迷宮災厄戦⑥〜狂瀾の嘶きに(作者 黒塚婁
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●亡霊を纏うは
 天に浮かぶは異国の城。さりとて中身は西洋馴染みの拵えで、なるほど戦後の世に伴天連の影響を受けたものたちの居城とわかるものなり――。
 ジャグ・ウォーキー(詩謔・f19528)は猟兵達にかく語る。
 アリスラビリンスに浮上し城は、魔空原城なるもの。曾て退けし、サムライエンパイアに吹き荒れた戦いにて挑んだ――織田信長が広げた戦線と比べると少々格の落ちる風情もあるが。
「さりとて、無視出来るものではありません」
 彼女は目を伏せ、話を続ける。
 城内には「ぱらいそ預言書」を信奉する狂信者であるオウガがおり、それらは皆「謎の亡霊」を纏っている。
 それらは負傷や死を厭わず捨て身で襲いかかってくるようです、とジャグはいう。
 これよりご案内いたします城にて待ち受ける敵は、『アルプトラオム』――アリス達の抱いた苦痛や恐怖、絶望といった記憶や感情がオウガ化した存在。
 彼らは猟兵へと只、立ち向かってくる――亡霊の仕業か、狂信によってか、言葉を交わせぬそれらとの間では、判断のしようもない。
「はい――元より理性的ではない存在が、より理性を喪う悲劇。皆様においてはこれを怖れず、蛮勇を演じて挑むことが勝利へと繋がることでしょう」
 怖れることなどありません。
 再度、ジャグは言う。
 たとい周囲を埋め尽くす悪夢に襲われようとも――敵は見えぬ敵に狂うばかりなのだから、と。

●狂瀾の嘶きに
 回廊を埋め尽くす、闇色の馬がありて。
 それらは一様に感情を乱し嘶く。曾ては少女であったものか。曾ては老婆であったものか。
 ――ああ、過去など最早意味をなさぬ。
 これらは迷い、怖れ、悲しんだもの達の成れの果て。
 より深い苦悩を、新たな迷い子に刻もうと、蹄を鳴らして待ち侘びる。
 そう、訪れるかどうかも解らぬ救いを待ち続けている――。


黒塚婁
どうも黒塚です。
無理の無いように、程々運営予定です。

プレイングボーナス……オウガの捨て身を逆に利用する。

※なお、当シナリオは、お一人につき、数体を相手取るシチュエーションになります。
複数体との同時対決を意識したプレイングが高評価となります。

●プレイングについて
プレイングはオープニング公開時より受け付けております。
締め切りは、送付可能な限りは受け付けております。
全採用は致しません。
採用出来そうなものを採用します。また、先着順ではありません。
ご了承いただいた上で、ご参加いただけたら幸いです。

それでは、皆様の活躍を楽しみにしております!
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第1章 集団戦 『アルプトラオム』

POW ●劈く嘶き
命中した【悲鳴】の【ような嘶き声に宿る苦痛の記憶や感情】が【対象に伝わり想起させることでトラウマ】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる。
SPD ●狂い駆ける
【自身を構成する恐怖の記憶や感情をばら撒く】事で【周囲に恐怖の記憶や感情を伝播させる暴れ馬】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ ●もがき苦しむ
攻撃が命中した対象に【自身を構成する記憶や感情から成る黒紅の靄】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【かつてのアリス達が抱いた絶望の記憶や感情】による追加攻撃を与え続ける。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


エンティ・シェア
捨て身の特攻とは結構なことで
その要因が苦痛や恐怖、絶望ってんだから救いようがねーな
おら、来いよ。全部受けてやっから

基本的にこっちからは仕掛けない
いい感じにこっちが避けれないような速度で来てくれりゃむしろ良い
勢いよく突っ込んできたら、かえしうたを
余裕がありゃ両手広げて迎え入れてやるよ
そうして、叩き返してやる
自分のばら撒いたもんに、自分で飲み込まれちまえ

恐ろしいもんってのは、一度経験すると忘れないもんでね
大事な存在が腕の中で冷たくなってく
苦しい顔すらしね―で、笑ってさよなら言いやがる
ご丁寧に思い出させてくれてありがとよ
お陰さんで、すこぶる不愉快な気分で、存分にあんたらに八つ当たれるわ
ほら、次だ次


●残響
 外はサムライエンパイアの城と謂われども、結局直接内部に転送されるならば、西洋の城のようにしか思えぬ。
 内部を埋めるは闇色の馬たちだ。蹄を鳴らし、歯を剥いて、忽然と顕れた猟兵を睨み付けている。まだ、指のひとつも動かしておらぬというのに――。
「捨て身の特攻とは結構なことで。その要因が苦痛や恐怖、絶望ってんだから救いようがねーな」
 焔に似たあかがねの髪が、周囲をゆっくりと見渡す動きでそよいだ。緑の双眸は忌々しそうに細め、エンティ・シェア(欠片・f00526)は無愛想に言い放つ。
「おら、来いよ。全部受けてやっから」
 両腕を広げ、胸を反らすようにして、招く。
 まるで親しく抱きしめてやろうというかのように。
 当然乍ら、アルプトラオムは殺気を隠さず頭から突っ込んでくる。情熱的すぎるだろう、脚より伝わる地響きに、エンティは思わず苦笑いする。
 てのひらが杖の表面を撫でた。鈴が鳴る。
「聞けよ、お前の音だ」
 馬の前肢が高々上がる――エンティを踏みつけんと跳躍し、その両肩を、蹄が蹴った。
 そのまま倒れ込みそうな程、彼は無防備に、受け入れた。
「――自分のばら撒いたもんに、自分で飲み込まれちまえ」
 備わった鈴が、細かく高い音色で唱った――杖の空洞を抜けて、奏でられる旋律は、恐怖。
 向けられた感情の刃を、音波として、叩き返す。
 アルプトラオムは馬体を捩って苦しんだ。自分の恐怖に食われて、それは悲鳴をあげながら消失する――まさしく断末魔と呼ぶべき、耳障りな悲痛な悲鳴が、エンティの耳に届いていた。それを何とも思わず、見送っていたが。
 呼応して彼を取り囲む空気が震える。一体の恐怖の発露が、同調し、すべてのアルプトラオムどもを、恐怖で染め上げ、暴走していた。
 刹那、衝撃が、エンティの身を襲う――。
 勝手に目から、涙が零れた。たった一粒だけの、思いがけぬ雫。
 両腕が何も抱き留めていない事実に、脳裡が真っ白に灼けた。熱が冷めていく――具体的すぎる感覚に、目蓋が震えた。
(「大事な存在が腕の中で冷たくなってく。苦しい顔すらしね―で、笑ってさよなら言いやがる――」)
 空だ。視界に映るのは、空の腕。この世界にただ残されたもの。
「恐ろしいもんってのは、一度経験すると忘れないもんでね」
 冷めたように、突き放すように、淡い笑みを刷いて――エンティは、溜息を零す。
 己を取り囲むのは、肉体を歪め、魂を骸の海に囚われたアリス達。
 なんて皮肉な対峙だろうか。然れど、一々同情してやるほど『俺』は、付き合いの良い方ではない。
「ご丁寧に思い出させてくれてありがとよ――お陰さんで、すこぶる不愉快な気分で、存分にあんたらに八つ当たれるわ」
 笛を手に――両腕を広げる。幾度とあの恐怖が襲い掛かろうと、そんなものの何が怖い。
 ああ、いや、とても怖いさ――だから、全て返してやる。
「――ほら、次だ次」
 ぶっきらぼうに、然れど笑って、誘った。
成功 🔵🔵🔴

シキ・ジルモント
◆SPD
恐ろしい
構えた武器はそのまま、しかし対峙してから確かな恐怖を感じる
今となっては敵を前にしてそう思う事などほとんど無いというのに
…いや、違う
これはあのオウガ、かつてアリスの記憶だったものから伝わってきているのか

この恐怖が俺のものではないのなら、動いて、仕事の続行を
取るべき行動はオウガを消滅させて元の記憶を解放する事
それが記憶の持ち主だったアリスにしてやれる、唯一の事だ

あちらが捨て身で来るなら、こちらはそれを迎え撃つ
おそらく俺を仕留める為に集団でダメージを厭わず向かってくるだろう
ギリギリまで引き付けて、ユーベルコードを発動する
周囲を囲まれている状況も利用
『範囲攻撃』に多数の敵を巻き込みたい


●同調
 ――恐ろしい。
 シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)はじっと敵を見つめた儘、時が止まったように身を強ばらせていた。
 殆ど知覚できぬ時間の間に、顎を汗が伝った。冷や汗など、数えるほども記憶しておらぬ。
 仕事として敵と相対すること、幾度となく。駆け出しの頃は、こうして手が震えたこともあっただろうか。
(「今となっては敵を前にしてそう思う事などほとんど無いというのに」)
 追われる恐怖。
 食われる恐怖。
 痛みの恐怖。
 何も解らぬままに死ぬ恐怖。
 言葉には言い表しがたい、純粋なる恐怖が胸を占める――否。シキはグリップを握り直す。汗で取り落としそうな感覚に逆らう事で、漸く現実味が返ってきた。
「……いや、違う」
 吐き出した声は掠れていた。だが、言葉にすることで『納得』できた。
「――これはあのオウガ、かつてアリスの記憶だったものから伝わってきているのか」
 息を吐く。深く深く吐き出して、同じだけ吸って、心を整える。
 ――跳び込んだ戦場は、既に恐怖で埋め尽くされていた。それには耐える事が出来たが、捨て身に歪んだアルプトラオムに囲まれた瞬間、シキの心は怖れに塗りつぶされてしまった。
 それを不覚と、恥じるつもりはない。
 助けてくれと手を伸ばす被害者の姿は見えぬ仕事であるけれど。他ならぬその感覚が、感情が、彼に教えてくれた。
 暫し、俯き、シキは惚けた演技を続けて、敵の接近を待った。耳を欹てれば、嘶きが周囲を取り囲んでいた――実像を何処まで伴う躰かは解らぬが、それらが身じろぐことで起きる気配を感じ取る。極めて接近されている。
「逃げられると思うな」
 言うなり腕を上げ――、迫る鼻面へ、銃弾を叩き込む。号砲とばかり、シキの身体が躍った。あまり意識しないようにしている尾が、別の個体に触れた。
 頬を撫でる風を頼りに、肘を使う。振り下ろし、首を滑るように敵の背上を転がり、銃撃を呉れる。着地は屈み、反動で跳ねた。
 鋭い回し蹴りにも、銃撃にも、敵は怯まなかった。
 暴れ狂い、四方を囲むように押し寄せるアルプトラオムたちへ、幾らでも来い、と眼差しで応える。
 頭を下げた疾駆からの突進には鉛玉を。地に伏せたその背を蹴って空に躍り、眉間に次の銃弾を叩き込む。あくまでも淡淡と。
 並ならぬ速度をシキの四肢は巧みに御して、息を切らせることもない。
 拳と、銃把で鼻先を叩いて躱し、腹の下に潜って引き金を引く。
 身に馴染んだ火薬の香りで、心が安らぐというのも皮肉な話だが――動けば動くだけ、恐怖は彼の心から剥がれていった。
「オウガを消滅させて元の記憶を解放する――それが記憶の持ち主だったアリスにしてやれる、唯一の事だ」
 それが、今日のシキの仕事であるならば。真に、動けなくなるまで。
大成功 🔵🔵🔵

ブーツ・ライル
(アドリブ、マスタリング歓迎)

来い、"アリス"。
悪夢の時間は終わりだ。

_

じゃらり、という音と同時に懐中時計の鎖が伸びていき、予測不可能な軌道を描いてアルプトラオム──"アリス"らを雁字搦めにする。
捨て身で此方に仕掛けてくるなら迎え撃つまで。真っ直ぐ向かってくるのなら、此方も狙いを定めるのは容易い。

…突然不可思議な世界に落ち、歩くのは、さぞ恐ろしかっただろう。
迷い、惑い、それでも歩み続けるのは、苦しかっただろう。
よく今まで頑張った。
此処より先は、時計ウサギたる俺の仕事だ。

──導こう、"アリス"。


●嚮導
 周囲を悪夢が取り巻いている。馬の形をしているオウガ達を、彼はそう捉えた。
 ひとたび、瞳を閉ざし――静かに告げる。
「来い、"アリス"――悪夢の時間は終わりだ」
 外套を翻し、踵を強く鳴らす。彼が仕える、すべての忠義を尽くすべき相手ではないけれど――ここにあるのは、皆アリスの成れの果てだというのなら。
 ブーツ・ライル(時間エゴイスト・f19511)は金色の時計を取り出す。じゃらり、鎖が鳴って、長く長く、鎖が伸びる。
 風を切る鎖の音と共に、ブーツは躍る。暗き回廊の中、闇を凝ったような馬たちは、自ら撓る鎖の内側へと突撃してくる。そこには、策も考えもあったものではない。
 ゆえに、ただ、敵を屠るべく、ブーツは腕を薙いだ。アルプトラオムはその鎖の前に身を投じた後、一瞬、存在が揺らいだように薄くなる。
 血を流すことはなく、傷口もつかぬ。存在が揺らいだ――とでもいおうか。それでも明確に傷付いているのだろう、靄のように崩れた空だその儘に、それらは悲鳴をあげた。
 悲鳴――ただの嘶きであるのに、そう感じる悲痛な音であった。一頭鳴けば、別の個体も鳴き、恐慌の伝播がブーツを囲んでいた。
 感情の影響はアルプトラオムのみならず、彼にも違和をもたらした。脳裡に勝手に、様々な記憶が想起される――赤、白、知った顔が混ざり合って、頭の中を掻き回される。
 全て全て、幻だ。頭の中にしか存在していないものだ。自分を頭から貪り喰う事も無い。それでも、見えぬ棘が身を貫いて、身体を重くなったような感覚に眉を顰める。
 だが、同時にブーツは思う。
 ――これは、アリス達の苦しみ。
 ――これは、アリス達の悲しみなのだ。
 ならば、導く。
 喩え、自分が唯一膝を折る相手でなかったとしても――アリスは、アリスなのだから。
「……突然不可思議な世界に落ち、歩くのは、さぞ恐ろしかっただろう。迷い、惑い、それでも歩み続けるのは、苦しかっただろう――よく今まで頑張った」
 穏やかな声音で語りかける。その面持ちが柔らかく綻ぶ事はなかったが。
「――此処より先は、時計ウサギたる俺の仕事だ」
 真摯なる、アリスの爪先。荊を踏み砕く"ブーツ"として、手を差し伸べた。
 敵はその手へと突進してくる――彼は構わず、そのまま腕を伸ばす。
「どうぞ、お手を。足元には気をつけて――」
 ずぶり、と彼の手がアルプトラオムの胸に沈む。
 引き抜いた手が捉えたのは、オブリビオンとなるに至った根源の感情――悪夢から目覚めさせる、ただその意志を籠めて。
 触れれば、指先に凍えるような感触が伝わる。
 これがこの者の、苦痛。身を蝕む呪いだ。確信を持って、握り砕けば、オウガの姿も消えていく。
 深く目蓋を閉ざし、立ち上がり、彼は次のオウガに向き合った。苦痛の悲鳴は未だ響き続いている。その、全てを。
「――導こう、"アリス"」
成功 🔵🔵🔴

黒川・文子
ご自身の身を大切になさい。
わたくしめが貴方方に言うべき台詞でもございませんが
捨て身で飛び込んでは殺してくださいと言っているような物でしょう。

それが貴方方にとっては普通の事なのでしょうね。
来るなら来なさいな。
わたくしめがお望みを叶えて差し上げます。

悲鳴のような鳴き声がうるさいですね。
暗殺を使って忍び寄りたいのです。
わたくしめにトラウマなどございません。
突き刺さったこれが抜けなくて困ります。

その悲鳴を止めるためには口を狙った方が良さそうですね。
懐に潜り込んで口を塞ぎます。
びったんびったんをしてお仕置きですよ。

順番にお相手して差し上げます。


●𠮟責
 掃除のしがいのある、お屋敷ですこと。
 黒川・文子(メイドの土産・f24138)は、戦場を一目見て思う。広くて、瀟洒で――無調法者がこんなにも集まっている。
 然し、彼女は僅かに表情を変えた。
 文子を見るなり、突進を仕掛けて来たアルプトラオムを、ひらりと――偶然――躱し、彼女は表情を曇らせたのだ。
 ――ああ、何と無鉄砲な。何と、無惨な。
 オウガであるとはいえ、本来はそれなりに我が身を可愛いと思うもの。戦いはただ踏みつぶして行けばよいものではない。骸の海より無数蘇るものだったとしても。
「ご自身の身を大切になさい」
 つい、文子は咎めた。
 静かなる声であったが、その一言は回廊に強く響く。
「捨て身で飛び込んでは殺してくださいと言っているような物でしょう」
 けれどアルプトラオムは、造作の解らぬ顔で文子を睨むばかりである。嘶きは害意に染まり、彼方から、幾つも駆ってくる蹄の音が聞こえる。
 ああ、惘れと諦めの吐息を、彼女は零す。
「それが貴方方にとっては普通の事なのでしょうね。来るなら来なさいな。わたくしめがお望みを叶えて差し上げます」
 軽く、床を蹴る。ふわりと広がったスカートが収まるよりも先、前へと駆けた。
 音もなく陰より忍び寄る――気取られず距離を詰めることは、予想よりも簡単な仕事であった。相手がこちらを蹴散らすことしか考えていないからであろうか。
 だが、アルプトラオムはその瞬間に、嘶いた。警告では無い、悲鳴の嘶きを回廊に響かせ、苦痛の記憶や感情を喚起する。
「わたくしめにトラウマなどございません――」
 本人が言う通り――文子に想起される記憶はないが、恐らく無意識のうちに身に浴びてきた痛みで生成された闇色の楔が、肩を貫く。
 彼女が力任せに引っ張っても抜けなかった。結果、少々動きにくいが――彼女を懊悩させる恐怖などないため、意識ははっきりとしている。
 ふう、小さく息を吐いて、文子は深く身を沈めた。
「その悲鳴を止めるためには口を狙った方が良さそうですね」
 その姿勢のまま力強く地を蹴り、懐に跳び込む――そして、腕を伸ばし、首を抱え込むように掴んだ。
 これらは亡霊を纏っているというが、元から感情で出来た亡霊のような、不思議な触覚であった。確りと指に力を籠めて、捻り、抱え上げた。
「びったんびったんをしてお仕置きですよ」
 アルプトラオムの頭を押さえ込み、口を封じた状態からのスイング――文子の貌は真剣そのものであった。そして、床に、壁に、幾度となく叩きつけた。
 命を大切に。敵として対峙する己が言えた義理ではないけれど――或いは、取り憑く亡霊たちへの、怒りなのかもしれぬ。そういったものを籠めて、折檻する。
 屋敷の清掃も、主を諫めることも、メイドの仕事であるならば――。
「順番にお相手して差し上げます」
 跳び込んできた次の一体へアルプトラオムを放り投げて、彼女は凛然と告げた。
成功 🔵🔵🔴

呉羽・伊織
【花守】
故郷の大乱から早一年
奇しくもまたこんな所で城攻めとはな
――ああ、せめても火種は最小限に

連携し死角や隙を補助
速度と小手先勝負の俺は範囲牽制を

敵察知と同時に先制UC
鴉達を極力多数の敵へ
更に早業の2回攻撃で風切放ち足部位破壊
理性無き突撃なら動きは察しがつく
なら後は速度潰してより見切り易くするまで
…余計に苦しめて、悪いな
――だが、何もかも断つ一閃が直に続くから

上記重ねつつフェイントや残像でも撹乱し回避に繋ぐ
体勢崩れりゃ俺も即烏羽に切替え首を掻く

この手は救いなんざ齎せない
成せるは幕引だけ
でもせめて、その嘆きはこの刃で持っていく――この心に留め置く
もう斯様な想いが広がらぬよう、元凶断つ覚悟に変えて


吉城・道明
【花守】
…平穏に感慨を覚えたかったものだが、難儀な事だな
漸く落ち着いた故国も、常に恐怖と隣り合う此の国も――数多広がる何れの世も、更なる地獄には変えるまい
戦火も恐怖も徒に広げる所業は認めぬ

死角は補い長所は活かすよう連携
牽制に乗じ此方は弱った者から確実に

UCで耐久向上
戦闘知識から馬や捨身の動作読み、見切りやカウンターの隙、馬同士衝突の機等を探る
理性に加え焦点も定まらぬよう、合わせて残像見せ直撃回避
鴉に続き急所や間接狙い、見切りや小回りが利くよう気絶や体勢崩し
隙掴めば言葉に代えて早業の刃で応え――狂瀾も苦悩も今に断とう

…俺とて断ち斬る以外の能はない
然れどその無念は忘れまい――覚悟は同じく、刃と胸に


●解放
 馬の蹄が響くのは、土臭い風が吹く戦場でもなければ、火薬の匂いが充満する壕でもない。生気と呼ぶべきものが、此処には存在しない。
 鬱屈とした死の空気は漂えど。悲歎する感情の坩堝であろうとも。
 身を焦がす戦場の熱気は無かった。
 ――奇異なることだ、降り立った猟兵二人は、その異様な空気に眉を顰めた。
「故郷の大乱から早一年、奇しくもまたこんな所で城攻めとはな」
「平穏に感慨を覚えたかったものだが、難儀な事だな」
 嘆息零す呉羽・伊織(翳・f03578)に、吉城・道明(堅狼・f02883)が深く頷いた。
 その厳しい眼差しは、城を、眼前にする敵を越えて、先。世界を見つめているようであった。
「漸く落ち着いた故国も、常に恐怖と隣り合う此の国も――数多広がる何れの世も、更なる地獄には変えるまい……戦火も恐怖も徒に広げる所業は認めぬ」
 過去通り過ぎた戦い。名だたる亡者達を屠って、得た平和を、乱そうという気配がある――厳しくもなろうというものだ。
 抱えた思いは似たようなものであるが、敢えて様々を言葉にはせず、伊織は軽やかないらえを打つ。
「――ああ、せめても火種は最小限に」
 然れど、真摯な声音。道明は瞳を閉じて、軽く顎を引く。それだけで、充分な応酬であった。
 ひゅ、と風が通り抜けた。
 視認出来た限り、影が二人を取り囲むように駆る。咄嗟の判断で背を合わせるように入れ替わり、回避する――アルプトラオムは恐怖を振りまきながら、襲い掛かって来た。
 息を合わせるでもなく、伊織も、道明も、前へと踏み込んだ。
「――疎まれようとも、忌まれようとも」
「――堅忍不抜の志を」
 伊織の影より生じた鴉たちが羽ばたいて、闇色の風を起こす。彼らが咥えた呪詛宿す暗器が、踏み込んできたアルプトラオムを捉えて穿つ。
 身を守る事を選ばぬそれらは、鴉の群れを突っ切って、こちらへと来る。
 高々と前肢を振り上げるものがあれば、後肢で蹴散らそうとするものもある――その袖口で鈍く輝くは、伊織が隠す暗器。次々と放ち、脚を破壊する。
「理性無き突撃なら動きは察しがつく――なら後は速度潰してより見切り易くするまで」
 正面突破、それしか能が無いならば。利用されるのも、当然であろう。
「……余計に苦しめて、悪いな」
 だが、何もかも断つ一閃が直に続くから――。
 気配を断っていた道明が、不意に躍る。高く掲げた刀が、実直に落ちる。
 頸を斬り、脚を斬り、胴を斬る。
 道明は動きを止めず、次々に迫り来る敵に刃を向ける。
 馬を一太刀で仕留めることが、ただの武士において剣の誉れであるならば、既にその太刀筋は練達しきっていると言えようか。
 斬る喜びも、敵を下す優越も、そこにはなかった。冴えた青き双眸は、アルプトラオムたちを冷徹に見据えている。
「――狂瀾も苦悩も今に断とう」
 苦痛、悲痛の感情は、自分たちにも伝わっている。それらは彼らに解らぬ言語で歎き合い、怯えながら此方へと跳び掛かってくるならば。
 容易に捉えられぬ速度を、まやかしの動きで誘導し、二人で死角を補いながら、確実に削っていく。伊織にせよ、道明にせよ、何の快味も得られぬ戦いであった。
 どれほどの同胞が転がり、消えていこうとも、その姿なき屍を踏みつけるように、アルプトラオムが哮り来る。
 両袖より、再び暗器を放ち――伊織は、怯え暴れるそれらに小さく詫びた。
「この手は救いなんざ齎せない。成せるは幕引だけ」
 本当の解放となるのかも、解らぬ。
 ここに集うアリスの無念は――骸の海を巡り、再び此処に戻ってくるのかもしれない。
 再び影より飛び立つ鴉たちの中へ、短い一刀を打ち込みながら、語りかける。
「でもせめて、その嘆きはこの刃で持っていく――この心に留め置く。もう斯様な想いが広がらぬよう、元凶断つ覚悟に変えて」
 せめて刃に祈りを籠める。少なくとも、此処にある苦痛は昇華されんことを。
 疲弊を感じさせぬ踏み込みで、道明が風ごと薙いだ。
 洗練された剛刀が、正面から割られるために跳び込む馬体を両断する。
 血潮も降らぬ惨劇であるが、視界に烟る黒霧は、恐怖が解き放たれていく様のように見え――道明は目を伏せながら、そっと囁く。
「……俺とて断ち斬る以外の能はない。然れどその無念は忘れまい――覚悟は同じく、刃と胸に」
 返した刀に、曇りは無い。
 心も又曇りなどなく。脚が止まるまで――斬り続ける。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

月舘・夜彦
【華禱】
彼等から負の感情を感じます
これを解放する術は倒すしかないのでしょう
なるべくは痛みを少なく、終わらせる

往きましょう、倫太郎殿

響く悲鳴は狂気・激痛耐性にて耐える
それでも尚、刃を向けるのは戦わねばならぬ覚悟

刃には破魔と浄化の力を付与
倫太郎殿の拘束術にて拘束された敵を優先

捨て身で駆けて来るのならば此方も挑むのみ
攻撃の範囲内まで敵を引き寄せ、近付いた頃に見切りと早業による抜刀術『陣風』
2回攻撃となぎ払いを併せてより多くの敵を斬り裂く

戦に於いて苦痛を感じるのならば彼を失う時なのでしょう
ですが、失わせはしない
その為に振るうのが私の刃なのですから
確実に仕留めてみせる


篝・倫太郎
【華禱】
これが狂信からなのかは判んねぇけど
終わらせてやるのが一番だろ

往こうぜ、夜彦

捨て身で必死になり過ぎて
理性のカケラもねぇってんなら
命中させない事に尽力

拘束術使用
射程内の複数の対象に鎖での先制攻撃と同時に拘束
同時にダッシュで接近して鎧無視攻撃を乗せた華焔刀で首を落とす
落とすのが無理でも複数体になぎ払いからの範囲攻撃

敵の攻撃は見切りや残像で回避
回避不能時はオーラ防御で防ぎ
トラウマは狂気耐性で凌ぐ

夜彦に攻撃が向かう場合は
射線をズラして確実に命中阻止
間に合う場合は絶対に庇う

トラウマなんてな簡単に抜けねぇもんだ
てめぇらの攻撃喰らう前から刺さりっぱなしでな
今更増えても同じさ

俺は夜彦の一撃を確実に通す盾


●双翼
 彼等から負の感情を感じます――月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)は鋭く相手を睨み据えた。亡霊を纏う後か先かは解らぬが、眼前に迎えるアルプトラオムたちは陰鬱なる気配を放ち、この城内全体を同じ色で染めていた。
「これが狂信からなのかは判んねぇけど、終わらせてやるのが一番だろ」
 篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)は夜彦と視線を合わせて言う。
 それしか手段はないのだろう――軽く目を伏せ、ただひとつ、決意を口にした。
「なるべくは痛みを少なく、終わらせる」
 それに、おう、と倫太郎は応え、どちらからともなく、前へと進み出す。
「往きましょう、倫太郎殿」
「往こうぜ、夜彦」
 夜彦の願いを叶えるため――倫太郎は不敵と笑って、踏み込んだ。
「縛めをくれてやる」
 先んじて放つ、災いを縛る見えない鎖。搦め捕られたアルプトラオムたちは、喘ぐように頸を晒す。
 拘束を振りほどく暇も許さず、そのまま駆け抜ける。
 両の手で握るは、焔が舞い踊る黒塗りの柄。閃く長刀の先、美しい刃紋が大きな弧を描いて躍る。
 ひとりでは落としきれぬ頸も、双翼のように駆る剣豪がある。
 蒼銀の刃が鋭く、滑らかに、怪奇の背を薙ぐ。
 迸る悲鳴は、気概で耐えた。流れ込んでくる、苦痛の記憶や感情――短くは無い時間をすごした夜彦において、脳裡を去来するものは多々あれど。
(「戦に於いて苦痛を感じるのならば彼を失う時なのでしょう」)
 今の苦痛は、ただひとつ。その結末を今、こんな場所で迎えるつもりもない。
 傍にある彼を守るために――剣で有り続ける。
 その一念を刃に籠めて、振るう。袈裟斬りに放った斬撃が、胴を両断する。斬った手応えは殆ど無い。
 このオウガは――彼もヤドリガミであれば、多少のところ、感じるもののある存在だった。
 二人は着実に、回廊を制圧していく。
 倫太郎の拘束を解くことは容易でなく――抵抗すら出来ぬ儘、畳み掛けられる剣戟は、ほぼ一撃でそれらを屠る。
 ゆえに、せめて嘶く。悲しみを叫び続ける。
 空気を耐えず震わせる言葉無き悲歎は、苦痛の記憶や感情を常に想起させた。倫太郎も夜彦も、その楔をいくつも受け止めながら――脚を止めぬ。
「トラウマなんてな簡単に抜けねぇもんだ。てめぇらの攻撃喰らう前から刺さりっぱなしでな――今更増えても同じさ」
 威勢良く、倫太郎は笑い飛ばした。
 過去よりも、今、大切なものが其処にあるのだ。
「させるか!」
 倫太郎は薙刀を構えるよりも、頭を下げ疾駆した。
 新手――、奥より駆けつけていたアルプトラオムたちが、別のそれと対峙する夜彦の背に向かっている。
 背負うトラウマの鎖が重い。笑い飛ばしてみたものの、無理をすれば自分の身が引きちぎれそうな程、心の痛みを感じる――だが、それ以上に、夜彦が傷付く事が恐ろしい。
 声を上げながら、大振りに刃を振るった。半回転した刃が光の筋を描いて、アルプトラオムの腹を裂いた。
 溢れるのは臓物でも血でも無く、さらさらとした黒い靄。
 然し、彼の躍動は其処までであった。膝を着き、両腕を広げて、夜彦を庇うように立ち塞がる――。
 オウガどもは一番近くに存在する倫太郎にしか、注意を向けておらぬようだ。一心不乱に駆けてくる蹄の音を聴きながら――彼は、笑った。
「俺は夜彦の一撃を確実に通す盾」
「ええ、倫太郎殿」
 声音は、力強く耳朶をうつ。
「――失わせはしない。その為に振るうのが私の刃なのですから」
 倫太郎の視界を埋めるように、鮮やかに走る蒼き風。
 夜彦の振り上げた剣が、細い月のように玲瓏と輝いた。
「全て、斬り捨てるのみ」
 一息で、無数の斬撃を放ち――迫り来る凡てを、撫で斬る。
 片翼たりとも欠けぬため。悲歎を薙ぎ払い、更に前へ。
成功 🔵🔵🔵🔵🔴🔴

ライラック・エアルオウルズ
哀れな嘶きが胸に響く
君たちを形とした絶望が、
如何なる物かは知れないが
捨て身と駆けるその蹄に、
僕が休息を与えてあげよう

駆ける姿が複数あれど、
回廊とあれば狙い易いだろう
捨て身と来るのを利用し、
一直線に対峙出来るよう誘導
ある程度の距離は保ち、
魔導書を手に《高速詠唱》
《全力魔法》で暴走抑え込み、
石の竜巻を放ち《範囲攻撃》を

竜巻見ても駆けた事を哀れみ、
少うし帽子鍔を下げ乍らも
猶と向かう姿があるならば、
《属性攻撃:氷》で刃を形作り
攻撃は避けれるよう、見切り
駆けて、踏み込み、首を断とう

もう、哀れに嘶かずとも良い
駆ける蹄を留めて、緩りと御休み
やさしい夢が君の抱く絶望や恐怖を、
真白と忘れさせてくれると良いね


●祈り
 ひとときの静けさを得た暗き回廊に、長躯の男が佇んでいる。
 だがすぐに、亡霊と共にそれらは甦る。解ってはいるが、一歩踏み込めば甦る怪物たち。そんなものは見慣れているが、まるで怪奇の一節であるようだ。
「君たちを形とした絶望が、如何なる物かは知れないが――捨て身と駆けるその蹄に、僕が休息を与えてあげよう」
 ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)は落ち着いた様子で告げる。
 向かいくるアルプトラオムが一直線に並ぶよう、それらの動きを注視しながら、自ら動いて誘導する。
 好機は一瞬、此処で力が暴走しないようにとライラックは集中を絞り込む。革表紙の魔導書を片手に、もう片手を彼らへと向けた姿は、指導する教師かのように――。
「紡ぐはふたつ、繋ぐはいびつ。」
 静かなる詞ののち、回廊に突如と発生するは石の竜巻。強烈な石の礫が爆ぜて、直撃を受けたものはそのまま捻り潰されてしまっただろう――だが、後から続くものたちも、次々とその中に飛び込んでくる。
 馬のあげる悲痛な叫び声が、ライラックの耳まで届く。
 何かを訴えるかのように、切ない声音。だが、何を言っているのかはわからぬ。
 竜巻の中から、弾けるように黒紅の靄が漏れ出し、彼の身を包んだ。
 悲鳴が、耳元で聞こえた。断末魔のようだ。
 やはり馬の泣き言は、言の葉にはならぬ。然し、空気を震わせるだけのそれが形を為す。其処には悲しみが或る。
 彷徨う不安。トラップに掛かった時の喪失感。オウガの手に掛かったとき――食われた瞬間の、痛み。
 痛い、苦しい、ひどい、こわい――。
 かつてのアリス達が抱いた絶望の記憶や感情――どろどろと怨念めいた何かが絡みつく。だが、それだけだ。
 ライラックの身体に疵をつけることも、ましてや心に疵を残す事もない。共感と同調の中に沈んでいくには、その痛みは彼にとって、遠すぎて近すぎた。
 客観的な描写でよければ、いくらでも唱えてやれようが。親しき『友人』との記憶を、記してきた彼にとってはありふれた結末。幾度となく覗けど、いつでも傍観者に過ぎぬ。
 ――それでも。
 帽子の鍔を下げて、その姿を哀れむ。敵が憶えるべき感情ではなかろうが、ライラックは竜巻の狭間を駆け抜けてきたものたちを、気の毒だと思う。
 そこまでして、駆けねばならぬのか。絶望の淵に立たされたまま、また痛みを増やすのか。
 魔力を固め、氷の刃を生成すると、床を蹴る。
 ぼろぼろに崩れ落ちそうなアルプトラオムの頸を、撫でるように、斬り落とす。
「もう、哀れに嘶かずとも良い。駆ける蹄を留めて、緩りと御休み」
 囁きは、優しく響いた。
「――やさしい夢が君の抱く絶望や恐怖を、真白と忘れさせてくれると良いね」

 願わくば、非業な道を辿ったアリス達に――よき目ざめを。
 斯くて、猟兵達はまたひとつ、道を切り拓く。
大成功 🔵🔵🔵

最終結果:成功

完成日2020年08月04日
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