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心の在処(作者 東間
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●滅びの始まり
 風を捉えて、ひゅーん、ひゅん。
 木々の間を抜けて飛んでいたごいのひさまたちは、顔馴染みが合流するたびに『おはよおー』『今日も最高のせっきゃくってやつをだねえ』と楽しそうなお喋りを広げていく。
 その時、どこかから冷たい空気が流れ込んできた。ごいのひさまたちは芯まで撫でるような冷たさにぶるるっと震え、羽毛を膨らます。それから地面へふらふら、枝へふらふら。適当な場所まで力なく飛んで、留まって――そこから動かなくなる。
『……い、今のちべたいの、なあに?』
『わ、わかんないわ、しらないもん……! でも……変。何かが、すっごく変』
『ぼくも……あれ? あれれ?』
 嘴で胸のふわふわ羽毛を整えても、“変”は消えるどころか強まるばかり。
『どうして? ぼく、病気?』
 大好きなみんなと今日もおしごと。
 いらっしゃいませってお出迎えして。
 広げられたメニューの後ろからチラッと覗いたりして。
 お料理やお菓子が出てくるまで一緒におしゃべりしたり、もふもふしてもらったり。
 そんな風に、今日も大好きなおしごとを――って、思ってた。
 ああ。おかしい。変だ。
 大好きなみんなと一緒なのに、なんにも感じない。

「……其れは、在ってはいけないものだから」
 其れさえ無ければ、あの子のように心を痛める事もない。
 其れが在れば、あの子のように目から雫が溢れてしまう。
 だから、その様なものは要らないの。
 だから、その様なものは冬に鎖してしまいましょう。
「そうすれば、誰も傷つかないわ」
 だから。
 好きなんて想いは、消えればいい。

●心の在処
「皆様の力をお借りしたいのです」
 猟兵たちに拱手をした汪・皓湛(花游・f28072)は静かに顔を上げた。
 年がら年中何かしらの理由で滅びの危機を迎える世界・カクリヨファンタズム。今度は何がと問う声に、皓湛は表情を曇らせ、語り出す。
「とある雪女の手により、カクリヨファンタズムから『好意』が消えるのです」
 好意。他者や物に対し抱く“好ましい”という感情、慕う想い。
 優しい、綺麗、あたたかい、好き、美味しい、健やかであってほしい――様々な『好意』だけが突如消えた事で、妖怪たちの間に戸惑いや混乱が広がった。彼らは飛び交う骸魂に抵抗らしい抵抗も出来ず次々に飲み込まれ、オブリビオン化している。
「あの世界に生きる妖怪たちにとって、『好意』とは生死に直結するものです。私であれば、人間や、この神剣に対する好意が最たるものですが……」
 東方妖怪は『好き』、西洋妖怪は『愛情』、新しい妖怪は『エモさ』、竜神は『信仰心』。それらの源になる『好意』が消えれば、どれだけ糧を得ようとも無味無臭の何かを食べるようなもの。
 それが一時的なものであれば耐えれば済む話だが、元凶がオブリビオンである以上、耐えれば耐えるだけ違和感や苦痛が続き、いずれは骸魂に取り込まれてしまうだろう。
「消え方も奇妙なのです。恐れのあまり泣き出すものも視られました」
 始まりである、冬の冷たさを孕んだ風。
 それに触れられた瞬間、あった筈の好意だけが消える。
 自分が“何に”“どのような好意を抱いていたか”は覚えている為、妖怪たちはひどく戸惑い――そうしているうちに“何に”“どのような好意を抱いていたか”すら消えていくのだ。
 泣き出した妖怪は、なぜ泣いていたのかわからなくなって呆然としていた所を、骸魂に取り込まれてしまったという。
「現地へ向かえば皆様も影響を受けましょう。個人差はあると思うのですが……」
 鬼火に取り込まれたごいのひさまたちの先、元凶である雪女の元へ辿り着いた時、好意が消えているのか、好意の記憶までも消えているのか。どちらの状態かは断言出来ないと花神は語り――「それでも、」と猟兵たちに願い、グリモアを輝かせた。

 今ならまだ、滅びを止められる。
 猟兵であれば、世界を――心を、救えるからと。





第2章 ボス戦 『『薄氷』の雪女』

POW ●吹雪
【吹雪】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD ●薄氷の折り鶴
【指先】から【薄氷の折り鶴】を放ち、【それに触れたものを凍結させること】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ ●氷の世界
【雪】を降らせる事で、戦場全体が【吐息も凍りつく極寒の地】と同じ環境に変化する。[吐息も凍りつく極寒の地]に適応した者の行動成功率が上昇する。
👑11

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は御狐・稲見之守です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●凍れる心
 ひゅう、と吹いてきた風はこれまで感じたどの風よりも冷たかった。
 静かに撫でられた所が一瞬で霜を纏い、息をすれば直接氷に触れたかのような冷たさが口内に、喉に灯り、そこに当たり前のようにあった水分が奪われた気がする。
 唾を飲めば張り付く感覚に乾きと痛みが伴った。気のせいではなかったと理解したその視界、辺りをふわふわ漂う白波が細やかな氷雪だと気付くだろう。
 ふわり、ふわりと揺らぐ氷雪の波が、ひゅううと吹き込んだ風で遊ぶように躍った。
 その向こうに、幽世から温もりを消していった冬の女が――ひとり。
「…………」
 雪化粧を施したような睫毛の下、宝珠のように煌めく青い瞳が猟兵たちを見る。
 透けるように白い肌。うすらと青い唇。髪と衣は、雪の輝くような白と影の青。
 木の根を椅子代わりにして腰掛けていた雪女は、掌に折り鶴を乗せたままそっと立ち上がった。衣の裾が凍りついた地面を擦り、さらら、と音を立てる。
 雪女は何も言わない。
 何の感情も浮かべない。
 ただ、暫くの間、猟兵たちを見つめて。
「……そう」
 囁くような、かすかな声だった。そこには冷えた表情と同じく何の感情も窺えない。そう、という音だけが、何かに納得したのだろうと思わせる程度。ひゅう、ひゅううと吹く冬の風が、静かなそこに音を刻んでいく。
「ねえ……好きなんて想いは、在ってはいけないのよ」
 風が強まった。
 雪女の髪が、衣が、はたはたと揺れ始める。
「其れが在るから……あの子は、叶わなかった想いに泣き暮れていた」
 だから、その様なものは要らないの。
 だから、その様なものは冬に鎖そうと思ったの。
「そうすれば、あの子は……あの子も、貴方たちも。誰も、傷つかなくなる」
 だから。
「私が、全てを冬に鎖すわ」