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歌失致死(作者 天雨酒
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●かつての金糸雀
 唄さえあれば良いと思っていた。
 ただ、思うままに振舞えれば。感じるままに歌えれば。それが誰かの希望に繋がると信じていた。
 いつからだろう。それに息苦しさを覚えたのは。自分の声に違和感を感じたのは。
 周りを気にして、真似してみて。
 納得がいかなくて上を見て、自分の位置を思い知って。
 辛くて、苦しくて。這い上がろうと藻掻いても、沢山の音が四肢を抑えて、少しも動かない。
 遠い世界で迷子になってもそれは変わらなかった。
 苦しいことは思い出しても、いつかの唄は思い出せない。
 ならばここが、終着点なのだろう。
 捨てられることも埋められることも、ぶたれることだって遂には無かったけれど。
 もう、自分には何も生み出せないと、悟ってしまったのだから。

●今の海魔
『――――♪』
 それは只、音を奏で続けていた。
 機械的に、無機質に。鈴を鳴らすような涼やかな音色で、或いは絡め捕る蛇のような艶やかな響きで。無秩序な旋律が溢れ出す世界の中で、己の喉を楽器として、終わりのない曲を奏で続けていた。
 迷えるアリスがもう、迷わなくてよいように。
 そのか弱い足が進む先で、その硝子細工の心が砕かれることのないように。

『全て、全て、お終いにしてしまいましょう』

●グリモアベースにて
「帰れなかったアリスがいました」
 正確には、心折れ、帰る事を諦めてしまったアリスがいた。絶望に染まったアリスは変質し、やがて不思議の国を蝕むオウガへとその身を堕としていったという。
「そしてアリスの扉があった世界は、呪いを振り撒く絶望の国へ。新しくやってきたアリスを襲い、暴虐を振り撒くオウガを次々と生み出す「ゆりかご」となっています」
 だから、オウガが他の世界へと向かい、これ以上の犠牲者が出る前に。その国を破壊してきて欲しいと真多々来・センリ(手繰る者・f20118)は猟兵達へと依頼した。
「皆さんを転送する先は、絶望の国の入り口。ハーメルンの笛と歌の不協和音が鳴り響く森の中になります」
 もしも何も知らないアリスがそこへ足を踏み入れたのなら。魔力をもった笛と魔歌の力により、忽ちアリスは眠りへと落ちてしまうだろう。そういう罠が、森の中には満ちているという。
「皆さんはアリスではなく猟兵ですから、幾らか耐えることは出来ると思います。でも、それも完全ではありません。笛の音源は無数にあるため、破壊をしてもその場しのぎにしかならないでしょう。なるべく早く、森を抜けることをお勧めします」
 また、もしも許されるのなら。魔歌の主に向けて、何か問いかけてもいいかもしれない。
 魔歌を紡いでいるのは絶望の国の中心にいるオウガだ。歌で包み込んだ世界は全て彼女の手の中。何か彼女の心の琴線に触れる問いかけがあれば、旋律に乗せて返ってくるものがあるかもしれない。そしてそれが、彼女の絶望を和らげる鍵となるかもしれない。
「森を抜ければそこは絶望の世界の中心です。かつてはアリスの希望の道であった扉――絶望の扉となったそこに、オウガは鎮座しています」
 オウガは人魚の様な姿をしているという。人の声を結晶へと変える力を持ち、あたりには彼女が集めた結晶が無数に散らばっている。戦闘となればその能力と、手に持った三叉槍を使い襲いかかってくるだろう。
「アリスだったものは、今は完全にオウガへと変わってしまっています。助けることはもう、不可能でしょう」
 けれど、できることがない訳ではない。
 もしも森の中で、戦いの中で、彼女の絶望の理由を知れたのならば。その絶望を幾分かでも和らげることができたのならば。彼女自身は救えなくても、彼女の絶望で織られている『絶望の国』の根底を崩すことはできるだろう。
「その効果は、具体的には後の戦闘において現れます」
 アリスだったものを討ち取った後、絶望の国は彼女に合わせるように崩壊する。
 国の内側で孵化の時を待っていたオウガの群れは、危機を感じ取り一斉に這い出してくる。他の国へと逃げだしてしまわないように猟兵達はこれを殲滅せねばならない。
「その時に這い出してくるオウガの数が、アリスの心に反映されるのです」
 助けることは叶わなくても、その心が救われたのなら。オウガの群れはほんの一握り。
 絶望の深いままその命を止めたのならば、オウガの数は星の数ほど。
 数が多ければ多いほど全てを倒すのは困難となり、その大半を見逃してしまうこととなるだろう。
「誰も救えない、誰も助からない。全てが終わってしまった……そんな、悲しい国での戦いです」
 アリスを見つけるのが、あと少し早かったのなら。絶望の寸前で、引き上げることができたのなら。幾ら後悔しても、時間は決して巻き戻らない。
「けれど、過去の国が、未来を侵してしまってはならないから」
 どうか。過去は過去のままで、終わらせて下さい。色違いの瞳を伏せ、祈る様に呟いた後、センリはハートのグリモアを起動させ、転送の準備を始めるのであった。





第2章 ボス戦 『泡沫の天使』

POW ●儚い命の残した歌
【美しい結晶】から【絶望的な断末魔】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD ●全ては泡沫、幸福は来世に在り
【あらゆる空間を泳ぎ回る事】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【泡で包み込み、死角からトライデント】で攻撃する。
WIZ ●その美しい遺品を、私にください
【トライデント】から【『声』を結晶化させる魔力を纏った雷】を放ち、【相手の『声』を奪う事】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠知念・ダニエルです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●カーテンコールは始まらない
 いつしか、オウガの歌は止んでいた。
 それでも止まない心と意識奪う笛の音を、猟兵達は各々の方法を用いて切り抜けていく。そうして森の奥へ奥へと進んでいくと、やがて不意に開けた場所へと辿り着いた。
 森の中心。広場のように開けたそこは抉れ、すり鉢状となっている。
 その地面の最下層にある、古びた扉の前で。積まれた宝石の山に座し、彼女は静かに猟兵達を待っていた。
 人の躰に魚の肢。背には白い両翼。その姿はまさに伝説の中で多くの人々を魅了する魔物のそれで。彼女が今や完全に人ならざるものへと落ちてしまったと、如実に物語っている。
 オウガの周辺には、無数の宝石が散らばっていた。青、赤、緑、橙――。近しいものはあれど、同じ色、形は決してない。それらは今彼女が座っている山の他にも、すり鉢状に抉れた地面の至るところに転がり、彼女の世界を彩っている。 
『来て、しまったのね……』 
 ゆるりと、伏せられていた彼女の瞼が上がる。宝石光を写し、様々な色をその瞳に湛えながら、彼女は猟兵達を真っ直ぐに見る。
『あのまま眠ってしまえば、何も苦しまなかったのに。苦しまず、証を残して止めてあげたのに』
 この子たちみたいに。オウガは手元にあった宝石を拾い上げ、猟兵達に見せるように翳す。
『――――』
 不意に宝石から、音が零れた。よくよく耳をすませば、それは人の声のようである。
 そこで、彼らは気付いた。歌っているのだ、叫んでいるのだ。かつてアリスと呼ばれた者たちが、その断末魔を。
『こうして、残してあげるの。この子たちの証を、この子たちの煌めきを、美しさを』
 そうすれば、彼女達はずっと、絶望を知ることなく、その輝きを留めて置けるからと。
『銀の櫂も、象牙の船も夢物語。ならば戻らなくなるまえに、留めてしまえばよいのよ』
 わたしには、誰もそんなことはしてくれなかったから。
 だから、と。彼女は宝石を置き、槍を構える。
『貴方たちも、もうここで、終わりましょう』
 その証は、私がとどめてあげるから。
榎本・英
それは……
それは本当に良い事なのかい?

ずっとそこに留めておけば苦しくはない
栄光も幸福もずっとそこに居座り続けるだろうさ
しかし、それは同時にそこに取り残されてしまうと言う事だ

私にも君と同じようにそうしてしまう方が良いと思っていたさ。
けれどもそれでは何も変わらなかった

著書から獣を呼び出そう
彼等の思いもまた君と同じかもしれない

未来が苦しくない保証はない
しかし、留まり続けていれば絶望を知らないなんて事もないだろう?

留まり続けていても周りは進む
そこに絶望を感じない事は無いとも言い切れない
証が残るかどうかは、人々の記憶に残り続けるかどうかは
自分次第だ

獣たち、見せて呉れ
君たちの強い想いを。


●BELOVED
 目を見開いた。しかと、その姿を見据える。瞠る。
「それは……」
 そうして榎本・英(人である・f22898)は海魔の言葉に、そっと、疑問を投げかけた。
「それは、本当に良い事なのかい?」
 留めてしまえば、続かない。ずっとそこに留めれば、苦しくはない。
 嗚呼そうだろう。栄光も、幸福も、ずっとずっとそこに居座り続けるだろうさ。
 けれど、周りは進んでいく。嫌が応でも、世界は変わっていく。そこまでは、変えられない。
 その中で留めてしまえば。
「それは、同時にそこに取り残されてしまうと言う事だ」
 変わるものと変わらなもの。その差を埋めるものはきっとたくさんあるけれど。そこに、絶望を感じないことは無いとも言い切れないのだから。
 だから。
 著書を開き、頁がから情念の獣を呼び出しながら、英はもう一度、問う。
「――それは、本当に良い事、なのかい?」
『いいこと、よ。取り残されるなんて、知らなければ分からないわ』
 迷いのない瞳で、オウガは答える。これが最善の、最良の答えであると、手の中の宝石を大切そうに抱いて。
 彼女の腕の中で、宝石たちが歌い出す。
 それはかつての絶望の声。断末魔の叫びがその言葉に賛同するように、響き、英の身を苛んだ。
「――そう、か」
 言えたのはその言葉だけ。違うと言いながらも、英は彼女の想いを否定しきれない。
 苦難に喰われてしまうのならば、留めてしまえ。このままでいてしまえ。
 それは、かつての英とて、同じことを考えていたのだから。
 それでも、知ってしまったから。
「未来が苦しくない保証はない。しかし、留まり続けていれば絶望を知らないなんてこともないだろう?」
 それでは――何も変わらない。
 変わらない幸せがあるように、変わらない苦しみは存在する。
 変われないことも、きっと絶望を生む。
 それでも、彼女達はよしとするのか。
 それが――彼女達に残るモノだというのか。
「――証、と言ったね。しかし、それは石くれでは量れないのだよ」
 生きた、証。それが残るかどうかは、人々の心に深く刺さり、記憶に鮮やかに残り続けるかどうかは、美しい石くらいでは表せない。
 それを生むのは、自分次第だ。その者達の、自分自身の――残りたいという、想い。それが証を生む出すのだ。
 変われない世界に、果たしてそれはあるというのか。
  英の右腕が動く。宝石の煌めきを超えて、彼の筆が七色に囲まれた海魔を示す。
 少女達の叫びを掻い潜った獣たちがそれに従い駆け出して、踊りかかる。
「獣たち、見せて呉れ」
 彼等の想いもまた、君と同じかもしれないから。
 その爪を立てて、その牙を通して。
 君たちの強い思いを。
 
 どうか、わたしを魅てください――。
 
 薄荷色の鱗がはじけ飛び、真白の羽根が、弾けた。
成功 🔵🔵🔴

灰神楽・綾
【不死蝶】◎
彷徨えるアリス達を、無残に殺すわけでも
同じオウガにしてしまうわけでもなく
綺麗なままで閉じ込めておく、か
やり方は間違っているけど
きっと彼女の生来の優しさから来ている行動なのだろう
昔から他人を思いやれる心優しい子だったのかもね
そして、他人のことを考えすぎて壊れてしまった

UC発動
敵の攻撃を全て受け止め、凌ぎ、梓達に手を出させない
複数のナイフをバリアのように
念動力で自身の周囲に浮かせて死角からの攻撃に備え
喰らえば激痛耐性で耐える
防戦に徹して俺からは一切攻撃せず

君はさっき俺に言ったね
「美しいままに、あやめる」と
俺達がしていることは紛れもなく君を殺めること
だから君も、せめて美しい姿と心のままで


乱獅子・梓
【不死蝶】◎
ここは絶望の国ではあるが
自分と同じ絶望を味わってほしくないという
思いが残っているのだろうな
絶望を味わい、絶望に屈してしまったアリスだからこそ
よそ者の俺達なんかよりよっぽど
他のアリス達の絶望にも敏感なんだろう
姿ややり口こそオウガと化しているが
まだその心は完全に化け物にはなっていないことが分かる

…零、もう一度頼むぞ
零を成竜に変身させUC発動
先程よりも更に大きな咆哮を放つ
アリスの心に響くように何度でも、何度でも

綾のおかげでこちらに直接攻撃が届くことは無いが
絶望的な歌声は遮れない
だが、最後まで聴き続けてやる
他人のことなんて考えなくていいんだ
最後くらい、ただ自分の為だけに腹の底から歌ってみろ


●意のままに
 ここは絶望の国。
 かつてのアリスが絶望し、オウガを生み出す揺り籠となった世界。
 その世界の中で、アリスが絶望に苦しむその前にと囁く彼女の姿に乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)は違和感を感じていた。
 もしもその心が、本当に失意の最果てに沈んでしまっているのなら。怨嗟に塗れたその心は、こんな行動をとるだろうか。
「彷徨えるアリス達を、無残に殺すわけでも同じオウガにしてしまうわけでもなく……綺麗なままで閉じ込めておく、か」
 同様の感覚を抱いていたのだろう、灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)の言葉に、梓のそれは確証へと変わる。
「真っ当なら、この苦しみを他の奴らにってなるのが自然の流れだろうよ」
 けれど、彼女はそれをしない。それどころか、絶望に沈んではいけないと、彼女はアリスを留め、その手の中に閉じ込めていた。
 その行動の理由は、きっと。
「自分と同じ絶望を味わってほしくないという思いが残っているんだろうな」
 絶望を味わい、絶望に屈してしまったアリスだからこそ。想像しかできない梓や綾よりもずっと、ずっと、迷い子のアリス達の絶望に敏感で。その未来の気配に、何よりも悲しんで、きっと彼女はこうするしか、なかったのだ。
「やり方は間違っているけど、きっとそれは、彼女生来のものなんだろうね」
 綾は想う。かつての、アリスだった彼女の姿を。未来を儚み、だれかに傷つけられ――誰かの為にまだ歌う、彼女の過去を。
 良いことも、悪いことも、誰かの為に。きっと、他人を思いやれる心優しい子だったのだろうと、想像する。
 歌が好きで、優しくて。見ることも叶わない誰かの為に、歌って。
 そして、他人の為にと思い過ぎて――壊れてしまった。
「だからまだ、彼女は誰かの為に、優しいままだ」
「ああ――」
 彼に続けるように、梓も頷く。
「まだ、彼女の心は完全に化け物にはなってないんだ」
 その姿も、その手段も、最早オウガであることは否定しないけれど。
 きっと、人の感覚など等の昔に失っているけれど。
 躊躇いを忘れるほど、その心はぶれてしまって、境界など消えてしまっているけれど。
 何よりも――その心を掬い上げたとしても、彼女の手は既に穢れ、その肉体がアリスへと還ることは、ないけれど。
 その心の在り方だけはまだ違うと、否定したかった。
「せめてその心を失くしてしまう前に――終わりにしよう」
 語尾に覚悟を滲ませて、梓は肩に乗っていた氷の仔竜へと目配せをする。
「零、もう一度、頼むぞ」
 心得たというように竜は頭を上げ、炎竜と入れ変わる様に飛び立ち、前へと進み出た。
 冷気が沸き上がり細氷が竜の姿を取り囲む。一瞬、氷の煌めきにその体躯が隠れたかと思うと、次に現れたのは成長した竜の姿。
 今一度、彼女に唄を。主の意思に従い、顎を開く。
『させないわ。美しいうたは、もうおしまい』
 竜の動きを察知したオウガが、三叉槍を手に宙を泳いだ。彼女喉から発せられる声に合わせて無数の泡沫が浮かび、咆哮を上げようとした氷竜を、そしてその主たる梓を包み込こもうと揺らめく。
 そしてその影に紛れ込むように、金色の棘が突き出されて。
「それこそ、させないよ」
 ――その隙間に、綾がその身を滑り込ませた。念動力で宙にばらまいたナイフを手に取り、オウガの槍を受け止める。並んだ白刃が泡を斬り裂き、視界を拓いた。
「……ねぇ」
 黒いレンズ越しに、オウガと綾との視線が交わる。その宝石のような瞳を見据えて、金の凶器を受け止めて、綾は静かに語りかけた。
「君はさっき俺に言ったね。『美しいままに、あやめる』と」
 今この場では、彼のナイフは梓を守る為のもの。彼女の槍を阻み、泡を払う為のもの。故にその刃物は彼女の肌を傷付けることは無い。
 けれど、その先に終わりは必ずあるから。
 この身は彼女の血を被ることは無くても――きっと、綾は、彼女を殺めたことになるのだろう。
 だから同じだよ。そう囁いて、噛み合った得物を弾き、彼女の身体を突き飛ばした。
「君も、せめて美しい姿と心のままで」
 その優しさも、美しさも、生まれたままの『アリス』のままに、と願いながら。
 氷竜が咆哮する。
 盾は綾が務めてくれている。故に、この身は槍に貫かれないし、泡とは消えないけれど。周囲に散らばった宝石たちの声だけは、竜と、主たる梓を蝕み続ける。
 悲しみ。苦しみ。絶望。後悔。彼女の声に合わせて、音の重圧が梓達に圧し掛かる。
「……最後まで、聴き続けてやるよ」
 だが、それでも梓は耳を塞ぐことをしなかった。
 好きなだけ泣けばいい。好きなだけ嘆けばいい。その痛みはきっと、本当にあった誰かのものだ。
 歌い続ける竜の首を撫でてやる。あと少し、頑張ってくれと視線を送り、響く声に負けないように梓は声を張り上げる。
 全て、聞き届けてやるから。終わりまで、付き合ってやる。
「だからお前の唄も、聴かせろよ」
 誰かの為ではなく、彼女自身の。
「他人のことなんて考えなくていいんだ。最後くらい、ただ自分の為だけに腹の底から歌ってみろ!」
 竜がその心のままに、水晶の音を打ち鳴らすように。自由に、思うがままに、歌いあげてみせろと。
 竜の方向が断末魔を斬り裂き、彼女の心を揺さぶった。
『自分の、為……?』
 身を起こした彼女の手の中で、三叉槍を握る力がゆっくりと解かれて。
 
 ――高い金属音がして、打ち上げられた。 
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

トリテレイア・ゼロナイン

(アリスの断末魔の収集への糾弾は、今回の目的において不適当…)
断末魔を盾で防ぎ接近
剣で三又槍と結晶武器落とし
首筋に突き付けた武器納め
穏当な終焉望めぬ場合備え格納銃器のだまし討ち準備

お話をいたしましょうか
恥ずかしながら、私は『御伽の騎士のようでありたい』原初の願いがあります。幾度も断念した見果てぬ夢が戦いに身を置く『理由』です

『誰も自分にはしてくれなかったから、輝きの証を留めておきたい』
つまり、かつての貴女は輝きを持っていた筈です

歌う理由を、込めた願いを

今一度振り返る時です
輝きを失った理由では無く、原初の…始まりの理由
それを取り戻し、再び歌うことで
(刹那でも)
貴女は『生きる』ことが出来ます


●息吹の源
 からん、と。金属音を響かせて、三叉槍が地面に転がる。
 オウガが竜の歌声に怯み、言葉に思考をやった一瞬の隙をついて、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)の剣がそれを弾き飛ばしたのだ。
 傷む手を抑え、オウガは咄嗟に地面へと転がる宝石の一つを拾い上げようとする。その白魚のような指が結晶へと届くその前に、再びトリテレイアの剣が走った。
 オウガの手が止まる。
 あと少し、伸ばせば宝石が届くその寸前で、白騎士の剣は彼女の首筋へと先端を当てがっていた。
『……斬らないの?』 
 この状態では彼女が宝石を拾い上げ、断末魔をぶつけるよりもトリテレイアがその首を落とす方が早い。その状況をよく理解しつつ、しかし海魔は怯えた様子も無く剣の主を見上げていた。
 七色の光を反射するその目に、是と答えながら。彼は静かに剣を降ろし、鞘へと納めた。
 それは、機械兵士として最適解をとるためか、騎士として、このままで彼女を終えてはいけないと感じたが故に行ったことか。彼の演算機能では、その答えをすぐに出すことはできなかったけれど。
「――お話を、いたしましょうか」
 彼は静かに、彼女にそう話しかけた。
 かつてのアリス。唄を愛していた彼女。夢を――見ていた彼女。センサーから読み取れる彼女の様子に、想像したかつての彼女を投影しながら、トリテレイアは胸に手を当て語りだす。
「恥ずかしながら、私は『御伽の騎士のようでありたい』原初の願いがあります。幾度も断念した見果てぬが夢が、私が戦いに身を置く『理由』です」
 それは、決して手の届かない輝かしい理想。全てを助け、全てを掬う。高潔で輝かしい物語の上でのみ成り立つ騎士の姿。
 願わくは彼のように。そう思いながら、理想と現実の差に何度打ちのめされ、己の無力さを味わい……それでも、トリテレイアはまだ戦うことを止めない。
『どうして? そんなの、苦しいだけじゃない。ここまでと終わらせてしまえば、楽になるじゃない』
 淡々と語る彼の言葉の端から、その苦難を察知したのだろう。オウガの少女は悲痛な面持ちで騎士を見上げる。
 そんな傷つく必要は、もう無いのだと。何故そこまでして求めるのだと。
 そんな彼女の瞳を、真っ直ぐに見返して、トリテレイアは答える。
「其れが、私の『願い』だからです」
 いくら叶わないと謂われようと、それが苦難に満ちたものであっても。その願いは輝かしく、鋼鉄の躰なかで確かに熱をともしているのだから。
「貴方にも、あったのではありませんか?」
 彼女は言った。誰も、彼女の輝きの証をとめてくれはしなかったと。だから自分が、アリスを留めるのだと。
 それは紛れもなく、かつての彼女が輝いていた――願いがあったということ。
「今一度、振り返る時です」
 彼女が歌う理由を、込めた願いを。
 その唇が今紡ぐべきは輝きを失った理由ではなく、原初の……始まりの理由。
 彼女が何を願ったのか。一番初めに歌いたいと思った理由は、なんだったのか。
 それを思い出して欲しいと、重ねてトリテレイアは訴える。
「それを取り戻し、再び歌うことで、貴女は『生きる』ことができます」
 どうかもう一度、息を吹き返せ。
 それが、彼女が『アリス』だと呼べる、鍵であるのだから。
 たとえそれが、ほんの刹那の間だったとしても――。
 
 ぱりんと、何かが砕ける澄んだ音がした。
大成功 🔵🔵🔵

天道・あや


ふむふむ成る程


確かに、立ち止まれば、うん、ずっと煌めいて美しいままかもしれない。気持ちは、まあ、わかんないでもないし。その好意は有り難いとも思わなくはないよ?

でも、ごめんね。あたしは立ち止まるのは反対なんだよね。夢は、輝きは、…前に進めばもっと輝いて美しくなると思うから。逆もあるかもしれない。でも、それでも

あたしは前に未来へ、夢と進むって決めたんだ。夜空に輝く星のようになって、誰かの道を照らしたいって

だから、通らせてもらいまショータイム!

雷を避けながらアリスに接近!【ダッシュ、見切り、足場習熟】

アリスの手を掴んで、UC発動!覚えてない、忘れてるかもしれないけど、貴女の最初の気持ち、思い出せ!


●どの音を探して
「ふむふむ、成る程ね」
 彼女の言葉に、散りばめられた宝石たちの理由に、天道・あや(未来照らす一番星!・f12190)はしきりに頷いた。
 その口調はあくまで軽いものであったが、彼女の目は至って真剣そのものだ。
 彼女とてまた、歌に生きる者。遠く輝く偶像に焦がれ、我武者羅にその道を目指していく者の一人だ。彼女の気持ちが分からないことは――無い。
「確かに、立ち止まれば……うん、ずっと煌めいて美しいままかもしれない。気持ちはまぁわかんないでもないし、その好意はありがたいと思わなくはないよ?」
『それなら……』
 でも、ごめんねと。謝りながら首を横に振る。それでもあやは、オウガの言葉を肯定することはできなかったから。
「あたしは立ち止まるのは反対なんだよね。夢は、輝きは……前に進めばもっと輝いて、美しうなると思うから」
 勿論、逆もあるかもしれない。かつて直前で失った夢へのチャンスの時を思い出し、あやの胸に苦いものが広がる。
 目指していた夢が叶わない。そうやって塞ぎ込んで、忘れてしまえと思うこともあった。
 でも、それでも。
「あたしは前に未来へ、夢へと進むって決めたんだ。夜空に輝く星のようになって、誰かの道を照らしたいって」
 未来にはこれより大きな絶望はあるのかもしれない。悲しみに涙を流す時はくるのかもしれない。
 けれど、それにばかり目を向けては、進むと決めた自分を、煌めく夢を、裏切ることになってしまうから。
「だから、通らせてもらいまショータイム!」
 精一杯声を張り上げて、オウガへ向けてあやは駆け出した。
 三叉槍から放たれた雷が、雨のようにあやへ向けて降り注ぐ。踊るようなステップで掻い潜り、かつてのアリスへ距離を詰める。
 声を奪わせることなんて決してさせない。この声は、この唄は、誰かを導くためのものだから。大事に大切に保存してケースにしまわれるなんて、そんな夢はごめんだった。
 走って、跳ねて、また走って。まるでソロステージを駆け回る様に、あやの足は止まらない。
 遂に足元に放たれた雷にバランスを崩して、それでも手を伸ばして。
 ――掴んだ。アリスの腕を。
「リクエストは……無いよね。ならこっちで勝手に演奏させてもらうよ」
 宣言して、あやは歌い出す。
 それは、はじめての音。どこか懐かしくて、優しい。そう思えるような童歌。
『え……?』
 奏でられる旋律に、オウガの目が見開かれる。
 何故この唄を選んだのかは分からない、正真正銘の直感だ。ただそれでも、この唄が彼女の
心の奥に響くと信じて、あやは歌う。
 今また、あやが憧れの道を進んでいられるように。そうやって、本当の夢を思い出して再び目指すことができたように。
「覚えてない、忘れてるかもしれないけど。貴女の最初の気持ち、思い出せ!」
 震えた先の、響いた後の、彼女の本当の音を聞くために。
 
『……だって、歌っても、歓んでもらえなきゃ意味がない。誉めて貰えないうたなんて、だめなもの。だった、じゃない――』

 硝子の割れる音が、彼女の唄に混じり合う。
 彼女の手の中で、宝石に小さな亀裂が生じていた。 
大成功 🔵🔵🔵

鹿村・トーゴ
◎ 
人魚の姐さんその石…
迷った奴以外に姐さんを助けようって人もいたんじゃない?

顔も知らねえ連中に否定されて…て言ってたな
世の中その逆もある
見知らぬ誰かがふと助けようって思ってくれる事がね
あんたは絶望してこの世界に繋がれたけど元々気の弱い優しい子かな
だから皆が絶望する前に石に留めたんだろ?

体は思い通りになんない
でも歌は気持ちや心から湧くもんだってさ
オレは格別音痴だが良くも悪くもあんたの唄が強いってのは判る
今否定する奴はいないぜ
姐さんの好きに歌ってみなよ

敵の攻撃開始で自分もUC使用
敵UC雷を【野生の勘で躱し忍び足/地形の利用】接近、UC解除
手にしたクナイで弾き突き斬る【武器受け/暗殺/カウンター】


●それは呪いのようなおまじない
 口を開きかけて、それでもオウガはぐっと耐えるようにその唇を引き結んだ。
 閉ざされて彼女の心は、いまだ開ききらない。雁字搦めにされた茨が、まだ彼女の喉を塞いでいるのだ。
「人魚の姐さん……」
 彼女は言っていた。顔も知らない誰かが彼女の唄を否定する、と。
 それが彼女を苦しめているのだ。唄を忘れるほどに、歌から逃げられない程に。
 それはきっと辛いだろう。全てが敵になるくらい、苦しいことだろう。こうして彼女がアリスをやめ、鬼へと身を堕としてしまうくらいに。
 でもさ、と。鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)は考える。ゆっくり考えて、想いを口にした。
 雷鳴に負けぬ様、声を上げて。菜の花の嵐と共に彼女の元へと身を投じながら、言葉を届ける。
「世の中、きっとその逆もあるんだよ」
 顔も知らない、名前も知らない、自分と繋がりのない誰か。時としてその言葉が棘として心に刺さり、心が血を流す時もあるけれど。
 また時として、見知らぬ誰かがふと助けようって思ってくれる事だって、またある筈だ。
 例えば、彼女の周りの宝石達。
 地面に転がり光る石。彼女の腕の中で罅割れ歌う石。彼女が留めた、それこそ誰かも分からない彼等だって、迷い込んだ者以外に彼女を助けようとしてくれた人も、いたのかも知れないのだ。
 知らない人影は確かに恐ろしいものだけど、その全てが悪意を持っているなんて、ない筈だ。
 雷が視界を焼く。集まった菜の花で咄嗟に受け止めた。
 衝撃は態勢を低くして受けて、ならばいっそと傾斜の地面に身を任せた。滑るように下っていけば、数秒前までトーゴの頭があった場所を雷が射抜いていく。
 それでも伝えなければならない。周りを見てしまうばかりの彼女に、そんなことはないと否定しなければならない。
「あんたは絶望してこの世界に繋がれたけど、元々気の弱い優しい子かな」
 だから受けた痛みに驚いて、その赤に恐怖して。他の皆が絶望する前に石となって、絶望する前にとどめて、守ろうとした。
 そんな、優しいひとだから。これだけは言わなければならない。
 すり鉢状の地面を滑り切ったところで、足に力を込めて跳びあがる。伸ばした掌に菜の花が集まり、クナイへと形を変える。
 逆手にもったそれを振り上げて、体重を乗せて、斬り込んだ。
『――今更、だものっ』
 咄嗟に、というように、オウガが罅割れた宝石を翳してトーゴの一撃を受け止める。アリスの断末魔に、クナイと水晶がぶつかりあう音が混ざり合う。
「ああ今更だ。体は思い通りになんてなんないだろうよ」
 ましてやすでに、彼女は人を捨てた身だ。たとえ歌ったとしてもそれは、彼女の望む音にすらならないかもしれない。
「でも歌は、気持ちや心から湧くもんだってさ」
 そう、トーゴは昔、教えてもらったから。だから大丈夫だと、言葉を重ねて。
「俺は格別音痴だが、良くも悪くもあんたの唄が強いってのは判るよ。だから――」
 大丈夫。
 誰かは、誰もかも、あんたを否定する奴は誰もいないから。
「姐さんの好きに、歌ってみなよ」
 渾身の力をもって、クナイが宝石を打ち砕いた。
大成功 🔵🔵🔵