16
水烟に馨る

#グリードオーシャン #お祭り2020 #夏休み

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#グリードオーシャン
🔒
#お祭り2020
🔒
#夏休み


0




●バカンスへの誘い
「こんな時になんだが、海へ遊びに行かないかね」
 迷宮災厄戦で連日大忙しのグリモアベースにて。胡乱な男――神埜・常盤(宵色ガイヤルド・f04783)は、脈絡も無くそんな事を言い始めた。
「実はねェ、バカンスにぴったりの島があるんだ」
 其の名も『アウシャーブ島』。
 アックス&ウィザーズから落ちて来た、少しエキゾチックな島である。
 元は砂漠地帯だったらしい其の地は、長い年月を経て植物や果物の類を実らせ、軈ては人で賑わう島となった。
「君達を転送するビーチの側には、大きな酒場が在る」
 所謂、海の家といった処だろうか。
 其処で供して居るのは、ミントを使った酒やソフトドリンク。
 それから、水煙草――シーシャである。
 煌びやかな硝子瓶のなかで揺れる水を通じて、立ち込める煙の馨を味わえば、まるで気分は王侯貴族。のんびりと過ごすひと時も、特別なものに成ること請け合いだ。
「色々なフレーバーが有るらしいから、吸ったこと無い人でも楽しめるんじゃないかなァ」
 胡乱な男曰く、蜜蝋で固めた煙草の葉には果物の馨が移されており、瑞々しくも甘いひと時を楽しめるのだと言う。

 或いは、海がよく見える酒場のテラス席にて、酒場で供される嗜好品を楽しんでも良い。
 ドリンクは勿論テイクアウトも可能なので、浜辺を散歩しながら喉を潤すことも出来る。
「そうそう、未成年には『ミントレモネード』というドリンクが人気らしい」
 他にも『ヨーグルトミントのフローズン』などは、優しい口触りと爽やかな後味で、子供達にも人気なのだとか。
 煙草や酒にばかり焦点を当てて仕舞ったが、それらを無理に嗜まずとも楽しめる素敵な島なのだと、常盤は牙を見せながら笑った。
 また件の酒場は喫煙具や敷物なども貸してくれるそうだ。ゆえに砂浜に敷物を広げて、のんびり煙を燻らせたり。ぼんやりと海を眺めて過ごすのも、楽しみ方の1つだろう。
「忙しない日常を忘れて長閑に過ごすには、もってこいの場所だろう?」
 得意げな貌をした男の掌中で、紅のグリモアがくるくる、くるくると回る。
「良い休暇に成ることを祈っているよ」
 向かう先は夢と浪漫に溢れた大航海の世界――グリードオーシャン。


華房圓
 ご覧くださり、有難う御座います。
 こんにちは、華房圓です。
 今回は夏休みシナリオをお届けします。

●<はじめに>
 このシナリオは既に猟兵達によって、オブリビオンから解放された島となります。
 また、このシナリオは【日常】の章のみでオブリビオンとの戦闘が発生しないため、獲得EXP・WPが少なめとなります。

●<出来ること>
 空が紫に染まり始めた夕暮れ時。
 ビーチにある酒場『スタージェン』。そのテラス席にて、シーシャ(水煙草)やカクテル、ソフトドリンクを楽しめます。
 喫煙具の貸し出しや、ドリンクのテイクアウトも可能です。
 わいわいと波打ち際を歩きながら喉を潤したり、砂浜でゆっくりシーシャを嗜んだり。どうぞ想い想いにお過ごしください。
 因みに、お声掛けいただいた場合に限り、グリモア猟兵の常盤が登場します。

●<酒場について>
 名物は爽やかな味わいのカクテル『ミントフラッペ』。未成年には『ミントレモネード』や、『ヨーグルトミントのフローズン』が人気。
 それ以外のドリンクも、酒場にありそうなものは大抵ご用意できます。

 成人はシーシャを楽しめます。
 フレーバーは以下の三種類となっております。

 ☆ストロベリー(甘い)
 ☆オレンジ(口当たりが良い)
 ☆ライムミント(さっぱり系)

 お好みのものを是非、プレイングにご記載ください。
 なお未成年の飲酒喫煙は禁止です。

●<お知らせ>
 プレイングの募集期間については断章投稿後、MS個人ページ等でご案内させていただきます。
 それでは、宜しくお願いします。
165




第1章 日常 『猟兵達の夏休み』

POW   :    海で思いっきり遊ぶ

SPD   :    釣りや素潜りを楽しむ

WIZ   :    砂浜でセンスを発揮する

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●紫煙と薄荷
 ざらざらとした黄金色の砂浜には、幾つものエキゾチックな敷物が広げられて居る。
 其処に腰を下ろし、或いは寝転がりながら人々が楽しむのは、仄かに果実の馨が漂うシーシャ。

 蛇のように畝るホースを手繰り寄せ、硝子の吸口に口吻ければ、ーーこぽこぽ、こぽこぽ。
 硝子で造られた香水瓶の如きボトルからは、そんな水音が聴こえて来る。
 口いっぱいに広がる馨と果実の味わいを、肺の中まで追いやって。軈て吐息を吐き出せば、ーーふわふわ、ふわふわ。
 辺りに紫煙が立ち込めて、何時の間にやら、すうーーっと消えて行く。

 甘美なる煙のお供は、銀の匙で掻き混ぜる程にザクザクとした調べを奏でるーーミントフラッペ。
 細かく砕いた氷にミント酒を注いで、ミントの葉をぱらぱらと散らした、涼やかなカキ氷風のカクテルである。
 シャープなカクテルグラスのなか、エメラルド色にキラキラと煌めく其れは、なんとも華やかだ。

 酒を嗜まない者、或いは未成年には、レモン果汁と細かく刻んだミント、それから蜂蜜を丹念にシェイクしたソフトドリンクーーミントレモネードが大人気。
 涼やかな翠色の其れは、スムージーの如くどろりとしていて、とてもレモネードには見えないけれど。
 鼻腔を抜ける爽やかなミントの馨と、暑さを忘れて仕舞う程に涼やかな味わいは、なんだか癖になるのだとか。
 
 もっと甘い物を御所望なら、ヨーグルトミントのフローズンも良いだろう。乳製品のまったりとした口触り、練り込まれた蜂蜜の甘さ、細やかに混ぜられたミントの爽やかさ。
 それらが程良く調和しており、フローズンだけあって暑い日には非常に美味に感じられる。此方は子供に人気のメニューとのこと。

 暮れ始めの空を鏡のように写した海は、神秘的な紫の彩に染まり始めて。
 静かに寄せては返す波はただ、穏やかな調べを砂浜に響かせていたーー。

<補足>
・複数人で参加される際は迷子防止の為、【合言葉】や【お相手のID】などのご記載を宜しくお願いいたします。
・アドリブOKな方はプレイングに「◎」を、記載頂けると嬉しいです。
・お色気要素を含むプレイングは、不採用とさせて頂きます。申し訳ありません。
・水着の描写を希望される方は、プレイング内に詳細をご記載下さい。(「水着イラスト参照」程度でも大丈夫です)

<受付期間>
 8月11日(火)8時31分 ~ 8月14日(金)23時59分
揺・かくり


屍人である故に儘ならぬ躯
然れど、此度はこの通りだ
四肢に貼り付けるのは夥しい程の黒札
札の効果が有る内には、此の身は自由気侭なのさ
大きな袖内に隠して往こう

他所の世に近寄るのは極めて稀な事だが
夏の祭典の空気を浴びたからだろうか
寄せては引いてを繰り返す波
此の音は何故か心地好く感じる
波に、海に、惹かれているのだろうか

常は浮遊をして過ごすけれど
此のひと時だけは、気侭な両足で歩もう
歩みの先は不思議な香を漂わす店へ
しぃしゃ……水煙草、と云うのかい

やあ、店主
その水煙草とやらをくれるかい
……味?ああ、そうだね
甘いもの。いっとう、甘いものが良いよ
任せても良いかい

鼻孔を擽るのは苺のもの
とても甘くて、何処か懐かしいね



●泡沫の馨
 淡い紫に染まった海辺を、揺・かくり(うつり・f28103)は歩き往く。其の足取りが何処か楽し気なのは、彼女が屍人で在るが故。
 其の躰は、儘ならぬ。然れど、此度はこの通り。
 秘密は彼女が纏う衣装の、大きな袖裡に有った。かくりの四肢にばさばさと貼り付くのは、夥しい程の黒札だ。そう、札の効果が有る内は、其の身は自由気侭に動く。
 常は悪霊らしく浮遊して過ごすものだが。いま此のひと時だけは、気侭な両足で歩もう。ほら、砂浜に足跡を遺すことだって出来る。
 ざあざあ、ざあざあ――。
 寄せては返しを繰り返す波に、大事な痕跡は直ぐに消されて仕舞ったけれど。其の調べは何故か心地よく感じられて、名残惜しさなどは感じなかった。
 そもそも幽世と現の狭間に在る彼女が、他所の世界に寄ることは極めて稀だ。それなのに、夏の祭典の空気を浴びた所為だろうか。
 かくりは無限の海が広がる世界へ、斯うして訪れて仕舞った。
 ――波に、海に、惹かれているのだろうか。
 確りと砂浜を踏みしめながら、ほんの少し丈け押し寄せる波と、ちゃぷちゃぷ戯れる。耳朶に届く水音が、足に降れる冷たさもまた、心地良かった。

 そうして、ゆるりと歩みを進める彼女が向かう先は、不思議な馨を漂わせる酒場『スタージェン』だ。
 彩の無い指先が扉を開ければ、――ふわり。煙草のような、果実のような、瑞々しくも甘い馨が優しく漂って来る。
「やあ、店主」
「よう、いらっしゃい」
 かつり、かつり。床を鳴らしながらカウンターへ向かったかくりは先ず、黙々とグラスを磨く強面の店主にご挨拶。それからメニューへ視線を落とせば、先ほどから不思議な馨を漂わせている“それ”の名を指で示した。
「しぃしゃ……水煙草とやらをくれるかい」
「味はどうする?」
 ぶっきらぼうな店主の問いに、かくりは瞬きをひとつ、ふたつ。普通の煙草と違って、味の選択肢が多いらしい。
「ああ、そうだね、甘いもの。いっとう、甘いものが良いよ」
 任せても良いかい、なんて。そう頸を傾げたところ、店主は快く頸を縦に振ってくれた。そうして海を臨むテラス席に腰を下ろすこと暫し、漸く出て来たのは艶めく紅硝子の瓶。
 不思議な容をした其れの頂上――クレイトップには、蜜蝋で固められた煙草が詰め込まれていた。軽く被せられた蓋の上には、小さな炭火が乗せられている。
 アラベスク模様が印象的なテーブルに乗せられたシーシャからは、まさに異国情緒が漂っている。金の双眸でしげしげと喫煙具を眺めたかくりは軈て、あえかな指先でホースを手繰り寄せた。吸い口――マブサムに口吻けて、灰を煙で満たして行く。
 そうっと吐息を零したならば、もくもくと立ち昇る煙が整った彼女の貌を覆い隠す。潮風に攫われた其れが消える刹那、ふと鼻孔を擽るのは苺の馨。
「……とても甘くて、何処か懐かしいね」
 煙草とは思えぬほど瑞々しく優しい味わいに、かくりの表情がほんの僅か和らいだ。甘い馨は遠い記憶を呼び起こし、うつろな魂を仄かに揺らす。
 札の効果が切れるのは、未だ先だ。それに段々と紫に染まり行く世界は幽世に似ていて、何だか居心地が良い。だから、この甘さが紫煙に消えるまで――。
 もう暫く、懐かしい馨に浸っていよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

榎本・英

ロカジ/f04128

薬屋さんはこれを嗜んだ事はあるかい?
私は初めてだね。このような物を目にするのも初めてだよ
名物のカクテルは勿論頼んださ

さて、先にお願いしても良いかな?
君はどんな味を選んだのだろう
私は苺だよ
苺味のドロップが好きでね

嗚呼。そうやって嗜むのかい
どれ、私も
……普段は癖のある物を嗜んでいるからね
私には少々甘いようだ

薬屋さん、君の薬の中にこうやって嗜む物はあるかい?
嗚呼。合法の物だよ
危ない物は求めていない
私だって捕まりたくはないからね

もし君がそのような物を持っているのなら
良い値で買おう
そうだね。捕まるのは嫌かな
ほんの好奇心だよ

次回作にも使えるかもしれないからね?


ロカジ・ミナイ

英先生/f22898

ちいちゃいサイズのをね、持ってるよ
でもこんなに立派なのは持ってない

同じく頼んだ名物のカクテルと、何の因果か頼んだ味も同じイチゴで
気が合うねぇなんて笑いながら
手本となるようにゆっくりと一口

僕は甘党でね
イチゴも大好きだからいい感じよ
僕の舌は、にーがい煙草とは別腹みたいだ

…おや、内緒話かい?ふふ
怒られないものに内緒話も何もないけどさ

ねぇ先生
危ないのと捕まるの、どっちが嫌い?
捕まらないものが危なくないとは限らないからね
一応聞いてあげる
捕まりたくない?ふふ、いい好奇心をお持ちだ
僕も同じ、だからそういうの得意

お代は次回作の出演料でいいよ
ああ、僕じゃなくて、僕の可愛い薬のさ



●蝕命の薬餌
 世界を紫に染め往く太陽の光は、テラス席にもしっとりと降り注ぐ。アラベスク趣味のまあるい机に、巨大な香水瓶めいた喫煙具を並べるのは、榎本・英(人である・f22898)とロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)のふたり。
「――薬屋さんは、これを嗜んだ事はあるかい?」
 興味深げに指先へと畝るホースを絡ませる英は、このような物を目にするのも初めてだと眼鏡の奥の双眸を瞬かせた。
「ちいちゃいサイズのをね、持ってるよ」
 そんな言葉を返すロカジもまた、こんなに立派なのは持ってないと、紅に艶めく硝子ボトルを物珍し気に掌で撫でている。
「では、先にお願いしても良いかな。因みに、君はどんな味を?」
 経験者へと手本を強請りながら英が頸を傾げて見せれば、ロカジは首肯しホースを口許へと手繰り寄せる。
「苺だよ、僕は甘党でね」
「私も苺にしたよ、苺味のドロップが好きでね」
 何の因果か、ふたりが選んだのは揃いのフレーバー。そんな偶然を前にして英の双眸が、可笑しそうに三日月を描く。
 机上に置かれているのはシーシャだけでは無い。翡翠の彩をしたカクテルが入った逆三角形のグラスもまた、ふたつ仲良く並べられているのだ。
「気が合うねぇ」
 くつくつと愉快気な笑聲を零しながら、ロカジは吸い口――マブサムへそうっと口吻けた。英の手本と成るようにと敢えてゆっくり吸い込めば、硝子瓶から、こぽこぽ、こぽこぽ。小さな太鼓を叩くような音色が聴こえてくる。
 軈てマブサムと唇が無き別れたなら、静かに息を吐きだした。ふわふわ、もくもく。白い煙と共に、苺の甘い馨が立ち込めて……。其れは直ぐに潮風に攫われ、すぅ――と消えて行く。
「嗚呼。そうやって嗜むのかい」
 味は如何かと尋ねれば、ロカジは口角を上げて機嫌の良い笑みを零す。肺に満ちた馨りは、苺らしい甘さと瑞々しさを彼の舌に伝えてくれている。
「イチゴ大好きだからいい感じよ」
「どれ、私も」
 好意的な感想を耳に捉えれば、英もまたマブサムを引き寄せて。そうして、静かに口吻ひとつ。
 彼に倣ってゆるりと息を吸い込んで灰を煙で満たしたのち、ふわりと紫煙を吐き出せば、鼻腔と口中に満ち溢れるは甘い甘い苺の馨。
「……私には少々甘いようだ」
 もくもくと立ち込める煙が去った後、感想を伺うように此方を見つめて来る蒼い双眸へ頸を振りながら、英は頬に苦笑の彩を刻む。
「僕の舌は、にーがい煙草とは別腹だったみたいだけれど――」
 其れを見たロカジは可笑しそうに肩を揺らし、再度ホースを口許へと引き寄せた。マブサムと口吻交わせば、再び果実の甘い馨と白い煙が辺りへふわりと立ち込めて。けれども直ぐに潮風に攫われ、跡形もなく消えて往く。 
「アンタはそうでもなかったみたいだね」
「普段は癖のある物を嗜んでいるからね」
 彼が普段嗜む煙草は、櫻舞う世界の煙草屋で売られているような紙巻だ。当然、果物のフレーバーなど付いていない。
 そして彼が嗜んだシーシャというものは“苺ドロップ”というよりも、気化した“苺のシロップ”のような味わい。此れでは舌も魂消るというもの。
「薬屋さん」
 鷹揚に肩を竦めて見せた英だったが、ふと真面目な貌をしてロカジに双眸を向ける。慣れた調子でシーシャを味わっていたロカジは、ちらり彼に流し目をくれて話を促した。
「君の薬の中に、こうやって嗜む物はあるかい?」
 そんなことを尋ねる合間に、英もまたマブサムと口吻を交わし肺を煙で満たして行く。零れた吐息と共にふわふわと立ち上る煙を眺めながら、条件を付け加えるのも忘れない。
「嗚呼。合法の物だよ」
 別に危ない物や刺激的な物を、求めている訳ではない。英とて官憲に捕まりたくはないのだから。
「……おや、内緒話かい?」
 ロカジの口端から、ふふ、と愉し気な吐息が漏れる。“怒られないもの”に内緒話も何もないけれど。斯ういう噺をする時は、悪巧みに興じているような気に成るのだ。
「もし君がそのような物を持っているのなら、良い値で買おう」
 ロカジが営む店は、薬屋だ。エレルの愛とおまじないは、きっと英にも惜しみなく寵恵を与えてくれるだろう。
「ねぇ先生――」
 彼の科白を耳朶に捉えたロカジは、愉快そうに口角を上げて。内緒話でもするかの如く、そうっと英に貌を寄せる。

「危ないのと捕まるの、どっちが嫌い?」

 ひそひそ聲は、悪戯にそう囁いた。英の赤い双眸に映るロカジの貌は、何処までも楽し気で、まるで無邪気な悪童のよう。
「捕まらないものが危なくないとは限らないからね」
 薬と毒は紙一重。規制の枠外に有るものだろうと、総てが合法阿片のように無害な訳では無い。だからこそ、一応聞いてあげたのだ。
「そうだね、捕まるのは嫌かな」
 けれど、英は迷うことなど無かった。彼は“ひと”であるけれど、知の器が満たされるまでは力尽きること赦されぬ『文豪』でもある故に――。
「捕まりたくない?」
「ほんの好奇心だよ」
「ふふ、いい好奇心をお持ちだ」
 お喋りで乾いた喉を翡翠色のカクテルで潤しながら、くつくつと笑聲を零すロカジ。次回作にも使えるかもしれないからねと、英は好奇の動機を編むけれど。彼にとっては理由など、売る売らないの判断に関係無いのだ。
「僕も同じ、だから――」
 そういうの得意、なんて。ロカジはからり、好男子らしく笑って見せた。キンキンに冷えたグラスを指先で弄びながら、悪戯に片目を閉じて薬屋は作家に強請る。
「お代は次回作の出演料でいいよ」
「また、君を主役に?」
 冷えたグラスに手を伸ばしながら、英は自著の記憶を辿り始める。あれは続きが書けるような代物だったか……。
「ああ、僕じゃなくて」

 ――僕の可愛い薬のさ。

 良薬が苦いのならば、甘い薬とは即ち毒。きっと其れは、苺ドロップのような殺意。榎本英の次回作もきっと、正統派ミステリと成るだろう。
 新たな物語に想いを馳せながら、ふたりの夜は更けて行く。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
アドリブOK
水着イラスト参照

酒飲みできるのは嬉しい。今回は呑みというより食べるだが、それでもだ。
暦上は立秋過ぎたとはいえまだまだ暑い日が続いてるし、こういう案内はすごく嬉しい。
水煙草は…うん、どうにも煙草自体に苦手意識があるので遠慮しとく。
瓶はきれいだから他の人がやってるの眺めるのはいいんだけど。

店の片隅で名物のカクテルを頂こう。
フラッペってかき氷だっけ?フローズンカクテルとは違うのか。
フローズンカクテルは氷と一緒にミキサーにかけてかき混ぜて作るのが主だからなぁ。
かき氷ってのはなおさら助かる。普通のでも感じる甘味が軽減されるからな。
美味い。怖いのは酔いが回りが遅く感じるとこか。気を付けないと。



●夕涼み
 海を望む酒場のテラス席――其の片隅にて。黒鵺・瑞樹(境界渡・f17491)は、オーダーしたカクテルが運ばれて来る時を待っていた。
 青を基調としたカジュアルな雰囲気のパーカーに、白い月を描いた水色のサーフパンツを合わせた彼は、無限の海が広がるこの世界に似合いの爽やかな雰囲気を纏っている。ポニーテールに結った白い髪が、潮風にさらりと攫われていく様も涼やかだ。
 しかし、彼は今日ビーチへ泳ぎに来た訳では無い。瑞樹の目的はこの酒場『スタージェン』の名物、『ミントフラッペ』である。
「酒飲みできるのは嬉しいな」
 いまは8月、季節は夏。暦の上では立秋を過ぎたとはいえ、どの世界もまだまだ暑い日が続いている。更に言うと、冷房器具なんて文明の利器がない世界も少なくない。
 ゆえにこそ、涼を求める彼にとってミントフラッペは魅惑の響き。
 ――こういう案内は、すごく嬉しい。
 給仕を待つ間、瑞樹はテラス席に座す客たちへ視線を向ける。この酒場のもう一つの名物である“シーシャ”を嗜む者も、矢張り少なくは無かった。
 どうにも「煙草」というものに苦手意識がある瑞樹は、注文こそしなかったけれど。喫煙具たる硝子の瓶は、きらきらと艶めいていて綺麗に視える。
 ふわふわ、もくもくと立ち込めては消えて行く紫煙といい、甘い果実の残り馨といい。自分で吸うのは御免だけれど、他の客が嗜む様を眺める分には楽しい。
「お待たせしました!」
 瑞樹の意識を引き戻すのは、愛想のいい女給の聲。いつの間にやら彼の席には、逆三角形のグラスに入れられた翡翠彩のカクテルが給仕されていた。
 軽く礼を告げたのち、彼は銀の匙でフラッペをざくざくと崩して行く。小気味良い音が響けば、なんだか涼やかな心持ち。
 ――フラッペってかき氷だっけ?
 匙を動かしながら、そんなことを物思う。こうして掻き混ぜてみた所、フローズンカクテルとミントフラッペは、どうやら一線を画すものらしい。
 ミキサーのような文明の利器の無いこの世界では、ミントフラッペはナイフで削られた氷にミントリキュールを垂らした丈のもの。すなわち、本質的には「カキ氷」に近いのだ。
「かき氷ってのはなおさら助かる」
 されど、瑞樹にとって其れは些細なこと。何故ならミキサーで丹念に混ぜ込むよりも氷ごと味わった方が、アルコール分や材料の味が軽減されるから。
 銀の匙で氷を少し混ぜ溶かしたのち、短いストローを突き刺して、ごくり。キンキンに冷えたカクテルで、喉を潤して行く。
「――美味い」
 鼻腔に抜けて行くミントの馨は涼やかで、暑い日にうってつけの爽快感を与えてくれる。独特の馨にアルコールが誤魔化されているので、酔いの回りも遅く感じられそうだ。
「気を付けないと」
 そう苦笑を零しながら、瑞樹は深く息を吐いた。紫に染まり始めた空の下で、暫し穏やかな時間が流れて行く――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

太宰・寿

可能であれば神埜さんにお声かけを。
(水着で行きます。描写の有無はお任せです)

エキゾチック! 普段見る機会の少ない景色なら、絵に残したいなぁ(と、ビニールバッグにはスケッチブックと色鉛筆を詰めて)

あ、そちらのかっこいいお兄さん。オススメのカクテル教えてください! …なんて。
ご無沙汰してます、神埜さん
素敵な案内へのお礼を告げて

ミントフラッペとシーシャの硝子瓶がとても綺麗で気になって
煙草は吸わないんですけど、見てみたいなぁって
もしよかったら、ご一緒して頂けませんか?
一人だと勇気がでなくて
なんだかとても大人っぽいので…いえ私も大人ですけれど!

快諾頂けるならば、
お礼に一杯ご馳走させてくださいね!



●頁に新たな彩を
 清楚な白い彩のハイネック・ニットビキニと、ミニスカート風のボトムスを纏い、緩く羽織った翠のパーカーを揺らしながら。太宰・寿(パステルペインター・f18704)は、酒場の中をゆるりと歩み往く。
 軈て海を臨むテラスへと辿り着いたならば、寿のかんばせは喜色にぱぁっと輝いた。いま彼女の茶色い双眸に映っているのは、紫に染まり始めた空の彩、其れを映し神秘的な彩に染まった海。そして、砂浜に敷いた敷物の上で寝そべりながら、シーシャを嗜む人々の姿。
「わあ、エキゾチック……!」
 眼前に広がる光景は、普段あまり視ることの無いものだったから。絵に残したいなぁ――なんて。思わず創作意欲を刺激されて仕舞った寿は、肩に提げていたビニールバッグから、スケッチブックと色鉛筆を取り出そうとする。
「――あ」
 テラスの片隅で黄昏ている胡乱な男の姿を、彼女が視界に捉えたのは其の時だった。取り出し掛けた画材をバッグの中に戻して、寿はそうっと見慣れた男の元へと近付いて行く。どうやら未だ、接近に気付かれては居ないらしい。
「そちらのかっこいいお兄さん。オススメのカクテル教えてください!」
「ウン……?」
 悪戯心が赴くままに、真正面からそう聲を掛けたなら。胡乱な男――神埜・常盤(宵色ガイヤルド・f04783)の三白眼が、はにかむ寿の貌を捉えて意外そうに瞬きひとつ。
「おや、寿くんじゃないか」
「ご無沙汰してます、神埜さん」
 案内の礼を軽く告げながら軽く会釈して見せる寿に、常盤は「此方こそ」とゆるり手を振って挨拶に代える。彼の手には、エメラルドに染まったカクテルグラスが握られていた。
「水着姿も可憐だねェ。君もシーシャを吸いに?」
「煙草は吸わないんですけど、見てみたいなぁって」
 エメラルドの煌めきを放つミントフラッペや、シーシャの艶めく硝子瓶が綺麗で気になったのだと。そう彼女が語れば、常盤の双眸は楽しげに弧を描く。
「シーシャ気に成るよねェ。僕も試してみようか迷ってる」
「あ、では……もしよかったら、ご一緒して頂けませんか?」
 ひとりだと勇気がでなくて、と睫を伏せる寿。そんな彼女を見た常盤は、一も二も無く首肯してみせた。
「願っても無いことさ。けれど、僕が同席しても良いのかね」
「はい、神埜さんは何だかとても大人っぽいので……いえ私も大人ですけれど!」
 科白の途中で慌てて首を振り、そう補足する寿。常盤は普段の言動こそ聊か幼稚であるけれど、矢張り年齢がひと回り上だと自身よりも何処か大人に視えるのだ。
「じゃァ、今から注文しに行こう。――あァ、そうそう」
 席から腰を浮かせながら、鋭い牙を覗かせ楽し気に笑う男はふと、自身の唇を指で封じて見せた。そうして内緒話の如く聲を潜めて紡ぐのは、先ほどの問いかけへの答え。
「僕のお勧めは、ミントフラッペだよ」
「ふふ、有難うございます。お礼に一杯、ご馳走させてくださいね!」
「御馳走も有難いケド、君の絵だって見たいなァ……」
 ちらりとビニールバッグへ視線を向けて来る男に、「それはまた後で」なんて、寿は笑い返す。そんな調子で軽やかに言葉を交わしながら並び立つふたりは、エキゾチックな眺めに暫しの別れを告げて、酒場の中へと入って行った。
 とびきり甘いシーシャと、涼やかな味わいのカクテルに、想いを馳せながら――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カイム・クローバー

f01440シャルと行動。今年の海賊水着で共に。

ドリンクも良いが、軽食は無いのかい?もしくは腹の足しになるような物。ミントフラッペは確かに極上の酒だろう。…が、空きっ腹に酒は酔いの回りが早い。最高のロケーションに最高の相手、最高の酒だぜ?
酔ってダサいトコなんざ、見せたくねぇんだ。無理言って悪いが、頼むぜ?

酒(勿論、一瓶丸ごと)と軽食を楽しみながら、夕暮れに彩られた海を眺めるぜ。
寄せては返す波の音を聞きながら、告いだグラスを傾ける。
悪役の海賊っぽくて悪くねぇ。
ま、骨休めぐらいしねぇといざって時に身体が動かねぇのも困るしな。
ああ――座ってろ。俺が買ってくる。美味いっつってたな…瓶で買っていくか。


清川・シャル
f08018カイムと
今年用意した水着で島へ
あちこちお揃いちっくで気に入っているんです
オーラ防御を纏い、日傘をさして日除けして。
お目当てのミントレモネードを注文して、ワクワクしながら受け取ります
カイムは色々食べるんだよね?
敷物とパラソルを借りて眺めのいい場所に行こう〜
広げて2人で座って飲食しましょう
んん〜!おいしい!涼し気な味!これ美味しいなぁ…カイムも1口飲む?
海って綺麗だね〜シャルは泳げないからこうして眺めてるだけでも楽しい
お休みっていいね。今夏休みなんだよ。バカンスって感じで楽しめて嬉しい。
あ〜あ、もう無くなっちゃった一気飲みしちゃう美味しさ…追加で買ってくる!



●夕暮れバカンス
 聊か昏い彩に染まった砂浜に、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)と、その恋人――清川・シャル(無銘・f01440)は居た。
 酒場から借りた色鮮やかなアラベスク模様の敷物を砂浜に広げて、真白のパラソルを地面に突き立てたならば。其の一帯は、ふたり丈けの場所と成る。
 黒を基調としたパイレーツコートを羽織り、パイレーツシャツと髑髏のベルトを腰に巻いたカイムは、頭に飾った帽子も相まって正しく男らしい海賊そのもの。
 一方のシャルも、黒を基調としたビキニを纏い、腰には彼と揃いの髑髏ベルトを巻き付けている。ピンクと白のボーダーが愛らしいバンダナを髪に飾った其の姿は、格好いい海賊の右腕といった趣きだ。モチーフがお揃いの水着は、ふたりの仲睦まじさをよく表わしていた。
「カイムとあちこちお揃いで、お気に入りなんだ~」
「おう、よく似合ってるぜ」
 嬉しそうに日傘をくるくると回して笑うシャルは、オーラ防御も展開しており日焼け対策は万全だ。色素の薄い彼女にとって、夏の日差しは天敵ゆえに――。
 そして、そんな彼女を微笑まし気に見つめるカイムは、燥ぐ恋人の頭を優しく撫で賛辞の言葉を紡ぐのだった。彼の片腕には、小さな袋が握られている。其の中には、彼が“話術の心得”を用い、酒場のマスターに用意して貰った軽食が入っていた。
 ミントフラッペは確かに、見栄えも良いし馨も良い、極上の酒だろう。然し、空いた胎に強い酒を流し込むと、酔いが早く成って仕舞う。
 ――最高のロケーションに最高の相手、最高の酒だぜ?
 折角のバカンスなのに、酔っ払って何も覚えていないなんてこと、出来ることなら避けたい。恋人と過ごすひと時は、何よりも大切な時間なのだから。それに、
 ――酔ってダサいトコなんざ、見せたくねぇんだ。
 男の矜持と云うものが、彼には在るのだ。袋を握る指先に聊か力を籠めながら、カイムはそんなことを思うのだった。
「カイムは何か食べるんだよね?」
「ああ、シャルも喰うだろ?」
 日傘を閉じて敷物に寝転がったシャルが放つ問いに、カイムはごそごそと袋の中を漁る。其処から取り出すのは、ピタにローストした肉を挟んだ――ふたり分のケバブ。其の食欲をそそる馨に、シャルの眸がきらきらと輝いた。
「わ~、おいしそう!」
 彼女の横に腰を下ろしたカイムが、ほらとケバブを手渡せば。シャルは、はむりと其れに齧りつく。口の中に広がる濃厚な肉汁が、暑さに疲れ気味の躰を癒してくれるようで。少女の貌には、満開の笑顔が咲いた。
「んん〜! おいしい!」
 嬉しそうな恋人の反応をちらりと横目で眺めながら、カイムもまた海賊らしく豪快にケバブへ齧りつく。彼女の云う通り美味しくて、腹にもよく溜まりそうだ。
 軽食を愉しむ傍ら、袋から取り出すのは一本のボトル。キンキンに冷えた其れは、ミントをふんだんに使ったハーブリキュール。
 寄せては返す波のさざめきへ耳を傾けながら、とぽとぽとグラスに注げば、涼やかな馨が鼻腔へと抜けて行く。ぐい、と一杯グラスを仰いだなら、生ぬるい潮風も気にならぬ程の爽快感にカイムの躰は包まれた。喉に籠った熱を吐き出すように、ほうと吐息をひとつ零し、彼は夕暮れの海へと視線を向ける。
 ――……悪役の海賊っぽくて悪くねぇ。
 偶にはこんな風に、ワイルドに過ごすのも良い。良い酒、良い眺め、そして隣には最高の恋人……。
「わあ、涼し気な味! これ美味しいなぁ……カイムも1口飲む?」
 一方のシャルと云えば、無邪気にミントレモネードを愉しんでいた。
 余程気に入ったらしく、どろりとしたスムージーの如きそれをストローでくるくる混ぜながら。彼女はカイムに、「はいっ」とグラスを差し出してくる。
 恋人からの厚意を受け取って、彼もレモネードをひと口。口の中に広がるのは、鼻を抜けて行く爽やかさと、酸っぱい檸檬の味わい。
「……うまい」
「でしょ?」
 得意げな貌をするシャルへとグラスを返せば、彼女はまたストローで中身をくるくる。指先は愉しげに遊びながらも、少女の碧い双眸は海を眺めていた。
「海って綺麗だね〜」
 泳げないから、こうして眺めてるだけでも楽しい。明るい聲でそう語るシャルに、カイムは優しく首肯して見せる。真昼の海も綺麗だが、夕暮れの海も神秘的で悪くない。
「ね、お休みっていいね」
 学生であるシャルは今、絶賛夏休み中だ。異国の島でこうしてのんびり過ごすひと時は、非日常的で……正しくバカンスという心持ち。
「ま、骨休めぐらいしねぇとな」
 常に気を張っていると、いざという時に身体が動かなくなるということを、カイムはよく知っている。だから今日ばかりは、めいっぱい羽を休める心算であった。
「あ〜あ、もう無くなっちゃった」
 彼と一緒に居られる時間の嬉しさに、頬が緩みっぱなしのシャルだったけれど。ふと、空に成ったグラスを見降ろして、残念そうに眉を下げる。
 また買って来ると、立ち上がりかけた彼女をカイムは片手で制し、代わりに自身が腰を上げる。
「ああ――座ってろ。俺が買ってくる」
「わ、ありがとう!」
 礼を告げる恋人の頭を撫でて、カイムは海へと背を向けた。彼女はレモネードをいたく気に入ったらしい。ならば少し欲張って、瓶で買い求めるのも悪くは無いだろう。
 彼女の喜ぶ貌を脳裏に思い浮かべながら、青年は酒場へ向けて大きな一歩を踏み出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天音・亮


アーモンドをつまみながらミントフラッペを味わう
鼻から抜ける様な爽快感が夏の暑さを紛らわせるようで心地いい
たまには一人楽しむお酒の場も乙な物、とは思ったけど
やっぱりなんだかお喋りしたくてうずうずしてきちゃう

あ、常盤さん発見
ここに案内してくれた人見つけこれ幸いと声をかけに

常盤さんは試した?シーシャ
私は仕事柄イメージ商売だからまだ煙草はNGなんだぁ
もうちょっと大人の女になったらOK出るかも?
ふふ、だから今はこれで我慢
常盤さんも一緒に飲も!

一人飲みで大人の女気取ってみたけどやっぱりつまんなくなっちゃって…
なので今から常盤さん見て大人の飲み方研究します
あ、拒否権は無しでーす
あはは!はい、かんぱーい!



●噺に花咲く夕の海
 金絲の髪を潮風に揺らす娘――天音・亮(手をのばそう・f26138)は、海を臨めるテラス席でひとり、ミントフラッペに舌鼓を打っていた。しゃりしゃりとした氷のなかに突き刺さった、短いストローからミント酒を味わえば、鼻腔を抜けるような爽快感が込み上げて来る。其れは夏の暑さを紛らわせてくれるようで、大変心地が良い。
 そして爪紅で綺麗に彩られた彼女の指先が摘まむのは、ころころと皿の上を転がるアーモンド。ひと口噛み砕けば芳ばしい芳香を口中に伝えてくれる其れは、爽やかなカクテルとの相性も抜群だ。
 常なら賑やかに人とグラスを交わすことを好む亮だけれど、今日の彼女は少し大人の女な気分。ゆえに、ひとり呑みをめいっぱい堪能する心算だった。
 ――たまには一人で楽しむお酒の場も乙な物、とは思ったけど……。
 とはいえ、矢張り斯ういう場所では、お喋りしたくなるのが人情というもの。うずうずしながら周りを見回してみると、テラスの片隅に見覚えのある男の姿を見つけた。
「あ、常盤さん発見」
 彼女を此処に誘った猟兵――常盤もまた、テラスで寛いでいたのだ。これ幸いと、亮はグラス片手に彼へと声を掛けに行く。一方で華の在る彼女の姿にいち早く気付いた常盤は、ゆるりと手を挙げ大人のレディへご挨拶。
「シーシャ、常盤さんは試した?」
「あァ、勿論さ。苺が美味しかったなァ……」
 そっかぁ、なんて。常盤の向かいに腰を下ろしながら相槌を打つ亮の貌は、何処となく残念そうだ。其の理由は、彼女の職業に在る。
「私は仕事柄イメージ第一だから、まだ煙草はNGなんだぁ」
「イメェジ、というと?」
 かくりと不思議そうに頸を傾ける常盤へ、亮は自身の生業――モデルの仕事について教えて遣る。芸能というものに疎いこの男も、彼女の明るい語り口には納得貌をしていた。
「あァ……確かに君が煙草なんて吸ってると、ファンも驚くかもしれないねェ」
 亮は若くて可憐で快活とした、健康的な女性だ。そんな彼女が喫煙するのは、ともすればイメージを壊しかねない。そして其れは、亮自身も何となく分かっている。
「もうちょっと大人の女になったら、OK出るかも?」
「ははは、では其の日を楽しみにして居よう」
 悪戯に片目を閉じた彼女に釣られて、常盤は愉快そうに肩を揺らす。そんな彼を見上げながら、亮はカクテルグラスを持ち上げて花笑みを咲かせた。
「ふふ、だから今はこれで我慢。常盤さんも一緒に飲も!」
「僕もご一緒して良いのかね?」
 光栄だが大丈夫だろうか――と。そう眉を下げる胡乱な男に向けて、彼女はこくこくと頷いて見せる。亮が長い睫を伏せたなら、碧色の瞳に影が差す。
「一人飲みで大人の女気取ってみたけど、やっぱりつまんなくなっちゃって……」
 社交的な亮にとって、酒は人と賑やかに愉しむもの。ひとりで物静かに嗜むなんて、折角のカクテルが勿体ない。
「なので、今から常盤さん見て大人の飲み方研究します」
「大人の飲み方……?」
 成る程と首肯を返そうとした常盤が、ぴたりと其の動きを止める。隈を刻んだ双眸が見降ろすのは、彼女が訪れるまでザクザクと匙で掻き混ぜて遊んでいたミントフラッペ――の成れの果て。どうしようもなく幼稚な男は、何か巧い言い訳を紡ごうとして……。
「あ、拒否権は無しでーす」
 きらきらと輝く太陽みたいな笑顔の前に、敢え無く撃沈した。鋭い牙を口端から覗かせながら、常盤は己のグラスをゆるりと持ち上げる。
「はは、君には敵いそうもないなァ。それじゃ、先ずは乾杯でも」
「あはは! はい、かんぱーい!」
 コツン――。グラスとグラスが触れ合って涼やかな音を奏でたら、さあ。賑やかに歓談へ興じよう。
 大人たちの宴は、こうしてゆるりと過ぎて行く。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シエン・イロハ
シノ(f04537)と

水着イラスト参照
※酒には強くほぼ酔わず

…別に、急いで探すようなもんでもねぇんだがな(神隠しにあったせいで所在の分からない自分の故郷と、そこにいるであろう宿敵の情報を探してくれているらしいシノに、お人よしだなとばかりに視線を向け
水煙草ねぇ…そういや手出した事ねぇな
ま、酒もあるなら悪くはねぇ

酒はカクテルのアラスカ
置いてもいいが外で吸ってこいって出されるのがオチだな
気に行ったんなら扱ってる店探すしかねぇだろ

さてねぇ…(シノが吸っていたシーシャを掠め取って吸い、溜息を一つ
ガキの頃過ぎて碌な記憶もねぇな(一応記憶を漁ってみるも、ないもんはないとあっさり諦めて


シノ・グラジオラス
シエン(f04536)と

水着イラスト参照

グリードオーシャンで探し物をすると言うことで、
まずはこの世界の事を知った方がいいだろ?
って言うのは建前で、水煙草が気になったんだよな
まあまあ。珍しいカクテルもあるし、普通に酒類もあるし前哨戦って事で

ライムミントを選んで煙を吸う。酒はジントニックで
ふぅん?水を通すとこんなにも煙の味と言うか、口当たりって変わるんだな
家にも…って小さいのもいるから部屋に置くのは無理か。残念
そうだな、店探すか。見つけたらシエンにも教えるよ

なあ、島は違うだろうが海見て何か思い出すことないか?
…って、今話すのは無粋か
了解、それじゃあ今日は水煙草が結構いいって成果だけにしとこうか



●薄翠の戦果
 段々と宵色に染まりつつある海を、シエン・イロハ(迅疾の魔公子・f04536)とシノ・グラジオラス(火燼・f04537)は酒場のテラス席から眺めていた。
 白いリーフを刻んだ赤いノースリーブパーカーに、黒いサーフパンツを合わせた、華やかな印象のシエン。そして黒系のパーカーと、市松模様や青海波を刻んだ青色のサーフパンツを組み合わせた、落ち着いた印象のシノ。
 一見すると対照的にすら想えるふたりは、悪友であり、親友である。海が似合いの彼等だが、今日はただ遊びに来た訳では無い。ふたりが此の地――グリードオーシャンを訪れたのは、何を隠そう「探しているもの」が有るから。
 それは、――シエンのルーツである。
 嘗て神隠しにあった所為で、彼は故郷の所在を知らぬ。ただ無限に海が広がるこの世界の何処かの島で、生を受けたということ。そして、その故郷には彼の宿敵が居るということしか、分からないのだ。
「まずはこの世界の事を、知った方がいいだろ?」
「……別に、急いで探すようなもんでもねぇんだがな」
 お人よしだなと謂わんばかりに、シノへとちらり赤い双眸を向けるキマイラの青年。対する人狼の青年は、人懐っこく笑って見せる。
「――って言うのは建前で、水煙草が気になったんだよな」
 テーブルの上に乗せられた翡翠色の硝子瓶を、シノの指先が軽く弾いたならば。シエンの視線は涼やかな音色に釣られるように、其方を向く。
「水煙草ねぇ……そういや手出した事ねぇな」
「他にも珍しいカクテルとか、普通に酒類もあるし。ここは前哨戦って事で」
 つらつら、明るく言葉を重ねるシノの手には、透明な酒で満たされたグラスが揺れている。蒸留酒と柑橘類が馨る炭酸水を混ぜた其れは、彼らが暮らす世界でも馴染み深いもの。
「……ま、酒もあるなら悪くはねぇ」
 専ら酒には強いシエンもまた、自身のカクテルグラスへ手を伸ばす。彼が選んだのは、蒸留酒にハーブリキュールを混ぜた薄翠彩のカクテルだ。
「じゃあ、乾杯」
「おう」
 ――コツン。
 ふたり、グラスを鳴らしたなら、エキゾチックな酒宴が始まる。先にシーシャへと手を伸ばしたのは、水煙草に興味を抱いているシノの方だった。
 吸い口をそうっと咥えて、思い切り息を吸い込めば。灰に満ちるは、常日頃に嗜む刻み煙草よりも幾分か軽い煙。はぁ――と、零した吐息と共に鼻腔へ抜けて行くのは、爽やかなライムミントの馨。
「……ふぅん?」
「美味いか、それ」
 もくもくと立ち上る煙が潮風に攫われた後、軈て其の貌を覗かせたシノへ。グラスを仰ぐシエンは、何気なく感想を問うてみる。傍から見ているだけでも、爽やかな馨を感じることは出来た。
「水を通すとこんなにも煙の味と言うか、口当たりって変わるんだな」
 感心するような響きを滲ませた答えを聴くに、シーシャは彼の口に合ったらしい。悪友の科白に、興味を揺さぶられたシエンの双眸は艶めく硝子瓶へと集中する。
「家にも是非……って、小さいのもいるから部屋に置くのは無理か」
「置いてもいいが、外で吸ってこいって出されるのがオチだな」
 水煙草は、味わいこそまろやかだが。馨と煙は普通の煙草よりも強い。喫煙者であるシノや、煙に忌避感の無いシエンにとっては気にならないものだが。シェアハウスには、向かない代物かも知れない。
「気に行ったんなら、扱ってる店探すしかねぇだろ」
 残念だと肩を竦めるシノを他所に、シエンは硝子瓶を自分の方へと引き寄せる。揺れる水音が、不思議と心地好い。
「そうだな、店探すか。見つけたらシエンにも教えるよ」
 UDCアースや、ヒーローズアースの都会になら、シーシャの専門店は幾らでもあるだろう。笑って頷きながら、シノは自分のグラスを傾ける。喉元を過ぎて行く炭酸の味わいが、煙の口直しには丁度よかった。
「――なあ、海見て何か思い出すことないか?」
 ふと、彼の貌が真剣な表情を象る。流石にこの島が、シエンの故郷なんてことは無いだろうが。それでも、何かヒントを得られたらと、そう思ったのだ。
「さてねぇ……」
 遠い記憶を探る様に、紫に染まった海を見つめながら。シノが吸っていたシーシャのホースを掠め取るシエン。其のまま息を吸いこめば、白い煙と爽やかな馨を伴いながら溜息をひとつ。
「ガキの頃過ぎて碌な記憶もねぇな」
 一応、記憶は漁ってみた。けれども、この世界にいたのは遠い昔のこと。いくら思い出そうとしても、覚えていないものは出てこないのだ。
 あっさりと諦めて見せるシエンに、シノは明るく笑い掛けた。収穫は無かったけれど、総てが無駄足だった訳でも無い。
「了解、それじゃあ今日は……」
 水煙草が存外に良かったという成果だけ、持ち帰るとしよう――。
 そうして暫しの間。ふたりは果実を馨らせる煙と、涼やかなカクテルだけでは無く。穏やかに流れるひと時を、心行くまで楽しんだのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミルラ・フラン
【義煉薔】◎
クロウは相変わらずの男前っぷりだ
源次はなんかこう……流しのウクレレ弾き
(ファビュラスな女優帽にゴージャスボディ、立てばセクシー座ればボムシェル、歩く姿はマーベラス)

紙巻き煙草なら毎日吸ってるけど、水煙草も久々だねぇ。いいよ、その話受けるわ
あいよ!(源次捕獲)

んじゃ、あたしはストロベリーで
お酒。あたしはチャイナブルーがいいな

はーいカンパーイ
今年の夏に感謝と愛をー
(割と早いペースでカクテルを進める酒豪)

(苺の味の煙を飲んで)
こういうのも乙なもんだねぇ
紙巻きのせわしなさもないしさ

クロウー、今晩付き合わなーい?
(軽い様子で突拍子もない誘いをかけて。そして、クロウの反応を見てケラケラ笑う)


杜鬼・クロウ
【義煉薔】◎
水着は全身参照

この中で一番浮かれてやがンのはお前だぞ、源次(格好見て笑って指差し
ミルラの水着はふぁぶる…ふぁびら…とにかく似合ってるぜ!(きょぬーがん見

そういや源次は水煙草に興味あるか?
ミルラ!確保手伝え!(源次を捕獲
俺が吸いてェンだよ
未成年の前では吸わねェって決めてンだ付き合えや(恫喝

酒場へ
ライムミントの水煙草とミントの酒注文
砂浜に敷物広げ宴会開始

乾杯しとくか(グラス当て
お前らと今年の夏を一緒に過ごせて良かったわ

海の景色眺め
煙草の煙に目細め
苺の甘い香りに酔う

しーしゃって言うンだな
初めて吸うわ
こんな煙草もあるなんざ世界は広いぜ

おうよ!…ン?
夜通しで飲む気か?!俺、そんな酒強くねェ!


叢雲・源次
【義煉薔】

(砂浜に浮かれた男ありけり。波風まといて弦弾きたれば、よろづのことにうかれり)
…浮かれてはいない。夏の陽気に合わせている…それだけだ。
(アロハシャツにサングラスにハイビスカス。あまつさえ、ウクレレまで装備している。安心して欲しい。十分にうかれている。さて、持ち掛けられた話と言えば、水煙草。興味があるかと言われれば)

「いや、特には。」
(元来喫煙者では無い。辞退し早々に去ろうとしたら拉致られた)

……じゃあ、オレンジで。
(観念して吸う。……柑橘類の爽やかな香りが嗅覚を刺激する。嫌な香りはしない…なるほど、これがシーシャというものか)
存外…悪くないな。常用する程ではないが。



●華やかなる酒宴
 宵色と橙色が神秘的に混ざる空の下、ゆるりと伸びる影がふたつ。
 ひとつは、嬋媛な女優帽を被り、黒いビキニと赤いパレオに身を包む淑女――ミルラ・フラン(Bombshell Rose・f01082)。立ち姿は華のように艶美で、砂浜に足跡を刻む様からは、造形美を感じさせる。彼女の紅い双眸は、もうひとつの影――杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)へ集中していた。
「クロウは相変わらずの男前っぷりだ」
「そういうミルラの水着は、ふぁぶる……ふぁびら……とにかく似合ってるぜ!」
 ファビュラス、と中々に言い切れないクロウだけれど。彼の装いもまた、色男らしく瀟洒なものだ。
 黒炎を想わせるシルエットのサーフパンツに、青炎を模したベルトと濃紺のパレオを重ねて。頸からも青炎のネックレスを垂らした其の姿は、凛々しさと逞しさに溢れている。
 ポロロン――。
 そうして賛辞の言葉を送り合うふたりの耳朶に、ふと。気の抜けるような、緩やかな弦の調べが、風に運ばれ遣って来た。
 何事かと視線を向けた先、――砂浜に、浮かれた男ありけり。波風まといて弦弾きたれば、よろづのことにうかれり。
 つまりは、夏の装いに身を包んだ、叢雲・源次(DEAD SET・f14403)の姿が在った。
 賑やかな柄のアロハシャツを羽織り、サングラスを掛けた彼は何処からどう見てもご機嫌スタイル。そんな源次の頭に揺れるのは、大輪咲きのハイビスカス。更にはウクレレまで装備しているのだから、バカンスの準備万端と云った所だろうか。
 意外な程の浮かれっぷりに、一瞬だけ沈黙するふたり。彼らが何か言い掛けるのを察してか、先に源次が重たい口を開いた。
「……浮かれてはいない」
 其の見かけとは裏腹に、静かな聲が響く。ポロロン――。彼の指先が適当にウクレレを弾いた。癒し系――もとい、緩やかな調べが再び零れ落ちてゆく。
「夏の陽気に合わせている……それだけだ」
 ストイックな彼の科白は、説得力に溢れるものだが。安心して欲しい。彼は十分に浮かれている。その証拠にクロウは堪らず噴き出した挙句、源次の格好を指差して笑っていた。
「いや、この中で一番浮かれてやがンのはお前だぞ」
「源次はなんかこう……流しのウクレレ弾き」
 アース世界でいう所の、ハワイや沖縄に居そうである。意外な人物の意外な格好に、ミルラの頰も楽しげに弛むばかり。
「――そういや、源次は水煙草に興味あるか?」
「いや、特には」
 クロウがふと、今日の本命について源次へ問い掛けたなら。間髪を入れずに、お手本のような即答が返って来た。もともと、源次は喫煙者では無い。
 ゆえに誘いは辞退し、早々に此の場を立ち去る――心算だったのだが。当然、ふたりが其れを許してくれる筈も無かった。
「ミルラ!」
「あいよ!」
 ――がしっ。
 華やかな美男と美女に、両腕をガッチリと掴まれて捕獲される源次。斯ういう時の彼らの連携と来たら、目を瞠るものが在る。一応、離せと藻掻いてみたけれど――。
「俺が吸いてェンだよ。未成年の前では吸わねェって決めてンだ、付き合えや」
 色違いの眼差しに至近距離から恫喝されれば、頸を縦に振らざるを得ないだろう。
「……じゃあ、オレンジで」
 重たい溜息をひとつ零して、源次はついに白旗を上げたのだった。

 斯くして、酒場に向かった彼等は目当ての品を手に入れたのち、砂浜にアラベスク模様の敷物を広げ始める3人。各々のドリンクとシーシャを並べたら、賑やかな宴会が幕を開ける。
「じゃ、乾杯しとくか」
 エメラルドに煌めくミントフラッペを、率先して掲げて見せるクロウ。宴と云ったら、先ずはグラスを重ね合わなければ。
「はーい、カンパーイ」
 今年の夏に感謝と愛を――なんて。修道女めいた科白を付け加えながら、ミルラもまたライチ酒と柑橘酒や炭酸水をミックスした碧彩のカクテルを、彼のグラスにくっつける。源次もふたりに倣い、自身のグラスを色鮮やかな其れらへと寄り添わせた。
「お前らと今年の夏を一緒に過ごせて良かったわ」
 グラスに刺さったストローからエメラルドの酒を楽しみつつ、クロウはそんな軽口をひとつ。一方、早いペースでカクテルを進める酒豪――もといミルラは、紅彩に艶めくシーシャボトルを愉快そうに撫ぜている。
「紙巻なら毎日吸ってるけど、水煙草も久々だねぇ」
 そうして、長い指先にホースを絡め吸い口――マブサムへと口吻けひとつ。肺にじわりと満ちる煙は、甘やかな苺味。水を通して吸っている所為か、シーシャは紙巻に比べてマイルドな味わいだ。
「こういうのも乙なもんだねぇ。紙巻の忙しなさも無いしさ」
 白い吐息を、ほう――と零しながら、うっそり双眸を細めるミルラ。もくもくと立ち込める煙から漂う甘い馨に、クロウは思わず酔いそうに成って。自身もまたマブサムに口吻けて、ライムミントの爽やかな馨に其の身を委ねるのだった。
 傾き始めた陽光が、翡翠彩の硝子ボトルに反射する様はうつくしく。遠い海へぼんやりと意識を向ければ、彼の視界を白い煙がふわりと覆い隠して行く。
「コレ、しーしゃって言うンだな」
 切れ長の眸をつぅ――と細めたクロウは、感嘆の吐息をひとつ。正しくエキゾチックで、ファビュラスな心持ち。
「こんな煙草もあるなんざ、世界は広いぜ」
 何処か満足気な様子のふたりに背中を押されて、源次もまた観念した様子でマブサムに口吻ける。
 こぽこぽ、こぽこぽ――。
 泡が弾けるような音が橙硝子のボトルから零れ落ちた刹那、柑橘類の爽やかな香りが彼の嗅覚を刺激した。口当たりはよく、嫌な香りはしない。
「……なるほど」
 これが、シーシャというものか。神妙な面持ちでそんな呟きを零す源次を置き去りにして、ケラケラと笑いながら更なる深酒にクロウを誘うミルラ。そして酒豪の彼女から放たれた誘いに「夜通しで飲む気か?!」なんて戦慄するクロウ。
 彼らの賑やかな遣り取りを耳に捉えながら。すぅ――と、源次は再びオレンジの馨を吸い込んで、軈て白い煙と共に密やかな吐息を零す。
「存外……悪くないな」
 きっと、此れを常用することは無いだろう。けれど、水に濡れた紫煙を嗜むことも、偶には良いかも知れない。今日は、折角のバカンスなのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
◎
なびちゃん(f02050)と、ジンノにも声掛け

パーカーにハーフパンツのラフな水着
波打ち際で涼んだ後浜辺でのんびりと

シーシャって初めて
なびちゃんが甘いの選ぶならオレはオレンジにしよかな
煙草はオレもヤめた口ダケド、全然違うカンジでエキゾチックねぇ
ミントフラッペ片手に大好きな暮れの空色に染まる海を眺めたら、超贅沢な大人時間
あ~酒も煙も何杯でも呑めそう

嗜好品といえばさぁ、なびちゃんはあんまお酒飲まないよねぇ
ナンて酔った姿思い出し、可愛くてイイじゃナイとくすくす笑い
ジンノは……酔ったトコ想像できないケド、他にコレは手放せないナンてモノないの?

ふふ、たまにはとりとめないお喋りの時間ってのも悪くねぇよネ


揺歌語・なびき

コノハさん(f03130)と常盤さんと

今年の水着着用
夕焼けの潮風が気持ちいいね

おれもシーシャは初めてだなぁ
昔煙草は吸ってたけど、結局やめちゃった
苺のフレーバーが、煙草なのに甘くてびっくり
これ嫌いじゃないなぁ、煙ったくないし
店長どんどん呑んでる…
おれもレモネードおかわり
すっきりした甘さで美味しいなぁ

だって、二、三口で頭がゆだっちゃうんだよぉ
しかも泣き上戸で誰にでも変な絡み方するし…うぅ
そのクセ記憶は全部残ってるタイプだから
翌日後悔して落ち込むんだよねぇ…(遠い目
大人としてそれは駄目でしょ、こう、色々
常盤さんもお酒強い方だよね

空の彩が暮れていく
今夜が満月じゃなければ十分
もう少し、語りあいたいから



●語る夕べ
 寄せては返す波打ち際を、3つの影が仲良く並んで歩いている。
 ひとりはカラフルなパーカーに、ハーフパンツのラフな水着を纏った青年――コノハ・ライゼ(空々・f03130)。ひとりはハイビスカスを描いたシャツに、黒いハーフパンツを合わせた人狼の青年――揺歌語・なびき(春怨・f02050)。そしてもうひとりは、百日紅の着物を羽織り、同柄のサーフパンツを履いた胡乱な男――神埜・常盤である。
 一同はそれぞれ己のシーシャと飲み物(序に常盤は敷物も)など抱えながら、楽し気に波と戯れ歩いていた。
「わぁ、夕焼けの潮風が気持ちいいね」
「夏って感じよねぇ。それに、空も良い色」
 深翠彩の長い髪を靡かせ、なびきが心地良さげに頬を弛めれば。コノハも涼し気な眼差しを細めて、紫の彩に染まった暮れの空を仰ぎ見る。
 異国情緒の漂う此の地で感じる夏は、何だか特別な気分。撥ねるこころの侭に歩き続ければ、軈て人気の少ない浜辺へと辿り着く。
 昏い彩に染まり始めた砂浜へアラベスクの敷物を広げれば、気心知れた仲ゆえに――誰からともなく、のんびり腰を下ろして夕涼み。
「ふふ、シーシャって初めて」
「おれもシーシャは初めてだなぁ」
 硝子瓶の如き喫煙具へ視線を落としながら、青年たちはわくわくと言葉を交わす。実は禁煙に成功した者同士、紫煙を嗜む感覚は何処か懐かしい。
「煙草は吸ってたけど、結局やめちゃった」
「オレもヤめた口ダケド、全然違うカンジでエキゾチックねぇ」
 それに、彼等が暮らす地――UDCアースでよく見る紙巻と違って、喫煙具は豪奢なフォルムをしている。まるで香水瓶を思わせるような其れは、見様によっては大層芸術的だ。
「さっそく吸ってみるかね、君達」
 牙を見せて笑う男に促されて、ふたりは蛇の如きホースを手繰り寄せ。吸い口――マブサムにそっと口吻ける。刹那、肺に満ちたりるのは、果実の甘く瑞々しい馨。
 軈てふぅ――と息を吐き出せば、もくもくと煙が立ち上り、彼らの貌を覆い隠して行く。潮風に其の白煙が攫われたのち、なびきは桃色の双眸を穏やかに緩ませた。
「これ嫌いじゃないなぁ、煙ったくないし」
 紅彩に艶めくボトルにて煙草を嗜む人狼の青年が選んだのは、甘い苺のフレーバー。煙草らしからぬ甘さに少々驚いた様子のなびきだが、其の聲には喜色が滲んでいた。
「あら、ホント。なんだか……爽やかなカンジ?」
 橙色の煌めきを放つボトルをまじまじと見つめる妖狐の青年は、オレンジフレーバーの水煙草を嗜んでいた。此方はオレンジジュースの如き味わいで、口当たりが良く吸い易い。
 水を通して煙を吸い込む所為だろうか、普通の紙巻よりも軽い煙を、すぅすぅと吸い込んでは吐き出すふたり。煙に乾きを感じれば、とびきりのドリンクが彼らの喉を潤してくれる。
「あ~……酒も煙も何杯でも呑めそう」
 大好きな暮れの空、そして其の彩に染まり行く広い海。きらきら煌めくエメラルドみたいな“ミントフラッペ”に、エキゾチックなシーシャ。嗚呼、なんて贅沢な大人時間。
 こんな極上のシチュエーションを前に、お預けなんて有り得ない。ゆえに、コノハはぐいぐいとグラスを傾けて行く。
「おれも後で、レモネードおかわりしよ」
 すっきりした甘さで美味しいなぁ――なんて。にへら笑うなびきも、どろりと蕩けるミントのレモネードが気に入ったらしい。
「嗜好品といえばさぁ、――なびちゃんはあんまお酒飲まないよねぇ」
「だって、二、三口で頭がゆだっちゃうんだよぉ」
 揶揄うような科白を零しながら、ちらりと彼へ流し目を呉れるコノハ。なびきと云えば何時かの宴を思い出し、耳を抑えるような形で分かり易く頭を抱えて見せた。
「しかも泣き上戸で誰にでも変な絡み方するし……うぅ」
「なびき君は泣き上戸なんだねェ……」
 ふたりの噺を聴きながら、翡翠彩に艶めくボトル――ライムミントのシーシャを嗜んでいた常盤が、不意に横槍を入れて来る。くつくつと喉を鳴らして笑う様は、実に愉快そうだ。
「そう、そのクセ記憶は全部残ってるタイプで」
「あらあら……」
「翌日後悔して落ち込むんだよねぇ……」
 大人としてそれは駄目でしょ、と。遠い目をしながら、がっくり肩を落とす人狼の青年。そんな彼の肩をぽんぽんと優しく叩くコノハもまた、薄氷の双眸を愉しそうに緩めている。
「まあ、可愛くてイイじゃナイ」
 慰める傍らで、くすくすと笑みが零れたのは、酔った彼の姿を思い出して仕舞ったから。どうにも居心地の悪いなびきは、相変わらず人の悪い貌をしている男へと話題を流す。
「そういえば、常盤さんもお酒強い方だよね」
「ジンノは……確かに酔ったトコ想像できないケド」
 実際どうなの――なんて。そう言いたげな聲に、吐き出した煙で輪っかを作って遊んでいた常盤は、ウーンと唸るような聲を零した。
「僕は酔うと寝落ちるからなァ……」
 そんなに弱い訳では無いけれど。あくまでも彼なりに、外では自制しているらしい。なにせ、馴染みの店を出禁にされては困るので――。
「じゃあさ、他にコレは手放せないナンてモノは?」
「……煙管かなァ」
 あ~吸ってそう、分かる分かる、なんて。胡乱な男の回答に、貌を見合わせて笑う青年たち。非日常を感じさせるひと時に幼心を抑え切れぬ彼らは、何処までも楽し気だった。
「ふふ、たまにはとりとめないお喋りの時間ってのも悪くねぇよネ」
 コノハがふと零した科白に、異を唱える者など此処には居ない。何処までも広がる空が段々と暮れて往く。
 もう直ぐ夜色に染まって仕舞うだろうけれど、今夜が満月じゃなければ其れで十分。今日は何でも無いようなことを、もう少しだけ、語りあいたいから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

琴平・琴子
◎【水着着用】
すみませんエドガーさん(f21503)
お付き合い頂いて…一度お話を聞いてみたいと思ったんです
あまり騒がしくない静かな砂浜に向かっても?

美味しいと評判らしく
ミントレモネードとミントヨーグルトフローズン
どちらも気になって買ったんですけども…
(エドガーさんとレモネード、似てるなあ)

そう言えば櫻幽島の肝試しで驚かされたいって言ってましたね?
後ろ向いてください、此方をどうぞ!
(背中にレモネードを当てて)

輝く者の国のこと、
絵に描いた王子様のような
眩い貴方みたいになれるのか、
少し尋ねてみても良いでしょうか


エドガー・ブライトマン
◎水着
なあに、お安い御用さコトコ君(f27172)
キミが望むなら、どこへでもついていくとも

へえ~どちらも爽やかな色をしているね
ミントってすーってするヤツかな。どちらもおいしそう

ウン?
そうだね、私はお化けも見えないし感覚も鈍いし
普段あまり驚くことが ワッ冷たッ
今のはちょっとドキッとしたよ。こういうのサプライズというのかな…

私の故郷の話かい
先祖である勇者と薔薇の女神が力を合わせて建てた国だと言われているよ
それからずっと、勇者の血を引く者が王になり続けている

でも、本当に大切なのは生まれ持った血なんかじゃない
眩さや気高さは人の心に宿るものさ
自分を誇れるようなキミでいなさい
それはきっと、ステキなことだよ



●輝くもの、貴きこころ
 もう夕暮れ時だと云うのに。酒場から一歩出ると、生ぬるい潮風がふたりを出迎えて呉れる。
 風に靡く淡い彩のカーディガンを横目に、フリルを愛らしく飾った翠の水着に身を包む少女――琴平・琴子(まえむきのあし・f27172)は、隣を歩く少年に向けて申し訳なさそうに眉を下げる。
「すみませんエドガーさん、お付き合い頂いて……」
 一度お話を聞いてみたいと思ったんです――。
 そう語る琴子へ、レモングリーンのスイムスーツを纏った王子様――エドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)は、にこやかに頸を振って見せた。
「なあに、お安い御用さコトコ君」
 皆の王子様たらんとするエドガーは、自身が必要とされれば何処へでも飛んで行き、出来る範囲で困って居る人を助けてあげる。――そういう気性の少年である。ゆえに、琴子の誘いにも喜んで首肯して、このビーチへ共に降り立ったのだった。
「あまり騒がしくない静かな砂浜に向かっても?」
「キミが望むなら、どこへでもついていくとも」
 エドガーのうつくしい貌が相変わらず優しく微笑んでくれたから、琴子は酒場から少し離れた砂浜へと歩みを進めた。歩調を合わせてくれるところが、如何にも彼らしい。
「そう――美味しいと評判らしいので、どちらも気になって買ったんですけども……」
「へえ~、どちらも爽やかな色をしているね」
 波打ち際をゆるりと歩く少女の両手には、ふたつのグラスが握られていた。双つとも、涼し気なエメラルドの彩をしているから、エドガーは興味津々と云った様子で彼女の手元を覗き込む。
「ミントのレモネードと、フローズンだそうですよ」
「ミントって、すーってするヤツかな。どちらもおいしそう」
 言われてみれば、爽快感を感じさせる馨が仄かに漂っているような気がする。どちらを選ぶこともなく、ただ物珍しげにグラスを眺めるエドガー。
 ――エドガーさんとレモネード、似てるなあ……。
 一方の琴子はそんなことを想いながら、整った彼の貌を見つめて居た。そうしてふと、幼心に悪戯心が湧き上がる。
「そう言えば……エドガーさん。櫻幽島の肝試しで、驚かされたいって言ってましたね?」
「――ウン?」
 いささか唐突な少女の科白を耳に捉え、エドガーは不思議そうに貌をあげた。彼にとって記憶と云うものはいつも曖昧であるけれど、その時のことは其れなりに覚えている。
「そうだね、私はお化けも見えないし感覚も鈍いし」
「じゃあ、少し後ろ向いてください」
「良いけど、私は普段あまり驚くことが……ワッ冷たッ」
 首を捻りながらも従順に後ろを向いたエドガーの背中へ、唐突にひんやりとした感触が伝わって来る。碧眼を円くして振り向いた先には、レモネードを差し出してくる琴子の悪戯な笑顔が在った。どうやら、良く冷えたグラスを背に当てられていたらしい。
「此方をどうぞ!」
「今のはちょっとドキッとしたよ。こういうのサプライズというのかな……」
 苦い笑いを頰に滲ませながらも、礼を告げてレモネードを受け取る王子様。気づけば人も疎らな所まで来てしまったので、そろそろ此処で腰を落ち着けることにした。

「輝く者の国のこと、少し訪ねてみても良いでしょうか」
 とろり蕩けるフローズンをストローでくるくると混ぜながら、琴子はエドガーの表情をそうっと横目で覗き見る。
 女の子の私だって、いつかは絵に描いた王子様のような、――眩い貴方みたいになれるのか。其れを知りたいのだと語る琴子に、エドガーはおっとりと首肯して見せる。
「私の故郷の話かい、構わないよ」
 エドガーが生まれ育った国は、とても美しい国だ。
 伝承によると、先祖である勇者と薔薇の女神が力を合わせて建国したのが「輝く者の国・アルブライト」だと謂われている。建国以来、勇者の血を引く者が王と成り続けており。王子であるエドガーもまた、勇者の血を引く者のひとりとして丁重に育まれてきた。
「でも、本当に大切なのは生まれ持った血なんかじゃない」
 お伽話のような建国譚へ神妙に耳を傾ける琴子に、エドガーは優しく語り掛ける。ごく普通の家庭で育まれた彼女には、勇者の血なんて流れていないけれど。それでも、異国の地で誰かのために戦えるような強さが在る。其の尊さを、エドガーはよく知っていた。
「眩さや気高さは人の心に宿るものさ」
 だから常の如く優雅に片目を閉じたのち、穏やかな聲彩で迷える少女へ言葉を紡ぐ。まるで、民を導く王のように。
「自分を誇れるような、キミでいなさい」
 それはきっと、ステキなことだよ――。
 そう微笑むエドガーは、夕闇の中でも眩くて。琴子の視線もつい奪われそうになる。けれど、温かな言葉で自身の道行きを応援してくれる其の言葉が嬉しかったから。
「はい!」
 琴子は元気の良い返事と共に頷いて、甘いフローズンをぐいっと吸い込んだ。微笑まし気に其の様を眺めたエドガーも、そうっとレモネードに口を付ける。
 紫色に染まる空の下、ふたりの間には優しい時間が流れていた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

君影・菫
【nyx】
大きな酒場から見えるのは暮れゆく空と異国風の景色
なんや、少し懐かしい気いするなあ

名物のミントフラッペ片手に
砂浜で散歩しよて、ふたりを手招く仕草はまるで童女
ゆうるりシーシャを眺めれば綺麗な形しとうねって

ん、吸うてみよか
…はれ、甘い苺を選んだんに何度やっても咽てまう
謂われるまま深呼吸、さする手はやさしい
ありがとお、ちぃ
刻は…もう慣れとうの?
ええなあ、格好ええって憧れの瞳

ちぃが吸える頃には上手く…
んや、ええ子で待ってるから教えて
爽やかなフラッペで潤した喉で甘えたおと
いつか格好ええ二人の横で
刻が選んでくれた味、美味しく吸えたら嬉しいんよ
その時もこの浜辺にしよな?

三人でとまた、と
想うは暁の空に


飛白・刻
【nyx】

陽射しを隠し始めた夕暮れが見せるは
見慣れぬ見知らぬ世界の一角の様

手招く柔い声には誘われるままに
静かに流れ行く夏の余韻をゆるり歩む

慣れた煙管と違うそれは形一つと珍しく
軽い手順を流し見、見真似を二、三度繰返し徐々に感覚を
水面が揺らぎ音立つ間にライムミントが口中を游び
吐き出す煙は大から小へ靜かに消ゆる

不思議な物だと思う傍ら
甘い馨に翻弄される姿に手差し伸べる姿
会話の中身もどこか微笑ましい
急くこともないと二人を自然と見守るよう
そうだな、味も見目も楽しませる物を探しておこう
菫と千鶴の御眼鏡に適うものを選んで
時が来たらこうして海辺を歩くもいいだろう

暁空に夏の足音を共に刻んでは
三つ影揺らし、また、と


宵鍔・千鶴
【nyx】

砂漠の地だった名残か
異国情緒の馨りと共に
夕刻の景色が鮮やかに映る

砂浜から水平線のんびり眺め
お勧めのミントレモネードはさっぱりと
物珍しい異国の水煙草の壺は美術品の様で興味が尽きず
…きれいな色、フレーバーも在るんだな
二人共、挑戦したら?って、勧めるも
菫、無理しちゃだめ
ほら、ゆっくり深呼吸して(咽る背中をゆるりさすって)
刻は多分、直ぐ慣れそ…なんかもう様になってるよね?
ずるいな、と羨望は隠せず

俺が格好良く吸えるようになるまで
もう一寸待ってて
菫は上手くならなくていい、俺が教えたげる
刻には美味しいシーシャ探しといて貰お
……大人になるまで楽しいが沢山だ

暁空を仰いで、三人でまた、と願うこの浜辺へと



●暁に希う
 元は砂漠の地であった名残だろうか。紫色に染まり始めた空は、何処までも広がる砂浜によく映えた。異国情緒あふれる馨りと、世にも鮮やかな夕刻の光景を前に、宵鍔・千鶴(nyx・f00683)の双眸はつぅ――と細く成る。
「綺麗な景色だな」
「ああ、思わず目を奪われそうだ」
 陽射しを隠し始めた海は、空と同じ紫の彩に染まり掛けている。エキゾチックな夕暮れが見せるは、未だ知らぬ世界の一角の様で。飛白・刻(if・f06028)もまた、千鶴が零した感嘆の科白に頷いて見せた。
「なんや、少し懐かしい気いするなあ」
 暮れゆく空の彩が、そして異国風の景色が、何だか胸の裡に秘めた郷愁を呼び起こしてくれるようで。君影・菫(ゆびさき・f14101)もまた、紫水晶の双眸をゆるりと和らげた。
 弾むこころの侭に砂浜へ駆けだせば、はたと動きを止めてふたりを振り返る。彼女の手には、酒場の名物カクテル――ミントフラッペが確り握られていた。
「さ、砂浜で散歩しよ」
 ふたりをそう手招く様は、まるで童女の如き無邪気さと柔らかさに溢れていて。千鶴と刻は穏やかに貌を見合わせたのち、彼女の元へとゆるり歩みを進めて行く。ふたりの手には夫々の飲み物と、大人ふたりが嗜む為のシーシャ一式が握られていた。
 そうして三人、砂浜に並んでのんびりと眺めるのは、今まさに太陽を隠そうとしている水平線だ。夕が宵に染まり行く其の光景は、神秘的でうつくしく。頬に触れる潮風は、夏の余韻を運んでくれるようで心地が良い。
 彼らの腕のなか、沈みかけの夕陽に照らされながら、喫煙具たる硝子瓶はきらきらと煌めきを放っている。其の様に気付いた菫は、ゆうるりとシーシャのボトルを見つめて、ほぅと溜息をひとつ。
「……綺麗な形しとうね」
「ああ、それに珍しい容でもある」
 普段は煙管を嗜む刻も、彼女の感嘆に同意を示す。いま彼の腕のなかに在るシーシャは香水瓶めいていて、慣れた喫煙具とはまた違う趣が在った。
「……きれいな色、フレーバーも在るんだな」
 興味津々なのは、未成年である千鶴も同じ。彼は自身が抱えた菫の分のボトルを、じぃっと眺めて居る。異国の煙草を嗜む為の壺は、まるで美術品の如き様相で。ともすれば直ぐに割れて仕舞いそうな程、繊細な造形をしていた。
 これで嗜む煙草は、果たしてどのような趣なのだろうか。想像すればする程に、ますます好奇心が擽られて来る。
「ふたり共、挑戦してみたら?」
「ん、吸うてみよか」
 そんな千鶴の科白に促されて、菫は彼が抱える紅色のボトルへと手を伸ばす。代わりにミントフラッペを彼の手の中に預けつつ。ボトルを確りと受け取れば、彼女はホースを指に絡めながら吸い口――マブサムと口吻を交わした。
 刻もまた彼女の手順を流し見たのち、翠彩に艶めくボトルを確りと抱え。見様見真似でホースを指で引き寄せた後、そうっとマブサムへ口をつける。
 そうして、すぅ――と息を吸い込み肺を煙で満たし。軈て吐息と共に、秘めた煙を下界へ吐き出して行く。ライムミントの爽やかな馨を伴い、もくもくと立ち込める白煙。刻の貌を覆い尽くすように広がっていた其れは、軈ては潮風に攫われて靜に消えて往く。
 ――……不思議な物だ。
 其の様を何処か夢心地で眺めながら、刻はぼんやりとそう想う。此れはまるで、御伽噺の一幕のような光景だ。
 一方、ミントレモネードのさっぱりした味わいを楽しみながら、ふたりが煙草を楽しむ様を眺めて居た千鶴だったけれど――。
 けほけほと、菫があえかに咳き込むものだから。自身のグラスを砂上に置いて、直ぐに彼女の細い背を優しくゆるりと擦って遣る。
「菫、無理しちゃだめ」
「……はれ、甘い苺を選んだんに何度やっても咽てまう」
 肺に煙が満ちて往く感覚は、ヤドリガミたる菫にとっては未知のもの。紙巻よりも吸い易いとはいえ、慣れない内は矢張り苦しいものだ。
「ほら、ゆっくり深呼吸して」
 残念そうに眉を下げる菫を案じ、彼女の背をさする千鶴。其の掌の優しさに表情を柔らげた菫は、謂われるままに深呼吸。
「ん、落ち着いた気いする。ありがとお、ちぃ」
 漸く息を整えられた菫は、彼を振り返り嬉しそうにはにかんで見せる。甘い馨に翻弄される菫、そして彼女に手を差し伸べる千鶴。ふたりが交わす会話の中身も、どこか微笑ましいもので。傍らでシーシャに興じる刻の頰もまた、穏やかに弛んで仕舞う。
「刻は……なんかもう様になってるよね?」
「刻、もう慣れとうの?」
 異国の煙草を嗜む彼の姿が余りにも、絵に成るものだったから。羨望の念を隠さずに、ずるいなと頬を僅かに膨らませる千鶴。一方の菫といえば、ええなあ、格好ええ――なんて。きらきらとした憧れの眼差しを、彼へと向けている。
「……そう急くこともないだろう」
 そんな彼等を見守るように自然と、刻の双眸が優しい弧を描いた。吐き出すライムミントの吐息は、夕の空へと静かに消えて往く。
「俺が格好良く吸えるようになるまで、もう一寸待ってて」
「うちも、ちぃが吸える頃には上手く……」
 そう決意を語る千鶴に釣られて、菫もおっとりと決意表明。けれども、千鶴はそんな彼女に頸を振って見せる。
「菫は上手くならなくていい、俺が教えたげる」
「んや、ええ子で待ってるから教えて」
 まだまだ煙たい喉を爽やかなフラッペで潤しながら、ふふりと、菫は甘えた聲を零した。彼女を見守るふたりにとって、其の様は何とも微笑ましい。
「刻には美味しいシーシャ探しといて貰お」
「そうだな、味も見目も楽しませる物を探しておこう」
 菫と千鶴の御眼鏡に適うものを選ばなければ、なんて。少し先の未来を思い描き、穏やかに瞼を閉ざす刻。釣られて千鶴も、未だ見ぬ未来へと思いを馳せる。
 ――……大人になるまでの楽しみが沢山だ。
 酒に、シーシャ。遣りたいことが増えたのだから、成人を迎える日が何処か待ち遠しい。
「時が来たらこうしてまた、海辺を歩くもいいだろう」
「その時も、この浜辺にしよな?」
 ゆっくりと開いた双眸で、沈みゆく太陽を眺める刻が零した提案に、菫はわくわくと首肯する。大人である彼女だって、未来に楽しみを見出しているのだ。
「いつか格好ええ二人の横で、刻が選んでくれた味、美味しく吸えたら嬉しいんよ」

 きっと、この三人でまた――。

 胸に抱いた想いは、みんな同じ。
 夏の足音を浜辺へ刻んでは、三つの影を揺らしながら空を仰ぎ。暁にいま、そう希う。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アオイ・フジミヤ
【WD】4人、水着姿
すごく暑い、けれど美しい島
異国の空気を織り込んだような見たことのない柄の敷物も、暑い空気も、漂う香も初めてでドキドキする

よかったら綺麗な敷物を借りてビーチで過ごしてみない?
わ、翠々さんありがとう!
私もヨーグルトミントのフローズンがいいな

シンからのお誘いに嬉しくて笑う
シーシャに興味津々だったの、バレちゃった?
彼の好意に甘えてしまう、いつもありがとう、うん!一緒に吸おう

わ、すーすーするよ?煙草なのに?

ふたりの話に耳を傾ける
ふたりのデートはどんなだろう
綺麗な2人だから、きっと目を惹いちゃって大変ね

風に漂うシーシャとミントの香りに夏の真ん中にいることを実感する
素敵な時間をありがとう


薬師神・悟郎
【WD】4人、水着で

異国情緒漂う雰囲気のせいか、それとも、シンとアオイに当てられたせいか
開放的な気分になるな

喉の乾きを癒すために俺も何か頼もう
翠々はどうする?
彼女が選ばなかった方を飲むことにする
後で一口味見させてくれないか?

シンはシーシャ経験者か
彼女と同じフレーバーとは仲が良い
素直に羨ましいと思う
翠々と一緒に吸いたいという俺の我が儘を彼女は聞いてくれるだろうか?
どんなフレーバーでも彼女とならきっと甘い

夏のデートはまだまだこれから
祭りに花火、蛍狩りにと、せっかく色んな世界に行けるのだから沢山思い出を作れたら良いよなと

此処にはかき氷もあるんだろうか?
気になるのならそれぞれ好きな味を食べてみないか?


シン・バントライン
【WD】4人、水着で参加

冷たいもんが欲しいところやけど氷系が苦手やからミントレモネードにしとこうかな。爽やかで夏らしいドリンクやん。
皆はどれにする?
シーシャは似たようなん昔吸ったことあるけど同じなんかなぁ。

違う世界でも似たような物がたくさんある事が面白く感じる。気候も生き方も何もかもが違う気がするのに、人というのはやはり似ている。
彼女と一緒に吸おうとライムミントのシーシャを。

煙が爽やかとか楽しいよな。
香り吸ってる感じやん。

もう一組の友人カップルと雑談、

二人は夏デートとか行った?
どんなとこあるんやろう。
花火とかええよな。
海泳ぎに行った?
なぁ、カキ氷って似た様な味ばっかやねんけどどれが好き?


周・翠々
【WD】4人で水着

夕暮れ時なのに煌く空に思わず目を細める
綺麗です
空も、人も


わぁ!綺麗な敷物ですね
アオイ様、敷くお手伝い致します

わたくしはヨーグルトミントのフローズンが気になります
爽やかな味で美味しい!
悟郎様も。はい、どうぞ!

アオイ様とシン様の様子をきらきら見つめて
水煙草を吸うお二人の大人感…!素敵
え?わたくし達も一緒にですか?
えと。その…あ、甘いので良ければ、一緒に…
初めて吸いましたが…甘い、ですね。とても

夏のでぇとはまだです
まだまだ悟郎様と沢山思い出が作れそうですね
シン様とアオイ様も目を惹きますよ!二人の素敵なでぇとの話も聞かせて下さいな

かき氷…苺ですかね?
是非食べたいです
探してみましょう?



●分かつ紫煙
 砂漠の名残が色濃い所為か、陽が沈む頃と成っても、浜辺に漂う空気は熱を秘める。されど、紫に染まる空と海は神秘的で美しい。
 それこそが、アウシャーブ島の魅力である。
 昏い彩に染められた砂浜に集うのは、華やかな水着を纏った二組の戀人たち。
「――綺麗です」
 夕暮れ時なのに煌く空を仰ぎながら、花を散らした着物に似た水着を纏う周・翠々(泪石の祈り・f15969)は、ほう――と息を吐く。細められた翡翠彩の双眸には、エキゾチックな空と、思い思いに過ごす人々の姿が映って居た。ひとも、空も、なんて美しいのだろう。
「なんだかドキドキするね」
 浜辺に漂う暑い空気も、辺りに漂うシーシャの残り馨も。そして、アラベスク模様の敷物さえも、――総てが初めて。
 清楚な白いビキニとパレオを纏ったアオイ・フジミヤ(青碧海の欠片・f04633)のこころは、未知を前にそわそわと燥ぐよう。
「開放的な気分になるな……」
 濃紺のハーフパンツに蒼いシャツを重ね、麦藁帽を被った爽やかな装いの薬師神・悟郎(夜に囁く蝙蝠・f19225)は、そんなことをぽつりと呟く。
 果たして其れは、異国情緒漂う雰囲気の所為か。それとも、仲睦まじい友人たちの姿に感化された所為か。
 地平線に沈む太陽を眺める彼らの後ろでは、借りて来た敷物を砂浜に広げようとアオイが奮闘していた。其の姿にいち早く気付いた翠々は、直ぐに彼女の元へと駆けつける。
「アオイ様、お手伝い致します」
「わ、翠々さんありがとう!」
 お互いに端っこを掴んで、ばさりと砂浜に広げたなら。豪華絢爛なアラベスクの装飾が、宵空の下に惜しみなく曝される。其の繊細な織目に、翠々は双眸をきらきらと煌めかせた。
「わぁ、綺麗な敷物ですね!」
「なんだか、砂漠のお姫様の絨毯みたい」
 アオイもまた頬を弛めて、眼下に広がる見事な織物に感嘆の科白を零すのだった。そんな彼女達の思考を浜辺に引き戻すのは、酒場から持ってきたドリンクを配ろうとする、シン・バントライン(逆光の愛・f04752)の聲。
「なぁ、皆はどれにした?」
 青迷彩のサーフパンツに、黒いパーカーを合わせたシンが選んだのは、ミントレモネード。
「爽やかで夏らしいドリンクやん」
 呉れてもなお暑いこの島では、冷たいものが欲しい所だけれど。氷系は苦手なので、此方にしたのだと彼は言う。
「わたくしはヨーグルトミントのフローズンに」
「私もフローズンにしたの。ふふ、翠々さんと同じだね」
 翠々とアオイがお揃いと喜ぶ傍らで、悟郎が選んだのはシンとお揃いのレモネード。彼女が選ばなかった方を、敢えて味わうことにしたのだ。
 飲み物が行き渡れば、皆で敷物の上に腰を下ろし、夫々のグラスを傾けて。

 ――さあ、乾杯。

「爽やかな味で美味しい!」
 とろりと蕩けるフローズンをひと口味わった翠々が、無邪気に頬を弛ませれば。悟郎は戀人たる彼女に優しい眼差しを向け、そっと貌を寄せて囁く。
「良ければ、一口味見させてくれないか」
「はい、どうぞ!」
 快く差し出されたグラスから味わうお裾分けは、彼の喉よりも“こころ”をたっぷりと潤してくれた。

 他方、もう一組の戀人たち。シンとアオイは敷物の上に置いた、翡翠硝子のボトルを興味深そうに眺めて居る。
「シーシャは似たようなん昔吸ったことあるけど、アレと同じなんかなぁ」
 此処は違う世界だというのに、似たような物が存在しているのは面白い。気候も生き方も、何もかもが違うのに。――人というのは、矢張り似ている。
「アオイ、一緒に吸おう」
「シーシャに興味津々だったの、バレちゃった?」
 彼からの誘いが嬉しくて、くすくすと甘い笑みを零すアオイ。勿論、断る筈も無い。いつも有難う、なんて穏やかに礼を告げて。彼の好意に甘えることにする。
 シンが選んだシーシャボトルには、ホースが二本繋がっていた。これは、ふたりで吸う為のボトルである。
 夫々ホースを引き寄せて、吸い口と口吻けを交わせば――ふわり。優しく馨る煙は、爽やかなライムミントの味わい。
「わ、煙草なのに……すーすーするよ?」
「煙が爽やかとか楽しいよな。馨を吸ってる感じやん」
 予想外の味わいに、驚いたかの如く瞬いてみせるアオイ。一方でシンは、慣れた調子で白い煙を吐き出している。

 そんなふたりの様子を、きらきらとした眼差しで見つめて居るのは翠々だ。シーシャを味わう彼等は、大人っぽくて大層絵に成っている。
「シンはシーシャ経験者か。彼女と同じフレーバーとは、仲が良いな」
 素直に羨ましさを感じる悟郎。実は彼の手元に在る紅硝子のシーシャボトルにも、二本のホースが繋がれていた。
 暫し其れを見つめた彼は、うっとりした様子の戀人へ甘い誘いをかけてみる。
「俺も、翠々と一緒に吸いたい」
「えっ……。わたくし達も一緒に、ですか?」
 シーシャを嗜むふたりの姿と、戀人の貌を何度も見比べて、思わず頬を赤く染める翠々。確かに素敵だけれど、ほんの少し照れて仕舞うような――。
「俺の我が儘、聞いてくれるか?」
「えと、その……」
 戀人から真剣な眼差しで強請られては、頸を横に振ることなど出来なかった。
 こうして、悟郎と翠々もふたりで同じフレーバーを嗜むことにする。吸い口と口吻けて、ゆっくりと息を吸えば――灰に満ちるは苺の馨。
「初めて吸いましたが……甘い、ですね。とても」
 白い息を零しながら、ぽつり。そんな感想を零す戀人へ、悟郎は静かに首肯してみせた。
「……ああ、そうだな」
 胸を焦がすような甘さは、苺の所為ではない。喩えどんなフレーバーであろうと、彼女と嗜むならきっと、何だって甘く感じるのだろう。

 暫し果実の馨を堪能した二組は、再びグラスを交わして歓談に興じ始める。話題は勿論、――戀の噺。
「二人は夏デートとか行った?」
 シンが愉しげに問い掛ければ、悟郎と翠々は揃って頸を横に振る。
「夏のでぇとはまだです」
「ああ、これからだな」
 絶賛ダブルデート中だけれど、ふたりきりの夏デートは未だこれから。祭りに、蛍狩りに、それから……。
「花火とかええよな。海泳ぎには?」
「泳ぐのも楽しそうですね、行ってみたいです」
「せっかく色んな世界に行けるのだから、沢山思い出を作れたら良いよな」
 まだまだ沢山思い出が作れそうだと、笑い合う戀人たち。
 ふたりのデートは一体どんなものだろう、なんて。興味津々に耳を傾けていたアオイは、仲睦まじい其の様を見て、ふふりと温かな笑みを零す。
「綺麗な2人だから、きっと目を惹いちゃって大変ね」
「シン様とアオイ様も目を惹きますよ!」
 大人なふたりなのだから――と、眸をきらきらと輝かせた翠々が力説する。そうして強請るのは、彼らの甘い甘い噺。
「二人の素敵なでぇとの話も、聞かせて下さいな」
 夜の帳が掛かり始めた空の下、彼らの戀噺はもう少し続くのだった。

 けれど――。

「なぁ、カキ氷って似た様な味ばっかやねんけど……どれが好き?」
「わたくしは苺でしょうか……」
 ふとした事から話題がそんな方向に転じれば、急に小腹が空いて来る。
「そういえば、此処にはかき氷もあるんだろうか?」
「探してみましょう」
 そんな会話を交わす彼らを、楽し気に眺めるアオイ。風に漂うシーシャとミントの馨が、夏の真ん中にいることを彼女に実感させてくれる。
「ねえ、――素敵な時間をありがとう」
 友人たちへ、戀人へ。
 愛しさを籠めて零した科白は、潮風が夜の海へと攫って行った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

浮世・綾華
十雉(f23050)と◎

俺も俺も
あれ、十雉って煙草吸うんだっけ
俺はたまに吸う感じ
意外なの?まぁ俺は真面目だからなと軽口

当たり前にそれと告げるも
少し引っかかる気がしたが気にしないふり
で、十雉くんはどれにすんのよ
いいな、ミント好きだし俺もそれにしよ

乾杯してから口にするフラッペ
あ、やっぱかなりさっぱりしてんだなぁ
うまいわこれ
家でも作れんのかなぁなんて考えながら

いやぁ、ほんと贅沢…景色もめっちゃいいし…
て、なぁに笑ってんのお前
じ、と視線だけ向けるけれどそれ以上は言わず

わっかんねーケド
いちご、うまいから

少し考えて
…でもそう思うならそうだな
もっと可愛がってくれていーぜ
試しにほら、撫でてみ。なんて頭下げ


宵雛花・十雉
綾華(f01194)と◎

このシーシャってやつさ、前から気になってたんだ
オレは吸うよ、煙草
へぇ綾華もたまに吸ってんのか、意外

お、3種類のフレーバーから選べるんだってよ
綾華、確かイチゴ好きだっけ?
甘ァいフレーバーだって
ならオレも同じやつ

ミントフラッペも頼んじまおうかな
綾華も何か飲めよ、乾杯しようぜ

テラス席で海に沈む夕日を眺めながら水煙草をやる…
いやぁ、一夏の贅沢だなぁ
ゆっくり煙を吸って吐き出せば、ほんのり香るイチゴの風味だけが子供っぽくて、思わず笑いが漏れる

いやぁ別に?
そう煙に巻くように煙を吐いた
可愛いとこあんじゃん、お前も
って、どうしたよいきなり
うー…仕方ねぇなぁ
ぶつぶつ言い、照れつつ撫でてやる



●甘い馨と幼心
 浜辺の酒場、――海を臨む其のテラス席にて。談笑を交わしているのは、宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)と、浮世・綾華(千日紅・f01194)のふたり。
「このシーシャってやつさ、前から気になってたんだ」
 香水瓶めいた喫煙具から伸びるホースを指に絡めながら、十雉は聊か弾んだ聲を零す。紅色の硝子瓶は、傾き始めた太陽の光を浴びて、艶やかに煌めいて居た。
「俺も俺も……あれ、十雉って煙草吸うんだっけ?」
 綾華も彼と揃いの彩の硝子瓶を眺めながら、楽し気に相槌を打ちかけて、――ふと。脳裏を過った疑問に、かくりと頸を傾ける。俺は偶に吸う感じ、なんて。更に言葉を重ねれば、十雉の方が意外そうに瞬いてみせた。
「へぇ……綾華もたまに吸ってんのか、意外」
「意外なの?」
 まぁ俺は真面目だからな、と当たり前のように軽口を叩く綾華。されど、十雉は否定も肯定も返さずに、ただ問いの答えだけを紡ぐ。
「オレは吸うよ、煙草」
「……あ、そ」
 少し引っかかる気がしたが、気にしないふりをして。綾華は再び硝子瓶へと双眸を向けた。選べるフレーバーは三種類、彼は好物の苺を選んだけれど。果たして此の友人は、何を嗜む心算なのか。
「――で、十雉くんはどれにしたのよ」
「綾華、確かイチゴ好きだろ?」
 だから自身も同じ甘いフレーバーにしたのだと、十雉は口角を上げて見せた。彼の答えを聴いて、綾華の貌にもくすりと笑みが咲く。
「ミントフラッペといい、お揃いじゃん」
 ふたりが囲む丸いテーブルには、翡翠彩のカクテルが揺れるグラスが二つ。ミントが好きな綾華にとって其の選択は必然でも、十雉にとってはただの偶然。
 思わぬ気の合い具合に、ふたりの腹の底からは心地好い笑いが込み上げて来る。
「じゃ、乾杯しようぜ」
 ひとしきり笑い合ったのち、音頭を取るのは十雉の方。揃いのグラスを重ねて乾杯すれば、硝子が擦れ合い軽やかな音色が零れ落ちる。
 氷の山に突き刺さったストローから、翠彩のカクテルを味わえば、口いっぱいに爽やかな馨が広がった。
「……あ、やっぱかなり、さっぱりしてんだなぁ」
 うまいわこれと、開口一番にそう感嘆する綾華。家でも作れんのかなぁ、なんてことを思考する彼の傍らで。十雉はシーシャのホースを手繰り寄せ、吸い口――マブサムと口吻けを交わしている。灰に煙が満ちたなら、鼻腔を抜けて行くのは苺の甘い馨。
 ふわり――。
 彼の零す煙から好物の匂い馨が漂えば、釣られるように綾華もホースを口許へと伸ばし、軈てマブサムへ口吻けを。
 肺を煙で満たしては、吐息と共に其の煙を吐き出して。甘い馨に包まれながら、神秘的な彩の海を、そして其処に沈んで行く夕陽を見遣る。
「いやぁ、ひと夏の贅沢だなぁ」
「ほんと贅沢……景色もめっちゃいいし……」
 シーシャを嗜みながら、風情と異国情緒の溢れる光景に溜息を吐くふたり。寛いだように煙交じりの吐息を零したならば、ほんのりと馨る苺の風味。
 カクテルに、シーシャに、大人の楽しみを満喫している最中なのに。その味わいだけが、妙に子供っぽくて――。
「くくっ……」
「……なぁに笑ってんのお前」
 耐え切れずに、思わず笑い聲を漏らす十雉。そんな彼へと綾華は、じぃ、と視線を向けたけれど、それ以上は何も言わなかった。
「いやぁ、別に?」
 端正な貌に笑みを刻んだ侭、思い切り煙を吸い込んだ十雉は、ふぅ、と煙を吐きながら曖昧な科白を紡ぐ。まるで、真相を煙に巻くかのように――。
「可愛いとこあんじゃん、お前も」
 そう意味深に十雉が笑い掛ければ、綾華の赤い双眸は逃げるようにそっぽを向いた。
「わっかんねーケド……いちご、うまいから」
 綾華もまた、何かを煙に巻くかの如く紫煙を吸い込んで口を塞ぐ。されど、何も言い返せない彼では無い。
「……でも、そう思うならそうだな」
 徐に煙を吐き出した綾華はふと、甘い吐息で悪戯に煽って見せる。

 ――もっと可愛がってくれていーぜ。

「……どうしたよいきなり」
「試しにほら、撫でてみ」
 形勢逆転。
 密かに動揺する十雉へ向けて、綾華は己の頭を差し出した。揺れる鍵と黒髪に、十雉の戸惑いはより深く成る。
「うー……仕方ねぇなぁ」
 彼がいつまでも頭を上げてくれないので、根負けした十雉はぶつぶつとそんな科白を零しながら、綾華の頭をよしよしと撫でてやるのだった。
 撫でられながら愉快そうに笑う綾華と、その反応に照れた貌をする十雉。ふたりの穏やかな遣り取りを、地平線に沈みゆく夕陽が見守っていた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
f09129/ユルグさん

暮れ行く空を臨む浜辺にて
水煙草と酒精を堪能

初めて見る喫煙具は
爽やかな芳しさ

魔法のランプみたいですねぇ

ふくふく笑って
ライムミントの香りが広がる様を
煙が空に融け込んでいく様を
見届ける

合間に喉を潤すミントフラッペは
碧の宝石の彩り
昼間の熱を心地良く冷ましてくれる清涼感だけれど
今もずっと弾む想いで楽しいまま
ふわふわと雲の寝台に身を預ける心地だから
いっそ醒めない夢を見ているのかもしれない
或いは
もうすっかり酔ってしまったかしら、と
潮騒の如くささめき笑って

ユルグさんの編んだ紫煙は
空にどんな模様を描くだろう
微睡む視線で眺め遣る

瑞々しくも甘やかな靄が晴れた先にまみえるのは、

――あぁ、一番星


ユルグ・オルド
f01786/綾と

陽が融けだす水平を望む
いやァ絶景だね、なんて
笑う声にも潮騒が混じる

そんじゃアこっから顕れんのは
ランプの魔神かな
3つ願いが叶うんだっけ
ふいと柑橘の薫る煙を呑んで
なンか有る?
こうも揃ってりゃ追加する願いもないか
贅沢が過ぎるかな、なンて思ってもないケド

遊ぶように散らした煙の向こう
ミントの杯は一瞬夏を和らげる
酔ったのは、
酒に? 綾に限ってまさかァ
笑いだすのも上機嫌
引いて返す熱と酩酊は確かに魔法みてぇね
氷に跳ねる光も微かな音も
魔法だって再現できねぇもの

水音に紛れてひいた煙の向こう
時間も融けだす錯覚の中で
追っかけるのは声の先
言葉を探す、またたきの




 宵の彩に染まり始めた砂浜の上に、アラベスクの織目が麗しい敷物を敷き。いま将に暮れ行く空を、そして陽が融け出す水平を臨むは、ヤドリガミの青年たち――。
 都槻・綾(糸遊・f01786)と、ユルグ・オルド(シャシュカ・f09129)のふたり。彼らの手には、翡翠彩の液体が揺れる逆三角形のカクテルグラスと、蛇のようにぐるりと畝るシーシャのホースが握られていた。
「――いやァ、絶景だね」
 紫の波が零すさざめきは静まることを知らず、機嫌の良いユルグの笑聲にも自然と潮騒が混じる。戯れるように其の手の裡で、ゆうらり揺らすグラスのなか。翠に濡れた氷が、きらりと夕陽に煌めいた。
「こちら、魔法のランプみたいですねぇ」
 穏やかな微笑を其の貌に湛えながら、伴の言葉に相槌を打つ傍ら。翡翠のように艶めく硝子瓶を撫でながら、夢見がちな戯れを紡ぐ綾。
 初めて目にする喫煙具から馨る煙は、其の白い靄の如き有様とは裏腹に、爽やかな芳しさを纏っている。
 それが大層ふしぎなことに想えて、彼はふくふくと柔い笑みを零す。ライムミントの馨が、そしてもくもくと立ち昇る白い煙が、暮れの空に溶け込んで行く様は、一夜の魔法のよう。
「そんじゃア、こっから顕れんのはランプの魔神かな」
 ユルグは愉快そうに赤の双眸を細め、己の手許に在る橙硝子の瓶を、戯れと撫でて見せる。御伽噺の魔人は確か、3つの願いを叶えてくれるのだったか――。
「願い、なンか有る?」
 ふいと柑橘の馨を纏う煙を呑み、灰に満ちた煙を吐き出しながら。軽い調子で朋に問うのは、そんなこと。けれども綾は眉を下げて笑いながら、ただ肩を竦めて見せるのみ。
「……こうも揃ってりゃ追加する願いもないか」
 水烟に、酒精に、異国情緒の漂う光景。此の宵には、こころを満たすものばかり。
 贅沢が過ぎるかな、なんて。思ってもないことを零しながら、吸い口――マブサムと口吻交わしたユルグは軈て、ほう、と息を吐き。遊ぶように白煙を、空へと散らせて往く。
 馨る煙に巻かれた彼等の乾きを潤すのは、エメラルドのようなミントフラッペ。喉を通り抜けて行く其の爽やかさは、一瞬だけ夏を忘れさせてくれる。
 昼間の熱を冷ますかのような清涼感は心地好く。されど、楽しさに満たされた綾のこころは未だに熱を孕み、毬の如く軽やかに弾んだ侭。
「いっそ醒めない夢を見ているのかも」
 或いは、――もうすっかり酔ってしまったかしら。
 ふわふわと雲の寝台に身を預ける心地ゆえに。うっそりと双眸を閉ざし、綾は潮騒がささめく如き笑聲を零す。
「酔ったのは、酒に?」
 綾に限ってまさかァ、なんて。からからと笑い出すユルグもまた、上機嫌。引いて返す熱と、夏の暑さにも似た酩酊は、
「……確かに、魔法みてぇね」
 翠に染まった氷に跳ねる陽光も、水烟から微かに零れる泡弾きの音色も、魔法ですら再現できないだろうから。
 こぽこぽと唄う硝子瓶の調べに耳を傾けながら、ユルグはそうっとマブサムを唇から離し、柑橘の馨が混じった煙をゆるりと吐く。
 彼が編んだ紫煙が宵の帳を降ろし始めた空に、寛ぐ猫のような模様を描くさまを、綾はとろりと微睡む眸で見送っていた。
「……あぁ」
 ふと。瑞々しくも甘やかな靄が晴れた先、まみえた光景に綾が溜息を零す。時間も融けだすような錯覚すら感じさせる、緩やかなひと時のなか。聲の先を追い掛けるようにユルグも視線を空へ遣り、言葉を探すかの如く瞬きを、ひとつ。
 宵と夕が解け合う刹那。其処に映るは、きらめきの。

 ――嗚呼、一番星。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティル・レーヴェ
梟示殿(f24788)と

水煙草……シーシャ、というのかえ?
妾は未だ手の届かぬ其れを
隣で眺めるのは許される?
甘い香りと聞けば興味も尽きなくて

梟示殿、梟示殿!
ご様子見せて頂けるかえ?
彼の選んだ香りは妾にも届くじゃろうか?
浮かぶ煙も吸う様も
クッションに身沈め乍ら
興味津々に眺めゆく

ざぁ、と寄せては引く波音に
夕から宵に移りゆく紫空は妾の好きな色
其処に立ち上る煙も何れもが幻想的で
何ぞ物語の中のよう!
砂浜のこの敷物も
ふわりと浮きはしないかのぅ?

大人なお品に惹かれはするも
ちゃんと時が来るまで我慢の子
代わりに人気のフローズンで喉潤して
へへ、妾には此れが合っておろう?

今だけの甘い夢、か
のぅ、梟示殿にも在られるの?


高塔・梟示
ティル君(f07995)と

敷物と喫煙具に
あればクッションも借りようか
夕暮の浜で特等席を探し
異国情緒溢れる色彩に腰下ろして

甘い香りと言っても
大人になるまではお預けと念押して
彼女の興味津々な様子にくすり笑い
ふふ、そう真剣に眺められると恥ずかしいな…

紙巻きとは勝手の違うそれを
こぽこぽと音立てて吸込み
オレンジ香る煙をふわっと吐出して

潮騒聞きながら
紫の空に煙をくゆらせ
ああ、ずっと遠くへ来たような
まるで千夜一夜のように物語がよく似合う夕べだ
おや、魔法の絨毯かい?
飛ぶなら星が瞬く頃がいいね

時が経つのはあっと言う間さ
フラッペで涼を感じながら微笑み
今しか見られない甘い夢だってあるもの
問いには悪戯に笑い、秘密さと



●夏の夢は甘く
 夜と夕の狭間、砂浜で寛ぐ影ふたつ。
 異国情緒あふれる鮮やかな色彩の敷物に、アラベスク模様のクッションを置いて。其れにゆったりと身を預けるのは、ティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)と、高塔・梟示(カラカの街へ・f24788)のふたり。
 彼等は漸く見つけた特等席――喧噪から遠く、潮風と波の音に身を委ねられるような、落ち着いた場所――にて歓談に興じていた。
「これが水煙草……シーシャ、というのかえ?」
 ティルの双眸は、香水瓶めいた艶めく橙硝子の喫煙具に釘付けだった。
 煙草だというのに甘い馨がすると云う“其れ”を前にして、ティルの興味は尽きることなく。未だ手の届かぬ其れを、せめて隣で眺める位は許されるだろうか、なんて。少女は紫水晶の眸を、きらきらと輝かせる。
「大人になるまではお預けだよ」
 甘い馨と云っても、煙草には違いないから。
 そう念を押しながらも、未知なるものへの興味を隠さぬ彼女の姿に、梟示はくすりと笑みを零した。
 そうして、黒い手袋に包まれた指先で、ホースを手繰り寄せたのち、吸い口――マブサムに唇を寄せようとして。隣に座る少女の熱い眼差しに、ふと気づく。
「梟示殿、梟示殿! ご様子見せて頂けるかえ?」
「ふふ、そう真剣に眺められると恥ずかしいな……」
 喫煙するところを注視される機会なんて、そうそう無い。ゆえに、照れたように視線を伏せた彼だったけれど。期待に満ちた少女の眸に、否を返す訳もない。
 改めてマブサムと口吻け交わした梟示は、すぅ――と深く息を吸い込んだ。立ち込める煙を、瓶のなかで揺れる水を通して肺へと送る。
 こぽこぽ、泡が弾けるような調べを奏でるシーシャは、日頃嗜む紙巻とはまた違う味わい。軈て吐息を大きく零せば、もくもくと昇る白煙と共に、ふわり――。
 オレンジの瑞々しい馨が、周囲へ優しく漂い始める。
 クッションに其の身を沈めながら、彼がシーシャを嗜む様を眺めて居たティルは、自身の元へ届いた甘い馨に、寛いだように双眸を緩ませるのだった。

 ざあ、ざあ。

 寄せては返す波の音を背に、紫煙がゆるりと天へ昇って行く。浜辺を幻想的に染め往く空は、ティルの大好きな紫彩。
 目に映るもの、耳朶へ届くもの、鼻腔を擽る馨、――其の総てが幻想的で、
「何ぞ物語の中のよう!」
「ああ、まるで千夜一夜のように……物語がよく似合う夕べだ」
 喜色に満ちた少女の聲へ同意するように、梟示も双眸を閉ざして穏やかに首肯した。
 神秘的な空の彩も、エキゾチックな品々も、手元で揺れるエメラルドのフラッペさえも。絵本の中から出て来たかの如き、幻想的な趣に溢れていて。知らぬ世界では無いと云うのに、何だか随分と遠くまで来て仕舞ったような――。
「砂浜のこの敷物も、ふわりと浮きはしないかのぅ」
「おや、魔法の絨毯かい?」
 少女の花唇から零れた夢見るような戯れに、梟示の頬が楽し気に弛む。今ばかりは、御伽噺も現実になりそうだ。
「飛ぶなら星が瞬く頃がいいね」
「なんと素敵な、妾は一番星を探したいよぅ」
 そんな夢物語を穏やかに交わしながら、ふたりは喉を潤す為にグラスを傾ける。きらきら煌めく翠のカクテルも、ティルには宝石みたいに綺麗に見えるけれど――。
「へへ、妾には此れが合っておろう?」
 大人に成る時が訪れるまで、お利口なティルは我慢の子。
 その代わり、彼女の手には巷で人気のフローズンが握られている。暑さに乾いた喉を、とろり蕩ける液体が爽やかに潤してくれた。
「時が経つのはあっと言う間さ」
 宝石のようなフラッペで涼を感じながら、梟示はそう微笑んでみせる。長命の彼にとっては特に、過ぎゆく時間は早いもの。
「今しか見られない甘い夢だってあるもの」
 未だ愛らしい蛹の彼女とて、きっと眼を離せば直ぐに、美しい蝶へ羽化して仕舞うに違いない。だから今は其の儘で良いのだと、言外に優しく告げる。
「のぅ、梟示殿にも在られるの?」
 そんな甘い夢が。
 双眸に好機を滲ませながら夢見心地に問う少女へ、マブサムを手繰り寄せながら、梟示は悪戯に笑って見せた。
「――秘密さ」
 紡がれるのは、何処までも大人らしい科白。
 梟示は慣れた手つきでシーシャを扱い、もう一度息を吸う。吐息と共に揺蕩う紫煙は、相も変わらず瑞々しい馨がした。
 甘い秘めごとは、甘い馨に溶けて往く。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジェラルディーノ・マゼラーティ
【千夜一夜】◎
彼の水着姿に合わせた
アラビアンな装いで敷物に腰下ろす
何処の衣装とも言えない仕上がり

千夜一夜でも語ってくれそうな彼だから
ならば僕はペルシャの王、と戯れ笑って
今宵は憤慨させぬことだよ
怒ると僕は恐いからねと嘘か真か冗談を

命乞いにはよかろうと頷き
シーシャは全部試しちゃダメ?と
欲張りつつ選ぶオレンジ
お酒はミントフラッペと、
可能ならばオリジナルで
夕暮れめいたグラデーションの美しいのをと

水煙草に旨い酒、傍らには美女――ではないけど
砂浜からの眺めは最高
杯掲げ、
――葡萄の下に我死なむ
なァんて引用したりして

煙に巻き、巻かれながら
煙のヴェール越しに映る
語り部さんにリクエスト
とっておきのを聴かせておくれ


ライラック・エアルオウルズ
【千夜一夜】◎

千夜一夜を想う海の装いで
砂浜の敷布へとゆるやかに
腰下ろす貴方は珍しい姿で
思わず感心するよう、眺めて

役を知れば、成程と笑み深め
それは恐ろしくも、幸いにも
命乞いは“御話”に限らない
美味なる酒や煙草に免じて
王よ、沈黙を許して頂ける?

許して頂けるなら、どうぞ全てを
強欲な王に楽し気と戯れ紡いで
選ぶなら、甘やかなストロベリー
満たす御酒はミントフラッペで
叶うなら月見草でも飾って頂こう

美女でなくて悪いね、何て
苦く笑う口に甘い煙を含んで
久しく味わう煙の、美味な事
――今ぞこの地は天の国、って?
倣う様に引用して掲げる杯は
洒落た貴方に捧げるとしようか

煙と酒で口も良く回るだろうさ
夜の涯まで、語り聞かせよう



●アルフ・ライラの伽語
 夕暮れから夜に移り変わろうとしている空が、世界を神秘的な紫彩へと染めて行く。
 寄せては返す波から少し丈け距離を取り、アラベスク模様を編みこんだ敷布を広げたならば、――其処はまるでエキゾチックな砂漠世界。
 或いは、それに腰を下ろす彼らの装いが、見る者にそう想わせるのかも知れなかった。
 ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)の装いは、千夜一夜の物語を想わせる洒落たもの。滑らかな布がふわりと膨らむサルエルパンツに、星を鏤めた宵色のマント。そして彼の頸や腕、腰には煌びやかな黄金色の装身具が揺れている。
 一方のジェラルディーノ・マゼラーティ(穿つ黒・f21988)の装いもまた、ライラックに合わせて異国情緒に溢れた趣き。頭から被った真白のクーフィーヤで半身を覆い、艶めく白布のサルエルを纏う様は砂漠の貴人の様。彼の頸に揺れる銀の装身具は夕陽を浴びて、きらきらと煌めいて居る。
 自身の隣に座す年長の友人が斯様な衣装を纏うことは珍しく、ライラックは思わず感心するような眼差しを彼に向けた。
「隣には、千夜一夜でも語ってくれそうな君の姿」
 眼鏡の硝子越し、紫の眸と視線がかち合ったなら。ジェラルディーノは戯れるように、くつくつと喉奥から笑聲を零してみせる。
「ならば、僕はペルシャの王かな」
 告げられた彼の役割に、成る程と作家の口端が緩む。千夜一夜の舞台の如き此の場所で、彼の物語の役者にも成れるだなんて。まるで蜃気楼が見せた夢のよう。
「今宵は憤慨させぬことだよ――」
 怒ると僕は恐いからね、なんて。嘘か真か分らぬ冗句を紡ぐ王に向け、ライラックは恭しく胸に手を当てお辞儀をひとつ。
 それは恐ろしくも、幸いにも。命乞いは“御話”のみに限らないのだ。
「王よ、沈黙を許して頂ける?」
 美味なる酒や煙草に免じて、と悪戯に片目を閉じて見せたなら。ジェラルディーノは王様らしく、「良かろう」なんて重々しい首肯を返す。そんな彼へと語り部が差し出すのは、艶めく硝子の喫煙具たち。
「どうぞ――」
 甘いストロベリーの紅に、爽やかなライムミントの翠。そして、瑞々しくも甘いオレンジの橙。
「此の総てを、強欲な王へ」
 ライラックがそう楽し気に戯れ紡げば、王の双眸もまた愉快気に、ゆるりと三日月の容を描く。
「全部試しちゃダメ?」
 傾げる小首に茶目っ気を滲ませながら、取り敢えずと彼が選んだのは、口当たりの良いオレンジのシーシャ。語り部もまた紅の硝子瓶を、己の方へと引き寄せる。
 そうして吸い口――マブサムに口吻ければ、みるみる内に肺へと甘い煙が満ちる。鼻腔を擽る果実の馨を堪能しながら、ふぅ、と息を吐き出せば。もくもくと白い煙が、まるで竜の如く天へと立ち昇って行った。
 シーシャが齎す甘さに酔いしれたなら、次は酒精の熱に酔いしれる番。ふたりは、各々が選んだグラスに手を伸ばす。
 ライラックの掌中には、ミントフラッペを注いだカクテルグラス。薄紫の月見草を飾った其れは、エメラルドの如き煌びやかさ。
 一方、欲張りな王様たるジェラルディーノのグラスは、ふたつ。
 ひとつは、ライラックと揃いのミントフラッペ。もうひとつは、葡萄酒とオレンジジュース、そしてレモンリキュールを夕陽の如くグラデーションさせた、世にも美しいカクテル。
「水煙草に旨い酒、傍らには美女――ではないけど」
「美女でなくて悪いね」
 砂浜からの眺めは最高だと、海を遠くに臨みながら戯れるジェラルディーノに、ライラックが苦く笑う。されど其れを隠すように、口へ含んだ煙のなんと甘いこと。
 そして久しく味わう煙の、なんと美味なこと――!
「“葡萄の下に我死なむ”」
「“今ぞこの地は天の国”……って?」
 千夜の詩を引用しながら、杯を愉快気に掲げる王。語り部も彼に倣って、記憶から引き出した詩を紡ぎ、ゆるりと杯を持ち上げて見せた。
 この詩、この杯は、洒落た貴方に捧げるとしようか――。
 そうして互いにグラスを重ねれば、砂漠の宵に酒精の雨が散る。
 戯れ合って乾いた喉を美酒で潤したなら、次に欲しくなるのは最上の摘みだろう。オレンジ馨る煙を吐き出して、時折ベリーの馨に撒かれながら。ジェラルディーノは煙のヴェール越し、語り部へ当たり前のように酒の肴を強請って見せる。
「さア、とっておきのを聴かせておくれ」
「夜の涯まで、語り聞かせよう」
 甘い煙と宝石のような酒で、きっと口も良く回るだろうから。

 さて、一夜目の物語は――……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月18日


挿絵イラスト