛は「殺し愛」ってところかな? いいね、望むところだよ」
 灰神楽・綾は血腥い「殺し合い」を愛し求めている。故に、その情へと応えるように舞い落ちるボムが届くより先にナイフを放った。
 ——ガウン、と派手な爆発と、ピンクのエフェクトが飛んだ。きゃ、とアリス達が声を上げる。爆風に舞い上がった黒髪をそのままに、身を低めて——行く。アリスの間合いへと。深く沈み込んでナイフを沈めた。
「そんな……まだ、だって、まだ愉しんでないのに!」
「そうだね。まだ」
 崩れ落ちていく一体を見送り、綾は笑みを敷く。薄く唇を開き、吐息を零すように笑った男の視界で、綾の焔が成竜へと変身する。キュー、と鳴く可愛らしい仔竜は、炎竜の名にふさわしきブレスを放った。
 ゴォオオオ、と熱が熱を放つ。叩き付けられたボムさえ爆破させ、吹き飛ばせばそのまま、炎熱のブレスがアリス達を散らした。
「キュー」
 いつもの姿に戻った焔がご機嫌に鳴いてみせるのはそれから少ししてからのことだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

筧・清史郎
伊織(f03578)と

美しい星空広がる国か
鏡写しの湖面もこれでは台無しだな
ああ、空にも湖にも星が輝けるよう、過激な輩達はお引き取り願おうか

まずは姿捉えられぬよう、船等の物陰に身を隠しつつ移動
移動は行く先予め定め、気取られぬよう素早く
物陰に潜めば、離れた場所へと桜吹雪成し陽動に

天文台へと着けば一気に攻めに転じ
伊織と連携、UCの桜花弁の刃を見舞ってやろう
俺は長年箱で在った故に、愛というものはまだよく分からないが
このような過激な愛は遠慮させて貰おう
敵の爆弾は花霞に紛れる様に残像駆使し見切り躱し、
躱せぬものはバサリと刀で叩き斬る

ふふ、モテる男は辛いというやつか?伊織
伊織と同時に仕掛け、桜吹雪で幕引きを


呉羽・伊織
清史郎f00502と

折角の星も湖も、不穏な戦禍や愛が渦巻く中じゃ楽しめないな
いつかこの地が和ぐように、頑張ろーか

景色に馴染む色の衣纏い闇に紛れる
更に他方の影からUCの鴉達飛ばし陽動
隙見て早業で帆等の影や地形利用し進行

清史郎と足並揃え疾く攻勢へ
※UCと呪詛纏う風切放ち先制阻害
真当な愛なら兎も角、色んな意味で大火傷は勘弁だ!
清史郎が妙な形で愛を覚えても困るしな(笑って)

フェイントや残像で撹乱&見切ってあしらい
連携して※重ね牽制
ボムは早業で手元狙い武器落とし、敵の元で爆破を

浮気したら後で雛と亀がコワイし…
ハハハ相手が悉く動物や敵とかホント辛いネ!(遠い目)
世と心の平穏の為にも、同時に踏み込み閉幕を!



 心地よい夜の風が頬を撫でていた。空を見上げずともこの世界が星と共にあるのが良く分かる。無数の煌めき。満天の星空を人は宝箱と言うのであったか。手を伸ばせば、指先は星に届くだろうか。ほう、と筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)は、息をついた。
「美しい星空広がる国か。鏡写しの湖面もこれでは台無しだな」
 視線をひとつ、落とせば水の気配を齎すそこが舟で溢れていた。大型船こそ無いが、数多の舟が身を寄せ合い、流れ着き——そして座礁している。ギィギィ、と軋む音だけを響かせる世界に呉羽・伊織(翳・f03578)は視線を上げた。
「折角の星も湖も、不穏な戦禍や愛が渦巻く中じゃ楽しめないな」
 オウガがあの天文台を支配する前は、この世界は湖の舟を浮かべ星々を眺める地であったのかもしれない。今や僅かに見るだけの湖面は、星々を映すこと無く座礁する舟の影だけがある。
「いつかこの地が和ぐように、頑張ろーか」
 艶やかな黒髪を抑え、傍らを見る。穏やかに清史郎は頷いた。
「ああ、空にも湖にも星が輝けるよう、過激な輩達はお引き取り願おうか」
 トン、と舟を渡る。身を寄せ合っているとはいえ、舟は舟。小舟ひとつに二人が飛び乗れば流石に危なく、次の舟への移動に使う。半ば沈んだ小舟は、帆船の影に隠れているようだった。
「このあたりまでは良さそうだな。問題はこの先、か」
 視線ひとつ、奥へと向けた清史郎に伊織は頷いた。
「だな。帆船だし、柱とあの扉のあたりに隠れられはするが……ま、何時までも隠れっぱなしじゃ前に進めないしなぁ」
 闇に深く馴染む衣を纏い、伊織は息を落とす。今の所、オウガ達には見つかっていない。望遠鏡で「見る」という性質を思えば、見つからないことで攻撃は回避できるが——それも、いつまで維持できるかという問題はある。
(「見つかった瞬間、あのピンク色の爆発だからなー……」)
 一撃、外れた場所で一回だけ攻撃が起きた。移動した小舟が揺れたからだろう。焼け焦げた匂いは、この地を制するオウガらしいものではあったが、飛び交うハートのエフェクトは正直、うん、あれだ。オコトワリシタイ。
「陽動も使っておくか」
 コン、と踵で床を叩く。音に関して反応が無いのは分かっている。だからこれは、呼んだだけだ。
「行ってこい」
 影より生じるは鴉たち。羽ばたきさえ闇に溶かすように一斉に飛び立った鴉たちが、伊織たちのいる足場から遠ざかる。
 ——瞬間、ゴォオオ、と轟音と共に衝撃が届いた。ガウン、と降り注ぐのはハートボムだろう。そしてあのピンクが——……。
「派手な爆発だな。あれが愛か」
「いやどっちかって言えば、やばいやつの方のアレみたいな——……」
 うん、と伊織は思う。やはりあの爆発は貰いたくは無い。一度目の攻撃を躱した鴉たちが、虚空を舞う間に次の舟へと移動する。船長室の前を一気に駆け抜け、舟の端へと足をかけた。
「行くぜ」
「——あぁ、共に行こう」
 身を、空に飛ばす。帆船よりは僅か、小さな舟へと着地して、そのまま物陰に潜む。荷箱に背を寄せ、だが、すぐに飛び出して次に移る。
「次は俺の番だな」
 遠く、爆発の名残を感じながら清史郎はそう言った。穴だらけの荷箱たちでは、次期にオウガに捉えられるだろう。天文台へと向かっている分、後ろから見つけられることは無いが——相手は、向かってきているのは分かっているはずだ。
(「捉えきれていない所まで、理解しているかどうかは分からないが」)
 事実、陽動は効いている。
 帆の影に背を預け、衣を引いた伊織が頷く。ひらり、と清史郎は扇で空を招いた。はらり、ひらりと舞うのは桜吹雪。離れた舟上に花が躍れば——チカ、と何かが迫る気配がする。
「あぁ、今のうちだな」
 行こう、と次の誘いは清史郎から。笑みを見せて頷いた伊織と共に舟を飛び降りる。小舟を足場に、次の舟へと飛び移れば天文台の姿が見えてきていた。
「ふふふふ」
「あはははは。いらっしゃい。いらっしゃい。ようやく見つけたわ」
「見つけたわ。かくれんぼうな二人!」
 それは、可愛らしい少女の声で笑っていた。くすくすと、肩を寄せ合って笑い合う少女たちの姿は愛らしく——だが、その奥に潜むもの達は二人を殺意を持って迎え入れていた。
「いらっしゃい、見知らぬあなた」
「いらっしゃい、見知らぬ誰か。隠れてばっかりで困っていたのよ」
「偽物ばかりで困ってたの!」
 唇を尖らせ、拗ねるように告げる閉幕のアリス達は笑わぬ瞳で清史郎と伊織を見据えた。
「だからいっぱい、愛してあげるの」
「とろけるまでに愛してあげるわ。壊れるまで!」
 ぎゅっと白ウサギのぬいぐるみを抱きしめて、アリス達がぴょん、と可愛らしく跳ねた。次の瞬間、雨の如く空に出現したのはピンク色の光——ハートボムだ。
「圧があるって」
 は、と息を吐き、伊織は黒刀を抜く。はは、とゆったりとした調子の侭、清史郎も笑った。
「そうだな。だが——阻ませて貰おう。舞い吹雪け、乱れ桜」
 清史郎の武器が、乱れ舞い散る桜に変わる。躍る花弁の刃が走れば、伊織の影より彼らは舞い戻った。
「――疎まれようとも、忌まれようとも」
 無数の羽ばたきに手を伸ばす。誘い告げるように伊織はアリス達を見据える。瞬間、迷い無く伊織は暗器を放った。行き先は——ハートボムだ。
 ガウン、と衝撃と共に派手な爆発が頭上に生じきる。爆風が衣を揺らし、靡く髪をそのままに二人は地を蹴る。
「まぁ、まぁ困ったひと! 折角愛してあげるっていったのに!」
「俺は長年箱で在った故に、愛というものはまだよく分からないが」
 躍る桜の花弁に紛れるように鋒を下げ、清史郎は静かに告げた。
「このような過激な愛は遠慮させて貰おう」
 身を、逸らす。足を引く、剣舞が如く爆発を躱す。ピンク色の爆風さえ桜花弁の刃が切り裂けば、晴れた煙の中を行ったのは——伊織だった。
「真当な愛なら兎も角、色んな意味で大火傷は勘弁だ!」
 ザン、と振り下ろす一撃がアリスを散らした。
「清史郎が妙な形で愛を覚えても困るしな」
 そう言って笑って、妙な色の爆煙を伊織は払う。
「浮気したら後で雛と亀がコワイし……。ハハハ相手が悉く動物や敵とかホント辛いネ!」
「ふふ、モテる男は辛いというやつか? 伊織」
 そう真にモテる男とは種族という壁を飛び越えていくのだだ。多分。——いや?
 遠い目ひとつ、息を吐き、伊織は声を上げた。
「世と心の平穏の為にも、閉幕を!」
「あぁ。これにて幕引きを」
 桜吹雪に刃が舞い、アリス達が地に伏せる。星々の煌めきが見つめる世界の戦いが、終わりに向けて加速していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳴宮・匡
狙撃の心得もある、普段から“観測する”ほうだ
その経験と戦闘知識を踏まえ
相手がこちらを発見するためにどう索敵を行うかを推定
うまく掻い潜るようにルートを取るよ

追跡を振り切れるような法外な速度は出ないからな
船の残骸を隠れ蓑に、影に隠れるように慎重に進む
攻撃の気配は耳で聴き、肌で感じ取って予測
めくらめっぽうに撃たれるのも困るけど
地形が変化するなら逆に相手の目を晦ませやすいかもしれない

――生憎、俺の心を決められるのは俺だけだ
むやみやたらに振り撒かれる、薄っぺらい“愛”なんてものに
惑わされたりするつもりはない

足場を狙って一射、体勢を崩したところで頭を射抜く
足踏みしていられないんだ、さっさと道を開けて貰う



 深い夜に星の煌めきだけがあった。満天の星空に深く、息を吸う。体に夜の空気を見たし、吐息を変える。二度、三度とそうして、鳴宮・匡(凪の海・f01612)は押し寄せる舟の残骸へと背を預けた。
「北に一度、次に南……」
 風は、と指で確認をして藍色の瞳を細めた。望遠鏡を使って行われるオウガの攻撃には、風向きは関係ないらしい。
(「形式としては狙撃だが、状況としては攻撃が召喚されるに近いか……」)
 重なり合うようにして足場となっている船に飛び移り、息を殺す。音に関しては問題は無いようだが——こっちは戦場を過ごした匡の習いだ。数多の戦場を渡り歩いた身だ。狙撃の心得もある。普段から“観測する”ほうだ。
「狙撃のポイントはあの天文台。風による影響、距離による影響も無いと考えて良いだろうな」
 ただ、オウガ達は『見つければ』良いのだ。
 索敵に術式が展開されている気配も無ければ、罠も無い。ならば本当に『見つけている』だけだ。
「なら、やっぱり船の影を行くべきだろうな……。できれば、揺らしたくも無いが上手く掻い潜るようにルートを取るか」
 息を一つ落とし、匡は残骸の外に出る。影に隠れるように慎重に進み、帆船の端につく。迷うことなく、そのまま身を外へと飛び出した。帆船から小舟へ。移動は跳躍より落下に似た。
(「——けど」)
 チカ、と目の端で何かが光る。次の瞬間、匡の隠れていた荷箱が爆発で吹き飛べば、轟音が響き渡った。
「やっぱり、上下の移動は捉えられにくいな」
 船縁に着地して、そのまま次の船へと飛び移る。巨大な湖の上、無数の船が座礁しているのがこの世界だ。足場には困らず、行き先は、どんと此処だと構える天文台。
(「この国で一番高い建物、か」)
 三艘、一気に移動して、次の足場が小ぶりの帆船となる。着地と同時に、身を滑らせ、ざぁああ、と折れた柱の下を滑り抜け、匡は息をついた。
「流石に、攻撃の頻度が上がってきたか」
 音が、するのだ。攻撃が「来る」以上、僅かに空気も変化する。頬を撫でる気配に変化を感じ——さて、と天文台までのルートを考える。
(「めくらめっぽうに撃たれるのも困るけど、地形が変化するなら逆に相手の目を晦ませやすいかもしれない」)
 なら、と匡は飛び出す。衝撃の瞬間の一拍前、背で生じた爆風を利用し、崩れゆく船の残骸を壁にして一気に天文台への道を行った。
「ふふふふ」
「あははは。いらっしゃい、いらっしゃい! 見知らぬあなた!」
 そこには可愛らしい少女の姿があった。金色の髪を揺らし、こちらを見据える瞳には笑みが遠い。幼い少女の見目は、己をか弱く見せる為のただの偽装か。
「さぁ、遊びましょう」
「私達がたくさん愛して、壊してあげるから……!」
 閉幕のアリス達はそう言うと、ぴょん、とひとつ跳ねて見せた。白ウサギのぬいぐるみがふわりと空を待って——覚えのある空気が頬を撫でた。
(「——爆発」)
 来る気か。踏み込みの気配に息を吐く、黒塗りの銃に手をかける。
「――生憎、俺の心を決められるのは俺だけだ。むやみやたらに振り撒かれる、薄っぺらい“愛”なんてものに、惑わされたりするつもりはない」
 告げる一言と共に撃鉄を引いた。踏み込んだアリスの足場を狙えば、きゃ、という声と共に少女が体制を崩す。
「まあ、困ったことして——……!」
 だが、オウガは跳ねるように顔を上げる。少女の見目には不釣り合いな動きと共にボムを構える。だが——先を取ったのは匡だ。
「終わりだ」
 ――死神の眼は狙いを違えず。その振るう死の咢は、狙ったものを逃しはしない。
 頭を射抜く。ガウンと、衝撃と共にアリスが傾ぎ、骸の海へと消えゆく。
「足踏みしていられないんだ、さっさと道を開けて貰う」
 叩き付けられる殺意の中、ただ一つも動じずに匡はオウガを撃ち抜いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

英比良・與儀
ヒメ(f17071)と

あの天文台までいかなきゃなんねェわけか…
どうすっかな…できるだけ早く行くのが良さそうだな
小さいって…まァそうなんだけどよォ…お前は図体でかいもんな、上手にやれよ
お前には守りを任せるが、俺の攻撃が届く距離になってからな
大事なとこでは守ってくれよ
俺の守護者

座礁した船、その影を縫って素早く
ヒメ、大声だしたりうっかりこけたりするなよ
上手に隠れて進もうぜ
いやそのどやが声でけェよ。けど今のうちに進むぞ
よくやった

愛だってよ
でも俺のとは違うやつだな、これ
ヒメはわかんねェって? まァ、アレはわかんなくていいぜ
ああ、虫唾が奔る。それを簡単に振りまくなと
叩きつけられる愛とやらを、竜巻生み出して


姫城・京杜
與儀(f16671)と

何かかくれんぼみたいだな!
あ、勿論真剣だぞ
こんな時、與儀ちっちゃいのいいよな
物陰に隠れつつ、早いとこ天文台に乗り込むのがいいな(こくり
ああ、任せとけ!俺は與儀の守護者だからな!(超嬉し気

そんなヘマやんねェよっ(頑張って小声
てか、こういうのもアリじゃね?
できるだけ離れたとこに神の炎いっぱい灯す!
敵が気ィ取られてる間に進もうぜ
俺って器用で有能な守護者だろ、與儀!(どや

俺には愛って無縁で…正直よく分からねェけど
でも與儀のと違うのは分かるし
だから…何か、ムカつく
俺に叩きつけてくるのはそこそこでいい
でも與儀貫かんとするボムは、全部俺の炎で防いで燃やしてやる
與儀の竜巻に炎乗せながら



 深い夜の闇の向こう、星が煌めいていた。満天の星空は月明かりさえ無くとも大地を照らすようだった。ほう、と零す息が一瞬白く染まり——消える。見れば、星空を一度眺め、見据えた姫城・京杜(紅い焔神・f17071)は身を寄せ合った船を見据えていた。
 数多の船は、座礁してある。
 小舟に帆船、少しばかり大きな船は旅に出るのにでも向いているのだろうか。木製の船は身を寄せ合うようにして湖を埋め尽くし、ぶつかり合っては座礁する。沈みきらないのはこの世界が故か。
「沈まないのは便利だな、與儀」
「ん? ——あぁ、そうだな。足場が確保されてる分の楽さはあるが。あの天文台までいかなきゃなんねェわけか……」
 英比良・與儀(ラディカロジカ・f16671)はそう言って眉を寄せた。
「どうすっかな……できるだけ早く行くのが良さそうだな」
 オウガは望遠鏡で「見つけて」来るという。攻撃手段が爆発物である以上、間違ってもくらいたいものでもない。だが、速度を出せばその分、見つかるリスクも上がる。
(「船は座礁してるが、沈みきっちゃいない。あの足場は揺れる」)
 そしてそれをオウガは見ている筈だ。
 チカ、と目の端、遙か前方で爆発が起きる。派手な爆煙と一緒に飛び散ったハートのエフェクトに、そっと息をついた。
「くらいたくはねぇな」
「與儀は俺が守るぞ」
 何を不思議なことを、と言いたげな瞳がやがて、柔らかな笑みを見せる。一拍、見失った言葉はあったか、将又二度目の爆撃を聞いたからか。派手に壊された船の向こうから、新たな船が流れ着くのを見ながら京杜は顔を上げた。
「何かかくれんぼみたいだな! あ、勿論真剣だぞ。こんな時、與儀ちっちゃいのいいよな」
「小さいって……まァそうなんだけどよォ……」
 息をつき、與儀は視線を上げた。
「お前は図体でかいもんな、上手にやれよ」
「物陰に隠れつつ、早いとこ天文台に乗り込むのがいいな」
 こくり、と頷いた京杜が先を見据える。一つ、二つと立てた道筋は二人で行く為の道だ。小型船と小舟の間を渡り、先に爆破のあった場所を通る。残骸が降り積もった先に来た船が良い影になるだろう。
「お前には守りを任せるが、俺の攻撃が届く距離になってからな」
 静かにそう告げて、與儀は美しい笑みを浮かべた。
「大事なとこでは守ってくれよ。俺の守護者」
「ああ、任せとけ! 俺は與儀の守護者だからな!」
 嬉しそうに頷いて、京杜は笑った。
 ——トン、と飛び乗った先、小舟が揺れる。派手に水をあげるより先に、一気に船縁を蹴り上げる。軽やかに帆船へと飛び乗れば、だらり、と斜めに垂れた帆が長い影を残していた。
「ヒメ、大声だしたりうっかりこけたりするなよ。上手に隠れて進もうぜ」
 影を縫うように素早く進む。帆の影から、船長室の扉へと渡る。少しばかり狭いが、あのまま端まで突っ切るよりは良い。幸い、扉は座礁の影響で開いたまま、荷箱の飛び込んだ船室が良い留め具になってくれているようだった。
「そんなヘマやんねェよっ」
 頑張って小声でそう言う。チカ、と何度目のかの爆発が後方で起きた。追いかけてきているのか。妙に派手な煙を見ながら、京杜は一点を見据えた。
「てか、こういうのもアリじゃね?」
 小さく掌を返す。次の瞬間、京杜が見据えた先——船より随分と離れた場所で神の炎が灯された。次の瞬間、灯る炎に誘われてオウガからの一撃が生じた。
 ゴォオオ、と轟音と共に船が砕け、周囲を警戒するようにピンクの煙が舞う。オウガの視線はあの場を『捉えた』のだ。
「俺って器用で有能な守護者だろ、與儀!」
 どや、っと振り返った京杜に與儀は息をつく。
「いやそのどやが声でけェよ。けど今のうちに進むぞ」
 息をつく姿には一瞬しょんもりとして、だが、おう、と応えた守護者が先を行く。トン、と船縁を蹴った背に声を投げた。
「ヒメ」
「ん? 與儀、今ならすぐに渡って——……」
「よくやった」
 静かにひとつ、告げる言葉は主からの労いであり、信頼の証であった。
「——與儀!」
「いやでけェって言ってんだろうが。行くぞ」
 ぱぁと目を輝かせた京杜に息をつき、船を渡る。天文台はもうすぐそこであった。
「ふふふ」
「あはははは。隠れん坊な二人ね! いらっしゃい見知らぬ貴方!」
「いらっしゃい、見知らぬ誰か!」
 螺旋階段を上がった先、二人を待っていたのは可愛らしい少女の見目をしたオウガ達であった。くすくすと笑い合う声は甘く、だが瞳の奥はまるで笑ってはいない。
「さあ、遊びましょう」
「愛してあげるわ。とびっきりに壊れるまで!」
 た、と軽やかな跳躍と共に閉幕のアリスは兎のぬいぐるみを掲げた。ふわふわの白ウサギの周り、ピンク色のハートがふわりふわりと踊り出す。
「愛だってよ。でも俺のとは違うやつだな、これ」
 ふ、と與儀は息を吐く。僅か細められた瞳が冷えた花浅葱を見せる。
「俺には愛って無縁で……正直よく分からねェけど。でも與儀のと違うのは分かるし」
 考えるように眉を寄せ、やがて呟き落とすように京杜は言った。
「だから……何か、ムカつく」
「ヒメはわかんねェって? まァ、アレはわかんなくていいぜ」
 まぁなんで? とアリス達が笑う。無邪気なアリスの姿を借りたオウガ達が鈴を転がすように笑い告げる。
「愛してあげるのに」
「わたしたちがとびっきりに愛して玩具にしてあげるのに!」
 くすくすと笑い合い、踊るピンクのハートがやがてボムとしての形を得た。
「きっとすぐ何もいらなくなるわ!」
 ひゅん、と放たれたハートボムに與儀は言い切った。
「ああ、虫唾が奔る。それを簡単に振りまくな」
 叩き付けられる愛とやらを、唸る風へと変じさせる。瞬間、強風が天文台を包んだ。
「まあ、困ったこと! それならもっといっぱい上げちゃうんだから!」
「だからだから!」
 告げる声と共にハートボムが舞った。だが、衝撃は——生まれない。
「燃やしてやる」
 炎に阻まれたのだ。京杜の紡いだ炎がボムを防ぎ、燃やす。爆発など生まれぬほどに、與儀の竜巻にのせて燃やし尽くしせば——ゴォオ、と唸り駆け上がる炎が閉幕のアリス達を散らしていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

馬酔木・凶十瑯
とってもロマンティックなところねーいいヒトと一緒に来たかったわ。
満天の星空に、帆船。二人で新天地にこぎ出す感じ……。

はあ、でも待ってるのはオウガよねぇ、つまらないわ。
小船を借りて……
泳ぐわ。

泳ぐの得意なのよ、蛇だもの。
船の底に隠れて天文台に近づくわ。
途中で破壊されたら、よい板が残ればそれを。
別の船が掴めるなら別の船に乗り換え……乗ってないけど。
悪戯好きの血が騒ぐわねぇ。

巧く近づけたなら、猜疑の塊――あたしの可愛い蛇ちゃん達をぶつけるわ。

可愛い子ね、でも可愛い子こそ信用ならない。
ええ、乙女の勘よ。
蛇のように陰湿に追いかけて、拘束しちゃうわ。
愛で貫かれるって素敵だけど、いい男がいいわね?



 見渡す限り満天の星空が何処までも広がっていた。空を見上げ、伸ばした指先は星に触れられただろうか。ほっそりとした指先をそろり、と伸ばすだけでもその煌めきを添えたか。
「とってもロマンティックなところねーいいヒトと一緒に来たかったわ」
 薬指を夜風に晒し、馬酔木・凶十瑯(火迦夜・f28495)は艶やかな黒髪を揺す。
「満天の星空に、帆船。二人で新天地にこぎ出す感じ……」
 あなたとふたり、あたしだけの。あたしたちだけの時間が——……手を取り合って、きょーちゃん、なんて可愛らしく読んでくれるひとの姿が、チカ、と光る何かに吹き飛ばされた。
「……」
 オウガだ。
 ノンブレスで展開された妄そ——、想像は爆風と共に吹き飛ぶ。望遠鏡で覗いた先、見つけた姿をオウガは攻撃してくるという。それが、アレだ。ピンク色の爆風に飛び交うハート。
「まさに愛ね。でも、愛は与えるモノよ」
 ふ、と視線を流す。柳腰にポーズを決め、軽く伏せた瞳で凶十瑯は告げた。
「あたしのいいヒトを吹き飛ばして、小舟をこんなにするなんて。折角の新天地……」
 ——船は座礁してある。座礁しているのだ。最初っからみっちみちでロマンスを吹き飛ばしているのだが——その程度で、凶十瑯のロマンスは止まらない。そんな柔なロマンスでは無く、同時に、この世界の嘗ての姿を青の瞳は捉えていたとも言えた。
 湖は星々を映し、小舟でそれを眺める。星を占うためか、ただそうして過ごすためか。美しい世界は、だが、オウガによって座礁する世界へと変わった。
「はあ、でも待ってるのはオウガよねぇ、つまらないわ」
 座礁した船の連なった先、天文台に見えるのは狙撃の主達だ。ロマンスも乙女の希望も二人の運命の旅路も無く——ついでに、運命の出会いも無いのだから。
「小舟を借りて……泳ぐわ」
 トン、と飛び乗った小舟が軋む。寄り合う船も大分破損が進んでいた、座礁の所為では無く、あの狙撃の所為だろう。
「キューピットちゃんなら、運命の相手に出会ってからよ」
 ふふ、と笑って凶十瑯はオールに手を伸ばし——横の船を、ぐ、と押した。押せた。果たしてそれが予知があったからか、凶十瑯のパワーであったかは知れない。僅かに生まれた隙間に、ぱしゃん、と飛び込む。
(「泳ぐの得意なのよ、蛇だもの」)
 船の下へと滑り込み、底に隠れながら天文台を目指す。湖の中は、水が澄んで綺麗だった。隠れる船がなければ、水中からも星々が美しく見えたのかも知れない。滑るように湖の中を泳ぎ行けば、オウガ達の砲撃は無かった。彼女達が見えるのは地上だけなのだろう。
「そして見えている範囲だけ、ね」
 湖から上がり、肌を滑り落ちる水を見送る。水も滴るきょーちゃんの仕上がりは——だが、見る人もいないのは残念だが。
「ふふふふふ」
「あはははは。いらっしゃい、隠れん坊さん!」
 オウガたちは天文台に足を踏み入れた時に、気がついたか。可愛らしい少女の見目で、閉幕のアリス達は告げた。
「ずっと隠れてたから心配したわ。見知らぬ貴方。さぁ、わたしたちと一緒にいましょう?」
「沢山沢山、愛してあげるから!」
 アリス達は可愛らしいぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて笑う。
「可愛い子ね、でも可愛い子こそ信用ならない」
 誘いは指先から、それは滑り落ちるように姿を見せる。バロックレギオンたる蛇たち。彼らは、凶十瑯が「そう」感じたからこそ姿を見せ——行く。
「ええ、乙女の勘よ」
 間近にいたアリスがひとり、蛇に捕まり崩れ落ちる。骸の海へと還った姿を見送ることなく、蛇たちは陰湿に追いかけて拘束する。
「きゃ! もう、壊れちゃうまで愛してあげるだけなのに!」 
 せーの! とアリスが声を上げた。放り投げられたハートボムをぴょんと跳ねたアリスが——打つ。
「打撃ね! 愛が打撃を伴うのも悪くは無いけれど……」
 ふ、と凶十瑯は瞳を伏せた。
「愛は繊細であるべきよ」
 ——ツッコミは不在である。
 叩き付けられたハートボムを、バロックレギオンの蛇くんたちがぱっくりと食べてしまう。おめめがハートに変化することもないままに、おいしく——恐らく——食べ終わった蛇君たちが迷い無くアリスに向かった。
「愛で貫かれるって素敵だけど、いい男がいいわね?」
 生まれぬ爆発に、火薬の匂いだけを残した天文台のオウガ達を見据えて凶十瑯は微笑んだ。
「さ、遊びましょ?」
 ——戦いの終わりまで、あと少しだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

楠樹・誠司
戀ひ、請ひ、孤悲、慕ふ
彼女等には屹度
其の何れもが相応しくない

闇色の外套纏ひて《闇に紛れる》
けれど彼女等の視る力は其の上を行くでせう
為れば、

彼女等の射程に入るよりも
船に飛び移り始めるよりも、早く
八咫を喚び天文台へ向かわせ
態と狙われる様飛び回らせませう
全ては『目眩し』
屹度、共に行く仲間の助けにもなりませう

照準に振れが生じて居る其の隙に
速く、疾く
天文台の側へ
後は駆け上がるのみ

薙ぎ払いに依る一閃を
『あい』を語られたなら、暫しの緘黙を

『星が綺麗ですね』と
問へば、貴女はわらうのでせうか

自分の無事を願って呉れた
ちいさな姫君の姿を思ひ出す
其の涙と比べることさへ烏滸がましい

御機嫌よう、……そして
如何か、佳き夢を



 星の行く空は、月明かりが遠い。月光が無くとも、星々の煌めきで全てが見渡せそうだと思うほど——僅か、眩しささえあった。
「……」
 夜の空を一度見上げ、楠樹・誠司(静寂・f22634)は深く軍帽を被り直す。レンズ越しに見た煌めきは、遠く、天文台まで続いていた。あれより他に、この世界に高い建物は無く全てを見下ろす地からオウガ達は望遠鏡で覗いているのだという。
「戀ひ、請ひ、孤悲、慕ふ。彼女等には屹度、其の何れもが相応しくない」
 愛を歌い。愛を囁き。だが齎すは残虐の果てだ。少女の見目はしているという——だが見目だけのこと。この地とて、身を寄せ合う船たちが押し寄せることなど無かったのだろう。星々を映す湖面は今や押し寄せた船に隠され、座礁した帆船たちが行く道を作る。ギィ、ギィ、と軋み落ちる音はあれど、押し合いって崩れることだけは無さそうだ。闇色の外套を纏い、指先で掴む。
「闇夜には紛れませうが」
 彼女たちの視る力はその上を行くだろう。為れば——彼女等の射程に入るよりも先に、ことを成す。残月を手に、闇夜に楽を奏でる。
「我は告げる、黎明を。……八咫よ、魔を見通さん!」
 顕現せしは《八咫烏》陽の導き手。
 天文台はこの地で最も高い建物である以上——今、誠司の視界に入る。捉えられる。
「天文台へ」
「   」
 甲高く響く声は八咫の鳴き声か、風を切る音か。天文台へと一気に八咫は駆けた。空を踊る羽ばたきに、チカ、と光が生じる。爆発は、オウガのハートボムだ。妙な色の爆煙の中を、八咫が羽ばたき抜ける。向かう先は天文台——だが、全ては目眩ましだ。
「……」
 照準に揺れが生じている間に、誠司は一気に船へと飛び乗った。小舟に足をつき、一気に跳躍する。帆船の縁に手をかけ、軽やかに飛び上り——次へと向かう。速く、疾く。倒れたマストを飛び越えて行けば、とうの高い船を越えた先、天文台はもうすぐであった。
「ふふふふ」
「あははは。いらっしゃい、見知らぬあなた」
「いらっしゃい見知らぬ誰か!」
 螺旋階段を駆け上がり、深く踏み込んだ誠司の薙ぎ払いがオウガを散らしていた。少女の見目でくすくすと笑い、まぁ困ったと散った同胞を見ながら閉幕のアリス達は告げる。
「沢山たくさん遊ぶ予定だったのに」
「沢山たくさん、愛してあげたのに」
 骨の髄まで、心の奥まで。ずぶずぶ沈んでも絶対に。
「わたしが飽きるまで愛してあげたのに!」
「——……」
 愛、と誠司は押し黙る。黙した男に気を良くしたのはアリスたちはほっそりとした手を伸ばす。大丈夫よ。大丈夫だもの。歌うように甘く、蕩けるように柔らかに告げる。
「愛してあげるの。精一杯で」
「『星が綺麗ですね』と問へば、貴女はわらうのでせうか」
 琥珀の瞳を上げる。黙していた男が思い出したのは、自分の無事を願って呉れたちいさな姫君の姿。
(「其の涙と比べることさへ烏滸がましい」)
 抜き身の刃を持ち上げる。誠司を捉えようと、閉幕のアリスが伸ばしていた手を——落とす。
「きゃ……! もう困ったことをして! もっともっと遊んだから……!」
「御機嫌よう、……そして」
 空に舞ったハートボムを斬り捨てる。一刀のもとに両断すれば破片が空で爆風に変わる。
「——ぁ」
「如何か、佳き夢を」
 その熱の下、迷わず踏み込んだ誠司の刃が最後の閉幕のアリスに沈む。ぐらり、と崩れ落ち、倒れたオウガを見送れば、夜と星の世界に平和が訪れようとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月10日


挿絵イラスト