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迷宮災厄戦⑦〜いばらのとしょかん

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦

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●図書館の国
 紙のにおいが満ちる室内は、静謐を湛え。
 立ち並ぶ本棚には、終わりが無いようにすら見える。
 きっちりと背の高さまで揃えて収められた本の群れは、――歴史書・図鑑・ノウハウ本・自己啓発本、辞書にフェアリーテイルまで。
 あらゆる事象に関する知識、誰が綴ったかすらも判らぬ物語。
 ありとあらゆる書物が、その国には満ちていた。
 ぱら、ぱら、ぱら。
 密やかに静謐を破る、本の頁を捲る音。
 しゅる、しゅる、しゅる。
 密やかに本へと向かう、茨の蔓。
 蛇のように這い伸びた幾本もの蔦は各々本を抱え、異形の歯を持つバラの花はまるで読書をするように本を覗き込んでいる。
 否。
 事実、彼女らは読書をしているのであろう。
 茨の蔓の中心で眠る少女を模った花には、本の力が確かに蓄えられているのだから。

●グリモアベース
「やあ、来てくれてありがとう。早速だが、一仕事頼まれてくれるかい」
 帽子を小さく掲げたケビ・ピオシュ(テレビウムのUDCメカニック・f00041)はお辞儀をしてから、猟兵と真っ直ぐに視線を交わして。
「もう聞いているとは思うがね、アリスラビリンスが騒がしくしているだろう? その件で貴殿には、図書館の国へと向かって頂きたいのだよ」
 その名の通り。
 あらゆる書物の収められた、巨大な図書館そのものである国。
 この国には現在オウガ――、いばら姫が巣食い。
 『世界征服』に関する本を読み漁る事で、ぐんぐんと力を蓄えていると言うのだ。
「いいや、いいや。心配しないでおくれ。ちゃあんと私達にだって対抗策はあるのさ」
 オウガが『世界征服に関する書物』によって、強化すると言うのならば。
 ――猟兵達は『正義の書』によって、パワーアップする事ができるのだ!
 びしっ。
 格好良いポーズをキメたケビは、ウンウンと一人で頷き。
 それからパチリと頭のモニターを、表情から地図へと切り替えた。
「正義の書を読み、記された正義としての心得を実践すれば、貴殿も強力な力を蓄えたオウガに対抗する力が発揮できるよ」
 大体このあたりに正義の書は有るようだからね、と。
 地図に印を示したケビは、再び表情へとモニターを切り替えて。
「それでは、武運を祈っているよ」
 なんて、再びお辞儀をした。


絲上ゆいこ
 こんにちは、絲上・ゆいこ(しじょう・-)です。
 皆様の正義の心が見たいです。
 トンチキでも良いので正義を見たいです。よろしくお願い致します!

●今回のプレイングボーナス:『正義の味方』っぽい行動をする。
 ・あらかじめ『正義の書』を読んだ後の体で、プレイングをお願い致します。
 ・『正義の書』に記されている『正義の味方っぽい行動・言動』によって猟兵達はパワーアップし、いばら姫の『茨』による森や迷路の構築を止めることができます。
 ・もし変身するのならば、敵は待ってくれます。それのほうが『悪役っぽい』からです。
 ・正義の味方が見得を切る事によって発生する、爆発やエフェクトの用意はご自分でお願い致します。もしくは強い気持ちでああいうのは発生するものです。気持ちです。強く願ってください。
 ・恥ずかしくないです、正義の味方ですから。

●場所
 図書館の国の内部。広めの図書通路です。
 爆発や謎のエフェクト、高い所から飛び降りるためのメチャクチャ高い本棚などは完備されています。
 暴れても不思議な力で本は保護されています。大丈夫です。

●その他
 できるだけ早めにお返し、少数採用(+元気の続く限り)の予定です。
 もし沢山プレイングをいただけた場合は、
 採用は先着順では無く、大成功・またはそれに近いプレイングから採用させて頂く予定です!!
 がんばって元気に行きます!

 それでは、皆様の素敵なプレイングをお待ちしております!
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第1章 ボス戦 『いばら姫』

POW   :    死体の森の眠れる美女
戦場全体に、【UCを無力化し、侵入者を攻撃する茨】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
SPD   :    千荊万棘フォレスト
【UCを無力化する広大な茨の森】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    カニバリズムローズ
【周囲の地形が広大な茨の森】に変形し、自身の【森に侵入した者の生き血(敵へのダメージ)】を代償に、自身の【森の、UCを無力化し、侵入者を攻撃する茨】を強化する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアララギ・イチイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ライラック・エアルオウルズ
――正直、柄ではないけれども
幸いにも、僕は影響を受け易い
特に焦がれるようなものにはね?

揺らす燈籠の灯で白く反射させ、
眼鏡をくいと指先で持ち上げる
喚んだ影の友は背後と控えて、
何時でも“演出”出来るように

どうやら、僕の出番らしいな
本で知識を得るのは良いが、
其れが悪しき物であれば話は違う
これより語らう英雄譚を共として、
君には百の眠りについて貰おう

びしりと差す指、友の燃やす炎柱
それで一頻り見得を張れば、
様々な思い振り切る様に戦闘へ

代償とする血を得ないよう、
茨は《オーラ防御/かばう》
軽く掛け声も混ぜ乍ら、
放つ炎で茨を焼き切って
妨げ消えれば茨姫に刃を放とう

良く眠り、正義に目覚めると良い
――……これで良い?



●百の眠りに落ちなかったお姫様
 静謐に満ちた館内。
 微かな微かな音を立てて地を這っていた茨の蔓は、次の知識を得るべく本棚へと蔓の先を伸ばし。
 花弁を照らす微かな光に気がついたオウガは、歪な牙が並ぶバラを模した花弁を光源へと向けた。
 闇を飲みこむ灯火の奥で、影が揺れた。
「やあ、お姫様。……どうやら、僕の出番らしいね」
 静謐を貫き裂いて、館内に朗々と彼の声は響き。
 丸眼鏡のブリッジを指先で擡げた表情は、照り返す光によって見えはしない。
「本で知識を得るのは良いが、――其れが悪しき物であれば話は違うよ」
 眩い光に照らされたいばら姫は、まるで眠ったように黙したまま。
 ギチギチとバラの牙が威嚇をするが、彼が怯む事は無い。
 更に一歩踏み込んだ眼鏡のレンズの奥に覗いた色は、紫丁香花の色。
 宵影を背に揺らめかせたライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)は蠢く蔓の中心――いばら姫を模した花弁を見下した。
「これより語らう英雄譚を共として、君には百の眠りについて貰おう」
 ぴしと指で姫を指し示せば、ライラックの友は正義を顕す炎柱を燃え上がらせて。
 ――正直。
 正直、こういった演出は柄では無いけれどもね。
 けれど。
 幸いにも、ライラックは『影響』を受け易いタイプなのだ。
 そう。
 特に、心を焦れさせるようなものには。
 炎が収まる前に地を踏み込んだライラックに向かって、きし、ときしむような音を立てて。
 眠っていたかのような少女は瞳を開くことも無く、その形の整った小さなかんばせを傾けた。
「残念だわ、王子様。わたくしはもう百も眠ってしまったものだから、眠るのには飽きてしまったのよ」
 ぞろ、と蠢く茨。伸ばそうとした蔓が途中で勢いが殺され、びたびたと蠢く。
 どうやら見得が効いたのか、うまく伸びなかったようだ。
 それでもバラの花は、一斉にライラックを睨めつけて。
 瞳を閉じたままの姫は、それは可憐に笑った。
「わたくしと一緒になりましょう、王子様。――わたくしならばアルフ・ライラ・ワ・ライラでも、貴方が寐入るまでお話を出来るわ」
「そうだなあ。魅力的なお誘いだけれど、それではお話が変わってしまうだろう?」
 その言い草に小さく肩を竦めたライラックは、槍のような勢いで伸びる蔓をカンテラの炎で捌き。
「そうよ、わたくしは変わってしまった物語だもの」
 捌かれる事は予測をしていたのであろう。
 姫は燃え切り離された蔓を気にした様子も無く。……いいや、そもそも花弁である彼女には感情など伴っていないのであろう。
「貴方となら、きっと新しい物語を紡げるわ」
 ねえ、貴方をちょうだい。
 柔らかく笑んだまま、ゆうらり立つばかりの姫はライラックをまるごと喰らおうとするかのように茨を彼へと殺到させる。
 彼女に血を与えてしまえば、彼女の力を増してしまう事を彼は理解していた。
「……ふ、……ッ!」
 だからこそ、だからこそ、傷つくわけにはいかないのだ。
 鋭く吐き出す呼気。
 ギリギリまで茨を惹きつけて、揺れるカンテラの軌道から炎が爆ぜる。
 踏むステップ。
 殆ど足場らしい足場なんて残っていやしない。
 同時に伸びてきた絡みつく蔓を踏み潰しながら、宵色の刃に喰らわせて。
 あと一歩、あともう少し。
 彼の身体を掬い上げようと突き出された蔓を大きく蹴り上げて飛んだライラックは、真一文字に宵色を駆けさせ――。
「お話を紡ぐ事は吝かでも無いのけれど、――それは僕自身で紡がなければね」
 彼女の胸に刃を突き刺すと、きゅっと蹴り上げて距離を取り。
「良く眠り、正義に目覚めると良い」
 小さく首を傾ぐと、――……これで良かったのかい? なんて。
 ライラックは、誰に言うともなく呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ラブリー・ラビットクロー
正義の味方だって
マザー知ってる?
【ネットワークで正義の味方について検索しますか?】
ほんとーは五人くらい居てー
それぞれ色があってー
はぇー
変身とかもするんだって
【検索実行中】
キメポーズとかもあるんだ?
えーすごい
【ネットワークに接続できませんでした】

(マザーから流れてくる特撮物っぽい音楽)
(出現する色とりどりの味方が描かれたハリボテとラブリー)
そこまでなん!
(敵が驚く反応を期待する間を置く)
今までの悪事らぶが全部おみとーしなん
セカイ征服なんてこのらぶが許さないなんな!
ししょーに代わって
(ゴーグルかけてポーズ)
お仕置きなん!
(後ろに仕掛けておいた演出用火炎放射器を起動)

武器はチェーンソーで戦うなん!



●教えて、マザー
 彼女の口を覆ったガスマスクは、彼女が清浄な環境では生命維持装置の力を借りねば生きる事も出来ぬ証拠。
 でも、もう、そんなのも慣れっこ。
「ねえ、ねえ、正義の味方だって。マザーは知ってる?」
 ぱたん、と本を閉じて元の位置に押し込んだラブリー・ラビットクロー(とオフライン非通信端末【ビッグマザー】・f26591)は端末に話しかけながら、通路を歩み始める。
 ――ネットワークで正義の味方について検索しますか?
「検索してー」
 靴底が床を叩くと小気味よい音を立てる。
 ――検索実行中。
 その音に少し気分をよくしたラブリーは、こんこんと足先でリズムを刻みながら。
「ほんとーは五人くらい居てー、それぞれ色があってー、変身とかもするんだって」
 沈黙してしまった端末の返事を待つこと無く、もう一冊本を手にとったラブリーはフルカラーの絵本のようなつるつるした分厚い紙をめくる。
「はぇー……決めポーズ? えー、すごい。5人くらいいたら出来るのん?」
 ――ネットワークに接続できませんでした。
「うん、知ってた」
 ――ネットワークに接続されていません、ネットワーク設定を変更しますか?
「うーん、いいや」
 本をきゅっと押し込んだラブリーは、それよりも、と言葉を次いで――。

 ぱーらぱぱぱーぱらっぱぱー。
 静かな図書館に能天気で格好良い音楽が響く。
「そこまでなん!」
 茨の蔓を撓らせて振り向いた、少女を模した花――いばら姫。
 その固く閉じた瞳は開くことはないけれど、代わりに蔓の先のバラが牙をガチガチと鳴らしてラブリーを睨めつける。
 4色の仮面を被った格好良いポーズのはりぼてヒーローを侍らせたラブリーは、真ん中で腕を組んだまま。
 一度閉じた瞳を、噛みしめるようにゆっくりと瞳を見開くとぴしりといばら姫を指差した。
「今までの悪事、らぶが全部ぜーーんぶおみとーしなん! セカイ征服なんてこのらぶが許さないなんな!」
 一拍。
 ガチガチと牙を噛み合せながらも、バラはお行儀よく見得を全て切り終えるのを待っている。
 桃色のゴーグルを下ろしたラブリーは、瞳を腕で覆うように真一文字に構えてから。
 鋭く振り抜き指先で格好いいサインを作る。
 逆の腕を真っ直ぐに伸ばして――うーん、格好いい!
 ずじゃん、と端末から流れる音楽が止まり。
「ししょーに代わって――お仕置きなん!」
 ごうっ!
 火炎放射器が炎を吐いて、格好良く燃え上がる!
 ついでに燃えてしまったハリボテはまあ、必要な犠牲だったと割り切ったラブリーは、高い位置から飛び降りた。
 腰に携えたチェーンソーを抜き放つと、一気にスターターロープを引き絞る。
 どるん、どぅる、どうる、どぅる。
 小気味よい音、心地よい振動。
 上半身を引き絞って思い切り振りかぶる刃を見上げたいばら姫は、小さく小さく被りを振って。
「――来たのね、猟兵。遊んであげるわ、かかってきなさいな」
「セーギの鉄槌をうけるのん!」
 正義の力と悪の力。
 それっぽい言動は二人の力を引き出し合う。
 迷路を作る事が出来なかった姫は、重力と体重の乗ったチェーンソーの一撃を重ねた蔓で受け止めた。
 肉厚の蔦を割く振動が、腕を震わせる。
 無理矢理床までチェーンソーを叩き下ろしたラブリーはバックステップを踏んで。
 身を守る形で蔦を蠢かせた姫が、笑みを湛えたまま首を傾いだ。
「鉄槌っていうより、それ、チェーンソーよね?」
「うん?」
「正義の味方って、そういう灰汁の強い武器を使用しても良いのかしら?」
 ぎゅるるるる! どぅるどぅるどぅるどぅる!
 チェーンソーの空回りする音が通路に響く。
 ――すみません。よくわかりませんでした。
 音声を誤認したのか何なのか、端末が謝罪した所でラブリーは瞬き一つ。
 弾かれた玉みたいに地面を蹴っ飛ばすと、もう一度チェーンソーを振り上げた。
「セーギのチェーンソーを受けるのん! ししょーに代わってお仕置きなん!」
「まあ! 勢いでカバーしてきたわ!」
 でもまあ、正義の味方ってそういうところ有るわよね。
 振り下ろされたチェーンソーと蔓が、再び交わされて――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

歌獣・苺
ふぅ、久しぶりの戦闘だなぁ…!
今までのんびり遊んで戦ってなかった分、頑張らなきゃ♪
(…確か正義の味方っぽい行動や言動でぱわーあっぷするって本に…よし!)

それっ!(ジャンプし、くるっと一回転してヒーロー着地)みんなの歌姫、歌獣苺参上♪
茨の姫さん!今すぐ悪いことを辞めないと!アリスラビリンスの未来にご奉仕する…ぴょんっ!(ウインクと決めポーズ)
(……う、恥ずかしがったら負けと思ってやったけどやっぱ恥ずかし~!!!)

…辞めないんだね…!
だったらお覚悟!ぱわーあっぷしてる私のリサイタル、聴かせてあげる!!!
『これは、貴方を忘れない詩』!
私は何度だって歌うよ!正義の歌を!この世界を守る歌を!!!



●おひめさま
 しんとした館内をぐるりと見渡すと、視界いっぱいの本棚、本棚、本棚。
 倒される前のドミノみたいにキレイに並んだ本棚。
 ぐるりと螺旋階段のように配置された本棚。
 先が見えないくらいたかーい本棚。
 呼吸を整えるみたいに、ゆっくりゆっくりと息を吐く。
 久々の戦い、久々の戦場。
 体をぎゅっと伸ばしてから、拳を握りしめた歌獣・苺(苺一会・f16654)は、蝙蝠の羽根を一度たたんで、伸ばして。
 ――よし、頑張らなきゃ♪
「それっ!」
 背の高い本棚の上から、ぽーんとその身を投げ出した。
 風を切って、羽根で宙を裂いて。
 床へと着地する寸前に、くうるりと一回転。
 蠢く蔓の前へと姿を現すと膝と腕を付いて――両足と片手で衝撃を受け止めて三点着地。
「正義の名のもとに……っ!」
 地へと降り立つと、きりっとかんばせを蔓の中心にて瞳を瞑る少女――少女の形をした花弁、いばら姫へと向けて、苺色の瞳をぴかぴかと瞬かせた。
「みんなの歌姫、歌獣・苺――参上っ♪」
 正義の味方は高い所から飛び降りてきたとしても、不意打ちなんてしないのだ。そちらのほうがより正義の味方らしいからね。
 すっくと立ち上がる苺を待ってあげるいばら姫、悪役も正義の味方の名乗りの邪魔をしたりはしない。そちらのほうがより悪役らしいからだ。
「えっと……、いばらの姫さん!」
 苺は一度はちょっとだけ恥ずかしい気持ちをなんとか押し込んで、鍵しっぽをぴんと伸ばしながら腕を前に。
「……い、今すぐ悪いことをやめないとっ! アリスラビリンスの未来にご奉仕する……ぴょんっ!」
 そうして立てた指先を顔の前へと構えると、ばちんとウィンクをした。
 いばら姫は固く閉じた瞳を開くこともなく。かちかちとバラの牙を威嚇に撓らせて首を傾いだ。
「……まあ! わたくしは静かに本を読んでいただけですわよ。……それとも貴方は図書館ではお静かに、と言う標語もお聞きになった事が無いのかしら?」
「えっ、あっ……、そ、それはそうだけど……」
 ぴゃっと慌てて耳を跳ねた苺が一瞬小声になりかけるが、はたと思い出したように苺色の瞳をまあるくして。
「ま、まってっ、言いくるめられそうになったけどっ! ダメだよ、悪い事をしちゃ!」
「……そう? やあね、どうしてわたくしが貴方の言う事を聞いてあげないといけないのかしら?」
 誂うような口調。
 口元に微笑を浮かべたままのいばら姫がいとけなく首を傾げば、苺はきゅっと唇の端に力を籠めて。
「図書館ではお静かに、よ」
 いばら姫が呟いた、瞬間。
 地を這っていた蔓が一斉に苺へと向かって殺到する。
 捻じれて、纏まって。
 槍の如く鋭い切っ先が、苺の目前へと迫り。
 細く細く息を吐き出した苺は、覚悟を決めたように掌を胸に当てた。
「……やめないんだね……、なら、聴かせてあげる!」
 ――私のリサイタルを!
 高く響く歌声は、忘れない為の歌。
 貴方の事を、忘れない歌。
 空気を、本を、壁を。
 世界を震わせ爆ぜた声音は衝撃波を生み出して、強かに蔓を押し返す。
「いばらの姫さんが悪い事をやめるまで、私は何度だって歌うよ、……正義の歌を! ――この世界を守る歌を!」
 いばら姫をしっかと見つめて、苺は告げる、苺は歌う。
 ――何度だって、何度だって、世界を守るために。

成功 🔵​🔵​🔴​

ワン・シャウレン
正義、良い響きではないか
世界征服は悪、悪は正義に勝てぬもの
シンプルじゃが、数多の書にて示されているだろうもの
読み物が力の源なれば、それを否定できるものか
わしが試してやろう!
と、まぁ堂々。正面から挑ませて貰うの
様式美じゃろ?

さておき陣地形成から攻める手合いか
世界征服というだけある
では陣取り合戦じゃ
華幻流水にて敵陣を侵食し進み、攻めかかる
とはいえこちらの目的は陣取りの勝利ではなく頭を仕留めること
UCの無力化に植物ならば向こうに分がありそうじゃがその有利に夢中になってくれればしめたもの
この身この意思が一番の武器よ
無論、悪は許さぬ
渾身の蹴撃で落とすのみじゃ


蔵方・ラック
正義の味方とはー!即ち、何はなくとも高い所から登場するもの!
(謎の風に吹かれつつ)

「誰が呼んだか、正義のスクラップビルダーここに見参であります!とうっ!」
そう、飛び降りる時はとうっ、って言うものなのであります、とうっ

高い所に居る内に迷路の出口に当たりをつけ
飛び降りてからは、見切り、ジャンプ
バラックスクラップでの破壊工作や激痛耐性で切り抜け、駆け抜ける!
あと大声も!ピンチには「うおおお」って気合は必須であります!

最後接敵できたら、今まで温存しておいた腕の熱線銃を展開

「切り札は最後までとっておくものでありますよ、お嬢さん!」
ヒーローは大体女の子には優しいものなので
攻撃力重視で一気に貫くであります!



●正義の法則
 ぶつかり合う戦意、悪と正義の力の鬩ぎ合い。
 しんと静かであった図書館内を、重ねられた剣戟が彩っている。
 そしてまた一人、――この図書館に『正義』の申し子が姿を現した。
「ん!」
 ひょーいと本棚の上で一度跳ねた蔵方・ラック(欠落の半人半機・f03721)が棚の下を見下ろすと、まあるい大きな瞳に好奇心に似た色を宿して。
「見つけたでありますっ!」
 彼がぴかぴかまなこでバカでっかい声を上げると、棚の下で蠢く茨の蔓は威嚇にかちかちバラの牙を鳴らした。
「ふっ、見つかってしまったでありますか」
 そりゃ見つかると言ってくれる人は、現在周りにはいないもので。
 腕を組んでしみじみとするラックへと、何処かから吹きすさぶ謎の風がみつあみをぱたぱた靡かせる。
 それから一度目をきゅっと瞑ったラックは、片腕を上げて。
「――とうっ!」
 正義の味方は、何はなくとも高所から登場するもの!
 いかにも正義の味方が飛び降りる時の掛け声を上げてから。
 彼はやたらと色んな所を靡かせながら、風を切ってまっすぐに下へと飛び降りた。
「東に泣く声あらば笑顔をお届け、西に嘆く声があれば元気を届ける!」
 ……ず、しゃっ!
 地へと降り立てば、重たい音を立てて床へと彼を中心に罅が生まれる。正義の味方とはそういうものだ。
「誰が呼んだか、正義のスクラップビルダー!」
 膝と足裏、そして腕。三点で体を支えるスーパーヒーロー着地をキメ。
 太陽みたいな瞳へと正義を宿したラックは、蔓の中心で眠るように瞳を閉じた少女――少女を模した花の姫。いばら姫を真っ直ぐに見据え。
「蔵方・ラック、ここに見参でありますッッ!!」
 朗々と名乗りを上げたッ!
「まあ、貴方も図書館ではお静かに出来ない方なのね。だめよ?」
「その件に関しては、非常に申し訳無く思っている次第であります!!!」
 矢の如く、雨の如く。
 いばら姫の窘めに彼が謝罪を重ねた瞬間、ラックへと殺到する茨の蔓。
「わっ、とっ、おっ!」
 鋭くカッ飛んでくる茨を跳ねて、飛んで、ステップを踏んで。
 棚を蹴ると同時に空中で体を捻り。
 変形した足先で、茨をすぱんと断ち斬り落とす。
「う、おおおおっ!」
 しかし収まらぬ茨の群れ。
 殺到、殺到、殺到。ねじ込まれる茨はラックの足を、腕を、貫き。
 耐えんと構える体が押し込まれ、踏み込んだ足の形に地へと轍を生む。
「正義が悪に負ける所、――見てみたいとは思いませんこと?」
「正義が、……正義が負ける訳ありませ……っ、うおおおお、まって、せめて喋らせてほしいであります!!!!!」
 痛みは耐える事が出来る。しかし、体を全て包まれると動くに動けない。
 迷路の形成こそされぬが、その茨の萌える速度は確かに強化をされているのであろう。わあわあ言うラックの姿が茨に飲み込まれ――。
「ほう――。では、陣取り合戦と行くとするか」
「どわーーーーーっ!?」
 たかと、思った瞬間。
 茨の山よりラックを掬い流した水流。
 絡みつく茨から逃れた彼は、水に跳ね上げられるように。
 本棚の上へとぽーんと弾き飛ばされた勢いで、三角飛びをすると格好良い着地をした。
「大丈夫かの」
 手を差し伸べるでも無く掛けられた声は、鈴を転がしたようかの響き。
 今咲いたばかりの花のように瑞々しい微笑を唇に宿した少女は、瞳を眇めて。
 ――否。
 ミレナリィドールの彼女は見目こそ少女であれ、重ねた時は幾星霜。
 淡い金糸を風に揺らし、み空色で敵を見据えたワン・シャウレン(潰夢遺夢・f00710)は本を閉じると小さく首を傾ぎ。
「お主が大丈夫でまだ動く気力があるのならば、少しばかり手伝ってくれると嬉しいのじゃが」
「ま、まだ、げ、げんきいっぱいでありますよ!!」
 ぴゅうと口から水を吐いたラックがこくこくと頷いて、大きく跳ね上がると元気アピールポージング。
「うむ、ありがたい。どうやらわしらに『正義』は在るようじゃしの。――世界征服は悪。悪は正義に勝てぬもの」
 顎を擡げて了承したワンは本棚の上で軽く跳ね、水と茨の蔓に満ちた地へとその身を滑り込ませ。
「――シンプルじゃが、数多の書にて示される世界の均衡の法則じゃ」
 彼女を貫かんと鋭く差し出される蔓を、舞うような足取りで避け飛びながら、紡いだ言葉に唇に宿す笑みを深め。
「書が力の源なれば、――お主がその法則を否定できるものか、わしが試してやろう!」
 そう。
 正義は正義らしく、正々堂々と正面から行くとしようか。
「そしてピンチに駆けつけるというのも、正義の味方っぽさましましでありますねッ!」
 ワンが半円を描くように蹴りを放つと同時。背中合わせに構えたラックも同じ様に足先で半円を描いて、襲い来る蔓を断ち斬り。
「正義の押し付けは、嫌いだわ」
 蠢く蔓はその質量を増して、いばら姫を飲み込まんばかり。
 ゆるゆると顔を振ったオウガが腕を振るえば、二人へと向かって真っ直ぐに蔓が叩き込まれ――地へと突き刺さった蔓を避ける形で、玉が跳ねるように二人は二手に分かれ。
 同時に壁を蹴って、いばら姫へと一気に距離を詰めた。
「巨大化を始めた悪は、やられるというのも様式美じゃろ?」
 壁を蹴って空中で筋を引き絞るように、足を引いて構えたワンの呟き。
「――正義は必ず勝つのであります!」
 蔓を片手で叩いて跳ね飛んで。
 高く飛んだラックは曲芸じみて細い蔓を切り裂きながら、その腕をかしゃんと変形させて――。
「無論、悪は許さぬよ」
「切り札は最後までとっておくものでありますからね!」
 正義の味方は女の子に優しいもの。
 ギロチンの如くいばら姫の頭へと振り下ろされた、ワンの蹴りに重ねて。
 ラックの変形した腕の先から放たれた熱線銃は、オウガを一息に貫いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

スイカ・パッフェルベル
かつん、かつん。杖先が本棚を叩く

――偏食は悪だ。それが知識であっても、例外は無く
一元的な見方は往々にして判断を誤らせる
必要なのは1を学ぶため、10を修めること
ミネルヴァの梟は、正しく智慧持つ者の空を飛ぶのだ

私はスイカ。翠華(すいか)・楂古聿(さこいつ)・パッフェルベル

本棚から降り、携えた即席魔杖S1を発動、
手持ちの魔杖を腰辺りの高さで周囲に浮かべて

書を愛する者達の平穏の為、私は貴様を討つ
魔法の出力を高める全力魔法。発動に伴う魔力で空気を震わせ
さあ…勝負だ

ユベコと(たぶん)増した我が魔力で茨と森を圧倒し
大量生産したM1とW1で全てを挽く

上手く行かねばI1で惑わし、W1・M1で攻撃。概ねそのように


ベル・ルヴェール
正義の本を読んだ僕はとても強いんだ。
登場は使い魔のコウモリを先に行かせて
それに続くようにして僕が行こう。

正義の味方にマスコットは必要だと書いてあったからね。
この場所を茨の迷宮になんてさせない!
この茨、僕が全て花を咲かせてやろう。

アイン、行くぞ!
ここで使い魔の羽ばたきだ。
風でかっこよく演出をしながら蜃気楼(サラーブ)を使う。
蜃気楼のこの魔法で悪役の茨に花を咲かせるんだ。
これなら痛くない!
お前の攻撃も怖くない!

正義の味方は苦戦をするふりをして、悪役を油断させるって書いてあった。
僕もやってみよう。
もはやここまで……、アイン、僕の事は放って逃げろ。

アイン!

隙が出来たら攻撃をする。



●演技
 壁が抉れ、地に残った轍。
 戦いの痕が色濃く残る通路を、ずんぐりとした大きなコウモリがはたはたと飛んでいる。
 その後ろ姿を追うように、歩む褐色に灰の髪の男。
 ベル・ルヴェール(灼熱の衣・f18504)は、手に持っていた本を空いている本棚の隙間に収めて、確認するかのように小さく頷いた。
 正義の味方にマスコットは必要なもの。
 ずんぐりむっくりでむくむくふかふかのコウモリ――アインは、マスコットとしては最適であろう。
「――見つけたよ」
 戦いの痕を追って歩んだ先、むせ返る程の緑の匂い。
 バラの蔓が幾重にも張り巡らされた中心に、満身創痍とも言える姿をしたお姫様が眠っているが、それが人を喰らう食人花の疑似餌である事をベルはようく識っている。
「まあ、今日何人目の王子様かしら、ごきげんよう」
 人に見えてただの花弁である彼女は綺麗な笑みを唇に宿し、瞳を閉く事無くベルへと向き直って。
「この場所は、決して茨の迷宮になんてさせない! アイン、行くぞ!」
「……そう、少しだけなら遊んであげるわ」
 今日はもう疲れたの、なんて。
 いばらの姫は蔦の先で、異形のバラに牙を剥かせて。
 そんな彼女を見据えるベルの背後へと回ったアインは、翼に大きく風を孕ませて羽ばたいた。
 いかにも正義の味方が何かをする時の風がベルを包むと、しゃらしゃらと軽やかな音を立てる装飾と、纏った薄布が風に揺れ。
「本当の美しさを取り戻してやろう、綺麗に咲くと良い」
 刀を抜き放ったベルがバラの鼻先へと、カーブを描く細身の片刃を突きつけた――刹那。
 牙を持つ異形のバラは、ただのバラと化した。
 いいや、そのバラだけでは無い。
 いばら姫を包む茨という茨に咲く異形のバラが、バラ本来の姿を取り戻し、咲き乱れ、狂い咲きはじめ。
 蜃気楼の花弁に飲み込まれた茨は、からりとした砂のにおいを宿して花と成る。
「……まあ、面白い事をするのね!」
 いばら姫の動きに合わせて咲き乱れる花弁が撒き散らされ、彼女はそれでも大きく花に溶けた蔦を振り上げて。
「でも王子様、それじゃわたくしの可愛い子は止める事はできないのよ」
 まっすぐに叩き込んだ一撃。
 ベルは眉を寄せて、舞うような足取りでぶちかましを躱し――。
 ……いいや、躱せていない!
「ッ!」
 強かにその体を打ち据えられて、地へと転がるベル。
 ――正義の味方は苦戦をするフリをして、悪役を油断させるものだとベルは識っている。
 攻撃が当たった瞬間に、自分から大きく背後へと跳ねたベルは最大限にダメージを抑えている。
 しかしそうと知らぬ大きなコウモリは、空中で差し出される蔓に惑いながら主へと近寄らんと羽ばたき駆けて。
 その様子にベルは腕を大きく払って掌を広げて、アインが近づくことを制止した。
「アイン、僕のことは放って……逃げろ!」
 その時。
 かつん、かつん。
 頭上から響く、規則正しく何かがぶつかる音。
「お困りのようだな」
 かつん、かつん。
 それは杖先で、本棚の天井を叩いて歩む音。
「――偏食は、悪だ。例えそれが知識であろうと、例外は無い」
 まるで何かの講義を始めるかのような、前口上。
 軽い足取りで地へと降り立った彼女は、その顔を覆い隠すほど巨大なウィザードハットを被っている。
「一元的な見方は往々にして判断を誤らせるものだ。肝要な事は一を学ぶため、十を修めることだろう?」
 ミネルヴァの梟は、正しく智慧持つ者の空を飛ぶのだ。
 言葉を次いで、巨大な鍔の下よりいばら姫を鋭く見据える瞳は冴えた翠色。
「私は、スイカ。――翠華・楂古聿・パッフェルベル。貴様を討つ者だ。名は覚えても、忘れても良い。……どうせすぐ海へと還るのだからな」
 腰ほどの高さに幾つもの魔杖をぷかりと浮き侍らせたスイカは、ベルの前へと歩み出て。
「ご丁寧にありがとうございます。……でも、そうですわね。すぐに倒れるのですから、名乗っていただいた事ですし名前くらいは覚えておいてあげますわ」
 悪役の法則として、見得を切っている正義の味方に口を挟む事が出来なかったいばら姫は、やっとの事で口を開いて。
 改めてその身を覆う鋭い蔓を、まるで雨の如く振り下ろした。
 クール系ヒーローの言動を完璧にこなしたスイカは蔦の雨を目前にして、背後のベルをチラリと見やり。
 さらりと黒髪を揺らしながら、言葉を紡ぐ。
「……立てるのだろう?」
「ああ、勿論」
 少しばかり作戦とは違ってしまったけれど、これはこれでとても正義の味方っぽい展開だ。
 はたはたと飛ぶコウモリを肩へと宿すと、ベルは迫りくる蔓へと向かって蜃気楼の花を咲き乱れさせて。
「それでは、勝負を始めようか」
「ああ、やろう!」
 スイカの言葉にベルが頷くと、世界がなんだか重苦しさを増したように感じだ。
 本棚がカタカタと揺れている、本の頁がはたはたと勝手にめくれ上がっている。
 空気を震わせるほど膨れ上がった、スイカの魔力。
 携えた一本の杖を指揮棒のように振りかざしたスイカの動きに合わせて、泳ぎ侍る魔杖が真一文字に空に並び。
「……ッ!」
 そうして練り上げた魔力を一気に魔杖へと流し込めば、爆ぜる魔力の閃光は、全てを喰らい。全てを挽き潰す魔力の氾濫が敵へと襲いかかる。
「――書を愛する者達の平穏の為、討たせて貰う!」
「正義の本を読んだ僕たちは、とても強いんだ!」
 魔力の矢が花弁と化した蔓とぶつかり合い、膨れ上がった水流はバラを擂砕き。二人の魔法が、いばら姫を呑み込んで――!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

都槻・綾
「世界の半分が欲しいか」なんて
悪役っぷりへ
勿論、即刻御断り

文字から香る未知の浪漫
装丁の美
紙触りの温もりを
半分で満足できるわけがない

目覚めた後にまみえる世界は
美しいに違いないでしょう
然れど
眠り姫を起こすのは王子の口付けだけだったはずで

読むべき本を違えていますよ
世界征服の前に恋愛指南書を
其の前に、

――此処は図書館です
静かにしてください

何処からか取り出した眼鏡を押し上げ
図書委員長風の決め台詞
本の国だもの
此れもまた正義

迫り来る茨を天翔で躱し
多方向に跳んで翻弄
蔓同士を結ばせ
静粛に

抜刀し蔓を斬り薙げば
王子になった気分
欲しいですか、と艶やかに笑むけれど
私の心を奪うのは本だけだから

其のまま醒めずにお休みなさい


徒梅木・とわ
知識を集め、活かす
どんな分野であれそいつはとわの望むところさ、任せておきたまえ

何はなくとも口上、不意打ちなんて以っての外だ
遠からん者は音に聞け、近からんものは目にも見よ
我こそはエンパイアの陰陽師、徒梅木とわ
正義の名の下にキミを討つ者だ!

金剋木
木気を制すは金気
霊符から金気を刃と放ち向かってくる茨を払おう

無力化されずにどこまでやれるかは未知数だが……
とわをここに送った仲間はこう言ったんだ
対抗策はある、実践すれば対抗できる、とね
くふふ、心得なんかなくたって信じるさ、仲間だもの
さすればこの拳、非力なれども、特別な力無くとも――いや、無いからこそ! キミを討つこと適わん!
受けてみよ、乙女の鉄拳っ!



●信じる心
 徒梅木・とわ(流るるは梅蕾・f00573)は、勉学を好む狐である。
 知識を集め、活かし、作り上げる、処理をする。
 とわが幾度も何度も、何事にも重ねてきた事だ。
 ――本から得た知識を力に変える事なんて、彼女にとってライフワークのモノなのだから。
 遠からん者は音に聞け、近からんものは目にも見よ、なんて。
「――我こそはエンパイアの陰陽師、徒梅木とわ! 正義の名の下にキミを討つ者だ」
 朗々たる名乗りを吟るとわは、むせ返る程の緑を侍らせたオウガを見上げて。
「ふうん。王子様っていうより、勇者様みたいな話し方をするのねえ」
 重ねた戦いに迷路を組み上げる事は出来ずとも、捻じれ膨れ上がった茨の蔓はオウガの体を半ばまで呑み込んでいる。
 とわを見下ろすほどの身長と成ったオウガ――いばら姫はその瞳を閉じたまま、睫毛を揺らして戯けた言葉を紡いで。
「はて。そう云うあなたは、お姫様と云うより魔王のような出で立ちですね」
口元を抑えて甘やかに笑んだ都槻・綾(糸遊・f01786)が冗句を重ねれば、いばら姫は蔓の先に咲くバラの牙をかちんと鳴らした。
「まあ。わたくしが魔王様? そうだわ、世界の半分がやろう、とでも聞いた方が良いかしら?」
 一度聞いてみたかったのよ、なんて言う彼女に。
「いいえ」「勿論お断りだよ」
 綾ととわは言葉を重ねると、同時に獲物を手にとった。
「残念だわ。もう戦う事しか、道は残されていないようね!」
 悪役らしい言葉を吐いたいばら姫は、その身に纏った蔓を鋭い矢の如く地へと振り下ろして。
「くふふ、全くもってその通りのようだ。――さあ始めようか!」
 バックステップを踏みながら指先に霊符を挟んだとわは、真一文字に腕を払う。
 木気に金気は剋つ。
 此れぞ、五行の相剋。金剋木。
 刃と成った霊符は、向かい来る蔓を断ち斬り、打ち払い。
 とわとは逆に前へと踏みこんだ綾は空を蹴って一気に蔓の中心、いばら姫へと肉薄する。
「ねぇ――どうやら未だに目覚められていないようですね、読むべき本を違えてしまいましたか?」
 指先が頬へ届いてしまいそうな程の距離。
 眠り姫を起こすのは、王子の口づけだけであった筈で。
 彼女が読むべき本は、世界征服などではなく、恋愛指南書だったのかもしれない。
 それでも、それでも、いばら姫はかんばせを左右に振って。
「そうよ、最初から違えていたの。――わたくしは変わってしまった物語だもの」
 蔓をひと撫でした綾は、その言葉に瞳を眇めてしまう。
「成程、……ならば今あなたに送るべき言葉は一つのようだ」
 それは、それは、とても大切な事。
 この場で守るべき、たった一つとも言えるルール。
「――此処は図書館ですよ、静かにしましょう」
 空中を蹴って茨から逃れた綾は、懐から取り出したメガネを付けて。
 ブリッジをくいと擡げると、真面目ぶって言葉を紡いだ。
 そりゃあ。
 これだって、図書館の国の正義には違いない。
「ふふ、全くだわ! すぐに静かにさせてあげる!」
 いばら姫は蔦を大きく掲げると、綾へと顔を向けて。
「いいや、させないよ」
 噛みつかんと大口を開いているバラへと、背後より放たれたとわの霊符が花ごと刈り取った。
 背後からの攻撃に、思わずいばら姫は綾からとわに狙いを変えて。
 とわは桃色の瞳の奥に信頼の色を宿したまま、いばら姫へと対峙する。
 ――とわは決して腕っぷしが強い方とは言えないだろう。
 しかし、しかし。
 とわをここに送った仲間は対抗策を信じて実行すれば、どれほど強大な敵であろうとも対抗できると言ったのだ。
 その上ここには今、共に戦う者までいるのだ
 ああ、そうだ。
「くふふ、心得なんかなくたって信じるさ、仲間だもの」
 唇に笑みを宿したまま。
 とわは鋭く固められた蔓へのガードを固め――!
 しかし、そこに放たれたオウガの攻撃はびたんと目前に降り落ちただけ。
 とわがまばたきを二度重ねると……。
「静かに、と云ったでしょう?」
 唇に人差し指を当てて、綾が笑う。
 そう。
 彼はただ空中を跳ねていた訳では無く、蔓と蔓を結んでその動きを食い止めていたのだ。
 とわは思わず吹き出して、拳をぎゅっと握りしめて。
「……この拳、非力なれども、特別な力無くとも――いや、無いからこそ! キミを討つこと適わん!」
 いばら姫へと朗々と言葉を告げた。
 仲間がいれば、仲間を信じていれば。
 きっと、きっと、道は開けるのだから。
「受けてみよ、乙女の鉄拳っ!」
「眠ったまま、其のまま醒めずにお休みなさいな」
 そうして。
 刃を抜いた綾ととわの一撃が、同時にいばら姫へと叩き込まれ――!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

重松・八雲
【成敗!】
――ふむ、よくわからんが相分かった!
ではゆくぞ、呉さん吉さん!
強大な悪を前に最早待ったは無しじゃ!
あと正義の味方にはますこっとがつきもの、そして可愛いは正義と書いてあったでの!
たぬこさまも一役宜しゅう頼んだぞ!
正義の味方は平和もお約束もちゃあんと守らねばならぬ!

という訳で、膝に矢を受けた隠居とは世を忍ぶ仮の姿――その正体は!

控えおろう!このたぬこさまが目に入らぬか!(きゅるんとつぶらなおめめで敵を見つめる狸を掲げ)
む、よもやたぬこさまの顔を見忘れたか?
まぁ何にせよ世界征服なぞ言語道断!
世界に広げるはもふあんどぴーすの輪!

成敗ー!
(とか言い放ちながらUC全速力で先陣切って大立ち回り!)


呉羽・伊織
【成敗!】
今日は頼れる味方(道明)を連れてきた
…ハズが!
いや待って二人して何言ってんの
オレは裏方とか隠密向きなんですっこんでるネ?
その代わり後ろで効果音とか上げとくから!
コレも味方を支える立派な役目
君達が心置きなく正義を貫く為の協力ダヨ
えったぬこがやるならぴよこと亀もやる?
そっかー、じゃあ俺が二匹のマスコット役に回るネ(あれ?)


正体は唯の頓珍漢ダネ~!
(謎の効果音に飲まれる儚い叫び)
(その横で即席の可愛い衣装纏い可愛いポーズを決める二匹)

しかも色々滅茶苦茶な上に何この独擅場
嗚呼…最早此迄…

御覚悟ー!(投げ槍ながらも可愛いは正義もとい🐥🐢を守るべく――序でに大立回りを助けるべくUCで援護)


吉城・道明
【成敗!】
…手引書に倣えというならば、そうする迄
元より、征服を目論む不届者も見過ごせぬ
ああ、それに敵方が待ってくれるのは見得の時のみと決まっている――から気を付けましょう、とも記述があったからな、猶予は無い
伊織は少々うっかり気味なところもあるが、まぁ書の通りに動けば問題無かろう
そう遠慮せず、二枚目役を務めると良い
…否、失礼、三枚目(色物ますこっと)だったか
ともあれ、禍根を断つ為――正義(可愛い生物達)を護る為、尽力しよう

――流石風来坊御隠居、何と型破りな

伊織、それはやられ役の旗…?捨?台詞なるものらしいので気を付けろ
(御隠居用の勝確風曲を流してあげつつ、UC使い動物達護りつつ黙々と懲らしめに)



●世直し珍道中
「――ふむ、よくわからんが相分かった!」
 静謐を引き裂く傲然。
 色鮮やかな写真の表紙が眩い本を閉じた重松・八雲(児爺・f14006)は、相分かった顔で言い切り。
「やはり、色は決めておいた方が円滑かのう?」
 似たような本を手にしていた吉城・道明(堅狼・f02883)も、八雲の言葉に藍の視線を上げた。
「この手引に倣うのならば、色と言うよりは属性を分けた方が良さそうだが……」
「おお、属性か! ……ならば儂はあれじゃな、諸国漫遊の世直しを行うご隠居と言った所じゃな」
 八雲は先程書によって得た知識に、自らの歩みを重ねて。
 それからチラリを呉羽・伊織(翳・f03578)を二人は横目で見やってから、小さく頷きあって。
「そうなると……。まぁ、伊織は少々うっかり気味なところもあるが、まぁ書の通りに動けば問題無かろう」
「おお、そうじゃのう!」
「チョット」
「ああ、――そう遠慮せず、二枚目役を務めると良い」
「ではゆくぞ、呉さん吉さん!」
「あの……」
 伊織にとって理解し難い言動を繰り返す二人。
 あれ、おかしいな。
 頼れるみっちーを連れてきたハズなのに、不思議と話がジェットコースターじゃナイ?
「イヤ、マッテ! 二人して何いってんの?」
 いいや、伊織はノーと言える男なのだ。
 言った所で碌な方向に回った事は無いけれど、制止の出来る男なのだ!
「何を言っとる! 強大な悪を前に最早待ったは無しじゃ!」
 しかし。
 日和った言動の伊織を、八雲は大真面目な表情で一喝する。
「ああ。敵方が待ってくれるのは見得の時のみと決まっている――、から気を付けましょう。とも記述があったからな。猶予は最早無いと見て良いだろう」
 ――世界を征服せんと目論む不届き者を、見過ごす事は出来はしない。
 同意を重ねる道明も、今は真面目な話をしているんだと言わんばかりの凛とした視線。
「エー……、分かった。分かりマシタ。 オレは裏方とか隠密向きなんですっこんでるネ? その代わり後ろで効果音とか上げとくからネ!」
 やっぱり日和っぱなしの伊織は、君達が心置きなく正義を貫く為の協力ダヨと一人でウンウン頷いている。
「そうじゃ! 裏方と言えば、正義の味方にはますこっとがつきもの、そして可愛いは正義と書いてあったでの!」
 その言葉にそうだ、と思い出したように。
 八雲はふかふかの狸を掲げると、そのまん丸の瞳と視線を真っ直ぐ似合わせて。
「そういう訳で、たぬこさまもずずいと一役宜しゅう頼んだぞ!」
 正義の味方は平和もお約束もちゃあんと守らねばならぬ、なんて狸に声を掛ける。
 狸はぴょいと片手を上げて、やりますよのポージング。
「えっ。たぬこがやるなら、ぴよこと亀も正義のマスコットやる?」
 狸の良い返事っぷりに、伊織も思わずいつも連れ添っている動物達へ尋ねてみると。
 ひよこと亀は首を横に振って拒否。
 ノーマスコット、イエスヒーロー。
 ノーと言える男のバディ達も、ノーと言えるのだ。
「そっかー、じゃあ、俺がぴよこと亀のマスコット役に回るネ」
 流れで意味不明の宣言をする伊織に、道明はその瞳を眇めて――。
 ――否、二枚目では無く三枚目(色物ますこっと)だったな、なんて。
 内心、こっそりと伊織への評価を訂正するのであった。
「ともあれ、禍根を断つ為――正義を護る為に尽力しようか」
「うむ! 先へと行こうぞ、善は急げというしのう!」
 道明と八雲が意気込み歩みだす道。
「ん……」
 その背を追って歩き出した伊織は――。
 ……アレ?
 やっとの事で自分の立ち位置を自分で変な所に置いてしまった事に気づくのであった。

 噎せ返る緑の匂い。
 幾度も重ねられたであろう戦いの痕跡を追いかけた、三人と動物たちの前に姿を表した茨の蔓。
 花弁に咲いた歪な牙がカチカチと歯を鳴らして、威嚇をする。
「……なあに、貴方たち。道化師の方達かしら?」
 とぐろを撒く茨の蔓の中心で、瞳を閉じたままの少女を模した花弁――いばら姫はむやみに賑やかしい集団へと思わず尋ね。
「控えおろう! このたぬこさまが目に入らぬか!」
 八雲がキレイな瞳をきゅるんと敵を見つめるたぬきを掲げれば、いばら姫は首を傾いだ。
「……?」
「む、よもや、たぬこさまの顔を見忘れたか?」
「初めて見る生き物ね」
 素気ないいばら姫の回答。
「ほう! まぁ何にせよ世界征服なぞ言語道断! 世界に広げるはもふあんどぴーすの輪!」
 それでもたぬきを抱えたままの八雲はキリリといばら姫を見据え、全く動じぬ力強いお返事だ。
 重ねて何処かから、太鼓を叩くような雅なSEが響き渡り。
「膝に矢を受けた隠居とは世を忍ぶ仮の姿――その正体は!」
 八雲に合わせて、亀とひよこが衣装を身に纏って可愛くポーズを決めて。
「……唯の頓珍漢ダネ……」
 ごわあん、と響きわたるドラの音に飲み込まれる、頭を抱えた伊織のツッコミの声。
 もっとお腹から声出さないとツッコミは届きませんよ。
 ……なんたって。
 最初から最後まで、全部自分ひとりでご隠居様は名乗りきってしまったものだから。
 呉さん吉さんはなにかを見せる事も、控えさせる事すらできない。
「――流石、風来坊御隠居、……何と型破りな」
 道明が口元へと指を寄せて、ほつりと呟いた。
 しかし、しかしだ。
 たぬきにひよこ、そして亀を背に。
 何にせよ正義――、可愛いモノ達は守らねばならない!
「成敗ッッ!!!」
 吠えた八雲は連珠を握りしめると、堅牢なるオーラを纏って地を蹴り上げて。
 道明が勝利確定っぽい曲へと、音楽を切り替えてあげる。
 テンションの上がるアップテンポなリズムに乗って、八雲が拳を繰り出し。
「御覚悟ーッッ!!」
 めちゃくちゃになってしまった空気を切り裂いて、伊織は暗器を八雲の援護とすべく鋭く放った。
 そこで刀を抜いた道明は、ふ、と指南書を思い出した様子で。
「……伊織。それはやられ役の旗…? 捨……? 台詞なるものらしいので気を付けた方が良いぞ」
「もーーーーっ! 何なのよあなた達!」
 めちゃくちゃな空気のまま。
 襲いかかられたいばら姫は、応戦しながらも凄く困った声を漏らすのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

リル・ルリ
🐟櫻沫

正義……う、うん
そう、悟ったの櫻
ん?なんかいつもとそんな変わって……でも正義なんだね!
僕はいいこの人魚だもの、一緒にこの世界を守るんだ
これ以上好き勝手になんてさせない
この国にすむ皆の笑顔を、壊させなんてしない!

りるぴぃ変身できないからさ
泡沫と歌で君を盛り上げるよ…
え?は!水着だ!
きらきらする櫻宵、可愛いーと思いながらリズム良く歌う
綺羅星煌めく「星縛の歌」に鼓舞をこめて
水泡は君を彩り守るためのオーラの具現
こんなイバラに散らされる君じゃないだろう?
綺麗に斬って、咲かせてしまえ
舞い飛ぶ櫻宵を守るように歌を奏でる

(ヨルは楽しそうにぴょんぴょんして応援してくれてる。ますこと、だ)

正義、奥が深いな


誘名・櫻宵
🌸櫻沫

リル……私は正義が何たるか悟ったわ
私はちぇりぃぶろっさりぃ
麗しき花魁魔法少女
目の前に咲く醜い悪の華を屠り喰らいつくし
美しい桜に変えて咲かせるの!
悪は滅び、正義の桜が咲き誇るのよ

殺るしかないわ、りるぴぃ
りるぴぃは変身しなくても見事な花魁魔法人魚よ!
天候操作、雲間から射し込む天使の梯子がスポットライト
破魔できらきらしながら桜嵐を吹雪かせて、『麗華』
華麗なる花魁に変身よ!
(誘が、は?みたいな顔で見てるけど無視よ)

美しいこの国に、絶望なんて咲かせない
悪は伐採☆してやるんだから!
正義の焔属性宿してイバラごとなぎ払い
生命を喰らって桜に変えて
踏み込み、伐採してあげる

悪くないわ
正義の名の元に散りなさい



●かわいいは正義、だから魔法少女だって正義
 図書館の国は、大きな大きな図書館だ。
 柱だって壁だって、階段だって本棚で出来ている。
 図書館ではお静かに。
 普段はとてもとても静かな通路。
 でも今日は、その静かな通路の本のにおいに混ざって、緑のにおいが満ちている。
 蠢く茨。
 牙を剥くバラの花。
 その中心で瞳を瞑った少女は、まるで眠っているよう。
 しかし彼女は人では無い、彼女は人を模した食人花。
 ――オウガ、いばら姫なのだ。
 さて、そんな彼女が動きを止めて、何をしているかと言うと――。
「ねえ、リル、……私は正義が何たるか悟ったわ、……悟ってしまったわ」
 頬に掌を当てて、ほう、と息を零した誘名・櫻宵(貪婪屠櫻・f02768)は小さくかぶりを振って。
「え、櫻、悟ったの?」
 首を傾いだリル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)はペンギンのヨルを抱っこしたまま、櫻宵の整ったかんばせを見上げた。
「ええ、私は……私は、ちぇりぃぶろっさりぃ。――麗しき花魁魔法少女」
「それ、ずいぶん、久しぶりにきいたなあ。……そんなに魔法少女が、気に入っていたのかい?」
 その名を聞くのは、実に一年ぶり程であろうか。
 リルは空の色をした瞳を、ぱちぱちと瞬かせて。
「魔法のまじかるぱわぁで目の前に咲く醜い悪の華を屠り、喰らいつくし、美しい桜に変えて咲かせるのよ!」
「ん、……うん? あれ……、なんかいつもとそんなに変わって無」「正義の前に悪は滅び、正義の桜が咲き誇るのよ!」
 食い気味の櫻宵の言葉にリルはもう一度瞳を瞬かせてから、納得した様子でこっくりと頷いた。
 それこそが、櫻宵の正義だと言うのなら――。
 リルはいいこの人魚だ、その正義を信じよう。
 ――なんだって今日この国に来た事だって、この世界を守るためなのだから!
「わかった。これ以上、悪に好き勝手になんてさせない。――この国にすむ皆の笑顔を、壊させなんてしない!」
 ぐっとリルが拳を握って宣言すると、いばら姫はまだお行儀よく聞いてくれている。
「そうよ、りるぴぃ! 殺るしかないわ!」
「…………」
 格好良く宣言した所で呼ばれたその名。――リルの脳裏に過る、『りるぴぃ』の姿。
 大きなリボン、重ねられたヴェール。
 ふわふわのシフォンブラウスに――。
 もう、そりゃ、絵本にでてくるようなきゃるきゃるした人魚の衣装だ。
 恥ずかしさが尾鰭に響いて、リルはぴぴぴぴぴと鰭の先を揺らしてしまう。
「櫻……りるぴぃは変身できないからさ……、びーじーえむは、まかせてよ」
 変身できたとしても、多分しないけども。
 今リルできることを、今はやるだけだ。
「うふふ! 大丈夫よ、りるぴぃ。あなたは変身しなくても、見事な花魁魔法人魚だわ」
 くすくす笑った櫻宵は、片手をばっと真っ直ぐに立てて。
「……え?」
「行くわよ!」
 リルが疑問を置き去りに、櫻宵はその場でくるりと一回転。
 何処かから差し込んできた陽光が櫻宵を照らし出して、まるでスポットライトの如く。
 かん、こん。
 その場でステップを踏めば、はらはらと零れ落ちる一枚の桜の花弁。
 地へと花弁が落ちた瞬間、そこから膨れ上がるように舞い散った桜吹雪が櫻宵を彩った。
 枝垂れ桜の翼が一度身体を覆い隠したかと思えば、ちからを纏ってきらきら瞬いた櫻宵の姿は――。
「は! み、水着だ!?」
 目をまん丸くしたリルは、はたと思い出したみたいに歌い出す。
 これが魔法少女への変身ならば、リルはやることが有るのだから!
 びーじーえむ係。
 歌に合わせて、リズムに合わせて、ぷくぷくと舞い上る水泡。
 ――櫻宵を護る、リルの心。オーラの具現化。
 桜吹雪と水泡が櫻宵を覆えば、ゆっくりと瞳を開いて。
 唇に紅を引くように指先をなぞった魔法少女(水着SSRVer)は、いばら姫を真っ直ぐに見据えた。
「――麗しき花魁魔法少女、ちぇりぃ☆ぶろっさりぃ! 華麗なる花魁に変身よっ!」
 ヨルがぴょーいとその横で跳ねて、魔法少女のマスコットとして十分な立ち位置を確保する横。
 じっと変身する様子を様子を見ていた誘が、は?? みたいな顔をしている。
 しかし、マスコットとしては失格なので、櫻宵は無視をする。
「美しいこの国に、絶望なんて咲かせない! ――悪は伐採☆してやるんだからっ!」
 ヨルがぴょーいぴょーいと跳ねて、魔法少女のマスコットとして愛嬌を振りまく横。
 めちゃくちゃ怪訝な表情の誘は、こいつ正気か?? みたいな雰囲気を醸し出している。
 しかし、クソ前世はマスコットとしては失格なので、櫻宵は無視をする。
「え、何? どういう状態なのかしら?」
 お行儀よく名乗りが終わるまで待っていたいばら姫は、いつの間にか歌声に思考を溶かされていた。
 『悪役』に徹する事を忘れ、思わず『素』で呟いたその言葉。
 ――刹那。
 歌声に乗せて水泡を纏ったちぇりぃ☆ぶろっさりぃは一気に地を踏み込んで。
 太刀で茨を掬い上げる形で振り抜くと、一気に蔓を断ち切り薙ぎ払う。
 ――そう、そうだよ。
 そんな茨に、キミは散らされるような軟な櫻じゃないだろう。
 綺麗に斬って、『咲かせて』しまえ。
 艶やかに清らかに響くリルの歌声に混じる、櫻宵への信頼の音。
「正義の名の元に、――散りなさいッ!」
 はらはら散る、桜の花弁。
 歌声に導かれるように、櫻宵はいばら姫へと向かって刃を振り抜いた!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

終夜・嵐吾
せーちゃん(f00502)と

正義の味方か…
なんかわしらとは程遠い…しかし本読んだしばっちりじゃね
さらにこれでばっちりじゃろ!
正義の味方にはマスコットキャラがおる
サンタさんは正義側じゃろ
じゃからサンタさんのおつきのトナカイも正義の味方
去年のクリスマスにもろたトナカイの着ぐるみを着よう
(せーちゃんのは鹿じゃけどまぁええやろ)

では参ろうか!
正義の味方、熱き心!と狐火で攻撃を

茨ならよくわかっとる
虚より素直じゃから燃やしやすいわ

攻撃されてもそのまま前に
どれだけ傷ついても果敢に前へすすんで、燃やし尽くそう
せーちゃんが水の矢じゃし戦隊ものみたいじゃな
トナカイ戦隊出動!などと笑って――せーちゃん鹿じゃけど


筧・清史郎
らんらん(f05366)と

正義の味方か
俺もよくは分からないが、初めての経験は心躍る
けれど、確りと正義の書は読んだからな(微笑み

おお、さすがはらんらん
サンタさんは正義の味方に違いない(こくり
それに従うトナカイさんも正義の動物さんだな
俺も昨年サンタさんに貰ったトナカイさん着ぐるみで臨もう(実は鹿

これで俺達も正義のトナカイさんだな(正義の鹿さんへと変身し笑み
では俺は、桜と水を舞わせてみようか
悪い輩は、この正義のトナカイさんが成敗してやろう(きり

戦隊ものか、それは楽しそうだ
ああ、トナカイさん戦隊出動、だな(雅な鹿
敵の茨は抜いた刀の連撃や衝撃波で叩き斬り
トナカイさん戦隊の連携技で敵を爆散させよう(微笑み



●となかい戦隊 となかいさんだー うぃず しか
 広い広い図書館の国。
 柱だって壁だって、階段だってぜーんぶ本棚。
 静謐に満ちていた館内は、今は剣戟が響くばかりで。
 音の中心には、萌え伸びた茨の蔓。その先に咲く異形のバラは今にも噛みつかんと、その牙をむき出しにしている。
 それらを侍らせるは、まるで眠っているかのような翠の姫。
 オウガ――いばら姫は瞳を開く事も無く、どこか呆れたような声を漏らした。
「……どうしてそうなったのかしら?」
 質問の先。
 ――いばら姫に対峙しているのは、着ぐるみに身を包んだ終夜・嵐吾(灰青・f05366)と、筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)だ。
 嵐吾がかぶりを振るに合わせて、揺れるトナカイの角。
 まるで着ぐるみを着ることが当たり前の事のように、きりりと笑んだ彼はオウガを見据えて。
「ふ、サンタさんは正義の味方じゃろ?」
「ああ、それに従うトナカイさんも正義の動物さんだな」
 同意に頷き、雅やかに微笑む鹿の着ぐるみ。
 清史郎は『正義の味方』として、オウガを見上げる。
 そもそも。
 この衣装は怪盗を捕らえるためにサンタさんが用意してくれたものなのだから、勿論由緒正しき正義の衣装である事は間違いは無い。
 ……いやまあ、せーちゃんのは鹿じゃけど。
 嵐吾は清史郎が鹿である事くらいちゃあんと分かっているけれど、彼が楽しげなのでまあええか、と昨年末から流しっぱなしだ。
「ええと……、分からないけれど分かったわ。――それが貴方たちの正義だというのね」
 低い声で囁いたいばら姫を覆う茨の蔓が、一斉に蛇のように這い始めて。
 悪役は正義の味方がどれほど飲み込めない言動をしていても、飲み込んであげる度量も必要なのだ。
「そんな正義全て、叩き潰してあげるわ! 全て、食べてあげるわ! 今日はトナカイのタルタルステーキね!」
 彼女が吠えると同時に、ぎゅる、と巻き上がった茨の先は、槍の如く鋭く二人を狙う。
「させんよ!」
 大きく腕を薙ぎ払った嵐吾の動きに合わせて、トナカイさんの着ぐるみが可愛く跳ねて――。
「正義の味方といえば、熱き心じゃろ!」
 正義の心に応じるかのように膨れ上がった熱い熱い狐火が、翠の槍へと叩き込まれ。
 嵐吾の元へと攻撃が届く前に、槍を焼き喰らってしまう。
 なんたって茨の事ならば、嵐吾はよーくよく識っている、わかっている。
 ――虚よりもよっぽど素直な動きをするこの茨蔓達を燃やす事等、彼にとって造作も無いことだ。
 文字通りの茨の道に、火の粉を侍らせた嵐吾はぐんと踏み込み、先へ、先へ。
「――正義のトナカイさんとして、悪い輩は成敗してやろう!」
 清史郎の手を包むかわいいふこふこが、示す先。
 嵐吾が炎ならば、清史郎は水を。
 はらはらと桜の花弁を纏った水の矢は、先へと進む嵐吾を狙う茨へと向かって、一斉に放ち。
 同時に抜いた刀で、かちかちと牙を鳴らすバラを切り落とす。
「ふふ、せーちゃんが水の矢じゃし、まるで戦隊ものみたいじゃな。――トナカイ戦隊出動!」
 なんての、と笑って。
 炎を纏った嵐吾は、重心を落としながら更に踏み込み。
 鋭く炎を叩き込むと生まれた隙間へとステップを踏んでいばら姫への道を一直線に駆け。
「おお、それは楽しそうだ。トナカイさん戦隊出動、だな!」 
 炎に燃されたタイミングとずらして、蔓を貫く水の矢。
 正義の味方のトナカイさん。しかも戦隊として戦うなんて、全く初めての経験だ。
 好奇心がくすぐられっぱなしの清史郎は逆袈裟に刃を振り抜いて蔦を叩き斬ると、楽しげに微笑んで。
 ――では、参ろうか。
「トナカイさん戦隊の連携技で敵を爆散させてやろう」
「そじゃの、トナカイさん戦隊は連携が得意じゃからの」
 一瞬視線を交わしあった二人は、同時に息を呑んで。
 刹那。
 燃え盛る狐炎と、冴えた水の矢が同時に幾つも宙へと顕れ――。
 ……。
 …………いや、まあ。
 せーちゃん鹿じゃけどね。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ブーツ・ライル
【DRC】

煙で咽せているメトロの背を撫でてやる。
が、ポーズをとれと言われたので、二人に倣って俺も腕組みを。
「この世の、あー」
この世の罪と悪が許されなければ、あと許されないのは何だ。
一瞬の思考の後。
「…俺の大事なものを傷つけるのは、許しません」
さあ、蹴られる覚悟は出来ているか?

燕とメトロを極力庇う。
伸ばされる茨があれば蹴り飛ばし、彼らの活路を拓く。
一瞬の好機でも逃さず、UC【Avenger】発動。
攻撃と同時に地形を破壊し、燕とメトロへ繋ぐ。

──さあ、
お勉強の時間は終わりだ。


メトロ・トリー
【DRC】

ぼくは正義!
任せておくれよ!かわいいは正義だろう?

「オラヨその首置いてきなア!!!」
あれ?違う?あれれ?じゃあもういっかい!

気を取り直して、ぼくはセンターで腕組み!
爆発!煙!ゴホゴッホ!ありがゴッホゴホ!

「この世のぉ悪を、ゆるしません!」
ここでポーズ!ほら!ブーツ先輩もちゃんとやって!
「我ら正義のウサチャントリオ!が断頭しちゃうゾ!」

きゅぴーーーーーーん!
スモークマシマシで頼むよガハ!!!

もう!喉が痛い!なんて悪い子!
やってしまいなさい燕くん!ブーツくん!

最後も任せておくれよ!
ヒーローは最後に巨大化しなきゃなんだろう?

さあさ!猫やい!
ぎゃ!ぼくまで食べちゃやだ!にげろにげろ〜!


金白・燕
【DRC】

ふむ、はい
正義の味方ですね?参考書は熟読しましたから、職務に差し支えは無いでしょう
さあ演じるのならばやり切りますよ、お仕事ですから

メトロの右側に立ち、真似して腕組みを
あら、爆発ですか?
ほら骨兎がびっくりしちゃうので言っといて下さいね
「この世の罪を許しません!」
はい、ポーズ
「首を跳ねられる準備はできていますか?」
にっこり

はい、格好良く飛び上がって鎖を巻きつけた拳を叩き込みましょう
え?戦い方が正義の味方らしく無い?
こういうヒーローが居たって良いでしょう
私は社会と戦う人の味方ですぱーんち!



●ヒーローのお仕事
 さあさあさあ、お仕事だ、お仕事だ!
 今日のお仕事は、観光ではありません。
 今日のお仕事は、世界に仇なす不届き者を、こう、ぱーんちして、どかーんで、そう! 今日はなんたって正義だい!
 そういう訳でぼくたちは今、図書館の国にきているのであった!
 ところできみ、この部分でおはなしするお仕事には、お給料はでるのかい?
「いやあやあ、ごらんよきみ! ぼくは正義さ! ウンウン、任せておくれよ! かわいいは正義なんだろう? ヤ! ぼくはかわいいものだからね! え……? ぼくってばすんごいかわいい……、つまりはぼくが正義ということだよ!」
 ぴょーいと跳ねてから、可愛いポーズで敬礼したメトロ・トリー(時間ノイローゼ・f19399)は、高い高い本棚の上。
 本棚の入り組んだ図書館の国は、階段だって壁だって柱だって本棚だ。
 本棚と本棚の間に作られた道に、噎せ返る程の緑のにおい。
 丁度見下ろした先には茨の蔓に囲まれた、お姫様が眠っている。
「はい、勿論正義ですよ」
 お仕事の予習ならば幾らしたって苦ではない。
 職務であれば、正義の味方だって演じきって見せよう。
 だれよりも参考書物を読み込んでいた金白・燕(時間ユーフォリア・f19377)は、メトロの右側で腕組みをしながらいつもの張り付いたような薄ら笑みのまま、お姫様――オウガのいばら姫を見下ろして。
「……」
 メトロを囲む形で左側に配置されたブーツ・ライル(時間エゴイスト・f19511)は、特にポーズを取ることも無く立ち尽くす。
 まあ仕事だ、仕事ならばやりぬかねば成らぬ、が。
 この場合は、どう対応するのが正解なのだろうかとブーツは真面目な顔のまま。
「オラヨ、姫様やい! その首置いてきなア!!!」
 メトロがちょっと人前では見せられないサインを指で作って、ぎゃははと笑って。
 それからぴたり、と笑うのを止めた。
「あれ? これ違う? ふうん、あれれ? そうか、そうだねぇ、うんうん、ぼくは少し間違えてしまったのであった! 大丈夫さ、ぼくはやり直す権利を沢山もっているのだから! 準備は良いかな牡蠣くん達! きゃは! 君たちはもうやり直せなかったね、残念残念! でもでもぼくはもう一度やりなおせるのさ。もういっかーい!」
 気を取り直したメトロは燕とブーツに挟まれて、真ん中でぐぐっと腕組み。
 正義の味方が三人集まれば、自然を巻き起こるのが爆発ってモノだろう。
 景気よく背景が爆ぜれば、首を傾いだ燕の後ろから巨大な骨が大口を開いて本棚へと噛み付いて。
「ウゲッ、ゲッホ、ウゲッ、ゴッホゴホ!」
 爆発の煙に撒かれたメトロは盛大に咽せに咽せた。
「……大丈夫か、メトロ」
 そんな彼の背をさすってあげるブーツ。
「あら骨兎、そんなものを齧っても職務は達成できませんよ」
 まったく、と燕は肩を竦めて。
「爆発するなら、骨兎がびっくりしちゃうので言っておいてほしかったですね」
「ウエッゴホ、ゲホッ、ゴホ! うん、げほっ、うんうんうん、まって、ブーツ先輩ちゃんとやって! ポーズ!」
「……あ?」
 だいぶ自由行動になりかけていた名乗りを、メトロはリセット。
 二人の真ん中で腕を組み直した彼は、ぴんと長い耳を揺らして。
「この世のぉー悪を、ゆるしません!」
 メトロに倣って燕も腕組みポーズを取り直し。
 背をしゃんと伸ばして、カメラ目線。
「この世の罪を許しません!」
 ブーツも言われるがままに、腕を組んでポーズを取って――。
「この世の、……あー」
 こんな名乗りをするなんざ、全く聞いてなかったな。
 この世の罪と悪が許されなければ、あと許されないのは何だ?
 元より悪い目つきが、更に悪くなる。
 眉間をぎゅっと一度寄せるブーツ。
 あー……。
「……俺の大事なものを傷つけるのは、許しません」
 ああ、そうだな。
 許せないだろうな。
 血色の瞳がしっかといばら姫を睨めつければ、メトロがきゅぴーーーーーーん! と、きゅぴーーーーーーん! なポーズを取った。
「我ら! 正義のウサチャントリオ! がァ~~~、断頭しちゃうゾ!」
 ようし、スモークをたいておくれよ!
 たっぷり、たっぷりね!
「ゲホ、ガハゲホハハハ!! ゴホッ! なんだい、なんだい! 煙くんは時計くんの次の次くらいに最悪だねえ! もう!喉が痛い! なんて悪い子! もう、もう! 全然ゆるせないや!」
 煙が満ちた事でめちゃくちゃ咽たメトロは自然と溢れた涙を拭ってから、もう一度いばら姫をぴしっと指差して。
「やってしまいなさい燕くん! ブーツくん!」
 にっこりと微笑んだ燕が地を蹴って。
「首を跳ねられる準備はできていますか?」
「蹴られる覚悟は出来ているか?」
 合わせて降魔相のブーツも地を蹴った。
「きゃは、きゃはは! 準備は完了さ!」
 最後に可愛らしくメトロが地を蹴れば。
 お行儀よく彼らの名乗りと降りてくるのを待っていたいばら姫は、蔓を蠢かせて――。
「まあ、王子まっ!?」
 悪役の名乗りを許さぬ、降り落ちてきた燕の鉄拳。
 鎖を巻きつけた分、その攻撃力はマシマシだ。
「あ、あなた、正義の味方がそういう事をして良いのかしら!?」
 蔓を一斉に叩き込んで、燕の身体をいばら姫は押し返して。
「えっ、こういうヒーローがいたって良くないですか? ほら、私は社会と戦う人の味方ですぱーんち! みたいな」
「まるっきり悪役の理論だわ!」
 押し返した燕へと向かって茨が振り上げられ、バラが大口を開いて――。
 そこに割り入ったのはブーツの姿だ。
 バラに腕を喰らわせながら無理矢理踏み込み、足を上げて。
「――さあ、お勉強の時間は終わりだ。蹴られる覚悟は、出来ているみたいだな」
 差し出した反動だけで蹴り上げたというのに、その一撃は茨ごと引きちぎり、踏み潰す程。
 床がひび割れ、爆ぜるタイル。
「首を跳ねられる覚悟も、出来たという事でしょう?」
 燕の張り付いた笑みが、毒茨の刺青に覆われる。
 鎖を巻きつけた拳の手袋と、上着の隙間に見える少しだけ覗く肌をも浸食する毒薔薇の棘。
 ――大切な大切なレディより賜った棘の毒は、燕にとって誇らしい事ですらある。
 重ねて殴りつければ、殴られた蔓が二つに裂けた。
「ふっふーん、ぼくは学んだよ、ぼくは識っているよ。ヒーローは最後に巨大化しなきゃなんだろう!」
 おいでよおいで。
 やい、やい、猫やい! 最後はおまかせさ!
 すきなだけ、食べておしまい!
 メトロが猫を大きく大きく巨大化させると、猫は大口を開いて。
 刹那。
 ぽたぽたぽた。
 突然うさぎたちへとふりおちてきた雨は、なんだか暖かい。
 いいや、いいや。見てごらん。
 ざらざらのヤスリみたいな舌から、鋭い牙を滴って。
 これは確かに、猫から滴る生暖かい唾液に間違いない。
「……おい、メトロ。コイツ、俺たちまで食べようとしてないか?」
「あら、本当ですねえ」
「ぎゃっ! ぼ、ぼくまで食べちゃ、いやだいやだ! にげろにげろ!」
 メトロのその姿は、まさしく脱兎。
 ――猫はばくん、とその口を閉じて。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

陽向・理玖
正義の書!
何だこれすげぇ
いやぁ勉強になったわ
これ持って帰れない?駄目?


あってもなくてもいつも通りだけどな
龍珠弾いて握り締めドライバーにセット
変身ッ!
衝撃波撒き散らしダッシュで間合い詰めグラップル
拳で殴る
つーか…眠り姫なのに攻撃してくんの?
狂暴な薔薇だなぁ
大体きもいし
拳の乱れ撃ち
雷っぽいエフェクト

茨は見切り高所へジャンプ
避けきれない分は武器受けし部位破壊
思いっきり引きちぎる
全部千切ればUCも使えるだろ
大体こんなんで俺を止められると思うな
止めるのはあんたじゃない
俺だ
落下のスピード借りて蹴りで吹き飛ばし
残像纏ってダッシュで後追いUC
王子じゃなくて悪ぃな
背後で爆発

世界征服なんて阻止してやる
何度でもな


九之矢・透
正義の味方か、ちょっと新鮮だな
家族とのごっこ遊びの時は大体悪者役だからさあ……
お、正義の書ってコレかな?どれ

【SPD】

高い所からいばら姫を探す
見つけたら大声で

ちょっとまったあーー!
それ以上は好きにはさせないぜ!

回転とかひねりを入れて目の前に飛び降りる
到着と同時に緑色の煙爆を後ろにドーン
イイ感じになる様に念じる!

恥は故郷に置いて来たんで
イエーガーエメットと呼んでおくんな!
と見栄を切り、

オウガと猟兵、避けられない戦いだろうが
これだけは聞かせてくれ
「アンタの心に良心は、正義の心は無いのか??」

く、流石強敵だな……
だがアタシには頼もしい仲間が居る!
来い、「狗解」!!姫に喰らい付け
共にアタシも戦うぜ!



●正義のヒーロー
 本、本、本。
 本棚に詰め込まれた本は、知識は、数え切れぬほど。
 壁も、端も、階段も。
 本棚と本で構成された室内に、密やかに茨の蔓は萌え伸びて。
 その中心で眠る少女は、身体に幾つもの傷を抱えていようが安らかな表情に見えた。
 ――それもそのはず。
 人に見えるお姫様は、ただの食人花の疑似餌であるのだから。
「ちょーーーーーーーっと、まったあーーーーーッッ!」
 高所から響いた、朗々と響き渡る制止の声。
 蠢く茨の蔓の先。
 異形の牙が並んだバラの花が一斉にそちらを見上げた。
 刹那。
 くるん、くるん。
 空中で二回転。
 芸術展はなかなか高めだろう、スタンッ! という音もなかなかヒーローっぽい。
 帽子をきゅっと抑えてから。腕組みをしてにんまりと笑った九之矢・透(赤鼠・f02203)が茨の前へと降り立つと、彼女の背の後ろで緑色の煙爆玉が炸裂した。
 うっ、ちょっと煙い。
 くしゃみをしないように一度息をきゅっと呑んだ透は腕組みを解いて、大きな動きで茨の中心――いばら姫を指差して。
「それ以上、アンタの好きにはさせないぜ!」
 緑色の煙が透を飲み込む、よーし良い感じだ。
 帽子の鍔を目深に下ろすと、いい感じの目隠れ具合になっているに違いない。
 鍔に少し隠された翠の視線は、格好良い角度で確かにいばら姫を見据えている、ハズだ。
「アタシはイェーガー……、イェーガーエメットと呼んでおくんな!」
 ――家族とのごっこ遊びの時は皆、透より小さいから透はいつだって悪役を担っているもので。
 なんだかこんな名乗りは、ちょっと新鮮だな、なんて。
 必要以上の笑顔が溢れてしまうのは、仕方がないのかもしれない。
 透がキメにキメ終えた、その時。
「お邪魔するぜ、っと」
 上層から飛び降りて来る、おひさまみたいな髪をなびかせた人影。
 柔らかな着地で透の横へと降り立ったのは、陽向・理玖(夏疾風・f22773)であった。
「……!」
 新たな猟兵の出現に、透は小さく息を呑む。
「――変身ッ!」
 短い宣言。
 理玖は慣れた手付きで、しゃらと念珠を宙に弾き。
 横薙ぎにひったくるように珠を掴むと、そのまま龍の横顔を模したバックルへ嵌め込んだ。
 それはまるで、魔法のように。――彼が腕を下ろす頃には、その姿は全身装甲に包まれている。
「……お、おおーい!? そんなのヒーローじゃん!!」
 ごっこ遊びでは収まらぬヒーローっぽいヒーローの登場に、思わず透は口を出してしまった。
 えっ、ずるい、カッコイイ!
「おー。いつも通りだけど――今日は特にヒーローだぜ。……あの正義の書っての、すげぇ勉強になったわ」
「あ、そうだよな! 読んでて面白かったよなー」
 理玖と透が少し和んだ所で、いばら姫はきち、ときしむような音を立ててバラの歯を剥き出して。
 ゆうらりと宙を泳ぐ、茨の蔓の群れ。
「まあ、二人も王子様が来てくれたのね? ……どちらから食べさせてくれるのかしら? わたくし今日はもう、沢山お客さんが来ては帰るものだから、おなかがぺこぺこなのよ」
 その言葉は、人では在りえぬ言葉。
 かぶりを小さく振った透は、翠の視線をいばら姫へとまっすぐに向けて。
 オウガと猟兵である限り、戦いは避ける事は出来ぬであろう。
 しかし――、これだけは聞いておかねば成らぬ、と。
「……アンタの心に良心は、正義の心は無いのか?」
「もちろんありますわよ。……でも、それって、ご飯に向けるものでは無いでしょう?」
「……そうか」
 透が言葉を交わし終えると同時に、猟兵達へと殺到する茨の蔦。
「あんたのごちそうの王子じゃなくて悪ぃけどさ、あんたの理論はちょっと、俺にゃ受け入れられないな」
 地を思い切り踏み込んだ理玖が迫りくる蔦へと拳を叩き込むと、その衝撃で勢いを弾き返し。
 紫電が散って、身を低く構えた彼は片手を地について下半身をぎゅっとバネのように引き絞ると、まるで鎌の如く蔓をねじ切り蹴って。
「眠り姫なのにペラペラ喋るし攻撃してくんの、全然眠って無くねぇ? なんかバラもきもいし」
「……それは、うん、たしかに」
 こくりと息を呑んだ透が、思わずその説得力に頷いてしまう。
 しかし納得してばかりもいられないもので。
「――来い、狗解!」
 透は真っ直ぐに姫を指差すと、音もなく降り立った猟犬へと指示を飛ばす。
 連撃を叩き込む理玖は蔓を引きちぎって、着実に姫へと距離を詰めて――。
「あんたさ、――こんなんで俺を止められると思うなよ」
 とん、と両腕で蔓を叩いた理玖は、早く、高く、空を跳ね。
「――止めるのはあんたじゃない、俺だ」
 そして空中で身を捻った理玖は、いばら姫へと肉薄して勢いよく蹴り上げると返す拳でもう一撃。
 同時に、透の呼び出した猟犬が首筋へと食らいつき。
 蔓を蹴り上げて身体の制動を行った理玖が、両足をねじり込むようにドロップキックを叩き込んだ。
 強かに身体を打ち据えられたいばら姫は、その身を跳ね飛ばされ。
 その隙を逃すこと無く透が投げナイフをその額に滑り込まると、ぐっと息を呑んでから言った。
「世界征服なんてぜったいに邪魔してやるよ!」
「ああ、俺達が何度でも、な」
 理玖は頷き、ぎゅっと拳を握りしめ――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

夕時雨・沙羅羅
正義の味方、それは高きにあり、弱きを助け、変身するものと見たり
…あまり大きな声は得意では無いが、代わりに大きさで勝負しよう

僕らのアリスラビリンスを壊し、アリスや愉快な仲間たちをいじめたわるいやつら
この雨の守護者シャラライダーが退治してくれよう

空中浮遊で高い所から宣言
ビシッとポーズを決め、クール系ヒーローでいこうと思う
自前の歌唱でテーマソング(とてもかっこいい)を歌いながら【水】(フォーム・オンディーヌ)に変身
おおきなみずのさかなを後光の光源で照らしたら
必殺・雨神の怒り[プリュイディユ・ラージュ]
ざぱぁんと派手な光る水飛沫と共に攻撃

そのままテーマソングと共に、空中からオウガを水流で攻撃
正義は勝つ



●たたかえ! しゃららいだー!
 決して大きな声は、得意ではないけれど。
「僕らのアリスラビリンスを壊し、アリスや愉快な仲間たちをいじめたわるいやつら」
 高い高い本棚の合間を縫って、君のために集めた物が透ける鰭で宙を蹴る。
 そうして姿を見せた夕時雨・沙羅羅(あめだまり・f21090)は、くるりくるりと二度回った。
 腕をぐうるりと回してから、腕を組む。
「――この雨の守護者、シャラライダーが退治してくれよう」
 正義の書によって。
 正義の味方とは高い場所より現れて、変身して弱きを救うもの、と沙羅羅は識った。
 その結果――。
 沙羅羅はクールな表情で茨を侍らせる緑色のお姫様を見下ろして、自作のテーマソングを歌い出したのであった。
「……!!」
 それはいばら姫にとって、危険な事である事はすぐに彼女は理解ができた。
 テーマソングがかかりだしてからの戦いは悪役にとって非常に苦しい展開になる事は、悪役心得の中でも、随分前の頁に記されていた。
 ピアノアレンジでなければまだ生き残れる可能性も高いが、なんと言ってもそれでもアカペラソロアレンジだ。
 音源が少なければ少ないほど、危険度は上がってくるものなのだ。
 コレまでの戦いの疲労が蔓を操る力を、重くだるく感じさせる。
 しかし、――まだ彼女は負けるわけにはいかない。
「わたくしは、まだやる事がございますの!」
 ――この発言だって、死亡フラグと生き残りフラグギリギリのラインの発言なのだ。
 高らかに響く沙羅羅の歌声。(とてもかっこいい)
「……変身」
 一瞬だけ音楽が途切れ。
 同時に大きく大きく膨れ上がった沙羅羅。
 これぞ、――フォーム・オンディーヌ!
 沙羅羅の力を増幅させ、移動速度を高める巨大な怪人にも対応できる変身フォームである。
 天井を覆ってしまうかと思うほどにおおきなおおきな水のさかなの奥が、ぴかぴかと光に瞬いている。
 揺れる水形に光が地に落ちてそれは幻想的にも見えるが、いばら姫はふるふるとかぶりを振って。
「わたくしは、……負けられませんのよっ!」
 彼女が吠えるように、空へと向かって射出した茨の蔓。
 その先に咲いたバラが牙を剥き大口を広げるが――。
「僕も、負けられないんだ」
 小さくとも、よくよく響く沙羅羅の声音。
 必殺・雨神の怒り(プリュイディユ・ラージュと読みます)。
 光る水飛沫が鋭く爆ぜて、蔓を貫き。
 甘やかにサビへと入り、響きわたるテーマソング。
「ああっ、この展開は本当に不味いですわ……っ!」
 えーん。
 かちかちとバラの牙が震え。
 格好いい曲調のサビが終えた、瞬間。
 おおきなおおきな水の魚より溢れた水流が、いばら姫を呑み込んだ。
「ああーーっ!」
「正義は、勝つ」
 その身体を元の大きさに戻しながら、沙羅羅は呟き――。
 ところで、このライダー全くなんにも乗ってなかったですね。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふええ!?正義の味方って、恥ずかしいですよ。
でも、この正義の書には引っ込み思案の女の子が魔法少女に変身して、悪と戦うってありましたし、私でも変身すればできますよね。
あ、そういえば、私は変身するようなユーベルコードは使えませんよ。
どうしましょう。
ふえ?ガジェットショータイムを使えばいいって、アヒルさん流石です。
魔法のステッキのガジェットさんを呼び出せばいいんですね。

・・・、そういえばアヒルさんは別の正義の書を読んでましたね。
なんで、(巨大は無理だったようですが)ロボットに乗り込んでいるのでしょうか。
アヒルさんがノリノリでカッコいいセリフを言っているのですが
私が通訳しないといけないんですか。



●スーパーロボットまほうしょうじょアヒル
 大きな大きな図書館の国。
 壁にも、柱にも、階段も。
 ぜーんぶ本棚で出来ている。
 たくさん、たくさんの物語。
 たくさん、たくさんの知識。
 この中から必要な知識を得るためには、なかなか探すのだって大変であったけれど。
「ふええ……、せ、正義の味方ってこんなに大変で……、……恥ずかしいのですよ!?」
 本を閉じたフリル・インレアン(大きな帽子の物語はまだ終わらない・f19557)は大きな帽子の鍔を抑えて、思わず顔を隠すように。
 フリルは変身した女の子が、悪と戦うときの心得を知った。
 それでも、それでも。
「私は変身なんて、できませんよ……?」
 心得を知ったとしても、魔法少女になる事はすこうし難しいように思えた。
 そこへはたはたと飛んできたのは、白いアヒルさん。
 アヒルの形をしたガジェットの、アヒルさんはフリルの周りをくるくると飛び回り。
「ふえ……? ああ、なるほど! アヒルさん流石です!」
 アヒルさんの提案に、フリルはこっくりと頷くと意気揚々を歩みだす。
 ――上手に行くと良いのだけれど。

 図書棚と図書棚の間を埋め尽くすように伸びた、緑の茨。
 牙の並んだ異形のバラは、牙をむき出しにしてカチカチと音を鳴らす。
「そ、そこまでですー……っ、あっ、ふええ……、い、一斉にこちらを見ないでいただけると、う、うれしいですよ……」
 朗々、……とはいかぬフリルの名乗りに一斉に赤いバラがフリルを見た。
 大きな帽子の鍔で先程と同じ様に、一度顔を覆ったフリルはそれでもバラを見つめ返して。
「ま、魔法少女……ふりる、参上ですっ」
 普段よりもっとキッチュでポップ、キャッチーな形へと変わってしまった衣装。
 ハートの散りばめられたステッキを握りしめたフリルは、ぷるぷると生まれたての子鹿みたいに立ち尽くしたまま――。
 横に立つロボットを見下ろした。
 乗り込むというよりは、取り込まれてしまったような形のアヒルさんは、一生懸命なにかを言っているようで。
「……アヒルさん、それ、わたしが通訳しないといけないんですか……??」
 そんな格好いい台詞を、わたしが……?
 ……ふええ。
「今回の猟兵さんたちは、ずいぶんと可愛らしいのねえ」
 いばらの蔓のまんなかで、まるで眠ったみたいに瞳を瞑ったままのおひめさま――いばら姫が言葉を紡ぐと同時。
 フリル達へと向かって、投げ飛ばされた槍のように鋭く茨が放たれる。
「ふえええっ!?」
 しゃらしゃらと星のエフェクトを撒き散らしながらフリルがバックステップを踏むと、ノリノリでつっこんでゆくのはアヒルさんだ。
 茨を割り裂いて、ぎしゅんっみたいな格好良い音を立てるロボット。
「ふえええ……、な、なんで……あ、アヒルさんの方が活躍するのですか……?」
 なんだかそれはそれで、いつもどおりではあるのだけれど。
 折角変身までしたのに、とフリルはぷるぷるかぶりを振るのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

城野・いばら
わぁ!
きらきら、ピシって、皆すごいっ
素敵なパフォーマンスの数々に拍手拍手
けど、難しいお話はよくわからないの
だから聞きにいくわ
日傘広げアナタの許へ

ね、ね、アカバラさん
征服してどうするの?
どうして悪役さんが良いのかしら
喧嘩しないで、皆で仲良く分け合う方が楽しいと思うの

同じバラでも、考えはバラバラ
違うのは悪い事じゃない
けど、かなしいわ
悲しいことだわ…アナタをとめなきゃ

茨には茨を
生命力吸収を籠めて抱き締め、構築を止めるわ
これじゃイタチさんごっこ?
どうかしら
想いの強さは負けないつもり

困っているアリスがいたら助けてあげたい
アリスの笑顔が好きだから
ありがとうは、温かいきもちになれるのよ
アナタにも届くといいな



●いばらと、いばら
 大きな大きな図書館に、重なる剣戟。
 空を飛ぶ猟兵たち、花が咲いて、大きなぴかぴかが光って、おおきなお魚が空を泳いで。
 たくさんのアリスたちの戦いは、とっても綺麗で、ぴかぴかして、きらきらしていて。
「わぁー、すごいっ、ステキだわ!」
 高い高い本棚の上で、じっと見ていた城野・いばら(茨姫・f20406)は手にした本を閉じると、翠色のきれいな瞳をまあるくして。
 ぴかぴか世界がまたたけば、驚いて。
 きらきらに世界が満ちれば、見渡して。
 アリスたちの戦いに、ぱちぱちと手を叩いては喜んで。
 いばらは、いばら。
 いばらは、お花だ。
 いばらは、知らないを知る事が好きだ、はじめてを見る事が好きだ。
 それでもね。
 おしゃべりだってよく言われるだけのお花には、この本の内容はすこうし難しすぎる、かしら。
 本をしまってから白くてキレイなバラ模様の日傘を広げたいばらは、ふわふわと日傘に風をはらませて飛び降りる。
 どうして、
 ――わからない事は、聞きに行く事にした。

 緑のにおい。
 花のにおい。
 戦いが重ねられた後のにおい。
 眠っているように瞳を閉じたまま、あかいバラと茨の蔓の中心に眠る少女。
 きっとあのアカバラさんも、いばらと同じなんだろうといばらは思う。
 きっとあのアカバラさんも、『国』で愛すべきお客さんが来る事を心待ちにして、アリスが訪れれば喜んで歓迎する、おしゃべり花だったのかもしれない、なんて想像する。
 だから、聞いてみよう。
 いばらは、知らないを知りたい。
「ねえ、ねえ、アカバラさん。この世界を征服してどうするの?」
 首を傾いだいばらは、ぱちぱちと瞳を瞬かせる。
 おしゃべりする相手が居ないなんて、とっても寂しいのに。
「まあ、わたくしとお話をしたいの?」
 アカバラさん――いばら姫はもう、身体を動かすのも億劫そうな様子で傷ついた身体に蔓をしならせて。
 いばらを見下ろして、軋むように声を紡ぐ。
「ねえ、ねえ、どうして悪役さんが良いのかしら?」
「やあねえ、お腹がすくからよ」
「アカバラさん、……喧嘩しないで、皆で仲良く分け合う方が楽しいと思うの、よ」
「だめよ、それじゃあ。王子様はわたくしだけが食べたいもの」

 ああ、同じバラでも、考えはバラバラ。
 違うことは悪いことじゃない。
 けれど、悲しいことだわ。

 くっと息を呑んだいばらは、挿し木をぎゅうっと握りしめる。
「……そう。それなら、いばらは、アナタをとめなきゃいけないわ」
「そう。それなら、わたくしを止めて御覧なさいな」
 いばら姫が力を振り絞って蠢かせた茨の蔓を、いばらは大きく大きく伸ばした挿し木でぎゅうっと抱きしめる。
 赤いバラに白いバラが咲いて。
 赤いバラの力を、白いバラが啜って。
「ねえ、いばらはね。――困っているアリスがいたら助けてあげたいのよ」
 だって、いばらはアリスの笑顔が好きだから。
 ありがとうは、暖かいきもちになれるから。
 ――アナタにも、届くといいな。

「そう、……わたくしは困っているアリスがいたら、……たべた、い、わ」
 いばら姫はもう、すっかりと疲れてしまっていたようで。
 いばらに抱かれて、ぐっすりと眠ってしまったみたいに――。
 そろり、そろり、茨の端が解けてゆく。
 牙の生えたあかいバラたちが、枯れて、砂のように溶けてゆく。
 ――倒れたいばら姫は、海へと還る。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月07日


挿絵イラスト