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歌失致死

#アリスラビリンス

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#アリスラビリンス


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●かつての金糸雀
 唄さえあれば良いと思っていた。
 ただ、思うままに振舞えれば。感じるままに歌えれば。それが誰かの希望に繋がると信じていた。
 いつからだろう。それに息苦しさを覚えたのは。自分の声に違和感を感じたのは。
 周りを気にして、真似してみて。
 納得がいかなくて上を見て、自分の位置を思い知って。
 辛くて、苦しくて。這い上がろうと藻掻いても、沢山の音が四肢を抑えて、少しも動かない。
 遠い世界で迷子になってもそれは変わらなかった。
 苦しいことは思い出しても、いつかの唄は思い出せない。
 ならばここが、終着点なのだろう。
 捨てられることも埋められることも、ぶたれることだって遂には無かったけれど。
 もう、自分には何も生み出せないと、悟ってしまったのだから。

●今の海魔
『――――♪』
 それは只、音を奏で続けていた。
 機械的に、無機質に。鈴を鳴らすような涼やかな音色で、或いは絡め捕る蛇のような艶やかな響きで。無秩序な旋律が溢れ出す世界の中で、己の喉を楽器として、終わりのない曲を奏で続けていた。
 迷えるアリスがもう、迷わなくてよいように。
 そのか弱い足が進む先で、その硝子細工の心が砕かれることのないように。

『全て、全て、お終いにしてしまいましょう』

●グリモアベースにて
「帰れなかったアリスがいました」
 正確には、心折れ、帰る事を諦めてしまったアリスがいた。絶望に染まったアリスは変質し、やがて不思議の国を蝕むオウガへとその身を堕としていったという。
「そしてアリスの扉があった世界は、呪いを振り撒く絶望の国へ。新しくやってきたアリスを襲い、暴虐を振り撒くオウガを次々と生み出す「ゆりかご」となっています」
 だから、オウガが他の世界へと向かい、これ以上の犠牲者が出る前に。その国を破壊してきて欲しいと真多々来・センリ(手繰る者・f20118)は猟兵達へと依頼した。
「皆さんを転送する先は、絶望の国の入り口。ハーメルンの笛と歌の不協和音が鳴り響く森の中になります」
 もしも何も知らないアリスがそこへ足を踏み入れたのなら。魔力をもった笛と魔歌の力により、忽ちアリスは眠りへと落ちてしまうだろう。そういう罠が、森の中には満ちているという。
「皆さんはアリスではなく猟兵ですから、幾らか耐えることは出来ると思います。でも、それも完全ではありません。笛の音源は無数にあるため、破壊をしてもその場しのぎにしかならないでしょう。なるべく早く、森を抜けることをお勧めします」
 また、もしも許されるのなら。魔歌の主に向けて、何か問いかけてもいいかもしれない。
 魔歌を紡いでいるのは絶望の国の中心にいるオウガだ。歌で包み込んだ世界は全て彼女の手の中。何か彼女の心の琴線に触れる問いかけがあれば、旋律に乗せて返ってくるものがあるかもしれない。そしてそれが、彼女の絶望を和らげる鍵となるかもしれない。
「森を抜ければそこは絶望の世界の中心です。かつてはアリスの希望の道であった扉――絶望の扉となったそこに、オウガは鎮座しています」
 オウガは人魚の様な姿をしているという。人の声を結晶へと変える力を持ち、あたりには彼女が集めた結晶が無数に散らばっている。戦闘となればその能力と、手に持った三叉槍を使い襲いかかってくるだろう。
「アリスだったものは、今は完全にオウガへと変わってしまっています。助けることはもう、不可能でしょう」
 けれど、できることがない訳ではない。
 もしも森の中で、戦いの中で、彼女の絶望の理由を知れたのならば。その絶望を幾分かでも和らげることができたのならば。彼女自身は救えなくても、彼女の絶望で織られている『絶望の国』の根底を崩すことはできるだろう。
「その効果は、具体的には後の戦闘において現れます」
 アリスだったものを討ち取った後、絶望の国は彼女に合わせるように崩壊する。
 国の内側で孵化の時を待っていたオウガの群れは、危機を感じ取り一斉に這い出してくる。他の国へと逃げだしてしまわないように猟兵達はこれを殲滅せねばならない。
「その時に這い出してくるオウガの数が、アリスの心に反映されるのです」
 助けることは叶わなくても、その心が救われたのなら。オウガの群れはほんの一握り。
 絶望の深いままその命を止めたのならば、オウガの数は星の数ほど。
 数が多ければ多いほど全てを倒すのは困難となり、その大半を見逃してしまうこととなるだろう。
「誰も救えない、誰も助からない。全てが終わってしまった……そんな、悲しい国での戦いです」
 アリスを見つけるのが、あと少し早かったのなら。絶望の寸前で、引き上げることができたのなら。幾ら後悔しても、時間は決して巻き戻らない。
「けれど、過去の国が、未来を侵してしまってはならないから」
 どうか。過去は過去のままで、終わらせて下さい。色違いの瞳を伏せ、祈る様に呟いた後、センリはハートのグリモアを起動させ、転送の準備を始めるのであった。


天雨酒
 其れを思い出すにはどうすれば良いでしょう。
 戦争予報が鳴っておりますが、欲のままに向かいたいと思います、天雨酒です。
 二度目のアリスラビリンスの依頼は、救えなかったアリスとの戦闘シナリオです。
 基本純戦、ややビターな心情寄りを目指したいと思います。後味はあまり宜しくないと思われますので、苦手な方はご注意下さい。

●第一章
 不協和音の森を突破してください。
 森の中は笛の音と魔歌が鳴り響いており、聞いたものの心を奪い、虚脱、睡眠へと誘います。それに抗い、絶望の国の中心を目指して下さい。
 また、歌の主であるオウガは常に森の中に耳を澄ませています。何か問いかければ、返ってくることもあるかもしれません。
 有効打となるかはわかりませんが、彼女の絶望を知るチャンスでしょう。
 何も問いかけなくても突破は出来ますのでご安心下さい。

●第二章
 かつて唄う事で希望を与え、歌うことで絶望を知った者。
 けれど決して、それからは逃れられない。
 アリスだったものとの戦闘です。敵情報についてはOPの通り。
 戦闘の中で、彼女の絶望をどれほど和らげることができるか。それにより第三章の難易度が変わっていきます。

●第三章
 崩壊する絶望の国の中。生まれてきたオウガの群れとの戦闘になります。
 敵の情報は断章にて追記となります。
 OPにもある通り、第二章でどれほど彼女の心を融かすことができるかによって、生まれてくるオウガの数が変わります。
 アリスの絶望が深いままでは、夥しい数のオウガが生まれ、殲滅は困難となります。
 その場合はたとえ成功したとしても、大半のオウガを逃がしてしまうこととなりますのでご注意下さい。

●プレイング受付について
 各章、断章を挟んでからの募集となります。
 詳細につきましてはMSページ、Twitterにて告知いたします。

 それでは皆様、どうか善き終わりを。
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第1章 冒険 『不協和音は睡魔に堕とす罠』

POW   :    笛の音に気合で対抗して行動する

SPD   :    睡魔に落ちる前に素早く体を動かす

WIZ   :    反響する音の発生場所を突き止める

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●誰が為の
『――――♪』
 転送された猟兵達が降り立つと同時に、その魔歌は彼らの鼓膜を震わせた。
 高く、鳥が囀るように響き渡る笛の音と、それに合わせて響き渡る女の歌う声。
 唄に一貫した歌詞は無い。ただ、高く、澄み渡るような声で奇妙な旋律を奏でているだけだ。ただ時折、耳を澄ませば言葉のようなものが聞き取れるかもしれない。
 対する笛は歌声と反するように多種多様。高い音、低い音、大音量で吹き鳴らすものもあれば、耳元で囁きかけて来るような音色もあった。
 もしもそれら一つ一つを、拾い上げて聞くことができたのなら、その音色は確かに美しいものだっただろう。けれど、それらの音が一斉に、無秩序に溢れたのなら話は別だ。
 偶然なのか、意図するものか、音の洪水は耐えがたい程の不協和音と成ってその森に充満していた。
 そして、この音の渦は只の背景ではない。
 音を聞いた猟兵達は、同時にくらりとした眩暈のような睡魔を感じだろう。
 不協和音の中に織られた催眠の魔力。聞くものの心を奪い、動きを封じ、眠りへと誘う音の毒。
 絶望の国のオウガへと辿り着くためにはこれに耐え、森を越えなければならない。
 帰ることを諦め、絶望へと身を委ねた彼女が何を見、何を感じたのか。
 全ては過去となってしまったことだけれど。その絶望が、他者の国を侵すことのないように。
 猟兵達はゆっくりと、歩みを進めるのだった。
 
 
『眠りなさい、どうか、おやすみ。傷つくだけの未来など終わらせて、叶わぬ夢を諦めて。ここで安らかに、共に終わりましょう――♪』
グルクトゥラ・ウォータンク
【アドリブ共闘歓迎】
豪華な音楽で歓迎とはVIP待遇みたいじゃな。まあ次回からは勘弁願いたいところじゃが。

状況は事前情報の通り、なので予定通りに進めるぞい。ユーベルコード発動、ガジェットボールズと電脳妖精を展開。電脳妖精は索敵と誘導、そして『コインフリッパー』で音エネルギーをデータに変換し防御。ボールズは橇の牽引と障害物の排除。わしは事前に用意しておいた橇に乗って出発じゃ。これならわしが寝ても電脳妖精とボールズが運んでくれるじゃろ。

しかし、どこもかしこも歌だらけじゃな。そんなに歌が好きじゃったのか?あるいは憎んでおったのか?
歌ばかりなのは自信があるからか?それしかなかったのか?



●機械仕掛けの舞台装置
「こりゃあまた、随分な出迎えじゃのう!」
 情報通りの鼓膜どころか、脳髄まで揺らすような楽団の音色に、グルクトゥラ・ウォータンク(サイバー×スチーム×ファンタジー・f07586)は豪快に笑った。
「豪華な音楽で歓迎とは、まるでVIP待遇みたいじゃな!」
 もしくは、過酷な戦場より凱旋する英雄にでもなった気分だ。どちらにしても、賑やかなことは嫌いではない。
 内容の出来に関わらず、その音楽が彼らを本当に歓迎するものであれば、の話だが。
「――まぁ、次回からは勘弁願いたいところじゃが」
 さっと周囲に視線を走らせ、グルクトゥラはそう、独り言ちる。
 彼の視界に映ったのは、この国に本来いたであろう住人。絵本の中にいるような、黄色い小鳥達だった。
 しかし、それらは一様に固く目を閉ざし、起き上がる気配は無い。きっとこの先も、彼らが囀ることは永遠にないのだろう。
 何故ならこの森を満たすのは魔なる歌。全てを眠りに誘う、誘惑の音色。
 そしてその魔力は、時が進むごとにグルクトゥラ自身にも向かっていることも自覚していた。
 不協和音の旋律に合わせて揺れるような浮遊感。全身に回る倦怠感。このまま何の対策も講じなければ、数刻と経たず、彼もこの国の住人や、一介のアリスと同じ道を辿るだろう。
 しかし、逆を言えばここまでは事前の情報通り。グルクトゥラが思い描いていた状況と何の狂いも無い。
 故に手は、十全に練ってある。
「では、予定通りに進めるぞい」
 己に喝を入れ、グルクトゥラはガジェットボールズと電脳妖精を展開した。
 球形の機体であるボールズが素早く持ち込んだ橇の前方へと並び、電脳妖精はそれらの周囲を漂い、現在位置の把握と索敵を開始する。
 これらは全て、グルクトゥラが造り出した魔導蒸気機械だ。機械は眠らない。故に、いかなる魔歌も、これらの活動を止めることは叶わない。
 さらに拡張機能である『コインフリッパー』を起動。周囲からの音エネルギーをデータに変換し、音の影響を最小限に抑える様に設定した。
「これで準備は万全じゃ!」
 己のガジェッティアの出来に満足そうに髭をなでながら、グルクトゥラは橇の乗車席へと飛び乗る。間を置かず、彼を載せて橇は森の奥へと走り出す。
 これならば、聞こえにくくなった魔歌の効力は半減するし、万が一グルクトゥラが寝てしまった場合でも、電脳妖精の自律思考により、勝手に森を抜けてくれるだろう。
 それにしても、とボールズに曳かれ、多少なりとも余裕が出てきたグルクトゥラは数字に書き換えられた音を見て考える。
 進めど進めど、どこもかしこも歌ばかり。生きる物は他に無く、見える物も何も変わらない。
 歌、歌、歌。まるで、この世界には初めからそれしか存在が許されていないかの様だった。
「そんなに歌が好きじゃったのか?」
 もしくは、そこまで――歌を憎んでいたのか。
 橇の内側より零れた呟きは数字の羅列へと組み替えられることなく、周囲の不協和音に混ざり掻き消えていく。
 彼女の歌に比べて、遥かに小さな問いかけだ。果たして本当に、歌の主の元へ届くのだろうか。そう思いながらも、グルクトゥラは言葉を続ける。
「歌ばかりなのはそれほど自信があるからか? それとも、それしかなかったのか?」
 暫しの間。変わらぬ歌詞の無い旋律が響く。

 そして、その言葉は返ってきた。

『――好きとか、嫌いとか、そんなの忘れてしまったわ。
 それでも、やっぱり歌うの。
 小鳥はそれしか、知らないのだから』
 

成功 🔵​🔵​🔴​

天道・あや
うおっ!?た、確かにグリモアベースでの説明通り、これ長く聴いてたら、ヤバイかも……でも、何だろ?何か優しいような、悲しいような音色も聴こえてくるような……っと、いけないいけない!長く聴いてたらヤバイんだった!……それじゃ、一気に駆け抜けながら聴くのみ!!右よし!左よし!あたしよし!それじゃ、皆さん、いきまショータイム!


UC発動!船でこの森を、突っ切る!!(ダッシュ、航海術)……と、言ってもそう簡単にはいかないよね。あたしでヤバイって事は船員幽霊さん達もヤバイだろうし。

……!よし、閃いた!こっちも演奏しながら突っ込む!それなら多少この演奏を中和できる筈!うおお!!(楽器演奏、歌唱、限界突破)



●七色の唄
「うおっ!?」
 天道・あや(未来照らす一番星!・f12190)は開口一番、調子の外れた悲鳴を上げて慌てて耳を塞いだ。
 一つ一つは美しい、けれども決定的に音の外れた不協和音。直に効いたのは僅かな間であったが、それでも意識がもっていかれそうな錯覚を覚えていた。
「た、確かに説明通り、これ長く聴いてたらヤバイかも……」
 塞いだ両手越しでも、音はあやの鼓膜を震わせてくる。魔力の籠った歌は、これくらいの防御では意味を為さないのだろう。おそらく早急にこの場を脱しなければ、オウガにたどり着く前にこちらが力尽きてしまう。
(でも……何だろ?)
 それなのに、あやは直ぐに行動に移らず、襲ってくる音の渦に耳を澄ましてしまう。
 両手という防御でいくらか小さくなった音の中で、無視できない音の響きを聞いた気がしたのだ。
 聴く者の思考を奪う笛の音。心を奪うオウガの歌声。邪悪に満ちた二つの音の衝突に、全く別の『何か』ある。
(何か優しいような、悲しいような、そんな音色も聴こえてくるような……)
 それは、なんだろう。
 音であるのか。旋律であるのか。
 声であるのか、叫びであるのか。
 その正体をさらに深く探ろうとして――ぐらりと揺れた身体にあやはたたらを踏んだ。
「っと、いけないいけない! 長く聞いたらヤバイんだった!」
 彼女の心の底を探る。それも今回の戦いの中で重要なことの一つだ。
 けれど、何を聞くにしても、届けるにしても、まずは辿り着かなければ意味がない。
「なら、一気に駆け抜けながら聴くのみだよね!」
 思考の端に残った蟠りを一度放り投げ、あやは自身のユーべルコードを発動する。
 まだ怖くはあるけれど、共に歌う仲間であり、友達。そのチーム名は『Dreamship』!
 彼女のコールに従い、各々の楽器を持ち、ライブ衣装に身を包んだ幽霊たちが、自慢の幽霊船と共に現れる。勢いよくあやが船に飛び乗り、船首に仁王立ちすれば準備は完了。
「右よし! 左よし! あたしよし! それじゃ、皆さん、行きまショータイム!」
 幽霊たちの歓声があがり、森の中、船が宙へと漕ぎ出される。
 このまま突っ切ることができればと画策していたが、出発した途端に鈍くなる船の動きにあやは自身の悪い予感が当たっていることを悟った。
 あやが聞き続けていればマズいということは、船員である幽霊達も同じであるということ。そして彼らがいなければ、船は動かない。
 あやは考える。この状況を打破するあと一つの欠片を。
 そして――。
「――閃いた!」
 脳裏に走った予感のままに、大きく息を吸った。
 ぴんと空へ向けて手を翳し、腹の底から声を張り上げ、歌い始める。
 それは眠りを覚ます、再びを誓う唄。昏く冷たい海の底から、輝く空へ向けて泳ぎ出す決意の唄。それは森に満ちた魔歌をかき消し、相殺して。確かに、仲間の魂へと届いた。
「うおお! いっくよー!」
 上げた手を振り下ろせば、幽霊たちが耳になじむ伴奏を奏で始める。息を吹き返したように、船は動き出す。
 希望により切り拓かれる絶望。その鮮やかな旋律に、微かに息を呑む気配が魔歌に混じったのは、彼女の耳へと届いただろうか。
 
『貴女は――とても眩しく歌うのね。
 どうしてかしら。どうしたらそんなに煌めくことができるのかしら。
 わたしは……もう、歌えない――』

 諦めの色に似た詞は、未来へと進む船の演奏に打ち消され、溶けていく。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
絶望の国のアリス/オウガ…対処は既に幾度か
人喰いの罪を犯させぬ為にも、新たなアリスへの脅威を防ぐ為にも
これまでと同じく、騎士として躊躇いはありません

…『御伽の騎士なら』という泣き言など今は不要
彼らの絶望と孤独に手を差し伸べられるのは、この場の者だけなのですから

私の思考は電子演算
悪性情報はフィルタリング
魔歌の影響や干渉など許す軟な電子防御ではありません

その分、声の調子、昂り、震え、それらを加味し真意●見切る為、彼女の肉声への●情報収集は厳に

…お聞かせ願えますか
何故、未来と夢に傷つき絶望を歌うのか
この場にそれを笑う者など一人もおりません

この子守歌の由来を…『貴女』のことを教えていただきたいのです



●影照らす照明は
 鉄の躰は想起する。かつて見届けた、アリスだった者達を。
 電子の脳は再生する。かつて送ったオウガの果ての姿を。
 その記録も、もはや一度ではない。この両手は幾度も、その任務を遂行してきた。
 それはひとえに人食いの罪を犯させぬ為に。
 それはひとえに新たなアリスへの脅威を防ぐ為に。
「これまでと同じく、騎士として躊躇いはありません」
 故に、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)はどこまでも迷いなく、森の中を進むことができた。
 この世界にたらればなど無い。ここに残っているのは、一度は終わってしまった、絶望の後の物語だ。
 そこにもしもの希望はなかった。王子様は遂には訪れず、姫は泡と化して消えてしまった。
 だから――己の夢想する『御伽の騎士なら』という泣き言も、今は不要だ。
「……フィルタリング開始」
 音声を媒体とした悪性情報の遮断を優先事項とし、自身の機体を護衛に適した回路へと切り替えていく。
 彼の身体は冷たい鉄で、その思考は電子演算。一度防壁を建ててしまえば、その防御は精神干渉の全てを無効化してしまう。
 遠くで歌うだけの魔力を通すほど、彼の電子防御は軟ではないのだ。
 だからトリテレイアは森の奥へと進みながら、改めて彼女と向き合った。
「これは、終わってしまった物語なのでしょう」
 そして改めて、起きてしまった事実を認識する。
 そこに夢は無く、希望は無い。起きてしまった事象を、全身に内蔵されたセンサーを以って読み取り、認識に書き加えていく。
 そしてより深く、彼女という形を知るために。トリテレイアは言葉を投げる。
「……お聞かせ願えますか。何故、未来と夢に傷つき、絶望を歌うのかを」
 彼女が作り出した世界の色を。彼女が吐き出す声の震えを。その昂りを、その吐息を。その一つ一つを記録しながら、トリテレイアは問う。
「この子守唄の由来を……『貴女』のことを教えて頂きたいのです。今、この場にそれを嗤うものなど一人もおりません」
『――嘘よ』
 驚くほどに、歌に混じった否定の言葉は早かった。
「何故、そう思われるのですか」
『嘘。だって、笑うの。真暗な笑みで、真っ黒な言葉をぶつけるの。私は、そんなことの為に歌う筈じゃなかったのに――』
「では、貴女は何の為に歌うのですか。何故、歌を止めないのです」
 その質問にふつりと、歌声が途切れた。 
『――もう、過ぎたことなの』
 しかしそれもほんの数瞬の間。これ以上の話は無駄と。最後にそう言葉を残して、オウガは再び魔歌を奏で始める。
 取り付く島もない彼女の様子に少しだけ肩を落とし、トリテレイアはいつの間にか止めていた歩みを再開した。
 トリテレイアは、彼女に逢わなければならない。それこそが、彼が今ここにいる理由なのだから。
 ――悲劇のその先、彼女の絶望と孤独に手を差し伸べられるのは、今この場にいる者達をおいて、他にはいないのだから。

成功 🔵​🔵​🔴​

マグダレナ・クールー
POW ◎

こんにちはアリス。こんにちはアリス。聞こえているでしょうか
わたくしはマグダレナ・クールー。わたくしは貴方の元へと向かいます

……耳の感覚は良い方だと思っていましたが、声に出してくれなければ、貴方の想いがわかりません
ねえ、アリス。わたくしに歌ってください。わたくしに歌を聞かせて、そして眠らせてみなさい

わたくしは貴方の歌声に耳を傾けましょう。何一つ、聴きこぼしたりなんてしません
どんなに、眠くなったって、この身を叩き、削ぎ、貫き、たたき起こすまで、す……から
……何でもよいので、武器でも、なんでも。自傷しながら前に進みます。貴方の元へ。アリス
そこで、待っていてくださいね



●パン屑を辿って
 音が、聞こえた。
 己の降り立った場所を確認し、マグダレナ・クールー(マジカルメンタルルサンチマン・f21320)はふうと息を吐いた。
 声を、吐き出す。
「こんにちは、アリス」
 そう、かつての彼女を呼んだ。
 返る言葉はない。ただ、意味を為さない歌詞の羅列が彼女の鼓膜を震わせるだけだ。
 けれどマグダレナは、かつてのアリスへ向けて言葉を紡ぐ。
「こんにちはアリス。聞こえているでしょうか。わたくしは、マグダレナ・クールー」
 貴方のお名前は?
 そう、問いかけても。応えは変わらずに、歌える唄は一つだけ。
 ――いいや、きっとこれは、唄ですらないのだ。
 だって、いくら音に耳を傾けようと、アリスの心は少しも流れてこないのだから。
 分からない。彼女が、分からない。
(……耳の感覚は良い方だと思っていましたが)
 過去に焼べた視覚の補佐として頼りにしていた耳も、相手にその意思が無ければ拾えない。
 音では駄目だ、それは、鳴らすだけのものだから。
「声に出してくれなければ、貴方の想いが分かりません」
 だから、耳を澄ます。彼女の『声』を、少しでも聞き漏らさないように。
 魔歌に誘われてまるで闇の中に吸い込まれる様に――瞼が落ちる。踏み出した脚が、がくりと膝から崩折れる。
 ――そんなの、今は必要ない。ただ、一言も、アリスの言葉を聞き漏らさないようにしなくては。
 くるりと旗杖を回す。鋭く尖った穂先を、迷わず己の足へと突き刺した。
 焼けるような痛み。浮上する意識。
 これでまだ、聞ける。彼女の声を探せる。焼ける色が流れ落ちるのも気にせず、歩き出す。
「ねぇ、アリス。わたくしに歌って下さい。わたくしに唄を聞かせて、そして、眠らせて下さい」
 その旋律が、僅かに震えた気が、した。
 再び視界が揺れる。音が急速に遠のいていく。
 まだ、駄目だ。ここで手放してはいけない。長く伸びた爪で、己の傷を抉り返す。
 そうして、揺れては、傷つけ。倒れては、削ぎ落とし、微睡んでは貫いて。
 己の身体を犠牲にしながら、マグダレナは少しずつ、彼女の声を掴みとる。
『――もう、やめて』
「どうして? わたくしは貴方の元へ、行きたいのです」
『来ないで、もういいの。傷付くことなんて、しないでいいの』
 だからやめて、と。旋律は震える。
 傷付く未来しかないから、全てを止めたから。
 傷付けるだけの声だから、口を噤んだから。
『――だから、どうかそこで、眠ってしまって。もう苦しむことのないように』
 やっと聞くことのできたそれは、悲鳴のような響きを孕んでいて。
 だから、かつてのアリスに、いつかのアリスは笑って答えた。
「……大丈夫ですよ、アリス。わたくしは、必ずそこへ向かいますから」
 その声の元へ。貴女の元へ。
「だからそこで、待っていて下さいね」
 赤い道を作りながら、マグダレナはまた一歩、森の中を進んでいく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

榎本・英
眠らない。
私は眠らない。
たとえ夜の帳が落ちようとも、私は瞼を閉じないのだよ。

眠りを誘う歌声は、子守唄のように優しく感じ
今にも落ちてしまいそうな瞼を懸命に持ち上げる。
嗚呼。私一人の力でこの歌に抗わなければならない。
しかし、それにも限度がある。

著書を開き、獣を呼び出そう。
私が眠りそうになる度に、獣には私の頬を引っ張ってもらおう。
寝てしまう前に、なるべく早く頼むよ。

なぜこのような歌を紡ぐのだろう。
なぜ此処に居るのだろう。

過去は過去。
私達が生きているのは今だ。
そこでじっとしている事は悪いことではないが
進まなければ何も生まれては来ないだろう。

ずっと苦しいままは、あんまりではないか。



●未だ介錯の手は落ちず
 彼は、眠らない。
 榎本・英(人である・f22898)は、黙々と森の中を歩いていた。
 眠らない、私は眠らない。心の中で、定めたというように繰り返す。
 森の中。光はそれほど差し込まず、決して明るいとは言い難い。けれどもそれは夜の布地には程遠く、たとえそれが夜の帳と同色だったとしても、彼の瞼は決して閉ざされない。
 だから英は眠らない。眠って、なるものか。
「――――」
 眠らない、筈なのに。
『――お眠りなさい、どうか。痛くないように』
 森から溢れる音は、只人には不協和音にしか聞こえない筈なのに、なぜか英の耳には酷く心地よく、優しい歌声のように感じていた。
 閉じる訳がないと思っていた瞼が重く感じる。錘でもぶら下がっているかのように、今にも落ち切ってしまいそうだ。
(それでも)
 止まれない。彼は、知らなければならないから。
 なぜこのような歌を紡ぐのだろう。何故、彼女は此処に居るのだろう。
 その疑問が、彼の足を突き動かす。
「過去は過去。私たちが生きているのは今だよ」
 望んでも、望まなくても。時間は優しく、そして残酷にその針を進めていく。物語のピリオドの先だってそれは同じことだろう。
 人は生きて、人生を織っていく。英はそれを綴っていく。
 では人でないものは?――きっと、変わらない。それが骸の海で有ろうと、オウガであろうと。
「そこでじっとしていることは悪いことではないが、何も生まれてはこないだろう」
『……いいえ。もう、生み出せるものなんてないの。何も始まりはしないの』
 また、そんな事を。
 そこに存在している以上、誰も変わらないではいられない。変えずにはいられない。
 だから。
 そんな勿体無い真似は、およしよ。
 その言葉は、果たして最後まで言い切ることができたのか。
 幾ら口を動かせど、声は自身の耳にすら届かない。
 暗転する視界。いけないと言う声すらも紡げないまま、赤い瞳は隠れていく。
 踏み出した筈の足はそのまま沈んで、手の中の開いたままの書物が滑り落ち。
 ――開いた頁から、情念の獣が滑り降りた。
 獣の前脚で、彼の頬をはたく。霞のように彼の思考を塞ぐ睡魔を振り払うように、その頬を引っ張る。
「……嗚呼」
 ゆるりと、赤が像を結び直す。
「次はもっと、早く頼むよ」
 眠りの底に落ち切ってしまう前に、もっと、早く。
 心得たとばかりに獣は彼の肩に乗り、己を見張る素振りを見せた。
 頼もしい相棒の様子少しだけ微笑みを浮かべた後、ふらつく足元を叱咤して英は先を急いだ。
 目指すは最奥。森を抜けたオウガの元へ。
 彼女のその先を見届け、そして終わらせるために。
「だって、ずっと苦しい侭はあんまりではないか」

『――未来が苦しくない保証なんてどこにもないもの。否定されて、傷ついて。もっと苦しいのが分かっているのなら――此処にいたほうが、それこそずっとずっとましでしょう』

大成功 🔵​🔵​🔵​

ブーツ・ライル
(アドリブ、マスタリング歓迎)

_

…溢れかえる音の洪水だったかもしれない。
だが、それは誰かの泣いている声にも聴こえた。

…くらりと目眩がする。
この森に充満する音に寄り添おうとする度、抗い難い睡魔が脳を支配する。
……ここ最近、仕事で徹夜が続いていたというのもあるか、なんて、内心自嘲して
それでも、抗う。足は止めない。

「──アリス」

アリス"だったもの"であるとしても。
俺は、それでも「アリス」と呼ぼう。
…今も尚異世界で迷える者。
俺はその子を導かねばならない、「時計兎」であるゆえに。

「終わらせない。お前の旅路を、この絶望の中に置いていかない」


お前を置いて、眠るわけにはいかない。
──アリス。



●三度、踵を鳴らして
 それは、どこで聴いた音だろうか。
 溢れかえる音の洪水。事実だけを述べるなら、きっとそういうのが一番早いのだろう。
 無秩序な音。調和を知らない音。心を刈り取る音。魂を奪う、音。
 溺れてしまいそうな音の中で、ブーツ・ライル(時間エゴイスト・f19511)は強い眩暈を覚えた。
 くらり、くらり。立っている地面が揺れる。身体の芯が回る。
 音に耳を傾ければ傾ける程、音に溺れる。抗い難い睡魔がブーツの脳を支配し、かき回していく。
(……ここ最近、仕事で徹夜が続いていたというのもあるか)
 なんて、思い出しても今更。本当に疲労が歌が及ぼす睡魔に拍車をかけていたとしても、自嘲のネタ程度にしかならない。
 足を止める、理由になりはしないのだ。
 ふらつく足を叱咤する。遠のく意識を無理矢理引き上げ、呼び声を振り払う。
 ブーツはその身一つのまま、自身の驚異的な精神力のみで、オウガの歌の魔力に抗っていた。
 彼は進む。眠る訳にはいかないのだ。
 濁流のように聞こえる音は、確かに只の魔歌でしかなかったかもしれないけれど。
 ブーツの耳にそれは、不思議と誰かが泣いている声にも聴こえていなのだから。
(誰か――なんて、考えるまでもない)
 知っている。彼女という存在を。この身体が、魂が知っている。
 不思議の国の迷い子。ブーツが導き、道を踏み敷く踵となる、愛し子。
「――アリス」
 例えその呼び名がかつてのものだったとしても。今はもう見る影もない、異形のものだったとしても。
 ブーツは何度でも、彼女のことを『アリス』と呼ぼう。
 何故なら、彼女はまだ元の世界の扉をくぐってはいない。今も尚、見知らぬ異世界で迷い、そして泣いている。
 そんな彼女を、『時計兎』である自分が、置いていける道理など存在しないのだ。
「終わらせない、お前の旅路を、この絶望の中に置いてなどいかない」
 兎の役目は導くこと。不思議な世界へ導き、数々の困難と冒険に導き――そして元の家へと導く。それが『時計兎』の役目。
「職務放棄をした誰かの代わりに、俺が務めを果たしてやる」
『――要らない。帰りたくなんてないの。もう終わってしまって居るのよ』
「それでも、俺はお前を導こう」
 たとえどんなに彼女が拒絶しようとも。この体がどんなに限界を訴えても。
 耐える、そして、進む。彼女の元へ。ただそれだけを考えて、歩みを進める。
「お前を置いて、眠る訳にはいかないんだ。――アリス」
 ウサギはアリスを、導くもののだから。
『……それならば、思い出させてよ。私の、本当の**を』
 囁きのような求めの声は、果たして途切れ途切れにしか聞こえなかったけれど。
 それでもブーツは、音にもがきながらも迷いなく応えた。
 必ず、と。 

成功 🔵​🔵​🔴​

鹿村・トーゴ
うわ
音に押し畳まれそ
オレの音感は降魔の代償に贄に上げられたとかおっかさんが言ってたが
(その所為でミサキが歌も暗号の読み上げにしか聞こえなかった、と思い出す)
その音楽が理解できねーオレでも堪える音だぜ
てか…ユキエが心配だな(懐で引き攣る相棒ユキエの頭を撫で)

ヤだけど眠気には痛みで抵抗
塩を塗ったクナイの先で腕を刺し耳朶も切り止血
音には音で対抗な
UCの鳥達に昔ミサキが歌った子守歌らしきものを真似させ
森の地形を調べ最短距離を取る
【情報収集/地形の利用/追跡/聞き耳/野生の勘】

…子守唄の歌詞は全てを肯定する感じ
そこに少し言葉を足してみる
歌だけが全てのあんたを
否定したのはあんた以外の誰なんだい?

アドリブ可



●共鳴の糸
 うわ、と転送されるなり、鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)は呻き声をあげた。
 重なる不協和音に、その音量。まるで音に押し畳まれそうな気分だ。
「すっごい音だなこれ、何言ってるか全然分かんないけど」
 トーゴに音の良し悪しは分からない。その昔、母親に自身の音感は降魔の代償に贄に上げられたと宣わらせたくらいだ。勿論それはは言葉の綾ではあるだろうが、実の肉親にさえそう断言されてしまう程なのだから、人並みと比べてよっぽどなのだろう。
「その音楽が理解できねー俺でも堪える音だぜ……」
 一つ一つが何の音かなどはてんで聞き取れない。けれど、その圧倒的な音量が全身を震わせ、トーゴの脳髄を揺らしにかかってきていることは漠然と理解できた。
「っと、ユキエは大丈夫か?」
 音に鈍感な自分でさえこの調子なのだ。人より五感が優れ、尚且つ音に敏感な鸚鵡にとって、この状況はさぞかし酷いものだろう。
 慌てて懐の中に隠れていた白い鸚鵡――ユキエの様子を確認すれば案の定、彼女は引き攣り、ぐったりとしていた。
「ごめんな、辛いよな」
 そんな彼女を撫で、安心させるように首元を掻いてやり、改めて前を見る。彼女の為にも、そして奥に待ち構えるオウガを討つためにも、一刻も早く先へ進まなければならない。
「彩織り、音の羽、沙謡の鳥……」
 トーゴは素早く印を組み、己の言の葉を媒体に無数の鳥達を召喚する。
 音が襲うというのなら、こちらだって音で対抗だ。
 トーゴの周囲で鳥達が一斉に囀り始める。真似事が得意なそれらが奏でるのは、主の記憶に在る優しい優しい子守唄。
(この唄も、前に聞いたときは暗号の読み上げにしか聞こえなかったんだっけ……) かつての愛しい者の声、それによく似た音色で奏でられる歌に耳を傾け、トーゴは想う。
 記憶を反芻しても尚、それの音の意味はまだ良く分からないけれど。この森の奥に潜むという彼女なら、その意味を理解してくれるのだろうか。
 やがて、鳥たちの唄が彼女の元へ届いたのだろう。意味なき歌詞は、ゆっくりと、トーゴと囀る鳥達へと送られてきた。
『……慈しみの、音。なのにどうして抗うの。眠ってしまった方がいいのに』
「そうだな、眠ってしまった方が楽だろうよ」
 トーゴの意思を読み取る様に、鳥達のが彼女の歌に応えていく。
 きっとそうだ。何も知らず、何も感じず。目を塞いでしまった方がきっといい。
『そう。傷付く前に、終わりましょう。誰も傷つきたくはない筈よ』
「そりゃあ痛いのは嫌だよ。周りは酷いことをするヤツばかりだから」
 彼女の言葉を否定はしない。あくまで受け入れ、少しだけ、言葉を足してみる。
 世界は優しくはない。人は人を傷つける。
 それでは彼女は、果たして誰に傷つけられた?
「歌だけが全てのあんたを否定したのは、あんた以外の誰なんだい?」
『それは――』
 口を噤む気配。不意に、森に響き渡る音が気配を変えた。
 高らかな笛の音は鋭く激しいものに。優しく澄みやかな歌声は、昂り裏返ったものに。
『顔も知らない誰もかも、歌えば歌う程、数えきれないくらいに。
 どうして、どうして。
 だったら、何をうたえば良かったの……!』
「――ッ」
 まるで横から殴られた様だった。
 激しい感情と共にぶつけられた音は、鳥達の子守唄を突き抜け、トーゴの意識を刈り取らんとする。回っていく地面の感覚に、堪らずトーゴは懐からクナイを抜き取る。
「……ああクソ」
 痛いがヤなのは、本当なんだけど。
 予め塩を塗り込んだ刃を自らの腕に突き立てる。猛烈な痛みが神経を焼き、それにより意識が引き戻される。
 そうしてやっと、倒れかけた己の身体を支え直して。
「ちゃんと、教えてくれよ」
 トーゴはひたすら、森の奥を目指すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

乱獅子・梓
【綾(f02235)と】◎
せめて、害悪を撒き散らすオウガではなく
本来の優しいアリスのままで逝かせてやること…
それが俺達に課せられた仕事なんだろうな

さて、その為にも早急にここを抜けなきゃいけないが…
まずは綾、俺が寝そうになっていたら
遠慮せず引っ叩いてでも起こせ
…って今やるな!

ドラゴンの焔を成竜に変身させ
綾と共にその背に乗り飛行
普通に歩くよりも高速で移動出来るだろう
更にここで零の出番だ
UC発動(咆哮以外のUC効果は無効化
可能な限り大きな咆哮を響かせ続けてくれ
移動中ひたすら零の咆哮にのみ意識を集中させ
不協和音をなるべく聞かないようにする
焔が船を漕いでる気配を感じたら
可哀想だが上から叩いて起こす


灰神楽・綾
【梓(f25851)と】◎
手遅れになってしまったアリスと戦うのは
これが初めてでは無いのだけど…
何度目であってもやるせない気持ちになるよね

えっ、いいの?
楽しそうに梓の頬をつねってみる

梓と一緒に焔に乗って移動
零の咆哮に集中して意識を強く保つ
更にナイフで少しずつ自身の手を斬りつけ
その痛みで頭を覚醒させるよ
怪我なんて今更気にしない
俺にとってはこっちの方が合っているかもしれない

アリス…オウガとの対話も試みてみる
ねぇ、零のこの歌声、君にはどう聴こえている?
零の咆哮は歌のように神秘的で美しい
果たして美しいものを美しいと思える心は
まだ彼女に残っているのだろうか
それとも、最早ただの雑音にしか聞こえないのだろうか



●声閉じ込める万年氷
 焔、とその名を呼んでやれば、乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)の手の中で緋色の仔竜は元気よく返事をした。
 主の手の中を飛び出し、地面へと降り立つと同時に、その小さな体躯が炎に包まれ、みるみる膨れ上がる。
 炎が消えた時、梓の目の前にいたのは、彼の身長を優に超える成体の竜の姿だった。
「よし、それじゃあ行くか」
 相棒の準備が完了したことを確認して、梓は傍らで焔の変化を眺めていた連れと共にその背中に乗り込んでいく。
 木々が多い茂る森の中だ。思うように飛ぶことは出来ないだろうが、それでも歩くよりは幾分も速いだろう。
「手遅れになってしまったアリスと戦うのは、これが初めてでは無いのだけど」
 その背後で、独り言のような言葉がぽつりと響いた。梓の灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)は、眼鏡の奥に表情を隠したまま、静かな口調で続ける。
 何度目であっても、やるせない気持ちになることは変わらないね、と。
「そうだな……」
 その言葉は、梓は唸る。彼もまた、同じ思いを胸中に抱いているのだから。
 かつてアリスであった、今はアリスでない者達。彼女達を救うことはもう敵わぬ願いではあるけれど。だからといって、この気持ちを拭うことはやはりできなかった。
 それでも、彼らは敵を討たねばならない。
 アリスは既にオウガになってしまったけれど。無秩序に殺戮を撒き散らす鬼には至っていない。そして彼女の国が生み出した子も未だ眠りの中だから。
「せめて、害悪を撒き散らすオウガではなく、本来の優しいアリスのままで逝かせてやること……それが俺達に課せられた仕事なんだろうよ」
 だから、と。どこか上の空の綾の心を、そして自身の心を奮うために、梓は振り返ると努めていつもの調子へと声色を切り替え、この場の作戦を確認する。
 想うことは自由だけれど、辿り着けなければ全ては無意味になってしまうのだ。
「さてその為にも早急にここを抜けなきゃならないが……まずは、俺が寝そうになっていたら遠慮せずに引っ叩いてでも起こして――」
「えっ、いいの?」
「今やるな!」
 梓の内心を悟ったのだろう。元の穏和な雰囲気に戻った綾が、からかうように手を伸ばし、頬を抓ろうとする。それを振り払い、梓は前へと向き直った。
 それを察した焔が翼を広げ、ふわりと宙へ浮き上がる。
「策はあるが、とりあえず頼んだぞ。こんなところで全滅なんてシャレにならねぇ」
 焔と共に飛び立った氷竜、零をひと撫でしながらもう一度、念を押す。必ず、森を抜けなければならないと。
「大丈夫。俺は眠らないよ」
 対して綾はなんでもないというように背中へ向けて返答す。
 その手の中にある小さなナイフ、その先端を指でなぞりながら、口元に微笑みすら浮かべながら。あっさりとそう、断言するのだった。
 
 
 炎の成竜を先導しながら、氷の仔竜が咆哮していた。
 それは咆哮と呼びながらも、まるで水晶を打ち鳴らしたかのように澄んだ声だった。神秘性さえ孕む響きはまるで旋律を帯びているようで、鳴き声ではなく唄の間違いではないかと錯覚すら覚える。
 音には、音を。氷の竜の声は催眠の魔歌を打ち払い、二人は意図的にそちらに意識を傾けるように集中し、オウガの誘いを振り払う。
 しかしそれでも、完全に防ぎきれるというものではない。
「梓」
 前で微かに揺れた頭を認め、綾は小さく彼を小突く。我に返った相方が同じく微睡みかけていた竜を叩き起こし、下がり始めていた高度が再び上昇する。それを確認して、片手を引っ込めた。
 ――ふと視線を落とせば、彼の手は既に真っ赤に染まっていた。
 無理もない。森を進み始めてからずっと、手の中のナイフ、その刃の部分をずっと握りこんでいたのだから。
 肉が斬れ、血が流れて。竜の咆哮に加えてその痛みが、綾の意識を鮮明に保っている。怪我など今更気にしない。彼にとっては、こちらの方が性に合っている気さえしていた。
 主と仲間である炎竜を守るべく、氷竜がさらに声を張り上げる。
 どこまでも美しい咆哮を聞きながら、その歌越しに響く、オウガの魔歌を聴きながら、綾はそっと彼女への問いかけを口にした。
「ねぇ……零のこの歌声、君にはどう聴こえている?」
 この問いかけが聞こえているのなら、当然竜の鎮魂歌も耳に届いている筈。そう考えながら、投げかける。
 美しいものをただ美しいと、彼女は思うことができるのか。そんな人の心は、まだ彼女の中に残っているのか。それとも、最早ただの雑音にしか聞こえないのだろうかか。
 竜の咆哮から少しだけ意識をそらして、魔歌の旋律に耳を傾けて。刃の部分を握る手に力を籠めながら、綾は静かに応えを待つ。
『ええ、美しいわ。美しいものは好き。
 ――――だけど、いつか誰かに汚されてしまうから。だから、美しいままに、あやめるの』
「……そう」
 果たしてその真意は、人か鬼か。
 元より細い目をさらに細め、綾はそれきり押し黙る。
 優しいアリス、美しいアリス。それは一体どこにいて、いつからそこに隠れているのか。
 それを探す為に、歌を氷の声で凍らせながら、二人はさらに森の奥を目指すのであった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御桜・八重


わたしは歌が好き。
歌っているとなぜか止められることが多いけど、
あまり気にしたことは無いかな。
だって、歌っていると楽しいからね♪
(音痴の自覚無し)

綺麗な歌声と、綺麗な笛の音。
上手く合わせればきっと素敵な曲になるに違いないのに。
「ねえ、なんで曲に合わせないの? なんで歌に合わせないの?」
「あなたの声、綺麗で好きだな。笛の音も素敵だよ」
「わたしと、一緒に歌おうよ!」

オウガの言葉に合わせて即興の歌詞を歌う。
会話するような歌のやり取り。
眠ってなんかいられない。疲れてなんかいられない。
もっとあなたのことを教えて、もっとあなたの声を聞かせて。

そして。
「いま行くよーっ!」
オウガの元へ、桜色の突進が辿り着く。



●ゆるし色の指揮者
 なんで、バラバラなんだろう。
 相反するように奏でられる二つの音色を耳にして、御桜・八重(桜巫女・f23090)は純粋な疑問を感じていた。
「ねぇ、なんで曲に合わせないの? なんで歌に合わせないの?」
 綺麗な歌声と、綺麗な笛の音。上手く合わせればきっと、とっても素敵な曲になるに違いないのに。
 なのに、今の音色はどうだろう。どうしてこんなにバラバラで、寂しげで、悲しみに満ちたものなんだろう。これならば、聞いていて動けなくなってしまうのも当然だ。
 そういう歌も、確かに存在はするけれど。でも違う。きっと彼女の歌声は、もっと明るい調子の方が似合う筈だ。
 そしてそんな唄が、八重は好きだから。すっと息を吸い込み、外れた音に合わせるように、八重は即興の唄を歌い出す。
 好きな事、楽しいこと。浮かび上がる感情を、思いつく言葉でリズムに乗せる。
 八重が歌うと、不思議と周りから止められる事が多いけれど、それでも気にしたことは無かった。多少不格好でも、音が外れても構うものか。そこは自分らしさというやつだ。
 だって――。
『……酷い歌。音、外れっぱなしじゃない』
 返ってきた、オウガからの言葉。其れは少しだけ嘲笑を含んだものだったけれど、そんなこと、八重は気にならなかった。
 ただ、彼女が応えてくれたことが嬉しい。だからそれを歌に乗せて返す。
「そうかな♪ でも、楽しいもの♪」
 楽しい。だから、唄が好き。
 そして、オウガの歌声も、八重はやっぱり――好きだった。
「あなたの声、綺麗で好きだな。笛の音も素敵だよ♪」
『そんなことないわ。わたしは、歌っていないもの』
「ううん。綺麗だよ、すごいって、思う♪」
 だから、もっと音を重ねてみればいいのに。もっと自由に、歌詞を届ければいいのに。
 歌と唄。歌詞と言葉。それらでやり取りをしながら、八重は森の奥へ進む。
 勿論、八重の唄は何の変哲もないただの唄だ。魔歌を跳ねのけるわけでもなければ、睡魔を払う訳でもない。身体は重いし、意識はふわふわとして、今にも闇へ沈んでしまいそうだけれど。
 眠ってなんかいられない。疲れてなんていられない。
 だってこうして、彼女と話せているのだから。歌うことに神経を研ぎ澄ませて、彼女の旋律に返していく。
「もっとあなたのことを教えて、あなたの声を聞かせて。わたしと一緒に、歌おうよ!」
 弾んだ声は一際大きく森の中を木霊して。その歌詞を最後に、オウガの歌が途切れた。
『―――どうして、そんなことを言うの』
 暫し降りた沈黙の後、訪れた歌声は震えているように八重は感じて。だから八重は、その問いかけに、至極当たり前の応えを歌った。
「だって、皆が合わせればとても素敵で、とても楽しいと思うから!」
『……ここまで来たら、考えてあげる』
 それを最後に、森の中かから魔歌が止む。心狂わす笛の音は変わらず響いているけれど、森の中から、不協和音の旋律は消え去った。
 それが彼女の胸中の、何を意味しているかは分からない。けれど八重は満面の笑顔を浮かべて、進むべき道を、その先にいる筈の彼女を見る。
 ほんの少しだけかもしれない。それでも確かに、彼女は八重の呼びかけに応えてくれた。
 だから。
 闘気を纏い、走り出す。
「今行くよーっ!」
 桜色の風が木々を揺らし、オウガの元へと駆けていった。
 
 
『たのしい、って、なぁに。どうしてその言葉を聞くと――こんなに、胸が苦しくなるの――?』

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『泡沫の天使』

POW   :    儚い命の残した歌
【美しい結晶】から【絶望的な断末魔】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    全ては泡沫、幸福は来世に在り
【あらゆる空間を泳ぎ回る事】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【泡で包み込み、死角からトライデント】で攻撃する。
WIZ   :    その美しい遺品を、私にください
【トライデント】から【『声』を結晶化させる魔力を纏った雷】を放ち、【相手の『声』を奪う事】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠知念・ダニエルです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●カーテンコールは始まらない
 いつしか、オウガの歌は止んでいた。
 それでも止まない心と意識奪う笛の音を、猟兵達は各々の方法を用いて切り抜けていく。そうして森の奥へ奥へと進んでいくと、やがて不意に開けた場所へと辿り着いた。
 森の中心。広場のように開けたそこは抉れ、すり鉢状となっている。
 その地面の最下層にある、古びた扉の前で。積まれた宝石の山に座し、彼女は静かに猟兵達を待っていた。
 人の躰に魚の肢。背には白い両翼。その姿はまさに伝説の中で多くの人々を魅了する魔物のそれで。彼女が今や完全に人ならざるものへと落ちてしまったと、如実に物語っている。
 オウガの周辺には、無数の宝石が散らばっていた。青、赤、緑、橙――。近しいものはあれど、同じ色、形は決してない。それらは今彼女が座っている山の他にも、すり鉢状に抉れた地面の至るところに転がり、彼女の世界を彩っている。 
『来て、しまったのね……』 
 ゆるりと、伏せられていた彼女の瞼が上がる。宝石光を写し、様々な色をその瞳に湛えながら、彼女は猟兵達を真っ直ぐに見る。
『あのまま眠ってしまえば、何も苦しまなかったのに。苦しまず、証を残して止めてあげたのに』
 この子たちみたいに。オウガは手元にあった宝石を拾い上げ、猟兵達に見せるように翳す。
『――――』
 不意に宝石から、音が零れた。よくよく耳をすませば、それは人の声のようである。
 そこで、彼らは気付いた。歌っているのだ、叫んでいるのだ。かつてアリスと呼ばれた者たちが、その断末魔を。
『こうして、残してあげるの。この子たちの証を、この子たちの煌めきを、美しさを』
 そうすれば、彼女達はずっと、絶望を知ることなく、その輝きを留めて置けるからと。
『銀の櫂も、象牙の船も夢物語。ならば戻らなくなるまえに、留めてしまえばよいのよ』
 わたしには、誰もそんなことはしてくれなかったから。
 だから、と。彼女は宝石を置き、槍を構える。
『貴方たちも、もうここで、終わりましょう』
 その証は、私がとどめてあげるから。
榎本・英
それは……
それは本当に良い事なのかい?

ずっとそこに留めておけば苦しくはない
栄光も幸福もずっとそこに居座り続けるだろうさ
しかし、それは同時にそこに取り残されてしまうと言う事だ

私にも君と同じようにそうしてしまう方が良いと思っていたさ。
けれどもそれでは何も変わらなかった

著書から獣を呼び出そう
彼等の思いもまた君と同じかもしれない

未来が苦しくない保証はない
しかし、留まり続けていれば絶望を知らないなんて事もないだろう?

留まり続けていても周りは進む
そこに絶望を感じない事は無いとも言い切れない
証が残るかどうかは、人々の記憶に残り続けるかどうかは
自分次第だ

獣たち、見せて呉れ
君たちの強い想いを。



●BELOVED
 目を見開いた。しかと、その姿を見据える。瞠る。
「それは……」
 そうして榎本・英(人である・f22898)は海魔の言葉に、そっと、疑問を投げかけた。
「それは、本当に良い事なのかい?」
 留めてしまえば、続かない。ずっとそこに留めれば、苦しくはない。
 嗚呼そうだろう。栄光も、幸福も、ずっとずっとそこに居座り続けるだろうさ。
 けれど、周りは進んでいく。嫌が応でも、世界は変わっていく。そこまでは、変えられない。
 その中で留めてしまえば。
「それは、同時にそこに取り残されてしまうと言う事だ」
 変わるものと変わらなもの。その差を埋めるものはきっとたくさんあるけれど。そこに、絶望を感じないことは無いとも言い切れないのだから。
 だから。
 著書を開き、頁がから情念の獣を呼び出しながら、英はもう一度、問う。
「――それは、本当に良い事、なのかい?」
『いいこと、よ。取り残されるなんて、知らなければ分からないわ』
 迷いのない瞳で、オウガは答える。これが最善の、最良の答えであると、手の中の宝石を大切そうに抱いて。
 彼女の腕の中で、宝石たちが歌い出す。
 それはかつての絶望の声。断末魔の叫びがその言葉に賛同するように、響き、英の身を苛んだ。
「――そう、か」
 言えたのはその言葉だけ。違うと言いながらも、英は彼女の想いを否定しきれない。
 苦難に喰われてしまうのならば、留めてしまえ。このままでいてしまえ。
 それは、かつての英とて、同じことを考えていたのだから。
 それでも、知ってしまったから。
「未来が苦しくない保証はない。しかし、留まり続けていれば絶望を知らないなんてこともないだろう?」
 それでは――何も変わらない。
 変わらない幸せがあるように、変わらない苦しみは存在する。
 変われないことも、きっと絶望を生む。
 それでも、彼女達はよしとするのか。
 それが――彼女達に残るモノだというのか。
「――証、と言ったね。しかし、それは石くれでは量れないのだよ」
 生きた、証。それが残るかどうかは、人々の心に深く刺さり、記憶に鮮やかに残り続けるかどうかは、美しい石くらいでは表せない。
 それを生むのは、自分次第だ。その者達の、自分自身の――残りたいという、想い。それが証を生む出すのだ。
 変われない世界に、果たしてそれはあるというのか。
  英の右腕が動く。宝石の煌めきを超えて、彼の筆が七色に囲まれた海魔を示す。
 少女達の叫びを掻い潜った獣たちがそれに従い駆け出して、踊りかかる。
「獣たち、見せて呉れ」
 彼等の想いもまた、君と同じかもしれないから。
 その爪を立てて、その牙を通して。
 君たちの強い思いを。
 
 どうか、わたしを魅てください――。
 
 薄荷色の鱗がはじけ飛び、真白の羽根が、弾けた。

成功 🔵​🔵​🔴​

灰神楽・綾
【不死蝶】◎
彷徨えるアリス達を、無残に殺すわけでも
同じオウガにしてしまうわけでもなく
綺麗なままで閉じ込めておく、か
やり方は間違っているけど
きっと彼女の生来の優しさから来ている行動なのだろう
昔から他人を思いやれる心優しい子だったのかもね
そして、他人のことを考えすぎて壊れてしまった

UC発動
敵の攻撃を全て受け止め、凌ぎ、梓達に手を出させない
複数のナイフをバリアのように
念動力で自身の周囲に浮かせて死角からの攻撃に備え
喰らえば激痛耐性で耐える
防戦に徹して俺からは一切攻撃せず

君はさっき俺に言ったね
「美しいままに、あやめる」と
俺達がしていることは紛れもなく君を殺めること
だから君も、せめて美しい姿と心のままで


乱獅子・梓
【不死蝶】◎
ここは絶望の国ではあるが
自分と同じ絶望を味わってほしくないという
思いが残っているのだろうな
絶望を味わい、絶望に屈してしまったアリスだからこそ
よそ者の俺達なんかよりよっぽど
他のアリス達の絶望にも敏感なんだろう
姿ややり口こそオウガと化しているが
まだその心は完全に化け物にはなっていないことが分かる

…零、もう一度頼むぞ
零を成竜に変身させUC発動
先程よりも更に大きな咆哮を放つ
アリスの心に響くように何度でも、何度でも

綾のおかげでこちらに直接攻撃が届くことは無いが
絶望的な歌声は遮れない
だが、最後まで聴き続けてやる
他人のことなんて考えなくていいんだ
最後くらい、ただ自分の為だけに腹の底から歌ってみろ



●意のままに
 ここは絶望の国。
 かつてのアリスが絶望し、オウガを生み出す揺り籠となった世界。
 その世界の中で、アリスが絶望に苦しむその前にと囁く彼女の姿に乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)は違和感を感じていた。
 もしもその心が、本当に失意の最果てに沈んでしまっているのなら。怨嗟に塗れたその心は、こんな行動をとるだろうか。
「彷徨えるアリス達を、無残に殺すわけでも同じオウガにしてしまうわけでもなく……綺麗なままで閉じ込めておく、か」
 同様の感覚を抱いていたのだろう、灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)の言葉に、梓のそれは確証へと変わる。
「真っ当なら、この苦しみを他の奴らにってなるのが自然の流れだろうよ」
 けれど、彼女はそれをしない。それどころか、絶望に沈んではいけないと、彼女はアリスを留め、その手の中に閉じ込めていた。
 その行動の理由は、きっと。
「自分と同じ絶望を味わってほしくないという思いが残っているんだろうな」
 絶望を味わい、絶望に屈してしまったアリスだからこそ。想像しかできない梓や綾よりもずっと、ずっと、迷い子のアリス達の絶望に敏感で。その未来の気配に、何よりも悲しんで、きっと彼女はこうするしか、なかったのだ。
「やり方は間違っているけど、きっとそれは、彼女生来のものなんだろうね」
 綾は想う。かつての、アリスだった彼女の姿を。未来を儚み、だれかに傷つけられ――誰かの為にまだ歌う、彼女の過去を。
 良いことも、悪いことも、誰かの為に。きっと、他人を思いやれる心優しい子だったのだろうと、想像する。
 歌が好きで、優しくて。見ることも叶わない誰かの為に、歌って。
 そして、他人の為にと思い過ぎて――壊れてしまった。
「だからまだ、彼女は誰かの為に、優しいままだ」
「ああ――」
 彼に続けるように、梓も頷く。
「まだ、彼女の心は完全に化け物にはなってないんだ」
 その姿も、その手段も、最早オウガであることは否定しないけれど。
 きっと、人の感覚など等の昔に失っているけれど。
 躊躇いを忘れるほど、その心はぶれてしまって、境界など消えてしまっているけれど。
 何よりも――その心を掬い上げたとしても、彼女の手は既に穢れ、その肉体がアリスへと還ることは、ないけれど。
 その心の在り方だけはまだ違うと、否定したかった。
「せめてその心を失くしてしまう前に――終わりにしよう」
 語尾に覚悟を滲ませて、梓は肩に乗っていた氷の仔竜へと目配せをする。
「零、もう一度、頼むぞ」
 心得たというように竜は頭を上げ、炎竜と入れ変わる様に飛び立ち、前へと進み出た。
 冷気が沸き上がり細氷が竜の姿を取り囲む。一瞬、氷の煌めきにその体躯が隠れたかと思うと、次に現れたのは成長した竜の姿。
 今一度、彼女に唄を。主の意思に従い、顎を開く。
『させないわ。美しいうたは、もうおしまい』
 竜の動きを察知したオウガが、三叉槍を手に宙を泳いだ。彼女喉から発せられる声に合わせて無数の泡沫が浮かび、咆哮を上げようとした氷竜を、そしてその主たる梓を包み込こもうと揺らめく。
 そしてその影に紛れ込むように、金色の棘が突き出されて。
「それこそ、させないよ」
 ――その隙間に、綾がその身を滑り込ませた。念動力で宙にばらまいたナイフを手に取り、オウガの槍を受け止める。並んだ白刃が泡を斬り裂き、視界を拓いた。
「……ねぇ」
 黒いレンズ越しに、オウガと綾との視線が交わる。その宝石のような瞳を見据えて、金の凶器を受け止めて、綾は静かに語りかけた。
「君はさっき俺に言ったね。『美しいままに、あやめる』と」
 今この場では、彼のナイフは梓を守る為のもの。彼女の槍を阻み、泡を払う為のもの。故にその刃物は彼女の肌を傷付けることは無い。
 けれど、その先に終わりは必ずあるから。
 この身は彼女の血を被ることは無くても――きっと、綾は、彼女を殺めたことになるのだろう。
 だから同じだよ。そう囁いて、噛み合った得物を弾き、彼女の身体を突き飛ばした。
「君も、せめて美しい姿と心のままで」
 その優しさも、美しさも、生まれたままの『アリス』のままに、と願いながら。
 氷竜が咆哮する。
 盾は綾が務めてくれている。故に、この身は槍に貫かれないし、泡とは消えないけれど。周囲に散らばった宝石たちの声だけは、竜と、主たる梓を蝕み続ける。
 悲しみ。苦しみ。絶望。後悔。彼女の声に合わせて、音の重圧が梓達に圧し掛かる。
「……最後まで、聴き続けてやるよ」
 だが、それでも梓は耳を塞ぐことをしなかった。
 好きなだけ泣けばいい。好きなだけ嘆けばいい。その痛みはきっと、本当にあった誰かのものだ。
 歌い続ける竜の首を撫でてやる。あと少し、頑張ってくれと視線を送り、響く声に負けないように梓は声を張り上げる。
 全て、聞き届けてやるから。終わりまで、付き合ってやる。
「だからお前の唄も、聴かせろよ」
 誰かの為ではなく、彼女自身の。
「他人のことなんて考えなくていいんだ。最後くらい、ただ自分の為だけに腹の底から歌ってみろ!」
 竜がその心のままに、水晶の音を打ち鳴らすように。自由に、思うがままに、歌いあげてみせろと。
 竜の方向が断末魔を斬り裂き、彼女の心を揺さぶった。
『自分の、為……?』
 身を起こした彼女の手の中で、三叉槍を握る力がゆっくりと解かれて。
 
 ――高い金属音がして、打ち上げられた。 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン

(アリスの断末魔の収集への糾弾は、今回の目的において不適当…)
断末魔を盾で防ぎ接近
剣で三又槍と結晶武器落とし
首筋に突き付けた武器納め
穏当な終焉望めぬ場合備え格納銃器のだまし討ち準備

お話をいたしましょうか
恥ずかしながら、私は『御伽の騎士のようでありたい』原初の願いがあります。幾度も断念した見果てぬ夢が戦いに身を置く『理由』です

『誰も自分にはしてくれなかったから、輝きの証を留めておきたい』
つまり、かつての貴女は輝きを持っていた筈です

歌う理由を、込めた願いを

今一度振り返る時です
輝きを失った理由では無く、原初の…始まりの理由
それを取り戻し、再び歌うことで
(刹那でも)
貴女は『生きる』ことが出来ます



●息吹の源
 からん、と。金属音を響かせて、三叉槍が地面に転がる。
 オウガが竜の歌声に怯み、言葉に思考をやった一瞬の隙をついて、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)の剣がそれを弾き飛ばしたのだ。
 傷む手を抑え、オウガは咄嗟に地面へと転がる宝石の一つを拾い上げようとする。その白魚のような指が結晶へと届くその前に、再びトリテレイアの剣が走った。
 オウガの手が止まる。
 あと少し、伸ばせば宝石が届くその寸前で、白騎士の剣は彼女の首筋へと先端を当てがっていた。
『……斬らないの?』 
 この状態では彼女が宝石を拾い上げ、断末魔をぶつけるよりもトリテレイアがその首を落とす方が早い。その状況をよく理解しつつ、しかし海魔は怯えた様子も無く剣の主を見上げていた。
 七色の光を反射するその目に、是と答えながら。彼は静かに剣を降ろし、鞘へと納めた。
 それは、機械兵士として最適解をとるためか、騎士として、このままで彼女を終えてはいけないと感じたが故に行ったことか。彼の演算機能では、その答えをすぐに出すことはできなかったけれど。
「――お話を、いたしましょうか」
 彼は静かに、彼女にそう話しかけた。
 かつてのアリス。唄を愛していた彼女。夢を――見ていた彼女。センサーから読み取れる彼女の様子に、想像したかつての彼女を投影しながら、トリテレイアは胸に手を当て語りだす。
「恥ずかしながら、私は『御伽の騎士のようでありたい』原初の願いがあります。幾度も断念した見果てぬが夢が、私が戦いに身を置く『理由』です」
 それは、決して手の届かない輝かしい理想。全てを助け、全てを掬う。高潔で輝かしい物語の上でのみ成り立つ騎士の姿。
 願わくは彼のように。そう思いながら、理想と現実の差に何度打ちのめされ、己の無力さを味わい……それでも、トリテレイアはまだ戦うことを止めない。
『どうして? そんなの、苦しいだけじゃない。ここまでと終わらせてしまえば、楽になるじゃない』
 淡々と語る彼の言葉の端から、その苦難を察知したのだろう。オウガの少女は悲痛な面持ちで騎士を見上げる。
 そんな傷つく必要は、もう無いのだと。何故そこまでして求めるのだと。
 そんな彼女の瞳を、真っ直ぐに見返して、トリテレイアは答える。
「其れが、私の『願い』だからです」
 いくら叶わないと謂われようと、それが苦難に満ちたものであっても。その願いは輝かしく、鋼鉄の躰なかで確かに熱をともしているのだから。
「貴方にも、あったのではありませんか?」
 彼女は言った。誰も、彼女の輝きの証をとめてくれはしなかったと。だから自分が、アリスを留めるのだと。
 それは紛れもなく、かつての彼女が輝いていた――願いがあったということ。
「今一度、振り返る時です」
 彼女が歌う理由を、込めた願いを。
 その唇が今紡ぐべきは輝きを失った理由ではなく、原初の……始まりの理由。
 彼女が何を願ったのか。一番初めに歌いたいと思った理由は、なんだったのか。
 それを思い出して欲しいと、重ねてトリテレイアは訴える。
「それを取り戻し、再び歌うことで、貴女は『生きる』ことができます」
 どうかもう一度、息を吹き返せ。
 それが、彼女が『アリス』だと呼べる、鍵であるのだから。
 たとえそれが、ほんの刹那の間だったとしても――。
 
 ぱりんと、何かが砕ける澄んだ音がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天道・あや


ふむふむ成る程


確かに、立ち止まれば、うん、ずっと煌めいて美しいままかもしれない。気持ちは、まあ、わかんないでもないし。その好意は有り難いとも思わなくはないよ?

でも、ごめんね。あたしは立ち止まるのは反対なんだよね。夢は、輝きは、…前に進めばもっと輝いて美しくなると思うから。逆もあるかもしれない。でも、それでも

あたしは前に未来へ、夢と進むって決めたんだ。夜空に輝く星のようになって、誰かの道を照らしたいって

だから、通らせてもらいまショータイム!

雷を避けながらアリスに接近!【ダッシュ、見切り、足場習熟】

アリスの手を掴んで、UC発動!覚えてない、忘れてるかもしれないけど、貴女の最初の気持ち、思い出せ!



●どの音を探して
「ふむふむ、成る程ね」
 彼女の言葉に、散りばめられた宝石たちの理由に、天道・あや(未来照らす一番星!・f12190)はしきりに頷いた。
 その口調はあくまで軽いものであったが、彼女の目は至って真剣そのものだ。
 彼女とてまた、歌に生きる者。遠く輝く偶像に焦がれ、我武者羅にその道を目指していく者の一人だ。彼女の気持ちが分からないことは――無い。
「確かに、立ち止まれば……うん、ずっと煌めいて美しいままかもしれない。気持ちはまぁわかんないでもないし、その好意はありがたいと思わなくはないよ?」
『それなら……』
 でも、ごめんねと。謝りながら首を横に振る。それでもあやは、オウガの言葉を肯定することはできなかったから。
「あたしは立ち止まるのは反対なんだよね。夢は、輝きは……前に進めばもっと輝いて、美しうなると思うから」
 勿論、逆もあるかもしれない。かつて直前で失った夢へのチャンスの時を思い出し、あやの胸に苦いものが広がる。
 目指していた夢が叶わない。そうやって塞ぎ込んで、忘れてしまえと思うこともあった。
 でも、それでも。
「あたしは前に未来へ、夢へと進むって決めたんだ。夜空に輝く星のようになって、誰かの道を照らしたいって」
 未来にはこれより大きな絶望はあるのかもしれない。悲しみに涙を流す時はくるのかもしれない。
 けれど、それにばかり目を向けては、進むと決めた自分を、煌めく夢を、裏切ることになってしまうから。
「だから、通らせてもらいまショータイム!」
 精一杯声を張り上げて、オウガへ向けてあやは駆け出した。
 三叉槍から放たれた雷が、雨のようにあやへ向けて降り注ぐ。踊るようなステップで掻い潜り、かつてのアリスへ距離を詰める。
 声を奪わせることなんて決してさせない。この声は、この唄は、誰かを導くためのものだから。大事に大切に保存してケースにしまわれるなんて、そんな夢はごめんだった。
 走って、跳ねて、また走って。まるでソロステージを駆け回る様に、あやの足は止まらない。
 遂に足元に放たれた雷にバランスを崩して、それでも手を伸ばして。
 ――掴んだ。アリスの腕を。
「リクエストは……無いよね。ならこっちで勝手に演奏させてもらうよ」
 宣言して、あやは歌い出す。
 それは、はじめての音。どこか懐かしくて、優しい。そう思えるような童歌。
『え……?』
 奏でられる旋律に、オウガの目が見開かれる。
 何故この唄を選んだのかは分からない、正真正銘の直感だ。ただそれでも、この唄が彼女の
心の奥に響くと信じて、あやは歌う。
 今また、あやが憧れの道を進んでいられるように。そうやって、本当の夢を思い出して再び目指すことができたように。
「覚えてない、忘れてるかもしれないけど。貴女の最初の気持ち、思い出せ!」
 震えた先の、響いた後の、彼女の本当の音を聞くために。
 
『……だって、歌っても、歓んでもらえなきゃ意味がない。誉めて貰えないうたなんて、だめなもの。だった、じゃない――』

 硝子の割れる音が、彼女の唄に混じり合う。
 彼女の手の中で、宝石に小さな亀裂が生じていた。 

大成功 🔵​🔵​🔵​

鹿村・トーゴ
◎ 
人魚の姐さんその石…
迷った奴以外に姐さんを助けようって人もいたんじゃない?

顔も知らねえ連中に否定されて…て言ってたな
世の中その逆もある
見知らぬ誰かがふと助けようって思ってくれる事がね
あんたは絶望してこの世界に繋がれたけど元々気の弱い優しい子かな
だから皆が絶望する前に石に留めたんだろ?

体は思い通りになんない
でも歌は気持ちや心から湧くもんだってさ
オレは格別音痴だが良くも悪くもあんたの唄が強いってのは判る
今否定する奴はいないぜ
姐さんの好きに歌ってみなよ

敵の攻撃開始で自分もUC使用
敵UC雷を【野生の勘で躱し忍び足/地形の利用】接近、UC解除
手にしたクナイで弾き突き斬る【武器受け/暗殺/カウンター】



●それは呪いのようなおまじない
 口を開きかけて、それでもオウガはぐっと耐えるようにその唇を引き結んだ。
 閉ざされて彼女の心は、いまだ開ききらない。雁字搦めにされた茨が、まだ彼女の喉を塞いでいるのだ。
「人魚の姐さん……」
 彼女は言っていた。顔も知らない誰かが彼女の唄を否定する、と。
 それが彼女を苦しめているのだ。唄を忘れるほどに、歌から逃げられない程に。
 それはきっと辛いだろう。全てが敵になるくらい、苦しいことだろう。こうして彼女がアリスをやめ、鬼へと身を堕としてしまうくらいに。
 でもさ、と。鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)は考える。ゆっくり考えて、想いを口にした。
 雷鳴に負けぬ様、声を上げて。菜の花の嵐と共に彼女の元へと身を投じながら、言葉を届ける。
「世の中、きっとその逆もあるんだよ」
 顔も知らない、名前も知らない、自分と繋がりのない誰か。時としてその言葉が棘として心に刺さり、心が血を流す時もあるけれど。
 また時として、見知らぬ誰かがふと助けようって思ってくれる事だって、またある筈だ。
 例えば、彼女の周りの宝石達。
 地面に転がり光る石。彼女の腕の中で罅割れ歌う石。彼女が留めた、それこそ誰かも分からない彼等だって、迷い込んだ者以外に彼女を助けようとしてくれた人も、いたのかも知れないのだ。
 知らない人影は確かに恐ろしいものだけど、その全てが悪意を持っているなんて、ない筈だ。
 雷が視界を焼く。集まった菜の花で咄嗟に受け止めた。
 衝撃は態勢を低くして受けて、ならばいっそと傾斜の地面に身を任せた。滑るように下っていけば、数秒前までトーゴの頭があった場所を雷が射抜いていく。
 それでも伝えなければならない。周りを見てしまうばかりの彼女に、そんなことはないと否定しなければならない。
「あんたは絶望してこの世界に繋がれたけど、元々気の弱い優しい子かな」
 だから受けた痛みに驚いて、その赤に恐怖して。他の皆が絶望する前に石となって、絶望する前にとどめて、守ろうとした。
 そんな、優しいひとだから。これだけは言わなければならない。
 すり鉢状の地面を滑り切ったところで、足に力を込めて跳びあがる。伸ばした掌に菜の花が集まり、クナイへと形を変える。
 逆手にもったそれを振り上げて、体重を乗せて、斬り込んだ。
『――今更、だものっ』
 咄嗟に、というように、オウガが罅割れた宝石を翳してトーゴの一撃を受け止める。アリスの断末魔に、クナイと水晶がぶつかりあう音が混ざり合う。
「ああ今更だ。体は思い通りになんてなんないだろうよ」
 ましてやすでに、彼女は人を捨てた身だ。たとえ歌ったとしてもそれは、彼女の望む音にすらならないかもしれない。
「でも歌は、気持ちや心から湧くもんだってさ」
 そう、トーゴは昔、教えてもらったから。だから大丈夫だと、言葉を重ねて。
「俺は格別音痴だが、良くも悪くもあんたの唄が強いってのは判るよ。だから――」
 大丈夫。
 誰かは、誰もかも、あんたを否定する奴は誰もいないから。
「姐さんの好きに、歌ってみなよ」
 渾身の力をもって、クナイが宝石を打ち砕いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御桜・八重

【POW】

わたしは歌が好き。
歌っていると楽しいからね。
だから「いっしょに歌おうっ」

森の中心に坐するオウガに向かって突進!
その間も調子っぱずれだけど、
ウキウキ楽しくなる歌を歌い続ける。

結晶から放たれる断末魔の声にも負けやしない。
防御のオーラに共鳴させた大音量で、跳ね退け、震わせ、
目覚めた結晶たちにも一緒に歌ってもらおう♪

深く傷ついて座り込んたあの人には、
言葉だけじゃ届かない。
ちょっと強引にでも手を引っ張らなきゃ。

オウガの懐に飛び込んで【強制改心刀】を一閃。
歌への想いを縛る苦しみを一瞬でも跳ねのけ
歌が好きだった心を引っ張り出す!

好きでいいんだよ。
歌っていいんだよ。
思いっきり歌おう、いっしょに!!



●With
 辿り着いた彼女は繰り返す。森の中で歌った、誘いの言葉を。
 だってここまで来たらって、あの人は言ったから。
「だから一緒に歌おう」
 そう、手を差し出して御桜・八重(桜巫女・f23090)は彼女へと呼びかける。
「わたしは、唄が好き。歌ってると楽しいからね」
 哀しい時も、歌えば心がぽかぽかする。苦しい時も、歌えば前を向くことを思い出せる。
 そんな、八重の中に満ちる温かな気持ちを少しでも分け与えられたらいい。
 少しでも、その温度が伝わればいい。
 そう思って、宝石の道を突き進んで、彼女に向けて歌いかける。
 奏でる唄は相変わらずの調子外れだけれど、少しばかりおかしくても気にならない。ただこの気持ちが、この楽しさがあればいい。
 八重の足元で、宝石たちが一斉に泣き出した。断末魔の不協和音が重圧となり、八重を襲う。オウガを誘う声をかき消そうと圧し掛かる。
 それでも八重は負けはしない。桜色のオーラが彼女の身体を守り、水晶の叫びを弾き返す。響かせた声に、纏うオーラが共鳴して震えてさらに大きな音が生まれた。
 小さくなる少女達の悲鳴。その様子に八重はそっと目を細めて、足元の宝石を拾い上げた。
 せっかく目覚めたんだもんね。
「宝石たちも、一緒に歌おう!」
 今更少し、音が外れても、その音が八重を傷つけることになっても、そんなのへっちゃら。逆に背中を押されてる気分になって、進む足を早めていく。
 早く、早く。彼女の元へ。この気持ちを届けるために。
 きっと深く傷ついた彼女には、こんな言葉だけじゃ届かないから。
 届かないのなら、届かせるまで。
「その為に……ちょっと強引にいくよ!」
 駆けながら、腰に佩いた退魔刀を引き抜いた。刃に霊力を走らせて、息を止めて、刀を振るう。
 刃が狙うは、彼女の躰ではなくその心。ほんの一瞬でもいい。彼女の悪い心を、歌への思いを縛る苦しみを跳ね退ける。そうして、彼女の本当の、歌が好きだった心を引っ張り出す!
 ――白刃が閃き、桜の花弁が一輪、散った。
「……ねぇ」
 刀を納めて、八重は改めて彼女に手を差し伸べる。
 その温かさを、確かめるために。
「あなたは、歌うこと、好き?」
『……ええ。好き……好きだった』
 鬼へと落ちた彼女は震える手で、しかしやっと、自らの意思で八重の手を掴む。
 宝石色に煌めくその目は、大粒の雫が湛えられていて。
『好きだった。ええ、だって……それだけで楽しかったから……』
 震える言葉と共に、それはどの宝石よりも美しい光を宿して、彼女の頬を伝っていった。
 じゃあ、いいんだよと、桜を纏う巫女は言う。
 この場にいる、誰もがそう言っているように。
 あなたは何にも縛られなくていい。
 歌って、いいんだよ。
 自由に、好きなように。
 ただ――楽しく。
「なら思いっきり歌おう、いっしょに!」
 
 どうして、どうして忘れていたんだろう。わたしの最初の気持ち。自分の為の、唄を。
 ただ、歌うことが大好きで。唄さえあればよかったって、思っていた気持ちを。
 だって、それがとても、とても。楽しかったから――!
 
 八重の歌声に重なるように、澄んだ、柔らかな歌声が重なった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マグダレナ・クールー


ええ、来ちゃいました。待たせてしまいましたね、宝石のオウガ
……なる、ほ、ど。……そうですか。そうですか。あなたは、守ろうと、したのですね
……それは、どうしてですか? 貴方は何を、何故

……歌って、ください。わたくしに歌をください。なにを歌ってもいい。それが歌でなくても、貴方の音を耳にしたいのです
声がなくなっても、わたくしは留まりません。わたくしは、アリスを扉の先に導くまで足を止めることをしません

……あなたの音は複雑です。でも、これがあなたの音。……あなたは伝えたいことがたくさんあるから、奏でているのですか?
……深く考えずに、ただ、音だけを拾えば。あなたを知ることが、できますか?



●金糸雀の唄に、喝采を
 唄を、歌おう。思いっきり、思うがままに。
 昔のように、澄んだ歌声はもう出なかったとしても。
 この喉が裂け、血が滲んでも。
 歌おう。私の、初めの音を。
 
「ああ……それがあなたの音、なのですね」
 響き渡るオウガの歌声に、マグダレナ・クールー(マジカルメンタルルサンチマン・f21320)はほうと息を吐いた。
「あなたはずっと来るなって言ってましたけど……ええ、来ちゃいました。待たせてしまいましたね、宝石のオウガ」
 囁くような声で、マグダレナは彼女に小さく謝罪する。届かないことは分かっている、けれどそれ以上に、今彼女の唄を邪魔したくなかった。
 何故ならマグダレナもまた、彼女を知るために、ここに来たのだから。
 ゆっくりと目を閉じる。ここは音が溢れた世界、彼女が歌う世界。今この場に、歪んだ色彩は不要だ。邪魔な感覚を排除して、彼女の声に耳を傾ける。響いてくる旋律に、耳を澄ます。
 ――雷の轟音が、頷く彼女の耳元を駆け抜けた。
 どんなに美しい唄を奏でようと、それがどんなにヒトで会った時の心を歌おうと、今や彼女はオウガへとその身を堕とした存在だ。必然、その身体のつくりは変わり果て、彼女の操るなにもかもが、元の彼女のままには振るわれない。
 彼女のうたは、オウガの槍を震わせる。槍の嘶きは稲妻を呼び、この世界へと降り注ぐ。
 そして神鳴る光と魔力は、アリスの声を奪い、その身を絶望へと突き落す。もはや彼女は昔の通りに、唄を歌うことすら叶わないのだ。
 でも。
 それでも。
「……歌っ、――!」
 再び降った雷が今度こそ、マグダレナの胸を撃ち抜いた。
 ごとりと、黄金の水晶が地面に転がる。続ける言葉は途切れ、呼気の漏れる音だけが身体を廻る。
 しかし、マグダレナはまだ、瞳を閉じ、耳を澄ませ続けていた。
(どうかわたくしに、唄を下さい。なにを歌ってもいい、それが唄でなくてもいい)
 だた、貴方の音を、耳にしたい。
 そのために声を失うことなど些細な事。不要なものを捨てればその分、彼女の声が良く染みる。深く考えずに、只音だけを拾えばきっと、彼女を知ることができると思った。
(どうか……教えて下さい)
 オウガの音は複雑だった。枷が外れたように伸びやかで、涼やかで。それでもどこか、暗い澱みを孕んでいた。
 それはオウガという異形故の性質か。それとも、その過去が故の、苦みか。
 それでもこれが彼女の音だから。彼女の心の、在り様だから。
 必死に耳を澄ます。旋律に重なった全ての音を、全身全霊で拾い上げる。
 流れ込む感情は、悲しみ、嘆き。たった一人の? いいえ、数えきれない程の、たくさんの、アリス達の。
 そうか、とマグダレナは得心して、音に向けて、歩を進めた。
(あなたは、守ろうと、したのですね)
 今より酷くならないように。より深く、砕けてしまう程に、こちらに這い上がる術すら忘れてしまいながらも、彼女達の心が絶望に落ち切らない内に。
 何故なら、遠い昔に自分が忘れてしまったその心を、彼女達は忘れていないと、無意識のなかでオウガは気付いていたから。
 でも今は違う。彼女はもう、思い出したのだ。初めの唄を、忘れていた、感情を。
(――それが、貴方)
 だからそっと、旗杖持つ手を広げて、彼女を抱きしめた。深く、深く、もう逃げてしまわないように。
「歌うことを喜びとする貴方。その唄は、とても利己的で、独善的で――。けれど何よりも、人の心を震わせる、美しいものなのでしょう」
 いつしか声は戻っていた。
 音のある言葉で、マグダレナは彼女の唄をそう宣言する。
 ならば、至上のものには相応の報いを。
 直ぐ近くで打ち鳴らされた拍手の音に、オウガの身体が――その背から、マグダレナが突き刺した旗杖を生やした小さな身体が歓喜に震えた。
 そして、さらに伸びやかに、思うがままに歌い続ける。
 ずっと、ずっと。
 血が流れ、全身を赤く染めながら、彼女はやはり、歌うことを止めなかった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ブーツ・ライル

…そうだな、
終わらせよう、"アリス"。
ただし、俺たちの旅路ではなく──

──お前の、この夢を。

_

彼女が悪だとは俺には思えない。
彼女はまるでアリス達を『護っている』ように見えた。

彼女からの攻撃は敢えて受け入れよう。
終ぞ帰ることの叶わなかった彼女の苦しみも悲しみも、全て受け入れる。

そして、今こそ還そう。
何もかも遅かった。彼女はオウガに堕ちてしまった。
それでも俺は、手を差し出す。
彼女がこの舞台から降りる際に、転ばぬよう。導くよう。

「──アリス」

どうぞ、お手を。
足元には気をつけて──



●かえりましょう
 こふり、と美しい形の唇から朱が零れる。
 気付けば立っていることも、儘ならなくなっていた。
 歌うことが楽しくて、どうしようもなく心が弾んで。歌って、歌って、寒さも痛みも気にならないくらいだったのだけれど。
 それもどうやら終わりらしい。
『もう……おしまい?』
 仰向けになった状態のまま、かつてのアリスは問いかける。
 それは周囲で見守る猟兵達にむけたものだったか。自分が手にかけた宝石たちに向けた者だったのか。或いは、誰でもなく、ただ思ったことを口に舌だけだったのか。
 しかしその声に――応えるものはあった。
「……そうだな。終わらせよう”アリス”」
 ブーツ・ライル(時間エゴイスト・f19511)が彼女の傍らに立ち、赤く染まった彼女をを見下ろしていた。
 結局最後まで、ブーツには彼女が悪とは思えなかった。多くの猟兵達が断じていたように、彼も又、彼女の行いは迷えるアリス達を『護っている』ように見えていたから。今更答えを聞くことはできないけれど、あながち外れでは、なかったのだろうと思う。
「俺たちの旅路ではなく、彼女達の絶望ではなく――お前の夢を」
『夢……そう、永い、夢だったのね』
「そんな夢もあるさ」
 それに何より、ブーツはただ迷える『アリスを還す』ために、此処に来たのだ。
『夢なら……もう少し、歌ってもいいかしら』
「――お前の望むままに」
 だからせめて、夢の終わりくらいは安らかに、悔いを残さず、導いてやろうではないか。
 オウガの唄が、再び空間を支配する。
 それは始めと比べ物にならないくらいに弱弱しいものだったけれど、魔歌で在ることには変わりない。彼女の唄に共鳴するように、無数の罅割れた宝石たちも歌い出し、彼女達の意図しないところで重圧となり、逃げられない魔の手となる。
 しかしブーツは無言でそれを聴いていた。
 音が脳をかき回す。振動に身体が悲鳴を上げる。けれどブーツには、彼女達の手を防ぐつもりは端から無かった。
 何故なら彼女はこの数倍も苦しんだ。これよりもずっと悲しんだ。終ぞ帰ることの叶わなかったその感情を、その絶望を、この程度で比較するのもおこがましい。
 故にブーツは彼女達の『コーラス』を存分に堪能して、余すところなく聞き届けて。
 オウガもまた歌って、歌って、歌って――。
 遂に、その音は止んだ。
 もう一度、今度はより深く、彼女がせき込み朱を零す。
 始めと変わらぬ体勢でブーツはそれを見下ろし、そして静かにその場に片膝をついた。
 もう話す力も残っていないのか、彼女はこちらに視線を送るだけだ。その目を見返して、血塗れた身体に向けて、そっと片手を差し出す。
 今こそ、還そう。
 何もかも遅かった。彼女はもう、オウガに堕ちてしまった。
 罪を犯してしまった彼女は、二度と元に戻ることは叶わないけれど。
 それでもブーツは手を伸ばす。
 彼女がこの舞台から降りる際に転ばぬ様。今度は迷わぬように、導くように。 
 還ろう、お前の世界に。
「――アリス」
 どうぞお手を。
 足元には、気をつけて――。
 差し出されたブーツの大きな掌に、細く華奢な赤い掌が重なって。
『――ありがとう、私の唄を、思い出させてくれて』
 そう、血塗れの海魔は最期に美しく笑って。
 
 時計ウサギに導かれるまま、その姿を塵へと変えたのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 集団戦 『星屑のわたし達』

POW   :    パ・ド・ドゥをもう一度
【ソロダンスを披露する】時間に応じて、攻撃や推理を含めた「次の行動」の成功率を上昇させる。
SPD   :    我らがためのブーケ
いま戦っている対象に有効な【毒を潜ませた美しい花束】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ   :    そして、わたし達は星になる
【星のような煌めきを纏う姿】に変身し、武器「【白銀のナイフ】」の威力増強と、【魔法のトウ・シューズ】によるレベル×5km/hの飛翔能力を得る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●泡に成れなかった星屑たち
 絶望の国のオウガは死んだ。
 その瞳に七色の煌めきを宿し、最期に忘れていたものを取り戻して。
  舞台の主役は退場したけれど、これで幕が降りる訳では無いということは しかし、その場にいた誰もが理解していた
 不意に地面が揺れる。柱であるオウガを失ったことにより、絶望の国の崩壊が始まったのだ。部屋の中央にあった扉が音を立てて砕け、群生していた木々が割れる。空が砕け、瓦礫のように降ってくる。
 その中で、澄んだ音が鳴り響いた。
 地面に転がされたままの、罅割れた宝石達。戦いの最中に割れ、置き去りにされていたそれらが鳴いていた。
『――あの子は眠ったの?』
『ええ、眠った』
『なら、私達が起きましょう』
『ええ、起きましょう。私達が』
 今度は何人もの、幾重にも重なった少女の声で、宝石が歌う。砕けた破片、その中でも比較的大きなもの達が宙に浮き、その形を変えていった。
 四方に伸びた先端は細くしなやかな手足へ。広がる光は煌びやかな踊り子の衣装と、輝くような髪へ。その瞳に宝石をはめ込みながら、それは少女の姿を取っていく。
 それは、誰かの証から生まれた、誰かであってそうでないもの。アリス達の感情を持ちながら、アリスとは起源が異なるもの達。
 それは紛れもなく、彼女が生み出そうとしていたオウガ達だった。
 揺り籠の中で眠っていた駒鳥達は、アリスの断末魔を子守唄として聴き、彼女達の心を吸って育っていたのだ。いつの日か、その証を抱いて旅立つために。
『もっと、輝きたい』
『ここじゃない、もっと光の溢れる舞台の上で』
 その魂は決してアリスとは異なるものだけれど、彼女が吐き出す言葉は紛れもなく誰かの『心』だろう。
 けれど、けれども。繰り返そう、オウガは死んだ。
 証を、心を蒐集していた宝石のオウガは、確かに満たされて逝ったのだ。
 故に彼女の腕の中にいた宝石は零れ落ち、その大半は彼女と共に消えた。ここに残る踊り子達は、そうなり切れなかった一握りだけだ。
 だから今なら。目覚めたばかりの彼女達を、泡へと還すことは可能だろう。
 猟兵達は今一度、己の武器を手に取る。
 崩壊していく絶望の国で、取り残されるものがないように。
天道・あや


さて、ようやく、本命。いや、本番…これも違うかな。ラスト一曲!うん!これだ!

さー、ラスト一曲!だがしかし、観客は前の曲で満足して、皆帰ろうとしている。

ここは大人しく素直に安全に帰ってくださいって、言いたいけど。ごめんね?悪いけど、あたしの我が儘にアンコールされてないアンコールのラスト一曲に付き合ってもらいまショータイム!

え?興味ない?そんなこといないで!聴けばきっと聴きたくなってくるし、損はさせないから!

というわけでオウガを【おびき寄せ】て、オウガの攻撃を【見切り、足場習熟】避けながら、楽器を構えてUC発動!(楽器演奏、歌唱)

これがあたしのこのステージでのラスト一曲!オウガへアリスへ送る一曲



●導きの星となれ
 さーて、と天道・あや(未来照らす一番星!・f12190)は手の中のマイクを握り直す。
 彼女の為のソロステージは終わった。けれどまだ、この世界でのあやのステージは終了ではない。
 寧ろここからなのだ。始まりを見つけたのだから、次は未来を、そう思わせるような唄を歌いたい。
「ようやく、本命。いや本番……これも違うかな」
 そんな気持ちなのだが、自分の言葉に違和感を覚える。確かにここから、その気持ちは大きいけれど、それでは前の曲は前座なのかというとそんなことはない。
 前までの曲があったから、今がある。ここまで来たから、未来を歌える。一番盛り上がって、一番輝いて、煌めく星の光のように道を照らせる。
 だから、そう。
「ラスト一曲! うん、これだ!」
 ライブの熱気が最高潮に達したところ、そこで弾ける、最初で最後の、これから輝く者達へ送らなければならない、あやが贈りたい唄。最初で最後のラストスパート、そう、これが相応しい。
 ……筈、なのだが。あやは視界に映る少女の背中姿に、少しだけ苦笑を浮かべた。
 何故なら、大切な観客達は前の曲ですっかり満足して、皆帰ろうとしているのであるのだから。
「さー、ラスト一曲!」
 気分が盛り上げるためにコールを投げても、返ってくる声は無い。
 生まれたばかりの星屑の子たちは、それぞれがあらぬ方向を見ているばかりで、あやに視線すら寄越さない。『彼女』の番は終わったと、皆次の世界への道を探しているのだ。
「……ここは大人しく素直に安全に、帰ってくださいって言いたいところだけど」
 今ここで彼女達を逃してしまえば、きっと新たなアリスの犠牲者が出てしまうだろう。以上に、ここでせっかくのファン候補を逃すなど、スタァとして許されない!
「ごめんね? 悪いけど、あたしの我が儘にアンコールされていないアンコールのラスト一曲に、付き合ってもらいまショータイム!」
 えいっ、と舞台代わりにしていた扉の前から、あやは駆け出す。彼女の手を取るために駆け下りた道を辿る様に、今度は彼女達の背を追って、追い抜いて。
 先回りして彼女達の前へと躍り出た。
「さぁ、想像しようよ! 明るい未来を!」
 人形めいた少女達の顔を一つ一つ覗き込んで、精一杯の笑顔を振りまきながら歌い出す。
 そこまでしてやっと、星屑の子達はあやの存在を視界へと入れて。
『輝くのは、貴女じゃない』
『踊れるわ、わたし達だって、星のように』
 煌めきを纏い、手の中のナイフを振り上げた。
「え? 興味ない? そんなこと言わないで! 聴けばきっと聴きたくなってくるし、損はさせないから!」
 閃いた銀閃を踊りながら掻い潜って、それでもあやは笑顔を絶やさない。追い縋ってくる少女達を誘うように後ろへ跳び、弾むような音色を振り撒き歌い上げる。
 未来へたどり着けなかった心を宿したオウガ達。その目がもっと、もっと輝いたものになるように。どうか彼女達が素敵な夢を視れますように。明るい未来を、想像できますように。
『未来……? 私達の舞台は、そこにあるの……?』
 唄を聴き続けた少女達の動きが次第に鈍っていく。自らを誇示するような輝きが失われ、ナイフを振るう手が止まる。そんな少女達の一人へあやは笑いかけて手を伸ばし。
「そう、行こう。怖いなら手を繋いでいくから」
 最後の詞章を歌いながら手を繋ぎ、少女を泡へと還したのだった。
 
 これが、絶望の国をステージとしたあやのラストの一曲。
 それはオウガへ、アリスだった者達へ送る、未来へのエールだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鹿村・トーゴ

あの人魚
…納得して消えられたかなぁ…

あの石から出来た子達か
折角体を得たとこだが
この世界はもう消えちゃうって
…姐さんや皆の所に行ってくれるかい?

UCで喚んだ七葉隠(七本の刀状態)のうち一振りを手にして
『人魚のオウガのこと、好きだった…?』と尋ねてみる
UC効果に関わらず
六振りは【念動力/串刺し】で敵に突き刺し【武器受け】で敵からの物理攻撃を弾く

念動は得意だと思ってたけどよ
妖刀六振り操んのはやっぱり結構キツいなー

敵UC(菜の花畑でミサキを殺めた経緯から思い入れがあり脈略無く見るとドキッとする)の毒は【激痛耐性】で耐え【カウンター】にクナイを【投擲】後を【追跡】手にした七葉隠の一振りで斬る【暗殺】



●問う篠葉
「あの人魚……納得して消えられたかなぁ」
 鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)は考える。彼女が塵となって消えた、空の彼方を見遣りながら。
 彼女の姿も気配ももはやどこにも無い。だから勿論彼の答えに返ってくる言葉なんてある筈がないけれど。それでも、最期の唄と言葉を思い出して。そうだった良いなと思えた。
 そんなトーゴの前に、降り立つ人影があった。金の髪に銀のナイフ。踊り子を思わせる衣装をまとった――無垢な目をした星屑の少女達。
「あの石からできた子達か……」
 それは彼女が大切に、大切にと集め守った宝石。そこから生まれたオウガ達だった。
『そこをどいて。わたしが、あの子の代わりになるの』
「折角身体を得たところ悪いけど、この世界はもう消えちゃうって」
『なら、ここじゃないどこかに行けばいいわ。そこか私の舞台なのよ』
 あくまで己の夢を信じ、憧れを疑わない彼女達にそっか、とトーゴは曖昧に頷く。口の中に広がる苦みを飲み下して、それでも彼女達の前に立ち塞がった。
「それは許せないんだよなぁ」
 新たなオウガを不思議に国にばら撒くことはあってはならない。そんなことをすれば、海魔の彼女を掬い上げた意味が無い。だからトーゴは、握りしめたクナイを少女達へ突き付けるのであった。
「……姐さんや、他の皆の所に行ってくれるかい?」
『――嫌よ。』
 返された言葉はやはり、拒絶のもの。同時に、彼の視界を見知った黄色が塞いだ。
『わたしは、舞台に立つの』
 突き付けられた花束に、一瞬思考が奪われる。
 まるで煌めく星を落としたかのような小さくて黄色い、菜の花。忘れることのできない、トーゴにとっての『彼女』を喪った時一面に咲いていた、鮮やかな色。
 トーゴの目の前で散った花束が、其処に秘められた毒が彼の皮膚を焼き、その痛みでようやく我に返りクナイを投げる。カウンター気味に投げられた刃物が少女の腕を裂き、小さく悲鳴を上げて少女が逃げた。
 その背中を追い縋り、己の刀の名を喚ぶ。
「透る七の葉ななふりの、問いとあやかし降りる也」
 そして、召喚の楔として問いかけた。目の前の星屑の子に、この世界の主だったものを。
「なぁ、お前は人魚のオウガのこと、好きだった……?」
『……』
 答えはない。もとより、たいして期待はしていなかった。
 代わりにと呼び出された刀は、言葉通りの透る刃の七振りに分かれた妖刀。内の六振りを念動力で繰ることで、彼女への道を拓く。
 花を蹴散らし、毒気を払う。反撃にと投げられたナイフを弾き返し、地面に刃を突き立てることで退路を塞ぐ。
 荒くなった息を落ち着け、トーゴは残る一振りを手に彼女へと追い付いた。念動は得意だという自負はあったが、妖刀六振りを繰るのはいささか消耗が激しかった。
 それでも、これで鬼事はおしまい。追い詰めた少女に向けてトーゴは大振りの刀を向けて、一息に、華奢な身体へと突き立てる。
『――好きじゃない。けれど、嫌いでもなかったわ』
 ぽつりと、囁くような声は口元を赤に染めた少女のもの。それがトーゴが投げた問いかけの答えだと気付くのには少し時間がかかった。
『自分だけずっと舞台の真ん中にいたから。そうやって、悲しいことを全てその身で受けて……そう、悲しいヒトだと思った』
 虚を突かれ、反応できずにいるトーゴに構わず、星屑の子はその身体を砂へと還しながらも言葉を続けていく。
『「わたし」達を、見ているみたいで……』
 ゆっくりと光を喪っていく瞳は輝いた時のままでと守り、閉じ込めた少女を確かに捕らえている様に見えて。トーゴは何かを言葉を返そうとして――結局、何も言えないで押し黙る。
『嫌いに、なれなかったの』
 そしてその言葉を最後に、また一つ。星が消えていく様を、妖刀を握りしめたまま、トーゴは見送っていたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

乱獅子・梓
【不死蝶】◎
これで一件落着…とは行かないんだよな
ここで生まれてくるのが
血の涙もない、ありふれたオウガだったならば
ただ蹴散らすだけだったのに

オウガでありながら心は誰かのアリスだなんて
やりづらいったらありゃしない
アリスの心を持ちながらもオウガとして生まれ
そして生まれてすぐ倒されるだなんて哀れ過ぎる

…だが哀れんで見逃したら悲劇が繰り返される
美しいままで、とあのアリスが閉じ込めた証
もう救うことは叶わないなら
せめてその証が穢れてしまう前に
先に逝ったアリス達の元へ送ってやるのが
最後の仕事なんだろう

UC発動、辺り一帯を暗闇にすることで
自由な動きを妨げる
彼女達にとって闇は嫌かもしれないが…
大丈夫だ、すぐ終わる


灰神楽・綾
【不死蝶】◎
まず生まれてきたオウガの数を確認し
ああ、アリスはちゃんと満足して逝けたのかな、と安堵

改めてオウガそのものに向き合い
彼女達から発せられる言葉は
嘆きや悲しみや恨み言ではなく
絶望を知る前のキラキラした夢のように思えて
このまま救えたらどんなに良かったか

彼女達はアリスの誰かの心を持っているけれど
その誰かではない、ただのオウガ…分かってはいても
そうあっさり割り切れるものではないよね
だから、UCでナイフを花弁へと変え
梓の生んだ暗闇の蝶々に紛れ込むように放つ
いずれ眠るように彼女たちは消滅していくだろう
君達の中にある、優しいアリスの心に免じて
苦しまないように逝かせてあげる

せめて美しい姿と心のままで



●夢見鳥に追われて
 産まれてきたオウガの数を見て、灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)がまずついたの物は、安堵の溜息だった。
 消えていった海魔のオウガに代わるオウガは、彼女の心の苦痛を和らげることによってその数が変わるという話の筈だ。それが、今この場にいる猟兵達で充分対処できる数であったということは。
「ああ、アリスはちゃんと満足して、逝けたのかな……」
 その唄は美しく、その心は優しいままに。輝くための大切な想いを取り戻して。
「きっと、そうさ」
 仔竜の姿へと戻った龍を肩に乗せ、乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)も綾の言葉に同意する。
 心のままに、思うままに、力の限り歌い終えることができた彼女。その最期の姿は、言葉は、何よりも美しく晴れやかだったから。きっと梓も綾も、やるべき務めを果たすことはできたのだと、思う。少なくとも、ここまでは。
「だが、これで一件落着……とは行かないんだよな」
 けれど舞台はまだ終わらない。物語をめでたしめでたしで括るには、この世界は崩落しきれておらず、登場人物はまだ多すぎる。
 星屑の少女達。彼女が愛おしんだ証と心から生まれた、まだ何もしていない――無垢なオウガ達。
 ここで生まれてくるのが血も涙もないオウガだったらどんなに良かったのだろう。残虐で人の心もない殺人鬼だったら、ただ戦い蹴散らすだけで、彼等の心はきっとここまで震えなかっただろう。
「やりづらいったらありゃしない……」
 しかし彼女達は違うのだ。オウガで在りながら、その心はオウガでない。アリス達の命の囁きを聞いて生まれた彼女達の心は、まぎれなく誰かのアリスそのもので。
『見ていて。わたしたち、踊れるの。星のように、輝くの』
 無垢な眼差しのまま、舞台に駆け上がり空を舞うが、たまらなく梓の心を締め付けた。
 それでも、やらねばならない。誰かが終わらせなければならない。
 これはあくまで唄を喪い唄を取り戻した彼女の舞台で、その幕は星屑の彼女達全てを終わらせて初めて下がる。ここで中途半端に哀れみ、見逃してしまえばまた悲劇を生み出すだけだ。
 だからと梓は紅い蝶を呼ぶ。そして少女の世界に闇を呼び出した。
 胡蝶が呼び出す夜の闇が味方するのは、紅い蝶が寄り添う彼の味方だけ。それ以外の者達はみな光を失い惑い、空も地面も見失う。生まれたばかりの、光を焦がれる彼女達にとって闇は嫌かもしれないが、これ以上彼女達が遠くへ行ってしまわないように、これが梓のできる精一杯だった。
「大丈夫だ、すぐに終わる」
 美しいままで、と海魔のアリスが閉じ込めた証。証の意思は砕けて、もうその命は救うことは叶わないなら。
「せめてその証が穢れてしまう前に、先に逝ったアリス達の元へ送ってやる」
 それがきっと、見送ったものとしての最後の仕事なのだろう。
 と、梓の敷いた闇から星屑の子が一人零れ落ちる。寸前でその腕を払い逃れた彼女は、術者である梓の存在を認めると武器を手に飛び掛かってきた。
「割り切れないよね」
 バネでもついているかのような軽やかな跳躍と、そこからの流れるようなトゥシューズでの蹴り。舞踏のようなオウガの攻撃を綾がナイフで受け止める。
 赤いレンズ越しに細められた目は、眩し気に少女を見つめてていて。続く攻撃が来る前に弾き返し、闇へと押し戻す。
 羽根が地面へと舞い降りるような動作も、手の中で煌めく銀のナイフも。綾にとってはその一挙一動も目が奪われるようなもので。
『次は、わたしが舞台に立つのよ。スポットライトを浴びて、夢の様な時を過ごすの』
 いつかを夢見る言葉は嘆きや苦しみが欠片もなく、ただ絶望を知る前のキラキラとした憧れそのもの。そんな彼女達の煌めきが――どうしようもなく、眩しい。
「彼女達はアリスの誰かの心を持っているけれど、その誰でもない、ただのオウガ……分かってるよ」
 分かっている。彼女達は生まれた時からオウガで。零れる輝きは彼女達のものであって誰かのもの。その夢は決して叶うことはあり得ない。
「このまま、あの子みたいに救えたらどんなに良かったのかな」
 そう吐いた言葉も、またの夢のようなものだから。
 だから綾は、静かに目を閉じて後ろへ下がり、梓が生んだ夜の夢へとその身を委ねた。
 肩に梓の赤い蝶が舞い降りたのが閉じた瞼越しに感じ取れる。星屑の子たちにとってこの闇は全てを塗りつぶす暗幕であっても、蝶の案内を釣れた綾には何の妨げにもならない。
 そっと、目を開ける。
 紅い蝶が飛ぶ暗闇の中、不安げに周囲を見渡す美しい少女達の顔が見えた。
 その姿をじっと見つめ、位置を定めて。綾もまた、綾に倣うように暗闇の中へ紅い蝶を解き放つ。
「君達の中にある優しいアリスの心に免じて。苦しまないように逝かせてあげる」
 ふわり、ふわりと蝶が少女の周りを飛ぶ。誘われるように星屑の子がその手を蝶へと伸ばせば、それだけで――少女の華奢な指は斬り裂かれ、朱い血を噴き出した。きょとんとする少女の傍を蝶の翅が掠めれば、それだけで少女の全身は至る所が刻まれて。
 それでも少女は痛みを感じない。苦しみを与えず、痛みを与えず、ただ静かに相手の命を刈り獲れるように……綾の蝶はその様に出来ている。
 否、それは蝶ではなく、花だった。綾のナイフが幾重もの蝶の形をした花弁へと姿を変え、死の眠りを刻んでいったのだ。
 闇に視界を奪われた星屑の子たちにそれを防ぐ手立てはなかった。また一人、一人と、綾の蝶に斬り裂かれ、眠るように瞼を降ろし倒れていく。
 これがアリスに、オウガに向けた、綾から最期の花束。
「……誰かのアリス。せめてその美しい姿と心だけは。いつかの形のまま、終わらせて」
 ふ、と赤い蝶が吹き消されて。輝けなかった星屑は闇の中、静かに消えていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

マグダレナ・クールー


おはようございます、生まれたてのオウガたち
これから、わたくしはあなたたちに暴力を振るいます
どちらが悪どいのでしょうね。わたくしは、あなたがオウガだからという理由だけで矛を向けています。オウガでなければ良かったのにとも、思っています

ですが、ええ。殺します。宝石のオウガのもとへ送ります
逃げてください、追いつきますから

オウガの攻撃は避けずに受け入れます。その傷の痛みをドーピングして、わたくしは斧を振るいます
どうか、今ここで輝きを見せてください。生きた証をわたくしにください
ここは、あなたたちの理想の舞台ではないかもしれません。ですが、わたくしは。踊り子たちの敬意を示しましょう



●最期の産声に、祝福を
「おはようございます、生まれたてのオウガ達」
 宝石から孵った星屑の子たちに、マグダレナ・クールー(マジカルメンタルルサンチマン・f21320)は静かに目覚めの言葉を告げる。
 おはよう、ごきげんよう。目覚めはいかが? そう、煌めきに焦がれる少女達へと声をかけ。
 そして、静かに旗杖を突き付けた。
「これから、わたくしはあなたたちに暴力を振るいます」
 それは何故か。
 何故なら彼女達はまぎれもなく、不思議の国を侵すオウガであるから。だからその心がアリスから生まれたものだとしても、生まれたばかりの彼女達がまだ何の罪がなかったとしても、マグダレナは彼女達を殲滅する。しなければ、ならない。
「……どちらが悪どいのでしょうね」
 旗杖の切っ先をオウガに向けたままにしながら、マグダレナはぽつりと漏らす。
 不思議の国の、さらに絶望に染まってしまった世界の中でいまさら善悪を問う者はないけれど。無垢にこちらを見返すその瞳を見ると、考えざるを得ない。
 今この時、マグダレナは彼女達がオウガである、という理由だけで矛を向けている。
 ならば、断罪すべき悪はどこにあるのだろうか。
 オウガが悪であると決め、手にかけようとするこちらが悪いのか。それとも悪であるオウガとして産まれてしまった彼女達が悪いのか。いっそ彼女達がオウガでなければ、どれほど良かったのだろうか。
「ですが――」
 それ以上は、考えない。きっとマグダレナは、考える資格などない。
 何故なら。
「ですが、ええ。殺します」
 かつてのアリスだった彼女は――マグダレナ・クール―は、『オウガを殺すもの』なのだから。
「オウガは殺します。殺して、必ず宝石のオウガの元へ送ります」
 失くした物を取り戻し、満足して消えた過去のアリス。その手の代わりにマグダレナが、取りこぼしたアリスの心を、拾い上げよう。
「だから、どうぞ逃げてください。追いつきますから」
 マグダレナが旗を大きく振る。翻った金と赤の布が再び床につくその前に、マグダレナは旗であり、杖であり、矛でもあるその武器を少女達へ向けて投げつけた。
 それが、最期の鬼ごっこの始まりの合図。
 巨大な砲撃の如き一撃を、星屑の子たちは煌めきを纏い、散り散りとなり逃げていく。手の中に残ったハルバードを振りかざし、マグダレナは追いかける。
「追いかけて、捕まえます。何処へ逃げても、どんな方法を用いても」
 叩きつけた刃は空を切る。その隙を狙い、空を駆ける少女達から銀の閃光が降り注いだ。
 少女の踵がリズムを刻む。少女の手の中のナイフが踊る様に走り、マグダレナの身体を斬り刻む。
 マグダレナの金の髪が宙を舞う。服の破片が空を飛び、赤い飛沫が地面を濡らした。
 それでも、マグダレナは少女達の攻撃に抗う真似はしなかった。傷など、己の内に宿る聖なる光でいくらでも塞げる。痛みそのものは消える訳ではないけれど、こんなの――気付けの代わりにもならない。
 それよりも、もっと、もっとマグダレナは逃げる彼女達を追いかけて、視て、刻まねばならないのだ。
「どうか、今ここで輝きを見せてください。生きた証をわたくしにください」
 何故なら、これが彼女達の最初で最後の舞台だから。
 きっとここは、彼女達の理想の舞台ではないかもしれない。もっと別の場所で踊りたいと、彼女達は望むかもしれない。
 それでも彼女達がこの国を出ることは赦されなくて、そんな彼女達の輝きは、オウガでありながらとても、とても、美しいとマグダレナは思うから。
 マグダレナの心臓を突き刺しにかかった星屑のナイフを己の手を盾にすることで留める。赤い痛みとともに手の感覚は瞬く間に消え去るが、大丈夫、斧を持つ手はまだ健在だから。
「わたくしは、あなたたちに敬意を送りましょう」
 だから。
 喝采の代わりにこの手が鳴らすのは刃が風を切る音で。
 花束の代わりに、誰のものでもない、マグダレナ自身の手で。
 彼女は星屑の子たちに、最期の贈り物をしたのであった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
誠に申し訳ございませんが、皆様を他の舞台に上がらせる訳には参りません
このアリスラビリンスの『今』を生きる者の為に
ここを最初で最後の舞台としていただきます
…悔い無きよう

UC、頭部、肩部格納銃器を起動
センサーの●情報収集で敵集団を把握

ダンスである以上、一定の規則性…ある種の予定調和が存在します
敵の行動●見切り、●操縦する急所狙いのUCの●なぎ払い●ロープワーク
即死狙いの銃器の●乱れ撃ちスナイパー射撃
剣と盾の近接戦も駆使
全方向への敵へ複数同時攻撃

…やはり、こちらの方が私の得手ですね

彼女を救えたかどうかはオウガの数で客観視可能ですが…

いえ、そもそも私が救いと認めたくないからでしょう
…悔いばかりです



●円舞を共に
 ただ、ただ、少女達は踊っていた。
 周囲の喧騒を気にすることなく、世界の崩落に構うことなく、少女達は一心不乱に踊っている。
 何故なら少女達の舞踊は時間を経れば経るほど、その動きは冴えわたり、彼女達は美しくなれるから。その力が大きくなればなるほど、彼女達は別の世界へ飛ぶ力をつけるのだ。
 だから、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)はそんな彼女達を止めるべく、踊り子の一群へと歩みを進めた。
「誠に申し訳ございませんが、皆様を他の舞台に上がらせる訳には参りません」
 彼女達の云う舞台。それは即ち、ここではない別の不思議の国の世界。彼女達の舞踏はそこに迷い込むアリス達に死を振り撒き、喝采の代わりに悲鳴を浴びる。
 舞台の上で輝きたい、踊り続けたい。アリスの心を持った彼女達の気持ちに偽りはないけれど、同時に彼女達は紛れもなくオウガである。彼女達に宿す前提が、そもそも異なるのだ。
 だから、トリテレイアは何としても、彼女達を逃がすつもりは、なかった。
「このアリスラビリンスの『今』を生きる者の為に、ここを最初で最後の舞台として頂きます」
『――わたしは、ここから始まるのよ』
 その言葉が引き金になったのか。少女達の視線が一斉にトリテレイアを射抜いた。
 彼女達が踊っていた時間と比例して高められた力を爆発させて、ナイフを手に流星の如き速さでトリテレイアに襲い掛かった。
 正面から突撃を、大盾を構えて受け取める。脇へ回り込んだ少女達は、躰より展開した格納銃器による射撃で牽制した。
 それでもこれは、少女達にとっての舞台の一つ。故に彼女達の動きは舞の一つに過ぎない。そしてダンスで在る以上、その動きには一定の規則性と、ある種の予定調和が存在する筈。その隙を、トリテレイアは狙う。
 盾で押し返した少女達が廻る。花束を手に、銀のナイフを手に、踊り、跳ねて、着地する。そして次のステップへと切り替わる瞬間。
 トリテレイアのワイヤーアンカーが少女の身体を斬り裂いた。
 同時に機体に格納されている全銃器を展開し、弾丸を撒き散らしながら体を一回転させる。少女達のように鮮やかにとはいかないが、少女の達のダンスを真似るように、彼女達のリズムに倣って。
 何故ならこれは舞台だ。彼女達の初めてで、最期の大舞台。それならば精一杯、彼女達の為に相手を務めようではないか。
「……悔い無きよう」
 ばら撒かれた弾丸は星屑の少女達を撃ち落とし、弾丸を避けて舞い降りた少女はアンカーに絡め捕られ、その身体を焼き切られる。全方位、縦横無尽にトリテレイアの凶器は踊り、少女達を還していった。
「……やはり、こちらの方が私の得手ですね」
 内蔵されたセンサーで戦果を確認しつつ、自身の性能を実感する。機械の躰は至って素直だ。一つ打てば、一つ返る。リズムも、物量も、数値という形で可視化できるものの方が、その成果は分かりやすいと感じた。
 少なくとも、絶望に落ちた少女の心というものを分析し、救い上げることよりも、ずっと。
「彼女は……」
 消えていった彼女をトリテレイアもまた、思う。彼女の心を救えたか、それは生まれたオウガの数により客観視が可能だ。彼のセンサーと演算機能が弾き出すどの結果を見ても、目標数値は達成されたという答えがでるが、それでも彼の思考が晴れることはない。
 ――彼女は本当に救われたのか? 
 あの形が、本当に彼女にとっての最良であったのか。
 考えれば考える程、思考は底なしの沼に嵌まっていくようだ。
「……いえ、そもそも私が救いと認めたくないのでしょう」
 本当は、気づいている。彼女にとって、というのは建て前で、単にトリテレイアが殺めるしかなかった彼女の最後に納得がいっていなかっただけなのだど。
 全てを救うに至る道は、どうしてこんなにも、遠い。
 
 ――嗚呼。今しがた、少女に悔い無きようにと言ったばかりなのに。
 この鋼鉄の身体に宿る想いは、悔いばかりであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ブーツ・ライル


──崩落していくこの世界で、この子たちが迷子にならぬよう。
最後まで責任は果たす。

向けられた攻撃は全て受ける。
アリスと起源は異なれど、アリス達の感情を持つのであれば
その心の一雫まで受け止めてやりたいと思う。
彼女たちが迷わずゆける様に。悪い夢など見ない様に。…そう願って。

しゃらりと鎖の音が鳴る。
己を起点に、範囲攻撃にて数多の鎖を放つ。
狙うは彼女たちの心臓。不要に苦しむことなどない様狙い撃つ。

「──おやすみ」
良い夢を。



●星に願いを
 銀の煌めきが視界に映り、次の瞬間己の体から赤が飛ぶ。
 星屑の少女達に囲まれたブーツ・ライル(時間エゴイスト・f19511)は、一方的に彼女達の攻撃を受け続けていた。
 香る青い華の香は、感じたかと思えば忽ち手足を痺れさせて、動けないでいる内に、細く美しい足が鞭のようにしなり、彼の巨躯を打ち据えた。
 ぐっと、息が詰まる。内腑にまで響く衝撃は、彼の口内に鉄の味をこみ上げさせるが、それでもブーツは彼女達へ反撃の構えを見せなかった。
 何故なら、こうして死の円舞を見せている少女達もまた――ブーツにとってはアリスだから。
 その身の起源はアリスとは異なれど、彼女達はアリスの感情を持っている。アリスの悲しみ、アリスの苦しみを知っている。
 なれば、彼女達の心の一雫まで受け止めてやりたい。それが、アリスを導くものであるブーツのせめてもの想いだった。
『貴方に花を、差し上げる』
 再び花束が振るわれる。愛らしい小さい花弁に、深い青を宿した花が、ブーツの視界に映った。
 彼女が自分へ差し出すその花の名は、勿忘草。
『大切な思い出を、どうかわたしを忘れないで』
 散っていく花弁と共に、少女の詩が紡がれる。それは舞台の上の台詞か、それとも、彼女に宿る誰かの言葉か。
『もし忘れてしまうのなら、忘れられてしまうのなら、その前にわたしが貴方を止める。そうすれば、永遠だから』
 どちらかなんて、ブーツには分からないけれど。
「忘れるわけがないだろう」
 その言葉は、どの答えだったとしても変わることはないだろう。
 彼は忘れない。そして彼女達を否定しない。そうすればきっと、彼女達は己の失い、世界をさ迷うことになってしまう。それを防ぐのが、アリスを導くものとしてのブーツの仕事であり、責任だから。必ず、彼女達を送り届ける。
 しゃらりと、鎖の音が鳴る。
「――崩壊していくこの世界で、この子たちが迷子にならぬよう。最後まで責任は果たす」
 無防備でいたブーツの手の中には、いつの間にか銀の鎖が現れていた。それを手繰り、抱くように己の手の中に握り締める。
「――来い」
 そして、その言葉と共に鎖はブーツ自身を起点として、爆ぜて砕けた。
 数多の銀の弾丸となった鎖の破片が飛ぶさまは、まるで流星の如く。落ちる星が穿つ先は、輝けなかった星屑達の胸の中心に。
 彼女達が求め焦がれた輝きを授けるように、鎖は深く、彼女達の心臓を穿つ。
 星屑の子の、オウガ達。人魚のアリスに大切に守られていた、星になれなかった哀れな心達。その彼女達が不要に苦しまぬように。そして彼女達が迷わずゆけるように。
 彼がもたらす眠りの先が、悪い夢ではない様に、ブーツは願う。
 どうかその胸に最後の煌めきを宿して、ゆっくりと眠れ。その身が燃え尽き、今度こそ、眩しいほどの新たな星に生まれ変わるその時まで。
「――おやすみ」
 良い夢を。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御桜・八重

【WIZ】

「あの人の名前、聞いておけばよかったな…」
聞いても教えてくれたかはわからないけど。

宝石から生まれたあの子たちは、
アリスの心は持っていてもアリスじゃない。
いずれオウガの本性に苛まれて、苦しみ歪んでいく。
あの人が堕ちた苦しみを、もう、繰り返させない。

【桜天女】を発動し、空中で急接近しながら、
大声で問いかける。
「あなたの好きなものは、何っ?」
歌か舞踊か、それとも他の何かか。
問いかけ、耳を傾け、
「うん、わかった!」
宝石の中に留め置かれていた輝きを知り、心に刻む。

攻撃は二刀と桜色のオーラで凌ぎ、
話が終わったら、高速機動から二刀を振り抜き、気合いで両断。
あの人の様に満たされて逝けますように…!



●あなたの好きが、わたしの思い出
 実体化した羽衣を手に絡め、桜色のオーラを纏いながら御桜・八重(桜巫女・f23090)は思い出す。唄を取り戻し、満足して消えた海魔のオウガ。結局彼女をどう呼べばよかったか、八重は知らないままだった。
「あの人の名前、聞いておけばよかったな……」
 聞いても教えてくれるか分からなかったし、そもそも彼女自身、アリスの頃の名前を憶えているかも分からなかったけれど。
 それでも名前とは、とても大切なものであるから。最後に残した彼女の唄と、言葉と共に、この胸に刻んで起きたかった。
「……仕方ないよね」
 それももう叶わないことだ。だって彼女は先に逝ってしまったから。
 それならば、今へと目を向けよう。もう二度と後悔をしない為に。
 そう考え直し、真っ先に思い浮かんだのは――宝石から生まれたオウガ達だった。
 崩壊する絶望の国に新たに降り立った彼女達は、アリスの心を持ってはいるけど、本当のアリスではない。彼女達はヒトではなくオウガだ。
 今はまだ夢を見て、優しい心を持っているけれど、その理は人の元からは根本的に異なり、その差は時が経つにつれて明白で、決定的なものになるだろう。いずれ彼女達はオウガの本性に苛まれて、少しずつ、苦しみ歪んでいく。
 そして堕ちてしまうのだ。喪失の痛みに嘆き、それでも執着し、壊れていった彼女のように。
「そんなことは、させない」
 それを心の底からそれを否定したくて――だから八重ははっきりと声に出して宣言した。
 そんなことは絶対にさせない。あの人が堕ちた苦しみを繰り返すことなど、絶対にさせない。
 その決意を胸に、八重は桜色の輝きを放ち羽衣を纏った天女の如き姿へと変身する。そのまま滑るように空を駆け、生まれたばかりのオウガ達の元に寄り添うように舞い降りた。
 八重の姿を見た少女達がこちらを敵だと認める前に。銀のナイフが閃く、その寸前に。
 大声で、彼女達へ問いかける。
「あなたの好きなものは、何っ?」
 八重の問いかけに、少女達は一同に目を丸くする。何を言っているか分からないというように黙る彼女達へ向けて、八重は思い付く限りの「好きなこと」を列挙し始める。
 歌うこと、踊ること、楽器を奏でること、それとも他の何か。何だっていい、少女達が何が好きで、何が欲しかったのか。アリスの心を、記憶を、少しでも知りたかった。
『……歌よりも、演じることが好き。舞台に、立ちたかったの』
『わたしは走ること。小鳥のように、獣のように、ずっと駆けていたかった』
 やがて、ぽつり、ぽつりと。八重の言葉に反応した少女達が応えていく。
 わたしは花が。星の瞬きが。空が、誰かの、笑顔が。
「……うん、わかった」
 宝石の中に留め置かれてていた輝き、その一つ一つに耳を傾け、心を知って。八重はにこりと、精一杯の笑顔を少女達へと向けた。
 その夢は、輝きは。もう叶うことはできないけれど。
 けれど、八重は忘れない。たくさんの少女達が輝きたかったことを。彼女達の想いを、この胸に刻み付よう。
 そして、最期は笑顔で、彼女達を見送ろう。
 きゅっと口元を引き結び、二振りの刀を構えた。空を駆け、陽刀と闇刀、相反する名前を持つ刃を振り抜いて少女達の体を両断し、心臓を貫いていく。
 人ではない、けれども心をもった命を散らしていく感触をその手に感じながら、それでも八重は祈る。
 どうか、どうか。
「あの人の様に、満たされて逝けますように……!」
 少女達の好きが、少女達のものであったまま、終わりますように、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​

榎本・英
なりそこない。
嗚呼。彼女たちはそうなのかもしれない。
此処ではない場所。
もっと光り輝く舞台の上は、一握りしか立つことは出来ない。

彼女たちはその一握りから漏れてしまった。
こぼれてしまった。

あまり気乗りしないね。
掬いきれなかった者をもう一度掬うなど。
星になれないのなら、夜空に咲く花に。
輝きたいのなら盛大に輝き給え。
今、此処で打ち上がり、儚く弾けてしまえよ。

それを幸福と呼ぶかは私には分からないさ。
それでも、一瞬でも君たちが輝けるのなら。
著書の獣を生み出して、君たちの望みを叶える。
一瞬だ。一瞬で終わらせる。

嗚呼。星よりも眩く、儚い君たち
さようならをしよう



●幽となり、花と消えて
 なりそこない。
 彼女達を見て榎本・英(人である・f22898)が真っ先に浮かんだ言葉はそれだった。
「嗚呼。彼女達はそうなのかもしれない」
 だって、彼女達はアリスでもなくて、オウガでもない。
 星にもなれなくて、泡沫にもなれない。
 輝くことはできないし、かといって燃え尽きることはできない。
 中途半端な、何にもなれなかったもの。
 だから、なりそこない。
 そこに嫌悪の感情はなかった。ただ、ただ、哀しいと思うだけだ。
 彼女達が焦がれる、此処ではない場所。もっと光輝く舞台の上は、一握りしか立つ事のできない狭き場所だ。
 たった一人の為の、光の当たる場所。一人が新たに入ってくれば、一人は押しやられ、墜ちていく。
 そして彼女達はその一握りから漏れてしまった。零れてしまった。
「……あまり気乗りはしないね」
 英は呻く。そんな彼女達を、掬いきれなかった者を、もう一度掬うなど、些か酷なことではないだろう。
 そんなことを彼女達は今更本物にはなれない。なりそこないになってしまえば、あくまで彼女はなりそこないのまま。いくら救い上げれども、英は彼女達が目指した高みへは送ってはやれない。
 中途半端に掬い上げてどうしろというのか。一体どんな現実を、彼女達に見せろというのか。
 そう、思うのに。
『まだ、まだ。もう一度、あと少し』
 それでも、彼女達は英を前にして、踊ることを止めないから。
 どれだけ仲間が潰えても、すぐ隣で朋が斃れても、その身に焦がれた思いを残して、一心不乱に廻るから。
「――そうまでして、君達は踊りたいのかい?」
『ええ。わたしは未来へ、生きたいの』
 やはり、見過ごすことなどできなかった。
「それならば。どうせなら、花になればいい」
『え――?』
 だから、英は著書の獣を生み出して、彼女達に助言する。
 星になれないのなら、夜空に咲く花にと。
「その手の中のものよりも鮮やかに、舞踊よりも大胆に。輝きたいのなら、盛大に輝き給え」
 それはたった一瞬の事だけれど。光華の輝きはどの星よりも苛烈に光、どの花よりも美しいから。
 何にもなれなくて、それでもなりたいと願った彼女達に良く似合うだろう。
「今此処で打ちあがり、儚く弾けてしまえよ」
 優しく囁きながら、英が少女達へと手を差し出す。その腕に乗せられた情念の獣が滑り降り、少女の元へと駆け寄った。
 驚きの表情を浮かべていた少女達がとうとう、踊りをやめる。近寄ってきた獣に怯えながらも、どこか縋るようにその背に触れる。
 そんな少女達を背に乗せて、獣は空へ。
「とべるよ。今までよりきっと、ずっと、高く」
 ――これを、果たして幸福と呼ぶかは英には分からない。ヒトの幸せなんて、きっと様々だから、そんなもの、英には答えを出すことはできない。
 それでも、光を望んだ彼女達が、願うままに輝けるのなら。
 その願いを、叶えよう。
 獣は駆ける。空へ、広い空の彼方。絶望に堕ちた世界の、全てが見下ろせるくらいの高みへ。その体躯を抱きしめる少女達を抱いて。
 一瞬だ。一瞬で、終わらせる。
 獣の指先が彼女達に触れて、壊れていった彼女達の欠片が光を変えて。そうして空で、彼女達は咲き誇る。
「――嗚呼、星よりも眩く、儚い君たち」
 さよならをしよう。
 肉の重さと共に、その想いまで解き放って、空高く舞い上がって。
「その星を呑むほどの輝きと美しさを、見せておくれ」
 ぱっと、壊れゆく世界で鮮やかに、光の花が咲いて、散った。
 
 
●あと幾度、風が廻るまで
 零れ落ちた星屑を最期まで見送って。猟兵達はその国を後にする。
 静寂に満ちた世界に残るのは、砂の様な宝石の名残だけ。壊れていく世界はもう、新しい何かを生み出すことは二度とないけれど。
 未来を侵す悪夢も、過去に捕らわれた夢も全ては塵へ。
 
 ――忘れられたものは、もうここには何も無い。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年09月01日


挿絵イラスト