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闇のお遊戯開幕! 大賭博乱戦!

#カクリヨファンタズム #悪の組織ワルイゾー

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#カクリヨファンタズム
#悪の組織ワルイゾー


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●もったいない、もったいない。
「さあどうする、張るのか張らんのか!」
 構えたサイコロ二つとツボ笊。
 丁半博打をしかけられ、小豆洗いは額から汗を滴らせながら手持ちの風呂桶の中の小豆を洗う。
 緊迫した場面。ツボ笊を長い爪でかちりと弾き、白髪を振り乱す乱杭歯の山姥は答えを迫る。
 その時。
 もったいない、もったいない。
 小さく囁く声が小豆洗いの耳に届く。
 もったいない、もったいない。
 魂を賭けなきゃもったいない。
 囃し立てるような声に導かれて、小豆洗いは山姥を睨み返した。
「張るぞ。わしぁ、魂を張るぞう!」
 周囲から感嘆の声が上がり、山姥はにやりと笑う。
 振り向く山姥の視線に応えて頷いた浴衣姿の狸は、隣に座る女へ合図する。
「コーン!」
 せめてポンにせんか。
「では、取り急ぎツボ振りはこのろくろ首、生まれはUDCアース、育ちはカクリヨファンタズム、人呼んでツボ振りロッキーがやらして頂きます」
 …………。
 これ真面目な話してるんだよね?
 ツボ振りロッキーは意味もなく伸ばした首を振り回しながら、サイコロを天へと弾き、落下するそれをツボ笊で受け止める。
 回転を加えていたのだろう、小気味良い音をたてて回るそれをツボ笊のまま、くるりと中を見せて机に落とす。
 やり方の正誤はともかくやたらとスタイリッシュじゃんね。
「丁!」
「なら俺ぁ半じゃ!」
 小豆洗いの賭けに合わせた山姥。絶対の自信が溢れいるようだ。
「コンコン、コマが揃ったコン。勝負コーン!」
 開くツボ笊。
 出目は──、四と一。
「ヨイチの半じゃ! ガハハ、俺の勝ちじゃあっ!」
「しょずねごだぁ!」
 勝ちを喜ぶ山姥を方言で叱りながら張っ倒す小豆洗い。なにしてんの。
 唐突な出来事に中盆を務める狸もあたふたコンコンしているだけだ。賭場の荒事に慣れてないなら親元を引き受けるんじゃない。
「な、なにしゃあがる!」
「よぉく見ろぉ! わしぁこの命、魂を賭けたんじゃぞ!
 ならば出目はわしの命とも言うべきアイデンティティ、小豆を洗うこの手のマメに決まってらい!
 見よう、この立派なサンゾロの丁を!」
 ばばん、と開いた両手、小豆を洗う両手三本の指先に出来た合わせてむっつのマメ。
 だからなんじゃい。
「ば、馬鹿な……闇お遊戯会の女帝、『ナイス・ミドル』と呼ばれたこの山姥が……敗れたってのかい……!?」
 えっ。
 小豆洗いの勝ち誇った顔に対して敗け誇った顔の山姥。アイデンティティとか難しい事を言う前に、君たちルールって言葉を知らなかったりする?
 がっくりと項垂れたストレンジ・シルバーの山姥。その身から霞の如きものが現れると瞬時に凝固し、ひとつのメダルとなる。
 小豆洗いはそれが床に当たる前に受け止めて、小さく笑うとシルクハットを被った。
 小豆洗いさんそんな服装だっけ?
「いい賭けだった。ただひとつ言うならばそう、マドモアゼル。貴方は見誤ったのだ。
 この私の高貴なる覚悟を」
 やかましいわ。
 格好をつけてロッキーから受け取った葉巻を吸う小豆洗い。火、点いてないですよ。
 もったいない、もったいない。
 勝ったならまた賭けなきゃもったいない。
 何処からともなく、また囃し立てる声がする。
「よっしゃ、もうひと博打じゃあっ!」
 シルクハットも葉巻もぽぽいと投げ捨てて、小豆洗いは再び魂の賭博へと身を投じるのであった。

●ルールなんて細けえこたぁいいんだよ!
 ころころ。
 ふよふよと浮く布状の体から巨大な腕を伸ばし、ツボ笊を床に押し付けて中身を転がすハララァ・ヘッタベッサ(亡霊の纏う黒き剣布・f18614)に、死霊術によって召喚されたレイヤは冷たい笑みを浮かべた。
「主様からで良いぞ?」
 レイヤの言葉にハララァは半と書かれたプラカードを上げる。
 ならば丁。
 レイヤの言葉に合わせ、ツボ笊を止めるハララァ。緊張の一瞬。
 開いた先にあるのは四角のグミ。色からすると苺味か、美味しそうである。
 なにしてんの?
「…………。よし、よくわからんから主様の勝ちじゃな!」
「…………!」
 よく分からないけど勝ったらしいハララァが嬉しそうにグミを手から取り込むと、味覚を共有するレイヤも幸せそうな笑みを見せた。黙ってれば可愛いやんけ。
 と、ここで自分の呼び出した猟兵らに気づいたのか、レイヤはふんぞり返ってふわりと虚空に立つ。
「何をしておったのじゃ、こうしている間にも事件は進んでおるのじゃぞ!」
 遊んでた奴が何を言うか。しかし珍しくも事件解決への意気込みを見せるクソガキに、猟兵らも怪訝な顔を見せた。
 こほん、と小さく咳払いし腕を組み、高圧的な態度を崩さぬレイヤは説明を始める。
「新たに発見された世界、カクリヨファンタズムでの事件じゃ。
 ここに住まう愚民どもが奇っ怪な遊びを始めてのう」
 それも、魂を賭けた禁忌の遊び。闇の遊戯だ。
 賭博であれば分別なく、勝敗により魂をあやかしメダルへ封じられてしまう。
 あらゆる存在をあやかしメダルへと封印するオブリビオン化した妖精の影響で、妖怪たちもこの遊びを止められないのだと言う。
 件のオブリビオンを倒すか、封印を解く力があれば魂を解放することも可能だろう。
「妖怪どもも困惑しておろう。ちゃっちゃと解決してやるのじゃ」
 珍しく他者の心配するじゃないの。
 猟兵らの訝しむ視線に気づいたレイヤは、意地の悪い笑みを見せる。
「気づいただけじゃ。魂の奪い合いをしておるにも関わらず、愉しそうによろしくやってる奴らがとことんムカつくのじゃと!」
 行動理念の変わらない何時ものクソガキ。変わった君でいてほしかった。
 何はともあれレイヤと利害が一致したのは確かだ。事件解決の邪魔にはならないだろう。
「件の妖精が巣くうのは広い宴会場、襖など見通しが悪く奇襲を受け易い地となるはず。
 じゃが遊戯を楽しむ下郎に奇襲をかけるのも容易い。戦いでは上手く使うのじゃぞ」
 しかし、宴会場にいるのはオブリビオンだけではない。その影響下にいる妖怪も猟兵へ勝負を仕掛けるだろう。
 賭博で。
「もっとも、妖怪どもはルールなど気にしておらんし、相手の挑んできた遊びを無視して自分に有利な遊びを宣告してもノってくるのじゃ」
 勢いがあれば不正も普通に信じるだろう。
 不正というか、屁理屈でも何でも自信を持ちさえすればどうとでもなりそうだ。
 敗けを認めた妖怪の魂はあやかしメダルとなる。体はそのままでも別の妖怪や妖精に悪戯される程度で、放っても問題はない。
「今回の事件、弱妖を取り込んだ骸魂が引き起こすには影響が大きい。
 他にもなにか原因があるはずじゃぞ」
 何かしら情報はあるようだが、下衆い笑みを浮かべるだけで話さないのはいつものレイヤと言った所か。
 ハララァは『猟兵がんばって』と書かれた旗を振り応援してくれている。
 さあ、ふざけた宴を早々に辞めさせ、魂の奪い合いをしている妖怪たちを救い、元凶を打破するのだ。


頭ちきん
 頭ちきんです。
 カクリヨファンタズムで魂を奪い合う闇のお遊戯に囚われた(めっちゃ楽しんでる)妖怪を救ってください。
 それぞれ断章追加予定ですので、投稿後にプレイング受付となります。
 それでは本シナリオの説明に入ります。

 一章では宴会場で、元凶妖精のいる部屋を探しつつ、その間に魂を賭けた奇っ怪なことをしている妖怪との戦闘(闇のお遊戯)となります。
 事件さえ解決すれば魂は元に戻るので、遠慮なく妖怪を敗かしてあやかしメダルにして構いません。技能・封印を解くで解放することも可能です。
 二章では妖怪たちに影響を与えるオブリビオン化した妖精たちとの戦闘です。ここで三章のボス妖怪の情報を聞き出せます。
 妖精たちは邪気を祓ったり、手加減することで骸魂より解放されるかも知れません。
 宴会場での戦いとなる為、上手く活用しましょう。
 また、彼らの行う闇のお遊戯で倒せば問答無用で骸魂を祓い、妖精を解放することが出来ます。
 三章はこの騒動を引き起こした妖怪との戦闘になります。手段はともかく動機に志があり、強敵です。
 闇のお遊戯にノリノリで参加するので不意を突けますが、気をつけて戦ってください。

 注意事項。
 アドリブアレンジを多用、ストーリーを統合しようとするため共闘扱いとなる場合があります。
 その場合、プレイング期間の差により、別の方のプレイングにて活躍する場合があったりと変則的になってしまいます。
 ネタ的なシナリオの場合はキャラクターのアレンジが顕著になる場合があります。
 これらが嫌な場合は明記をお願いします。
 グリモア猟兵や参加猟兵の間で絡みが発生した場合、シナリオに反映させていきたいと思います。
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第1章 冒険 『闇の遊戯』

POW   :    大胆に攻める。

SPD   :    テクニカルにプレイする。

WIZ   :    計算や相手の心理を読んで攻略する。

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●バトル・プレパレーション!
「カカーッ、これぞ究極のディフェンス! 『ザ・ミスティック・パワー』!
 お前は決してこの守りを打ち崩す事はできんーッ!」
 三角形に並べた十のおはじき。ただそれだけなのだが大層な名前をつけて偉そうにしているのは烏天狗。
 小さな将棋机を挟み、向かいに座るのは垢舐めだ。長い舌を伸ばしてニタリと笑いながら、天井のシミをぺろり。
「このおいらに守りで勝とうとは、馬鹿な真似を。さあ食らえ、おいらのターン!」
 ばらりと投げるはあまたのおはじき。
 閃く諸手と舌が音すら刻み、間髪入れずに全てを弾く。
「……ば……馬鹿……な……」
 この鉄壁の守りが破られるなんて。
 そう言い残して倒れた烏天狗の身にはあまたのおはじきが。
 将棋机の上のおはじきを弾くゲームしてた訳じゃないの?
 倒れた烏天狗から生じたあやかしメダルを舌に絡め、垢舐めは勝利の味に酔う。
「相変わらずの弱妖イジメにゃね、『舌数一番』、垢舐めのナメロウ」
「! そういうお前こそどうなんだ、『猫又じゃなくて化け猫の』又三郎」
 現れた猫と鋭い視線を交えるナメロウ。
 化け猫は鼻で笑うと行灯の油を「あちっ、あちっ」と言いながらなんとか舐めて一息つく。
「なんじゃお主ら、こんな所で油を売りおって。召集の話は聞いておろう?」
 襖を開けて、窮屈そうに入って来たのは大柄な赤鬼と小豆洗いだ。
「『泣きじゃくる』赤鬼の鬼二郎、……と……『包丁は研いでも小豆は磨がない』小豆洗いの異端児、あっ君も一緒とはな」
 余程の事らしい。
 ナメロウはにやりと笑い──、ねえこれそんな雰囲気出す必要あんの?
 二つ名からしてもう真面目な雰囲気も何もない彼らの前に最後に現れたのは。
「猟兵が来るってえ話さ」
 闇お遊戯会の女帝、『ナイス・ミドル』山姥だ。
 猟兵の名にざわりと色めく面々。あっ君なんて雰囲気を出す為に包丁舐め出してるけど、そこは研げ。
「猟兵が出てくるとあっちゃあこのナメロウ、うかうかしてられねえぜ」
「又三郎も存分にやらして貰おうじゃにゃいの」
「ぐははははっ! この鬼二郎の泣き声にどれだけ耐えられるか見物じゃわい!」
「……きひひひひ……」
 思い思いの言葉を漏らす彼らだが、赤鬼さんだけ聞くに堪えない。
 山姥はその意気や良しと背を向け、宴会場から外へ向かう。
「打って出るよ! この下町妖怪・五遊会、舐てかかられる訳にゃいかねぇぜい!」
 山姥はたすきをかけて鉢巻きをする。
 そこには『らぶ・猟兵』と描かれていた。
 猟兵はカクリヨファンタズムじゃ人気者だから仕方ないね。
 こうして力強く宴会場を後にした五遊会であるが、猟兵らは宴会場に現れるので会うことはないだろう。
 さあ猟兵たちよ、楽しんでるように見えるが使命として、妖怪たちを救うのだ!

・五遊会はストーリーに絡みません。
・屋鋪のどこかにいる元凶妖怪を探して下さい。ただし、影響を受けた妖怪たちが闇のお遊戯による勝負を挑んできます。
・『POW・SPD・WIZ』の行動で彼らを破り、或いはそれにのっとった全く別のゲームで挑み返しても構いません。
・基本的にはプレイング通りの試合展開になります。
・また、彼らからボス妖怪の情報を引き出す事はできません。
アリス・セカンドカラー
お任せプレイング。お好きなように。
汝が為したいように為すがよい。
闇のお遊戯ね。『夜(デモン)』たる私の得意分野よ☆
勝負は簡単、私のペロペロ舐める☆に耐えきれたら勝ちよ♡と勝負を仕掛けましょう(誘惑/おびき寄せる)。挑戦者多数?大丈夫、第六感を転写した分霊(式神使い/集団戦術)で何人でも一度に相手できるわ♪
結界術の決闘空間に連れ込んで元気なモノを大食いな下のお口で咥えこんで、化術で一枚一枚が舌に変化したヒダでペロペロ舐める☆わ。ああ、耐えるなんて悪い子には神罰でリミッター解除して限界突破した快楽を与えて蹂躙してあげる♡さぁ、エナジーを捕食してあげるからたっぷりと解放しなさい♪


ルルティア・サーゲイト
 花札でこいこい勝負を仕掛けるぞ。
「良かろう、K京院の魂も賭ける」
 とりあえず賭け事ならこれは言うべきじゃろう。基本はこいこい多めの強気で行く。相手が役を作り上がろうとしたら、
「そんなカス札で良いのか? ……ふふっ、随分と弱気じゃのう」
 と、煽ってこいこいを誘う。
「では、妾の今履いてる下着も賭ける。こいこいするよな?」
 上がられそうなら更に煽る。
「何と、妾が出せもしない物を賭ける卑怯者じゃと? ……良い、ならば見せよう」
 すっと、実に慣れた手付きで下着を抜き取りドカンと座る。見えそうで見えない。手に持った下着をひらひらさせながら、
「さあ、コレが欲しいか? ならばこいこいするより他に無し」



●夜のお遊戯開始!
 陽の落ちた宴会場はそれでも、否、だからこそ、喧騒に包まれ賑やかだ。
 屋敷の如き様相の縁側を歩けば、靴底が叩く固い音が木霊する。
「…………、ふふっ」
 賑やかな雰囲気を感じて、アリス・セカンドカラー(不可思議な腐敗の魔少女・f05202)は小さく笑う。
 カクリヨファンタズムならではの陽気な雰囲気を楽しむ小さな足は、ひとつの部屋の前で止まる。障子の先から感じる気配は、こちらを探る様子が窺えた。人の感情、視線に敏感なアリスならではの感知能力だ。
 お呼ばれをして参上せずでは女が廃る。
 堂々と障子を左右に開けば視線の先、部屋の中央に設けた机を挟み、胡座をかいた着物の女。
 上を開けた女は頬杖をつく指の間に煙管を持ち、現れたアリスににやりと笑う。
 煙管を返して小坪に火種を落とし、諸肌を脱いで晒に巻かれた胸を晒す。ギャグじゃないよ!
「お待ちしておりました。私はこの宴会場で賭場のひとつを任されているろくろ首。
 生まれはUDCアース、育ちはカクリヨファンタズム、人呼んでツボ振りロッキーと申します」
 ロッキーかよ。
 気合の入った登場で首を伸ばし、くるりと振るえばどこから現れたのかツボ笊とサイコロを手元へ投げる。サイコロふたつを指の間に、ツボ笊を掌に受け止めて仕掛はなかろうとアリスへ向ける。
 挑むような視線。
 続いて指の間のサイコロを空に弾いてツボ笊へ受け止めて、そのまま机の上に落とす。
 カン、と小気味良い音が響き、ロッキーは伸ばした首をゆるりと振るう。
 そのろくろ首アクションまるで関係ないけどスタイリッシュな所は好きだよ。
「さあ、このロッキーと魂を賭けて──、って靴を脱いでくんなまし!」
 ロッキーの要求も知らんがなとばかりに土足のまま畳に上がり込むアリス。この娘間違いなく西洋文化でいらっしゃる。
「それが貴方の挑む闇のお遊戯ね。けれど、それは『夜(デモン)』たる私の得意分野でもあるのよ☆」
 ほう。
 一時は取り乱したもののそこは場数を踏んだ者の強みか、ロッキーは余裕の態度を取り戻す。
 同じ博打勝負ならば負けは無しと、彼女の用意した丁半博打か、それとも別の博打かとアリスへ迫る。
 少女は片目を閉じてひとつ笑い。
「なら私から。勝負は簡単、私の【ペロペロ舐める☆】に耐えきれたら勝ちよ♡」
「なに、ぺろぺろ?」
 意外な内容であるが、ロッキーは鼻で笑う。運すら絡まぬその賭事、勝負師としての彼女には温い遊戯と思えたのだろう。
「良いでございましょう。耳か、うなじ? どこでも受けて立ちましょう」
「なら、その元気なモノを、私の大食いなお口で咥えこんであげるわ♪」
 いけませんよ! 闇のお遊戯じゃなくて夜のお遊戯になっちゃう! 実にけしからんけど女の子同士なら皆が喜んでくれると思うので仕方がないからやりましょう、ええ!
 しかし、ここでまたも笑うのはロッキー。迂闊な奴めと立ち上がり、机を退ける。
 彼女は着物の裾をたくし上げると、見事な健脚をアリスへ見せつけた。たまりませんね。
「修行時代、お師匠の借金を稼ぐ為に飛脚として鍛え上げられたこの足を、あんた如き小娘に御せるもんかいっ!」
 お転婆な地が出てますよロッキーさん。
 もはやろくろ首とかどうでもいい特技しかないロッキーの鍛え抜かれた足を見ても動じぬアリス。
「……ほう……この足を見ても逃げ出さないとは。あんた、生娘じゃあないね?」
 お前の生娘カウンターどうなってんだよ。あの会話でむしろ足を得意気に見せつけるロッキーさんの方が生娘だと思うんですけど。
 もうそっち方面の話にはいかなさそうだが、そもそもそういうシナリオじゃないから仕方ない。アリスはその足を優しく指先で、触れるか触れないか程度にゆっくりと撫で上げる。
「はあっ」
 思わず艶やかな声を漏らすロッキー。ちょろくね?
「さあ、こちらへ。私に身を委ねて♡」
 赤面するロッキーの腕を引いてうつ伏せにすると、片足を抱き上げ優しくマッサージを始める。
 こりを解す目的ではない、その弱みを探る為の。
「……ん……ふっ、……あっ……っ……」
 えっちっちやんけ。
 喘ぎ声を聞かさない為か、首を伸ばして部屋の隅に重ねられた座布団に顔を埋める。もう勝負は決してしまったのではないか。
 アリスは粗方のポイントを探し終えて、自分の親指を咥えると濡らした指で跡をつける。
「…………!」
「それじゃあ、始めるわよ♪」
 膝を曲げて上を向かせたロッキーの足。少女がゆっくりとスカートを引き上げると、そこから肉厚で滴る液体に濡れた幾枚もの舌がずるりと姿を見せた。
 これは悪魔ですわ。
 よいしょとロッキーの足に跨がれば、濡れたそれに包まれた感覚に彼女は戦いた。
「ちょ、待っ、これ、はぁっ!? ……んっ……くぅう……は、……ああっ……!」
 諸事情により音声描写でのみお送り致します。
「あらあら、どうしたのかしら。もう降参?」
「ふ、ば……かな……、この程度でこのロッ、ロッキーがっ」
「そう、良かった。それじゃあもう少し激しくするわね♡」
「えっ、これ以上が……あぁあああっ、あっ、あっ、待って待って待ってっ!」
「ああ、耐えるなんて悪い子☆
 ……それじゃあ……神罰を……与えて、あ、げ、る……♡」
「はあっ、み、耳は──んぐう!? ダメダメダメダメ! これダメだから、ほぐれちゃう、私の足がほぐれちゃうぅうっ!!」
 マッサージやんけ。
「はあっ、はあっ、はあっ、はうっ、ぐ!
 も、もう無理っ、んっ、無理だからぁ、負けました、降参れすぅ!」
「あら、もうなの? じゃあ次は、こっちの足ね?」
「……はえ……も、もう無理ぃ……無理ですからぁ……」
「さぁ、エナジーを捕食してあげるから、たっぷりと解放しなさい♪」
 すぐにメダルにはしないわ。
 妖しく笑む少女の姿に、ロッキーは戦慄した。
 なんのかんのありまして、結局全身をほぐされて昇天したロッキーの魂はメダルとなり、戦利品と拾うアリス。だが少女が次の部屋へと振り返った先には、そうそうと立ち並ぶ妖怪たちの姿つだった。
「活きのいいのが来たみたいだねえ」
 にたり。
 ロッキーよりは手強そうな笑みを浮かべたその者たちは。
「公式記録無敗の『スピードコーディネーター』、奪衣婆!」
「八百万の神にも比肩しうる『万年八百肩』、砂かけばばあ!」
「そのシワは他人の幸せの為に、『永遠の苦労人』白粉婆!」
『三人揃って人呼んで! トリプル・アダルティ!』
 婆しかいねえ。
 ばばあんと現れた三人の老婆を前にしても動じぬ強者の佇まい。アリスのオーラを受けて、相手に不足無しとババアらはごくりと生唾を飲む。
「しかし、この数を前にはどうしようもあるまい!」
「先程の手前は見せて貰った。だがあの程度では鈍化した神経を持つ我らトリプル・アダルティには無意味!」
「ほえほえ。あんたは一生、私らのこりをほぐす人畜生となるのさ!」
 マッサージ目当てかよババアども。
 挑戦者多し、とは言えそんな程度の障害に屈する程、アリスもまた温い戦場を歩いた猟兵ではない。
「大丈夫、私の分霊で何人でも、一度に相手できるわ♪」
 式神を利用したアリスの分身体が左右にずらりと展開する。ババアより多いぜ!
『!?』
「さあ、お客様をお連れして~♪」
『お越しやすぅ~♡』
 数の暴力を行おうとしたトリプルババアは更なる数の暴力により、結界術による、何やらピンク色の決闘空間に連れ込まれてなんのかんのされた。
 ロッキーよりやたらエロかったので全カットです。
「聞いてもいないのに色々と勝手に喋るなんて。
 …………、敗北を知りたいわね♪」
 死屍累々となった部屋を肩越しに振り返り、衣服を正したアリスは良い夢をと、奪ったメダルに口づけした。


●月を隠す雲は欲の色。
 今宵は満月、青い月光が季節にしては涼やかな風を運んでいる。
 大きな青い月はまるで宝石のようで、中庭では悠々と泳いでいた鯉を釣り上げた河童が、今からそれを肴に一杯やるかと意気揚々と桶を抱えている。
 その足がぴたりと止まり、鋭い視線が影へと向けられた。
「月が綺麗じゃの?」
 暗い影より青き空の下に現れたのは、和洋折衷にした着物。花魁向けのそれをフリルで盛ったもので、独特の雰囲気を持つ。ルルティア・サーゲイト(はかなき凶殲姫・f03155)だ。
「猟兵か」
 竿を置いて振り返る河童は、嘴から垂れた長い舌で頭の皿をかきつつ、左手の薬指にはめられた貝殻の指輪を掲げた。
「俺は『河童界一のイケメン』、河童丸。結婚した身を誘惑するとはな、猟兵。添い寝せんと許さんぞ」
 やかましいわエロ河童。死んだ魚みたいな目をしやがって。
 夏目漱石由来の古い言葉を自分に向けたのだと絶対の勘違い河童に対し、ルルティアはそれもいいなと小馬鹿にした笑みを浮かべる。
「妖怪と猟兵、出会ってしまったからにはどうするか。分かっているのか?」
「勿論」
 ルルティアは着物の袂から取り出した花札を河童丸へ向けた。
「こいこいじゃ。勝負は一月限りの一発勝負」
「結構」
 桶の鯉を池に戻し、河童はルルティアの前に桶を裏返し机とした。
「賭けるのは、魂だ」
「良かろう。妾の魂と、K京院の魂も賭ける」
「……グゥーッド……! いや誰だそいつ?」
 K京院つってんだろ。
 とりあえず賭け事ならこれは言うべきじゃろう、そう小さな胸を張るルルティアの胸元から目を離さないエロ河童も、思わず視線を上げた。
「さあ、親を決めるぞ」
「いやだから……まあいいか……」
 すちゃちゃと花札をカットして桶の上に花札を置かれ、河童丸は諦めたご様子である。
 レディファーストだと先手を譲られ、何も言わずに受け取ったルルティアが引いた札は藤、四月の札。対して常識人ぶった勘違いエロ河童の札は牡丹、六月の札だ。
 若い月を引いたルルティアが親として花札をまとめ、再びカットすると河童丸と自分へ交互に札を配る。
 その後、場に表向きの札。場、手札それぞれ八枚。これで準備は完了だ。
「ぐっぐっぐっ。久しぶりの賭事だ。血が沸き立つ。
 さあ、レェエッツ、ロォオオオック!」
「デュエル・スタートじゃ!」
 親であるルルティアの先攻。
 こいこいとは、手札から一枚、そして山札から一枚ずつ場に出して、同じ月となる四種の札が揃えばそれを獲得できる。
 交互にそれを行い、役と呼ばれる特殊な札の並びを完成させ、そこで勝負とするか遊戯名となる『こいこい』を宣言し更なる役作りで高得点を目指すもの。
 今回、一発限りの勝負で言うなら、高得点を目指す必要はない。しかし、それこそが勝負師に対する縛りなのだ。
 ルルティアは山札から引いた札を場の札と合わせて手元に獲得、得た数は二枚。
 続いての河童丸は手札、山札共に獲得し四枚。
「これは、勝負も見えたな」
「どうかのぅ」
 易い挑発をするりとかわし、手札を場に置き、山札を引く。
 ここで獲得したのは光札。しかし、獲得した四枚では何も役は揃っていない。
 続く河童丸。手札を場に捨て、山札から引いた一枚で二枚を獲得。
 揃ったのは河童丸だ。花札に描かれた短冊の絵が五枚。赤と青が混じり、特定の花の札ではない為に役としての位は低いが役は役。
 河童丸はつるりと頭の皿を舐める。
「悪いがこれも真剣勝負。魂の抜けた体は俺が一晩暖めてやる」
 猟奇的な発言止めません?
「そんなカス札で良いのか? ……ふふっ……、随分と弱気じゃのう」
 おおっと、露骨に煽るルルティア。だが己の魂を賭ける全霊賭博、そのような挑発に乗るはずもない。
 河童丸は死んだ魚の目はそのままに小さく笑う。
「みっともないぞ。命は賭けるからこそ」 
「では、妾の今履いてる下着も賭ける。こいこいするよな?」
「だが確かにこれは美しい上がりではないな。こいこいしてやろうじゃないか」
 ちょれえ。
 ルルティアがにやりと笑って手札から場に出したのは光札。先程の河童丸の捨てた札と共に獲得札へと回る。
 この時点でルルティアの獲得札に光札が三枚。ルルティアの役、『三光』が完成する。
 だが。
「こいこいじゃ」
「ふっ」
 勝負師であらば当然の事。
 そう言いたげなルルティアの続投宣言に河童丸は笑う。ところで手札を持つ手が震えてるぞエロ河童。
 内心めたくそ焦っていた様子の河童丸、次の役では何が何でも上がろうとするだろう。
 ──と。
「ぃよしッ!」
 手札から出揃った赤の短冊に思わず立ち上がりガッツポーズ。
 そこからゆったりと座り直す。クールぶってんじゃねえぞハゲ。
「これで『たん』と『赤短』、二役の完成だ。上がるには申し分ない」
 そうかなー?
「おやおや、『青短』も揃えんのか?」
「ふっ、挑発は止せ。あと一枚で青短も完成する。だがその一枚、君が止めてるのだろう? あとどうせおパンツも賭けるつもりないだろう」
 魂賭けてんだからおパンツも余裕で賭けられると思う。
 実際、青い短冊の描かれた札はルルティアの手札にあったりする。その気をそらす為にルルティアはショックを受けたような様子を見せてよろめいた。
「何と、妾が出せもしない物を賭ける卑怯者じゃと? …………。良い、ならば見せよう」
 ルルティアは立ち上がると着物の裾をたくし上げ、するりと実に慣れた手付きで下着を抜き取る。
 そのまま色気もなくドカンと座れば、その股座は見えそうで見えない。河童さんそわそわしてますねえ。
 ルルティアは蠱惑的に目だけで笑みの形を作り、手に持った下着をひらひらさせる。はしたないですよ!
「さあ、コレが欲しいか? ならばこいこいするより他に無し」
 【ネイキッド・デュエル】。ユーベルコードによる制約。ぺいん、と弾かれたおパンツを頭の皿に受けて、河童丸は。
「その覚悟、気に入った。こいこいしてやろうじゃないか」
 こーのエロ河童。
 当たり前のようにおパンツを頭に被り直した河童丸は山札から場に札を並べてターン終了。
 だがこの瞬間、勝負は決した。
「ふふん」
 手札から抜いた光札を河童丸の並べた札と共に獲得する。
 『四光』の完成だ。
「…………」
 食い入るようにこちらを見つめる河童丸に、勿論とばかりルルティアはこいこいを宣言する。
 ほう、と首の皮一枚繋がった命に溜め息を吐く。
「あ、揃ったのぅ」
「へえっ?」
 山札から引いた札は最後の光札。
 場の札と共に獲得する事で完成したのは最高得点の『五光』だ。
「ちょ待、も、勿論こいこいを──」
「勝負じゃ」
「ぐえええぇぇぇっ!?」
 ここまでの役が揃って勝負しなきゃどこですんのさ。
 断末摩の叫びを上げて仰向けに転がる河童丸。その体から溢れた霞があやかしメダルへと凝固し、ルルティアはメダルとおパンツを回収する。
 白目を剥いた河童丸を見下ろし、彼女(まだ履いてない)は晒う。
「魂を賭けておきながら煩悩一つを捨て切れなかった」
 それがお主の敗因じゃ。
 青く暗い空の下、静かに終えた戦いに小さな満足感を覚える。邪魔者がいなくなった宴会場周りで、ルルティアは引き続き探索を行った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鈴木・志乃
UC発動
第三人格『ナナシ』で行動


丁半博打も楽しそうだが……どうせならもう少し一戦が長いものをやりたい。お、花札があるじゃないか。久々に猪鹿蝶と戯れようか。
だれか『こいこい』で、お相手願えるかな?

冷静に出来役を作りながらも周囲の喧騒に次第と酔い始め、口元には笑みが浮かぶ。心が躍る。血が沸き立つ。命を張れと叫ばれようならもっともっとと欲が出る。

無駄に場数だけは踏んでいるからね、相手の手札は何となく想像がつくよ【見切り】
……適当に表情を変えて、相手が優位に立っていると誤認させるか。僕は意地が悪いんだ【罠使い】

さ、『月見で一杯』と洒落こもうじゃないか。
ん、なんだい? 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして。



●これぞ手練れ、博打打ち!!
「畜生、またやられやがった!」
「強過ぎるぜ、あの御仁!」
 数多くの妖怪が集まる大宴会場と銘打たれた大部屋。
 多くの目、あるいは目すらない者までも多くの視線を一身に受けて、鈴木・志乃(ブラック・f12101)は微笑んだ。
 否、彼女であって彼女ではない、その身に宿す名も無き三人目。
 銀の髪に藍色の視線を漂わせて、ツボ笊にサイコロを投げ入れる。
「……丁半博打も楽しかったが……どうせならもう少し、一戦が長いものをやりたいな」
 右手の指の上をくるくると回り、右へ左へと流れるあやかしメダル。更に、座る席にはあやかしメダルがずらりと並ぶ。
「お、花札があるじゃないか。久々に猪鹿蝶と戯れようか」
 隣の机に置かれていたそれを見つけて、これ見よがしの芝居がかった仕草で札を取り、周囲へ見せつける。
「誰か。『こいこい』で、お相手願えるかな?」
 口許に浮かべる笑みは愛想笑いだが、彼ら妖怪からすれば死神の愉悦にも近かったろう。
 どうするか。
 尻込みして互いに顔を見合わせる妖怪たちの隙間を、細い声が風の如く流れ行く。
 もったいない、もったいない。
 賭けないなんてもったいない。
 売られた喧嘩は買わなきゃもったいない。
 もったいない、もったいない。
(……この声は……)
「そうだ、賭けなきゃもったいない」
「誘われて逃すテはないぜ」
 徐々に熱を帯びる妖怪らに、ナナシは鋭い視線を周囲に向ける。ナナシが賭けをしていた間も彼らを賭博へ駆り立てた声だ。
 探しはすれども姿は見えず。ナナシは小さく肩を竦めて、ならば誰が相手かと腕を組む。
『下がれ弱妖ども。この俺様が相手をしてやろう!』
 部屋を揺らす大きな声。
 陽の落ちた時間にも関わらず、障子の向こう、部屋の外が明るく燃える。明滅するそれに妖怪の一人が声を上げた。
「……ま、まさか今の声……!」
「踏み倒した借金は数知れず!」
「おなごに泣かされては部下を……イジメ……!」
「宝くじを引いてはゴミを生み出す日々!」
「下町妖怪一の『穀潰し』!」
 悪口じゃん。
『そう、そのまさかよ。この俺様こそがあの穀潰しの──、ごめんちょっと障子開けてくれる?』
 下手に出た言葉の主に、これは気が利かんですみません、とばかりに開くは近くに立っていた一目小僧。そんなんだから弱妖とか言われるんだぞ。
 ささっと開いた先にはスポットライトのように両眼から怪光を発する巨大な牛とも鬼ともつかぬ顔。眩しいんですけど?
『ごめんねー、この体だと障子に穴開けちゃうからさー』
「別にいいですってこのぐらい」
『本当に助かったよ。こほん。
 ──ぐははははははっ! そう、そのまさかよ。この俺様こそがあの穀潰し、牛鬼のウッシー君よぉー!』
 続けるんすね。
 鬼の要素が消滅したウッシー君に、興味なさそうに花札を並べていたナナシは、はたと気付いたように片手を上げた。
「じゃあ早速始めようか。そこに座れる?」
『あ、はい。いえあの、体が大きいので縁側まで移動していただけたらと』
「しようがないなぁ。あ、眩しいから目の光は消してね」
『あ、すみません』
 何この人全然ビビってないじゃん、とでも言いたげな不満そうな様子のウッシーであるが、ナナシの言葉に従い蜘蛛のような体の背を爪のついた足で掻くと目に灯っていた怪光が消える。スイッチでもついてんのか。
 ウッシー君とナナシの為に机を移動させる弱妖たち。ウッシー君は更に申し訳なさそうに、自分の代わりに札を引く者がいないか声をかけると、先程の一目小僧が快く引き受けてくれた。
 こいつ何であんなに強気になれたんだ。
『ぐふふっ、待たせたな。さあ、開始といこうか!』
「その前に、まず賭けるモノを決めようか」
 花札をカットしながらナナシ。
 勿論、自分は魂を賭けると言葉を続けて。一方の牛鬼は醜く笑うと一目小僧の頭に足を乗せた。
『ならば俺様は、この弱妖の魂を賭けよう!』
「えーっ!?」
 牛鬼をバックに、無意味にドヤついてナナシの対面に座る一目小僧は跳ね上がった。優しくするのも相手を選ぼう。
 しかしこの提案に眉を潜めたのがナナシである。賭けに狂わされた妖怪たちがこのような狡い立ち回りをすると思わなかったのだ。
『それだけじゃあない。この賭場を騒がしくしている骸魂たちの場所も教えてやろうじゃないか』
「……それは……面白いかもね……」
『賭けは成立だな』
「…………、はぁ」
 頭越しに進む会話に諦めて溜め息を吐く一目。自分の魄を諦めるんじゃない。
 どちらにせよこの牛鬼、元々の賭博好き故か今回の怪異に耐性があるようだ。自らの損を引こうとしない穀潰しらしい姿勢は関わりを持ちたくない人物像の筆頭であるが、情報を持っているなら話は別だ。
 花札を八枚ずつ、場と手札とに配るナナシ。一目が受け取った札を確認してウッシー君はにたりと笑う。ぶっさいくな面してますよ。
『ルールを決めようか。基本はこいこいでいいな?』
「そうだね。一月勝負といこうか」
『ぐふぅ。線の細さの割には男らしい性格のようだな。だが!』
 ウッシー君は足を踏み鳴らして地面を揺らす。
『上がりは七点以上! 役が両者揃わなければ勝負は延長だ。いいな!』
 構わない。
 鼻息荒く近づけた牛鬼の顔を押し退けて、ナナシはやれやれと首を振る。
 さあ、準備は万端だ。
『ゲット・レディ!』
「スタート!」
 先攻は何故かやたらと山札を引きたがっていたウッシー君に譲られた。が、そもそも札を引けないので一目君が担当する。
 背後からいわれなき嫉妬の視線を受ける一目の心境や如何に。
「……ウッシー君……」
『うむ。ここは、ここだな。札を切るのだ』
 ウッシー君の指示を受けて、よしきたと札を切る。快活に札を獲得していくウッシー君に対し、ナナシの札は賑わない。
 それは素人目にはナナシの劣勢と見えるだろう。ウッシー君なんて意味もなく自信満々に笑うのだから余計にそう感じられる。
「おいおい、これって、ひょっとするとひょっとするんじゃないか?」
「どうした猟兵さんよー、札は切らなきゃ役ができねーぜぃ!
 あ、そーれっ」
『猟兵ビビってる! ヘイヘイヘイ♪』
「ハー、それそれ!」
 アクセルふかしすぎでしてよ。お調子に乗るのが早すぎるのではなくて?
 負け続けて魂を抜かれた同胞たちの恨みもあるのか、ナナシの劣勢に盛り上がる妖怪たち。
 そんな喧騒に、ナナシはむしろ高陽していた。自然と口許に浮かぶ笑みと、欲望の坩堝と化す賭博の中心で、思わず心が躍る。
 魂を張ったことで血が沸き立つような緊張感は焦りとなり、刺激に至る。
 もっと欲しい。
 それは常人ならざる感情だった。
(おっと。いけない、いけない)
 表情を引き締めて焦りを演出。こちらを覗くウッシー君へアピールしつつも思考は極めて冴えていた。
 ナナシが縁側の席に着く前に既に始動していたユーベルコードは【智は万代の宝】という、洞察力や判断力を向上させる効果を持つ。
 力がなくても、知恵があれば切り抜けられる事もあるのだとする思考に基づいた能力だ。
(ま、賭博は無駄に場数だけは踏んでいるからね。獲得札を見れば、相手の手札は何となく想像がつくよ)
 ウッシー君の札は無作為に選ばれたかのようにも見える。それでも一点ならば『かす』と呼ばれる役があるがそれでは不十分。
(引いた札は殆ど捨ててる。唯一動いたのは光札。そこから察するに狙いは『三光』、『かす』、そして場当たり次第……獲得札で言えば……『たん』、かな)
 これで計七点。だが、ウッシー君の狙いには穴がある。
 件のウッシー君はそれに気づかず、ナナシの獲得札ににやりと笑う。相変わらずぶっさいくだなぁ。
『ぐふふ、読めたぞ猟兵。お前は──』
「あ、『猪鹿蝶』狙いですね!」
 台詞を取られたので一目の頭をぽかり。今のは君が悪いよ小僧。
 ウッシー君の指摘に、ぐぬ、と言葉を詰まらせる。獲得札を搾っていたのではなく、切れる札がなかったのだと、少ない獲得札から指摘されたのだ。
(ま、違うけどね)
 心の中で舌を出し、手札から光札を場の札と合わせて獲得する。
『ぐふふぅ、甘い甘い。今更光封じに走ろうと、今、俺様の三光が揃ったぁ! 勿論、こいこいだぁー!』
「さっすが穀潰し! らしい賭博してくれるぜェーッ!」
「そこにシビれる! あこがれない!」
『ぐははははははっ。声援が心地好いわ~!』
 声援と素直に受け取れるウッシー君が羨ましい。
 後は二役の完成で上がりとするウッシー君に、ナナシもまた笑みを見せる。
「そろそろ喉が渇いたよ。これで勝負だ。さ、『月見で一杯』と洒落こもうじゃないか」
『えっ?』
 菊に盃の札。揃いし役は月見で一杯。得点数は五点だ。
『ち、ちちちちょい待って! そんな役知らないぞ!?』
「勉強不足だなぁ。これがUDCアースの役さ。そしてこいつは五点」
『な、なら点数が足りない!』
 そう、ルールに障る。
 しかし、ああ、しかし。
「こいこいを受けたプレイヤーの配点は二倍になるんだ。つまり、こいつは十点の価値があるんだよ。
 ん、なんだい? 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして」
 何じゃそりゃあ。
 悲鳴のように叫ぶウッシー君の前で、ひっくり返った一目小僧から霞が現れ、メダルへと変じた。一目は勿論、ウッシー君も心の中で敗北を悟ったのだ。
「甘いねウッシー君、簡単に騙されちゃって。この光札、いやこの月は君の役を防ぐ手立てじゃあない、僕の役の為の札さ。
 ごめんね、僕は意地が悪いんだ。──さて……」
『はわ、はわわわわっ』
 大きな体で震えるウッシー君の前に立ち、月を背負ってナナシは晒う。
「情報とやらを、教えて貰おうか」

大成功 🔵​🔵​🔵​

御門・結愛
メダルに封じられたユニコーンと契約した、正義の味方に憧れる少女。
普段は高貴なお嬢様を演じているが、親しい人には素が漏れる。

(あらゆる存在をメダルへ封印するオブリビオン)
ベルトからユニコーンメダルを取り出し話しかける。
「私たちが探しているものの手掛かりになるかもしれないわ」

「さぁ、行くわよ『ユニコーン!』」
宴会場に行く直前、メダルを握りしめ【アリスナイト・イマジネイション】を使用。純白のドレスと腰に聖剣が装備される。

絡まれたら
「あら、もっと分かりやすい勝負にしませんこと?」
「力比べ、腕相撲はどうかしら?」
「まさか負けるのが怖くて?小娘相手に?」
憑依したユニコーンの馬力もとい【怪力】で吹っ飛ばす。



●ノブレスオブリージュ。
 宴会場となる屋敷の前で、少女はひとつ息を吐く。
 御門・結愛(聖獣の姫騎士・f28538)、メダルに封じられたユニコーンと契約した、正義の味方に憧れる少女だ。
「ここが件の宴会場ね」
 言葉を転がして見下ろすベルト。
 魂をメダル化させる本事件。その核となるのはあらゆる存在をメダルへ封印するオブリビオンと、それを引き起こしたとされるオブリビオン。
 結愛はベルトからユニコーンメダルを取り出すと、額に当てて話しかける。
「私たちが探しているものの手掛かりになるかもしれないわ」
 その言葉に答えがあったか、知るのは彼女のみ。
「さぁ、行くわよ『ユニコーン』!」
 宴会場の屋敷へと続く門の前で結愛はメダルを握り締め、ユーベルコード【アリスナイト・イマジネイション】を始動する。
 手の中のメダルから光が生じ、少女の身を包み込む。
 それは瞬きする程の間。次の瞬間には純白のドレスと、その腰に聖剣を装備した結愛。裕福な家に産まれた彼女らしい高貴な品格を醸す姿へと変身した。
 剣を僅かに鞘から抜いて刀身の確認後、門を睨み勇み歩く。
 勢い良く開けば屋敷から響く喧騒が結愛の耳に届いた。だがそれは魂の賭博を強制される絶望的なものではなく、和気藹々とした雰囲気が伝わってくる。
(グリモア猟兵の予知にもありましたけど。ここの妖怪さんたちは状況をきちんと把握なさっているのかしら)
 釈然としない様子ながらも仕事は仕事だ。その上、ノブレスオブリージュを是とする結愛にとって見捨てる理由などひとつもない。
(まずは例のオブリビオンの探索ですわね)
 中に入っても特に妖怪が出てこないということは、宴会場のスタッフとなる妖怪も賭博に興じているのだろうかと小首を傾げる。
 そのまま宴会場を探索中、物音のしない部屋を見つけた結愛は障子を僅かに開き中を覗く。
「…………」
 見なかった事にしよう。
 他猟兵の食事現場に出会してしまった結愛は思考を一時停止の後、障子を閉じた。
「もうっ、い、一体誰があんな破廉恥なことをッ」
 見なかった事にするには刺激が強すぎたようだ。大丈夫、あれはただのマッサージだったんだ。
 しかし、清新の乱れは気の乱れ。周囲を警戒していたつもりが先程の部屋に注意を逸らしてしまった事で接近する足音に気付かなかった。
「おーいっ」
「!」
 呼び掛ける声に【ユニコーンの聖剣】へと手を伸ばして振り返る。
 長い廊下の先に、小柄な人影がひとつ。子供だろうか。
 だがそれは、結愛へ手を振りながら走り、近づく毎に巨大化していく。
「!?」
 驚く間もなく走る巨影は結愛に近づき。…………、あれっ。
「ふんぎっ、……お、おー……んっ……いっ!」
 廊下に詰まってしまう。そら屋内だからそうなるわな。
「ふんっ、ふんっ、ふんっ、このっ、ふんっ」
 ふんふんふんふんレディの前でやかましいことこの上ない妖怪変化に、さすがに憐れみを感じたノブレスオブリージュは小さくなれば良いのではないかと声をかけた。
「ぬぐぐっ。お、おいらは……ふんっ……『賭ける時は青天井』……ぃよいしょお! はあはあ、くっそう。
 見越し入道のイタやんだ。正体を見越されてもいないのに小さくなれるもんかよ!」
「今バラしたじゃん!」
 思わず素の言葉に結愛は口許を押さえるが、まるで気付いていないイタやんは廊下に詰まったままふんふんしている。
「もう。助けがいらないなら、わたくし急いでますので。失礼させていただきます」
「待ったぁ~っ! イエス、イエェス! 右手が出たぞ。博打で勝負だ、猟兵さん!」
 テンション高いっすね入道さん。
 坊主の姿なだけに違和感のある喜び方であるが所詮は妖怪、某かの物怪の変化であろうし彼らの姿を真似た所でその戒律まで真似る事は出来ないだろう。
 イタやんがその巨大な右手を開くと、中には小さな金属の塊。
 ベーゴマだ。同時に回してぶつけ合い、勝負台から弾き飛ばしたり最後まで回っていれば勝ちという代物だが。
「見たことありませんわね?」
「なにーっ!?」
 頭の上に大きな疑問符を浮かべた結愛に声を張り上げるイタやん。彼が幼い頃は当然の玩具であったかも知れないが今は年号も変わった。時代が違うのだ。
「こ、これがジェネリックキャップというやつか」
「ジェネレーションギャップですわ」
 イタやんの言葉を冷静に訂正して結愛。
 とは言え、折角、身動きの取れない相手と出会ったのだ。情報が引き出せるかも知れないとイタやんへ向かう。
「こいつで勝負できなきゃ、一体……どうすりゃいいんだ……」
「あら、もっと分かり易い勝負にしませんこと?」
 分かり易い勝負とは。
 眼前で屈む少女に、次はイタやんが疑問符を浮かべる番だった。結愛はしばし考えて、彼の唯一動かせる腕の形に笑みを浮かべる。
「力比べ、腕相撲はどうかしら?」
「えっ。……ち、力比べとか……そういうのはちょっと……」
 途端に弱気のイタやん。お前の図体は風船か。
「まさか負けるのが怖くて? 小娘相手に?」
 くすりとお上品に笑うお嬢様の挑発。イタやんは悔しそうな顔をするが中々と首を縦に振ろうとはせず。──その時。
 もったいない、もったいない。
 賭けないなんてもったいない。
 売られた喧嘩は買わなきゃもったいない。
 もったいない、もったいない。
 囃し立てるような声が生温い風と共に吹き流れる。
 はっ、とした結愛が周囲を見回すが、既に怪しい存在は確認できず。しかしイタやんは様子を変えていた。
「そうだ、もったいない。賭けなきゃ始まらない!
 さあ、やったろうじゃないか猟兵さん!」
 勝負に乗ってくれはしたものの。
 ずいと構えられた巨大な右腕の威圧感。しかし、こちらも猟兵、退くという選択肢は無い。
「賭けの確認をしますわ。わたくしは、この魂を賭けます!
 あなたにはこの宴会場について、そして皆さんが賭博に狂い始めた内容、知っている事を全て! 話していただきますわ!」
「あんたが勝てば何でも喋ってやるぜ。おいらの魂もつけてなぁ!」
 うわ要らねえ。などとは口が裂けても言えず、折角やる気になったイタやんに水は差せない。
 体格差に合わせて空いている部屋から持ってきたちゃぶ台を重ねて、結愛はイタやんと視線を合わせた。
 最早、言葉は要らない。
 互いに脱力した手を絡め、サイズ差に苦心しつつも上手くフィットする型を探し。
 イタやんと結愛は同時に口を開いた。
『ゲットセット! アァムレスリングッ!』
「……レェディイ……!」
「ゴォオオオッ!!」
 開始の合図と同時に軋んだのは肉か骨か、それともちゃぶ台か。
 結愛の手を握り込むようなイタやんの右手。それだけでも相当に見越し入道の有利となっていたはずだ。
 しかし、万力を込めたイタやんの必死の攻勢にも、まるで固定さるたようにびくともしない。
「そこまでですの? なら、舌を噛まないようにお口をしっかりと閉じてらして!」
 結愛は自らに憑依したユニコーンの馬力、もとい怪力で体勢も体格もなんのその、見越し入道を彼が挟まって動けなくなった廊下の壁ごと吹っ飛ばした。
「…………、や、やってしまいましたわ」
 星の輝く綺麗な夜空を見上げて、屋敷を破壊してしまったことに思わず閉口する。
 だが今の問題は事件の解決、補償問題は今ではないのだ。外に出た結愛だが、周囲に見越し入道の巨体は見えず。
「……どこに……あら?」
 足下で目を回す一匹の鼬。見越し入道の名前がイタやんだった事を思い出し、彼こそがその正体かと納得して肩の力を抜いた。
「さ、イタやんさん、起きてください。知ってる事を色々と教えてもらいますわよ」
「……きゅ~ん……っくしゅ!」
 結愛に鼻先をくすぐられ、イタやんはくしゃみと同時に目を覚ました。
 魂を賭けた以上、話せばあやかしメダルと化してしまうが、だからこそ事件解決の為の情報が必要なのだ。
 結愛はその体を戦いの場となるであろう屋敷から離し、冷えないように座布団をで挟む。
「急がないといけませんわね、決着を!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

アハト・アリスズナンバー
賭け事ですか。良いでしょう。かつてサクラミラージュでやりすぎて命を狙われた事もありました。
ここなら幾らでも稼いでもいいみたいですね。

勝負内容はブラックジャックでどうでしょう。
賭ける金額は基本オールインして動揺させます。
そりゃそうです。私の手札は常に21……シャッフルする際にUCと【ハッキング】を応用してカードを透視。常にブラックジャックするようにしています。
でも、バレなきゃサマじゃないし証拠がありません。

相手が賭ける金がなくてもオールイン。え?もう出せない?
貴方鉄火場に来るってことは覚悟してる人ですよね。
よいしょとレーザーライフルをを出します。メダルになったら【封印を解く】弾で解放しましょう。




「さあ、お前の魂を数えろ!」
 魂はひとつしかないです。
 キザったらしいポーズをゆらゆらと決めて、室内に舞う一反木綿。その言葉に眉根を寄せたのはアハト・アリスズナンバー(アリスズナンバー8号・f28285)だ。
「何ですか貴方?」
「礼儀のなっていない奴め。名を訊ねる時はまず自分からというのを知らないのか!」
「いきなり魂どうの言う方に指摘されるのも癪ですが。有栖川ハチ子と申します」
 ハイカラな和装の裏に刺繍された名前も見せるアハト、もといハチ子。
 一反木綿はくっそ偉そうに、よく自己紹介出来たなと一人頷く。父親目線か。
「さて、では猟兵よ。己が魂を賭けてこの一反木綿、『どっちつかず』のやもめ木綿と勝負しようじゃあないか!」
 君たちネーミングセンスもう少し何とかなりませんか。
 やもめ木綿の言葉にハチ子は唇の端を持ち上げた。
「賭け事ですか。良いでしょう。かつてサクラミラージュでやり過ぎて命を狙われた事もありました。
 ここなら、幾らでも稼いでいいみたいですしね」
 妖怪たちが賭けたがるのは魂、だがそれは最終的なものだ。
 ハチ子の食い付きの良さに、やもめ木綿は、そう来なくてはと笑う。部屋の中をぐるりと回るそれに向かい、ハチ子は片手を上げた。
「勝負内容はブラックジャックでどうでしょう」
「構わんよ。だが忘れるなよ、ここでは勝負の代価として魂をも賭けて貰う事になり得るのだ!」
 面白い、それこそ構わない。
 そう晒うハチ子の顔は、博打に狂う妖怪どもよりも遥かに暗い情念を燃やしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​


 さて。
 やもめ木綿はコインを一枚、布の親指で器用に跳ね上げると、それを手の甲、手の甲? で受け止めた。
 親と子を決める為に、裏か表か当てるようハチ子に告ぐ。
「表で。ちなみにですが、勝った者は次ゲームで親、という形で良いですか?」
「勿論だとも。それではいいかね、オープンだ!」
 手の甲? に乗るコインは表。ハチ子が親となる。
 始めようか。
 そういってやもめ木綿が渡すのはカジノなどで見られるチップだ。単位は円になっているが、最低で千から始まり、一万、十万、百万のチップがそれぞれ十枚ずつ。
「必要な分を取るといい」
 言葉を転がして、やもめ木綿の持つチップはハチ子に出したものと同等。
 ならば。
「このままで」
「ほう!」
 所持金の多さではなく、全てを賭けるという博打狂いの意思をハチ子から感じたやもめ木綿。
 トランプをひらひらした手とは思えぬ機敏な動きでシャッフルすると、小さな机にハチ子を招きカットを促す。
 ハチ子は何も言わずに半分程でトランプの山を取り、再びのシャッフル後。
「ふっふっふっ」
 怪しげな含み笑いを漏らすやもめ木綿へ、一枚ずつ、自分と交互に配る。
 先程のカジノチップもそうだが、ハチ子への揺さぶりだ。如何にもな大金での賭けや胡散臭い動きで相手に精神的優位を取らんとしているのだ。
 命を狙われたというハチ子の言葉を疑っての事であろうが、逆にそれは彼女の力を計りかねているということ。
(今この瞬間、私が上なんですよ)
 親である自分のトランプ一枚を、アップカードとして表にする。
 内容はダイヤのキング。
 彼女は配ったトランプの背面を覗くと、浮かび上がるのはスペードのエースだ。やもめ木綿こと子には表で配り、内容はハートのジャックとハートの九。ブラックジャックにおいて絵札は十として扱い、エースは一、もしくは十一として扱う。
 十九。一手目としては十分過ぎる上に二十一を超えるとゲームオーバーとなる為にお代わりのカードを求める事はしない。
 そう、ブラックジャックとは二十一に近い数字を揃えた者が勝者となる。そしてこのトランプはハチ子こと彼女、アハトの作ったもの。
 裏面の一定の箇所に視線を合わせて浮かび上がる暗号を解けば表の数が分かるという、ハッキングの技術も持つ彼女ならではのイカサマ用品だ。
 例えタネが分かったとしても暗号を処理し、高速で解読する頭脳と高速でシャッフルされるトランプカードを見切る技術がなければ突破は不可能なのだ。
「これは強い。ならば早速、百万のチップを入れようか!」
 そんなことなど露知らず、ハチ子の手札が完成していると知らないやもめ木綿は上機嫌。滑稽だぜ!
 ハチ子はにこりと微笑み、全てのカジノチップを押し出す。
 総額、一千百十一万円のオールインだ。周囲から一瞬音が消え、直後にどよめきが起こった。猟兵と妖怪の賭事を見守る彼らからしてもこの額は予想を超える。
 対するやもめ木綿は外見に変化なく、着物を着た狸の置いたコップを手に熱いお茶をごくりと飲む。
 飲むっつーか染みてんですけど。
「なるほど。え、なに、なんで? こっちは百万なんだけど。うん、いや、うん……そう、そうね……うーん……」
 動揺の塊である。
 とは言えカジノルールではないが、両者了承しないと賭けは成立しない。無論、博打打ちである彼が退けるはずもなく、オールイン。
 誰もが固唾を飲んだ瞬間、もといやもめ木綿とハチ子以外が固唾を飲んだ瞬間。
 開いたカードは勿論、スペードのエース。
「ぶ、ぶっ。ぶら、……ぶららぶら……!」
「ブラックジャック。私の勝ちですね」
「ごえええええっ!」
 登り竜が如く渦を巻いて天井へと駆け上がったやもめ木綿は、やがてひらひらと床へ落ちる。
 分かり易く敗北を体現した彼はさておき、場のチップを集めて再びトランプを配るハチ子。
「さあ、次のゲームですよ」
「えっ、えっ? い、いやいやもう有り金なんてありゃしませんて!」
 もう出せない。
 やもめ木綿の言葉にハチ子の目に冷たい光がぬらりと灯る。
「よいしょ、と」
「!?」
 小さな机に不似合いな厳つい代物は、携行型の荷電粒子砲、【レーザーライフル・アハトカスタム】だ。
「貴方……『覚悟して来てる人』、ですよね……?
 鉄火場に来るってことは『荒事に巻き込まれるかも知れない覚悟』してる人って事ですよね」
 がしゃこんとレーザーライフルを構えられたぱたぱたと震えるやもめ木綿。
「私はまた全て賭けますよ、今度もブラックジャックが出るはずですから」
「! …………! な、なぜそんな事がわかる。そんな事を言うのはイカサマをしているような奴だけだ!」
 指を突き付け席を立つやもめ木綿に対しても悠然と構えるのは彼女だ。
「まさか、そんな気がするだけですよ。ですが、バレなきゃあイカサマじゃあないんですよ。証拠がありません」
 微笑むハチ子に、遂には心が折れたようにがっくりと項垂れた。最早、賭ける物もないのだ。これ以上、どうすれば良いのか。
「魂を賭ければいいんですよ」
 全てを失ったからこそ、拾える物もある。ならば、それさえ投げ出したなら。
 賭けよう、と。
 そう決断したやもめ木綿に迷いはなく、彼を導く囃しもなく。それはやもめ木綿の意思だった。
「良いでしょう、それでこそ、です。その高潔かつ低俗な覚悟に敬意を表し、このチップの全てと私の魂を賭けましょう」
「ならばカードだ! 私の手持ちは六が二枚! さあ、最後の勝負に挑ませて貰う!」
 熱く燃え盛る勝負師魂。口角を引き上げながらもほの暗い感情の昂りを見せたハチ子との賭けの最後の勝負は。
 まあ意気込んでるけどイカサマ仕込まれてるから普通に負けるんだけどね。

「…………、む、ここは?」
 目を覚ましたやもめ木綿が見上げたのは満天の星空。
 その様子に気づいたのかと声をかけたのは、魂を奪い、あやかしメダルへと封印した張本人だ。
「俺は負けたのか。……だが……何故だか清々しい気分だ。まるで正月に」
「そういうのはちょっと」
「あ、はい」
 やもめ木綿をぴしゃりと一言で黙らせて、ハチ子は問う。この鉄火場となった屋敷に、妖怪たちを導く何者かがいるのではないかと。
 やもめ木綿は、それならばと空に浮いて風に流れる。
「着いてくるといい。風の先、吹き溜まりに何かいるようだ。もしかしたら、それがあんたの探してる者かも知れないな」
「そうですか。案内、お願いしますね」
 賭場より離れてはにこりともせず。
 ハチ子は風に流れるびらびらに着いて行った。
シャムロック・ダンタリオン
ふん、やってることは馬鹿らしいが、これはこれで世界の危機らしいな。
では僕はポーカーで挑ませてもらおうか。

――ではショウダウンだ。僕のはロイヤルストレートフラッシュだ。で、貴様のは?おやおや、その様子を見るに大した役ではなさそうだな?
――はぁ?「イカサマ使った」だと?ではカードをよく確かめてみたまえ。それとも何だね。自分が弱すぎるのを棚に上げて、見苦しい八つ当たりかね?【威厳・言いくるめ・恐怖を与える】

で、逆上した相手が何か技を出してきたなら、【指定UC】でそのまま返してやろうか。そして降参したならば【情報収集】目的で軽い尋問でもやってみようか。

※アドリブ・連携歓迎



●ショウダウン!
 あらゆる場所で賭博に狂う妖怪どもの姿に、その場には似つかわしくない少年の姿で、シャムロック・ダンタリオン(図書館の悪魔・f28206)は溜め息を吐いた。
 誰も彼もが賭博という刺激に呑まれ、熱に浮かされたように魂までも差し出す異常。
「ふん。やってることは馬鹿らしいが、これはこれで世界の危機らしいな」
 そうなんですよ、危機なんですよ。
 シャムロックの念に応え、現状を示した【ダンタリオンの書】を片手に興味も無さそうな素振りを見せる。望んだ情報を与える白紙の書を閉じて、近場の障子の前に足を止める。
 伝わる熱気と悲鳴、苦鳴。それはまるで、地獄の一部を召喚したかのような。
(面白い。東洋の魔界がどんなものか、見せて貰おう)
 すぱーん、と障子を開いたその先で。
『一万三千二百三十一、一万三千二百三十二、一万三千二百三十三!』
「怒濤の追い上げヒンズースクワット・デスマッチ! 果たして勝つのは誰だーっ!?」
 もう汗がだっらだらの筋骨逞しい赤鬼と青鬼が目を血走らせ、食い縛った歯茎から滝のように血を流しても断行するヒンズースクワット地獄。
 周りのベンチプレスを趣味の欄に書き入れそうな逞しい鬼さんたちの中で、一際小さな黄色の鬼娘が洋装し、シルクハットに賭け金を集めていた。
 彼らの熱気と飛び散る汗にげんなりしたシャムロック。何も言わずにそのまま障子を閉めようとすると、明かりを照り返す禿の鬼、もとい禿坊主がその姿に気づく。
「なんでいバーロー、ここはガキの来るところじゃーねえんだぜィ!」
「ああ、そうか。今帰る所だ、気にするな」
「おいお客さんだおめぇらぁ! ガキも喜ぶ厚切り桃肉こってりプロテイン和えを用意しろィ!」
「なんだそのお宝の島目前で自分からサルガッソーに突っ込んだ海賊船のようなセンスの料理は──、ええい、こっちに来るな汗だく鬼ども!」
 てってかお肌でやたらニコニコしている黒ビキニ海パンの鬼どもに囲まれ、抵抗虚しく部屋の奥へと連行されたシャムロック。
 恐らく彼らは善意だが絵面が犯罪にしか見えないぜ!
「ここは筋肉の間。お前のあっつあつのマッスルスピリット、見せて聞かせて触らせて貰うぜィ!」
「大お断りだ馬鹿者」
 部屋の中央に用意された椅子に座らされ、周囲で思い思いのポージングを流れるように組み替える鬼たちの姿に圧力を感じつつも腕を組み足を組み、その威厳を保つシャムロック。
 彼に断られてしゅんとする禿坊主さておき、筋肉包囲網を狭めながら鬼たちはマッスルスマイルを浮かべる。
「見ろやこの筋肉! ダルマさんがマッチョッチョで勝負といこうか!」
「断る」
「うー、はーっ! マッスルかくれんぼでどうだ!?」
「嫌だ」
「んんん、だぁっはおぉあっ! 鬼マッスルだーっ!」
「拒否、つーかもう何だそれは」
 わがまま坊主め。ポージングを決める鬼たちの誘いは全て拒絶されて肩を竦める。どっちがわがままだと言うのかね。
 シャムロックは明らかに一方へアドバンテージの偏る勝負はしないとし、走らせた視線の先にトランプを見つける。
「では、ポーカーで挑ませてもらおうか」
「ポーカーだと? ふふふははははは! ポーカーならばポーカー筋を鍛えしポーカー三界王の出番よ!」
 ポーカーに必要な筋肉ってどこだよ。
 とりあえず、黄色の鬼娘に紹介されて歩み出た三鬼の巨躯は、それぞれがマッスルポーズにマッスルスマイルを乗せて爽やかな雰囲気を醸し出す。
「その筋肉は太陽より降り注ぐ陽光の如く妖怪たちを癒すッ。『天界王』、サンシャイン郷田!」
「その筋肉は地核すら超える熱き脈動で農作物は奮い立つッ。『地界王』、ランドマン鉄也!」
「その筋肉は母なる海のようにあらゆる生命を優しく包むッ。
『海界王』、ジョージィ・シャーク!」
『三鬼合わせて我らは一つ! 三界王見参ッ!!』
 大胸筋や僧帽筋など、アピールしたいところを好き勝手にムキムキさせている鬼たちのこってり風景にシャムロックはげっそりした表情を見せたが、気を取り直して咳払い。
「ま、まあ、ルールを知っているなら誰だろうと構わん。勿論、賭けるのだろう?」
「くっくっく、そうだなぁ。ここは一つ」
 人差し指を立てるサンシャイン郷田。
「……地獄のプロテイン強制飲食だ……!」
「貴様らのプロテイン推しは何なのだ」
「だって猟兵さん線が細いじゃん? もやしっ子めっ☆」
 もやしの何が悪いのさ。ジョージィ・シャークの言葉に頬をひきつらせつつも言葉を飲み込み、鬼娘から受け取ったトランプカードを三界王へ配るシャムロック。
 チップの代わりに一リットルボトルにしこたま詰め込んだプロテインをどっかと机に並べる鬼ども。
「ハンデだ。我らが勝てば猟兵さんには賭けた本数、猟兵さんが勝てば我ら全員が賭けた本数。猟兵さんの役が最下位とならない場合は、我らの負けと扱おう」
 ただし、勝負の放棄は認めない。
 にやりと笑うランドマン鉄也に、シャムロックは目を細めた。
「それなら僕も、それなりの態度で挑ませて貰う」
 片手に開く分厚いダンタリオンの書。ジョージィ・シャークはルールブックかなと小馬鹿にした様子だ。ここ死亡フラグね。
「チップお待ちーっ」
 鬼娘が運んできたプロテイン・ボトルはそれぞれ十本。先攻はシャムロックが譲られ、彼は手中の本と手札とを見比べる。
「ビッドだ。プロテインを三本追加」
 シャムロックの言葉に思わず口笛を吹くサンシャイン郷田。
 こちらを潰す気だ。シャムロックの強気にそう感じ取った三界王の雰囲気が変わる。
「コール、勿論、コールだ」
「俺もコールを」
「コォオォルゥウ」
 並ぶ十六本のプロテイン・ボトル。なんて威圧感なんだ。
 ここでシャムロック、三枚ドロー。サンシャイン郷田、ランドマン鉄也、ジョージィ・シャークはそれぞれ一枚、四枚、ドロー無しと続く。
「降りるのは無し、そういう話だったな」
 唇の端を歪めてシャムロック。
 彼は何と、全てのプロテイン・ボトルを机の上に置いた。
「ちょっと待てよ猟兵さん」
「負けた時、それを飲まなきゃあならないんだぜ?」
「飲めもしないものを賭けるのは感心しないなぁ」
 子供をなだめるような鬼たちの言葉。シャムロックは堪え切れないとハンカチで口許を抑え、くつくつと晒う。
 大の大人が揃いも揃って、何を怖じ気づくのかと。
「そんなに嫌なら素直に言えばいいんだ。勝負を降りると。僕は優しいからね、認めてあげるよ」
 このガキ。
 こめかみに筋を浮かべたいい歳の鬼さんたちの口数が零へ転じる。激おこですやん。
『コオォォォォオル!』
 同時にプロテイン・ボトルが並べられた。まるでプロテイン版万里の長城だ。
 では、ショウダウンだ。
 同時に手札を場に並べていく。
 サンシャイン郷田、ストレート。
 ランドマン鉄也、フォアカード。
 ジョージィ・シャーク、フルハウス。
 対してシャムロック。──ロイヤルストレートフラッシュ。
『はあっ!?』
「おやおやおや? ハンデなどをしてくれたが、その様子を見るに大した役ではなさそうだな?」
 更に煽りをレイズしていくぅ!
「イ、イカサマだ! そんなもの、簡単に出るはずがない!」
「そうだ、トランプだってお前が用意したものじゃあないか!」
 みっともないぞ三界王。
 シャムロックはこれ見よがしにと大袈裟に顔を歪めた。
「はぁ? イカサマを使った、だと? 僕はこの部屋にあったトランプを使ったのだ。
 さあ、カードをよく確かめてみたまえ。それとも何だね、自分たちが弱すぎるのを棚に上げて、見苦しい八つ当たりかね?」
「ぬ、ぬ、……ぬぐぅ……!」
 立ち上がる三界王とは対照的に座したまま、しかし睥睨する目から発する眼光は温度を持たずに底冷えて、鬼どもを容赦なく糾弾するようだった。
 実際にランドマン鉄也が手に取って調べるも、トランプに怪しい点は何一つない。
 それもそのはず。
 実はシャムロック、トランプを配る前に役の分の手札を既に抜き、ダンタリオンの書に挟み隠し持つという古典的なイカサマをしていたのだ。
 ドローに見せかけてクイックドロウ技術を用い、配られた手札は山札へと戻し、何食わぬ顔でロイヤルストレートフラッシュの役の揃った手札へと持ち替えていたのだ。
 相手を舐め腐って警戒していない鬼どもは、勝負の前から負けていたのである。
「み、認めん。こんなこと、断じて認めんッ! 猟兵ッ!」
 来るか。
 シャムロックは目を細めて攻撃的な闘気を膨らませたサンシャイン郷田を睨む。
 ボトルの乗った机を蹴飛ばし、迫る鬼にダンタリオンの書を構える。
「うぬるはぁあッ! モスト・マスキュラー!!」
「…………、え?」
 攻撃的な意思を伴って放たれたのは、上半身の筋肉を強調するマッスルポーズ。
 同時に、シャムロックの発動したユーベルコード、【即席写本(インスタント・コピー)】により貴重な一頁にマッスルフォームが刻まれた。
「…………」
 思わず黙り込むシャムロックの前で、宙に舞った計四十本ものプロテイン・ボトルを軽々と集めた鬼娘が、三界王の胃袋へ次々とプロテインを流し込んでいく。
 賭けの結果は絶対なのだ。
 腹を膨らませて限界と倒れた鬼たちへ、シャムロックは鬼娘と共に残り五本ずつのボトルを掲げた。
「今から幾つか質問させて貰う。それに答えたら、これ以上のプロテインは許してもいいぞ」
 ここで初めて見せた彼の顔は、外見通りの子供らしい笑みだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『もったいない妖精』

POW   :    無駄な力がもったいない!
完全な脱力状態でユーベルコードを受けると、それを無効化して【あやかしメダルに封印して】から排出する。失敗すると被害は2倍。
SPD   :    あなたにその技もったいない!
対象のユーベルコードを防御すると、それを【あやかしメダルに封印し】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
WIZ   :    撃ちっぱなしはもったいない!
対象のユーベルコードに対し【それを吸収封印するあやかしメダル】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●それは風に乗り、日常へと運ばれる呪詛。
 もったいない、もったいない。
 その囁きは風に乗る。
 もったいない、もったいない。
 その言葉は生活に溶けて。
 もったいない、もったいない。
 追い詰められるように伝播する呪いの言霊。
 宴会場たる屋敷の中心、数ある部屋の中でも一番の広さを持つ大部屋を守るように彼女たちは周囲を漂う。
 妖怪どもを賭けへと奔走させたように、彼女たちもまた何かに追われるように一所に留まる気配はない。
 全ては、彼女ら妖精を取り込んだ骸魂故に。
 彼女たちは風と共に屋敷へ、そして町へ呪詛を運ぶだけ。猟兵らの事など気にも留めていない。
 今ならば簡単に奇襲できるだろう。だが、彼女たちを救えるのも猟兵だけなのだ。
 植え付けられた妄執に、涙を浮かべる妖精らをどうするのかは、猟兵次第だ。

・集団戦です。手加減をして戦う事で妖精を取り込んだ骸魂を祓えるかも知れません。賭け勝負をした場合、勝てば問答無用で骸魂を祓えます。
・彼女たちからボス妖怪の情報を引き出せます。決戦準備に役立つかも知れません。
・彼女たちの排出するあやかしメダルは、封印を解く技能を持つ猟兵ならば誰でも使用可能です。

前章特典
それぞれ対応するあやかしメダルを持ち、二章、もしくは三章で使用可能です。使用しなくても問題ありません。
投擲(投げるだけなら技能判定無し)、封印を解く技能で戦力として扱えます。
一度使用するとそれ以降は使用出来ません。

アリス・セカンドカラー:ろくろ首、脱衣婆、砂かけばばあ、白粉婆
ルルティア・サーゲイト:エロ河童
鈴木・志乃:一目小僧とお好きな妖怪一種
御門・結愛:見越し入道
アハト・アリスズナンバー:メダル化していない一反木綿。飛行ユニットとして使用可
シャムロック・ダンタリオン:鬼三枚
御園・桜花
世界特化の弱兵だと言う自覚は確かにあって
賭事に勝てる能力も思い付かない脳筋で
だからみんなの後をコッソリついてきた恥知らずの自覚も確かにあって

「ホホホホホ、私は骸魂タタキャー!賭けましょうか…この戦い、私が勝つと!」
だから、半仮面つけて開き直ることにした

「必殺技抜きでも、弱パンチを組み合わせれば勝てますもの。勝てば官軍でしてよ、オーホッホ」
高速・多重詠唱で銃弾に破魔の属性与え制圧射撃
敵に行動阻害与えた隙に接敵
桜鋼扇で連続殴打
敵の攻撃は第六感や見切りで躱す
躱せない攻撃は盾受け又はカウンターからのシールドバッシュ
基本1対1か少数と戦うよう立ち回る

救出できた妖怪達にはUC使用
「…暫くお休み下さいね」


御門・結愛
「あんな小さな子たちを無理やり」
苦しむ妖精たちを見て悲しみと、操っている骸魂に対し怒りを覚えます。
「待ってて、すぐに助けるから」

静かに聖剣を構え、目を閉じます。
(うまく加減できなかったら妖精たちを傷つけてしまうかもしれない、失敗したらユニコーンのメダルを奪われてしまうかもしれない)
「うぅん、大丈夫よ。だって、わたしは」
目を開き【聖なる一撃】を聖剣に乗せて放ちます。
「わたくしは、ユニコーンに選ばれた騎士!」
「悪を倒し、民を守る、正義の味方ですわ!」
【破魔】の一撃で妖精たちの肉体を傷つけることなく、骸魂を【浄化】していきます。
「はぁはぁ……成功、したのね」
「よかった。みんな、無事で本当に良かった」


アリス・セカンドカラー
お任せプレ。お好きに。
汝が為したいように為すがよい。

ほうほう、ユーベルコードを無効化してメダルに変えると?よろしい、ならばそれを賭けにしましょうか。見事私のユーベルコードをメダルに変えられたらあなた達の勝ち、できなければ私の勝ち、簡単でしょ?
と言いつつ、実際は欲望の権化で技能値840に強化した技能で挑みます☆欲望の権化としての威厳で恐怖を与えることで硬直(マヒ攻撃)させればより確実ね☆
読心術で妖精さんの性癖を読み化術と結界術でそれに適した妄想シチュを展開しての情熱ダンスなご奉仕で蹂躙して快楽堕ちさせるわ♡
勿論、分霊(式神使い/集団戦術/降霊)達でまとめて相手に出来るわよ♪


鈴木・志乃
継続してUC発動
第三人格『ナナシ』で行動


もったいない、もったいない、命を張らなきゃもったいない……。難儀なものだね、こうも簡単に楽しい遊びで、生命が閉じ込められてゆくんだから。
そこのお嬢さん、僕と遊んでくれないか、手本引で。
……もったいない、だろう?

いい加減本気を出そうか。一目小僧君はルール上必要な場合しか封印は解かないよ。君は自分を安売りしたことについて、少し反省した方がいい。というか、僕にメダルにされた妖は全員ね。

【情報収集、学習力、見切り】
僅かな目線や表情の移ろいすら大きな情報になるものだ。
わざと誘導するような仕草や表情を今回もするよ。
何なら事前の会話でも少しカマをかけておくか……。


シャムロック・ダンタリオン
ふん、さっきからかすかに「もったいない」とかいう声が聞こえたようなきがしてたが、元凶はこ奴らか。

理由はわからぬが、このまま奴らを放つわけのはいかぬか。
せっかくだ。僕とカードで勝負と行こうか。
ポーカーなりブラックジャックなり、貴様らの好きなゲームで挑むがいいぞ。

(で、一通りゲームを進めたうえで)
さて、敵が弱ったところで【情報収集】といこうか。
もし直接攻撃にいこうならば、「氷」の「突風」で頭を冷やしてもらおうか。【属性攻撃】

※アドリブ・連携歓迎



●突撃、宴会場大部屋前!
 己が魂を賭する狂気の場となった宴会場に、封鎖された部屋が幾つか。
 その先にあるのは宴会場でも最大の大部屋。それを守るように取り囲む部屋が封鎖されているのだ。部屋の中から聞こえてくる焦りに臆する声は、他を死に追いやる言葉でもあり、悲痛な叫びでもある。
 部屋の前に集まった猟兵たちは互いに顔を合わせて頷く。程度に差はあれ想いはひとつ、躯魂へと取り込まれた妖精を救う道を。
「ふん、さっきからかすかにもったいないとかいう声が聞こえたようなきがしてたが、元凶はこ奴らか。理由はわからぬが、このまま奴らを放つ訳にはいかぬ。
 が、相手は妖怪たちを狂わせた存在だ。先刻と同じく賭博する者と、加減する事で骸魂を祓う者と別れた方がいいな」
 状況に言葉を足したのはシャムロック・ダンタリオン(図書館の悪魔・f28206)。猟兵によって得手不得手がある事や、妖精たちの気を散らす事も目的とした発言だろう。
 アハト・アリスズナンバー(アリスズナンバー8号・f28285)は彼の言葉に同意を示す。例の如くハイカラな和装に身を包み、有栖川ハチ子として行動するようだ。その後ろでは勢揃いの猟兵に興奮する様子の一反木綿のやもめ木綿の姿もある。
「手加減して戦えば骸魂も打ち祓えるようですが、あいにく私は手加減が出来ません。なので賭けて勝負したいですね」
「僕も同じく、だね」
 手加減が出来ないという訳ではないが、腕力よりも脳力を優先する鈴木・志乃(ブラック・f12101)ことナナシも確実性が上がるとしてこちらを選んだようだ。先に発言したシャムロックもまた、賭博による骸魂からの解放を狙っている。
「では、残るのは――」
 御門・結愛(聖獣の姫騎士・f28538)が場を見回せば、アリス・セカンドカラー(不可思議な腐敗の魔少女・f05202)は妖しい笑みで手を振るう。
 幼い見た目に関わらず色気立つ所作に思わずどきりとして目をそらし。シャムロックは連携に粗が出るようなことはしないようにとアリスに溜息を吐いた。
「敵の数は多いだろうが、結愛とアリスは派手に暴れてくれ。注意を逸らしている間にこちらも賭博で勝負を仕掛けて多くを救えるようにする」
 横槍を入れられては大変だ。シャムロックの言葉に頷く結愛。
 作戦としては単純至極。先行する結愛とアリスに敵の注意を引き付けてもらい、出遅れた妖精たち、否、骸魂を賭博で打ち負かしあやかしメダルへと封印するのだ。
「それではお先に。行きましょう♪」
「わ、わかりましたわ!」
 アリスに手を引かれて封鎖された障子の前に立つ。
 封鎖とは言え木材を打たれた程度、蹴るだけでも外せるかも知れないが、それでは屋敷に傷もつく。結愛は聖剣を抜くと同時に手元を返し、縦に一閃。
 走る銀光は狙い違わず木材を両断、障子の隙間を抜けて傷一つなく戒めを破壊した。
「ありがとう。良い腕ね」
「どういたしまして」
 短く言葉を交わしてアリスが障子を開けば、あやかしメダルの積まれた部屋をひっきりなしに行ったり来たりと落ち着きのない妖精の姿があった。人の顔程の大きさしかない彼女たちの表情はどれも不安に怯え、強迫観念に囚われている事が分かる。
「……あ、あんな小さな子たちを無理やり……」
 顔色ひとつ変えずに部屋の中を行くアリスと違い、こちらの侵入にすら気づいていない程にまで追い詰められ、苦しむ妖精たちを見た結愛の中に渦巻くのは悲しみと、妖精らを操る骸魂への怒り。
 自然と聖剣を握る手に力がこもり、少女の瞳に決意の光が宿る。
「待ってて、すぐに助けるから」
 信念を込めた呟きと共にわざとらしく大きな音を立てた結愛。そこで漸く二人へ視線が集う。
「破魔の力にて、真っ向からお相手致しますわ!」
「!」
 先手必勝。宙へと舞う結愛は、剣先に破魔の力を宿す。触れずに断つ剣風により骸魂を祓う試みだ。
 身構えた妖精へ向けられた破魔の力はしかし、妖精を骸魂から解放するには力不足であった。骸魂に対する怒りや妖精の身を傷つけまいとする想いが太刀筋を鈍らせたのだ。
「えーいっ!」
「くっ!?」
 複数でまとまった突進。刃を向けずに側面にてそれを防御する結愛に、すかさずアリスは後方へ跳ぶように指示。大きく後方へ跳躍した少女はその身で他の部屋を開放する。
「まともに戦う必要はないわ。まずはこの子たちの注意を引くのよ!」
「わかりましたわ!」
 二手に別れた猟兵に、妖精たちも二手に別れた。
 相手は妖怪ではなく猟兵だ。だからこそ、メダルに封じなければもったいないと。
「どうせならユーベルコードも使わせなきゃ!」
「ユーベルコードもあやかしメダルに封印しないともったいない!」
「みんな無効化して封印して、メダルにして持ち帰るのーっ!」
 ほうほう、ユーベルコードを無効化しメダルに封ずるとな。
 妖精らの言葉にアリスは唇の端を持ち上げた。
「よろしい、ならばそれを賭けにしましょうか。見事わたしのユーベルコードをメダルに変えられたらあなた達の勝ち、できなければわたしの勝ち、簡単でしょ?」
『…………』
 互いに顔を見合わせる妖精たち。妖怪どもをけしかけた彼女たちだ、勿論、アリスの提案に乗るだろう。
 障子を開き、様子をうかがうようにしていた他の妖精たちも、アリスの元へ近づいていく。街灯に誘き寄せられる蛾の如く。

 そろそろ良いか。
 喧噪が遠ざかる音を聞き、シャムロックは残る二人へ振り返る。しかしハチ子とナナシが見ているのは彼ではなく。
「?」
 シャムロックもその視線につられて壁を見れば、忍者の如く壁に張り付く女が一人。幻朧桜から生まれた桜の精を包んでいたという、桜色の着物【桜織衣】に身を包み、その顔には面とこめかみより伸びる桜の枝。御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)だ。
 部屋の物音を聞き、注意深く探っているようだ。
「…………」
 無言でそれを見つめていると、視線に気づいた桜花はこちらへ顔を向けた。半分この仮面は顔の左半分を隠しているが、右半分が丸見えで知人に対して隠匿の効果はなさそうだ。
 桜花は半分ながら自信満々の笑みを見せてサムズアップすると、「ささっ!」と言いながら部屋の中へと滑り込んで行った。
「…………。
 さて、そろそろ良いか」
「あれをスルーするのは無理があると思うなぁ」
「でもツッコミ入れるのも難しいですよね」
 変な所で頭を悩ますんじゃあない、サムズアップにはサムズアップで返すのが猟兵だろう!
 それはさておき、正にそれはさておき。
 シャムロックは小さく咳払いして部屋の中へ足を踏み入れた。
「散開だ。それぞれで動いて妖精を骸魂から解放しよう」
「分かりました。私は一反木綿君と行かせて貰います」
「こ、この俺の手助けが必要、と!? まさか猟兵さんと肩を並べて戦える日が来るなんてぇなぁ!」
 感動に涙を湿らせ浮きに浮くやもめ木綿。いやデフォルトで浮いてたわ。
 ふわふわやってる一反木綿は目立つ為に客引きには良さそうだと、ハチ子と共に行くやもめ木綿を笑うナナシ。
 それぞれが賭博を展開する事で妖精を開放する。目的を再確認してナナシがするりと部屋へ入っていくと、見渡す先に妖精らの姿は見えない。
「結構、先まで行ってるみたいだね」
「油断はするな。グリモア猟兵も言っていたが、黒幕の正体が分からん。情報も集められるだけ集めたほうがいいだろう」
「妖怪たちをメダル化して、何がしたいのかは分かりませんけど」
 それぞれが部屋へと踏み込む。
 再び視線を合わせた後、ひとつ頷いて三人と一匹は動く。妖精解放の為、そして事件の黒幕の情報を得る為に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アハト・アリスズナンバー
なんか、すごく勿体ないという言葉が安く感じますね。
節約するのは良いですが、使うときは派手に使うのもまた一つなのですが。

さて、手加減して戦えば打ち払えるようですが、あいにく私は手加減が出来ません。なので賭けて勝負しましょう。
内容は……そうですね。人数を纏めていけそうな麻雀でどうでしょう。東風戦でささっと解放しましょう。一反木綿とコンビ打ち。
全自動麻雀卓等ないでしょうから、手積みです。
積む際に【暗視】【見切り】で一反木綿が天鳳するように積み込みます。賽を振る時にUCを起動。積み込みが成功するようにします。何か言われたら【言いくるめ】ます。探偵に弁論で勝てるとでも?

あ、私が賭けるのは一反木綿の魂です



●攻勢破竹!
「何か、もったいないという言葉が凄く安く感じますね。
 節約するのは良いですが、使うときは派手に使うのもまた一つなのですが」
 節約は手段であって目的ではないのだ。そう諭すハチ子の言葉に、ずらりと並ぶ妖精さんたちは顔を見合わせて小首を傾げるのみ。
 こいつら、まるで理解していないぞ。
 戦慄した様子の一反木綿であるが、そもそも君も常識人枠に収まってねーから。
(逆に言えば、もったいないと溜め込むだけで解放を教えられていない。その解放を目的としているのが黒幕のオブリビオンか、それとも単に妖怪たちを破滅へ連れて行きたいだけなのか)
 賭け事と魂の封印を目的とし、その先を何も考えている様子のない妖精らを見ていると黒幕の様子が余計に気になるものだ。
 とは言え状況は利用すべきか。
 その言葉に軽く混乱を来した様子の妖精らに笑みを浮かべて、彼女は近くの机を引き寄せる。
 ハチ子がちょちょいと手で合図をすれば、やもめ木綿がふわりとその上に立ち、丸めた一部を開いてじゃらじゃら落とすは牌の山。
「これだけの人数です。纏めて捌けるよいに麻雀などどうでしょう。東風戦でささっといけますよ」
「それってつまり、私たちにささっと勝つってこと?」
 平たく言うとそうなるね。
 笑顔で言葉までは言わないものの、それを察した妖精たちは「何をーっ」とばかり意気込む妖精ら。
 是非もなしと勝負の席に押し掛ける妖精を、参加者は二人までだとハチ子は押し留める。
「魂を賭けて貰うのです、覚悟の準備はされてますか?」
「覚悟完了!」
「当方に麻雀の用意あり!」
 熱血妖精さんたちはハチ子の言葉を聞いているのかいないのか、牌に抱きついて「よいしょ、よいしょ」と並べ始めた。
 そう全自動麻雀卓などあるはずもなく、全て手積みだ。ハチ子は健気な彼女らの姿にくすりと笑って、それでは厳しいだろうとその牌を受け取り、じゃらじゃらとかき混ぜて机の四辺に交互に配る。並べるのはやもめ木綿に任せて良いだろう。
 牌を見ないよう紳士的に動くハチ子たちに、「実に良い人」「凄く優しい人」と純な妖精さんたちの株も爆上がりである。麻雀だけに。
 誰だって可憐な少女の如き妖精さんが苦労していたらその力になろうと言うのが情けというもの。ましてや猟兵、救うべき対象に無償の愛を向けるのは当然の事。
 と、思うじゃん?
 落とした際の僅かな角度、影に消える牌の目を一瞬一瞬の間にきっちりと見切ったハチ子はランダムに見せかけて牌をそれぞれ配り分けていたのだ。
 早い話が猟兵の超技術によるイカサマである。魂賭けてるのに弱者を慮るとか生温い話してる場合じゃねーから。
 やもめ木綿はそのような事を知るはずもなく、勝負の世界と言えど紳士の世界もあるのだと感慨深く唸っている。残念ながらイカサマで吊るしあげられる役になるのは君だ。
「さて、真剣勝負の場。親は中立になるようサイコロで決めていきましょう」
「任させて!」
「オッケー!」
「ラジャー!」
 声を揃えて言葉は揃わない三名であるが元気と勢いは良し。
 ならば開始だ。
「あ、言い忘れてましたが、私が賭けるのは一反木綿君の魂です」
「へえっ?」
 間抜けな声を上げたやもめ木綿には目もくれず、開始のサイコロを振り、と見せかけてサイコロを置く。つまり数字の出目を思い通りのままとする置きサイをさり気なく使用したハチ子により、親はやもめ木綿に決定。
 この際、流れる動作で始動したのはユーベルコード、【有栖川ハチ子に解けぬ不可思議など無し(ゼッタイスイリ)】だ。
(仮説として一反木綿君のメンタルの弱さと妖精さんたちの集中力の無さの隙を突けば簡単にイカサマを仕組めるのではなかろうか。
 実証してみよう)
 呆然としていたやもめ木綿も開始となれば動かざるを得ない。汗なのか湿り始めた木綿の奇妙さよ。
 それぞれ並べられた牌山を順番に手牌としていく一同。やもめ木綿とハチ子は慣れた手つきで返すが、妖精さんの方は何人かで集まってひっくり返している。
 返し後、お口を両手で押さえて観客の席に戻るのが可愛いらしく、それなりに公正を心掛けているのだろう。こっちは心掛けてないけどな。
 ひょいひょいひょいひょいとやもめ木綿が並べていく牌は既に『国士無双』、役満を形成しておりゲーム開始と同時に和了りとなる『天和』を完成させていた。
「…………」
 やもめ木綿の動きが止まる。あれれ、さっきの威勢はどこに行ったのかなぁ?
 ハチ子の予想通り、勝手に魂を賭けられてしまったやもめ木綿は周りを見る余裕はなく、妖精などに至っては牌を返すだけで精一杯だ。
 仕込みをするには十分過ぎる土壌であった。
「それでは親のやもめ木綿さんから、どうぞ」
「……あ、あのそのぅ……て、ててて、天和……、みたいな? つって? えへへ」
 ばちりと返せば見事な一九一九一九東南西北白撥中、プラス一。
「ひゃーっ!?」
「えぇーっ!?」
 出してしまえばその日に死ぬとすら言われる和了りに、腰を抜かしたようにひっくり返る妖精たち。
 その体から黒い霞が発生、それは唸りを上げる髑髏のように変じたのも束の間、一瞬で凝固しあやかしメダルと化した。
「…………」
 倒れた妖精を確認すれば気絶してはいるが呼吸はしているし、脈の乱れもない。命に別状はないだろう。
「い、イ、インチキだ~!」
「ビリヤードのブレイクショットで全部落とすのと同じで、天和は絶対出ないって聞いたもん!」
 外野からの激しいブーイングであるが、ハチ子は涼しい顔で襟元を正すと妖精たちへの笑みを崩さずにやもめ木綿に指を向けた。
「確かに怪しい。一発目から天和なんて、イカサマをやってると自白しているようなものですからね」
「えっ、えっ、いや私は別にそんなことしていませんとも!?」
 妖精に同意した事で彼女たちの不満や敵意は一反木綿君に向けられる。こちらへの敵意を外した所でハチ子は妖精らを宥めすかし。
「だからこそ、私も協力致します。幾らあからさまにやられたとは言え、イカサマはバレなきゃイカサマとはならないのです。
 彼に牌は触らせません。共に巨悪に打ち勝ちましょう!」
『おーっ!!』
 ハチ子の言葉に声を揃えた妖精たちと窮地に立たされたやもめ木綿。その裏で巨悪はほくそ笑む。
 これで牌も選び放題だ、と。

 アリスの提案により多くの妖精が彼女を取り囲む。
 素直に「さー、ユーベルコードを使ってみろー」とばかりにエヘンと胸を張るのは幼稚で、妖精らしいと言えなくもないが。
「うふ♪ 可愛いわね、食べちゃいたいくらいよ」
 アリスさんの笑顔が怖いです。舌なめずりはハンターとして二流の証、えっちぃ人としては一流の証。
 しかしユーベルコードを使うとしながらも、否、使うのは間違いないが実際に彼女らと相対するのは。
「私の念動力は現実すら改竄する。溢れる痴性と抑えきれない恥的好奇心は何者にも止められない。
 そう、わたしこそが【欲望の権化(ムサボリクラウモノ)】よ♡」
 アリスの宣言と同時に部屋一杯に広がったのは欲望を具象化する精神世界。
 始動するユーベルコードの気配を察して、その身を極限まで脱力し対応するべく備えた妖精たちも、自らに作用しないそれを無効化できずに困惑している。
 しかし、同時に発生した結界が彼女らの逃走経路をも遮断した。
 さあ。
 一本、踏み出すアリスの歩み。少女から放たれる凶悪な重圧に妖精たちは震え上がった。艶やかな笑みすらも禍々しく感じられる程の悪意。
 悪意、とは少し違うかも知れない。上気した頬にその目は劣情に濡れて、獲物を歯牙に捕らえた獣は晒う。
「……ひっ……!」
「妖精さん。あなたたちの心に留めたその欲望を」
『見せてくれるかしら?』
 結界に閉じ込められたそれぞれの妖精の背後に現れ、彼女たちを抱き締めるアリスの分霊たち。
 妖精は恐怖に歪んだ瞳にアリスの嗜虐的な笑みを刻み付けていた。
「ひゃ~っ!」
 原始的な恐怖とは未知から来るもの。同時にそれは、抗い難い逃避の誘い。
 アリスの腕や手の中から、必死で逃れようと暴れる妖精たちが飛び立つが、すでにそこは結界と言う檻の中だ。
 逃げられぬ彼女たちへ、アリスらはにじり寄り。
 その欲望を舐めるように読み取った。
「へ~。貴方、こういうのが趣味なのね」
「やだっ、やめてっ!」
 絵本に出てくる王子様の格好に小型の白馬に跨がった姿でアリスが呟くと、恥ずかしそうに妖精がその周りを飛び回る。
 別の場所では後ろからきつく抱き締められて真っ赤になっている妖精や、アリスの指と手を繋いでにっこにこの妖精など様々だ。
「それじゃあダンスをお願いしてもよろしいかしら、お姫様♪」
「!?」
 気づけばそこにいるのは妖精と同じ背丈となった男装のアリス。
 彼女から取った手へと口付けすれば、妖精はただ頷くしかなかった。
 こうなってしまえば最早、苦などひとつもない。ただただ甘美な感情が口の中に広がるだけだ。
「美味しく、美味しく、いただきます♡」
 アリスの精神世界へと取り込まれた妖精たちへの蹂躙が始まった。

「…………、隣の部屋が騒がしいなぁ」
 手元に用意した賭博具を確認して、ナナシはのんびりとした様子で前方へ視線を移す。
 もったいない、もったいない。
 並ぶ妖精たちは全て骸魂に縛られた存在。そんな彼女たちが猟兵であるナナシへ敵意を向けているのだ。そこには差し違える覚悟もあるだろう。
「もったいない、もったいない、……命を張らなきゃもったいない……。難儀なものだね、こうも簡単に楽しい遊びで、生命が閉じ込められてゆくんだから」
 それは蔑みではなく哀れみの念か。
 妖精らに目を細めてナナシは息を吐くと、場違いに明るい笑みを浮かべた。
「そこのお嬢さんたち、僕と遊んでくれないか。手本引きで。折角、遊びの舞台が整っているのにただ武力で物事を解決しようだなんて、……もったいない、だろう……?」
「…………。そう、そうかもしれない」
「そうだよ。折角、誘ってくれてるのに遊ばなきゃもったいないよ!」
「遊びなら楽しまなきゃもったいない!」
 やってやるぜーっ、とばかりに拳を掲げる妖精さんたちであったが、拳をそのまま胸元に添えて首を傾げる。
 手本引きって何だっけ?
「説明しよう!」
 そこでずばばんと現れたのは我らのお便利妖怪一目小僧、ではなく。眼鏡をかけてえへんおほんと偉そうにふんぞり返ってドヤ顔している妖精の内の一人。
 当の一目小僧や他のあやかしメダルの封印をナナシは解くつもりはないようだ。
(彼らは自分の安売りを少しは反省した方がいいし、ね)
 懐に入れたあやかしメダルを突き、眼鏡妖精に向き直る。眼鏡妖精は他の妖精らを畳に正座させ、「拝聴~っ!」と号令をかけている所だ。
「手本引きっていうのは親と子に別れて行う博打だよ。一から六までの数字の中から一つを親が決めて、子がそれを当てるんだ。
 単純だけどマナーや賭け札の置き方とか独特のルールがあって複雑なんだ。でもその心理戦や奥深さに賭博の王様なんて呼ばれてたりするんだよ!」
『へ~』
「その通り。よく知ってるね」
 驚いた顔をするナナシに「もっと褒めて!」と身を反らす妖精を、他の妖精らが取り付きわちゃわちゃと撫で繰り回す。
 これでだらしない笑みを浮かべているあたり、彼女らの陽気な性格が窺い知れる。
(それが骸魂の影響で精神的に追い詰められているのか)
 ナナシは殺到する妖精たちをなだめ離しながら、簡単なルールの説明と条件を付け加えた。
「折角だ、魂を賭けての真剣勝負だ。けど、魂はひとつ。僕が親を引き受けるけど数が多過ぎると誰か一人でも当たれば終わり、というのは不公平だね?
 だから、三人ずつ勝負に来てもらう。賭け方は色々あるけど今回は一点賭けのスイチと二点賭けのケッタツのみとする。配当はスイチで魂丸々ひとつ、ケッタツなら魂三分の一、要は最大二回までは負けてもチャンスがある訳だ」
 なるほど。妖精たちは真剣な顔で頷き、眼鏡妖精に説明をと振り返る。分からないなら分からないって素直になりなよ。
「スイチとケッタツは張り方の呼び名だよ。一点賭けのスイチはひとつ狙いだから高配当だけど、ケッタツはふたつ選べるからスイチより配当が低いの」
 子の使う張札も縦向きに縦に並べるなど形についても細かく決められている。だが、スイチなどの一点張りは競馬と違い、親へ喧嘩を売る行為とされており、ルールは良くともマナーが悪いとする場もあるので要注意だ。
「親の僕は猟兵だ。この勝負、僕の持ち魂がゼロになったら負けとしよう。それまでに君たちの魂がゼロになれば君たちの負けだ」
 張札を畳の上に三組置き、自分の前に表示札を六枚並べる。
 いい加減に本気を出そうか。ナナシの目に冷たい光が宿った。熱に浮かされず獲物を仕留める、勝負師の眼だ。
「さあ、最初に張るのは誰だい?」
「ここはやはり、私が手本を見せるべきね! 手本引きだけに!」
 やかましいぞ。
 ドヤ顔の収まらない眼鏡妖精と、「それなら私も」と興味津々についてきた二人の妖精を横につけて勝負を始める。
 眼鏡妖精は目を閉じて、両耳に手を当て音に集中する。
(へえ。言うだけはあるんだなぁ)
 場に並べていた豆札と呼ばれる親用の小さな札を手の中で回すと、その音を聞いて何回目で止めたかを参考に札を張るつもりのようだ。
 回収する際の並びもきちんと見ていたのだろう。
「君たち、仲は良いの?」
「うん、仲良しこよしだよ。ねー?」
「ねー!」
「ちょっと、静かに!」
 ついてきた二人は特に考えはないようだ。となれば、眼鏡妖精に追従するだろう。
 ナナシは揺さぶりをかけるべく豆札の音だけを鳴らして札の入替を行わないと、眼鏡妖精は苦い顔をした。
 音が変わった。
 思わず零した言葉にやはり、音便りかとナナシは晒い、五を上にして豆札を隠す紙下へ入れる。
「むむっ、むぅ」
 フェイントをかけたことにしっかりと気づいていたが、お陰で自信を無くした眼鏡妖精は二枚の札を縦に並べたケッタツで札を張る。
 とはいえ選んだのは五、ナナシと同じだ。だが、自信の無さから眼鏡妖精はこちらに続こうとする二人を押し留め、それぞれ四、六のケッタツを支持した。
 これこそがナナシの狙いだ。
「当たったーっ!」
 開いた紙下に自分の選択通りの札があったことで喜ぶ眼鏡妖精は自信をつけ、周りからのよいしょもあいまって先程と同じくふんぞり返る。
 しかし、勝負で言えば三分の一は失ったものの、他の二人から三分の二を得た事になる。
 そして。
「一撃目から決めて来たか。二人も補助に回すなんて、手堅く来るじゃあないか。余裕は出来たみたいだけど、同じように次も来るのかい?」
 苦々しく顔を歪めたナナシに眼鏡妖精はふふん、と鼻で笑って「どうするか」と余裕を見せた。お銚子に乗ってございますわね。
 再び豆札を取るナナシの手に集中し、音を聞き、紙下に札を入れると自信満々で他の二人にも声をかける。
「スイチでいくよ。次は三だーっ!」
「おおっ」
「じゃあ私も~」
 眼鏡妖精に続く二人に、ナナシは口の端を持ち上げた。本当に素直で転がし易い。
 しかし、開いた札の数は五。
「えっ!?」
「惜しいね。豆札と手に取る時に、ちょっと、ね。スタートを勘違いするように豆札を取りながら順番を入れ替えてたんだよ」
「ええっ、えぇええ~!?」
 諸手をあげた眼鏡妖精とおつきの妖精から黒い霞が浮かび上がると、あやかしメダルへと凝固し場に落ちた。
 ナナシはそれを拾い上げて、これが元凶かとしながら怯む妖精たちへ目を向ける。
「さあ、次は誰だい。もちろん、張るんだろう?」

 ダンタリオンの書を閉じて、妖精たちに囲まれた状況をシャムロックは不適に笑う。
(場の動いている様子がある。なら僕も始めるとしよう)
「突撃ーっ!」
 妖精たちが寄り集まりひとつの弾丸となって突進する。単純な物理攻撃だが、塊となってしまえばその小さな体も十分な凶器となる。
 シャムロックは本を持たぬ左手に冷気を集中させた。
「少し、頭を冷やすと良い」
 冷気が渦を巻き、突風となって妖精たちを絡め取る。
 【エレメンタル・ファンタジア】――属性魔法複合による風の攻撃だ。
「わわわわわっ!?」
 回転して襖や障子に叩きつけられた彼女たちだが、自身の軽さやぶつかった物も物で大した被害は無いようだ。シャムロックは目を回しながらもよたよたと立ち上がる妖精らに、少しは冷静になったかと嘆息する。
「貴様らは博打を妖怪たちに広めているんだろう。無駄に傷つけ合う必要なんていない。それに折角だ、カードで勝負と行こうじゃないか、僕と」
 シャムロックは筋肉の間で得たトランプを見せる。
 挑まれては受けるのが彼女たちだ。妖精たちは棄権するのはもったいないと、カード勝負を引き受けた。
「ポーカーなりブラックジャックなり、貴様らの好きなゲームで挑むがいいぞ」
「あ、じゃあババ抜きー!」
「賛成、ババ抜きーっ!」
 そう来るか。
 シャムロックは妖精らに大人の駆け引きを求めていた訳ではないが、無垢な所作に重く息を吐く。他の猟兵も感じているであろう、彼女たちの能天気な姿と、呪詛を世界に広げるよう利用されて焦燥する姿。
 この世界の為だけではなく、彼女らの為にも骸魂からの解放を急がねばならないのだ。
「よし、ゲームとしては何名かでグループとなり、僕と勝負してもらおう。貴様らは自分たちの手札を確認しあっていい、同盟だ。代わりに僕が貴様らより早く上がれば僕の勝ち、僕を負かすには全員で協力するしかないぞ。
 いいな?」
「協力し合うなら絶対に負けないよ!」
「あたしたちちょー仲いいもん」
『ねーっ』
 なんてこった黙っててもフラグを建てる奴しかいねえ。
 了承する妖精らにシャムロックはダンタリオンの書を開く。
(素直過ぎるな。これを使えば貴様らの癖は丸裸だ。ババ持ちは簡単に特定されるしババを引かすも自由。ぬるいゲームとなるだろうが、勝負は勝つ為にするものだからな)
 シャムロックの考えなど分かるはずもなく、互いに手札を見つめて相談し合えるならば負けるはずはないと余裕の態度の妖精さん。
 筋肉の間とは違うが、勝負の見えたゲームだとしつつも問題は。
(後は、どう黒幕の情報を引き出すか、だな)
 シャムロックはトランプを配り終えると、この人数差だから先攻は譲ってくれろと妖精らに言う。別に順番などはどうでも良かったのだが。
 勝ってもいないのに、既に勝者の余裕を見せる妖精たちは勿論だとシャムロックの言葉を受け、彼から時計回りに順にカードを引いて行く事に。
「…………、ふぎゃーっ!?」
 わざとらしく手札から飛び出させた一枚。ジョーカーを当然の如く引き抜いた妖精は悲鳴を上げた。
 わざとらし過ぎる故に安全と思ったのか。否、取り易そうだから取った、それだけなのだ!
(読むにも悲しくなる浅はかさよ)
 ジョーカーを引いたことで涙目で他の妖精らと相談するものの、彼女らもえらいこっちゃと戸惑うばかりだ。
 出した答えはジョーカーからの重圧を避けるべく次の妖精に引いて貰う事。
 しかしこれは魂を賭けたゲーム。即ち、ジョーカーことババ持ちは魂を抜かれる爆弾を持っている事になる。
「うわーん、お願い取ってー!」
「ひーっ。次の人、お願い!」
 と、次々とたらい回しにされやって来たのが。
「…………。はぁあ」
 深々と息を吐くシャムロックだ。
 ぴっ、とわざとらしく出された一枚を避けて別の札を取れば、絶望に涙を浮かべる妖精の姿。そんなさも裏切られたかのような雰囲気を出されましても。
 シャムロックが引かない以上、そのジョーカーは妖精の手に残り続ける訳で。
 開始から数巡後。
「おい、離せ」
「や、やだっ」
「イカサマにもならんぞ、こんなものは」
 頬を引きつらせたシャムロック。彼の引こうとするトランプとその腕には複数の妖精がまとわりつき、上がらせまいとしていた。
 ちなみに他の妖精はとっくに上がっている。
 ちょー仲良いだけの事はある。そのせいでババの位置バレた上に最悪な所に安置されることになったんだけど。
 シャムロックは再び盛大な溜息を吐き。
「それなら、貴様らがある事を教えてくれれば、この勝負を流して再戦してやってもいいぞ?」
「ある事?」
「ああ。貴様らを扱っている親玉がいるだろう。そいつについて、知っている事を全て教えて貰おうか」
「……それ……なら……良い、かな?」
 互いに顔を合わせる妖精さんたち。普通は駄目だと思うが彼女たち的にはセーフだったボスオブリビオンの情報がシャムロックへと渡った。
 ついでに再戦も同じヘマをやらかしたので、今度は情け容赦なく粉砕した。

 他の猟兵が次々と妖精を打ち破る中、苦戦していたのは結愛だった。
「いけ~っ! 敵はもうムシの息だぞーっ!」
『突撃ーっ!』
 折り紙で出来た兜を被る妖精の言葉を受けて、待針で武装した妖精たちが突進する。
 それをひらりひらりとかわす結愛は余裕を持ったステップで幻惑し――、全然余裕じゃないか。
 苦戦という程の苦境に立たされている訳ではないが、それでも妖精さんがここまでお調子づいて遊ばしやがっているのは、彼女からの反撃がないからだ。
 ただ骸魂に飲み込まれ、自身の想いと裏腹に呪詛を町に向ける存在となってしまった妖精たち。彼女たちを救いたいという想いとその身に同情し、これ以上に傷つけたくないという想いが交差して、手を出す事を躊躇っているのだ。
 しかし、避けの一手では狭い室内、いずれは隅へと追いやられ。
「ちゃーんす!」
「……くっ……」
 突撃する妖精たち。しかし、所詮は獲物も待針、防御の姿勢を取った次の瞬間。
 唐突に屋敷中に響く発砲音。結愛へと向かっていた妖精たちは次々と吹き飛ばされた。
「――ホホホホホホホホホホ……!」
「なっ、なに? なにが起きたのーっ?」
 響く高笑いに浮足立つ折り紙妖精。
「あるひとつの世界に特化した弱兵と言う自覚を持ち、賭事に勝てる能力も考えつかない程の脳筋で、だからこそみんなの後をコッソリついてきた。
 ……それを恥とする自覚も確かにあって……」
「むむむっ、何者だーっ。名を名乗れい!」
「お前たちに名乗る名は無い!」
 とう、と襖を普通に開けて入ってきたその者は、結愛の前に立ち、片手で持てるよう作成された【軽機関銃】と、盾の如く構えた退魔刀と同じ工程で鍛え上げられた【破魔の銀盆】を構えた。
「……あ、あなたは一体……?」
「ホホホホホ、私は骸魂タタキャー! ……賭けましょうか……この戦い、私たちが勝つと!」
 ばっしーん、と効果音がつきそうな格好で決め台詞を放つ桜花。半仮面つけて完全に開き直った人間はやたらと強いぞ。
 しかし結愛はその手に持つ銃に気づくと、妖精たちを銃撃したのかと狼狽する。そんな少女へ桜花、もとい骸魂タタキャーは優しい笑みを浮かべた。
「安心して下さい、峰撃ちです」
「みね、う……えっ……銃でもそんなのあるの!?」
 桜の精に不可能はない。幻朧桜を信じろ。
 戸惑う結愛らを前に「あの人、今名乗ったよね?」と別口で戸惑う折り紙妖精。お前に対して名乗った訳じゃないからノーカウントだ。
 骸魂タタキャーに撃たれた妖精たちは畳の上で目を回していたが、やがてその口から黒い煙を吐き出した。それは空で黒々と渦を巻くと、鬼の顔を一瞬表して呻き声を上げてあやかしメダルへと凝固する。
 ただの峰撃ちではない、破魔の力を組み合わせた制圧射撃だ。ただし、そのような派手な発砲音が屋敷を貫けば、援軍の妖精さんが駆けつけるのも必定。
「若ぁ、お助けに参りました!」
「よくぞ参った! 者ども、猟兵の首をあげた者には、えっと。おやつ三日分だぞーっ!」
『やったーっ!』
「むむっ、ならば私は猟兵が勝つ方にお茶菓子五日分をお賭けします!」
「何に張り合っているんですの?」
 士気をぐぐんと上げる妖精さんに対し、熱気を伴う骸魂タタキャーと冷静さを取り戻した結愛。それではこの賭けは合意と見てよろしいですな?
 迫り来る妖精を前に、骸魂タタキャーは軽機関銃を背後に回し、銀盆を構えた。
「必殺技抜きでも、弱パンチを組み合わせれば勝てますもの。勝てば官軍でしてよ、オーホッホ!」
「何の、弱キックも使わない相手に負けて堪るかーっ!」
 本当に何を張り合ってるんだ君たちは。
 高速で突っ込んでくる妖精を銀盆でいなしつつ、空いた手に袖から取り出したのは、桜の花びらが刻印された鉄扇【桜鋼扇】。
 いなした相手の背筋を破魔の力を乗せたそれでぴしゃりと叩き、次々と撃墜していく。
 攻撃をかわすことはせず、一歩として動かない。その背に、結愛を庇って。
「……な、何を……! わたくしも戦えます!」
 聖剣を構えた結愛に対し、骸魂タタキャーは妖精さんたちをぺんぺんしながら笑みを見せた。
「あなたが戦える事は知っています。ですが、あなたが優しい事も、この子たちとの戦いで分かりました。
 その迷いが剣を鈍らせ、あなたの眼を曇らせている」
 優しさ、それ即ち正しいという事ではない。
 その身を助くと決めたのならば、それを貫く覚悟が必要となる。それを人は正道と言うのだ。
「あなたのすべき事はなんですか」
「痛いっ!」
「あなたの守るべき者は何者ですか」
「きゃんっ」
「答えはもう、出ているはずです」
「ひーん!」
 先生、ぺんぺんされている妖精さんたちがうるさいです。
 しかし、彼女の言葉は結愛の心にしっかりと届いたようだ。抜いた剣にその目を落とす。そう、その手には友と呼べる、信頼すべき者が全てを託してくれているのだから。
 静かに聖剣を構え、瞼を閉じる。
(上手く加減できなかったら妖精たちを傷つけてしまうかもしれない、失敗したらユニコーンのメダルを奪われてしまうかもしれない)
 その不安が、確かに彼女の腕を鈍らせて、覚悟を揺らがせた。だが、もうその瞳は、救うべき者たちの顔を見ているのだ。
 ならば、その剣が救うべき者を斬り裂く事があろうか。
「うぅん、大丈夫よ。だって、私は」
 開眼。
 救うべき者たちを、その眼に焼き付ける。
「わたくしは、ユニコーンに選ばれた騎士!
 ――悪を倒し、民を守る、正義の味方ですわ! 力を貸して、ユニコーンッ!」
 輝くユニコーンのメダルが破魔の力を聖剣へ結び、その刀身から光が溢れた。これぞ聖なる一撃、【ディバイン・スラッシュ】!
 煌めく光は剣となって、妖精たちの身を貫いた。
 否、貫くのは妖精たちではない。その身に救う、骸魂たちを。
 あやかしメダルへ封ずる事もなく浄化された黒い煙が霧散するのを見送り、息を整えながら畳に倒れた妖精たちを見つめる。
 彼女たちの胸は静かに動悸しており、無事であることが窺えた。
「……はあ、はあ……ふぅー。成功、したのね。
 良かった。みんな、無事で本当に良かった」
 思わず零れる笑顔。だが、敵はまだいる。救うべき者たちの身に救う悪しき心が。
「つ、……強いっ……」
「でもでも、おやつ三日分だしぃ」
 おやつ三日分の為にどれだけ犠牲を払うつもりなんだ。
 しかし、どれだけの数が来ようと、正眼に構えた結愛に怯みもなければ躊躇いもない。
「もう大丈夫なようですね。――さて」
「ひっ」
 結愛から離れて一人。
 先程の光の間に動けなくなっていた折り紙妖精に接敵していた骸魂タタキャー。完全にバック取られたね。こりゃ怖いぜ。
「先程は数の多さに手間取ってしまいましたが、一対一となれば話は別」
「ま、ままま、待ってくれっ。欲しいならくれてやるぞ、五日分か? ……七日分……? ええい、十日分だって払ってやる! だから、だから命だけはっ!」
 おやつ換算で助けられる命。
 骸魂タタキャーは小さく笑い、メッ、と無慈悲な言葉を残した。
「折檻折檻!」
「きゃーっ、お尻が割れるぅ~!」
 破魔の銀盆でしっかりとお灸を据えつつ骸魂を祓い、額の汗を手の甲で拭う。
「…………。皆さん、しばらくお休み下さいね」
 優しい微笑みと同時にその身から放たれた桜の花吹雪は、倒れた妖精たちの小さな傷をも癒し、そのまま深い眠りへと落とし込んでいく。
 精神的にも追い詰められていた、追い詰められていた? 彼らの心もこれで休まるだろう。それこそが彼女の放ったユーベルコード、【桜の癒やし】だ。
「あら、こちらもほとぼりが冷めたのかしら。まだまだ燃え上がれそうでもあるけれど♪」
 そんな中にやってきた片目を閉じてくすりと笑ったのはアリス。
 トラウマになってしまうので止めて下さい。
「どうやら、片付いたようだね」
 沢山こさえたあやかしメダルを携えて、朗らかな笑みを浮かべるナナシ。
「こちらも、片は着きました」
 妖精らの針のむしろに耐えられず精神がちょんぼしたやもめ木綿は捨て置いて、こちらもメダルを大量に集めたハチ子。
「この事件を巻き起こしたオブリビオンについて、色々と話を聞けたぞ」
 最後に姿を見せたシャムロックが、少年の面に似合わぬ意地の悪い笑みを見せた。
 これで、町の妖怪たちを賭博狂いへと落とし込めた骸魂も消え、妖怪たちは正気に戻るだろう。後はそれだけではここまでの被害を出すこともなかったであろう妖精を集め、混沌をもたらしたオブリビオンを討伐するだけだ。
 最後の戦いを前に、猟兵たちは横一列に並び、宴会場大部屋の障子を蹴破った。
 お客さん、荒事はお止しになって!

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『西の幹部妖怪』

POW   :    妖怪で紳士で改造人間!
【ゴリラの腕力】【紳士の余裕】【上司妖怪としての責任感】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD   :    ノリノリアゲアゲコォオル!!
あらゆる行動に成功する。ただし、自身の【部下妖怪による応援で得たテンション】を困難さに応じた量だけ代償にできなければ失敗する。
WIZ   :    強さの証明ッ!!!
対象の攻撃を軽減する【真の紳士の証であるタンクトップ姿】に変身しつつ、【天裂き地穿ち海を割るゴリゴリ紳士流格闘術】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠大門・有人です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●見参、妖怪で紳士で改造人間!
 障子を蹴破られた先では、畳の上にソファを持ち込んだ大柄な男が、コーヒーカップから漂う香りに唸り、息を吹き掛けている所だった。
 はち切れんばかりの大胸筋をぴっちりとしたワイシャツに収め、赤いスーツを決めたオールバックの金髪青眼の紳士。
 彼は現れた猟兵にちらりと目を向けたがそれも一瞬の事。すぐに興味を失いコーヒーカップに口付けて。
「…………。ふーっ、ふーっ」
 直ぐに口を離して息を吹き掛ける。熱かったの?
 しばらくふーふーしていた男はやがて、側に控える法被姿のチンパンジーにコーヒーカップを渡す。諦めたの?
「こんな夜分に騒々しい。コーヒータイムを邪魔するとは同じ文明にあやかる者とは思えんな」
 うるせー猫舌野郎。
 立ち上がる男の後ろでチンパンジーがめっちゃ美味しそうにコーヒーブレイクを決める中、男はソファにかけていたステッキを別の法被姿のチンパンジーへ渡す。
 何匹連れ込んでんのさ。
「諸君、猟兵だね。君たちがここにいるという事は我が部下は全て、君たちに討たれたという事か」
 勝手な事を。
 猟兵の中には骸魂に飲み込まれ、追い詰められた者の顔を思い浮かべた者もいただろう。
 諸悪の根元たるこの男がなぜそのような事をしたのか。猟兵の問いに男は笑った。
「死の淵から逃れて、辿り着いたのが誰もが笑って暮らせるこの世界。素晴らしい、実に素晴らしい事だ。
 だが」
 その笑顔の中に、辿り着けずに骸魂となった者はいない。
「この世界の住人たちは余りにも能天気だ。個人的には歓迎すべきなのだがね、それは『生きていく』事に必死だった、UDCアース世界の力に満ちていたあの頃とはかけ離れたものだ。
 ハングリーに、生を求めがむしゃらに生きるべきなのだ、命有る者は!
 ……我ら……オブリビオンが生きられなかった時の中を」
 要は嫉妬か。限られた生をカクリヨファンタズムの住人のように謳歌出来なかった事に対する。
 猟兵の一人の言葉に男は僅かに笑い、それはまた違うのだとした。
「私は、我が部下に再び生きて欲しかっただけだ。この世界に受肉し、時に追われる彼らに居場所を用意しただけだ。
 が、それも君たち猟兵により呆気なく散ってしまう事となったがな」
 肩に掛かっていた金刺繍の黒い肩掛けを、コーヒーブレイク終了に鼻をほじるチンパンジーへ手渡す。汚くない?
 男はその手にオープンフィンガーのグローブを嵌めると、その目に強い光を、闘志を宿した。
「拳を固めるのは部下を守る為と決めていた。理由なく正義の志もない力など暴力に他ならないからだ。
 だがこのマウント・ゴリ、紳士として恥ずべき事だが今、ここに、この拳を固めた理由は仇討ちの為だ。
 猟兵諸君、全力でかかって来たまえ。この剛力でもって正面から叩き潰してくれよう。スマートなる決闘法もまた紳士、私の行くジェントル・ロードに一片の曇り無し!」
 両の拳を打ち合わせる赤スーツ。スマートの意味を知りたいなら辞書を貸してやるぞ。
 言動はどこかずれているものの、非難も断罪もその一身に集めようと構える男の姿は、並大抵の覚悟で出来るものではない。
 同時にそれは強さである。だが、彼の行う事がこのカクリヨファンタズムの平穏を打ち崩す以上、誰もがその覚悟を認める訳にはいかないのだ。
 志を持つ敵、生半可な相手ではないだろう。だからこそ猟兵たち自らも、何の為に退かず、戦うのか心に留める必要があるかも知れない。
 元凶を打ち倒し、馬鹿げた宴も、ここで終わりとするのだ。
 あとおめー紳士を自称するなら畳の上の革靴は止めろ。


・ボス戦となります。志と覚悟を持つ強敵なので注意して戦って下さい。
・シャムロック・ダンタリオンの得た情報により、某かのコールや賭けを挑むとノリにノって受けてくる事が分かっています。隙だらけな所を叩きましょう。
・賭け、もしくはコールは猟兵一人につき一回しか効果を出せません。
・他にも紳士に病的に拘る特徴、上司妖怪としての思いやりの強さを情報として猟兵たちは共有しています。頑丈な敵なのでこれらを利用しダメージを与えて下さい。
・一章特典は、二章で使用したもの以外を使用可能です。
・真面目っぽい雰囲気ですが、後ろのチンパンジーたちが盛り上げてくれるので、気にせずノリノリアゲアゲで行きましょう!
・なお、チンパンジーたちはバックダンスや演奏、コールを行います。猟兵の要望も聞き入れるので利用して下さい。
アリス・セカンドカラー
お任せプレ。お好きに。
汝が為したいように為すがよい。

では賭けとして(夜の)プロレス勝負を申し込みましょう。
勝負の場所は私が結界術で作った(ベッドルーム的な)決闘空間で如何?小娘相手に逃げたりはしないわよね?
紳士が決闘空間(ベッドルーム)に入ったらそこは私の妄動世界で、自分好みに形態変化させる神罰の魔術刻印で男の娘化ナーフかけて格闘術に必要な身体能力と経験を略奪するわ☆
紳士の紳士を下のお口で捕食して快楽伴うエナジードレインで蹂躙して経験値(エナジー)を搾り取るわよ♡
夜のプロレス技の一つアマゾンポジション(種搾○プレス)のお味は如何☆手をつないでタップ封じして情熱ダンスで激しく責めるわよ♡


御門・結愛
ユニコーンメダルに話しかけ
「あいつは、違うのね」
「けど、関係ない」
憤怒の象徴、ユニコーンのドレスが感情に呼応しはためき
「あんなに小さな妖精の子たちを傷つけて……」
「みんなの魂をメダルに変えて……」
「絶対に許さない」
聖剣を構え
「力比べよ。ぶつかり合って地に伏したほうの負け、簡単でしょう?」
全力で聖剣を振るう
「……こんな、相手に、負けられない、のよ!」
「あっ!?」
吹き飛ばされ地に落ちる前に、ポーチからペガサスメダルが飛び出し【天馬融合】を発動。空中で体制を立て直す
「ありがとう」「まだ、私は倒れてないわ」
天馬の雷銃にユニコーンメダルを装填
「私たちの全力を喰らいなさい」
全てを貫く雷の槍、雷貫角弾を放つ



●レッツ、ジェントル・タァーイム!
 突如として証明が落ち、部屋を暗闇が覆う。
 外は満月であったはずだが立地上、各部屋に囲まれて配置された大部屋に月明かりが届くはずもなく、一寸先も見えぬ闇と化していた。
 地のりを利用したか。姑息な手を。
 シャムロック・ダンタリオン(図書館の悪魔・f28206)は紳士とやらの狡い手腕に舌を打つ。
「口先だけで格式を語る辺りが、オブリビオンらしくもあるけどね」
 シャムロックの想いを代弁するかのように鈴木・志乃(ブラック・f12101)、彼女の別人格となるナナシがこぼす。
 そんな彼らの予想を裏切り、天井から注ぐ光の柱。
 スポットライトの下に現れたのは法被姿のチンパンジー。
「…………」
 勿体ぶった様子で猟兵らへ視線を送り、袖からマイクとメモ用紙を取り出す。
「Ladies and gentlemen, please shout take your seaats.
 The show is about to begin !」
 反応に困るやつ止めろ。
 どこから受けた教養か、流暢に英語を喋りながら鼻をほじるのに余念のないチンパンジー君はメモ用紙をむしゃりと、あ、それ煎餅でしたか。
 美味しそうにぱりぽりやった後、人差し指を天へと向ける。そこに現れた光り輝くミラーボール。
 破裂音と共に部屋の四隅から放たれた火薬の白煙と共にチンパンジーは姿を消し。同時にどこからともなく──、奥の部屋だね。
 障子越しにライトを受けて影となっと人影、否おそらく猿影からの華麗なドラムの音。
 続いて吹き鳴らされるサックスは情熱的で、猿影もまためちゃんこ楽器を振り回している。
 最後に加わったピアノは繊細かつ神秘的で、ぶっちゃけ不要ではないかと思える音色ではあったが、これがおそらく曲の全体に深みを与えているのだろう。知らんけど。
「つくづく和の雰囲気を大事にしない方々ですね」
 アハト・アリスズナンバー(アリスズナンバー8号・f28285)は依然と変わらぬ有栖川ハチ子の姿で溜め息を吐く。ハイカラさんに言われてしまえば紳士もかたなしだ。
 渋い曲調に合わせてチンパンジーたちのハミングが始まる。二匹のチンパンジーがスポットライトに照らされれば左右対称、片手を胸に、片手を挙げてアーチを作ると次の組、次の組と照らされたチンパンジーの花道。
 最後に映るはやはりこの男。
 背中を向けて肩幅に足を開き、左手をポケットに、右手を天に掲げていたマウント・ゴリ。右手に落ちたマイクを握り、振り向くと同時にウインクを猟兵らへ投げたゴリは眩しい程に歯を光らせた。
「まあ、なんて逞しい。好みじゃないけど♪」
 アリス・セカンドカラー(不可思議な腐敗の魔少女・f05202)のお褒めの言葉も好みじゃないけど、が全てを物語っている。
 猟兵諸君にはその前歯を全部叩き折って頂きたいですな。
 さあ、いよいよ歌の披露だ。紳士・改造ゴリラ妖怪の実力は如何に。
「い」
「吶喊ーッ!」
 歌い出しにマッハ七の突撃を見せたのは、ユーベルコード【精霊覚醒・桜】で渦巻く桜の花びらをその身に纏う御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)。
 構えた銀盆ごとの体当たりだ。そこらのダンプより衝撃があるだろう。
「ぐはああぁ!?」
『ウキィイイ!?』
 為す術なく弾き飛ばされたゴリさんは障子を突き破り、バックの演奏猿ごと畳に転がる。
「いきなり何をするんだ!」
「え。全力で正面からかかって来いと言われましたし」
 ねえ? とばかりに顔を見合わせる猟兵たち。正しい判断です。
「それはそれ、歌うのは紳士の時間。それを邪魔するのはやはり猟兵、文明にあやかる者とは思えんな!」
 何が紳士だ。
 怒るゴリラに対し、更に怒るのは御門・結愛(聖獣の姫騎士・f28538)だ。
 操られての事とはいえ楽しんで、もとい苦しむ妖怪たちをメダルに封じ込め、あまつさえその元凶となった妖精たちの追い詰められた姿を、彼女たちは知っている。
 だからこそ、猟兵たちの中に紳士を装うこの男への慈悲はないのだ。
「不粋と断じられたとて、こちらはこちらのすべきことを為すのみ」
 洗脳の解けた妖怪たちの退避を終えて、ルルティア・サーゲイト(はかなき凶殲姫・f03155)が闇の中から姿を見せる。
 一太刀で十分とは言えないが、そう前置きして。
「お主では妾たち、猟兵に勝てぬよ」
 【凶鳥の翼】の名を持つ身の丈以上の大鎌を翻す。
 マウント・ゴリは鋭く息吹くとその身を窮屈そうに小さく、両拳を構えて虚空を打つ。
「仕方あるまい、続いての紳士の時間はボクシングだ。今度こそ、いつでもかかって来たまえ」
 肉弾戦のやる気を見せた所で悪いんだけど。
 猟兵たちの内の何名かは博打道具を取り出し、にやりと笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鈴木・志乃
……僕の娘の恋人も紳士を自称しているけれど、君のような人は紳士とは呼べないと思うよ?
禊の神として、これ以上の悪行は許す訳にはいかない。

それはそれとてメダルの封印を解くよ。一目小僧君、ちょっと一緒に大富豪をしてくれないか。あの目の前の妖怪が君らをメダルにした元凶なんだ。事件解決の為にも一つ頼むよ。

紳士君、助手のチンパンジー君も誘って大富豪で一勝負と行かないか。君の部下は正々堂々僕との賭けで負けて散った。君も紳士ならこの勝負、受けてくれるよね?

(高速詠唱で自身と一目小僧にオーラ防御展開。手持ちの毒をトランプに付けて勝負で敵に毒が回るようにする。試合内容は敵の反則上がり誘導。敵が毒で不調→UC発動)


シャムロック・ダンタリオン
ふん、大言壮語を並べてはいるが、貴様のやっていることはそこらのオブリビオンと変わらぬな。
僕か?せっかくだが僕には大した志や覚悟は持ち合わせていない。ただ平穏な日々を過ごしていたいだけなのでな。

ということで、出てこい鬼三枚。【封印を解く】
そこの類人猿の相手をしてやれ。

さて、暴力よりもカードで勝負しようか。先ほどの妖精どもよりかはやれそうだしな。【言いくるめ】
で、ある程度勝負して、隙を見せたところで【指定UC】を発動して、自分の魔力が尽きないうちにぶちのめしてやろうか。

※アドリブ・連携歓迎


ルルティア・サーゲイト
「ふん、猟兵の使命はオブリビオンを狩り、未来を繋ぐ事……貴様等の感傷に付き合う筋は無し!」
 と、言いながら徐に下着を脱いで投げ付けよう。
「下らぬ小細工はしてくれるな。存分に殴り合ってくれようぞ」
 これがネイキッド・デュエルのルールである。小細工をするタイプでは無かろうが、それ故に小細工に走ればダメージは大きい。
 無論、素直に殴り合うのは分が悪い。大鎌の遠心力を利用した一撃離脱戦法を主体としている……ように見せかける。その辺を飛び回るのである。はいてないがの!
「かかったなアホめ!」
 隙を付いて首にドロップキック、LDSで沈めてくれよう。
 なお、下着は脱いだが張ってるのでごあんしんじゃ。


アハト・アリスズナンバー
アドリブ・連携歓迎
言ってることはさも正しい紳士の行いに聞こえますね。
ちなみに私は卑怯事が大好きです。賭け事が好きではなくて勝つのが好きなので。

【POW】
もしあなたが紳士ならば、先に何を出すかを教えるべきではありませんか?
レディーファーストですよ。
相手が何を重視するか教えてくれたら、UCを起動します。
これまで得た情報を代償に、有効装備で固めた子で相手させます。
更にこの勝負、2対1になりますから私は観戦しましょう。
紳士の勝負らしく、1対1の決闘です。
まあ私はUCで出した子にレーザーライフルで電力供給しますけど。
何か言われたらセコンドですよと【言いくるめ】です。
勝てば官軍という言葉がありますので。



●拳闘は紳士のスポーツ! まあそれは置いといて。
 終わらない紳士の時間に嘆息しつつ、ナナシはかぶりを振ってゴリラへ視線を向けた。
「……僕の娘の恋人も紳士を自称しているけれど……、君のような人は紳士とは呼べないと思うよ?」
「何を馬鹿な!? コーヒーブレイクを愛し歌を好みまたダンスを嗜む文明人たるこのマウント・ゴリが、紳士ではないなどと!」
 ゴリラさん激おこ。コーヒーも飲めない妖怪が文明人を語るな。
 呆れ顔なのはナナシだけではない。シャムロックもまた同じくで、こちらもこれ見よがしの溜め息を吐き、鼻で笑う。
「ふん、大言壮語を並べてはいるが、貴様のやっていることはそこらのオブリビオンと変わらぬな」
「自覚はある。だが、その責を負っても果たすべき義理を果たすのが我がジェントル・ロード!
 猟兵諸君にも動機は違えど譲れぬ志や覚悟があるだろう」
「僕が?」
 ゴリの言葉に嘲るシャムロック。その顔は子供とも思えぬ大人びたもので。
「折角だが、僕は大した志や覚悟は持ち合わせていない。ただ、平穏な日々を過ごしていたいだけなのでな」
「そしてそれを壊す存在を。禊の神として、これ以上の悪行は許す訳にはいかない」
 シャムロックの言葉に続いて、ナナシの眼が冷たく光る。
 ずしりと腹に繰る重圧に身震いして、ゴリは太い笑みを見せた。
「言ったはずだ。その責を負う覚悟ならある、と」
「覚悟を決めれば誰を傷つけても、構わないと仰いますの?」
「その為の覚悟だ」
 怒りに燃える結愛の瞳に対し、悪びれぬ言葉に奥歯を噛み締める。
 アハトこと有栖川ハチ子は、その気持ちを組むように少女の肩へ手を置いて笑みを見せる。
「言ってることはさも、正しい紳士の行いに聞こえますね。実を見れば相手の言葉を聞かず、自分たちの要求を押しつける卑怯事ですが。
 ちなみに私も、卑怯事が大好きです。賭け事が好きではなくて、勝つのが好きなので」
 してやったり。
 こめかみに青筋を浮かべた自称紳士に突き刺さった言葉は足掛かりとなるか。同時に結愛を諭しつつ後方へと退がらせた。
「さて、やる気になっている所で悪いが、紳士を語るならばまずは暴力より、カードで勝負しようか」 
 シャムロックの取り出したトランプに、ほう、と面白がるゴリラ。
 その間にもナナシは牛鬼のウッシー君と自らの不甲斐なさのせいで封印されていた、一目小僧のあやかしメダルの封印を解く。
 騒ぎに乗じてルルティアが引き摺って来た一目小僧の体に魂が戻り、はたと気づいてその身を起こす。
「……こ、ここは……?」
「お目覚めだね、一目小僧君。急ですまないけど、ちょっと一緒に大富豪をしてくれないか」
「ひえっ、猟兵さん!?」
 怯える小僧っ子に眼前の西洋妖怪を示し、君らをメダルにした元凶なんだと、事件解決の為の協力を仰ぐ。
 混乱している様子であったが、世界を変えた元凶を前に、他ならぬ猟兵からの頼み事とあってはカクリヨファンタズムの住人として見過ごせない。
 ゴリ紳士を前に闘志を燃やした一目小僧は拳を握り締める。
「おっとうとおっかあが賭けでぼくを売ったのも……ぼくがウッシー君の賭けに魂を売らされたのも……ついでにトイレ掃除を忘れて廊下に立たされたのも……みんなみんな、お前のせいだったんだな!」
「えっ、あ、そうなのか、すまない」
 怒濤の剣幕に思わず謝るゴリ。前半は知らんけど後半は一目小僧が悪いと思う。
「さあ紳士君、悪いと思うなら助手のチンパンジー君も誘って大富豪で一勝負と行かないか。
 君の部下は正々堂々、僕との賭けで負けて散った。君も紳士ならこの勝負、受けてくれるよね?」
「くっ。相手の罪悪感を突いて勝負を挑むとは、……見下げ果てた奴……!
 しかしこのマウント・ゴリ、勝負を挑まれて軽々しく背を向ける程に落ちぶれてはいない!」
 謂いながら、そいやとばかりにマッスルアピール。その豊かな背筋を猟兵たちに誇示する。嬉しそうに背を向けるな。
 しかし、紳士とは背中で語るもの。マウント・ゴリは背を向けたままに指をぱっちんと鳴らすと、畳の上を流れるようにキーボードやエレキギターを構えたチンパンジーが現れた。
 クラシカルな方は賭事参戦らしく、鉢巻を巻いてゴリの両側に並ぶ。
「ミュージック・スタート!」
「Ddddiieeeee, Sssissyyyyy!」
 デスボイスですやん。
 ゆっさゆっさと肩や頭を揺らすそれらにシャムロックは顔をしかめてあやかしメダルを三枚、虚空に放る。
 封印を解かれて現れたムキムキマッチョな鬼三匹は、彼の意思を汲んだのか、虚空でフォーメーションを組むとそのまま演奏猿へ突撃する。
『シンクロナイズドアタック! 鬼ンニクッ鬼ング!』
『ウッキィイイイッ!?』
 がっちりと上げた両腕を互いに絡めてマッスル・スマイル。
 ミサイルのように降ってきた筋肉の塊に器械毎粉砕されて吹き飛ばされるチンパンジーたち。
「…………! お、おのれ猟兵、またしても!」
「いくら宴会場とは言っても、馬鹿騒ぎには限度があるだろう」
 小馬鹿にした笑みのシャムロック。
 マウント・ゴリは奥歯をぎりぎりと鳴る程に噛み締め、目を見開いていたが、自らの胸を拳で叩く。ドラミングかな?
「ふーっ、ふーっ。落ち着け、落ち着くのだマウント・ゴリ。お前は紳士だ。安い挑発に乗ってはいけない。クールになれ。賭博は熱くなった者から負ける、そう、紳士たる者、常にニコニコクールであれ」
 にっこり。
 歯茎から血が出そうな力んだ笑みは実に滑稽だが、挑発に耐える程度の自制心はあるかとシャムロックは内心で舌を打つ。
 他のチンパンジー君たちの用意したテーブル、その一角に巨体を着けて、左右にチンパンジーを座らせたゴリ紳士。
「さあ、カードを配りたまえ」
「今すぐ」
 机をこつこつと叩くゴリに、微笑んで頷くナナシ。
 一目小僧も席へ促し、カードを配る。カクリヨファンタズムに奇っ怪な風を起こしたオブリビオンとの戦いが、漸く始まろうとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「無手で一対多の最強は空手で、一対一の最強は柔術ではないかと思うのです。そして勝利するのは我々ですから。貴方と賭けになりそうなものが1つもなくて…困ります」←本音

「人を殴る手は貴方自身のものなのに…その理由を他に求めるのは、それがどんな理由であれ、卑怯で惰弱です。だから貴方は勝てない、と申し上げました」
「私の願いは世界の存続、貴方の願いはこの世の滅びに繋がるもの。共存できぬ願いゆえ…私は貴方を滅ぼします」
「…真の紳士の下着は褌でしょう?」

UC「精霊覚醒・桜」
盾構えマッハ7で吶喊
盾ごとぶつかっていくヒット&アウェイを繰り返す

「次に戻られる時は、もっと素直に願える存在になられますよう」
鎮魂歌で送る



●ゆっくりと締め付けて。
 大富豪。ローカルルールは数あるものの、基本的には三、あるいは四を最弱として順に格を上げ、キングの上にエース、その上に二、そしてジョーカーと並ぶ。
 それらのカードで相手より強い数字をぶつけ有利を取り、相手より先に手札を無くす事で勝利となる。
 一番先に上がった者は大富豪とし、敗北した大貧民から次のゲームで強いカードを自分の不要なカードと交換できる。なんと世知辛いゲームか!
 だがこのゲームの面白い点は、同じカードを四枚揃える事で革命を引き起こせる事。
 そうっ……! 奴隷たる大貧民……、それがっ……! 王たる大富豪を刺す事もっ! ありうるのだっ……!
 …………! 世知辛いっ……! 実に世知辛いゲームっ……!
(つまりこのゲームに置いての定石とは、自分が有利を取った時に場に出せる弱いカードを手札に残す。革命に対する保険の作成!)
 強き手札と弱き手札を共存させる。どこでこのカードを切るかが勝負を決する。
 配られたカードを手にした時、指先に走るぴりりとした感触は予感にも似て、マウント・ゴリは不適な笑みを見せた。
 どちらに転ぶか分からぬ予兆、そして程好い緊張感。これだからギャンブルは止められない。
「それで、何を賭けるのかね? 魂、などは我が部下がいなくなった以上は不可能だが」
「もっといいものがありますよ。勝った者、つまり大富豪には、貴方の紳士の称号を譲渡して貰います」
「! …………!」
 目を見開くゴリラ。
「いっ、いっ、…………、ぐ、はぁ、はぁっ。
 良いだろう。部下の賭けた魂に見合うものと言えば、我が身に残るのは……誉れだけだ……!」
 自称じゃん。
 ともあれ精神的な打撃は大きかったようで、動悸の激しくなった胸を押さえる。
(十分、かな)
 その様子を見て浮かんだ笑みを手で隠し、ナナシは他のチンパンジーたちにも目を向ける。彼らはカードを受け取った手を不思議そうに眺めていた。
 ナナシがトランプカードに仕込んだもの、それは【鈴蘭を活けた水】だ。ある程度、毒性を薄めているものの一目小僧と自身にはオーラを集める事で手先を保護している。要は接触しなければ良いので、それも敵に悟られない程度だ。
 また、チンパンジーたちにも僅かに毒を盛りつつ、その後は手先を保護している。が、マウント・ゴリに対しては勿論、話は別。
 例え妖怪であろうと摂取を続ければ影響も出よう。先程のぴりりと来た刺激を勝負の予感だのなんだの考えているゴリラ野郎が気づくはずもないだろう。
 付け加えれば動悸の不調も『紳士』を賭けにしたせいだと考えている節すらある。
 さて。
「…………」
 配られたカードを見てポーカーフェイスを決め込むゴリラ。
 その隣では「ウキャキャキャ!」と笑いの止まらないチンパンジーと顔に手を当てて沈み込んだチンパンジーとがいる。オーバーリアクション過ぎて、素直なのかフェイクなのかわからんね。
 ゴリの手札には四が二枚と二が一枚、それ以外はペア揃いながらぱっとしない手札、と言えようか。
(二は必殺の武器と成り得るが……四をどこで使うかが……違うな、順番に勝負がかかっている)
「それじゃあ、三のカードを持っている方は場に出して貰おうか。ダイヤのマークを持っている方から、時計回りといこう」
 ナナシの言葉に出揃った三の札。順番は一目小僧、笑ってたチンパンジー君、ゴリラ、落ち込んでたチンパンジー君、そしてナナシだ。
 便宜上、二匹のチンパンジーは笑い猿と落ち猿とでも呼称しようか。
「合意と見て宜しいですね!?」
 順番が決まると同時にスポットライトに照らされたのは、先程、鬼三匹に弾き飛ばされたチンパンジー君。英語以外も喋れたんなら最初から日本語をですね。
「只今この賭博は闇のお遊戯と認定されました。よってこの場は全カクリヨファンタズム紳士協定賭博協会預かりの正式闇のお遊戯賭博と認定されます!
 ワタクシ、同協会のレフェリーを担当致しますジェントル・エテモンキーです!」
 足をクロスさせてなんともナルシーな立ち姿で天を仰ぐエテモンキーに、猟兵たちの冷たい視線が突き刺さるが彼は全く気にしていない様子だ。
「この私が目を光らせている限り、この場に不正がないことが約束されます!」
 レフェリー、もう毒が盛られてまぁす!
 節穴エテモンキーの言葉に失笑を禁じ得ないものの、逆に言えばお墨付きを貰ったとも言える。マウント・ゴリの警戒心を弛めるのに大きく役立つだろう。
「それではぁーっ、大富豪ぅう、ファイトッ!」
 ポクン。
 木魚が鳴らされ開始の合図。締まらんねぇ。
 しかしそんな事は関係ないと、一目小僧は溢れる猛りのままに手札から一枚のカードを引く。
「ぼくのターン! 手札からダイヤの四を一枚、フィールドに召喚してターンエンドだッ!」
 ばちこんと場に叩きつけた四は、勢いに対して最弱の札である。
 まずはセオリー通りの攻め。ならば次に来るのは六、或いは七といった所か。
「ウキキッ!」
 しかし、ここで笑い猿の出したカードはスペードの八。多少の狂いはあったが問題ないと手札を切ろうとした刹那、エテモンキーの眼が光る。
「異議ありッ!」
「な、なんだと?」
 動揺するゴリの手札を押し止めたエテモンキーがぱちりと指を鳴らすと、ルルティアがスポットライトに照らされて疑問符を浮かべる。
「ローカル・ルールの確認です。大富豪には八切りというものがあり、八を出した場合に場を流す、というものです。そこで!
 公平を決してこの私、ジェントル・エテモンキーが選んだ観戦者からルールを取り決めるか否かを決めるのです!」
 身内票になるんですけど。
 節穴エテモンキーの言葉に迂闊と頭を抱えるゴリであるが、一縷の望みを託すようにルルティアへ視線を向ける。
 ルルティアはナナシへ目を向ければ、こちらは表情も雰囲気も崩していない。好きなようにしろ、ということならば策は決しているはずだ。ならば。
「妾の地元では八は次の人をスキップする、というものじゃったぞ?」
 それワンカードじゃあるまいか。
「なるほど、ではローカル・ルール適用により、マウント・ゴリ選手、スキップです!」
「ぬぐうぁあああ!」
 凄い悔しそう。
 ポーカーフェイスも投げ捨てて机に沈む紳士。それはさておき全く気にせずに落ち猿は冷静にカードを場に重ねていく。
 あとレフェリー君は仕事した気になってるけど、不正の横行するこの場に少しは責任を持って貰いたい。
(く、ぐっ、これでは手札を捌けん!)
「じゃあ、僕はエースでいこうかな」
「えっ!? くくぅ、ぼくはパスで!」
 涙を大きな瞳に溜め込む一目小僧。次はの笑い猿も悔しげにパスだと両手を上げた。
 挑むようなナナシの視線。
(なるほど、様子見も含めてあえて序盤に強カードを叩き込んだか。だが、紳士として売られた喧嘩を買う必要はない)
 紳士として。その称号、賭けに出したとて我が身は此即ち紳士。
「受けるがいい、これが紳士も微笑むスマイル・ツヴァイ!」
 ぺちん、とナナシのエースを切るゴリ。まあ手札減らさないといかんものね。
 紳士としての佇まいなどまるで軽石の如く投げ捨てて、勝負に出た彼の札を切る者は──、無い。
 場が流れた事で有利を取ったゴリは六のダブルを場に出す。続く落ち猿も七のダブルで対抗したが。
「ダブルか。なら僕は、こうかな」
「…………! エ、……エースのダブルッ……!?」
 がっつりと数字を上げていくナナシ。
 動揺したのはその豪快な切りの強さではなく、既に三枚のエースが彼の手札から現れた事にある。
「ウキッ、キキキ!」
 このままの流れはまずいと踏んだか、誰もがパスの流れで二のダブルを出したのは笑い猿。これで残る二はゴリの手札にあるものだけで、まだ場に出ていないジョーカーを考えれば最強に近いカードを保有している事になる。
 当然と有利を取った笑い猿が切った札は六の一枚。ゴリは手札の消費とばかりに七を一枚、場に重ねた。
 落ち猿がジャックを重ねると同時に、小さな笑い声が卓上に響く。ナナシだ。
「……大富豪には革命がある……弱いカードと強いカードを常に切るタイミングを考えて切らなければいけない、それが定石。
 切り札は最後まで取っておくものと、考えているのかな?」
「……何……?」
 自らの思考を言い当てられて小さな動揺を見せたゴリ。ナナシは、この局面で最強となるジョーカーを切った。
 更に。
「クイーンを四枚、革命といこうか」
『──……!』
 このタイミング。
 ぼくまだ全然手札を切ってないんですけどと嘆く一目小僧はさておき、心の底で笑うのはマウント・ゴリ。
(猟兵が起こしたか。が、革命対策として残した手札はそれこそ定石通り。賭博とは、常に機をてらったものではなく、理を突き詰めた者が勝利を得る。
 それを──)
 はたと気付く、ナナシの手札の数。残るは二枚。
 革命が通った以上、ダブルならそのまま上がられる。激しくなる動悸に対して笑みを浮かべたナナシが手札から出したのは──、五のダイヤ、一枚である。
「う、う、うわーん、パスだぁーっ」
「ムキャーッ! キキッ、キィーッ!」
 一目小僧と笑い猿がパスをする中でゴリは、切らざるを得ないと現状最強のダブルを崩し、四を場へと出す。
 ジョーカーが出た以上、カードを切れる者などいない。
 場が流れてゴリの出した手札は九のダブル。落ち猿はパスし、勿論、一枚しか手札のないナナシもパスだ。
 これを五のダブルで切り、有利を取ったのは一目小僧。漸くだとキングの一枚に対して笑い猿はジャックを重ねる。
 勝ったな。
 ゴリは太い笑みを見せた。場に出すのは無論、四である。この一枚を切れる者はいない、例えナナシが残る四を持っていたとしても、もはや無意味なのだ。
「私は最後の手札、この八を切らせて貰う!」
 場札へ八を投じると同時に立ち上がるマウント・ゴリを、祝福するが如くスポットライトが灯る。
「運命は、紳士はやはり私を選んだ。……そう……!
 『紳士』はこのマウント・ゴリだ! 依然、変わりなく!」
 そうかな。
 ゴリの言葉に意地の悪い笑みを見せたナナシ。
 幾ら言葉を弄した所でこの勝利は覆らないと強気を見せながらも、不安を感じる胸騒ぎにゴリは自身の胸に手を置いた。多分それ毒のせい。
 ぱちん、と指を鳴らすナナシに降り注ぐスポットライト。
「レフェリー君、ローカル・ルールの確認、いや──、審判の時だ」
「もぐもぐ、わ、わかひ、ゴクン。わかりましたっ!」
 おい何食ってた。
 他のバンドメンバーと共にレフェリーの仕事そっちのけで茶菓子を食べていたエテモンキーが無作為に選んだのは、半仮面をはめし骸魂タタキャーこと桜花である。
「な、なんだ、……一体、何が……っ?」
「上がり禁止札、というものだ」
 シャムロックの言葉に目を見開くゴリ。
 驚愕の視線を受けて骸魂タタキャーはにっこりと微笑む。
「有効です。八は八切りのルールが採用されている以上、上がり禁止札となります」
「つまり、あろう事か不正による上がりを行った、君の反則敗けだ。
 紳士として恥ずべき行為、その称号は没収させて貰うよ」
「ぐううっ、馬鹿なああああっ!!」
 胸を抑えて畳に膝をつくゴリラ野郎。
 毒を盛ったとは言え、その状態でこの先生き残れるか?


●紳士の時間はこれにて終了だ!
 先程の妖精どもよりはやれそうと思ったが。
 無様な敗北を喫したマウント・ゴリに、やれやれとシャムロックは肩を竦めた。
「し、紳士としての称号を奪われたとは言え、このマウント・ゴリに矜持は変わらん!」
「無理をするな。相当なショックを受けているようじゃあないか」
「こ、こ、これしき、これしきの事でッ」
 立ち上がる巨漢はしかし辛そうに。シャムロックの言葉がその闘志をゆっくりと削り、それを自覚させるような体調の変化がまた彼の心を削る。
 毒って知らないからしゃーない。
「では、もうひと勝負如何かしら? プロレス勝負を♡」
 立ち上がったマウント・ゴリの分厚い胸板に寄り添うアリス。これ絶対、プロレスの前に『夜の』が入るよね。
「ふっ。紳士を奪われたとてマウント・ゴリ、このような場での戯れはご遠慮したいな」
「あら、まさかお逃げになるつもり?」
 猫のように悪戯っぽく笑う目が輝くと、二人を中心に新たな部屋が展開する。結界術を応用したベッドルームだ。
 アリスはふわりと大きなベッドへ横たわる。
「まさか小娘を相手に逃げたりはしないわよね?」
「…………、ふっ。ここまでされて断るのはレディにも恥をかかせてしまう。お受けしよう!」
 青ざめた顔でスーツを脱ぐゴリ。毒が回ってんだから無理すんなって。
 スーツを脱ぎ、蝶ネクタイを剥ぎ、グローブを外す。
 ベッドルームの奥へと足を踏み入れた瞬間、アリスのユーベルコード【不可思議なる妄想世界への誘い(ワンダーチェインファンタズム)】が発動した。
 それは、対象を自分好みに形態変化させる神罰の魔術刻印の形成と付与。蜘蛛の巣の如き罠へと陥ったマウント・ゴリは、哀れ男らしい逞しき肉体を削ぎ落とされて弱々しい男の娘へと変貌する。
 どうでもいいけど男の娘ってネーミング最高だよね。
「なっ、なななな。なんじゃあこりゃあっ!?」
 小さくなった体にメイド服。膨らんだスカートを翻して自分の姿を確認しようと四苦八苦するその声は、声変わりもまだしていない甲高いもので、顔とてダンディーさを失ったあどけないものへと変わる。
「!? ……う、ううぅ……? ち、力……が……」
「うふふふふ。貴方のお得意の力も、これまでの経験も、全てはその姿に見合う可愛らしい程度しか残っていないわ♪」
 ベッドに倒れ込む体を優しく抱き寄せて、アリスの冷たく小さな手が、ゴリ少年のメイド服の襟元から擽るように中を侵食していく。
「……あッ……、や、止めっ……てっ……!」
「あらあら、まさか、もう降参するのかしら? まだまだ始まったばっかりなのに♡」
 屈辱に涙を浮かべるゴリ少年が愛しく、素肌とは対照的に熱く、燃えるような唇がその頬へ触れた。
 結界の外では、ぎしぎしいい始めたベッドルームに集まるチンパンジー君と一目小僧の姿があった。
「あの、こういうことはお止めになった方が」
「大丈夫、ちょっとだけ! ちょっとだけだから!」
 わくわくしている彼らを止めに入る結愛であったが、このような場に馴れていないのだろう、消極的でベッドルームから離れている。
 未成年には刺激が強いからな! さあ覗いちゃおうぜ一目小僧!
 チンパンジーと共に中の彼らにバレないよう、ゆっくりとドアノブを捻った先には。
「……はあっ、はあっ……ああッ、ダメッ、きついよう!」
「こんな事で音をあげてどうするの? ほらほらっ♡」
 リバース・アマゾンポジションと呼ばれていることにしてほしいリバース・パロスペシャルで、実に男の娘らしい唯一の逞しき紳士と言えるぷりんとした尻から腰、背骨を足で挟み込むようにして構えたアリスが腕をねじ上げている。
 本当にプロレスしてんじゃねえか。
 リバース・パロスペシャルとは漫画やアニメを通して有名になったプロレス技のひとつであり、UDCアースではそのお手軽さから子供同士の怪我を恐れて使用禁止をうたう学校も多かったとか。
 両の足をアギトに準える表現も多く、性的な見方をすればアリスが下のお口で紳士の紳士を補食している真っ最中とも言える極めて性的な描写となる。リバース・パロスペシャルをする時は公序良俗を守ろうね。
「…………、ケッ」
 唾を吐いて背を向けるチンパンジー君たちはさておき、食い入るように見つめる一目小僧君には彼が別の意味の紳士になるのではないかという一抹の不安が残るが。
「さあ、もっとよ、もっと♡ 情熱の炎でじっくりことこと料理して♡ おいしく捕食してあ・げ・る♪
 耐えて見せてっ♡ 無理ならもっと、もっともっと声を出してっ、ほら♡ 魂まで吸い尽くしてあげるわ♡」
「やだやだやだっ、どこ触って──、あッ。あっ、あっ、あァッ!」
 関節を痛めつけてその悲鳴からたっぷりとエナジーをドレインしていたアリスの爪先がスカートに潜り込む。マズいですよ!
 同時に溢れた謎の光が部屋を包み、炸裂する。突然の爆発に悲鳴を上げて吹っ飛ばされる一目エロ小僧を結愛は慌てて抱き止めた。
 同じく、爆発から吐き出されたのはマウント・ゴリ。すでに少年の姿ではなくなっており、畳に転がるその姿をアリスは悠然と見下ろしている。
「少しは愉しめた、かしら?」
「……う……ぬう……」
 乱れた頭髪のマウント・ゴリは立ち上がろうと踠くも、毒の回り精気を奪われた体ではそうもいかない。
 ナナシはその哀れな姿に、手荒な真似は嫌いとしながらもユーベルコードを発動する。
 その太い体を貫くのは光の鎖。【弱みにつけこむ風の神】により弱った身を貫かれて苦痛に喘ぐ。
 その身を拘束され、吊り上げられたマウント・ゴリに対して同情的な視線を向ける結愛と骸魂タタキャーであったが、シャムロックを筆頭に彼を赦そうとする者はいない。
「もはや抵抗も出来まい。早速だが、終わりにさせて貰うとしようか」
 ダンタリオンの書を閉じたシャムロックが、その前に立つ。
「我らソロモンの七十二柱の筆頭たる、強大なる邪神バエルよ。我が元に来たれ。我と魂と一にせよ!」
 【骸合体『邪神バエル』(アッセンブル・バエル・ザ・デーモン)】。骸魂の邪神バエルと合体し、一時的にオブリビオン化する強力な業。しかしその繋がりに魔力を使用する為、その枯渇は大きな隙をもたらす諸刃の剣でもある。
 シャムロックの瞳が赤くぬらりとした光を放ち、行灯の下で白い肌が怪しく照らされる。
 揺れる炎から伸びた影をその見に纏い、シャムロックか手を払うと蠅のようにばらけて飛ぶそれらがゴリの体にへばりつき。
 音が轟く。
 ひしゃげた部屋ごと満月の下へと吹き飛ばされたその巨体は、中庭の池へと落下した。


●誰が為に。
 吹き飛ばされた部屋に驚き、チンパンジー君らと共に抱き合い固まる三界王とエロ小僧。
 シャムロックはそれらに一瞥することもなく中庭へと降りて池へと近づき。
 その姿は霞の如く消え去った。彼の身があった虚空を貫くのは池に使われた石材だ。
 水面から現れた巨大な影は息を切らし、膝を着きながらも周囲を猟兵たちを睨み付けた。
「……私は……ここで、倒れる訳には……いかない……戦うのだ、己の意志で……戦わねば……我が部下の為に……ぬぅうう!」
 月光に吠えて光の鎖に貫かれた穴からどす黒い血を噴き出す。それは改造人間としての血だろうが、ナナシの仕込んだ毒の排出にも一役買っただろう。
 震える足を叩き、一歩、一歩と力を込めて立ち上がる。
「例え紳士の衣を剥がされようと、例えこの身を砕かれようと、私の歩いてきた道に偽りは無いのだ。
 敗けはしない、敗けはない! このマウント・ゴリに後悔はない。だから動けよ膝! この体は私一人のものでは無いのだ!」
 そこまでの覚悟があるか。
 虚空に出現したシャムロックは満月を背に黒く染まり、赤に輝く瞳だけで男を見つめる。
 見上げるゴリに対し、これ以上、その気力を漲らせるのは危険だと判断した少年の姿を象る悪魔の両手に、黒々とした魔力が集まる。
 それは重力の歪みを発生するようにその姿を捻曲げ、空間に帯電する。
「……わ、私は……!」
「ゴリーっ!」
「負けるなゴリーっ!」
 挫けそえな心へもたらされたエール。それは彼を思い法被を着たチンパンジーたちと筋肉鬼にエロ小僧。
 …………。何やってんだ妖怪ども。
「立て立てゴーリっ! 負けるなゴーリっ!」
「あゴリ! そゴリ!」
『ゴリゴリゴリゴリ!』
 簡単に雰囲気に乗っかってしまうお気楽能天気妖怪の悪癖が出たか、その応援を力に遂にオブリビオン、マウント・ゴリが立ち上がる。
「んんん、ゴぉぉおリぃいい!!」
 野太い雄叫びを上げてワイシャツを引き裂く程に膨張した筋肉をぴったりと覆うは黒のタンクトップ。
 その熱量が濡れた体の滴を蒸気へと変えて、乱れた髪をかきあげればマウント・ゴリは余裕の笑みを見せた。
「タンクトップは強さの証ッ。かかってくるのだ、少年!
 全て受け止めて見せよう、天裂き地穿ち海を割る、我がゴリゴリ紳士流格闘術で!」
「厄介なタイミングで立ち直る奴だ」
 そう嘆息しながらも、シャムロックの顔には笑みが浮かぶ。強きに退かぬその豪傑を気に入ったのではない。
 正に命を燃やした上でのその強さをつぶさに感じ取ったからだ。寿命を燃やす激しき炎。故に多少の風に消えまいが。
(最期は決したと言える状況でもある。マウント・ゴリ、貴様が倒れ逝くまで)
「ぶちのめしてやろう、何度でも! 僕の魔力!」
 放たれた巨大な重力塊。
 真正面からグローブをはめ直した手を重ねて、下からかち上げるようなアッパースイング。
 それはシャムロックの一撃に対しても力負けせず、中庭を破壊しながら爆裂させた。とはいえ無効ともいかずスッゴイゾ式特殊強化骨格のマウント・ゴリの右手に亀裂が入った。
「──構わんッ、拳さえ握れれば、後は叩きつけるのみ!」
「……これだから脳筋は……!」
 地を砕いて砲弾の如く跳ぶゴリの前に魔力で障壁を張るが、その破壊的拳を耐えるに時間が足りず。
「させません!」
「ぬぅ!」
 銀盆を構えて桜の風を携えた骸魂タタキャーの突進。
 その一撃は初撃と違い肘に防がれるが、シャムロックを守るには十分だ。
「すまない!」
 その身を再び透過するシャムロックに、逃がしたかと歯噛みしつつも笑みは消さないマウント・ゴリは、いい体当たりだと骸魂タタキャーを褒める。
「先の一撃もそうだが、見事だ。だが私を倒すには重さが足りない。ウエイトではない、レスポンシビリティだよ」
 怪訝な顔をする骸魂タタキャーと共に地へと降り立ち、ゴリは屋敷内の猟兵らにも声をかけた。
 そう、覚悟と、責任の差なのだと。
「諸君ら猟兵はこの世界を守る為と大きな使命に絶対の責任を伴っているつもりなのだろう、だが私から言わせれば違う!
 世界などと拡大解釈し日々を生きる一人を考えず全体などとボヤけた虚像に騙される。余りにも軽い! そのような想いにこの私は、私の歩いてきた道のりは、そしてこの先に続く未来を!
 止める事など出来はしないのだ!!」
 放たれる拳。
 予備動作も大きくテレフォンパンチだと銀盆にて打点をそらし、弾こうとしたその一撃。
「…………!?」
 予想を遥かに越える力にいなすも間に合わず弾き飛ばされてしまう。勿論、直撃でもなければダメージもないが、そのゴリの言葉を示すかのような結果にほぞを噛む。
 だがそれを、実に勝手な物言いだと憤る者もいる。骸魂タタキャーのその隣へ立ち並ぶ結愛だ。
「あいつは、違うのね。
 ──けど。関係ない」
 彼女の力の象徴であるユニコーンの言葉を聞き、あの男が結愛たちの目的の者でないことは理解している。だが、それがあの男を許す理由になろうか。
 断じて否だ。
 憤怒の象徴、ユニコーンのドレスが感情に呼応してはためく。風に逆らい揺れるそれに、骸魂タタキャーは落ち着くように諭すも。
「……あんなに小さな妖精の子たちを傷つけて……みんなの魂をメダルに変えて……っ!
 絶対に、許さない」
 聖剣を構えた激情は止めようがなかった。彼女の気持ちを、骸魂タタキャーも痛いほど理解していたからだ。
「力比べよ。ぶつかり合って地に伏したほうの負け、簡単でしょう?」
「構わんよ、お嬢さん。さあ、麗しき挑戦者にコールを!」
『ぱぅわ、ブイエスッ、ぱぅわ♪ 負けられないのさぶつかりあい!』
「キーキーッ!」
 先程までの恐怖はどこへやら、縁側で始まる妖怪とチンパンジー君たちのコール。
 隣でナナシさんとアリスさんも煎餅食べてますねぇ!
(負けられない、けど、相手が弱いなんて思ってない。全力で剣を振るう!)
 構えるは大上段。
 相対するは拳を構えし無手。
「ずぇえああああっ!!」
「あゴぉうリいッ!!」
 音を置き去りにするような一つ跳びで、雷の如き振り下ろし。それを正面から堂々と、右の拳で受け止める。
 生身とは思えぬ衝撃は手から全身へと広がりがその身は前のめり、決して退かぬ想いが表れていた。
「……こんな……、相、手っ……に……! 負けられない、のよ!」
「…………、中々の意気込みだ。このマウント・ゴリ、賞賛しよう。しかしッ!」
「あっ!?」
 踏み込んだ拳を引き戻さずのアッパー。単純な力押しだけで結愛を夜空の天高くへと吹き飛ばす。
「言ったはずだレディ! 諸君ら猟兵とこの私とでは、すでに戦う前にして決定的な差があるのだ!」
 その言葉を認める訳にはいかない。それは猟兵らの敗北だけではなくオブリビオンの存在を、世界を滅ぼす理由を肯定する事になるからだ。
(だけど、力が足りない、……あいつを倒す力が、まだ……!)
 その時、ポーチから飛び出したのは天馬、ペガサスの力を宿し【ペガサスメダル】。
「ペガサス!?」
 その身を眩く染める光。天馬の力を持って発動するのは【天馬融合(ドレスアップ・ペガサス)】。
「ありがとう。そうね、私は、まだわたくしは倒れていませんわ!」
 ペガサスとアリスの力により純白の翼とドレスを身に纏うに至った結愛が空中で体勢を立て直すのを見届け、安心したと伊吹き。
 骸魂タタキャーは改めて湯気立つ巨人、マウント・ゴリを見上げた。
「マウント・ゴリ。貴方を倒すには重さが足りないとの事でしたが。
 私見ながら、無手で一対多の最強は空手で、一対一の最強は柔術ではないかと思うのです。そして勝利するのは我々ですから」
「この戦力差を前にして、随分と気の強いご婦人だ」
「ええ、まあ。
 本来ならば他の方と同様、世界を狂わせた賭博に準えて貴方と賭けるべきなのでしょうけど……その……賭けになりそうなものがひとつもなくて……困ります」
 割りと本音である。
 ぴくく、とゴリラやろうの胸筋が反応する。これは怒ってますね。
「よく分からんな、ご婦人。なぜ、この私が諸君らに敗けると?」
「分かりませんか?
 人を殴る手は貴方自身のものなのに。その理由を、他に求めるのは、それがどんな理由であれ、卑怯で惰弱です。だから貴方は勝てない、と申し上げました」
 骸魂タタキャーの言葉にゴリから笑みが消えた。その顔には深い苦悩の色が刻まれ、痛みに、精神的な痛みに長年晒されてきた者の顔だった。
「私は、自らの為に造られたのではない。だから、私は部下たちの為に拳を固める。故に、敵である君を殴るのだ」
 ぎしりと大きな右の拳を構えたオブリビオン。
 そうですか、と男の言葉に沈痛な面持ちで瞼を閉じた骸魂タタキャー。
 その身を、桜の花びらが渦を巻いて包み込む。
「私の願いは世界の存続、貴方の願いはこの世の滅びに繋がるもの。共存できぬ願い故、私は……私たちは貴方を滅ぼします……!」
「そういうことだ」
 骸魂タタキャーの言葉に同意して、詰まらなさそうにこちらを見ていたルルティアが中庭に降り立つ。
 大鎌を肩に乗せて歩く姿は月光に青く照されて、黄泉路の案内人を想起させる。
「ふん、猟兵の使命はオブリビオンを狩り、……未来を繋ぐ事……貴様らの感傷に付き合う筋は無し!」
 びしりと、言いのけてからいそいそと、おもむろに下着を脱ぐルルティア。
 えっ、何してんの? とばかりに目を見張るマウント・ゴリに脱ぎ立ておパンツを投げつけて発動するユーベルコードはネイキッド・デュエル。あのエロ河童に使ったものだ。
「下らぬ小細工はしてくれるな。存分に殴り合ってくれようぞ」
 それが、ルルティアの課した制約。単純なる戦いのルール。
 彼女の目にとっても小細工をするタイプとは見受けられなかったが、それ故に小細工に走れば大きなダメージを与える、所謂保険だ。
「…………、良いだろう」
 おパンツをきちんとたたんでから指を鳴らし、恐る恐るやってきたチンパンジーに預けるマウント・ゴリ。人が出来てるね、オブリビオンだけど。
 その後ろで受け取ったおパンツを被って走り回るチンパンジー君。猿だもんな。
 興奮するチンパンジー君からおパンツをナナシが取り上げている辺りでハチ子も取って付けたような薄い笑みを見せて二人の間に並ぶ。
「もしあなたが紳士ならば、先に何を出すかを教えるべきではありませんか?
 レディーファーストですよ」
「最早、紳士の称号さえ奪われたがこのマウント・ゴリ、生きる道を変える気はない。上司妖怪として恥じぬ戦い、ゴリラのパワーの西洋妖怪・改造人間のパワーでもって、この拳でお相手しよう!」
 なるほど。
 オブリビオンの言葉を受けて、ハチ子はその身を包む変装セットを剥ぐ。
 その下に着ていたのは特殊繊維で形成された【アリスズナンバーモデル・アハトカスタム】。ハチ子、否、アハトの為に作られた代物だ。
「アリスコード送信。お茶会の時間です」
 今までの仲間の戦闘で得た情報を代償として召喚されるのは、彼女と同じアリスズナンバー。但し、情報を元にオブリビオンへの対応装備を整えた状態だ。
 アハトと同じ特殊繊維の装備に各所へ耐衝撃緩和材と巨大なバックパックに搭載されたショルダーパットが展開し、内側に赤熱するヒートネイルを備えた巨大な手へと変形する。
 これが彼女のユーベルコード、【アリスオブディヴィジョン】だ。
「それじゃあ、始めましょうか」
 アハトの言葉が夜空に冷たく転がる。
 しかし空は一部白み始めて、騒々しい夜の終わりを告げようとしていた。


●さらば紳士よ、永遠なれ!
 最初に突撃をかけたのはルルティアだ。その大きな鎌故に嫌でも存在感が大きく、無視出来るものではない。
 その大鎌はバランスの悪さから遠心力を利用し軌道を安定させ、対象を両断する舞うような戦い方を得意としている。
 そんな者が接近と離脱を繰り返すのだから堪ったものじゃない。あとはいてないのに裾がちらちらしてるもんだから堪らない。
 勿論ここは健全シナリオ、ルルティアもきちんとお大事な場所には貼ってあるのでご安心である。
「ぬ、ぬぬぬ、鬱陶しい!」
 照れんなゴリラ。
 頬を染めながら腕を払う動きに合わせて、足下へと高速で潜り込んだ桜花の銀盆が足を払う。
 体勢を崩したその隙を逃さず、アリスズナンバーの鋼の巨拳。マウント・ゴリは左のアッパーでこれを弾きつつ、返しの右ストレートを放つ。
 ヒートネイルを展開した手でその拳を受け止めようとすれば、それはフェイントらしく即座に引き戻され左のストレートがアリスズナンバーの頭を捉えた。
 直撃、ではない。スリップディフェンスにより頭を回転させクリーンヒットをいなしている。
「どうした、君は掛かってこないのかな?」
「紳士の勝負は一対一が基本。私は観戦します」
「そうか。…………、えっ?」
 今三対一なんですけど、と目で訴えるゴリラは無視して、レーザーライフルでの電力供給を行う。
 装備が装備だけに消費が激しいのだ。
「思いっきり手を出してるじゃないか!」
「セコンドですので」
「!? くっ、紳士としてそれは……認めるが……!」
 あっさり言いくるめられたゴリラはさておき、充電を受けたアリスズナンバーは益々元気に機械の腕を振り回して突進する。
 そこで、ふと骸魂タタキャーから一言。
「真の紳士の下着は褌でしょう?」
 ここサクラミラージュじゃないから西洋東洋で文化も大きく別れてるんですよぅ!
 彼女の言葉にえっへんと法被姿のチンパンジーたちがふんぞり返るのは、その腰に褌を巻いているからだ。
「認めるものかっ、私は紳士、そして! タンクトップとは紳士の証明イコール強さの証! タンクトップこそが紳士なのだぁ!!」
 何か訳の分からない事を言ってますよ。
 上空では、静かにオブリビオンを狙う結愛の姿があった。その手にはブラスターがペガサスメダルによって変異した【天馬の雷銃(ペガサス・マグナム)】が握られている。
 その力の象徴であるユニコーンメダルが装填されその力を高めるも、狙う敵は動きも素早く、足止めする仲間の姿もあって狙いを定める事が出来ない。
 焦りがその心を支配し始めた時に、ぽんと肩に手を置かれた。
「落ち着くのだ。チャンスは必ず来る」
「あっ、その声は……シャムロック、さん……?」
 透明な姿となったシャムロックを捉えることは出来ないが、その声は仲間を信じろと告げた。ふと、視線を感じて下を見れば、縁側で煎餅を食べるナナシ、アリスと目が合う。
 微笑む二人に、緊張した心を解して結愛は力強く頷いた。
「ぐうおおあああっ!」
 咆哮。
 その腹にヒートネイルを食い込まされて焼かれた激痛に叫びながらも、マウント・ゴリの右の拳がアリスズナンバーへ向かう。
 迎撃するのは鋼の巨拳と同時に空を駆ける銀盆。
 凄まじい衝突音を発して吹き飛ばされたアリスズナンバーを、同じく空へ弾かれた骸魂タタキャーが身を翻して抱き止めて叫ぶ。
「今です、ルルティアさん!」
「分かっておる!」
 腹を裂かれ、焼かれ、故に渾身の一撃を放ったマウント・ゴリの隙。
 舐めるな。
 それすらも予想し得たとばかりに大地を足で踏み砕いて破片を飛ばす。
「下らん小細工ぅ!」
 その僅かな時間に拳を握り直したオブリビオンであったが、細工を弄したとルルティアのユーベルコードによるダメージが足を襲い、その強靭な体を支えられずにふらつく足が裂け鮮血が迸る。
 それでもなお、振るう拳は止まらず。
「ルルティアさん!」
 思わず叫び、駆けつけようとした結愛を姿を消したシャムロックが押さえた。
 仲間を信じるのだ。先程の彼の言葉。しかし現実として、その拳はルルティアに叩きつけられていた。
「私がどうして何度も拳同士をぶつけ合わせていたのか。その理由を教えましょうか」
 アハトはくすりと笑い、そして。
 拳の下からずるりと滑り抜けたルルティアは、鼻から流れる一筋の血を舐め取って叫ぶ。
「結愛よ、お主の一撃があのエロ紳士の拳へ楔となっていたからじゃ。妾たちは、お主を信じたのじゃ!」
 一方的な信頼など、信頼とは呼ばない。ただの甘えだ。
 互いを信頼の鎖で繋いでいるからこそ猟兵は強く、そして、どのような敵にもうち勝つ事が出来るのだ。
「ぐうっ、おのれっ、──私はエロくない!」
 そっちかよ。
 アリスズナンバーと骸魂タタキャーに砕かれた拳はすでに威力なく。懐へ潜り込んだルルティアに対しても足へダメージを受けたその巨体では反撃も間に合わず。
 ルルティアの首を狙ったドロップキックに左腕を盾とするマウント・ゴリ。
 ──しかし。
「かかったなアホが!」
「こりゃケッコーッ!!」
 ぱかりと開いた足はオブリビオンの目を釘付けにし、あ、きちんと貼ってるので大丈夫です。
 兎も角、オブリビオンの目を釘付けにし、ドロップキックと見せかけた足で組み付き、ルルティアのフェイバリット・ユーベルコードが発動する。
「ふふ、妾の秘密を見たからには生かして返す訳にはいかなくなったのう?」
「君が見せてきたのではないか!?」
 問答無用。挟み込んだ足を固定して上半身を振り込み、下半身に力の入らぬマウント・ゴリを引っこ抜くように虚空で回転。
 炸裂、【ルルティア・デンジャラス・シュタイナー】!
 首から地面に叩き落としたルルティアはそのまま後転、沈む巨体から離れる。
 同時に発動するのは命を燃やすオブリビオンのエナジーを吸う固有結界と、光の鎖。
「おおっ、……ごっ……!」
「そこまでの張り切り、すっごく良かったわよ♪」
「けど、だからこそ逃す訳にはいかないのさ」
 空を見上げれば、魔力の消費を押さえていたシャムロックが姿を表し、また臨界までエネルギーを充足させた天馬の雷銃を構えた結愛の姿。
「中々、骨があった。それは認めるぞ、オブリビオン」
「私たちの全力を、喰らいなさい!」
 巨大な混沌の重力球が大地に沈み、その中心を全てを貫く雷が槍となった、雷貫角弾が通り抜けた。
 ひしゃげた黒球の間から僅かに覗くその顔は笑みを見せ、生じる黒雲と同時に発生した幾条もの稲妻の光へと消えていった。
 焼け焦げた臭い大地を深々と貫き、高温により赤く焼けたそこにはもはや、誰の姿もなかった。
「紳士的、と言うのであれば確かにそうだったかも知れませんね」
 紳士、とは言わないが。
 アハトは召喚したアリスズナンバーを送り還し、深い穴を見つめる。
 あのオブリビオンに正義はない、それは当然だ。全ての者の命を想いはどうあれ弄ぶ形となったのだから。
「勝てば官軍という言葉がありますので」
 それでも釈然としない面持ちの結愛の頭を撫でると、子供扱いを嫌そうにしながらもその顔は笑っていた。
「うわー、凄いっ。何これー?」
 声に猟兵たちが振り向けば、意識を取り戻した妖精たちだった。物音を聞き付けてやって来たのだろう、その向こうには妖怪たちの姿も見える。
 危ないから来るなと言い含めていたのに。
 苦笑するルルティアの懐から煙が生じて風に乗る。それはアリスも同じくだ。
 妖精たちを支配していた骸魂、それを束ねていたオブリビオンが骸の海へと還った事で残る妖怪らのあやかしメダルも、元の魂へと戻ったのだろう。
「あのねあのね、よく覚えてないけど、猟兵さんたちに迷惑かけたのは覚えてるんだ。
 だから、はい。お詫びの印~」
 妖精たちがそれぞれ思い思いに持ってきたのは和菓子に洋菓子、様々なおやつだ。
 結愛はその内のひとつを受け取って、お礼を言う妖精の一人に思わず涙を浮かべた。
「……みんな無事で……本当に良かった……」
「どうしたの? みんな大丈夫だよ!」
「あたしはなんかおしりがヒリヒリする~」
 笑い合う妖精と結愛とを見届けて、ナナシは背を向ける。
 過ちを禊祓え出来た上に季節らしく、昇る陽に合わせて熱がこもる。長居の必要はないと涼やかな顔で、しかしその足取りに迷いはなかった。
「早く体を返してあげるのもいいですしね」
 その先ではシャムロックは三界王に言い寄られているようだ。
 「あの魔力筋、我らにも伝授を」などと訳の分からない事を言われて辟易している様子が見てとれる。契約をすれば彼らを使役することも出来ようが、シャムロックの性格からこのむさ苦しい集団を扱うなどあり得るのだろうか。
 それはダンタリオンの書のみが知る。
 一方で、ルルティアのおパンツを被って逃げ回るチンパンジーに彼女が業を煮やした頃、唐突にその姿がお目々ぱっちりのバニーガール、もといバニーボーイ姿の男の娘へと変じた。
「おいたする子はメッ、よ♡」
「さあ、覚悟してもらうかのぅ?」
「……ふ、ふぇぇ……」
 そんな惨事はさておき件の穴を骸魂タタキャーは仮面外し、桜花として見下ろす。
「次に戻られる時は、もっと素直に願える存在になられますよう」
 部下の為に、握る拳は本物だった。鎮魂歌で送る桜花は声は喧騒に紛れて夏の風に乗る。
 アハトは再びハチ子の姿となってふらりと探るは下町の宿屋。
 オブリビオンの影響を抜けたとは言え、カクリヨファンタズムは古今東西が混在する幻の如き世界。そこらを探れば賭場もあるだろう。
 その日の午後には屋敷を直す為に多くの妖怪や、この世界の住人らがのんびりと集まり力を合わせる。
 生き急ぐ世界ではない。けれど、生き急いでいた彼らだからこそ、この世界の住人としての資格があるのだろう。
 今日もどこかで珍事が起きても、カクリヨファンタズムは回り続けるのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月02日


挿絵イラスト